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ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです

1 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/12(月) 17:05:29 ID:0tlWAR460
夢と言われれば、ただの夢。

それなりの疲労を溜め込んだ体をベッドに投げ出し、全身の力を抜いたその瞬間

浅い眠りに吸い込まれるとそこには、彼女が今生きる現実とは違う世界が広がっていた。


ただ、『それだけ』のこと―――。



ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
.

233 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/17(土) 19:03:20 ID:iCS14UEM0


( ^ω^)「…それは……」



ξ゚⊿゚)ξ「……あたしが、無理矢理聞き出したことなんだから。いちいち謝らないで」



( ^ω^)「………」


.

234 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/17(土) 19:05:01 ID:iCS14UEM0



掴み掛かられるかと思った。

殴られても仕方ないと思った。



なのに、彼女は涙ひとつ流さずに……




ξ゚⊿゚)ξ




そんなに、気丈でなくてよかったのに。



.

235 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/17(土) 19:06:59 ID:iCS14UEM0



(  ω )「……確かに、ああやって詰問し出したら、はぐらかすだけ無駄だったお」


(  ω )「そんなので納得するわけがない。それがツンだお」


ξ゚⊿゚)ξ「………」




(  ω )「でも、僕は残酷なことを言ってしまったお」


(  ω )「まだ若いツンが、今すぐ知るべきではなかったことを、あっさり言ってしまったお」


(  ω )「……だから…」


.

236名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 19:08:28 ID:5MKaBJV.O
( ^ω^)とξ゚⊿゚)ξの関係がどうなったか気になる 
支援

237名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 19:08:44 ID:5MKaBJV.O
( ^ω^)とξ゚⊿゚)ξの関係がどうなったか気になる 
支援

238 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/17(土) 19:09:58 ID:iCS14UEM0


(#;ω;)「もっと泣けお!!もっと僕を責めろお!!!お前はっ……いっつもそうやって…」


(#;ω;)「僕にバレないように、我慢して!!!」


(#;ω;)「……生きてる時からずっと……そうやって………」


(#;ω;)「ああぁぁあぁぁあぁぁぁ―――――ッッッ!!!!!!」




ブーンは、赤子のように泣き崩れた。

もう、彼の叫びは声になってなかった。

.

239 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/17(土) 19:12:00 ID:iCS14UEM0


ξ゚⊿゚)ξ「………」



延々と、彼の嗚咽だけが響く。



ξ゚⊿゚)ξ「………ブーン」


ツンが、ブーンの背中に手を当てながら優しく呼びかける。


そこまで近づいて初めて、泣きじゃくるブーンの左手の、薬指に光る指輪に気づいた。

.

240名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 19:12:00 ID:6U5PX.PU0
嫌な予感しかしない

241 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/17(土) 19:13:17 ID:iCS14UEM0


ξ゚⊿゚)ξ「……ブーン、あなたまさか」



そうだお、と返事をしてから、軽く咳ばらいをして一呼吸置いた。






( ;ω;)「……ツンは、ブーンのお嫁さんだったんだお」

.

242名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 19:14:49 ID:s4ZwokiY0
いったい何が……

243 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/17(土) 19:15:24 ID:iCS14UEM0
13話おわりだお!
言い訳は最後にたっぷりします。
支援ありがとうございました。

244名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 19:16:27 ID:s4ZwokiY0
乙乙

245名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 19:22:16 ID:6U5PX.PU0

10年の間に何があったんだ

246 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:32:17 ID:CBudCD2k0
第14話
いきますお

247 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:33:39 ID:CBudCD2k0
◆第14話◆

XX34年 P月




嫌な予感が的中した。



10年後には、自分はこの世にいないらしい。






自分の墓まで見せられたら、実感が湧かないとも言ってられないが


何故かその場では泣けなかった。


10年前の自分にそれを見せて、今を生きる自分には一体何をどうしてほしいんだろう。


-

248 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:35:19 ID:CBudCD2k0



更に、自分は将来、ブーンと結婚する?




それは、理性をなくしたブーンがまた口を滑らせて知らされただけのことかもしれない。


でも、今それを知らされても、そればっかりはどう気持ちを処理すればいいかわからなかった。

.

249 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:36:57 ID:CBudCD2k0

普段のツンのように言いたいことをぶちまけて、ようやく落ち着いたブーンの提案で二人は場所を移した。


ブーンの家だ。
ということは、自分がその一生を終える時に過ごしてた家とも言える。


マンションの8皆。
郊外だが見晴らしは良かった。

家具一つ一つ、シンプルなようでどこか高級感のあるものばかりで、それなりに不自由のなさそうな生活が窺い知れた。


もちろん、一人、二人で住む仕様の広さじゃない。

結婚したというなら、子どもができる体でのこの間取りなのだろう。


自分が死ぬ前に、授かったかどうかはわからないが、今この家にはいないようだ。
.

