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( ^ω^) 剣と魔法と大五郎のようです

1 ◆x5CUS.ihMk:2013/08/08(木) 22:01:04 ID:ADjTXr.k0

 懐かしい夢を見た。
 体も心もまだ幼くて、それでも、だからこそ幸せだった頃の記憶。

ξ゚⊿゚)ξ (……)

 薄暗闇の中、天井に手を翳す。
 思えば遠くに来た。
 それは、物理的な距離ではなくて。

ξ゚⊿゚)ξ (……)

 体のいたるところに出来た傷跡を、死んでしまった両親が見たらどう思うだろうか。
 きっと怒るのだろう。そして、悲しむのだろう。
 傷を作ったことでは無くて、傷を作るに至った理由を。

ξ゚ー゚)ξ (……ふふ)

 いつもそうだった。
 二人の心配を無視して怪我をして、母親の手痛い拳骨を貰ったものだ。
 よくよく考えれば、きっとあの頃から成長なんてしていない。

ξ ⊿)ξ =3

 脳裏にちらつくあらゆる感情を息と共に吐き出して、硬く目を閉じる。
 迂闊にあの頃を思ったりしないように。
 幸せな夢を、もう見てしまわないように。

541名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:11:10 ID:ZWuj8HrY0

 しばらくそよ風に吹かれて空を眺め、ブーンは柵から腰を上げた。
 軟禁で辟易していた気分は大分回復したし、自分の体の状態も大よそ把握できた。
 これ以上外にいて厄介なのに見つかる前に、部屋に戻ってゆっくり酌でもしようというものだ。

 確か地下の貯蔵室にチーズや干し肉があったはずだ。
 報告すればある程度自由にしていいと言われていたのでありがたくいただこう。
 ブーンはマントを翻して屋内へ戻る。

 大五郎を手ごろな瓶に注ぎ、地下に降りてチーズと干し肉を見つくろった。
 今の身体で瓶や食料を抱えて階段を上るのは少々しんどいが、部屋に戻ってからのお楽しみがあるので耐えられる。

 えっちらおっちらと部屋の前まで戻り、半端に空いていた扉を足で開けて中へ入った。

ξ ⊿ )ξ

( ^ω^)

ξ ⊿ )ξ

 入口のすぐ目の前の床で、ツンが倒れていた。

( ^ω^) 「ツンさーん??」

ξ ⊿ )ξ

( ^ω^) 「死んでる????」

 返事がない。

542名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:16:06 ID:ZWuj8HrY0

 ブーンは空いていたベッドに抱えていたもの放るように置き、ツンに駆け寄る。
 抱き上げると、ぞっとするほど体が冷たく力が無い。
 首元からニョロが飛び出し、勢いよくツンの頬に頭を摺りつけたが、やはり反応は無かった。

 ツンのベッドを覆っていたカーテンが開いており、奥に見える布団は半分床に落ちている。
 恐らくは目を覚まして這いずってきたのだろう。

 ハインリッヒがツンにかけていた魔法の一つに、生命器官の働きのほとんどを魔法によって補助し、
 代わりに身体の活動をギリギリまで抑えることで回復効率を上げる物がある。
 つまりは絶対安静の寝たきりの人間の為の魔法。
 その中で無理に動いたものだから、実質の仮死状態に陥っていってしまっているのだ。

 心配げに頬ずりするニョロを服の中に押し戻し、ブーンはツンを抱き上げた。
 流石に人一人を持ち上げるほど回復はしておらず、全身が激痛に見舞われたが一先ず我慢。
 なんとかツンをベッドに寝せ、布団をかぶせる。

ξ ⊿ )ξ 「う、ぅぅ……」

 一応生きていた。
 ツンが停止したことで魔法も再び効果を発揮している。
 とりあえずは大丈夫だろう。

( ^ω^) 「ツン、大丈夫かお?」

ξ ⊿゚)ξ 「…………ブーン」

543名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:17:21 ID:ZWuj8HrY0

ξ ⊿゚)ξ 「…………ここ。……リッヒの……?」

( ^ω^) 「そうだお。あの戦いの後、僕らここに運ばれたんだお」

ξ ⊿゚)ξ 「……………そう」

 ツンの眼が虚ろに天井を見る。
 もう少し取り乱すかもしれないと構えていたが、以外にも大人しい。
 意識がはっきりしていないのか、魔法のせいか。

 なんにせよ、あまりいい気分ではない。
 あの山でツンは意識を失うまで呪詛を吐き怒りを吠えていた。
 それからこの状態では、何かが切れてしまったのではないかと不安になる。

ξ ⊿゚)ξ 「…………ブーン、ドクオ」

( ^ω^) 「……お?」

ξ ⊿゚)ξ 「私の体が回復したら、私に剣と魔法を教えて」

( ^ω^) 「……」

ξ ⊿゚)ξ 「今の私じゃ、弱すぎる。こんなんじゃ、あの鉄クズ野郎を殺せない」

( ^ω^) 「……ツン?」

 もそりとツンの手が動き、自身の頭に触れた。
 そこには真新しい傷跡がある。ツンが自ら木の礫を突き刺した場所だ。

544名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:18:34 ID:ZWuj8HrY0

ξ ⊿゚)ξ 「………ィシさんが死んだとき、沢山の記憶が私の中に入ってきた」

ξ ⊿゚)ξ 「…………全部、分かったの。あの人が何をしたくて禁恨党を率いていたのか」

ξ ⊿゚)ξ 「…………何故、あんな呪具に頼ったのか」

ξ ⊿゚)ξ 「…………私が勝つべき相手が、誰なのか」

ξ ⊿ )ξ 「……全部、全部わかったの」

( ^ω^) 「……」

ξ ⊿゚)ξ 「……あんたたちが、人に技を教えるとか、そういうのを嫌っているのはわかってる」

ξ ⊿゚)ξ 「……でも、私には必要なの。少しでも、僅かでも、今より強くならなくちゃいけないの」

( ^ω^) 「……」

ξ ⊿ )ξ 「……だから、お願い。私に、力を貸して」



ξ ⊿ )ξ 「あの男、ヨコホリ=エレキブランを、倒すために」


           *  *  *

545名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:20:06 ID:ZWuj8HrY0

( ;;;Фωφ) 「おがえりである、ギュード」

o川*゚ー゚)o 「ただいま、試作ちゃん。良い子にしてた?」

( ;;;Фωφ) 「うむ。わるいやづらいっばいきだがら、たおじた」

 ヨコホリの修復を終え、砦のある山に帰った魔女を出迎えたのは、二刀を持った一人の男。
 彼女が生み出し、「試作ちゃん」と呼ぶ限りなく人に近いキメラである。

 彼の足元には、複数の死体が転がっていた。
 原形を留めていないが全員武装している。
 恐らくは懸賞金や名声目当ての破落戸だろう。

 試作ちゃんの腕ならば、目を瞑ってでも勝てたに違いない。

( ;;;Фωφ) 「ごれ、どずる?」

川*゚ ,゚)o 「んー―――……あんまり優秀には見えないし、素材としては最低ランクかなー――……」
   b

 しばし死体を眺めて悩んだ結果、これらは破棄することにした。
 砦のスペースはまだいくらかゆとりがあるが、だからと言ってなんでもかんでも保管しておくわけにはいかない。
 人間の素材は先日のフタバの街で上質なものが集まったし、十分足りているのでなおさらだ。

 「えい」という掛け声と同時に、死体に火が灯る。
 流れる血にすら広がった赤い炎は瞬く間に数人分の死体をただの焦げ跡へと変貌させた。

546名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:21:38 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ ,゚)o 「あーあ、もう、こんなのばっかり。やんなっちゃう」

 わざと巷に自分の居場所を流して以来、現れるのは身の程知らずの雑魚ばかりだ。
 目的の子たちがすぐに来ないのは覚悟していたが、せめてもう少しまともな人に来てもらわなければ。
 手間ばかりかかって何の利にもならない。
 
o川*゚ ,゚)o 「いこ、試作ちゃん」

 ため息一つ、魔女は死体の跡へ背を向けた。
 砦へ戻って試作ちゃん二号の調整をしなければ。
 待ち人は来ずともやるべきことはいくらでもある。

 が、魔女の言葉に反し、試作ちゃんは麓の方へ視線を向けたまま動かない。
 鞘に納めようとしていた刀を再び引き抜き、構える。

( ;;;Фωφ) 「…………まだ、いる」

o川*゚ ,゚)o 「……?サーチには何もかからないけど……」

 魔女が訝しげに試作ちゃんの視線を追う。
 展開している広域探知の魔法に反応するのは獣の類のみ。
 それもどれも中型未満で、魔力の反応なども無い。
 試作ちゃんが刀を構えるほどの相手では無いはずだ。

 が、二人が目を向ける方向の空に、黒い点が複数見えた。
 鳥では無い。
 もっと巨大な何か。

 それが太く頑丈な丸太であると気づくころには、既に魔女の眼前まで迫り来ていた。

547名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:23:38 ID:ZWuj8HrY0

 魔女の前に試作ちゃんが躍り出て、飛来する丸太へ刀を振るう。

 鈍い金属音。
 試作ちゃんの斬撃は丸太の軌道を横へ流す。
 魔女を逸れた丸太は地面に激しく衝突し、砕け散りながら跳ね飛んでゆく。

 残りの数本も同じく難なくいなす。
 重く硬い丸太を受けておきながら、試作ちゃんの刀には刃こぼれ一つない。

o川*゚ー゚)o 「…………びっくりした」

( ;;;Фωφ) 「うむ」

o川*゚ー゚)o 「ありがとね試作ちゃん。あんなの当たったら死んじゃうとこだった」

( ;;;Фωφ) 「うそ」

o川*^ー^)o 「ふふふ」

 言葉で危機感を匂わせながらも、魔女は笑顔であった。

 砕けた丸太の一片を拾い、眼前へ。
 これ自体は何の変哲もないただの木だ。
 恐らくは麓のあたりで伐採されたまま放置されていたものだろう。

 ただし、木片は指で軽く潰すと水が滲むほどたっぷりと濡れている。
 僅かな魔力も感じ取れた。
 恐らくは水の魔法を用いてこの丸太を発射、魔女を狙撃したのだ。

548名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:26:34 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ー゚)o (丸太があった場所を考えると……距離は1km弱ってとこかな?)

o川*゚ー゚)o (これだけ重いものを飛ばすことが出来る水魔法の使い手ってなると、限られてくるよねぇ)

 丸太の飛来した方向に、再び何かの影が見えた。
 今度は物を撃ち出したのではなく魔法そのものだ。
 溝色に濁った水の大蛇が、空を泳ぐが如く高速で迫る。

 刀を構え、試作ちゃんが再び前へ。
 確かに試作ちゃんならば魔法の攻撃も捌くが出来るだろう。
 しかしそれはあくまで中級程度までの話。
 さらに言えば物理的な破壊力に重きを置いたものに限る。

