レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。
( ^ω^)達はアインクラッドを生きるようです。
-
立ったら投下がある。
-
(ツン)「あら、私は結構好き」
(ドクオ)「細剣の最初の技はフェンシングの突きをかなり勢いよく放つみたいなやつだよな。
構えも分かりやすいし、モンスターに対する恐怖心さえ無ければ使いやすいんじゃないかな。
でもその分細剣の弱みでもある。
一回の攻撃力が同レベルの他の武器に比べると少しだけ弱い」
(ショボン)「なるほど。そういう違いがあるんだね」
(ブーン)「おかえりだおー」
(ショボン)「ただいま」
(ドクオ)「見てたけど、慣れてきたみたいだな」
(ショボン)「うん。だいぶね。
ソードスキルは決まると爽快だね」
(ドクオ)「だよな!だよな!
それが良いんだよ!これは!」
(ツン)「はいはい」
既に全員が二体ずつ倒し、
更に一体ずつ倒したドクオ、ツン、ブーンが喋っていると、
少し距離を置いた場所で戦っていたショボンが戻ってきた。
(ドクオ)「そして、一番意外だったのが」
(ブーン)「クーさんだおね」
四人の視線の先では、クーが猪型モンスターと戦っている。
(クー)「……」
怯むことなく、怯えることなく、腰を引くことも無く、ただ淡々と槍を構え、
向かってくる猪に攻撃を加え距離を置くクー。
(ドクオ)「……槍はすでにおれよりうまいな」
.
-
(ブーン)「さっきは剣技一発で倒してたおね」
(ツン)「楽しんでるわね」
(ドクオ)「え?」
(ブーン)「お?」
(ツン)「ん?なによ」
(ドクオ)「いや、無表情に淡々とこなしてるから、
青イノシシが弱すぎてつまらないのかと」
(ツン)「いやいや、楽しんでる楽しんでる。
あれだけ槍を使うのがうまいのは想定外だけど、
楽しんでるのはよく分かる。
顔姿は違っても、仕草や雰囲気は同じなのね」
(ドクオ)「そう」
(ブーン)「なんだ」
断言するツンに、言葉を繋げて納得する二人。
(ツン)「あんたはどう見てる?」
(ショボン)「ん?僕?
槍がうまいのは、家の人に薙刀とか習ってたりするのかな」
(ブーン)「薙刀?クーさんならってるのかお?」
(ツン)「いや、聞いたことないけど」
(ショボン)「僕も習ってるって聞いたわけじゃないけど、
確か来島家の道場では剣術と薙刀を教えていたはずだから、
もしかしたら少しは手ほどきを受けてるのかもしれないって話」
.
-
(ドクオ)「おれもよく分からないけど、
構えはそう言われるとそうなのかもって感じだな。
おれは槍も薙刀もゲームに出てくる武器として知ってるくらいだから、
全く見当違いかもしれないけど」
(ブーン)「クーさんはすごいおねー」
(ツン)「ホント、家じゃちゃんとお嬢様してるのね。
……って、そういう事じゃない!」
感心したようにクーを見ていた四人だったが、
ツンの叫びに身体を震わせて驚いた。
(ショボン)「どうしたの?
いきなり大声で」
(ツン)「そういう事じゃなくて、
ツンが楽しんでるように見えるかどうかって聞いてるのよ!」
(ショボン)「ああ、そういうこと。
そうだね。楽しんでいるように見えるよ。
顔はアバターで変わっているから分かり辛いけど、
肩の上下とか足のステップとかは楽しそうだよね」
(ツン)「……私から聞いておいてなんだけど、ひく答えね」
(ドクオ)「ひでえなおい」
(ツン)「いやだって、肩の上下とかステップとかってふつう見るところ?」
(ショボン)「視ないかな?」
(ツン)「見ない」
(ドクオ)「まあ、そこに関しては見ないかもしれない」
(ショボン)「そうかなあ」
.
-
(ブーン)「見る所のことは別にしても、
クーさんのそんなところから楽しいか分かるなんて、
ショボンはクーさんの事をよく分かってるおね」
(ツン)「(ブーンえらい!)」
(ドクオ)「(人の事には敏感なんだよな)」
(ショボン)「それなりに付き合い長いしね。
表情はあまり変えないけど、結構正直だよ。彼女は」
(ツン)「へー。そうなんだ」
棒読みで相槌を打ちつつも、にやにやと笑顔を見せるツン。
(ショボン)「言っとくけど、ブーンやドクオはもちろん、
ツンの事だってそれくらい見分けられる自信あるけど?」
(ツン)「あ、……そう」
ショボンの言葉に心底つまらなそうに答えたツン。
不思議そうにその姿を見るショボン。
そんな二人を見て、ブーンとドクオは苦笑いを浮かべるしかなかった。
.
-
2-4
(クー)「うむ。楽しいな」
通常攻撃だけで≪フレイジーボア≫通称『青イノシシ』を倒したクーが四人の下に歩いてきた。
(ドクオ)「お疲れ様」
(ブーン)「お疲れだお」
(クー)「二人ともありがとう。
だが、まだまだいけるぞ」
表情が出ていないが、アバターでもわかるほど目はキラキラと輝いていた。
(ツン)「私も負けてないからね」
(ショボン)「あ、あそことあそこ、出るよ」
唐突にショボンが呟き、槍の先で正面と少し右側を指す。
全員がその槍の先を交互に見ると、空間が歪み二匹の青イノシシが現れた。
(ツン)「いっちばーん!」
(ブーン)「ツン!一人じゃだめだお!」
丘を駆け下りていくツン。
それを追うブーン。
スタートの違いで少し差がついていたが、
すぐにブーンは追いついていた。
ブーンの走る姿を後ろで見守る三人。
ショボンとドクオは本当に安心したような顔をしている。
.
-
(クー)「ショボン、さっきから思っていたんだが、
モンスターのポップに敏感すぎないか?」
(ショボン)「え?そう?」
(ドクオ)「あ、それおれもさっき思ったんだ。
おれ達が気付くより先に気付いてるよ」
(ショボン)「いや、モンスターが現れる前って空間が歪むからさ。
だからそこを」
(クー)「空間が歪む?」
(ドクオ)「いや、おれ達にはそんなのは見えないぞ?」
(ショボン)「え?そうなの?
皆見えているんだと思った」
(クー)「いやいや」
(ドクオ)「それはない」
心の底から驚いているショボンを見て、
ドクオとクーが互いの顔を一回見てからツッコミを入れた。
(ショボン)「そうなんだ。みんなは見えてないんだ」
二人が少し打ち解けたのを見て心の中で笑顔を見せたショボンであったが、
その心の半分と表面では、指摘されたことを考えていた。
(ショボン)「……もしかすると……」
(ドクオ)「なにか心当たりがるのか?」
(ショボン)「今日僕はテストタイプを使ってるけど、
テストタイプって、ちょっとオーダーメイドに近いんだよ」
(クー)「ナーヴギアのオーダーメイドってことか?」
(ショボン)「うん。それに近い」
.
-
(ドクオ)「どういう事だ?」
(ショボン)「そうだね。説明すると……。
通常のナーブギアは、既製服なんだ。
かなり優秀で、SSサイズからLLサイズまでカバーできてる。
でも、SSサイズよりも更に小さい人や、LLサイズよりも大きい人には合わない。
洋服だと大きすぎてぶかぶかだったり、小さくて着られなかったりする。
ナーブギアだと、ゲームを始められなかったり、
ゲームの世界に来ることは出来ても遠近感が無かったり、片目が見えなかったり、
身体の反応が遅かったりといった症状が出て、
ゲームが出来なかったりするんだ。
これはナーブギアが『大多数をカバーする一般的なレベル』をフォローしてるからで、
一人一人に合わせた細かい調整をするにはかなりの時間とお金がかかるから、
しょうがないと言える。
ナーブギアの説明書にもその旨は書いてあるしね。
で、僕のやっていたテストは、
『脳の出した指令でゲームの中の身体をちゃんと動かす事が出来るか』
がメインで、その為に僕の脳に合わせたカスタマイズが多少されているんだよね。
言うならば、自分より少しだけ大き目の既製服を買ってきて、
裾を詰めたりウエストを直したり肩幅を調整したりして、
多少は自分の体に合わせている感じ。
あと、実は汎用型よりも少し脳に与えられる信号の強さも強いんだ。
だから皆よりは多少この世界との親和性が高いのかもしれないし、
そんな理由で、空間上の異常に敏感なのかもしれない」
(クー)「なるほどな」
(ドクオ)「ゲームをやるうえで結構なアドバンテージだよな。それ」
(ショボン)「そう?」
(ドクオ)「そりゃそうだろ。出てくる敵の位置が分かるなら対処の準備をすることが出来るんだから」
(ショボン)「でも、多分一秒くらいだよ」
.
-
(ドクオ)「おれ達が注意深く見ていた状態でな。
出るって言われたからじっくり見ていたけど、
普通はそこまで見ていないから気付かないさ」
(クー)「つまり、ショボンの観察眼と合わさることで、
大きな武器になっているということか?」
(ドクオ)「そういうこと」
(ショボン)「ふーん。そうなんだ」
(ドクオ)「感動薄いなおい」
(ショボン)「いやだって、テストタイプを使ってゲームするの今日が最後かもだし」
(ドクオ)「え?そうなの?」
(ショボン)「うん。ブーンのプロトタイプは別としても、
テストタイプは無駄も多いし機密部分もすぐ見られるようになっていたりするからね。
だから、いつまでこっちに置いておくか、使うことが出来るか分からないよ。
それに、基本的には僕も汎用型でゲームするし」
(ドクオ)「そうなのかー」
(クー)「今日はなぜテストタイプを使っているんだ?
もう一台ある様な事を言っていたと思うが」
(ショボン)「ああ。今日はね……。
親戚に
『(`;ω;´)本体の入荷が遅れて開始日に間に合わない!一台貸してくれ!』
って泣かれたから貸しているんだ。隣の部屋でやってるはずだよ。SAOを」
疲れたように呟くショボンを見て不思議に思うクー。
そして隣で同じように疲れた表情で微妙な笑顔を見せているドクオを見て、
更に不思議な思いをした。
しかしそれ以上の事を聞くのも何故か憚れたため、
すぐに話題を変えた。
.
