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巷説修羅剣客伝
96
:
藍三郎
:2008/03/02(日) 16:35:06 HOST:26.137.183.58.megaegg.ne.jp
あの男は・・・結局、江戸幕府そのものには何ら執着していないのだ。
彼の行動原理は、全て“楽しむ”の一言に尽きる。
幼児が玩具で遊ぶように・・・
政治を、社会を、人間を、世界を、己の思うがままに弄んで楽しむのだ。
彼が幕府に居るのは、ただ単に、自分が“遊ぶ”のに都合が良いからに過ぎない。
彼にとっては、幾らでも代替が利く“モノ”のだ。
仮に、家康が胡蝶斎を追放しようとすれば・・・
彼は何の躊躇も未練も無く、江戸幕府を叩き潰すだろう。
幕府の周辺には・・・豊臣氏を初めとして、
まだ多くの地方大名が、強大な勢力を残したまま存在している。
今の天下は、彼らの領土と支配権を
保障する事で得た、仮初の平穏に過ぎないのだ。
各地に残る戦乱の火種・・・これも、胡蝶斎がかけておいた“保険”なのだろう。
もしも、胡蝶斎がかつて徳川に組したように、他の大名に手を貸せば・・・
天下の座を狙う地方大名は一斉に蜂起し、
再び、日本全土を巻き込んだ大戦乱が巻き起こるだろう。
当然・・・江戸幕府は崩壊するだろうが・・・
胡蝶斎にとっては、単に住み着く宿が変わるだけの事でしかない。
これらの事は、全て推測だ。胡蝶斎から、直接脅しつけられた訳ではない。
だが・・・家康は、相手が口に出さなくても・・・
いや、だからこそ、その脅威をハッキリ認識する事が出来たのだ。
あの男は、自分にとても良く似ている・・・
目指す先は違うが、手段を選ばず、執着を捨てるという点では、
自分の“黒い血”に似通っている。
だからこそ・・・あの男がやろうとする事が、手に取るように解るのだ。
それは・・・下手に脅したりするよりも・・・
知性ある者に対して遥かに有効な“枷”だった。
97
:
藍三郎
:2008/03/02(日) 16:35:57 HOST:26.137.183.58.megaegg.ne.jp
家康「で・・・わざわざ何をしにきたのだ?」
実質的な力関係は相手の方が上であろうとも、媚びへつらうつもりは微塵も無い。
胡蝶斎の方も、それを気にする様子は一切無い。
元々、支配欲があってここにいる訳ではないのだ。
胡蝶斎「あァ〜〜〜・・・改めて言われッとなァ・・・
ちょッくら、御前ェと駄弁ッてから、ついでに言おうと思ッてたンだが・・」
胡蝶斎は、やや照れくさそうに勿体つけると、こう言ってのけた。
胡蝶斎「一応、御前ェには断ッておこうと思ッてよ・・・
片栗虎の親父が率いてる“真撰組”ッてあンだろィ・・・」
胡蝶斎「アレ・・・潰すけど、いいよな?」
初めて目の前に現れた時と同じ・・・
大それた事を、恐ろしい事を、平然と言ってのける胡蝶斎。
彼の問いに対し、家康はしかめ面でこう答えた。
家康「・・・今のは聞かなかった事にしてやる・・・」
胡蝶斎「オゥ?」
家康「それが望みなのだろう・・・
俺が何を言おうと、どうせ貴様を縛り付ける事などできんのだからな・・・」
天下を自由気ままに飛び回る胡蝶・・・
それを捕らえる虫篭を、家康は持ち合わせていなかった。
胡蝶斎「ケッ、すッかり腐ッちまって・・・
じゃ、好きにやらせてもらうワ・・・どう転ぶかは、俺にも解んねェがな・・・」
胡蝶斎はそう言って、着流しの裾を翻して屏風の奥へと消えていく。
その裏には、密かに作られた<万寿菊>の本部がある。
家康の命など、いつでも後ろから狙えるという表明だろうか・・・
これもまた、言葉にするより強く働く脅しだった。
去っていく胡蝶斎の背中を見ながら・・・
家康は、自分に彼と抗うだけの力があるか考えてみる。
今の家康に・・・往年の覇気は微塵も無い。
幕府を開いた後も諸外国からの圧力、攘夷浪士によるテロ、
なおも強い勢力を残す地方大名と問題は山積みであり、
さらには、幕府を影で掌握する<万寿菊>の跳梁、
加えて孫娘・万姫の暴走ぶりに頭を悩ませる日々が続き、
とどめにそれまでの我が身を省みぬ苦労がたたって
かつての理想に燃え、覇気漲る武将とは
別人のように弱弱しく老け込んでしまった。
今では、内政についても配下に任せきりである。
江戸城で、江戸の町で何が起こっているのか・・・それすらも把握できていない。
持ち前の冷静な観察力で、改めて自分の事を考えてみる・・・
その結果、容易く答えは出た。
今の自分は、将軍とは名ばかりの、<万寿菊>の傀儡でしかないと・・・
まだ、“糸”は断ち切れない・・・
あの男は、到底自分には及ばぬ領域にいる。
その事を誰よりも強く実感しながら、家康は呆けた様に屏風を見つめていた・・・
98
:
鳳来
:2008/03/15(土) 20:09:16 HOST:menet70.rcn.ne.jp
=???=
目の前に女が座している。
死に装束に身を包み、両手を後ろに縛られながら女は微笑んでいる。
『ありがとうございました。』
ああ・・・・またか。
久しく見ていなかったのに・・・・
『あなたに見初められて、嬉しかった。』
そうか・・・・だが、死んでくれ。
それしか、私の信ずる者を守れ無いから。
『悔いはございません。ただ・・・・』
ただ?どうしたのだ?
そして、答えを問う前に、女の首は体から零れ落ちた。
同時に眼も覚める。
=真撰組屯所門前=
直輔(っ・・・・白昼夢か。)
自らを囮とし敵の眼をそちらにむけるため、街をあるいていたが・・・・
一時の白昼夢から気が付けば、そこは今宵襲撃する予定の真撰組の屯所だった。
直輔「気の迷いか・・・・・どちらにせよ、長居は無用か。」
直輔は、やれやれと頭を振り、その場を後にしようとし・・・
近藤「あ。」
直輔「む?」
塀によじ登り屯所から抜け出そうとする近藤の姿を見つける事になった。
=真撰組 屯所 局長室=
直輔「まったく・・・・反省しているかと思えば・・・・」
近藤「いや〜ほんとすみません・・・」
やれやれと憮然とし表情でため息を付く直輔とただひたすら平謝りの近藤。
あの後、直輔は、近藤の捕まっていた太い木の枝を切り落とし、屯所に連れ戻し、問い詰めていた。
直輔「隊員の模範となるべき局長が率先して、規則を破るなど言語道断ーーー我が練武館では問答無用で処断に処すところ。」
近藤「いや、ほんと御免なさい。いや、お通さん要素が最近足りないもんで・・・」
直輔「しかも、女絡みとは・・・・・」
そこまで、口を開き掛けた直輔は、ふと口をつぐんだ。
近藤「どうしたんっすか?」
直輔「いや・・・・ただ、卿に聞きたい事がある。」
そして、直輔はかつて自分が選ばざるを得なかった選択を近藤に問いただした。
直輔「もし、その惚れた女が隊に、いや己が家、引いては幕府に仇名す者であった場合・・・・卿はどうする?」
99
:
藍三郎
:2008/03/23(日) 14:26:35 HOST:206.168.183.58.megaegg.ne.jp
=江戸 来栖川邸=
月都「じゃ、今日はいつも通り、昨日のおさらいから始めるよ」
虚蝉「ああ・・・・・・」
午後の昼下がり・・・
最上虚蝉は机の前に座り、書物を読み込んでいた。
彼が何をしているのかと言えば、そのものズバリ“勉強”である。
幼くして路頭に迷った虚蝉は、中途半端なままで教育を止めざるを得なかった。
その後は、ただ刀を振るう事だけを考えて生きてきたのだ。
そこで、来栖川月都は、自分の空いた時間には、虚蝉に勉強を教えている。
主が従者に教育を施すという構図は元より
明らかに虚蝉より年下の月都が教師という点もまた奇妙だった。
しかし、実際月都の知識は、幕府の高官に匹敵するほど広く深い。
人に教えて尚余りある程の知性と教養を備えていた。
それでも、何故自ら手間をかけて虚蝉に勉強させるのかというと・・・
月都「仮にもこの僕の護衛役なんだ。
あまりにも莫迦で世間知らずじゃあ、僕が格好つかないだろう?」
と、ひとまず納得できる理由と言ったところで・・・
月都「まぁ、暇潰し目的って方が大きいけど」
と、嘯いてみせるのだった。
そんな中・・・
来栖川邸に、新たな来訪者が現れる。
それは、商売相手ではなく、月都達が良く知る人物だった。
狐子「おうおう、今日も勉強たぁ精が出るなぁ。虚蝉クン?」
背まで伸ばした黒髪を真ん中で分け、朱色の着物に身を包んだ女性・・・
夕暮狐子(ゆうぐれ・きつねこ)は、関西弁で朗らかに話しかける。
それに対し、虚蝉は軽く会釈した。
彼女は、虚蝉と同じく来栖川月都に雇われており、
戦闘・護衛専門の虚蝉に対し、
彼女は諜報や連絡等、隠密のような役割を請け負っている。
彼女の詳しい経歴は定かではないが、実際にどこかの隠密であったらしい。
過日の本願寺での戦いで、陰ながら虚蝉を手助けしたのは他ならぬ彼女である。
狐子「で、その成果は出とるの?」
月都「いやぁ、彼を侮っちゃ駄目だよ。
教えられた事は、毎回しっかり覚えて来るからね」
虚蝉にとっては、この勉強会も“命令”の一環である。
“命令”とあらば、全力かつ確実に果たすのが彼の流儀であった。
月都「もう狐子さんより頭いいんじゃないの?」
狐子「う、ちくっと酷い事言ってくれはりまんまぁ・・・
まぁええわ・・・それよか、急いで伝えなあかん事があるんや」
その言葉に、月都の眼の色が変わった。
月都「・・・・・・何があったんだい?」
狐子「それが―――――――――」
狐子は要点を纏めて、先ほど仕入れてきた“情報”を伝えた。
月都「なるほど、ね・・・真撰組と練武館が・・・」
話を聞き終えた月都は、顎に手を当てて黙考している。
その仕草は、十代半ばの少年に似つかわしくない程大人びていた。
月都「まぁ、それ自体は“どうでもいい”・・・
所詮は幕府内の内部抗争だからね・・・
けど、“あの男”が絡んでくるとなれば、話は別だ」
この時の月都の表情は・・・
幾多もの感情が織り交ざった、形容しがたい色を帯びていた。
月都「虚蝉、狐子さん・・・
今夜・・・練武館の襲撃に合わせて、真撰組屯所に向かってくれ」
狐子「で、両陣営の争いを止めろって?」
月都「いや、そっちは放置して構わない・・・
それより、もし情報が確かならば・・・“あの男”の手の者が介入してくるはずだ。
君達は、そいつを捕らえて欲しい」
虚蝉「解った・・・」
“命令”を受けた虚蝉は、短く呟く。
月都「思ったより早く好機が巡ってきたね・・・
上手くいけば、あの男の尻尾を掴めるかもしれない・・・」
そして、二人にも聞こえないほどか細い声で、顔に笑みを浮かべてこう呟いた。
月都「――――――愉しみだね・・・」
100
:
鳳来
:2008/04/13(日) 13:36:00 HOST:menet70.rcn.ne.jp
=真撰組 屯所 局長室=
唐突と言えば、唐突な質問だったが、その質問に近藤はすぐさま答えを返した。
近藤「いや、そりゃないでしょう。」
直輔「ん?いや・・・それはないとは・・?」
近藤「お妙さんに限って、そんな事は絶対ありません。この俺の身命に賭けて!!」
直輔「質問の意味を理解しておられるのか・・・・これは、そうだという事を前提にした・・・」
近藤「いや、そうだもなにも・・・・・」
質問の意味がわからないのではいかと思い、困惑する直輔に対し、近藤はまるで最初からそうだと言わんばかりに言い切った。
近藤「そもそも、愛してる女を疑ってちゃ、愛してるって言えないじゃないっすか。」
直輔「っ!?」
近藤「もし、世界中の全員が、お妙さんを疑っても、俺は信じぬきますから。」
その答えを聞いた直輔は、少々めんを食らった顔で硬直していたが、やがて納得したように、ため息をついた。
なるほど・・・・・そう言うことか。
直輔「やれやれ・・・・そういう返答をするとは、思わなかったが・・・」
近藤「あれ?へんっすかね?」
直輔「いや・・・・卿らしい答えだ。−−−−−−悪くない。」
納得した直輔のその言葉を聞き、そしてまじまじと顔を見た時、今度は近藤がめんを喰らった顔をしていた。
直輔「・・・・・どうかしたのか?」
近藤「いや、初めて見ましたよーーーー橋本さんの笑顔。いや、いつも、むっつりしてたから・・・」
直輔「そうか・・・・そういえば、卿と面を向かって話すのもこれが初めてであったな。」
そして・・・・これが最後となるだろうが・・・・
その後、一言二言軽い会話をかわした後、直輔は真撰組の屯所を後にした。
直輔「なるほどな・・・・悪くはない答えだ。だが・・・・私とは相容れなさそうだな。」
ポツリとそんなことばをつぶやいて・・・・
101
:
藍三郎
:2008/04/18(金) 20:18:22 HOST:206.168.183.58.megaegg.ne.jp
万寿菊・鬼忍衆が一人、鳥兜は“抜け忍”である。
元は風魔の里の出身で、北方に領地を持つ北条氏の一族に仕えて来た。
だが・・・彼は、常々己の境遇に不満を抱いていた。
彼は、忍の扱う“忍術”を崇拝していた。
忍術とは、相手を騙し、裏を掻き、不意を突く、高度な技術の集大成。
数多くの武器を自在に使いこなし、
如何なる状況においても己の力を十全に発揮できる能力。
馬鹿正直に真正面から刀で戦う侍などは、
彼の忍術の前ではいとも容易く不意を討たれ、骸を晒すだろう。
実際に・・・彼は武家の人間を標的に、数多くの暗殺を成功させてきた。
その考えを、彼は“卑劣”や“姑息”だとは思わない。
そんな常套句は、頭が足りないゆえに、
まんまと欺かれた負け犬の遠吠えに過ぎないと考えていた。
ゆえに・・・彼の心には強い疑念が沸いた。
何故、実力的に明らかに優位にいるはずの忍者が、
愚直で愚鈍な侍などにこき使われねばならないのか・・・と。
主に決して叛意を抱く事無く、己を殺して忠義を尽くすのが本来の忍。
だが、彼はあまりにも優秀すぎた。
同期はもちろん、彼の師匠格に当たる者達ですら、
彼の才能にはついて来られなかった。
自分より実力が劣る者の言葉など、彼の耳に届くはずが無く・・・
主への・・・侍への“疑心”が、
“叛心”へと変わるのに、そう時間はかからなかった。
鬱屈とした思いを懐いたまま、
多くの標的を血祭りに上げる事で、憂さを晴らす日々が続いたが・・・
とある武家の当主を暗殺する為、屋敷に忍び入った夜――――――
首尾よく主の首を獲った後、“その男”は現れた。
屋敷に招かれた客人だと名乗ったその男は、
血塗れになった主に毛ほどの動じず・・・実に馴れ馴れしい口調で、彼に語りかけた。
んだオイ・・・随分としみったれた面してんなァ・・・――――――
そういう時は、軽く一杯いッとけ――――――
さっきまで呑んでいたのか、男は手に徳利を持っていた。
そう言って、男は杯になみなみと酒を注ぎ、目の前の忍者へと差し出した。
目撃者は全て殺す・・・
それが、暗殺者の掟のはずだ。
だが、彼には口封じ(それ)が出来なかった。
圧倒的な強さを持つ相手に出会って、恐怖したのではない・・・
彼にあったのは、ただの戸惑いだった。
男が言葉を紡ぐたびに、その“惑い”は大きくなり・・・
知らぬ間に、彼は全く戦意を失ってしまっていた。
差し出された杯を、何の迷いも無く飲み干してしまう程に。
何か腹ン中溜め込んでるモノがあンならよ・・・――――――
ちょッくら、此処でブチ撒けてみちゃあどぉでェ・・・――――――
俗世の煩わしさこそ、最高の肴にならァ―――――――
彼は語った。侍に対して、忍に対して、
この世界に対して、自分が不満に抱いている事総て。
名も顔も知らぬ、完全に初対面の相手に対して。
はァん・・・そういうコトね・・・くだらねェ・・・――――――
くだらねェ程に・・・至極もッともな話じゃねェか・・・・・・!――――――
ンなくだらねェ事に愚痴愚痴悩んで・・・
阿呆か御前ェはよぉ・・・・・・!――――――
彼の話を聞いて、実に悦(タノ)しそうに哂(ワラ)う、着流しの男。
酒のせいではない。
男の言葉に込められた歪な魔力に、脳髄が絡め獲られていく・・・
102
:
藍三郎
:2008/04/18(金) 20:19:57 HOST:206.168.183.58.megaegg.ne.jp
で・・・お前ェはどうしてェのよ?――――――
そんな狭(せめ)ぇ鳥籠ン中で・・・満足かよ?――――――――
妖怪(アヤカシ)の誘惑が、彼の心を揺さぶる・・・
この瞬間・・・彼は、着流しの男に陥落していた。
男は・・・彼の言う“総て”を呑み込んでくれた。
己の無能もわきまえずに威張り散らす侍どもも・・・
旧い掟に縛られた忍どもも・・・
彼の周りにいる者は、誰も彼の考えを理解できはしなかった。
“あの方”だけだ。
一目見ただけで俺の心根を見抜き――――――
“あの方”だけが、俺の心を、俺の強さを認めてくれた――――――!!
それから・・・男に誘われるがまま、
北条氏を裏切り、風魔の里を抜け出した。
その際に、多くの武士や同僚の忍を殺し、財産を奪っていった為、
彼には執拗な追っ手が差し向けられたが・・・
彼はそれを、実力であっさり撃退して見せた。
簡単な事だったのだ。
所詮この世は弱肉強食。
侍の気位や、忍の忠義といった狭い観念に
囚われている者達は、所詮惰弱な野兎どもに過ぎない。
家柄や体制などの“檻”の中に閉じこもって、
自分は安全圏にいると過信している、温い連中だ。
普段自分達が飼っているつもりでいる、
肉食獣が本気で牙を剥けば・・・たちどころに肉塊にされてしまう事も知らないで。
彼は、それを実力で証明した。
靄が掛かっていた彼の心は、澄み切った空のように晴れやかだ。
彼自身もまた、観念という鎖に縛られていた。
それを解き放ってくれたのは、“あの方”に他ならない。
男の正体が、幕府を陰で操る重鎮だと知った時、
彼の忠誠心はますます決定的なものとなった。
天下人を気取る狸どもを、裏の道に通じる者達が思うままに操っている・・・
彼の価値観において、これほど痛快な話は無かった。
以後・・・彼は『鳥兜(トリカブト)』という新たな名を貰い、
男・・・“百々目胡蝶斎”の下で、その刃を振るっている。
今の彼にあるのは、胡蝶斎への心酔と・・・
そして、少しでも彼に近づきたいという燃え滾る上昇志向だった。
鳥兜「百々目胡蝶斎様が創造する“新しい日本”・・・
その頂点において、頭領の隣に居るのは・・・この俺だ!!」
あんな人形どもには譲らない。
邪魔する者は、総て実力で排除する。
如何なる手段を使っても抹殺する。
人の道に外れたる外法の数々・・・・・・
それこそが、彼にとっての“最強”なのだから―――――!!
鳥兜「真撰組に練武館・・・てめぇらには、俺の出世の礎になってもらうぜッ!!」
103
:
藍三郎
:2008/04/18(金) 20:20:29 HOST:206.168.183.58.megaegg.ne.jp
そして・・・・・・
皆が寝静まった深夜・・・
真撰組屯所の近くに、数名の武士の集団が集まっていた。
佐脇「ほ、ホントにやるんでしょうか・・・猪旗さん・・・」
猪旗「無論だ!!事もあろうに真撰組(やつら)は、
練武館(われら)の誇りを汚したのだ!!断じて許せる事ではない!!」
言葉だけ見れば、仲間を傷つけられた事に怒っているとも取れる。
しかし・・・その被害を受けた張本人である伊茶門は、
練武館の手によって粛清されていた。
往来で真撰組にいいようにやられ、練武館の恥を晒したとの理由からである。
ちなみに、粛清したのは大声を張り上げている猪旗豪次郎本人だ。
これは仲間の仇討ちなどではない。
そんなものはただの切欠に過ぎない。
“武士に相応しくない存在”を速やかに抹殺する・・・
練武館はその理念に従い、真撰組(てき)を潰そうとしているのだ。
佐脇「わ、わかっていますよ・・・でも・・・・・・」
猪旗「今更臆したか!!敵前逃亡は士道不覚悟!!
即あの腑抜けのように叩っ斬ってやるぞ!!!」
佐脇「ひっ・・・・・・!」
猪旗は、今回の件以外にも、軟弱な姿勢を見せた門弟を多く斬り捨てていた。
剣の腕以上に、その気性の荒さゆえに、門弟達の中では誰よりも恐れられている。
佐脇「あ・・・猪旗さん!あちらを・・・!」
猪旗「おお!!塾長!!」
真撰組屯所の方向から、彼らの塾長・・・橋本直輔が姿を現す。
その顔からは一切の感情が消え、ただ厳格さだけが残っている。
まるで、研ぎ澄まされた氷の刃のようだった。
直輔「・・・・・・・・・」
その身に纏う怜悧な闘気に、佐脇はもとより猪旗も戦慄を隠せなかった。
104
:
鳳来
:2008/04/26(土) 19:39:42 HOST:menet70.rcn.ne.jp
直輔「皆、集まったか・・・・」
猪狩「は?はい!!すでに師範代、高弟のなど門下一同が各場所に待機しております。」
佐脇「それと、別働隊が囮として、宿屋にて待機しております。幕府方の役人の目もそちらに引き付けております。」
直輔「そうか・・・・ご苦労。」
それを無表情で聞いた直輔は、佐脇と猪狩の報告を受け取ると、思案をめぐらした。
直輔(妙だな・・・松平と万姫。あの二人がこうも上手く引っかかるとは・・・)
現在、直輔以下真撰組屯所を襲撃する部隊と、松平及び万姫の二人を目を逸らすための囮部隊の二つに分けていた。
作戦としては単純で、囮部隊が敵を引き付けている間に、襲撃部隊が標的を始末するというシンプルなものだった。
無論、そのような単純な策が通用する相手ではないとは思っていたが・・・・
直輔(斬り捨てたか或いは此れも奴らの策か・・・・・・)
敵の思惑が読めず、苛立たせるが、すでにコトは動き出しているため、もはや、後戻りは出来ない。
直輔「まあいい・・・・我らが士道を阻むものなどありえまい。」
猪狩「塾長・・・それでは・・・」
直輔「・・・・・これより、真撰組討伐を開始する。」
いよいよ練武館の真撰組襲撃が始まろうとしていた頃・・・・
=歌舞伎町=
直輔がもっとも警戒をしていた不安要素の万姫と片栗虎の二人は・・・・
万姫「さて・・・・そろそろ始まる頃だな。あ、ボトル一本。」
片栗虎「つうか、良いのか?こんなところで遊んでるばあいじゃないだろうが。」
のんきにキャバクラで酒を飲んでいた。
万姫「そうだな。今頃は、練武館の連中が襲撃を仕掛けている頃だな。」
片栗虎「なら、さっさと、奴らを捕まえるべきだろうが。それとも、あいつらを見殺しに・・・」
万姫「見殺しにはせん。ただな、事が起こる前に練武館の連中を捉えても意味がない。」
そう・・・・練武館という組織を潰すためには。
片栗虎「だがなあ・・・・」
万姫「案ずるな。この程度でやられる相手ではないし・・・すでに、予防策は取ってある。」
=真撰組屯所・裏口=
蓮丸「たく・・・厄介なことはあいつの家芸だな・・・・」
万姫の依頼で、事が起きた後で、真撰組屯所の襲撃による死者を出さないための予防策こと蓮丸は、裏口で打ち倒した練武館の高弟を縄で縛り、ぼやいていた
105
:
藍三郎
:2008/04/27(日) 19:37:54 HOST:206.168.183.58.megaegg.ne.jp
草木も虫も眠りにつく深夜・・・
練武館による、真撰組屯所襲撃が始まった。
轟音と共に、正面の門が突破される。
刀や槍で武装した、練武館の主力部隊が真撰組屯所に突入する。
暢気に寝入る真撰組を片っ端から斬り捨ててやろうと、
士気に燃える彼らを待ち受けていたものは・・・
総悟「どうも〜練武館の皆さん、そろそろ来ると思っていやしたぜィ」
一斉にバズーカを構えて待ち構えていた、真撰組の隊士たちだった。
佐脇「な!?ま、待ち伏せ!?」
いきなりの敵の出現に、門弟達の間に動揺が走る。
そんな中、直輔だけは表情一つ変えずに、距離を取っている。
総悟「ありがとうごぜェやす。そんなに驚いてくれて・・・
ひょっとして、俺たちが暢気こいて眠っていると、
すっかり油断しきっていたんですかィ?」
小馬鹿にしたように、飄々と言う総悟。
総悟「いきなり押し入ってきたのはそっちでさァ。
だから、正当防衛成立って事で・・・」
自らもバズーカの引き金に指を掛け、大声で命じる。
総悟「撃てェェェェ!!!」
月明かりが差す庭内に、砲火の音が響き渡った・・・
=真撰組屯所 裏門=
虚蝉「・・・始まったか」
屯所内から響くバズーカの音を耳にした最上虚蝉は、
事態が動き出した事を知る。
だが、まだ積極的に動くべき時ではない。
彼の目的は、真撰組と練武館の衝突・・・
その期に乗じて介入してくる“何者か”を捕らえる事。
ゆえに、彼の存在を両陣営に妄りに晒すわけにはいかない。
その為、気づかれないよう屯所の外で見回りを続けていたのだが・・・
ちょうど裏門に差し掛かった時、その“何者か”を発見した。
蓮丸「お前は・・・・・・!」
練武館の門弟二人を縛り上げ、自らも屯所に入ろうとしていた時・・・
蓮丸の瞳は、こちらに近づいてくる一人の侍を捕らえた。
彼の双眸が驚愕に見開かれる。
あの深緑色の髪をした侍こそ、
以前本願寺で、蓮丸たちの前に立ちはだかった男に他ならなかった。
あの時は、伊空に相手を任せてその場を後にした為、
詳しい素性は謎に包まれたままだが・・・
分厚い甲冑を着込んだ卍を胴で真っ二つにした事から、その実力の片鱗が伺い知れる。
蓮丸の顔を覚えているのかいないのか・・・
僅かな反応も示さないので、判別できない。
以前現れた時と同様、虚蝉は無表情のまま言葉を発する。
虚蝉「お前は・・・真撰組の人間か?」
蓮丸「いや、違う・・・」
練武館の人間を縛っているのを見て、そう見なしたのだろう。
蓮丸は咄嗟に否定したが、思えばこれが過ちであった。
蓮丸「あんたこそ何者なんだよ・・・練武館か?」
真撰組の制服を着ていない以上、この侍が練武館の新手である可能性は高い。
だが、男は肯定も否定もせず・・・
虚蝉「答える必要は無い」
ただ、問いそのものを拒絶した。
虚蝉「お前こそ、真撰組では無いと言うのなら、練武館ではないのか?」
蓮丸「何で練武館が同じ練武館の奴を縛らなきゃならねぇんだよ」
自分で縛っておいて何だが、どこかズレた質問に対し、思わずそう答えてしまう。
一方で・・・“こいつ、見掛けに似合わず頭悪いんじゃないか?”という疑念が沸いた。
そんな蓮丸の思考など露知らず・・・虚蝉は、声の調子を変えぬまま続ける。
106
:
藍三郎
:2008/04/27(日) 19:38:54 HOST:206.168.183.58.megaegg.ne.jp
虚蝉「解った・・・お前は“どちらの陣営にも属さない人間”なんだな?」
蓮丸「・・・・・・・・・」
蓮丸は押し黙る。
一応、真撰組に手を貸しているが、正式に隊に加わったわけではない。
自分の任務を、正体不明の輩に話していいか、という思いもある。
どうにも答えづらい蓮丸の沈黙を、虚蝉は、“肯定”と受け取ったようだ。
虚蝉「ならば、“俺の敵”という事になる」
虚蝉が言葉を発して・・・・・・
蓮丸の正面を、白い刃が通り過ぎるまで・・・
刹那の時を要さなかった――――――――
蓮丸「う、お、おおっ!?」
紙一重・・・
そう、蓮丸が刃から逃れたのは、まさしく紙一重の差だった。
虚蝉の気が、僅かながら膨れ上がった瞬間・・・蓮丸は、無意識の内に後退していた。
結果的には、それが彼の命を救った。
改めて前を見れば、虚蝉の腰からは刀が抜き放たれている。
見えなかった・・・
見ようとするより先に、身体が後ろへ飛ぶ事を選んだ。
長年培ってきた戦闘技術に感謝を送らねばなるまい。
いきなり斬ってきやがった・・・という戸惑いを、素早く自分の内に閉じ込める蓮丸。
目的はどうあれ、奴は既に“殺る気”だ。
少しでも動揺を見せては、たちまち切り伏せられてしまうだろう。
今は只、如何にしてこの侍の刃を凌ぎきるかに全神経を集中する。
虚蝉「・・・抵抗するな。殺しはしない」
蓮丸「ああ?」
突然不意打ちを仕掛けておいて、意外な言葉が飛び出した。
蓮丸「へ・・・随分お優しい事だな?」
虚蝉「俺の目的はお前達のような第三勢力を捕らえる事だ。
殺してしまっては、任務達成にならない」
蓮丸「そうかい・・・あくまでてめぇの都合かよ」
それを聞いて、蓮丸の中でとある疑問が解決した。
先ほど見せた虚蝉の居合・・・あれは、紛れも無く“最速”だった。
呼吸、体勢、筋肉の動作・・・
それら全てが、人間限界における“最速”を生み出していた。
更に、会話の途中で前触れ無く斬り込む機会(タイミング)・・・それも“完璧”だ。
“最速”と“完璧”・・・それらが合わされば、
例え殺気で事前に察知できたとしても、
およそ回避しうる事は不可能・・・のはずだ。
それでも先ほど蓮丸が避けられたのは・・・
この男が、最初から殺す気で無かったからに他ならない。
なるべく殺すまいと、刃の動きを修正したのだ。
それによって無駄な動きが生まれ、相手に回避する隙を与えてしまった事になる。
蓮丸「気にいらねぇ・・・なっ!!」
地面を蹴り、後ろへ向かって飛ぶ蓮丸。
勿論、逃げ出すつもりは無い。
ただ、“最速”の居合を持つ侍を相手に、距離を狭めて戦うのは危険すぎる。
懐から愛用の回転式拳銃(リボルバー)<開目抄>を抜き、
瞬時に三発早撃ち(クイックドロウ)する。
蓮丸を追い、駆け出す虚蝉。
真正面から迫る、銃口から吐き出された三発の銃弾を・・・
虚蝉「・・・・・・・・・」
眉一つ動かさず、抜き放った刀で弾いて見せた。
107
:
藍三郎
:2008/04/27(日) 19:39:44 HOST:206.168.183.58.megaegg.ne.jp
蓮丸「ちょ・・・待てよ!!銃弾を素で弾いてんじゃねー!!」
あまりに淡々と弾かれた事に、蓮丸は思わず突っ込む。
しかし、相手が“剣豪”級の侍である以上、この程度は予測できた事だ。
先ほどの銃弾は、虚蝉の足を僅かながらでも止める為に過ぎない。
ほんの一瞬だけ生まれた間隙を縫って、残り三発の銃弾を放つ。
最初の三発は足止め、続けて、逆三角の頂点を撃つように放った銃弾が、
避けようが無い“弾丸の檻”となって襲い掛かる。
無論、先ほどのように刀で弾かれるのも計算の内・・・
引き金を引くと同時に、蓮丸自身もまた、愛刀<数珠丸>を手に駆け出している。
弾を防いだとしても・・・その隙を縫って、
第四の銃弾・・・即ち、蓮丸渾身の刺突が虚蝉の体に突き刺さるだろう。
およそ逃れようも無い必殺の戦陣。
蓮丸の天才的な閃きが生み出した業であったが・・・
虚蝉「・・・・・・・・」
虚蝉は、左手で腰に下げた鞘を握ると、刀を操るが如く振り回す。
銃弾は三つとも弾かれ、蓮丸自身の刀は・・・
右手に握られた刀によって、押し留められた。
鞘と刀の二刀流・・・刀一本では防げないと
判断するや、咄嗟に“二刀”に切り替えるとは・・・
蓮丸「おいおい・・・こんな無茶苦茶な剣使う奴が、『白夜叉』の他にいたのかよ・・・」
蓮丸は思わず瞠目し、舌を巻く。
虚蝉の表情は揺れない。まるで、意志を持たぬ絡繰人形のようだ。
そんな彼の人間離れした不気味さも・・・蓮丸の心を揺らしていた。
無数の砲弾が叩き込まれ、真撰組の邸内は噴煙に包まれる。
濃い煙に覆われて、練武館の剣士たちがどうなったかは見えない。
隊士「やったか・・・?」
一人の隊士が、砲口を僅かに下げる。
総悟「油断するんじゃねェ!!!」
総悟の似合わぬ激が飛んだ瞬間には、事態は動いていた。
灰色の噴煙を突き破り、一人の侍が駆け抜ける。
練武館塾長・橋本直輔だ。
彼は砲撃を受けた事など気にも留めず、氷の面を保ったまま突き進む。
総悟「ちっ・・・」
ここまで距離を詰められては、バズーカは役に立たない。
咄嗟に刀を抜く総悟・・・だが・・・
直輔は、目の前の敵など眼中に無いとばかりに、総悟達の脇をすり抜けていく。
わき目も振らずに、屯所内へと突入する。
総悟「しまった・・・狙いは近藤さん―――――――」
そう叫んだ瞬間・・・総悟の顔に、巨大な影が覆い被さった。
猪旗「ぬおりゃああああああああッ!!!!」
総悟「!!!」
総悟より一回り以上は大きい巨漢が、手にした刀を振り下ろす。
刀というよりは、もはやナタに近い幅広の刃で、人間の背丈ほどの尺があった。
猪旗「よくもやってくれたな!!薄汚い似非侍めが!!
この練武館が師範!猪旗豪次郎が叩き斬ってくれる!!」
総悟「やれやれ・・・こんなのに構ってる暇はねーってのに・・・」
やや面倒くさそうに、それでも瞳は真剣なまま、沖田総悟は刀の柄に手を掛けた。
108
:
鳳来
:2008/05/11(日) 23:03:52 HOST:menet70.rcn.ne.jp
一方、屯所の通路を疾走する直輔は、わき目も振り返らず、局長室に到着し、そのまま一気に踏み込んだ。
直輔「ほう・・・・まさか、というか、やはり、卿がここにいるか。」
いぶかしむ直輔の前にいたのは、待ち伏せをしていたのか、煙草を咥え、座りこんでいた土方だった。
土方「ち・・・総悟の野郎、むざむざ通しやがって・・・まぁいいさ」
愚痴をこぼすものの、隙を見せず、土方は相手を睨みつけながら、腰を上げて、刀に手を掛ける。
直輔「闘うか・・・・・狂犬。」
同じく刀に手を掛ける直輔・・・・どうやら、この男を倒さなければ、近藤を仕留められないと感じ取っていた。
土方「なら、あんたはさしずめ、幕府の忠実な番犬か?練武館塾長とやらがどれだけ偉いか知らねェが・・・俺らを見くびってると、噛み殺されるぜ!!」
あくまでも平静を保つ直輔に苛立ちながら、土方は、刀を抜いて斬りかかった。
直輔「ふっ、番犬か・・・・それもまた良いだろう!!!」
そして、土方が斬りかかると同時に・・・・・・・直輔は土方を無視して、ふすまを蹴破ると部屋から外へ飛び出した。
土方「な・・・!?てめ、ここまで来て逃げるか!?」
斬り合いになるとばかり思い込んでいた土方は、予想外の出来事にあっけを取られるが、慌てて追いかける
直輔「悪いが・・・・狂犬には興味はない。犬の長を斬れば、群れなどたやすく崩れる。」
土方「ハッ、そう易々と、大将首取らせるかよ!!」
が、そこは体力勝負の真撰組副局長土方・・・・・先行する直輔を全力で追い、距離を詰めていく。
直輔(どこか、どこか・・・・・・あそこは!!)