250 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:38:24 ID:CBudCD2k0

ξ゚⊿゚)ξ「まだ、料理の仕事してるの?」


ツンが知ってるブーンは、しがない雇われの料理人だった。

と言っても、22歳でシェフになれれば群を抜いて有能である。

しかし、当時のブーンのその実力を知らないツンにはわからないことだった。


( ^ω^)「独立したんだお。今は、自分で経営してる」


なるほどそれゆえの甲斐性か。


( ^ω^)「だから、こうやってまとまった時間が作れるのは、今ぐらいなんだお」


そういえば、この世界のこの時期はお盆だった。

個人経営の飲食店なら、確かにオフシーズンだとツンも納得した。

251 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:39:51 ID:CBudCD2k0

( ^ω^)「なんか飲むかお?」


そう言ってブーンはキッチンに向かって行った。


( ^ω^)「っていうかお腹空いてないかお?夢の中でお腹空くかどうかはわかんないけど」


道中で、ツンは自分がいかにしてこの世界に降り立ったのかを簡単に説明していた。

その時のブーンは、理解したのかしてないのかよくわからない鈍い反応だったが、お盆シーズンに見かけた自分を幽霊と勘違いしたくらいだ。
そんな不思議な現象を聞いても、特に異を唱えることもなかった。

252 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:42:05 ID:CBudCD2k0
そう言いながら戻ってきたブーンの手には、ツンが好きなスコッチウィスキーと、氷が入ったロックグラスが二つ。

その、比較的安価で手に入りやすい平べったいボトルのバランタインは、外で飲む贅沢なシングルモルトよりも、ツンにとっては馴染みの味だった。


生前の彼女のコレクションの一つだろうか、既に何杯か飲まれた形跡がある。


( ^ω^)「勝手に手をつけると怒られるから、本人と一緒でないと開けられないんだおw」


なるほど確かにそうだろうな。

少量でも自分の記憶よりも減ってると思うと、目敏く見つけては『ブーン!飲んだでしょー!!』と青すじ立てる自分の姿が手に取るように思い浮かぶ。

大概それは酔っ払った自分の記憶違いであり、濡れ衣を着せられたブーンが冷や汗垂らして『違うお!僕じゃないお!!』と、必死に、でもどこか逃げ腰な様子で抗戦する。


そんな夫婦だったんだろうな。
と、ツンは記憶にもないはずの二人の夫婦像に、素直に納得した。

253 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:44:04 ID:CBudCD2k0


( ^ω^)「やっぱり僕、なんかつまみ作ってくるお」


場所を変えて一息ついたものの、特に核心を突く話をするわけではなかった。


でも、そうでなければ改めて話す場所を設けた意味がない。

わかっちゃいるが、こうも改まるとどう話を切り出していいかわからない。


しかも、ツン本人とはいえ10個も年下の女の子の前で大泣きした後だ。

できればツンからいろいろ質問をしてくれた方が話しやすいのだが、そんな時に限って彼女は当たり障りのない質問しかしない。

そして今は、それすらも途絶えて口を噤んだまま何か考え込んでるようで、こちらから話し掛けてもいまいち反応が鈍い。


致し方ない。
一応気丈に振る舞って見せてはいたが、あまりにもショッキングな話を聞かされ、心の平静を失った後なのだ。

ただこの気まずさを払拭したいだけの自分なんかよりも、よほどやるせない思いをしてるはずだ。

254 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:46:20 ID:CBudCD2k0

ξ゚⊿゚)ξ「あ、あたしがやる」


キッチンに向かおうとしたブーンを制止して、ツンが立ち上がった。


現実世界においてまだ『ブーンのオススメ』を食べたことがないツンは、そのブーンの腕を今は知らないままでいたかった。

幸い、ツンも人並みに料理はできる。

10年という年月を経て、特に結婚してからは腕を上げたかもしれないし、それ以前の料理でプロを持て成すというのも若干抵抗はあるが、お酒のつまみ程度なら許してくれるだろう。


それに何故か、この状況においては自分がキッチンに立ったほうがブーンのためにも良いような、そんな気がした。

255 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:47:53 ID:CBudCD2k0

( ^ω^)「…そうかお。食材は好きに使ってくれていいから。ありがとうお」


軽く目で頷いて、ツンはキッチンへ向かう。

と言ってもブーンがいる居間から離れてはおらず、彼の視線を背中でキャッチできる距離なので、何かあればいつでも言い付けられる。


ブーンも、ツンの料理の腕はある程度知っている。

それが10年前の姿であっても何を危惧するわけでもないが、キッチンに立つツンの背中から目が反らせなかった。

256 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:51:40 ID:CBudCD2k0

料理しながら、手の届くところにウィスキーの入ったグラスを忍ばせておくことを忘れない。

そんな癖も、ブーンが知ってるあの頃のままで

手が空いた隙に一口、また一口とウィスキーを舐め、グラスが空くとさりげなく注ぎに行く。
これも、いつものブーンの役目だった。

そして



ξ゚ー゚)ξ「ありがと」


そんな笑顔も、自分の妻であった頃のツンそのままの笑顔だった。

.

