[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
( ^ω^)ヴィップワースのようです
1
:
名も無きAAのようです
:2013/10/20(日) 22:13:35 ID:mGY.ofts0
【 まとめ様 - Boon Romanさん 】
ttp://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/vipwirth.html
前スレ ( ^ω^)ブーン系創作板過去ログ(第9話〜第11話まで)
ttp://jbbs.livedoor.jp/internet/13029/storage/1339772726.html
前々スレ ( ^ω^)ブーン系創作板過去ログ(第5話〜第8話後 幕間2話まで)
ttp://jbbs.livedoor.jp/internet/13029/storage/1326485180.html
前々々スレ ( ^ω^)ブーン系小説板(第0話〜第5話途中まで)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/37256/1307375951/
171
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:07:22 ID:On.hHc8M0
人の世に、仇なし続けること。
(それが……いいんじゃねぇか―――)
人を食い散らかすばかりが、自らが在るべき理由ではないはずだ。
そこで、彼らと戦い続けることではないのか。
それにこそ、自分の求めてきた答えは埋もれているのかも知れない。
―――不意に、きぃきぃと蝙蝠たちの鳴き声が聞こえた。
それらは、一羽たりとて夜空に羽ばたいていく事はない。
枝にぶら下がる彼らが煌々とした瞳を向ける先には、王の姿があるからだ。
遍く夜の支配者に拝謁賜った彼らは、微動だにせずその闊歩を送り出してくれた。
从 ゚∀从「そう思うだろ、お前たちも」
172
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:09:12 ID:On.hHc8M0
ヴィップを発った後、気まぐれに訪れた農村をぶらりとうろついてみた。
何一つも刺激がなく、得るものもなかった事から、すぐに村は後にした。
そして今は、ひたすらに西を目指している。
気まぐれに当て所のない旅をする事は、これまでにもままあったことだ。
ただ今回は直感に身を任せて、それに従うようにして歩き続けた。
この先で何やらきな臭く面白い事が起こりそうだと、勘が囁いたからだ。
少しだけ、胸は期待に膨らんでいた。
あの男、あの連中のように、自分を楽しませてくれる人間が現れるのではないかと。
猛々しく名乗りを上げながら、最後にはたった一人、実力で自分を倒してのけた。
今にして思えば、かつて自分を破った男ほどには、練達した剣の使い手ではなかったはずだ。
それでも決着の直前、あの時にも似た興奮が確かに去来したのだ。
173
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:10:23 ID:On.hHc8M0
ある日の、どこかの戦場での出来事だったか。
幾多の人間を血で染め上げて、また自らも無数の剣に貫かれながら、感じていた。
胸の奥から突如噴き出した高揚が、朱と紅に染まる頬の上から、熱い風を撫で付ける感覚を。
死を覚悟して撃ちこんでくる者たちの戦列を打ち崩しながら、湧き上がったのは征服感。
目の前で幾つもの命を散らしながらも、だが同時に訪れたのは、知った事のない感情だった。
もしかすると、死ぬのではないか。
次の瞬間には、二度と目覚めが訪れることのない一撃が来るのではないか。
だが臆しているわけではなく―――むしろ、それに満たされていた。
さほど執着もなかったはずの生と死が入り乱れさなかでは、初めての恐怖と喜びとがせめぎ合って。
互いの全存在を賭けて戦う事への喜びに目覚めた時、確かに自分は吠えていた。
それこそ自身にとって、この世に生まれ落ちて二度目に上げた産声なのだ。
174
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:11:57 ID:On.hHc8M0
破滅する事への願望があるわけではない。
ただ、散りゆくその瞬間にこそ、命は一際の光彩を放つ。
その時人間は、自身の想像を遥かに凌駕した力を見せてくれる。
そんな戦いの中でこそ、自分は生きていると思える。
生と死の狭間で無為に永らえ続けるだけの命に、価値を見出す事が出来る。
人が死を免れようと抗うさまに、愉悦を感じているのだろうかと考えた事もあった。
だがあの連中との戦いを経て、やはりそうではないのだと結論付けることにした。
極限の緊張感の中、生涯最後となろう一撃を放つ瞬間、人は全てを賭けてくる。
そこから生を拾うため、どうでもいいほどに短い余生を繋ぎ止めるため。
もしかすると、もっと下らないもののためかも知れないが。
それらの強い命を吹き消す度に、充足を得る。
自分もまた、高みへと昇っていけるような気がした。
175
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:13:00 ID:On.hHc8M0
互いの生死を分かつ刹那を迎える瞬間。
その時の自分の表情には、きっと自然に笑みがこぼれているのだろう。
恐怖や、絶望。
あるいは―――死。
そんな、自分にはないものを与えてくれるのではないかと、期待を寄せてしまう。
从 ゚∀从(そういや……あいつは、まだ生きてやがんのかな)
初めて人間に倒された時は驚愕のあまり、ただ忘我したものだった。
176
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:14:04 ID:On.hHc8M0
衝動に駆られて夜道で襲った、たった一人の人間に返り討ちにあうなどと。
面と出くわした吸血鬼始祖を、仕事帰りついでで斬れるような男など、一体何人いることか。
だが二度目の敗北では、屈辱や、怒りなどといった感情をも超えていた。
人という種に、その戦いに、賛辞すら送りたいと。
何が、お前たちを強くさせるのか。
戦いのさなか、思惑の中ではとうにあの男は這いつくばっていたはずだ。
そうして、他の弱い人間同様に命乞いをするだろうとばかり思っていた。
だが、一度は死に瀕する程の痛みと恐怖を与えても、なお立ち向かってきた。
たじろぐこともなく、ひるむこともなく。
やはり、昏き生涯に唯一熱を与えてくれる存在。
だからこそ、その人間達を間近で観察する事が趣味となってしまったのか。
気づけば、頭上の月は満ちていた。
177
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:16:03 ID:On.hHc8M0
从 ゚∀从「仲間……ねぇ」
弱く、もろい肉体。
