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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双
353
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:01:52 ID:24JaPgZA0
(;-∀-)「……処刑、というのは」
脂汗を流しながらモララーが聞く。
/ ,' 3「殺すんじゃ。キミの手で」
逃げの口実を作らないため、スカルチノフは強く答えた。
(;・∀・)「ぼくでなければ、ダメなんですか?」
/ ,' 3「キミでなくては出来ぬことじゃ」
ハインリッヒに対し、後れを取ることなく戦えそうな魔術師には
今まで出会ったことがない。
実力を目で見ているスカルチノフも、
護衛に来ていた近衛級戦士達も、みなが同じ答えだった。
他に出来る人はいない。だから、一任する、と。
(;・∀・)「なぜ、今ここで?」
/ ,' 3「戦況を考えてのことじゃ」
/ ,' 3「キミは、殺人を異様なほど恐れておる」
354
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:03:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3「立派な志じゃ。その生き方を否定はせぬ。
じゃが人を愛しむが故、結果的に大きな足枷になってしまっておる」
/ ,' 3「このままでは、キミの戦術的価値が無くなってしまう」
/ ,' 3「そうなる前に、命を手にかけることを覚え
戦場でその経験を発揮してほしい。そう思ったんじゃ」
/ ,' 3「さすれば、キミは世界を薙ぐ大いなる『風』になれるじゃろう」
(;-∀-)
モララーの心境については、とっくに聞いていた。
直接相談を受けたことはなかったが、何かしらの方法で力になろうと尽力していたのだ。
結果的に、どうしようもなかった。
ただただ時間と戦況だけが流れていく一方。
戦争を終わらせるきっかけには、到底なりえない状態。
/ ,' 3「命に優劣などないと思っておるが……。
こやつは特別じゃ。この世にあってはならぬ存在。
災厄をまき散らす、悪夢ような男なのじゃ」
/ ,' 3「ゆえに、遠慮は無用。気おくれもする必要はない。
ワシの命もある。何も考えず、ただ刑を執行してくれれば良い」
/ ,' 3「出来るな?」
355
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:05:01 ID:24JaPgZA0
スカルチノフは、震えるモララーの肩に手を置く。
黒いマントの上からではわかりにくかったが、その手はじっとり濡れていた。
優しく、諭すように語り掛ける国王自身も。それが本心ではないことが伝わる。
でも、それでも。
一国の王は、一人の将は部下に対し、非常な命令を下さなくてはならない。
わかってる。
ならば、応えることこそが、今の自分の存在意義。
重く深くため息をつき、モララーは目を伏せながら短く答えた。
(; ∀ )「はい」
――――。
部屋には、モララーと死刑囚のみが残された。
重たい封印扉の先には、スカルチノフが待機している。
356
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:06:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3『準備は良いかね、モララーくん』
( ∀ )『……いつでも』
戦いが始まれば、こうした壁越しの魔術会話もできなくなる。
部屋の一帯に、近衛魔術師達が強力なスペルキャンセラーの結界を幾重にも貼るからだ。
城へ被害を出さないための策である。
それでも、彼ら二人が本気でぶつかり合えば、無事で済むかの保証はない。
もし、戦の気配が収まり出てくるのがモララーでなかったら?
想定したくない未来のことを、懸命に振り切りスカルチノフは命令を出す。
/ ,' 3『では、始めよ!』
部屋全体が、無色の魔法陣で覆われた。
同時に、足元に発していた黄色い光が失われる。
( ・∀・)「……!」
遅れて起こった変化は、上空からだった。
何かが落下してきている。
鈍い色を放つ、刃のように薄い金属がハインリッヒに目掛けて落ちてきたのだ。
それはけたたましい音を立てて椅子を破壊する。
木屑が舞い、石に硬い物質が到達した鋭い衝撃音が空間に満ちていった。
357
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:08:10 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)
モララーは構える。
何が起こったのかはわからない。
ただ、その金属物質が零式封印装具を解いたことだけは、本能で理解できた。
異常は既に始まっている。
椅子を失ったはずのハインリッヒは、変わらぬ姿勢で宙に浮いているのだ。
ミシミシという軋んだような音が、今度は鳴り出した。
从三//从
从 ゚//从「…………あ?」
(;・∀・)「ッ!!!」
スペルキャンセラー、レベル10.
最大出力のそれを、モララーは瞬時に放つ。
目の前のそれは、次の瞬間にはガラスが砕けるように消え去っていた。
从 ゚//从「おーおー。なんだァ……今のを防げるんかよ……?」
358
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:09:16 ID:24JaPgZA0
男は、ゆっくりと立ち上がった。
放ったのは、高速で強固な精神汚染魔術『ペルドローレ』。
対象を傀儡と化し、意のままに操る闇の禁術だ。
かつて自分と対峙し、正面からまともにかき消せる者は居なかった。
驚きながらも、楽しそうにハインリッヒは肩を揺らす。
从 ゚∀从「どーやら、面白そうなヤツが居るみてェだな……おい」
口元に残った封印装具を取ると、『白炎』は鋭い歯を見せて不気味に笑った。
/ ,' 3「始まったか……」
近衛魔術師達が、足を踏ん張る。
結界に何かしらの魔法がぶつかったのだろう。
常時スペルキャンセラーを使用するのは、並大抵のことではない。
それでも、他の手段がないという王の命と自分の力量を信じた。
359
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:10:45 ID:24JaPgZA0
時折、地面が激しく揺れる。
完全にかき消せなかった魔法のせいか、はたまた何かの衝突か。
中の様子はわからない。
不測の事態に備えて、近衛騎士達も万全の準備をしてある。
どう転ぶか、予想は誰にもできなかった。
楽観的に考えても、モララーが完全勝利できるかは五分五分だ。
魔術師としては、モララーに分があるかもしれない。
しかし、それ以上に危うさを持っているのがハインリッヒ。
下手をすれば国が傾く危険な賭け。
成功すれば、得る物は大きい。
ここで天を味方に出来ずして、長年の戦に終止符を打つことなどできやしないだろう。
スカルチノフ国王は胸に手を当て、ただただ孫の生還を待つこととした。
从 ゚∀从「ギガブラスト! ブラックフォトン!」
( >∀・)「ぐっ!?」
無属性魔法の巨大な爆破力を生む魔術、ギガブラスト。
通常は魔法陣が発生し、それを起点に爆発を巻き起こすもの。
だが、ハインリッヒは小さな光球に変化させて、それを黒い波動魔法で起爆。
目の前で黒煙と共に強い衝撃波が巻き起こる。
360
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:12:09 ID:24JaPgZA0
( -∀・)「エルメス(脚力強化)、ヘラクレス(身体強化)……」
( ・∀・)「プロミネンス!」
高速で距離を取る。
石畳がへこむほどの脚力で後退すると、同時に火炎の上位魔術を放った。
从 ゚∀从「ふゥむ」
ハインリッヒは避けようともせず、迫りくる巨大な火球に手を差し伸べる。
普通なら炸裂し、火柱があがる魔術なのだが
まるで鳥が木に止まるように、ふわりと空中で停止する。
从 ゚∀从「良く練られた魔力量だ。お前……相当な使い手だな?」
(;・∀・)「……」
从 ゚∀从「見たとこ、ガキみてェだが……。末恐ろしい魔術師が出てきたもんだよ」
(;・∀・)「……な!?」
言いながらハインリッヒは空いた手で火球を挟み込む。
すると、見る見るうちにそれは小さく縮んでいった。
从 ゚∀从「『圧縮(コンプレス)』ってんだ。ちょいと力のいじり方を間違えると
一瞬でドカーン! な、おっそろしい魔術だよ。教科書には載ってなかったろ?」
クハハ、と楽し気に笑う。
从 ゚∀从「そーら、おめえのモンだよ。返すぜ!」
361
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:13:45 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「うわっ!?」
振りかぶって返された火炎魔術は、足元で炸裂すると
黄色の薔薇が高速で伸びてきた。
火炎魔術として返したはずなのに、それは封印魔術スペルシーラーとして発動したのだ。
(;・∀・)(なんだ……どうして、そんなことが?」
空中で切り返し、何度も跳躍して躱す。
モララーは防戦一方だった。
今までの魔術師と、何もかもが違う。
敵の呪術師の中にも、こんな理屈を超えた魔法が使える人は居なかった。
从 ゚∀从「気になるか? 気になるよなァ。禁術ってのは、そういうことなんだよ」
从 ゚∀从「お前ら魔術師達はお行儀よく、伝わってきた魔法しか使わない。
だから、攻め方もワンパターンなんだ。
つっても、オレだって新しい属性魔法を編み出せるわけもねえ。
そんなもんが出来たら、それこそ神様だからな」
( ・∀・)「!」
いつの間にか周りを氷の刃で囲まれていた。
モララーは即、スペルキャンセラーを発動してその猛攻を防ぐ。
从 ゚∀从「だが、悪魔になることは出来る。
理を超えた術式で、新しい一手を組むんだよ。
そうすりゃ勝手に道は開けるんだぜ」
362
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:15:07 ID:24JaPgZA0
二重詠唱を始める。
土魔法のガイアクエイクで、辺り一帯の地面を隆起させる。
視界を奪うと同時に、浮き上がった石の塊を凍結。
しばらくは動けないはずだ。
魔法とのリンクを立ち、更に追撃。
片手を大きく上に掲げ、魔力を込めた。
( ・∀・)「彼方より召還せし 無垢にして強固なる破壊神」
足元に橙色の魔法陣が発生した。
力強い気流が発生し、モララーの外套を激しくはためかせる。
( ・∀・)「響かせよ無の螺旋律!」
掲げた手を握りこみ、もう一つの広げた手のひらへ
目の前で激しく打ち付けた。
( ・∀・)「グランドエクスプロード!!」
発声と同時に、前方に七つの魔法陣が高速で浮かび上がる。
激しく発光すると、それは瞬間的に強大な爆発を生み出した。
爆破は連鎖すると、ねじれる様に一つの塊となり
激しい破壊のエネルギーフィールドを生み出す。
これが無属性の大魔法、グランドエクスプロードだ。
あらゆる大魔法の中で、殲滅力ならば随一。
確実に相手の命を奪う強烈な攻撃魔法だ。
炸裂すれば、塵一つ残らない。
363
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:16:53 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从「……ふぅ〜〜。やァれやれ……」
はずなのに。
(;・∀・)「な……!?」
めんどくさそうに、耳に小指を突っ込みながらその男は出てきた。
囚人用の簡素な衣服。
魔術防護もされていない粗末な着物に、焦げ一つつけず。
何も受けなかったかのように、涼し気な顔で歩いているのだ。
(;・∀・)「グランドエクスプロードを……防ぐなんて……」
从 ゚∀从「あァ。悪いな。手ェ抜いてるもんだから、無効化させてもらったわ」
( ・∀・)「なんだって……?」
指先に付いた耳垢を吹き飛ばしながら、ハインリッヒは続ける。
从 ゚∀从「さっきも言ったが、お前の魔力は凄ェよ。滅多にみられるもんじゃねえ」
从 ゚∀从「だが、決定的に足りねえもんがある。そこら辺の雑魚ですら持ってそうなもんだ」
(;・∀・)「!」
从 ゚∀从「『殺気』がねェんだよ。殺す気が無えから、魔法の威力も自然と落ちる」
从 ゚∀从「いやー、全く困ったもんだね。こんなルーキーをオレに差し向けるたァ
スカルチノフは、イカれちまってんのか?」
364
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:18:36 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「違う! おじい様はいつも正しい判断をしてる!」
語気を強くする少年の言葉がおかしくて、死刑囚の男はゲラゲラ笑う。
从 ゚∀从「なんじゃそりゃ。じゃーなんでオレは殺されねェ?
自分と同レベルの魔術師相手を前に、なんであくび混じりなんだよ?」
(; ∀ )「それは……!!」
呼吸が浅くなる。
ハインリッヒに反論しようとするが、上手く言葉が出てこなかった。
从 ゚∀从「殺すのが怖ェくせに、『敵』の前に立つんじゃねえよ!」
片手で闇の波動魔術を放つ。
モララーもカウンターで、同じ魔術を使って反発させた。
从 ゚∀从「よォやく封印が解けて、また暴れられると思ったのによォ!
