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( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )

1名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:46:34 ID:tFLjG.4M0
ラノベ祭り参加作品

578名も無きAAのようです:2013/06/23(日) 23:08:06 ID:OeiHTfo.0

∬´_ゝ`)「それで父者はどうするの?」

 彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)て「そうだ! オワタたちをひどい目に合わせた賊が、我が家に侵入したみたいなんだよ、姉者!
       母者さんが出かけているこの時に、ああどうしよう?!」

∬´_ゝ`)「時に落ち着くといいわ、父者。
      賊の気配なんて無いし、警備からは何の報告も入ってないわ」

 彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「あ、そうなんだ。よかったぁ〜。
      じゃあ、賊たちは儂のオワタちゃんたちだけが目的だったのかな」

∬;´_ゝ`)「……父者聞いてた? 賊は無いって言ったんだけど」

 彡⌒ミ
(|||´_ゝ`)「……まさか、魔物?!
      どうしよう、儂の力で娘たちを守れるか」

∬;-_ゝ-)「そんなの出てたら今頃大騒ぎでしょうが……」

 彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「あ。そうなんだ、よかったぁ〜」

.

579名も無きAAのようです:2013/06/23(日) 23:10:19 ID:OeiHTfo.0

∬´_ゝ`)σ +「いい、父者? こういう場合は内部犯を疑うのが鉄則よ」

 彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「……そんな。我が家にいるのは、みんないい子だよ!
      疑うなんて、父さんは嫌だよ」


∬´_ゝ`).。oO(この人、こんなんでよく人生渡ってこれたな)

 彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「オワタたちのことは心配だし悲しいけど、みんなを疑うなんてとても儂には…
      いやしかし、悪いことをしたら謝ることは大切だし。
      ああ、儂はどうしたら……。母者さん、儂はどうしたらいいんだろう?!」


∬#´_ゝ`) イライラ

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「なにか動物が侵入したのかもしれないし、何か不思議な現象が起こったということも。
      いやいやそもそも、これははじめから事故だったんじゃないのかな?
      もしそうだったとしたら疑うのはとても悪いこと……」

∬#´_ゝ`)「ああ、もう! 私がどうにかするから!!
      父者は引っ込んでて!! 犯人見つけて、母者に引き渡せばいいんでしょ!」

.

580名も無きAAのようです:2013/06/23(日) 23:12:13 ID:OeiHTfo.0





|゚ノ ^∀^)「はい。今日の授業はここまでですよー」

⊂l从-∀-;ノ!リ人「つかれたのじゃー。
           いつもより、いっぱいお勉強させられたのじゃ……」

|゚ノ#^∀^)「途中で寝たりするからですよぅ、もう!」


l从・〜・;ノ!リ人「……ごめんなさいなのじゃ」

|゚ノ ^∀^)「でも、途中からは頑張ってたから、先生ほめちゃおっかな〜」


l从>∀<*ノ!リ人「せんせい、大好きなのじゃー!」


|゚ノ*^∀^)「あらあら。妹者様ったら」


|゚ノ*^∀^)つol从・∀・*ノ!リ人エヘヘー

.

581名も無きAAのようです:2013/06/23(日) 23:14:07 ID:OeiHTfo.0

∬ _ゝ )「……和んでいるところ悪いんだけど、ちょっといい?」


|゚ノ ^∀^)「あら、姉者様。何の御用でしょうか?
       このレモナで役立てることでしたら、いくらでも」

∬´_ゝ`)「ごめんね。私が用があるのは妹者なの」


l从・∀・ノ!リ人 ?


|゚ノ ^∀^)「それはそれは、失礼致しました。
       さあ、妹者様。姉者様がお呼びですよ」


;;;;∬*´_ゝ`);;;;「妹者ちゃん、お姉ちゃんとちょっとお話しようか?」


Σl从・∀・;ノ!リ人 ビクッ


l从・∀・;ノ!リ人:::. ……



つぎのはなしに   つづく
.

582名も無きAAのようです:2013/06/23(日) 23:15:29 ID:OeiHTfo.0
今日の投下ここまで
例によって書きため分がないので、次回の投下は未定です
完成したら来月中旬。無理でも生存報告には来ます

583名も無きAAのようです:2013/06/23(日) 23:51:23 ID:zXLEe4ag0
乙!

584名も無きAAのようです:2013/06/24(月) 02:26:39 ID:h923mA/Y0
おつ
バトルかっけぇなー
楽しみに待ってるぞ

585名も無きAAのようです:2013/06/24(月) 03:22:35 ID:.9JK1Uc6O
おつ!
だいぶ佳境になってきたなあ
読むのが毎回楽しみすぎる

586名も無きAAのようです:2013/06/24(月) 03:24:38 ID:6AKer0lU0
待ってるよ!

587名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 20:36:32 ID:TSDGt/8U0
一気に読んだわ。面白いなー。うまい

588名も無きAAのようです:2013/07/18(木) 10:27:45 ID:NKICDSnc0
おひさしぶりです
現在書きためは、そのはち。本編が116レス(タイトル等も含む)で仮完成、オマケは作成中です


この話は、その次に投下となる、そのきゅう。と、後日談で完結の予定です。
なので、最後まで書きためを完了させてから、間を開けずに少しずつ投下する形にしようと思います
間に百物語があるので、書き上がるには時間がかかると思いますが、気長にお待ちいただけたら幸いです

589名も無きAAのようです:2013/07/18(木) 20:13:41 ID:aGpjsXN.0
待つぜー!

590名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:38:26 ID:GSrsGdds0
こっそり生存報告
書きため状況は>>588から変化なしです
百物語のために中断していましたが、ぼちぼちこちらの書きためも再開しようと思います
完成してても、してなくても9月の中旬にはまた生存報告にくるので、気長にお待ちを

591名も無きAAのようです:2013/08/25(日) 04:23:22 ID:PjSo4plkO
生存報告ありがたい

待ってるぜー

592名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 13:50:56 ID:rp85/IssO
│д゚)チラリ

593名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 13:52:52 ID:IgGcJTyI0
おや、生存報告かい?

594名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 20:10:28 ID:qxOQxKPA0
あがっていたので生存報告をば
百物語での燃え尽きが思いの外ひどくて、ちょっと難航中です

現在書きためは、そのはち。本編が122レス、オマケが10レスで完成(本編が少し伸びました)
そのきゅう。は、現在12レスまで作成中(仕上がってない部分も含めると合計40KBくらい)です

次の生存報告は、10月中旬の予定。それまでには書き上げたいですが、予定は未定です

595名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 23:05:55 ID:N9fvjisY0
量が増えるのはウェルカム
遅くなってもいいぜ待ってる

596名も無きAAのようです:2013/09/20(金) 09:11:36 ID:1D497UkU0
報告乙
完結まで付き合うよ

597名も無きAAのようです:2013/09/21(土) 03:41:21 ID:ZEHxh6Vc0
おつおつ、生存報告ほんとに安心するから嬉しいよ。
俺もそれまで、今までの話を読み返したりしながら待ってる!

598名も無きAAのようです:2013/10/18(金) 11:40:44 ID:Kix5NC0.0
影|A`)マダキテナイ…シエンスルナライマノウチ…



影|A`)つhttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1303.jpg


完結楽しみにしてるよー
支援

599名も無きAAのようです:2013/10/18(金) 20:00:32 ID:xI3Xq1FcO
>>598
ありがとうございます!!
ものすごい力作で、すっごくうれしい。キャラもだけど、背景とか小物の書き込みも素敵

それと、せっかくなので生存報告をば
そのはち。本編が122レス、オマケが10レスで完成
そのきゅう。本編が96レス、オマケが20レスで仮完成(見直しはこれから)
現在、後日談を作成中です。これが出来たら、見直しをして投下予定です

11月は生存報告ではなくて投下ができるといいとは思いますが、例によって予定は未定です

600名も無きAAのようです:2013/10/18(金) 21:01:40 ID:b5pT.gBY0
楽しみにしてるよん

601名も無きAAのようです:2013/10/18(金) 23:21:46 ID:3LUClPpU0
すごい書きため量……楽しみー!

602名も無きAAのようです:2013/10/18(金) 23:51:39 ID:Hdx31PwgO
生存報告乙!

いつまでだって待つから納得のいくのを書いてくれ。
こまめな生存報告と進捗を教えてくれるのほんとに安心するわ。

603名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 00:23:10 ID:cvPVITB60
おお、楽しみに待っとく!

