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ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
1
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/12(月) 17:05:29 ID:0tlWAR460
夢と言われれば、ただの夢。
それなりの疲労を溜め込んだ体をベッドに投げ出し、全身の力を抜いたその瞬間
浅い眠りに吸い込まれるとそこには、彼女が今生きる現実とは違う世界が広がっていた。
ただ、『それだけ』のこと―――。
ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
.
320
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:55:43 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「ミセリ本人に似顔絵描いてもらえるっていう、イベントコーナーは見た?」
( ^ω^)「おー…さっきチラッと見た気がするけど、並ぶ気にはならなかったおw」
ξ゚⊿゚)ξ「…そこのスタッフがね」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしの彼氏なの」
( ^ω^)「…お、そうだったのかお!ちゃんと見に行ってみれば良k―――」
ξ゚⊿゚)ξ「だからね」
ξ゚⊿゚)ξ「あんまりそういう時に何度も来られると、正直困るの」
.
321
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:57:50 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「………」
( ^ω^)「…そういうことかお」
あの優しいブーンからは聞いたことなかった、重々しい声だった。
.
322
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:58:56 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「…まぁ最初会った飲み会でもあんまり乗り気だったようには見えなかったし、なんとなく予想はしてたお!」
( ^ω^)「まさか同じ職場だったとは、考えが及ばなかったお!」
今度は殊更に明るい声だ。
気にしてない素振りの下手さに、心乱されそうになる。
323
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 19:00:14 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「…迷惑かけて、ごめんだお」
そう言って去って行くブーンを、追い掛けたくなる足を必死に我慢しながらツンはその背中を見送った。
.
324
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 19:01:01 ID:qTz0cvPY0
16話おわりです。
325
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 19:13:23 ID:mwikmeAY0
見てるぞ
乙
326
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 20:38:49 ID:kvTNQZZI0
うむむ...乙
どうなるんだ...
327
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 20:50:54 ID:j9fksRJY0
続きが気になる
乙
328
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 23:22:22 ID:ZHgI82JMO
17話まだー!
329
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 01:07:43 ID:fKkTYZhY0
続きが気になる小説じゃねーか、乙!
330
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 01:19:50 ID:xAVFO8jE0
これはいい
早急に続きを書くのだ
331
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 07:46:24 ID:sqi2JzkQ0
おもしろいよー
332
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:18:29 ID:essLX21o0
オゥフいつの間にかレスも増えてめっちゃ嬉しいですありがとうございます。
そんな勢いで第17話
333
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:19:58 ID:essLX21o0
◆第17話◆
XX24年 T月
「「「「ミセリさん、お疲れ様でしたー!!!」」」」
とある居酒屋の広い個室。
イラストレーター、ミセリを囲んだ飲み会だった。
ツンの職場である美術館にて期間限定で催された、本人によるファンサービスのイベントが今日で終了した。
まだミセリの絵自体は展示されたままなのだが、本人がこの美術館に仕事しに来るのが最後ということで、打ち上げと洒落込んだわけだ。
334
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:21:34 ID:essLX21o0
ミセ*゚ー゚)リ「長岡君、お疲れ様ー」
( ゚∀゚)「お疲れ様っす。本当助かりました!」
ミセリの隣には、ジョルジュが付きっ切りだ。
同じ現場で仕事した時間が一番長かったのだろうし、企画の段階でいろいろ世話にもなってるはずだし
歳も近くてミセリも心開きやすいジョルジュが実質彼女のマネジメントのような仕事も担ってたので、こういう席でも何かと気を遣うのだろう。
べつに嫉妬はしないが、ただでさえあまりよく思ってないミセリ相手だから面白くないと言えば事実だ。
ただ、そう思っていられるだけ自分の立場なんて気楽なもんだとツンは思っていた。
335
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:23:08 ID:essLX21o0
ツンの職場では、こういう飲み会が催される機会は少ない。せいぜい忘年会や新年会程度である。
だからこそ、このイレギュラーなゲストを迎えた飲み会が新鮮なのか、それともイベントを終えた達成感なのか、思いの外盛り上がってるようだが
そのどちらにも属さない立ち位置のツンからしてみたら、自分との温度差はただ事じゃなかった。
もともとお酒は好きなツンだから、機会があれば飲み会に参加するのは大いに結構なのだが
歴史的遺産である芸術品や絵画、画家の歴史背景を研究している博士や学芸員、『マニア』の域を出ないかもしれないが、研究者らに負けず劣らない知識を誇る館長などを囲み、彼らの見聞でも聞いてる通例の飲み会の方がよほど身になるとツンは思う。
どうせ酔っ払いなどしないのだ。
ただ盛り上がるだけの飲み会なら、適役な酔っ払いに任せておけばいいし、それを尻目にしてるだけのツンはそもそも、行く必要性を感じない。
336
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:25:09 ID:essLX21o0
ところが今日の飲み会はどうだ。
いかんせん、主役は若い女の子。
解せないアートを持ち味とする女の子から、吸収すべきノリッジも期待できないし、その子に喜んでもらうために必死に盛り上がる周りの連中の低俗な煽り方も、野暮ったくて見てられない。
長時間居たい席ではないと判断したツンは、どのタイミングで席を立とうか考え始めていた。
ミセ*゚ー゚)リ「あのー、お疲れ様です!」
そんなことを考えてる時に、まさかのミセリから話し掛けられた。
ξ゚⊿゚)ξ「お疲れ様です」
門が立たないように気をつけたつもりの、当たり障りない声色でツンは返した。
もしかして、つまらなそうにしてるのが顔に出てしまってたのだろうか。
そんな危疑もあったからこそだった。
337
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:26:52 ID:essLX21o0
ミセ*゚ー゚)リ「申し訳ないんですけど、ブログに載せる写真、撮ってもらっていいですか?」
杞憂に終わった。
確かに、ミセリを囲む野郎共はこぞって目上の人間ばかりだから、それを押し退ければ一番近くいたツンは、下っ端の若い女の子に見えて頼みやすかったのだろう。
べつに、それぐらいなら吝かではない。ツンは了承してミセリからカメラを受け取った。
.
