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川 ゚ -゚)月満つれば則ち虧くようです

141 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:34:45 ID:mkTtBvYE0

だからって、姉が母親代わりだったかと言われても、それは違うと断言できる。

姉は姉。友達のようにはなれても、母のようだと思ったことは一度もなかった。

それでも姉は、普通なら『母親』に読みか聞かされるであろう童話や昔話、さらには有名な文豪の小難しい詩集や、世界がどんな括りだったのかわからない頃の神話さえ知っている。

姉は昔から頭が良かったのだ。
だから読めるし意味もわかるし、理解できれば感動もできる。

わたしには、無理だ。

そう思って投げ出してただけなんだって気づいたのは、社会人になってからのことだった。

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142 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:36:23 ID:mkTtBvYE0

o川*゚ー゚)o『ところでクーちゃん、今日観たいのって何なの?』


そんなに待ち遠しいの?なんてからかうような含み笑いを、私は感じた。

どうせまた魔法使いや妖精が当たり前にいるような、壮大な空想の世界に連れて行かれるつもりでいるのだろう。

私も確かにファンタジーは好きだが、リアリストにアンチテーゼを主張するだけがファンタジーではないのだ。

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143 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:37:33 ID:mkTtBvYE0

川 ゚ -゚)『第二次世界対戦中にな、日本軍の捕虜になった男とある日本人の話だよ。どこまで本当か知らないが、実話に基づいた話らしい』

o川;゚ー゚)o『えー?また戦争系?あんまりグロい映像とか嫌なんだけど…』

川 ゚ -゚)『そこじゃない。多少残酷なシーンはあるかもしれんが、戦時中の話はほとんど回想だ。真っ只中の話がメインじゃない』

o川*゚ー゚)o『っていうかクーちゃん詳しすぎない?既に観たんじゃないの?』

川 ゚ -゚)『いや、原作を知ってるからな。なんとなくどんな流れになるかは想像がつくが…ってあんまりネタバレするのもいかんな。行くぞキュート』

o川;゚ー゚)o『えぇー??内容知ってんならいいじゃんよぉー…』

他のにしようよぉー…なんて気が進まないらしい妹の泣き言も無視して、私は歩みを進めた。

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144 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:39:13 ID:mkTtBvYE0

妹は知らなさすぎる。

特に戦争、宗教、革命なんかの、人間が内に秘めた部分を。

いさかいや競争を好まない平和主義も結構なことだし、元来素直であることも決して悪くないのだが


母は穢れを知らないまま大人になり、あんな最期を迎えたのだ。


だからこそ、当時幼かった妹を傷つけないようにオブラートに包み続けてきたのは、他でもない私ら家族なのだが

一生そうやって外や他人の汚い部分を見せずに過ごさせるなんて、無理だ。

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145 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:40:31 ID:mkTtBvYE0

人は裏切るし欺くし、嘘をつく。

もちろんそれが全てだとは言わない。
称賛や糾弾は両極端にしろ、その間にある一番身近なグレーゾーンを、もっと知るべきなのだ。

しかし全てを身を持って教えるのはなかなか難しい。というか不可能なので、作り物の世界でも、実話ではなかったとしても、こうやって映像で見せるのが一番手っ取り早いと思ったのだ。


まぁ、偉そうに言いながらも半分は私の趣味だ。

妹も暇潰しくらいにはなればいいだろう。

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146 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:42:19 ID:mkTtBvYE0

川;゚ -゚)『いつまで泣いてるんだ恥ずかしい』

o川*;ー;)o『だってぇ…だってぇぇ……』

全体的に、映像がショッキング過ぎた。

戦時中や捕虜虐待や戦後後遺症。

妻の献身的な愛情に胸が震える前に、痛々しい映像に耐えられなくて泣き出してしまうことも多々ある。

だから戦争系映画は苦手なのだ。


川;゚ -゚)『あーほら落ち着きなさい。無理矢理付き合わせて悪かったな』

o川*;ー;)o『ん、いいの…でも今度はもうちょっとマイルドな感じで…』

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147 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:43:49 ID:mkTtBvYE0

自分からは絶対観に行こうとは思わないストーリーだった。

けど、姉は実話に基づいてるだけでも観る価値はあると言っていた。

姉は絶対に、自分に有益な作品でないと観たがらないはずだ。

同じようにわたしにとっても有益とは限らないかもしれないが、今まで姉がのめり込んでた文学の世界に少し触れただけで、一つ教養の糧になった気がしていた。

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148 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:45:10 ID:mkTtBvYE0

o川*゚ー゚)o『でも、奥さんも辛い立場だったろうに、あそこまで全身全霊尽くせるものかな…』

母。ひいては夫婦の理想的な関係というものを、わたしは知らない。

よく母に似ているなどと言われることもあるが、それが褒められてるのか貶されてるのかよくわからないので

嬉しいと思うべきなのか、否定するべきなのか


そんなぼんやりとした掴み所のない記憶しか、残ってない。

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149 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:47:35 ID:mkTtBvYE0

