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( ^ω^)時計の国とラノベ祭のようです
1
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 18:51:20 ID:ksyKNxfAO
ラノベ祭参加作品
全部の絵を使うつもり
挿し絵的な使い方になるので、申し訳ないが希望タイトルや希望ジャンルは大体無視する形になりそう
一回使った絵をまた別のシーンで使ったりするかもしれない
長くなりそうので4つか5つくらいに分ける
14
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:08:30 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「──んがっ」
ブーンは目を覚まし、しばし、身じろぎせずに辺りを確認した。
暗い。
鉄の匂い。
息苦しい。
体のあちこちが痛い。
重い。
状況を理解し、ブーンは顔の上に乗っているガラクタをどかした。
がらがらがしゃがしゃ、けたたましい音をたてながらガラクタが落ちていく。
ようやく視界が開けた。
晴天。太陽はてっぺんに。
( ^ω^)「ドクオ」
ひょこりと上半身を起こす。
左下の方で、少年が「おう」と声をあげた。
少年の手には、おもちゃのような、奇妙なものがあった。
('A`)「起きたか」
( ^ω^)「君は良くない。本当に良くない」
【ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/4.png】
15
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:10:48 ID:ksyKNxfAO
('A`)「いやあ、ブーン君がゴミ山で気持ち良さそうに昼寝してるもんだからねえ、
人がいくら声をかけても起きないもんだからねえ、
こりゃあブーン君ったらもうゴミと一体化したんだなあと思ったもんだからねえ、
ならいっそゴミに埋もれさせてあげようと、こう、ね」
手に持った「奇妙なもの」──筒に手足を付けたような──を顔の前で動かしながら、
少年は嫌みたらしい声色で言った。
彼はドクオという。ブーンよりも10歳上、35歳だ。
今は2人とも10代半ばほどの姿になっているが。
詳しくは後程。
( ^ω^)「それは何だお。その、小さなドラム缶みたいな」
('∀`)「よくぞ訊いてくれました! ドクオお手製、『歯車王』!
お前が起きるのを待つ間、そこら辺のガラクタで作ってみた」
|::━◎┥
( ^ω^)「相変わらず器用でいらっしゃって……」
('∀`)「はっはー。
……ま、この年齢の手は、ちと未熟だからな。本来の力の8割しか出せねえや」
ブーンはゴミの山から飛び下りて、服を払った。
すっかり汚れてしまった。座ったままのドクオを睨む。
16
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:10:57 ID:/Trtq2VI0
全使用とかスゲ!wktk!支援!
17
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:12:44 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「で、僕に何ぞ用でもあるのかお?」
('A`)「おうよ。ツンに、ブーン呼んでこいって言われてな。
やっと見付けたかと思えば、お前はすやすやと──」
( ^ω^)「ああはいはい、分かりましたお」
「歯車王」とやらを爪先で小突いてからブーンは歩き出した。
後ろでドクオが嫌味を言うのが聞こえたが、無視する。
歩きながら左へ視線をやった。
遠目に、建物が密集しているのが見える。
その中でひときわ目立つ建造物があった。
時計塔だ。
てっぺんの時計部分は正面を向いている。
12時を指した瞬間、鐘が鳴った。
( ^ω^)「相変わらず大きいおー。さすが『時計の国』……」
しばらく立ち止まったまま時計塔を眺め、秒針が一周した頃、再び足を前へ出した。
# # #
18
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:14:46 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「はあい、ツンちゃん──何だ、今日は年増かお」
ξ#゚⊿゚)ξ「やって来て早々失礼な奴ね。
10代のどこが年増なわけ?」
( ^ω^)「11歳以上は年増だお」
「ツンちゃんのお悩み相談室」。
高層マンションの20階に、この部屋はある。
ここは、ブーンの目の前で仁王立ちしている少女──ツンの職場兼、住まいだ。
居間や応接室、寝室に書斎、ツンの私室に加えて、同居人達の部屋が2つほど。
ブーンが住む家より、よっぽど部屋数が多い。
ξ゚⊿゚)ξ「ほら、来なさい」
ツンがブーンの頬を引っ張る。
そのまま歩き出すので、ブーンは転ばぬように気を付けながら続いた。
玄関から廊下に靴を履いたまま上がり、応接間に入る。
ツンの仕事は主にこの部屋で行われていた。
仕事と言っても、要は何でも屋で、客の悩みを解決するだけである。
19
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:16:05 ID:ksyKNxfAO
ζ(゚ー゚*ζ「ブーン君、こんにちは」
( ^ω^)「やあデレ……ああ、デレも今日は年増……」
応接間には既に人がいた。
ソファに座り、お茶を飲んでいる少女。
ツンやブーンと同じ年頃に見える。
彼女はデレ。
相談室の職員にしてツンの姉、同居人その1である。
デレは腰を上げると、食器が収まっている戸棚へ歩いていった。
ブーンにもお茶を入れてくれようとしたのだろう。
ブーンは赤いソファに腰掛け、デレに声をかけた。
( ^ω^)「お腹が空いたお」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、じゃあ、ご飯持ってこようか? ちょっと時間かかるけど」
( ^ω^)「ぜひ」
20
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:16:41 ID:.vVrH9Wk0
まじかすげえな支援
21
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:18:36 ID:ksyKNxfAO
ξ;-⊿-)ξ「図々しいったらないわね」
ツンに後ろから頭を叩かれた。
文句を言おうと振り返り、ふと気付く。
( ^ω^)「君達、今日はお揃いの服だね」
ξ゚ー゚)ξ「あ、分かった?
制服よ。『ニューソク』では、10代の子達が学校に行くときに着るんですって」
( ^ω^)「10代ねえ……君達、20代だろうがお」
ζ(゚ー゚*ζ「今日の体は10代だもの」
ツンとデレは、ピンク色の上着に赤いスカートという出で立ちだった。
東の国「ニューソク」からわざわざ取り寄せたのだという。
よく見れば、靴までお揃いだ。
【ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/125.jpg】
22
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:20:06 ID:ksyKNxfAO
ξ*゚⊿゚)ξ「色々種類があって、これはブレザー。
他にもセーラー服っていうのがあってね……次にまた10代の姿になったら着るわ」
( ^ω^)「今度は制服にハマったのかお。この間はドレスにハマっていたけれど」
ツン達から視線を外し、ブーンは室内をぐるりと見渡した。
こざっぱりした部屋だ。
応接用のソファ、テーブル、戸棚にティーセット。
隅の机にはツン達の写真がいくつか飾られている。
写っている彼女達の年齢はどれもばらばらだが、それらは全て、ごく最近撮られたものである。
向かいのソファにツンが座った。
デレがブーンとツンの前にティーカップを置いてから、部屋を出ていく。
( ^ω^)「で、何の用だお」
こうしてツンに呼び出されるのは、いつものことだ。
ブーンは定職に就いていないので「お悩み相談」の手伝いをちょくちょくやらされる。
23
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:21:29 ID:ksyKNxfAO
ξ゚⊿゚)ξ「そろそろ、お祭りがあるでしょ」
( ^ω^)「ラノベ祭?」
ξ゚⊿゚)ξ「それ」
ツンはどこからか取り出した地図をテーブルの上に広げた。
世界地図。
中央に大陸が一つ。
大陸の真ん中に巨大な森があり、それを囲むような形で4つの国が隣接している。
東の国は「ニューソク」、南が「ヴィップ」、
西は「ソウサク」。
そして、北の国には「シタラバニア」と記されていた。
シタラバニアは国境にまで森が食い込んでおり、
他の国に比べると、国土が非常に小さかった。
ツンが、西の国「ソウサク」を指差す。
今ブーン達が住んでいる国こそが、このソウサクだ。
24
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:23:16 ID:ksyKNxfAO
ξ゚⊿゚)ξ「今年のラノベ祭は、うちの国でやるじゃない」
( ^ω^)「そうだおね。国王様も張り切っていらっしゃる」
ラノベ祭とは、年に一度、ソウサク、ヴィップ、ニューソクの3ヵ国が合同で行う大きな祭である。
具体的な目的はなく、ただ国民同士で一緒に騒いで仲良くやりましょう、というものだ。
開催地となる国は毎年違う。
去年はヴィップ、一昨年はニューソク、その前はヴィップ、さらにその前はニューソク、そのまた前がソウサク。
ヴィップやニューソクに比べると、ソウサクで開かれる頻度は低い。