604名も無きAAのようです:2013/11/20(水) 00:47:59 ID:mUNaYCps0
こっそりと生存報告。某イベントに浮気してましたゴメンナサイ

書き溜めの方は、
そのはち。本編が122レス、オマケが10レスで完成
そのきゅう。本編が96レス、オマケが20レスで仮完成(見直しはこれから)
後日談が、71レス相当で仮完成の状態です

レス数がレス数なため、見直しにかなり時間がかかりそうです
年内に投下を目指したいですが、例によって予定は未になります

605名も無きAAのようです:2013/11/20(水) 19:36:41 ID:03SKVqzU0
報告乙!
凄く楽しみにしてる
いつまでも待つよ

606名も無きAAのようです:2013/11/21(木) 01:09:57 ID:LlNxGI4AO
報告きてた!乙乙!!
じわじわと確実に書き溜め増えてるなあ…楽しみにしてるよー

607名も無きAAのようです:2013/12/04(水) 21:36:02 ID:rZZdxbms0
長いことお待たせしました、12月6日(金)の夜8時頃から投下します

608名も無きAAのようです:2013/12/05(木) 06:32:16 ID:mVnClryc0
時は来た

609名も無きAAのようです:2013/12/05(木) 08:08:09 ID:8WmKYcdMO
イヤッッホォォォオオォオウ!
*   +   巛\
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   +   。||
 *   +   / /
    ∧_∧ / /
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ガタン  / /ヽ |
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610品質は:2013/12/05(木) 11:41:05 ID:B0XG./Ug0
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611名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:04:59 ID:ttGVJWA.0





俺と兄者は、二人になりそこねた一人だ。




.

612名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:06:06 ID:ttGVJWA.0


まともに産まれなかった、人間のできそこないと、言い換えてもいい。

俺ともう一人の俺――兄者は、つながったまま産まれてきた。
感覚や力を共有しているとでも言えばいいのだろうか。
肉体というイレモノこそ二つあるけれども、俺たち二人は根っこのところでは一つだった。


(´<_` )「なあ、おれ」


片方が怪我をすれば、どれだけ遠くにいたとしてもわかったし、その痛みを引き受けることだってできた。
力が足りないのならば借りればよかったし、貸すことだってたやすくできた。
足りないのならば二人ぶんの力を使い、負担はそれぞれ分けあう。
そうやって俺らはずっと過ごしてきた。


( ´_ゝ`)「どうした、おれ?」


俺たちにとってはそれが普通。
だから、感覚や力を分け合う“もう一人”がいない他の人間がいつも不思議だった。
それは、今だって変わらない。


.

613名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:08:27 ID:ttGVJWA.0


俺は兄者で。兄者は俺。


俺の考えることが兄者の考えることであり、兄者の考えることが俺の考えることだった。
十年前……少なくとも、あの日が来るまでは。


(´<_` )「なあ、おれ。探検にいかないか」


今でも、思い出す。
どうやっても、忘れ去ることが出来ない。
――その言葉が、すべての始まりだった。


( ´_ゝ`)「それはよくない。母者におこられる」

+(´<_` )「でも、気になるだろう。おれはそうじゃないのか?」

(;´_ゝ`)「……」

(´<_` )「なあ、おれ。おれはどうなんだ?」

( ´_ゝ`)「……そうだな、おれ。おれもそうだ」


俺は少し考えて、それから小さく頷いた。


.

614名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:10:27 ID:ttGVJWA.0

打ち明け話を一つするならば。
――元々、鏡なんてものは大嫌いだったのだ。

誰も彼もが、鏡に写るのは現実とそっくり同じ風景だと言う。
だけど、そんなものは嘘っぱちだ。
物心ついたときからずっと、鏡に写る全ての光景はニセモノだった。


そうでなければ、俺ともう一人の俺がこんなに違って見えるはずがない。


薄水色と、若草色。
青と、緑。空の色と、草の色。
似ているけれど、全く違う毛並みの色。

鏡は、俺と俺が違うものだと突きつけてくる。
兄者と弟者という名前と同じだ。俺は、俺ともう一人が違うものだと突きつけるもの全てが大嫌いだった。


だから、かもしれない。


屋敷の一角。
使われなくなったものをしまうための、一室。
そこにある鏡に、当時の俺は惹きつけられた。


.

615名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:12:28 ID:ttGVJWA.0

                 _  _
                ,、,j `´ !.,、
             _ __r' \.Y./`ヽ__ _
          ,、/ `´ヽヽ  .|.  ,´,´ `´ \
       ,、_ノヽゝ (`´ヽヽ ..|.. //`´) ノノゝ_,、
       〉-===−-ニニヽl | lニニ-−===-〈
     /_ヽ_r−-、__--、_,ノl..|..l!.、_,--__,-−、_/_\
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  (  `Yミ=}_                        _{彡Y´   )
 <=--ヽ=、`、                         ,´ ,=/ --=>
  〈彡´ ̄ )) )                        ( ((  ̄`ミ〉
 //ミ≡/                     \≡彡\\
 \\\/                         ヽ///
  (ミ、.Y                           Y.,彡)
   l≡ l                                l ≡l
   l圭ヽ                             / 圭l
   `l圭 !                             ! 圭l´
   (三=`,                            、´=三)
    lミミ i_                        / _i彡彡l
    `lミミ l                   /  .l彡彡l´
     lミミ l                 / / .l彡彡l
    (ヽヽ }                     / /   { / / )
    /__ノ .ヽ             / /    / ゝ__ヽ
    \三≡、\          / /    /,≡三/
       ̄\彡ヽ          /    /ミ / ̄
         \彡ヽ  r−-' 二二`-−ヽ /ミ /
           ゝ圭⌒ヽヽ ノ...|...ヽ //⌒圭ノ
           〈彡´`ヽ_/..|..\_/´`ミ 〉
            \三三//l\\三三/
                  ̄ ̄ ̄

.

616名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:14:16 ID:ttGVJWA.0

ありとあらゆる装飾で飾り立てられた、古い鏡。

金属で作られた蔦や鳥の姿。
金剛石や紅玉、青玉などの高価な石たち。
湧き出る泉をそのまま形にしたような、透き通る鏡面。


その鏡に映る、俺と俺の姿は――まるっきり同じ真っ白な毛並みをしていた。


本当の俺。
緑色なんかじゃなくて、本物の俺の色。
それは物心ついてからずっと抱えていた違和感を打ち消す、魔法の鏡だった。

――まだガキだった俺が、その鏡に夢中になるのにさほど時間はかからなかった。


(´<_` )「なあ、おれ。おれはどうなんだ?」

( ´_ゝ`)「……そうだな、おれ。おれもそうだ」


探検という名目で俺は兄者を連れ出し、暇さえあればその鏡を見に行った。


.

617名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:16:12 ID:ttGVJWA.0



――馬鹿だったのだ。

俺は屋敷の中に、危ないことがあるなんて思っていなかった。
怪しいものに近づくとどうなるのか、わかっていなかったのだ。
だから、罰を受けたのだ。


.

618名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:18:36 ID:ttGVJWA.0

それはいつもと同じ、何でもない一日だった。
あの日も、俺たちは部屋に忍び込んで、鏡を見ていた。


( ´_ゝ`)「なあ、おれ。誰かに、呼ばれてないか」

(´<_` )「……?」


そして、兄者は『何か』の声を聞いたのだ。
兄者に聞こえる声は、他の奴らには聞こえなくても、俺にだけは聞こえる。
――でも、あの日のあの時だけは違っていた。


(´<_` )「……聞こえない。聞こえないぞ、おれ」

( ´_ゝ`)「じゃあ、気のせいか……」


そう言って、兄者が何気なく触れた鏡の表面が、水面のように揺れた。
水に触れたように、その手が鏡に溶けていた。
不思議に思ったのは、ほんの一瞬。


(;゚_ゝ゚)「逃げろ、おれ」


次の瞬間には、俺は兄者のもう片方の手によって突き飛ばされていた。
何が何だかわからないまま兄者へ視線を向けると、そこには――真っ黒な腕がいた。


.

619名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:20:47 ID:ttGVJWA.0

そう、腕だ。
鏡の中、水の様に揺れる鏡面から、黒い腕が伸びている。
鋭くとがった爪。
それはまだ子供だった俺たちの胴をあっさりと捕まえられるくらいに大きかった。


(´<_`;)::「……何?」


肌がざわざわと粟立っている。
魔力を感じた時と同じ感じ、それなのに「これは嫌だ」という言葉が頭を駆け巡る。
とても寒かった。
あの黒い腕以外、部屋の中は何も変わらないはずなのに体が震えて止まらない。
赤や青の光がぐるぐると回り、視界を邪魔する。


(♯ _ゝ )「いいから早く、逃げろ!」


――なんなのだ。なんなのだこれは。
もう一人の俺はそう呼びかけるだけで、自分は逃げようとはしない。


(´<_`;)「おれ! おれもいっしょに」


.