おめーみてェな甘ちゃんが相手じゃ、食いごたえがねえってもんだ!!」
更に重ねて、両手で相手を押しつぶしにかかる。
負けじとモララーが、足を踏ん張り同じ格好で耐える。
从 ゚∀从「なァ! 名前も知らない坊主! お前、何がしてーんだよ!?」
从 ゚∀从「死刑囚の処刑も出来ないほど、腰の抜けたおめーに何が出来るんだ!?」
(;・∀・)「ぐぅうう……!!」
モララーは押され始めていた。
ハインリッヒが言うように、彼の魔力は決して劣っていない。
こうして、足を踏ん張り腰を入れて魔術を放たないと、撃ち負けるそうになるなど
あり得ないはず。
365
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:20:00 ID:24JaPgZA0
だが、それでも彼は押されていた。
理由はただ一つ。
この目の前にある、黒光粒子砲魔術ブラックフォトンが直撃すれば
命を奪ってしまうかもしれないからだ。
当然、ハインリッヒはそのつもりで撃っている。
だが、モララーは違った。
手繰る魔力を繊細に調整し、死に至るほどの威力にならぬよう加減をしているのだ。
何故、今になっても尚そうするのか。
相手が傍若無人の犯罪者と知っても、不殺を貫くのか。
(; ∀ )(そんなこと……もう、ぼくにはわからない……)
幾度も出た戦場の最中。
敵も味方も、本当に必死で戦っていた。
力の弱い、強いは関係ない。
ただ、己が命を果たそうと命を懸けて散り、また、武勲を立てていた。
366
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:21:12 ID:24JaPgZA0
何故、自分には出来ないのだろう。
何度も自問した。
回を重ねるにつれ、それはもうしがらみのように心を縛り。
いつしか、どこかで彼の『当たり前』になってしまっていた。
習慣のように、人を殺せない。
小さな光線魔術で、額を打ち抜くという動作を試みたとして
きっと今のモララーは、ちゃんと狙ったはずなのに虚空を焦がすことだろう。
怖くて怖くて。
自分の身に迫る責任に耐えられそうにないから。
そんなことしなくていいよ、と身体がもう出来上がってしまっていた。
でも、誰かを殺してしまうよりは良い。
言い訳しながら、何度も戦地に赴いては自己嫌悪に陥っていた。
理想と現実とに挟まれて、潰れそうになりながら。
時折聞こえてくる、仲間のため息にも耐えながら。
ずっと。
(;・∀・)「うあぁあッ!!」
思い切り両手を振りあげた。
進行方向を無理やり上空に持っていき、魔術を雲散させる。
黒い粒子が弾け、雪のように一帯へと降り注いだ。
367
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:22:52 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从
从 ゚∀从=3「はー……萎えるなァ」
飽くまで信念を貫くつもりか。
そうまでして勝てる自信もない癖に。
从 ゚∀从「しょうがねえ。年長者として、下の者には教育したらねェとな」
从 -∀从
从 ゚∀从「バーンプロミネンス」
(;・∀・)「は!?」
片手をちょいと翳しただけだった。
そこに放たれるは、火の大魔法『バーンプロミネンス』
上空に生み出された巨大な火球が、相手を骨すら残さぬほど焼き尽くす超威力の魔法。
瞬間的な威力だけなら、グランドエクスプロードすら凌ぐほどだ。
368
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:24:54 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「スペルカウンター!」
不可解だった。
大魔法の発動には、必ず要るものをハインリッヒは無視して放ったのだから。
まずは詠唱。
大魔法は、自身の魔力と大気中の魔力をリンクさせ増幅して放つ。
ゆえに、詠唱をして周囲の魔力を自身のモノへ隷属化しなくてはならない。
そのコントロールを行う際、片手では抱えきれない魔力量になるため
絶対に両手で撃たないとまともな発動は出来ないはず。
どちらかを怠れば、普通であれば威力が落ちたり唱えることすら叶わない。
それなのに……!
(;・∀・)(威力が、全く衰えていない……!?)
スペルカウンターの防護壁を作り出すが、とっさに放ったためレベルは7。
それでは大魔法は返せない。
魔法陣はひび割れて、今にも壊れそうになっていた。
(;・∀・)「だったら……スペルキャンセラー!!」
落ちてくる速度が下がった所で、スペルキャンセラー。
先ほどより余裕があったので、二重詠唱であれどレベルは10。
十分、バーンプロミネンスに対抗できる。
从 ∀从「そこだよ」
369
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:26:48 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「!?」
ハインリッヒの声だけが聞こえた。
モララーは辺りを伺う。
どこにも居ない。
……否。
どこにも居ないのではない。
何も見えなくなっている。
バーンプロミネンスを、確実に消し飛ばしたのを見たと同時だ。
灯りが途端に消えたように、視界が真っ暗になっていたのだ。
从 ∀从「どうして、スペルキャンセラーにするかね。
スペルカウンターを重ねれば、オレに反撃の一手を浴びせられたはずなのによ」
(;・∀・)「どこだ!」
从 ∀从「能力はピカ一だが……。どうにも、そこんところが足りてねェな。
お前さんは」
370
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:28:06 ID:24JaPgZA0
声のする方向がわからない。
前からも後ろからもするし、真横に居るようにも思える。
スペルキャンセラーを放つが、虚を掴むようにすり抜けていく。
从 ∀从「お前に足りてないものを、このオレ様が与えてやる。
目が覚めたら、オレを追ってきな。居る場所はすぐわかるはずだぜ」
(;・∀・)「ハインリッヒ!!」
膝ががくんと抜ける。
糸の切れた人形のように、モララーは地面に崩れ落ちる。
伏せる彼の意識は既になかった。
从 ゚∀从「……ったく、本当にガキんちょかよ」
モララーすら知覚できないほど、微細な魔力で放たれた幻影魔術。
意識がバーンプロミネンスに向いている最中にそれは、既に命中していた。
本気を出せば、こんな魔法防げないわけがなかろうに。
少し対峙しただけで、理解していた。
甘いのもあるが、性根から優しい人間なのだろう。
人を殺しを、極端に怯えている。、
無意識のうちに、魔法をセーブして放ってしまうのは、そのためだ。
目の前で浅い呼吸のまま、汗を流しつつ眠る少年を見下ろしながら
ハインリッヒはそう思っていた。
371
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:29:16 ID:24JaPgZA0
せっかく面白そうな奴が出てきたのだ。
ここで命を絶ってしまっては、あまりに勿体ない。
从 ゚∀从「さァて。そんじゃまあ、たっぷり教え込んでやろうかね」
从 ゚∀从「人を殺すために、いっちばん大事なもの」
从 ゚∀从「怒り、ってヤツをな!」
高笑いしながら、ハインリッヒはモララーを残して歩いていく。
そして、頑強な封印魔術が施された扉の前に立ち。
まるで当たり前のように、施錠を破壊した。
嘗四話「その扉を開く者」
372
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:30:25 ID:24JaPgZA0
あ。「つづく」を忘れてました。これで今週分は終わりです。
モンハンやりたくてウズウズしてるので、やってきます
373
:
名も無きAAのようです
:2021/03/28(日) 01:45:11 ID:nuaWUJlU0
乙
374
:
名も無きAAのようです
:2021/03/31(水) 21:24:26 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね
375
:
名も無きAAのようです
:2021/03/31(水) 21:25:43 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね
376
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/03(土) 20:45:48 ID:N8bnHeqQ0
こんばんは。
今週はちょっと予定があって、更新は明日になります。
午前中には投下しますので、お待ちください
377
:
名も無きAAのようです
:2021/04/03(土) 22:57:18 ID:nX7ahJxI0
おk
378
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:54:09 ID:HLPKJgY.0
嘗三話「決意」
(;-∀-)
(;-∀・)
(;・∀・)
(;・∀・)「!!」
急いで起き上がった。
脳が覚醒すると同時に、仰向けになっていたことを理解する。
見慣れた天井、室内の風景。
そこは自室だった。
379
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:56:20 ID:HLPKJgY.0
身体を持ち上げた時点で、居場所は理解できた。
だからこそ焦る。
何故、自室に……!?
モララーは急いで窓を開けた。
気圧差により、激しい気流が部屋の中に入ってくる。
大粒の雨が、部屋の衣類や書物を濡らしていくが関係ない。
外は、近年でも稀にみる大嵐だった。
気にも留めず、モララーは窓枠に足をかけ、風魔術で飛翔。
いつも彼が居る、城の一番高い場所へと瞬時に到達した。
(;・∀・)「……はぁ……はぁ……」
肺が押しつぶされそうだった。
呼吸がしにくいのは、大雨と雷を降らす雨雲のせいだけではない。
380
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:57:40 ID:HLPKJgY.0
彼が今ここに、こうして居ること。
何もなしえてないのに、意識を失っていたこと。
それこそが最も大きな原因。
探知魔術を、一帯に張り巡らせた。
城を、城下町を覆いつくせるほど広く、速く。
もしかすると、悪い夢を見ていただけなのかもしれない。
天候不順だから、嫌なイメージばかり沸いてしまうのだ。
そうに違いない。
そう思いたい、
(;-∀-)
(; ∀ )「……………………あぁ。」
381
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:59:13 ID:HLPKJgY.0
小さく呻き声が漏れた。
本来は人が乗る場所でないポールの上から、体が落ちそうになる。
済んでのところで手を伸ばし、落下は避けられた。
風の魔術で姿勢を制御することすら難しい。
それほどまでに、モララーの心は乱れ切ってしまった。
探知魔術で返ってきた結果は、想像通り……いや、想像以上に悪いものだったから。
城下町が焼かれている。
雨のおかげで燃え広がることは免がれたが、家屋が倒壊した事実に変わりはない。
意識を失って倒れている店主。
隣で泥に膝をつき、ただ泣き崩れるその妻。
辛そうな顔で遺体の処理をしている門番が居る。
顔なじみだったのか、知らない人だったのか。
何にせよ、不可抗力で処分せざるを得なかった大事な市民だ。
悲しくないわけがない。
医者達が、魔術師の手を借りて東奔西走していた。
全く手が足りていないことがわかる。
消えゆく少年の命を、救えずに空を仰ぐ中年男性がそこには居た。
不自然なくらい巨大な赤い水の池。
胴体しかない、やけに綺麗な石造。
ねじれて反転した石造家屋や、腐敗した大地。
何をどうすれば、ここまで酷いことが出来るのだ。
382
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:00:37 ID:HLPKJgY.0
(;・∀・)「……! おじい様は!?」
動揺している暇などない。
あの場で、すぐ外に国王が居たはずだ。
捕縛した恨みを持っているに違いない。
危害の状況を確かめなくては。
(;-∀-)「……」
とはいえ、どこにいるかわからない。
気配を探ろうとしたが、城全体に強力なスペルキャンセラーが張ってあった。
壊すのはたやすいが、過剰な防衛措置の理由には心当たりがある。
それはできない。
混濁する脳内を必死で動きまわして、モララーは考える。
思いつく場所を一つ一つ探すか? いや、時間がかかりすぎる。
場所がわからなくても……目印になるものがあれば……。
それを空間転移魔術と繋ぎ合わせてしまえば、きっと……。
口を半開きにしながら、術式を展開しだす。
震える手で、魔力を懸命に操って完遂を目指した。
383
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:01:37 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)(そう……だ。ブレスレット……!)
いつも身に着けているという、代々伝わってきた王家の宝の一つ。
きっと持っているに違いない。
それを手繰れば……!!
