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川 ゚ -゚)ネカフェライターのようです

59名も無きAAのようです:2015/06/03(水) 19:31:32 ID:6yaCT7jg0
 店の裏に置いてあった自転車に跨がり、街灯煌めく大通りに出た。この大通りを経由すると、家までは少し遠回りになるが、暗くて曲がりくねった最短距離を行くより、よっぽど近い気がした。
自転車を漕ぎながら、私は、私自身をひどいペテン師だと思った。デレさんが話しかけてきてくれた時、私の気持ちはすでに立ち直りかけていた、家でお酒でも飲んで憂さ晴らしをしようと思っていた、平静だったのだ。
しかし、落ち込んでいる風を装って、軽薄でない自分を演出した。私はこの一事を重大に考えていますよというアピールだ。そこに本物の感情は一切ない。

ほんの二時間前までは、死にたくなるほどに落ち込んでいたのに、今の私に、その素晴らしい感情は残っていないのだ。他の人が私をどう思うのか、という理念に基づいてだけ行動し、最もそれらしい態度で振る舞った。
嬉しかったり、悲しかったり、殺してやりたくなったり、死にたくなったりする私の感情は、二時間もすれば、全て消えてなくなってしまうのだ。
一体、私はなんのために生きていて、本当は何を思っているのか、意味のない感情で行動して生み出された結果に、私は一体。

川 ゚ -゚)「 気持ち悪い」

 思春期みたいなことを、この歳でも考えている。このまま車道に、えい、と飛び出してみたくなった。

川 ゚ -゚)「……」

 しかし、とうとう車道に飛び出すことなく、アパートに着いた。
両肘を抱えて廊下を小走りする。今夜はやけに寒い。すぐに寝てしまおう、もう今日という日を終わらせたい。
扉の前まで来て、ほっとした。鍵を取りだそうと、ポケットに手をいれる。

川 ゚ -゚)「あっ」

 思わず声をあげた。上着を忘れた、鍵と携帯電話を入れた上着を忘れた。ロッカーの中だ。
扉の前に立ったまま茫然とした。疲労感がどっと襲ってくる。

川 ゚ -゚)「……」

 ネガティブな気持ちを押し殺して、私の足りない頭で考えた、そうだ、ツンの部屋にいれてもらおう。私は隣の部屋のインターホンを押す。
ぽぉんという音が響いた。

川 ゚ -゚)「……」

 しばらく待っても応答はない。私はもう一度だけインターホンを押した。

川 ゚ -゚)「……」

 音は、空しく響いた。

 今から大家さんを起こそうか、もう深夜だ。あの居酒屋に戻ろうか、その頃には店も閉まっている。
やはり、私という人間はどうやっても駄目だ、普通でない、劣等人種だ。私だけが誰よりも劣っている。そしてこの感情も二時間後には忘れている。

 たまらなくなった。私は、アパートから飛び出して、走った。風はわざとらしいほどに冷たかった。それが妙に現実的で、唯一生きてる感じがした。
そして、気がつけば。

川 ゚ -゚)「……」

「気がつけば」、なんて都合の良い言葉だ。私はペテン師である。今の今まで一度も、「気がつく」ほど前後不覚になったことなんてないんだ。
全て周りのせいにして、自己防衛に専念して、事が起きても言い訳をしている。
私ははじめから、ここを目指していたんだ。自分の意志でここに来たんだ。すでに照明の落ちているスーパーマーケットの入り口から、地下に降りた。

下は、馴染みのネットカフェだ。

60名も無きAAのようです:2015/06/13(土) 16:45:07 ID:4nArbJoY0
すごく面白い
焦らしプレイもたまらんね

61名も無きAAのようです:2015/08/20(木) 10:52:04 ID:mBiQK0BI0
 受付だけ済ませ、ドリンクさえ運ばず、18番の席に座った。
私はペテン師であるから、今日起きた一切などもはやうろ覚えであった。だが、腰を下ろしたと同時に不思議と涙が溢れた。悲しい原因も分からず、口をおさえて、むせび泣いた。

 ぼやける視界のなか、ネットカフェのポータルページを閉じ、デスクトップのテキストファイルにカーソルを合わせた。
私の信用できるものが、もはや、このファイルだけのような気がした、かちりかちりというダブルクリックの音が、とても心地好い。

