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涙たちの物語7 『旅の終わりは』

1(・ω・):2004/06/28(月) 08:39 ID:GRnlniQk
【したらば@FF(仮)板】
涙たちの物語6 『旅の途中で』
前スレ:
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1077148674/
【したらば@マターリ板】
涙たちの物語5『旅が続いて』
http://jbbs.shitaraba.com/game/bbs/read.cgi?BBS=6493&KEY=1069286910
涙たちの物語4 『旅は道連れ』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1064882510.html
涙たちの物語3 『旅の流れ』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1058854769.html
涙たちの物語2 『旅の続き』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1054164056.html
涙たちの物語 『旅は終わらない』(避難先)
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1048778787.html
(※↑ログ消滅のため【過去ログ図書館】にリンク)

【xrea】
初代 涙たちの物語 『旅は終わらない』
http://mst.s1.xrea.com/test/read.cgi?bbs=ff11&key=042463790
(※↑見れるときと見れないときがあるらしい)

倉庫等
(Wiki)http://kooh.hp.infoseek.co.jp/
(新)http://f12.aaacafe.ne.jp/~apururu/
(旧)http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/4886/index.html

ここも姉妹スレ?
今はいないフレンドへの手紙
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1075100271/

3332/2:2004/10/27(水) 00:25 ID:3a60WRyw
にゅぅにゅぅ。
お祭りなのにゃ!ハロウィーンなのにゃ!
すごく、すごく、す〜ごく、楽しいのにゃ!

「ふにゃ〜。街を一回りしちゃったのにゃ。流石にチョット疲れたのにゃ」
「ふ〜。そうだね。ちょっと疲れたかも」

「あにゃ……」
「ん?どうかした?」

「アタシ、ちょっと……おトイレ……なのにゃ」
「あ、うん。わかった。……あれ?」

「にゃ?どうかしたのにゃ?」
「ん、えっと、なんでもない。いってらっしゃい」

「にゃ〜?なんかヘンだけど、いってきますにゃ」
「うん。くすくす」

とてとて。

にゅぅにゅぅ。
おトイレに着いたのにゃ。
サッサと済ませて戻るのにゃ。
でも、さっきの態度、なんか気になるのにゃ……。

「はにゃ?」

「あにゃ!」

にゅぅにゅぅ。
なんでにゃ!どうしてにゃ!
おトイレのドア、開けられないのにゃ!

「どうしようにゃ?困るにゃ!困るにゃ!」

にゅぅにゅぅ。
今日はお祭りだから、ジュース、いっぱい飲んだのにゃ!
だから、あんまり我慢できないのにゃ!

「……にゃ!……にゃ!……にゃ!」

にゅぅにゅぅ。
ダメにゃ!もうダメにゃ!でも、ダメにゃ!
アタシはレディなのにゃ!レディは粗相なんかしないのにゃ!
でもにゃ!でもにゃ!もう……限界……なのにゃ!

「……にゃ!……にゃ!……にゃ!……にゃ!……にゃ!」
「くすくす。どうかした?」

「にゃ!な、ナイスタイミングなのにゃ!」
「うん。そろそろ限界かな〜と思ったから」

「にゃ?そ、そんなことより、助けてにゃ!
にゃんでかわからないケド、アタシ、おトイレのドアを開けられないのにゃ!」
「あ、そうなんだ」

「だから、お願いなのにゃ!代わりにドアを開けて欲しいのにゃ!」
「うん。あ、でも、私もドアを開けられないかも」

「にゃ?にゃんでにゃ?どうしてにゃ?」
「うん。あのね、コスプレ中はドアを開けられないんだって。
衣装のレンタルに関する注意事項に書いてあったよ」

「にゃー!」
「くす」

にゅぅにゅぅ。
脱ぐにゃ!今すぐ脱ぐにゃ!もう全部、脱ぎ捨てちゃうのにゃ!
でも、にゃ……。

「やっぱり注意事項って大事なんだね。うん」

にゅぅにゅぅ。
お祭りなのにゃ!ハロウィーンなのにゃ!
だから、きっと、たぶん、間に合って良かったというお話なのにゃ!

にゅぅ……。

334親愛なる友への手紙を書いた者です。:2004/10/27(水) 23:59 ID:VVIF4Rgo
>>331さん
ありがとうございます。今後参考にさせていただきます。

335Scrapper:2004/10/28(木) 02:28 ID:eARluXG.
毎度ありがとうございます.
ちょっと遅れましたが,更新しました.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

さて,もうずいぶん前の話ですが,FFXI始めた当時の私が疑問に思ったこと.
「なぜパライズがソロロの代書屋で売ってないの?」
新規サーバで殆どの人が一から始めたばかりでしたから,
競売にも物資がなく,途方に暮れていました.

なぜ彼女の店ではパライズを売ってないのでしょう?
ひたすら亀を殺しながらグスタベルグを徘徊していた私が得た答えは,

パライズを求めた新米冒険者は亀を殺戮して回る
→グスタベルグの治安が良くなる
→政府が冒険者を有効活用するために販売を禁止してるんじゃないか?

というものでした.

Scrapperのページにおいてあるのは,そんな発想をしてしまった人間が書いてる話です.

では読者の皆様方も作者の方々も頑張ってくださいね.

336名無しの話の作者:2004/10/28(木) 06:00 ID:W8ynfEVk
「名無しの話」の25 −秋のヒュム戦−

ヒュム戦が座ってる。
夕暮れの砂浜にポツンと座ってる。

去年の海は楽しかった。
思い出してみると
……なんだかいやなことが浮かんできそうなのでやめた。
でも、楽しかった。
だから、今年もと思って準備した。
去年出来なかったことをと思って準備した。
ビーチボールにスイカにボート。
でも、なんだかとっても忙しかった。
なぜだかとっても忙しかった。

夏の初めにみんなに言った。
「いつ行こうかー」
「いついくのー?」
「のー?」
楽しかった。
でも忙しかった。

夏のさなかにみんなに言った。
「もういつでも大丈夫だねー」
「んー、まっさかりだぁ」
うれしかった。
でも、忙しかった。

夏の終わりにみんなに言った。
「まだまだ大丈夫だよねー」
「にゃ。まだ泳げるにゃ」
「大丈夫だろう」
期待してた。
でも、忙しかった。

そして…。
風は冷たい。
潮も冷たい。
ビーチボールは部屋で転がってる。
スイカは部屋で萎びてる。
ボートは部屋で縮んでる。

ヒュム戦が座ってる。
砂浜にポツンと座ってる。
「はぁ…」
なぜだかため息が出てしまう。

337名無しの話の作者:2004/10/28(木) 06:06 ID:W8ynfEVk
「にゃ〜。ヒュムさん、早く来ないと食べちゃうにゃ」
「んー、ほくほくぅ」
「にゃ、ガルさん、クリはちゃんと渋皮むかないと渋いにゃ」
「んー…むずかしぃ」
「はい、お芋焼けたにゃ」
「あつあつー」
「あついのー」
「にゃ、お芋は皮も食べるにゃ。栄養あるにゃ。芳ばしいにゃ」
「「はーい」」
「ヒュムさん、無くなるにゃー」
「これも入れようか」
「ん?…にゃー!エル姉、そのクリ生にゃ。切れ目入れてないにゃ!」
「よくないのか?」
「にゃー、入れちゃったにゃー。爆ぜるにゃ、弾けるにゃ、危険が危ないにゃ!」
パンッパパパンッ
「ふぎゃー」
パパンッパパパンッ
「うわっ」
「みー」
「きゃー」
「おーー」
パパンッパンッパンッパパパンッ



