[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
crossing of blessing のようです
1
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:03:23 ID:n3xO70qA0
ブーン系創作板クリスマス・短編投稿祭参加作品
42
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:44:59 ID:n3xO70qA0
ドクオの必死の引き留めも、ワタナベの突然の別れの言葉と、友達があげる驚きの声に、無残に掻き消された。
足早に立ち去るワタナベの後ろ姿を見て、ドクオの心はうずいた。
溜まりにたまった暗い気持ちの導火線に火がついたとするならば、まさにこの瞬間だった。
その破裂のときのために、彼はこのテラスへとやってきたのであった。
一際目立つ嬌声が聞こえ、ドクオは歩みを止めた。
ありったけの幸福を詰め込んで発したような、朗らかな笑い声。
荒んだドクオの視線が、目の前の2人組を捉えた。
从'ー'从「あれ?」
ワタナベはドクオに気づき、目を彼に向けた。
その視線はドクオとは対照的に、清々しいまでに澄み切っていた。
从'ー'从「ドクオさん? どうしてここに?」
43
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:45:59 ID:n3xO70qA0
ワタナベの邪気のない声の響きが、ドクオの耳に届けられ、彼の頬を緩ませた。
この声さえあれば他には何もいらない、この声さえ手に入れば。
( ・∀・)「ドクオさん? こっちでの知り合いかい?」
从'ー'从「ええ、そうなの。昔一緒に遊んでいたの。
モラちゃんと出会う前の知り合いだよー」
そんな何気ない会話に、ドクオは並々ならぬ衝撃を受け、顔の弛緩は消えた。
ワタナベがモララーのことをあだ名で呼んでいる事実、彼女にとって自分は知り合いでしかなかったこと。
それらがドクオの思考を再び暗黒へと引きずりこむ。
ドクオは、今度こそ、と全身を強張らせた。
力のこもった片手で、もう片方の手に巻かれたタオルに手をかけた。
44
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:47:00 ID:n3xO70qA0
こいつがあれば、モララーを、ワタナベから引き離せる。
淀んだ確信がドクオを支配し、妥協を消し去る。
低く身を屈めたドクオに、ワタナベたちが何かしら声をかけた。
その言葉はもうドクオには届いていなかった。
何事か、意味をなさないことを呟き、ドクオは駆け出した。
タオルを剥ぎ取られたそれを、まっすぐモララーに向けて。
(#´・_ゝ・`)「おらああ!」
突如として現れた怒鳴り声に、ドクオの身が竦んだ。
彼にとって全く知らない人が、突然脇から駆け込んで来たのである。
その動揺を突いてその男、デミタスはドクオの腕を殴りつけた。
手にあったものが叩き落とされ、地面で二三度跳ねる。
45
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:48:00 ID:n3xO70qA0
(;゚A゚)「な、ななななんだあんた!」
(#´・_ゝ・`)「ええい、黙れこいつめ! お前が傘を盗んだんだ、そうだろ!?」
(;゚A゚)「は? なんのことだよ! 傘って」
(#´・_ゝ・`)「とぼけるな! さっきまで大事そうに抱えて持っていたのは……」
デミタスはそこでようやく足元に目を向けた。
ドクオから離れたそれは、今や静かにそこに横たわっている。
(´・_ゝ・`)「……なにこれ」
('A`)「ナイフ、です」
(´・_ゝ・`)「……何をしようとしていたの?」
('A`)「え? そ、そりゃその……人を刺そうと」
46
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:48:59 ID:n3xO70qA0
弱々しいその返答に、デミタスは言葉を失い
やや時間をおいてから、盛大にドクオの頭を殴った。
(#´゚_ゝ゚`)「馬鹿野郎! そんなもん大事そうに抱え込むな!
勘違いしちゃっただろうが!」
デミタスの怒鳴り声は、朦朧とするドクオの脳になんとか届いていたが
その真意は全く理解されなかった。
ドクオは何度かくるくると身体を動かしたかと思うと、ふらふらと危うい歩みをし
やがて止まり、空を見上げ、そして膝から崩れ落ちた。
(|!´・_ゝ・`)「あ、やばい」
デミタスは口元を押さえ、そう呟いた。
47
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:50:00 ID:n3xO70qA0
数秒の静けさののち、さざめくような動揺がテラスの他の人たちに広まる。
デミタスは自分の失態に焦り出した。
いらないところで注目を集めてしまった。
この青年をどこか別の場所に運ばなければ、騒ぎが大きくなってしまう。
警察にでも捕まれば、そのうち夜を迎え、どこか別の場所で爆弾が爆発してしまう。
デミタスは急いでドクオの横に屈み込み、顔を叩くも、ぴくりとも動いてくれない。
それでもなんとか連れていこうと、彼の腰周りに手を伸ばした時、声をかけられた。
( ・∀・)「お手伝いしますよ」
デミタスは青年の顔を見上げ、「え?」と、目を瞬いた。
( ・∀・)「介抱するんでしょう? 手伝います。
見たところ軽い脳震盪のようですし、時間が立てば起きるはずです」
从'ー'从「モラちゃん、あの向こうの、屋根の下にあるベンチに寝かせるといいかも。
雪さえ避ければなんとかなるはずだよ」
48
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:51:02 ID:n3xO70qA0
( ・∀・)「ああ、ありがとう。それじゃワタナベも運ぶの手伝って」
(´・_ゝ・`)「いいのかい? そんな、手伝だってもらって」
( ・∀・)「僕も、事情はさっぱりわかりませんけど、どうも僕がこのナイフで狙われていたようですね。
だとすれば、少なからず僕にも関係があるはずです。
この人、僕の彼女の知り合いのようだし、話を聞いてあげるべきでしょう?」
从'ー'从「もしも何か思いつめているなら、助けてあげたいので」
(;´・_ゝ・`)「へ、へえ。そりゃまたずいぶんと、人が出来ているな」
世の中にはこんな心優しい人間もいるのか、という純粋な驚きが
デミタスの引きつった顔とぎこちない返答にありありと浮かんでいた。
49
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:52:00 ID:n3xO70qA0
8.
荒巻スカルチノフにとって、死ぬことが怖いなどという感情はすでに薄らいでしまっていた。
ホームレスでも人は生きられる。真っ当な人の捨て置いた残骸を集めれば、生活を支えることも十分、可能だ。
爪'ー`)y-「お恵みに来たよ。代わりに掃除頼むわ」
時として自分から身銭を切ったり、仕事を与えたりする奇特な連中もいる。この街ではフォックスが主だ。
その人たちの功罪はともかく、おかげでスカルチノフのような人たちは必死に生きるという気概を持つ必要さえない。
彼が家族を捨て、ホームレスとなって、その諦観を得て、もう十数年が経過していた。
漫然とした生活を繰り返すなか、近頃になってようやくひとつの思いが固まってきた。
世の中に絶望した人間、生活にやる気を失った人間は、概してそこに帰着する。
生きていたくなどない。生きることに意味が無い。
彼は、極めて純粋に、死にたいと望んでいたのである。
50
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:53:01 ID:n3xO70qA0
爪'ー`)y-「なんだ、死にたいのか。で、どうやって死ぬんだ」
/ ,' 3「さあの。あんまり面倒なことはしたくないんじゃ」
ある日お恵みに来たフォックスに対して、スカルチノフはのんびりとそう答えた。
爪'ー`)y-「積極的じゃないんだな」
/ ,' 3「死のうとするくらいの活力があるならこんな生活しとらんわい」
爪'ー`)y-「ところが、ですよ。じいさん。
世の中にはまだ若く元気なのに死のうとするやつもいるんだぜ」
/ ,' 3「それは単純に自己中心的でアホなだけじゃろ。
ほっとけほっとけ。好きなだけ言わせておけ」
爪'ー`)y-「ほうほう、面白い」
51
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:54:00 ID:n3xO70qA0
フォックスがどうしてこんなに愉快そうにするのか、その頃のスカルチノフにはわからなかった。
ただ、こうして2人が親しく接し始めたのは事実だった。
フォックスはちょくちょくスカルチノフと話し、世間話や身の上話などを打ち明けていった。
スカルチノフとてそれが楽しくないわけではなかった。
ある意味ここまで生きながらえていたのは、その僅かながらの繋がりがあったからとも言えた。
そうした親交を重ねていたある日、フォックスがある提案をしてきた。
爪'ー`)y-「今度繁華街を爆破しようと思うんだ。
どうだ、それを利用してくれれば楽に死ねるんじゃないか」
/ ,' 3「ほっ!? なんだかぶっ飛んだ話だのう」
スカルチノフはそう返しながら、にやにやと笑っていた。
フォックスのことを変わった奴だと思っていたが、ここまで突飛な話をふっかけられるともう、笑うしかない。
結局はその約束ひとつで、今日この日まで来てしまった。
52
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:54:59 ID:n3xO70qA0
内心では久しぶりの高揚があったし、フォックスへのごく僅かな恩もあった。
だからこそ今でも爆弾を追い続けられている。
かつての彼ならば、こんな事態に陥ればすぐ諦めて帰って寝ていただろう。
/ ,' 3「おっと」
道の先で、ショボンが角を曲がるのが見えた。
彼を見つけたのはかなり前だ。ちょうどコンビニから出てくるところを見つけることができたのである。
それからずっと、黒い傘をさす彼の後ろを一定の距離を置いて歩いてきた。
音をひそめながら、小走りに道を進み、路地の先を見る。
ショボンはある家の門の前に立っていた。二階建ての、ごく普通の民家だ。
最初、スカルチノフはそこがショボンの家かと思った。
しかしどうも違うらしい。ショボンは呼び鈴を押し、しばらくそこに立ち尽くしていた。
雪が降り積もる中、寒さに震えている様子がわかった。
53
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:56:19 ID:n3xO70qA0
やがて、戸の開く音がした。
「時間がかかったんだね」
すぐにショボンが口を開いた。
(´・ω・`)「ああ、掃除してたからな」
若い女の声だ。彼女だろうか。
スカルチノフはとくに感慨を浮かべることなくその様子を観察していた。
(´・ω・`)「中入っていいのかい」
「いいよ。あ、これ買ってきてくれたのか」
声と共に、人の影が家から出てくる。
そこで女の姿が明らかとなった。
54
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:57:29 ID:n3xO70qA0
从 ゚∀从「あたしこれ好きなんだよね。ありがとう」
彼らはそれからすぐに家に入っていった。
スカルチノフは、その後でも暫く動かないでいた。
今しがた見た光景に、ただならぬ衝撃を受けていたからだ。
スカルチノフは彼女を知っていた。
ここにいるはずが無い人だ。だからこそ驚いていた。
しんしんと降る雪の下、傘も持たずにいた彼の心は、より一層わくわくしていた。
55
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:58:19 ID:n3xO70qA0
9.
