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ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
87
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:35:22 ID:UYi6L9jc0
ζ(゚ー゚*ζ「………」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
二人は無言で肩を並べながら川をぼんやり眺めていた。
前回のように、自分の存在を説明する手間がないというものはそれはそれで話の切り出し方に困るものだ。
例によって今回ツンがここにたどり着いたのも、自分の意志とはあまり関係のない不可抗力だったから。
着いたら着いたでこの世界に生きる自分を訪ねたことは事実だけども、いざ顔を合わせたところで、これといった目的や用件など持ち合わせていないのだ。
ついでに、財布も持ち合わせてなく完全な手ぶらなので、缶コーヒーでも買って間を持たせるなどの手段も選べない。
ξ゚⊿゚)ξ「……あ。そういえば」
ツンは一つ思い出したことを口にした。
88
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:36:27 ID:UYi6L9jc0
ξ゚⊿゚)ξ「今日って何日?」
ζ(゚ー゚*ζ「は?」
ξ゚⊿゚)ξ「いやだってさ、あたしもうすぐ誕生日なんじゃないかと思って」
ζ(゚ー゚;ζ「………はぁ」
女子高生は、アメリカナイズを思わせる深い大袈裟な溜め息をついた。
ζ(゚ー゚*ζ「まずはさ、とりあえず目の前でうら若き女子高生が泣いてたら先にそっちが気にならない?」
ξ゚⊿゚)ξ「あー…いやまぁ、うーん……」
.
89
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:37:45 ID:UYi6L9jc0
ツンのその煮え切らない返事に、女子高生は一つの仮説を立てる。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、もしかして覚えてた?この日この場所で泣いてた理由」
ξ゚⊿゚)ξ「いいえ?」
ζ(゚ー゚*ζ「即答かよ。ですけど何か?みたいな顔すんなよ」
なんだか舌打ちが聞こえた気がしたが、女子高生はまるで無表情だった。
ξ゚⊿゚)ξ「でもなんか思い出しそうな……なーんか煮え切らない感じなのよね…」
ζ(゚ー゚*ζ「本人もそれ思ってたんだ」
.
90
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:39:08 ID:UYi6L9jc0
高校生。金髪。
おそらくツンの感情の起伏が一番激しかった時期だ。
付き合いこそ完全には切れなかったものの、違う高校に進学したあのメンヘラに触発されたわけでも感化されたわけでもないが
まだそいつの手綱を握らされてた頃ならば、心当たりがありすぎる。
でも一つ一つは思い出すに足るほどのことじゃないような気がして、もっと他にあるんじゃないかとも思うが…
91
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:41:06 ID:UYi6L9jc0
ζ(゚ー゚*ζ「あーーーったく嫌になっちゃうよなぁ…」
女子高生は、弱々しい声でうなだれた。
膝を抱え込んだその指先や手の甲には、猫に引っ掻かれたような細い切り傷や絆創膏が目立つ。痛々しい手先だ。
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
ξ゚⊿゚)ξ(……あぁ。そうだ)
焦点が合ったようなツンの表情に気づいた女子高生は、『思い出した?』と目で訴えかけた。
92
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:42:46 ID:UYi6L9jc0
昔から、手先は器用だった。
だから今でもその気にさえなれば、家事や自炊もそつなくこなせるほど、手作業において失敗することはあまりない。
そのルーツは、入院中の遊び相手だった、お城や飛行機のプラモデルなどの細かい作業に慣れたことに起因してると思う。
それを生かして、高校では美術部に入り主に彫刻に精を出した。
木や石に彫刻刀を入れ、形にしていくプロセスの中では、余計なことや考えたくないことは一切考えずにいられた。
93
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:44:14 ID:UYi6L9jc0
一つ、また一つと作品を仕上げていったが、もちろん怪我もたくさんしたし、他人と勝負できるほどの特別な才覚が開花したわけでもない。
でも高校生にもなり進路希望を問われると、まず視野に入ったのが美術関係だった。
興味があるから。
突き詰めたいから。
それだけで充分だ。
欲しいものがある時に、手を伸ばす勇気を出した代わりに得られるものの大きさを、ツンは知っていたから。
94
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:45:22 ID:UYi6L9jc0
o川*^ー^)o
今となっては、その頃の友達ほとんどに見限られ
『仲間』や『友達』、この歳になると『幼なじみ』という単語を振りかざして人を縛る、どうしようもないかまってちゃんだ。
絶縁しようものなら、何をしでかすかわからない。ある日突然後ろから刺されてもおかしくはないだろう。
それでも、当時のツンには嬉しかった。
o川*^ー^)o『おかえり』
勇気を出したから、もらえた言葉。
それで報われた気がしてた。
95
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:46:28 ID:UYi6L9jc0
今でも迷惑は被ってる。できることなら関わりたくない。
でも当時、完全に袖を分かつにはいいチャンスだと思った。
あいつとはもう違う道を歩いて、そこがツンもまだ知らぬ素晴らしい世界ならどんなに素敵だろう。
それを目指して、頑張ってたつもりだったが
.
96
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:47:39 ID:UYi6L9jc0
母が、倒れた。
過労だったそうだ。
.
97
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:49:08 ID:UYi6L9jc0
ζ(゚ー゚*ζ「………」
薄々気づいてた。
三年間の入院、治療費、個室に入り三回も手術して、退院後もリハビリを続けて、そして。
それが、家計を少しずつ圧迫していってるということに。
ζ(;ー;*ζ「…………」
高校生には重すぎた。
美大どころか受験云々も怪しくなってきたとか、そんなことより………
.
