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( ^ω^)は嘘をついていたようです
652
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 19:32:42 ID:jJqxqsR60
投下します。
653
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 19:34:32 ID:jJqxqsR60
〜主な登場人物(随時追加予定)〜
( ・∀・)……分手モララー
K大学在籍中。就職し損ねて六年生。
从 ゚∀从……高岡ハイン
某県警捜査第四課(組織犯罪対策)巡査部長。
(´・ω・`)……所部ショボン
某県警捜査第四課警部補。そろそろ昇進したい。
( <●><●>)……分手マス
K大学院在籍中。法学を専攻。情報工学、物理学、経営学にも傾倒。
交友関係は広い。モララーをよく世話している。
(-@∀@)……文屋アサピー
就留一年目。癖っ毛で厚い眼鏡。
モララーの知人。話すことに苦手意識あり。
川 ゚ -゚)……素直クー
K大学農学部在籍中。三年生。料理サークルに所属し、相談事務所にも協力。
揚げ物ともやしと猫が好き。
/ ゚、。 /……鈴木ダイオード
K大学近くの古本屋の店長。おじいちゃん。足腰が気になる。
教会によく赴いて読み聞かせボランティアをしている。
654
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 19:38:11 ID:jJqxqsR60
農学部の伝統、というものがあった。
毎年の夏休み、数人のグループで泊まりがけで、酵素だとか菌の観察をする。
それがこの年のクーの代にも回ってきたというわけだ。
彼女が観察するのはもやしらしい。
モララーには果たしてもやしの何を観察するのか、皆目見当はつかなかった。
内容に興味があるわけではない。
夜にちょっと遊びに行く、それで十分なのだそうだ。
( ・∀・)「俺一応男なんだけどいいの?」
と、一度聴いてみたところ、クーはただ噴き出すだけだった。
もちろん不埒なことをするつもりはなかった。
しかし仮にも相手は女性である。
大学生なのだからひょっとしたらあらぬ間違いを犯してしまうかもしれない。
だから誰か別の人を誘いたいところではある。
655
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 19:41:10 ID:jJqxqsR60
しかし、残念ながら、今大学に通っていて親交のある人間はマスしかいなかった。
マスは、モララーがいまだに就職先を決定しないことを気に病んでいる。
気に病みすぎてそのうち強硬手段に出るかもしれない。あれでいて怒ると何をするかわからない。
もうすでに片鱗が表れている。
この前の口ぶりからして、アパートを本気で出なければならない。
もう一人で生きてくださいなどと言われれば、モララーには何も言えない。
路頭に迷いながら、その日暮らしで転々と生きていくしかないのだろうか。
いまだに悩んで、それでいて現実から逃げているモララーがほとんど悪いのだが、今は悔やんでも仕方ない。
今は農学部棟の方が現実に迫ってきている。協力者を見つける方が先だ。
从 ゚∀从「で、頼ってきたのが私と」
ハインはモララーの経緯をしっかりと聞いたうえで、これでもかというくらい口の端を釣り上げた。
モララーはその様子に不気味さを感じながらも、頭を下げる。
(;・∀・)「お願いします」
656
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 19:44:10 ID:jJqxqsR60
从 ゚∀从ニヤニヤ「ふふふ、飛んで火に入る夏の虫よ」
(;・∀・)「…………」
从 ゚∀从「何かつっこめよー」
ある夏の日の夕暮。
外には暗雲が立ち込めている。
大気がとても不安定だ。もうじき天気は崩れ、雨が降り出す。
昼間はいつものように散歩をしていた。
大学の裏のお寺から、軽い坂道を上って、小高い丘まで。
今となっては街の起伏の一部に過ぎない。
しかしそれでも街を眺めることができる場所をじっくり眺めることは新鮮でもあった。
それからお寺の保有している林をしげしげと眺めているうちに、天気が悪くなった。
それでいつもの、学生通りの喫茶店へと向かったわけである。
从 ゚∀从「協力者と言われてもな。私も仕事があるからな」
(;・∀・)「警察だしな、むしろよくここに来れているなと」
657
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 19:47:12 ID:jJqxqsR60
从 ゚∀从「いろいろと工夫を重ねているのさ。
これでも普段は働きたくて仕方ないくらいなんだ。
休みなんて、この用事以外はとりたくないくらいに」
ハインは目を閉じて、ホットモカの香りを楽しみ始める。
ハインの用事に関しては、もう答えが返ってこないのはわかっていた。
だからモララーはとりたてて質問しなかった。
( ・∀・)「働かないと不満?」
モララーは率直な気持ちで質問した。
从 -∀从「なんかな、別に休みなんて無くてもいいんだ。
私としてはただひたすらに、がむしゃらに働きたい。
働かないと生きていけないってのは、昔もう身についているんだよ」
やや早口にハインが捲し立てる。
その結果、真に迫る雰囲気が醸し出されていた。
658
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 19:50:11 ID:jJqxqsR60
( ・∀・)「…………」
从 ゚∀从「どうした?
私そんな怖い顔してる?」
Σ( ・∀・)「あ、いや、怖いわけじゃなくて……」
触れがたいものを感じたのは事実だ。
ハインの目の奥底にある、ぎらぎらした感情。
以前それを垣間見た。
先ほどのセリフから、あの目に近いものを感じたのである。
だから怖かった、いや、それが怖いのかはわからない。
だいたい怖かったらまじまじと見たりしないんじゃないか、なんて一瞬モララーは思いついた。
でも恥ずかしいから言わない。
言い淀んだまま、モララーはコーヒーをすすって目線を反らした。
659
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 19:52:10 ID:jJqxqsR60
从 -∀从「ま、いいや。
悪いけど協力者は思いつかない。ごめんな」
ハインはあっさりと頭を下げた。
( ・∀・)「ああ。まあいいんだ。
それなら仕方ないし」
从 ゚∀从b「とりあえず、変なことしなきゃ大丈夫さ」
( ・∀・)「変なことって」
从 -∀从「若気の至りにならないようになー」
(;・∀・)「な、ならねえよ!」
从 ゚∀从「そんなむきにならなくてもいいだろうに」
それきりもう、ハインとは農学部棟の話はしなかった。
660
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 19:55:10 ID:jJqxqsR60
喫茶店での会話は、軽かった。
決して解決を求めているわけではないのだから。
会話を続けるための話題が出て、特に動きもなく消える。それが普通であった。
他愛ない話。
それが続くこと自体に安らぎを感じてきているのを、モララーは気付いていた。
ハインがどうして会いに来るのか、いまだにわかっていない。
彼女もそれを言いたがらない。
モララーもそれを聴きたがらない。
もし聴いてしまったら、他愛ない話がそうではなくなってしまうかもしれないから。
もう普通にハインと会うことができなくなってしまうかもしれない、それが怖かった。
ハインが同じことを考えているかはわからなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
661
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 19:58:17 ID:jJqxqsR60
それでも。
俺はお前に心の中で言う。
それでもお前は、そろそろ気付き始めていたんだ。
ハインの取り繕いはもう剥がれてきていることに。
それは、ハインの目の奥に潜む、言いようのないぎらつきに気付いた時からずっと。
俺はお前に言うし、わかってもいる。
あの目を見て何もできなかったのは、俺だって同じだったのだから。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
662
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:00:41 ID:jJqxqsR60
夏休みのある日のこと。
マスが久しぶりにアパートに帰ってきた。
このところ彼は家を空ける。
どうも勤める予定の新興企業に顔を出しているらしい。
帰れないのは相当厳しい職場なんじゃないかとも思ったが、どうやら自分からその会社のシステムをチェックしているらしい。
( <●><●>)「サービス残業というより、サービス監査みたいなものです」
( ・∀・)「疲れないの?」
( <●><●>)「いえ、興味のあることをひたすらやっているだけです。
自分の理想を追い求める、それが就職で一番大事なんですよ」
就職という言葉に、漫画のようにびくっと反応してしまって、モララーは焦る。
むろん、モララーを追い詰めるつもりはマスには無かっただろう。
663
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:02:45 ID:jJqxqsR60
( <●><●>)「そんなに就職するのが怖いんですか? その年で」