儚く、あっけない命。
それでも、自分と互角に渡り合えるものは、確かに居た。
その力の源流が、どこから湧き出ていたのか。
そしてそれは、あのブーンたちと同じものなのだろうか。
知るすべは、やはり自らを戦いに投じ続ける道しかないのだろう。
そうして、薄っすらと月明かりが差すあぜ道のでこぼこを、ゆっくりと踏みしめた。
ただ生き続けるだけの日々、安々と吹き消えはしない命としての軽さ。
そんな自分のような種に、生の実感を与えてくれる人間と、出会いに行くために。
彼らの曖昧な力は、自らを昂ぶらせて止まないのだ。
178
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:16:51 ID:On.hHc8M0
从 ゚∀从「………」
ふと、鋭敏な感覚が一人の男の気配を捉える。
双眸に宿す昏く沈んだ光が、まっすぐにその方向へと向けられた。
一人の男が、歩いてくるのが解った。
( )
不意に、欲求が湧き上がる。
定宿を持たない自分には、久方ぶりの旅はある種の開放感をもたらしめたようだった。
血への渇望だ。
179
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:19:13 ID:On.hHc8M0
从 ゚∀从(そういえば……マドマギアじゃあ人間の食い物を口にしてばかりだったっけな)
人の社会に溶け込む術は身につけている。
空腹感を満たすのには、彼らの食事でもって補うこともできた。
だがそれだけでは、渇く。
疼きを止めるには、至らないのだ。
ざっ、と一歩を踏み出すと、視線の先に立つ男を正面から睨めつける。
( )(………)
180
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:20:32 ID:On.hHc8M0
男の姿は、半分だけ月明かりに照らされている。
遠目からでは目を凝らしても、その表情までは浮かび上がらなかった。
从 ゚∀从(どれ……久しぶりに)
”食事”を思い立った自分がその場で足を止めたのを、向こうから来る男も気付いたようだった。
咄嗟に、良からぬ気配だと感じ取れたか。
そして、その勘は正しい。
数ある人にとっての天敵の中で、最も悪い部類に属するものと鉢合わせたのだ。
それこそが、男の不運。
181
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:21:38 ID:On.hHc8M0
踵を返して逃げようとも、あるいは素知らぬ振りをして通りすぎようとも。
瞳に真紅を宿したヴァンパイア・ロードからは、死を免れる術などない。
从 ゚∀从「………?」
だが、様子がおかしい。
( )
男の元へと押し寄せる、殺気の奔流。
たとえ種は違えど、それに気づかぬはずはない。
182
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:22:20 ID:On.hHc8M0
今も、男はその場に立ち尽くしていた。
こちらの様子を伺うかのように、動きを見せる気配もなく。
あるいは呆れるほどに感覚の鈍い男か。
だが、そうでないとしたらどうだ。
閃きにも似た考えが浮かんだ時、男はそっと歩み出る。
やがて月明かりのもとで、その疵面が露わになった。
( ゚д メ )
183
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:23:48 ID:On.hHc8M0
黒ずんだ麻袋を背負い、袖の破れた武道着に身を包むのは、傷が片目を覆う男。
一目に頑強そうなその男は、恐らく剛胆であり、限りなく自信に満ちあふれていた。
夜に閉ざされた街道を一人歩く黒衣の女の姿を、訝しむでもなく。
自然体と言ってもいいだろう。
表情が強張るでもなく、警戒に身構えるでもなく。
ましてや心にさざ波一つ立てるでもなく、ただこちらを見下ろしていた。
落ち着き払った立ち居振る舞い。
まるで、うつろう大気のようにも空虚な男だ。
だが瞳の光には、猛禽以上の鋭さを宿している。
敗北の代償に、己の命を差し出すような鉄火場にも慣れている男だと解った。
184
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:25:26 ID:On.hHc8M0
この疼きが、物語る。
目の前の男の強さは、きっとこの200年を見渡しても存在しなかったと。
人の身でありながら―――人ならざる力を感じるほどにも。
その面構えをしっかりと確認すると、顎を引きながら口元に笑みを浮かばせた。
从 ゚∀从「………よう!」
鋼のような密度に固められた、上腕。
野生動物のそれに劣らぬであろう、健脚。
生命力と強さに満ち溢れたその男の肉体を目の当たりにした時、溢れだした。
吸血鬼の本能を抑えつけるほどの、際限なき闘争への欲求が。
もはやそれを留める事は出来そうにない。
185
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:27:16 ID:On.hHc8M0
( ゚дメ )「……人、ではないな」
从 ゚∀从「あ・た・り♪」
( ゚дメ )「道を譲るつもりもないんだろう?」
从 ゚∀从「それも当たりさぁ。
あっ、そうそう、俺はハインリッヒってんだ」
( -дメ )「知らん名だな」
その場にどさりと麻袋を放り捨て、男は深くに腰を落とした。
こちらの殺気を掻き消すほどの闘気が途端に流れ込むと、蝙蝠たちはざわめき始める。
186
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:28:21 ID:On.hHc8M0
男の手の中には武器などなかった。
ただ空を手に、徒手で吸血鬼始祖と渡りあうつもりなのだ。
だが、それがいい。
それでもきっと、渡り合うだろうと思えた。
从 ゚∀从「かっかっか。
さて―――」
片足を踏み込むと、10歩の距離を一度に詰めるほどの勢いで飛び出す。
背を包む外套の端が、瞬時に急激な風を受けてはためく。
何一つ脇目をふる事なく、地に沿うようにただその男の元へと疾駆した。
187
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:30:32 ID:On.hHc8M0
( ゚дメ )「ミルナだ。
――――来い」
出会いは、いつも唐突に訪れる。
今日という日は、きっと最高のものになりそうだ。
さぁ、お前の戦いを見せてくれ。
从*゚∀从「ちょっぴり……味見させてもらおっかなぁぁぁッ!!」
夜空に舞い踊る黒い翼は、自身の歓喜で翻っていた。
188
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:31:56 ID:On.hHc8M0
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「夜(1)」
-続-
.
