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ホテル・サイドニアのようです

1名も無きAAのようです:2011/09/12(月) 23:43:56 ID:v7OA74xM0
お邪魔しまーす

272 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 15:20:46 ID:qtzFmzVM0


( ´_ゝ`)『なぁーに、シアトルのときと同じさ。連中が気に食わねえから
       事務所壊してやる。そんだけ。俺らにしてみりゃ日常茶飯事の喧嘩だ』

そこで鉄砲玉の一人が『それにアーガスなんてチンケなもんです。バック
なんてありゃしねぇ。ボンブもスニッフ(手榴弾)もいりませんや』

( ´_ゝ`)『ま、そんなとこらしいな。さてさて、準備はいいか?
       今までのナメてくれた分を熨斗つけて返してやろうや』


・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・

(´<_` )『くそ、こりゃ時間のロスだ。兄者の野郎、なにを……』

部下の運転するセダンの後部座席で、弟者は苦々しげに愚痴た。
今日は兄弟の盃を交わす大事な日なのだ。時間など幾らあっても
足りないほどに切迫していた。


『やはり今日の予定を言っておくべきだったのでは?』

(´<_` )『いや、どうせ初顔合せなんて兄者は嫌な顔するだけさ。
       それなら当日に知らせた方がいいなって、わざわざ今日は
       偵察チーム自体をオフにしてやったっつうのに……』

273 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 15:23:46 ID:qtzFmzVM0


『はぁ、なるほど。でしたら彼ら旅行にでもいってるんじゃないんですか?』

(´<_` )『旅行ねぇ。兄者にそんな一般的な趣味は無かろうよ。
       ……嫌な予感がする。念のためにアーガスの方に連絡入れる
       算段はとっていてくれ。あっちの事務所に顔出すつもりはないんだが』

『かしこまりました』

弟者は窓に目を向けながら、そのどこまでも広がる赤い荒野を見やりながら、

(´<_` )『なにせアーガス組との盃交わしだ。武器密輸の
       エキスパートなんて火薬樽みてぇな連中だよ。ハハハ、
       石橋を壊すほどに叩かねえと今日はやっていけねぇ……』


・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・

兄者はフラットを改築したようなその事務所の前に立っている。
手には一丁のリボルバーのみ。そして的確に一発ずつフラットの
覗き穴に弾を打ち込んでいく。狂気じみたその行動に周囲のアトモスフィア
が沸騰し、怒号や悲鳴がフラット内外から飛び交いはじめる。

( ´_ゝ`)『出てこいやアーガスよォ!! ちょいと殺し合いしようや!!
       それとも出来ねぇか? 生き血すする蛭にゃぁよオッ!!?』

274 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 15:28:54 ID:qtzFmzVM0


( ´_ゝ`)『おおっと』

その間際、フラットの奥側から銃弾が兄者の右耳先を掠めた。
慌てて兄者は傍の樹に身を隠し、煉瓦にめり込んだその銃弾
と威力から銃種を測定した。資源の乏しい火星にとって
そうとう高価な銃であることは容易に予測できた。兄者は
そのとき、脳裏によぎる何か得体の知れない闇を感じたが、
彼は同じく興奮している鉄砲玉の連中に、

( ´_ゝ`)『驚いた。あいつら、存外にも隠し玉を持ってたらしいな』

( ´_ゝ`)『しかし構わねえ。鉛玉もスチーム弾も全部頂いちゃうとしよう』

リロードを手早く済ませると、最後の掛け声として、

( ´_ゝ`)『いくぞ野郎ども! たまった鬱憤だ、滅茶苦茶にしてやろうぜ!!
       ヒールにゃ戦利品の土産話もうんと豪勢にしちまおう!!』


兄者を先頭にし、流石ファミリーは法律の意味もない
アーガス組フラットの敷地内に、血と勝利とを求めて入っていった。……


・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
・・ ・・・・・・
・・ ・・・・・・・

275 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 15:34:03 ID:qtzFmzVM0
.







 ―――― ―――――――


  ――――――― ――――


   ――――――― ――――

 
    ――――――― ――――



                      .

276 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 15:37:55 ID:qtzFmzVM0

――嫌な予感がする。たかが電話の不通から始まった弟者の
危機感は皮肉にも、これ以上ない最悪の形で実現してしまった。

偵察チームがいつか暴発する。能がない分、ネクタイ締めて
九時五時なんて生活じみた真似は出来ようもないし、その上ストレス
の発散といえば暴力の道以外は知らない連中だ。弟者は事あるごとに、
そう、兄者から抗議を受ける度に、腹心の部下に冷笑を交えて説明した。

だからこそ、近いうちに――アーガスとの契を結んだ後に
ジョルジュ率いる本部の指示する抗争に参加させるつもりであった。
ほんの少し、あと二日三日の猶予があれば解消される問題の筈だった。

弟者にとっては。


偵察チームの、この今朝からのシュプレヒコールめいた
背信は、ヒールの重体からの焦燥感に駆り立てられた部分も大きかったが、
弟者には関係のないこと。


ただ残された事実は、兄と弟との思想の違いは決定的であったこと。
煩悩な後処理と謝罪の連続。そして内部分裂を完全に把握できなかった、
弟者の管理の不手際であろう。

そしてそれにより、プライドをへし折られた弟者の屈辱と怒りとだった。

277 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 15:39:32 ID:qtzFmzVM0


(´<_` )『……何か言いたいことがあるんだろう? だから、
       こんなことをやっちまった。そうなのだろう?
       だがな、黙っておけよ。でなきゃ俺はまた手を上げそうだ』


( ´_ゝ`)『………』


兄弟以外は出払った――というより、もう今は誰もいない
偵察チームの事務所で、弟者は淡々と怒りを言葉と張り手でぶつけていた。


(´<_` )『知らなかった、で済まされない問題なんだよ。
       お前だって分かるだろうが? その安っぽい脳味噌でも
       その程度はよ。お前を慕ってきた人間はどうなった?
       ああ、さえずるんじゃねえぞ? お前の発言は虫唾が走らぁ』

偵察チームの生き残りだった者たち――事務所に運ばれたが結局は
血と土塗れのまま、回復することなく死んでいった鉄砲玉達が
事務所の隅に積み上がっている。いずれは異臭を撒き散らしながら
火星の乾いた強風に吹かれ、土壌に養分を与えていくのであろう。

278 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 15:44:17 ID:qtzFmzVM0

( ´_ゝ`)『………』

無論のこと、知らなかった、でアーガス組が異様なほど武器を
所有していた致命的な現実を揉み消すことなど出来ようもない。

それに加えて兄者以外の面々が手榴弾で吹き飛ばされ、
精密ライフルで的確に眉間を打ち抜かれ、次々に命を落としていったことも。

神経毒の応用ガスで仲間の数人が発狂し、見境いなくナイフを
振り回したあの狂気の光景を、兄者はいつまでも鮮明に覚えていることだろう。

止めるために四肢を撃ち抜いたのに、それでも足掻いて
ゾンビじみた殺人を遂行しようとする、あの鉄砲玉たちを。

普段は熱っぽく兄者を慕ってきたシーンが、口に泡を垂らして
血の涙を流し狂い無様に倒れる様子は、さながら地獄の一番地のようだった。


奇跡としか言い様がないのは、兄者一人だけが軽い損傷で済み、
さらにアーガス組の人間を全て殲滅できたことであろう。これによって
弟者も助かった部分が多々あったが、それよりも、そもそもこんな抗争
さえ無ければ、という憤怒の方がとうぜん凄まじかった。


( ´_ゝ`)『………』

279 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 15:47:48 ID:qtzFmzVM0


そう。偵察チームとアーガス組は共倒れになった。
唯一生き残ったのは兄者であった。主導者の兄者だけが生延びてしまった。


(´<_` )『流れ星のように消えていく……か。お前が
       昔っから言ってた戯言だが、これで判ったろう。
       そんな殊勝な考えは思い違いも甚だしいものなんだってな。

       ほんと笑えてくるぜ。能もねーロマンチストがよ。
       しかもこんな奴が実の兄だったなんて……』

( ´_ゝ`)『それは……ほんとうに……』

(´<_` )『喋るなっつったろうが』

兄者の言い訳をぴしゃりと跳ね除けると、弟者は項垂れている実の兄に、

(´<_` )『愚か者の行動は常に愚かなものだな。えっ? そうだろ?
       てめぇらが言葉や意思を持たなければ起き得なかった問題だ。

       ああ、俺の言いたいことわかるな?
       "二度と喋ったり意思を持つな"だよ。
       てめえのすること考えごとなんて糞の役にも立ちはしねぇ』

兄者は黙ったまま膝をつくと、そのまま土下座をした。

280 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 15:53:16 ID:qtzFmzVM0


(´<_` )『兄者よ、兄者よ。誠意だけで済まされる問題じゃないんだ。
       本来ならギロチンかけても許されはしない。……だが、
       兄者、なァ兄者よ。兄者は本当なら優秀な人材なんだ。
       現にただ一人生き残れた、その身体能力と強運は素晴らしいよ。
       ただ兄者には、自分の考えなんていう糞を脳味噌に詰めてただけさ。

       ……俺のようなブレインが兄者には常に必要ってことだ。
       だから兄者、特別に……ああそうさ、許してやろうじゃぁないか。
       ただ兄者は愚かなだけだった、今まで自分の考えを持ってたことが
       間違っていただけだ。これからは何も考えず、俺の指示に従え……』

(´<_` )『従うんだ、殺人人形になれということだ』

兄者は土下座のまま、反論も何もしない。その兄者の後頭部を足で踏みつけ、

(´<_` )『俺はまだ仕事が残ってる。兄者のばぁかな考えで起こった、
       アーガス組との一件でなぁ。お前は一晩中、そのままの姿勢でいろ。
       明日、拾いに来てやるから』

くるりと引き返し、ドアに手をかけたところで、『ああ、そうそう』と最後に、

(´<_` )『ヒールは死んだよ。さっき独りで、あの病室で、な。
       可哀想に、大好きだった兄者に看取られず、孤独に息絶えちまった。
       兄者が馬鹿なことやらかなければなぁ……せめて幸せに逝けたものを』