そのため、5年ぶりに主催に選ばれたということで、ソウサク全体が熱気に包まれていた。
ξ゚⊿゚)ξ「5年ぶりってことで、かなり力を入れると思うのよ。
来場者の数も前年より増える見込みだわ。
それはいいことなんだけど、ただ、そうなると──」
( ^ω^)「警備面での不安が生じる」
ξ゚⊿゚)ξ「その通り」
ツンはブレザーとやらのポケットから、一枚の紙を出した。
その紙に書かれたデータを読み上げる。
25
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:25:15 ID:.96CoTM.0
読みやすい
期待&支援
26
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:25:55 ID:ksyKNxfAO
ξ゚⊿゚)ξ「去年、ラノベ祭の最中に行方不明になったソウサク人は3人。一昨年は2人。一昨昨年も2人……。
──全員、『反時計症』を患ってたらしいわ。
十中八九、人攫いの仕業ね」
( ^ω^)「そりゃあ恐ろしい話で」
ξ゚⊿゚)ξ「このままだと、今年は更に被害者が増えると思うの。
反時計症の人間はかなり高値で取引されるからね、
今年の祭は、そういう輩にとってはチャンスだわ」
( ^ω^)「健康で可愛い女の子を買うってのは分かるけど……反時計症ねえ」
ξ゚⊿゚)ξ「他国の人間には珍しいのよ」
──反時計症。
この国特有の風土病のようなものだ。
国民の3分の1が患っていると聞く。
27
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:27:13 ID:ksyKNxfAO
簡単に言うなれば、「日によって年齢が変わってしまう」という症状である。
たとえば実年齢は20歳の人が、昨日は15歳の姿になり、今日は5歳になり、明日は10歳になるような。
実年齢より上の姿にはならない。
変わるのは体だけで、記憶などはそのまま。
まるで体の時間だけが巻き戻るかのよう。だから、反時計。
病気と言うよりかは、「そういう体質の人間がたまに生まれる」というのが大体の国民の認識であった。
( ^ω^)「じゃあツンも気を付けないと」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたもね」
何を隠そう、ブーンとツンも反時計症を患っている。
今日は互いに10代の姿になっているが、彼らの実年齢は25歳。
昨日の内藤は10歳かそこらだった。
先のデレは本当は27歳だし、ドクオは35歳だ。
それと──
川 ゚ -゚)「おいツン、お前ノーパンでブーンの相手してるのか」
──いきなり下着姿で部屋に飛び込んできた、この女だって、反時計症患者である。
28
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:29:02 ID:ksyKNxfAO
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ」
( ^ω^)「こんにちは、クー」
川 ゚ -゚)「やあ、ブーン」
青い下着を身につけ、左手でパンツを振り回している女。
クール。彼女の名前だが、ほとんどの者は「クー」と呼ぶ。
ツンの同居人その2。
【ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/111.jpg】
ブーンはクールをまじまじと眺めてから、ツンに顔を向けた。
( ^ω^)「僕が来るまで何してたんだお。何っていうか、ナニっていうか」
ξ;///)ξ「いやっ、クーが一緒にお風呂に入ろうって言ってきただけなの!!
私は朝にシャワー浴びたから入らないって言ったのに、クーが無理矢理脱がしてきてっ、」
川 ゚ -゚)「生憎、パンツを下ろしたところでブーンが来たんだよ。
君が来るといつもツンは私を放り出してしまう。悲しいな」
ぺしゃり、ツンの顔面にパンツが投げつけられる。
ツンは慌ててソファの裏に回り、ごそごそと、恐らくパンツを穿き直した。
ブーンには興味をそそられない光景なので、再びクールへ振り返る。
29
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:29:10 ID:AzUIyUiwO
面白い設定だな
支援
30
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:32:11 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「クー、今日は20歳くらいかお?」
川 ゚ -゚)「そうだな。実年齢と大差ない」
クールは20歳で、この「お悩み相談室」の中では最年少ということになる。
だが、誰よりも仕事は出来る。
以前、ブーンと一緒に迷い犬の捜索に駆り出されたときは逸早く犬の逃走先を特定したし、
そこで自殺しようとしていたドクオを発見し、助けた。
そのままドクオを職員として連れ帰ったほどの仕事ぶりである。
これで女好きでなければ、どこに出しても恥ずかしくない人間なのだが。
( ^ω^)「君達が10歳以下の姿でべたべたしてるのは、見てて楽しいんだけどね。
その姿だと非生産極まるお」
川 ゚ -゚)「小さい女の子にしか興味を持てない君には言われたくないな」
ξ;*///)ξ「とにかく!!」
( ^ω^)「あ、穿き終わったかお」
川 ゚ -゚)「穿き終わったな」
ξ;*///)ξ「来週のラノベ祭!! 私達も会場で不審者の出入りを監視することになったから、
あんたも手伝って!」
31
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:33:07 ID:ksyKNxfAO
ソファの背もたれを飛び越えたツンが、そのままソファの上に立ち、
ブーンへと手紙を突きつけた。
白地に銀糸の装飾。
国王直々に送られてくる手紙だ。
今どき手紙など滅多に見かけないが、
ツンが「まずは手紙をもらわないことには話を聞く気もしない」という妙なポリシーを持っているので仕方がない。
( ^ω^)「お金は?」
ξ;*゚⊿゚)ξ「は、払うわよ。規模が規模だからね、上からの報酬もかなりのものよ」
ならば断る理由はない。
ブーンは満足げに笑って、頷いた。
# # #
32
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:35:27 ID:zCzOsaNA0
>全部の絵を使うつもり
な、なんだってー!
33
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:36:16 ID:ksyKNxfAO
ミセ*゚ー゚)リ 〜♪
ミセリは、絵の具のチューブを手に取った。
赤い絵の具をパレットに乗せて、筆で水を含ませる。
絵描きをやっているだけあって、その動きは流れるようだった。
【ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/37.jpg】
ミセ*゚ー゚)リ「もうちょっとかなあ」
完成間近の絵を見下ろし、微笑む。
まだまだ描きたい絵はたくさんある。早く次の絵にも取り掛かりたい。
──今年のラノベ祭のテーマは「絵」。
世界中の画家達に、多くの仕事が与えられている。
ミセリもその一人であった。
ミセ*^ー^)リ「ふふ……みんな、見てくれるかな」
# # #
34
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:38:25 ID:ksyKNxfAO
熱で、ぼうっとしていた。
普段からぼうっとしてはいるのだが、その日は特別ふわふわしていた。
川 ゚ 々゚)「んーんーふ……」
祭までには治るだろうか。
こんなタイミングで風邪を引くなんて、ついてない。
せっかく今年の祭にはミセリの絵が出展されるのに。
額に貼ったシートに触れる。
ニューソク国から買った、解熱効果のある「薬」だそうだ。
貼ったばかりはひんやりして気持ち良かったが、もう、ぬるくなってしまった。
しかし、貼り替えるためだけに母や召し使いを呼び付けるのは面倒臭い。
握ったままのクレヨンを床に擦り付ける。
将来は画家になりたい。
ミセリという画家のように、綺麗な絵を描きたい。
ミセリの絵は、赤色が綺麗なのだ。
たとえば彼女が描く、夕焼けの絵。
目の前に出されて、何の色が使われているかと問われれば、「赤色」と一言で答えられる。
それでもその実、彼女の絵には何色もの「赤色」がある。
複雑なものが単純な美しさを生み出す奇跡。
その色が、目を、心を引き付けて止まない。
35
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:39:32 ID:ksyKNxfAO
川*゚ 々゚)「ふふふー」
どうしてあんなに綺麗なのか、ずっと考えていた。
最近、やっと気付いた。
彼女の赤は、血に似ている。
川*^ 々^)
赤いクレヨンを転がす。
壁にぶら下げている人形達の中から目についたものを取り、
ぐしゃぐしゃに塗りたくられた赤色の上に、人形を置いた。
さらに人形に電車の模型を乗せる。
川 ゚ 々゚)「……ちがうなあ」
ああ、駄目だ。
これは、ただの赤色だ。
血の色ではない。
後ろの本棚に向き直る。
ここに収まっている本には、血が映った写真や絵がたくさん載っている。
参考にして描き直そう。
36
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:41:44 ID:ksyKNxfAO
川 ゚ 々゚)「……?」
ふと。
一番下の真ん中に、黒い本を見付けた。
『呪い』と『愛とは』の本に挟まれているそれには、タイトルがない。
買ってもらった覚えのない本だ。
具合を悪くしている自分のために、父か誰かが買ってきて、こっそり置いていってくれたのだろうか。
本を抜き取り、そっと開く。