ドクオが目を覚ますと、三人が歓声を上げた。。
当然ドクオにとっては予期せぬものであり、ただひたすらに動揺するより他なかった。
( ;∀;)「おめでとう、おめでとう!」
涙目になったモララーが、ドクオの手を握り上下にぶんぶんと振る。
それだけでもドクオにとっては遠く理解の及ばない現象だった。
从;ー;从「ドクオさん、気分はどう?」
(;'A`)「ああ、まあ、いいんじゃないかな」
(´;_ゝ;`)「私は、君が目を覚まさなかったらどうしようかと。
このまま君は死んでしまうんじゃないかと、そう思うと怖くて怖くて」
('A`)「いや、誰ですかあなた」
56
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 19:59:19 ID:n3xO70qA0
それからドクオは、自分がデミタスに殴られ、15分ほど眠っていたことを聞かされた。
ナイフは回収され、今はモララーの手元にあった。
( ・∀・)「ドクオくん、これ」
('A`)「……俺の、です」
テラスに行くまでは昂ぶっていた感情はもはや消え失せ
モララーの真っ直ぐな目線にも耐えられず、伏し目がちにそう答えた。
しばらくの沈黙がその場を包み込んだ。
( ・∀・)「ドクオさん、君は僕のことが憎かったんだね」
モララーはゆっくりと言葉を重ねていった。
( ・∀・)「ワタナベさんから聞いたよ。君はワタナベさんと幼馴染だった。
ワタナベさんは気付いていなかったようだけど、君は彼女に好意を抱いていた。
だから彼女に僕の話をされて、嫌に思った。そうなのだろう?」
57
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:00:18 ID:n3xO70qA0
あまりにもすっきりと、自分のモヤモヤした気持ちを分析されたものだから、さすがにドクオは目を見張った。
それから言い訳を探したものの、見つからず、結局観念して、沈むように頷いた。
( ・∀・)「僕は、別に怒ったりしないよ」
モララーは明瞭にそう言い放った。
( ・∀・)「その感情はごく自然なものだ。それ自体を責める必要はない。
ただちょっと、表現の仕方が下手だっただけだと僕は思うんだ。
だから僕は君を怒らない」
そう言って、モララーは爽やかな笑顔をドクオに向けた。
ドクオの方はというと、放心して口を開いてぼんやりモララーを見つめていた。
58
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:01:19 ID:n3xO70qA0
(´・_ゝ・`)「なあ、ドクオくん。
ナイフとか、そういう得物は、本気で持っているときは叩いたも落ちないんだ。
震えている手で持っているから、簡単に叩き落とされるんだぜ」
デミタスはそう言って、モララーを向いた。
(´・_ゝ・`)「そのナイフ、私にくれ。
君らのような未成年がもってていいものじゃないよ」
次は、ドクオへ。
(´・_ゝ・`)「それがわかったろう、ドクオくん」
('A`)「いやだからあなた誰なんですか」
機と正気に戻ったドクオはそう言って、それからデミタスの肩を掴んだ。
(#'A`)「ていうかあなたが僕を殴ったんですよね?
なんでなんですか。僕、まだよくわかってないんですけど。
どうしてこの場に溶け込んで何良さげなこと言ってんですか、ええ? おい」
59
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:02:19 ID:n3xO70qA0
(;´・_ゝ・`)「お、落ち着いてくれ! そんなに揺すらないで」
从;'ー'从「大変、ドクオさんまだ興奮してるわ」
( ・∀・)「屋内に移動しよう。温かいものでも飲ませればきっと落ち着くはず」
腕を振るわせようとするドクオを三人がかりで捕まえる。
土地勘のあるデミタスとワタナベが先導して、どこか落ちつける場所を見つけようとあたりを調べ始めた。
堤防を越えた先に大きな通りがあった。
隣町からやってくる人を出迎えるような道だ。
道沿いを歩くと小さな個人経営の喫茶店があった。そんなに人でごった返しているお店ではないはずだ。
一休みするにはうってつけの場所だろう。そういうわけで、4人はそこへ移動した。
60
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:03:20 ID:n3xO70qA0
こじんまりとしたクリスマスの装飾を抜け、暖色の灯りに満ちた店内へと入る。
店内では古い洋楽が繰り返し流れている。
店主の趣味なのだろう、身にしみる温かポップスだ。
それと、注文して出てきたココアの温もりとの合わせ技で、ドクオはようやく落ち着いてくれた。
(´・_ゝ・`)「私は傘を間違えられたんだ。それで君を追ってきた」
('A`)「傘ですか? えっと、これ」
ドクオは自分の鞄から、折りたたみ傘を取り出した。
('A`)「これ……あれ、確かに違う?」
その言葉に、デミタスの目が期待の光をともす。
(;´・_ゝ・`)「それを、見せてくれないか」
ドクオに手のひらが向けられる。それは、妙に強張っていた。
('A`)「……どうぞ」
訝しみながらも、ドクオが傘を彼に渡す。
デミタスはすぐにその傘をくるくるとまわして確認を始めた。
61
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:04:18 ID:n3xO70qA0
(´・_ゝ・`)「あれ、これは……」
デミタスの指が、傘の中へと入っていく。
多少ごそごそと動かした後、一つのものを引き出した。
傘の柄にお守りが結ばれていた。『合格祈願』とかかれている。
(´・_ゝ・`)「……あれ?」
('A`)「合格、祈ってるんですね」
(´・_ゝ・`)「知らない?」
('A`)「知らないですよ」
(;´・_ゝ・`)「……え? あれ、待てよ待てよ」
デミタスの瞳が空中を向いてふよふよと蠢きだす。
(;´・_ゝ・`)「君は傘を取り違えただろう。それは間違いなはずだ。
そしてもし取り違えたとするなら、私とぶつかっていたときのはずだ」
62
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:05:22 ID:n3xO70qA0
デミタスの腕が、自分の鞄に伸びる。
そこから取り出されたのは、デミタスが持っていた傘だ。
(´・_ゝ・`)「これは?」
('A`)「見せてください」
ドクオの手に渡った傘がくるくると回される。
やがて、「あ」とドクオが反応を示した。
('A`)「これですね。僕の」
(´・_ゝ・`)「……てことは」
('A`)「僕とぶつかる前に、すでに傘が変わっていたってことじゃないですかね。
この、今の僕の傘の持ち主に」
(;´・_ゝ・`)「そんなまさか!」
叫ぶと、店内に声が響く。遠くで店員の肩がびくつく。
それを気にしている暇もなく、デミタスは頭を両手で抱えて考え始めた。
63
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:06:24 ID:n3xO70qA0
思い浮かべていたのは教会でのことだ。自分に果たして隙があったのか。
ほどなく、将来のお金の使い道を考え続けて隙だらけだったことを思い出した。
その間に、傍にいた人と傘が入れ替わってしまった、どうにもそれが真相らしい。
(;´・_ゝ・`)「ああ、なんということだ」
そう一言、喚く。
(´・_ゝ・`)「君には迷惑をかけた。許してくれ。
私はこれから別の場所へ移動する。これっきり」
(;'A`)「いやいや、待ってください」
慌てた様子で、ドクオが口を挟む。
('A`)「僕に会うだけならまだしも、どうして殴らなきゃいけなかったんですか?」
64
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:07:19 ID:n3xO70qA0
(;´・_ゝ・`)「んー、それは、だな。ええと、とても大切なもの、というか」
('A`)「大切な傘だとして、どうして隠し持ってるナイフと勘違いするんです?」
ドクオの指摘はもっともだった。
隠し持つのを怪しいと思ったのは、それが危険物だという認識がデミタスにはあったからだ。
でもよく考えたら、傘が爆弾だと知らない限り隠し持つ人などいない。
ナイフと傘を間違えた理由。
そのことを説明するのには、嘘をついても難しい。
まして、そのせいで怪我を負った人相手にはそれなりの納得が求められる。
そんなこと、できっこない。
デミタスは悔しそうに歯をかみしめ、それから短い溜息をついた。
意を決した人がする行為だ。
65
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:08:23 ID:n3xO70qA0
(´・_ゝ・`)「あれは、爆弾、なんだ」
言葉がすぐに認識されるとは思っていなかった。
事実、ドクオも、他の2人も頭の上にはてなが浮かんでいた。
('A`)「ええと……は?」
(´・_ゝ・`)「今夜0時に爆発する」
畳みかけると、ますます青年たちが動揺する。
(;・∀・)「本当なんですか、それ?」
(´・_ゝ・`)「ああ。事実だ。とある富豪に頼まれてな」
从;'ー'从「ど、どうしてそんなものを、は、犯罪を」
(;´・_ゝ・`)「いやいや、私はそれが爆弾だなんて知らなかった。本当だ。さっき知ったばっかりだ。
だから傘を探さなきゃいけない。余計な死人が出てしまっては困るんだ」
(;'A`)「死人って……」
(´・_ゝ・`)「本当の爆弾だからこそ、こんなに必死なんだよ」
66
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:09:18 ID:n3xO70qA0
その場が静まり返る。
それぞれが、この突飛な話を噛みしめている。そんな雰囲気だった。
( ・∀・)「でもそれじゃ、傘をどうするんです」
沈黙を破った彼は、眉に皺をよせてデミタスに詰問する。
( ・∀・)「今手元にないということは、別の人が持っているんですよね。
誰が持っているか目途は立っているんですか」
「それは、教会に行って目星がついている」
思いだす、名簿に載っていた名前。
もう一人の、傘を持ってあの教会に入っていた人物。
(´・_ゝ・`)「教会にいたショボンという人間、そいつがその合格祈願の傘の持ち主のはずだ」
67
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:10:18 ID:n3xO70qA0
从'ー'从「……え? ショボンくん?」
不意にワタナベが声を出す。
「え?」という声が、その場の全員から発せられた。
(´・_ゝ・`)そ「 知っているのか?」
必死の声。それに、ワタナベは若干怖気づく。
从;'ー'从「た、確か近所に住んでいる高校生が、そんな名前だったような」
(´・_ゝ・`)「本当か? それじゃ、家もわかる?」
从;'ー'从「ええ、多分。
ご両親がいつも仕事で忙しくて、昔から1人で過ごしていて寂しそうな子なので気になっていたんです。
でも、教会に顔をだしているんですね。知らなかった……」
ワタナベはそう言うと、俯いて何事かを考える顔つきをする。
昔からの知り合いなので、何かしら思うところが合ったのだろう。
68
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:11:19 ID:n3xO70qA0
(´・_ゝ・`)「それじゃ案内してもらえないかな?」
从'ー'从「……いいですよ。じゃあ」
( ・∀・)「ちょっと待ってください、デミタスさん」
言葉を遮ってきたのはモララーだった。
( ・∀・)「たとえそこに折りたたみ傘があるとして、そのあとあなたはどうするんですか。
まさかその傘を、計画通りに爆発させる気ですか」
瞬間、デミタスはぎくりとした。
確かにお金はほしい。フォックスの依頼を聞けば、それが手に入るのだ。
しかし、どうもこの真っ直ぐな瞳を持つ青年に睨まれると、そんな邪な感情を、引っ込めてしまいたくなる。
(´‐_ゝ‐`)「……そうだな。こんなの、おかしいよな」
欲を引っ込めて、冷静に考える。
デミタスは鼻を鳴らし、目を閉じて数回頷いた。
(´‐_ゝ‐`)「見つけたら、爆弾は川に捨てよう。
破壊力は小さいと聞いている。それで十分に威力を殺せる……はずだ」
69
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:12:19 ID:n3xO70qA0
その言葉を受け、モララーは張り詰めた表情を一挙に解きほぐした。
( ・∀・)=3「良かった。ありがとうございます。デミタスさん」
それを見て、デミタスも自然と微笑んでしまう。
あまりにも純粋な正義の反応を見て、そんな反応をしてしまった。
(´・_ゝ・`)「いやいや、こちらこそ、なんだか救われた心持ちだよ。
君は随分と正義感が強いんだな。今日だけでもう、何度も感心させられる」
デミタスとしては何気無く、青年を褒めたつもりでいた。
しかし、モララーはどこか引っ掛かりのある表情になる。
それが妙に気になり、デミタスは首を傾げた。
(´・_ゝ・`)?「どうか、したかい?」
70
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:13:18 ID:n3xO70qA0
(;・∀・)「いや、僕はまだまだ、正義感なんて言えるほどじゃないと思うので」
(´・_ゝ・`)キ「そんなに謙遜しなくても」
( ・∀・)「いえ、本当に、そう思っているんです」
はっきりとした口調に、デミタスの笑みは驚きに変わる。
モララーは、唇を舐めて、それから次の言葉を述べた。
( ・∀・)「僕は昔、人を裏切ってしまったから。
だからまだまだ、人の為になることをしたい、しなきゃならないって思っているんです」
そういうと、デミタスが何かを言う前に、モララーは鞄に手を入れた。
( ・∀・)「さあ、ワタナベさん。
そのショボンという人の家までどう行けばいいか教えてくれ。
メモを取るから、それを参考にしよう」
どことなく慌てた調子で、鞄を探りながら、モララーはワタナベに顔を向けていた。
71
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:14:19 ID:n3xO70qA0
デミタスはそれ以上モララーを追及する気はなかった。
恐らく何か、贖罪の気持ちがあるのだろう。雰囲気からそう伝わってきた。
それ以上聞くのは無粋だと思ったから、この話題はやめ、ショボンの捜索に意識を向けることにした。
いや、そうなるはずだった。
(;・∀・)「あ、しまった」
モララーはうっかり鞄を下に落としてしまった。
内容物がドクオの傍に散らばる。幸い量は少なかった。
('A`)「あ、拾っておくよ」
( ・∀・)「ありがとう」
そう声を掛け合う2人の下で、散乱しているものの中に
白地に青いストライプの帽子を見つけたとき
デミタスの中に再び、モララーに対する閃きが浮かんでしまった。
72
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:15:19 ID:n3xO70qA0
10.