281 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 16:06:59 ID:qtzFmzVM0


( ´_ゝ`)『………』


兄者は陽の沈みきった闇のなか、床に額をつけたままだった。
眼だけは感情的に湿っぽくなりつつも、身体はいっさい硬直し、
ただ、弟者の迎えが来るまで、その姿勢であり続けた。

ほんの一度の暴発が、最悪の結果を残した。
その事実と弟者の言葉、そしてヒールの死は、兄者からあらゆるものを奪い去った。

そして二日後、弟者とその部下に拾われた兄者からは、
生気というものが完全に失われていた。

魂の存在を命の定義に肯定するのであれば、元偵察チームの
面々は、この瞬間、まったく崩壊しきった。

流れ星になりたがった男は、その道中で炎を果たし尽くしたのだった。……


・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・

流石ファミリーの名は、それからの弟者の提案により消滅した。
完全にハンター組合の一員になると、ただでさえ少数になった
元流石ファミリーの面々は、各地に分散され、連携も許されなくなった。
同地に居る流石兄弟のみが、そのファミリーの名残を残すのみとなった。

282 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 16:09:13 ID:qtzFmzVM0

弟者の働きはジョルジュを唸らせるものだった。
沈静化してゆくギャングの交戦で、ひときわ高い支配力を
手にしたハンター組合は、その多大な権力の一部を惜しみなく
弟者の立場に分け与えたものである。

そうして、ハンター組合が買い付けた村……ハーモニーの
村長の座に、弟者は収まることになった。傀儡の兄者を
ボディーガードとして働かせ、自身は力を行使することに専念した。

権力への執着。兄者の理想からくる歯止めも今は無く、
弟者による恐怖政治はハーモニーに暗い影を落としていった。

独裁者のように立ち振舞う弟者に歯向かう者は容赦なく処刑か鉱山送り
にされる。レジスタンスも唯一、ノーナンバーズを残すのみになった。

しかし、そんな絶望の村ハーモニーも、ドクオという反抗心と
探究心を兼ね揃えた学者がやって来てから、劇的に変わっていくのだった。

283 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 16:12:23 ID:qtzFmzVM0


・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・

翌朝。目覚めた弟者はたちまち仕事の準備に取り掛かった。
裁判館の自身の部屋に、部下を数人呼び寄せると、


(´<_` )「あの古生物学者を何としても生け捕りにする。
       どんなことをしても、だ」

「by hook or by crook, we will」と言い切ると口元に凄みある笑いを浮かべ、

(´<_` )「しかしだ。残念なことに我らが同志の一人、愚かな愚かな
       スクラフィがドクオに反撃の一手を与えてしまった。
       これからの我々は、生半可な捕物をしてはならぬということだ」

(´<_` )「学者のカメラ。あれは非常に危険なものだ。具体的には
       法を大きく逸脱した光景を撮られてはならぬということ。
       そこでワンカー、貴様は先日死んだロマネスクとやらの
       墓を暴いて、ドクオに撮られたかを確認してこい。
       兄者、場所を案内しろ」

弟者が顎でしゃくると、ワンカーと兄者の二人が静かに部屋から出ていった。

284 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 16:15:03 ID:qtzFmzVM0

(´<_` )「続いてはベガー。お前はドクオの内通者を探り当てろ。
       どうもドクオの行動はこちらの様子を、少なくとも
       管理体制は見抜いてる節がある。お前は疑わしい者を
       リストアップするんだ。確信した場合は"キャリア"を使っても構わん」

かしこまりました、と敬礼したハンターが同じく部屋をあとにする。
残った一人に、弟者は指示を出す。

(´<_` )「最後に。ファッカー、貴様は証拠の隠滅に駆け回れ。
       つまりドクオに決定的瞬間を撮られたときのことを
       考え、その情報の転送先を叩き潰すことだ。
       ……いいや、難しくはない。前もって準備はしている。

       ドクオの部下のセントジョーンズとかいう小男、奴を追う。
       あの学者、このことを予期してセントジョーンズを安全な
       場所を往復させているんだが、ようやく居場所を掴めてきたよ」

(´<_` )「サンフラワだ。何者かのオートバイに跨って、そちらに
       移動したらしい。サンフラワといえばドクオの馴染みの場所。
       おそらく奴の個人倉庫やスパコンがそこにあるのだろう。
       追跡して、奪い取ってやれ」

285 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 16:18:15 ID:qtzFmzVM0

畏まったままのファッカーに、弟者は更に続けて、

(´<_` )「俺は昨日の大学院襲撃の後処理をせねばならん……。
       厄介なことに完全に揉み消すのは難しそうだ。
       だが、お前がきちんとドクオの個人施設を潰せばチャラ、だ」


(´<_` )「では、検討を祈る。さあ、出撃してこい」




・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
                         

―― ホテル・サイドニアからサンフラワまでの道中。


(’e’)「ドクオのバイクより、ずっとはやぁ〜〜い!!」


クー・スナオリャのオートバイの後部座席で、セントジョーンズははしゃいでいた。

286 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 16:21:13 ID:qtzFmzVM0

といっても、もちろん遊んでいるわけではない。
事情を説明し、クーと共にサンフラワまで向かっているだけである。
あの小煩いブサメンの言いつけはきちんと守っている、その上で、
ボディスーツ越しのクーの腰に手を巻きつけて、歓声をあげているだけ。

(’e’)「ひゃ〜! 風がンギモッヂィイイ〜〜〜!!」

川 ゚ -゚)「………(うるさいな、こいつ……)」


清々しいほどの晴天のなか風を切るように走っている。
確かに心地よい体感であろうが、絶叫するには過ぎている。

川 ゚ -゚)「それで、本当にドクオのPCのなかに写真はあるんだろうね?」

いつまでも叫び続ける喧しい後ろの小男に、クーは確認をとった。

川 ゚ -゚)「ハンターを殲滅できる、決定的な証拠はあるのだろう?」

(’e’)「……え? ああ、そりゃァありまさぁ。あー、多分っすね」

川 ゚ -゚)「多分じゃ困るんだがな……」

287 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 16:25:07 ID:qtzFmzVM0


そういえばと、セントジョーンズはクーに前々からの疑問をぶつけた。

(’e’)「ところでですねぇクーさん。ちょっとした質問いいっすか?」

川 ゚ -゚)「ん? なんだ」


(’e’)「なーんでまたハンター組合潰しに躍起になってるんすか?
     そりゃアイツらムカつきますけどさ、クーさんっていや
     超人気のライターじゃないっすか。何も危険なことしなくても
     普通に食っていけるっしょ??」

川 ゚ -゚)「なんだ、そんなことか」

アクセルを全開にしながら、クーは怪しい微笑みを浮かべ、

川 ゚ -゚)「あのねぇセントジョーンズくん。女がこうやって
     ぶっ潰すとか鼻息荒いときは、大体は情けない感情に起因するんだ。
     ま、具体的にいえば愛しただの振られただの、そんなのだよ」

(’e’)「へ?」


川 ゚ -゚)「不幸なことに、ジョルジュって男が好きでねぇ。
     でもジョルジュの行動は許せない。だからこの
     溜まった怒りや鬱憤を彼の矯正のためにぶつけてるだけに過ぎない」

288 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 16:29:05 ID:qtzFmzVM0


(;’e’)「えぇえええええ!!??」

驚きのあまりずり落ちそうになるセントジョーンズに、
クーは慌てた口調で付け加えた。ちらちら後ろを見やりつつ、
 
川 ゚ -゚)「いや、今のは嘘だ、冗談だ。……ま、私の
     行動原理はなかなか明かせるものじゃない」


(;’e’)「ひぃー、ひぃー」

しかしセントジョーンズはその言葉を聞かず、ラマーズ呼吸に終始している。

川 ゚ -゚)「いや、冗談だって。本当に冗談だから、決して本気にしないでくれ」

(;’e’)「ひぃーっひぃーっ……」

川:゚ -゚)「サイドニアン・ジョークだってば、ねえったら
     ……ただのジョークだよ、参ったな」




                    .

289ラスト投下 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/10(月) 16:32:56 ID:qtzFmzVM0

さて、それでも走り続けるクーのオートバイを、
遠くの岩場から眺めている数人のハンターがいた。

前方に注意を向かざるを得ないクー達は気づかない。
明らかなハンターと視認できる、れいのカウボーイルックの連中に。

そのうちの一人、ファッカーという名の男は電話を取り出して、


「やはり間違いないですね。セントジョーンズの野郎、サンフラワに
 向かってます。それとクー・スナオリャも一緒ですよ……。
 ええ、ええ、そうです。あのライターの……これで奴のネタは明かされましたねぇ」


ファッカーはそれから数回確認を取ると、追跡の準備をし始めた。            



                  .

290名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 16:35:49 ID:qtzFmzVM0

今日はここで終わり。本当なら6月3日に投下するつもりだった。
私生活がゴタゴタし過ぎたっていう言い訳なのだけれど。

それではよい夜を。

291名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 16:40:03 ID:kmR5J28UO
空もこれも話忘れたが好きだぜ!待ってたぜ!読み返すぜ!乙だぜ!

292名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 16:53:00 ID:xB7fM5rUO


293名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 17:11:54 ID:NEfsR8rc0
兄者つらい
乙でした!

294名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 14:33:11 ID:5PKKGFjs0
自分の今までの過去スレ読み返してたら俺ってすんげえホラ吹き野郎なんだな
次回作予定はどれもデタラメだし投下予告日は守らないし、結局Macは封印したし
どこどこへ移るよっていっても腰を上げない。我ながらクソ野郎だと感心したわ

明日投下します

295名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 18:51:03 ID:mC7r2KlQO
把握

296 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 06:52:59 ID:RefQ7DNI0
わし今アメリカに住んでて、シベリアのip確認してもらえば分かると思うけど、
そのせいかいい時間での投下が難しくってそこが悩ましい感じですな。
ゴールデンタイムの投下するにゃ朝早起きしなくっちゃならんし、今日は寝坊したから
こんな時間ってことなんだけど、まあそう言う感じでひとつ。

>>291
空かあ、もう完璧に話忘れたから投下するにはまたすっごい時間掛かりそうですが、
それでも待って頂ければという感じでございます。。。


では投下、よっといでよんどいで

297リプライズ投下 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 06:56:02 ID:RefQ7DNI0
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
                         

―― ホテル・サイドニアからサンフラワまでの道中。


(’e’)「ドクオのバイクより、ずっとはやぁ〜〜い!!」


クー・スナオリャのオートバイの後部座席で、セントジョーンズははしゃいでいた。

                  

……といっても、もちろん遊んでいるわけではない。
事情を説明し、クーと共にサンフラワまで向かっているだけである。
あの小煩いブサメンの言いつけはきちんと守っている、その上で、
ボディスーツ越しのクーの腰に手を巻きつけて、歓声をあげているだけ。

298リプライズ投下 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 07:03:20 ID:RefQ7DNI0
.