切り、貼り、伸ばし、繋げる。
空間転移魔法が放つ青色の魔法陣は、緑色に変色した。
(;・∀・)「……ここだ!」
魔力を込めて、術を起動させる。
光の球に体が変化すると、別の空間へと飛翔を始めた。
予想よりも短い時間で、モララーが発動した新しい魔法は発揮をし終えた。
/ ,' 3「待て」
(;・∀・)「国王陛下!」
手をあげて、降伏の仕草をするモララー。
いち早く察知した国王は、敵ではないとわかっていたから
周囲の近衛兵士達の攻撃態勢を制した。
384
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:03:02 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「やはりキミじゃったか」
(;・∀・)「ご無事ですか!?」
場所は作戦会議室だった。
国王は普段通りの格好で、いつものように指揮を執っていた。
だが、決定的な違和感がある。
/ ,' 3「ああ、ワシは無事じゃよ」
(;・∀・)
(;-∀-)
言葉だけで、その意図は伝わった。
モララーは歯を食いしばり、血が滲むほど拳を握りしめた。
肩を震わせ、瞼を閉じて、その罪の重さを痛感する。
385
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:04:18 ID:HLPKJgY.0
近衛の階級を持つ、大陸屈指の猛者。
数名、減っていた。
いつも傍に居た近衛騎士も。
自分にテーブルマナーを教えてくれた、あの人も。
そこに居ない。
収集されている人選からすれば、居ないのはおかしい。
状況と、結果。
照らし合わせれば、おのずと答えは出てきた。
出てしまっていた。
彼らは、王を庇い殉職したのだと。
/ ,' 3「モララーくん」
(; ∀ )
386
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:05:51 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「……」
(; ∀ )
/ ,' 3「モララー=レンデセイバー!」
(;・∀・)「は、はい!」
気持ちが地の淵に陥る前に。
スカルチノフは、あえて厳しい口調で続けた。
/ ,' 3「お主に今一度、命を与える」
/ ,' 3「ハインリッヒ=ボンデリンクの死体を、ワシの下へ持ってくるのじゃ」
/ ,' 3「それまで、この城に入ることは許さん」
/ ,' 3「……良いな?」
387
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:07:02 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)
(;・∀・)「かしこまりました、国王陛下」
顔を叩き、モララーは作戦会議室の外へと歩き出した。
残された部屋で、国王は思う。
未熟な彼に、過度な期待をした自分が愚かだった。
死刑囚であるなら、きっと心の壁を破ってくれると思った。
けれど、やはりまだ少年なのだ。
怖かったはず。
辛かったはず。
ハインリッヒが城から脱走し、城下町を襲い、それからどこへ行ったのか。
見当はつかない。
だが、それでも、これ以上被害を増やすことはできない。
頼れるのは彼だけだ。
自らの判断の甘さを、まだ15の少年一人に背負わせることに
重く深い後悔と自責の念を抱きながら、国王はため息をついた。
388
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:08:27 ID:HLPKJgY.0
街の復興、ラウンジ大陸への対処。
することは、山ほどある。
それを少しでも進めることで、償いとしよう。
願わくば、一日でも早くモララーが戻ってきてくれることを願いつつ
心の内を必死に押し隠したまま、業務を再開するのだった。
( ・∀・)「……」
暗い部屋にモララーは戻った。
開けっ放しの窓から、雨水が絶え間なく流れ込んできている。
手をかざしガラス戸を閉めると、そのまま速乾魔法で部屋の余分な水気を取り払った。
俯いたまま、壁にかかっている黒いマントの下へ歩いていく。
初陣祝いで頂戴した、戦闘用の外套。
今まで返り血を浴びたことがあっただろうか。
綺麗なままの繊維を、そっと撫でる。
何のために、国王は黒い衣類を寄越したのか。
意図を理解できていなかった。
389
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:09:37 ID:HLPKJgY.0
聞いたことはないけれど。
多分、たくさんの赤を浴びても、汚れが目立たないようにと
配慮してくれたのだろう。
『黒』の階級の戦士達の兵具が、その名の通り暗い色で揃えられているのは
泥まみれになろうと、血みどろになろうと構わないようにするため。
ああ。
結局、そんな決意も覚悟もなく。
ずっと、自分は浮ついた気持ちで戦場に立っていたのか。
( ∀ )「……ごめんなさい」
謝罪を伝えたい人たちは、もう聞くことすら出来ないだろう。
苦しい思いを、悔しい思いをさせてしまった。
どれだけ頭を下げても、許しを請うことすら叶わない。
深い深い後悔の念で、心が潰れてしまいそうだった。
自分だけなら、まだ良かった。
390
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:11:11 ID:HLPKJgY.0
いや、違う。
そもそも、その考え方が間違っている。
自分だけじゃないんだ。
ここにきて、世話になった人たち。
関わった以上、もう他人ではない。
そんな当たり前のことすら気付かず。
自分は強いのだから、高潔な志のままで進んでいけると思っていた。
心底、腹が立つ。
甘い。甘すぎる。甘っちょろい。
何度も言われていた気がする。思われていた気がする。
見て見ぬふりをしたのは、他でもない自分自身だ。
( ∀ )「……はぁぁ……」
震える手でマントを掴んだ。
重い溜息は、体内の余分な感情を流してくれる。
391
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:12:29 ID:HLPKJgY.0
もう、自分を責めるのはやめよう。
下を向いている暇があれば、一秒でも早く状況を好転させなくては。
冷静になってきた頭は、徐々に徐々に闘争本能を呼び覚ます。
こうなったのは、誰のせいだ。
自分だ。
……だが、やったのは誰だ。
あいつだ。
あいつが居なくなれば、怖い目にあった人たちも少しは救われるんじゃないか?
心臓が高鳴る。
今までの、緊張とは違う。
熱くて浅い呼吸が全身に思いを巡らせる。
392
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:13:17 ID:HLPKJgY.0
そうだ。
そうだ。
あいつを世に放ったのが自分の責任なら。
自分自身で、始末をつけなくてはならない。
国王の命令だけじゃない。
今、モララー=レンデセイバー自身が思っていること。
――――憎い。
この思いの、諸悪の根源を絶つために……!!
手に取った黒いマントを、モララーは勢いよく引き寄せて羽織った。
再び顔を上げた彼の瞳は、外套のように。
闇を飲み込むかのように、黒く深く染まっていた。
393
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:14:45 ID:HLPKJgY.0
从 ゚∀从「ハッハー! 良い眼になったじゃねーか、モララーよォ!」
そこは、街から遠く離れた平野。
相変わらず大荒れの天気を、障害物なく流し続ける広い大地。
どこで名を聞いたのか、嬉しそうにハインリッヒはモララーを迎え入れた。
被害の状況を追った先。
乱雑に散っている、VIP大陸の兵士たちの死体の海で、白炎は笑っていた。
( ・∀・)「……ハインリッヒ=ボンデリンク」
( ・∀・)「一つだけ、お前に聞きたい」
从 ゚∀从「おォ、なんだ?」
394
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:16:38 ID:HLPKJgY.0
低い声で質問をするモララーに対し、余りに軽い言葉が返ってくる。
苛立ちを覚えつつも、少年は続けた。
( ・∀・)「お前は、どうしてそんな簡単に人を殺せるんだ?」
从 ゚∀从「は? な、なんじゃそら! ハッハッハッ!!」
彼にとっては余りにも荒唐無稽な質問だったのか。
ハインリッヒは笑い出す。
お腹を抱えて、涙を流し、呼吸を整えてから、じっと待っているモララーに返答をした。
从 ゚∀从「んなもん、理由なんてあるかよ」
从 ゚∀从「オレは強い。強いから何をしてもいい」
从 ゚∀从「弱い奴はかわいそうだろォ?
生きてても意味がねェんだ。だから殺す」
从 ゚∀从「そんだけじゃねーか。他に思うことなんてあるのかよ?」
395
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:17:55 ID:HLPKJgY.0
( ・∀・)
( -∀-)
( ・∀・)「……ああ、良かった」
( ・∀・)「お前が、狂ってしまってたり。
悲しい過去があって殺戮を繰り返しているのなら
ぼくは少しは躊躇したかもしれない」
( ・∀・)「でも、違うんだな」
( ・∀・)「正しく、理性と理由を持って人を殺せるんだな」
从 ゚∀从「……ああ、そうだよ。悪いか?」
( -∀-)「いいや、助かった。
おかげで、今度こそ。何も後ろめたさもなく」
396
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:19:24 ID:HLPKJgY.0
( ・∀・)「……ボクは、お前を殺せる」
.
397
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:20:57 ID:HLPKJgY.0
どす黒い感情で、強い言葉が自然と口に出た。
鋭い目つきは、嘘偽りない真実を語っている。
从 ゚∀从(……そうそう。それだよ! それを待っていたんだ!!)
凄まじい力の魔術師と、今から殺しあえる。
全力を賭して、気兼ねなく殺せる。
最高だ。
その為に、自分は強くなった。
弱い奴らを蹂躙し、強い奴を超えて優越感に浸る。
それこそが、自分自身の生きている意味。
おあつらえ向きの相手が、今目の前に立っている。
それも極上の殺気と、怒りを兼ね備えて。
ハインリッヒは、舌なめずりをして歓喜に打ち震えていた。
从 ゚∀从「さあ、やろうぜ……大魔術師サマよォ!!」
つづく
398
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:22:14 ID:HLPKJgY.0
更新日ズレちゃってすみません。
土日のどちらかではでは、必ず更新しますのでお待ちいただければ幸いです。
399
:
名も無きAAのようです
:2021/04/04(日) 23:22:07 ID:/fYsMNHc0
乙カレー
400
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:09:16 ID:OsElsdq60
嘗二話「沛雨に溶けゆく仄暗き心」
ハインリッヒ=ボンデリンクは生まれながらの天才だった。
物心がついたころには、既に中級魔法を十全に使いこなせており
青年の頃には、同年代の敵は居なかった。
凄まじい成長性は、絶対の自信を持たせる。
闘技学校に通う必要すらないと自負し、傭兵試験に強引に参加。
通常の課題とは違う、難易度の高いテストを難なく突破し
晴れて、彼は国の抱える魔術師となった。
当然、彼のやるべきことは決まっていた。
溢れる魔力、強大な魔術。
多彩な攻撃魔法を行使して、敵軍を瞬時に蹂躙。
別動部隊へ支援魔術をかけ、進軍速度を急上昇させる。
若さゆえ、魔法力の回復は早い。
彼は止まることなく、ラウンジ大陸の部隊を
まさに獅子奮迅の活躍で突破していく。
血の海を、死体の山を、魔術の空を。
決して常人では作り出せない、悪夢のような風景を
虚静恬淡と背後に置いていく。
401
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:10:54 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(つまんねェな)
死体の山をハインリッヒは不満げに蹴り飛ばす。
風の刃で首を切り、炎の柱で体を焼く。
閃光で大軍を薙ぎ払い、土の塊で圧殺する。
从 ゚∀从(なんで、誰も彼も同じことしかできないのかねぇ)
魔法の歴史を紐解いていけば、理由はわかる。
使えないもの、危険なもの。自然の摂理を崩すもの。
それらは淘汰され、忘れ去られた。
今では、最適化された魔術として応用され
万人が速く、正確に繰り出せるものに組み上げられている。
从 ゚∀从(……ああ、なんだ。簡単なことじゃんよ)
封印された『禁術』。
彼はあっさりと使えてしまった。
人を操る魔術、致死の傷を癒す魔術、生態系を崩すような魔術。
どれも簡単だ。
从 ゚∀从(これがあれば、もっともっと楽しめる……!)
402
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:12:18 ID:OsElsdq60
目の前で無残に倒れていくラウンジ兵。
他人の命を奪うのが、ハインリッヒはたまらなく好きだった。
研鑽した力が届かず、絶望の淵に落ちていく顔。
縁者の死を怒りに、復讐者として挑み散っていく者。
圧倒的な力で、圧倒的な他者を蹂躙する。
その征服感が、最高に生を実感させていた。
……いつの間にか、目の前の死体がラウンジ兵だけでなく。
VIP大陸の者にまで及ぶほどの凶行に走ってしまったことだけが
彼にとって、唯一の失敗だった。
不自然な自軍の被害は、完璧には情報封鎖もできず
怪しんだ憲兵が、禁術の使用現場を確認。
激しい応酬と多大な犠牲の伴う戦いが繰り広げられた。
最終的に、彼は虚を突かれ捕縛。
専用の地下牢に投獄されることとなった。
本来なら万物の魔法を封じる護布の中で
その効力を掻い潜る術式を混ぜた、生体活動を極度に遅延させる禁術を使い
いつしかまた、自由に人を殺せる明日を願って。
403
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:13:23 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(さーて、このガキはどう打って出るんだろうなァ?)