川 ゚ -゚)『彼氏に対してはどうだ?全身全霊尽くすとまではいかなくても、何をしてあげれば喜んでくれるか…ぐらいは考えるだろう?』

o川*゚ー゚)o『どうかな…彼は仕事もできるし料理もできるし、家事全般そつなくこなすタイプだから…』







o川*゚ー゚)o『わたしなんかいなくても、生きていけるんだよ』





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150 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:49:31 ID:mkTtBvYE0



川;゚ -゚)『―――っ!?キュート…何を………』



o川*゚ー゚)o『クーちゃんだってそうでしょ?だって』







o川*゚ー゚)o『クーちゃん、あたしの――――――』



――――――………
――――……
―――…


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151 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:50:49 ID:mkTtBvYE0


















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152 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:51:33 ID:mkTtBvYE0




o川*゚ー゚)o「あら…」


帰宅してみると、姉がリビングのソファに寝そべっていた。

手元には、缶ビールの空き缶がいくつか転がっている。


o川*゚ー゚)o「お姉ちゃん、そこで寝たら風邪引いちゃうよ?」


空き缶を拾いつつ姉に近づき、軽く肩を揺さぶってみた。

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153 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:53:09 ID:mkTtBvYE0


o川*゚ー゚)o「…お姉ちゃん、泣いてるの……?」





ドクオさんが家を出てから4日が経った。


姉はもう、限界なのかもしれない。

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154 ◆7mt.DZ.sYo:2014/12/09(火) 07:54:13 ID:mkTtBvYE0
第6話おわりです。

155名も無きAAのようです:2014/12/09(火) 08:46:24 ID:oGZne3Hg0
キュー怖いよ

156名も無きAAのようです:2014/12/09(火) 09:22:54 ID:isrPdrQU0
一体どうしたドクオさん

157名も無きAAのようです:2014/12/09(火) 12:49:07 ID:PyyhXsDk0
何があったのよ、クーさん

158名も無きAAのようです:2014/12/09(火) 13:04:41 ID:sLcxr2KA0
急展開でびっくりしたわおつ
キュートが一人暮らしをしようとしないのが一番怖いし理解できない

159名も無きAAのようです:2014/12/09(火) 15:00:15 ID:6.teIfU20

んああキューにイライラする

160名も無きAAのようです:2014/12/09(火) 22:14:00 ID:rbxjK5c20
わかっていながらやらかすって最悪だなあ

161名も無きAAのようです:2015/01/14(水) 23:38:21 ID:iCAZA7Og0
続きが気になる

162名も無きAAのようです:2015/02/07(土) 00:24:12 ID:gbdLRPZI0
まだかなー

163名も無きAAのようです:2015/02/09(月) 21:04:14 ID:ysz.UJjg0
待ってるよー

164 ◆7mt.DZ.sYo:2015/02/10(火) 15:06:10 ID:uNAli8Qg0
作者です。とりあえず生きてます。
気がついたらだいぶ空いてしまいましたが、最新話気長にお待ちいただけると嬉しいです!

165名も無きAAのようです:2015/02/13(金) 23:02:15 ID:e9hLxbtw0
気づかんかった
おうまってるぜ

166名も無きAAのようです:2015/02/14(土) 01:59:47 ID:37CJav3E0
最新話楽しみだ

168名も無きAAのようです:2015/03/25(水) 23:05:55 ID:5niGHsQk0
まだー?

169名も無きAAのようです:2015/04/17(金) 02:35:06 ID:HQZongQg0
まだかな

170 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 04:45:50 ID:MFQbmFEY0
お久しぶりですみません。
こんな時間ですが投下します。

171 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 04:47:48 ID:MFQbmFEY0
◆第7話◆



川 ゚ -゚)「………」


休日昼間の散歩は嫌いじゃない。


ただ、その場に居たくなくて半ば逃げるように外に出てきただけという経緯があったとしたら、どうしても気乗りしないのもご理解いただけようか。

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172 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 04:49:13 ID:MFQbmFEY0


川 - -)=3「フゥ………」


目覚めは最悪だった。

妹がうちに来てからというもの、過去の夢に浮かされることが多くなった。


べつに、それ自体が悪夢というわけではない。

むしろ夢の中の私たち姉妹は、たいした蟠りもなくただ食事したり、買い物したり、映画でも見に行ってるだけで、昔言われてたままの仲良し姉妹そのものだった。


そんなものが夢に写し出されると、どうしても現状と比較してしまう。

仲の良かった妹が、しばらく離れて自立したかと思えば突然図々しく横着し、赤の他人まで居座らせる。
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173 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 04:51:06 ID:MFQbmFEY0

