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『スーパーロボット大戦∞』

1はばたき:2011/09/13(火) 22:35:33 HOST:zaq3d2e562d.zaq.ne.jp
どうも、はばたきです。
『総合アンソロジー』にて企画していた『スーパーロボット大戦∞』、いよいよもってスタートを切ることに致しました。
まだまだ、未決定な部分も多々ありますが、それらは描いていく内に作っていけばいい、という結論の元スタートさせていただきます。

尚、参戦作品以外の募集要項は未だ受け付けていますので、もし途中からでも参加したいという向きがあれば、チャットなどでご一報くださいませ。
詳しい設定などはこちらを参照

ttp://www13.atwiki.jp/aousagi/pages/1446.html

※参戦作品

☆ガン×ソード
☆THE Soul Taker〜魂狩〜
☆トップをねらえ2!!
☆機動戦士ガンダムOO 2nd season&劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer- 
☆戦国魔神ゴーショーグン
☆劇場版機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-
☆マクロス・ゼロ〜マクロスF(主要キャラクター&歌姫のみ)
☆超獣機神ダンクーガ
☆獣装機攻ダンクーガノヴァ
☆フルメタル・パニック!
☆真マジンガー 衝撃!Z編
☆ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日

2はばたき:2011/09/13(火) 22:36:40 HOST:zaq3d2e562d.zaq.ne.jp
 =プロローグ=

かつて数々の戦いがあった。


文明が発達した人類は、その生活圏を月や火星にまで移住されるところまでに成功させていた。
だが、南アタリア島に墜落した超巨大戦艦「マクロス」は、それまでの常識を越えたオーパーツと同時に地球外生命体の存在を知らせる物だった。
同時に、人類初の外宇宙の探索で地球を離れていたルクシオン艦隊は、宇宙怪獣と遭遇したとの警告を発した。


「今こそ世界を一つに!」


その声と共に、それまでの国家の垣根を解き放ち、地球統合政府を樹立。
いずれくるであろう地球外生命体や宇宙怪獣に地球人類総出で対処していった。
その過程で「グッドサンダー部隊」、「トップ部隊」等が設立。


そんな中、人類の存亡をかけた戦いが始まる。


宇宙怪獣に対抗するため建造されたエクセリヲン。そして人類によって改修されたSDF-1マクロスの進宙式当日、巨人族、ゼントラ―ディの艦隊が出現。
また、その混乱に乗じてグッドサンダー部隊が持つ、謎のエネルギー、「ビムラー」を地球統合政府の影で掌握せんとする悪の秘密結社ドクーガが動き始める。
さらに異空間からはムゲ帝国が侵略を開始した。だが、これに対抗したのが密かに結成されていた「獣戦機隊」である。


宇宙では、ゼントラ―ディと宇宙怪獣。地球ではムゲ帝国とドクーガという戦いが繰り広げられていた。
しかし、それらの戦い全ては地球文明が荒廃するという代償を支払うという結末で閉じ、人々は一時の平和を取り戻した。


先の戦争でゼントラ―ディと共存した統合政府を中心とした地球人類は「人類移住計画」を発動。
新たな新天地を目指して新マクロス級超長距離移民船団で母なる地球を離れた。


だが、先の戦争で衰退しきった統合政府をついて大きな反乱が勃発。一部の連合政府だけが残り、再び国家が分裂した。
数年後、「ユニオン」、「AEU」、「人類革新連盟」という3つの超大国が出来上がり、互いに第二の統合政府になろうとゼロサムゲームを繰り広げていた頃、木星方面より「木星トカゲ」が出現し始める。


木星トカゲが、火星、月と次々に侵攻していく中でも、地球圏での人類の争いは終わることはなかった。
時は進み、戦争根絶を掲げるため全ての紛争に対して武力介入を宣告した私設武装組織・「ソレスタルビーイング」の出現。
さらに、火星を木星トカゲの支配下に置かれた火星住民を救出すべく、民間企業ネルガル重工は、「機動戦艦ナデシコ」を発進させた。
そして遥か銀河では、「マクロス7船団」がプロトデビルンと呼ばれる存在と遭遇していた。


マクロス7船団は、ロックバンド・「FIRE BOMBER」の活躍により、人類はプロトデビルンと和解に成功。プロトデビルンは、遥か銀河へと旅立っていくとう結末になった。
しかし、ソレスタルビーイングの出現によって皮肉にも三国家がただ一つの私設武装組織を倒すためだけに一つとなり、ソレスタルビーイングは宇宙で散っていった。
木星トカゲの正体が同じ人類である「木星連合」という真実を知ったナデシコクルーは、全ての原因になった「ボソンジャン」を処理する「演算ユニット」を回収。
ナデシコごと宇宙へと放逐したことで木星連合と和平することができた。


再び時は流れ、地球圏は再び「地球連邦」という名の元に一つの中に収まっていた。その中で大きく実権を持つのが「地球連邦平和維持軍」独立治安維持部隊「アロウズ」であるが、旧統合政府を支持していたミスマル・コウイチロウ率いる「連合派」は、連邦所属にあって、平和維持軍ほどの権力は持てなかった。


そして、今。


荒廃していた地球は次第にかつての21世紀のような状況までに復興し始めていくなか、世界征服を企むDrヘルや秘密結社BF団。
謎のA級ジャンパーの大量事故死。
人々に安息の日は訪れることはないだろう。


永久の平和をもたらす神など、いないのだから……

3はばたき:2011/09/13(火) 22:37:29 HOST:zaq3d2e562d.zaq.ne.jp
 ―――はあ・・・はあ・・・

 赤い砂塵を巻き上げる風音に混じって、熱い吐息の音が耳を打つ。
 狭い棺桶のような空間では、自分の口から漏れる息ですら鬱陶しいほどの湿気をはらむ。
 否
 ここは正しく”棺桶”だ。

 ―――はあ・・・はあ・・・

 普通なら利いている筈の空調もままならず、必死の心拍数に反して目の前の景色の流れはあまりにも遅い。
 のろのろとしか動けず、這うような・・・否、這ってでも前に進もうとする。
 