 故に、この魔法は試作ちゃんでは防ぎきれない。

o川*゚ー゚)o 「ほいさー!」

 試作ちゃんを襟首を掴んで引っ張り、障壁を張る。
 同時に魔法の蛇が襲来。防壁との衝突の寸前に爆音と共に炸裂した。

 白い水煙が視界を覆い、硬質化した水の刃が周囲へ飛び散る。
 水を変異させた強力な溶解毒だ。
 魔力の障壁は問題なく魔法を防いでいるが、周囲の地面はみるみるケロイド状に変化していく。
 真面にこの雨を浴びれば骨すら残らず、地面を流れるヘドロになっていたことだろう。

549名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:29:16 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ー゚)o 「おっ返しぃ!☆」

 溶解毒の魔法をやり過ごしきったと共に、魔女は腕を振るった。
 電光に似た魔力の閃が天に走り、巨大な火炎の礫を複数出現させる。

 小さな町ならば一つで十分火の海にすることが可能な爆破魔法。
 それが、数にして13。
 これら炸裂すれば、地上の周囲数kmは蒸発を約束された灼熱と化すだろう。

 対して。下方から強い魔法の輝きが爆ぜる。
 爆破魔法と同数の水魔法の槍が、それぞれの中心を打ち貫いた。

 相対する魔法の邂逅。
 真っ先に閃光が目を焼き、天地を揺るがす轟音が次いで鼓膜をしびれさせる。
 吐き出された紅蓮の熱は次々に隆起し膨張し、青い空を暁の色に染めた。

( ;;;Фωφ) 「む?」

 炎は、麓の一帯を覆いつくしている。
 が。地表にまでは届かず、上空で煮えたぎっているばかりだ。
 見れば、爆破の範囲よりも広く、濃密な霧が地表を覆い尽くしている。
 これが、火炎の侵攻を妨げている。

 防御魔法の一種だ。
 正面から受け止めるのではなく、柔軟性を活かし力を逸らすタイプ。
 直撃であれば破ることが出来たはずだが、先に炸裂させられたため力が足りなくなったらしい。
 
 ついつい、口元が吊り上がる。
 ここまで本気で力を高めてきた彼らに失礼なのだけれど、その有能さに心が震えて仕方がない。
 魔法が発動してから、数秒程度の間に適切な対応。
 単に魔法の能力が高いだけの人間では、魔女の攻撃は防げない

550名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:32:40 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ー゚)o 「……さ、今の攻撃の意味は伝わったよね」

 魔女が再度腕を振ると、未だ残っていた爆炎が、何かに吸い込まれたかのように収束する。
 入れ代りに、高濃度の魔力を全力で垂れ流した。
 ちょっとしたフェイクだ。探知魔法越しでは、強大な魔法を準備していると判断するだろう。

o川*゚ー゚)o 「いつまでもそんなとこに居ると、周り全部巻き込んで消しちゃうぞ☆」

 過激な矢文の返事は、すぐに届いた。
 俄かに頭上を覆うどす黒い雲。
 魔法による天候操作だが、ただの雨招きなどでは無い。

 落ちてきた一つ目の雨粒が、空を見上げていた魔女のローブの裾を裂く。
 地面とぶつかる音は、水では無く金属のそれ。
 ちらりと視線を向けると、固体化した水の刃が地面に突き刺さっている。

 二つ目から次は、滝のような土砂降りであった。
 刃の雨が視界を白に染め、けたたましい激音が聴覚を埋め尽くす。

 即座に発動した障壁によって魔女と試作ちゃんは守られているが、魔法の傘はすぐに穴だらけになってゆく。
 数度に渡って張りなおすことで凌ぎ切り、魔女はボロボロの障壁を破棄した。

o川*゚ー゚)o 「あくまで狙撃戦する気……?」

( ;;;Фωφ) 「ギュード!!」

 敵の座標を探り、反撃を打とうとした魔女の背後。
 地面に刺さったままであった水の刃の群れが液体に戻り、蔦の形状を取って発射された。
 試作ちゃんが即座に切り払ったが、次々放たれる蔦に手数が追いつかず、魔女は四肢と胴を拘束される

 煩わしげに振り払おうとした魔女の眼前。
 一体いつの間に接近していたのか、二人の人影が襲来する。

 ローブを羽織り、フードは目深で顔は見えない。
 それぞれに意匠の異なる剣を持ち、線対象に構えながら魔女へ突進する。
 長距離を飛行してきた勢いのまま、交叉させる形で魔女の首に刃を叩き付けた。

551名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:35:06 ID:ZWuj8HrY0

 残響。

 火花が散り、金属の飛沫が爆ぜる
 瞬時に割って入った試作ちゃんの二刀が、双斬を防ぎ弾いた。
 
 二人組は斬りつけたまま脇を抜け、濡れた地面を滑り、手を着いて向き直りながら停止する。
 一切の間を置かず、片方がもう一方に剣を投げ渡し魔法式の組み立てを開始。
 両手に剣を持った方は、数歩濡れた地面で足を空回りさせつつも、獣の如く駆けだす。

 魔女は水の拘束を全て蒸発させ解除。
 迫る双剣持ちに、手を翳す。
 無色透明、魔力反応も無い、波動の砲撃を二発。
 上半身を木端微塵にするつもりだったが、突如現れた水の壁が蒸発しながらも直撃を妨げる。

 白い水煙をぬけ、剣士が跳躍。
 腕を交叉し、柄尻を胸に押し当てた体勢で、双刃を魔女に。
 十分な勢い。

 対応は髪の毛数本分遅れる。
 そう判断した魔女は、防御でなく攻撃の魔法を選択した。
 彼女が捨てた守りは、二刀閃かす試作ちゃんが肩代わりする。

( ;;;Фωφ) 「“二刃一瘡”!!」

 試作ちゃんの振るう、連なる二つの斬撃。
 飛び掛かっていた双剣の男は、空中でありえない制動をし、急に後退した。
 惜しい。今の謎機動が無ければ、試作ちゃんの刃は男の胴を割っていただろう。

 自身戸惑う挙動にバランスを崩した男。
 魔女は彼に対し魔法を発動する。
 拳大の衝撃波を、自分で数えるのも面倒なほど多量に放つ。

 今度こそ捕らえた。
 その確信を砕くように、もう一方の男が、杖を構えて前に出る。

552名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:37:08 ID:ZWuj8HrY0

 周囲の水が瞬く間に杖の男の背後に集約する。
 そこからさらに蛸や烏賊の足のように形を与えられた水の刃が、的確に衝撃波を迎え撃った。
 
 水が爆ぜ、白い霧が視界を荒々しく隠す。
 百にも及ぶ魔女の攻撃を、霧と轟音に分解してやり過ごした男は、涼しげな顔のまま、小さく息を吐いた。

 攻撃の余波で、二人ともフードが外れている。
 表情の違う、同じ顔。

( ´_ゝ`)

 剣の方は、静かながらも激情の覗く目元。

(´<_` )

 杖の方は、反面感情を漏らさぬ冷たいほどの無表情。

 魔女は、追撃を放つことなく、笑った。
 口を三日月にし、唇の裏に舌を滑らせる


 サスガ兄弟。

 ただの人間の領域で言えば最高クラスの魔法使いにして剣士。
 魔女に「苦戦した」と思わせた数少ない真人間夫婦の息子たち。
 退屈な魔女の人生における、貴重で希少で良質な余興。

 素の性能でも及第点の彼らが、万全以上とも言える準備をしてやってきた。
 さまざまな目的を失念しそうな程、魔女の心は滾っている。

553名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:39:25 ID:ZWuj8HrY0

(´<_` ) 「……貴様のことだからどうせ来ることは知っていたのだろうから余計な前置きはいらないはずだ。だから一つだけ聞いておく」

( ´_ゝ`) 「オトジャ、殺せばいいだけの話だ」

(´<_` ) 「……妹の手足はどこだ」

o川*゚ー゚)o 「ああ、イモっちゃんの?それならちゃんと大切に保管してるよ」

 魔女が指を鳴らす。
 すると、虚空に小さな子供の手足が、綺麗に揃えられた状態で現れた。
 滞空するその四肢は、淡い魔力のベールに包み込まれている。

o川*^ー^)o 「ちゃんと、胴体に合わせて成長させてあるから安心してね」

( ´_ゝ`) 「…………」

o川*゚ー゚)o 「この手足に見合う他の素材が中々見つからなくて。いっそイモっちゃんの身体全部使えば早…………」

 魔女の言葉を切ったのは、サスガ兄弟の兄、アニジャ=サスガの投げつけた剣だった。
 試作ちゃんが受け流し、回転しながら地面を滑ってゆく。

(´<_` ) 「抑えろ、兄者」

( ´_ゝ`) 「……わかってる」

 アニジャ本人はその場にとどまってはいるが今にも飛び掛かって来そうだ。
 そこまで体を震わせながらも堪えているのは、憤怒の情を爆発させたところで倒せる相手でないと理解しているからだろう。

554名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:40:43 ID:ZWuj8HrY0

o川*゚ー゚)o 「…………これね、実は存在概念的には胴体とつながったままなの。
        私の魔法で無理やり切り離した状態に誤魔化しているから、こうして別々の場所にあるけれど、ね」

 魔女が見せびらかすようにイモっちゃんの四肢をクルクルと回した。
 付け根、本来胴と繋がっていた断面には綺麗に皮膚が張り、その表面には掘り込みの魔法陣。
 今、故郷の町で寝たきりの生活をしている胴体の方にも似た魔法をかけてある。

o川*゚ー゚)o 「だから、私を倒して魔法の効力が切れれば、勝手に元に戻るわ」

 現物を見せたところで、魔女は手足を元の保管場所へ転送。その場から避難させた。

o川*゚ー゚)o 「シンプルでいいでしょ?イモっちゃんの手足を気にして、半端なことなんてしなくていいからね」

( ´_ゝ`)

(´<_` )

o川*゚ー゚)o 「と、いうわけで☆」

 魔女の姿が、大人の妖艶な肢体へ変化。
 今回はいつものドレスの上に、金糸で装飾を施された漆黒の法衣を羽織纏う。

o川*゚ー゚)o 「二人の気兼ねもちゃんと解消したし☆」

( ´_ゝ`)

(´<_` )

o川*^ー^)o 「あらゆる卑劣、あらゆる姑息、惜しまず使ってかかっておいで―――」

555名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:43:22 ID:ZWuj8HrY0
 
 
 
 
              o川* ー )o 「―――かわいいかわいい、ぼうやたち」
 
 
 
 
.

556名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:44:05 ID:ZWuj8HrY0























.