257 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:53:24 ID:CBudCD2k0



(*^ω^)「おっおっ!いい匂いだお!」


出来た料理を目の前にして、ブーンのテンションが目に見えてに上がった。


小鉢に盛られた、サラミとパプリカを使ったサラダ。
リンゴ酢やハチミツ、オリーブオイルを合わせてマリネ風な仕立てになっている。

もう一品は、スモークサーモンと茸のちゃんちゃんホイル焼き。
味噌とウィスキーの意外な相性の良さが、ツンの好みだった。


どちらもわりとスモーキーな食材だったが、冷菜と温菜の二種類を用意してくれる凝った仕上がり様と、ちょっと華奢にも見えるボトルのウィスキーが、テーブルを華やかにしてくれた。

258 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:55:43 ID:CBudCD2k0

ξ゚⊿゚)ξ「さすがコックの家だけあって食材とか調味料は充実してるのね。まさかサーモンがスモークしてあるなんて思わなかったわ」


( ^ω^)「おっ。実は店の余り食材だお。早めに使ってくれてよかったお」


ツンが料理してる間にも、ウィスキーは順調に減ってゆき、もともと詮が空いてたこともあったせいか出来上がる前にボトルが空になってしまったので、ブーンはキッチンの奥から持ってきたラガヴーリンを開けようとしていた。

259 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:57:18 ID:CBudCD2k0

ξ゚⊿゚)ξ「え、大丈夫なの?それ開けて」


比較的高価なそのウィスキーを、取るに足らんと言わんばかりに自然に開けようとするその姿に、さすがのツンも少々面食らったようだ。



( ^ω^)「いいんだお。どのみちツンのために用意したお酒だお」


本人が味わえるならそれが一番だお、と躊躇うことなく詮を開け、グラスに注いで再び乾杯をした。


.

260 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 17:59:24 ID:CBudCD2k0

ツンの料理は、どちらも文句なく旨かった。

ただそこにあった食材を使って仕上げただけじゃなく、ちゃんとウィスキーのつまみであることが加味された出来栄えに、プロであるブーンも感嘆した。


( ^ω^)「ごちそうさまだお」


ξ゚⊿゚)ξ「おそまつさま」


そう言って空になった皿を流し台に戻そうと、ツンは立ち上がった。


.

261 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 18:01:10 ID:CBudCD2k0


そうやって、洗い物をしてるツンの背中を眺めるのもいつ以来だっただろうか。


それが当たり前だった頃の日常が、擬似的なものとはいえ今目の前にあるというのに、あくまで非日常。




目の前にいるのは確かに、正真正銘生身のツンなのに。



.

262 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 18:02:36 ID:CBudCD2k0


( ^ω^)「………ツン」


その小さな背中に、ブーンは呼び掛けた。



( ^ω^)「君は、ここにいられる時間は、限られてるのかお?」



広義的に言えば、それは確かだ。
いつまでもここで、こんな姿で過ごしていられるわけじゃない。

でもブーンが聞きたいことにはもっと別のニュアンスが含まれていることに、ツンは気づいた。

263 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 18:03:55 ID:CBudCD2k0


ξ゚⊿゚)ξ「…わからないわ。たぶん、現実で目を覚ます時に突然消えてしまうかも」


そのタイミングまでは…と言いかけて振り向いた時、既にブーンが自分のすぐ後ろに立ってることに気づいたツンは言葉を詰まらせ、じゃあ、とブーンに遮られた。


.

264 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 18:05:04 ID:CBudCD2k0





( ^ω^)「…もし今のツンが嫌じゃなければ、君が目を覚ますまで、一緒にいてくれないかお?」





いつの間にか、そっと握られた左手からは、ブーンの言葉にできない哀切が、粛々と伝わってきた。


.

265 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 18:06:53 ID:CBudCD2k0
14話おわりです。

266 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 22:59:46 ID:CBudCD2k0
◆第15話◆

XX34年 P月



( ^ω^)



ξ゚⊿゚)ξ



ブーンのその、今にも泣き出してしまいそうな表情に、ツンは何も厭うことができなかった。

267 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:01:31 ID:CBudCD2k0



一緒にいる。それは構わない。


他に方法がないのも確かだけど、同情が理由というわけじゃないし、ジョルジュへの背徳感もここでは関係ない。


ただその気持ちが、自分にとって何なのかわからないのだ。


愛情。慈しみ。敬慕。寵愛。


しかも現実世界においては、友情の域を出ない関係だ。


それらの均衡の取れない感情を、馬鹿正直に持ち合わせたまま一緒にいると、かえって傷つけるんじゃないか。

そんな困惑が、ツンの中にはあった。


でも


.

268 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:03:17 ID:CBudCD2k0





ξ゚⊿゚)ξ「…もちろんそのつもりよ。だから…安心して」




はっきりと、そう言いながら握られた手に力を込めた。


.

