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巷説修羅剣客伝

1藍三郎:2007/09/09(日) 21:10:03 HOST:97.76.231.222.megaegg.ne.jp

この小説は、架空の江戸時代を舞台とした、ファンタジー時代劇ものです。
詳細はBBSをご覧ください。

この小説では、本編と番外編の二つを同時に進めていきます。
話と話の区切りをつけるためにも、文頭にはなるべくタイトルを入れてください。
荒らしは勿論禁止。
BBSあるいはチャットで、参加表明のなされていない方の書き込みはご遠慮くださいませ。

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<削除>

148鳳来:2008/09/07(日) 13:53:48 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
=奉行所・中庭=
漆間につれられて、中庭へとやってきた直輔が目にしたのは・・・・
沢庵「おお、久しいのう、直輔。」
<沢庵 宗彭>−−−柳生家とは十兵衛の父・宗矩の代から懇意であり、その他大勢の剣客達と交流がある万松山東海寺住職である。
橋本家の当主であった直輔も何度か沢庵の世話になったことがあった。
直輔「和尚・・・御久し振りです。江戸へはいつお戻りになられたのですか?」
沢庵「うむ、先の会津での一件がようやく一段落を迎えてのう。まさか、こういう形で、会う事になろうとはな・・・」
直輔「・・・・面目次第もございません。して、今日はどのようなことで・・・?」
沢庵「おお、そうじゃったの。実はのう・・おお、坊、こちらに来なさい。」
いぶかしむ直輔を尻目に、沢庵がすぐ近くの大木の下で遊んでいる子供を呼びつける。
直輔「その子は・・・・?」
沢庵「うむ・・・・先代の当主である御主の父君に頼まれてのう。わしのところで預かっていたこの子・・雪輔を橋本家の養子として向かいいれたいと文が届いたのじゃ。」
直輔「そうですか。では、その子が・・・・」
沢庵「御主の跡を継ぎ、橋本家の当主となる予定じゃ。まあ、そこで本題なんじゃが・・・」
少し気まずそうに苦笑いを浮かべた沢庵は、事の本題には行った。
沢庵「この子に剣を少し終えてもらえんかのう・・・・さすがに寺の中で剣術を教えるわけにはいかんかったからな。」
直輔「話は分かりましたが・・・・私は・・・・・」
沢庵「なあに、既に奉行所の許可は取ってある。それに、あの秘剣を実際に使用でき、教え伝えることができるのは御主をおいて他に居らんわ。」
いきなりの頼みに返事に戸惑う直輔であったが、ふと沢庵の影に隠れてきた雪輔に自分の袖をひっぱられて、雪輔を見る。
雪輔「あの・・・・僕に剣術を教えてください・・・・」
直輔「・・・・これが、私の最後の務めということか。少し、その刀を貸してもらえないだろうか?」
漆間「ん?ああ、いいですよ。・・・・・逃げちゃ駄目ですよ?」
直輔「安心せよ・・・・どの道、一週間で死ぬ身なれば・・・」
せめて、次期当主に何かを伝え、残して、逝くのが、私の役目であろう・・・・

149鳳来:2008/09/13(土) 20:39:43 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
三日後・・・・・
奉行所の中庭では、今日も、直輔による雪輔への剣術指導が行われていた。
1週間と言う短い期間ということもあり、直輔の指導にも熱が入り、雪輔もそれに答えていた。
縁側では、二人の様子を沢庵和尚が微笑ましげに見ていると、その隣に万姫が腰を下ろし、一緒に稽古の様子を眺める。
万姫「どうですか、稽古の成果は?」
沢庵「うむ・・・雪輔にはもともと、才能はあったからのう。十兵衛の奴も、才があると言っておったよ。」
万姫「あの剣術馬鹿がねぇ・・・・ま、私はもともとそうだと思っていたがな。」
沢庵「・・・・・・直輔の実の息子じゃからか?」
沢庵がぽつりとつぶやいた言葉に、万姫は苦笑を浮かべて答える。
万姫「やっぱり、気づかれていましたか、和尚。」
沢庵「まあのう。お前さんからこの子を預けられた時にうすうす感じておったが・・・」
万姫「・・・・あの子は、私の罪の証です。あの子の母を私は助けられなかった。そして、今度は父親まで・・・」
沢庵「・・・・・・」
万姫「だからこそ・・・・今回、私はあの子を直輔に引き合わせてもらった。それが、私の罪滅ぼしです。」
沢庵「そうか・・・・あの子の事は、直輔には・・・・」
万姫「伝えていません。あの子には、そして、直輔にも酷過ぎる・・・」
再び、直輔と雪輔に目を向ける万姫・・・・二人の姿は、本当に親子のように見えた。

直輔「基礎はできているようだな。<小鳥遊>も、元は居合い切りによる技だ。この分なら、すぐに習得できよう。」
雪輔「は、はい・・・・ありがとうございます。あの、先生・・・?」
直輔「何だ?」
雪輔「いえ、僕は、沢庵和尚のところでお世話になっていたんですが・・・本当の侍って何なのか、その・・・・」
直輔「分からぬのか・・・・?」
雪輔「は、はい・・・・・」
直輔「そうだな・・・改めて問われると、難しいものだな・・・・」
ある者は己が名誉を。ある者は階級と、そしてある者は魂と・・・・<侍>とは何か・・・・
だが、この時、直輔の答えは・・・・
直輔「・・・・あえて言うなら、言葉だな。」
雪輔「言葉、ですか?」
直輔「そう言葉だ。侍と一言で言っても、それをどう捉えるかで、変わってくる。つまり、侍とは千差万別に変化してくるものだ。」
雪輔「・・・・・じゃあ、先生にとっての侍は何ですか?」
直輔「そうだな。私がさまざまな侍とあって得た答えは・・・・・いかなモノに囚われず、己の生き様を貫く<心>だ。」
それが、近藤との戦いで得た直輔がたどり着いた答えだった。

150藍三郎:2008/09/14(日) 12:32:12 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp

=真撰組屯所=

 あれから・・・

 真撰組は、解体こそ免れたものの、
 謹慎期間はさらに延長する事となった。
 また、隊長格ら中枢の構成員は揃って減給処分となったが、
 幸いにも、免職となった者はいなかった・・・・・・


山崎「うぃ〜っす、皆、たこ焼き買って来たぜ〜〜〜」
原田「おぉ!待ってたぜ!!」
隊士「ちょうど小腹がすいて来たところだ」
 山崎が買ってきた昼食代わりのたこ焼きに、隊士達が一斉に群がる。
 謹慎といっても、特に反省した様子も無く
 思い思いに駄弁っている辺り、何とも真撰組らしいというべきか。
山崎「副長には言われたとおり、特製マヨだこ買って来ました」
土方「ちゃんとマヨだけ入ってる奴だよな?」
山崎「はい、もちろんですよ!
 タコもネギも紅生姜も無いです。マヨネーズ“だけ”です」
 それを聞いて土方は口元に微笑を浮かべる。
土方「フッ・・・やっぱタコ焼きはこうでねぇとな」
 そう言って、たこ焼き・・・もといマヨ焼きの上に
 思う存分マヨネーズをぶっかける土方。
 どうやら、中にマヨが入っているだけでは満足できないらしい。
総悟「相変わらずのゲテモノ好きですね・・・見ているだけで気持ち悪くなって来まさぁ」
土方「うるせぇ。タコだの何だのゴチャゴチャ入れるのは男らしくねぇんだよ」
山崎「そういう問題じゃないかと・・・」
 見るだけで吐き気もするマヨ掛けマヨ焼きを美味そうに頬張る土方。

151藍三郎:2008/09/14(日) 12:33:32 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp

山崎「それで、近藤さんは・・・」
 真撰組の殆どの隊士が揃っている中で、近藤勲だけはこの場にいなかった。
 幕府からの呼び出しで、朝から出発したのだが・・・
 時間的には、もうとっくに帰っているはずの時間である。
土方「あぁ?どこかで油売ってるんじゃねーの?
 たく、屯所にゃ反省文だの何だの
 山ほど仕事が押し寄せて来てるってのによ・・・」
山崎「やっぱり、直輔殿の事が堪えているんですかね・・・」
土方「・・・・・・・・・」
 煙草に火をつける土方。
土方「気にするこたぁねーよ・・・ここで凹んでいるようじゃ、
 橋本直輔(あのヤロウ)も浮かばれねぇ。
 そこんところは、あの人もよく解っているはずだ」
山崎「・・・ですよね」

 躓く事もある。落ち込む事もある。
 優しすぎるあまり、敵に同情してしまう事もある。
 だが、そんな人間味溢れる漢だからこそ、自分達は彼の下にいる。
 近藤勲の剣として、誇りを持って戦えるのだ。

 その時・・・・・・


近藤「ただいま〜〜〜」


土方「お、噂をすれば影って奴だな」
山崎「もう、近藤さん、何処へ言っていたんで・・・・・・!?」
 山崎の顔が瞬時に凍りつく。
 近藤は、雀蜂にでも刺された様に、
 見る影も無い程顔面を赤く晴らしていた。
 痣と瘤だらけの顔で笑う様が、尚更痛々しい。

山崎「ちょ、近藤さん!どうしたんすかその顔は!?」
原田「まさか・・・練武館の残党に闇討ちされたんじゃ・・・」
 居並ぶ真撰組の面々が一気に殺気立つ。
 練武館が先に仕掛けたとはいえ、
 真撰組は謹慎で済み、練武館は取り潰しという、
 彼らからすれば非常に不公平な裁きが下された。
 真撰組に恨みを抱いている者も大勢いるはずだ。


近藤「い、いやぁ・・・そんな大した事じゃねぇって・・・
 あは、あははは!!」
原田「何言っているんスか近藤さん!!」
山崎「練武館の奴ら、ふざけやがって!!」
「謹慎なんか知るか!俺らも殴りこみに・・・」
 猛る隊士達を前に、苦笑いする近藤。
 その気魄に押されて後ずさりする近藤だが・・・
 その懐から、小さい何かが零れ落ちた。

総悟「ん?こりゃあ何でぃ?」
近藤「あ、そ、それは・・・」
 近藤が気づいて拾う前に、素早く拾い上げる総悟。


 それは・・・スナック『すまいる』のマッチ箱だった。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



近藤「あ、あの・・・こ、これは・・・」
 隊士達の白い目が近藤へと注がれる。
 近藤は、愛想笑いを浮かべながら無駄な言い訳を始めた。
近藤「い、いやぁ・・・最近、あまりにもお妙さん分が不足しすぎて、
 このままじゃヤバイと思ったので、つい、ふら〜〜っと、な。
 それで、ちょっと羽目を外しすぎて・・・・・・」
 その先はもはや聞く必要も無い。
 謹慎中にキャバクラに行くなど、言語道断。
 盛り上がった隊士達の殺気は・・・一気に局長へと矛先を変えた。


「「「お前がふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」


光覚「大人って馬鹿ばっかりだね〜〜」
斎藤「そうだな・・・・・・」
 土方らに袋叩きにされる近藤を見ながら、
 斎藤は最後のたこ焼きを口にした。

152鳳来:2008/09/14(日) 15:57:14 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
=・山中=
草木も眠る丑三つ時・・・・・箱根の山道を重い足取りで歩く巨漢ーーー奉行所から脱獄した猪旗がいた。
猪旗「く、くそっ・・・・何故、俺がこんな目に・・・・」
猪旗は悪態を突きながらも、いつ来るかも分からない追っ手から逃げ続ける。
当てがあるわけではない・・・・ただ、ひたすら逃げ続けるーーー犯罪者として裁かれるのを免れんとして。
猪旗「ん?あ、あれは・・・・・」
ふと目の前を見れば、向こう側から明かりが見えてくるーーー目を凝らしてみると、異国の服を身にまとった8人の旅人のようだ。
持ち物もばらばらで、大荷物の者もいれば、中には手ぶらのものまでいる。
猪旗「まあ、いい・・・・奴らから旅の路銀を頂戴するか。」
手っ取り早く山賊行為で、逃亡資金を得ようと、物陰に隠れ、向こうから来る獲物を待ち構える猪旗・・・・そして、彼らが自分が隠れている場所まで来た瞬間・・・・
猪旗「はぐはあはははは!!!お前たち、命が・・・・・」
猪旗がどこか聞きなれた三下の悪役が使う台詞を言い切る前に・・・・・
どこからともなく飛んできた弾丸に手のひらを貫かれーーーー
同時に、月光に照らされた幾重の刃が全身を膾きりにしーーー
続けて、両腕を掴まれ、そのまま、虫の足のようにもがれーーー
最後に、化け物じみた巨大な鉄の塊が振り下ろされ、猪旗を叩き潰した。
???1「思わず、驚いて撃ったけど・・・・誰なんだ、こいつ?」
???2「名前を聞く前に殺してしまったからな。」
???3「ど、どうしようか?」
???4「オウ・・・・気の毒ナ事ヲヤッチャイマシタ。」
???5「仕方ありませんね・・・・とりあえず、先を急ぎましょうか。」
???6「賛成〜vこんなぶっ細工な山賊なんて、どうでもいいじゃんvどうせたいした奴じゃないし。」
???7「ま、そうだな・・・・まあ、一応、謝っとくわ、名もなき山賊の人。」
???8「先を急ぎましょう。こんなところで時間をとられるわけにはいきません。」
まるで、うっかり肩をぶつけてしまった感覚で、物言わぬ死体となった猪旗に謝罪し、その場を去る8人・・・・


これは、練武館騒動の蛇足にして、後に江戸の街で細菌テロを実行する<七罪七獣>事件の始まりとなった。

153藍三郎:2008/09/17(水) 21:02:05 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp

第参章『妖喰らい』


 ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・


 降りしきる豪雨が、逃亡者の吐息を消し去る。

 深夜の山中を疾駆する漆黒の影。
 全身毛むくじゃらの、大柄の猿のような生物。
 その息遣いは荒く、両の瞳は恐懼に血走っている。

 “彼”は理解できなかった。
 何故、自分が追われているのか。
 何故、自分が逃げなければならないのか。
 何故・・・
 自分が殺されそうになるまで追い詰められているのか・・・


 “彼”は人間では無い。畜生の類でもない。
 この世の影に潜んで生きる、超常の存在・・・
 人々に“妖(あやかし)”や“妖怪”と呼ばれる者だった。

 妖怪の体感時間は、種族によって人間のそれとは異なるが、
 弐百余年ほどの年月を生き延びてきた。
 その間・・・妖怪を忌避する人間や、他の妖怪の手によって
 命を狙われた事など幾度かあったが・・・今現在、彼はこうして生きている。


 “彼”には特殊な能力があった。
 “サトリ”というその力は、彼の周囲に居る人間や妖怪の心を読める。
 それによって、彼は自分に向けられた“殺意”を逸早く察知し、
 近づかれる前に逃げ延びる事ができた。
 妖族の仲間内では、その読心の術から、彼を“サトリ”と呼んだ。


 この力によって、彼は弐百年間を息災で過ごした。
 その長生は、一種の驕りへと繋がっていった。
 “サトリ”の力を利用して、妖怪、あるいは人間と取引して、
 ある対象の心を読んで報酬を貰うような事もあった。
 危険を感じれば、さっさと逃げてしまえばいいのだ。
 彼の人生ならぬ妖生は、“サトリ”の力によって保証されていた。


 今自分を追っている“あいつ”も・・・
 心の瓶を、殺意という水で埋め尽くしていた。
 これまで“悟った”誰よりも濃密で、どす黒い殺意。
 ゆえに、まだ相手の姿も見えぬ内から、早々に逃亡を試みた。
 それで助かるはずだった。今までのように、これからも。


 だが・・・・・・
 今夜、彼は知る事になる。

 自分が今まで生き延びられてきたのは、
 単に運が良かっただけだと言う事を・・・

 この世には、出逢っただけで、
 死を決定付けられるほどの“破格”が存在する事を・・・


 ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・


 “彼”は、嫌が応にも悟らざるを得なかった。
 “狩人”と自分との距離は、徐々に縮まってくる。
 それは、感じ取れる心の大きさによって解る事だ。
 
 “サトリ”の力は、対象との距離に比例して効果が変動する。
 相手に触ったり、面と向かって相対すれば深層心理まで詳細に読み取れるが、
 離れた場所からでは殺気や怒気といった漠然とした感情しか読み取れない。


 “悟れる”殺気が、時を経るにつれて増幅していく。
 それは即ち、相手との距離が狭まっている事を意味していた。
 
 どうやら敵は・・・妖怪のいる場所を察知する事ができるらしい。
 つい先ほど、頭の中に入ってきた情報だ。

 如何に想像を絶する俊足の持ち主とはいえ、目撃されていないはずなのに、
 ずっと追って来られているのは不思議ではあったが・・・これで疑問は氷解した。
 
 だが、それに呼応して恐怖もまた膨れ上がっていく。
 決壊した壁から溢れる洪水の如く、情報が脳内に流れ込んでくる。
 何故自分を付け狙うのか・・・誰の命令で動いているのか・・・
 
 詳細な情報が入れば入るほど・・・
 それは敵が近づいているという事である。
 喉下に突きつけられた刃が、徐々に近づいてくるかのようだ。

154藍三郎:2008/09/17(水) 21:04:10 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp

 そして――――――――


「さて、追いついたよ」


 豪雨で煙る眼前に、“その男”は立っていた。
 腰には一振りの日本刀。
 それ以外は、これと言って特徴の無い外見だ。

 豪雨が視界を眩ませ、容姿は判然としないが・・・
 彼にとっては外見などどうでもよい事だった。
 
 “サトリ”の力が彼に垣間見せるは、ただただ闇黒の殺意のみ。
 まさに・・・殺気が人型を為しているようだ。
 これほどまで黒く、純然なまでに黒く染まりきった心は今まで感じた事が無い。

 恐怖で心が潰れそうになるのを必死で堪えながら、
 彼は逃げ延びる術を模索する。
 こちらには“サトリ”がある。追いつかれたとしても、
 上手く心を読んで攻撃を避けて逃げ続ければ、あるいは活路を見出せるかもしれない。


「すまないねぇ・・・別に恨みは無いんだが・・・」
 
 と、口では柔らかに語りかけるが、既に男は刀を抜く事を決めている。
 狙いは脚・・・まずは脚を断ち動けなくするつもりらしい。
 動けなくした後どうするのか・・・
 それ以上心を読めば、今度こそ恐怖で気死しかねない。

