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('A`)シャーロック・ドクオのようです

53x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:07:05 ID:ISNUiF1E0

(*゚ー゚)「アタシもちょっとその場に居てみたかったなー」

(;'A`)「何でだよ?」

(*゚ー゚)「財布でも頂戴しちゃおうかなって思って♪」

('A`)「信用ポイントもう一点減点。人のものを盗むな」

(;゚ー゚)「冗談、今のは冗談だよ!」

54x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:07:46 ID:ISNUiF1E0

三人は、『VIP駅東口』と大きく書かれたアーチの前に着いた。
駅ビルの屋上から垂れ流された英会話の広告が、風になびいている。
歩を緩めずに、地下へと続く階段を下りていく。

(><)「今回の収入と五百万円のボーナスで、僕の財布は豊作祈願なんです!!」

55x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:08:28 ID:ISNUiF1E0

('A`)「あのおっさんが死のうが生きようが、正直どうでもいいんだが、
   何だか胸が熱くなるような依頼だからな。今回は」

(*゚ー゚)「それ、爆弾発言だよ?」

('A`)「世の中が平和になるためには、下手な犯罪者よりも、
   ああいう人間こそ死んだ方がいいんだ。
   自らの力を自らに証明するために、他人の領域を踏み越える」

(;><)「意味不能なんです……」

56x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:09:09 ID:ISNUiF1E0

先に見える改札口の近くの壁際に、依頼人のご一行が屯していた。
皆スーツを身に纏って、混み合う駅の構内に溶け込んでいる。

『特急列車のりば』と書かれた矢印を進んでいくと、地上へ出る。

あまり名を聞かない私鉄が運営しているせいか、
改札は自動ではなく、駅員が立ってチケットを確認しているようだ。

('A`)「一応、ここから別々に行こう。三人で一緒にいると、何かと都合が悪い」

57x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:10:02 ID:ISNUiF1E0

間隔をあけて改札を通っていくと、列車がとまっている。

赤茶のレトロな外観に、大きな窓がついている。
電車というよりは、西洋の汽車の連想させるものだった。

突然、先頭をきって乗り込もうとした探偵助手が叫ぶ。

(><)「やぁっっほーぉぉおおう!!!!高級指定席なんです!!!!!」

58x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:10:42 ID:ISNUiF1E0

不必要にまで通る声が響く。
ガラス窓の向こうでシートにもたれかかる客の数人が、
『何処のどいつだ』と、彼の顔を睨み付けた。

喫煙所の後ろにいたドクオは、急に陽気な声を上げる。

('∀`)「あ、こんな所に!ナンパ待ちの美女集団があらわれたぞ!」

ワカンナイデスが、面白いようにピクッと動く。

(><)「え、え、え?」

59x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:11:22 ID:ISNUiF1E0

ドクオは死角に入った瞬間、ワカンナイデスの脇腹を小突く。物凄い形相だ。
そしてよろめいた彼の耳たぶを引っ張って、誰もいない喫煙所へと入り込む。

(;><)「……」

('A`)「ねぇ、探偵助手君。今日ここに何しに来たか確認しようじゃないか」

(><)「勿論分かってるんです!潜入なんです!
    平成のジェームズ・ボンドと言われる僕に任せておけば、
    潜入の一つや二つ、小指で片づけてやるんです!」

60x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:12:06 ID:ISNUiF1E0

('A`)「あのね。もし仮に君がジェームズ・ボンドだったら、
   高級車両に乗り込んだ瞬間、貧乏丸出しでね。
   『やっほう』とかね。叫ばないから。つーかね。
   潜入するのにはね、目立たない格好で、静かにしていなきゃいけないの。
   君のポケットにあるトランシーバーみたいなやつ、それ何なの?
   何で、額にグラサン乗っけてんの?探偵助手君」

(;><)「……」

('A`)「しかも客が何人か君を見てたじゃない。
   もしあの中にクロがいたら、どうしてくれるつもりだったの、探偵助手君」

(;><)「……」

61x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:12:56 ID:ISNUiF1E0

ドクオは溜息をつきながら、狂わされた頭の中のプランを再度確認する。
ここへ来るまでに、事前にしぃたちに連絡しておいた、今日の計画である。

三人は、この指定席を別々の名義で予約してある。
そして席は全てバラバラ。列車内に死角が生まれないようにするためだ。

到着までの約五時間の間、面識のない他人として振る舞う。
実質、これが最後の面と向かった打ち合わせになる。

('A`)「……ということだ」

62x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:13:40 ID:ISNUiF1E0

(*゚ー゚)「何かあったらどうやって伝えればいいの?」

('A`)「はいコレ」

彼の鞄から、一昔前の携帯ゲーム機のようなものが出てくる。
手渡されたしぃとワカンナイデスは、眉間に皺を寄せてそれを眺める。

(*゚ー゚)「……なにこれ?」

(;><)「ドクオさん。いくら長旅だからって、仕事中にゲームは駄目なんです」

(;'A`)「ちげえよ」

63x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:14:20 ID:ISNUiF1E0

(*゚ー゚)「……これ携帯?どこの会社なの?」

('A`)「惜しいな。個体通信機と呼んだ方がいい。暗号化された電波で、
   仲介なしに個体通信するから、万が一、傍受しようとする輩がいても阻止できる。
   今日のために用意してきたんだ」

