[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
从 ゚∀从はヒーローになれなかったようです
1
:
名も無きAAのようです
:2012/03/02(金) 14:06:06 ID:2zOb5sYM0
空を飛び、地を駆け、弱きを守り悪を挫く
ヒーローというものはこの世界に生きる誰もが憧れる存在だ
交通安全運動から他国との戦争まで、ヒーローの果たす役割は非常に大きい
そんなヒーローになるために必要なものは何か
強靭な体?正義の心?どっちもハズレ
断言するね、ヒーローに必要なのは……
605
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:03:24 ID:IkQge1Lk0
(; ,_ノ` ) 『はあ!? 本気で言ってんのか!?』
(-_-) 『何か問題でも?』
_、_
(; ,_ノ` ) 『アリアリだ馬鹿野郎! 暴動の件はともかく、犯人の追跡に市民の協力なんて聞いたことがないわ!』
_、_
(; ,_ノ` ) 『怪我人や死人が出たら誰がどう責任とりゃあいいんだよ!?』
(-_-) 『無理ですか?』
_、_
(; ,_ノ` ) 『当たり前だ!』
(-_-) 『……それじゃあ僕はこの件から降ります。今後警察に協力することも無いと思ってください』
_、_
(; ,_ノ` ) 『何だと?』
(-_-) 『今回協力すると決めた時、僕渋澤さんに言いましたよね?』
(-_-) 『情報はいくらでも出すから、僕の提案は全て受け入れてくださいって』
(-_-) 『残念だなあ。官邸を狙うテログループの情報とか、不穏な動きを見せる宗教法人の情報とか……』
(-_-) 『まだまだいっぱい、警察の人達に伝えておきたいことはあったんですけど』
_、_
(; ,_ノ` ) 『ぐ……』
、_
(; ,_ノ ) 『提案の具体的な内容は?』
(-_,-) 『……安心してください。いい報告を聞かせますよ』
606
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:04:16 ID:IkQge1Lk0
ヒッキーの指示を受けて向かった屋外特設ステージは、驚くほどに静かだった
しかしその静寂は暴動の鎮圧を示すものではなく、我々警察が対応を誤ればすぐにでも爆発してしまう
そんなギリギリの均衡状態であることが、会場に流れる空気、そして観客の怒りに満ちた表情から読み取れた
_、_
( ,_ノ` ) これは……どうなってるんだ?
(;<●><●>) えっと、私にもよくわからないのですが……
ワカッテマスの話によると、一時は暴動――いや、騒擾だろうか――になりかけたところだが、
親衛隊を名乗る男が現れ観客を先導したことで、なんとかその危機を脱したのだという
「親衛隊」……ヒッキーから話を聞いた時点では半信半疑といったところだが、どうやら実在したようだ
(;<●><●>) 観客達は我々の声には耳を貸しませんが、その男の発言ならば聞き入れるようです
(;<●><●>) どうにかして取り行って、事態の収集を図ろうとしているのですが……
_、_
( ,_ノ` ) それで、その親衛隊ってのは今どこにいるんだ?
(;<●><●>)σ あちらに
_、_
( ,_ノ` ) あいつは……
ワカッテマスの指す先を見ると、我々を睨みつける観客の集団があった
中肉中背かそれ以下、平均的な一般市民からすればやや頼りなさげに見える男達の中に、一人
場違いな巨体を持て余す男の姿があった
( ゚∋゚) ……
607
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:05:31 ID:IkQge1Lk0
「適任だ」と、思った
ヒッキーの作戦を実行するには、この男の力が必要だ
俺は両手を上げ敵意のないことを示しながら、ゆっくりと男の元へと歩き出した
_、_
( ,_ノ` ) よう、調子はどうだい?
( ゚∋゚) む?
_、_
( ,_ノ` ) あんた、クックルだろ? ヒーローの
( ゚∋゚) ……今は親衛隊No.4のクックルだ
_、_
( ,_ノ` ) そうかい、いずれにせよ礼を言わせてもらう
( ゚∋゚) ふん、それで、何の用だ?
_、_
( ,_ノ` ) 今日のライブは中止だ。全員おとなしく家に帰ってもらいたい
( ゚∋゚) それは出来ない相談だ
_、_
( ,_ノ` ) 何故?
( ゚∋゚) ライブの中止自体はやむを得ん。ワタナベさんのことを考えるならば当然の判断だろう
( ゚∋゚) しかし……このまま黙って帰るほど我々は甘くない
( #゚∋゚) 少なくとも犯人には、けじめを付けて貰わなければな!
怒号が会場に響くと、周囲の観客達は驚き、身を竦めた
俺はそれならばと前置きして、男にある提案を持ちかけた
608
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:06:29 ID:IkQge1Lk0
_、_
( ,_ノ` ) 犯人の情報、欲しくないか?
( ゚∋゚) ……なんだと?
_、_
( ,_ノ` ) もしもあんたが観客を誘導してこの事態を収束させてくれるなら、教えてやってもいい
( ゚∋゚) 何が狙いだ?
_、_
( ,_ノ` ) なあに、利害の一致さ
_、_
( ,_ノ` ) 俺らとしても民間人との衝突は避けたいが、だからといって一般の人間に易々と情報を流すわけにはいかない
_、_
( ,_ノ` ) しかし相手が「ヒーローのクックル」であれば「協力の要請」をすることができる
_、_
( ,_ノ` ) 所謂Win-Winの関係ってやつさ……死語か、これは
( ゚∋゚) ふむ……少し時間をくれ
_、_
( ,_ノ` ) 急いでくれよ。こうしてる今も犯人は逃げ続けているんだ
俺が集団から離れると、観客達はクックルを中心として集合し、話し合いを始めたようだった
そして5分ほど経った頃だろうか、不意に集団は二つに分かれ、その中心からクックルがこちらに歩み寄ってきた
( ゚∋゚) 二つ、条件がある
609
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:07:23 ID:IkQge1Lk0
_、_
( ,_ノ` ) 条件?
( ゚∋゚) うむ、一つはチケットの即日払い戻し
( ゚∋゚) もう一つは今回の来場者が次回のライブで優先的にチケットを購入できるよう取り計らうこと
( ゚∋゚) いずれも希望者に対してだけでいい。約束してもらえるか?
_、_
(; ,_ノ` ) ……そいつは警察にゃどうしようもねえな
( ゚∋゚) 出来ないのであれば交渉は決裂だ。お引取り願おうか
_、_
(; ,_ノ` ) ぐ……
( <●><●>) わかりました。その条件、飲みましょう
_、_
(; ,_ノ` ) お、おい!?
( <●><●>) 渋沢さん、あなたのそれ、ヒッキーの指示ですよね?
_、_
(; ,_ノ` ) ん? ああ、そうだが、なんでわかった?
( <●><●>) いくらヒーローへの信頼の厚いあなたといえど、ここまで全てを任せるようなことはしないでしょう
( <●><●>) であるならば、こんな作戦を考えてあなたに指示することができるのはヒッキーくらいのものです
_、_
(; ,_ノ` ) ああ、なるほど……それで?
( <●><●>) ……簡単な話です
( <●><●>) ヒッキーの作戦で生まれる面倒事なんですから、全部ヒッキーに任せちゃえばいいんですよ
610
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:08:04 ID:IkQge1Lk0
【Side:( ´_ゝ`)】
逃走中の車内。「天女の羽衣」をいち早く堪能したいという思いは抑えこんで、俺はあるものについて調べていた
(´<_` ) なんだそれ?
( ´_ゝ`) よくわからんが靴底に付いてた
靴底――正確に言えば靴底の溝――に挟まっていたそれは、透明な水苔のような質感をしていた
指先で押してやると簡単に潰れて、中から水のようなものが染み出してくる
( ´_ゝ`) 何だこの汁? 臭い。なんかネバネバしてる
(´<_` ) やめろ
( ´_ゝ`) いっぱい出たね
(´<_` ) 殺すぞ
( ´_ゝ`) こんなもん、どこで踏んだっけなぁ
611
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:09:34 ID:IkQge1Lk0
(´<_` ) まあ、それについては帰ってから詳しく調べればいいさ
(´<_` ) それよりも追手がいないかちゃんと見といてくれよ? 「見えない敵」はともかく警察の世話にはなりたくないぞ
( ´_ゝ`) はいよ。しかし、「見えない敵」ねぇ……
( ´_ゝ`) なーんか昔そんな話を聞いたことがあるような、無いような
(´<_` ) ハッキリしないな。どこで聞いた話だ?
( ´_ゝ`) うーむ、思い出せんな。どこだったっけなあ?