川 ゚ -゚)「………」

  テキストは更新されていた。しかし、それは今までとは全く違う、改行もままならない稚拙な文章だった。

「きみは好きなものは好きなものは好きというし、嫌いなものは嫌いという。俺はそんなピュアな君に惚れていてきみも俺のstraitな気持ちに正直だからお互い前を向けたんだろう、俺が後ろめたいことやきみへの飽きっぽさが出て、駄目になったから、きみは別れの電話をして、俺はそれになにも言えなくなってしまった、もう一度チャンスをくれたら俺は頑張るけどきみにすがるような真似もしたくないジレンマ、なんの取り柄もない俺が唯一きみとの絡みに安息を覚えていた。あぁ戻ってこない日々、こんな傷ついた日っていつ?今日がはじめて、何をたよりに生きていこう、こんな孤独だったんだ世界。」

川 ゚ -゚)「これは、どういう…」

 ネカフェライターは一体どうしてしまったのだ、唯一頼りにしていたものさえ壊れてしまっている現状を、のみ込めなかった。
これは、明らかに別人だ、今までも主人公がシフトしたり、文体が微妙に変わっていることはあったが、ここまで露骨ではなかった。
泣いている場合ではない。私が追い求めていたネカフェライターは、心の底から共感できる物語を紡ぐ、ミステリアスで神秘的な大きな存在ではなかったか、それをこんな小物に汚されるなんて。
お気に入りの本に、他人がドックイヤーをつけるような、縄張りを荒らされたような、私の胸の鬱憤が溜まっていくのが、現在進行形で感じられた。

62名も無きAAのようです:2015/08/21(金) 00:27:35 ID:sNs05yBU0
ネカフェライター…一体何者なんだ…?

63名も無きAAのようです:2015/10/22(木) 07:56:07 ID:T4oQFzSk0
まだかのー

64名も無きAAのようです:2016/01/06(水) 23:30:02 ID:7ochckmE0
まっとるよー

65名も無きAAのようです:2016/02/05(金) 11:35:28 ID:OFGaKCeo0
 このおかしな文の塊を、私は「切り取り」し、新規にテキストを起こして、そこに貼り付けた。
削除しなかったのは、お粗末な文章ながらも滲み出る思いの強さに躊躇したからだ。ネカフェライターを汚したのには間違いないが、この文をキー1つで消してしまうのは何か罰当たりな気がした。

 そうしてから、私は改めてネカフェライターの小説を最初から読み返した。初めて読んだときのあの感動を予期してページをスクロールする。

『胃液にまみれた口元を拭った。ハンバーガーもおにぎりも豆腐も体が受け付けない。ついに変わってしまった。頭を抱えてソファに倒れ込む。なんて悲しい男だ私は。』

 そう、最初は優越感に浸っていなければ、食べ物さえ喉を通らない男の話だった。
初めて18番の席に座ったあの日、この話に共感したことをよく覚えている。

 しかし、私は、ふと、この話のどこに共感したのだろうか。と考えてしまった。

川 ゚ -゚)(私は、優越感に浸らなければ辛いような人間か………?)

 『小さな穴の空いた可燃ごみの袋にくるまって、中で血抜きを済ませば、私は誰の迷惑にもならず死ねますか?』

 話し主があやふやになっていく流れの中の一節だ。しかし、響いたはずのこの文も、今の私には僅かの感動さえ与えてくれなかった。

 そんなはずはない。ネカフェライターは私の心の支えとなる不思議な小説を書く、ミステリアスで神秘的な存在なんだ。
スクロールする指の忙しさとは裏腹に、私の心はしん、と静まり返っていた。

66名も無きAAのようです:2016/02/05(金) 12:06:13 ID:OFGaKCeo0
 小説を見返して、私の心に残ったのは、たったの一文だけだった。

『生真面目に生きたせいで、勉強だけは中途半端に出来るものだから、私もなにか才能があるのかしら、なんてあさましい思いを捨てきれず
実際に手を動かした時の、自身の要領の悪さに、ショックを受け、途端にクズに、クズ、クズ』