98
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:50:11 ID:UYi6L9jc0
ξ゚⊿゚)ξ「…あの頃入院してた時、楽しいことなんて一つもなかったのに」
ξ゚⊿゚)ξ「入院してたからこそ身についたこの器用さも、後になって無駄じゃなかったんだって、思ったけど」
ξ⊿)ξ「結果的にその時あったことが、進路を絶つ原因になっちゃって」
ξ⊿)ξ「…お母さんの体まで……壊しちゃって…」
そうだ。そうだったのだ。
高校生にして初めて、人生に絶望した日だった。
.
99
:
名も無きAAのようです
:2013/08/14(水) 18:50:32 ID:n9X2ib9I0
なんと……
100
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:51:22 ID:UYi6L9jc0
ζ(ーζ「…………」
頑張れ?諦めるな?まだ若いんだから?
いくらでも道はあるんだから―――?
22歳になった今でも、当時の自分にかけてあげられる言葉はなかった。
.
101
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:52:38 ID:UYi6L9jc0
22歳になった今だから、体を壊した母がもう元気になることはないのも知ってるし
今現実には、その母は既に生きてないことを知ってるから。
.
102
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:54:01 ID:UYi6L9jc0
ξ゚⊿゚)ξ「…今、お母さんは?」
ζ(゚ー゚ζ「…入院中。今日は、会いたくない」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
そうか。
今やっと、全て思い出した。
.
103
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:55:30 ID:UYi6L9jc0
ζ(゚ー゚ζ「今日何日か、知りたい?」
人生最大の挫折をして
今まで生きてきた中でこんなに心細かったことなど、なかった。
それが
.
104
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:56:37 ID:UYi6L9jc0
ζ(ーζ「今日なんだよ……誕生日」
17歳に、なった日だった。
.
105
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/14(水) 18:57:52 ID:UYi6L9jc0
7話おわーり!
106
:
名も無きAAのようです
:2013/08/14(水) 19:06:25 ID:CAoa7jiE0
おつ
107
:
名も無きAAのようです
:2013/08/14(水) 19:06:32 ID:JqKzDjSo0
乙
面白い
108
:
名も無きAAのようです
:2013/08/15(木) 00:56:34 ID:5m2L7AWg0
乙、次回も楽しみにしてます
109
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 06:58:31 ID:MzllV3rk0
第8話いきますん
110
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:00:13 ID:MzllV3rk0
◆第8話◆
XX24年 S月
ξ#゚⊿゚)ξ「………」
案の定ろくでもない話だった。
渋々だったとはいえ詳細も聞かずに頷いたことを激しく後悔しつつ、ツンはずっと無言でしかめっ面だった。
从 ゚∀从「いつまでもシャープ浮かべてんじゃねぇよ。とりあえず諦めな」
横にいたハインが小声で諌めたが、彼女もこの状況を楽しんでるわけではないであろうことは伝わった。
111
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:01:54 ID:MzllV3rk0
o川*゚ー゚)o「へぇ〜!!そっかそっか!!うんうん、それでそれで!?」
諸悪の根源はというと、目の前の男どもしか視野に入ってないらしい。
一単語一単語発するたびにトーンを上げ、普通に喋ってればまず起こり得ない耳障りな抑揚の相槌を打ちながら、男どもの視線を奪っていく。
もともと容姿だけ見れば、垢抜けてて小動物的な可愛らしさがあるからか、愛嬌さえあれば第一印象は悪くない。
わざとらしい喋り方が露骨であればあるほど、その不器用さも時に男の保護欲求を刺激するらしく
見るからに興味を示してない無愛想な二人が視野から外れれば、キュートに視線が向くのは必然的な構図だった。
112
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:03:36 ID:MzllV3rk0
結論として、ハインを連れてきたのは正解だった。
キュートからの誘いを無視し続けてもやけにしつこく返事を催促されるため、100歩譲ってハインを召喚することで妥協したのだが
('A`)
(・∀ ・)
( ^ω^)
このメンツに対して二人で、実質一人で戦う労力なんて考えたくもない。
113
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:05:23 ID:MzllV3rk0
ハインを補充したことにより結果的には3対3と満を持した、まるで違和感のない合コンの形にはなってしまったものの、酒に強くないハインを適当なタイミングで介抱するという口実でも作れれば、至極自然な流れでフェードアウトできるだろう。
我ながら完璧な戦略だ。
ξ゚⊿゚)ξ「よし、ハイン飲め」
从;゚∀从「なんでだよ…あたしに当たるな」
と、なかなかピッチを上げてくれないハインをコントロールしきれず、本人のタイミングで酔い潰れるのを黙って待ち続けて今に至るわけだ。
.
114
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:07:08 ID:MzllV3rk0
( ^ω^)「おっ、高岡さん何飲みますかお?」
人のグラスが空くとすかさず気をきかせるこのピザは、わりと常識人かもしれない。
キュートと違って気の遣い方に嫌味がない。
从 ゚∀从「ξ゚⊿゚)ξ「フレンチコネクション」
从 ゚∀从「………」
从 ゚∀从「何それ」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしのオススメ」
(;^ω^)「……」
.
