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月明かりのネコのようです

1名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:50:23 ID:O305c2PI0
西暦でいう2250年を間近に控えた世界。



人類は今や、宇宙にその拠点を移していた。
ーーいや、移すことを余儀無くされていた。


地球の資源が枯渇し、また汚染により「使用不能」と判断されたのがおおよそ2100年。
そこから急ピッチで移住計画が始動し、人類が月に移ったのがその50年後だ。


残されたありったけの資源と材料、そして技術を使って作られた月の街。
地球の暮らしを知らない世代のみになってからも、人類はそこで生き延びていた。


そして今、月の地下に眠っていた良質な資源も、半分程が食いつぶされているというのが政府の試算だ。
その事実を先回しにし、目を背け、まだ人類は生きていた。

2名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:51:10 ID:O305c2PI0








月明かりのネコのようです









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3名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:53:02 ID:O305c2PI0
『スラムその1』


ちらつく無機的な明かりの中を、黒猫が歩いている。

移住計画で月に進出したのは、人間だけではない。
何かの団体の圧力か、はたまた誰かがこっそり持ち込んで殖えたのか。
何にせよ移住当初から犬、猫、その他家畜ではない動物も細々と生きていた。

猫は裏路地にある一つの薄汚れた扉の前ではたと止まり、扉を引っ掻き始めた。
少しじっとしていると、その扉が開き、若い女性が出てきた。
扉を開けたのは男性だが、猫を見るなり引っ込んでしまった。

川 ゚ -゚)「…また来たか」

年齢で言えば18、19、その辺り。
昼間だが、学校には行っていないようだ。

黒猫に挨拶をし、女性は振り向く。

4名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:54:58 ID:O305c2PI0
猫は知っていた。
この家ならば、食事にありつけるという事を。

('A`)「よう」

「にゃあ」

少しして、痩せた男が出てきた。
今度は二十歳そこそこといった年齢だ。

猫の予想通り、残飯の載った皿を片手に持っている。
腐っていないだけ贅沢だと言える。
ちなみに、猫はこの男と女にはクロ、と呼ばれている。

('A`)「見ての通り残りもんだぞ。良い物食いたきゃ富豪街へ行けよ」

ここは貧民街と呼ばれている。
増えすぎた人類の、底辺の溜まり場だ。

黒猫は金持ちの集まる富豪街には行きたくなかった。
一度勇み足で行って蹴り飛ばされた思い出がある為だ。

その時は富豪が飼っている猫と自分の違いに少々落胆した。
毛並みこそ貧相でも、運動能力も生命力もこちらの方が上じゃないか、と。

5名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:56:08 ID:O305c2PI0
黒猫は餌を食べている間、女性にずっと見られていた。
見かねた男性が声をかける。

(;'A`)「クー。可愛いのは分かるが、仕事だ」

川 ゚ -゚)「ああ…そうか」

女性はクーと呼ばれていた。
黒猫はこの女性に随分気に入られているようで、来る度に撫でられている。

因みに、男の方がドクオと呼ばれるのも聞いた事があった。

程なく食べ終わり、一声鳴く。

川*゚ -゚)「…」

クーに二、三度撫でられてからその家を後にした。

しばらく歩き、ゴミ捨て場の裏の暗がりに入り込む。
落ちていた座布団を寝床代わりにした、彼の家だ。

一度欠伸をしてから、のんびりと眠りについた。

6名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:58:29 ID:O305c2PI0
猫を見送り、男女は家の中にいる人物に向き直る。
くたびれたスーツを着た中年の男性だ。