338
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:28:34 ID:essLX21o0
しかし何枚撮らせる気なのだと、数秒後にはげんなりしていた。
こと有名人の女の子となると、自分の写真写りには神経質になるのもわかるし、それをブログという不特定多数の人に向けて発信するフィードとなるなら尚更なのかもしれないが
それにしても、保険も甚だしいほど撮らせる。
ミセ*゚ー゚)リ「何枚もごめんなさい、ラスト一発お願いしまーす!」
酔いもあるのか、さながらモデルにでもなったかのようなテンションで近づいた先にいたのは、上司に酌をするジョルジュだった。
ミセ*゚ー゚)リ「長岡君!写真いーい?」
( ゚∀゚)「え?…あぁまぁいいっすけど」
ミセ*゚ー゚)リ「やった!でさ、ブログとか載せちゃって大丈夫?」
( ゚∀゚)「マジすか?どーしよっかな…」
カメラマンに任命されたのがツンだと気づいたジョルジュも軽い困惑を見せるが、特に嫌がりもすることなく、ミセリのペースで写真に映らされていた。
.
339
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:30:04 ID:essLX21o0
ようやくミセリから解放されたツンは、席に戻って自分の飲みかけのビールを空にした直後
ξ゚⊿゚)ξ「すみません、ちょっと疲れちゃったんでお先に失礼します」
と上司に告げて立ち上がった。
その上司に『そうか、お疲れ』と言われたのみで、盛り上がる群集からは労いの言葉をかけてもらうこともなく、それらを尻目にツンはこっそりと店を抜け出した。
.
340
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:31:06 ID:essLX21o0
ξ゚⊿゚)ξ(…うーーーん……)
早々と帰宅したツンは、自宅にストックしてあるバランタインを見つめながら迷っていた。
飲み足りない、飲み直したい気もするが、こんな気分で飲むウィスキーもいかがなものか。
なんとなく手が伸びずにいると、バッグにしまわれたスマートフォンが震えてることに気がついた。
341
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:32:22 ID:essLX21o0
ジョルジュからの着信だ。
そういえば、ジョルジュに断りも挨拶もなく店を出てしまった。
気がつけば店を出てから随分時間も経ったことだし、飲み会も一段落したのだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「もしもし?」
意識はしてなかったが、我ながらなんだか憮然とした声だった。
( ゚∀゚)『…おぅ。いつの間に帰ったの?』
あまり抑揚はないが、いつも通りと言われればそうとも聞こえる。
ジョルジュの胸懐までは、電話越しからは伝わらなかった。
342
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:33:44 ID:essLX21o0
ξ゚⊿゚)ξ「…あぁ。ちょっと疲れちゃって」
( ゚∀゚)『…だとしてもさぁ』
( ゚∀゚)『一言ぐらいあってもよかったんじゃねぇの?…ミセリさんに対してもさ』
確かに、ミセリのカメラマンから解放された直後の退席だった。
そうやって飲み会の席でこき使われ、気を悪くした至りの退席と思われても不思議ではなかっただろう。
そんなつもりはなかったが、言われて初めてその可能性に気づいた。
ξ゚⊿゚)ξ「あーごめん。でもべつに機嫌悪くしたわけではないから」
( ゚∀゚)『……はぁ』
溜め息つかれた。それが最近たまにある、小言が始まる空気に変わった。
.
343
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:35:32 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『…確かに、いろいろ面白くないこともあるかもしれないし、ミセリさんだってお前の好みじゃないことはわかってるよ。でも、一緒に仕事したんだから挨拶ぐらいはしないとマズイだろ』
( ゚∀゚)『最近いっつも上の空っぽいし、仕事中もそんなんだとさすがに感じわりぃよ』
ξ゚⊿゚)ξ「………」
それは、ジョルジュしか気づかないほど小さな変化だったかもしれない。
しかし、気づかれたからこそ図星であることも明白で、何があったか言わないツンに落ち度があることも理解しているので
いつまでもジョルジュが味方してくれるわけじゃないことも、その声色から窺えた。
.
344
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:36:47 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『…もちろん、理由もなしに、気まぐれでモチベーションが下がってるわけじゃないとは思ってるけど、何も相談してくれないんじゃ何もしてやれねぇよ』
( ゚∀゚)『やっぱり、俺には言えないことなのか?』
ξ゚⊿゚)ξ「そういうわけじゃ…」
( ゚∀゚)『じゃあ、俺が納得するように否定してくれよ』
そう言われていつも、言葉を詰まらせて話が行き詰まってしまうのだ。
.
345
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:38:25 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『……やっぱりダメか』
諦めたように、ジョルジュは吐き捨てた。
( ゚∀゚)『…ツン、俺実はさ』
( ゚∀゚)『ミセリさんに、ちょっと口説かれたんだ』
ξ゚⊿゚)ξ「!………」
さすがにちょっとショックではあったが、言葉には出さなかった。
.
346
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:39:34 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『ミセリさんって同じ専門学校の先輩でさ、もともと知らない仲でもなかったんだ』
( ゚∀゚)『だから今回もいろいろ協力してもらえて、ああいうイベントできたわけなんだけど…』
ξ゚⊿゚)ξ「…ふぅん。それは知らなかったな」
( ゚∀゚)『あぁ。言ってなかったな』
ξ゚⊿゚)ξ「………」
.