269 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:05:35 ID:CBudCD2k0


外は暗くなりつつあった。


日の入り独特の憂鬱さ加減も相俟って、二人ともソファに腰を沈めながらただ無言だ。

たまに響く、グラスの中の氷の音をきっかけに、話を切り出そうとしてる雰囲気だけは伝わるのだが、いざとなると言葉にできない。


ツンがいつまでこうしていられるのかもわからないのに、二人の間に流れる空気はただ穏やかで、どこか物寂しかった。

270 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:07:04 ID:CBudCD2k0



自分が死ぬ。


いや、この世界においては事後の話だ。



それを聞いて、しかも残された人になんて言ってあげるのが正解なんだろう。

ツンはそればかり考えてた。



ξ゚⊿゚)ξ「…ブーン」


先に沈黙を破ったのは、ツンだった。

271 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:10:01 ID:CBudCD2k0



ξ゚⊿゚)ξ「あたしは、なんで死んだの?」



直球な聞き方だった。

しかしそれさえわかれば、現実世界においてやりようがあるかもしれない。

以前高校生だった自分も、おそらく似たような心情で聞いたのだろう。


その時『結果は何も変わらなかった』ときっぱり否定したのは自分だが、現実から見て未来の話なら、もしかしたら…と期待せずにはいられない。

.

272 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:12:31 ID:CBudCD2k0

そんなツンの思惑に気づいてか、ブーンは観念したように言った。


( ^ω^)「病気だった、とだけ言っておくお。本当に、突然だった…」


正直なところ多くは語りたくなかったが、少なくとも回避できるものではなかった。
それだけは伝わるように、ブーンは慎重にかい摘まんだ。


ξ゚⊿゚)ξ「そっか……」


重たげな口調ではあるが、思ったほど落胆してるようにも見えない。

自分の死を知らされてるというのに、アジテーションも過ぎるとかえって無感覚になってしまうのだろうか。

273 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:14:42 ID:CBudCD2k0


そんな状態のツンだから、どこに眼目を置いてるのかもよくわからない。


いつ結婚したのか。
子どもはいるのか。
何がきっかけで、友達から恋人になったのか。など

もっと根掘り葉掘り聞かれると思ってた。

.

274 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:17:34 ID:CBudCD2k0


( ^ω^)「…やっぱり、辛いかお?」


ツンの素直な気持ちが聞きたかった。
何も我慢してない、ただ正直な気持ちが。



ξ゚⊿゚)ξ「…よくわからない」


それがたぶん、ツンの精一杯の正直な気持ちだった。


.

275 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:18:54 ID:CBudCD2k0





ξ゚⊿゚)ξ「今から気をつければ、防げる病気でもないんでしょ?」




まるですべてを諦めたような、でも努めていつも通りでいようと僅かに気を張ってるような、複雑な声色だった。



.

276 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:20:30 ID:CBudCD2k0




(  ω )「……あまりにも突然すぎて、何を最後に喋ったかも思い出せないぐらい」


(  ω )「数分前まであった日常が、急になくなってしまったんだお」



(  ω )「ツンは我慢してたのに、僕が鈍臭すぎて気づいてやれなかったのか、ツン自身も自覚がないままだったのか」


(  ω )「それすらも、わからないんだお」


.

277 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:22:21 ID:CBudCD2k0


(  ω )「ツン、苦しんだかな。一人で最期を迎えて寂しくなかったかな」


(  ω )「それとも、寂しがる余裕もないままに、亡くなったなら…苦しまなかったにしても」


(  ω )「あっちで…悔やんでも悔やみきれないんじゃないかって」


(  ω )「いずれにしても…僕は何もしれやれなかったお。そしてこれからも…」




ξ゚⊿゚)ξ「…何言ってんのよ」



ξ゚⊿゚)ξ「ああやってお盆になったら会いに行って、死んだ後もそこまで思ってくれてるなら…」

.

278 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:23:53 ID:CBudCD2k0




ξ⊿)ξ「責めたくても……責められないじゃない」


( ^ω^)「……ツン?」




遺された人間の、思いの丈というリアリティが、自分の死を受け入れあぐねていたツンの精神に、波及し少しずつ染み渡っていく。


それがついに、無感覚ではいられないレベルに達した。

.

279 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:26:02 ID:CBudCD2k0



ξ⊿)ξ「ねぇブーン。あたしどうしたらいいの?」



ξ⊿)ξ「死んだけど不幸じゃなかった。そう言われれば納得できるものなの?」



ξ⊿)ξ「いろいろ…うまくいかないことばっかりで、胸張れることなんか一つもないけど」



ξ⊿)ξ「ちょっと器用なだけじゃ、ちっぽけすぎてなんの役にも立たなかったけど」


ξ⊿)ξ「また、病気になるの?そんなに、急に?」




( ^ω^)「………」

.

280 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:27:25 ID:CBudCD2k0






ξ;⊿;)ξ「どうして!?なんであたしが!?嫌だよ!死にたくない!!!」




.