フォックスは自室にて、ふかふかの椅子に座りながらパソコンを眺めていた。
起動しているのは映像通信のアプリケーションであり、相手がちょうど応答して、映像が映し出されたところだった。
lw´‐ _‐ノv「なんだい、フォックス。また取引かい」
相手の女性は気だるそうに言葉を掛ける。
爪'ー`)y‐「いや、あんな取引はもうしばらくいらないよ。
私もそれほど世の中をかき乱したいとは思ってないさ」
lw´‐ _‐ノvホッ「そうか、そいつは良かった。
こっちとしてもその方が嬉しいね。どうも近頃うまくいかないことが多いから」
爪'ー`)y‐「忙しいのか?」
lw´‐ _‐ノv「んー、心労だな。どうだ、お前には遠い話題だろ」
爪'ー`)y‐「なんでだ?」
lw´‐ _‐ノv「金持ちだから」
73
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:16:08 ID:n3xO70qA0
爪'ー`)y‐「はは、それはそうかもしれないが
世の中お金じゃ解決できないことなんて山ほどあるよ」
lw´‐ _‐ノv「ほう、ざまあみやがれ」
彼女の名はシュールであり、フォックスとはちょっとした知り合いだった。
シュールはどこかの大学に所属しているらしく、
自分や周り人が作り上げた発明品をよく取引の品として闇ルートに売りに出している。
その取引を通して、フォックスは彼女と知り合いになったのである。
闇取引とはいっても、別に悪いことをしでかそうといつも考えているわけではない。
正規の市場に出せば待ったが掛かる品を道楽で作る人がいて、それを道楽で集める人がいる。
その意思の合致から契約が成立した、それだけのことだった。
しかし数日前、フォックスは始めて「使用するため」の発明品を求めた。
そこでシュールが取引品として提示したものこそが、黒い小さな折りたたみ傘型の爆弾だったのである。
lw´‐ _‐ノv「なんだ、何を黙っている。通信するということは、聞きたいことがあるんじゃないのか」
シュールが注意し、フォックスは顔を引きつらせる。
74
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:17:20 ID:n3xO70qA0
爪'ー`)y‐「いや、少し気になることなんだがな、うん」
歯切れの悪いフォックスが余程珍しかったのか
シュールは息を飲んで目を細めた。
lw´‐ _‐ノv「何かトラブルでも? あの折りたたみ傘型の爆弾か」
爪'ー`)y‐「察しが早いな」
lw´‐ _‐ノv「私が売ったものだからな。それで、どうした?」
爪'ー`)y‐「実は、どうも一般人の手に渡ってしまったらしいんだ」
lw´‐ _‐ノv「……ふむ」
爪'ー`)y‐「それで、威力を詳しく知りたいと思ったんだ。
確か、それほど強力ではないと記憶していたのだが」
75
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:18:19 ID:n3xO70qA0
lw´‐ _‐ノv「確かに強力ではない。元々少し世間が騒げばいいという話だったしな」
爪'ー`)y‐「そうか、それじゃ」
lw´‐ _‐ノv「ただし、確実に家の一軒は吹き飛ばせる。それくらいの代物だ」
爪;'ー`)y‐「な、なるほど……」
フォックスは頬を伝う冷や汗を拭う。
シュールはその様子を、不思議そうに眺めていた。
lw´‐ _‐ノv「どうした、人を殺したいわけじゃなかったのか?」
爪'ー`)y‐「私は誰も殺すつもりはなかった。
ちょっとばかり、繁華街のクリスマスツリーを破壊したくなっただけだ」
lw´‐ _‐ノv「はあ? そんなことのためにあれを?」
爪'ー`)y‐「そういうことだってある」
76
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:19:18 ID:n3xO70qA0
lw´‐ _‐ノv「うーむ、やっぱりあんたはよくわからん。
いつもすかしているかと思えば急にそんなことを言い出すなんて」
爪'ー`)y‐「私だってな、悩みはあるんだ」
フォックスはそう言って、パソコンの脇においてあったウイスキーを少し、口に流し込んだ。
シュールが、「悩みか」と呟く音が、パソコンから聞こえてくる。
lw´‐ _‐ノv「なあ、フォックスさんよ。神にお祈りでもしたらどうだい。今日はクリスマスイブだぜ」
爪'ー`)y‐「なんでまた、急に」
lw´‐ _‐ノv「それが仕事なんだ、神様のな」
爪'ー`)y‐「押し付けがましすぎやしないか?」
lw´‐ _‐ノv「そうとも、それが人間ってものよ、私はするぞ。祈るぞ」
爪'ー`)y‐「やれやれ」
77
:
名も無きAAのようです
:2013/12/23(月) 20:19:56 ID:2srqgDOs0
わくわくする展開だ
78
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:20:19 ID:n3xO70qA0
lw´‐ _‐ノv「で、用事はこれで終わりか?」
爪'ー`)y‐「ああ、とりあえず、やはり傘の捜索を続けなきゃならないことはわかった。
足になってくれている奴らがいて幸いだった」
lw´‐ _‐ノv「へえ、どんな」
爪'ー`)y‐「まて」
シュールを止めたのは、携帯電話が鳴ったからだ。
その画面を見て、相手を知る。
スカルチノフだ。
爪'ー`)y‐「私は電話に出るが、こっちは消してもいいか?」
lw´‐ _‐ノv「構わん。また何かあったらよろしくな」
そういって、シュールは自分から通信を切断した。
また一口、フォックスはウイスキーを啜る。
それから振動する携帯を手に取り、フォックスは耳を傾けた。
79
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:24:16 ID:n3xO70qA0
11.
