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Ammo→Re!!のようです

56名も無きAAのようです:2013/07/23(火) 21:02:59 ID:ndF7vt0k0
七十キロにも及ぶ装備を身に着け、ペイント弾の装填されたM14ライフルを手にして行う缶蹴り。
想像していたよりも遥かに過酷なこのアクティビティは、基地内の訓練兵全員――二百四十六名――が参加し、未だに誰も缶を蹴るどころか、視認すらしていない。
無線の使用は禁止されており、日中行っていた手旗信号による通信もこの闇夜の中では出来ない。
一時間に二回ほど銃声が聞こえるが、ゲーム終了のアナウンスはかからない。

人里離れた山奥で今なお続く缶蹴り。
少年は倒木を背にして座り込んだ。
脚は疲労を感じているが、まだ歩ける。
背負ってた背嚢を降ろして、そこから水とスプーン、缶入りの携行食料を取出し、ナイフで蓋を開ける。

灰色の携行食料――アッシュフードと呼ばれている――を、スプーンでかっ込むようにして食べ始めた。
塩味が強く、美味いとは言い難い。
それでも、バランスよく栄養素が取れる上に腹持ちのいいこれに、文句は言えなかった。
何味なのかも判断が難しい、人工的な味。

炊事班の作る料理が恋しかった。
豆と肉のトマトスープの、酸味と甘みの混合したあの味を思い出す。
原価は安いが味と栄養は満点で、訓練兵たちの水曜日の楽しみだ。
ふと、背嚢の中に潜ませていた――この訓練の噂を聞いていたので、前日に入れていた――水筒を取り出す。

保温性に優れた水筒の中身は、前日、つまり水曜日に出されたスープの残りだ。
正確に言えば、ギコ達訓練兵の中で公平な勝負――ジャンケン――の勝者が得たスープだ。
蓋を開けると、まだ温かいことを示す薄い湯気が立ち上る。
と、同時に漂うのはトマトの甘い香り。

嗚呼、この香りがたまらない。
トマトの甘酸っぱい香りは疲れた体によく効く。
一口だけ啜ると、唾液が口内に溢れだす。
程よい酸味と仄かな甘味。

思わず溜息が漏れる。
僅か一口で、一日で流した汗の分の塩分を補給したと実感できる。
二年前までは、この一口で訓練への意欲を削がれていた事だろう。
今は、いち早くこの訓練を終わらせることに意欲を注ぐ活力となった。

乾いた喉を潤すため、別の水筒を手に取る。
そちらに入っているのは、一つまみの塩を入れた水だ。
唇を湿らす程度にその中身を口にした。
時折口に含む水の量は、非常に微量だ。

いつ水が確保できるか分からない状況で、水を無駄に飲むわけにはいかない。
かと言って飲まないわけにもいかず、こうして少しずつ飲むしかない。
食べ終えて残った缶を背嚢にしまい、一息つく。
日頃行っている訓練でも大分厳しいと感じているのに、それ以上の訓練ともなると体がもたない。

かと言って、訓練を止めるわけにもいかない。
自らの意志で兵士になることを望んだのだ。
その為なら、この訓練を乗り越えなければ。
少しの間仮眠を取ろうと身を屈めた、その時だった。


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