そんな話をしながら上半身を捻って後方を確認する。追って来ている車の影はない
「何も来てないな」と報告し、助手席の窓に視線を向けたその時
( ´_ゝ`) (゚∈゚ )
窓の外を「泳いでいる」半裸の男と目が合った
612
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:10:56 ID:IkQge1Lk0
「泳いでいる」
そう、泳いでいるのだ。何も無い空中を、水音が聞こえてきそうな力強く、美しいフォームで
鍛えあげられた上半身。丸太のような両腕。バタフライのフォームに合わせて、流れる汗が白く輝く
( ´_ゝ`) えっ、ちょ……
( ゚∋゚) 流石兄弟だな?
窓に遮られて声は聞こえなかったが、口の動きから確かにそう言っていることがわかった
男は呆気にとられている俺を他所に、右腕を大きく振りかぶり、そのまま走行中の車体を殴りつけた
異常なほどに隆起した筋肉から放たれる一撃は窓ガラスを粉砕し、ドアフレームを歪め、車の進路を捻じ曲げる
(´<_`; ) うおおおおおおおおおおお!?
( ;´_ゝ`) はあああああああああああ!?
危うく電柱に衝突しそうになった進路を寸でのところで修正し、元の車線に戻る
急いで周囲を見回すと、リアガラスの向こう側、ウィングに手をかけて車に登ろうとしている男の姿があった
( #゚∋゚) ワタナベさんの怒り、我らの怒り、身を以て知るがいい!
( ;´_ゝ`) マズい、弟者、ドリフトだ! 尻振り回して引き離せ!
(´<_`; ) おう、いくぞ、合わせろよ!
613
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:11:37 ID:IkQge1Lk0
(゚<_゚# ) ふっ飛べやあああああああああ!!!
( ;゚∋゚) ぬおっ!?
能力によって強化されたドリフト走行。その遠心力は通常のそれとは比べ物にならない
男は必死にしがみつくも、肝心の持ち手がそれに耐えることは出来なかったらしい
折れたウィングの破片を手にしたまま、男の姿は後方へと消えていった
( ;´_ゝ`) ……死んだか?
(´<_`; ) わからんが、あいつなら多分大丈夫だろう
(´<_`; ) 一目見て分かった。あいつ、ヒーローだ
( ;´_ゝ`) ヒーロー?
(´<_`; ) 確かクックルって名前の、飛行能力者だ
( ;´_ゝ`) 飛行能力……それなら確かにさっきのも……
( ;´_ゝ`) いやちょっと待て、それじゃあ、あの怪力は何なんだ!?
(´<_`; ) さあ……?
「生まれつきだ」
窓のないドアの向こうから、男の声が聞こえてきた
614
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:12:18 ID:IkQge1Lk0
右手で助手席のドアに掴みかかり、男はこちらを睨みつけた
残りの手足は相変わらず、バタフライのフォームを崩さない
( ゚∋゚) また会ったな、流石兄弟
( ;´_ゝ`) なっ……もう追いついて来やがったのか
(´<_`; ) こっちは100キロ近く出してるんだぞ!?
( ゚∋゚) 100キロ? ふん、そんなハエの止まるような速度で私から逃げられると思ったか!
( ゚∋゚) 純粋な飛行能力者は平均時速200キロ以上の速度での飛行が可能!
( ゚∋゚) そして私は更に研究を重ね、独自の飛行法、中空泳法を編み出すことに成功した!
( ゚∋゚) これにより私の最高時速は320キロ! 人は私を「飛魚」クックルと呼ぶ!
( ゚∋゚) 以上、詳しくは私のホームページを参照だ!
( ゚∋゚) あの世にネット回線があったら一度見てみればいい!
(´<_`; ) トビウオはそんな飛び方しねえだろ! 潰れちまえ!
( ;゚∋゚) むっ!
弟者は車を道路の端に寄せて、アクセルを踏み込んだ
電信柱の横を掠めるように通り抜け、男だけをそれに叩きつける
周囲には鈍い音が響き、コンクリートの破片が飛び散った
615
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:13:01 ID:IkQge1Lk0
( ;´_ゝ`) おいおい、これ流石に死んだんj( #゚∋゚) 効かぬわ!
( ;´_ゝ`) うおっ!
( #゚∋゚) この程度でこの私を倒せると思ったか!
( #゚∋゚) いいか、私は会場にいた全てのファンの意志を受け継いでここにいるのだ
( #゚∋゚) ワタナベさんを汚した代償の重さを思い知れ!
男は車体によじ登り、ボンネットの上に仁王立ちになる
拳を高々と上げて俺達を見下ろすその姿は、これまで見たどんな人間よりも大きく、圧倒的で……
( #゚∋゚) そして見せてやろう! この一撃で!
( #゚∋゚) これぞワタナベさんの怒りと悲しみ! 我らファンの義憤、そして……
( #゚∋゚) 嫉妬の力だああああああああああああああああああ!!!!!!!!
616
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:13:49 ID:IkQge1Lk0
.
.
617
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:14:32 ID:IkQge1Lk0
( ;´_ゝ`) ああ、こりゃあ、廃車かな……
ボンネットのひしゃげた愛車を眺め、俺はそう呟いた
男の言葉を信じるのであれば、能力に頼らない純粋な身体能力による破壊
しかしそれによって生まれた物体はまるで、何かしらの重機を用いて作ったような、酷く潰れた鉄屑だった
( ;´_ゝ`) 弟者は……どこに行ったかな……
男の拳が振り下ろされる直前、運転席のドアから飛び降りる弟者の姿が見えた
なんとか直撃を免れることは出来たようだが、あれだけの速度だ。無傷で済んでいるとは考え難い
出来るならば今すぐにでも探しに行きたいところだ。しかし……
( ゚∋゚)
( ´_ゝ`) そういうわけにもいかんだろうな。なあ?
物事というのはそう簡単に進むもんじゃあないらしい
半壊した車の屋根に上り、男は俺を見つめていた
( ゚∋゚) まあ、そうだな。それで、どうする?
( ´_ゝ`) どうするって、ぶっ飛ばして逃げるしか無いだろ?
( ゚∋゚) ぶっ飛ばして逃げられると思っているのか?
( ´_ゝ`) ……
( ゚∋゚) ……
618
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:15:13 ID:IkQge1Lk0
( #´_ゝ`) やってやるy( #゚∋゚)遅いわ!
( ;´_ゝ`) えっ……!?
俺が声を上げるのを待っていたかのように男は車の上から姿を消し、俺の正面に現れた
大きな体を低く屈め、顔面めがけて振り上げられた拳
両腕を顔の前で交差させ受ける姿勢をとった俺は、その直後、自分の選択が誤りだったことを思い知る
( #゚∋゚) 空に招待してやろう!
( ;´_ゝ`) なっ……腕……掴……
男は拳を寸前で止め、顔を守るために差し出された俺の腕を取り……
そのまま、上方へと投げ飛ばした
619
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:16:18 ID:IkQge1Lk0
不安定な体勢、回る視界、地上に居る男の姿が見る間に遠ざかっていく
ほんの数秒間の出来事が極限まで引き伸ばされ、男の口元には不敵な笑み
ようやく落下が始まったところで、左肩に強い痛み。投げられた衝撃で脱臼してしまったのだろう
( #゚∋゚) 終わりだと思うなよ! ここからが本番だ!
男は少し身を屈めると、思い切り地面を踏みつけて、中空へと飛び上がった
両手を進行方向へ真っ直ぐ伸ばし、まるで弓矢か何かのように、身動きの取れぬ俺に突進する
その衝撃は俺の体を跳ね上げ、さらなる上空へと連れ去った
( #゚∋゚) まだまだァ!!
男の言葉通り、攻撃はそれで終わりではなかった
俺を跳ね飛ばして通り過ぎた男は、見えない足場でもあるように空中で静止し、そこから再び突進を繰り出す
二度、三度……絶えず続く攻撃は俺の体を空中に囚え、地上に帰そうとしない
( #゚∋゚) 見たか! これが中空泳法だ!
( #゚∋゚) 貴様のような屑にはうってつけの攻撃だろう!
( #゚∋゚) 一方的な害意に晒され、為す術もなく、無抵抗に痛めつけられる!
( #゚∋゚) 我らの心の痛みがわかるか! 彼女の怒りが、悲しみが理解できるか!
( #゚∋゚) 出来ぬのであれば仕方ない!
( #゚∋゚) このまま地上に戻ることなく……肉体も、魂も、一直線に天まで打ち上げてやろう!
620
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:17:22 ID:IkQge1Lk0
( ;゚_ゝ`) ぐ……防御……反撃……
( ;゚_ゝ`) 回避……は、無理か。この体勢じゃ、せいぜい直撃を避ける程度
( ;゚_ゝ`) 反撃しようにも足場がなけりゃ力が入らん
( ;゚_ゝ`) ……どうしたもんかね
( #゚∋゚) 諦めろ! 飛行能力を持たぬ者は空中戦において無力!
