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ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
1
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/12(月) 17:05:29 ID:0tlWAR460
夢と言われれば、ただの夢。
それなりの疲労を溜め込んだ体をベッドに投げ出し、全身の力を抜いたその瞬間
浅い眠りに吸い込まれるとそこには、彼女が今生きる現実とは違う世界が広がっていた。
ただ、『それだけ』のこと―――。
ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
.
449
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:16:09 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「んー…まぁ用ってほどのことじゃないんだけど…」
ζ(゚ー゚*ζ「何よ」
ξ゚⊿゚)ξ「あたし、この間誕生日だったの」
ζ(゚ー゚*ζ「………」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
ζ(゚ー゚*ζ「………で?」
ξ゚⊿゚)ξ「で?って…それだけ」
デレは、掘り下げたことを後悔した。
.
450
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:17:15 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚;ζ「あんたって人は…年甲斐もなくそんな…」
ξ゚⊿゚)ξ「そう?まだ20代前半だけど」
ζ(゚ー゚;ζ「いやそういうボーダーライン的な意味じゃなくてさ」
デレは大きな溜め息をついた。
なんのために呼ばれたのかと思えば、誕生日でテンションが上がった余韻かと。
しかし何故か立ち去る気になれないのが、同一人物とはいえその人が現れると周りに放たれる不思議な情調だった。
451
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:18:45 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚*ζ「で?彼氏になんか貰ったりしたわけ?ついでに惚気に来たってわけ?」
少々うんざりしたような声だった。
10代の多感な頃の誕生日こそ、母が倒れたり亡くなった後だったりと、苦い思い出ばかりなのだ。
浮かれた話なら大概だと思うのも、無理はない。
ξ゚⊿゚)ξ「もう彼氏はいないって。ったくどいつもこいつも」
ζ(゚ー゚;ζ「えー…急にキレられても…」
.
452
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:22:49 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚;ζ「っていうかそういうネタバレってありなの?」
ξ゚⊿゚)ξ「まぁいいんじゃない?聞きたくなければ止めるし。あんたは?今彼氏いたっけ?」
ζ(゚ー゚;ζ「なんか矛先がこっち来た…」
自分自身に対してだからといって、不条理であっていいとは思わないが、今更この人に道理というものが通用するとも思えないデレは、一歩引いた身持ちでいるしかない。
.
453
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:25:07 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚*ζ「っていうか覚えてないの?斉藤先輩だよ」
ξ゚⊿゚)ξ「斉藤?」
ζ(゚ー゚*ζ「斉藤モララー先輩」
ξ゚⊿゚)ξ「……あぁ」
その頃の、真剣なりに朧気だった恋愛などあまり記憶にはなかった。
ミーハー精神には縁のないツンだから、惰性や軽い気持ちで付き合うなんてことはまずなかったが、それでもだ。
まぁ、今の自分がそんな関係に不満がなければいいことだろう。
大人になった自分が差し挟むのも、なんだか野暮だ。
454
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:28:50 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚*ζ「で、いくつになったの?」
それを年下の女の子、しかも自分自身に聞かれることなんてまず経験しない。
23歳にして初体験な違和感である。
ξ゚⊿゚)ξ「23だけど」
ζ(゚ー゚*ζ「ふぅん。それって、なんか気持ちの変化ある?」
10代の頃は、歳を重ねるごとに多少の意識の変化があった。
15歳から16歳、16歳から17歳になるということが、大きなプログレスだと思ってた。
.
455
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:30:14 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「んー…ないね」
ζ(゚ー゚*ζ「言い切ったね」
ξ゚⊿゚)ξ「ハタチ超えたら、当日いきなり意識が変わるんじゃなくて、日が経ってだんだん自覚してくものよ」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなもんかね…そういえばあんまり浮かれてないもんね」
それは、死に一歩近づいたからだよ。…とは、やっぱり言えるはずがなかった。
それに、ああやって自分には内緒で企てられたサプライズが、嬉しくなかったわけもなければ、浮かれてないつもりもない。
456
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:31:39 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「そんなことないよ。今年は祝ってくれる愉快な人達がいたから」
ζ(゚ー゚*ζ「…やっぱり自慢しに来たんじゃん」
ξ゚⊿゚)ξ「何言ってんのよ。あんたがこれから経験するべき未来の話よ?」
拗ねるデレに、そう説き伏せた。
やっぱり、この頃の自分は些か素直じゃない。
.
457
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:33:06 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「今のあんたは、あんまり積極的に人の輪に入って行こうとしないかもしれないけどね」
ξ゚⊿゚)ξ「それでもついてくる人はついてくるってこと」
ξ゚⊿゚)ξ「あんまり人と繋がろうとしてこなかった分、いざ繋がってしまった人との縁は強固よ」
ξ゚⊿゚)ξ「だから今のあんたは、べつに正しくもないけど間違ってもない」
ξ゚⊿゚)ξ「それだけ忘れなければいいかな」
.
458
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:34:47 ID:uLjBbDWQ0
その当時、本当は少し懐疑があったことをツンは覚えてた。
ハインとも違う高校に進学し、そこで出会った同級生らに対し
それなりには関心あるけど、それなりにどうでもいいと思ってしまうことに。
誰とでも仲良くできればいいけど、誰とでも深く付き合いたいわけじゃない。
そんな自分は、薄情者なのだろうかと、思うことがあった。
それが否定されたわけじゃないけど、『ついてくる人はついてくる』。それだけ分かればデレの懐疑を融くには充分だった。
459
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:37:44 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚*ζ「…そういう説教は意味ないんじゃなかったの?」
相変わらず素直ではなかったが、自分自身の言葉に愚直に狂信されてもなんだか薄気味悪いので、何も言わなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「他人から言われたって聞きやしないでしょうに」
ζ(゚ー゚*ζ「…そうだね。あなたに言われるのが一番説得力はあるよね」
もはやただのネタバレだけどね。と、声だけはっきり聞こえた時にはもうデレの姿は意識の向こうにいて
どこか和らぎを含んだその声を漏らしたデレの表情だけは、見届けることができなかった。
.
