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( ^ω^) 剣と魔法と大五郎のようです
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懐かしい夢を見た。
体も心もまだ幼くて、それでも、だからこそ幸せだった頃の記憶。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
薄暗闇の中、天井に手を翳す。
思えば遠くに来た。
それは、物理的な距離ではなくて。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
体のいたるところに出来た傷跡を、死んでしまった両親が見たらどう思うだろうか。
きっと怒るのだろう。そして、悲しむのだろう。
傷を作ったことでは無くて、傷を作るに至った理由を。
ξ゚ー゚)ξ (……ふふ)
いつもそうだった。
二人の心配を無視して怪我をして、母親の手痛い拳骨を貰ったものだ。
よくよく考えれば、きっとあの頃から成長なんてしていない。
ξ ⊿)ξ =3
脳裏にちらつくあらゆる感情を息と共に吐き出して、硬く目を閉じる。
迂闊にあの頃を思ったりしないように。
幸せな夢を、もう見てしまわないように。
-
どれほど続いたか、風が止んだ。
ヨコホリの体は各部から湯気を吹き出している。
魔法の行使を長く続けたからか、どこか疲労感が見えた。
一方のィシは。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ィシさん!!」
〈 ::゚−〉
生きてはいる。
しかし、全身いたるところに、「いくつも」という表現ですら足りないほどの切り傷。
急速に再生を繰り返したが故に、傷の無い部位も歪に変質している。
ダメだ。戦える状態じゃない。
判断と同時にツンは援護に出ようとしたが、体が動か唐突に固まった。
呪具を通してィシがツンの体に干渉し、行動を制限している。
同時に「動くな」という思念も伝わってきた。
体を開きィシが立ち上がる。
痛々しい姿だ。一応四肢は付いているものの、ほとんどが歪にひしゃげている。
まるで、ただの木になってしまったように動きもぎこちない。
ヨコホリの眼は、そんなィシを心から蔑む暗さを持っていた。
-
(//‰ ゚) 「…………もう、全く怖くねえな。今のあんたは、惰性で生かされるだけの死体だ」
〈::゚−゚〉 「…………そうだ」
(//‰ ゚) 「あ?」
〈::゚−゚〉 「お前の言う通りだ。私は魔女に、呪具に縋った。老い衰退してゆく身体を嘆いて、人間であることを辞めた」
(//‰ ゚) 「……」
〈::゚−゚〉 「実に醜い。実に醜いよ。この身体も、生も、縋りついた私の弱さも、恥じらいが過ぎて直ぐにも死にたいくらいだ」
〈::゚−゚〉 「だが、ただでは滅びん。お前は、お前が蔑む私の道連れになって、死ぬ」
(//‰ ゚) 「……やってみやがれ」
-
ヨコホリが全身から魔力を溢れさせる。
魔力は帯になり、捩じれ紡がれ光の糸になり、規則的な紋様を空中に描く。
魔法式の展開。古典的な方法だが正確で異様に速い。
シーンが干渉しようとしたが、すぐに弾かれる。
妨害の魔法が組まれていたのではなく、単純に魔力が濃すぎてシーンの魔力が負けたのだ。
こうなっては、組み上がってから解析して分解するしかない。
しかし。
瞬く間にヨコホリの背後表れた巨大で緻密な魔法陣。
恐らくは天叢雲と同格かそれを超える領域。
しかも、ツンが扱う簡易化した劣化版ではなく、師が扱う本来の精度を持ったものだ。
どんな魔法かまではわからないが、その場で分解できる代物では無い。
少なくとも、シーン一人では無理だ。
(//‰ ゚) 「……俺がいっぺんに放出できる最大魔力の魔法だ。惜しみなく死ね」
魔法陣が、激しく発光。
青とも、緑ともつかない鮮烈な光だ。
ィシが自ら前へ。
しかし、攻撃する余裕も無く、魔法の余波に弾き飛ばされた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ィシさん!!逃げて!!!」
(//‰ ゚) 「“――――四風絶界”」
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瞬間、ツンの視界は白に包まれた。
魔法陣から現れた四つ女性型の魔力の塊が、ヨコホリの目の前で邂逅。
混ざり合い歪み膨らみ、縮み、女の悲鳴のような音を爆発させながら弾ける。
白濁する衝撃の津波がィシを飲み込んだところまでは見えた。
そのあとは、凄まじい衝撃波に吹き飛ばされ何が何だか分からない。
耳が裂けるかと思うほどの轟音で耳は痺れているし、
ロクに受け身を取られなかったせいでありとあらゆる場所が痛む。
自分が這いつくばっていることに気づいて、ツンは顔を上げた。
魔法によって乱された大気が、白い靄を生み出し、それがまだ残っている。
ツンには何が起きているか全く見えず、風の凪いだ空間は、異様なまでに静かだった。
(//‰ ゚) 「……」
靄が晴れはじめて見えたのは、変わらず鋼鉄を纏ったヨコホリの姿。
そこから少しずつ前方へ視界が開けてゆく。
地面が、巨大な杓子で掬ったかのように抉れている。
それはィシが居た方向へ行くにつれて、深く広くなっていった。
非情なまでの破壊力。
木の根も何も関係なく全てが破壊されている。
抉れた土の範囲は、家一つを吹き飛ばす程度の大きさでは済まない。
-
だけれど。
靄が完全に晴れたそこに、
〈::゚−゚〉 「……」
ィシ=ロックスは確かに立っていた。
目は爛々と赤く光り、ヨコホリをにらみつけている。
体の数か所を損傷し、左腕の肘から先がなくなっていたが、魔法の威力を考えれば軽傷だ。
(;'A`) 『……ほんとに不死身かよ』
使った本人を除けば、最もこの魔法を理解していたのはドクオだった。
真空と超高気圧の暴風を異常な密度で共存させる、空間破壊の魔法。
本来ならば絶対に存在しない気圧差の群れに飲み込まれれば、たとえ鉄でも原形を留めてはいられない。
人や木などでは、跡形も無くなる。
それを耐えた。超高速で再生したなんてレベルでは済まないはずだ。
一体何が起きているのか。
状況を理解できていたドクオだからこそ、まったく状況が理解できない。
(//‰ ゚) 「……何をしやがった。いや、『どうやりやがった』と、聞いた方がいいか?」
見れば、深く抉れていた筈の地面が、ィシを境目に表面が浅く削られた程度になっていた。
明らかに途中で威力が減衰している。
こんなことを可能にするには、同等以上の魔法で対抗するか、分解するしかない。
ヨコホリの魔法発動時、別の魔法が発動した様子は見られなかった。
ならば、可能性はもう一つ。
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「間に、あったんだ」
ツンが地面に屁垂れ込んだ。
絶望や諦めからではない。
ただ、安心した。
ィシの身体から吸収された頭たちが外へ伸びてゆく。
最早頭骨と脳と目が辛うじて残っているような状態であったが、全てが間違いなく生きていた。
虚ろな表情で、ィシから放射状に生える五つの頭。
ィシ本人とシーンを合わせて脳は七つ。
紅く輝く14の瞳が、ヨコホリを見つめる。
(//‰ ゚) 「……しゃらくせえ。せめて楽に死ねたのによぉ!!」
なにが起こったかまでは理解できなくとも、魔法が通じなかったことはわかる。
ヨコホリは前へ。
頭の中に、拳でィシの頭を殴り砕くイメージを浮かべる。
そしてそれは、今のヨコホリであれば難なく実行できるはずだった。
突然、ヨコホリの動きが止まる。
地面を蹴り、跳躍し、殴りかからんとするその一瞬前の動作で硬直し動けない。
本人も何が起きているのか困惑の表情。
理由も分からぬ内にヨコホリの胸に、赤い魔法陣が浮かび上がった。
掌ほどの大きさ。どこか錠前を思わせる幾何学模様が描かれている。
それを見るまでも無く、ヨコホリは叫んだ。
気づいた。理解した。
自分を蝕むその感覚を、ヨコホリは確かに感じたことがある。
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ξ;゚⊿゚)ξ 「間に、あったんだ」
ツンが地面に屁垂れ込んだ。
絶望や諦めからではない。
ただ、安心した。
ィシの身体から吸収された頭たちが外へ伸びてゆく。
最早頭骨と脳と目が辛うじて残っているような状態であったが、全てが間違いなく生きていた。
虚ろな表情で、ィシから放射状に生える五つの頭。
ィシ本人とシーンを合わせて脳は七つ。
紅く輝く14の瞳が、ヨコホリを見つめる。
(//‰ ゚) 「……しゃらくせえ。せめて楽に死ねたのによぉ!!」
なにが起こったかまでは理解できなくとも、魔法が通じなかったことはわかる。
ヨコホリは前へ。
頭の中に、拳でィシの頭を殴り砕くイメージを浮かべる。
そしてそれは、今のヨコホリであれば難なく実行できるはずだった。
突然、ヨコホリの動きが止まる。
地面を蹴り、跳躍し、殴りかからんとするその一瞬前の動作で硬直し動けない。
本人も何が起きているのか困惑の表情。
理由も分からぬ内にヨコホリの胸に、赤い魔法陣が浮かび上がった。
掌ほどの大きさ。どこか錠前を思わせる幾何学模様が描かれている。
それを見るまでも無く、ヨコホリは叫んだ。
気づいた。理解した。
自分を蝕むその感覚を、ヨコホリは確かに感じたことがある。
-
(//‰ ゚) 「てめええ!!」
辛うじて動いた右腕で、魔法の榴弾を放つ。
目標は、人頭が咲く不気味な木と化したィシと同胞たち。
しかし、瞬く間に消え失せる。続けて撃った数発も、発動すらしなかったかの如く消滅する。
魔法の分解。
この戦闘において当然の如く行われた繰り返されたその行為。
しかし、この場においては、それは当然の域には無かった。
(//‰ ゚) 「やりやがった!やりやがったな!てめえ!!!」
ヨコホリの胸の魔法陣が180度回転する。
見た目の通り鍵が開いたかのように、その後ろから別の魔法陣が現れた。
二つ目の魔法陣には、ツンもドクオも見覚えがある。
ゴーレムの魔法の一部。つまりは、ヨコホリの命の片鱗。
(//‰ ゚) 「小僧の、魔法の知識を!!」
二つ目の魔法陣は、構成する線がスライドパズルのように複雑に動き、模様を代えてゆく。