557名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:45:32 ID:ZWuj8HrY0


 終わりんこ
 章間&捕捉要素の強い回でした
 流石兄弟の戦いはまだ始まったばかりだ

 流れ上ごちゃごちゃしそうなところを校正段階で必要最低限に削って後回しにしたりすることが割とあるので
 状況・設定の説明足んねーぞく糞がみたいな意見は割と積極的に聞きいてゆくスタンス
 そもそも後でちゃんと触れるつもりだったりするし、毎回すぐ次の話でってわけにはいかないかもしれないけどNE

 次は未定。
 後々を考えると年内にあと二回くらい投下したいところ

558名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 22:48:56 ID:y30CCBtY0
おっつうううううう!!!
ああああもう流石兄弟かっこよすぎ!どうなんのか気になるまじで負けてほしくない!
死なないでくれ!でも試作ちゃんも気になるし二号もいるのかよ戦力過多だろ魔女!
ツンちゃんとヨコホリの決着が楽しみだし毎回楽しませてくれるぜまったく
次も楽しみにしてる!!まじおつ!!

559名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 23:03:04 ID:DFnLJevw0
乙でした!
ヨコホリ復活&パワーアップはやべぇ・・・
ツンが勝つには精神と時の部屋的なものにでも入るしかないんじゃね?

ついに動き出した流石兄弟の強襲に余裕のキュート
勝てるとは思えないが一矢報いて欲しい・・・!

560名も無きAAのようです:2014/11/03(月) 23:04:30 ID:YBkBFAKI0
乙!
相変わらず戦闘描写がカッチョイイからよんでてワクワクがとまらねぇや

561名も無きAAのようです:2014/11/04(火) 00:55:14 ID:8neSwcqc0
年内にもう二話分読めるとはありがたいおつ

562名も無きAAのようです:2014/11/04(火) 03:02:55 ID:sH4otxG20
ちゃんと更新が来ることのありがたさよ


563名も無きAAのようです:2014/11/04(火) 08:31:19 ID:sCpDCZFo0
おつおつ
展開が楽しみで仕方ねぇや

564名も無きAAのようです:2014/11/04(火) 08:56:33 ID:kW93JXU.0
乙!流石兄弟死なないといいなぁ…

565名も無きAAのようです:2014/11/04(火) 10:28:15 ID:GB1GJ/5U0
乙!次回が楽しみだ

566名も無きAAのようです:2014/11/04(火) 13:06:30 ID:.9I/c/LEO
乙。流石がどこまどおいつめれるか楽しみ

567名も無きAAのようです:2014/11/04(火) 19:21:28 ID:gTwP/b.Y0
乙!ツンちゃんとヨコホリがこれからどうなるのか凄く楽しみ!
そして流石兄弟の運命は・・・!次も楽しみにして待ってます!!

568名も無きAAのようです:2014/11/04(火) 20:30:35 ID:HBEJsTMw0
お疲れ様です

ブーンとドクオのコンビでさえ軽くあしらわれて合体とかさせられてんのに
母者たちどんだけ強いんだよ

569名も無きAAのようです:2014/11/05(水) 18:33:20 ID:i26UzKtc0
勝てるはずないと思いつつ勝って欲しいという思い

570名も無きAAのようです:2014/11/11(火) 01:15:28 ID:L29pkkPQ0
乙。ミルナパート好き

571名も無きAAのようです:2014/11/21(金) 20:29:59 ID:mClxtc2IO
乙!

573名も無きAAのようです:2014/12/02(火) 10:16:26 ID:wpLVTZuU0
乙乙

574名も無きAAのようです:2014/12/02(火) 17:58:36 ID:VnlhSgMcO
予告か思うから上げるなw

575名も無きAAのようです:2015/02/10(火) 03:41:47 ID:uRut4cMU0
時が経つのは早いな

576名も無きAAのようです:2015/03/12(木) 19:48:08 ID:sZZtD0Q60
27話が来ると聞いて
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1681.jpg

577名も無きAAのようです:2015/03/12(木) 20:49:41 ID:5CH8Qsnk0
真ん中はツンさんなのか二刀流だからブーンなのか男前だからツンさんなのか

578名も無きAAのようです:2015/03/13(金) 01:06:48 ID:wt6CbPT20
真ん中はツインテールだからツンちゃんだな
怒髪天をつくって感じか

579名も無きAAのようです:2015/03/13(金) 01:17:04 ID:/h/U8dyo0
>>576
諸星大二郎みたいな、かなり味のあるタッチだね!乙です。

580名も無きAAのようです:2015/03/14(土) 23:32:49 ID:vg5HKYY.0
日付代わってからになりそうッス
申し訳ないッス

581名も無きAAのようです:2015/03/14(土) 23:43:53 ID:bgc1v8Aw0
待ってるからァー!

582名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 00:27:18 ID:yhT/2x9s0
ゆっくりでよろしいのでお待ちしてます!

583名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 00:49:59 ID:TcFRh1C.0
全裸待機不可避

584名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:12:49 ID:ZE3.OEMQ0
いくよ
かこへんぽいかんじだよ

585名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:14:48 ID:ZE3.OEMQ0

( #´_ゝ`) 「なんでダメなんだよ!!」

∬´_ゝ`) 「……落ち着きなさい、アニジャ」

( #´_ゝ`) 「アネジャは黙ってってくれ。俺は父者と話してるんだ」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「……」

 アニジャはテーブルに拳を叩き付ける。
 向かい合う父はさして驚く様子も無く、冷たい目で兄者を見返した。
 そこに親愛の情は一切なく、純粋な侮蔑の意志のみが見て取れる。

 それが、まだ幼いアニジャの頭に、更なる血を登らせた。

 さらに口を開こうとしたアニジャの前に、手が翳される。
 アニジャが鬱陶しそうに視線を向けると、一転冷静に父を見返す、双子の弟の横顔。

(´<_` ) 「……父者、俺も兄者と基本的な考えは同じだ」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「やれやれ、オトジャの方はもう少し冷静かと思ったが」

( #´_ゝ`) 「どういう意味だよ!」

(´<_` ) 「兄者、落ち着け。父者、俺は至って冷静だ」

586名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:16:35 ID:ZE3.OEMQ0

 荒野の中心に忽然と現れる、オアシスを中心とした酒と娯楽と武力の街、VIP。
 その片隅、比較的閑静な住宅街の一軒家にて、その親子喧嘩は行われていた。

 家の中心のリビングに居るのは、サスガ家の内四人。
 大黒柱であるサスガ=チチジャ、長女のアネジャ、そして双子の兄弟であるアニジャ、オトジャ。
 もう二人、母と末っ子の妹が居るのだが、今は席を外している。

 一つのテーブルを挟み父と兄弟が向かい合い、姉は壁の傍で両者の動向を監視している。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「異国の内紛に干渉しようと言うのが、冷静な思考の末の提案であると?」

(´<_` ) 「ただの内紛じゃない。奴隷解放を目指す革命だ。力を貸してやるに足る理由はある」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「彼らの国の中で治める問題であることには変わらない。
       国として支援することはいいだろうが、直接戦闘に介入するのは領分を越えている」

(´<_` ) 「……チャンネルは、大ぴらにはしていないが、政府側を支援している」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「だろうな」

( #´_ゝ`) 「分かってるならなんで!!」

587名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:18:12 ID:ZE3.OEMQ0

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「何度も言わせるな。アニジャ。領分を越えている」

( #´_ゝ`) 「……」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「確かに私たちが介入すれば、戦争は容易く終息させられるだろう」

(´<_` ) 「……」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「だからこそダメだ。サスガは真理の探究者であって一介の戦争屋であってはならない」

( #´_ゝ`) 「あんただって……!」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「父親に向かってあんたとは何事だ」

( #´_ゝ`) 「あんたで十分だよ、この分からず屋。昔は、あんたたちだって戦争に参加してたんだろ」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「それは自国の為であった。それでもなお、私はあの日々を後悔している」

(´<_` ) 「自分の後悔を俺たちに押し付けるわけだ」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「そうだ。年長者はそうして、若輩を正しき道に導く役目がある」

588名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:19:43 ID:ZE3.OEMQ0

彡⌒ミ
( #´_ゝ`) 「お前たちのような無能が首を突っ込んで何ができる!!」
                                                 ドォッ
(´<_`# ) 「やってみなければ分からぬことはあるはずだ!」

 彡⌒ミ
( #´_ゝ`) 「無駄死にして終わりだよ!お前たちは世界の広さも己らの小ささも知らん!」

( #´_ゝ`) 「だから!あんた達の元でそれが分かるってのかよ!」
                                                      ゴォオ
 彡⌒ミ
( #´_ゝ`) 「いずれ見ることになる!その時を待てと言っているのが分からんのか!!」

(´<_`# ) 「分からんね!」

( #´_ゝ`) 「今俺たちの力を必要としている人が居るかもしれないだろ!!」

 彡⌒ミ
( #´_ゝ`) 「大局を見ることも出来ん小僧共が!!」
                                                  バチィッ
( #゚'_ゝ゚) 「うっせぇハゲ!」

 彡⌒ミ
( #゚'_ゝ゚) 「ハゲてねえよ!!」
                                              ドンッ
(´<_`# ) 「ハゲてはいるだろ!」



∬´_ゝ`) 「……こりゃもうだめね。母者呼んで来よう」

589名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:20:25 ID:ZE3.OEMQ0

 魔法を撃ち合い、罵り合いながら空を駆ける三人の阿呆を見上げ、アネジャは頭を掻いた。
 こうならないように話し合う機会を設けたのだが逆効果だったようだ。
 円滑で穏やかな家庭を望む彼女の気苦労は全く絶えない。

 アネジャはV響き渡る魔法の怒号を聞きながら、足早に近所の公園へ向かった。
 そこに母と妹がいる。
 話し合いの場に居ると弟たちが遠慮するので出かけて貰っていたのだ。

 「サスガさんちは今日も仲良しねえ」と空を見上げるご近所さんに頭を下げながら歩くこと、数分。
 目的の公園に着くと、母が妹を空高くに放り投げて遊んでいた。
 一見して虐待のようだが、投げられている方は満面の笑みで喜んでいる。

∬´_ゝ`) 「母者」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「分かってるよ。……だから無駄だって言ったんだ」


      ドーン!
                       バゴーン!!


l从・∀・*ノ!リ人 キ  キャッキャッ

∬´_ゝ`) 「……早く止めないと、叔父者に迷惑かかっちゃうよ」

590名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:21:35 ID:ZE3.OEMQ0

 @@@
@#_、_@
 (# ノ`) 「仕方ないね……“紅蓮盛りて―――”」

∬´_ゝ`) 「さぁ、姉者と遊ぼうねイモジャ、あぶないからね〜」

l从・∀・*ノ!リ人 キ  キャッキャッ

∬´_ゝ`) 「よく楽しめるわね、この状況……やっぱり血なのかしら……」

 火火火
火#_、_火
 (# ノ`) 「“―――炎神招来”」

 短い魔法式展開の後、ハハジャの体が炎に包まれた。
 単に燃えているのではなく、魔法による炎の外骨格を纏っているのだ。

 火火火
火#_、_火
 (# ノ`) 「アネジャ、イモジャをよろしく頼むよ」

∬´_ゝ`) 「うん」

 纏う炎を一際大きく膨らませハハジャは自宅の方向へ飛翔した。
 強化した筋力で跳躍、炎の噴射で滞空時間を延ばしているだけなのだが、
 中身が母であることもあって人間サイズの隕石にしか見えない。