460
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:39:45 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「……」ボー
目が覚めた時にはもう、正午前だった。
普段の自分ならそろそろ休憩に入ろうとしてる頃だろうか。
縛られない生活というのも、なんだか地に足着かないようで思ったよりも落ち着かない。
.
461
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:41:12 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「……寝違えた」
原因は、誕生日の時にハインがくれた、安眠枕だった。
やれパウダービーズやらメタルチタン加工生地やらの、見た目より重くはなかったそれは、昨今のツンの生気のなさを案じて選んでくれたものなのだろう。その気持ちだけは有り難い。
ξ゚⊿゚)ξ「…今度からは足に敷こう」
そう呟いていつもの枕に取り替えたツンは、特にやることも思い付かず再び横になった。
.
462
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:43:15 ID:uLjBbDWQ0
21話おわりです。
463
:
名も無きAAのようです
:2013/08/23(金) 23:31:00 ID:IYk2UWD.0
連日乙
464
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:10:41 ID:rwN06UWc0
気がついたらまとめていただいてました。本当に感謝です。
Boon Roman様
http://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/dream/
終わりが見えたとぶっこいてから何話書いたことでしょう第22話
465
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:13:09 ID:rwN06UWc0
◆第22話◆
XX24年 U月
陽が短くなり、そろそろ肌寒くなってきたが、さすがに今日の店内は絵に描いたようなお祭り騒ぎだった。
開店五周年。
流行るまでに少々時間がかかったため、盛り上がりが見込めなかったというこの店は、今までパーティーらしいパーティーなどしたことなかったそうだ。
ところが今では、店内は満席どころか座りきれなかった客が立食するという有様で、今日は少しでも場所を確保するため、普段カウンター席に置かれている足の長い椅子は全部撤去されていた。
ただでさえ、こんな祭の日は店側から客に対して、限られた範囲内ではあるが破格の値段で酒やら料理やらを大盤振る舞いする日だが
記念品作りに助勢したツンや彼女が呼んだ客は、招待客として扱われ、申し訳程度の祝儀のみでほぼフリードリンクで良いとの優遇ぶりだった。
466
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:15:02 ID:rwN06UWc0
ツンは、ハインとトソンに声をかけて参加した。
ブーンやドクオは、案の定忙しそうでなかなか話し掛けられる雰囲気ではない。
(゚、゚;トソン「………」
気品漂う淑やかなお嬢様は、あまりこういう騒がしい場には来ないらしく、ソワソワと落ち着かない様子でいる。
从 ゚∀从「………」
しかも、住む世界が違いすぎてまず巡り合わされることはなかったであろう耐性がない人種に対しても、どう扱っていいかわからないのか、人見知りも度を超えて少々尻込みしてるようである。
467
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:16:15 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「えっと…こちらハインリッヒ高岡。見た目通りの元ヤンだけど取って食われはしないから安心して」
(゚、゚;トソン「元ヤン……」
从 ゚∀从「おい、初めて会う子にそういう洗脳はやめなさい」
ξ゚⊿゚)ξ「で、こちらが職場の後輩で都村トソンちゃん。美大生でシルクの道具貸してくれたの」
从 ゚∀从「スルーが軽快すぎるだろ」
そういう荒っぽい言葉遣いもさることながら、ハインのその見た目の派手さに気圧される人は少なくない。
赤みがかった髪色や、鼻筋の通ったハーフのような顔つきは、決して下品な印象を与える派手さではないのだが
スレンダーだが女性にしては高い身長も、小柄なトソンには威圧感を与えてしまうだろう。
468
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:17:47 ID:rwN06UWc0
キュートが一見親しみやすい愛玩動物に例えられるなら、ハインは雌豹なのだ。
遠くから見てる分には美しいのだが、その猛威を孕んだような鋭い目に見られてしまうと、あまり近づきたいとは思えない。
美人なわりにこうも見た目で損をしてるタイプも、ハインの他に類を見ないだろう。
ちなみに昔、それを本人に言ったところ『それを言うならツンは雌鹿だな』と言われたことがある。
それがどういう理屈なのかは、いまだにわからない。
从 ゚∀从「トソンちゃんか。よろしくね。このたびはツンがお世話になったようで」
しかし、相手が引き気味なことにも気づいていながら、構わず気さくに話し掛けることができるのが、ハインの救いでもあった。
469
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:19:11 ID:rwN06UWc0
(゚、゚トソン「あ、いえ…こちらこそツン先輩にはいつもお世話になってます…」
物腰柔らかく、丁寧に挨拶するには役不足な相手かもしれないが、それがトソンの色だ。
憂惧せずに会話できるようになれば、それでいいのだとツンは思った。
(*^ω^)「おっおー。お三方わざわざありがとうだおー」
こちらから声をかけに行くのを自重してると、向こうから寄ってきてくれた。
既に何杯か飲んでるようで、顔にも火照りが浮かんでいる。
470
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:20:44 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、この子がシルクの道具貸してくれたの」
(゚、゚トソン「都村です。初めまして…」
(*^ω^)「お!君がトソンちゃんかお!おかげで良い記念品が作れたおー!」
そう言ってるブーンは既に、完成されたTシャツを着ていた。
今日のスタッフは全員記念Tシャツ着用が義務付けられているのだろうか、一日限りのユニフォームと化している。
来客も既に何人か記念Tシャツを着てる人がちらほらいて、売れ行きは好調なようだった。
471
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:21:49 ID:rwN06UWc0
(゚、゚*トソン「素敵なデザインですね。これはツン先輩が?」
ξ゚⊿゚)ξ「いえ、デザインしたのはそこのコックのお兄さんよ。あたしはただシルクの手伝いしただけ」
(*^ω^)「でもおかげで本当に助かったんだお!未経験の野郎だけじゃ何人いても確実に終わらなかったお!」
(゚、゚*トソン「そういうことだったんですね」
芸術家魂が疼いたのか、トソンはTシャツのデザインを食い入るように見つめる。
ひたすらに胸元を見つめ続けられたブーンは、ちょっと困惑しながらもそうそう、とまだビニールのフィルムに梱包されたままのTシャツを三人に渡した。
472
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:22:51 ID:rwN06UWc0
(*^ω^)「よかったら、持って帰ってくれお!なんだったら今すぐ着替えてくれてもいいお!」
それを受け取ったトソンは、ツンとハインに一着ずつ配った。
(゚、゚*トソン「ありがとうございます!」
そのデザインがお気に召したのか、トソンの目は心底嬉しそうに輝いていた。
.