すると、もやもや、黒い影のようなものがページの中から現れた。
それは徐々に人の形になって、
【+ 】ゞ゚)「──こんにちは、風邪引きのお嬢さん」
川 ゚ 々゚)「ふあ」
【+ 】ゞ゚)「お名前は?」
37
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:42:24 ID:ksyKNxfAO
──熱で、ぼうっとしていた。
普段からぼうっとしてはいるのだが、その日は特別ふわふわしていた。
だから、笑って、答えた。
川*^ 々^)「くるう」
【ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/168.jpg】
ソウサク国の王家が住まう屋敷の、子供部屋でのことだった。
# # #
38
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:44:59 ID:ksyKNxfAO
死ねばいい。
自分など死ねばいい。
死ね、死ね。
( ^ν^)「……はあ」
やっぱり死にたくない。
ニュッはぐったりと机に伏せて、溜め息をついた。
世界地図で言えば東、「料理の国」ニューソク。
国内の首都郊外にある安普請のアパートに、彼は住んでいた。
( ^ν^)「だりい」
誰へ向けるでもなく呟く。
参った。
たしかに金が欲しいとは言った。
言ったが──
( ^ν^)(……誘拐ってなあ)
まさか、誘拐に加担する羽目になろうとは。
39
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:48:33 ID:ksyKNxfAO
ニュッは机上の紙に手を伸ばした。
ずりずり、眼前へと引き寄せる。
今回の計画のメモ。うんざりしながら、改めて読み直す。
実行は一週間後。
場所はソウサク国。
ニューソクとは正反対の、西に位置する国だ。
誘拐の対象は反時計症のソウサク国民。
目的は──言うまでもなく、「売買」である。
ソウサクの人間だけが発症する反時計症。
感染はしない。
日によって外見年齢が変化することさえ除けば、普通と変わらぬ健康体。
つまり、「飼う」上で危惧すべき問題はない。
反時計症の人間が他国に移住すると
土地の問題か何なのか、平均して5年ほどで死んでしまうらしいが──
まあ、結局、飼い主側には危険なことはないわけで。
40
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:50:02 ID:ksyKNxfAO
( ^ν^)(寿命が縮むおかげで買い替えのサイクルが早いし。
祭や仕事以外でソウサク民が他国に来ることは稀で、滞在も殆どしない。
それゆえに国民自体の物珍しさから、需要も高い……)
( ^ν^)(上手くいけば、かなりの大金が手に入る)
とは、言っても。
やっぱり躊躇う。
ニュッは口も性格も悪いが、悪事に手を染めたことはない。
度胸がないからだ。
(;^ν^)「……ううっ、くそっ」
メモを握り潰し、ごみ箱に放り投げた。
真面目に働いていれば良かった。
そうすれば、生活に困って誘拐を企てるようなこともなかったのに。
いっそ死ねば良かった。
いや、やっぱり。それはちょっと。嫌だ。
ニュッは頭を抱え、無意味に唸り声をあげた。
# # #
41
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:52:11 ID:ksyKNxfAO
(#´_ゝ`)「だーかーら! 今年は魔法だ、魔法をテーマにするぞ!」
∬#´_ゝ`)「馬ッ鹿、そんなもんテーマにしたらブーイングの嵐になるわよ!
アクションにしなさい! 前に格闘技をテーマにしたときが一番盛り上がったでしょう!?」
ソウサク国の、ある家の中。
テーブルを挟んで向かい合い、口角泡を飛ばす男女が2人。
男は兄者、女は姉者。姉弟である。
共に20代半ばをとうに越えているが、兄者の方は反時計症により、いくらか若返っている。
彼らが何を言い合っているのかというと、
今度の祭で披露する出し物について。
42
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:53:26 ID:UGQr2aY60
支援じゃわっしょい
43
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:53:45 ID:ksyKNxfAO
(´<_` )「落ち着け2人共。白熱するのはいいが、議論が全然進んでないぞ」
l从・∀・ノ!リ人「うるさいうるさいなのじゃ。ねー、末者」
(´<_` )「うるさいのりゃー」
兄者の隣の席、冷めた目で2人を宥める少年、弟者。
兄者より10歳近くも若いのだが、前述の通り兄者が若返っているので、今は双子のように見える。
その対面で耳を塞ぐような素振りをした少女は、妹者という名前だ。
それに賛同した3歳ほどの子供は末者。妹者の膝の上に座っている。
妹者も末者も反時計症患者だが、元から幼いため、実年齢との差は少ない。
(#´_ゝ`)「俺は話し合いを進めたいんだがな。如何せん姉者が話を聞いてくれない」
∬#´_ゝ`)「それはこっちの台詞よ! 大体、」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「──あんたたちね、祭まであと一週間なんだよ」
さらに言い合いを続けようとした2人は、どっしりと威厳に溢れた声を聞き、口を噤んだ。
恐々、少し離れた場所に座っている大柄な女性を見遣る。
母者。5人の母親。
茶を飲みつつ、彼女は兄者と姉者を睨みつけた。
44
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:56:21 ID:vwaIg/TI0
wktk
45
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 19:56:22 ID:ksyKNxfAO
@@@
@#_、_@
( ノ`)「私にはセンスってものがない。
だから我ら流石一座の企画や構成は、毎回あんたらに頼ってばかりだ」
(;´_ゝ`)「ま……まあ、そうだけど……」
∬;´_ゝ`)「それは適材適所で……」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「母親として情けないのは分かってるが、それでも、
毎回毎回あんた達が素晴らしい台本を作ってくれる度に、任せて良かったと思えるんだよ」
(;´_ゝ`)「……あ、」
∬;´_ゝ`)「ありがとうございます……」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「今回も期待してるからね。
台本が間に合わず断念、なんてのは勘弁しとくれよ」
その言葉を最後に、母者は口を閉じた。
兄者と姉者は顔を見合わせ、ばつが悪そうに視線を逸らす。
直後、それまで黙っていた中年の男性が苦笑いしながら両手を胸の前で揺らした。
母者の夫であり兄者達の父親、父者だ。
46
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:01:32 ID:ksyKNxfAO
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「とりあえず、2人のやりたいことを順番に話してみてよ。
時間もないしさ」
──彼ら7人は「流石一座」のメンバーである。
芝居や演芸など、一家での興行活動を生業としている。
兄者や妹者達が反時計症を発症する2年前までは、
不定期に各国を巡って公演を行っていた。
滞在期間が一番長かったのは、ニューソクでの丸一年だったか。
今は兄者達の体を考えて本拠地をソウサクに固めているが、
世界的に根強い人気があるため、たまに他国へ数日ほど出張することもある。
医者いわく、他国に一年以上滞在するのでない限り、特に差し障りはないそうだ。
なので開催国がどこであれ、ラノベ祭での公演依頼を断った年はない。
今年も御多分に漏れず。
47
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:03:54 ID:ksyKNxfAO
大変名誉なことであるのは、皆、充分に分かっている。
分かっているが──今年は、祭を一週間後に控えた現在になっても、
未だ演目が決まってすらいなかった。
今年の祭のテーマが「絵」なのでメインはそれで決定したが、
サブテーマに関して、兄者と姉者の意見が対立しているのだ。
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「はい、まず、姉者の案は?」
∬´_ゝ`)「私は、武器を持った演舞がいいわ。
巨大なキャンバスの前に、色付きの水が入った風船をたくさん置くの。
それで、私達がアクションを交えながら風船を割っていって──」
l从・∀・*ノ!リ人「最後に絵が完成するのじゃな! 格好いいのじゃ、妹者それがいい!」
∬*´_ゝ`)「でしょう? 風船の配置や水の量を調節して、
後は割り方や順番さえ気を付ければ上手くいく筈よ」
48
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:05:09 ID:ksyKNxfAO
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「なるほど……。次、兄者はどんな演目にしたい?」
( ´_ゝ`)「俺は魔法をテーマにしたい。
知ってるか? 魔法使いってな、ほうきで空を飛べるんだ。
こう、ほうきに跨がるらしい」
(*´_ゝ`)「それを真似て、俺らもほうきに跨がって空を飛ぼう!
ほうきって筆に似てるよな?
ほうきの先に絵の具を付けて、でっかいキャンバスに絵を描いていくんだ!」
(*´_ゝ`)「父者は舞台に立ったまま魔法の本を持って、
あたかも俺達を自在に操縦しているかのように舞う!