347
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:40:40 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『久しぶりに会って一緒に仕事して、いろいろ相談とか提案し合いながらイベント企画して、成功して』
( ゚∀゚)『……昔の俺らも、そんな感じだったよな』
言うまでもなく、そういう苦楽を共にしたという過程があったからこそ、二人は惹かれ合ったのだった。
同じ職種で、同じ現場で
展示物や、それに付随するイベントやグッズなど、小さな要素を集めて一つの空間を作り上げるという貫徹に向けて
二人同じ気持ちで、駆け抜けた。
あの時、仕事が終わった後のビールは旨かった。
残業中のさりげないお菓子の差し入れが、嬉しかった。
.
348
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:42:36 ID:essLX21o0
ξ゚⊿゚)ξ『お疲れ様でーす!一息つきませんか?』
(゚、゚トソン『あ、ツン先輩お疲れ様です!』
(-@∀@)『お、差し入れ?気が利くねー……ってあれ?』
(゚、゚;トソン『……これは………』
( ゚∀゚)『ちょwなんで差し入れにキュウリとか沢庵www』
ξ゚⊿゚)ξ『なによー!ちゃんと枝豆もあるわよ!』
( ゚∀゚)『そこじゃねぇよ!お前女子なら女子らしくシュークリームとかマカロンでも買って来いよwww』
ξ#゚⊿゚)ξ『ひっどい!せっかく自家製の漬物なのにそれじゃ不満だってわけ!?結構いい感じに漬かってるのに!!』
( ゚∀゚)『ババァか!お前ババァなのか!www』
(;@∀@)『…ビールどこにしまったっけなぁ…?』
(゚、゚*トソン『あ、でも意外と美味しいー』
自分がもらった差し入れのお礼のつもりで持って行ったものがきっかけで、軽い諍いにはなったが、結局その日はそのまま飲み会になってしまったり
楽しかった。本当に。
その頃の自分らと、今のジョルジュとミセリを投影させるのであれば
ジョルジュの気持ちはもう既に、ミセリに傾いてても不思議ではなかった。
.
349
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:45:13 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『べつに今すぐミセリさんとどうこうなるってわけじゃないんだ。…ただ、正直言ってちょっと揺れた』
ξ゚⊿゚)ξ「………」
( ゚∀゚)『もちろん、ツンを一番大事にしたい。だけどツンがいつまでもそんな態度だと、俺もう自信ねぇんだよ』
ξ゚⊿゚)ξ「………」
( ゚∀゚)『…だからさ』
( ゚∀゚)『ミセリさんのこととは関係なく、俺らは俺らで…もう終わりにしよう』
ξ゚⊿゚)ξ「………」
.
350
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:48:28 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『…ごめんな。俺が不甲斐なかったばっかりに』
ξ⊿)ξ「…………だ」
( ゚∀゚)『うん?』
ξ⊿)ξ「終わりにするなんて、嫌だよ」
( ゚∀゚)『………』
.
351
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:49:57 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『…勝手なこと言うなよ』
( ゚∀゚)『じゃあ俺にどうしろって言うんだ?』
ξ⊿)ξ「………」
( ゚∀゚)『…またそのパターンだろ』
『ごめんな』
その一言を最後に、通話は途切れた。
.
352
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:51:14 ID:essLX21o0
ξ⊿)ξ「………」
ξ⊿)ξ「……やっぱり飲もう」
ジョルジュとの恋が終わった。
電話一本で、こうもあっけなく。
わかっていたこととはいえ、やはりいざ言われると堪える。
353
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:55:34 ID:essLX21o0
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱりクリエーターに惹かれるか…」
ツンは二杯目のバランタインを煽った。
クリエーターである彼女と、ちょっと器用なだけの一般人である自分。
そこを天秤にかけられたらかなわない。
いや、そう思わないと報われない
。
これが自分の死へ向かっていく小さな一歩になるだなんて、やっぱり認めたくはないのだ。
結局、ジョルジュとの別れは回避できなかった。
ただ『嫌だ』と言う一言に、一生分ほどの勇気を使い果たした気分だったのに。
.
354
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:57:40 ID:essLX21o0
でもそれが、自分の死を回避したいがために出た言葉なのか、消え去ってもいないジョルジュへの好意から出た言葉なのかは、正直言ってよくわからない。
現に、今ツンを支配する虚無感は、結局ジョルジュと別れてしまったがために
突き放してしまったあの人の笑顔ばかり思い出す、薄弱な自分に対するものなのだから。
.
355
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:59:20 ID:essLX21o0
( ^ω^)
何も悪いことなどしてないのに、ツンの勝手な言い草を責めることもないどころか、謝罪まで残して去って行ったあの人。
まるで救いを求める人々が伸ばす手の先にいる仏のようなその笑顔に
自分は、手を伸ばす了見などあるのだろうか。
.
356
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 20:00:38 ID:essLX21o0
何もかも、失った。
それが自分の死を回避するための埋合だったとしても
ξ⊿)ξ「……助けてよ……」
救いを求めずには、いられなかった。
.
357
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 20:01:34 ID:essLX21o0
17話おわりです!
358
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 21:34:46 ID:FNlnxtt.0
乙
ツン……
359
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 23:36:48 ID:psUevbKwO
今日は一話だけなのかな
360
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 23:38:02 ID:xAVFO8jE0
あー重いねー
しかし展開気になるねー
361
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:33:50 ID:bIh5c29w0
をををレスいただけるとほんとモチベーション上がりますありがとうございます。
今後は一日一話ペースになるかと思いますが、出来次第マイペースに投下します。
そんなわけで第18話
362
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:35:20 ID:bIh5c29w0
◆第18話◆
XX24年 T月
从 ゚∀从「…なんかまた脱魂してねぇか?」
待ち合わせ場所に到着したハインの、開口一番がそれだった。
ξ゚⊿゚)ξ「そうかな」
从 ゚∀从「明らかにそうだろ。とりあえずなんか食えって」
そう言ってハインはツンの腕を引いて歩き出した。
.