473
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:23:52 ID:rwN06UWc0
从;゚∀从「今にも着替え出しそうな勢いだねトソンちゃん。なんか意外…」
トソンのそんな姿にタジタジになるハインのほうが、よほど意外である。
(゚、゚*トソン「そうですねーどうしましょう?お二方、どうします?」
もはやその『どうします?』は、『一緒に着替えましょう!』と言われてるようにしか聞こえなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「…まぁ、記念品なんてその日一日しかありがたみがないんだから、パジャマにする前に着てあげるのもいいかもね」
一人は半ば道連れにして、無理矢理満場一致にした一行は、ノリに身を任せる運びとなり交代でトイレに篭る羽目となった。
.
474
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:25:18 ID:rwN06UWc0
黒地に赤色でデザイン画が印刷されたTシャツは、着る人を選ばず無難な配色だったようだ。
クラッシュ加工されたデニムのショートパンツが似合うハインはもちろん、シフォン生地で花柄のミニスカートで決めてきたトソンの奥床しさを、極端に損なうこともなかった。
たまにスタッフと間違えられるのには困ったが、それもご愛嬌ということで特に迷惑がってもいないらしいトソンやハインの姿には、微笑ましささえ感じる。
475
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:26:10 ID:rwN06UWc0
多少お酒も入ったことだし、もう二人の間に入らなくても気まずくなることはないだろうと踏んだツンは、二人に断って外の風に当たりに行った。
ξ;゚⊿゚)ξ==3フゥ
盛り上がりも好調なパーティーは確かに楽しいが、店内に詰め込まれたキャパオーバーな人出と熱気が少々窮屈になってきた頃だった。
多少酔いもあり、体も火照ってきたところで澄んだ夜風に当たると、気持ちが洗われるようだ。
476
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:27:34 ID:rwN06UWc0
久しぶりに、一つの空間を作り上げる現場に立ち会った。
自分がしたことは本当に微々たるものかもしれないが、小さな要素が一つ欠けただけで、その空間の仕上がりにどれだけ反映されるかを、ツンは知っている。
だからこそ、今回は胸を張れる仕事ができたと素直に思えるし
ただちょっと器用なだけで、昔美術部にいただけで、何も持っていない自分をそれでも必要としてくれたブーンやドクオには、感謝しなければと思ってる。
.
477
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:29:34 ID:rwN06UWc0
( ^ω^)「お、飲み過ぎちゃったかお?」
背後から、ブーンの声がした。
ξ゚⊿゚)ξ「ううん。でもちょっと外に出たい気分だったの」
ツンは振り向きもせず、夜空を仰いだまま答える。
.
478
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:30:21 ID:rwN06UWc0
( ^ω^)「そうかお。でもさすがにTシャツ一枚じゃ寒いお」
そう言って、自身が来てるTシャツの上に羽織ってた厚手のワイシャツを、ツンの肩に乗せた。
(;^ω^)「あ、いや…外出てくる前に羽織ったばっかりだから、べつに汗とかはかいてないから心配しなくていいお」
何も言ってないのに勝手にあたふたし始めたブーンに、ツンも吹き出す。
その『何も言ってない』時間が、彼にとってはそんなに長い時間に思えたのだろうか。
ξ゚ー゚)ξ「べつに心配してないよ。ありがと」
そう言ってツンは、その長すぎる袖に腕を通した。
479
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:31:49 ID:rwN06UWc0
思えば『あの時』以来、まともに二人きりになったことなどなかった。
ハインにこの店に連れてきてもらった時、気まずさを顔に出さずにいてくれたのは、仕事中だったからなのかと思っていたが
しかしこうして個人的に頼み事をされ、惰性で何事もなかったかのような、ぬるま湯に浸かった雰囲気に委ねてしまったので
あの時はなんて理不尽なことを言ってしまったのだろうと、悔やむ気持ちはあってもそれをなかなか言い出せずにいた。
480
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:32:56 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、あのね…」
今がその時だ。と何かに煽られてる気がした。
しかし同時に、それを口に出したらもう後戻りはできない。そんな終局での決断を迫られてるような気分だった。
.
481
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:34:09 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ずっと謝ろうと思ってたんだけど…この前、美術館に来てくれた時のこと」
( ^ω^)「………」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしあの時、自分のことしか考えてなくて…本当に浅はかだった」
ξ゚⊿゚)ξ「ひどいこと言って、ごめんなさい…」
( ^ω^)「…もういいお。気にしてないお」
普段飄々としてるツンが、僅かながらも自分の胸のうちを打ち明けることなんて、あまりない。
ジョルジュと付き合ってた頃でさえ、彼に寂しいとか心細いとか、何をどうしてほしいかなんて滅多に言わなかった。
そんなツンが、人に『ごめんなさい』などと言ったことなど、いつぶりだっただろうか。
.