(;・∀・)「歳は関係ないだろう。
ただ、まあ、そろそろ安定はしなきゃなんだよな……」
月日が経つごとに、得体のしれない不安が増えてくる。
記憶が無いにしても、その不安はおそらく過去最大のものであったはずだ。
( <●><●>)「じゃあ、やりたいことはどうなのですか?」
( ・∀・)「やりたいこと?」
( <●><●>)「ええ、そっちの方から考える方が君には合っているんじゃないですか?」
( ・∀・)「そりゃあ、お前」
664
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:04:43 ID:jJqxqsR60
マスとは高校二年のときから今までの付き合いだ。
モララーが分手家の養子になってから今まで、マスはずっとモララーの世話をしてくれていた。
だから、マスだってよくわかっているはずだ。
( ・∀・)「探偵」
そういうと、マスはにっこりと笑う。
( <●><●>)「僕もそれが合っていると思います」
( ・∀・)「でも、やっぱり自営業だし厳しいものがあるんじゃないか?」
モララー自身、探偵という仕事を調べたことがないわけではなかった。
ただ調べるうちにわかったのは、現実の探偵はかなり狭き門であることだ。
探偵になるには三つの方法がある。
665
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:07:10 ID:jJqxqsR60
まずは、探偵学校に入学して数か月の講習を受け、探偵社へと就職すること。
かなり多くの探偵がこのルートで夢をかなえる。
ただし、正直なことろ値段の割にはあまり評判が良くないのが現状だ。
モララーとしてはこのルートはあまり通りたくないと考えていた。
次に、直接探偵社へ入社すること。
このルートを通る多くの人が自分のつてを頼りに入社する。
探偵業は信頼が大事だし、知らない人にとってはほとんどチャンスが無い。
むろん、モララーもマスにもこのつてはなかった。
最後、自分が直接開業することだ。
探偵業には許認可が無い(2009年の法改正で必要となる)ので、開業するのに手続きも必要ない。
なので、モララーはとるとすればこの最後の方法を考えていた。
ただし、この場合評判が上がるかどうかは自分の腕次第だ。
評判が良くなければ仕事がまわってこない。逆に人気になれば大手から仕事が舞い込んでくる。
そのためのは何年も足腰をつかわなければならない。
そうして努力を重ねて、ようやく仕事として成り立つ。
なんにせよ、すでに知識を有している方が有利なのは確かだ。
実際探偵を営んでいる人も、元経営者であったり、元警察官などもいたりする。
何もない大学生が飛び込むには狭き門なのである。
666
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:09:43 ID:jJqxqsR60
( <●><●>)「ところが、今の時代はそうでもないんですよ」
( ・∀・)「それは、どういうことだ?」
( <●><●>)「情報のアクセスの方法に、バリエーションが増えたからです」
そういうと、マスは部屋の隅に置かれた大柄な箱をさす。
パソコンである。
( ・∀・)「情報化社会ってこと?」
( <●><●>)「そういうことです」
( ・∀・)「バリエーションが増えたって、具体的にいうと?」
( <●><●>)「今急速に、インターネット回線が普及しているところなんです。
この回線は、いわばここと世界をつなぐ回線、世界中のあらゆる情報を発着信することが可能なんです。
多くの人々が情報を欲する時代がくるんです」
667
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:11:43 ID:jJqxqsR60
( <●><●>)「ユーザーの立場としてみても、かつてはつてを使わなければならなかった情報収集を、
もっとコストを下げて行うことができるんです。
それにネットを使って新しい人脈づくりだって考えられるんです。
こちらからわざわざ赴かなくても、相手にアクセスできる機会が増えると考えてみるんです」
( <●><●>)「さらにいえば、探偵って言うのは、いわば情報そのものを扱うお仕事なんです。
顧客に対して情報に付加価値をつけて、提供する、その価値はこれから高くなるはずなんです。
ですのでこれからの時代、探偵業は一気に増えるだろうし、魅力も高まると思うんです」
( ・∀・)「価値が高くなる、ねえ。
まだちょっとわかんないな。パソコンが普及したら、探偵はいらなくなるんじゃないか?
誰でも自分で検索しちゃえば答えが出てくるわけなんだし」
( <●><●>)「そうとも限りませんよ。
だって、それが正しい情報だなんて、誰も証明できないんですから」
( ・∀・)「嘘の情報も混じっているということ?」
668
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:13:44 ID:jJqxqsR60
( <●><●>)「そうなんです。
それに加えて、情報が氾濫する社会が到来すればいずれ人々は受け身になってしまうんです。
正しい情報を得られるまでに時間と手間がかかる、それならば嘘の情報でも妥協してしまう
そんな人がこれから先増えてくるんです」
( <●><●>)「そうなれば正しい情報を直接見つけるために存在する探偵業は、これから先注目されるはずです。
だって、探偵の探した正しい情報により、その依頼者は正しい行動を取れるんですから」
( ・∀・)「ん、でも探偵が正しいかどうかも、結局は主観によるんじゃないの?」
( <●><●>)「はいなんです。
でも一つの指標になれるはずなんです。探偵が信じたことが、依頼者の指標となる。
いってみれば助けになる、これだけでもやりがいはあると感じませんか?」
( ・∀・)「ずいぶんと、聞えがいいな」
( <●><●>)♪「僕自身、探偵は好きですから」
669
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:15:43 ID:jJqxqsR60
自分もそうだ。
口には出さなかったが、モララーは笑みを浮かべていた。
マスにはそれで十分に伝わったようで、彼もまた頷く。
( <●><●>)σ「僕がこの前言おうとしていたのは、つまりこういうことです」
マスはパソコンを指した。
( <●><●>)σ「このパソコンを使って、探偵業をやる、それを僕は勧めているんです」
突飛な話、というわけでもなかった。
話の流れが探偵になったときから、そういう話題になるのではないかと思っていた。
( <●><●>)「探偵については、僕も調べました。
探偵になるためには、場所と広告さえあれば大丈夫なんです。
場所についてはどこか部屋を借りるとして、広告もネットを使えば安価で済むんです」
670
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:17:44 ID:jJqxqsR60
σ( ・∀・)「調べたって、俺のために?」
( <●><●>)「何をずうずうしいこと言ってるんですか。
自分のためにですよ。それをたまたま君に教えただけです」
( ・∀・)「自分のため?」
( <●><●>)「いろいろと実験している最中なんです。
ネットを使って、どんなことができるのか。
そのうち探偵のことも知る機会がありまして、その可能性を知って、君に教えているんです」
( ・∀・)「なるほど……」
正直なところ、イメージははっきりとはしていない。
でも、マスが言ったことは一つの行動指標になる気がした。
本来、人間は目的意識なんてほとんど持ち合わせずに行動している。
就職に際して突然その目的意識を聞かれ、動揺する人が大勢いるのもそのためだ。
そしてモララーはその意識を律儀にも欲していた。
嘘の中の真実を見つけ、人を助ける仕事。
671
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:20:43 ID:jJqxqsR60
モララーの描く探偵像は、抽象的にだが、目的意識を有したものとなってきた。
あとはこれをどう具体化させるか。
まだ、決め手となるには薄い気がした。
( ー∀ー)「ありがとう、マス。
俺はもう少し考えてみる」
( <●><●>)「そうですね、今はまだいろんな人と交流した方がいいんです。
まだ自由に動き回れる学生のうちに」
交流。
モララーは別に、そこまで大した交流があるわけではなかった。
この半年ほどで、新しくできた交流など、それこそ指で数えるほどしかない。
そして自由と言うのも疑問だ。
その交流のうちの一つに、モララーは今まさに心奪われているところなのだから。
でも、それをいってしまってはさすがにマスに申し訳ない。
だからモララーはそのことを伏せ、マスに礼を言うだけにとどめておいた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
672
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:23:43 ID:jJqxqsR60
その数日後の夜、モララーはK大学の農学部棟に来た。
結局彼一人である。
エレベーターを使って、のぼる。
ついたその階は高く、窓から大学を一望できた。
遠くの方では、都市の明かりが煌々としている。
時間と部屋は指定されている。
以前クーと出会ったときに、メモをしておいた。
通信機器の無い時代、いや、あっても高額で手が出せない時代である。
ポケベルははやりつつあったが、本格的に文字の送受信ができるようになるにはまだ数年かかる。
モララーは時間を確認して、廊下を進んでいった。
農学部棟は暗い。
外も暗いわけだが、それ以上に雰囲気が暗い。