 ―――はあ・・・はあ・・・

 急がなくては―――!
 彼女は逃げていた。
 迫り来る恐怖から、理不尽な死神から―――

 ―――はあ・・・はあ・・・

 息も絶え絶え。
 マトモに動くのは最早腕だけ。
 そんな棺桶同然のノリモノの中で、それでも必死に逃げる。
 だが、そんな抵抗が長く続くはずがない。
 程なくして、ズンと腹に響く音共に、ガクンと全身を揺さぶる衝撃。
 同時に進まなくなる己の視界。
 その意味を察して、恐怖に震える瞳で空を仰ぎ見る。
 蒼穹は見えず、唯目の前にあるのは燃える様な赤。
 緋色の腕が、正確には腕の先から伸びる、不釣合いなほどの巨大な杭が、半身となった自分の機体を貫いている。

「はあ・・・はあ・・・いや・・・」

 ぐん、と持ち上げられる体。
 抵抗は無意味だ。
 元よりそんな力はない。

「いや・・・いや・・・」

 翠の瞳が自分を射抜く。
 その指が、杭に繋がる引き金を、静かに絞る様が、まるで時間が引き延ばされたかのようにスローモーに見えた。

「いや、いや!いやあああぁぁぁぁっ!!!」


 ○第一話『孤高の舞姫』


 ――――パリン――――

ノノ「はうっ!」

 皿を通して床が見える。
 物理的にはありえない状況だが、それを可能にするコロンブスの卵がある。
 即ち皿を割ってしまえばよい。
 そうすれば二つに増えた皿の合間から、床も天井も思いのままに見通す事が出来る。

ノノ「また重力に敗れてしまいました。自給760円で六時間、今日割ったお皿の代金を引くと、一日働いて220円。ニュートンめぇ、許さん!」

 ダンッ!と机を叩くと、その拍子に籠に摘んであったりんごが飛び跳ねる。
 浮き上がったそれを器用に左手でキャッチ。

ノノ「落ちたりんごはノノが拾いますから、重力は無かったことにしてもらえませんか?」

 むしゃり、とりんごを齧りながら、古典物理学の祖に懇願してみるが、当然それで世の理が覆ってくれるはずもない。

沙慈「お疲れ様。でも、リンゴ代は150円ね」

ノノ「しまったぁっ!!これで今日のバイト代は70円!!」

4はばたき:2011/09/13(火) 22:38:14 HOST:zaq3d2e562d.zaq.ne.jp
 懊悩するノノと名乗った少女を、哀れむような、慈しむ様な微妙な表情で見守るのは、沙慈・クロスロード。
 共に宇宙開拓民の一人として、この星―――火星の再復興に従事する作業員だ。

サブロウタ「ま、毎日毎日皿割って、フライパン割ってりゃあな」

 クツクツと笑うのはカウンター席に座る挑発の青年。
 タカスギ サブロウタ。
 この店の常連でもある。

ノノ「割るのだけは得意なんです・・・」

 ポツンとつぶやいて、言葉通りりんごをパカンときれいに割ってみせる。

ルリ「でも、普通冷蔵庫までは割りません。そもそも冷蔵庫は割れるものじゃないと思いますけど」

 サブロウタの席の隣に座ってラーメンを啜っていた少女がポツリと、カウンター越しに見える怪しげな残骸を見て呟く。
 淡々とした声音はノノと同じ位の年恰好ながら、否に重みがある。
 それだけに、ノノの受けたダメージは計り知れない。

サブロウタ「田舎帰って巻き割りでもするか?」

ノノ「そこまで割り切れません」

 うまいこと言ったが、ノノの雰囲気は和まない。
 寧ろ、へにゃんと頭頂部のくせっ毛と一緒に項垂れる。
 そんな、いつものどおりの和やかな雰囲気。
 かつての戦争の爪痕など、無縁とも思える時間の流れは、未だ燻る紛争という名の闇を忘れさせてしまいそうになる。
 しかし、現に地球では・・・否、この火星ですらその認識は甘いといわざるを得ない。
 何故なら・・・

 ―――バンッ―――

 扉を開く音が一瞬の静寂を破る。
 そして、見えるのはダランとした黒い襤褸雑巾のようなものを担いだ少女。

沙慈「ウェンディちゃん?どうしたの!?」

 入ってきたのが顔馴染みの相手だと解った途端。
 驚きと焦りの色を見せる沙慈。

ウェンディ「すみません。ええっと・・・」

 ウェンディと呼ばれた少女が動くより先に、彼女の抱えていた襤褸がピクリと動き出す。

???「すみません。何か、食べるものを・・・」

ノノ「あ、はい!」

 どうやら人間らしいそのくろんぼが顔を上げていった注文に、慌てて動き出すノノ。
 そして、

???「後、それと・・・」

沙慈「あ、はい。飲み物ですか?」

???「いや、その、調味料を・・・」

 一瞬、言われた事の意味を図りかね、疑問符を浮かべる沙慈達だったが、続く言葉に更に目を点にする。

???「ありったけ、全部・・・お願いします」

5蒼ウサギ:2011/09/15(木) 02:39:11 HOST:i114-189-105-227.s10.a033.ap.plala.or.jp
 火星、停留場。
 かつて蜥蜴戦争を終結させた「ナデシコ」の名を引き継いだ戦艦が一つ。
 赤い部分がカラーリングが青に変わっている他は、至ってナデシコとは変わらないそれはナデシコBと呼ばれていた。
 そんな、名誉ある戦艦に一人の少年は、物凄くブルーな気分に陥っていた。

ハーリー「全く、なーんで僕がお留守番なんですかぁ。そりゃあ、艦長の大切な艦を空けるわけにはいきませんけど。
     それにしても、サブロウタさん、よりにもよって艦長まで誘うなんて〜〜〜〜」

 このマキビ・ハリ少尉、通称、ハーリーくんは、子供ながらにしてナデシコBの副長補佐である。
 しかし、子供らしく現在、ふてくされまっしぐらである。
 だからといって部屋に籠って不貞寝できる立場ではないため、こうしてブリッジで暇つぶしとばかりに世界情勢を再確認していた。

