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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ
557
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:48:01 ID:es9erg9o0
☆ ☆ ☆
7時半
ラスティア城北西門
この場所は通常、あまり使われない。
南側の坂の下にある城下町からは遠かったからだ。
門の回り自体も木々が生茂っており、見た目からして鬱屈としている。
そのためこの門は衛兵が非常時に使う門となっていた。
簡単に言ってしまえば、防衛は一番薄い。
新嘗祭の日に使うなんて思ってもいなかったから。
それこそが狙い目であった。
(√・A・)「ああ……なんで新嘗祭なのにこんなとこの門番やってなくちゃならなんだろう。
籤運が悪かったなあ、俺も花火見たかったなあ、ちくしょう」
ボヤいている警備の衛兵。
つまらなそうに石ころを蹴っている。
意識が低いのは明らかだ。
(√・A・)「……ん?」
その彼の目に、三人の人影が見えた。
558
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:50:00 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「こんばんはですお」
集団のうち、先頭を歩いていたブーンが言う。
(√・A・)「やあ、こんな夜中に何の用だい?
見たところ君らは衛兵のようだけど……」
衛兵は三人の姿を眺める。
三人とも、衛兵の基本装備を纏っていた。
ブーンの後ろの二人は大きな筒を持っている。
( ^ω^)「実は国王の頼まれごとで、こっそりお城にはいらなきゃならないんですお」
(√・A・)「頼まれごとだって? なんだろう、それにどうしてこの門から?」
若干訝しみながら、衛兵が連続して質問する。
ブーンは大きく頷く。
( ^ω^)「見た方が早いですお」
そう言って、ブーンは後ろの二人に合図を出した。
二人は門の横に移動する。
そして筒に手をかけ、両脇に引いた。
それは筒ではなかった。
広げてみれば、それは巨大な平たい物体となる。
559
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:51:59 ID:es9erg9o0
それは門の外から内側へと広がった。
(*^ω^)「今日の記念の旗ですお!
これをお城に運ばなきゃならないんですお。
秘密のことなので、みんなには内緒、だから正門を通るわけにいかなかったんですお」
楽しそうに、ブーンが説明する。
衛兵はやや慌てていた。
(√;・A・)「お、おいおいこんなところで広げるなよ」
(;^ω^)「え? あ、すいませんでしたお!」
(√;・A・)「謝らなくてもいいけど、ほら入っていいから畳んで」
(;^ω^)「わかりましたお。おーい、もういいお」
二人の男が、少しずつ旗を丸め始める。
ややぎこちない動き。
はた目から見れば、大きな旗を扱うのに苦労しているだけのように見える。
衛兵は気付いていなかった。
その旗の後ろ側で、二人の女性がこそこそと門を通過していたことを。
その女性たちは内側にある物陰にさっさと隠れた。
衛兵はブーンと話しているため、気付かないまま。
560
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:54:17 ID:es9erg9o0
(√・A・)「はい、それじゃあね」
( ^ω^)「まかせましたお。
そういえばさっき道でちょっと不審な人を見かけましたお」
(√・A・)「なに、本当か!?」
( ^ω^)「ええ、なんだか挙動不審で。
少し歩いて見てきた方がいいかもしれませんお」
(√・A・)「そうか……ありがとう。
お祭り成功させてくれよな」
衛兵はそう言って、素直に道を進んでいった。
もちろん遠くまでいくわけでもなく、少し見回ったら帰ってくるのだろう。
でも、わずかな時間で十分だった。
( ^ω^)「よし、入るお」
そう、二人の男に言う。
( ゚∀゚)「旗はどうするんよ」
('A`)「隠しとけ」
旗を抱えていたのは、ドクオとジョルジュ。
561
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:56:02 ID:es9erg9o0
彼らはやがて、女性が潜んだ物陰へと歩いて行った。
ノパ⊿゚)「お見事」
lw´‐ _‐ノv「上手く言ったな」
物陰から、ヒートとシュール。
(;^ω^)「いい衛兵で助かりましたお」
軽く頭をかく。
( ^ω^)「さて、今のうちに入りましょうお。
そろそろ僕は持ち場に戻らなければなりませんお」
門まで走って向かい、その錠を開ける。
重たい鉄の扉が動き、中へと繋がる道が見えてくる。
最初の作戦が上手く運んだことを、ブーンは心の中で喜んでいた。
幸先は良い。
迷ったりすることもあった。でも今は、自分に運が向いている。
今はひとまずこの作戦のことを考えよう。
レジスタンスの仲間たちを、国王の部屋へ連れて行くんだ。
( ^ω^)「こっちですお。僕が誘導しますお」
ブーンが大きい手振りで招き入れる。
こうして潜入が始まった。
562
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:58:04 ID:es9erg9o0
('A`)「……ううむ」
入ってすぐに、ドクオが呻いた。
鼻を抓って見るからに嫌そうな顔をする。
(;^ω^)「どうしたんですかお?」
('A`)「いやな。大したことじゃないんだ。
前々から思っていたことなんだけど……」
ドクオの目線がお城中に向けられていく。
城の内壁、燭台、蝋燭、絨毯、飾りの鎧に部屋への扉
('A`)「このお城、なんだかすごく鼻にくるんだ。
それも年々強くなっていってる」
ノパ⊿゚)「魔人かい?
でも実際お城の中で働いている奴もいるんだし
多少は仕方ないんじゃない?」
('A`)「…………だといいんだけど」
そう言って、ドクオは首を振る。
気合を入れなおしたのだ。
563
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:00:00 ID:es9erg9o0
('A`)「ぐだぐだ言ってしまってすまない」
( ^ω^)「いや、仕方ないですお。
きっとそんな鼻があった方が役立ちますお。
罠とかを仕掛けるのも魔人ですし」
('A`)「そうか。ありがたい話だ。
先へと進もうか」
ドクオを先頭にして一行は進んでいく。
ラスティア城。
衛兵見習い程度では下の階しか行ったことこの無いお城。
貴族以外の誰も、その全景を見たものはないという。
☆ ☆ ☆
564
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:02:01 ID:es9erg9o0
潜入してからも、暫く大事は起きなかった。
魔人の罠といえども、場所がわかっていれば怖くはない。
( ^ω^)「あ、そこ」
例えば、とある廊下。
( ^ω^)「そのあたりの床板踏むと槍が落ちてきますお」
( ゚∀゚)「え、どこどこ?」
(;^ω^)「あ、歩くなって!」
足をちょいちょいと地面に触れていくジョルジュを、ブーンが取り押さえる。
つまらなそうにむくれるジョルジュを無視して、脇道を指した。
( ^ω^)「そっちが正しい道ですお」
こんな風にして、大抵の罠は回避することができた。
そうして、5階まで彼らは進んでいった。
565
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:04:00 ID:es9erg9o0
ラスティア城5階
この階の構造は特殊であった。
( ^ω^)「ここはちょっと説明しなきゃなりませんお。
僕も今日初めて知らされたんですけど、ここには5つの大部屋があるんですお。
それが階の四隅と中央にある部屋なんですお」
( ^ω^)「四隅の部屋には階段があって、それを登れば貴族の部屋に続くんですお。
そして中央にある一際大きな部屋が、お城の中心にある塔へと伸びる扉ですお。
国王の部屋と王女の部屋はその中央の塔の中にあるんですお」
('A`)「じゃあ、俺たちはその中央の塔を登る必要があるんだな。
ブーンも王女の部屋の警備に戻らなきゃいけないんだし、一緒にいけるんだろ?」
( ^ω^)「それが……ちょっと中が複雑でして
6階に辿りつくと分岐があるんですお。
王女の部屋へ行くなら左、国王の部屋へ行くなら右、だから6階より先にはお別れですお」
ノパ⊿゚)「じゃあ、そこから先の罠の場所はわからないよってことか」
(;^ω^)「そうなんですお。僕は王女の部屋へ行く罠しか聞かされていないんですお。
だからこれ以上は、ちょっと役には立てないかなと……」
( ゚∀゚)「いや、俺は一向に構わないぜ」
566
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:06:01 ID:es9erg9o0
ジョルジュが一層にやりと笑った。
( ゚∀゚)「避けてばっかりでつまんなかったからな。
やっぱり潜入するからには楽しくやらなきゃだからよ」
lw´‐ _‐ノv「ああ……不安だ」
シュールの呟きもまったく聞えていないようであった。
(;^ω^)「ま、まあみなさんなら無事だと信じていますお」
('A`)「俺の鼻もあるんだ。協力すればなんとかなるだろう」
ノパ⊿゚)「ブーンは早く王女のところへ行ってなよ、怪しまれたらいけないし」
( ^ω^)「それなら……みなさん頑張ってくださいお!」
一行は中央の部屋に向かい、扉を開いた。
部屋の中には、幅の広い螺旋階段の登り口が一つだけある。
人ならば軽く5、6人並ぶことができる広さだ。