189
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:35:01 ID:On.hHc8M0
本編から逃れてちびちび書いてたら形になってしまったので、年内最後の投下でした。
Nexus7を購入予定なので、しばらくは読者として快適なブーン系ライフを送れそうです。
よいお年を!
190
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:36:25 ID:a412PFGs0
相変わらず夜中に
この二人の対戦はヤバすぎるな
おつ! よいお年をー
191
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 08:58:17 ID:HrAoYGJM0
乙
192
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 13:29:38 ID:nzlpC4B.O
乙!
193
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 17:16:03 ID:YoRuDodsO
ω・;)乙。どっちが強いのだろうとは思っていたが…。ハインガンバレ。
194
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 21:57:59 ID:G21/Ij6w0
夢の対決だ
195
:
名も無きAAのようです
:2013/12/30(月) 14:27:47 ID:RkBLmpQw0
おつ
196
:
名も無きAAのようです
:2014/01/08(水) 19:57:58 ID:npfp8pSY0
ふとした閃きでようやく完結までの納得いく構想が湧いたったw
本当は20話記念で投下した回以降の話が核になるかと
色々話を繋げなきゃないんだけど、長編書く時間が取れないので2024年度中には……
197
:
名も無きAAのようです
:2014/01/08(水) 20:26:07 ID:RosdeIGMC
あと10年もかかるのかよ、間違いなく最長連載記録になるな
198
:
名も無きAAのようです
:2014/01/08(水) 20:44:54 ID:L3TbxrVc0
10年くらい短いもんよ
199
:
名も無きAAのようです
:2014/01/09(木) 01:19:18 ID:Jgwi3bJ.O
ω・)てか構想できてなかったのかwww
200
:
名も無きAAのようです
:2014/01/18(土) 21:48:59 ID:Jtx7saTgC
55%分なら今日、明日にでも投下可能ときいて
投下前の支援
201
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 01:01:15 ID:DpHggIRM0
あと25%っすわぁ
コーヒー買ってくる
202
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:17:59 ID:DpHggIRM0
比類なき速度。
筋肉、目線の動きに注視する。
――見てからでは、間に合わないと悟った。
从*゚∀从「ひゃあぁぁッ!!」
ひん、と耳元を風が抜けていく。
頬の肉すらこそぎ落とされるような錯覚に、事実、それだけの威力を持つと確信した。
刃と違わぬ威力を、この細身から容易く生み出しているのだ。
力を組み上げる動力が、そしてその容量自体が、人のそれとは比較にならない。
瞬時に必殺の一撃を繰り出せるだけの肉体の芯の強さだけではない。
的確に急所を捉える目の良さも、動物並の反射神経も、身体の柔軟性も常軌を逸している。
203
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:22:57 ID:DpHggIRM0
もしも人が人としてここまでの高みに立てるのならば、男闘虎塾など、とうに看板を降ろさなねばならないところだ。
だがこいつはただの化物。
常識など通用しない、人という枠組みの埒外に存在している。
かような女の見た目に惑わされるようなことなど、決してあってはならない相手だった。
拳、手刀、肘鉄。
叩き落とし、払いのけ、身をかわした。
( ゚д メ )「……ッ!」
204
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:24:38 ID:DpHggIRM0
そこでだらりと両腕を下げた化物が、下から舐めるように顔を覗きこんでいた。
一息に三発の致命打を繰り出した今のですら、ほんの小手調べといったところか。
そして、どうやら俺は奴のお眼鏡にかなったとみえる。
从* ゚∀从「へぇッ?」
だが、連撃はまだ終わっていない。
油断を誘って貫手が眼窩を狙いすましてきた一瞬、身を捻りながら拳を合わせる。
頭蓋の一部を破砕した感触。
それはひどく鈍い、不気味な音。
一切の加減を省いた”鉄撃”は、相手が人であるならば命にまで届く。
そんな会心の一打に手応えを得ながらも、微塵も気は抜けなかった。
从 ∀从「――かっ、かかっ」
205
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:26:45 ID:DpHggIRM0
頭蓋を砕く音を鳴り響かせてさえ、この化物は平然としていた。
衝撃に一度顔を背けた後に向き直り、それでも、笑みを浮かべて。
この不死身は――――厄介だった。
从 -∀从「んっ……いやぁ、スゲェ偶然なんだけどな」
从 ゚∀从「お前みたいな奴とヤリあってみてさぁ。
俺の意外な弱点が判明しちまった事に、今は驚いてる」
( ゚д メ )「………」
首を鳴らしておどけるような仕草を見せながら、今も纏う、つかみ所のない殺気。
206
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:28:07 ID:DpHggIRM0
中身は化物であるというのに、一見すれば外っつらは人間臭い。
それが人間の言葉を理解しているのだから、面倒な奴だった。
いつか、座学の師に聞いた事がある。
知能の高い化物は巧みに人を欺き、自らを擬態させるための皮を被る。
そこから、移ろいやすく崩れやすい人の心をも壊しにくるのだと。
恐らくこの見た目にほだされ、油断して殺された人間は数え切れないほどに登るのだろう。
ためらう感情も持たず、残虐に、それを嗤いながら実行できる相手だと思えた。
从 -∀从「斬られりゃすぐくっつくけどよぉ、殴られんのって……案外痛ぇのな」
207
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:29:23 ID:DpHggIRM0