静かになった。
「?」
振り向けば、屍累々。
ゆらゆら揺れるたき火が鮮やか。

「はぁ…」
ヒュム戦が座ってる。
砂浜にポツンと座ってる。
来年の夏は…まだ遠い…。

「レイズ…呼ぶ?」

−おわり−

338名無しの話の作者:2004/10/28(木) 06:13 ID:W8ynfEVk
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m。
タル獣のお話じゃないです。
別な話を挟んじゃいました。
思いっきりの反則です。
待っていただいていた方、ごめんなさい。
そろそろゴブやヤグのたき火を乗っ取りたくなる季節になってきました。
ソーセージだけじゃなく色々焼いてパーティーしたいです。

339(・ω・):2004/10/28(木) 06:41 ID:ZlpWRfvc
何はともあれ名無しの話キタ━(゚∀゚*)━!!!!!

340(・ω・):2004/10/28(木) 11:49 ID:4cqO.lSc
焚き火乗っ取ってパーティーも楽しそうだな…。

341(・ω・):2004/11/01(月) 22:52 ID:8ei9Ewms
|ω・`)ダレモイナイ


|ω・`)カクナライマ


|彡


|・`)チョットダケネタバレアルヨ


|彡

342風の通る道:2004/11/01(月) 22:53 ID:8ei9Ewms
「ここは俺たちが引き受ける!第一部隊は進んでくれ!」
リンクシェルに怒号が響く。

「わかった、先に行ってる!無理はするなよ!」

「第一部隊、内郭へ突入した!一気に攻め込む!!」

「第三部隊より、退路は確保した!次の指示を待つ!」

この日、世界が動いた。



〜第15話、過去の呪縛(後編)〜



   −数日前−


「ついに突入か」
「斥候からの連絡によれば、事態はかなり切迫しているらしい」
「こっちの準備は既に万端だ。この時を待っていた!」

ジュノ最上層のル・ルデの庭、本来はそれぞれの国の代表が集まり、会談する部屋に、今日は冒険者があふれていた。
それぞれが屈強の戦士。
彼ら、違う国の者たちが課せられた共通のミッション。

「闇の王を討て」

最近、世界各地で起きた異変。
それは、そのほとんどが獣人が原因であると、冒険者たちの手によって明らかにされた。
そして、その影には、かつてクリスタル戦争において、獣人軍を率いた闇の王の影が見え隠れしていたのだ。

冒険者たちの間で、まことしやかにささやかれていた闇の王復活。
その噂が、実は事実であると知っている冒険者はほんの一握り。
ここに、その一握りの冒険者全てが揃っていた。

「我々は四中隊に編成し、それぞれを更に三小隊、計十二小隊にて、オズトロヤ城、ベドー、ダボイ村、そしてズヴァール城の同時奇襲を決行する」
彼らを取りまとめるエルヴァーンの騎士、アシュペルジュが静かに、しかし熱のこもった声で作戦を伝える。

「明朝にジュノを発ち、それぞれ拠点の前で待機。4000時、夜明けを待たずに突撃する」

周りの冒険者たちは、言葉こそ発しなかったが、部屋は異様な熱気に包まれてていた。

「これより編成を発表する。どの隊が突撃しても良いよう、バランスを重視した。が、それぞれ重要な役目だ。心してくれ」

343風の通る道:2004/11/01(月) 22:53 ID:8ei9Ewms
「ここが・・・王の間」
アルヴァが思わず息を飲む。

襲い来る闇の眷属を撃破しつつ、闇の王が居るとされる王の間まで最初にたどり着いたのは、
騎士アシュペルジュ、シーフのアルヴァ、暗黒騎士リザ、赤魔導師ルーヴェル、白魔導師ミーリリ、そして黒魔導師ポルクボルクの部隊であった。

しばし、その圧倒的な存在を放つ建造物に気圧される。
全員が無言で立ちすくしていると、突然ポルクボルクが言葉を発した。

「なんじゃ?緊張しとるのか?わしは早く帰ってユグホトの温泉に浸かりたいんだが・・・」

一瞬の沈黙の後、全員がぷーっと噴出した。

「まったくだ。この寒さは爺さんの腰にこたえるから、さっさと倒していこうぜ」
アルヴァが笑いながら言う。
「俺も早く帰って可愛い子とデートしたいなぁ。リザ、今日どうだい?」
ルーヴェルがにやりとしながらリザに話しかける。
「パス。このあと寄るところがあるからね」
軽く受け流すリザ。
「ルーヴェル、私には一言も声かけてくれないのに!」
ミーリリがぷぅっと頬を膨らませてすねた声を出す。
「あー、じゃあミーリリで良いか。その代わり華を探さないとなぁ」
一瞬後、ルーヴェルは腹を押さえて前かがみにのめった。

「さて、我々にもあまり時間は無い。そろそろ行くぞ」
アシュペルジュの言葉を受け、全員が力強い足取りで進んでいく。

「のぅ、アルヴァ」
「ん?何だ爺さん?」
「戦いの前に、預けておきたいものがあっての」
「ん?手紙?」

ポルクボルクが懐から出したのは、少し大きめの封筒だった。
「時が来たら、これをある人に渡して欲しいんじゃ」
「おいおい、えらくアバウトだな・・・。それに、自分で渡せよ」
「間違って温泉に落としたら大変なのでな。預かっててくれんか?」

老人の意図するところを、青年も読み取ったのだろう。
「分かった。ただし、温泉から帰ったら返すからな?」


「こちらベドー部隊!中隊にて金剛王を撃破!」

「こちらダボイ!もう少しで倒せそうだ!」

「オズトロヤも終わる!踏ん張れ!!」

リンクシェルからの報告を受け、パーティの士気も自然に高まる。

「このヴァナディールを獣人などに渡してなるものか!我々の世界は我々が護る!」
アシュペルジュの怒声を合図に、激しい戦闘が始まった。

344風の通る道:2004/11/01(月) 22:54 ID:8ei9Ewms

「リーダー、大丈夫!?」
素早いキャストでケアルを唱え、ミーリリが叫ぶ!
「まだまだ!」
体を張って、強烈な攻撃を受け止めるアシュペルジュ。
「くそ、攻撃が通らない!?」
「ちぃ!厄介だね!」
「魔法で削る!」