数秒も眺めぬ内に、幾何学模様だったそれは、意味を感じさせない歪な陣に書き換えられている。
(//‰ ゚) 「他の頭に複写しやがった!!」
ここまで叫び、ヨコホリは血を吐いた。
胸の魔法陣は三つめが浮き上がり、それも瞬く間に形状が変化。
怖ろしいスピードだ。シーンの分解はそもそも速かったが、その数倍の速さでことが進行している。
-
全てはヨコホリの言葉の通りであった。
ィシは呪具の同調機能を使いシーンの持つ「知識」「経験」「感覚」をその他の頭に複写。
体内に宿る脳のすべてを、シーンと同等の魔法分解の使い手に仕立て上げたのだ。
発案者はツン。
自分自身が呪具の力を体感しているからこそ思いついた。
直接感覚や記憶を共有できるのならば、魔法の能力も同期出来るのではないか、と。
目論見は全てハマっている。
様々な記憶の複合体としてのシーンの能力を同期他人に複写するのは時間を食ったが、それでも間に合った。
ヨコホリの魔法を弱体化できたのもこのお蔭だ。
(//‰ ) 「がぐが、ぁあああああ!!」
魔法陣は四つめ。
ヨコホリは苦しみのあまり天を仰いで失神しかけていた。
心臓を直接掴まれ、針を一本ずつ刺しこまれているような状態だ。
その苦しみは想像し難い。
しかし容赦はしない。
シーン本人と合わせて六人で同時進行する魔法分解。
ただ六人寄り集まったわけでなく、統制された意識を持ってそれぞれに役割を分担している。
故に無駄もムラも無い。理想的な*6の速度を持って、ヨコホリの殺害は進められている。
あと幾つ分解すれば終わりなのか、はたから見ているツンには分からない。
意識を共有させればシーンが見ている魔法の解析図が見られるが、今は不要な干渉は避けたい。
分解は繊細な作業だ。その上相手は魔女が施した高難度の魔法。
のぞき見程度の意識の同調ですら妨げになる。
-
分解は、七つ目の魔法式入っていた。
書き換えを終えた魔法陣が、歪な形状でヨコホリの体の周りに浮いている
噴出した血飛沫のようでもあり、彼岸花のようでもあった。
六つ目に差し掛かったあたりから、一つにかかる時間が伸びている。
シーン達の分解速度が落ちているのではない、魔法がより複雑な部分に食い込んでいるのだ。
間違いなくヨコホリの命の根幹に近づいている。
最期の瞬間は近い。
七つ目の魔法陣が、ただの線の集合体へ変容した。
同時にシーンはさらに深淵の魔法を引きずり出そうとする。
が、これまでのようにすんなりとはいかない。
最終セーフティのような、防護の魔法が組み込まれていたらしい。
分解の対象が生命の魔法から防護魔法へと切り替わった。
こちらもすぐに終わる。しかしこの間、ヨコホリは命を分解される苦しみから解き放たれる。
(//‰ ゚) 「クソアマぁぁあああああ!!!」
ヨコホリが、ィシへ飛び掛かる。
動きは精彩を欠いているが、膂力はまだ残っているようだ。
対するィシは先のダメージにより、まともな戦闘力はほぼ失っている。
-
ξ#゚⊿゚)ξ 「ニョロ!!」
自分の体が封じられて居るからこそ、ツンはニョロに魔法を組ませていた。
障壁の魔法がィシとヨコホリの間に生み出される。
突然の障害にヨコホリは衝突し、攻撃は未然に防がれた。
これで十分。
障壁を破ろうと拳を振り上げたヨコホリの身体から、八つ目の魔法陣が引きずり出される。
(//‰ ) 「こぁ、が」
これまでの物からさらに異なる、異様な文様。
ツンの知る魔法陣のパターンのどれにも当てはまらない。
ただ、存在そのものが痛烈に印象付けてくるので、はっきりとわかった。
これが、ヨコホリの生命そのもの。
幾重の魔法に守られ、庇われ、維持されてきた最後の魔法。
ヨコホリの絶叫。
魔法陣が激しい火花を上げる。
分解に、シーンの干渉に魔法自体が反発しているのだ。
構わず半ば強引に魔法の分解は続く。
耳の奥に直接触るような、甲高い音が鳴り始めた。
ヨコホリの叫びに紛れ乍ら、その大きさは徐々に増してゆく。
悲鳴だ。魔法が死に浸食され、怯え、泣き叫んでいる。
-
胸熱展開!!支援!!
イシさんチートや…
-
ヨコホリの体が、周囲に乱雑に伸びる魔法陣のなれの果てが、強烈に発光を始めた。
伴って耳障りな音はさらに大きさを増し、地震が起きたかのように大地が震動する。
天へ伸びる紅い光は直視できないほど強くなった。
ツンはたまらず顔を背ける。
しかし、最後、瞼が瞳を隠すその直前に確かに見た。
ヨコホリの魔法陣に、大きな罅が走る瞬間を。
(//‰ ) 「――――――ッ!!」
瞼を貫く鮮烈な光。
金属が割れ弾ける、甲高い音が響き渡る。
やけに濃厚な温い風がツンの髪を靡かせた。
それを境に周囲は一転静寂に包まれる。
ツンは、恐る恐る目を開けた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「……やった、んだ」
ヨコホリは、完全に停止していた。
分解される苦しみに悶え、天を仰ぎ絶叫したままの姿で、ピクリとも動かない。
空中には完全に散り散りになった魔力の残滓が、羽毛のように漂っている。
シーンが探りを入れる。拍動、呼吸共に停止。
死んでいる。
ィシは、目の前に居るヨコホリの身体を、腕で思いっきり薙ぎ払った。
硬い音。転がる鋼鉄の身体。余りに強く殴ったため、ィシの腕は砕けてしまった。
転がったヨコホリはやはり動かない。
見開かれた目は白を剥いたまま、薄曇りの空を見ていた。
-
( ;^ω^) (……確かに、あの人の目的は、達成されたのかもしれない、でも)
(;'A`) 『問題は、ここからだな』
ヨコホリ討たれた今、この場にィシを倒せるものはいなくなった。
再び凶暴化すれば止める手段は無い。
ツンが呪具の力を逆手にとって抑え込むのも、必ず無理が来るだろう。
が、ツンとィシの間ではそれは既に問題では無くなっていた。
ィシの身体から生えていた兵士たちの頭が、根元から千切れて地面に落ちる。
一つ、一つ。人の頭部にしては軽い音と共に、落ちて死ぬ。
その顔はどれも穏やかで、呪縛から解き放たれた仏のようであった。
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
〈::゚−゚〉 「……あとは、頼んだ。ディレートリ」
ξ ⊿ )ξ 「……“大地薙ぎ、灘を断つ―――”]
シーンが笑顔を見せた後に身体から剥離し、地面へ。
これで残りはィシだけとなった。
ィシは、自分の体を木の蔓で何重にも拘束してゆく。
ミノムシのように、たとえツンの干渉が切れても、すぐに動き出せぬように。
こうすると決めていた。
ィシが自我を取戻し、状況を把握したその瞬間に。
もう戻ることのできない人の身。
無差別に破壊を繰り返す魔物の躰。
ならばせめて、怨敵を討ち滅ぼしてから、己の命を絶つと。
-
支援
-
〈::゚−゚〉 「魔法の発動と同時に、その『芽』を君の脳から外す、そうしたら……」
ξ ⊿ )ξ 「大丈夫。苦しまないよう、一瞬で終わらせるから」
本当は、ィシが全て自分でやると決めていた。
剛力を持って頭を破壊すればすべてが終わることは自分でよくわかっていた。
しかし、想像以上に苦戦を強いられたため、それすらできないほどに消耗してしまっている。
〈::゚−゚〉 「……ありがとう、ディレートリ。キミのお蔭だ」
ξ ⊿ )ξ 「“天突く刃は、勇士の証―――”」
〈::゚−゚〉 「人としての生を捨て、それでも成すことの出来なかった復讐を遂げられたのは、すべて、君の」
ξ ⊿ )ξ 「“邪より生まれし聖(ヒジリ)の剣よ―――”」
〈::゚−゚〉 「そして、すまない。嫌な役回りをさせることを、許してくれ」
既に死を覚悟した顔で、ィシはポツポツと言葉を漏らした。
ツンは、聞こえないふりをして、魔法を紡ぐ。
いつもはあれほど面倒で、難しくて、上手くいかなくて苛立っている魔法式の展開が、こんな時はやけに上手くゆく。
どこかで失敗すればいいのに。魔力が途中で切れてしまえばいいのに。
自分自身で止めるわけにはいかないから、止むを得ない何かで、止まってしまえばいいのに。
ξ ⊿ )ξ 「“曇天導き、今我が元へ参らん―――”」
願いは虚しく、今までのどんな状況よりも美しい魔法式が出来上がってゆく。
故に魔力の消耗もいくらか抑えられ、残りの仕上げを終えればすぐにでも発動が可能となる。
-
ξ ⊿ )ξ 「“―――来い”」
天井で蜷局を撒く濃密な雲が、八つの滝となってツンに降り注ぐ。
渦巻き、集い、濃密な水と風の塊となってツンの手に。
アメノ
ξ ⊿ )ξ 「“天―――」
パシン。
雲が剣の形を成そうとしたその時、俯いていたツンの耳に、その音は聞こえた。
僅かに遅れて、何かが体に降りかかる。
木端と、生暖かい黒の雫。
反射的に顔を上げた。
目に移るィシの顔。
それは、左側の半分が抉れて無くなっていた。
何が起きたのか分からず、全ての思考が停止した。
ィシ自身も、残った半分の顔が、鼻と口から血を溢しながらも呆然とした表情を見せている。
ィシが、振り返ろうとする。
その瞬間に残りの頭も弾け、血飛沫に変わった。
呪具によって変質した黒い血が、ツンの顔にぴしゃりと張り付く。
( ;゚ω゚) 「ツン逃げろッ!!!」
ξ;;⊿゚)ξ 「え?」
続けて起きる数度の爆発と共に、次々とィシの身体が木端と肉片に。
砂で出来た像のように脆く、ツンの目の前でィシが消えて行く。
爆ぜた木片が頬を掠め、皮膚を切り裂いた。
-
ξ;;⊿゚)ξ 「―――あ」
無くなってしまう。
反射的に、ィシの身体へ手を伸ばそうとする。
しかし、何者かに飛びつかれ、妨げられた。
尻餅を突き、抑え込まれて身動きが取れない。
手を伸ばしたが届くことは無く、ィシの身体は足首から下を遺して、完全に塵となった。
ξ;;⊿゚)ξ 「なに―――」
混乱するツンは、二秒間を置き、自分の頭が熱い血液で膨らんでゆくのを自覚した。
見えてしまった。その男が。
右腕を構え、こちらを睨むヨコホリ=エレキブランの姿が。
(//‰ ゚) 「……ざまァ、見やがレ」
ξ#;;⊿゚)ξ 「あ、あ、あ、ああああああああああ!!!!!」
ツンが叫ぶ。
自分を抑え込んでいた誰かを強引に押しのけ、体の痛みも忘れ、地を蹴った。
ξ#;;⊿゚)ξ 「“天叢雲”!!」
剣と化した、高密度の雲。
しかし、半端な発動状態を続けたツンの魔力は既に限界だった。
-
天叢雲は霧散し、ツンは激しい眩暈と吐き気でその場に膝をついた。