-
(ドクオ)「おれ達が注意深く見ていた状態でな。
出るって言われたからじっくり見ていたけど、
普通はそこまで見ていないから気付かないさ」
(クー)「つまり、ショボンの観察眼と合わさることで、
大きな武器になっているということか?」
(ドクオ)「そういうこと」
(ショボン)「ふーん。そうなんだ」
(ドクオ)「感動薄いなおい」
(ショボン)「いやだって、テストタイプを使ってゲームするの今日が最後かもだし」
(ドクオ)「え?そうなの?」
(ショボン)「うん。ブーンのプロトタイプは別としても、
テストタイプは無駄も多いし機密部分もすぐ見られるようになっていたりするからね。
だから、いつまでこっちに置いておくか、使うことが出来るか分からないよ。
それに、基本的には僕も汎用型でゲームするし」
(ドクオ)「そうなのかー」
(クー)「今日はなぜテストタイプを使っているんだ?
もう一台ある様な事を言っていたと思うが」
(ショボン)「ああ。今日はね……。
親戚に
『(`;ω;´)本体の入荷が遅れて開始日に間に合わない!一台貸してくれ!』
って泣かれたから貸しているんだ。隣の部屋でやってるはずだよ。SAOを」
疲れたように呟くショボンを見て不思議に思うクー。
そして隣で同じように疲れた表情で微妙な笑顔を見せているドクオを見て、
更に不思議な思いをした。
しかしそれ以上の事を聞くのも何故か憚れたため、
すぐに話題を変えた。
.
-
(ショボン)「ブーンと、ドクオと、クーと、ツン。そして僕。
ほら三人じゃない、五人だ。ね、ドクオ。仲良しな友達五人組」
(ドクオ)「ん?ああ、そうだな、ブーンと、ショボンと、クーと、ツン。
あとおれで、五人だな」
(クー)「ショボン、ドクオ」
二人を見るクー。
ニッコリと微笑んでいるショボンと、
照れ臭そうに、それでも笑顔を見せているドクオ。
クーも、照れ臭そうに微笑んだ。
.
-
2-5
夕日が、空を赤く染めている。
現実世界の日本の標準時刻とリンクしたこの世界には、
同じように朝があり、昼があり、夜がある。
視界の端に浮かぶデジタルの文字は、
『5:20』を示していた。
(ツン)「んー!戦った戦った!」
大きく伸びをしたツン。
その横でブーンとクーも伸びをしたり腰を回したりといったストレッチをしていた。
(クー)「しかし、本当に自分の体のようだな」
(ブーン)「だおねー。不思議な感じだお」
(ツン)「帰ったら父さんに自慢しなきゃ」
(ブーン)「おじさん羨ましくて発狂しちゃうお」
(ツン)「かも」
三人の笑い声が、小高い丘を響いた。
(ツン)「それにしても、他に人来なかったわね。
もっといっぱい人が来るのかと思った」
(クー)「そういえばそうだな」
(ブーン)「おー。五人でいっぱいイノシシ倒せたけど、
他の人と話したりするのもMMORPGの楽しさっていうおね」
(ツン)「ふーん。そういうもんなんだ」
.
-
(クー)「そういう意味では、その楽しみはまた次の機会に持ち越しだな」
(ツン)「お。やる気ね、クー」
(クー)「思ったよりも楽しかったからな。
定期的にこの世界に来ることはやぶさかではない」
(ブーン)「素直じゃないお―」
(ツン)「楽しかったからまたやりたいって言えば良いだけなのに」
(クー)「うむ。私が素直じゃないのは認めてもいいが、
なんとなく二人に言われるのは納得がいかないな」
(ブーン)「お?」
(ツン)「な、なによそれ。どういう意味?」
(クー)「自分の胸に手を当てて考えて見ると良いと思うぞ」
(ツン)「クー?」
(クー)「ん?なんだ?」
(ブーン)「おっおっおー。最後まで楽しくだお!」
(ツン)「まったく」
(クー)「ブーンは真理を言ったな」
(ツン)「調子良いんだから。
で、それは良いとして……」
三人で楽しげに話していたが、
ツンは離れたところで話し込んでいる二人を指さした。
(ツン)「そこの二人!さっきからこそこそ何してるのよ!」
.
-
(ドクオ)「話なら聞こえてるぞ!
人は何人か来てたけど、おれ達を見たら別の場所に移動してた。
13時のサービス開始から始めたとして、
この時間に『戦闘』をやろうと思うのはβテスターくらいだろうから、
他の狩場に心当たりもあるだろ。
初めてこの世界に来たやつは『はじまりの街』でVRの世界を楽しんで終わりだろうからさ」
(クー)「ふむ。なるほど。一理あるな」
(ブーン)「確かにドクオと一緒じゃなかったらこんなふうに戦闘してなかったと思うお」
(ツン)「そうね。あの街を散策して終わってたかも。
少なくともこんなふうにイノシシ退治はしてなかったでしょうね」
(ブーン)「あ、そういえば一人来たのを見た覚えがあるお。
でもすぐにいなくなったから見間違えかと思ったんだお」
(クー)「そういえばいたな。
確かツンが戦っているのを見ていた時に居たな」
(ドクオ)「それおれも見た。
本当に【消えた】から、多分親か猫に電源切られたか、
ギアを外されたんじゃねーかな」
(ツン)「へー。そんなやつがいたんだ」
納得し、談笑する三人。
(ツン)「って、違う!
そんな意見を聞いてるんじゃなくって、
さっきから何二人で話してるんだって事よ!」
しかしすぐに話を元に戻したツンが再びドクオに向かって指をさす。
(ドクオ)「ああ……うん、それなんだけどさ……」
そして、言いよどんだドクオの代わりに、隣のショボンが事も無げに答える。
.
-
(ショボン)「実は、メニューの中にログアウトボタン、
つまり終了ボタンが見当たらないんだ」
.
-
軽く告げられたその言葉に、一瞬その重要性に気付かなかった三人。
しかしすぐにその意味に気付き、二人に駆け寄った。
(ツン)「ど、どういうこと!?」
(クー)「終われない、つまり戻れないという事か?」
(ブーン)「ド、ドッキリかお?」
そして慌ててショボンの手元を覗き込む。
(ツン)「ど、どこよ!」
(ショボン)「いや、だから無いんだけどね」
ショボンの右手が、可視モードに変えてあるメニューの一つを指さす。
そこには何も書かれておらず、ただ空欄だった。
(ツン)「どういうことよ」
(ドクオ)「ショボンが気付いてから何度かGMにメッセージを送っているんだけど、
返答がないんだ。
でかいミスだから、対応に追われていて個別に連絡は出来ないのかもしれない」
(クー)「それでも、普通なら何かしらの返答は来るべきだろう。
私の方も消えている」
既に自分のウインドウを開いていたクーが呟く。
(ブーン)「僕の方も無いお。
ドクオ、他にログアウトの方法は無いのかお?
例えば死ぬとログアウトするとか」
(ドクオ)「いや、HPが無くなると『死亡』状態になって、
身体はさっきの青イノシシが死ぬ時みたいにポリゴンになるけど、
精神は自動的に復活してはじまりの街に戻されるんだ。
ログアウトするには、そのあとメニューでログアウトを選ぶしかなかった」
.
-
(ツン)「……わたしのも空欄。
テストのときはそうでも、正式になったら変わってるとか」
ブーンも自分のメニューを確認しているのを見て、
慌てて自分のメニューを確認したツンも苛立ちを隠そうともせずに呟き、
そしてドクオとショボンに詰め寄った。
(ツン)「ショボン、マニュアルに載ってなかったの?」
(ショボン)「載ってなかった。
自発的にこの世界から出るには、ログアウトボタンを押すしかない。
それ以外だと、現実世界で電源が切られるか、ギアを強制的に外されるかするしかない。
停電はともかくギアを外されるのは、
脳に衝撃が与えられる可能性があるから出来る限り止めてくれって書いてあったよ」
(ブーン)「お!そうだお!ヘルメットを取ればいいんだお!」
ブーンが笑顔で自分の頭から、被っているヘルメットを外すようなジェスチャーをした。
(ドクオ)「ヘルメットじゃなくて、『ギア』な。
それで、おれ達は今それをすることは出来ない。
脳が体に送り出す命令、『信号』はナーヴギアによって身体じゃなくてこっちの世界に送られている。
向こうの身体を意識的に動かすことは出来なくなっているんだ」
(ツン)「じゃあ、どうするのよ」
(クー)「向こうに連絡できないのか?
ショボンのお父上に電源を落としてもらうようにメールを送るとか」
(ドクオ)「通常のメールは使えない。
メッセージ機能はこのゲームの中だけのものだから。
ただ……」
ショボンを見るドクオ。
その視線を受けて、ショボンが口を開く。
(ショボン)「一応6時を過ぎても戻ってこない場合は、
電源を切る様に父さんには頼んである。
だから、後30分もしたら切られると思うんだけど……」
.
-
(ツン)「なんだ、じゃあ大丈夫じゃない。
ビックリした。脅かさないでよ。
もうこの世界から出られないのかと思っちゃった」
(ブーン)「おっおっおー。
ショボンもドクオも人が悪いお―」
ホッとしたように顔を見合わせて笑う二人。
(クー)「6時か。
少々ギリギリだが、何とかなるか」
(ショボン)「7時って言ってたよね。
父さんに車出してもらって送っていくよ。
で、父さんから説明してもらえば怒られないでしょ?」
(クー)「怒られないとは思うが、
一回家の中に入ったらおもてなしが始まって1時間は出られないぞ?
大丈夫か?」
(ショボン)「……無事に帰ることが出来たなら、それくらい我慢してもらうよ」
(クー)「どういうことだ?」
(ツン)「ちょっと、電源切ってもらえれば帰られるんでしょ?」
(ショボン)「だと思う。
でも、なんかとてつもなく嫌な感じがするんだ」
(クー)「いやな感じ?」
(ドクオ)「おれもさっきから気にしすぎだって言っているんだけどよ」
(ブーン)「どういうことだお?」
.
-
(ショボン)「さっきから、何故かよく思い出すんだ。
これを作った人のインタビューとか手記を。
それで、なんか引っかかるっていうか……。
杞憂だとは思うんだけどさ」
(ツン)「そうそう、気にし過ぎよ。
んー。でもあと30分足らずか。
何してる?」
(ドクオ)「のんきだなーおい」
(ツン)「だって何もできないなら、
気をもんでいても何かしてもしなくても、結局は一緒でしょ。
そのGMって人から連絡が来るか、
先に電源が切られるか、その違いだけよ。
なら、待つしかないじゃない」
サバサバと持論を言うと、細剣を構えて剣技を放つツン。
(ブーン)「ツン!?」
(ツン)「これ、別に敵がいなくても出来るのよね。
風のように身体が動くのが気持ちいい」
(ドクオ)「まったく……」
(クー)「ツンらしいな」
(ブーン)「おっおっお。さすがツンだお」
(ツン)「なによそれ。
私の事をどう思っているのか、あとでゆっくり聞かせてもらうからね。
それとショボン!
