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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双
1
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:37:04 ID:w.OycBSI0
お久しぶりです。2年ほど放置してしまいました。すみません。
VIPはすぐ落ちるとのことなので、こちらをお借りさせていただきます。
今回は最終話一つ前の第7話です。遅かったくせにすみません。
ご存じない方は、下記URLを参考ください。
ブーン文丸新聞 様
第一部 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire/retire.htm
第二部完結編 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire2/retire2.htm
では、開始します。
320
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:36:51 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……そうですね」
予想から遠くない内容の質問が出てきたので、モララーは動揺していなかった。
適当な嘘を述べることもできる。
大げさに話を盛って、落胆させることもできるだろう。
でも、何故だろう。
この人たちの前で、そんなことをするのは間違っている。
特別親しい間柄でもないはずなのに。
どうしてか、モララーは取り繕わずに口を開くことが出来た。
( ・∀・)「はじめ、国王陛下に命を下された時は、胸が躍りました」
( -∀-)「ああ、ぼくも遂に戦いの役に立てる時が来た、って」
( ・∀・)「学校での訓練とは違う。自分の意思、行動で全てが左右される戦の場。
そんな所に、自分も足を踏み入れるんだと思うと……」
( -∀-)「……なんだろう。ワクワク……うぅん……。ドキドキしていたのかな」
ζ(゚ー゚*ζ「うんうん。それで?」
( ・∀・)「一人で、拠点を制圧するように言われた時は、ちょっと驚きました。
そこまで任せてもらって、いいのだろうかって」
321
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:38:18 ID:2vfxdqwE0
( ФωФ)「それはシャキンの独断なのである。
力量があれど、新兵を一人で戦場に送り出すなんて、あってはならないのである」
( ・∀・)「ですよね。……でも、ぼくは抗議をしなかった」
( ・∀・)「だって、出来ると思ってしまったから」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
( ・∀・)「敵の拠点を見つけ、どう攻め入ろうか考えました。
奇襲するのか、正面突破なのか」
( ・∀・)「探知魔術で、敵の数が思ったより多くないことがわかったので
結局、正面突破で行こうと決めました」
( ФωФ)(……報告書の通りなら
普通はあの人数を、多くないとは言わないのである)
( ・∀・)「相手が何をしてこようと、勝てる自信がありました」
( ・∀・)「見たことない剣術だったけど。知らない武器だったけど。
魔法……いえ、呪文ですら、ぼくより何もかも劣る連中だった。
だから、怖くなかったんです」
( -∀-)「……でも」
モララーは思い出す。
それは、初めて相まみえた『敵』の姿。
322
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:39:45 ID:2vfxdqwE0
必死の形相で、自分を殺しに来る異国の人間。
気が遠くなるほど積んだ研鑽の時間。いや、毎日サボってたかもしれない。
若い男性だけど、故郷には誰か好い人でも居るのだろうか。
そうでなくても、大事な家族が居たりするかもしれない。
共に汗を流し、涙を飲んだ盟友達と晩酌を交わす約束もしただろう。
ああ、何でもいいから早く戦いが終わらないかな。
何もかも面倒くさい、逃げてしまうか。
一人ひとり、背負う人生がそこにはある。
ぼくは今から、そんな『人間』たちの今日を終わらせるんだ。
( ・∀・)「そんな権利が、ぼくにあるのだろうか」
( ・∀・)「たかだか15の子供が、他人の人生を左右しても良いのか」
( -∀-)「覚悟をしてきたつもりだったけれど……」
( ・∀・)「そう思ったら、魔力を強く込められませんでした」
323
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:41:26 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「結局、ぼくに出来るのは、敵を地に伏せることだけだったんです」
( ・∀・)「情けない話ですよね。
やろうと思えば、出来るはずのことをしないで。勝手にやり遂げた気になってたのに。
結果的に……誰も殺すことは出来なかった」
( -∀-)「殺すことが……怖かった」
それ以上の言葉を紡げなかった。
何を言っても、もう自分を庇護することしかできない。
( ФωФ)「なんとも、甘えた思想であるな」
だから、そう言われても納得しかできなかった。、
数多の戦を勝ち抜き、首を切り落としてきた聖騎士は続ける。
( ФωФ)「情けが仇。自分の逃した敵兵は、いずれ力をもって反逆してくるかもしれない」
( ФωФ)「戦場では死ななかった者が強者である。
運よく生き延び、それを繰り返すうちに強大な力を蓄えるやもしれないのである」
( ФωФ)「だから、反逆の機会を与えぬよう、敵意を持った戦士は余さず殲滅すべし」
( ФωФ)「闘技学校の出自ならば、当然習ってきたはずである」
( ・∀・)「……ええ、もちろん。習いました」
324
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:42:48 ID:2vfxdqwE0
拳を握りしめる。
当たり前のことだ。
我々は戦争をしている。
幼稚な陣取り合戦ではない。
殺せば勝てるし、殺さねば負ける。
戦場に身を置くものならば、誰もがわきまえている心構え。
けど……それでも。
( ・∀・)「学生時代に疎まれている時でも。
こうして皆さんに受け入れてもらえて、お城で暮らしている時でも」
( ・∀・)「ぼくは不思議と、誰かの姿を目で追ってしまう」
( ・∀・)「楽しそうにしている姿、泣いている顔。怒っている背中。楽しそうな足取り。
どんな背景があるのか、いつだって興味がわいてしまう」
( ・∀・)「……人間が、どうしても大好きなんです」
325
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:43:51 ID:2vfxdqwE0
( ∀ )「だから……」
人間一人だけで、どれほどの歴史があるのだろう。
誰と会って、誰と別れたのだろう。
何が好きで、何がきっかけでそれに興味を持ったんだろう。
色んな人の、色んな人生を考えるのが好きだ。
そんな色づく明日を止めてしまうような自分は……堪らなく嫌だ。
ζ(-ー-*ζ「……なぁんだ、そんなこと悩んでたんだね」
( ・∀・)
相槌を打って、子供をあやすように聞いていたデレが鋭い言葉を放った。
少年が抱える、一つの、大きな悩み。
『そんなこと』なんて片付けられるなんて、酷く失望する。
真剣に悩んでいることを、大人は馬鹿にしたがるかもしれない。
幼稚な問題なら、なおさらだ。
それでも、決定的な何かに踏み出せない障壁に変わりはない。
簡単にあしらわれるのは、いくらなんでも。
326
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:45:27 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「私だって、誰かを殺すことは今でも怖いよ」
( ・∀・)「え?」
( ФωФ)「吾輩もである」
(;・∀・)「え? え?」
予想しなかった言葉に、モララーは挙動不審になる。
そのまま、正論で言いくるめられるものだと思っていたから。
まさか、肯定されるとは思わなかった。
白魔術師のデレでも、武勲のある勇士ロマネスクでも。
殺人には抵抗がある……?
ζ(゚ー゚*ζ「いくら敵でも、殺す行為に何も感じないなんて。
そんな人は、滅多に居ないよ」
( ФωФ)「いるとすれば、頭のねじが外れた戦闘狂か。
もしくは、大義名分で感情を押し殺せる大英雄ぐらいなものである」
ζ(゚ー゚*ζ「多少の慣れはあるけどさ。何も感じないって言えば嘘になっちゃうかな」
(;・∀・)「……そう……なんですか」
ζ(゚ー゚*ζ「私ね、今年で3歳になる娘がいるの」
( ФωФ)「吾輩は息子が」
327
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:47:12 ID:2vfxdqwE0
それぞれが、大事そうに持っていたロケットペンダントを見せてくれる。
ぷっくりとした顔の幼児、無邪気に笑う女の子。
二人とも、どこか親の面影がある。
ζ(゚ー゚*ζ「戦いがつらくなった時は、いつもこの子のこと思い出すの。
私がここで踏ん張らなきゃ、この子たちの未来が無くなってしまう、って」
( ФωФ)「相手も、同じことを抱えているかもしれないのである。
けれど、それを考え始めてしまえばキリがないのである」
( ФωФ)「そうなると、もう後に残るのは己が掲げる『正義』のみ」
( ФωФ)「生き残った方が、正しいと証明する」
( ФωФ)「誰かの為ではなく、自分自身の為に。我々は戦うのである」
( ФωФ)「自分たちの未来は、そうやって築いていくしかないのであるよ」
ζ(-ー゚*ζ「ま、うちの旦那みたいに、難しく考えるのをやめる人も居るけどね〜」
( ФωФ)「ミルナは、先ほど言った戦闘狂に片足を突っ込んでいるのである」
ζ(゚ー゚*ζ「でしょうね。だから不用意に敵陣へ突っ込んでケガしちゃったんだけど」
( ФωФ)「間抜けなのである。この場に居ないことを後悔すべきなのである」
328
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:48:46 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……」
( ∀ )
ああ、凄いな。この人たちは。
きっと、本当にたくさんの死体の山を作ってきたんだろう。
その度に、悩んだに違いない。
でも、守るべきものがあって、
それを失いたくない。
だから、戦う。
強い信念を持って生きている、本物の『戦士』なんだ。
モララーの視界が薄く滲む。
感銘を受けただけではない。
……悔しい。
自分も、その領域に入れるだろうか。
不安だらけだ。
今でも相手のことを考えないなんて、出来る気がしない。
理性の箍を外す器用な真似も出来るはずもない。
329
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:50:20 ID:2vfxdqwE0
けど。
それでも。
誰かのためじゃない。
自分の為に……!
( ∀ )「……ぼくも」
ζ(゚ー゚*ζ「ん?」
( ФωФ)「なんであるか?」
( ・∀・)「ぼくも、あなた達みたいな……立派な戦士になれるでしょうか?」
月明かりが部屋を照らす。
深く沈んだ気持ちを払拭するように、瞳に光が灯る。
330
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:51:32 ID:2vfxdqwE0
まだ年若い少年。
背負うには重すぎるかもしれない。
いつか重責に潰されるかもしれない。
しかし、それでも大人たちはあえて言う。
ζ(^ー^*ζ( ФωФ)「もちろん(である)」
少しでも先達の威厳を、若者の未来を明るく照らすため。
大きく頷きながら、返事をしてくれた。
つづく
331
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:52:51 ID:2vfxdqwE0
おまけ
ζ(゚ー゚*ζ「というか、モララーくんなら私たちより、ずっと凄い魔術師になるよ」
( ФωФ)「間違いないのである。
現時点でモララー殿の魔術は、近衛階位の人たちですら恐れているのである」
(* ・∀・)「そ……そうです……か?」
ζ(^ー^*ζ「やだー、照れちゃって。可愛い!