(´・_ゝ・`)「可愛い猫でしたね…。野良ですか?」

('A`)「ええ。黒いからクロです」

('A`)「で、何の御用ですか」

(´・_ゝ・`)「金を出せば何でもしてくれるらしいと聞きました。まずこれを…」

表面の擦り切れたソファーに座る男は立ち上がり、名刺を差し出した。
ドクオが受け取り、少し眺めて机に置いた。

川 ゚ -゚)「様子からして中流の人か」

(´・_ゝ・`)「盛岡と申します。金属加工の工場をやっているのですが」

('A`)「なら仕事は…金属部品の調達ですか」

(´・_ゝ・`)「ええ、そうです。この紙に細かい内容は書いていますから…」

次に紙を取り出し、渡す。
その後幾つかのやり取りをして盛岡は帰って行った。

7名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:00:19 ID:O305c2PI0
('A`)「………行くか、クー。廃材置き場だ」

川 ゚ -゚)「ああ」

数百年前より、遥かに文明と技術は進化した。
しかし逆に、文化は本人達の自覚なしに衰退しつつある。

高度な経済による人民の分化。
昔は人々を使う側、使われる側。あってもその程度だった。

今やそれより露骨な富豪と貧民の壁が人々を隔てている。
上流、中流、下流、そして今彼らが歩いている最下流。

貧民街、スラム街、最下層。
いろいろな呼び名がある。

さらに今から彼らが向かうのは、廃材置き場だ。
捨てるのに金がかかるのを嫌った全ての層の人間が不法投棄した金属や機械の墓場となっている。

使える部品が山ほどあるが、ここから何かを漁るのは犯罪。
その為、ここに依頼が入る事も多々ある。
指定された部品を取り出し、然るのち宅配を装い届けるのが彼らの今回の仕事だ。

8名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:01:34 ID:O305c2PI0
二人で湿っぽい裏路地を進む。
昔の人々の描く近未来像と、恐らく随分違う道。

('A`)「しかし…都合のいいとこに仕事が来たな」

川 ゚ -゚)「都合も何も生活費が無いだけじゃないか」

('A`)「そういうのを都合って言うんだよ」

川 ゚ -゚)「そうかな」

段ボールの上に転がる浮浪者を跨ぐ。
そこから声がした。

【+  】ゞ゚)「どこ行くんだよ、何でも屋さん…?」

('A`)「廃材回収の仕事」

【+  】ゞ゚)「連れてけ…」

('A`)「バイト代は出ないぞ」

【+  】ゞ゚)「何だ、しけてんな…。じゃあ行かねぇわ」

声をかけられたのは、稀に重い物を運ぶ時に彼らを手伝いにする事があるからだ。

こんな場所でも仕事が安定すると、ちょっとした有名人のようになる。
最近は仕事が増えたが、あまり生活は変わらない。
変えようがないのかも知れなかった。

9名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:04:06 ID:O305c2PI0
十数分も歩くと、黒くくすんだ鉄の山が見えてきた。
引いて来た台車を固定した。

('A`)「まずは…鉄管」

川 ゚ -゚)「車にあるか」

この辺りは少し『ふわつく』。
これは比喩ではなく、各地に点在する重力制御装置の効果範囲の隙間となっている為だ。
本来行政に文句の一つでもいこうものだが、捨て置かれている辺りに事情が伺える。

('A`)「よっと」

洗濯機だろうか、大きな機械を蹴り飛ばす。
重力が弱い為、簡単に転がって行く。
周りの鉄屑も退かし、電気自動車の骸をむき出しにした。
中を改めると、当然のようにエンジンは盗まれている。

川 ゚ -゚)「パイプ…これでいいんじゃないか?」

クーが指差している部分を力任せに取り外し、注文の物と寸法を見比べる。

('A`)「太さは合ってる。若干長いがまあいいだろ」

川 ゚ -゚)「よし次」

('A`)「なんか…何だこれ。なんて部品だこれ」

川 ゚ -゚)「知らん」

10名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:05:44 ID:O305c2PI0
次々と機械を掘り出し、部品を取り外していく。
慣れたもので、二度手間などは殆どなかった。
午後5時ごろ、作業は終わった。