620名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:23:00 ID:ttGVJWA.0

そして、俺はようやく気づく。
兄者の手は鏡の水面に飲み込まれたままだ。
その鏡面は水のように揺れているのに、兄者がどれだけもがいても腕を引きぬくことが出来ない。

連れ戻さなければと思った瞬間には、俺の体はさらに遠くに突き飛ばされていた。
他ならない、兄者自身の手によって。
俺は、俺から拒絶された。


(;<_; )「おれ!」

(*´_ゝ`)「おれはほんとに、泣き虫だよな。
      男だし直さなきゃはずかしいよなぁ、やっぱり」


俺は、こんな状況だというのに笑っていた。
俺がこんなにも泣いているというのに、笑っていたのだ。

わけがわからなくて。
それでも、俺はもう一人を連れだそうとして立ちあがった。



――今でも、その瞬間を覚えている。

.

621名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:24:10 ID:ttGVJWA.0


( ´_ゝ`)  《止まれ》


俺の口がはっきりとそう動き、言葉じゃない言葉がその音を響かせた。
魔法。
先生に教わったわけじゃないのに、もう一人のおれは魔法がとても巧かった。


(;<_; )「――っ」


動かそうとした足が、その動きを止める。
抵抗しようとする動きは全て、魔法によって抑えられてしまう。

止まれ

短くて強い、制止の魔法。
その短い言葉が、魔力がどうしても振り払えない。

黒い腕が、動けない兄者の体をがっちりと掴む。
もう一人の俺はどうにかして腕を外そうと、体を動かしていた。
だけど、鏡面と黒い腕の力はそれよりもずっと強かった。


(;´_ゝ`) 《   》


そして、最後の抵抗にとおれが放った魔法は――黒い腕には届かず、

.

622名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:26:28 ID:ttGVJWA.0

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623名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:28:13 ID:ttGVJWA.0


     オ レ
    兄者は、俺の目の前で――鏡の中から出た手に引きずられて


鏡の

                    なかへ




                             落ち――








               ……ぽちゃん


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624名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:30:06 ID:ttGVJWA.0






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625名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:32:42 ID:ttGVJWA.0

 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「弟者っ、どうしたんだい弟者っ!!」

( <_ )「――おれがいない!」

 @@@
@# 、_@ 
 (  ノ ) 「しっかりしなっ、弟者っ!! ちゃんとそこにいるだろう!!」

( <_ )「ちがう、おれがいない!
     おれはここにいるのに、おれがいないんだ!!!」

(;<_; )「おれはいるのに、どこにもいない
      おれ……返事をしてくれ、おれ!」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ああ、しっかりしろ弟者。兄者はお前じゃない。
      兄者のことはちゃんと父さんたちが探すから、弟者はしっかりと気を持ちなさい」

∬´_ゝ`)「……馬鹿みたい」

 彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「姉者っ!」


(;<_; )「おれ……おれはどこ?
     おれがいなきゃ、おれはここにはいないのに……」

.

626名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:34:32 ID:ttGVJWA.0

……そこからのことは、思い出したくもない。

誰も信じてくれなかった。
兄者は、鏡の中に落ちたのだと。あの黒い手に引きずり込まれたのだと。
どれだけ言葉を尽くして訴えても、無視された。

誰も、鏡のことなんて調べようとはしなかった。


ξ゚ -゚)ξ「元気出して」

(´<_` )「……」

ξ゚ -゚)ξ「いっしょにさがそ、兄者」


俺の言葉は、誰にも届かない。
母者の周りのヤツラの言葉を借りれば、俺はおかしくなってしまったのだそうだ。
なんでも一緒にしたがるくらい懐いていた兄が失踪し、正気を失ってしまったかわいそうな弟。

――どうでもよかった。

俺にとって大切なのは、どうやったら俺が見つかるのかというその一点だけ。
だけど、俺は見つからなかった。
誰もが見当違いの場所を探した。俺を探して出て行ったヤツラは、誰も俺を見つけられなかった。


(´<_` )「……おれが探さないと」


.

627名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:37:58 ID:ttGVJWA.0


兄者は死んだのだというヤツもいた。

――そんなはずがない。
兄者が死ぬときは、俺が死ぬ時だ。
そのくらい俺と、俺の半分はつながっている。
二人のなりそこない。できそこないの一人。
人間として不完全な俺は、片割れなしでは自分の肉体どころか精神さえも保つことさえできない。


(´<_` )「おれが、おれを見つけないと」

ξ;゚ -゚)ξ「どこ行くの、弟者!?」


誰もわかっていない。
わかっているのは、俺と俺だけだ。


( ´ー`)「どうしたかな、坊ちゃん?」

(´<_` )「おれが、おれを探さないと。おれじゃないと、おれを探せない」


俺だけが、俺が生きていることを知っている。
俺だけが、俺のいる先を知っている。だから――、


(´<_`#)「おれに、魔法を教えてください!」


.

628名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:38:54 ID:ttGVJWA.0

俺が頼ったのは母者と長い付き合いのある魔法使いだった。


大導師とも呼ばれていた彼――先生は、戸惑いながらも魔法を教えてくれた。
今にして思えば、ツンと先生だけは俺の話を聞いてくれたように思う。
しかし、その時の俺は、俺のことだけで頭がいっぱいだった。


( ; ー )「……魔神に呼ばれたか。これは厄介ダーヨ」

( <_  )「魔神」


――そして、俺は。
俺から俺を奪い取ったのが、人ではないと知った。


魔神


――魔力を振るい好き放題をする、神に等しい存在。
そんなものの気まぐれで、俺は俺を失ったのだ。


( ´―`)「……これは、生半可なことではいかないダーヨ」

(´<_`#)「それでもいい! おれは、おれがもどるなら何でもする」


.

629名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:40:40 ID:ttGVJWA.0


それから、二年の月日が過ぎた。

その間に俺の身長は伸び、体重も増えた。
先生について簡単な魔法なら扱えるようになったし、力だってつけたはずだ。
しかし、そんな俺をあざ笑うように、鏡は何を試しても俺を返すどころか何の反応も示さなかった。


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「いいから、呪術師でもなんでも連れてきな!!」

.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「すいませんが、協力をお願いします」


母者や父者も何をしなかったわけではなかった。
その頃になると、ようやく俺の言葉を信じ始めた母者たちは試せる手段はなんでも取るようになった。
旅回りの魔術師や、魔道具を使いなんとか俺を取り戻そうと手を打った。

しかし、その甲斐なく日々は過ぎ――その日。


(´<_` )「……ぁ」


何がきっかけだったのかはわからない。
それこそ、単なる魔神の気まぐれだったのかもしれない。

ただひとつ確かなことはその日、鏡と外との間に道が出来たということだ。


.

630名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:43:18 ID:ttGVJWA.0

ほとんど使われない、ガラクタだらけの部屋。

微動だにしなかった鏡面が揺らいだ。
銀色に波打つ水面が、かすかに光を放つ。

そう思った瞬間、鏡の中からあの青や赤に光るとても嫌な魔力がして。
そして、


                      目が開けられなくなって、


               ( ´_ゝ`)


土埃が舞うその部屋。
そっと目を見開いた先に、二年前と同じ姿の俺が立っていた。
あの日からまったく成長しない姿で、俺の顔を見上げた俺はぽつりと呟いた。
             ・ ・
――おれじゃなくて、弟者と。


( ´_ゝ`)「お……弟者、なのか?」

( <_  )「……おれ」


あの時のままの俺と、成長した俺。
――俺と兄者の間では、今でも二年の時がずれたままだ。

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631名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:44:45 ID:ttGVJWA.0

(;´_ゝ`)「ああ、泣くなってば弟者。
      ほれ、俺はここにいる。そんな顔するなってば、おい」

( <_  )「……」


俺は――、いや兄者は少しだけ、困った顔をした。
返事ができないでいる俺の顔を見て、少しの間黙りこみ。
そして、あの馬鹿は言ったのだ。


(*´_ゝ`)「……鏡の中ってさ、すっげぇ楽しかったよ」


こっちは泣きそうだったのに。……いや、泣いていたのかもしれない。
それなのに、兄者はへらりと楽しそうに笑って、言ったのだ。


(<_`#)「……」


(;´_ゝ`)>⊂(<_`#)


( ;゚_ゝ゚)「いだいいだいぃぃ!!!! 耳! 耳引っ張るのやめてぇぇぇ!!!」


.

