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ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part06
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朝、教室に入ると窓際の一番前の席に誰かが座っていた。
「おはよう朝香」
「ん、おはよう上村」
朝香は微笑みながら言った。彼には挨拶は微笑みながらするという奇妙な癖があった。
僕は朝香の一つ後ろの席に座った。まだ、前の女子は来ていないようだ。
時計を見ると、ホームルームまで時間が少しあったので、朝香に飲み物を買いに行こうと誘った。朝香は二つ返事で(しかも微笑みを添えて)了承した。
教室のドアに女子生徒が四名固まっていた。クラスメイトだったはずだけど、名前は分からない。
「ちょっと、いいかな」
朝香がそう女子生徒に言うと、彼女らは満面の笑みを浮かべて道を譲った。朝香の顔が整っているからだ。その証拠に、僕の方へは誰も顔を向けていない。
「ありがとう」
朝香が、また微笑みつつ言った。彼女たちはその笑顔に黄色い声をあげた。受精が上手くいくと、異性から黄色い声を引き出すことが出来る。朝香にはその特殊能力があって、僕には無かった。僕は両親のセックスの賜物だけど、その時点で見た目による社会的及び本能的な優劣が決まってしまうのだ。父母よ、もう少し上手にセックスしてくれたら、僕はもっと幸せでした。
「なあ朝香」
「ん?」
「何でお前、女子に話し掛けるときいっつも笑いかけてんだ?」
「え? 笑ってないよ」
朝香は不思議そうな声音で、そう言った。
「いや、今だって笑ってたぞ」
「うそだ。無表情だったよ」
「お前自覚してないのか?」
朝香は首を傾げた。ああ、こいつは美人の姉とそっくりだから女に見えてしまう。男なのに。逸物が付いているのに。
「じゃあ癖か何かなのかな」
「上村、ぼくにそんな癖はないよ」
「……自然に笑みが零れてくるのか」
僕はため息を吐いてから、前を向いた。遺伝子の違いというのは残酷だ。
階段を降りて一階の廊下を歩くと、朝香とそっくりな顔をした女子生徒と出くわした。
「あ、伊織」
「志織」
朝香は笑顔で、自分の双子の姉の手を取った。朝香さんもニコニコしている。こういう風景は一年生の時、何度も見た。顔が整った双子の姉弟が手を取り合って、ニコニコと会話をしている。それは構図として完成していて、僕は踏みいってはいけないように感じた。廊下を通る生徒達も二人を奇異の目で見ていた。
「朝香」
僕が呼び掛けると、朝香は満面の笑みを浮かべて振り返った。
「早く買いに行こう」
「ああ、そうか。そうだね。じゃあまた、志織。帰りも一緒に帰る?」
「うん」
朝香さんは終始笑顔のまま、自分の教室へと戻って行った。僕はあの過不足のない構図を壊したことに、少しだけ罪悪感を覚えた。とても、下らないことだけど。
ファンタオレンジを買って、教室に戻ると、丁度チャイムが鳴った。僕と朝香は各々の席に戻って、担任を待った。窓からは白い陽光が射し、教室を包んでいた。一つ前の席の朝香は、眩しいのか、手で顔を隠していた。
チャイムが鳴ってから一分ほど経って、担任の女性教師が教室のドアを開けた。年齢は三十歳。いつもスーツに膝たけのスカートを着用している。独身だと言っていたけど、その工夫の無さがモテない原因だろうと思う。顔が特別悪いわけではないのだから。
担任は朝香の存在を認めると少し怒ったような表情をした。しかし数秒後には、いつもの愛想の無い表情に戻った。多分、朝香が微笑んだかなにかに違いない。また、あの癖が発揮されたのだろう。悪い面が無い癖だ。羨ましい。
ホームルームはそのまま、朝香には触れずに終わった。教室は再び喧騒に包まれ、日常が進行する。しかし、その日常に朝香は含まれていない。始業式から二週間も休めば、当然の結果だと言える。クラスの大部分が朝香をチラチラと見ていた。男子は刺々しく。女子は羨望と欲情を伴って。
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