('A`)「ふー…終了、帰るぞ」

川 ゚ -゚)「ん」

部品の全てを台車に積んで崩れないよう縛る。
その場から離れようとした辺りで、聞きなれない声に呼び止められた。

(;´_ゝ`)「あ、あの…ちょっといいですか」

二人の青年。
この場に不釣合いな小綺麗な服を着ている。

('A`)「何だい」

聞くと、もう片方の青年が答えた。

( ・∀・)「えーと、僕らも部品欲しくて。でも不慣れで全然進まないんですよ」

川 ゚ -゚)「何だ、手伝ってほしいのか」

('A`)「…悪いけど、手伝ってくれってんなら仕事になるよ」

(;´_ゝ`)「え、何ですかそれ」

('A`)「スラムで仕事してんだよ、俺。金払えば何でもするから良かったら探してくれ」

11名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:06:09 ID:1a.uYGno0
支援、こういう退廃的なSF大好き

12名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:06:46 ID:O305c2PI0
なら、と何かを言いかけた青年をドクオが制した。

(;'A`)「いや今日は無理。遅いし…。報酬の件もあるからまた今度だ」

(;・∀・)「あ、そうですよねー。スラム街の…どの辺りですか?」

('A`)「どの辺りっていうか…この道真っ直ぐ。看板出てるから分かると思う」

( ´_ゝ`)「じゃあまたお願いします」

('A`)「こちらこそ」

川 ゚ -゚)「さあ、帰るぞ」

クーに促され、重くなった台車を押して歩く。

川 ゚ -゚)「何するんだろうな、彼ら」

('A`)「さあ。仕事の依頼来たら聞くけどな」

青年達の服装や様子からして、この辺りに不慣れな雰囲気が伝わってきていた。
何かどうしようもない理由でもあったのだろうと適当に結論付け、帰路につく。
何にせよ、そのうち分かる。

13名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:08:26 ID:eeR82nAI0
しえん

14名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:08:48 ID:O305c2PI0
ーーーーーー


盛岡工業、と書いているそれなりに大きな工場。
その事務所のインターホンを押した。
時刻は8時だが、問題ない筈だ。

「はい」

('A`)「こんばんはー、お荷物ですー」

ドクオは今、とある運送会社の制服を着ている。
スラムで迷っていた哀れなアルバイトから剥ぎ取ったものだが、便利極まりない。
依頼主以外が出て来てもいいというのは安心できた。

(´・_ゝ・`)「ああ、鬱田さん」

('A`)「こちら部品です。一応梱包してますから、明日また箱を取りに来ます。報酬もその時で」

(´・_ゝ・`)「ええ、本当にありがとうございました…こんな夜に」

('A`)「いえ…」

(´・_ゝ・`)「最近通り魔が出るらしいですから、夜は気をつけて…」

('A`)「…」

つい、右腕を隠した。
軽く頭を下げ、空の台車を持って帰る。
あとは金を受け取れば晴れてこの仕事が終了する。

15名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:10:44 ID:O305c2PI0
('A`)「…」

工場からしばらく歩き、スラムに戻る。

人気のない場所に入って振り向いた。
警戒を解かないドクオ、その手には大振りのナイフ。
目の前にはスーツを着た男。

('A`)「さっきから何だ?コソコソと…強盗なら他を当たれよ」

(`・ω・´)「…すみません。少し、内密な話がしたくて」

男が丸腰なのを確認し、ナイフを下ろした。

('A`)「仕事の話なら事務所まで来てくれ。ここじゃ困るんだ」

(`・ω・´)「月虎、という組織をご存知ですか」

('A`)「…知ってる」

月虎。
最近月の街で活動し始めた組織だ。

「人民の平等」を掲げ、政府の要人暗殺を目論むという過激な組織らしい。
らしい、というのは、まだ活動をはじめていない為だ。
男は自分をその幹部だと名乗った。

16名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:11:06 ID:owUzxm/20
…ほほう支援!!