高校生のショボンはクリスマスイブどころではなく、毎日孤独な生活を送っていた。
家族は忙しく、そこら中を飛び回っている。仕事のためだ。
ショボンが小学校に上がるまではどちらかが残ってくれていたが、今ではもうそんなことはない。
一人で生きていけるだろう。そう何度もショボンは言われ続けた。
ショボンだって、親の期待にはこたえたいと思っていた。そういう性分だったのだ。
だから一人でなんでもこなせる様に、生きてきた。
得たのは10年以上そんな生活を続け、得たのは、多少の技量と膨大な寂しさだけだった。
寂しさを埋める方法も自分で探そうと思った。キリスト教はその一つだ。
とにかく祈ればいいというのは、彼にとって非常に都合が良い。一人でできる。
神様は文句も言わず、どこかへいったりもしない。
だけど、次第にそれだけじゃ満足できなくなってきた。
高校生になってから、ショボンはいろんな交流サイトをめぐり、出会いを求めた。
そうしているうちに、今年になって、ショボンはハインと出会った。
80
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:25:16 ID:n3xO70qA0
ハインは年上の女性だったが、そんなものはネットではほとんど意味をなさない記号にすぎなかった。
(´・ω・`)「うちはいつとひとりだよ。家は静かなもんさ」
从 ゚∀从「ああ、うちも今は一人だよ。親は捨てた」
お互いに忙しい親を持ち、家庭に不満を抱き、寂しさと憤りを感じていた。
そんな2人が愚痴を言い合えば忽ち意気投合し、
そのチャットを離れて個別に別のアプリケーションを使っても会話するようになった。
映像も通信できたので、お互いに顔を知ることができた。
(´・ω・`)「広い部屋だなあ」
从 ゚∀从「お前もだろー」
(´・ω・`)「……寂しくない?」
从 ゚∀从「ああ、もちろん。寂しいぜ」
81
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:26:17 ID:n3xO70qA0
そうやって共通点を確認しあい、安心感言うにはあまりにも脆く、刺々しい気持ちがお互いの胸中を満たした。
2人はほぼ毎晩、笑い合い、いつものように愚痴を言い合った。
ハインは、ショボンが思わずギョッとするくらい口が汚かった。
そのような言葉遣いをする人が日常にいれば、まず他人は寄りついたいと思わないだろう。
最初のうちはパソコンの前にいるときだけかと思ったが、話しているうちに、ハインがほとんど引きこもり同然の生活をしていることがわかった。
つまり彼女は、日常のほとんどを汚い言葉遣いで過ごしている。
そのような生活が、どのようなものかと、ショボンにとっては考えるのも怖かった。
だけど、それは不思議な魅力を伴ってショボンに感じられた。
きっと自分にはないものだから、憧れる。
そんな、当たり前なことを、ショボンは大真面目に言ってハインを笑わせたこともあった。
ショボンは顔が一気に赤くなり、その日は通話をやめてしまった。
真っ暗な画面を前にしても、火照った頬はなかなか元に戻らなかった。
それから、ハインはより一層ショボンをいじるようになった。主に、ショボンの好意を前提として。
ショボンの方も、いじられる度に同じように顔を赤らめ続けた。顔を俯かせる度にハインの高らかな笑いが耳に入った。
その音が、熱が、いじらしく快い刺激となってショボンの心臓を高鳴らせた。
82
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:27:15 ID:n3xO70qA0
ショボンには外の友達も、深い人付き合いも要らなくなっていた。
周囲からは人付き合いの苦手な子として認識されていることは、なんとなく伝わってきていた。
でも対策をとる気にもならなかった。ハインがいてくれていたからだ。
从 ゚∀从「あんたの家に行っていいかい?」
ハインが言ってくれたのは、ほんの3日前のことだ。
从 ゚∀从「お前の受験の前祝いしてやるよ」
いつも見ていた、小悪魔のような笑顔の奥で、捉えどころのない深い穴が潜んでいた。
それがハインの、始めて見せてくれた本性だろう、ショボンはそう感じ、本能的な恐怖を抱いた。
その恐怖は、その瞬間においてショボンの返答を躊躇させた。
だけど、ハインという人物についての好奇心は、躊躇いの壁をあっという間に粉々にしてしまった。
ショボンの頷きを見て、ハインは一際満足な様子だった。
ハインはクリスマスイブの夕刻に、ショボンの家のインターホンを鳴らした。
教会に行く準備をしていたショボンは、ドア窓で彼女の姿を確認して息を飲んだ。
こんなに早くに来るなんて予想していなかったからだ。
83
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:28:16 ID:n3xO70qA0
(;´・ω・`)「行かなきゃなんだけど!
いつも行っていた教会で、お祈りしてこなきゃ」
扉越しに、ショボンは叫んだ。
从 ゚∀从「それならお前の家で待ってるよ」
ハインの言うことが、やたらに丸みを帯びてショボンに感じられた。
いつの間にか、ハインの言葉遣いは柔らかくなっていた。
ショボンと話している時だけ、かもしれない。そう考えると彼は嬉しかった。
扉を開いた先にいた彼女は、電気信号ではなく、細胞で更生され、生物として存在していた。
その当たり前のことが、ショボンの呼吸を鈍くさせた。
从 ゚∀从「なんだ、思ったより小さいなあ」
ショボンを見下ろすハインは、細い指を有する手のひらで、ショボンの頭をくしゃくしゃと撫でた。
ショボンはかつてないほどの熱気がこみ上げてくるのにすぐに気づいた。
(;´・ω・`)「ぼ、僕はいくから!鍵閉めてね!」
84
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:29:15 ID:n3xO70qA0
そう言うと、ショボンは脱兎のごとく、ハインを後にした。
顔は見えないが、彼女の表情が全く揺れることなく彼の頭に浮かんでいた。
教会で祈るときは、ひたすらに、ハインとどう接するかばかりを考えていた。
帰宅したら、ハインが出迎えてくれた。
それに招かれ、傘を閉じてすんなりと部屋に入る。
気持ちはなんとか落ち着けることができた。
从 ゚∀从「本当に勉強してるんだなー、お前」
(´・ω・`)「え、部屋見たの?」
从 ゚∀从「空いてたから、大抵の部屋は見たよ」
(;´・ω・`)「そ、そんな……」
从 ゚∀从「CDが多かったなー、洋楽好きなの?」
(´・ω・`)「うん。ずっと昔のポップスが」
85
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:30:22 ID:n3xO70qA0
从 ゚∀从「聴きたいな! そういえばエロ本は見つからなかったなー、やらないの?」
(;´・ω・`)「や、やらないわけ、ないけど」
他のが必要ないだけ、などという事実は流石に言うことができなかった。
从 ゚∀从「さてと、何する何する?」
そう言って、ハインは仕切りにショボンを小突く。
ショボンはびくりと震えつつも、リビングに向かった。
(´・ω・`)「とりあえず飲み物とお菓子」
それはコンビニで調達してきたものだ。
レジ袋がこたつの上に置かれる。
从 ゚∀从「おう、ご苦労」
(´・ω・`)「何かするとか、特に考えては来なかったから……」
从 ゚∀从「から?」
86
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:31:17 ID:n3xO70qA0
(´・ω・`)「いつものように、会話とか……うん」
从 ゚∀从キ「おお、いいねいいね!」
はしゃぎながら、ハインはこたつの中にするすると入っていった。
(´・ω・`)「電源入ってないよ」
从 ゚∀从キ「早く早く!」
急かすハインをよそに、ショボンはいそいそとこたつを点け、ついでにコップとお皿も用意した。
再びリビングに戻ると、ハインが手をばんばんと振り下ろしている。
自分の隣にこい、ということらしい。
ショボンは持ってきたものを置いて、ハインの脇に辿り着き、するすると中に入った。
温もりが脚を包み込む。
从 ゚∀从「よし、お話だー」
ハインが一気にショボンに寄りかかってくる。
ほとんど抱きついてきたと言ってもいいくらいだ。
こたつなんて目じゃないくらい、身体の底から熱くなる。
87
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:32:16 ID:n3xO70qA0
(;´゚ω゚`)「ひゃ!」
反射的に、そう叫んで、ショボンはこたつを飛び出した。
ハインが交差しようとしていた腕が空を切る。
(;´゚ω゚`)「ぼ、僕映画とか借りてくるね! そうすれば暇じゃないし!」
言うや否や、ショボンは鞄を手に取り、玄関へとかけて行った。
ハインに見つめられながら、扉を開けて外へ飛び出す。
傘は忘れたが、雪などあっても、この火照った気持ちはなかなか収まらないとショボンはよくわかっていた。
部屋に取り残されたハインは、玄関の扉が閉まる音がすると同時に吹き出した。
从*゚∀从「可愛いなあ、ほんと」
恍惚とした表情で呟き、それからこたつに今ひとつ身体を埋める。
きっと帰ってくるまで時間がかかる。それまで、じっくり温まろう。
そう、ハインは思っていた。
88
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:33:20 ID:n3xO70qA0
客観的には、かなり待っていた。
ショボンの帰りをまだかまだかと待っていたら、ハインにはそれほど長く感じられなかった。
だから、インターホンが押された時には「よっし」と小さくガッツポーズをした。
けれど、すぐに違和感に気付く。
なんで自分の家なのにインターホンを押すのだろう。
首を傾げるも、答えないわけにもいかない。
从 ゚∀从「はーい」
そういって、ハインは玄関に向かい、その扉を開いた。
きっとショボンだろうと、思っていたから、大した警戒もしていなかった。
89
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:34:16 ID:n3xO70qA0
(´・_ゝ・`)「どうも」
从'ー'从「こんばんは」
从 ゚∀从「……は?」
1人は全く知らない人、もう1人は、最も会いたくないと思っていた人だった。
90
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:35:17 ID:n3xO70qA0
12.
( ^ω^)「ありがとうございますお」
繁華街のCDショップで、ブーンはお目当ての品を受け取った。
海外版のレアもののCDだ。このお店の人が仕入れてくれていたのを、この日に取りに来たのである。
店員に頭を下げて、お店を後にする。
道路には徐々に雪が積もり始めていた。
このCDを、この日妻と一緒に聴こうと決めていた。
BGMを流し、妻が作ってくれているはずのケーキに蝋燭を立てる。
そうしてクリスマスと、まだみぬ子どものことを祝う。
そこまで考えて、ブーンはまた温かい気持ちになる。
「すいません」
( ^ω^)「お?」
91
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:36:16 ID:n3xO70qA0
振返って、誰に声を掛けられたのかを見る。
('A`)
ほっそりとした青年だ。顔色が悪く見えるが、元々白いのだろうか。
なんにせよ、あんまり健康的なイメージのない人だった。
('A`)「すいません、○○CDショップってここでいいんですかね」
( ^ω^)「ああ、そうだお。始めてきたのかお?」
('A`)「ええ、なんか、さっき言った喫茶店で流れていた曲、いいなって思って。
それで帰り際に店長さんに聴いてみたら、このお店で買ったって言ってたんです」
( ^ω^)「……それ、もしかして川沿いの個人経営の喫茶店かお?」
('A`)「え? はい」
(*^ω^)「おー! 僕もあそこのお店いきつけなんだお!」
('A`)そ「あ、そうなんですか」
92
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:37:16 ID:n3xO70qA0
思わぬ繋がりがあると、不思議と嬉しくなるものだ。
ブーンはにっこりとして、青年に語りかけた。
(*^ω^)「あそこのCDの推薦もよくやっていたんだお。
もし気に行ったなら、これからもちょくちょくあそこに寄ってほしいお」
('A`)「はあ、まあ……考えてみます」
(;^ω^)「元気、あんまりない感じかお?」
('A`)そ「え? あ、いや」
あまりにも、反応が薄いので、ブーンは思わず聴いてしまった。
本当はあんまり聞いちゃいけないことかもしれない。そう思って、若干反省する。
( ^ω^)「あー、ごめんだお。話したくなかったら別に」
('A`)「いやいや、そんな深刻な話じゃないです。本当に。
ただの失恋というか、なんというか……」
93
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:38:18 ID:n3xO70qA0
( ^ω^)「oh...」
('A`)「でも、別にいいんです。なんか、向こうと一緒に居る人普通に良い人だったし。
一緒に喫茶店にいたんですけどね。みんな用事があるとかでばらばらになっちゃって」
(;'A`)「それで、寂しいかなーって思って、ここまでふらふら遊びに来ちゃって。
ははは、何やってんですかね。全くもう」
自分でも、何を言っているのかわからなくなっている様子だった。
正直なところ、ブーンは彼に何と声をかけてあげればいいかわからなかった。
疲れきっている人に、頑張れとか言っては可哀想だ。こういうときは静かにさせておくべきかもしれない。
( ^ω^)「たぶん……散歩するだけでも気持ちが変わるんじゃないかお」
そんな案を、思いついたまま言ってみた。
( ^ω^)「そうだ、イルミネーションも綺麗だお。ぜひ見に行ってみるといいお」
94
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:39:16 ID:n3xO70qA0
('A`)「はは、優しいんですね」
青年は頬を緩ませて、答えてくれる。
('A`)「ありがとうございます。もうすこしふらついたら、行ってみようかなと思います」
( ^ω^)「うん……また、いつか喫茶店にきてくれお」
('A`)「ええ、ぜひ」
そう言って、青年はCDショップへと歩んでいき、扉の奥へと入っていった。
上手く行く人ばかりがいるわけじゃない。こんな夜でも、そうなのだ。
せめて何か、いいことが、彼にも降りかかってくれればいい。
それを想いながら、ブーンは自分の帰路へと脚を進め始めた。
95
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:40:16 ID:n3xO70qA0
13.