しかし、闘志は、怒りは萎えない。
ふらりとよろけるヨコホリを、ツンは睨みつけた。
涙を、鼻水を、涎を、垂れ流しながら、言葉にならない叫びをあげる。
なぜ、なぜ生きている。
シーンたちの分解は完全だった。
体の生体反応も消失しているのを確認した
だから、ィシは仲間たちを呪いの生から解放した。
自らの命を、なるべく人に近い状態で終わらせようとした。
なのに。
(//‰ ゚) 「……俺が、俺が、散々命を狙われて、なンの対策も練らねェと、思ってたのか?」
(//‰ ゚) 「正直、本当に、必要になるとは思って無かったがナァ……」
-
ヨコホリの胸には、掌程度の青い魔法陣が浮かび上がっていた。
最後に分解した生命の魔法にそっくり、あるいは丸写ししたような紋様。
(//‰ ゚) 「独立した場所に、此奴を仕込んでおいたンだよ。死んでから二分後に作動するようにしてな」
力ない顔で、グググと笑う。
通常よりもはるかに弱弱しい。
が、生きている。
死んでいない。
その事実は、ツンの脳をあらゆる負の感情で埋め尽くした。
ξ#;;;;;;゚)ξ 「殺す!」
(//‰ ゚) 「吠えるなよ、ディレートリ。俺だって、死にたかねえのさ」
ξ#;;;;;;゚)ξ 「殺す!!」
魔力切れで動かない体を、強引に立たせようとするが、すぐに地面に伏した。
歯を食いしばる。
体は応えない。
ヨコホリは、無機質な目でツンを見下ろす。
ニョロがツンに変わって空弾を放ったが、ヨコホリの腕に軽く払われた。
-
〈;;(。个。)〉 「……ヨコホリ」
(//‰ ゚) 「……やっと起きたか。肝心要の時に居眠りこきやがって」
〈;;(。个。)〉 「すまない。……全て、片付いたのか」
(//‰ ゚) 「一応はな。お前の望み通り、アレが街をおそうこたァねェ」
気絶していた逆さ男が覚醒した。
頭を押さえ、気分がすぐれない様子だが足取りはしっかりしている。
服は数か所破れていたが、こちらも命を奪うレベルまでは至っていなかった。
〈;;(。个。)〉 「了解した。あとは引くぞ。街の方は大五郎の応援が着いたようでもあるし、長居は無用だ。」
(//‰ ゚) 「願ったりかなったりだな」
〈;;(。个。)〉 「俺はイナリを持ってゆく、お前はフォックスを……」
ξ#;;;;;;゚)ξ 「待て!!」
〈;;(。个。)〉 「……行くぞ。こちらにまで増援が来られたら、不味い」
(//‰ ゚) 「つーわけだァ、ディレートリ。俺に会いたかったら、いつでも来ナ」
逆さ男と、ヨコホリは、気絶した二人の仲間を担ぎ、足早に山を駆けて行く。
二人とも本来よりもかなり弱っているが、足取りに特別問題は見られなかった。
増援や救助の類が来る頃にはとっくに逃げおおせているだろう。
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ヨコホリェ…
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勝てる気がしなぃ…
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ξ#;;;;;;;゚)ξ 「待て!!!!」
二人の姿はすぐに見えなくなった。
それでも、何度も叫ぶ。
繰り返し声を吐き出すごとに、言葉の明確さは消え、ただの咆哮と化してゆく。
いつの間にか止んでいいた雨が、また降りだす。
天叢雲が解けた時に散った雲が、そのまま積乱雲となったのだ。
粒の大きい雨は、瞬く間に勢いを増し、荒れ果てた山の景色を白い濁りで埋め尽くす。
溢れた血は流れ、木片は叩かれ土に混じる。
ツンの声も、全て雨に飲まれた。
既に、声らしい声を出せなくなっていたけれど、それでも口を開いた。
( ^ω^) 「……」
('A`) 『……』
地面に拳を叩き付けることも、掻き毟ることも出来ず、ツンはただただ蹲り雨に打たれる。
声も潰えた。
それでも叫ぶ。
掠れた声で喉が痛む。
心配げに、ニョロがツンの頬にすり寄る。
雨は止まない。
敗北の事実だけが残った荒れ果てた山の中。
ツンはただ、叫ぶことしか出来ずにいた。
-
おわりんこ
またまた久々の投下でした
梅雨が明ける頃とか言ったけど心には悲しみの雨が降り続けているので何ら問題ありません
勝てるんかコイツ(随時更新)
一先ずィシ戦は終わりな感じで
支援等は毎度嬉しく感じながらやってます
次回は遅くともハロウィンくらいまでには
>>400
長いことお疲れ様でした
途中から完全に一人の読者として楽しんでいたのでなんかありがとうというのも変な感じです
バトルの描写、力を入れた分だけ再現してもらえているようでうれしかったです
>>403
このキューさんになら頭吹き飛ばされて死んでもいい
実にベネ、かなりのやる気につながったッス
-
>>474
終わったー
勝てなくね?しかもここまで追い込まれたからまた別の対策してくるだろ…
乙でした
-
いやまじで勝てるんかコイツ・・・これでヨコホリ仕留められないってどうすりゃいいんや・・・
もうィシとか全体的に辛すぎる。うおおおおィシ・・・
相変わらず戦闘かっこよすぎ。脳内再生余裕ですわこれ
まじおつ。ハロウィンってあと一か月ちょっとしかないが楽しみにしてる
-
乙です!
まさかリアルタイム遭遇出来るとは思ってもみなかったw
それにしてもヨコホリに勝てる気がしない…
-
乙ー。ヨコホリしぶとすぎ!
-
毎度ながらの凄まじい戦闘描写に熱くなった
異常なまでの打たれ強さをもつヨコホリを攻略できるのかという不安よりも
ツンがダークサイドに堕ちないかが心配になってきた・・・
-
乙!面白すぎる!
ヨコホリめちゃくちゃやな
ヴォルデモートかよ…
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乙。戦闘描写は突き抜けてうまいけど、どうも敵の強さばかり引き立てる感じがな。ブーンとか最近かませになってるし
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そういうコンセプトなんじゃないか?
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そりゃお前、物語の序盤でオルトロスだの百戦錬磨だの魔犬だのあれだけ持ち上げられたやつがかませにならん訳がない
強いままだったら俺ツエーだけの劣等生のお兄様みたいになる
-
合体して個々の力が弱体化する前のブーン・ドクオコンビならもっと無双できてるはず……
-
それを圧倒するキューちゃん
-
昨日読みはじめて、今追いついた!
ィシ戦読み応えあった
ツンのこれからが凄い気になるな
乙
-
ツン狙いでいけばもっと楽に勝てたんじゃね?
って思うのは野暮か おつ
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名作の予感しかしないな…頑張って完結してくれよ〜。
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ヨコホリ倒せるのキューちゃんくらいしかいねーだろこれ
萎えたわ
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鉄って堅いね
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来たか!!乙
そろそろブーンにまともな刀を持たせてあげてください
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なんで折れたんだろうな
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激戦続きで万全な状態じゃないってのもあるしな
分離して万全な状態のブーン&ドクオを早く見てみたいもんだ
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分離したらタイトルの意味が微妙に
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ィシもヨコホリも凄いけどツンちゃんの精神力も大概チートだな
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このままの強さバランスだとストーリー的には確実に行き詰まると思うけどな。
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なんでヨコホリたちは満身創痍のツンとブーンを仕留めずに帰ったんだ??
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リレイズがかかったとしても瀕死だろ?
しかも相手は常に絶望的状況から意味のわからない反撃をして仕留めてくるツンちゃんだろ?
俺だって、死にたかねぇのさ
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>>496
昔こんなかんじで見事収拾つけたスレイヤーズというものがあってだな
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>>499
あれはチート魔法のギガスレイブがあっただろ
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おもしろい
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投下待ちドキドキ
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桑畑の広がるなだらかな丘陵地帯の中にぽつぽつと民家が見えた。
長閑な田舎町。真っ先に浮かぶ印象はそれだ。
クシンダ。
養蚕と農作を主な産業とする、辺境の小さな町である。
( ゚д゚ ) ガサッ
深緑の葉をつける桑の間から、頭が生えた。
周囲をきょろりきょろりと確認し、再び畑の中に消える。
( ゚д゚ ) ガサッ
少し離れた場所に、再び現れる頭。
やはり首を左右に振り回して、また引っ込む。
( ゚д゚ ) ガサッ (゚A゚* )
( ゚д゚) キョロッ (゚A゚* )
.