482
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:35:47 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「あたし、ブーンが来てくれて、迷惑だと思ったことなんて一度もないよ」
ξ゚⊿゚)ξ「なのにあの時は、そうしなきゃって…それが正しいんだって片意地張ってて…」
ξ゚⊿゚)ξ「なのにこういう場に呼んでくれて…あたしを頼ってくれて…」
ξ゚⊿゚)ξ「…あたしももう、どうしていいかわかんなくて…」
( ^ω^)「………?」
.
483
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:37:59 ID:rwN06UWc0
馬鹿正直で直情そうに見えて、人が言ったことはちゃんと受け止める寛容さは持っていて
不器用そうに見えて、内に秘めた芯はしっかりしていて
話してるといつも調子が狂わされて、いつの間にか彼のペースに嵌まってしまって
( ^ω^)
そんな彼に、たまらなく惹かれてしまうこの情動を、一度自ら手放しておきながら、今更なんと言えばいいのだろうか。
.
484
:
名も無きAAのようです
:2013/08/24(土) 14:51:31 ID:wV7J6c2.0
支援!
485
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:00:02 ID:U3e.BJL60
ξ゚⊿゚)ξ「…このままじゃ、ダメだと思ってたの」
ξ゚⊿゚)ξ「うまく説明できないけど、とにかく流されちゃダメだって思ってたの」
ξ゚⊿゚)ξ「……でも、うまくいかなかった」
ξ⊿)ξ「どうしても、抑えられないの…あたし一体、どうすればいいか…」
.
486
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:01:32 ID:U3e.BJL60
ξ⊿)ξ「あたし…やっぱりブーンのことが……」
( ^ω^)「ツン」
大事そうにその名をそっと囁き、ブーンはツンの言葉を遮った。
.
487
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:03:11 ID:U3e.BJL60
( ^ω^)「…僕は、ツンが一緒にいてくれれば、それでいいお」
( ^ω^)「…もしツンも、同じ気持ちでいてくれるなら」
( ^ω^)「あんまり、そんな辛そうな顔はしてほしくないお」
ξ⊿)ξ「………」
.
488
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:05:28 ID:U3e.BJL60
( ^ω^)「…率直に聞くけど」
( ^ω^)「僕はツンが好きだお。一緒にいてほしいお」
( ^ω^)「ツンは、応えてくれるかお…?」
ξ⊿)ξ「………」
ξ⊿)ξ「……あたしは………」
.
489
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:07:17 ID:U3e.BJL60
―――わかってる未来に向かって歩いてくより、よっぽど可能性はあると思うお―――
愛情。恵愛。寵愛。傾慕。
―――わかってるからこそ…それを回避するために少しくらい抗ってみてもいいと思うんだお―――
恋。刹那。永劫。星霜。烏兎。
.
490
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:08:32 ID:U3e.BJL60
―――数分前まであった日常が、急になくなってしまったんだお―――
そして、終焉。
.
491
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:10:03 ID:U3e.BJL60
逃げるとか、回避するとか、何が必要で、何がいらないとか
( ^ω^)
そんなことより、ツンが欲しかったのは
.
492
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:11:29 ID:U3e.BJL60
―――ツン。僕は、君に出会えて――――
ξ*ー)ξ「……ありがとう、ブーン……」
欲しいものに手を伸ばす勇気を出した代わりに得られる、貴いほどの至福だった。
.
493
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:12:40 ID:U3e.BJL60
22話おわーりです!
494
:
名も無きAAのようです
:2013/08/24(土) 20:22:10 ID:7/IqGgJQ0
乙!投下はやくて嬉しい
応援してます
495
:
名も無きAAのようです
:2013/08/24(土) 20:26:02 ID:XEFpbhg20
おツン
さらっと読めるけど引き込まれる感じが好き
496
:
名も無きAAのようです
:2013/08/24(土) 22:55:12 ID:UzUEkJeU0
乙
497
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/25(日) 11:38:25 ID:OQGiP19M0
第23話いきますん
498
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/25(日) 11:40:11 ID:OQGiP19M0
◆第23話◆
――――あんまり人と繋がろうとしてこなかった分、いざ繋がってしまった人との縁は強固よ――――
人との巡り会わせって、自分の意志で取捨選択していくものだと思ってた。
だから極端な話、あたしが周りにいる人すべてを拒絶すれば、一生独りきりで過ごすことも可能なんだと思ってた。
.
499
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/25(日) 11:41:21 ID:OQGiP19M0
出会った人。別れた人。
傍にいてくれる人。先立ってしまった人。
そういうものすべてが、ある程度決定的なもので
それを知らなかったから、その都度一喜一憂してただけだったなんて
そんな当たり前のことに、どうして気づきたくなかったんだろう。
.
500
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/25(日) 11:42:27 ID:OQGiP19M0
母が亡くなった。
ハインと親友になった。
キュートも放っとけなかった。
学生時代もそれなりの恋愛をして
ある意味物心ついてから、ジョルジュと付き合って
ミセリという恋敵に敗れて別れ
ドクオらと出会って
ブーンと心通わせた
.
501
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/25(日) 11:43:21 ID:OQGiP19M0
そうやって、みんな生きてる。生かされてる。
そして一歩一歩、進んで行ったら
行き着く先の終焉は、誰もが同じ。
あたし一人だけが、避けられないわけじゃない。
だから――――
.