∬´_ゝ`) 「さて、ゆっくり帰るころには終わるかな」

l从・∀・*ノ!リ人 キ  キャッキャッ

591名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:22:33 ID:ZE3.OEMQ0

 しばらくして。

∬´_ゝ`) 「ただいま」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「おかえり」


          ___              ___          ___
       //⌒___ \     //⌒___ \     //⌒___ \
      //_/    \\ \    //_/    \\ \   //_/    \\ \
               \\ \             \\ \             \\ \
                ((   |               ((   |           ((   |
                |  ∩                |  ∩              |  ∩
                |  | |             |  | |           |  | |
                |  | |             |  | |           |  | |
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 __________/__/_________/__/_______/__/______



∬´_ゝ`) 「さて、晩御飯の用意しなきゃ」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「今日はカレーにしようかね」

l从・∀・*ノ!リ人 キ  キャッキャッ


  *   *   *

592名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:24:06 ID:ZE3.OEMQ0

<_フ;゚ー゚)フ 「じゃあ、何か?それで家飛び出してきたってのか?」

( ´_ゝ`) 「そうだよ」

<_プー゚)フ 「お前ら何歳だっけ?」

(´<_` ) 「もう13歳だ」

<_プ ,゚)フ 「……もうって、俺より一回りも下じゃねえか!」

( ´_ゝ`) 「でもショーグンは戦力になれば誰でも良いって言ってた」

<_プ ,゚)フ 「…………いや、まあ、お前らが役に立つのは散々見たけどよ…………」

(´<_` ) 「エクストは大人なのに弱いよな」

<_プД゚)フ 「よっ……弱くはねえよ!これでも一応隊長やってんだよ!!」

( ´_ゝ`) 「革命軍は人員不足」

(´<_` ) 「ああ、人員不足だな」

<_プ ,゚)フ 「このクソガキ共…………」

593名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:24:40 ID:J9kJXq.Q0
支援

594名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:24:55 ID:ZE3.OEMQ0

 父との喧嘩の二カ月後、双子の兄弟は異国の革命軍のキャンプにいた。
 荒野の岩山の麓に出来た洞穴を利用した場所で、いわゆる見張り台としての役割をもっている。
 本拠はここからさらに西、本国の人間は知らないオアシスの元の廃墟群にある。

 この場に居るのは兄弟と、分隊長であるエクスト=プラズマンと

⌒*リ´・-・リ 「エクストたいちょぉ〜、おばちゃんがくれたよ〜〜」

 革命軍により開放され、そのまま革命軍に入った元奴隷のリリ=アウロリ。
 本拠へ戻っていた彼女が返ってきたので、丁度四人である。
 エクストの部下に当たる兵士は残り三人いるが、今はもう一つのポイントに出張っていて今は居ない。

⌒*リ´・-・リ 「あ、双子ちゃんもいる!食べる?豆の粉で出来た焼き菓子だよ!」

( ´_ゝ`) 「あ、はい」

(´<_` ) 「いただきます」

<_プー゚)フ 「なんでお前らリリには素直なの」

⌒*リ´・-・リ 「リリはお姉さんですから!」

 リリは、小柄な胸を精一杯張る。
 年齢は兄弟よりも上なのだが、彼女の身体ははるかに年下の少女に見えるほど、不自然に未発達であった。

595名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:25:45 ID:ZE3.OEMQ0

<_プー゚)フ 「リリ何歳だっけ?」

⌒*リ´・-・リ 「14歳!」

<_プー゚)フ 「はぁ〜〜〜、ガキばっかだよなぁ、ウチ」

( ´_ゝ`) 「でもこの中で一番弱いのエクストだよな」

(´<_` ) 「最弱」

⌒*リ´・-・リ 「隊長かっこわるい」

<_プ―゚)フ 「おまえらな……」

⌒*リ´・-・リ 「いいからお菓子食べましょ。はい、隊長」

<_プ―゚)フ 「……おう」

⌒*リ´・-・リ 「よっこいしょっと」

<_プ―゚)フ 「おい、俺に座るな」

⌒*リ´・-・リ 「地面堅い」

<_プ―゚)フ 「わかる」

⌒*リ´・-・リ 「隊長はリリの椅子」

<_プ―゚)フ 「わからない」

596名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:27:36 ID:ZE3.OEMQ0

⌒*リ´・-・リ  ポリポリ
   つOと

<_プ〜゚)フ  ポリポリ

( ´_ゝ`) モグモグ

(´<_` ) モグモグ

⌒*リ´・-・リ 「甘いもの久しぶり〜」

<_プー゚)フ 「な。砂糖どうしたんだろ」

⌒*リ´・-・リ 「どこかから支援があったって聞きましたよ」

<_プー゚)フ 「奇特なトコもあったもんだな。大抵の国が革命の波及を恐れて鎮圧を願ってるだろうに」

⌒*リ´・-・リ 「むずかしい。私たち、自由になりたかっただけなのに」

( ´_ゝ`) モグモグ

(´<_` ) モグモグ

<_プー゚)フ 「大丈夫、勝てるさ。外がどうだって、国内の大半は俺たちの味方なんだ」

( ´_ゝ`) 「…………」

(´<_` ) 「…………」

597名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:30:34 ID:ZE3.OEMQ0

⌒*リ´・-・リ 「じゃ、私向こうの人たちにも持ってくね!」

<_プー゚)フ 「ついて行かなくて大丈夫か?」

⌒*リ´・-・リ 「うん!なんたって私隊長より強いし!」

<_プー゚)フ 「おう。もうちょっと小さい声で言おうな」

( ´_ゝ`) 「今更だろ」

(´<_` ) 「公然の事実」

<_プ ‐゚)フ 「温もりが欲しい」

 手を振って出て行くリリを見送る。
 小柄で幼く見え、どう捉えても戦闘要員では無いが、事実「隊長より強い」という言葉は冗談では無い。

<_プー゚)フ 「ったく、どんどん生意気になりやがる」

(´<_` ) 「……嬉しそうだが」

<_プー゚)フ 「まあな。ガキが生意気ってのは、健康的で良い」

598名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:31:28 ID:ZE3.OEMQ0

( ´_ゝ`) 「なあ、エクスト」

<_プー゚)フ 「なんだ?」

( ´_ゝ`) 「リリって、奴隷、だったんだよな?」

<_プー゚)フ 「あれ、言ってなかったか?」

(´<_` ) 「ぼんやりとな。詳しくは聞いてない」

<_プー゚)フ 「そっか、すっかり全部知ってるもんだと思ってたわ」

( ´_ゝ`) 「どんな奴隷だったんだ。いくら雑に扱われていても、あんなに傷を負うとは……」

<_プ ,゚)フ 「……あー―……胸糞悪いからあんまり言いたい話でもないんだがな」

(´<_` ) 「それなら……」

<_プ ,゚)フ 「……いや、せっかくだから、聞いてくれ。手短にするからよ」

 この国には富豪や貴族など身分の高い人間同士の諍いが起きた場合、
 それぞれの所有する奴隷を戦わせその勝敗で落としどころを決める風習がある。

 いわば、代理決闘だ。
 当人たちの命を懸けずに済むため、些細な諍いでも行われるようになり、
 現代ではそれだけが目的の貴族の戯れの一つとなっていた。

 リリは、それに使われていたとある富豪の戦闘奴隷の一人である。
 金に物を言わせ調教し魔法によって改造し、齢14歳にして、身長140cm未満にして
 大型の獣を素手で屠る超人となった。

