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月明かりのネコのようです

1名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:50:23 ID:O305c2PI0
西暦でいう2250年を間近に控えた世界。



人類は今や、宇宙にその拠点を移していた。
ーーいや、移すことを余儀無くされていた。


地球の資源が枯渇し、また汚染により「使用不能」と判断されたのがおおよそ2100年。
そこから急ピッチで移住計画が始動し、人類が月に移ったのがその50年後だ。


残されたありったけの資源と材料、そして技術を使って作られた月の街。
地球の暮らしを知らない世代のみになってからも、人類はそこで生き延びていた。


そして今、月の地下に眠っていた良質な資源も、半分程が食いつぶされているというのが政府の試算だ。
その事実を先回しにし、目を背け、まだ人類は生きていた。

2名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:51:10 ID:O305c2PI0








月明かりのネコのようです









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3名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:53:02 ID:O305c2PI0
『スラムその1』


ちらつく無機的な明かりの中を、黒猫が歩いている。

移住計画で月に進出したのは、人間だけではない。
何かの団体の圧力か、はたまた誰かがこっそり持ち込んで殖えたのか。
何にせよ移住当初から犬、猫、その他家畜ではない動物も細々と生きていた。

猫は裏路地にある一つの薄汚れた扉の前ではたと止まり、扉を引っ掻き始めた。
少しじっとしていると、その扉が開き、若い女性が出てきた。
扉を開けたのは男性だが、猫を見るなり引っ込んでしまった。

川 ゚ -゚)「…また来たか」

年齢で言えば18、19、その辺り。
昼間だが、学校には行っていないようだ。

黒猫に挨拶をし、女性は振り向く。

4名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:54:58 ID:O305c2PI0
猫は知っていた。
この家ならば、食事にありつけるという事を。

('A`)「よう」

「にゃあ」

少しして、痩せた男が出てきた。
今度は二十歳そこそこといった年齢だ。

猫の予想通り、残飯の載った皿を片手に持っている。
腐っていないだけ贅沢だと言える。
ちなみに、猫はこの男と女にはクロ、と呼ばれている。

('A`)「見ての通り残りもんだぞ。良い物食いたきゃ富豪街へ行けよ」

ここは貧民街と呼ばれている。
増えすぎた人類の、底辺の溜まり場だ。

黒猫は金持ちの集まる富豪街には行きたくなかった。
一度勇み足で行って蹴り飛ばされた思い出がある為だ。

その時は富豪が飼っている猫と自分の違いに少々落胆した。
毛並みこそ貧相でも、運動能力も生命力もこちらの方が上じゃないか、と。

5名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:56:08 ID:O305c2PI0
黒猫は餌を食べている間、女性にずっと見られていた。
見かねた男性が声をかける。

(;'A`)「クー。可愛いのは分かるが、仕事だ」

川 ゚ -゚)「ああ…そうか」

女性はクーと呼ばれていた。
黒猫はこの女性に随分気に入られているようで、来る度に撫でられている。

因みに、男の方がドクオと呼ばれるのも聞いた事があった。

程なく食べ終わり、一声鳴く。

川*゚ -゚)「…」

クーに二、三度撫でられてからその家を後にした。

しばらく歩き、ゴミ捨て場の裏の暗がりに入り込む。
落ちていた座布団を寝床代わりにした、彼の家だ。

一度欠伸をしてから、のんびりと眠りについた。

6名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:58:29 ID:O305c2PI0
猫を見送り、男女は家の中にいる人物に向き直る。
くたびれたスーツを着た中年の男性だ。

(´・_ゝ・`)「可愛い猫でしたね…。野良ですか?」

('A`)「ええ。黒いからクロです」

('A`)「で、何の御用ですか」

(´・_ゝ・`)「金を出せば何でもしてくれるらしいと聞きました。まずこれを…」

表面の擦り切れたソファーに座る男は立ち上がり、名刺を差し出した。
ドクオが受け取り、少し眺めて机に置いた。

川 ゚ -゚)「様子からして中流の人か」

(´・_ゝ・`)「盛岡と申します。金属加工の工場をやっているのですが」

('A`)「なら仕事は…金属部品の調達ですか」

(´・_ゝ・`)「ええ、そうです。この紙に細かい内容は書いていますから…」

次に紙を取り出し、渡す。
その後幾つかのやり取りをして盛岡は帰って行った。

7名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:00:19 ID:O305c2PI0
('A`)「………行くか、クー。廃材置き場だ」

川 ゚ -゚)「ああ」

数百年前より、遥かに文明と技術は進化した。
しかし逆に、文化は本人達の自覚なしに衰退しつつある。

高度な経済による人民の分化。
昔は人々を使う側、使われる側。あってもその程度だった。

今やそれより露骨な富豪と貧民の壁が人々を隔てている。
上流、中流、下流、そして今彼らが歩いている最下流。

貧民街、スラム街、最下層。
いろいろな呼び名がある。

さらに今から彼らが向かうのは、廃材置き場だ。
捨てるのに金がかかるのを嫌った全ての層の人間が不法投棄した金属や機械の墓場となっている。

使える部品が山ほどあるが、ここから何かを漁るのは犯罪。
その為、ここに依頼が入る事も多々ある。
指定された部品を取り出し、然るのち宅配を装い届けるのが彼らの今回の仕事だ。


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