先刻だってそうだ。

ただでさえ夢見がよくないと言うのに、その眠りを妨げたのはやたらはしゃぎたてる妹らの声だった。


あまりにも耳障りで何事かと部屋の扉を開けるとすぐ目が合ったのは、前にもうちに上がり込んできたモララーとかいう青年。

寝起きとかスッピンとか見られて気まずいとか、所謂どこの馬の骨かわからないような得体の知れない男に女性の私生活の一部を侵食されるなんて頗る気分が悪いとか

神経質な私の気に障るすべてを凌駕して、まず理解できなかった。


誰のテリトリーで何をしてるのかという当たり前に一番聞きたい質問に、納得のいく答えが返ってくる気がしないこの状況が。

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174 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 04:52:23 ID:MFQbmFEY0

o川*゚ー゚)o『あ、お姉ちゃんおはよ。起こしちゃった?』


このすっとぼけた顔の妹には、怒る気にもなれなかった。


川 ゚ -゚)『何やら騒がしいな…何してるんだ?』

o川*゚ー゚)o『今ね、モララー君に手伝ってもらってわたしの荷物運んでるところなの!』

川 ゚ -゚)『荷物?』

o川*゚ー゚)o『うん、前住んでた部屋から、家具とか服とか…』
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175 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 04:54:25 ID:MFQbmFEY0

嫌な予感を通り越して偏頭痛がした。

前住んでた部屋とはすなわち、彼氏と同棲してた部屋のことだろうか?

それしか考えられない。
他に妹の住み処なぞ、実家くらいしかないのだから。

そういえば、実家からの引っ越しもなかなか大変そうだった。
私は手伝わなかったが、妹の彼氏が車で3往復ぐらいしてたのを覚えている。


その時の彼氏と同じことを今モララー氏にさせているということは。

車での往復が大変そうね。…とかそういうことではなくて。

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176 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 04:56:07 ID:MFQbmFEY0

川 ゚ -゚)『…ってことは何だ。あの部屋にはもう戻らないつもりか?』


だからといって、イコール彼氏と別れる。には直結しないとは思う。

けど今のこのモララー氏の立ち位置は、どうクリアに見ようと思っても疑わしすぎる。


妹の恋愛にまで野暮ったく口を挟むつもりはないし、いつ誰と付き合おうが別れようが好きにすればいい。

しかしこの状況。このタイミング。

よしんばあの日私が彼を泊めることを許したことがきっかけで芽生えてしまったんだとしたら、余計頭が痛くなる。
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177 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 04:58:21 ID:MFQbmFEY0

そんな拍子に心変わりした妹も妹だが、彼も彼で人の家で何してくれてるんだと。

図々しく上がり込んできて、テラスハウス気取るのも大概にしろと思うくらいには、私は神経質なのだ。


o川*゚ー゚)o『……うん、たぶんね』


妹の返事も、核心に迫ると俄然歯切れが悪くなる。なんだか私のほうが虫の居所が悪いじゃないか。


川 ゚ -゚)『…まぁ、部屋は好きに使えばいいさ。私はちょっと出掛けてくる』


そんなわけで、私は例によって一人になりたいがためだけにあてもなくふらふらと歩いているわけだ。

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178 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:00:05 ID:MFQbmFEY0

しかし、目的もなしにひたすら歩いてるだけでは、うまく時間が潰せない。

そういえばもうすぐ昼食時であることも思い出して、私は通りかかった大きなスーパーマーケットに入った。


川 ゚ -゚)「………」


最近、消耗品の減りが早くなった。

住人が増えたのだから当然と言えば当然なのだが

なくなったティッシュやトイレットペーパー、洗剤もろもろ。調達するのは妹でもドクオでもなく、いつも私だ。
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179 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:01:37 ID:MFQbmFEY0

家主なのだから、当たり前のことをしてるだけだと思う。

調達すべき頻度が上がったのは妹のせいなのだから、お前が責任持って買って来いとまで言うつもりもない。

私はたぶん、何かがなくなりそうだと気づくのが人より早いのだと思う。

完全に切らす前に用意するから、住人どもはそれらがあって当たり前だと思ってしまう。


彼らは悪気なく惰弱なだけだ。
私が神経質なだけだ。


そう思い続けるのも、正直楽ではない。

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180 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:03:25 ID:MFQbmFEY0



( ・∀・)「あ、クー姉さんお帰りなさい!」


だから何故、我が家に入るとまず君と顔を合わせることになるのだろうか。

妹の荷物運びを手伝ってるとは聞いたが、今その状態では、ただ煙草吸いながら寛いでるだけにしか見えない。

家主に断りなく部屋で煙草吸うとはどういう了見だか。これ以上家を汚さないでほしいのだが。

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181 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:05:08 ID:MFQbmFEY0

川 ゚ -゚)「…妹は?」

( ・∀・)「ちょっと疲れたからって、今お風呂に…」


私は普段から表情の変化が乏しいが、さすがにその強張りには気づいたのだろう。

ばつが悪そうに煙草を消しながら、彼は目線を背けた。

そして今度は私が煙草を点ける。
悶々とした苛立ちをぶつけてるように見えようが文句は言わせまい。


( ・∀・)「姉さん…すみません。突然我が物顔で立ち入ったりして」

川 ゚ -゚)「………」

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182 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:06:40 ID:MFQbmFEY0