 一気に距離を詰めて、腰の日本刀を抜き放ち、
 地を這うように刃を滑らせる・・・

 ならば、腰の刀に手を伸ばした瞬間に頭上の木へと飛び上がるま―――――――


 彼の思考はそこまでだった。
 冷静な計算を一瞬で塗りつぶす激痛が、彼の足を襲ったからだ。
 
 鮮血を吹き上げ、毛むくじゃらの両脚が宙を舞う・・・
 それは自分の脚だと気づいた時には・・・
 ようやく彼は、己の脚が断ち切られた事を悟った。

 
 意思とは無関係に、喉の奥から絶叫が迸る。


 心を読むのに気を取られて、男の動きから気を逸らせてしまったか?
 いや、そんな事は無い。
 男には何の予備動作も、腰の剣に触れる事さえしなかった。
 ならば、どこからか伏兵がいて、そいつが攻撃したのだろうか・・・
 それなら“サトリ”で気づくはずだどうなっているんだ
 こいつは一体何者なんだ解らない怖い恐ろしい
 何故私がこんな目に遭わなくてはいけないんだ
 何故だ何故だ何故何故何故何故何故何故・・・・・・

 恐慌が思考を塗り潰していく。
 理解不能の境地に至って、男から感じられるのは、
 謀の類など一切感じ取れぬ、ただ純を極めた殺意のみだった。
 
 ならば・・・先ほどの不可思議な現象に絡繰など無い。
 ただ・・・あまりにも相手が規格外だった、それだけの話だ。

 相変わらず男は動かない。それでも、刃は飛んでくる。

 右腕が飛ぶ、左腕が飛ぶ、胴が両断され、最期に首を刎ねられる。


 血煙に溺れながら、この時・・・・・・彼は絶望した。
 自ら“サトリ”を閉じて、心を読むのを止めた。
 そう・・・“こいつ”に出逢った時点で、全ては終わっていたのだ。
 どんな抵抗も足掻きも無意味。
 自分の弐百余年の一生はここで終わる。
 最後の最後に・・・“サトリ”は本当の意味で悟る事ができた。


 そして、自分が行き着く先は、天国でも地獄でもなく・・・・・・

 
「お天道さまに感謝を――――――“いただきます”」

155鳳来:2008/09/20(土) 19:39:44 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
=2週間前・長崎=
九州地方における諸外国の交流拠点である長崎の出島・・・・
???「ここが、日本か・・・ここにあいつがいるんだな。」
交易船から積荷が下ろされ、商人たちが慌しく、積荷を確認する中、一人の少女が船から下りてくる。
慣れない異国の旅装束を不器用ながら、身にまとい、浜風を受けて、揺れる蒼い髪と尻尾を押さえて。
遠い異国の地へやってきた彼女の目的は一つ・・・・・かつてなされた約束を守るため。
???「20年か。どこで何をしてるんだろうな。ああ・・・・」
恋焦がれるように少女は、想い人のことを考え、いとおしげに呟く。
???「早く食べちゃいたい。」
とんでもなく物騒な発言をしながら、彼女は風を纏い、港町を後にした。

2週間後・・・・
=万事屋=
今日も閑古鳥がけたたましく鳴いているここは万事・・・・・
銀時「うっせいーー!!!今日はちゃんと客はきてるっつうの!!」
蓮丸「おい、銀の字・・・見えない人と話すのは痛いから、止めとけ。客が引いてるぞ。」
地の文に突っ込みを入れる糖尿侍は置いといて、目の前にいる客は・・・
エリザベス『いえいえ、大丈夫です、たまに、桂さんも見えない人と揉めたりしますから。』
新八「桂さんもかよ!!!まぁ、それはともかくとして、今日はどうしたんですか、エリザベス?」
エリザベス『ええ、実は・・・・・桂さんが行方不明になったんで、捜索をお願いしたいんです。』

事の発端は、攘夷派内での健康ブームで、急に健康に気を使うようになった桂が健康診断を受けようとしたことだった。
だが、幕府から指名手配されている桂が、かたぎの病院のお世話にはなれない。
そんな時、耳にしたのが、江戸の街で無料で、しかも、身分はとはずに、健康診断を受けられる診療所<神便鬼毒>である。
聞くが早いか、早速、世界的に有名な某ひげの配管工(兄)に変装し、健康診断を受けに行った桂であったが・・・・
その日から1週間たっても、桂が戻ってくる事はなかった。

新八「1週間って・・・・・何かあったんですかね?」
エリザベス『分かりません。さすがに、奉行所に捜索願を出すわけには行かないので・・・・』
銀時「んで、俺たちの出番ってわけね・・・・たく、どこで何やってんだが、あのヅラは。」
神楽「・・・・どうするね、銀ちゃん?」
銀時「決まってるだろ・・・・面倒だけどほっとけねぇからな・・・」

156藍三郎:2008/09/21(日) 22:38:18 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp
 妖怪――――――


 人とも獣とも異なる、この世のものとは思えぬ超常的種族、
 それを、古来より人は鬼や妖怪と呼び、怖れてきた。
 彼らの発祥は謎に包まれており、
 戯術革命が成った今となっても解き明かされていない。
 最も、現代においては、調査対象とすべき妖怪の数が
 絶対的に不足しているというのも大きい。

 近年になって妖怪の数が激減したのには理由がある。
 “彼ら”の力の源は人々の『未知への怖れ』である。
 科学技術が進歩し、人々の心から未知への恐怖が取り除かれ、
 言い伝えや怪談が、単なる迷信や絵空事になっていくにつれて・・・
 人々は妖怪や幽霊を信じなくなり、それが妖族の衰退に繋がっている。

 現代において生き残っているのは、
 妖怪と人間、あるいは妖怪と獣の血を引く半妖怪が大半で、
 それらも妖族としての力を失いつつある。
 中には・・・極稀であるが妖怪としての純血を守り続けている生粋の妖怪も存在する。
 最も、そう言った者達は、まず人前に現れない。
 何故ならば、種族として既に完成されている妖怪は、
 人間や他の種族と関わらずとも生きていける手段を確立しているからである。


 十数年前にようやく完結した乱世は、
 人間のみならず、妖族達にも多大なる影響を与えた。

 妖怪の血を引く者達は、その異能ゆえに人々から迫害を受け、
 滅ぼされるか、異能を活かせる裏の世界へと身を投じるしかなかった。
 その裏の世界・・・主に乱波や隠密として、
 彼ら半妖の異能は多いに重宝された。
 決して明るみに出る事は無いが、戦国時代においては、
 諸国の大名は半妖から成る隠密組織を抱え、
 諜報や暗殺の駒として使っていたという。
 戦乱の世で、人間と同じく半妖達もまた、闇の世界で闘争に明け暮れた。

 特に半妖を重用した戦国大名が、かの第六天魔王・織田信長である。
 信長の急激な勢力拡張の理由の一つに、
 半妖からなる隠密部隊の暗躍がある。
 彼は、その名の通りの妖族を従えし『魔王』だったのだ。


 だが・・・
 “本能寺の変”によって、信長は覇道の半ばで死に・・・
 同時に半妖達の運命は激変する。


 新たに天下人の座へと昇った豊臣秀吉は、半妖の跳梁跋扈を嫌悪した。
 人とは異なる彼らが、いずれ人間に牙を剥くと考えたのだ。
 なお、その考えについては、
 他の大名・・・徳川家康らも意見を同じくしていた。
 そんな中・・・秀吉と、天才軍師・竹中半兵衛が目をつけたのは、
 妖怪を特に忌み嫌う仏教勢力である。
 しかも、法力や道術を身に付けた、半妖と同じく超人的な力を振るう・・・
 『宗派七獄』を初めとする、異端の戦斗集団である。


 ここに、『仏と妖の大戦争』が勃発した。
 日本が東西に分かれて争う中、裏の世界でも、
 人間と半妖、互いの存亡を賭けた死闘が始まったのだ。
 結果としては・・・戦いは半妖族の惨敗に終わる。
 今まで半妖を重用していた大名らは、秀吉に呼応してほぼ全員が彼らを見捨てた。


 後ろ盾を失った半妖族は、もはや狩られる側の弱者。
 秀吉の支援を受けた仏法勢力は、数で勝るはずの半妖族を圧倒した。
 半妖達は徹底的に狩り尽くされ、『赤霧』などの僅かな血族だけが残された。
 残った極少数の血族は、再び闇の世界に潜り、人間たちの闘争に関わる事を禁じた。


 だが、その仏法勢力もまた、秀吉が天下人から陥落したことによって衰退する。
 新たに頂点に君臨した徳川家康は、
 彼ら闇の勢力そのものを、日本から排除しようとした。
 その時暗躍したのが、伊賀・甲賀忍軍および、
 百々目胡蝶斎率いる<万寿菊>である。
 胡蝶斎の巧みな煽動工作により、宗派七獄は壮絶な同士討ちに突入する。
 やがてまだ争いを止めようとしなかった半妖勢力までも巻き込まれ、
 闇の世界でかつてない殺戮の嵐が吹き荒れた。
 宗派七獄もその大半が壊滅し、半妖族もまた再起の機会を完全に断ち切られた。
 戦国時代が終わると同時に・・・闇の戦乱もまた終わりを告げたのだ。

157藍三郎:2008/09/21(日) 22:40:29 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp

 暗闇が天蓋を覆う森の中・・・
 人の近寄らぬこの地で、今宵異形たちの会合が催されていた。

 巨大な樹木の切り株を円卓として、
 ずらりと並んだ出席者は、ほとんどが異形の姿をしていた。
 額の間に第三の瞳を持つ男、唐傘に一つ目のついた異形、
 河童や天狗、狐狸や犬猫といった畜生たち・・・
 人間の姿をしている者でも、彼らはいずれも妖族の血を引いており、
 純然たる人間は誰一人としていなかった。


 玄行灯(くろあんどん)・・・

 妖怪や半妖による、互いの支援や保護を目的とした一種の寄り合い。
 日本中に散った半妖の血族らが利用しており、
 妖族同士で今後の事を話し合ったり、裏の仕事を斡旋したりする。
 乱世以降、妖族は衰退の一途を辿っており、
 元来単一の種族だけで行動し、馴れ合いを好まなかった妖族も、
 こういった集合を持たねば生き延びられないのが、
 今の彼らの置かれている状況である。

 今夜は、江戸を中心とした関東地方の各種族が集まっての集会・・・
 ただし、定期集会ではなく、緊急に開かれた会合であった。

「これで・・・全員集まったかの」
 円卓を囲む一体の異形が、しわがれた声を漏らした。
 四肢の無く、全身毛むくじゃらで、見えているのは丸い目玉だけである。
 
 彼は毛羽毛現(けうけげん)という妖怪で、
 関東の妖怪達を取りまとめる、玄行灯の長である。
 皆からは爺(じい)と呼ばれている。
 現存する、数少ない純血の妖怪であり。
 元々は仙人で、それが変じて今の姿となったらしいが、真偽の程は不明。
 最も妖力はそれほど高くなく、人望と経験を買われてまとめ役を勤めている。


那雲「“サトリ”の奴がまだ来てないようだが・・・」
 藍色の着物を着た禿頭の男が呟く。
 両の眼を布で隠しているが、その額には第三の瞳が覗いている。
 三つ目一族の長『那雲(なぐも)』だ。
爺「いや・・・そやつなら二日ほど前、消息を断っておる」
 場が一気にどよめいた。
 “サトリ”といえば、弐百余年を生きた純血の妖怪であり、
 玄行灯においても重鎮を勤めていた妖だ。
 この場にいる者全てが彼の顔見知りである。
 三つ目の男は、微塵の動揺も見せずにこう続けた。
那雲「信じられんな。例えどんなに恐ろしい相手に
 出くわしたとしても、あいつなら逃げられそうなものだが」
 “サトリ”は相手の心を読める上に、慎重深い性格で知られていた。
 その“サトリ”が消されたなどと、およそ信じられない事だった。
弁柄丸「ハッ・・・別におかした事はねぇだろ。
 単に、あいつが下手打っただけの事だ。
 心が読めるからって、調子に乗ってたんだよ」
 沈鬱な場の中で一人、一つ目のついた唐傘が嘲るように言う。
 物体に霊が宿り、妖怪と化した
 付喪神(つくもがみ)の一種で、名を『弁柄丸(べんがらまる)』という。
 生前はサトリと・・・いや、場にいる殆どの妖と折り合いが悪かった。
道斎「あるいは」
 朱色の顔に異様に長く伸びた鼻・・・
 鞍馬山に拠点を置く天狗一族の長『鞍馬道斎(くらま・どうさい)』だ。
道斎「相手がそれ以上の怪物だったか・・・だな」
弁柄丸「ケケッ!!まぁどっちにしろ清々したな。
 あの野郎、勝手に人の心読みやがって、気持ち悪いったらありゃしねぇ。
 くたばってくれたなら万々歳だぜ」
 死者を冒涜する河童に、場にいる妖怪達の殆どが彼を侮蔑の眼で見る。
 だが、場の怒りはそれほどのものでもなく、内心は彼と同意見の者も多かったようだ。
 サトリは、その能力ゆえ、決して好意的に受け入れられてはいなかった。
道斎「死者を悪し様に罵るものでは無い。
 あやつとて、好きで心を読んでいたわけでは無いのだ」
 そんな雰囲気を察知したのか、天狗の男が彼を嗜めた。
弁柄丸「ハッ、妖怪が説教とは笑わせる。
 消えて欲しいのは、テメェも同じなんだけどな・・・」

158藍三郎:2008/09/21(日) 22:41:51 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp

 険悪な雰囲気になる天狗と唐傘を、長老格たる毛羽毛現の爺が仲裁する。
爺「これ、今は争っておる場合では無い。
 本題に入ろう・・・今宵、皆に集まってもらったのは他でもない。
 その“サトリ”にも関係した事じゃ」
 長老の鶴の一言で、両者共に矛を収める。


爺「知らぬ者はおるまい。
 昨今、我らの同胞が次々に人間に狩られ、行方不明になっておる。
 “サトリ”も、この件に巻き込まれたと見て間違いなかろう」
那雲「こうして我らを集めたという事は・・・
 もしや、下手人の目星がついたのか?」
 三つ目の男が問う。
 妖界の名士である毛羽毛現の爺の下には、
 日本各地に散らばる妖怪達が得た情報が一手に集まっている。
 定期的にこのような会合を開いて、
 その情報を各種族の代表に提供するのも、<玄行灯>の長としての務めだ。

爺「うむ・・・さる筋の情報での・・・
 消息を断った妖怪達の多くは、ある場所に囚われの身となっておるらしい」
 長老の声に、場がどよめき出す。
「何と!!」
「ならば、ただちに救出に向かわねば!!」
爺「無論そうしたい。じゃが、事はそう簡単にはいかぬ。
 その施設というのは、幕府の息のかかったところなのじゃ」
 騒いでいた妖怪達が、一気に静まる。
 彼ら全員が知っての通り・・・動乱期において、
 妖族は散々に迫害され、多くの同胞が失われた。
 幕府の力はあまりにも強大・・・それに比して、
 妖族の勢力は全盛期に比べれば、貧弱と言っても良い
弁柄丸「下手に逆らっても、皆殺しになるのがオチだな。ケケッ」


「だからといって、このまま人間どもの好きにさせてよいのか?」
「そうだ!我らの力を結集すれば、幕府が相手とて・・・」
爺「これ、いつわしが諦めると言った。
 ちゃんと方策を考えてあるわい」
 爺がその“方策”について話す前に、三つ目の男から声が上がった。
那雲「少数精鋭による、強襲か」
道斎「・・・大勢で動けば、幕府の眼に止まり・・・
 大規模な叛乱とみなされ、さらなる殺戮が我らを襲うだろう・・・
 それだけは避けねばならん」
 二妖の発言に、毛羽毛現の爺は肯定の意思を示す。
爺「そうじゃ。あくまで秘密裏に事を遂行し、同胞らを解放してもらいたい」


鉄磨「ではその任務、我ら赤霧斗賊団が引き受けよう・・・」
 ずっと黙して話を聞いていた、緋色の髪の男が言う。
 半妖の血族、赤霧斗賊団の団長・赤霧鉄磨だ。
 今夜は赤霧一族の代表として、<玄行灯>の会合に出席している。
 <玄行灯>からは、斗賊団の仕事を回してもらうことも多々あり、
 組織とは深く繋がっている。
弁柄丸「ヘヘッ、半妖のてめぇらに上手くやれんのか?」
 弁柄丸の挑発にも、鉄磨は感情を露にすること無く、淡々と説明する。
鉄磨「だからこそ、だ。
 敵が妖怪を標的にしているならば・・・当然、妖怪に対する備えは万全のはず。
 ならば、半分人間の血を引いている俺たちの方が、
 その弱味につけ込まれないで済む」
爺「うむ。サトリほどの妖がやられるほどの相手じゃ。
 我ら妖族の手の内を知り尽くした敵と見てよかろう・・・ならば・・・」
 爺は、毛を伸ばして、鉄磨のいる席を指し示す。
爺「赤霧斗賊団に依頼しよう。
 人間らに囚われの身となった同胞らを、救出してくれ」
鉄磨「委細承知・・・」
 その後・・・“敵”の名前や、細々とした情報、
 そして報酬の契約が交わされ、闇夜の会合はお開きとなった・・・

159鳳来:2008/09/23(火) 21:12:13 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
翌日・・・・
=診療所<神便鬼毒>=
エリザベスの依頼を引き受けた銀時ら万事屋メンバーと蓮丸は、早速問題の診療所に来ていた。
銀時「へぇ・・・・結構立派なところじゃねぇか。レンガ造りたぁ、珍しいな。」
新八「何でも、西洋医学の分野も取り入れた最新医療を行ってるって話ですよ。」
神楽「西洋医学ってあれか?房中術もおこなってるのか?」
蓮丸「いや、それは西洋医学じゃねぇから。」
それはさておき、診療所の中にはいる一行であったが・・・
長谷川「あれ?あんたら・・・・・」
銀時「あ、マダオじゃねぇか。」
神楽「ホントね。どうしたか、こんなところで?」
長谷川「いやぁ、実はね、面接先の企業から、健康診断書を持ってきてくれて、言われたんだけど・・・」
蓮丸「あ〜みなまで、言うな。健康診断を受ける金がねぇから、タダの言葉につられて、来たんだな。」
長谷川「あ。いや。うん・・・・・なんで、分かったのか気になるけど、大体あってる、うん。」
一同の心境((((だって、マダオだし。))))
そんな失礼な事を考えつつ、受付で申し込みを済ませ、順番待ちをする一同・・・・