(’e’)「ひゃ〜! 風がンギモッヂィイイ〜〜〜!!」

川 ゚ -゚)「………(うるさいな、こいつ……)」


清々しいほどの晴天のなか風を切るように走っている。
確かに心地よい体感であろうが、絶叫するには過ぎている。


川 ゚ -゚)「それで、本当にドクオのPCのなかに写真はあるんだろうね?」


いつまでも叫び続ける喧しい後ろの小男に、クーは確認をとった。


川 ゚ -゚)「ハンターを殲滅できる、決定的な証拠はあるのだろう?」

(’e’)「……え? ああ、そりゃァありまさぁ。あー、多分っすね」



川 ゚ -゚)「多分じゃ困るんだがな……」

299リプライズ投下 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 07:04:46 ID:RefQ7DNI0

(;’e’)「えぇえええええ!!??」

驚きのあまりずり落ちそうになるセントジョーンズに、
クーは慌てた口調で付け加えた。ちらちら後ろを見やりつつ、
 
川 ゚ -゚)「いや、今のは嘘だ、冗談だ。……ま、私の
     行動原理はなかなか明かせるものじゃない」


(;’e’)「ひぃー、ひぃー」

しかしセントジョーンズはその言葉を聞かず、ラマーズ呼吸に終始している。

川 ゚ -゚)「いや、冗談だって。これは本当に冗談だから、本気にしないでくれ」

(;’e’)「ひぃーっひぃーっ……」

川:゚ -゚)「サイドニアン・ジョークだってば
     ……ただのジョークだよ、ねえったら」




                    .

300リプライズ投下 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 07:06:06 ID:RefQ7DNI0

さて、それでも走り続けるクーのオートバイを、
遠くの岩場から眺めている数人のハンターがいた。


そのうちの一人、ファッカーという名の男は電話を取り出して、


「やはり間違いないですね。セントジョーンズの野郎、サンフラワに
 向かってます。それとクー・スナオリャも一緒ですよ……。
 ええ、ええ、そうです。あのライターの……これで奴のネタは明かされましたねぇ」


ファッカーはそれから数回確認を取ると、追跡の準備をし始めた。            




・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・

                  .

301 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 07:08:13 ID:RefQ7DNI0


            @ニ,ニニニニ,ニニ
              | ̄ ̄ ̄|
              |..:..:..:..:..::|  _ _,,.. .-‐ ''' "´]
      __ .      ̄ ̄ ̄~ [_ _,,.. .-‐ '''" ~|
      | |  |             |``|.          |
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302 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 07:12:45 ID:RefQ7DNI0

―― サンフラワ。ビル街から離れた番地。


昼下がりのサンフラワはしかし、敷地内に足踏み入れれば
一気に陽光が影薄くなるようなダウナーな空気が漂っていた。

とりわけ歓楽街の方に行けば、道端に寝転ぶバックパッカーや
ゲイバーのポン引き、勝手に他人様の車を洗車しては駄賃を請求する
乞食と、堅気を寄せ付けない人間模様がそこかしこに見られた。


門出のテーマに因んだ街づくりといっても、道を踏み外せば
二度と元の世界に戻れないような新世界の落とし穴に飲み込まれる。

例えば、あなたのように何かサクセスを求めてこの街に訪れる若者のうち、
何人かは同性愛に花開いて"しまい"、場末のゲイバーで昼間ッから
酒浸りになったり、YMCAで先輩に性教育されたり、もっと悪くなれば
嵩んだ借金返済のために路地裏で自分を売る羽目になった奴もいるという。


しかし、ダンサー、ロッカー志望の若者が爆発的な名声や富を
得たという話も枚挙に暇ないので、ほいほいサンフラワにやってくる若い連中は絶えない。


エンターテイメントとジェンダー・テロリズムは切っても切れないというのは
人類古来の歴史から証明されているが、この非地球の一街がここまで極端に反映している
というのは、人間の愚かさが火星の大地に花開いたとしか言い様がない。

303 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 07:21:52 ID:RefQ7DNI0
.


川 ゚ -゚)「此処は相変わらずだな。熱気と諦念の混じりきった空気……うん、
     ほんとうに素晴らしい。人間観察にここまで適した街もないだろう」

(’e’)「はい? はい? はいぃ?」

川 ゚ -゚)「このとっ散らかったような人間模様さ。今がまさに開拓時代
     なんだ、って気づかせてくれる。そんなところだと私は思うのだ」

(’e’)「えーっと、道はこっちです」

川 ゚ -゚)「……ああ」


はてさて、セントジョーンズとクーはサンフラワの繁華街を進んでいた。

オートバイクを治安のいいビジネス街に駐車し、このだだっ広いサンフラワ
を歩いているのだが、(美女を連れて見せびらかしたがる)セントジョーンズはともかく、
クーはしきりに超小型カメラで周囲の風景を隠し撮りしたり、
その度に感想を漏らしたりと、観光も兼ねている様子であった。

――少なくとも、背後から一定の距離を保って
監視をしているファッカーらには気がついていない。



往来で擦れ違う艶やかな踊り子に見とれるセントジョーンズ、こいつは
どこまで俗物なんだとため息をつくクーの二人は、道中、屋台で買った
カエルの素揚げに塩降って堪能しつつ、ドクオの個人倉庫に向かっていった。

304 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 07:32:22 ID:RefQ7DNI0

個人倉庫、というよりは事務所といった方が正しいのかも知れない。

そのプレハブの中には研究用PCやエビの保管庫、くわえて万年床に冷蔵庫
といった造りなので、ドクオはホテル・サイドニアに夢中になる前は
ここでよくgdgdしていたものだ。ちなみに、プレハブは外観は粗末だが、
セキュリティレベルはそこらの公共施設以上に設定されているので、


(’e’)「えーっとパスは、ちょと待ってねぇん…鞄の中n……あッやば!」

川;゚ -゚)「おいなんか鳴ったぞ! このサイレンはどう止めるんだ!?」

(;’e’)「ん、ん〜っと、、、う、うわぁ〜〜」



( ´W`)「おやおや、これはドクオさんの助手さんではないですか」


プレハブの入口で慌てふためいている二人に、ドクオの知り合いがやって来た。

(;’e’)「あ、え〜っとこんちゃっす!!」

( ´W`)「このサイレンはこのリモコンでぽちっとナでですねぇ……」

どこまでものんびりした様子で、シラヒーゲは緊急ブザーを停止させた。


川 ゚ -゚)「ほっ……。ありがとうございます」

305 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 07:39:02 ID:RefQ7DNI0

川 ゚ -゚)「私はクー・スナオリャといいます。今彼の助っ人として来ました」

( ´W`)「ン? これはこれは……珍しい方も来るもんですね。
     わたしはシラヒーゲといいまして、ふがないギークですな」


シラヒーゲはクーの姿にやはり驚きつつも、ふたりに説明するように、

( ´W`)「私はドクオさんに頼まれて此処を監視していたんですよ。
     いやはや、ドクオさんは我らフリークの間では伝説のヒキメン……
     神、いわゆるゴッド――のお願いともあればこそ、ですねえ。
     とはいえ、私だけでなく、何人かで交代して見張っていたのですが」


そういうと、斜向かいの喫茶店テラスの方を振り返り、何人かを指差した。
ドクオと似た臭いを放つ三人ほどのギークらが手を振り返す。

( ´W`)「私ら、腕っ節は滅法ですがこれでも顔はそれなりに利きますので、
     たとえば今からゲイダンサーや手品師見習いなんて呼べますので。
     いやはや、神、いわゆるゴッドのためでしたら、タイのコンテスト
     で一位とったニューハーフも召喚できますぞ、ふふは」


川 ゚ -゚)「興味がないとは言いませんが、またの機会にお願いします」

(’e’;)「どうせならもっと筋肉もりもりの呼べばいいのに……ドクオさぁん……」

( ´W`)「いやはや、私ら、こう見えてもドクオ殿とは心が繋がっていますから」

306 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 07:46:42 ID:RefQ7DNI0

―― それからしばらく経った頃の、ハーモニー。裁判館2F。


デスクワークに追われていた弟者は、
たびたび掛かってくる部下からの電話に指示を出し続けていた。



( ´_ゝ`)



部屋の隅で身動ぎ一つしない兄者。
それを無視して電話し続ける弟者。
どんよりした部屋の中、弟者は電話越しの提案に対し、


(´<_` )「――だからキャリアはファッカーの確認が取れ次第と
       言っているだろう。ドクオのカメラを忘れているのか?
       ……ああそうだ、そこは間違いないのだから。……
       ともかく、今はドクオを捜す意味はない」

(´<_` )「私は忙しいんだ。……ったく、どいつもこいつも愚か者ばかり。
       部下らがせめてまともだったら、こんな思いはしないんだがなぁ」

嫌味を言いつつ、弟者は兄者を見てせせら笑う。
兄者はそれでも目線一つ変えない。これは単なる日常である。

307 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 07:53:43 ID:RefQ7DNI0


(´<_` )「それで、やはりデルタが怪しいか……ふん、だろうな。
       原住民ってのはやはり駄目だな。街を裏切り
       我々に擦り寄り、そんでドクオにも擦り寄ったか。ははは、
       根っこが卑しいとはこのことだ……反吐が出るよ、まったく」


(´<_` )「ああ、捕らえてこっちに持ってこい。西部開拓時代さながらの奴隷ぽく
       首に縄つけて手錠つけてやれ。……直々に、 嬲 っ て や る」


(´<_` )「はは、この街の支配者だからな。この私が。
       下々の躾のためにも、デルタとかいう腐れ犬を俺が殺してやろう」



( ´_ゝ`)