激しい雨の中、二人は距離を置いて対峙していた。
防水の魔術もかけず、髪に服に雨が滑り落ちていく。
前傾姿勢で、出方を待つハインリッヒ。
人を殺すことに怯えていた少年が、一体どんな手段で自分を殺めようとするのか
興味しかなかった。
( ・∀・)「……」
望み通り、モララーが先に動いた。
黒衣に隠れた手をゆっくり前に突き出す。
从 ゚∀从「!」
瞬間、前方の雨粒が道を開ける様に弾けていった。
魔力を込め、空気を高速で打ち出したのだろう。
圧縮(コンプレス)で強化したスペルカウンターで、ハインリッヒは受け流す。
着弾した後方の草原が、水飛沫と土砂を巻き上げて爆発した。
404
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:15:04 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「おっとォ!」
大地を両側に隆起させる。
直後に風の刃が衝突し、岩壁が崩れ落ちていった。
ハインリッヒは嬉しそうに笑うと、すぐさま迎撃を行う。
从 ゚∀从「フォーレンスタイン!!」
手に込めた魔力が青く光り、球体を生成する。
禁術の魔法名を叫ぶと、それは一直線にモララーに飛んで行った。
( ・∀・)「……プロミネンス!」
スペルキャンセラーを構えたモララーだったが、すぐに詠唱を変更する。
彼の洞察通り、それはかき消すことの出来ない魔法。
触れれば、永久的に凍結を繰り返し広がっていく恐ろしい氷魔法なのだ。
だから、モララーは火炎弾の連発で対抗する。
目にも止まらぬ速さで射出された、上級火炎魔法は十を超えた辺りで爆発を巻き起こした。
温度差による水蒸気爆発で巻きあがった煙。二人の視界は遮られる。
从 ゚∀从「アクアレーザー、ツヴァイ!」
指先から、細い水を圧縮させて放つのがアクアレーザーだ。
ハインリッヒは、圧縮(コンプレス)で累乗させ威力を増加。
眼前の煙ごと、一直線に切り裂いて確実に生命を奪いにかかる。
だが、その一閃は途中で角度を変える。
上空のあらぬ方向へ向かう原因は、モララーのスペルカウンターによるものだった。
405
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:16:59 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「ハイライトニング」
塞がっていない方の手で、別の魔法を放つ。
上空に、雷による帯のようなものが形成された。
それは一つに収束すると、ハインリッヒに目掛けて無数の矢のように飛んでいく。
从 ゚∀从「マジックスカルヴ!」
連射される雷の刃は、途中で速度を失った。
ピタリと止まると、次に方向を変える。矛先はモララーの身体だ。
放った魔法を、意のままに操る禁術の効果である。
( ・∀・)「いちいち、面倒な魔法を……」
スペルキャンセラーを発動して、自身の魔法を相殺していく。
見たことのない魔術の連発に、モララーはやや苛立ちを覚えていた。
从 ゚∀从「ハッハッハッ! どうだよ、面白いだろォ!? 禁術はよォ!」
( ・∀・)「微塵も面白くなんかない」
高らかに笑うハインリッヒに、モララーは即答する。
从 ゚∀从「ちまちまやってたって、何も進まねェぜ!?
こっちは『レナトス』を発動してんだ。
そう簡単には魔力切れをおこさねェぞ!」
406
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:18:35 ID:OsElsdq60
通常、魔力を回復させるには休息を取る他ない。
時間経過以外には、薬などを使うしかないが
大気中の魔力を強制的に吸引し、自分のモノとする禁術がある。
それが『レナトス』だった。
植生や動物の生態に、悪い影響が出るので封じられた魔法である。
从 ゚∀从「オレを止めに来たんだろ!? だったらすることは一つじゃねェか!」
从 ゚∀从「取りにこいよ、オレの命をよ!」
( ・∀・)「最初からそのつもりだ」
手を向けると、魔力に引かれて数多の石礫が浮かび上がる。
土の上級魔法、ストーンレインだ。
从 ゚∀从「しょっぺえなァ、オイ!」
ハインリッヒが両手をかざす。
当たればケガではすまない速度や大きさの飛礫が、磁力のようにビタリと止まっていく。
从 ゚∀从「シュラムベディーネン」
徐々に徐々にそれは、形を成していく。
巨大な腕が、大きな腹が、太い足が。
全て岩石で形成された人形が、モララーの前に立ちはだかる。
石と石がぶつかり、軋む音を立てながら腕を振り上げてきた。
407
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:22:06 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「ギガブラスト!」
それよりも早く、モララーが無属性魔法を胸元に叩き込んだ。
動力源である核を完璧にとらえたその一撃は、轟音を立てながら活動を停止させる。
石と雨水の隙間から、鋭い視線が飛んでくることに、ハインリッヒは思わず笑みを浮かべた。
从 ゚∀从「……ハッハッハッ。いいねェ、いいぜ。モララーよォ」
从 ゚∀从「その暴力的な魔術、破壊的な魔力! オメーは、戦いの為に生まれてきたんだな!」
( ・∀・)「違う」
戦うことが、殺し合うことが楽しくてたまらないハインリッヒ。
あざ笑うような挑発に、モララーは間髪入れずに否定する。
从 ゚∀从「違うもんか! そんだけの超人的な能力を、何故正しい方向に使おうとしない!?」
( ∀ )「違う!!」
鳴り響く雷にかき消されぬよう、声を荒げて拒絶する。
( ∀ )「そんな……そんな悲しい生き方をするために、ボクは生まれてきたんじゃない!」
(#・∀・)「人を殺すことが! その為だけの力なんてものが、正しいわけがない!」
408
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:25:01 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「綺麗事を言うんじゃねェよ……。じゃあ、オメーの大好きな国王陛下を
オメーは否定すんのか?」
( ・∀・)「なに……?」
从 ゚∀从「国に仕えている戦士は皆、人を殺すために日々鍛錬している。
そして鍛えられた奴らを、正しく利用するのが統率者。つまり国王だろう」
从 ゚∀从「国王は、戦うことを。戦争の為の力を、正しく使ってると思うが?
オメーは、それを拒むんだな?
間接的な殺人鬼である、国王陛下を否定するんだな!?」
( ∀ )「…………それは……!!」
从 ゚∀从「いいか、モララー!
命を与えられ、戦場に立っている駒が出来ることは二つ!
敵を殺すか、敵に殺されるかだ。それ以上も以下もねえ!」
从 ゚∀从「ごちゃごちゃ難しいこと考える必要なんざねーんだよ。
好きなように、好きなだけ暴れる。
その先にある景色は、死体の山か真っ暗な空か、どっちかだ!」
从 ゚∀从「人を殺す力が、正しくないだァ……? 笑わせるぜ。
その台詞、騎士や魔術師の連中に言えるか?」
(;・∀・)「!」
从 ゚∀从「オメーは自分自身で、戦士としての『仲間』をバカにしてんだよ」
409
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:26:48 ID:OsElsdq60
( ∀ )「違う……違う……!!」
从 ゚∀从「ハッハッハッ! そーかいそーかい。それでも『違う』んかよ」
从 ゚∀从「だったら、することは一つだよなァ……?」
从 ゚∀从「……お前が、真の戦士であることを」
从 ゚∀从「大事な大事なオトモダチに! 国王サマに!
自分の存在価値がまだあることを!
人を殺せるんだ って、証明してみせろや!」
( ∀ )「……さっきも言ったはずだ」
( ・∀・)「最初から、そのつもりだ、と」
410
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:28:03 ID:OsElsdq60
从 -∀从「クク……いいねェ」
まだ迷っていた幼い瞳が、更に深淵を増していく。
もっともっと。
強い殺意を、激しい恨みを!
怒りは力を引き出してくれる。
そんな極上の相手を、自分の培った力で真っ当に殺す。
これ以上の快楽は世に二つと無い。
堪えきれない笑みを浮かべ、ハインリッヒは再びモララーへ猛攻を仕掛けるのだった。
――――。
(;メω-)「む……う……」
遠く離れたNEET城の医務室。
ロマネスク団長が、呻き声を開けながら目を覚ました。
411
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:29:35 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「ここ……は……?」
ζ(゚ー゚*ζ「ロマネ君。よかった、起きたんだ」
川 ゚ -゚)「まだ熱が引いていない。寝てると良い」
天井までの視界を遮るのは、幼馴染と妻の姿。
育児のため一時的に戦線から離れていたはずだが……。
(;メωФ)「クー、どうしてココに?」
川 ゚ -゚)「聞いたこともないくらいの重傷と聞いてな。
居てもたってもいられなくて来たんだ」
摩擦を感じさせない長い髪を、キラキラと反射させながらかき分ける。
ロマネスクの妻のクーレ=ホライゾネルは、不安と安心の入り混じった顔で
疲労の溜まった ため息をついた。
(;メωФ)「ブーンは?」
川 ゚ -゚)「母さんが見てくれてるよ」
(;メωФ)「そうであるか……」
ζ(゚ー゚*ζ「それにしても傷だけで良かったね。
五体満足なのは、幸運だったとしか言いようがないよ」
(;メωФ)「……うむ。ブスダドクオ……恐ろしい男だったのである」
川 ゚ -゚)「……ロマネは知らないだろうが。
実は今の王都は、もっと危険な状態なんだ」
412
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:31:57 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「? どういう……」
言いかけたロマネスクが、とある異変に気付く。
痛む身体を無理やり持ち上げ、窓でもないあらぬ方向の壁を見た。
(;メωФ)「……なんであるか、この強烈な魔力の波動は……?」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、ロマネ君でもわかるんだ。凄いね、騎士なのに」
川 ゚ -゚)「私はさっぱりだが……デレもわかるんだな」
ζ(゚ー゚*ζ「まあね。これだけの魔力、魔術師なら誰でもわかるよ」
(;メωФ)「何が起こっているのである……?」
デレは今の城の状況を説明した。
ドクオに敗れて、ニメア地区が陥落した件。
それに伴い、国王がモララーと『白炎』ハインリッヒを対峙させたこと。
目的は、モララーに殺生の経験をさせて、戦力として扱えるようにすること。
だが、モララーは敗れハインリッヒは逃亡。
街を半壊させて、大きな被害を生み出した。
その後始末として、再びモララーがハインリッヒを追い
今現在、戦っているであろうこと。
413
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:34:03 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「そんな……。モララー殿に加勢は向かってないのであるか?」
ζ(゚ー゚*ζ「わかるでしょ? 巻き込まれるだけだよ」
(;メωФ)「しかし……一度は敗れた相手なのである。
そもそも、モララー殿は強くとも、まだ少年なのである。
いくらなんでも、何もかも背負わせすぎでは……?」
川 ゚ -゚)「……それはきっと、誰でも思っていることだ。
戦線に居なかった私ですら、聞き及んだ情報だけでも
十分に無理させすぎていると感じるよ」
(;メωФ)「だったら……」
ζ(゚ー゚*ζ「それでも、信じるしかないんじゃないかな。
モララーくんなら、きっと出来るって。
この終わりの見えない戦いを、終わらせる光になってくれる、って」
ζ(゚ー゚*ζ「その為に……殻を破るためには必要なことなんだと思う」
(;メω-)「…………残酷であるな」
川 ゚ -゚)「だがロマネも、薄々同じことを思っているんだろう?」
(;メω-)「……だから、言ったのである」
(;メωФ)「残酷であるな、と」
ロマネスクもデレも、直接モララーの人となりを知ってきた身だ。
今、どんな気持ちで戦っているのか。
想像に難くない。
414
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:35:20 ID:OsElsdq60
だけど、それを止めることはきっともう出来ない。
止めてしまえば、彼はもう戦士になることはないから。
取り返しのつかない現実と、向き合う強さを手に入れなくてはならないのだ。
掛けられたシーツを力一杯ロマネスクは握りしめた。
遠く壁の向こうを見つめているデレも、同じような心境だろう。
座して待つしか出来ない、この歯がゆさは激しい雨音の中に溶けていった。
从 ゚∀从「チィッ!」
手で地面を抉り、吹き飛ぶ勢いを殺しながら、ハインリッヒが舌打ちをする。
相変わらずの殺気と鋭い目で、モララーはひたすらに攻撃を続けていた。
いつの間にか、周囲は殺風景になっていた。
何度も何度も強力な魔法が叩きつけられたせいで、岩肌がいくつも露出している。
415
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:36:56 ID:OsElsdq60
豪雨に揺れる草も、雷で焼かれた木々も既に何もない。
モララーの足元、彼の半径数センチのみ自然が残っているだけ。
そう、それは余りにも奇妙で不愉快な状態。
ハインリッヒはとっくに気付いており、苛立ちを覚えていた。
从 ゚∀从(このガキ……さっきから一歩も動いてやがらねェ!!)