17名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:12:52 ID:eeR82nAI0
wktk

18名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:13:18 ID:O305c2PI0

(`・ω・´)「この世界は、格差に満ちています。とりわけこの貧民街が―――」

('A`)「要件」

演説めいた台詞を遮る。
ナイフを下ろしても、握りしめた手には力が入っている。

(`・ω・´)「………近々、仕事の依頼に向かうかと」

('A`)「碌な仕事じゃなさそうだな」

(`・ω・´)「現段階では、何とも。しかし…」

('A`)「いや分かった、受けよう。ただ場合が場合なら…金はかかるぞ」

二つ返事に近いドクオの答えに男は少し驚いたようだった。
しかしすぐに落ち着き払った様子に戻る。

(`・ω・´)「問題ありません。証明ではありませんが、まずこれを」

('A`)「これをやるから断るなよ、ってことか。何の心配してんだかな」

男から封筒を受け取る。
中には高級紙幣が十枚。

('A`)「…よしよし。またいつか事務所に来てくれ、細かい話をしないとな」

(`・ω・´)「ええ、それでは」

19名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:14:44 ID:O305c2PI0
ーーーーーー

猫が扉を引っ掻く。
クーが出てきて、待ち切れないという風に撫で回す。

川*゚ -゚)「来る頃だと思っていたぞ」

「にゃー」

川 ゚ -゚)「ご飯はまだだ。ドクオがもうじき帰ってくるからな」

「…」

川 ゚ -゚)「仕方ないだろう、そういうものだ」

ふと猫を撫でる手を止め、クーは少し考え込んだ。
その間も猫はじっとクーを見つめている。

川 ゚ -゚)「……そういうもの、か」

川 ゚ -゚)「…」

川 ゚ -゚)「私は、甘えてはいないかな」

「…?」

川*゚ -゚)「……やっぱり可愛いなあ」

20名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:15:28 ID:O305c2PI0
足音が近づいて来る。
クーと猫がそちらを見た。
一人と一匹の予想通りの人物がやってきた。

('A`)「ただいま」

川 ゚ -゚)「待ちわびたぞ。クロにご飯をやるんだ」

(;'A`)「いや休ませろよ…。飯も人間が先だろうが」

ドアを開けたドクオとクーが屋内に入っていく。
ちゃっかりと黒猫もついて行っていた。

('A`)「お前も来るのか」

作り置きを温める。
そのうちから少しを小皿に分け、床に置いた。
猫が寄り、食べ始める。

('A`)「うちに来ない日はどうしてんだろうな、こいつ」

川 ゚ -゚)「さあ。極端に痩せてる訳でもないから別のとこで貰ってるんだろう」

21名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:16:16 ID:O305c2PI0
川 ゚ -゚)「…腕、大丈夫なのか。膿んでないか」

ドクオの右腕を指差す。
長袖の端から薄汚れた包帯が覗いていた。

('A`)「問題ない」

川 ゚ -゚)「お前がそんなに無理をしなくても…」

('A`)「……あと、近く大きな仕事が入る」

川 ゚ -゚)「…どういう」

('A`)「分からん。でも、もうすぐだ」

川 ゚ -゚)「別に、そんな…」

('A`)「ここまで来てそれは無いだろ。あと少しだからな」

川 ゚ -゚)「………すまん」

('A`)「何を謝んだよ」

川 ゚ -゚)「なら、絶対に無理はしないでくれ」

('A`)「ああ。死んだら元も子もないしな」

二人のやりとりを、貰ったものを食べながら猫はしばらく見ていた。
やがてそれも食べ終わり、一声鳴いて扉の隙間から路地に繰り出していった。

22名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:17:35 ID:O305c2PI0
第一話でした
とある訳で明日全ての書き溜めが消えるという事件が起こるので、今日のうちに書いてるところまで全部投下するよー

23名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:19:06 ID:1a.uYGno0
とりあえず乙!
とある事情と黒猫が気になる

24名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:19:08 ID:cnSo3H7s0
面白くなりそうだな

25名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:19:46 ID:O305c2PI0
『挑戦その1』