(*゚ー゚)「へぇー。用意周到だね」

('A`)「念のためだよ」

(;><)「……ちっ」

ワカンナイデスは、ゲーム機だと期待していたのだろうか、
あからさまにがっかりした表情を浮かべ、舌打ちをした。

64x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:15:02 ID:ISNUiF1E0

ドクオは呆れながら、妙案を思いつく。

('A`)「ちなみにワカンナイデスのは、特別製になってる」

(><)「さすが名探偵ともあろう者は、人を見る目があるんです!
    僕の紛れようのない、類稀なる才能を評価して、
    どんな素晴らしい機能をつけてくれたっていうんです?」

('A`)「寝るとその機械が感知する」

(;><)「ぎゃあああああああ」

(*゚ー゚)「すごーい」

65x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:15:42 ID:ISNUiF1E0

(;><)「……でも、どうやってなんです!!?」

('A`)「人間は眠ると脈が変わる。その睡眠時特有の心拍を感知するんだ。
   そうするとメーターが出てきて、時間と共にゆっくりと下がっていく」

適当なことがポンポンと出てくるな、と自分で感心しながら話を続ける。
そしてワカンナイデスの顔色は、氷のような蒼白に変わっていく。

(;><)「め、メーターとは……?」

('A`)「給料メーターです」

(;><)「ぴぎゃぎゃああああああああああ」

66x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:16:24 ID:ISNUiF1E0

('A`)「いやー記録更新中だね。ついに××万の大台を切るね」

(;><)「鬼!!畜生!!変態的サディスト!!!!!」

('∀`)「最近出たじゃん。NEW SOKU社からタブレット型のPC。
    速いうえに軽いから、あれ高いけど欲しかったんだよね。
    丁度うちのジェームズ・ボンドの人件費削減できるから、買えるね」

(;><)「いやだああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!1」

('∀`)「寝なきゃいんだよ。寝なきゃ」

(;゚ー゚)「どういう事務所なの……」

67x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:17:06 ID:ISNUiF1E0

時刻は一時を回る。
出発まであと四十分強だ。

('A`)「勘が当たってるか、確認していいか?」

(><)「ほえ?」

(*゚ー゚)「え?」

('A`)「昨日、駅前の居酒屋で、深夜過ぎまで飲んでたろ?」

(;><)(ギクッ……)

(*゚ー゚)「アタシ?」

68x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:17:52 ID:ISNUiF1E0

('∀`)「ふははは、そこの彼だよ」

どうやら的中したようで、ワカンナイデスは額に汗を浮かべている。

(;><)「もしかしてドクオさん、僕をつけてたんです?
     まったくドクオさんも暇な人なんです……」

(;'A`)「ちげえよ。昨日帰る時、反対方向行ったろ。あっちは中心部だ」

事務所は二つの駅の間に位置する。
最寄りはQUALITY駅だが、反対側に街の中心部に向かう道を行くとVIP駅がある。
ワカンナイデスは、QUALITY駅を使っていた。

69x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:18:33 ID:ISNUiF1E0

(><)「成程なんですー。でもそれだけで、よく遅くまで飲んでたなんて分かるんです?」

('A`)「お前の体質と習慣から言えば、飲んだ日の翌日はトイレに入る回数が多い。
   今ここを離れてた時に、ちょっと気になって確かめたんだが、
   そのバッグは煙草やら、アルコールやら、炭やらの、居酒屋の匂いがついてる」

(;><)「ドクオさん、気持ち悪いんです……」

(*゚ー゚)「……w」

70x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:19:14 ID:ISNUiF1E0

(;><)「ひょっとしてドクオさん、僕のこと好きなんです?
     いくら心がアメリカの農園のように広い僕と言えど、
     男はストライクゾーンには入らないんですー」

(;'A`)「……」

定刻が近づいてきたので、三人は最終確認をする。
チケットとプリントアウトされた座席表を広げて、顔を覗き込む。

71x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:19:57 ID:ISNUiF1E0

 A_______      ________

 B_______      ________

依頼人
 C_______      ________

   ドクオ
 D_______      ________

 E_______      ________
 
               ワカンナイデス
 F_______      ________

 G_______      ________

 H_______      ________

 I_______      ________

                 しぃ
 J_______      ________

72x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:20:39 ID:ISNUiF1E0


AAズレてんじゃん……orz

73x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:21:24 ID:ISNUiF1E0

ドクオの席は左の列で、依頼人の真後ろ、D-1の席である。
依頼人と他の人間との接触を確認できる一番の席だ。

ワカンナイデスがドクオの指示で予約した席は、F-5。
右列の丁度真ん中辺りである。

そしてしぃは、右列のJ-6。

('A`)「依頼人には、極力トイレに行かないように言ってあるが、
   なにせ五時間の長旅だ。そこで見習いA!」

(;゚ー゚)「……アタシ?」

('A`)「そう」

(;゚ー゚)「むー。いじけるよ?ちゃんと名前があるんです!」

74x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:22:05 ID:ISNUiF1E0

('A`)「ま、いいや。とにかくその時は、素知らぬ顔でも近くまで同行してくれ。
   俺が前からついていくと、いかにも怪しいからな」

(*゚ー゚)「ラジャー」

('A`)「何かあった時は、この個体通信機で連絡して欲しいんだが、
   こいつは数字とカタカナしか送れない。
   あと名前表示機能とか無いから、文末に名前つけてくれ」

(><)(*゚ー゚)「Roger!」

三人は時間に間隔をあけて、列車へと乗り込んでいく。

75x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/18(火) 22:22:49 ID:ISNUiF1E0


今回のはやたら長いので、今日はここまでです!!
楽しみにしててください!!

