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( ^ω^)千年の夢のようです
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9/24(水) 夕方より投下します
よろしくお願いします
前スレ
>( ^ω^)千年の夢のようです
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1401648478/
まとめサイト様(以下敬称略)
>ブンツンドー
http://buntsundo.web.fc2.com/long/sennen_yume/top.html
>グレーゾーン
http://boonzone.web.fc2.com/dream_of_1000_years.htm
作品フィールドマップ(簡易)
http://imefix.info/20140922/321215/rare.jpeg
http://imefix.info/20140922/321216/rare.jpeg
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「具合はどう?」
('A`) 「良くならないからここにいるんだろうが」
グランドスタッフには、人が必要とする設備のすべてが詰め込んである。
外套姿の女性――西川と別れてから、直接向かった先の病室に現れた彼女。
その目線は痩せこけた頬に目の下のくまが目立つ、実の息子に注がれていた。
('A`) 「今さらなにか用か?」
周りには誰もいない。
二人だけの空間…ベッドに沈む鬱田の口調は冷たい。
だらりと垂らした両腕。
力が入っていないことが見てとれる。
更にいうなれば彼の両脚も、幼少の頃から動くことがなかった。
いくら感情を抑えても、内包する感情は漏れ伝わりそうな吐き捨てる言葉。
…そんな親子関係も時代によって確かにあったのだろうが。
「三日後に世界は終わるんですって」
('A`)
('A` ) 「ああ、そう…」
病室に窓はない…それでもまるで外の景色を眺めるような素振りを鬱田はした。
つるりと白い壁一面。
治療を名目とし、自死防止のための措置として
娯楽性を廃して機能美のみを求めた部屋。
-
壁の向こう側を席巻しているはずの大嵐と同様に、彼の機嫌を感じられる者はここに居ない。
項垂れた彼が一度大きく咳き込むと、
シーツの上にべたべたと少量の血が飛び散った。
混じりけのない鮮血が、内臓から涌き出たことを暗に示す。
( A ) ハァ… ハァ…
「大丈夫?」
( A`) フゥー…
( 'A`) 「うわべの言葉はいらねえよ」
心配を口にする母親ではあるが、それもまた先人に学んだ結果に過ぎなかった。
こういうとき、親はこうするものだ…そんな習性を反復しているだけ。
息子もそれを見破っている。
「生徒たちはお見舞いに来てくれてる?」
('A`) 「アンタの用件をまず言えよ、なにかあるんだろ?」
「素直、井出、高岡の三人。
彼女たちを[かがみ]にぶつける【魔導力】の塊にして、
別の世界に移住してもらうわ」
切り返される会話が異なろうと、母親は言い淀まなかった。
感情を失くした者はそういった躊躇がない。
-
('A`) 「別の、世界だあ?」
「それだけじゃない。
これは秘密事項だけれど、貴方に隠し事はできないから言うわね。
貴方と内藤を含めた感情値の高い三人は――」
続く言葉を訊き終えた頃、彼の身体は悲鳴をあげた。
苦痛のなか、鬱田の瞳に映るのは
無表情にこちらを見やり、コールスイッチを押しながら状況を伝える母の姿。
「ヒーラー、病号666にてクランケの容態悪化。
喀血量の増大が見られるため迅速に」
がフッ―― ('A`)、'、
「血量さらに増加」
( A`)
「ひ… ひひひっ」( ∀`)
――こんなことなら早く死ねばよかった。
感情をもつ鬱田は母親に聞こえないよう呟き、意識が果てた。
生まれつき病いに冒され、
苦しめられ、
三日後に世界に殺される運命を背負う彼は、より明確な死を宣告されたことになる。
-
…次に意識を取り戻したのは、針が一回転半した頃。
('A`)
誰もいない病室――のはずが、
彼を取り囲むように子供たちが立っていた。
「起きた?」
('A`)
「目が覚めたみたい」
「おはよう、せんせー」
まるで砂漠で見付けた蜃気楼のようだった。
嬉しさや驚きのない、事実をなぞるだけの淡々とした響き。
子供の声からやはり感情というものは感じられない。
彼らもまた鬱田の母親…そして評議会の者と同じ顔をしている。
('A`)
なのにどうして…
彼の目尻は僅かに下がっていた。
-
('A`) 「なぜ、ここにきた?」
鬱田は問う。
「せんせーにお礼を伝えるためです」
と、子供たちは答える。
('A`) 「そうか…」
('A`) 「もう少しだけ教えてやれることもあったがな。
誰かから聞いたのか、明後日のことを?」
鬱田は幼少から病いに伏しながらも、
勉学に励み、手作りの教壇に立ち、
車椅子から降りることなく職務を全うする教師だった。
表向きは生徒の知識量向上。
その裏、主体性を育まんと、自らの想う感情のなりたちを教示した。
『有を減退させることは出来たとしても、
無になったものを再び呼び起こすことは出来ない』
評議会…いや、この世界において通説となる言葉。
昔から幾度となく聞かされたものだが、鬱田はそれに強く反発して生きてきた。
('A`) 「率直に訊く。
お前らはどうやら二日後に死ぬ、そして俺もな」
('A`) 「それについてどう思うか、答えてみせろ」
-
子供たちはさほどの反応を示さない。
…だがしかし数人。
窺うように隣の者と目を合わせた生徒が居たのを、鬱田は見逃さない。
('A`) 「理解出来はしても、言葉にできる奴はいないか?」
「いま僕たちにうかんだ言葉は、きっとせんせーの望むものではないとおもうんです」
('A`) 「…そうか、それならいい」
拒絶じみた反論。
なのに鬱田は満足げに頷き、生徒を並ばせると
各自の頭に ぽん…ぽん… と、手を置いた。
('A`) 「たった数年の付き合いだったが…楽しめた」
('A`) 「じゃあな」
-
結局、退出し終わった子供たちはなにも答えなかった。
二、三人振り返ったのを鬱田はただ見届けた。
迷ったのだろう…だが、鬱田にとってはそれこそが望んだ答え。
――迷い、戸惑い、躊躇する。
まさに感情が為せる沈黙に他ならない。
( 'A) ( …他人の気持ちを理解すべきだなんて思っちゃいない。
くそくらえだ。
どうせ心があろうとなかろうと、真に解り合える人間なんていやしねえ )
…世界が終わらなければ。
後天的に感情を取り戻した子供たちが
次世代を繋いだかもしれない未来を思い、鬱田はほくそ笑む。
だがそれは決して子供のためでなく、