そうだ、へんてこな生き物のぬいぐるみを作って、それも動かそうじゃないか!」
(´<_` )「ぬいぐるみを動かすのはヴィップの技術を借りれば何とかなるが、
どうやって空を飛ぶんだ?」
(*´_ゝ`)「そりゃ、末者の力を使って」
兄者が嬉々とした顔で末者を見る。
末者は「たぶん出来る」と頷いた。
流石一座の面々が持つ身体能力の高さは、生半可なものではない。
しかし末者に限っては、どこか逸脱していた。
49
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:06:51 ID:ksyKNxfAO
手を触れることなく物を浮遊させたり、自身も浮かぶことが出来たり。
それは魔法に似ていて、しかし魔法とは違う。
魔法使いはゼロの状態から物を生み出すことが出来るが、
末者は既に存在しているものにしか干渉出来ない。
そういう、魔法に似て非なる力を、南のヴィップ国は「超能力」と呼んでいる。
末者のように超能力を持つ者は、極々稀に生まれてくるらしい。
科学の国ヴィップの研究で、超能力は遺伝子の突然変異が原因の──
一種の、「身体障害」だと判明している。
世の中の超能力者の大多数は、自分の力を隠したがる。
魔法に似ているということで、世間からは侮蔑の対象とされているからだ。
人買いすら、超能力者を扱うのを嫌がる。
流石一座も末者の力を世間に隠してはいるが、しかしその実、舞台では大いに活用していた。
からくりも無しに物を自由に動かせるなんて、彼らのような職業には打って付けだ。金もかからないし。
末者も、幼さゆえに舞台に上がれない分、裏から完璧なサポートを見せてくれる。
50
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:08:04 ID:ksyKNxfAO
(*´_ゝ`)「これなら成功する!」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「うーん……。……うん、とりあえず今の段階で票を取ろう。
姉者の案がいい人ー」
∬´_ゝ`)「はーい」
l从・∀・*ノ!リ人「はい!」
@@@
@#_、_@
( ノ`)∩ スッ
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「兄者の案の方がいい人」
(*´_ゝ`)「はいはい」
(´<_` )「はい」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)∩「……男女で分かれたね」
【ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/27.jpg】
51
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:10:05 ID:ksyKNxfAO
l从・ε・ノ!リ人「ぶーぶーぶー。末者はー?」
(´<_` )「どっちも楽しそうなのりゃ……」
(*´_ゝ`)「おお……前までは俺の意見など一刀両断していた末者が!」
(´<_` )「前は完全に末者にナメられてたよな、兄者。
今も多少ナメられてるが」
末者は頭がいいので、赤ん坊の時分に家族のランク付けを(正確に)行った結果、
最下位になった兄者を馬鹿にする傾向があった。今はちゃんと仲良くやっている。
ちなみにランク1位は当然のごとく母者だった。
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「多数決は無理か……。
魔法、いいと思うんだけどなあ」
∬´_ゝ`)「……そりゃ、私だって面白そうだとは思うわよ」
ぽつりと呟いた姉者。
皆、意外そうな目を向けた。
先程まで兄者の案を真っ向から否定していたのだから、無理もあるまい。
姉者は、兄者の後ろの壁に貼ってある大きな世界地図を見た。
これまで公演を行ってきた土地に印がついている。
その中で、北の国シタラバニアにだけ、一つも印がない。
52
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:11:12 ID:ksyKNxfAO
∬´_ゝ`)「でも『魔法』って、この世のタブーなのよ。
魔法使いなんて世界中の嫌われ者だわ。
そんなものをテーマにしたら、どうなるか分からないじゃない」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「……祭を台無しにしかねないしねえ」
∬;´_ゝ`)「そう! そうなのよ!
5年ぶりにソウサクで祭が行われるからみんな張り切ってるっていうのに、
それを台無しにしてしまったら、私達、国民に顔向け出来ないわ」
( ´_ゝ`)「敢えてタブーに触れることも、ときには必要じゃないか、姉者」
∬;´_ゝ`)「それを、このラノベ祭っていう大きな舞台で実行する必要はどこにあるのよ!」
(#´_ゝ`)「姉者は慎重すぎる! 有無を言わさぬ演出で盛り上げれば──」
(´<_` )「また口喧嘩に逆戻りか」
l从-∀-ノ!リ人「話が進まないのう……」
(´<_` )「進まないのー」
父者は額に手を押し当て、深々と溜め息をついた。
# # #
53
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:12:36 ID:ksyKNxfAO
川 ゚ -゚)「今年もシタラバニアは祭に参加出来ないか」
夕方。「ツンちゃんのお悩み相談室」のリビング。
キッチンを向く形で設置されたカウンターテーブルの前で、
椅子に座っているクールが、新聞を眺めながら呟いた。
紙面は間近に迫るラノベ祭一色だ。
ζ(゚ー゚*ζ「そりゃ、『魔法の国』はねえ。
みんな嫌がっちゃうし」
隣で、デレが答えた。
彼女の手には例の、がらくたで出来た「歯車王」があった。
54
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:13:47 ID:ksyKNxfAO
ζ(゚ー゚*ζ「あ、ドクオさん、オレンジジュースください」
('A`)「俺は雑用かよ」
川 ゚ -゚)「私も飲みたいな」
(*'∀`)「かしこまりましたー!!」
ζ(゚、゚;ζ「扱いが違う!」
('A`)「お前は敵だ。いつもクー様といちゃいちゃしやがって」
ζ(゚、゚;ζ「いちゃいちゃしてないですよクーちゃんが勝手にくっ付いてくるだけですよ」
すぐ目の前で夕食を作っていたドクオは火を一旦止めて、
手早く2人分のオレンジジュースを用意し、カウンターの上に置いた。
料理を再開させる。
ツンがニューソクから制服を取り寄せたついでに購入したという、ニューソク鶏のソテー。
ニューソク産の胡椒が肉の香ばしさを後押しし、焼ける音はじゅわじゅわと心地いい。
さすが「料理の国」ご自慢の食材。
こんな風に、キッチンで炊事をする者と対面しながら会話が出来るのは、悪くない。
参考になるし、漂う香りが食欲を刺激する。
55
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:16:26 ID:ksyKNxfAO
川 ゚ -゚)「手伝おうか」
(*'∀`)「いやっ! どうぞクー様はお座りになって!」
ζ(゚ー゚*ζ「ねえねえドクオさん、この歯車王って、何か出来ないんですか? 勝手に歩いたりとか」
('A`)「あ? まあ、物さえ揃えば何でも出来るようになるな。
後で適当な部品ぶち込むつもりだが」
川 ゚ -゚)「ほう。ドクオは本当に器用だな。
さすが、ヴィップのロボット会社に引き抜かれそうになっただけある」
(*'∀`)「クー様! ありがたきお言葉!!」
元々、ドクオは機械を扱う会社に勤めていたそうだ。
主にロボット関係の製造に携わっており、その腕は誰からも認められていたらしい。
やがて機械産業のメッカ、「機械の国」ヴィップの巨大会社から引き抜きの声が掛かった。
このままエリート街道へ乗るかと思われたが──間の悪いことに、
彼は反時計症を発症してしまった。
反時計症の人間は他国の会社になど勤められない。文字通り命取りとなるのだから。
また、幼くなればなるほど、大きな工具を満足に扱えなくなる。
打たれ弱いドクオは、転落する一方だった。
56
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:18:14 ID:ksyKNxfAO
そして自殺しようとしたところを、たまたま居合わせたクールが助けたというわけだ。
以来、気持ち悪いくらい懐かれている。
ドクオは下の階に住んでいるのだが、クールのためとさえ言えば
料理も掃除もしてくれるので、まあ便利と言えなくもない。
川 ゚ -゚)「ツン達はまだ話してるのか」
ζ(゚ー゚*ζ「そうみたいだね」
クールは応接間のある方向へ視線を投げた。
ブーンとツンは、祭における警備の配置や持ち回りの話し合いをしている。
新聞を畳み、クールは腰を上げた。
ジュースを一気に飲み干して、空いたグラスをドクオに手渡す。
そのまま、ベランダへ出た。
57
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:20:30 ID:ksyKNxfAO
川 ゚ -゚)「……真っ赤だ」
夕焼け。
空が赤い。
クールは、この時間帯にベランダから街を見下ろすのが好きだ。
文具店や飲食店の看板、デパートの宣伝バルーン、商店街の入口。
たくさんの人々が行き来している。
「呑み所」だの「らぁめん」だのと書かれた看板達は、ニューソクの流れを汲んだ店のもの。
商店街やデパートといった形態は、ヴィップ独自のもの。
ソウサクには他国の文化が多く存在している。
そんな街の中で最も人々の目を引くのは、ソウサクの象徴とも言える時計塔だった。
【ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/108.jpg】
科学技術の最先端を行くヴィップでは数字だけが表示される型(デジタルと呼ばれているる)の時計が主流だそうだが、
ここ、ソウサクが誇る時計の技術は、ヴィップに引けを取らない。
ニューソクではソウサクが作る時計の方が人気だと聞く。
ただ数字を見るだけより、一秒一秒、時を刻む針の趣を楽しもうということだろうか。
58
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:23:02 ID:ksyKNxfAO
川 ゚ -゚)(いつ見ても壮観だな)
時計の下には、大きな扉がある。
あの中には時計を動かすための仕掛けや、
国民の暮らしに必要な装置が詰め込まれている。
一般人が入れることは、滅多にない。
川 ゚ -゚)(……綺麗だ)
夕日の色に染まる時計。
秒針の動きにつれて、だんだん暗くなっていくようで。
クールは、口元を緩めた。
# # #
59
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:24:48 ID:AIUivWPc0
腹減る…
60
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:25:56 ID:ksyKNxfAO
ξ゚⊿゚)ξ「あと、祭の前日に、あの時計塔の飾り付けを手伝わなきゃいけないから」
( ^ω^)「えー。マジかお」
ξ゚⊿゚)ξ「マジ」
応接間。
警備の話も終わったのでさて帰ろうかというときに、とても嫌なことを聞いてしまった。
( ^ω^)「手作業で? ヴィップのロボットにでもやらせればいいじゃないかお」
ξ゚⊿゚)ξ「あんまりヴィップに頼りすぎると、主催国としての面目が立たないでしょ」
( ^ω^)「警備の段階でヴィップやニューソクに頼りまくりのくせに」
ξ;゚⊿゚)ξ「私に文句言わないでよ」
あんな巨大なものを、手作業で飾り付けねばならないとは。
梯子を登って、重たい布や花を貼りつけることになるだろう。
面倒臭い。
考えるだけで、とんでもない労力だ。
61
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:28:06 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「魔法が使えたらどんなに便利だろうかお……。
それなら材料費もかからないし……」
思わず呟いていた。
ツンが顔を顰める。
ξ゚⊿゚)ξ「それ、外に出て大声で言ってごらんなさいよ。
たちまち石を投げられるわよ」
( ^ω^)「分かってるお、ただ言っただけじゃないかお。ちょっとした思い付き」
ξ゚⊿゚)ξ「思い付きでも、滅多なこと言うもんじゃないわ」
62
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:28:52 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「……でもねツン、僕は、たまにシタラバニアの人が可哀想になるんだお。
いくら魔法使いが恐ろしいとはいえ、祭にも参加させてもらえないなんて」
ツンは呆れ顔だ。
ブーンだって、自分の発言が愚かなことは分かっている。
シタラバニア。
魔法の国。
魔法使いが住む国。
世界中から嫌われている国。
.