圧倒的な差を見せつける為なのか。
手を抜いているのか。
真意はわからないが、一つだけ受け取れる意思がある。
从#゚∀从「てめェ……オレをナメてんのか!?」
( ・∀・)「バカを言うな。手を抜いているつもりはない」
冗談ではないトーンで返事をする。
すっかりモララーは落ち着きを取り戻していた。
その異様な静けさに、ハインリッヒは焦燥感を覚える。
じゃあ、一体なんのつもりなのだ。
殺す気なのはわかっている。
だが、出し惜しみをされるのは、腹が立つ以外のなにものでもない。
ハインリッヒは青筋を立てながら、あえてその意向を砕こうと魔法を放った。
416
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:38:45 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「ガイアクラッシャー!!」
大地にひびが入る。
数舜後、地面が割れて万物を飲み込む岩壁となる。
再び閉じると圧迫し潰し、対象ごと土へと還す『大魔法』だ。
以前と同様、詠唱を破棄しての発動。
普通なら生まれる隙も無く、それは発揮される。
( ・∀・)「もう少しなんだ。大人しくしていろ」
モララーが不機嫌そうに足を踏み込んだ。
破裂する音が鳴り響き、ガイアクラッシャーが打ち消される。
从;゚∀从「なッ……!?」
容易ではないはずだ。
詠唱破棄は工程を飛ばす分、威力が落ちる。安定性も非常に悪い。
だが、ハインリッヒはその問題を禁術の行使で解決していた。
なのに、かき消された?
当然だが、モララーは禁術など使えない。
破った方法は一つ。
スペルキャンセラーだろう。
つまり、純粋な力の差で覆したわけとなる。
从;゚∀从(……まさか……そんなわけが……!!)
417
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:40:56 ID:OsElsdq60
その才に、ようやく畏怖の念を抱き始めたハインリッヒ。
先ほどから、禁術を用いても動かない戦況に、焦りを感じなかったわけではない。
だが、認めたくなかった。
自分の方が、上のはずだ。
経験も知識も、こんな小僧より勝っているはず。
理解できない。したくもない。
だって、だって。
オレ様は、世界一の魔術師だったんじゃないのか?
大魔法も、禁術も使いこなした。
誰にも負けない、絶対無二の存在なんじゃないのか。
もしかして……。
この小僧は……そんな領域の更に外にいる……
正真正銘の『真っ当な怪物』だって言うのか……!?
理性がようやく、その危険性を理解した。
だが、全て遅かった。
418
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:43:59 ID:OsElsdq60
モララーの準備は既に整ってしまっていたから。
( ・∀・)「……よし、これならいける」
モララーが、小さく頷き魔力を高めた。
足元には、虹色に輝く魔法陣が浮かび上がっている。
動かないのではなく、動けなかったのはすべてこの行為のため。
力を、魔力を溜め、集中するにはその場に留まるしかなかった。
吹き荒れる暴風と雨に晒される黒いマント。
ちぎれそうなほど、長い髪がはためく。
( ・∀・)「行くぞ、ハインリッヒ。覚悟しろ」
キッと目の前にいるハインリッヒを睨みつける。
光を宿さない、吸い込むような暗い双眸が、動揺する禁術使いの眼を捉えた。
( ・∀・)「……八重連唱(エイツスペル)」
419
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:45:34 ID:OsElsdq60
从;゚∀从「は……!?」
何を言ったのか、何も理解できなかった。
二重詠唱(デュアルスペル)ですら、習得は容易ではない。
だが、この若き大魔術師はまさかの『八重』と口にした。
ハッタリだ。そんなこと、出来るわけがない。
何をしてくるのか、身構えるハインリッヒ。
そこから先の行動は、例え彼が世の理から外れた魔術師であろうと
到底理解できず、到達できない領域の神業だった。
( ・∀・)「プロファウンドバスター!」
突き出し開いた右腕を、左手で支える。
紺碧の魔法陣から解き放たれるは、水の『大魔法』。
しかもハインリッヒがやってみせたのを、見よう見まねで覚えた詠唱破棄で、だ。
从;゚∀从「ぐォおおおお!?」
瞬時に発射されるのは、超高圧縮された水の収束砲。
圧縮されたとはいえ、その半径は数メートルに及ぶ。
噴出の勢いで、粉々にするか
そのまま流されて、何かに衝突して死ぬか。
何にせよ、まともに直撃すれば命の保証はない強力な魔術だ。
420
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:47:13 ID:OsElsdq60
ハインリッヒはとっさに、前方に禁術のバリアを張って防いでいた。
カウンターもキャンセルも、間に合わないと判断したためだ。
しかし、それが悪手であることは気付いている。
押さえつけている間に、すぐさま反撃に出ないと危険なのだ。
从;゚∀从「これは……アブソリュートゼロか!」
周囲の水が、みるみるうちに凍結していく。
激流の隙間からわずかに見える景色も、既に氷の壁になっていた。
対象を挟むようにして、氷山を形成。
その合間を、凄まじい速度で氷柱が往復して着弾と共に芯まで凍結させる。
それが氷の大魔法、アブソリュートゼロだ。
从;゚∀从(連続詠唱……しかも『大魔法』のだと……?)
出来るわけがない。
大魔法はそもそも、手練れの魔術師以外は発動することすら
まともに出来ない最高等魔法だ。
ハインリッヒが禁術を用いたとして、どのように組み込めば実現できるのか。
見当もつかない。
从;゚∀从(とにかく、この状況を抜け出さねえと!)
気温が下がり、息が白くなってきた。
足元にひびが入る。
魔力により氷が溶けているわけではない。
これは、土の大魔法ガイアクラッシャーが発動する予兆だ。
421
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:48:40 ID:OsElsdq60
防護壁を保ったまま、ハインリッヒは別の魔法を急いで唱える。
青色の魔法陣を足元に発動させ、空間転移魔法で脱出を試みた。
意識が消える直前、空が白んでいたのが視界の端に映る
遠くにかすかに輝いていたのは、金色の魔法陣。
上空から降り注ぐ強烈な雷の大魔法『ルーミナスブリッツ』は、寸でのところで回避できたようだ。
从;゚∀从「くそっ!」
普段の空間転移魔法であれば、遠く遥か彼方まで飛べただろう。
だが、それは叶わない。
中空に浮かび上がり、ある程度の距離を稼いだと思ったときだった。
より強力な魔法によって足止めされてしまったのだ。
光球になった身体が、人体へ強制変換される。
原因は、竜巻による乱気流だ。
天候が突然悪化したわけではない。
モララーが放った風の大魔法、アイオロスストームによるもの。
大地を抉り空を裂くほどの威力を持つ、巨大な旋風を放つ魔法。
422
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:49:59 ID:OsElsdq60
空中に放り出されたハインリッヒは、すぐさま態勢を整える。
从;゚∀从「!!」
その動作すら既に遅い。
竜巻を横断するように、無数のオレンジ色の光が空を覆う。
円形の陣を描くそれは、途端に爆発の連鎖を巻き起こし巨大な破壊空間へと変貌した。
( ・∀・)「……」
爆風で激しくはためく、外套と長髪。
強い発光と放射熱の降り注ぐ中、モララーは目を細めず
じっと、無属性大魔法の発生源を見据える。
そして気配を感じ取ると、息を一つ強く吸った。
( ・∀・)「「バーンプロミネンス!!」」从∀゚#从
巨大な火の玉が、太陽のような輝きで強烈に拮抗する。
降り注ぐ雨すら、近づく前に蒸発して消え去るほどの高熱空間が生まれ
燃ゆるべきはずの草木すら既に無い。
枯れた大地も、熱せられた鉄のようにゆっくり軟化してゆく。
从#゚∀从(んなわけがあるか……!!)
ハインリッヒが憤ったのは、彼が完全詠唱でバーンプロミネンスを放ったからだ。
詠唱破棄の場合と違い、安定性も魔力量も増大する。
そのはずなのに……なぜ、互角になる……?
423
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:51:48 ID:OsElsdq60
押しても押しても、込められる限界の魔力を撃っても
手順を省き、なおかつ連続で詠唱している最中という不安定な状態の!
片手間のような大魔法相手に、なぜ勝負がつかない!?
これが、本気の大魔術師の力だというのか……!?
从#゚∀从「だったらァ!!」
使うのは禁術。
ハインリッヒは自らの身体へ、過剰に回復する魔法を使った。
通常なら、すぐに組織が壊死してしまう危険な治癒魔法。
だが、それを上回る破壊が起これば話は別。
从#゚∀从「グランツプロメテウス!!」
両手を掲げ、魔力を込める。
深紅の魔法陣が浮かび上がり、その先に生まれたのは太陽だった。
正しくは、太陽のような火炎球。
バーンプロミネンスをも超える、赤を超え白く輝く光の塊。
触れるどころか、近づくだけで骨も焼け散るほどの熱量と
一帯を焦土にするには容易い範囲を持つ、危険な魔法。
下手な術者であれば、コントロールすら出来ずに燃え尽きてしまうほど。
禁術を使い、強制的に魔力を隷属化し、肉体を再生し続けなくては使えない、まさに秘術だ。
424
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:53:10 ID:OsElsdq60
从#゚∀从「こいつで終わりだァああッッッ!!」
まだ消えていない、目の前の熱エネルギーフィールドに向かって
ハインリッヒは、思い切り投げつけた。
从;゚∀从「!?」
はずだった。
竜巻の乱気流は、グランドエクスプロードで晴れていた。
姿勢を保つための魔術は、空中浮遊と無反動化のみで良かったはずだ。
それなのに、なぜ自分は未だに遠くに向かうような『流れ』に抗っている?
从;゚∀从「ネインエスパルダかよ……!」
周りを見渡すと、真っ黒な空間に居るようだった。
悪天候を上手く利用されたみたいで、気付くのに遅れてしまったのだ。
一体いつから?
グランツプロメテウスは、発動すら出来なかったのか?
考える暇もない。
居るだけで、精神が摩耗する場所な上に
次、いつ追撃が来るかわからないのだから。
今は急いで、この空間から脱出を……。
从 ゚∀从「……待てよ」
425
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:55:14 ID:OsElsdq60
スペルキャンセラーを倍加して放とうとしたハインリッヒは、魔力の発生を止める。
猛攻撃が始まる前、モララーが口にしていた言葉。
八重連唱(エイツスペル)
何を連続詠唱するのか、気にする隙もなかったが。
何故、八つなのだ?