76名も無きAAのようです:2011/10/18(火) 22:43:36 ID:ZMcADOHU0
きてたのかー乙です

77名も無きAAのようです:2011/10/19(水) 01:25:40 ID:uvssEff.C
引っ越して来たんだ

78名も無きAAのようです:2011/10/19(水) 13:27:54 ID:reh.rm3I0
こっちに来たのか


79x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:17:53 ID:WTSzutzI0

 = 名探偵 =

80x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:18:35 ID:WTSzutzI0

駅を発って暫くは、ぽつりぽつりと点在するビルの群れを送る、
単調な景色が続いていた。

しかし今、窓の外に広がっているのは水平線だ。

線路に沿った道路の上を走る車、そして脇に並ぶ民家の陰から、
広大な海が姿を覗かせている。

81x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:20:03 ID:WTSzutzI0

('A`)(丁度一時間経過、か)

ドクオは席に座ってから、暫くの間、辺りに曇りない集中力を張り巡らせていた。

その後、彼の必殺技の一つである紛失物作戦に出る。
何かを失くしてしまった様子で、中腰になってうろうろするのだ。

基本的にどんな状況であっても、不自然さなく場に居残ることができる。
尾行も、待ち伏せも、張り込みも。うまくいっちゃう万能技だ。

82x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:20:53 ID:WTSzutzI0

面白そうなことは見受けられず、これ以上探していても不自然なので、
十分ほど経過したところで『おかしいなあ』と小声でぼやきながら、席に戻った。

そして今、依頼人の真後ろの席に座って、肘を立てながら彼の後頭部を見ている。
時たま聞こえてくる高らかな笑い声を聞くと、緊張感はあるのだろうかと聞きたくなる。

「山田君。今日の予定は把握してるかね?」

('A`)「ばっちりです」

前から質問が来る。暗号である。YESならば異常はない。

83x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:21:36 ID:WTSzutzI0

答えながら取り出した通信機に、メールが二件来ていることが分かった。

『テストナンデス』

『リアジュウバクハツシロナンデス』

(;'A`)「なんじゃこりゃ……」

取り敢えず『ナマエカケッツーノ』と送り返す。

即、『ワカッタンデス』と返信が来る。

いや、分かってない。
まぁいいか、語尾で分かるから。

84x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:22:20 ID:WTSzutzI0

何の異常も、何の変哲も起こらない。
時間の緩やか経過に、思わず欠伸が出るのを許してしまう。

いつでも日常を忘れさせてくれる刺激的な依頼を期待しているドクオだったが、
引き受けた仕事はしっかりとこなそうという誠実さは、意外にもあった。

いつだかにワカンナイデスに語っていたことを思い出す。

('A`)「探偵は全知の神じゃない」

(><)「ふむふむ」

85x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:23:02 ID:WTSzutzI0

('A`)「そこら辺を歩いてる一般人となんら変わりない。特殊能力なんてないし、
   どれだけ頭を捻って人事を尽くしても、分からないことなんて山ほどある。
   それだっていうのに、いかにも専門家という風に、こうやって事務所を構えて、
   高そうな椅子に座って、偉そうにしている」

(;><)(椅子が高そうなのは、自分だけなんです……)

('A`)「どんな違いがそうさせてるんだ?探偵は一般人と何が違う?」

(><)「……分かんないです!」

86x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:23:51 ID:WTSzutzI0

('∀`)「はっはっはっは。それはな」

(;><)(テンションがキモくなってきたんです……)

('∀`)「……覚悟だよ。ホントはさ、人間やろうと思えば何でもできるんだ。
    敵対社の新製品を調べるのだって、偽造された戸籍を暴くのだって、
    あのヒトの隠れたプライベートを垣間見るのだって、
    有名人の車に盗聴器を仕掛けるのだって。
    本気でやりたければ、足を踏み出せばいい。それだけだ。でもやらない」

(><)「おーなるほど、なんです!」

ワカンナイデスは理解できたようで、キラキラ両目を輝かせる。

87x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:24:40 ID:WTSzutzI0

('A`)「慣れないことをやる手間と伴う緊張感を、合わせて天秤にかけると、
   大金払ってまでも、専門家気取りに頼む方に傾いてしまうらしい。
   実際やってみたら、こんなにスリリングな知的ゲームはないっていうのに」

('∀`)「ま、とにかく、探偵と素人の差なんて薄皮一枚だ。ワンインチディープ。
    だからこそ、俺らは腹くくったら口は閉じて、目的の遂行だけを無心で考えていればいい。
    それこそが肝に銘じておくべき探偵の精神であって、揺るぎない本質なのさ!
    テクニックやノウハウはただの飾り。そういうものは自ずとついてくる」