ハーリー「地球は、Dr.ヘル軍団とBF団が暴れ回ってるって感じだなぁ。今のところ“ミスリル”がそれに対応しているようだけど限界はあるし、
     アロウズは……結局、保守のことしかおらず相も変わらずテロリストの残党狩りばかりである」

 こんな時、自分達の上司であるミスマル・コウイチロウにもっと発言力があれば、と思うが政治的にも今は難しい。
 平和維持軍でも、アロウズと自分達、連合派では二階級の差があるとさえ言うものさえいると聞く。

ハーリー「いっそ、僕らが手を出せれば……いや、そうなると艦長の立場がなぁ」

 ホシノ・ルリ少佐は、連合派でありながらその卓越した能力のために一時期、アロウズからのスカウトを受けたことがある。
 しかし、それを断った。今は亡き、テンカワ・アキト、ミスマル・ユリカと一緒に生きる道を選んだのだ。
 迂闊に地上の戦いに干渉して、“二階級上”自称しているアロウズの逆鱗に触れれば、同じ平和維持軍といえどその処遇は危ない。
 なんとももどかしい気持ちに晒されていた。

ハーリー「それに、問題はそれだけじゃないんだよなぁ」


§


 ほとばしるジューシーなステーキの香りが店内を充満し、思わず生唾が出そうなそれに腹ペコの男は食の冒涜ともいえる行為。
 いわゆる、“店内全ての調味料をステーキにぶちまけたのだ”

サブロウタ「おい、マジかよ……一気に食欲なくなるんだが」
ルリ「人の味覚、趣向はそれぞれですが、ステーキを残すと縁起が悪いですよ」

 歴史人物のことにでも詳しいのか、ポツリとルリが言い放ったがそれは杞憂だった。
 彼は、そのもはやステーキの香りを色んな調味料を混ぜまくってもう何の香りかわからなくなったステーキをパックリと平らげて一言。

???「美味い!」
沙慈「あはは……お気に頂いてなによりです。あ、えっと…」
ヴァン「ヴァンだ」

 今は食事に夢中なのか、短く答えるだけですぐに自分の至福の世界へとトリップしてしまったのでそれ以上は誰も突っ込まなかった。
 すると、今度はノノが時計を見て、思い出したかのように慌て始めた。 

ノノ「あ、そろそろ始まる〜〜〜!」
沙慈「え? あぁ、本当だね」

 ピッ、と沙慈はテレビのスイッチを入れる。
 何気ないニュースなのだが、ノノの目は光り輝いていた。

6蒼ウサギ:2011/09/15(木) 02:40:03 HOST:i114-189-105-227.s10.a033.ap.plala.or.jp
『さて、本日の特集は現在、銀河横断ツアーの真っ最中である銀河の歌姫、シェリル・ノーム!
 最終日にあたるマクロス・フロンティア船団では、なんとあの現代に甦ったFIRE BOMBERとのコラボレーションです。これは是非とも――』


ノノ「おぉ〜〜! ノノは感動しました! これが夢の共演って奴ですね〜!」
沙慈「う、うん。本当は、シェリルだけの銀河横断ツアーだったんだけど、突如、若い頃……
   そう、本当に現役時代のFIRE BOMBERが出てきたっていうからこの企画が組まれたらしいよ」

 普通ならこの手の話は、単なる話題作りと一笑されてしまうだろう。何しろFIRE BOMBERは、あの“バロータ戦役”を境に活動停止。
 あれからもう何年も経って、再結成されて現れても普通ならもっと年をとった状態だろうが、テレビに映る彼らの姿は、まさにあの時のままだ。
 一時期は、コピーバンドを疑われたが、それはないと断言できる理由が二つある。
 一つは、そんな“単なる話題作り”をするほど、シェリル・ノームというアイドルは、落ちぶれてはいないということだ。
 スタイル、歌唱力、美貌、パフォーマンス。
 どれをとっても最高ランクに位置しており、今や銀河の歌姫とさえ称されるほどに有名になった彼女に小細工はいらない。
 そしてもう一つは―――

ルリ「“時間軸並列事件”……。過去のFIRE BOMBERが、現代(ここ)にFIRE BOMBERにシフトした」
サブロウタ「しっかし、そんな事件をこんな形に利用するたぁな。シェリルのマネージャーは、相当敏腕だぜ」

 一瞬、嫌味ともとれる発言に聞こえたが、ニヤついている顔を見る限り、彼もまんざらではないらしい。
 実質、このコラボ企画は、当初のシェリルの銀河横断ツアーのチケットは、三倍に高騰したと聞く。

サブロウタ「ちっきしょー! おけばよかったーっ!」
ノノ「私もですー!」

 二人がほぼ同時にカウンターに突っ伏す中で、ルリは密かに、

ルリ「ごちそうさまでした」

 食事を済ませていた。

7勇希晶:2011/09/15(木) 23:10:25 HOST:p2138-ipbfp405fukuokachu.fukuoka.ocn.ne.jp
ノノ「Let's go! 突きぬけようぜ〜♪」

ニュースが終わり、ノノは上機嫌で鼻歌を歌いながらテーブルを拭いている。
サブロウタ達は既に帰った後だ。他の客も昼休みが終わったのか、三々五々帰って行った。

ヴァン「zzz・・・」

そして黒い襤褸雑巾・・・もとい、ヴァンは腹が満たされたことで睡魔が襲ってきたのか、テーブルに突っ伏して爆睡していた。
ちなみに料金は既にウェンディが払っているので、問題はない。

沙慈「そう言えばウェンディちゃん、その人は一体?」

ウェンディ「えっと、実は・・・」

沙慈の問いかけに、ウェンディは答えに詰まる。
が、結局は正直に話すことにした。
ヴァンと出会ったのは偶然であり、この店に連れて来たのは助けてもらったお礼とのこと。
それ故ヴァンのことは、変な剣を使っているということ以外は何も知らないこと。

ノノ「ウェンディちゃんは優しいねー」

顛末を聞いたノノはウェンディの頭を撫でる、というかぐしゃぐしゃかき回す。
しかしウェンディは「子供扱いするの、やめてください」と言いながら払いのける。
そんな時だった。