( #゚∋゚) この状態になってしまえば、お前がどんな力を持っていようとも無駄なのだ!
無力。なるほど、無力か
確かにこの状態の俺には、男に痛手を負わせることが出来るような攻撃をする力は無い
しかし、それならば……
( ;゚_ゝ`) それなら……
( ;゚_ゝ`) あんたの力を借りることにするよ
( #゚∋゚) ぬっ……!?
621
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:18:54 ID:IkQge1Lk0
俺の言葉に男は表情を曇らせ、攻撃を中断した
空中で向かい合う形になった俺を、男は憮然とした表情で眺めている
( #゚∋゚) 頭がおかしくなったのか、それともブラフが通じるとでも思っているのか?
( ;゚_ゝ`) やってみればわかるさ
( ;゚_ゝ`) どうする? このままじゃ俺は地上に戻っちまうぜ?
精一杯の挑発。正直、このまま何もされなかったら、それはそれで困る
俺の体は度重なる衝突で民家の屋根が足下に見える高さまで上昇している
この高度からの垂直落下は俺としても勘弁願いたい所だ
俺の言葉に男は忌々しげに眉を歪めると、ゆっくりと身を屈めた
( #゚∋゚) ……その挑発、乗ってやろうじゃないか
( ;゚_ゝ`) そうかい、それじゃあさっさと来なよ
( #゚∋゚) いいだろう。ただし、一言だけ言っておく
( #゚∋゚) 次の攻撃を受け損ねたら、その時点でお前は死ぬことになる
( #゚∋゚) これは貴様のブラフと違って、疑いようのない事実だ
( #゚∋゚) ……行くぞ!
男の巨体が、俺の視界から消えた
622
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:21:34 ID:IkQge1Lk0
( ;´_ゝ`) 消えた!?
いや、そんなはずはない
奴は必ず何処かから見ていて、攻撃する機会を窺っているはずなのだ
しかし、どこから……?
周囲を見渡すが、やはり男の姿は無い
( ;´_ゝ`) 考えろ、奴はどこから攻撃してくる?
「次の攻撃を受け損ねたら、その時点でお前は死ぬことになる」
男の言葉を思い出す。つまりそれは、これまでで最も威力の大きい攻撃になるということだ
この状況で攻撃の威力を倍増させることが出来る方向……つまりそれは……
( #´_ゝ`) 下か!
( ;゚∋゚) なっ……!?
地上を飛び立ち、こちらへ突進しようとする男と目が合った
俺にかかった重力による加速と、男の突進する力
確かにその二つを合わせれば、これまでのどんなものよりも強力な攻撃となるだろう
作戦を看破されたのが予想外だったのだろうか、その表情からはこれまでにない動揺が読み取れる
( ;゚∋゚) ぐっ……しかし、解ったからといって、どうにかなると思うなよ!
( ;゚∋゚) この突進、止められるか! 貴様の策、見せてみろ!
( #´_ゝ`) ああ、いくらでも見せてやるよ!
623
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:23:12 ID:IkQge1Lk0
俺に向けて伸ばされた腕を、右腕で横殴りする
踏ん張りの効かない空中では男の攻撃の軌道を逸らすことは出来ないが、重要なのは「反作用」
俺の体が僅かにズレて、中心線を狙った男の攻撃は、体軸を外れ、脱臼した左肩へ突き刺さる
( #゚∋゚) (急所は外した……が、それだけだ)
( #゚∋゚) (攻撃は命中した。反撃するだけの力もない)
( #゚∋゚) どうやらこの勝負、俺の勝( # ゚_ゝ゚) ここだっ!
( ;゚∋゚) な、なにィ!?
軸をズレた力は、回転を生み出す
回転する物体は弧を描き、俺の能力により強化される
強化された運動エネルギーを右腕に伝達し、その全てを、男の脇腹に叩き込んだ
( ; ∋ ) がっ……!?
( # ∋ ) ぐ、ぐうううううううう……
( #゚∋゚) 効かぬわああああああああああ!!!!
( ´_ゝ`) ああ、だろうと思ったよ
( ;゚∋゚) ……ッ!?
624
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:24:02 ID:IkQge1Lk0
( ´_ゝ`) 電柱より丈夫な野郎に俺の攻撃が通るなんて思ってないさ
( ´_ゝ`) ただ、一瞬。ほんの少しだけ動きを止められたらそれで良かったんだ
俺は右手と両足で男の背中に取り付き、再び能力を発動した
( ´_ゝ`) 回転の力はどこにでも存在する
( ´_ゝ`) どこにでもある。ただそれが弱すぎて、誰も気に留めていないだけなんだ
( ;゚∋゚) 突然何を言い出す!? は、離れろ!
( ´_ゝ`) ほら、あんたの行動で、また一つ回転が生まれた
( ´_ゝ`) この回転、使わせてもらうぞ
男が俺を振り払おうと動かした両手は、確かに弧の軌跡を描いていた
その力は能力によって増幅され、より強い回転となる
( ;゚∋゚) 体が……回るっ……!?
( ´_ゝ`) 思い返せばあんたの動きはひどく直線的な物ばかりだった
( ´_ゝ`) こんな回転の動きには、慣れていないんじゃないか?
強化された円運動を、更に強化
雪達磨式に増大する回転の力に対応することは、この男には不可能だろう
目に入る全てが引き伸ばされて混じり合い、肉体は遠心力に引き裂かれる
受け身も取れぬ体勢で、このまま、アスファルトの地面に叩きつけてやろう
( #´_ゝ`) 回転の世界に招待してやろう! 回って回ってバターになっちまいな!
625
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:26:19 ID:IkQge1Lk0
.
.
626
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:27:28 ID:IkQge1Lk0
( ;´_ゝ`) ふー……
地べたに座り、車にもたれかかる。正直、もう一歩も動きたくない
目の前に仰向けになって倒れている大男を見下ろして、俺は溜息をついた
( ;´_ゝ`) やった俺が言うのもなんだけど、よく生きてるなあんた
( ;´_ゝ`) ……生きてるよな?
(,;;;,;;∋゚) ……
俺を見る男の目には、先程感じた敵意はなく
どこか遠い場所を眺めているような、無感情な視線だけが残っていた
(,;;;,;;∋゚) 俺は、ワタナベさんを尊敬している。崇拝と言っても良いだろう
(,;;;,;;∋゚) 彼女の「アンテナ」は彼女の意志に関係なくその感情を周囲に伝える
(,;;;,;;∋゚) 明るく、美しい感情も、暗く、醜い感情も、全てだ
(,;;;,;;∋゚) それ故に我々は彼女と感情を……喜びを、怒りを、悲しみを共有することが出来た
(,;;;,;;∋゚) 彼女の感情は我々の人生の一部であり、彼女の存在もまた、我々にとって不可欠なのだ
(,;;;,;;∋゚) 我々は彼女を愛し、あらゆる悪意から彼女を守ると誓った
(,;;;,;;∋ ) しかし、私は……
::(,;;;,;;∋ ):: 私は
627
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:28:54 ID:IkQge1Lk0
.
「もういい、暫く休め。クックル」
どこからかそんな声が聞こえ、次の瞬間、半壊した車の屋根が、押しつぶされたように変形した
.
628
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:29:57 ID:IkQge1Lk0
( ;´_ゝ`) な……お前は……
潰れた屋根の上には、誰も居ない。いや、「誰も居ないように見えた」
フロントから立ち上る煙は風に揺られて少しづつ車体を覆い、周囲の空間を黒く染め上げる
そのうちの一箇所、屋根の上
そこにはちょうど人間のような形に切り抜かれた、透明な空間があった
, ; ,; ,;,;゚)
( ;´_ゝ`) そうか、思い出したぞ! お前、「ゴースト」……
( ;´_ゝ`) なるほどな、それなら全部説明がつく
, ; ,; ,;,;゚) 最早隠しても無駄か。まあ、いい
, ;, ;゚, ,;゚) どうせ結末に影響は無いだろう
, ;, ;゚, 」;゚) それと、ひとつ言っておくならば……
「人型の透明な空間」に、徐々に色彩が甦る
そして現れたその姿は、表の世界でも、そして「裏」でも、見覚えのあるものだった
( ;´_ゝ`) くそ……やはりお前は……
629
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:30:39 ID:IkQge1Lk0
.
(,,゚Д゚) 「ゴースト」の名は、もう5年も前に捨てた
( ;´_ゝ`) 「パントマイム」 ギコ
(,,゚Д゚) 正解だ
630
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 03:36:01 ID:IkQge1Lk0
番外編最終話じゃありませんでした
次回は最終話になるはずです
投下未定。がんばります
631
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 04:24:14 ID:Wq3gmPfk0
gj!よかった!