この時、受付の看護婦が銀時と長谷川の受付用紙にある印鑑が押されていた。
<検体候補:採用>

=診療室=
医者1「では、それじゃあ、銀時さん。尿を取ってきてくださいね。」
銀時「うぃっす〜」
受けてみれば、いたって普通の健康診断で、拍子抜けした銀時はとりあえず、最後の検尿検査のために尿を採りにトイレに向かう。
向かった先のトイレは、診療所の大きさに反して、人一人が入る程度の狭さの和式トイレだった。
しかも、診療所からかなり離れた場所にあり、何か大きな音を立てても、気づく者はいないだろう。
銀時「おい、おい・・・・いくらただだからって、トイレぐらいもっと大きく作れよな・・・」
そんな事をぼやきながら、用を足そうとした瞬間ーーーーー突如、足首を掴まれ、引きずり込まれはじめた。
銀時「ちょ、おい、ちょっとまてやぁーーーーー!!!幾らなんでも、そこからかよーーーー!!!」
そんな銀時の抗議を当然のごとく無視し、銀時の足首を掴んだ腕はそのまま、銀時をトイレの中に引きずり込んだ。
後に残ったのは、トイレに立て掛けた銀時の木刀だけであった。

160藍三郎:2008/09/24(水) 23:30:08 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp

 昨日・・・

 歌舞伎町のとある長屋に、赤霧兄妹は集まっていた。
 彼ら兄妹は危険な仕事をこなしている分、収入はそれなりにある。
 しかし、彼らは闇の仕事に手を染めている斗賊団。
 万が一の事を考えれば、すぐに棲家を変えられる
 借家が住居としてはちょうどいいのだ。

 内部では、赤霧三兄妹が図面が描かれた紙を広げて、
 明日実行する“仕事”について話し合っていた。
鉄磨「・・・というわけだ。
 俺達は明日・・・この診療所<神便鬼毒>に潜入する」
 つい先ほど、<玄行灯>の集会から帰って来たばかりの
 長兄・赤霧鉄磨は、江戸の地図の一点を指し示す。
深鈴「ここに、捕まえられた妖怪達が囚われているんだよね」
鉄磨「ああ、俺たちの任務は、その妖怪達を解放し・・・
 施設を当面の間機能できなくなるまで破壊する事だ」
 それを聞いた次兄・凶護は、残忍な笑みを浮かべて兄に問う。
凶護「ここにいる人間どもは、皆殺しにしてもいいんだよなぁ?兄貴ぃ?」
鉄磨「いや・・・殺すのは、俺たちに手向かってくる者だけにしろ。
 それに、今回の任務では、本願寺の時のような派手な戦いは禁物だ」

 その時・・・・・・

伊空「よっ、おひさ〜〜〜」
 障子が開き、猫耳のような癖毛を供えた少年が入ってくる。
 赤霧一族の末弟・赤霧伊空だ。
 彼だけは兄妹と離れて別の場所で暮らしている・・・
というかほとんど常時流浪状態なので、居場所を突き止めるだけでも苦労した。

凶護「こるぁ伊空!!兄貴の呼び出しに遅れるたぁどういう了見だ!!」
 兄への敬いなどまるでないこの生意気な弟が、凶護は大の嫌いだった。
 いきり立つ次男を、鉄磨は腕で制する。
鉄磨「待て・・・来ただけでも上々だ」
深鈴「そうだよね〜〜・・・下手すると、東北とか九州の方に行きかねないし」
伊空「あははは。まぁ、当分は江戸を離れるつもりはないよ・・・
 ここにいた方が、“あいつ”の動向を掴みやすいしね」
 伊空はそう言うと、空いている空間に腰を下す。
伊空「話は大体聞いてたから、続けてよ」
鉄磨「わかった・・・・・・
 先ほども言ったように、今回の仕事は慎重に事を運ばねばならない。
 俺たちの標的は、幕府の息のかかった機関だからだ」
深鈴「ゲッ・・・それって、御上を敵に回すって事じゃない?」
 赤霧一族の中でも最も人間らしい深鈴は、顔を青くする。
 今の御時勢、妖怪が幕府に逆らって、ただで済むとは思えない。
鉄磨「毛羽毛現の爺の話では・・・
 その機関は、幕府とも折り合いが悪く・・・
 いずれは解体される事も検討されているらしい。
 それに、爺は一部の幕府要人とも密かな繋がりがある。
 俺たちの行動は揉み消してくれるだろう・・・」
伊空「『らしい』とか『だろう』とか、
 命を賭ける割には色々と危なっかしい気がするんだけど」
鉄磨「そこは、毛羽毛現の爺を信頼するしかないな・・・」
凶護「ハッ、俺には関係ねぇ!!
 兄貴の為なら、幕府の狗だろうが何だろうがぶっ殺すまでだぜ」
伊空「馬鹿だなぁ。兄貴が困っているのはそういう事じゃないっての」
凶護「な、何ぃ!?」
 凶護の殺気を鎮めるように、鉄磨自身が懸念を話し始めた。

鉄磨「首尾よく任務を果たせたとしても、
 幕府から、何らかの報復が行われる危険性がある・・・
 だから、極力俺たちの素性は隠したい」
深鈴「じゃあ、変装でもするの?」
鉄磨「それに近いが・・・むしろ逆だ」
 鉄磨の謎の言葉に、一同は疑問符を浮かべる。
 赤霧の長兄は、その長く伸ばした緋色の髪をかき上げて示す。
鉄磨「俺たちにとって最も目立つ特徴は何だ?
 この髪だ。逆に言えば、この特徴を消してしまえば、
 向こうは俺たち赤霧斗賊団が下手人とは特定できない」
深鈴「そっかぁ、黒で染めちゃうわけね」
 鉄磨はゆっくりと頷いた。
 赤霧斗賊団のトレードマークは、日本人にはまずありえない赤系統の髪だ。
 それを黒く染めてしまえば、ただの日本人と見分けがつかない。
深鈴「それなら、髪型も変えたほうがいいわね。
 ちょうど格好変えてみたかったところなのよ」
 お洒落好きの深鈴は、任務の為という枠を越えて愉しそうだ。
深鈴「そうそう、凶護兄の髪型、あたしが変えてあげよっか?」
凶護「ああ?そうだな、俺ぁそーゆー七面倒なのは苦手だからよ」

161藍三郎:2008/09/24(水) 23:31:34 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp

伊空「イメチェンかぁ・・・・・・」
 伊空は天上を見上げて、しばし考えていたようだが・・・
 腰を浮かせて、来たばかりの戸口に向かう。
伊空「うん、要は今の面影が無くなればいいんだよね?」
鉄磨「その通りだが・・・」
伊空「じゃ、適当に変えてくるよ。
 集合場所と時間は、ここに書かれている通りにすればいいんだよね?」
 床に広がった図面を指で示す。
鉄磨「ああ、そうだ・・・」
伊空「解った。それじゃ、また明日〜〜〜」
 伊空は軽快な足取りで、長屋を出て行く。
 その顔には、どこか悪戯めいた笑みが浮かんでいた・・・



 その頃・・・・・・

 木々の生い茂る林の中を、一人の男が歩いている。
 腰に刀を差してはいるが、身なりはみすぼらしく、その顔にも生気が無い。
 ところどころ汚れた白い着物。後ろで無造作に束ねただけの長い黒髪。
 いかにも職にあぶれた浪人といった雰囲気だった。

 男の澱んだ眼は、林の中で遊んでいる数名の子供達に移る。
 彼らは木の上を見上げて、途方にくれている様子だった。
???「おやぁ?坊や達、どうしたのかい?」
 子供達は、最初突然現れた男に怖れを抱いていたが、
 男が柔和な笑みを浮かべているのを見て、僅かながら警戒を解いた。
???「ふぅん・・・あの毬が木の上に引っかかっちゃったんだねぇ」
 上を見上げると、木の上に毬が引っかかっている。
 蹴鞠か何かで遊んでいたところで、
 高く蹴り上げた毬が枝に捕まったのだろう。
 子供の背丈では到底届かない高さだ。
???「少し待っていなよ・・・そおれ」
 男が腰の刀に手を掛けると・・・
 頭上の枝は切り落とされ、毬が地上に落ちてくる。
 子供達は満面の笑顔になり、口々にお礼を言う。
???「いやいや、別に大した事じゃあないよ・・・
 これからは気をつけるんだよ」
 毬を取り戻した子供達は、きゃあきゃあ言いながら
 自分達の村へと帰ろうとする。
 だが・・・・・・

???「あ・・・そうそう、そこの僕・・・・・・」

 最後尾にいた子供が、振り向いたその瞬間・・・・・・


 子供の首は、瞬時に胴体から離れていた。


 驚愕。悲鳴。絶叫。恐怖。血飛沫。死―――――

 残された子供達の反応はそれぞれだった。
 喉が割れんばかりの悲鳴を上げる者、
 その場にへたり込む者、脱兎のごとく逃げ出す者・・・・・・
 
 共通しているのは・・・
 誰も目の前で起こった惨状を理解できていない事だった。
 親切にしてくれたお侍様が、いきなり友達の首を刎ね飛ばしたなどと・・・

 男は一切表情を変えずに、落ちて来た生首を手で掴む。
 その顔は緑色の皮膚をしており、明らかに人間の子供ではなかった。
???「かわいそうに。まだ妖力を上手く消す術も
 身につけてなかったんだねぇ・・・」
 どこか濁った血を顔面に浴びながら、
 男は慈愛の眼で妖児の生首を見つめる。
 いつしか、その口の端からは涎が零れ始めていた。
 
 湧き上がる欲望を満たさんと、口を開いた瞬間・・・・・・

162藍三郎:2008/09/24(水) 23:32:17 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp

「ようやく見つけたぞ」
「手間を掛けさせおって」


 男二人の声が、彼の耳へと響いた。
 声の方向を振り向くと、そこには白装束に錫杖を携えた、
 山伏風の男が二人立っていた。
 双子なのか、両者とも良く似た顔立ちをしている。

???「おやまぁ、これは独角殿、双角殿・・・」

 独角(どっかく)、双角(そうかく)と呼ばれた
 二人の山伏は、侮蔑を込めて男を見つめる。

独角「ただちに本部に帰還せよという命を下したはずだが」
双角「辻占玖郎三郎清光(つじうら・くろうさぶろう・さやみつ)・・・・」

 名を呼ばれた清光は、口を三日月型に歪めて見せる。
 狂気を孕んだ笑顔だった。
清光「いやぁ・・・どうにも歩いているとお腹がすいて仕方が無くてね・・・
 妖怪の気配を見つけると、ふら〜〜っとそっちに行っちゃうんだ・・・」

独角「くっ、いつもいつも好き勝手ばかり・・・!」
双角「とにかく、我々と共に一旦本部に戻ってもらうぞ。辻占よ」
清光「はいはい・・・わかりましたよっと・・・」
双角「それと、その妖怪の屍骸は我々が回収する。
 未成熟の妖怪は、研究対象として貴重なのでな・・・」
 それを聞いた途端、清光はどこか悲しそうな表情になる。
清光「あ〜〜あ・・・美味しそうだったのにな・・・・・・」
 そうぼやくと、清光は妖児の生首を放り投げる。
独角「くっ・・・いつも言っているだろうが!!
 妖怪を見つけたら、なるべく殺さずに連れて来いと!!」
 いきり立つ山伏を、もう一方の山伏がなだめる。
双角「落ち着け、兄者・・・元よりこの男にそんな匙加減ができるものか」
独角「良いか辻占!貴様は隠れている妖怪を探す能力を
 買われて我らの下にいるのだ!命令も無いのに勝手に動き回るでない!」
清光「はいはい・・・肝に銘じておきますよっと・・・」
 その乾いた笑みからは、反省の色が見えない。
 しかし、怒気を含んでいるわけでもない。ただ飄々と受け流している。
 清光は木々が覆う天を見上げ、薄っすらと笑みを浮かべてこう呟いた。


清光「ああ・・・肝か・・・食べたいね。
 新鮮な、妖怪の生き肝が・・・うふふ・・・・・・」

163鳳来:2008/10/18(土) 19:22:53 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
=????=
???「お・・き・・・・」
うん、何だよ・・・すげぇ気持ちよく寝てるんだからよ、もうちょっと・・・
???「お・・・き・・・・お・・・・!!」
ああ、ほっといってくれよ。このままもう少し・・・・・

???「とっとと起きんかぁーーーー!!!!」
銀時「いってぇーーーー!!!」
銀時の頬に、何者かの痛烈な気合の張り手に、頬を撃たれて、一気に目が覚めた。
銀時「なにすんだ、てめぇーーー!!!親父にもぶたれたことねぇのに!!!」
桂「嘘付け。むしろ、お前に親父は居なかっただろう。」
銀時「うっせぇ、ヅラ・・・・・?!って、何でお前がここにいるんだよ!!!」
よく見れば、周りは南蛮渡来のガラス張りの牢屋で、自分の隣には、長谷川の本体(サングラス)とサングラス掛けも転がっていた。
桂「ヅラではない。桂だ・・・・・・どうやら、お前も、ここに捕まったみたいだな。」
俺も?−−−−その言葉に、銀時が気絶する直前の記憶がよみがえってくる。
確か、便場で検尿検査の尿を採ろうとしたときに、引きずり込まれて・・・
銀時「おい、ヅラ・・・・・ここはどこなんだ?何で、俺たち、捕まってんだよ?」
桂「ヅラではない、桂だ。どうやら、ここは、妖魔滅伏組の本拠地のようだ。」
銀時「いや、妖魔滅伏組って、そもそもなんだよ。」
桂「簡単にいえば、幕府公認の妖怪退治屋だ。表向きは医療機関の形をとっているがな。」
銀時「何だよ、ただの妖怪退治屋が随分面倒なことしてるじゃねぇか。」
桂「ただの妖怪退治屋なら問題は無い。その手段に問題があるんだ。」
銀時「手段?」
桂「そう・・・・ここではな、勧誘或いは攫ってきた人間を改造して、妖怪せん滅の手先とする強化人間を生み出しているんだ・・・」
銀時「んな?マジかよ!?」

???「そのとおりだよ、白夜叉。」

突如として、銀時の背後から、重々しい声が聞こえてきた・・・背後を振り返ると、そこには、南蛮渡来の白い西洋服に身を包んだ老齢の男性が立っていた。
???「初めまして。私がこの研究所の総責任者<水野 夏彦(ミズノ ナツヒコ)>だ。」

164藍三郎:2008/10/26(日) 00:53:04 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
 
 作戦決行当日・・・
 長屋前では、赤霧の兄妹たちが集まっていた。

深鈴「へぇ〜〜髪を黒く染めるだけで、随分印象変わるもんだね」
 深鈴は兄を見上げてそう呟く。
 赤霧鉄磨は、緋色の髪を真っ黒に染め、色眼鏡(サングラス)を外している。
 髪の色を変えて素顔を晒すだけで、大分印象が違って見える。
凶護「その格好もイカしてますぜ!兄貴!!」
 そう言う凶護も深鈴も、暖色の髪を黒に染めている。
 これから妖魔滅伏組の本拠に潜入するに当たって、
 なるべく目立たないようにする為の措置だ。
 髪型も変わっており、凶護はボサボサの鳥頭を右側で縛り、
 逆に深鈴は両側で結んでいた髪を解いて三つ編みにしている。

凶護「しっかし、伊空のヤロウはまた遅刻かよ!!」
 憤懣やる方ないという様子で地面を強く踏みつける凶護。
凶護「兄貴!あんな奴、もう置いていきやしょうぜ!!」
鉄磨「いや・・・来たようだ」


伊空「お待たせ〜〜〜〜♪」


凶護「たく、遅ぇんだよ・・・・・・って」
深鈴「・・・・・・え!?」
 その姿を視界に映した途端・・・・・・
鉄磨を除いた二人の顔が凍りついた。

 軽快な声と共に現れたのは、朱色の着物を着た“美少女”だった。
 黒い髪を背中まで伸ばし、眩しいまでの笑顔を浮かべている。
 着物は決して高級なものでは無いが、
 その容姿は艶やかな雰囲気と妖しい色気を振り撒いていた。

凶護「お、おま・・・・・・伊空・・・か?」
伊空「うん、腐っても俺の兄貴だ♪よく解ったね〜〜」
深鈴「な、何で女装?」
伊空「えへ、似合うっしょ?一度やってみたかったんだよね〜〜」
 はにかむような笑顔を浮かべて、くるりと一回転して見せる伊空。
深鈴(うぐ・・・何か負けた気がする・・・・・・)
 並の女以上に華やかなその姿に、
 深鈴はそこはかとない敗北感を覚えるのだった。
鉄磨「確かに、変装するならばそのぐらいはやった方がいいかもな」
深鈴「マジで!?」
 

凶護「おいおい解ってんのか?これは遊びじゃ・・・」
伊空「遊びでしょ?」
 珍しく説教らしい事を言い始めた凶護を遮って、
 事も無げに伊空は言う。
伊空「気紛れで喉を裂き、洒落で腹を斬り破り、
 屍骸(おもちゃ)が転がる血みどろの子供部屋で朝まで遊び倒す・・・
 これはそういう愉しい愉しい“遊戯(あそび)”でしょう?」


凶護(・・・・・・こいつ)
 町娘の姿のまま、平然と壊れた発言をする弟の眼は、
 隠しきれない狂気で爛々と輝いていた。
 艶やかな衣装を纏っても、内に秘めた殺意と闘争心は抑え切れない。
深鈴(調子は・・・万全みたい・・・
 こいつが一番怖いのって、“本気で遊ぶ”時なのよね・・・)

鉄磨「・・・・・・行くぞ」
 それは鉄磨も解っているのか、
 短く告げると目的地に向かって歩き出す。
伊空「りょ〜〜かい♪」




凶護「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」
 数十歩進んだところで、
 凶護は何かを思い出したかのように立ち止まる。
深鈴「どしたの?忘れ物?」