???「失礼」

突如、緑の軍服を着た青年が2,3人、店の中に入ってきた。

青年「「地球連邦平和維持軍」独立治安維持部隊「アロウズ」だ。沙慈・クロスロードはいるか」

沙慈「え、あ、はい。沙慈・クロスロードは僕ですけど・・・」

妙に高圧的な態度で問われ、皿洗いをしていた沙慈は、何故自分が呼ばれたかもわからず返事を返してしまう。
しかし次に放たれた言葉で、沙慈を含めその場の空気が凍りついた。


青年「沙慈・クロスロード。反連邦組織「カタロン」構成員として、その身柄を拘束する」


一瞬、何を言われたかわからなかった沙慈だが、ずかずかと調理場に入ってくる青年の仲間に気付き、抵抗を試みるが鍛えられている軍人相手には成す術がなく、拘束されてしまう。

青年「言いのがれは出来んぞ。反抗的な芽はたとえ小さくとも潰しておかんといかんのでな」
沙慈「待ってください! なんで僕がカタロンなんですか!?」

両手をガッチリと拘束された沙慈は必死で抵抗を試みるが、青年士官はそれも一笑に付す。
そのまま店外へ連れて行かれそうになった沙慈だったが、その前にノノが立ちふさがる。

ノノ「待ってください! 事情はよくわかりませんけど、沙慈さんは悪い人じゃないです!」
青年士官「退け、小娘」

しかし、青年士官はノノを殴り飛ばし、強引に道を開く。

ノノ「きゃっ・・・!」
ウェンディ「ノノさん!?」
沙慈「ノノちゃん!!」

倒れたノノに駆け寄るウェンディを横目にしつつ、青年は歩を進めようと―――

「・・・待ちな」

ちりん、と。
なにかが鳴る音と低く響く声に、足をとめた。

8蒼ウサギ:2011/09/20(火) 22:17:02 HOST:i114-190-98-131.s10.a033.ap.plala.or.jp
 何やら店内が騒がしい。
 好物のミントティー・ココアを飲むために、火星での馴染みの店を訪ねたのだがどうも中の様子がおかしいことに気付いた少女、ラルク・メルク・マール。
 ……まぁ、ここの看板娘のお陰かどうか知らないが、ここがひとときでも静寂だった日は、ここの最近身に覚えはない。

ラルク(また誰かやってきてからかってるのだろう)

 前にもいた。
 宇宙パイロットになりたいと本気で思っているその看板娘を笑い飛ばしていた下種な者達。
 自分は、そういった者達が嫌いだ。今度もそんな輩ならば遠慮しないでおこう。
 そろそろ、静かにミントティー・ココアを飲みたいものだ。
 さて、この扉をくぐって何が出るやら……

 ドォーーーーン!

ラルク「え?」

 出てきたのは人間だった。続いて、天上に一人、壁を突き抜けて一人と立てつづけに飛び出てくる。
 まるで店内にいる何者かに啖呵を切ったはいいが、あっさりと反撃されているかのようだ。
 彼らの制服には見覚えがある。

ラルク「……アロウズ? なんでここに?」

 ラルクは、目の前に倒れて泡を吹いている青年士官を見やって素朴な疑問を投げかけるも、肝心の本人からの返答はなかった。
 ただ一つ確信できることは、今日はのんびりとミントティー・ココアが飲めないということだ。

ラルク「はぁ」

 短くため息をついた後、このままだと面倒なことに巻き込まれそうなことになりそうに雰囲気にこのまま退散しようとしたラルクだったが、

沙慈「あ、すみません。大丈夫でしたか?」

 聞き覚えのある店員の声に、足を止めざるを得なかった。

ノノ「お客さんですかー? どうぞー、空いてますよー!」

 また一人。こっちは、先ほど思い耽っていた看板娘の声だ。
 というか、この状況でお前は気ままに接客できると思ってるのか!
 アロウズだとアロウズ!
 現在、地球圏で一番勢力を持っている軍事組織を知らないわけではあるまい。

ラルク「……何があったかは知らないが、こんな真似して店がどうなっても私は知らないよ」
沙慈「あ、いやぁ、それは……」

 何故か口ごもるこの青年を割いて、ラルクの前に姿を見せる。
 まるで西部劇のガンマンを思わせる黒いタキシードに、テンガロンハット。
 だが、その手に持ってるのは銃ではなく、蛮刀だった。

ヴァン「仕方ねぇだろ……やっちまったもんはやっちまったんだから」

 ラルクは、ため息交じりに明らかにこの騒動の犯人に「全く」と告げた。


§


「突入隊からの連絡が途絶?」

 間の開いた重い沈黙が訪れる。

「証拠隠滅のためにもオートマトンを起動させよう」

 火星宙域で待機していたアロウズ部隊の司令官が冷徹な命令を下した。
 瞬間、暗い空間の中で不気味な赤い光が点々と輝き始めた。

9はばたき:2011/09/21(水) 22:20:08 HOST:zaq3d2e408e.zaq.ne.jp

 §

 一頻り暴れた―――と言ってもほぼヴァンが一方的にアロウズの仕官をぶちのめしただけだが―――事で荒れた店内を見て、ラルクは陰鬱とした気分になる。
 気分転換に来て、厄介ごとに出くわす。
 どんな能天気な頭をしていようとも、気分も害すには十分すぎる。

サブロウタ「派手にやったね、こりゃ」

 それは、浮ついた風体のサブロウタでも同じらしく、軽い口調にも辟易したようなニュアンスが混じる。

サブロウタ「しっかし、アロウズに目を付けられるなんて、お前さん、なにやらかしたんだ?」

沙慈「こっちが聞きたいですよ・・・」

 暗鬱とした表情で沙慈は項垂れる。
 反政府組織『カタロン』。
 地球圏統一連合と謳いながら、その内情はほぼ旧三大国家陣営の延長線上のような平和維持軍の在り方に、反発を持つ人間は少なくない。
 しかし、沙慈自身もアロウズの黒い噂程度なら聞いた事はあるが、それを鵜呑みにして、過激なテロリズムに走るほど短絡的ではない。
 サブロウタも、虫も殺せないような沙慈の性分は知っているだけに、深く追求する気もなさそうだ。

