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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双

464 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:25:10 ID:f.Pjzmts0
この外套を羽織っている以上、自分は戦士でなくてはならない。


戦果をあげるたび、モララーはいつしか大陸中で人気者になっていた。

余りにも驚異的な力は、戦時中のみ畏怖から敬愛へと変わる。
誰もが彼のことを、英雄と呼び、はやし立てた。

モララー自身も、プロパガンダとなることを厭わなかった。
それで安心できる人が、奮い立たせる心があるなら、と。

使いもしない杖を持ってみたり、適当な情報を伝えて記事を書かせたり。

いつしか、名実ともに『大魔術師』となったモララー。






( ・∀・)(そうだ。これでいいんだ)


ラウンジの大群が目の前に広がっている。

呪術師達の呪文を、さらなる圧倒的な破壊力で押し潰す。
武士の長に対し、あえて剣戟で挑み、技を見切った末に首を斬る。

止まることなく進んでくる、魔神のような男に敵兵たちは恐怖した。

465 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:26:30 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)(これこそ、ボクの存在意義)


ラウンジ城までの道を、必死に止めようと武士が突貫してくる。
雷で焼き払い、飛んでくる大岩の群れを指先で破砕する。


( ・∀・)(これこそが、ボクの使命)


真っ赤に染まった袖で、顔を拭う。


数多の先鋭をそろえたはずの、ラウンジ城の最上部。
四散した武士、最強のはずだった呪術師の死体。

それらの先に居る、ラウンジ王国の最高責任者へモララーは歩み寄る。


( -∀-)(そう……ぼくは……ボクこそが)


ガタガタと震える初老の男。
殺せばすべてが終わる。
だが、それだけでは意味がない。


必要なのは、VIPの勝利。得る物が必要だ。


怯える総大将に対し、モララーはあえて
ラウンジ大陸の流儀、戦闘前に名を名乗る
というものに倣い、冷たい声で告げた。

466 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:28:17 ID:f.Pjzmts0








( ・∀・)「『黒風』モララー=レンデセイバーだ」







.

467 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:29:59 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「武器を捨てろ。さもなくば殺す」



歯を打ち鳴らし、戦う術を何もかも失った国王は
涙を流し、失禁しながら何度も何度も首を縦に振る。




長きに渡る戦争は、そこで終わりを告げた。










嘗壱話「零落の黒き風」

468 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:31:00 ID:f.Pjzmts0




                   つづく

469 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:32:49 ID:f.Pjzmts0








第零話「モララー=レンデセイバー」








.

470 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:33:52 ID:f.Pjzmts0
白い息を吐いて、少年は歩いていた。
厚手の服と、背に負った荷物。

背後に流れていくのは、雪化粧をした王都だ。

道行く人たちはみんな笑顔で、子どもも大人も楽し気に歩いている。


それこそ、彼の最大の功績。

身を削り、心を削り。
何度も挫けそうな思いを、何度も奮い立たせ。

ようやくつかんだ、終戦の証。

赤い鼻をしたモララーは、これが最後になるのだろう、と
その明るい風景を横目に焼き付けていた。





ラウンジ王国が堕ちてから数日後のこと。

難しい政は、全て大人たちに任せると
大魔術師モララー=レンデセイバーは、部屋の片づけを始めた。



彼を懇意にしていた者たちは、必死で止める。



(;ФωФ)「何故であるか、モララー殿!」

471 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:34:58 ID:f.Pjzmts0
荷造りをするモララーに、聖騎士ロマネスクは凄まじい剣幕で詰め寄る。
対するモララーは、淡々とした様子で返してきた。

( ・∀・)「ボクの役目は終わりましたから。
       これ以上、城に居ても邪魔なだけでしょう」

(;ФωФ)「そんなことはないのである!
        お主程の功労者、誰も咎めないのである」

( ・∀・)「……そうでしょうか。
       世の中、良い人ばっかりじゃないですからね。」

( ・∀・)「自分だって、武勲を上げたのに。
       自分だって、仲間を家族を殺されたのに。
       自分だって……なんて、恨み言を連ねられるのはゴメンですから」

(;ФωФ)「そっ……!」


否定できず、ロマネスクは言葉を詰まらせた。
特にモララーは年も若い。
大きな目で見れば、みなが称賛しているが
気に食わないと思う人間も、少なからずいるだろう。

特に、王都なんて権力に近い場所では。


(;ФωФ)「国王陛下は、なんと仰っていたのであるか?」

472 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:36:05 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「好きにしなさい、と」


(;ФωФ)「……」


突き放したわけではないだろう。

言葉通りの意味なのだ。
大事な大事な、孫のような存在。

彼が望むことは何でもしてあげたい。
心からそう思っている。

だからこそ、戦争という軛から解放されたのなら

後は、一人の少年として。自由に生かせてあげたい。


それが、国王のできる唯一の償いなのだろう。


モララー自身も、その意図をくみ取り
あえて遠慮することなく、丁重に文言通りの対応をしたわけだ。

その時の、悲しそうな、寂しそうな表情だけは。
モララーは生涯忘れることはないだろう。

473 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:37:01 ID:f.Pjzmts0
( ФωФ)「……キミはもっと、子供らしくして良いのであるぞ」