281 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:29:15 ID:CBudCD2k0




ξ;⊿;)ξ「あと10年も生きられないって、そんなこと…信じられる!?」



ξ;⊿;)ξ「どうして……どうしてあたし、いつも志半ばで、頓挫して…」



ξ;⊿;)ξ「ブーンみたいに料理の腕もなければ、ジョルジュみたいに仕事もできなくて、ハインみたいに優しくなれなくて、キュートみたいに愛想もなくて!!!」




ξ;⊿;)ξ「…あたしの人生って…なんなのよ……」


.

282 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:30:41 ID:CBudCD2k0


ツンは、自分の死を知らされてから初めて、取り乱した。


ショックで気持ちが麻痺したのかと思ってたが、そうではなく


あまりにもキャパオーバーなその事実を飲み込むのに、時間がかかっただけなのだ。



( ^ω^)「ツン………」


呼吸を荒げて泣きじゃくるツンを、ソファの上でブーンは優しく抱き寄せた。

.

283 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:32:15 ID:CBudCD2k0


( ^ω^)「ツン…落ち着いて聞けるかお?」


ξ;⊿;)ξ「………」



( ^ω^)「ツン、忘れるなお。これは夢だお」



まだ啜り泣きしながらも、ツンが自分の胸でおとなしくしてることを確認し、ゆっくりと、優しく語りかけた。

284 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:33:53 ID:CBudCD2k0



( ^ω^)「ツンはまだ、22歳だお。それが現実だお」


( ^ω^)「だったらまだ、やりようはあるんだお」


ξ;⊿;)ξ「………え?」


( ^ω^)「僕が生きてる現実とは違う生き方を、これからしてみるといいお」


( ^ω^)「もしかしたら気休めかもしれないけど…わかってる未来に向かって歩いてくよりよっぽど可能性はあると思うお」


( ^ω^)「わかってるからこそ…それを回避するために少しくらい抗ってみてもいいと思うんだお」


.

285 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:35:38 ID:CBudCD2k0



( ^ω^)「……だから」




( ^ω^)「もし、君が抗った結果、僕と結婚する未来がなくなったとしても」




( ^ω^)「今こうしていられるだけで、僕は幸せだお」




.

286 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:38:16 ID:CBudCD2k0


そう言ってブーンは、ツンを抱き寄せる腕に力を込めた。



( ^ω^)「…あんまり、自分を卑下するなお」



( ^ω^)「いつも人に提供する仕事だから、帰ったらツンと美味しいご飯が待ってるのは、嬉しかったお。そのためなら頑張れたお」



( ^ω^)「仕事だって、僕が知らないことをいろいろ教えてくれたお。おかげで僕の趣味にも深みが加わったんだお。立派にこなしてたじゃないかお」



( ^ω^)「ツンは優しい子だお。サバサバしてるけど、裏表がなくて、たまに見せてくれる笑顔がたまらなく可愛いと思ったから」



( ^ω^)「ずっとそれを、傍で見てたいと思ったんだお」

.

287 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:39:57 ID:CBudCD2k0


ξ;⊿;)ξ「………」



ツンは意識が薄れていくのを感じた。

目が覚める瞬間を自覚したのは初めてのことだった。


でも


( ^ω^)「…ツン。僕は……」


.

288 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:41:27 ID:CBudCD2k0





君と出会えて、結婚できて、幸せだったんだお。






その最後のブーンの言葉は、はっきりと聞こえた。

289 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:42:31 ID:CBudCD2k0









「ツン……」








外は白んでいる。
普段ならまだ起きてる時間ではないらしい。


.

290 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:44:12 ID:CBudCD2k0


(;゚∀゚)「どうした?泣いてるのか?」



隣にいたジョルジュに、また心配かけてしまった。



ξ;⊿;)ξ「………」


涙が止まらなかった。でも、説明のしようがなかった。

.

291 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:45:52 ID:CBudCD2k0



覚えてる。
誰に何を言われたか。
則ち、数年先の結末だ。



ξ;⊿;)ξ「………」


(;゚∀゚)「…ツン……?」



啜り泣きが止まらない。
強気なツンが、よもや怖い夢ごときで泣き出すとは思ってなかったジョルジュは動揺を隠せないが、過呼吸気味な彼女の精神の平穏を優先して、何も聞かずに背中を撫でる。

292 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:47:49 ID:CBudCD2k0


ξ;⊿;)ξ「………」


ジョルジュの手が温かい。


よりにもよって、何故ジョルジュの隣であんな夢を見たのだろうか。




(;゚∀゚)「………」サスサス







いずれ来るこの人との別れを、決定づけるような未来の夢を。

.

293 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/18(日) 23:49:23 ID:CBudCD2k0
15話おわり。

294名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:54:24 ID:cLWfd/rw0
乙!

295名も無きAAのようです:2013/08/19(月) 00:29:56 ID:k3hKElls0


296名も無きAAのようです:2013/08/19(月) 01:32:04 ID:ZHgI82JMO
( ^ω^)は幸せを伝えたいようですを思い出したじゃねえかよ 
すぐ、早く、続き書け、いや書いてください待ってる

297 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:17:18 ID:qTz0cvPY0
百物語お疲れさまでした。
投下はしませんでしたが楽しく読ませていただきました。
そんな祭のあとの第16話

298 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:19:09 ID:qTz0cvPY0
◆第16話◆

XX24年 T月



予定調和で、仕事に身が入らない日が続いた。


ξ゚⊿゚)ξ「………」


もともと本腰入れるほどのモチベーションで仕事してなかったので、あまり人に気づかれることはないのだが



( ゚∀゚)「………」


.