人類と世界構造への挑戦ともいえた自身の人生に対する自嘲に過ぎない。
( 'A) ( 俺が教師になったのも、
可能性すら決め付ける俺以外の人間が許せなかっただけ…。
奴らは俺のエゴに付き合わされただけ… )
横たわる以外の時間を指導に費やし、
感情の伝達――その達成率は低くとも、不可能と云われたことを可能にしたのだと。
ささやかながら自負し、何も遺らない未来に唾を吐いた。
そして酸素と魔導力漂うベッドの上で一人、入り口に背を向けて眠りにつく。
次に目覚めた時は…世界最後の日であればなお良い。
――そんな達観の境地を邪魔する者ありて。
( 'A) 「…」
( 'A) 「おめーかよ」
-
彡
彡
( ^ω^) ( 'A)
彡
-
風が吹く。
窓もない袋小路の一室に。
その来訪に、鬱田は背中越しでも正体が判る。
( 'A) 「ブーンか」
( ^ω^)「…ドクオはもう聞いたかお、例の話」
顔も向けない鬱田の様子は、内藤にとっていつも通りだ。
ベッド脇に寄り、座りもせず視線を下ろす。
( 'A) 「おめーはなんて聞いてる?」
( ^ω^)「西川からは、
三人が[かがみ]に突入する際の "つがい" だって…」
( ^ω^)「ドクオは?」
( 'A) 「"壁" だってよ」
鬱田が「ひひひ」と嘲笑った。
共に両親は評議会メンバーであり、重要事項は洩らすところなく伝達される。
-
"つがい" と "壁" ――。
内実の意味は同じであっても、言い方に差異が生じていることもまた感情の証。
鬱田は嘲笑いが止まなかった。
…それは内藤の父親に対して向けられてはいない。
西川には極々僅かながら感情があるのではないかと、母親から聞いたことがある。
評議会の言葉を、より正しく伝達したであろう己の母とは違う。
…だから嘲笑う。
( ^ω^)「ドクオはやるのかお?」
( 'A) 「そもそも選択肢なんてねえだろ」
( ^ω^)「でももし、グランドスタッフが沈まなかったら――」
( 'A) 「ふざけんな、俺にはその可能性すらすがれねえ。
おめーはそれで良かろうがよ」
( ^ω^)「…ドクオ…」
-
他の者に比べ、鬱田には絶対的な時間がない。
彼の死は約束されたもので、たまたま今に至り生き延びているだけの偶然。
血を流すたび臓物は抉れ、体力を削られる。
内藤もそれを知らぬわけではなかった。
ただ…友が自分より先に死ぬことは信じられないのだ。
幻想に縋りたいだけだ。
( ^ω^)「せめて最後まで一緒にいたいお」
とはいえ評議会の計算ミス、地殻変動の気紛れ……。
はたまたその他、いかなる理由によってグランドスタッフが生き残ろうとも
その直後に病いが生命を喰い尽くすならば、
鬱田にとってはやはり世界が終わるに同じこと。
( 'A) 「…井出のところにはもう行ったのか?」
-
内藤の慰めには応えず、恐らくの本題を問うた。
( ω )「…」
( 'A) 「…けっ、相変わらず優柔不断なヤローだ」
沈黙――…感情の表れ。
( ω )「どんな顔でツンに…最後になんて言えばいいのか判らないんだお」
迷い――…感情の表れ。
( 'A) 「だったら尚更…こんなところに来るんじゃねえよ、クソったれが」
( 'A`) 「おめーのやりてーことをやる。
…それの何が難しい?
誰に遠慮して、何を恐がるって――ゲホッ んだ」
('A`) 「死ぬことよりも、ツンに会うことが恐いか?
だったら生まれた時期を間違えたな、早く死ね、ボケ」
( ω )
向き直した先、内藤が大きく項垂れている。
『あまりにも女々しい』と鬱田は胸中で毒づいた。
('A`) 「……チッ」
彼はそんな内藤が好きではない。
…枕元に隠し持つタバコに火をつけ、煽るように煙を吹き掛ける。
そして――
('A`)y-~ 「なぜ、ここに来た?」
生徒たちと同じ言葉をぶつけた。
-
( ω )
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「友達に会いに来たらダメなのかお?」
('A`)y-~ 「…… わかってんじゃねえか」
鬱田はまた舌打ちしてしまう。
しかし風を扇ぎ、煙を払いのける内藤の答えは明るかった。
上げたその表情からは一種の爽やかさすら感じさせる。
ε_ ('A`)y-~
( ^ω^)「……そうだおね。
行ってくるお、ツンのところにも」
( ^ω^)「最後でも、そうじゃなくても…
会わなきゃなにも始まらないんだおね」
('A`) 「…」
――嫌いだった。
内藤の愚直さも。
どんなに悪態をつこうと、決して友を拒絶しない情の持ちようも。
愚痴り、迷いはしても帰る場所をもつ、心ひとすじなところも。
僅かでも感情をもつ者が親であったことも。
自分には叶えられないことに手を伸ばせる、その自由さも。
-
二吸いほどしかしていないタバコをもみ消すと、鬱田はゴソゴソと身を下げてしまった。
( 'A) 「もういけよ、時間は足りねえくらいじゃねえか?」
「疲れたから寝かせろよ」
…そう言ったきり、鬱田は眠りに入る。
隠れて小さく何度も咳き込む唇が赤く染まり、
シーツを同色に汚したことを内藤は気付いただろうか…。
( ^ω^)「ありがとうだお、ドクオ」
入室時とはまるで正反対に、跳ねる靴裏。
井出の元へと歩く内藤の足取りは軽かった。
…鬱田の元を離れるその足取りは速かった。
二人のあいだに別れの言葉はない。
内藤は想う。
最後まで鬱田は自分にとっての友でいてくれる、と。
彼は井出との時間と、求めるための勇気のひと押しを与えてくれたのだ。
-
鬱田が毎日血を吐き、死の淵を往来していることを知っている。
それを自分たちの前に決して見せまいと振る舞うことも知っている。
だから、走った。
自らもいままで通りの友で居なくてはならない。
井出を優先し、鬱田に甘え、背筋を伸ばす。
(^ω^ )
情を繋いだ存在。
友が最後までこの世界にいることが嬉しくもあり…楽しかった。
( A)
背後に消える鬱田の病室…。
そよいだ風は、もう止んでいる。
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川 ゚ -゚) 「…感情を魔導力としてぶつける、か」
ξ゚⊿゚)ξ 「そもそも[かがみ]を信じていいのかしらね」
从 ゚∀从
三人はトボトボと階段を降りる。
高岡以外の表情は暗い。
先ほど評議会との作戦会議を終えたところだった。
…世界のリミットはあと二日。
グランドスタッフが沈むまでに実行、そして成功しなければ、
人という種はこの星から完全に消える。
川 ゚ -゚) 「どう思う?」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうって…」
魔導力渦巻く猛毒の海――その排水口となる、
[かがみ]への突入だけならば、
生死を問いさえしなければ誰にでもできること。
川 ゚ -゚) 「なにを創造すれば良いと思う?