痛みや怒りに任せて攻撃を仕掛けてくれればまだ楽なほうだ。
だが、全てはこいつ自身の単なる気まぐれなのだろう。
言動と行動の不一致、それこそが恐ろしい。
化物なりの感情というものを、人が想い描くものに当てはめてはならないのだ。
それを覗きこんでいる時、きっと向こうからもこちらを伺っている。
从 ゚∀从「ったく……治りも遅ぇし、こりゃあちっとばかし相性悪ぃや」
( ゚дメ )「ほぉ」
だからこそ、耳を貸すつもりは毛頭ない。
間合いなど関係なく、どこからでも死に至る打撃を仕掛けてくるのだろう、今にも。
つぶさに動きを観察しては、その瞬間を待ち伏せる。
208
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:30:40 ID:DpHggIRM0
手元に引き寄せられて掴まれれば、そこで勝負は終わる。
難なく首をへし折られて、俺は死ぬだろう。
全面に出て肉弾戦に応じる風を装いながら、その実、奴の攻撃を誘って迎え撃ち続けるしかない。
从 ゚∀从「けどよぉ――もっとだ。
もっと、見せろよ」
身体能力においては、この自分をして互角といえるかどうかも疑わしいが。
それでも、血反吐を吐きながら叩き上げ、精神をすり減らすと共に磨きぬいてきたこの肉体。
その場所に宿る武だけは、決して裏切らない。
从 *゚∀从「お前も結構――イイ線いってッからよぉッ!」
209
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:31:46 ID:DpHggIRM0
( ゚дメ )(そら来た)
切れ味は刀、重さは鉄槌。
飛び上がると同時、そんな右の足刀が空を切り裂く。
微かでも初動を見切るのが遅れていれば、首から上はそこらの茂みへと転がされていただろう。
それを下がるのではなく、逆に高めから放たれた軌道を読み切っては、潜り抜けた。
すかさずに地を踏みしめ叩き込んだ”裡門(りもん)”は、奴の痩身を吹き飛ばすのに余りある威力だったようだ。
从 * ∀从「ごッ―――オボォッ!!」
転がりながら吹き飛んでいく奴の表情には、未だ貼り付いた笑みが離れない。
それはきっと、余裕とは違う。
むしろ自分自身が痛めつけられる、その過程すらをも楽しんでいるのだ。
210
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:33:00 ID:DpHggIRM0
( ゚дメ )(戦闘、狂か)
自分の口からそれが出そうになって、思わず舌打ちした。
同族嫌悪というやつか。
俺もまた、拳を交える事を楽しんでいたような男だった。
今でこそ、遠い昔のことのように思えるものの。
だがそんな日々を過ごす内、武はこの身に宿っていった。
いつしか、日常生活の何気ない仕草よりも馴染んでしまっていた。
そしてそれが今、奴によって放たれる致命打の数々を確実に打開してくれている。
この瞬間を生き続けるための術を、呼吸を、間合いの取り方を。
死なないための戦い――細胞の一つ一つが、俺にそれを教えてくれている。
211
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:36:45 ID:DpHggIRM0
( ゚дメ )「同撃で叩きこんだはずだがな。
俺の裡門をして、数秒とは恐れ入る」
从 * ∀从「……くく。
あ、あはっ」
力、速度こそ冷や汗ものだが、女の化物はまるで素人同然の動きだった。
裏を返せば、つけ込むべき隙はそこにしかないという事だ。
打撃だけでは討ち果たせない、この不死身の肉体。
命を持たぬ存在――不死の妖魔。
だからこそ、やりようはある。
”螺旋の力”が持つ強い生命力は、それに対して絶大な威力をもたらしめるからだ。
いやいやに座学で学んできた知識が、ここに来て役立ってくれた。
そんなものは必要ないと喚き散らしていたあの頃の自分を恥じては、拳をより固く結んだ。
212
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:38:59 ID:DpHggIRM0
( -дメ )「大した化物だ」
(−――それでも、俺以上と言えるのかな―――)
浮かんだ雑念を構えと共に振り払って、上体を深くへと落とす。
偉大な師や、共に励まし合い支えあった門弟たち。
極限を追い求めて苛め抜き、それに応えてくれた自らの肉体に、今は感謝だけを贈ろう。
ひとたび外してしまえば以降は警戒される。
ゆえに、一撃必殺をもってこいつを葬る以外にない。
言うは容易い。
行うは、獣道。
213
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:40:11 ID:DpHggIRM0
从 *゚∀从「あはは、クソがッ……これ、いってぇなァッ!」
( ゚дメ )(通ずる……か?)
数刻は意識が混濁するような一撃をものともせず、翼のような外套をはためかせ、再び襲い来る。
見れば、先ほど砕いたはずの頭蓋も元通りの形を保っていた。
今この時すら、身に受けた傷を修復させているというのか。
( ゚дメ )(……いいや、押し通す)
化物との立ち会いは、この夜が初めてではない。
今ほどに危うい状況をも、生き抜いてきたと自負があった。
忌々しくも、感慨深いあの夜がよぎる。
214
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:42:17 ID:DpHggIRM0
自らの命を省みぬ明日なき戦いの末に、俺を呪って死んでいった。
傲然と月に吠える奴の姿は気高さを伴って――未だ、俺の脳裏を過ぎて離れない。
奴は不死身ではなかったが、その牙も爪も、ひたすらに恐ろしかった。
だがあの時も、今も。
俺に言わせれば、どれも同じ夜。
从 *゚∀从「そろそろ俺にも殴らせろよ」
215
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:43:58 ID:DpHggIRM0
月の見える夜は、何故だかあいつの事ばかりを思い浮かべる。
あいつはずるく、臆病で、今の俺のように狡猾な戦い方を嫌っていたのではないか。
あの魔狼ならば、俺のようにちまちまと死なないような戦いをするのではなく、
きっと胴体を刺し貫かれてでも、奴の首元をごっそりと噛み千切っていただろう。
奴には、守るべきものがあったのだろうか。
なかったからこそ、俺のような人間に討ち取られたのかも知れない。
あるいは、俺はあいつに―――
216
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:45:37 ID:DpHggIRM0
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「夜(2)」
.