この世界に連れてきたって気にしてるんでしょうけど、
あんたのせいじゃないんだから、そこまで気にしてもしょうがないでしょ!
残り時間はあんたも楽しみなさい!」
.
-
(ドクオ)「!」
(ブーン)「!」
(クー)「!」
(ショボン)「……ありがと。
そうだね。この世界を楽しまないとだね」
自分の言葉に三人が驚いたのを感じ、
ほんの少しだけ照れくさそうに笑った後、
それを隠すように再び細剣を構えるツン。
それを見たショボンが、今日一番の笑顔を見せた。
.
-
少し休憩します。
8時ごろ再開します。
-
おつー
-
乙乙
-
乙!
>>329 の
>(ツン)「そういう事じゃなくて、
ツンが楽しんでるように見えるかどうかって聞いてるのよ!」
このツンの台詞のツンのところはツンじゃなくてクー?
-
やっぱ面白いな!!
-
戻りましたー。
続きの投下を開始します。
と、言おうと思いましたが……。
>>349 様
その通り、ツンではなくクーでございます。
読み返しながらコピペしていたつもりだったんですが……。
ご指摘ありがとうございます。
まずは修正版を下につけます。
.
-
(ドクオ)「おれもよく分からないけど、
構えはそう言われるとそうなのかもって感じだな。
おれは槍も薙刀もゲームに出てくる武器として知ってるくらいだから、
全く見当違いかもしれないけど」
(ブーン)「クーさんはすごいおねー」
(ツン)「ホント、家じゃちゃんとお嬢様してるのね。
……って、そういう事じゃない!」
感心したようにクーを見ていた四人だったが、
ツンの叫びに身体を震わせて驚いた。
(ショボン)「どうしたの?
いきなり大声で」
(ツン)「そういう事じゃなくて、
クーが楽しんでるように見えるかどうかって聞いてるのよ!」
(ショボン)「ああ、そういうこと。
そうだね。楽しんでいるように見えるよ。
顔はアバターで変わっているから分かり辛いけど、
肩の上下とか足のステップとかは楽しそうだよね」
(ツン)「……私から聞いておいてなんだけど、ひく答えね」
(ドクオ)「ひでえなおい」
(ツン)「いやだって、肩の上下とかステップとかってふつう見るところ?」
(ショボン)「視ないかな?」
(ツン)「見ない」
(ドクオ)「まあ、そこに関しては見ないかもしれない」
(ショボン)「そうかなあ」
.
-
修正失礼しました。
それでは、続きの投下を始めます。
乙としえんと感想、ありがとうございます。
それでは、よろしくお願いします。
.
-
3.創造主
.
-
その鐘の音が鳴り始めたのは、
皮肉なことにショボンが笑顔を見せたのとほぼ同時だった。
大晦日の鐘と言うよりも、西洋の、教会の鐘の音。
言葉にすると『リンゴーン、リンゴーン』とでも表せばいいだろうか。
大音量の、ともすれば警報の様にも聞こえるその音は、
この世界すべてに鳴り響いているようだ。
(ドクオ)「なんだよ一体?」
四人が自分を見ているのを感じ、
言葉に出して知らないということをアピールするドクオ。
空を仰ぎ見て、
両手のジェスチャーでも『知らない』ということをアピールした後に、
四人に視線を向ける。
すると自分達が、青い光に包まれた。
(ツン)「なにこれ!?」
(ショボン)「ドクオ!?これは!?」
(ドクオ)「これはテレポート!?なんで!?」
自分達の姿が透けていくの見て叫ぶ五人。
(クー)「ど、どうすればいいんだ?」
(ブーン)「ツン!」
ブーンがツンを呼ぶ声と同時に彼らの身体は強い光に包まれた。
.
-
あまりの強い光に思わず目を閉じる五人。
そして恐る恐る目を開けると、そこは丘の上でも草原でもなかった。
(ブーン)「……ここは?」
(ショボン)「みんな!いる!?」
ブーンが周囲の変化に戸惑っていると、後方で声が聞こえた。
振り向くと、周囲の視線を集めることを気にせずに叫んでいる美青年。
親友であると確信し、名前を呼びながら近寄ろうとすると、
仲間達も同じように集まってきた。
(ドクオ)「みんな、大丈夫か?」
(ツン)「びっくりした。なにこれ」
(クー)「ここは、最初に来たところか?」
(ブーン)「よかったおー。みんないて」
(ショボン)「良かった。みんないるね」
それほど離れてはいなかったが、ショボンに駆け寄る四人。
(ショボン)「ここは、最初に降り立った場所だよね?」
隣に立つ者と肌が振れるような距離まで集まった後、
自然に輪になって互いの顔を見る五人。
全く別の顔のはずなのに、なぜか心の中では『本当の顔』を思い浮かべ重ねていた。
(ドクオ)「ああ。『はじまりの街』の中央広場だな」
(クー)「今のは一体?」
.
-
(ドクオ)「魔法が存在しないこの世界だけど、
魔法っぽいモノを使えるアイテムは存在するんだ。
一発でHPを全回復するようなアイテムなんかが。
その中の一つに、好きな街に飛ぶことの出来る『転移結晶』ってのがある。
今のは強制的に転移させられたんだろう」
(クー)「そんなこと、出来るのか?」
(ドクオ)「もちろん普通のプレイヤーには無理だと思う。
だから、おそらくGMがやったんだと思う」
キョロキョロと周囲を見るドクオ。
それにつられて、四人も周囲を見回す。
(ドクオ)「おそらく、いまログインしている全プレイヤーが、集められている。
これから何かしらのアナウンスが行われるんじゃないかな」
(ツン)「謝罪でもするつもりかしら」
(クー)「人騒がせだな。
何時ごろに直るかメッセージでも送ればいいのに。
強制的にこんなことをするなんて」
(ブーン)「でも、これで戻れるならいいお」
(ドクオ)「……だな」
(ツン)「どうしたのよ。浮かない顔して」
(ドクオ)「いや、この『SWORD ART ONLINE』を作った会社、
『アーガス』ってのは普通のMMORPGも手掛けているんだけど、
ユーザーに対してかなり優しいというか、
サポートがしっかりしているので有名な会社なんだよ。
だからGMから返信メッセージが無いのが少し不安だったんだけど、
更にこんな事をされるなんて、ちょっと幻滅と言うか……」
(ショボン)「不信感を生んでしまうね」
(ドクオ)「……ああ」
.
-
(ツン)「でも、自発的にログアウトできないなんてミス、
かなり大きなミスなんでしょ?
そんなことも考えられないほど慌てているんじゃない?」
(クー)「そうだな。
今までユーザー重視といった姿勢でいたとするなら、
これで今までの評価をすべてダメにしてしまう可能性もある。
慌てもするだろう」
(ブーン)「おー。そうだおね」
(ドクオ)「ああ……。そうだよな……。うん」
周囲では、次々に人が現れる現象が続いている。
人々はそれにも慣れ、自分の体に異変が無いことを感じると、
アナウンスを待ちつつも会話を始めたり、
誰に言うまでも無いような愚痴を口々に発していた。
_
(美青年)「さっさとログアウトさせろ」
(美青年)「か、かえりたいから……」
(美青年)「やっぱりキャラ付には語尾を工夫するのが一番だと思うもな」
(美少女)「ど、どうすれば……」
(美少年)「さっさとしろゴルァ」
(美青年)「兄者、これはいったい?」
(美少女)「えー。兄者って誰ですかー?」
(美青年)「そっか。戻る……のか……そうだよな……」
(美丈夫)「早く帰らないとバイトに間に合わなくなるんだが」
.
-
誰もが、ここに移動させられたのはGMからの説明があるのだと、
ログアウトについて謝罪があり説明があるのだと、
思っていた。
そしてそれは、『説明』についてのみ正解だった。
(ツン)「なに、これ……」
どこからか聞こえた『上を見ろ』という叫びに誘われ、
五人が上を見上げた。
そして、目の前が赤く染まった。
正確には、真紅と漆黒の市松模様。
まるで血の様な赤と、深い闇のような黒。
目には赤のみがまず飛び込んでくる。
更によく見れば、それは二つの英文が交互にパターン表示されたものだった。
【Warning】と【System Announcement】
『警告』と『システムからの告知』
それに気付いた者達は喋るのを止め、
運営側からのアナウンスを聞き漏らすまいと、
上を見ながら耳をそばだたせているようだ。
(ブーン)「なんか……怖いお……」
ブーンの呟きは、四人も感じていたことだった。
そしてその恐怖は、さらに増大した。
(クー)「なん……だ……」
.
-
五人が、広場にいるほとんどの者が空を見上げている。
真紅のパターンが覆い尽くした空を。
そして、その中心が、ドロリと溶け、垂れ、滴って、落ちようとする。
それはまるで血の様で、見ている者の心に不安の種を植え付ける。
(ドクオ)「もしかして、これがオープニングなのか……?」
ドクオの言葉に、四人と周りにいた数人が彼を見た。
(ツン)「これが?」
(クー)「な、なるほど」
(ブーン)「そ、そうだおね。それなら……」
小さなざわめきが起き、ほんの少しだけ人の呟きが復活した。
(ショボン)「見て、何か来た……」
ショボンの声で再び空を見た三人。
ずっと空を見上げていたドクオは、
眉間に皺を寄せて何かを考えているように見えた。
(ブーン)「人……だおね」
目の前に浮かぶのは、全長二十メートルはあろうかという人の姿。
『それ』は、真紅のフード付きローブを被っていた。
(ツン)「なんなの……いったい……」
ツンの呟きは、そこにいる全ての者の思いだったであろう。
空に浮かぶフードの中に『顔』はなく、ただただ黒い、虚ろな闇が見えるだけであり、
ローブの裾やあわせ、袖口といった場所からも、中の『人』を目で見て感じることは出来ない。
.
-
けれど何故かそこにいるのは『人』であると、
自分達と同じ『人』がそこにいると、
広場に集められたプレイヤーのほとんどが感じていた。
すると袖口から白い手袋が浮かび上がり、両手を広げた。
そして、上空から声が降り注いだ。
.
-
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
.