どう想像すれば…私たちや、皆が、生き残ることができるんだろうか」
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ 「…みんなが生き残る」
川 ゚ -゚) 「会議ではその点にまったく触れられなかった。
つまり評議会…しいてはアーカイブにも答えがないということだろう?」
-
三人に課せられた事項は多くない。
ひとつ、――[かがみ]への突入。
ひとつ、――創造。
ひとつ、――移住の達成。
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ 「[かがみ]がどこまでの力を持っていて、どこまで反映できるのかよね」
星の外に目を向けて
『世界はまだまだ広い』と豪語した学者のいた時代は確かにあれど、
達したのは絶望的結論。
観測上、そして現実問題においても
人類は星間移動を成し遂げられていなかった。
川 ゚ -゚) 「それも不安要素のひとつか。
誰かが先に飛び込んで、試してみるか?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「…」
川 ゚ -゚) 「……すまない、さすがに不謹慎だった」
すでに大地を飲み込み、グランドスタッフという最後の一口も喰らおうとしている魔海。
飛び込むことはイコール死を意味する。
前例もある。
――星の外も同じ。
例外なく、飛び立つことは死を約束されていた。
-
从 ゚∀从
川 ゚ -゚) 「とはいえ実質あと一日だけが私達に残された時間か。
悔い無く取り組まねばな」
先の素直の言葉は、誰かを犠牲に試そうと言ったわけではない。
問題点とその解決方法について近道を口にしただけ。
「なんなら私が先に飛び込むさ」とフォローしたものの、
首を横に振る友の姿から余計に、ばつの悪さを覚えてしまったようだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「ねえ…クー、ハイン」
川 ゚ -゚) 「ん?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンに逢ってきても…いい?」
川 ゚ -゚) 「ああ、行ってくるといい。
ハインも構わないだろう?」
从 ゚∀从 「いいよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「ありがと、二人とも。
また明日ね」
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…去り行く姿は背筋を伸ばし、凛としていても、バタバタと急く足取り。
小さな背中と、ウェーブがかるブラウンの巻き髪がゆらり揺れるのを見送った。
――まるで、さよならの挨拶のように。
从 ゚∀从
外見ならば、素直。
振る舞いや言動をみれば、井出。
高岡にとって彼女たちは、それぞれ女性らしさという点において突出している気がした。
同性からみても愛らしさを感じてしまうほどに。
川 ゚ -゚) 「結婚式を前に、とんだ邪魔もあったものだな」
从 ゚∀从 「ああ」
川 ゚ -゚) 「ハインは? 名瀬先生はいいのか」
从 ゚∀从 「!!」
川 ゚ -゚) 「隠さなくてもいいさ、私達をなんだと思ってる」
从 ゚∀从 「それを言うのはクーだけだよ」
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川 ゚ -゚) 「む、そうか」
素直の観察眼…昔から鋭かったのを思い出す。
彼女に嘘や、場凌ぎの言い訳は通用しない。
それゆえに小さい頃は誰とでもよく喧嘩をした。
川 ゚ -゚) 「ドクオの顔でも見てくるよ。
おそらく、あいつが私のパートナーになるはずだから」
そう言って、彼女もその場を後にした。
真っ直ぐな黒髪の先が柳のように左右を泳ぎ、
その姿が消えるまで、ついつい目線を釘付けにされてしまう。
从 ゚∀从
……居残った高岡だけはそのまま立ち尽くし、階段を降りようとはしなかった。
从 ゚∀从
パートナー、つがい、壁……。
人は感情の差によって、同じ意味を違う言葉で表す。
从 ゚∀从
-
時間だけがただ流れていく。
…いまの高岡にはそれも心地良かった。
もう少しで自由になれる気分だった。
手持ち無沙汰に壁に背を預けると、そのまましゃがみこむ。
从 ゚∀从
両膝を抱えて顎をのせ、じっと動かず耳を澄ます。
あの時と同じように…
"能面" の彼女は待っていた。
从 -∀从
「…二人はもう行ったのか」
――その声を。
-
从∀゚ 从 「うん」
/ ∵) 「場所を移ろう。
さすがにここでは他の者も来る」
外套の隙間から覗く瞳は一見して、感情を表さない。
だが高岡はその顔が昔から好きだった。
挨拶もそこそこに寄り添い歩く。
無駄という無駄を省かれた、同じ内観を。
階段… 踊り場… 横に伸びる通路は円を描き、遠く反対側で連結している。
リング状のエリアをひとフロアに数え、延々と階層を連ねているグランドスタッフ。
从 ゚∀从 「評議会はもういいの?」
/ ∵) 「ほとんどの者は残るがね、私は今をもって解放されたよ」
魔導力を悦ばしく定義した、歴史上の象徴的建造物。
……皮肉にも、過剰な魔導力を集めてしまった諸刃。
そんなグランドスタッフに似つかわしくない光景といえば、
元評議会員の外套が女性の指先によって、ささやかに引っ張られていることだろうか。
从 ゚∀从 「…そっか」
/ ∵) 「…これで私も、君たちと一緒だ」
-
高岡、素直、井出。
内藤、鬱田… そして、名瀬。
選択されし[かがみ]の贄たち。
たどり着いた名瀬の部屋は殺風景なものだ。
感情のない者にレイアウトなど必要なかった。
全面は真っ白。
放り投げた書類を受け止めるだけのローテーブルが、ぽつりと備えられているだけ。
他には何もない。
――高岡と出逢う前であれば。
从 ゚∀从 「相変わらずだなー」
/ ∵) 「習慣はそうそう変わらないよ」
从 ゚∀从つ∥ 「お邪魔しまーす」
言うより早く、リビングとキッチンを通った高岡が、奥へと続くカーテンをめくり開けた。
(▼・ェ・)
(^ω^∪)
四方壁を金糸の刺繍で施された、
荘厳たるレリーフ布で囲むプライベートルーム。
ゴシック調の棚の上では彼女たちを出迎えるように、
二体の大きなぬいぐるみが左右に鎮座している。
両極の愛らしさを表す動物をモチーフにした綿人形。
どちらも高岡が造ったものだ。
「ただいま!」
そう言って、彼女が二体の頭をころころ撫でる。
そして止まらぬ歩調で最奥のベッドに倒れ込む一連の様子を、
名瀬はただじっと眺めていた。
-
( ∵) 「…」
从 ゚∀从 「ねー、センセーも疲れたっしょ?
こっちで横になろうよ」
( ∵) 「……その前に、君に謝らなければ」
緩慢な動きで脱いだ外套を備え付けのフックにかけるなり、名瀬は深く頭を下げた。
从 ゚∀从 「なんだよー……そんなに改まって」
( ∵) 「昔、君に言ったことを憶えているか?」
当然憶えている。
だからこそ高岡は、友の前でも能面であり続けたのだから。
从∀゚ 从
ザ――ザッ
彼女の網膜に焼き付いた四角いモニタ。
白い枠、映り流れる時の思い出…。
三三三三三三
( ∵三三三
――ザザッ
脳裏からめくり被さるあの頃が、 ザッ
目の前に広がる視界を揺らがせた。
三三三三三三三三三三三
三三三三三从
三 夢――ノイズが…走る。
ザザッ――
三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三
ザーーッ 三三三三三三三
-
推奨BGM:lipse of Time (Harp Version)
(https://www.youtube.com/watch?v=UJrCeAOO3Xo)
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( ∵) 『評議会に強く目をつけられてしまう。
だから――これからは感情を抑えて過ごすんだ』
『どーしてー??』 从∀` 从
…いつだったか、名瀬はそう言った。
『それがいつかはまだ視えない。
だが感情豊かな者ほど、過酷な運命が待ち受ける未来があるのだ』
と、言葉を繋いで。
( ∵) 『君には笑っていてほしい。
その運命も今ならまだ避けられる可能性がある』
高岡も思い出す。
二人の始まりは空虚な育児院を出てすぐの、
通路で独り蹲っていた時だったということを。
素直と喧嘩し、泣きっ面を誰にも見られたくない一心で膝を抱えた日。
人の行き交う背景で、膝を抱える女児がそれだった。
-
人体なれど肉の塊にしか見えない、高岡を誰もが無視していく…。
せいぜい彼女の耳に届くのは『うるさい女の子な』という声の刃と、
( ∵)
『どうかしたのか』
从 ;∀从
聖杯の滴に似た、救いのひと声。
-
以来、二人は幾度言葉を交わしただろう…。
別段面白い話をしていた訳でもないが、
しかしコロコロと変わる少女の顔を見たときから……、
まるで生まれた時代を間違えているかのような、爛漫な振る舞いの高岡を見たときから……、
