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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ

101 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:31:59 ID:BuuB5olM0
モララーは自分の手のひらにあったものが無くなるのがわかった。

剣が、柄が、消えた。
飛ばされた。

そうか。

モララーはようやく気付いた。

声を信頼しすぎた。
上に奴はいなかったんだ。

剣は、おそらく右から来た奴に飛ばされた。
突きを外した奴だろう。

あの剣、高いのにな。
うちの家宝だったのに。
惜しいことしたな。

102 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:32:59 ID:BuuB5olM0
鍔の部分にルビーが埋まった
まっすぐな鋼の諸刃の剣。
柄には特徴的な紋章。

後ろからうめき声が聞えた。
ドクオの声だ。

( A )「すまん……」

それが最期に聞えた言葉だった。

これで声を、鼻を失った。
モララーは、ふっと息を吐く。

それから、思いっきり吸い込んだ。
ほんの数秒もない間に。

腹の底に一気に力を溜め、叫ぶ。

103 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:33:58 ID:BuuB5olM0
(#・∀・)「ブーーーーーーーーーーン!!!!
 三匹のカエル、覚えておけ!!」

それは、あの剣の奇妙な紋章の絵と同じ。

返答は聞えない。
すぐに、首筋に冷たい感触があった。

肉に食い込む。

獣の声。

そして、視界が黒く染まる。





     ☆     ☆     ☆

104 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:35:00 ID:BuuB5olM0
靄が晴れた。
ブーンは薄めを開けてそれを確認した。

実際には、何も覚えていなかった。

あのとき、モララーの叫び声が聞えた。
突然、靄を切り裂くようにして
カエルがどうとか。

でも、それを聞き終える前に衝撃が横からきた。
どうしてかわからなかった。
そっちには王女がいたのに。

デレが。

首をちょっとだけ動かす。
芦毛の馬が倒れているのが見えた。
ドクオの馬だ。

105 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:35:59 ID:BuuB5olM0
ドクオ自身を見つけようとしたが、見当たらない。
どうしたのだろう。負傷したかもわからない。

さらに首を動かす。

そして、安心した。

屈んでいる黒いコート姿の女性。

まぎれもなくそれはデレであった。
ずっと、今日一日見てきた姿だ。忘れるわけがない。

デレ、と声をかけようとした。
でも声がでない。
力が入らない。

相当大きな力で襲われたらしい。
体中が痺れている。

106 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:37:00 ID:BuuB5olM0
このままでは、デレが危ないのではないか。
嫌な予感がブーンの頭によぎる。

何もできず、ただ、目だけをデレに注ぐ。
デレはブーンに気付く素振りも無い。

ああ、どうか気付いてくれ、デレ。

頭の中で、ブーンは彼女の名前を、「王女」ともつけずに呼んでいた。

唐突に、足音がした。

「お戯れがすぎますよ、王女様」

107 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:37:59 ID:BuuB5olM0
誰が来たのだろう。

ブーンは目を細める。

コートの女性の傍に男が立っていた。
いつの間に現れたのか見当がつかなかった。

ただ、その鎧が衛兵のものだったので、ブーンは安心した。

そうか、衛兵が助けに来てくれたのか。
これなら安心だ。自分たちがダメでも、きっと衛兵が守ってくれる。
何せこの国自慢の衛兵だ。魔人ごとき、簡単に。

ζ(゚ー゚*ζ「ええ、遊びすぎましたわね」

コートの女性が言う。
まぎれもなくデレの声。

108 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:38:59 ID:BuuB5olM0
でも、今まで聞いたことのない声。
とても冷たい印象があった。

コートの女性の横顔が見えた。
デレの横顔だ。

相変わらず、鼻筋がくっきりとしており、肌が白い。
既に日の沈んだ場所でも、月や星の明かりのおかげで良く見える。

だけど、目が違った。
輝きは無い。
真っ黒な瞳。

白い馬が嘶いた。
白馬は無事だったらしい。

ζ(゚ー゚*ζ「鳴いちゃだめ、大丈夫、もうすぐ帰るから」

デレが声をかけた。
ブーンの視界にいない白馬は、うなるような声を出してそれに応えた。

109 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:39:59 ID:BuuB5olM0
「本当に帰ってくれますかな」

衛兵が言う。

月明かりに照らされて、ようやくブーンはその人物がだれかわかった。










( ФωФ)「あなたは簡単に人を騙しますから」

110 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:40:59 ID:BuuB5olM0
衛兵トップの実力者、ロマネスク。

彼がこの場にいるなんて、驚きだ。
これはすごい。
きっと魔人なんか、あっという間に倒してしまったに違いない。

ブーンは内心喜んでいた。
それだけ貴重な人物だったからだ。

少なくとも、そう思っていた。


そのときは。


次の瞬間までは。

111 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:41:59 ID:BuuB5olM0
ロマネスクの言葉に対して
デレは頷いた。








ζ(゚ー゚*ζ「帰りますわよ。
 こうして不穏分子も始末できたんですから。
 遊びにしては上出来でしょう?」

112 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:42:59 ID:BuuB5olM0
デレが動いたことで、その足元があきらかになる。
彼女はそれを両の手で持った。

ゆっくりと持ち上げる。

デレはそれをしげしげと眺めていた。
無表情に。

果たして何か感じているんだろうか。
あの顔の奥底で、何を抱いているんだろう。

ブーンにはわからなかった。
そもそも今、ブーンの思考は働いていなかった。

それにくぎ付けだったから。

113 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:43:59 ID:BuuB5olM0
(  ∀ )










デレが両手で抱えているのは、モララーの首だった。
下には何もない。ただの物体と化した顔。









.

114 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:45:00 ID:BuuB5olM0
デレは腕を屈め、それを自分の顔にさらに近づける。
口元へ引き、顔を動かし、
その物体の額であった場所に唇をつけた。

顔は動かない。
目は既に閉じられている。
さっきまで生きていたためか、まだそこまで造形は崩れていない。

目を開けて、いつものように笑ってもいいくらいだ。

むしろどうして目を開けないんだ。

あなたはあのモララーさんじゃないのか。

なんで。

115 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:46:01 ID:BuuB5olM0
( ФωФ)「さて、行きましょうか王女様。
 あそこで寝ている衛兵はまだ生きているようですし、連れて帰りましょう。
 しかし、まさか起きてはいますまいな」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫、魔人の一人が眠らせる力を使ってくれたから。
 明日の朝まではぐっすりですよ」

「それは良かった。
 彼一人でも噂を流す役割には申し分ありますまい」

ζ(゚ー゚*ζ「効果は薄れますけどね」

デレはモララーの首を降ろして、立ちあがる。

116 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:46:59 ID:BuuB5olM0






ζ(゚ー゚*ζ「人が口で言ったことを信じるなんて、馬鹿みたい」






デレはそういうと、鼻で笑った。
まったく笑っていない目を伴って。

ブーンは目を閉じた。
なるべく見つからないように、自然に。

117 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:47:58 ID:BuuB5olM0
だけど本当は思いっきり目を閉じたかった。
強く強く。
千切れるくらいに。

これが現実だなんて思いたくなかった。
かき消えてしまえばどれだけいいか。

今日一日なんてなかった。
デレなんて、あんな、冷たい顔の王女なんて。

身体に手がかけられた。
持ちあげられる。
どこかへ運ばれる。

獣の匂いがする。

ああ、見えはしないが、魔人だろう。
逃れられない現実が、瞼を隔てた先にある。

どうしようもないことに。

118 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:48:59 ID:BuuB5olM0
この国の名はラスティア






終わりの意味を冠する国






そして






冷たい王女の治める国

119 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:49:59 ID:BuuB5olM0




――  第一話 終わり  ――






――  第二話へ続く  ――



.