-
低く落ち着いた、よく通る男の声。
(ショボン)「この声……どこかで……」
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
ドクオがショボンの顔を見る。
ショボンがそれに気付き、ドクオの顔を見て頷いた。
(ショボン)「茅場晶彦……。
テストの説明で研究室に行ったとき、お会いした。
その時の声と、同じだよ。
もちろん音声を複合してる可能性もあるから、
本人だとは限らないけど、でも……」
【茅場晶彦】
若き天才ゲームデザイナーにして、量子物理学者。
そして、【SWORD ART ONLINE】の開発ディレクターであり、
【NerveGear】そのものの基礎設計者。
(ショボン)「喋り方まで一緒な気がするんだ……だから……」
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューから
ログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う』
それぞれの思惑をよそに、声は降り注ぐ。
『しかしゲームの不具合ではない』
(ドクオ)「なんだって?」
『繰り返す。これは不具合ではなく、
≪ソードアート・オンライン≫本来の仕様である』
.
-
(ショボン)「仕様って……」
(ツン)「どういう…こと」
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、
ゲームから自発的にログアウトすることは出来ない』
(クー)「城?どこかに城があるのか?」
(ドクオ)「いや、無かったと思う……。
正式サービスで実装されたのかも」
『また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。
もしそれが試みられた場合、
…………
ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、
諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
その言葉は、そこにいる誰をも呆然とさせるに充分だった。
そしてその後に失笑が所々で生まれる。
それはそうだろう。
そんなことを言われても、誰も信じやしない。
しかし中には【ナーヴギア】の機能をちゃんと理解している者がおり、
その呟きを聞いた者は、再び呆然とした。
そしてここにも、その機能をしっかりと理解している者がいた。
(ショボン)「……可能だ」
.
-
(ドクオ)「え?」
(ブーン)「ど、どういうことだお?」
(ショボン)「ナーヴギアは、
ヘルメット内部に埋め込まれている信号素子から電磁波を発生させて、
僕達の脳に疑似的な感覚信号を与えるんだ。
その信号が、この仮想空間での【感覚】を生んでいる。
これは最先端のテクノロジーだけど、基本原理はあれと一緒なんだ」
(ツン)「……あれって……なに」
(クー)「電磁波……だと……あれ、か?」
(ショボン)「そう、電子レンジ。
あれはマイクロ波で水分子を振動させて熱を持たせる。
ナーブギアと、基本思想はほぼ同じ。
電磁波の出力を上げれば、僕達の脳を煮沸……破裂させられる」
ショボンの言葉に息を飲む四人。
周囲の者達も何人かは言葉を無くしていた。
空からの声は続く。
『より具体的には、十分間の外部電源切断、
二時間のネットワーク回線切断、
ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み、
以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される』
(ツン)「電源切って、なんで電磁波出るのよ……」
(クー)「ナーヴギアには、内臓電源が付いている。
でも、所詮はゲームの内臓バッテリーのはずだが……」
.
-
(ショボン)「不思議だったんだ。なんであんなに必要なのか。
マイナーチェンジで小さくされるって聞いて、
ああやっぱりって思った。
……汎用機の内臓バッテリーは、高出力を起こせる力を持ってる」
『この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。
ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視して
ナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果
……残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、
アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
(ドクオ)「!……あの、プレイヤー」
(ブーン)「!」
(クー)「!」
ドクオの言葉に思い出す二人。
三人の脳裏には、先ほどまでいた草原で見た一人のプレイヤーが浮かんだ。
(クー)「――――!!」
声にならない短い悲鳴を上げるクー。
ツンがその肩を抱いた。
『諸君が、向こう側に置いてきた肉体を心配する必要はない』
(ツン)「クー!」
(クー)「す、すまん……」
『現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、
多数の死者が出ていることを含め、繰り返し報道している。
諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。
今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま
二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、
厳重な介護体制のもとに置かれるはずだ。
諸君には、安心してゲーム攻略に励んでほしい』
.
-
(ドクオ)「何言ってやがる……こいつ……」
(ツン)「嘘……よね……」
(ブーン)「ドッキリ……だおね……」
(クー)「本当なのか……」
『しかし、充分に留意してもらいたい。
諸君にとって、≪ソードアート・オンライン≫は、
すでにただのゲームではない。
もう一つの現実と言うべき存在だ』
(ドクオ)「……」
(ブーン)「……」
『今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。
ヒットポイントがゼロになった瞬間、
諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』
(ツン)「……」
(クー)「……」
『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
(ツン)「!」
(クー)「!」
(ブーン)「!」
(ドクオ)「!」
ほとんどの者が、息を飲んだ。
どこかでばかばかしいと思いつつも、どこかで言葉を受け入れ、
そして、恐怖した。
.
-
声は続く。
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。
先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第百層までたどり着き、
そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。
その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
抑揚のない、ただ事実を告げるだけの淡々とした語り口調。
呆然とした彼らの耳に、どこからかいくつもの叫び声が聞こえた。
その中にはβテストでの攻略数を嘆く声もあり、
それを聞いてドクオが頷く。
(ドクオ)「……二ヶ月で、六層。
七層の途中までしか、行けてない」
(クー)「二ヶ月で六層。
単純計算なら百層にかかるのは三十四カ月くらいか?」
(ツン)「約三年ってこと!?」
(ドクオ)「六層だって、何度もチャレンジして、
何度も何人も死んで、やっとだったんだ……」
(ブーン)「そんなこと……死ぬなんて……」
(ドクオ)「復活できるから、死なないから、
ゲームだからそんなことが出来る。
何度もチャレンジして、攻略方法を学んで、
……何度も死んで、敵を倒す。
RPGなんて、ゲームなんて、そうやって楽しむもんだろうが!」
ドクオの声は、ここにいる誰もが思ったことだろう。
けれどその思いが、言葉が受け取られることは無く、
声はさらに続いた。
.
-
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。
諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。
確認してくれ給え』
(ドクオ)「プレゼント?」
ドクオがメインメニューを開く。
三人は勿論周囲の者達も同じ動作をしたため、
中央広場に電子的な鈴の音のサウンドエフェクトが響いた。
(ツン)「手鏡?」
(ブーン)「鏡?」
(クー)「なんでこんな?」
四人の中では一番操作が遅いツンがアイテム欄を開いた時には、
三人は既にその名前をタップしていた。
そして現れたメニュー内のオブジェクト化を選択すると、
効果音と共に小さな手鏡が出現した。
それを手に取る四人。
恐る恐る鏡を覗き込むと、自分が設定したアバターの顔が映った
(ツン)「ただの鏡じゃない」
(クー)「これからこの顔で、ここで生きろってことを確認しろってことか?」
(ブーン)「おーーー」
(ドクオ)「これが、なんだって言うんだよ」
.
-
四人で輪になった状態で、鏡を持ったまま自分以外の三人を見る。
(ツン)「ちょっと!あんた達!」
突然、ツンを除く三人が白い光に包まれる。
そして数瞬遅れてツンも包まれた。
(ドクオ)「みんな!」
(ブーン)「ツン!」
(クー)「またどこかに飛ぶのか!?」
(ツン)「ブーン!」
そして数秒後、光が収まると、彼らはまだはじまりの街の中央広場にいた。
('A`)「お、おい、お前ら」
( ^ω^)「お?お?」
ξ゚⊿゚)ξ「ど、どういうこと?」
川 ゚ -゚)「ここは、ゲームの中だよな?」
見慣れた姿の自分達。
髪の色や瞳の色は異なっているが、その姿は見慣れた友人の姿だった。
手鏡はいつの間にか消えていたため自分の姿を確認することは出来ないが、
仲間達を見る限りは自分も【自分の姿】をしているのだと感じた。
(´・ω・`)「みんな、大丈夫?」
いつの間にか四人とは少し離れた場所に一人でいたショボンも駆け寄ってくる。
(;^ω^)「ショボン!これはいったい!」
(´・ω・`)「ナーヴギアは頭全体と顔の半分を包み込んでいる。
高密度の信号素子が頭と顔を包み込んでいるんだ。
顔全体の造形を読み取ることなんて、容易い」
.
-
川 ゚ -゚)「身体はどうなっているんだ!?」
普段の身長に戻ったドクオを見る三人。
('A`)「!そうか……キャリ…ブレーション……」
(´・ω・`)「そう。キャリブレーション。
最初にナーヴギアを被った時に体全身をくまなく触ったよね。
あれによってこの世界での感覚と実世界の感覚を同期させているわけだけど、
あれは自分の体のデータをナーブギアに教えているんだ。
長さや太さ、おうとつといったね。
色以外のデータはすべてナーブギアに教えてある。
特に僕達は薄い術着を着ていたから、かなり正確だと思う」
冷静に、けれどどこか自嘲気味に自分の考えを告げるショボン。
しかしその姿は冷静過ぎていて、
まるでこのような状況になることを知っていたかのように見えた。
勿論それは邪推なのだが、
この中では一番彼をよく知らないツンの脳裏には少しだけ浮かび、
そしてすぐ消えた。
消えた理由は、自分の幼馴染達と親友が、
全くそんなことを考えていないことを感じたから。
そして自分も短いながらもこの数カ月で、
彼がそんなことをすることは考えられないと思えたからだった。
川 ゚ -゚)「ショボンは冷静だな」
('A`)「お前はほんとにいやになるくらいに冷静だよ」
( ^ω^)「でも、ショボンがショボンらしいと安心できるお」
ξ;゚⊿゚)ξ「まったくあんたは……」
先程まで戸惑い、狼狽えていたのが嘘のように落ち着いた四人。
勿論まだ動揺はしているのだが、
ショボンの姿が、信頼している友人が普段と同じ姿を見せてくれたことが、
彼らに落ち着きを取り戻すきっかけを与えてくれた。
.
-
(´・ω・`)「そう?」
いつも通りの表情で、いつも通りの受け答えをするショボン。
ショボンの後ろに回された右手は強く握られ細かく震えており、
それを抑える為に右の手首を強くつかむ左手も震えていたが、
四人に隠すことは成功していた。
('A`)「ショボン、会ったことあるんだよな?
どんな奴だったんだ?
こんなことをするような奴に見えたか?」
(´・ω・`)「……茅場晶彦氏とは、ほんの少ししか話していない。
けれど、彼は言っていた。
『私の世界を作る手助けをありがとう』って。
それに違和感は感じたけれど、念願がかなうって意味なのかなって思った。
けど、きっと、それは正解だけど、正確ではなかったんだと思う」
川 ゚ -゚)「?どういうことだ?」
(´・ω・`)「それは……」
『諸君は今、なぜ、と思っているだろう』
ショボンの声に重なるように、空から声が再び降り注いだ。
『なぜ私は、
SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?
これは大規模テロなのか?
あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』
空を見上げる五人。
今まで淡々と話していた声に、少しだけ表情を感じて怪訝に思う。
.