217
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:46:39 ID:DpHggIRM0
从*゚∀从「よけんなよ?」
再度、雑念を遮断する。
右の瞳から伝達された情報が直接体に叩きこまれると、奴の拳を自然にいなしていた。
( ゚дメ )「その馬鹿力じゃあ、お断りだな」
幾万もの反復の末に染み付いた動作が、身体を支配する。
その場で打ち下ろした両足が、地を沈み込ませる。
凶悪なまでの破壊力を持つ力場を生み出すと、組み上げた力を、あとはそのままぶつけてやるだけだ。
体を開いてその先に伸ばした右腕の指先から、そっと押し出した。
218
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:47:49 ID:DpHggIRM0
从 ゚∀从「……あン?」
ぴとり、身に寄せられた掌。
それが何の苦痛ももたらさない事に、化物は一寸顔をしかめた。
だが、すぐに理解る。
これはほんの僅かな初動に過ぎないという事を。
( -дメ )(――――”崩撃”)
どんっ。
从)))゚゚∀゚゚)))从「カ―――」
219
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:48:56 ID:DpHggIRM0
腹部に撃ち込まれた勁は、すぐに全身にまで衝撃を伝播させ、浸透させていく。
岩間から染み出す清水のようなちっぽけな力の流れは、やがて堰を切った濁流へと姿を変えゆく。
一拍の間を置いて、爆発的な力の流れに抗えぬまま、化物の身は弾き出された。
普通ならばこの時点で吐瀉物をまき散らしてぶっ倒れているはずだけに、やはりあらゆる攻撃が効果薄か。
夜天に吸い込まれていく化物の顔は、まだ嗤っていた。
从; ∀从「―――ァッ……ハッ!」
だが、こいつにとっての苦痛は更に続くのだ。
途切れさせる事無く、力の流れを繋ぎ止める。
220
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:49:57 ID:DpHggIRM0
流るる水のような一連の動作。
その全ては、一つの技を作り上げるためにのみ集約されている。
次いで、浮雲の如く―――。
( ゚дメ )「……ふッ!」
広く、深く踏み出した一歩。
化物が吹き飛んでいく勢いよりも疾く、その脇を抜けた。
地面に倒れこむ事などさせはしない。
从; ∀从「な、ん……ッ!」
221
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:50:58 ID:DpHggIRM0
(#゚дメ )(――――”雲身”)
すでに必殺の下準備は終えられた。
不動たる山々。
その頂きに架かる浮雲を掴んで集めるほどにも困難であったこの技―――
今では、こんな化物相手にも通用するレベルにまで練り上げるに至った。
それを考えると、鍛錬に打ち込む日々の中で身体に刻んだ、古傷の一つでさえも愛おしい。
大地に根付いた下半身。
突き出した俺の肩と背には、骨の軋むほどの衝撃が重くのしかかる。
そこへ、奴の背骨がめきめきとへし折れる音が、感触と共に伝わった。
222
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:51:55 ID:DpHggIRM0
从; ∀从「―――――ッ!?」
(# ゚дメ )(技なき力は無力なり)
絶息して詰まらせた声なきうめきが耳元に響く。
行き着く先を見失った力の流れは、今、奴の体内でうねりを作り出していた。
終着点は、外だ。
荒れ狂う力の全てを、体外へと押し出してやる。
(#゚дメ )(力なき技も、また無力)
背骨を反り返らせる奴の全身を、土をえぐりながら、まだ中空へと押し留める。
223
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:53:24 ID:DpHggIRM0
己の肉体に言い聞かせた。
今の自分は、天体儀のようにまるい、まるい球であるのだと。
淀みなく、滑らかな円の動きを、頭の中で掴みとる。
力強く、揺るぎない真円を肉体で描いた先、奴と再び目が合った。
驚くべき耐久力。
そして、この状況からでも反撃を仕掛けてこようとする精神性。
こいつの異常なまでの闘争への意欲は――化物にしておくのは惜しい。
しかしこちらは既に、最速に届いた。
从#゚∀从「―――のッ……やッ……!」
224
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:55:37 ID:DpHggIRM0
夜天に溶け込む奴の黒い外套が、翼を広げた生き物のように視界を覆い尽くす。
背骨をへし折ったばかりだというのに、瞳を赤く輝かせながら、口元には変わらず笑みを零して。
それでも、円の動きで最速を掴んだ俺の動きに、奴の振りかぶった拳は追いつけない。
とんっ。
(#゚дメ )(即ち――――技は、力の中に在り)
真正面を捉えた。
土手っ腹にあてがわれたこの両の掌には、猛(たけ)き虎。
―――否。
(#-дメ )「”白虎”」
225
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:57:22 ID:DpHggIRM0
その毛並みが月にはよく映える、白き魔狼の牙が宿っている。
(#゚дメ )「”双掌”ッ!!」
从; ∀从「…………!?」
指先に模られた三角形。
足元から全身へと伝播する莫大な筋肉負荷を、弛緩させ、受け流した。
その全てを、再び体内へと打ち込む巨大な勁力へと換えて、解き放つ。
崩拳(ぽんけん)、穿林(せんりん)、白虎(びゃっこ)。
それら極限まで磨きぬいた三つの技からなる、肉体に致命的内傷を及ぼす技だ。
226
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:59:02 ID:DpHggIRM0
奴の体内に浸透している力のうねりは勁力に感応し、胸から背中にかけて指向性を持ち、抜けていく。
その入滅の余波が引き連れるものは、全身の血液が沸騰し、逆流し、肉体が四散するかのような感覚。
恐らくは、死ぬほうがマシだと思えるほどの痛み。
そしてあいにくと、こいつは死ねない身体なのだ。
从;゚∀从「………ッ」
ぱくぱくと、何事かを口にしようとしていた。
さしもの化物と言えど、呼吸のままならないほどの苦痛は初めての事か。
化物も息をするかどうかなど知りはしないが。
だがその瞳には、驚嘆の色がありありと浮かんで見えた。
227
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 15:00:22 ID:DpHggIRM0
直後、ひどく弾力のあるボールのように弾かれた奴の身を、すぐに目で追う。
地面で一度背中を打って跳ね返ると、放物線を描きながら再び宙空へと投げ出されていた。
(#゚дメ )(―――勝機ッ!)