そういえばお化けの噂があるんだったと、モララーは思い出していた。
今更のようだったが、実際に入ってみて思い知らされたというほうが正しい。
673
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:26:43 ID:jJqxqsR60
モララーはようやく教室にたどりついた。
実験室と書いてある。
廊下では物音はしない。防音がしっかりされているのだろう。
音と農業にどう関係があるのかはわからなかったが、やかましいより静かな方がいいものに育ちそうな気はした。
ただのイメージなのだけど。
モララーは実験室の扉をノックした。
「どうぞー」
クーの声がする。
入れということなのだろうか。
モララーはドアに手をかけて、あけた。
広い実験室だ。メタリックなコの字型の大きなテーブルがスペースを占めている。
コの内側に、クーはいた。一人である。
( ・∀・)「あれ」
674
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:28:43 ID:jJqxqsR60
モララーは部屋に入って、見回した。
独特のにおいがする、土の匂いだ。
照明は若干うす暗く、目に優しい。
植物にもあまり強い光はよくないのだろう。
そんなことより、
( ・∀・)「他に人はいないようだけど」
モララーはクーに確かめた。
ひょっとしたらもう寝てしまったのか。ずいぶん早く寝るとは聴いていたが、早すぎではないか。
それともどこかにいるのだろうか。
たまたま、この部屋にいないだけで、どこかに買い出しにでも出かけたり。
軽い気持ちで、モララーは首をかしげた。
ところが、クーは口元を緩めるだけ。
そそくさとコの字から出て、モララーのほうに近づいた。
川 ゚ -゚)「いませんよ」
675
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:30:44 ID:jJqxqsR60
クーは何事もないように、モララーの脇を通り、扉の前に立った。
( ・∀・)「…………ああ、ここにはいないな」
川 ゚ -゚)「ふふ、どこにも、いませんよ」
流れるように、クーは扉の鍵を閉めた。
(;・∀・)「何してんだ?」
川 ゚ -゚)「気付かれないように」
クーは相変わらずにやけている。
得体のしれないものを、モララーは感じた。
(;・∀・)「へ?」
クーはモララーを見つめた。
ぎらっと輝く、それは、どこかで見た輝きに似ていた。
『若気の至りにならないようになー』
冗談めいたその言葉が、急に現実味を帯びてくる。
676
:
第五章 農学部棟①
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:33:55 ID:jJqxqsR60
川 ゚ -゚)「モララーさん」
クーは急にかしこまった。
にやけたまま、両の手でモララーの腕をつかむ。
それが、夜の始まりだった。
『( ・∀・)探偵モララーは信じているようです』 第五章 農学部棟② へ続く。
677
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/26(金) 20:36:02 ID:jJqxqsR60
目次
>>454-460
序章
>>473-496
第一章 邂逅
>>502-534
第二章 再会
>>540-562
第三章 図書館、パソコン、カツカレー①
>>565-585
第三章 図書館、パソコン、カツカレー②
>>593-621
第三章 図書館、パソコン、カツカレー③
>>625-648
第四章 教会
>>653-676
第五章 農学部棟①
本日の投下は以上です。
また明日投下します。
それでは。
678
:
名も無きAAのようです
:2013/07/26(金) 21:10:54 ID:wAQCKda20
明日も楽しみにしてるよ!
679
:
名も無きAAのようです
:2013/07/26(金) 23:11:18 ID:1lRuXH.UO
今日の分が明日投下だと思ってたよ、乙
680
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:25:01 ID:5G1hqGa60
投下します。
681
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:27:07 ID:5G1hqGa60
〜主な登場人物(随時追加予定)〜
( ・∀・)……分手モララー
K大学在籍中。就職し損ねて六年生。
从 ゚∀从……高岡ハイン
某県警捜査第四課(組織犯罪対策)巡査部長。
(´・ω・`)……所部ショボン
某県警捜査第四課警部補。そろそろ昇進したい。
( <●><●>)……分手マス
K大学院在籍中。法学を専攻。情報工学、物理学、経営学にも傾倒。
交友関係は広い。モララーをよく世話している。
(-@∀@)……文屋アサピー
就留一年目。癖っ毛で厚い眼鏡。
モララーの知人。話すことに苦手意識あり。
川 ゚ -゚)……素直クー
K大学農学部在籍中。三年生。料理サークルに所属し、相談事務所にも協力。
揚げ物ともやしと猫が好き。お化けが嫌い。
/ ゚、。 /……鈴木ダイオード
K大学近くの古本屋の店長。おじいちゃん。足腰が気になる。
教会によく赴いて読み聞かせボランティアをしている。
682
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:29:09 ID:5G1hqGa60
川 ゚ -゚)「お化け、見つけましょう」
モララーはクーの言葉を理解するのに時間がかかった。
(;・∀・)「……へ?」
川 ゚ -゚)「何を間抜けな声出しているんですか。
お化けですよ、お化け。この前話したでしょう」
あいかわらず、意味がわからない。
モララーは目を瞬かせる。
(;・∀・)「この前って、食事した時の?」
何をあたりまえなことを、とでもいうようにクーは大きくうなずいた。
川 ゚ -゚)「前にも言ったように、夜中になると突然ラップ現象が起こるんです。
ここにいればどういうことなのかわかりますよ」
683
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:31:09 ID:5G1hqGa60
気軽に話すクーの口ぶりを聴き、モララーは急に力が抜ける。
(;ー∀ー)「びっくりさせんなよ……」
川 ゚ -゚)「何がですか?」
(;・∀・)「いや……
急に鍵まで閉めるから何事かと思って」
川 ゚ -゚)「そりゃあ、人に邪魔されたくありませんからね。
それに、閉めた方が音が出るのわかりやすいですよ」
( ・∀・)「あー、待ってくれ」
ようやく落ち着いてきたので、モララーは状況を整理することにした。
( ・∀・)「つまり、お前は最初から嘘をついていた。
俺と一緒にお化けの正体を探るため、俺をここに呼び出したと」
684
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:33:09 ID:5G1hqGa60
川 ゚ -゚)「その通りです」
( ・∀・)「なんで嘘をつく必要がある」
川 ゚ -゚)「逆に聞きますが、お化けの正体を知りたいから協力してくれーって言って、協力しましたか?」
( ・∀・)「まあ、しないだろうな」
川 ゚ -゚)「ですよね。なんもメリットがありませんものね。
そこで、怖がる私を助けるためという話にすり替えちゃいました」
( ・∀・)「ふむ」
川 ゚ -゚)「そうすれば、メリットは無いにしろ、仮にも後輩であり親交もある私を助けられない理由を述べる必要が出てくる。
でもモララーさんには碌な理由は無いはず。だって、どうせ就職もしてなくて暇ですし。
あとは、そこでしどろもどろしている時にあの女性の話をして、マスさんの話ちらつかせれば約束成立です」
あまりにしっかりした話ぶりに、モララーはくらくらとした。
つまり、話の重点をすり替えることにより、クーは自分をはめたらしい。
685
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:35:13 ID:5G1hqGa60
(;・∀・)「…………お前どこでそんな交渉術覚えたんだ」
川 ゚ -゚)「いやあ、マスさんがいろいろお詳しいので。
それに元々話すことは得意ですしね」
(;・∀・)「にしたって……恐ろしい奴だ」
川 ゚ -゚)「ふふふ」
( ・∀・)「他の、実験を一緒にするって言ってた人は?」
川 ゚ -゚)「後日ちゃんと行いますよ。
むしろ、そのために今のうちに正体を突き止めておきたいんです」
( ・∀・)「後日怖くならないために?」
川 ゚ -゚)「その通りです」
686
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:37:35 ID:5G1hqGa60
( ・∀・)「はー、手の込んだことをするね」
川 ゚ -゚)「恐怖には打ち勝たないと気が済まない性分なんです」
( ・∀・)「そりゃまた、立派なもんで」
川 ゚ -゚)「だいたい、モララーさんが来たところで怖いもんは怖いでしょうに。
むしろ普段いろんな相談うけて、いろいろ調べる能力を身につけているでしょう。
それをここで活かしてくださいよ。期待してますよ」
( ・∀・)「淡々と言うけど、なかなかひどいこと言ってない?」
川 ゚ -゚)「良い暇つぶしでしょう?」
( ・∀・)「だからそれも皮肉だって。
まあ、否定できない」
687
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:39:40 ID:5G1hqGa60
実験室は今のところ静かである。