(´<_` )「楽しみに待ってるぜ? さあ、捕らえてこい」

そういって、弟者は電話を切ると、兄者に拷問道具を持ってこさせた。

308 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 07:57:38 ID:RefQ7DNI0


・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・


公衆便所の掃除夫をさせられる。それは構わないのだが、
我慢がならないのは、その直属の上司がハンターであることだろう。


「今日は終わりだ」と言い放つ班長は紛れもなくハンターの一員で、
さらにその上には流石兄弟が管理しているというのは、
いかに温厚な阿部といえども、ストレスを溜めないわけにはいかなかった。


N| "゚'` {"゚`lリ「………」



阿部は作業着を脱ぎ、鮨詰め状態の更衣室で、誰とも会話せず
もとのブルーベリーのような青いツナギの格好に着替えた。
そのさなか周りの同僚を盗み見るのだが、誰も彼も変わらず、目の生気を
失っていた。もとよりそんなやつれた連中に阿部は欲情などしないのだが。

更衣室を抜け、渋々ながらも上司に頭を下げて仕事場を離れた。


遅滞した毎日。

レジスタンスをまとめ上げたのは、もとは復讐のためだったが、
いつの間にか傷を舐め合いお互いを慰める、悲しい寄り添いになってしまった。

そう、ドクオが来るまでは。

309 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:09:58 ID:RefQ7DNI0

ハーモニーの大通りを歩いている。擦れ違う町民は誰もが
目を伏せていた。対してハンター達はというと、下品な笑い声を
立てながらどうどうと道の真ん中を闊歩している。


(`・ω・´)「ん? 阿部さん」

N| "゚'` {"゚`lリ「おお……」


馬宿舎の前でシャキンと出会った。

(`・ω・´)「今日、飲みます?(会合ですか?)」

N| "゚'` {"゚`lリ「そうだな」

阿部はデルタに起きた出来事をシャキンに
話そうか迷ったが、この場はふさわしくないと判断した。

なにより、口にすれば自身の怒りが抑えきれなくなりそうだ。


(`・ω・´)「僕は今から仕事なんで、終わり次第ってことで」

N| "゚'` {"゚`lリ「よろしく頼む」


そういって阿部とシャキンは別れた。時間にして30秒も掛かっていない。

310 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:12:21 ID:RefQ7DNI0

まっすぐは向かわず、ぼろい宿舎の自身の部屋
に戻ってから、そろそろとアジトの方へ忍び歩きする。

その頃になると、もう阿部はデルタのことで頭が一杯になった。




――弟者様のお呼びだ。

黙々と床拭きをしていたデルタに、ハンターの冷酷な声が降り注いだ。
その様子を窓から目撃した阿部は、デルタの表情から全てを察した。

今日、デルタは殺されるのだと。

諦めとも笑いともつかない表情をしたデルタは、
そのハンターに従い、手錠を掛けられても抵抗をしなかった。


N| "゚'` {"゚`lリ「………」


阿部はデルタのことを痛いくらいに知っている。
この街のためだけに、道化になってでもハンターに擦り寄ったことも。
いつでも希望を絶やさなかったことも。


酒で愉快になる度に町の唄をはにかみつつ歌う、その安らいだ表情も歌声も。

311 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:14:08 ID:RefQ7DNI0


地下のアジトへ下ると、カウンターにデルタを見たような気がした。


( "ゞ)


N| "゚'` {"゚`lリ「あ……」


無論それは幻想だった。今のデルタは裁判館で
拷問のような取り調べを受けているのだろうから。

だが、そうと気がついてもデルタの幻想は消えない。
普段の気難しそうな表情が柔らかくなって、鼻歌をうたっている。


N| "゚'` {"゚`lリ「ああ……」


よくエノーラと一緒に歌っていたな、……昨日もか。と阿部がぼんやり
考えるうち、そのデルタの幻想は蜃気楼のように揺らいで消えた。

耳に届いていたはずの音色も失せ、静寂だけが支配する空間。

阿部はカウンターの内側に回ると、おぼつかない手つきで
古びたグラスに安ウイスキーを注いだ。かたかたとボトルと
グラスの触れ合う音がし、その周辺にはウイスキーの飛沫が飛んだ。

312 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:16:09 ID:RefQ7DNI0


N| "゚'` {"゚`lリ

しかし、阿部はしかし、それを口に持っていこうとしたが、
途中で停止した。いくばくかの時が流れたのち、


N| "゚'` {"゚`lリ「―――ッ!」


彼はそのグラスをあらん限りの力で壁に叩きつけた。
ガラスの砕けた音が地下のアジトに篭った。



あせたコンクリート造りの壁には染みが出来、その周りを
粉々になったグラスがきらきらと輝いている。
壁と床の合間にウイスキーがたまり、
もう、むせるようなピートの強い臭いを発している。

阿部はいやに静かな様子でそこに向かうと、今度は
ひたすらに壁を殴り続けた。

どん、どん、と鈍い音が絶え間なく続く。



N| "゚'` {"゚`lリ「くそ……くそっ!」



拳骨が傷んで、壁に血が付こうとも、彼はそれを一向にやめなかった。

313 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:20:14 ID:RefQ7DNI0
.





     ('A`)「―――やめてくれ、阿部さん」


山積みになったダンボールの上に今までだまって
座っていたドクオが、苦々しい口調で彼の行動を遮った。


N| "゚'` {"゚`lリ「………」

阿部はその場で立ち尽くすと、しばらく無言になった。
が、ドクオのほうへ振り返ったときには、漢らしい笑顔になって、


N| "゚'` {"゚`lリ「ああ、取り乱して済まなかった」

('A`)「何があった」

N| "゚'` {"゚`lリ「………」


阿部の表情が、ほんのわずかに曇った。

314 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:21:58 ID:RefQ7DNI0

そしてそれから、また諦めたような笑い顔になって、


N| "゚'` {"゚`lリ「俺としたことが、希望は絶えてないってことを忘れちまってた
          ようでな。……そうさ、ドクオ、お前といういい男がいたんだ」

('A`)「………」

N| "゚'` {"゚`lリ「絶望ってよりは自分を恥じたってとこかな。
          こうしてノーナンバーズをまとめあげても、
          仲間一人救う余裕がねぇってのは……」

ドクオの表情がさっと険しくなり、

('A`)「誰か、やられたのか?」

N| "゚'` {"゚`lリ「……この村を愛して愛してたまらない、そのためなら
          どんな屈辱も耐えてみせよう……そんなデルタが、
          そんなデルタがな、裁判館へ拉致された」



('A`)「!?」


               .

315 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:24:36 ID:RefQ7DNI0

N| "゚'` {"゚`lリ「助けに……なんて、行けねえよな。つくづく自分が
          嫌になるぜ。こうしてる間にも、奴は、デルタは……」

('A`)「………!」


ドクオは下唇を噛んだ。気持ちは阿部と同じだった。
出来ることなら助けにいってやりたい。

だが、それが不可能ごとなのは、この村で
苦難を強いられているドクオ自身が、痛いほどに知っていた。


N| "゚'` {"゚`lリ「つーが売春宿から帰ってくるのもあとちょっと、
          あいつは泣き叫ぶだろうが、もっと問題はエノーラさ……」


と、阿部はメンバーの反応について口にしだしたが、
ドクオはそれを聞いていなかった。ドクオは地上へのはしごを
見上げながら、昨晩のデルタとの会話を思い出していた。……



・・ ・・・
・・ ・・


クーからの暗号、カメラ奪還に浮かれた夜は、
アジトで、ドクオも翌日に酔いが回らない程度に酒を嗜んだ。

カウンターでちびりちびり舐めるようにバカーディを
味わっていたドクオの隣にデルタが腰掛けた。

('A`)『よっ』

( "ゞ)『……ここ、座るぞ』

316 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:27:07 ID:RefQ7DNI0


その前日に奇跡的なチャンスを伝えてくれたデルタに対し、
ドクオは改めて礼を言うと、デルタは気難しそうな顔を崩さず、


( "ゞ)『ミッションを成功させたのはお前……それに、それは俺のためでもある』

('A`)『この村を救うってことか?』

( "ゞ)『そういうことだ』

デルタはそう言い切ると、ドクオの飲みさしのバカーディに口をつけて、



( "ゞ)『俺は村を救うためならどんなことでもする。だから、
    この村を開放してくれそうなお前にも、どんなこともしてみせよう』

('A`)『そりゃ、ありがたい話だ』

( "ゞ)『そして、お前がハーモニーを見捨てたら、俺はお前を殺す』

('A`)『あらゆる意味でありえねえな』



ドクオの即座な切り返しに、デルタは含み笑いした。

317 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:30:41 ID:RefQ7DNI0

壁際でシャキンとエノーラが語り合っている様子を横目に、


( "ゞ)『ところでお前、夢はあるのか? だとするとあれか、
    この前言ってた新説の発表とやらがそうなのか?』

('A`)『へ、夢?』


唐突な質問にドクオは面食らったが、うーんと唸ってから、


('A`)『俺、考古学者を名乗ってるけど、正式には古生物学者なんだよ』

( "ゞ)『………?』

('A`)『考古学ってのはあれだ、人間と失われた文化とを扱っている。
    つまりだ、火星には古代人なんて居ないってのが定説だろ?
    だからそのまま古生物学者って名乗ると、俺の夢も否定することになるんだ
    ま、周りの連中にゃキートンが好きなんだって誤魔化してるんだが』



('A`)『俺の夢はさ、火星人の存在を証明すること! そして遺産を保護することだよ。
    そのためならどんなことだってやるぜ、ああ、この村に乗り込むくらいにゃな』


( "ゞ)『……でかい夢だ、いい夢だな。俺と同じくらいに』


デルタはふたたびドクオのグラスから酔いを拝借すると、ゆっくりした口調で、

( "ゞ)『言うまでもない。俺の夢はこのハーモニーに幸せを取り戻すこと。
    そのためなら、なんだってする。お前みたいにな』

('A`)『……いい夢だな』

318名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 08:33:20 ID:9nuXUeSg0
おお…デルタ…

319 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:34:17 ID:RefQ7DNI0

グラスの氷がとける。
からんと、眠ったような音が弾ける。

N| "゚'` {"゚`lリ『ああ、ふたりの夢が叶うのを願うぜ』

水で濁ったグラスを下げ、新しく酒を注ぎながら阿部は同調した。
そこから先の計画について三人で細かく話し合ったが、
やがてそれも終わる頃、やはりデルタはいきなり、


( "ゞ)『プライドも何もいらないんだ』

('A`)『ん?』

( "ゞ)『ただハーモニーの幸せが欲しい、奪われた笑顔を返してほしい』

('A`)『ああ……わかってる』

( "ゞ)『ほんとうに分かっているのか?』


硬質な響きが、その問いかけに混じった。


( "ゞ)『俺が言いたいこと、それは俺を遠慮なく手駒にしてくれってことだ』

('A`)『………』

ドクオはそれには答えかねた。何故ならこれ以上デルタの情報に頼ることは、
デルタという内通者の存在を浮き彫りにさせる。いや、この現状でさえ
疑わしき者として処罰されてもおかしくはない。ドクオはそれを懸念していたが、


( "ゞ)『遠慮するな。これは俺の本望だ、夢のためなら、死ねる。
    覚悟は奴らが来たときからしている。お前も、夢のためなら
    命を賭けられる奴、そうなんだろう?』


('A`)『そりゃそうさ。だが……』

              .