115
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:08:26 ID:MzllV3rk0
その一刀両断に引き気味だったピザだが、とりあえずツンの言った通り注文してくれた。
今までは、顔に似合わずやれカシスだやれファジーネーブルだと甘いカクテルが続いてたので、まぁ30度代で勘弁してやろうという有り難くない妥協の末だった。
从*゚∀从「あ、甘い…なんだろうコレ」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしのオススメだってば」
116
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:09:25 ID:MzllV3rk0
頑なにオススメと言い張るそれは実は、アマレットの甘味に騙されやすいが、ブランデーをベースにしたカクテルなのだ。
色が茶色いから、ロックグラスに注げばカシスオレンジなんかよりも一見飲み慣れてる人みたいで遥かに格好がつくという理由でツンのお気に入りなのだが
ξ*゚⊿゚)ξ===3プハーッ
傍らでカナディアンクラブをロックで煽るツンは、もともとなんの小細工も必要のない『飲み慣れた人』なのだ。
.
117
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:11:01 ID:MzllV3rk0
( ^ω^)「おっおっ、ツンさんお酒詳しそうですお。そういう仕事?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいえ」
( ^ω^)「………」
( ^ω^)「…じゃあ、よく飲みに行ったりとかするのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
( ^ω^)「………」
( ^ω^)「…ちなみに、今飲んでるそれは…?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいえ」
( ^ω^)「………」
(;^ω^)(YESかNOしか言わねぇ)
.
118
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:11:52 ID:MzllV3rk0
もはや意味不明な返しとなったツンはあくまでも興味がないといった態度を変えない。
彼に下心があるとは思わないが、興味を持たれても困るのだ。
o川*゚ー゚)o「内藤くん料理人だからさー!!お酒好きなんだよねー!!」
キュートが喧しく横槍を入れる。
特に語尾が煩い。
119
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:14:18 ID:MzllV3rk0
( ^ω^)「そうですお。まぁ料理人といってもダイニングバーだから店自体はお酒が主体ですし」
o川*゚ー゚)o「そうなんだー!!今度行ってみたいなー!!」
キュートが流れを持って行ったおかげで、とりあえずこちらはがら空きになった。助かった。
.
120
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:16:44 ID:MzllV3rk0
从 *∀从「つ〜ん…つんーつーんー」
そうこうしてる間にハインは酔ったみたいだし、あの尻軽がそれに気を配るわけもないどころか心配する素振りさえ見せない。
予定調和だが。
ξ゚⊿゚)ξ「あーちょっと無理させすぎたかな…ごめんごめん。ち ゃ ん と 連 れ て 帰 る か ら」
気持ち声を張って群集の視線を呼ぶと、待ってましたと言わんばかりに勇ましく立ち上がった。
( ^ω^)「おっ、帰るんですかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
(;^ω^)(予想はしてたけども)
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあキュート、そういうわけだから」
从 *∀从ノシ「ば、は、は〜〜〜い」
o川*゚ー゚)o「おっけ、ばいばーい☆」
( ^ω^)「………」
.
121
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:19:55 ID:MzllV3rk0
半ば引きずるようにハインを連れてそそくさと店を出たツンは、これでも本気で反省した。
怒りに任せてたとはいえ、無理矢理頼み込んで来てもらったハインをダシに使うのは、やっぱりやりすぎだったと。
ξ゚⊿゚)ξ「………」
从 *∀从ムニャー
もたれ掛かられてはいるが、意外と足取りはしっかりしてるようで、起きてるのか寝てるのかよくわからないまま自分の足で歩けてるようだ。
122
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:20:47 ID:MzllV3rk0
ξ゚⊿゚)ξ「次の日残らなきゃいいけど…」
「大丈夫だろ」
なんとなく呟いたそれに、はっきりと返事されてツンは驚いた。
从 ゚∀从「べつにそんなに酔っちゃいねーよ」
あっけらかんとそう言って、ハインはツンにもたれていた体を起こした。
123
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:22:12 ID:MzllV3rk0
ξ゚⊿゚)ξ「…なんだ、素じゃなかったんだ」
从 ゚∀从「まぁな。心配したか?」
ξ゚⊿゚)ξ「そりゃあね…飲ませたのあたしだし」
从 ゚∀从「だーいじょぶだって!どうせツンのことだから自分から酔ったふりなんかしないだろうと思ってたし、あたしもあそこから出たかったしな」
策士だがこれほどまでに寛大な友人の傍らで、キュートによる怒りに意識が占められてた自分の器が俄然小さく思えてくる。
あの尻軽と比較するのも失礼すぎる話だが、この友人の優しさは眩しい。
.
124
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:24:30 ID:MzllV3rk0
ξ*゚⊿゚)ξ「よかったー!ごめんねハイン!」
从;゚∀从「いいからそんなに目輝かせて謝らないでよ…」
そう言って方向転換しようとする流れで一瞬足をふらつかせたのには気づいたが、それが酔いによるものかどうかまではわからなかった。
125
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:25:26 ID:MzllV3rk0
ξ゚⊿゚)ξ「送ってかなくていいの?」
从 ゚∀从「ん。一人で帰れるよ」
ξ゚⊿゚)ξ「べつにうち来てもいいけど」
从 ゚∀从「大丈夫だって。明日もバイト早いんだ。じゃな」
ξ゚⊿゚)ξ「…」
どこか急いでるようにも見えた。
まぁ大丈夫とは言うが、確実に普段飲む量は越えたはずだからそれなりにはしんどいのだろう。
危なっかしいがなんとか歩けてるその背中が見えなくなるまで見届けてから、ツンも家路についた。
126
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:28:05 ID:MzllV3rk0
从;-д从(オェーーー…やっぱりちょっと気持ち悪いな…)
やはりちょっと無理があった。
まぁ普段あんなに必死に頼み事をすることがないツンだから、たまにはいいかと思ったのだが
从;-∀从(いやべつに…たまにはいいんだけどさ……)
从;-∀从(明日バイト大丈夫かな…)
もう少し、あと少しだと自分に言い聞かせ、何度もえづきながらハインは家路についた。
127
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 07:29:57 ID:MzllV3rk0
8話おわり。
128
:
名も無きAAのようです
:2013/08/15(木) 11:56:08 ID:/LKhH5Io0
久々に追う現行ができた
乙
129
:
名も無きAAのようです
:2013/08/15(木) 14:50:54 ID:WlIarQds0
乙!