渾身の連撃を命中させるのですら、綱渡りの賭けだった。
そうして手繰り寄せたこの一瞬に、全ての気を練り込む。
奥義を尽くさねば、恐らくは刈り取れない。
だからこそ孔術の師・メッシュによって学んだ技の全てを、叩き込んでやる。
体力、精神、気力の全てを使い尽くして、討ち果たす。
228
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 15:01:59 ID:DpHggIRM0
(# дメ )「……螺旋孔(らせんこう)……」
全身を流れる気脈。
その中には、人体の極限を超えた力を引き出す点が無数に存在する。
その一つ一つを開放してやる事で、人は種としての限界を超えた力を宿す。
無論、鍛えぬかれた肉体でなければ、その反動には耐えられまいが。
全盛期のメッシュ師範代は、その一から五までを開けたという。
そして、今の俺ならば――――それら七つの全てを開門できる。
瞬きするほどの一瞬の内に、自らで的確に点いた七つのツボ。
途端、この身から迸る生命力が、次第に目にも見える黄金の光として顕在する。
229
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 15:18:31 ID:DpHggIRM0
気配で、感じ取ることができた。
喚び起こされた力と共に現れたのは、俺の内に眠っていた螺旋の蛇。
そいつは今も、駈け出して行くこの背中を静かに見送っているだけだ。
挑み、挑まれた闘いの全て。
昔から今にかけてを、きっとお前は見届けてきたのだろう。
振り返る事はない。
人として生き、そして死んでいく。
隣の狼と共に、それを眺めていろ。
こんな俺だけは、何一つも変わらない。
(#゚дメ )「奥義ッ……螺光砲(らこうほう)!!」
生命力の塊を手元に束ね、踏み込むと共にそいつを突き出した。
230
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 15:22:48 ID:41MxuMZ.O
やっぱミルナ強いなー
231
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 15:30:11 ID:DpHggIRM0
とりあえず中二バトルにしとくかということで
またぶった切ってしまいますが、ここで一旦中断で・・・
続き出来てから締めますね。出来るだけ早いうちにまた
232
:
名も無きAAのようです
:2014/01/20(月) 00:39:37 ID:NQsbAhjAC
ここまでで75%か、乙
233
:
名も無きAAのようです
:2014/01/20(月) 00:59:32 ID:Azd4ezYw0
乙
234
:
名も無きAAのようです
:2014/01/21(火) 20:07:15 ID:wD1k6qv2O
晶使いだったのかな支援
235
:
名も無きAAのようです
:2014/01/21(火) 23:58:31 ID:7fulnjncO
ω・)乙。ハインガンバレ!
236
:
名も無きAAのようです
:2014/01/22(水) 00:21:53 ID:LN1IjOUs0
>>234
VF2ではアキラ初段(笑)の腕前
お仕事中に車にはねられたダメージに加えて風邪による体調不良でして
今はいまいち気が乗らないのですが、上げて頂きましたし気乗りした時を見計らって一気に……
237
:
名も無きAAのようです
:2014/01/22(水) 02:03:44 ID:gNKQJWZU0
やっぱおもろいわ
続き待ってる
238
:
名も無きAAのようです
:2014/01/22(水) 14:37:33 ID:LzGQNC.gO
ω・;)車にはねられた?!
239
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 00:33:38 ID:4FCnu8As0
無事でいてくれて本当に良かった
体をいたわって続きはのんびり書いてください
240
:
>>239 ありがたまきん
:2014/01/23(木) 19:28:48 ID:vIC6Jd6E0
魔法。
この化物には、そのように見えたろう。
己の身を覆い尽くさんばかりの、金色の波動が。
駆け抜ける極大の閃光が、夜を眩く閉ざしていく。
宙に浮かされた状態では、ろくに回避動作もままならず――
元から死せる肉体にとって、この莫大な生命力は毒以外の何者でもない。
不死者を一撃の元に葬り去る、切り札だった。
(#゚дメ )(掻き消え、失せろ)
241
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:29:34 ID:vIC6Jd6E0
無手で渡り合ってきたはずの男が、突然に放った東洋の魔法。
これがどのような効果を及ぼすか、理解も出来ぬまま奴は死ぬ。
从 ゚∀从
目を丸くした女の化物の口元は、今度は嗤っていなかった。
・
・
・
242
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:30:52 ID:vIC6Jd6E0
後に残るものは、何もない。
砂塵を巻き込んで迸った、放たれた奥義の痕跡だけ。
半ば閉じた目で、一人虚空を見据えていた。
( -дメ )「……」
誇っても良い勝利の一つのはずだった。
それへの実感が薄いのは、手応えを感じていないからか。
自分の拳が、相手の命を絶ち切るという、その感触を。
元より、幽鬼の類は孔術を用いずして倒せる敵ではない。
243
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:31:48 ID:vIC6Jd6E0
柄にも無く堂々と名乗りを上げた、あの不死者。
手応えも何も無いが、死んだのだろう。
あれほど流暢に人の言葉を話す奴とは、初めてお目にかかったものだ。
さぞ、名のある化物だったのだろうな、と。
息を整えてから踵を返して、気付く。
気付くまでに、時間を要した。
薄氷が心臓に張り付いているかのような違和感。
びりびりと肌を突き通してくる感覚が、まだ消えていない。
それは、二つの奥義による反動で、大きく消耗していたせいか。
あるいは、己の技の威力を過信しすぎるあまり、瞳が曇っていたのか。
敵の力量を見誤る事こそ、命取りとなる要素の最たるものであるというのに。
――――まだ、決着していない。
244
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:32:46 ID:vIC6Jd6E0
( ゚дメ )「……ちぃッ!!」
ぬかったか。
姿は見えない。
だが、どす黒いような殺気は再び満たされていく。
刹那、弾かれたようにその場を飛び退いた。
降り注ぐ気配に夜の空を見上げると、逆さまにこちらを見ている、いくつかの瞳と目があった。