( ・∀・)「ここはキュートさんだけが住んでるわけではなくて、前提としてはあなたが家主であることを知っていながら、図々しく…」

川 ゚ -゚)「………」


妹も、住まわせてもらう時は同じことを言った。

迷惑は承知してると。邪魔はしないからと。


川 ゚ -゚)「…そう言うだけなら簡単さ。だからといって、実際誰も何も手伝っちゃいない」

( ・∀・)「…そうですね。でも…」

川 ゚ -゚)「けどな、それを今君に言うべきではないな。すまなかった。忘れてくれ」

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183 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:08:25 ID:MFQbmFEY0


彼に言う前に、もっと前から一緒に住んでいたドクオをもっと頼ればいいのかもしれない。

彼よりも先に、身内である妹に少しでも責任を分け与えるべきかもしれない。


そう思うと、彼に文句を言うのはただの八つ当たりのような気がしてくる。


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184 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:10:09 ID:MFQbmFEY0

( ・∀・)「でも、これだけは言わせてください。俺、キュートさんとはこれから真剣にお付き合いさせていただきたいと思ってます」

川 ゚ -゚)「………」

( ・∀・)「彼女がこの部屋に住んでいる以上は、多少の出入りは今後もあるかと思うんです。必要以上に騒いだり泊まりに来たりは控えるつもりでいますので、そこのところ…お許しいただけませんか?」


真剣な交際宣言。
潔く喜ばしいことであるはずなのだが、結果としてそれは、同時に妹の背徳感情を肯定することとなる。

妹が今まで付き合ってて、同棲までしてたあの彼氏を私も知らないわけではないのだから、どんなモチベーションで聞いていればいいのかよくわからない。

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185 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:11:57 ID:MFQbmFEY0

川 ゚ -゚)「…それは当人同士で好きにすればいいさ」


恋愛に対してなのか部屋への立ち入りに対してなのか、曖昧な答え方になってしまったが、そう答えることしかできなかった。


その返事をどう解釈したのか知らないが、彼は言ってるそばから人が作った飯までたいらげて妹の部屋で寝付いたわけだが。


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186 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:13:58 ID:MFQbmFEY0

(;'A`)「なんていうか…図太い子だな…」


それにはさすがに帰ってきたドクオも呆れ返っていた。

荷物運びの疲れか既に就寝した二人が目の前にいなければ、ドクオも発言に遠慮がない。


しかし、今日は概ねそんな流れになるんじゃないかと私は読んでいた。

堂々と交際宣言までされたのだ。今更忍ぶものもない。

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187 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:16:16 ID:MFQbmFEY0

彼らの交際は、この際勝手にしてくれて構わないが、延いてはモララー氏の立ち入りについても同時に認めることになったと思うとどうも腑に落ちないが、多少なりとも迷惑かけてる自覚があるだけ救いようはある気がする。

まず片棒を担がせるべき相手に協力を仰げば、彼一人の負担には目を瞑れるかもしれない。

ドクオだって妹だって、住人で共有してる消耗品の調達どころか、食費や家賃の一部さえ負担してないのだ。

新入りに文句を言う前に、先住民どもに住人としての義務感を植え付けてやらないと。

そう思った。


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188 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:17:39 ID:MFQbmFEY0


('A`)「なぁ、クー。俺思うんだけど、あの子たちはやっぱり度が過ぎてると思う…」

川 ゚ -゚)「え?」

('A`)「クーさえよければ…って思ってずっと黙ってたけど、このままだと負担になってく一方だろ」



('A`)「クーのことだから、もし言いづらいとかであれば、俺が…」

川 ゚ -゚)「…お前が、言えるのか?」

('A`)「え?」

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189 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:19:13 ID:MFQbmFEY0


川#゚ -゚)「じゃあお前はここに住んで何をどれだけ負担してる!?食事をして風呂に入ればそれだけ金がかかる!!人数が増えれば尚更だ!!それを私一人で抱えてるんだ!!」

川#゚ -゚)「それを人のせいにする前にお前ができることをやろうとしたか!?私の支えになろうとしてくれたか!?」


川#゚ -゚)「私も同じことを考えて、お前からも徴収するつもりだったんだ!!正直に相談して助けてもらおうと思ってたんだ!!」

川#゚ -゚)「それを…自分は関係ないみたいに…!!」

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190 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:20:50 ID:MFQbmFEY0


川#゚ -゚)「よくそれで妹たちに説教の一つでもしようなんて言えたもんだな!!先にできることなんていくらでもあるのに棚に上げやがって!!この……」



川#゚ -゚)「甲斐性なしがッッ!!!」



('A`)「………」


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191 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:22:56 ID:MFQbmFEY0


川#゚ -゚)「………」


('A`)「………」


川#゚ -゚)「………」


('A`)「………」


川#゚ -゚)「………」

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192 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:24:36 ID:MFQbmFEY0


('A`)「………」


川#゚ -゚)「………」


('A`)「………」


川#゚ -゚)「………」



('A`)「………わかった」

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193 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:26:18 ID:MFQbmFEY0