120 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:50:58 ID:BuuB5olM0
――  コラム① 世界観  ――


1789年 テニスコートの誓い



いいか、みんな

       ( ゚д゚)
      (| y |)

俺たち第三身分には自由と平等が必要だ

 自由  ( ゚д゚)  平等
   \/| y |\/

憲法が制定されるまで、我々は決して挫けず、諦めず

     ( ゚д゚)  憲法
     (\/\/

121 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:52:10 ID:BuuB5olM0




<大変だー魔人が来たぞー




     ( ゚д゚)    ⌒ 憲 ポイッ
     (\/\/ ⌒   法




     (゚д゚) 
     (\/\/

122 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:52:59 ID:BuuB5olM0
( ゚д゚)「そのあと魔人は王様のところへ向かって話し合いを始めました。
 争うつもりはさらさらありませんでした。
 魔人としてはとりあえず住む場所ができれば良かったのです」

( ゚д゚)「魔人には不思議な力もあり、筋力も人間より発達していたので
 王様としてもまともにやりあったら勝てやしねえと悟りました。
 だけど王権は守んなきゃ。とりあえず魔人と一緒に暮らすかーと考えました」

( ゚д゚)「魔人は自然が好きだったので、庶民と協力することが増えました。
 割と便利な仲間ができたって感じで、庶民は楽に暮らせるようになりました。
 もし王様が調子こいてたら魔人を使って脅しかけることもできました」

( ゚д゚)「いってみれば革命しなくても結構良いバランスになっちゃったんです」

( ゚д゚)「これから興るはずだった産業革命もいらなくなりました。
 労働力を必要としないから人口が増える理由もなくなりました。
 みんな楽しくのほほんと、魔人と一緒に仲良くね」

( ゚д゚)「だけど魔人がみんなおとなしいとは限らないし
 人間の方にも不満を持つ人たちはいたりしました。
 その価値観の存在が物語の背景となっております」

123 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:54:00 ID:BuuB5olM0
( ゚д゚)「生活レベルもそんなに高くしなくて良くなったので、自然と生活は中世レベルに落ちました。
 質が落ちたのではなくて、見た目がです。
 なぜなら魔人と仲良くする手前、自然を大事にする必要がでてきたからです」

( ゚д゚)「それからたまーに戦争も起きます。
 ただ、人間同士の戦争よりも魔人を使った戦いにシフトしていきました。
 魔人の不思議な力は相手の数とかそういうの関係なく脅威となりえたので
 国家そのものを強大なものにする必要性も消えました」

( ゚д゚)「国はそもそも小国であり、
 ドイツとかイタリアの都市国家レベルでばらばらに存在するようになりました。
 国王といっても、そんなに威張れる存在じゃないんですね。外交も大事です」

( ゚д゚)「人口もそこまでじゃないです。その代わり寿命が伸びました。
 近世ヨーロッパの人間の平均寿命は25〜30歳と言われていますが、
 この世界ではおじいちゃんもおばあちゃんもいます」

( ゚д゚)「人々の仕事も、力仕事はかなり衰退しました。
 ほとんど勃興しかけていた工業も、技術が必要無くなったのでそのまま下火。
 結局魔人の力を持ってしてもどうすることもできない自然相手の仕事、農業漁業林業
 力があればいいってものじゃない伝統工業や山での何かとかあーだこーだが主流になっていきました」

124 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 23:54:59 ID:BuuB5olM0
( ゚д゚)「この設定は別に熟知しなくちゃ物語楽しめない、なんてことはないです」

( ゚д゚)「作中にも必要な説明は書いてありますし」

( ゚д゚)「面倒だったら、なんだかRPGのような世界がまかり通っていると理解すれば大丈夫です」

( ゚д゚)「ただ、スタート地点が魔王の城なだけなのです」







       (゚д゚)ノシ まだまだ先は長いですが、できればせめて月一で書きたいなあと思います。
      (| y |   それではまた次回、お会いしましょう。




――  コラム① おわり  ――

125名も無きAAのようです:2013/08/21(水) 23:57:56 ID:2s.aj1EQ0

王女こええ…モララー(´;ω;`)

126名も無きAAのようです:2013/08/22(木) 05:39:15 ID:mQ01Xi2Y0

予想してた展開を大いに裏切られたお

127名も無きAAのようです:2013/08/22(木) 10:09:22 ID:qDyc9qDE0
タイトル冷たい王女だったね…
王女こわい乙

128名も無きAAのようです:2013/08/22(木) 14:59:38 ID:f3darNGg0
おお…ファンタジーだ
すげー期待してる乙

129名も無きAAのようです:2013/08/22(木) 15:21:14 ID:41hr4lHsO
100レス超えとか長い一話だった、一気に読んじゃったけど

130名も無きAAのようです:2013/08/22(木) 17:56:49 ID:6Mr8HB9A0
乙ー

魔人の力ってどの程度なの?
現れたのが18世紀末でなく21世紀の現代だったならやろうと思えば駆逐出来た感じ?

131名も無きAAのようです:2013/08/22(木) 21:06:02 ID:Jc2XLkJY0
めちゃ続き楽しみ

132名も無きAAのようです:2013/08/22(木) 23:37:40 ID:Zs2.6sZc0
話も面白いし設定が俺得すぎる
期待しまくり


133名も無きAAのようです:2013/08/23(金) 00:36:16 ID:o1BK5jVMO
ω・)ブーン頑張れ

134 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/23(金) 00:44:32 ID:UHuBuTEc0
>>130 
できる範囲で簡単に答えるとすれば、何もない素の状態では人間より防御力と攻撃力がちょっと優れている程度です。
18世紀末の人間でもやろうと思えばぶちのめせるし21世紀なら機械が発展しているからやっぱりぶちのめせます。
ただ不思議な力があるために本気で戦うと人間側が非常にしんどくなってしまうのと、争いしたら国家やばいという理由から仲良くしてます。

魔人は次回から本格的に登場しますので、そのときに説明があります。

135名も無きAAのようです:2013/08/23(金) 14:40:30 ID:izVHysBI0
第一話からして100レス越えとか気合が半端ないな。
これは期待、ゆっくり追わせてもらいます。

136名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 01:16:51 ID:6kCH5sjI0
最後の「スタートが魔王の城」って説明にグッと惹かれた
超期待

137 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/25(日) 00:08:50 ID:Oz.RPzaI0










――  予告  ――









.