名瀬はひとつの夢を見出だしてしまった。
( ∵) 『それが誰を指していたのか見当はつく。
君はこのままでは含まれる』
ある日、目にしたアーカイブ。
抽出されていた六人分の人体データ。
『かこく、ってなにー?』从∀` 从
( ∵) 『とても、とても辛いということ。
だから私がそれに取ってかわろう』
『?? なんでー?』 从∀` 从
( ∵)
( ∵) 『そうすれば君を救えるかもしれないから』
从∀` 从
-
グランドスタッフにおける教師の役目とは、
アーカイブに記された過去の出来事を、ひたすら機械的に詰め込む作業に他ならない。
疑問や寄り道はないはずだった。
教師も、生徒も。
淡々と学び、史実の羅列を頭に並べるだけ。
だからこそ道徳なき歴史の反復によって、世界は間も無く滅ぶのだが…。
( ∵) 『その代わり教えてくれないか、君の感情というものを』
『……』 从∀` 从
( ∵) 『どうした?』
『ううん、なんでもないー』从∀` 从
-
名瀬だけが気付いていなかった。
高岡に惹かれた、その心こそ感情であるのだと。
何年経っても、気付かない。
( ∵) 『今日はどうした』
『別に……ただちょっとだけ、
クーと喧嘩しただけだよ』从 ゚∀从
( ∵) 『そうか』
『理由は訊かないの?』从∀゚ 从
( ∵) 『高岡から言わないときは、こちらから訊けば良かったのか?』
『…めんどくせーなあ』从∀^ 从
( ∵) 『そうか?』
高岡だけは気付いていた。
自分に気をとめた名瀬には、自分たちと同じく感情があることを。
-
しかし彼の日常態度は常に無表情だった。
からかった後のツンのような、つっけんどんな態度をとることもなければ
意見の対立によって喧嘩したときの、クーのような無口になることもない。
( ∵) 『まだあの玩具はとっておいてあるのか?』
『あるよー、せんせーからせっかく貰ったんだから
簡単に捨てやしないって』从∀゚ 从
( ∵) 『高岡は物持ちがいいんだな』
『…』 从∀゚ 从
( ∵) 『どうした?』
『なんでもねーよ…』 从 ゚∀从
淋しくなかったといえば嘘になる。
他人の心を察するのに感情は不可欠であっても、
かといって、感情があれば心が読める道理もない。
可能性があるだけだ。
より深く知り合うための。
( ∵) 『…』
( ∵) 『解ってやれなくて、すまない』
-
いつのまにか、拗ねて見せると罪悪を覚えるようになったらしい。
その時だけは、二人だけの牢獄。
かつて失われた恋人の語らいのように。
『…ばーか』 从 ^∀从
――しかし相剋。
いつかは失われる恋人の信頼のように。
名瀬の思惑すら踏み潰す、この世の魔導力は命すら奪うことを思い出させてくれる。
-
高岡と名瀬が時間を共にするようになってしばらく。
グランドスタッフ中層、展望台の名残りである広域窓の一部が人為的に破壊された。
そこは唯一、外の世界を眺めるための機能を備え、
しかし利用者は彼ら以外に居なかった。
感慨を覚える者でなければ、景色に目を奪われることもない。
川 ゚ -゚) 『……なぜ、こんなことに』
人々には計り知れなかった事実がそこにはある。
――毒は無くとも、魔導力漂う外気に望んで触れる者など居るはずもない――。
そう考えるのが一般的だった。
環境の引き起こした突発的な事故としての処置を施し、
数日後には記憶から消去された、数百年ぶりの自殺者の出現。
『相談された人はいないの?』ξ゚⊿゚)ξ
从 ゚∀从 『ブーンは?』
( ^ω^) 『特になにも…。
でも、あいつの部屋でこれを見付けたお』
『見せてみろ』 (A` )
川 ゚ -゚) 从∀゚ 从
((( ^ω^)つ◇ ⊂(A` )
ξ゚⊿゚)ξ
-
内藤を含めた五人が一斉に覗きこむのは、手のひらに収まるほどの薄い一枚の用紙。
丁寧に書かれた筆跡は、
心境を落ち着かせ、一字一字を確実に記したものと推測させるに充分だ。
『気が狂う前に試したい。
先に逝くよ、三度めの大嵐にまた』
川 ゚ -゚) 『…』
( ^ω^)『シャキンは一体なにを言いたいんだお…』
从∀゚ 从
『…知るかよ、めんどくせえ』(A` )
ξ゚⊿゚)ξ 『試したい…なにを?』
級友たちに走る動揺は激しかった。
…だが、名瀬に突き刺さった衝撃はそれを越える。
( ∵) 『……』
-
ザザザ…
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
イケニエ カイシュウタイショウ
ヘンコウ…_
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
粛然、かつ真暗闇に浮かぶ文字。
( ∵)" 『…』カタカタ
名瀬はアーカイブに指を走らせていた。
ホログラムに映り並ぶ、上層エリアの片隅。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ヘンコウコウホヲ
チュウシュツ シマシタ
■タカオカ_ 从 ゚∀从
生命力 / D
表現力 / E
身体耐久力 / E
発想力 / C
感情値 / B
魔導波動力 / B
魔導適応力 / B
魔導許容量 / C
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
( ∵) 『……やはり』
溜め息と――狂った計算。
選ばれるはずの一人が消えたことで、
自身が庇うべき高岡の名が、再び候補者に浮き上がってしまったことを知る。
頭を抱えて、同時に崩れそうになる脚に力を注いだ。
一度芽生えた感情に抗えず、次の手立てを考えるべく瞳を閉じる。
…彼もまた、夢を視るために。
三三三三三三三三
ザザ三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三――ザ
三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三
二二三三三三
三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三
二三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
-
三三三三三三三三三三三
三三三三三
(推奨BGMおわり)
-
----------
目覚め、ベッドの上で抱擁していた腕を離した。
高岡の首元でごろりとした重みが残されていることに気付く。
( ∵) 「…すまない、痛かったか?」
その声で、遅れて意識は覚醒した。
――いつもと同じかそれ以上に。
体勢は不自由ながらも大きく首を振り、答える。
「ううん、満たされた気分」 从∀^ 从
枕木の役目を果たす名瀬の腕は細身ながらどっしりと、そして柔らかさを感じさせる。
触れる微熱が遅れてやってくると、
首から胸、胸から背中を伝わり…足先までが痙攣したような気がした。
-
从∀- 从
流れ落ちる一粒の汗の感触が背筋をなぞる。
ふわふわとした心地よき倦怠感。
宙に浮くようなこの気持ちは何度体験しても慣れないものだと…胸中で呟いた。
いまの二人の距離。
吐息が当たり、しかし肌の触れ合わない隙間がある。
腕を伸ばすまでもないが、指先だけでは届かない。
いまの高岡にとって具合の良いスペース。
…でなければ一糸纏わぬその身体を、彼の視界に入れてしまう。
「わがままばかり聞いてくれて、ありがと。
アタシはこれでもう悔いはない」 从∀ 从
( ∵) 「…」
「――って、センセーも一緒に飛び込まなきゃいけないんだっけ…。
最後がアタシで悪かったかな?」 从∀゚ 从
( ∵) 「そんなことはないよ。
むしろ…私こそ同じように考えていた」
「…そっか」 从∀^ 从
-
齢、成人に届かぬ女が微笑う。
つられ、妙齢たる男も目を細めた。
……もう逢えないかもしれない。
その想いを、互いに秘めたまま。
名瀬が高岡と居た年月は十と無かったが、
代え難い時間を過ごさせてもらったと彼は考えている。
…心残りを挙げるなら、笑顔だけは最後まで上手くならなかったことだろうか。
「ね、センセーはさ…」 从∀゚ 从
…ゴ ゴ
( ∵) 「――!」 ゴ
「? どしたの 从∀゚ 从
《ゴ ゴ ゴ》
――これ、なんの音だ?」 ::从;゚∀从::
::(∵ )::
::( ∵):: 「…高岡、服を」
《ゴゴゴ ゴ ゴ ゴ》
-
世は無慈悲。
悠長な暇(いとま)など、
むざむざ与えてくれはしない。
《ヴ…ォオオ》
誰かを中心にこの世は回らない。
ヒトを最後まで裏切って… その日が――来た。
-
記念すべき終わりの日。
グランドスタッフ
――崩壊。
-
------------
〜now roading〜
( ∵)
HP / C
strength / D
vitality / D
agility / F
MP / C
magic power / D
magic speed / C
magic registence / A
------------
-
本日は以上です。続きは後日に
-
乙
続きも待ってる
-
井出って書かれてる所と伊出って書かれてる所があるのは仕様かな?