静かにそう言って立ち上がるドクオがどこに向かってるかなんて、考えられなかった。



だから、「ごめんな」と呟いて背中を向けた彼を引き留めようとか、そこまで思い至れなくて




完全に閉まった扉の向こうで、彼が遠ざかる音が聞こえて初めて



川#; -;)「っ……ドクオ………!!」




彼をどれだけ傷つけてしまったことか、嫌でも気づかされてしまった。


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194 ◆7mt.DZ.sYo:2015/04/29(水) 05:27:56 ID:MFQbmFEY0
第7話おわりです。
ではおやすみなさい。

195名も無きAAのようです:2015/04/29(水) 05:57:20 ID:HTUtpsys0
おお、きてた!乙乙

196名も無きAAのようです:2015/04/29(水) 08:30:23 ID:V4G6njUU0
生きてた……
久々にキュートに本気でイラッとする作品に出会えたわ


197名も無きAAのようです:2015/04/29(水) 11:24:30 ID:TfQNNjfA0
更新うれしい!
ドクオもなんにも分かってないな…これは辛いわ

198名も無きAAのようです:2015/04/29(水) 13:14:52 ID:USTDqY1c0
キュートには言えないのにドクオには言えちゃうんだな…

199名も無きAAのようです:2015/04/29(水) 18:32:52 ID:S7W..94s0
おつ
これつらいわ・・・ドクオも本当にわかってなかったんだろうな
キュートへの怒りが矛先変えちゃった感じ

200名も無きAAのようです:2015/04/30(木) 09:10:43 ID:IXO5Q4cc0
うおお! 待ってた!!
うん、わかった全員ウザい!!
クーはもっとハッキリ早く言うべきだった
ドクオもクズだが
全方位イライラする!!
ともあれ作者乙!!!

201名も無きAAのようです:2015/09/11(金) 22:59:37 ID:M6lQ4qbY0
matteru

202名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 08:03:33 ID:DNsw4tLA0
まだー?

203 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:12:44 ID:/DFv/3JY0
お久しぶりになってしまいました。
急ですが最新話投下します。

204 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:14:37 ID:/DFv/3JY0
◆第8話◆


語に曰く、日中すれば則ち移り、月満つれば則ち虧く、と。


物盛んなれば則ち衰うるは、天地の常数なり。


進退盈縮、時と変化す。


聖人の常道なり。



『史記』はわたしには難しすぎて、全容は理解できなかったけど

要するに、満月が必ず欠けていくように、物事が盛りに達すると必ず衰えていくと喩えて言ってるのだ。

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205 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:19:15 ID:/DFv/3JY0

盛り。

わたしにとっての盛りとは、一体いつだったのだろう。

それとも、これから盛りに向かっていくのだろうか。


でも考えてみれば、今より悪かった状況などなかなかありようはない。

少なくとも、わたしにとっては。


無理矢理挙げようと思えば、例えば母の自殺なんかは誰もが納得することだろうけど



それを凌駕したのは、姉の怒鳴り声だった。



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206名も無きAAのようです:2015/12/16(水) 00:20:30 ID:u/8ECuSM0
きたか!

207 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:21:10 ID:/DFv/3JY0


寝入ってたはずだったけど、怒号に揺り動かされた気がした。

そして目を覚ました刹那に、姉がドクオさんに何事か怒鳴り散らしていることは理解できたけど

その過程を知らないから、何が起きたのかはすぐにはわからなかった。


止めに入ったほうがいいだろうか。
そんなことをぼんやり考えながら体を起こすと、また断片的に怒号が聞こえてきた。

全てが丸聞こえというわけではない。
けど、単語単語を紡いで弾き出された答えは、経済的にも精神的にも負担でしかない横着者らに腹を立ててるらしいということだ。

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208 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:25:40 ID:/DFv/3JY0

どうしてそんな話になるのだろう。

ドクオさんと、即ち彼氏と二人で会話してるだけで唐突にそんな話題になるとは思えない。


ともすれば、答えは自ずと見えてくる。



わたしたちに辟易してる。


そんな話から始まったであろうことは、容易に想像がついた。


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209 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:27:13 ID:/DFv/3JY0

出るに出れなくなった。

聞いたこともないような姉の怒鳴り声の原因は、他でもなくわたしにあったのだから。


『だから』出れないというのもまた、逃げかもしれないとは思う。

わたしが間に入って謝れば、また違ったかもしれない。

だけど、間接的にあたしに向けられたその怒りに踏み込んでいく勇気がどうしても出なかった。


怒られてもいい。怒鳴られてもいい。

せめてそれが、わたしに直接向かってきたものだったら、どれだけ救われたことだったろう。


そんな勝手なことを思いながら、静かに閉まった玄関の扉の音と、遠ざかるドクオさんの足音を聞いた。

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210 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:29:30 ID:/DFv/3JY0

それから一週間以上は経っただろうか。


相変わらずドクオさんは姿を見せないし、わたし自身、姉とまともな会話をしてなかった。


仕事には今まで通り行ってるらしく、その生活リズムが大きく変わることはなかったけど、家で料理もしなくなったし、お酒も増えた。

一人でお酒を飲みながら、何事か考えてるのか何も考えないようにしてるのか、ただ黙ってわたしに目配せさえしなくなると、わたしがコンビニ弁当を買ってきても、何も言わなくなった。


ただ会話がないだけ。
それだけのことが、こんなにも重い。

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211 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:31:47 ID:/DFv/3JY0

姉とちゃんと交わってたのはいつのことだっただろう。


少なくとも、この家に住まわせてもらうことになった当日は、まだよかったと思う。


いや、『まだよかった』程度というのは、自分で思ってるほど歩み寄れてはいないのかもしれない。

じゃあ一昔前、別々に暮らしててたまに食事しに行ったり映画見に行ったりしてた頃?