激しい戦闘は、人間の優勢に進んでいた。
いかに闇の王といえど、目覚めたばかり、そして、熟練の冒険者たちの力と連携に押されている。
勝機を見たアシュペルジュが指示を飛ばそうとした瞬間、パーティに異変が起こった。

「ぐあ!」
「ぐ!!」
「くっ!」
「うわ!」
「くぅ・・・!」
「きゃあ!」

突然強力な衝撃波が全員を襲い、全員が吹き飛ばされてしまった。
すぐに体勢を立て直し、戦闘に復帰するが、全員がかなりのダメージを受けたようだ。

突然ミーリリが前線に向かって走り出した。
ポロムボロムとルーヴェルは、その行動の意味をすぐに読み取り、そして制止したが、小さなタルタルの少女はパーティを救うべく、白魔導師の秘儀を発動させた!

「女神よ。私の大切な仲間に祝福を!」

柔らかな光が全員を包み、傷が見る見る回復していく。
同時に、闇の王の怒りの矛先がミーリリへと向いた。

「まずい!」
ルーヴェルが叫ぶ。
前衛の3人も、事態を理解したようだ。

「業火よ、我に仇なす敵を焼き払え!フレア!!」

小さな目標に向かい、その巨大な剣を振り下ろそうとする闇の王を、突然火柱が包み込んだ!
ポルクボルクの放った古代魔法である。
そして、今度は間髪入れずに別の古代魔法、フリーズの詠唱を始める。

「赤魔導師の奥義、見せてやるよ!」

ルーヴェルも信じられない速さのキャストで魔法を放つ。

「我が同胞に手は出させないぞ!インビンシブル!」


次々と切り札を出す冒険者たち。
・・だが


「まずい、またあれが来るぞ!」
アルヴァの放った言葉が終わる前に、先ほどよりも強烈な衝撃が彼らを襲った。
「ぐぉ!」
魔法を詠唱していたポルクボルクが吹き飛び、壁に体を強打した。
何とか踏ん張った他の5人は、敵のある異変に気づいた。

「奴は疲弊している!畳み掛けろ!」
アシュペルジュの言葉どおり、闇の王は明らかに弱っていた。
恐らく先ほどのような衝撃波はもう撃てないだろう。

345風の通る道:2004/11/01(月) 22:54 ID:8ei9Ewms
轟音と共に、闇の王は地面に伏した。
リンクシェルから歓声が上がる。
だが、打ち倒したパーティの面々は、一様に暗い表情をしていた。

「多分あの衝撃波で・・・」
ミーリリが、目に涙をあふれさせながら言う。
ポルクボルクは、闇の王が倒れる頃にはその生涯を終えていた。

ガシャン!
突然の音。
全員が振り返ると、リザが地面に倒れていた。

「まずい、ケアルを!」
アルヴァが叫ぶ。

「まってて、マナが足りない!」
「くそ、俺もだ・・・。しばらくコンバートも出来そうに無い」
アシュペルジュも黙って精神集中に入る。
倒れたリザにアルヴァが駆け寄った。

「しっかりしろ!すぐに回復してもらえる!」
「ふふふ。ざまぁないね・・・」
「しゃべるな。体力を消耗する!」
「いいんだ・・・。自分でわかる。あたしはもうだめだ・・・」

「前に、あたしが無くてはならない存在だって言ってくれたの、覚えてるかい?」
「ああ、覚えてる。だから死なないでくれ!」
「あたしにとって、あんたは光だった。闇に堕ちたあたしを救ってくれたのはあんただ。あたしにとってもあんたは無くてはならない存在なんだ・・・」
「しっかりしろ!あのときの返事、まだ聞かせてもらってないぞ!」

その瞬間、ミーリリのケアルがリザを包み込んだ。

「そんな!ケアルが効かない!?」

「返事・・・か。嬉しかったよ・・・。でも・・、あたしには、むりみたい・・・だ」
何度も降り注ぐケアルの光を浴びても、リザは弱る一方だった。

「でも、あんた・・・には幸せに・・・なってほしいんだ・・・」
ゴホゴホと咳き込みながらもつむぐ言葉を、青年は黙って聞いていた。

「あんたに・・・は、あたしの・・・代わ・・り・・・に、幸せに・・・なる・・義務があ・・・る」
パチン
鎧の止め具をはずす音が聞こえた。

「もう・・・・らくに・・・し・・て・・・」

パチン
アルヴァの行動の意味が分かったのであろう。
アシュペルジュはじっと目を伏せ、ルーヴェルは悲痛な目で二人を見、そしてミーリリは泣き出した。

パチン
胴鎧をはずした青年の目には、あの首飾りが飛び込んできた。
不意に涙があふれる。
腰から一振のナイフを取り出すと、誰にとも無く青年は呟いた。

「ミセリコルデ・・・慈悲の短剣か。慈悲なんて・・・!だったらリザを救ってくれ!!」
ミーリリが声を上げて泣き出した。
アシュペルジュとルーヴェルは、目を背けることなく彼らを見つめる。

「まだ、ちゃんと言って無かったよな。リザ、君を愛してる」

その言葉を最後に、青年は愛する女性の胸に短剣を突き立てた!

346風の通る道:2004/11/01(月) 22:56 ID:8ei9Ewms
「アルヴァ!!てめえええええ!!」
突然走ってきた影に、アルヴァは殴り飛ばされた。

「お前、お前だから任せたのに!!」
殴った後の体勢のまま、トリスタンが叫ぶ。
「やめろトリスタン!アルヴァのせいじゃない!」
ルーヴェルの声もトリスタンには聞こえていないようだ。

「この野郎!!」
トリスタンが突然、斧を構えた!
「あ、あれ!」
同時にミーリリが叫ぶ。
ミーリリが指差した先には、夥しい数のデーモンが怒涛のごとく押し寄せてきていた。

「ミーリリ、エスケプ・・・いや、テレポだ!」
アシュペルジュの指示が飛び、すぐに詠唱を開始するミーリリ。
そして
「この野郎、殺してやる!」
両手斧を振り上げたトリスタンが叫ぶ。
アルヴァは地面で上半身だけを起こし、放心状態になっていた。

「バカなことはやめろ!」
アシュペルジュがトリスタンを盾で強打した。
勢いで吹き飛ぶトリスタン。

「リーダー、あそこは魔法範囲外だ!トリスタンが置き去りになる!」
ミーリリの詠唱は、もう半分が完成していた。
「仕方ない、今詠唱を中断すると全滅する!」
「くそ、トリスタン!早くこっちに来い!!」
だが、トリスタンは倒れた体勢のまま動かず、テレポの詠唱は完成してしまった。