363
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:36:59 ID:bIh5c29w0
向かった先はダイニングバーだった。
初めて来るはずなのだが、店の名前にはなんだか見覚えがある。
从 ゚∀从「ちょっと前にバイト先の先輩に連れてきてもらったんだ。飯もうまいけど酒も充実してんぞ」
そう言って扉を開けるとすぐ、『おーハインさん!』という声が飛び込んできた。
.
364
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:38:21 ID:bIh5c29w0
('A`)「お疲れっす。また寄ってくれたんすね」
長い一枚板のカウンターの向こうに立つ、背の高い青年がハインを見かけるなり挨拶してきた。
細身で貧相な体つきはやや不健康そうにも見えるが、決して愛想がないわけでもない。
気怠そうに見えるのは地顔だろうか、そんな彼にもツンは見覚えがあった。
('A`)「あ、ツンさんですよね。お久しぶりですー。覚えてます?」
いつだか、ブーンにも同じことを聞かれた気がする。
紛れもなく、そのブーンと初めて出会った現場にもいた、あの冴えない印象の青年だった。
365
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:40:04 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「……うん。久しぶり。名前は覚えてないけど」
(;'A`)「いやちょっとひどいっすよー。ドクオです、欝田ドクオ!」
ξ゚⊿゚)ξ「ふぅん」
(;-A-)「興味なしっすかそーですか」
なんだかんだ言い合いながら、二人はカウンター席に座った。
.
366
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:47:09 ID:bIh5c29w0
ハインが以前、バイト先の先輩に連れて来られたというこの店で、彼に再会したのはほんとに偶然だったそうだ。
このドクオという青年は、この店のバーテンダーらしいのだが、オーセンティックな印象のそれとはまた違った、カジュアルなスタッフである。
はっきり言って、彼はあまり垢抜けてるようには見えない。
バーテンダーという職種も、単にモテたいからという邪な動機さえ孕んでるような気がする。
しかし、カウンター席に座る客と時々馬鹿笑いしながらも、作業してる様は決して手を抜いてるようには見えず
客に囃し立てられている姿も、いわゆる『弄られキャラ』として認知され、確立されてるものなのだろう。あながち向いてない職種でもないらしい。
367
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:49:09 ID:bIh5c29w0
('A`)「お二方、何飲みます?」
ドクオはツンとハインの前に立って聞いた。
その繰り返されてきたであろう何気ない所作が、いかにもバーテンダーらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「ラフロイグ。ロックで」
('A`)「渋いなぁ…ハインさんは?」
从 ゚∀从「んー…じゃあモスコミュールで」
('A`)「了解っす。……あ、そうだ」
何か思い出したように、ドクオは自分の背にある厨房に顔を向けた。
.
368
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:51:14 ID:bIh5c29w0
('A`)「ブーン!ツンさんとハインさん来てんぞー」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」
ツンは驚いて顔を上げた。
.
369
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:52:34 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)
そうだ。店の名前に見覚えがあったのも、ブーンにもらった名刺に記載されていたそれだった。
( ^ω^)「……おー。二人ともいらっしゃいだお」
(;'A`)(…………あれ?)
从 ゚∀从「そうそう。こいつも飲み会で会ったの覚えてるか?内藤っていって何故かみんなからはブーンって呼ばれ………」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
从;゚∀从(…………あれ?)
.
370
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:55:09 ID:bIh5c29w0
ドクオはドクオで、珍しくブーンがなんとなく言葉を詰まらせたことに気づき、ハインはハインでツンのその硬直した表情に気づいて、なんだか気まずい空気が流れた。
それはもはや、あれ?お二人知り合いだったの?などと聞くのも、なんだか無粋だと思わせるほどだった。
いや、もちろんブーンとツン、お互いに面識ぐらいはあることは知っているのだが
初めて会ったあの場所での、会話らしい会話をしてない間柄としか、ドクオもハインも認識してなかったので、よもやそれ以上の交流があるとなどまるで思ってなかったのだ。
371
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:58:53 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「…久しぶり」
意外にも、沈黙を破ったのはツンだった。
( ^ω^)「…久しぶりだおツンさん」
そしてブーンもまた、ツンがそうであるように、なんだか見てはいけないものを見てしまったような表情のドクオとハインに気づいていた。
.
372
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:00:20 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「二人ともお腹空いてるかお?もし食べれるようなら"ブーンのオススメ"作ってくるお!」
ブーンは、いつもの柔和な笑顔で聞いた。
そんな人の緊張を解す笑顔が、10年先も変わらないことを、ツンは知っている。
从;゚∀从「お、おぅそうだな!特にツンは最近ろくなもの食べてなさそうだから頼むわ!」
おっおっ、合点承知だおー!と、あの一瞬張り詰めた空気はなんだったのかと思わせる、底抜けに明るい返事で厨房に引っ込んでいった。
.