ざわつく蝙蝠たちの鳴き声が、響き渡る。
(……どこ行く……)
245
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:34:17 ID:vIC6Jd6E0
幻聴のような、夜風に入り交じった囁き。
耳に聞こえたものだとは思えないほど、それが頭の中で涼やかに響いた。
もちろん、聞き覚えのある化物の声だ。
( ゚дメ )(外した――いや……避けたというのか)
つぶさに周囲を警戒する。
姿を見せない声の主を捜しながら、気づいた事があった。
木々の枝に留まっていた蝙蝠たちの眼光が、いつしか一斉に、こちらを向いていた
(……そっちじゃないよ……)
246
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:35:46 ID:vIC6Jd6E0
人の目を欺き、他の生き物に姿を代えられる化物。
そんなことができるとすれば、それは、恐ろしく力ある化物だ。
拳に再び力を込める。
あとどのくらい、自分の身に力が残っているのか確かめてみた。
奥義の二つまでを使って、斃すことが出来なかった。
受けた傷を再生し続ける敵と戦う上で、その消耗は大きく響く。
やがて、飛び立った蝙蝠の群れの一つが、蚊柱のように寄り集まっていった。
声は、次第にはっきりとそこから聞こえるようだった。。
.从; 从:.,「……こっちだよ」
姿なき声が、次第に肉の身体を得ていく。
これより待ち受けるは、窮地。
その場所を死地とするかは、己のみぞ知るところだ。
247
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:38:21 ID:vIC6Jd6E0
まだあと一発だけ、奥義を放つだけの力が残されていると感じた。
それを外してしまえば、あとはただ殴りあうことしか出来ないだろう。
( ゚дメ )(それも、いいさ)
いつだってそうだった。
自分には、殴るだけしか能がない。
闘いの中で、倒し、時に倒されて。
振り返ってみれば、拳を交える中で得てきたものの方がずっと多いのだ。
奥義を尽くしてさえ倒す事が出来ないのなら、瑣末な技術はもはや必要ない。
拳に入れる力を強める。
ただレベルを上げて、物理で殴ればいいだけだ。
より一層の力を籠めて。
より一層の気合を乗せて。
248
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:39:16 ID:vIC6Jd6E0
,;从 ゚∀从「ばぁっ」
肩越しに見据える背で、蝙蝠たちの親玉は完全に元の姿を取り戻す。
ゆっくりと振り返った先、先ほどまでと変わらぬ笑みを浮かべて。
从 ゚∀从「……今の、魔法かぁ?
初めて見たぜ。
正直、食らったらヤバかったぜ」
( -д メ )「――そんなところだ。
あれから、よく逃げおおせたもんだな」
从 ゚∀从「いやいや、俺もさ、ちょ〜っぴりだけ焦ったんだぜ?
途中で、あ、これヤベェとか思って、ソッコーで蝙蝠分身の術でドロンよ。
はは、ビビったろ?」
249
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:44:37 ID:vIC6Jd6E0
( ゚дメ )「……」
从 -∀从「ハッ。武道家も魔法が使えるなんて初めて知ったぜ。
これだから、人間ってやつぁ……」
お喋りな蝙蝠の化物の姿は、隙だらけのようにも見える。
だが、会話に乗った振りをして虚を衝こうとも、通じないだろう。
どこまでも余裕に満ちていた。
自分が負ける事はないと、傲慢なまでに確信している。
並大抵ではひっくり返すことのできない、隔絶的な戦力差があるのだと。
揺るぎない強者としての佇まいが、そう告げていた。
从 ゚∀从「こいつぁ、ちょっとの味見ぐらいじゃあ済まないかもなぁ」
心の芯から冷え込ませるような、紅の眼光が鋭さを増す。
250
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:46:19 ID:vIC6Jd6E0
力を貯めるだけの時間が必要だった。
だが、隙を伺うまでもなく、奴はそれを阻止しようともしない。
この身に残された生命力の残滓が、拳に黄金の光彩を施していく。
その光景をただ、嗤いながら見つめながら。
( ゚д メ )「殺せるか、俺が」
从 -∀从「うーん……どうかねぇ。
てかお前さ、なんだかさっきから……」
いつ如何なる瞬間であろうとも、放つ一撃に、死をも厭わない。
あの狼ならば、一もニも無く、こんな状況へと応じていただろう。
251
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:48:41 ID:vIC6Jd6E0
理由ならば単純だ。
血肉を得るため、生き抜くため。
きっと明快な、ただそれだけ。
俺自身もまた、そう在りたいと思うのは――――
気高く、強く。
何者にも屈せず、囚われない。
軛を引き千切る、力を意味するものではない強さへの、憧れ。
自らが理想としたはずの姿を、やはり、あの狼に見ていたのか。
だとすれば。
252
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:50:24 ID:vIC6Jd6E0
从 ゚∀从「……”コッチ側”、って感じがするんだよなぁ」
だとすれば、大切だと思うものを守ることも、あるいは作ることさえ。
それができるようなゆとりなど、俺の心には入り込む隙間もない訳だ。
(#゚дメ )(”独歩”)
――――小首を傾げる化物の言葉に、俺は聞こえない振りをした。
天に風穴を穿たんばかりの力みで放った膝。
絡めとるかのような動きでしならせた身ごなしの前に、それは不発に終わる。
从 ゚∀从「……とぉっ!」
黒く塗られた手の爪の先が、鈍色(にびいろ)に輝いて、伸びた。
253
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 20:02:13 ID:vIC6Jd6E0
このくどくてうざったいミルナ視点がもうちょっとだけ続くんですが、
明日ナオンがエサもって来てくれるそうなので、また小出しですいません
事故の件ではご心配おかけしまして
でもフロントは頭で叩き割ってやりましたので大丈夫です
254
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 20:21:11 ID:xsMrFIXgO
乙
なんだナオンって、ワイハ的なあれか?ミルナスペシャル食らわすぞ
255
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 20:55:12 ID:T1twi0pIC
乙だけどナオンってなに、それ美味しいの
それとも気むずかしくてお金がかかるものなの?