632名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:46:53 ID:ttGVJWA.0

なんてことはない。
頭がおかしくなりそうな二年間を過ごした俺とは違い、兄者はどこまでも気楽だった。
そうでなければ、こんなにも陽気に笑えるはずがない。

         ・ ・
( <_  )「……兄者」


だから、俺は決めた。


(´<_` )「俺が、弟者というなら。俺は、弟者でいい。
      だけど、……もう二度と魔法とか、変なものに近づくな」

( ´_ゝ`)「……」

( <_  )「頼む……兄者」


こんな鏡は、いらない。

人ではない生き物はみんな、敵だ。
――魔法だっていらない。使わせたりだって、しない。
嫌いだ。死んでしまえばいい。壊れてしまえばいい。消えてしまえばいい。
俺を、俺から引き離そうとするものは全部全部なくなればいい。

そうすれば、俺は俺でいられる。
できそこないの一人ではなくて、普通の一人のようにしていられる。

.

633名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:48:45 ID:ttGVJWA.0






そう。
あの日から俺は――もう二度と”そちら側”に兄者を近づけないと決めたのだ。





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634名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:49:26 ID:ttGVJWA.0





( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )





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635名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:50:07 ID:ttGVJWA.0





そのはち。 できそこないの一人




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636名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:53:15 ID:ttGVJWA.0


(゚A゚)「兄者、どうした?!
   やっぱさっきので、無理がっ!!!」

(; _ゝ )「……」


糸が切れた人形のように、兄者は動かなくなった。
何の前振りもなく崩れ落ちたきり、兄者の体は決して動こうとはしない。
いや、動かそうとはしているのだろう。
兄者は地面に倒れ伏しそうになる体をかろうじて支えながら、かなりの時間をかけて顔だけをかすかに上げた。


(´<_` )


表情を歪めた兄者が睨みつける先は、弟者。
弟者は動かなくなった兄の姿に、少しも表情を変えようとはしない。
まるで、そうなるとわかっていた様だった。


(#´_ゝ`)「弟者ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」


兄者が、吼える。

637名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:54:11 ID:ttGVJWA.0

直接、危害を与えられたわけではない。
魔法が発動したような形跡もなかった。


(#´_ゝ`)「やめろ、いいから今すぐに返せ!!」

(´<_` )「――俺が、それを許すとでも?」


しかし、兄者ははっきりとした確信を持って弟者を睨みつけている。
怒りと焦りを隠そうとしない瞳。
それに答える弟者の言葉も、自らが元凶であると認めているかのようだった。


(#´_ゝ)「馬鹿野郎。死ぬつもりかっ!!」

(´<_` )「……死ぬ気はない。俺が死んだら意味が無いからな」


弟者の視線が兄者から外れる。
その瞳が向くのは、岩で作られた人と荷馬車の中間のようなイキモノ。
ゴーレム。魂を持たない、機械のようなまがいものの生命。


(<_`  )「……」


弟者が背を向ける。
兄者は弟を止めようと手を伸ばし――その手が動かないことに舌打ちをする。


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638名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:56:18 ID:ttGVJWA.0


(#´_ゝ`)「ドクオ、弟者を止めろっ」

(    )「その時は、ドクオを殺す」

(;'A`)「……」


弟者の低い声に、伸ばしかけたドクオの手が止まる。
弟者の表情は見えない。しかし、その声にはっきりとした殺意を感じてドクオはたじろぐ。


(#´_ゝ`)「どうしても行くっていうなら、力づくで止める」

(<_`  )「兄者はおとなしく、ここで寝ていろ」

(; _ゝ )「――っ」


その言葉と同時に、兄者の頭がガクリと落ちた。
その表情が苦しげに歪み、荒げられた言葉は途中で止まる。


(; _ゝ )「――ばかやろう」


それでも兄者が辛うじて上げた声は、とても小さかった。


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639名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 20:58:04 ID:ttGVJWA.0

弟者は兄者の姿を見ようとはしない。
その視線が向かう先は、相も変わらず岩の巨人の姿だ。


(    )「知ってる」


自分に言い聞かせるように呟くと――、弟者の足は地を蹴った。
弟者が向かうのは、ゴーレムのいる先。
そこではブーンが魔法を放ち、奮闘を続けている。


(;'A`)「弟者っ!」


今度こそ弟者を制止しようとドクオが動く――が、その手は宙を切った。
弟者の姿はドクオが予想したよりも、はるかに先にある。

弟者の足は早い。ドクオもそれを知っていて、羽を動かし手を伸ばした。
間に合った、と思った。
それなのに――間に合わなかった。


('A`)「……あいつ、あんなに足速かったか?」


伸ばした手を引っ込め。ドクオはごくりと息を呑む。
弟者の動きは――、ドクオが今日一日で見た中で群を抜いて速かった。


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640名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:00:59 ID:ttGVJWA.0

弟者はゴーレムを相手にしてから、ここまで疾走した。
それからろくに休んでいないのに、あの速さ。弟者の動きは落ちるどころかむしろ明らかに上がっている。
――兄者が動けなくなったのとは、ちょうど逆だ。


(-A-)「……」


ドクオは瞳を閉じて考える。
同じような光景を見たことがある、……ような気がする。

……たしか昼、二人組の盗賊に襲われた時だ。
盗賊の男を縛り付け、兄者を人質にした少女を拘束した弟者。
魔法使いである彼女を弟者は殺そうとして――、

ありえないほどに、弟者の動きが鈍った瞬間があった。


            (´<_`; )「――な、」


弟者は信じられないという顔をしていた。
弟者の顔に張り付いて妨害していたドクオは、その姿をはっきりと見ている。


            (*´_ゝ`)b「ちょっと、持って行かせてもらった」


動きの落ちた弟者。それとは対照的に、魔力封じを持った兄者の動きは別人のように速かった。
まるで、弟者のように。兄者と弟者が、そっくり入れ替わったように。
それこそあの時の動きは、――弟者の素早さが兄者へと『持って行かれた』ようだった。

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641名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:04:10 ID:ttGVJWA.0

思えば、ずっと前から妙だなと感じることはあったのだ。


ニンゲンにしては恐ろしく素早い弟者と、並以下の兄者。
軽々と曲刀を振り回す弟と、弱い兄。
魔力に反応する罠の中で平然としていた弟と、意識を失い操られた兄。

単なる資質や鍛錬による成果だと思っていたそれらの違いが、違うことに起因しているのだとすれば。
弟者の速さや、並外れ体力は――何の上に成り立っていたのか。


            「……仕方ないだろう。運動と名のつく能力の大半は弟者が持ってるんだから」

            「ちょっと、持って行かせてもらった」

            「根性を見せろって言われてもな……お前さんが加減さえしてくれれば、俺ももうちょっと」

            「俺の体力が残念なのは、俺のせいじゃないやい! 弟者が悪いんだもん!」

            「お前が強いのは知ってる。なにせ二人ぶんだからな。
                        だけど、それだけでどうにかなる相手じゃないだろうが!」



その答えを、ドクオはとうに知っていたのかもしれない。
兄者はずっと言っていた。それでも、ドクオはありえないのだと、その可能性をずっと却下してきた。


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642名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:04:54 ID:ttGVJWA.0

――二人は同じだと、ブーンは言った。
人を構成する上で最も重要な要素。決して同じであるはずのない魂が、同じなのだと。


             「同じだよ。弟者にとっては、な」

             「――そうだろう、俺?」


双子。
人のできそこない。
二つの肉体がありながらも、魂を同じくするこの兄弟は――、その腕力を、脚力を、体力を、魔力を、


('A`)「――共有、しているのか」

(; _ゝ )「……そんなに、御大層なものじゃない」

('A`;)「兄者!?」


兄者は俯いたまま、苦しそうに声を上げる。
そこにいつも浮かべている陽気な笑顔の、面影はない。


(; _ゝ )「……考えてることがはっきりわかるわけでもない……性格だって全然違う……」


それでも、歯を食いしばるようにして兄者は声を上げた。


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643名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:06:29 ID:ttGVJWA.0


( ´_ゝ`)「……俺と弟者は、別人だ」


動かない体を抱えて、それでもきっぱりと。
自分と弟者は違う生き物なのだと、兄者は告げた。
まるでそれだけは譲れないと言うように、兄者の言葉は強かった。


(#´_ゝ`)「そもそも……あの馬鹿、自分が死にかねんってわかってない!」

(;'A`)「おい、兄者。大丈夫なのか」

( ´_ゝ`)「もうだいじょ――っ、ぅ」


兄者の声の一旦明るくなるが――すぐに、うめき声に変わる。
ドクオは慌てて兄者の傍らに舞い戻り、「無茶するからだ」と、その肩を叩く。


(; _ゝ )「……あんにゃろ、容赦なく持ってきやがって」

(;'A`)「持って行って――って、やっぱりお前」


額から流れる冷や汗を、兄者は拭う様子すら見せない。
兄者は俯いたまま、苦しそうに顔を歪めて言う。


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644名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:08:23 ID:ttGVJWA.0