あの頃なら、実りのある会話があった。
姉にも、希薄なりに表情があった。

与えてくれる教養があった。
いちいち高尚な姉の趣味に片足突っ込む新鮮味があった。


あの頃は、色があった。


そして


『キュート』って呼ぶ声があった。


わたしには、ちゃんと名前があった。


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212 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:33:37 ID:/DFv/3JY0


この家に住んでから、わたしは何度『キュート』と呼んでもらえただろう。

わたしは今、姉にとって『妹』と認識するだけの記号でしかない。


だからわたしも、『クーちゃん』でなく『お姉ちゃん』としか呼べなくなったのだろうか。

わたしを『キュート』と認識しない姉に対する当て付けだったのだろうか。

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213 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:35:21 ID:/DFv/3JY0

どっちが先だったかなんて、考えるだけ不毛だしナンセンスだと思う。

だけど同時になんとなく、『色褪せる』とは、こういう時に使うのかと唐突に思った。



それは即ち、今は盛りじゃない。
と、認めざるを得ない。


ましてやこれから向かっていくわけでもなく、気づいてなかっただけで随分前に通り過ぎてしまったのだと、今更ながらに振り返ってまた悲しくなった。

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214 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:37:20 ID:/DFv/3JY0


「素直さん」


と、上司に呼び止められて我に返った。


従業員に『館』と呼ばれる百貨店の休憩室には、各階、各ショップのスタッフがひっきりなしに流れ込んでくるものだから、見知った顔を探そうと思ったとしても、見つけ出すのはなかなか難しい。

それを逆手に取ってるわけではないが、こんなところで、ただでさえ少ない知り合いに遭遇する心づもりは基本的にはないので、急に呼ばれると狼狽さえする。


o川*゚ー゚)o「あ、お疲れさまです」


なんとかその狼狽を顔に出さないように気をつけながら、一応挨拶する。

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215 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:43:25 ID:/DFv/3JY0

上司である都村さんは、そんなわたしの様子を見透かしたようでいながら、全く表情を緩めない。

冷静で頑なで簡潔で、素っ気なささえ漂わせてるが、何故か冷酷にも無慈悲にも見えないのがなんだか姉に似ていると思っていた。


(゚、゚トソン「あの話、少しは検討して頂けましたか?」

o川*゚ー゚)o「ええまぁ…でも、なんだか思い切れなくて…」


いつだったか都村さんに持ちかけられた異動の話は、半ば聞き流してたので改まって聞かれると対応に困る。

強制的な辞令ではなく、本人の意志が尊重されるから尚更だ。

次の異動先は、今住んでる場所から易々と通える距離ではないのだ。

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216 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:46:01 ID:/DFv/3JY0

(゚、゚トソン「なかなかない機会だと思いますけどね…ですがもちろん大変なことだとは思いますので、慎重に考えて頂いて結構です」


今の状態の姉を放ってはおけない。
でも、わたしがいて有益なことなどないかもしれない。

思いきって離れてみるのもありかもしれない。けどそれはただの逃げかもしれない。

わたしがいなくなれば、姉の負担はなくなるかもしれない。しかしだからといって、ドクオさんと仲直りできるとは限らない。


何かと姉との事情を絡めて、自分のチャンスを掴む勇気が出ない大義にしようとは思ってない。

決断しかねてるのは結局、自分の都合だってことはわかってるつもりだ。


でも、一番相談したい姉がそれどころじゃない状態なのも、自分のせいだと思うとやるせない。

それで決断が鈍るのも、事実なのだ。

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217 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:48:55 ID:/DFv/3JY0

o川*゚ー゚)o「…つかぬこと伺いますけど、都村さんはどうしてわたしにそのお話しを…?」


都村さんは、一瞬怪訝そうな顔をした。

そう聞くことでわたし自身が求められてる理由が裏付けされれば、一歩を踏み出す勇気になるかもしれないという思慮の浅さを、軽く見下された気がした。


(゚、゚トソン「…正直、素直さんならそこまで思い悩まずして飛び込んでくれるものと思ってました」

要するに、時間や手間がかからないと思われてたのか。

話の華やかさや給与面などの上澄みだけを捉えて即決するだろうと、やはり少なくとも思慮深いとは思われてないらしいことに、嫌でも気づかされてしまった。

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218 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:52:01 ID:/DFv/3JY0