320 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:39:55 ID:RefQ7DNI0
.



( "ゞ)『その躊躇いが無意味と言っている。……そうか、お前。この熱意を
    まだ理解しきってないみたいだな。……よぅし、いいだろう、
    エノーラッ! ドクオに”Isn't It Lovely?"を聴かせるぞ!』

||‘‐‘||レ『待ってましたっ!』

(;'A`)『えっ』


そういってデルタはエノーラと共にハーモニーの村歌を歌い出した。……

酔っているのか、どこか調子っ外れな姿だったが、
村歌はしかし、子守唄のように心地よいものだった。

そしてうたい終わったときのデルタのはにかんだ表情は、
ドクオの目にはまるで純粋な子どものように映った。


・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・


ドクオはその後、アジトを離れた。エノーラの家の
傍で発見した乱雑な裏通りに身を隠して息をひそめる。


('A`)


ときおり裁判館の方角を向いては、抑えきれぬ怒りを心に焼き付けた。

隙間風が砂埃を背負って舞っていった。
静寂したその狭い道にはその音しか聞こえない。

321 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:42:39 ID:RefQ7DNI0
だが、


―― ひた、ひた、ひた


誰かが、この裏道を通り始めた。
足音からして、どうやらその者は裸足らしい。

('A`)「――っ!」


ドクオはとっさに身構え、カメラを片手にした。

それから小さな鏡を胸ポケットから取り出すと、隠れた姿勢のまま、
その足音の主の姿を確認しようとした。


(;'A`)「(………えっ?)」


しかしその者の正体は、そしてその様子は、
ドクオを驚愕させるには充分なものだった。


(;'A`)「(そんな……そんなまさか!)」

                  

                .

322 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:44:22 ID:RefQ7DNI0


―― 十数分前。



(´<_` )「……そうか! おお、よくやったぞ同志よ……!」

( ´_ゝ`)


裁判館で、弟者は電話をしつつ喜びの表情だった。



(´<_` )「まあ、それは仕方ない。……が、きちんとやれよ?
       ふむ……明日までには完全な報告書として提出しろ」


(´<_` )「馬鹿か? そのコンピュータから取り出せる情報、それと
       クー・スナオリャ及びセントジョーンズ・ワート
       その他諸々の死体の損傷を明かせと言っている。
       今は忙しい、ファッカー、お前が急場しのぎしろ」


要領の得ない部下だと馬鹿にしつつも、
電話を切った際の弟者は凄みのある笑顔を見せていた。

323 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:48:37 ID:RefQ7DNI0


これで遠慮なくキャリアを始動できる。
今まで躊躇っていたのはなんのことはない、キャリアを
ドクオに撮られるという致命的なミスを避けていたからであった。

(´<_` )「ククク……てめえの後ろ盾は御陀仏なんだ」


しかしもう、気兼ねなく扱える。予めキャリアの用意は、
手元のタブレット型コンピュータにプログラミングしておいてあった。

弟者はそのプログラムを開始し、そこから映し出される
映像を目視して正常に動いていることを確認した。


その辺りになってベガー……内通者を探り当てる者……が一室に入ってきた。

ベガーはこの昼にはデルタの身柄を確保し、牢屋にぶち込んでいたのだが、
そろそろ尋問を始めることを弟者に提案した。


( ´_ゝ`)


(´<_` )「まあ、しばし待て。いまは楽しい気分なのさ。
       キャリアで充分にドクオを恐怖させてから
       メインディッシュのデルタと洒落込みたい……」

324 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:52:02 ID:RefQ7DNI0


―― キャリア(保菌者)。

それは同時に死の追跡者の異名も持っている。
元は地球の中南東で30年以上前に開発されたものだが、
たちまち国際的に使用を禁止された、ウイルスと電子技術の複合物である。



・構成ウイルスの一つは動物の体温を感知し、付着する性質を持つ。
ウイルス自体は体表に留まり続けるので体内で病気を起こすことはない。
ただしそれが体温を持っている限り、二度と離れることもない。
剥がすには、温度を持たないこと、つまり死者になる必要がある。

・構成ウイルスの一つは匂いを感知する。
その嗅覚は犬よりも鋭く、たとえ100マイル離れた状況であっても、
正常に動作して、その対象物の方角を指し示す。

・構成ウイルスの一つは電子端末と連動する。
専用プログラムを介すことによって、菌周辺の状況を中継させられる。
保菌者の、すなわち視力と聴力を共有することが出来る。

・構成ウイルスの一つはやはり電子端末と連動する。
これは死体にのみ効力を発揮し、同上のプログラムと
組み合わせることによって、その死体を動かすことができる。
とはいえそれを生きた人間のように優雅に操作することは不可能。
リモートコントロールでは、ゾンビのようにしか立ち振舞わせられない。
また、当然のようにオート操作も可能であり、そちらの方が便利である。


                       .

325 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:55:21 ID:RefQ7DNI0

キャリアはこの4つの人口ウイルスが大きな役目を果たす。
具体的な使用法は、まず死体を用意してキャリアをそこに培養する。
ただし嗅覚ウイルスは、追跡対象者の体毛などで繁殖させてから移す。

充分な時間を掛けて死体を保菌者にしてから、プログラムを起動する。
すると動き出す保菌者はひたすら対象者を追跡することになる。

一度でも対象者に触れることに成功すれば、それの居場所を
永遠に感知できる。また、その対象者が死亡した場合、
別の嗅覚ウイルスを注ぐことで保菌者に仕立て上げられる。


キャリアは過去の内戦において遺憾なく効力を発揮してきたが、
死体を用意する、ゾンビを増殖させるという観点から、
完成から三年も経たず使用が禁止された。

無垢な子どもを殺し、死体が新鮮なうちに保菌者に
作り上げるという常套手段は、国際的な問題になったものだ。



(;'A`)「……くそったれが!」

ドクオはそれがキャリアと察知した瞬間は、脱兎のように駆け出した。
キャリアの移動速度は決して速くはない。だが、凶悪な追跡能力を持っている。


(#'A`)「あの野郎っ……!」

ドクオは走りながら吐き捨てるように言い放った。
こうなった以上、アジトには二度と立ち入れないだろう。

326ラスト投下 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 08:58:15 ID:RefQ7DNI0


ひた、ひた、ひた、、、、


从;;;;;∀从


――保菌者ハインリッヒは、虚ろな目と顔つきのまま、
ドクオの後を追い続ける。麻痺毒を塗ったナイフを手にし、
がくがくと身体を揺らしつつ、静かな裏道を確実に歩いていった。



(´<_` )「ははは、この情けない後ろ姿!」

弟者はタブレットを通じて、ドクオの逃げる様子を楽しんでいる。

ドクオは角を曲がり見えなくなるが、心配することはない、
キャリアには燃料も限界もないのだ。すぐににじり寄れる。

唯一の懸念は追跡中にトラップに掛かることくらいである。
しかしこの状況と時間の中で仕掛けを打てるわけもない。

それにこちらは、幾らでも死体を増やすことが出来るのだ。


(´<_` )「おっと……そろそろデルタを呼ぶことにするか」


無論のこと、拷問後のデルタの死体にも感染させるつもりであった。


                .

327 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/16(日) 09:00:16 ID:RefQ7DNI0
今日はこれで終了です、よい一日を!

328名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 09:14:15 ID:xZhWT73sO
キャリアぱねえ

乙です

329名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 11:16:25 ID:dhs2fThk0
おお、更新早い!嬉しい

弟者の下衆野郎おおおお
乙!

330名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 15:04:12 ID:s8Cf6Ffk0
楽しみすぎる!!!!


331名も無きAAのようです:2012/09/17(月) 11:21:10 ID:4PDe9VCwO
セントとクーが気になるな


332名も無きAAのようです:2012/09/19(水) 14:05:47 ID:Ed9ehwZM0
トータルリコールのリメイクが面白かった
あの映像美は創作意欲を湧かせますな

333名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 08:28:24 ID:gltim3n.0
あとtedもよかったな

そういうわけで明日投下してやるぜえ

334名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 08:43:36 ID:WxIb6hkoO
OK.全裸でスタンバってる

335名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 10:19:03 ID:cDz6jFU.O
よしゃああああああああ!
期待age

336名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:20:02 ID:jKLspBSgO
乙!

337 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 02:13:08 ID:Ye8YRezw0
ねーちゃん明日って今さ!

338 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 02:22:49 ID:Ye8YRezw0
―― キャリア(保菌者)。

それは同時に死の追跡者の異名も持っている。
元は地球の中南東で30年以上前に開発されたものだが、
たちまち国際的に使用を禁止された、ウイルスと電子技術の複合物である。



・構成ウイルスの一つは動物の体温を感知し、付着する性質を持つ。
ウイルス自体は体表に留まり続けるので体内で病気を起こすことはない。
ただしそれが体温を持っている限り、二度と離れることもない。
剥がすには、温度を持たないこと、つまり死者になる必要がある。

・構成ウイルスの一つは匂いを感知する。
その嗅覚は犬よりも鋭く、たとえ100マイル離れた状況であっても、
正常に動作して、その対象物の方角を指し示す。

・構成ウイルスの一つは電子端末と連動する。
専用プログラムを介すことによって、菌周辺の状況を中継させられる。
保菌者の、すなわち視力と聴力を共有することが出来る。

・構成ウイルスの一つはやはり電子端末と連動する。
これは死体にのみ効力を発揮し、同上のプログラムと
組み合わせることによって、その死体を動かすことができる。
とはいえそれを生きた人間のように優雅に操作することは不可能。
リモートコントロールでは、ゾンビのようにしか立ち振舞わせられない。
また、当然のようにオート操作も可能であり、そちらの方が扱いやすい。


                       .