138 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/25(日) 00:10:18 ID:Oz.RPzaI0
ツンの声だ。

彼女の声は今、抑揚が少ない。
感情を押し殺しているようにも思える。

通常、このような話し方をする人間はよほど感情表現が苦手なのではないかと心配になる。
でも、もちろんツンは違う。
今の彼女は感情をさらけ出すわけにはいかないのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「配達員の話によるとね、確かに部屋番号は同じだったって。
 でも良く考えたら棟のアルファベットを見間違えていたらしいのよ」

頬を汗が伝うのを感じる。
お皿の上に、落下し、破裂した。

(゚A゚* )「へえ、それじゃ別の棟にいってたんだね。
 どこかわかったの?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ、でももう検討はついているの。
 だって、私のところに来ていた荷物は男物だったんですもの」

ミ*゚∀゚彡「なるほど! 男性用のAからFの棟のどこかってことね!」

(゚A゚* )「全部探すのに最大6往復か……もし手伝えそうなら手伝うよ!」

死刑台に送られる気分で、その会話を聞いていた。

今自分は13階段を上っているんだ。

139 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/25(日) 00:11:47 ID:Oz.RPzaI0
ミ*゚∀゚彡「3人で探せば2回で済むね!」


6から2


13階段が4.33段に


ξ゚⊿゚)ξ「あら……ありがとうみんな」


(゚A゚* )「これからずっと過ごすわけだし」


ミ*゚∀゚彡「これくらい協力してあげるって!」









ξ*゚⊿゚)ξ「それじゃ一番近いF棟から探してみましょ」


階段が爆発した。

140 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/25(日) 00:13:09 ID:Oz.RPzaI0










――  第二話 手作り地球儀と三匹のカエル  ――












次の月曜日の夜10時から投下開始。

141名も無きAAのようです:2013/08/25(日) 00:22:23 ID:qFEqCjUg0
おお待ってる

142名も無きAAのようです:2013/08/25(日) 00:53:17 ID:XlDu5Ers0
楽しみだよ

143名も無きAAのようです:2013/08/25(日) 00:53:41 ID:vQPGbetIO
おい、3日で100レス書きあげたのかよ 
期待して舞ってる、疲れたら休みながらだけど

144名も無きAAのようです:2013/08/25(日) 01:46:09 ID:UprCnjmw0
ペース早すぎだぜ、無理すんねい!

145名も無きAAのようです:2013/08/25(日) 09:37:23 ID:mvDdyczk0
楽しみ楽しみ

146 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 21:55:13 ID:x6g1yXaQ0
そろそろ投下をはじめます。

147 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 21:56:17 ID:x6g1yXaQ0
2年前の9月

寄宿舎への入居が始まる月。

この日、ブーンはラスティア国の中央に位置するお城に到着した。
国王及び貴族が生活する城だ。
なぜなら、衛兵見習いとなるための申し出が受理されたからである。

南の南のそのまた南、鉱山と貿易の町から遙々、魔人に引かせた大型車でやってきた。
魔人の馬力は凄まじいが、それでも過重労働をしてしまうと体力がもたない。
ゆえに休みを挟みつつ、2日かけてたどり着いた。
それでも馬の倍以上の速さである。

寄宿舎F棟3階368号室

ブーンは自分の部屋番号を記したメモ書きを何度も確認した。
部屋を間違えるなんて面倒なことは起こしたくない。
入隊初日から他人に迷惑をかけて目をつけられるようなことはあってはいけない。

F棟の3階にたどり着き、ゆっくりと部屋番号を確認する。

300,310,320……

148 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 21:57:23 ID:x6g1yXaQ0
一つのブロックごとに10単位で扉の数字が増えていく。
扉の前に『入居予定』札が貼ってある部屋もみられる。
この寄宿舎に入居予定だが、いまだ入居者が来ていない部屋なのだろう。

それらの部屋の前にはたまに荷物が置かれていた。
先に荷物だけこちらに送っているということだ。

ブーンも同じこと立場であり、自分の部屋の前には荷物が積まれているはずであった。

340,350,360……

361,362,363……

ブーンは入隊についての合格発表を見ていたときを思い出していた。
あのときもこうして数字を一つ一つ見ていき、自分の数字を探したものだ。
何故かこんなときは異様に緊張してしまう。
たかが数字なのに。

もう入隊しているのだから心配はないのに。

365,366,367……

149 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 21:58:17 ID:x6g1yXaQ0
368

当然のことながら数字はあった。
ほっとして、扉の前の床を見る。
荷物があるはず。

荷物はあった。
綺麗に紐で縛られた赤い色の袋が1つ。
しかし、どうも小さい。

嫌な予感がした。
生活のための道具を母に頼んでいたはずだったのに、なんで小包1つで足りているのだろう。
独り暮らしはそんなに甘いものだろうか。
自分が難しいイメージを勝手に抱いていただけだろうか。

せめて母がどんな袋に包むかしっかり確認すればよかったと、ブーンは今更後悔した。

とにかく、袋を抱える。
中身は木箱だ。錠も何もない。
部屋の鍵はすでにあるのでいつでも入れるが、
この場でも木箱は簡単に開けられるように思えた。

150 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 21:59:21 ID:x6g1yXaQ0
赤い袋の結び目をほどく。袋はただの四角い布となる。
風流な色合いを浮かばせた木箱が露になる。
なかなか綺麗だが、はたしてこんな造詣が母にあったかなとわずかに疑問を覚えた。

木箱の蓋に手をかけ、はずす。
既にこのとき、この箱は自分のものではないのではという予想がブーンには立っていた。

それでも万が一ってこともあるから開ける。
もし見るからに自分のでなければ、事務所に持っていく。
それでいいと思っていた。

蓋の下に現れたのは、青い小さな地球儀だった。

ブーンは思わずその場で固まった。
まさかこんな箱の中から地球が出てくるとは。
それに、よくみればその地球儀は市販のものではないようであった。

材質は紙のようだが、弾力がある。
魔人の不思議な力によって強化されているのだろう。
この世界では良くあることだった。

その地球儀はかなり広範囲にまでペンでチェックが付されていた。
手書きでかかれた国名。
どうも二人か三人で書いたようだ。
達筆もあれば、稚拙な字もある。筆跡もばらばら。

151 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:00:19 ID:x6g1yXaQ0
これは自分のか、どうか、ブーンにはわかりかねた。
その所有者を現すサインが無かったからである。

もしかしたら母が、何らかの趣向でこの品を送りつけてくれたのかもしれない。

そうとなれば、手紙で確認する必要がある。
今時魔人を使えば、今から送っても明日には帰ってくるはずだ。
それから事務所に送っても問題はないように思えた。

何より、この地球儀には不思議な魅力があった。
製品では作り出せない親しみやすさ。
もう少し、この地球儀を眺めていたい。

そんな軽い気持ちだった。

だから、ブーンはその地球儀を抱えて、部屋に入っていったのだった。

152 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:01:20 ID:x6g1yXaQ0










――  第二話 手作り地球儀と三匹のカエル  ――










.