( ・∀・)「はは。確かに、そうですね」

ロマネスクの抱いた、親心のような言葉に渇いた笑いが漏れる。
元々少なかった荷物を、鞄にしまい込んで留め具を付けた。


( ФωФ)「いつ、出るつもりなのであるか?」

( ・∀・)「部屋の掃除をしてからなので。あと1時間もしたら」

( ФωФ)「……デレが会いたがってたのであるぞ。
        キミと話したいことがたくさんある、と」

( -∀-)「会うと、別れるのがつらくなりますから。
       ロマネスクさんから、ぼくがお礼を言ってたと伝えてください」

( ФωФ)「……モララー殿」


( ФωФ)「我々は、キミに感謝してもしきれないほどの恩を受けたのである」


( ФωФ)「いつかどこかで、恩返しをさせて欲しいのである」


( ФωФ)「だから……それまで、お元気で」



引き留めることは叶わないと感じたロマネスクは、諭すように言い切ると
大きな手をモララーへ差し出した。

474 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:38:06 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「ええ。ロマネスクさんも、お元気で」


覇気のなくなった、柔和な笑顔で手を取り握るモララー。

上着を着こみ、荷物を背にすると
ロマネスクに一瞥し、部屋を出ていった。


( ФωФ)「……」


残された聖騎士団長は、主の居ない部屋を検めた。
そして部屋に残された茶器の数々を見つけると
少し目を細めてから、その場を退いていった。











( ・∀・)(さて。ぼくは、これからどうしようかな)

475 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:39:08 ID:f.Pjzmts0
冷える鼻を擦りながら、モララーは街道を歩いていく。

王都はすっかり見えなくなっていた。
野垂れ死ぬわけにはいかないので、食糧だけはたくさん積んである。

行き先を考えた時、元々居た家に帰る選択肢は最初から無かった。
戻ったところで、ろくなことにはなるまい。

生き方もそうだが、住むところも考えないと、まともに暮らしていくことは難しいだろう。


モララーの戦う役目は終わったわけだが、自分自身の罪は残っている。

いくつもの人生を終わらせた自分は、簡単に死ぬことすら許されない。


だから、一生懸命生きなくては。





――――でも、何のために?





罪を償うって、どうすればいいのだろう。

476 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:40:07 ID:f.Pjzmts0
血の涙を流し、存命を請う敵兵を殺した自分が
何をすれば許されるのだろう。



新雪を踏みしめながら、モララーは自問する。



考えても考えてもわからないが、一つだけ。


旅立つ前に買い物をしていて、思ったことがある。



( ・∀・)(そういえば、魔法で育てられた野菜は体に悪いって言うなぁ)


戦いの最中、死体の山を積み上げていくうちに
肉類を体がすっかり受け付けなくなってしまった。

その為、野菜を主に食しているわけだが……。

それでは、もしかすると長生きできないかもしれない。

いくら稀代の魔術師といえ、死の病は回避できない。



( ・∀・)(どこかで、無魔法の野菜でも作ってみるのも良いかもしれないな)

477 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:41:06 ID:f.Pjzmts0

歩き始めて、どれぐらい経っただろう。
地図も持たずに出てきたので、今どこに居るのかわからない。

ふと、来た道を振り返ってみた。



足跡すら、降りしきる雪でもう無くなっている。

視界の悪い中では、馬を走らせるものすらいない。


まるで、世界に自分ひとりだけが取り残されたようだった。






( ・∀・)


( ・∀・) !

478 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:42:07 ID:f.Pjzmts0
ふと、モララーは思い立った。

そして防寒具の帽子を一度外すと


長く伸びた後ろ髪を、しっかりと掴む。


逆手で魔力を込め、光の刃を作り出したが




何かを決意すると。




魔法を消し、腰に下げているナイフを引き抜き

刃を束ねた髪先にあてがうと


一思いに、根元から切った。

479 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:43:06 ID:f.Pjzmts0
手を離すと、さらさらと風に乗って髪が流れていく。



すぐに白い景色に溶けていく、自分の片割れを見届けると




モララーは短くなった髪へ、帽子をしっかりと被り直し


前を向いて、再び歩き出すのだった。








どこへ行くのか、どこへ着くのか。



彼自身も、まだ知りもしないままに。

480 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:44:08 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。

                 【零落の黒き風】




            おわり

481 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:49:04 ID:f.Pjzmts0
以上になります。
番外編の時には、もう書かない的なことを言った舌の根も乾かないうちに
こんなものを書いてしまいました。

本編の時間軸に対し、過去と未来をもうやったのでこれで出し切った感はあります。
書こうと考えはしましたが、蛇足になりそうだったのでもうやらないと思います。


本編の最初にノリと勢いで書いた設定を、どうにか壊さないように四苦八苦するのが大変でした。
連載当初の尖った物言いと、連載終盤の優しいモララーのイメージを損なわないようにしてみたつもりです。

思い付きで始めたお話を、まさか元号変わるまで書いているとは思ってもいませんでした。
それほど、自分にとっては思い入れのある作品です。

それではここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。

482名も無きAAのようです:2021/04/17(土) 22:41:12 ID:.ayZ7wCk0
隠居暮らしという物語、モララーの人生を追ったお話もこれでついにおしまいか……
寂しくなるけども、番外編と合わせてとてもよい作品でした
作者さん、最後まで書ききってくれてありがとう。乙!

483名も無きAAのようです:2021/04/17(土) 23:08:53 ID:/wEHwtXQ0
乙!!!

484名も無きAAのようです:2021/04/22(木) 14:09:20 ID:b5FvTPps0
重たい内容なのに、最後は晴れやかに感じて良い
またここから本編を読み返したい、乙でした


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