 共感出来る部分があることへの安堵と同時に、私が今まで抱いてきたネカフェライターに対する幻想は、音をたてて崩れ去った。
私はいつも平静な状態で、エンタメ作品を見るかのごとく、なにとなく小説に共感しているような気がしていただけなのだ。
店長に良いように使われ、バイトで打ちのめされ、初対面の人間に励まされ、家に入れず、冷たい風が突き刺さった今の気持ちでは
ネカフェライターの小説など頭に入るわけもなく、汚いネットカフェにある、くだらない文字の羅列でしかないのだ。

川 ゚ -゚)「………」

 私は自然と、キーボードに触れた。
そうじゃない、私の感じている絶望は貴方の書くどれにも当てはまらない、もっと複雑で誰にも救うことが出来ない、真の絶望なんだよ。
私は静かにキーを叩き始める。自分の気持ちに向き合って、今何故辛いのかを他人に理解してもらいたいがために、言葉を選び、文章のテンポ、語尾のバランス、多くの人間が読みやすいように気をつけて書く。

 心の叫びは明朝体のそっけない文字になって打ち出されていく、私はそれを可能な限り、叫びそのものに近づけていく。
ネカフェライターの小説の続きを書いている意識はなかった、今の私の絶望をただただ書いていく。

 最後のエンターキーを押したときには、朝の5時になっていた。
無言のまま再度小説を読み返した。

 私の文章がネカフェライターの一部となっている。

 私はぼんやりとした頭で特に考えもなしに呟いた。

川 ゚ -゚)「絶望をテーマにしたアンソロジー………」

 ネカフェライターの正体がふわりと分かった気がした。

67名も無きAAのようです:2016/02/05(金) 20:04:00 ID:f1L81Q0M0
きたか
まってたよ

68名も無きAAのようです:2016/02/05(金) 20:55:10 ID:OtXEFQeI0
凄く面白いじゃないですか

69名も無きAAのようです:2016/02/07(日) 10:06:34 ID:W2DzMIFI0
Σ(- - 川「はっ!」

 がたりという物音と、机にぶつけた右膝の痛みで覚醒した。いつの間にか眠っていたらしい、周りの席から呻き声と控えめないびきが聞こえる。
7時20分、時刻を確認して大きく伸びをした。じっとりとした汗と首の凝りが酷い、目覚めはよくない。
店内は入った時となんら変わらない様子で、照明とディスプレイの明るさに頭がじんじんした。

 私は一息ついて静かに席を立ち、伝票を手にした。
それから、空いている方の手でマウスを操作し、切り取ったネカフェライターの文章を元通りに貼り付けた。
上書き保存をしてからファイルを閉じ、シャットダウンを確認して席を出た。

川 ゚ -゚)「………」

 私は店員の話も大して聞かずに精算をすませて、さっさと外に出た。朝日の眩しさに目を細める。

 絶望に耐えかねた人間が捌け口に選んだのは小説、あるいはエッセイだった。
何故わざわざネットカフェに書いたのかは分からないが、心の痛みを、とかく書かずにはいられなかった人がいた。

最初のネカフェライターだ。

70名も無きAAのようです:2016/02/07(日) 11:31:53 ID:Mqgu8EKA0

しばらくはこの人が書き続けた、感想をもらって良い気になったのかもしれない。胸もスッとしただろう。
それを見ていたネカフェライターのファン達は次第に違和感を覚える、絶望に共感していたはずが、そうでなくなっていたのだから当然だ、そこで現れたのが第二のネカフェライターだ。

「違う、そうじゃないんだよ」

 先の私と同じ気持ちになった第二のネカフェライターは、自らの絶望を書き綴る。彼もネカフェライターに救われていた部分があったから、なおさら力が入ったに違いない。
しかし、これが奇妙さを増すことになる。なぜなら新たに書かれたのは第二のネカフェライター、彼自身固有の絶望で、ファン達は二つの異なる絶望を目にしてさらに違和感を強めたからだ。
しかも、彼らがネカフェライターに癒してもらいたいと強く願う、心の沈んだときに限って、それは顕著に表れた。