辺りを見回し、ある建物を見つけると、そちらへ駆け出していった。
土方「てめ、逃げてばっかじゃねーか!!喧嘩売ってきたのはそっちだろうが!!」
直輔「買ったのはそちらだ。」
後ろから聞こえる土方の罵声を、さらりと流し、直輔は、敷地内にある土蔵に飛び込んだ。
土方「その内容が鬼ごっこたぁ聞いてねェぞ・・・・・・だが、もう逃げ場はねぇぜ・・・」
109
:
鳳来
:2008/05/11(日) 23:04:29 HOST:menet70.rcn.ne.jp
直輔が逃げ込んだ場所は、逃げ道のまったく無い土蔵・・・・入り口さえ押さえれば、逃げる事は出来ない。
直輔「逃げ場か・・・・・少なくとも、それは私ではなく、卿に言える事だがな。」
土方「ハッ、こちとら剣に生きる侍よ。最初(はな)から逃げ場なんざ考えてねぇ・・・考えてるのは・・・てめぇを斬る事だけだ!!」
逃げ場書を失い、追い込まれ、刀に手を掛ける直輔に、決着を付けんと、土方は一気に斬りかかった。
直輔「二つだけ訂正しておこう。一つは私はただやみくもに逃げいたのではないこと。そして・・・・・」
直輔のその言葉が言い終わる瞬間・・・・チャリンという鍔鳴りが響いたと同時に土方の肩から血が噴出した。
土方「ぐっ!!てめぇ・・・・・!」
直輔「逃げ場を失っているのは、卿のほうだ・・・・・」
再び鍔鳴りが2回おこり、土方の右肩と左足から血が流れだした。
土方「はっ・・・どういうイカサマしてるのか知らねぇが・・・逃げ場なんざ元より要らねェんだよ・・・ 前にいるてめぇをぶった斬れば、それで終わりだからな!!」
血塗れになりながらも、土方は直輔の見えない攻撃にひるむことなく、真っ向から斬りかかる
直輔「まだ、立つか・・・・・ならばーーーーー」
三度、複数の鍔鳴りがおこり、今度は、土方の体を膾切りにし、動きを封じた
土方「ぐはあああぁぁぁぁぁぁっ・・・・・・っ・・・!!」
全身を斬られた土方は痛みに耐えかねて、膝を突くも、そのまま執念で突きを繰り出した。
直輔「・・・っ!?なるほど、さすがは副局長を務める事はあるな・・・・」
土方の執念の突きにより掠めた頬から血が流れるのも気にせず、直輔は動けない土方を素通りしようとするが・・・
土方「待ち・・・やがれ・・・・・・」
倒れ込んだ土方は動ける事さえままならぬ怪我を負いながらも、直輔を這ってでも追いかけようとしていた。
その執念に何かを感じ取ったのか、土方には顔を向けずまるで独り言を呟きはじめた。
直輔「その執念に免じてと言うわけでも無いが・・・・・・先程、卿がイカサマと言ったアレは、何の事も無い居合い斬りだ。」
土方「何・・・・・だと?」
そう、鍔鳴りがなった瞬間に相手を斬り捨てたあの技の正体は・・・・・何の事は無いただの居合い切りなのだ。
ただし・・・・抜刀し納刀する瞬間さえも相手に見せず、自分が切られて相手はようやく気付くという超高速居合い斬りだったのだ。
土方「なんだ・・・・ただの、実力・・・かよ・・・」
直輔「それともう一つ、この限定空間こそが、私の居合い斬りを奥義へと進化させるのだ」
土方「・・・・、?」
直輔「先ほど、お前はこう言ったな・・・・逃げ場は無いと。だが、それは裏を返せば、私の居合い斬りの逃げ場所もないということではないか?」
土方「ま、さか・・・・・!?」
本来、居合い斬りの性質上、回避の手段としては、左右後の3つに限られてくる。
だが、今回のこの土蔵のように居合い斬りの間合いから左右に避ける場所が無いほど狭い空間とるべきは一つ・・・己の攻撃範囲からも外れる位置・・・後のみである。
進めば居合い斬りの餌食になり、かといって退けば、今度は自分の攻撃が届かないーーー居合い斬りと限定空間によって生み出された正に攻守一体の結界ーーー!!!
直輔「居合い結界<小鳥遊(たかなし)>・・・・私はそう名付けている。」
110
:
藍三郎
:2008/05/15(木) 21:48:51 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
=真撰組屯所=
猪旗「ぬぅりゃああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
大太刀を振り回し、地面に深い亀裂を刻んでいく猪旗豪次郎。
一撃必殺の剣閃を、沖田総悟は軽やかな動きでかわしていった。
猪旗「グハハハハ!!どぉした芋侍!!
逃げるだけで精一杯か?あぁん!?」
総悟(受けたら剣が折れるっつーの・・・・・・)
岩をも断つ猪旗の振り下ろし、刀による防御は役に立たない。
むしろ、猪旗の大振りな太刀を見切って
完璧にかわす総悟の足捌きに驚嘆するところだが、
猪旗はそんな事など欠片も考えず、唾を散らして罵詈雑言を吐く。
猪旗「所詮貴様らは卑しい下級武士(クズ)の集まり!!
それが、真撰組などと持ち上げられて調子に乗りおって!!
貴様らには、分不相応だと知れい!!!」
猪旗の豪剣が飛び、屯所の柱が真っ二つに寸断された。
罵声を浴びても、総悟は涼しい顔でこう返す。
総悟「そうかい。けど、真撰組に文句があるなら、松平のとっつぁんに言えよ」
猪旗「な・・・・・・!?」
そう言われて、猪旗は押し黙る。
松平片栗虎といえば、幕府の最高幹部の一人、
猪旗とはいえ、おいそれと口出しが出来る存在ではない。
総悟「どうしたィ?途端に黙っちゃって・・・」
口元に笑みを浮かべる総悟。
総悟「結局アンタ、権力(おかみ)に尻尾を振って、
陰で弱い者虐めして憂さを晴らしているだけだろィ?」
猪旗「な、何ィ・・・・・・!!」
総悟「違うのか?それなら、今すぐとっつぁんの前で
そのデカイタラコ口を開けて、さっきみたいに文句言いまくってみろィ?
勿論、切腹が怖くなけりゃあな・・・」
総悟は意地の悪い顔で語る。
総悟「ああ、俺ら芋侍と違って、
真の侍であるあんたらは切腹なんか恐れないんでしたねィ」
皮肉たっぷりに語る総悟に、猪旗はつのる怒りを爆発させた。
猪旗「ええい!!妄言で心を惑わそうとするとは、田舎侍らしい姑息な所業!!
貴様らの手には乗らんぞ!!」
総悟「たく・・・これだから単細胞(バカ)は・・・
口喧嘩で負けたからって、簡単に逆切れすんだから・・・」
猪旗「ぬかせぇ!!どの道、真撰組は今夜日本から消える!!
我ら練武館に楯突いた愚かさを悔やみながら死んでいけ!!」
いつの間にやら、総悟は壁際へと追い込まれていた。
闘志を奮い立たせ、大太刀を振り下ろす猪旗。
逃げ場のなくなった彼目掛けて、致死の一刀が落ちてくる・・・
総悟「・・・どうでもいいけどさ・・・・・・」
猪旗「―――――――!!!?」
猪旗は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
手にした大太刀が、突然自分の手から消失したのだから。
やがて、腕が裂け、血が吹き出た時点で・・・
自身でも知覚できない間に腕を斬られ、
その痛みで刀を放り投げてしまった事を理解した。
程無くして、庭の地面に大太刀が突き刺さる。
総悟「あんま近くで喚かないでもらえやすかねェ?
唾が飛んできて汚いんで・・・・・・」
総悟は、底意地の悪い笑みを浮かべる。
だが・・・即座に顔を真剣な表情に変え、ドスの聞いた声で言い放つ。
総悟「おィ、タラコゴリラ」
猪旗「な!?」
気にしている一言を言われ、猪旗のこめかみに血管が浮く。
総悟「あんたらがどんなに偉いか、田舎侍の俺たちには解らねェよ・・・
けど、ここは真撰組(おれたち)の屯所(くに)だ。
そこに、堂々と喧嘩売ってきて・・・」
刀身に移る総悟の顔は・・・殺意の微笑みが張り付いていた。
総悟「生きて帰れると思うなよ?」
111
:
藍三郎
:2008/05/15(木) 21:50:11 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
猪旗「ぬ、ぬ、ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
屈辱に震え、猪旗は顔を赤黒く染める。
自分の眼には、総悟の太刀筋は見えなかった。
それは、両者の間には圧倒的な実力差が存在する事を意味する。
いよいよ追い詰めたところで、あっさり逆転されたのだから・・・
猪旗の屈辱は筆舌に尽くし難いものがあった。
実力者同士の対決が、全体の趨勢を決めたのか・・・
練武館と真撰組の戦いは、真撰組が優勢になりつつあった。
勿論、それには各個の力量差だけではない、大きな要因が幾つかある。
原田「隊列を乱すな!かかれェェェェい!!!」
真撰組隊長・原田右之助の指示の下、練武館の侍に斬りかかる真撰組。
佐脇「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!?」
佐脇久信の前にいた門弟が、一人、また一人と斃されて行く。
一方、真撰組は殆ど数を減らしていない。
真撰組最大の強み・・・それは、多対多の戦闘における集団戦法にある。
その基本は、一人の敵に複数人で掛かり、確実に仕留める事。
一度に複数の侍を相手にして、凌ぎきれる者などそうはいない。
敵を一人減らすたびに、集団の戦闘力は落ち、やがては数で押し切る事ができる。
一対一の戦いを重んじる武士達からは、
卑怯な戦いと謗られる事も多いが・・・
日ごろ、戦の最前線で戦う真撰組(かれら)は知っている。
複数人が入り乱れる戦場においては、形式や作法などは何の役にも立たない事を。
多対多の戦では、より無駄無く効率良く兵を動かした方が勝つ事を。
道場剣法ではない・・・実戦剣術を重んじる真撰組が出した答えがそれだった。
その証明が、今まさしく練武館との戦いによって示されていた。
練武館の者達は、いずれも腕が立つ猛者だが、
その殆どが、こういった集団で戦う事には馴れていない。
まず、彼らは道場において、一対一の戦いを前提とした稽古しかしていない事。
そして、練武館の師範・門弟が、有力な武家の出身者、
つまりエリートである点が大きく影響している。
彼らは元々、兵として動くのではなく兵を率いて戦う身分の者達ばかり。
その誇りと驕りゆえ、自らを集団の一部分だと
割り切って戦う事には抵抗があるのだ。
その点・・・集団戦における効率的な作戦行動を、
常日頃から叩き込まれている真撰組隊士とは、大きな差が出る。
道場剣法で己だけを磨いてきた者達と、
実戦剣法で仲間との繋がりを重んじてきた者達・・・
その差は現在、練武館の劣勢という形で如実に現れていた。
佐脇「い、猪旗師範〜〜〜〜!!」
師の窮地を目の当たりにした佐脇久信は、慌てて走り出す。
むしろ、自分を助けて欲しいと思ったのかもしれない。
地面に刺さった猪旗の刀を引っこ抜くと、急いで師範の下へと駆け寄る。
佐脇「し、師範!」
猪旗「寄越せぇ!!!」
佐脇を突き飛ばし、刀を奪い取る猪旗。
猪旗「もう許さん・・・殺す・・・殺してやるぞ!!
この下賎な塵芥(ゴミ)侍めェ――――――――ッ!!!」
激情に駆られるまま、総悟に斬りかかろうとする猪旗だったが・・・
「いいや、てめぇじゃ無理だよ」
猪旗「!!!?!?」
聞き覚えの無い声が聞こえた瞬間・・・猪旗は、その足を止めた。
だが、彼を止めたのは呼びかけではない・・・
彼の肩口に突き刺さった、一本の刀だった。
112
:
藍三郎
:2008/05/15(木) 21:50:59 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
猪旗「佐脇ィ・・・貴様・・・何のつもりだァ!!!」
猪旗を背後から射した人物・・・
それはあろう事か、佐脇久信その人だった。
佐脇「いやですねぇ、師範。ちょっとした戯れですよ、ちょっとした・・・」
双眸を光らせ、嫌味を込めて慇懃に喋る佐脇。
その表情からは、かつての弱気な門弟の面影は消えうせていた。
猪旗「ふ、巫山戯るなァ・・・・・・!!」
後ろへ振り返り、佐脇目掛けて太刀を振るう。
佐脇はそれを、稽古では見せた事もない軽やかな動きで、事も無げにかわす。
佐脇「ハハハハ・・・そうですね・・・
お巫山戯は、そろそろ・・・・・・終わりにしようか!!」
口調をがらりと変えると、自分の顔へ手をやる佐脇。
そして、顔を五指で掴むと・・・力任せに“剥ぎ取った”・・・・・・
鳥兜「クックックッ・・・ア―――――ッハッハッハッ!!」
猪旗「な、何ぃ!!?」
佐脇久信の顔皮を剥いで現れたのは・・・見た事も無い白髪の男だった。
男は呆気に取られる一同を、満足そうに眺めると、悪意の篭った高笑いを挙げる。
鳥兜「もうちょっと、気弱な雑魚侍の“フリ”をして、
成り行きを見てるつもりだったが・・・
思ったより、練武館(うちら)が劣勢みたいなんでねぇ・・・
予定よりちっと早いが、手を出す事にしたよ」
羽織も脱ぎ捨てて、濃い紫色の忍装束を晒す鳥兜。
つい先ほどまで“佐脇久信”だった男の変貌に、敵味方共に周囲は驚きを隠せない。
総悟「お前、何者だィ?」
鳥兜「俺様の名は鳥兜。勿論本名じゃねぇがな・・・
まァ、お前らを黄泉路へ送る者として、覚えておくといい・・・」
聞き捨てならない言葉を発した瞬間、手にした筒を地面に叩きつける。
隊士や門弟達は思わず引き下がるが、炎ではなく膨大な量の白煙が溢れ出す。
ものの数秒で、真撰組屯所内は濃い煙に包まれる。
総悟「ちっ・・・・・・!」
咄嗟に鳥兜に斬りかかる総悟だが、その姿も煙に紛れて消えてしまう。
動揺する隊士達を見て、総悟は隊長として激を飛ばす。
総悟「うろたえるなィ!!全員、隊列を乱さず、周囲を警戒しろ・・・・・・」
「お、沖田隊長!あれを・・・」
突然声をかけられ、隊士が指指す方向を見る総悟。そこには・・・
白煙の中から、一つ、また一つと、人影が現れる。
真撰組とも練武館とも違う・・・
彼らは、茶褐色の衣に身を包んだ忍者らしき者達だった。
人肌の露出している部分は一つも無い。
顔には、何らかの刻印が描かれた仮面を被っている。
両手に鋭利な爪を備え、手甲や脚甲で覆った姿は、昆虫を思わせた。
「何だ・・・あいつらは・・・」
総悟「さぁてねェ・・・どの道、敵だって事には間違い無さそうだ」
総悟の読み通り・・・褐色の忍者達は、白煙に紛れて一斉に襲い掛かった・・・
虚蝉「!!!」
屯所から立ち昇る白煙を目の当たりにして、最上虚蝉は動きを止めた。
蓮丸もまたその方角を見やる。
蓮丸「んだ?あの煙は・・・火事・・・じゃねぇよな・・・」
それにしては、煙の量が不自然に多い。
今の状況を考えても、何か異常事態が起こったと考える方が自然だ。
虚蝉「・・・・・・・・・」
虚蝉は刀を仕舞うと、蓮丸など眼中に無いかのように屯所内へ向けて走り出す。
先ほどまで、刺すような殺気を放っていたのに・・・
蓮丸「お、おいてめぇ・・・」
その切り替えの早さに蓮丸は唖然となる。
虚蝉にしてみれば、何の事は無い・・・
彼の目的は、真撰組と練武館の戦いに介入する“何者か”を捕らえる事。
それらしき者達が、ようやく行動を起こしたのだ。
任務を第一と考えるならば、蓮丸との戦いに、これ以上拘泥する理由は無い。
ただ意志だけを懐いて、虚蝉は白煙の立ち込める戦場へと突入していった。
113
:
鳳来
:2008/05/31(土) 01:10:25 HOST:menet70.rcn.ne.jp
一方・・・・
=真撰組・客間=
土方「・・・・・っ、ここはーーー」
直輔「気がついたか。随分としぶといものだな。」
鈍い痛いに目が覚めた土方が目を覚ますと、そこは自分が倒れた土蔵ではなく、畳が敷かれた客間の一室だった。
さらに目を向ければ、そこには何かを待つように佇む直輔がいた。
手足を動かして見るが、頑丈な鎖で縛られているのか、動かない。
土方「生憎、体が頑丈だけなのがとりえでね。その様子だと、近藤さんを見つけてねえようだな。」
直輔「いや、そのうちすぐに見つかる・・・ところで、卿に聞きたい事がある。」
土方「なんだよ・・・こっちは、重症なんだぜ。愚痴なら他所でやってくれや。」
直輔「なら、独り言だがな。卿は愛する者を切り捨てた事はあるか?」
土方「・・・・・・・」
無言で押し黙る土方ーーーーー喋れないほど重傷なのではなく、心当たりがある故に。
正確には、違うのだが・・・・・間接的には自分にも原因はあるだろう。
そして、その様子を見た直輔は再び土方から視線を外し、ぽつりと口を動かし、言葉を紡いだ
直輔「私は・・・俺はな、斬り捨てたよ。」
土方「・・・・・」
直輔「良い妻だったよ。下級武士の出だが、俺を誰よりも彼女を愛していたし、彼女も俺を愛してくれた。彼女の笑顔を守れれば、それで良かった。共にいるだけで良かった。」
土方「・・・・・」
直輔「だがな、彼女の父は、攘夷志士らと関わっていたことが、発覚した時、俺は選択を迫られた・・・・・」
選択は二つーーーー妻をとり、代々続いた橋本家と自らの士道を失うか、妻を・・・・
直輔「死ぬほど悩んだよ。だが、結局、俺は己の士道を選び、この手で妻を切り捨てた。それが、俺の士道であり、橋本家を守るためだったからだ。」
土方「・・・・それが、何でうちを襲う事と関係するんだよ。」
直輔「昨日の昼、此処に来た時ーーー俺は近藤に同じ事を尋ねたよ。彼は迷う事無く、女を選んだ。」
土方「あの人らしいちゃ、らしいけどよ・・・・・それが、どうしたんだよ?」
直輔「それが許せないだけだ。奴は、近藤は、俺が選べなかったモノをあっさり選んだ。俺が苦悩して選んだモノをゴミだと言わんばかりにな!!俺が、俺が愛する者を斬り捨ててまで、選んだ物を!!!」
普段の彼から想像できないほど、歯を噛み砕かんばかりに顔を歪ませた直輔は、激しい憎悪と怨嗟を含んだ言葉を言い放った。
直輔「故に、俺は、奴を斬り捨てる!!!汚させはしない!!堕としめさせはしない!!俺が選んだ、俺の士道を!!!例え・・・・お前を餌に、奴を誘き出そうともな!!!」
114
:
藍三郎
:2008/06/01(日) 21:52:45 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
=真撰組 屯所=
鳥兜「さてと・・・次は・・・・・・」
白煙で視界を多い、自身の配下を真撰組に
向かわせた鳥兜は、次の行動に移ろうとしていた。
胡蝶斎の命を受けた後・・・
鳥兜は、本物の“佐脇久信”を密かに暗殺して、
得意の変装術で彼に成りすまし、練武館に間者として潜入していた。
鳥兜(あのまま味方のフリをして一人一人片付けていくつもりだったが・・・
練武館の奴ら、思ったより不甲斐ないんでな・・・
真撰組も練武館も、一気に纏めて血祭りに上げてやろうじゃねぇの)
白煙の中を歩く鳥兜だったが・・・
猪旗「ま、待てぇ!!」
彼の目前に、巨大な影が立ちはだかった。
肩の傷を抑え、阿修羅の形相でこちらを睨む猪旗豪次郎だった。
鳥兜「ハッ!無様だなぁ?猪旗さんよぉ・・・
日ごろ威張り散らしてるアンタも、不意を突かれればそんなもんかい」
猪旗「貴様ァ・・・ふざけた真似をしおって・・・
今すぐ叩ッ斬ってくれるわ!!」
全身に殺気を漲らせ、憤怒で顔面を活火山の如く赤く染めている。
そんな怒れる剣士を、鳥兜はせせら笑う。
鳥兜「ハハハッ、そう怒るなって。
さっきのは、ちょっとした悪戯だよ。それより・・・」
鳥兜は邪悪な笑みを浮かべ、ある“提案”を述べる。
鳥兜「アンタ、真撰組に・・・沖田総悟(あのおとこ)に勝ちたいかい?」
猪旗「何だと・・・?」
鳥兜「くれてやるよ。その“力”を」
そう言った瞬間・・・鳥兜の姿が掻き消えた。
猪旗「な!!?」
慌てて周囲を見回す猪旗。
だが、辺り一面には白煙が立ち込めており、
鳥兜どころか周囲の景色すらも判別できない。
猪旗「クソ!どこへ行った!!姿を現せぇ!!この卑怯者め!!」
刀を振り回しながら、怒鳴り声をあげる猪旗。
それに応えるように、何処からか嘲るような声が聞こえる・・・
鳥兜「ククク・・・卑怯者ねぇ・・・」
その瞬間、猪旗の体に、蛇のようにしなる鎖が巻きついた。
猪旗「なぁっ!?」
胴体と腕を雁字搦めにされ、猪旗は一時完全に動きを封じられる。
鳥兜「そいつは最高の褒め言葉だねぇ。
“正々堂々”なんて状況でしか戦えない、
弱っちい“侍”が言っても、負け犬の遠吠えにしか聞こえねぇぜ?」
もがく猪旗の肩に、白煙より出でた鳥兜が飛び乗る。
その手には、鎌の代わりに十字手裏剣を接続した、
鎖鎌のような武器を備えている。
猪旗「き、貴様―――――――――!!!」
猪旗の咆哮は、途中で遮断された。
彼のこめかみに、長く鋭い千本が突き刺さったからだ。
猪旗「が・・・ぁっ・・・」
鳥兜「安心しろ。大事なところは外してある・・・死にはしねぇ。
アンタには、これからしっかり働いてもらわなきゃならねぇからな」
猪旗「な・・に・・・・・・?」
意識が朦朧とする。
猪旗には、もはや口答えする気力も残っていない・・・
鳥兜「この針には、万寿菊(ウチ)で開発したある“薬”が塗ってあってよ・・・
この薬を脳に打ち込まれた人間は、運動神経を刺激され、
およそ人間の常識を越えた、圧倒的な筋力と瞬発力を得る・・・」
鳥兜は、猪旗の肩から跳び上がり、建物の屋根へと“着地”する。
鳥兜「だが・・・その代償として・・・・・・」
猪旗「ぐ・・・ぐ・・・ぐおああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
猪旗は叫ぶ。
顔面には血管が波打ち、充血した双眸は、
今にも眼球が飛び出しそうなほどに開かれている
抗いがたい興奮の奔流が、彼の全身を襲う。
その想像を絶する昂揚感は、彼自身にも制御できない程であった。
猪旗「あああぁぁああぁぁあ!!!
う゛、う゛、う゛、う゛おああぁぁぁぁあぁぁあぁ!!!?」
頭を抱えて苦しむ猪旗を、上から見下す鳥兜。
鳥兜「理性のタガが外れ、ただ暴れるだけの獣と化す・・・
何せ、妖怪のエキスを使って創られたって代物だからなぁ・・・
その分、効果は折り紙つきだがよ!」
115
:
藍三郎
:2008/06/01(日) 21:53:50 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
着物が裂け、筋肉が隆起する。
筋肉は倍以上に膨れ上がり、ただでさえ大男だったのが、
今や化け物じみた姿へと変貌を遂げている。
赤く染まった瞳が、内に渦巻く狂気を現している。
猪旗「殺ス・・・殺スゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」
大刀を握り締め、天に向かって吼える猪旗。
そのまま、屠るべき“敵”を求めて走り出す。
鳥兜「まァ・・・精々暴れてくれや。
この屋敷から、俺以外の命が消え失せるまでな」
暴走する猪旗には、敵も味方も無い。
最悪の引き金を引いた男は、その結末を想像して愉悦に満ちた笑みを浮かべた。
軍隊蟻の如く集まった褐色鎧の忍者達は、
手に備えた鋭利な爪を光らせ、真撰組へと襲い掛かる。
その顔には般若を模した赤い面が被せられ、口元は覆面で覆われている。
両目共に開かれておらず、左目のみが赤い輝きを放っている。
その様は、まさに小鬼の集団のようであった。
総悟「たく・・・次から次と・・・」
隊を指揮しつつ、飛び掛ってくる忍者を刀で迎撃しながら、
総悟は強い違和感を覚えていた。
“気配”が無い。
それは、意図して隠しているのではなく、
殺気や闘気といった、“意”が全く感じられないのだ。
不気味な敵ではあるが・・・
技量においては、真撰組一番隊隊長・沖田総悟の敵ではない。
爪の一撃を、刃の腹で打ち払う総悟。
そのまま返す刀で忍者の肩を袈裟懸けに切り裂く。
忍者は断末魔の叫びも上げず、無言で崩れ落ちる。
叫び声どころか・・・その傷口からは、一滴の血も流れなかった。
その代わりに、宙を舞った一本の螺子を見て、総悟は忍者の正体を看破する。
総悟「こいつら・・・絡繰(からくり)かィ?」
<万寿菊>が抱える乱波集団“鬼忍衆”・・・
およそ人間の理を越えた術の数々を操る手錬で構成され、
密かに恐れられているが・・・
彼らには、甲賀・伊賀など他の忍者集団に例を見ぬ特徴があった。
それが、この“鬼忍”・・・別名“機忍(きにん)”・・・
機械にて造られし絡繰人形で、忠実無比なる兵士である。
元は<雛>を作り出す戯術の過程で生み出された副産物(スピンオフ)だが・・・
それでも、当時の戯術水準と比べると、遥かに精密かつ俊敏な動作を行う事ができた。
その能力は、甲賀伊賀の下忍クラスと大差ない。それどころか・・・
総悟「!!」
総悟は咄嗟に身を引いた。
致命傷を与えたはずの鬼忍が、再び総悟へ向かっていったからだ。
刀を構えなおし、今度は頭上からの唐竹割りを打ち込む。
鬼忍は真っ二つになり、今度こそ完全に動きを止めた。
総悟「ち・・・絡繰だけに、バラバラに“壊す”まで止まらねェって事かい・・・」
見れば、他の隊士もこの鬼忍には苦戦している。
多少腕や脚を斬り飛ばした程度では、その動きを止めないのだ。
116
:
藍三郎
:2008/06/01(日) 21:54:39 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
見れば、白煙も少しずつ薄らいでいる・・・
だが、広くなりつつある視野を見渡せば、
既に相当数の鬼忍が屯所内に忍び込んでいる事が解った。
これでは、この場をやり過ごす事は元より、
建物内で戦っている者達・・・局長・近藤の身も危うくなる。
総悟「・・・やれやれ、土方さんがちゃんと働いてくれればいいんですけどねィ。
まさか、もうやられちまったなんて事は・・・」
僅かに顔を伏せた総悟に対し、三体の鬼忍が一斉に飛び掛る。
高速で、鋭利な爪が総悟目掛けて迫り来る―――――――
総悟「そン時は・・・・・・」
総悟が顔を上げた瞬間・・・
白刃が、夜空に煌いた。
総悟「腹ァ抱えて、笑ってやるかィ」
黒い笑みを浮かべ、舌で唇をぺろりと舐めると・・・
一瞬で修復不可能なまでに切り刻まれた鬼忍の残骸が、地面へと落下した。
重苦しい空気を断ち切るような総悟の一閃に、真撰組の仲間も息を飲む。
総悟「土方だけをアテにはできねェ。
早いとこ、俺が近藤さんを助けに行かねェと・・・」
士気も新たに、鬼忍を殲滅せんとする総悟だったが・・・
「うおおおおおあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
白煙が晴れつつある夜空に、獣の如き咆哮が轟いた。
「な、何だぁ?」
原田「熊か・・・!?」
元より屯所内に熊がいるはずはない。
だが、あの声は人間とは思えぬ程獣染みていた。
先ほどまで白煙で見えなかった方向から、巨大な影が現れる。
その姿に、真撰組も練武館も一様に驚愕する。
それは、魔物と変わり果てた猪旗豪次郎だった。
猪旗「ううう・・・うううう・・・・・・」
上半身の筋肉が異常に隆起し、両腕は大木の幹のように太くなっている。
その形相は、およそ人のものとは思えぬ程、憤怒に歪んでいた。
猪旗「俺は・・・俺はぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・」
太刀を握り締める猪旗。
身の丈ほどの大太刀も、今の猪旗には小さくすら見える。
「い、猪旗どの!!」
「一体、どうなされたのだ!?」
恐る恐る、猪旗の下へと駆け寄る門弟たち。
だが・・・
猪旗「あ、あ・・・貴様らぁぁぁぁぁ・・・」
猪旗は、狂気に濁った赤い瞳を門弟たちに向けると・・・
猪旗「貴様らも・・・佐脇と同じ・・・
裏切り者かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
大剣が虚空を薙ぐ。
それと同時に、駆け寄った二人の門弟の生首が宙を舞った。
猪旗「裏切り者はぁぁぁ・・・ゆ、ゆ、許さぁぁぁぁん!!!」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
正気じゃない・・・バケモノだ・・・・
転がる仲間の生首を見て、恐怖は一気に伝染する。
怖れをなした門弟たちは、脱兎の如く逃げ出すが・・・
猪旗「き、貴様らぁ・・・どこへ行くぅぅぅぅぅぅ!!!」
筋肉で固められた巨大な足で、大地を蹴って跳躍する猪旗。
宙へ舞い上がった巨体が、逃げ出す門弟目掛けて落下する。
猪旗「敵前逃亡はぁぁぁぁ!!士道!!不覚悟ぉぉぉぉぉぉ!!!!」
鉄柱の如き脚が、門弟の一人に激突する。
首の骨が折れる・・・などと生易しいものではなく・・・
頭蓋骨ごと、男の頭部は完全に“踏み潰された”。
猪旗「グフ・・・グフフフフ・・・塾長ぉ・・・
また一人ぃ・・・士道に背くものを屠りましたぞぉ・・・!!」
地面に着地した猪旗を見てに、門弟たちは一斉に腰を抜かして動けなくなる。
117
:
藍三郎
:2008/06/01(日) 21:55:32 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
「ど、どうなってんだ?」
原田「あいつ、完全にイカれてやがる・・・」
「お、おい!あいつがこっちを見るぜ!!」
猪旗豪次郎の狂気の眼は、敵である真撰組に向けられた。
猪旗「真・撰・組ぃぃぃぃぃ・・・・・・
下級武士の分際でぇ、身の程も弁えぬ振る舞いを繰り返しぃぃぃ!!
武士の品位を落とした罪は重いぃぃぃぃぃ!!!
よってぇ!!この練武館が師範、猪旗豪次郎がぁぁぁぁ!!成敗いたすぅぅぅぅ!!!」
総悟「正気を失っていても、その凝り固まった差別意識だけは健在かい・・・
お前ら、ちょっと下がってろィ・・・これは隊長命令だ」
自分以外には手に負えそうもない。
そう判断した総悟は、集団でかかって無駄な犠牲を出すより、
自分一人で決着をつける道を選ぶ。
総悟(あの怪力に、バカでかい刀・・・
まともに刀で受けたら、刀ごと真っ二つにされて俺もお陀仏だ・・・
それなら・・・・・・)
悠長に思考する暇などあるはずもなく・・・
猪旗「くたばれィ、真撰組ィィィィィィィィィ!!!!」
猪旗豪次郎は、その名の通り猪の如く突っ込んできた。
総悟「はッ!バケモノみたいになっても、
戦い方は変わってねェなぁ、タラコゴリラ!!」
猪旗「ほぅざけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
怪腕から繰り出される大剣の一撃は、
かつて彼が放った振り下ろしとは次元が違っていた。
刃が地面を抉り、砕き、大きな溝を穿つ。
岩片が周囲に飛び散り、それが真撰組隊士にも被害を及ぼす。
だが・・・・・・
総悟(でかいだけで小回りが利かない・・・
その弱点は変わってねェ・・・むしろ、前より隙だらけだぜィ!)
素早く猪旗の一閃をかわした総悟は、
側面へと回り込み、腹部目掛けて突きを放つ。
その一撃は、肉を抉り、臓物まで到達して猪旗豪次郎の命を穿ち通す・・・
はずであったが・・・
総悟「!!?」
沖田総悟の剣は、内部へ届く事無く、“肉”の部分で止められていた。
鋼鉄の如き筋肉が・・・総悟の剣を絡め取り、動きを封じる。
猪旗「無駄!無駄!!無駄ぁ!!貴様ら田舎侍の剣などぉ!!
蚊に刺されたほどにも感じぬわぁぁぁぁぁっ!!!!!」
振り回される巨腕。
喰らえば一撃必殺の鉄拳が、総悟の姿をなぎ払う。
若き真撰組隊長は、いとも軽く弾き飛ばされていった。
「「「沖田隊長ぉ――――――――っ!!!」」」
真撰組隊士たちの悲痛な叫びが木霊する・・・
猪旗「グフフフフ・・・!!!
練武館こそぉ・・・天下最強ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
刀を突き上げ、狂乱の魔人は、夜空に向かって咆哮した。
118
:
鳳来
:2008/06/07(土) 15:46:25 HOST:menet70.rcn.ne.jp
猪旗「グフフフ・・・真撰組めぇ・・・根絶やしにしてくれるぞぉぉぉぉぉ!!!」
沖田を軽くあしらった猪旗は次の獲物を求め、血走った目で真撰組に襲いかかろうとした瞬間・・・・
蓮丸「ああ、お取り込み中かよ。たく・・・・・面倒な事になってるよな」
猪旗「ぬぅ?!」
ふらりとこの修羅場に似つかわしくない飄々とした青年・・・・・蓮丸によって、気勢をそがれ、その場に留まる事になった。
原田「む?な、何だお前は?」
隊士「まさか、練武館じゃ・・・」
一方の真撰組の面々も、蓮丸が此処に現れた事情を知らないため、戸惑いの表情を見せていたので、やれやれと言った感じで、説明をする。
蓮丸「あ〜味方だよ、一応。後、万姫からの伝言だ。<朝方までに蹴り付けないと・・・・・処刑だ>とのことだ。」
原田「ま、万姫様の!?」
隊士「しょ、処刑って・・・(ゴク」
思わず息を呑む真撰組の面々――――普通、部下がピンチの時に、さらに逆境に追い詰めるって、どんだけ、サディストなんですか!!!
蓮丸「とりあえず、全裸で街中フルマラソン(72時間耐久仕様)とのことだから。ちなみにこれは、一番軽いやつだから。」
原田(それで、一番軽いのか・・・!)