599名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:32:15 ID:ZE3.OEMQ0

<_プ ,゚)フ 「助け出してすぐは、あんなに表情も豊かじゃなったんだよ。
            ……やっと、呪縛が取れてきたように思う          」

( ´_ゝ`) 「……」

<_プー゚)フ 「お前らが来てくれたおかげもあると思うんだ。年が近い奴、いなかったからよ」

(´<_` ) 「……役に立てているなら、嬉しいが」

<_プー゚)フ 「んだよ、謙遜か?」

( ´_ゝ`) 「だって、あんまり役に立ててないし……」

<_プ ,゚)フ 「……おら」

( ;´_ゝ`) 「いってぇ!なんで蹴るんだよ」

<_プ ,゚)フ 「腹立つ」

( ;´_ゝ`) 「なんでだよ」

<_プ ,゚)フ 「お前等が役に立ってないんだったら俺は何だ、極潰しか?」

(´<_` ) 「エクストは人が良いから」

( ;´_ゝ`) 「うん」

<_プ ,゚)フ 「生々しいフォローやめろよ」

600名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:33:16 ID:ZE3.OEMQ0

(´<_` ) 「……次の作戦、リリも連れていくのか?」

<_プ ,゚)フ 「ショーグンはそのつもりだ。俺も、アイツの戦力は必要だと思ってる」

( ´_ゝ`) 「……いいのか?」

<_プ ,゚)フ 「なにが」

(´<_` ) 「エクストの、リリへの接し方は、戦力とかそういう観点じゃないように見える」

( ´_ゝ`) 「うん」

<_プ ,゚)フ 「……そりゃお前ら、あいつをただの「武器」とは見られねえだろ」

( ´_ゝ`) 「……」

(´<_` ) 「……」

<_プ ,゚)フ 「なんだよ」

( ´_ゝ`) 「まともな大人だ」

(´<_` ) 「初めて見た」

<_プ ,゚)フ 「お前らやっぱり俺をバカにしてるよな?」


   *   *   *

601名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:35:39 ID:ZE3.OEMQ0

 夜。夕刻に一旦仮眠を取った兄弟は、二人で見張りについていた。
 昼間は出張していた三人も戻り、他の兵は皆洞穴の奥で眠っている。

 荒野の夜は冷える。
 アニジャは毛布にくるまり、索敵の魔法を見つめていた。
 球形に浮き上がる青いビジョンには、なんの反応も映っていない。

( ´_ゝ`) 「…………寒いな」

(´<_` ) 「兄者、湯を沸かしてきた」

( ´_ゝ`) 「流石だなオトジャ」

(´<_` ) 「……どうだ?」

( ´_ゝ`) 「有視界範囲には接近は無い。探知もとりあえず反応は無いな」

(´<_` ) 「変わろう。わたせ」

( ´_ゝ`) 「おう……」

(´<_` ) 「……接続良好。探知範囲にノイズ無し」

602名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:36:32 ID:ZE3.OEMQ0

 静かな夜だった。
 空は晴れており、お蔭で気温は低いが、風はさほど強くない。
 時折吹くのに身を縮めればよい程度で、この荒野としては穏やかな方である。

 アニジャは受け取った湯のカップで指を温めながら。
 オトジャは索敵の魔法の精度を高めながら、透明な空気の夜を過ごす。

 見惚れては居られないが、星が綺麗だ。
 白く曇る息の先に、はっきりとした星屑の靄が見える。

( ´_ゝ`) 「……勝てると思うか」

 土嚢に背を預け、空を仰ぎ見ながらアニジャが問う。
 本人としてはつい零れてしまった言葉に過ぎなかったのだが、態々取り消す気も起きず、弟の返事を待つ。

(´<_` ) 「……さあ、な」

( ´_ゝ`) 「……正直、難しいと思うんだ。俺は」

(´<_` ) 「……」

603名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:37:23 ID:ZE3.OEMQ0

( ´_ゝ`) 「確かに、今のところ民意は革命に傾いてる。でも、それだけじゃ勝てない」

(´<_` ) 「実際のところ、人も武器も足りてないからな」

( ´_ゝ`) 「俺たちみたいなガキが受け入れられたのだって、結局はそういう背景だ」

(´<_` ) 「そこは、ちゃんと腕を買ってもらったと思おう」

( ´_ゝ`) 「つったって、あんまり役に立ててないしな……」   ズズズッ
  つU
 
(´<_` ) 「……まあ、な」

( ´_ゝ`) 「剣も魔法も、もっと上手に使えるつもりだったんだけどな」

(´<_` ) 「……経験の問題だろう。すぐに慣れるはずだ」

( ´_ゝ`) 「ちゃんとした師匠、欲しいよなー。父者たちは頑なに戦闘用の簡易魔法教えてくれなかったし」

(´<_` ) 「……とはいえそこらの魔法使いじゃ、役に立たんがな」

( ´_ゝ`) 「なーにが、真理の探究者だ。肝心な時に使えなきゃ、魔法なんて何の意味も無いっての」

(´<_` ) 「……」

604名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:38:17 ID:ZE3.OEMQ0

⌒*リ´・-・リ 「……やっほー、双子ちゃん」

(´<_` ) 「リリ?もう交代の時間か?」

⌒*リ´・-・リ 「んーん。何となく眠れないから」

( ´_ゝ`) 「冷えるだろ。中に居た方が良い」

⌒*リ´・-・リ 「へーき、もっと寒い夜に木の根を枕に寝たことだってあるもん」 エッヘン

(´<_` ) 「……兄者」

( ´_ゝ`) 「分かってるよ。ほら、リリ。入れ」

⌒*リ´・-・リ 「大丈夫だって」

(´<_` ) 「出てきた今は平気でも、すぐ寒くなるだろ。入れ」

⌒*リ´・-・リ 「んー―……わかった……」  モゾモゾ

⌒*リ´‐ ,‐リ 「……あったかい」

( ´_ゝ`)   ズズッ......
  つU

605名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:39:40 ID:ZE3.OEMQ0

⌒*リ´・-・リ 「……ねえ、なに話してたの?」

(´<_` ) 「ん?」

⌒*リ´・-・リ 「二人とも怖い顔してた」

( ´_ゝ`) 「……見張りを笑顔でやる奴なんていないよ」

⌒*リ´・-・リ 「それもそっか……」

 それからリリも無言になった。
 兄弟の間に挟まりながらも体勢を変え、上を向く。
 白い息が風に靡いた。

 しばし誰も口を開かず、各々に荒野の地平を見つめる。
 リリの視線の先には僅かにぼんやりと灯りの見える、王国の城下町があった。

⌒*リ´・-・リ 「双子ちゃんは、革命に味方したくて、家出してきたって、たいちょーが言ってた」

( ´_ゝ`) 「ああ」

⌒*リ´・-・リ 「なんで?」

( ´_ゝ`) 「なんでって、言われてもな……」

⌒*リ´・-・リ 「私たちが可哀想だから?」

( ´_ゝ`) 「そうじゃないよ。現状なんて、来て初めてちゃんと把握したんだから」

606名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:41:20 ID:ZE3.OEMQ0

(´<_` ) 「……都合がよかったんだよ」

⌒*リ´・-・リ 「つごー?」

( ´_ゝ`) 「オトジャ」

(´<_` ) 「今更リリたちに嘘を言ってどうする」

⌒*リ´・-・リ 「どういうこと?」

(´<_` ) 「自分たちの力を試したかった。そのために、戦場が必要だったんだよ」

( ´_ゝ`) 「……大義名分をもって、心置きなく力を振るえる戦場が、な」

⌒*リ´・-・リ 「それが、革命軍だったの?」

(´<_` ) 「そうだ。世論には支持されているはずが、状況は劣勢の革命軍。これ以上の場所はないと思った」

( ´_ゝ`) 「奴隷制が残ってるのも胸糞が悪いし、敵に対して遠慮しなくて済むと、思ったんだ」

⌒*リ´・-・リ 「……そうだったんだ」

( ´_ゝ`) 「……すまん」

⌒*リ´・-・リ 「……」

(´<_` ) 「……今は、ちゃんとお前たちを勝たせたいと思っている」

⌒*リ´・-・リ 「……」

607名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:42:01 ID:ZE3.OEMQ0

 再びの沈黙。
 珍しく風がやみ、静けさが耳に痛い程だ。
 双子は時折魔法の管理を交換しながら地平に怪しい動きないか目を凝らしている、

 どれほどの時間が経っただろうか。
 アニジャの持っていた飲み残しの湯が完全に水に戻ったころ、リリの頭が前後に揺れ始める。
 顔を見ると、瞼を重たげに今にも寝入ってしまいそうだった。

(´<_` ) 「……リリ」

⌒*リ´ - リ 「……寝てないもん」

( ´_ゝ`) 「……」   ファサッ

⌒*リ´ - リ 「…………アニちゃん、オトちゃん」

( ´_ゝ`) 「なんだ」

⌒*リ´ - リ 「……それでもね、助けに来てくれて、嬉しい」

( ´_ゝ`)

⌒*リ´ - リ 「……ありがとう」

( ´_ゝ`)

(´<_` )

⌒*リ´  , リ   スゥー―......

608名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:43:24 ID:ZE3.OEMQ0

( ´_ゝ`) 「……」

(´<_` ) 「……」

⌒*リ´  , リ   スヤスヤ......

( ´_ゝ`) 「……来て正解だったと、思うか」

(´<_` ) 「……それはこれから決まることだろ」

( ´_ゝ`) 「……そうだな」



                    ヒュゥゥゥゥ......

                               カサササッ......



  *   *   *

609名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:44:30 ID:ZE3.OEMQ0

 怒号の響き渡る戦場の中を、エクストは駆けていた。
 双子とリリ、よりによって一番気にかけなければいけない子供たちとはぐれてしまった。

 他に残っていた部下も既にやられている。
 エクスト達が遊撃隊として援護するはずだった本体もほぼ壊滅状態。
 最後の望みをかけて行った王都侵攻作戦は、この段階で、事実上の失敗だった。


<_フ;゚Д゚)フ 「ハァッ、ハァッ……、せめて、アイツらをにがさねえと……!」

<_フ;゚Д゚)フ 「……クソッ!いねえ!

<_フ;゚Д゚)フ 「双子が居りゃあ、大丈夫だろうが……」

〈 =oOo〉 「……いたぞ!テロリストの残党だ!」

<_フ;゚Д゚)フ 「……ああ、やってらんねえ……!!」


 エクストは戦わずに逃走を選択。
 侵攻に失敗した今、優先すべきは一人でも多くの命を連れて逃げること。
 それは、作戦開始前にリーダーである元将軍が言っていたことでもある。

610名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:45:19 ID:ZE3.OEMQ0

 一方、隊からはぐれた兄弟とリリは、破砕された民家の陰に身を寄せ、息を顰めていた。
 兄弟は体の数か所に擦り傷があるのみで、目立った外傷はない。

 問題は、リリの方である。
 敵の魔法兵の放った爆破魔法から兄弟を庇い、飛び散った家屋の破片を腹に受けてしまったのだ。
 絶え間なく敵と遭遇するため真面に処置する余裕が無く、破片は刺さったままになっている。

( ;´_ゝ`) 「エクストは?」

(´<_`; ) 「分からん。あれでも腕は立つから、死んだとは思いたくないが……」

⌒*リ´ - リ 「……ぅ、」

( ;´_ゝ`) 「リリ」

⌒*リ´ - リ 「……ごめん、双子ちゃん……私、お姉ちゃんなのに……」

(´<_`; ) 「喋るな、今傷を……」

( ;´_ゝ`) 「……?!」

 魔法による止血を試みようと、オトジャが魔法式を展開する。
 しかし、組み上がる前に荒々しい足音が響いた。

 敵兵だ。
 恐らく、魔法適正のある者に、魔法の気配を察知されたのだ。

611名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:46:45 ID:ZE3.OEMQ0

〈 =oOo〉 「誰かいるのか?!」

( ;´_ゝ`) 「チッ」

〈 =oOo〉 「……おまえらぁ、革命軍のガキだな?」

 兜の隙間から、兵士の口が歪むのが分かった。
 こちらが子供とみて、油断したのだろう。
 あるいは、良からぬ性癖によって喜んだとも取れるが。

 しかし、その傲慢は、兄者が間を詰め、鎧の隙間より剣を突き刺すのに十分な時間であった。

〈 =oOo〉 「…………あえ?」

 剣を抜くと同時に血が噴き出す。
 アニジャは崩れ落ちる敵兵の体を慌てて支え、音が経つのを防いだ。

 しかし、力を失った手から剣が落ち、けたたましい音を鳴らす。


    「なんだ、今の音は?」

    「おいどうした、何があった!」

( ;´_ゝ`) 「……くそ、ここもダメだ」

612名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:48:04 ID:ZE3.OEMQ0

(´<_`; ) 「一先ずここを出よう」

⌒*リ´ - リ  ハァッハッ......

