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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 19:44:33 ID:cwrc78lw0
いつまでたっても規制が解除されないのでこちらで


纏めてくださっているサイト様

文丸新聞さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

ローテクなブーン系小説まとめサイトさん
ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

100名も無きAAのようです:2013/07/23(火) 22:20:00 ID:ndF7vt0k0
涼しげな風が浜辺に吹き付け、細かな砂とサンゴが混じったそれを巻き上げている。
数千、数億年の歴史の中で作られてきたそれらは、いとも容易く舞い上がった。
水面は穏やかに揺れ、太陽と空の色を反射して煌めいている。
風と波の音以外に聞こえるのは、どこからか聞こえてくる木々のざわめき。

人の息遣いは、どうにか五人分――その内二人は寝息――が聞こえる。
女性四人と少年一人が、クロジングから離れた砂浜にいた。
砂埃とも何とも云い難い物が足元を白ませ、水平線の向こうを紅蓮に染め上げる太陽に照らされる、風変わりな二組。
向かい合う二人の女性は、それぞれの背中に小さな子供を背負っている。

(゚、゚トソン「では、イルトリアでお待ちしております」

再会の約束を最初に取り付けたのは、トソンだった。
背中の少女は、まだ、眠っている。

ζ(゚ー゚*ζ「分かったわ。
      遅かれ早かれ、イルトリアには必ず寄るつもりだったし。
      ミセリちゃんをよろしくね」

(゚、゚トソン「勿論です」

ノパ⊿゚)「トソン・エディ・バウアー……だったな。
    また会おう」

夜明けを迎える直前、ヒートの背中には耳付きの少年、ブーンの姿があった。
ブーンは昨日の疲れもあってか、起きる気配がない。
すやすやと寝息を立てる二人に配慮して、彼女達は声を潜めながら会話を続けた。

(゚、゚トソン「えぇ、ヒート・オロラ・レッドウィング様。
    では、またお会いしましょう」

その言葉と共に、それぞれ別の道を歩き出す。
ヒートとデレシアはポートエレンを目指し、北上する。
トソンは南へと向かう。
東に見えていたはずのニクラメンは海底に沈み、太陽が世界を明るく染め上げる。

追い風が、南から北に向かって勢いよく吹き付ける。
空に浮かぶ夏の雲が、風に流されてゆっくりと北に向かう。
足取りは軽い。
デレシアも、そしてヒートも、この先に平穏が待ち受けていないことを知っていた。

それでも、この旅は終わらない。
旅に終わりが来るとしたら、この命が止まる時だけ。
生きている間に是非ともブーンの成長を見届けたいというのが、デレシアとヒートの共通の望みだ。
そしてデレシアは、彼なら必ず、彼女が目指すものに到達できると確信している。

これまでの間、ブーンは本当の意味で枷から解き放たれてはいなかった。
それは誰かに習い、誰かに従って成長する、依存と云う枷に守られたか弱い存在。
しかし、自分自身の意志で行動し、それを己の強さとした。
それは彼の自立の一歩を意味していた。

101名も無きAAのようです:2013/07/23(火) 22:20:41 ID:ndF7vt0k0
彼は、枷から解き放たれたのだ。
誰でもない、自分自身の力でそれを果たしたのだ。
後は彼の両足で好きな場所に歩き、思うままに行動し、成長する。
デレシア達の元を旅立つ日も、そう遠くないかもしれない。







太陽に横顔を照らされる旅人達の行く先には黒雲が浮かび、視界の果ての空は灰色に滲んでいた。
空は鈍色で、雲は墨色だ。
海の果てに見えるのは墨汁のような濃厚な夜の残滓。
一瞬、その雲の隙間、空の向こうに何かが煌めいたように浮かぶが、意識するよりも速く消える。







――だが、その遥か彼方に浮かぶ最果ての都の姿に気付いた人間が、一人だけいた。







果てしない旅を続けるデレシアだけなのであった。






Ammo for Relieve!! 編 The End

102名も無きAAのようです:2013/07/23(火) 22:21:28 ID:ndF7vt0k0
支援ありがとうございました!

昨日、一昨日でVIPに投下した物をこちらに改めて投下させていただきました。

質問、指摘、感想等あれば幸いです。

103名も無きAAのようです:2013/07/23(火) 22:22:50 ID:kJUeEPCoO
既読のところだから流し読み 
もう少しだな、支援

104名も無きAAのようです:2013/07/23(火) 22:25:04 ID:kJUeEPCoO
と書きこんだら、終わってた

105名も無きAAのようです:2013/07/23(火) 22:36:25 ID:kJUeEPCoO
このあたりの描写が後々どう使われてくるんだろうか

106名も無きAAのようです:2013/07/23(火) 22:50:35 ID:3xx7Z7ME0

おもしろい。
棺桶はそれぞれどのくらいの大きさですか?

107名も無きAAのようです:2013/07/23(火) 22:57:55 ID:ndF7vt0k0
>>106
クラスによってバラバラですが、大まかな指標は

Aクラス 〜165cmぐらいまでの高さ
Bクラス 165cm〜220cmぐらいまでの高さ
Cクラス 220㎝〜

となっています。
Cクラスを運べるのはマッチョだけです。

108名も無きAAのようです:2013/07/23(火) 23:34:18 ID:3xx7Z7ME0
>>107
背負える大きさだとは予想してたけど、Cクラスの大きさは予想以上だった。続き待ってますよ

109名も無きAAのようです:2013/07/24(水) 18:26:59 ID:QQMq7RMEC
乙!

あんなに強かったクックルがなんたる噛ませ・・・

110名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 20:26:18 ID:8zgNUgUU0
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Remember, kid.
覚えておけ、若造。

The truth is not always single.
真実はいつも一つではない。

The truth which you have been believing is just one side of the truth.
お前が信じている真実は、真実の一面でしかないのだ。

The solving the mystery of a crime is just puzzle.
事件解決など、ただのパズルに過ぎない。

Therefor, you do not forget that thing.
だから、このことを忘れるな。

There is no mystery which cannot be solved in this world.
解けない謎など、この世界には存在しないのだと。


                      Mr. Sherlock Gray - [Letter to the fake]
                      シャーロック・グレイ著【-偽りへの手紙-より抜粋】


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                            配給
【Low Tech Boon】→ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

【Boon Bunmaru】→ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm
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                     序章【fragrance-香り-】
              ‥…━━ August 4th AM03:25 ━━…‥
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アルマニャックとジャズミュージックを愛するその人物は、二時間前に殺された。

銅色の光沢を放つ物体を指先でつまみ、弄ぶ。
真鍮製の薬莢に包まれたそれは、銃弾だった。
ただの銃弾ではない。
殺傷力を高めるために先端に十字の切れ込みを入れた銃弾だ。

111名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 20:27:38 ID:8zgNUgUU0
着弾の衝撃で弾頭が広がり、周囲の肉を吹き飛ばす。
頭に撃ち込めば頭蓋骨を貫通し、脳漿を四方に撒き散らす事だろう。
ガンオイルに輝くそれを、一発ずつ、じっくりとダブルカラムの弾倉に押し込む。
一発毎に、想いを込めて。

秒針が時を刻むような音が、ただ、一人分の息遣いと絡まって部屋に漂う。
オイルと鉄の匂いに混じって、シャンプーと石鹸の濃い香り、そして情事の残り香が時折鼻につく。
悪い匂いではない。
まだ漂う仄かな汗の匂いもたまらなく好きだ。

準備を始めてから、静かな時間が過ぎていた。
時計の秒針はまだ四周半しかしていない。
弾込めを終えた弾倉を、拳銃に装填する。
遊底はまだ引かず、それをそのまま枕の下に忍ばせる。

腰掛けているベッドの上には、眼を見開き、口を大きく開けた死体があった。
太い手足は血の気を失い、顔は青白く変色している。
これが先ほどまで獣のように体を求めてきた人間の末路だ。
まぁ、最後にいい思いが出来たし、二回も派手に絶頂できたのだから、本望だろう。

白い指先に触れてみると、冷たくなっていた。
絡めていた指先の感触が一瞬でこうも変わると、生命とは機械に近い物だと感じる。
顔の傍に手をついて、動かなくなった顔を見つめる。
口の中に躊躇うことなく腕を突っ込み、その奥に詰まっていたハンカチを取り出した。

そのハンカチをビニール袋に入れて、床に置く。
腕に付着した独特の匂いを放つ唾液を見つめ、舌を出して舐める。
汗と唾液、様々な液体の混ざった味。
悪くない味だ。

二時間前に味わったものと比べて新鮮さに欠けるが、美味だ。
だが物足りない。
一度味わってしまうと、次から次へと別の味を求めるのが人間の性。
さて、まずは指から味わってみよう。

硬くなった腕を持ち上げ、口に含む。
舌で舐めまわし、皮膚の下にある味を吸い出す様に堪能する。
石鹸の風味と汗の風味が混じった、何とも言えぬ味だ。
舌先に若干感じる毛の感触も味わい深い。

堪能しながら、ふと、これまでの道のりを振り返る。

計画には長い時間が必要だった。
材料の調達、計画の調節。
雌伏の時は終わりだ。
今夜、周囲の全てが変わる。

112名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 20:29:02 ID:8zgNUgUU0
全てはこの日のためにあったのだ。
自分の人生も、何もかもが大義成就のためのパーツに過ぎなかったのだ。
傍の机に置いてあったバーボンの瓶を手に取り、一口飲む。
肢体を肴に飲む酒は、格別だ。

ましてや、死体の肢体となると、多少手をかけなければ味わえない珍味。
最後にしゃぶっていた爪先から口を離し、そのまま舌先を腿の裏に滑らせる。
やはり生きていた時と味が違う。
死んでからだと風味も落ちるし、反応が無いので面白みに欠けるが、その分味に深みが増す。

堪能しきった死体には、もう、自分の唾液が付いてない部分はなかった。
耳の中からうなじ、背中、とにかくあらゆる部位を舐めて味わった。
もういいだろう。
この死体が発見されても、オーバードーズで意識が朦朧とした人間が偶然海に転落したとして処理される。

これは、そういうシナリオなのだ。
時間も、場所も、タイミングに至るまで、計画に関わる全てが計算されているのだ。
海沿いに位置する物置のようなこの部屋を手に入れたのも、全ては計画のため。
この計画に、一切の不備も隙も無い。

完全にして完璧な計画。
即ち、完全犯罪である。

海に面する窓を押し開くと、潮の香りと力強い打楽器の音が入り込んでくる。
死体に服を着せて窓から海に投げ捨てる。
海面に落下するその音は、誰の耳にも届かない。
聞こえるのは潮騒と戯れるように奏でられるヴァイオリンの旋律だけ。

黒い海面に揺られる死体を見届けてから、シャワーを浴びるために部屋の中に戻った。
水平線が朱に染まる頃には、死体はどこかへと流されて消えていたのであった。

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‥…━━ August 4th AM06:25 ━━…‥
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ゆらり、ゆらりと規則正しく体が揺れる。
遠くから届く、磯の香り。
耳に届くのは潮騒と、力強く脈打つ鼓動の音。
心が芯から解され、体全体が液体のようにリラックスしている。

甘く、心地いい香り。
とても、気持ちのいい微睡の中。
夢見心地の中、何かを考えることは、出来なかった。
思考が蕩けきった中、出来るのは身を任せることだけ。

大きなそれに身を委ね、いつまでも、そうしていたかった。
安定した動きの中に安心を見出し、そこに安寧を求めた。
節々が痛む体のことなど、今は気にならない。
体を支える誰かの大きな背中と一つになる感覚が、痛覚と思考を麻痺させる。

113名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 20:31:42 ID:8zgNUgUU0
そう、これは誰かの背中だった。
とても親しく、そして素敵な人の背中。
誰の背中か、考える前に感じ取れるほどにその背中には覚えがあった。
出会ったその日から、自分の事を大切にしてくれている、一人の女性。

ヒート・オロラ・レッドウィングの背中だ。
力強い鼓動と、華やかな香り。
それは、自分の体が一番よく覚えている。
この背中は多くの事を語り、そして教えてくれた。

何かを守るために全てを懸け、強大な物に立ち向かうことの難しさと大切さ。
そうしたいと自分が思ったから動くということは、彼女に教わった。
彼女の背中が、そう教えてくれたのだ。
その教えを守り、自分は実際にそれを行動に移せた。

言葉だけなら、行動には移せなかった。
無言で実行に移した彼女の背中があったからこそ、自分はミセリ・エクスプローラーを守ることが出来た。
かなり痛い思いもしたが、後悔はなかった。
彼女が笑顔を浮かべて、再会を約束してくれただけで満足だった。

ヒートの跫音に重なるように、砂を踏みしめる別の跫音を聞き取る。
匂いを嗅がずとも、呼吸音を、この足運びの音を聞かずとも分かる。
存在感だけで伝わる、この圧倒的な安心感。
命の恩人であり、よき理解者。

デレシアだ。
今でも思い出せる。
四日前、七月三十一日の出会いの瞬間を。
あの日、デレシアとあの店で出会わなければ、今こうしていることはあり得なかった。

自分は奴隷で、自由はなく、思考は禁じられ、ただ道具として徹することが人生だと思っていた。
売られ、蹴られ、罵られ。
それが日常だった。
不変だと思っていた、当たり前の光景だった。

だが、それは大きな間違いだと知ることが出来た。
たった一人の意志と力で、世界は大きく変わるのだ。
デレシアはその二つだけで、ブーンの人生を変えたのだ。
未だに理由は分からないが、とにかく、結果は変わらない。

ようやく、自分の置かれている状況が分かった。
今、自分はヒートに背負われながら、海辺を歩いているのだ。
そしてその傍にデレシアがいるのだ。
どこに向かっているのか、まだ分からない。

だけど、これだけは分かる。
この先に何が待ち受けていても、きっと、大丈夫だ。
意識が再び微睡み始め、思考がぼんやりとしてくる。
そうして呼吸をする内に、また、眠りの中に落ちていく。

114名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 20:33:14 ID:8zgNUgUU0
どこか遠くから、ウミネコの声が聞こえてきたのを最後に、ブーンは眠りに落ちた。

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                                    原作【Ammo→Re!!のようです】

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沿岸に走るシーサイドシュトラーセ鉄道は、ポートエレンを通る唯一の鉄道だ。
鋼鉄の線路は潮風による酸化を防ぐための加工がされており、津波や暴風から車両を守るための線路壁が設置されている。
線路壁とは、緊急時に電動で作動する防波・防風の役割を果たす壁の事だ。
普段は細かく蛇腹状に分断されて線路脇に広がっているが、いざ電気信号を受け取ると、花の蕾が閉じるような動きで線路と車両を守る壁になる。

寂れた無人駅の券売機で、三人分のチケットを購入し、改札を通ってホームに立つ。
時刻表では、後七分でポートエレン行の列車が来ることになっている。

ζ(゚ー゚*ζ「ヒートはどこまで旅をしたことがあるの?」

三人だけのホームで最初に口を開いたのは、カーキ色のローブ、豪奢な金髪、宝石のような碧眼、そして履き慣らしたデザートブーツで足元を飾るデレシアだった。
風に靡くローブと髪の毛が、どこか涼しさを感じさせる。
普段は何も背負っていない背中には、彼女の背丈よりも僅かに小さな黒い長方形の物体があった。
軍用第七世代強化外骨格――通称“棺桶”――の中でも、特化した目的で設計されたコンセプトシリーズのそれだ。

強化外骨格を破壊することだけに重点を置いて設計された、対強化外骨格用強化外骨格。
その名は、“レオン”。
左腕には放電装置、右腕には巨大な杭打機を備え、あらゆる装甲を一撃で撃ち抜く力を持っている。
だがそれは、デレシアの使用する棺桶ではなかった。

デレシアの隣に並び立つ、黒いスラックスとグレーのワイシャツの上にデレシアと同じローブを羽織る女性こそが、その棺桶の持ち主。
赤髪と瑠璃色の瞳、そしてまだ新しい傷を全身に負った元殺し屋、ヒート・オロラ・レッドウィングだ。

ノパ⊿゚)「あたしは、北は水の都、南はシュタットブールまでだな」

ヒートは、棺桶の代わりに犬の耳と尻尾を持つ少年を背負っていた。
一般的には耳付きと呼ばれ忌避される人種だが、その運動能力、身体能力は一般的な人間を凌駕しており、その生態は謎が多い。
奴隷として売られたり、生まれた途端に処分されたりとしているためだ。
彼女達と共に旅をする少年の名は、ブーン。

湾岸都市オセアンで奴隷として扱われていた彼は、偶然出会ったデレシアの手によって自由の身となった。
同じくオセアンで出会ったヒートにも彼は受け入れられ、それ以来、三人で旅をしている。

115名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 20:35:18 ID:8zgNUgUU0
ノパ⊿゚)「ポートエレンは初めてだから、あそこに何があるのかあたしは分からねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「市場と、あとはワインぐらいかしらね。
      人柄的にはオセアンよりも温厚よ」

オセアンもポートエレンも海沿いに作られた街だが、オセアンは世界屈指の大都市だ。
大量の埠頭を持つオセアンであるが、最大でも大型のタンカーが停泊できるぐらいの大きさしか――普通はそれで十分なのだが――ない。
それに比べればポートエレンは小さな街だが、しかし、ポートエレンには可変式埠頭がある。
埠頭を可変させることでどのクラスの船でも寄港することが可能となり、世界最大の船上都市であるオアシズが停泊できる数少ない港の一つとなっている。

可変式埠頭の欠点は、それを使用している間、停泊できる船の数が減るという点にある。
それでも、オアシズ停泊中に得る利益の方が魅力的だ。

ζ(゚ー゚*ζ「実はね、あそこはワインよりもグレープジュースの方が美味しいのよ」

ノパ⊿゚)「ほぉ、美味いグレープジュース、ねぇ。
    あれに美味い不味いがあるのかは知らねぇが、美味いのを飲んだことはねぇな」

ポートエレンで採れるブドウはワインにすると甘口となり、ジュースにするとこの上なく濃厚な物となる。
段々畑のような街並みの中にあるレストランでは、しばしばそのジュースを飲むことが出来る。
しかし、ブドウをジュースに加工するよりもワインに加工する方が、はるかに利益がいいため、あまり数は出回っていない。

ζ(゚ー゚*ζ「一度飲んだら忘れられない味よ」

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                 脚本・監督・総指揮【ID:KrI9Lnn70】

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(∪-ω-)「おー……」

ヒートの背中で、ブーンがゆっくりと瞼を開く。
最初に目があったのは、デレシアだった。

(∪´ω`)「お」

ζ(゚ー゚*ζ「おはよう、ブーンちゃん」

(∪´ω`)゛「おはよう……ございます、デレシアさん。
       ヒートさんも、おはよう、ございます」

ノパー゚)「おう、おはよう。
    どうだ、体の方は?」

116名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:48:18 ID:fQdY.ViA0
支援

117名も無きAAのようです:2013/08/19(月) 13:50:04 ID:IXC.FyFoO
来てる来てる!