煌々とした明かりの街、その一角の居酒屋の中、奥の団体用部屋のテーブル。
数人の男女が嬌声を上げていた。

(*・∀・)「それでは!VIP大学地球研究部、新入生歓迎会を始めます!!乾杯!!!」

(*´_ゝ`)(*゚∀゚)「かんぱーい!!」ζ(゚ー゚*ζ(゚、゚*トソン(´・ω・`*)

彼らは大学生。
地球に関する活動をするという部活の、言うなれば飲み会の真っ只中。

(*´_ゝ`)「それでは部長のモララーさん、一回生向けに活動内容をどうぞ!!」

(*゚∀゚)「やんややんやー!」

始めに喋っていた、モララーと呼ばれる男が再度立ち上がる。
酒が入っているのか、顔が紅潮している。

26名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:20:26 ID:O305c2PI0
(*・∀・)「えー、改めまして!三回生の徳田モララーです!」

(*・∀・)「我々の目的は地球とのコンタクト!!」

(*・∀・)「資料によると、昔の地球の人口は80億人オーバー!そして現在の月の人口は10億人!!」

(*・∀・)「つまり、人々が移動を開始した時代に、単純計算ですがゆうに70億の人間は地球に残っていたのです!!」

(*・∀・)「そしてお空に見えるあの地球は非常に綺麗!地球ヤバイ!!真っ青!!!」

(*・∀・)「それは地球の『本物』の樹木、青い海、白い雲の元で人が生きている可能性を示唆してます!」

(*・∀・)「だったらどうにかしてコンタクトとりゃいいじゃない!!」

(*・∀・)「宇宙を超えて会話して、向こうの暮らしとかこっちの暮らしとか語らえばいいじゃない!!」

(*・∀・)「そんな感じです!!」

ζ(゚ー゚*ζ「おー!」

27名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:21:46 ID:O305c2PI0
(*・∀・)「じゃ、一回生もいるから自己紹介!上からな!」

モララーが手を向けた先の一人、髪を結んだ女性が立つ。
どうにも口下手なようで、周りを見渡しては口ごもる。

(゚、゚;トソン「…、あ、えー、あ……………………あれ、あの…………」

( ・∀・)「頑張れトソン!!」

(゚、゚*トソン「………つ、つ、都村、トソン、です…。え、と、三回生ですよろしくおねがいします…」

最後は早口になり俯きながら座った女性と入れ替わりに、痩身の男が勢いよく起立した。
すでに随分酔っているようだ。

(*´_ゝ`)「二回生、流石兄者ですっ!自分こう見えてかなーりオタクなんで、話分かる方よろしく!」

(*゚∀゚)「んな奴いねーよ!」

(*´_ゝ`)「うっせー!レトロゲー好きなんだけど誰か分かって!!」

28名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:23:24 ID:O305c2PI0

次は、茶々を入れた小柄な女性。
またも元気良く立ち上がる。

(*゚∀゚)「はい!二回生、猫田つーです!気軽につーって呼んでね!!」

(*´_ゝ`)「つーちゃん可愛い!!」

(*゚∀゚)「うわあキッモ」

(;´_ゝ`)「辛辣ゥ…」

(;・∀・)「はい一回生どうぞ!二人だけどよろしく!」

二人の間でどちらが先に自己紹介をするか、という視線の相談が起きる。
程なく解決したようで、男性のほうが頷いて立ち上がった。

(´・ω・`)「呉島ショボンです、よろしくお願いします」

( ・∀・)「しっかり者オーラがヤバイ」

ζ(゚ー゚*ζ「井出デレです!お願いします!」

( ´_ゝ`)「かわい子ちゃんオーラがヤバイ」

29名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:24:05 ID:O305c2PI0
( ・∀・)「まー今日は先輩のオゴリだから、遠慮せず飲み食いしなよ!」