続き楽しみにしてる
130
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 21:14:58 ID:6QwguhgA0
乙ありがとうございますほんと嬉しいです
でも百物語読んでる時に救急車の音と子どもの笑い声が同時に聞こえてくるのとかほんと勘弁してほしいほんと。
一応外だったけどね。ありえない場所ではなかったんだけどね。
短いですがマイペースに第9話
131
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 21:16:22 ID:6QwguhgA0
◆第9話◆
XX24年 S月
帰宅するなりツンは缶ビールを煽った。
ハインのことは少し心配だが、一応ちゃんと喋れてたし歩けてたし、あの姿を信用して無事に帰宅したことを祈るしかない。
ξ*゚⊿゚)ξプハーッ
キュートと飲む酒が旨いと思ったことなどないが、まさかあんな冴えないメンツとの合コンだったとはさすがに予想外だった。
ジョルジュという存在を承知の上での無神経な誘いなのか
ツンが興味を示さないことを見越した上で引立て役にされたのか
いずれにしても飲み直さないと安眠できない気分なのだ。
132
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 21:17:40 ID:6QwguhgA0
ξ゚⊿゚)ξ「………」
ツンはベッドサイドの棚に飾られた一つの彫刻を見遣る。
英国にある城を摸した作品で、硬度4と比較的柔らかく、色彩も鮮やかな寿山石に惹かれて手作業で彫刻刀を入れたそれは、ツンが高校生の頃に手がけた。
母が好きだった映画のロケ地にもなった仰々しい建造物だが、土台が掌に収まるサイズなのでディテールはかなり繊細な作業だった。
その工程の途中で母が倒れ、しばらく手付かずだったがその母が亡くなった後に再開し、悲しみを追いやるかのような集中力で完成させた。
133
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 21:19:01 ID:6QwguhgA0
建造物や飛行機など、いわゆる設計図が存在してる造形は、細かい作業に定評のあるツンの得意分野だったが
今にも動きだしそうな躍動感や、風が吹けば靡いてしまいそうな繊細で柔らかい質感が求められる、人物や生花は苦手だった。
裏を返せば、動かないものを摸することしかできないのだ。
しかし突き詰めた芸術の世界では、後者の才が求められることの方が多いはず。
特別絵心があったわけでもなく、活動の一環として課せられたデッサンなんかも人並みで
致命的に創造力に欠けたツンが、大なり小なりいつか挫折を味わうことは請け合いだったかもしれない。
134
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 21:20:44 ID:6QwguhgA0
ξ゚⊿゚)ξ(そんなのどこ行ったってそれなりにはあるんだろうけどさ……)
今でこそそう割り切れるが、高校生時分やりたいこととやるべきことは違うと、気づいていながら認めたくなくて
そんな未練が今でも、心の奥底に小さく燻っていたようだ。
.
135
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 21:22:18 ID:6QwguhgA0
しかし何故今になってそんなことを思い出してノスタルジックになるのか。
言うまでもなく、ツンがあの夢を覚えていたからだ。
.
136
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 21:23:43 ID:6QwguhgA0
最初の何回かはうすぼんやりと覚えてるかそうでないか程度だったので、覚えてる夢の前にも段階があったことまでは知らないが
過去、17歳になった自分に接触した夢は、それも少々断片的ではあるがその断片を繋ぎ合わせれば形になる程度には覚えてる。
その頃実際に経験した話なのだから、断片を形にするにあたりツン本人の実際の思い出が手伝う部分もあるかもしれない。
でもその頃の自分と今22歳になった自分が、会話をする。
それだけは夢でしかありえない話のはずだ。
.