-
( ゚д゚ )
(゚A゚* )
( ゚д゚ )
(゚A゚* )
( ゚д゚ )
(゚A゚* )
( ゚д゚ )+ 「やあ、こんにちはお嬢さん」 キラーン
oσ(゚A゚* )
( ゚д゚ ) 「まあ待て。それは狼やクマが出た時に吹く笛だ」
(゚A゚* ) 「へんな人に会った時も吹けっておかーちゃんが言ってた」
( ゚д゚ ) 「全然変じゃないが」
(゚A゚* ) 「自覚ナシはなおさら悪質やで」
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ミルナ=スコッチはこの程度では動揺しない。
忍として生きる彼の行動が凡人に理解されないのは世の常。
本来交わらぬ世界の童が彼を不審者と称したところで、それは必然なのである。
だが、むやみに騒がれては困るので。
三( ゚д゚ ) ササッ
(゚A゚* ) 「!?」
一瞬の隙に少女の背後に回り込み、首元に優しい手刀を放つ。
体の自由を奪うが、痛みを与えたり命に支障の出ない程度の威力。
ゴキブリが体液を漏らすことも無く死に絶える絶妙な力加減。
( ゚д゚ ) 「さて」
少女が意識を混濁している間に、ワイヤーで手足を拘束。
もちろん使う気はないが、騒がれないように手には短刀を持っておいた。
そこまで安全を確保してから、少女に事情を説明する。
( ゚д゚ ) 「―――と、言うわけで拙者は善良なる隠密であり、全く持って怪しい存在では無いのだ。理解したか?」
(゚A゚* ) (これホンマにアカン奴や……)
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うお初遭遇!支援
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( ゚д゚ ) 「で、だ」
思いのほか肝の据わった少女である。
これなら態々身柄を拘束した甲斐もあるというもの。
( ゚д゚ ) 「お嬢さん、最近二刀を腰に差した剣士を見たりはしなかったか?」
(゚A゚* ) 「剣士?」
( ゚д゚ ) 「うむ。ブーン=N=ホライゾン。拙者の尋ね人なのだが、この町に来ていたらしい」
(゚A゚* ) 「剣士なー。……それって魔法使いでもええの?」
( ゚д゚ ) 「!」
(゚A゚* ) 「ウチがしっとるんは、剣二つ持ってた魔法使いなんやけど」
( ゚д゚ ) 「むしろビンゴだ」
人口密度の低い田舎に置いて、目撃情報はあまり期待していなかったが、幸先が良い。
二刀の剣士を尋ねて、二刀の魔法使いの回答を得る。
恐らく間違いない。この微妙な誤差を生むのは彼らに他ならないだろう。
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(゚A゚* ) 「…………でな、この先の森の中にな、ドッグのセンセの家があるんや」
( ゚д゚ ) (経歴に不詳の多い男だったが……なるほどここが故郷か)
(゚A゚* ) 「ほら、あそこや。今は誰もすんどらん」
少女の案内で訪れたのは桑の畑も疎らになる、丘を登った森との境目。
一件の小さな小屋が、木を背負うようにひっそりと立っていた。
窓は板で塞がれ、扉には頑丈そうな錠が掛けられている。
中々年季が入っているが、一見した限りは手入れが行き届いているようだった。
(゚A゚* ) 「ウチらがな、ドッグに頼まれて時々掃除に来とんねん」
( ゚д゚ ) 「お嬢さんと山田……ロンリードッグ氏とはいかなる関係で?」
(゚A゚* ) 「関係っちゅーかな、こんな小さい町やし、皆家族みたいなもんや」
( ゚д゚ ) 「……なるほど」
(゚A゚* ) 「まあ、ドッグはちょっと特殊やねんけどな」
( ゚д゚ ) 「特殊?」
(゚A゚* ) 「そうや……っと、あったあった」
少女は、小屋の入口の傍にある割れた植木鉢を持ち上げた。
見ると小さな木箱が埋まっている。
蓋を開けると、中には真鍮製の鍵。少女はそれを錠へ差し込み、閂を外した。
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(゚A゚* ) 「ほら、入られるで」
( ゚д゚ ) 「うむ」
応えながらも、ミルナは短刀で窓に打ち付けられた板を引っぺがし、そこから中に入る。
少女は唖然とそれを見ていた。
(゚A゚* ) 「なにしてん」
( ゚д゚ ) 「中に入ったんだが」
(゚A゚* ) 「開けたやん」
( ゚д゚ ) 「残念ながら、そこは拙者にとって入口では無い」
(゚A゚* ) (マジモンのキッチガイや……)
小屋の中は暗く、少々湿った空気が漂っていたが、黴の臭いなどは無い。
少女は慣れた様子でテーブルに乗ったランタンに火をつけた。
扉とミルナがこじ開けた窓から差し込む光に加え、朱い光が室内を照らす。
小さな小屋だ。
入ってすぐに炊事場とテーブル。
奥には寝室と思われる扉が一つあるだけ。
誰も住んでいないという言葉の通り、家財の類はほとんど無い。
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しかし何か違和を感じる。
ミルナだからこそ分かる微弱な物ではあるのだが。
( ゚д゚ ) 「で、先の話の続きであるが……」
(゚A゚* ) 「ああ、ドッグはな、元はクシンダの生まれや無いんや」
( ゚д゚ ) 「む?」
(゚A゚* ) 「ウチも詳しいことは知らんねんけど、ドッグのセンセがな、都会の方で路頭に迷ってたのを連れてきたんや」
( ゚д゚ ) 「孤児ということか」
(゚A゚* ) 「せや、何でも都会で魔法ガッコに通ってたらしいんやけど、おかーちゃんたちが死んでもうて、行き場失ったとか」
( ゚д゚ ) 「……」
(゚A゚* ) 「で、この通りここにはなんも無いで。ドッグが出てくときにほとんど処分してったし」
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(゚A゚* ) 「ところで変態のにーやん」
( ゚д゚ ) 「変態じゃないが」
(゚A゚* ) 「ドッグに用だったんちゃうの?さっき言ったけどいくらか前に出てったで」
( ゚д゚ ) 「そうなのだが、もののついでにな。何か飯の種があればと」
(゚A゚* ) 「なーなー、何の用だったん?」
( ゚д゚ ) 「それは言えん」
(゚A゚* ) 「ええやん。ウチは色々教えてあげたやん」
( ゚д゚ ) 「……拙者の元締めに当たる男に人探しの依頼があった。追加の情報があったので、伝えるために追っていたのだが」
(゚A゚* ) 「あー、そりゃ災難やな。ドッグはなんか、サロン?に行く言っとったで」
( ゚д゚ ) 「サロン……結果的に行き違ったか」
ドッグことメランコリーズ=ロンリードッグは魔法を用いて移動を行っている。
いくら足に自信のあるミルナでも、その直線的な高速移動に追いつくのは骨だ。
その上ふらり次へ行くので行き先の調査にかかる時間もプラスされる。
情報を得てから大分時間が経った。
もとより鮮度が命だった情報だ。この時点で価値はほぼ死んでいる。
( ゚д゚ ) (これだから一匹狼気取りは……)
他人が接触に来ることを全く考慮していない。
情報屋にコンタクトを取った時くらい何かしらの標を残せというものだ。
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( ゚д゚ ) (……サロンで待っていれば……しかし、すぐに戻る保証も無かったしな)
国境跨いでの大移動を四半日もかけずにあちらと、不眠不休で馬や足を駆使しても一日二日を要するこちら。
いくら魔法の痕跡などで追うことが出来ても、差は開くばかりだ。
気を利かせて早く伝えようとした結果がこれだよ。
( ゚д゚ ) (まあいい。上級の魔法を当然の如く使いこなす無名の魔法使いのルーツ。調べておいて損はあるまい)
ミルナは少女を放って家探しを始めた。
奥の寝室も開けて覗く。
やはり何もない。床にはベッドが置かれていたらしい跡があるが、それだけだ。
( ゚д゚ ) 「お嬢さん、先生と言うのは、当然魔法の?」
(゚A゚* ) 「せやで。ウチは詳し無いんやけど、すごい人やったらしいな」
それにしては。
ミルナはもう一度小屋の内部を見て回る。
( ゚д゚ ) (……本棚……資料や魔道書を保管に利用していただろうスペースが無い)
室内はあまりに殺風景で、本や魔道具を置くような場所が一切ない。
物自体は「処分してった」としても、棚や物入れを全て片っ端から廃棄するようなことをするだろうか。
仮にしたとしても、床にあるベッドの痕跡のように何かしらの名残があるはず。
それすら一切ない。これは少々おかしい。
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( ゚д゚ ) 「……臭うな」
(゚A゚* ) 「ああ、麓のおっちゃんが牛飼っててな。時々風に乗って臭うんや」
( ゚д゚ ) 「ちゃうねん」
引退して魔法に関するもの一切を持っていなかったという可能性もある。
しかしそれならばなぜロンリードッグはここに立ち寄ったのか。
それに、入ってからずっと感じる違和感。
これは彼の魔力の気配だ。
僅かとはいえ、数日経っても残滓が残るほどの魔法を行使する必要があったのか。
( ゚д゚ ) 「実に面白い。……お嬢さん、少し下がっていろ」
ミルナは手で印を組む。
魔力が体を巡り、粒子となって全身から立ち上った。
( ゚д゚ ) 「“隠遁、足跡洗い”」
(゚A゚* ) 「おわ、なんかめっちゃ光っとる」
術の発動に合わせ、魔法の粒子が方々へ散った。
ミルナの魔力が空間の、より濃い魔力に反応して淡く発光する。
本来は魔力の痕跡を消去する隠匿用の術なのだが、こういった場所で使えば痕跡を探ることも出来るというわけだ。
( ゚д゚ ) 「そこか」
寝室の床の中心により多く反応が見られる。
目を凝らして見ると、床板の隙間から漏れ出しているのが分かった。
十秒程度で術の発動は終わり、同時に魔力の気配が綺麗に消えた。
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ミルナは改めて反応の強かった床を探る。
間違いない。一度消し去ったはずの魔力の気配が、極極微量に漂い始めている。
床をノック。
他の場所とも比べ、丹念に聞き分ける。
違う。こうして耳を押し付けなければわからない程小さな違いだ。
これでは上を歩いた際の足音などでは気付けない。
( ゚д゚ ) 「本来何かの仕掛けがあるのだろうが、そこまで気を使えん」
(゚A゚* ) 「ちょ、なにしてん?!」
床板の隙間に小刀を差し込み強引に捲る。
少女が止めるのを無視して作業を進めると、現れたのは。
( ゚д゚ ) 「ビンゴ」
さらにもう一枚板で蓋をされた、地下への洞穴。
井戸のように石組みで補強され、人が上り下りできるように縄梯子がかかっている。
(゚A゚*;) 「なんやこれ、たまげたな……」
( ゚д゚ ) 「魔法使いならよくあることだ。研究用に隠し部屋を持つというのはな」
懐から投具を取り出し、落とす。
少し間をあけて硬い金属の音。深さは7メートルほどか。
罠の類は無いらしい。
ミルナは念のため小刀を手に持ったまま、するりと穴の中に飛び降りた。
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着地と同時に、突然明りが点る。
魔法による青みを帯びた白い光。
( ゚д゚ ) 「……なんだこれは」
地下の空間は、想像よりもはるかに広かった。
上の小屋の二倍はあるだろうか。
木の柱と石組みで構成さている。
予想に反してここにも物はほとんど無いが、奥にさらに扉があった。
しかし、それより気になる者にミルナの目は止まる。
(゚A゚* ) 「なんやこれ?!」
追って降りてきた少女が驚いた。
ミルナもほぼ同意。
中々目にできる代物では無い。
金属で出来た、人型のゴーレム。
鎧状の体表と繊維や鉄骨で出来た内部機構。
数あるゴーレムのタイプの中でもかなり精密な絡繰り式だ。
作り手の技術の高さがうかがえる。
( ゚д゚ ) 「番人、のようなものか。となるとブーン氏たちはこれと……?」
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扉の脇の壁に凭れて停止しているゴーレムに近づく。
体表にはいくつもの傷。恐らく剣の攻撃によるものだろう。
他よりも弱い関節を的確に斬りつけられているのを見るに、戦ったのはかなりの手練れ。
状況から読んでブーン=N=ホライゾンに間違いは無いだろう。
そして。
( ゚д゚ ) 「一体何をどうすれば、こんなことが出来る」
ゴーレムの胸の中心に、背中まで通ずる穴が開いていた。
丁度ミルナの頭が通るほどの大きさで一定の幅。
鉄が歪んで捲れたような跡はなく、この部分だけがきれいさっぱりくり抜かれている。
まるで元から無かったかのようだ。
触れてみる。
どう見ても鋼鉄製。
鎧一枚分ならまだしも、内部までをもいっぺんにとなると、人力とは考えられない。
( ゚д゚ ) (魔法……しかし、こんな不自然極まりない破壊を出来る魔法?)