大魔法の連発を全属性行うなら、『九つ』のはず。
炎、水、氷、風、雷、土、光、闇。
この世に存在している属性はこれだけ。
無属性の魔法形態もあるので、加えれば九個あるはずなのだ。
モララーは既に、八つ使っている。無属性を使用したのならば、残りの属性は一つだ。
从 ゚∀从「こいつァ、都合が良いじゃねーか」
度重なる禁術と攻撃のせいで、既に心身ともに限界が近いハインリッヒ。
だが、それでも彼は笑った。
殺し合いの最中、勝てる算段が見つけられた快楽。
自分より上位の存在を、自らの術で殺せる喜び。
今、これからやる方法を使えば実現が出来る。
光明に希望を賭したハインリッヒは、手をかざし魔力を込めた。
426
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:56:41 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「我は刻もう汝の名を」
真っ黒な半円状の空間が目の前にあった。
発動と同時に地表に降り立った闇の大魔法の中には、ハインリッヒが居るはず。
火炎の禁術は既に相殺し終えており、その場にはもうない。
モララーは最後の止めを刺すために大魔法の詠唱を行っていた。
( ・∀・)「神は下そう聖なる裁き」
左手を広げて、前に突き出し言葉を繋ぐ。
足元には銀色の魔法陣が。
そして周囲には、地面からいくつもの光の柱がそびえたっている。
( ・∀・)「根源へ還れ」
( ・∀・)「シャイニースティングレイ……!」
一帯に発生していた光が、帯となりモララーの左手へ収束する。
凝縮され小さな球になると、モララーはそれを握りしめた。
それは、光の弓に変化する。
激しくエネルギーの噴出する弓弭。
右手で弓柄を握ると、同じような波動の矢が形成された。
427
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:58:14 ID:OsElsdq60
水の大魔法、プロファウンドバスターほどの範囲はないが
逆に収斂されたことで、破壊力を増大させた光の大魔法。
最後の決め手だけは、詠唱を行い完全な威力で放とうと決めていた。
だから、モララーはわかっていたのだ。
ネインエスパルダでは、ハインリッヒが死にはしないことを。
次に姿が見えた時、その時こそ全力全霊の魔法で殺す。
決意を込めて、出方を待った。
( ・∀・)「……!」
どれだけの時間を待っただろうか。
息を吸って、吐いて。
次の一撃で、確実に仕留める。
決意を持つには十分な時間。
突如、ネインエスパルダが破られた。
紙を引き裂くように、大きく手を振りかぶり漆黒を消し飛ばしていく。
428
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:59:42 ID:OsElsdq60
从 ∀从
禁術使いは、まだ頭の中が安定しないのか。
その行動だけで手いっぱいなのか。
あまりにも、隙だらけだった。
( -∀-)「……」
( ・∀・)「終わりだ!」
少しだけ震える手を、矢に番えた指を。
覚悟を持って振り切った。
光の弓矢が、一直線に飛んでいく。
衝撃でモララーの足元に唯一残っていた、最後の草原が土に還る。
雨水を寄せ付けることなく、何にも阻まれることなく真っすぐに。
ハインリッヒの、項垂れた脳天に飛んでいき
強い衝撃波を放ちながら、激突した。
429
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:01:25 ID:OsElsdq60
(;・∀・)「!?」
すぐに異変に気付く。
……衝撃波が出るわけがない。
命中すれば、抵抗もなく彼方へ光矢は飛んでいく。
武器では決して作りえないほどの、鋭利な痕を残すだけのはず。
ハインリッヒは、手を突き出して受け止めたのだ。
異変はもう一つある。
ネインエスパルダを破り裂いた手に、暗黒の球体が握られていたのだ。
从 ∀从「クク……ハッハッハッ!」
430
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:03:06 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「なァ、モララー。お前、疑問に思ったことァねえか?」
从 ゚∀从「なんで、この圧縮(コンプレス)なんて、単純な魔法が
禁術に指定されているのか、ってよォ……?」
停止したシャイニースティングレイが、徐々に丸みを帯びていく。
あっという間にそれは、反対の手に握った黒球と同じサイズに変貌する。
高らかに笑うハインリッヒは、興奮しっぱなしだった。
こんなこと、普通はできるはずがない。
出来るわけもない禁術だと思っていた。
从 ゚∀从「コンプレス自体は、なんてこたァねえ魔法だ。
当然だよな。これは、ある魔法の一過程にすぎねえんだからよ」
高純度で、高密度の魔力。
それが生み出す、ハインリッヒすら目で見るのは初めての大禁術が
今完成しようとしていた。
从 ゚∀从「こいつは、魔力同士を合成するためにある禁術でなァ……」
両手に込めた、大魔法の圧縮体をハインリッヒは合わせていく。
从 ゚∀从「相反する属性を重ねると出来る、とんでもねェ破滅魔法が、この……!!」
从 ゚∀从「ディアブロニューケルンだ!」
431
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:04:58 ID:OsElsdq60
発動してしまえば、それはまさに悪魔(ディアブロ)の如き効果をもたらす。
小さな村一つなら、容易に消し飛ばせる殲滅力。
それだけなら、グランドエクスプロードでも事足りるだろう。
この禁術の恐ろしい所は、凄惨な爪痕を残すこと。
余波だけでも、皮膚は焼けおち治癒魔法すら受け付けなくなる。
少しずつ身体を蝕み、やがて確実に死に至る。
植物や土壌も同じだ。
魔力残滓がある限り、育つことも植えることもない。
『死』という概念そのものを顕現するような、恐ろしい禁術。
使おうと考える者もほとんどおらず
実現に至る威力を生み出せるほど強い魔力を持つ者も、過去に居なかった。
それが今、ここにある。
从 ゚∀从「さあ、覚悟しろよモララー……!!
てめェの魔法で、この大地もろとも!」
从#゚∀从「消えてなくなれェーーーー!!」
432
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:06:41 ID:OsElsdq60
次の瞬間。
ハインリッヒは無手になっていた。
433
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:08:05 ID:OsElsdq60
从;゚∀从(……な……に……?)
さっきまで抱えていた、モララーの大魔法。
圧縮されたそれは、既にない。
どこにも、ない。
空の手を見てみるが、わずかな魔力があるだけ。
逆にそれが、本当に消失したことを実感させる。
从;゚∀从「!」
焦ったハインリッヒは、次に目の前にいるモララーを見た。
何かをしたはずだ。
そう思い視線を動かす。
从;゚∀从(ちげェ!)
視界に捉えた場所に、モララーの姿はあった。
だが、そこには居ない。
見えているのは幻影。
ずっとその場を動こうとしなかったモララーが、どこにも居ないのだ。
一体どこへ……!?
434
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:10:00 ID:OsElsdq60
脳内をフル稼働させてハインリッヒは魔法で探る。
そして見つけた。
从;゚∀从(後ろか!!)
ハインリッヒは振り返ることは出来なかった。
風景が傾く。
全く力の入らない首へ、懸命に力を込める。
ダメだ。
無理なのだ。
彼の、その首は既に…………。
435
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:11:46 ID:OsElsdq60
( ∀ )
ハインリッヒが、自分の事態に気付く数舜前。
スペルカウンターを微小に放ち、ディアブロニューケルンを阻止した。
融合する魔力が均等でなければ発動できない魔法。
モララーは瞬時に見切り、対処した。
均衡の崩れた魔法は、目論見通り雲散したようだ。
そして、必殺の一撃を放つ時こそが最大の隙が生まれる。
今まで動かずに、八重連唱の為に蓄えた力はもう必要ない。
得意の幻影魔法で、最後の一手を打ち。
得意の移動魔法で、足音もなく背後に回り込む。
モララーの手には、光の刃が伸びていた。
残り少ない魔力で使える、絶対致死の攻撃魔法。
手刀の形で、全力を込めて交差するように構える。
436
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:12:48 ID:OsElsdq60
この手を振りぬけば。
ハインリッヒは確実に死ぬだろう。
細い首を、撫でる様に水平に薙ぐことで、生命を奪える。
だが。
それは……殺すということは。
モララーにとっては、重く深く根強い障壁。
でも……!
モララーは歯を食いしばる。
したくない。できれば穏便に済ませたい。
しかし、それは出来ない。
この人間は、たくさんの人を殺してきた。
これからも、ずっとそうあり続けるだろう。
437
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:14:25 ID:OsElsdq60
いつか、シャキンに言われたことが脳裏に浮かぶ。
このまま野放しにすれば、自分の大好きな人たちを失うことになるだろう。
それだけは、嫌だ。
( ∀ )(ボクは……!!)
足を踏み込む。
ぬかるんだ土砂に負けないよう、懸命に力を込めた。
( ∀ )(もう、大好きな人たちを失わないように……)
( ∀ )(大好きな人たちを守るために……!!)
( ∀ )(大好きな『人間』を……!!)
438
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:16:22 ID:OsElsdq60
――――――殺す!!!
.
439
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:18:08 ID:OsElsdq60
甲高い音が鳴り響いた。
寸分狂わずに放たれた一閃。
衝撃で一帯の雨が瞬間的に晴れる。
遅れて起こった現実から。
モララーは懸命に目をそらさず、見続けた。
从 ゚∀从「…………ア?」
ハインリッヒの景色が傾いた。
何事かと抗うが、どうしようもない。
視界がぐるりと回転していく。
見えるのは、自分の身体。
首だけがない、自身の胴体。
440
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:20:05 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(あァ……なんだ……やられちまったのかよ……)
やけに冷静な自分に驚きつつも、意識が薄れていくことを実感する。
再生魔法を唱えようとしたが、もうそれすら追いつかない。
色々と思うことがあった。
負けた悔しさ、勝てなかった怒り、抗えなかった恐怖。
ハインリッヒの人生の始まりから、今のこの時までが一瞬にして脳裏に駆け巡った。
その思考も、徐々に霞んでいく。
从 ∀从(これでようやく、お前も……オレ達の『仲間』だな……)
死にゆく瞬間。
ハインリッヒはニヤリとしながら、最期の言葉を口にした。
从 ゚∀从「地獄で、待ってるぜ」
441
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:21:50 ID:OsElsdq60
( ・∀・)
( ∀ )
( ∀ )「……ああ。またな」
442
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:23:37 ID:OsElsdq60
重たい着地音が鳴る。
余波で晴れていた周囲に豪雨が再び降り注いだ。
同時に、ハインリッヒだったものから重力に逆らうように
多量の赤い液体が噴出される。
立ったまま動かないモララーは、その血と雨を一身に浴び続ける。
力が抜けて、死体が地面へ。泥を打ち上げながら倒れこんだ。
遅れて、モララーも膝から崩れ落ちる。
(; ∀ )「はぁ……はぁ……」