153 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:02:20 ID:x6g1yXaQ0
2年前の9月

寄宿舎G棟3階368号室

新設されたばかりのこの棟の一室の前。

「なによこれ!」

彼女は悲鳴に近い叫びをあげながら、その場に箱の中身をぶちまけていった。
周りからみれば、突然発狂したようにも見える。
だから、隣室にいる他の従者見習いの人々も、見てみぬふりをしていた。

彼女はそんな様子にも気づかなかった。

彼女はただ自宅に忘れた大切な思い出の品を届けさせただけだった。
今学期から入居し、従者見習いとして勤め始める彼女にとって、
その品は自分の心の支えとなるはずのものであった。

だからわくわくしてその到着する日を待っていたのである。

それなのに、今朝届けられたのは明らかに自分のものではなかった。
きっと事務職員が間違えたのだ。
こんなに怒れることがあろうか。

箱の中に手を伸ばし、萎びたストライプ柄のトランクスを手にしたとき
彼女はようやく手を止めた。
その代わりわなわなと震えはじめ、両手でトランクスを握り、くしゃくしゃと縮める。

無論、彼女はそんなもの履かなかった。

154 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:03:21 ID:x6g1yXaQ0
ξ#゚⊿゚)ξ「誰のだああああああああ!!」

雄叫びと共に、彼女改め、ツンが両腕を引き伸ばす。
トランクスは形を保てず、一瞬にして真っ二つになり、ただの布切れと化した。

事務職員め、自分に野郎の服飾なんぞ送りつけるとは。
たとえミスでも腹の虫がおさまらなかった。

一応その場に散乱した荷物を乱暴に箱に押し込める。
それを抱えて、事務室へ向かう。

こんなものなど突き返してくれる。すぐに自分の荷物にかえてもらおう。
誤配送ならば他の部屋にでも届けられているはず。
きっとその人だっておかしいと気づいて返しにくるはず。

トランクスの残骸をゴミ箱にぶちこみ、足音が聞こえるのではと思えるくらいの勢いで彼女は歩んでいった。

ツンは、よもや荷物が別の棟の全く同じ番号に送られているとは気づかなかった。

155 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:04:19 ID:x6g1yXaQ0






それが、ブーンとツン、そしてモララーの出会うきっかけとなった。








     ☆     ☆     ☆

156 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:05:19 ID:x6g1yXaQ0
お昼になり、ブーンは寄宿舎1階の大食堂へ赴いた。
自分の荷物については事務職員に相談を出しておいた。
ただ、今日は荷物が多かったらしく、誤配送のチェックは難航するらしい。

そこで可哀想ということで、食堂のタダ券をもらえた。
食事をして、ブーンが戻ってくるまでには見つけておいてあげるという意味合いだ。

荷物が無いことに対して一抹の不安はあったものの、ブーンはありがたくタダ券を頂戴した。
今はさっそくそのタダ券を片手に、どんな食事があるのか物色している最中であった。

食堂で一番大きな料理を手に抱え、長いテーブルの一席に腰を下ろす。
スプーンを手にとって、スープに手をつけた。
長旅の末の、ようやく摂取できた落ち着いた食事だったので、妙に身体に沁みた。

サラダを手前に持ってくる。
そのついでに周りをざっと見まわした。

まだそこまで席は埋まっていない。
入居者は一週間に渡って到着することになっていたし、まだ来ていない人はたくさんいた。
一週間後にはかなりにぎわってくるのではないか。

157 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:06:20 ID:x6g1yXaQ0
女性の姿がちらほら見受けられるのに気付き、
この寄宿舎が従者見習いとして女性の受入れを始めたことを思い出した。
以前の姿がどうだったのかは知らないが、すでに雰囲気が変わりつつあると先輩方がぼやいているのを耳にしていた。

今、ブーンが座っているテーブルより数個後ろのテーブルでも女性が固まっている。
今年入居したての人々なのだろう。まだこの場に慣れていないという様子だった。

何の気なしに、その女性たちの会話を耳にするブーン。
別に下心があったわけでもない。
気が付いたら意識が向いていた。

ミ*゚∀゚彡「でさー、そういえばあの子どうなったの?」

(゚A゚* )「あー、ひょっとして部屋の前で暴れていた子?」

ミ*゚∀゚彡「そうそう、なんか怖くて近寄れなかったからよくわからなくてさ。
 あの子、なんで怒ってたの」

(゚A゚* )「なんかー」

158 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:07:19 ID:x6g1yXaQ0
ミ*゚∀゚彡
  (゚A゚* )「荷物の地球儀が別のところへ行っちゃったみたいなの」           ブッ( ^ω^).:'.。゜




ミ*゚∀゚彡
  ( *゚A゚)ジー                                         モグモグ(;^ω^)



ミ*゚∀゚彡「えー、それでどうするの?」
  (゚A゚* )「事務所行っても見つからなかったらしくて、見つけ次第殺すって」    ゴッファァ( ゚ω゚).:'.。;'(。゚∀゚)



ミ*゚∀゚彡
  ( *゚A゚)ジー                                      ゴメンナサイデスオ(;゚ω゚>⊂(゚∀゚#)オウコラテメエ、ドコノヘヤダヨ

159 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:08:22 ID:x6g1yXaQ0
初めて出会った少年に部屋を教えてなんとか晦ました。
土下座など容易いものであった。

そんなことは問題ではない。
今は女性たちの会話に集中するべきだ。
そう思い、ブーンはますます集中した。

その後の女性たちの会話を聞いてみても、よくわかった。
自分はとんでもない過ちを犯している。

まず、あの地球儀の元へ帰らなければならない。
はやくあれを無事にもち、そしてできる限り安全にもち運ぶ。

そして彼女の部屋へ……ん? まてよ、彼女って誰だ。

(゚A゚* )「あ、ツンちゃーん!!」

女性のうちの一人が、入口に向けて手を振った。

(゚A゚* )「今ちょうどツンちゃんのこと心配していたんだよー」

しめた。

その口ぶりからして先程の会話の内容を指していることは明らかだ。
ブーンはさりげなく、入口を見やる。
その女性が誰なのか、確認するために。

160 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:09:21 ID:x6g1yXaQ0





ξ゚ ゚)ξ ゴゴゴゴゴゴゴゴ






目元を見た瞬間に、ブーンは顔を元に戻した。
細かい造形など見ている場合ではない。

あれは般若だ。数秒でも見つめればやられる。
そう思わせるだけの迫力が伴っていた。

(゚A゚*;)「だ、大丈夫? ツンちゃん」

ミ;*゚∀゚彡「顔色悪いよ」

161 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:10:20 ID:x6g1yXaQ0
ξ゚ ゚)ξ「顔色?」

(゚A゚*;)「そう、なんかこう、表情がかたいというか」

ミ;*゚∀゚彡「いろいろあったからかしらね」

ξ゚ ゚)ξ「そう……煩わしいのが嫌だから」

ブーンは目の前の食器に目線を集中させていた。
もうお皿の上にはほとんど何も残っていない。
いつもなら残す菜っ葉の類でさえない。

こんなに健康的に食事をしたのは久しぶりだ。
食堂一の料理なのだし、タダ券でだし、客観的には申し分ない。

ただ残念なことに、味は全く覚えていなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「それより、興味深いことを聞いたのよ」

162 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:11:17 ID:x6g1yXaQ0
ツンの声だ。

彼女の声は今、抑揚が少ない。
感情を押し殺しているようにも思える。

通常、このような話し方をする人間はよほど感情表現が苦手なのではないかと心配になる。
でも、もちろんツンは違う。
今の彼女は感情をさらけ出すわけにいかないのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「配達員の話によるとね、確かに部屋番号は同じだったって。
 でも良く考えたら棟のアルファベットを見間違えていたらしいのよ」

頬を汗が伝うのを感じる。
お皿の上に、落下し、破裂した。

(゚A゚* )「へえ、それじゃ別の棟にいってたんだね。
 どこかわかったの?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ、でももう検討はついているの。
 だって、私のところに来ていた荷物は男物だったんですもの」

ミ*゚∀゚彡「なるほど! 男性用のAからFの棟のどこかってことね!」

(゚A゚* )「全部探すのに最大6往復か……もし手伝えそうなら手伝うよ!」

死刑台に送られる気分で、その会話を聞いていた。

今自分は13階段を上っているんだ。

163 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:12:18 ID:x6g1yXaQ0
ミ*゚∀゚彡「3人で探せば2回で済むね!」