-
『私の目的は、そのどちらでもない。
それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由ももたない。
なぜなら……この状況こそが、
私にとっての最終的な目的だからだ』
(´・ω・`)「……やっぱり、そういうことか……」
川 ゚ -゚)「ショボン?」
『この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。
そして今、すべては達成しめられた』
そこで声は止まった。
中央広場にいる者の表情はまちまちだった。
呆然とする者、
怒りに満ちた者、
まだ現状が把握できていない者、
冷静な者。
けれど全ての者が空を見上げ、
空に浮かぶフードの男、
【茅場晶彦】
を見ていた。
それは、フードの中の闇の中に、
彼の姿を見ようとしているようだった。
『……以上で≪ソードアート・オンライン≫正式サービスのチュートリアルを終了する』
その中で降り注いだ声には、表情も感情も無くなっていた。
『プレイヤー諸君の―――健闘を祈る』
そして、その声を最後に空からの声は消えた。
.
-
第十九話
終
第二十話に続く
※文中の【茅場晶彦】の『』内のセリフは、
一部区切りを変更させていただきましたが、全て
≪電 撃 文 庫 ソー ドア ートオ ンラ イン1 アインクラッド≫
より引用させていただきました。
.
-
以上、第十九話でした。
今回は少し短めでしたが、その分二十話が長くなりそうです。
何とか詰めて、なるべく早めに投下できるよう頑張ります。
乙、しえん、感想、指摘、本当にありがとうございます。
終わりまで亀の歩みですが突っ走るつもりですので、
よろしくお願いいたします。
.
.
-
乙
-
おつ
『ミカゲ』=十七話で出てきた忍者……かなあ
-
「みんな、ごめん」
彼の謝罪が、波紋を生む。
「そうね。全部、あんたのせいだもの。当然よ」
突き刺さっていく、彼女の言葉。
「ナーヴギアを被ったのも、『リンク・スタート』と言って飛び込んだのも、
私だ。私なんだよ」
それは、全員の思い。
「でも、そんな状態だと、この世界では生きていけないと思う」
震える事実
冷静な観察から導き出された現実。
目指す理想。
「帰る日まで、みんなで頑張ればいいんだお」
五人の思いが、交差し、離れ、結びつく。
( ^ω^)達はアインクラッドを生きるようです
第二十話
はじまりの日 DEATH GAME 〜SWORD ART ONLINE〜
11月中には投下予定。
.
-
乙!
-
乙乙
-
乙です!次回も楽しみにしてます!
一点だけ、335と336の間もしかして抜けてないかな?
読みとれてないだけならすまん
-
どーもです。
>>381 様
ご指摘ありがとうございます!
抜けてました!
はぁああぁぁぁぁぁあああぁぁぁ…… ……。
今回こそは抜けはないようにと思っていたんですが……。
すみませんでした。
補完ねがいます。
.
-
(クー)「ブーンの使っているプロトタイプは全く同じなのか?
その、信号の強さとか」
(ショボン)「実は、少しだけ強い。
でも僕のテストタイプよりは弱いし、
もともとはプロトタイプの強さで出そうって話もあったくらいだから、
違いは無いと思うよ」
(クー)「そうなのか。
先程のツンに追いついた走るスピードと今の話を聞いて、
もしやと思ったのだが」
(ショボン)「多分違うと思うけど……。
走るスピードに関しては、もともとブーンの記憶の中に
『これくらいのスピードで自分は走れる』
ってイメージがあると思うから、そこら辺に由来しているんじゃないかな?
もしくは、初期のパラメーター振り分けを素早さ重視にしちゃったとか」
(ドクオ)「バランスよく均等にしろって言ったのに」
(ショボン)「いや、もしかしたらだよ?」
(ドクオ)「さっきの走りは、もしかしたらそうかもしれん」
(ショボン)「まさかー。ブーンに限ってそんなことしないよ。
と、自信を持って言い切れないところが悲しい所」
(ドクオ)「あとで問い詰めるの手伝ってくれ」
(ショボン)「お手柔らかにね」
(クー)「本当に三人は仲が良いな」
ドクオとショボンの掛け合いを聞いていたクーがポツリと漏らす。
(ショボン)「今の会話のどこからその言葉が出てくるのかは分からないけど、
仲が良いのは三人じゃないでしょ?」
(クー)「え?」
.
-
正確には、334と335が重複なので、
334→383→336と読んでいただけますようお願いします。
ではではまたー。
.
-
乙乙
原作知らんから始まりの部分がよく分かって実に良かったわ
> (美青年)「兄者、これはいったい?」
> (美少女)「えー。兄者って誰ですかー?」
ネカマ全開兄者わろたwwwww
-
おつです
やはり読んでいて楽しい
-
乙
ジョルジュの眉毛がwww
-
乙!ミカゲが15話あたりで出てきた謎の人物っぽいね
読み返すとミカゲ=デレ=黒装束の忍者と想像させられる伏線だけど違う展開でも全然おかしくないし良い意味でモヤモヤするな
-
予想は控えようぜ
-
期待
-
まだかな?
-
霜月終るぞこらあああ
-
0.浮遊城
VRMMORPG 『SWORD ART ONLINE』の舞台は、100層からなる浮遊城である。
それぞれの層は円形大地であり、
第一層の上に第二層、そして第三層と基本的には少しずつ小さくなった円形台地が重なっている。
層と層は一つの迷宮によって繋がっており、
一番下の一層から一番上の百層を目指し、百層にいるとされる最後の敵を倒すのが、
このゲームのグランドクエスト、最終目的である。
迷宮の一番奥にはその層のボスがおり、ボスを倒さない限り次の層に行くことは出来ない。
層の一番端、岩壁を登ることは不可能であり、
また落ちればその距離に応じた衝撃が身体を襲う。
先に書いたが、この世界は『浮遊』城である。
つまり、天空に浮いているのだ。
層の端から外に向かって落ちるということは、
見えない大地に向かって落ちて行くことと同じであり、
そして、それは「死」を意味している。
βテスト時代に外の壁を登ろうとした猛者もいたということだが、
結局は失敗していた。
.
-
円形の大地が層になっているため、
上を見上げてもそこには上の層の底しか見えない。
大地の端に行けば無限の空が見えるが、ただ空が見えるだけである。
太陽はこの浮遊城を照らし、光は外側から降り注いでいる。
地球と同じように太陽の周りをこの浮遊城が回っているのか、
浮遊城の周りを太陽が回っているのかは定かではない。
日本の標準時刻と同じペースで時は進み、
浮遊城の一日は、現実世界の一日と同等である。
常春の層。
常夏の層。
常秋の層。
常冬の層。
昼の層。
夜の層。
鉄の層。
花の層。
水の層。
牛の層。
鳥の層。
虫の層。
層には気候の固定された特色のある層もあれば、
季節によって気候が移り変わる層もあり、
更には出てくるモンスターやボスキャラクターの種類を特化した層もある。
.
-
当初プレイヤーは浮遊『城』と呼ぶことに多少の抵抗を持っていた。
浮遊しているとはいえ、大地があり、湖があり、川があり、木々のあるその世界を、
【城】と呼ぶことに違和感があった。
しかしいつしかその違和感は消えていた。
無意識下で、心の奥底で、本当に理解したのであろう。
自分達のいるこの世界が、
天才【茅場晶彦】の創り出した世界であるということを。
彼の手の中の、彼の頭の中の『城』であるということを。
≪SWORD ART ONLINE≫は、
この浮遊城を舞台としたゲームである。
そして、
浮遊城は、
≪アインクラッド≫
と、
名付けられていた。
.
-
( ^ω^)達はアインクラッドを生きるようです。
第二十話
はじまりの日 DEATH GAME 〜SWORD ART ONLINE〜
.
-
1.はじまりの日
.
-
2023年11月6日
デジタル時計は夕方六時を過ぎたことを教えてくれている。
夕闇の赤が血の様に見える真紅の世界。
ついさっきまで上空を覆っていた赤と黒の市松模様は消えている。
この世界の創造主である【茅場晶彦】から告げられた内容をやっと認識した人々が、
声を上げ、泣き、叫び、怒鳴り、嘆き、はじまりの街の中央広場には混乱の渦が生まれた。
だが、騒ぎの起きる前に五人は広場から外に飛び出していた。
('A`)「ショボン……どうするんだ?」
(´・ω・`)「まずは一度西の教会に行こう。
最短の道を先導してほしい」
('A`)「……分かった」
ドクオを先頭に、ブーンがツンを、ショボンがクーを支える様にして駆けていく五人。
少し動きがゆっくりしているのは、
先ほど告げられた現実の重さを考えれば仕方ないことだろう。
そして、後方の広場から聞こえるプレイヤーの声が、心を暗くさせる。
彼らが人の渦に巻き込まれる前に外に飛び出せたのは、
的確に指示を出したショボンのおかげだった。
('A`)「その後、どうする?」
(´・ω・`)「まずはとにかく教会に」
心細げなドクオの言葉に、しっかりとした声で答えるショボン。
その声に後押しされるように、ドクオの足取りがしっかりとしたものに変わった。
.
-
しえ
-
西区教会
つい先ほど、五時間ほど前に来た教会に、彼らは再び訪れた。
奥の部屋に入り、疲れた様に椅子に座る。
ツンとクーが肩を寄せ合い、二人を守る様にブーンが腰掛ける。
その前にドクオが座った。
(´・ω・`)「みんな、ごめん」
そしてドクオの横に立っていたショボンが、
座らずに頭を下げる。
腰を九十度に曲げ、テーブルに額当たる勢いで頭を下げた。
('A`)「!」
(;^ω^)「ショボン!なにを!」
(´・ω・`)「僕がナーヴギアを提供し、SAOというゲームも提供した。
皆が今ここにいるのは、僕の責任だ。
謝って済むことじゃない。
でも、まずは謝らせてほしい。
許してほしいともいえない。
ただ、謝らせてほしい。
みんな。ごめんなさい。
巻き込んでしまって、ごめんなさい」
('A`)「お前のせいじゃないだろ!
おれは自分で選んだ!
テストに自分でお応募して、自分で始めたんだ!」
(´・ω・`)「でも、ナーヴギアを使わせなければよかったんだ」
('A`)「おれがお願いしたんだろ!だからお前のせいじゃない!
それにバイトしてナーヴギアは買ってた!」
.
-
(´・ω・`)「バイトの金額計算しても、
当日までには、スタートの今日までには溜まらないかもって言ってたよね。
同梱版の金額。最後のバイト代が出るのが、11月の10日だから。
夏休みにいっぱい入れたとしても、それ以外は週一回か二回じゃ、無理だって」
('A`)「それは……」
(´・ω・`)「だから、僕のせいなんだ」
('A`)「でも、おれが楽しそうにSAOをやらなければお前だってみんなを誘ったりしなかっただろ!?