502
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/25(日) 11:45:03 ID:OQGiP19M0
XX28年 X月
( ^ω^)「これがいわゆるテラシュールwwwってやつかお…僕が知ってる画家もいそうだお」
ξ゚⊿゚)ξ「最近あんま聞かないけどね。ちなみにこのフロアはルネ・マグリットね。ベルギーの画家」
見物客とスタッフ。
何故かマンツーマンでガイドしながら絵画を見て回るその姿は、芸術嗜好者同士のカップルの、プライベートな空間にしか見えない。
( ^ω^)「おー…空の絵ばっかりだお」
ξ゚⊿゚)ξσ「特にこれなんか不思議よ」
( ^ω^)「…"光の帝国"?どういうことだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「空は明るいのに、それ以外の風景が陰ってるなんておかしいと思わない?」
( ^ω^)「おー…確かにだお…」
ξ゚⊿゚)ξ「つまりこれは、昼と夜が同居した一枚なの。そんな堅真面目なスーツ姿でよく思いつくわよね」
.
503
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/25(日) 11:46:20 ID:OQGiP19M0
いつからかよく見かける見物客。
数年経ってもよく通うものだなと感心する。
彼は彼なりに、芸術品や絵画、さらにはそれらに付随する歴史背景なんかにも頗る関心があるのだろう。
女性スタッフによる渾身のガイドにも、何度も頷いている。
しかし
ξ゚⊿゚)ξ「あ、今日の夕飯焼き肉が食べたい」
( ^ω^)「そうかお?じゃあ早めに帰って準備しとくお」
ξ゚⊿゚)ξ「いいじゃん、たまには外で食べようよ。あたし今日給料日だしさ」
たまに話題が思いっきりプライベートなのは、いただけないと思う。
一応、周りの見物客には気を遣ってるようだが。
504
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/25(日) 12:33:32 ID:Qd9CqSTQ0
すいません中断
505
:
名も無きAAのようです
:2013/08/25(日) 12:40:27 ID:X4xaTOo60
支援
506
:
名も無きAAのようです
:2013/08/25(日) 14:02:53 ID:bFOpOKw.0
やっぱブーン×ツンは良い意味で王道だなぁ支援
507
:
名も無きAAのようです
:2013/08/25(日) 15:04:08 ID:YAxkbFNE0
これいま一番楽しみにしてる現行
508
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:17:42 ID:TIV7lN6Y0
すいませんだいぶ遅くなりました。
再開
509
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:19:33 ID:TIV7lN6Y0
待ち合わせ場所が決まったのか、見物客の男性は軽く手を振って去って行った。
その背中に向かって女性スタッフも、思いっきり手を振る。
わかってはいるだろうが、他に見物客がいる時は是非控えていただきたいポーズだ。
.
510
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:20:45 ID:TIV7lN6Y0
「公私混同するなって言っただろうが」
背後から投げ掛けられた声に、ツンは振り向いた。
思ったより近くにいたが全く気付かず、そのステルス能力者さながらの気配の消し方はあっぱれだった。
ξ゚⊿゚)ξ「あらお疲れ様。ここで会うのも久しぶりね」
( ゚∀゚)「…他に何か言うことはないのか?」
今し方自分が注意されたことには一切触れず、何事もなかったかのように挨拶だけするツンに、ジョルジュも呆れ返った。
.
511
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:40:49 ID:TIV7lN6Y0
二人が別れてから数年が経ったが、彼らは今でも同じ職場にいた。
職種が違い、同じ現場で仕事する機会も少なくなったためか、同じ職場とはいえどちらも居心地が悪くなるということもなかった。
たまにこうして館内で顔を合わせることがあっても、挨拶程度ですれ違うことがほとんどなので、会話らしい会話なんて本当に久しぶりだった。
.
512
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:42:31 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「今の彼が…例の?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、まぁ」
そんなことには、とっくに気づいていた。
ここ数年で、たまにしか館内に現れないジョルジュが何度も目にしている見物客なのだ。
実際には月に一、二回ぐらいの頻度らしいが、それが数年続いてるのだから足しげく通ってると言って差し支えはないだろう。
美術館には、いわゆる固定客や常連客のようなリピーターは少ない。
それだけの頻度で通われたら、嫌でも顔を覚えてしまいそうだが
そうなる前から知っているブーンの顔を、ジョルジュは忘れるわけがなかった。
(*^ω^)
ξ*゚ー゚)ξ
そして、ブーンが来るたびにあの日見たままの穏やかな雰囲気で話してる二人を目にすると、二人の関係の深さに気付かないわけがなかった。
.
513
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:43:46 ID:TIV7lN6Y0
ブーンと付き合い始めてから、その幸せそうな顔が顕著なツンに、何の気無しにでも彼の話を聞こうとすればするほど、ツンと別れた当時の自分の器の小ささが卑下されるような気がして今まで突っ込んだ話はできなかったが
いざ気まぐれで話し掛けてしまって初めて、特に用件も見当たらないことに気がついてつい口を滑らせてしまった。
しかしツンも気にした様子はないし、今となっては昔の話。
ほとぼりも覚めて落ち着いているのだろう。
514
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:45:10 ID:TIV7lN6Y0
ξ゚⊿゚)ξ「…そうだ。聞いてるかどうかわからないけど、あたし今月いっぱいであがるから」
不意に、ツンが口を開いた。
今この場で初めて聞いたジョルジュは少々面食らっている。
( ゚∀゚)「そうなんだ。知らなかったな」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。ちょっと引っ越すことになったからさ」
ブーンと同棲し始めてからは、一人で住んでた部屋は引き払ったが職場を変えるほどの移動ではなかった。
それが今度は、通いづらくなる距離まで広がるのだそうだ。
それが何を意味するのか、ジョルジュは薄々理解した。
.