(;><)「……」

眉をひそめて、難しい顔をしている。

88x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:25:21 ID:WTSzutzI0

ワカンナイデスは、漢字や横文字の量がキャパシティを超えると、
途端に理解不能になるという特技があった。

('A`)「分かってないだろ?」

(;><)「いやいやなんですー。そんなわけないんですー。勿論分かったんですー」

('A`)「何を?」

(;><)「……」

(;><)「……つまりドクオさんは、まんじゅうが好きなんです」

(;'A`)「……」

89x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:26:04 ID:WTSzutzI0

ドクオは再び意識を車内へと戻す。
人に忠告しておきながら自分がその教訓を忘れてはならないな。
そう言い聞かせて、両目を開く。

通信機には、再びメールが来ていた。
『イジョウナシ。シィ』と書かれている。

『イジョウナイナラ、マギラワシイカラオクルナ』と返す。

すると数分後、『ヒマダッタンダモン。ハイモウシマセン。シィ』と返ってくる。

90x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:26:45 ID:WTSzutzI0

やはり退屈なのだろう。
いるかどうか確信の持てない暗殺者を探して、
半日近く注意力を注ぐというのは、中々精神的に辛い作業なはずだ。

しぃはともかく、ワカンナイデスは今頃きっと、


(****>****<****)


こんな顔して迫りくる睡魔と戦っていることだろう。

91x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:27:27 ID:WTSzutzI0

余計なことが次々と浮かんでくるので、雑念を振り払って前を見る。
ここでみすみすと依頼人を殺させてしまったら、プライドが許さない。

外を見れば、窓ガラスに小さな水滴が付着し始めていた。
列車が走っているため、斜めに直線を作っている。

92x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:28:13 ID:WTSzutzI0

雨だ。

先ほどまでじんわりと陽光を漏らしていた曇り空は、
北西から流れ込んだ積乱雲を迎え入れ、薄黒くなっている。

ドクオは、体感しているわけではなかったが、
窓ガラスにもわもわと風が押し寄せているのが分かった。

93x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:29:05 ID:WTSzutzI0

通信機には、再びメールが届いた。
読みづらいカタカナの文末に、シィと書かれている。

もう送らないと言ったではないか。いや、違う。
これは何かおかしいことが起こったから送ったのだ。

ドクオは冷静に、しかし貪るようにカタカナの配列を睨み付ける。

94x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:29:49 ID:WTSzutzI0

 = 女泥棒 =

95x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:30:31 ID:WTSzutzI0

(*゚ー゚)(ワクワク……)

列車が動き出して、二十分が経過した。

(*゚ー゚)(ワクワク枠……)

しぃは俗に言う、wktkを抑えられずにいた。

96x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:31:15 ID:WTSzutzI0

(*゚ー゚)(こういう捜査官みたいなの、経験してみたかったんだよね……)

しぃは興奮のあまり足を弾ませてしまう。
隣に座っていた眼鏡のおじさんが、驚いた顔を作ったので、
ごめんなさい、という風にしゅんとする。

いくら泥棒で生計を立てていると言えども、危険な組織に身を置いていると言えども、
ワクワクするものは、ワクワクするものだ。しょうがない。

97x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:32:00 ID:WTSzutzI0

途中まで通っていた小学校時代、遠足で近くの山に行った時も、スキップしてしまったし、
時速500km/hで走るリニアモーターカーを見た時も、興奮で眼が冴えた。
初めてまとまった大金を盗んだ時も、言いようのない達成感で高揚した。

自分が泥棒だと打ち明けた人たちは、珍しそうに眉をひそめるか、
心配そうな顔を作るか、軽蔑の目を向けてきたりする。

98x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:32:43 ID:WTSzutzI0

でもそういう時に私は言いたい。
泥棒だって人間なんです、と。

人並みに笑えば、人並みに泣きたい夜もある。
人並みにくだらないことで、ワクワクする。

モノは盗むけどね。

いくら泥棒だって、そのくらいの感情の自由はくれたっていいじゃない。

しぃはいつでもそう思う。

99x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:33:27 ID:WTSzutzI0

(*゚ー゚)「……」

昔、ある一人の親友がこう言っていた。

『世の中には、"普通の人なら平気"とかって言われたとき、安心するタイプと、
 "普通じゃない人はどうしたらいいのよ?"って反論したくなるタイプがいるんだと思う。
 それで多分、しぃちゃんはその反論したくなるほう』

当たり前の話ではあるが、しぃは心の中のどこかで、
自分は周りとは違って、異端な人間なのだと思っている節があった。
泥棒なんてきっと皆そんなものだ。
同業者の事情など知らなかったが、しぃはそう考えていた。

100x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:34:12 ID:WTSzutzI0

しかし何はなくとも、友達には恵まれた。
ウワベだけの利益に捕らわれないで、
話し合える友達がいるっていうのは、泥棒のわたしにはぜいたくだ。
十分すぎるくらい。

心の中のもう一人の私が、普通の人が味わうような幸せは、
どこか自分とは遠くにあるものだと、漠然と感じている。

だからこそ、こうやって日常にささいな喜びを感じると、嬉しくなるのかもしれない。
暗殺者を探して列車に張り込むのを日常とは言わないか、と冷静になって苦笑する。

101x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:34:56 ID:WTSzutzI0

(*゚ー゚)「目が疲れた……」

窓の向こうに広がるのは、山の急斜面。
近くで飛び込んでは消えていく木々を見ていたら、目がクラクラしてくる。
反対側の座席からは海が見えたので、向こう側だったら良かったと羨望する。