299 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:20:38 ID:qTz0cvPY0



夢にうなされ、終いには泣き出したツンを目の当たりにしたジョルジュだけは、なんとなくその士気のなさに気づいたらしく、落ち着いてから改めて理由を尋ねてみたことがあるが


言及しようとすればするほど押し黙るツンをいい加減見限って、最近は目に余る勤務態度を咎めることさえある。



そういうツンの頑なな態度は、時に男性の英気に一点の曇りを齎す。


要するに、自分じゃ頼りにならないのか。そんな風に思わせてしまうことがあるのだ。

.

300 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:21:38 ID:qTz0cvPY0

もとより、やや女々しい性格のジョルジュにしてみたら、なんだか隠し事をされてるように見える時さえある。


人間、隠し事をされたと思うと俄然裏切られたと錯覚するもの。


もしそれが勘違いなのであれば、普段のツンなら毅然と否定し納得のいく弁明をくれるはずだと思ってたが、今はただただ黙秘を決め込んでいる。


結局ジョルジュになんの説明も相談もできてなく、だんだんコミュニケーションを取らなくなってきた二人の関係は、今はあまり芳しくなかった。

301 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:23:42 ID:qTz0cvPY0


从 ゚∀从「ツンじゃん。相変わらず暇そうだな」


無駄に壮麗な美術館にはそぐわない、底抜けに明るい声がした。


ξ゚⊿゚)ξ「あれ?何してんの?」


まさかの珍客に少々出し抜けられたが、その締まらない声の返事は、とても仕事中とは思えない。


从 ゚∀从「今展示してるのってミセリの絵だろ?ちょっと気になってたんだよね」

.

302 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:25:29 ID:qTz0cvPY0


ミセリ。今20代を中心に人気のあるイラストレーターだ。


オブジェなどの立体的な作品がなく、ちょっとファンシーなポストカードのようなイラストがひたすら展示されている。

その目玉のなさを補うように、期間限定で本人に似顔絵を描いてもらえる小さな特設会場なんかもあり、それなりに反響を呼んでいるようだ。


はっきり言って、この一切関心が持てない展示物もツンの士気を下げる一つの要因といっても過言ではない。


デジタルには頼らず、100%手描きのアナログ手法を謡ってるが、それが何だと言うのだろう。


ミセリ自身の若さと容姿、そしてストリートを経たというちょっとした付加価値がつけば簡単に話題になる浅はかさが、ツンには理解できなかった。


現にこうやって、普段なら現れないような珍客まで呼び寄せる、ミセリのネームバリューも馬鹿にできないから尚、不可解の一途である。

303 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:27:26 ID:qTz0cvPY0
そういえば、ジョルジュも言ってた気がする。次の企画はあのイラストレーターだと。


なるほど自分がその企画案が出た現場にいたら、素直に賛成できた自信はない。

でも結果がこれだから、差し詰めまた自分の意見を正直に主張したところで、場を白けさせるのが関の山だったのだろう。

304 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:28:22 ID:qTz0cvPY0


ハインはふらふらとフロア内を歩き回り、あまり満足に鑑賞したようには見えなかったが早々と一周してツンのもとへ戻ってきた。


从 ゚∀从「まぁ、実物ってこんなもんだよね」


ハインが期待したほどのクオリティではなかったようだ。

現れた時は一瞬彼女の価値観を疑ったが、あながちそれは歪んだものでもなかったらしい。


ξ゚⊿゚)ξ「実際鑑賞もそこそこに、本人に会いに行く人ばっかりだよ」

从 ゚∀从「まぁ、それぐらいしか目玉ないもんな…」

ξ゚⊿゚)ξ「行ってみれば?」

从 ゚∀从「そうだなー…似顔絵待ち時間長いかなー…」

ξ゚⊿゚)ξ「そうそう。みんな似顔絵目的だから待ち時間潰しの鑑賞と化してる」

从 ゚∀从「…わからんでもないが、趣旨ズレてねぇか?」

305 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:30:15 ID:qTz0cvPY0


だからこそ不本意なのだ。とツンも思う。

企画にミセリ案を採用したことにより、美術館がただのミーハー向けのイベント会場と化している。
ただでさえ気分が沈んでる時に、この仕打ちはつらい。




何もかも、納得のいかないことばかりだ。



.