呼吸が浅い。
懸命に息を吸っているのに、肺の奥まで酸素が届かない。
こみ上げてくるものがあり、我慢できず吐き出す。
血だった。
大魔法を連発した反動だろう。
せき込みながら溢れてくる体液を、手で抑え込む。
443
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:27:22 ID:OsElsdq60
咳き終え、ガンガンと痛む頭と朦朧とする視界。
そこに映るのは、雨に流れていく二人の赤い液体。
現実に起こった、自分自身の決着を痛感する。
拳を握りしめると、モララーは天を仰いだ。
( ;∀;)
もう雨なのか、涙なのかわからない。
思わず作った握りこぶしを、モララーは地面にたたきつけた。
444
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:29:29 ID:OsElsdq60
砂利で皮が裂けようと
その行為に何の意味が無いと知りつつも
何度も
何度も。
入り混じった複雑な感情を
ぶつけようのない心の内を
流れる雨と血に身を任せるように
ただただ、頭を垂れたまま大地にぶつけながら
仄暗い心に溶かしていくのであった。
つづく
445
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:31:12 ID:OsElsdq60
次回で最終回です。
結構かかるなぁ、と思ってたのですが意外とあっという間でしたね。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
446
:
名も無きAAのようです
:2021/04/10(土) 22:45:56 ID:L4zEoQWc0
乙です!モララーくんついにあちら側の住人になっちゃったか
447
:
名も無きAAのようです
:2021/04/11(日) 00:36:10 ID:3oQQM0P60
ハイン出てきてからの展開特に熱い
448
:
名も無きAAのようです
:2021/04/11(日) 10:24:33 ID:cRjnxFDA0
otsu
449
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:01:28 ID:f.Pjzmts0
/ ,' 3「……む?」
遠くで鳴り響く轟雷が止まった。
作戦室の窓を開き、外を見る。
降り続いていた雨は止み、空からは幾筋もの光が差し込んでいた。
窓の淵からしたたり落ちる水滴を見ていると、国王は何かに気付いた。
/ ,' 3「……まさか」
その原因と理由はすぐに理解できることとなる。
彼の背後が、緑色に輝いたからだ。
この魔法を使える人間を、スカルチノフは一人しか知らない。
事の顛末を見守りながら、深く唾を嚥下すると
次の瞬間には、想像通りの景色が目の前に広がった。
( ∀ )
びしょ濡れの少年が立っていた。
身体をなぞる雨粒すら気にも止めず、俯いたまま。
結んだ長い髪は、絞れそうなほど水分を含んでいる。
/ ,' 3「モララーくん……」
少年の名を呼びかけると、彼は徐に、後ろに手にしたものを見せてきた。
450
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:05:12 ID:f.Pjzmts0
从 ∀从
それは、白炎ハインリッヒ=ボンデリンクの首だった。
背後には、繋がれるべき胴体もある。
/ ,' 3「よくやった。よくやったな、大魔術師よ……!」
孫にも等しい子の肩を抱こうと、スカルチノフは近寄った。
だが、その行為は果たされることはなく。
ゆっくり髪を手放すと、一礼をしてからモララーは作戦室を黙って出ていった。
/ ,' 3「……」
言いようのない感情で、スカルチノフは涙を流してしまいそうだった。
歯を食いしばり、まだ作戦会議中であったことを糧に気を取り直し
遺体の処理を迅速に命令した後、国王は仕事へ身を費やすこととした。
――――。
次の日の朝であった。
スカルチノフは隈の出来た顔で、朝食を取りに食堂へ向かっていた。
次々に舞い起こる問題の数々。
最重要地区のニメアが陥落したことで、敵陣営の動きが活発になっていた。
451
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:06:49 ID:f.Pjzmts0
ここで、最善の手を打たないと下手をすれば王都にまで被害が及ぶ。
どうにか出来ないかと策を張り巡らせていたら、いつの間にか朝だったというわけだ。
大きなあくびをし、重たい身体で窓から除く日光を浴びる。
/ ,' 3(……あの子が、早く元気を出してくれればよいが)
戻ってきてから、一度も会話をしていない。
部屋に戻ったことだけは知っているが、何かを話せば
そのガラスのような心を割ってしまいそうで。
本人には伝えていないが、落ち着くまで休暇を与えるように通達していた。
不満を漏らすものも当然いたが、大半は納得してくれたようだ。
部下たちの心遣いに甘え、この問題は一旦保留。
( ・∀・)「国王陛下」
にする、はずだった。
落ちそうな目玉を瞬きでなんとかひっこめ、スカルチノフは狼狽しつつ問う。
/ ,' 3「も、モララーくん。……もう平気なのかの……?」
( ・∀・)「ええ。ご心配おかけました。魔力もすっかり元通りです」
452
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:08:22 ID:f.Pjzmts0
国王と同じような目元で、無理にニコリと笑う。
不健康そうな姿を見て、スカルチノフは改めて彼に静養を薦めた。
だが、その命令にモララーは首を横に振る。
( ・∀・)「陛下。ボクはもう、決めたんです」
( ・∀・)「戦いに身を置く戦士として、突き進むことを」
震える手のひらを見つめながら、強く拳を握る。
( -∀-)「ここで止まっていたら。きっとボクはまた、決意を鈍らせることになる」
( ・∀・)「一度でも手を血で染めてしまったのなら。もう引き返すことはできないんです」
( ・∀・)「だから、ボクを使ってください。どんな戦場でも、戦況でも。
必ず、勝利を約束します。そして一日でも早い勝利と平和をもたらします」
( ・∀・)「それが大魔術師モララー=レンデセイバーの、戦う意味ですから」
453
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:10:11 ID:f.Pjzmts0
/ ,' 3「……モララーくん」
悩んだのだろう。
悔やんだのだろう。
人殺しを、あれほど拒んでいた以上
最初の感覚は、きっと忘れない。
もう少し時間が掛かると思っていた。
だが、想像する以上に彼は強靭な精神を培っていたのだ。
初めて見せてくれた、自ら戦場へ出るという意志。
それがどういうことを意味するのか。
スカルチノフは頷くと、まだ震えている少年の肩に手を置き。
/ ,' 3「精一杯、頑張りなさい。我らがVIPの為に」
激励の言葉をかけることで、その背中を押した。
――――。
( ´_ゝ`)「なあ、弟者」
(´<_` )「なんだ兄者」
454
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:11:33 ID:f.Pjzmts0
騎士と魔術師の兄弟が馬を率いて、戦場へ駆けていた。
数名の戦士達と共に向かう先は、シャトワという地域。
激戦区であり、陥落してしまったニメア地区から遠く離れた戦場だ。
VIP大陸にある数少ないラウンジ側の拠点なのだが
奪還しても、大きなアドバンテージにはならないと放置されていた箇所。
場所も王都から遠く、兵を出そうにも中々出しにくいので
ニメア地区陥落からは、完全に後回しにされていたのだが……。
( ´_ゝ`)「俺達、今から戦後処理に行く……んだよな?」
(´<_` )「そうだな」
( ´_ゝ`)「何やら先行部隊が居るそうだが……。
戦闘開始から、まだ1時間ぐらいだと思うが」
(´<_` )「ああ、そう聞いている」
( ´_ゝ`)「いくらなんでも、早すぎやしないか?
増援じゃなく、戦後処理だろ?」
(´<_` )「ああ、そうだな。だが、間違いはないぞ」
( ´_ゝ`)「本当か?」
(´<_` )「本当だ。おれにとっては、ようやくなのかとしか思えないが……」
(´<_` )「どうやら、噂の『大魔術師』さんが本気になってくれたらしいからな」
455
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:13:10 ID:f.Pjzmts0
( ´_ゝ`)「近衛魔術師を片手で捻るという、あの噂の……?」
(´<_` )「城で見かけたことがあるが、普通の少年に見えたがな」
( ´_ゝ`)「……いや、なるほど。確かに、本物だ」
(´<_` )「うん?」
( ´_ゝ`)「見えてきたぞ、弟者」
黒煙が空にあがっていた。
強大な魔力の余波を感じながら、戦士たちは戦場へ到達する。
( ・∀・)「ああ、お待ちしてましたよ。ご苦労様です」
出迎えたのは、黒衣から埃を叩き落とす少年。
優し気な笑顔の後ろに広がる光景を見て、戦士たちは青ざめた。
(´<_`;)(何をどうしたら……)
(;´_ゝ`)(これほどの魔術師がこの世に存在するとは……)
居合わせた数名の戦士は、皆が同じような感想を抱いていた。
456
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:14:20 ID:f.Pjzmts0
少年の背後にあるのは、恐ろしいまでの殺風景。
家屋も、木々も、草花も。
人間も。
等しく同じように、消し飛ばされている。
僅かに見え残る、武具や家屋の破片を見て
ようやく、ここには生き物が居たのだろうと理解できるぐらいだ。
( ・∀・)「少し手間取りましたが。これで問題ないでしょう。
逃げ遅れた敵は居ないと思いますが。念のため、索敵をお願いします」
( ´_ゝ`)「……かしこまりました」
戦後処理など必要ないぐらい。
完璧なまでの『制圧行動』
大魔術師モララー=レンデセイバーの、真の初陣はここから始まる。
/ ,' 3「……次はモーケン。その次は、トゲンネ……。その次は……」
会議室で、まるで盤上遊戯のように
スカルチノフは地図の上で駒を動かしていく。
457
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:15:23 ID:f.Pjzmts0
駒の能力は、ゲームにおいては揺らぐことはない。
真っすぐ進む駒は、必ず真っすぐ。
縦横無尽に動ける駒は、どこまでも。
しかし、スカルチノフが今動かしているのは実際の地図。
そこに駒を動かしたとて、普通は実現しない。
何かの理由があって進行が止まったり
そもそも、相手側の『駒』が自分の動かした駒より
優れているため奪えない、など。局面は思うようにいかない。
いかないはず……なのだが。
スカルチノフが手に持っている、最強の駒。
それが授けてくれる情報は、いつだって遊戯のように正確だった。
真っすぐ進めば、必ず進む。
斜めに動かしても、絶対に留まることはない。
/ ,' 3「まるで……風が地を薙ぐようじゃな」
大魔術師を模した黒い駒を眺めながら、スカルチノフは思う。
彼の黒衣と、恐ろしく、神がかった制圧能力。
いつしか、モララーは『黒風』という異名で呼ばれるようになっていた。
458
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:16:55 ID:f.Pjzmts0
ζ(゚ー゚*ζ「……あれ?」
それはとある日の野営だった。
VIP大陸の沿岸部に位置する土地で、ラウンジ大陸へ強制的に乗り込むための
準備をしていた時のこと。
衛生兵として来ていたデレが、モララーの姿を見つけた。
( ∀ )
他を寄せ付けない圧倒的な雰囲気。
まるで触れることを拒むかのように、何か内から威圧的な闘気を発している。
今は戦後処理も終わり、小休憩中だ。
何もそこまで構える必要はあるまい。
声をかけようとしたが、手いっぱいで中々話しにいけず。
ようやく時間が作れたのは、夜も更けてからだった。
459
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:18:42 ID:f.Pjzmts0
ζ(゚ー゚*ζ(モララーくん、どこ行ったんだろう?)