よーし、元気出てきたなら、もうちょっとお話しようか!」
( ФωФ)「では、今後のことを考えて海上決戦の戦術理論でも……」
ζ(゚ー゚*ζ「ロマネ君、そんなクソつまんない話で夜を更けさせるつもり?」
(;ФωФ)「クソつまんないとは失礼である! 大事な知識なのであるぞ!?」
( ・∀・)「……そういえば、お二人はやけに仲が良いですよね」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、うん。幼馴染だからね」
( ФωФ)「実家は共にVIP街なのである」
( ・∀・)「へー……どの辺ですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「うわ、地図も投影できるんだ? キミ、本当に凄いね」
( ФωФ)「吾輩の家は……ああ、そこ。その家である」
332
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:53:49 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「私の家はそっちの方。ね、結構近いでしょう?」
( ・∀・)「凄いなぁ、お二人とも一等地じゃないですか」
ζ(゚ー゚*ζ「でしょう? 頑張ってるんだよ、これでもね。
そうだ。モララーくんのおうちはどこなの?」
(;-∀-)「……あぁ……ぼくは……えー……」
( ФωФ)「……デレ」
ζ(゚ー゚*ζ「ごめんごめん。ね、ね。
ロマネ君の奥さんって、どんな人だと思う?」
( ・∀・)「え? うーん…………何となくでいいですか?」
( ФωФ)「言ってみるのである」
( ・∀・)「背が高くて……髪が長くて……ちょっと冷たい感じの綺麗な人……?」
ζ(゚ー゚;ζ「え、もしかしてモララーくんてば、読心魔法使えるの?」
( ・∀・)「あはは、まさか」(今は使ってないですけどね)
( ФωФ)「まさに、そのまんまの人である」
ζ(゚ー゚*ζ「今は休暇を取って、お子さんの世話してるんだって。
いずれは、どこかで会えるかもね」
( ФωФ)「……いずれ、であるか」
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの、ロマネ君」
333
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:54:53 ID:2vfxdqwE0
( ФωФ)「いずれの話であれば。このまま戦争が長引けば
いつか吾輩たちの息子たちも、戦に出なくてはならないのかもしれない」
( ФωФ)「そんな時……吾輩たちは何が出来るのか……少し不安である」
ζ(-ー-*ζ「……そうだね。まともでいられるか、自信がないね」
( ・∀・)「……ぼく、お二人のお子さんたちと、いつか話をしてみたいです」
( ・∀・)「お二人の住む、VIP街で」
( ФωФ)「!」
ζ(゚ー゚*ζ「!」
ζ(^ー^*ζ「そうね。あなたみたいな子なら、ぜひ友達になってあげて欲しいな」
( ФωФ)「吾輩も同じ気持ちである」
( ・∀・)「ええ、楽しみにしてます」
( -∀-)(……そのために。ぼくは、もっと頑張ろう)
冷めたお茶を一気に飲み干したモララーは、心の中で強く誓った。
334
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:56:00 ID:2vfxdqwE0
以上です。
花粉と忙しさで最近は時間がとりにくいので、書き溜めしておいてよかったと心の底から思いました。
次回もまた土曜日を目途に投下します。
335
:
名も無きAAのようです
:2021/03/14(日) 00:50:25 ID:UxSEJL/U0
乙です
336
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:57:47 ID:eAJ/Jxuk0
嘗五話「城の地下深く」
(;-∀-)「……ッ!」
手が止まる。
高速で突き付けた貫き手。
魔力による硬度の上昇、鋭利さの増幅。
一たび触れれば、絶命は免れない必殺の一撃。
あと少し肘を伸ばせば。あと少し膝を踏み込めば。
その絶対的破壊力を持つ複合魔術攻撃は意味を成すはずだった。
だが……出来ない。
あるの夜、デレやロマネスク達から、戦士の本当の声を聞いた。
誰だって、悩んで、苦しんで、それでも尚歩んでいる。
自分も、そうなりたい。そうありたいと望んだ。
踏ん切りのつかない覚悟は、一瞬の隙を生み出す。
ラウンジ大陸の戦士は、生への諦念を瞬時に切り替える。
握っていた刀の柄をより一層強く持ち、敵呪術師の首を撥ねるため
決死の形相で挑んだ。
しかし、そこで意識は途絶える。
貫き手から、掌底へ変化していたモララーの手。
胴に突き付けられた途端、圧縮された風の魔法が背まで貫通するほど
激しく穿たれたのだ。
337
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:58:45 ID:eAJ/Jxuk0
(;・∀・)「はぁ……はぁ……」
いつもそうだ。
もう今日で、何度目の前線だろう。
季節は既に夏を迎えていた。
戦闘力の高さだけは、間違いなく認められている。
故に、彼が拠点や敵の急襲を防ぐ場合、常に一人で実行していた。
実際、他の魔術師が居たところで連携が取れるわけでもない。
モララーに協調性がないわけではなく、比肩する人間が居ないからだ。
合わせようとすれば、それだけ能力を落とさなくてはならない。
モララー=レンデセイバーという、唯一無二の切り札を十分に使うにはそれしかなかった。
/ ,' 3「ふぅむ……」
戦果報告を聞いていたスカルチノフ国王は、小さく唸った。
これ以上は、もう危険だ。
そう判断しかけている。
338
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:59:46 ID:eAJ/Jxuk0
初陣後から今まで、それなりの時間が経った。
しかし、戦況は変わっていない。
迎撃ばかりで、水際の戦いを制しているだけ。
攻めの一手を、決めあぐねている。
もうそろそろ、ラウンジ側も気付いているだろう。
敵大陸に、異様なほど強力な呪術師が居る、と。
戦後処理を行ってはいるが、モララーの現状であれば
生き残りが居てもおかしくはない。
大陸中に知れ渡っている可能性もある。
/ ,' 3(彼が後れを取るとは思えぬが……)
力を持たない蜂が、強大な敵に向かって群れで襲い掛かることがある。
たった一匹の害虫を倒すためだけに、無数の命を賭して勝利をつかむ。
これは飽くまで昆虫の話だが。
ラウンジ大陸の人間たちに、似たきらいがあるのは良く知っていた。
もしかすると、もしかするかもしれない。
339
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:00:58 ID:eAJ/Jxuk0
モララーを、ただ処分するためだけに想像を絶する軍を率いるかもしれない。
絡め手の可能性もある。
打開する方法としては、ただ一つ。
モララーを主軸に、一点突破でラウンジ大陸の中枢を目指す。
迎撃部隊をすべて殲滅し、戦力を大幅に低下。
そして、大陸の中心人物であるラウンジ王を降伏させる。
それだけだ。
/ ,' 3(しかし、今のモララーくんでは絶対に出来ぬ作戦じゃな)
一点突破までは良い。
だが、問題はその後だ。
彼の進む先進む先で、兵をいちいち捕縛していてはキリがない。
反逆でもされれば、懐から痛手を受けてしまう。
340
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:02:15 ID:eAJ/Jxuk0
また、消耗の多さも問題だ。
敵を殺さないというのは、繊細な手加減が必要な行為。
若さゆえの回復力をもってしても、連戦の期間はどうしても長くなってしまう。
/ ,' 3(…………)
出来るならモララーの意思を尊重したい。
まだ大人になれていない少年の、白いキャンバスを汚す行為を
大人たちが勝手にしていいわけがない。
だが、このままでは意味がなくなる可能性もある。
せっかく掴んだ好機を、いつ再来するかわからないこの時を
手放して良いものなのか。
(;`_L')「国王陛下!」
自室に慌てた様子で、近衛騎士フィレンクトが入ってきた。
/ ,' 3「どうした」
ノックすらせず入ってきたことで、火急の用であることがわかる。
無礼を咎めもせず王は先を促す。
(;`_L')「ニメア地区が陥落しました」
/ ,' 3「なに?」
341
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:03:39 ID:eAJ/Jxuk0
それは、大陸の海岸部の一つ。
攻め入られれば、敵側にとってかなりの優位を取れる拠点。
だからこそ、過剰なほど強力な部隊を編制していた。
白や黒の階位は当然、聖の階位級の騎士と魔術師を
通常の部隊の数倍は揃えていた、強固な守りの最前線が。
/ ,' 3「……生き残りは?」
(;`_L')「小隊の被害は未だ完全に把握できていません。
推定では六割ほど死傷者がいるそうです」
/ ,' 3「六……!?」
部隊の全滅を優に超える数だ。
そこまでしてでも食らいついた彼らを褒めてやりたい。
逆に、そこまでするほど恐ろしく強い敵がいる証明にもなっている。
/ ,' 3「聖騎士と聖魔術師は誰が残った?」
(`_L')「ロマネスク団長のみです。
ただ、彼も重傷を負っていまして……」
/ ,' 3「ふぅむ……参ったのう」
次から次へと問題ばかり。
スカルチノフ国王は頭を抱えて、目を閉じた。
342
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:05:00 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3(……やはり……荒療治しかないかの)
やりたくない、やらせたくない、奥の手。
望まないことだろう。
だが誰かが手ほどきをするのであれば、責任を擦り付けられるかもしれない。
それで、彼の心が少しでも軽くなるのであれば僥倖だ。
/ ,' 3「フィレンクトよ」
(`_L')「はっ」
/ ,' 3「近衛の者たちを集めてくれ。完全武装をさせてな。
準備が整ったら……『常闇の間』へ行くぞ」
(;`_L')「は? な、なぜ今……?」
/ ,' 3「理由は追って話す。
あまり時間がなさそうじゃ。やるしかない時が来たんじゃよ」
(;`_L')「……かしこまりました。通達致します」
343
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:06:00 ID:eAJ/Jxuk0
反論しようとした近衛騎士フィレンクトは、それを黙って飲んだ。
国王がここまで決意をもって命を下すのだ。
よほどの理由がなければしない。
信頼と不安の入り混じった感情を抱え、騎士は部屋を足早に立ち去った。
――。
(;メω-)「……」
(;・∀・)「ロマネスクさん……」
医務室。
激しく負傷した聖騎士団長が、ベッドで浅い息をしたまま眠っている。
いつもは巨大な体も、小さく見えてしまう。
無数の切り傷は包帯とクレスト草の薬液で手当てされているが
癒えるのには時間を要するだろう。
ここまで酷い状態だと、回復魔法を使う方が危険だ。
あれは飽くまで、自身の代謝を促進させて行うもの。
低下した体力の相手に使えば、生命そのものを脅かしかねない。
344
