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ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part06
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兄の部屋の前に、細い光芒が伸びている。
閉じられた襖の隙間から伸びる、蛍光灯の光だ。
その光芒に誘われるように、気がつけばわたしは兄の部屋の前に立っていた。
部屋の中からは、相変わらず、兄の楽しげな談笑と、かすかに女の声が聞こえてくる。
まるで罰を受けているようだ、と思った。
わたしが愚図だから。こうして部屋の前に立たされているんだ。
わたしが人より劣っているから、兄の隣にいれないんだ。
襖を薄く開け、兄を見る。
兄は、笑っていた。
本当に楽しそうに。わたしには一度として向けたことの無い顔で。
顔が歪む。兄はあんなに楽しそうなのに、どうしてそれを見た私はこんなにも辛くなるのか。
おかしい。だってわたしは兄が好きだ。兄に、幸せになってほしいと思っている。
なら、兄が幸せなら、それでわたしも幸福ではないの?
わたしは、どうしたいのだろう。
楽しげに笑う、兄の笑顔が見たいのか。
楽しげに笑う、兄の笑顔を消したいのか。
「あはは、それで……」
談笑の途中、何の前触れも無く、不意に兄の眼がこちらを向いた。
「ひぅ!」
思わず声が漏れる。
兄の顔がしかめられるのが分かる。
手間のかかる厄介な奴が来た。今度はいったい何のようだ。
そんな言葉が兄の顔に浮かんで見えるようだ。
「悪い、ちょっと用事できた。また後でかけ直してもいいか?」
兄はそう言いながら、わたしに手招きをする。
わたしは、罪悪感と羞恥心で顔を真っ赤にしながら、そっと襖を開く。
「なんだ」
電話を終えた兄が、忌々しげにこちらを見下ろす。
電話をしていた兄は、とても楽しそうだった。
電話からかすかに聞こえた女の声。
あれは、兄の何だろうか。
「そ、その、用……なくて」
「じゃあなんで俺を見ていた」
「あ、あの、襖開いてて、それで……」
兄はハァ、とため息を吐いた。
「そうか、教えてくれてありがとう」
その声は、出て行け、と言っている。
何勝手に盗み聞きしてんだ気持ち悪い。
兄の眼はそう言っていた。
「う、うん……じゃあ。ごめんね……」
わたしはもう泣き出しそうだった。
こんななんでもないことなのに。
兄はまた、小さくため息を吐く。
兄は、わたしの頭に手を添える。
「あ、あの……」
「落ち着いたか?」
「あ、え、と」
「もう少しか」
「う、うん……」
兄は、わたしが落ち着くまで、頭を撫でてくれた。
わたしのことは迷惑でしかないはずなのに。
兄に落ち度など一つも無いのに。
兄は、本当に優しい。
優しすぎるのだ。
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月明かりが薄く部屋を照らす。
眠れもしないのにベッドに横になっているうちに、いつの間にか月が出ていたようだ。
その光を反射して、机の上のサードニクスが、かすかに輝いた。
あれは兄から送られた誕生日プレゼント。サードニクスがついたネックレスだ。
わたしの誕生月が八月だから、誕生石だといって。
その素っ気無いデザインが、兄からわたしへの気持ちをそのまま表しているそうで、涙が出るほど嬉しかった。
あれから、その石を眺めるのを一日も欠かしたことは無い。
あの石を眺めながら、兄のことを想う。そして、あの幸福だったときを反芻する。
わたしは兄なしでは生きていけない。
漠然とした確信。
だけど、わたしは兄のために何かをすることが出来ない。
兄に害を与えることしか出来ない。兄の足を引っ張ることしか出来ない。いないほうがいい、有害な生き物。
兄が、あの屈託の無い笑顔を向けるような、その人のようには決してなれない。
そして兄はいつかわたしの傍からいなくなる。わたしは、兄の傍には寄り添えない。兄に、永遠に追いつけない。
確固たる確信。
迷惑をかけても兄の傍にいたい。たとえ兄にとって害悪にしかならなくても、それでも兄の傍にいたい。
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