魔法というと、馴染みない者からすればなんでも出来るように思えるが、超法則的な中にも限界は存在する。
少なくとも人が魔法式を組んで行う限りでは。
鋼鉄に穴をうがつ方法は確かにある。
火属性で熔かすなり、風や水属性で削り切るなり方法は複数挙げられる。
しかし、思いつく範囲の魔法ではこの状態にはつながらない。
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(゚A゚* ) 「これうごくん?」
( ゚д゚ ) 「……元は動いただろうが、核をくり抜かれている。動くことはないだろう」
(゚A゚* ) 「へー……センセの家にこんなんあるなんてなあ」
少女がつんつんとゴーレムの体をつつく。
厚い鋼鉄の鎧に、可動域を広く取られた関節。
手には幅の広い短剣を持ち、逆の手の甲には魔法攻撃用の射出口がある。
動いているところを確認したわけではないが戦闘の機能があると見て間違いない。
ミルナの知る限り下級のゴーレムほど粗雑で巨大な傾向にある。
小型であるということは、すなわち高い技術の証明だ。戦闘用ならば弱いということは無いだろう。
( ゚д゚ ) 「この扉の奥には、相当なものがありそうだな」
恐らくロンリードッグたちの目的はそれ。
ここまで来てこの扉を開けないなどという選択肢はあり得ない。
ミルナは罠を警戒しつつ、ゆっくりと扉を開けた。
が。
(゚A゚* ) 「なんやこれ、行き止まりやん」
( ゚д゚ ) 「いや、恐らくはこの魔法陣を発動させることで、別空間へ行けるはず」
扉を開けた先にあったのは、板張りの壁と、そこに描かれた緻密な魔法陣。
発動させることで全く別の空間に転移することが出来る魔法の扉だ。
過去に似たような仕掛けを通じて侵入したことがあるので分かる。
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これまたそんじょそこらの魔法使いに出来ることではない。
ゴーレムも含め、ここにある魔法の仕掛け自体が重要な知的財産になりうるのだが。
(゚A゚* ) 「でも、めっちゃ傷ついとるで」
そうなのだ。
描かれた魔法陣を消すかのように、大きなバツ印の傷がついている。
この魔法陣はタリズマンを原料にした塗料によって描かれ、自体が魔法式、魔道具として機能している。
傷がついているということは、機能が破壊されているということ。
宿っていた魔法自体が失われているので、魔法陣を掻きなおせばいいという話でも無い。
よって、転移魔法によって行けるはずっだったこの先の部屋には、立ち入ることが出来なくなっっているのだ。
傷は板の状態に対しかなり新しい。
恐らく、ロンリードッグが用を済ませた後に、封印代わりに魔法を破壊したのだろう。
( ゚д゚ ) (これは流石に……拙者でも無理だな……)
諦めざるを得まい。
強固な鍵や封印魔法なら意地でもこじ開けるが、これについては道そのものが無くなっている。
その上行き先がどこなのかも分からないのでは手の出しようがない。
( ゚д゚ ) (しかし、見たかったものだな)
( ゚д゚ ) (これほどのゴーレムが守り、こんな方法でゴーレムを殺す魔法使いが求め、
その両者を生み出した者が遺した『なにか』が一体どれほどのものなのかを)
* * *
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VIPとサロンの間に広がる荒野にはかつて「ハイエナ」と呼ばれる盗賊部族が存在した。
残虐にして周到。その手並みはまさにハイエナそのもの。
当時今ほど武装化の整っていなかったVIPやサロンは幾度も彼らの襲撃を受け、いくつもの財を奪われた。
しかし、ある時彼らの襲撃がぱたりと止む。
毎日の如く襲撃があったのだから、人々はこれに困惑した。
二日三日と平穏な日が続くと「何かの企みではないか」と不安は逆に増してゆく。
状況に痺れを切らしたのは、サロンの農業関係者と契約を結んでいたとある商人旅団だった。
彼らは護衛に雇った傭兵やサロンの若者たちと共に「ハイエナ」の集落の調査を開始した。
何かの理由があって荒野を去ったならば重畳。
逆に、大掛かりな何かを仕掛けようと準備をしているのであれば、こちらも準備をしなければならない。
が、ようやっと「ハイエナ」の集落を発見した商人たちが目にしたのはそのどちらとも異なる結果だった。
「ハイエナ」たちは死んでいた。
彼らの構成人数など知らない商人たちでさえ、一目で「全滅しているに違いない」と判断するほどに凄惨な状況だったという。
レンガを組み赤土を固めた住居の壁には、さらに赤い血が塗りたくられ。
およそ人間の力で行われたとは考えられない損壊をした死体が転がっていた。
しかもそのそれぞれが、死後数日たっているだろうにも関わらず、鳥獣に全く食われていない。
事の異常性を察した商人の長は、仲間たちと共に「ハイエナ」を手厚く葬りこの一帯を立ち入り禁止とした。
のちに禁を破り「ハイエナ」の残した財宝に引かれて集落跡を訪れた者たちは全て消息不明となっている。
以後、この地は呪いの地と噂され、事件から長く経った今でも避けられ、怖れられている。
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(//‰ ゚) 「そんな噂のお蔭でここには人が来たりはしねエ。絶好の隠れ家だ」
ヨコホリ=エレキブランは、一通りこの場の由来を話してから笑って見せた。
力の無い笑みだ。彼と知り合ってからそれなりの年数が経つが、ここまで弱っているのを見たことが無い。
(//‰ ゚) 「まあ、危ねえのは事実なンだがな」
ヨコホリの横たわるベッドの周囲を、「目に見えない何か」が飛び回っている。
それも、複数。羽虫の類とは絶対に異なる禍々しい存在感。
流れ出るヨコホリの魔力に牽制され近づいては来ないが、接触が好ましくないことは予想できる。
(//‰ ゚) 「人間の思念……いわば経験と知識の蓄積によって形成された『人格』を魔力そのものに定着させてるンだ。
脳の中で起きている電気信号の働きを、魔力によって再現する。まあ、魔法で作られたゴーストってトコだな」
ヨコホリは接近してきたゴーストを、気だるそうに振り払う。
濃密な魔力を嫌ってか、すぐに部屋の隅へと離れていった。
(//‰ ゚) 「魔力の扱いになれてりゃ追い払うのは楽だし、今は俺が居るから安全だがナ」
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( ゚∀゚) 「……それよりも、体の状態はどうなんだ」
(//‰ ゚) 「どうもこうもあるかァ、見ての通りだ」
ジョルジュは、ヨコホリの胸元に視線を落とした。
掌ほどの大きさの魔法陣が、か弱い明滅と共に浮かんでいる。
これが、今のヨコホリの命そのもの。
本来の何重にも守られた環境から比べればあまりにも無防備な状態だ。
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(//‰ ゚) 「全部ガッタガタだよ。俺の「生命」を司る魔法の大体9割が破壊されてンだ」
ついでに言えば、残りの一割も急造した粗悪品だ。
元々並でない生命力のこの男でなければ死んでいただろう。
否、事実この男は一度完全に死んだのだ。
今一応生きているのは、自身の掛けた保険のお蔭に他ならない。
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( ゚∀゚) 「自分で組み直したりはできないのか?その予備の魔法を使ったように」
(//‰ ゚) 「あのなァ……お前、魔女の技術をそうそう簡単にマネできると思うのか?ン?」
ヨコホリは、通常のゴーレムと異なりまだ人体の部分が多く残されている。
故にゴーレムに用いる単純な(それでもかなり高度な)魔法式だけでは足りないのだ。
あくまで人間の部分は人間として生かさねばならない。
そのために、魔女は膨大な数の魔法式をヨコホリに仕込んだ。
人間の生体機能と同じだけの魔法が存在するといえば、それがどれだけ途方もない行為か理解されるだろうか。
シーンはその機能を取りまとめる「節」の魔法を狙う個々の分解の手間を省いたのだが、組み直すとなればそうはいかない。
ハーフゴーレムとして生かす魔法と言っても、実質は人を一人生み出すのと変わらない行程が必要なのだ。
(//‰ ゚) 「コイツだって、べらぼうに質の良いタリズマンに無理やり焼き写しただけで、俺自身の技術云々じゃねェンだ」
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( ゚∀゚) 「そうか、ならば」
(//‰ ゚) 「おう、魔女が気まぐれにさっさと来てくれることを願うばっかりだナ」
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ヨコホリの体調は、時間が経つにつれてみるみる悪くなっている。
予備の魔法だけでは生命の維持機能が足りていないのだ。
発動の直後は、分解されながらも残っていた魔法の断片を集めることで代用できたが、今はそれも完全に失われている。
魔女が来なければ確実に死ぬ。
すぐにでは無いが、流石に数週はもたないだろう。
さらに言えば、魔法や魔具等の魔力を帯びた攻撃を一発喰らうだけでも魔法が乱れて死ぬ。
今のヨコホリの耐久度は、そこらの虫と同程度まで落ちているのだ。
(//‰ ゚) 「その後、魔女からリアクションは?」
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( ゚∀゚) 「無い。また何か、碌でもない戯れに興じているらしい」
(//‰ ゚) 「カーッ!勘弁してほしいぜ。一度飽きた玩具にゃ興味ねえってか」
o川*゚ ,゚)o 「そんなことないんですけど。失礼しちゃうな」
(//‰ ゚)
_
( ゚∀゚)
o川*゚ ,゚)o
(//‰ ゚)
_
( ゚∀゚)
o川*゚ー゚)v 「ブイッ」