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:07:07 ID:eAJ/Jxuk0
何も出来ないことに、モララーは歯がゆさを覚えながらも
にじみ出ているロマネスクの脂汗を拭った。
たまに、うわ言のように何かを呟いている。
直前の戦闘の状況が、フラッシュバックしているのだろうか。
(;メω-)「ぶすだ……どく……お……ヤツは……吾輩が……」
(;・∀・)「ぶすだドクオ……?」
ζ(゚ー゚*ζ「聞いたことあるよ。『悪鬼』って呼ばれているラウンジの武士だね」
武士とは、VIP大陸で言う騎士の階級。
少し前から話題になっていた、『悪鬼』の通称。
一振りで幾人もの人間を切り伏せる、恐ろしい腕力と技術。
血の海と死体の山を、怯みもせず歩み続ける恐ろしい形相と姿から
そんな通り名で呼ばれるようになったそうだ。
( ・∀・)「そんな危険な敵が……」
看病に来ていたデレが、額に被せていた濡れタオルを取り換える。
ラウンジ側にも、恐ろしい殲滅能力を持った戦士がいるのか。
モララーは少し恐怖を覚えた。
345
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:08:03 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「モララーくん」
ζ(゚ー゚*ζ「国王陛下!」
医務室に突如現れたスカルチノフに、周囲の人間は驚く。
後ろには護衛の近衛騎士と魔術師が、仰々しく武装して立っていた。
( ・∀・)「どこかへ向かうのですか?」
/ ,' 3「うむ。城の地下へ行くんじゃ。キミもな」
( ・∀・)「ぼくも?」
言っていることがさっぱりわからない。
状況を鑑みても答えが出ないが、敬愛する王の命令だ。
モララーはおずおずと、強張っている王の顔を見て頷いた。
―――――NEET城の地下。
城の地下には、食糧の保管庫や訓練所、牢獄などがある。
暴徒が拘留されている危険地域を除き、誰もが行き来できる場所。
大陸最大の規模を誇る、NEETであっても特に他所との変わりはない。
346
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:09:18 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「というのは、建前じゃ」
近衛騎士の鎧が擦れる金属音の響く地下階段を下りながら
スカルチノフは続ける。
灯りを持たなければ、足元も覚束ない螺旋状の階段の先には何があるのか。
/ ,' 3「キミが生まれる前のことじゃ。
王都に、一人の魔術師が現れた」
/ ,' 3「その男は、あらゆる魔術を使いこなし
誰にも負けないほど強大な魔力を内包していた」
/ ,' 3「まるで、誰かさんのようじゃな」
( ・∀・)「……」
/ ,' 3「じゃがの……キミとの大きな違いが一つあったんじゃ」
/ ,' 3「その男は、『禁術』に狂っておったんじゃ」
( ・∀・)「禁術……?」
魔術師ならば知らないわけがなかった。
禁術とは、過去の偉人たちが生み出し、そして封印した特殊な魔術のこと。
347
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:10:40 ID:eAJ/Jxuk0
何故そんなことをしたかと言えば、それは世界の均衡を崩しかねない力を持つから。
また、他でもない術者本人に多大な影響を及ぼすものが大半なのだ。
/ ,' 3「魔力増幅、精神操作。まさに、何でも有りじゃった」
たまたま、スカルチノフがその脅威を看破できた。
周りの人間には、その狂気が何も見えていない状態だったらしい。
放置すれば、国家そのものが転覆していた可能性すらある。
/ ,' 3「ワシらは処刑を試みたんじゃが……結局できたのは、捕縛のみ。
殺すことすら適わぬほど、ヤツはあまりに強大で……狂気に満ちておった」
( ・∀・)「……つまり」
地下牢の更に奥。
封印魔術で隠蔽された扉の先。
誰もが知っている場所の、誰も知らない場所。
今歩いている、この階段の先にあるもの……いや、居る人物。
/ ,' 3「そやつの名は、ハインリッヒ=ボンデリンク。『白炎(ばくえん)』とも呼ばれておった」
/ ,' 3「長いVIPの歴史の中でも、おそらく最大にして最恐の魔術師じゃ」
348
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:12:49 ID:eAJ/Jxuk0
スカルチノフの魔力にのみ反応する、重く硬い鉄の扉が開く。
大声を発しても吸い込まれそうなほど、広大な空間が目の前に飛び込んできた。
淡く黄色い魔法陣が、石畳の上に描かれている。
光源はそれだけ。
天井は暗くて何も見えない闇だ。
『常闇の間』と呼ばれる所以だろう。
そんな無駄ともいえるほど広い部屋に一つ。
ぽつんと、一つだけおいてある椅子があった。
从三//从
座っているのは、やけに細身の男性。
全身を包帯のようなもので捕縛されていて、顔どころか足の指すら見えない。
衣服を纏っているが、経年劣化でボロボロになっていた。
( ・∀・)「この人が……ハインリッヒ=ボンデリンク」
/ ,' 3「第零式帯状封印装具で押さえつけておるが……。
この数十年、水すら与えておらぬのに、こやつはまだ生きておる」
349
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:14:07 ID:eAJ/Jxuk0
第零式帯状封印装具とは
ありとあらゆる魔力や魔法を封じ込める帯の形をした、魔術装具だ。
通常の魔術師ならば、何も出来なくなる。
魔法を使うどころか、魔力そのものを吸い上げるので、戦うことすらままならなくなる。
そのはずなのだが……。
/ ,' 3「何かしらの禁術を使っておるんじゃろう」
呼吸をしている様子もない。
だが、その体に触れるとわずかに温かみがある。
このまま処刑をしようにも、第零式帯状封印装具は魔法を受け付けない。
かといって、物理的に攻撃し、装具が損傷すれば封印効力が無くなってしまう。
その隙に、何かしらの手段で逃げ出すかもしれない。
結局のところ、捉えたまま寿命で死ぬのを待つしかなかった。
それがいつになるのか、皆目見当もつかぬまま、今日を迎えているわけである。
( ・∀・)「国王陛下」
モララーがスカルチノフに向き合う。
( ・∀・)「ぼくを連れてきた理由を教えてください」
わかっている。
予測は出来ている。
それでも、口にしてもらうまでは、逃げたかった。
350
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:15:27 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「うむ」
/ ,' 3「大魔術師、モララー=レンデセイバーよ」
国王はモララーの目を見た。
恐怖と不安、けれど希望を忘れていない純粋な瞳。
この真っすぐな少年の顔を、自分が曇らせることになる。
負い目と申し訳なさと。
やらなくてはならない責任を込めて、告げる。
/ ,' 3「ハインリッヒ=ボンデリンクの『処刑』をお主に命ずる」
モララーの胸に、鉛のような重さが圧し掛かった。
つづく
351
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:16:53 ID:eAJ/Jxuk0
思ったより短くなってしまいましたが
ここらへんがちょうど区切りが良かったので今週はここまです。
また来週も忘れず更新したいです。モンハンの誘惑に負けないように
352
:
名も無きAAのようです
:2021/03/20(土) 21:52:03 ID:/NdRoR5I0
おつでさ
353
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:01:52 ID:24JaPgZA0
(;-∀-)「……処刑、というのは」
脂汗を流しながらモララーが聞く。
/ ,' 3「殺すんじゃ。キミの手で」
逃げの口実を作らないため、スカルチノフは強く答えた。
(;・∀・)「ぼくでなければ、ダメなんですか?」
/ ,' 3「キミでなくては出来ぬことじゃ」
ハインリッヒに対し、後れを取ることなく戦えそうな魔術師には
今まで出会ったことがない。
実力を目で見ているスカルチノフも、
護衛に来ていた近衛級戦士達も、みなが同じ答えだった。
他に出来る人はいない。だから、一任する、と。
(;・∀・)「なぜ、今ここで?」
/ ,' 3「戦況を考えてのことじゃ」
/ ,' 3「キミは、殺人を異様なほど恐れておる」
354
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:03:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3「立派な志じゃ。その生き方を否定はせぬ。
じゃが人を愛しむが故、結果的に大きな足枷になってしまっておる」
/ ,' 3「このままでは、キミの戦術的価値が無くなってしまう」
/ ,' 3「そうなる前に、命を手にかけることを覚え
戦場でその経験を発揮してほしい。そう思ったんじゃ」
/ ,' 3「さすれば、キミは世界を薙ぐ大いなる『風』になれるじゃろう」
(;-∀-)
モララーの心境については、とっくに聞いていた。
直接相談を受けたことはなかったが、何かしらの方法で力になろうと尽力していたのだ。
結果的に、どうしようもなかった。
ただただ時間と戦況だけが流れていく一方。
戦争を終わらせるきっかけには、到底なりえない状態。
/ ,' 3「命に優劣などないと思っておるが……。
こやつは特別じゃ。この世にあってはならぬ存在。
災厄をまき散らす、悪夢ような男なのじゃ」
/ ,' 3「ゆえに、遠慮は無用。気おくれもする必要はない。
ワシの命もある。何も考えず、ただ刑を執行してくれれば良い」
/ ,' 3「出来るな?」
355
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:05:01 ID:24JaPgZA0
スカルチノフは、震えるモララーの肩に手を置く。
黒いマントの上からではわかりにくかったが、その手はじっとり濡れていた。
優しく、諭すように語り掛ける国王自身も。それが本心ではないことが伝わる。
でも、それでも。
一国の王は、一人の将は部下に対し、非常な命令を下さなくてはならない。
わかってる。
ならば、応えることこそが、今の自分の存在意義。
重く深くため息をつき、モララーは目を伏せながら短く答えた。
(; ∀ )「はい」
――――。
部屋には、モララーと死刑囚のみが残された。
重たい封印扉の先には、スカルチノフが待機している。
356
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:06:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3『準備は良いかね、モララーくん』
( ∀ )『……いつでも』
戦いが始まれば、こうした壁越しの魔術会話もできなくなる。
部屋の一帯に、近衛魔術師達が強力なスペルキャンセラーの結界を幾重にも貼るからだ。
城へ被害を出さないための策である。
それでも、彼ら二人が本気でぶつかり合えば、無事で済むかの保証はない。
もし、戦の気配が収まり出てくるのがモララーでなかったら?