-----------------------------------------------------------------------------------------------


「後で聞いた話だが、トリスタンは一人部隊を離れて俺たちの所に向かっていたらしい。どんな目的だったのか知る由もないけどな・・・」
今でも手に残っている。
リザを貫いたあの感触・・・
「俺が知ってるのはここまでだ」

もう既にコンシュタットは明るくなり始めていた。

パーシヴァルはずっと黙ったまま話を聞いていた。
「ちょっと疲れたな。徹夜はきつい。一眠りしてくる」

眠れそうに無かったが、少しは休んでおく方が良いだろう。
何しろ、今日はあのパシュハウ沼へ入る予定なのだから。

「もしかすると、俺が寝てる間に仲間の一人が急に特別な用事を思い出して、居なくなってるかもしれないな」
「あの・・・」
パーシヴァルが何か言いかけたが、俺は続きを聞くことも無くテントに入り、眠りについた。



つづく

347(・ω・):2004/11/04(木) 11:08 ID:ARdFllYE
つづかなくていいので、他の作品待ちage

348(・ω・):2004/11/04(木) 15:04 ID:FRSMbygQ
>>347 【かえれ】

349(・ω・):2004/11/04(木) 22:21 ID:q9aad9hE
>>347
【ダボイ】【かえれ】

350(・ω・):2004/11/05(金) 01:15 ID:udQr5KoY
>>347
【347】【いりません】

351(・ω・):2004/11/06(土) 20:34 ID:U5eusq62
半年振りくらいにスレ読んだ
スクラッパー終わって新しいの始まってたのね
タイトルはそう読ませるのか、なかなか渋いなぁ

セイブァワワー、ヤグ萌え

群雄、ヤグ小竜萌え、でもだいぶたまってるからまだ読みきってない、疲れるし

352名無しの話の作者:2004/11/08(月) 01:30 ID:yTDAad1A
「名無しの話」の26 −思い・悩み 2−

町に入って、向かったのはパン屋さん。
まだ人通りの少ない通りをいくつか駆け抜けて、角をいくつか曲がり込む。
小さな看板が目印の、ちょっと古びた店構え。
「でもね、おいしいのー」
とタル黒推薦のお店。
まだ薄暗い夜明け前、それでも店は開いてた。
町は日が昇ると共に動き出すから、パン屋さんはもっと早くから開けるという。
「おはようございます」
店に入れば
「はい、いらっしゃい」
香ばしいパンの香りに包まれる。
ちゃんとタルタル用の踏み台が用意してあるカウンターの向こうには
壁いっぱいの棚。
棚いっぱいのパン。
そして、にこにこ笑顔のおばさん。
「くださいなー」
「なんにするね?」
小さなタルタルにもよく見えるように、少し横へよるおばさん。
踏み台の上で、精一杯に背伸びして、棚を見回すタル獣。
白パンに黒パン、バターパンに固パン。
わかりやすいように、棚に名前と値段が張ってあるけど、いっぱいありすぎてよくわからない。
「あのね、甘いのがいいのー」
「じゃあ、このへんかしらね」
おばさんが、棚から一つずつ取って、タル獣の前へ並べる。
ジャムパン、チョコパン、クリームパンは定番。
あんパン、蜂蜜パン、揚げパンは通好み。
「あとこれは、うちの特製」
ヒュームの拳より大きな丸いパンが、ふたつ。
「ほら」
おばさんがナイフで二つに割る。
「あー」
思わず声を上げるタル獣。
ひとつはリンゴ。
ひとつは梨。
パンの中に丸ごとはいってる。
「甘く煮てあるんだよ」
一口食べてみな、と差し出された小切りを口にして
「おいしいー」
再度声を上げるタル獣。
柔らかいけど、シャクシャク歯ごたえが残してある。
甘いけど、あっさりしてる。
「蜂蜜と砂糖の分量が秘訣でね」
少し自慢そうなおばさん。
「どれにする?」
聞かれて
「…」
少し考え
「ぜんぶー」
とタル獣。
「おやおや、そんなには食べられないだろう?」
あきれたようなおばさんへ
「ボクじゃないの。トラさんにあげるのー」
とタル獣。
「そうなの」
すこし納得するおばさん。
けど間違ってる。
獣使いだというのは服装で判っているけど、こんな小さなタルタルがトラを連れてるとは少しも思ってない。
しかも、あのトラを。
(トラって…変わった名前のヒュームだねぇ)
友達の名前だと思ってる。
まあ、当たり前のこと。
「あのね、これぜんぶ十個ずつちょうだい」
「え?」
「たくさんいるのー」
「ぜんぶ、その友達にあげるのかい?」
「うん」
「よく食べる友達だねぇ」
棚から取り出したパンを袋へ詰めながら
(…きっと大食らいのガルカだね…)
まだ間違ってる。

353名無しの話の作者:2004/11/08(月) 01:33 ID:yTDAad1A
「よいしょ、よいしょ」
自分と変わらないような大きさの袋。
いっぱいにパンの詰まったのを抱えてるタル獣。
前が見えてるような、見えてないような。
ほんとはもっと買いたかったけど、とても持てないからあきらめた。
「あとでよかったら、配達したげようか?」
見かねたおばさんが親切に言ってくれたけど、断った。
だって、トラさんのとこまではたのめないから。
(トラさん、よろこぶかなー)
町の外には、甘いものは少ない。
木の実は鳥が、草の実は獣が食べてしまうから。
美味しい実ほど競争率が高い。
たまにトラさんの頭に乗って木の実を取るけど、
小さなタルタルでも一口無いのを
「はんぶんこ」
トラにわけたら
「おまえが食べたらええわ。ワイは甘いのは…」
そう言って首を振った。
「トラさん、甘いのきらい?」
「あんまりなぁ」
その時は納得した。
けど、あの夏祭りの夜。
タル龍騎と一緒に、竜とトラにリンゴ飴をあげたとき。
山ほどのリンゴ飴を、竜は喜んで、しゃぐしゃぐほおばった。
トラもかじった。
タル獣をちらちらと見ながら。複雑な表情で。
タル獣はその時気づいた。
…トラさんも甘いの好きなんだ。
だから、買いに来た。
トラさんがおなかいっぱいになるように。

