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とりあえず雑談
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そう言われると、初めてアーロンの眼光は鋭く光った。今までただ嫌気に満ちていたその横顔に、じわりと殺気が滲み込む。
「そうか、それでわざわざ鞘を当ててきたのだな」
「買えぬのか、アーロン」
「いや、待て。そう聞かされては、後へは引けぬ。我慢の緒は既に切れた」
アーロンが、自分自身に言い聞かせるように大きく頷いたとき、ミラはすらりと細身の刀を抜いた。
丸太の影に張ったまま、少年はこんなに美しい刀捌きをみたことはないと思った。
抜くと同時に、片足が微かに後ろへ引く。真っ直ぐ右肩に立てた刀身は、出かかった月の光を吸って、娘にしては端麗すぎるミラの横顔を、かっきりと浮き上がらせた。
「南無三、許せ」
アーロンは声を緊めた。
「女の相手は生涯一度」
アーロンが背丈ほどある長剣を一気に抜くと、近くの葭の中から水鳥が飛び立った。
これまた豪放無類、抜いた剣の切っ先をそのまま左斜めに地べたへ向けて、ぐっと一歩距離を縮めた。
「成る程、お前の構えは面白い。一体、武芸は何々をやったのだ」
「その手で近づいて誘う気か」
「そうではない。後暫くで口を聞けなくなる女。語り草に聞くのも情けだ」
「フフ」
ミラはまた白刃のように冷たく笑った。
「後暫くで口の聞けなくなるのはそっち、冥土の土産に聞かせてやるのも供養になろう。剣は南流、槍は西流、馬は東流で、徒手は北流だ」
「恐れ入った。流石は小娘の騎士様。どうだ、もう一度考え直さぬか? それだけ覚えるのには半生かけていよう。が、切られて死ぬのはあっという間だ」
「御心遣い痛み入った。が、このミラが剣は破邪顕正。そっちが悪かった、向後ノクス様はつけ回さぬと誓書を入れたら許してやろう」
そう言われると、アーロンはまた一歩踏み出した。
「もう我慢がならぬ。お前の様な小癪な女は見たことがない」
ミラはそれをかるく避けて、左へ回り、
「そろそろやるか」
と呟いた。目が据わり、先程までのどこか小生意気な幼さが完全に消え失せる。
アーロンの豪剣が左下から弧線を描いて空へ躍った。
「あっ」
丸太のかげで、少年は思わず声を漏らした。
恐怖の声ではない。アーロンの豪剣の凄まじさと、間髪を入れず宙へとんだミラの姿勢の美しさに、思わず漏らした賛嘆の声であった。
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