-
乙!
-
乙〜
早く続きが知りたい
-
超気になる
どう繋がるんだろ
-
読んでいただいてありがとうございます
>>747
すみません、伊出が正しい表記です
■誤字修正について
井出×→伊出○
>>728
>せいぜい彼女の耳に届くのは『うるさい女の子な』という声の刃と×
→せいぜい彼女の耳に届くのは『うるさい女の子だな』という声の刃と
-
期待
-
おつおもしろい
こっからどうなってくんだ
-
いい所で切るなあ
おつ
-
――崩壊の刻がきた。
彼らの前に、
地響きの末路は様々に、明確な姿を現す。
「チキショウがぁ…っ!」
))
( ;'A)
意図せず大海へと向かって放り出され、
満足に四肢をばたつかせることも出来ない鬱田が短く叫ぶ。
彼は眠り、しかし夢を見る前に病室から投げ出されて空にいる。
三日後の滅亡どころではなかった。
二日後に来るはずの壁の役目すら、満足に与えられる以前に――。
「どうして…
なんで俺がこんな!」
((
('A`#;)
強風に煽られ、彼は頭から墜落していく。
下は魔導力によって腐った海…、
上は大きな影に覆われてはいるが、倒壊する人類の象徴グランドスタッフが見える。
翼があれば、この窮地を脱出できたのだろうか。
もはや手本となる生物はおらず、
嵐によって気流を乱した空はそもそも慈悲など持ち合わせることなく、
彼の骨肉をバチバチと殴りつける。
…それはまるで、早く死ねと言われているようでムカついた。
…雨に濡れて重みを増した服が無駄にまとわりついて苛ついた。
-
((
(A`#)
「ふざけんな、
俺は俺の意思で最後を…――」
下半身は既にない。
千切れた肉からは、神経繊維が簾のように揺れる感触。
それを振りほどけない不自由な状況と…なによりも。
((
(# A`)
「そもそも――
なんなんだよ、テメーは…」
))
(# A
「こんな、こんな死を俺は――」
-
『望んじゃあいねぇぞぉ…!』
-
…そう、彼は終わりの否定を願った。
命の死を、魂の消滅を。
己の脆さと世の不条理に怒りを抑えられない青年。
安穏とした日々に求めたはずの永久を、
どうしてこの期に及んで振りほどこうというのか。
…だが悲しきかな、
力なき抵抗は薄儚く粉砕される運命にある。
どのみち鬱田という存在は、死を目前に控えた弱者だった。
分断された肉は体機能を停止させ、
薄弱な意識もろとも黒き濁流へと飲み込まれていく…。
「せめて死ぬんなら、A`)
..,,:;;:
テメーを('殺してかぁ…――ッ
そんな断末魔も風と牙に消え。
闇に喰われ、血飛沫すらも遺さぬまま、
彼という存在は漆黒の渦に捲き込まれていった。
-
----------
))
川#゚ -゚) 「ドクオーーーっ!!」
倒壊するグランドスタッフよりも高きもの…
自身が落下する速度よりも速きもの…
分離していく鬱田の下半身よりも歪なるもの…
嵐よりも荒々しい、衝撃的なワンシーンが大部分の意識を占めた。
灰空の吐き落とす水滴は彼女の長髪を縛り付け、
現実の直視から逃れようとする。
文字通り、空に後ろ髪を引かれながらも、
しかし彼女のその切れ長な瞳を釘付けにした。
((
川# -゚)
友と別れ、眠る鬱田の背中を見送りながら自室に戻るところだった。
明日には[かがみ]に突入し、果たさねばならない使命感を胸に床につく。
…そんな今日という日を無事に過ごすはずの彼女の時間を――
-
))
( - ゚#川 「この…化け物が…!」
…破壊した。
それがアーカイブに記される、
星の外に住まう巨獣であることを彼女が知る術はない。
赤と黒で彩られた顋の向こう側を目前に…。
同じ時を過ごした友が、
評議会員に手渡されていた法衣の色を思い出す。
-
小さな頃、三人でよくやった遊戯がある。
伊出も高岡も、そして素直も、
いわゆる "ごっこ遊び" が好きな子供だった。
集まると誰かが床に線を引き、
ここではないどこかの間取りを創ったものだ。
ξ´⊿`)ξ 『ママやるー』
从∀` 从 『えー、じゃあアタシは娘ね♪』
川 ´ -`) 『…わたしは?』
ξ´⊿`)ξ 『パパやってよー』
無遠慮な返答に洩れる溜め息…。
しかし、それもいつものことだ。
男の役目を負わされることに抵抗などなかったが、
たまには可愛い役を回してほしいと考えたことも当然ある。
だがそれを口にしたことはない。
素直が役割を果たすことで、
二人の友は愉しげに笑い、そうして素直も笑えたのだから。
川 ´ -`) ξ´⊿`)ξ 从∀` 从
川 ´ -`)
川´ー`)
-
役割は重要だ。
人は生活の過程で自然と立場を得て、
在るべき場所で生きるのではないかと素直は思う。
そして心安らかにしていられるならば、どんな苦境にも耐えられる。
だからこそ高ぶり、吼える感情。
川# Д
…せめて気持ちの整理をつけたかった。
例えば[かがみ]に飛び込んで、
【魔導力】によって望みを叶える…。
その代償として命を失うならば、等価と納得できなくもない。
だが現実はどうだ?
こんな訳のわからない化け物に齧られる最後など、
予想もしなければ望みもしていない。
まだなんら対価を支払っていないつもりだ。
-
それとも何かを願うこと…
それ自体が代償とでも、
この世界は言い張るつもりか?
-
))
川# Д 「そんな人生は――」
非道、不条理、裏切り…。
歴史は誰彼構わずそれらを繰り返して、繰り返して、
そして、終わるのか?