137
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 21:24:46 ID:6QwguhgA0
不思議だ。
ただそうとしか思わない。
でも夢なんてご都合主義でなんでもあり。それが何を告げてるわけでもなくただ『そういうもの』。
だから人に話すこともないし特に気にも留めてないのだが
ξ゚⊿゚)ξ(今日は、どうだろう)
普段は眠りに落ちる前に意識がまどろむのでそこまで考える余裕はないが、たまにこうして考える時間があると、確かにどうなるのか気にはなる。
138
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 21:26:08 ID:6QwguhgA0
べつにあえて見たいわけではない。ただ、見たくないほど怖いものでもない。
その夢が今の自分に何か影響を与えてるわけでもないのなら、考えるだけ不毛であるし
自分の意識で操作できない以上、夢の中で会うかもしれない誰かに何かを用意したり備えたり、場合によっては気をつけたりすることも、何もできない。
139
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 21:27:17 ID:6QwguhgA0
ξ゚⊿゚)ξ(何もできないなら何もしないに限る)
そう思ってツンはベッドに潜り込んだ。
意識がまどろむ間もなく、目を閉じたその瞬間に眠りに落ちた。
140
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/15(木) 21:28:49 ID:6QwguhgA0
ほんとに短かったおわりです。
141
:
名も無きAAのようです
:2013/08/15(木) 22:28:45 ID:/LKhH5Io0
完結かと思ってびびった
乙
142
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:39:54 ID:xH7vejbQ0
すいませんまだ続きます
僭越ながら第10話
143
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:41:03 ID:xH7vejbQ0
◆第10話◆
XX20年 W月
ξ゚⊿゚)ξ(そう思ってた矢先か)
今は止んでいるが、一面は薄く雪に覆われていて
ツンの目の前にある墓石にも、うっすらと雪が積もっていた。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
退かしてあげたかったが、それがなんだか綺麗で少しの間見とれてしまった。
144
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:42:43 ID:xH7vejbQ0
「また来たの」
背後から自分の声がした。
なんか変な感じだ。
ζ(゚ー゚*ζ
黒髪で、少々着崩した制服姿の自分は、まだ変わらずデレだった。
145
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:44:10 ID:xH7vejbQ0
その髪色から察するに三年生だろうか。
気まぐれか必要に駆られたかは忘れたが、そのケミカルなほどわざとらしい黒色は、もともと色素が薄く黒髪でもなかった彼女には逆に不自然な色だった。
ξ゚⊿゚)ξ「なんかもうあんた妹のように思えてきた」
ζ(゚ー゚*ζ「嘘つけよ本人でしょうが」
会うたびに遠慮がなくなっていく発言だけは、徐々に今のアイデンティティに近づきつつある気もするがさておいて、今回もまたツンは自分の存在を説明する手間はないようだ。
146
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:45:47 ID:xH7vejbQ0
ξ゚⊿゚)ξ「今更だけど疑問持たなさすぎじゃない?」
ζ(゚ー゚*ζ「そんだけ何度も当たり前のように現れといて…」
ξ゚⊿゚)ξ「もっとも、何を聞かれても答えてあげられない可能性大だけど」
ζ(゚ー゚*ζ「でしょうね。でも…」
女子高生は墓石の前にしゃがみ込んだ。
ζ(゚ー゚*ζ「聞きたいこともないわけじゃないよ。…とりあえずお参りしよ」
二人は母の墓に手を合わせ、無言で簡単に掃除をした。
.
147
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:46:53 ID:xH7vejbQ0
ξ゚⊿゚)ξ「しかしあれだね、自分自身と気まずいってのもなかなかない感覚ね」
ツンは年甲斐もなく高校生である自分に買わせた缶コーヒーを開けながら言った。
ζ(゚ー゚*ζ「そのあっけらかんとした発言が信憑性をなくすけどね」
自身も同じ缶コーヒーを啜りながらつつがなく突っ込みを入れる。
ξ゚⊿゚)ξ「で、聞きたいことって?」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
言いたいことは思いついたタイミングで口にするマイペースさにちょっと呆れ気味な女子高生に気づいているのかいないのか、あくまでもマイペースな22歳は聞いた。
148
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:48:29 ID:xH7vejbQ0
ζ(゚ー゚*ζ「んー…今彼氏、とかは?」
大人になったからこそ『大人気ない』と思われることが増えるのだろうと女子高生は無理矢理納得して仕切り直す。
…それが自分自身の将来の姿だとは認めたくなかったが。
ξ゚⊿゚)ξ「いるけど」
ζ(゚ー゚*ζ「いるんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「今現在付き合い始めて間もないから、あんたが出会うのはだいぶ先よ」
ζ(゚ー゚*ζ「そっかぁ……」
ξ゚⊿゚)ξ「?」
女子高生時分相応に、淡い色恋沙汰にもやっぱり興味はあるんだと思った矢先だったが、思ったよりも掘り下げてこないことに些か違和感があった。
149
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:49:37 ID:xH7vejbQ0
ζ(゚ー゚*ζ「…例えばさ、今あなたがもし幸せじゃなかったとしたら」
ζ(゚ー゚*ζ「その人と出会うことさえ回避することも可能なのかなーって…」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ζ(゚ー゚*ζ「そうじゃなかったとしてもさ、何か後悔したこととか、辛かったこととか、今のうちに知っておけばまた違う道に進んだりするのかなー…とか」
ζ(゚ー゚*ζ「…ちょっと思ったの」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
150
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:50:57 ID:xH7vejbQ0
ξ゚⊿゚)ξ「…悪いけど」
ξ゚⊿゚)ξ「それはないと思うよ」
ζ(゚ー゚*ζ「………」
少し考え込むように見えたが、直後にはきっぱりと言い切った。
.
151
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:52:15 ID:xH7vejbQ0
ξ゚⊿゚)ξ「どんな理由でこうやって過去の自分と接触して、現在の自分の価値観を持ったまま会話できるのかはわからないけどね」
ξ゚⊿゚)ξ「回避したかったことを回避できたことなんて一度もないのよ」
ζ(゚ー゚*ζ「………」
.
152
:
名も無きAAのようです
:2013/08/16(金) 00:53:44 ID:54Y4jdIk0
支援
153
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:53:59 ID:xH7vejbQ0
もしも不自由な足が病気じゃなくて事故によるものだったら?
その事故が起きる前に回避できただろうか?
普通に学校に通って友達作って
今とは違う交遊関係ながら楽しい青春時代を過ごせただろうか?