/ ,' 3「よう、フォックスか」
スカルチノフは公園の、小屋の中にいた。
外は雪が降っているが、長年のホームレス生活により寒さを堪えることには慣れていたので、問題は無かった。
それに、あまり人に聞かれたい話でもない。だから敢えて人気のない、冬の夜中の公園で電話をかけた。
爪'ー`)「今度はお前か。さっきデミタスから連絡があったぞ。
折りたたみ傘が紛失したそうじゃないか。進展はあったのか?」
/ ,' 3「今捜索中での。なに、もう目途は立っておる」
爪'ー`)「なんだ、それなら早く計画を進めてくれ」
/ ,' 3「その前に、聞きたいことがあるんじゃ」
フォックスの言葉を遮って、スカルチノフは突き付けるような口調を繰り出した。
電話越しのフォックスからの反応は無い。しいていえば黙ってくれている。
スカルチノフは一人頷き、言葉をつなげることにした。
96
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:41:16 ID:n3xO70qA0
/ ,' 3「お前さんの目的は、あの繁華街に立てられておるクリスマスツリーを爆破することなんじゃろ?
あの爆弾をあのツリーの袂に置けと言っていたことから、なんとなく思っていたことなんじゃが」
爪'ー`)「……ああ、そうだ」
/ ,' 3「それじゃ、それさえ達成すれば問題は無いか?」
爪'ー`)「……どういう意味だ」
フォックスの慎重な声が伝わってくる。
スカルチノフは愉快そうに、顔を歪ませた。
/ ,' 3「爆弾が無くとも、わしがあのクリスマスツリーを倒せばお前さんは喜ぶ。
そういう認識でいいのかと聞いておるんじゃ」
息遣いで、フォックスの動揺が伝わってきた。
爪'ー`)「お、おいおい。どういうことだい、じいさん。
爆弾を持っている奴の目途はついていたんじゃねえのか?
それを取り返して、設置したほうがすぐに終わるし、あんたが苦労する必要もねえんじゃないか」
97
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:42:15 ID:n3xO70qA0
/ ,' 3「持っている人が問題での。一筋縄じゃいかなそうなんじゃ。
な、どうじゃろう。わしとしては最期に一暴れするのも一興じゃとわくわくしておるのじゃが」
爪;'ー`)「あんたいつそんなにアグレッシブになったんだよ」
/ ,' 3「ほっほ、クリスマスイブじゃ。神の御加護で、わしにやる気を湧かせてくれたのかもしれんのう。
この世から盛大におさらばするためのエネルギーをの」
公園の地面に、ちらほらと白い雪の塊が見受けられるようになっていた。
地面に雪が積もれば絨毯のようであり、外に置かれた木の机に積もればテーブルクロスのようであり
そしてついに自分はそんなもの家族めいた温もりとは無縁の人生だったと、無闇な感慨に耽る。
爪'ー`)「まあ、それでもいいだろう」
やがてフォックスが言ってくれ、スカルチノフはほっと一息ついた。
爪'ー`)「しかし、いったい誰なんだ。その爆弾を持っている奴は。
吹き飛んでもいいようなどうでもいいやつなんだろうな?」
98
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:43:16 ID:n3xO70qA0
/ ,' 3「……それは、お前さんで判断した方がいいじゃろう」
爪'ー`)「なに?」
スカルチノフの胸の高鳴りは、一時のピークを迎えた。
いつもいつも自分にお恵みを与えてくれる、ありがたいお方を確実に動揺させることになる。
そのささやかながら邪な愉悦を、スカルチノフはそれを思いついたときから楽しみにしていたのだ。
黄ばんだ歯をむき出しにしながら、スカルチノフは名前を続けた。
/ ,' 3「爆弾を持っているのは、ハインじゃよ。
フォックスさん、いつもお恵みのときによく写真を見せてくれた、あんたの娘さんじゃ」
99
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:44:16 ID:n3xO70qA0
14.
ワタナベは小さいころから、みんなと仲良くしようと考える女の子だった。
もしクラスの中でぽつんとしている子がいたら、話しかけてみたくなる。
そうして自分の周りに、寂しそうな人がいないようにしたい。
もちろん、そんな夢物語がいつでも成立するとは思っていない。
実際彼女もそのことについて苦労をした。理解を得られることも少なかった。
人間なんて所詮は孤独なものだ、そんな言葉を何度言われたことかわからない。
高校二年生のとき、彼女は大きな挫折を経験することになる。
一年生のときに知り合い、仲良くしていたと思っていた人が、学校に来なくなったのだ。
ワタナベは何度もその子の家を訪ね、説得を試みた。
このときのワタナベは、かつてないほどに熱心だった。
何よりも、一度仲良くなった子が、遠くへ行ってしまったのが残念でならなかった。
一度仲良くなっていたということは、その子を支えるチャンスがあったのだ。
それを、自分は気付いてやれなかったのだ。
そんな責任感が、彼女には芽生えていた。
女の子の名はハインと言った。
100
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:45:30 ID:n3xO70qA0
結局、同級生が卒業する時期になってもハインは学校に戻って来なかった。
つまりハインは卒業していない。ずっと引きこもっているという話だけワタナベに届いていた。
ワタナベは失意を胸に、だけどそれを友達には悟られないように努力して
やや遠い大学に下宿をして暮らすことに決めた。
( ・∀・)「ああ、その気持ち、わかるな」
大学で出会った男の人は、彼女の失意を理解してくれた。
从'ー'从「ほんと!?」
( ・∀・)「本当だとも。僕も、人助けはしたいといつも思っている。
そしてそれが実らない辛さも知っている。いろいろ経験してきたからね」
从'ー'从「わかってくれるんだ。今までそんな人、みたことなくて」
それから2人はお互いの過去や、思いを話し合った。
彼も彼で辛い過去を持ち、それをワタナベに明かしてくれた。
そんな語りあいに、ワタナベはこの上ない安心感を抱くようになった。
2人は大学のサークルで知り合ったのだが、いつしか2人きりで話をするようになり、気がつけば付き合っていた。
彼がたまたま同郷の人だったというのもあるのかもしれない。
隣町の人たちが、遠くで出会うなんて、奇跡のようだ。ワタナベはそれを子どものように喜んだ。
これが、クリスマスの夜にワタナベとモララーが出会うことになった経緯である。
101
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:46:16 ID:n3xO70qA0
ところが、彼女の奇跡はこれでは止まらなかった。
爆弾事件に巻き込まれるなんて思いもよらなかったし
その追跡の途中で、かつて自分が必死で構成させようとしていた女の子と出会うなんて、どんな確率なのだろう。
从#゚∀从「なんでこんなとこにいるんだよ、ワタナベよお!」
彼女は今、女性とは思えない図太い声でワタナベを罵っている。
扉は外側に開く構造となっている。
そのうち、扉の内側ではハインがいて、ドアノブを握りしめ、体重をかけて内側に引っ張っていた。
一方の外側では、ワタナベが、これまた体重をかけて扉を開こうと必死にもがいていた。
从#'ー'从「それはこっちのセリフなんですけど! ハイン! なんで、ショボンくんの家に、あなたがいるの!」
ショボンの家の扉のノブをつまみ、ワタナベが必死にそれを引いていたのは、先に記した事情があるからだ。
この機会を逃すわけにはいかない。やっと出会えた、かつての友人。
必ずこの場で構成させる、そう意気込んでいたからこその迫力だった。
102
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:47:43 ID:n3xO70qA0
从#゚∀从「あんたはいつもいつも、私の前に突然現れやがって。
目ざわりだって何度も言ってんだよ! ほっといてくれよ!」
ハインはハインで、わけがわかっていない様子だった。
とにかくワタナベからは逃げたいのだろう。必死さから、その事情が伝わってくる。
そのことが、ワタナベをますますヒートアップさせた。
从#'ー'从「突然ふらっといなくなったら、気になるに決まってるじゃん!
今まで友達だと思ってたのに、ねえどうしてなの!」
こうして、言い合いがもう何分にもわたり続いている。
その様子を、いまいち状況の掴めていないデミタスは、ワタナベの後方でぼんやりと状況を観察していた。
(´・_ゝ・`)「……修羅場だ」
103
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:49:58 ID:n3xO70qA0
从#'ー'从「デミタスさん! そんなところで眉を垂らしてないでこっち手伝って!」
(´・_ゝ・`)そ「え、眉はずっと垂れてるんだけど」
从#'ー'从「いいから!」
(´・_ゝ・`)「は、はあ」
デミタスが手をかけ、扉を引くと、バランスは簡単に崩れることになった。
从;゚∀从「う、うわ」
ハインが前のめりに倒れ込み、そのまま地面にたたきつけられる。
すぐさま起き上がると、服の前面を素早くさすって、汚れが無いか細かく確認していたが
ワタナベの視線に気づくと歯を剥き出しにして威嚇を始めた。対するワタナベも同様の態度を示す。
从ν'皿'从νキシャー キシャーν从皿゚ν从
104
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:50:51 ID:n3xO70qA0
(#´・_ゝ・`)「ああもう、猫じゃあるまいし。はやく中は入れ。寒い」
痺れを切らしたデミタスが、ワタナベとハインを無理やり家の中に押し込める。
玄関を通り抜けるとすぐにリビングに入ることになる。
暖房の温もりと、こたつの存在が、雪に冷やされた三人の身体を包んでいく。
ワタナベとハインは相変わらずぎくしゃくした視線を交わし合っていたが、
こたつの真向かいに座りこむことでようやく程ほどの距離を得た。
お互いに手が伸びても、すぐには相手に届かない距離だ。簡単には掴み合いに発展できない。
(´・_ゝ・`)「さてと」
二人を見える位置に、デミタスは座り、その場を仕切ろうとする。
(´・_ゝ・`)「まず、僕たちは折りたたみ傘を」
从'ー'从「デミタスさん、そんなことより、まずはこの人を更生させる方が先です」
(;´・_ゝ・`)「あ、そ、そう、なの?」
105
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:51:53 ID:n3xO70qA0
从'ー'从「もう三年も、学校に通わずにいるんですよ?