306 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:31:49 ID:qTz0cvPY0


从 ゚∀从「そういえば彼氏は?館内にいるの?」

ξ゚⊿゚)ξ「んー今は似顔絵の会場でこき使われてるんじゃない?」

从 ゚∀从「まじか。後で見に行ってみよっかな」

ξ゚⊿゚)ξ「ピンクのワイシャツだからすぐわかると思うよ」


そう言ってツンは、話し掛けられた見物客に簡単な案内をし始めた。


その声のトーンが、自分のような気心知れてる友達と話してるトーンとまるで変化がなく、そのあまり抑揚のない喋り方に緊張感なさすぎだろ…とハインは内心ちょっと呆れながら、ミセリがいる特設会場に向かって行った。



.

307 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:33:17 ID:qTz0cvPY0



会場には、長蛇というほどでもないがそこそこ列ができていた。

でも、一人分の似顔絵を描くのに10分や15分で終わるとも思えないので、そう考えると待ち時間はかなりありそうだ。


並ぶミーハー客に配慮して、会場にはプロジェクターが設置されており、『ミセリヒストリー』という軽いドキュメンタリーが放映されている。

『若く才能に溢れた美人イラストレーター』とたらし込まれた、製作側のセンスを疑う無限ループの映像に飽きた客はもう、何人か見向きもしてないようだが


从 ゚∀从(凝れば凝るほど、ただのイベント会場だな…)


なるほど根っから芸術オタクのツンが面白くなさそうなのも合点がいく。

尤もそれも狙いの一つなのか、美術館という敷居の高そうな威厳が覆されたようだ。

.

308 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:35:12 ID:qTz0cvPY0


( ゚∀゚)「こんにちはー。似顔絵お待ちの方ですか?」


ハインが突っ立ってると、爽やかそうな青年に声をかけられた。


首から名刺サイズの社員証らしきIDカードをぶら下げた、例のピンクのワイシャツだ。
それに寒色系のネクタイを合わせた姿が、凛々しく決まっている。

それでいて活力に溢れたような逞しさを体現したような、肉厚でがっしりした体格によく合っていて、顔も彫りが深く秀麗といえる。


从 ゚∀从「あ、いえ…結構待ちそうですし」

( ゚∀゚)「そうですねー。今からですと約1時間半ってとこですかね」

从 ゚∀从「そうですか…じゃあまた今度」

( ゚∀゚)「はい!お待ちしてまーす!」

.

309 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:36:59 ID:qTz0cvPY0

ハキハキとそう告げながら、青年は去って行った。

そうだよこれが仕事中の喋り方だよ。と、ハインは内心突っ込んだ。

まさかあの不精な喋り方をするツンが見習うべき模範が、あの彼氏とは。


从 ゚∀从(しかし……)


と、ハインが次にジョルジュを見遣った瞬間にはもう、似顔絵が仕上がった客とミセリのツーショット写真を撮っている。それもファンサービスの一環なのだろう。

310 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:39:44 ID:qTz0cvPY0
ちょっと目を離した次の瞬間にはもう、次の仕事に取り掛かるテキパキとした彼氏に対し、あまり動かなければ覇気もないツン。


二人が一緒にいたら、どんな雰囲気になるのだろう。

ハインにはいまいちビジョンが湧かなかった。


しかしやはりというべきか、人の長所を見抜く才には長けてるツンのことだ。
悪癖はない彼のだろうし、このような職場で出会った人なら、話も合うのかもしれない。


从 ゚∀从(……いや…)


.

311 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:41:12 ID:qTz0cvPY0


( ゚∀゚)「―――――」


ミセ*゚ヮ゚)リ「――――――!」



ミセ*>ヮ<)リノシ(゚∀゚*)



( ゚∀゚)「―――!」


ミセ*^ー^)リ「――――!」





从 ゚∀从(…まぁこんな職場だから、か)


今更ながら、あまり人の彼氏を注視しすぎるのも無骨な気がしてきたハインは、聞こえてもいない会話は気にしないことにしてその場を後にした。


.

312 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:42:47 ID:qTz0cvPY0


ξ゚⊿゚)ξ「………」


相変わらず暇だった。


売れ線に目を向けた恩恵でいつもよりは人出はあるが、やはり絵に触れようとする人などいなければ、壊されたら困るような展示物もない。

さらに、ガイドというガイドを必要としないジャンルの絵なので、案内したことと言えばトイレの場所くらいなものである。


その人出も、ミセリ本人と会えるというイベントが終わればなくなるだろう。

わざわざ足を運んで鑑賞だけしに来るほどの絵じゃないとはツンも思ってるし、その面白みも歴史背景もない作品を、美術館側も推してるわけではないのだ。

313 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:44:46 ID:qTz0cvPY0



( ^ω^)「お。ツンさんこんにちはだお」



また、その男は音もなく現れた。

あの夢を見てから数日が経っていたが、それでもなおしこりが残っているツンは、彼は何も知らないとわかってはいながらも一瞬顔を強張らせてしまう。


(;^ω^)「……お?」


ブーンもその、ツンの表情の鋭さに気づいたようだ。

.