そんな伝言に戦慄というか恐怖のどん底5秒前な真撰組の隊士であったが、ここにきて、存在がエアー化してきた猪旗が気をとりなおして、再び咆え狂った。
猪旗「さっきから何をぶつぶつと・・・命乞いなら聴かんぞぉぉぉぉ!!武士ならばぁ、潔く死ねぇ!!!」
蓮丸「ん?ああ、それから・・・・あんたからも万姫から伝言頼まれたんだ。」
猪旗「ああああ!?何だ貴様はぁ!!貴様も芋侍の仲間かぁ!!」
蓮丸「ん?正確には違うけど・・・・よく聞いとけ・・・・・・<お前は要らん。とっと死ね、薄汚い生きる価値もないタラコゴリラ>だとよ」
猪旗「あ・・・・・ぎ・・・ぎ・・・・き、貴様ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
自分を無価値と断じた万姫への怒りかそれともただ単純に自身の悪口に過敏に反応したのか組の隊士らには目もくれず、太刀を振るって、蓮丸に襲い掛かった。
119
:
鳳来
:2008/06/07(土) 16:12:45 HOST:menet70.rcn.ne.jp
だが・・・・・
蓮丸「砲華流・・・・・・辰口」
それを冷めた目で見ていた蓮丸は猪旗の刀を背中越しに避け、両腕の二の腕と肘の部分を使って背骨を軸に、刀をへし折った。
猪旗「あ、ああ・・・あぐぐぐぐぐぐ・・・・・!!!」
自分の刀を・・・しかも、素手の相手に折られ、あっけに取られるも、それはすぐさま、忌々しげな唸り声に変わった。
原田「何と・・・あの大刀を砕き折るとは・・・」
総悟「へェ・・・誰かと思えば、万事屋の旦那とよくつるんでる奴じゃねーの」
隊士「お、沖田隊長!」
何事もなかったかのように平然と一連の流れを見ていた総悟・・・実際、あの猪旗の一撃を受けた際には、自ら吹っ飛び、体へのダメージを防いでいた。
蓮丸「起きてたのか、サド王子。なら、きっちり、働けよ・・・・・・とりあえず、俺はこいつをやるから。」
総悟「じゃ、お言葉に甘えて・・・半分はここに残れ、半分は俺についてこい」
隊士「はっ!」
言いうが早いか総悟は数名の隊士を引き連れ、建物内へとはいっていった。
猪旗「貴様ァ・・・よくも俺の刀を!!武士の魂をッ!!練武館のた、たましいをぉぉぉぉ!!けぇがしおったなぁああああああああ!!!!」
一方、猪旗のほうは、自分の刀をへし折った蓮丸にしかめもくれず、大声を上げて、喚き散らす。
その様子を見た蓮丸は、ヤレやレと言った表情で、首を振った。
蓮丸「刀が武士の魂ね・・・・・・・俺にしたら、刀ってのはただの道具にすぎないけどな。」
猪旗「フン!!所詮!下賤な屑ごときに、武士の心魂が解るはずも無いか!!」
蓮丸「只の道具を心だとか魂だとか抜かしてる時点で、お前は本質を分かっていない。」
そう・・・・刀は道具に過ぎないのだ。
それを蓮丸に教えてくれたのは、自分の師匠であり、育ての親であり、そして・・・・初めて自分が人を殺したあの男と、もう一人、木刀片手に厄介なことに突っ込んで行く白髪の夜叉であった。
故に、蓮丸は、断じるーーーー貴様が侍を語る資格は無い!!!
蓮丸「てめえは、ただ、侍の猿真似をしているだけの、只の下衆だ。」
猪旗「な、な、な・・・生意気なァ!!俺は練武館が師範、猪旗豪次郎だぞぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
120
:
藍三郎
:2008/06/12(木) 06:01:51 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
・・・・・・・・・・・・・・・・
「お、お許しください!お侍様・・・ぐはぁっ!!!」
振り下ろされた太刀が、怯える町民を脳天から真っ二つにする。
猪旗「ふん!!武士の魂を汚した罪は重い!!身分の差を弁えよ!!」
(酷いな・・・)
(たまたま泥を刀の鞘に引っ掛けただけで手打ちとは・・・)
猪旗のあまりに酷い仕打ちに、町民達もひそひそ声で言葉を交わす。
猪旗「貴様ら!何ぞ言いたい事でもあるのか?」
猪旗にそう恫喝された途端、町民達は怯えて、
頭を下げた後蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
猪旗「フン!!」
自分に刃向かう者は尽く斬り伏せてきた。
その結果、皆が自分を恐れ、畏怖の眼で見るようになっていった。
そうでなくてはならぬ。
民の怯える姿が、猪旗の自尊心を大いに煽り立ててくれる。
それは彼にとって、何者にも勝る喜びだった―――――
直輔「・・・・・・・・」
直輔が駆けつけた時・・・既にその屋敷は血の海と化していた。
屋敷の主は元より、集まっていた一族郎党は、
幼い子供も含めて残らず斬殺されている。
この一家には、攘夷志士と内通していた容疑が掛けられていた。
幕府への叛逆は重罪・・・
しかし、それに加担したかどうか解らぬ幼子まで皆殺しとは、
幕府の人間でも顔をしかめる所業だった。
直輔自身の顔は、いつも通りの鉄面皮で、
その内に何を秘めているのか読めない。
この家の主が、彼の妻の親族であっても・・・
猪旗「おお!!塾長!!」
野太い声をあげ、猪旗豪次郎が現れた。
太刀についた鮮血からして、住人に手を掛けたのはこの男に違いない。
猪旗は、縄で縛った一人の女を引きずっていた。
猪旗「御覧くださりましたか!!
攘夷浪士と通じる謀反人の一族、尽く手打ちにいたしました!!
直輔「・・・・・・」
猪旗豪次郎・・・この男は、練武館の師範にして、
直輔の右腕ともいうべき使い手だ。
彼は直輔の剣技と思想に心酔し、
練武館の理念に従って、古き時代の侍たらんとしている。
だが・・・『武士道』を崇拝するあまり、それを曲解している節がある。
元々粗暴な性格だったのが、『武士道』という理念を得た事で
さらに凶悪化した侍・・・それが猪旗豪次郎という男だ。
直輔「・・・そうか」
それだけ言って、直輔は猪旗が連れてきた女に眼をやる。
彼女こそ・・・直輔の妻に他ならなかった。
惨劇のショックからか、顔はげっそりとやつれ果て瞳は虚ろである。
猪旗「おお!この女ですか?
事もあろうに、塾長の妻でありながら、塾長を裏切った憎き女。
こやつだけは、塾長御自ら討たれたいと思いましてな!!」
直輔「・・・・・・そうか」
女の眼からは、一切の感情が読み取れない。
自分を怨んでいるのか、それとも・・・・・・
猪旗「グハハハハハ!!!大した事ではございませぬ!!」
猪旗は褒められたと思ったのか、高笑いを上げる。
彼は、自分の行い全てが塾長の為になると、本気で信じ込んでいるのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
121
:
藍三郎
:2008/06/12(木) 06:02:45 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
猪旗の脳内は、目の前の男への怒りで沸騰しそうだった。
自分は誇り高き練武館の師範。
練武館の理念を体現する、侵すべからず存在。
それが・・・このような何処の馬の骨とも知れぬ輩に侮辱されるなど・・・
あってはならぬ事だ。
鳥兜に脳から注入された麻薬が、彼の激情をさらに煽り立てる。
彼の場合、理性を失うのではなく・・・
凶悪な本性をさらに助長させる効果を発揮したようだ。
猪旗「貴ぃ様らぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
「ひっ!!」
猪旗「刀を、寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
豪腕が唸り、背後にいた二人の門弟の顔面を血色の柘榴に変えた。
そのまま刀を奪い取り、二刀を握り締めて突進する。
蓮丸「たく、やりたい放題だな・・・武士の誇りとやらは何処へ行ったんだよ」
猪旗「だぁぁぁまれぇぇぇぇぇっ!!!
俺が・・・俺が練武館だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
歪んだ信念に取り付かれた武士は、暴悪の肉獣となって押し寄せる。
猪旗「消ぃぃぃぃぃえ失せいぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいッ!!!」
一方・・・
総悟「ち、こいつら・・・・・・」
屯所内に戻った総悟達を、再び絡繰の忍者が襲う。
危惧した通り、既に彼奴らは屯所内部に侵入していたようだ。
総悟(・・・近藤さんが、こんな奴らにやられるとは思わないが・・・)
先に侵入した橋本直輔の事もある。
今は、一刻も早く合流する事が先決だ。
軽く絡繰忍者を片付けて、先を急ぐその時・・・
「おい、総悟・・・」
何者かに呼び止められ、総悟は足を止める。
回廊の奥から、よく見知った人物の顔が見えた。
総悟「土方さん」
土方「やれやれ、ようやく合流できたか・・・」
如何なる事か・・・
目の前に現れたのは、深手を負い縄で縛られていたはずの
真撰組副長・土方十四郎だった・・・・・・
122
:
鳳来
:2008/06/14(土) 10:18:44 HOST:user1.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・
蓮丸「練武館の称号だけで、強いつもりかよ・・・・本当にーーーー」
二本の刀を振り回し、猛り狂う猪旗を前に、蓮丸は拳を握り、右腕を構え、静かに見据える。
一切の同情もなく、一切の容赦もなく、一切の手加減もなくーーーー完全に完膚なきまでに倒す。
蓮丸「救いようがねえよ。まあ、閉めは万姫に任せるけど・・・その前に、あんたは八つ裂きになってそうだけどな。」
猪旗「黙れェえええええ!!!貴様なんぞ、八つ裂きにしてくれわーーー!!!」
先ほどは、油断して、刀を折られると言う不覚をとったが、今度は二本・・・先ほどの技は通用しない。
一応、麻薬による興奮作用により、著しく知力が低下していた猪旗の策であったが・・・・
蓮丸「メインアーム、セットーーー完了。」
その言葉を放った蓮丸の右腕からは、血の気が一気に引き、まるで鋼鉄のような鉛色へと変化した。
もし、この場に斎藤がいたならば、肩を通る動脈を上腕筋から烏口金にかけて異常に発達した筋肉が圧迫させ、まるでバルブのようにコントロールしているということに気付いただろう。
そして、それの意味する事も・・・・・
猪旗「ぬう!?」
その異様な光景に猪旗は一瞬怯むが、構わず蓮丸に斬りかかる。
それは、信念からでも、本能からでもなくーーーただ、こいつを斬り捨てるという殺人欲求と命の危機を味わったことのない無知さであった。
蓮丸「法華流奥義の一・・・・・」
だが、そんな直線的な斬撃を最小限の動きでかわし、一気に懐に潜り込む。
銃の撃鉄を上げるようにセットされた蓮丸の腕は、そのバルブ機能により腕の血流が止まり、血を失った腕の筋肉は圧縮されたバネのように急激に収縮する。
そして、腕の引き金を引き、再びバルブが解放され、強靭な心臓から爆発的とも言える血が送り込まれた時ーーーー
蓮丸「六慟燐音っーーーー!!!」
蓮丸の拳は、全てを撃ち貫く完全無欠の弾丸へと進化する!!!
123
:
鳳来
:2008/06/16(月) 23:15:16 HOST:user1.mmnet-ai.ne.jp
蓮丸「一の弾・地獄壊!!!」
ガァン!!!
蓮丸の拳が、猪旗の鍛えられた肉の鎧にめり込み、右脇腹が鈍器で殴られたような鈍い音が響く。
猪旗「がぁあああああああーーーー!!」
体を撃ち抜かれたと言う激痛が、猪旗の全身に掛け周り、両手に持った刀を思わず落とす。
だが、まだ終わらない・・・・・残り5発の弾丸はまだ発射されていない!!
それを示すかのように、蓮丸は体を回転させ、次なる弾丸の発射体勢に入る。
蓮丸「弐の弾 餓鬼壊!!」
ガァン!!!
猪旗「うごぉ!!?」
蓮丸「参の弾 畜生壊!!!」
ガァン!!!
猪旗「げぇ!?」
蓮丸「四の弾 修羅界!!!!」
ガァン!!!
猪旗「げふぅ!!!」
この間、計3発・・・・合計4発の蓮丸の拳が某立ちとなった猪旗の体を撃ち貫く。
蓮丸「五の弾 人壊!!!!!!」
猪旗「な、舐めルナァーーーーーーーー!!!!」
だが、脳内麻薬の作用か、痛みを無視したかのように猪旗は体勢を立て直し、拳を振りおろし、蓮丸の拳に真っ向からぶつかっていく。
そして、二人の拳が激突した時・・・・猪旗の拳は蓮丸の拳を受け止めた。
蓮丸「・・・・・・」
猪旗「がははっははは!!!ど、どうだ、うけどめっぇえええええええ!!?」
・・・・かに見えたが、ワンテンポ遅れて、受け止めた拳はもちろんの事、腕の骨まで、後に飛ばされるかのように一気に粉砕された。
そして、蓮丸が最後の回転からーーーーー六発目の拳が放たれる!!!
蓮丸「逝きな・・・・これが地獄への渡り銭だ。」
猪旗「ひいぃいいいいいいい!!!!」
それでも、猪旗は、苦し紛れに、両腕を交叉させ、蓮丸の攻撃を防ごうとするが・・・・如何に鋼のごとく鍛えた筋肉を持っていようと、弾丸と化した蓮丸の拳は防ぐすべはない!!
蓮丸「最終弾丸ーーーー天 壊!!!!」
ーーーガァギアアアアアアアン!!!ーーーー
猪旗「ガギャラアアアアァあああああああーーーー!!!」
最後の弾丸は、見事に猪旗の顎を撃ちぬき、猪旗が白目をむいて、顎から大量の血を噴出し、まるで土下座をするように膝から崩れ落ちた。
蓮丸「命はとらねえよ・・・・本当の地獄はこれからだからな。」
124
:
藍三郎
:2008/06/21(土) 12:05:04 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
一方、屯所内では・・・
土方「よぅ、総悟。何でここにいるんだ?お前の持ち場は外だったはずだろ?」
総悟「ああ、近藤さんが心配になって
いても立ってもいられなくなりやしてね。
あっちの方は、心強い助っ人に任せてありまさぁ」
土方「そうかい・・・まぁいいぜ。すぐに近藤さんと合流しようぜ」
“土方の声”で喋りつつも・・・
その中身・・・鳥兜は、心の底でほくそ笑む。
この男は土方十四郎ではない。
彼そっくりに変装した、万寿菊の忍・鳥兜だった。
鳥兜(我ら“万寿菊”の情報網を持ってすれば、
真撰組(きさまら)の人相書きや個人情報を手に入れる事など容易い事・・・
この“覆面”は・・・毒針と同様、
その情報を元に“夜叉”の連中に作らせたものよ)
加えて、鳥兜は自らの変身術に自信を持っていた。
つい先ほども、佐脇久信の姿で練武館の面々を完全に欺いたところだ。
鳥兜(このままこいつの姿で同行し・・・隙を突いて葬ってやる!
万が一本物が現れても・・・どちらを狙って良いか一瞬迷うはず・・・
忍者の俺に、その隙は致命的なものとなる!!)
あくまで真正面からではなく、姑息な手段を取る。
これが鳥兜の流儀であり、彼の強さを証明する最良の手段だった。
総悟「ところで、土方さん・・・」
土方「ん?どうした?」
総悟「土方さんの一番好きな食べ物って、何でしたっけ?」
土方「おいおい、今そんな事聞いてる場合か?」
総悟「すいやせん。けど、どうしても気になって・・・」
感づかれたか・・・?いや、そんなはずは無い。
大方、漠然とした疑いを抱いている事は確かだろう。
仲間内だけで知っている情報を聞いて、確かめようとする魂胆だ。
そうはいかない。
土方「はっ、マヨネーズに決まってるだろ?」
マヨネーズ型のライターで煙草に火をつけると、
“土方”の姿をした鳥兜は、“彼”らしくぶっきらぼうに答えた。
鳥兜(莫迦め。その程度の情報は既に収集済みよ)
万寿菊の持つ情報は完璧だ。僅かな綻びさえも無い。
総悟「そうですか・・・では・・・」
納得したかのように見えた総悟・・・だが・・・
次の瞬間、彼は刀を抜き放ち、土方に斬りかかっていた。
咄嗟に回避する土方・・・いや、鳥兜。
土方「て、てめぇ!何を!!」
そんな発言には耳を貸さず、沖田の剣は尚も鋭さを増して土方を襲う。
やがて、その剣は彼の頬を切り裂き・・・
“覆面”の下にある、彼自身の皮膚を露にした。
事の真相に気づいた隊士達は、一斉に声をあげる。
総悟「あれ?土方さん、どうしたんですかィ?
そんな“不細工”な覆面を被って・・・」
鳥兜「・・・いつ、気づいた?」
皮肉と捕らえたのか・・・土方ではない、鳥兜の口調で問いただす。
俺に失策は無かったはずなのに、どこでバレたのか・・・
それがどうしても解らない。
沖田の答えは、鳥兜の想像を遥かに上回るものだった。
総悟「あ・・・いや、本当に敵だったんだ・・・
へぇ・・・瓢箪から駒ってのはこの事さぁね」
と・・・今正体を知ったような口調で言ってのける沖田。
鳥兜「な、何ぃぃぃぃぃぃ!?」
総悟「さっきの事もあるし、
“とりあえず”斬ってみたけど・・・まさか本当に偽物たぁ・・・」
沖田総悟は、相手が偽物かもしれない・・・その一点だけで刃を向けたというのだ。
鳥兜「万が一・・・本物の土方十四郎だったら・・・どうする気だったんだ?」
総悟「いや、土方なら別にいいかな〜って・・・」
鳥兜(ありえねぇ・・・何なんだコイツ・・・イカれてやがる。本当に侍か!?)
淡々とそう呟く沖田を、鳥兜は畏怖の視線で見やる。
125
:
藍三郎
:2008/06/21(土) 12:05:46 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
総悟「ま・・・偽物と解ったなら、容赦はしねぇ。
アンタが何者か知らないが・・・これ以上、ここで好き勝手はさせねぇぜ」
他の隊士たちも白刃を抜く。
鳥兜「く・・・くくくくく・・・」
鳥兜は顔面の皮を完全に剥ぎ取って、素顔を露にする。
鳥兜「調子に乗るなよ・・・この木偶侍どもがァ!!」
切りかかる真撰組の前に、
蛇の如くしなる鎖が飛び出て、行く手を塞ぐ。
鎖に繋がれた十字手裏剣が宙を舞い、
隊士二人の肩口を切り裂き、頸部を寸断する。
鮮血が回廊を染め上げる。
総悟「ち・・・伏せろ!!」
残る隊士たちが伏せた途端、頭上を十字型の刃が通り過ぎていく。
その隙を突いて、総悟は一人鳥兜へと突き進む。
鳥兜「ハッ、甘いぜ!!」
鎖は空中で角度を曲げ、総悟の背後から飛来する。
総悟「!!」
彼は咄嗟に刀を後ろに掲げ、十字手裏剣を弾く。
総悟「ちっ・・・」
手の僅かな動作だけで変幻自在の動きをする鎖十字手裏剣。
その熟練度は十分脅威に値した。
総悟(ただのコソコソ動き回るだけのゴキブリ野郎かと思ってたが・・・
意外にやりやがるじゃねぇか・・・)
距離を取った鳥兜は指をパチンと鳴らす。
数体もの絡繰兵が落ちてきて、沖田たちの前に立ちはだかった。
鳥兜「くっくっく・・・正々堂々やるなんざ俺の流儀じゃねぇ。
予定変更だ。まずは局長・近藤の屍を晒してやる!」
そう言って脱兎の如く遁走する鳥兜。
総悟「げ、また逃げるのかィ」
追いかけようとした総悟だが、鬼忍の邪魔にあってはそれもままならない。
また、鳥兜が去り際に残した一言は彼の心を戦慄させるに足りた。
総悟「まずいな。あのお人よしの近藤さんの事だ。
あいつの変装にあっさり騙されて殺られちまうなんて事も・・・」
他の隊士に、負傷した隊士の応急処置を任せ・・・
自分は一人絡繰兵の群れへ突っ込んでいく。
鳥兜「さぁて、近藤勲はどこにいる?
次は、沖田総悟(あのおとこ)にでも化けて・・・」
だが、彼はまだ知らない・・・
この戦場に紛れた異分子は、自分だけでは無い事を・・・
疾走する鳥兜に・・・漆黒の影が覆い被さった。
鳥兜「!!」
音も立てずに奔る刃を、咄嗟に身を逸らせてかわす鳥兜。
跳躍する二つの影が交錯し、距離を開けた位置へと互いに着地する。
虚蝉「見つけた」
鳥兜「あぁ!?」
月明かりが差す裏庭に、一人の刀を携えた男が立っていた。
深緑色の髪を後ろで縛り、刀を握って立つ姿は、そのものずばり“侍”を思わせる。
洋風の白色のコートは、真撰組でも練武館の物でもない。
126
:
鳳来
:2008/07/04(金) 23:25:01 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・
=真撰組・客間=
直輔が土方に自分の感情を吐き出したちょうどその時、六畳先のふすまの向こうから、こちらに駆けて来る足音が聞こえてきた。
直輔「・・・・・・来たか。」
先ほどの感情をむき出しにした男とはおもえないほど、すぐさま直輔は普段の表情に戻る。
それと同時に、向こうのふすまから、土蔵に残された書置きから此処に辿り着いた近藤と護衛役の光覚と斎藤が蹴りこんできた。
近藤「歳っーーーー!!!無事か、今から助けるぞ!!!」
鎖に縛られ、血塗れになった土方を目にした近藤は、わが身も振り返らず、駆け寄ろうとする。
・・・・刀に手を掛け、縦横無尽に飛び来る斬撃の結界をはなたんとする直輔にも気付かず。
土方「ば、馬鹿野郎!!!来るんじゃねぇーーーー!!!」
斎藤「光覚!!!近藤を、止めろ!!」
チャリン!!
重傷を負いながらも、死地に飛び込もうとする近藤を止めようとする土方の叫びも間に合わず、居合い結界の間合いに近藤が入った瞬間、鍔鳴りがなり、近藤を切り捨て・・・
光覚「こんどうにいちゃん、ごめんーーー!!!!」
近藤「へっ、ぐぶく!!!!?」
直前、一瞬早く、斎藤の声に反応した光覚が、近藤の着物の襟首を片手で掴み、後へ投げ出した。
そして、そのままの勢いで、近藤は入ってきた襖から飛び出し、背中から柱に激突した。
光覚「こんどうにいちゃん、大丈夫・・・?」
斎藤「まあ、あの程度なら大丈夫だろう。あの娘の報復に比べたら、物の数ではないだろう。」
土方「お前ら、護衛の意味を分かってねぇだろ!!!!」
斎藤「まぁ・・・・それは、置いておくとして・・・随分と厄介な代物だな。」
土方の言葉をスルーした斎藤は、難攻不落の居合い結界を構える直輔を見据える。
間合いに入る全てを斬り捨てる斬撃と斬撃からの逃げ場のない限定空間が僅か六畳先の敵がはるか遠くに感じる
127
:
藍三郎
:2008/07/06(日) 12:11:36 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
=真撰組屯所=
虚蝉「・・・“万寿菊”の人間だな?」
鳥兜「!!!」
白装束の侍は、開口一番こう言い放った。
鳥兜の心拍が跳ね上がる。
万寿菊・・・その名は、幕府の高官でもほんの一握りしか知らないはずだ。
真撰組・練武館の者達も、自分たちの事は知らないはず・・・
ならば・・・
鳥兜(奴も俺と同じ・・・裏の世界の人間ってわけか?)
鳥兜「そうだなぁ・・・万寿菊ってのは・・・・・・!」
会話の途中で、いきなり鎖十字手裏剣を放つ鳥兜。
虚蝉は少しも気づいた様子は無い。
このまま、すぐに殺れると踏んでいたが・・・
一瞬、虚蝉の前で刃が煌く。
刀身の見えない抜刀で、中空の手裏剣を叩き落したのだ。
鳥兜「な・・・」
虚蝉「・・・なるほど、今の行動・・・肯定と見なす」
刀を水平に持ち、夜を駆ける一陣の風となる虚蝉。
鳥兜(くくく・・・少しは腕が立つみたいだな・・・
だが、今の一撃・・・わざと弾かせた事に気づかねぇのか?)
手先の微妙な動きで、宙に浮いた鎖手裏剣を操作する。
曲がりくねった手裏剣は、背後から虚蝉へ襲い掛かる。
虚蝉「・・・・・・」
彼は振り向く事もせず、刀を後ろにかざし、手裏剣を受け止める。
だが、それもまた鳥兜の狙い。
大きく弓なりにしなった鎖が、虚蝉の脇腹目掛けて迫り来る。
鳥兜(もらった!!)
刀でも斬れない南蛮渡来の特殊合金製の鎖だ。
直撃すれば、軽く肋骨を砕き、内臓にまで衝撃を与える。
虚蝉の視線は動かない。
瞬き一つせず、眼前の鳥兜だけを見つめている。
それでもなお・・・彼の感覚器は、
周囲の音から空気に至るまで全てを知覚していた。
戦斗に特化した精神構造を持つ虚蝉にとって、
視覚などは状況把握に必要な感覚の一つに過ぎない。
視覚で眼前の敵を認識しながら、
聴覚や触覚で戦場を完全に把握する事が出来るのだ。
ゆえに・・・
今回の危機も、腰にぶら下げたもう一本の武器・・・
刀の鞘で、鎖を巻き取る事に成功した。
鳥兜「な!?」
同時に、力強く鎖を引っ張る虚蝉。
鳥兜は咄嗟に手を離したが、
そうしなければ、引き寄せられて刃の餌食にされていたところだ。
鳥兜(この俺から武器を奪っただと・・・?
無能な侍の分際でぇ!!)
鞘をも武器として利用する戦法は、
鳥兜が知るどんな侍の流派にも無い戦法だ。
むしろ、あらゆる者を利用する忍に近い戦法といえるかもしれない。
得物である鎖手裏剣を奪い取った虚蝉は、一見丸腰の鳥兜に再び殺到する。
鳥兜「舐めるなっ!!」
鳥兜は背中に手をやると、そこからもう一つの鎖手裏剣を取り出す。
鎖をしならせ防御陣を作り、虚蝉の進撃を阻む。
彼の中で、苛立ちが沸々と湧き上がってきた。
罠に嵌めた相手から卑怯、姑息と罵られても、
所詮は負け犬の遠吠えと見なし、涼しい顔で流せるのが彼という男だ。
だが反面・・・自分の思惑通りにいかなくなると、
途端に頭に血が上りやすくなるのだ。
鳥兜「刻んでやるよ・・・侍ィィィィ!!!」
128
:
藍三郎
:2008/07/06(日) 12:12:42 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
一方、その頃・・・
武士「夘都木殿!真撰組屯所の包囲、完了いたしました」
夘都木「そうか・・・指示があるまで総員待機せよ」
武士「はっ!!」
幕府大目付・夘都木醒史郎の背後には、
銃器を備えた幕府の兵隊がずらりと並んでいる。
夘都木「とうとうこの時が来たか・・・
武士の規範を守り抜くのが練武館ならば、
その流儀に従い、せめて潔く幕を引こうでは無いか、直輔・・・」
彼の黒い瞳には、かつて師事した場所への
憐憫の情など、欠片も残っていなかった。
そして、闇に紛れて動く者達が、また・・・
月都「やっぱりね・・・
この期に乗じて真撰組と練武館の両方を潰す・・・
それが幕府の・・・いや、“あの男”の企みって事か・・・」
狐子「どないしますの?」
月都「彼らが突入した頃合を見計らって、僕らも行こう。
会ってみたい男もいるしね・・・」
来栖川月都は、薄っすらと笑みを浮かべた。
129
:
鳳来
:2008/07/26(土) 12:27:25 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
=真撰組・客間=
チャリンチャリンチャリンチャリンチャリンチャリンーーー!!!
客間に響きわたる鍔鳴りの音・・・・居合い結界<小鳥遊>に入りこんでくる者を切り刻まんとする。
斎藤「ちぃ・・・・どうやら、一筋縄ではいかんようだな。」
光覚「よけるので、いっぱいいっぱい・・・・・」
近藤「くそ、三人がかりでも、駄目か。」
何度か接近を試みるも、居合いの間合いに張りこんだ瞬間、斬撃の小鳥が近藤達の歩みを阻止する。
直輔「無駄だ。この居合い結界<小鳥遊>は、我が橋本家が戦国時代に作り出した奥義。たった一人で篭城することも可能だ。」
斎藤「随分と大した自信だな。このまま、貴様が餓死するまで追い込む事も、銃で仕留めること・・・貴様を倒す手段なら、他に・・・・」
直輔「だが、お前たちには、その時間という猶予すらあるまい。」
近藤「くっ・・・トシ・・・・・」
直輔の背後にいる血を流し続ける土方を見て、唇を噛み閉める近藤・・・・・これ以上時間が経過すれば、土方の命が危うい。
直輔「無様だな・・・・近藤。これが、俺が愛する者を斬り捨ててまで守った信念と誇りの力だ。」
そう断言する直輔だったが・・・・・
土方「何が、信念と誇りの・・・力・・・だよ・・・」
近藤「トシぃ!!喋るな。今、助けに・・・」
土方「聞けよ、近藤さん・・・・こいつはよぉ・・・・・とんだ勘違い野郎だぜ。」
直輔「何だと・・・・・」
不愉快気に瀕死の土方を睨み付ける直輔に、土方はそれにもおじず、直輔を罵倒する。
土方「愛する者を斬り捨ててまで、選んだ物だぁ・・・・・それを貶められただぁ・・・ちげぇだろ、てめぇが近藤さんにブチ切れてるのはよぉ・・・」
直輔「貴様、だま・・・・・!!!」
土方「てめえが、てめえの斬り捨てたモンが、てめえの士道って奴と同じくらい大切なもんだからだろうがぁ!!!」
直輔「っ黙れといっているのが分からないのかァ!!!!」
冷徹な仮面を拭いすて、憤怒の形相で、土方を殴りつける直輔・・・・そこには、侍の体現者という直輔はいなかった。
近藤「直輔さん・・・あんたが、俺を怒るのは分かる。俺だって、お妙さんをそんな風に言われたら、そんな奴ぶっとばすぜ。だけどよ・・・・」
刀を手にし、直輔と対峙する近藤にーーーーー直輔は戦慄した。
こいつは・・・誰だ・・・・?
これが、あの・・・近藤・・・だと?
近藤「けど、あんたのやってるのは、餓鬼がてめえの大事なモン壊されて、周りに八つ当たりしてるだけじゃねぇか!!だから、士道云々抜きにして、俺はあんたに・・・・勝ってみせる。」
そこにいたのは、万年変態ストーカーゴリラではなく、真撰組局長という魂を背負った近藤勲だった。
130
:
藍三郎
:2008/07/27(日) 14:47:47 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
=真撰組屯所=
鳥兜「しゃあッ!!」
鳥兜は、手にした筒を地面に叩きつける。
瞬間、先ほど沖田達の前でやった時と同じく、
濃い煙が一気に噴出し、辺りを包み込む。
虚蝉「・・・・・・」
虚蝉はこれに動じる事無く、即座に鳥兜に向かって走り出した。
勿論、毒だった時の事を考えてすぐに呼吸は止めている。
だが、一歩及ばず・・・刀を振り下ろした時には、鳥兜は姿を消していた。
周囲を見回しても、既に辺りは濃霧に包まれたように白一色の世界だ。
虚蝉(逃げたか・・・いや・・・・・・)
煙が毒では無い事を解ると、浅く呼吸を再開する虚蝉。
鳥兜の気配は感じない・・・姿を消すだけでなく、
己の気配をも完全に遮断している。
相手が手練の忍ならば、そのぐらいは朝飯前のはずだ。
だが・・・殺気だけは感じる。
殺気が煙に浸透して、万の針で肌を刺されたような感覚を覚える。
煙に紛れて奇襲を掛ける・・・大方そんな腹積もりだろう。
虚蝉「――――――!!」
程無くして、煙を切り裂いて旋回する刃が飛んでくる。
虚蝉は、背を逸らせてそれをかわすが・・・
直後、脚部に鋭い痛みが走る。
ふくらはぎ辺りの肉が避け、血が吹き出る。
もちろん、一々傷口を確認する暇など無いが・・・
再び、鎖手裏剣が襲い掛かる。
今度は刀で弾き返すが、やはり別方向・・・右肩へと傷を負ってしまう。
この時点で、虚蝉はこの現象の絡繰を見抜いていた。
鎖手裏剣を投擲すると同時に、飛び道具としての手裏剣も同時に投げる。
大型の手裏剣に気を取られれば、小型の得物の餌食にされる。
小型なので殺傷力は低いが・・・その分、煙に紛れて見えにくくなる利点がある。
虚蝉(その程度か―――――・・・)
三度襲い来る十字手裏剣。
本命が別方向から攻撃だという事は解っている。
今度は余裕を持って手裏剣を回避し、飛び道具による二撃目に備える。
だが・・・・・・
虚蝉「―――――――!」
手裏剣は刃で弾いたが、またも腰と左肩に傷を受ける。
今度は二箇所同時に・・・
しかも、それら二つの刃は、全く別方向から飛んできたのだ。
虚蝉(複数の敵がいるのか・・・?)
ここに来る前に、何体か絡繰の兵士を斬り倒して来た。
煙を放った隙に、そいつらを増援に呼び寄せるのは有り得る話だ。
しかし・・・如何に機械とはいえ、
いや、機械だからこそ、気配は察知できるはずだが・・・
あの忍は相当の手練だ。
ただの絡繰が、あのクラスの気配遮断能力を有しているとは考え難いが・・・
短い時間で思考する間も、時は流れる。
飛翔する十字手裏剣。弾き返した途端、今度は五箇所に出来る傷口。
虚蝉の身体は、時を経る度に傷ついていく。
鳥兜(くくく・・・どうだ。この鳥兜必殺の布陣・・・
『幻霧鎖縛(げんむさばく)』・・・
貴様はこの白き牢獄で、悶え苦しみながら死ぬんだよ・・・!)
虚蝉に察知されない位置から、鳥兜は密かにほくそ笑む。
鳥兜からも敵の姿は見えないが、
あの侍は完全に気配を遮断できていない。
ゆえに・・・鳥兜にはその気配を察知することが出来る。
鳥兜(これが侍と忍の力の差よ。
白い闇の中、どこから襲い来るか解らぬ恐怖に怯えるがいい・・・!)
己の絶対的優位に酔いつつ、鳥兜は五度目の十字手裏剣を放った。
鳥兜(そして・・・白き牢獄は、さらなる地獄を貴様に見せる事となる・・・!)
131
:
藍三郎
:2008/07/27(日) 14:49:20 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
元より、虚蝉に恐怖などは無い。
痛みは問題なく耐えられる・・・が、出血による体力の減少は避けられない。
虚蝉は、己の身体を実に的確に認識していた。
どの程度の出血、どの程度の負傷になら耐えられるか・・・
それを冷静に推し量った上で、早々に決着をつけなければ・・・
自分が負ける事も認識していた。
虚蝉「!!」
その時、肘の辺りに何か物が当たる感触がする。
それは・・・
虚蝉(そういうコトか・・・・・・!)
気づいた瞬間、“それ”は蛇のようにしなり、
虚蝉の身体に巻きこうとする――――――
鉄製の鎖。
上から俯瞰すればよく解るが・・・
屯所の庭は、縦横無尽に伸びる鎖が、蜘蛛の巣の様に張り巡らされていた。
こうなると、複数の手裏剣が別方向から飛んできた理由もハッキリする。
周囲に張り巡らせた鎖に手裏剣を反射させて、
複数の方向から飛んできたように見せかけたのだ。
さらに、庭全体を鎖で覆う事により、動きも封じ込める・・・
大小の手裏剣による二段重ねの攻撃は、
この“鎖の檻”を完成させるための時間稼ぎに過ぎない。
既に虚蝉の居る場所は、四方八方を鎖で囲まれ逃げ出す事も出来ない。
鳥兜(くくく・・・
これぞ我が忍法『幻霧鎖縛』の完成形・・・
後はこいつを一気に投げつければ・・・)
鳥兜は、両手に多数の手裏剣を携えている。
これらを一斉に投擲すれば、
計算された角度で張り巡らされた鎖によって、全て虚蝉のいる方向へと収斂される。
鳥兜(くたばれ!!!)
散弾銃の如く、扇状に手裏剣を投げる鳥兜。
全ての手裏剣は鎖によって跳ね、
ほぼ同時に虚蝉がいる場所へと押し寄せる――――!
鳥兜(これで・・・終わりだァ!!!)