窓の外はK大学を囲む森が見えているはずで、今ではただの真っ暗闇だ。
ときどき虫や、夜行性の猛禽類の声が聞こえてくる。
クーとモララーは実験室の椅子に座っていた。
今夜はこの部屋には誰も来ないらしい。
実験室の張り紙には、意味ありげな農作物の写真が飾られている。
畑に植えられたものや、実験用に比較されているもの。
( ・∀・)「前から思っていたのだけど、なんでもやしばっかり研究してるんだ?」
川 ゚ -゚)「……前提として、もやしは成長がものすごくはやいんですよ。
それこそ誰がやっても失敗しないといわれるくらい、育てやすいんです」
( ・∀・)「そんなに早いの?」
川 ゚ -゚)「今の時期なら種を買って三日もすれば生えますよ」
( ・∀・)「ほんと早いな」
688
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:41:36 ID:5G1hqGa60
川 ゚ -゚)「ちなみに市販のものより、手前の方がおいしくなります」
( ・∀・)「なんで?」
川 ゚ -゚)「市販のは大量に作る上で、ものすごい蒸すんです。
そこで雑菌ができてしまうので、それを殺す処理をしなきゃならないんです。
だから手前のとは味が違ってくるんです」
( ・∀・)「へえー」
川 ゚ -゚)「心底興味が無さそうですね」
( ・∀・)「いやあ、もやしで盛り上がるのは厳しいと思うよ」
川 ゚ -゚)「ええ、だって。
先輩どうせ就職の話とかするとしょげてしまうし」
( ・∀・)「しょげるって、そこまで情けない表現するなよ」
689
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:43:52 ID:5G1hqGa60
川 ゚ -゚)「オブラートに包んだと言ってください」
( ・∀・)「包まないで表現したら?」
川 ゚ -゚)「先輩の心に刺さる、先輩の生きる意欲が消える、先輩の」
( ・∀・)「はい、もういいです」
川 ゚ -゚)「マスさんからききましたよ」
( ・∀・)「何を?」
川 ゚ -゚)「探偵事務所の話」
(;・∀・)「ああ、あいつ話してたのか」
川 ゚ -゚)「今でもたまに学校で会うので。
よく物理学棟にいますしね」
690
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:45:45 ID:5G1hqGa60
( ・∀・)「仲のいい教授のとこに行ってるんだろうな」
おそらくは、アパートの部屋の隅にあるパソコンの元の持ち主だ。
川 ゚ -゚)「農学部棟とは近いですし、そこでたまに会って話しました。
で、探偵事務所やるんですか?」
( ・∀・)「ううん、どうだろう。
形式的には、確かに就職はうまくいってないし、
マスが用意してくれているなら、それに乗っかるのも手なんだけど」
川 ゚ -゚)「けど?」
( ・∀・)「実感がわかないというか」
川 ゚ -゚)「実感、ですか」
( ・∀・)「やりたいことってのが、いまいち見えてこない」
691
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:48:36 ID:5G1hqGa60
川 ゚ -゚)「ははあ、繊細ですねえ」
( ー∀ー)「まいったね」
川 ゚ -゚)「でも、正直甘い考えな気もしますよ」
( ・∀・)「甘い?」
川 ゚ -゚)「ええ、だってそんな、みんながみんなやりたいことに向けて邁進しているわけでもないでしょう。
とりあえず働く人だっていたはずです。特に数年前までは、簡単に就職できたわけですし」
( ・∀・)「とりあえず働く、か」
川 ゚ -゚)「まあ、私もこれからなんで、人のこといってる場合じゃないですけどね」
夜は少しずつ更けていく。
692
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:50:33 ID:5G1hqGa60
( ・∀・)「農学部だと、就職先はどうなるんだ?」
川 ゚ -゚)「案外普通ですよ。もちろん食品に興味ある人は多いですから、そちらに向かう人も多いですが
もっとスケールを大きく見て商社だとか、お金に興味があれば銀行にも行くし、それこそ公務員もいます」
( ・∀・)「結構バラエティに富むんだな」
川 ゚ -゚)「結局本人の興味しだいですからね。
もやしの研究のことを言うかどうかも本人次第です」
( ・∀・)「クーは?」
川 ゚ -゚)「実はまだ定まってなくて」
( ・∀・)「そうか、まあ、そうだよなあ」
川 ゚ -゚)「逆にモララーさんは」
( ・∀・)「ん?」
川 ゚ -゚)「似合ってると思いますけどね、探偵」
693
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:52:51 ID:5G1hqGa60
( ・∀・)「そう?」
川 ゚ -゚)「だって、なんだかいろんなものを調べたがってそうですし」
( ・∀・)「そう見えるのか。
そりゃあ、自分の過去を知りたいとかはあるが」
川 ゚ -゚)「それ以外にも、です」
( ・∀・)「それ以外って、他人もってこと?」
川 ゚ -゚)「そうですよ。だってそうでなきゃ相談なんて受けないでしょう?」
( ・∀・)「言われてみれば……」
川 ゚ -゚)「モララーさん、覚えてます? 私の相談」
694
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:54:33 ID:5G1hqGa60
( ・∀・)「初めに話した時の?」
川 ゚ -゚)「そう、あのサークルで、相談を受けてもらったときの」
( ・∀・)「ああ、猫探しの。
結局いまだに見つからなくて申し訳ないな」
川 ゚ -゚)「いえいえ。最近猫が減っているので、ちょっと不安ですが」
( ・∀・)「減っている?」
川 ゚ -゚)「なんか、街全体から猫がいなくなっている気がします」
( ・∀・)「そうなのか」
川 ゚ -゚)「猫好きですからね、気になるんですよ。
まあ、今はそんなことより、あの時は真剣に調べてくれましたよね」
( ・∀・)「一応受け持ったからな。
学校中、街中、住宅街、関係ありそうなところはあらかた調べた」
695
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:56:33 ID:5G1hqGa60
川 ゚ -゚)「そうそう。
まさかそこまでしてくれるなんて思っていなくて
私、なんだかおかしくなって噴き出しちゃいましたよ」
( ・∀・)「ああ、覚えている。
せっかく人が調査結果まとめてやったのに、ずっと笑い転げてるんだものな」
川 ゚ -゚)「……ハンカチ、あのときあげたんですよね」
( ・∀・)「え? あ、あのピンクの」
川 ゚ -゚)「今も持ってるんですか?」
( ・∀・)「いや、たぶん今日はアパートの方」
川 ゚ -゚)「なんだ、残念」
( ・∀・)「使っていたら使っていたで、お前どうせまた笑ったろ」
川 ゚ -゚)「おそらくは」
696
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 19:58:33 ID:5G1hqGa60
( ・∀・)「ハンカチ、返しそびれたままだったな」
川 ゚ -゚)「え? 何言ってるんですか、あげたんですよ」
( ・∀・)「いやでも、あのとき何も言わなかったし」
すると、クーはため息をつく。
川 ゚ -゚)「モララーさん、突然汗だくの男が現れたとして、私が何も感じなかったと思うんですか?」
( ・∀・)「え?」
川 ゚ -゚)「ハンカチくらい、あげますよ。そんなの見たら」
クーは目線をモララーから反らした。
川 ゚ -゚)「モララーさん、もっと自分を大事にしなきゃだめですって」
697
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:00:33 ID:5G1hqGa60
( ・∀・)「大事にって」
川 ゚ -゚)「もっと自分のやりたいことやってくださいってことですよ。
ハンカチのことなんか、忘れてくださいよ、もう」
何か遠回りに指摘されている気がする。
でもモララーは正直よくわからなかった。
「まあでも」と、クーは切り返し、またモララーを見る。
川 ゚ -゚)「でもあのとき汗だくになって私の猫探してくれたときは、本当にうれしかったんですよ」
( ・∀・)「嬉しがりながら、笑っていたの?」
川 ゚ -゚)「まあ、当時は、楽しさの方が上だったかなー。
でもそれがあったから、私その相談事務所好きになったんですよ」
( ・∀・)「そんなに気に入ってもらえて光栄ですね」
川 ゚ -゚)「お世辞じゃないですからね。
でなきゃ今まで協力してこないですよ」
( ・∀・)「そうかそうか。確かに今でも――」
言葉が途切れた。
698
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:02:33 ID:5G1hqGa60
聞こえたからだ。
モララーとクーは顔を見合わせる。
お互い確かめる言葉を掛け合う前に、再び
壁の奥で何かがきしむ音がする。
空気が張り詰める。
じっと動かないまま。
また、きしむ。
ただし、本当に小さな音だ。
耳を澄まさなければ、そして怪しい現象が起きているという意識がなければ
きっと無視されてしまうくらいの音だ。
699
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:04:33 ID:5G1hqGa60
川 ゚ -゚)「…………これです」
クーが怯えがちに言う。
モララーは腕時計を確認する。
夜の10時だ。
( ・∀・)「……今、なりだしたよな」
川 ゚ -゚)「た、たぶん」