(゚、゚トソン「そこに、あなたのその人の懐に踏み込んでいくおおらかさと図太さがあれば、ある程度やっていけるものと私は思いました」

o川*゚ー゚)o「………」

(゚、゚トソン「あなたなら、大きく環境が変わったとしても、今まで通りそつのないセールスをしつつ現地の人間ともうまく付き合っていけるだろうと、そう判断したまで。経験値から見ても、申し分はないはずです」


誉められてるとか貶されてるという次元ではない。

ただまっすぐ、自分の性質を見極めようとしているらしい。

それを嬉しいと思うか、品定めされてることを面白くないと思うか。

いずれにしても、都村さんはわたしに対してそれなりの価値を見出だしてくれてる。

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219 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:55:19 ID:/DFv/3JY0

o川*゚ー゚)o「…明日中には、お返事致します。もう少しだけ考えさせて頂けますか?」


価値。評価。期待。

なんでもいいけど、自分に向けられているものを、もう少し受け止める姿勢でいてもいいような気がした。


(゚、゚トソン「承知しました。どうか慎重に」


そうやって必要なことだけを言い残して去った都村さんの言葉に、打算があるとは思えない。


だからこそもう一度、考えてみるべきかもしれないと思った。



これからの在り方を、もう一度慎重に。


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220 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 00:58:32 ID:/DFv/3JY0
急ですが終わりです。

221名も無きAAのようです:2015/12/16(水) 01:01:05 ID:u/8ECuSM0
おつ!
状況はいまだに悪いままだけど、キュートを応援したい
ドクオは戻ってくる気ないのかな……

222名も無きAAのようです:2015/12/16(水) 01:38:55 ID:u4Ab7CwE0
おつおつ復活嬉しい
キューちゃん少しは前に進めるかな……?

223名も無きAAのようです:2015/12/16(水) 02:20:07 ID:j6y4rzY60
待ってて良かった乙!
自分が付いててあげなくちゃってのは得てして傲慢なんだよな

224名も無きAAのようです:2015/12/16(水) 08:48:29 ID:uHfE/aC.0
逃げとかドクオと仲直りとかどうでもいいからキュートさっさと消えろよとしか

225名も無きAAのようです:2015/12/16(水) 18:56:22 ID:mDXSZUdA0
ここまで本気でうざいキュートは初めて見たわ

226名も無きAAのようです:2015/12/16(水) 20:47:57 ID:Hj6iB7rE0
料理ができない、酒の知識がない、常識に欠けるってだけで普通の女の子じゃん。

227 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:10:38 ID:QclJ4FnM0
作者的に勝手に終わりが見えてまいりました。
そんな勢いがあるうちに最新話投下します。

228 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:12:15 ID:QclJ4FnM0
◆第9話◆


いよいよ年明けも間近になると、飲食店は休業する。

普段は拘束時間も長く、休みも不定期な職場の人間らが唯一まともにまとまった休みが取れる期間に差し掛かったのだ。


毎年のことだ。もちろん、去年の今頃もそうだったはずだ。


しかしその頃は、どうやって過ごしてただろうか。

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229 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:14:26 ID:QclJ4FnM0

妹はいなくて、ドクオがいた。


特に具体的に、何処で年明けの瞬間を迎えて何処に初詣に行き、何を食べてどのお酒を飲んだかなんて、何も覚えてはいない。


でも、ドクオがいてくれた。

ただそれだけのことが、今とは決定的に違う。


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230 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:15:42 ID:QclJ4FnM0

あまり考えたくはないが、今年はどうだろう。


私が辟易してた同居人たちは、誰も隣にはいなくなった。

一瞬にして、たった一言で、全てを振り払ってしまった。



『甲斐性なし』



最後に浴びせられたその言葉。

男性からしてみたら、さぞ屈辱的だったことだろう。


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231 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:17:15 ID:QclJ4FnM0

あれから一ヶ月は過ぎたが、ドクオからの連絡はないし、自分から連絡する気にもなれなかった。

意地やプライドが邪魔するわけではない。

ただ、待ってなければいけない気がした。


何も知らされないままの、闇雲な沈黙。


それが、私に課せられた贖いのようなものだと思っていた。


例え何年かかったとしても。


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232 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:19:11 ID:QclJ4FnM0


無論、決して楽ではない。


私の言葉にキレたドクオが何をしでかすかなんて別に疑いもしないし、コミュニケーションが不得手なドクオが、そうあっさりと私の代わりを見つけるはずがないと驕ってもいない。


ただ、わからない。見えない。聞こえない。


それに理性を持ったまま耐え続けるとなると、自分の中で考える必要のあることとそうでないことが、勝手に淘汰される。

仕事中は仕事に集中し、家では理性を手放したこともあった。

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233 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:21:33 ID:QclJ4FnM0

しかしそうやって、外部からの刺激をシャットアウトしたことがかえって良かったのかもしれないとも思う。


妹の心配そうな目線にはたまに気づいたし、気を遣ってるつもりなのか彼氏を家に連れてくることもなかったようだが


妹が思うほど茫然自失というわけでもない。


それは今、急に震え出したスマートフォンを冷静に手に取り、久し振りのドクオからの連絡に対応するためのインターバルに過ぎないのだから。

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234 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:23:04 ID:QclJ4FnM0


