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ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part06
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冷めた紅茶を一口飲んで腕時計を見ると、待ち始めてから二十分が経過している事が分かった。
とは言え、別段退屈している訳でもない。視線を正面に向け、周囲を右回りに見回す。
二十畳ほどの広さがあるその部屋には至る所に工具、試験管、フラスコ、さらにはむき出しのエンジンから何を計測してるのか分からないメーターまでが乱雑に放置されており、一角には手術台まで設置されている。種々雑多な物品が放置されている室中だが、その中でも飛び抜けて珍妙なものが僕の正面に屹立していた。
それは縦二メートル弱、幅一メートル、奥行き八十センチの直方体をしている金属製の箱だ。銀色に鈍く輝いているが、本体の光よりもあちこちに備え付けられたパネルの液晶画面が目まぐるしく色調を変え発光し、目を細めないと見ていられないほどと言っていい。これを作った人は「三十年前の漫画に出てくるコンピューターのような外見」と表現していた。
よく見ると前面は両開きのドアになっているのだが、観察していた僕の目の前でその扉が金属の軋んだ音を立てながらゆっくりと開き、そのまま動き続けやがて全開放される。
だが、中の様子はうかがい知ることが出来ない。箱の中は紫色の煙に満たされ、それが澱んだまま宙に滞空していたからだ。
しばらくすると、その煙の中から薄汚れたズボンと使い古しの靴を履いた右足が音もなく静かに飛び出してきた。続いて白衣をまとった上半身と、古びたモップのように乱れた白髪を生やした頭部が現れる。髪の下の顔は深い皺が幾重にも刻まれていて、その中に埋もれているかのような目は、老いた風貌にここだけは似つかわしくないように鋭い光を放っていた。
老人は煙の中から完全に表に出ると、正面に座る僕を真っ先に見つけ、しわがれた声をだした。
「ここはどこだ?」
「見ての通り、先生の研究室です」
僕は正直に答える。と言ってもごまかしようもないから他に返答のしようがない。
「今の時間は?」
「十七時二十六分です」
その老人、つまり僕の先生は、これも骨董品かと見まがうような懐中時計を白衣の中から引っ張り出して文字盤を見る。
「わしの時計も同時刻だ。という事は、つまり」
「また失敗ですね」
僕の返事を聞くや否や、先生は絞殺されるカラスとでも表現すべき絶叫を上げると、部屋の片隅に走り、置いてあった長さ一メートル強のスレッジハンマーをひっつかみ、それを振り回して先程まで自分が入っていた箱を滅茶苦茶に殴り続けた。
「やめてください、先生!」
「止めるな! 日下君! こんなもの、こんなもの、こんなもの!」
「別に壊すのはいいんですけど、こう言うやり方は近所迷惑ですからやめてください!」
先生を後ろから羽交い絞めにして全力で持ち上げて阻止する。この人、小柄な上外見は寝たきりになっていてもおかしくないほど老いているのに、時々尋常でない力を出すので僕も必死だ。
ただでさえ先生は近隣の人たちからは「キ○ガイ爺」呼ばわりされていて評判は宜しくないのである。余計なトラブルの元になる行動はやめて頂きたいのだ。
しばらく宙に浮いた足を振り回していた先生だが、やがて落ち着いたのかハンマーを床に投げ捨てると、がっくりとうなだれる。それを見て僕も先生を床に降ろすと、先生はそのまま座り込んでしまった。
何と言葉をかけようか、と思っていた時、制服の内ポケットから機械音が鳴った。スマートフォンを取り出して画面を確認する。
「先生」
「なんじゃね」
「急用ができたので失礼します」
そそくさと後ろを向いて、机の上に置いておいた鞄を手に取り、退室しようとしたのだが、先生の声が聞こえた。
「待て、どこへ行く」
「彼女から連絡があって、会いたいという事でしたのでちょっと行ってきます」
「は?」
見ると、先生は顎が外れたんじゃないかと思うほど口をポカンと開けていた。
「君に彼女じゃと? 初耳じゃぞ!」
「そりゃまあ、今初めて言いましたし」
「いつから付き合っとるんだ!」
「二日前です」
「どこで出会った!?」
「同級生なんですよ」
「美人か?」
「もちろん」
「もうやったのか?」
握りこぶしの人差し指と中指の間から親指を出してそう聞かれ、さすがに僕も辟易した。
「まだに決まってるじゃないですか。なんでそんなこと知りたいんですか」
「そういう男女の関わり合いというやつは、完全にわしの専門外じゃからのう。知識が皆無な分興味があるんじゃよ」
なぜか胸を張って言う先生の声を聴いて、僕は思い出した。
先生は化学に人生を捧げたおかげで「年齢=恋人いない歴」らしいのだ。これは僕しか知らない先生の秘密その一なのだが、知ってても全然嬉しくはない。
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