6から2


13階段が4.33段に


ξ゚⊿゚)ξ「あら……ありがとうみんな」


(゚A゚* )「これからずっと過ごすわけだし」


ミ*゚∀゚彡「これくらい協力してあげるって!」









ξ*゚⊿゚)ξ「それじゃ一番近いF棟から探してみましょ」


階段が爆発した。






     ☆     ☆     ☆

164 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:13:17 ID:x6g1yXaQ0
(;゚ω゚)「はああ……うっ、うぉおあおああ……」

食堂を脱兎のごとく駆け出して、数分。
F棟の、自分の部屋。

廊下で膝を抑えて息を切らす。
呼吸がうまくまとまらない。
吐き気を堪えて顔を前に向けた。

様子がおかしい。

扉が開いている。

そういえば鍵を閉め忘れていた。
でも、どうして開いているんだろう。

不安を感じ、急いで中に入った。

そして、人影を見た。

(;^ω^)「だ、誰だお!!」

返事はない。
その人影は窓のサックに足をかけていた。
南に面した大きな窓。今は開いており、人一人くらい簡単に飛びだせる。

(;^ω^)「おい、ま」

165 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:14:36 ID:x6g1yXaQ0
言い切る前に、人影は身体を窓の外へ動かした。
サックにかけていた足がピンと伸ばされる。

窓の向こう側にある木の枝へ向けて。

ブーンは走って窓辺まで移動した。
そこから片手をサックにのせ、もう片方の手を前へ。

人影を追う。
だけど、その手は空を切る。

人影はさっさと枝を渡り、林の方へと進んで行ってしまった。

虚しく見送るブーンの目が、唯一捉えたのは
人影の脇に抱えられたあの手作りの地球儀だった。

目を白黒させて佇むブーン。

だけど、そうもしていられないことに気付く。
急がないと彼女たちが来てしまう。

166 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:15:32 ID:x6g1yXaQ0
ブーンは我に返った。

ここにいては危ない。

そう思い、振り返ったとき。




ξ゚⊿゚)ξ




もっとも会いたくない顔が目に入った。

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとお伺いしたいことがあるんですけど」

167 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:16:17 ID:x6g1yXaQ0
ツンは異様に冷静な声で話をする。

(;^ω^)「じょ、女性は出入りできないはずじゃ」

ξ゚⊿゚)ξ「緊急時だと説明したら大丈夫でした」

(;^ω^)ボソ「ざるだお」

ξ゚⊿゚)ξ「何か言いました?」

( ^ω^)「い、いいえ」

ξ゚⊿゚)ξ「そう、で、いいでしょうか?」

威圧される。
ここは頷くしかない。

ξ゚⊿゚)ξ「あなたはこの部屋の住人ですか?」

ブーンはその言葉の中に光を見つけた。

彼女は自分の姿を初めて見たはず。
だったらこの場を上手く切り抜ければ、まだ生存できるはず。
ツンはブーンに対して疑いをかけきれていないのだから。

168 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:17:19 ID:x6g1yXaQ0
咳払いして呼吸を整える。

( ^ω^)「いいえ、違いますお。
 僕はただこの部屋の扉が開いていたのが気になって入っただけですお」

すると、ツンは素直に「そう……」と言った。
このまま乗り切れれば……

ξ゚⊿゚)ξ「……それで、何かありましたか?」

(;^ω^)「え、あ、ああ。
 実は、窓に人影がいたんですお!
 それでそいつを捕まえようとしたら、逃げられましたお」

ξ゚⊿゚)ξ「なんで捕まえようとしたの?」

(;^ω^)「そ、そりゃあ、人の部屋に勝手に入っている人なんか気持ち悪いですお」

ξ゚⊿゚)ξ「もしかしたらその人が住人かもしれないのに?」

(;^ω^)「住人だったら窓から出入りなんてしないお!」

169 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:18:19 ID:x6g1yXaQ0
ツンからの言い返しはない。
上手く対応できたのでは、とブーンは期待した。

ツンは何事かを考えあぐねている。
このまま付き合ってはいられない気がする。
そのうちぼろを出してしまう前に、逃げなくては。

(;^ω^)「僕はもう何も用が無いですし、帰りますお」

余計なことは言わない。
この場にたまたま居合わせたまったく関係ない人、それが自分。
ブーンはそう自分に言い聞かせた。

ツンの横を通り、外へ出る。
扉の周りにはほかの女性たちもいない。
今頃他の棟を探しているのだろう。

せいぜい頑張ればいいさ。

170 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:19:18 ID:x6g1yXaQ0
ξ゚⊿゚)ξ「最後に一つ聞きたいことがあるんですけど」

ツンの声が背後からする。
答えが思いつけばすぐ切り替えそう。
思いつかなければ、観念しよう。

ξ゚⊿゚)ξ「荷物の中に写真がありましたよ? ブーンさん?」

考えるだけ徒労だった。

思いつく前に身体が動いていた。
ツンを背に、前へ、走り抜けていく。

背後から迫る声も、叫びも、怒鳴りも聞えない。
殺気だけ伝わってくるが、今は堪える。

逃げなくては。
ブーンの頭はその文字だけで埋まっていった。

171 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:20:18 ID:x6g1yXaQ0
足を止めないまま、外へ飛び出し、そして気付いた。

さっきツンは質問までに時間をかけた。
もし本当に写真を持っていたのならば、
最初に見た時点で自分がブーンだとわかったはず。

なのにそれを聞かなかった。
回りくどい質問を何度もかけてブーンの正体を詮索した。

そう考えると不自然だ。

ひょっとしたらあれはかまをかけたんじゃないか。
写真という言葉に反応すれば黒、無反応なら白。

少しでも身に覚えがあれば反応してしまう。
あれはその反応を調べるテストなのだ。

172 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:21:20 ID:x6g1yXaQ0
そして僕は今でこそ理屈で理解しているものの
あの瞬間、自分の臆病さゆえにびびり
今もまだ熱心に足を前へと運んでしまっているのである。

まことに残念なことであるが、後悔後に立たず。
ブーンはもはや歴然とした黒だ。

こうなれば、もう棟には戻れまい。
今のうちに地球儀を奪われた問題だけでも解決せねば。

必要以上にツンの怒りを買うのを避けるためにだ。

ブーンは頭の中で問題提起する。

あの人影は何者なのか。

173 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:22:21 ID:x6g1yXaQ0
人影は林に逃げた。

林の中に本拠地があるのか。

自分に関わりのある人物だろうか。

もしそうなら、自分は今ここに来たばかり。
誰かと知り合う機会なんて、何も。

( ^ω^)「あ」

そこで、思いついた。

先程見た顔。





( ゚∀゚)

そういえば彼には部屋番号を教えた。
確かに、ひょっとしたら後で部屋に乗り込まれるかもしれないとは思った。
だが、彼はもっとやっかいなことをしてくれたのではないか。

174 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:23:19 ID:x6g1yXaQ0
食べ物を吹き付けてしまった怒り。
その程度のことで因果は巡り、僕は命を狙われている。