354名無しの話の作者:2004/11/08(月) 01:36 ID:yTDAad1A
来た道を戻り、もうすぐ門が見えそうな頃。
「けっこうです!」
と声。
「?」
振り返ると、早足に歩いてくるエルヴァーン白魔導師の女性。
「まてよ」
「いっしょにやろうぜ」
ヒュームが数人追いすがる。
「あなた達のように礼儀を知らない人とは組みません!」
エル白が立ち止まったのは、タル獣のすぐ脇。
「そういうなよ」
「儲けさせてやるから」
どうも、パーティーにムリヤリ誘ってるみたい。
「まかせとけって」
エル白の腕をつかんで強引に連れていこうとするヒュームたち。
「!、!」
ちょうどタル獣の頭の上でもめてるけど、どうもタル獣は目に入ってない。
というか、無視されてる。
「やめてください」
エル白がヒュム戦の手をふりほどいた弾みで
ゴン
膝がタル獣の頭に決まる。
「ふゃ」
転がるタル獣。
ばらばら
パンが散らばる。
「あ、ごめんなさい」
気づいたエル白が慌てて助け起こそうとするけど
「んなのほっとけよ」
ヒュームが再度腕をつかみ
「きゃ」
引っぱる。
「!」
それを見て
「仲良くしないといけないの!」
二人の間に立ちふさがるタル獣。
といっても、遙か下なので、ちょっと意味無いような気もするけど。
「なにぃ?」
と睨みおろすヒューム。
「なんだおまえ、邪魔するのか」
邪魔するなら踏みつぶすぞ、という勢いを、
「ちょ、ちょっとまて」
別なヒュームが止める。
「なんだよ?」
止められたヒュームは不満そう。
「えーっと、失礼ですけど…」
ずいぶんていねいな口調でしゃがむと、
「もしかして、”タル獣”さん?」
「うん」
元気にうなずくタル獣。
「あ、やっぱり?じゃないかなーって思ったんですよ。はははは」
スルスルスル〜っとあとずさるヒューム。
「なんだよ、おい」
タル獣を睨みつけてたヒュームは仲間の行為の意味がわからない。
タル獣と話したヒュームが
「ちょっと耳かせ」
「……」
仲間の耳へぼそぼそごにょごにょと囁く。
とたん。
「!」
驚きと恐怖の混ざった目でタル獣を見下ろすヒュームたち。
「こいつが?」
聞かれてうなずくヒューム。
「ほんとに?」
再度うなずくヒューム。
「トラの?」
もいちどうなずくヒューム。
「…き、今日はこれぐらいにしといてやらあ」
「次は気をつけろよ」
「どうも失礼しましたぁ〜」
よくわからないセリフと共に、クルリ背を向け、
スタスタスタスタスタ
不自然な早足で去っていく。

355名無しの話の作者:2004/11/08(月) 01:45 ID:yTDAad1A
ヒュームたちの後ろ姿を呆然と見送り
「…」
タル獣へと視線を向けるエル白。
「よかったねー」
と笑顔をエル白へ向けてから、
「!」
慌ててパンを拾い始めるタル獣。
「あ、手伝います」
しゃがむエル白。
転がったパンの土をていねいにはらって、袋へと戻す。
全部拾い終わってから
「ありがとうございました」
あらためて頭を下げるエル白。
「私は昨日この町へ着いたんです。今日は一日待ちを見て歩こうと思ってたのに、あの人たちに誘われて」
エル白の長い手が、あっという間にパンを拾い集める。
「しつこくて困ってたんです。おかげで助かりました」
「いいの。みんな仲良くしないといけないの」
と少し照れてるタル獣。
「もしかして、タル獣さんて、強いんですか?」
「?」
「あ、さっきの人たち、名前を聞いて逃げていったので…。ごめんなさい、なんだか失礼な質問ですね」
「…ぼくね、まだあんまり強くないの。でも、トラさん強いの」
「トラさんですか?」
「うん。ぼくの家族なの。とーっても強いの」
トラの強さをあらわそうとして、大きく両手を広げるタル獣。
「本当に強そうな名前ですね」
すこし、勘違いがある。
「うんっ」
にぱっと満面の笑みを浮かべるタル獣。
「あの…失礼ついでなんですけど…」
「?」
「私もご一緒させてもらってもいいですか?」
それは、タル獣にとって驚きの申し出。

−つづく−

356名無しの話の作者:2004/11/08(月) 01:52 ID:yTDAad1A
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
また続いちゃいました。
というか、も少し続きます。

あと >全部拾い終わってから< ここ余分です(T_T)
ごめんなさい。

357(・ω・):2004/11/08(月) 02:06 ID:PCZEnDYw
(*´Д`*)

358(・ω・):2004/11/08(月) 02:13 ID:uG7Em9k.
(*´д`*)萌え

359(・ω・):2004/11/08(月) 15:11 ID:BV/MdFsU
このスットコドッコイなヒュム達は、ホワイトデーの時の人達だろうか(*´∀`)

360(・ω・):2004/11/09(火) 09:48 ID:wPbDF1U2
名無しの話の作者 の人は書き終わるたびになんで毎回謝ってるの?

361(・ω・):2004/11/09(火) 10:18 ID:ieuQ5XSk
遅レスだが、デザイナーズハイ面白かった!
他のもなかなか面白かったけど、合成してる自分としてはここ数ヶ月はこれが一番
面白かったなぁ。
名無しさんのも相変わらずいい雰囲気。
すでに自分のヴァナ空間作ってるね。
作者様達、面白い話いつもありがとー。

362(・ω・):2004/11/09(火) 10:34 ID:Hdrq6g4Y
>>360
その部分も作者の色だと思って楽しみましょ〜

363(・ω・):2004/11/09(火) 20:29 ID:d0x/n4OM
名無しの話さんキテル━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!

364デザイナーズハイを書いた者です。:2004/11/09(火) 23:33 ID:QaefMUkY
>>361さん
実は合成まったくやってないのに予想で書いてしまいまして、
しかもゲームシステムも色々無視もしていまして、
こういうの余り好きじゃないヒト多いんじゃないのか〜と心配していたのですが、
気に入っていただけた様でとても嬉しいです!
次の作品を書く余力を頂きました。ありがとうございました。

365(・ω・):2004/11/10(水) 15:19 ID:SuwC5POY
―フィー、この世界はね…

何時もこの台詞から始まる母さんの話を
僕は毎夜、子守唄にして此処まで育ってきた。
だからだろうか、人一倍、<世界>への興味があった。
―子供は危ないから
―冒険者でも危ない時があるんだから
お約束な言葉を受けながら世界への憧れを募らせていたある日
僕は魔法図書館で一つの本に出会う事になる。