339 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 02:24:59 ID:Ye8YRezw0
キャリアはこの4つの人口ウイルスが大きな役目を果たす。
具体的な使用法は、まず死体を用意してキャリアをそこに培養する。
ただし嗅覚ウイルスは、追跡対象者の体毛などで繁殖させてから移す。

充分な時間を掛けて死体を保菌者にしてから、プログラムを起動する。
すると動き出す保菌者はひたすら対象者を追跡することになる。

一度でも対象者に触れることに成功すれば、それの居場所をプログラム
上にいつまでも表示させられる。また、その対象者が死亡した場合、
別の嗅覚ウイルスを注ぐことで保菌者に仕立て上げられる。


キャリアは過去の内戦において遺憾なく効力を発揮してきたが、
死体を用意する、ゾンビを増殖させるという観点から、
完成から三年も経たず使用が禁止された。

無垢な子どもを殺し、死体が新鮮なうちに保菌者に
作り上げるという常套手段は、国際的な問題になったものだ。



(;'A`)「……くそったれが!」

ドクオはそれがキャリアと察知した瞬間は、脱兎のように駆け出した。
キャリアの移動速度は人間以下だが、代わりに凶悪な追跡能力を持っている。


(#'A`)「あの野郎っ……!」

ドクオは走りながら吐き捨てるように言い放った。
こうなった以上、アジトには二度と立ち入れないだろう。

340 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 02:26:06 ID:Ye8YRezw0


ひた、ひた、ひた、、、、


从;;;;;∀从


――保菌者ハインリッヒは、虚ろな目と顔つきのまま、
ドクオの後を追い続ける。麻痺毒を塗ったナイフを手にし、
がくがくと身体を揺らしつつ、静かな裏道を確実に歩いていった。



(´<_` )「ははは、この情けない後ろ姿!」

弟者はタブレットを通じて、ドクオの逃げる様子を楽しんでいる。

ドクオは角を曲がり見えなくなるが、心配することはない、
キャリアには燃料も限界もないのだ。すぐににじり寄れる。

唯一の懸念は追跡中にトラップに掛かることくらいである。
しかしこの状況と時間の中で仕掛けを打てるわけもない。

それにこちらは、幾らでも死体を増やすことが出来るのだ。


(´<_` )「おっと……そろそろデルタを呼ぶことにするか」


無論のこと、拷問後のデルタの死体にも感染させるつもりであった。


                .

341 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 02:34:18 ID:Ye8YRezw0


ドクオは体力の限界まで走るつもりはなかった。
キャリアのことは仕組みと歴史くらいしか詳しく知らないが、
数ある弱点は把握していた。だが、この状況下で限られてくるのは、


从;;;;;∀从 ヒタ、ヒタ、ヒタ、、、


(;'A`)「(落とし穴などの仕掛けはこうなった以上打てないっ……。
     非爆発の火炎で焼くのもこの村では難しいだろう……。
     つまり、俺が選べる道は……)」

塀で囲まれた細道を走っていたが、ドクオは段差を利用して
その塀に乗ると、驚異のバランス間隔で体勢を崩すことなく移動しだした。

そして丈夫そうな樹木を見つけると、それの幹に掴まり、
腕力と跳躍力を活かしてどんどん頂辺まで登り詰めていった。
たん、たん、たんと軽快な音を立てていく。


从;;;;;∀从「………」


高度な運動を行えない保菌者は、高い処に登られれば為す術はない。
手にしたナイフだけではまさか樹木も切り落とせまい。

結局、ハインリッヒはドクオの居る木の傍で足踏みを強いられた。

342 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 02:35:58 ID:Ye8YRezw0

('A`)「(だが、所詮その場凌ぎ……ずっとここに居れば
    いずれ援軍が駆けつけてくるだろう。
    本質的な問題の解決にはならない。)」


ドクオはちらりと見下げると、死人形と化したハインリッヒと目が合った。



从;;∀゚从

('A`)「………」



手当たり次第に枝を折り取って、ハインリッヒの身体が崩れ切るまで
投げ落とし続けるという方法が脳裏にちらと過ぎったが、すぐに却下した。
のみならず、弾数の限られる拳銃の使用などもほぼ無意味といえよう。
キャリアには生きた人間のような明確な弱点は存在しない。


強いて挙げるなら四肢の関節だろうが、肝心な脚を狙うには
位置が悪すぎるし、なにより死体を嬲るというのは胸糞が悪すぎる。


落ち着いてからカメラのシャッターを何度も切り、惨状の様子を収めた。

343 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 02:40:59 ID:Ye8YRezw0

根本的解決になり得ないが、まだ逃げたほうがいいような気がしてくる。
ドクオはこの前に拾った縄をポーチから取り出すと、それを足元の
幹にひきとけ結びすると、結んでいないもう一方の縄を握り締め、

脚力をつけて、飛んだ。そうやって別の木に移ると、
すぐさま縄を回収し、その木の幹と幹とを縫ってハインリッヒから逃げだした。


从;;;;;∀从 ヒタ、ヒタ、ヒタ


(;'A`)「(くそ、これだけじゃ何ともならねぇ……)」


ドクオは自分の乗っている樹木、さらに周辺の雑木も確認してみた。
空は夕焼けに赤く染まり始めている。この光のなかなら、探し出せるかも
と、ふたたびロープアクションで別の木に移っていった。


目当てのものを発見したのは四本目のときだった。

ドクオが探していたもの、それは多量に分泌している樹液だった。
その幹に腰掛けると、素早く樹液を露出した肌に塗りたくった。
天然の脂でコーティングすることで、保菌者の接触を避けようという魂胆だった。

無論これは完全な対策とは言い難い。顔の全部分に塗るほどの
量はなかったし、重点的にコーティングした腕でさえ、握られるなどの
強い接触を受けたらキャリアに感染する。


キャリアに感染したら最後、ドクオの居場所はプログラムを操作する
弟者に半永久的に知られ、ドクオの死はゾンビ化を意味することになる。

344 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 02:46:07 ID:Ye8YRezw0


('A`)「(……やるしか、ねえのか)」

ウシャン・メットをかぶり直すと、ドクオは若い枝を毟った。
みずみずしい弾力を持つ鮮やかな樹葉を手に、
そして扇さながらに顔を隠すと、

えいやっと飛び降りた。


(;'A`)「おおお!」

从;;;;;∀从


下で待ち伏せているハインリッヒに襲撃するためだ。
落下速度を活かして蹴りを加えようとする。
長ズボンと靴により下半身はプロテクトされている。


(;'A`)「おらあ!」

狙いは見事なものだった。予定通りに首に一撃を加えた。
踵落としじみた攻撃によって、ハインリッヒは為すすべもなく崩れ落ちた。
その際に腐敗した肉体ならではの死後硬直の感触が、ドクオの脚全体に伝わった。

首を負傷したハインリッヒは、しばらくそのままの体勢だった。
身体ぜんたいに痙攣を起こし、立ち上がろうともしない。

その姿が、ドクオの目にひどく焼き付いた。

345 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 02:50:20 ID:Ye8YRezw0
.


(´<_` )「おやおや、死体を足蹴にするか。酷い男だねぇ……」

弟者は含み笑いをすると、タブレットを手早く操作し、ハインリッヒを
無理やり起き上がらせた。そうしてドクオの方へ向かわせた。



从;;;;;∀从 ヒタ、ヒタ




( A )





(#'A`)「てめぇ絶対許さねえぞ弟者ァアアアアアアッ!!!」




良心も罪悪感もかなぐり捨て、ハインリッヒに殴りかかった。

            .

346 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 02:54:01 ID:Ye8YRezw0

(´<_` )「吹っ切れないでくれよ、つまらないじゃないか」

高みの見物の弟者は、画面に映し出されるドクオの乱打を
観察しながら愚痴をこぼした。ドクオのは乱打といっても、
いつの間にか手にしていた太い古枝を中心とした攻撃の連続で、
キャリアの弱点とも言える関節……それも、腰のあたりを集中したものだった。


(#'A`)「くそっ、くそっ、くそォ!」

常人より反応速度の遅い保菌者を一方的に殴ることは容易い。
罪悪というものを完全に捨てきればこその話であるが。


それよりドクオは、ハインリッヒの手のナイフにも注意を払わないと
いけなかった。動きの怠慢になったハインリッヒの左腕――ナイフの
持つ方をあらん限りの力を込め、古枝で殴打した。

从;;;;;∀从 ガッアッアッ……


ナイフを吹き飛ばす魂胆だったが、しかしそれは握られたままだった。

(;'A`)「!?」


ハインリッヒの左腕は完全に伸びきった。そうして、ドクオの目には
そのナイフが綺麗な弧を描いて振り下ろされようとする瞬間が映った。

347 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 02:57:43 ID:Ye8YRezw0

バックステップで逃れようとする。だが、意外なことに
そのナイフの切っ先はドクオの身体を狙ったものではなかった。


――ざくり。と肉を切り裂く嫌な音がしたかと思うと、
その傷跡からやけに濁った血が噴水のように吹き出た。


(´<_` )「ははは……」


从;;;;;∀从

ハインリッヒの手首の先が、皮のみで繋がれてぷらぷらと頼りなく
揺れている。刃はハインリッヒの右手首、厳密にはそこの
動脈を狙って、振り下ろされたものだった。





(´<_` )「ナイフはねぇ、お前を捕えるためだけじゃない。
       このシャワーを浴びせるためでもあったのさ……。
       お味はどうかな? ハインの愛液はお気に召したかい?」


(;'A`)「………!」



弟者の目論見はこの上なく成功した。ハインリッヒから吹き出た
血は、ドクオの顔面に万遍なく注がれたのだった。

348 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:06:58 ID:Ye8YRezw0


弟者は確認し、ぞっとするような笑みを浮かべた。
ドクオは保菌者に完璧に"接触"してしまった。
画面上では、ドクオの位置がきらびやかに映し出された。


( A )


残されたドクオの行動は、満身創痍のハインリッヒを
身体が崩れるほどに痛めつけることのみであった。
右手首から放たれた血はハインリッヒ自身にも付着し、
あわれな緋色のドレスを形作っている。


从;;;;;o从


それでもなおドクオに接触しようとするハインリッヒを、
自信の手で葬らねばならない。ドクオは生気のない瞳で、淡々とおこなっていく。


(´<_` )「なんて惨い野郎なんだ。笑えてくるぜ」


                       .