314 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:45:56 ID:qTz0cvPY0


いつか、こういう日が来ることはツンも予感してた。


将来結婚を約束するほど縁のある人だ。今現在は連絡先さえ知らないが、どこかで絶対に会う。そんな気はしてた。

それも、ツンの行動範囲が自宅と職場の往復のみなら、その狭い道すがらでしかありえないのだ。

ブーンは絵を描くのが趣味だという。ならば美術館で遭遇するのもなんら不思議ではない。


ツンの職場であり、逃げ場のないこの美術館は、二人が交流するにはうってつけの『出会いの場』なのだ。

.

315 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:47:11 ID:qTz0cvPY0


ξ゚⊿゚)ξ「…ごめん、なんでもないの。それより、こういう絵にも興味あるの?」


ブーンの価値観を測るための、ある意味誘導尋問だった。

出会うべくして出会ってしまった今、どこかでブーンに失望しないと、決められた未来への一途だ。





すなわちそれは、避けようのない、死。



.

316 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:49:16 ID:qTz0cvPY0




――僕が生きてる現実とは違う生き方を、これからしてみるといいお。―――






そうだ。抗ってみないと。

何が変わるかはわからないけど、何もしなければ何も変わらないことだけはわかる。

.

317 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:50:21 ID:qTz0cvPY0

( ^ω^)「おー…ろくに調べもしないで来ちゃったお。前回ツンさんに勉強させてもらったこともあって、今度から休みの日はたまに美術館覗いてみるっていう習慣もいいかなーって思ったんだけど…」

ξ゚ー゚)ξ「当たり外れあるからね」

(;^ω^)「あ…いやそんなことは…」


ツンは意地悪く笑って言った。

純粋なミセリ目的の見物客を気にしてか、はっきりと『興味ない』と言い出せないでオブラートに包むような言い方をするのが、いかにもブーンらしい。

そんな風に言われてしまうと、ついからかってみたくなるのだ。

318 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:52:04 ID:qTz0cvPY0

思えば、いつもそうだった。

素直で愚鈍そうに見えながら、自分の言ったことはちゃんと受け止めてくれてる。それでいて誰にでも気を遣えて、底抜けに優しい。


そんなブーンと喋ってると、いつの間にか専心してしまう。

そのやり取りが、なんだか心地良いのだ。


現に今も、ブーンの価値観に相違のない返事に安心してしまってる自分がいる。

.

319 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:53:15 ID:qTz0cvPY0



ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇブーン」



その安寧は、つまり好意に値する。

今すぐ芽生えなかったとしても、時間の問題だろう。


そしてそれは現実世界において、ジョルジュに対する背徳感情。


否定してもいいはずだ。とツンは思い直した。


.

320 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:55:43 ID:qTz0cvPY0


ξ゚⊿゚)ξ「ミセリ本人に似顔絵描いてもらえるっていう、イベントコーナーは見た?」

( ^ω^)「おー…さっきチラッと見た気がするけど、並ぶ気にはならなかったおw」



ξ゚⊿゚)ξ「…そこのスタッフがね」


ξ゚⊿゚)ξ「あたしの彼氏なの」




( ^ω^)「…お、そうだったのかお!ちゃんと見に行ってみれば良k―――」

ξ゚⊿゚)ξ「だからね」







ξ゚⊿゚)ξ「あんまりそういう時に何度も来られると、正直困るの」


.

321 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:57:50 ID:qTz0cvPY0


( ^ω^)「………」



( ^ω^)「…そういうことかお」




あの優しいブーンからは聞いたことなかった、重々しい声だった。


.

322 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 18:58:56 ID:qTz0cvPY0


( ^ω^)「…まぁ最初会った飲み会でもあんまり乗り気だったようには見えなかったし、なんとなく予想はしてたお!」



( ^ω^)「まさか同じ職場だったとは、考えが及ばなかったお!」




今度は殊更に明るい声だ。

気にしてない素振りの下手さに、心乱されそうになる。

323 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 19:00:14 ID:qTz0cvPY0




( ^ω^)「…迷惑かけて、ごめんだお」





そう言って去って行くブーンを、追い掛けたくなる足を必死に我慢しながらツンはその背中を見送った。


.

324 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/19(月) 19:01:01 ID:qTz0cvPY0
16話おわりです。

325名も無きAAのようです:2013/08/19(月) 19:13:23 ID:mwikmeAY0
見てるぞ


326名も無きAAのようです:2013/08/19(月) 20:38:49 ID:kvTNQZZI0
うむむ...乙
どうなるんだ...

327名も無きAAのようです:2013/08/19(月) 20:50:54 ID:j9fksRJY0
続きが気になる


328名も無きAAのようです:2013/08/19(月) 23:22:22 ID:ZHgI82JMO
17話まだー!

329名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 01:07:43 ID:fKkTYZhY0
続きが気になる小説じゃねーか、乙!

330名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 01:19:50 ID:xAVFO8jE0
これはいい
早急に続きを書くのだ

331名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 07:46:24 ID:sqi2JzkQ0
おもしろいよー

332 ◆7mt.DZ.sYo:2013/08/20(火) 19:18:29 ID:essLX21o0
オゥフいつの間にかレスも増えてめっちゃ嬉しいですありがとうございます。
そんな勢いで第17話


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