515
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:46:07 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「…式は挙げるのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、来月」
自分が知らなかっただけかもしれないが、それもまた随時近々な気がする。
( ゚∀゚)「ってことは来月もスケジュールキツそうだな…」
誰かが式に呼ばれてシフトに穴が空くと、自分の比重に負担がかかるという懸念を殊更に漏らす。なんだか悪戯そうに嫌味を含んだ言い方だった。
516
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:47:03 ID:TIV7lN6Y0
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。職場からは一人しか呼ばないから」
しかし、それを物ともせずに突き返す。
そんな一皮剥けた姿が、なんだか晴れ晴れとしていた。
あれから年月を重ねて身についた余裕なのか、彼との安定した付き合いでツンが磨かれたのかは、わからない。
517
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:48:17 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「…そうか。ならいいや」
ジョルジュもまた、あの頃のようにテンションにだけ任せたノリ至上ではいられなくなっている。
落ち着いたと言えば聞こえはいいが、昔よりも責務が大きいだけ余裕がないのが本音だ。
ツンのように、仕事だけでなく広義的な意味で前に進んだ同僚を目にすると、ちょっとした焦燥感に駆られるが
518
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:49:40 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「…ツン、幸せになれよ」
その祝福は、偽りない気持ちで伝えられた。
ξ゚ー゚)ξ「…ありがと。ジョルジュもね」
できれば付き合ってる間に、そうやって笑ってほしかった。
でもその笑顔が拝めたことには満足して、ジョルジュはその場を後にした。
.
519
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:50:58 ID:TIV7lN6Y0
(*^ω^)ノシ「ツンお疲れだおー!さっき本屋でジョルジョ・デ・キノコの画集買っちゃったおー!」
ξ;゚⊿゚)ξ「キノコじゃなくてキリコだってばよ。っていうかシュルレアリスムの画集ならあたしもいろいろ持ってるのに…」
自分が与えた学殖に、関心持って吸収してくれるのは教え甲斐もあって結構なことなのだが、考えなしの出費にはさすがに苦言を呈したくもなる。
画集の衝動買いで痛い目見た経験なら、ツンの方が豊富なのだからなおさらだ。
.
520
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:52:07 ID:TIV7lN6Y0
よりにもよってハードカバーらしく、既にそんな重そうな荷物を抱えてるにもかかわらず、空いた手を差し出してツンの荷物を寄越すようにと促す。
もちろん最初の頃は遠慮してたのだが、付き合いが長くなっていくにつれてそんな譲り合い精神もだんだんこそばゆくなってきて、最近はお言葉に甘えてみることにしている。
(;^ω^)「相変わらず重たっ!!カンペ詰め込みすぎだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「資料よ資料。読みあさって損はないんだから」
ツンの仕事用トートバッグには、コロコロ変わる展示物に関する資料が主に詰め込まれている。
ガイドするための予習という建前のそれは、仕事中あまりにも動きがない時持て余した時間を潰してくれるのだそうだ。
そんな荷物を毎日持ち歩くのも、女性の力ではさすがに骨が折れるという本音もあり、持ってくれるなら助かるのも事実である。
521
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:53:14 ID:TIV7lN6Y0
身軽になったツンは、手が塞がってるブーンの腕に掴まる。これも、ツンのいつもの定位置だ。
今まで、欲しいものがなかなか手に入らない環境にいたせいか、こうやって好きな人に触れて歩いてるだけで、四年間飽きもせず簡単に満たされてしまう。
あと何年こうして一緒に歩いていられるかはわからないし、今現在何が起きてもいいと言えるほどの覚悟もできてない。
今死んだら成仏できないだろうな…とは常に思ってる。
.
522
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:54:51 ID:TIV7lN6Y0
でも例によって、ブーンと話してると気が迷う暇もなく彼のペースに巻き込まれるし、常にのほほんとした柔らかい笑顔が隣にいたら、何かに怖がる方が難しい。
( ^ω^)「時にツンさん。今日はイチボはありかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいけど、上ハラミはあたしのだからね!」
そんなやり取りだけで充足されてしまうのだから、仕方ない。
それを自分から求めて、相手も応えてくれてるのだから、悔やむことなど何もないのだ。
.
523
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:55:49 ID:TIV7lN6Y0
――――だからね、ブーン
せめて、あたしが生きてるうちに
最後の最期を迎える瞬間が、貴方と暮らす屋根の下で良かった
そんな縁で巡り会わされたのが、貴方で良かった
そう気づけただけ、人よりちょっと幸せなのでしょう――――
.
524
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/26(月) 00:58:20 ID:TIV7lN6Y0
23話おわりです。
525
:
名も無きAAのようです
:2013/08/26(月) 01:10:38 ID:AB/gEMd20
乙
526
:
名も無きAAのようです
:2013/08/26(月) 01:11:26 ID:WK07fGK60
乙!素敵だなぁ
感動する
527
:
名も無きAAのようです
:2013/08/26(月) 02:00:12 ID:Y1WyYr7s0
ツンは強い子なんだなぁ
528
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:41:02 ID:q5DmYYDA0
いつも温かいレスほんとに感謝です。
こんな時間から第24話
529
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:42:11 ID:q5DmYYDA0
◆第24話◆
XX28年 Y月
('A`)「それでは新郎新婦の輝かしい未来と、末永いお幸せを祈念致しまして乾杯!」
「「「「「カンパ―――」」」」」
('A`)「――をしたいと思います!」
「「「「「……………チッ」」」」」
('A`)「(チッ?)…では、今度こそ皆様ご唱和ください!!」
「「「「「カンパーーーーイ!!!!!!」」」」」
.