373
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:02:13 ID:bIh5c29w0
ブーンが提供したオススメは、牛ほほ肉を使った料理だった。
赤ワインとハーブに漬け込み、真空保存して一晩寝かせた肉を、赤ワイン、ポートワイン、マルサラ酒などで四時間ほど煮込み、それを更に蒸して仕上げたというなかなか手の込んだ一皿だ。
ツンとハイン、一人に一皿ずつ少なめのポーションで盛られたそれは、もともと一皿だった料理をわざわざ取り分けてくれた様が窺えた。
お通しで出されたほうれん草のキッシュも美味しかったのだが、それはドクオが趣味半分で作ったものらしい。
とはいえ、店の全料理を取り仕切るブーンの手が回らないときは、手がかからなくても大量生産が求められるお通しなんかの仕込みを時々手伝うことがあるというドクオの意外な手腕も馬鹿にはできないと思ったが
その後に出された牛ほほ肉は、さすがプロフェッショナルと言わざるを得ない。
.
374
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:04:20 ID:bIh5c29w0
从*゚∀从「んまい!すげぇなブーン!」
ξ*゚⊿゚)ξ「本当だ!肉やらかーい!」
普段滅多なことでは声のトーンも上げない女性二人も、この時ばかりは感嘆した。
( ^ω^)「おっおっ。喜んでもらえて何よりだお!」
そう言ってブーンは、呼ばれた客のもとへ向かった。
このブーンの腕もあってか、店はなかなか繁盛しているようだ。
375
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:05:41 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「ちょっとは元気になったか?」
ひとしきり食べると、ハインはツンを覗き込んだ。
前回会った時の、ツンのあまりの覇気のなさを気にかけたのも、今日この場に誘った理由の一つだった。
ξ゚⊿゚)ξ「まぁね」
いつも通りの口調のようだが、美味しい料理と好きな酒を堪能しながらのその一言は、満足感を含んだような色づきがされてるように聞こえた。
376
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:06:51 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「仕事、つまんねぇのか?」
ツンがかつて切望してた仕事から追放され、今の職務に位置づけされた経緯も知っていたし、それが本人にとって本意ではないこともわかってるつもりだが
所詮、違う職種の自分には理解しきれない世界だとも思っていた。
そんなハインが仕事の話に切り込んでいくなど、珍しいことだった。
しかしそうせずにはいられないほど、あの時見たツンの生気抜かれたような姿もまた、腐れ縁のハインさえなかなか見る姿ではなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「…それもあるけど、いろいろうまくいかなくてさ…」
从 ゚∀从「そっか…彼氏とか?」
ξ゚⊿゚)ξ「あー……うん、別れた」
.
377
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:08:17 ID:bIh5c29w0
人に初めて漏らした。
そうやってピンポイントで聞かれないと、自分からはいつまでも切り出さなかっただろう。
できれば、回避したかった。
でもそれは、本当に意味のある抵抗だったのだろうか?
ジョルジュとの別れを回避することは、本当に自分の死の回避に繋がったのだろうか?
最近、そう思い始めてた。
同じ理由で、ブーンを突き放したことにも意味はあったのだろうかとも思う。
.
378
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:09:32 ID:bIh5c29w0
なんて浅はかだったのだろう。
自分に来るべき障害をいくら避けようとしても、人の人生は自分の知らないところで廻り続けてるのだ。
ジョルジュだってそうだ。
ツンの知らないところでは、他の女性と親密になるきっかけがあり、それに至る相応の縁があった。
そこにいくらアンチテーゼを主張しても、覆りようがないのだ。
簡単に誰かが割って入れるものじゃない。人と人が繋がるということが、得てしてそういうものなのだとしたら
あんな理不尽な理由で突き放したにも関わらず、こうも巡り合わされる機会に恵まれた、ブーンの方がよほど縁があるように思える。
.
379
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:10:52 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「…そっか」
ツンの一言で、ハインは彼女が生気ない理由を理解した気になった。
今現在はそれも要因の一つではあるが、肝心要のあの夢の話までは、できるわけがないのでそれを肯定するかのように黙り込んだ。
それ以上、尤もらしい原因が説明できなかったに過ぎないのが本音ではあるが。
.
380
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:12:09 ID:bIh5c29w0
从#゚∀从「おいブーン!男紹介してやれよ男!」
多少酔いもあるのか、ハインにしてはデリカシーに欠ける声だった。
伊達にバールのようなものを振り回してた学生時代を過ごしてない女の、本気の凄みだった。
(;^ω^)「え!?唐突に僕!?」
脈絡なく怒鳴られたブーンも、その剣幕に怖じけづく。
かと思えば、急に何かを思い出したようにブーンは二人の前に近づいた。
.
381
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:14:35 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「時にツンさん。絵を描くのは得意かお?」
唐突だが、今更な質問のように思えてツンはキョトンとした。
ξ゚⊿゚)ξ「…どうかな。一応美術部だったけど人並みじゃ…」
从 ゚∀从「そうだな。こいつは彫刻専門だから絵心に関してはミセリ以上ブーン未満ってとこじゃね?」
何故ミセリを引け合いに出すのだろうか。
空気が読めるのか読めないのか、よくわからない友人である。
382
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:16:26 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン未満って?」
从 ゚∀从「あれ?気がつかなかったか?」
ハインに指さされた壁には、あまり主張しないサイズの絵が飾られていた。
薄暗い店内では気づかなかったが、店の外観が描かれたその絵は一見写真と見間違えるほどのリアリティなタッチで
セピアを思わせる色彩は、限られた色しか使ってないはずなのにちゃんと被写体一つ一つの色が伝わる、スキルなしでは描けない一枚だった。
よく見ると、それだけでなくカウンターの所々に並べられたフォトスタンドに入ってるのは、料理の絵だった。
全体的に暖色ベースのそれらは、料理の湯気まで伝わるようで、写真よりも食欲が刺激されるようだった。
.