前に視線を向ければ、大先輩ワカンナイデスの後頭部が目に入る。

102x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:35:38 ID:WTSzutzI0

(*゚ー゚)「w」

しぃは鼻から、しゅ、と息を漏らしながら笑ってしまう。
あの後頭部が無性に笑えてくるのだ。理由は分からなかったが。

(*゚ー゚)(……後頭部だけで、あんなに面白い人はいないよw)

例の後頭部は、コクリコクリと一定間隔で下へとおちてゆく。
いや、徐々に加速していた。

時たま目覚めては、自分の頭を叩いて、眠気を覚まそうとする。
しかし数秒すれば、また頭を揺らしだす。

しぃはまた笑う。

103x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:36:22 ID:WTSzutzI0

きっと睡眠と減給阻止との間で、究極の板挟みを味わっているのだろう。
どんな気持ちかは分からないが、同情する。

(*゚ー゚)(……でも)

半ば強引に事務所で働かせてもらうことにしたが、二人には感謝していた。
そのお陰で、ここ最近はなんだかとても落ち着く。

新しい環境で刺激的だけれど、落ち着くのだ。

104x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:37:05 ID:WTSzutzI0

大先輩は『可愛いねぇ、可愛いねぇ』としつこいし、
ドクオ君は相変わらず、名前すら覚えずにつんつんしてるけど。

あの二人の側にいると、何故だか凄く笑えるし、
なんだかんだ言いながらも信頼し合っている彼らは、見ていて安らぐ
あの事務所を標的にした泥棒だというのに、
普通の人間として接してくれるのが、なんだか不思議だ。

信用してくれるかは知らないが、これから利用してやろうとか、
何かまた盗もうなんて気持ちは更々無い。

いや、あの二人を見るとイタズラしたくなるから、盗まないなんて誓えないか。
心でそうぼやいて、口元が緩む。

105x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:37:51 ID:WTSzutzI0

(*゚ー゚)「……ふぅ」

しぃは足を伸ばして、天井を見つめ息を吐く。

(*゚ー゚)(でも、潜入って意外とヒマー)

個体通信機のことを思い出した。
テストも兼ねて、前の車両にいるドクオにメールを送ることにする。

106x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:39:12 ID:WTSzutzI0

完全に夢の世界へと旅立ったらしい、大先輩ワカンナイデス。
その座席をぼんやりと眺めていると、返信が返ってくる。

『イジョウナイナラ、マギラワシイカラオクルナ』

(*゚ー゚)「ぶーだ」

口を尖らせて、『ヒマダッタンダモン。ハイモウシマセン。シィ』と返した。

「切符を確認しまーす」

顔を上げれば、車掌が客に声をかけて回っていた。

107x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:40:01 ID:WTSzutzI0

やがて、しぃの所にも予約チケットの確認にやってくる。
用意しておいたチケットを渡したその時。

何か、した。

渡したチケットの裏に、何かを素早く書いた。

108x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:41:01 ID:WTSzutzI0

初老ほどの年齢と思える。
割としっかりした体格に、白髪混じりの頭。
感じの良い目元をした男だ。

渡された紙には、『手を貸せ。一人で来い』と書かれていた。

一瞬で鼓動が高鳴る。血液が一気に心臓へと流れ込んだのだ。
きっと動脈が逆流して、心臓へと押し寄せている。
『動脈は逆流しないよ』と医者に言われようと、これは多分、している。

乱暴な言葉と男の優しい目元とが不釣り合いで、不気味に映る。
そうして彼は、何事もなかったかのようにこの車両を出ていった。

109x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:41:49 ID:WTSzutzI0

(*゚ー゚)(……!)

後ろ姿を目で追うと、うなじの所にアザがあった。
薄青い斑点。あのアザに見覚えがあった。

あぁそういうことか、と分かってしまう。

二人には申し訳ないが、私はここで戦線離脱。
ごめんなさい、と前を見る。

110x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:42:35 ID:WTSzutzI0

自分の座席のある車両を抜け、進行方向を逆行する。
車掌は『STAFF ONLY』の扉をくぐって、見えなくなった。

打ち終えたメールを、ドクオに送信しながら通路を進んでいく。

『ダイセンパイガ、ネテル』

111x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:43:53 ID:WTSzutzI0

 = 平成のジェームズ・ボンド =

112x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:45:04 ID:WTSzutzI0


(****>****<****)「……」


ワカンナイデスは、幽体離脱したように項垂れていた。

113x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:46:50 ID:WTSzutzI0

(****>****<****)「……これ以上に給料を下げるなんて。あのサディスティック探偵め……」

その言葉には、活力がない。
怒りで燃えているはずなのだが、そのガソリンがない。

(****>****<****)「……な……ん………で…………す……………」

それもそのはず。
何を隠そう、ワカンナイデスは眠いのだ。

114x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:50:24 ID:WTSzutzI0

ドクオに深夜まで飲んでいた、と推理された時は言わなかった。
本当は明け方近くまで飲んでいたのだ。
遅刻しなかったのが奇跡だ。褒めてほしいくらいだ。

しかし眠ってしまえば、待っているのは減給の刑。

そう、それは究極の板挟み状態である。

115x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:51:09 ID:WTSzutzI0

掌に包まれている通信機が、死ぬほど憎らしかった。
この小さな機械が放つ威圧感は、一体なんなのだろうか。
ワカンナイデスにとってそれは今や、地獄の監視員に等しい存在だった。