最後は、自らの得物である鎖十字手裏剣でトドメを刺そうとする。
致命の一撃を放とうと、振りかぶったその時―――――――
鳥兜「―――――――――!?」
鳥兜の姿勢が、大きく崩れた。
それは、彼の意思によるものではない・・・
突然、足に絡みついた“何か”が、鳥兜の体勢を崩したのだ。
そして・・・白煙を突っ切って、突進してくる黒い影・・・
最上虚蝉の手は、既に腰の柄へ掛けられている。
鳥兜「き、き、貴様ァァァァァァァァッ!!!!」
そう叫んだ瞬間・・・
神速の抜刀が、鳥兜の両腕を虚空に刎ね飛ばしていた――――
両肩を襲う激痛を感じながら・・・
鳥兜は、自分の足を絡め取ったのが・・・
最初に使った鎖十字手裏剣の鎖だった事に気づくのだった・・・
132
:
鳳来
:2008/07/30(水) 21:47:58 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・・
蓮丸「んで、格好よく決めたはいいけど・・・・結界を破る策はあるのか?」
近藤「とりあえず、突っ込んで・・・・って、唐突に何で、あんたがここに!?」
斎藤「あぁ。俺達が5回目に突っ込んだ時にいたぞ。俺は気付いていたがな。」
蓮丸「たく・・・・まあ、こういう展開になってると思ったから、万姫も<小鳥遊>破りのアドバイスを頼んだんだろうな・・・・」
近藤「万姫様からって・・・・そいつは、いったい・・・・」
逃げ場の無い神速の居合い斬り結界を打ち破る方法ーーーーーそれは・・・
蓮丸「鷹はどこから獲物を狙うのか?」
近藤「・・・・・え?それだけ?」
蓮丸「それだけ。」
近藤「いや、訳わからねぇから!!!つか、何で、こんな時に謎掛けしてるのさ!!」
蓮丸「しょうがねえだろ。敵の前で手の内をあかすわけにもいかねぇし。万姫曰く<それぐらい簡単に理解しろ>ってことだし。」
近藤「ああ、もう!!どんだけぇーサディストなんですかあの人はーーー!?」
頭を抱えて、再び、直輔に向き直る近藤・・・・
近藤(畜生・・・・何だってんだよ。鷹はどこから獲物を狙うって?んなもんーーーー!!)
この時、先ほどの謎掛けの答えに気付いた近藤は、万姫からのアドバイスの真意に気付いた。
そして、近藤は頭上を見上げて、ある事を確認しーーーーそのまま、身を翻すと一気に、光覚のところまで駆け出した。
133
:
鳳来
:2008/07/30(水) 22:36:51 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
直輔「なっ・・・?!」
再び、斬り込んで来ると予想していた直輔は、近藤の奇行にあっけに取られた。
近藤「光覚・・・・俺を、あそこの梁まで蹴飛ばせ!!!」
光覚「へ?ん、わかったーーーー!!!」
近藤の突然の言葉に戸惑う光覚だったが、すぐさま近藤の指示どおり、近藤を<股間>から蹴り上げた。
近藤「ちょ、いくら何でも、そこはねェダろおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
悶絶して、天高く蹴り上げられた近藤だったが、何とか、天井の梁に手を掛け、よじ登る事が出来た。
近藤「ちっと、計算違いもあったが・・・・これで、あんたの結界から逃れられたわけだぜ。」
直輔「ふざけた漫才の次は、ふざけた戯言か。」
付き合ってられないとばかりに、直輔は刀を構えーーーーある事実に気付き、強張った。
届かない・・・・・あの高さにいる相手には、刀の刃は届かない!!!
これこそが、居合い結界<小鳥遊>を破る万姫の策だった。
確かに、平面状では居合い結界の逃げ場はない・・・だが、立体に置き換えた場合、刀が届かない位置ーーー<上>が存在する。
そして、上からならば、居合い結界の間合いに入る事無く、直輔らに接近できる!!!
近藤「鷹は獲物に発見されないより高いところから獲物を狙う・・・・あんたの小鳥もここからじゃ、俺を斬れないみたいだな。」
直輔「くっ、くうううううううう!!!!」
近藤「じゃあ、仕舞いにするぜ・・・・直輔さん!!!」
梁の上を駆け出した近藤・・・・・対する直輔は何も手を撃つ事が出来ない。
橋本一族の歴代当主が気付かなかった死角があったーーーその事実が直輔の心を折り、次の一手を失わせた。
134
:
藍三郎
:2008/08/02(土) 17:34:35 HOST:36.162.183.58.megaegg.ne.jp
=真撰組屯所=
鳥兜「がぁ・・・っ・・・ぐあぁっ!!!」
両腕を切断され、地面に倒れた鳥兜の胸を男の脚が踏み下される。
続けて、彼の鼻先に、白銀に輝く刃が突きつけられた。
虚蝉「終わりだ」
鳥兜は、敗北を悟った・・・悟らざるを得なかった。
両腕を切断されては、もはや勝ち目が無い。
しかし、何故あんなところで体勢を崩してしまったのか・・・
煙の迷宮は、鳥兜が絶えず発煙筒を吹かしていた事で作られていた。
それが止まった今、濃霧に閉ざされた世界はゆっくりと開けていく。
そして・・・鳥兜は、己が陥った罠の正体を知った。
庭には、鳥兜が張った鎖の網の下に・・・
別の鎖によって、近づいた者を絡め取るための罠が張られていた。
鳥兜が作ったものと比べると、単純な形だが・・・
鳥兜「てめぇ・・・俺の鎖を・・・利用しやがったな・・・っ!!」
虚蝉は答えない。だが、既に事態は明白だ。
最初に鳥兜が虚蝉に放ち、奪われた鎖十字手裏剣。
虚蝉はそれを使って、即席の罠を作り上げたのだ。
煙の中で、虚蝉はただ黙って鳥兜の攻撃から逃げていたわけでは無い。
彼は罠を張りつつ、鳥兜が止めを刺す為に近づいてくるのを待っていたのだ。
そして・・・その時が来た瞬間、刀で鎖を引っ張り、鳥兜の足を掬った・・・
奪った鎖を、すぐさまそんな形で応用するとは・・・
熟練の忍であろうとも、中々出来る事ではない。
しかも男は刀で戦う侍なのだ。
鳥兜「小汚ぇ手使いやがって・・・それでも侍か?」
恨みの篭った顔つきで、憎まれ口を叩く鳥兜。
虚蝉「違うな」
だが、虚蝉は平然とそれを流した。
虚蝉「俺は俺だ。刀を持って、人を斬るだけの生き物だ。
侍(そいつら)の言う、忠義や伝統や格式や作法など・・・俺には何一つ解らない」
鳥兜「ハッ・・・気が合うじゃ・・・ねぇか・・・」
鳥兜は薄く笑ってみせる。目的の為ならば手段を選ばぬ外道。
この男は侍では無い。自分は、侍に負けたわけでは無い。
それが解っただけでも、少し気が楽になった。
鳥兜「とっとと・・・殺せよ」
虚蝉「そうはいかない。貴様には、“万寿菊”の事を洗いざらい喋ってもらう」
鳥兜「てめぇ・・・その為に・・・」
両腕を斬って戦闘不能にしたのか・・・
それは、鳥兜にとって死にも勝る屈辱だった。
虚蝉は慣れた手つきで、落ちていた鎖を鳥兜に巻きつける。
このような捕縛術も、世を流れる間に身に付けた術の一つだ。
鳥兜「冗談じゃねぇ!あの御方の事は、何一つ口にしねぇぞ!!」
虚蝉「貴様がどう思おうと構わん。俺はただ、生きて貴様を連れていくだけだ」
135
:
藍三郎
:2008/08/02(土) 17:35:11 HOST:36.162.183.58.megaegg.ne.jp
その時・・・
虚蝉「!!」
銃声が数発鳴り、虚蝉の近くの地面に穴を穿った。
数名の人影が、虚蝉達の下へ近づいてくる。
夘都木「・・・お前達、何をやっている」
現れたのは、数名の幕府兵を引き連れた夘都木醒史郎だった。
虚蝉「・・・・・・」
鳥兜「て、てめぇら・・・」
こうなる事態も予想できていた。真撰組と練武館・・・
身内同士の争いを収集すべく、幕府が乗り出してくることは十分ありうる。
ただ、予想以上に早い動きだ。
あの白煙を見て、容易ならざる事態を察知したからだろうか・・・
夘都木「動くな。動けば撃つ」
夘都木の指示で、彼の背後にいる幕府兵は一斉に銃を構える。
それを見た時の、虚蝉の行動は速かった。
虚蝉「――――――・・・・・・」
素早く身を翻し、発砲される前に駆け出す虚蝉。
夘都木らがいる場所とは逆方向・・・即ち、逃走を図ったのだ。
この任務において、幕府を敵に回すのは得策では無い。
幕府軍とかち合った場合は、何を捨てても逃走すべしというのが、
来栖川月都から授けられた命令の一つだった。
「夘都木様!」
夘都木「追え、逃がすな」
簡潔な命令と共に、数名の兵士が追跡に向かう。
夘都木は、それ以上虚蝉に頓着せず・・・
両腕を斬られ、鎖で雁字搦めにされている鳥兜に近寄る。
夘都木「何者かは知らんが・・・こちらで拘束する手間が省けたな」
鳥兜は、夘都木の顔を見て、ニヤリと笑った。
鳥兜「あんた・・・幕府のお偉いさんか?
いい所に来たぜ・・・俺は、万寿菊の・・・」
夘都木は眉一つ動かさずに、平然とこう答える。
夘都木「何だそれは?まぁいい・・・止血して連れて行け」
配下の兵に命じた以降、夘都木は鳥兜を一瞥もしなかった。
136
:
鳳来
:2008/08/03(日) 20:54:57 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・・・
近藤「おりゃああああああ!!!!」
直輔の頭上ーーーー居合い結界の死角から一気に飛びかかる近藤。
対する直輔も心を折られてもなお、ただ残された気迫だけで近藤に飛びかかる。
直輔「近藤ぉおおお!!」
交差する二人の侍ーーーー勝負は一瞬でついた。
地に降り立った近藤と直輔・・・・沈黙が場を支配する。
そして・・・・
近藤「ぐっ・・・・やっぱ、剣の腕じゃ橋本さんが上っすね・・・・」
腕を斬られたのか、近藤の袖から血が滴り落ち、近藤は持っていた刀を落とした。
そして、直輔はーーーー
直輔「だが、信念の差では、卿が上だったようだなーーーー近藤、卿の勝ちだ。」
胸から血を噴出し、その場に膝から崩れ落ちた。
近藤「じゃあ、ちっとばかり待ってもらうぜ。トシの怪我が気になるからよ・・・・」
直輔「・・・・・・私が後からお前に襲いかかるとは思わないのか?」
近藤「そりゃねえっすよ。だって、あんたはてめぇの士道にだけはうそつかねぇそんな侍だからよ。」
直輔「・・・・・・・・」
近藤の後姿を見つめる直輔は、気付いた。
自分は近藤を己が大切にしたモノを貶めたから憎いと思っていたが、それは違っていたようだ。
ただ・・・・羨ましかったのだ。
規範や伝統に雁字搦めに縛られた幕府の狗:直輔は、そんなものに捕らわれず、ただ己の信じる道を駆ける野犬近藤に憧れたのだ。
自分もあのように振舞えたらーーーー大切な者を守れたのだろうか・・・・
直輔「ああ・・・・なんて無様なんだろうな・・・・」
上を見上げ、涙を流す直輔ーーーーその傍に事を見守っていた蓮丸が近づいてきた。
蓮丸「よ・・・・あんたが橋本直輔だな。」
直輔「お前は・・・・・?」
蓮丸「万姫からの言伝だよ。一応、真撰組が勝った時に、伝えるよう頼まれたんだ。<私のところに来ないか?>だとよ・・・」
直輔「折角だがーーーー断らせてもらおう。多くの師弟達を巻き込んで、おめおめ自分だけが生き恥を晒すわけにはいかない。」
蓮丸「・・・・・・」
直輔「ただ・・・・頼みたい事がある。ーーーーーーーー。」
静かに直輔がそのことを蓮丸に告げた瞬間、廊下の方から多数の足音が近づいてきた
137
:
藍三郎
:2008/08/06(水) 22:06:32 HOST:36.162.183.58.megaegg.ne.jp
=真撰組屯所=
夘都木「上意である。
我は幕府筆頭監察官、夘都木醒史郎。
真撰組、練武館、共に刀を捨て、大人しく縛につけ。
我が意に従わぬ者は、この場で処断する」
屯所内に押し寄せ、一斉に銃を構えた兵達に、
まだ小競り合いを続けていた真撰組と練武館は、すぐに刀を止める。
原田「な・・・!」
「おいおい!何だ貴様らは!我こそは・・・」
練武館側の男が一人、とある名家の名を口にしようとしたところで・・・
その耳が、鮮血を上げて吹き飛んだ。
「ひっ・・・!」
耳を銃で吹き飛ばされた侍は、瞬時に心を折られ、その場にへたり込む。
これで彼らの本気を知ったのか・・・それ以上、動こうとする者はいなかった。
夘都木「言ったはずだ。これは上意である、と。
ゆえに、逆らう者には誰であろうと容赦しない・・・
貴様達全員を処罰する許可は、既に降りている」
原田「・・・・・・」
原田は唾を飲み込んだ。
あの男の眼・・・
斎藤一や沖田総悟が本気を出した時に見せる眼と同じ・・・
情の全てを捨て去ったような、凍てつくような眼だ。
もしも下手な真似をすれば、問答無用で殺す・・・
そんな冷たい威厳が、この男からは漲っていた。
「う、夘都木殿!貴殿は練武館の師範だったはず!ならば・・・」
そう喚き出した侍も、銃を突きつけられて即座に黙り込む。
夘都木「過去のしがらみにどれ程の価値があろうか・・・
今の私は、ただこの国に忠誠を捧げる身・・・
例えかつての同輩であろうとも、
法の執行者として、厳正なる処罰を下すのみ・・・」
138
:
藍三郎
:2008/08/06(水) 22:07:18 HOST:36.162.183.58.megaegg.ne.jp
一方・・・
幕府の兵に囲まれ、連れられて行きながら・・・
鳥兜の中では、“あの男”の殺意が漲っていた。
鳥兜(許さねぇ・・・侍の分際で、この俺を出し抜きやがったあの男・・・
見ていろ・・・義手でも何でも使って、新しい腕を手に入れたら・・・
どんな罠でも、どんな薬物を使ってでも・・・必ず・・・必ず殺してやる!!)
屈辱に顔を歪め、唇を強く噛み締めた時・・・
鳥兜「――――――――!?」
肌を焼くような痛みが、腹部に走った。
刺された―――――
そう感じた時は、もはや意識を保つのも
困難な程の痛みが、全身へと回り始めていた。
鳥兜「が・・・はっ・・・!!」
そのまま崩れ落ちる鳥兜。
屯所の庭は、とめどなく溢れる彼の鮮血によって染まっていく。
莫迦な・・・
俺は・・・死ぬのか!?
こんなところで・・・
何故・・・何故・・・!!
最期に脳裏に浮かぶのは、
己に価値を認め・・・生きる意味を与えてくれた、
誰よりも尊敬する主の背中だった。
胡蝶斎様・・・
俺は・・・ここで死ぬのですか?
こんな所で・・・
貴方の創り出す新しい世界を、見る・・・前に・・・
胡蝶斎様・・・
胡蝶斎様――――――――!!!
どんなに手を伸ばしても、どんなに声を荒げても・・・
飄々と進む背中には、決して届くことは無い・・・・・・
夘都木「この男・・・」
ボロボロになり、気絶したままの猪旗豪次郎を見下ろし、
夘都木醒史郎は感慨に耽る。
もし練武館と正面衝突になった場合、
一番手を焼くのはこの男だと思っていた。
練武館にいた頃も・・・
この男は鼻持ちならない、自分勝手な武士道を口にしていたものだ。
見ると、男は完全に両腕を折られている。
怪力無双のこの男に力で勝るとは・・・
真撰組に、それ程の使い手がいたのだろうか。
その時、鳥兜の連行を任せていた兵士の一人が、夘都木の下へ駆け寄ってくる。
藪下「申し訳ありません・・・あの男、突然自殺を謀りまして・・・」
夘都木「そうか・・・」
夘都木醒史郎は、部下から鳥兜の死についての報告を受けていた。
ここで、部下は顔に笑みを浮かべて、こう呟いた。
藪下「しかし、奇妙な事もあったものです。
腕が両方とも無いのに、腹を割いて自害とは・・・」
夘都木「・・・藪下・・・」
夘都木の冷たい視線を浴びて、藪下と呼ばれた男は即座に萎縮する。
藪下「も、申し訳ありません!失言でした!!」
夘都木「あの男は“自害”したのだ・・・それで良いな?」
藪下「ははっ!!」
夘都木醒史郎は、月の見える空を見上げて、心中で呟く。
夘都木(今はまだ・・・天から我らを見下ろし、
弄んでいる気でいるがいい。
だが、咎には罰を・・・
私の流儀は貫かせてもらうぞ、百々目胡蝶斎・・・)
この日本を腐らせる病巣は、全て取り除く・・・
今はまだ、遠く及ばないかもしれない・・・
だが、いずれは――――――
139
:
鳳来
:2008/08/12(火) 19:40:50 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
=墓場=
蓮丸「ここでいいのか?」
直輔「すまない・・・巻き込んでしまったな。」
蓮丸「別にいいよ。近藤からも頼まれたからな・・・後で、万姫に絞られなきゃいいケドさ。」
現在、蓮丸と直輔の二人は、夘都木らによって騒動が鎮圧された屯所からはなれたある寺の墓場の一角に来ていた。
此処に来る30分前、近藤に敗れた直輔は、蓮丸に頼んだ3つのこと。
①今回の一件を、塾長である自分と猪旗の両名の責任とし、門弟についての罪を問わない事
②橋本家は今回の一件に関わっていないとし、直輔の責とする事
そして、三つ目は・・・・・
蓮丸「あんたを、この墓に眠る人物・・・・あんたの妻の墓に連れて行く事で良かったよな。」
直輔「ああ。死ぬ前に一度、訪れておきたかった。もう・・・ここには、来れそうに無いからな。」
蓮丸「・・・・・・やっぱ、生きるつもりはねェンだな。」
直輔「ああ。練武館のとり潰しは免れなくとも、私を慕ってくれた門弟、私が守り通してきた橋本家、そして、真撰組だけには・・・」
蓮丸「一応、こいつを渡しとくぜ。これなら、上手く逝けば、楽に死ねるぜ。」
懐にもっていた拳銃を直輔に渡そうとするがーーー直輔は静かに笑みを浮かべ、首を振った。
直輔「いや、いい。せめて、最後は武士らしく逝きたい。それが我が士道の締めだ。」
蓮丸「・・・・委細承知した。じゃあ、ちょっと真撰組の様子を見てくるから、後は任せたぜ。」
そう言い残して、蓮丸は、妻の墓を見つめる直輔をおいて、その場から立ち去った。
140
:
藍三郎
:2008/08/13(水) 20:31:06 HOST:36.162.183.58.megaegg.ne.jp
直輔「・・・・・・・」
妻の墓前に立ち、夜天に浮かぶ月を眺め、放心状態の直輔。
蓮丸が去ってから、およそ十数分が経過している。
そんな中、彼の下へと近づいてくる足音が耳に入った。
「こんばんは・・・橋本直輔さん」
「こんばんはぁ」
直輔は振り向いて、彼ら二人を見やる。
足音を聞いた時には、幕府の追っ手かと思ったが・・・
現れたのは、面妖ないでたちをした二人の人物だった。
異国の正装を着た十数歳ぐらいの少年と、赤い着物を着た若い黒髪の女。
変わっているのは・・・
少年は顔に翁の面をかぶり、女は狐の面を被っている事だった。
少年「いきなり屯所から出ていった時は焦ったよ・・・
でも、邪魔が入らずお話できる時間と場所が取れて、結果的には良かったかな?」
直輔「物の怪の類・・・・・というわけではなさそうだな」
少年「ああ、このお面は気にしないで。ちょっと人前に顔を晒したくないだけだから」
女「気分を害されたんなら、謝りますわ」
初対面とは思えぬほど親しげに接してくる二人。
だが、それだけに怪しく思える。
少年の、その若さに似合わぬ堂々とした態度は、
それなりに高い地位にある人物なのだと想像できる。顔を隠しているのもその為だろう。
そして、隣にいる関西訛りで喋る狐面の女・・・
両手を合わせてただ立っているだけだが・・・
その立ち姿には“武”に通ずる雰囲気を感じる。
少年の護衛なのだろうか・・・
直輔「構わんさ・・・・・・それで、いかようかな?」
怪しい事この上ない人物であるが、直輔は彼らに僅かながら興味を抱いた。
どの道・・・今の自分に恐れる者など何も無い。
死ぬ前に、一人でも多くの者と話をするのも・・・悪くない。
少年「そうだね、あまりのんびりしてられないし・・・
じゃあ、まず要件から言うけど・・・
このままだと、君は幕府に捕まり処刑される。
だけど、君の才覚を、こんな所で摘み取ってしまうのは惜しい。
幕府を抜けて・・・僕に仕えてみる気は無いかな?」
直輔「・・・・・・・・・・攘夷派のものか?」
“幕府を抜けて”というからには、幕府と対立する側にいる者だろうか。
だが、翁面の少年は、軽く頭を振った。
少年「ん〜〜ちょっと違うね。
むしろ、異国の皆さんには色々とお世話になっている身だし。
今、僕はある“組織”を作ってる最中でね。
大っぴらに幕府と対立する事になるかどうかは解らないけど・・・
そのための優れた人材を探しているところなんだ」
笑ったままの翁面からは、少年の表情は読み取れない。
しかし、彼の口調から、面の表情と同じく笑っている事は解った。
直輔「そうか・・・・・・・
残念だが、その話は断らせてもらおう・・・・」
少年「へぇ・・・もう、幕府からも見捨てられたって聞いても?」
直輔「ああ・・・・・・それに、万姫からの使いの者にも同じ事を伝えた。
我が命をもって、ことの全てに蹴りをつけると・・・・」
少年は肩を竦める。
少年「やれやれ、それが武士の忠誠ってわけかな?
けどね・・・貴方の武士としての誇り、練武館の誇り・・・
それら全てが偽りだったとしたら、どうする?」
相変わらず表情は見えないが・・・
この時、少年は能面の下で、悪戯めいた笑みを浮かべていた。
直輔「何だと・・・・・・?」
眼を見開いた直輔に、少年はこう続ける。
少年「練武館。
武士の規律や綱紀を護る為に結成された組織。
掲げた御題目は確かに立派だけど・・・
その裏にはあるカラクリが潜んでいてね・・・」
直輔「・・・・・・」
少年「練武館の師範や門弟は、全て有力武家の出身者で構成される・・・
それは即ち、幕府の中枢にいる者たちと繋がっているって事さ。
これがどういう意味か、解るかな?」
どす黒い予兆が、直輔の中で広がっていく。
これまで勤めて意識せずにいたが、
内心では気づき始めていた・・・幕府の暗部に。
141
:
藍三郎
:2008/08/13(水) 20:32:03 HOST:36.162.183.58.megaegg.ne.jp
少年「幕府の中枢にいる者となれば、当然敵が多く出来る。
他の武家と出世を争うこともあるだろう。
そういった時・・・自分達の政敵や邪魔者を、都合よく抹殺する機関・・・
それが練武館本来の存在意義なのさ」
能面の奥で、少年はくすくすと笑った。
少年「うまくやったものだね。武家の綱紀粛正を隠れ蓑に、
自分達の家に連なる者達を使って、お咎め無しに敵を排除できるんだから」
直輔「では、我らが殺めてきた者の中には・・・」
少年「何の罪も無いのに、罪を被せられた者も大勢いただろうね。
例えば・・・全く無実の武家に「攘夷志士と通じている」なんて濡れ衣を着せたりね・・・」
直輔「・・・・・・」
直輔の頭の中で、古傷が疼いた。
まさか、彼女の家も・・・?
そんな疑念が広がっていくのを止められない。
それでも・・・橋本直輔は、一切感情を表さず、怜悧にこう告げた。
直輔「証拠はあるのか?
卿の言う事は、全てただの憶測に過ぎぬのではないか?」
少年「そうだね」
少年はあっさりと認めた。
少年「よーく調べればそういう証拠が出てくるかもしれないけど、
今貴方を納得させるだけの証拠は無いよ。
ただ・・・何でこの時期練武館が切り捨てられるのか・・・
それについては、どう思う?」
直輔「・・・それは、全て私の責任・・・」
少年「違うよ、今回の一件は・・・全て最初から仕組まれていた事だったんだよ。
練武館を意図的に暴走させ・・・取り潰す口実を作る為にね」
直輔の様子を見ながら、少年は朗々とした声を夜の空に響かせる。
少年「今幕府は、革新派が躍起になって旧い勢力を取り除こうと奔走している。
練武館もその“旧い勢力”の一つさ。
幕府が開かれた当時は・・・
幕府の基盤や、武士の規範を固める為にも、練武館は必要だった。
けれども・・・時代が平和になるにつれて、
行き過ぎた理念は、やがて不必要となる。
仕舞いには、練武館の後ろ盾となった者達によって、都合よく利用され始めた・・・
こうなった以上、練武館は眼の上のたんこぶでしかない・・・
けれども、相手は幕府の中枢を占める有力者達だ。
そう簡単に処断するわけにはいかない。だから・・・・・・」
直輔「今回の、真撰組との戦いを起こさせたと?」
少年「そうだよ・・・
そして、僕はそれが出来る奴らを知っている。
この争いを仕組んだ奴らこそが・・・僕らが倒そうとしている“敵”さ」
その時だけ・・・直輔はこの少年に、異様な感情の膨れ上がりを感じた。
少年「どうかな?
都合のいい価値観を押し付けておいて、散々利用した挙句・・・
幕府内での立場が悪くなれば、平気で切り捨てられる。
そんな幕府が憎らしくは無いかい?変えてみたいとは思わないかい?」
翁面の少年は、煽るように語り掛ける。
少年「僕と来てくれるかな?決して、悪いようにはしないよ?」
直輔は・・・黙って頭を横に振った。
直輔「悪いが・・・最初に言った通り、死を持ってこの一件を収めさせてもらう。
これが最善の手だからだ」
少年「あれあれ、散々利用されといて最後はそれかい?
言っとくけど、貴方一人が死んだところで、時代は毛ほども動かないよ」
直輔「構わんさ・・・・・利用されようとも恩をアダでは変えせん。
それに、例え全てが偽りであったとしても・・・・・
私の信じ抜いた士道までは偽りでは無い」
直輔の揺ぎ無い瞳を見て・・・
少年は、これ以上の勧誘は無駄だと判断した。
少年「そう。まぁ、僕の言う事を信じるかどうかは貴方の自由だしね。
それと・・・僕は貴方みたいな人、嫌いじゃないんだ。
というか、そうでなきゃ勧誘なんかしないしね」
狐面の女を促すと、少年はこの場から立ち去ろうとする。
少年「さようなら、橋本直輔さん・・・
結果は残念だったけど、貴方と話が出来たのは有意義だったよ。
出来れば、僕のことは秘密にしておいてくれると嬉しいな・・・」
少年と女は、夜風と共に、忽然と夜の闇へと消えていった。
142
:
鳳来
:2008/08/25(月) 20:37:00 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・
=真撰組屯所=
夘都木らにより、騒動が片付けられる中、物々しい兵士らに目もくれず、配下を一人引き連れた鬼姫が現れた。
万姫「おやおや・・・・騒がしいと思えば、随分とまあ、大捕り物をしているじゃないか、ウツボ。」
夘都木「万姫様ですか。どのようなご用件かは知りませんが、事はすでに済みました。後は、こちらで・・・」
万姫「そのようだな。しかし、随分と用意がいいじゃないか。」
夘都木「・・・・・」
万姫「この人数に、この装備・・・・まさに用意周到といったところか。」
夘都木「何をおっしゃりたいのですか?」
万姫「いや、ただな・・・・お前、この一件を事前に知っていたんじゃないか?」
夘都木(この女ーーーー気づいているのか?)
いや、そんなはずはない・・・・こちらの動揺を誘っているのか?
だが、そんな考えを一瞬めぐらした夘都木だったが、すぐさま平然と答える。
夘都木「何の事でしょうか?」
万姫「いや、まあいいさ・・・・それより、お前に伝えたい事があってな。」
夘都木「何でしょうか?」
万姫「いますぐ、この場に捕らえている連中を、私に引き渡せ。」
その言葉に、夘都木は珍しく呆気にとられた・・・・いきなり、現れて、どういうつもりだ?
夘都木「戯言をわれらは、幕府の上意により任を受けております。そのようなこと、できようはずが・・・・」
万姫「なら、私は・・・・・・」
にべもなく拒否する夘都木に、万姫が嗜虐めいた笑みを浮かべ、懐からその書状を取り出し、突きつけた。
万姫「その幕府を統べる者・・・・・徳川家康の許可を得て、こいつらの身柄を引き取らせてもらうぞ。」
夘都木「貴様っ!!!」
万姫の持ってきた書状には、先ほど万姫の提示した条件を受け入れるようつづられた、<徳川家康>直筆の書状であった。
万姫「そういうわけだ。引き取らしてもらうぞ。ああ、安心しろ。ちゃんと落とし前の付けどころは用意してある。直輔も、もうすぐここにくるはずだ。」
夘都木「・・・・・・確かに、承りました。」
静かに答える夘都木ではあったが、その心の内は穏やかではなかった・・・・
真撰組だけを潰すだけでは足りない・・・・あの鬼姫を討ち取らぬ限りは・・・
そんな心中を察したのか、万姫は笑みを浮かべ、振り返った。
万姫「いつでも、相手をしてやるぞ・・・・ただし、それ相応の覚悟はしておけ。」
143
:
藍三郎
:2008/08/29(金) 06:16:28 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp
=江戸城 黒蘭の間=
市松「・・・真撰組屯所の方から、伝令が戻ってきたようさね」
市松から報告を受けて、胡蝶斎は眠たそうな眼をこすって答えた。
胡蝶斎「んァ?真撰組?奴らがどうかしたってのかィ?」
市松「・・・・・・」
とぼけているのか本気で忘れているのかわからない首領に対し、
市松はこのまま黙っているべきか逡巡する。
胡蝶斎「おおッとォ・・・まァそうすぐにヘソを曲げんなィ。
今思い出したってよォ・・・で、どうなったんでェ?」
市松「本当に思い出したのかねぇ・・・」
胡蝶斎「そこまで呆けじゃいねェさ・・・真撰組と練武館との喧嘩だろィ?」
市松はため息をついて、屯所を監視していた伝令からの情報を話す。
市松「結果は、幕府が間に入って喧嘩両成敗さね。
まぁ、練武館の師範、猪旗豪次郎は再起不能、
塾長、橋本直輔は捕縛されたから・・・
どちらかと言うと、練武館の負けじゃないかねぇ?」
胡蝶斎「は〜〜ん・・・・・・」
つい先日までは、あれほど眼を輝かせていたこの一件の顛末を聞いても、
胡蝶斎に特に何か思い言った様子は無い。
市松「それと・・・鳥兜はくたばったようさね。
何でも失敗して自害したとか・・・・・・」
胡蝶斎「鳥兜・・・・・・?」
本気で首を傾げてみせる胡蝶斎。
自分が刺客を送り込んだ事すらも、ころっと忘れていそうだ。
最も、それが百々目胡蝶斎という男である事は、長年の付き合いで知り尽くしている。
この男は、どこまでも飽いていて・・・乾いている。
自身の心にも・・・人の生命にも。
胡蝶斎「あァ・・・そンな奴も・・・いたッけなァ・・・・・・」
天井を見上げてそう呟く。
そんな首領を見て、彼はどう思うだろうか?
彼は一体、この男に何を期待していただろうか・・・
野心か、夢か・・・この男は、そのどちらにも興味が無い事を、
ついぞ知る事なく果てた事は、鳥兜にとって幸せだったのかもしれない・・・
市松「任務に失敗したら自害・・・あの男らしくない潔ささね」
胡蝶斎「はッ・・・・・・」
胡蝶斎は口許に笑みを浮かべて、こう続けた。
胡蝶斎「これで、飼い主の手でも噛ンだつもりかよ・・・」
市松「?」
謎の一言に首を傾げるが、いつもの事なので聞き流す。
胡蝶斎「見ろよ、日の出だぜ・・・・・・」
東天から昇りつつある太陽が、江戸城に光を差し入れていた・・・
翌日・・・・・・
あの後・・・屯所に戻ってきた橋本直輔は、直ちに幕府軍により捕縛された。
今は、猪旗豪次郎共々、こちらの奉行所内の牢屋に入れられている。
直輔は白装束を纏い、正座したまま眼を瞑り、微動だにせずにいたが・・・
彼の下に、足音が近づいてくるのが耳に入った。
直輔「醒史郎・・・か?」
夘都木「・・・・・・」
夘都木醒史郎は、牢を隔てて、かつての同輩を見下ろしている。
共に練武館で修行した同門だが、今は頑丈な格子が二人の間を隔てている。
夘都木「・・・何故こんな真似をした?
貴公なら、このような結末になる事は見抜けていただろうに」
直輔「一切の申し開きはせぬ。
私は、私の士道に・・・いや、願望に殉じたまでだ」
夘都木「潔さと逃避を履き違えるな。
貴公がこの場にいるのは、幕府への背信ゆえに他ならぬ」
直輔「理解している・・・・・・」
夘都木の糾弾に対しても、直輔はやや眼を伏せるだけだった。
144
:
藍三郎
:2008/08/29(金) 06:19:11 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp
直輔「丁度いい・・・一つ聞かせてくれ。
橋本家と練武館は、どうなるのだ?」
夘都木「・・・橋本家は、何らかの処分は免れぬだろうが、
取り潰しは無いだろう・・・」
直輔「そうか・・・・・・」
それについては、夘都木醒史郎も賛成の立場だった。
一人の責任で、家全体が潰されるなどという、
非合理的な古臭い価値観は、彼が最も嫌うものだったからだ。
夘都木「練武館は遠からず解体される。
門弟達は・・・いずれ私が作り出す、新しい組織に組み込む事を考えている」
直輔「新しい組織?」
夘都木「諸外国の軍隊や警察を模範とした、近代的な警察組織だ。
身分の差ではなく、それぞれの才覚と信念で人材を登用し・・・
より効率的な活動が出来るよう、隊を編成する。
法と理を厳格に守り、それらを実現する為の力となる」
一昔前ならば、滑稽な夢物語と受け入れられても仕方が無い。
だが、夘都木醒史郎はどこまでも本気だった。
その結成には、旧態依然とした練武館は不必要なものだ。
だからこそ、消し去らねばならなかった。
夘都木「いずれは・・・侍が刀を抜く事も無い世の中が来る・・・」
直輔「醒史郎・・・
卿にとって、武士とは・・・侍とは何だ?」
夘都木「階級だ」
夘都木は即答した。
夘都木「身分制度の上位に位置し、
為政者として下位の者達を、統率し導く義務を持つ者・・・
ゆえに、武士は誰よりも己を律し、法に厳格でなければならない。
侍の刀は、その法を実現させる為の力であるべきだ。
決して、己の独りよがりな欲望の為に振るってはならない」
最後の一言は直輔に言っているように聴こえた。
夘都木「私は、愚物の類が刀を持てぬ世の中を創る。
あのような・・・・・・」
猪旗「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
出せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
俺は、練武館のぉぉぉ!!!猪旗家のぉぉぉぉ!!!
猪旗豪次郎だぞぉぉぉぉぉ!!!」
壁を隔てた隣室の牢に収監されている
猪旗豪次郎の雄叫びが、ここまで響いてくる。
先日捕縛した時は瀕死の重傷だったのに、
よくあんな元気が残っているものだ。
夘都木「彼奴のような輩は、遠からず滅び去るだろう。
いや、私が消し去る。
時代は確実に変化しているのだよ、直輔・・・」
直輔「・・・・・・もう必要ないという事だな。私のような侍は・・・」
直輔の問いに、夘都木は否定も肯定もしなかった。
夘都木は踵を返して、この場から立ち去ろうとする。
夘都木「さらばだ、橋本直輔。二度と会う事も無いだろう」
直輔「ああ・・・我々を踏み台とするのだ。
お前の言う、平和な日本を創り上げてくれ」
夘都木「・・・・・・無論だ」
夘都木醒史郎の姉は、旧き時代の武家社会の犠牲となった。
父親の失態が、家にまで及び、
何の罪も無い姉が自害せねばならぬ事態へ陥ったのだ。
醒史郎は、父を激しく憎んだ。
だが、その父も早くに亡くなってしまった。
憎しみをぶつける対象はどこにもない・・・自問自答の中で、夘都木は悟った。
歪んでいるのは、この社会そのものだ。
武家社会の歪みが、何の罪も無い血族や民草にまで塁を及ぼす。
そんな事はあってはならない。変えなければならない・・・この国の根本を。
醒史郎は決意した。
我が生涯を懸けて、この日本を変革する。
単なる憎しみの感情は、夘都木醒史郎から消え去り、信念へと昇華されていた。
徳川が天下統一し、開国まで成った
激動の時代に生を受けた事には、天命すら感じる。
それ以上、口を開くこともなく醒史郎は牢を後にした。
145
:
鳳来
:2008/08/30(土) 19:51:16 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
=牢屋=
その直後、醒史郎が去ってから入れ替わるように付き人を従えた万姫が現れた。
万姫「よお、元気にしてるか?」
直輔「万姫様。このたびの御取り成し、感謝しております・・・・」
万姫「気にするな。・・・っと、それより、お前に面会したい奴が来ている。」
直輔「面会・・・・?」
万姫「まあ、相手は・・・・・・とりあえず、会えば分かる。」
直輔「しかし・・・・・」
万姫「案ずるな。すでに許可はもらってある・・・漆間、付き添ってやれ。」
漆間「ええ、分かりました。では、ちょっと来てください。」
戸惑う直輔をやや強引に引っ張っていく漆間を尻目に、万姫は彼らが完全に行った事を確認すると・・・
万姫「さて・・・・・随分と無様な姿を曝してるな、猪旗?」
猪旗「ぬぅ・・・・」
直輔と対峙した時には、見せなかったーーーー獲物をいたぶる獣を思わせる笑みを浮かべ、言葉で猪旗を甚振り始める。
万姫「そんなお前に、お前に下される刑を私が、わざわざ伝えに来てやったぞ。」
猪旗「ははぁ・・・・・(ふん、刑だと?そんなもの、無罪に決まっている」
これまで、自分は武士の鑑とも言うべき誇り高き練武館の師範にして、猪旗家の跡とりであるのだ。
それを罰することなどできようーーー「打ち首だ」−−はずが・・・・?