383
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:19:20 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「…本当だ。すごい」
その一言しか出なかった。
本当はもっと、ツンしか気づかないような目敏さでディテールを誉めてあげたいのに。
( ^ω^)「この前見せてもらった風景画に、ちょっと触発されたんだお」
いつか一緒に見た、あの絵画。
あれがあったからこそ、セピアの店の絵ができたのだとブーンは言う。
.
384
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:20:56 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「…それはともかく、美術部にいたならそれはそれで都合が良いお」
二人の間に、一体何が起きたんだと不思議そうな顔をするハインに気がついて、ブーンは話を戻した。
( ^ω^)「ツンさん、折り入ってお願いがあるんだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「お願い?」
怪訝そうな顔をするツンに、何事か説明しようとした刹那、料理のオーダーが入ったというドクオの声がブーンに飛び込んできた。
385
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:22:08 ID:bIh5c29w0
(;^ω^)「…あー、もう、しょうがないお」
説明する時間が奪われたブーンは、手元にあるメモ用紙にサラサラと何か書き込んでツンに渡した。
(;^ω^)「僕の連絡先だお。詳しく説明したいからそこにツンさんの連絡先送っておいてほしいお!」
それだけ言うと、慌てて厨房に戻って行った。
386
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:24:04 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ブーンの連絡先を受け取ったツンは、一瞬どうするべきか迷ったが
突き放しても結局こうやって繋がりが出来てしまう縁に、抗えないことを確信した。
ξ゚ー゚)ξ「………」
しかし何故か、それに心弛している自分にも気がついた。
.
387
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:25:03 ID:bIh5c29w0
18話おわりです。
388
:
名も無きAAのようです
:2013/08/21(水) 19:27:38 ID:7zKoUzsY0
乙
過去のツンと同じで未来は変わらないのかな
389
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 07:24:17 ID:gxDJg0ug0
今日も待ってる
390
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 15:57:20 ID:qVbHiMQ20
今日も無遠慮にいきます。
第19話
391
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 16:02:41 ID:0xtdkcbk0
これを見るのが最近の楽しみ
392
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:06:40 ID:qVbHiMQ20
◆第19話◆
XX24年 T月
ヾ(゚、゚トソン「あ、ツン先輩ー」
待ち合わせ場所にいたのは、小柄で細身の学生だった。
昔一緒に仕事をした、ツンの後輩である。
いかにもという育ちの良さそうな外見通り、美大生ということもあってか何かとコネクションもある彼女が
滅多に求人情報など出さない美術館でアルバイトしてて、且つ広告関係の仕事に捩込んでもらえるあたり、有能な芸術家の卵なのかもしれない。
しかしそこに驕った様子はなく、仕事先の目上の人間に対しても『先輩』呼ばわりする学生気質の抜けてなさが、飾らなくあどけない印象を受ける。
そうやって人を悪い気にさせないコケットが、トソンの良さでもあった。
393
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:09:02 ID:qVbHiMQ20
仕事は、一週間ほど休暇をもらった。有休を消化するタイミングも計りあぐねてたから丁度良かった。
休日に仕事先の人間と会うということも滅多にないので、あまり目にしないトソンのフェミニンな私服姿も、なんだか新鮮で可愛らしい。
ξ゚⊿゚)ξ「おはよ。わざわざごめんね、こんな大荷物」
(゚、゚トソン「いいんです。なんだか楽しそうだし」
.
394
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:10:16 ID:qVbHiMQ20
ツンがジョルジュと別れたことは、風の噂で知っていた。
そんな矢先の一週間の休暇となると、何事かとトソンも思ったが、思いの外元気そうなツンの姿になんだか安堵した表情を浮かべていた。
ξ゚⊿゚)ξ「おー元気元気。べつに失恋旅行とかはしないから安心して」
(゚、゚;トソン「ちょ…人が聞くまいと気を遣ってたことを自らサラッと……」
トソンの突っ込みを受け流し、ツンは彼女の手から『大荷物』を受け取った。
.
395
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:11:25 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう。助かったわ。経験はあるけどさすがに道具までは持ち合わせてなかったからさ」
(゚、゚トソン「きょうび自宅でも簡単にできるキットもあるそうですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「んー…でも家でまでやる?」
(゚、゚トソン「…やんないです。w」
ξ゚⊿゚)ξ「そうよね…まぁ学校に道具があればどのみち買いはしないでしょうけど」
さすが美大生。と微笑んでツンは荷物を肩にかけた。
396
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:12:35 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「これからバイト?」
(゚、゚トソン「そうなんです。できればツン先輩のお手伝いもしたいところなんですが…」
ξ゚⊿゚)ξ「それには及ばんよ。人手はあるから」
(゚、゚トソン「そうですか…?」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、お借りするね。返す時また連絡するから」
そう言って、ツンは振り向いた。
その飄々とした背中は、心配するまでもなくいつも通りだと安心したトソンも、職場へ向かって歩き出した。
.
397
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:14:04 ID:qVbHiMQ20
ツンは、ブーンやドクオの職場であるダイニングバーに向かった。
といっても、今日は店自体は定休日らしい。
ξ゚⊿゚)ξ「おはよー」
( ^ω^)「おっ!おはよーだおツンさん!ほんと助かるお!」
前回連絡先を受け取って、ツンはその日のうちに自分の連絡先を送信した。
そして彼から連絡が来たのは、その次の日のことだった。よほど切羽詰まった用件だったらしい。
そのことで訪れたのが、今日の話というわけだ。
.
398
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:15:03 ID:qVbHiMQ20
('A`)「お、ツンさんおはよっす。わざわざすいません」
そう言ってドクオが運んできたのは、中身の詰まった大きな段ボール箱だった。細身の彼が持ち運ぶには、少々危なっかしい。
もちろん客もおらず閑散とした店内には、ブーンとドクオしかいなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。こう見えてもシルクは得意だったから」
美術部出身のツンだからこそと頼まれたのが、シルクスクリーンだった。
.