赤い絨毯が敷かれており、奥の方は道の蛇行のために見ることはできない。
567
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:08:00 ID:es9erg9o0
螺旋階段の壁には蝋燭が飾られていた。
金属質の燭台の上で、炎が等間隔で揺らめいている。
雰囲気は暗い。
煌びやかな雰囲気のあった5階から下とは違う、薄暗い道。
( ゚∀゚)「なんでこんなに暗くするんだろーな」
( ^ω^)「お城は暮らすための場所ってわけじゃないからだお。
ずっと昔は、お城は戦争の拠点として使われていたんだお。生活よりも、攻め込まれないことの方が大事。
今は趣があるからってそのお城を再活用しているだけで、貴族や王族の部屋以外はそこまで気を使っていないんだお」
('A`)「戦争していた時代か……今じゃ想像もできないな」
ドクオが呟く。
おそらく彼は単純に考えたことを述べただろう。
常に今の自分たち人間の立場を考えている彼の発想。
その言葉を聞いて、ブーンはふと思いついたことがあった。
聞いてみたいことが生まれた。
568
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:10:01 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「ドクオさんは……戦争についてはどう考えているんですかお?」
魔人が来て、世界が変わった。
一番変わったのは、大掛かりな戦争が無くなったことだ。
不思議な力を使えば、契約をした個人個人が戦争の大局を変更できる。
だから魔人を活用した戦争はできなくなり、人間同士の戦争も簡単に治めることができた。
それが魔人の功績だと称える人も多い。
安心して平和を享受する理由でもある。
その一方で、魔人に反対する人たちはその功績をどうとらえているのか。
魔人の有用性を無視するわけにはいかないんじゃないか。
質問の裏にあるのは、その疑問だ。
(;'A`)「…………」
返事がすぐにはこない。
いつもなら歯切れよく、一般論まで交えて演説してくれるのに、どうしたのだろう。
ブーンは小首を傾げる。
569
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:12:00 ID:es9erg9o0
それから考え直した。
ここはもっと率直に質問した方がいいんじゃないかと。
戦争が無くなったという、魔人の功罪についてどう考えているのかと。
口を開く。
( ^ω^)「それじゃ、戦争が無k――」
けれど、途中で切れてしまう。
返事があったのではない。
背筋に悪寒が走ったからだ。
誰かに強烈に睨まれたような感じ。
(;^ω^)「!?」
首を振り、あたりを見回す。
誰かに見つかったか? いや、そんなものはないはず。
この螺旋階段に、そんな隙間はないはず。
じゃあ、誰が自分を睨んだんだ。
570
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:14:08 ID:es9erg9o0
('A`)「? どうした」
ようやくドクオが言葉を返してくれた。
ただ、もうブーンにはそれに答える意識は無かった。
(;^ω^)「い、いえ……」
曖昧に答える。
確証があるわけじゃない。
睨まれたのが事実かどうかもブーンにはわかっていない。
視線を感じたというただの思い込みかもしれない。
気になるが、それにとらわれすぎても良くないだろうと考えた。
下手に場を擾乱させるべきじゃない。
ここまで上手くいっているんだから。
(;^ω^)「何でもないですお」
不思議そうに覗きこむドクオの顔に向けて、ブーンは小さく首を横に振った。
( ゚∀゚)「さ、6階についたぞ」
ブーンの後ろにいたジョルジュが言う。
571
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:16:00 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「お、本当だお。良かったお」
ほっとする。
緊張から解放された気がした。
ノパ⊿゚)「先に上歩いてるんだから気付けよなー」
わずかばかりの笑い。
その隅で、ジョルジュが笑っていなかったことに、誰も気づいていなかった。
☆ ☆ ☆
572
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:17:58 ID:es9erg9o0
中央広場
開始からすでに時間は経過している。
噴水の周りで光が爆ぜる。
町の技術者たちによる盛大な出し物が行われようとしていた。
ショボンは台座から降りている。
歩み寄っていく先は来賓の席。
(´・ω・`)「楽しんでいただけていますかな」
来賓の席は二つあったはずだが、一人はいなくなっていた。
仕方なくもう一人の方へ話しかける。
その来賓の老体は、しょぼくれた口を釣り上げて笑い返した。
やけに綺麗な歯並びが覗かせる。
/ ,' 3「ああ、見ていて愉快ですぞ。ショボンくん」
ラスティア国王を君付けで呼べる人。
そんな人はこの世に一人しかいなかった。
ショボンもまた、微笑み返す。
(´・ω・`)「それは良かった。マルティア国王様」
573
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:20:02 ID:es9erg9o0
最後の言葉を聞きうけて、老体は「いやいや」と首を左右に振る。
/ ,' 3「この国いるときは、国王なんて称号はいらんぞ。
せめて名前で呼んでくれないかの。スカルチノフと」
ショボンは若干気まずそうな顔をして、それから言い直す。
(´・ω・`)「これは、失礼しました。スカルチノフ様」
/ ,' 3「様か……まあよい」
スカルチノフはショボンから目を離し、手元の果実に手を出した。
そのひとつを取り、口に運んで一気に齧る。普通の老人にはできない芸当だ。
飛沫が飛んでも、スカルチノフは一向に気にしない。
その歯が全て不思議な力による強化仕様だということは、ショボンももちろん知っていた。
たかが歯を強くするためにも力を使ってしまう。
魔人使役についての先進国、マルティアの国王そのものだった。
/ ,' 3「話は聞きいれてくれたかな」
果実を見たまま、スカルチノフは言う。
もちろんその言葉はショボンに向けられた言葉だ。
574
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:22:18 ID:es9erg9o0
(;´・ω・`)「…………さすがにそのような一大事、簡単に聞きいれるわけにはいきません」
ショボンは努めて慎重に言った。
スカルチノフは残念そうな顔をする。
/ ,' 3「君なら早々に決断してくれると思ったんじゃがの」
(´・ω・`)「すいません。こちらとしても、マルティア国に対する恩は深いのですが
なにせ自国の政治に関わることですから」
/ ,' 3「……人による政治がそんなに必要かの?」
(´・ω・`)「え?」
ショボンの疑問の声に答える前に、スカルチノフは溜息をついて、椅子の握りに肘をかける。
両の手を交差して、その上に顎を乗せた。口がぽかんと開く。
/ ,' 3「人は争うぞ」
短いフレーズ。
/ ,' 3「魔人が来る前、人は戦ってばっかりだった。
いや、むしろちょうど人々が国家レベルで結集しようとしていた頃に魔人が来た。
だから世界は踏みとどまることができたんじゃ」
575
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:24:06 ID:es9erg9o0
/ ,' 3「もしあのまま時が進んでいたら、世界は火の海になったじゃろうな」
さらりと恐ろしいことをいう。
ショボンはそのような世界を一瞬想像して、すぐにかき消した。
渋い顔をする。
(´・ω・`)「見てきたように言うんですね」
/ ,' 3「見ていた人たちの頃から受け継がれてきていた物語じゃからのう。
むしろ君たちの国にはこんな話はないのかな」
(´・ω・`)「あいにくできてまだ日が浅い国でして」
「ふん」とスカルチノフは鼻を鳴らす。
侮辱の色はあったが、ショボンは動揺することなく話を聞いていた。
見た目では、だが。
/ ,' 3「まあよい。
本当はわかっておるんじゃないかな、わしが何を言いたいか」
品定めするような目が、ショボンに向けられた。
ショボンは微かに目を泳がせる。
(´・ω・`)「……この国は僕の国ですよ」
/ ,' 3「本当かの?」
(´・ω・`)「もちろんですよ。何を言っているんですか」
576
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:26:02 ID:es9erg9o0
ショボンは目を閉じてせせら笑った。
スカルチノフからの視線は遮られる。
ショボンはすぐに身体を噴水の方へ向けた。
目が開き、出し物を見る。
街道の方から技術者たちのパレードが現れようとしていた。
(´・ω・`)「今はお祭りです。
町の誰も不安を感じていない。
それを破ろうものなら、それこそ争いなのではないですか?」
ショボンの腕が、城下町をなぞっていく。
なだらかな動き。
/ ,' 3「お前らしい考えよのう」
頬杖を突きながら、スカルチノフが評した。
ショボンは何かを言い返そうとするも、目の端に人影を捉えたために中断する。
577
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:28:01 ID:es9erg9o0
(´・ω・`)「レモナか」
|゚ノ ^∀^)「そうだよー、ショボンちゃん。
スカルチノフさんもこんばんはー」
軽々しい声。
ただ、今この場のショボンにとってはありがたいものであった。
重苦しかった空気が瓦解する。
(´・ω・`)「庶民とは会ってきたのかい?