母を働き詰めにさせることもなく
過労で死なせることもなかっただろうか?
.
154
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:55:23 ID:xH7vejbQ0
ξ゚⊿゚)ξ「最初はあたしもちょっと同じこと考えたんだ。だから…」
ξ゚⊿゚)ξ「…小学生の頃、退院した日に会ったこと、覚えてる?」
ζ(゚ー゚*ζ「…うん」
ξ゚⊿゚)ξ「あの時もしかしたら、あんたが言ったみたいに違う道に行けたかもしれないって思ったの」
ζ(゚ー゚*ζ「…斜に構えるのやめろって、言ってたもんね」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ「…本来のあたしの記憶ではね」
ξ゚⊿゚)ξ「退院してからもなかなか友達ができなくて」
ξ゚⊿゚)ξ「頑張りもせずに諦めて捻くれて」
ξ゚⊿゚)ξ「気持ちが荒れてたからこそ、不良気質のキュートに拾われたの」
155
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:56:23 ID:xH7vejbQ0
ζ(゚ー゚;ζ「え、でもキュートが荒れたのって中学生からじゃ…」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしの記憶では違う。小学生の頃からだいぶすれてた。それであっちも友達少なかったから、似たようなはみ出し者に手を差し延べてくれたってわけ」
一応、それでも嬉しかったんだけどね。とツンは締めた。
156
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:57:57 ID:xH7vejbQ0
ξ゚⊿゚)ξ「だからあの時あたしがあんたの背中を押して」
ξ゚⊿゚)ξ「普通の同級生とのわだかまりに打ち勝ってくれれば、もっと全うな友達ができるかもしれないってちょっと期待したけど」
ξ゚⊿゚)ξ「朝起きればキュートからメール来てるし、今でも腐れ縁よ」
ζ(゚ー゚;ζ「………」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたがあの時どう立ち回ったかはわからないけど」
ξ゚⊿゚)ξ「結果的には何も変わらなかった」
ξ゚⊿゚)ξ「キュートに振り回された学生時代も、お母さんの体調の変化に気づけなかったのも」
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと変わった夢が見れるぐらいの現象じゃ、覆らなかったのよ」
157
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 00:59:11 ID:xH7vejbQ0
ζ(゚ー゚*ζ「………」
無言。
何か考え込んでいるのか残念がってるのかわからないが、ツンの言いたいことは理解したようだ。
ζ(゚ー゚*ζ「……ハインとは」
ζ(゚ー゚*ζ「今でも仲良いの?」
消え入るような、不安そうな声だった。
ξ゚⊿゚)ξ「ばーか。それはあんたのこれからの付き合い方次第でしょうが」
意地悪そうに言うが、でも……と続いた。
158
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 01:00:30 ID:xH7vejbQ0
ξ*゚ー゚)ξ「今でもあいつはいい奴だよ。その頭の回転の速さと優しさには、いつも救われてる」
それも腐れ縁だね。と照れたように笑ったその声に、女子高生も安堵した。
.
159
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 01:01:49 ID:xH7vejbQ0
離れていくものもあれば、変わらず傍にいるものもある。
これから出会うものだって、いくらでもある。
なんだ。普通のことじゃないか。
ζ(゚ー゚*ζ「…なら、いいや」
.
160
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 01:03:30 ID:xH7vejbQ0
後悔すること。
痛い思いをすること。
傷つくこと。
これから起こるそれらを、今から知れて回避できることならいいかもしれない。
18歳である今から22歳になるまで、今現在とは違う恋愛もしてるかもしれないし、怒ったり泣いたりも多々してるだろう。
でも、そんな感情の起伏があってこそ生きてるのだと今ならわかるから
そんな当たり前の生き方をしてるならそれでいいと、女子高生は素直にそう思えた。
161
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 01:06:13 ID:xH7vejbQ0
10話おわりです。
支援ありがとうございました。
162
:
名も無きAAのようです
:2013/08/16(金) 01:15:44 ID:54Y4jdIk0
自分とある共通の話題で盛り上がるのってなかなか新鮮だった
乙
163
:
名も無きAAのようです
:2013/08/16(金) 01:28:51 ID:KwFYRM.E0
乙
164
:
名も無きAAのようです
:2013/08/16(金) 02:23:48 ID:u5jfw6AE0
乙
165
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:13:14 ID:tbLElUNM0
第11話いきます
166
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:15:43 ID:tbLElUNM0
◆第11話◆
XX24年 S月
ξ゚⊿゚)ξ(………ファ)
ツンの仕事は、ほとんど動きもなくまぁ単調なことだ。
地元も住みにくいほど田舎でもなかったが、そこから離れてより栄えた土地に拠点を移し、その市内でも観光スポットとされる大規模な美術館に勤めているのだが
今日はとりわけ動きのない、監視役を任されている。
普段は受付やグッズの販売、簡単なガイドなど多少動きのある仕事が基本なのだが、それさえもメリハリがないこともざらにあるので、無表情のまま欠伸を噛み殺す変なスキルばかり身についた。
ちなみに、ジョルジュも同じ美術館に勤務しているが、デザイン科のある専門学校で得たスキルでパンフレットやポスターなど、広告関係の仕事に駆り出されることが多いので、館内で同じ仕事をすることはあまりない。
167
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:20:52 ID:tbLElUNM0
ξ゚⊿゚)ξ「……」
展示物が変わるたびに多少のマンネリ解消にはなったものの、これでも高校生の頃月に一度くらい通ってた頃ほどの感動は最早なくなってきたが
展示物を提案する学芸員の話を聞くのも面白かったし、単純に美術品に囲まれたこの空間に居続けてれば、気持ちの荒れようがない。
168
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:21:54 ID:tbLElUNM0