( ;´_ゝ`) 「リリ、辛いけど我慢してくれ」

⌒*リ´ - リ 「ごめん、ね…………」

(´<_`; ) 「……急ごう!」

     「居たぞ!!」

( ;´_ゝ`) 「!」

 移動しようと、建物の陰から顔を覗かせた瞬間を、物音に寄ってきた敵兵に見つかる。
 敵は五人。全員がぬかりなくすぐに武器を構えた。
 先ほどのような奇襲は難しい。傷を負ったリリを抱えながら正面切って戦うには辛い人数差だ。

( ;´_ゝ`) 「クソ……」

(´<_`; ) 「アニジャ、俺が何とか道を開くからリリを連れて……」

     「オトジャァアアアッ!!下がれェエエ」

( ;´_ゝ`) 「「!!?」」(´<_`; )

613名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:49:08 ID:ZE3.OEMQ0

 突然の雄叫び。
 その方向も定かでないうちに、壁の向こうから人影が飛び出した。

 煤焦げた壁の上部を蹴ったその男は、敵兵の前に。
 着地と同時に手斧を振り下し、兜ごと敵の頭をかち割った。
 動揺する残りの四人のうち、最も手近に居たもう一人に、すぐさま斧を振り上げる。

 敵兵は反射的に盾を顔の前に引き上げたが、これはブラフ。
 振り上げられた斧は半円を描いて横に滑り、がら空きになった肋骨を肺ごと割り潰す。

( ;´_ゝ`) 「エクスト!!」

 突然現れたその男は、はぐれた仲間、遊撃隊隊長のエクストだった。
 全身が血と埃にまみれており、相当の修羅場を強引に抜けてきたことが問わずともわかる。

<_フ;゚Д゚)フ 「ガキども!行くぞ!!」

〈 =oOo〉 「残党がァ!させるか!!」

<_フ;゚Д゚)フ 「やるかオラァアアアア!!!」

(´<_`; ) 「“蒼海に潜りて―――碧き刃を振るい―――魚を断つ!!”」

〈 =oOo〉 「?!」

 オトジャの放った水の刃が残っていた敵兵の首を切り裂いた。
 エクストに気を取られていたせいか防御は無し。断たれた動脈から血飛沫が噴き出す。

614名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:49:57 ID:ZE3.OEMQ0

<_フ;゚ー゚)フ 「……おいおい、俺要らなかったじゃねーか。流石だな」

(´<_`; ) 「いや、助かった。ありがとうエクスト」

<_フ;゚ー゚)フ 「良いから行くぞ、市街に脱出する!」

 エクストは再会を喜ぶ余裕も無く、すぐに走り出した。
 今は彼の導きに従うしかない。
 兄弟もリリを担ぎ、すぐにそのあとを追う。

( ;´_ゝ`) 「どうやって抜けるんだ?どこもかしこも」

<_フ;゚ー゚)フ 「いざって時の隠し通路があるんだ、そこまでいけば……」

(´<_`; ) 「……!?待て!!」

 最後尾で魔法による探知を行っていたオトジャが、前を行くエクストとアニジャの襟首を掴む。
 あまりに急だったので、二人は首を絞められ、目を白くする。
 オトジャはふらついた男達とリリを引っ張り、瓦礫の影に身を隠した。

 少し顔を覗かせて睨む先に居たのは敵の兵士たち。

615名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:50:42 ID:ZE3.OEMQ0

〈 =oOo〉 「居たか?」

〈 =oOo〉 「新たに四名の残党を捕縛しました。やはりこの枯れ井戸、地下通路になっているようです」

〈 =oOo〉 「よし、これを餌として罠をはれ!くれぐれも逃がすなよ!!」

 敵の数は十余名。
 全員が武装しているが、見たところ戦闘の痕跡は無い。

 恐らく、残党狩りを任された部隊なのだろう。
 複数人で組みながら、近辺の瓦礫の陰などを探っている。
 隠れている四人に気付くのは時間の問題だ。

(´<_`; ) 「ダメだ……ここは、もう」

<_フ;゚Д゚)フ 「そんな……嘘だろ……」

⌒*リ´ - リ 「ハァッ、ハッ……ゥグ……」

( ;´_ゝ`) 「……エクスト、離れよう」

<_フ -)フ 「……ああ」

616名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:52:00 ID:ZE3.OEMQ0

<_プ-゚)フ 「……リリの傷はどうだ」

(´<_` ) 「急所は外れてる。少し血を流し過ぎたが、リリなら回復は見込める」

<_プー゚)フ 「……そうか」

 目的にしていた集合ポイントから、さらに身を隠し移動したのは、とある民家の地下倉庫だった。
 入口に丁度良く瓦礫が覆いかぶさり、入ることは出来るが目立たないようになっている。
 ここならば、しばらく敵の目をやり過ごすことが出来るだろう。

( ´_ゝ`) 「……周囲はダメだ、やっぱり王国軍がうじゃうじゃしてる」

(´<_` ) 「……ここまで露骨に残党狩りしてるって、ことは」

<_プ-゚)フ 「……俺たちも、終わりだな」

( ´_ゝ`) 「……」

(´<_` ) 「一体、どうして王国軍はあんなに一気に盛り返したんだ」

<_プ-゚)フ 「数人、変な魔道具を使う兵が居た。あいつらの魔法で、主力の部隊がやられて総崩れだ」

(´<_` ) 「……魔道具か。ものによっては、確かにな」

( ´_ゝ`) 「なんとかできないのか」

(´<_` ) 「……」

617名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:53:09 ID:ZE3.OEMQ0

<_プ-゚)フ 「……お前ら、怪我は?」

( ´_ゝ`) 「大したものは無い。戦闘の継続は可能だ」

(´<_` ) 「同じく。魔力もまだ十分ある」

<_プー゚)フ 「よし、じゃあお前ら二人は逃げろ」

( ´_ゝ`) 「……は?」

<_プー゚)フ 「お前ら二人だけでなら何とか逃げられるだろ。ここを感づかれて囲まれる前に逃げろ」

( ;´_ゝ`) 「そんなこと、出来るわけないだろ!」

<_プー゚)フ 「俺は裏切り者の元国軍兵士だし、リリは奴隷だ。絶対に見逃しちゃもらえないが、お前らは違う」

( ;´_ゝ`) 「違う、そういうことじゃない!そんなこと、やったらダメだって言ってるんだ!」

<_プー゚)フ 「お前らには世話になった。最期まで付き合わせるわけにはいかねえよ」

(´<_` ) 「……あんたはどうするんだ」

<_プー゚)フ 「そうさな……リリを連れて投降。革命軍残党の情報でも嘯いて命乞いしてみるか」

( ;´_ゝ`) 「だめだろそんなの!」

(´<_` ) 「アニジャ声がでかい」

( ;´_ゝ`) 「……万が一制裁を逃れられても奴隷に戻っちゃうんだぞ。いや、むしろ前よりも……」

<_プー゚)フ 「お前らには関係ないことだ。お前らが残ったって結果は同じだしな」

618名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:54:45 ID:ZE3.OEMQ0

( ;´_ゝ`) 「そうかも、しれないけど!」

(´<_` ) 「……待て、二人とも」

 潜ませた声でオトジャが二人を制す。
 耳を澄ませると、地面を踏む足音が複数。
 たまたま通りがかったというには、人数が多すぎる。

(´<_` ) 「気づかれた」

<_プ-゚)フ 「チッ」

(´<_` ) 「……人数は、二十弱か。まだ増えるかもな」

<_プ-゚)フ 「お前らなら何とかぬけられるだろ。俺が囮になるから」

( ´_ゝ`) 「……逃げないよ」

<_プ-゚)フ 「いうこと聞けクソガキ」

( ´_ゝ`) 「お断りだ。俺たちは大人の言うことが聞けないからここに居るんだ」

(´<_` ) 「まったくだな。どうする気だ」

( ´_ゝ`) 「今取り囲んでる兵士を出来るだけ倒して、挑発した上で引きつけて逃げる」

(´<_` ) 「……その隙に、リリを連れて逃げられるかエクスト」

<_プ-゚)フ 「お前ら……」

619名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:56:17 ID:ZE3.OEMQ0

( ´_ゝ`) 「時間が無い、行くぞオトジャ」

(´<_` ) 「ああ」

<_プ-゚)フ 「おい!」

( ´_ゝ`) 「俺たちは自分たちの力を測りたくて。強くなりたくてここに来た」

(´<_` ) 「せめてあんたらだけでも助けられなきゃ、コケンに関わるんだ」

<_プД゚)フ 「だから……」

 制止しようとするエクストを無視し、双子は地下室を飛び出した。
 間もなく、怒号と剣のぶつかり合う音が響いてくる。
 とても二対多とは思えないほど、絶え間なく激しい戦闘の音。

 それが、双子がまだ生きている証明であり、これから殺されるかもしれない不安でもあった。

<_プ-゚)フ 「……クソ……ッ!」

⌒*リ´ - リ 「たい……ちょお……?」

620名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:58:17 ID:ZE3.OEMQ0

 エクストの腕の中で、リリが意識を取り戻した。
 状況を呑み込めていないのか呆けた目で顔を見上げてくる。
 そっと、優しく、エクストはその額の脂汗を指で拭った。

<_プ ,゚)フ 「リリ、大丈夫か?」

⌒*リ´ - リ 「……私は、平気。それより双子ちゃん……」

<_プ ,゚)フ 「……」

⌒*リ´ - リ 「わたしも戦うから……双子ちゃんを、助けにいこう」

<_プД゚)フ 「そんな傷で戦ったら死んじまうだろうが」

 傷に響かないよう、少しだけ強くリリを抱きしめて窘める。
 そんなエクストの頬に、小さな手が伸びた。
 
 傷跡だらけの腕だ。
 刃物では無く、鞭や鈍器で作られた引き裂かれたような抉れたような歪な白い蛇行。
 エクストはその痕にそっと指を這わせる。

 僅かに感じる凹凸は、それがいかに深くリリを苦しめていたかを物語っていた。

621名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 01:59:23 ID:ZE3.OEMQ0


⌒*リ´ - リ 「……わたしは、ほんとうなら、もうしんでた」

<_プ-゚)フ 「……ッ」

⌒*リ´ - リ 「……あの時たいちょーがきてくれなかったら、きっと……」

<_フ  )フ

⌒*リ´ - リ 「……あそこには怖いものしかなかったもの」

<_フ  )フ

⌒*リ´ - リ 「だから、これでじゅうぶんだよ。自由を夢見れたそれだけで………」

<_フ  )フ

⌒*リ´ - リ 「…………だから」

622名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:00:58 ID:ZE3.OEMQ0

 リリの言葉を、轟音が遮った。
 落雷の音。ただ、雲もない今日の陽気には、あまりに突拍子の無い音だ。

 エクストの頭に、仮面をかぶった敵兵の姿が浮かんだ。
 本来であればもっと善戦できたはずの革命軍を壊滅にまで追い込んだ、妙な魔道具を扱う集団。
 奴らが用いていたのは、一瞬見ただけではあるが、雷を操る類のものだった。

 となると。

⌒*リ´ - リ 「たいちょー、双子ちゃんが……」

<_プ ,゚)フ 「……」

 雷鳴を境に、戦闘の音が止んでいた。
 立ち去る雑踏も無い。
 幾つか聞こえた敵兵の声が聴き間違いでなければ、恐らくあの兄弟は。

<_プ-゚)フ 「……わかった、いくぞ」

⌒*リ´ぅ- リ

<_プ-゚)フ 「ギリギリまで俺を食え、出来るな?