ウェンディ「・・・あいつらは、いつもそう。自分に都合の悪い事は、みんな人のせいにして・・・」

 搾り出すような声で口を開いたのはウェンディだ。

沙慈「ウェンディちゃん・・・」

ウェンディ「私の兄さんもそう・・・。難癖をつけて連れて行かれて・・・」

 シン、と重くなる空気が場を支配する。
 彼女の胸元に下げたペンダント・・・のようにも見えるカメのカメオが、「クェ〜」と心配そうに鳴く。
 そんな中だ。
 この騒動の「犯人」がふらりと戸口へ向かったのは。

ウェンディ「ちょっと、何処行くのよ?」

ヴァン「何処って、もうここには用も無い。飯の借りも返したしな」

ルリ「寧ろ状況は悪化したようにも思えますけど」

 淡々としたルリのツッコミにも「知るか」とだけ答えてヴァンは再び歩き出す。

ウェンディ「ちょっと待って!大変なのは皆同じなんだから、力を貸してよ!」

ヴァン「俺には関係ない」

10はばたき:2011/09/21(水) 22:20:51 HOST:zaq3d2e408e.zaq.ne.jp

 先ほどの立ち回りは何だったのか。
 そう思わせるほど無気力な声音。

ウェンディ「そんな、ずるい。あんなに強いのに・・・どうして助けてくれないの?」

ヴァン「ずるくない。俺は自分でやる事をきっちり決めてるだけだ」

 にべも無く、「助ける理由が無い」と言い切る。
 ルリは何やら考え込んでいるが、サブロウタやラルクは元よりチンピラ然としたヴァンの事は特に当てにしていないようだ。
 ヴァンを引き止める理由のあるモノは誰もいない。
 しかし・・・

ウェンディ「・・・・てあげる」

 か細い声で何事か呟くウェンディに、ふと振り返るヴァン。

ウェンディ「私、ヴァンのお嫁さんになってあげる!だから・・・」

 場が凍りついた、とは正にこの事だろう。
 数秒の沈黙・・・

一同(除くルリ)「「「「「うぇええええっ!!?」」」」」

 一斉に驚きの声が上がった。

沙慈「何言い出すの!?ウェンディちゃん!」

ラルク「ちょっと、いくら何でも話飛躍しすぎでしょ?身売りなんてするもんじゃないよ」

 続いて一同総出で嗜める。
 ノノに至っては、回路がショートしたのか、頭からぷすぷすと煙を吹いて動かない。

ヴァン「おま・・・お嫁さんって、何かわかってるのか!?」

ウェンディ「半分位・・・・」

ヴァン「半分じゃダメだろう!?」

 中でもヴァンの取り乱しようは特にひどい。
 直接言われたのだからそれも已む無い事とは言え、子犬のような目で真摯に見上げるウェンディの瞳を前に

ヴァン「そんな目で見るな!俺は童貞だ!!」

ウェンディ「わ、私だって・・・」

ヴァン「言うな!はしたない!!」

 てんやわんやである。
 それでも、かろうじて落ち着きを取り戻したのか、ややあってウェンディの肩に優しく手を置き、

ヴァン「いいか。お嫁さんってのは、幸せで幸せでいっぱいの時になるもんだ」

 軽々しく言うもんじゃない、とでも言うかのように、優しい諭すような声で語りかけた。

11勇希晶:2011/10/03(月) 21:05:34 HOST:p2138-ipbfp405fukuokachu.fukuoka.ocn.ne.jp
ヴァン「間違っても、何かのカタにでなるもんじゃない。わかったか」

ウェンディ「で、でも・・・」

ヴァン「でもじゃない。とにかく、俺は」

なおも食い下がるウェンディに、ヴァンが釘をさそうとした時、突如警戒警報が鳴り響いた。

ヴァン「なんだ?」

ルリ「第一種避難警報? 一体――」


ルリが疑問を口に出そうとした時、彼女の通信機が着信を知らせる。
発信元は、ナデシコB。発信者は現在一人留守番中のハーリーからだった。


ルリ「はい。どうしました、ハーリー君」

ハーリー『艦長、大変です! 所属不明の機動兵器が多数出現しました!』

ルリ「所属不明、ですか?」

ハーリー『はい、形状は旧木連のバッタに酷似していますが・・・』


そこでハーリーは語尾を濁す。
かつて旧木連で主力となっていたバッタやジョロ等、旧木連の無人兵器は現在作業目的以外では活用されておらず、また個人所有も認められていない。
念のため火星開発公社にも問い合わせたが、所有するバッタなどは現在全機所定の箇所で稼働中とのことだった。


ルリ「わかりました。すぐに戻ります。・・・すみませんが、そういうことなので」

沙慈「あ、はい。お手数をおかけしました」

ルリ「気にしないでください。私も、ここがなくなると困りますから」

軽く頭を下げる沙慈に返答を返し、ルリとサブロウタは彼らの旗艦へと帰還していった。

沙慈「僕達も避難しようか。確か近くにシェルターがあったはずだから、そこにいこう」

ノノ「あ、はいっ! お姉様は?」

ラルク「私は戻るわ。敵襲だったら出撃命令が下るはずだもの」

そう言って、ラルクはミントティー・ココアが飲めなかった残念と共に、立ち去ろうとしたが、ノノの声に肩越しに振り返る。
視線の先には、両手を胸の前で握りながら「が、頑張ってくださいね!」と若干頬を紅潮させながら、激励の言葉をかけるノノがいた。
ラルクはそれに手を掲げることで応え、そのまま立ち去った。

沙慈「さて、僕達も急ごうか。・・・あれ、ウェンディちゃん。ヴァンさんは?」

ウェンディ「えっと、「面倒は嫌いだ」ってどっかいっちゃいました・・・」

あまりにも自由すぎるヴァンの振る舞いに、一瞬呆気にとられた3人だったが、とりあえずノノとウェンディはシェルターに避難。
ヴァンは沙慈が探し出してシェルターへ連れて行くこととなった。