だから、おれにも!」
(´・ω・`)「どちらにせよ、誘っていたよ。
僕は、友達皆で何かをやるってことに憧れていたから」
( ^ω^)「!」
('A`)「!」
(´・ω・`)「SAOは、五人で、友達でやる、特別なことに、最適だったんだ。
たった一万人の中に入れた、特別な五人。
世界で初のバーチャルゲーム。
それを楽しむ、特別な五人。
それが、したかったんだ」
('A`)「ショボン……」
( ^ω^)「ショボン……」
川 ゚ -゚)
ξ ⊿ )ξ
(´・ω・`)「僕の勝手な思いに巻き込んでしまったんだ。
だから、ごめんなさい」
.
-
川 ゚ -゚)「……だが、やることを決めたのは自分だ。
術着に着替えたのも、ベッドに寝たのも、
ナーヴギアを被ったのも、『リンク・スタート』と言って飛び込んだのも、
私だ。私なんだよ」
( ^ω^)「そうだお!みんな自分で決めたんだお!」
('A`)「ああ、そうだ。自分で決めたんだ。
だから、きにすんな」
(´・ω・`)「でも、それでも。僕が誘わなければ、みんなは……」
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「……」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「だから、僕はここに誓う。
絶対に、みんなは生きて向こうの世界に戻す。
何に変えても、絶対に。
現実世界に戻れる日まで、絶対にみんなが生き残れるようにする。
だから、その日までみんな、僕」
ξ ⊿ )ξ「そうね。全部、あんたのせいだもの。当然よ」
ずっと黙っていたツンが、ショボンの言葉にかぶせるように呟いた。
川 ゚ -゚)「ツン!?」
(;^ω^)「ツン!?」
('A`#)「ツン!」
(´・ω・`)「うんそうだよ。僕のせいなんだ。だから」
ゆっくりと立ち上がるツン。
そしてショボンを睨む。
.
-
ξ゚⊿゚)ξ「って、言えば、満足?
でも、絶対にそんなこと言ってやらない!
バカにすんな!バーカ!」
(´・ω・`)「え?」
(*^ω^)「ツン」
川 ゚ -゚)「……朋美……」
('A`)「うわぁ……」
ξ゚⊿゚)ξ「バーカ、バーカ、バーカ。
私の事をバカにすんなこの野郎」
('A`)「ショボンをバカとかよく言えるよな」
ξ゚⊿゚)ξ「良いのよ。だってこいつホントにバカなんだから」
川 ゚ -゚)「ツン」
ξ゚⊿゚)ξ「……そうね。
あんたの言葉に甘えて、
あんたのせいにして、
あんたを恨めば楽よ。
どうせあんたの事だから、
私達を安全な所に置いて、
何とかして帰還の日までもたせようとか、
考えているんでしょ。
私たち以外の使えるモノは何でも利用して」
(´・ω・`)「そんなことは」
('A`)「しそうだな」
( ^ω^)「やりそうだお」
川 ゚ -゚)「うむ」
.
-
(´・ω・`)「いや、だから」
ξ゚⊿゚)ξ「でもそんなの、私は嫌。
ここには、自分の意思で来た。
その事実に蓋をして、あんたを恨んで生きるなんて絶対にいや!」
( ^ω^)「ツン……」
ξ゚⊿゚)ξ「………。
こんなところで死にたくない!
現実に戻りたい!
あの声を聞いて、ここに移動するまでの間、ずっと思ってた。
心が張り裂けそうだった。
でも、誰かを恨んでまで、
友達を恨んでまで、心の平穏なんて求めてない!」
ツンの叫びが部屋に響き、四人がツンを見た。
空気が固まり、誰も動けず、何も言えなかった。
ただ一人、ツンはショボンを睨みつけながら、口を開く。
震える身体を支える様に自分の体を抱きしめた彼女を、
クーが横から抱きしめようとした直前だった。
ξ゚⊿゚)ξ「あとあんた、
私達が無事に帰れるなら自分は死んでもいいって思ってるでしょ」
(´・ω・`)「!」
('A`)!
(;^ω^)!
川 ゚ -゚)!
(´・ω・`)「別に、僕はそんなこと……」
ξ゚⊿゚)ξ「いいや、思ってる!
どうせ本当なら死んでお詫びしたいけど、
でもみんなが帰るまでは死ねないとか思ってるのよ!
ブーンやドクオだって、分かってるでしょ!」
.
-
('A`)「……そうだな」
( ^ω^)「ショボンなら、……思っていそうだお」
ξ゚⊿゚)ξ「『いそう』じゃなくて、思ってるのよ。
だってこいつ、さっき『なににかえてもみんなは』って言ったもの。
きっと、自分の命は、二の次にしてる。
もちろん私達を活かすために頑張って生きるでしょう。
でも、私達を生き残らせるためになら、簡単に自分の命を捨てるつもりよ。
そして、私たち以外の命を犠牲にすることもいとわないわよ。こいつ」
右手の人差し指でショボンを指さすツン。
その指先は少しだけ震えていて、
それを見て我に返ったクーはツンを抱きしめた。
ξ゚⊿゚)ξ「久美子……」
川 ゚ -゚)「朋美。もういい。もういいよ」
ξ゚⊿゚)ξ「だって、あんた……」
川 ゚ -゚)「本城、私も朋美と同じ気持ちだ」
(´・ω・`)「……」
川 ゚ -゚)「私の家が本城の家に救ってもらえたから、
私は美ノ付に通うことが出来ているし、
不自由無い生活を送っていた。
高校で再会できた時、……恩返ししたいと、思った。
私がそれを言った時、困ったように笑って、言ってくれたよな。
『僕は何もしてないよ。そんな事考えないで、高校生活を楽しもう』って」
ξ゚⊿゚)ξ「!久美子、あんた……」
('A`)
( ^ω^)
(´・ω・`)「融資を決めたのもおこなったのも、父や母や祖父であって、僕は何もしていない」
.
-
川 ゚ -゚)「……来島家を救ってくれたのは本城家だが、
私を救ってくれたのは、本城、お前だ。
本城は覚えてないかもしれないがな。
私は、忘れない。
あの、あの日から、ずっと。
私は……。
だからこそ、『友達』にはなれないと思っていた。
借りが多すぎて、大きすぎて、対等である友達になんて、なれないと思った。
でも本城、言ってくれたよな。私達五人は、友達だって。仲間だって。
私はそれが、凄く、凄く、嬉しかったんだ。
ずっと、色んなことに引け目を感じていた私を、
友達だって言ってくれた、仲間だって言ってくれた、
本城が、朋美が、内藤が、徳永が、大事で、大好きなんだ。
一緒に笑って、バカな話をして、お弁当を食べて、勉強をして、
毎日が楽しかったんだ。
だから、自分が決めた事のせいで、大事な人を恨んだり憎んだりなんてできない。
したくない。でも私は弱いから、本城にそんなことを言われ続けたら、
心の片隅に思ってしまう日が来てしまうかもしれない。
だからもう、そんなことは言わないでくれ。
私は、私を嫌いになりたくないんだ。
だから、頼む」
(´・ω・`)「来島さん……」
顔を伏せ、互いの体を支えるように抱きしめあうツンとクー。
ブーンが近寄り、二人に椅子に座るように促した。
( ^ω^)「ショボン、ショボンはいつも僕達の事を考えてくれるけど、
僕達だってショボンの事を考えてるんだお。
ショボンが僕達の事を好きでいてくれるように、
僕達もショボンの事が好きなんだお。
いつもショボンに甘えちゃってるけど……」
('A`)「そうだな。
おれ達は、ショボンに甘え過ぎてた。
いつも笑って、おれ達の事を考えていてくれたから。
より良い道を、正解の道を指し示してくれたから、
それを普通に思ってしまっていた」
.
-
ξ ⊿ )ξ「甘えてたのはあんたたち二人でしょ」
('A`;)「お、おれ達ってのはおれとブーンの事であってだな、」
ξ ⊿ )ξ「分かってるなら良い」
('A`;)「お、おお」
なんとなく気まずそうに頭を掻くドクオ。
ブーンも困ったようにそんなドクオを見ている。
('A`)「で、まあ、何を言いたいかっていうと、
自分を責めるのは止めてくれってことだ。
おまえは今のこの状態は自分のせいだって思ってる。
でもおれ達は、自分が選んだ結果だって思ってる。
本当は、ショボンがそんなことを思うのを止めてほしいけど、
おれ達が何を言ったって、多分変わらないよな。
でも、ショボンがどんなに言っても、
おれ達も自分の選んだ結果だって意見は変えない」
(´・ω・`)「ドクオ……」
('A`)「でも、そんな状態だと、この世界では生きていけないと思う」
(´・ω・`)「!」
( ^ω^)「!」
ξ゚⊿゚)ξ「!」
川 ゚ -゚)「!」
俯いていた二人もドクオの顔を見た。
('A`)「おれはβテストのとき、ダンジョンどころかフィールドですら、
それこそさっき倒した青イノシシに負けて死んだことがある。
戦い方が分からないんだから、当然だよな。
自画自賛になるけど、もし俺がいなかったら、
お前ら全員もう死んでいたかもしれない」
.
-
四人の背中に冷たい物が走った。
('A`)「武道をやっていたクーですら最初はへっぴり腰だったもんな」
川 ゚ -゚)「……ああ。徳永のアドバイスが無かったら、
あの時に死んでいたかもしれない」
('A`)「まあおれも教えるのがそれほどうまいってわけじゃないし、
ショボンに言われてポーション飲んでなかったら、
あそこで与えられたダメージ総量を考えると、死んでいたかもしれない」
自分達に戦い方を指導しながら、
自分達を守るためにイノシシの攻撃を受けて傷を負ったドクオを思い出す四人。
( ^ω^)「……ドクオ」
('A`)「一番最初に突っ込むタイミングを掴んだツンだって、
そう思うだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ「……ええ。
何回も攻撃受けたし、ドクオにも守ってもらった。
思い返せば、いつ死んでもおかしくなかったかも」
('A`)「ショボン、どんなにお前の頭が良くても、
多分この世界はそれだけじゃ生き抜くことは難しい。
よっぽどの『力』をもつ奴ならともかく、
本当に一人で生き抜く事なんて無理だと思う。
ましてや、自分以外に四人も守るなんて、無理だ」
(´・ω・`)「でも…ぼくは……」
('A`)「けれど、おれ達は一個一個を見ればかなり高スペックだと思う」
(´・ω・`)「?」
( ^ω^)「お?」
ξ゚⊿゚)ξ「?」
川 ゚ -゚)「どういうことだ?」
.