399
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:16:07 ID:qVbHiMQ20
近々、ブーンらの職場であるこの店は、開店五周年を迎えるそうで
ぼちぼち客足もついてきた今日この頃、切りも良い周年ということで今年はちょっと盛大にパーティーを催すとのこと。
その記念品として、店のオリジナルTシャツを販売する運びとなった。それが先ほどドクオが運んできた段ボール箱の中身だ。
しかし、パーティーともなると食材やお酒を主体に奮発するためあまり羽振り良く経費をかけることもできず、自分らで手をかけようとしたまでは良かったが
週に一度の定休日だけを使っても終わる見通しが立たず、店を営業しながらだとブーンも仕込みに追われるなどでなかなか手がつけられなかった。
しかも、いかんせん未経験の作業だ。
あれやこれや調べてはみたがなかなかうまくいかず、家庭用シルクスクリーンキットのちゃちな仕上がりにもなんだか納得がいかず、頓挫しかかっていたのだ。
.
400
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:17:39 ID:qVbHiMQ20
そこへ現れた美術部出身。
ならばやり方ぐらいは知ってるだろうと、活動の一環として経験のあったツンにお呼びがかかった。
なんとか知恵を貸してもらえないかと打診した末、こうして手伝いに来てもらえることとなったのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「乾かせるものは何かある?」
('A`)「一応、ドライヤーとヒーターなら」
美大生であるトソンから借りた道具をカウンターに並べ、準備に取り掛かった。
.
401
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:18:59 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「図柄は?」
( ^ω^)「これだお!こっちが表でこっちが裏で…」
そう言って、プリンターから印刷した絵をツンに渡した。
店のロゴと、ロックグラスに注がれた酒と五輪の花の絵が融合された、シンプルながらどこか遊び心のあるデザインだった。
ξ゚⊿゚)ξ「これもブーンが描いたの?」
( ^ω^)「そうだお!本当はツンさんに頼みたかったんだけど…」
ξ゚⊿゚)ξ「それはさすがに荷が重いわ」
.
402
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:20:15 ID:qVbHiMQ20
そう言いながら、ツンは木版に感光乳液を塗り始めている。
簡単そうに見える作業だが、まっすぐに塗らなきゃいけない、神経使う作業なのだ。喋りながらできるとは思えない。
にも関わらず、ツンの手先は軽やかだ。一応手元を注視してはいるが、覚束ないようには見えない。
さすが周知の器用さは伊達じゃないようだ。あまり話し掛けない方がいいのかとも思ったが、少しくらいなら大丈夫そうだ。
( ^ω^)「おー…ただでさえギャラも出ないのに申し訳ないお…賄いは作るからそれで勘弁してほしいお」
ξ゚⊿゚)ξ「マジで?やった。どうせあたしの収入なんてほとんどエンゲル係数だしね」
手を止めることなく、しかしいつも通りに答える。
.
403
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:21:44 ID:qVbHiMQ20
('A`)「ツンさーん!コーヒー置いとくんでよかったら…」
ξ;゚⊿゚)ξそ「ちょ、急に話し掛けないでよ!手元狂うじゃない!」
(;'A`)そ「え!?気利かしたつもりが怒られた!でもすいません!」
(;^ω^)「……」
ドクオの二の舞にならないように…いや、ツンが集中できるように、ブーンは自分の城である厨房の中へ避難した。
.
404
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:23:37 ID:qVbHiMQ20
さすがにTシャツ200枚の印刷は骨が折れる作業だった。
しかし手慣れたツンのペースで作業は順調に進み、ちょっと時間をかければ今日中には終わりそうな見通しである。
ξ゚⊿゚)ξ「…そうそう。ゆっくりね。ドクオ君、案外丁寧なのね」
(;'A`)「いや…また怒らせたら作業が滞ると思って慎重にやってるだけですよ」
ツンの指導でドクオに補佐をさせ、作業の能率が上がってることもスピードアップに繋がっている。
意外と、ドクオの飲み込みが早いのは助かった。
( ^ω^)「お、捗ってるかおー?」
ブーンが厨房から顔を出した。
仕込みをしてたのか、熱気が伝わってくる。
405
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:25:04 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「手空けられるようなら賄い作っちゃうおー」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、じゃああとこれだけ塗っちゃうわー」
ライトボックスに乗せて光を当てたデザイン画を洗い流す作業は終わっていた。
これで光が反応した部分が流されて、切り絵のように浮かび上がるのだ。
その濡れた絵をドライヤーで乾燥させた後、必要な部分を流して絵が歪んだり欠けたりしてないかどうかを入念にチェックし、欠けてる部分があれば修正する。
ドクオも手伝って、今はその修正作業に着手していた。
修正した絵はまた乾燥させて光を当てる工程に移すので、そういうちょっと時間をかけてもいい作業に移れば手が空く。
そういえば、ぼちぼち昼時だ。
ツンは大きく伸びをした。
.