凶護「伊空ぁぁぁぁ!!!テメェ!!
 さっき“腐っても兄貴”とか抜かしやがったな!!
 どういう意味だそりゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

深鈴(・・・・・・つっこみ、遅っ!!
 まぁ私も軽く流してたけど・・・・・・)
 わめき散らす凶護には全く反応せず、
 伊空はどこか上機嫌で往来を歩くのだった・・・

165鳳来:2008/11/01(土) 22:11:53 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・
銀時「・・・・あんたがここの責任者?」
水野「先ほど話したとおりだ。気分はどうかね?」
銀時「良い夢みさせてもらったぜ。ここが危ない研究所じゃなけりゃね。」
水野「そうか、それは済まなかったね。しかし、君たちには用が済むまでここにいてもらいたいのだがな。」
銀時が皮肉を言うが、さらりと受け流す水野が背を向けた瞬間・・・・
銀時「悪いけどよぉ・・・あんたに従う理由は俺にはないんでな!!!」
その隙を付いて、反撃の機会を伺っていた銀時が、水野に�%F

166鳳来:2008/11/02(日) 12:23:48 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
(書き込み失敗したので、改めて書き込みます・・・・すみません)
一方・・・・
銀時「・・・・あんたがここの責任者?」
水野「先ほど話したとおりだ。気分はどうかね?」
銀時「良い夢みさせてもらったぜ。ここが危ない研究所じゃなけりゃね。」
水野「そうか、それは済まなかったね。しかし、君たちには用が済むまでここにいてもらいたいのだがな。」
銀時が皮肉を言うが、さらりと受け流す水野が背を向けた瞬間・・・・
銀時「悪いけどよぉ・・・あんたに従う理由は俺にはないんでな!!!」
その隙を付いて、反撃の機会を伺っていた銀時が、水野に飛び掛るーーーーーー
水野「だろうね。だが、これは君の理由云々を抜きにした・・・・命令だよ。」
ーーー直前、銀時と水野の間に割ってはいるかのように、全身を黒いタイツで覆った怪人が現れ、銀時の拳を受け止めた。
そして、クロスカウンターとなる形で、銀時を殴り飛ばした。
銀時「んな!?」
驚きの声を上げる銀時・・・・・それもそもはず、ここには自分たち以外は誰もいなかったはずなのだ。
そもそも、全身黒タイツという異様な格好をした奴がいれば、いやでも目に付くはず・・・
銀時「おい、ヅラ・・・・まさか、こいつが・・・・」
桂「ヅラではない、桂だ。そう、この研究所の成果とも言うべき強化人間・・・・・」
水野「通称:<壊人>シリーズ。私はそう呼んでいるがね。」

=万事屋=
銀時が失踪して、早三日・・・・・・独自に捜索していた神楽、新八、蓮丸、サラサは、何の手がかりも無く沈んでいた。
新八「銀さん、何処いっちゃったんでしょね・・・・・」
サラサ「一番、怪しいのは、お前達が健康診断を受けたあの病院なのだが・・・・」
蓮丸「さすがに、何の情報もないまま、乗り込むのは下策だ。」
神楽「ミイラ取りがミイラになっちゃうね。でも、このままじゃ、よくないね・・・・」
どうしたものかと頭を抱える一同であったが・・・・・予想外の人物によって問題解決の糸口は意外な形で切り開かれた。
漆間「すみません、蓮丸さんはいますか?」
蓮丸「お、漆間じゃねぇか・・・・何か用事か?今、ちょっと・・・・」
漆間「残念。万姫様直々の依頼ですから、拒否権無いと思いますよ。拒否したら処刑ですし。」
蓮丸「拒否権なしかよ・・・・で、何なんだよ・・・?」
漆間「ああ、依頼の内容ですが・・・・」
次の瞬間、漆間からの依頼の依頼内容に、一同は思わず目を輝かせ、万姫に感謝した

漆間「これより、診療所<神便鬼毒>の地下研究所に潜入して、捕らわれている人々を解放して来てください。あ、ついでに、本拠地ぶっ潰してきてください。」

167藍三郎:2008/11/02(日) 21:29:12 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
=神便鬼毒 地下研究施設=

凶護「おらよっと!!」
 鉄製の扉を蹴破り、施設内へと雪崩れ込む四人の半妖。
深鈴「こんな抜け道があったとはね・・・これも、“玄行灯”の情報なの?」
鉄磨「ああ・・・」
深鈴「施設内の見取り図もあるんだよね。
 何か至れり尽くせりって感じだわ」
鉄磨(恐らく、密かに情報を提供したのは江戸幕府・・・
 御上も、妖魔滅伏組を排除したがっているということか)

「おい、お前ら、そこで何を・・・・・・」
 物音を聞きつけたのか、
 白装束を着た衛兵らしき男が二名姿を現す。
 彼らが臨戦態勢に入る前に・・・・・・


「が・・・っ!!!」
「ぐは・・・・・・っ!!?」
 彼らは瞬時に喉を裂かれ、鮮血を撒き散らして斃れた。
 半妖達の中で、最も早く動いたのは、赤霧伊空だった。

伊空「ほらほら兄貴達、ぼうっとしちゃ駄目でしょ?」
 警護の兵を瞬殺した伊空は、返り血を浴びた顔で笑う。
深鈴「貴方、その武器・・・」
 伊空の手には、薄紅色のかんざしを、
 短刀のように鋭利に研いだ武器が握られていた。
伊空「えへへへ・・・こんな格好だからね。武器もそれに合わせてみた」
 伊空は二対のかんざしを髪へと戻す。

鉄磨「よし・・・当初の予定通り、二手に分かれていくぞ・・・」
凶護「よっしゃ!!兄貴、行きやしょうぜ!!」
深鈴「兄貴達が敵を引き付けてる間に、
 あたし達が捕まった妖怪(なかま)を解放するんだっけ?」
 施設内の見取り図を見ながら、深鈴が予め打ち合わせた作戦を復唱する。
伊空「え?兄貴達が囮役?
 それなら、俺と凶護兄貴が組んだ方がいいんじゃね?」
凶護「ふざけんな!!テメェと行動するなんざ御免だね!!
 俺は兄貴と一緒に行く!!」
 即座に否定する凶護。
深鈴(・・・まぁ、凶護兄貴は暴れすぎるきらいがあるからね・・・
 鉄磨兄貴が綱を持っていた方がいいか。
 凶護兄貴を止められるのは、鉄磨兄貴だけだし・・・
 ・・・って、それなら、あたしは伊空の監視役ってこと?)
 この、自由奔放かつ享楽的な弟を制御しきれるか・・・
 深鈴には全く自信が持てなかった。

鉄磨「今回の任務は、あくまで妖怪の救出だ。
 それを最優先にして行動しろ・・・」
伊空「りょ〜〜か〜〜〜い♪」

 赤霧の兄妹達は、道を二手に分かれて進んでいった。



 地下研究施設の最奥部にある、第壱號研究室・・・

 ここでは、妖怪達を相手に生体実験が行われていた。
 これも全ては、妖怪の体の構造を解析し、弱点を割り出すため。
 そして、ここで得られた情報を、強化兵士へと反映させるのである。
 
 実験の対象となるのは、妖魔滅伏組によって各地から捕獲された妖怪達。
 苛烈な生体実験によって、命を落とす妖怪は後を絶たなかった。


「ぃぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 今日もまた、哀れな犠牲者が一匹・・・・・・

168藍三郎:2008/11/02(日) 21:30:27 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp

独角「ちぃ、くたばったか。
 腹を裂いたぐらいで死ぬとは、化け物の癖に脆い奴らだ」
 妖怪の屍骸を見下ろしながら、物言わぬ骸に唾を吐きかける山伏風の男。

 彼の名は光明寺独角(こうみょうじ・どっかく)。
 妖魔滅伏組の構成員で、双子の弟である双角(そうかく)と共に、
 妖怪の捕縛、および生体実験を担当している。
 
 彼ら光明寺一族は、元々物の怪を葬る破邪の一族であり、
 発祥は鎌倉時代まで遡る。

 長きに渡って、表舞台に出てきた妖怪や半妖を狩っていたが、
 宗派七獄などの他の仏法勢力と同様、
 戦国時代末期に起こった裏の世界の動乱に巻き込まれ、組織をほぼ壊滅させられる。
 僅かに残った残存勢力は、妖魔滅伏組に身を寄せ、
 同じく稀少となった妖怪を狩っている。

 当初は人類の敵となる妖怪を討伐する
 崇高な理念を掲げていたが、今ではそれが独り歩きし、
 例え害を為さない妖怪であっても、
 構成員の征服欲を満たす為に狩る事例が増えている。
 
 この独角、双角の兄弟も、そういう類の人物だった。
 
  
 妖怪の血で濡れた部屋の片隅で、
 辻占玖郎三郎清光は、壁にもたれかかって、生気の無い目で虚空を見上げていた。
 それから、覇気の無い声で、物欲しそうに呟く。

清光「なぁ・・・“それ”、私にくれないかい?もう要らないんだろう?」
 彼の瞳には、実権で死んだ妖怪の屍骸が映っている。
独角「ふん、屍骸であっても妖怪ならば食べたいと申すか。
 卑しい食人鬼め」
 妖怪に向けるよりも侮蔑の篭った目で
 男を見ると、妖怪の屍骸を放り投げる。

 清光は、飢えた犬のように屍骸にかぶりつき、瞬く間に食らって行く。


 『人面剣鬼(じんめんけんき)』辻占玖郎三郎清光

 元々は名の知れた武家の家柄だったが、突然殺人狂として目覚め、
 一族郎党を皆殺しにして出奔、戦国時代の混乱期に戦場を渡り歩き、
 数え切れぬ程の人間を切り捨てて来た。
 乱世が終わってからも、人を斬る事を止められず、
 闇の世界で人斬りとして徘徊している。

 また・・・殺した人間の肉を喰らうという異常な性癖を持ち、
 あまりにも大勢の人間を、妖怪以上に楽しそうに殺す事から、
 人の面を被った剣の鬼・・・『人面剣鬼』として恐れられ、裏社会でも忌み嫌われている。

 数多くの人間を斬ってきたが、その対象は人間だけでなく、
 妖怪にも及び、屈強な妖怪達を次々と斬り殺している。
 その時も、人間と同じように殺した妖怪の血肉を喰らってきた。

 やがて・・・その凶行の数々が
 江戸幕府の目に留まり、犯罪者として処断されかけたが・・・
 その類稀なる剣腕と、妖怪をも食らう凶暴性に目をつけた
 妖魔滅伏組によって取立てられ、今は用心棒として雇われている。

清光(・・・・・・・・・ん?)
 骨に残った肉まで美味しそうにしゃぶりながら、
 清光はふと何かに気づいたように、眠たそうな眼を一瞬開く。


清光(小さいけど、妖怪の気配・・・
 ここには妖怪なんていくらでもいるけど、この気配は今までに無かったねぇ・・・
 もしかして、侵入者かねぇ・・・)
 本来ならば、目の前にいる独角に報告すべきなのだが・・・
 何か思うことがあるのか、清光はゆらりと立ち上がり、
 一人実験室を出て行った。

169鳳来:2008/11/03(月) 17:11:31 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・
=隔離室=
水野「侵入者?」
隔離室から出てきた水野の元に、何者かが地価研究所に潜入したという連絡が入っていた。
研究員「恐らく、幕府の手の者か・・・・・・」
水野「妖怪どもが仲間を助けに来たと言うわけか。それで、侵入者の数は?」
研究員「報告では、侵入者は8名とのことですが・・・・」
水野「随分と侮られたものだな。ならば、迎撃には、壊人シリーズに当たらせよう。光明寺兄弟にも連絡を取れ。」
研究員「彼らもですか?」
水野「二言は無い。すぐに連絡を取り、ただちに迎撃に向かわせろ。」
研究員「は、はい・・・」
戸惑いながらもその場を後にする研究員を見送り、水野はやれやれと呟いた。
水野「あの鬼姫の手の者・・・・一筋縄では行くまい・・・」

=地価研究所B1F=
斗賊団とは別に、男女4人組ーーーー蓮丸らも施設に侵入していた。
蓮丸「っと、侵入完了・・・・しかし、良くこんな施設が立てられたもんだな。」
新八「そうですよね。ここに、銀さんと桂さんが・・・・・」
神楽「早くいくネ。銀ちゃん達が、改造されちゃう前に助けないとネ。」
サラサ「そうだな・・・・・っと、早速か!!」
何者の気配を感じ取ったのかサラサが武器を抜いて構えた時、曲がり角から現れたのは・・・・
伊空「ありゃ、確か本願寺であったお兄さんたちじゃん。」
サラサ「お前は・・・・・・」

=地下研究所B1F中央回廊=
一方・・・・・

凶護「どうやら、出てきたみたいだぜ、兄貴・・・・・」
鉄磨「出来れば、もう少し時間は稼ぎたかったがな。」
囮となった鉄磨と凶護の前には、水野の放った刺客である黒尽くめタイツを来た凶護と同じ体格ぐらいの巨漢と肉と言う肉を極限までそぎ落とされた矮躯人が立ちはだかっていた。
???1「ほう・・・・・お前達が、ここに侵入した曲者か、随分と派手に暴れたものだな。」
???2「ぎゃばばばば!!!だが、それもここまでよ。てめぇら、二人あっさり潰してやるぜ!!この・・・・」
次の瞬間、やせ細った男が、姿を消し、巨漢の拳が、床を粉砕し。その衝撃で、研究所自体が揺れる。
???1「私の名は、壊人・イダテン・ザ・スレイプニル。全てを加速せし者だ!!!さああ、止められるかな?私の加速を!!!」
???2「俺は、壊人・ガンテツ・ザ・アースガルド!!頑強なる神々の砦、崩せるものなら崩してみよ!!!」

170藍三郎:2008/11/05(水) 06:21:17 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp

???「随分と、騒がしいみたいさね」
水野「すぐに静まる・・・」
 水野の目の前にいる女が、けだるそうに話す。
 後ろで縛った黒髪に眼鏡をかけ、茜色の甚平を羽織っている。
 <万寿菊>の使いで、舞鶴市松という女だ。
市松「本当かねぇ。何だったら、あたしらが手を貸そうか?」
水野「結構だ。君達から・・・
 いや、“あの男”からは、必要以上の借りを作りたくないのでね」
市松「なるほど。まぁ気持ちはわかるさね」
 そう言って、市松は口に咥えた煙管から煙を立ち昇らせる。

 この女とはかれこれ数十年の付き合いになるが・・・
 その間、全く姿が変わっていない。
 それもそのはずで、この女は人間でなく、人の手によって造られた絡繰人形なのだ。
 彼女の人間味溢れる仕草は、見た目では、とても人形とは思えない。
 ある意味、水野が作り出す壊人シリーズよりもずっと人間らしい。

市松「それじゃ・・・用も済んだし、とっとと帰るとするかね」
 書類の束をもって、立ち上がる市松。
 この書類には、妖魔滅伏組で行われた妖怪の生体実験や、
 人間の強化改造の研究データが記されている。
 定期的にこれらの研究資料を提供するのが、彼女らの組織と結んだ契約だ。

 妖怪を退治するのみならず、非合法な人体実験を行う妖魔滅伏組・・・
 本来ならば、とうの昔に取り潰されていても
 おかしくない組織でありながら、未だに存続している理由・・・
 その背後にいるのは、江戸幕府に巣食う謎の組織<万寿菊>だった。

 江戸幕府をも陰で操るとされる彼らの根回しによって、
 妖魔滅伏組がいかに非道な所業を行おうとも、
 御上から追及の手が伸びる事は無い。
 それによって、妖魔滅伏組は江戸幕府成立以後、
 表向きにその存在が忘れられても、確固たる権力を持って存続し続けているのだ。

 しかし・・・
 あの侵入者達が、水野の推測どおり幕府の手の者だとしたら・・・
 いよいよ、万寿菊を持ってしても
 庇いきれない状況まで追いやられているのかもしれない。

 江戸幕府は、攘夷志士や諸外国に関する問題が山積みゆえ、
 極力妖怪との争いごとを避けようとしている。
 妖魔滅伏組は、その方針に逆行するような行いを繰り返している。
 さらに、人間を対象にした強化改造・・・
 流石の幕府も、見過ごせぬ段階まで来ているということか。

 もう、<万寿菊>の庇護も当てにはできない。
 いや・・・既に彼らは、自分達に見切りをつけている可能性が高い。
 だからこそ、この侵入騒ぎが起こったとは考えられまいか。
 研究成果を根こそぎ頂いて、用が済めば切り捨てるつもりなのだ。

 ここで、水野の脳裏に“あの男”の姿が浮かぶ。

 同じ研究者であり、
 かつて、共に妖魔滅伏組を立ち上げたあの男を・・・

 ・・・・・・自分達を切り捨てるならば、それはそれで構わない。
 壊人も既に相当数が量産されている。
 幕府の庇護が無くとも、己の悲願を遂げる事は出来る――――・・・


独角「侵入者だと?
ふん、どこのどいつか知らんが、我らが出張るまでも無い。
 壊人どもに任せておけばいいだろう」
双角「水野殿は、我らにも迎撃に出ろと仰られている」
独角「ふん・・・まぁいい。
 しかし、清光の奴はどこへ行ったのだ?
 こういう時のために奴を雇っているというに・・・」
 文句を言いつつ、独角・双角の兄弟も動きだす。

171藍三郎:2008/11/05(水) 06:23:07 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp

伊空「にゃははははは、また会うとはね〜〜」
深鈴「何?知り合いなの?」
伊空「うん、こないだ本願寺でちょっとね」
新八「本願寺・・・?」
 記憶の糸を手繰り、目の前にいる彼女と同じ顔の人物を思い浮かべる。
新八「も、もしかして、伊空さんですか?」
 今の伊空は町娘の格好をしている為、新八は最初彼だとは見抜けなかった。
伊空「そうだよ〜〜〜
 褐色のお姉さん、よく俺だとわかったね?」
サラサ「そんな血に飢えたような瞳をしているような奴は、そういないからな」
 伊空の、どこか妖気を湛えた青色の瞳を見てそう評する。
サラサ「しかし、お前のその格好は何なんだ・・・」
 どこからどうみても“娘”にしか見えない伊空を見て、
 サラサは若干呆れたように呟く。
伊空「えへへへ・・・似合うでしょ?」
 くるりと一回転してみせる。
 黒髪が揺れる様は並の女以上に艶かしく見える。
 あえて突っ込むのも面倒だったので、サラサは一言だけ呟く。
サラサ「・・・・・・喋らなければな」