63
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:32:24 ID:ksyKNxfAO
大昔はどの国も仲が良かったらしい。
いや、仲がいいというか、互いに認め合っていた。
しかしヴィップの技術をもってしても、「魔法」というものが解明されることはなく。
そのせいで、シタラバニア以外の国民は徐々に、シタラバニアを恐れるようになった。
誰だって、自分の理解が及ばないものへは恐怖と嫌悪を抱く。
それに、魔法が使えれば、ソウサクの時計もヴィップの機械もニューソクの料理も、
人間さえも、どうにだって出来るのだ。あまりにも恐ろしい。
だからソウサクとヴィップ、ニューソクの三国は、シタラバニアとの交流を絶ったのだという。
現在、シタラバニアの周りには高い壁が置かれている。
魔法の力を通さない、特殊な鉱物で出来ているそうだ。
今もなお没交渉は続いている。
その環境がますます、人々の中のシタラバニアに対する感情を煽っているのだろうとは思う。
思うが、ブーン1人がどうこう出来る問題でもないし、どうこうするつもりはない。
ξ゚⊿゚)ξ「国王様に直訴する?」
( ^ω^)「まさか」
ブーンは肩を竦めてみせた。
そんなことを直訴するより、時計塔の飾り付けの辞退を申し出たい。
# # #
64
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:33:22 ID:TQ7dum1oO
お題300の次は挿絵201か……もちろん支援だ
65
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:33:34 ID:ksyKNxfAO
そうして迎えた一週間後。
正午を知らせる鐘の音と共に、ラノベ祭が開催された。
.
66
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:34:21 ID:AzUIyUiwO
始まったか……
67
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:38:44 ID:ksyKNxfAO
『──これより7日間に渡りますお祭りを、皆々様、どうぞ心ゆくまで──』
アナウンスが日程を繰り返す。
1日目は正午から夜9時まで。
2日目から6日目までは朝10時から夜9時、最終日は朝10時から日付が変わるまで。
それを聞きながら、ブーンは感嘆の息をついた。
( ^ω^)「すごいお、人ばっかり」
('A`)「そりゃあな」
ブーンとドクオは時計塔の中にいた。
四方も頭上も馬鹿みたいに広い。
祭の期間中、警備本部はここに置かれるらしい。
中心に並べられた数十台にも及ぶモニターには、祭の会場や路地に至るまで、
監視カメラの映像が隈無く表示されている。
会場を映すモニターのどれもが、人の姿でいっぱいだった。
あらゆるところで出し物が披露され、屋台には列が出来ていて、実に賑々しい。
「警備」は、何もブーン達のように外を見回ることだけを指すのではない。
これらの映像を確認する者達だって、立派な警備員の1人だ。
68
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:40:53 ID:ksyKNxfAO
(,,゚Д゚)「カメラは、追跡も可能だ」
モニターの前で男が口を開いた。
彼はヴィップの人間で、ギコ、というのだったか。
このモニターやカメラもヴィップから持ち込まれたものである。
ギコはとあるモニターを指差すと、そこに映る1人の女性に指先で触れた。
続けて手元の、よく分からないボタンが大量に付いた装置を操作する。
途端、映像が揺れた。
女性が歩いているにも関わらず、モニターは一定の距離を保ったまま彼女を映し続けている。
( ^ω^)「おー」
('A`)「カメラが自動で対象を追ってるわけか。飛行距離は?」
(,,゚Д゚)「この国内であれば、どこまででも。バッテリーは3日程度だがな。
で、ここにある赤いボタンを押せば、持ち場に戻る」
( ^ω^)「とにかく不審者を見付けたら、追跡させりゃいいんですかお」
(,,゚Д゚)「ああ……とはいえ、あちこちにカメラが設置されてるからな。
死角に入りそうなときだけ追跡させればいいんだ。
そうでないときは、対象をモニター越しにタッチするだけで充分。後は各カメラで監視してくれる」
69
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:42:29 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「ははあ。でも、こんだけのモニターから不審者を見付けるのも大変でしょうお」
(‘_L’)「勿論、全て自分で見付けろというわけじゃない」
今度は、ギコの隣に座っていた男が答えた。
フィレンクト。ギコの上司で、彼もまたヴィップ人だ。
(‘_L’)「これらは、映っている人間の表情や口の動き、動作等から状況を選定し、
揉め事や犯罪行為が起きている可能性があれば、近くにいる警備員と警備ロボットに信号を送ってくれる」
(‘_L’)「私達は、機械には無い、人間の『勘』で仕事をすればいい」
('A`)「勘ねえ」
食い入るようにモニターを見つめていたせいで、目が痛む。
親指と人差し指で目頭を押しながら、ブーンは頭上を見た。
機械やコードで埋め尽くされた壁。
そこに取り付けられた梯子。一定の高さごとに、壁に添うように設置された、幅の狭い足場。
途中から梯子は消え、これまた壁に添う形で階段がある。
きっと一番上の時計にまで通じているのだろうが
到達点が見えないほど高い。
その中央にぶら下がる振り子が、左右に揺れている。
あれが落ちてきたらモニターも自分達も潰されるだろうな、と不穏なことを思う。
70
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:43:31 ID:ksyKNxfAO
('A`)「ブーン、そろそろ行くぞ」
( ^ω^)「んあ、分かったお。それじゃあ皆さん、また後で」
近くにいたソウサク人とニューソク人にも声をかけてから、
2人は外の警備のために時計塔を出た。
.