本来いるはずのテントに姿はなかった。
知っていそうな人に声をかけたが、首を振るばかり。
最近、よく戦場を共にするという魔術師の一人曰く
夜になると、決まってふらりと外へ出て、朝には戻ってきているとのこと。
移動時はせず、戦闘行動の後にのみ、そういう不思議な行動をするらしい。
階級的には彼は国王に匹敵するうえ、作戦行動には支障がないため
いつしか誰も口出しすることはなくなったのだが……。
ζ(゚ー゚*ζ(大活躍してるし、何か一言声かけてあげたいんだけどな〜)
あの一件以来、モララーが出る戦場は負けなしだ。
ラウンジ側も流石に気付いたのだが、打つ手がないらしい。
というのも、一個師団レベルの能力を個人が有しているというのが
対策を無理にさせているのだ。
そこまで凄まじい制圧力を持つのであれば、一点集中してでも壊滅しに向かうだろう。
だが、ほぼすべての戦場を覆しているのはモララー単身の力。
機動力が常軌を逸しているため、造兵や精鋭を送ろうにも既にモララーは居ない。
地図上の地域の話のはずなのに、まるで闇討ちをされるように
次々に、自分たちの進行や拠点にしていた場所が落とされる。
ラウンジ側からすれば、考えたくもないほどの脅威だ。
着実に戦況が悪化している。懐に攻め込まれるのも時間の問題だろう。
460
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:20:24 ID:f.Pjzmts0
そんな『黒風』は、果たして夜な夜な何をしているのだろうか。
デレは持ち前の探知能力を駆使し、モララーの痕跡を探す。
僅かに残る、魔力の残り香を探して着いた場所は川辺だった。
月夜に照らされる清流の前に、黒衣を纏ったままの少年の姿がある。
顔でも洗っているのだろうか。屈んだ姿勢で水面を見つめているようだ。
ζ(゚ー゚*ζ「モララーく……」
声をかけようとしたデレは、言葉を詰まらせる。
秋の虫が鳴いているせいで、運よくかき消されて良かった。
( ∀ )「……う……うぅっ……」
461
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:21:27 ID:f.Pjzmts0
夜闇に響くのは、少年の嗚咽。
具合が悪いわけではない。
辛そうに、ただただ咽び泣く子どもの声。
ζ(---*ζ(あぁ……私、なんて馬鹿なんだろう)
元々強かった少年。
誰よりも優しかった少年。
死刑囚を手にかけたことで、気持ちが吹っ切れて
そこから快進撃を生み出した少年。
でも、変わったわけじゃない。
彼は、優しい彼のまま。
心を押し殺して、ここまで来たのだろう。
人を殺すことが、辛くないわけがない。
人を殺すことが、悲しくないわけがない。
それでも。
462
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:22:33 ID:f.Pjzmts0
彼は、ただの欠陥品にならないように。
一度踏み出したその道から逸れないように。
懸命に懸命に、戦っているのだ。
普段から放っている、あの無駄にすら思える闘気は
そんな心の内を守るための虚勢なのだろう。
気張ってばかりでは、いずれは疲れ果ててしまう。
だから、時折こうして弱い自分を曝け出しているのだ。
ζ(゚ー゚*ζ(ごめんね、モララーくん。
戦いが終わったら、たくさんお話しようね)
彼のその姿勢に、決意に、水を差すわけにはいかない。
ここで優しくしてしまっては、油断が生まれてしまうことだろう。
最大限に心の内をくみ取るならば
見なかったことにして、明日も同じようにふるまってもらうだけ。
何もできない、してやれない歯がゆさに唇をかみしめつつ
デレは、自分の持ち場へ戻っていった。
463
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:23:53 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「……ふぅ」
鼻をすすり、川の水で顔を洗う。
精神のリセットを行ったモララーは、頬をぴしゃりと両手で挟んだ。
( -∀-)(もうすぐ……もうすぐなんだ……)
まだ日差しの厳しい時期から続けている進軍。
秋になり、目の前に広がるのは敵の本拠地。
ラウンジ王国のラウンジ城。
ラウンジ城に攻め入り、総大将……つまり国王に降伏宣言をさせれば我々の勝利だ。
最大の軍事国家が白旗をあげてしまえば、終戦は揺るぎない。
( ・∀・)(その為に……ボクはここまで来たんだ)
黒衣をぎゅっと握る。
何度も洗っているはずなのに、決して消えない血の匂い。
464
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:25:10 ID:f.Pjzmts0
この外套を羽織っている以上、自分は戦士でなくてはならない。
戦果をあげるたび、モララーはいつしか大陸中で人気者になっていた。
余りにも驚異的な力は、戦時中のみ畏怖から敬愛へと変わる。
誰もが彼のことを、英雄と呼び、はやし立てた。
モララー自身も、プロパガンダとなることを厭わなかった。
それで安心できる人が、奮い立たせる心があるなら、と。
使いもしない杖を持ってみたり、適当な情報を伝えて記事を書かせたり。
いつしか、名実ともに『大魔術師』となったモララー。
( ・∀・)(そうだ。これでいいんだ)
ラウンジの大群が目の前に広がっている。
呪術師達の呪文を、さらなる圧倒的な破壊力で押し潰す。
武士の長に対し、あえて剣戟で挑み、技を見切った末に首を斬る。
止まることなく進んでくる、魔神のような男に敵兵たちは恐怖した。
465
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:26:30 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)(これこそ、ボクの存在意義)
ラウンジ城までの道を、必死に止めようと武士が突貫してくる。
雷で焼き払い、飛んでくる大岩の群れを指先で破砕する。
( ・∀・)(これこそが、ボクの使命)
真っ赤に染まった袖で、顔を拭う。
数多の先鋭をそろえたはずの、ラウンジ城の最上部。
四散した武士、最強のはずだった呪術師の死体。
それらの先に居る、ラウンジ王国の最高責任者へモララーは歩み寄る。
( -∀-)(そう……ぼくは……ボクこそが)
ガタガタと震える初老の男。
殺せばすべてが終わる。
だが、それだけでは意味がない。
必要なのは、VIPの勝利。得る物が必要だ。
怯える総大将に対し、モララーはあえて
ラウンジ大陸の流儀、戦闘前に名を名乗る
というものに倣い、冷たい声で告げた。
466
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:28:17 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「『黒風』モララー=レンデセイバーだ」
.
467
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:29:59 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「武器を捨てろ。さもなくば殺す」
歯を打ち鳴らし、戦う術を何もかも失った国王は
涙を流し、失禁しながら何度も何度も首を縦に振る。
長きに渡る戦争は、そこで終わりを告げた。
嘗壱話「零落の黒き風」
468
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:31:00 ID:f.Pjzmts0
つづく
469
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:32:49 ID:f.Pjzmts0
第零話「モララー=レンデセイバー」
.
470
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:33:52 ID:f.Pjzmts0
白い息を吐いて、少年は歩いていた。
厚手の服と、背に負った荷物。
背後に流れていくのは、雪化粧をした王都だ。
道行く人たちはみんな笑顔で、子どもも大人も楽し気に歩いている。
それこそ、彼の最大の功績。
身を削り、心を削り。
何度も挫けそうな思いを、何度も奮い立たせ。
ようやくつかんだ、終戦の証。
赤い鼻をしたモララーは、これが最後になるのだろう、と
その明るい風景を横目に焼き付けていた。
ラウンジ王国が堕ちてから数日後のこと。
難しい政は、全て大人たちに任せると
大魔術師モララー=レンデセイバーは、部屋の片づけを始めた。
彼を懇意にしていた者たちは、必死で止める。
(;ФωФ)「何故であるか、モララー殿!」
471
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:34:58 ID:f.Pjzmts0
荷造りをするモララーに、聖騎士ロマネスクは凄まじい剣幕で詰め寄る。
対するモララーは、淡々とした様子で返してきた。
( ・∀・)「ボクの役目は終わりましたから。
これ以上、城に居ても邪魔なだけでしょう」
(;ФωФ)「そんなことはないのである!
お主程の功労者、誰も咎めないのである」
( ・∀・)「……そうでしょうか。
世の中、良い人ばっかりじゃないですからね。」
( ・∀・)「自分だって、武勲を上げたのに。
自分だって、仲間を家族を殺されたのに。
自分だって……なんて、恨み言を連ねられるのはゴメンですから」
(;ФωФ)「そっ……!」
否定できず、ロマネスクは言葉を詰まらせた。
特にモララーは年も若い。
大きな目で見れば、みなが称賛しているが
気に食わないと思う人間も、少なからずいるだろう。
特に、王都なんて権力に近い場所では。
(;ФωФ)「国王陛下は、なんと仰っていたのであるか?」
472
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:36:05 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「好きにしなさい、と」
(;ФωФ)「……」
突き放したわけではないだろう。
言葉通りの意味なのだ。
大事な大事な、孫のような存在。
彼が望むことは何でもしてあげたい。
心からそう思っている。
だからこそ、戦争という軛から解放されたのなら
後は、一人の少年として。自由に生かせてあげたい。
それが、国王のできる唯一の償いなのだろう。
モララー自身も、その意図をくみ取り
あえて遠慮することなく、丁重に文言通りの対応をしたわけだ。
その時の、悲しそうな、寂しそうな表情だけは。
モララーは生涯忘れることはないだろう。
473
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:37:01 ID:f.Pjzmts0
( ФωФ)「……キミはもっと、子供らしくして良いのであるぞ」
( ・∀・)「はは。確かに、そうですね」
ロマネスクの抱いた、親心のような言葉に渇いた笑いが漏れる。
元々少なかった荷物を、鞄にしまい込んで留め具を付けた。
( ФωФ)「いつ、出るつもりなのであるか?」
( ・∀・)「部屋の掃除をしてからなので。あと1時間もしたら」
( ФωФ)「……デレが会いたがってたのであるぞ。
キミと話したいことがたくさんある、と」
( -∀-)「会うと、別れるのがつらくなりますから。
ロマネスクさんから、ぼくがお礼を言ってたと伝えてください」
( ФωФ)「……モララー殿」
( ФωФ)「我々は、キミに感謝してもしきれないほどの恩を受けたのである」
( ФωФ)「いつかどこかで、恩返しをさせて欲しいのである」
( ФωФ)「だから……それまで、お元気で」
引き留めることは叶わないと感じたロマネスクは、諭すように言い切ると
大きな手をモララーへ差し出した。
474
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:38:06 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「ええ。ロマネスクさんも、お元気で」
覇気のなくなった、柔和な笑顔で手を取り握るモララー。
上着を着こみ、荷物を背にすると
ロマネスクに一瞥し、部屋を出ていった。
( ФωФ)「……」
残された聖騎士団長は、主の居ない部屋を検めた。
そして部屋に残された茶器の数々を見つけると
少し目を細めてから、その場を退いていった。
( ・∀・)(さて。ぼくは、これからどうしようかな)
475
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:39:08 ID:f.Pjzmts0
冷える鼻を擦りながら、モララーは街道を歩いていく。
王都はすっかり見えなくなっていた。
野垂れ死ぬわけにはいかないので、食糧だけはたくさん積んである。
行き先を考えた時、元々居た家に帰る選択肢は最初から無かった。
戻ったところで、ろくなことにはなるまい。
生き方もそうだが、住むところも考えないと、まともに暮らしていくことは難しいだろう。
モララーの戦う役目は終わったわけだが、自分自身の罪は残っている。
いくつもの人生を終わらせた自分は、簡単に死ぬことすら許されない。
だから、一生懸命生きなくては。
――――でも、何のために?
罪を償うって、どうすればいいのだろう。
476
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:40:07 ID:f.Pjzmts0
血の涙を流し、存命を請う敵兵を殺した自分が
何をすれば許されるのだろう。
新雪を踏みしめながら、モララーは自問する。
考えても考えてもわからないが、一つだけ。
旅立つ前に買い物をしていて、思ったことがある。
( ・∀・)(そういえば、魔法で育てられた野菜は体に悪いって言うなぁ)
戦いの最中、死体の山を積み上げていくうちに
肉類を体がすっかり受け付けなくなってしまった。
その為、野菜を主に食しているわけだが……。
それでは、もしかすると長生きできないかもしれない。
いくら稀代の魔術師といえ、死の病は回避できない。
( ・∀・)(どこかで、無魔法の野菜でも作ってみるのも良いかもしれないな)
477
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:41:06 ID:f.Pjzmts0
歩き始めて、どれぐらい経っただろう。
地図も持たずに出てきたので、今どこに居るのかわからない。
ふと、来た道を振り返ってみた。
足跡すら、降りしきる雪でもう無くなっている。
視界の悪い中では、馬を走らせるものすらいない。
まるで、世界に自分ひとりだけが取り残されたようだった。
( ・∀・)
( ・∀・) !
478
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:42:07 ID:f.Pjzmts0
ふと、モララーは思い立った。
そして防寒具の帽子を一度外すと
長く伸びた後ろ髪を、しっかりと掴む。
逆手で魔力を込め、光の刃を作り出したが
何かを決意すると。
魔法を消し、腰に下げているナイフを引き抜き
刃を束ねた髪先にあてがうと
一思いに、根元から切った。
479
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:43:06 ID:f.Pjzmts0
手を離すと、さらさらと風に乗って髪が流れていく。
すぐに白い景色に溶けていく、自分の片割れを見届けると
モララーは短くなった髪へ、帽子をしっかりと被り直し
前を向いて、再び歩き出すのだった。
どこへ行くのか、どこへ着くのか。
彼自身も、まだ知りもしないままに。
480
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:44:08 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。
【零落の黒き風】
おわり
481
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:49:04 ID:f.Pjzmts0
以上になります。
番外編の時には、もう書かない的なことを言った舌の根も乾かないうちに
こんなものを書いてしまいました。
本編の時間軸に対し、過去と未来をもうやったのでこれで出し切った感はあります。
書こうと考えはしましたが、蛇足になりそうだったのでもうやらないと思います。
本編の最初にノリと勢いで書いた設定を、どうにか壊さないように四苦八苦するのが大変でした。
連載当初の尖った物言いと、連載終盤の優しいモララーのイメージを損なわないようにしてみたつもりです。
思い付きで始めたお話を、まさか元号変わるまで書いているとは思ってもいませんでした。
それほど、自分にとっては思い入れのある作品です。
それではここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。
482
:
名も無きAAのようです
:2021/04/17(土) 22:41:12 ID:.ayZ7wCk0
隠居暮らしという物語、モララーの人生を追ったお話もこれでついにおしまいか……
寂しくなるけども、番外編と合わせてとてもよい作品でした
作者さん、最後まで書ききってくれてありがとう。乙!
483
:
名も無きAAのようです
:2021/04/17(土) 23:08:53 ID:/wEHwtXQ0
乙!!!
484
:
名も無きAAのようです
:2021/04/22(木) 14:09:20 ID:b5FvTPps0
重たい内容なのに、最後は晴れやかに感じて良い
またここから本編を読み返したい、乙でした
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