(; _ゝ )「……問題ない。認めたくはないが、……概ねドクオの考えている通りだ」


兄者は笑い声を上げるが、それもどこか空々しかった。
体は動かさないまま、瞳を閉じ。兄者は、ぽつりぽつりと語っていく。


(; -_ゝ-)「俺とあいつは、双子だからな。……悔しいけど、こういうのだけは融通が利くんだよ」

('A`)「それじゃあ、」

(;´_ゝ`)「……弟者が言っていただろう、人間のできそこない。
      イレモノは二つあるのに、魂は一つ。そのイレモノだって完全に別れているとは言えない欠陥品」


どうしてなんだろうな――と、兄者は呟いたのかもしれない。
しかし、その声は小さくて、本当に聞こえたのか、それとも気のせいだったのかドクオには判断ができなかった。
ドクオは少し考え込んだ末に今、一番確認したいことを尋ねることにした。


('A`)「単刀直入に聞く。
    お前が動けないのは、弟者がお前の力を奪ったからなのか?」

(; ´_ゝ`)「……そう言うと、なんかエグいな。
      せめて持って行ってるとか、借りてるとかもっとこうさ……」


兄者が少しずつ力を込めて、なんとか座る体勢まで体を引き起こす。
しかし、それで限界だったのか。兄者の口からは言葉が消え、動きも止まる。


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645名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:10:22 ID:ttGVJWA.0

かなり長いこと沈黙した末に、兄者はようやく明るい調子の声を上げた。


(;´_ゝ`)「一つの体でふたりぶん動けるからな。使いようによっては便利なんだー。
      できそこない様々。大いに万歳、だ」

(#'A`)「それで片方動けなくなってたら、ざまあねえだろ!」

(; _ゝ )「……まあな」


兄者は、ため息をつく。
反論の言葉が少ないのは、辛いからなのだろう。
どうしてそんな状態で、ペラペラしゃべろうとするかね。と、ドクオは怒りを通り越してもはや呆れにも似た気分になる。
兄者の言葉は、これまでの意見とぜんぜん違う。軽口を叩こうとするなら、せめて意見くらい統一しやがれというのに。


('A`)「さっきの、できそこない万歳っての。本気じゃないだろ」

( ´_ゝ`)「……おまえさんは、人の嫌がってるとこばかりに食いつくな」

('A`;)「うるせー」


兄者は、弟者の走り去った方向と視線を向ける。
弟者は既にゴーレムへと接触し、手にした武器を振るっている。
火花が上がり、風と魔力が渦巻く感覚が部屋には満ちている。

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646名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:12:42 ID:ttGVJWA.0

( ´_ゝ`)「……弟者を頼む」


岩と床が起こす鈍い音。剣戟、魔法、草、風――あらゆる音が部屋中に響く。
その中で、兄者の小さな声はドクオにはっきりと届いた。


( ´_ゝ`)「虫のいい頼みだとはわかっている。
      それでもあいつは、――俺にとっては弟なんだ」

('A`)「オレはブーンと違って、戦う力なんてないぞ」


ゴーレムが引き起こしたのか、床が震動する。弟者たちと岩の巨人の戦闘の影響はここまできている。
それでも兄者の表情だけは、とても静かだった。


( ´_ゝ`)「何かあったら、大声を上げるだけでいい」
._,
('A`)「それだけなら、」

(; _ゝ )「……少しだけ、休む…そ…間、……任せ……」


そのやりとりで、限界だったのだろう。ドクオの返答に小さく笑みを浮かべると、兄者は瞳を閉じた。
気絶したのか。それとも、眠りに落ちたのか。彼はそれ以上は喋ろうとはしない。

兄者の様子をひとしきり見てから、ドクオは顔をあげる。
視線を向けるその先は――、空気を噴き上げるゴーレムと弟者。そして、ブーンの姿だ。


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647名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:14:15 ID:ttGVJWA.0

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――――――――――――――
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耳元で風が鳴る。
駆ける足は軽く、体から重さというものが消失したようだった。
軽すぎてかえってふわつく体を、腹に力をいれて支えながら、弟者はまっすぐ前を目指した。

一歩、もう一歩と走りながら、腰からシャムシールを引き抜く。
いつもならばずしりと手にかかる重みも、今の自分にとっては鳥の羽のようだ。


(*^ω^)「――オト、」

d(´<_` )「……」


ブーンの声に、弟者は静かにしろと身振りで告げる。
ゴーレムは背後を向いている。
駆け寄る弟者に気づく気配は、ない。


/◎ ) =| )


見上げるような巨体に向けて、弟者は利き足に力を込めた。


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648名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:16:36 ID:ttGVJWA.0

弟者の足が、地から離れる。
腕を振り大きく勢いをつけて、ゴーレムの体を支える足――、無限軌道へ。
そして、そこからさらに跳躍し、巨人の細い腕を支える部品の一つへと着地する。


(´<_` )「……」


左手で体を支え肩へとよじ登ると、弟者は頭頂部へと駆け上る。
足に岩の硬い感触が伝わり、視界が一気に開けた。

風が、薄紫のフードを揺らす。
慣れ親しんだ、土埃混じりのぼんやりとした世界ではない。
そよぐ草、穏やかな日差し、空気は透き通り、吸った息に砂の味はない。


――ああ。


弟者は目の前に広がる光景に一瞬、言葉を失った。
白い壁に囲まれた、楽園のような箱庭。
心臓が、ひときわ大きな音を立てて動く。

高みから見下ろす世界は、未知であふれていた。
外にはこんな光景があるのか――。

胸に浮かんだ、動揺は一瞬。
憧憬にも似た思いは、足元から伝わるゴーレムの震動によって打ち切られる。


.

649名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:18:52 ID:ttGVJWA.0


(´<_` )「行けっ!」


弟者の腕がひらめき、シャムシールが巨人の頭へと突き立てられる。

勢いよく振り下ろされた刀は、それでも岩の肌を貫くことはできなかった。
鋭い音とともに、火花が飛び散る。
ただ、それだけ。


/◎ ) =| )  i...i...gi  gi


――しかし、ゴーレムは音を上げ、その体を大きく揺らした。


(´<_` )「――きいた!?」


ゴーレムの腕が頭上の弟者を捉えようと、激しく動き始める。
しかし、弟者がどこにいるのかはっきりとわからないのか、伸びた腕が弟者に届くことはなかった。
一度、二度と、腕は執拗に振るわれる。

効いている。
そう、弟者は確信した。
兄者の言うとおり、頭部が弱点なのだ。
はっきりとした手応えこそ感じられなかったが、確かにゴーレムは頭への攻撃を嫌がっている。


.

650名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:20:41 ID:ttGVJWA.0


(´<_`#)「存分に、喰らえ!」


弟者は腰に下げたもう一振りの刀を抜き、その頭へと叩きつけた。
大きな衝撃と共に、弟者の腕を攻撃の反動が駆け上る。
まるで自身が攻撃を受けたかのような痛み。しかし、弟者はそれでも手にした刀に力を込め続けた。

刀はやはり、岩の表面に傷をつけることすらかなわない。
それでもゴーレムは体を震わせると、弟者を追い立てるようにその体を右へ左へと大きく傾けた。


/◎ ) =| )


――ぎちり、ぎちりという音とともに、ゴーレムの上半身が回りはじめる。
次第に速度を増し始めた動きに、弟者は膝をつき足に力を込める。


(´<_` ;)「くそっ」


宙へと弾き飛ばされそうになる体を、弟者はかろうじて支える。
しかし、その背後から音を上げて巨人の腕が迫り来る。

弟者は立ち上がり退避をはじめようとするが、その動きは一歩遅かった。
ゴーレムの体の動きと震動に、弟者の体が大きく傾ぐ。
体勢をなんとか整えようと踏み出した足は、何もない宙を踏む。


.

651名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:23:09 ID:ttGVJWA.0


( <_  ;)「――あ、」


そのまま、弟者の体は落下をはじめる。
体勢を整えることも出来ない。
胃がせり上がるような不快感と、全身の毛が逆立つ感触。

落ちる。
それでも、弟者は目をしっかりと見開き――、


/◎ ) =| )

(´<_` )つ==|ニニニ二フ


視線が交差する。
その瞬間、弟者の左手が動いた。
無骨な刀が驚くほど正確な動きで、ゴーレムの顔面を捉える。


/◎ ) =| )  ――a a a A a AAAA ! ! !