『グィンハム・アイアンハートの軌跡』

寝る間も惜しみ貪り読んだ。
思えばあの本が僕の人生の重要な分れ道の一つだったのだろう

―あれから10年、今、僕は南グスタベルグの大地に立っている。

***
ついに書いてしまった…。
始めて書くので読むに堪えないかもしれませんが
しばらく書かせていただきます。 (´・ω・`)ヨロシク
フィー:タル/ウィンダス生まれ&所属/19歳

366(・ω・):2004/11/11(木) 03:24 ID:hx9XJ12w
うおお!面白そうな始まりですね!
期待して待っております。

367題名が思いつかないって愚痴。:2004/11/11(木) 14:22 ID:mgOkgTx2
"私は、40年以上船乗りとして生きてきたが、
未だ、この世界をおぼろげにしか理解していない。
町や村で生活している者は、なおさらだろう。
自分の身の周りのことだけに興味を持ち、
生きていくのは、多くの場合、安全だし幸福だ。
好奇心の強い者は、危険に陥りやすいからだ。
しかし、私は遭難の末に偶然拾った残りの人生を、
この費えぬ好奇心に使おうと思いたった。
大それたことだが、このヴァナ・ディール世界の
形を、知りたくなったのだ。
私はその記念すべき第一歩の足跡を、愛する故郷
バストゥークを一望できる丘に残すことにした。
いつの日か、多くの人々に役立つ筈、との使命感と
ゆるぎなき決意を胸に秘めつつ、ここに記す。

天晶748年 グィンハム・アイアンハート"

―ここがアイアンハートの旅立ちの地…。
石碑を前にして僕は息を飲んだ。
「此処から…此処から<世界>を見て周るんだよ、トット」
突然話しかけられ彼は少し驚きつつ僕を見上げ首を傾げた。
「ははっ、トットには解らないか」
僕がそう言って笑うと彼は少し怒った様に身体を揺らす。

そう、トットは人ではない、ヒュームでないという意味ですらない。
彼はクロウラーなのだ。
言い忘れていたけど僕の職業は獣使い。
9年前、サルタバルタで見つけた白くて綺麗な宝石の様な塊。
それがクロウラーの繭だったなんて思いもしなかったケド、
どうやら僕には獣使いの素質があったようで、すぐに僕らは親友になった。
そして今に至る。

「…じゃあ、行こっか。まずはコンシュタット平地かな…」

トットの柔らかい背中で揺られつつ僕は<世界>への一歩を踏み出した。

368(・ω・):2004/11/11(木) 22:12 ID:XpMhbd.c
おおおお新作キテターーーーー(゚∀゚)ーーーー

まだ始まったばかりなのでどういうストーりーなのかわからないけど
タイトルは「アイアンハートの足跡」なんてどうだろうか?

369(・ω・):2004/11/13(土) 01:10 ID:tGeE62wo
眠れる森


確立された木々が覆う。

大勢の人数が歩く音は、まるで波の様だ。
森に響く漣の音は、まるで濁った血脈の鼓動。
私は奇跡を願った。
奇跡など信じない。
私にあるのは・・・・ただひとつのしんじつ。
力とイコールで結ばれた物だ。

私は死など恐れてはいない。


−朽ち果て−


「全隊前進!号令で列幅をそろえろ!」

 「第一小隊!前へ進め!」
「第二小隊、前へ進め。」

    「剣を抜け!抜刀だ!」
おおぉぉぉぉぉぉ!!!

まだ朝日が昇らない程の時刻。
霧が全てを覆う森。
そう確立した世界に、私は存在していた。
ジャグナーの森に深くかかった霧を切りながら、私たちは勇敢にも進んでゆく。

鉱脈探査と称し、各地の調査を行う我が国の黄金銃士隊と、
オーク討伐の帰路についていたサンドリア王国の王立騎士団が、
深い闇の覆う森の中で出会ってしまった。
そして、互いの存在に驚き、戦闘が始まってしまったのだ。
王立騎士団が、ダボイ遠征で戦力を浪費していたために、
戦力的には圧倒的に不利だった黄金銃士隊も、なんとか耐えることが出来たようだ。
皮肉なことに、それがお互いの援軍要請の時間稼ぎになってしまった。
ミスリル銃士であり、職務上、獣人との戦闘経験が豊富な私は、上層部の命令を受け、
共和国軍を率いて戦場へと向かった。
平和協定が結ばれても、この様な小競り合いは幾度となく続いていた。
小競り合いでも人は死ぬ。嫌なものだ。

370(・ω・):2004/11/13(土) 01:11 ID:tGeE62wo
「隊長殿、全隊戦闘態勢をとりつつ前進しております。
 ・・・しかし、3個十人隊で、サンドリアの軍勢に勝てるのでしょうか。」
私の副官を務めるシャドウウォーカーが言った。
共和国軍は、民間人から兵役、徴集に寄って作られた軍であり、それこそ職業軍人は居ない。
しかし、共和国軍には兵期を肩代わりする制度がある。
金持ちのヒュームは、ガルカに金を払い、兵役を肩代わりさせることがある。
まさにシャドウウォーカーのことだ。
シャドウウォーカーは、ある意味では職業軍人といえるだろう。
彼は、戦地で叩き上げられた百人隊長だった。
本来は、私の代わりに指揮を取れたのだろうが、ガルカが隊長として作戦の指揮を取ることはない。
ヒュームは、兵士としてのガルカに軍事を乗っ取られることを恐れているのだ。
だから、戦闘に慣れたミスリル銃士である私が、今回指揮をまかされたのだろう。
「勝つか負けるか。それは問題じゃないな。死ななきゃいいんだ。」
私はウィンクを返して答えたが、彼の目は私を通り越して、闇がまだ広がる森の奥を見ていた。
「・・・・くる・・・。」
シャドウウォーカーの、その呟きを聞き、私は命令を発する。
「全隊止まれぇ!戦闘態勢!!」
 
 「第一小隊止まれ!戦闘態勢だ!!」
   「第二小隊、戦闘態勢!」

「第三小隊は後方展開、魔法詠唱を開始しろ!」

陣を取り、シンとした森。
私とシャドウウォーカーが先頭に立っていた。
10秒ほどしてからだろうか。
ザッザ、と、いう音が聞こえた。

ザッザ ザッザ

徐々に大きくなるその音は、軍隊の行進とは違う音だ。
「チョコボ・・・・。」
シャドウウォーカーが呟いた瞬間、霧の置くから十数体のチョコボ騎兵が姿を現した。
鉄同士が摩擦する音を鳴らして各々が剣を抜き身にし、私の横を通り抜けていく。

おおおぉぉぉぉぉぉぉ!