鉄磨「――――――!!」

 赤霧鉄磨が振り向くのと、
 イダテン・ザ・スレイプニルが拳を放つのはほぼ同時だった
 イダテン「ほう!私の速さを見切って拳を受け止めるとはな!!」
 イダテンが放った拳は、鉄磨の腕の鉄甲により止められていた。
鉄磨「どれだけ速かろうが・・・攻撃に移る一瞬さえ見切れば問題ない」
 言葉と同時に蹴りを放つ鉄磨。
 だが、その一蹴は相手を薙ぐ事無く虚空を通り過ぎた。
イダテン「ふふふ・・・その程度の速さでは、私は捕らえられぬ!」

凶護「このガリガリ野郎!!兄貴に何しやがんだぁぁぁぁぁ!!!」
 凶護がイダテンに襲い掛かった時、頭上から拳が降ってきた。
 咄嗟にそれを避ける凶護。拳は地面にめり込み、再び轟音を響かせる。
ガンテツ「貴様の相手は俺だ・・・!」
凶護「三下が!!お呼びじゃねぇんだよ!!
 死ねやぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
 その拳はすでに半妖化しており、人間を遥かに凌ぐ膂力を誇る。
 猛牛をも一撃で屠り去る魔の拳を・・・
ガンテツ「ふん!!効かぬわ!!」
 右の掌で、事も無げに受け止めるガンテツ。
 硬い岩を殴ったような衝撃が、凶護に走る。
ガンテツ「むぅん!!!」
 拳を掴み、力任せに投げ飛ばすガンテツ。
凶護「うおおおおおおっ!?」
 宙を舞う凶護だったが、壁を蹴って激突を免れる。
鉄磨(力で凶護を押し退けるとはな・・・)

172鳳来:2008/11/25(火) 19:17:29 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
とそのとき、鉄磨への攻撃を中断したイダテンが、ガンテツのそばに近づいて来た。
イダテン「ガンテツ!!アレを使うぞ、用意は出来てるか?」
ガンテツ「任せろ!!派手にやっちまえ!!!」
クラッチングスタートの体勢になったイダテンが、ガンテツに指示を出し、次なる攻撃に移ろうとする。
鉄磨「凶護、来るぞ。奴ラ、何かを仕掛けるつもりだ。油断をするな。」
凶護「上等!!返り討ちにしてくやるぜ!!!」
イダテン「たいした自信だな・・・・ならば、その身で味わえ・・・・我が最速にしして、最大の攻撃をーーー!!!」
瞬間、クラッチングスタートの体勢になっていたイダテンの姿が消えた。
凶護「っと!?やろう、どこに・・・・・」
鉄磨「凶護、前だ!!!」
イダテンを見失った凶護が、鉄磨の言葉にあわてて、目線を移そうとするが・・・・
イダテン「遅いぞ、半妖・・・・!!!」
瞬間早く、加速したイダテンの体が凶護の体にめり込み、一気に背後の壁に叩きつけた。
凶護「てめぇえ!?」
イダテン「遅い、遅すぎる!!いや、私が早いのだったな。破壊力=速さ×強度・・・故に我らは無敵!!!」
凶護「ぶっ殺す!!!!」
イダテンの挑発に怒髪天を付く凶護だったが・・・・鉄磨はイダテンの攻撃に不可解な点を見つけていた。
鉄磨(妙だな。あのイダテンと言う男ーーーかなりの矮躯のはずだ。あの速さで、しかも、凶護の頑強な体にまともにぶつかって、無傷でいられるはずがない。)
そして、考えられるとすれば、イダテンの超加速に耐えうる強度は、ガンテツが関っているはずだ。

173藍三郎:2008/11/28(金) 21:47:28 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
 一方・・・・・・

長谷川「何ぃ!?それじゃ俺たちは、改造人間にされちまうってのか!!」
 ようやく目を覚ました長谷川は、銀時から事情を聞いて顔面蒼白になる。
長谷川「あの、バッタ男とか蜘蛛男とかみたいな!?」
銀時「古いぜ。せめて、ワームとかイマジンとかファンガイアとかな・・・」
桂「それは、改造人間では無いぞ。銀時」

長谷川「チクショー!出しやがれー!!」
 何度も硝子の檻を叩くが、皹一つ入らない。
銀時「やめとけ。俺も何度も試したが無理だった」
 洞爺湖の木刀は、当然ながら没収されていた。
 一応、すぐ目の届く場所にあるのだが・・・
 牢で隔てられていてはどうにもならない。
銀時「ちょうどいい機会じゃねぇか。
 このまま改造人間になって、悪の組織に就職すれば、無職脱出できるぞ?」
長谷川「ん?それは悪くな・・・って、嫌だよ!!
 どうせ一週でやられて爆死する使い捨て怪人だろうが!!」
銀時「おいおい、そいつは自惚れがすぎるってもんだ。
 あんたじゃ精々戦闘員志望の受験者が関の山だ」
長谷川「戦闘員かよ!しかも、受験者って・・・結局就職できてねーじゃねーか!!」

銀時「しっかしマジな話どうするかね。
 改造するなら、この天パを治すだけにして欲しいもんだが・・・」
 そんな冗談を言うしかない状況の中、含み笑いを浮かべる男がいた。
桂「ふふふ・・・諦めるにはまだ早いぞ、銀時。
 正直お前が来てくれて助かった。
 俺一人でこの施設を突破するのは心もと無かったのでな」
銀時「突破って、武器も取られているんじゃ、
 頭数がいてもどうにもなんねぇじゃねぇか。
 部屋が一層むさくるしくなっただけだ」
桂「ふふふ、武器ならあるぞ」
 そう言って、桂は懐から一本のんまい棒を取り出す。
銀時「お、そいつはもしかして・・・」
桂「んまい棒、血禁苛麗(チキンカレー)味!!」
 んまい棒を投擲する桂。
 ご存知の通り、その中身は爆弾である。

 しかし、硝子戸に当たったんまい棒は、爆発せずにそのまま転がる。
銀時「おいおい、まさか本物のんまい棒と間違えたんじゃ・・・」
桂「そんなはずは・・・・・・ん?」
 んまい棒から、多量の白煙が溢れ出る。
 煙は瞬く間に牢全体を覆いつくし、
桂「おお、そうだ。こいつは遁走用の煙幕弾だったな・・・」
長谷川「ゴホッ!ゴホッ!ちょっと待て、これじゃ俺たち・・・」
銀時「窒息しちまうんじゃ・・・ゴホッ!!」

174藍三郎:2008/11/28(金) 21:48:14 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp

 一方、外にいた研究員は、
 硝子の牢が煙で覆われているのを見て顔色を変える。
研究員「何を起こっているんだ?」
 煙でよく見えないが、中の三人は死んだように倒れている。
研究員「ちっ、このままだと実験体が窒息してしまう。一旦戸を開けるぞ」
 強化する前に死んでしまっては、捕らえて来た意味が無い。
 鍵を回して、扉を開く研究員だったが・・・


研究員「がはっ!!」
 倒れていた銀時の身体が、カエルのように跳ね上がり、
 研究員の顎に頭突きをかました。
 同時に起き上がった桂も、牢を脱出すると、
 もう一人の研究員に手刀を食らわす。
長谷川「ぜぇーはぁ・・・い、一時はどうなるかと・・・」
銀時「全くだぜ・・・・・・」
 後少しでも扉が開くのが遅れていたら、本当に窒息死するところだった。
 この状況を作り出した張本人を睨みつけるが・・・

桂「・・・・・・・・・ふっ、すべて計算どおりだ」
 そう嘯く桂に、銀時と長谷川による、
 時間差なしの二面同時パンチが決まった。


銀時「さて、これからどうする?」
長谷川「決まってんだろ!さっさと逃げようぜこんなところ!」
 怯えきった長谷川に対し、
 何やら研究員の懐を物色していた桂が異を唱える。

桂「待て。人の尊厳を踏み躙る斯様な悪行、見過ごす事はできん。
 俺たち以外にも囚われている人がいるはずだ。
 彼らを救出し、二度とこんな真似ができないように、
 この施設を破壊せねばならん」
銀時「真面目だねぇ。
 あの爺さんの口ぶりじゃ、ここは幕府公認の妖怪退治屋って話だぜ。
 あんま深入りしねー方がいいと思うが・・・」
桂「幕府の暗部だからこそ、その過ちを正さねばならぬ。
 銀時、お前はそれでも攘夷志士か!」
銀時「俺はもう攘夷志士じゃねーっつーの!!」
 銀時は一息つくと、こう続ける。
銀時「・・・・・・まぁ、今更無関係とも言えねーしな・・・
 後腐れねーように、徹底的に潰してからお暇するとするか」
桂「ふっ、そうこなくてはな」
長谷川「・・・何か勝手に話が進んでるが、
 俺ぁ危ない橋渡るのはゴメンだぜ」
銀時「そうか、じゃあ一人でとっとと逃げてくれ。
 別に強制はしねーよ」
長谷川「ちょ・・・そっちの方が怖ぇよ!!
 あ〜あ、タダに釣られてこんなところに来るんじゃ無かったぜ・・・」
桂「まずは、俺たちと同じく牢に囚われた人々を解放するぞ」
 桂は、研究員の懐に入っていた鍵の束を掲げた。

175鳳来:2008/12/03(水) 20:52:09 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・・
イダテン「ははははは!!!!遅い、鈍足、愚鈍!!!足りない、まるで速さが足りないぞ!!!」
凶護「だあああああ!!!ちょこまか、うッとしい!!てめぇは、ゴキブリか蝿かよ!!」
闇雲に攻撃を繰りかえす凶護であったが、それを物ともしない速さで、イダテンはかわし続ける。
しかも、イダテンの高速移動により生み出される衝撃波が、凶護の体に襲いかかってくる。
イダテン「ゴキブリは酷いな・・・・・せめて・・・・」
凶護「だらぁ!!!!」
苦し紛れに、凶護がでたらめに拳をぶつけようとするが、それをやすやすとかわしたイダテンの体が凶護の体に激突する。
凶護「がぁ!?」
イダテン「隼と読んでくれるとありがたいね!!」
再び、壁に叩きつけられる凶護・・・・だが、この時、鉄磨はある異変に気づいた。
鉄磨(壁にひび一つ無い・・・・・だと・・・・?)
その事に気づき、これまでの事を思い返すーーーイダテンの高速移動の際に発生する衝撃波による被害が、床や壁にはまったく見受けられなかった。
最初は、頑丈な素材で作られているのかと考えていたが、最初に遭遇した時、ガンテツの拳が床を砕いたのを考えると、それはありえない。
ならば、考えうる可能性は一つーーーーー
鉄磨(つまり、元々強度が合ったわけではなく・・・・強度に強化がなされたということ・・・・そして、その能力を持っているのは・・・・)
そして、それを実行しているのは、先ほどから、攻撃に参加してこないガンテツのはずなのだ。
鉄磨(恐らく、攻撃に参加しないのは、同時に二つまでしか強度を強化できなから・・・下手に手を出せば、自分がイダテンの衝撃波に巻き込まれるからな・・・)
確かに、恐ろしい能力ではあるだろう・・・・だが・・・・
鉄磨(手の内が分かった以上・・・・・お前達の負けは決定している!!)
すぐさまに、イダテンとガンテツを同時に屠る策を考え付いた鉄磨は、イダテンと凶護の戦闘に割り込んだ。

176藍三郎:2008/12/06(土) 10:27:21 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

 その頃・・・

新八「一応、漆間さんから見取り図を貰ったんですけど・・・
 結構わからないところがあるんですよね。
深鈴「それは私のところも同じね。
 というか、ここまで地図とかなり違ってるし・・・」
サラサ「その情報は、まだ妖魔滅伏組が幕府の影響下にあった頃のものだ。
 侵入者対策として、いくらかの改築が行われていると見ていいだろう」
蓮丸「そうだな・・・って、言ったそばから・・・」
 蓮丸たちの行き先に左に開いた通路が見える。
 直進か、左折かの二択。地図には左側の通路は描かれていない。
伊空「どーする?真っ直ぐ行く?曲がる?」
サラサ「地図に無い通路か・・・いかにもキナ臭いが・・・」
新八「迷ってる時間も惜しいですよ。
 ここは二手に分かれていくのはどうでしょう?」
サラサ「うむ。それが一番現実的か・・・」
神楽「新八なのに役立つ提案するアルな」
伊空「当たり前すぎてつまらないけどね〜〜」
新八「新八なのにとはなんだぁ!!後、つまらないとか言うな!!」

神楽「じゃあ、私は真っ直ぐ進むアル。
 自分の信じる道を一直線が私の信条アルね」
 そう言って、駆け出す神楽だったが・・・
神楽「!!」
 曲がり角より先の通路に足を進めた瞬間、その床が一気に崩れ始めた。
神楽「ちょ・・・私そんなに重くな――――――」 
 たまたま前のほうにいた、蓮丸と深鈴も巻き添えになる。
深鈴「きゃああっ!?」
蓮丸「ち・・・・・・」
 成す術なく、三人は暗く開いた奈落の底へと消えていった。


新八「神楽ちゃん!!蓮丸さん!深鈴さん!!」
 叫び声は暗い奈落の中へと虚しく吸い込まれる。
 通路の先には、ぽっかりと巨大な穴が開いていた。
伊空「あちゃあ・・・罠だったみたいだねぇ」
サラサ「落とし穴とは、また古典的な・・・」
新八「ちょ、二人とも、何落ち着き払っているんですか!!」
サラサ「心配はいらん。あの二人が、落とし穴ごときで死ぬものか」
伊空「姉貴も同じだよ。この中で心配なのって、メガネ君ぐらいでしょ」
新八「まぁ・・・そうかもしれませんけど・・・」
 この二人の冷淡さは少々受け入れがたいものがある。

177鳳来:2008/12/06(土) 21:44:32 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・・
イダテン「ほう、二人がかりか?だが、その程度で、俺を倒せるかな!!」
凶護「兄貴ぃ!!こいつは俺がぶちのめすから、そこで待って・・・」
鉄磨「いや、その必要は無い。」
そして、猛る凶護を片手で制しつつ、鉄磨は、イダテンに静かに宣告した。
鉄磨「俺達が手を下すまでもなく・・・・お前は己の速さに負ける。」
イダテン「・・・・・・冗談にしては些か面白みが無いな。」
鉄磨「冗談かどうかは、これから自分の身に降りかかる敗北を知ってから言え。」
イダテン「はっはははっはは・・・・・・・調子にのるんじゃねぇぞ、このクソ半妖がぁあああ!!!!」
これまでの紳士ぜんとした態度を豹変させ、限界速度まで加速したイダテンは鉄磨と凶護の二人に襲いかかる。
イダテン「人が余裕出し照れば、調子にのりやがって、このスカタンがぁーーー!!!」
壁を床を天井を左右前後上・・・・・・イダテンは鉄磨らを翻弄するように室内を縦横無尽に駆け回り、止めの一撃のタイミングを計る。
イダテン「二人まとめて、あの世に送ってやる!!!兄弟仲よく砕け散れぇええ!!!」
鉄磨「ああ、そうだな。ただし・・・・」
激昂し我を失っているイダテンは気づいていないーーーー鉄磨と凶護の二人が位置をずらしていることに。
イダテンは気づいていないーーーーー二人が自分の視界からある存在を隠しながら移動していることに。
そして、鉄磨と凶護の二人に最大加速で体当たりを叩きこもうとするイダテンは気づいていない。
鉄磨「お前が、逝け。」
ーーーーー鉄磨と凶護が攻撃をかわしたその先に、驚愕するガンテツがいることを。
イダテン「あ?あ、ああああああああああああああああーーーーー!!!」
ガンテツ「そ、そんなぁああ!?」
もはや勝敗は決したーーーーー放たれた矢は最大速度でとまる事は出来ない。
例え、ガンテツの能力による強化の対象を、ガンテツ自身にしても、背後の壁の強化まで解除され、研究所に致命的な損害を出しかねない。
また、イダテンの強化を解いてしまえば、加速による衝撃波の影響で、イダテンが絶命する。
その逆も然り・・・・・すなわちどちらにせよ八方塞、敗北と言う道しかない。
鉄磨「お前に足りないもの・・・・・それは、広い視野で状況を把握する観察力だ。」
その言葉を聞くことなくーーーーー背後からイダテンとガンテツの悲鳴と次々と壁を突き破る轟音が響いた。

178藍三郎:2008/12/07(日) 22:05:28 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

凶護「うはははぁっ!!すっげえ!!やっぱり兄貴はすげえやぁ!!!」
 崩れた壁の向こう側で、共に気絶している
 イダテンとガンテツを見下ろし、凶護は喜びの声をあげる。
鉄磨「いや、お前がヤツの手の内を引き出してくれたからだ。
 よくやってくれた、凶護」
凶護「あ、兄貴ぃ・・・・・・」
 最愛の兄に褒められて、凶護は仔犬のように瞳を潤ませる。
 いかつい容姿に比べると、あまりにも似合わせない表現であるが。

鉄磨「さて・・・・・・」
 折り重なって伸びているイダテンとガンテツに近づき、
 鉄甲から刃を延ばして喉元に当てる。
イダテン「ぐぐぐ・・・」
鉄磨「まだ意識があるのか・・・壊人と名乗るだけの事はあるな」
凶護「おらてめぇら!!妙な真似してみろ。即ぶっ殺してやるからな!!」
 兄の後ろに立ち、居丈高に声を張り上げる凶護。
鉄磨「色々と教えてもらおうか・・・この施設のことを。
 施設の主はどこにいる?
 貴様らのような壊人とやらは、他にもいるのか?」
イダテン「へ、へへへへ・・・・・・」
凶護「何が可笑しいんだてめぇ!!!」
 兄を侮辱されたと思ったのか、さらに血管を浮き上がらせて怒る凶護。
イダテン「教えても無駄な事さ。どうせあんたらはあの人に殺される。
 俺たち壊人の生みの親であるあの人にな・・・・・・」
鉄磨「そいつもお前と同じ、壊人なのか?」
イダテン「とんでもねぇ。あの人はそんな生易しいもんじゃあない。
 もっと恐ろしい・・・・・・」