ζ(゚ー゚*ζ「はい!」

( ´_ゝ`)「まぁ俺の財布のヒットポイントはもうないんだが」

(゚、゚トソン「…な、なんか、使ったの?」

( ´_ゝ`)「ちょっと昔の化石ハードを」

(;*゚∀゚)「またかよ…」

( ´_ゝ`)「化石といってもグラもかなり進化してんだぞ。今でもギリギリ通用すると思う」

(´・ω・`)「へー…」

( ´_ゝ`)「2250年ちょっと過ぎにできたもんだがな、あるとこにはあるもんだ」

(゚、゚;トソン「…、いつも思うんだけど、使えるの、それ?150年前の機械だよ…」

( ´_ゝ`)「使えますよ、マニアが改装して丈夫にしたらしいんで。だからこそ骨董品としての価値はありませんけど」

ζ(゚ー゚*ζ「すごいっすね!」

30名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:24:54 ID:O305c2PI0
(;*゚∀゚)「もういいよーお前の話わかんねーもん…」

( ´_ゝ`)「ゲームとかやんないっけお前。今度何か貸してやるよ、最近のを」

(*゚∀゚)「そういって前借りたの卑猥なのだったからな、信用できねー」

( ´_ゝ`)「じゃお前好きなジャンルとか言えよ、例えばファンタジーなら、最近随分昔のがリメイクされててな―――」

熱く自分の趣味を語り始めた兄者をよそに、モララーが一回生の近くに寄る。

( ・∀・)「いやー新入生が来るとはなー。来なかったらこのサークル潰れてたかも」

(´・ω・`)「地球に興味がありまして…」

ζ(゚ー゚*ζ「楽しそうだったんで!」

( ・∀・)「こんなご時世だもんねー、就職もアレだし大学ぐらい好きなことしたいよね!」

(゚、゚トソン「卒業さえしとけばいいしね…」

31名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:26:04 ID:O305c2PI0
(´・ω・`)「今はどんな事してるんですか?」

( ・∀・)「今ねー、通信機作ってるよ」

(´・ω・`)「通信機」

ζ(゚ー゚*ζ「地球とお話できるんですか?」

(゚、゚トソン「………、向こうに、あの、あれ、そ、じ、受送信の、方法があればね…」

( ・∀・)「僕と兄者がそういう学部だから割とできるけどね、なかなか出力が出ないんだ。部品も足りない」

(゚、゚トソン「…あ、あと、あんまり出力大きすぎる通信機は、規制されてるんだ。まあ、まだ、作ってないからセーフなだけで」

( ・∀・)「まぁバレないように作るんだけどね。バレないだろうし」

大変ですね、と言おうとしてショボンが口を開こうとしたところに兄者が割り込む。

(*´_ゝ`)「なーに辛気臭い話してんですか!」

(;・∀・)「酔い過ぎだよ…活動の概要さ」

(*゚∀゚)「あーそれな。どっかで部品拾えねーかなマジで。金ねーってな」

ζ(゚ー゚*ζ「大変ですねー」

( ・∀・)「まー有り余るロマンでようやくチャラだね」

32名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:27:09 ID:O305c2PI0
(*´_ゝ`)「ま、それについても追い追いな。まずはホラ、飲め」