-
ドクオは全員の顔をゆっくりと見回し、そしてショボンを見た。
('A`)「ショボンの頭の良さ、記憶力。
更にテストタイプのナーヴギアを使っていることによる敵の出現をいち早く察知できる目。
これはかなりのアドバンテージになると思う」
(´・ω・`)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「いち早く察知?」
川 ゚ -゚)「詳しくは後で話すが、
ショボンが使ってるナーヴギアはテストタイプのため、
私達より少しだけ早く敵が現れる場所を知ることが出来る様なんだ」
( ^ω^)「おお!すごいお!」
ドクオは視線をクーに移す。
('A`)「クーの武術と冷静さ。
槍捌き自体はいつかは他の奴もうまいやつが出てくるだろうけど、
現時点ではβテスターを含めてもトップクラスだと思う。
それに状況を掴む冷静さ、観察眼はショボンと同等、
いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。
ショボンはさ、おれ達には甘すぎるから」
(´・ω・`)「……そう……かな」
川 ゚ -゚)「ふふふ。そうかもしれんな」
そしてツンを見る。
('A`)「ツンの持つ思い切りの良さと剣技のセンス。
それと歯にモノ着せない物言い」
ξ゚⊿゚)ξ「褒めてないわよね?」
('A`)「……大事だよ。
おれ達じゃ、ショボンが暴走したら止められないかもしれない。
さっきみたいに、ガツンと言ってやることが出来ないかもしれない。
それじゃ、ダメなんだけどな。友達に気後れするとかさ……」
.
-
( ^ω^)「おー。だおね。ショボンの方がちゃんと考えていてくれるから、
いつも甘えちゃってて、ショボンが言うなら間違いないだろうって思っちゃってるお」
('A`)「ああ。
それに、あの剣技の切れは、
今まで見たどの細剣の初期技と比べても、
トップクラスだったと思う。
もしかしたら、ツンの性格は細剣の剣技と相性がいいのかもしれない」
ξ゚⊿゚)ξ「性格と剣技の相性ねぇ……」
('A`)「剣技は技によっても武器によっても癖がある。
ツンが細剣の全部の剣技と相性が良いのかは分からないけど、
あの技にはかなり相性が良いように見えた。
技後硬直とか注意点も大きいけど、
自分の能力を格段に引き上げる剣技を使いこなせるのは、
かなりの強みだ」
ξ゚⊿゚)ξ「なるほどね」
('A`)「そしてブーン」
( ^ω^)「おっ」
('A`)「ブーンの体の動きと呼吸の合わせ方。
他のどの武器ともそれなりに合わせやすい片手剣ってこともあるけど、
おれやツンと共闘した時の呼吸の合わせ方は、見事だった。
ソロはともかく、パーティーで戦う時は大きな武器だ。
それに普段から運動をしていただけあって、
自分の体の動かし方がよく分かってる。
小学校の時に通ってた体操教室の動きも活かされてるのかもしれないな」
(*^ω^)「お!そうかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「で?あんたは?」
.
-
('A`)「ゲームの知識。お約束。
βテスターとしてこの世界を生きた経験と知識は、
一般プレイヤーには無いものだ。
モンスターの種類と特徴と出現場所。
抜け道を含めた細かいマップ。
街の中の店や細かい裏技。
いつかはみんなが分かることだけど、
最初からある程度分かっているというのはそれなりに力になるはずだ。
あと、古今東西のRPGや複数のMMORPGをプレイしたゲーマーとしての知識も」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「ん?どうした」
ξ゚⊿゚)ξ「いや、確かに今の私達にとって、
生きる為の凄い武器だと思うんだけど……」
川 ゚ -゚)「少し引いた」
ξ゚⊿゚)ξ「昔からゲーム良くしてたもんね。
私達が誘わないと外出ないし」
('A`)「今は良いんだよそんなことは」
( ^ω^)「おっおっお」
川 ゚ -゚)「だが同時に、かなりすごいとも思う。
あの短時間で、私達の事をよくそこまで……」
('A`)「ああ、まあな。
パーティー組んで戦うには全員の長所と短所、
得手不得手、好きな戦い方嫌いな戦い方を知らないといけないからさ。
最終的には指揮をショボンに任せるとはいえ、
おれも意見できるようにしたほうが良いかなと思って」
そしてショボンに視線を戻した。
.
-
('A`)「おれ達がパーティーを組んで戦うとしたら、指揮はショボン、お前だ」
(´・ω・`)
('A`)「今みたいに一人一人の特性を見ることは出来ても、
それを組み合わせて、状況に合わせて動かす事なんて、
おれにはできない。
この五人の中でそれが出来るのは、
ショボン、お前だ」
(´・ω・`)「……来島さんも出来るよ」
川 ゚ -゚)「は?」
('A`)「ああ、そうだな。資質だけなら出来る可能性は高いと思う」
川 ゚ -゚)「いやちょっとまってくれ」
('A`)「でも、お前の目とクーの戦闘能力を充分に発揮させるなら、
お前が指揮を執るのが順当だろう?
悪いけど、戦闘能力はお前よりクーの方が上だ。
お前が前線に出るより、クーが前線に出た方が安全に敵を倒せる。
それにお前の持つ目の能力は、後方で全体を見渡すことで、
最大限に威力を発揮するんじゃないか?」
(´・ω・`)「それは……」
川 ゚ -゚)「二人とも私の声が聞こえているか?」
('A`)「お前だってわかってるはずだ。
自分の真価は、『人を使うこと』だってな。
だからお爺さんたちに」
(´・ω・`)「ドクオ!」
('A`)「……わるい。今はそれは関係なかったな。
でも、おれの言いたいことは分かるだろ?」
(´・ω・`)「……うん」
.
-
ドクオの言葉に、珍しく声を荒げるショボン。
その声にツンとクーは驚いてショボンの顔を見た。
ブーンは何も言えず、少しだけ悲しそうにショボンとドクオの顔を見ている。
(´・ω・`)「でも……やっぱり……」
項垂れるショボン。
( ^ω^)「帰る日まで、みんなで頑張ればいいんだお」
ブーンが朗らかに、事も無げに言い放つ。
(´・ω・`)「ブーン……」
頭を上げるショボン
その簡単な物言いに、ドクオとクーは苦笑いを浮かべながらも追従した。
('A`)「そうだな」
川 ゚ -゚)「それしかない」
出来るだけ簡単に、何事も無いように。
(´・ω・`)「でも、皆に命が危険にさらされるようなことは」
それでも異議を唱えるショボン。
ξ゚⊿゚)ξ「なら、私達が危険にならないように、考えなさい」
しかしすぐにツンの言葉によって遮られた。
それはまるで最初にショボンが提案しようとしたことを認めるような言葉だった。
(´・ω・`)「え?いや、じゃあ」
が、違った。
.
-
ξ゚⊿゚)ξ「ただし、私達は自由に動くわよ。
納得できる内容なら、従ってあげる。
でも、納得できなかったら指示になんて従わない。
どこかに閉じ込めるとか、この街から出ないなんてのはもってのほかだから、
それ以外で私達が出来るだけ死なない道を考えなさい」
(´・ω・`)「…………え?」
('A`)「……上から目線だ」
川;゚ -゚)「朋美……」
(;^ω^)「おー」
おもわず唖然としたショボン。
ツン以外の三人も同じような表情で二人を見た。
ξ゚⊿゚)ξ「だってそれしかないじゃない」
四人に対し、普段のツンと何も変わらない仕草で喋り続ける。
ξ゚⊿゚)ξ「本城の望みと、私達の思い。
そこら辺が折衷案でしょ?
本来なら自由に動いていい私達が、
納得できれば指示に従うって言ってるんだから、
喜んで欲しいくらいよ」
('A`)「うわ」
ξ゚⊿゚)ξ「ま、考えるのめんどくさいから、
細かいことは任せるっていうのもあるけど」
( ^ω^)「賛成だお」
ξ゚⊿゚)ξ「あと、自分の命も大切にして」
川 ゚ -゚)「ああ。私からも頼む。
自分の事も大事にしてほしい」
.
-
( ^ω^)「来る時と一緒だお!
五人皆で帰れる様に頑張るんだお!」
('A`)「ああ、そうだな」
川 ゚ -゚)「うむ。内藤の言うとおりだ」
ξ゚⊿゚)ξ「そういうことよ。わかった?」
(´・ω-`)「みんな……」
笑顔で告げる四人に、片目をこすりながら、やっと笑顔を見せるショボン。
(´・ω・`)「わかったよ。
皆で、生きて帰る。
その為に頑張るよ!」
('A`)「おう!」
( ^ω^)「だお!」
川 ゚ -゚)「うむ」
ξ゚⊿゚)ξ「やっとわかったか」
(´・ω・`)「償いは、帰ってからするよ」
('A`)「って、わかってんだが、わかってないんだか」
( ^ω^)「おっおっお。でも、ショボンらしいお」
川 ゚ -゚)「ならば私も帰ってから恩返し攻撃をしなければな」
ξ゚⊿゚)ξ「私鉄とバスとタクシー乗り放題くらいで良いわよ」
('A`;)「おいおい」
(;^ω^)「おっおっお」
川;゚ -゚)「朋美」
.
-
ξ゚⊿゚)ξ「冗談よ、冗談」
(´・ω・`)「了解」
ξ;゚⊿゚)ξ「いやいや、冗談だからね!」
五人全員に笑顔が戻り、会話を交わす。
それは生徒会室で昼ご飯を食べている時のようで、
五人の心に落ち着きを与えていた。
('A`)「さてバカ話もこれくらいにして、
ショボン、これからどうするのが良いと考えている?」
(´・ω・`)「うん……」
時折笑い声も出るような会話を30分以上した後、
全員が一呼吸置いた時に、ドクオが真剣面持ちで口を開いた。
(´・ω・`)「出来れば、早めにこの街を出たい。
今すぐにでも。
この街の情報収集もしたいけど、
ひとまずはドクオの知識があれば事足りるだろうし」
川 ゚ -゚)「何故この街ではいけないんだ?」
('A`)「広いし宿屋も多いし、当分は拠点にしてもいいと思うが?」
(´・ω・`)「宿屋を借り続けてずっと中に籠るならそれもいいと思う。
でも、その道を選ばないなら、着実に安全に早急にある程度までレベル上げをしたい。
おそらくそう考えたβテストをやっていないプレイヤーはこの周辺で狩りを、
戦闘訓練を、レベル上げを始めると思う。
この街の中にいるだけなら、規模でみれば1万人いても大丈夫だと思うけど、
周辺で狩りや戦闘を行うと考えると、キャパが足りないような気がする」
.