256
:
名も無きAAのようです
:2014/01/24(金) 00:46:56 ID:O3T2.j9oO
ω・)乙。石頭(笑)
257
:
名も無きAAのようです
:2014/01/24(金) 08:53:10 ID:cu2OdPs.O
独歩は入力が激ムズだった記憶支援
258
:
名も無きAAのようです
:2014/01/24(金) 17:44:23 ID:TaIYUeUQ0
1フレでGボタン離すとかマジ鬼畜なのよね
259
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:44:17 ID:i/8EQN6I0
暇だから書くわ
260
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:45:35 ID:i/8EQN6I0
首を貫く威力であろうそれを、薄皮一枚で見切る。
右腕の中に高められていく力は、もはや十分。
しかし、まだだ。
奥義を放つのは、まだ引きつけてから。
次に来る打撃を捌いて、体勢を崩してから――――
从 ゚∀从「……なぁ」
だが突如、息が触れ合うまでの間近に身ごと顔を寄せてきた動作に、その意図を察しかねた。
狙いが読めず、それを一瞬見送ってしまっていたのだ。
ゆっくりと開かれた口内から覗く牙を目にして、次の瞬間、怖気が来る。
261
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:46:25 ID:i/8EQN6I0
( ゚дメ )「……ッ!!」
甘ったるくすらあその囁きは、辛うじて聞き取れる程度のもの。
だが同時に、纏わりつくような不快感をも耳に残して。
下僕にしてやるよ。
奴はそう囁いた。
理由も分からず飛び退いたのは、腹の底を引き掴まれるような感覚に戦(おのの)いたからだ。
極めて原始的な直感に従うまま、素早く距離を取る。
いや、取ったはずだった。
262
:
平沢進いいわぁ
:2014/01/30(木) 01:47:13 ID:i/8EQN6I0
ぐん、と引っ張られた腕だけが、情けなくも、女の細腕に締め上げられてその場に残される。
突き放す、そう思って蹴りを見舞おうとしたところで、奴の狙いに気づく。
かぁ、と口を開けた奴の牙は、ほのかに青白い。
どこかで見たか。
いや、そうではない。
けれど、これの存在は知っている。
長い牙―――血を吸う――――”吸血鬼”
从 ゚∀从「優秀なツレになるぜ、お前な」
263
:
平沢進いいわぁ
:2014/01/30(木) 01:47:58 ID:i/8EQN6I0
月明かりの下にさらされた泡立つ肌には奴の爪が食い込み、ぷつ、と破れた。
そこから流れる赤の色を見て、恍惚の表情をして、そこに顔を寄せていく。
動けなかったのは、人間としての本能か。
だが、原始の恐怖を、爆発するような怒りに換えて。
ただ、吠えて、拳を振るった。
(#゚дメ )「――――オオオォォォッ!」
黄金の尾を引いて、俺の拳は奴の顎先を撃ちぬく。
掴んだ左腕にこめた力を緩めなければ、今度は直撃は免れない。
――――ミタジマ流奥義。
264
:
救済の技法いいわぁ
:2014/01/30(木) 01:49:09 ID:i/8EQN6I0
从* ゚∀从「ハハハハハ!
おいおい、それ、ヤベェな!」
戦闘狂の吸血鬼の化物は、その光を見て、嗤った。
お前にとっては、何も面白いことはない。
ただ、消え去れ。
(#゚дメ )「――――”旋光撃”ッ!!」
”ゴキンッ”
265
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:50:34 ID:i/8EQN6I0
大気にすらも風穴を開ける。
それほどの速度と、強度をもって放った。
ミタジマ流の奥義を尽くして。
極限まで引き出した螺旋の力を使い果たして。
そうまでした放った奥義・旋光撃を――――外したのか。
(;゚дメ )「ばか……なッ!」
音はした。
いやにカン高いようでいて、同時に気色の悪い太い音が。
しかし俺の右拳は、奴の鼻先を掠めて、何もない空間へと突き出されていた。
从∀ ゚ 从「……お次は?」
266
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:51:15 ID:i/8EQN6I0
(;゚дメ )「……なっ……」
見れば、奴の首の骨は完全に折れている。
夜空を見上げられるほどの角度に、真後ろへと、直角に。
化物なりの回避動作は、あまりにも人体の構造というのを無視したものだった。
そんな事まで出来るとは思わなかった。
見越しておくべきだったのに、侮った。
俺の左腕へと食い込む奴の指に、さらに力が込められていくのを感じた。
从∀ ゚ 从「なるほど」
(;-дメ )「う……っく……!」
267
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:52:18 ID:i/8EQN6I0
軽く引き寄せられると、足がもつれそうになった。
右目に映る視界は霞み、これまで動かしてきた手足の言うことが、効かなくなっているのが理解る。
螺旋孔を開門して、螺光砲を放って、旋光撃までも外した。
螺旋の力とは、人体における生命力と等しい。
その絶対量は肉体を鍛えあげることによって限界を底上げする事はできる。
だが、決して無限の力にはなり得ないのだ。
急激に力を使い尽くしたツケは、すぐにやってくる。
”ごき、ごきっ。”
从 ゚∀从「……打ち止めかい」
268
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:54:28 ID:i/8EQN6I0
気を抜けば崩れ落ちそうになる俺の膝を見て、奴はすぐに悟ったようだ。
三重にも四重にも見える奴の姿は、ふらつく俺を冷ややかに見下ろしていた。
もはや殴るどころか、まともに奴を視界に捉えられるような力も残っていない。
万策、尽きた。
从 ゚∀从「なら、終わりにしようか」
こちらの余力を見抜いたように、化物はそう言って俺の身を引き寄せる。
”ゴッ”
(; д メ )「―――かッ………ハッ―――」
269
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:55:26 ID:i/8EQN6I0
華奢な奴の細腕が振り上げられると、それより頭一つ分は大きい俺の体躯は、いとも容易く宙を舞う。
どうやら、勝てない。
俺は、死ぬのだろう。
こんな唐突に、訪れるとは思わなかったが。
けれど、俺はそれをこそ願うべきなのだ。
・
・
・
『 マダダ 』
願うべき、なのに。
270
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:56:52 ID:i/8EQN6I0
从 ゚∀从「……?」
(; дメ )「よ、せ……ッ
く、る、な」
『 マダ、シヌナ 』
今の俺の身体からは、螺旋の力が失われてしまっている。
だくだくと脂汗を流しながら、その場に姿を表そうとする、あいつを振り払う。
吸血鬼はそんな俺の姿を、不思議そうに眺めていた。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板