いつもの君なら遊びまわっている頃だと思ったのだけど」
|゚ノ ^∀^)「うん、もう結構遊んだよ。
ただこうしてお客様ともちゃんとお話しないと!」
そう言って、レモナの目がスカルチノフに向く。
|゚ノ ^∀^)「そうでしょう?」
視線が交わされる。
ショボンからは、レモナの顔を窺い知ることは出来なかった。
578
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:30:05 ID:es9erg9o0
だから
|゚ノ ^∀゚)
/ ,゚ 3
彼女たちがただならぬ目でアイコンタクトを取っていたことも
当然今のショボンは知る由もなかった。
579
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:32:00 ID:es9erg9o0
|゚ノ ^∀^)「さてと、ショボンちゃん」
レモナはすぐに顔を上げた。
|゚ノ ^∀^)「テーベ国の女王様はどちら?」
(´・ω・`)「ああ、空いてるよね。どこいったんだろう」
/ ,' 3「あの若いのならきっと下に降りて遊んでおるよ」
スカルチノフはそう言って、あきれたような顔をする。
/ ,' 3「まったく、前々からそういうふらつきが好きなやつじゃな」
(´・ω・`)「ははは、そこが国民に好かれたところなのでしょう」
話が変わったため、ショボンは余裕を取り戻せた。
頬に残っていた冷や汗をこっそりと拭いながら、その場を後にする。
580
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:34:02 ID:es9erg9o0
広場から伸びる街道の上。
何故か黒い服の人だかりができていた。
それらは町の住民じゃない。
たった一人を護衛するために付けられたSPたちだ。
「おいおい、こんなに纏わりつかれたら見えねえだろ」
人だかりの中心で人が叫ぶ。
「ですが国王、あなたを守らなくては」
「平気だっつの! 俺が下手な野郎になんか負けるか!」
中心の人はそういって、腕を振るった。
「なんならお前ら全員のしてやってもいいんだぞ?
俺様のパレード観覧を邪魔した罪でなー、はっはっは」
物騒な物言いとは裏腹に、最後には陽気な笑い声が続いた。
581
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:36:01 ID:es9erg9o0
町の人たちもその異様さに戦いている。
避けられているので、黒服の集団の周りだけぽかりと浮いてしまっていた。
パレードの音が近づく。
作り物の人形の集団が、光を纏いながら街道を進んできていた。
どちらにしろ、このままでは黒服は邪魔だ。
「おら、早くどけよ迷惑だろ!」
中心の人が再び怒鳴る。
数人の溜息。
黒服の男たちが観念して、散り散りとなっていく。
まだらになった黒服の間で、ようやくその人物が明らかになった。
その人もまた、ちゃんとパレードが見えるようになったことで非常に喜んでいるようだ。
嬌声が響く。その声で、ようやくその人物が女性であると気付いた町民も多かった。
582
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:38:02 ID:es9erg9o0
「ははー、こりゃすげーわ!!
俺もほしいなー!!」
その人は街道の中央で諸手を挙げた。
勢いよく伸びた腕の先から、パレードの光にさらされていく。
だんだんと、その光が進む。
ついには顔が露わとなる。
从 ゚∀从「あいつも見てるかなー!!」
彼女の名はハイン。
口調と態度こそ男性そのものであったが
ラスティアの南西にあるテーベ国の、歴史上初めての女帝であった。
☆ ☆ ☆
583
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:40:02 ID:es9erg9o0
ラスティア城7階
国王の部屋へ続く道
ブーンとは6階で別れ、それぞれの道を進んでいた。
('A`)「待った」
先陣を切っていたドクオが、皆を静止させる。
('A`)「匂いがする」
( ゚∀゚)「なんだ、魔人か?」
('A`)「たぶん」
一同は前を向いた。
道が二つに分かれている。
直進すれば幅の広い道を通ることになる。
左に折れれば、やや狭い道。蝋燭の本数も少ない。
584
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:42:02 ID:es9erg9o0
('A`)「……前の道からは強い匂いだ。大きいものがある気がする。
左の道は、なんだか細々といろんな匂いがする」
ノパ⊿゚)「大きいと、細々……
それ以上はわからない?」
('A`)「匂いなんてそんなもんだ。
とにかくどっちにしろ、いいことは起こりそうもないな」
lw´- _-ノv「ましな方を選べってことか」
シュールが発言し、みんなの顔を伺った。
全員がそれぞれ、頭の中で比較をする。
( ゚∀゚)「大きい方だな」
ジョルジュが先に結論を出した。
( ゚∀゚)「道幅も広いし、明るい。
対処しやすいのはこっちだろうよ」
('A`)「うん、同感だ」
585
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:44:02 ID:es9erg9o0
ドクオは頷きつつも、鋭い目線を幅の広い道に向けた。
('A`)「ただ油断はできないぞ」
( ゚∀゚)「大丈夫だって!」
ジョルジュは胸を叩く。
( ゚∀゚)「何か出てきたにしても倒してやるよ!」
(;'A`)「おい、何言ってんだお前」
( ゚∀゚)「いやあ、なんかもううずうずしていたんだよね!」
ジョルジュの足がさっさと前へ進んでしまう。
急にそんな行動に走ったジョルジュの心境を、ドクオははかりかねた。
とにかく止めなきゃ何が起こるかわからない。
(;'A`)「ヒート、止めるぞ!」
ノパ⊿゚)「あいよ」
586
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:46:02 ID:es9erg9o0
ドクオが焦り、ヒートと共に走り出す。
ジョルジュとの距離は近い。すぐに捕まる。
そのはずだった。
カチッ
(;゚∀゚)「え」
ジョルジュはきょとんとして、それから足元を見る。
何の変哲もない絨毯。
それなのに、何か妙にはまった感触があった。
ノパ⊿゚)「どうした?」
止まってしまったジョルジュの袖を、ヒートが掴む。
そのすぐ後ろを走っていたドクオも止まる。
('A`)「何の音……!?」
その場にいた全員が動揺した。
壁も、床も、盛り上がったように見えた。
587
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:48:01 ID:es9erg9o0
でもすぐにそれが誤りだと気付く。
足元にあったものが急速に遠ざかる。
落とし穴だ。
(;゚∀゚)「ぬおお!!」
咄嗟にジョルジュがクロスボウを上に向けて発射する。
特製の、ロープつきの矢。
空中で放射線を描いたそれは、天井に突き刺さる。
周りにいた人同士がつかまりあった。
近くにいた人だけで。
588
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:50:02 ID:es9erg9o0
____________________
/
. , '
/
ψ
∩
ウオォ (;゚∀゚)/
し
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ヨッ (゚△゚ノハ
し
('A`) グェ
しし
┏━━━━━━━━
鄴 ┃
||||
|||||||
lw´‐ _‐ノv アー
589
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:52:02 ID:es9erg9o0
やや遠いところにいたシュールの声が遠ざかっていく。
(;゚∀゚)「シュール!!」
ジョルジュの叫びは残響となる。
なかなか鳴りやまない。よほど深い穴のように思える。
ロープはそのまま、慣性をもって道の反対側へ向かっていった。
ノパ⊿゚)「そおい!」
勢いのままに、ヒートはドクオを投げつける。
抜け落ちていない道の向こう側へ向けて。
そして自らも壁に向かい跳んでいく。
自分なら自力で向こう側へ渡れるという確証があったからだ。
足が接着すると、バネの装置が作動する。
脚力が増したことで可能となる距離の長い三角飛び。
ノパ⊿゚)「っと!」
着地と同時に足を回す。
衝撃が緩和される。
数メートル走ったところでようやく彼女は止まることができた。
590
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:54:01 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「ドクオ?」
(;'A`)「……ここだ」
床に転がりこみながらも、手を上げる彼の姿があった。
(;'A`)「うう、頭打った」
ノパ⊿゚)「悪かったよ。ジョルジュは?」
言いながら顔を上げる。
ロープは依然として天井に突き刺さったままだ。