-
('A`)「そうか。ああ、そうだな。
そうなれば、この周辺のモンスターはすぐ狩られるだろうし、
狩場をめぐって争いが起こるかもしれない。
そうなると、まずは次の街か。
あそこにはアニールブレードのクエストもあるし、
早めに取りたかったからそれもいいか。
でも……いや……すぐはだめだ。最低でも一つはレベルを上げて」
ショボンの話を聞いて、考え込むドクオ。
最初は周りに聞こえるような声だったが、
だんだん小さくなり最後はぼそぼそと独り言になっていた。
ξ゚⊿゚)ξ「何がダメなのよ?」
('A`)「あ、いや、順当にいくとしても、まずは次の街
『ホルンカ』になると思う。
もともとそこには早く行きたかったから行くことには賛成だけど、
出来るだけ早くってのは、厳しい」
ξ゚⊿゚)ξ「なんでよ」
('A`)「行く途中にモンスターが出る。
さっき倒した青イノシシよりも強いやつが。
といってもそこまで変わらないけど、危険度が上がるのは事実だ。
それに、今はもう夜の時間だからモンスターの出現率も高くなってるし。
少し回り道をしてできるだけモンスターの出ない道を選ぶとしても、
『今すぐ』ってのは無理だ。
安全を考えるのであれば最低でもレベルを一つ上げてから行きたい」
川 ゚ -゚)「どれくらいかかる?」
('A`)「んー。夜はランダムで強いモンスターも出るから、
明日の朝から始めたとして、三日後の昼には全員出られるかな……」
(´・ω・`)「それだと遅い」
.
-
( ^ω^)「どうしたんだお?そんなに慌てて」
(´・ω・`)「……さっきのは、一つ目の理由。
もう一つは、おそらくこの街はこの先更なる混乱に包まれる。
自棄になったやつが、何をしでかすか分からない。
街の中は『圏外』といって戦闘行為は出来ないから僕達に命の危険は無いと思うけど、
出来れば早めに出ておきたいんだ」
('A`)「んなこと言われても……」
(´・ω・`)「今ドクオの言っていたのは、五人全員で動いた場合だよね」
('A`)「ん?ああ」
(´・ω・`)「ドクオ一人なら、次の街まで行ける?」
('A`)「おれ一人なら?ああ。行ける。
でも、おれ一人行ったって……」
(´・ω・`)「もう一人、僕以外の三人のうち誰かを連れていくとしたら?」
('A`)「二人……。まあそれなら行けるかな。
ブーンにせよツンにせよクーにせよ、
一人ならおれもフォローできるだろうし。
あ、ショボンでも大丈夫だぞ?
ああ、そうだな。それなら行けるな。
その方法で一人連れて行って、おれがまた戻ってきてまた一人連れていけば」
(´・ω・`)「いや、流石にそれは効率が悪いよ。
それに、ドクオの負担が大きすぎる。
長く続く緊張や疲れが、ミスを誘うよ」
('A`)「じゃあどうするんだ?」
(´・ω・`)「まず二人で行って、その一人を鍛えてほしい。
そして、ドクオが大丈夫と思えるところまで鍛えたら、
二人で迎えに来てくれ」
.
-
滑り込みで11月に来てたー
これから読みます
-
('A`)「!なるほど。それなら五人での移動がいけるかもしれない。
昼の移動なら二人で三人のフォローも出来るだろうし……。
それに、あのクエストをやれば戦いにも慣れるしレベルも上がるはずだ」
(´・ω・`)「できれば、明後日の昼頃までにお願いしたいけど、間に合うかな?」
('A`)「一緒に行くのが、鍛えるのが一人なら充分だ。
運さえよければもっと早くできるかもな」
(´・ω・`)「出来るだけ安全に。
間に合えば嬉しいけど、急がなくていいよ」
('A`)「でも、それくらいで大丈夫なのか?」
(´・ω・`)「……現実世界からすぐに救出があるとしたら、
おそらく明日の夜までには帰れると思う。
でも、……おそらくそれは無い。
茅場晶彦、あの人は良くも悪くも天才だから、そんな結果にはしないと思う。
そして、この街に居てただただ向こうからの救出を待っている人が大きく騒ぎ出すのは、
多分明々後日くらい……。
扇動者がいればもっと早くなるかもしれないけど、多分それくらいだと思う」
川 ゚ -゚)「……騒動になるまでそんなにかかるのか?
先程の広場では既に……」
(´・ω・`)「小さな騒ぎや騒動、小競り合いは勿論起きるよ。
当分は起き続けるさ。
今もあの広場では起きているんじゃないかな。
でも、全体を巻き込むような騒動は『指揮者』が、
『扇動者』いなければそう簡単には起きない。
一万人って数は、それなりの人数だからね。
無秩序な騒動にだって、引き起こす人や盛り上げる人はいるんだよ。
それに、こんな特殊な状況、だれも信じたくないからね。
『一回寝て、起きたら全部夢だった』って思いたい。
『壮大なオープニングイベントで、もうすぐネタばらしが来る』って思ってる。
それが大多数の人だと思う。
だから、受け入れたくない現実を受け入れて、絶望する。
大きな騒動が起きるのはこのタイミングだと思う」
.
-
川 ゚ -゚)「なるほどな……」
ξ゚⊿゚)ξ「!あんた、もしかして……」
(´・ω・`)「なに?宇佐木さん」
ξ゚⊿゚)ξ「……いや、なんでもない。
……それにしてもあんた、ほんと、やなやつね」
(´・ω・`)「褒めてくれてありがとう」
ξ゚⊿゚)ξ「……褒めたつもりはないわよ。
まあいいわ。それでドクオ、誰を連れて行くのよ」
('A`)「ああ、連れて行くやつだけど……」
(´・ω・`)「うん」
('A`)「ブーン、良いか?」
( ^ω^)「お?僕かお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンなの?」
川 ゚ -゚)「私でもいいぞ?」
('A`)「……移動の時に必要な戦闘力ではクーは勿論ツンでも大丈夫だと思うけど、
何かあった際におれの指示で安全な場所まで逃げてもらうのを考えると、
出来るだけ足の速いやつがいいんだ」
川 ゚ -゚)「そういうことか」
('A`)「それに、着いてからのレベル上げなんだけどさ、
ついでに街売りしてない片手剣をゲットする為のクエストをやろうと思う。
おれの分も含めて二本。
結構使える武器だし、そのままその武器を使える片手剣使いの方が良いだろ。
この先落ち着いてからならまだしも、
折角少しは慣れた今の武器を変えるのは時間の無駄だから。
そして、そのクエスト中に戦闘に慣れてレベルも上げられると思う。」
.
-
(´・ω・`)「うん。分かった。
ブーン、宇佐木さん、来島さん、良いね」
ドクオの説明に頷き、ショボンが三人に確認をした。
川 ゚ -゚)「問題ない」
( ^ω^)「……大丈夫だお」
ξ゚⊿゚)ξ「……しょうがないわね」
クーはすぐに返答したが、
ブーンとツンは互いの顔をちらっと見てから同意を告げる。
(´・ω・`)「二人を離すのは心苦しけど……」
ξ*゚⊿゚)ξ「な、何言ってるのよ!」
(* ^ω^)「おっおっお!
出来るだけ早くみんなを迎えに来られるように頑張るお!」
(´・ω・`)「危険だけど、頼むよ」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、時間かかってもいいから。出来るだけ安全にね」
川 ゚ -゚)「徳永、内藤、頼んだ」
( ^ω^)「頑張るお!」
('A`)「ああ。おれも頑張るよ。
あ、でさ、さっきからちょっと気になってたんだけど」
川 ゚ -゚)「ん?なんだ?」
('A`)「いや、クーだけじゃなくみんなにさ」
(´・ω・`)「なに?」
('A`)「この世界では、リアルネームじゃなくてこちらの世界の名前を使ったほうが良い」
.
-
ξ゚⊿゚)ξ「そういえば顔が一緒だから普通に名前呼んでたわね」
川 ゚ -゚)「まずいのか?」
('A`)「んー。明確な理由があってまずいってことは無いと思うし、
リアルネームとこちらの名前を同じにしてる人もいるだろうから一概には何とも言えないけどな。
ただ、これから先この世界でそれなりの時間過ごすことを考えると、
こちらでの名前を使っていたほうが良いと思う。
こちらの世界で知り合う人もいるだろうし」
(´・ω・`)「そうなんだ。
そこら辺はよく分からないけど、ドクオがそう言うなら気を付けるよ。
ドクオとブーンはいいとして、ツンさんとクーさんだね」
ξ゚⊿゚)ξ「呼び捨てで良いわよ。
わたしもショボンって呼ぶから。
っていうか、あんたにツン『さん』とか言われるとむず痒くなる」
(´・ω・`)「酷いな」
川 ゚ -゚)「私も呼び捨てにしてくれ。
私も呼び捨てで呼ぶしな。
ブーン、君もそうしてくれ」
( ^ω^)「わかったお!」
(´・ω・`)「うん。僕もそうするよ」
('A`)「うん。それでいい。
それでショボン、おれ達が鍛えている間、
お前達はどうするんだ?」
(´・ω・`)「中央から離れた宿屋に籠ろうかと思う。
僕は、日中は情報収集の為に出たりするつもりだけど、
ツンとクーは部屋の中に居てもらうよ」
ξ゚⊿゚)ξ「やだ」
( ^ω^)「ツン、僕とドクオが戻るまではそうして欲しいお」
ξ゚⊿゚)ξ「うーーーー」
.
-
川 ゚ -゚)「仕方あるまい。
三人とも街の外に出たりしないのは当然として、
闇雲に部屋の外には出ない様にしよう。
ま、二日が限度だと思うがな」
('A`)「戻ってこれるとは思うけど。……あ。そうだ」
(´・ω・`)「どうしたの?」
('A`)「ショボン、別に宿屋じゃなくてもいいよな?
鍵がかかって外から守れれば」
(´・ω・`)「うん。それは良いけど」
('A`)「ならあそこがある!」
.
-
来ると思ってたから!
支援
-
以上、本日の投下は終了します。
二十話はこれくらいの長さがあと数回続くので、
修正しつつゆっくり投下する予定です、
よろしくお願いします。
支援等、いつもありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
次回、『2.出発』
ではではまたー。
.
|
|
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板