猪旗「はっ?」
万姫「何だ、頭以外にも耳まで悪くなったのか?仕方ない、もう一度言ってやろう。」
万姫は、呆ける猪旗に満面の嘲笑を浮かべ、執行されるであろう刑を伝えた。
万姫「貴様は、市中引き回しの上、衆目の前で、打ち首という沙汰が下されたんだ・・・猪旗。」
猪旗「な、ば馬鹿な事を言うな!!!この俺が、なぜそのような・・・!!!」
猪旗が自分の立場も忘れて、万姫に詰め寄るのも無理はなかった。
本来、武士にとって切腹とは、武士のために用意された名誉ある死ーーーだが、打ち首は、罪を犯した<罪人>に下される刑。
すなわち・・・・・猪旗は武士としてではなく、不名誉極まりない罪人として死ねということなのだ。
万姫「なぜだと?貴様が、なぜと答えるか?この薄汚い殺人狂いの屑の分際で!」
猪旗「ひぃ!?」
万姫「練武館での貴様の所業・・・・万死に値すると言っていいわ!!下らぬ事で、徳川の民を臣下を傷つけて、なおも自分は無実と言い張るか、糞豚風情が!!」
白髪を振り乱し、焼け爛れた顔の反面を見せつけ、夜叉を思わせる凄みで猪旗を黙らせる。
万姫「そして、貴様が殺した直輔の妻とその一族・・・・私が独自に調べたところ、彼らは攘夷派とは関係もなかった。貴様の先走りが、あいつの妻を、私の友を殺した!!!これを罪と言わずなんとするか!!」
猪旗「う・・・あ・・・・・」
万姫「だがーーーーーそんなお前に、チャンスをくれてやろう。何、簡単だ。」
おもむろに、猪旗の牢の鍵を開ける万姫・・・・・もし、出ようとするなら、脱獄できる。
万姫「すでに人は払ってあるーーーさあ、選べ?」
武士としてすら死なせてもらえない無様な罪人として死ぬか?
それとも、死を恐れて、この場から逃げ出そうとする臆病な脱獄囚として行き続けるか?
数分後・・・・・
万姫「まあ、こうなるとは思っていたがな。」
戻ってきた万姫が、もの気のからとなった牢を見て、蔑みを交えた哀れみの言葉を放つ。
万姫「おめでとう、猪旗。貴様は、武士ではなく、ただの下種ということが証明されたわけだ。」
146
:
藍三郎
:2008/08/31(日) 16:47:44 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp
=江戸 来栖川邸=
狐子「何か・・・結局骨折り損のくたびれ儲けでしたなぁ」
月都「だねぇ・・・あの人には勧誘断られちゃうし、
結局、万寿菊の忍者も取り逃がしちゃうし・・・
やっぱり、他人の争いごとに首を突っ込んでも
ろくな事にはならないんだよ」
来栖川月都は、屋敷のソファに腰掛け、
傍らに居る夕暮狐子と何やら話していた。
月都は指先で翁の面をこつこつと叩く。
月都「それとも・・・僕らも誰かに利用されていたのかな?」
さして気にした風でも無かった月都の瞳が、この時だけ異様な光を帯びた。
月都「まぁ、“あの男”の目論見を阻止できただけでも良しとするか。
どの道・・・準備はもう十分すぎるほど揃っている・・・
後は、機会(タイミング)を待つだけだ」
最上虚蝉は、黙ったまま月都の話に耳を傾けている。
彼の場合は、その話を聞いて特に何を思うことも無い。
ただ、“情報”として脳内に記憶しておくだけだ。
彼の行動の指針を決めるのは、自身の意志ではなく主の命令だ。
月都「虚蝉、君はつまらない仕事をさせちゃったね」
虚蝉「つまらない?」
例によって、虚蝉にはその意味が解らない。
月都「その傷からして、今回の敵は中々の使い手だったようだけど・・・
君を揺り動かすほどの存在ではなかった。
もし、あの橋本直輔と戦わせていたら、あるいは・・・・・・」
そこまで言って、月都は頭を振った。
月都「いや・・・それじゃ“あの男”と同じだ・・・
僕はあの男のようにはならない・・・あいつのようには・・・」
歯を噛み締める月都の姿を、虚蝉はガラス球のような瞳に映していた。
147
:
<削除>
:<削除>
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148
:
鳳来
:2008/09/07(日) 13:53:48 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
=奉行所・中庭=
漆間につれられて、中庭へとやってきた直輔が目にしたのは・・・・
沢庵「おお、久しいのう、直輔。」
<沢庵 宗彭>−−−柳生家とは十兵衛の父・宗矩の代から懇意であり、その他大勢の剣客達と交流がある万松山東海寺住職である。
橋本家の当主であった直輔も何度か沢庵の世話になったことがあった。
直輔「和尚・・・御久し振りです。江戸へはいつお戻りになられたのですか?」
沢庵「うむ、先の会津での一件がようやく一段落を迎えてのう。まさか、こういう形で、会う事になろうとはな・・・」
直輔「・・・・面目次第もございません。して、今日はどのようなことで・・・?」
沢庵「おお、そうじゃったの。実はのう・・おお、坊、こちらに来なさい。」
いぶかしむ直輔を尻目に、沢庵がすぐ近くの大木の下で遊んでいる子供を呼びつける。
直輔「その子は・・・・?」
沢庵「うむ・・・・先代の当主である御主の父君に頼まれてのう。わしのところで預かっていたこの子・・雪輔を橋本家の養子として向かいいれたいと文が届いたのじゃ。」
直輔「そうですか。では、その子が・・・・」
沢庵「御主の跡を継ぎ、橋本家の当主となる予定じゃ。まあ、そこで本題なんじゃが・・・」
少し気まずそうに苦笑いを浮かべた沢庵は、事の本題には行った。
沢庵「この子に剣を少し終えてもらえんかのう・・・・さすがに寺の中で剣術を教えるわけにはいかんかったからな。」
直輔「話は分かりましたが・・・・私は・・・・・」
沢庵「なあに、既に奉行所の許可は取ってある。それに、あの秘剣を実際に使用でき、教え伝えることができるのは御主をおいて他に居らんわ。」
いきなりの頼みに返事に戸惑う直輔であったが、ふと沢庵の影に隠れてきた雪輔に自分の袖をひっぱられて、雪輔を見る。
雪輔「あの・・・・僕に剣術を教えてください・・・・」
直輔「・・・・これが、私の最後の務めということか。少し、その刀を貸してもらえないだろうか?」
漆間「ん?ああ、いいですよ。・・・・・逃げちゃ駄目ですよ?」
直輔「安心せよ・・・・どの道、一週間で死ぬ身なれば・・・」
せめて、次期当主に何かを伝え、残して、逝くのが、私の役目であろう・・・・
149
:
鳳来
:2008/09/13(土) 20:39:43 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
三日後・・・・・
奉行所の中庭では、今日も、直輔による雪輔への剣術指導が行われていた。
1週間と言う短い期間ということもあり、直輔の指導にも熱が入り、雪輔もそれに答えていた。
縁側では、二人の様子を沢庵和尚が微笑ましげに見ていると、その隣に万姫が腰を下ろし、一緒に稽古の様子を眺める。
万姫「どうですか、稽古の成果は?」
沢庵「うむ・・・雪輔にはもともと、才能はあったからのう。十兵衛の奴も、才があると言っておったよ。」
万姫「あの剣術馬鹿がねぇ・・・・ま、私はもともとそうだと思っていたがな。」
沢庵「・・・・・・直輔の実の息子じゃからか?」
沢庵がぽつりとつぶやいた言葉に、万姫は苦笑を浮かべて答える。
万姫「やっぱり、気づかれていましたか、和尚。」
沢庵「まあのう。お前さんからこの子を預けられた時にうすうす感じておったが・・・」
万姫「・・・・あの子は、私の罪の証です。あの子の母を私は助けられなかった。そして、今度は父親まで・・・」
沢庵「・・・・・・」
万姫「だからこそ・・・・今回、私はあの子を直輔に引き合わせてもらった。それが、私の罪滅ぼしです。」
沢庵「そうか・・・・あの子の事は、直輔には・・・・」
万姫「伝えていません。あの子には、そして、直輔にも酷過ぎる・・・」
再び、直輔と雪輔に目を向ける万姫・・・・二人の姿は、本当に親子のように見えた。
直輔「基礎はできているようだな。<小鳥遊>も、元は居合い切りによる技だ。この分なら、すぐに習得できよう。」
雪輔「は、はい・・・・ありがとうございます。あの、先生・・・?」
直輔「何だ?」
雪輔「いえ、僕は、沢庵和尚のところでお世話になっていたんですが・・・本当の侍って何なのか、その・・・・」
直輔「分からぬのか・・・・?」
雪輔「は、はい・・・・・」
直輔「そうだな・・・改めて問われると、難しいものだな・・・・」
ある者は己が名誉を。ある者は階級と、そしてある者は魂と・・・・<侍>とは何か・・・・
だが、この時、直輔の答えは・・・・
直輔「・・・・あえて言うなら、言葉だな。」
雪輔「言葉、ですか?」
直輔「そう言葉だ。侍と一言で言っても、それをどう捉えるかで、変わってくる。つまり、侍とは千差万別に変化してくるものだ。」
雪輔「・・・・・じゃあ、先生にとっての侍は何ですか?」
直輔「そうだな。私がさまざまな侍とあって得た答えは・・・・・いかなモノに囚われず、己の生き様を貫く<心>だ。」
それが、近藤との戦いで得た直輔がたどり着いた答えだった。
150
:
藍三郎
:2008/09/14(日) 12:32:12 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp
=真撰組屯所=
あれから・・・
真撰組は、解体こそ免れたものの、
謹慎期間はさらに延長する事となった。
また、隊長格ら中枢の構成員は揃って減給処分となったが、
幸いにも、免職となった者はいなかった・・・・・・
山崎「うぃ〜っす、皆、たこ焼き買って来たぜ〜〜〜」
原田「おぉ!待ってたぜ!!」
隊士「ちょうど小腹がすいて来たところだ」
山崎が買ってきた昼食代わりのたこ焼きに、隊士達が一斉に群がる。
謹慎といっても、特に反省した様子も無く
思い思いに駄弁っている辺り、何とも真撰組らしいというべきか。
山崎「副長には言われたとおり、特製マヨだこ買って来ました」
土方「ちゃんとマヨだけ入ってる奴だよな?」
山崎「はい、もちろんですよ!
タコもネギも紅生姜も無いです。マヨネーズ“だけ”です」
それを聞いて土方は口元に微笑を浮かべる。
土方「フッ・・・やっぱタコ焼きはこうでねぇとな」
そう言って、たこ焼き・・・もといマヨ焼きの上に
思う存分マヨネーズをぶっかける土方。
どうやら、中にマヨが入っているだけでは満足できないらしい。
総悟「相変わらずのゲテモノ好きですね・・・見ているだけで気持ち悪くなって来まさぁ」
土方「うるせぇ。タコだの何だのゴチャゴチャ入れるのは男らしくねぇんだよ」
山崎「そういう問題じゃないかと・・・」
見るだけで吐き気もするマヨ掛けマヨ焼きを美味そうに頬張る土方。
151
:
藍三郎
:2008/09/14(日) 12:33:32 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp
山崎「それで、近藤さんは・・・」
真撰組の殆どの隊士が揃っている中で、近藤勲だけはこの場にいなかった。
幕府からの呼び出しで、朝から出発したのだが・・・
時間的には、もうとっくに帰っているはずの時間である。
土方「あぁ?どこかで油売ってるんじゃねーの?
たく、屯所にゃ反省文だの何だの
山ほど仕事が押し寄せて来てるってのによ・・・」
山崎「やっぱり、直輔殿の事が堪えているんですかね・・・」
土方「・・・・・・・・・」
煙草に火をつける土方。
土方「気にするこたぁねーよ・・・ここで凹んでいるようじゃ、
橋本直輔(あのヤロウ)も浮かばれねぇ。
そこんところは、あの人もよく解っているはずだ」
山崎「・・・ですよね」
躓く事もある。落ち込む事もある。
優しすぎるあまり、敵に同情してしまう事もある。
だが、そんな人間味溢れる漢だからこそ、自分達は彼の下にいる。
近藤勲の剣として、誇りを持って戦えるのだ。
その時・・・・・・
近藤「ただいま〜〜〜」
土方「お、噂をすれば影って奴だな」
山崎「もう、近藤さん、何処へ言っていたんで・・・・・・!?」
山崎の顔が瞬時に凍りつく。
近藤は、雀蜂にでも刺された様に、
見る影も無い程顔面を赤く晴らしていた。
痣と瘤だらけの顔で笑う様が、尚更痛々しい。
山崎「ちょ、近藤さん!どうしたんすかその顔は!?」
原田「まさか・・・練武館の残党に闇討ちされたんじゃ・・・」
居並ぶ真撰組の面々が一気に殺気立つ。
練武館が先に仕掛けたとはいえ、
真撰組は謹慎で済み、練武館は取り潰しという、
彼らからすれば非常に不公平な裁きが下された。
真撰組に恨みを抱いている者も大勢いるはずだ。
近藤「い、いやぁ・・・そんな大した事じゃねぇって・・・
あは、あははは!!」
原田「何言っているんスか近藤さん!!」
山崎「練武館の奴ら、ふざけやがって!!」
「謹慎なんか知るか!俺らも殴りこみに・・・」
猛る隊士達を前に、苦笑いする近藤。
その気魄に押されて後ずさりする近藤だが・・・
その懐から、小さい何かが零れ落ちた。
総悟「ん?こりゃあ何でぃ?」
近藤「あ、そ、それは・・・」
近藤が気づいて拾う前に、素早く拾い上げる総悟。
それは・・・スナック『すまいる』のマッチ箱だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
近藤「あ、あの・・・こ、これは・・・」
隊士達の白い目が近藤へと注がれる。
近藤は、愛想笑いを浮かべながら無駄な言い訳を始めた。
近藤「い、いやぁ・・・最近、あまりにもお妙さん分が不足しすぎて、
このままじゃヤバイと思ったので、つい、ふら〜〜っと、な。
それで、ちょっと羽目を外しすぎて・・・・・・」
その先はもはや聞く必要も無い。
謹慎中にキャバクラに行くなど、言語道断。
盛り上がった隊士達の殺気は・・・一気に局長へと矛先を変えた。
「「「お前がふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」
光覚「大人って馬鹿ばっかりだね〜〜」
斎藤「そうだな・・・・・・」
土方らに袋叩きにされる近藤を見ながら、
斎藤は最後のたこ焼きを口にした。
152
:
鳳来
:2008/09/14(日) 15:57:14 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
=・山中=
草木も眠る丑三つ時・・・・・箱根の山道を重い足取りで歩く巨漢ーーー奉行所から脱獄した猪旗がいた。
猪旗「く、くそっ・・・・何故、俺がこんな目に・・・・」
猪旗は悪態を突きながらも、いつ来るかも分からない追っ手から逃げ続ける。
当てがあるわけではない・・・・ただ、ひたすら逃げ続けるーーー犯罪者として裁かれるのを免れんとして。
猪旗「ん?あ、あれは・・・・・」
ふと目の前を見れば、向こう側から明かりが見えてくるーーー目を凝らしてみると、異国の服を身にまとった8人の旅人のようだ。
持ち物もばらばらで、大荷物の者もいれば、中には手ぶらのものまでいる。
猪旗「まあ、いい・・・・奴らから旅の路銀を頂戴するか。」
手っ取り早く山賊行為で、逃亡資金を得ようと、物陰に隠れ、向こうから来る獲物を待ち構える猪旗・・・・そして、彼らが自分が隠れている場所まで来た瞬間・・・・
猪旗「はぐはあはははは!!!お前たち、命が・・・・・」
猪旗がどこか聞きなれた三下の悪役が使う台詞を言い切る前に・・・・・
どこからともなく飛んできた弾丸に手のひらを貫かれーーーー
同時に、月光に照らされた幾重の刃が全身を膾きりにしーーー
続けて、両腕を掴まれ、そのまま、虫の足のようにもがれーーー
最後に、化け物じみた巨大な鉄の塊が振り下ろされ、猪旗を叩き潰した。
???1「思わず、驚いて撃ったけど・・・・誰なんだ、こいつ?」
???2「名前を聞く前に殺してしまったからな。」
???3「ど、どうしようか?」
???4「オウ・・・・気の毒ナ事ヲヤッチャイマシタ。」
???5「仕方ありませんね・・・・とりあえず、先を急ぎましょうか。」
???6「賛成〜vこんなぶっ細工な山賊なんて、どうでもいいじゃんvどうせたいした奴じゃないし。」
???7「ま、そうだな・・・・まあ、一応、謝っとくわ、名もなき山賊の人。」
???8「先を急ぎましょう。こんなところで時間をとられるわけにはいきません。」
まるで、うっかり肩をぶつけてしまった感覚で、物言わぬ死体となった猪旗に謝罪し、その場を去る8人・・・・
これは、練武館騒動の蛇足にして、後に江戸の街で細菌テロを実行する<七罪七獣>事件の始まりとなった。
153
:
藍三郎
:2008/09/17(水) 21:02:05 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp
第参章『妖喰らい』
ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・
降りしきる豪雨が、逃亡者の吐息を消し去る。
深夜の山中を疾駆する漆黒の影。
全身毛むくじゃらの、大柄の猿のような生物。
その息遣いは荒く、両の瞳は恐懼に血走っている。
“彼”は理解できなかった。
何故、自分が追われているのか。
何故、自分が逃げなければならないのか。
何故・・・
自分が殺されそうになるまで追い詰められているのか・・・
“彼”は人間では無い。畜生の類でもない。
この世の影に潜んで生きる、超常の存在・・・
人々に“妖(あやかし)”や“妖怪”と呼ばれる者だった。
妖怪の体感時間は、種族によって人間のそれとは異なるが、
弐百余年ほどの年月を生き延びてきた。
その間・・・妖怪を忌避する人間や、他の妖怪の手によって
命を狙われた事など幾度かあったが・・・今現在、彼はこうして生きている。
“彼”には特殊な能力があった。
“サトリ”というその力は、彼の周囲に居る人間や妖怪の心を読める。
それによって、彼は自分に向けられた“殺意”を逸早く察知し、
近づかれる前に逃げ延びる事ができた。
妖族の仲間内では、その読心の術から、彼を“サトリ”と呼んだ。
この力によって、彼は弐百年間を息災で過ごした。
その長生は、一種の驕りへと繋がっていった。
“サトリ”の力を利用して、妖怪、あるいは人間と取引して、
ある対象の心を読んで報酬を貰うような事もあった。
危険を感じれば、さっさと逃げてしまえばいいのだ。
彼の人生ならぬ妖生は、“サトリ”の力によって保証されていた。
今自分を追っている“あいつ”も・・・
心の瓶を、殺意という水で埋め尽くしていた。
これまで“悟った”誰よりも濃密で、どす黒い殺意。
ゆえに、まだ相手の姿も見えぬ内から、早々に逃亡を試みた。
それで助かるはずだった。今までのように、これからも。
だが・・・・・・
今夜、彼は知る事になる。
自分が今まで生き延びられてきたのは、
単に運が良かっただけだと言う事を・・・
この世には、出逢っただけで、
死を決定付けられるほどの“破格”が存在する事を・・・
ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・
“彼”は、嫌が応にも悟らざるを得なかった。
“狩人”と自分との距離は、徐々に縮まってくる。
それは、感じ取れる心の大きさによって解る事だ。
“サトリ”の力は、対象との距離に比例して効果が変動する。
相手に触ったり、面と向かって相対すれば深層心理まで詳細に読み取れるが、
離れた場所からでは殺気や怒気といった漠然とした感情しか読み取れない。
“悟れる”殺気が、時を経るにつれて増幅していく。
それは即ち、相手との距離が狭まっている事を意味していた。
どうやら敵は・・・妖怪のいる場所を察知する事ができるらしい。
つい先ほど、頭の中に入ってきた情報だ。
如何に想像を絶する俊足の持ち主とはいえ、目撃されていないはずなのに、
ずっと追って来られているのは不思議ではあったが・・・これで疑問は氷解した。
だが、それに呼応して恐怖もまた膨れ上がっていく。
決壊した壁から溢れる洪水の如く、情報が脳内に流れ込んでくる。
何故自分を付け狙うのか・・・誰の命令で動いているのか・・・
詳細な情報が入れば入るほど・・・
それは敵が近づいているという事である。
喉下に突きつけられた刃が、徐々に近づいてくるかのようだ。
154
:
藍三郎
:2008/09/17(水) 21:04:10 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp
そして――――――――
「さて、追いついたよ」
豪雨で煙る眼前に、“その男”は立っていた。
腰には一振りの日本刀。
それ以外は、これと言って特徴の無い外見だ。
豪雨が視界を眩ませ、容姿は判然としないが・・・
彼にとっては外見などどうでもよい事だった。
“サトリ”の力が彼に垣間見せるは、ただただ闇黒の殺意のみ。
まさに・・・殺気が人型を為しているようだ。
これほどまで黒く、純然なまでに黒く染まりきった心は今まで感じた事が無い。
恐怖で心が潰れそうになるのを必死で堪えながら、
彼は逃げ延びる術を模索する。
こちらには“サトリ”がある。追いつかれたとしても、
上手く心を読んで攻撃を避けて逃げ続ければ、あるいは活路を見出せるかもしれない。
「すまないねぇ・・・別に恨みは無いんだが・・・」
と、口では柔らかに語りかけるが、既に男は刀を抜く事を決めている。
狙いは脚・・・まずは脚を断ち動けなくするつもりらしい。
動けなくした後どうするのか・・・
それ以上心を読めば、今度こそ恐怖で気死しかねない。
一気に距離を詰めて、腰の日本刀を抜き放ち、
地を這うように刃を滑らせる・・・
ならば、腰の刀に手を伸ばした瞬間に頭上の木へと飛び上がるま―――――――
彼の思考はそこまでだった。
冷静な計算を一瞬で塗りつぶす激痛が、彼の足を襲ったからだ。
鮮血を吹き上げ、毛むくじゃらの両脚が宙を舞う・・・
それは自分の脚だと気づいた時には・・・
ようやく彼は、己の脚が断ち切られた事を悟った。
意思とは無関係に、喉の奥から絶叫が迸る。
心を読むのに気を取られて、男の動きから気を逸らせてしまったか?
いや、そんな事は無い。
男には何の予備動作も、腰の剣に触れる事さえしなかった。
ならば、どこからか伏兵がいて、そいつが攻撃したのだろうか・・・
それなら“サトリ”で気づくはずだどうなっているんだ
こいつは一体何者なんだ解らない怖い恐ろしい
何故私がこんな目に遭わなくてはいけないんだ
何故だ何故だ何故何故何故何故何故何故・・・・・・
恐慌が思考を塗り潰していく。
理解不能の境地に至って、男から感じられるのは、
謀の類など一切感じ取れぬ、ただ純を極めた殺意のみだった。
ならば・・・先ほどの不可思議な現象に絡繰など無い。
ただ・・・あまりにも相手が規格外だった、それだけの話だ。
相変わらず男は動かない。それでも、刃は飛んでくる。
右腕が飛ぶ、左腕が飛ぶ、胴が両断され、最期に首を刎ねられる。
血煙に溺れながら、この時・・・・・・彼は絶望した。
自ら“サトリ”を閉じて、心を読むのを止めた。
そう・・・“こいつ”に出逢った時点で、全ては終わっていたのだ。
どんな抵抗も足掻きも無意味。
自分の弐百余年の一生はここで終わる。
最後の最後に・・・“サトリ”は本当の意味で悟る事ができた。
そして、自分が行き着く先は、天国でも地獄でもなく・・・・・・
「お天道さまに感謝を――――――“いただきます”」
155
:
鳳来
:2008/09/20(土) 19:39:44 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
=2週間前・長崎=
九州地方における諸外国の交流拠点である長崎の出島・・・・
???「ここが、日本か・・・ここにあいつがいるんだな。」
交易船から積荷が下ろされ、商人たちが慌しく、積荷を確認する中、一人の少女が船から下りてくる。
慣れない異国の旅装束を不器用ながら、身にまとい、浜風を受けて、揺れる蒼い髪と尻尾を押さえて。
遠い異国の地へやってきた彼女の目的は一つ・・・・・かつてなされた約束を守るため。
???「20年か。どこで何をしてるんだろうな。ああ・・・・」
恋焦がれるように少女は、想い人のことを考え、いとおしげに呟く。
???「早く食べちゃいたい。」
とんでもなく物騒な発言をしながら、彼女は風を纏い、港町を後にした。
2週間後・・・・
=万事屋=
今日も閑古鳥がけたたましく鳴いているここは万事・・・・・
銀時「うっせいーー!!!今日はちゃんと客はきてるっつうの!!」
蓮丸「おい、銀の字・・・見えない人と話すのは痛いから、止めとけ。客が引いてるぞ。」
地の文に突っ込みを入れる糖尿侍は置いといて、目の前にいる客は・・・
エリザベス『いえいえ、大丈夫です、たまに、桂さんも見えない人と揉めたりしますから。』
新八「桂さんもかよ!!!まぁ、それはともかくとして、今日はどうしたんですか、エリザベス?」
エリザベス『ええ、実は・・・・・桂さんが行方不明になったんで、捜索をお願いしたいんです。』
事の発端は、攘夷派内での健康ブームで、急に健康に気を使うようになった桂が健康診断を受けようとしたことだった。
だが、幕府から指名手配されている桂が、かたぎの病院のお世話にはなれない。
そんな時、耳にしたのが、江戸の街で無料で、しかも、身分はとはずに、健康診断を受けられる診療所<神便鬼毒>である。
聞くが早いか、早速、世界的に有名な某ひげの配管工(兄)に変装し、健康診断を受けに行った桂であったが・・・・
その日から1週間たっても、桂が戻ってくる事はなかった。
新八「1週間って・・・・・何かあったんですかね?」
エリザベス『分かりません。さすがに、奉行所に捜索願を出すわけには行かないので・・・・』
銀時「んで、俺たちの出番ってわけね・・・・たく、どこで何やってんだが、あのヅラは。」
神楽「・・・・どうするね、銀ちゃん?」
銀時「決まってるだろ・・・・面倒だけどほっとけねぇからな・・・」
156
:
藍三郎
:2008/09/21(日) 22:38:18 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp
妖怪――――――
人とも獣とも異なる、この世のものとは思えぬ超常的種族、
それを、古来より人は鬼や妖怪と呼び、怖れてきた。
彼らの発祥は謎に包まれており、
戯術革命が成った今となっても解き明かされていない。
最も、現代においては、調査対象とすべき妖怪の数が
絶対的に不足しているというのも大きい。
近年になって妖怪の数が激減したのには理由がある。
“彼ら”の力の源は人々の『未知への怖れ』である。
科学技術が進歩し、人々の心から未知への恐怖が取り除かれ、
言い伝えや怪談が、単なる迷信や絵空事になっていくにつれて・・・
人々は妖怪や幽霊を信じなくなり、それが妖族の衰退に繋がっている。
現代において生き残っているのは、
妖怪と人間、あるいは妖怪と獣の血を引く半妖怪が大半で、
それらも妖族としての力を失いつつある。
中には・・・極稀であるが妖怪としての純血を守り続けている生粋の妖怪も存在する。
最も、そう言った者達は、まず人前に現れない。
何故ならば、種族として既に完成されている妖怪は、
人間や他の種族と関わらずとも生きていける手段を確立しているからである。
十数年前にようやく完結した乱世は、
人間のみならず、妖族達にも多大なる影響を与えた。
妖怪の血を引く者達は、その異能ゆえに人々から迫害を受け、
滅ぼされるか、異能を活かせる裏の世界へと身を投じるしかなかった。
その裏の世界・・・主に乱波や隠密として、
彼ら半妖の異能は多いに重宝された。
決して明るみに出る事は無いが、戦国時代においては、
諸国の大名は半妖から成る隠密組織を抱え、
諜報や暗殺の駒として使っていたという。
戦乱の世で、人間と同じく半妖達もまた、闇の世界で闘争に明け暮れた。
特に半妖を重用した戦国大名が、かの第六天魔王・織田信長である。
信長の急激な勢力拡張の理由の一つに、
半妖からなる隠密部隊の暗躍がある。
彼は、その名の通りの妖族を従えし『魔王』だったのだ。
だが・・・
“本能寺の変”によって、信長は覇道の半ばで死に・・・
同時に半妖達の運命は激変する。
新たに天下人の座へと昇った豊臣秀吉は、半妖の跳梁跋扈を嫌悪した。
人とは異なる彼らが、いずれ人間に牙を剥くと考えたのだ。
なお、その考えについては、
他の大名・・・徳川家康らも意見を同じくしていた。
そんな中・・・秀吉と、天才軍師・竹中半兵衛が目をつけたのは、
妖怪を特に忌み嫌う仏教勢力である。
しかも、法力や道術を身に付けた、半妖と同じく超人的な力を振るう・・・
『宗派七獄』を初めとする、異端の戦斗集団である。
ここに、『仏と妖の大戦争』が勃発した。
日本が東西に分かれて争う中、裏の世界でも、
人間と半妖、互いの存亡を賭けた死闘が始まったのだ。
結果としては・・・戦いは半妖族の惨敗に終わる。
今まで半妖を重用していた大名らは、秀吉に呼応してほぼ全員が彼らを見捨てた。
後ろ盾を失った半妖族は、もはや狩られる側の弱者。
秀吉の支援を受けた仏法勢力は、数で勝るはずの半妖族を圧倒した。
半妖達は徹底的に狩り尽くされ、『赤霧』などの僅かな血族だけが残された。
残った極少数の血族は、再び闇の世界に潜り、人間たちの闘争に関わる事を禁じた。
だが、その仏法勢力もまた、秀吉が天下人から陥落したことによって衰退する。
新たに頂点に君臨した徳川家康は、
彼ら闇の勢力そのものを、日本から排除しようとした。
その時暗躍したのが、伊賀・甲賀忍軍および、
百々目胡蝶斎率いる<万寿菊>である。
胡蝶斎の巧みな煽動工作により、宗派七獄は壮絶な同士討ちに突入する。
やがてまだ争いを止めようとしなかった半妖勢力までも巻き込まれ、
闇の世界でかつてない殺戮の嵐が吹き荒れた。
宗派七獄もその大半が壊滅し、半妖族もまた再起の機会を完全に断ち切られた。
戦国時代が終わると同時に・・・闇の戦乱もまた終わりを告げたのだ。
157
:
藍三郎
:2008/09/21(日) 22:40:29 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp
暗闇が天蓋を覆う森の中・・・
人の近寄らぬこの地で、今宵異形たちの会合が催されていた。
巨大な樹木の切り株を円卓として、
ずらりと並んだ出席者は、ほとんどが異形の姿をしていた。
額の間に第三の瞳を持つ男、唐傘に一つ目のついた異形、
河童や天狗、狐狸や犬猫といった畜生たち・・・
人間の姿をしている者でも、彼らはいずれも妖族の血を引いており、
純然たる人間は誰一人としていなかった。
玄行灯(くろあんどん)・・・
妖怪や半妖による、互いの支援や保護を目的とした一種の寄り合い。
日本中に散った半妖の血族らが利用しており、
妖族同士で今後の事を話し合ったり、裏の仕事を斡旋したりする。
乱世以降、妖族は衰退の一途を辿っており、
元来単一の種族だけで行動し、馴れ合いを好まなかった妖族も、
こういった集合を持たねば生き延びられないのが、
今の彼らの置かれている状況である。
今夜は、江戸を中心とした関東地方の各種族が集まっての集会・・・
ただし、定期集会ではなく、緊急に開かれた会合であった。
「これで・・・全員集まったかの」
円卓を囲む一体の異形が、しわがれた声を漏らした。
四肢の無く、全身毛むくじゃらで、見えているのは丸い目玉だけである。
彼は毛羽毛現(けうけげん)という妖怪で、
関東の妖怪達を取りまとめる、玄行灯の長である。
皆からは爺(じい)と呼ばれている。
現存する、数少ない純血の妖怪であり。
元々は仙人で、それが変じて今の姿となったらしいが、真偽の程は不明。
最も妖力はそれほど高くなく、人望と経験を買われてまとめ役を勤めている。
那雲「“サトリ”の奴がまだ来てないようだが・・・」
藍色の着物を着た禿頭の男が呟く。
両の眼を布で隠しているが、その額には第三の瞳が覗いている。
三つ目一族の長『那雲(なぐも)』だ。
爺「いや・・・そやつなら二日ほど前、消息を断っておる」
場が一気にどよめいた。
“サトリ”といえば、弐百余年を生きた純血の妖怪であり、
玄行灯においても重鎮を勤めていた妖だ。
この場にいる者全てが彼の顔見知りである。
三つ目の男は、微塵の動揺も見せずにこう続けた。
那雲「信じられんな。例えどんなに恐ろしい相手に
出くわしたとしても、あいつなら逃げられそうなものだが」
“サトリ”は相手の心を読める上に、慎重深い性格で知られていた。
その“サトリ”が消されたなどと、およそ信じられない事だった。
弁柄丸「ハッ・・・別におかした事はねぇだろ。
単に、あいつが下手打っただけの事だ。
心が読めるからって、調子に乗ってたんだよ」
沈鬱な場の中で一人、一つ目のついた唐傘が嘲るように言う。
物体に霊が宿り、妖怪と化した
付喪神(つくもがみ)の一種で、名を『弁柄丸(べんがらまる)』という。
生前はサトリと・・・いや、場にいる殆どの妖と折り合いが悪かった。
道斎「あるいは」
朱色の顔に異様に長く伸びた鼻・・・
鞍馬山に拠点を置く天狗一族の長『鞍馬道斎(くらま・どうさい)』だ。
道斎「相手がそれ以上の怪物だったか・・・だな」
弁柄丸「ケケッ!!まぁどっちにしろ清々したな。
あの野郎、勝手に人の心読みやがって、気持ち悪いったらありゃしねぇ。
くたばってくれたなら万々歳だぜ」
死者を冒涜する河童に、場にいる妖怪達の殆どが彼を侮蔑の眼で見る。
だが、場の怒りはそれほどのものでもなく、内心は彼と同意見の者も多かったようだ。
サトリは、その能力ゆえ、決して好意的に受け入れられてはいなかった。
道斎「死者を悪し様に罵るものでは無い。
あやつとて、好きで心を読んでいたわけでは無いのだ」
そんな雰囲気を察知したのか、天狗の男が彼を嗜めた。
弁柄丸「ハッ、妖怪が説教とは笑わせる。
消えて欲しいのは、テメェも同じなんだけどな・・・」
158
:
藍三郎
:2008/09/21(日) 22:41:51 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp
険悪な雰囲気になる天狗と唐傘を、長老格たる毛羽毛現の爺が仲裁する。
爺「これ、今は争っておる場合では無い。
本題に入ろう・・・今宵、皆に集まってもらったのは他でもない。
その“サトリ”にも関係した事じゃ」
長老の鶴の一言で、両者共に矛を収める。
爺「知らぬ者はおるまい。
昨今、我らの同胞が次々に人間に狩られ、行方不明になっておる。
“サトリ”も、この件に巻き込まれたと見て間違いなかろう」
那雲「こうして我らを集めたという事は・・・
もしや、下手人の目星がついたのか?」
三つ目の男が問う。
妖界の名士である毛羽毛現の爺の下には、
日本各地に散らばる妖怪達が得た情報が一手に集まっている。
定期的にこのような会合を開いて、
その情報を各種族の代表に提供するのも、<玄行灯>の長としての務めだ。
爺「うむ・・・さる筋の情報での・・・
消息を断った妖怪達の多くは、ある場所に囚われの身となっておるらしい」
長老の声に、場がどよめき出す。
「何と!!」
「ならば、ただちに救出に向かわねば!!」
爺「無論そうしたい。じゃが、事はそう簡単にはいかぬ。
その施設というのは、幕府の息のかかったところなのじゃ」
騒いでいた妖怪達が、一気に静まる。
彼ら全員が知っての通り・・・動乱期において、
妖族は散々に迫害され、多くの同胞が失われた。
幕府の力はあまりにも強大・・・それに比して、
妖族の勢力は全盛期に比べれば、貧弱と言っても良い
弁柄丸「下手に逆らっても、皆殺しになるのがオチだな。ケケッ」
「だからといって、このまま人間どもの好きにさせてよいのか?」
「そうだ!我らの力を結集すれば、幕府が相手とて・・・」
爺「これ、いつわしが諦めると言った。
ちゃんと方策を考えてあるわい」
爺がその“方策”について話す前に、三つ目の男から声が上がった。
那雲「少数精鋭による、強襲か」
道斎「・・・大勢で動けば、幕府の眼に止まり・・・
大規模な叛乱とみなされ、さらなる殺戮が我らを襲うだろう・・・
それだけは避けねばならん」
二妖の発言に、毛羽毛現の爺は肯定の意思を示す。
爺「そうじゃ。あくまで秘密裏に事を遂行し、同胞らを解放してもらいたい」
鉄磨「ではその任務、我ら赤霧斗賊団が引き受けよう・・・」
ずっと黙して話を聞いていた、緋色の髪の男が言う。
半妖の血族、赤霧斗賊団の団長・赤霧鉄磨だ。
今夜は赤霧一族の代表として、<玄行灯>の会合に出席している。
<玄行灯>からは、斗賊団の仕事を回してもらうことも多々あり、
組織とは深く繋がっている。
弁柄丸「ヘヘッ、半妖のてめぇらに上手くやれんのか?」
弁柄丸の挑発にも、鉄磨は感情を露にすること無く、淡々と説明する。
鉄磨「だからこそ、だ。
敵が妖怪を標的にしているならば・・・当然、妖怪に対する備えは万全のはず。
ならば、半分人間の血を引いている俺たちの方が、
その弱味につけ込まれないで済む」
爺「うむ。サトリほどの妖がやられるほどの相手じゃ。
我ら妖族の手の内を知り尽くした敵と見てよかろう・・・ならば・・・」
爺は、毛を伸ばして、鉄磨のいる席を指し示す。
爺「赤霧斗賊団に依頼しよう。
人間らに囚われの身となった同胞らを、救出してくれ」
鉄磨「委細承知・・・」
その後・・・“敵”の名前や、細々とした情報、
そして報酬の契約が交わされ、闇夜の会合はお開きとなった・・・
159
:
鳳来
:2008/09/23(火) 21:12:13 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
翌日・・・・
=診療所<神便鬼毒>=
エリザベスの依頼を引き受けた銀時ら万事屋メンバーと蓮丸は、早速問題の診療所に来ていた。
銀時「へぇ・・・・結構立派なところじゃねぇか。レンガ造りたぁ、珍しいな。」
新八「何でも、西洋医学の分野も取り入れた最新医療を行ってるって話ですよ。」
神楽「西洋医学ってあれか?房中術もおこなってるのか?」
蓮丸「いや、それは西洋医学じゃねぇから。」
それはさておき、診療所の中にはいる一行であったが・・・
長谷川「あれ?あんたら・・・・・」
銀時「あ、マダオじゃねぇか。」
神楽「ホントね。どうしたか、こんなところで?」
長谷川「いやぁ、実はね、面接先の企業から、健康診断書を持ってきてくれて、言われたんだけど・・・」
蓮丸「あ〜みなまで、言うな。健康診断を受ける金がねぇから、タダの言葉につられて、来たんだな。」
長谷川「あ。いや。うん・・・・・なんで、分かったのか気になるけど、大体あってる、うん。」
一同の心境((((だって、マダオだし。))))
そんな失礼な事を考えつつ、受付で申し込みを済ませ、順番待ちをする一同・・・・
この時、受付の看護婦が銀時と長谷川の受付用紙にある印鑑が押されていた。
<検体候補:採用>
=診療室=
医者1「では、それじゃあ、銀時さん。尿を取ってきてくださいね。」
銀時「うぃっす〜」
受けてみれば、いたって普通の健康診断で、拍子抜けした銀時はとりあえず、最後の検尿検査のために尿を採りにトイレに向かう。
向かった先のトイレは、診療所の大きさに反して、人一人が入る程度の狭さの和式トイレだった。
しかも、診療所からかなり離れた場所にあり、何か大きな音を立てても、気づく者はいないだろう。
銀時「おい、おい・・・・いくらただだからって、トイレぐらいもっと大きく作れよな・・・」
そんな事をぼやきながら、用を足そうとした瞬間ーーーーー突如、足首を掴まれ、引きずり込まれはじめた。
銀時「ちょ、おい、ちょっとまてやぁーーーーー!!!幾らなんでも、そこからかよーーーー!!!」
そんな銀時の抗議を当然のごとく無視し、銀時の足首を掴んだ腕はそのまま、銀時をトイレの中に引きずり込んだ。
後に残ったのは、トイレに立て掛けた銀時の木刀だけであった。
160
:
藍三郎
:2008/09/24(水) 23:30:08 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp
昨日・・・
歌舞伎町のとある長屋に、赤霧兄妹は集まっていた。
彼ら兄妹は危険な仕事をこなしている分、収入はそれなりにある。
しかし、彼らは闇の仕事に手を染めている斗賊団。
万が一の事を考えれば、すぐに棲家を変えられる
借家が住居としてはちょうどいいのだ。
内部では、赤霧三兄妹が図面が描かれた紙を広げて、
明日実行する“仕事”について話し合っていた。
鉄磨「・・・というわけだ。
俺達は明日・・・この診療所<神便鬼毒>に潜入する」
つい先ほど、<玄行灯>の集会から帰って来たばかりの
長兄・赤霧鉄磨は、江戸の地図の一点を指し示す。
深鈴「ここに、捕まえられた妖怪達が囚われているんだよね」
鉄磨「ああ、俺たちの任務は、その妖怪達を解放し・・・
施設を当面の間機能できなくなるまで破壊する事だ」
それを聞いた次兄・凶護は、残忍な笑みを浮かべて兄に問う。
凶護「ここにいる人間どもは、皆殺しにしてもいいんだよなぁ?兄貴ぃ?」
鉄磨「いや・・・殺すのは、俺たちに手向かってくる者だけにしろ。
それに、今回の任務では、本願寺の時のような派手な戦いは禁物だ」
その時・・・・・・
伊空「よっ、おひさ〜〜〜」
障子が開き、猫耳のような癖毛を供えた少年が入ってくる。
赤霧一族の末弟・赤霧伊空だ。
彼だけは兄妹と離れて別の場所で暮らしている・・・
というかほとんど常時流浪状態なので、居場所を突き止めるだけでも苦労した。
凶護「こるぁ伊空!!兄貴の呼び出しに遅れるたぁどういう了見だ!!」
兄への敬いなどまるでないこの生意気な弟が、凶護は大の嫌いだった。
いきり立つ次男を、鉄磨は腕で制する。
鉄磨「待て・・・来ただけでも上々だ」
深鈴「そうだよね〜〜・・・下手すると、東北とか九州の方に行きかねないし」
伊空「あははは。まぁ、当分は江戸を離れるつもりはないよ・・・
ここにいた方が、“あいつ”の動向を掴みやすいしね」
伊空はそう言うと、空いている空間に腰を下す。
伊空「話は大体聞いてたから、続けてよ」
鉄磨「わかった・・・・・・
先ほども言ったように、今回の仕事は慎重に事を運ばねばならない。
俺たちの標的は、幕府の息のかかった機関だからだ」
深鈴「ゲッ・・・それって、御上を敵に回すって事じゃない?」
赤霧一族の中でも最も人間らしい深鈴は、顔を青くする。
今の御時勢、妖怪が幕府に逆らって、ただで済むとは思えない。
鉄磨「毛羽毛現の爺の話では・・・
その機関は、幕府とも折り合いが悪く・・・
いずれは解体される事も検討されているらしい。
それに、爺は一部の幕府要人とも密かな繋がりがある。
俺たちの行動は揉み消してくれるだろう・・・」
伊空「『らしい』とか『だろう』とか、
命を賭ける割には色々と危なっかしい気がするんだけど」
鉄磨「そこは、毛羽毛現の爺を信頼するしかないな・・・」
凶護「ハッ、俺には関係ねぇ!!