バ
「認め 」
ク
ンッ
-
----------
唸る雷雲。
ブラウンの巻き髪を絡めとる、
雨、雨、雨……。
空気に代わり、水分を多分に含んだ毛髪が、
背中から墜ちていく彼女の視界を
さながら朽ちた炎のように揺らめき埋め尽くす。
))
ξ ⊿ )ξ
手足に力が入らない。
…いや、呆然として、感じられないというほうが正しいのかもしれない。
))
ξ ⊿ )ξ
遠目に見やれば、伊出の片手が少し長く影を作っていることに気が付くだろう。
それは腕から生える腕…。
比べれば、握る指先から先は一回り以上もがっしりとしている。
-
数秒前の伊出は内藤と共に、
ゆるやかな時を…
ささやかな語らいを…
十数年間変わらぬ、時の共有感を愉しんでいた。
前触れなく出現した太陽に、
グランドスタッフの頭部を食むられるまで…。
二人は肩を寄せあい、蜜を交換し合っていた。
見つめあい、瞳の奥に吸い込まれるほど暖かな幻想を抱き合っていた。
))
ξ ⊿ )ξ
――そんな二輪の向日葵を、誘われた太陽が焼き尽くした。
失われし神話…
イカロスの翼に激怒した神の如く。
牙によって片割れを奪った災厄がそこには在る。
-
))
ξ ⊿ )ξ 「……ブー…ン?」
不思議と涙は流れていなかった。
ひたすらに放心し、取り残された胸中には後悔の念が押し寄せている。
揺れを感じたあのとき、僅かでも自分から離れれば良かった。
自身の甘えがもし彼を殺したとすれば――こんな風に考えてしまうと内藤は怒るだろうが、
……しかし正直な気持ちだ。
((
ξ ⊿ )ξ⊃⊂
ほんの一部分のみになった恋人を見つめる間だけは時間が止まる。
ずっと一緒に居て、
それが恋だと後で知って、
寝ても覚めても共に在った。
空に落ちる時、護るよう腰にあててくれた掌。
闇に満ちる時、庇うよう突き放してくれた腕。
それが今もまだ…伊出から離れようとはしない。
ξ ⊿ )ξ⊃⊂
ξ ⊿ )ξ⊃⊂(^ω^
ξ ⊿ )ξ⊃⊂
-
絡めた五指に繋がるべき青年に想いを馳せる。
とめどなく込み上げる熱に反して、どうしても湧かない泪。
それでも…太陽は朧ぎ、いくつも見えた気がした。
髪の隙間の向こうで空をぐるりと輪転し、舞っている。
ξ゚⊿ )ξ 「…?」
-
"それ" からすれば伊出など塵に充たない矮小な存在だろう。
…にも拘わらず、
明らかにこちら目掛けて折り返してくるのが解る。
嵐の元に晒される太陽ではあるが、よく見れば違和感を覚えるフォルムだった。
雷光に照らされる伸びた黒い塊が節足動物を思わせる。
――それも二体。
螺旋を描いて渦巻きあう。
巨大さゆえの緩慢さと不規則な動きが、
却ってそれぞれ意志をもつ生物であることを直感に告げた。
ξ゚⊿ )ξ
ξ゚⊿゚)ξ
ξ#゚⊿゚)ξ
そう考えるが瞬刻、伊出の心が奮い起った。
頬が紅潮するのを強く自覚する。
-
天寿、天災…
病い、事故…
天命に従い魂が召されるならば、
湧いた悲哀を閉じ込め、己を納得させる時間も作ることができるかもしれない。
そして、感情によって言い訳を生み出す。
ξ#゚⊿゚)ξ 「…返して」
――だが、違いすぎる。
いま目の前に広がる太陽は、
近くで見れば見るほど一個体の生物であると認識できた。
闇に紛れてはいるが、触手がある。
太いのは触腕か。
先端に生えているのは触角なのだろう。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーンを、返してよ…」
生き物が意志をもち、
意思によって生き物を殺すのならば…
弱者と認識してなお、喰らうならば…
『弱肉強食って言葉が、昔あった』
-
走馬灯のように。
…いつかの、生きていた頃の彼の言葉が浮かぶ。
『ぁあん?』 ('A`)
(`・ω・) 『食物連鎖ともいうらしい。
弱いものは強いものの供物になる、という意味だが』
川 ゚ -゚) 『シャキン…お前またアーカイブを勝手に覗いたのか?』
(・ω・´ ) 『調べ始めればキリは無くとも面白いものだよ、あれは』
(`・ω・) 『強いものはイタズラに弱いものを食べるわけじゃないんだってね。
手加減をして、自分が飽きたり飢えないように…
そして半永久的にその関係性を保つケースが多かった』
( ^ω^) 『それがどうしたんだお?』
(`・ω・´) 『いまの僕たちの話だ。
人類以外の生き物が居ない世界……
これはそんな関係性を保つことに失敗したということじゃないか?』
『…』 从∀゚ 从
彼は皆と共に行動することが少なかった。
代わりに博識ぶって、
考えることそのものが愉快であるかのように、
たまに口を開けば皆を困惑させていた。
-
『くだらねぇ…
いちいち深い理由なんてあんのかよ』 ('A`)
(`・ω・) 『君も先日晴れて教師になったろう、まんざら興味のない話ではないと思うけどね』
( ^ω^)『マジかお?! いつのまにおめでとうだお!』
『おめー…、うるせぇよ』 ('A`)
(` ω ) 『それはおそらく、 "感情" のせいさ』
彼の表情は、伊出が横から見ていてもはつらつと…だが同時に陰りを見せた気がした。
(`・ω・) 『かつての人間には類を見ない知恵と向上心があった。
弱点を補い、欠点を隠し、道具や環境すらも操って生き延びるといった…ね』
ξ゚⊿゚)ξ 『道具を操る… そうね、言われてみれば』
从∀゚ 从
彼女たちは玩具すら与えられない時代を過ごした体現者だ。
物に溢れ、者に溢れる時代もたしかに存在するのだろう。
だがそれも "霊長類の頂点" を自ら謳った時点で終わりに向かっていた。
-
川 ゚ -゚) 『だが頂点の何が悪い?
成ってこそ得られるものも、きっとあっただろうに』
(・ω・´ ) 『まだ見ぬ "得られるもの" の存在を認めるなら、
いつか来る "失うもの" もまた共に認められるべきじゃないか?』
『表裏、相反…いや、突き詰めれば相剋か』
――彼はそう言葉を続ける。
川 ゚ -゚) 『理解はできるがな…』
(・ω・´ ) 『きっと君の言う通りだ。
はじめこそ希望のために、人は何かを求めるんだろうし』
それなのに驕り、怠み…
そのくせ同種である他者を妬んでは怒りを露にする。
それがアーカイブに記された
人間という生物。
先天的性差や後天的ハンデであろうと臆面なく利用して、
周囲を蹴落とすことのみに時間を費やし、
"我こそ頂点" たる矜持を維持しようとする。
それがアーカイブに記された
人間という歴史。
-
(`・ω・) 『ヒトという種を蔑ろに、
個の優劣をこうまで醜く気にする生物は他に居ないんだよ』
( ^ω^)『どうしてそんな……仲良くしてほしいお』
(`・ω・´) 『ブーンやクーの発言も、いつかは僕のような歪みとなる日が来るのかな?』
『とどのつまり、
てめーも責任転嫁じゃねぇか』 ('A`)、
苛立たしげに鬱田は唾を吐き、タバコに手をかける。
隣にいた高岡が無表情のまま大きく離れたのは、煙を嫌がったのかもしれない。
(`・ω・) 『天敵のいない存在になってしまった挙げ句、操るものを消費しきって…
磨耗し、ついにほとんどの感情をなくしたヒトの残り屑が僕らなら――』
ξ゚⊿゚)ξ 『ねえ、考えすぎじゃない?