沙慈「ノノちゃん、シェルターの位置はわかるよね。僕もヴァンさん見つけたらすぐに行くから、先にいってて」

ノノ「わっかりましたぁ! 沙慈さん、気を付けてくださいね」

沙慈は軽く頷いて応え走り出し、ノノとウェンディは急ぎ準備を整え、シェルターへの道を急ぐのだった。



✝✝✝✝✝✝✝✝



??「おおぅ、予想外の闖入者。・・・んー、でも動きからしてはぐれトカゲのようなのです」

赤茶けた地平線が見える火星の大地で、少女は一人ごちる。
少女がいるのは何かのコクピットの様な狭い空間ではあるが、宇宙服のようなものは着ておらず、代わりに手帳とペンを取り出して何かを書きとめていた。

??「えーと、ワロースだったっけ? 旧人類を粛清する自動殺戮機械は大歓迎なのですけど、トカゲの乱入で予定が狂うかもしれませんですね」

少女はうーん、と考えるふりをした後、

??「まあ、全部が予定通り進んだらそれはそれで面白くないって総督も仰ってましたし、私は私の責務を果たすだけなのです」

とそのまま見守ることを決め、モニターを見つめるのだった。

??(仮にステルスがばれても転移すればいいだけの話なのです。準備は万全にしてきましたですし♪)

12蒼ウサギ:2011/10/04(火) 01:01:19 HOST:i125-204-46-237.s10.a033.ap.plala.or.jp
 それは、サブロウタの運転するジープでルリがバッタ。通称、木星蜥蜴と呼ばれる物体を肉眼で確認したのと、ほぼ同じ頃だった。

ルリ「あれは……」

 黒い物体が火星の地を走っているのだ。それも一つではない。
 数を数えることさえ面倒だと直感的に判断させてくれる成人の膝元くらいの小さな無機物。
 それが群れをなして、自分達とは真逆の方法へと進んでいっている。
 その異様な光景に一抹の不安を覚えてか、すぐさまコミニュケでハーリーに通信を繋ぐ。

ルリ「……ハーリーくん」
ハーリー『あ、はい!?』
ルリ「……相手は、バッタだけじゃなさそうです」 
ハーリー『え?』

 驚くハーリーを余所に、ルリは己の憶測を述べた。
 そして、その対応策、万が一のことに関しての事柄に対処できるよう互いに話し合った。 


§


ラルク「……といっても相手が宇宙怪獣じゃないとはいえ、こういう場合、“自衛目的”という意味でも一々上の許可はいらないか」

 多少ぶっきらぼうな物言いだが、実際こういう状況になると放ってはおけないのがラルクだ。
 額に張り付いている丸いバッジのようなシールをはがすと、ラルクの影がズィーと伸びる。そこから出てきたのは巨大な鉄の腕だった。

バッタ「!?」

 ラルクの挨拶代りの一発は、一体のバッタを撃墜。それに応じてか、ラルクを脅威と判断した他のバッタが一斉に襲いかかってくる。
 これは、ラルクの計算通りだ。

ラルク「ディスヌフ! 来い!」

 天高く掲げられた腕と共に巨大なロケットのようなモノが高速で飛来してきた。
 巨風が吹き荒れ、バッタ群は一瞬、群れを崩す。
 その間に、それは変形を始めた。
 腕が出て、脚が出て、頭部が出て、顔が露わになる。
 
 バスターマシン・ディスヌフ。

 それが今、ゆっくりと火星の大地に降り立つ。

ラルク「相手は宇宙怪獣じゃないが、数が多い。殲滅せよ!」

 ラルクの言葉に従う様に、ディスヌフが指先から高速で連射される実弾を撃ち放った。
 それに当たるバッタもいるが、ほとんど回避されていたといっていい。実質、当たらなかったというほうが正しい。

ラルク「……旧式相手くらい一人でこなせよ」

 呆れたような口調でラルクは、呟き次に「もういい、私にやらせろ」と告げた。
 ディスヌフの手がラルクへと伸び、ラルクはそこに乗る。
 同時に胸のコクピットと思われる部分が展開すると、ディスヌフとラルクの目が合わさる。
 まるで互いの信頼関係を確かめるように。

ラルク(宇宙怪獣じゃないんんだ。こんな相手、すぐに終わらせてやる!)

 素早くコクピットに乗り込むラルクは、高揚感を抑えつつも相棒に告げた。

ラルク「いくよ、ディスヌフ! エキゾチックマニューバー!」

 瞬間、ラルクの頭部が光を放ち、同時にディスヌフの目にも光が灯った。


§


 ノノとウェンディは、沙慈に言われた通り避難シェルターに行く道中だった。
 だが、ノノがディスヌフの登場に興奮したりと、いちいち大げさにはしゃぐものだから少し遅れているのが現状である。

ウェンディ「もう! 早く行かなきゃいけなんでしょ!」
ノノ「はっ! そうでした! ついうっかり、お姉さまのマジ燃え〜! に見惚れてました!」
ウェンディ「……でも、本当に強いんだね。あの人も」

 少し重たい沈黙を悟ってか、ノノがウェンディを見やる。
 内心で強い人が羨ましいのかな? とか思うが言葉にはしない。

ノノ「努力と根性です!」
ウェンディ「え?」
ノノ「ノノも、いつかお姉さまのような宇宙パイロットになりたいために努力と根性でがんばってます!
   だって、ノノは、ノノリリなりたいからでーーーーす!」

 まるで火星全域に響き渡りそうな堂々たる宣言だった。
 沈黙すること僅か数秒足らず後、

ウェンディ「…………お皿しか割ってないのに?」
ノノ「……その話はしないでください」

 ウェンディの至極真っ当な指摘に、シュンとノノの気分と同時に頭の跳ねっ毛もしおれる。

ウェンディ「とりあえず急ぎましょう。シェルターってこっちでいいの?」
ノノ「はい! あと少しです!」

 見れば、火星の住民達も次々にシェルターへ向かって走っているのがチラホラ見える。
 二人もそれらに続いた。

13勇希晶:2011/10/09(日) 18:33:26 HOST:p2138-ipbfp405fukuokachu.fukuoka.ocn.ne.jp
沙慈「もう、ヴァンさんは何処にいったんだろう・・・」