兄貴の為なら、幕府の狗だろうが何だろうがぶっ殺すまでだぜ」
伊空「馬鹿だなぁ。兄貴が困っているのはそういう事じゃないっての」
凶護「な、何ぃ!?」
凶護の殺気を鎮めるように、鉄磨自身が懸念を話し始めた。
鉄磨「首尾よく任務を果たせたとしても、
幕府から、何らかの報復が行われる危険性がある・・・
だから、極力俺たちの素性は隠したい」
深鈴「じゃあ、変装でもするの?」
鉄磨「それに近いが・・・むしろ逆だ」
鉄磨の謎の言葉に、一同は疑問符を浮かべる。
赤霧の長兄は、その長く伸ばした緋色の髪をかき上げて示す。
鉄磨「俺たちにとって最も目立つ特徴は何だ?
この髪だ。逆に言えば、この特徴を消してしまえば、
向こうは俺たち赤霧斗賊団が下手人とは特定できない」
深鈴「そっかぁ、黒で染めちゃうわけね」
鉄磨はゆっくりと頷いた。
赤霧斗賊団のトレードマークは、日本人にはまずありえない赤系統の髪だ。
それを黒く染めてしまえば、ただの日本人と見分けがつかない。
深鈴「それなら、髪型も変えたほうがいいわね。
ちょうど格好変えてみたかったところなのよ」
お洒落好きの深鈴は、任務の為という枠を越えて愉しそうだ。
深鈴「そうそう、凶護兄の髪型、あたしが変えてあげよっか?」
凶護「ああ?そうだな、俺ぁそーゆー七面倒なのは苦手だからよ」
161
:
藍三郎
:2008/09/24(水) 23:31:34 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp
伊空「イメチェンかぁ・・・・・・」
伊空は天上を見上げて、しばし考えていたようだが・・・
腰を浮かせて、来たばかりの戸口に向かう。
伊空「うん、要は今の面影が無くなればいいんだよね?」
鉄磨「その通りだが・・・」
伊空「じゃ、適当に変えてくるよ。
集合場所と時間は、ここに書かれている通りにすればいいんだよね?」
床に広がった図面を指で示す。
鉄磨「ああ、そうだ・・・」
伊空「解った。それじゃ、また明日〜〜〜」
伊空は軽快な足取りで、長屋を出て行く。
その顔には、どこか悪戯めいた笑みが浮かんでいた・・・
その頃・・・・・・
木々の生い茂る林の中を、一人の男が歩いている。
腰に刀を差してはいるが、身なりはみすぼらしく、その顔にも生気が無い。
ところどころ汚れた白い着物。後ろで無造作に束ねただけの長い黒髪。
いかにも職にあぶれた浪人といった雰囲気だった。
男の澱んだ眼は、林の中で遊んでいる数名の子供達に移る。
彼らは木の上を見上げて、途方にくれている様子だった。
???「おやぁ?坊や達、どうしたのかい?」
子供達は、最初突然現れた男に怖れを抱いていたが、
男が柔和な笑みを浮かべているのを見て、僅かながら警戒を解いた。
???「ふぅん・・・あの毬が木の上に引っかかっちゃったんだねぇ」
上を見上げると、木の上に毬が引っかかっている。
蹴鞠か何かで遊んでいたところで、
高く蹴り上げた毬が枝に捕まったのだろう。
子供の背丈では到底届かない高さだ。
???「少し待っていなよ・・・そおれ」
男が腰の刀に手を掛けると・・・
頭上の枝は切り落とされ、毬が地上に落ちてくる。
子供達は満面の笑顔になり、口々にお礼を言う。
???「いやいや、別に大した事じゃあないよ・・・
これからは気をつけるんだよ」
毬を取り戻した子供達は、きゃあきゃあ言いながら
自分達の村へと帰ろうとする。
だが・・・・・・
???「あ・・・そうそう、そこの僕・・・・・・」
最後尾にいた子供が、振り向いたその瞬間・・・・・・
子供の首は、瞬時に胴体から離れていた。
驚愕。悲鳴。絶叫。恐怖。血飛沫。死―――――
残された子供達の反応はそれぞれだった。
喉が割れんばかりの悲鳴を上げる者、
その場にへたり込む者、脱兎のごとく逃げ出す者・・・・・・
共通しているのは・・・
誰も目の前で起こった惨状を理解できていない事だった。
親切にしてくれたお侍様が、いきなり友達の首を刎ね飛ばしたなどと・・・
男は一切表情を変えずに、落ちて来た生首を手で掴む。
その顔は緑色の皮膚をしており、明らかに人間の子供ではなかった。
???「かわいそうに。まだ妖力を上手く消す術も
身につけてなかったんだねぇ・・・」
どこか濁った血を顔面に浴びながら、
男は慈愛の眼で妖児の生首を見つめる。
いつしか、その口の端からは涎が零れ始めていた。
湧き上がる欲望を満たさんと、口を開いた瞬間・・・・・・
162
:
藍三郎
:2008/09/24(水) 23:32:17 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp
「ようやく見つけたぞ」
「手間を掛けさせおって」
男二人の声が、彼の耳へと響いた。
声の方向を振り向くと、そこには白装束に錫杖を携えた、
山伏風の男が二人立っていた。
双子なのか、両者とも良く似た顔立ちをしている。
???「おやまぁ、これは独角殿、双角殿・・・」
独角(どっかく)、双角(そうかく)と呼ばれた
二人の山伏は、侮蔑を込めて男を見つめる。
独角「ただちに本部に帰還せよという命を下したはずだが」
双角「辻占玖郎三郎清光(つじうら・くろうさぶろう・さやみつ)・・・・」
名を呼ばれた清光は、口を三日月型に歪めて見せる。
狂気を孕んだ笑顔だった。
清光「いやぁ・・・どうにも歩いているとお腹がすいて仕方が無くてね・・・
妖怪の気配を見つけると、ふら〜〜っとそっちに行っちゃうんだ・・・」
独角「くっ、いつもいつも好き勝手ばかり・・・!」
双角「とにかく、我々と共に一旦本部に戻ってもらうぞ。辻占よ」
清光「はいはい・・・わかりましたよっと・・・」
双角「それと、その妖怪の屍骸は我々が回収する。
未成熟の妖怪は、研究対象として貴重なのでな・・・」
それを聞いた途端、清光はどこか悲しそうな表情になる。
清光「あ〜〜あ・・・美味しそうだったのにな・・・・・・」
そうぼやくと、清光は妖児の生首を放り投げる。
独角「くっ・・・いつも言っているだろうが!!
妖怪を見つけたら、なるべく殺さずに連れて来いと!!」
いきり立つ山伏を、もう一方の山伏がなだめる。
双角「落ち着け、兄者・・・元よりこの男にそんな匙加減ができるものか」
独角「良いか辻占!貴様は隠れている妖怪を探す能力を
買われて我らの下にいるのだ!命令も無いのに勝手に動き回るでない!」
清光「はいはい・・・肝に銘じておきますよっと・・・」
その乾いた笑みからは、反省の色が見えない。
しかし、怒気を含んでいるわけでもない。ただ飄々と受け流している。
清光は木々が覆う天を見上げ、薄っすらと笑みを浮かべてこう呟いた。
清光「ああ・・・肝か・・・食べたいね。
新鮮な、妖怪の生き肝が・・・うふふ・・・・・・」
163
:
鳳来
:2008/10/18(土) 19:22:53 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
=????=
???「お・・き・・・・」
うん、何だよ・・・すげぇ気持ちよく寝てるんだからよ、もうちょっと・・・
???「お・・・き・・・・お・・・・!!」
ああ、ほっといってくれよ。このままもう少し・・・・・
???「とっとと起きんかぁーーーー!!!!」
銀時「いってぇーーーー!!!」
銀時の頬に、何者かの痛烈な気合の張り手に、頬を撃たれて、一気に目が覚めた。
銀時「なにすんだ、てめぇーーー!!!親父にもぶたれたことねぇのに!!!」
桂「嘘付け。むしろ、お前に親父は居なかっただろう。」
銀時「うっせぇ、ヅラ・・・・・?!って、何でお前がここにいるんだよ!!!」
よく見れば、周りは南蛮渡来のガラス張りの牢屋で、自分の隣には、長谷川の本体(サングラス)とサングラス掛けも転がっていた。
桂「ヅラではない。桂だ・・・・・・どうやら、お前も、ここに捕まったみたいだな。」
俺も?−−−−その言葉に、銀時が気絶する直前の記憶がよみがえってくる。
確か、便場で検尿検査の尿を採ろうとしたときに、引きずり込まれて・・・
銀時「おい、ヅラ・・・・・ここはどこなんだ?何で、俺たち、捕まってんだよ?」
桂「ヅラではない、桂だ。どうやら、ここは、妖魔滅伏組の本拠地のようだ。」
銀時「いや、妖魔滅伏組って、そもそもなんだよ。」
桂「簡単にいえば、幕府公認の妖怪退治屋だ。表向きは医療機関の形をとっているがな。」
銀時「何だよ、ただの妖怪退治屋が随分面倒なことしてるじゃねぇか。」
桂「ただの妖怪退治屋なら問題は無い。その手段に問題があるんだ。」
銀時「手段?」
桂「そう・・・・ここではな、勧誘或いは攫ってきた人間を改造して、妖怪せん滅の手先とする強化人間を生み出しているんだ・・・」
銀時「んな?マジかよ!?」
???「そのとおりだよ、白夜叉。」
突如として、銀時の背後から、重々しい声が聞こえてきた・・・背後を振り返ると、そこには、南蛮渡来の白い西洋服に身を包んだ老齢の男性が立っていた。
???「初めまして。私がこの研究所の総責任者<水野 夏彦(ミズノ ナツヒコ)>だ。」
164
:
藍三郎
:2008/10/26(日) 00:53:04 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
作戦決行当日・・・
長屋前では、赤霧の兄妹たちが集まっていた。
深鈴「へぇ〜〜髪を黒く染めるだけで、随分印象変わるもんだね」
深鈴は兄を見上げてそう呟く。
赤霧鉄磨は、緋色の髪を真っ黒に染め、色眼鏡(サングラス)を外している。
髪の色を変えて素顔を晒すだけで、大分印象が違って見える。
凶護「その格好もイカしてますぜ!兄貴!!」
そう言う凶護も深鈴も、暖色の髪を黒に染めている。
これから妖魔滅伏組の本拠に潜入するに当たって、
なるべく目立たないようにする為の措置だ。
髪型も変わっており、凶護はボサボサの鳥頭を右側で縛り、
逆に深鈴は両側で結んでいた髪を解いて三つ編みにしている。
凶護「しっかし、伊空のヤロウはまた遅刻かよ!!」
憤懣やる方ないという様子で地面を強く踏みつける凶護。
凶護「兄貴!あんな奴、もう置いていきやしょうぜ!!」
鉄磨「いや・・・来たようだ」
伊空「お待たせ〜〜〜〜♪」
凶護「たく、遅ぇんだよ・・・・・・って」
深鈴「・・・・・・え!?」
その姿を視界に映した途端・・・・・・
鉄磨を除いた二人の顔が凍りついた。
軽快な声と共に現れたのは、朱色の着物を着た“美少女”だった。
黒い髪を背中まで伸ばし、眩しいまでの笑顔を浮かべている。
着物は決して高級なものでは無いが、
その容姿は艶やかな雰囲気と妖しい色気を振り撒いていた。
凶護「お、おま・・・・・・伊空・・・か?」
伊空「うん、腐っても俺の兄貴だ♪よく解ったね〜〜」
深鈴「な、何で女装?」
伊空「えへ、似合うっしょ?一度やってみたかったんだよね〜〜」
はにかむような笑顔を浮かべて、くるりと一回転して見せる伊空。
深鈴(うぐ・・・何か負けた気がする・・・・・・)
並の女以上に華やかなその姿に、
深鈴はそこはかとない敗北感を覚えるのだった。
鉄磨「確かに、変装するならばそのぐらいはやった方がいいかもな」
深鈴「マジで!?」
凶護「おいおい解ってんのか?これは遊びじゃ・・・」
伊空「遊びでしょ?」
珍しく説教らしい事を言い始めた凶護を遮って、
事も無げに伊空は言う。
伊空「気紛れで喉を裂き、洒落で腹を斬り破り、
屍骸(おもちゃ)が転がる血みどろの子供部屋で朝まで遊び倒す・・・
これはそういう愉しい愉しい“遊戯(あそび)”でしょう?」
凶護(・・・・・・こいつ)
町娘の姿のまま、平然と壊れた発言をする弟の眼は、
隠しきれない狂気で爛々と輝いていた。
艶やかな衣装を纏っても、内に秘めた殺意と闘争心は抑え切れない。
深鈴(調子は・・・万全みたい・・・
こいつが一番怖いのって、“本気で遊ぶ”時なのよね・・・)
鉄磨「・・・・・・行くぞ」
それは鉄磨も解っているのか、
短く告げると目的地に向かって歩き出す。
伊空「りょ〜〜かい♪」
凶護「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」
数十歩進んだところで、
凶護は何かを思い出したかのように立ち止まる。
深鈴「どしたの?忘れ物?」
凶護「伊空ぁぁぁぁ!!!テメェ!!
さっき“腐っても兄貴”とか抜かしやがったな!!
どういう意味だそりゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
深鈴(・・・・・・つっこみ、遅っ!!
まぁ私も軽く流してたけど・・・・・・)
わめき散らす凶護には全く反応せず、
伊空はどこか上機嫌で往来を歩くのだった・・・
165
:
鳳来
:2008/11/01(土) 22:11:53 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・
銀時「・・・・あんたがここの責任者?」
水野「先ほど話したとおりだ。気分はどうかね?」
銀時「良い夢みさせてもらったぜ。ここが危ない研究所じゃなけりゃね。」
水野「そうか、それは済まなかったね。しかし、君たちには用が済むまでここにいてもらいたいのだがな。」
銀時が皮肉を言うが、さらりと受け流す水野が背を向けた瞬間・・・・
銀時「悪いけどよぉ・・・あんたに従う理由は俺にはないんでな!!!」
その隙を付いて、反撃の機会を伺っていた銀時が、水野に�%F
166
:
鳳来
:2008/11/02(日) 12:23:48 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
(書き込み失敗したので、改めて書き込みます・・・・すみません)
一方・・・・
銀時「・・・・あんたがここの責任者?」
水野「先ほど話したとおりだ。気分はどうかね?」
銀時「良い夢みさせてもらったぜ。ここが危ない研究所じゃなけりゃね。」
水野「そうか、それは済まなかったね。しかし、君たちには用が済むまでここにいてもらいたいのだがな。」
銀時が皮肉を言うが、さらりと受け流す水野が背を向けた瞬間・・・・
銀時「悪いけどよぉ・・・あんたに従う理由は俺にはないんでな!!!」
その隙を付いて、反撃の機会を伺っていた銀時が、水野に飛び掛るーーーーーー
水野「だろうね。だが、これは君の理由云々を抜きにした・・・・命令だよ。」
ーーー直前、銀時と水野の間に割ってはいるかのように、全身を黒いタイツで覆った怪人が現れ、銀時の拳を受け止めた。
そして、クロスカウンターとなる形で、銀時を殴り飛ばした。
銀時「んな!?」
驚きの声を上げる銀時・・・・・それもそもはず、ここには自分たち以外は誰もいなかったはずなのだ。
そもそも、全身黒タイツという異様な格好をした奴がいれば、いやでも目に付くはず・・・
銀時「おい、ヅラ・・・・まさか、こいつが・・・・」
桂「ヅラではない、桂だ。そう、この研究所の成果とも言うべき強化人間・・・・・」
水野「通称:<壊人>シリーズ。私はそう呼んでいるがね。」
=万事屋=
銀時が失踪して、早三日・・・・・・独自に捜索していた神楽、新八、蓮丸、サラサは、何の手がかりも無く沈んでいた。
新八「銀さん、何処いっちゃったんでしょね・・・・・」
サラサ「一番、怪しいのは、お前達が健康診断を受けたあの病院なのだが・・・・」
蓮丸「さすがに、何の情報もないまま、乗り込むのは下策だ。」
神楽「ミイラ取りがミイラになっちゃうね。でも、このままじゃ、よくないね・・・・」
どうしたものかと頭を抱える一同であったが・・・・・予想外の人物によって問題解決の糸口は意外な形で切り開かれた。
漆間「すみません、蓮丸さんはいますか?」
蓮丸「お、漆間じゃねぇか・・・・何か用事か?今、ちょっと・・・・」
漆間「残念。万姫様直々の依頼ですから、拒否権無いと思いますよ。拒否したら処刑ですし。」
蓮丸「拒否権なしかよ・・・・で、何なんだよ・・・?」
漆間「ああ、依頼の内容ですが・・・・」
次の瞬間、漆間からの依頼の依頼内容に、一同は思わず目を輝かせ、万姫に感謝した
漆間「これより、診療所<神便鬼毒>の地下研究所に潜入して、捕らわれている人々を解放して来てください。あ、ついでに、本拠地ぶっ潰してきてください。」
167
:
藍三郎
:2008/11/02(日) 21:29:12 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
=神便鬼毒 地下研究施設=
凶護「おらよっと!!」
鉄製の扉を蹴破り、施設内へと雪崩れ込む四人の半妖。
深鈴「こんな抜け道があったとはね・・・これも、“玄行灯”の情報なの?」
鉄磨「ああ・・・」
深鈴「施設内の見取り図もあるんだよね。
何か至れり尽くせりって感じだわ」
鉄磨(恐らく、密かに情報を提供したのは江戸幕府・・・
御上も、妖魔滅伏組を排除したがっているということか)
「おい、お前ら、そこで何を・・・・・・」
物音を聞きつけたのか、
白装束を着た衛兵らしき男が二名姿を現す。
彼らが臨戦態勢に入る前に・・・・・・
「が・・・っ!!!」
「ぐは・・・・・・っ!!?」
彼らは瞬時に喉を裂かれ、鮮血を撒き散らして斃れた。
半妖達の中で、最も早く動いたのは、赤霧伊空だった。
伊空「ほらほら兄貴達、ぼうっとしちゃ駄目でしょ?」
警護の兵を瞬殺した伊空は、返り血を浴びた顔で笑う。
深鈴「貴方、その武器・・・」
伊空の手には、薄紅色のかんざしを、
短刀のように鋭利に研いだ武器が握られていた。
伊空「えへへへ・・・こんな格好だからね。武器もそれに合わせてみた」
伊空は二対のかんざしを髪へと戻す。
鉄磨「よし・・・当初の予定通り、二手に分かれていくぞ・・・」
凶護「よっしゃ!!兄貴、行きやしょうぜ!!」
深鈴「兄貴達が敵を引き付けてる間に、
あたし達が捕まった妖怪(なかま)を解放するんだっけ?」
施設内の見取り図を見ながら、深鈴が予め打ち合わせた作戦を復唱する。
伊空「え?兄貴達が囮役?
それなら、俺と凶護兄貴が組んだ方がいいんじゃね?」
凶護「ふざけんな!!テメェと行動するなんざ御免だね!!
俺は兄貴と一緒に行く!!」
即座に否定する凶護。
深鈴(・・・まぁ、凶護兄貴は暴れすぎるきらいがあるからね・・・
鉄磨兄貴が綱を持っていた方がいいか。
凶護兄貴を止められるのは、鉄磨兄貴だけだし・・・
・・・って、それなら、あたしは伊空の監視役ってこと?)
この、自由奔放かつ享楽的な弟を制御しきれるか・・・
深鈴には全く自信が持てなかった。
鉄磨「今回の任務は、あくまで妖怪の救出だ。
それを最優先にして行動しろ・・・」
伊空「りょ〜〜か〜〜〜い♪」
赤霧の兄妹達は、道を二手に分かれて進んでいった。
地下研究施設の最奥部にある、第壱號研究室・・・
ここでは、妖怪達を相手に生体実験が行われていた。
これも全ては、妖怪の体の構造を解析し、弱点を割り出すため。
そして、ここで得られた情報を、強化兵士へと反映させるのである。
実験の対象となるのは、妖魔滅伏組によって各地から捕獲された妖怪達。
苛烈な生体実験によって、命を落とす妖怪は後を絶たなかった。
「ぃぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
今日もまた、哀れな犠牲者が一匹・・・・・・
168
:
藍三郎
:2008/11/02(日) 21:30:27 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
独角「ちぃ、くたばったか。
腹を裂いたぐらいで死ぬとは、化け物の癖に脆い奴らだ」
妖怪の屍骸を見下ろしながら、物言わぬ骸に唾を吐きかける山伏風の男。
彼の名は光明寺独角(こうみょうじ・どっかく)。
妖魔滅伏組の構成員で、双子の弟である双角(そうかく)と共に、
妖怪の捕縛、および生体実験を担当している。
彼ら光明寺一族は、元々物の怪を葬る破邪の一族であり、
発祥は鎌倉時代まで遡る。
長きに渡って、表舞台に出てきた妖怪や半妖を狩っていたが、
宗派七獄などの他の仏法勢力と同様、
戦国時代末期に起こった裏の世界の動乱に巻き込まれ、組織をほぼ壊滅させられる。
僅かに残った残存勢力は、妖魔滅伏組に身を寄せ、
同じく稀少となった妖怪を狩っている。
当初は人類の敵となる妖怪を討伐する
崇高な理念を掲げていたが、今ではそれが独り歩きし、
例え害を為さない妖怪であっても、
構成員の征服欲を満たす為に狩る事例が増えている。
この独角、双角の兄弟も、そういう類の人物だった。
妖怪の血で濡れた部屋の片隅で、
辻占玖郎三郎清光は、壁にもたれかかって、生気の無い目で虚空を見上げていた。
それから、覇気の無い声で、物欲しそうに呟く。
清光「なぁ・・・“それ”、私にくれないかい?もう要らないんだろう?」
彼の瞳には、実権で死んだ妖怪の屍骸が映っている。
独角「ふん、屍骸であっても妖怪ならば食べたいと申すか。
卑しい食人鬼め」
妖怪に向けるよりも侮蔑の篭った目で
男を見ると、妖怪の屍骸を放り投げる。
清光は、飢えた犬のように屍骸にかぶりつき、瞬く間に食らって行く。
『人面剣鬼(じんめんけんき)』辻占玖郎三郎清光
元々は名の知れた武家の家柄だったが、突然殺人狂として目覚め、
一族郎党を皆殺しにして出奔、戦国時代の混乱期に戦場を渡り歩き、
数え切れぬ程の人間を切り捨てて来た。
乱世が終わってからも、人を斬る事を止められず、
闇の世界で人斬りとして徘徊している。
また・・・殺した人間の肉を喰らうという異常な性癖を持ち、
あまりにも大勢の人間を、妖怪以上に楽しそうに殺す事から、
人の面を被った剣の鬼・・・『人面剣鬼』として恐れられ、裏社会でも忌み嫌われている。
数多くの人間を斬ってきたが、その対象は人間だけでなく、
妖怪にも及び、屈強な妖怪達を次々と斬り殺している。
その時も、人間と同じように殺した妖怪の血肉を喰らってきた。
やがて・・・その凶行の数々が
江戸幕府の目に留まり、犯罪者として処断されかけたが・・・
その類稀なる剣腕と、妖怪をも食らう凶暴性に目をつけた
妖魔滅伏組によって取立てられ、今は用心棒として雇われている。
清光(・・・・・・・・・ん?)
骨に残った肉まで美味しそうにしゃぶりながら、
清光はふと何かに気づいたように、眠たそうな眼を一瞬開く。
清光(小さいけど、妖怪の気配・・・
ここには妖怪なんていくらでもいるけど、この気配は今までに無かったねぇ・・・
もしかして、侵入者かねぇ・・・)
本来ならば、目の前にいる独角に報告すべきなのだが・・・
何か思うことがあるのか、清光はゆらりと立ち上がり、
一人実験室を出て行った。
169
:
鳳来
:2008/11/03(月) 17:11:31 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・
=隔離室=
水野「侵入者?」
隔離室から出てきた水野の元に、何者かが地価研究所に潜入したという連絡が入っていた。
研究員「恐らく、幕府の手の者か・・・・・・」
水野「妖怪どもが仲間を助けに来たと言うわけか。それで、侵入者の数は?」
研究員「報告では、侵入者は8名とのことですが・・・・」
水野「随分と侮られたものだな。ならば、迎撃には、壊人シリーズに当たらせよう。光明寺兄弟にも連絡を取れ。」
研究員「彼らもですか?」
水野「二言は無い。すぐに連絡を取り、ただちに迎撃に向かわせろ。」
研究員「は、はい・・・」
戸惑いながらもその場を後にする研究員を見送り、水野はやれやれと呟いた。
水野「あの鬼姫の手の者・・・・一筋縄では行くまい・・・」
=地価研究所B1F=
斗賊団とは別に、男女4人組ーーーー蓮丸らも施設に侵入していた。
蓮丸「っと、侵入完了・・・・しかし、良くこんな施設が立てられたもんだな。」
新八「そうですよね。ここに、銀さんと桂さんが・・・・・」
神楽「早くいくネ。銀ちゃん達が、改造されちゃう前に助けないとネ。」
サラサ「そうだな・・・・・っと、早速か!!」
何者の気配を感じ取ったのかサラサが武器を抜いて構えた時、曲がり角から現れたのは・・・・
伊空「ありゃ、確か本願寺であったお兄さんたちじゃん。」
サラサ「お前は・・・・・・」
=地下研究所B1F中央回廊=
一方・・・・・
凶護「どうやら、出てきたみたいだぜ、兄貴・・・・・」
鉄磨「出来れば、もう少し時間は稼ぎたかったがな。」
囮となった鉄磨と凶護の前には、水野の放った刺客である黒尽くめタイツを来た凶護と同じ体格ぐらいの巨漢と肉と言う肉を極限までそぎ落とされた矮躯人が立ちはだかっていた。
???1「ほう・・・・・お前達が、ここに侵入した曲者か、随分と派手に暴れたものだな。」
???2「ぎゃばばばば!!!だが、それもここまでよ。てめぇら、二人あっさり潰してやるぜ!!この・・・・」
次の瞬間、やせ細った男が、姿を消し、巨漢の拳が、床を粉砕し。その衝撃で、研究所自体が揺れる。
???1「私の名は、壊人・イダテン・ザ・スレイプニル。全てを加速せし者だ!!!さああ、止められるかな?私の加速を!!!」
???2「俺は、壊人・ガンテツ・ザ・アースガルド!!頑強なる神々の砦、崩せるものなら崩してみよ!!!」
170
:
藍三郎
:2008/11/05(水) 06:21:17 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
???「随分と、騒がしいみたいさね」
水野「すぐに静まる・・・」
水野の目の前にいる女が、けだるそうに話す。
後ろで縛った黒髪に眼鏡をかけ、茜色の甚平を羽織っている。
<万寿菊>の使いで、舞鶴市松という女だ。
市松「本当かねぇ。何だったら、あたしらが手を貸そうか?」
水野「結構だ。君達から・・・
いや、“あの男”からは、必要以上の借りを作りたくないのでね」
市松「なるほど。まぁ気持ちはわかるさね」
そう言って、市松は口に咥えた煙管から煙を立ち昇らせる。
この女とはかれこれ数十年の付き合いになるが・・・
その間、全く姿が変わっていない。
それもそのはずで、この女は人間でなく、人の手によって造られた絡繰人形なのだ。
彼女の人間味溢れる仕草は、見た目では、とても人形とは思えない。
ある意味、水野が作り出す壊人シリーズよりもずっと人間らしい。
市松「それじゃ・・・用も済んだし、とっとと帰るとするかね」
書類の束をもって、立ち上がる市松。
この書類には、妖魔滅伏組で行われた妖怪の生体実験や、
人間の強化改造の研究データが記されている。
定期的にこれらの研究資料を提供するのが、彼女らの組織と結んだ契約だ。
妖怪を退治するのみならず、非合法な人体実験を行う妖魔滅伏組・・・
本来ならば、とうの昔に取り潰されていても
おかしくない組織でありながら、未だに存続している理由・・・
その背後にいるのは、江戸幕府に巣食う謎の組織<万寿菊>だった。
江戸幕府をも陰で操るとされる彼らの根回しによって、
妖魔滅伏組がいかに非道な所業を行おうとも、
御上から追及の手が伸びる事は無い。
それによって、妖魔滅伏組は江戸幕府成立以後、
表向きにその存在が忘れられても、確固たる権力を持って存続し続けているのだ。
しかし・・・
あの侵入者達が、水野の推測どおり幕府の手の者だとしたら・・・
いよいよ、万寿菊を持ってしても
庇いきれない状況まで追いやられているのかもしれない。
江戸幕府は、攘夷志士や諸外国に関する問題が山積みゆえ、
極力妖怪との争いごとを避けようとしている。
妖魔滅伏組は、その方針に逆行するような行いを繰り返している。
さらに、人間を対象にした強化改造・・・
流石の幕府も、見過ごせぬ段階まで来ているということか。
もう、<万寿菊>の庇護も当てにはできない。
いや・・・既に彼らは、自分達に見切りをつけている可能性が高い。
だからこそ、この侵入騒ぎが起こったとは考えられまいか。
研究成果を根こそぎ頂いて、用が済めば切り捨てるつもりなのだ。
ここで、水野の脳裏に“あの男”の姿が浮かぶ。
同じ研究者であり、
かつて、共に妖魔滅伏組を立ち上げたあの男を・・・
・・・・・・自分達を切り捨てるならば、それはそれで構わない。
壊人も既に相当数が量産されている。
幕府の庇護が無くとも、己の悲願を遂げる事は出来る――――・・・
独角「侵入者だと?
