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ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part06

951触媒:2015/07/19(日) 17:00:25 ID:0CkNRnuY
 店の主人は禿げあがった頭とでっぷりと太った腹回りをした初老の男で、客商売の人間らしく普段は愛想良く快活に誰にでも話かけては冗談を言って大笑いをするのが常だった。ただ、今は昼過ぎで特に忙しい時間帯でもなかったので、カウンターで料理の仕込みの為に無言で忙しなく動いている。
 そんな主人の様子をちらりと眺めやった後、僅かな客の一人であるエーレンは視線を正面に座るリアに戻した。二人がいるのは一角亭の店内、カウンターから最も離れた角に位置しているテーブル席である。
 二人の間にあるテーブル上には先刻役人から受け取った地図がある。さらにその上にはリアが所持していたリンゴ大の水晶玉が鎮座していた。
 リアはと言えば、その水晶玉に手袋をした両手をかざし、何事かの術式を施している最中である。
「……何か見えてきた」
 エーレンはそう言うと興味深そうに水晶玉を覗き込む。透明に輝くだけであった球の中に少しずつ別の光源が発生し、やがてそれは陽光を反射する河の映像に変化していった。そのまま河を遡るように映像は進み、石造りの巨大な橋に到達する。その橋上の眺めを見たエーレンは絶句した。
 そこにあるのは、延々と連なる死体の山である。しかもその多くは惨たらしく破壊されており、人としての原形をとどめていない。
 特に腹部が欠けている死体が多い事にエーレンは気づいたが、その理由もすぐに分かった。腐臭が漂ってきそうなその光景の中でただ一つ、活動している影があったのだ。
 その影は一つの死体を捉え、何度も腸の辺りを捕えては激しく動く。死肉を喰らい、咀嚼しているのだ。球の映像はその影に向かって近づいていく。
「なんだ、こいつは……」
 そこに映し出されたのは、エーレンが今までに見たこともなく、知識として教えられたこともない生物である。
 身の丈は周囲の死体と比較して、およそ三メートルぐらいだろうか。人型をしているが濃緑色で棘に覆われた全身をしているため、見た目はサボテンに酷似している。頭部と思われる部分には巨大な一つ目があり、胸に当たる部分に縦一文字に開かれた口があり、その奥には何十本もの鋭い牙がのぞいていた。手は三本指で、右手には死体から奪ったのだろうか、両刃の大剣を握っていた。
「古代妖魔の息子だ」
 リアがそう言葉を発したので、エーレンは顔を上げ、視線を彼女に向けた。
「正確には孫か、更にその孫かもしれないが。古代妖魔は辺土界から復活してから後、爆発的な勢いで子を産み続けている。さらにその子らがあっという間に成長して、そいつらも出産しているので、復活してから一年も経っていないのに今は何代目まで誕生しているか見当もつかん、という事らしいのだ。君と出会ったあの街を滅ぼしたのも、古代妖魔自身というよりは子孫どもの仕業かもな」
 リアの解説を聞き終わるとエーレンは生理的な不快感を感じた。単純に気色悪いとしか言いようがない。ただそれは口にはせず、別の感想を言った。
「よくそんな事まで知ってるなあ」
 感心したようなエーレンのその言葉に答えるリアの声音に、やや照れ隠しのような響きが混じる。
「出発前にできる限りの情報は集めておいた。それにその後も新たな情報が入れば、同胞から連絡が来ることになっている」
「その水晶玉を通じて?」
「そうだ」
「すごいなあ」
 聞いたリアが水晶玉にかざしていた手を静かにおろした。同時に、映し出されていた映像も闇に飲まれるように消えていく。
「この玉自体に力がある訳ではない。触媒として最も適しているというだけだ」
「触媒? ああ、魔法を使うための道具でしたっけ」
「水晶玉自体に魔力が込められている場合もあるがな。もしそれであればこんな地図を使って魔力を使う場所を特定しなくても、橋の光景を見ることができただろうが」
 客のいない酒場に、リアが水晶玉を荷袋にしまう衣擦れの音が響く。
「それで、これからどうする?」
 エーレンはリアのその問いに、視線を天井に向けて考える仕草を見せる。そしてその姿勢のまま答えた。
「万全を期すなら、兵隊が集まるのを待ってそこに参加するべきなんでしょうけど」
「うむ」
「気になるのは、なんでこの辺りまで息子だが孫だかの怪物が現れたかって事なんです」
 リアは肩をすくめて見せた。
「そこまでは私にもわからん。まあ何らかの理由で群れからはぐれたんだろうが」
「となると、僕たちの思っている以上に事態は進展しているのかもしれない」
 エーレンは姿勢を戻すとフードの奥にあるであろうリアの両眼を見つめる。
「今すぐ出発しましょう。どうせ戦場で会いまみえる相手でしょうし、ならば誰にも邪魔されずに戦って、相手の手の内を多少なりとも見ておきたい」




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