(//‰ ゚) 「………………………………………ッめえはホントによォ〜!!」
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o川*゚ー゚)o 「何々??ホントに可愛いって??」
_,
( ‐∀‐)
ジョルジュは静かに眉間の皺を揉み解す。
突如現れたその少女は、彼らの動揺も全く意に介さず小首を傾げて微笑んだ。
絹のごとき艶やかな髪がさらりと揺れ、光の粒が宙を舞う。
正体を知らなければ、知っていてなお不覚にも見惚れる美しさ。
噂をすればなんとやら。
ヨコホリをゴーレム化させた張本人、『魔女』の登場である。
o川*゚ー゚)o 「緊急だっていうから出来る限り急いできたのにさ、いきなり陰口なんて酷くない?」
(//‰ ゚) 「あのナ………………いや、いい。悪いのが俺でいいからさっさと直してくれ」
ヨコホリがここまで大人しくなる光景など、滅多に見るものでは無い。
不遜な口調は相変わらずではあるが、どこか緊張が感じられる。
魔女もそれは御見通しといったところで、ヨコホリに向かって満面の笑みを見せた。
o川*゚ー゚)o 「はいは〜い、一度飽きた玩具(強調)を頑張ってなおしま〜す」
(//‰ ゚) 「…………ナガオカ、俺にも胃薬くれ」
_
( ゚∀゚) 「断る。既に俺の分が足りなくなる可能性が濃厚だ」
o川*゚ ,゚)o 「本人目の前にして二人とも酷くない??????」
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唇を尖らせながらもヨコホリの修復に入った魔女。
ヨコホリ内部の状態を診察して益々口を尖らせた。
o川*゚ ,゚)o 「……回路がズタボロどころか真っ白じゃん」
(//‰ ゚) 「大体お前のせいだろ」
o川*゚ ,゚)o 「えー?ヨコっちの自業自得でしょ?」
(//‰ ゚) 「チッ」
魔女がヨコホリの体に浮かぶ魔法陣に手を翳した。
所々出来ていた綻びが瞬く間に修繕されてゆく。
o川*゚ー゚)o 「どう?」
(//‰ ゚) 「……大分楽になった」
o川*゚ー゚)o 「うん、根幹はこのままこれを使えばいっかな。あとは……」
魔法陣がくるりと回転し、ヨコホリの身体へと沈む。
これだけでも相当楽になったのか、ヨコホリの表情が和らいだ。
o川*゚ー゚)o 「結構痛いと思うけど、がまんしてね☆」
(//‰ ゚) 「……チッ」
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魔女の姿が少女から妖艶な大人のそれへと成長した。
伴って身に着けていた衣類も、ローブから背中の大きく開いたドレスに代わる。
面影は残しているが、変化の瞬間を見逃せば同一人物だとは思えないだろう。
魔女の周囲に濃密な魔力が渦巻き始めた。
ジョルジュは危険を感じ壁際まで後退。
魔力の奔流はさらに激しさを増し、ゴーストたちが慌てて室内から逃げてゆく。
o川* ー )o 「……………“――――――オープン”」
魔女は光を灯らせた指をクルクルと回し、頭上に掲げる。
その動きに呼応し、室内に溢れた魔力は、魔女の足元で魔法陣へと変貌した。
巻き起こった突風がローブと髪を舞い上げ、光の粒子が弾けて舞う。
見たことも無い様式の魔法陣だ。
古典的な呪術に用いる梵の紋様と、現代的な幾何学模様を合わせたような図式。
目を凝らせば、魔法陣を構成する線の一本一本もまた非常に細かな魔法陣の連なりであると分かる。
並ならぬ緻密さ。この魔法陣に一体どれだけの魔法を生み出す機能があるのか、ジョルジュにはもうわからない。
o川*゚ー゚)o 「今回の反省を兼ねて、ちょっとパワーアップする?」
(//‰ ゚) 「……どうでもいいからさっさとしてくれ」
o川*゚ー゚)o 「そんなに怖がらないの。男の子でしょ?」
魔女が地面に手を翳し、鍵盤を叩くかのように指を動かす。
指が動いた数だけ魔法陣から小さな魔法陣が独立して浮き上がり、魔女の周囲に待機してゆく。
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o川*゚ー゚)o 「よーし、準備オッケー!」
ジョルジュが数えただけでも百を軽く超えた魔法陣。
薄暗かった室内はそれらの放つ独特の反応光によって明るく満たされている。
魔女は空間をかき混ぜるように、頭上で腕を一振り。
かき混ぜられた魔法陣の群れは竜巻の如く回転し、瞬く間にヨコホリの胸の上に一列に重なった。
横から見ていると、光る丸太を胸におしつけられているようだ。
o川*゚ー゚)o 「じゃ、行くよ」
(//‰ ゚) 「……おう」
魔女が指を鳴らした。
下部の魔法陣がくるりと回転し、ヨコホリに沈み込む。
その瞬間ヨコホリの身体が跳ねた。
叫びをあげ、体を捩らせようとする。
魔女は変わらぬ涼しげな顔で手を翳し、目に見えぬ力でそれを制す。
(//‰ ) 「――――――――――――――ッッッ!!!!!!」
そうしている間に次の魔法陣が回転、ヨコホリへ浸入。
電流に似た煌めきが全身に波及し、耳障りな音が爆ぜる。
一瞬落ち着いたかに見えたヨコホリが、再び断末魔のごとき雄叫びを上げた。
人間のままの片目は大きく見開かれ、今にも眼球が飛び出しそうだ。
どれほどの苦痛が駆け巡っているのか、はたから見ているだけでは想像がつかない。
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時間にして、一時間弱ほど。
合間に少しの休憩を挟みつつ、ヨコホリの「修理」は一応終了した。
後は安定化と誤差修正の作業のみであり、ヨコホリはそのために魔法の繭に包まれて眠っている。
作業中とは打って変わって静かなものだ。
ジョルジュもふっと息を吐き、壁に凭れかかる。
大の男の、それも普段は飄々とする彼が錯乱し絶叫する様は見ていて気分が良いものでは無かった。
o川*゚ー゚)o 「ふー、ちょっとつかれたー」
_
( ゚∀゚) 「…………ここまで、壮絶なものなのだな」
o川*゚ー゚)o 「んー?まあねー」
人間部分、といっても何の手も加えられぬ人のままというわけでは無い。
ゴーレムの部位を物理的にも魔法的にも支えるための著しい改造が必要となる。
ヨコホリの場合は専用の魔法を定着させることによってその条件を満たしているのだが。
o川*゚ー゚)o 「魔法を生身の体に定着させる時ってさ「定着させたい魔法」と「定着させるための魔法」の二つが必要なのね」
o川*゚ー゚)o 「この「定着させるための魔法」が半端ないんだよね。
その人間の「存在」そのものに介入して、本来異物である魔法と無理やり縫い付けるわけだから」
o川*゚ー゚)o 「正直ヨコっちレベルのタフさが無かったらショック死もんだよ」
「ヨコっちでもこの有様だけど」とため息混じりに呟いて、魔女は椅子に凭れかかった。
魔女はすっかり元の少女の姿に戻っている。
小さな足をプラプラとさせる様子からは、魔法を行使した疲労よりも退屈さばかりが伝わってくる。
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少しして、魔法の繭がハラハラとほどけ、ヨコホリの姿が現れた。
死人のように動かないが、肌の色などは幾分生気を取り戻している。
_,
( ゚∀゚) 「……なんだ、これは」
一応心配してヨコホリの顔を覗き、ジョルジュは眉をしかめた。
鋼鉄の面を被せられたのとは逆の顔。
生身のままのヨコホリの左目が、焦点を定めずにグリグリと動いている。
とても意志をもっているようには見えない。
時々瞳孔が眼窩の奥の方まで回転し、普段は隠れている血管や神経の束が目の端から覗いた。
苦痛のあまりに狂った。先ほどまでの状況を見ていた者として、ジョルジュは即座にそう判断した。
o川*゚ー゚)o 「あ、大丈夫。脳にかけた魔法のせいで記憶が混乱してるのね。
走馬灯とか、夢を見てるのと同じ状態だから、すぐに収まると思う」
_
( ゚∀゚) 「走馬灯の時点でダメそうなのだが」
魔女の言葉通り、目の暴走が止んでヨコホリが身を起こした。
左手で頭を押さえ、どこかぼんやりとしている。
が、少し様子を見る内に、口角が吊り上がり、引き攣るような笑いが漏れ始めた。
(//‰ ) 「グッ……グッグッグッ……なるほど、『しそ屋』ね……思い出したぜェ…………グッグッグっ……」
_,
( ゚∀゚) 「……?」
(//‰ ゚) 「グググググッ……コイツぁ面白れェ…………赤い糸ってのはこういう事なんだろうなァ」
-
(//‰ ゚) 「ああ、居たな、いたよ……あの時俺たちは、確かに小娘を一人見逃した」
(//‰ ) 「あの癖の入った金の髪…………言われてみりゃ、なるほど面影だらけだァ…………」
惚けたような独り言。混じる笑い声は徐々に音量を増す。
不審げに見つめるジョルジュや魔女のことなど完全に眼中にない。
瞳孔の開き切った彼の眼に映っているのは、この場にはいない一人の少女。
(//‰ ) 「そうかそうか……そうだよなァ……、親殺されて、そのままのうのうと生きるなんてできねえやなァ」
長く同じような毎日を過ごしているうちに埋没していた記憶。
それでも残って居たのは、それなりに印象強い相手だったからだ。
あの時に戦った炎を操る女の魔法使い。
潰した店の名前など言われなければ思い出しもしなかったが、逃げ去った娘との間に立ちはだかる姿だけは覚えている。
顔を手で覆っていたヨコホリは、笑いを収め、息を調えた。
無表情のままではあるが、目に点った光は爛々と狂喜を溢れさせている。
(//‰ ゚) 「ナガオカ、これから暫く暇を寄越せ」
_,
( ゚∀゚) 「…………なにをする気だ」
(//‰ ゚) 「なァに、ちょっとな」
ベッドから立つヨコホリ。
体をほぐす動きを見るに、もう問題は無い様だ。
(//‰ ゚) 「俺を殺すために人生奉げた女の『愛』に、応える準備をするだけよ」
* * *
-
('A`) 『……暇だ』
(//^三ミ) (ぼくの方が暇だお)
('A`) 『俺なんて景色眺めることすらできないんだぞ』
(//^三ミ) (じゃあ代わる?)