片や、忍び寄る睡魔も、刻一刻とワカンナイデスの意識を蝕んでいっている。

言わば彼は今、睡魔と地獄の監視員に挟まれて、ダブルパンチを受けているのだ。
それはツライに決まっている。しょうがない。

(><)「……パトラッシュ。僕はもう疲れたよ……」

116x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:51:57 ID:WTSzutzI0

睡魔はワカンナイデスに、絶え間のない甘い誘惑をかける。
『もう何もかも投げ出して、楽になっちまえよ』と。

わずかに残された意識さえ遮断してしまいたい。もう楽になりたい。

(><)「……なんだかとても……眠いんだ……」

薄れゆく意識の中で、ワカンナイデスは分かった気がしてしまった。
少年は何故あのとき、寝てはいけないと知っていながら、全てを受け入れ死んでいったのか。

117x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:54:00 ID:WTSzutzI0

ワカンナイデスは分かってしまった。

人間は極限の状態に置かれると、本能が理性に勝ってしまうのだ。
『理性こそ人間の崇高たる所以』と豪語した哲学者たちは、
この悲しき定めを知って、どんな弁解を並べられるだろうか。

(><)「僕の……人生に……悔いは……ないん……で……す…………」

もう思考することさえも、疲れてきてしまう。
もういい。もう安らかな世界へと身を委ねてしまえばいいのだ。

118x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:54:45 ID:WTSzutzI0

少年はあの時、きっと……。

そうして最後の意識の灯は、優しい風が吹き抜けるように、そっと消えた。


(><)...zzz グースピー、グースピー、グースピー

119x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:55:32 ID:WTSzutzI0

どのくらいの時間が経っただろうか。

ふいに誰かがワカンナイデスの左小指の上を、思いっきり踏んだ。

(;><)「むにゃむにゃふんぎゃあああああああああああああ」

(男)「うぇーい。誰かの足踏んじゃった。ワラ」

(女)「ウチら、マヂツイてないねェ。トシくん」

120x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:56:14 ID:WTSzutzI0

(#><)「貴様らあああああああああああああああああああああ」

(男)「あ、もしかして怒ってる?ガチでさげぽよー(下矢印)。
   ゴメンってば、おじさんー」

(女)「テカここウチらの席じゃないし(爆)」

(男)「チョーウケるwワラワラ」

((#><))「ウゼェェえええええええええええええええええええ」

121x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:56:55 ID:WTSzutzI0

(女)「早く戻ってェ、スピリチュアル相性診断の続きやろぉよー(キラキラハート)」

(男)「うぇーい」

((#><))「うううぐぐぐあああああああああああああああああ」

(男)「うぇ、うぇ、うぇーい(RAP調)」

(女)「スィーツ(笑)食べたい」

122x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:57:38 ID:WTSzutzI0

大学生らしき、リア充アンドビッチのやりとりに、
この世のものとは思えない、煮えたぎる怒りを露わにする探偵助手。

悪い意味で、眠気が吹き飛んだ。

((#><))「ふんがあああああああああああああああああああああ」

ふと我に返り、先程の僅かな眠りを通信機が感知してしまったのではないかと不安になる。
いても立ってもいられない。

123x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:58:20 ID:WTSzutzI0

(;><)「むむむむむむむ」

取り出した機械と睨めっこを始める。
天才探偵助手の自分ならば、こんな機械チョチョイのチョイだと、言い聞かせた。
小指で改造できるに違いない。

(;><)「……」

溜息をついて、うなだれる。

(;><)「……無理なんです」

124x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:59:04 ID:WTSzutzI0

ワカンナイデスの頭の上で、閃きマークが出る。
今の睡眠は機械の勘違いだったと、ドクオにすぐにメールで知らせればいい。
今すぐ送れば、まだきっと大丈夫だ。
そう。こういうとき小悪党は機転が利くのだ。