118名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:47:14 ID:S.muFcjM0
(∪´ω`)「ちょっとだけ、おなかが……いたい、だけです」

昨日負った傷が癒え始めている証拠だ。
回復の具合によっては、流動食から固形物に切り替えてもよさそうだ。

ノパ⊿゚)「そうか、なら今日はしばらくおぶっててやるからな」

(∪´ω`)゛「ありがとう、ございます……お?」

最初の頃は気まずそうに甘えていたが、今では、大分素直に甘えられるようになっていた。
これもまた、成長だ。

(∪´ω`)「なにか、きます」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、そろそろ時間だからね。
      ブーンちゃん、列車を見聞きするのは初めて?」

(∪´ω`)゛「れっしゃ?」

ζ(゚ー゚*ζ「大きな乗り物なの。
      敷かれたレールの上をしっかりと走る、大きな乗り物の事を列車、っていうのよ」

そして、地平線の向こうに現れた小さな点だったものが近づき、徐々にその赤黒い姿が大きさを増す。
シーサイドシュトラーセ鉄道が誇る大型六両編成の鋼鉄の車両――テ・ジヴェ――が目の前を悠然と通り過ぎた時、ブーンの尻尾はわさわさとローブの下で動いていた。
テ・ジヴェは発掘復元された太古の車両で、振動の少なさと速度の面において非常に優れたものだ。
ポートエレンからジュスティアに入り、そしてその先の都市に行く前には別方面から合流した車両と連結を行い、合計で十二両編成となる。

六両編成とは言っても、車内販売は勿論の事、食堂と個室を備え持つ。

(*∪´ω`)「おー! おおきい! おおきいお!」

珍しく声を上げて興奮を表すブーンに、デレシアもヒートも破顔を抑えられなかった。
やはり、ブーンは子供なのだ。
子供にはあまりにも悲惨な環境下で育った彼の中から、子供らしさは消えていない。
この無垢な笑顔が、二人の心が腐り落ちるのを防いで暮れる。

ある意味で、相互扶助の関係にある。
ブーンを守り、無事に成長するまで手を貸し続ける代わりに、彼女達の精神安定剤の役割を果たしてもらう。
無意識の内に生じたこの関係は非常に強力だ。
何より、心地がいい。

デレシアとしてはブーンだけでなく、ヒートの様子も観察できることが役得だと思っている。
彼女にはまだ謎がいくつもあるが、特に気になるのが彼女の過去だ。
これまでに多くの人間の過去を知ってきたデレシアの楽しみが、他人の過去を知り、現代に至るまでの歴史を知ることである。
果てしない旅を続ける中で、これが彼女の趣味のようなものになっていた。

人にはそれぞれの歴史がある。
ブーン然り、ヒート然り。
当然、デレシアにも過去はある。
誰かに語り継ぐような過去ではないし、話すような過去でもない。

119名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:48:08 ID:S.muFcjM0
空気の抜けるような音と共に、列車の扉が開く。
まとまって降りてきた二十名弱の男女は、皆、似たような恰好をしていた。
日焼けした肌、海水で色が抜けた茶色の髪。
金属がぶつかり合う音のするボストンバックに、マリンシューズ。

海底に沈んだニクラメンに向かい、金品や貴重品を引き上げるトレジャーハンターだ。
身に付けた装飾品、もしくは服には彼らがトレジャーハンターギルド(※注釈:企業よりも規模の小さな集団)に所属することを示す、独自のロゴが描かれていた。
錨とサメをあしらったロゴは、彼らがトレジャーハンターの中でも世界第三位の規模を持つギルド、“マリナーズ”に所属していることを意味している。
それに続いて、マリナーズと同じ格好をした十人ほどの男達が降りてきた。

案の定、服にはギルドのロゴがあった。
それまで寝ていたのか、続々と人が列車から降りてくる。
フリーランスのトレジャーハンターやギルド、彼らを狙った売春婦の一団までいた。
先に乗車していたヒートとブーンが、デレシアの方を不思議そうに見る。

ニクラメンに向かった人間達に対する興味を失い、デレシアも乗車した。

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            撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】

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ひんやりとした列車内は、驚くほど空いていた。
三人が乗り込んだのは三号車だったが、誰も座っていない。
一駅先のポートエレンまでは、十分弱の列車旅となる。
短い間だが、楽しませてもらうとしよう。

テ・ジヴェの座席は全て、机を挟んだ対面型の四人席。
一車両に十四セットあり、合計で五十六人が乗ることが出来る。
それが今は、三人の貸切状態だ。
これで、周囲を気にすることなく電車旅が出来る。

入り口に最も近い席を選び、ブーンを窓際に座らせ、ヒートが通路側に座った。
ブーンと向かい合う形で座り、デレシアは途中まで降ろされていた窓を全開にした。
若干くぐもった車内の匂いと空気は、ブーンの鼻には厳しい物がある。
直ぐに涼風が車内の空気と入れ替わり始めた。

一瞬だけ車両が揺れると、テ・ジヴェはゆっくりと発車した。

(*∪´ω`)「すずしい……です」

120名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:49:12 ID:S.muFcjM0
静かに移り変わる景色を見ながら、ブーンはそう呟いた。
冷房よりも自然の涼の方がブーンは気に入っているようだ。
徐々に加速する景色から目を離さず、食い入るように見ている。
青空と真っ白な入道雲を背景に、まだ雪化粧の残るクラフト山脈と、鮮やかな新緑に囲まれたフォレスタが作り出す幻想的な風景は、まさに夏の景色と言える。

蝉の声とウミネコの鳴き声が合わさって、そこに風と潮騒、そして枕木がリズミカルに踏まれる音とが重なり、音楽を作り上げる。
遠ざかるフォレスタの森に、ブーンは何を思うのだろう。
自分を愛してくれた人間との別れを経験した地、それがブーンにとってのフォレスタだ。
目の前で笑い、目の前で死んだペニサス・ノースフェイスは、ブーンに何を残せたのだろうか。

列車が曲がり道に差し掛かり、車両が内側に傾く。
視界からフォレスタが消え、景色に夢中になっていたブーンの表情が一瞬だけ陰り、小さく呟いた。

(∪´ω`)「……またね、ペニおばーちゃん」

その小さな声は風がそっと運び去り、夏の空へと吸い込まれていったのであった。

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             制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】

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波止場に打ち寄せる波の音に耳を澄ませ、弱々しい太陽光を乱反射する水面に目を細めた。
強く吹き付ける潮風に流れる紫煙に目を細めつつ、水平線の向こうに浮かぶ黒雲を眺める。
今夜には嵐になりそうだ。
嵐は好きだ。

音を、姿を、匂いを、そして人の記憶を曖昧にしてくれる。
晴天よりも曇天、曇天よりも雨天、雨天よりも嵐だ。
計画実行にはこの上ない天候である。
この天候も予定の内。

必要とされる状況、展開、そして結末。
そこに至るまでに必要とされる環境。
あらゆる不測の事態を想定し、それに対応するだけの策は巡らせてある。
そして、つい先ほど、想定していた負の展開が発生したことを確認した。

しかし問題はない。
それの解決の仕方を知っている。
解決に至るシナリオは用意してある。
その事件は描いたシナリオの通り、事故へと転じ、無害な物へと変わる。

121名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:50:44 ID:S.muFcjM0
.





斯くして、全ては整った。
あらゆる物事がレールの上を走り、完全犯罪成就という終着点まで進むだけ。
誰にも止められない。







何故ならこれは――







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               これは、力が世界を動かす時代の物語
      This is the story about the world where the force can change everything...

                 そして、新たな旅の始まりである
              And it is the beginning of new Ammo→Re!!

                                                 序章 了

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122名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:51:33 ID:S.muFcjM0
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 「「「「「「「「l|ヨヨヨ|T:|l]]]]]]]]]]l甲|―┐ -- : |.._」//!il:::::::|\\|iiiill|同TTTTT −コ「
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                                        Ammo for Reasoning!!編
                                                   第一章
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

潮風は市場の活気と海の香りを乗せて、街全体に凉を運んでいた。
所々が敗れた白い――今では薄汚れている――テントが港に設営され始め、次々と漁船から陸に魚が上げられる。
水揚げ場では、早速威勢のいい声で競りが始められ、ベルの音と歓声が上がる。
砕いた大量の氷の上に魚が積まれ、テントの方へと運ばれる。

商品が届いたその場で、赤いマジックペンで段ボールの札に値が書かれ、売り子が手と口で客を呼び寄せる。
漁船の船着き場の反対側にある荷降ろし場には、中型の輸送船が錨を降ろして停泊し、重機を使って荷を降ろしている。
積み荷を仕分ける水夫たちの肌は皆黒々としており、額には大粒の汗を流していた。
木箱の隙間からは木屑が顔を覗かせている。

中身は別の土地から輸入された酒だ。
これから輸出する特産品のポートワインは、降ろした荷と引き換えに積み込まれることとなる。
この土地のポートワインの原料は、西部に広がる畑で採られたブドウだ。
気候の影響も強いが、発酵の際に使用する樽の独特な香りがワインに移り、それがポートエレン産のワインの特徴となっている。

数は少ないがウィスキーも生産しており、こちらも磯の香りと樽の香りで人気を博している。
色とりどりの野菜と鮮魚が並ぶ漁港で開催されているポートエレンの朝市は、普段以上の賑わいを見せていた。
その原因は、港に停泊している巨大なビル群かと見紛う船。
その名はオアシズ。

世界最大の船上都市にして、世界最大の客船でもあるオアシズが補給のためにポートエレンに寄港しているのだ。
出航時間は夜なので、船の上で長い時間を過ごしていた人間達は久しぶりの地上を味わおうと、ポートエレンの朝市を訪れていた。
オアシズの客だけでなく、住民から船員まで、出航時間までの間で地上の空気と店を満喫している。
混雑する朝市の中、カーキ色のローブ――ペニサス・ノースフェイスからの贈り物――を身に纏うデレシア、ヒートに肩車をされたブーンがゆっくりと通り抜ける。

濃い灰色の空の向こうから、涼しげな風が吹いてくる。
どうやら、海の向こうでは大雨が降っているようだ。
風向きと強さを考えると、昼には雨雲がポートエレン上空に到達するだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、朝ご飯はどんなものが食べたい?」

(*∪´ω`)「おー、シャキシャキしたものが、いいです」

耳付きと呼ばれるブーンのような人種は、獣と人間のあいのこのような物で、歯応えのあるものを好む。
逆を言えば、歯ごたえの無い物はあまり好まない。

123名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:52:44 ID:S.muFcjM0
ノパー゚)「リンゴサラダでも食うか?」

(*∪´ω`)「リンゴサラダ?!」

ヒートの頭上で、ブーンが顔を輝かせる。

ノパー゚)「あぁ、シャッキシャキのレタスとトマト、それとスライスしたリンゴのサラダだ。
    あたしはシーザーサラダドレッシングをかけて食うのが好きだが、そのままでも十分美味いんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「なら、私がいいお店を知っているから、そこに行きましょう。
      少し歩くけど、いいかしら?」

ノパー゚)「どんとこい」

(*∪´ω`)゛「おー!」

デレシアの案内に従い、三人は市場を北西へと進んでいく。
ブーンの尻尾は絶え間なく揺れ続け、露店に並ぶ様々な食品に目を輝かせていた。
取り分け興味を示していたのが、マグロと新玉ねぎのカルパッチョだ。
露店ではそれを、ガーリックバターを塗った一口大の固めのパンに乗せて販売しており、食欲をそそる香りが大勢の鼻と心を虜にしていた。

確かに、この香ばしさは朝食を食べていない人間には拷問的な威力を発揮する。

(*∪´ω`)「おー……」

ノパー゚)「あれを食いたいのか?」

(*∪´ω`)゛「えっと……はい……」

デレシアとほぼ同時に気付いていたヒートが、デレシアが言おうとしていた言葉を口にした。
甘やかすと決めたのだから、これぐらいはいいだろう。
傷を癒すためにも食事は重要だ。
価格も十五セントと安く、サイズも一口大だ。

ノパー゚)「よし、一つ買ってやるよ」

(*∪´ω`)「え?!」

ノパー゚)「ただし、一つだけだぞ」

(*∪´ω`)゛「お!」

ヒートが人混みを掻き分け、露店の前に並ぶ。

「いらっしゃい! おう、坊主、何にする?」

(;∪´ω`)「……」

124名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:53:35 ID:S.muFcjM0
いつもと違う対応に、ブーンは解答を躊躇った。
普段なら、彼の耳を見られた瞬間に罵声が浴びせられてきたのだが、どういうわけか、それがない。
この反応に驚いていることにデレシアもヒートも気付いており、微笑みながら見守っている。
自分が被っている帽子の力が本物だと理解したのか、ブーンはおどおどしながらも答えた。

(;∪´ω`)「その……ちいさな、パンの……えと……」

ノパー゚)「それはマグロのカルパッチョ、って読むんだ」

(;∪´ω`)「マ……グロの、カル、カルカルカルパッチョのせ? を……ください……」

「あいよ! ねーさんたちの分もおまけしとくよ!」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、ありがとう」

両手でブーンの足を押さえているヒートに代わって、デレシアが料金を支払う。
人混みから一旦離れて、露店の脇にあるパラソルと椅子とテーブルが置かれた飲食スペースに立ち寄る。
席は全て埋まっていたため、三人は立ったまま食べることにした。
紙ナプキンで包んで渡されたパンをブーンに渡す前に、一言付け足した。

ζ(゚ー゚*ζ「少しずつ口に入れて、ちゃんとよく噛んで食べるのよ」

(∪´ω`)「はい」

ノパ⊿゚)「ゆっくりと噛まないと駄目だからな」

(∪´ω`)「わかりました」

受け取ったパンは、ブーンのちょうど一口ほどの大きさがある。
言いつけ通りほんの少しだけ口に含み、パンの欠片がヒートの頭に落ちないようにと、唾液でパンを柔らかくしてから噛み千切った。
ゆっくりと咀嚼を繰り返し、固形から液体になる頃に飲み込む。

ζ(゚ー゚*ζ「はい、ヒートの分も」

ノパ⊿゚)つ「おう」

口で受け取ったパンを、ヒートは唇と舌を器用に使って口内に運ぶ。
ブーンの半分以下の咀嚼で飲み下したヒートは、一言で感想を述べた。

ノパー゚)「六十三点。
    だけど、海の上なら八十点越えだな。
    白ワイン片手に、釣りなんかしながらだといいな」

その中途半端な点数の理由を知るため、デレシアは半口食べた。
そして理解した。
塩味がかなり強く、味に深みが足りない。
フレッシュバジルを一枚足すだけでもかなり変わるだろうに。

が、海上で釣りをしながら片手で食べるとなると、この塩味の強さとガーリックの風味は逆にプラスポイントになる。
ニクラメン生まれならではの意見だ。

125名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:55:42 ID:S.muFcjM0
ζ(゚ー゚*ζ「そうね、そのぐらいが妥当かしら」

ようやく一口目を飲み込んだブーンは笑顔で感想を口にした。

(*∪´ω`)「おいしいです!」

点数など関係なく、純粋な味の観点で評価を下すブーンの方が、彼女達よりもよっぽど料理を楽しんでいる。
旅が長くなると、どうもよくない癖がついてしまうことに気付かされ、デレシアとヒートは同時に困った風な笑顔を浮かべた。
子供は大人の教師とはよく言ったもので、彼らから教わることは山のようにある。
それはかつて自分達が知っていた事なのだが、いつしか成長する過程で忘れ去り、あるいは捨て去ってしまった感情だ。

普通の子供よりも過酷な生活を強いられてきたにも関わらず、ブーンはそういった点が全く削れておらず、年相応のまま残っている。
ある意味で奇跡に近い存在で、それが彼の持つ魅力の一つだ。
だからこそデレシアだけでなく、ヒートやペニサス、ギコと云った人間が彼に惹かれるのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃ、行きましょう」

デレシアの案内に従って、三人は石畳の坂道を上るにつれ、次第に景色が変わってくる。
建物の前に並ぶ黒板には、色鮮やかなチョークでモーニングセットの内容が書かれている。
観光客向けのレストランやホテルが軒を連ねる通りを抜け、市場全体を見下ろすことの出来るところまでやってきた。
人通りはほとんどなく、崖に打ち寄せる波の音と木々のざわめきが合わさった音に、二人分の跫音が合わさるだけの静かな通り。

その先に、デレシアの目指す店がある。
店の名前は“トラットリア・ペイネシェン”。
美味くて安い窯焼きピザと、新鮮で濃厚なグレープジュースが楽しめる店だ。

ζ(゚、゚*ζ「あら、残念」

しかし、店の前には一枚の張り紙があるだけで、客の姿はなかった。
借家、と汚い字が色あせた紙に書かれている。
以前来た時、店主は三十七歳。
まだ死ぬような時間は経過していないはずだ。

店内の酷い荒れ具合と埃の積り方を見ると、最近借家になったばかりと云う訳ではなさそうだった。
早死にでもして、家族が店を売ったのか。
紙に理由は書かれておらず、ただ、借家としか書かれていない。
あまりにも唐突に、まるで、草を根ごと引っこ抜いたような印象があった。

ノパ⊿゚)「地上げ屋、ってわけでもなさそうだな。
    ただ、あんまり愉快な理由でもなさそうだけど」

何かに追われるようにして店を後にした、といった様子だろうか。
しかしそれなら、借家にする理由は何だ。
売地にするならまだ分かるが、借家と云うことは、戻ってくる予定があるということだ。
不自然な閉店の理由を考えても状況は変わらないと判断し、デレシアはヒートとブーンを見て肩をすくめた。

ここが駄目となると、彼女が知り得る中で二番目に美味いグレープジュースを出す店に行くしかない。
今日は、何が何でもブーンとヒートにグレープジュースを飲ませるのだと決めていた。

126名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:58:08 ID:S.muFcjM0
ζ(゚ー゚*ζ「仕方ないわ、別のお店に行きましょう。
      この坂の上にあるホテルのレストランなの」

ノパ⊿゚)「……この坂の上だな?
    名前は?」

ζ(゚ー゚*ζ「コクリコ、ってホテルよ。
      後二百ヤードぐらいかしらね」

ノパー゚)「よーし、コクリコ、だな。
    負けた方の……おごりだ!!」

そう言うや否や、ヒートは肉食獣を思わせる勢いで坂を駆け上った。
石畳と云う足場でさえ、彼女の健脚ぶりは大いに発揮され、瞬く間にその姿が離れていく。
背中のブーンが喜んでいるのは、ローブの下の尻尾の動きを見ればよく分かる。

ζ(゚ー゚*ζ「それなら!」

ヒートが肉食獣なら、デレシアの速度は弾丸だった。
五十ヤードはあった距離が、ほんの三秒でゼロになり、秒針が一つ動くまでにはヒートはデレシアの背中を見ることとなる。

ノハ;゚⊿゚)「はぁっ?!」

振り返りざま、デレシアは驚きの表情を浮かべるヒートに対して余裕の声をかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「お先に失礼、御嬢さん」

上り坂において重要なのは、如何にして一歩を稼ぎ、どのようにしてピッチを上げるかにかかっている。
ヒートの走り方はそれを心得ていたが、デレシアの速度には遠く及ばない。
背中のブーンの有無を抜きにしても、彼女は勝つ自信があった。
結果、二十ヤード近くの差をつけてデレシアがホテルに到着し、遅れてヒートが到着した。

息一つ乱さずに到着したヒートは悔しそうに、だが、すっきりとした様子で敗北を認めた。

ノパー゚)「……疾ぇな、やっぱ。
    秘訣は何だ?」

ζ(゚ー゚*ζ「疾く走ることよ」

(∪´ω`)「どうやってはやく、はしるんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「刺激に対する反応を速めて、一瞬に力を込めて地面を蹴り飛ばして、可能な限り先に着地すると同時に、逆の足で同じく地面を蹴り飛ばす。
       これの繰り返しよ」

指をぐるぐると回しながら行った説明に、ブーンは何度も頷いた。
この理屈は、短距離走における速度向上の全てと言っても過言ではない。
ストライドとピッチの絶妙な関係を説明するには彼はまだ幼いし、そんなややこしい説明をするよりも単純な方がいい。
物事は単純が一番なのだ。

(∪´ω`)゛

127名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:59:21 ID:S.muFcjM0
ζ(゚ー゚*ζ「さ、適度な運動もしたし、ご飯にしましょう」

コクリコ・ホテル。
ポートエレンでも五指に入る長い歴史を持つホテルで、建物は木と鉄筋コンクリートで作られている。
切り立った崖の上に位置しており、そこから眺める水平線に浮き沈みする太陽と、眼下の険しい岩場に生じる渦巻きの迫力が人気を呼んでいる。
岩場では小型の漁船が釣りに訪れ、観光客がやった餌で肥えた魚を釣り上げる姿がよく見られる。

エンジンを積んでいなければ船は渦巻きから脱出することが出来ないため、観光客の立ち入りは禁じられている。
人間が禁止と云う言葉に魅了されるおかげで、コクリコ・ホテルは客に困ることはない。
何も景色だけが、コクリコ・ホテルの売りではない。
ホテルのレストランで出される魚料理はここの白ワインとよく合い、食が進む。

安めの金額設定だが、それ以上の価値を持つ料理が出される。
また、金額が安く設定されている理由だが、デレシアはその秘密を知っていた。
調理される魚は昔からつながりのある漁師から安く仕入れ、酒はホテルの料理に魅了された地主の持つ畑で作られた物をこれまた安く仕入れることで、コストを削減しているのだ。
これはコスト削減が目的だったのではなく、開業当初、ホテルのオーナーが地元の物にこだわった食事を提供したいという信念が大元だ。

この信念は先ほどのトラットリア・ペイネシェンも感化され、小さい店ながらも切り盛りしていたのであった。
ホテルの前にはちゃんと看板が出ており、昔と変わらず、十ドルでワイン、サラダ、魚料理、焼き立てのパンが付いてくるコクリコ・セットが書かれていた。
字体を見るに、デレシアの知っていたシェフから代替わりしたようで、しかしながら価格を守っているのを考えると、その意志は継がれているようだ。
ガラス張りの回転ドアを開けて中に入ると、そこには風変わりな客が一人、フロントの女性と話していた。

一瞬、デレシア達に目を向けたその客は、黄色いポロシャツの上に皮製のホルスターを下げ、真新しいジーンズを履いていた。
ホルスターの中に納まっているのはグロックで間違いない。
ホックは外してあり、いつでも発砲が可能な状態にあった。
デレシア達を見てすぐにしまったのは、机上に置かれていた警察バッジだ。

警察が権力を振りかざしてただ飯を食らおうという魂胆ではなさそうだ。
ジュスティアの膝元の街でここまで腐敗が進んでいるとは思えず、となれば、彼が調査のためにここに来ていることは明白。
必然的に事件、もしくは事故が起こったことを意味している。
が、今は朝食が優先である。