⌒*リ´・-・リ 「……うん!」

  *  *  *

623名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:03:03 ID:ZE3.OEMQ0

〈;;;( ∵)〉 「やれやれ、やっと大人しくなりましたな……」

( ´_ゝ ) 「……クソ」

 地下室から飛び出した双子は、実力以上に善戦したといえる。
 魔法を撃ち、剣を振るい、倍も生きた大人の兵士たちを鬼気迫る勢いで倒し伏した。

 残党を狩るつもりでだらけた敵兵たちはその気迫に圧倒され、一見して兄弟が勝利するかに思えた。
 実際に、勝てると確信した。
 魔力は十分。士気も、実力も息を合わせた二人の方が十数の敵よりも勝っていたのだから。

 が。

〈;;;( ∵)〉 「さぞ名のある親を持つのだろう。その力、凡百のものとは思えん」

( <_` ) 「……」

〈;;;( ∵)〉 「まあ、我らが『雷虎豹』の前では、所詮小童よ。ククク……」

 この、仮面の男が現れ戦況は一転した。
 腕の魔法具から放たれた痛烈な稲妻が、圧倒的な威力で兄弟を焼き払ったのだ。
 辛うじて展開した防御魔法も功を奏すことは無く、アニジャ達は撃で戦闘不能に陥っていた。

 仮面の男はくぐもった笑いを漏らす。
 アニジャは、痺れと痛みに満ちた体を起こそうとするが、指先すらも動かない。
 無様であった。
 叫びを上げそうになる。

 揚々と家を飛び出し、よその戦場に首を突っ込み、勝利に導くととすらできず。
 そして、この有様だ。
 格下の兵相手にどれだけ無双しようと、一たび手練れに会えばあっさりと負ける。それでは意味が無い。
 父の言葉が、苦痛で鈍る頭の中に反響する。

624名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:04:53 ID:ZE3.OEMQ0

〈;;;( ∵)〉 「もう抵抗も出来ませんでしょう」

〈 =oOo〉 「手を煩わせてすまなんだ。後は我々が処理しよう」

 仮面の男に変わり、敵の兵士がアニジャの前へ。
 腰の剣を抜き、振り上げる。

〈 =oOo〉 「多く仲間を殺したてめえらは、この場で首を落とす」

〈 =oOo〉 「待て、生きてる者は捕らえよと……」

〈 =oOo〉 「ばれやしねえ!殺さねえと腹の虫が収まらねえんだよ!」

 陽光を浴びた剣がぬらりと光る。
 アニジャは歯を食いしばり、その鈍色の死を睨むしかできなかった。

〈 =oOo〉 「死ね!」

 振り上げられた剣が今まさにアニジャに振り下ろされんと言う時、豪快な破砕音が響き渡った。
 地下倉庫への入口に覆いかぶさっていた木の棚が木端微塵になり、空高く舞う。

 誰もがその光景を目で追った。
 剣を振り上げていた兵も、咄嗟に身を竦めそちらに顔を向けた。

 雷撃を受け瀕死となったアニジャとオトジャも、それを見ていた。
 そして、心から落胆する。

625名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:05:53 ID:ZE3.OEMQ0

 瓦礫を破壊し、地下室から飛び出したのは一人の少女だった。
 年は十四。しかしながら身の丈は精々130cmと少しだけ。
 リリ=アウロリ。
 せめて無事に逃げ延びてほしいと願った彼女は、木端舞い散る中をまるで猫を彷彿とさせるしなやかさで回転する。

 多くの視線と意識を引きつけたまま落下し、四足を使っての着地。
 そのまま獣の如く、体を屈め縮める。

〈 =oOo〉 「が?!」

 全身の力を弾けさせ、リリは最も近くに居た敵兵に飛び掛かった。
 俊敏の一言。
 取りつかれた兵士が抵抗した数秒の間に、首がへし折られる。

〈 =oOo〉 「改造奴隷か!」

 リーダー格が叫ぶのよりも早く、リリは次の獲物へ飛び掛かる。
 狙ったのは、アニジャを今まさに殺さんとしていた兵士。
 自身が狙われていることに気づいたその兵は、迫るリリに振り上げていた剣を叩き付ける。

626名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:07:12 ID:ZE3.OEMQ0

 しかし、遅い。
 リリは無秩序ともいえる機動で斬撃を回避。
 そのまま兵士の背後を取り。

⌒*リ#´・Д・リ 「がうー!!!」

 股間を下方から、思いっきり掴み上げた。
 ダメ押しで、手に触れた柔らかい何かを思いっきり握り潰す。
 兵士は蛙のような悲鳴で泡を吐き出し、地面に崩れ落ちた。

 この光景に、大半の敵兵がたじろぐ。

⌒*リ#´・Д・リ 「アニっちゃん大丈夫?!」

( ´_ゝ ) 「リリ、なんで」

⌒*リ´・-・リ 「貴方たちが私たちを逃がすために戦うって、言ってくれたから」

( ´_ゝ ) 「馬鹿な……」

⌒*リ#´・Д・リつミ 「がおー!!近づいたらタマタマミンチだよ!!!!」
    つミ

 小柄で、なおかつ歳不相応に童顔のリリに、敵兵たちが気圧される。
 金的とは確かに、ただ殺すよりも遥かに戦意を削げる。

627名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:08:17 ID:ZE3.OEMQ0

〈;;;( ∵)〉 「あの小娘、ただの人ではありませんな」

〈 =oOo〉 「魔法で体を弄られた改造人間だ。お偉い方の玩具だよ。あんな成りで大型の獣を素手で殺しやがる」

〈;;;( ∵)〉 「ほう。それはそれは」

 仮面の男が、前に出た。
 リリの威嚇に迂闊に近づけぬ他の者どもを尻目に、全く怖気ることなくリリに近づく。
 黒衣を纏ったその腕には、金輪の魔道具。

( ´_ゝ ) 「リリ、お前、腹の傷……」

⌒*リ#´・Д・リ 「ヘーキ!たいちょーのこと食べたから!!」

 言葉とは裏腹に、リリの足を血が伝って落ちる。
 応急処置で塞いだ傷が、全てでは無いが開いているのだ。
 背を向けられているためアニジャからは良く見えないが、顔色も決して良くは無い。

 当然である。
 いくら回復力が常人より優れているとはいえ、瓦礫で負った傷は複雑で、そう容易く治癒するものでは無い。

⌒*リ#´・Д・リ 「がうー!!こっち来ないで!!」

〈;;;( ∵)〉 「こわいこわい」

628名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:09:35 ID:ZE3.OEMQ0

 仮面の男が手を翳す。
 瞬時に雷光が走った。

 リリは腕の動きのみでタイミングを見切り回避。
 攻め込まずに距離を取り、別の兵士の陰に回って盾とする。

 仮面の男は躊躇わず雷撃を放つ。
 リリは機敏に逃走。
 取り残された敵兵のみが雷に撃たれ白目を剥いて崩れ落ちる。

〈 =oOo〉 「貴様ッ!」

〈;;;( ∵)〉 「おっと、失敬」

 尚も雷撃は止まらない。
 リリも一切止まらず、跳ねまわって回避を続ける。
 戦闘不能に陥るのは敵兵ばかりではあったが、リリの機動力も徐々に落ちていた。
 
⌒*リ;´・Д・リ 「ハァハァ……」

〈;;;( ∵)〉 「鬼ごっこは、終わりでよろしいかな」

 リリが貧血でふらつき、地面に膝をつく。
 消耗の差は歴然だ。仮面の男は特に疲労した様子も無く魔道具をリリに向ける。

( ´_ゝ ) 「リリ!」

⌒*リ;´・-・リ 「ッ!」

629名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:10:51 ID:ZE3.OEMQ0

       「終りなのは……」

〈;;;( ∵)〉 「ッ?!」

<_フ#゚Д゚)フ 「てめえだオラァァ!!」

 柄の悪い雄叫びと共に飛来した斧が、仮面の男の背中を捉えた。
 骨の砕ける音が響き渡る。
 見事なクリーンヒットだ。仮面の隙間から血を吹き出し、膝を着く。

<_フ#゚Д゚)フ 「所詮道具頼りのてめえが!」

 恐らくは、リリが暴れている間に移動していたのだろう。
 元隠れていた廃墟とは別の建物から飛び出したエクストが仮面の男に全力で駆けより。

<_フ#゚Д゚)フ 「狩人気取ってんじゃねえぞクソモヤシ!!」

 全体重を乗せたドロップキックを頭部にお見舞いする。
 仮面の男は受け身なしの状況でその直撃を喰らい、首をありえない角度にへし折られながら吹き飛んだ。

⌒*リ;´・-・リ 「たいちょー、遅い」

<_フ;゚ー゚)フ 「すまん!だけどこれでなんとか……」

三〈;;;( ∵)〉 三〈;;;( ∵)〉 三〈;;;( ∵)〉 三〈;;;( ∵)〉 三〈;;;( ∵)〉 三〈;;;( ∵)〉 三〈;;;( ∵)〉 ゾ゙ロロロロッ!!

<_フ  )フ    ;゚Д゚ 「一体何人いるんだよ!!!」

630名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:12:47 ID:ZE3.OEMQ0

( ´_ゝ ) 「……チッ」

( <_` ) 「あり得ない展開でも、無かったがな」

⌒*リ´・‐・リ 「そんな……」

 虫のように次々現れた魔道具兵が四人を取り囲んだ。
 数は十。
 皆、先の一人と同じく腕に魔道具を装着している。

 リリが、その場にへたり込んだ。
 顔を俯くまではしなかったが、その横顔に希望は見えない。

〈;;;( ∵)〉 「遊び過ぎた阿呆とはいえ同胞を殺されては、われわれも大人しく帰るわけにはいかんのだ」

<_プД゚)フ 「クッソ!」

〈;;;( ∵)〉 「まずは、貴様だ」

<_フ  )フ 「!!!」

 エクストの体が、雷の光と声に呑み込まれた。
 激しい明滅。耳を抜けて頭を貫く轟音。
 それでも目を背けられず、光の中にエクストの姿を探した少年少女の前に再び現れたのは。