349 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:09:28 ID:Ye8YRezw0


見物する弟者の居る、その裁判館の一室にベガーがやってきた。
それと共に、縄で囚われたデルタも。


(´<_` )「おお、ついに来たか」


弟者は目をぎらつかせてデルタをみやった。

言いつけ通りに西部開拓時代さながらに、後ろ手にされた挙句に
木の板で拵えた手枷をはめ、足首と喉に巻きつけた縄
によって自由を奪われたその姿は、奴隷と呼ぶにふさわしい。

下がれ、の一言でベガーが部屋を後にした。
そこに残ったのは、奴隷のようなデルタと、流石兄弟のみであった。

判事らしく黒のスーツを乙に着こなして、嫌味なくらいに優雅な弟者と
頭から足までカウボーイルックを決めている兄者、
そして、それらとは対照的に薄汚れたシャツとジーンズのデルタ。
立場を一挙に伝えるめいめいの服装であった。


( "ゞ)「………」


( ´_ゝ`)


(´<_` )「間近に会えて嬉しいよデルタ。とりあえず楽にしたまえよ。
       その格好で、座れることが出来るんならな……」


弟者は立ち上がると、デルタの方へ歩み寄っていった。
扉の近くには兄者がやはり立ちふさがっている。
デルタが逃げることは、まず不可能といってよかった。

350 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:15:10 ID:Ye8YRezw0

弟者は片膝をついて、デルタと対等の目線になると、

(´<_` )「すでに調べはついている。君は我々の優しさを裏切り、
       ドクオに情報を提供したことはねぇ……」

( "ゞ)「………」

やれやれ、といった口ぶりの弟者を、デルタは睨み続ける。

すると弟者は一度口元に笑みを浮かべてから、デルタの顔面を
一殴りした。鼻に狙いに定めただけあって、弟者の拳に
鼻骨の砕ける爽快な感覚が走った。

( ";;;゙)「ぐあっ……」

そのままデルタは倒れ込んだ。
潰れた鼻からは血が吹き出て、鼻水と共に顔中を汚していく。
その鮮血は床にぽたり、ぽたりと垂れていった。


( ";;;゙)「うう……」

(´<_` )「君にはプライドがないようだね。原住民だったお前を、
       寛大な我々が仲間に入れてやったというのに、
       お前はこの私さえ裏切ってドクオの犬に成り下がるとは」


弟者は立ち上がると、芋虫のように悶えているデルタを踏みつけた。
靴裏をデルタの頬に無理やり擦りつけている。

351 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:19:41 ID:Ye8YRezw0


( ";;;゙)「……!」

(´<_` )「だがチャンスをくれてやろう。ドクオのことを
       洗い浚いに吐けば、寛大な心で許してやろうじゃないか」

弟者は踏みつけをやめると、再び屈んで、倒れたままのデルタを
膝立たせた。目と目が合った瞬間ににこりと微笑んで、猫撫で声のまま、

(´<_` )「ハンターの高潔なプライドを取り戻すのだ……。
       あるいは人間らしさを! やはり我々の側に戻るとすれば、
       まだ君にも救いが生まれるというものだよ」

( ";;;゙)「ぷ、ぷらい……」

(´<_` )「ん? なにかね?」

( ";;;゙)「プライドなんざ……とうに捨ててる……だが、
      だが……貴様には、にどと従わない……!」

(´<_` )「………」

弟者の表情から笑みはさっと消えた。
立ち上がってデルタを見下ろすと、唾を吐いてため息をついた。


(´<_` )「常に、愚かな奴は愚かなことしか考えられないものだな」


                  .

352 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:22:08 ID:Ye8YRezw0
.



( ";;;゙)「――ぐふゥッ!!」


デルタのみぞおちに容赦ない蹴りが加わった。たちまち鋭い痛覚と、
革靴の先が腹部にめり込んだ衝撃がデルタを苦しめた。

涎を吹いて倒れ落ち、引きつけを起こしたように痙攣をした。

(; ";;;゙)「うぐ、ぐ……!」


(´<_` )「これは申し訳ない。ゴミかと思って蹴飛ばすつもりだったよ。
       ああ、いいや、ゴミだったなぁ貴様は。ろくな考え事もプライドもない、
       貧相で下品な面構え。卑しいったらありゃしない……」

(; ";;;゙)「あ、あ、……」


みぞおちの痛みは尚やまない。深く呼吸をしても、神経が引き裂かれた
ような感覚が癒えることもなく、ましてや弟者に反撃など出来ようもない。


(´<_` )「絶望ってのを見せてやろうか」


(´<_` )「こんな村で育たなければよかったなぁって
       後悔させてから殺してやるよ……ハハハ、ッハッハッハ!」

353 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:25:39 ID:Ye8YRezw0
      
 ( ";;;゙)「……後、悔……」

はぁはぁと荒い息遣いをしていたデルタだったが、ようやく
痛みに慣れだしてきた。鼻は見るも無残に潰れ、塞がりかけた鼻腔は
凝固した血によって機能しない。顎が強ばったようで動かしづらいが、
少なくとも喋ることは身体が許してくれた。


( ";;;゙)「ハーモニーに生まれて……後悔…だと」

(´<_` )「そうじゃないのかね。ハーモニーなんぞで暮らさなければ
       少なくともこうして、苦しみ死ぬことはなかったのだからねぇ」

( ";;;゙)「ふん。なら……ありえねぇ話だ……」

デルタの顔ががたがたと痙攣した、それは彼にとっての笑いだった。


( ";;;゙)「俺には……ハーモニーの、、楽しかった思い出が、ある。
      どんなに…苦しもうが……俺の、記憶、は……あせないんだ。
      いつも、ずぅっと……この村を、愛す……」

(´<_` )「ふぅん」


すると再び、弟者はデルタのみぞおちを狙って蹴りを加えた。

( ";;;゙)「あがっ……!」



(´<_` )「馬鹿が。それごと踏み躙ってやるっつってんだよ……!」



                        .

354 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:30:51 ID:Ye8YRezw0


弟者は背を向けると、拷問道具の一式揃ったキャビネットを弄りながら、


(´<_` )「俺は過去、なんども拷問をしては殺してきた。数え切れない
       ほどの経験から言うが、お前も御多分に漏れず、後悔して死んでいく」

さそり毒の入った注射器を手に取って、針の先端をためつすがめつし、

(´<_` )「死の恐怖、耐え難い苦痛……これらを目の当たりにすれば、
       虚勢なんぞ糞の役にも立たない。そして命乞いするには
       遅すぎたと知ったとき、どいつもこいつも同じ表情をする」

(´<_` )「そいつのくだらない人生を表現したような哀れな表情さ。
       糞みたいな人生が凝縮された、情けなさの極みって奴よォ!」

( ";;;゙)「………」


身を捩りながら、デルタは体勢を直した。力の入りきらない
下半身を鞭打って、足枷から不自由を貰いながらも、立ち上がった。


(´<_` )「おやおや、そんなに元気があるなら楽しめそうだねぇ」


( ";;;゙)「(俺は……絶望などしない)」


(´<_` )「弱者の意地って奴だな。ふふ、私も昔は弱者だったものだよ」



( ´_ゝ`)


                 .

355 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:33:32 ID:Ye8YRezw0

(´<_` )「だが、きみにはチャンスも無ければ頭脳もない。
       まことに残念だがね、情報を吐かないのなら死ぬ。
       それが運命というものだ」

( ";;;゙)「(あれは、弟者のタブレットコンピュータ……!)」


デルタはふらふらした足取りのまま、弟者のデスクへ向かおうとした。
そんな思惑を知ってか知らずか、弟者はデルタの脛に一撃を加え、転ばせた。

まともに受身も取れず、デルタはまたも倒れ込んだ。
それでもやはり、立ち上がろうと身を奮い立たせる。


(´<_` )「おーおー、頑張るねぇ」

( ";;;゙)「(まだだ、まだ……)」

(´<_` )「そんな君にはとっておきの贈り物だ」

弟者はそういうと、動こうとするデルタの首筋にサソリ毒を注射した。
暴れないうちに手早く液体を流し込むと、硬直しだしたデルタに、


(´<_` )「おおっと安心してくれ、これはただのサソリ毒の一種さ。
       のたうち回るくらいには危険なシロモノだが、これで
       死ねるなんてありえないから安心してくれよ?」

( ";;;゙)「………!」

(´<_` )「ははは」

更にデルタの尻を蹴飛ばし、前のめりに倒しては空笑いをする。

356 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:34:52 ID:Ye8YRezw0


( ";;;゙)「(あと……少し……!)」

錯乱しかけたようにデルタは呻いた。
目的を悟られないように道化を演じることは慣れたことであった。

膝で這いずるように前進する。意外な重労働に呼吸が荒くなって、
呻きも次第々々に真実的になっていった。背中には弟者の嘲笑めいた
視線を強く感じている。蹴られた鳩尾は未だ鈍痛に悩まされている。
けれどどうしたことか、今は意外な程に冷静で、身体もほのかに暖かい。


( ";;;゙)「(あきら……めん)」

そのとき、弟者が新たな道具を探しに意識をデルタから逸した。
今だ、今しかない。デルタはあらん限りの力を込めて、まず膝立ちになると、
次によろめきつつもまったく立ち上がった。痛む膝に、不自由な足首。
毒が回っているのか、身体中の筋肉が燃えるように熱くなっていく。

目当てのタブレット・コンピュータは射程圏内に入っているか
否かの瀬戸際だった。だが、だが、今なんだ、今しかないんだ。



( ";;;゙)「(う……うう……)」


                     .