だけど、今は誰もそこに垂れさがっていない。
( ゚∀゚)「ここだよー」
声がして、ヒートとジョルジュは穴の反対側を見た。
一同が進んできた方。
そこにジョルジュはいた。
591
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:56:02 ID:es9erg9o0
( ゚∀゚)「悪い、俺ちょっとシュール助けてくる!」
目があうと同時に彼は言う。
( ゚∀゚)「こうなったのも俺のせいだし、急がないと!」
(;'A`)「あ、おいお前待て!」
ドクオの言葉にも、まったく動じずに
ジョルジュはさっさと元来た道を引き返しに行ってしまった。
(;'A`)「なんか、あいつ変じゃなかったか?」
ノパ⊿゚)「変?」
ヒートはドクオの傍に歩み寄りつつも、首を傾げた。
(;'A`)「妙に軽率と言うか……
まるで自分から罠にかかっていったような」
592
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:58:01 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「んな、まさか」
ヒートは軽く笑い飛ばす。
ノパ⊿゚)「そんなことして何になるんだよ」
(;'A`)「うーん、そうか……」
疑問として浮かんだものの答えは出てこない。
ぽっかりと空いてしまった穴を見つめる。
('A`)「とりあえずはシュールが無事であることを祈ろう」
違和感を覚えつつも、ドクオは身体を起こした。
前に進むために。
☆ ☆ ☆
593
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:00:01 ID:es9erg9o0
8階
国王の部屋へ続く道
ノパ⊿゚)「ひゃー、ずいぶん上ったなー」
たまたま壁にあった窓を覗いて、ヒートが感嘆する。
ノパ⊿゚)「よお、ドクオ。見てみろって」
(;'A`)「いや……高いのあんまり好きじゃないんだよ」
ノパ⊿゚)「そうだっけ? 忘れてたわ」
(;'A`)「お前なあ……昔話したことあっただろ」
ノパ⊿゚)「あー、なんとなく覚えているかも。
懐かしいねえ」
そんなことを言いながら、ヒートは窓辺の縁に座りこむ。
横目で窓の下の景色を眺めていた。
594
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:02:03 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「休憩しようよ。今のところ誰もいないみたいだし」
ヒートが提案する。
ドクオは顔をむすっとさせ、それから溜息をついた。
('A`)「……まあ、一気に上ってきたからな。
少しだからな? そしたら上っていこう」
ドクオはヒートの向かい側の廊下に座る。
胡坐をかいてだ。
ノパ⊿゚)「なんでそこなの?」
('A`)「この姿勢が一番素早く反応できるんだよ」
受け答えを聞いて、ヒートが目を閉じ首を左右に振る。
ノハ-⊿-)「相変わらず固いなあ」
やれやれと、身振り手振りであらわした。
ドクオはなおも硬い表情のままだ。
595
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:04:03 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「なあ、ドクオ。
昔の話が出たからさ、思い浮かべただけなんだけど」
ヒートはそこまで言って、目を再び窓側に向けた。
あまりドクオの方を向きたくなかったのかもしれない。
ノパ⊿゚)「姉さんは今も元気かな」
途端に、ドクオが立ち上がる。
ヒートを見下ろす形。
('A`)「そんなこと話すために休憩したのか?」
口早に責め立てた。
ヒートは一瞬眉根を寄せて、上目づかいでドクオを見つめた。
ノパ⊿゚)「ここに来たのはたまたまだよ。たまたま窓縁があっただけ。
でもさ、ほら。レジスタンスも随分賑やかになったから、なんだか楽しくて」
ノパ⊿゚)「年下も増えたし、面倒を見てなきゃで
最近その手の話題出して無かったじゃん。いわゆるあたしたちの話」
596
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:06:03 ID:es9erg9o0
('A`)「出さなくてもいいだろ、別に」
素っ気なくドクオが切り返す。
ノパ⊿゚)「必要あるよ」
今度はヒートがむくれた。
じーっとドクオを見据える。
その視線に、不穏な気配をドクオは感じ、わずかに身動ぎした。
(;'A`)「なんだよ」
我慢できずに、ドクオから口をひらく。
ヒートは目をかえずにそれに応えた。
ノパ⊿゚)「さっきブーンに戦争の話振られたとき、内心どきっとしたんじゃないの?」
(;'A`)「え……」
言ってから、うっかりという表情をドクオは浮かべた。
それをごまかすように咳払いする。
597
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:08:04 ID:es9erg9o0
('A`)「別に……何も」
ノパ⊿゚)「そう? あたしはしたけどなー。
姉さん以外にもあんなこと言う人いるんだなってね」
ノパ⊿゚)「それでも何も感じなかったっていうなら、あんたやっぱり――」
(#'A`)「そんなわけあるか!」
荒げられた声。
またも、言ってから顔を呆然とさせる。
ノパ⊿゚)「あたしに怒られても困るんだけどな」
そう呟いてから、ヒートは縁から離れて立ちあがった。
気持ち良さそうに伸びをする。
ノパ⊿゚)9m「よっし、休憩終わり。
途中で疲れても自己責任だからな」
ヒートの指がドクオにびしっと向けられた。
598
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:10:05 ID:es9erg9o0
('A`)「……ああ」
歯切れの悪い返事だけが返ってくる。
それを受けて、あからさまにヒートは機嫌を悪くした。
ノハ#゚⊿゚)「なんだよもー、これくらいで落ち込んじゃって。
ブーンやジョルジュの前だといつもすかした態度なくせに!」
キレのある指摘がドクオに突きささる。
ドクオは目を見開いた。
(;'A`)「な、そ……そうか?」
ノハ#゚⊿゚)「一時期暗くなったのは仕方ないとして、今では変な方向に行っちゃってるわ。
まったくもう、姉さんが見てたらなんて言うかねえ」
(;'A`)「…………お前だからあいつの話は」
ノハ;゚⊿゚)「え? あ! ごめんごめん。
今のはその、ほんとただのうっかりだから!
ショック受けさせたりしたらごめん!」
599
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:12:03 ID:es9erg9o0
(;'A`)「ええ? いやいやそれくらいでショックなんか」
ノパ⊿゚)「だって狼狽してんじゃん」
(;'A`)「してねえって!」
ノパ⊿゚)「してますわーその流れてる汗が証拠ですわー」
(;'A`)「はあ? それは、その……」
ドクオは言い返そうとするも、何も思いつかなかった。
唸り声を出しながら、頭をごしごしとこする。
ノパ⊿゚)「やーい、なんもいえねーのかよー、かっこつけー」
ヒートは口を窄めてドクオを野次り続けていた。
600
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:14:03 ID:es9erg9o0
そうしていくうちに、彼の唸りが、だんだんと細切れになっていく。
肩を震わせ、口元が綻び、破顔する。
はっきりと笑い声と認識できるようになった頃には
向かいに立つヒートの顔にも笑みが毀れていた。
ドクオはその時思っていた。
自分がこうして笑うのはいつぶりだろうって。
二人の若者にとって、それは束の間の休息となった。
☆ ☆ ☆
601
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:16:04 ID:es9erg9o0
ラスティア城7階から8階の間
王女の部屋へ続く道
ブーンは王女の部屋に戻りつつあった。
早く戻らなくては、そう思って焦る。
実のところ、7時40分はとっくに過ぎていた。若干読みが甘かったのだ。
20分以内に戻らなければ王女が怪しむかもしれない。
だから走る。
螺旋階段を駆け上り、8階へ。
部屋へと続く廊下には何もいなかった。
誰かが通った痕跡もない。
外に出ているうちに誰かに侵入されたということはないようだ。
ひとまずほっとするブーン。
足取り確かに、王女の部屋の扉の前に辿りついた。
呼吸を整えるため、やや時間を置く。
それから咳ばらいをした。
( ^ω^)「王女、帰ってきましたお」
602
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:18:01 ID:es9erg9o0
返事はない。
ブーンは首を傾げた。
(;^ω^)「王女? あー、少し遅れたこと、怒ってますかお?」
怖かったが、それでも尋ねた。
もしも怒っていたら、素直に謝ろうと思い始める。
しかし、やはり静かなままだ。
胸の奥がざわついた。
まさか、何か起こったのか?
