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ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part06

482僕だけが知っている先生についての事:2014/07/12(土) 09:08:33 ID:/hDjNjjE

 僕が来てからの先生は、夜分遅くに呼び出した詫びを言って研究室に案内し、紅茶を勧めた後はずっとその姿勢で動かずにいた。二人でいてこんなに沈黙しているのも珍しい。
 やや居心地の悪さを感じてきたので、口を開いた。
「それで先生、研究が完成したっておっしゃってましたが」
「うむ」
 そう言って先生が顔を上げる。
 そのまま立ち上がると、部屋の西壁面にある、大きな棚に向かった。試験管やアルコールランプ、フラスコといった器具が並んでいるそこから、先生は橙色の液体が並々と注がれているビーカーを手にすると、そのまま戻って再度僕の正面に座った。
 ビーカーを机上に置く音が僅かに聞こえる。
「これじゃよ」
「え?」
 と、僕は素っ頓狂な声を上げた。
 先生の顔を見ると、いつになく真剣極まりない表情にぶつかる。
 そこで今度は視線を落として先生の前にある物体をまじまじと見つめた。
 五百ミリリットルサイズのビーカーは市販の、量産されているごくありふれたものだ。その中を満たしている液体は一見するとオレンジジュースにしか見えない。
「これが、時空間転移装置なんですか?」
「違う」
 先生の返答を聞いて、僕は今度は声を上げずにただ口を開けた。先生が言葉を続ける。
「わしには時空間転移装置以外に君に内緒にしていた研究があってな。これはその完成品じゃよ」
「僕に内緒?」
 言われて我ながらちょっとショックを受けているのに気が付いた。先生に隠し事をされていたとは。
「うむ。黙っていて悪かったとは思っておる」
 先生はビーカーを手にして立ち上った。
「だが、これはかなり以前から……二年以上前には九割程度出来上がっていたんじゃよ。時空間転移装置の開発が成功したら同時に完成させるつもりじゃった。ところがそういう訳にはいかない事態が起きた」
「なにがあったんですか?」
 先生はビーカーの液体を見つめて、僕の質問には答えない。
 しばらくそうしていたのだが、顔を上げると僕を正面から見据える。その眼光に怒気のような色が見え、僕は息を飲んだ。
「君が悪いのだ」
 そう言うと先生はビーカーが空になるまで中の液体を一気に飲み干した。
 室内に甲高い破砕音が響く。ビーカーが先生の手を離れ、落下して床に衝突し粉々のガラス片となっていた。
 先生はその場にうずくまると丸まり、頭を抱えてえづき、呻いている。
 僕は慌てて立ち上がり、机を回り込んで先生の傍に跪き、背中をさすって声をかけた。
「先生、大丈夫ですか!」
 だが、その時妙なことに気が付いた。手に触れる感触が段々と変化している。
 先ほどまでは老人の、痩せて緩んだ質感の肉体だったのだが、今は弾力もあり、張りも感じる。
 いや、体だけではない、変化があったのは先生の頭髪もだった。使い古しのモップのごとく乱れて灰色だったそれが、みるみるうちに漆黒に染まり、美しい艶を出していた。
 そして、先生の口から発せられた声音。
「君が悪いのだ」
 その高く澄んだ少女の声を聞いた時僕は思い出した、僕しか知らない先生の秘密その二を。
 皺だらけの顔はそこだけ見ても性別判断が無理なほど老いていたし、普段から白衣に男物のズボンという格好で、爺と呼ばれても本人もめんどくさがって否定したりしなかった、そのせいで誰もが男性だと誤解していたけど――先生は実は女性なのだ。。
「君が、君が、君が! 彼女など作るから! だから完成させねばならなかった! 君を連れて、遥か昔の遠い場所に共に行く準備が整うまでは待つつもりだった。だがそれではもう間に合わない。君の心と身体が他の女のものになるなど……耐えられるものか!」
 先生が顔を上げる。あれほどあった深い皺が消え失せていた。そこにいるのは、もはやかつての老人ではなく、腰まで届く漆黒の髪、切れ長の鋭くも美しい目、白く透き通った肌、紅を差したような赤い唇の少女だ。
 先生は蹲った姿勢から膝立ちになると自分の手の平を眺め、次にその手で両頬を撫で、そのまま体に滑り落として腿まで達すると満足したように頷き、首を横に向けて僕を見て薄く笑う。
「成功したようじゃな。どうだ? 美人であろう?」
「はい」
 その返事が僕の口から出たものだと自覚するのに一瞬の間を必要とした。眼前の現象に呆気にとられ、僕の意識は半ば飛んでいるようだった。
「ふ、ふ、ふ……。かつては化学界にあるまじき美貌ともてはやされたものじゃよ。ま、研究に人生を捧げる身としては美しさなど邪魔なだけじゃったがな。だから容色を保つどころか、むしろ衰えさせる方に労力を使ったわ」
 先生は立ち上がると両手を開いて僕に全身を見せつけてきた。




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