想定したくない未来のことを、懸命に振り切りスカルチノフは命令を出す。
/ ,' 3『では、始めよ!』
部屋全体が、無色の魔法陣で覆われた。
同時に、足元に発していた黄色い光が失われる。
( ・∀・)「……!」
遅れて起こった変化は、上空からだった。
何かが落下してきている。
鈍い色を放つ、刃のように薄い金属がハインリッヒに目掛けて落ちてきたのだ。
それはけたたましい音を立てて椅子を破壊する。
木屑が舞い、石に硬い物質が到達した鋭い衝撃音が空間に満ちていった。
357
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:08:10 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)
モララーは構える。
何が起こったのかはわからない。
ただ、その金属物質が零式封印装具を解いたことだけは、本能で理解できた。
異常は既に始まっている。
椅子を失ったはずのハインリッヒは、変わらぬ姿勢で宙に浮いているのだ。
ミシミシという軋んだような音が、今度は鳴り出した。
从三//从
从 ゚//从「…………あ?」
(;・∀・)「ッ!!!」
スペルキャンセラー、レベル10.
最大出力のそれを、モララーは瞬時に放つ。
目の前のそれは、次の瞬間にはガラスが砕けるように消え去っていた。
从 ゚//从「おーおー。なんだァ……今のを防げるんかよ……?」
358
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:09:16 ID:24JaPgZA0
男は、ゆっくりと立ち上がった。
放ったのは、高速で強固な精神汚染魔術『ペルドローレ』。
対象を傀儡と化し、意のままに操る闇の禁術だ。
かつて自分と対峙し、正面からまともにかき消せる者は居なかった。
驚きながらも、楽しそうにハインリッヒは肩を揺らす。
从 ゚∀从「どーやら、面白そうなヤツが居るみてェだな……おい」
口元に残った封印装具を取ると、『白炎』は鋭い歯を見せて不気味に笑った。
/ ,' 3「始まったか……」
近衛魔術師達が、足を踏ん張る。
結界に何かしらの魔法がぶつかったのだろう。
常時スペルキャンセラーを使用するのは、並大抵のことではない。
それでも、他の手段がないという王の命と自分の力量を信じた。
359
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:10:45 ID:24JaPgZA0
時折、地面が激しく揺れる。
完全にかき消せなかった魔法のせいか、はたまた何かの衝突か。
中の様子はわからない。
不測の事態に備えて、近衛騎士達も万全の準備をしてある。
どう転ぶか、予想は誰にもできなかった。
楽観的に考えても、モララーが完全勝利できるかは五分五分だ。
魔術師としては、モララーに分があるかもしれない。
しかし、それ以上に危うさを持っているのがハインリッヒ。
下手をすれば国が傾く危険な賭け。
成功すれば、得る物は大きい。
ここで天を味方に出来ずして、長年の戦に終止符を打つことなどできやしないだろう。
スカルチノフ国王は胸に手を当て、ただただ孫の生還を待つこととした。
从 ゚∀从「ギガブラスト! ブラックフォトン!」
( >∀・)「ぐっ!?」
無属性魔法の巨大な爆破力を生む魔術、ギガブラスト。
通常は魔法陣が発生し、それを起点に爆発を巻き起こすもの。
だが、ハインリッヒは小さな光球に変化させて、それを黒い波動魔法で起爆。
目の前で黒煙と共に強い衝撃波が巻き起こる。
360
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:12:09 ID:24JaPgZA0
( -∀・)「エルメス(脚力強化)、ヘラクレス(身体強化)……」
( ・∀・)「プロミネンス!」
高速で距離を取る。
石畳がへこむほどの脚力で後退すると、同時に火炎の上位魔術を放った。
从 ゚∀从「ふゥむ」
ハインリッヒは避けようともせず、迫りくる巨大な火球に手を差し伸べる。
普通なら炸裂し、火柱があがる魔術なのだが
まるで鳥が木に止まるように、ふわりと空中で停止する。
从 ゚∀从「良く練られた魔力量だ。お前……相当な使い手だな?」
(;・∀・)「……」
从 ゚∀从「見たとこ、ガキみてェだが……。末恐ろしい魔術師が出てきたもんだよ」
(;・∀・)「……な!?」
言いながらハインリッヒは空いた手で火球を挟み込む。
すると、見る見るうちにそれは小さく縮んでいった。
从 ゚∀从「『圧縮(コンプレス)』ってんだ。ちょいと力のいじり方を間違えると
一瞬でドカーン! な、おっそろしい魔術だよ。教科書には載ってなかったろ?」
クハハ、と楽し気に笑う。
从 ゚∀从「そーら、おめえのモンだよ。返すぜ!」
361
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:13:45 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「うわっ!?」
振りかぶって返された火炎魔術は、足元で炸裂すると
黄色の薔薇が高速で伸びてきた。
火炎魔術として返したはずなのに、それは封印魔術スペルシーラーとして発動したのだ。
(;・∀・)(なんだ……どうして、そんなことが?」
空中で切り返し、何度も跳躍して躱す。
モララーは防戦一方だった。
今までの魔術師と、何もかもが違う。
敵の呪術師の中にも、こんな理屈を超えた魔法が使える人は居なかった。
从 ゚∀从「気になるか? 気になるよなァ。禁術ってのは、そういうことなんだよ」
从 ゚∀从「お前ら魔術師達はお行儀よく、伝わってきた魔法しか使わない。
だから、攻め方もワンパターンなんだ。
つっても、オレだって新しい属性魔法を編み出せるわけもねえ。
そんなもんが出来たら、それこそ神様だからな」
( ・∀・)「!」
いつの間にか周りを氷の刃で囲まれていた。
モララーは即、スペルキャンセラーを発動してその猛攻を防ぐ。
从 ゚∀从「だが、悪魔になることは出来る。
理を超えた術式で、新しい一手を組むんだよ。
そうすりゃ勝手に道は開けるんだぜ」
362
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:15:07 ID:24JaPgZA0
二重詠唱を始める。
土魔法のガイアクエイクで、辺り一帯の地面を隆起させる。
視界を奪うと同時に、浮き上がった石の塊を凍結。
しばらくは動けないはずだ。
魔法とのリンクを立ち、更に追撃。
片手を大きく上に掲げ、魔力を込めた。
( ・∀・)「彼方より召還せし 無垢にして強固なる破壊神」
足元に橙色の魔法陣が発生した。
力強い気流が発生し、モララーの外套を激しくはためかせる。
( ・∀・)「響かせよ無の螺旋律!」
掲げた手を握りこみ、もう一つの広げた手のひらへ
目の前で激しく打ち付けた。
( ・∀・)「グランドエクスプロード!!」
発声と同時に、前方に七つの魔法陣が高速で浮かび上がる。
激しく発光すると、それは瞬間的に強大な爆発を生み出した。
爆破は連鎖すると、ねじれる様に一つの塊となり
激しい破壊のエネルギーフィールドを生み出す。
これが無属性の大魔法、グランドエクスプロードだ。
あらゆる大魔法の中で、殲滅力ならば随一。
確実に相手の命を奪う強烈な攻撃魔法だ。
炸裂すれば、塵一つ残らない。
363
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:16:53 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从「……ふぅ〜〜。やァれやれ……」
はずなのに。
(;・∀・)「な……!?」
めんどくさそうに、耳に小指を突っ込みながらその男は出てきた。
囚人用の簡素な衣服。
魔術防護もされていない粗末な着物に、焦げ一つつけず。
何も受けなかったかのように、涼し気な顔で歩いているのだ。
(;・∀・)「グランドエクスプロードを……防ぐなんて……」
从 ゚∀从「あァ。悪いな。手ェ抜いてるもんだから、無効化させてもらったわ」
( ・∀・)「なんだって……?」
指先に付いた耳垢を吹き飛ばしながら、ハインリッヒは続ける。
从 ゚∀从「さっきも言ったが、お前の魔力は凄ェよ。滅多にみられるもんじゃねえ」
从 ゚∀从「だが、決定的に足りねえもんがある。そこら辺の雑魚ですら持ってそうなもんだ」
(;・∀・)「!」
从 ゚∀从「『殺気』がねェんだよ。殺す気が無えから、魔法の威力も自然と落ちる」
从 ゚∀从「いやー、全く困ったもんだね。こんなルーキーをオレに差し向けるたァ
スカルチノフは、イカれちまってんのか?」
364
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:18:36 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「違う! おじい様はいつも正しい判断をしてる!」
語気を強くする少年の言葉がおかしくて、死刑囚の男はゲラゲラ笑う。
从 ゚∀从「なんじゃそりゃ。じゃーなんでオレは殺されねェ?
自分と同レベルの魔術師相手を前に、なんであくび混じりなんだよ?」
(; ∀ )「それは……!!」
呼吸が浅くなる。
ハインリッヒに反論しようとするが、上手く言葉が出てこなかった。
从 ゚∀从「殺すのが怖ェくせに、『敵』の前に立つんじゃねえよ!」
片手で闇の波動魔術を放つ。
モララーもカウンターで、同じ魔術を使って反発させた。
从 ゚∀从「よォやく封印が解けて、また暴れられると思ったのによォ!