美術関係への進路を絶ち、挫折した身としては、そちらの世界に精通した学芸員たちや研究者、学生のアルバイトさえも美大生がほとんどであることに対し、最初は多少の劣等感も否めなかったが
展示物をガイドするために真面目に勉強する姿が認められ、学芸員の小難しい蘊蓄にも相槌を打てるほどの知識レベルとなった今、自分の立ち位置に疑問を持つことも少なくなった。
しかし暇だ。
監視役と言われればなんだか物々しいが、実際見物客が展示物に触れたり壊したりなんてことは稀である。
少なくとも、ツンがこの美術館に勤め始めてから今に至るまでは一度もない。
それどころか、今ツンが監視すべきフロアには、見物客は一人もいない。
169
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:23:29 ID:tbLElUNM0
ξ゚⊿゚)ξ「………」
この狭い行動範囲内の、すべての展示物が見渡せる場所でただ座り込むのも飽きたので、ツンは歩き回りながら展示物に近づいた。
さながら一見物客である。
ξ゚⊿゚)ξ「………」
近代美術。
壁画からキャンバスに変わり、文学や神話などの縛りから解放され、モチーフが自由化された時代の作品。
個人的には耳慣れた、やれルネサンスやマニエリスム、ロココなど有名な単語で引き付けた題材を提案するよりも、ビザンティンやロマネスクといった、王や神などの宗教権力者へ捧げられた美術の方が勉強する上では深みがある気がするが
実はこんな掘り出し物ありました!と言わんばかりにあまり日の目を見なかった作品にスポットを当てる。
この提案の仕方は、実は結構気に入っていた。
.
170
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:24:30 ID:tbLElUNM0
もともと日本においては、西洋の近代美術に触れること自体マイナーなはずなのだ。
単語単語に聞き覚えがあっても、ほとんどの人は中学校の授業で習うレベルか、それ以下でしか認識してない。
ポピュラーな作品なら、わざわざ美術館で目にする必要もないくらいそこらに溢れてしまってるので
少しくらい派生した方が、高を括った見物客をいい意味で裏切ることになるだろう。
しかし、さすがにこんな平日の昼間じゃ見物客はいない。
171
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:26:18 ID:tbLElUNM0
高校生の頃通った美術館だって、長期の休みシーズンでもない限りはほとんど人はおらず、だからこそ気に入ったというのも理由の一つだった。
単にその地元の美術館が地味だったせいだと思ってたが、そうでなくてもこの人出のなさだ。
きょうび現代人とは衣食住のみを生活の基盤として重んじるあまり、プラスアルファで心を豊かにするツールにはあまり興味がないらしい。
基盤の衣食住さえも、安く済むに超したことはないと、驚くほど見境ない人だって多々いる。
それが賢明で強かさで、大人になったらそれが当たり前だというのなら
高校生の頃、ただ興味があるからという理由だけで気が済むまで突き詰めたいと志したことが、本当に淡く儚い希望だったんだと思う。
172
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:28:31 ID:tbLElUNM0
ξ゚⊿゚)ξ=3フゥ…
そういえば、昨日見た夢も、なかなかきつかった。
苦痛というほどでもないが、何故か体の疲れが抜けきれず目覚めが良くないことがよくある。
夢の中で好き放題動き回り誰かと会話するのに、そんなにも体力を使ったのだろうか。
これは二度三度のレベルじゃないなとツンは薄々思っていた。
( ^ω^)「……お?」
音もなかったその空間で発せられた一言に、ツンは振り向いた。
173
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:30:28 ID:tbLElUNM0
ξ゚⊿゚)ξ「……あら?」
どこかで見たことのある顔だった。
よもやこんなところで知った顔に遭遇するとは。…と、お互いが思ったかもしれない。
( ^ω^)「こんにちはですおツンさん、覚えてますかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「内藤くん、だっけ?」
( ^ω^)「おっおっ。光栄ですお」
この特徴的な語尾と柔和な笑顔。
少々ふっくらした体格も、優しそうな雰囲気を醸し出すのに一役買ってるのかもしれない。
あの時はイライラしててにこりともしなかったが、実際何かと気を遣ってくれてる彼自体に悪い印象はなかった。
174
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:32:02 ID:tbLElUNM0
( ^ω^)「みんなからはブーンと呼ばれてますお」
と、律儀にも改めて差し出した名刺には、なんだか洒落てそうなダイニングバーの名前とシェフ、いわゆる料理長という偉そうな肩書きが記されていた。
ξ゚⊿゚)ξ「…なんで?」
『内藤ホライゾン』と書かれた名刺のどこを見ても、ブーンのブの字も見つけられなかったツンは、軽く目を細めた。
( ^ω^)「うーん…なんか、昔からのあだ名ですお」
よく聞かれるのだろう、由来のはっきりしないその質問になんとなしに答えながら、目線は絵画に向いている。
175
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:33:37 ID:tbLElUNM0
ξ゚⊿゚)ξ「絵、好きなの?」
料理人というあまり関係のなさそうな仕事と、美術館。
ツンの中では線にならない点と点ばかりが散りばめられている。
( ^ω^)「こう見えても、絵描くのは好きなんですお」
こう言っちゃ失礼だが、なんだか意外だ。
まぁ絵かきなんて見ただけで見抜ける趣味ではないのだが。
176
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:36:21 ID:tbLElUNM0
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、もしかして美大出身とか?」
( ^ω^)「いえ、もちろん興味はあったんですけど…生業とするならやっぱり料理かなって。たまに時間ができた時に見たり描いたりする程度ですお」
ツンとは違い、二つの道を天秤にかけた上で美術関係とは違う道に進みながら、今でもこうして趣味として手元に置き続けてる。
なるほど愚直そうに見えて、案外器用な生き方かもしれない。
一見要領良さそうで、全てか無かでしか欲しいものを選べないツンとは、まるで真逆だ。
177
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:37:41 ID:tbLElUNM0
( ^ω^)「………」
ブーンは一つの絵画に見入っている。
ジョン・コンスタブルというイギリスの風景画家の代表作だ。
ξ゚⊿゚)ξ「……知ってる?その人」
( ^ω^)「お…初めて見ましたお」
ξ゚⊿゚)ξ「…風景画は日本人には受けがいいんだけどね」
( ^ω^)「お?」
.