(´・ω・`)「頂きます。あと、通信機の部品足りないんですか?」

(*゚∀゚)「足りないよー、手にいれようにも最近あんまし手に入らないんだなあ。売ってないったら」

酒を一口飲み、ショボンが少し考える素振りを見せた。
彼は未成年なのだが、あまり気にしていないようだ。

(´・ω・`)「僕の家、中流なんですよ。皆さん大抵上流ですよね」

( ・∀・)「ま、そうだろうね。中流の方々が大学に来るのは少ないよ」

(;´・ω・`)「…あ、すみません、嫌味ったらしくて」

(;・∀・)「いやいやいや、大学も中層にあるんだから。で、どうしたの」

(;´・ω・`)「僕も噂に聞いただけなんですが…」

(´・ω・`)「最下層に、機械の墓場があるそうなんです。いつか行ってみたくて」

(*´_ゝ`)「その話、詳しくお聞かせ願おうか…」

(*゚∀゚)「お前は寝てろ」

(*´_ゝ`)「あれ、今の俺マジモードだったのに…」

(゚、゚トソン「顔、真っ赤…」

33名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:28:12 ID:O305c2PI0

―――――――――

それから四日後。
動きやすい服装で広い部室に集まるいくつかの姿があった。

( ・∀・)「皆の者、準備はいいかー!」

( ´_ゝ`)「おー!」

( ・∀・)「いい返事だ!じゃ、これから機械の墓場に行くぞ!」

彼らが向かうのは、件の墓場。
衛生画像で位置を調べ、足りない部品を書き出し、準備は万端のようだ。

窓が鳴った。
誰かが軽く叩いたような音。

(゚、゚トソン「あ」

トソンが急いで寄り、開け放つ。
するりと入ってきたのは、一匹の黒猫だった。

「にゃー」

ζ(゚ー゚*ζ「ねこ!可愛いー!!」

(*゚∀゚)「お、ダストだ」

トソンが持ってきたキャットフードを、一声鳴いてから食べはじめた。

猫はここではダストと呼ばれている。

34名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:29:27 ID:O305c2PI0
(´・ω・`)「ダスト?」

( ´_ゝ`)「猫の名前だよ。ゴミ置き場の近くに住んでるからダストにした」

( ・∀・)「英語にするだけでオシャレになんだから不思議だよな、本来ゴミ猫だぞ」

(*゚∀゚)「兄者の命名にしちゃ普通な感じだよな」

( ´_ゝ`)「猫者にしようか丸一日悩んだからな、そう言われると迷った甲斐があるってもんだ」

ζ(゚ー゚*;ζ「それは…どうでしょう…」

(´・ω・`)「キャットフードあげてますけど…飼ってるんですか?」

(゚、゚トソン「いや…野良。わ、私の自腹」

(;´・ω・`)「あ、やっぱし野良なんですね」

(゚、゚*トソン「だ、だって…可愛いよ」

ζ(゚ー゚*ζ「確かに可愛いですね!」

(;・∀・)「猫もいいけど行くぞー」

35名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:30:30 ID:O305c2PI0
大学を出て、バスに乗り、降りた終点で中層の街の端を歩いていく。
だんだんと雑多な建物が出てきて、景色も灰色が増えていく。

ある地点で、デレが何かに気づいた。

ζ(゚ー゚*;ζ「なんか…ここから急に、何と言うか」

( ´_ゝ`)「汚いな」

デレの言うとおり、彼らの立つ目の前からあからさまに景色の質が変わっている。
地面で眠る者、ゴミを漁る野良犬などはこれまでの場所では見られなかった。

まるで見えない壁が空間を隔てているかのようだった。

( ・∀・)「ここから最下層ってことだ。そして、こっからがややこしいんだ。何が起こるか分かったもんじゃない」

(*゚∀゚)「写真で見たら入り組んでましたよね」

( ´_ゝ`)「この辺分かる?」

(´・ω・`)「いや、流石に来たこともないですね…」

( ・∀・)「まー余裕余裕。財布スられんなよ」

少し迷いながらも、わいわいと進んでいく。

36名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:31:41 ID:O305c2PI0
歩くにつれ、口数が減ってきた。
やがてモララーが立ち止まり、言い放つ。

( ・∀・)「迷ったわ」

(゚、゚トソン

( ´_ゝ`)

(*゚∀゚)

(;´・ω・`)

ζ(゚ー゚*;ζ

(;・∀・)「なんだよその目は!!」

( ´_ゝ`)「余裕余裕…」

(;・∀・)「ここまでとは思わなかったんだよ!見ろこの写真!最早ダンジョンだぞ!!」

(゚、゚トソン「みんな、飴あげる」

(;・∀・)「聞けや!チクショウ!」

37名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:33:16 ID:O305c2PI0
その後全員で衛生写真を見てみたが、位置は分からない。
誰ともなしに座り込んだ。