さっきまでの威勢は無い。
どうも本当に怖がっている。そこは嘘ではなかったようだ。
きしむ音は何度も聞こえてくる。
( ・∀・)「これが、噂の心霊現象か」
700
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:06:34 ID:5G1hqGa60
大きすぎず、小さすぎず
耳に一番残るトーン。
川 ゚ -゚)「本当にあったんですね。噂でなく」
また、きしむ。
( ・∀・)「…………等間隔、だな」
モララーは時計を確認する。
( ・∀・)「30秒置き」
川 ゚ -゚)「よく聴いてますね」
( ・∀・)「それに、時間がぴったりだ」
川 ゚ -゚)「何かわかります?」
( ・∀・)「うーん、この建物が原因かなあ」
701
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:08:34 ID:5G1hqGa60
川 ゚ -゚)「どういうことです?」
( ・∀・)「この建物の中で何かの装置が作動して、それで共鳴している。
そう考えるのが自然かなと思うんだ」
川 ゚ -゚)「装置、でも建物全体に反応が行き渡るような装置なんて」
( ・∀・)「いや、別に大きく無くてもいいんだ。継続的に、一定の周期で動いてくれていれば」
川 ゚ -゚)「……だったら、装置を動かせそうな人を探したほうが早い気がします」
( ・∀・)「誰かいるんだっけ?」
川 ゚ -゚)「研究室はここにしか人がいないはずなんです。
私とモララーさんしか。
それ以外でしたら、警備員の方々とか、あるいは……教授」
702
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:11:03 ID:5G1hqGa60
教授のときだけ、クーの声に翳りがあった。
気になったが、モララーは質問を続ける。
( ・∀・)「教授いたのか?」
川 ゚ -゚)「お泊りで研究するときは、教授もここに泊っているんですよ。
研究室には昼間しか来ないんですけどね。生徒の自主性を重んじるとかで。
今日は、私は友達と一緒に研究をじっくり取り組みたいので泊まるって、言ってありますが」
( ・∀・)「まるで宿泊施設みたいな使い方するなあ」
川 ゚ -゚)「泊まり込みで研究することはわかってましたしね。そのあたりは寛容だったんです」
( ・∀・)「で、だ。教授か」
川 ゚ -゚)「怪しいってことですか」
703
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:13:57 ID:5G1hqGa60
( ・∀・)「なんとなく、警備員ってのはちょっとずつ人が変わるけど。教授は変わらない。
何らかの装置を稼働し続けていることも、噂の方向性を修正することもできる」
川 ゚ -゚)「修正?」
( ・∀・)「ひょっとしたら、ラップ音以外にもよくないものが最初は広まっていたり」
川 ゚ -゚)「そんなの……あったんですかね」
( ・∀・)「憶測だけど。よし、調べてみるか」
川 ゚ -゚)「え?」
( ・∀・)「教授のところへだよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
704
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:16:11 ID:5G1hqGa60
二人は研究室の外に出た。
教授室があるのは一回、そこまでエレベーターで向かうことにする。
上ってくるのを待ちながら、モララーはクーに質問した。
( ・∀・)「この棟、結構古いんだっけ?」
川 ゚ -゚)「はい、老朽化も進んでいるし、最近は地震も怖いので
もうじき建てなおすときいています」
( ・∀・)「勝手なイメージだけど、古い建物ほどよくきしみそうな気がする」
川 ゚ -゚)「建て替えたら、音はならなくなるんですかね」
( ・∀・)「そうかもしれないな。
そうしたら変な噂も立たなくなるだろう」
川 ゚ -゚)「そうだと良いんですが」
705
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:18:18 ID:5G1hqGa60
エレベーターが一階がら上って到着して、二人は乗り込んだ。
そのまま一階に降り、クーの誘導で研究室へ向かう。
川 ゚ -゚)「モララーさん、実は私言ってなかったことがあるんです」
歩きだして間もなく、クーが切り出す。
川 ゚ -゚)「最近の教授、少し近寄りづらかったんです」
モララーはクーを見る。
少しだけ、青い顔をしている。
何かに脅えているように。
( ・∀・)「どうして?」
川 ゚ -゚)「教授、最近怖かったんです。
雰囲気といいますか、思いつめているといいますか」
706
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:22:56 ID:5G1hqGa60
( ・∀・)「思いつめているって……」
川 ゚ -゚)「すごく辛そうな、感じです」
( ・∀・)「それで、あんまり会いたくなかったと」
モララーは、食堂でクーが何か言おうとしていたことを思い出す。
もしかしてそのとき、クーは教授の話をしようとしていたのだろうか。
川 ゚ -゚)「ええ。
でも、できることなら、教授が何に悩んでいたのか知りたいんです」
( ・∀・)「……」
教授は何かをしているのだろうか。
ここに来る前は、大した事件ではないと思っていた。
707
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:24:58 ID:5G1hqGa60
ラップ現象についても事前に軽く調べていたし、そのほとんどが自然現象として説明が付されていた。
先ほど説明した共鳴も、その原因の一つだ。
だから、適当にどこかの装置の振動の結果引き起こされているのではないかと目算していた。
でも、その原因については深く考えていなかった。
クーが言うことには、教授は最近思いつめていたという。
もし教授が何かをしていたならば、夜中にひそひそと何をしていたというのか。
そしてどうして思いつめているのか。
その理由が知りたくなった。
Σ( ・∀・)「!!」
ふと、気配を感じて、モララーは振り返った。
708
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:26:57 ID:5G1hqGa60
(;・∀・)「誰だ!」
思わず、叫んだ。
声が反響する。
川 ゚ -゚)「どうしたんですか、急に」
おびえた声で、クーが言う。
何か人影が見えた気がした。
でも、反応は無い、足音もない。
( ・∀・)「何もいないか」
川 ゚ -゚)「どうしたんです、お化けでも見ました?」
( ・∀・)「いや……とりあえず研究室へ向かおう」
709
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:29:50 ID:5G1hqGa60
歩きだして、ようやく研究室の扉が見えてきたときだった。
川;゚ -゚)「モララーさん」
クーは歩きながら、言う。
川;゚ -゚)「私、ちょっと気付いちゃったんですけど」
クーの声は、震えており、か細いものだった。
( ・∀・)「……言ってみろよ」
川;゚ -゚)「怖いんですけど」
(;・∀・)「いいから、言えって」
川;゚ -゚)「……はい」
二人はゆっくりと、扉に近づきつつあった。
川;゚ -゚)「この棟には、私たちと、教授と、警備員しかいないんです。
警備員は入口のところで見張っているし、教授は一階にいるはずなんです」
710
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:33:10 ID:5G1hqGa60
扉の前に立つ。
川;゚ -゚)「そしてモララーさんはエレベーターに乗って、上ってきた。
じゃあどうしてエレベーターは、さっき上ってきたんですか。
私たち以外、誰も一階に向かうことのできる人はいなかったのに」
クーの言おうとしていることがようやくわかった。
同時に寒気が襲ってくる。
モララーとクーは顔を見合わせる。
クーはすっかり青い顔をして、モララーにしがみついていた。
こんなに感情をはっきり出す彼女を見るのは初めてだった。
モララーは顔をひきつらせ、目を扉に向ける。
とにかく、教授と会おう。
そうすれば何かわかるかもしれない。
711
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:37:03 ID:5G1hqGa60
ドアノブに手をかけて、押す。
目の前に飛び込んできたのは、人の体だった。
入口から見てすぐわかるように、これ見よがしに、その体はぶらさがっている。
横でクーが悲鳴を上げる。
耳をつんざくその音は、モララーの耳に嫌というほど届いていた。
そのぶらさがった死体は、まぎれもなく教授のものだった。
『( ・∀・)探偵モララーは信じているようです』 第六章 公園 へ続く。
712
:
第五章 農学部棟②
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/27(土) 20:41:58 ID:5G1hqGa60
目次
>>454-460
序章
>>473-496
第一章 邂逅
>>502-534
第二章 再会
>>540-562
第三章 図書館、パソコン、カツカレー①
>>565-585
第三章 図書館、パソコン、カツカレー②
>>593-621
第三章 図書館、パソコン、カツカレー③
>>625-648
第四章 教会
>>653-676
第五章 農学部棟①
>>681-711