そしたら、なおさら自分の身分が危ない。
(;^ω^)「王女!?」
慌ててドアをノックする。
やはり反応はない。
ポケットの中を探り、スペアのキーと取り出した。
もしものときはこれで部屋に入ることになっていたのである。
603
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:20:05 ID:es9erg9o0
(;^ω^)「失礼しますお!」
言ってから、急いで鍵穴に差し込む。
金属のぶつかり合う音。焦っているせいか、なかなか回せない。
落ちつけと自分に必死で言い聞かせる。
もし王女の身に何かあれば、自分は即刻罪人となるかもしれない。
あの王女に固執する国王のことだ、それくらいやりかねない。
なんとか鍵が回転する。
かちゃりという音。
ノブを捻って、一気に押す。
(;^ω^)「王女!!」
言葉だけがすっ飛んでいく。
顔面に向かってくる風を感じた。
604
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:22:11 ID:es9erg9o0
ブーンは目を白黒させる。
風など、どうして感じるのだろう。
どこから吹いているのだろう。
答えは目の前にあった。
王女の机の前にある窓が開いていたのだ。
夜風がそこから入り込んできていた。
ブーンは首を回し、部屋を確認する。
広い部屋、大きな家具、たくさん詰まった本棚に、ふかふかそうなベッド。
そして、誰もいない。
王女さえも。
(;^ω^)「」
絶句。
そして窓へと駆け寄った。
605
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:24:00 ID:es9erg9o0
まさか飛び降りたんじゃないだろうか。
サックに手をかけて、下をのぞく。
( ^ω^)「!!」
何かが垂れさがっているのがわかった。
ロープだ。それが、真下にある部屋のバルコニーに続いている。
ここは8階だが、まさかすぐ下にそんな足場があるとは知らなかった。
ロープはかなり余裕がある長さだ。
バルコニーでそれはくるくると丸まっており
その先端で大きな袋を結びつけていた。
ロープがどこから伸びているのか気になり、目線を登らせる。
カーテンに隠れた留め具のところを通過し、部屋の中へ続いていく。
やがてそれは大きな本棚の下に向かっていった。
どうやらその本棚を重石にしているようだ。
例えば一旦本をどかして軽くし、ロープの上に置くとする。
それから本を詰めていけば立派な重石が出来上がる。
少女一人を支えることもできるはずだ。
606
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:26:05 ID:es9erg9o0
じゃあ留め具は……考えようとしたが、何故そこを通してあったのかはわからなかった。
むしろ留め具が壊れたりすれば危ない気もするのだが。
方向を固定したかったのだろうか。
バルコニーの方には袋があった。
きっとあの袋にはおもりが入っていたのだろう。
デレはそこへ向けて、ここを伝い、降りたに違いない。
それ以外に脱出経路はない。
ブーンは再び窓の下の光景を見て、それからがっくりと肩を落とした。
いなくなったことそれ自体もショックであったし
デレと話す機会がまた無くなってしまったこともショックであった。
607
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:28:02 ID:es9erg9o0
どうすればいいだろう。
デレを探すべきか? でもどこにいるかもわからない。
この部屋に留まっている理由もない。
ならば、レジスタンスに協力する? でもそれはもう戻れないことの証。
(;^ω^)「あああ、どうしよう」
窓から離れ、ふらふらと動いて、それから椅子に座った。
机の前の、おそらくデレが使っていたであろう椅子。
やけに小さい。
ブーンの方が背が高いからだろうか。
それにしても、小さすぎる。幼いころのままなのではないか。
ここに、彼女はずっと座っていたのだろうか。
その姿を想起してしまう。
608
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:30:07 ID:es9erg9o0
それと同時に、思いだしたことがあった。
何かあったら、部屋をくまなく探すように。
それはデレが言った言葉。
609
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:32:04 ID:es9erg9o0
何かあったら……
あれは、自分で何かをすると宣言していたのだろうか。
そうだとしたら、デレがいなくなった今の状況こそ
部屋をくまなく探す機会。
でも、くまなく探すと言ってもどこを。
そこでまた、閃きがあった。
さきほど、デレの脱出経路考えるときに引っかかった場所。
どうしてカーテンの留め具をロープが通っているのか。
ロープを辿る。
留め具の場所を見るため、カーテンを動かした。
カーテンに隠れたその奥に煌めくものがあった。
( ^ω^)「そうか……」
610
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:34:07 ID:es9erg9o0
デレはロープをここに通した。
それは、これを発見させるためだったんだと、ブーンは合点がつく。
ゆっくりと手を動かす。
カーテンの留め具にかかっていたのは、銀色の小さな鍵だった。
鍵穴を探すこと、数分。
やがて、それが机の下にある小さな棚のものだと判明した。
人の棚を探ることには若干の抵抗はあったものの
思わせぶりに鍵がある以上、それを使いたくなるは無理もない。
( ^ω^)「……ダメだったら、それまでだお」
震える手で、また鍵穴にさしこむ。
さっきも似たような状況だったことを思い出した。
でも、さっきほどは緊張していない。
これがデレの真意に繋がっていると思ったからだ。
そう思うと、恐怖よりもわくわくする気持ちの方が勝る。
611
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:36:05 ID:es9erg9o0
鍵がはまり、解錠される。
棚の取っ手を引く。思いのほかするすると動いた。
普段から使われているのだろうか。
出てきたのは、一冊の厚いノートだった。
『日記帳』と書いてある。
(;^ω^)「これは……」
さすがにまずいと最初は思った。
個人の日記帳を盗み見るのは、いささか倫理に反している。
迷っているうちに、日記帳の上に紙切れがあるのに気付いた。
それを手に取る。
日記を見るよりは罪悪感は薄い。
小さなメモ書きだ。
その場に座り、折られている紙を開く。
(;^ω^)「……!?」
612
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:38:04 ID:es9erg9o0
目を見開いた。
そこに書いてあるのが、まぎれもなく自分のことだったからだ。
『ブーンさんへ
これを持って、読んでください。
それと、余計な音は立てないでね。
デレより』
☆ ☆ ☆
613
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:40:05 ID:es9erg9o0
―― 第五話 前半 終わり ――
―― 第五話 後半へ続く ――
.
614
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:48:01 ID:es9erg9o0
今日はおしまい。
また明日。
615
:
名も無きAAのようです
:2013/09/06(金) 00:43:39 ID:GN9bRVE20
おつ、また明日が楽しみ
616
:
名も無きAAのようです
:2013/09/06(金) 03:03:32 ID:Rav1g4qUO
おい、いいところで……と思ったが明日ならいいか!