卑下したって良いことなんてなにも…』
(` ω ) 『……しかしもう、そうとしか思えなくなってしまった』
_
ξ゚⊿゚)ξ 『…』
良くない思考のどつぼにはまっているのだと、しかして伊出は言葉を飲み込んだ。
-
真実は違うかもしれない…が、残念ながら史実は如実に物語った。
兄弟喧嘩も、宗教戦争も、
個の概念から魂の救済を追い求めた末路でしかない。
心から相手を尊重出来たなら、たとえ相容れない存在であろうと赦せるはずだ。
…とはいえ彼の個人的考察も、
過去の何者かが視た未来の一部でしかない。
解っていても、人は辿る。
(`・ω・) 『ただ生きて、ただ無意味に死ぬだけの人生ならいっそ…』
ξ゚⊿゚)ξ 『……もぅ!』
川 ゚ -゚) 『いい加減にしろ、お前の言っていることは結果論じゃないか』
(・ω・´ ) 『そうだ、しかし紛れもなく僕たちに降りかかっている現実だ。
"もしも" なんて材料が、もうこの世界には無いんだから』
世のすべては天秤にかけられる。
どちらかを得ればどちらかを失う。
表があれば裏があり、光によって影が創られるように。
-
支援
-
万物に宿るべき【魔導力】。
それを[かがみ]が際限なく吸い込んだおかげで、
ほとんどの人間から感情が磨り減ってしまった現実のように。
【魔導力】の増長に反比例して、【重力】が失われていったように。
(`・ω・) 『例えばそう、まったく別次元のイレギュラーでも起きない限りは…――』
――世界は変わらない。
( ^ω^)『…』
(`・ω・) 「……なにか言いたそうだね?」
――生まれ変わらなければ。
( ^ω^)『シャキンのいう通り、"感情" が原因で世界がこうなってしまったなら…』
『……』 从∀゚ 从
( ^ω^ )『それを正すのも、"感情" じゃあダメなのかお?』
-
ξ゚⊿゚)ξ 『――!』
(`・ω・´) 『万が一それが出来たとして、
結局は同じことを繰り返すだけじゃないか…それを無意味だと言うんだ』
川 ゚ -゚) 『…シャキン』
( ^ω^ )『無意味じゃないお!
いまシャキンが自分で言ったじゃないかお』
('A`)y-~
( ^ω^ )『得るも失くすも、どっちも認めるって…』
(`・ω・´)
( ^ω^ )『だからまた、得たらいいと思うんだお』
(` ω ´)
( ^ω^ )『あまり考えすぎないで、まずは僕たち六人がずっと一緒に楽しく過ごそうお』
ξ゚⊿゚)ξ
( ^ω^ )『みんながおじいちゃんおばあちゃんになって、死ぬときになったら…』
( ^ω^ )『その時に決めたらいいお。
意味があったか、なかったか、なんて』
(` ω ´) 『…………それでもやはり無意味だったら?』
从∀゚ 从
( ^ω^)『生まれ変わって、また一緒に生きてみればいいお』
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ
-
ξ^ー^)ξ
-
自分の死の間際、死んだ人間を思い出す皮肉。
記憶のフェードアウトした視界で、生物の口がバックリと開かれたのが目に入った。
『気が狂う前に――』
当時こそ彼のあの言葉は、ネガティブな思考の果てに尽くされたものだと思われた。
ξ#゚⊿゚)ξ 「……もしも、これがシャキンの言ってたイレギュラーなら」
『合図は三度目の嵐――』
そう記された遺言。
今日まで続いていたこの天候は、誰も知らない三度目の嵐だ。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーンが一緒に楽しみたかった未来を…、ブーンを……!」
死ぬのが怖い、 だからこじつける。
無意識に、
反射的に、
『また一緒に生きてみればいいお』
振り上げる…その腕を。
ξ#゚Д;)ξ 「返してよ!!!」
願いを込めた…内藤の腕を。
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三
\\
\\
\\
\\
三三三三三三三三三三三三三三三三三三
-
-
こうして伊出も、汚らわしい口内に消えた。
それが、この世の現実だった。
-
----------
叩く壁、騒ぐ天井。
――滑り落ちるぬいぐるみ。
鳴りはためく鼓膜――。
墜ちゆくグランドスタッフと共鳴し、名瀬の部屋も強く傾く。
残りわずかな重力が作用して高岡の身は右へ、左へ…。
名瀬の声が聴こえたのもいつの頃か、もはや忘れてしまうほどに混乱している。
そのうちに流れ閉められたカーテンの元へと、細く柔らかな肢体が無様に投げ出された。
「いっ――てぇ〜…!」
::从∀<;从
先から天地が何度、逆さになった?
立ち上がることすらままならず翻弄される。
何が起きているのか…高岡には正しく把握できていなかった。
从;゚∀从::「くっ…センセー、どこ?!」::
-
ここに彼がいるならば、
『どうしたのかな』
『なにが起きたのかな』
などと言葉を交わし、心の拠り所として少なからず安堵したことだろう。
それとも…裸で名を呼ぶその妖艷さに、眩暈を覚えるか。
ここには彼女以外の肉声が無く、
地鳴りだけが静かに、大きく返事するのみ。
从;゚∀从::「センセぇ…居ないのか??」::
泣き出しそうな声も震え震えに、
::《ガ コ ンッ》::
何度目になる分からない衝撃が襲いかかる。
((
从; ∀从
未だ慣性に従い、しなり転がっていく。
高岡には自重を支える体力が残っていない。
【重力】が最後の力を振り絞る。
それほどに激しい…天空から崩れ去る塔内部の様相は。
-
ひび割れた壁にたどれば肩を強打。
時に天井へと背中を預け、ベッドの角に腹部を潰されそうになる。
遅れて頭に落ちるぬいぐるみが見当違いに微笑ましくて、
まだある現実感を薄めてしまう。
《ガツ ―― ンッ》
「――っが ぁ…」
::从 ∀从::
どこかでぶつけた後頭部が、視界を揺らがせた。
近くて遠く…なにかが砕ける音は鳴り止まない。
::从∀゚;从::
::从;゚∀从::
……襲う激痛に身を仰け反らせてなお、少し潤んだ瞳は愛しき人を探した。
-
…しかし見当たらない。
高岡に服を着るよう警告した彼はその直後、
激震をものともせず部屋を駆け出ていったのだから当然だ。
从 ∀从
……頼りたい時、隣に居ない。
…寄り添いたいのに、あるのは孤独。
从 ;∀从
寂しいという感情が走り、衝動に任せて危うく責めそうになる自分を留める。
i:.
iii从; ∀从iii
そして脱力した――。
なのに、柔らかな膝が床に触れることはない。
( ……あれっ? )
覚えたのは強烈な浮遊感だった。
次の瞬間、
視界へと飛び込んできたのは
-
蒼と灰に染まる景色。
-
う
っ
そ
ii,, i;i
iiii从;゚∀从ii,i ( …だろォ?! )
-
人が空を游ぐという奇跡がここにある。
特定次元の概念さえ取っ払えば……
いつの時代も現実可能な奇跡の一つではあるが、
命の保証は得てして、無い。
箱庭が予定よりも早く、
世界から弾かれてしまったことを高岡はこの時やっと知った。
『餌場に降りてくる人間がいるぞ!』
…この世に海王類が現存したならば、海面の裏でそう叫んでいたかもしれない。
((
从;゚∀从 「!!」
・・・ ・・・・・
だがこの時、叫んだものは――
-
ガァ
グ ガ
( センセー、助けて…!! ) ッ!