一方、沙慈はヴァンを探していたが、一向に見つけられないでいた。
そんな中、沙慈の耳に悲鳴が聞こえた。
しかも、徐々にその悲鳴の発生源は近づいてくる。

沙慈「悲鳴? いったい何が・・・」

そう呟いた直後、目の前の交差路から飛び出してきた男性が、機関銃の様なもので滅多撃ちにされた。
男性はまるで下手な踊りを人形が踊るような動きをした後、壁にぶつかりそのまま崩れ落ちる。
沙慈は悲鳴をあげかけたがかみ殺し、咄嗟に近くの物陰に隠れる。

沙慈「な、いったい何が……!?」

がしゃん、がしゃんと何かの音が聞こえ、また銃撃音と悲鳴が木霊する。
恐る恐る物陰から顔をのぞかせた沙慈が見たものは、黒いボディに赤いモノアイが光る、機動兵器だった。
すぐさま顔を戻す沙慈だったが、機械の足音は徐々にこちらへ近づいてくる。
一歩一歩近づくたびに、沙慈の表情から色が失われていく。
そして、沙慈が恐怖に目をつぶった瞬間、


パン!パン!パンッ!


銃撃音が響き、何かが破壊される音が聞こえた。

沙慈「……」

恐る恐る目を開けた沙慈の目に飛び込んできたのは、こっちに向けて銃を向けながら近づいてくる一人の兵士だった。
兵士は沙慈のそばまで来るとヘルメットのバイザーを開け。

??「無事か、沙慈・クロスロード」

沙慈「え、まさか……刹那・F・セイエイ!?」

そこにあったのは、かつて短期間隣に住んでいたとある少年によく似た顔だった。

刹那「そうだ」

沙慈「君は、ここで働いていたのか」

刹那「ああ。それよりもここは危険だ」

沙慈「危険……」

沙慈が振り返った先には、先ほどの機動兵器の残骸が転がっていた。
脳裏を最悪の展開がよぎる。
表情から沙慈の考えを読みとったのか、先を制するように刹那が告げる。

刹那「安心しろ、シェルターの方には向かっていない。だが、俺達が人のいるシェルターに行けば、シェルターの人間が被害を受ける可能性がある。ひとまず外に出るぞ」

刹那の言葉に安心したのも束の間、「外に出る」という言葉に不安を覚える沙慈。
先ほどのルリ達の通信が少し漏れて聞こえた際に、「所属不明」「バッタ」といった単語が聞こえたためだ。
それを説明する沙慈に、刹那は昔と変わらずの無表情でこう答えた。


――大丈夫だ、問題ない。手段はある――と。

14勇希晶:2011/10/09(日) 18:36:23 HOST:p2138-ipbfp405fukuokachu.fukuoka.ocn.ne.jp
そして数分後。
沙慈と刹那は所謂「出口」と呼ばれるところにたどりついていた。
そこにあったのは、沙慈にとっては忌まわしい存在であり。
刹那にとっては相棒、いやそれ以上の存在だった。

沙慈「ガン…ダム…」

茫然とその名を呟く沙慈。
それもその筈、「ガンダム」こそ沙慈が彼女だった「ルイス・ハレヴィ」と分かれる原因であり、さらにはルイスの左腕と彼女の両親の命を奪った存在だった。
さらに「ガンダム」を有する組織「ソレスタルビーイング」に関わったことで、彼女の姉「絹江・クロスロード」も死に追いやられている。

沙慈「刹那、君は……」

刹那「俺はソレスタルビーイングのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイ」

その言葉を聞いた瞬間、沙慈は現在の状況も忘れ刹那の胸倉をつかみ上げ、睨みつける。

沙慈「君が……! 君達のせいでルイスは……!」

刹那「ルイス……ルイス・ハレヴィのことか」

沙慈「そうだ……! 彼女は君達に家族を殺されたんだ! パーティ会場を襲撃されて!!」

刹那「……それは俺達ではない」

沙慈「嘘だ!!」

激昂して殴りかかる沙慈を、冷静にいなす刹那。
地に両ひざをつく形となった沙慈に、刹那は言葉をかける。

刹那「詳しい事情は後で話す。あそこにまだ無人のシェルターがあるから、そこに避難していろ」

起き上がる様子がない沙慈を横目に、刹那はガンダム――ガンダムエクシアリペアに乗り込む。

刹那「エクシア、目標を駆逐する」


赤き大地を、傷ついた剣が駆ける――。

15魔神鋼平:2011/11/14(月) 04:21:40 HOST:FL1-203-136-19-24.tky.mesh.ad.jp
 刹那と沙慈が再会を果たしていたのと同時刻、ナデシコBが降り立った軍港とは別ブロックに存在する地球連邦軍の火星駐屯軍の基地の一室に、その男は潜入していた。
 潜入、とはいうものの、その方法自体は少々荒っぽく、基地内で遭遇してしまった連邦兵を『可及的速やかに、且つ騒がれる事なく、且つ目立たないように気絶させて縛り上げて丁重にロッカーの中で眠ってもらう』というどこかの潜入工作員のような真似をしたからだ。
???「ったく、甘々な警備かと思ったら…妙にガードが堅ぇな。こちとらは情報さえ手に入りゃそれでいいってのに」
 男は、道中で見つけた倉庫からちょろまかした軍用食料を摘みながら、淡々とコンソールを操作する。
 複雑に組まれた暗号プログラムを鼻歌交じりに解除し、軍の保有する情報を次々に開示していく。
 彼の目的の情報、それはこの世界の歴史と情勢、そして今現在存在している勢力の情報だ。
???「………成る程ねぇ。Dr.ヘル、ムゲ・ゾルバドス帝国、ドクーガ、宇宙怪獣、そんでもって木連にゼントラーディ……おっと、こっちの資料は……なんだ、ミスリルもいるのか。知った顔ぶれがいるのはやり易くていいが……」
 彼が開いたファイルの一つ、『ソレスタル・ビーイング』の情報だ。
 “彼自身には全く聞き覚えのない組織”ではあったが、その情報には“彼もよく知る一つの単語”が含まれていた。
???「『ガンダム』?この世界のガンダムはテロ屋が乗り回してるのか?それにしても……」
 情報を次々に開いていくと、このソレスタル・ビーイングという組織の輪郭が見えてくる。
???「この『イオリア・シュヘンベルグ』ってオッサンが作った組織で、紛争根絶の為に各地で武力介入を行った武装グループ、ねぇ……」
 たかが一武装組織が、世界を丸ごと変えてしまった。
 荒唐無稽であるが、まとめてしまうと事実この資料にはそう記載されている。
???「それ程の力を持った組織があった…っつー事か。ま、獣戦機隊の連中や兜辺りは関わっちゃいねぇだろうな」
 空の容器を投げ捨て、新しい軍用食の封を開ける。世界は変わっても、それ程変わらない味。
 ……嗚呼、日本食が恋しい。
 そんなどうでもいい事を思いながら、資料を適当に読み解いていく。
 その中で一つの情報が目に留まる。