明らかに普通じゃありません。私たちが助けてあげなければならないんです」
ワタナベの言葉は強固な精神に基づいていた。
デミタスの、ワタナベに向ける目が、驚きから、だんだん諦めに変わってくる。
(´・_ゝ・`)「はあ、君も人助けが好きなんだね。
あ、もしかしてだからモララーくんとも気が合うのかな」
从'ー'从「話を反らさないでください」
(;´・_ゝ・`)「す、すいません。ちょっとコーヒー入れてきます」
デミタスが席を立ってキッチンに向かうと、ハインはようやく口を開いてくれた。
从 ゚∀从「ふん、たった三年引きこもっていたくらいなんだっていうんだ。
むしゃくしゃしていたらそれくらいしたくなるときもあるさ」
ワタナベはハインに視線を向ける。
すると、ハインはばつの悪そうに顔を俯けた。
ワタナベはなるべく興奮しないように、深く溜息をついた。
思えば、ハインとこうしてまともに話し合えるのも三年ぶり。それを怒鳴り合いで終えてはもったいない。
そう思ったから、まずは静かに聴き返すことにした。
106
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:52:52 ID:n3xO70qA0
从'ー'从「むしゃくしゃしていた、そうだったの」
从 ゚∀从「ああ。そうだ」
从'ー'从「…………」
ワタナベは口元に手のひらを当て、昔のことを思い出そうとした。
ハインが引きこもり始めた時期のこと、その頃に彼女に何があったのかを。
やがて、その想起が、一つの可能性を提示した。
从'ー'从「高校二年生のとき、確か、あなたのお母さんが亡くなったのよね」
発言に対し、ハインはわずかに眉を吊り上げて反応を示してくれた。
从 ゚∀从「へえ、よく覚えているな」
率直に驚いた、そんな顔だ。
ようやくとっかかりが見つかった。
ワタナベは若干ほっとして、話を続ける。
从'ー'从「ひょっとして、それに関係あるの?」
107
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:53:59 ID:n3xO70qA0
从 ゚∀从「はは……」
ハインは鼻で笑いながらも、視線を下方させた。
次第次第に、その顔が真面目なものへと変化していった。
从'ー'从「やっぱり、そうなの?
そこで、何かあったの?」
从 ゚∀从「大したことじゃねえよ。ただ……」
ひとつ、大きな溜息をハインがついた。
その目が、ワタナベを捉える。
从'ー'从「ただ?」
ワタナベは力強い目で、ハインを見返した。
从 ゚∀从「…………」
ハインは複雑な顔をしていた。
怒りは薄れ、悲しみと呆れが混ざり合った顔をしている。
それは思い出に対する評価なのかもしれないし、
ワタナベに対する感情の表れなのかもしれなかった。
108
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:54:53 ID:n3xO70qA0
从 ゚∀从「なあ、どうしてそんなにあたしに構うんだよ」
唇を尖らせて、そう言う。
从 ゚∀从「あたしがいつ、助けてくれーなんて言ったんだよ。
求められてもいないこと、どうしてするのさ。不思議だよ、あんた」
从'ー'从「そんなもの、友達だからよ」
从 ゚∀从「昔の話だろー」
从'ー'从「嫌いになってないなら、ずっと友達よ」
从;゚∀从「だから、あーもー、なんだよこいつ」
从'ー'从「んん〜? 何かな〜」
109
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:56:17 ID:n3xO70qA0
何かを言いたそうなハインの口が、数回ひくつく。
すると、急に彼女の口の端が角度を持ち始めた。
数回、息が小さく噴き出して、ハインの顔に明らかな笑いが生まれていった。
从;-∀从「もういいよ。なんかもう、諦めたわ」
从'ー'从「…………」
ワタナベが見守る手前、ハインは咳払いをすると、
のそのそと徐々に動いて居住まいを正していく。
从 -∀从「親父が葬式に来なかったんだ」
伏し目がちに、ハインが話し始めた。
110
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:57:52 ID:n3xO70qA0
从 -∀从「仕事が忙しいとか、いろいろぐだぐだ言っていて。
それで私がきれちまった。どうにかしてあの親父を困らせてやりたいと思ったのさ。
学校とか、他人とのつながりとか、そういうのを一切断ち切ってな」
从 -∀从「でも、親父も意地っ張りだから全然何も言ってくれねえの。
だから私も意地になって、部屋に籠り続けた。
そうしていつの間にか三年がたっちまった。それだけの話さ」
ハインの説明が終わっても、しばらく誰も口を開かずにいた。
静けさの中、暖房器具の忙しない振動音だけが空間を満たしていた。
从'ー'从「それで、ショボンくんの家にいる理由は?」
すると、ハインの目が急に輝き始める。
まるでショボンのことを話したがっていたかのように。
从 ゚∀从「ネットでの知り合いだよ。あいつも寂しい奴だって聞いて、親近感が湧いたんだ。
同じ町だし、話してみると面白くてさ、今時珍しいくらい真面目で、子どもで。
それで仲良くなって、こうして家に押し掛けるくらいの間柄になったんだ」
111
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:59:01 ID:n3xO70qA0
一気に、ハインが経緯を説明する。
ワタナベはそれを、やや驚きながらも、頷きながら聴き終えた。
从'ー'从「……すんなりと、答えてくれたね」
ぽんと出てきたのは、そんな感想だった。
張り詰めていたハインの顔が、一瞬呆然として、それから一気に眉が顰められる。
从;゚∀从「あんんたがしつこいからだろ!」
从'ー'从「え〜、そんなつもりはなかったけどな」
ワタナベは目線を上に向け、おどけた表情で答えてみせる。
ハインは「ったく」と呟くも、その顔はすでに硬いものではなくなっていた。
112
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:59:52 ID:n3xO70qA0
从 ゚∀从「とぼけやがって」
从'ー'从「それで、お父さんと和解するつもりはないの」
いきなり話題を戻すと、ハインは面食らったようだ。
だけどすぐにその顔が、うざったそうな表情を作り出す。
从 ゚∀从「は! おいおい、そんなとこまで介入するつもりかよ」
手のひらを横に振り、首も同じ動きをさせる。
それに対して、ワタナベは「当然」と言ってのけた。
从'ー'从「だって今の話を聞いていると
そうしない限りあなたは更生しないってことなんでしょ?」
从 ゚∀从「お前なあ、人が三年かかっても無理だったことを、そう易々と」
从'ー'从「それは一人で考え込んでいたからよ。私に相談できたんだから、きっと状況は変わる」
113
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:00:50 ID:n3xO70qA0
从 ゚∀从「なんでそんなこと言えるんだよ」
从'ー'从「だって、協力できるからよ。もっと仲間を作ることができる。人ってそういうものでしょう?」
ハインの目が、咎めるように動いて、それから突然はっと見開かれる。
ワタナベには、ハインが何を感じたのかはわからなかった。
ただ、自分の言葉が相手に届いているという直感だけが芽生えていた。
ハインは突然肩の力を抜いて、言う。
从 ゚∀从「お前、似ているんだな」
从'ー'从「え?」
ハインが何を指して言っているのか、ワタナベに思い当るものはなかった。
ハインもそれはわかっていたようで、いたずらっぽい顔を向けてくる。
从 ゚∀从「こっちの話」
从'ー'从「ええ、何がなのよ〜」
(;´・_ゝ・`)「コーヒー持ってきまし、あ、あれ? 仲良くなってる?」
114
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:01:52 ID:n3xO70qA0
ハインもワタナベも、デミタスを一瞥し、それからお互いの顔を見つめ、意味ありげな笑みを交わしていた。
デミタスは肩をすくめるも、もう何を言うのも疲れた様子だった。
(´・_ゝ・`)「そうだ、ハインさん。僕はまた別件が」
そう切り出したデミタスの言葉は、突然のインターホンの音によって途切れた。
从'ー'从「ショボンくんかな?」
从 ゚∀从「かもしれないな。ちょっと見てくるわ」
口を開いたままのデミタスをよそに、ハインはするりとこたつを抜け出し、玄関へと向かっていった。
(;´・_ゝ・`)「まったくもう、なんだってこう邪魔が入るんだ」
115
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:02:53 ID:n3xO70qA0
从'ー'从「まあまあ、まだ時間はあるんでしょう?」
なだめるように、ワタナベがデミタスに呼びかける。
(´・_ゝ・`)「うーん、今は、8時。あと2時間か。そりゃ、大丈夫だろうが、油断するのも」
デミタスの言葉は、再び途切れることとなった。
今度は玄関の方から聞えてきた、ハインの叫び声によって。
物音が重なり、何者かがリビングに入ってくる音がする。
「おい、やめろよ! なんだってあんたがこんなところに」
「ええい、うるさい! 探し物に来たんだ!」
言葉の掛け合いがはっきりし、ガラス張りの扉の向こうに人影が見えてくる。
デミタスとワタナベはそちらを向き、何事かと固唾をのんで見守った。
リビングの扉が開かれる。
(´・_ゝ・`)「……え?」
爪'ー`)「……あ」
こうして、依頼人と請負人は、今再び出会うことになった。
116
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:04:01 ID:n3xO70qA0
15.
繁華街から、ブーンの家は近い。
とはいえ、うるさすぎることはない。建物や木々のおかげで余計な音は遮断されている。
道を少し行けば街に行ける、そんな好立地が彼の家のある場所だった。
繁華街からの帰り道。鞄には買ったばかりのCDが入っている。
我が家が見えたとき、反対側からくる人影を見かけた。
繁華街へと向かうこの道を、ゆっくりと歩いている。
/ ,' 3
ホームレス風の老人だった。
異様に侘しそうな姿をしている。
その姿に、ブーンは言いようのしれない不安を感じた。
いったい彼のような人が繁華街へ赴いて、何をするというのだろう。
117
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:07:03 ID:n3xO70qA0
何より、男の表情は、繁華街で楽しむものとはかけ離れていた。
強いて言えば、何か重大なことを成し遂げに赴くような、思いつめた顔。
そのとき、ふと、その老人が教会に居たことを思い出した。
しかし、はたして教会にいたときもあんな顔だったのだろうか。
神に祈る理由は数あれど、あれではまるで、神に怒っているようではないか。
そんなことをつい考え、見てしまう。
しかし、ブーンと視線を交わすことは無かった。
老人はゆっくりとブーンの横を通り過ぎる。
気付いた時にはもう、すでに老人は背中しか見えなくなってしまっていた。
( ^ω^)「いかんいかん、失礼だお」
ブーンは首を横に振り、再び自宅へ向かい始めた。
118
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:09:12 ID:n3xO70qA0
玄関の前で、「よし」と一声気合を入れる。
他人のことは置いておこう。今は家族のことを考えよう。
そう心を切り替え、インターホンを押した。
音がひとつ、弾んで、ほどなくして玄関の扉が開く。
( ^ω^)「ただいま」
迎えてくれた彼女に言う。
川 ゚ -゚)「おかえり。あんまり遅いから心配だったよ」
(*^ω^)「雪が嬉しくて、ゆっくり歩いてきたんだお」
ブーンは上機嫌でクーに語りかけた。
雪もそうだが、妻の顔が見れたからこその上機嫌であった。
119
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:09:59 ID:n3xO70qA0
川 ゚ -゚)「まったく、いつまでも子どもっぽいんだから」
クーはそうぼやきながらも、口元を緩め、片手を室内の方へ伸ばした。
川 ゚ -゚)「さあ、早く入って。夜食も作ってあるから」
( ^ω^)「おっお、ありがとうだお。プレゼントも後で広げるお」
そういって、鞄を示す。
クーが微笑んだのを見てとると、ブーンもまた満足する。
そして、もう片方の手に握られた黒い小さな折りたたみ傘をとじ、家へと入っていった。
120
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:10:54 ID:n3xO70qA0
16.