ζ(゚ー゚*ζ「三人、コクリコ・セットで。
      飲み物はグレープジュースね。
      サラダにはスライスしたリンゴを乗せてくれる?」

警察を完全に無視して、デレシアは近くで固まっていたウェイターの男性にそう言いつけ、席に案内させた。
警官はカウンターに腕を乗せ、デレシア達を品定めするような目で観察を始めた。
対象にそれを悟られていることから、警官としての経験はそこまで豊富ではなさそうだ。
無能な警官が相手ならその追及をかわすことは造作もない。

トラギコ程の人間が出てくるとなると話は別だが、この警官は犯人追求にそこまで執着できそうもない。
つまらない男だ。
三人は四人席について、ウェイターがガラスのコップに氷の浮かぶ水を注ぐのを見ていた。
男の手は震えていなかったが、表情は硬い。

気の毒だが、このホテルで良からぬことが起こったのだろう。
客人同士のトラブルならばここまで緊張することはないはずだ。
ホテルでは日常茶飯事、無い方がおかしいイベントなのだ。
となると、死人が出た可能性が高い。

128名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:00:30 ID:S.muFcjM0
――デレシアは、自分の悪い癖がまた出てしまっていることに気付き、誰にも気づかれないように笑った。

旅が長くなると、一つ一つの現象の背景を考えてしまう。
砂丘の湖や、火口に咲く一輪の花。
それらと人間の歴史は、デレシアにとっては同じものだ。
向かい合って座っているヒートは、隣のブーンにナイフとフォークの使い方を確認しているため、デレシアの自嘲に気付いていなかった。

「お待たせしました」

気配を殺して移動していた眉雪のウェイターが三つのグラスとサラダを盆に載せ、デレシア達の席に戻ってきた。
その足取り、跫音の殺し方といい、長い経歴がありそうだ。
盆を脇に抱え、最後に一礼して去ろうとした男性の姿に、デレシアはその人物の名を思い出した。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、パーカー・スティムウッド。
       随分と大人になったのね。
       盆を回す癖は相変わらずね」

「……え?
お客様、どうし――」

驚いた風に顔を上げてデレシアの顔を直視した瞬間、パーカーと呼ばれたウェイターは目を大きく見開いた。

「で、デレシア様?!
お久しぶりでございます、私の事を覚えておいで下さったのですか!
いや、それにしても……」

ζ(゚ー゚*ζ「いいじゃない、細かいことは」

ノパ⊿゚)「知り合いなのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「随分前のね。
       前来た時はいなかったけど、ひょっとして修行にでも行っていたのかしら?」

気恥ずかしげに、パーカーは口元に皺を作った。
まるで、旅行の感想を親に報告する子供のようだ。

「お恥ずかしながら、他の地で技術と知識の吸収にと思いまして……
最後にデレシア様とお会いしてから二週間後のことでございます。
それからつい三年前に戻ってまいりまして」

ζ(゚ー゚*ζ「いいことね、パーカー。
      じゃあ、冷めない内に焼きたてのパンと新鮮なバターと、とっておきのジャムを持ってきてくれるかしら?」

パーカーは返事をしなかったが、心得ているとばかりに恭しく一礼してその場を去った。
相変わらず跫音を立てず、無駄のない動きだった。
他にも客はいたが、パーカーが軽く頷くと、別の従業員が対応した。

ノパー゚)「さっすが、顔が広いんだな」

129名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:01:13 ID:S.muFcjM0
ζ(゚ー゚*ζ「知り合いが多いだけよ。
       それじゃあ、この先の旅に向けて」

デレシアとヒートがグラスを掲げ、ブーンもそれに倣った。
それから軽くグラスをぶつけ合い、濃厚な深淵にも似た紫影の液体を一口飲む。
途端に、ヒートとブーンの表情が変わった。

ノハ^ー^)「……こいつは美味い」

(*∪´ω`)゛「おいしいです!」

濃厚な味わいながらも、飲み終えた後口に残るのはその芳醇な香りだけ。
喉に残るようなこともなく、見た目と味に反して爽やかな飲み心地と後味は、この地方のブドウならではのものだ。
二人に好評なようで、デレシアは安心した。
だが、この味は前回とは全く違う。

この味は、トラットリア・ペイネシェンのものだ。

ノパー゚)「ブーン、これがリンゴサラダだ」

(*∪´ω`)「リンゴ!」

目を輝かせ、ブーンは早速サラダを食べ始めた。
新鮮な野菜とリンゴを噛む音だけで、彼が満足していることがよく伝わる。
薄らと湯気の立ち上るパンを籠に入れて戻ってきたパーカーを見て、デレシアはにこりと笑んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「このジュース、どうしたの?」

「流石、お気づきになりましたか。
来る途中に見かけられたとは思いますが、ペイネシェンがあのようなことになってしまったので、そのブドウ畑を当ホテルで買収したのです。
ご存じの通り、あの畑のブドウはジュースにするとこの地域で一番の味になりますからな。
幸いにして製法は同じなので、ある程度あの店の味を再現できております」

ペイネシェンに何があったのか、デレシアはあえて訊かなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「なるほどね」

「さ、どうぞこちら焼き立てなので、冷めない内にご堪能ください」

そう言って置かれた籠から漂う甘い香りに、ブーンは垂れた瞼をより一層垂れさせた。
ヒートかデレシアが手を出さないと自分が手を出してはいけないと思っているのだろうか、グラスを両手で持ったまま、パンと二人を交互に見やっている。
そわそわして落ち着いていない様子に、ヒートが動いた。

ノパー゚)「ブーンはまだ傷が治ってないから、少しずつ、ちゃんとよく噛んで食べる事。
    いいな?」

(*∪´ω`)゛「はい」

ノパー゚)「じゃあ、まずはあたしと半分こだ」

130名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:02:57 ID:S.muFcjM0
拳大のパンを手に取り、ヒートがそれを半分に千切る。
より濃厚な香りと湯気に、ブーンは目を輝かせ、喉を鳴らした。
ブーンの取り皿にパンを乗せ、自分の皿にも乗せてから、ヒートはジャムの瓶を手に取った。

ノパー゚)「ジャムの使い方は分かるか?」

蓋を開けながら投げかけられたヒートの問いに、ブーンは小さく首を横に振った。

ノパー゚)「よし、じゃあ覚えような。
    まず、こうしてパンを小さく千切って……」

親指ほどの大きさに千切ったパンに、ナイフで掬い取ったブドウのジャムを乗せ、パンの淵でナイフの刃に付いたジャムを拭うように取る。
それをブーンの口元まで運ぶと、彼は自然と口を開けた。

ノパー゚)「はい、あーん」

(*∪´ω`)「おー」

ヒートの手からパンを食べたブーンの表情が、蕩けるように緩んだ。
何度も何度も言いつけどおりに噛み、そして飲み込む。

(*∪´ω`)「あまくて、ふわふわしてて……あまくておいしいです」

ノパー゚)「本当か? じゃあ、あたしも食べよう。
    さっきあたしがやったように、パンを千切ってジャムを塗ってみな」

ぎこちない動きだったが、ブーンはヒートと同じようにパンを千切ってジャムを塗ることが出来た。

ノパー゚)「あーん」

(*∪´ω`)「おー」

先ほどヒートがそうしたように、ブーンが彼女にパンを食べさせた。
ブーンが周囲の目を気にせずそういう事が出来るようになっているのを確認してから、デレシアは彼の成長を喜んだ。
雰囲気を察してその場を消えるように立ち去ったパーカーに目で礼を述べ、デレシアもパンを食べ始めた。
食事にはたっぷりと二時間かけ、三人はサービスで出されたブドウのシャーベットで朝食を締めくくった。

ζ(゚ー゚*ζ「美味しかったわ、シェフにお礼を言っておいてくれる?」

「かしこまりました、シェフも喜びますよ。
何せ、他ならぬデレシア様からの御言葉ですからね」

ζ(゚、゚*ζ「あら? シェフは誰なの?」

「ジェフですよ、しょっちゅう皿を割ってはトーマスさんに怒られていた、あの彼が当ホテルの料理長なのです」

ζ(゚ー゚*ζ「すごいじゃない! そう、あのジェフが……
      貴方も鼻が高いんじゃないの?」

「えぇ、それはもう」

131名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:03:38 ID:S.muFcjM0
「お楽しみのところ申し訳ないが」

会話に割って入ってきたのは、それまで様子を窺っていたあの警官だった。
机の上に厭味ったらしくバッジを投げて置いてきたので、デレシアはそれを丁寧に払い落とした。

「この……!!」

ζ(゚、゚*ζ「申し訳ないのなら、後にしなさい」

バッジを拾い上げ、警官はそれをデレシア達に向けながら言った。

「今朝、このホテルのすぐ近くで水死体が発見された。
それについて何か情報を知っていたら、教えていただきたい」

デレシアが警官の顔も見ずに出したのは、テ・ジヴェの乗車券だった。
打刻された時間は、彼女達がこの街に来てまだ半日となってないことを示している。

「そんなものはどうでもいい。
知っているのか、知らないのか、それを教えてもらいたい」

ζ(゚、゚*ζ「知らないわ」

「やれやれ」

その時、新たな人物がデレシア達の席に近づいてきていた。
ショートカットにした白髪、鳶色の瞳をした、ゆったりとしたベージュ色の服を着る身長六フィートほどの初老の女性――の変装をした男性だ。
声や仕草、果ては雰囲気までもかなり巧みに誤魔化しているが、体重のかけかたと匂いで分かる。

「まったく、見てられないね、君の捜査は」

「なんだ、お前は……って、男?!」

変装した男性はまずかつらを取り、次いで顎の下に手を入れ、マスクを取った。
禿頭の男の顔には深い皺と傷が幾つも刻まれ、垂れ下がった眉の下にある老犬のように静かな目が、一瞬だけデレシア達に向けられた。

(´・ω・`)「情報収集はもっと丁寧に、そして誠意をもってやらんといけないな、坊主」

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               ‥…━━ August 4th AM10:07 ━━…‥

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132名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:05:49 ID:S.muFcjM0
歳は五十代後半、もしくは六十代前半。
首の太さが常人離れしていることから、彼が格闘術に長けていることが分かる。
しわがれた声の奥に潜む獰猛な雰囲気は、年老いた獅子にも似ている。

「誰だ、お前は」

(´・ω・`)「ショボン・パドローネ、って言えば伝わるかな?」

「ショボン……?
……し、失礼しました、ショボン警視!」

(´・ω・`)「元警視、だけどね。
     今は探偵だよ」

なんだかややこしいことになってきたと、デレシアとヒートは目で会話をした。
彼女達の席を囲むようにして二人の男が現れてから、ブーンはヒートの方に身を寄せ、動きを窺っている。

(´・ω・`)「君、発見者への聞き込みは?」

「ぶ、部下が行っております」

(´・ω・`)「君も行きたまえ。
     このホテルは私が調べておく、もちろん、後で調書を送るから心配しないように」

「はっ!!」

警官は敬礼をして、ホテルから出て行った。

(´・ω・`)「すまないね、御嬢さん方。
      だが彼には悪気はなかったんだ、許してやってくれないか?」

ζ(゚ー゚*ζ「別に、怒っていないわよ。
      で、探偵さん。
      変装をしてここに張り込んでまで、何を知ろうとしていたのかしら?」

(´・ω・`)「はははっ、いや、単純にホテル内の捜査だよ。
     ……ここ、いいかな?」

デレシアの隣に座ったショボンは、向かいの席にいるブーンに軽く会釈した。
ブーンは体を小さく震わせ、恐る恐ると云った様子で目礼した。

(´・ω・`)「残念、嫌われてしまったのかな。
     さて、この件の詳細を――私が調べた限り――話させてもらおうか」

事が起こったのは、今朝の六時半。
ホテルの近くで漁をしていた男性が、崖の下に浮かぶ白い布を発見、引き上げてみたところ女性の水死体であることが分かった。
死因は窒息死、解剖の結果、死亡推定時刻は午前一時ごろ。
多量の薬物反応がでたことから、自殺の可能性が高い。

133名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:07:03 ID:S.muFcjM0
女性の身元が分かる物は身についていなかったが、ホテルの宿泊客の女性が一人消息不明になっていることから、その人物である可能性が濃厚だった。
ホテルの名簿には昨日の夜十一時三十八分にレイトチェックインしたとの記録が残されていた。
このホテルでは、夜の十時を過ぎると予約客は自分でチェックインの記録を付けて部屋に行くことになっており、女性の顔を見た人物はいない。
が、自殺を計画していた女性の心境を考えると、自然なことだった。

遺体発見後、ショボンは彼女の泊まっていた部屋にオーナーと共に立ち入った。
部屋には鍵がかけられており、カードキーはベッドの下から発見された。
テラスに続く窓は開け放たれており、そこから飛び降りたものと推測された。
遺書は鏡台の上に置かれているのが見つかり、字体はチェックインした際に記されていた物と一致している。

そこまで話すと、ショボンは懐から黒皮の手帳を取出し、部屋の図面と現場写真を並べて見せた。
部屋に入ってすぐ右手側に、洗面台・トイレ・シャワーが備わった三点ユニット。
右の壁沿いに大きなベッドが置かれていて、シーツが乱れていたが、使った形跡はなく、風の影響と判断された。
遺書の置かれていた鏡台は左の壁、窓の近くにあり、これまた使用の形跡はなく、備え付けの鏡以外何も置かれていない。

窓は内側に向けて開くタイプで、部屋に入った時には開いていた。
荷物は一切なく、抜け殻のような部屋になっていた。
写真と図面での説明を終えたショボンは、やっと本題に入った。

(´・ω・`)「彼女を自殺に追い込んだ人間を探し出したい」

続いて、ショボンは手帳に挟んでいたもう一枚の写真を机に置いた。
それは、遺書を写真に収めたものだった。

(´・ω・`)「彼女が部屋から飛び降りて以降、チェックアウトをした人間はいない。
      私がそうさせた。
      遺書には、とある人物に向けての恨み言が書いてあるが、名前が書いてないんだ。
      警察はその人物の特定に躍起になっている。

      ちなみに、私がここにいるのはオアシズの乗客が無実だと証明するためだ。
      これで、ある程度納得がいったかな?」

つまり、このショボンと云う探偵はオアシズが雇っている探偵だということだ。

ζ(゚、゚*ζ「納得はしたけど、私たちは何も知らないわ。
      残念だったわね」

(´・ω・`)「まぁ、そうだろうね。
     だけど、探偵っていうのは疑い深く慎重でね。
     済まない、時間を取らせてしまったね。
     せめてものお詫びとして、ここの勘定は私が払っておこう。

     それと、警察には君たちは事件に一切関係ないと伝えておく」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、それならお言葉に甘えさせてもらうわ。
       ごちそうさま」

デレシア一行はホテルを後にして、市場の方へと向かった。
風が冷たい空気を運んできた方には、嵐の前兆である黒雲が浮かんでいたのであった。

134名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:08:00 ID:S.muFcjM0
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                     全ては、予定通り。
                    事件は事故になった。

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(´・ω・`)「おい、ホテルの客全員から情報を聞きたい。
      全員、この食堂に集めてくれ。
      全員だ、いいな?」

受付カウンターにいた女性従業員が強張った表情を浮かべたが、ショボンの一瞥に頷いた。
館内放送を入れ、睡眠中の客も全員集まるようにアナウンスをかけた。


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                   誰も真実にはたどり着けない。
                          誰も。

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席についた七十一名の前で、ショボンは宣言した。

(´・ω・`)「いかなる偽りも、このショボンには通用しない。
     必ず見抜き、突き止め、そして――」


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                    凄腕の探偵だろうと。
                     凄腕の刑事だろと。

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(´・ω・`)「――真実を、私の前に引きずり出してやる」

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                      陳腐で滑稽な台詞だ。
             この偽り、引きずり出せるものなら、してみるがいい。
                  目の前にいる偽りを暴いてみるがいい。

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(´・ω・`)「さぁ、始めようか。
     真実探しを、ね」

135名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:09:44 ID:S.muFcjM0
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                       さぁ。
                         舞台の幕は上がった。
                                   演者は十分。
                               下地は完璧。

           真実とやらが見つかることを夢想するといい。
      偽りに満ちた真実を見つけ、歓喜するがいい。
  計算され尽くした計画を前に目を逸らし、偽りの道を進むがいい。
           そして偽りの答えを掲げ、声高らかに勝利を宣言するがいい。

                精々見抜いてみるがいい。
                         偽りのとやらを。
                             精々突き止めてみるがいい。
                                         真実とやらを。


                         では、始めよう。
                     真実探しとかいう、茶番劇を。

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136名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:11:37 ID:S.muFcjM0
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Ammo→Re!!のようです
               ‥…━━ August 4th AM10:33 ━━…‥
                                        Ammo for Reasoning!!編
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                          第一章
                       【breeze-潮風-】
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市場に到着したデレシアは、まず、オアシズの乗船券を購入することにした。
自殺だか他殺だか知らないが、デレシア達に関係のない事件に関わる必要はない。
ポートエレンには一日と滞在しないのだから、面倒事に巻き込まれるだけ時間の無駄だ。

(*∪´ω`)「おー……」

ノハ;゚⊿゚)「おー……」

目の前に停泊している世界最大の船上都市オアシズを前に、ヒートとその肩の上のブーンは言葉を失っていた。
一枚壁、あるいは山としか思えないその巨体は、圧巻の一言に尽きる。
原子力空母よりも遥かに巨大で力強く、そして生活の拠点となり得るこの船は世界で最も巨大なだけでなく、世界で最も時間を掛けて修復された船でもある。
直上を見上げてもその先端は見えず、その全貌も分からない。

海に浮く都市。
それがオアシズなのである。

ζ(゚ー゚*ζ「チケットを買ってくるから、ちょっとだけ待っててね」

ノハ;゚⊿゚)「おう……」

(∪´ω`)゛「お」

船に圧巻される二人をその場に残して、デレシアは船から港に降りている五本の橋の内の一つを上った。
エスカレーターがデレシアの体重を感知し、自動で動き始める。
かけられた体重の位置でエスカレーターの進行方向が変わるタイプの物だ。
船上に到着すると、黒服の男四人がデレシアを迎えた。

(■_>■)「失礼、チケットは?」

ζ(゚ー゚*ζ「持っていないわ。
       ティンカーベルまで、三人分欲しいのだけど」

デレシアの格好を見て、男は若干眉を顰めて言った。

(■_>■)「三人分ですと、一万七千ドルになりますが」

137名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:12:57 ID:S.muFcjM0
ζ(゚ー゚*ζ「はい」

男の手に、デレシアは要求された金額分の金貨を乗せた。
それを見て男は己の無礼を感じたのか、仰々しく受け取り、枚数を数え始めた。

(;■_>■)「た、確かに。
       こちらがチケットになります。
       チケットは――」

懐から銀色のケースを取出し、指紋認証を済ませて取り出したのは、三枚のプラスチックのカードだ。

ζ(゚ー゚*ζ「部屋の鍵、各種サービスを受ける際に使用する、でしょう?」

カードに内蔵されたチップがオアシズ内の様々な施設を利用する際に活躍する。
部屋の鍵、身分証明であることは当然だが、売店やレストランでの代金はこのカードに記録され、下船時に一括で支払うという仕組みだ。

(;■_>■)「は、はい。 その通りです。
       ではこちらを」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう」

三分で手続きと購入を済ませたデレシアは踵を返し、何気なく街を見下ろした。
ブーンとヒートがデレシアの姿を見つけて手を振っていたので笑顔で振り返し、市場を歩く見知った人物の姿を見咎めた。
あれは――

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    { 。  ・  。゚  ・ }
  .  { ・  ∴  ・  ノ
    ζ〜μwJ〜νι
     /;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:ヽ
    /;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:ヽ
‥…━━ August 4th AM10:40 ━━…‥
  .  {;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:.ノ
    ε〜〜J〜νιζ
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二十分前にようやく仮設遺体安置所から解放されたトラギコ・マウンテンライトは、この上なく不機嫌だった。
仮設遺体安置所は蒸し暑く、おまけに酷い腐臭がしていたからだ。
死体が腐敗を始めている証拠だった。
関わりたくはなかったが、流石に腹立ったトラギコは若い検視官の頭を掴んで振り回し、トラギコは早急に氷を持ってきて遺体を冷やすように命令した。

全く興味のない一件に関わってしまったのは、自らの悪名が彼の想像以上に広まっていたことにあった。
市場に入った途端、坂から降りてきた彼の後輩である警官と鉢合わせし、捜査に協力するように要請された。
この要請を拒絶しようものなら、トラギコが今後警察本部から援助を受けられなくなるだろうと、遠巻きに脅されたのだから仕方がない。

(#=゚口゚)「で、仏さんは?」

手袋、マスク、手術着を着たトラギコが遺体袋を前に検死官に尋ねると、彼は手元のクリップボードを見ながら答えた。

138名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:14:27 ID:S.muFcjM0
「クリス・パープルトン、三十一歳。
職業、住所、その他もろもろ不明です。
死因は窒息死、もしくは溺死で、血液検査で極めて強い薬物反応が出ています。
恐らくは薬物の過剰摂取による――」