ガ
ガ
-
突風と膨大な雨粒がその身を助け包もうとして…
しかしすり抜けるように霞めていく痛み。
目の前で繰り広げられる闇と光の衝突。
不思議と落下している感覚は得られなかった。
それはまるで現実とは裏腹に、
育児院で読んだ童話の、綿飴雲にでも自分がなったかのように高岡は思えた。
代わる代わる行き交う景色も。
吸い込まれるような向かい風も。
身体の中心から爆発するほどの外音も。
脳の認識が追い付かなければ別世界なのだと…
彼女はこの時、不意に知れたのだろうか。
从 ∀ 从
…自分自身が天地を見失っていても、そこに存在があれば自己は確立できる。
…自分自身が見地を見失っていても、別の存在が他にあるなら自己は確執に至る。
( …なんだよ、これ )
彼女の視界を最後に埋め尽くす、
この星にとって…
そして彼女にとっても最大のイレギュラー。
( センセーは… )
黄色の双眸。
( みんな、は―― )
-
(推奨BGM:Fire Above the Battle)
https://www.youtube.com/watch?v=GmR3AALCPzo
-
----------
(# ∵) 《これ以上やらせるか…!》
崩れ落ちゆく人類の象徴を尻目に、
狼狽した様子を声色に乗せて彼は吠えた。
嵐を跳ね返すほど激しく、触れては弾く雨粒の蒸発。
青天井にも似た体熱の上昇を感じずにはいられない。
そんな名瀬がいま対面する巨獣。
《20光年前に女王ハ死ンダ》
( ∵) 《――!!》
《新タな王と巣が必ダろウ。
我ラニハ羽根があり、顋がある、ダかラ――》
彼らもまた落下している。
ただし、消滅寸前の【重力】など問題にせずとも
己が宿す体機能のみで。
音なき音で語られる相手の言葉を、
《だから私のいるこの星に来たのか?》
と、名瀬は遮った。
-
(# ∵) 《知っていて…我の縄張りに、きたのだな?》
怒気をはらみ、――名瀬の口調が変わる。
振り回した腕に衝撃。
嵐すら驚き、叩きつけていた雨を弱まらせた。
怒りと共に膨脹する名瀬の躰が助走なく宙を駆ける。
《此処に貴様の居場所はない》 三三 (#∵)
・・・・・・
その黒き外殻が大きく風に流れると、
灰色の空と相まって斑模様を映し出した。
高度を落とし、近くなった海には陰りが差す。
さながら竜――いや、歪で、でこぼことしたフォルムは "蟻" を呈した。
胸には二つの太陽をかざし、翼さながらに広げるは黒々と光る触腕。
-
――稲光。
轟きわたる硬殻の摩擦音。
…相手も負けじと腹をよじり、互いに巻き付き合うが。
ギチギチ…ギチギチギチギチ!
(# ∵) 《喰ったものを吐き出せ、今ならまだ間に合うかもしれんぞ》
名瀬のほうがひとまわり大きい。
体躯はそのまま優劣の材料となる。
耳を刺す、まるで鋼を引き裂くような音響すらダメージソース。
《グ、ガグギギギギ……》
二体の蟻が絡み合うも、その力量には明らかな差があった。
一方は膨らみ、もう一方はみるみる縮小していく。
バスッ
(# ∵) 《早くしろ、魂ごと喰らうのは許してやる》
バスバスッ――
言いながら名瀬の触腕から生える無数の黒棘。
捻り巻いては相手の外殻を割り、その隙間を縫い刺していく。
鳴り続ける、人間には耐え難い音…。
しかしその鼓膜へのダメージは、いまの名瀬になんら影響を及ぼさない。
《ガ…ぐぐっ…
――ゴ ア ア !
アッ ッ! 》::
:(# ∵)::: 《?!》
ビリビリビリッ
-
緊縛に堪えきれない、星を襲った黒蟻がひときわ強く吼えた。
名瀬が力を抜いたわけではない。
にも拘わらず、
零れるようにズルリと白い剥き身が新たに生まれ出る。
支えを失い脱皮した殻が空々しく躯のなかで砕け散り…
引き換え、束縛を断ち切った本体が懐を抜けていく。
そのような機能もあるのか、と思いながら…しかし彼は見逃さない。
(# ∵) 《逃げるな、貴様それでも "アサウルス" の名を冠る端くれか!》
うねりを上げ、すぐさま追いつき噛み千切る。
――が、惜しくも尾のみに留まった。
僅かな速度減退を生じさせて、再び海面が近付く。
分裂してもなお蠢く、不快な舌触り。
ぶちぶちと音をたてるその口内部は砂利の感触を得る。
《…コれほどの差がアルのか》
"アサウルス" が、呟くと共に奥牙を噛み締めたのを
背後に追う名瀬が知ることはない。
滲む感情を窺わせる。
《道理で甘露な味がシタ》
――だとしても
悔しさではないらしいが。
-
《さぞカし良質な餌デ、貴様ハ永く腹ヲ満たし続けタのだろうな》
(# ∵) 《…》
《単体では敵わぬトハいえ、まだ喰イ足りぬ》
(# ∵) 《その言い草、より喰えば我に勝てるとでも?》
逃げるものと追うもの。
捕食者と被食者。
《それヲいまから試すのダ》
――言うが早いか、"アサウルス" の動きが垂直に曲がる。
嵐により海面が荒立てた波を、通過する衝撃波が噴き上げた。
その先に見るのは、砕け落ちるグランドスタッフ。
『食い足りぬ――それを試す』
…狙いは塔の中に閉じ込められた人の群れ。
(# ∵) 《やめろ!》
《奪わレる憤怒か? そレトも失う嫉妬か?》
《先の戦力といイ、どちらにしテも貴様は稀有な好例として同胞に語られるだろう》
(# ∵) 《不可能だ、貴様はここで滅する》
《クハハ、やはり。
"感情" は育めば育むほどにウマく、そして糧になるとな》
-
"アサウルス" ――。
( ASA - USUS )
-
それは元来、星外生命体として宇宙を漂う存在。
故郷たる棲み処を持たず、
個体ごとに一定完成された躯と独立した精神を所持する。
しかし同時に特定属性を崇めるといった、
一個体ながら集団的――いや、
複合的意志の決定と統率を行う特殊性も併せ持つ。
その餌は "願望" と "感情" 。
彼らは各惑星に点在する形状なき想いを察知しては、
舞い降り、
吸い込み、
喰らって、
満足すればまた星々をわたり、
永遠にも似た時の流れを生き続けている。
-
《感じる…感じるぞ……。
小粒ながら、先のどれよりも極上の匂いを》
空気に乗って届く、かつての同胞の声の抑揚。
徐々に豊かさを増している。
敵はすでに捕食を重ねている。
名瀬が止めきれず視覚した時点で既に4人…。
よりによってそれは評議会で選ばれた、感情をもつ子供たち。
(# ∵) ( これ以上、摂取させるわけには… )
そのとき突如、"アサウルス" がゲラゲラと下品に嘲笑った。
雷雨をかき消す波動。
逆風が互いの距離を更に空ける。
ビリビリ
(#;∵):: 《――!!!》
《見 つ
け た ぁァ ア ア
あ あ》
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