おめーみてェな甘ちゃんが相手じゃ、食いごたえがねえってもんだ!!」
更に重ねて、両手で相手を押しつぶしにかかる。
負けじとモララーが、足を踏ん張り同じ格好で耐える。
从 ゚∀从「なァ! 名前も知らない坊主! お前、何がしてーんだよ!?」
从 ゚∀从「死刑囚の処刑も出来ないほど、腰の抜けたおめーに何が出来るんだ!?」
(;・∀・)「ぐぅうう……!!」
モララーは押され始めていた。
ハインリッヒが言うように、彼の魔力は決して劣っていない。
こうして、足を踏ん張り腰を入れて魔術を放たないと、撃ち負けるそうになるなど
あり得ないはず。
365
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:20:00 ID:24JaPgZA0
だが、それでも彼は押されていた。
理由はただ一つ。
この目の前にある、黒光粒子砲魔術ブラックフォトンが直撃すれば
命を奪ってしまうかもしれないからだ。
当然、ハインリッヒはそのつもりで撃っている。
だが、モララーは違った。
手繰る魔力を繊細に調整し、死に至るほどの威力にならぬよう加減をしているのだ。
何故、今になっても尚そうするのか。
相手が傍若無人の犯罪者と知っても、不殺を貫くのか。
(; ∀ )(そんなこと……もう、ぼくにはわからない……)
幾度も出た戦場の最中。
敵も味方も、本当に必死で戦っていた。
力の弱い、強いは関係ない。
ただ、己が命を果たそうと命を懸けて散り、また、武勲を立てていた。
366
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:21:12 ID:24JaPgZA0
何故、自分には出来ないのだろう。
何度も自問した。
回を重ねるにつれ、それはもうしがらみのように心を縛り。
いつしか、どこかで彼の『当たり前』になってしまっていた。
習慣のように、人を殺せない。
小さな光線魔術で、額を打ち抜くという動作を試みたとして
きっと今のモララーは、ちゃんと狙ったはずなのに虚空を焦がすことだろう。
怖くて怖くて。
自分の身に迫る責任に耐えられそうにないから。
そんなことしなくていいよ、と身体がもう出来上がってしまっていた。
でも、誰かを殺してしまうよりは良い。
言い訳しながら、何度も戦地に赴いては自己嫌悪に陥っていた。
理想と現実とに挟まれて、潰れそうになりながら。
時折聞こえてくる、仲間のため息にも耐えながら。
ずっと。
(;・∀・)「うあぁあッ!!」
思い切り両手を振りあげた。
進行方向を無理やり上空に持っていき、魔術を雲散させる。
黒い粒子が弾け、雪のように一帯へと降り注いだ。
367
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:22:52 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从
从 ゚∀从=3「はー……萎えるなァ」
飽くまで信念を貫くつもりか。
そうまでして勝てる自信もない癖に。
从 ゚∀从「しょうがねえ。年長者として、下の者には教育したらねェとな」
从 -∀从
从 ゚∀从「バーンプロミネンス」
(;・∀・)「は!?」
片手をちょいと翳しただけだった。
そこに放たれるは、火の大魔法『バーンプロミネンス』
上空に生み出された巨大な火球が、相手を骨すら残さぬほど焼き尽くす超威力の魔法。
瞬間的な威力だけなら、グランドエクスプロードすら凌ぐほどだ。
368
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:24:54 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「スペルカウンター!」
不可解だった。
大魔法の発動には、必ず要るものをハインリッヒは無視して放ったのだから。
まずは詠唱。
大魔法は、自身の魔力と大気中の魔力をリンクさせ増幅して放つ。
ゆえに、詠唱をして周囲の魔力を自身のモノへ隷属化しなくてはならない。
そのコントロールを行う際、片手では抱えきれない魔力量になるため
絶対に両手で撃たないとまともな発動は出来ないはず。
どちらかを怠れば、普通であれば威力が落ちたり唱えることすら叶わない。
それなのに……!
(;・∀・)(威力が、全く衰えていない……!?)
スペルカウンターの防護壁を作り出すが、とっさに放ったためレベルは7。
それでは大魔法は返せない。
魔法陣はひび割れて、今にも壊れそうになっていた。
(;・∀・)「だったら……スペルキャンセラー!!」
落ちてくる速度が下がった所で、スペルキャンセラー。
先ほどより余裕があったので、二重詠唱であれどレベルは10。
十分、バーンプロミネンスに対抗できる。
从 ∀从「そこだよ」
369
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:26:48 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「!?」
ハインリッヒの声だけが聞こえた。
モララーは辺りを伺う。
どこにも居ない。
……否。
どこにも居ないのではない。
何も見えなくなっている。
バーンプロミネンスを、確実に消し飛ばしたのを見たと同時だ。
灯りが途端に消えたように、視界が真っ暗になっていたのだ。
从 ∀从「どうして、スペルキャンセラーにするかね。
スペルカウンターを重ねれば、オレに反撃の一手を浴びせられたはずなのによ」
(;・∀・)「どこだ!」
从 ∀从「能力はピカ一だが……。どうにも、そこんところが足りてねェな。
お前さんは」
370
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:28:06 ID:24JaPgZA0
声のする方向がわからない。
前からも後ろからもするし、真横に居るようにも思える。
スペルキャンセラーを放つが、虚を掴むようにすり抜けていく。
从 ∀从「お前に足りてないものを、このオレ様が与えてやる。
目が覚めたら、オレを追ってきな。居る場所はすぐわかるはずだぜ」
(;・∀・)「ハインリッヒ!!」
膝ががくんと抜ける。
糸の切れた人形のように、モララーは地面に崩れ落ちる。
伏せる彼の意識は既になかった。
从 ゚∀从「……ったく、本当にガキんちょかよ」
モララーすら知覚できないほど、微細な魔力で放たれた幻影魔術。
意識がバーンプロミネンスに向いている最中にそれは、既に命中していた。
本気を出せば、こんな魔法防げないわけがなかろうに。
少し対峙しただけで、理解していた。
甘いのもあるが、性根から優しい人間なのだろう。
人を殺しを、極端に怯えている。、
無意識のうちに、魔法をセーブして放ってしまうのは、そのためだ。
目の前で浅い呼吸のまま、汗を流しつつ眠る少年を見下ろしながら
ハインリッヒはそう思っていた。
371
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:29:16 ID:24JaPgZA0
せっかく面白そうな奴が出てきたのだ。
ここで命を絶ってしまっては、あまりに勿体ない。
从 ゚∀从「さァて。そんじゃまあ、たっぷり教え込んでやろうかね」
从 ゚∀从「人を殺すために、いっちばん大事なもの」
从 ゚∀从「怒り、ってヤツをな!」
高笑いしながら、ハインリッヒはモララーを残して歩いていく。
そして、頑強な封印魔術が施された扉の前に立ち。
まるで当たり前のように、施錠を破壊した。
嘗四話「その扉を開く者」
372
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:30:25 ID:24JaPgZA0
あ。「つづく」を忘れてました。これで今週分は終わりです。
モンハンやりたくてウズウズしてるので、やってきます
373
:
名も無きAAのようです
:2021/03/28(日) 01:45:11 ID:nuaWUJlU0
乙
374
:
名も無きAAのようです
:2021/03/31(水) 21:24:26 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね
375
:
名も無きAAのようです
:2021/03/31(水) 21:25:43 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね
376
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/03(土) 20:45:48 ID:N8bnHeqQ0
こんばんは。
今週はちょっと予定があって、更新は明日になります。
午前中には投下しますので、お待ちください
377
:
名も無きAAのようです
:2021/04/03(土) 22:57:18 ID:nX7ahJxI0
おk
378
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:54:09 ID:HLPKJgY.0
嘗三話「決意」
(;-∀-)
(;-∀・)
(;・∀・)
(;・∀・)「!!」
急いで起き上がった。
脳が覚醒すると同時に、仰向けになっていたことを理解する。
見慣れた天井、室内の風景。
そこは自室だった。
379
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:56:20 ID:HLPKJgY.0
身体を持ち上げた時点で、居場所は理解できた。
だからこそ焦る。
何故、自室に……!?
モララーは急いで窓を開けた。
気圧差により、激しい気流が部屋の中に入ってくる。
大粒の雨が、部屋の衣類や書物を濡らしていくが関係ない。
外は、近年でも稀にみる大嵐だった。
気にも留めず、モララーは窓枠に足をかけ、風魔術で飛翔。
いつも彼が居る、城の一番高い場所へと瞬時に到達した。
(;・∀・)「……はぁ……はぁ……」
肺が押しつぶされそうだった。
呼吸がしにくいのは、大雨と雷を降らす雨雲のせいだけではない。
380
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:57:40 ID:HLPKJgY.0
彼が今ここに、こうして居ること。
何もなしえてないのに、意識を失っていたこと。
それこそが最も大きな原因。
探知魔術を、一帯に張り巡らせた。
城を、城下町を覆いつくせるほど広く、速く。
もしかすると、悪い夢を見ていただけなのかもしれない。
天候不順だから、嫌なイメージばかり沸いてしまうのだ。
そうに違いない。
そう思いたい、
(;-∀-)
(; ∀ )「……………………あぁ。」
381
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:59:13 ID:HLPKJgY.0
小さく呻き声が漏れた。
本来は人が乗る場所でないポールの上から、体が落ちそうになる。
済んでのところで手を伸ばし、落下は避けられた。
風の魔術で姿勢を制御することすら難しい。
それほどまでに、モララーの心は乱れ切ってしまった。
探知魔術で返ってきた結果は、想像通り……いや、想像以上に悪いものだったから。
城下町が焼かれている。
雨のおかげで燃え広がることは免がれたが、家屋が倒壊した事実に変わりはない。
意識を失って倒れている店主。
隣で泥に膝をつき、ただ泣き崩れるその妻。
辛そうな顔で遺体の処理をしている門番が居る。
顔なじみだったのか、知らない人だったのか。
何にせよ、不可抗力で処分せざるを得なかった大事な市民だ。
悲しくないわけがない。
医者達が、魔術師の手を借りて東奔西走していた。
全く手が足りていないことがわかる。
消えゆく少年の命を、救えずに空を仰ぐ中年男性がそこには居た。
不自然なくらい巨大な赤い水の池。
胴体しかない、やけに綺麗な石造。
ねじれて反転した石造家屋や、腐敗した大地。
何をどうすれば、ここまで酷いことが出来るのだ。
382
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:00:37 ID:HLPKJgY.0
(;・∀・)「……! おじい様は!?」
動揺している暇などない。
あの場で、すぐ外に国王が居たはずだ。
捕縛した恨みを持っているに違いない。
危害の状況を確かめなくては。
(;-∀-)「……」
とはいえ、どこにいるかわからない。
気配を探ろうとしたが、城全体に強力なスペルキャンセラーが張ってあった。
壊すのはたやすいが、過剰な防衛措置の理由には心当たりがある。
それはできない。
混濁する脳内を必死で動きまわして、モララーは考える。
思いつく場所を一つ一つ探すか? いや、時間がかかりすぎる。
場所がわからなくても……目印になるものがあれば……。
それを空間転移魔術と繋ぎ合わせてしまえば、きっと……。
口を半開きにしながら、術式を展開しだす。
震える手で、魔力を懸命に操って完遂を目指した。
383
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:01:37 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)(そう……だ。ブレスレット……!)