357 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:38:07 ID:Ye8YRezw0


デルタは限界を捨てて、おこなった。


( ";;;゙)「ぉおおおおおおッ!!!」

(´<_` )「!?」


弟者が振り向いたとき、デルタは無様な体勢でジャンプをしていた。
方向は弟者のデスクで、目標はタブレットコンピュータだと察知した
ときにはもう、デルタの身体はデスクにぶつかった。



(´<_` #)「……貴様ァッ!」


弟者が駆けつける。その三秒足らずの間に、デルタは衝撃で床に
落ちたタブレットを壊そうと躍起になっていた。タブレットの隅の一つに
砕く勢いで噛み付いている。罅割れた液晶にデルタの鼻血が入り込む。


(´<_` #)「乙な真似しやがると」


ついた弟者はデルタの髪を鷲掴みにすると、そのまま持ち上げた。

それでもタブレットを噛んだままであった。弟者はデスクの角に
デルタをそのまま叩きつける。三度、デルタのひたいを
打ち付けたところで呻きつつもようやく口を離した。
歯が何本も液晶に突き刺さった状態で落下した。


タブレットが破壊されたことは、誰の目にも明らかなことだった。

358 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:39:18 ID:Ye8YRezw0


( ";;;゙)「あが……あ……」

(´<_` #)「屑の分際で……」


弟者はアイスピックを取り出すと、怒りを抑えきれぬ様子で、


(´<_` #)「てめぇの腐った脳味噌かき乱してやらァ!!」



( ";;;゙)「やりたか……やぇ……おれぁもう…しあわせだ」


(´<_` )「んだと……!」


デルタはふっと目を閉じた。気にも留めていないようだが、既に
身体中を蠍毒が駆け巡って、顔は青ざめているし四肢の末端は腫れ上がっている。

顎が震えだす上に舌がうまく回らない。
まともに喋ることを身体が許してくれない。

359 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:40:37 ID:Ye8YRezw0

デルタは言葉では伝えない。行動と態度で弟者を嘲ろうとする。
一矢報いてやったことを、何もできない弱者ではなかったことを。



( ´_ゝ`)



権力に決して屈してやらないことを。
どれだけの苦痛をこれからうけようとも、
ハーモニーの暖かい記憶と夢を背負って死んでやるということを。


( ";;;゙)「は……は……ハ」



(´<_` )「……笑えなくしてやる」


弟者は冷徹に言い放った。

アイスピックを逆手に持つと、デルタの縛られた片手に狙いを定めた。
これから一本一本、串刺しにするつもりであった。

360 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:43:40 ID:Ye8YRezw0
.



( ";;;゙)「は……あ……は、はは」


デルタの脳裏に浮かぶのは、楽しかった頃の記憶だけ。

村を開拓する両親に連れてこられた少年時代、初めて

馬に乗ったときに転んだあのとき、しばらくして慣れた頃、

村中のみんなが褒めてくれたものだ。酒の飲める歳になったとき、

大人にバーを連れ回され、酔いながら村の歌を大合唱したもんだっけ。

いつしか立派なカウボーイになろうと決めた。ハーモニーを愛してしまった。

そうして、悪者を退治して村を守ろうと。守りたかった。守るつもりだ。



( ";;;゙)「…ふ……ふふ」


(´<_` )「悲鳴をあげなァ」


無防備なデルタの指を貫こうと、弟者がアイスピックを振り下ろした……

……そのときだった。空気を素早く切り裂く音が走ったかと思うと、
デルタの身体が無機質にのけぞった。そののち、呻きもなく吐血した。

361 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:47:45 ID:Ye8YRezw0
.


(´<_` )「!?」

( ";;;゙)


デルタを確認した。口から煙を上げ、満足気な笑みのまま硬直している。
身体を揺らすと尋常ではない量の鮮血が口から漏れた。
すでに、デルタは絶命していた。そう、



( ´_ゝ`)



兄者の放った銃弾によって、一瞬のうちに死を迎えたのだった。



(´<_` )「 兄 者 ………どうして」


困惑する弟者の問いには答えない。早業でホルスターに
銃を仕舞ったのち、またも無反応な人形になってしまった。


(´<_` ;)「お前……」


( ´_ゝ`)

                  .

362 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:50:15 ID:Ye8YRezw0



(´<_` )「………」

弟者は暫らく兄者を睨みつけた。だが兄者の目線は空虚を
定めたままで、なにを語るつもりもないことが容易に伺い知れた。

何分かの沈黙のうち、弟者はそっぽを向きながら、


(´<_` )「ドクオのところに向かえ。タブレットが壊れた以上、
       キャリア一匹だけに任せてはおけん。階下の連中を
       引き連れて、さっさと雑木林へ走れ。捕まえてくるんだ」



兄者がやはり無表情のまま、扉を開けて出ていった。


残された弟者は、立ち消えた兄者の後ろ姿を目で追い続けていた。


あとに残されたのは、呆然とした弟者と、
眠ったように死んだデルタだけであった。……


・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・

363 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:52:30 ID:Ye8YRezw0

ハーモニーの夜。狂態を眺めて月の笑う夜。


( A )


ドクオが居た。雑木林の外れ……保菌者と化したハインリッヒと
格闘したその付近で、彼は腐葉土に触れている。


――ハインリッヒとの格闘は、しかしドクオの一方的な
攻撃に終始していた。痛覚もなく明確な弱点も存在しないハインリッヒの、
その四肢と関節とに集中的に打撃を加えるだけの作業だった。

死者を徹底的に殴り、蹴った。
彼女の持っていたナイフを使用もした。

ハインリッヒの身体が身体として機能しなくなる頃になって、
ドクオは素早く腐葉土を掘り返し、彼女をそこに落とした。
そうして土をかけ直し、墓標代わりに細長い石を突き立てたのだった。


( )


ドクオは傍の木の陰に身を隠していた。
俯いたまま、息を殺していた。



それから少し経った頃、小走りに駆けてくる何者かの気配を感じた。
ドクオはそっと影から顔を出し、それの確認をした。

364 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:54:13 ID:Ye8YRezw0


||;‘‐‘||レ「はぁっはぁっはぁっ……!」


やって来たのはノーナンバーズのメンバーの一人、
エノーラに違いなかった。息遣いも荒いが表情はそれ以上に
苦悶に充ちていた。ドクオはそれを訝しげに思いつつも、


('A`)「来るな!」

||;‘‐‘||レ「!?………どうして?」



事実、エノーラはそれ以上足を踏み込むと、飛散したキャリアが
身体に付着するおそれがあった。ただしドクオにはそのことを
説明する気力もなければ、もとより時間もなかった。


('A`)「何であれ絶対近づくな。要件がないなら去るんだ」


しかしエノーラはドクオの予想とは裏腹に、反抗的な口調で返した。


||‘‐‘||レ「なんでよ?」

        .

365 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:57:07 ID:Ye8YRezw0


('A`)「……説明する時間はない」

||#‘‐‘||レ「デルタはどこッ!?」

聞く耳を持たず、いきなりエノーラは感情的に問い詰めた。
状況を理解してしまった、
ドクオはこの状況にどう対処すべきか迷ったが、極めて穏やかに、

('A`)「頼む。全て後で話すから……このままだと、
    そのデルタの意思ごと無駄にしてしまいかねない」

||#‘‐‘||レ「だからなんでよッ!? そうやって大雑把な
       考えだからデルタが連れ去られたんじゃないの!?」

(;'A`)「………!」

||#‘‐‘||レ「デルタをどうにかしてよ!」



(;'A`)「いいか、絶対に俺に近づくなよ。……はっきり言おう。
    デルタは既に殺されたと思って間違いはない」


||;‘‐‘||レ「!?」


('A`)「流石兄弟はもう容赦しない。こうなった以上、
    終わるまで、振り返ってはいけないんだ……俺は悲しまない…」


||#‘‐‘||レ「そんなこと! 仲間が、仲間が居なくなったのに……!」

366 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 03:59:22 ID:Ye8YRezw0

(#'A`)「仲間が死んだからって立ち止まるつもりはねぇ!」


煮え切らないエノーラに、ドクオはついに荒々しい口調になって、


(#'A`)「ここで悔やんでどうすんだよ。いいか、俺の意思を言っておく。

    はじめこの村に来たとき、俺は自分の目標しか考えてなかった!
    ハーモニーのことなど二の次だったさ! だがな、今は違う。
    俺はこの村を救ってみせる! ハンターぶちのめしてやる!
    それが今の一番の目的だッ! 嘘偽りなくな!」


||‘‐‘||レ「……で、でも」


('A`)「絶対にこの村に笑顔を取り戻すから、今は耐えてほしい。
    さあ、アジトに戻って明日の準備をしてくれ。お願いだ」


そういうと、ドクオは隠れ蓑に
していた樹木に登って、姿を隠してしまった。



||‘‐‘||レ「……わかった」

                 .

367ラスト投下 ◆tOPTGOuTpU:2012/09/23(日) 04:01:45 ID:Ye8YRezw0
.

冷静になったのかどうか、エノーラは表情を普段に戻すと、
ドクオの居るであろう方角に向けて、弾丸を投げた。


('A`) オットット

||‘‐‘||レ「じゃ……そういうことで」


感情をつとめて無にし、エノーラは闇夜に消えていった。


('A`)「ああ、みんなも頑張ってくれ……」


独り言のようにドクオはぽつりと呟いた。それから直ぐに
気を引き締めた。深呼吸を繰り返し、ホルスターの銃と
弾数とを確認し、次なる敵に備え、



( A )「(絶対に許さねえぞハンターども。てめぇらの思い通りにはさせねぇ)」


ハインリッヒがまったく動かなくなった今、弟者は
追撃の手を用意するに決まっている。それが第二のキャリアか
ハンターの集団かそれとも兄者か、どれも可能性は考えられるが、
いずれにせよ正念場であることは間違いなかった。



('A`)「(明日がくれば、どちらにせよ全てが終わる、
    この夜が、おれにとっての正念場……!)」


                 .

368名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 04:03:40 ID:Ye8YRezw0
今日はここまで。
次もわりかし早く投下できると思います。
よい朝を。

369名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 05:07:29 ID:6RnQAgZI0
おつ
兄者…

370名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 05:13:30 ID:bKIDx/C20
オモロー

371名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 00:06:47 ID:4HeJDXrkO

この作品の兄者好きだわ


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