71
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:45:04 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「モニターで見たのも凄かったけど、現場は更に人の山だおねー」
喧噪の中を歩き、伸びをしながら言った。
ふうと息をついて、自身の両手を見る。
今日は実年齢の25歳──本来の姿だ。誤差があるとしても1歳程度。
最後にこれくらいの年齢になったのは10日前だから、随分と懐かしい心持ちになる。
('A`)「みんな笑ってやがる。
こんな中で悪いことする奴もいるのが現実なんだよな……」
対してドクオの方は、ブーンよりもいくらか若い。
実年齢で言えばブーンの方が年下なので、何だかあべこべだ。
('A`)「っつうか、みんな祭を楽しんでる中で、俺は警備の仕事……不公平だ……鬱だ……」
( ^ω^)「あー、もしもしー」
ブーンは襟元に締めたネクタイ(ニューソク発祥だと聞く)に付いたタイピンを口の傍まで持ち上げた。
ヴィップから支給された、警備用の小型通信機である。
裏のボタンで番号を指定すれば、対象の通信機に声が届くようになっている。
72
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:46:01 ID:AV3YAVpA0
見てるぞ支援
73
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:46:02 ID:ksyKNxfAO
『何よ、仕事サボってないでしょうね』
右耳のイヤホンからツンの声がした。
ノイズも無く、快適。
( ^ω^)「やあツンちゃん。
ドクオが鬱陶しいから、クーからドクオに無線飛ばすように言ってくれお」
『クーに直接言いなさいよ』
( ^ω^)「ツンの声が聞きたくなったから」
『……どうせ、私の番号とクーの番号打ち間違えたんでしょ』
( ^ω^)「バレた」
『下らないことやってないで、ちゃんと見回りしてよね。
あんたのせいで私の信用落とすようなことがあったら、報酬は出さないわよ』
通信が切れる。
ブーンがタイピンを元の位置に戻すと同時に、ドクオが歓喜の声をあげた。
(*'∀`)「はい! はいクー様! クー様のために頑張ります!!」
( ^ω^)(何て単純な人間なんだろう……)
恐らくクールから何か通信が入ったのだろう。
たちまち機嫌を良くしたドクオは、しゃきっと背筋を伸ばし、足取りを軽くさせた。
74
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:48:19 ID:ksyKNxfAO
(*'∀`)「さあ見回り見回りィ! 頑張るぞ! オー!!」
( ^ω^)「おー」
広場を離れ、南の通りを行く。
こちらは、出し物の中でも比較的小規模なものが集まっている。
それでもやはり人は多い。
人込みに酔いそうになって、ブーンは視線を上へと滑らせた。
建物の屋上同士で繋いだロープに下げられた、有名画家達の巨大な絵。
今回の祭のためだけに描かれた絵は、それぞれに違った趣がある。
('A`)「いやはや、時計の国っていうか、芸術の国と言ってもいいかもしれないな、ソウサクは。
有名な画家はソウサク出身が多いとも聞くし」
( ^ω^)「お」
ブーンの視線の先に気付いたらしいドクオが、不意にそう言った。
ブーンは首を傾げる。
75
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:49:15 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「でもヴィップが作る機械のデザインやフォルムだって芸術的だし、
ニューソクの料理だって見た目にこだわったものは凄く綺麗だお」
('A`)「……ま、それもそうだが」
( ^ω^)「この間ドクオが作ってた歯車王は芸術性の欠片もなかったけど」
(#'A`)「ああん? 言ったな? あのなあ、歯車王はデザインより機能性を重視して──」
ドクオの反論は、前方からの歓声に掻き消された。
そちらを見てみれば、かなりの人集りが出来ている。
( ^ω^)「何だお?」
('A`)「あそこはヴィップの……たしか、ユトリ社のブースだったな」
( ^ω^)「ゲーム会社かお」
なるほど、大人だけでなく子供の見物人も多い。
2人は警備の仕事より好奇心を優先させた。
人込みを掻き分け、ようやく前列へと出る。
76
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:50:47 ID:ksyKNxfAO
中心には1人の男が立っていた。
左腕に、妙な装甲をつけている。
(;'A`)「ジョルジュか? 何だよあれ」
見覚えのある男だった。
ジョルジュという、ブーン達の知り合いである。
ただ──彼は、傷だらけでそこに立っていた。
【ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/116.png】
_
(;゚∀゚)「ぐっ……」
ジョルジュの前には、プロジェクターで映し出されたゲーム画面のようなものがあった。
画面の中には廃村らしき映像。
どうやらプレイヤー視点のようだ。
突然、廃墟の陰からモンスターが飛び出した。
ジョルジュの反応が遅れ、モンスターは画面に迫る。
モンスターが噛みつくような動きを見せた途端、ジョルジュの右腕の皮膚が裂け、血が吹き出した。
77
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:52:52 ID:ksyKNxfAO
_
(; ∀ )「ぐああっ!!」
( ^ω^)「うわ」
(;'A`)「おいおいおい、ブースの管理者はどこだ!?」
ドクオが辺りを見回している内に、ジョルジュは体勢を立て直して左手を振りかぶった。
装甲に付いている目玉が赤く染まり、がちゃりと音を鳴らす。
_
(#゚∀゚)「うおおおお!! 喰らえぇえええええ!!」
咆哮。
ジョルジュの左手が宙を殴り、画面のモンスターが吹っ飛んだ。
数秒おいて、画面が緑色になる。
そこに次々とタイムやヒット数などのスコアが表示された。
「ランクA」。
最後にその文字が出るや、再び歓声が上がる。
途端、ジョルジュの体から傷が消え失せた。
彼のもとへ駆け寄った女性が装甲を外し、
ジョルジュが両手を上げると、観客は一層沸いた。
78
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:54:03 ID:ksyKNxfAO
女性が右手に装甲、左手にマイクを持って口を開く。
从 ゚∀从「──と、このように、新作ゲームでは更なる臨場感を楽しんでいただくために
完全体感システムを搭載しており──」
_
( ゚∀゚)「あーあ、Sランクは出なかったか。……ん、何だ、ブーンとドクオじゃねえの」
(;'A`)「よ、よう」
観客の方へと歩いてきたジョルジュは、2人に気付くと、へらへら笑いながら声をかけてきた。
今のは一体何なのかというブーンの問いに、ジョルジュが楽しげに答える。
_
(*゚∀゚)「ユトリ社の新作。敵に攻撃されると、実際に血が出るんだ。ホログラムだけどな。
おまけに負傷した箇所が、ぴりっと痺れる。少しだけだから痛くない。
面白いぞ。デモプレイさせてもらえるし、お前らもやってみろよ」
('A`)「へえ。そりゃすげえ。でも生憎、仕事中なんだ」
_
( ゚∀゚)「仕事? ……ああ、そっか、警備手伝わされてんだっけか」
( ^ω^)「だお」
79
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:55:03 ID:ksyKNxfAO
_
( ゚∀゚)「何か武器とか持たされてねえの? いざってときは射殺OK! みたいな」
(;'A`)「本職の奴らは持ってるだろうが、俺らは無理だ」
_
( ゚∀゚)「ふうん。銃とかレーザーってゲームでしか持ったことねえから、興味あったんだけどな」
まあ頑張れよ。
そう言って、ジョルジュはブースを離れていった。
('A`)「……あいつは本当にゲーム好きだな」
( ^ω^)「ちょっと物騒なゲームばっかだけど」
向こうでジョルジュがくしゃみをする。
2人は互いを見交わし、苦笑した。
# # #
80
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:57:24 ID:ksyKNxfAO
『ブーン、時計塔前の広場に移動して。私達が南通りに行くから。
広場の東通り近く、お願いね』
( ^ω^)「はいはいおー」
3時間ほど経った頃、ツンの指示が入った。
本部に連絡してから、通りを抜け、広場へ移動する。
広場は一層賑やかだ。
東と北の通りから、料理の香りが漂ってくる。
今年も屋台の人気投票をやるならば、例年通り、ニューソクが1位を持っていくだろう。
('A`)「最終日はここで流石一座の公演がある。
多分、来客はその日が一番多いだろうな」
( ^ω^)「流石一座! 去年は凄かったおねえ」
昨年、ヴィップで行われたラノベ祭の締めを飾った、流石一座の公演を思い出す。
舞台がヴィップということもあり、からくりをふんだんに利用した豪華な演目だった。
81
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:57:29 ID:vfswNC6A0
支援!
応援してる!
82
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:58:46 ID:AIUivWPc0
エンタメ感が楽しい
支援支援ー
83
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 20:59:06 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「サーカスに売られた姉妹がスターにのし上がってく、ミュージカル仕立てのドラマで」
(*'A`)「団長役の兄者達の演技が小憎たらしいったらなかったな。
そんで、また、姉者さんの綺麗なこと綺麗なこと。姉者さんのファンなんだよ俺。
まあクー様には敵わんが」
(*^ω^)「僕は妹者ちゃん派だお。
あのときはツンとデレも脇役として出演したけど、反時計症の影響で2人共小さくて可愛くて!!
ありゃ堪んねえお本当ずっと小さければいいのに」
【ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/83.jpg】
(*'A`)「流石一座の映像ディスク、去年の公演のが一番売れたそうだ」
(*^ω^)「そりゃ、あんだけ可愛い女の子が出てりゃ──」
(´・ω・`)「あれ、ブーン達じゃないか」
(*^ω^)「──お」
後ろから掛けられた声に振り向けば、そこには友人が立っていた。
時計塔の近くにある居酒屋、「呑み所 庶煩」の店主であるショボン。
ニューソクで修行しただけあって、人気は高い。
ブーンとドクオは咳払いをし、ショボンへ向き直った。
84
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:00:47 ID:AzUIyUiwO
おー、ここでこれが来るのか!
