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ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part06

603双子の日常:2014/09/01(月) 05:16:54 ID:XZY79FVo


 放課後。
 ぼくは上村に別れを告げて、二年一組の教室へ向かった。
 一組はまだホームルームが終わっていなかった。教室を覗くと窓際の一番前の席に志織がいた。志織はぼくに気付くと、笑顔を浮かべて小さく手を振った。僕も笑いながら、手を振り返す。
 数分経つと、教室のドアが開いて、生徒たちが吐き出された。その中に志織もいた。
「帰ろうか」
「うん」
 ぼくは志織の手を握った。そのまま、階段を降りて昇降口へと向かう。
「久し振りの学校だけど、楽しかった?」
「うん、結構良かったよ。伊織は?」
「ぼくもまあ、楽しかったよ。上村以外とはあんまり喋れなかったけど」
「どうして?」
「さあ……? なんか、男子たちが刺々しいんだよね」
「ふうん」
 志織の言葉と丁度に下駄箱についた。上履きとローファーを交換して、外に出る。外には天井が遮っていた青空が広がっていた。天井というのは、空を遮ることで、自分の存在を主張している。その傲慢さがぼくは好きではなかったので、校舎から出られて、少し安心した。何かに包まれているのは、産まれる前だけで充分だ。
 高校は丘の上に建てられていて、校門は坂を下った場所にある。ぼくと志織は手を繋ぎながら、ゆっくりと坂を下った。頭上にはもう散ってしまった桜が、アーチのように存在していた。また、空を遮っている。心なしか、空気が閉塞しているように感じた。気のせいなのだろうか。
「ねえ」
 志織が校門を前にして立ち止まった。桜の天井はもう途切れていて、空には青空が露出していた。
「なに、志織?」
「私のこと、好き?」
「好きだよ」
「本当に?」
 志織は首を傾げて言った。僕と同じ顔が、その薄い唇を開いて、声を出す。奇妙な光景だと、自分でも思う。
「本当に。どうして、そんなことを聞くのかな?」
「そんなことって? 伊織にとっては、そんなことなの?」「そうでしょう」
 ぼくは笑って、かぶりを振った。
「ぼくが志織のこと好きって、それは生物は絶対に朽ちるってことと同じことだよ。つまり、絶対で覆せない事実ってこと。そんなこと、聞くまでもない事実なんだ」
「あー、そっかそっか」
 志織は笑って言った。ぼくも同じ表情をしているのだろう。鏡いらずだ。
「私も伊織のこと好きだよ。聞くまでもないかな?」
「そうだねえ。でも聞いたら、とっても嬉しく感じるよ」
「私も」
 そう呟くと、志織はぼくに抱きついてきた。ぼくも志織に倣って、背中に腕を回す。短いキスを交わして、唾液を交換する。こうすると、ぼくと志織の違いが分かってしまう。第二次性徴期前にはなかった、彼女の胸の膨らみや脂肪。自分の、男としての筋肉や骨の発達。その違いが、ぼくはとても悲しい。大好きな志織と一緒だったのに。それが徐々に変化していく。成長は恐ろしく、しかしぼくらを飲み込んでいく。ぼくたちを、大人へと変貌させるのだ。
 ぼくは顔を離して、志織を間近に見る。
 兎のような、滑らかで、赤みがかった頬。二重の喜びに満ちた瞳。通った鼻筋に薄くて赤い唇。綺麗なカーブを描いた顎。ぼくと同じ顔。でも、ぼくではない。大切で愛しい。それが志織なのだ。
 抱擁を解いて、手をつなぎ直す。ぼくの手にぴったりだ、と思う。それは形がということではない。
 ぼくと志織は言葉もなく、互いに軽く頷いて、また歩き始めた。あと20分も歩けば家に着く。
 下校中の他生徒達の視線や意識がぼくと志織にぶつかっていた。
 でも、隣に志織がいる。それは至上のことで、他は雑事なのだ。完全に、疑いようもなく。




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