('A`) 『代わりません』
ィシとヨコホリの勝負が決してからまる二日。
ブーン達はハインリッヒの診療所に居た。
居た、と言えばまだ聞こえがいいが、その実情はほぼ軟禁に近い。
ロクな治療魔法もかけて貰えないまま全身を包帯で固定されベッドに放置されている。
以降は定時にハインリッヒが食事を口に詰め込んでいく以外、碌な行動がとられない。
排泄ばかりは声をかければ連れて行って貰えるが、それだけだ。
普段常に体を動かしているブーンにとってはこれが中々辛い。
从 ゚∀从 「ブーン飯だ、口開けろ」
扉が開いて、食事の入った皿を持ったハインリッヒが入ってくる。
ブーンは言われたままに口を大きく開く。
これだけでも首や肩周りの筋肉が軋み、悲鳴を上げる。
焼けるような痛みこそ治まったが、回復とは程遠い不便さだ。
-
从 ゚∀从 「ったく、いい加減にしてほしいもんだな。お前らの世話のために態々戻ってこにゃならん」
文句を垂れながらも。ハインリッヒはブーンの口に食事を放り込んでゆく。
炒った麦と野菜や豆、ひき肉等をごちゃ混ぜにした粥だ。
見た目はまるで離乳食で、あまり食欲を誘うものではないが、口に入れてみるとこれが中々美味い。
ハインリッヒが投下するままに粥を食い、すぐさま食事は終わった。
胃はまだ足りないといっているが、ダメージと疲労を溜め込んだ体に食事の消化で更なる負担をかけるわけにもいかない。
腹六分目。食い足りない分は、食事の回数を増やすことで補っている。
(//^三ミ) 「ツンはまだ?」
从 ゚∀从 「ああ、ピクリともしねえよ」
(//^三ミ) 「……」
从 ゚∀从 「まあ、心配すんな。疲労と脳への過負荷、そこに加えて魔力切れだからな。二日三日眠っててもおかしかねえ」
ブーンは動く範囲で首を動かし、部屋の斜向かいにあるベッドを見た。
カーテンで囲まれているため姿は見えないのだが、そこにはツンが寝かされている。
心身ともに多く大きく傷ついた彼女は、あの決着の後に意識を失ってから以降一度も目を覚ましていない。
ハインリッヒが診察した上での「心配すんな」なのだから大丈夫なのはわかっているのだが、やはり心配だ。
あの時ブーン達は結果としては何もできなかったに等しい。
その時はできうる限りの全力ではあったが、最終的にツンを一人で戦わせることになった。
すべてはブーンの弱さと甘さによるものだ。
-
从 ゚∀从 「お前の方こそ、体の調子はどうだ」
(//^三ミ) 「じっとしていれば痛みは感じないお。ただ、動くと突っ張るっていうか」
从 ゚∀从 「そうか……」
ハインリッヒが手を光らせてブーンの肩に触れる。
触診の魔法だ。僅かにピリピリとするが特に何かをされている感覚は無い。
从 ゚∀从 「……相変わらずふざけた回復力だ。筋繊維の再生はかなり進んでるな」
(//^三ミ) 「これくらいならこんなもんだお」
从 ゚∀从 「……」
ブーンの返事にハインリッヒが眉間に皺を寄せた。
人差し指でしきりに揉み解しているが、よほど深く刻まれているようでなかなか消えない。
まったくもって不憫だ。誰だだこんないい先生を困らせてる迷惑な患者は。
从 ゚∀从 「……まあ、これなら包帯はほどいてもいいだろ」
(//^三ミ) 「いいのかお?」
从 ゚∀从 「代りに自分の世話は自分でしろよ。流石に便所の世話までしてると俺が仕事にならん」
(//^三ミ) 「おっおっ!もちろんだお」
-
( ^ω^) 「ふー、やっと自由になれたおー……」
包帯から解放され、ブーンは体を解す。
少し動かしただけで引き攣る痛みが走るが、拘束されているよりはマシだ。
ひとしきり上半身の可動域を確かめてからベッドを降りる。
久々に自立した床は、ややグラつくような気がした。
从 ゚∀从 「動けそうか」
( ^ω^) 「……んー、まあただ普通に生活するくらいなら」
从 ゚∀从 「あの状態からすりゃ上等だ。俺は往診の残り行ってくるから、大人しくしてろよ」
( ^ω^) 「はいおー」
手早く準備を終え出ていったハインリッヒを見送る。
本当にブーンの世話をする為だけに戻ってきてくれたらしい。
その親切を無駄にする気にもならず、ブーンは言いつけ通り大人しくしていることにした。
こっそり鍛錬するつもりで居たのは秘密である。
とはいえ、再生に伴って体が固まるのだけは避けなければならない。
剣を扱う上で柔軟性は筋力と同じだけ重要だ。
どれだけ強い力があっても、しなやかさが無ければ剣は死ぬ。
筋肉に過剰な負荷をかけ無ければよいのだから、歩く程度ならば平気だ。
そもそも現状のブーンで損傷がひどいのは上半身。
下肢もそれなりにダメージを受けていたが、相対的にはマシであるし、現時点ではほとんど痛みも取れた。
-
手始めにずっと気になっていたツンの様子を見にゆく。
同じ部屋の反対側というだけで一苦労だ。
歩くといっても使うのは下半身だけで無く、普通に行こうとすると上半身のそこかしこに激痛が走る。
ひいこらひいこらいいながらやっとツンのベッドにたどり着いた。
カーテンを少しだけ開け、頭を突っ込んで中を覗く。
( ;^ω^) 「…………これが心配するなな状況?」
(;'A`) 『治療魔法のオンパレードだな……』
ベッドに寝かされていたツンの身体には、至る所に青白い魔法陣が浮かび上がっていた。
特に多いのは頭。次が胸。あとは手や足の末端にもいくつかある。
それぞれ紋様が違い、それぞれの役目が異なっているのだと、魔法に詳しくないブーンにも分かった。
( ;^ω^) 「寝てるだけには見えないんだけど」
(;'A`) 『まあ、大半は保護の魔法っぽいし、見た目の仰々しさほどヤバくはないと思うんだけど』
つまりは、寝たままになっているツンの体が寝たままでことによってダメージを受けないための魔法なのだという。
床ずれ防止や、血流の維持、代謝抑制等々、直接的にツンを再生するために用いられているものでは無い。
ただし、頭部にかけられているのは、もっと複雑な再生補助の魔法式のようだが。
(;'A`) 『体の怪我よりも、呪具と真っ向勝負した後に魔力切れってのが良くなかったんだな』
( ;´ω`) 「も〜、僕よりも無茶なことするんだから……」
肝心の本人は、実に穏やかな表情で眠っていた。
顔色が悪いせいもあり、呼吸の細い音が聞こえなければ死んでいるようにも見える。
-
クルクルと動く魔法陣を何となく見ていると、ツンに掛けられている薄手の布団がモソモソと動いた。
体の隙間から顔を出したのは、獣のような毛を生やした蛇。
ツンのペット(?)のニョロだ。
ニョロはブーンを見つけると舌をチロチロと出して這い寄ってきた。
( ;^ω^) 「お、なんだお」
やや戸惑うブーンに、ニョロは頭を摺りつける。
甘えているようだ。
主であるツンが動かないため彼も暇なのだろう。
( ;^ω^) 「……いっしょにいくかお?」
人語を理解しているのか、ブーンの言葉にニョロは尻尾を振り回して応えた。
恐る恐る伸ばした手に、するりとまきついて這い上る。
むず痒い。それに、なんだか初めて見た頃よりも大分長くなっている気がする。
('A`) 『お前コイツ苦手なの?』
( ;^ω^) (なんちゅーか、キュートのキメラを連想する要素多くて。蛇だし魔法使うし)
(;'A`) 『おいおい、まさかキュートのキメラなんて言わねえよな』
( ;^ω^) (うーん……僕が初めて見た頃には、ほとんどツンの匂いしかしなくなってたからなんとも……)
(;'A`) 『………………めっちゃ懐いてんな』
( ;´ω`) (うん……くすぐったい……)
-
支援
-
初めての遊具でも見つけたかのようにブーンの体を這いまわるニョロをとりあえず放置し、ブーンは部屋を出た。
一先ず目指すは調理場だ。
水や食事は定期的に摂っていたが、大五郎(この場合焼酎の銘柄の意)はあまり口にできていなかった。
特に何もしなければ少量の摂取でも問題ないとはいえ、やはり懐に入れておかないと落ち着かない。
目的の大五郎は、簡単に見つかった。
調理台の上に、どんと小樽が置かれている。
ハインリッヒに金を渡して調達してくれと頼んでおいたのだが、まさかここまでのものを買ってくるとは。
( ^ω^) (リッヒの家にいる限り大五郎切れの心配はないおね)
('A`) 『リッヒもさ、既にここが俺らの拠点であることを受け入れてるよな』
( ^ω^) (うん。諦めって悲しいね)
樽の側面に注ぎ口が突き刺さっていたので、栓を抜いて適当な器に酒を注ぐ。
余り飲むと酔ってしまい、回復しきっていない体に響く。
木製のカップを半分程満たしたところで栓を閉め、漏れが無いかを確かめた。
(*^ω^) (ん〜〜〜安酒とはいえ樽から直で飲むと気分が違うお〜〜〜)
軽く口をつけ、唇を濡らす。
冷たく、そして熱く。鼻に抜けてゆく匂いは、独特の透明感と甘さがあり、自然と喉が鳴った。
すこし啜る。
いつもの大五郎の色気の無い酒の味に、ほんのりと樽の香りが移って、中々悪くない。
我慢できなくなって、そのまま一気に煽り飲む。
ハインリッヒに飲ませてもらうとどうしても少量ずつになるので、この喉から胃へ向かって駆け下る酒の心地は久々だ。
不味いが、美味い。
舌で愛でるのではなく、喉にぶつけるように飲む楽しみはこういった安酒ならではだろう。
-
大五郎を飲み干し上機嫌になったところで、ブーンはリビングの椅子からマントを取った。
療養用の寝間着の上に羽織って外に出る。
サロンの風は穏やかだ。
二日とはいえベッドに縛り付けられていた身としては実に心地よい。
少し歩いて家の前の柵に腰掛ける。
空を小鳥が横切って行った。
遠くから家畜の鳴き声が聞こえる。
耳元を撫ぜる風。
心をざわつかせる音も景色も一切ない。
眺めているだけで気力が回復してくる、実に長閑なサロンらしい風景。
数日前にあれだけ大規模な戦闘が行われたとは思えない。
大五郎、根絶法双方ともに街への必要以上の被害を嫌ったお蔭なのだろう。
なお、今は両軍勢も戦後の処理に追われ小競り合いすらも起こっていない。
( ^ω^) (……正直、大五郎が勝ったのは驚きだおね)
('A`) 『ああ、あの人数差だったもんな』
-
ブーンたちは森に居たので具体的な戦況までは把握していない。
だが、ハインリッヒ伝いに大五郎側が防衛に成功したというのは聞いている。
あの圧倒的な人数差を凌ぎ、本社からの援軍到着まで耐えきったというのだ。
敵の主力級であるニダーと剣を交えたブーンとしては意外以外の何でもない。
サロンにいた兵士は、ブーンが見た限りでツンと同等かいくらか上回る程度が最高値。
個々の戦力だけが勝敗の要因でないとはいえ、人数含め相当に不利だったのは間違いない。
( ^ω^) (指揮はあの支店長さんだったらしいけど……)
(;'A`) 『どうにもそんなタマにはなあ……別の誰かが代理で指揮とってたんじゃねーのか』
( ^ω^) (たぶんね。そもそも戦闘職種じゃないらしいし)
兎に角大五郎サロン支店は現在も無事営業を続けている。
サロンから離れずに大五郎を確保できるのはありがたい話だ。
もし潰されていたとなると、また渡辺に連絡を取って配達してもらうなどしなければならなくなる。
一体どんな策を弄してあの軍勢を退けたのかはわからないが、この際それはまあいいだろう。
金さえあれば気軽に酒が口にできるというのは、ブーンたちにとっては安心できる環境だ。
-
※
主人公たちからみたセント=ジョーンズ像
(’e’) うわぁ〜〜〜〜〜〜〜
実際のセント=ジョーンズ
(’e’) うわぁ〜〜〜〜〜〜〜
.