632
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 07:58:20 ID:9vXxb49A0
熱いな
乙
633
:
名も無きAAのようです
:2014/02/03(月) 19:45:34 ID:CeRNX9IgO
乙
ヒーローより悪たる流石兄弟を応援したくなる不思議
634
:
名も無きAAのようです
:2014/02/04(火) 19:05:15 ID:z/O5sP1w0
乙、ここでギコさんか
635
:
名も無きAAのようです
:2014/02/04(火) 20:35:41 ID:roYk6/qk0
乙
熱いねいいね
636
:
名も無きAAのようです
:2014/02/08(土) 04:49:36 ID:L8UwG9ks0
おつ
637
:
名も無きAAのようです
:2014/02/14(金) 01:30:42 ID:ldQ8E09U0
おつ ようやくギコの活躍が見られるのか
638
:
名も無きAAのようです
:2014/02/20(木) 02:19:04 ID:94adX7eo0
素晴らしいものに出会った
639
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 20:50:31 ID:L/xmT1T60
ここであげ
640
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 21:29:27 ID:ThgfhtTQ0
クックルは錬金体系っぽいね
641
:
名も無きAAのようです
:2014/06/10(火) 21:08:44 ID:xn5V/nh60
〜
642
:
名も無きAAのようです
:2014/06/23(月) 07:22:39 ID:.xAAO2rEO
まだかな
643
:
名も無きAAのようです
:2014/07/20(日) 18:43:11 ID:zqFLTlcs0
あげ
644
:
◆v4gficNH0s
:2014/07/22(火) 01:10:40 ID:Mjq1wwgk0
>>1
です
次回投下分まもなく完成です
あとは誰もが納得する伏線回収と凄くおしゃれな決め台詞を考えるだけなので週末には投下できると思います
がんばります
645
:
名も無きAAのようです
:2014/07/22(火) 02:02:13 ID:9i.PE7bM0
待ってるよ
646
:
名も無きAAのようです
:2014/07/22(火) 02:27:25 ID:7MpPpOukC
>誰もが納得する伏線回収と凄くおしゃれな決め台詞を考えるだけ
大変そうだががんばれ、当日は靴下だけで舞ってる
647
:
名も無きAAのようです
:2014/07/22(火) 10:24:40 ID:ncSvZVrk0
まじかよくっそ期待してる
夏だからか色んな作品復帰しててもう軽くアヘってる
648
:
名も無きAAのようです
:2014/07/22(火) 20:58:27 ID:oqvFSCts0
これは楽しみ
649
:
名も無きAAのようです
:2014/07/22(火) 21:47:52 ID:sGa3n8rE0
舞ってる
650
:
名も無きAAのようです
:2014/07/31(木) 14:39:18 ID:dYHjzk6Y0
頑張れ!!
支援
651
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:22:28 ID:jhGCqDm.0
( <●><●>) 「ゴースト」を指定の場所まで飛ばしました。私達にできるのはここまででしょう
(;´W`) なるほど、これが「三人一組の能力」ですか。渋沢さんから聞いてはいましたが、なかなか……
_、_
( ,_ノ` ) まあ、滅多に見られるような物ではないですからね
( <●><●>) 後は彼とクックルの働きに期待ですね
_、_
( ,_ノ` ) 三人共ご苦労だった。後は観客の誘導にあたってくれ
( <●><●>) ええ、そうします。あの……ところで、うちのリーダーの件なんですが
_、_
( ,_ノ` ) リーダー……ああ、ビロードのことか。それで?
( <●><●>) どうなりますか?
_、_
( ,_ノ` ) どうなるか、ねえ。随分ざっくりした質問だなおい
( <●><●>) ……
_、_
( ,_ノ` ) そんな睨むなよ。まあ、悪いようにはしないさ
( <●><●>) ほう?
_、_
( ,_ノ` ) 「公衆の面前で辱めを受けたアイドルと、それに駆け寄るファンの一人」
_、_
( ,_ノ` ) 知名度の無さが幸いしたな。他のヒーローじゃこうはいかんだろうよ
( <●><●>) ……喜んでおきましょうか、今だけは
652
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:24:38 ID:jhGCqDm.0
( <●><●>) それでは仕事があるのでこの辺りで
_、_
( ,_ノ` ) おう、頼んだぞ。……おっと、最後に一つ
( <●><●>) なんでしょう?
_、_
( ,_ノ` ) 「ゴースト」はやめろ。今のあいつは「パントマイム」だ
( ´W`) ……?
( <●><●>) 名前を変えようが、過去が変わるわけではないでしょう
( <●><●>) 彼を仲間と思いたくない、そんなヒーローも少なくないということです
_、_
( ,_ノ` ) 総理の……いや、誰もが尊敬する「勇者」の決定でもか?
( <●><●>) 各々の信条を貫くこともまた、「勇者」の掲げるヒーロー像の一つです
_、_
( ,_ノ` ) ……
653
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:30:21 ID:jhGCqDm.0
(;´W`) あの……話が掴めないのですが……
(;´W`) もしかしたら私は、なんと言いますか、あまり聞いてはいけない話を聞いているのではないですかな?
_、_
( ,_ノ` ) すいませんね、お恥ずかしいところを
_、_
( ,_ノ` ) ギコというヒーローは実のところ、あまりよろしくない経歴を持っていましてね
( ´W`) よろしくない、ですか?
_、_
( ,_ノ` ) ええ、ヒーローとしてはイレギュラーと言っても良いくらいに、「よろしくない」経歴です
_、_
( ,_ノ` ) 色々なしがらみの多い業界ですからね。こいつのように、それを快く思わない奴も多いんですよ
_、_
( ,_ノ` ) まあ、実力の方は確かですよ。そこは安心してください
(;´W`) はあ……
( <●><●>) 彼のやったことはそんな甘い言葉で片付けられるものではないでしょう
( <●><●>) あなたがそうやって誤魔化すつもりなら……シラヒーゲ館長、私がお話ししましょう
_、_
(; ,_ノ` ) おい!?
( <●><●>) ギコという男は、ほんの数年前まで「ゴースト」の名で恐れられた――――
( <●><●>) ――――裏の世界の、住人だったんですよ
(;´W`) え……?
654
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:31:59 ID:jhGCqDm.0
从 ゚∀从はヒーローになれなかったようです 番外編
( ´_ゝ`)破滅式ローグライクのようです(´<_` )
.
655
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:35:38 ID:jhGCqDm.0
「流石兄弟」の名前が初めて表に出てきたのは、俺の記憶が正しければつい3、4年ほど前のことだ
その時標的となったのはどこぞの成金の金蔵で、盗み出されたのは所謂、税金対策の隠し金というやつだった
当時は不正を暴く義賊だなんだと随分と持て囃されていたのを覚えている
尤も、その数週間後に軍の施設に侵入し、そこから戦車を盗み出すまでのほんの僅かな期間のことではあるが……
(,,゚Д゚) 流石兄弟という名から複数犯であることは予測できていたが、まさか双子とはな
(,,゚Д゚) 犯行の主幹を担うのは片割れの方か? お前の能力は明らかに戦闘に特化している
( ;´_ゝ`) ……
余計な情報を出したくないのだろうか。目の前の男は口を噤み、応えようとしない
沈黙もまた重要な情報であるということを、きっとこいつは知らないのだろう
(,,゚Д゚) アマチュアだな
( ;´_ゝ`) ……は?
(,,゚Д゚) 温いんだよ。裏の住人を名乗るには、あまりにもな
(,,゚Д゚) 手に入れた力に酔い、レジャー感覚で罪を犯す
(,,゚Д゚) お前は、いや、お前達は……ただの素人なんだよ
656
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:38:42 ID:jhGCqDm.0
流石兄弟が登場から数年で「大怪盗」の異名を得るに至ったのには、勿論相応の理由がある
一つは度重なる犯行にもかかわらず、その犯人像は謎に包まれていたこと
一つは厳重な警備の中であっても、犯行の瞬間を誰も認識することが出来なかったこと
そしてもう一つ、犯行後の現場に残る、「あるはずのない」証拠の数々
(-_-) 大量の指紋、同一の靴跡、噛み終えたガム、キスマーク付きの置き手紙……
(-_-) そこにいた形跡はいくらでも見つかるのに、光学計器では観測できず目視も不可能
(-_-) テレポートや催眠の類ではどうにも説明がつかなくてね
(-_,-) これはもう、「幽霊」でも出たんじゃないかと疑ってしまうよ
「自分と似たような能力」
ヒッキーの物言いに不快なものを感じながらも、その点については同じような考えを持っていた
それゆえに俺に一任された特設展示室の仕掛けも、
俺と同じ能力の人間に対して有効な手段として考案されたものとなっている
床にばら撒かれた無色化した塗料は能力の解除によって侵入者の足跡を示し、
出入口に張られた細糸は切断と同時に専用の器具で巻き取られ、目に見えぬ侵入者の存在を俺に伝える
俺自身もは姿を隠したまま展示室内に待機していれば、見えない何者かの侵入と同時に、犯人を確保出来るはずだった
そう、「はずだった」のだ
657
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:41:28 ID:jhGCqDm.0
流石兄弟は特設展示室に二度、足を踏み入れている
一度目は目に見えぬ侵入者として。二度目は何も知らない一般客を装って
一度目の侵入は、俺に大きな動揺と作戦についての見直しを強要した
巻き取られた糸を感知して染料の透明化を解除した俺が見た物は、展示室から玄関まで続く赤黒い足跡
侵入者は、いや、流石兄弟は「侵入と同時に建物から脱出した」のだ
喩えるならば「時間を止めているような」能力
それは明らかに俺の能力とは異質の代物だった
(-_-) 「時間を止める」ね……状況を聞いた限りじゃあ言い得て妙といった感じだね
(-_-) しかしそうなると、侵入しておいて戦乙女のマントを盗み出さなかったのは何故かという疑問が残る
(-_-) 能力に何かしらの制限が付いているのか、それとも他の理由あるのかな?