第五章 農学部棟②
本日の投下は以上。
明日投下して、一区切りです。
最後まで書きためてみて、スレが足らない可能性が出てきたので、
しばらくしたら後半用のスレを立てようと思います。
それでは。
713
:
名も無きAAのようです
:2013/07/28(日) 01:11:30 ID:.KZcD4MQ0
乙
すげー展開!ゾクゾクした
714
:
名も無きAAのようです
:2013/07/28(日) 02:06:29 ID:fLhtfuHwO
ちょっと盛り上がってきたな、ここから前作っぽくなっていくのかな、期待
715
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:13:37 ID:jLJ4g5vE0
投下始めます。
716
:
第六話 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:16:14 ID:jLJ4g5vE0
〜主な登場人物(随時追加予定)〜
( ・∀・)……分手モララー
K大学在籍中。就職し損ねて六年生。
从 ゚∀从……高岡ハイン
某県警捜査第四課(組織犯罪対策)巡査部長。
(´・ω・`)……所部ショボン
某県警捜査第四課警部補。そろそろ昇進したい。
( <●><●>)……分手マス
K大学院在籍中。法学を専攻。情報工学、物理学、経営学にも傾倒。
交友関係は広い。モララーをよく世話している。
(-@∀@)……文屋アサピー
就留一年目。癖っ毛で厚い眼鏡。
モララーの知人。話すことに苦手意識あり。
川 ゚ -゚)……素直クー
K大学農学部在籍中。三年生。料理サークルに所属し、相談事務所にも協力。
揚げ物ともやしと猫が好き。お化けが嫌い。
/ ゚、。 /……鈴木ダイオード
K大学近くの古本屋の店長。おじいちゃん。足腰が気になる。
教会によく赴いて読み聞かせボランティアをしている。
717
:
第六話 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:18:17 ID:jLJ4g5vE0
あの日、モララーは急いで警備員室へと向かった。
教授の死体が見つかったことを報告するためだ。
喚いているクーを置いておいたのは気の毒だった。
しかしどのみちクーはあのときとても動けそうな状態ではなかった。
人が錯乱する姿を見るのは、めったにない経験である。
ましてあの表情の薄いクーならば、なおさら衝撃があった。
それから警備員室の人たちがきて、モララーとクーは別室へ移動させられた。
クーはずっと教授の名前を叫びながら、半ば強制的に連行されていった。
こうして農学部棟での夜は終わった。
でも、事件はむしろここから始まった。
718
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:20:20 ID:jLJ4g5vE0
農学部の某教授の首吊り死体が見つかってから、モララーの周囲はにわかに騒がしくなった。
警察が彼の事情聴取を綿密に行い、二回、三回と署に呼び出された。
その度にモララーは、なんで農学部棟にいたのか、どんな状況だったのか話さざるをえなかった。
クーに呼び出されたこと、ラップ現象の正体を探ろうとしていたこと。
エレベーターの話もした。
誰かがあの農学部棟に潜んでいた可能性があったからだ。
ちらっと見かけた黒い服の話もした。
隠すべきではないと思ったからだ。
事件は事件なのだから、しっかり知っていることを伝えるべきだと感じていた。
義務感もあるし、クーのことも頭に入っていた。
取り乱したクーが、下手に警察の追求にあうのはどうしても避けたかった。
クーが警察の取り調べに慣れているとは思えなかったからだ。
ただでさえ、混乱した人は嫌疑をかけられやすい。精神的ショックを負ったクーにそれは重い。
まして自分がちょっと変なことを言って、クーに疑いでもかけられたらたまったものではない。
719
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:22:17 ID:jLJ4g5vE0
( ・∀・)「クーは無事なのか?」
死体発見から二日ほど経って、モララーはようやく警察から解放された。
アパートに帰ってきてモララーはマスに質問した。
( <●><●>)「まだ家で休んでいるときいています」
マスからより詳細に聞いた。
結局クーはまともに事情聴取ができないほどに発狂してしまったらしい。
警察は、本件について自殺が濃厚ということもあり
クーを必要以上に追求することはやめたそうだ。
マスはこれらの話をクー本人ではなく、その両親から聞いたらしい。
ずっと身近にいた人が、亡くなるというのは、どういう気持ちになるのか。
モララーはその答えを目の当たりにしていた。
720
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:24:18 ID:jLJ4g5vE0
( <●><●>)「クーさんは、教授のことをまるで親のようにしたっていたそうなんです」
( ・∀・)「……そうなのか」
教授室に向かったときの、クーの様子が思い浮かぶ。
あの態度は、本当に教授を心配していたのだと、今さらながら思い付く。
( ・∀・)「あの日な、クーにラップ現象の正体を突き詰めるように頼まれていたんだ」
( <●><●>)「ええ、そうらしいですね」
( ・∀・)「そのときは、ただ興味本位でそんなことを調べているんだと思っていた。
でもひょっとしたら、クーは教授のためにも現象を止めたかったのかもな。
自分は怖いくせして」
721
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:26:17 ID:jLJ4g5vE0
( <●><●>)「彼女に聞くことができれはわかりますね。
そのうち、元気になってくれたら」
三年半、一緒にいたつもりだった。
でも、意外とクーのことはなにも知らない。
割りと身近にいてもそうなのだ。
人は人のことがわからない。
そのはっきりとした事実に、今更ながら気付かされた。
( <●><●>)「そういえば、あのあとも軽い騒ぎがあったみたいですよ」
( ・∀・)「騒ぎ?」
( <●><●>)「あの死体が発見されて、騒いでいた日の夜のことです。
学校の林でボヤがあったらしいんですよ。
それで農学部棟の温室の一つが完全に焼失してしまったとか」
( <●><●>)「それが自殺した教授のものだったので、関係性もあるのではとちょっと気になりましてね。
とはいえ君がこうして解放されているんだし、警察はほぼ自殺と断定したようですが」
マスはそういいつつも、どこか釈然としていない様子だった。
722
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:28:17 ID:jLJ4g5vE0
事件から二週間ほどたち、気持ちの整理もついたころだ。
そこで、モララーにとってはっきりとした事実が突き付けられた。
ハインと連絡が取れなくなっていたのである。
連絡先も、繋がらない。
モララーにかかってくることもない。
だから農学部棟での事件の話をすることはできなかった。
モララーとしては、ハインの意見も聞きたかったのに、それがかなわなくて残念だった。
ただしこの頃はまだ、きっとしばらくしたら会えるようになる、とモララーは楽観視していた。
むしろ今まで継続的に会っていたのが不思議だったのだ。
相手は社会人なのだから、そうモララーは自分に言い聞かせる日々を送った。
しかし悪い予感は的中した。
十月になり、学期が新しくなっても、もう待ち伏せしていることはなくなっていた。
723
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:30:20 ID:jLJ4g5vE0
何もわからないまま、時が過ぎていく。
モララーは日々、魂の抜けたように暮らしていた。
ハインはいったいどうしたのだろう。
なぜ何も連絡をよこさないのだろう。
不安ばかりが募る。
そして、新たに疑問が浮かんだ。
農学部棟のその事件と、ハインの失踪は、はたして無関係なのだろうか。
モララーは農学部棟で見かけた影をときどき思い返した。
今にして思えば、あれはハインだったのではないか。
理由と呼べる大したものはないが
ハインと会わなくなりはじめた時期とぴったり一致するのは、偶然とは思えなかった。
しかしハインがもしあのとき農学部棟にいたとして、何をしたというのか。
そこから先の思考はまだ不明瞭だった。
情報が少なすぎた。
724
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:32:18 ID:jLJ4g5vE0
ぼーっとすることが多くなった。
暇さえあればあの日のことを考えてしまう。
教授の死そのものにも疑問があった。
おそらくあの日マスの釈然としない顔もこのためだ。
聞いたところによると、教授が死ぬ理由がまったく見当たらないそうだ。
教授の仕事仲間にしても、むしろあの教授は最近羽振りがよくなったという話だけしていた。
それと自殺だけを無理やり結びつければ、教授が勝手に危ないお金に手を出して
その責任を感じて自殺した、などというストーリーさえ組み立てられそうではあった。
しかし実際にはそのような証拠はまったく見当たらなかった。
誰かが消した可能性も無くはない。
むしろモララーの証言もあり、警察はその線でわずかだが捜査を続けていると聞く。
人が死ぬときには、必ず理由が無ければならない。理由も無く命を絶つはずがない。
モララーはそのことを感じつつも、実際に何か自分なりに捜査をすることはなかった。
すべてが億劫に感じていた。
725