617
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 20:59:23 ID:.J/zgTc.0
第五話後半の始まりです。
618
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:00:17 ID:.J/zgTc.0
ラスティア城8階から9階までの間
すでに螺旋階段を何段も踏み進めてきていた。
お城の中央に聳える塔、その内部を着実に上っている。
いくら進んでも、ひたすらに赤い絨毯が現れてくる。
注意しなければ、自分が本当に進んでいるのかどうかもわからなくなってしまう。
ドクオはヒートの先を歩いていた。
この階段の最上階に国王の部屋があるはずなのだ。
そこへいけば、モララーの剣がある。
('A`)「!!」
突然、ドクオが息をのみ、ヒートの前に手を出した。
('A`)「止まれ」
ノパ⊿゚)「なんだ、魔人か?」
('A`)「ああ」
619
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:02:17 ID:.J/zgTc.0
ドクオはこのお城に入ってから、ずっと魔人の匂いを感じてきていた。
だけど、今彼の感じている匂いはこれまでよりもはっきりしたもの。
('A`)「どうやら、待ち伏せしていた奴がいるみたいだ」
ドクオの手が、腰の柄にかかる。
ノパ⊿゚)「先に言っておくと、魔人相手に大した戦闘はできないぞ」
そういうヒートの手には、既に小型のナイフが握られていた。
ノパ⊿゚)「必要最低限のことをしたら、さっさと上に行く」
('A`)「それでいい。長いは無用だ」
ドクオの剣が抜かれる。
暫く使っていなかった剣だが、しっかりと光沢を帯びている。
こういう道具の手入れは怠らないのが彼の信条だった。
その握り手に力が籠る。
周りの空気が変わったのを感じたからだ。
620
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:04:18 ID:.J/zgTc.0
「貴様ら、何者だ」
螺旋階段の奥から人の声がした。
('A`)「……わけあってな、国王の部屋にいかなくちゃならないんだ」
「それはできないな」
最初の声とは少し違う声色。
('A`)「二人か」
ドクオは剣を引き絞る。
「国王の部屋には俺の主君が用なのだ」
「誰も通すわけにはいかない」
強気な口調が階段に響く。
ドクオは舌打ちをする。
高低差のある場所では下にいる者の方が不利だからだ。
621
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:06:18 ID:.J/zgTc.0
('A`)「……そんなら、どうすればいい」
「わかりきったことを」
「そんなの決まっているさ」
ドクオはヒートに目線を送る。
顎で先を示す。
('A`)「敵が来たら駆け抜けてくれ」
せめてヒートだけでも先に送ってやると思ったのだ。
敵がこちらに向かってくる隙に彼女が走れば、そうやすやすとは追いつけないはず。
ノパ⊿゚)「了解した」
短く答え、それから走りだすポーズをする。
ドクオは前を向いた。
階段の壁に影が見える。
622
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:08:18 ID:.J/zgTc.0
影が、一気に大きくなる。
敵が近づいてきている、螺旋階段を駆け降りて。
ドクオは剣を腰に据えて走りだす。
ヒートがその背後に隠れるようにして続く。
敵の姿が露わになる。
二人の姿。
( ´_ゝ`)「俺たち流石兄弟!」
(´<_`;)「俺たちを倒せたらな……兄者、言葉がそろってないぞ」
ぐだぐだの声色が重ねられてくる。
623
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:10:18 ID:.J/zgTc.0
二本の斧が振るわれてくる。
ハルバード、槍斧だ。
その武器が使われだしたのは、14世紀からだと言われている。
槍と斧を組み合わせた武器であり、
まだ世界が戦争をしていた頃は、人気のある扱いやすい武器だった。
二人組のやりとりこそ茶番だが、この武器は本物だ。
('A`)「いいもんもってるじゃねえか」
ドクオは楽しそうに言う。
剣を握る手のひらに力が籠る。
早速、戦闘が開始となった。
624
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:12:18 ID:.J/zgTc.0
ドクオは向かって左の男からくる一撃を交わし、右の男の一撃を剣で弾く。
そのまま身体を右の男へぶつける。
(´<_` )「うお!」
( ´_ゝ`)「弟者、そいつを抑えろ!」
ドクオが体当たりした男、弟者は体勢を崩しつつもドクオの腕を掴んだ。
離れようとするが、力が強い。
目の前では兄者が斧を引き寄せている。すぐに次の攻撃が始まるだろう。
('A`)「ヒート! 走れ!」
ノパ⊿゚)「おうよ!」
( ´_ゝ`)「え?」
兄者の動きが止まる。
その背後をヒートが駆け抜けていく。
(;´_ゝ`)「ぬお、見逃したあ!」
(´<_`;)「兄者、今はそれはいいからこいつをむぐっ!?」
隙をついて、ドクオは弟者の顔に蹴り込んだ。
腕が離れる。その脇を抜け、上段に立つ。
625
:
名も無きAAのようです
:2013/09/06(金) 21:13:50 ID:.KT3oBGQ0
お、きたか
弟の鼻が全角になってるよ
626
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:14:17 ID:.J/zgTc.0
(´<_`;)「ぐ……くそ」
鼻を抑えて、弟者が呻いた。
そこへ、ドクオは一気に斬り込む。
( ´_ゝ`)「おっと、そうはさせねえ」
弟者の前に兄者の斧が出され、ドクオの攻撃をはじいた。
ドクオの足は方向を変える。
兄者の方へ。
弾かれた剣を握りなおし、下からの攻撃に切り替える。
兄者は槍斧を使って盾とする。
斧という武器は、主に振り下ろして攻撃する。
石器時代から存在する人間の原始的な道具が発達したものだ。
そのフォルムから、近接戦闘では防御面で有利に立つことができる。
これは剣にも槍にもない利点と言えた。
槍斧にしても、斧がついている以上は同じことがいえる。
627
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:16:27 ID:.J/zgTc.0
しかし、防御をする際には刃の腹を敵に向けなければならない。
攻撃に切り替えるためには、刃を敵に向けてから振りかぶる動作が必要になる。
普通に扱うにしても動作が緩慢な斧にとって、そのタイムロスは重要な弱点であった。
兄者はなんとか柄を握りなおすチャンスを見極めようとしていた。
ドクオの攻撃がやむとき、バランスを崩すとき、なんだっていい、ちょっとの隙があれば。
だけど、ドクオとて元衛兵の一員、訓練は積んでいた。
その斬撃に無駄は無い。斬りかかってはすぐに身を引き、次の攻撃の構えへと続いていく。
素人目には攻撃がいつまでも続いているように見える。
もちろん戦闘慣れしていれば、剣を引いた一瞬をついてアクションを起こすこともできた。
手元を叩きつけてもいいし、武器など捨てて殴りかかってもいい。
だけど、兄者はただ冷や汗を流して剣の先を目で追うばかり。
その様子をみて、ドクオはすでに気付いていた。
彼らは実戦経験が少ないようだと。
(´<_`#)「このお!!」
横から弟者の怒鳴り。
ドクオは咄嗟に階段を跳んでのぼった。
目の前に一直線に伸びる槍斧。
628
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:18:18 ID:.J/zgTc.0
兄者の槍斧とぶつかり、金属音が聞える。
そんなことをすれば、お互いに傷がついてしまう。
ドクオはそのことがわかっていたので、顔を顰めた。
('A`)「立派な武器を持っているようだが、宝の持ち腐れだな」
双子が睨んでくる。
武器を引いて、それぞれ再び構えなおす。
('A`)「ほら、今度は俺が上に立ってる。形成は逆転だ」
挑発するドクオ。
これにのってくれれば、武器は自分に振るわれるだろう。
おのずとその攻撃領域も予想できる。
身体を上手く運べば、カウンターは容易い。たとえ敵が二人でも。