85
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:00:53 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「屋台はどうしたんだお」
(´・ω・`)「盛況すぎてね。居酒屋に材料を取りに戻るところさ。
2人共、今年は警備やらされるんだって? 頑張ってね」
( ^ω^)「頑張るおー」
('A`)「正直、ほぼ機械頼りだけどな」
(´・ω・`)「まあヴィップの技術があればそうなるか。
そういや時計塔の飾り付けも手伝ったそうだね」
( ^ω^)「おかげで碌に寝てないお」
3人は同時に時計塔を見上げた。
花やリボン、針金細工に彩られた時計塔を見る度、
昨夜から朝方までの苦労が蘇る。
86
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:01:27 ID:ksyKNxfAO
(´・ω・`)「その甲斐あって、時計塔がますます立派になったじゃないか」
('A`)「そう言われりゃ救われるや」
( ^ω^)「ほんとに。
……ったく、ショボンと話してると酒が飲みたくなって仕方ないお」
(´・ω・`)「残念、今年は日中に屋台で酒を出すのは禁止されてるんだ。
ニューソクには20歳未満は飲酒禁止って法律があるからね。
だから、屋台で酒が出されるのは夜になってから日付が変わるまでだよ」
( ^ω^)「それは残念なことで。
ああ、早く夜にならないかお……」
その言葉が落ちた瞬間。
ぎぎ、と、重く、不快な音が響き渡った。
87
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:02:36 ID:ksyKNxfAO
音は止むことなく鳴り続け、反対に人々の喧噪は徐々に収まり、
皆、不安げな表情で互いに顔を見合わせている。
('A`)「──上だ」
ドクオが言うまでもなく、全ての人の目が上へ向かっていた。
その先は──時計塔。
( ^ω^)「は」
時計塔の針が、有り得ない速さで回っている。
秒針が回り、長針が回り、短針が動く。
3時を示していた時計は、4時を指し、5時を指し、6時を指し──
それに合わせて、日が落ちていく。
88
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:02:41 ID:UGQr2aY60
おもしろいぜええ
支援
89
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:05:12 ID:ksyKNxfAO
やがて時計は、9時を指して止まった。
秒針も長針も短針も、全てがぴったりと。
そして辺りは真っ暗になっていた。
突然のことに、誰も動けない。
たっぷりと間をあけてから、街灯やステージの電飾に明かりが灯される。
そこかしこに設置されているスピーカーから、運営のアナウンスが流れた。
『──皆様! 速やかに近くの建物へお入りください!
決して1人にならず、子供を優先させて──』
ぶつり、アナウンスが途切れる。
先程ついたばかりの明かりが次々に消えていき。
何もかもが完全に沈黙した。
ブーンが、停止した思考を無理矢理に動かし始める。
何かのイベントか? 聞いていない。これほどの規模なら、警備員にはあらかじめ通達される筈。
そもそも。
こんなこと、どの国の技術でも──無理だ。
90
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:08:13 ID:TQ7dum1oO
あらチーさんじゃなかったのか、誰だか知らんが楽しみにしてるから頑張ってください!
91
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:08:13 ID:ksyKNxfAO
ついに1人の声が上がる。
それは誰もが到達する答え。
「──魔法だ」
この場を恐慌状態に叩き落とすには、充分すぎるほどの。
「魔法だ! ──魔法使いが来たんだ!!」
一斉に人の波が動いた。
流れに巻き込まれ、ブーンの足が浮かぶ。
そのまま押し出されるようにして、彼は倒れた。
幾人もの足に蹴られて、踏まれて。
意識が、闇に塗り潰された。
# # #
92
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:08:14 ID:LY.4fvhg0
何だ何だどうなるんだ…がんばれ支援
93
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:08:47 ID:E42B9ikM0
全部の絵ってすげえな
応援しつつ支援する
94
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:09:21 ID:ksyKNxfAO
( ‐ω‐)
( ‐ω^)
( ‐ω‐)
( ^ω^)
ブーンは身を起こした。
全身が痛み、気を失う寸前に散々蹴られたのを思い出した。
依然として暗い。広場に人気は無し。
辺りの建物から、ざわざわと物音や話し声が聞こえる。
全員、避難は済んだようだ。
(;-A-)「うう……」
( ^ω^)「あらやだ」
ドクオが横にいた。
ブーンと同じ目に遭ったらしい。
とりあえずドクオを叩き起こし、状況を確認した。
95
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:10:26 ID:ksyKNxfAO
(;'A`)「いてて……おい、無線は使えるか?」
( ^ω^)「あー……無理だお」
(;'A`)「マジかよ。クー様が心配だな……」
( ^ω^)「多分、避難した人達と一緒にいると思うけど。
……その辺の店に入るかお、僕達も。
本当に魔法使いが出たなら危険かもしれんお」
('A`)「だな。ったく、魔法って何でもアリだな」
腰を上げる。
服を払うドクオに、ふと、ブーンは訊ねた。
( ^ω^)「ドクオ、知ってるかお?
『シタラバニアの夜』」
('A`)「いいや」
96
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:12:15 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「ニューソクにある童謡だお。前にショボンから聞いたんだけど。
『シタラバニアの夜は恐い恐い。もしも人間が出歩けば、
おばけに見付かり食べられる』」
( ^ω^)「これが一番。二番以降は知らんお」
('A`)「ふうん。……おばけって何だ? 動物?」
( ^ω^)「死んだ人間の魂とか、怪物を総称して『おばけ』と呼ぶらしいお。
ニューソクではよく聞く話だとか何とか」
('A`)「死んだ人間? 生き物は死んだら魂も無くなって終わりだろ?
怪物だって想像上のもんだし。それが出てくるって、どういうことだ?」
( ^ω^)「『どういうことか』が分からないのがミソなんだお。
有り得ないものが実は居るかもしれない、って考えて怖がるのを楽しむんだろうお」
('A`)「なるほどね」
( ^ω^)「魔法のせいでここが夜になったんなら、これもシタラバニアの夜ってことで
おばけが出るかもしれないおね」
2人とも、存外余裕があった。
どうでもいい話をしながら、どの建物に入ろうか見渡して──
97
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:14:11 ID:ksyKNxfAO
川д川
突如、目の前に髪の長い女が現れる。
ブーンもドクオも、反応出来ずに固まった。
( ^ω^)('A`)
本当に突然だった。
先程まで見落としていたとか、そういうことでなく。
本当に突然、ぱっと現れた。
お互い、動かない。
睨み合い──女の髪が長すぎて、目が見えないのだが──と、
沈黙に耐え切れなくなったのはブーンだった。
( ^ω^)「……どちら様ですかお」
返答次第では保護する。
返答次第では逃げる。
川д川
女が首を傾げた。
下方へ髪が下がり、片目が露になる。
その目は、ブーンとドクオを交互に見て、それからブーンに落ち着いた。
98
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:14:57 ID:ksyKNxfAO
川д゚川「……私のこと、好き……?」
示し合わせるまでもなく、男2人は駆け出していた。
# # #
99
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:15:41 ID:ksyKNxfAO
(;^ω^) ゼーハーゼーハー
(;'A`) ゼヒューゼヒュー
約3分後。
2人は、東通りの端でへたり込んでいた。
先の女はいない。撒けただろうか。
(;^ω^)「さっきの何」
(;'A`)「俺が、し、知るかよ……っ、げほっ」
そうは言いつつ、互いに互いの思考は大体読めた。
魔法使い。
それしか考えられない。
(;^ω^)「……どうするお」
(;'A`)「さっきのに見付かんねえように、どっかの建物に入る。とか」
汗を拭う。
月明かりの中、無人の屋台が連なっている。
空っぽの容器が風で転がり、からからと音を立てた。
100
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:16:43 ID:ksyKNxfAO
──不意に、ブーンは振り返った。
( ^ω^)「声がするお」
(;'A`)「あ?」
( ^ω^)「女の子が泣く声」
押し殺したような泣き声が聞こえる。
ブーンはドクオの制止を無視し、そろそろと声の方向へ歩いていった。
声は、ある屋台の中からしていた。
ニューソクの名物の、とあるお菓子の屋台だった。
手で持つと硬いのに、口に入れた途端にとろりと蕩ける、クリーム味の飴。
( ^ω^)「……お嬢さん」
*( ;;)*「……あう」
大量に散らばった飴の傍に、彼女はいた。
幼い女の子。
ブーンを見るや逃げようとしたが、そっと涙を拭ってやると大人しくなった。
屈み込み、少女の顔を覗き込む。
101
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:17:57 ID:ksyKNxfAO
( ^ω^)「こんなところで、どうしたんだお」
*(。‘‘)*「……お母さんと逸れて、いっぱい人が走って、ヘリカル転んじゃって、それで、怖くて、」
( ^ω^)「ヘリカルちゃんっていうのかお?