(=゚口゚)「待てよ、もしくはって何だ、もしくはって」

「じゃあ溺死で……」

(=゚口゚)「ふざけんな!
    そこんとこちゃんと調べるのが手前の仕事だろうが!
    調べたら俺に資料を寄越せ!」

トラギコが不機嫌になった第二の原因が、この検死官にあった。
兎に角全てがいい加減で、責任感の欠片もなかった。
それに付き合わされて貴重な時間を浪費し、デレシア達を追い詰めるチャンスを失うことを考えると、この上なく腹が立った。
遺体袋のジッパーを開くと、青ざめた女性の顔がそこあった。

まだ新しい水死体だ。
遺体袋を全開にし、死体を隅々まで凝視する。
全身に細かな擦り傷や切り傷、小さな打撲の跡があるが、これは海面を漂っていた際に岩場で付いたものだと推測できる。
肩と太ももに古傷を見つけ、それが銃創であることに気が付いた。

この女性は撃たれた経験がある。

(=゚口゚)「撃たれた時期はわかんねぇ……というか、調べて無いラギね?」

塗られたマニキュアとは正反対に蒼白になった手の指を見ながら、トラギコは一応尋ねた。
返答は予想通りだった。

「は、はぁ……」

検死官に期待することを止めたトラギコは、引き続いて死体を調べる。
女性の顔をよく見ると、口紅が薄らと塗られていた。
死に化粧と云う訳か。
足の指にマニキュアが塗られていないのを見るに、この女性がそこまで気が回らないぐらいに焦っていたと推測される。

(=゚口゚)「暴行は……」

傍に置かれていたクスコ式膣鏡を使い、確認する。
新しい傷はなく、体液も確認できないため、性的暴行を受けた可能性が極めて低いことを確認した。

(=゚口゚)「……ないラギね。
    おい」

「はい?」

(=゚口゚)「ひっくり返せ」

139名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:16:02 ID:S.muFcjM0
理由を尋ねようとしたので、トラギコは殺意を込めた睨みでそれを封じ、死体の背中を見た。
古い刺し傷が一つ、わき腹付近にあった。

(=゚口゚)「服には?」

「岩礁でできた傷だけでした。
傷口の位置と一致しています」

(=゚口゚)「そこは調べたんだな」

死体を元通り仰向けにさせ、袋を閉める。

(=゚口゚)「俺は街に行ってくるから、お前は死因を明らかにしろ。
    いいな、どんな小さなことでも必ず報告するラギ」

「は、はい!」

というわけで安置所を後にしたトラギコは街の屋台で好物のチョコミントアイスを買い食いしても、機嫌は一向に良くならなかったわけである。
飛び降りたと思われるホテルに出向いて、その後で死因を明らかにし、調書をまとめ、契約者であるホテルに報告すれば万事解決。
今日中に片が付くだろう。
不意に視線を感じ、そちらに目を向けると、オアシズがあった。

(=゚д゚)「……経費で乗れるのか?」

目的地がどこであれ、オアシズへの乗車券は五千ドルを下ることはない。
経費として申請するにしても、稟議書ものの金額だ。
書類は嫌いなので、普段は貸のある部下にやらせているが、こればかりはそうはいかない。
アイスを齧りつつ、トラギコはホテルに続く坂道を渋々上ることにした。

ホテルの看板を前にする頃には、トラギコのアイスは胃袋に収まり、汗がだらだらと流れていた。
クロジングで買ったジャケットは汗で濡れ、ワイシャツも汗で肌に張り付いていた。

(;=゚д゚)「くそっ、もう少し平らな所に建てやがれってんだ……」

涼を求めるようにしてホテルに入ると、そこに、懐かしい顔があった。

(;=゚д゚)「あ? ショボン警視?」

(´・ω・`)「ん? トラギコ君?
     水泳でもしたのかい?」

(;=゚д゚)「ちげぇラギ!
    何であんたがここにいるラギ?」

ショボン・パドローネ。
トラギコが三カ月だけコンビを組んだ先輩である。
とうに引退して、外地で家族と共に隠居生活を送っていると聞いていたのだ。

(´・ω・`)「そりゃあ捜査のために決まってるだろう?
     今は探偵をやっているんだ」

140名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:16:57 ID:S.muFcjM0
(;=゚д゚)「捜査? 自殺した女の捜査ラギか?」

(´・ω・`)「あぁ、そうだよ。
      その様子だと、君も捜査に加わっているみたいだね」

(;=゚д゚)「不本意極まりないけど、そうなってるラギ」

汗で濡れたハンカチで、トラギコは汗を拭う。
気を利かせたウェイターが氷の浮かんだ水を持ってきたので、それをありがたく一気に飲み干した。

(=゚д゚)「……ふぅ。
    ってことで、俺は俺の仕事をさせてもらうラギ」

(´・ω・`)「まぁ待ちなよ。
     情報が幾つか手に入ったんだ、それを君にも共有してもらいたい」

(=゚д゚)「……教えてもらうラギ」

(´・ω・`)「手帳とペンは?」

(=゚д゚)「捨てたラギ」

ショボンは溜息を吐いて、自らの手帳を開いてトラギコに見せた。
ページには部屋の見取り図と入った際の状況などが子細に記されており、写真も挟まっていた。
窓は開いていたがドアは閉まっていて、そのことは同伴したオーナーが確認している。
鍵はベッドの下にあり、遺書は鏡台の上に置かれていた、とのことだ。

遺書の内容を撮影した写真を見て、トラギコはショボンに尋ねた。

(=゚д゚)「恨んで自殺、ってことは男か女かは分からないラギね」

(´・ω・`)「ホテルの人間は全員調べたが、彼女の事を知っている人はいなかった」

クリアファイルに入った二種類の用紙を見る。
一つは、日ごとに分けられたチェックインの確認票だった。
昨日、仏よりも遅くにチェックインした人物はいない。
もう一つは、それらをまとめた書類だった。

(´・ω・`)「全員集めて個別に話を聞いたが、やはり駄目だった。
     そんな人間、聞いたこともないってさ」

(=゚д゚)「オアシズからも泊まりに来てる奴がいるラギね」

(´・ω・`)「休憩のためだよ。
      まぁ、その人たちがいるから僕が出張ることになったんだけどね。
      オアシズ付けの探偵だからね」

(=゚д゚)「ふーん」

141名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:19:23 ID:S.muFcjM0
興味がない話だったので適当に聞き流しながら、リストの名前を頭に入れた。
恨みがあろうがなかろうが、どうでもよかった。

(=゚д゚)「調べる意味、あるラギか?」

(´・ω・`)「自殺した原因を作った人間を許せないからね」

(=゚д゚)「ま、好きにしてくれラギ」

書類と手帳を返そうとすると、ショボンは軽く首を横に振った。

(´・ω・`)「それは警察に渡すことにするよ。
      その手帳のカバーだけ返してくれるかな? 中は新品だから気にしなくていい」

(=゚д゚)「ありがたくもらっておくラギ」

黒皮のカバーを返し、トラギコは女性が泊まっていた部屋に向かった。
手袋をしてドアを開けると、ひんやりとした潮風が勢いよく吹き付けてきた。
風通しは良好、見通しも抜群だ。
鏡台に置かれていたという遺書はすでに片付けられており、遺留品は何も残されていない。

開かれたままの扉からテラスに出て、眼下の様子を窺う。
切り立った崖の上にあるだけあって、その光景は迫力満点だった。
侵食を受けて針山のように尖った岩場が真下に広がり、その先には激しくうねる海がある。
海面に突き出した岩の付近には渦巻きも確認でき、意識があったとしても間違いなく溺死するだけの潮流があった。







部屋に戻り、改めて遺留品を探したが、結局、ホテルで得た収穫はショボンの手帳ぐらいだった。







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Ammo→Re!!のようです
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                                       Ammo for Reasoning!!編
                                      第一章【breeze-潮風-】 了
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142名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:20:19 ID:S.muFcjM0
                           【用語集】



【土地・都市】
・オセアン……湾岸都市。貿易の拠点として栄えている。
・フィリカ……南寄りの街。強い日差しと亜熱帯の気候、果物が名物。
・シャルラ……極寒の地にある“氷結の街”。面積で言うなら世界最大。
 ┗ヴォルコスグラード区→分割統治がされたシャルラの区画の名前。
・イルトリア……世界最強の軍事都市。
・サマリー……南にある紛争が頻繁に起こる街。
・フォレスタ……森、森、森。“魔女の住む森”として地元近隣の人間に恐れられている。
・クロジング……フォレスタに隣接する田舎町。被服の町として有名。
・ニクラメン……海上都市。海上と海底に街を持つ。
・ポートエレン……ワインと貿易の街。
・ティンカーベル……通称“鐘の音街”。ポートエレンから北に進んだ場所にある島々で構成された街。
・ジュスティア……正義の街。スリーピースと呼ばれる三重の壁に囲まれている。警察の本部がある。
・オアシズ……船上都市。豪華客船でありながらも街として機能している。



【用語】
・棺桶……軍用の強化外骨格の呼称。大きさによってランクがA〜Cと分けられている。中には規格外の大きさのものもある。
       起動するには、音声によるコード入力が基本となっている。開発は各国の軍で行われ、企業も参入していた。
       ほぼ全ての棺桶は、第三次世界大戦で使用されたものを発掘し、現代の技術で復元して使用している。
       未使用品も稀に見つかる。戦闘補助以外を目的に設計された物も存在する。
・コンセプト・シリーズ……単一の目的に特化して設計された非量産型の棺桶。
・レリジョン・シリーズ……宗教団体が設計、開発した棺桶の事。えらく金が掛かっており、秘匿性に優れている。
・ガバメント・シリーズ……政府が開発した棺桶。高性能であり、量産はされなかった。
・名持ち……少数だけ生産された高性能な棺桶の事。
・ダット……高性能化したパソコンの呼び名。
・耳付き……獣の耳と尻尾をもつ人間の事。並の人間以上に発達した運動能力と身体能力を持つ。
世間からは疎まれて差別されており、奴隷として売られるのが基本である。
・ニューソク……核発電設備のこと。
・ティンバーランド……黄金の大樹をシンボルマークとする組織。規模、目的、構成にいたるまですべてが謎。過去にデレシアが二回潰したことのある組織。

143名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:22:44 ID:S.muFcjM0
これにて投下は終了となります

質問、指摘、感想などあれば幸いです

144名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:23:57 ID:wYnpdAyk0
支援

145名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 22:30:20 ID:wYnpdAyk0
支援打ってたら終わってた。
乙 続き待ってる。

146名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 23:28:48 ID:psUevbKwO
既読だったけどつい読んでしまった 
 
撮影・音響・……のIDはいつのIDなの投下時のとは違うみたいだけど

147名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 21:47:13 ID:W2H0TbLI0
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You must keep thinking.
考え続けなければならない。

Do not believe, hope and wish.
信じることも、望むことも願うことも許されない。

Understand waiting for the miracle is the most foolish thing in this world.
奇跡を待つ事こそが世界で最も愚かな行為だと理解しろ。

The miracle is just a coincidence.
奇跡など、単なる偶然に過ぎないのだから。

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              |ミ|        _lニニニニニニニl_        |ミ|
              |ミ|      _」二二二二二二L_     |ミ|
              |ミ|    _」二二二二二二二二L    |ミ|
               ‥…━━ August 4th AM11:40 ━━…‥
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オアシズでは船内への銃火器の持ち込みは勿論だが、軍用強化外骨格――棺桶――の持ち込みも禁止されている。
当然、乗船時にはあらゆる武器を個人用コンテナに預ける必要がある。
武器の持ち込みを許可してしまえば、逃げ場のない海上で何千人規模の人質を取ったシージャックを認めることになる。
そのため、船内では厳格な審査によってその人間性を認められた警備員だけが、銃器の携帯を許可されていて、棺桶の使用もまた同様だった。

乗船の手順は、まず金属探知機のゲートを潜って体に金属が無いことを確かめてから、最後に、購入したチケットを使って船内に進む二重チェックだ。
一人が検査を終えてオアシズへの乗船を完了するまでに要する時間は、平均で一分。
厚く白い塗装がされた橋を使って乗船を待つ列の中に、その旅人の姿があった。
ローブで肢体を包み、豪奢な金髪と蒼穹色の碧眼を持つデレシアは、風に靡く金髪を押さえ、空を見上げた。

いい天気だ、とデレシアは胸を高鳴らせていた。
風に吹かれて蠢くように形を変え、流れていく黒雲と、幻想的な濃淡。
一瞬だけ夏の暑さを忘れさせる、冷たい空気を含んだ風。
デレシアの好きな天気だった。

晴天も好きだし、夏の入道雲と蒼穹の組み合わせは涙ぐむほど好きだ。
空模様に止まらず、この世界の天候、事象、とにかくあらゆるものが好きだった。
最近のお気に入りは、彼女の後ろに立つ赤髪と瑠璃色の瞳を持つ女性、ヒート・オロラ・レッドウィングと、彼女に肩車をされている耳付きの――獣の耳と尻尾を持つ――少年、ブーンだ。
二人と出会ったのは湾岸都市オセアンで、共に一つの事件に関わった仲だ。

148名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 21:47:57 ID:W2H0TbLI0
ヒートは現代では珍しく、耳付きと呼ばれる人種を差別しない。
差別は優位性に立ちたがる人間の弱さの裏返しであり、それをしない彼女は芯から強いのだとよく分かる。
元殺し屋で、彼女ほどの性格の持ち主が不毛な殺し屋になった理由は、想像できなかった。
ブーンを見る時の目が時々寂しげに陰る原因もまだ分からないが、旅を続けていく過程でそれらが分かるかもしれない。

この時代の旅で出会った人間の中で、ブーンは最も気に入っている。
何が、と問われて答えるのは非常に難しい。
彼の持つ魅力、としか答えようがない。
その魅力と云う一言の中には複数の意味が込められていて、丹念に一つ一つ答えるには最低でも一時間は必要だ。

デレシアは、これまで続けてきた果てしない旅は彼に逢うためのものだったとさえ感じ始めている。
これまでに類を見ない将来性と成長速度、そして、邪気の欠片もない無垢な瞳に見つめられる度、彼の可能性を確かめたくなる。
悪い癖であることは理解している。
しかし、彼にはその可能性を見せてもらわなければならないし、是非とも見せてもらいたい。

この先、旅の途中で遭遇する争い事はその激しさを増す事だろう。
ティンバーランドが動き出すということは、そういうことだ。
ならば、多少強引なことをしてでもブーンの成長を促し、変わりゆく世界に対応出来るだけの力を付けさせなければならない。
彼は自分自身の口で、強くなりたいと言った。

その言葉が本心であることは疑いようもなく、受け入れるしかなかった。
多くの人間を見て、多くの人間と関わり、誰よりも長く世界を見てきたデレシアは、ブーンに魅了されていた。
彼が望んだのは平和でも普遍でもなく、力と進歩だった。
その選択は、この時代に最もふさわしい物。

彼はこの時代を生きるに相応しい人物なのだ。

(;∪´ω`)

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、大丈夫よ」

これから迎える身体検査を前に緊張しているブーンを見上げ、デレシアは優しく、語りかけるように落ち着かせる。
列が動き、階段を二段上がったところでまた止まる。
ブーツの爪先が踏みしめるたび、滑り止め加工のされた金属製の階段からは、軽い音が鳴った。

ノパ⊿゚)「にしても、こんだけでけぇ船をどうやって動かしてるんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「太陽光と波力、後は風力発電ね。
      海水発電装置も実験的にだけど、使っているわ」

太陽光を初めとする自然の力による発電は、ある時期から著しく進歩した。
従来の発電方法の数倍の発電量が生み出せるのだが、設備費用は数十倍に跳ね上がった。
途上国での使用が期待されたが、その価格故に一部の国で少数だけ採用され、オアシズにもその設備が導入されている。
巨体を生かした発電設備だけで航行中の電力を全て補うことが出来るよう設計されているのだが、それでも、万が一と云う場合がある。

船倉に大容量のバッテリーを備蓄していたとしても、常時七千人、最大九千人が生活をしていく中で、底を突いてしまう危険性は常にあった。
そこで発案されたのが、海水発電装置の導入である。
海水の塩分濃度の違いを利用した発電装置は、巨大な球体の装置がアンカーのようにして船尾から海に伸びており、停泊中は勿論だが、航行中も発電されるという優れもの。
船体の復元よりも、この装置の復元に最も時間が費やされ、現在では世界で唯一オアシズだけがこの装置の復元に成功している。

149名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 21:48:53 ID:W2H0TbLI0
今はまだ実験的な使用で公にはされていないが、本格的に稼働するのは、後十年以内だと言われている。
海水発電装置について熟知しているデレシアは、実用段階に至るまでは後百年以上かかると予想している。
現代の技術は、所詮は過去の技術の復元に要する技術であり、つまるところ模倣でしかなく、進歩は望めない。
それを我が物として進歩するには、過去に頼らずに自分達の足で進む他なかった。

ノパ⊿゚)「海水から発電、ねぇ……」

(∪´ω`)「はつでん、って、なんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「電気って分かる?
      ほら、ライトとかを光らせたり、バイクを動かしたりする力の事なんだけど」

小さく頷くブーンの顔からは、緊張は消えていた。
知識に対して貪欲な年頃である彼にとって、疑問は食事と睡眠に並ぶ欲求の一つだ。

ζ(゚ー゚*ζ「電気を作るための動きを、発電、っていうの」

(*∪´ω`)゛「おー、それって、どうやるんですか?」

ここから先の説明も出来るのだが、それには時間が足りない。
部屋に入ってからゆっくりと科学の勉強と共に、発電の仕組みについて説明した方が飲み込みやすいだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「後でお部屋に入って一緒にお勉強した時に教えてあげるわ。
       いい?」

(*∪´ω`)゛「はい、です!」

そんなやり取りをしていると、荷物検査の順番が回ってきた。
白く、丸みを帯びた背の高い金属探知機のゲート前には二人の黒服が立っており、手には籠、腰にはグロック19を提げてデレシアを迎えた。
ゲートの表面は艶やかで、光沢を帯びている。

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(■_>■)「済みませんが、そちらの棺桶をお預かりさせていただきます。
      航行中の使用・鑑賞・接触は一切できませんので、あらかじめご了承ください。
      金属を身に付けていれば、そちらを出してください」

ζ(゚ー゚*ζ「はい、どうぞ」

対強化外骨格用強化外骨格“レオン”を預け、ローブの下から懐中時計を取り出し、籠に入れる。

150名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 21:49:43 ID:W2H0TbLI0
ζ(゚、゚*ζ「ベルトはいいかしら?」

カーキ色のローブをたくし上げてベルトの金具部分を見せると、黒服の男は僅かに動揺した。
直ぐに動揺を抑え込んだ動きは、働き始めてから十二、三年といったところか。

(■_>■)「……はい、これでしたら大丈夫です」

ベルトの形状からそこに武器を隠せないことを確認し、男はデレシアをゲートへと案内した。
ゲートの脇にはいつでもグロックを手に出来るよう、両腕を腰の傍に構える男が立っている。
オアシズ内でテロ行為を行うものがあれば、即座に射殺出来るという警告の意味も込めた、実用的な看板の役割を持った男だ。
鳥居の様に構えるゲートは三つ。

それぞれ異なった方式で金属を検知し、センサーを掻い潜って武器を持ち込もうとする輩を見つけ出すための装置だ。
こうした装備のおかげもあり、オアシズではこれまでに一度もシージャックが起こったことがない。
起こそうと試みた人間ならいたが、契約している警備会社の人間によって、被害が出る前に射殺されている。
外部の人間を雇うことで様々な責任と手間を省くだけでなく、機密情報を一定の水準で守ることが出来る。

仮に、オアシズの警備員として十年以上勤続した人間がいたとすると、その人間が明日裏切らないとは誰にも断言できない。
十年以上も働いていれば、オアシズの構造上のセキュリティホールを見つけたり、その他の機密情報を知ったりする機会がある。
そうした人間から情報を買ったり、忠誠心を買ったりしようと画策する人間はいくらでもいる。
その万が一に備えて、オアシズでは警備員を外部企業から雇い入れているのである。

探偵に関しても同じで、定期的に人員を入れ替えており、人物の特定ができないようにも工夫されている。
それだけの工夫がある中、デレシアは武器を持ち込むことに成功していた。
両脇のデザートイーグルに、後ろ腰のソウド・オフ・ショットガンだ。
どれだけ高性能なセンサーが相手でも、デレシアはそれを欺く術を持っていた。

しかしながら、デレシアはオアシズで事を起こすつもりは一切ない。
デレシアとヒートで出した結論としては、ブーンにはこの船旅を楽しんでもらいたいというものだった。
ティンカーベルまでは一週間ほどの旅になる。
その間に、彼の教育と訓練を行い、ティンカーベルで出会うであろうティンバーランドの構成員との争いに備える。