371(・ω・):2004/11/13(土) 01:13 ID:tGeE62wo
戦闘開始。
馬上の騎士が、剣を降り下げて次々と我が軍の兵たちを切り刻んでゆく。
血が舞う戦場が舞台を始めた。
開演の時を逃がした私は剣を抜き、その薄汚い舞台へと舞い上がった。
ザッザ・・・森の奥からチョコボの足音が聞こえた。
第二波がやってきたのだ。
3体の騎兵が剣を抜き、私に切りかかってきた。
剣で受け、そのまま刃を滑らせる。
そのまま後に回転し、チョコボの足を切り崩した。
チョコボから投げ出された騎士の頭へと、剣を突き刺す。
兜と頭蓋骨を貫き、剣が地面へと刺さった。
「騎士様もこの程度か!!」
叫びながら剣を抜くと、死者の頭から血が吹き出した。
残りの2体が私を囲んだ。私を挟み、対立した騎士がぐるぐると回る。
汗が額を伝った。
剣を握る手にも汗がにじむ。
滑らないように、何度か握りなおしてみる。
しっくりと感じた瞬間、私は横転しながら剣を投げはなった。
剣は空に直線を描き、片方の騎士の鎧を貫通し、心臓へと刺さった。
武器を失った私に、もう一人の騎士が襲い掛かる。
馬上からの一撃が私を襲おうとした。
しかし。

パン

間抜けな音が周囲に響いた。
私が、腰に備えていた銃を抜き、騎士の頭を狙撃した音だ。
崩れ落ちる騎士を無視して走り去るチョコボ。
私は、落ちていたサンドリアの剣を拾い、粉塵の舞う戦場へと足を向けた。

372(・ω・):2004/11/13(土) 01:14 ID:tGeE62wo
「一」
パン。狙撃。引き金を引いた。
「二」
パン。響くたびに騎士が命を散らした。
我が軍が優勢を保ち、騎兵の数が徐々に減り始めた頃だった。
急に、騎士たちが踵を返し、霧の中に消えて行く。
逃げたのか?そう思った私の頭に、もうひとつの考えが浮かんだ。
「・・・やばい。全隊防御!体のでかいガルカを盾にしろ!!」
私の指示と同時に、ヒュンヒュンという、弦がはじかれる音がし、数秒後に矢の雨が降り注いだ。

   うああああ!
ぐあああ!
  ぎゃああ!

 あああ!

四方で叫び声が上がっていた。
倒れたのは殆どがガルカで、彼らはヒュームを矢の雨から守っていた。
それは、できるだけ兵の数を確保するための犠牲・・・しかたのないことなのだ。
「全隊再展開だ!陣を取れ!」
しかし、矢の雨によって命令系統がいかれてしまった。
混乱が兵を襲っている。
そして、第三波。
騎兵30人が、体勢の整っていない私たちを襲った。
血しぶきと怒声。勝どき。悲鳴。
さまざまな感情が、この場に存在した。

立ち尽くす私の元に、矢を背に受けたシャドウウォーカーがやってきた。
「隊長殿、撤退の命令を・・・・全滅は恥ですよ。」
右手に剣、左手に銃を持つ私は、戦場のど真ん中で立ち尽くしていた。
「私は・・・・。」
口元には引きつった笑いが存在した。
「死など恐れていない・・・・。あとは好きにしろ。私は戦う。」
歩き出す私を見て、シャドウウォーカーは何を思ったのだろうか。
どう感じたのだろうか。
死を恐れない者などいないよ。

「全隊撤退!牽制しつつ後退だ!」

シャドウウォーカーの声が響いた。
土煙の上がる戦場のなか、血と、汗と、死のにおいを嗅ぎながら私は戦った。

気づいたとき、すでに軍は撤退し、チョコボから降りた10人の騎士が私を円状に囲んでいた。
全員が、私からの距離を均等に保っていた。
「投降しろ。」
騎士の、凛とした声が響いた。
私はそれを合図に回転した。
銃を乱射する。
騎士は致命傷を避けるために盾に隠れている。
ギィン、ギィンと、金属の衝突音が響いた。
「ぐぁ!」
 「ぎゃ!」
足を打たれた騎士が、何人か膝を突いた。
カチカチ・・・・しばらくすると、引き金を引くたびに乾いた音がした。
弾切れ。
回転の遠心力を使い、私は銃を放り投げた。
弾幕によって崩れた体勢の隙を突き、剣を構え、一人の騎士へと立ち向かう。
そして、騎士の剣筋を避け、首の鎧の隙間を狙った一撃を入れようとした時・・・・。
私の背中に激痛が響いた。
意識が遠のき、地面が目の前まで近づいてきた・・・・。
妻と娘の顔が脳裏に浮かぶ。

私は死など恐れてはいない・・・・。


朽ち果て

373(・ω・):2004/11/13(土) 01:17 ID:tGeE62wo
ネガティブマーチを書いてた頃に、息抜きに書いたものですが、
なんとなく投稿させていただきます。
お目汚しにならなければ幸いです。
このあと5話まで書いてあったのですが、
続きが気に入らないので一話完結ということで・・・。

374(・ω・):2004/11/14(日) 14:14 ID:neKqLFXE
何となくラストサムライの1シーン思い出してしまいましたよ(*´∀`)

375眠れる森:2004/11/14(日) 18:20 ID:z6CWqWho
>>373さん
分かりますか!その通りです。
トムクルーズが侍と戦って捕らえられたシーンをイメージして書きました。
伝わってよかった・・・。

376374:2004/11/15(月) 08:25 ID:bbC9N/AU
ああ、やはりか(*´Д`)
命令出して陣を敷く時とその後の静寂で少しイメージかぶって

>シャドウウォーカーが呟いた瞬間、霧の置くから十数体のチョコボ騎兵が姿を現した。
>鉄同士が摩擦する音を鳴らして各々が剣を抜き身にし、私の横を通り抜けていく。
もうこの瞬間で完全に脳内であのシーンの再生始まりますた
グッジョブ(´∀`)b