178
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:39:18 ID:tbLElUNM0
ξ゚⊿゚)ξ「その頃のイギリスの画壇ではね、宗教画とか肖像画が主流で古典的であることを至上とする風潮だったから、風景画はあまり人気なかったの」
ξ゚⊿゚)ξ「今でこそモネやセザンヌなんかの印象派は有名だけど、当時もバルビゾン派といわれるターナーなんかが現れるまで、彼は日の目を見ることはなかったわ」
ξ゚⊿゚)ξ「それどころか、彼の作品の多くは、同業者から未完成品だと馬鹿にされて、当然爆発的に売れることもなかった」
( ^ω^)「お…こんなに綺麗なのに…」
ξ゚⊿゚)ξ「…そうね。あたしは好きなんだけど。特に…」
ツンは一つの絵画を目指して歩みを進めた。
.
179
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:40:51 ID:tbLElUNM0
ξ゚ー゚)ξ「これが、あたしのオススメ」
悪戯っぽいような、なんだか誇らしげのような。
ブーンが初めて見たツンの笑顔だった。
.
180
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:41:44 ID:tbLElUNM0
( ^ω^)「おー…夕日かお…」
『ハムステッド・ヒースの木立、日没』と書かれたそのタイトルを、ブーンは目で追う。
ξ゚⊿゚)ξ「ハムステッド・ヒース…ロンドンの北のほうなんだけど、病弱な奥さんを気遣ってそこに引っ越したんだって」
その空や風景を描いたのがこれ。とツンは微笑みながら絵画を見遣る。
181
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:43:05 ID:tbLElUNM0
ξ゚⊿゚)ξ「…あたしが彼を気に入ったのは、ただ絵が素晴らしいからってだけじゃなくて」
ξ゚⊿゚)ξ「流行に媚びることなく、売れなくても誰も見向きもしなくても、ただ描きたいものだけを頑なに描き続けた姿勢が好きなんだ」
( ^ω^)「なるほどおー…確かに、今の芸術家さんたちにも共感できる部分が多そうだお」
ξ゚⊿゚)ξ「…まぁ、後にフランスのドラクロワにも衝撃を与えたって言われてるし、なんだかんだ言ってバルビゾンの先駆者は彼だと思ってる人もいるだろうから、全くの孤高とも言えないと思うけどね」
仕事半分でガイドしてるつもりだったツンは、だんだんそこに本音が混じり合ってきたことに気づき、急に気恥ずかしくなって巻き上げるように締めた。
182
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:44:38 ID:tbLElUNM0
( ^ω^)「…それにしてもツンさん詳しいお。ツンさんこそ美術関係の学校でも通ったのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「これも一応仕事ですから」
『へ?』とキョトンとするブーンに、首から下げた社員証を見せる。
( ^ω^)「…仕事中にしては、緩みすぎだおw」
先ほどブーンが近づいた時、声でもしなければ気づきもしなかった緩さ加減をやんわりと指摘した。
ξ゚⊿゚)ξ「いーの!こうしてちゃんと仕事したんだし、知識レベルも問題ないでしょ?」
きっと、彼女なりにいろいろ勉強した賜物だったのだろう。
その涙ぐましさと誇らしさが見て取れる。
183
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:46:04 ID:tbLElUNM0
( ^ω^)「お。いろいろありがとうだお。勉強になったお」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあお礼と言っちゃあなんだけど…」
( ^ω^)「ちょw普通それ僕がその気になったら言うことwww」
ツンはまた悪戯っぽい笑顔で先ほど貰った名刺をヒラヒラさせた。
.
184
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:47:37 ID:tbLElUNM0
ξ*゚ー゚)ξ「今度食べに行くから。ブーンのオススメお願いね」
(* ^ω^)「おっおっ。合点承知だ
( ゚∀゚)「………」
その二人を見つめる姿があることに気づきもしないほど、普段あまり愛想のないはずのツンは夢中で話に花を咲かせていた。
185
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/16(金) 13:51:03 ID:tbLElUNM0
あかんさげるの忘れてた…
11話おわりです。
お気づきかもしれませんが、最後のブーンの台詞『お!』がどっか行きました。なぜだ。
186
:
名も無きAAのようです
:2013/08/16(金) 17:02:03 ID:54Y4jdIk0
最後のブーンのセリフがなぜかスネークで再生されてわろた
乙
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