涼しい顔をしたまま金属探知のゲートを悠然と通り抜け、デレシアは検査の済んだ懐中時計を受け取って、オアシズへの乗船を許可された。

(;∪´ω`)「お……」

続いては、ブーンの順番だった。
耳を不自然に見せないための帽子は、検査の際に強い効果を発揮する。
後は、不審な動きをしなければ難なく突破出来るはずだ。
ヒートの肩から降り、デレシアと同じようにゲート前で検査を受ける。

(;∪´ω`)

(■_>■)「僕、何か金属の……鉄の物を持っていないかな?」

(;∪´ω`)「いえ……もってません」

(■_>■)「分かった。 それじゃあ、そこの道をまっすぐに進んでくれるかい」

151名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 21:51:13 ID:W2H0TbLI0
案内に従い、ブーンはゲートを潜る。
センサーがブーンの体から金属を検知することはなく、何事もなくデレシアの元に辿り着いた。
その顔には安堵の色が浮かんでいた。

ζ(゚ー゚*ζ「ね、大丈夫だったでしょう?」

(∪´ω`)゛

ノパー゚)「じゃ、あたしもそっちに行かせてもらうよ」

拳銃を持っているのは、ヒートも同じだった。
ヒートの持つベレッタM93Rには、折り畳み式フォアグリップの代わりに鋭利な刃が取り付けられており、一目で殺しに特化した武器だと分かる。
そんな代物がここで発見されれば、乗船拒否も有り得る。
しかし、ヒートは余裕の表情を浮かべていた。

(■_>■)「金属の物は?」

ノパ⊿゚)「生憎、チタンよりも固い心以外は持ち合わせがないんでね」

(■_>■)「ローブの下には何もありませんか?」

ノパ⊿゚)「ほらよ」

ローブを捲り上げ、脇の下や腰に武器が無いことを見せつける。
それを確認すると男は、頷き、手でゲートの方へ案内した。

(■_>■)「問題ありませんね」

この時、男がもっと注意深くヒートの身体検査をしていれば、背中に隠された二挺の拳銃に気がついただろう。
だが現実は、三重の探知機という精神的な死角によって見逃してしまった。
ゲートは沈黙を守り続け、異常を知らせることはなかった。

(■_>■)「次の方、どうぞ」

ヒートの後ろに並んでいた人物がゲートを潜ろうとした時、服に使われていた小さな金属が探知機に反応し、止められた。
その日、オアシズが誇る探知機を突破して武器を船内に持ち込んだのはデレシアとヒートの二人だけだった。

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三三三三三三三三三三三 ..|\\蒜蒜\\.三三三三三三三三三三三三三..|\\
               ‥…━━ August 4th AM11:45 ━━…‥
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正午十五分前、嵐が近づいていた。
雲は海のうねりを思わせる黒雲になり、海風は冷えた空気を市場に運び、人々の足をその場から遠ざけた。
今や建物の外に出ているのは、船を波止場にしっかりと固定しようとする若い一人の船主だけ。
その船主ですら、縄を固定し終えるとすぐにバイクで走り去ってしまった。

152名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 21:51:57 ID:W2H0TbLI0
嵐の近づく中、全てが揺さぶられていた。
ただひとつ、巨大な船舶を除いては。
白い巨体は確かに船の形をしているが、それはあまりにも現実離れした大きさだった。
街一つが船の中に入っていることを考えれば有り得るが、船としては遠近感を失いかねないほどの大きさと存在感を放っている。

大型と言われるフェリーでさえ小舟に思え、漁船など玩具にしか見えない。
壁を纏った船舶、あるいは、海上の壁その物。
それは船舶にして船上都市。
その名は、オアシズ。

「それで刑事殿、何か進展は?」

その喫茶店はコクリコホテルから更に坂を上った場所にあり、客は二人しかいなかった。
割れんばかりに震える薄い窓ガラスの向こうに見える巨大な船影を見下ろしながら思案していた男は、その問いを無視した。
近くを通り過ぎようとしていたウェイターを手で呼び止め、二杯目になるアイリッシュコーヒーを注文した。
ウェイターはいい顔をしなかった。

男は先ほどからアイリッシュコーヒーだけを注文し、更にはその席の雨戸を閉めさせなかったからだ。
雨戸だけでなく、店も閉めたいと思っていたが、頬に二本の傷を持つ男がそれをさせなかった。
懐でちらつくベレッタM8000は、彼よりも雄弁だったのである。

(=゚д゚)「……おい、ウェイター。
   アイリッシュコーヒー大盛り」

白髪の多くなったブロンドの髪は短く刈り揃えられ、剣呑な雰囲気を漂わせる黒い瞳は窓の外に向けられたまま。
トラギコ・マウンテンライトは四十六年の人生の中で、あれほど巨大な船に乗ったことがなかった。
この船に乗ることが出来るのは金持ちか、船の上で生まれたオアシズの住人しかいない。
彼が追っているデレシア一行は高い確率でオアシズに乗り込むはずであり、何か尻尾を見せないかどうかを見るためにも、彼はそれを追いたかった。

三十分前に警察本部に電話して金を要求したが、予想通り即却下された。
勘で動くことを良しとせず、明確な証拠がなくてはオアシズの乗車券分の金を出すことは出来ない、と。
第一、デレシア達――彼女の名は伏せてあった――がオセアンで起きた事件の主犯である証拠はないのだ。
トラギコの勘を頼りに動いてくれた試しはないが、それによって彼が解決した事件の実例を前にしても彼の勘を認めた試しもない。

代わりに言い渡されたのが、ポートエレンで起こった自殺者を追い込んだ人物の特定と逮捕だった。
まさか、難事件解決に特化して設立された部署からわざわざオセアンまで出向き、その関係者を追ってここまできて、自殺の捜査をすることになるとは思いもしなかった。
能無しが多い職場だけに、トラギコの苛立ちはより一層募った。
特に、目の前でドリンクバーのメロンソーダを飲みながらフライドポテトを摘まむ若い検死官の無能ぶりには、頭痛さえ覚える。

警察が人手不足になったと聞いたことはないのに、どうしてこんな若者を雇ったのだろうか。
事件解決の経験がないのならば、それは、この土地がジュスティアに近いために治安が良すぎる為だろう。
無論、事件が起きないことが一番だが、事件が起きなければこうして役立たずの警官ばかりが増えるのだ。

(=゚д゚)「なーんも」

ショボン・パドローネから受け取った資料は、手帳も含めて全て警察に提出済みだ。
必要な情報は全て頭の中に入っている。
手帳やペンが必要なのは記者であって、警察ではない。
それが、警察で働き続けて分かったことだ。

153名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 21:53:09 ID:W2H0TbLI0
クリス・パープルトンについて分かる情報は何も見つからなかった。
分かったことは、彼女が薬で意識を朦朧とさせながら百フィートの高さから海に飛び込み、溺死したということぐらいだ。
遺書もある。
残っている作業は、死因の明確化だけだ。

手元に置かれたアイリッシュコーヒーを一口飲み、溜息を吐く。

(=゚д゚)「で、死因は何だったんだ?
    いいか、どんな細かなことでも報告するラギよ」

慌てて机の上に伏せておいていたホチキス止めの用紙を手に取り、検死官は報告した。

「あ、はい。
溺死でしたが、体内から検出された海水の量が通常よりも少なかった、ってだけです。
海水の成分は間違いなくあの近海のものでした」

あまり実りのある答えではなかったが、おかげでこの一件はだいぶ落ち着く。
残りは本部の人間か、この若者に任せてデレシア一行を追う算段を立てなければならない。
荷物に紛れて密航でもするか、身分を偽って侵入するか。
どちらも現実的に可能だが、今後の刑事生活に支障が出るので最後の手段として取っておくことにしてある。

(=゚д゚)「ふーん、ご苦労さん」

トラギコはそれを適当に聞き流している訳ではなかったが、検死官は不満そうな表情を浮かべていた。
今の情報で揃った断片を並べて、一つの絵を作り上げたのだが、不自然なまでに容易に完成したことに不満と不信があった。
その理由は幾つかあったが、それを裏付けるものがなかった。
決定的な証拠だけが欠如しているのだと、感覚で理解していた。

以前にも味わったことのある感覚だ。
となると、このまま捜査を続行しても収穫は得られそうもない。
別の方向に意識を向け、再度捜査を行う必要がある。
思考の迷路を探索するため、トラギコは瞼を降ろして腕を組んだ。

「刑事殿、寝るなら自分はもう持ち場に戻りますからね」

クリス・パープルトンが死んだのは明朝一時、発見されたのは六時半。
その差は五時間半。
ホテルへのチェックインは十一時三十八分。
死亡推定時刻の一時間半前である。

ただし、彼女がチェックインをした姿を誰も目撃していない。
立ち入ったのはショボンと支配人の二人で、部屋に鍵が掛かっていた事や窓が開いていたことの証言は一致している。
遺書は部屋に残されており、死に至った経緯が書かれていた。
それの筆跡とチェックイン時のサインは一致しており、同一人物の物と確定された。

ホテルに滞在していた七十一名の内、明朝一時半に寄港したオアシズからの客は三名。
彼らとクリスとの接点は見つけられず、彼女の死には関与していないと判断するしかない。
すでに彼らはオアシズに戻っていて、トラギコが手出しできない場所にいる。
ショボンの心配は杞憂に終わったと云う訳だ。

154名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 21:55:08 ID:W2H0TbLI0
死体には暴行の跡はなく、漂う内に岩で切った細かな擦り傷から、崖の上から飛び降りたと推測される。
大量の薬物を摂取して意識を朦朧とさせ、恐怖心を和らげてから飛び降り、そして溺死した。
ここまでが、簡単な概要だ。
トラギコの頭の中では、その様子がイメージとして浮かび、何度も再現される。

情報を繋いで景色を作り、証拠を紡いで概要を整える。
あまりにも綺麗すぎる。
その光景ははっきりと思い描けるが、だからこそ不自然に思えるのだ。
自殺の現場はいつでもあらゆる影響を受け、決して綺麗にはならない。

それは数多くの現場を見てきたから分かる直感だった。
その時、窓ガラスに大粒の雨がぶつかる音が聞こえた。
雨は瞬く間に豪雨となり、ガラスは砂利でも当たっているかのような音を出し始める。
雨粒が強風にあおられ、世界が白くぼやけて見える。

一つの可能性が浮かんだのは、オアシズが出航を告げる汽笛を鳴らした時の事だった。

(;=゚д゚)「……」

可能性は次第に疑念となり、確信に近づいていく。
そして確信が疑念を氷解させ、真相を浮かび上がらせる。
これは自殺ではない。
これは――

(#=゚д゚)「おい若造……って、帰りやがった!!」

机の上に金を叩きつけるように置くと同時に、雷が世界を真っ白に照らし、巨大な雷鳴が窓を震わせた。

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\ 丶 ヾ 丶v \ ヽ \\ \. 丶 丶丶 \丶 ヽ \ \丶. .、 ヽ
ヾ丶\ 、\ヽ 、丶\ \丶丶 丶丶 \丶 ヽ \ \丶/,,;;;;/ ,,,...
 ヽ 、ヾ 、ゞ ヾ丶 ゝ丶\ ゝヽ丶ヽ ゝヽ 、ゞ ヾ丶 ゝ/,,,;;;/  册册
 ヽ \ 丶\丶ヽ\ 丶  ヽ ヾ ゞ\ヽ ゝヽ丶丶 、/___/  _,. 册册
                ‥…━━ August 4th PM 12:06 ━━…‥
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喫茶店から一歩外に出ると、雷鳴と強風、そして滝のような雨がトラギコを歓迎した。
空は黒く濁り、青空は一片も残されていない。
発光と金属を引き裂くような音に続く爆音、冷たい風。
嵐がポートエレン上空を覆い、不気味な世界に染め上げていた。

誰一人屋外に出ていない。
長く続く石畳の坂の上で、トラギコは周囲を見渡した。
駐車されていたオフロードバイクに目をつけ、それに跨る。
キーの差込口を外し、その下から出てきた配線の一本を選んで引き千切り、配線同士を何度か合わせると、エンジンが力強く震えた。

邪魔な前髪を後ろに漉き上げ、口元の水滴を払う。
払い落とした水滴の代わりに、また新たな雨水が顔を濡らす。

155名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 21:55:57 ID:W2H0TbLI0
(;=゚д゚)「ぷはっ……!!
    くっそ、誰だか知らねぇが、やってくれるラギ!!」

トラギコはアクセルを捻り、坂道を下り始める。
眼下の荒れる海を悠然と進み始めたオアシズが完全に港を離れるまで、五分は掛かる。
それまでに追いつき、乗り込まなければこの“事件”は解決しない。

――これは自殺ではなく、殺人なのだ。

(#=゚д゚)「くっそ!! くそがぁ!!」

雨で滑りやすくなっている坂道をバイクで駆け降りるトラギコは、遠ざかるオアシズに悪態を吐いた。
住宅地を抜け、人気のなくなった市場へ侵入し、埠頭から離れたオアシズを目の当たりにした。
バイクを乗り捨て、トラギコは己の迂闊さ、そして浅墓さを呪う。
一体、デレシアに出会ってからどれだけ自分は浅はかな行動をしてきたのだろうか。

彼女のおかげでどれだけ気付かされることが生まれたのだろうか。
今度ばかりはあの女に頼らずとも気付けたことがある。
これは彼の専門だ。
自殺に見せかけた事件など、これまで何度も経験してきた。

しかし、今度の事件はその中でも特上の部類。
その巧妙さ。
その狡猾さ。
素人の犯行ではない。

詳しいトリックはまだ分からないが、自殺に見せかけた殺人を行い、トラギコを欺いてのけた。
目的は恐らく、時間稼ぎ。
そう。
オアシズ出航までの時間稼ぎが、犯人の狙いだったのだ。

だとするならば、犯人はオアシズに乗船していることになる。
被害者、クリス・パープルトンはポートエレンで殺害されたのではなく、オアシズで殺害された後に投棄されたに過ぎない。
投棄の第一目的は捜査のかく乱。
警察の聖地と言い換えてもいいジュスティア現地警察をオアシズに乗船させないための、巧妙な仕掛け。

それすらも装っているという可能性は、ない。
全てを語ったのは、死体だった。
仮にあの部屋から飛び降りたのならば、必ずあるはずのものが欠けているのだ。





それは――




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156名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 21:59:00 ID:W2H0TbLI0
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Ammo→Re!!のようです
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‥…━━ August 4th PM 12:00 ━━…‥

分厚い扉が鈍い音を立てて背後で閉まる。
自動的にバルブが回転して完全に扉がロックされると、そこが全くの別世界に繋がる通路であることが分かった。
床には灰色の絨毯が敷かれ、壁にはつなぎ目一つない。
幅十フィート、高さ十五フィート、長さ五十ヤードの通路の天井は全体が白く発光しており、薄暗さはなかったが息苦しさはあった。

通路の奥にはサングラスと黒のスーツ、そしてH&K MP5K短機関銃で武装した男が二人立っていた。
扉の傍に腰ほどの高さがある譜面台のような物があり、細い支柱の先には青白く輝く薄い液晶画面が付いている。
液晶画面にはカードを画面に触れさせるようにと指示文が表示されていた。
偽装カードを使われることを防ぐための、最後の検問所だ。

(■_>■)「カードをこちらに」

ζ(゚ー゚*ζ「はい」

画面にカードをかざすと、扉上部が緑色に光った。
続けてブーンがかざすと黄色に、ヒートの時には青色に変わった。
これは、予約している人間が全て揃っていることを確認するための仕掛けで、乗船券購入の際に申請した人間が揃わなければ別室に案内され、揃うまでそこで待機することになる。
ここまでするのは、団体客に成りすまして船で悪事を働かれないようにと云う狙いがある。

(■_>■)「ありがとうございます。
      ようこそ、オアシズへ」

男が画面に掌を押し当ててから恭しく一礼すると、空気が漏れる音と共に扉が勢いよく沈んだ。
その先には、世界最大の豪華客船オアシズの絢爛豪華な内装が待っていた。

(*∪´ω`)「おー!」

ノパ⊿゚)「……おぉ!」

そこは、街があった。
大きく切り抜かれた継ぎ目のないガラスの天井の向こうには、生き物のように蠢き、水面のように揺蕩う黒雲が浮かんでいた。
躓かないように鏡面加工された特殊素材のレンガを敷き詰めた床にはゴミ一つなく、隅々まで清掃が行き届いている。
飲食店などが適度な間隔を空けて立ち並び、楕円形の吹き抜けの上に架かる幅広の橋には木製のベンチと、鮮やかな緑色の葉を茂らせる観葉植物が置かれていた。

157名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:01:04 ID:W2H0TbLI0
オアシズ内の橋にはそれぞれ名前が与えられていて、各地区の通りにも同じ名前が与えられている。
例えば、ヴィヴィオ橋に繋がっている場所であれば、ヴィヴィオ・ブリュッケンシュトラーセ(ヴィヴィオ橋通り)、と言った具合だ。
船首を上に船内を左右に分け、左の通路をリンクスシュトラーセ(リンクス通り)、右の通路をレヒツシュトラーセ(レヒツ通り)として、それぞれの位置を説明する際に使用する。
機関室や保管庫のある船底は数百ものブロックで管理され、主要空間は五ブロックに分かれてブロックごとに統治されている。

また、オアシズでは居住と店の区画をあえて明確に分けていない。
ここに住む人間の多くは店を構えており、店自体が彼らの家となっている。
極稀に、隠居した人間が部屋を買い取って別荘のように使ったりしている場合があるが、その場所もどこかに集中している訳ではない。
密集することによって妙な疎外感を味あわせたくないという、船の経営者にして市長であるリッチー・マニーの方針だった。

観光客用の部屋に関しても、少しずつ分けて建てられているため、船内の至る所には案内図がある。
面白いことに、全ての建物は天井から離れており、それぞれが屋根を持って並んでいた。
三角屋根から水平な屋根、果ては一階から更に上まで伸びる高層ビルまで種類は様々だ。
圧迫感のない空間づくりを目指した設計は、客からも住民からも好評だった。

そこで工夫されているのが、各階の配置だ。
段々畑のように一階層ごとにずれることで、見上げれば必ず空が視界に入る設計をしている。
上の階に行く毎に面積は狭まるが、店の種類を階ごとに整理することで対処している。
最上階からの眺めは壮観で、上空から山街を見下ろしているように見え、逆に、一階からは山を見上げているような構図となる。

デレシア達がいる場所はオアシズの第四ブロック十階、レヒツ通り。
外からの入り口となる階であるために、エントランスセクション、と呼ばれている。
その為、人の出入りが最も多く、最も賑わいを見せる場所だ。
人が往来し、ベンチに腰かけて和む姿は地上の街と何一つ違わない。

ノパ⊿゚)「すげぇな、こりゃ」

ζ(゚ー゚*ζ「驚くのはまだまだこれからよ。
      とりあえず、お部屋に行きましょう」

デレシア達はブーンを真ん中に横並びに歩き始める。
幅の広い歩道ですれ違う人々は、ブーンの事を奇異の目で見ることはなかった。
逆に、若い女性たちの口からは思わず、可愛らしい、と声が漏れるほどの評判だった。
これまでに味わったことのない感覚に怯えるブーンだったが、その姿は彼女達にとっては一層可愛く見える演出にしかなっていなかった。

(;∪´ω`)「デレシアさん、なんでぼく、あんなめでみられてるんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「それはね、ブーンちゃんが可愛いからよ」

(;∪´ω`)「お?」

一行の部屋は、第四ブロック十八階のロイヤルロフトスイート802号室だった。
最高級の部屋を取ったのには訳があった。
ブーンに贅沢をさせるためではなく、ブーンの望みを叶えやすくするためだ。
船内にはスポーツジムや射撃場があるが、この部屋には小さいながらもそれらが備え付けられている。

特に、シューティングレンジがあるのは魅力的だ。
実弾は撃てないが、同様の反動が生じるペイント弾を発砲出来る。
デレシアは、ブーンに銃の扱いを教えるつもりだった。
銃はこの世界で最も平等な力で、老若男女問わず銃爪さえ引ければ相手を殺せる武器だ。

158名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:06:19 ID:W2H0TbLI0
近い将来、ブーンはそれを使う必要に迫られることだろう。
ならば早い段階でその使い方と恐ろしさ、そして手にするべき銃を知るべきだ。
人目に付かず、尚且つ気兼ねなくレクチャーできる空間が欲しかったのである。
エレベーターに乗り込み、部屋に向かった。

(∪´ω`)「どんなおへやなんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ……
      すごいお部屋だから、楽しみにしててね」

(*∪´ω`)「おっおっおー! たのしみですお!」

十八階に着き、吹き抜けの手摺沿いに部屋のある場所まで徒歩で移動する。
服屋や小物屋などの娯楽系の店が多く並び、店の前では客がショウウィンドウの中に置かれた商品を眺めていた。
802の部屋――というよりも家――は、第五ブロックとの境、レヒツ通りと交差するヴィラ橋通りにあった。
同じロイヤルロフトスイートの部屋が立ち並び、全部で十部屋が軒を連ねている。