(;><)「ぜ、善は急げなんです!」

善ではない。

『テストナンデス』と送った。

125x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 17:59:44 ID:WTSzutzI0

返信を待つ間に、憤怒が再び込み上げてくる。
奴らの顔を思いだすだけで、ワカンナイデスの体はプルプルする。

頭上に湯気が立ち上っている。
怒りで湯気が出るなんて、手抜きで作ったアニメか、
と突っ込まれるかもしれないが、これは多分出ている。

『ナマエカケッツーノ』と来たが、ワカンナイデスはそれどころではない。
もう適当に返信する。

126x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 18:00:26 ID:WTSzutzI0

リア充たちのせいで、怒りが爆発なのだ。

いや本来爆発すべきなのは、ワカンナイデスではなくリア充である。

中東に落ちたミサイルも、どっかの原子力発電所も爆発するが、
本当に爆発すべきなのは、そういうのではなくてリア充なのだ。

127x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 18:01:09 ID:WTSzutzI0

ワカンナイデスは、そう考えると更に爆発する。
もう収拾しようがない。できない。

((#><))「……」

何が言いたいかというと、とにかく大爆発なのである。

((#><))「ふんぬぬぬふんがああああああああああああああああ!!!」

128x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 18:01:49 ID:WTSzutzI0














飯食ってきます

129x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:25:23 ID:9zW2AHTQ0

 = 名探偵 =

130x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:26:13 ID:9zW2AHTQ0

雨粒がぽつぽつと、ガラス窓を叩きつけ始めたと思ったら、
何十分と経たないうちに、もうざあざあ降りである。

本当なら夕暮れという時間だろうが、薄黒い雲が陰鬱な影を落とし、
この地球の、この日本の上に、いつもより早く夜を迎え入れようとしている。

閃光が窓を走って、遅れて轟音が轟く。
後ろのほうで、女性の小さな悲鳴が上がったのが聞こえた。

131x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:27:03 ID:9zW2AHTQ0

予想よりもずっと早い。
天気予報は、台風の到着は深夜だと言っていた。

『ダイセンパイガネテル。シィ』の言う通り、ワカンナイデスは確かに寝ていた。
今日くらい給料泥棒させたくなかったが、まぁ寝かせてやるかと諦めていた。

「お客様、少々お時間宜しいでしょうか?」

('A`)「ん?」

突然、右から声がする。
乗組員がドクオに向かって、ボソボソと小さな声で話しかけていたのだ。

132x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:27:50 ID:9zW2AHTQ0

('A`)「何でしょう?」

ここでは話せないようなことなのだろうか。
躊躇うような素振りを見せた後、顔を近づけ、息混じりの声で続ける。

「ついてきて頂きたいのです」

('A`)「……」

133x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:28:49 ID:9zW2AHTQ0

ドクオは警戒しながら、彼の顔を凝視する。

働き盛りの年であろう、短髪で中背の男だ。
面白いほどこれといった特徴がない。

そして覚悟を決める。

('A`)「……分かりました」

134x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:29:44 ID:9zW2AHTQ0

早足で進む彼の背中に、気持ち悪いほど目を凝らす。
指定席車両の終わりの、『STAFF ONLY』と書かれた扉に案内される。

「こちらです」

男は、そのドアの横に立ち止まる。

('A`)「この中で話す、ということですか?」

「はい」

135x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:30:25 ID:9zW2AHTQ0

嗅ぎまわっていることがバレたのだろうか。
可能性が無くはない。

もしこの男を操っているのが犯人だとしたら、
乗組員にまで手を回しているということになる。

ノブに手をかけながら、思う。

こちらも準備はできている。
どちらが一枚上をかいているか、確かめようじゃないか。

136x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:31:15 ID:9zW2AHTQ0

ドアを引く。

暴力的なのはナシにして欲しい。
基本的に、身体能力を要求する場面で勝ち目はない。

('A`)(……)

聞いて驚け。俺はヒョロヒョロだ。
探偵に勝ちたいなら、頭脳で勝てよ。
弱点をつくなんて卑怯だ。

137x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:31:55 ID:9zW2AHTQ0

ドアを閉じると、案内した男がドアの前に立つ。
なぜそこに立つ必要があるのか。

狭い部屋の中には、体格の良い大男が一人。
水泳型の筋肉のつき方だ。
球技や格闘技では、ああいう特徴は出ない。

138x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:32:45 ID:9zW2AHTQ0

(大男)「シャーロック・ドクオ様……ですね?」

('A`)「依頼なら事務所で受け付けてるんですがね。
   次回からは、ちゃんと出向いてもらわないと困りますよ。お客さん」

冗談で強がってみる。しかし本当は、警戒で固まっている。
つかみかかられれば、恐らく勝ち目はない。俺の負けだ。

(大男)「……」

沈黙したまま、大男はこちらへと近づく。

(;'A`)ゴクリ

139x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:33:57 ID:9zW2AHTQ0

(大男)「あのおおおおおおおおおおオーーーーーーーーーーー!
   助けて下さあああああああああああいいいーーーー(泣)」

(;'∀`)「……はい?」

(大男)「あなた様の噂は常々聞いておりますうううううううウウ!!!!
   ギネスブックに残るのではないかと囁かれる、大名探偵だとかア!!
   お日様の下にシャーロック・ドクオの知らないことはないらしい!!!」

(;'A`)「それは確実に、言い過ぎだな」

140x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:34:45 ID:9zW2AHTQ0

(大男)「まさかこんなヒョロい奴だと思わなかったけど(小声)、
   こんな心強いお方がいらっしゃったなんて!!!サンクゴッド!!!」

(;'A`)「おい、今なんか余計なこと言わなかったか?」

(大男)「私はもうここに勤めて十年以上が経ちますーーーーーウ!!
   今までこんなに不可思議で不安なことは、今まで一度もなかった!!
   苦しいときも、悲しいときも!!
   ……あ、キャサリンにフラれたときは、もっとやばかったかも……。
   ……あ、慰安旅行でズボン下されて、ムービー撮られたときも結構……」

('A`)「聞いてない。そんなこと聞いてない」

141x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:35:36 ID:9zW2AHTQ0

説明が、あまりにも支離滅裂だった。
キリがなさそうだったので、最後に『もうヤダー』と叫んだと同時に、
ドクオはぴしゃりと言った。

('A`)「契約書にサインを。それから依頼料は口座振り込みです」

その後ドクオは、動悸がしそうな男をなだめながら、質問を続けた。

142x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:36:32 ID:9zW2AHTQ0

(大男)「昨日からずっと……おかしいのです。この鉄道。列車というか、駅というか。」

('A`)「ほう。一体どういう風に?」

(大男)「私は、説明が下手なので許してくださいいいいいいいいイ(汗)」

(;'A`)「おkおk」

143x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:37:16 ID:9zW2AHTQ0

(大男)「さっきのチケット確認で、146人の客……あ、客って言っちゃった!
   146人のお客様が乗っていることが分かりました。
   しかし今朝は、150人のお客様のチケットを確認して、入場させているのです」