ドクオは頭の中でそう算段した。
一層の集中。
緊張が張られる。
629
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:20:17 ID:.J/zgTc.0
その緊張が破られたのは
意外なことに、ドクオよりもさらに上の階からだった。
ノハ;゚⊿゚)「な、なんだこれ」
ドクオが顔だけを素早く向ける。
何故か階段の途中でよろめくヒートが見えた。
(;'A`)「おい、どうした? 急げよ!」
ノハ;゚⊿゚)「違うんだ、何か、見えない壁があって」
「ふふふ」という笑い声。
ドクオとヒートは双子を見下ろした。
( ´_ゝ`)「俺の主君の出した命令はこうだ。
よしと言うまで誰もそこに入れるなってな」
630
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:22:14 ID:.J/zgTc.0
そう言って、兄者は頭を指さした。
( ´_ゝ`)「悪いがその見えない壁は俺が張らせてもらった。
誰もそこを通させやしない。俺を倒さない限りな」
髪の下が膨らみを持つ。
形となって持ちあがる。
('A`)「魔人か」
∧_∧
( ´_ゝ`)「その通り。
親切に教えておくと、契約してあるのは俺だけだ」
∧_∧
(´<_` )「……それはカッコつけてまで言わない方が良かったんじゃないか?」
∧_∧
(;´_ゝ`)「え、まじd」
兄者のセリフが途切れる。
ドクオがすぐに斬りかかったからだ。
631
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:25:07 ID:.J/zgTc.0
耳ずれ過ぎてて吹いた。
そういえばテストしてなかった……
少し直してきます。
632
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:28:01 ID:.J/zgTc.0
∧_∧
(;´_ゝ`)「な、おいちょっと空気読めって」
('A`)「んなもんしるか、だいたいさっきから匂いでわかってるよ」
∧_∧
(;´_ゝ`)「なに!? それを先に」
∧_∧
(´<_` )「兄者、うまく避けろよ」
簡素な忠告。
兄者が返答する暇もなかった。
直感的に、ドクオは数歩後ろに下がる。
弟者が槍斧を真横に振るったのだ。
その身体の半径1メートルが斬撃の通り道となる。
∧_∧
(;´_ゝ`)「あぶなあ!?」
もちろん、兄者もその射程圏内。
弟者の斬撃に巻き込まれそうになるのを、身体を反らせることで避ける。
手をばたばたと回して、なんとか転ばずに済んだ。
633
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:31:42 ID:.J/zgTc.0
兄者の槍斧が手からこぼれ落ちる。
なんとか踏みとどまった兄者が、歯噛みして弟者を睨みつけた。
∧_∧
(;´_ゝ`)「弟者! 危ないじゃないか!」
手振りで精いっぱいに抗議のアピールをする。
それに対して弟者は冷ややかな視線を向けるだけ。
∧_∧
(´<_` )「いや、戦闘ってこういうものだろ」
そしてすぐに顔をドクオの方に向ける。
∧_∧
(´<_` )「さてと、戦闘といきましょうや」
('A`)「最初からそのつもりだが」
ドクオは改めて自らの剣を引き締めた。
∧_∧
(;´_ゝ`)「まったく……ん?」
足元に目を向けて、ぴたっと動きが止まる。
さきほど落としたはずの槍斧が消えている。
いったいどこへ。
634
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:33:39 ID:.J/zgTc.0
ノパ⊿゚)「いいもんもらった」
ヒートが言う。
彼女がいるのは、兄者より数段下。
その得意そうな顔の横に、兄者の槍斧を掲げている。
盗むという本能に近い行動が、彼女を素早く行動させていた。
兄者が背後の音に気付いて振り向いたときにはもう
彼の顔面に向けて、槍斧の柄の部分が突かれていた。
∧_∧
(;´_ゝ`)「あ……」
ぽつり、と一言。
その視界はすぐに真っ黒に染まる。
∧_∧
(´<_` ;)「あ、兄者!」
弟者が慌てて足を向けようとする。
635
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:35:44 ID:.J/zgTc.0
しかし、その鼻先で煌めきが走り抜けた。
('A`)「お前の相手は俺だ」
ドクオは冷たく宣告する。
目を細めて、弟者の顔色をうかがっている。
∧_∧
(´<_` ;)「……うう」
弟者は歯を噛みしめながら、身体をドクオに向けた。
その腕の槍斧を再び握りなおす。
('A`)「いくぞ」
剣を引っ込め、振りかざす。
弟者が慌てて、槍斧を防御に活用する。
636
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:37:41 ID:.J/zgTc.0
ドクオと弟者の攻防が繰り返されている頃、階下でヒートは締めに入っていた。
ノパ⊿゚)「もういっちょ!」
わなわなと顔面を抑える兄者に対して、回し蹴りが炸裂する。
それ自体に威力があるわけではない。
でも、その靴の下にはバネが仕込まれていた。
シュールお手製の、高いところまで飛び跳ねることができる仕組み。
それは地面を離れた瞬間に、バネの力が靴の下側へと作用する。
その結果として思いっきり跳ねることができる。
ヒートの尋常ならざる脚力によって下支えされている道具であった。
今、ヒートの足が兄者の顔を離れようとする。
その瞬間に、
そのバネの力を利用した装置が作動した。
バネの力が靴の真下へ。
637
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:39:40 ID:.J/zgTc.0
兄者の頭を駆け抜ける衝撃。
壁に激突する後頭部。
血潮が駆け巡り、兄者の思考が混濁する。
∧ ∧
(;´_ゝ`)「くおお……」
か細い呻き。
目をいくら瞬いても、視界がぶれる。
力が抜けていく。
ノパ⊿゚)「じゃあね!」
そういって、ヒートは槍斧の柄を振りあげ、降ろした。
兄者の頭に目がけて。
すこんという小気味よい音が鳴る。
それがスイッチだったのだろう。
ほどなくして、身体を支える意志も消え、
兄者はあっさりと地面に突っ伏した。
638
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:41:41 ID:.J/zgTc.0
上階にて、ドクオは横目でその様子を確認する。
にやりとして、それから弟者に呼びかけた。
('A`)「おう、どうするよ」
∧ ∧
(´<_` ;)「……」
槍斧を構えたまま、弟者は話そうともしない。
ヒートが兄者を倒す間にも攻撃は交わされていた。
相変わらず、ドクオによる一方的な攻撃。
相手が弟者に変わろうとも、その優位は譲らせない。
それにもかかわらず、弟者は目をちらちらと階下に向けていた。
どうやらよほど兄者が気になっているようだ。
('A`)「おい」
しびれを切らして、ドクオが言う。
弟者は目を向けて、それから見開いた。
ドクオの剣の切っ先がまっすぐその顔に向けられている。
弟者の目に恐怖が浮かぶのが手に取るようにドクオにはわかった。
('A`)「おたくの連れはもうダメみたいだぜ?
いくら魔人のお前でも、不思議な力なしに前と後ろからはきついんじゃないか?」
639
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:43:41 ID:.J/zgTc.0
追い打ちをかける目的で、ドクオは語りかける。
なるべくなら無駄な乱闘はしたくない。
その思いから、譲歩のつもりで言っていた。
('A`)「どこでそんな武器を仕入れたかは知らないがな。
斧と剣の相性を考えてなかったのが悪いんだぜ?」
∧ ∧
(´<_` ;)「相性、か。
そうとも、何もかも兄者に任せていたからこうなったんだな」
弟者はそう言って、顔を強張らせた。
('A`)「なあ、あんたらの主人って誰だよ」
ドクオが質問する。
こうして魔人が防衛している以上、契約した相手がいるはずだ。
∧ ∧
(´<_` ;)「契約したのは兄者だ」
('A`)「そうかもな。でもお前もここにいる。
ってことは、お前にも雇い主がいるはずだろ?