⌒*リ´ Д リ 「たいっ……ちょお……!」

 命も面影も奪い去られた、人型の黒。
 自重によって地面に崩れ、そのままピクリとも動かない。

631名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:14:38 ID:ZE3.OEMQ0

⌒*リ´ ‐ リ 「……たいちょう」

〈;;;( ∵)〉 「次は、お前」

( ; _ゝ`) 「だめだ逃げろ!」

(´<_ ; ) 「リリ!」

⌒*リ# Д リ 「やだぁ!!!」

 リリの全身が、にわかに膨らんだ。
 小さな体に似合わぬ、筋肉の膨張。
 四足の獣の如く、地面を握り、全身の力で最も近い仮面の男に飛び掛かった。

( ; _ゝ`) 「リリ!!」

 伸ばした手の、その指の間。
 アニジャはそこから、少女が消え去る瞬間を見た。
 本のページを破りとるような、強制的で圧倒的な排除であった。

〈;;;( ∵)〉 「やれやれ、あまりに恐ろしいので焼き過ぎてしまった。臆病ものはこれだからいかんね」

 一人がおどけて肩をすくめると、他の数人から顰めた笑いが漏れる。
 目の前に倒れるリリの死骸は、それが本当に人であったか疑う程、原形を留めていない。

632名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:16:02 ID:ZE3.OEMQ0

〈;;;( ∵)〉 「さてと、そちらの双子には、さほど恨みは無いのだが……」

〈 =oOo〉 「おい、待て」

〈;;;( ∵)〉 「なにか

〈 =oOo〉 「そいつらは俺たちが捕らえる。貴様らはもう下がれ」

〈;;;( ∵)〉 「……暴れられたら厄介では?」

〈 =oOo〉 「ふん、このざまであれば関係ない。おい、縛れ」

〈 =oOo〉 「殺さないのですか?」

〈 =oOo〉 「捕らえよとの命だ。晒す首は多い方がいい、とな」

〈 =oOo〉 「悪趣味なことで」

〈 =oOo〉 「口が過ぎるぞ」

〈 =oOo〉 「は、ではただちに拘束し、牢へ!」

 双子の体に縄が巻かれて行く。
 アニジャは、抵抗せず大人しく拘束されていた。
 一瞬魔法を組み上げようとしたオトジャも、それを見て抵抗を諦める。

 完全に腕を固められ、強引に連れられる最後、アニジャは首だけで振り返った。
 兵士に背を突かれ、向き直るまでの一瞬に見えたリリとエクストは、やはり死んでいる。


  *   *   *

633名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:16:46 ID:ZE3.OEMQ0

〈;;;( ∵)〉 「さてと、そちらの双子には、さほど恨みは無いのだが……」

〈 =oOo〉 「おい、待て」

〈;;;( ∵)〉 「なにか

〈 =oOo〉 「そいつらは俺たちが捕らえる。貴様らはもう下がれ」

〈;;;( ∵)〉 「……暴れられたら厄介では?」

〈 =oOo〉 「ふん、このざまであれば関係ない。おい、縛れ」

〈 =oOo〉 「殺さないのですか?」

〈 =oOo〉 「捕らえよとの命だ。晒す首は多い方がいい、とな」

〈 =oOo〉 「悪趣味なことで」

〈 =oOo〉 「口が過ぎるぞ」

〈 =oOo〉 「は、ではただちに拘束し、牢へ!」

 双子の体に縄が巻かれて行く。
 アニジャは、抵抗せず大人しく拘束されていた。
 一瞬魔法を組み上げようとしたオトジャも、それを見て抵抗を諦める。

 完全に腕を固められ、強引に連れられる最後、アニジャは首だけで振り返った。
 兵士に背を突かれ、向き直るまでの一瞬に見えたリリとエクストは、やはり死んでいる。


  *   *   *

634名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:17:48 ID:ZE3.OEMQ0

 連行された兄弟は、他に囚われた革命軍兵士とは別の、石組みの地下牢に放り込まれた。
 恐らく、魔法を使えるがための特別扱いだろう。
 こんなところに押し込められなくとも、二人に魔法を使って暴れる気力は無かったのだけれど。

〈 =oOo〉 「処刑は明朝だそうだ。楽しみにしておけよ」

 兵士はそう言って去っていき、以降まったく姿を見せなかった。
 牢には、ネズミの鳴き声以外の音が無い。
 遠くから何かの音が聞こえるが、一体それが何に由来するのかはわからないほどに小さかった。

(´<_` ) 「アニジャ、大丈夫か」

(  _ゝ )

(´<_` ) 「……」

635名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:20:26 ID:ZE3.OEMQ0

 アニジャは、牢の奥の角に座り込み、膝に顔を埋めている。
 入れられて暫く、気力の無い目で彷徨った後、ここに収まった。
 それから、一言も言葉を発さない。オトジャは意志の疎通を諦め、自身も石の壁に体を凭れた。

 冷たさが心地よくすらある。
 いずれ寒さに変わると分かってはいるが、雷を受けた体は未だ満足には動かず、その痛みには丁度いい。

 連れられて、幾分時間が経った。
 どこからか入り込んで来る陽光が赤いので、もう夕刻なのだろう。
 他の兵士たちは、どうなっただろうか。

 牢にくる道すがら、何人かが捕虜になっているのは見た。
 それ以外の人間は、どうなったのか。
 逃げ延びて反攻の期を待っているのか、それとも。

 エクストと、リリの最期を思い出し、オトジャも顔を覆った。
 不意に、何度もリフレインされる。

 父や母であれば、あの仮面の男たちにも負けはしないだろう。
 どころか、もっと安全で確実な戦略をもたらし、確実な勝利を与えることが出来たはずだ。
 オトジャも顔を伏せ、あらゆる敗北を噛みしめる。

636名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:21:23 ID:ZE3.OEMQ0

 それからさらに、どれほど時間が経ったろうか。
 差し込んでいた光がなくなり、離れたところに座るアニジャがはっきり見えない程度に暗くなる。

( ´_ゝ`) 「……ッ?」

(´<_` ) 「……?」

 一向に動かずにいたアニジャが立ち上がり、壁に耳を当てた。
 真剣な目つきだ。
 一瞬気が違ってしまったのかと心配したが、どうやらそうではない。

(´<_` ) 「どうした」

( ´_ゝ`) 「聞こえないのか、戦闘の音だ」

(´<_` ) 「?」

 倣って、オトジャも壁に耳をつけた。
 意識を集中すると、確かに何やら騒がしい音が響いてきている。
 戦闘というより、オトジャにはもっと違う何かに思えた。

( ´_ゝ`) 「いかなくちゃ……」

(´<_` ) 「どうする気だ」

( ´_ゝ`) 「きっと、残っていた人たちが戦ってるんだ。せめて援軍に行かないと」

(´<_` ) 「何言ってる、仮に残党が居たとしても今の俺たちじゃ」

( ´_ゝ`) 「俺は、諦めるためにあの家を出たんじゃない」

637名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:22:22 ID:ZE3.OEMQ0

 止めようとオトジャを無視し、アニジャは魔法を組み始めた。
 雷によって全身にダメージを負った今の状態で魔法を使うのは不可能だ。
 当然アニジャも途中で展開を誤り、魔力を霧散させ、また最初から組みなおす。
 稀に出来上がって放ったとしても、入口を塞ぐ堅牢な檻を破壊することはできない。

 何度も、何度も繰り返す。
 できそこないの水の刃を打ちつけては無駄にし、また組む。
 一発たりとも真面に発動はせず、やがてアニジャの魔力が尽きた。

( ´_ゝ`) 「オトジャ、魔力を貸してくれ」

(´<_` ) 「アニジャ、もうやめろ」

( # _ゝ ) 「だから!俺は…………」

 アニジャが叫んだ瞬間に、牢全体が大きく揺れた。
 地震、では無い。
 腹に響く音と、共に魔力の振動が肌を痺れさせる。

 何者かが、魔法でこの牢を含む建物全体を破壊しようとしているのだとすぐに気付いた。

( ´_ゝ`) 「……な、」

 戸惑い、天井を見上げると同時、突然に月の輝く夜空が表れた。
 続いて、これまでと異なる地鳴り。丁度、大きな建物が倒壊したような音だ。
 震動がさらに大きくなり、兄弟はそろって地面に尻をつく。

638名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:23:43 ID:ZE3.OEMQ0


       「あーっ、やっぱりここだーっ☆」

( ;´_ゝ`) 「……なん、だ?」

(´<_`; ) 「???」

o川*゚ー゚)o 「魔法の気配がすると思ったら、こんなところにも牢屋があったのね」

 砂埃が降り落ちる中、その向こうに居たのは一人の女だった。
 月の逆光の中でも何故か顔が見える。
 無邪気さを感じさせる笑顔で微笑む彼女は、一瞬全てを忘れて見惚れるほど、美しかった。

o川*゚ー゚)o 「よっこしょ」

 女は地下牢に飛び降り、兄弟の前に立った。
 近くで見ても、近づいたからこそ目が離せない。
 魔法により浮力を得ている余波か、髪の毛が月光に舞い、この世とは異なる世界を見ているよう錯覚に襲われる。

o川*゚ー゚)o 「貴方たちもかくめー軍の捕虜だよね?みんな集まっているから、行きましょ」

 膝に手を当て屈み、手を差し伸べてくる女。
 優しい笑みだ。
 呆然として動けないアニジャを見て、そこに少し淋しさが混じる。

639名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:25:01 ID:ZE3.OEMQ0

o川*゚ー゚)o 「そっか、事情が飲めないよね」

 手を引っ込め、今度はアニジャと体が触れるほどに近づいてしゃがみ込む。
 伸ばした手は、やはり優しくアニジャの頭を撫でた。

o川*゚ー゚)o 「革命軍は勝ったわ。あなたたちの戦いは終わったの」

( ;´_ゝ`) 「……?」

(´<_`; ) 「それって、どういう」

o川*゚ー゚)o 「そのままの意味☆ さ、だから行きましょ。男の子がそんなしょぼくれた顔するものじゃないわ」

 再び差し出される手。
 女の言葉は、理解しがたかったが、不思議と信頼出来た。
 手を受け取ると、アニジャの身体にも浮力の魔法が纏わり、自然に体が立ち上がる。

o川*゚ー゚)o 「さ、あなたも」

(´<_`; ) 「……うん」

 オトジャも同じく、補助を得て立ち上がる。
 女はそのまま両手で兄弟を引き連れ、夜空に飛び上がった。

640名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 02:26:33 ID:ZE3.OEMQ0

 女と共に空を駆け、辿り着いたのは王宮前の広場。
 空から望む限り、多くの人が集まっている。
 その内の一人、小柄な少女がこちらに手を振った。
 傍らにいた男も同じく手を上に翳す。

o川*゚ー゚)o 「ほら、あの子が貴方たちが居るはずだから探して、って言ってたのよ」

( ;´_ゝ`) 「な、なん……」

(´<_`; ) 「そんな、だって……」

o川*^ー^)o

⌒*リ*´・-・リ ノシ 「ふたごちゃーん!!!」

( ;´_ゝ`) 「リリ!!」

<_プー゚)フ

(´<_`; ) 「エクスト!!」

 三 ⌒*リ*´・Д・リつ 「双子ちゃ〜〜〜ん!!」
  三     つ
 
 地面に降り立つと同時に少女、リリが駆け寄り、飛びつき、抱き着く。
 二人係で何とか受け止めるもふらついてそのまま倒れた。
 リリは気にする様子も無く、倒れ込んだまま、兄弟の体を同時に抱きしめる。




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