(-_-) いずれにせよ、こちらとしては大助かりなんだけどね
「流石兄弟を捕らえることができればそれに越したことはないが、マントさえ無事であればそれでいい」
そんな説明に付け加えて、ヒッキーは俺にひとつの提案を投げかけてきた
(-_-) 状況的に考えて、今回の侵入はただの下見に過ぎない。流石兄弟は再びやって来るよ
(-_-) 「時間を止める」能力で盗み出すことが出来ないのであれば、生身の体を晒してね
(-_-) 今のうちに、犯人を特定できる材料を用意しておくんだ
(-_-) 靴跡なんかがいいかもね。彼らは犯行の時はいつも同じ靴を使用している
(-_-) 現場に残った靴跡と同じ靴跡を持つ人間。そいつが犯人さ
急遽立案されたこの作戦は、「不確定な要素を省く」というヒッキーの意志により、
渋沢やビロードには伝えず、俺達だけで決行することとなった
658
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:43:08 ID:jhGCqDm.0
(,,゚Д゚) 靴跡から犯人を発見し、クックルが足止め。ビロード達三人が追跡の補助をして俺が確保、か……
(,,゚Д゚) 多少のイレギュラーはあったが、ヒッキーの作戦通りだな
(,,゚Д゚) ここでお前を捕らえて、片割れの所在を吐かせる。尋問に特化した能力者が、警察には大勢いる
(,,゚Д゚) 世間を騒がせた「流石兄弟」の活躍も、それで終わりだよ
(,,゚Д゚) お前達と繋がりのある組織についても、芋蔓式に明らかになるだろう
( ;´_ゝ`) 随分自信があるじゃないか……俺はお前の正体を知った。さっきとは状況が違うんだぞ?
( ;´_ゝ`) それに、だ。そもそもそこに転がっているクックルとかいう男より、お前は強いのか?
男から返ってきた言葉には、焦燥と虚勢の色が滲んでいた
こうして向かい合っている状況自体が、こいつにとっては不都合なものなのかもしれない
(,,゚Д゚) ……確かに、純粋な戦闘力で語るのであれば、クックルに勝てる人間は少ないだろう
(,,゚Д゚) 戦闘向けの能力を持つヒーローの中でも、ほんの一握り。その一握りの中に、私は入っていない
( ;´_ゝ`) はっ、だったら……
(,, Д ) しかし、お前のようなアマチュアを屠る程度であれば……
, ; ;Д゚) そんな力は、必要ない
659
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:45:15 ID:jhGCqDm.0
「物を透明にする能力」と「透明な物体を生成する能力」
多くの人間は俺の能力について、そのような解釈をしている
しかしそれは俺に言わせれば、少しばかり語弊がある
, ; ; , ; ゚) 透明な物体は、目に見える
, ; ; , ; ) 物には屈折率というものがある。人が透明な硝子や水の存在を感知できるのはそのためだ
, ; . , ; しかし俺の能力は、そのような法則からは掛け離れた位置に存在する
. ; , , どれだけ目を凝らしてみても、どれだけ上等なカメラを使っても
「俺の姿を捉えることは、誰にも出来はしない」
このまま背後に回り込み、頸動脈を一気に締め上げてやろう
上手く行けば、それで終わりだ
660
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:48:12 ID:jhGCqDm.0
( #´_ゝ`) いきなり饒舌になりやがって……姿を見せろ!
男は腰を低く落として、足下目掛けて拳を振り下ろす
なるほど、石礫を利用するつもりなのだろう。直情型の馬鹿だと思っていたが、そういうわけでもないらしい
しかし、その手は既に読んでいる
( ;´_ゝ`) なっ……地面との間に……壁!?
男の足下は既に、目に見えぬ壁で「舗装」されている
攻撃により砕けた破片が舞い上がるのを感じたが、俺の姿を炙り出すには余りにも力不足だ
男が呆気に取られている隙に、掌から不可視の物質――俺は「グラス」と呼んでいるが――を生成する
大きさは……そう、テニスボール程度で良いだろう
俺はそれを放り投げると同時に、男の背後へと回り込んだ
男の足下に、グラスが着地する
不意に鳴った鈍い音に男は一瞬動きを止め、そしてはっとしたように飛び退いた
逃げる先は、音から最も離れることが出来る方向
そしてその注意は音の出処に向いている
近付いて来る無防備な背中
男の首に手を回し、もう一方の腕でそれを固定する
, ; ;Д゚) スリーパーホールド……軍用格闘術の中でも最もシンプルかつ強力な技の一つだ
( ;´_ゝ゚) グ……ッ!?
661
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:49:42 ID:jhGCqDm.0
( ;゚_ゝ゚) はず……く……!
,;,;゚Д゚) 思ったより早く片が付いたな
(,,゚Д゚) やはりアマチュアだよ、お前は
(,,゚Д゚) 能力者同士の戦いには駆け引きというものがある。無策で勝てる程、世の中は甘くない
(,,゚Д゚) 「いきなり饒舌になった」 お前はさっきそう言ったな?
( ;´_ゝ゚) グ……ッ!?
(,,゚Д゚) あの時お前には、俺の行動が無目的な演説に見えていたというわけだ
(,,゚Д゚) なるほど、俺は敵の目の前で意味もなく長話をするような人間だと……
(,,゚Д゚) お前がそんな勘違いをしてくれたから、俺は地面をコーティングし、土煙を防ぐ時間が稼げた
(,,゚Д゚) わかるか? これが本職の駆け引きというものだ
( ;´_ゝ゚) へっ……この長話にも、何か狙いがあるってのか?
(,,゚Д゚) ……
(,,゚Д゚) いいや、余りにも呆気なさ過ぎて、毒気を抜かれてしまっただけだ
(,,゚Д゚) さて、暫く眠っていてもらおうか。話の続きは檻の中だ
首にかけた腕をもう一度組み直し、力を込めた……その時だった
太腿に強い衝撃を受け、そして次の瞬間俺の体は宙を舞っていた
662
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:55:28 ID:jhGCqDm.0
(,,; Д ) なっ……!?
一体自分の身に何が起こったのか
それを理解することが出来たのは、かろうじて着地に成功して、それからさらに数秒後
衝撃を受けた太腿の部分にくっきりと残った靴跡を確認した瞬間だった
(,,;゚Д゚) 俺の体を蹴り上げて……それもあの姿勢から……
( ;´_ゝ`) ……うむ、やってみるものだな
そのまま無言で向かい合って数秒
目の前の男の能力について、必死に思考を張り巡らせる
クックルとの戦闘で、男は相当なダメージを負っているはずだった
こうして向き合っているだけでも数カ所の裂傷、挫傷、擦過傷が確認できる
服で隠れた胴体は、恐らくそれ以上の打撃に晒されているだろう
(,,;゚Д゚) (やはり本命は身体強化の類。しかし、あの体で……なんて馬鹿げた威力だ……)
奇襲が成功しなかった以上、長期戦も覚悟するべきだ
ここからの戦いは読み合いと探り合い。何にせよまだ情報は不足している
何かしら仕掛けて、反応を伺おう
そう考えて動き出そうとしたところで、男は唐突に口を開いた
( ´_ゝ`) ああ、なるほど。そういうことか
(,,゚Д゚) ……何?