建物は周辺の建物から浮かないように地味な配色がされ、外見はお世辞にも豪華なものとは言えない。
一見してただの二階建ての民家なのだが、これでも部屋なのである。

ζ(゚ー゚*ζ「ここが、私達のお部屋よ」

ノパ⊿゚)「家だろ、これ」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、お部屋よ」

デレシアは部屋のドアノブにカードをかざしてロックを解除し、部屋の扉を開く。
ベージュ色で統一された内装に驚くよりも先に、その広さにヒートとブーンは驚いていた。
玄関は三人が入ってもまだ余裕があり、はいってすぐ目に入るのが、白いレースのカーテンが掛けられた海と空が一望出来る巨大な窓。
入ってすぐ右手側には階段があり、二階があることが分かる。

ノハ;゚⊿゚)σ「なぁ、これってやっぱりい……」

(*∪´ω`)「すごいお! ひろいお! おっきいお!」

怪我のことなど忘れて、ブーンはデレシアの手を取って興奮していた。
この反応に、デレシアは驚いていた。
ここまで喜ばれるとは思っておらず、ここまで素直に自分の感情を表現できていることが何よりも嬉しかった。
恥ずかしがり屋のブーンも、彼女達の前ではだいぶ素直になれるようだ。

後は、人前でどれだけ堂々と出来るかだ。
三人は靴を脱いで、部屋に上がった。
フローリングの床はワックスで磨かれていて鏡のように輝き、ガラスのテーブルの上には果物の乗った籠が置かれている。
その傍の臙脂色のソファーはビロード地で作られており、一目で高級品だと分かる仕上がりをしていた。

シューティングレンジと運動部屋は二階にあり、寝室や台所、その他の設備は一階に揃っている。
トイレと風呂場は独立しており、台所は全て電気で動く物を使っている。
電子コンロに電子レンジ、冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、そして乾燥機。
一般家庭の年収二年分に匹敵する電化製品が惜しげもなく置かれ、航行中は自由にこれらを使うことが出来る。

159名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:08:07 ID:W2H0TbLI0
近い将来、ブーンはそれを使う必要に迫られることだろう。
ならば早い段階でその使い方と恐ろしさ、そして手にするべき銃を知るべきだ。
人目に付かず、尚且つ気兼ねなくレクチャーできる空間が欲しかったのである。
エレベーターに乗り込み、部屋に向かった。

(∪´ω`)「どんなおへやなんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ……
      すごいお部屋だから、楽しみにしててね」

(*∪´ω`)「おっおっおー! たのしみですお!」

十八階に着き、吹き抜けの手摺沿いに部屋のある場所まで徒歩で移動する。
服屋や小物屋などの娯楽系の店が多く並び、店の前では客がショウウィンドウの中に置かれた商品を眺めていた。
802の部屋――というよりも家――は、第五ブロックとの境、レヒツ通りと交差するヴィラ橋通りにあった。
同じロイヤルロフトスイートの部屋が立ち並び、全部で十部屋が軒を連ねている。

建物は周辺の建物から浮かないように地味な配色がされ、外見はお世辞にも豪華なものとは言えない。
一見してただの二階建ての民家なのだが、これでも部屋なのである。

ζ(゚ー゚*ζ「ここが、私達のお部屋よ」

ノパ⊿゚)「家だろ、これ」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、お部屋よ」

デレシアは部屋のドアノブにカードをかざしてロックを解除し、部屋の扉を開く。
ベージュ色で統一された内装に驚くよりも先に、その広さにヒートとブーンは驚いていた。
玄関は三人が入ってもまだ余裕があり、はいってすぐ目に入るのが、白いレースのカーテンが掛けられた海と空が一望出来る巨大な窓。
入ってすぐ右手側には階段があり、二階があることが分かる。

ノハ;゚⊿゚)σ「なぁ、これってやっぱりい……」

(*∪´ω`)「すごいお! ひろいお! おっきいお!」

怪我のことなど忘れて、ブーンはデレシアの手を取って興奮していた。
この反応に、デレシアは驚いていた。
ここまで喜ばれるとは思っておらず、ここまで素直に自分の感情を表現できていることが何よりも嬉しかった。
恥ずかしがり屋のブーンも、彼女達の前ではだいぶ素直になれるようだ。

後は、人前でどれだけ堂々と出来るかだ。
三人は靴を脱いで、部屋に上がった。
フローリングの床はワックスで磨かれていて鏡のように輝き、ガラスのテーブルの上には果物の乗った籠が置かれている。
その傍の臙脂色のソファーはビロード地で作られており、一目で高級品だと分かる仕上がりをしていた。

シューティングレンジと運動部屋は二階にあり、寝室や台所、その他の設備は一階に揃っている。
トイレと風呂場は独立しており、台所は全て電気で動く物を使っている。
電子コンロに電子レンジ、冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、そして乾燥機。
一般家庭の年収二年分に匹敵する電化製品が惜しげもなく置かれ、航行中は自由にこれらを使うことが出来る。

160名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:09:31 ID:W2H0TbLI0
ζ(゚ー゚*ζ「はい、じゃあここで注意点ね。
      このお部屋に入るには、ドアノブにこのカードをかざすだけでいいんだけど、お部屋を出る時には勝手に鍵が閉まっちゃうの。
      だから、お部屋を出る時には必ずカードを持っておいてね」

人差し指と中指で挟んだカードを動かして、ブーンとヒートにこの船でのルールを説明する。

(*∪´ω`)゛「はいですお!」

ノパ⊿゚)「りょーかい。
    で、この後どうする?」

ζ(゚ー゚*ζ「まずはお昼ご飯にしましょうか。
      この船の中にある全部のお店での支払いは、このカードを出すだけでいいわ」

要は、全ての面倒事はこのカード一枚で片付けられるということである。
支払から入退室、劇場への入場もこれ一枚で可能だ。
逆を言えば、このカードを紛失した時が最も面倒な時である。
再発行までには様々な質問を受け、再発行費として多額の費用を請求される。

盗難にあいでもすれば、不正使用される恐れがある。
高級品の購入や、部屋への侵入もこれ一枚だ。
オアシズもその点を考えており、各ブロックの間にカードをかざすパネルがある。
そこで使用すれば、当然履歴が残るわけで、カードの追跡が可能となるのだ。

無くさないのが一番だが、これだけ広い船内でこの薄いカード一枚を紛失するのは簡単だ。
後でブーンに首から下げられるパスケースを買い与え、肌身離さないように指導する予定である。

(*∪´ω`)゛「カード、だして、つかう……」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、後は、失くさないってこと」

(*∪´ω`)゛「わかりましたお!」

ノパー゚)「昼飯はどうする?」

ζ(゚、゚*ζ「前に乗った時から大分時間が経ってるから、お店の事情はよく分からないのよねー。
      ま、ブーンちゃんのお鼻に任せましょうか」

(∪´ω`)「へ?」

ζ(゚ー゚*ζ「美味しそうなお店、ブーンちゃんが選んでね」

ブーンの鼻先をつん、と指でつつく。
首を傾げ、ブーンは少しの間考え、理解した。

(∪´ω`)「いいんですか?」

ブーンの目線に合わせて膝を屈め、デレシアは満面の笑みで言った。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、もちろんよ」

161名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:11:30 ID:W2H0TbLI0
その時、空が白に染まり、同時に爆音に近い、生木が引き裂かれるような音が空から響き渡った。
意外なことにブーンはその音に全く怯えた様子を見せず、デレシアの目を見て笑顔を浮かべていた。
窓を大きな雨粒が叩き、直ぐに大雨が世界を白に染める。
嵐がポートエレンに到達し、豪雨と雷の洗礼を浴びせ始めた。

上方から汽笛の重厚な音が鳴り響く。
出航の時だ。
鉄琴をリズムよく叩く音の後、船全体に年老いた男性の柔らかな声が響いた。

『本日はオアシズにご乗船いただき、誠にありがとうございます。
これより本船は、定刻通りティンカーベルに向かいます。
嵐の影響で予定到着日時は不定となります。
それでは、よき旅を』

船が僅かに振動し、ポートエレンが遠ざかる。
長い船旅が、始まった瞬間であった。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編

                    それでは、よき旅を。
                  第二章【departure-出航-】
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               ‥…━━ August 4th PM 12:06 ━━…‥

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オアシズ第四ブロック十八階、そこはファッションや装飾品の店が多く並ぶ階となっている。
十階とは異なり、高級店ばかりが店を出しているために客があまりいないとのことだった。
嵐によって薄暗くなった船内は日中にもかかわらず、夕暮れ時のような暗さとなっていた。
店から漏れる明かりが空の明るさをはねのけ、雨音を跫音と喧騒が迎え撃つ。

人の跫音と雨音の違いが曖昧になる中、ブーンは音でも見かけでもなく、匂いを頼りに動いていた。
体の節々はまだ痛むが、空腹に比べれば何という事はない。
デレシアとヒートに頼まれたのは、いい匂いのする店を探すということ。
匂いは下から上に向けて漂ってくるので、ブーンはそれらの匂いを記憶して、これだと思うものを辿ればいいだけだった。

今追っているのは、香ばしく、そして甘さの混じった匂いだった。

(∪´ω`)「こっち、ですお」

ノパー゚)「どんな匂いがするんだ?」

162名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:13:32 ID:W2H0TbLI0
(∪´ω`)「いいにおいですお」

ヒートの手を引いて、ブーンは匂いの元へと急ぎ足で向かう。
急ぎ足なのはブーンだけで、ヒートもデレシアもいつも通りの歩調で歩いていた。
歩幅が違うことに気付かないまま、ブーンは二人を導く。
匂いは、下からしていた。

具体的な距離までは分からないが、まだ下なのは分かる。
エレベーターではなくエスカレーターを使い、三人はどんどん下に降りて行く。
九階に来てから、匂いが濃くなった。
恐らく、この階層にある。

人の目はもう気にならなくなっていた。
これまで、人と会うと必ず耳を見られた。
今は、眼を見られていることが分かっている。
全てはデレシアからもらった帽子のおかげだった。

怯えて行動する必要がないという事実は、ブーンの行動を大胆にしていた。

(*∪´ω`)スンスン

匂いを追って進んでいくと、その正体が見えてきた。
店と店との間の隙間に一時的に店を構えている、いわゆる出店が匂いの発生源だった。
出店の看板には『ギョウザ』と書かれている。
これだけいい匂いをさせていながら、客は全くいない。

というか、一人もいない。

( `ハ´)「……」

長い黒髪をオールバックにして、後頭部で三つ編みにした細い切れ長の目を持つ男。
黒いエプロンの下には黒い半袖のポロシャツを着ていて、黒の似合う男だった。
年齢は若く、三十代手前のように見える。
屋台の店主は不機嫌極まりない顔をしながら、鉄板の上で何かを焼いていた。

これがギョウザ、というものなのだろうか。

(∪´ω`)

( `ハ´)

面白くなさそうな顔のまま、店主はとろみの付いた水を鉄板に流し込む。
水が一瞬で沸騰し蒸発する音に、ブーンは驚いた。
その音と湯気に道行く人は目を向けるが、足を止めない。
男の作業を興味深そうに見ているのは、ブーンだけだった。

細い目が、ブーンに向けられた。

( `ハ´)「……何アルか?」

163名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:14:16 ID:W2H0TbLI0
(;∪´ω`)「お……あの、いいにおいが……したので……」

( `ハ´)「匂いがして、どうして私の事を見ているアル。
     見ていても愉快なことはしていないアルよ」

(;∪´ω`)「えと……」

男の言葉は威圧的だが、声には威圧感はなかった。
只管に、無関心。
奇妙な男だと、ブーンは思った。
言葉だけを見ればブーンに対して好意的ではないが、声を聞く限りだと、彼はただ疑問を口にしているだけなのだ。

(;∪´ω`)「つくるの、みていたかったんです……お」

オセアンでは厨房の裏――正確には裏口から出たところ――から調理の様子を見ていた。
その為、調理に関して、ブーンは少しばかり心得があった。
あくまでも見識だけの話だが。
それでも、調理を見るのは好きだった。

( `ハ´)「……好きにすればいいアル」

男はそれだけ言って、調理を再開した。
しかし、男の手元を見ることが出来ない。
背伸びをしても届かず、ブーンは何度かジャンプした。
材料の詰まったショーケースのせいで、何も見えなかった。

ノパー゚)「ったく、しょうがねぇな。
    そらよっ!」

(*∪´ω`)「お!」

ひょい、とヒートがブーンの腋に手を入れて持ち上げた。
それまで見えなかった男の手元が、やっと見えた。
黒い鉄板の上には、それと同じ大きさの蓋が乗っていて、その下で何かが焼かれている。
そこから香ばしい香りが漂っていることは紛れもない事実であり、ブーンはこれから何が現れるのか、期待に胸を膨らませた。

ブーンに一瞬だけ目を向けた男は、皿を片手に鉄の蓋を持ち上げ、そこにフライ返しを差し込んで何度が前後させる。
フライ返しにちょうど乗る大きさの“何か”を長方形の紙皿に乗せ、男はそれをショーケースの上に合計三つ並べて置いた。
そこで初めて、男の腕が筋肉質であることが分かった。
細かな傷の上に、更に大きな傷。

ただの出店の店主とは考えにくかった。

( `ハ´)「食えアル」

割り箸を皿の上に乗せ、男はそれだけ言った。
目は、ブーンをまっすぐに見ていた。

ノパ⊿゚)「ありがとさん。
    お代は?」

164名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:17:30 ID:W2H0TbLI0
一瞬だけヒートを見た男は、感情のこもっていない声で答える。

( `ハ´)「……いらないアル。
     美味かったらまた来い。
     その時は、お代をもらうアルよ」

(*∪´ω`)「あ、ありがとうございますお」

( `ハ´)「気にする必要はないアル。
     とにかく、冷めない内に食うアル」

店の隣にあった席に移動して、ブーンはギョーザなるものをよく観察した。
三日月形のそれを箸で摘まむ限りだと、表面は固く、中は柔らかい。
香りで判断するに、中には肉と野菜が詰まっているようだ。
肉を包む黄金色の焦げ目の付いた皮にはヒダが付いており、その理由は分からない。

ζ(゚ー゚*ζ「いただきます」

ノパー゚)「いただきます、っと」

(∪´ω`)「いただきますお」

一口で食べられる大きさだが、小さく分けて食べなければ内臓への負担が掛かるので駄目だ、とデレシアに言われていた。
箸をギョーザに突き立てると、肉汁が染み出してきた。
立ち上る湯気からは肉の甘い匂いがする。
二つに分け、それを口に運ぶ。

最初に感じたのは香ばしく甘い匂いだった。
舌の上に乗った熱い塊を細かく噛み砕くたび、野菜の水分と肉汁の混じった、旨味を凝縮した液体がギョーザを包む。
皮は滑らかで、そして柔らかく弾力があり、甘い。
サクサクとした食感の焦げ目を噛むたびに苦みを感じるが、それが豚肉と野菜が作り出す甘さを際立てる。

野菜が生み出すシャキシャキとした歯応え。
舌先に感じる独特の甘味から、キャベツは分かる。
もう一つ、キャベツに紛れるようにして入っているのは白菜で、みじん切りにされているのはタマネギだ。
オセアンではいずれも芯の部分をよく食べていたので、その味は――名前はペニサスに教えてもらったので――知っていた。

何度も口から空気を含みいれて口内を冷まそうとするが、なかなか冷めない。
固形だったギョーザが口の中で液体になってから、ブーンはやっと飲み込んだ。
思わず満足した溜息が漏れる。

(*∪´ω`)「ほふー」

ζ(゚ー゚*ζ「……あら、美味しい!」

ノパー゚)「ビールが欲しくなる味だな」

( `ハ´)「ビールは一杯一ドル、餃子は一皿三ドル。
     ……次からは覚えておくアルよ」

165名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:19:41 ID:W2H0TbLI0
いつの間にか、ジョッキを三つ持った店主が席の横に現れていた。
大ジョッキに並々と入れたビールをデレシアとヒートの前に置き、ブーンの前には茶色い液体が注がれたジョッキを置いた。
嗅いだことのない匂いだったが、紅茶の匂いにどことなく似ている。

( `ハ´)「麦茶アル」

(∪´ω`)「あ、ありがとうございますお。
      ぎ、ギョーザ、おいしいです」

( `ハ´)「いいから、飲むアル。
     それと、ギョーザじゃなくて餃子、アル」

それだけ言い残し、店主は店に戻って餃子を焼き始めた。
ブーンは言われた通り、ジョッキを両手で持って麦茶を飲む。
仄かに甘い香りがするが、味は複雑な物だった。
紅茶に近い渋みと甘み、しかしさっぱりとした後味は紅茶にはない。

口内の油を洗い流すというよりも、中和する感じは餃子とよく合う。
二口目の餃子を食べて気付いたのは、熱さも美味さの一つの要素となっている事だった。
入っている食材で分かるのは、キャベツ、タマネギ、白菜と豚肉、そしてもう一種類。
苦みと甘みを併せ持つ、独特の香りを持つ平たい野菜だ。

飲み込んでから、ブーンはデレシアに訊くことにした。

(∪´ω`)「デレシアさん、これはなんていうやさいなんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「これはね、ニラ、っていうのよ」

(∪´ω`)゛「ニラ……お」

時間を掛けて五つあった餃子を平らげ、けふ、と小さくげっぷをする。
ヒートに食事中はげっぷをしては駄目だと軽く指摘され、紙ナプキンで口元を拭ってもらった。
満腹と言わないまでも、満足のいく食事だった。

(*∪´ω`)「おー……おいしかったですおー」

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、お店の人にちゃんとお礼を言わないとね」

(*∪´ω`)「お」

食べ終えた皿を一つにまとめて、ブーンは店主の元に歩いていく。
店主は何も言わなかったが、目線をブーンに向けていた。

(*∪´ω`)「ごちそうさまでしたお」

( `ハ´)「……また来てもいいアルよ」

店主が手渡した袋には、パック詰めされた餃子がこれでもかと入っていた。

(∪´ω`)「お?」

166名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:20:23 ID:W2H0TbLI0
( `ハ´)「……焼きすぎただけアル」

と言っても、男の渡した餃子は先ほど焼いたばかりの物。
男はそれ以上何も言わず、再び餃子を焼き始めた。

( `ハ´)「……」

(∪´ω`)「……お。
      ぼく、ブーンっていいます」

( `ハ´)「……シナー・クラークス」

デレシア達も礼を言って、店を後にした。
シナーが餃子を焼く音が背後から聞こえてくるが、客が寄ってきている様子はなかった。

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               ‥…━━ August 4th PM12:45 ━━…‥
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部屋に戻るまでの間に、デレシアは雑貨屋に寄りたかった。
雑貨屋で首から下げるタイプのパスケースを買い、ブーンに与えようと考えているからだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと雑貨屋に寄りましょう」

ノパ⊿゚)「だな。ブーンにパスケースを買ってやりたかったんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「私もそれを買おうとしてたのよ」

大量の餃子が詰まった袋を大事そうに両手で持ちながら、ブーンはデレシアとヒートに挟まれて歩く。
ローブの下で尻尾が嬉しそうに揺れている。

(*∪´ω`)「ぎょーざ、ギョウザ、餃子!」

正直、出店での一件は意外だった。
ブーンが特定の人種を魅了する力を持っているのは分かっていたが、シナーと名乗った店主が魅了されるとは思わなかった。
腕の傷が物語るのは、彼が戦いに身を投じているということだ。
あの無愛想な部分と人を寄せ付けない野犬のような雰囲気さえ直せれば、店は上手くいくだろう。

三階上にある第二ブロック十二階、ヤザッカー橋通り。
そこには雑貨屋が多く店を構える通りで、高級店から格安店まで種類も豊富だ。

ζ(゚ー゚*ζ「私が買ってくるから、二人ともここで待ってて」

167名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:21:39 ID:W2H0TbLI0
橋の上のベンチに二人を座らせ、デレシアは一人雑貨屋に足を運んだ。
選んだ店は全ての商品が一ドル均一と云う格安店で、店内には所狭しと様々な雑貨が置かれている。
小物入れコーナーでパスケースと財布を手にし、レジで支払いを済ませた。
店を出たデレシアの前に一人の男が現れたのは、偶然ではなかった。

九階で餃子を食べている時から視線を感じていたし、ヒート達を置いて雑貨屋に来た時もその視線は背中で感じていた。
後を付けられていることは、ヒートも分かっていただろう。
だから、二手に分かれて対処することにしても、彼女は素直にそれを受け入れたのだ。

£°ゞ°)「どうも、御嬢さん」

胸ポケットにモノクルを挟んだ皺一つないスーツの下には、糊の効いたボタンダウンのワイシャツ。
深紅色のネクタイを止めるのは、金色の薔薇をあしらった悪趣味なタイピン。
圧倒的な存在感を出している右腕の金色の腕時計に、鏡のように磨かれたウィングチップの茶色い革靴。
鼻の下に生える髭は綺麗に整えられ、櫛の通された黒髪は左右に流し、目尻の垂れた碧眼がデレシアをまっすぐに見据えている。