橙の光をあげ、火花が散る。
背を下にした、不恰好な姿勢で振るわれた刀。
力なんてろくにこもってないはずの一撃は、岩の巨人にこれまでとは比べ物にならないほどの衝撃を与えた。


.

652名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:24:56 ID:ttGVJWA.0

攻撃の勢いを利用して、弟者は上半身を、そして下半身をひねる。
そして、どうにか体勢を整えると、獣のように地に着地した。
ざっと地を踏む音とともに弟者の両足が、そして刀を握ったままの両手が地につく。

それと同時に風が止む。
その時、弟者ははじめてブーンが力を貸してくれていたのだと気づく。


(#^ω^)「――オトジャ、いくらなんでもムチャだお!」

(´<_` )「すまん」


必死過ぎてわからなかったが、あの無謀な着地が成功したのもブーンのおかげか。
弟者は心のなかで、感謝を告げる。


(´<_` )「行くぞ」


立ち上がり、動きに支障がないのを確認すると、弟者は再び地を蹴る。
それと同時に、振り下ろされたゴーレムの腕が弟者のいた場所へとめり込む。


(;^ω^)「おおおお、おうだお!」


ゴーレムの目――頭部の装甲に穿たれた溝がじっと弟者の姿を追いかける。
それを見やり、弟者は小さく笑みを浮かべた。


.

653名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:26:29 ID:ttGVJWA.0

/◎ ) =| )  i i a A


弟者が、再びゴーレムへと接近する。

右手がひるがえり、次いで左手に持った青竜刀が唸りをあげる。
シャムシールも青竜刀も本来、片手で振るうための武器だ。
しかし、それを一本ずつ両手に持つとなると話は別だ。


(´<_` )つ==|ニニニ二フ


重みのある刀身を力で強引に振るいながら、弟者はゴーレムを睨みつける。
ギチリと音を立てる無限軌道に、二度シャムシールで刺突を繰り出す。
間髪入れずに、青龍刀の横薙ぎ。
ゴーレムの腕を三歩下がり回避すると同時に、軸足をめいっぱい踏み込み跳躍する。


(´<_` )「……」


高く飛び上がった体は、巨体の腕へと落下する。
着地もそこそこに、弟者はゴーレムの岩の腕を駆け上がると、再度踏み切り二度目の跳躍を遂げる。

勢いを上げて吹く風が、弟者の耳元でうなりをあげる。
しかし、恐れることはない。
今の弟者にとって、風は弟者を守る盾であり、武器だ。


.

654名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:28:47 ID:ttGVJWA.0


そして、二度の跳躍をはたした弟者の眼前にゴーレムの“顔”が迫る。
先ほどの攻撃で一番効果があった、顔の装甲。
後ろに流された弟者の右手が流れるように弧を描いて、シャムシールの刀身をゴーレムへと叩きつける。

一際上がる、大きな火花。
焦げ臭い匂いが鼻をつくと同時に、体勢が崩れ弟者の体は落下を――


(#^ω^)《足場になるお!》


風が、弟者の背と足元を抱きとめるように渦巻く。
柔らかい寝台を踏むかのようなおぼつかない感覚。しかし、体を支えるにはそれで充分だった。


(´<_`#)「いけぇっ!!!」


足を踏み出す。
目に見えない風の足場に、弟者がためらうことはなかった。


左手に携えた青竜刀を、顔面へと突き出す。
銀の刀身は光をあげ、顔にあけられた溝へと吸い込まれていく。

.

655名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:31:03 ID:ttGVJWA.0

手にかかる鈍い衝撃と、刀身が何かを傷つけた感触。
その瞬間、確かに手応えがあった。
弟者は手にした刀を更に深く、押し込んでいく。


/◎ ) =| ) Ga gi ga GA


ゴーレムが、悲鳴じみた音――声を、上げる。
一際、大きなその声とともに、巨人は体を捻るように動きはじめた。
弟者は右手のシャムシールによる突きを繰り出そうとして、ゴーレムの二本の腕が臨戦態勢となっていることに気づいた。


(´<_`#)「ちっ」


舌打ちとともに、背後へと跳躍する。
ブーンが上手く支えているのか妙な具合に足元が揺れるが、弟者の体が落下することはない。
宙へと逃げた弟者の体をかすめるようにして、岩の腕が振り回される。

そして、巨人の二本の腕はそのまま顔をかばうように、構えられた。


(; ^ω^)「ずるいお! あいつ弱点をかくす気だお!!」

(´<_` ).。oO(……どうする?)


.

656名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:32:20 ID:ttGVJWA.0

あの岩の体で守りの体勢に入られてしまえば、弟者が取れる攻撃手段が無くなる。
頭部の装甲以外の攻撃は、ほとんど効果がない。
それに対してゴーレムは、人間など容易に轢き殺せる足――無限軌道がある。

このままでは、圧倒的に不利だ。


(´<_` ;).。oO(どうすれば……)

(#^ω^)「オトジャ、横っ!」


思い悩む弟者に、ブーンから警告がとぶ。
弟者がはっと顔をあげると、その横を黒い何かが通りすぎて行くところだった。


(  _ :::)


弟者は慌てて、通り過ぎたそれを視線で追いかける。
同じくらいの背丈の、男。
――宙を飛ぶ弟者とすれ違った、何かはそう見えた。

しかし、それはおかしい。

人間はそもそも空を飛ばない。
魔法や道具、ブーンたち精霊や竜などといった存在の手助けなしでは不可能だ。
弟者だってブーンの魔法によって、宙に踏みとどまっている。

それにこの最奥の間の唯一の出入り口は封鎖され、誰かが出入りできる状況ではないはずだ。


.

657名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:34:21 ID:ttGVJWA.0

(´<_` ;)「……」


弟者は目をこらすが、その男の顔や服装は判然としない。
猫のようにぴんと立った耳。そして、武器とマントらしきもの――かろうじて、それだけが弟者の目に留まる。


/◎ ) =| )


男らしき姿は、一直線に宙を飛ぶとゴーレムと対峙する。
敵……というわけではない、らしい。
ゴーレムに立ちふさがる男の姿は、ギコではない。しかし、それでも誰かに似ているような気がする。
弟者は呆然と視線を漂わせて、


(:::: _  )


新たに現れたのは、その男一人ではないことに気づいた。
猫のような耳を持った男の姿。その顔はやはり、暗く陰りよく見えない。
そんな男の姿が一人、二人……。


(; ゚ω゚)「人がこっちにもいるお……」

(´<_` ;)「これは……一体、」


.

658名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:36:22 ID:ttGVJWA.0

突如現れた人の姿は、五人。
その誰もが、確かにそこにいるはずなのにはっきりとは見えない。
――人なのか、もっと別の何かなのか。
弟者の額から、汗がつと落ちる。


(  _ :::)つ==|ニニニ二フ


五人の男が一斉にゴーレムへと向かう。
音をたてない滑るような動きは、やはり人にできるものではなかった。


(#'A`)「弟者ぁぁぁぁっ、つっこめ攻撃しろぉぉぉっ!!!」

(´<_` )「……ドクオ?」


弟者やブーンの戸惑いを切り裂くように、上がったのはドクオの声だった。
いつの間にか、弟者の間近にあらわれていたドクオは凄まじい勢いで怒鳴りつける。


(#゚A゚)「いいから早くっ!! そのデカブツをぶっ飛ばせ!!」


その声の剣幕に押されて、弟者は駆け出す。
右手にはシャムシール、左手には青龍刀。
二振りの刀を構えた弟者が向かう先は、ゴーレムの顔面。
二本の岩の腕で守られた、巨人の唯一の弱点。


.

659名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:38:11 ID:ttGVJWA.0

/◎ ) =| )//  g

(:::: _  )


突如現れた五人の男の姿に、ゴーレムが弾かれたように腕を振り回し始める。
――そして、その瞬間。弱点である顔面が、はっきりと晒される。


(´<_`#)「くらえっっ!!!」


弟者が繰り出したシャムシールは、巨人の腕をかいくぐり、その顔面を鮮やかに貫いていた。
力を込めその刀身を深く押し込むと、弟者は左手に力を込める。


(´<_` )「もう一撃っ!」


青龍刀が、ゴーレムの“目”を深く突き刺さす。
突き刺さった刀を引き抜き、もう一撃。
弟者の放ったそれは寸分たがわず、同じ場所へと突き刺さった。


/◎ ) =| )//  A  A AAAA A!!


弟者がゴーレムの顔面を捉えるたび、巨人は声を上げて激しく腕を振るう。
その一振りに、ゴーレムへと向かった黒い男の姿が無残にも千切れ飛ぶ。


.