ヘリカルちゃん、どこの国の子だお」
*(。‘‘)*「ニューソク……」
( ^ω^)「何歳だお?」
*(。‘‘)*「8歳」
(*^ω^)「おっふ……それはそれは……」
(;'A`)「お、おい、そいつ、さっきの奴の仲間じゃねえだろうな」
( ^ω^)「ドクオ。何てこと言うんだお。ヘリカルちゃんに失礼だお」
(;'A`)「でもよお」
( ^ω^)「それに、たとえヘリカルちゃんが魔法使いでも、
こんなに可愛いんだったら僕はもうどうなってもいいお」
(;'A`)「わーい! 1人でくたばれ馬鹿!!」
102
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:19:54 ID:ksyKNxfAO
さて、さっさと逃げなかったのが悪いのか、ドクオが大きな声を出したのが悪いのか。
川д川「みいつけたあ……」
( ^ω^)('A`)*(‘‘)*
先程の女が、屋台の上からブーン達を見下ろしてきた。
2度目の遭遇ともなれば、対処も早い。
ブーンはヘリカルを小脇に抱え、ドクオはブーンの襟を引っ張って立ち上がらせ。
そうして、同時に走り出したのであった。
【ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/9.jpg】
(;^ω^)「あーもう嫌んなっちゃう!!」
(;'A`)「うおっ、追っかけてきてんぞ!!」
*(;‘‘)*「あ、あの、あれ誰ですか」
「こっちが訊きたい!」。
ブーンとドクオの声が重なった。
# # #
103
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:22:48 ID:ksyKNxfAO
面倒なことになった。
ある店舗の中、ぎゅうぎゅうに詰められた人、人、人。
ニュッは何度目ともつかない溜め息を吐き出した。
(;^ν^)(シナー達はどこ行ったんだよ)
南通りで反時計症の人間がいないか探していた最中に
いきなり暗くなって、アナウンスが流れて、アナウンスが切れて、
魔法使いがどうたらこうたらと騒ぎになって、近くにあった店にみんな逃げ込んで。
今に至る。
見た限り、ニュッに誘拐の話を持ち掛けた「共犯者」達はここにいない。
これからどうしたらいいのか分からなかった。
困っているのはニュッだけではない。
明かりがつかない上に、ありとあらゆる連絡手段が途絶えているため
誰も身動きがとれないでいた。
この状況も長くは持つまい。
何が何だか分からぬまま、みんながみんな、じっとしていられるわけがないのだ。
「──おい! 外はどうなってるんだ!」
そら、来た。
104
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:24:22 ID:ksyKNxfAO
「いつまでここに居ればいいんだ?」
「私が分かるわけないじゃない!」
「一旦、外の様子を見に行くしかないんじゃないか」
ζ(゚ー゚;ζ「あの! 落ち着いてください!!」
そこへ、少女の一喝が響いた。
しんと静まり返る。
ζ(゚ー゚;ζ「もう少し時間が経てば、国王直属の警備部隊が動く筈です。
だから、どうか、しばしの辛抱を」
月光の差す窓辺に、少女が2人立っていた。
黒髪の少女と癖毛の少女。
癖毛の方は、セーラー服を身につけていた。ニューソクの人間だろうか。
105
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:26:21 ID:ksyKNxfAO
川 ゚ -゚)「それに、いざとなれば私達が外の様子を見てくる。
君達に勝手に動かれる方が危険だし、迷惑だ」
ζ(゚、゚;ζ「あ、その言い方は良くない」
納得した者はいないだろう。
だが、文句を言う者もいなかった。
不安に震える人間よりも、きっぱりと指示を出せる人間の方がよっぽど強い。
ニュッは壁に凭れ掛かり、ぼんやりと彼女達を眺めた。
どちらも15歳くらい。
癖毛の少女が、黒髪の少女に顔を向けた。
ζ(゚、゚*ζ「……ツンちゃん、どこ行ったかな」
川 ゚ -゚)「あいつのことだから、逃げ遅れた人間がいないかどうか確認してるかもな」
ζ(-、-;ζ「うう、姉として誇らしいやら心配やら……」
# # #
106
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:30:06 ID:ksyKNxfAO
ξ;゚⊿゚)ξ「──要するに、あれが何なのか分かんないわけね。
魔法使い説が一番有力だけど」
(;^ω^)「うん! ツンちゃん助けて!」
(;'A`)「ひいっ、ひいっ、ひいっ」
逃走者が増えた。
というのも先程、角を曲がったところでツンと鉢合わせたのである。
子供を抱えて走るブーン、既に体力の限界を迎えて死にそうなドクオ、追ってくる女──とくれば、
ツンも、どうするべきかは分かる。
そんなわけで、仲良く3人(とヘリカル)で並んで逃げることになったのであった。
時計塔の件から今に至るまで、逃げながら一通り説明はした。
107
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:31:32 ID:ksyKNxfAO
川д川「待ってよう、ねえ、ねえ、ねえ……」
*(;‘‘)*「まだ追ってきてます……」
ξ;゚⊿゚)ξ「言われなくても分かってるっつうの!」
( ^ω^)+「ツン! せっかくヘリカルちゃんが教えてくれたのに、何て言い草だお」キリッ
ξ;゚⊿゚)ξ「黙れ!」
ヘリカルを抱えている分、ブーンは全力で走れない。
ツンは頼りになるので、何か解決策を思いついてくれるかもしれない。
ドクオはもう足が覚束ない。
結論は一つ。
( ^ω^)「ドクオ!」
(;'A`)「ああ!?」
( ^ω^)「短い付き合いだったけど、さようなら!」
(;'A`)「は?」
ブーンは、ドクオの足を蹴飛ばした。
108
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:33:54 ID:ksyKNxfAO
(;゚A゚)「はぁあああああああ!!?」
ドクオが転ぶ。
慌てた様子で上半身を起こしたが、あの疲れようでは立ち上がれないだろう。
ξ;゚⊿゚)ξ「あんた何してんの!?」
( ^ω^)「いやドクオが『囮になりたい』って言うから。僕は反対したんだけど」
*(;‘‘)*「言ってないですよ!?」
( ^ω^)「ありがとうドクオ! もしも本当に、おばけという存在がいるのなら
是非ともおばけになって僕らに再び顔を見せておくれ!」
(;゚A゚)「ふざけんなぁあああ!!!!!」
109
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:34:04 ID:T7OndOeM0
ちょwwwひでぇwww
110
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:35:33 ID:ksyKNxfAO
ドクオが遠くなる。
ブーンは一仕事終えたときの爽やかな笑顔で走りながら、
友人の最期を見届けようとした。
が。
( ^ω^)「お?」
*(;‘‘)*「あ」
(;゚A゚)「うわあああああ来るなぁああああああああああ……ああ……あ?」
ヒュバッ
(;'A`) ≡≡≡川 д川
──女は、ドクオを素通りした。
そのままブーン達を追ってくる。
完全に油断して速度を緩めていたブーンは、舌打ちしてから前へ向き直った。
111
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:37:07 ID:AzUIyUiwO
ドクオwww
112
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:38:09 ID:ksyKNxfAO
(;^ω^)「ううむ、ドクオの相手はしたくないのかお。それとも僕を御所望か」
ξ゚⊿゚)ξ「……『おばけ』……」
(;^ω^)「ツンちゃん、ぼうっとしてたら捕まるお! ほらスピードアップ!」
ξ゚⊿゚)ξ「……ねえ」
(;^ω^)「何だお?」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたじゃなくて。ええと、ヘリカルちゃん。
あなた、ニューソクの子なんですっけ?」
*(;‘‘)*「は、はいっ」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ『シタラバニアの夜』って知ってる? おばけの歌」
*(;‘‘)*「……知ってます」
ξ゚⊿゚)ξ「私ね、一番までしか知らないの。ヘリカルちゃん、二番は分かるかしら」
*(;‘‘)*「分かります……お母さんがよく歌ってたから」
ξ゚⊿゚)ξ「教えてちょうだい」
こんなときに何を言っているのだ。
ブーンは横目でツンを睨んだが、ツンは至って真剣な顔をしている。
113
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 21:41:14 ID:ksyKNxfAO
*(;‘‘)*「えっと……『シタラバニアの夜は恐い恐い。もしも人間が出歩けば、
おばけに見付かり食べられる』……」
*(;‘‘)*「『シタラバニアの夜は恐い恐い。生き物以外の世界では、
人間なんて食べられる』」
(*^ω^)「いよっ、天使の歌声! アンコール!」
*(;‘‘)*「ええっ」
ブーンを無視し、ツンは眉を顰めて考え込む。
思考すること5秒。
次にツンがブーンを見たときには、彼女の表情は自信に溢れていた。
ξ゚⊿゚)ξ「あれは魔法使いじゃないわ。
魔法使いなら、こんな風に追ってこなくたって、私達ごとき簡単に捕まえられると思うし」
(;^ω^)「じゃあ何なんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「おばけかしらね」
おばけ、とツンの言葉を繰り返して、ブーンの腕の中でヘリカルが青ざめた。
ニューソクには、子供の躾として「いい子にしないとおばけに食べられる」という決まり文句があるのだと、
いつだったかショボンが話していた。
ソウサクで言うところの「いい子にしないと人攫いが来る」に似たようなものだ。
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