身なりからして、このブロックを任されている上位の階級を持つ人間だろう。

ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは。 何か用かしら?」

£°ゞ°)「失礼、あまりにもお美しかったので、つい。
      何かお困りなことはございますか?
      何分、この街は広くて複雑でしょうから、もしよろしければお手伝いしますよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ、今はないわ」

£°ゞ°)「では、何かありましたらこちらまでご連絡いただければ」

懐から銀色の名刺ケースを取りだして、そこから高級用紙に印刷された名詞を差し出した。
オアシズ第二ブロック責任者、オットー・リロースミス。
ロミスは右手を出して、握手を求めた。
腕時計を見せつけるための動作であることは、見え透いていた。

£°ゞ°)「ロミスとお呼びください」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、ロミスさん。
      私急いでるから、またいつか」

握手を交わしてからロミスの横を通り過ぎ、デレシアは橋の上で待っている二人の元に急いだ。
面倒な手合いとは、かかわった時間だけ面倒になる。
様子を見ていたヒートが、ブーンに知られないように状況を確認してくる。

ノパ⊿゚)「どうだった?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、問題なく見つかったわ。
       ブーンちゃん、カードを出して」

パスケースを袋から出して、ブーンの首にかける。

ζ(゚ー゚*ζ「で、ここにカードを入れるの」

168名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:22:45 ID:W2H0TbLI0
(∪´ω`)「お……!」

これで、カードを落として失くすことはないだろう。
ハードタイプのケースなので、多少乱暴に扱っても簡単には折れない。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、戻りましょう。
      ブーンちゃん、お勉強しましょうか」

(*∪´ω`)゛「お! おべんきょうするお!」

最寄りのエレベーターを使って十八階まで上がり、部屋に戻るまでの間、彼女達をつける者はいなかった。

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部屋に戻ってから、デレシアはブーンをシューティングレンジに連れて行った。
シューティングレンジは天井から床まで、全て剥き出しのコンクリートで作られていた。
同時に二人が使用できるようになっており、壁のラックには十種類の拳銃がかけられている。
全て実銃と同じ重量、材料だが、発射できるのはペイント弾だけだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、強くなりたいって言ったわよね?」

(∪´ω`)「はい、ですお」

ζ(゚ー゚*ζ「でもね、いきなり人は強くなれないの。
      ブーンちゃん、耳を押さえて」

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                                              r.┐
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ラックから艶消しのされた黒いM92Fを取って、デレシアは所定の位置に立った。
的が出現するのとほぼ同時に、デレシアの指は銃爪を引き、銃が火を噴く。
薬莢が床を叩くよりも早く、ペイント弾は的の真ん中に命中していた。
レンジ内に、銃声が木霊する。

ブーンが耳から手を離してから、デレシアは言った。

169名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:24:06 ID:W2H0TbLI0
ζ(゚ー゚*ζ「だから、力を使えるようにならないとね」

ブーンが望むのは、力だ。
それは理不尽に立ち向かう力であり、不条理を否定するための力でもある。
銃は、彼の望みを叶えるに足る道具だ。

(∪´ω`)「じゅう」

ζ(゚ー゚*ζ「そうよ。 今のブーンちゃんが手に入れられる力は、これが一番早いの」

(∪´ω`)「お」

ノパ⊿゚)「まずは知るところから始めようか。
    そら、これを付けな」

道具の入った棚を物色していたヒートが、イヤーパッドをブーンの頭から被せた。
聴力が人以上に優れているブーンに何度も銃声を聞かせるのは、拷問にも等しい。
音が反響しやすい施設だけに、イヤーパッドは必須だ。

ζ(゚ー゚*ζ「まずは銃の説明をするわ」

レンジ台の上に拳銃を置いて、デレシアは分解しながら銃の説明を始めた。

ζ(゚ー゚*ζ「いい、よく見てよく覚えるのよ。
       これが撃鉄、これが銃爪。
       ここが遊底で、こっちが安全装置。
       銃把のところに付いているこのボタンを押すと、弾倉が落ちるの」

(∪´ω`)゛

ζ(゚ー゚*ζ「銃爪に指をかけるのは、照準が合ってから。
      それまでは駄目よ。
      銃を相手に渡す時には、必ず遊底を掴んで、安全装置をかけてから、銃口を相手に向けないようにして渡すの。
      もちろん、撃鉄が起きていないことを確認するのよ」

次に弾倉から実包を取り出して、真鍮の輝きを放つそれをブーンの手に渡す。
先端に込められているのは黄色に塗られた特殊弾頭。
ペイント弾とは言っても、火薬を使って発射するわけだから当たれば痛みがある。
銃に関する仕組みの説明を終え、デレシアは銃を組み立てた。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、試しに撃ってみましょうか」

ベレッタを握らせ、ブーンをレンジに立たせる。
デレシアの見よう見まねで構えるブーンの後ろから手を添えて、構えを安定させる。
両手で握らせ、銃を固定させる。

ζ(゚ー゚*ζ「的の真ん中を見ないの。
       自分の指の延長線上に狙いたい物が来るようにするの」

170名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:25:26 ID:W2H0TbLI0
ブーンの体は、僅かなブレを完全に抑えていた。
目的遂行のために意志を鋼にし、体を順応させている。
ダブルカラムの弾倉を咥え込む銃把は、ブーンの小さな手には余る大きさだ。
銃爪に辛うじて指が届いているといった状態で、本番でこの銃は使えない。

となると、銃把を削ってやる必要がある。

ζ(゚ー゚*ζ「ゆっくり息を吸って……倍の時間を掛けてゆっくり吐いて。
      ……そこで止めて。
      今の状態を体で覚えるの」

しばしの静寂。
銃は微動だにせず、ブーンは瞬きもしない。
ブーンからゆっくり体を離して、枷を解く。
補助を失っても、ブーンの体は動かない。

ζ(゚ー゚*ζ「銃爪をゆっくりと、絞るように引いて」

一拍。
そして、銃声。
五重円の内側から数えて三本目の円にペイント弾が黄色い印を付け、遊底が後退して薬室に新たな実包を送り込み、空薬莢が宙を舞う。
薬莢が地面を転がり落ちる音、硝煙の香りがシューティングレンジに揺蕩った。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、すごいじゃない!」

驚くべきは、反動を完全にコントロール下に置いた射撃にあった。
発砲の際の力の抜き方は、理に適ったそれだ。
彼のオリジナルではなく、模倣された型なのは明らかだった。
その型には、覚えがあった。

――悠久の時を経て完成させた、デレシアの型だ。

ノパー゚)「初めてにしてはいい腕だぞ、ブーン」

(∪´ω`)゛「……お!」

デレシアの補助がない中で出した成果は、想像以上だった。
もっと小型の拳銃を使わせれば、更なる成果が得られそうだ。
ブーンが当てた的までの距離。
約五十ヤード。

このシューティングレンジの最長の的であった。

(∪´ω`)「あ」

ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの?」

(∪´ω`)「あの、あとでおしえてほしいことがあるんですけど……
      ……いいですか?」

171名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:26:45 ID:W2H0TbLI0
それにいいえと答えられるほど、デレシアもヒートも非情ではなかった。

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オットー・リロースミスは右手に残る感触に酔い痴れ、興奮していた。
これまで、多くのパーティーに参加してきたが、あれほど美しい女性と会ったのは初めてだった。
仕草、立ち振る舞い、何もかもが完成された美によって構成された美しさの化身だった。
オアシズでブロック長を任されてから、女に困ったことはない。

その彼が自室で一人の女性を想って性的に興奮している姿を見れば、彼を知る誰もが驚くに違いない。
彼女に会ってから、右手は他に何も触れていない。
つまり、右手には彼女が残っていると考えられる。
そこまで浅ましい考えに至っていることの異常性に、ロミスは気付けなかった。

指先に残る彼女の味を堪能したい衝動は、彼の理性が焼き切れていることを意味している。
女性の体を舐めることが彼の趣味であることは、彼と性的な接触を持った人しか知り得ない秘密である。
彼は、部屋の鍵が掛かっていることを確認してから、自らの指を舐めた。
塩気の中に、僅かな甘味を感じる。

この味の一部は、あの女性の物だ。
そう考えた途端、彼の陰茎が大きく膨らんだ。
直に舐めて、その体の細部に至るまでを味わいたかった。
どんな味がするのだろうか。

どんな声で喘いで、どんな声で愛を囁くのだろうか。
最近味わった女の体の味など、もう忘れてしまった。
行きずりの女だ。
名前も、顔も、もう思い出せない。

あの女性の前では、あらゆる女性が霞んで見える。
今、ロミスが求めているのは黄金色の髪と蒼穹色の瞳を持つあの女性の体だけだった。
他の女の体など、オナホールにしか思えない。
掌が彼の唾液で隙間なく濡れた頃には、ロミスは平常心を取り戻していた。

常に紳士であれ。
それが、ロミスの信条だ。
性欲に流されないように考えを固め、今後は己の目標のために動くことに決めた。
そう。

コクリコホテルで見かけたその瞬間から、ロミスはあの女性に一目惚れをしていたのだから。

172名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:27:30 ID:W2H0TbLI0
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シナー・クラークスは孤独に餃子を焼いていた。
客はまだ来ていないので、作るだけ赤字になる。
それでも、餃子を焼いていた。
餃子を焼くことに使命感はなかった。

ただ、手持無沙汰になるのが嫌なだけだった。
幼少期は両親の経営する料理店で中華料理、と呼ばれる料理を学んだ。
何故中華と云う名前なのかと訊いたことがある。
かつてあった世界最大の人口を持つ土地から、その名を取っていると聞いた。

シナーは餃子をパックに詰め、ショーケースの上に積んだ。
もう十五個目だった。
客は来なかった。
売り上げがまた赤字になる。

餃子の味には自信があった。
商才には自信がなかった。
自分が客受けしない容姿と性格であることはよく理解していた。
自分は根っからの戦争屋で、屋台の店主には向いていないのだ。

溜息を吐く代わりに、シナーは電子コンロのスイッチを切った。
そろそろ、意地を張るのをやめて部屋に戻ろう。
そう、決めた。

「あ、あの……」

( `ハ´)「ん?」

声変りをしていないその中性的な声は、ショーケースの下から聞こえてきた。
聞いた記憶のある声だ。

( `ハ´)「ブーンアルか?」

ショーケースの向こうを覗き込むと、そこには毛糸の帽子を被ったブーンがいた。
紙袋を両手で大事そうに持つ彼は、シナーの目をまっすぐに見つめ返して頷く。

(∪´ω`)゛

( `ハ´)「何の用アルか?」

173名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:29:01 ID:W2H0TbLI0
(∪´ω`)「あの、これ……」

紙袋を差し出されたので、シナーはそれを受け取った。
中を開けて覗き込むと、小麦色のクッキーが入っていた。
形はかなり大きく、シナーの手の平ほどの大きさがある。
でかい。

( `ハ´)「……でかいアルね」

でかすぎだ。
これを作った料理人の気持ちが分からない。

(;∪´ω`)「……ごめんなさい、ですお」

( `ハ´)「? なんで謝るアルか?」

(;∪´ω`)「あの……それ……ぼくが、つくったから」

シナーは、ブーンの態度の理由を理解した。
このクッキーは、ブーンが感謝の気持ちを表すために作ったのだ。
ならば、でかくて結構。

( `ハ´)「……料理は初めてだったアルか?」

(;∪´ω`)「はい……です」

( `ハ´)っ○「ふむ……」

一枚だけ取出し、シナーは改めてクッキーを見る。
やはりでかい。
形はどうにか円形だが、とにかくでかい。
匂いを嗅ぐ限り、シンプルなバタークッキーの様だ。

大口を開けて、クッキーに齧りつく。

( `ハ´)「む……」

硬い。
並のクッキーの硬さではない。
堅焼きクッキーと云うレベルではない。
石でも食べているような硬さだ。

(;∪´ω`)「お……」

不安そうな目で見られ、シナーは焦った。
不味いと思っていると思われているのだろう。
いや、不味いのではない。
逆に、美味い。

(;`ハ´)「むぐぐ……!!」

174名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:29:53 ID:W2H0TbLI0
こうして齧っている間に舌で感じるクッキーの控えめな甘味とバターの風味は、売られているものと遜色ない。
しかし硬い。
兎に角硬い。

:;(#`益´);:「ふんぐぐぐっ……!!」

犬歯でやっと噛み砕くことに成功し、シナーはそれをどうにか咀嚼する。
ここまで顎が疲れる食べ物は生まれて初めてだ。
唾液でクッキーがふやけたおかげで、奥歯で細かく噛み砕けた。
こうなると、噛み応えがあって美味いクッキーだ。

飲み下してから、シナーは感想を言った。

(;`ハ´)「……美味いアル」

(*∪´ω`)「お……」

( `ハ´)「クッキー、ご馳走様アル」

シナーは売り上げを入れる袋と紙袋を手に、そこから逃げるように立ち去った。
これ以上その場にいると、らしくないことをしてしまうと判断したからだ。
思わず伸ばそうとした手は、彼の頭を撫でるためのものだった。
何故、出会って数時間しか経っていない少年の頭を撫でて褒めてやらなければならないのか。

――きっと、コクリコホテルで癒したはずの疲労が、まだ残っているに違いないのだと、シナーは己の気持ちを否定した。

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その人物は、部屋に戻ってから、銃の手入れを始めた。
ジュスティアの警察がオアシズに乗船していないことは確認済みだ。
それは、計画通りに物事が進行していることを意味していた。
全ては順調。

死体は無事にその役目を果たしたというわけだ。
刑事であるトラギコが現れた時は流石に肝を冷やしたが、彼の仕事熱心さと真面目さが仇となった。
いや、仇ではない。
その人物にとって、トラギコの出現は好ましいハプニングだった。

ジュスティアから警官が来る代わりにトラギコで済んだのだから。
こうして事件は事故となり、自殺へと変わった。
一瞬だけでも十分だった。
事件として処理されず、自殺として処理されることによって余計な駒が舞台に上がることは防がれた。

175名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 22:32:12 ID:W2H0TbLI0
舞台は常に徹底して整えられていなければならない。
不要な役者は退場させ、不要な展開は潰すべきなのだ。
しかし、この船に邪魔になるかもしれない一行が乗り込んでいることが分かってしまった。
金髪碧眼の女性を筆頭とする旅の一行は、出来れば潰しておいた方がいいだろう。

コクリコホテルで目にした瞬間から、胸に飛来した思いがある。
彼女達は、危険だ、と。
これまでに理屈に基づいて行動してきたのだが、今回ばかりは、勘を頼りに動くべきだと判断するほどだ。
それほどまでに、彼女達からは危険な香りがした。

三人で旅をしているのであれば、少しずつ削るべきだ。
まず削るべきは、当然、最も非力な存在。
つまり、毛糸の帽子を被った黒髪の少年から、消していかなければならない。
残念だが、この後に控えているシナリオから即時退場させなければ。

ブーンとかいう少年は、彼女達を釣る餌として今日にでも死んでもらおう。

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Ammo→Re!!のようです
                                Ammo for Reasoning!! 編 第二章 了
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176名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 23:26:46 ID:5PpPx1GAO
£°ゞ°)、長編作品出演二作目だな

177名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 23:28:02 ID:2gCEYnEo0
今読み終わった
乙!

178名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 23:41:06 ID:mmWDPWeU0
しなーかわいい

179sage:2013/09/26(木) 23:47:58 ID:pezSR3Ro0
おつおつ

180名も無きAAのようです:2013/09/26(木) 23:49:34 ID:0iRE9QvY0

おもしろい。
思惑と策謀が渦巻くオアシズでこれから何が起こるのだろう。

181名も無きAAのようです:2013/09/27(金) 02:58:38 ID:uRNkBWRY0
あんたの作品群の食事描写は殺人的に引き込まれるんだよ
もはやテロだよ
だから今後ももっと作中で描いて下さいオナシャス!!

182名も無きAAのようです:2013/10/26(土) 01:39:02 ID:prs2vRVI0
ブログの方にも書きましたが、明日の夜VIPに投下しますよ

183名も無きAAのようです:2013/10/26(土) 01:42:54 ID:/cd5jtTkO
全裸待機

184名も無きAAのようです:2013/10/26(土) 02:03:56 ID:rLVhRxVw0
ヒュー!

185名も無きAAのようです:2013/10/26(土) 07:50:09 ID:jNYw28f.O
>>183 風邪引くなよ

186名も無きAAのようです:2013/10/26(土) 08:07:01 ID:y2/KM46k0
半裸待機(下)

187名も無きAAのようです:2013/10/26(土) 15:39:41 ID:Aq25olnAC
書き込み時間が微妙だな、今日の夜なのか明日の日曜の夜なのか

188名も無きAAのようです:2013/10/26(土) 15:56:16 ID:o9XNxWIE0
すみません、今夜投下をします!!

189名も無きAAのようです:2013/10/26(土) 22:52:39 ID:y2/KM46k0
wktk

190名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 20:08:50 ID:bxfQ0Rt.0
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          ,. ‐''"``'' -、
       .r''"       ,>
       ///// ‐ _.,.. ‐''":/
      /////   /::::::::::/
      / /     /:::::::::/
      / '     /:::::::/´ヽ
     ///    /::::, '-、  ノ
    【覚悟なき者は今を変えられず、力なき者は何も変えられない】
   ./ /    /:::::::ゝ'"  ノ
   ./     /::::::i´、ノ ,/ヽ
  ///  /, /::::::::`ァ‐'"  ,.ノ         ――イルトリアの諺
  ///  ///::::::::::,へ、,. イ

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┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

それは、筆から染み出る墨の濃淡色の空だった。
夏だというのに冷たい風が吹きすさび、大粒の雨が真横に吹き付け、唸り声を上げる。
北から南に吹いていた風が西に傾いたかと思えば、東に切り替わる。
風に翻弄される雨粒が互いにぶつかり、弾け、雲の下の景色は白んで見えた。

なだらかな勾配に沿って敷き詰められた石畳の溝を、泥の混じった茶色い水が流れ落ち、小さな川を思わせる。
その水は坂を下り、街を通り、海へと流れ込んだ。
海面は水しぶきで白く泡立ち、防波堤に打ち付けられ細かく砕けた海水が強風に煽られて街に降り注ぐ。
嵐に耐え凌ぐ柳のようなポートエレンと比べて、船上都市オアシズは島の様にどっしりと構えて嵐を迎えた。

世界最大の客船にして船上都市オアシズの船長、ラヘッジ・ストームブリンガーには、一つのジンクスがあった。
嵐の運び手という名が示す通り、高い確率で彼の航行には嵐が付いて回ると云うものだ。
着任当初、同僚からはその名をよくからかれたものだが、今では冗談では済まされないほどの確率で、彼と嵐は親密な関係になっていた。
酷い時には、狂ったレーダーのせいで運悪くバミューダトライアングルの近くを通り過ぎたこともあった。

バミューダトライアングルとは、プエルトリコ島、フロイデルタ島、そしてバミューダ島を結んだ三角形の海域の呼び名である。
その周囲は常に大嵐と濃霧が停滞し、海底から生える剣山のような岩礁があらゆる船の船底を貫く危険な場所だ。
人魚に幽霊船、ヒトガタなど船乗りに語り継がれている伝承は多くあるが、その中でもバミューダトライアングルは数少ない真実の一つだ。
船乗りでその名を知らぬ者はおらず、畏れぬ者も、またその海域より内側を見て生き残った者は誰一人いない。

今から溯ること七世紀前、その海域で五隻の漁船が船だけを残して消えた。
この奇怪な事件が公になって以降、バミューダトライアングルの傍を通るだけでも、船乗り達は怯え竦んだ。
その二か月後、伝説としか思えないその現象を解明しようとした二十五の調査船が、やはり、船だけを残して洋上を漂っているのを発見された。
無線が途絶える前、船員と交わした会話に変わった様子はなかったと当時の記録にある。

これがきっかけとなり、伝説は真実として世界中に広まった。
霧の中には未発見の街があって、船員全員が拉致されたのだと大々的に発表した大学教授もいた。
が、その説があり得ないことは誰もが分かっていた。
現代を語る上では欠かせない太古の人間が残した膨大な情報には、そのような街は載っていないのだ。

191名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 20:09:35 ID:bxfQ0Rt.0
あらゆる知識も知恵も、世界で最初に発掘、復元された“ザ・ブック”と名付けられたデジタル・アーカイブ・トランスアクターが現代に与えてくれた。
偉大な恩恵は生物の情報ではなく、発掘された太古の技術の修復方法が載っていた事だった。
ダットのおかげで、この世界に未知があるとすれば、深海生物ぐらいとなっている。
ところが、バミューダトライアングルについてはダットにも載っていない、全く未知の情報なのだ。