いつも身に着けているという、代々伝わってきた王家の宝の一つ。
きっと持っているに違いない。
それを手繰れば……!!
切り、貼り、伸ばし、繋げる。
空間転移魔法が放つ青色の魔法陣は、緑色に変色した。
(;・∀・)「……ここだ!」
魔力を込めて、術を起動させる。
光の球に体が変化すると、別の空間へと飛翔を始めた。
予想よりも短い時間で、モララーが発動した新しい魔法は発揮をし終えた。
/ ,' 3「待て」
(;・∀・)「国王陛下!」
手をあげて、降伏の仕草をするモララー。
いち早く察知した国王は、敵ではないとわかっていたから
周囲の近衛兵士達の攻撃態勢を制した。
384
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:03:02 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「やはりキミじゃったか」
(;・∀・)「ご無事ですか!?」
場所は作戦会議室だった。
国王は普段通りの格好で、いつものように指揮を執っていた。
だが、決定的な違和感がある。
/ ,' 3「ああ、ワシは無事じゃよ」
(;・∀・)
(;-∀-)
言葉だけで、その意図は伝わった。
モララーは歯を食いしばり、血が滲むほど拳を握りしめた。
肩を震わせ、瞼を閉じて、その罪の重さを痛感する。
385
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:04:18 ID:HLPKJgY.0
近衛の階級を持つ、大陸屈指の猛者。
数名、減っていた。
いつも傍に居た近衛騎士も。
自分にテーブルマナーを教えてくれた、あの人も。
そこに居ない。
収集されている人選からすれば、居ないのはおかしい。
状況と、結果。
照らし合わせれば、おのずと答えは出てきた。
出てしまっていた。
彼らは、王を庇い殉職したのだと。
/ ,' 3「モララーくん」
(; ∀ )
386
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:05:51 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「……」
(; ∀ )
/ ,' 3「モララー=レンデセイバー!」
(;・∀・)「は、はい!」
気持ちが地の淵に陥る前に。
スカルチノフは、あえて厳しい口調で続けた。
/ ,' 3「お主に今一度、命を与える」
/ ,' 3「ハインリッヒ=ボンデリンクの死体を、ワシの下へ持ってくるのじゃ」
/ ,' 3「それまで、この城に入ることは許さん」
/ ,' 3「……良いな?」
387
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:07:02 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)
(;・∀・)「かしこまりました、国王陛下」
顔を叩き、モララーは作戦会議室の外へと歩き出した。
残された部屋で、国王は思う。
未熟な彼に、過度な期待をした自分が愚かだった。
死刑囚であるなら、きっと心の壁を破ってくれると思った。
けれど、やはりまだ少年なのだ。
怖かったはず。
辛かったはず。
ハインリッヒが城から脱走し、城下町を襲い、それからどこへ行ったのか。
見当はつかない。
だが、それでも、これ以上被害を増やすことはできない。
頼れるのは彼だけだ。
自らの判断の甘さを、まだ15の少年一人に背負わせることに
重く深い後悔と自責の念を抱きながら、国王はため息をついた。
388
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:08:27 ID:HLPKJgY.0
街の復興、ラウンジ大陸への対処。
することは、山ほどある。
それを少しでも進めることで、償いとしよう。
願わくば、一日でも早くモララーが戻ってきてくれることを願いつつ
心の内を必死に押し隠したまま、業務を再開するのだった。
( ・∀・)「……」
暗い部屋にモララーは戻った。
開けっ放しの窓から、雨水が絶え間なく流れ込んできている。
手をかざしガラス戸を閉めると、そのまま速乾魔法で部屋の余分な水気を取り払った。
俯いたまま、壁にかかっている黒いマントの下へ歩いていく。
初陣祝いで頂戴した、戦闘用の外套。
今まで返り血を浴びたことがあっただろうか。
綺麗なままの繊維を、そっと撫でる。
何のために、国王は黒い衣類を寄越したのか。
意図を理解できていなかった。
389
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:09:37 ID:HLPKJgY.0
聞いたことはないけれど。
多分、たくさんの赤を浴びても、汚れが目立たないようにと
配慮してくれたのだろう。
『黒』の階級の戦士達の兵具が、その名の通り暗い色で揃えられているのは
泥まみれになろうと、血みどろになろうと構わないようにするため。
ああ。
結局、そんな決意も覚悟もなく。
ずっと、自分は浮ついた気持ちで戦場に立っていたのか。
( ∀ )「……ごめんなさい」
謝罪を伝えたい人たちは、もう聞くことすら出来ないだろう。
苦しい思いを、悔しい思いをさせてしまった。
どれだけ頭を下げても、許しを請うことすら叶わない。
深い深い後悔の念で、心が潰れてしまいそうだった。
自分だけなら、まだ良かった。
390
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:11:11 ID:HLPKJgY.0
いや、違う。
そもそも、その考え方が間違っている。
自分だけじゃないんだ。
ここにきて、世話になった人たち。
関わった以上、もう他人ではない。
そんな当たり前のことすら気付かず。
自分は強いのだから、高潔な志のままで進んでいけると思っていた。
心底、腹が立つ。
甘い。甘すぎる。甘っちょろい。
何度も言われていた気がする。思われていた気がする。
見て見ぬふりをしたのは、他でもない自分自身だ。
( ∀ )「……はぁぁ……」
震える手でマントを掴んだ。
重い溜息は、体内の余分な感情を流してくれる。
391
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:12:29 ID:HLPKJgY.0
もう、自分を責めるのはやめよう。
下を向いている暇があれば、一秒でも早く状況を好転させなくては。
冷静になってきた頭は、徐々に徐々に闘争本能を呼び覚ます。
こうなったのは、誰のせいだ。
自分だ。
……だが、やったのは誰だ。
あいつだ。
あいつが居なくなれば、怖い目にあった人たちも少しは救われるんじゃないか?
心臓が高鳴る。
今までの、緊張とは違う。
熱くて浅い呼吸が全身に思いを巡らせる。
392
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:13:17 ID:HLPKJgY.0
そうだ。
そうだ。
あいつを世に放ったのが自分の責任なら。
自分自身で、始末をつけなくてはならない。
国王の命令だけじゃない。
今、モララー=レンデセイバー自身が思っていること。
――――憎い。
この思いの、諸悪の根源を絶つために……!!
手に取った黒いマントを、モララーは勢いよく引き寄せて羽織った。
再び顔を上げた彼の瞳は、外套のように。
闇を飲み込むかのように、黒く深く染まっていた。
393
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:14:45 ID:HLPKJgY.0
从 ゚∀从「ハッハー! 良い眼になったじゃねーか、モララーよォ!」
そこは、街から遠く離れた平野。
相変わらず大荒れの天気を、障害物なく流し続ける広い大地。
どこで名を聞いたのか、嬉しそうにハインリッヒはモララーを迎え入れた。
被害の状況を追った先。
乱雑に散っている、VIP大陸の兵士たちの死体の海で、白炎は笑っていた。
( ・∀・)「……ハインリッヒ=ボンデリンク」
( ・∀・)「一つだけ、お前に聞きたい」
从 ゚∀从「おォ、なんだ?」
394
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:16:38 ID:HLPKJgY.0
低い声で質問をするモララーに対し、余りに軽い言葉が返ってくる。
苛立ちを覚えつつも、少年は続けた。
( ・∀・)「お前は、どうしてそんな簡単に人を殺せるんだ?」
从 ゚∀从「は? な、なんじゃそら! ハッハッハッ!!」
彼にとっては余りにも荒唐無稽な質問だったのか。
ハインリッヒは笑い出す。
お腹を抱えて、涙を流し、呼吸を整えてから、じっと待っているモララーに返答をした。
从 ゚∀从「んなもん、理由なんてあるかよ」
从 ゚∀从「オレは強い。強いから何をしてもいい」
从 ゚∀从「弱い奴はかわいそうだろォ?
生きてても意味がねェんだ。だから殺す」
从 ゚∀从「そんだけじゃねーか。他に思うことなんてあるのかよ?」
395
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:17:55 ID:HLPKJgY.0
( ・∀・)
( -∀-)
( ・∀・)「……ああ、良かった」
( ・∀・)「お前が、狂ってしまってたり。
悲しい過去があって殺戮を繰り返しているのなら
ぼくは少しは躊躇したかもしれない」
( ・∀・)「でも、違うんだな」
( ・∀・)「正しく、理性と理由を持って人を殺せるんだな」
从 ゚∀从「……ああ、そうだよ。悪いか?」
( -∀-)「いいや、助かった。
おかげで、今度こそ。何も後ろめたさもなく」
396
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:19:24 ID:HLPKJgY.0
( ・∀・)「……ボクは、お前を殺せる」
.
397
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:20:57 ID:HLPKJgY.0
どす黒い感情で、強い言葉が自然と口に出た。
鋭い目つきは、嘘偽りない真実を語っている。
从 ゚∀从(……そうそう。それだよ! それを待っていたんだ!!)