 人それぞれ深い絶望の形態は様々で、経緯や性格によってその姿を変える。しかし、一見すると絶望は絶望で、私たちは湿った日陰に群生する苔のように、自然と18番の席に集まっていた。
自分以外にも孤独を感じている人間を確認して、安心しに来ていたんだ。そうして始まった奇妙でネガティブなリサイクルに私や、あの不良は巻き込まれていったのだ。
利用者の多い席で、文体がころころ変わる、不特定多数のダメ人間が、不器用にリレーしていく絶望小説、それがネカフェライターの正体だ。

71名も無きAAのようです:2016/02/07(日) 11:33:57 ID:You2.AUw0
http://urx.red/rNLl

72名も無きAAのようです:2016/02/07(日) 11:36:30 ID:Mqgu8EKA0
ξ゚⊿゚)ξ「あら、あらら」

 聞き慣れた声に振り向いた。「ツン」と自然に名前を呼ぶ。

ξ゚⊿゚)ξ「今バイト終わったの、あんたネカフェに泊まったの? ばかねえ」

 彼女は片腕を空にうん、と伸ばして近づく。

ξ゚⊿゚)ξ「また向こう見ずな顔」

 私は答える。

川 ゚ -゚)「妄想してた」

ξ゚⊿゚)ξ「ばかだ」

川 ゚ -゚)「ネカフェライターが」

 私の言葉を彼女は「はいはい」と遮った。

ξ゚⊿゚)ξ「安っぽい」

 おうむ返しで聞き返す。

ξ゚⊿゚)ξ「結論づけばつくほど、安っぽい」

川 ゚ -゚)「ふうん」

ξ゚⊿゚)ξ「実は私も見てたの、あれ」

 彼女の顔を見た。あの真面目な表情だ。

ξ゚⊿゚)ξ「多分、あんたと同じ気持ち」

 あれ見てから、元気なさそう人は無理にでも18番に入れてた、と淡々と話す。

川 ゚ -゚)「そっか」

 私は改めてネカフェライターを思った、結局の正体は分からなかったが、もはや心残りはない。

川 ゚ -゚)「早く、シャワー浴びたい」

ξ゚⊿゚)ξ「もう、帰って寝る、レポートも、まだだし」

 歩き始めた彼女の後を私は歩いた。なにげなしに振り返ると、長く伸びた黒い影が重なったり離れたりして、とても綺麗だった。

73名も無きAAのようです:2016/02/07(日) 11:37:10 ID:Mqgu8EKA0
終わりです、凄く時間かかった、ありがとうございました

74名も無きAAのようです:2016/02/07(日) 12:36:07 ID:sW52E9zA0
おつ!
完結してくれて良かった
陳腐かもしれないけど、妙に納得できた

75名も無きAAのようです:2016/02/07(日) 13:10:34 ID:Jg.h2b/Q0
乙乙!すごいよかった!こういうの好きだよ

76名も無きAAのようです:2016/02/07(日) 18:09:24 ID:fUw5cJm60
何気なく>>1見たら


1 名も無きAAのようです sage 2014/12/06(土) 23:18:29 ID:LkgG9Vm60
明日には完結させたい


とか書いてあってワロタ

77名も無きAAのようです:2016/02/07(日) 18:10:09 ID:fUw5cJm60
こういう話好きなので楽しめました

78名も無きAAのようです:2016/02/07(日) 18:29:52 ID:dwuXbSAc0
ずっと追ってたから完結してくれて嬉しい
ストンと納得出来る結末が気持ち良かった
乙乙

79名も無きAAのようです:2016/02/08(月) 00:00:08 ID:9D5qqiPg0
乙だああああああ

80名も無きAAのようです:2016/02/09(火) 16:10:42 ID:ghGSQJlA0
乙!
もしかして「ぬるい毒」とか好きじゃない?

81名も無きAAのようです:2016/02/09(火) 21:33:14 ID:nEXzqlDc0
乙ありがとうございます
ぬるい毒は知らなかったです、最近の人だと飛鳥井千砂とか好きです

82名も無きAAのようです:2016/02/10(水) 01:08:24 ID:uC56Bk4Y0
この投下ペース、この投下ペースなんだよな

でもなんとなく最後までいきそうだとは思ってた


83名も無きAAのようです:2016/02/10(水) 02:05:32 ID:VwqKRqUI0
いい小説だった、好き


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