 そこまで言った瞬間・・・・・・

鉄磨「――――――――!!!」
 鉄磨は咄嗟に身を逸らし、後ろにいた凶護も突き飛ばす。
凶護「あ、兄貴・・・!?」

 間髪いれず、回廊から巨大な杭のような物体が飛んできて、
 イダテンとガンテツの身体を串刺しにした。

イダテン「ぐがぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ガンテツ「ぎやぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 掌で掴みきれ無い程の大きさの杭に貫かれ、
 イダテンとガンテツは共に絶命する。
 二人の血で濡れたその物体は、
 独鈷杵(どっこしょ)と言う密教法具に酷似していた。
 勿論大きさはまるで違うが。


独角「半妖ごときに後れを取るとは・・・この壊人の恥さらしが!!」
双角「我らの手を煩わす事になるとはな・・・」
 山伏のような白い法服を纏った二人の男が、こちらに向かってくる。
 一方は猛り、もう一方は冷淡な侮蔑の表情を浮かべているが、
 両者とも顔立ちはよく似ており、双子だと思われる。

凶護「何なんだてめぇらはよぉ!!」
双角「ふん、野蛮な半妖らしく、品のない声だ」
独角「聞くがよい!慄くがよい!我らは『光明道』!!
 この世より不浄なる魔の眷属を討ち祓う者なり!!」

凶護「こ、こーみょーどーだぁ!?」
鉄磨「・・・・・・」
 間違いない・・・彼らは妖族最大の宿敵・・・仏法勢力の生き残りだ。
 赤霧の一族も、戦国時代の大動乱で
 多くの同胞が仏法勢力に刈り取られたと言う。

 鉄磨の中に眠る、妖族の血がざわめく。
 それは、本能的に彼らを“仇敵”と見なしたゆえか。
 
独角「穢れし邪妖ども!!即刻この大地より往ねぃ!!」
 独鈷杵を両手に持つ独角。傍らの双角も、形状の違う金剛杵を握り締める。
凶護「へっ!兄弟対決ってわけか!!面白ぇ!!
 俺と兄貴の兄弟の絆に、敵う奴なんぞいやしねぇ!!!」
鉄磨「・・・油断だけはするなよ」
 意気盛んになる凶護を横目に、鉄磨は冷静さを保ちつつ、宿敵と相対する。

179鳳来:2008/12/10(水) 21:52:34 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方、落とし穴と言う古典的かつ普通そんなべテべたな罠に見事にはまった蓮丸らは・・・
=地下研究所・戦闘実験室=
神楽「はいよ!!」
蓮丸「っと!!」
深鈴「あう!!」
三人ともかなりの高さから落ちたが、そこはなんなく見事に着地を決めた。
蓮丸「どうやら、見事にはまったようだな、主に神楽の性で」
深鈴「そうだね・・・おもにチャイナ娘の性で。」
神楽「うっさいねぇーーー!!!何か、全部私の責任か!?都合の悪い事は全部私のせいか!?」
深鈴「まあ、それはともかくとして・・・・とりあえず、このメンバーで進むしかないわね。」
逆切れする神楽をスルーして、状況並びに戦力の確認をする深鈴。
神楽「そうするしかないねぇ・・・・」
蓮丸「だな・・・・」
深鈴「ところで、あんた・・・・・蓮丸って言ったけ?」
蓮丸「ん、そうだけど?それがどうかしたのか?」
深鈴「あ、うん・・・ちょっとね。どっかで、あんたの名前を聞いた事があるんだけど・・・気の性かな?」
先ほどの伊空が本願寺で知り合ったときの経緯の際に出た蓮丸という名前・・・それが引っかかっていた。
蓮丸「ああ、まあ・・・・知ってる奴は知ってるかな。」
神楽「何、私ハブにして、話を進めてるネ。ちゃんと混ぜるネ。」
深鈴「ああ、ちょっと、思い出せなくなるじゃない。」


???「なら・・・・永遠にその必要が無いようにしましょうか?」

背後から見知らぬ女性の声が聞こえてきた。
蓮丸「っと・・・・早速だな。」
深鈴「そうみたいね。」
一同が振り返るとそこには、足まで付く髪の毛を引きずった全身黒タイツを着た女性とこれまた同じ衣装を着た引き締まった肉月の男性が立っていた。
神楽「何ネ、あの変態コンビは?モOモO君か?」
黒タイツ男性「ノー!!ミーらは、ノーコメディアンよ。ミー達は、バットモンスタースレイヤーヒューマン・壊人ね。」
黒タイツの女性「そういうこと・・・・今回は、侵入者討伐ってことなの。だから・・・」
次の瞬間、黒タイツの男性の指先から熱線が発射され、黒タイツの女性の髪が、重力に逆らい浮かび上がった。
黒タイツ女性「この、フタクチ・ザ・カミーラと!!!」
黒タイツ男性「ヒョットコ・ザ・イフリートがユー達をキルしちゃうよ!!!」

180藍三郎:2008/12/11(木) 20:35:51 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

独角「喰らえぃ!!“降魔独鈷杵(ごうまどっこしょ)”!!」
 独角の手から離れた数本の独鈷杵は、淡い光を帯びた後、
 弾丸のように鉄磨目掛けて飛んでいく。
鉄磨「!!!」
 鉄の手甲で弾き返す鉄磨。しかし、その威力は並みではなく、腕に痺れが残った。
鉄磨(この威力・・・ただ投擲したとは思えん)
 明らかに、人の膂力以上の力が加わっている。
鉄磨「これが・・・お前達僧侶が使う“法力”とやらか・・・」
独角「そうだ!!貴様ら下衆な妖怪の力とは格が違う!!
 選ばれし者のみが使う事を許された、神聖なる力だ!!」
 独角の身体からは、淡い金色のオーラが仄かに見える。
鉄磨「・・・・・・」
 法力とは、元来誰にも宿る、秘められた力とされている。
 彼ら仏法僧は、その力を修行によって引き出す。
 内に秘められし力という意味では、妖怪における妖力と似たようなものだが・・・
 彼らはそれを異端なるものとして、決して認めようとはしない。

凶護「うおらぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
 拳を乱打しつつ、突進する凶護。
双角「ふん、馬鹿の一つ覚えの突進か・・・
 やはり妖怪の血は、脳味噌を退化させるようだな!」
 凶護の目前で掻き消える双角。
 一瞬で背後に回りこみ、手にした錫杖で薙ぎ払う。
 
凶護「舐めんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
 後ろに腕を伸ばし、双角の錫杖を掴み取る。
 そのまま力任せに、錫杖ごと双角を持ち上げた。
凶護「このまま叩き潰してやらぁ!!!」
双角「ふ・・・飛べ!“破魔法輪錫杖(はまほうりんしゃくじょう)”!」
 錫杖が淡く輝き始め、頭についた金属の環が杖から離れて飛ぶ。
 光を帯びた輪は、空中を高速で旋回した後、凶護に襲い掛かる。
凶護「な・・・ぐあああああ!!!」
 円形の鋸のように、光の輪は凶護の肉を抉り取る。
 
独角「穿て!!三鈷杵!!」
 再び、金剛杵を発射する独角。今度は先ほどの倍以上の数だ。
 鉄磨は半ば地面を転がりながら紙一重でそれを交わす。
独角「無様だな!半妖!!いつまでも人間ぶっていないで、
 とっとと化け物の本性を現したらどうだ!?」
鉄磨(こいつ・・・・・・)
独角「化け物は化け物らしく死ねぃ!!」

凶護「こなくそ―――――!!!!」
双角「そういう事だ。知っているのだぞ・・・
 お前達半妖が、普段は力を抑えていることをな」
 鉄磨と違って、防御を知らない凶護はなお分が悪い。
 錫杖と、そこから離れた輪の波状攻撃に、どんどん傷を深くしていく。

181藍三郎:2008/12/11(木) 20:37:27 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

 確かに、彼ら赤霧一族は、人間社会に溶け込むために普段は人間の姿をしている。
 だが、一度妖力を限界まで解放すれば、
 その姿は人間のそれとは違う、妖怪に限りなく近い姿となる。
 妖怪となった半妖の力は、人間の姿の力を遥かに上回る。

鉄磨(奴らが妖怪退治の専門家ならば、その情報を知っていて当然・・・
 だが、何故今それ指摘する!?)
 圧倒的優位に立っているからこその余裕か。
 いや・・・彼ら僧侶達は、妖怪を徹底的に見下している。
 それこそ、羽虫や蟻を相手にするように・・・
 そんな存在に対して、あえて全力を出すよう促すなどありえるのだろうか。
 それは、相手を対等に見なしている者が言う事ではなかろうか。

 光明寺兄弟の言動に不信感を抱いた鉄磨と違い、
 度重なる挑発を受け、凶護は既に我慢の限界を超えていた。
凶護「面白ぇ・・・ほえ面かくなよぉっ!!!」
鉄磨「待て・・・凶護―――――――!」
凶護「止めるな兄貴ィ!!!奴らをボロゾーキンみてーに引き裂いて、
 赤霧兄弟(おれたち)の力を思い知らせてやるぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
 鉄磨が止めた時には既に遅かった。
 凶護は己の妖力を限界まで引き上げ、その姿を赤銅色の獣へと変える。
 姿形は元より、全身からは禍々しい紅い妖気がほとばしっている。

凶護「シャアァァラァァァァァァァァァァッ!!!!」

 獲物を狩る獅子のごとく、双角へと襲い掛かる凶護。
 双角は大きく飛び跳ね、紙一重でその爪牙から逃れる。
 振るわれた一撃は、石造りの床を軽々と抉り、その余波が壁を傷つけるほどだった。
 
双角「ふ・・・」
 それでも、双角の顔から余裕の笑みは消えない。
 凶護から逃れつつ、兄独角の下へ合流する。
双角「予想どおりだ。やるぞ兄者」
独角「ああ、行くぞ妖怪!己の愚かしさを地獄で後悔しろ!!」
 独角は双角の後ろに立ち、独鈷杵を放つ。
 双角は手にした錫杖を高速回転させる。
 十数個の独鈷杵が円形に配置され、錫杖の動きに従って旋回する。
 独鈷杵と錫杖の回転は、眩いばかりの輝きを生み出し、
 双子の前に大きな光の輪を形成していた。

鉄磨「アレは、まさか・・・凶護、待てぇぇぇぇぇ!!!」
 鉄磨は走り出す。光明寺兄弟と、凶護を止める為に。
 一方、完全に理性の箍が外れた凶護は、兄の叫びさえ届かない。
 妖怪化最大の欠点・・・それが、理性の喪失である。
凶護「死ぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
 膨大な妖力を纏った一撃必殺の拳が、光の輪に触れた時・・・・・・
 

独角「光明寺秘奥義!!」
双角「“光輪反極転(こうりんはんきょくてん)”!!」


凶護「――――――――――――!!!!!」

 凶護の拳は、双子を刺し貫く事無く・・・
 光の輪から発生した、膨大な光の渦に飲み込まれていった。

鉄磨「凶護ォ――――――――!!!!」

 鉄磨も、周囲の地形すらも、滅却の光の前に消えうせていく・・・

182鳳来:2009/01/05(月) 19:39:50 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
水野自身も、若い頃は一族の跡取りとして、人々を救うために、純粋に医術を学んでいた。
しかし、ある時、魔王織田信長の襲来によって、水野の人生は大きく変わる事になった。
ある日、医者としての仕事を終えた水野が戻ってきた彼が目にしたのは、織田軍の半妖部隊によって、蹂躙された故郷だった。
その事実に愕然とした水野だったが、医者として、生存者を救うために急いで城に書け戻って目にしたのは、治療不可能なまでに壊された城主を含めた一族郎党と家族だった。
生きてはいる。
だが、治すことはできない。
水野に出来る事は、苦しみながら生きる愛スル家族達を自らの手で殺すことだけだった。
人を救うはずの自分が、人を殺すと言う矛盾が、水野の心を病んでいった。
全ての者を殺しきった後に残されたのは、血の涙を流し続ける水野夏彦だけだった。
この時に、医者としての水野は死んでいたのだ。
そして、代わりに生まれたのが、全ての妖怪を憎悪し、ありとあらゆる手段もって、妖怪という種を滅ぼすためだけの壊れた人間・・・・水野夏彦だった。

水野「・・・・・さて、私も出るか。」
改造候補の三人が脱走したと言う報告を受けた水野は、自ら脱走者を取り押さえようと部屋を出るが・・・
サラサ「む?」
伊空「ありゃ、おっさんだれよ?」
新八「誰って、つうか、見つかったじゃないですか、早速!!」
蓮丸らと別行動をとる事になった伊空達に出くわした。
水野「ふむ、君達が侵入者か・・・・」
なるほどと、伊空達をじろじろとモルモットを選ぶように見回し・・・・
水野「よし、半妖の君だけは、死んでくれたまえ。」
老人とは思えぬスピードで、迷うことなく、徒手空拳で伊空に襲いかかった。

183藍三郎:2009/01/05(月) 22:50:18 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

伊空「あはははは!何だいおじいちゃん!
 俺の姿見て・・・欲情しちゃったのかい?」
 伊空の冗談に、水野は何も応えない。
 ただ全身を純粋無垢な殺意に漲らせ、目の前の半妖を誅滅せんと突きを繰り出す。
 その突きの連打を、振袖を華麗に翻し、紙一重の差で避ける伊空。
 ちょうど十発目の突きが伊空に放たれた時・・・
 彼は後ろの壁を蹴って宙を舞う。
 手刀は振袖姿の少年を捕らえる事無く、壁へと直行する。
 人間の手なら、これで腕が折れてもおかしくないはずだが・・・
 
 鈍い音と共に、水野の腕が壁を貫通する。
 水野はまるで痛みも無いかのように、無造作に腕を抜き取る。
 腕には骨折どころか、わずかな傷も認められなかった。

新八「ゲェ――――――ッ!!」
 人間を越えた御業に、叫ぶ新八。
 サラサもまた、老人の驚異的な身体能力に言葉を失っている。
新八「な、何ですかあれ、人間の腕力じゃないですよ。
 もしかしてあの人もようか・・・・・・」


水野「黙りなさい」

 
新八「あ・・・・・・・・・」
 水野の眼光が、新八を真っ向から射抜いた。
 その殺意と憎悪を凝縮したような眼光に、
 新八は魂を凍らせられるような恐怖を覚え、それ以上言葉を紡ぐ事が出来なかった。


水野「私をあのような下賎な種族と一緒にするな。
 あのような、野蛮で残忍な下衆どもと・・・・・・」
伊空「えへへへ、言ってくれるねぇ」
 自分たちの事を罵られても、伊空は怒るどころか、へらへらと笑い続けている。
伊空「まぁ、下賎だの何だの言うからには、
 もうちょっと知的な対応をお願いしたいね。いきなり襲われて、びっくりしちゃったよ」
 そう言う伊空には、微塵も驚いた様子が無い。
水野「ふむ。それもそうだな・・・では、紳士的に問うとしよう。
 君達は、何故ここに来た?何の目的だ?」
伊空「え〜とね、捕まっている妖怪達を解放する事と、
 この施設を完膚なきまでにぶち壊す事〜〜〜♪」
水野「なるほど・・・君たち半妖にも、
 同胞を好き勝手されて怒るような感情があったのか。
 少しは人間らしいところがあるじゃないか」
 そう言いながらも、彼の瞳はまるで人間を見るような眼ではなかった。
伊空「ああ、兄貴達はそうかもしれないけど、俺にとっちゃそんなの建前だね」
水野「ほう・・・では、真の目的は?」

伊空「殺したいから。人間でも妖怪でも何でもいい。
 生き物を切り刻んで殺したい。
 肉を裂き、血を浴び、臓物抉って殺したい。
 仲間も同胞も関係ない。俺は殺せればそれでいいんだよ」

 少女の姿のままで、顔に笑みをたたえたままで、
 平然と残虐極まる文句を口にする伊空に、
 サラサと新八も絶句するしかなかった。
 そして、二人とも改めて実感する・・・目の前の少年は、
 人間や妖怪の垣根を越えた、どうしようもない程壊れた“怪物”なのだと


水野「ク、ククククク・・・・・・」
 それを聞いた水野は、突如として笑い出した。
 その感情の篭らぬ冷えた笑い声は、却って不気味でしかなかった。
伊空「どうしたの、おじいちゃん」
水野「・・・嬉しいよ。運命に感謝しなければならないな。
 ここで出逢えた半妖が君であったことを・・・・・・」
伊空「え〜〜〜!!いきなり愛の告白!?
 駄目だよ!俺には将来を誓った人がいるんだからさ!!」
 少女の姿のままで、ふざけているのか本気なのかわからない反応を見せる伊空。
 一方水野は、顔に狂った笑いを張り付かせたまま叫ぶ

水野「本当に良かった・・・
 君が心の底まで堕落しきった救いようの無い
 殺す事に一点の躊躇いも覚えぬ妖怪(バケモノ)で!!
 もはや私の憎しみの太陽は・・・決して翳る事は無いだろう!!」

 妖怪とは憎むべきもの。妖怪とは殺すべきもの。
 その信念を揺るがす、人としての情は・・・これで完全に取り払われた。
 否、そんなモノは既に、遥か昔に封印していた。

伊空「あはっ♪中々いい殺気だね。
 でも俺、援助交際(としよりのあいて)は趣味じゃないから・・・」
 頭に刺したかんざしを抜き、二対の刃へと変じる伊空。
 彼の両手には、かんざしが変形した二本の短刀が握られた。


伊空「棺桶に片足突っ込んだ老体、バラバラに刻んで綺麗に収納してやるよ」

184鳳来:2009/01/28(水) 21:09:41 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方、ガラス牢から脱出した銀時らは、研究所内部で・・・・
銀時「おい、ヅラ・・・・今、俺達どこにいるんだ?」
桂「ヅラじゃない、桂だ。初めて来た時から牢に捉えられていた俺が知るわけないだろう。」
長谷川「おいおいおい!!!知らないってそらやねぇだろ!?」
おもいっきり迷子になっていました〜v

長谷川「いやだぁ〜!!こんなところで、迷子になるなんてーー!!なんか、怖い妖怪がいそうだしーー!!」
思いっきり、ネガティブ思考に捕われて、思わず叫んだ瞬間・・・