凄まじい力の魔術師と、今から殺しあえる。
全力を賭して、気兼ねなく殺せる。
最高だ。
その為に、自分は強くなった。
弱い奴らを蹂躙し、強い奴を超えて優越感に浸る。
それこそが、自分自身の生きている意味。
おあつらえ向きの相手が、今目の前に立っている。
それも極上の殺気と、怒りを兼ね備えて。
ハインリッヒは、舌なめずりをして歓喜に打ち震えていた。
从 ゚∀从「さあ、やろうぜ……大魔術師サマよォ!!」
つづく
398
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:22:14 ID:HLPKJgY.0
更新日ズレちゃってすみません。
土日のどちらかではでは、必ず更新しますのでお待ちいただければ幸いです。
399
:
名も無きAAのようです
:2021/04/04(日) 23:22:07 ID:/fYsMNHc0
乙カレー
400
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:09:16 ID:OsElsdq60
嘗二話「沛雨に溶けゆく仄暗き心」
ハインリッヒ=ボンデリンクは生まれながらの天才だった。
物心がついたころには、既に中級魔法を十全に使いこなせており
青年の頃には、同年代の敵は居なかった。
凄まじい成長性は、絶対の自信を持たせる。
闘技学校に通う必要すらないと自負し、傭兵試験に強引に参加。
通常の課題とは違う、難易度の高いテストを難なく突破し
晴れて、彼は国の抱える魔術師となった。
当然、彼のやるべきことは決まっていた。
溢れる魔力、強大な魔術。
多彩な攻撃魔法を行使して、敵軍を瞬時に蹂躙。
別動部隊へ支援魔術をかけ、進軍速度を急上昇させる。
若さゆえ、魔法力の回復は早い。
彼は止まることなく、ラウンジ大陸の部隊を
まさに獅子奮迅の活躍で突破していく。
血の海を、死体の山を、魔術の空を。
決して常人では作り出せない、悪夢のような風景を
虚静恬淡と背後に置いていく。
401
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:10:54 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(つまんねェな)
死体の山をハインリッヒは不満げに蹴り飛ばす。
風の刃で首を切り、炎の柱で体を焼く。
閃光で大軍を薙ぎ払い、土の塊で圧殺する。
从 ゚∀从(なんで、誰も彼も同じことしかできないのかねぇ)
魔法の歴史を紐解いていけば、理由はわかる。
使えないもの、危険なもの。自然の摂理を崩すもの。
それらは淘汰され、忘れ去られた。
今では、最適化された魔術として応用され
万人が速く、正確に繰り出せるものに組み上げられている。
从 ゚∀从(……ああ、なんだ。簡単なことじゃんよ)
封印された『禁術』。
彼はあっさりと使えてしまった。
人を操る魔術、致死の傷を癒す魔術、生態系を崩すような魔術。
どれも簡単だ。
从 ゚∀从(これがあれば、もっともっと楽しめる……!)
402
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:12:18 ID:OsElsdq60
目の前で無残に倒れていくラウンジ兵。
他人の命を奪うのが、ハインリッヒはたまらなく好きだった。
研鑽した力が届かず、絶望の淵に落ちていく顔。
縁者の死を怒りに、復讐者として挑み散っていく者。
圧倒的な力で、圧倒的な他者を蹂躙する。
その征服感が、最高に生を実感させていた。
……いつの間にか、目の前の死体がラウンジ兵だけでなく。
VIP大陸の者にまで及ぶほどの凶行に走ってしまったことだけが
彼にとって、唯一の失敗だった。
不自然な自軍の被害は、完璧には情報封鎖もできず
怪しんだ憲兵が、禁術の使用現場を確認。
激しい応酬と多大な犠牲の伴う戦いが繰り広げられた。
最終的に、彼は虚を突かれ捕縛。
専用の地下牢に投獄されることとなった。
本来なら万物の魔法を封じる護布の中で
その効力を掻い潜る術式を混ぜた、生体活動を極度に遅延させる禁術を使い
いつしかまた、自由に人を殺せる明日を願って。
403
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:13:23 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(さーて、このガキはどう打って出るんだろうなァ?)
激しい雨の中、二人は距離を置いて対峙していた。
防水の魔術もかけず、髪に服に雨が滑り落ちていく。
前傾姿勢で、出方を待つハインリッヒ。
人を殺すことに怯えていた少年が、一体どんな手段で自分を殺めようとするのか
興味しかなかった。
( ・∀・)「……」
望み通り、モララーが先に動いた。
黒衣に隠れた手をゆっくり前に突き出す。
从 ゚∀从「!」
瞬間、前方の雨粒が道を開ける様に弾けていった。
魔力を込め、空気を高速で打ち出したのだろう。
圧縮(コンプレス)で強化したスペルカウンターで、ハインリッヒは受け流す。
着弾した後方の草原が、水飛沫と土砂を巻き上げて爆発した。
404
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:15:04 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「おっとォ!」
大地を両側に隆起させる。
直後に風の刃が衝突し、岩壁が崩れ落ちていった。
ハインリッヒは嬉しそうに笑うと、すぐさま迎撃を行う。
从 ゚∀从「フォーレンスタイン!!」
手に込めた魔力が青く光り、球体を生成する。
禁術の魔法名を叫ぶと、それは一直線にモララーに飛んで行った。
( ・∀・)「……プロミネンス!」
スペルキャンセラーを構えたモララーだったが、すぐに詠唱を変更する。
彼の洞察通り、それはかき消すことの出来ない魔法。
触れれば、永久的に凍結を繰り返し広がっていく恐ろしい氷魔法なのだ。
だから、モララーは火炎弾の連発で対抗する。
目にも止まらぬ速さで射出された、上級火炎魔法は十を超えた辺りで爆発を巻き起こした。
温度差による水蒸気爆発で巻きあがった煙。二人の視界は遮られる。
从 ゚∀从「アクアレーザー、ツヴァイ!」
指先から、細い水を圧縮させて放つのがアクアレーザーだ。
ハインリッヒは、圧縮(コンプレス)で累乗させ威力を増加。
眼前の煙ごと、一直線に切り裂いて確実に生命を奪いにかかる。
だが、その一閃は途中で角度を変える。
上空のあらぬ方向へ向かう原因は、モララーのスペルカウンターによるものだった。
405
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:16:59 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「ハイライトニング」
塞がっていない方の手で、別の魔法を放つ。
上空に、雷による帯のようなものが形成された。
それは一つに収束すると、ハインリッヒに目掛けて無数の矢のように飛んでいく。
从 ゚∀从「マジックスカルヴ!」
連射される雷の刃は、途中で速度を失った。
ピタリと止まると、次に方向を変える。矛先はモララーの身体だ。
放った魔法を、意のままに操る禁術の効果である。
( ・∀・)「いちいち、面倒な魔法を……」
スペルキャンセラーを発動して、自身の魔法を相殺していく。
見たことのない魔術の連発に、モララーはやや苛立ちを覚えていた。
从 ゚∀从「ハッハッハッ! どうだよ、面白いだろォ!? 禁術はよォ!」
( ・∀・)「微塵も面白くなんかない」
高らかに笑うハインリッヒに、モララーは即答する。
从 ゚∀从「ちまちまやってたって、何も進まねェぜ!?
こっちは『レナトス』を発動してんだ。
そう簡単には魔力切れをおこさねェぞ!」
406
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:18:35 ID:OsElsdq60
通常、魔力を回復させるには休息を取る他ない。
時間経過以外には、薬などを使うしかないが
大気中の魔力を強制的に吸引し、自分のモノとする禁術がある。
それが『レナトス』だった。
植生や動物の生態に、悪い影響が出るので封じられた魔法である。
从 ゚∀从「オレを止めに来たんだろ!? だったらすることは一つじゃねェか!」
从 ゚∀从「取りにこいよ、オレの命をよ!」
( ・∀・)「最初からそのつもりだ」
手を向けると、魔力に引かれて数多の石礫が浮かび上がる。
土の上級魔法、ストーンレインだ。
从 ゚∀从「しょっぺえなァ、オイ!」
ハインリッヒが両手をかざす。
当たればケガではすまない速度や大きさの飛礫が、磁力のようにビタリと止まっていく。
从 ゚∀从「シュラムベディーネン」
徐々に徐々にそれは、形を成していく。
巨大な腕が、大きな腹が、太い足が。
全て岩石で形成された人形が、モララーの前に立ちはだかる。
石と石がぶつかり、軋む音を立てながら腕を振り上げてきた。
407
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:22:06 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「ギガブラスト!」
それよりも早く、モララーが無属性魔法を胸元に叩き込んだ。
動力源である核を完璧にとらえたその一撃は、轟音を立てながら活動を停止させる。
石と雨水の隙間から、鋭い視線が飛んでくることに、ハインリッヒは思わず笑みを浮かべた。
从 ゚∀从「……ハッハッハッ。いいねェ、いいぜ。モララーよォ」
从 ゚∀从「その暴力的な魔術、破壊的な魔力! オメーは、戦いの為に生まれてきたんだな!」
( ・∀・)「違う」
戦うことが、殺し合うことが楽しくてたまらないハインリッヒ。
あざ笑うような挑発に、モララーは間髪入れずに否定する。
从 ゚∀从「違うもんか! そんだけの超人的な能力を、何故正しい方向に使おうとしない!?」
( ∀ )「違う!!」
鳴り響く雷にかき消されぬよう、声を荒げて拒絶する。
( ∀ )「そんな……そんな悲しい生き方をするために、ボクは生まれてきたんじゃない!」
(#・∀・)「人を殺すことが! その為だけの力なんてものが、正しいわけがない!」
408
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:25:01 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「綺麗事を言うんじゃねェよ……。じゃあ、オメーの大好きな国王陛下を
オメーは否定すんのか?」
( ・∀・)「なに……?」
从 ゚∀从「国に仕えている戦士は皆、人を殺すために日々鍛錬している。
そして鍛えられた奴らを、正しく利用するのが統率者。つまり国王だろう」
从 ゚∀从「国王は、戦うことを。戦争の為の力を、正しく使ってると思うが?
オメーは、それを拒むんだな?
間接的な殺人鬼である、国王陛下を否定するんだな!?」
( ∀ )「…………それは……!!」
从 ゚∀从「いいか、モララー!
命を与えられ、戦場に立っている駒が出来ることは二つ!
敵を殺すか、敵に殺されるかだ。それ以上も以下もねえ!」
从 ゚∀从「ごちゃごちゃ難しいこと考える必要なんざねーんだよ。
好きなように、好きなだけ暴れる。
その先にある景色は、死体の山か真っ暗な空か、どっちかだ!」
从 ゚∀从「人を殺す力が、正しくないだァ……? 笑わせるぜ。
その台詞、騎士や魔術師の連中に言えるか?」
(;・∀・)「!」
从 ゚∀从「オメーは自分自身で、戦士としての『仲間』をバカにしてんだよ」
409
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:26:48 ID:OsElsdq60
( ∀ )「違う……違う……!!」
从 ゚∀从「ハッハッハッ! そーかいそーかい。それでも『違う』んかよ」
从 ゚∀从「だったら、することは一つだよなァ……?」
从 ゚∀从「……お前が、真の戦士であることを」
从 ゚∀从「大事な大事なオトモダチに! 国王サマに!