いや、きっとあの快活そうな少年からしたら
腹癒せに僕の荷物を一つ盗んだというくらいなのだ。
たまたまその荷物と思ったものが、厄介な他人のものだっただけ。

( ^ω^)「!!」

林の中。
すでにかなり深くまで入り込んできていたとき。
ブーンは走りを止めて身をかがめた。

声がする。

( ゚∀゚)「おー、よーやってくれたわ」

あの少年の声だ。
まだ幼げのある声。たぶん自分と同期だろう。

背の低い木々の隙間から、ブーンは彼の顔を見る。

( ゚∀゚)「ん? これ良く見たら手作りじゃね?
 売れそうにないなあ、飾っておくしかないか」

175 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:24:36 ID:x6g1yXaQ0
少年はしげしげと手作り地球儀を眺めていた。

(,,゚Д゚)「なんだジョルジュ、もっと別のを取ってくればよかったか?」

もう一人の男が言う。
体格がよく、厳めしい表情の少年だ。
へらへらしているジョルジュとは正反対。
歳はよくわからない。

(,,゚Д゚)「どんくさそうな奴だったし、奴のものならもう2、3個は取って来れそうだが」

( ゚∀゚)「いやいいよギコ。ちょっとムカついてやっちゃっただけだし」

ジョルジュがけらけらと笑う。

先程みた人影は、どうやらギコと呼ばれた男のほうらしい。
あの身のこなしから相当な筋力を持っていることが予想される。

176 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:25:20 ID:x6g1yXaQ0
ブーンは頭を抱えた。
こんな奴らから地球儀を取りかえさなければならないのかと思うと気が滅入る。
接触したら絶対良いことにはならないだろう。

思えば今地球儀を手にしているのはこのジョルジュたちなのだ。
そのことを正直に話せば、しかるべき判断はツンがしてくれるだろう。
僕には平穏が訪れるはず。

そう思いついたので、ブーンは踵を変えた。
くるりと180度、再度寄宿舎の方角へ。

( ゚∀゚)「しかしほんと、字が汚いなあ」

ブーンはつい、足を動かすのをやめてしまった。

字が汚いのは確かだ。
あの字はきっとツンが幼いころに書いたものなのだろう。
地球儀は球体だし、ぶれて当然。読み取りにくくてもしかたないじゃないか。

そんな反論を心の中で言う。

だけど、それでも自分とは関係ない。
ブーンはもう一度考え直す。
安全に、平穏に、今の自分に一番大事なことを。

( ゚∀゚)「いいこと思いついた。
 これ壊して返してあげようぜ」

177 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:26:17 ID:x6g1yXaQ0
(,,゚Д゚)「ん? いいのか?」

( ゚∀゚)「ああ、その方が面白そう。
 どうせこんなの売れないし、きっと壊した方があいつもこたえるだろ」

(,,゚Д゚)「なんだかもったいないな」

( ゚∀゚)「そうか? じゃあお前がもらっておく?」

(,,゚Д゚)「いや、ジョルジュが望むならば」

ジョルジュの手から、ギコの手へ。
地球儀が渡っていく。

ギコがその地球儀を片手にのせる。
大きな手だ。
地球儀が包まれてしまっている。

それを、ブーンは見ていた。
目で。

なぜなら、身体が再度、180度回転していたから。

その回転の勢いのせいでもあるが
彼は立ちあがった。

178 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:27:20 ID:x6g1yXaQ0
(;゚∀゚)「……え?」

ジョルジュの顔が戸惑っているのがよくわかる。
一方のギコはとくに顔色を変えていない。

(;^ω^)「や、やめるんだお」

それが自分の言葉とは、ブーンにはにわかに信じ難かった。
自分のもつ臆病な気持ちはこの歳ですでに理解していた。
それが自分の性格だとも熟知していた。

でも、どうしてか、今はその臆病さを押し込めてしまっていた。

(;^ω^)「やめてくれお。その地球儀、別の人のなんだお」

震える声でブーンは訴えかけた。
一歩、ジョルジュの前に出る。

( ゚∀゚)「……お前の知り合い?」

ジョルジュが聞く。

ブーンは首を横に振った。

すると、ジョルジュは笑いだした。

( ゚∀゚)「じゃあなんで邪魔すんだよ」

179 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:28:34 ID:x6g1yXaQ0
そんなこと言われても、答えられない。
それが率直な感想だった。

邪魔したくなったのは、邪魔したくなったから。
それで納得するとは思えない。

( ゚∀゚)「……よし、わかった」

そう言うと、手を合わせてジョルジュはギコの方を向く。

( ゚∀゚)「壊すのはあいつ自身にしよう」

(,,゚Д゚)「いいのか? 人だぞ」

( ゚∀゚)「その手加減はまかせるよ。
 ちょっと痛い目に合わせればいいだけだから。な?」

ジョルジュが手を合わせる。それに対し、ギコはやれやれといった風に息を吐いた。

(,,゚Д゚)「お前はいつも調子がいいな。
 とはいえ、そうだな。聞き入れよう」

そういって、ギコはブーンに向かい合う。

180 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:29:38 ID:x6g1yXaQ0
ブーンはそれまでギコを誤解していた。
少しがたいのいい少年で、ジョルジュよりは冷静に見えたから
きっと大人びた少年なのだろうと思っていた。

本質では自分たちと変わらないと信じていた。

ギコが目を閉じて、力を込め始めている。

変化はすぐにわかった。

    グググ
(,,゚Д゚)

その頭部が盛り上がる。
まるで植物が土の中から生えるように。

髪の中から、塊が浮き上がる。

ブーンは目を見張ってその様子を眺めていた。
実際に見たことはあるものの、このような場所で見かけるとは思いもよらなかった。
仮にもお城の敷地の中、しかも衛兵の寄宿舎の裏で。

.∧∧  ピンッ
(,,゚Д゚)

勢いよく、ピンと筋を張ったのは、耳だった。

魔人特有の獣の耳。

181 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:30:39 ID:x6g1yXaQ0
魔人とは、300年前に突然この世界に現れたもう一つの人種である。
彼らがどこから現れたのかは、少なくとも人間は誰も知らない。
初めてこの世に現れた魔人たちは、頑としてこの世界にきた経緯を語ろうとはしなかった。

.∧∧  
(,,゚Д゚)「そろそろ動いていいかな」

ブーンはようやく、彼が大人びて見える理由がわかった。
ギコの身体が自分よりもはるかに発達していたからだ。

魔人は人間とほとんど変わらない(しかし同年代と比べれば発達した)身体と、獣の部位を持っていた。
個体によって違いがあり、多くの場合は獣の耳として現れている。
そしてそのことと関連してか、魔人の多くは人間よりも高い身体能力を有していた。

このことから人間の学者の間には、魔人を猿以外の哺乳類から進化した生物と捉える者もいた。
魔人が自分の話をしたがらない以上、それは憶測の域を出ない説でしかなかったが。

(;^ω^)「君は、ジョルジュと契約したのかお?」

.∧∧  
(,,゚Д゚)「というよりは、こいつの家との契約だ。
 俺は親の代からこいつの家に取り憑いているからな」

182 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:31:39 ID:x6g1yXaQ0
魔人は人間に取り憑く。
より詳しくいえば、彼らは人間と交わした約束は忠実に守り、目標の達成に協力する。
それが彼らの生業であるらしかった。

ときには家族そのものに取り憑いて、その下で働く魔人もいた。
便利な召使のようなものである。
町に現れる魔人のほとんどはこの性質から人に取り憑いた者であった。

現状は人間の方が数が多いため、魔人に取り憑かれていない人もいるが
魔人の人口のゆるやかな増加に伴って、
そのうち世界中の人間全てが魔人を使役する日が来るのではないかと言われている。