ふん、どこのどいつか知らんが、我らが出張るまでも無い。
壊人どもに任せておけばいいだろう」
双角「水野殿は、我らにも迎撃に出ろと仰られている」
独角「ふん・・・まぁいい。
しかし、清光の奴はどこへ行ったのだ?
こういう時のために奴を雇っているというに・・・」
文句を言いつつ、独角・双角の兄弟も動きだす。
171
:
藍三郎
:2008/11/05(水) 06:23:07 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
伊空「にゃははははは、また会うとはね〜〜」
深鈴「何?知り合いなの?」
伊空「うん、こないだ本願寺でちょっとね」
新八「本願寺・・・?」
記憶の糸を手繰り、目の前にいる彼女と同じ顔の人物を思い浮かべる。
新八「も、もしかして、伊空さんですか?」
今の伊空は町娘の格好をしている為、新八は最初彼だとは見抜けなかった。
伊空「そうだよ〜〜〜
褐色のお姉さん、よく俺だとわかったね?」
サラサ「そんな血に飢えたような瞳をしているような奴は、そういないからな」
伊空の、どこか妖気を湛えた青色の瞳を見てそう評する。
サラサ「しかし、お前のその格好は何なんだ・・・」
どこからどうみても“娘”にしか見えない伊空を見て、
サラサは若干呆れたように呟く。
伊空「えへへへ・・・似合うでしょ?」
くるりと一回転してみせる。
黒髪が揺れる様は並の女以上に艶かしく見える。
あえて突っ込むのも面倒だったので、サラサは一言だけ呟く。
サラサ「・・・・・・喋らなければな」
鉄磨「――――――!!」
赤霧鉄磨が振り向くのと、
イダテン・ザ・スレイプニルが拳を放つのはほぼ同時だった
イダテン「ほう!私の速さを見切って拳を受け止めるとはな!!」
イダテンが放った拳は、鉄磨の腕の鉄甲により止められていた。
鉄磨「どれだけ速かろうが・・・攻撃に移る一瞬さえ見切れば問題ない」
言葉と同時に蹴りを放つ鉄磨。
だが、その一蹴は相手を薙ぐ事無く虚空を通り過ぎた。
イダテン「ふふふ・・・その程度の速さでは、私は捕らえられぬ!」
凶護「このガリガリ野郎!!兄貴に何しやがんだぁぁぁぁぁ!!!」
凶護がイダテンに襲い掛かった時、頭上から拳が降ってきた。
咄嗟にそれを避ける凶護。拳は地面にめり込み、再び轟音を響かせる。
ガンテツ「貴様の相手は俺だ・・・!」
凶護「三下が!!お呼びじゃねぇんだよ!!
死ねやぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
その拳はすでに半妖化しており、人間を遥かに凌ぐ膂力を誇る。
猛牛をも一撃で屠り去る魔の拳を・・・
ガンテツ「ふん!!効かぬわ!!」
右の掌で、事も無げに受け止めるガンテツ。
硬い岩を殴ったような衝撃が、凶護に走る。
ガンテツ「むぅん!!!」
拳を掴み、力任せに投げ飛ばすガンテツ。
凶護「うおおおおおおっ!?」
宙を舞う凶護だったが、壁を蹴って激突を免れる。
鉄磨(力で凶護を押し退けるとはな・・・)
172
:
鳳来
:2008/11/25(火) 19:17:29 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
とそのとき、鉄磨への攻撃を中断したイダテンが、ガンテツのそばに近づいて来た。
イダテン「ガンテツ!!アレを使うぞ、用意は出来てるか?」
ガンテツ「任せろ!!派手にやっちまえ!!!」
クラッチングスタートの体勢になったイダテンが、ガンテツに指示を出し、次なる攻撃に移ろうとする。
鉄磨「凶護、来るぞ。奴ラ、何かを仕掛けるつもりだ。油断をするな。」
凶護「上等!!返り討ちにしてくやるぜ!!!」
イダテン「たいした自信だな・・・・ならば、その身で味わえ・・・・我が最速にしして、最大の攻撃をーーー!!!」
瞬間、クラッチングスタートの体勢になっていたイダテンの姿が消えた。
凶護「っと!?やろう、どこに・・・・・」
鉄磨「凶護、前だ!!!」
イダテンを見失った凶護が、鉄磨の言葉にあわてて、目線を移そうとするが・・・・
イダテン「遅いぞ、半妖・・・・!!!」
瞬間早く、加速したイダテンの体が凶護の体にめり込み、一気に背後の壁に叩きつけた。
凶護「てめぇえ!?」
イダテン「遅い、遅すぎる!!いや、私が早いのだったな。破壊力=速さ×強度・・・故に我らは無敵!!!」
凶護「ぶっ殺す!!!!」
イダテンの挑発に怒髪天を付く凶護だったが・・・・鉄磨はイダテンの攻撃に不可解な点を見つけていた。
鉄磨(妙だな。あのイダテンと言う男ーーーかなりの矮躯のはずだ。あの速さで、しかも、凶護の頑強な体にまともにぶつかって、無傷でいられるはずがない。)
そして、考えられるとすれば、イダテンの超加速に耐えうる強度は、ガンテツが関っているはずだ。
173
:
藍三郎
:2008/11/28(金) 21:47:28 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
一方・・・・・・
長谷川「何ぃ!?それじゃ俺たちは、改造人間にされちまうってのか!!」
ようやく目を覚ました長谷川は、銀時から事情を聞いて顔面蒼白になる。
長谷川「あの、バッタ男とか蜘蛛男とかみたいな!?」
銀時「古いぜ。せめて、ワームとかイマジンとかファンガイアとかな・・・」
桂「それは、改造人間では無いぞ。銀時」
長谷川「チクショー!出しやがれー!!」
何度も硝子の檻を叩くが、皹一つ入らない。
銀時「やめとけ。俺も何度も試したが無理だった」
洞爺湖の木刀は、当然ながら没収されていた。
一応、すぐ目の届く場所にあるのだが・・・
牢で隔てられていてはどうにもならない。
銀時「ちょうどいい機会じゃねぇか。
このまま改造人間になって、悪の組織に就職すれば、無職脱出できるぞ?」
長谷川「ん?それは悪くな・・・って、嫌だよ!!
どうせ一週でやられて爆死する使い捨て怪人だろうが!!」
銀時「おいおい、そいつは自惚れがすぎるってもんだ。
あんたじゃ精々戦闘員志望の受験者が関の山だ」
長谷川「戦闘員かよ!しかも、受験者って・・・結局就職できてねーじゃねーか!!」
銀時「しっかしマジな話どうするかね。
改造するなら、この天パを治すだけにして欲しいもんだが・・・」
そんな冗談を言うしかない状況の中、含み笑いを浮かべる男がいた。
桂「ふふふ・・・諦めるにはまだ早いぞ、銀時。
正直お前が来てくれて助かった。
俺一人でこの施設を突破するのは心もと無かったのでな」
銀時「突破って、武器も取られているんじゃ、
頭数がいてもどうにもなんねぇじゃねぇか。
部屋が一層むさくるしくなっただけだ」
桂「ふふふ、武器ならあるぞ」
そう言って、桂は懐から一本のんまい棒を取り出す。
銀時「お、そいつはもしかして・・・」
桂「んまい棒、血禁苛麗(チキンカレー)味!!」
んまい棒を投擲する桂。
ご存知の通り、その中身は爆弾である。
しかし、硝子戸に当たったんまい棒は、爆発せずにそのまま転がる。
銀時「おいおい、まさか本物のんまい棒と間違えたんじゃ・・・」
桂「そんなはずは・・・・・・ん?」
んまい棒から、多量の白煙が溢れ出る。
煙は瞬く間に牢全体を覆いつくし、
桂「おお、そうだ。こいつは遁走用の煙幕弾だったな・・・」
長谷川「ゴホッ!ゴホッ!ちょっと待て、これじゃ俺たち・・・」
銀時「窒息しちまうんじゃ・・・ゴホッ!!」
174
:
藍三郎
:2008/11/28(金) 21:48:14 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
一方、外にいた研究員は、
硝子の牢が煙で覆われているのを見て顔色を変える。
研究員「何を起こっているんだ?」
煙でよく見えないが、中の三人は死んだように倒れている。
研究員「ちっ、このままだと実験体が窒息してしまう。一旦戸を開けるぞ」
強化する前に死んでしまっては、捕らえて来た意味が無い。
鍵を回して、扉を開く研究員だったが・・・
研究員「がはっ!!」
倒れていた銀時の身体が、カエルのように跳ね上がり、
研究員の顎に頭突きをかました。
同時に起き上がった桂も、牢を脱出すると、
もう一人の研究員に手刀を食らわす。
長谷川「ぜぇーはぁ・・・い、一時はどうなるかと・・・」
銀時「全くだぜ・・・・・・」
後少しでも扉が開くのが遅れていたら、本当に窒息死するところだった。
この状況を作り出した張本人を睨みつけるが・・・
桂「・・・・・・・・・ふっ、すべて計算どおりだ」
そう嘯く桂に、銀時と長谷川による、
時間差なしの二面同時パンチが決まった。
銀時「さて、これからどうする?」
長谷川「決まってんだろ!さっさと逃げようぜこんなところ!」
怯えきった長谷川に対し、
何やら研究員の懐を物色していた桂が異を唱える。
桂「待て。人の尊厳を踏み躙る斯様な悪行、見過ごす事はできん。
俺たち以外にも囚われている人がいるはずだ。
彼らを救出し、二度とこんな真似ができないように、
この施設を破壊せねばならん」
銀時「真面目だねぇ。
あの爺さんの口ぶりじゃ、ここは幕府公認の妖怪退治屋って話だぜ。
あんま深入りしねー方がいいと思うが・・・」
桂「幕府の暗部だからこそ、その過ちを正さねばならぬ。
銀時、お前はそれでも攘夷志士か!」
銀時「俺はもう攘夷志士じゃねーっつーの!!」
銀時は一息つくと、こう続ける。
銀時「・・・・・・まぁ、今更無関係とも言えねーしな・・・
後腐れねーように、徹底的に潰してからお暇するとするか」
桂「ふっ、そうこなくてはな」
長谷川「・・・何か勝手に話が進んでるが、
俺ぁ危ない橋渡るのはゴメンだぜ」
銀時「そうか、じゃあ一人でとっとと逃げてくれ。
別に強制はしねーよ」
長谷川「ちょ・・・そっちの方が怖ぇよ!!
あ〜あ、タダに釣られてこんなところに来るんじゃ無かったぜ・・・」
桂「まずは、俺たちと同じく牢に囚われた人々を解放するぞ」
桂は、研究員の懐に入っていた鍵の束を掲げた。
175
:
鳳来
:2008/12/03(水) 20:52:09 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・・
イダテン「ははははは!!!!遅い、鈍足、愚鈍!!!足りない、まるで速さが足りないぞ!!!」
凶護「だあああああ!!!ちょこまか、うッとしい!!てめぇは、ゴキブリか蝿かよ!!」
闇雲に攻撃を繰りかえす凶護であったが、それを物ともしない速さで、イダテンはかわし続ける。
しかも、イダテンの高速移動により生み出される衝撃波が、凶護の体に襲いかかってくる。
イダテン「ゴキブリは酷いな・・・・・せめて・・・・」
凶護「だらぁ!!!!」
苦し紛れに、凶護がでたらめに拳をぶつけようとするが、それをやすやすとかわしたイダテンの体が凶護の体に激突する。
凶護「がぁ!?」
イダテン「隼と読んでくれるとありがたいね!!」
再び、壁に叩きつけられる凶護・・・・だが、この時、鉄磨はある異変に気づいた。
鉄磨(壁にひび一つ無い・・・・・だと・・・・?)
その事に気づき、これまでの事を思い返すーーーイダテンの高速移動の際に発生する衝撃波による被害が、床や壁にはまったく見受けられなかった。
最初は、頑丈な素材で作られているのかと考えていたが、最初に遭遇した時、ガンテツの拳が床を砕いたのを考えると、それはありえない。
ならば、考えうる可能性は一つーーーーー
鉄磨(つまり、元々強度が合ったわけではなく・・・・強度に強化がなされたということ・・・・そして、その能力を持っているのは・・・・)
そして、それを実行しているのは、先ほどから、攻撃に参加してこないガンテツのはずなのだ。
鉄磨(恐らく、攻撃に参加しないのは、同時に二つまでしか強度を強化できなから・・・下手に手を出せば、自分がイダテンの衝撃波に巻き込まれるからな・・・)
確かに、恐ろしい能力ではあるだろう・・・・だが・・・・
鉄磨(手の内が分かった以上・・・・・お前達の負けは決定している!!)
すぐさまに、イダテンとガンテツを同時に屠る策を考え付いた鉄磨は、イダテンと凶護の戦闘に割り込んだ。
176
:
藍三郎
:2008/12/06(土) 10:27:21 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
その頃・・・
新八「一応、漆間さんから見取り図を貰ったんですけど・・・
結構わからないところがあるんですよね。
深鈴「それは私のところも同じね。
というか、ここまで地図とかなり違ってるし・・・」
サラサ「その情報は、まだ妖魔滅伏組が幕府の影響下にあった頃のものだ。
侵入者対策として、いくらかの改築が行われていると見ていいだろう」
蓮丸「そうだな・・・って、言ったそばから・・・」
蓮丸たちの行き先に左に開いた通路が見える。
直進か、左折かの二択。地図には左側の通路は描かれていない。
伊空「どーする?真っ直ぐ行く?曲がる?」
サラサ「地図に無い通路か・・・いかにもキナ臭いが・・・」
新八「迷ってる時間も惜しいですよ。
ここは二手に分かれていくのはどうでしょう?」
サラサ「うむ。それが一番現実的か・・・」
神楽「新八なのに役立つ提案するアルな」
伊空「当たり前すぎてつまらないけどね〜〜」
新八「新八なのにとはなんだぁ!!後、つまらないとか言うな!!」
神楽「じゃあ、私は真っ直ぐ進むアル。
自分の信じる道を一直線が私の信条アルね」
そう言って、駆け出す神楽だったが・・・
神楽「!!」
曲がり角より先の通路に足を進めた瞬間、その床が一気に崩れ始めた。
神楽「ちょ・・・私そんなに重くな――――――」
たまたま前のほうにいた、蓮丸と深鈴も巻き添えになる。
深鈴「きゃああっ!?」
蓮丸「ち・・・・・・」
成す術なく、三人は暗く開いた奈落の底へと消えていった。
新八「神楽ちゃん!!蓮丸さん!深鈴さん!!」
叫び声は暗い奈落の中へと虚しく吸い込まれる。
通路の先には、ぽっかりと巨大な穴が開いていた。
伊空「あちゃあ・・・罠だったみたいだねぇ」
サラサ「落とし穴とは、また古典的な・・・」
新八「ちょ、二人とも、何落ち着き払っているんですか!!」
サラサ「心配はいらん。あの二人が、落とし穴ごときで死ぬものか」
伊空「姉貴も同じだよ。この中で心配なのって、メガネ君ぐらいでしょ」
新八「まぁ・・・そうかもしれませんけど・・・」
この二人の冷淡さは少々受け入れがたいものがある。
177
:
鳳来
:2008/12/06(土) 21:44:32 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・・・
イダテン「ほう、二人がかりか?だが、その程度で、俺を倒せるかな!!」
凶護「兄貴ぃ!!こいつは俺がぶちのめすから、そこで待って・・・」
鉄磨「いや、その必要は無い。」
そして、猛る凶護を片手で制しつつ、鉄磨は、イダテンに静かに宣告した。
鉄磨「俺達が手を下すまでもなく・・・・お前は己の速さに負ける。」
イダテン「・・・・・・冗談にしては些か面白みが無いな。」
鉄磨「冗談かどうかは、これから自分の身に降りかかる敗北を知ってから言え。」
イダテン「はっはははっはは・・・・・・・調子にのるんじゃねぇぞ、このクソ半妖がぁあああ!!!!」
これまでの紳士ぜんとした態度を豹変させ、限界速度まで加速したイダテンは鉄磨と凶護の二人に襲いかかる。
イダテン「人が余裕出し照れば、調子にのりやがって、このスカタンがぁーーー!!!」
壁を床を天井を左右前後上・・・・・・イダテンは鉄磨らを翻弄するように室内を縦横無尽に駆け回り、止めの一撃のタイミングを計る。
イダテン「二人まとめて、あの世に送ってやる!!!兄弟仲よく砕け散れぇええ!!!」
鉄磨「ああ、そうだな。ただし・・・・」
激昂し我を失っているイダテンは気づいていないーーーー鉄磨と凶護の二人が位置をずらしていることに。
イダテンは気づいていないーーーーー二人が自分の視界からある存在を隠しながら移動していることに。
そして、鉄磨と凶護の二人に最大加速で体当たりを叩きこもうとするイダテンは気づいていない。
鉄磨「お前が、逝け。」
ーーーーー鉄磨と凶護が攻撃をかわしたその先に、驚愕するガンテツがいることを。
イダテン「あ?あ、ああああああああああああああああーーーーー!!!」
ガンテツ「そ、そんなぁああ!?」
もはや勝敗は決したーーーーー放たれた矢は最大速度でとまる事は出来ない。
例え、ガンテツの能力による強化の対象を、ガンテツ自身にしても、背後の壁の強化まで解除され、研究所に致命的な損害を出しかねない。
また、イダテンの強化を解いてしまえば、加速による衝撃波の影響で、イダテンが絶命する。
その逆も然り・・・・・すなわちどちらにせよ八方塞、敗北と言う道しかない。
鉄磨「お前に足りないもの・・・・・それは、広い視野で状況を把握する観察力だ。」
その言葉を聞くことなくーーーーー背後からイダテンとガンテツの悲鳴と次々と壁を突き破る轟音が響いた。
178
:
藍三郎
:2008/12/07(日) 22:05:28 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
凶護「うはははぁっ!!すっげえ!!やっぱり兄貴はすげえやぁ!!!」
崩れた壁の向こう側で、共に気絶している
イダテンとガンテツを見下ろし、凶護は喜びの声をあげる。
鉄磨「いや、お前がヤツの手の内を引き出してくれたからだ。
よくやってくれた、凶護」
凶護「あ、兄貴ぃ・・・・・・」
最愛の兄に褒められて、凶護は仔犬のように瞳を潤ませる。
いかつい容姿に比べると、あまりにも似合わせない表現であるが。
鉄磨「さて・・・・・・」
折り重なって伸びているイダテンとガンテツに近づき、
鉄甲から刃を延ばして喉元に当てる。
イダテン「ぐぐぐ・・・」
鉄磨「まだ意識があるのか・・・壊人と名乗るだけの事はあるな」
凶護「おらてめぇら!!妙な真似してみろ。即ぶっ殺してやるからな!!」
兄の後ろに立ち、居丈高に声を張り上げる凶護。
鉄磨「色々と教えてもらおうか・・・この施設のことを。
施設の主はどこにいる?
貴様らのような壊人とやらは、他にもいるのか?」
イダテン「へ、へへへへ・・・・・・」
凶護「何が可笑しいんだてめぇ!!!」
兄を侮辱されたと思ったのか、さらに血管を浮き上がらせて怒る凶護。
イダテン「教えても無駄な事さ。どうせあんたらはあの人に殺される。
俺たち壊人の生みの親であるあの人にな・・・・・・」
鉄磨「そいつもお前と同じ、壊人なのか?」
イダテン「とんでもねぇ。あの人はそんな生易しいもんじゃあない。
もっと恐ろしい・・・・・・」
そこまで言った瞬間・・・・・・
鉄磨「――――――――!!!」
鉄磨は咄嗟に身を逸らし、後ろにいた凶護も突き飛ばす。
凶護「あ、兄貴・・・!?」
間髪いれず、回廊から巨大な杭のような物体が飛んできて、
イダテンとガンテツの身体を串刺しにした。
イダテン「ぐがぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ガンテツ「ぎやぁぁぁぁぁぁっ!!?」
掌で掴みきれ無い程の大きさの杭に貫かれ、
イダテンとガンテツは共に絶命する。
二人の血で濡れたその物体は、
独鈷杵(どっこしょ)と言う密教法具に酷似していた。
勿論大きさはまるで違うが。
独角「半妖ごときに後れを取るとは・・・この壊人の恥さらしが!!」
双角「我らの手を煩わす事になるとはな・・・」
山伏のような白い法服を纏った二人の男が、こちらに向かってくる。
一方は猛り、もう一方は冷淡な侮蔑の表情を浮かべているが、
両者とも顔立ちはよく似ており、双子だと思われる。
凶護「何なんだてめぇらはよぉ!!」
双角「ふん、野蛮な半妖らしく、品のない声だ」
独角「聞くがよい!慄くがよい!我らは『光明道』!!
この世より不浄なる魔の眷属を討ち祓う者なり!!」
凶護「こ、こーみょーどーだぁ!?」
鉄磨「・・・・・・」
間違いない・・・彼らは妖族最大の宿敵・・・仏法勢力の生き残りだ。
赤霧の一族も、戦国時代の大動乱で
多くの同胞が仏法勢力に刈り取られたと言う。
鉄磨の中に眠る、妖族の血がざわめく。
それは、本能的に彼らを“仇敵”と見なしたゆえか。
独角「穢れし邪妖ども!!即刻この大地より往ねぃ!!」
独鈷杵を両手に持つ独角。傍らの双角も、形状の違う金剛杵を握り締める。
凶護「へっ!兄弟対決ってわけか!!面白ぇ!!
俺と兄貴の兄弟の絆に、敵う奴なんぞいやしねぇ!!!」
鉄磨「・・・油断だけはするなよ」
意気盛んになる凶護を横目に、鉄磨は冷静さを保ちつつ、宿敵と相対する。
179
:
鳳来
:2008/12/10(水) 21:52:34 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方、落とし穴と言う古典的かつ普通そんなべテべたな罠に見事にはまった蓮丸らは・・・
=地下研究所・戦闘実験室=
神楽「はいよ!!」
蓮丸「っと!!」
深鈴「あう!!」
三人ともかなりの高さから落ちたが、そこはなんなく見事に着地を決めた。
蓮丸「どうやら、見事にはまったようだな、主に神楽の性で」
深鈴「そうだね・・・おもにチャイナ娘の性で。」
神楽「うっさいねぇーーー!!!何か、全部私の責任か!?都合の悪い事は全部私のせいか!?」
深鈴「まあ、それはともかくとして・・・・とりあえず、このメンバーで進むしかないわね。」
逆切れする神楽をスルーして、状況並びに戦力の確認をする深鈴。
神楽「そうするしかないねぇ・・・・」
蓮丸「だな・・・・」
深鈴「ところで、あんた・・・・・蓮丸って言ったけ?」
蓮丸「ん、そうだけど?それがどうかしたのか?」
深鈴「あ、うん・・・ちょっとね。どっかで、あんたの名前を聞いた事があるんだけど・・・気の性かな?」
先ほどの伊空が本願寺で知り合ったときの経緯の際に出た蓮丸という名前・・・それが引っかかっていた。
蓮丸「ああ、まあ・・・・知ってる奴は知ってるかな。」
神楽「何、私ハブにして、話を進めてるネ。ちゃんと混ぜるネ。」
深鈴「ああ、ちょっと、思い出せなくなるじゃない。」
???「なら・・・・永遠にその必要が無いようにしましょうか?」
背後から見知らぬ女性の声が聞こえてきた。
蓮丸「っと・・・・早速だな。」
深鈴「そうみたいね。」
一同が振り返るとそこには、足まで付く髪の毛を引きずった全身黒タイツを着た女性とこれまた同じ衣装を着た引き締まった肉月の男性が立っていた。
神楽「何ネ、あの変態コンビは?モOモO君か?」
黒タイツ男性「ノー!!ミーらは、ノーコメディアンよ。ミー達は、バットモンスタースレイヤーヒューマン・壊人ね。」
黒タイツの女性「そういうこと・・・・今回は、侵入者討伐ってことなの。だから・・・」
次の瞬間、黒タイツの男性の指先から熱線が発射され、黒タイツの女性の髪が、重力に逆らい浮かび上がった。
黒タイツ女性「この、フタクチ・ザ・カミーラと!!!」
黒タイツ男性「ヒョットコ・ザ・イフリートがユー達をキルしちゃうよ!!!」
180
:
藍三郎
:2008/12/11(木) 20:35:51 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
独角「喰らえぃ!!“降魔独鈷杵(ごうまどっこしょ)”!!」
独角の手から離れた数本の独鈷杵は、淡い光を帯びた後、
弾丸のように鉄磨目掛けて飛んでいく。
鉄磨「!!!」
鉄の手甲で弾き返す鉄磨。しかし、その威力は並みではなく、腕に痺れが残った。
鉄磨(この威力・・・ただ投擲したとは思えん)
明らかに、人の膂力以上の力が加わっている。
鉄磨「これが・・・お前達僧侶が使う“法力”とやらか・・・」
独角「そうだ!!貴様ら下衆な妖怪の力とは格が違う!!
選ばれし者のみが使う事を許された、神聖なる力だ!!」
独角の身体からは、淡い金色のオーラが仄かに見える。
鉄磨「・・・・・・」
法力とは、元来誰にも宿る、秘められた力とされている。
彼ら仏法僧は、その力を修行によって引き出す。
内に秘められし力という意味では、妖怪における妖力と似たようなものだが・・・
彼らはそれを異端なるものとして、決して認めようとはしない。
凶護「うおらぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
拳を乱打しつつ、突進する凶護。
双角「ふん、馬鹿の一つ覚えの突進か・・・
やはり妖怪の血は、脳味噌を退化させるようだな!」
凶護の目前で掻き消える双角。
一瞬で背後に回りこみ、手にした錫杖で薙ぎ払う。
凶護「舐めんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
後ろに腕を伸ばし、双角の錫杖を掴み取る。
そのまま力任せに、錫杖ごと双角を持ち上げた。
凶護「このまま叩き潰してやらぁ!!!」
双角「ふ・・・飛べ!“破魔法輪錫杖(はまほうりんしゃくじょう)”!」
錫杖が淡く輝き始め、頭についた金属の環が杖から離れて飛ぶ。
光を帯びた輪は、空中を高速で旋回した後、凶護に襲い掛かる。
凶護「な・・・ぐあああああ!!!」
円形の鋸のように、光の輪は凶護の肉を抉り取る。
独角「穿て!!三鈷杵!!」
再び、金剛杵を発射する独角。今度は先ほどの倍以上の数だ。
鉄磨は半ば地面を転がりながら紙一重でそれを交わす。
独角「無様だな!半妖!!いつまでも人間ぶっていないで、
とっとと化け物の本性を現したらどうだ!?」
鉄磨(こいつ・・・・・・)
独角「化け物は化け物らしく死ねぃ!!」
凶護「こなくそ―――――!!!!」
双角「そういう事だ。知っているのだぞ・・・
お前達半妖が、普段は力を抑えていることをな」
鉄磨と違って、防御を知らない凶護はなお分が悪い。
錫杖と、そこから離れた輪の波状攻撃に、どんどん傷を深くしていく。
181
:
藍三郎
:2008/12/11(木) 20:37:27 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
確かに、彼ら赤霧一族は、人間社会に溶け込むために普段は人間の姿をしている。
だが、一度妖力を限界まで解放すれば、
その姿は人間のそれとは違う、妖怪に限りなく近い姿となる。
妖怪となった半妖の力は、人間の姿の力を遥かに上回る。
鉄磨(奴らが妖怪退治の専門家ならば、その情報を知っていて当然・・・
だが、何故今それ指摘する!?)
圧倒的優位に立っているからこその余裕か。
いや・・・彼ら僧侶達は、妖怪を徹底的に見下している。
それこそ、羽虫や蟻を相手にするように・・・
そんな存在に対して、あえて全力を出すよう促すなどありえるのだろうか。
それは、相手を対等に見なしている者が言う事ではなかろうか。
光明寺兄弟の言動に不信感を抱いた鉄磨と違い、
度重なる挑発を受け、凶護は既に我慢の限界を超えていた。
凶護「面白ぇ・・・ほえ面かくなよぉっ!!!」
鉄磨「待て・・・凶護―――――――!」
凶護「止めるな兄貴ィ!!!奴らをボロゾーキンみてーに引き裂いて、
赤霧兄弟(おれたち)の力を思い知らせてやるぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
鉄磨が止めた時には既に遅かった。
凶護は己の妖力を限界まで引き上げ、その姿を赤銅色の獣へと変える。
姿形は元より、全身からは禍々しい紅い妖気がほとばしっている。
凶護「シャアァァラァァァァァァァァァァッ!!!!」
獲物を狩る獅子のごとく、双角へと襲い掛かる凶護。
双角は大きく飛び跳ね、紙一重でその爪牙から逃れる。
振るわれた一撃は、石造りの床を軽々と抉り、その余波が壁を傷つけるほどだった。
双角「ふ・・・」
それでも、双角の顔から余裕の笑みは消えない。
凶護から逃れつつ、兄独角の下へ合流する。
双角「予想どおりだ。やるぞ兄者」
独角「ああ、行くぞ妖怪!己の愚かしさを地獄で後悔しろ!!」
独角は双角の後ろに立ち、独鈷杵を放つ。
双角は手にした錫杖を高速回転させる。
十数個の独鈷杵が円形に配置され、錫杖の動きに従って旋回する。
独鈷杵と錫杖の回転は、眩いばかりの輝きを生み出し、
双子の前に大きな光の輪を形成していた。
鉄磨「アレは、まさか・・・凶護、待てぇぇぇぇぇ!!!」
鉄磨は走り出す。光明寺兄弟と、凶護を止める為に。
一方、完全に理性の箍が外れた凶護は、兄の叫びさえ届かない。
妖怪化最大の欠点・・・それが、理性の喪失である。
凶護「死ぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
膨大な妖力を纏った一撃必殺の拳が、光の輪に触れた時・・・・・・
独角「光明寺秘奥義!!」
双角「“光輪反極転(こうりんはんきょくてん)”!!」
凶護「――――――――――――!!!!!」
凶護の拳は、双子を刺し貫く事無く・・・
光の輪から発生した、膨大な光の渦に飲み込まれていった。
鉄磨「凶護ォ――――――――!!!!」
鉄磨も、周囲の地形すらも、滅却の光の前に消えうせていく・・・
182
:
鳳来
:2009/01/05(月) 19:39:50 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
水野自身も、若い頃は一族の跡取りとして、人々を救うために、純粋に医術を学んでいた。
しかし、ある時、魔王織田信長の襲来によって、水野の人生は大きく変わる事になった。
ある日、医者としての仕事を終えた水野が戻ってきた彼が目にしたのは、織田軍の半妖部隊によって、蹂躙された故郷だった。
その事実に愕然とした水野だったが、医者として、生存者を救うために急いで城に書け戻って目にしたのは、治療不可能なまでに壊された城主を含めた一族郎党と家族だった。
生きてはいる。
だが、治すことはできない。
水野に出来る事は、苦しみながら生きる愛スル家族達を自らの手で殺すことだけだった。
人を救うはずの自分が、人を殺すと言う矛盾が、水野の心を病んでいった。
全ての者を殺しきった後に残されたのは、血の涙を流し続ける水野夏彦だけだった。
この時に、医者としての水野は死んでいたのだ。
そして、代わりに生まれたのが、全ての妖怪を憎悪し、ありとあらゆる手段もって、妖怪という種を滅ぼすためだけの壊れた人間・・・・水野夏彦だった。
水野「・・・・・さて、私も出るか。」
改造候補の三人が脱走したと言う報告を受けた水野は、自ら脱走者を取り押さえようと部屋を出るが・・・
サラサ「む?」
伊空「ありゃ、おっさんだれよ?」
新八「誰って、つうか、見つかったじゃないですか、早速!!」
蓮丸らと別行動をとる事になった伊空達に出くわした。
水野「ふむ、君達が侵入者か・・・・」
なるほどと、伊空達をじろじろとモルモットを選ぶように見回し・・・・
水野「よし、半妖の君だけは、死んでくれたまえ。」
老人とは思えぬスピードで、迷うことなく、徒手空拳で伊空に襲いかかった。
183
:
藍三郎
:2009/01/05(月) 22:50:18 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
伊空「あはははは!何だいおじいちゃん!
俺の姿見て・・・欲情しちゃったのかい?」
伊空の冗談に、水野は何も応えない。
ただ全身を純粋無垢な殺意に漲らせ、目の前の半妖を誅滅せんと突きを繰り出す。
その突きの連打を、振袖を華麗に翻し、紙一重の差で避ける伊空。
ちょうど十発目の突きが伊空に放たれた時・・・
彼は後ろの壁を蹴って宙を舞う。
手刀は振袖姿の少年を捕らえる事無く、壁へと直行する。
人間の手なら、これで腕が折れてもおかしくないはずだが・・・
鈍い音と共に、水野の腕が壁を貫通する。
水野はまるで痛みも無いかのように、無造作に腕を抜き取る。
腕には骨折どころか、わずかな傷も認められなかった。
新八「ゲェ――――――ッ!!」
人間を越えた御業に、叫ぶ新八。
サラサもまた、老人の驚異的な身体能力に言葉を失っている。
新八「な、何ですかあれ、人間の腕力じゃないですよ。
もしかしてあの人もようか・・・・・・」
水野「黙りなさい」
新八「あ・・・・・・・・・」
水野の眼光が、新八を真っ向から射抜いた。
その殺意と憎悪を凝縮したような眼光に、
新八は魂を凍らせられるような恐怖を覚え、それ以上言葉を紡ぐ事が出来なかった。
水野「私をあのような下賎な種族と一緒にするな。
あのような、野蛮で残忍な下衆どもと・・・・・・」
伊空「えへへへ、言ってくれるねぇ」
自分たちの事を罵られても、伊空は怒るどころか、へらへらと笑い続けている。
伊空「まぁ、下賎だの何だの言うからには、
もうちょっと知的な対応をお願いしたいね。いきなり襲われて、びっくりしちゃったよ」
そう言う伊空には、微塵も驚いた様子が無い。
水野「ふむ。それもそうだな・・・では、紳士的に問うとしよう。
君達は、何故ここに来た?何の目的だ?」
伊空「え〜とね、捕まっている妖怪達を解放する事と、
この施設を完膚なきまでにぶち壊す事〜〜〜♪」
水野「なるほど・・・君たち半妖にも、
同胞を好き勝手されて怒るような感情があったのか。
少しは人間らしいところがあるじゃないか」
そう言いながらも、彼の瞳はまるで人間を見るような眼ではなかった。
伊空「ああ、兄貴達はそうかもしれないけど、俺にとっちゃそんなの建前だね」
水野「ほう・・・では、真の目的は?」
伊空「殺したいから。人間でも妖怪でも何でもいい。
生き物を切り刻んで殺したい。
肉を裂き、血を浴び、臓物抉って殺したい。
仲間も同胞も関係ない。俺は殺せればそれでいいんだよ」
少女の姿のままで、顔に笑みをたたえたままで、
平然と残虐極まる文句を口にする伊空に、
サラサと新八も絶句するしかなかった。
そして、二人とも改めて実感する・・・目の前の少年は、
人間や妖怪の垣根を越えた、どうしようもない程壊れた“怪物”なのだと
水野「ク、ククククク・・・・・・」
それを聞いた水野は、突如として笑い出した。
その感情の篭らぬ冷えた笑い声は、却って不気味でしかなかった。
伊空「どうしたの、おじいちゃん」
水野「・・・嬉しいよ。運命に感謝しなければならないな。
ここで出逢えた半妖が君であったことを・・・・・・」
伊空「え〜〜〜!!いきなり愛の告白!?