???「呼んだ〜?」

銀時、桂、長谷川「「「はい?」」」
この場には似つかわしくないやや幼い子供の声に、思わず声のした扉で、銀時たちは立ち止まった。
その扉は、何十もの鎖と何十もの南京錠が掛けられ、いかにも危なげなものを閉じ込めているようだった。
???「ああ、ごめん。妖怪がいそうなんていうから、思わず返事しちゃったよ。」
銀時「あ、おたく、妖怪なんだ。わりいけど、俺ら万事屋の仕事で、急いでるから。じゃ、これで。」
ややこしい事になる前に、その場から立ち去ろうとする銀時だったが、少女の意外な申し出に思わず立ち止まった。

????「万事屋?なら、ここから出して欲しいんだけど・・・依頼として。」
銀時「・・・・・依頼だぁ?あのさぁ、あいにく今はなぁ・・・」
????「もし、依頼を引き受けてくれるなら、この研究所から脱出するまで、君の力になってあげる。」
銀時「・・・・いいのかよ?」
????「僕もいい加減我慢の限界なんだ。異国とはいえ同族が罪なく虐げられるのが。」
幼い口調ながらも、しっかりとした怒りをこめた口調・・・・どうやら演技ではないようだ。
銀時「しゃあねぇな・・・・ちょっと退いてな。」
やれやれと言った口調で、銀時は手にした木刀で扉を封じた鎖と鍵を一つ残らず破壊した。
瞬間ーーー扉が一気に開かれ、何かが飛び出してくると同時に強烈な突風が辺り一面に吹き荒れた。
銀時「お、おい・・・・なんだ、こりゃ!?」
桂「これほどの風・・・・もはや台風だぞ!?」
長谷川「吹っ飛ぶ、吹っ飛ばされる!?」
荒れ狂うように吹き荒れた風がやがて収まり、三人の目の前に現われたのは・・・・
???「僕の名前は、風峰 雪子。草原を統べる者の娘だよ。」
青い短め髪と草原のように蒼い瞳、そして狼の尻尾と耳が特徴的な幼女だった。

185藍三郎:2009/01/30(金) 00:04:27 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

 一方……

 閃光と噴煙が晴れた後……
 この区画は瓦礫の山と化していた。
 独角・双角兄弟との戦いで生じた巨大な閃光が、
 一瞬にして周囲の全てを吹き飛ばしたのだ。

双角「いささかやりすぎてしまったか……水野殿に何と言われるのやら」
独角「構うものか。遠くない未来、この施設は破棄される。
 <万寿菊>の奴らが言うからには間違いない」
双角「そして我らはここの研究成果を手土産に、万寿菊へと降る……
 だがせめて、ここでの仕事だけは完璧に済ませておかねばなるまい」
独角「立つ鳥後を濁さずか……ふん、さすがは半妖。
 中々こびりついて落ちぬところは汚れと一緒よな!」

鉄磨「はぁ……はぁ……」

 瓦礫の下で、ボロボロになりながらも、まだ赤霧兄弟には息が合った。

鉄磨「凶護……しっかりしろ、生きているか?」
凶護「あ……兄貴……俺ぁ一体……?」

 光の直撃を食らった凶護だが、半妖化していた為消滅は免れたようだ。
 だが、半妖化は既に解け、身体の負傷も大きい。
 凶護を気遣いつつ、独角と双角を睨みつける鉄磨。

鉄磨「……貴様達の術……凶護の妖力を跳ね返したのだな」
双角「ほう、早速術の絡繰(カラクリ)に気づいたか」
独角「少しは脳味噌が詰まっているようだな。そこの愚鈍と違って」
凶護「ぐ…………」

 普段の凶護ならすぐさま掴みかかっている罵言でも、
 今の彼では立ち上がることすらできない。

独角「光明寺秘奥義“光輪反極転”……」
双角「妖怪の妖力に反応し、光の壁を形成する……
 妖力を吸収した後、それらを一気に光の波動に変えて解き放つ……」
独角「敵の妖力が強ければ強いほど、この奥義の威力は増す。
 その点、そいつの馬鹿妖力(ばかぢから)は格好の素材だったよ!!」
鉄磨「最初から俺達を挑発して……わざと妖力解放させる事が狙いだったのか」
双角「そういう事だ」
独角「面白いように引っかかってくれたな!!貴様の愚かな弟は!!」

凶護(お……俺のせい……か?)

 あの双子の言っている意味はよくわからないが、
 自分が突っ走ったせいで兄が窮地に陥った事は理解できた。

独角「確か兄弟対決と言っていたな……
 兄の忠告を無視して、兄弟の窮地を招いた弟……
 これでは誰であろうと勝敗は明白よな!!」
双角「だが、妖族ごときにそんな勝負で勝ったとて我らの誉れにはならぬ。
 我らが望むのは、貴様らの命……ただそれだけだ」

 独鈷杵と錫杖を構える光明寺兄弟。
 鉄磨はふらふらになりながらも立ち上がり、それを迎え撃とうとする。

凶護(兄……貴…………)

独角「死ねい!!下種が!!」

 金剛杵と法輪が一斉に放たれる。



「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 轟く咆哮。飛び散る鮮血。

 鉄磨には目の前の光景が、時が重くなったようにゆっくりと見えていた。

186藍三郎:2009/01/30(金) 00:05:41 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

鉄磨「凶……護……」
凶護「へへへ……兄貴はやらせねぇ……ぜ……」

 凶護の体には、金剛杵や法輪が突き刺さっている。
 鉄磨に命中する直前……凶護はその間に割って入り、光明寺兄弟の直撃を受けたのだ。

鉄磨「凶護ォォォォォォォッ!!!」

 薄れ行く意識の中で、凶護は思う。
 兄を窮地に追いやったのは、自分の責任だ。
 ならば、その責任は取らなければならない。例え己の命を捨ててでも。
 自分が足を引っ張って兄を死なせてしまうのは、己の死よりも遥かに恐ろしいことだった。

 兄は自分の全てだ。
 彼のために体を張ることに、凶護は一瞬も躊躇いはしなかった。

 傷口から血を撒き散らしながら、その場に倒れる凶護。

鉄磨「凶護! しっかりしろ、凶護!!」

 鉄磨は急いで駆け寄り、手当てを施そうとする。
 半妖化の解けた凶護は、普通の人間と変わらない。
 体は人一倍頑丈とはいえ、あまりに血が流れれば死んでしまう。
 
独角「くくく! 体を張って兄を庇ったか!
 ここに来て、人間の真似事でもしたつもりか?」
双角「だが賢明な判断だ。そのボロ雑巾はもう使い物にならん。
 ならば、せめて一度きりの弾除けになるのが正しい選択と言えるだろうな」
独角「さぁ、残る貴様一人だ!! 今すぐ畜生道に叩き込んで……」

 金剛杵を手に、背を向けた鉄磨へと駆ける独角。
 嗜虐の笑みを浮かべ、得物を振り下ろすが……


独角「ぶぎゃっ……!?」

 見えない“何か”が、彼の顔面を叩いた。
 まるで反応できない、高速の一撃だった。


鉄磨「大概にせんかい。わりゃあ……」


 コートを脱ぎ捨て、凶護の体を覆うように懸けてやる。
 サングラスをかけ、いつもの姿へと戻る。
 だが、その口調と殺気は……いつもの鉄磨とはかけ離れていた。

鉄磨「ええ加減堪忍袋の緒が切れたぞ……
 とっとと冥途(あのよ)に送っちゃるから……覚悟せんかい!!」

 額に血管を漲らせ、物理的な圧力さえ伴った闘気を放ちながら、赤霧鉄磨は吼えた。

187鳳来:2009/03/03(火) 20:27:52 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・

神楽「クソ、あんた、チートにもほどがあるネ!!」
深鈴「冗談じゃないわよ・・・」

悪態をつく神楽と深鈴だったが、それはある意味無理も無いことだった。
なぜなら・・・・

カミーラ「あらあら、どうしたのかしら?まだ、私は一つの攻撃さえ受けていないのよ?」
神楽「うるさいネ!!あんたに近づけないんだから、あたり前ね!!」

余裕の表情の笑みを浮かべるカミーラの挑発に、神楽は一気に距離をつめようとするが・・・

カミーラ「髪技の1・・・・ハリセンボン!!!」
神楽「ああ、また!!!」

次の瞬間、カミーラの髪の一本一本が鋭くなり、無数もの髪の針が一斉に神楽に襲いかかった。
それに気づいた神楽は舌打ちをしつつ、あわてて後ろに下がる。

深鈴「まったく、厄介な技を・・・・」
神楽「相性悪すぎネ」

斧と拳・・・・明らかに接近戦限定の武器しか持っていない神楽と深鈴では部が悪い
事実、これまで、神楽と深鈴は、カミーラの半径2M以内に近づけないでいた。

カミーラ「それはそうよ・・・私達は遠距離特化型壊人。あなた達のような馬鹿力だけが取り得の化け物をこうやって・・・・」

カミーラは髪を硬化させ、さらにそれを束ね、西洋騎士のもつランスを生み出した。

深鈴「げっ・・・ちょ、待ちなさい・・・」
神楽「常識破りにも程があるねー!!」
カミーラ「髪技の2・・・・怒離瑠!!!!」

巨大な髪のランスを回転させ、攻撃に転じるカミーラ。
対する神楽と深鈴は、防ぐ手立てが無いため一気に後ろに掛けだした。

深鈴「ちょっとぉお!!!でたらめにも程があるわよ!!私よりよっぽど化け物じゃない!!」
神楽「こらぁ!!蓮丸、てめぇ!!こっち手伝えネぇえ!!!!」

しかし、一方の蓮丸のほうは二人よりも絶体絶命の状況に追い込まれていた

イフリート「どうやら、フィニッシュのようデスネ。」
蓮丸「たく、まだ終わってねぇよ・・・」

イフリートの生み出した炎の壁が蓮丸を取り囲み、その身を焼きつくさんとしていた

188藍三郎:2009/03/04(水) 12:03:06 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

 一方……

 拳が見えないほどの速さで顔を殴られ、独角の唇から血が流れる。
 独角はそれを拭うと、憎悪を込めて鉄磨を睨みつける。

独角「ふん……死にぞこないが調子に乗りおって……」
双角「粋がっても無駄だ。もはや貴様一人で何が……」
鉄磨「ようしゃべるやっちゃのう」

 兄弟の台詞は、鉄磨のドスの利いた一言で遮られた。

鉄磨「ええ加減耳障りなんじゃ……とっとと逝ねや」

独角「ぐ……! 生意気なぁぁぁぁ!!」
双角「独角! 油断するな、同時に仕掛ける!!」

 赤霧鉄磨は間違いなく深手を負っている。
 先ほどまでは、立つことすら困難だったはずだ。
 だが、立ち上がったこの男は明らかに変貌している……
 ここは、二人同時に仕掛けて確実に仕留めねばならない。
 
 互いに別方向へと駆け出した独角と双角は、鉄磨を挟み撃ちにする。
 独鈷杵が放たれ、錫杖の輪が鉄磨へと飛翔する。
 完全に息の合った、避けようが無い同時攻撃を……

鉄磨「しゃらくさいわ……」

 鉄磨は、両の腕を機敏に動かし、鉄甲で攻撃を弾く。
 二人が驚いたのもつかの間……鉄磨は、独角へと肉薄すると、その頭を掴む。
 独角が抵抗する前に、彼の体を持ち上げ、後ろの双角へと投げつけた。
 
双角「ぐはっ!?」
 
 互いに正面衝突し、同時に崩れ落ちる双子。
 傷だらけの体とは思えない鉄磨の戦闘力に、内心驚愕していた。

独角「き、貴様、そんな体で何故それだけの力を……」

 妖力は使っていない。もしそうなら、自分達の霊感に引っかかるはず。
 それなのに、彼の強さは飛躍的に上昇している。
 この男の変貌ぶりは一体どういうことなのか。

 鉄磨は憎憎しげに舌打ちすると、こう続けた。

鉄磨「アホンダラが……ワシが広島で喧嘩に明け暮れとった頃はのう……
 この程度の傷、ただの準備運動に過ぎんかったわい……!」

 この二人が知るわけが無い。
 十年以上前……中国地方で毛利元就と長曾我部元親が争っていた頃……
 両の拳だけで並み居る悪漢を打ち倒し、裏社会に君臨した伝説の喧嘩師。
 毛利、長曾我部両軍から恐れられ、また警戒された、
 『喧嘩の鬼』と呼ばれた男が、今復活したことを……

189藍三郎:2009/03/04(水) 12:06:45 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

 一方、雪子を加えて研究所内を走る銀時達は……

銀時「すると何か。ここにはお前さん以外にも大勢妖怪が捕まっていると」
雪子「うん。各地から妖怪を捕まえて解剖実験とかしているみたいなんだ。
 全く、ちょっと数が多いだけなのに、何様のつもりなんだか」
銀時「仕方ねーよ。人間ってのは傲慢で残忍で、自分のやっていることを省みない悪い種族だからな」
長谷川「おおい! 何で俺を見ながら言うんだ!」
銀時「いや……人様に迷惑かけない分、マダオってのはまだ優良な部類なのかと思ってな」
長谷川「なるほど……って、それ褒めてねーだろ!!」
雪子「ねぇねぇ、マダオって何のこと?」

 雪子に質問されて、長谷川はしばし考えてこう答える。

長谷川「……まさにダンディなおじさまって意味だ」
銀時「おーい、ここに何も知らない子供に間違った知識を植え付けようとする悪い大人がいますよー」

桂「だが、全ての人間が悪いわけではない……全ては幕府の腐敗が元凶だ。
 世を憂う気持ちがあるならば、お前も攘夷志士にならんか?」
銀時「相手構わずスカウトしてんじゃねー!」

 そんなやり取りをしながら、回廊を走っていたが……
 突然、雪子が足を止める。

桂「どうした、娘」


雪子「来る」


 雪子は、目を大きく見開き、いつになく真剣な表情で回廊の先を見ている。

銀時「来るって、何が?」
雪子「風が澱んでいる……この臭いは……」

 少女は不快そうに眉根を寄せる。
 やがて、回廊の先からコツ、コツと足音が聞こえてくる。

清光「全くこの研究所は広すぎるねぇ。すっかり道に迷っちゃったよ」

 白い着物に後ろで束ねた長い黒髪。
 腰には一本の日本刀。口許には穏やかな笑みを浮かべている。

 これと言って特徴の無い男だが……彼の姿を目にした瞬間……

 銀時と桂は、即座に臨戦態勢に入っていた。

 腰の刀に手を掛け、やや後ろに下がり、背後に雪子と長谷川を庇う。
 意味が解らずにただ立ち尽くしている長谷川。

銀時「おいお前ら。絶対俺らより前に出るんじゃねーぞ」
長谷川「な、何だってんだよ!」

 侍ではない長谷川に解らないだろう。
 あの男の纏う、得体の知れないどす黒い妖気が……

 桂もまた、普段の悠然とした態度を捨てて、目の前の敵に全神経を注いでいる。
 かつての同胞であり袂を分かった敵……高杉晋助の獣染みた狂気に似ているが、やはり決定的に違う。
 恐ろしさ以上に、言い知れぬ不快感しか覚えない。

清光「怖いねぇ……そんなに怖い顔で見ないでおくれよ」

 辻占玖郎三郎清光は、こちらを睨んでくる銀時と桂に笑いかける。
 そう言いながらも、並みの侍ならば気圧される
 二人の殺気を浴びても全く動じない辺り、やはり只者とは思えない。

清光「後ろにいるのは……おや、お嬢さん。どうしてそんなところにいるのかな?」
雪子「…………」
 
 清光の濁った瞳は、銀時と桂をすり抜け、雪子へと注がれている。

長谷川「な、何だ? 知り合いかよ?」
雪子「ああ…… 数日前、僕を捕まえて、ここに放り込んだ張本人さ」

 押し殺した声でそう言われ、清光はにっこりと微笑む。

190藍三郎:2009/03/04(水) 12:08:32 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

清光「あの時は楽しかったね。鬼ごっこ。
 まぁ、途中で私の仲間が横槍を入れたから、決着を付けられなくて残念だったけど」
雪子「そうだね……」
 
 彼女は数日前の出来事を思い出す。
 明らかに速さはこちらが上のはずなのに、何処へ逃げても追ってくる謎の追跡者。
 得体の知れない人間だが、これだけは解った。
 彼の体に纏う不快な風の臭いは……

 同族達の腐肉の臭いだ。


 結局……捕まりそうになったところで、山伏の格好をした双子の男が現れ、雪子は素直に投降した。
 正直、助かったと思っている。
 もし、あそこで彼らに捕縛されなければ、あの男は確実に自分を――――


清光「いけないねぇ、こんなことをしちゃ。
 水野殿やあの兄弟に気づかれない内に牢屋に戻れば、怒られずに済むかもしれないよ?」
雪子「嫌だ……と言ったら?」


清光「それは……私にとっては嬉しいねぇ」


 意外な返答を返す清光。
 しかし、続けて彼は、実に穏やかな顔のままで言ってのけた。

清光「だって……それなら遠慮なく、君を喰い殺せるってことじゃあないか……」

 清光の口が開き、びっしりと並んだ歯から、涎が垂れる。

 その瞬間……

 間髪入れず、銀時と桂は清光に斬りかかった。
 清光も刀を抜き、木刀と刀の振り下ろしを受け止める。

桂「貴様が誰か知らんが……何者かはわかるぞ。
 どれだけ取り繕おうとわかる……その顔は、人斬りの貌だ……!」
清光「ふぅん。そういう君たちも、あまり人のことは言えないみたいだけどねぇ」

 清光も、彼らの被った血の臭いを嗅ぎ取っていた。
 彼らもまた、戦場を駆け、多くの敵を屠ってきた歴戦の猛者……!