.∧∧  
(,,゚Д゚)「ただ、俺は不思議な力を使うのは苦手なんだ。
 あまりぱっとしたものじゃないんで、がっかりしないでくれよ」

そういって、ギコは両手を胸の前でクロスさせる。
息をゆっくりと吐きだしていく。気合を溜めているようである。

ブーンは身構えた。何か来る。
しっかりギコを見なければならない。
少しでも動きがあればすぐに横に逃げなければ。

183 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:32:39 ID:x6g1yXaQ0
ギコの足が、動く。
右足を軸にして、身体の左半身を前へ。
土が蹴られて跳ねる。

それしか見えなかった。

(;^ω^)「!!」

見ている暇も無かったのだ。
反射的に、ブーンは身体を左へと弾けさせた。
土煙を上げながら倒れ込む。

先程まで自分の身体があった位置に一陣の風が通り抜けた。
背後で衝突音がする。見れば、木に激突しているギコの姿があった。
みしみしと嫌な軋みが聞えてくる。

なにがぱっとしないだ、冗談じゃない。
人間を圧倒するには十分すぎる能力じゃないか。
傾きを増していく木を眺めながら、ブーンは悪態をついた。

184 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:33:38 ID:x6g1yXaQ0
願いをかなえるという場合において、魔人は不思議な力を発揮する。
人間の目標を達成するために、常識外れの現象を引き起こすのだ。

その能力は魔人によって違う。
ギコのように自分の身体能力を高めて限界を超えるだけの場合がほとんどだったが
稀に自然現象を引き起こす者、超能力を駆使する者などもいた。

木が倒れ込むのと同時に、ギコが立ちあがる。

.∧∧  
(,,゚Д゚)「はずしたか……」

低く、だけど確かにブーンに届く声でギコが呟く。

こうしてはいられない。
止まっていたら今度こそやられる。
そう思い、ブーンも立ち上がる。

そして急いでジョルジュの元へ走った。

(;゚∀゚)「え? あ、おい!」

慌てふためくジョルジュを無視して、その右手に握られた地球儀を掴む。
自分はこれさえあればいいのだ。わざわざ魔人相手に戦闘する義理はない。
それにここにいれば、魔人は攻撃できないはず。

185 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:34:38 ID:x6g1yXaQ0
(;゚∀゚)「おい、やめろよ! ギコがお前に突進できないだろ!」

魔人は宿り主に不利益を引き起こせないからだ。
不可抗力や遠い因果関係による不運、価値観の変化などの不利益は避けられないが
目に見えての怪我や暴力を浴びせることはできない。

(;^ω^)「だから盾にするんだお!」

地球儀を掴みながらジョルジュの背後に回った。
このまま地球儀を抜き取れれば完璧なシナリオだ。

でも自分の非力という現実が突き付けられた。

いくら力を込めても、ジョルジュが離れてくれない。
それどころかお互いに力むために、地球儀の形がゆがみ始めていた。

もともと簡素な造りの地球儀なので、耐久力には期待できそうもない。
このままでは破けてしまうかもしれない。

186 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:35:53 ID:x6g1yXaQ0
(;^ω^)「いいかげんに諦めるお!」

(;゚∀゚)「はあ? やだよ、お前こそなんでそんなにむきになるんだよ。ただのおもちゃだろ!」

(;^ω^)「おもちゃじゃないお!」

(;゚∀゚)「は?」

(;^ω^)「とにかくそれが戻らないと僕は死ぬお!」

(;゚∀゚)「いや、わけわからんて」

ジョルジュの左足がブーンの顔に伸び、靴の裏が突き付けられる。
無理やりにでも地球儀から引き離そうというのだろう。
ブーンは歯軋りをして堪えた。

徐々に身体が押されていく。
やはり根本的に力が足りない。
足を踏ん張ろうにも、痛みが顔面に広がって集中が乱される。

(;゚∀゚)「ギコ! これくらい離れれば俺に当たらずこいつにぶつかれるだろ?」

187 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:36:47 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧  
(,,゚Д゚)「かするくらいならな」

(;゚∀゚)「こいつにはそれくらいでいいさ!」

二人が不穏な会話をしている。
あいにく今のブーンにはジョルジュの靴の裏と、その必死そうな顔しか見えなかった。

ジョルジュもむきになっているのだろう。
こんなに地球儀を欲しがるのは、別にそれが貴重だからじゃない。
ただブーンを困らせたいだけ。

呼吸音がする。
深い深い吐息。
ギコが先程のように集中を高めているのだろう。

.∧∧  
(,,゚Д゚)「いくぞ」

最後の宣告。

次の瞬間、大きな雄叫びと共に
一陣の風を感じた。

188 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:37:41 ID:x6g1yXaQ0
(#・∀・)「おらあああああああああああああああ!!!」

それは知らない人の雄叫びだった。

ジョルジュの靴が緩んだので、顔を一気に捻ってギコを見る。

自分へ向かう一直線上の間で、上から降る何者かに襲われていた。
木刀を振りかざして何度もギコを殴りつけている。

(#・∀・)「魔人はここに入るなよ!!」

青年が攻撃を終える。
肩で息をする栗毛の青年と、地面に倒れ込むギコ。

(;゚∀゚)「ギコ!!」

ジョルジュが駆けよっていく。
その途中で、青年はジョルジュの襟首をつまんだ。

( ・∀・)「はい、お前」

(;゚∀゚)「はい?」

189 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:38:39 ID:x6g1yXaQ0
( ・∀・)「お前が宿り主なんだな?」

(;゚∀゚)「ま、まあそうですけど」

( ・∀・)「今すぐこいつを森へ返せ。衛兵には魔人は不要だ」

(;゚∀゚)「今すぐですか?」

( ・∀・)「契約破棄を唱えるんだ。面と向かってな。そうすりゃ魔人は返る」

(;゚∀゚)「でも……そいつうちに取り憑いているんで、父じゃないと……」

(#・∀・)「だったら家に帰すだけでもしろ!」

(;゚∀゚)「は、はいいいいいい」

190 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:39:38 ID:x6g1yXaQ0
魔人との契約は全て口頭で行われる。
機械的な処理ではなく、ちゃんと文脈を判断した上での正確な契約だ。
さらに、宿り主は自由に契約の更新と契約の破棄を行える。

契約の更新とは、本来の契約に上乗せして新たに契約を課すこと。
大きな契約に関連して、小さな仕事を任せる場合などで使われる。
魔人としては従事することそのものに意義があるらしく、仕事を面倒がらず、むしろ増えると喜んだりもする。

契約の破棄とは、文字通り契約の取り止めだ。
口頭で目を見て破棄を伝える。そうすれば契約は止まる。
魔人は不思議な力を出せなくなり、自然へと返っていく。

ギコはジョルジュに取り憑くというよりもジョルジュの世話を任されていたのだろう。
ジョルジュの言うことを聞くように、とでも。

ジョルジュはギコの傍に跪く。

(;゚∀゚)「……家に帰ってくれ」

.∧∧  
(,メ,゚Д゚)「……」

    シュンッ
(,メ,゚Д゚)「了解した。元気でな」

ギコはそういうと、その場で立ちあがる。
しかしダメージが溜まっていたのか、ふらついた。

191 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:40:43 ID:x6g1yXaQ0
(,メ,゚Д゚)「やれやれ、歩いて帰らなきゃか」