記載がないこともなかったが、眉唾物な異次元説や、宇宙人説などの風説だけ。
未知の存在というだけで脅威なのだが、バミューダトライアングルについてはそれだけでは終わらなかった。
バミューダトライアングルの正確な位置については、実のところ、あまり分かっていないのだ。
過去確認された現場が、プエルトリコ、フロイデルタ、バミューダ島を結んだ三角形の海域だっただけで、第一回の調査船団失踪以降、同じ現象は確認されていないのだ。

二回目となる調査船団が現場に到着した時には、そこには、船の残骸しかなかった。
岩だらけの小島への上陸が試みられるも、船は乗組員と共に海の藻屑と化したのだと、簡単に推測された。
やはり生存者はおらず、残された船の残骸がかなり細かな破片となって海面を漂っているだけだった。
こうして、霧の有無に関わらず、バミューダトライアングルには近づいてはならないということが船乗り共通の認識の一つとなったのである。

ラヘッジは三段になっている操舵室の最上段から、強化ガラスの向こうを見た。
黒雲から降り注ぐ雨粒は雨粒として視認できず、線としてしか確認できない。
海面は白く泡立ち、空は今にも落ちてきそうだ。
水平線の向こうが時折、雷光で白く輝く。

間もなく、その光が音を伴ってオアシズの直上に到達するだろう。

「ヨセフ、蓄電針を上げろ。 それから……」

「アイ、キャプテン。 ホットウィスキーは後でディアナが持ってくるそうです」

ヨセフ・ガガーリンは飲み込みが早く、勇気も持ち合わせている船員だった。
落雷を蓄える機能を備えた避雷の役割を持つバルーンは、ラヘッジの言葉よりも早く上空に向けて射出されていた。
直後、空が白に染まり、雷光が暗闇を全て照らし出した。
だが。

だがしかし、空の果てに一瞬だけ見えた極小のビル群に気付いた人間は、誰もいなかった。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編
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耳付きと呼ばれて蔑まれ、痛みが日常と化していた時のことは、今でも鮮明に思い出せる。
最初は理不尽だと思っていた時もあった。
しかし、ほどなくしてそれが当たり前のことであると認識した時、理不尽と云う名前の感情は消えた。
残ったのは、痛みと理由の分からない悲しみだけだった。

192名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 20:10:59 ID:bxfQ0Rt.0
それが当たり前でなくなったのは、四日前の七月三十一日の事。
デレシアと出会い、そして、力が全てを変える様を目の当たりにした日の事だ。
あの日を境に、ブーンは知ることとなる。
世界は、力によって変えることが出来るのだと。

彼女は多くの事をブーンに与え、そして教えてくれた。
言葉、常識、知識、見識。
これまで閉ざされていた情報が濁流となって、ブーンの乾いた知識欲を潤した。
知識欲は満たされることなく、増加する一方だ。

デレシアとヒート・オロラ・レッドウィングは、その知識欲に対して十分すぎるほど答えてくれている。
欲望を満たしてくれることを抜きにしても、ブーンは二人の事を大いに好いていた。
感情に名前があることを教えてくれたのも、まだ知らなかった感情を与えてくれたのも、彼女達だった。

(∪´ω`)

“お礼”、という言葉は知っていた。
意味も、使い時も。
それを教えてくれたのは、ペニサス・ノースフェイスという老婆だった。
今はもう、ペニサスに会うことも教えを乞うことも出来ないが、彼女はブーンにとって初めての“先生”であることは不変の事実だ。

“お使い”、という言葉はデレシアが教えてくれた。
銃の使い方を教わった後、シナー・クラークスにお礼をしたいと、デレシアとヒートに言い出したのがきっかけで知った言葉だ。
彼は特に理由もなく、ブーン達に餃子を無償で提供してくれた。
人が無償で行動するその背景には何かしらの理由があるものだと思っているが、彼の行動からはその狙いが見えなかった。

純粋に、餃子をブーン達に渡したかったかのような、そんな気さえする。
しかし、貰うだけという関係は、どうにも心苦しかった。
何かお礼がしたい、とブーンが思うのは自然な流れであった。
お礼には気持ちを込めて、とはヒートの言葉だった。

単純なお礼なら、何か高額な品物、もしくは同価値の品物を買えばいいだけの話だ。
それにはデレシアも同意した。
あれだけ美味な餃子をご馳走になったのだから、こちらも、それに答えなければならない。
料理人が喜ぶお礼とは、金やお礼ではなく、美味い料理だとデレシアは補足した。

そこで、ブーンは料理をすることになった。
初めてでも美味しく作れる料理、そして、相手が食べる時間帯を考慮した結果、クッキーになった。
クッキーを作るのは勿論だが、料理を作ること自体、ブーンにとっては初めての事だった。
料理が如何なるものか、それが如何に難しく、如何に人を感動させるかは分かっている。

やることを決めたブーンの行動は素早かった。
デレシア達と共に、スーパーマーケットに出向き、必要な食材を購入。
エプロンを付け、二人に手ほどきを受けながら、丹精込めて生地を仕込んだ。
生地をこねる中、デレシアはブーンに重要な事――料理の秘訣――教えてくれた。

料理は愛情である、と。

193名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 20:11:51 ID:bxfQ0Rt.0
愛情とは何か、とブーンは尋ねた。
愛情と云う名が示す通り、そこには愛があるのだと考えたのだ。
ペニサスから出された課題である“愛の意味を知る”ことに、一歩近づけるのではないかと。
デレシアが返したのは、微笑だけで、言葉ではなかった。

生地をオーブンに入れ、時間が来るまでの間、ブーンは銃の使い方を改めて教わった。
銃の構造は大凡であるが理解し、使い方はよく分かった。
壁にあった銃の名称は全て記憶し、その特徴はヒートが簡潔に説明してくれた。
興味をそそったのは、グロック、という名の拳銃だった。

撃鉄がなく、撃針がある。
トリガーに凝らされた技巧。
名の後ろに付く数字によって変化する特色とサイズは、拳銃の可能性を大きく広げた。
だが、興味はあったが好きにはなれなかった。

フルオートでの発砲が可能なモデルがあると言うのも聞いたし、小型のモデルもあることも聞いた。
しかし、これは人の命を奪うための道具だ。
その道具がこんな簡潔な形をしている点が、どうしてもブーンは好きになれなかった。
撃鉄を起こす動作は覚悟を決めるための瞬間であり、最後の警告でもあると認識している。

それが欠けた拳銃は、どうしても使いたくなかった。
結局のところ、気に入る銃は見つからなかった。
ワルサーという拳銃を試し終えた時に、オーブンがクッキーの仕上がりを知らせた。
出来上がった不格好なクッキーを試食してみると、とても甘く、美味しく焼けていた。

ヒートはクッキーを食べるのに苦労していたが、とても美味しそうに食べてくれた。
ブーンはそれが嬉しかった。
無力な自分が、初めて、ヒートを笑顔にできた。
ただただ、それが嬉しかった。

出来上がったばかりのクッキーを袋に詰めて、ブーンはシナーにそれを届けようとした時、デレシアが言ったのだ。
“せかっくだから、一人でお使いに行ってみましょう”、と。
斯くして、ブーンは初めてのお使いに行くこととなり、緊張と期待を入り混じらせた気持ちでシナーにクッキーを届けたのであった。
彼の反応に満足したブーンは、エスカレーターで来た道を戻る途中だった。

その人物に出会ったのは、そんな、胸が暖かな気持ちになっている時の事。

(;∪´ω`)「……っ」

第一印象は、冷徹な男だった。
漂う冷ややかな雰囲気は人とは異なり、兵器のそれに近い。
オールバックにした夜色の髪に、皺一つ見当たらない漆黒のジャケット。
両眉から両頬付近まで伸びるのは、獣の爪でつけられたような深い切創。

その下にある黄金瞳は、金貨のようなその輝きを失わず、そこにある。
しかし、その瞳が見つめる先にあるのは百戦錬磨の剛の者ではなく、案内図の映された電子看板だった。
腕を組みながら何度も看板の文字を、眼を細めながら睨みつけては首を傾げ、唸り声に似た小さな声を喉の奥から発している。
ジャケットを下から押し上げる筋骨隆々とした体つきは、見かけ倒しではなく、機能的かつ実戦的な作りをしていることが一目で分かる。

194名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 20:13:28 ID:bxfQ0Rt.0
掌と顔に皺のように刻まれた古傷。
特に、拳の傷は傷の上に傷を重ね、より強固な皮膚が出来上がっている。
身の丈はデレシアよりも頭一つ分大きく、体重は倍近くありそうだった。
歳は六十代、もしくは七十代前半だろう。

( ФωФ)「……」

分かることが三つある。
一つは、この初老の男性は只者ではない事。
もう一つは、この男性は困っている――具体的に言えば、道に迷っている――事だ。
そして最後に、この男性は人を殺したことがある、と言う事だ。

(´ФωФ)「……むぅっ」

しかし、その雰囲気から誰も声をかけようとはせず、逆に距離を置いている有様だ。
以前までのブーンなら、恐れをなしてデレシア達の元に帰っていただろう。
今は以前とは違う。
声をかけてみようかと思案できるほどに、ブーンは行動的な思考が出来るように進歩していた。

だが怖い物は怖い。
出来れば、知らぬふりをして素通りしたいところだ。
それでも、ブーンは五ヤードの距離から動かずに様子を窺っていた。

( ФωФ)「……おい、そこの小僧」

視線に気づいた男が、視線を看板から外さず、ブーンに問う。
無言で逃げる道もあった。
適当にはぐらかす、もしくは走って逃げる手段もあった。
男の声が雄弁に逃亡を禁じなければ、の話だが。

その重低の声は嗄れ、獣の唸り声に似ていた。
年老いた獣の王。
そんな印象が、直ぐに頭に浮かんだ。

( ФωФ)「道案内をしてくれないか?」

(;∪´ω`)「え?」

( ФωФ)「……見えんのだ。
       看板の字が」

ブーンには看板の字が良く見える。
しかし、文字を読むとなると話は別だった。
文字列の中には読める字もあれば、読めない字もあった。
そんな状態で道案内となると、共に迷う可能性が高い。

男の声は優しげでも、恐ろしげでもない。
一歩扱いを間違えれば無言で襲い掛かってくる獣を思わせるだけだ。

(;∪´ω`)「お……おぅ……」

195名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 20:15:51 ID:bxfQ0Rt.0
( ФωФ)「そのために、そこで見ていたのではないのか?
       なぁ? 仔犬の様に怯えずとも、吾輩は襲ったりはせん」

意外な言葉がかけられた。
自分で理解できていなかった部分を解説された気分だった。
男の言う通り、逃げようと思えば逃げられた場面で、ブーンは立ち止まって見ていた。

( ФωФ)「傍観ではなく、介入の機会を窺っていたのだろう。
       で、どうするね?」

傷だらけのゴツゴツとした武骨な手が、自然に差し出される。
男はもう、何も喋ろうとはしなかった。
無言のまま、その黄金瞳が静かにブーンを見据えるだけ。
小走りで近づき、ブーンは、男の手を握った。

その手は、力強くブーンの手を握り返した。

( ФωФ)「吾輩はロマネスク・オールデン・スモークジャンパー。
       ロマネスクと呼んでもいいが、ロマと呼べ。
       近しい者は皆そう呼ぶ」

(∪´ω`)゛「ブーン、です。 ロマさん」

ロマネスク・O・スモークジャンパーとの出会いは、荒れ狂う海の上、船上都市オアシズの第四ブロック十階、レヒツ・ダイナモ通り。
八月四日の、嵐の日の事であった。

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                   Y }i!{ノ_/ }i!{/ /"`ヽ _  \ \ i   |   第三章【curse -禍-】
                  _,,―'''∟___Y.}i!{ /./i!  / \\.. \λ !  .| 圭|:::::::i!i!!i!::圭圭:::::::::::::
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デレシアは久しぶりに頭を使って一つの物事を考えていた。
テーブルを挟んで向かいに座るヒート・オロラ・レッドウィングも、同様に頭をひねっていた。

ζ(゚、゚*ζ「コルトは論外。 グロックは気に入っていなかったわ」

ノパ⊿゚)「ワルサーもマカロフ系も駄目だったな。
    でも、複列弾倉は必要だからなぁ」

196名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 20:17:36 ID:bxfQ0Rt.0
議題は、ブーンの使用する銃についてだった。
シューティングレンジで一通り銃を使って、その感想をブーンに聞いた結果から最適な銃を割り出そうとしているのだが、これが難しかった。
小型で弾数が多く、シンプルな構造で弾の調達が容易な9mmを使用する銃。
選択肢が狭まる一方で、心配も増えてくる。

銃を使わずに物事が解決できれば、どれだけ世の中は平和になるだろうか。
それが実現不可能だからこそ、今、この時代になっているのだというのに。
ブーンは人を殺したことがない。
状況にもよるが、人を殺す時、人間は体を震わせることが多い。

恐怖か、それとも無理矢理に奮い立たせた覚悟と抑え込んだ恐怖に震わせるのかは分からない。
逆に、歓喜に打ち震えるのかもしれない。
だが、相手を殺したと理解した瞬間、体が震えるのだ。
その震えの原因のほとんどを占めるのは後悔の念で、殺さずに解決できたかもしれないという、無意味な思考の迷路に足を踏み入れる場合が多い。

ブーンの年齢でそれを経験すると、後の人生観に大きな影響が出てきてしまう。
その点を、二人は心配していた。
最初の得物をライフルではなく拳銃にしたのは、殺す相手の顔を必ず確認させるためだった。
殺すという行為から目をそらさず、正面から向き合ってほしいという願いからだ。

かと言ってナイフを使うには力がいるし、格闘術を使うには知識や技術、なにより体格の問題がある。
話し合いは平行線のまま進み、結論は出ず仕舞いだった。
代わりに議題は、ブーンのお使いに変わった。

ζ(゚ー゚*ζ「そういえば、ブーンちゃん、ちゃんとクッキー渡せたかしら?」

ノパー゚)「ブーンなら大丈夫だろ」

デレシアが仕込んだ“初めてのお使い”は、シナー・クラークスへのお礼だった。
ブーン自身が言い出したことだけに、デレシアもヒートも大いに喜んだ。
それは紛れもなく成長であり、進歩であった。
対人恐怖症に近いものを持っていたブーンが、自ら他人に関わろうとしているのだ。

これを応援しなくて、何がブーンの保護者か。

ノパ⊿゚)「今更だけど、あいつはすげぇよ。
    なぁ、デレシア。 ブーンは将来どうなると思う?」

その問い。
その答え。
それは、誰にも分からない。
分からないが、判ることがある。

ζ(゚ー゚*ζ「大物になるわ。 間違いなく。
      気付いているでしょう?
      あの子の魅力が、私達のような人種にとってどれだけ眩しい物か」

ノパ⊿゚)「……あぁ」

197名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 20:18:20 ID:bxfQ0Rt.0
やはり、デレシアの思った通りだ。
ヒートはブーンの魅力に気付いている一方で、もう一つ、何かに惹かれている。
恋ではない。
もっと、ヒートの胸を締め付けるような何かだ。

ブーンの話をする時。
ブーンの姿を見る時。
ヒートは、ほんの一瞬だけ陰った笑顔を作るのだ。
それは羨望にも見える、愁いを帯びた笑顔だ。

その笑顔の種類を、デレシアは知っている。
心の底から欲し、心の底から求めた、決して手の届かないものを目の当たりにしている表情だ。
それより先に進みたい気持ちと、進むことが出来ないと理解しているのである。
ブーンがヒートにとってのそれに当たるのならば、彼女の殺し屋としての過去と深い繋がりがあると考えられた。

ノパ⊿゚)「さて、ブーンが上手いことお使いが出来たか、見に行くか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 昔なら、カメラを持って追いかける人たちがいたんだけどね」

ノパ⊿゚)「なんだそりゃ? 聞いたことねぇよ」

ζ(゚ー゚*ζ「昔の話よ」

布同士が擦れ合う音一つさせずに、デレシアはゆっくりと席を立つ。
ヒートも席を立ち、デレシアのローブを指さした。

ノパ⊿゚)「ところで、どういう理屈で銃が検査に引っかからなかったんだ?」

ローブの下には五十口径の自動拳銃デザートイーグルと、水平二連式のショットガンが二挺ずつある。
無論、予備の弾も隠されていた。

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとしたコツがあるのよ。
      あの手の機械は頭でっかちだからね」

三重のチェックを突破するのは容易ではない。
コツで突破できるものなら、今頃、オアシズは海賊船に変わっていることだろう。
秘密は、特殊繊維で編まれたローブにあった。
“アブテックス”は、ペニサス・ノースフェイスが復元した、太古の遺産だ。

防刃、防弾、防寒、防熱、防水、防氷など、あの時代で実現できる全てを注ぎ込んだ繊維だ。
勿論、あらゆる金属探知機を欺くための工夫もされている。
生産されたアブテックスは僅かに一着のみという現実を、ペニサスは克服して見せた。
彼女は、デレシアが見た中でも狙撃の腕と被服の腕に関して、十指に入る才能を持っていた。

ノパ⊿゚)「ほぉー、つまり……ローブに秘密があるわけだな」

流石。
この言葉だけで、正答までたどり着けた。
やはりヒートは優秀だ。

198名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 20:20:13 ID:bxfQ0Rt.0
ζ(゚ー゚*ζ「さっすが、察しがいいわね」

素直に、だが、短く賛辞の言葉を送る。
これだけも、賢い彼女ならばデレシアの真意は伝わることだろう。
恥ずかしげに笑んで、ヒートはそれを受け入れた。
ヒートはローブを脱いで、黒いシャツにジャケット、そしてスラックス姿になる。

デレシアはローブを着たままで、部屋を出た。
部屋の外は、まだ大人しさが残っている。
嵐の日のオアシズで最も賑わうのは、一階の繁華街だ。
オアシズの本当の顔を見るなら、そこが一番だ。

今頃は、十階のダイナモ通りにいるだろうかと、デレシアはふと思った。

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ブーンが人と手を繋ぐのは初めてではない。
デレシアとも、ヒートとも、ペニサスとも、手を繋いだ。
手を繋ぐという行為が持つ意味はよく分からないが、手を繋ぐのは好きだった。
ロマネスクと手を繋いだ瞬間、ブーンは彼女達に似た感覚を手にすることとなる。

手を通じて温もりが体に流れ込み、それまで背中に感じていた不安感が取り除かれたような気がした。
安心感に近い物が、ロマネスクの手を通じてブーンの心に染み込んできた。
見かけは恐ろしいが、中身はとても優しそうだ。
デレシア達とは真逆だが、その中身はとても似ている。

ロマネスクよりも半歩前を行き、障害物や人とぶつからないよう、しっかりと誘導する。
だから、話しかける時は自然と振り返る形となっていた。

(∪´ω`)「リンゴ」

( ФωФ)「ゴリラ。 動物だ。
       筋骨隆々で、意外と優しい」

(∪´ω`)「ラッコ」

( ФωФ)「コアラ。 これも動物だ。
       毒のあるユーカリという木の葉を食べる、ほのぼのとした奴だ。
       子に自らの糞を食わせて、毒に対する耐性を付けさせる習性がある」

199名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 20:22:20 ID:bxfQ0Rt.0
(∪´ω`)「ラッパ」

( ФωФ)「パセリ。 オムライスなどの付け合せ、というか彩要素だ。
       だが、口の中をさっぱりさせる役割を持っている。
       料理に出た時には必ず食え」

思わず、その名前がミセリ・エクスプローラーに似ているとブーンは思った。
今、ミセリはどこで何をしているのだろうか。
嵐の中でも笑顔でいる彼女の顔が、一瞬だけ脳裏をよぎった。

(∪´ω`)゛「はいですお。 リンゴ」

しりとりをやろうと提案したのは、ブーンだった。
自分があまり言葉を知らないことを口にしたのは、ロマネスクが、どこかミセリに似た雰囲気をしていたからだ。
柔軟さの中の豪健な気性。
それは、ペニサスやギコも持ち合わせていたかなり独特の雰囲気だ。

ロマネスクは快くブーンの提案を受け入れ、しりとりに付き合ってくれた。

( ФωФ)「って、ええい!
       ループしているではないか!」

(∪´ω`)「お?」

( ФωФ)「しりとりでは、一度使った語は使ってはならんのだ。
       でなくては、繰り返しになってしまうだろ」

ミセリとのしりとりで、極力同じ言葉を使わない、というルールがあったのを思い出した。
その理由を、今やっと理解することが出来た。
もしロマネスクがまた“ゴリラ”と続けると、しりとりは延々と続いてしまう。
それを避けるためのルールだったのだ。

( ФωФ)「ゴーヤ。 苦い、が美味い。
       チャンプルーにすると食いやすいぞ」

(∪´ω`)「やー」

( ФωФ)「何?」

(∪´ω`)「やー」

( ФωФ)「拒否していても分からん」

(;∪´ω`)「やー」

( ФωФ)「まさか、矢の事か」

(∪´ω`)゛


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