 A級ジャンパーの大量事故死事件の事についての情報だ。

???「まさかとは思ったが、やっぱりここでもか………」
 彼の脳裏に浮かぶ、一人の青年の顔。
 元来争いになど巻き込まれること無く、妻と、娘になった少女と、美味いラーメンを客に振舞うはずだった青年。
 ……それは、歪んだ妄執に駆られた狂人どもによって粉々に打ち砕かれた、幸福の構図。
???「止める事が出来ないなら、俺にしてやれる事は……黒百合の騎士様に、姫君の居場所を教えてやる事くらいか…」
 残った軍用食を一気に口に放り込み、咀嚼もそこそこに飲み込む。
???「んじゃ、腹ごしらえもお勉強も終わった事だし、行くとする……」
 用件を終え、席を立とうとした時だった。
連邦兵A「動くな!怪しい奴め!」
 開けっ放しにしていたドアの向こうに、この基地に駐屯している連邦兵が三人ほど銃を構えて立っていた。
連邦兵B「大人しく武器を捨てて投降しろ!」
???「あ、悪い。俺、丸腰なんだわ、これが」
連邦兵C「大嘘を吐け!丸腰であれだけの人数をやれるものか」
 やれるんだよ、タコが。悪態を小さく吐きつつ両手だけ挙げて無抵抗の意思表示をする。
連邦兵A「そうだ、そのままゆっくりこっちを向け!ゆっくりとだ」
 銃を構えたまま、男に向かって連邦兵は指示を出す。
 男は、黙って指示にしたがい、ゆっくりと振り返った。
 そして、男が完全に振り返った時…連邦兵たちは凍りついた。

16魔神鋼平:2011/11/14(月) 04:22:34 HOST:FL1-203-136-19-24.tky.mesh.ad.jp
連邦兵A「ヘ…」
連邦兵B「ヘ…」
連邦兵C「ヘ…」
男「ヘ?」
連邦兵A・B・C「変態だあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 振り返った男の顔には、獣を象った仮面が付けられていたからだ。
男「だぁぁぁぁれがぁぁぁ!変態じゃゴルァァァァァァァ!」
 反射的にキレた男は、弾丸のような速度で連邦兵たちに肉薄すると、瞬く間に三人を抵抗する余地も無く叩きのめした。
男「ハァ……ハァ……ハァ……ハッ!?ついやってしまった!」
 ワリと本気で拳やら蹴りやらを叩き込んでしまった為、連邦兵たちは白目を剥き、口から泡を吹いている。
 一応確認したが、脈はあった。
男「……よし、セーフ!」
 …っとガッツポーズ。何がセーフかは当人にしかわかりえない事である。
男「あんの変態科学者が……やっぱ見た目からして怪しいじゃねぇか!いくら仕方ねぇとはいえ……次あったら息の根止めてやる!」
 という、端から見たら……じゃなくても十分怪しい男が空恐ろしい犯罪計画を吐露していると、昏倒した連邦兵の通信機が応答を求めていた。
 出なければ怪しまれるので、渋々出ることにした。
男「はい、こちら掃除係。本日は晴天なり。本日は晴天なり」
連邦軍仕官『貴様、こんな時に何をふざけている!?居住区にソレスタル・ビーイングのガンダムが出没した!直ちに第一種戦闘配置に着け!』
男「了解、了解。で、ガンダムは何機だ…じゃなくて、でしょうか?」
連邦軍仕官『貴様は後で営倉送りだ!その事は今はいい。敵は現在一機だけだという話だ。が、我々は第一種戦闘配置で待機だ。どうせアロウズが片付ける』
 『アロウズ』。反連邦政府組織を弾圧する独立治安維持部隊。彼のよく知る組織によく似た、腐敗した人類の体現。
男(何処の世界でも、この手の組織ってもんはあるもんだな)
 だが、この世界にとって何よりも皮肉な事は、変革をもたらしたソレスタル・ビーイングの存在こそが、このような組織を生み出すきっかけとなった事だろう。

 ………見極めなければならない。

 彼の組織が、この世界に何をもたらすのか。
 彼らは、この世界を救うものか、壊すものなのかを。
 何故なら、後者ならば『奴』は間違いなく接触を図るからだ。
 だからこそ、この『眼』で確かめなければならない。

連邦軍仕官『おい、聞いているのか!?』
男「おっと、申し訳ありません上官殿!任務内容復唱!第一種戦闘配置で待機します!」
 こいつらが、と含んでから通信機の電源を切り、ついでにすぐに使えないように握り潰しておく。
男「さぁ、この俺の……カリュプス・オリエンスの『この世界』での初陣と洒落込ませて貰うぜ」
 仮面の男・カリュプスは颯爽とその場を立ち去り………
 道中そのやたらに目立つ仮面のせいで十数人の連邦兵を昏倒させる羽目となった。


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