530
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:43:21 ID:q5DmYYDA0
ドクオの音頭は、セオリー通りでなんの捻りもなかった。
しかし二次会ともなると、それまでの厳かな儀式の空気が一変して、気のおけない仲間同士の単なる飲み会の空気になった。
二次会の会場は、以前ブーンがドクオと一緒に働いていたあのダイニングバーだった。
既にその店は退職してるブーンは、独立してシェフ兼経営者となった。
雇われてる頃から定評のあった料理の腕はもちろん、持ち前の人当たりの良さで獲得した常連客や同業者のコネクションなんかも手伝ってか、ブーンの店はそこそこの盛り上がりを見せている。
531
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:44:17 ID:q5DmYYDA0
結果としてその成功が、二人が結婚に踏み切れたきっかけでもあった。
絶対の繁盛が約束された商売ではないが、ブーンが夢を叶えることがツンにとっても幸せであることは確かで
お互いに守るものができた二人が身を固めることに、それ以上の理屈は必要なかった。
.
532
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:45:19 ID:q5DmYYDA0
前の職場のオーナーの計らいで貸し切りにしてもらったはいいが、ブーンとツン、二人の友人を呼んでも20人と満たしていない。
いつだかの周年パーティーの時なんかより大幅に人数は少ないはずなのに、熱気だけはあの頃の窮屈とさえ感じたボルテージに引けをとらなかった。
o川*゚ー゚)o「ツンおめでとー!!ほんと超きれー!!写真撮ろ、写真ー!!ねぇハインーーー!!」
こんなおめでたい席に…とも思ったが、こんなおめでたい席だからこそ、一応キュートも呼んでおいた。
しかし、さすがに厳かな席には呼びたくないテンションだし、ブーンのご両親にもあんなのが友達だなんて思われても心外なので、彼らとも円滑に付き合ってくためにもキュートは二次会から呼んだ。
だからキュートは駆け付けなはずなのだが、披露宴からずっと参加してた友人らの余韻を凌駕するかのようなハイテンションである。
いい加減動きにくいウェディングドレスにもうんざりしてきた頃のそのテンションは、はっきり言って暑苦しい。
まぁよほど誰かに迷惑かけるようならすぐつまみ出そうと大目に見て、今日は乗り切ろうと思う。
.
533
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:46:36 ID:q5DmYYDA0
('、`*川「ツンちゃんよかったね!」
从'ー'从「ツンちゃんおめでと〜!」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがと。しかしあんたらも祝福要因ね」
ツンは、小学生の頃も似たようなことを言われた気がする同級生に囲まれていた。
彼女らとは違い少々道を外したにもかかわらず、呼べばこうして駆け付けてくれる、貴重な友人である。
普段から密に連絡を取り合ってるわけではないが、久しぶりなりに話は尽きない。
.
534
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:47:33 ID:q5DmYYDA0
('A`)「しかしお前も勢いに乗るなぁ」
(・∀ ・)「さっさと出し抜けやがって畜生が!とりあえず飲みやがれ!!」
( ^ω^)「ありがとうだお。お前らもさっさと彼女作れお」
それは、ブーンも同じようだった。
いつも傍にいる密な友人たちに囲まれてるが、それでもやっぱり話は尽きない。
ξ゚⊿゚)ξ「………」
( ^ω^)「?」
ξ*゚ー゚)ξ
(*^ω^)
新郎と新婦、各々がそれぞれの友人に囲まれてあまり二人で並んではいられないが、たまに目が合っては微笑み合い、同じ空間を共有してることを確かめ合っていた。
.
535
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:48:29 ID:q5DmYYDA0
从 ゚∀从「なんだよ今日はツンツンな要素があんまりねぇな。昔みたいにデレって呼んでやろうか?」
そう言うハインも、お祝い仕様な今日ばっかりは華やかに決まっていた。
マゼンタベースの、ちょっとタイトなベアトップドレスは普段のハインのイメージではないが、こんな風に何を着せても似合ってしまう背の高い女はずるいと、主役のツンが少々羨むほどだった。
(゚、゚*トソン「ハインさんもその服素敵ですね!どこのブランドですか?…あ、ツン先輩も綺麗です!」
こんな風に、無垢なほどに馬鹿正直な後輩についでで褒められるのも些か心外ではあったが、自分がブーンとの仲を深めている時にこの二人もだいぶ仲良くなったらしいことに、なんだか嬉しくなった。
.
536
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:49:46 ID:q5DmYYDA0
ブーンと付き合い始めてからも四年が経ったが、ここに集まってるみんながみんな、自分が知ってる頃のままだった。
ずっと変わらず、いつまでもこうしていられたらいい。
けどいつか終わることがわかってるからこそ、このままでいたいと思えるのかもしれない。
.
537
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:50:55 ID:q5DmYYDA0
o川*´ー`)o「うぅ〜〜〜もぅらめ……」
いや、こいつだけはちょっとぐらい変わってほしいかもしれない。
駆け付けのくせに、シャンパンのような酔いが回りやすい酒を急ピッチで流し込んだりでもしたのか、既に呂律が回っていない。
そんなに極端にお酒に弱いわけでもないキュートが、動けなくなるほど酔っ払うなんて珍しいことなのだが、なんでよりによってそれが今日なのだろうか。
538
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:51:58 ID:q5DmYYDA0
从;゚∀从「あーあ…やられたなこりゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「ったくろくなことしないんだから」
そう言って、辛うじて椅子には座ってるが今にも崩れ落ちてしまいそうなキュートの腕を自分の肩にかけて、無理矢理立たせた。
从 ゚∀从「大丈夫か?あたし連れて行こうか?」
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫。ついでに外の風にも当たりたいし」
そう言ってツンは、キュートの体を支えつつ店の外に出た。
('A`)「…キュートさんも懲りねぇな」
(;^ω^)「………」
(・∀ ・)「………」
そんなキュートの姿に痛い目でも見たのだろうか、昔一緒に飲んだ野郎共も呆れ顔だった。
.