663
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 00:59:41 ID:jhGCqDm.0
( ´_ゝ`) いいや、こっちの話さ。それよりほら、続きをやろうぜ
( ´_ゝ`) まあ、俺を捕まえるつもりがないんなら、それはそれで良いんだけども
. ; ,゚Д゚) ……逃す気は無い。望み通り、続きをやってやろう
もう一度姿を隠し、男の周りを旋回しながら隙を伺う
男は周囲を見回して、俺の居場所を探しているようだった
狭い室内とは話が違う。屋外の開けた空間で俺の存在を認識するのは、索敵に特化した能力者でも難しい
( ;´_ゝ`) やはり見えんな。厄介な能力だ
( ;´_ゝ`) ……さてと、どうしたもんかね
さて、どうしたものか
先程と同じように組み付いたならば、間違いなく手痛い反撃を受けることになる
反撃の目を潰しつつ、確実に痛手を負わせる方法
, , ; ゚) (それならば、こいつが適役か)
小刀状に生成した「グラス」が5本
金属ほどの強度はないが、それでも人体を貫くには十分な代物だ
664
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:03:09 ID:jhGCqDm.0
狙いは四肢……いや、この際どこに当たろうと構わない
手傷さえ負わせることができれば、そこからの出血は着実に男の体力を消耗させる
クックルの打撃に耐えるタフネスも、刃物の前には無力だ
, , ; ゚) (当て易く自前での処置の難しい背中は、その意味では一番の狙い目か)
静かに男の背後に回り込み、小刀を構える
男の背中まで3歩か4歩。反撃を受けること無く、確実に命中させることが出来る距離
( ;´_ゝ`) とりあえず手当たり次第殴って……いや流石にそれは無いな……
( ;´_ゝ`) どうにかしてもう一発。そうすりゃいくらかはマシになると思うんだが
何かを呟きながらも、周囲への警戒は怠っていない
攻撃が気取られれば直ぐにでも、何らかの行動を起こすだろう
, , ; ゚) (不安要素は……これといって見当たらんな)
周囲を見回して、そう結論付ける
足跡の残らない硬い地面。太腿に受けたダメージは、投擲を妨げる程のものではない
男の乗っていた車から立ち上る黒煙も、風向き次第では俺の居場所を晒すことになったのだろうが……
, , ; ゚) (生憎、全くの無風だ)
どうやら天も俺に味方をしているらしい
俺は男の背中を目掛けて、小刀を投げつけた
665
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:07:07 ID:jhGCqDm.0
――――ガリッ!
( ;´_ゝ`) ――ッ! 後ろか!?
, ; ; ゚) (グ……グラスの破片!?)
投擲のために踏み込んだ足の下で、鈍い大きな音が鳴った
先程男が叩き壊した「グラス」の破片がここまで飛んで来ていたのだろう
, ; ; ゚) (攻撃は失敗だ。距離を取ってもう一度……)
物音に気づいた男は小刀を躱し、そのまま音源へと接近してくるだろう
そう考えてその場を離れようとした俺にとって、男の行動は余りにも予想外だった
( #´_ゝ`) だらっしゃあああああああああああああ!!
, ; ; ゚) は……?
先程と同様に組み付いて来るものと考えたのだろうか
男はこちらを振り向くと、そのまま目の前の空間に攻撃を仕掛けたのだ
揺れた――――いや、「ブレた」と言った方が正しいかもしれない
男の体が一瞬ブレたかと思うと、次の瞬間、その右腕のみが視界から姿を消した
次にその姿を捉えることが出来たのは地を揺らす衝撃と轟音の後
, ; ; ゚) な……何だ、それは?
血に塗れた男の右腕が、アスファルトの地面に肘まで突き刺さっていた
666
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:09:46 ID:jhGCqDm.0
( ; _ゝ ) くそ、投げナイフか……まあ、良い……
( ; _ゝ ) 今のは上手く決まりすぎた……当たってたら殺してた……
男は憎々しげに呟きながら、地面から右腕を引き抜く
小刀は男の右肩に命中しており、流れ出た血が腕を伝って滴り落ちている
結果として攻撃は成功し、俺は再び姿を眩ますことに成功した
多少のイレギュラーはあったが状況は俺に有利に動いているはずだ
しかし、俺の心に余裕は無い
, ; ; ゚) (アレを一度でも食らったら、その時点で終わりだ)
やはり、接近戦は危険だ
距離をとったまま体力を消耗させ、無力化を図るのがベストか
手持ちの小刀は4本。必要とあらば追加でいくらでも生成出来るので弾切れの心配はない
( ; _ゝ ) 傷は深いが、腕は動くな。良かった
( ; _ゝ ) それに、こいつは……
男は小刀を引き抜くとその場に蹲り、ズボンのポケットに手を入れた
ポケットから出てきたのは薄手のハンカチ
男はそれを広げ、血液の噴き出している傷口に強く押し当てた
( ; _ゝ ) おでかけの時はハンカチ持参。小学校の知識が初めて役に立ったぞ
667
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:11:37 ID:jhGCqDm.0
ハンカチを使っての応急処置
長期戦を覚悟するのであれば賢明と言いたいところだが、そんな暇を与えてやる程俺は馬鹿ではない
, ; ; ゚) (そんな所に座り込んでいては、針鼠にされても文句は言えんな)
, ; ; ゚) (――っと、その前に……)
地面に散らばった「グラス」の破片。こいつらを消しておかなくては、再び先程のようなミスをしかねない
俺の能力は物質の不可視化、そして「グラス」の生成と消滅
消滅に要する時間は生成の際のそれよりも遥かに短く、ほぼ一瞬と言っても良い
(-_-) 「グラス」と言ったかな? 君の生み出すそいつは実に不思議な代物だ
(-_-) 生成、消滅に一切のエネルギーを必要としない燃費の良さ
(-_-) 熱にも、電気にも、あらゆる化学的な物質にも反応を示さない安定性
(-_-) まるで空気を……いや、空間を固めているような……
(-_-) ただ「硬さ」と「重さ」という情報だけがそこにあって、それ以外は全くの空虚というか……
(-_-) 存在の要素が希薄な、物質のなり損ない。そんな印象を抱かずにはいられないよ
以前ヒッキーが俺の能力について、そのように評価していたのを覚えている
どうでもいい事だと聞き流そうとした俺の耳に、「物質のなり損ない」という言葉がいつまでも響いていた
, ; ; ゚) (……戦場で物思いとは、我ながら緊張感の無い)
自身を諫めると共に余計な思考を振り払い、俺は再び蹲る男へと目を向けた
肩から流れ出る血の勢いは衰えず、止血にはまだまだ時間がかかるだろう
668
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:14:44 ID:jhGCqDm.0
, ; ; ゚) (このまま放っておいても、出血とプレッシャーで勝手に潰れてくれそうなものだが)
いいや、片割れの存在が気にかかる。決着は速いに越したことはない
地面に生成した「グラス」とその破片を全て消滅させ、足跡を殺しながら男の周囲を旋回する
二回連続となった背後からの攻撃に、向こうも相応の警戒をしているはずだ
反撃を受ける危険は常に付き纏う。攻撃を仕掛ける方向は選ばなければならない
, ; ; ゚) (……ここだな)
, ; ; ゚) (負傷している右半身への追撃。痛む腕では回避行動も鈍る。そして何より……)
, , ; ゚) (あの右腕は、潰しておかなければならない……!!)
俺の焦りとは裏腹に緩慢な動作から放たれた小刀は、風切り音すら立てること無く男の体に向って行く
僅かな時間を置いて男の右肘に小さな穴が開き、滲み出る血液がゆっくりと衣服を染めた
( ; _ゝ ) 〜〜〜〜!
, ; ; ゚) (……よし、これであの拳は死んだ)
くぐもった呻き声。反撃の気配は感じられない
更にもう一本投擲した小刀は男の脇腹を掠め、俺はそれを確認しながら再び移動を始めた
669
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:17:33 ID:jhGCqDm.0
, ; ; ゚) (攻撃を仕掛ける方向は毎回変え続けるべきか)
, ; ; ゚) (おおよその位置が知れたら、先程のように運任せ突っ込んでくる危険がある)
, ; ; ゚) (決着は速いに越したことはない。しかし、やられてしまっては元も子もない)
, ; ; ゚) (……いや、待てよ?)