兄者の契約主がお前に頼んできたのかもしれないしな」
∧ ∧
(´<_` ;)「……ご明察だよ。
だが、ここで言う必要もないだろう。どうせ上にいけばわかる」
640
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:45:46 ID:.J/zgTc.0
弟者はそういって、ドクオよりさらに上を顎でさした。
ドクオはそちらを見ず、弟者へ向けた剣も降ろさなかった。
('A`)「そうか。なら、退け」
∧ ∧
(´<_` ;)「……ああ、いいぜ」
弟者が息をもらし、肩を落とす。
槍斧も階段の一つに横になる。
刃の部分が大きいため、わずかに刃の方が段から外れ、浮いた形となる。
ドクオはそれを確認して、首を縦に振る。
許すときのサイン。
('A`)「いい判断だ」
途端に、弟者がほっとした様子になる。
緊張が解けた、と表情が語っていた。
('A`)「おい、ヒート、行くぞ」
641
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:48:03 ID:.J/zgTc.0
ドクオは階下のヒートに顔を向けて、手を振った。
こっちにこいという合図。
意識は完全にそちら側。
('A`)「おっと」
油断していたのか、ドクオはつい剣を落としてしまった。
からからと音を立てて、滑り落ちる。
それを拾おうとして、ドクオは思わず身を屈めそうになった。
∧ ∧
(´<_` )「……なんてな」
弟者が呟く。
彼は隙を見逃さなかった。
というよりも、最初から隙を探していた。
ノパ⊿゚)「……あ」
倒れた兄者の横で、彼女は顔を上げていた。
ドクオを見上げる状態。
だから気付くことができた。
642
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:49:40 ID:.J/zgTc.0
ノハ;゚⊿゚)「ドクオ、危ない!」
先程地面についた槍斧の先を、弟者が踏みつけた。
てこの原理。
槍斧の刃が下の段につき、代わりに柄が上に上がる。
半回転したそれは、弟者の手のひらに収まる。
そのまま勢いが活かされた。
手のひらは握りこぶしに変わり、肘が動く。
槍斧はさらに回転し、今まさに高く振りあげられていた。
ドクオはいまだに前傾姿勢。
その背に弟者の視線が突き刺さる。
∧ ∧
(´<_` ;)「ふん!!」
気合の一声。
振りかざされる槍斧。
剣で受け止めることもできない。
643
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:51:41 ID:.J/zgTc.0
それに対し、
ドクオは避けるどころかむしろ、敵の懐へと飛び込んだ。
∧ ∧
(´<_` ;)「!?」
空振り。
斧はただ空気を切り裂いただけ。
勢いで階段に突き刺さる。
一方で
刃も何もついていない柄の動きをはっきりと見極めてから
ドクオは右手を引いて力を込めた。
('A`)「いいことを教えてやるよ」
足が前に出る。
重心が移動する。
('A`)「武器に頼りきってちゃ、いつまでたっても見習いだぜ?」
身体の自然な流れに乗って、握られた拳が敵の顔面に突き刺さる。
鼻の骨の砕ける感触が、確かにドクオに伝わってきた。
悲鳴を出す間も無く、弟者の身体が横ざまに吹きとばされる。
644
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:53:41 ID:.J/zgTc.0
∧ ∧
(´<_` ;)「がっ……ふ」
壁にぶつかって呻く弟者。
床へと滑り落ちて、そのまま身を屈める。
嘆息。
ドクオのものだ。
弟者の垂れた頭を一瞥。
それから舌打ち。
('A`)「……ちょっと手が痛いわ」
忌々しげな目で、ドクオは自分の拳を睨んでいた。
645
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:55:43 ID:.J/zgTc.0
ノパ⊿゚)「やー、暴力的な人怖いわー」
飄々とヒートが上ってくる。
('A`)「……そっちは壁にめり込んでいるようだけど」
ノパ⊿゚)「うん」
('A`)「…………」
兄者が気絶したことで、すでに壁は無くなっていた。
二人は安心して先へ進む。
この先に誰が待ち構えているのかと気になりながら。
☆ ☆ ☆
646
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:57:40 ID:.J/zgTc.0
10階、すなわち、塔の最上階
国王の部屋
扉は開かれていた。
('A`)「……あいつらがいっていた奴か」
ノパ⊿゚)「誰がいるんだろうな?」
('A`)「さあ?
こんなときにこっそり忍び込もうって奴だ。
どうせ碌な奴じゃないんだろうさ」
階段を登りきる。
真っ暗な廊下。
部屋の明かりは異様にまぶしい。
人影が見えた。
壁の装飾品に顔を向けている。
後ろ姿だけでは誰か判別できなかった。
647
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:59:41 ID:.J/zgTc.0
彼が、あの双子の一人、兄者の契約者だろうか。
誰も通すなと指示した人物。
その人の腕が、上げられる。
壁にかけられた剣へと伸びていく。
('A`)「そいつに触れるな」
部屋に踏み込んだドクオは、さっそく告げた。
男が動きを止める。
右手ではすでにルビーの剣の柄を握っている。
「何者かな」
物静かな声。
振り返らなくても、誰かが来たことはわかっていたのかもしれない。
('A`)「それはこっちのセリ……フ?」
648
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:01:43 ID:.J/zgTc.0
最後の最後で、疑問符を浮かべた。
聞いたことのある声だったからだ。
数秒固まる。
沈黙。
そして、ドクオは息をのんだ。
(;'A`)「……あんた、まさか」
ドクオの声が震えていた。
ノパ⊿゚)「おい、どうしたんだよ?
知ってる人か、この人?」
ドクオの後方でヒートが聞いた。
だけど答えが返って来ない。
ドクオには答える余裕が無かった。
649
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:03:40 ID:.J/zgTc.0
(;'A`)「なんであんたなんかがここに……」
ドクオの頭の中が大きくうねる。
その人は、剣の柄をはっきりと握った。
そのまま、身を捻り、ドクオとヒートに対峙する。
剣の切っ先がまっすぐに二人に向けられた。
部屋の暖色の光を反射し、煌めく。
「良い剣だ」
端的に、男は評価する。
国王の部屋に、どうしてその人がいるのか、
ドクオには全く理解できなかった。
650
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:05:42 ID:.J/zgTc.0
ただ、今の自分が窮地に立たされていることだけははっきりとわかる。
( ФωФ)「この剣がここに飾られているのは、確かに惜しい」
ロマネスクはそう言って、冷ややかな目を向けてくる。
猫目が二人を捉える。
そして、ドクオとヒートがアクションを起こす前に
彼はもう片方の手を前へと突きだしていた。
☆ ☆ ☆
651
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:08:01 ID:.J/zgTc.0
8階
王女の部屋
足音が聞えてくる。
ブーンは思わず身を構えた。
日記はまだその右手に握られている。
実は少しだけ、既に中身を読んでいた。
最後の方だけだが。
胸が高鳴っている。
でも音が聞えている以上は気をつけなければならない。
いったい誰が来たというのか。
扉の前で、音が止まる。
開かれると、その先に顔が見えた。
652
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:10:03 ID:.J/zgTc.0
( ^ω^)「あ……」
ブーンはほっとする。
見知った顔だったからだ。
なんだ、びっくりしてしまった。
( ^ω^)「どうしたんだお、ジョルジュ」
首を傾げて問いかける。
相手は肩をすくめた。
( ゚∀゚)「いや、なあに。大変かなと思ってさ」
ジョルジュは軽快な足取りでブーンに近づいた。
( ^ω^)「大変?」
言葉が気になったので、ブーンは繰り返した。
653
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:12:10 ID:.J/zgTc.0
( ^ω^)「大変ってどういうことだお?」
( ゚∀゚)「そりゃ、単純に、お仕事がよ」
ジョルジュはそう言って笑う。
なんで笑っているのかわからなかったが、
ジョルジュはいつでもにやけているしそんなものかとブーンは思った。
( ^ω^)「まあ今夜はいろいろあったんだお。
ちょっと大変な面もあったお。
というか、レジスタンスの方はどうなったんだお」
( ゚∀゚)「ああ、ちょっとお前にも言いたいことがあってさ。
大丈夫。あいつらきっと上手く言ってるさ」
( ^ω^)「そうかお?
まあ、そう失敗する人たちじゃなさそうだおね。
あ、言いたいことと言えば僕もあるんだお!」
そう言って、ブーンは自分の手元に目をやる。
日記帳。
( ^ω^)「これをちょっとだけだけど、読んだんだお。
少ししか読んでいないけど……でも……」
654
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:14:02 ID:.J/zgTc.0
日記を持つ手に力が入る。
自分の考えを整理するブーン。
どうしても、この内容だけはちゃんと伝えなくては。
今後の自分の行動に関わる大切なことなんだから。
( ^ω^)「ひょっとしたら僕は、とんでもない間違いを――」
話しながら顔を上げた。
輝いていた目。
それが、急速に光を失う。
目の前に、矢があった。
ジョルジュの構えるクロスボウの矢。
(;^ω^)「…………は?」
思考が追いついていなかった。
655
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:16:01 ID:.J/zgTc.0
どうして自分に敵意が向けられているのかもわからなかった。
(;^ω^)「なんの冗談だお、ジョルジュ」
ブーンはおどけた調子で言う。
ジョルジュがいつものままなら、それにのっかって笑い飛ばしてくれるはず。
だけど、予想していた笑い声は聞こえてこない。
ジョルジュはただ、まっすぐな瞳でブーンを見つめてきていた。
☆ ☆ ☆
656
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:18:03 ID:.J/zgTc.0
国王の部屋
外を強風が吹き付けた。
ガラスが揺れる。
だけど、それは一瞬のこと。
すぐに部屋はもとの静寂に包まれる。
その部屋に突然
高笑いが響き渡った。
ロマネスクの高笑いだ。
彼は剣をくるくるとまわしていた。
その顔には満面の笑み。
不気味な細い目が光る。
( ФωФ)「すまないが、本気を出させてもらった」
ロマネスクの腕が振るわれる。
ルビーの剣が空気を切り裂く。
鋭い音がする。
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