539
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:53:47 ID:q5DmYYDA0
店自体は大きな通りからちょっと外れたところにあるが、少し歩けばすぐ車通りの多い道には出れる。
ツンはキュートを引きずりつつ、タクシーでも捕まえようと大通りを目指していた。
ξ゚⊿゚)ξ「あんた少しはしっかりしなさいよ…」
呟くような声だったが、ほとんど密着しているキュートにも聞こえない声ではなかったと思う。
しかしフニャフニャと言葉にならない声を発するだけで、起きてるのか寝てるのかもわからないキュートに届いてるかどうかは怪しいところだ。
.
540
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:55:06 ID:q5DmYYDA0
本物の酔っ払いを支えるのは、さすがに重い。
以前ハインが酔ったふりをした時と同じ体勢だが、あの時彼女がいかに手加減してくれてたかが、今になってよくわかる。
外に出たいからと率先した自分も自分だが、仮にも主役にここまで手を煩わせるのも、自覚がなさそうなだけに余計始末が悪い。
そろそろ30を手前にしてるというのに、こうも変わらないのは腐れ縁といえど考えものである。
.
541
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:56:30 ID:q5DmYYDA0
o川* ー)o「うぅ〜〜……うぅうぅ〜〜〜……」
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと大丈夫?まさか吐きそうとかやめてよ?」
ぐずるような、か細い呻き声だった。
吐きそうと言うより、今にも泣き出してしまいそうだ。
o川* ー)o「……ツン……ごめんね……」
キュートとの付き合いも長いはずのツンが、一度も聞いたことがないくらいしおらしい声だった。
声色以前に、キュートが自ら過ちに気づいて反省するなど、少なくともツンの目の前ではついぞなかったのだ。
542
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:57:41 ID:q5DmYYDA0
ξ゚⊿゚)ξ「…わかってくれたならまぁいいわ。とにかく無事に帰りなさい」
キュートのことを見直すにはまだ足りない一言だったが、反省してるなら咎める気もなくなる。
意外と言えば意外ではあったが、何かの気まぐれで片付けられるその一言にはあまり意識を向けず、ツンはタクシーを捕まえるために大通りに走る車の流れを目で追っていた。
.
543
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 01:59:13 ID:q5DmYYDA0
o川* ー)o「ツン……ごめんね……わかってるんだけど…ごめんね……」
o川* ー)o「…でも、あたし…嬉しかったんだよ……ごめんね…」
それでもまだ、キュートは謝り続けている。
その一言一言を、たどたどしくも少しずつ伝えていこうと懸命に絞り出してる気さえする。
.
544
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 02:02:28 ID:q5DmYYDA0
ξ゚⊿゚)ξ「……何が?」
これはもはや、今日一日ちょっと迷惑かけただけのことに対する謝り方ではないように、ツンには聞こえた。
o川* ー)o「……ほんとに…ダメなの、今までも…たぶん、これからも……」
今まで。これから。
そしてダメだとキュートは言う。
まるで要領は得ない。
.
545
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 02:07:40 ID:q5DmYYDA0
ξ゚⊿゚)ξ「どーーーせ素面になったら何も覚えてないんでしょうけど」
ξ゚ー゚)ξ「少しでも自覚があるなら今後はあんまり連絡よこすなバーカ」
そんな酔っ払った時の戯言一つで、良い変化への兆しだなんて浅はかには思い難いが
差し当たり、キュートに文句を言う気はなくなった。
とにかくだらしない酔っ払いは、早めに退散させるに限る。
.
546
:
↓>>545の前ですすみません
:2013/08/28(水) 02:11:37 ID:q5DmYYDA0
ξ゚⊿゚)ξ「……本当だよ。あんたには昔っから振り回されてたし、今更急には変わらんだろうけどさ」
ξ゚⊿゚)ξ「…でも、今までのあんたがいくらダメでも、これからあんたがいくらダメになろうとも」
ξ゚⊿゚)ξ「今この瞬間のキュートは、ダメなやつじゃないよ」
今まであったこと全てを水に流すことはできない。
これからもまた、無自覚に振り回されて迷惑被ることなんていくらでもあるんだろうと思うと、うんざりする。
しかし今そうやって、拙くもひたすらに謝り続ける彼女の心情は、腐れ縁だからこそ、なんとなく伝わるものがあった。
.
547
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 02:14:29 ID:q5DmYYDA0
「おーい、大丈夫か?」
タクシーを探すツンの前に、一台の車が停まった。
(・∀ ・)「キュートさんなら俺が送ってくよ。今日飲んでないし」
ブーンの友人らに混ざってた青年だった。
飲み会の席も共にしたことがあり、顔と名前ぐらいは知ってたが、個人的にちゃんと話をしたことはなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「…大丈夫なの?」
キュートを預けるという責務が、なんだかやたら申し訳なく思える。
方法として可能なのかそうでないのかでなく、意識的に無理がないかどうかというニュアンスで、つい聞いてしまった。
.
548
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/28(水) 02:16:19 ID:q5DmYYDA0
(・∀ ・)「そんな状態の女の子一人で帰らすのも危なっかしいだろ。俺は大丈夫だからキュートさん乗っけてくれる?」
拍子抜けするほど頼もしい返事だった。もしかして、前にもこんなことがあったのだろうか?
とりあえずツンは言われた通り、青年の車の後ろの席にキュートを寝かせる体勢で放り込んだ。
そのキュートの寝顔を見て、なんだか幸せそうだな、と青年は呆れたように呟いた。まさに、遊び疲れて寝てしまった子どもの寝顔を見守る父親の目そのものだった。
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