駄目だよ!俺には将来を誓った人がいるんだからさ!!」
少女の姿のままで、ふざけているのか本気なのかわからない反応を見せる伊空。
一方水野は、顔に狂った笑いを張り付かせたまま叫ぶ
水野「本当に良かった・・・
君が心の底まで堕落しきった救いようの無い
殺す事に一点の躊躇いも覚えぬ妖怪(バケモノ)で!!
もはや私の憎しみの太陽は・・・決して翳る事は無いだろう!!」
妖怪とは憎むべきもの。妖怪とは殺すべきもの。
その信念を揺るがす、人としての情は・・・これで完全に取り払われた。
否、そんなモノは既に、遥か昔に封印していた。
伊空「あはっ♪中々いい殺気だね。
でも俺、援助交際(としよりのあいて)は趣味じゃないから・・・」
頭に刺したかんざしを抜き、二対の刃へと変じる伊空。
彼の両手には、かんざしが変形した二本の短刀が握られた。
伊空「棺桶に片足突っ込んだ老体、バラバラに刻んで綺麗に収納してやるよ」
184
:
鳳来
:2009/01/28(水) 21:09:41 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方、ガラス牢から脱出した銀時らは、研究所内部で・・・・
銀時「おい、ヅラ・・・・今、俺達どこにいるんだ?」
桂「ヅラじゃない、桂だ。初めて来た時から牢に捉えられていた俺が知るわけないだろう。」
長谷川「おいおいおい!!!知らないってそらやねぇだろ!?」
おもいっきり迷子になっていました〜v
長谷川「いやだぁ〜!!こんなところで、迷子になるなんてーー!!なんか、怖い妖怪がいそうだしーー!!」
思いっきり、ネガティブ思考に捕われて、思わず叫んだ瞬間・・・
???「呼んだ〜?」
銀時、桂、長谷川「「「はい?」」」
この場には似つかわしくないやや幼い子供の声に、思わず声のした扉で、銀時たちは立ち止まった。
その扉は、何十もの鎖と何十もの南京錠が掛けられ、いかにも危なげなものを閉じ込めているようだった。
???「ああ、ごめん。妖怪がいそうなんていうから、思わず返事しちゃったよ。」
銀時「あ、おたく、妖怪なんだ。わりいけど、俺ら万事屋の仕事で、急いでるから。じゃ、これで。」
ややこしい事になる前に、その場から立ち去ろうとする銀時だったが、少女の意外な申し出に思わず立ち止まった。
????「万事屋?なら、ここから出して欲しいんだけど・・・依頼として。」
銀時「・・・・・依頼だぁ?あのさぁ、あいにく今はなぁ・・・」
????「もし、依頼を引き受けてくれるなら、この研究所から脱出するまで、君の力になってあげる。」
銀時「・・・・いいのかよ?」
????「僕もいい加減我慢の限界なんだ。異国とはいえ同族が罪なく虐げられるのが。」
幼い口調ながらも、しっかりとした怒りをこめた口調・・・・どうやら演技ではないようだ。
銀時「しゃあねぇな・・・・ちょっと退いてな。」
やれやれと言った口調で、銀時は手にした木刀で扉を封じた鎖と鍵を一つ残らず破壊した。
瞬間ーーー扉が一気に開かれ、何かが飛び出してくると同時に強烈な突風が辺り一面に吹き荒れた。
銀時「お、おい・・・・なんだ、こりゃ!?」
桂「これほどの風・・・・もはや台風だぞ!?」
長谷川「吹っ飛ぶ、吹っ飛ばされる!?」
荒れ狂うように吹き荒れた風がやがて収まり、三人の目の前に現われたのは・・・・
???「僕の名前は、風峰 雪子。草原を統べる者の娘だよ。」
青い短め髪と草原のように蒼い瞳、そして狼の尻尾と耳が特徴的な幼女だった。
185
:
藍三郎
:2009/01/30(金) 00:04:27 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
一方……
閃光と噴煙が晴れた後……
この区画は瓦礫の山と化していた。
独角・双角兄弟との戦いで生じた巨大な閃光が、
一瞬にして周囲の全てを吹き飛ばしたのだ。
双角「いささかやりすぎてしまったか……水野殿に何と言われるのやら」
独角「構うものか。遠くない未来、この施設は破棄される。
<万寿菊>の奴らが言うからには間違いない」
双角「そして我らはここの研究成果を手土産に、万寿菊へと降る……
だがせめて、ここでの仕事だけは完璧に済ませておかねばなるまい」
独角「立つ鳥後を濁さずか……ふん、さすがは半妖。
中々こびりついて落ちぬところは汚れと一緒よな!」
鉄磨「はぁ……はぁ……」
瓦礫の下で、ボロボロになりながらも、まだ赤霧兄弟には息が合った。
鉄磨「凶護……しっかりしろ、生きているか?」
凶護「あ……兄貴……俺ぁ一体……?」
光の直撃を食らった凶護だが、半妖化していた為消滅は免れたようだ。
だが、半妖化は既に解け、身体の負傷も大きい。
凶護を気遣いつつ、独角と双角を睨みつける鉄磨。
鉄磨「……貴様達の術……凶護の妖力を跳ね返したのだな」
双角「ほう、早速術の絡繰(カラクリ)に気づいたか」
独角「少しは脳味噌が詰まっているようだな。そこの愚鈍と違って」
凶護「ぐ…………」
普段の凶護ならすぐさま掴みかかっている罵言でも、
今の彼では立ち上がることすらできない。
独角「光明寺秘奥義“光輪反極転”……」
双角「妖怪の妖力に反応し、光の壁を形成する……
妖力を吸収した後、それらを一気に光の波動に変えて解き放つ……」
独角「敵の妖力が強ければ強いほど、この奥義の威力は増す。
その点、そいつの馬鹿妖力(ばかぢから)は格好の素材だったよ!!」
鉄磨「最初から俺達を挑発して……わざと妖力解放させる事が狙いだったのか」
双角「そういう事だ」
独角「面白いように引っかかってくれたな!!貴様の愚かな弟は!!」
凶護(お……俺のせい……か?)
あの双子の言っている意味はよくわからないが、
自分が突っ走ったせいで兄が窮地に陥った事は理解できた。
独角「確か兄弟対決と言っていたな……
兄の忠告を無視して、兄弟の窮地を招いた弟……
これでは誰であろうと勝敗は明白よな!!」
双角「だが、妖族ごときにそんな勝負で勝ったとて我らの誉れにはならぬ。
我らが望むのは、貴様らの命……ただそれだけだ」
独鈷杵と錫杖を構える光明寺兄弟。
鉄磨はふらふらになりながらも立ち上がり、それを迎え撃とうとする。
凶護(兄……貴…………)
独角「死ねい!!下種が!!」
金剛杵と法輪が一斉に放たれる。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
轟く咆哮。飛び散る鮮血。
鉄磨には目の前の光景が、時が重くなったようにゆっくりと見えていた。
186
:
藍三郎
:2009/01/30(金) 00:05:41 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
鉄磨「凶……護……」
凶護「へへへ……兄貴はやらせねぇ……ぜ……」
凶護の体には、金剛杵や法輪が突き刺さっている。
鉄磨に命中する直前……凶護はその間に割って入り、光明寺兄弟の直撃を受けたのだ。
鉄磨「凶護ォォォォォォォッ!!!」
薄れ行く意識の中で、凶護は思う。
兄を窮地に追いやったのは、自分の責任だ。
ならば、その責任は取らなければならない。例え己の命を捨ててでも。
自分が足を引っ張って兄を死なせてしまうのは、己の死よりも遥かに恐ろしいことだった。
兄は自分の全てだ。
彼のために体を張ることに、凶護は一瞬も躊躇いはしなかった。
傷口から血を撒き散らしながら、その場に倒れる凶護。
鉄磨「凶護! しっかりしろ、凶護!!」
鉄磨は急いで駆け寄り、手当てを施そうとする。
半妖化の解けた凶護は、普通の人間と変わらない。
体は人一倍頑丈とはいえ、あまりに血が流れれば死んでしまう。
独角「くくく! 体を張って兄を庇ったか!
ここに来て、人間の真似事でもしたつもりか?」
双角「だが賢明な判断だ。そのボロ雑巾はもう使い物にならん。
ならば、せめて一度きりの弾除けになるのが正しい選択と言えるだろうな」
独角「さぁ、残る貴様一人だ!! 今すぐ畜生道に叩き込んで……」
金剛杵を手に、背を向けた鉄磨へと駆ける独角。
嗜虐の笑みを浮かべ、得物を振り下ろすが……
独角「ぶぎゃっ……!?」
見えない“何か”が、彼の顔面を叩いた。
まるで反応できない、高速の一撃だった。
鉄磨「大概にせんかい。わりゃあ……」
コートを脱ぎ捨て、凶護の体を覆うように懸けてやる。
サングラスをかけ、いつもの姿へと戻る。
だが、その口調と殺気は……いつもの鉄磨とはかけ離れていた。
鉄磨「ええ加減堪忍袋の緒が切れたぞ……
とっとと冥途(あのよ)に送っちゃるから……覚悟せんかい!!」
額に血管を漲らせ、物理的な圧力さえ伴った闘気を放ちながら、赤霧鉄磨は吼えた。
187
:
鳳来
:2009/03/03(火) 20:27:52 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方・・・
神楽「クソ、あんた、チートにもほどがあるネ!!」
深鈴「冗談じゃないわよ・・・」
悪態をつく神楽と深鈴だったが、それはある意味無理も無いことだった。
なぜなら・・・・
カミーラ「あらあら、どうしたのかしら?まだ、私は一つの攻撃さえ受けていないのよ?」
神楽「うるさいネ!!あんたに近づけないんだから、あたり前ね!!」
余裕の表情の笑みを浮かべるカミーラの挑発に、神楽は一気に距離をつめようとするが・・・
カミーラ「髪技の1・・・・ハリセンボン!!!」
神楽「ああ、また!!!」
次の瞬間、カミーラの髪の一本一本が鋭くなり、無数もの髪の針が一斉に神楽に襲いかかった。
それに気づいた神楽は舌打ちをしつつ、あわてて後ろに下がる。
深鈴「まったく、厄介な技を・・・・」
神楽「相性悪すぎネ」
斧と拳・・・・明らかに接近戦限定の武器しか持っていない神楽と深鈴では部が悪い
事実、これまで、神楽と深鈴は、カミーラの半径2M以内に近づけないでいた。
カミーラ「それはそうよ・・・私達は遠距離特化型壊人。あなた達のような馬鹿力だけが取り得の化け物をこうやって・・・・」
カミーラは髪を硬化させ、さらにそれを束ね、西洋騎士のもつランスを生み出した。
深鈴「げっ・・・ちょ、待ちなさい・・・」
神楽「常識破りにも程があるねー!!」
カミーラ「髪技の2・・・・怒離瑠!!!!」
巨大な髪のランスを回転させ、攻撃に転じるカミーラ。
対する神楽と深鈴は、防ぐ手立てが無いため一気に後ろに掛けだした。
深鈴「ちょっとぉお!!!でたらめにも程があるわよ!!私よりよっぽど化け物じゃない!!」
神楽「こらぁ!!蓮丸、てめぇ!!こっち手伝えネぇえ!!!!」
しかし、一方の蓮丸のほうは二人よりも絶体絶命の状況に追い込まれていた
イフリート「どうやら、フィニッシュのようデスネ。」
蓮丸「たく、まだ終わってねぇよ・・・」
イフリートの生み出した炎の壁が蓮丸を取り囲み、その身を焼きつくさんとしていた
188
:
藍三郎
:2009/03/04(水) 12:03:06 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
一方……
拳が見えないほどの速さで顔を殴られ、独角の唇から血が流れる。
独角はそれを拭うと、憎悪を込めて鉄磨を睨みつける。
独角「ふん……死にぞこないが調子に乗りおって……」
双角「粋がっても無駄だ。もはや貴様一人で何が……」
鉄磨「ようしゃべるやっちゃのう」
兄弟の台詞は、鉄磨のドスの利いた一言で遮られた。
鉄磨「ええ加減耳障りなんじゃ……とっとと逝ねや」
独角「ぐ……! 生意気なぁぁぁぁ!!」
双角「独角! 油断するな、同時に仕掛ける!!」
赤霧鉄磨は間違いなく深手を負っている。
先ほどまでは、立つことすら困難だったはずだ。
だが、立ち上がったこの男は明らかに変貌している……
ここは、二人同時に仕掛けて確実に仕留めねばならない。
互いに別方向へと駆け出した独角と双角は、鉄磨を挟み撃ちにする。
独鈷杵が放たれ、錫杖の輪が鉄磨へと飛翔する。
完全に息の合った、避けようが無い同時攻撃を……
鉄磨「しゃらくさいわ……」
鉄磨は、両の腕を機敏に動かし、鉄甲で攻撃を弾く。
二人が驚いたのもつかの間……鉄磨は、独角へと肉薄すると、その頭を掴む。
独角が抵抗する前に、彼の体を持ち上げ、後ろの双角へと投げつけた。
双角「ぐはっ!?」
互いに正面衝突し、同時に崩れ落ちる双子。
傷だらけの体とは思えない鉄磨の戦闘力に、内心驚愕していた。
独角「き、貴様、そんな体で何故それだけの力を……」
妖力は使っていない。もしそうなら、自分達の霊感に引っかかるはず。
それなのに、彼の強さは飛躍的に上昇している。
この男の変貌ぶりは一体どういうことなのか。
鉄磨は憎憎しげに舌打ちすると、こう続けた。
鉄磨「アホンダラが……ワシが広島で喧嘩に明け暮れとった頃はのう……
この程度の傷、ただの準備運動に過ぎんかったわい……!」
この二人が知るわけが無い。
十年以上前……中国地方で毛利元就と長曾我部元親が争っていた頃……
両の拳だけで並み居る悪漢を打ち倒し、裏社会に君臨した伝説の喧嘩師。
毛利、長曾我部両軍から恐れられ、また警戒された、
『喧嘩の鬼』と呼ばれた男が、今復活したことを……
189
:
藍三郎
:2009/03/04(水) 12:06:45 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
一方、雪子を加えて研究所内を走る銀時達は……
銀時「すると何か。ここにはお前さん以外にも大勢妖怪が捕まっていると」
雪子「うん。各地から妖怪を捕まえて解剖実験とかしているみたいなんだ。
全く、ちょっと数が多いだけなのに、何様のつもりなんだか」
銀時「仕方ねーよ。人間ってのは傲慢で残忍で、自分のやっていることを省みない悪い種族だからな」
長谷川「おおい! 何で俺を見ながら言うんだ!」
銀時「いや……人様に迷惑かけない分、マダオってのはまだ優良な部類なのかと思ってな」
長谷川「なるほど……って、それ褒めてねーだろ!!」
雪子「ねぇねぇ、マダオって何のこと?」
雪子に質問されて、長谷川はしばし考えてこう答える。
長谷川「……まさにダンディなおじさまって意味だ」
銀時「おーい、ここに何も知らない子供に間違った知識を植え付けようとする悪い大人がいますよー」
桂「だが、全ての人間が悪いわけではない……全ては幕府の腐敗が元凶だ。
世を憂う気持ちがあるならば、お前も攘夷志士にならんか?」
銀時「相手構わずスカウトしてんじゃねー!」
そんなやり取りをしながら、回廊を走っていたが……
突然、雪子が足を止める。
桂「どうした、娘」
雪子「来る」
雪子は、目を大きく見開き、いつになく真剣な表情で回廊の先を見ている。
銀時「来るって、何が?」
雪子「風が澱んでいる……この臭いは……」
少女は不快そうに眉根を寄せる。
やがて、回廊の先からコツ、コツと足音が聞こえてくる。
清光「全くこの研究所は広すぎるねぇ。すっかり道に迷っちゃったよ」
白い着物に後ろで束ねた長い黒髪。
腰には一本の日本刀。口許には穏やかな笑みを浮かべている。
これと言って特徴の無い男だが……彼の姿を目にした瞬間……
銀時と桂は、即座に臨戦態勢に入っていた。
腰の刀に手を掛け、やや後ろに下がり、背後に雪子と長谷川を庇う。
意味が解らずにただ立ち尽くしている長谷川。
銀時「おいお前ら。絶対俺らより前に出るんじゃねーぞ」
長谷川「な、何だってんだよ!」
侍ではない長谷川に解らないだろう。
あの男の纏う、得体の知れないどす黒い妖気が……
桂もまた、普段の悠然とした態度を捨てて、目の前の敵に全神経を注いでいる。
かつての同胞であり袂を分かった敵……高杉晋助の獣染みた狂気に似ているが、やはり決定的に違う。
恐ろしさ以上に、言い知れぬ不快感しか覚えない。
清光「怖いねぇ……そんなに怖い顔で見ないでおくれよ」
辻占玖郎三郎清光は、こちらを睨んでくる銀時と桂に笑いかける。
そう言いながらも、並みの侍ならば気圧される
二人の殺気を浴びても全く動じない辺り、やはり只者とは思えない。
清光「後ろにいるのは……おや、お嬢さん。どうしてそんなところにいるのかな?」
雪子「…………」
清光の濁った瞳は、銀時と桂をすり抜け、雪子へと注がれている。
長谷川「な、何だ? 知り合いかよ?」
雪子「ああ…… 数日前、僕を捕まえて、ここに放り込んだ張本人さ」
押し殺した声でそう言われ、清光はにっこりと微笑む。
190
:
藍三郎
:2009/03/04(水) 12:08:32 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
清光「あの時は楽しかったね。鬼ごっこ。
まぁ、途中で私の仲間が横槍を入れたから、決着を付けられなくて残念だったけど」
雪子「そうだね……」
彼女は数日前の出来事を思い出す。
明らかに速さはこちらが上のはずなのに、何処へ逃げても追ってくる謎の追跡者。
得体の知れない人間だが、これだけは解った。
彼の体に纏う不快な風の臭いは……
同族達の腐肉の臭いだ。
結局……捕まりそうになったところで、山伏の格好をした双子の男が現れ、雪子は素直に投降した。
正直、助かったと思っている。
もし、あそこで彼らに捕縛されなければ、あの男は確実に自分を――――
清光「いけないねぇ、こんなことをしちゃ。
水野殿やあの兄弟に気づかれない内に牢屋に戻れば、怒られずに済むかもしれないよ?」
雪子「嫌だ……と言ったら?」
清光「それは……私にとっては嬉しいねぇ」
意外な返答を返す清光。
しかし、続けて彼は、実に穏やかな顔のままで言ってのけた。
清光「だって……それなら遠慮なく、君を喰い殺せるってことじゃあないか……」
清光の口が開き、びっしりと並んだ歯から、涎が垂れる。
その瞬間……
間髪入れず、銀時と桂は清光に斬りかかった。
清光も刀を抜き、木刀と刀の振り下ろしを受け止める。
桂「貴様が誰か知らんが……何者かはわかるぞ。
どれだけ取り繕おうとわかる……その顔は、人斬りの貌だ……!」
清光「ふぅん。そういう君たちも、あまり人のことは言えないみたいだけどねぇ」
清光も、彼らの被った血の臭いを嗅ぎ取っていた。
彼らもまた、戦場を駆け、多くの敵を屠ってきた歴戦の猛者……!
銀時「はっ、俺らはお前みてーに、殺した敵の肉を食べるカニバルな趣味はねーよ」
清光「おや、よく解ったね」
銀時「お前、口が臭せーんだよ……嗅ぎ慣れた死体の臭いでな!
ちゃんと毎日歯磨きしてんのか?」
清光「歯磨き?そんなの勿体無くて出来ないよ。
それじゃあ、美味しい妖怪の味が口から消えちゃうじゃあないか……!」
大きく刀を振るう清光。
痩せぎすの体からは想像もつかぬ膂力で、銀時と桂は吹き飛ばされる。
銀時「ち……真性マッドちゃんってわけかい!」
それでも踏み止まると、銀時は清光に向かって斬りかかる。
清光「駄目だねぇ……そんな木刀(おもちゃ)では……」
清光は、手にした刀を一閃する。
清光「喰い甲斐が無いというものだ」
半ば辺りで寸断される洞爺湖の木刀。
だが、これは予期していたこと。
自分は囮に過ぎない。この隙に、桂は既に側面に回りこんでいる。
二対一などと侍の流儀に反するようだが、元より二人も尋常な侍ではないし、何を置いてもこの男を斃すべきと二人の勘が告げていた。
完全に銀時の方を向いている彼の脇腹に向けて、桂の抜刀した刃が迫り来る……
次の瞬間……
桂「――――!」
視界が鮮血で染まった。
舞い上がる血飛沫が、スローモーションのように流れていく。
敵の血ではない。肩を焼くような激しい痛み……
これは、己の血だ……
銀時「ヅラァァァァァァァッ!!!」
何が起こったのかわからなかった。銀時も、桂も。
あの男は刀を振った直後で、隙だらけだったはずだ。
とても桂に反撃できる余裕があったとは思えない。
しかし、実際の桂の肩は裂け、真っ赤な血を噴出している。
清光「おや、斬っちゃったかな」
うっかり虫を踏み殺したような物言いである。
彼の刀は、確かに桂の鮮血で染まっている。
何か見えない武器を使ったのではなく、確かにその刀で肩を切り裂いたということだ。
だが、そのことに思いを馳せる暇はない。
今度ははっきり見える形で、清光は崩れ落ちる桂へと刀を振り下ろした。
銀時が、桂の脳天を叩き割られるのを幻視した瞬間……
191
:
藍三郎
:2009/03/04(水) 12:09:41 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
凄まじい突風が、彼らの間を吹きぬけた。
清光の背後、回廊の向こう側から吹いてくる風だ。
清光は、構わず刀を振り下ろすが……
その時には、桂の姿は忽然と消失していた。
雪子「逃げて!!」
呆気に取られる銀時だったが、雪子の声を聞いてすぐさま行動に移す。
どの道、木刀を切断され、桂が戦闘不能に追い込まれた以上、この男を斃して進む選択肢はありえない。
銀時は踵を返して、風の流れに身を任せて逃走する。
清光も追いかけようとするが……その瞬間、風の流れが変わった。
吹き荒れる風が、視界を歪める竜巻を発生させる。
噴煙や鮮血も呑み込んで、濁った風の障壁を作り出す。
清光は、風の檻に閉じ込められ、前へ進むことが出来ない。
その間、およそ五秒。風が止んだ時には、銀時らの姿は影も形も無くなっていた。
清光「………………お嬢さん、君の仕業か」
獲物を見失い、清光はしばし呆然と立ち尽くしていた。
だが、すぐにその顔に、嗜虐的な笑みを浮かべる。
清光「そうか……なら、鬼ごっこの続きといこうじゃあないか……」
長谷川「う、うおおお!?」
長谷川はこの上なく狼狽していた。
自分の体が宙に浮いて、風に流されるまま飛んでいるのだ。
毎日地に足の着かない生活を送っているが、本当に空を飛んだのは生まれて初めてた。
雪子「あんまりじたばたしない方がいいよ。風から転げ落ちたら拾うの面倒なんだよ。
走るんじゃなくて、泳ぐつもりで腕かきとかしてくれると助かる」
長谷川「お、おう! わかった!」
そう言われて、長谷川は空中で平泳ぎを始める。
何とも間抜けな光景だが、直立して足を振っていた時と比べると、ずっと体が安定する気がする。
風の流れに乗って中空を飛ぶのを、心地良いとさえ思えてくる。
銀時「なるほど、これがお前の力か」
雪子「そうだよ。『風』を操るのが僕ら一族の能力なのさ」
銀時は既に順応して、風の中を悠々と泳いでいる。
雪子は負傷した桂を担いで、恐ろしい速さで地を駆け抜けている。
『風使い』である雪子は、周囲の空気の流れを操って、自分の進行方向に向けて風を吹かせている。
それが、この異常な速度の源となっていた。
清光の攻撃から桂を寸前で助けたのも、その音速に近い速さによるものだ。
だが、それでは銀時と長谷川がついていけない。
なので、周囲の風に銀時と長谷川を乗せて運ぶことで、皆同じ速度で逃走していた。
雪子は巧みに風を操作し、曲がり角でも壁にぶつかることなく二人を運んでいった。
時たま、長谷川が体勢を崩して壁に激突することは数十回とあったが……
銀時「で、俺達はどこまで逃げればいいんだ?」
雪子「わからない。一つ言えるのは、どこまで逃げてもあいつは追いかけてくる。
あいつには、僕達妖怪の居場所がわかるんだ」
いつぞやの追走劇を思い出しても、そう考える他説明がつかない。
恐らくその能力を買われて、彼は妖魔滅伏組にいるのだろう。
銀時「ひたすら逃げるしかねーってことか……」
雪子「まともにやってもきっと殺されるだろうしね。
あいつは強い。僕ら四人がかりでも、多分勝てない」
一人は元より戦力外だが、あの男の強さは、銀時も正しく理解していた。
妖怪も人間も関係なく、あの男は明らかに異質な存在だ。
限りなき殺意を凝縮した闇……触れただけで体中が汚染され、死に至るような精神を抱えている。
そんな暗黒と相対するには……
雪子「君が……真剣を持って、本気であいつを殺す気になったらどうなるかはわからないけど」
銀時「………………」
そんな銀時の考えを見透かしたような雪子の言葉に、銀時は無言で返した。
192
:
藍三郎
:2009/03/04(水) 12:10:39 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
深鈴「全く、男衆はいざとなったら当てにならない……
こうなったら!!」
深鈴は両手に斧を持つと、何を思ったのか一気に近くの壁を、三角跳びで駆け上がった。
忍者に匹敵する身軽さと反射神経を持つ、深鈴の特技の一つだった。
カミーラ「何のつもりかしら。距離を取るなら、それこそこちらの思う壺……!」
カミーラは天井の角に張り付いた深鈴目掛けて、髪の毛針を発射する。
深鈴は再び壁を蹴って、別の場所へと移動する。その途中で……
深鈴「はっ、勘違いしているようね。
私の本領はね、斧を振る方じゃなくて投げる方なの!」
両手の斧を一斉に投擲する。
発射された針の何本かが、斧に斬られて地面に落ちる。
投げられた斧は、旋回して再び深鈴の手へと戻る。
カミーラ「ふ、悪足掻きはやめなさい!!」
さらに髪針を連射するカミーラ。
深鈴も投げる斧で迎撃するが、いかんせん数が多すぎる。
斧の軌道をすり抜けた何本かは深鈴に突き刺さる。
深鈴「痛っ! もう、服に穴開いちゃったじゃない!」
痛みよりも、気に入っていた服が傷ついたことに怒る深鈴。
カミーラ「そんなつまらないことに気を取られている余裕があると思って!?」
カミーラは髪をドリル状にして、深鈴に向けて発射する。
深鈴は三角跳びでドリルの切っ先を回避すると、二本の斧を投擲する。
だがそれらは、新たに生じた別のドリルによって弾き落とされてしまう。
カミーラ「ふ、万事休すね……と、それで油断すると思って?」
カミーラの意識は、即座に背後から迫る別の殺気へと向けられる。
深鈴が天井に張り付き、撹乱することで意識を上に向け、その間に神楽を接近させる……
それが彼女らの仕組んだ策だろう。
カミーラ「その程度の浅知恵、このフタクチ・ザ・カミーラには通じないわ!!
髪技の3、針山地獄!!」
だが、そんな策はとうにお見通しだ。
背後の髪を硬化させ、鋭い棘を幾つも作り出す。
まるで威嚇するハリネズミのようだ。
隙だらけと考えて無造作に突っ込んできた神楽は、この棘に串刺しにされることだろう。
だが…………
唸りを上げて飛んできた白影が、びっしりと並んだ棘を瞬く間に切り裂いた。
カミーラ「!?」
深鈴「切り札は、最後まで取っておくものよ」
大きく弧を描いて戻ってきた“三本目の斧”を、その手で受け止める深鈴。
何が起こったのか、カミーラが理解するよりも前に……
神楽「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
神楽の全力の拳が、カミーラの背中にめり込む。
カミーラ「ごはぁぁぁぁぁっ!!?」
背骨が肋骨もろともへし折れる音を聞きながら、カミーラの意識は激痛で塗り潰される。
白目を剥き、大きく口を開け、カミーラの体は吹っ飛び、正面の壁に激突する。
なお……この時点では、まだカミーラには僅かな意識が残っていた。
だが…………
神楽「どりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
駄目押しとばかりに放たれた神楽のドロップキックが炸裂し、
壁もろともカミーラの全身の骨を粉々に砕き散らした……
193
:
鳳来
:2009/05/11(月) 22:19:44 HOST:use2.mmnet-ai.ne.jp
一方…
イフリート「グレェイト!!やるじゃん、あのガールズ。モンスターじゃなきゃ、スカウトしたいところだね」
蓮丸「ちっ、こっちは、無視かい、大道芸人」
カミーラを倒した神楽と深鈴に、称賛の声を上げるイフリート。
対する蓮丸は、炎の壁に囲まれ、身動きがとれず、忌々しげに舌打ちした。
イフリート「オーソウリー。そういえば、ユーがいたね?さっさとダイしないと、ボスにペナルティもらちゃうからね。」
蓮丸「ボスね・・・あんた達の首領がやってることを知ってるのか?」
イフリート「もちろん。だが、それになんのバッドがあるんだい。ノープロブレム、妖怪倒して、さらにヒーローに転職できる。ブリリアントこのうえなくない?」
蓮丸「ああ、そうかよ・・・」
常人からすれば、異常このうえないことを平然と言い放つイフリートに蓮丸はあきれて、呟いた。
この手の手合いとは、昔何度もやりあっていたが、結果はいつも同じだ。
地獄への回廊は善意というなの煉瓦でできている―――善意を振りかざす者の末路は。
とその時、神楽が粉砕した壁の方から、一人の老人ーー妖魔滅伏組のボス:水野夏彦が現れた。
イフリート「おう、ボス。どうして、ここにカムしてくれたんですか?」
水野「何、侵入者を迎え撃っていたのだがね。今、仕留めている最中だ」
蓮丸「まさか・・・!!」
水野の言葉に、蓮丸は見た先には・・・・
新八「だ、大丈夫ですか、サラサさん…」
サラサ「どうにかな・・・あばらの一本は持っていかれたか」
体は無傷だが、顔面が倍にまで膨れ上がった新八と脇腹を押え、うずくまるサラサの姿があった。
イフリート「ボス・・・その二人、モンスターじゃないようだけど?」
水野「そうなのだがね。どうも、我々の意にそぐわないようなのでね。ある程度、痛めつけることにした。まあ、死なない程度にだがね。」
イフリート「OK/OK・・・なら、ミーもさっさとこいつを・・・」
蓮丸「俺をどうするって?」
イフリート「へ?」
不意に聞こえた声に、イフリートが振り返ると、炎の壁にいたはずの蓮丸が隣にいた。
蓮丸の上着は既に炎に焼きつくされていたが、彼の肌にはやけどの跡が何一つなかった。
蓮丸「悪いな。最初はあんたらを生かす予定だったが気が変わった。俺の女に手を出したんだ・・・」
イフリート「ちょ、スト・・・・」
蓮丸「無間地獄に堕ちろ」
蓮丸が冷たく死刑宣告を告げた瞬間、イフリートの頭部がはじけ飛んだ。
おそらく、蓮丸の拳がイフリートの頭を粉砕したのだと、理解したのは数えるほどしかいない。
常人の目には映らぬ・・・それほどの速さで打ち込まれたのだ・・・・
水野「どうやら、君も邪魔をするようだね・・・一応、誰だか、聞いておこう。」
蓮丸「じゃあ、俺も一応おしえてやるよ。」
自分を倒すべき敵と認識した水野に、蓮丸はかつての自分の名を告げた・・・
背中に彫りこまれた<南妙法蓮華経>の6文字を見せつけながら!!!
蓮丸「俺か・・・俺は、宗派七獄が一党、法華鬼関頭首ーーー善日蓮丸!!それが、サラサとともにある銃の名だ!!」
194
:
^^おいで
:2009/05/15(金) 15:21:15 HOST:z78.58-98-207.ppp.wakwak.ne.jp
すごく好評のブログw
ちょっとHでどんどん読んじゃうよ。
更新もしてるからきてみてね^^
ttp://angeltime21th.web.fc2.com/has/
195
:
藍三郎
:2009/05/15(金) 23:35:02 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
鉄磨「凶護……生きてるか……?」
傷だらけの身体をおして、鉄磨は凶護のそばに近寄る。
完全に気を失ってはいるが、まだ息はある。
今頃は彼の中の妖族の血が、急速に身体を治癒しているところだろう。
目を覚ますには、後数時間以上は必要のはずだ。
光明寺兄弟は、“あの時の鉄磨”には勝てないと悟ったのか、つい先ほど逃げていった。
この場には、鉄磨と凶護の二人しかいない。
鉄磨「ぐ…………!」
その場で膝を突く鉄磨。意識はあるが、自分も他者を気遣える状態ではない。
あの時は怒りで我を忘れ、長年の戦いで築き上げた経験と、半ば意地だけで戦っていた。
敵との相性も良かった。
彼ら双子は妖力を放つ敵に対する完全な対抗策を持っていたが……
凶護と違い、自分は妖力を表に出して戦うタイプではない。
常に妖力を内に封じ込め、自身の身体だけを強化する。
これならば、光明寺兄弟の“光輪反極転”の影響を受ける事はない。
この特質は、天然に備わったものではない。
幼少期……鉄磨たち赤霧斗賊団にも、仏法勢力の妖怪狩りの魔の手が伸びていた。
光明時兄弟のような、妖力を無力化する敵に遭遇した時も何度かある。
父と共に、弟たちを守って逃げ延びている内に……鉄磨は戦いの中で、妖力を抑える術を身につけていった。
半妖とはいえ、ここまで完全に妖力を封じ込められるのは、鉄磨以外にはまずいない。
彼の強さと能力は、生きる為の戦いで培ったものなのだ。
それでも……痩せ我慢にも限界があった。
全身の傷が絶えず己を苛み、今にも気絶しそうになる。
もう少し戦い長引いていれば、今度はこちらが危なかっただろう。
伊空たちは無事だろうか……人のことを心配していられる状況ではないのだが……
その時……轟音が鳴り、壁が弾け飛ぶ。背後を振り返ると……
双角「できれば、奴らの“置き土産”など使いたくはなかったがな……」
独角「もう手段など選んでいられるか! 妖怪は皆殺しだ!!」
二足歩行で歩く、巨大な絡繰兵器が姿を見せる。
横に長い金色の箱に大きな手足が付属した構造で、機械で出来た蟹のような姿をしている。
太くて頑丈な脚部を持ち、右腕には削岩機(ドリル)、左腕には巨大な鋏が備え付けられていた。
胴体部分の上には、光明寺兄弟が乗り込み、操縦桿を握っている。
<万寿菊>の戯術によって造られた巨人級絡繰兵器『戯鎧(ぎがい)』……
“万が一”の事態に備えて、一年前万寿菊の使いが残していったものだ。
それ以来、ずっと倉庫で眠り続けていたが……
光明寺兄弟によって始めて起動し……今目覚めの雄叫びをあげていた。
鉄磨「くっ……!」
独角「あははははは!! 今度こそ挽き肉にしてやるぞ!! 半妖ぉぉぉぉ!!」
鉄磨は凶護を担ぎ上げると、唸りを上げる削岩機の脅威から必死に逃走を図る。
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