406
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:27:17 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「そういえばツンさん、なんか嫌いな食べ物とかあるかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「特にないわ。何でも平気」
( ^ω^)「それはよかったお!そこのドクオは好き嫌いが多いから賄いに苦労するんだおw」
('A`)「うっせーな味覚がデリケートなんだよ」
はいはいお、とあからさまに適当な返事をして厨房に戻ると、ドクオはドクオでカウンターに入る。
('A`)「ツンさん、ビールでいいっすか?」
ξ゚⊿゚)ξ「え、大丈夫なの?」
('∀`)「大丈夫大丈夫!ノーギャラで手伝ってもらってるんだからそれぐらいは」
そう言いながら既に、人数分のビールを注ぎ始めている。
407
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:29:36 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「お、昼間からビールなんてやっぱり休日はこうでなくちゃだお!」
そう言いながらブーンがカウンターに置いたのは、オムライスだった。
キノコをたっぷり使ったソースからは、バターやチーズの香りが鼻を擽り、クミンやガラムマサラなどカレーの風味を思わせるスパイス香が空腹感を刺激した。ビールとの相性も良さそうだ。
そんなこってりした料理だったからか、野郎二人の分よりツンの分は気持ち少なめに盛ってくれてるのもプロである所以の気遣いだった。
三人はカウンターに並んで座り、ビールの入ったグラスを合わせて食べ始めた。
.
408
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:30:48 ID:qVbHiMQ20
一言で言えば、絶品だった。
どんな料理でも、カレー風味なアレンジは邪道でジャンクになりがちな印象はあったが、やっぱりカレーが嫌いな人は少ない。
もともとが卵と米を使った素朴な料理である。カレーが合わない訳がない。
ξ*゚⊿゚)ξ「すごい!ソース美味しい!」
美味しいものを食べてる時の女の子は、本当に幸せそうな顔をする。
ツンのように、普段気丈で凛とした印象の女性でも顔を綻ばせてしまうほどだ。
.
409
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:32:09 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「よかったお。あくまで余り食材だからそれを使うのも申し訳ないとは思ったんだけど…」
ξ*゚⊿゚)ξ「何言ってんのよ。ただでこんなの食べさせてもらえるなら充分よ!」
オムライス一つで、年甲斐もないほどテンションを上げるツンに、そんな食事にもう慣れているドクオは少々気圧されているようだ。
.
410
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:33:23 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「そういえばシルクの方はどうだお?まだかかりそうかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「うーん…でもドクオ君も手伝ってくれてるし今日中にはあがると思うけど」
('A`)「ブーンはどうだ?手空かないのか?」
( ^ω^)「もうちょっとだお!終わったら僕も手伝うお!」
そう言って三人は、Tシャツ完成への道程を急ぐように食事のピッチも上げ始めた。
.
411
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:34:44 ID:qVbHiMQ20
ちょい中途半端ですが、長くなりそうなのであとは20話に続きます。
19話おわり!
412
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 17:34:38 ID:bDiP/Jpo0
乙!
思わずオムライスが食べたくなったよ…
413
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 18:28:09 ID:gxDJg0ug0
乙
オムライス食べたい
414
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 19:43:44 ID:J6pBsOT.0
追いついた!おもしろい
乙
415
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:07:51 ID:qVbHiMQ20
レスありがとうございます。
オムライスへの食い付き方ニヤニヤしてもうたwww
いつの間にか第20話
416
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:09:23 ID:qVbHiMQ20
◆第20話◆
XX24年 T月
食事を終えた三人は、再び作業に取り掛かった。
皿を洗い、煙草を吸い終えたドクオがツンの作業を手伝い、その間は必要な指示や返事以外はほとんど無言だったが、それを気まずいと思う隙さえないほどの集中力だった。
( ^ω^)「ツンさーん!こっちは仕込み終わったお!なんか手伝うことはあるかお?」
ξ#゚⊿゚)ξ「「あ"ーーーっ!!だぁかぁらぁぁぁ!!!」」('A`#)
(;^ω^)そ「お…ごめんだお」
自分の仕事を終え、手が空いたブーンが途中で加わると、張り詰めていた空気が俄然緩和するようだった。
417
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:11:37 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「そういえばツンさん、仕事は大丈夫なのかお?」
ブーンが作業に加わり、自分の視野に入ってる分には話し掛けられても驚きはしない。
黙ってないと集中できないドクオを除いて、二人はだんだんたわいもない話に花を咲かせ始めていた。
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。一週間ぐらい有休にしたの」
( ^ω^)「それはまた随分思い切ったおね…わざわざすまないお」
ξ゚⊿゚)ξ「べつにこれだけのためってわけじゃないし。パーティー当日も呼んでくれるんでしょ?」
( ^ω^)「もちろんだお!ツンさんの好きなウィスキーもたらふくサービスするお!」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、あと後輩も呼んでいい?シルクの道具貸してくれた子なんだけど」
( ^ω^)「おー…ほんと何から何までありがたいお」
(;'A`)(なんでこいつら手動かしながらそんなに喋れるんだ…?)
418
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:13:55 ID:qVbHiMQ20
人知れずひぃこら言ってるドクオをよそに、二人の会話は止まらない。
気がつけば、陽が傾き始めていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「やっと……あと印刷するだけなのね…」
(;^ω^)「ふぃー…長かったおー…」
(;'A`)「って言っても200枚だろ?それはそれで長期戦だな」
いよいよ本番。というところまで来ていた。あとはTシャツ一枚一枚に、デザイン画を印刷するだけである。
シルクスクリーンの工程自体は一日かかるほどの作業ではないのだが、200枚という数字が、ついて回るネックだった。
419
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:16:53 ID:qVbHiMQ20
(;'A`)「その前に一服していいか?すぐ戻ってくるわ」
そう言ってドクオは外に出て行った。
店内でも煙草は吸えるのだが、非喫煙者の女性であるツンに気を遣ったのだろか、さすが普段人にサービスしてるだけのことはある。
( ^ω^)「コーヒーでも飲むかお?僕らも一息つこうお」
同じく非喫煙者のブーンも残り、カウンター内に入って言った。
ξ゚⊿゚)ξ「そうね」
そう言ってツンも、軽く伸びをしてカウンター席に座った。
.
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