最も危険な右腕は今潰した。反撃のリスクは大幅に減少したはずだ
攻撃の方向がバレたとしても正確な位置を気取られていないのであれば回避は容易く、
また仮に攻撃を食らっても、直撃さえ避けられればその後の無防備な状態を狙い撃ち出来る
, ; ; ゚) (余計な時間をかけて片割れに加勢されるのも、俺としては望ましくない)
, ; ; ゚) (ならばその博打、受けてみるのも良いかもしれないな)
670
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:21:45 ID:3/3.zk4M0
来てたか支援
671
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:24:58 ID:jhGCqDm.0
男の周囲を旋回しながら、一定のリズムで投擲を行う
腕、脚、腹、背中……命を奪うには至らないが、決して浅くはない傷
それがひとつ増える度に男は苦悶の表情を浮かべ、叫び声を噛み殺した
男の足下に広がった血溜りの中には、先程止血に使っていたハンカチが浮かんでいた
, ; ; ゚) (攻撃の規則性に気付かぬのであれば、それはそれで良い)
, ; ; ゚) (気付いているのであれば、そろそろか)
これダメージの蓄積は向こうとしても避けたいはずだ
規則性を発見し、それが確信に変わった時、窮地に立たされている男は間違いなく動き出す
俺は「グラス」の壁を生成して動きを止め、側面に回りこんで決定的な一撃を与える
, ; ; ゚) (リーチが長く殺傷力に優れる武器……槍だ……)
槍で男の足を貫き、それと同時に地面に「グラス」の塊を生成。すぐさま槍と「グラス」を結合させる
男の足は地面に縫い付けられた形になり、足による攻撃を防ぐと同時に逃亡を不可能にするだろう
, ; ; ゚) (形状は骨を避け、肉のみを貫く細槍が最適……ふん、これではまるで、留め針だな)
, ; ; ゚) (来い、流石兄弟! 俺はここに居るぞ!)
音も無く投げられた一本の小刀が、男の背中に突き刺さる
それと同時に――――
( ゚_ゝ゚)
瞳孔を見開いた男の視線が、俺を射抜いた
672
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:29:37 ID:jhGCqDm.0
, ; ; ゚) (やはり、来るか!)
男は蹲った姿勢から地面を蹴り、見上げるほどの高さまで跳び上がった
着地までの猶予は2秒弱。それだけあれば、壁を生成するには十分――――
, ; ; ゚) ――――!?
たった今跳び上がったはずの男は空中で急激に加速し、
物理法則を無視した速度で俺の眼の前に現れた
, ;; ; ゚) (こいつの能力、身体強化などではない! もっと異質な……)
( #゚_ゝ゚)
男は着地と同時に重心を落とし、上半身を捻る
赤く染まった左腕がブレる。壁を生成する時間など、どこにもない
, ;; ; ゚) (壁による足止めは不可能。となれば一か八か、躱すしか無い!)
突きか、払いか。突きであれば左右に、払いであれば後方に一歩。それで致命傷は避けられる
しかし読みが外れれば、先程足に受けたあの一撃と同等の衝撃に曝されることになる
, ;; ; ゚) (先程地面に穴を開けた攻撃は、間違いなく突きによるものだ)
, ;; ; ゚) (となれば今回も同様に……だったら、横だ! 左半身に回り込み、攻撃後の伸びきった足を貫く!)
覚悟を決め、一歩踏み出したその瞬間
踏み込んだ右足から、力が抜けた
673
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:33:05 ID:jhGCqDm.0
, ;; ; ゚) (なっ……!?)
男に蹴られた太腿からの、刺すような痛み
そのダメージは骨にまで達していたのか、突然の激しい動きに右足が悲鳴を上げた
反射的に足を庇った俺はバランスを崩し、力無く後方に倒れ込み、その瞬間――――
俺が踏み込もうとしていたその空間を、男の左腕が薙ぎ払った
, ;; ; ゚) (は……払いだと……!?)
, ;; ; ゚) (勝てる! 男は再び俺の居場所を見失った! このまま回り込んで……!)
, ;; ; ゚) ――――!?
674
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:36:11 ID:jhGCqDm.0
( ゚)
( ゚_ゝ
( ゚_ゝ)
( ゚_ゝ゚)
( ゚_ゝ゚) なるほど、そこに居たのか、「パントマイム」
男が放ったその言葉は、確かに俺の居る空間に目掛けて発せられたものだった
全身の血液が一瞬にして凍りついたような感覚。それは間違いなく、恐怖だった
, ;; ; ゚) (……何故だ!?)
, ;; ; ゚) (何故お前は、俺の居場所が分かった!?)
, ;; ; ゚) (……っ! あれは……!!)
675
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:42:53 ID:jhGCqDm.0
たった今振り抜かれた男の左腕
その先には、男の血に濡れた一枚の布が結び付けられていた
( ゚_ゝ゚) やっぱりハンカチは便利だな。ゴーストだって捕まえられる
, ;; ; ゚) 今の一撃は俺を倒すための物ではなく、血を散蒔いて……!
( ゚_ゝ゚) いいや、お前を倒すための物さ。今の攻撃があったからこそ――――
( #゚_ゝ゚) お前に付いた血のマーク目掛けて、全力でブン殴る事ができる!!
( #゚_ゝ゚) 大事に取っといた右ストレート! 爆発四散間違い無しだオラアアアァァァァァ!!
男の体がブレて、血塗れの右腕が迫る
咄嗟に突き出した細槍は男の脇腹に突き刺さるが、拳の勢いが衰える気配は無い
避けられぬ衝撃が、やって来る
, ;; ; ゚) ぐっ……く…………
, ;; ; ゚) くっ……そおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
俺の体は為す術もなく吹き飛ばされ、自分の骨の砕ける音が聞こえた
676
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:52:57 ID:jhGCqDm.0
( ;´_ゝ゚) 散々痛めつけてくれやがって、仕返しだぞ
( ;´_ゝ゚) だが、今の感覚は……畜生、盾を……
(,,; Д ) 察しが良いな、その通りだ
「血液のマークを目掛けて殴る」
攻撃される箇所を前もって知ることが出来たのは僥倖だった
男の血液が付着していた左肩に、咄嗟に「グラス」の盾を生成したのだ
十分な強度とは言い難いものだったが、それでもそのお陰で俺はこうして立っていられる
(,,;‐Д゚) お前は相当な遣い手だ。アマチュア扱いは失礼だったのかもしれないな
(,,;゚Д゚) しかし、まあ……ここまでだな。左腕こそ潰れたが、俺はまだまだ戦える
(,,;゚Д゚) そして……お前はその脇腹の傷で詰みだ
( ;´_ゝ`) ああ、残念だがそのようだ
男の脇腹に空いた穴は、内蔵まで達しているようだった
全身の傷からの出血も酷い。今すぐ病院に運んだとしても、間に合うかは五分といったところか
とっくに気を失っていても不思議ではない。ましてや戦闘など……
677
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:54:43 ID:jhGCqDm.0
(,,゚Д゚) よく頑張ったよ、お前は
(,,゚Д゚) 抵抗を止めるのであれば、病院に連れて行ってやろう
(,,゚Д゚) 所詮お前等は窃盗犯。余罪があったとしても死ななければならない程ではない
(,,゚Д゚) 5秒以内に返事をしろ。俺ではなく、お前のために、急いだ方がいい
(ill _ゝ ) ……なるほど、よくわかったよ
(ill _ゝ ) 確かにこれ以上戦うのは無理だろうな
(ill _ゝ ) 目眩に寒気、それに急激な眠気……出血によるショック症状だ……
(ill _ゝ ) だから――――
( ;゚∋゚) ギコ、右だ!
(,,゚Д゚) え?
(ill´_ゝ`) ――――止めを刺すのは、俺じゃない
一瞬視界の端に現れた影は、どこか見覚えのある黒いスポーツカーだった
678
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:55:44 ID:jhGCqDm.0
――――――――!!
――――コ! おい! 起きろ! ギコ!
(,, Д )
(,,‐Д‐)
(,,‐Д゚) ……う……ん?
( ;゚∋゚) おお、起きたか、ギコ!
( ;゚∋゚) よかった。頭から落ちていたからな、もう助からないかと思ったぞ
(,,゚Д゚) 俺は……一体……
(,,;゚Д゚) そうだ、流石兄弟はどうした! 一体何があった!?
( ;゚∋゚) すまない、俺にも何が起こったのか分からないんだ
( ;゚∋゚) 奴等が使っていた車……廃車同然だったあれが突然消えて……
( ;゚∋゚) その後どこかでエンジン音がしたと思ったら、新車同然になったそいつがお前に向かって……
(,,゚Д゚) 新車同然?
( ;゚∋゚) そうだ! 俺が殴りつけた傷も、グシャグシャに潰れたフロントも全部元通りだ!
( ;゚∋゚) あんな能力は見たことが無い! 教えてくれギコ、奴等は一体何者なんだ?
(,,゚Д゚) ……さあ、俺が知りたいくらいだな
(,,゚Д゚) とりあえず、クックル
( ゚∋゚) ん、どうした?
(,,゚Д゚) 誰か救援を呼んでくれ。両手が動かん
679
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:56:26 ID:jhGCqDm.0
.