('A`)「ほう……」

(大男)「えっと結局、何が言いたいのかったんだっけ……。
   そう!4人、お客様が消えてしまったのです!」

('A`)「出発までに出ていったんじゃないんですか?」

144x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:37:59 ID:9zW2AHTQ0

(大男)「従業員はずっと配置についていましたけど、そういうお客様はいませんでした。
   誰も入った列車から出てこなかったんですよー!」

('A`)「なるほど。トイレなどで席を離れている可能性は?」

(大男)「さっき事情で全部屋を確認したんですけど、やっぱり誰も……」

('A`)「……座席で判別できないのですか?」

(大男)「席を交換したり、開いている席へ移動するお客様が多いんでー……。
   もうカオスです!!混沌です!!」

145x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:38:46 ID:9zW2AHTQ0

('A`)「……そんで、他には?」

(大男)「あ、そうだ。終わりじゃなかった!乗組員の間でおかしいことがあったんです!
   さっきまでチケットを手分けして確認していたら、ある場所のへんだけ、
   なんと……!!!!!!」

(;'A`)「おい、喋り方に無駄な演出多いな」

(大男)「存在するはずのない乗組員が、チケットを確認しているのですううう!!!!!」

('A`)「ふむ。どうしてそうお考えに?」

146x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:39:27 ID:9zW2AHTQ0

(大男)「私たちは、みんな自分の担当の場所をわかってます、勿論。
   それである座席群の担当が、急にトイレに行きたくなっちゃったらしいんです!」

('A`)「ふむふむ。おしっこはしょうがないな。
   どんなときにも、どんなものにも、尿意は優先する」

(大男)「……!?」

ドクオが意味不明な言動を始め、大男は固まってしまった。

147x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:40:08 ID:9zW2AHTQ0

(大男)「……で、チケット確認に戻ってきたら、お客様がもう確認されたと言うんです!!
   あ、途中だったんですよ!トイレに行く前は、チケット確認途中だったんです!!」

ドクオは目の前の大男が、心なしか助手のワカンナイデスに見えてきた。
見た目は全然違うというのに。口調のマジックは不思議である。

(大男)「それで担当たちが集まって、誰がその辺りをやったのかと聞いても、
   みんな誰もやっていないと言ったんです!
   お客様にどういう人だったかと聞くと、白髪の生えた初老の男らしくて……。
   そんな人、乗ってないはずなのおおおお!!マイガッああああーーーーーー!」

148x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:41:17 ID:9zW2AHTQ0

('A`)「犯人が分かりました。それは幽霊ですね。確実です」

(大男)「ひいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!
   そんなあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!
   まだ死にたくないいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!
   私には、マイスウィートホームで帰りを待っている、
   愛しのマイスウィートハニーがいるのにいい!!!!!!!!!!!!」

('A`)「……嘘です」

(大男)「なんだーーーー(涙)」

149x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:42:06 ID:9zW2AHTQ0

一生懸命話す彼に、助手のワカンナイデスを重ねてしまうドクオは、
なんだか無性に悪戯をしたくなる。

大男的には、ドクオが無表情すぎて、本気なのか冗談なのか全然分からない。

('A`)「どの辺りの席ですか?」

(大男)「前から二番目の車両の後ろのほうです」

('A`)(しぃがいる辺りか……)

150x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:42:56 ID:9zW2AHTQ0

('A`)「確かにそれはおかしい。勘違いじゃないとすれば、何かが起きてるみたいだな。
   客が口裏合わせてる可能性は?」

(大男)「多分、ないと思うんですー。だって団体じゃないですしー」

('A`)「それで最後ですか?」

(大男)「いえ!!!!!!!!!たった今!!!!!!!!!!!!!」

(;'A`)「……」

声がデカかった。
狭い部屋に叫び声が木霊した。
男は申し訳なさそうに、もう一度小さい声で言う。

151x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:43:40 ID:9zW2AHTQ0

(大男)「たった今……、関係者以外入れないボイラー室で、仲間が誰かに殴られました。
   もう、怖いいいいいいいいいいいい!!!
   それでさっき元気になって、ボイラー室で人影を見たと言ったんです。
   私たちが、足をプルプルさせながら探しても、ないんですよそんな人陰!!」

('A`)「それで全ての部屋を散策したと言ったんですね?本当に残らず全てですか?」

(大男)「はいー!!!!ボイラー室も、トイレも、シャワールームも、
   電力室も、運転室も、残らず全部ですーーーー!!!」

('A`)「ふむ」

ドクオはまた、思考の世界へと潜っていく。

152x ◆3C8zs.ICS6:2011/10/19(水) 19:44:21 ID:9zW2AHTQ0

やはり怪しい人間が現れたのだ。

これはあの政治家の暗殺を企む者たちと、同一と考えていいだろうか。
手掛かりが他にない以上、そう仮定しておくべきだ。

だとしたら一番大事なのは、政治家をあの席から離さないことだ。


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