銀時「はっ、俺らはお前みてーに、殺した敵の肉を食べるカニバルな趣味はねーよ」
清光「おや、よく解ったね」
銀時「お前、口が臭せーんだよ……嗅ぎ慣れた死体の臭いでな!
 ちゃんと毎日歯磨きしてんのか?」
清光「歯磨き?そんなの勿体無くて出来ないよ。
 それじゃあ、美味しい妖怪の味が口から消えちゃうじゃあないか……!」

 大きく刀を振るう清光。
 痩せぎすの体からは想像もつかぬ膂力で、銀時と桂は吹き飛ばされる。

銀時「ち……真性マッドちゃんってわけかい!」

 それでも踏み止まると、銀時は清光に向かって斬りかかる。

清光「駄目だねぇ……そんな木刀(おもちゃ)では……」

 清光は、手にした刀を一閃する。

清光「喰い甲斐が無いというものだ」

 半ば辺りで寸断される洞爺湖の木刀。
 だが、これは予期していたこと。
 自分は囮に過ぎない。この隙に、桂は既に側面に回りこんでいる。
 二対一などと侍の流儀に反するようだが、元より二人も尋常な侍ではないし、何を置いてもこの男を斃すべきと二人の勘が告げていた。
 完全に銀時の方を向いている彼の脇腹に向けて、桂の抜刀した刃が迫り来る……


 次の瞬間……

桂「――――!」

 視界が鮮血で染まった。
 舞い上がる血飛沫が、スローモーションのように流れていく。
 敵の血ではない。肩を焼くような激しい痛み……
 これは、己の血だ……

銀時「ヅラァァァァァァァッ!!!」

 何が起こったのかわからなかった。銀時も、桂も。
 あの男は刀を振った直後で、隙だらけだったはずだ。
 とても桂に反撃できる余裕があったとは思えない。
 しかし、実際の桂の肩は裂け、真っ赤な血を噴出している。

清光「おや、斬っちゃったかな」

 うっかり虫を踏み殺したような物言いである。
 彼の刀は、確かに桂の鮮血で染まっている。
 何か見えない武器を使ったのではなく、確かにその刀で肩を切り裂いたということだ。

 だが、そのことに思いを馳せる暇はない。
 今度ははっきり見える形で、清光は崩れ落ちる桂へと刀を振り下ろした。
 銀時が、桂の脳天を叩き割られるのを幻視した瞬間……

191藍三郎:2009/03/04(水) 12:09:41 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

 凄まじい突風が、彼らの間を吹きぬけた。
 清光の背後、回廊の向こう側から吹いてくる風だ。
 清光は、構わず刀を振り下ろすが……
 その時には、桂の姿は忽然と消失していた。
 
雪子「逃げて!!」

 呆気に取られる銀時だったが、雪子の声を聞いてすぐさま行動に移す。
 どの道、木刀を切断され、桂が戦闘不能に追い込まれた以上、この男を斃して進む選択肢はありえない。
 銀時は踵を返して、風の流れに身を任せて逃走する。

 清光も追いかけようとするが……その瞬間、風の流れが変わった。
 
 吹き荒れる風が、視界を歪める竜巻を発生させる。
 噴煙や鮮血も呑み込んで、濁った風の障壁を作り出す。
 清光は、風の檻に閉じ込められ、前へ進むことが出来ない。
 その間、およそ五秒。風が止んだ時には、銀時らの姿は影も形も無くなっていた。

清光「………………お嬢さん、君の仕業か」

 獲物を見失い、清光はしばし呆然と立ち尽くしていた。
 だが、すぐにその顔に、嗜虐的な笑みを浮かべる。

清光「そうか……なら、鬼ごっこの続きといこうじゃあないか……」




長谷川「う、うおおお!?」

 長谷川はこの上なく狼狽していた。
 自分の体が宙に浮いて、風に流されるまま飛んでいるのだ。
 毎日地に足の着かない生活を送っているが、本当に空を飛んだのは生まれて初めてた。

雪子「あんまりじたばたしない方がいいよ。風から転げ落ちたら拾うの面倒なんだよ。
 走るんじゃなくて、泳ぐつもりで腕かきとかしてくれると助かる」
長谷川「お、おう! わかった!」

 そう言われて、長谷川は空中で平泳ぎを始める。
 何とも間抜けな光景だが、直立して足を振っていた時と比べると、ずっと体が安定する気がする。
 風の流れに乗って中空を飛ぶのを、心地良いとさえ思えてくる。

銀時「なるほど、これがお前の力か」
雪子「そうだよ。『風』を操るのが僕ら一族の能力なのさ」

 銀時は既に順応して、風の中を悠々と泳いでいる。
 雪子は負傷した桂を担いで、恐ろしい速さで地を駆け抜けている。
 『風使い』である雪子は、周囲の空気の流れを操って、自分の進行方向に向けて風を吹かせている。
 それが、この異常な速度の源となっていた。
 清光の攻撃から桂を寸前で助けたのも、その音速に近い速さによるものだ。
 だが、それでは銀時と長谷川がついていけない。
 なので、周囲の風に銀時と長谷川を乗せて運ぶことで、皆同じ速度で逃走していた。
 雪子は巧みに風を操作し、曲がり角でも壁にぶつかることなく二人を運んでいった。
 時たま、長谷川が体勢を崩して壁に激突することは数十回とあったが……

銀時「で、俺達はどこまで逃げればいいんだ?」
雪子「わからない。一つ言えるのは、どこまで逃げてもあいつは追いかけてくる。
 あいつには、僕達妖怪の居場所がわかるんだ」
 
 いつぞやの追走劇を思い出しても、そう考える他説明がつかない。
 恐らくその能力を買われて、彼は妖魔滅伏組にいるのだろう。

銀時「ひたすら逃げるしかねーってことか……」
雪子「まともにやってもきっと殺されるだろうしね。
 あいつは強い。僕ら四人がかりでも、多分勝てない」

 一人は元より戦力外だが、あの男の強さは、銀時も正しく理解していた。
 妖怪も人間も関係なく、あの男は明らかに異質な存在だ。
 限りなき殺意を凝縮した闇……触れただけで体中が汚染され、死に至るような精神を抱えている。
 そんな暗黒と相対するには……

雪子「君が……真剣を持って、本気であいつを殺す気になったらどうなるかはわからないけど」
銀時「………………」

 そんな銀時の考えを見透かしたような雪子の言葉に、銀時は無言で返した。

192藍三郎:2009/03/04(水) 12:10:39 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

深鈴「全く、男衆はいざとなったら当てにならない……
 こうなったら!!」

 深鈴は両手に斧を持つと、何を思ったのか一気に近くの壁を、三角跳びで駆け上がった。
 忍者に匹敵する身軽さと反射神経を持つ、深鈴の特技の一つだった。

カミーラ「何のつもりかしら。距離を取るなら、それこそこちらの思う壺……!」

 カミーラは天井の角に張り付いた深鈴目掛けて、髪の毛針を発射する。
 深鈴は再び壁を蹴って、別の場所へと移動する。その途中で……

深鈴「はっ、勘違いしているようね。
 私の本領はね、斧を振る方じゃなくて投げる方なの!」

 両手の斧を一斉に投擲する。
 発射された針の何本かが、斧に斬られて地面に落ちる。
 投げられた斧は、旋回して再び深鈴の手へと戻る。

カミーラ「ふ、悪足掻きはやめなさい!!」

 さらに髪針を連射するカミーラ。
 深鈴も投げる斧で迎撃するが、いかんせん数が多すぎる。
 斧の軌道をすり抜けた何本かは深鈴に突き刺さる。

深鈴「痛っ! もう、服に穴開いちゃったじゃない!」

 痛みよりも、気に入っていた服が傷ついたことに怒る深鈴。

カミーラ「そんなつまらないことに気を取られている余裕があると思って!?」
 
 カミーラは髪をドリル状にして、深鈴に向けて発射する。
 深鈴は三角跳びでドリルの切っ先を回避すると、二本の斧を投擲する。
 だがそれらは、新たに生じた別のドリルによって弾き落とされてしまう。

カミーラ「ふ、万事休すね……と、それで油断すると思って?」
 
 カミーラの意識は、即座に背後から迫る別の殺気へと向けられる。
 深鈴が天井に張り付き、撹乱することで意識を上に向け、その間に神楽を接近させる……
 それが彼女らの仕組んだ策だろう。

カミーラ「その程度の浅知恵、このフタクチ・ザ・カミーラには通じないわ!!
 髪技の3、針山地獄!!」

 だが、そんな策はとうにお見通しだ。
 背後の髪を硬化させ、鋭い棘を幾つも作り出す。
 まるで威嚇するハリネズミのようだ。
 隙だらけと考えて無造作に突っ込んできた神楽は、この棘に串刺しにされることだろう。



 だが…………

 唸りを上げて飛んできた白影が、びっしりと並んだ棘を瞬く間に切り裂いた。
 
カミーラ「!?」
深鈴「切り札は、最後まで取っておくものよ」

 大きく弧を描いて戻ってきた“三本目の斧”を、その手で受け止める深鈴。
 何が起こったのか、カミーラが理解するよりも前に……

神楽「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 神楽の全力の拳が、カミーラの背中にめり込む。

カミーラ「ごはぁぁぁぁぁっ!!?」

 背骨が肋骨もろともへし折れる音を聞きながら、カミーラの意識は激痛で塗り潰される。
 白目を剥き、大きく口を開け、カミーラの体は吹っ飛び、正面の壁に激突する。

 なお……この時点では、まだカミーラには僅かな意識が残っていた。
 だが…………

神楽「どりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 駄目押しとばかりに放たれた神楽のドロップキックが炸裂し、
 壁もろともカミーラの全身の骨を粉々に砕き散らした……

193鳳来:2009/05/11(月) 22:19:44 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方…
イフリート「グレェイト!!やるじゃん、あのガールズ。モンスターじゃなきゃ、スカウトしたいところだね」
蓮丸「ちっ、こっちは、無視かい、大道芸人」

カミーラを倒した神楽と深鈴に、称賛の声を上げるイフリート。
対する蓮丸は、炎の壁に囲まれ、身動きがとれず、忌々しげに舌打ちした。

イフリート「オーソウリー。そういえば、ユーがいたね?さっさとダイしないと、ボスにペナルティもらちゃうからね。」
蓮丸「ボスね・・・あんた達の首領がやってることを知ってるのか?」
イフリート「もちろん。だが、それになんのバッドがあるんだい。ノープロブレム、妖怪倒して、さらにヒーローに転職できる。ブリリアントこのうえなくない?」
蓮丸「ああ、そうかよ・・・」

常人からすれば、異常このうえないことを平然と言い放つイフリートに蓮丸はあきれて、呟いた。
この手の手合いとは、昔何度もやりあっていたが、結果はいつも同じだ。
地獄への回廊は善意というなの煉瓦でできている―――善意を振りかざす者の末路は。



とその時、神楽が粉砕した壁の方から、一人の老人ーー妖魔滅伏組のボス:水野夏彦が現れた。

イフリート「おう、ボス。どうして、ここにカムしてくれたんですか?」
水野「何、侵入者を迎え撃っていたのだがね。今、仕留めている最中だ」
蓮丸「まさか・・・!!」

水野の言葉に、蓮丸は見た先には・・・・

新八「だ、大丈夫ですか、サラサさん…」
サラサ「どうにかな・・・あばらの一本は持っていかれたか」

体は無傷だが、顔面が倍にまで膨れ上がった新八と脇腹を押え、うずくまるサラサの姿があった。

イフリート「ボス・・・その二人、モンスターじゃないようだけど?」
水野「そうなのだがね。どうも、我々の意にそぐわないようなのでね。ある程度、痛めつけることにした。まあ、死なない程度にだがね。」
イフリート「OK/OK・・・なら、ミーもさっさとこいつを・・・」
蓮丸「俺をどうするって?」
イフリート「へ?」

不意に聞こえた声に、イフリートが振り返ると、炎の壁にいたはずの蓮丸が隣にいた。
蓮丸の上着は既に炎に焼きつくされていたが、彼の肌にはやけどの跡が何一つなかった。

蓮丸「悪いな。最初はあんたらを生かす予定だったが気が変わった。俺の女に手を出したんだ・・・」
イフリート「ちょ、スト・・・・」
蓮丸「無間地獄に堕ちろ」

蓮丸が冷たく死刑宣告を告げた瞬間、イフリートの頭部がはじけ飛んだ。
おそらく、蓮丸の拳がイフリートの頭を粉砕したのだと、理解したのは数えるほどしかいない。
常人の目には映らぬ・・・それほどの速さで打ち込まれたのだ・・・・

水野「どうやら、君も邪魔をするようだね・・・一応、誰だか、聞いておこう。」
蓮丸「じゃあ、俺も一応おしえてやるよ。」

自分を倒すべき敵と認識した水野に、蓮丸はかつての自分の名を告げた・・・
背中に彫りこまれた<南妙法蓮華経>の6文字を見せつけながら!!!

蓮丸「俺か・・・俺は、宗派七獄が一党、法華鬼関頭首ーーー善日蓮丸!!それが、サラサとともにある銃の名だ!!」

194^^おいで:2009/05/15(金) 15:21:15 HOST:z78.58-98-207.ppp.wakwak.ne.jp
すごく好評のブログw
ちょっとHでどんどん読んじゃうよ。
更新もしてるからきてみてね^^

ttp://angeltime21th.web.fc2.com/has/

195藍三郎:2009/05/15(金) 23:35:02 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp

鉄磨「凶護……生きてるか……?」

 傷だらけの身体をおして、鉄磨は凶護のそばに近寄る。
 完全に気を失ってはいるが、まだ息はある。
 今頃は彼の中の妖族の血が、急速に身体を治癒しているところだろう。
 目を覚ますには、後数時間以上は必要のはずだ。

 光明寺兄弟は、“あの時の鉄磨”には勝てないと悟ったのか、つい先ほど逃げていった。
 この場には、鉄磨と凶護の二人しかいない。

鉄磨「ぐ…………!」

 その場で膝を突く鉄磨。意識はあるが、自分も他者を気遣える状態ではない。
 あの時は怒りで我を忘れ、長年の戦いで築き上げた経験と、半ば意地だけで戦っていた。
 
 敵との相性も良かった。
 彼ら双子は妖力を放つ敵に対する完全な対抗策を持っていたが……
 凶護と違い、自分は妖力を表に出して戦うタイプではない。
 常に妖力を内に封じ込め、自身の身体だけを強化する。
 これならば、光明寺兄弟の“光輪反極転”の影響を受ける事はない。

 この特質は、天然に備わったものではない。
 幼少期……鉄磨たち赤霧斗賊団にも、仏法勢力の妖怪狩りの魔の手が伸びていた。
 光明時兄弟のような、妖力を無力化する敵に遭遇した時も何度かある。
 父と共に、弟たちを守って逃げ延びている内に……鉄磨は戦いの中で、妖力を抑える術を身につけていった。
 半妖とはいえ、ここまで完全に妖力を封じ込められるのは、鉄磨以外にはまずいない。
 彼の強さと能力は、生きる為の戦いで培ったものなのだ。



 それでも……痩せ我慢にも限界があった。
 全身の傷が絶えず己を苛み、今にも気絶しそうになる。
 もう少し戦い長引いていれば、今度はこちらが危なかっただろう。

 伊空たちは無事だろうか……人のことを心配していられる状況ではないのだが……


 その時……轟音が鳴り、壁が弾け飛ぶ。背後を振り返ると……

双角「できれば、奴らの“置き土産”など使いたくはなかったがな……」
独角「もう手段など選んでいられるか! 妖怪は皆殺しだ!!」

 二足歩行で歩く、巨大な絡繰兵器が姿を見せる。
 横に長い金色の箱に大きな手足が付属した構造で、機械で出来た蟹のような姿をしている。
 太くて頑丈な脚部を持ち、右腕には削岩機(ドリル)、左腕には巨大な鋏が備え付けられていた。
 胴体部分の上には、光明寺兄弟が乗り込み、操縦桿を握っている。

 <万寿菊>の戯術によって造られた巨人級絡繰兵器『戯鎧(ぎがい)』……

 “万が一”の事態に備えて、一年前万寿菊の使いが残していったものだ。
 それ以来、ずっと倉庫で眠り続けていたが……
 光明寺兄弟によって始めて起動し……今目覚めの雄叫びをあげていた。

鉄磨「くっ……!」
独角「あははははは!! 今度こそ挽き肉にしてやるぞ!! 半妖ぉぉぉぉ!!」

 鉄磨は凶護を担ぎ上げると、唸りを上げる削岩機の脅威から必死に逃走を図る。

196藍三郎:2009/05/15(金) 23:36:49 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
伊空「あ〜あ、いつの間にか獲物取られちゃってるよ。
 ま、あんなじーさんじゃいまいちやる気出なかったけど」

 短刀を指に挟んでくるくる回しながら、壁の穴から出てくる伊空。

深鈴「い、伊空、あんた……」
伊空「よ、深鈴姉。まだ生きてるみたいだね〜
 ねぇねぇ、どっかに手ごろな敵転がっていない?
 いい感じでテンション上がってきたところなんだからさぁ」

 いつも通りの調子を崩さない伊空だったが……
 突如、遠方から鈍い音が轟いて来るのが耳に入った。

深鈴「な、何!? 今の音……」




 一方……

 負傷した桂を抱え、辻占玖郎三郎清光から逃走中の銀時たち。
 やがて、彼らは曲がり角から現れた鉄磨と凶護と鉢合わせする。
 二人ともボロボロで、凶護の方は意識を失い、鉄磨に担がれている。

銀時「あんたは……!」
鉄磨「万事屋か……こっちには来ない方がいいぞ……すぐに逃げ……」
銀時「おいおい、そりゃこっちの台詞だぜ……」

 その内、鉄磨らが来た方向から、二足歩行で歩く巨大な金属の塊が出現する。

長谷川「どわああぁぁぁぁ!! な、何じゃありゃ!?」
雪子「この国の絡繰兵器? こんなものまで持っていたなんて……」

 一方、銀時達の方から、『戯鎧』に勝るとも劣らぬ脅威が姿を見せる。

清光「おやおや……こいつぁ、挟み撃ちという奴かねぇ? うふふふ……」

 獲物が増えたことに舌なめずりすると、清光は腰の刀に手を掛ける。
 前門の虎、後門の狼。二つの絶望が銀時達を挟み込む。

独角「逃がさんぞ! 半妖ォ!!」

 戯鎧の両肩の装甲が展開する。
 そこから噴煙と共に四発の弾頭が放たれ、鉄磨たち目掛けて飛んで行く。

長谷川「う、嘘だろ……!?あ、あれってミ、ミサ――――!」

 長谷川が言い終わる前に、凄まじい光と爆発が、彼ら六人を覆い尽くした……


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