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:34:18 ID:jLJ4g5vE0
十月が半ばになった。
学校が始まってしばらくたつ。
ハインはもちろんだが、クーもまだ顔を見せてこなかった。
元々勉強は出来ていたので、単位には余裕があるはずだ。
亡くなった人のゼミに所属していたはずだが、そのあたりの処理がどうなっているのかはわからない。
クーのことならば、また無事に大学に通えばなんとかなる。
問題は通うまでだ。心が落ち着かなければ、農学部棟にも近づけないのではないか。
モララーはまだクーに会う気にはなれなかった。
もし自分が会ってしまったら、クーはあの日のことを思い出してしまう気がした。
だから、会わない方がいいと思ったのである。
ただその気持ちの裏で、気だるさが蔓延していることも隠しようが無かった。
就職活動の方も身が入らず、アサピーとも連絡を取っていない。
そうしていつのまにか月日は経つ。恐ろしいほどにあっという間に。
ある休みの日。
モララーはふらっと、外に出た。
家の中には誰もいない。マスはこの頃休みの日もどこかへ出かけていた。
726
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:36:18 ID:jLJ4g5vE0
教会にきた。
いつの日かその前に、ハインと歩いたことを思い出す。
あのときはダイオードとも会った。
そこでモララーは、ハインの自然な笑顔と、ぎらぎらした目を見た。
もう、ずいぶん遠い日のことにきこえてくる。
実際は三か月ほどしかたっていないのに。
その日はダイオードと会わなかった。
教会の事務室に、読み聞かせのことについて聞いてみた。
ハソ ゚−゚リ「ダイオードさんですか?」
( ・∀・)「ええ、毎週こちらで読み聞かせをしていると伺ったので」
ハソ ゚−゚リ「ええ、そうでした」
( ・∀・)「でした?」
727
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:38:21 ID:jLJ4g5vE0
教会の事務室で、その職員はどうも言い方を考えている様子だった。
何をそんなに思慮する必要があるのだろうとモララーは首をかしげた。
ハソ ゚−゚リ「どうも九月頃から体調が思わしくなかったらしくて、来られてないんですよ」
ショックを受けた、といったら大げさだろうか。
でも、モララーはあの書店の店長が床に伏す様子が想像できなかった。
確かに健康そうな人ではなかったが。
六年書店に通いつめた。その間ずっとあの人は教会でボランティアをしていた。
それがモララーの思う書店の日常だった。
ずっと変わらないものだと思っていた。
(;・∀・)「そう、なんですか」
そういって、モララーは頭を下げた。
職員さんはどことなく申し訳なさそうな顔をしていた。
モララーはなんだか、みんなが遠くなるのを感じた。
728
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:41:34 ID:jLJ4g5vE0
何も知らなかった。
人は人がわかりきれない。
公園についた。
空は曇っている。
子どもはいない。今が平日だからだろう。
猫は、聞こえる。
ただ、確かにクーがいっていたように少なくなったのかもしれない。
前に来た時よりも明らかに声が小さい。
前に、そう、前にきたときはハインがいた。
あの頃はまだハインに会っていた。
あの初夏の日。
729
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:43:33 ID:jLJ4g5vE0
頭の中では、ハインがいた。
にやにや楽しそうな顔をしている。
その顔しかモララーは覚えていない。
今にしておもえば、笑顔が崩れそうになるたびに彼女は顔をうつ向かせていた。
そしてハインの笑顔が消えそうになるたびに、モララーは合いの手を入れていた。
全てはその笑顔を崩さないために。そしてそれをずっと見ているために。
モララーは自分の行いを想起する。それが全て無駄に終わったとは考えたくなかった。
でも、ハインのどことなく隠された、あのぎらぎらした目が、モララーをしばしば苛んだ。
続いてクーを想起する。取り乱してたのは見た。
でもすぐにモララーは警備員を呼びに行ってしまった。
死体の横に置かせてしまい、今更のように後悔していた。
もしかしたらあのとき、クーは自分の心に深い傷をおったかもしれない。
クーは言いたいことをはぐらかす癖があった。
目線を反らして、それから遠回しに何かを言う。
モララーはそこまではよくわかっていた。
でもそこから先のクーの言いたいことは、結局よくわからないままだった。
730
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:45:33 ID:jLJ4g5vE0
知らないところで人が変わっていく。
マスは、いつも難しいことに取り組んでいる。
ダイオードが体調を崩した。
なんともいえない寂しさがある。
それはそれで仕方のないこと。
それはよくわかっている。当たり前のことだ。
人間は移り変わる生き物なのだから。
だけど……
「邪魔するよ」
声がする。
中年というには、まだ若い。男の声だ。
731
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:47:34 ID:jLJ4g5vE0
モララーはいつかの木のテーブルに突っ伏していた。
いつの間にか眠っていたのだ。
目を擦って、顔をあげる。
(;ー∀・)「……あんたは」
(´・ω・`)「久しぶりだな」
(;・∀・)「あのときの事件の、警部補さん」
(´・ω・`)「そう、ショボンという。
ちなみに、来年には警部になる」
モララーは顔をぼんやりさせていた。
目を細める。笑顔を向ける気はしない。
ショボンの方も、あまり好ましい顔つきではなかった。
(´・ω・`)「酷い顔をしている」
732
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:49:34 ID:jLJ4g5vE0
モララーは鼻で笑った。
(;・∀・)「……ずいぶんな言い様ですね。
確かに寝てたから、痕がついてるかもしれないですが」
(´・ω・`)「それだけじゃないよ」
にこりともせずに、ショボンは言う。
( ・∀・)「わかってますよ」
自分でもわかるくらい、イライラしていた。
ショボンの嫌みについ食ってかかってしまった。
( ・∀・)「もう話すことはなんもないと思います」
(´・ω・`)「事情聴取は終わったよ。
事件のこと以外の話をききたい」
( ・∀・)「話したい気分じゃないんです」
733
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:51:33 ID:jLJ4g5vE0
モララーはもうショボンに目を向けていなかった。
関心もない。はやく一人になりたい。
それだけだった。
(´・ω・`)「ハインのことでもか?」
耳の中で、その名前が反響される。
音の響きと、その顔が結び付くまで、時間がかかった。
(;・∀・)「え?」
(´・ω・`)「会っていたんだろう、彼女と」
ショボンは木のテーブルの向かいに腰かけた。
モララーは、ショボンの真意がわからなかった。
どこまで話していいのか、ハインにとって不都合は無いのか。
734
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:53:33 ID:jLJ4g5vE0
しばらく黙っていたが、嘘をついてもすぐばれると思い、肩の力を抜いた。
ただ、モララーの表情は冷めたままだ。
(;・∀・)「春頃から、夏まで会ってた」
(´・ω・`)「そうか……」
(;・∀・)「でも、それがどうしたんだよ。
あいつはちゃんと休みをとって来てるって」
(´・ω・`)「とってないよ」
唐突に、否定するショボン。
(´・ω・`)「とってない」
735
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:55:33 ID:jLJ4g5vE0
(#・∀・)「じゃあなんですか。
ハインは無断で仕事サボって俺に会いに来ていたって」
(´・ω・`)「いや、そうじゃないんだ」
ショボンはずいっとモララーを見つめる。
重要な話をするときの、彼なりの行動なのだろう。
(´・ω・`)「彼女は警察をやめていたんだ。
春にはもう、な」
一瞬、理解ができなかった。
思考が追い付かない。
これまでの常識が崩れる。
(;・∀・)「どういう、ことだよ」
(´・ω・`)「ハインは君と会っていた。
どうやら、君に、素性を隠してな」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
736
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:57:33 ID:jLJ4g5vE0
お前は何も知らなかった。
お前が一番知りたかった人のことを、最初から、お前は何も知らなかったんだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
737
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 21:59:36 ID:jLJ4g5vE0
(´・ω・`)「彼女は唐突に警察をやめた。
その理由が知りたかったが、私にはわからなかった」
(´・ω・`)「たまたまこの前の首吊り事件でこのあたりに来たとき、K大学の傍を調べた。
そこで、ハインを最近見かけたという話をきいたんだ。
大学に入ってきていた不思議な女性の話として」
(´・ω・`)「やがてその女性、ハインが誰かと会っていたこともわかった。