660名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:40:14 ID:ttGVJWA.0


(  _ :::)つ==|ニニニ二フ


しかし、すぐ後ろに現れた別の影が巨人へと向かう。
腕をふるって対抗するゴーレムへ向かって、飛びかかったのは――


(:::: _  )


つい先程、ゴーレムの腕の一振りによってちぎれ飛んだはずの男の姿だった。
男は攻撃を食らったなど嘘のように、再び突撃を始める。


( ^ω^)「……アレは、何なんだお?」

(;'A`)「オレの作った“影”だ」
  _,
( ^ω^)「カゲ?」


.

661名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:42:32 ID:ttGVJWA.0

五人の男たちはどれも似たり寄ったりの体つきをしている。
よく見ればそれは、――兄者や、弟者そっくりの体つきだ。
はっきりと顔の見えないその姿は薄っぺらで、自由に動き回ること以外は影と言われれば、なるほど納得できる姿だ。


('A`)「オレの力じゃ、目眩まし程度にしかならない。
   弟者……がんばってくれよ」


影は手にした武器――青龍刀のような影を振るう。
が、その攻撃はゴーレムに命中した気配はない。
軌道は確かに合っている。避けられた形跡もない。

影の刀は、ゴーレムの体へと影を落とすだけ。
目眩ましという言葉の通り、ドクオの作り出した影たちは攻撃を加えることは出来ないのだろう。


(:::: _  )


五体の影は動き――、あるいは走り、ゴーレムの注意を逸らし続けている。
ゴーレムの腕に霧散し、それでも再び出現する。
影は痛みを感じないような動きで、ひたすら飛び、ゴーレムに接近してまわる。

その間を縫うようにして、弟者の持つ刀の銀の閃きが巨人の顔へと振るわれる。


.

662名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:44:25 ID:ttGVJWA.0


(´<_` )「行ける」


弟者は刀を振るい続けながらも、手応えを感じていた。
弟者の振るう刀は、大きな打撃を加える事はできない。
しかし、それでも今の弟者はゴーレムへ着実にダメージを与えていた。

巨人の顔面。この部分の装甲は他よりも柔らかいのだろう。
突き出され、薙ぎ払われる二振りの刀は、巨人の“目”周辺に無数の小さな傷をつけ始めていた。


(´<_` )つ==|ニニニ二フ


ブーンの巻き起こす魔力の風は、弟者の動きに応じてその方向を自在に変える。
上と言えばその体を上空に持ち上げ、下と言えばその体を下降させることだってできる。

突如として現れた五つの影に気を取られ、動きの鈍くなった巨人の腕を上へ下へとかいくぐりながら、弟者は腕を振るい続けていた。


(´<_`#)「――死ね」

/◎ ) =| )//


弟者と、ゴーレムの視線が交錯する。
両者は、再びにらみ合う。


.

663名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:46:53 ID:ttGVJWA.0

かちりという――、音がなる。
何だ、と弟者が思ったのはほんの一瞬。


(゚<_゚ ; )「!?」

(; ゚ω゚)「オトジャぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


次の瞬間、ゴーレムは体から莫大な量の蒸気を噴き上げた。
とっさに顔はかばったが、熱と一面の白はオトジャから一気に視界を奪い去った。
目を開けるもの苦しい熱、べたりと体にまとわりつくした不快な湿気――。


(´<_` ;)「――ぅ」

(゚A゚)「……影、が」


白い熱をもった霧に阻まれて、ドクオの作り出した影が一つ。また一つと消えていく。
そして、残ったのはゴーレムの眼前。
ブーンの作り出した風によって支えられた、弟者本人の姿。


(゚<_゚ ♯)「――っ!」


迫り来る岩の腕を、弟者は下方に逃れて回避する。
そして、白くけぶる視界の向こうから迫り来るもう一方の腕を回避しようとして、弟者は息を止める。


.

664名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:49:44 ID:ttGVJWA.0

――ゴーレムの腕は、これまで見てきた姿とはまったく違う形をしていた。

腕の先に取り付けられた、岩の塊。
それが蠢き、細長く伸び――幾つもの針がついた拷問器具のような形へと姿を変えていく。


( <_  ;)「――くっ」


弟者は白い霧によって利かない視界と体を襲う熱に息を呑みながらも、致命的な一撃だけは回避した。
でも、それだけだ。


(;'∀`)「よしっ、避けた!」

(; ゚ω゚)「大丈夫かお!!」


ドクオも、ブーンもまだ気づいてはいない。
腕は二本。
視界を隠す灼熱の霧の向こうから、唸りを上げてもう一方の、岩の塊が迫り来る。


/◎ ) =| )

(´<_` ;).。oO(くっ)


.

665名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:50:27 ID:ttGVJWA.0

射程が読めない。
――どう避ければいいか、判断できない。


つ==|ニニニ二フ


とっさに盾にしたシャムシールに、迫り来る巨石がぶつかる。
痛いとか、重いという余計な感覚は浮かばなかった。
火花が上がり、支えようとする腕ごと引きちぎるかの衝撃が弟者の右腕にかかる。


(´<_`;)「――くっ」

(゚A゚)「なっ」


衝撃に抗いきれず、曲刀を握る手が緩む。
それで、最後。
支えを失ったシャムシールが手から離れ――飛んでいく。
行方はわからない。

それでも、このままではいけない、と弟者は左手の青竜刀をとっさに眼前へと差し出した。


.

666名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:52:20 ID:ttGVJWA.0

――後退する、余裕もなかった。


(゚<_゚ ♯)「チッ」


空中という不安定な足場は、いまいち踏ん張りが利かない。

受け流しきれず、刀が鋭い音を上げる。
手の感覚に違和感を覚えたのはほんの数秒。
一瞬、銀の光が落ちるのが見え、手のなかが一気に軽くなる。


( <_  ;)「――っ」


どうやら、青龍刀はダメになってしまったらしい。
曲がったか折れたか、それを確認している余裕は弟者にはない。
退避も出来ない不安定な体勢。頼りの武器も使いものにならず、敵との距離が近すぎる。


(ii ゚ω゚)「   !!!」


全身を覆っていた、風の魔力が止まる。
落下によってなんとか回避させようということなのだろう。だけど、それも遅い。
巨人の腕は、のっぴきならないところまで迫っている。


.

667名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:54:37 ID:ttGVJWA.0


助からない


時間が、いやに長く感じた。
これだけあれば、離脱することだってできるだろうというくらい長い感覚。
しかし、体はピクリとも動かない。
死を待つための、永遠とも思える時間が続き――、


(ii ゚ω゚)「オトジャぁっ!!!」

(#゚A゚)「兄者ぁぁぁぁぁ!!!! 聞けっ!! 起きろぉおおおおおおお!!!」


ブーンとドクオの大声が聞こえる。
だが、その声も遥かに、遠い。


( <_  ;)「     」


くそったれと――叫んだのかもしれない。
何と言ったのか自分でも自覚することのないまま、弟者の意識は


――それっきり、途絶えた。


.

668名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:56:46 ID:ttGVJWA.0


からんと何かが転がる音をしたのは、その直後。


転がったのは無骨な銀の刃。
弟者が手にしていた青龍刀の一部だった。
頑丈だった刀身は今や真っ二つに折れ、武器としてはもう使えない。


(ii  ω )「オトジャ」


しかし、そんなものの姿はブーンの目には入らない。
ブーンが凝視する先は、ゴーレムの腕が振るわれた先。

岩の腕は弟者の体をとらえ、そのまま遠くへと吹き飛ばした。
弟者の体はろくな受け身も取れないまま、弾き飛ばされる。
そして、壁へと叩きつけられその動きが止まる。

鈍い嫌な音とともに、はっきりと赤の色が見えた気がして、ブーンはとっさに瞳を閉じた。


( <_  ;)「――ぐ、あ、」


そして、ブーンの耳は小さな声を拾う。
苦痛にまみれたうめき声。
それでも、声が聞こえたということは弟者は生きているということだ。


.

669名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 21:58:42 ID:ttGVJWA.0

シュゥという音は、ゴーレムのものか。
ゴーレムの攻撃を再び食らえば、弟者の微かな声は今度こそ完全に止る。
それはダメだ。


(#゚ω゚)《守るお! 全力で吹くお!!》


ブーンの声とともに魔力が吹き上がる。
弟者の体を守ろうと、風が大きく吹き荒れ……


(#゚A゚)「ブーン!!!!」


/◎ ) =| )

(iii ゚ω゚)「――あ」


弟者に気を取られたブーンの視界に入る、岩の腕。
いつの間にと思うよりも早く、腕の巻き起こす猛烈な勢いの風がブーンの体を叩く。
腕が触れたというのはブーンの錯覚なのか、それとも事実か。
ブーンの体は飛ばされ、地面に叩きつけられた。

弟者の体を守るように、吹く風が止まる。


――そして、ブーンの声は途絶えたまま、ドクオから見えなくなった。


.