( ・∀・)「城下町を南へ出れば森がある。魔人がいくらかそこに住んでいるはずだ。
 しばらくはその森で休養していればいいさ」

ぶっきらぼうな答え方だ。
この人は魔人が嫌いなのかな、とブーンは思った。

(,メ,゚Д゚)「そりゃどうも」

モララーの態度を察したからなのか
ギコもまた素っ気なく礼を言って、よろよろとその場を去った。

後に残ったのは、跪くジョルジュだけ。
ギコの背中を眺めながら、何か言おうとして、結局何も思いつかないままなようだ。

( ゚∀゚)「……やろう、俺に何も言わないでとっとと行きやがった」

( ・∀・)「お前、実は嫌われていたのかもな」

192 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:41:58 ID:x6g1yXaQ0
ふざけた調子で言う青年にたいして、ジョルジュは舌打ちで返した。
そのまますぐに立ちあがる。

(#゚∀゚)「何が嫌いだよ、魔人のくせに!
 後で手紙で父に頼んでクビにしてやる」

(#゚∀゚)「お前らもきっとただじゃおかないからな!」

モララーとブーンに捨て台詞を吐いて、ジョルジュは寄宿舎の方へと歩んでいった。
ちなみに、彼が衛兵見習いをやめたという話をブーンが聞くのはまだ少し先のことだった。

モララーはふふんと楽しそうににやけている。

( ・∀・)「賭けてもいいけど、ただじゃ済まないのはあいつのほうだよ」

モララーがそう言ってブーンに顔を向けた。
咄嗟のことに、いや、実は先程からずっとブーンは放心していた。

モララーはそのブーンを見て、首を傾げる。

193 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:42:40 ID:x6g1yXaQ0
( ・∀・)「ああ、ひょっとして自己紹介がまだだったからかな?
 俺のことはモララーって呼んでくれ。今期新衛兵のうちで首席だったんだ。
 きっと君らの衛兵見習い歓迎式でもしゃべるよ。あの馬鹿の顔が楽しみだ。何してやろ」

モララーは寄宿舎の方を顎で指した。

それでもブーンの反応が鈍いので、再度ブーンに質問した。

( ・∀・)「どうした? まだ何かききたいか?」

( ^ω^)「いや……あの……」

胸の奥に熱いものがこみ上げて来ていた。
今しがたの光景、魔人を一瞬で片付けてしまった力。
ブーンはすっかり圧倒されてしまっていた。

だから、少年心ながらに、素直に感動していたのである。

(*^ω^)「かっこよかったですお……」

194 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:43:39 ID:x6g1yXaQ0
それから、ジョルジュに狙われたら危ないという名目で
ブーンとモララーの付き合いが始まった。






なお、このときまだブーンは、自分の足元に潰れた地球儀があることに気付いていなかった。





     ☆     ☆     ☆

195 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:44:39 ID:x6g1yXaQ0
現在、9月

午後2時

ラスティア城政務室

「入ってよい」

重々しい呼びかけによって、ブーンは立ちあがった。
いつものブーンなら、こんな場面に遭遇すれば緊張してしまっていただろう。

ただ、今はそんな緊張もあまりない。
その代わり気分が重すぎて、前に進むのも嫌だった。

「……まだか?」

静かな催促。
観念するしかない。

ブーンはゆっくりと一歩踏み出した。
ドアのノブに手を取り、回す。

なめらかな感触。手入れが行き届いている。
ブラウンの扉が奥へと押され、中の様子が見えた。

( ´W`)「事情を説明してくれるかな」

真っ白な髭を蓄えた政務官が待ち構えていた。

196 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:45:38 ID:x6g1yXaQ0
ブーンはありのままに話した。
あの秘密の任務で起きたことを、順を追って。

あれからすでに2日経っていた。
ブーンの傷も癒えた。元々そこまで大きな怪我はしていなかった。
だからこうして証言するだけの体力はあった。

白い靄に包まれた話をしたところで、一旦口が止まった。

( ´W`)「どうしたのです?」

政務官が急かす。

ブーンは迷っていた。
王女のことを話したらどうなるか。

良くないことになる予感がした。
あのロマネスクの話し方からして、王女はあのお戯れを何回かしていたのだろう。
そんなことを僕ら庶民は知らない。
たとえ知ったとして、どう考えても好意的には受け取れないだろう。

あれはお城の秘密なのだ。

では、今この場でその秘密に触れればどうなるか。
結果は明らかだ。

197 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:46:40 ID:x6g1yXaQ0
( ^ω^)「……靄につつまれて、魔人に襲われましたお。
 それでモララーは……殺されましたお」

( ´W`)「その魔人、野生の魔人ですか?」

( ^ω^)「……はい」

( ´W`)「誰にも取り憑いていない?」

( ^ω^)「……たぶん」

そう言わざるを得ない。

自分は眠らされていたことになっていた。
その前の段階で、襲われて、自分は何も覚えていないことになっている。
なんで意識があったのかはわからない。比較的早く目覚めることができたのだろうか。

とにかくここで違うというわけにもいかないし、断言しても怪しまれる。
ぼかすしかない。

( ´W`)「なるほど、わかりました」

198 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:47:37 ID:x6g1yXaQ0
政務官が手持ちのメモ帳をチェックしながら言う。
あのメモ帳に書いてある内容にそぐわないことを言ったら僕は殺されるのではないか。
ブーンはそんな不安で心中が荒れに荒れていた。

( ´W`)「疲れたでしょう。しばらく休みなさい」

政務官は優しく言葉をかけてくれた。

ブーンは少しだけ緊張が解れ、息を吐く。

( ^ω^)「あ、ありがとうございますお」

( ´W`)「夜には寄宿舎に戻るように。あと、城下町から外へはでないでくださいね。
 町でも歩いていれば気分は紛れるでしょう」

( ^ω^)「……はい」

果たしてそう簡単に紛れさせることはできるだろうか。

それはとても難しい命令のように思えた。

( ´W`)「そういえば、いなくなったドクオについて何か心当たりはありませんか?」

199 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:48:54 ID:x6g1yXaQ0
( ^ω^)「え、いなくなったんですかお?」

( ´W`)「現場には君しか倒れていなかったのです。
 ドクオからも事情を伺いたいが、大したことは聞けそうにないですね」

政務官は唸ったが、それから仕方ないというふうに頭を振った。

( ´W`)「とりあえず今日のところはここまでです。
 君に落ち度はありませんゆえ、安心してください。
 また、ドクオが現れたら私たちのところへ連絡をください」

ブーンは政務官に頭を下げ、その場を後にした。

ただ、廊下を歩きながらも
頭の中ではドクオの行方がどこだろうかと考えていた。




     ☆     ☆     ☆

200 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:49:39 ID:x6g1yXaQ0
寄宿舎F棟368号室

もう住みなれた部屋だ。
無気力で歩いてきたのに、自然と足はここへ辿りついた。

部屋の様子はほとんど変わっていない。
衛兵の訓練は忙しく、町を散策する機会もあまりなかった。
だから無駄なものもあまり買わず、閑散とした室内になっていた。

本来ならこのたびの休暇はラッキーだった。
日ごろの訓練を正式にさぼれる。疲れないし、楽しい。
でも、今回はその代償は大きい。

むしろ、足らない。
休暇なんていくら積んでも足らない。

どうしてモララー先輩がいなくならなきゃならない。

部屋のベッドの上に腰掛けて
ブーンはあの人と会ってからの日々を思い返した。


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