( ・∀・)「あーあ、現在地が分からないんじゃなー。あーしかもここ圏外だ。汚ねーし電波ねーし最悪だなクソ」

( ´_ゝ`)「残念みたいに言ってるけどそれモララーさんのせいですからね」

(゚、゚トソン「…よし」

トソンが立ち上がる。
全員の目線が自然と集まった。

(゚、゚トソン「…だ、あー、ダストに聞いてみよう…」

(;*゚∀゚)「いるんすか?」

(゚、゚トソン「いる…何故か私たちより先に」

(;´_ゝ`)「何でだよ…俺らバス乗ってきたのに、こいつ凄いな」

トソンが指差した先には、先程見た黒猫。
人の言葉が話せれば、僕?とでも言いそうなきょとんとした顔をしている。

トソンがしゃがみ、猫に顔を近づける。

(゚、゚トソン「…機械の墓場っていう、とこ…。たっ、たくさん鉄があるんだ」

38名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:34:35 ID:O305c2PI0
( ・∀・)「無理無理、猫なんだから…」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、どっか行きますよ!」

(*゚∀゚)「ついて行くぞー!」

( ´・∀・)

( ´_ゝ`)「元気出して下さい」

(*゚∀゚)「よし行けダスト!」

猫はゆっくりと歩き、人間を連れて行く。
路地を何回か曲がり、汚れた水たまりを飛び越える。
人間はようやく着いていく。

やがて、数枚の薄汚れた段ボールの上に飛び乗った。

「ぐおぅ!」

(゚、゚;トソン「!?」

段ボールの下から浮浪者らしき者が出てきた。
不機嫌そうに頭を掻いている。

【+  】ゞ゚)「…んだ、この猫ぁ…?……おう、飼い主か」

(゚、゚;トソン「え!…あの、あ、え、えっと、あー…ち、ち違い、ます…」

【+  】ゞ゚)「…どんだけ驚くんだ…」

39名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:35:28 ID:O305c2PI0
【+  】ゞ゚)「全く…ん、あぁこいつか…またかよ」

( ´_ゝ`)「その猫知ってるんですか?」

【+  】ゞ゚)「たまに見る…」

( ・∀・)「へー…あ、そうだ。機械の墓場って知りません?」

【+  】ゞ゚)「…は?」

(´・ω・`)「鉄の廃材が沢山あるとこです」

【+  】ゞ゚)「…あー。そんな名前なのかあそこ…。そこを曲がれば遠くに見えた筈だが」

意外な方法で、墓場の場所を知ることができた。
礼を言って、そこを去ろうとする。
トソンが振り返り、浮浪者に向き直った。

(゚、゚;トソン「あ、あの」

【+  】ゞ゚)「…?」

(゚、゚;トソン「飴、どうぞ」

【+  】ゞ゚)「……貰おうか」

40名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:36:18 ID:eeR82nAI0
トソンが吃りキャラとは珍しい

41名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:37:08 ID:O305c2PI0
(*゚∀゚)「…着きましたね」

彼らの目の前に、鉄の山。
ふわふわとした不安定な足元だ。
他にも、何人か作業をしている者がいた。

ζ(゚ー゚*;ζ「じゅ、重力が…弱いんですかね。おっとと」

( ´_ゝ`)「行政は何をしてんだかな。まぁこんなゴミみたいなとこに金かけるのも無駄っちゃ無駄か」

( ・∀・)「好都合だ。いらん物をどかしやすい」

( ・∀・)「とにかく、配った紙にそれぞれ担当の部品があるからな。二人一組になって頑張ってな」

(*゚∀゚)「うーっす」

( ・∀・)「兄者はデレちゃんとで、トソンとショボンで、俺とつーで組んでな」

( ・∀・)「じゃ、解散ーっ!」

威勢良く返事をして、めいめい散りはじめた。
スラムには全く不似合いな、明るい雰囲気だ。


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