富豪、フォックスは、昔から娘のことを妻に任せきりでいた。
仕事が忙しかったし、何より子どもというものが苦手だったからだ。
それでも家族を持ったのは、ひとえに自分を愛してくれた妻のためであったが
社会の中で常に上を向いて競争を繰り返していた彼にとって、
家庭、特に娘に対する責任はいつまでたっても実感の持てない空虚なものだった。
娘のハインが高校二年生になる頃に、フォックスの妻が病気で倒れた。
フォックスが後から聞いた話によると、ハインが方々の病院に連絡を取って手術をさせたらしい。
彼女なりに迅速に行動していたが、性質の悪い病気であったらしく、医者からすれば助ける見込みは最初からかなり薄かったようだ。
手術は八時間に及び、その間ハインは病院の中でひたすら祈りを捧げていた。
当然その連絡もフォックスに届いていたが、彼は折り悪く、重要な仕事の案件に取り掛かっていた。
結局、夜中に手術が終わっても、フォックスが病院に来ることは無かった。
フォックスの妻は昏睡状態になり、今もまだ入院を続けている。
121
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:11:53 ID:n3xO70qA0
翌日になって帰宅したフォックスのことを、ハインは責め立てた。
フォックスは、連絡を確認せずにいたこと、仕事の付き合いで帰宅が翌日になってしまったことをひたすらに詫びたが
ハインは全くその言いわけを聞きいれようとはしなかった。
その頑なな様子に、フォックスも苛立ちを感じ始めていた。
やがて出社の時間になり、立ち上がるフォックスに、ハインは飛びかかって暴れた。
从#゚∀从「なんで会いにきてやらなかったんだよ!」
もう何時間も叫び続けているその言葉を
フォックスは煩わしくなって、断ち切るように怒鳴りつけた。
爪#'ー`)「どうせ手術中も、今も眠ったままなんだ。
会いに行っても認識もできないなら、行く必要もないだろう」
踵を返して外に出ていったフォックスの後ろで、ハインがどんな顔をしていたのか、そのときのフォックスには気にかける余裕さえなかった。
その日からハインは部屋に籠るようになった。
学校にもいかず、父親とはドア越しで怒鳴り合って過ごす日々だ。
122
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:12:58 ID:n3xO70qA0
最初の内はフォックスも意地になって、ハインのことを放っておこうと思った。
でも、妻の入院生活の手続きをし、目を覚まさない妻の介抱を行ううちに、考えに変化が生まれた。
今ここで眠ってしまっている人は、フォックスが傍にいるということにも気づいていないし、もうずっと認識してくれないかもしれない。
それでも、そこにいるのは確かにフォックスの妻であり、他の何物でもなかった。
そんな考えだ。
そしてあの日の言動も思い返すようになった。
自分は会いに行く必要はないと行ってしまったが、それは行けなかった人の言いわけに過ぎない。
本心でいえば、連絡に気付いていたならば、きっと行きたいと思ったに違いないのだ。
フォックスは反省し、何度もドア越しにハインにわびを入れた。
食事に加え、彼女の欲しがるものはなんでもドアの前に置き、彼女と話せるときを待った。
だけど、ハインが自分から進んで、ドアを開くことは滅多になかったし、会ってもフォックスとは全く言葉を交わさなかった。
ドアに聴き耳を立てることもあった。
直接では話せなくても、気にはなったのだ。
聞えてくる声はほとんどがこの世に対する呪詛と、「死にたい」という後ろめたい願望だった。
123
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:13:52 ID:n3xO70qA0
フォックスから手を尽くすことはもう思いつかなかった。
娘のことは気になっても、仕事だってこなさなきゃならない。
むしろ仕事をすることで、崩壊した家庭に対する鬱屈した感情を発散することにした。
こうした日々が続いていた、今年のある日のこと、珍しくハインが家のリビングにいた。
フォックスは驚いて、それから期待を込めた声で彼女に挨拶をした。
从 ゚∀从「親父、私ここ出ていくから。仕事先ももう決めてある」
返ってきた唐突な言葉に、フォックスは困惑し、渋ってしまった。
その態度が気に入らなかったのだろう、ハインはここぞとばかりに父親を罵倒した。
从#゚∀从「ただ金のことしか頭にない、つまんねえ野郎だな!
一度くらいそんなの忘れて、街中がひっくりかえるような大騒ぎでも起こしてみろよ!」
去り際にハインが言い放ったこのフレーズが、取り残されたフォックスの心の中にいつまでも響いていた。
こうしてフォックスは大きな家に一人で暮らすこととなり、
仕事が終わって帰宅すると、自分を振り返って後悔するばかりの日々を送り続けた。
124
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:16:00 ID:n3xO70qA0
その後悔が溜まりにたまったある日、再度、ハインの言葉を思い返した。
街中がひっくりかえるような大騒ぎ。
爪'ー`)「……やってやろうじゃないか」
口元は異様に歪ませて、フォックスは計画を立て始めた。
知り合い筋を辿って協力者を探し、金を積み、材料をそろえ、街が一番浮かれる日に目途を立てた。
それがクリスマスイブの夜だった。
フォックスは以上の内容を長々と語り続け、その日ショボン宅にいたデミタス、ワタナベ、ハインの三人に話せて聞かせた。
話が終わり、フォックスが沈黙したことで、ようやくデミタスは話が終わったことを理解し、そして口を出した。
(;´・_ゝ・`)「……え、それが目的なの? そんなのに私を巻き込んだの? まじで?」
爪'ー`)「ああ、私も必死だったのだ。とれる手段はなんでもとろうと思った」
(;´・_ゝ・`)「いやいやいやいや、必死って、そんな理由でこんな犯罪に巻き込まれるなんてわけが」
125
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:16:59 ID:n3xO70qA0
从'ー'从「よくわかりました、フォックスさん」
爪'ー`)「ん」
(;´・_ゝ・`)「え」
从'ー'从「あなたもあなたで辛かったのでしょう。どうしても、ハインの気が引きたくて」
爪'ー`)「……まあ、そういうことになるな」
(´;_ゝ;`)「……コーヒー淹れてきます」
デミタスがいそいそと炬燵から抜け出したあとも、ワタナベはフォックスを見つめ続けていた。
从'ー'从「フォックスさん、正直に言って、そんなことをしてもハインが振り向くとはまったく思いません」
爪'ー`)「……そうだろうな」
言いながら、フォックスはポケットを弄り、煙草の箱を取り出した。
慣れた手つきで火をつけ、口にはさみ込む。
爪'ー`)y‐「しかし、それでは私はどうすればよかったんだ。
ハインは、今でさえも、こうして口をきいてくれないじゃないか」
126
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:18:01 ID:n3xO70qA0
息を吐きざま、フォックスは顎でハインを指した。
当のハインはというと、こたつの一辺で、フォックスの方を見ないように首を曲げて丸くなっていた。
ワタナベはその姿を一瞥し、再びフォックスに視線を戻す。
从'ー'从「フォックスさん、本当にやれるだけのことはやったとお思いですか?」
爪'ー`)y‐「やったよ。妻の介抱だってしたし、ハインの生活も陰ながら支えていた。
私が手を出せると思ったことは全てやったんだ」
从'ー'从「いえ、私はそうは思いませんよ」
ワタナベの首が横に振られる。フォックスはその様子をじっと見て、言葉を待っていた。
从'ー'从「だって、あなた自身は今も変わらず、仕事を続けているじゃないですか」
何を言われたのか、すぐには理解できずに、フォックスは固まってしまっていた。
やがてワタナベの言わんとすることがわかり、フォックスは焦りの表情を浮かべた。
127
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:19:00 ID:n3xO70qA0
爪;'ー`)y‐「君はまさか、私が仕事をやめるべきだったとでもいうのか?」
从'ー'从「別にやめきらなくていいです。それでも、仕事の量を減らして、もっと家族に目を向ければよかったんです」
爪;'ー`)y‐「ふざけないでくれ、私が今の地位を築くまでにどれだけ努力してきたと思っているんだ。
だいたい仕事がなければ物も買えない、ハインだって養えない、それなのに、それを捨てるなんて」
从'ー'从「今のあなたほどお金を持っていなくても、普通の生活は送れます。
それにそんなのハインが気にするはずないじゃないですか。
ハインはずっと、仕事ばかりにご執心なあなたのことを嫌っていたんですから」
ワタナベの顔が、今度はハインに向けられ、ハインは思わず身構えた。
从'ー'从「そうでしょう、ハイン?」
从 ゚∀从「……まあ、な」
爪;'ー`)y‐「いい加減にしろ!」
ハインの返答を切り裂くように、フォックスが勢いよく立ちあがった。
128
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:20:01 ID:n3xO70qA0
爪;'ー`)y‐「私は今の地位を誇りに思っていたんだ。これのおかげで何不自由なく物をそろえることができる。
学校にも行っていないお前を養うことだってできる。それの何が悪いというんだ!」
从#゚∀从「だからその、全部自分の手でなんとかなるって思ってる態度が気に食わねえんだよ!