680
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 01:58:22 ID:jhGCqDm.0
任務から一月後、ギプス付きの生活を送っている俺に総理から直々の呼出しが会った
事件についての報告書は既にクックルに代筆を頼んで提出している
「流石兄弟について、もっと詳しく教えて欲しい」というのが、呼び出しの名目だった
(,,゚Д゚) もっと詳しく、ですか
( ゚д゚ ) ヒーローにも警察関係者にも、流石兄弟の姿を見た人間は今まで居なかった
( ゚д゚ ) つまりお前とクックルは流石兄弟と相対した初めての人間ということだ
( ゚д゚ ) 「大怪盗」流石兄弟。お前の目に、そいつらはどう映った?
(,,゚Д゚) ……
それから15分ほどかけて、知りうる限りの情報を総理に話した
顔のよく似た二人組で、恐らくは双子だろうということ
そのうち一人は戦闘向きの能力者で、
一見身体強化の類に見えるがそれでは説明の出来ない点もあること
そして何より、犯行の主幹を担うであろうもう一人の能力
俺とクックルが体験し、そのうえでなお仮説を立てることすら出来ない謎の能力について
681
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 02:00:10 ID:jhGCqDm.0
( ゚д゚ ) ふむ……なるほどわかった。すまんな、突然呼び出してしまって
(,,゚Д゚) いえ、休養をいただいている身であれば喜んで
( ゚д゚ ) それでは最後の質問だ。流石兄弟と戦ったお前から見て……
( ゚д゚ ) 流石兄弟の確保に必要な人材とは、どういう人間だ?
(,,゚Д゚) 確保……捕えるという意味であれば、念動力
(,,゚Д゚) 近接戦闘は得策ではありません。触れずに拘束できる能力者であれば可能性は高いでしょう
(,,゚Д゚) 尤も、それは私が戦った片割れを捕える場合に限った話で、もう一人の能力がわからない以上は……
( ゚д゚ ) なるほど、参考にさせてもらおう
( ゚д゚ ) ……お……?
(,,゚Д゚) ……!?
総理からの質問が途絶え、報告もいよいよ終わりかと思えたその時だった
突然部屋の外が騒がしくなり、息を切らした男が一人、飛び込んできた
(;・∀ ・) 邸内に侵入者! 単独犯で飛行能力者かと思われます!
(;・∀ ・) 目的は不明ですが爆発物を投下し、被害は軽微ですが既に数名の負傷者が出ています!
( ゚д゚ ) ……ほう?
682
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 02:01:37 ID:jhGCqDm.0
( ゚д゚ ) そういえばギコ、言い忘れていたことが一つあってな
楽しげに口元を歪めて、総理は語りだす
言いたいことは、なんとなくわかった
( ゚д゚ ) とある筋……まあ、言ってしまえばヒッキーからの情報だが……
( ゚д゚ ) なんとかというテロ組織が俺の命を狙っているらしいのだ
( ゚д゚ ) 実を言うと犯人についての情報も受け取っている。こいつがそうだ
そう言って総理が差し出した紙束には、妙に角ばった癖字で「ハインリッヒ高岡」という表題が書かれていた
この文字の癖はヒッキーのものだろう。そして表題は、犯人の姓名
( ゚д゚ ) 経歴を漁ってみたところ、なかなかおもしろい人材でな
( ゚д゚ ) テロリストでさえなければ、うちで働いてもらいたい程だ
( ゚д゚ ) ああ、実に惜しい。どうしたものかな、何か案は無いか?
(,,゚Д゚) ……わかりました。行けばいいんでしょう
(,,゚Д゚) おい、あんた。黒服の!
(;・∀ ・) は、はい!
(,,゚Д゚) その侵入者が見えるところまで案内しろ
(;・∀ ・) でも、その腕……怪我してるんじゃあ……?
(,,゚Д゚) 飛行能力者相手であれば、四肢が潰れていても勝てる
「それじゃあよろしく」という総理の言葉を背中に受けて、俺は部屋を出る
今日、政府内部に俺の同類が、もう一人増えるらしい
683
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 02:02:36 ID:jhGCqDm.0
【Side:( ´_ゝ`)】
あれから一ヶ月後、出血多量で俺は死んだ。とても悲しい
いやまあ、嘘だけど、実際に死んでもおかしくない状況だったというのは本当だ
全身に空いた穴のせいで一週間以上病院のベッドで唸ったのも、
表の医者には頼れないので法外な価格でモグリの凄腕さんに治療を頼んだのも本当
だからこそ俺は、俺をこんな目に合わせたあの男に対して、非常に深い憤りを感じている
( #´_ゝ`) 次は殺す
(´<_` ) 落ち着け兄者。あんだけボロクソにやられて言える台詞じゃないぞ
( #´_ゝ`) 奴の弱点は分かった! 今度会った時が奴の命日だ
(´<_` ) 弱点?
( #´_ゝ`) ああ、奴の姿を消す能力は、ぶん殴ると解除されるんだ!
(´<_` ) ほう?
( #´_ゝ`) 今回は気付くのが遅すぎた! クックルとの戦いのダメージもあった!
(´<_` ) だから?
( #´_ゝ`) 今度の標的は奴の下着だ!
(´<_` ) 落ち着け兄者
684
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 02:03:52 ID:jhGCqDm.0
弟者とそんな会話をしていると、俺の携帯に何者かから着信があった
この番号は確か、シタラバ系の組織だったか
( ´_ゝ`) もしもし?
『もしもし、流石兄弟の電話でおっけ?』
電話口から聞こえてきたのは、妙に気の抜けた女の声
シタラバ系はもう少しお固い雰囲気の組織だったはずなのだが
( ´_ゝ`) あい、確かに流石兄弟だけれども
『そりゃあよかった。私、この組織のお偉いさんの友達なんだけどね』
『ちょっとお願いしたいことがあってさ。お金は弾むから頼まれてくれない?』
(´<_` ) なんて言ってる?
( ´_ゝ`) 仕事の依頼だってさ。どうする?
(´<_` ) 任す
( ´_ゝ`) あい
『話はまとまった?』
( ´_ゝ`) とりあえず内容聞いて、面白そうならやってもいいかなって
『ああそう、それじゃあ標的について説明するよ』
685
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 02:05:28 ID:jhGCqDm.0
lw´‐ _‐ノv 『ちょっとある人間の"骨"をね、盗ってきてほしいなって感じなんですけど』
.
686
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 02:06:59 ID:jhGCqDm.0
番外編おしまいです
おまけのヒーロー図鑑も近いうちに投下します
687
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 02:10:02 ID:KYmlk3Gw0
乙!!!
次も期待して待ってます!!
688
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 04:25:42 ID:q9xAMv7U0
乙 相変わらず面白かった!戦闘シーンたまらん!
689
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 12:17:44 ID:sNVNZrAsO
乙乙
流石兄弟クソかっこいいわ……単なる小悪党だと思ってたのに
690
:
名も無きAAのようです
:2014/08/04(月) 15:04:03 ID:VZmjQZO20
クッソ久々に主人公(の名前だけ)出てきたな
一回初めから読み返すか乙
691
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 22:37:43 ID:nGO0tAhY0
おっつおっつ
692
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 23:06:27 ID:3aejSDtI0
乙!相変わらずバトルがお上手ですね
693
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 23:53:25 ID:kF8aU8hc0
おつ! イレギュラーな能力の組み合わせが楽しいわ
694
:
名も無きAAのようです
:2014/08/10(日) 00:42:57 ID:iE1K0tNM0
乙!!
来てたの気づかなかった
次は本編かな?
695
:
名も無きAAのようです
:2014/08/10(日) 01:01:06 ID:TQ80LSD.0
おー来てたか
待ってたぜ
696
:
名も無きAAのようです
:2014/08/10(日) 09:47:58 ID:1Kcccgjw0
そう言えば次は海回か
697
:
名も無きAAのようです
:2014/08/10(日) 21:03:00 ID:sPkxQ0VwC
最後の車は弟者が寝てる間に直したのか?
698
:
名も無きAAのようです
:2014/08/10(日) 23:39:21 ID:f8lDeuYg0
別の車乗って来たんじゃね?
699
:
名も無きAAのようです
:2014/08/11(月) 05:22:46 ID:tazwiQGs0
弟者が持ってきたか能力のかくし球みたいなのか
700
:
名も無きAAのようです
:2015/02/11(水) 04:47:48 ID:WY5kUnw.0
見たいよー
701
:
名も無きAAのようです
:2015/03/26(木) 02:25:02 ID:/PR502Rk0
面白いな
702
:
名も無きAAのようです
:2015/03/26(木) 22:27:16 ID:CEbakWbY0
正義ヒーローのパクリみたいなタイトルしてるから避けてたけどかなりおもろいわ
けどJと淫夢のネタはやめてくれ
703
:
名も無きAAのようです
:2015/03/29(日) 17:16:01 ID:bEgM1g160
ん?
704
:
◆v4gficNH0s
:2015/04/30(木) 23:48:28 ID:071gqlAQ0
週末辺りに多分投下できます
ちょっとだけです
ちょっとだけ
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板