670名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 22:01:16 ID:ttGVJWA.0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


弟者は動かない。
ブーンにいたってはどうなってしまったのか、姿さえも見えない。


(;゚A゚)「おい、弟! しっかりしろ弟!」


気配を消し、ドクオは弟者の元へと駆け寄る。
いつもはふらついてしっかり飛べない羽も、この時ばかりはドクオの思うまましっかりと動いた。


( <_  ;)「――ぐ」

(;'∀`)「よかった、息はある」


弟者の息は、止まってはいなかった。
ドクオは弟者の顔を覗き込みながら、ほっと息を呑む。
予想よりもはるかに軽い怪我だ。これなら、安静にさせておけば、すぐにでも動けるようになりそうだ。


('A`)「……俺の力でできるのは、せいぜい目眩ましだけ。だったら、……」


.

671名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 22:03:40 ID:ttGVJWA.0

ドクオは、魔力を込めて言葉を放つ。
ゴーレムの目をそらす。それだけの効果しかない、目眩ましの結界。
弟者は激怒するだろうが、死ぬよりはマシだろうとドクオは覚悟を決める。
兄者の言葉じゃないが、羽の一枚の犠牲で、どうにかなるなら万々歳というやつだ。


('A`)「これで……、持ってくれよ……」


弟者から伸びる影に、ドクオは潜り込む。



三三三三三三三ニニ==―:;:;'' .,.,'   ,:' :; . :;.  , ':;., ';:;.,.:;:;―==ニニ三三三三三三三
三三三三三三ニニ==―:;:;:;:;:;:;:'' ,:;' ,.;:  ,: ; ;:;:,. ':;:. :;:;:,., '':;:;―==ニニ三三三三三三三
三三三三三三三ニニ==―'' ,.;:'' ;:;:;:;:  .,:; : :; ;:,. ';:;.,. :;:;:―==ニニ三三三三三三三三三
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三三三三三三三三三三三三三ニニ==―:; ;:.;:;:,.,.;:;::;―==ニニ三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三ニニ====ニニ三三三三三三三三三三三三三三三



('A`)「……ここは静かだな」


影という領域に属するものだけが入り込むことのできる暗い世界に、ドクオは降り立つ。
暗い影の世界は、ドクオの領域であり我が家だ。
その温かい安寧の世界の中で、ドクオは小さく息をつく。


.

672名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 22:04:21 ID:ttGVJWA.0

――ブーンについていかなければよかった。


盗賊なんて怖いもんは襲ってくるし、挙げ句の果てにはゴーレムなんてデカブツだ。
こんなことなら、いつもみたいにこの暗い影の中でまどろんでいればよかった。

影の中は暗いけれど、静かで――何も起きない。
安心安全安泰な我が家。オレが生まれた源にして、本体。
何もなくたっていいじゃないか。寝ていれば10年や20年なんてすぐに過ぎていく。

なのに。


どうしてオレはこんな事に付き合わされているのだろう。
羽は引きちぎられる。
投げ飛ばされる。
絞め殺されそうになる。
……ほら、ろくなことなんてないじゃないか。

こんなところは嫌だ。
でっかいバケモノと戦うなんてオレには無理だし、消滅したって嫌だ。
立ち向かっていく弟者やブーンの気が知れない。

オレには無理だ。
体が震えるし、痛いのは嫌だ。怖すぎる。
さっきまでのことは忘れて、とっとと寝てしまいたい。


――だけど、


.

673名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 22:06:32 ID:ttGVJWA.0


(#'A`)「ほっとけるかよ、クソッ。ブーンのせいだぞ!!」


ドクオは影の世界から、兄者の影へと移る。
躊躇うように何度か息を呑んだが、それでもドクオは外の世界へと飛び出していった。


('A`)「――おい、兄者!! 弟者のやつが!!!」


そう言って、ドクオは兄者の肩に手をやる。
寝ている様なら叩き起こそうと、ドクオは兄者の顔を覗き見て、その表情が凍りつく。
わけがわからない。理解できないという動揺に体を震わせながら、ドクオは声を上げる。


(;゚A゚)「……お前」

(  _ゝ )「……」


兄者の口から血が一筋、首筋へと伝った。
兄者の薄水色の毛並みは血で赤黒く変色し、今やほとんど動かすことのできない手は、腹を強く押さえている。


(;゚A゚)「ずっとここにいたはずだよな
    ……弟者の武器だって、こっちには飛んでないはずだ……」


.

674名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 22:09:04 ID:ttGVJWA.0

兄者は動けなかった。
だから、ゴーレムに接近できたはずもないし、そもそも攻撃を食らう余地なんてなかった。
だけど、現に兄者は今にも死にそうな姿で――。


(;゚A゚)「……どういうことだ?」


                       ( <_  ;)「――ぐ」


呟くドクオの脳裏に、弟者の姿が浮かぶ。
弟者の怪我はゴーレムの攻撃を食らったにしては、軽かった。
いや、軽すぎたのだ。あのバケモノの攻撃を食らって、ただで済むはずがなかったのだ。


(#゚A゚)「まさか、弟者のやつ」

(; _ゝ )「……ちが……う……」


兄者から根こそぎ力を奪ったように、受けたダメージを兄者に押し付けようとしているのか?
そう、口にしようとしたドクオの声を兄者が遮る。

兄者の顔からは血の気が失せ、その息も絶え絶えだ。
兄者が言葉を呟く度に、その口からは血がこぼれ落ちる。


.

675名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 22:11:50 ID:ttGVJWA.0


(#'A`)「何が違うだ。現にこうして」

( ´_ゝ`)「……弟者に……は……悟らせるな……」


そこから先は言葉にならなかった。
目を閉じ強く呻くと、大きく息を吐いた。

その言葉で、ドクオは理解した。
――さっきの逆だ。こいつは自分の意志で、弟者の受けた負担を肩代わりしている。


(; _ゝ )「俺たちは二人になりそこねた、できそこないの一人だ。
      忌々しいことだが、俺がどれだけ否定した所でその事実は変えられない」


これが兄者の本音なのだろう。
兄者の顔は蒼白で、それでも開いた瞳はまっすぐだった。


( ´_ゝ`)「だけど、そんな産まれぞこないだからこそできることがある」

(#'A`)「それで無茶か。倒れたら、お前が死んだら意味ないだろう」

( ´_ゝ`)「……俺は死なないよ。
      俺が死んだら、つながってる弟者が危ないからな」

.

676名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 22:13:18 ID:ttGVJWA.0

そして、兄者はゆっくりと動き始めた。
兄者の腕が時間をかけて、腰へと動く。
そこからさらに時間をかけて取り出されたのは、ナイフだった。


(; _ゝ )「――く」

(;A;)「おい、兄者もうやめろ。これ以上無理をするな」

(;´_ゝ`)「やなこったい」


兄者は手にしたナイフをゆっくりとした動きで振りかぶる。
その拍子に傷口が開いたのか額から血が流れ、顔を濡らしていく。


( ´_ゝ`)「俺は、――お兄ちゃんだからな」


これまでの動きが嘘のように、兄者の腕はなめらかに動いた。
振りかぶられたナイフが、岩の巨人へと向かって放たれる。
その速度は決して早いものではない。しかし、巨人へと向かってまっすぐに飛んでいく。


(;'A`)「お前、今何を……」


ニンゲンのように涙を流していたドクオは、兄者の動きにはっと息を止めた。
兄者は、今何をした? なぜ、身を守る唯一の武器を投げたのだ。


.

677名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 22:15:31 ID:ttGVJWA.0


(iii´_ゝ`)「……」

(#'A`)「兄者、こたえろ!!!」


兄者の力を振り絞った程度では、ナイフは早く飛ばない。
それどころか、それほど飛ばないうちに落下して地面に落ちる。
カランと高い音が響き、地に落ちる。
ただ、それだけ。


/◎ ) =| ) ……g


しかし、巨人の意識を逸らすにはそれだけで十分だった。
魂を持たない巨人は、武器を投げつけた生き物をはっきり敵として判断する。
ぎちりと無限軌道が動き、その体が兄者に向けて動き始める。

最奥の壁。その近くに座り込んだ標的。
動こうとはしない獲物へと向けて、巨人の体は動き始める。


(  _ゝ )「……ドクオ、俺が言ったこと覚えてるか?」

(#'A`)「なんかあったら、大声を出せってやつだろ」

( ´_ゝ`)「……そっちじゃない。もっと前の方だ」


.


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