いい加減にするのはお前だろこのわからずやめ!」
興奮したハインは、立ち上がるとフォックスに飛びかかった。
爪#'ー`)y‐「お、おいやめろこのバカ」
从#゚∀从「うるせえ!」
从;'ー'从「ちょっと! 喧嘩はやめてって」
从#゚∀从「あんたもいちいちしつこいんだよやっぱり!」
从#'ー'从「は、はあ!?」
(;´・_ゝ・`)「コーヒーおまち……あ、あれ? みんなどうして暴れているの」
129
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:20:59 ID:n3xO70qA0
慌てたデミタスがおぼんをこたつの上に乗せ、取っ組み合いの仲裁に入ろうとした頃
ひっそりと、その家の玄関が開かれていた。
やがて物音が、急ぐ足音に代わり、リビングのドアが開かれるそのときになるまで
その場の人たちは全くその人物が入ってきたことに気付いていなかった。
(´・ω・`)「…………」
ドアの開く音に気付いて、取っ組みあっていた4人は動きを停止した。
そのまま、各々視線を、入室してきた彼に集中する。
ショボンはその異様な光景を前に思考が固まってしまっていた。
やがて、氷が解けるように、現実味と恐怖心と、何やらが混ざったものが彼の心に流れ込んでくる。
それが、喉元まで押し迫り、叫びとなって放出された。
(´;ω;`)「ここ僕の家なんですけどおおおおおおおおお」
130
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:23:00 ID:n3xO70qA0
泣き喚きながら、ショボンは片手に握られていた傘を振りかぶり、見知らぬ人たちに襲いかかってきた。
(;´・_ゝ・`)「おい待て! 君はあれか、ショボンくんか! これにはちょっと事情が」
(´;ω;`)「知るかぼけええええええええええ、でてけやおらあああああ」
(;´・_ゝ・`)「くそ、聞き耳もたねえな」
爪;'ー`)「お、おいデミタス、まさかあの傘」
(;´・_ゝ・`)「え? ……あ。ああああ!!」
从;'ー'从「まさかあれが爆弾!?」
爪;'ー`)「おい少年、それは危険だから振りまくるのをやめ」
(´;ω;`)「うっせー、ハインさんから離れろちくしょううううううう」
131
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:25:05 ID:n3xO70qA0
ショボンの腕の振りはますます激しくなり、傘にこびりついていた雪がはじけ飛んでいく。
事情を知っている人たちは恐怖し、一目散に玄関へと走っていった。
さっきまで喧嘩であわただしく賑わっていたリビングは、急に静かになった。
(´;ω;`)「やった、やったぞ。ハインさんを守ったんだ」
ショボンの目には、まさしくそう映っていた。
胸の奥では熱い心が滾り、呼吸も荒くその場に立ち尽くす。
やがて、傘を小さく畳み、ハインの方を振り向いた。
(´;ω;`)「ハインさん、お怪我は?」
从;゚∀从「…………」
唖然としていたハインは、ショボンに話しかけられたことでようやく我に返った。
132
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:26:22 ID:n3xO70qA0
それから、急にその肩が震え始める。
(´・ω・`)「え……え?」
ショボンが動揺しているのもつゆ知らず、ハインは力なく微笑んで
それから倒れ込むようにして、勢いよくショボンの身体に飛びついた。
从 ;∀从「わーーーー、ありがとうううううう」
(;´・ω・`)「ええええええええ、なんで泣いてるの!? なにがあったの!?」
ショボンの質問にも全く答えず、ハインの腕が一心不乱にショボンに絡みつく。
力強く抱きしめられたまま、ショボンは首をかしげつつも、ハインをどうにかしてなだめようと思案し続けていた。
133
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:28:31 ID:n3xO70qA0
17.
繁華街は、夜中だと言うのに煌びやかで、人々も活発に歩き回っている。
それでも、スカルチノフの周囲には妙に空間が生まれていた。
誰も、みすぼらしい老人に近寄ろうとは思わなかったのだろう。
それに、スカルチノフの姿は異様だった。
雪の中で傘もささず、目だけをぎらつかせ、その腕には、どこからか拾って来たのか、鉄の棒が握られている。
視線は、ただ、繁華街の中心に立てられた機械仕掛けのクリスマスツリーにのみ向けられていた。
電飾が明滅し、赤や黄色の暖色系のやかましい灯りを放っている。
スカルチノフの顔もまたそれに照らされた。近づくたびに、強く。
やがて、鉢を模した部分に辿りついた。
土は無く、電飾の電源が剥き出しの状態で置かれている。
134
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:29:15 ID:n3xO70qA0
このクリスマスツリーを設置しているのは繁華街の組合の人たちであり、数時間おきにこの電飾を調整しに来る予定になっていた。
もう少し夜更けになり、時刻が変わることになれば、灯りの強さを和らげに来る。そして深夜帯では消されてしまう。
今の時間帯ならば誰もいない。スカルチノフはそのことを知らなかったので、運よく都合のいい時間帯にこの場所にこれた。
これを破壊する。
今のスカルチノフには、それが人生最大の大仕事のように思われていた。
そのあとは、一人公園にでも座りこみ、凍死するのを待つ。そうしてこの空っぽの人生に幕を引く。
想像して、興奮した。
目的をもつというのは、こんなにも嬉しいことなのか。
死を前にしてスカルチノフはそんな感慨に耽っていた。
ふと、耳にざわめきが伝わってきた。
ひょっとしたら自分がここに立ち尽くしていることを怪しまれているのかもしれない。
ここで止められてしまっては全て水の泡だ。早いとこ仕事に取り掛かろう。
スカルチノフはそう思い至り、息をひゅっと噴き出して、それから鉄の棒を持ち上げようとした。
135
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:30:18 ID:n3xO70qA0
( ・∀・)「やっと、見つけましたよ」
声がして、動きを機と止める。
顔を無理やり後ろに向けると、端正な顔立ちの青年が立っていた。
( ・∀・)「お父さん」
彼の頭には、白地に青の帽子があった。
今の彼の頭にはサイズが合っておらず、クリスマスの仮装にある小さい帽子のように、頭の上にちょこんと乗せられた状態になっている。
その帽子と同じデザインの帽子を、今のスカルチノフもしっかりと被っていた。
もう何年も前からそうしてきていたのである。
/ ,' 3「お前は……」
スカルチノフが、一言、ぼやく。
その目は次第に大きく、見開かれていった。
136
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:31:01 ID:n3xO70qA0
18.
青年、モララーは驚きを隠せないでいた。
これほどの奇跡があるだろうか。もう何年も探し、諦めていた父が隣町に居て
しかもこんな夜に出会うことになるなんて。
モララーが一歩踏み出す。すると、スカルチノフは鉄棒をモララーに向けた。
/ ,' 3「来るな。来てもなにも、いいことなどない」
挑発が、大した意味を持っていないことはわかりきっていた。
体格も、体力も、モララーの方が圧倒的に上だ。攻め込めばモララーは勝てるだろう。
でも、実の父にそんなことをする気にはなれなかった。
なんとか説得で、彼の気を静めよう、そう心に決めていたのである。
137
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:31:59 ID:n3xO70qA0
口を開いたのは、スカルチノフだった。
/ ,' 3「その帽子をかぶっているということは、お前はわしの息子なのだろう」
モララーの心臓がどくんと鳴る。
この人が父親であることは正しいようだ。
話そうとしたが、その前にスカルチノフが口を出す。
/ ,' 3「だがしかし、どうしてお前がここにいるんだ」
( ・∀・)「たまたま、デミタスさんという探偵にあなたのことを教えてもらいましたから」
/ ,' 3「む、あいつと知り合いじゃったのか?」
(;・∀・)「知り合い……まあそんなものですかね」
/ ,' 3「ふむ、そんなことがあるとはのう」
スカルチノフはぼんやりそう言う。
偶然について何かしら言葉があるのかと思われたが、そうでもなく、老人はそれきりしゃべらなくなった。
モララーは肩を竦め、それから昔話を始めた。
138
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:32:59 ID:n3xO70qA0
( ・∀・)「僕の母親が、僕を連れて、あなたを捨てたのはもう15年も前のことでしたね。
当時、僕はわけもわからず、母親に腕を引かれてアパートを出た。
あなたは友人から押しつけられた膨大な借金を抱えたまま、アパートを出て、隣町であるここに流れ着いた」
( ・∀・)「そして今の今までホームレスとして暮らし続けていた。
そうなのでしょう?」
/ ,' 3「……そんなことまで、どうして知っているんじゃ」
( ・∀・)「そりゃ、今までも少しは調べましたから。
今日会えるだなんて思ってはいませんでしたけど」
/ ,' 3「不思議なことがあるものじゃのう」
( ・∀・)「本当に、そうですね」
モララーとスカルチノフには一定の距離が保たれていた。
お互いに、その距離を縮めようとも、伸ばそうともしない。
それが今の二人にとって、最適な距離と言えた。
モララーが父を探していたのは、自分にのしかかっている罪悪感からだった。
幼心にも、自分の母が父を見捨てたということは理解できた。
そしてその母についていった自分もまた、父を見捨てたのだと、ずっと思い続けていた。
139
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:34:00 ID:n3xO70qA0
( ・∀・)「お父さん、その鉄棒、どうするつもりなんですか」
/ ,' 3「……そんなこと聞いてどうする」
( ・∀・)「それを、そのクリスマスツリーに振りかざそうとしているように見えたものですから。
もしそうなら、僕はあなたを止めたい。そしてあなたを連れて帰りたい」
/ ,' 3「お前もまたおかしな奴だな。こんなホームレスを連れて帰りたいなどという奴、そうはいないぞ」
( ・∀・)「困っている人は助けたくなる性質なんです」
/ ,' 3「損な性格じゃ。わしもかつてそうだった」
かつてスカルチノフを破産させた、莫大な借金は、スカルチノフが友人を助けようとしたために引き起こされたものだった。
スカルチノフの指摘には、その思い出が含まれているのだろう。
しかし、モララーはどちらかというと、父と同じと言われたことにちょっとした嬉しさを感じていた。
スカルチノフが、微笑む。共感だろか、モララーにはその真意はわからなかった。
それでも二人を包み込む空気ごと柔らかくなったように思えたので、モララーは今一歩、父の下に近づこうと足を動かした。
140
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:34:59 ID:n3xO70qA0
ところが、スカルチノフはすぐに真顔に戻り、首を横に振る。
/ ,' 3「近づいたら、こいつをこのツリーに振る。
そうすればわしは捕まるじゃろう。お前と会うのはもっと長引くじゃろうな」
(;・∀・)そ
モララーは咄嗟に、腹から声を出す。
(;・∀・)「そんなことして、何になると言うんですか!
家に帰るなんて、普通のことでしょう。あなたの家族なんだから。
それを拒否する理由がどこにあると言うんですか」
/ ,' 3「わしがもう、自分から進んで死のうと思っていたからじゃ」
スカルチノフは愉快そうに、歯をむき出しにして述べた。
/ ,' 3「その前に、このツリーをド派手に破壊したい。その考えに強く魅了されたんじゃ。
何もない、空っぽの、薄っぺらな男がようやく手に入れた望みを、打ち消そうとしないでくれ」
141
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:35:59 ID:n3xO70qA0
老人の歪んだ顔についた二つの目が、狂気に満ちているのに気付き、モララーの背筋に悪寒が走った。
しかし、すぐに首を横に振り、それから足に力を込める。
(;・∀・)「そんなわからずやな言い分、通らせるもんか!」
モララーが飛びかかる。
そしてその動きが、スカルチノフを捕まえるのに十分ではない速さだということも理解できた。
だけど、止めたい。その思いだけはひたすらにまっすぐだった。
スカルチノフはクリスマスツリーを向き直る。
モララーが叫ぶ。とにかく、大きな声で。
寒空に音が響き渡った。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板