-
しばらくそよ風に吹かれて空を眺め、ブーンは柵から腰を上げた。
軟禁で辟易していた気分は大分回復したし、自分の体の状態も大よそ把握できた。
これ以上外にいて厄介なのに見つかる前に、部屋に戻ってゆっくり酌でもしようというものだ。
確か地下の貯蔵室にチーズや干し肉があったはずだ。
報告すればある程度自由にしていいと言われていたのでありがたくいただこう。
ブーンはマントを翻して屋内へ戻る。
大五郎を手ごろな瓶に注ぎ、地下に降りてチーズと干し肉を見つくろった。
今の身体で瓶や食料を抱えて階段を上るのは少々しんどいが、部屋に戻ってからのお楽しみがあるので耐えられる。
えっちらおっちらと部屋の前まで戻り、半端に空いていた扉を足で開けて中へ入った。
ξ ⊿ )ξ
( ^ω^)
ξ ⊿ )ξ
入口のすぐ目の前の床で、ツンが倒れていた。
( ^ω^) 「ツンさーん??」
ξ ⊿ )ξ
( ^ω^) 「死んでる????」
返事がない。
-
ブーンは空いていたベッドに抱えていたもの放るように置き、ツンに駆け寄る。
抱き上げると、ぞっとするほど体が冷たく力が無い。
首元からニョロが飛び出し、勢いよくツンの頬に頭を摺りつけたが、やはり反応は無かった。
ツンのベッドを覆っていたカーテンが開いており、奥に見える布団は半分床に落ちている。
恐らくは目を覚まして這いずってきたのだろう。
ハインリッヒがツンにかけていた魔法の一つに、生命器官の働きのほとんどを魔法によって補助し、
代わりに身体の活動をギリギリまで抑えることで回復効率を上げる物がある。
つまりは絶対安静の寝たきりの人間の為の魔法。
その中で無理に動いたものだから、実質の仮死状態に陥っていってしまっているのだ。
心配げに頬ずりするニョロを服の中に押し戻し、ブーンはツンを抱き上げた。
流石に人一人を持ち上げるほど回復はしておらず、全身が激痛に見舞われたが一先ず我慢。
なんとかツンをベッドに寝せ、布団をかぶせる。
ξ ⊿ )ξ 「う、ぅぅ……」
一応生きていた。
ツンが停止したことで魔法も再び効果を発揮している。
とりあえずは大丈夫だろう。
( ^ω^) 「ツン、大丈夫かお?」
ξ ⊿゚)ξ 「…………ブーン」
-
ξ ⊿゚)ξ 「…………ここ。……リッヒの……?」
( ^ω^) 「そうだお。あの戦いの後、僕らここに運ばれたんだお」
ξ ⊿゚)ξ 「……………そう」
ツンの眼が虚ろに天井を見る。
もう少し取り乱すかもしれないと構えていたが、以外にも大人しい。
意識がはっきりしていないのか、魔法のせいか。
なんにせよ、あまりいい気分ではない。
あの山でツンは意識を失うまで呪詛を吐き怒りを吠えていた。
それからこの状態では、何かが切れてしまったのではないかと不安になる。
ξ ⊿゚)ξ 「…………ブーン、ドクオ」
( ^ω^) 「……お?」
ξ ⊿゚)ξ 「私の体が回復したら、私に剣と魔法を教えて」
( ^ω^) 「……」
ξ ⊿゚)ξ 「今の私じゃ、弱すぎる。こんなんじゃ、あの鉄クズ野郎を殺せない」
( ^ω^) 「……ツン?」
もそりとツンの手が動き、自身の頭に触れた。
そこには真新しい傷跡がある。ツンが自ら木の礫を突き刺した場所だ。
-
ξ ⊿゚)ξ 「………ィシさんが死んだとき、沢山の記憶が私の中に入ってきた」
ξ ⊿゚)ξ 「…………全部、分かったの。あの人が何をしたくて禁恨党を率いていたのか」
ξ ⊿゚)ξ 「…………何故、あんな呪具に頼ったのか」
ξ ⊿゚)ξ 「…………私が勝つべき相手が、誰なのか」
ξ ⊿ )ξ 「……全部、全部わかったの」
( ^ω^) 「……」
ξ ⊿゚)ξ 「……あんたたちが、人に技を教えるとか、そういうのを嫌っているのはわかってる」
ξ ⊿゚)ξ 「……でも、私には必要なの。少しでも、僅かでも、今より強くならなくちゃいけないの」
( ^ω^) 「……」
ξ ⊿ )ξ 「……だから、お願い。私に、力を貸して」
ξ ⊿ )ξ 「あの男、ヨコホリ=エレキブランを、倒すために」
* * *
-
( ;;;Фωφ) 「おがえりである、ギュード」
o川*゚ー゚)o 「ただいま、試作ちゃん。良い子にしてた?」
( ;;;Фωφ) 「うむ。わるいやづらいっばいきだがら、たおじた」
ヨコホリの修復を終え、砦のある山に帰った魔女を出迎えたのは、二刀を持った一人の男。
彼女が生み出し、「試作ちゃん」と呼ぶ限りなく人に近いキメラである。
彼の足元には、複数の死体が転がっていた。
原形を留めていないが全員武装している。
恐らくは懸賞金や名声目当ての破落戸だろう。
試作ちゃんの腕ならば、目を瞑ってでも勝てたに違いない。
( ;;;Фωφ) 「ごれ、どずる?」
川*゚ ,゚)o 「んー―――……あんまり優秀には見えないし、素材としては最低ランクかなー――……」
b
しばし死体を眺めて悩んだ結果、これらは破棄することにした。
砦のスペースはまだいくらかゆとりがあるが、だからと言ってなんでもかんでも保管しておくわけにはいかない。
人間の素材は先日のフタバの街で上質なものが集まったし、十分足りているのでなおさらだ。
「えい」という掛け声と同時に、死体に火が灯る。
流れる血にすら広がった赤い炎は瞬く間に数人分の死体をただの焦げ跡へと変貌させた。
-
o川*゚ ,゚)o 「あーあ、もう、こんなのばっかり。やんなっちゃう」
わざと巷に自分の居場所を流して以来、現れるのは身の程知らずの雑魚ばかりだ。
目的の子たちがすぐに来ないのは覚悟していたが、せめてもう少しまともな人に来てもらわなければ。
手間ばかりかかって何の利にもならない。
o川*゚ ,゚)o 「いこ、試作ちゃん」
ため息一つ、魔女は死体の跡へ背を向けた。
砦へ戻って試作ちゃん二号の調整をしなければ。
待ち人は来ずともやるべきことはいくらでもある。
が、魔女の言葉に反し、試作ちゃんは麓の方へ視線を向けたまま動かない。
鞘に納めようとしていた刀を再び引き抜き、構える。
( ;;;Фωφ) 「…………まだ、いる」
o川*゚ ,゚)o 「……?サーチには何もかからないけど……」
魔女が訝しげに試作ちゃんの視線を追う。
展開している広域探知の魔法に反応するのは獣の類のみ。
それもどれも中型未満で、魔力の反応なども無い。
試作ちゃんが刀を構えるほどの相手では無いはずだ。
が、二人が目を向ける方向の空に、黒い点が複数見えた。
鳥では無い。
もっと巨大な何か。
それが太く頑丈な丸太であると気づくころには、既に魔女の眼前まで迫り来ていた。
-
魔女の前に試作ちゃんが躍り出て、飛来する丸太へ刀を振るう。
鈍い金属音。
試作ちゃんの斬撃は丸太の軌道を横へ流す。
魔女を逸れた丸太は地面に激しく衝突し、砕け散りながら跳ね飛んでゆく。
残りの数本も同じく難なくいなす。
重く硬い丸太を受けておきながら、試作ちゃんの刀には刃こぼれ一つない。
o川*゚ー゚)o 「…………びっくりした」
( ;;;Фωφ) 「うむ」
o川*゚ー゚)o 「ありがとね試作ちゃん。あんなの当たったら死んじゃうとこだった」
( ;;;Фωφ) 「うそ」
o川*^ー^)o 「ふふふ」
言葉で危機感を匂わせながらも、魔女は笑顔であった。
砕けた丸太の一片を拾い、眼前へ。
これ自体は何の変哲もないただの木だ。
恐らくは麓のあたりで伐採されたまま放置されていたものだろう。
ただし、木片は指で軽く潰すと水が滲むほどたっぷりと濡れている。
僅かな魔力も感じ取れた。
恐らくは水の魔法を用いてこの丸太を発射、魔女を狙撃したのだ。
-
o川*゚ー゚)o (丸太があった場所を考えると……距離は1km弱ってとこかな?)
o川*゚ー゚)o (これだけ重いものを飛ばすことが出来る水魔法の使い手ってなると、限られてくるよねぇ)
丸太の飛来した方向に、再び何かの影が見えた。
今度は物を撃ち出したのではなく魔法そのものだ。
溝色に濁った水の大蛇が、空を泳ぐが如く高速で迫る。
刀を構え、試作ちゃんが再び前へ。
確かに試作ちゃんならば魔法の攻撃も捌くが出来るだろう。
しかしそれはあくまで中級程度までの話。
さらに言えば物理的な破壊力に重きを置いたものに限る。
故に、この魔法は試作ちゃんでは防ぎきれない。
o川*゚ー゚)o 「ほいさー!」
試作ちゃんを襟首を掴んで引っ張り、障壁を張る。
同時に魔法の蛇が襲来。防壁との衝突の寸前に爆音と共に炸裂した。
白い水煙が視界を覆い、硬質化した水の刃が周囲へ飛び散る。
水を変異させた強力な溶解毒だ。
魔力の障壁は問題なく魔法を防いでいるが、周囲の地面はみるみるケロイド状に変化していく。
真面にこの雨を浴びれば骨すら残らず、地面を流れるヘドロになっていたことだろう。
-
o川*゚ー゚)o 「おっ返しぃ!☆」
溶解毒の魔法をやり過ごしきったと共に、魔女は腕を振るった。
電光に似た魔力の閃が天に走り、巨大な火炎の礫を複数出現させる。
小さな町ならば一つで十分火の海にすることが可能な爆破魔法。
それが、数にして13。
これら炸裂すれば、地上の周囲数kmは蒸発を約束された灼熱と化すだろう。
対して。下方から強い魔法の輝きが爆ぜる。
爆破魔法と同数の水魔法の槍が、それぞれの中心を打ち貫いた。
相対する魔法の邂逅。
真っ先に閃光が目を焼き、天地を揺るがす轟音が次いで鼓膜をしびれさせる。
吐き出された紅蓮の熱は次々に隆起し膨張し、青い空を暁の色に染めた。
( ;;;Фωφ) 「む?」
炎は、麓の一帯を覆いつくしている。
が。地表にまでは届かず、上空で煮えたぎっているばかりだ。
見れば、爆破の範囲よりも広く、濃密な霧が地表を覆い尽くしている。
これが、火炎の侵攻を妨げている。
防御魔法の一種だ。
正面から受け止めるのではなく、柔軟性を活かし力を逸らすタイプ。
直撃であれば破ることが出来たはずだが、先に炸裂させられたため力が足りなくなったらしい。
ついつい、口元が吊り上がる。
ここまで本気で力を高めてきた彼らに失礼なのだけれど、その有能さに心が震えて仕方がない。
魔法が発動してから、数秒程度の間に適切な対応。
単に魔法の能力が高いだけの人間では、魔女の攻撃は防げない
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