川 ゚ -゚)「…久し振りだな」


('A`)『あぁ…悪かったな』



先に謝るべきなのは私のほうだ。
すぐにそう言ってやりたかったが、私も案外困惑しているようだ。


ドクオの声色は、いつもより静かで堅い。

思い詰めているのか、もしかして怒ってるのだろうか。

そんな選択肢が浮かぶほどには、聞いたことのない緊張感だった。

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235 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:25:37 ID:QclJ4FnM0

('A`)『…連絡遅くなってごめん。いろいろ考えたり、準備したりで手こずって…』

川 ゚ -゚)「準備?」


考えたり、はわかる。しかし準備の心当たりがまるでなかった私は、その緊張感に困惑しながらも、とりあえず聞き返すことしかできなかった。


('A`)『まず誤解を解かなきゃいけないんだけどさ…この前、俺が言いかけたこと』

川 ゚ -゚)「………」

('A`)『俺は別に、キュートちゃんたちに対して、クーの代わりに説教してやろうとなんか思ってなかった。クーさえよければ、っていつも黙ってたことも男として情けないって気づいてた』

川 ゚ -゚)「………」

('A`)『だからクーにそう言われた時は何も言い返せなかった。だからって黙っていなくなるのも、カッコ悪い自分から逃げただけで余計カッコ悪く見えたかもしれないけど』

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236 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:27:19 ID:QclJ4FnM0

いつまでも核心を突かない言い方が、いかにもドクオらしい。

誤解だなんだと伏線だけ張って意図的に焦らすようなものではなく、一つ一つ思い浮かぶままに喋ってるに違いない。

今まで共有できなかった、お互いの時間を埋めるように。


こちらとしても、これだけ待たされたのだ。
簡潔に要点だけを突き付けられるのも割に合わない気もする。


つまるところ何が言いたいのかはまだ読めてこないが、全てを聞き全てを受け止める姿勢は整ってるつもりだ。


('A`)『はっきり言うけどキュートちゃんたちは度が過ぎる。厚かましすぎる。それはクーが良くても俺は許せない。前回言った通りだ』

川 ゚ -゚)「………」

('A`)『でも、俺自身も何も助けてやれてなかった。もちろんクーのためと思ってやってたことが全くないつもりではないんだけど、要は的を得てなかったようだ』

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237 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:28:50 ID:QclJ4FnM0

心当たりが全くないわけではない。
妹が住む前は持ち回りでご飯の支度なんかもしてたり、洗い物なんかも手伝ってくれてた。

帰ってきたら温かいご飯がある。
それがどんなに嬉しかったことか。


ドクオの仕事は、ワインのインポーターの営業だ。

だから仕事から帰って来る時、私の好きなワインが手に入ればお土産に差し入れてくれる。


彼なりに気を利かせてくれてたのはわかってる。
それを『何もしてない』と一方的に撥ね付けるのはやはり思慮が浅かった。


反省はしながらも、とりあえず最後まで聞こうと思った。

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238 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:30:49 ID:QclJ4FnM0

('A`)『クーの言う通り、俺に甲斐性があれば、そもそもクーの部屋で世話になる必要もないんだ。お互い通勤に便利な場所だからとか甘えもあったし、俺の都合でクーがわざわざ拠点を移す必要もないと思ってたけど…』


('A`)『キュートちゃんのことがあったり、クーに実際そう言われたので俺、やっと自分がやるべきことが決まった』

川 ゚ -゚)「………」


('A`)『…本当はあの時から言おうと思ってたんだ。クーがキュートちゃんたちに出て行けなんて言いづらいなら…』


('A`)『俺の部屋に来いって』

川 ゚ -゚)「え?」

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239 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:32:54 ID:QclJ4FnM0

('A`)『いや、その時はまだそう考えてるって段階だったから、ちゃんと環境が整うまでは何を言ってもその場凌ぎで説得力ないなって何も言えなかったんだけど…』


('A`)『今はやっと、部屋決まって昨日引っ越しが済んだんだ』


('A`)『だから今なら、俺いつでもクーの拠り所になれると思う』

川 ゚ -゚)「…そうか、準備ってそういう…」

('A`)『あぁ。仕事しながら部屋探していざ引っ越しって思ったより大変でさ。時間かかっちゃって悪かった』
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240 ◆7mt.DZ.sYo:2015/12/16(水) 23:34:37 ID:QclJ4FnM0
川 ゚ -゚)「………」

('A`)『…一緒にはいれなかったけど、ここまでずっとクーのこと考えてクーのために動いてたことなんて、今までなかったかもな』


自他共に認める、あのコミュニケーションが不得手なドクオが、時間をかけながらも全ての点たちを丁寧に一つの線にしてくれた。


離れてる間、自分のために整えられてたその道が完成するまで、黙って待ってて良かった。

自分のしてたことは、ちゃんと二人が幸せに過ごすための途上になってたことが、なんだか嬉しいのと安心したので、目頭が熱くなる。

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