自分の存在価値がまだあることを!
人を殺せるんだ って、証明してみせろや!」
( ∀ )「……さっきも言ったはずだ」
( ・∀・)「最初から、そのつもりだ、と」
410
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:28:03 ID:OsElsdq60
从 -∀从「クク……いいねェ」
まだ迷っていた幼い瞳が、更に深淵を増していく。
もっともっと。
強い殺意を、激しい恨みを!
怒りは力を引き出してくれる。
そんな極上の相手を、自分の培った力で真っ当に殺す。
これ以上の快楽は世に二つと無い。
堪えきれない笑みを浮かべ、ハインリッヒは再びモララーへ猛攻を仕掛けるのだった。
――――。
(;メω-)「む……う……」
遠く離れたNEET城の医務室。
ロマネスク団長が、呻き声を開けながら目を覚ました。
411
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:29:35 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「ここ……は……?」
ζ(゚ー゚*ζ「ロマネ君。よかった、起きたんだ」
川 ゚ -゚)「まだ熱が引いていない。寝てると良い」
天井までの視界を遮るのは、幼馴染と妻の姿。
育児のため一時的に戦線から離れていたはずだが……。
(;メωФ)「クー、どうしてココに?」
川 ゚ -゚)「聞いたこともないくらいの重傷と聞いてな。
居てもたってもいられなくて来たんだ」
摩擦を感じさせない長い髪を、キラキラと反射させながらかき分ける。
ロマネスクの妻のクーレ=ホライゾネルは、不安と安心の入り混じった顔で
疲労の溜まった ため息をついた。
(;メωФ)「ブーンは?」
川 ゚ -゚)「母さんが見てくれてるよ」
(;メωФ)「そうであるか……」
ζ(゚ー゚*ζ「それにしても傷だけで良かったね。
五体満足なのは、幸運だったとしか言いようがないよ」
(;メωФ)「……うむ。ブスダドクオ……恐ろしい男だったのである」
川 ゚ -゚)「……ロマネは知らないだろうが。
実は今の王都は、もっと危険な状態なんだ」
412
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:31:57 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「? どういう……」
言いかけたロマネスクが、とある異変に気付く。
痛む身体を無理やり持ち上げ、窓でもないあらぬ方向の壁を見た。
(;メωФ)「……なんであるか、この強烈な魔力の波動は……?」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、ロマネ君でもわかるんだ。凄いね、騎士なのに」
川 ゚ -゚)「私はさっぱりだが……デレもわかるんだな」
ζ(゚ー゚*ζ「まあね。これだけの魔力、魔術師なら誰でもわかるよ」
(;メωФ)「何が起こっているのである……?」
デレは今の城の状況を説明した。
ドクオに敗れて、ニメア地区が陥落した件。
それに伴い、国王がモララーと『白炎』ハインリッヒを対峙させたこと。
目的は、モララーに殺生の経験をさせて、戦力として扱えるようにすること。
だが、モララーは敗れハインリッヒは逃亡。
街を半壊させて、大きな被害を生み出した。
その後始末として、再びモララーがハインリッヒを追い
今現在、戦っているであろうこと。
413
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:34:03 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「そんな……。モララー殿に加勢は向かってないのであるか?」
ζ(゚ー゚*ζ「わかるでしょ? 巻き込まれるだけだよ」
(;メωФ)「しかし……一度は敗れた相手なのである。
そもそも、モララー殿は強くとも、まだ少年なのである。
いくらなんでも、何もかも背負わせすぎでは……?」
川 ゚ -゚)「……それはきっと、誰でも思っていることだ。
戦線に居なかった私ですら、聞き及んだ情報だけでも
十分に無理させすぎていると感じるよ」
(;メωФ)「だったら……」
ζ(゚ー゚*ζ「それでも、信じるしかないんじゃないかな。
モララーくんなら、きっと出来るって。
この終わりの見えない戦いを、終わらせる光になってくれる、って」
ζ(゚ー゚*ζ「その為に……殻を破るためには必要なことなんだと思う」
(;メω-)「…………残酷であるな」
川 ゚ -゚)「だがロマネも、薄々同じことを思っているんだろう?」
(;メω-)「……だから、言ったのである」
(;メωФ)「残酷であるな、と」
ロマネスクもデレも、直接モララーの人となりを知ってきた身だ。
今、どんな気持ちで戦っているのか。
想像に難くない。
414
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:35:20 ID:OsElsdq60
だけど、それを止めることはきっともう出来ない。
止めてしまえば、彼はもう戦士になることはないから。
取り返しのつかない現実と、向き合う強さを手に入れなくてはならないのだ。
掛けられたシーツを力一杯ロマネスクは握りしめた。
遠く壁の向こうを見つめているデレも、同じような心境だろう。
座して待つしか出来ない、この歯がゆさは激しい雨音の中に溶けていった。
从 ゚∀从「チィッ!」
手で地面を抉り、吹き飛ぶ勢いを殺しながら、ハインリッヒが舌打ちをする。
相変わらずの殺気と鋭い目で、モララーはひたすらに攻撃を続けていた。
いつの間にか、周囲は殺風景になっていた。
何度も何度も強力な魔法が叩きつけられたせいで、岩肌がいくつも露出している。
415
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:36:56 ID:OsElsdq60
豪雨に揺れる草も、雷で焼かれた木々も既に何もない。
モララーの足元、彼の半径数センチのみ自然が残っているだけ。
そう、それは余りにも奇妙で不愉快な状態。
ハインリッヒはとっくに気付いており、苛立ちを覚えていた。
从 ゚∀从(このガキ……さっきから一歩も動いてやがらねェ!!)
圧倒的な差を見せつける為なのか。
手を抜いているのか。
真意はわからないが、一つだけ受け取れる意思がある。
从#゚∀从「てめェ……オレをナメてんのか!?」
( ・∀・)「バカを言うな。手を抜いているつもりはない」
冗談ではないトーンで返事をする。
すっかりモララーは落ち着きを取り戻していた。
その異様な静けさに、ハインリッヒは焦燥感を覚える。
じゃあ、一体なんのつもりなのだ。
殺す気なのはわかっている。
だが、出し惜しみをされるのは、腹が立つ以外のなにものでもない。
ハインリッヒは青筋を立てながら、あえてその意向を砕こうと魔法を放った。
416
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:38:45 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「ガイアクラッシャー!!」
大地にひびが入る。
数舜後、地面が割れて万物を飲み込む岩壁となる。
再び閉じると圧迫し潰し、対象ごと土へと還す『大魔法』だ。
以前と同様、詠唱を破棄しての発動。
普通なら生まれる隙も無く、それは発揮される。
( ・∀・)「もう少しなんだ。大人しくしていろ」
モララーが不機嫌そうに足を踏み込んだ。
破裂する音が鳴り響き、ガイアクラッシャーが打ち消される。
从;゚∀从「なッ……!?」
容易ではないはずだ。
詠唱破棄は工程を飛ばす分、威力が落ちる。安定性も非常に悪い。
だが、ハインリッヒはその問題を禁術の行使で解決していた。
なのに、かき消された?
当然だが、モララーは禁術など使えない。
破った方法は一つ。
スペルキャンセラーだろう。
つまり、純粋な力の差で覆したわけとなる。
从;゚∀从(……まさか……そんなわけが……!!)
417
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:40:56 ID:OsElsdq60
その才に、ようやく畏怖の念を抱き始めたハインリッヒ。
先ほどから、禁術を用いても動かない戦況に、焦りを感じなかったわけではない。
だが、認めたくなかった。
自分の方が、上のはずだ。
経験も知識も、こんな小僧より勝っているはず。
理解できない。したくもない。
だって、だって。
オレ様は、世界一の魔術師だったんじゃないのか?
大魔法も、禁術も使いこなした。
誰にも負けない、絶対無二の存在なんじゃないのか。
もしかして……。
この小僧は……そんな領域の更に外にいる……
正真正銘の『真っ当な怪物』だって言うのか……!?
理性がようやく、その危険性を理解した。
だが、全て遅かった。
418
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:43:59 ID:OsElsdq60
モララーの準備は既に整ってしまっていたから。
( ・∀・)「……よし、これならいける」
モララーが、小さく頷き魔力を高めた。
足元には、虹色に輝く魔法陣が浮かび上がっている。
動かないのではなく、動けなかったのはすべてこの行為のため。
力を、魔力を溜め、集中するにはその場に留まるしかなかった。
吹き荒れる暴風と雨に晒される黒いマント。
ちぎれそうなほど、長い髪がはためく。
( ・∀・)「行くぞ、ハインリッヒ。覚悟しろ」
キッと目の前にいるハインリッヒを睨みつける。
光を宿さない、吸い込むような暗い双眸が、動揺する禁術使いの眼を捉えた。
( ・∀・)「……八重連唱(エイツスペル)」
419
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:45:34 ID:OsElsdq60
从;゚∀从「は……!?」
何を言ったのか、何も理解できなかった。
二重詠唱(デュアルスペル)ですら、習得は容易ではない。
だが、この若き大魔術師はまさかの『八重』と口にした。
ハッタリだ。そんなこと、出来るわけがない。
何をしてくるのか、身構えるハインリッヒ。
そこから先の行動は、例え彼が世の理から外れた魔術師であろうと
到底理解できず、到達できない領域の神業だった。
( ・∀・)「プロファウンドバスター!」
突き出し開いた右腕を、左手で支える。
紺碧の魔法陣から解き放たれるは、水の『大魔法』。
しかもハインリッヒがやってみせたのを、見よう見まねで覚えた詠唱破棄で、だ。
从;゚∀从「ぐォおおおお!?」
瞬時に発射されるのは、超高圧縮された水の収束砲。
圧縮されたとはいえ、その半径は数メートルに及ぶ。
噴出の勢いで、粉々にするか
そのまま流されて、何かに衝突して死ぬか。
何にせよ、まともに直撃すれば命の保証はない強力な魔術だ。
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