それが君だ。モララー。
だから、君に会えば事情がわかるかと思ったが、その様子だと無駄足だったようだ」
一気に事情を説明されて、モララーは目をしろくろさせた。
(;・∀・)「ハインは、なんでそんなことを」
(´・ω・`)「君こそ、何かきかなかったのか」
738
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 22:01:33 ID:jLJ4g5vE0
(;・∀・)「俺はただ……何も……」
思考が巡る。
そうか、ハインは
会っていることにしてほしいのか。
今、気づいてしまった。
教会の帰り道で、ハインが告げた、モララーに会いに来る理由。
『お前に会いにきているんだ、モララー』
あれはつまり、モララーに会っていたことにしたいという意味だったのだろうか。
そんな、そうだとしたら、俺は……
(´・ω・`)「君は、彼女に騙されていたのか」
(; ∀ )「…………」
739
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 22:03:39 ID:jLJ4g5vE0
モララーは言い返せなかった。
それがくやしくて、ショボンを睨み付けた。
あまりにも、情けない対抗策だった。
ショボンはもう興味を無くしたように、姿勢を正して顎を引いた。
俯き加減で、目をつぶり、小さく唸るように話しだした。
(´・ω・`)「彼女はな、高卒で警察官になった。
それまで随分荒れた経験をしたらしくてな、ときどき話をきいた。
そしてな、昔の話をするとき、彼女は決まって目を輝かせていた
いい意味ではなくてな」
ショボンの言わんとしていることが、モララーにもわかった。
(; ∀ )「ぎらぎらした目、ですか」
ほう、とでも言うようにショボンは息をはいた。
740
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 22:05:34 ID:jLJ4g5vE0
(´・ω・`)「なかなか上手い表現だ。
あの目は確かにぎらぎら、野心に溢れていた」
猫の声が聞こえない。
弱すぎるのだろうか、もう元気もないのだろうか。
(´・ω・`)「彼女には何か目的があった。
警察をやめ、君をだまし、それでも遂げたい目的が」
(# ∀ )「騙されていたわけじゃない!」
思わずモララーが言う。
ほとんど叫んだに近い形となった。
唐突に話の腰を折られたショボンだったが、その目はすぐに好奇のものとなった。
(´・ω・`)「ほう」
興味があるというふうだ。
モララーはその態度が気に食わなかった。
でも、話すしかなかった。
741
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 22:08:54 ID:jLJ4g5vE0
( ∀ )「俺はただ、知るのが怖かった」
モララーはどうしても、否定したくなった。
だから声を出した。多少、大きくなったが、気にしない。
( ∀ )「騙されているかもって、もちろんわかってたさ。それくらい。
明らかに、おかしいさ。知らない女が突然会うようになるなんて。
でも、たとえ俺を利用していても、俺は別にそれでも構わないと思ったよ」
モララーの頭の中に、ハインが浮かぶ。
わかっていた、そうとも。
彼女の目が、自分よりもっとずっと遠いところを見ていたことくらいわかっていた。
それでもモララーは、彼女を想い、求めていた。
( ∀ )「俺はさ、暇で、それでいて不安なんだ。
記憶はねえし、親や兄弟や友達は、この数年で急にできた関係なんだ。
それが慣れないうちに、将来のことまで考えなきゃならなくなった。
自分の正体すら不明確なのに、何がしたいかなんて、わかるかっての」
742
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 22:10:54 ID:jLJ4g5vE0
目頭が熱くなる。
自分の感情を口に出すなんて、なかなかあることではない。
思っていたことを口にだしてしまえば、誰かを傷つけてしまうかもしれない。
記憶が新しくできた今のうちは、そればかり気にして、生きてきた。
せっかくできた関係を壊してしまいたくは無かったからだ。
人は感情を晒せば傷つけあう。
モララーはそれを心の奥で理解していた。
そしてまた何もない状態に戻るのが怖かった。
( ∀ )「アイデンティティっていうんだろ、こういうの。
それが見当たらない不安さ。
そんなときに、俺のことを必要としてくれている人が現れた」
ずっと会っていたかった。
だから何も言わなかった。
自分の感情を出せば、何らかの形で彼女を傷つけてしまうかもしれないから。
743
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 22:12:55 ID:jLJ4g5vE0
( ∀ )「会っていたら、不思議と寂しさが紛れたんだ。
それが楽しかった、それを、ぶち壊す気分には慣れなかった。
好きとか愛してるとかじゃない、そんな立派なもんじゃない。
一緒にいて、関わっていたい、ただそれだけだったんだ」
特にショボンに向けて話していたわけではない。
それは独白というほうが相応しかった。
沈黙が流れた。
鉛色の空が、モララーとショボンを包む。
(´・ω・`)「雨が降りそうだ」
切り出したのはショボンだった。
もう帰る、そういうことだろう。
(´・ω・`)「モララー、はっきり言おう」
744
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 22:14:54 ID:jLJ4g5vE0
(´・ω・`)「私は君の過去は知らないし、君の考えにそれほど興味があるわけではない。
だから同情の言葉をかけるつもりはない」
随分と丁寧に説明してくれるものだ。
モララーはもう思ったことを口には出さなかった。
(´・ω・`)「ただ、ハインは私の大事な部下だった。
だから本意を知りたがっている。
その点については君も同じだと思っている」
モララーは俯いた。
もうショボンと顔を合わせるのも疲れていた。
(´・ω・`)「僕は警部になってね、来年度から数年間本庁の方へいかなければならないんだ。
だからハインのことを探るならいまのうちなんだ。
つまり、なんとか彼女の行方を探りたいと思っている」
ショボンは何も言わず、ずいっと何かをモララーに見えるように突き出した。
白い紙、名刺である。
(´・ω・`)「何かあったらここへ連絡してくれ」
745
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 22:16:54 ID:jLJ4g5vE0
モララーはショボンの名刺を受け取った。
名前と連絡先を見せるためだけの簡素なものだ。
そういえば警察って名刺を持つ印象はないな、まあ、配る必要ないものな、
なんて思いながら、しげしげと眺めていた。
(´・ω・`)「それじゃあな」
ショボンは帰っていった。
モララーは返事をしなかった。
木のテーブルの上に、白い名刺だけ置かれていた。
ややあって、その名刺をポケットにしまった。
そのとき、ぽつぽつと、テーブルに斑点ができ始めた。
雨が降り始めた。
それを防ぐ手立ては無い。
モララーはよける気さえ起きなかった。
746
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 22:19:04 ID:jLJ4g5vE0
雨は一気に勢いを増す。
公園で、モララーは一人、震えていた。
猫の声も聞こえない。
子どもたちもいない。
クーも、マスも、ダイオードも、変わってしまった。
そしてハインはいない。
みんなどこへいっちまったんだ。
開いた口から何かを叫んでも、全ては雨音に飲み込まれてしまった。
747
:
第六章 公園
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 22:21:20 ID:jLJ4g5vE0
それから、何もなかった。
いや、何をする気も起きなかった。
ハインとの連絡が取れないまま。
『( ・∀・)探偵モララーは信じているようです』 第七章 球場 へ続く。
748
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/07/28(日) 22:27:39 ID:jLJ4g5vE0
目次
>>454-460
序章
>>473-496
第一章 邂逅
>>502-534
第二章 再会
>>540-562
第三章 図書館、パソコン、カツカレー①
>>565-585
第三章 図書館、パソコン、カツカレー②
>>593-621
第三章 図書館、パソコン、カツカレー③
>>625-648
第四章 教会
>>653-676
第五章 農学部棟①
>>681-711
第五章 農学部棟②
>>716-747
第六章 公園
本日の投下は以上。
前半が終わり、必要な描写はすべて書き終えました。
一週間お休みして、次回の投下は8月10日(土)を予定。
土日で第七、八、九章を投下します。
いつも支援ありがとうございます。
今しばらくお付き合いください。
それでは。
749
:
名も無きAAのようです
:2013/07/29(月) 12:38:53 ID:D/6Tl8kcO
ハインにも謎の影の部分か、後半に期待
750
:
名も無きAAのようです
:2013/08/04(日) 19:37:43 ID:.OrIwGoI0
乙!
751
:
名も無きAAのようです
:2013/08/10(土) 21:06:12 ID:aJzsIbacO
そろそろだな
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