377眠れる森:2004/11/15(月) 22:30 ID:ir9wK5Mk
ああ!>>374さんでしたか!ごめんなさいor2

378<風の呼び声>:2004/11/16(火) 20:28 ID:a.2ldjLg
<風の呼び声>


俺はチラッと俯いて吐息をついた。
シュマルルの眼鏡がきらっと光を反射していた。
「大丈夫か?マシュルル」
俺の声にマシュルルは首を上げ見あげた。
「大丈夫だ。サク、行くぞ」
大丈夫っつわれても、息が上がってるんだけどねぇ。
突っ込みたい気持ちを押さえて、歩を進める。
さすがに、後悔したい気持ちになっていた。
召喚獣について調べたいと言う冒険者ギルドからの依頼は、一日ニ万ギル+必要経費という破格なものだった。
うまい話には裏がある。それは承知していたが、先日新しい忍者刀を手に入れ懐が寂しかった。
つい、契約をむすんでしまったのが、今回の過ちだった。
契約相手は、タルタル族の研究者。
長いローブを頭から膝までかぶって顔すらも上からでは見えない。
ただ、肩で息をし、もう歩くのもやっとだと言う事は十分見て取れた。
「少し休まないか?俺が疲れた」
しかたなく、俺は呟く。
俺はあと丸一日は歩きどうしで行けそうな体力具合だが、研究者様の体力はすでにレッドゾーンだ。
テリガンの熱い砂に顔面ダイブで火傷したくなければ、座った方がいい。
「…そうだな」
マシュルルは呟いた。
「こっちだよ。岩の間がゴブリン族に見つかりにくい。先にはパーティがコカ肉狩りしてるからゆっくり休める」
はぁ、はぁと息遣いが聞こえる。
意地っ張りというよりは、自分を知らない馬鹿としか俺にはいえない。
依頼人でイイと思える奴に会える方が少ないが…
旅護衛系は気遣いも主な仕事の一つだ。
マシュルルは倒れこむように座りうずくまった。
「たく、あちぃなぁ」
俺は座って水筒と取り出した。
「ん、飲めよ」
「いい。サクはほとんど飲んでないだろう。サクから先に飲め」
かすれた声に俺は肩をすくめ、水をあおるふりをした。
この馬鹿タルは今にも脱水症状で死にそうな顔をしているってのに、…自分の心配しろってんだ。
こちとら、冒険者。過酷な旅にはなれっこで、自分の体の限界も知っている。
まだまだ余力たっぷりだ。
水筒を、マシュルルに回す。
指先が震えているのを俺はしっかり見て取っていた。
相当まいっている様子にまずいなとおもう。
研究者様は野宿なんかした事も無いだろう。
2日前にラバオを出て、昨日クフタルで夜を明かしたがほとんど眠れなかたようだし、食事も咽喉を通っていない。
体力負けは確実だった。

379<風の呼び声>:2004/11/16(火) 20:32 ID:a.2ldjLg
水を少し飲んで、水筒を返す。
「もっと飲め」
俺の言葉にマシュルルは首をふるふるっと横に振った。
「大丈夫だ。水が大切な事くらいわかってる」
「馬鹿」
そう言って、俺は荷物の中からサルタオレンジを取り出し水クリで調理した。
「材料はもってきている。遠慮なくしっかり浴びるように飲め」
「えらそうに言うな!どっちが依頼主だと思っている」
「このテリガンでえらいのは依頼主様じゃなくて、俺様だ。
お前はここのことは知らない。
俺は知っている、従うのはどっちかその賢い頭で考えるんだな」
そういって、オレンジジュースをマシュルルの膝にほおり投げた。
生憎、冷えたオレンジジュースは調達できなくて申し訳ないが、
モノが食えないのならジュースでエネルギー補給しか方法は無い。
が、マシュルルは俯いたまま動かない。
仕方なくマシュルルの膝のジュースを取り上げ口を切って、顎をとり無理やり飲ませる。
「ん、く、んく、んくっ」
息つぎを注意させながら飲ませ終わると、マシュルルは俺の手を思い切り叩いた。
「乱暴者っ!これだからバス人はっ!!」
口の端からこぼれたジュースを袖で拭き、マシュルルは叫んだ。
まぁ、こんだけの空元気でも元気がありゃ、あと一日は何とかなるかな。
身体に水分が馴染むまでのわずかな時間、休んで立ち上がった。
「さて、行こう」
「ん」
熱砂を払って、立ち上がる。
マシュルルは俺にスニークとインビジをかけ、自分にもかけて歩き出す。
「魔法は、はじめだけでいい。あとは薬品を使う」
俺は繰り返し行った言葉を再度繰り返した。
マシュルルは無言だ。
マシュルルの気配を感じながら、召喚獣が眠るという巨大クリスタルを捜す。
熱い…まだ昼の14時だ。
もうしばらくは灼熱地獄が続くだろう。

380(・ω・):2004/11/16(火) 20:36 ID:a.2ldjLg
順調に地図を見ながらすすんでいた。
不意に、足音がした。
「ちっ」
マシュルルのスニークが切れたのだ。
魔法をかけかえ、が…見事に失敗し、ゴブリン族に気がつかれた。
「ぁ…っ」
マシュルルのまずいっというような小さな悲鳴。
俺は反射的にマシュルルの前にたった。
「かの者に自由を許さず、その足に束縛の鎖を。グラビデ。
 虚空なる我が分身よ。我を守れ。空蝉の術
 マシュルル、すみでインスニ入れてろ。いいか?ケアルなんざ打つなよ。
 ゴブリンに気取られず、とらずにおとなしくやり過ごせっ」
忍者刀を構え、一閃する。
マシュルルは震えながらも唇を噛み締め、小さく呟いた。
「…その炎の術より我らに守護と恵みを、バファイラ!」
「タゲられるなっつってるだろう。ぼけっ。
俺の言う事を聞かなきゃ、お前を守りきれねぇんだよ!!」
俺は荒っぽく叫んだ。
赤魔法を使う忍者は異端だ。だが…最強だと俺は自負している。
どちらの修行も怠った事は無い。
回復魔法は自分で使えるし、空蝉で身を守ることもできる。
刀をすいっと滑らせた瞬間振り返ると、
インビジをかけてないマシュルルが蒼白な顔色で俺を凝視しているのが見えた。
ゴブリンの短剣が俺のわき腹を滑った瞬間、
マシュルルの口から「っ」と小さく息を飲む声。
はじめて命のやり取りが目の前で行なわれていたら…
そして、自分の盾となるべき者が万一死んだら…マシュルルの命もない。
強いものが勝ち弱いものが死す。
自然の摂理だが…マシュルルにその覚悟があってここまで来たのかどうか微妙な所だった。
よせた眉と、恐怖に怯える表情が…固まって動けない体が…
冒険者との決定的な覚悟の違いを見せていた。

381(・ω・):2004/11/16(火) 20:39 ID:a.2ldjLg
「大丈夫、だ」
俺はわざと振り返って、余裕の笑みを見せる。
「落ち着けや、マシュルル。すぐ終わらせてやっから」
その瞬間、腕を短剣でかすられ、俺の血がはじけとんだ。
「っ!!!」
マシュルルは歯を喰い縛り震える声でケアルを詠唱する。
だーかーら。
目立つなっていったろうがっ!
ゴブリンは俺より回復役のマシュルルをやっつけた方がいいとおもったらしい。
ゴブリンの視線がマシュルルに向かう。
気の弱い研究者様を怯えさせんじゃねぇって、このゴブリンがっ!
背後の袋から忍術の媒介を取り出し、投げる。
捕縄の術、暗闇の術、呪縛の術…あとは怒りを込めて、刀を一閃する。
「天!」
ザクリ。生き物の繊維が断ち切られる手ごたえを感じた。
息をついて振り返ると、涙を大きな蒼い瞳から滲ませるマシュルルが小さく唇を開いて、息を詰まらせていた。
あーあ。やっちまった。
マシュルルの白い頬についた血飛沫は、俺の血か、ゴブリン族の血か。
…怖かっただろうなぁ。
「落ち着けって、大丈夫だから。ゆっくり深呼吸だ。息を詰まらすな」
肩を揺すってやり、グイっとマシュルルの頬の血を拭ってやる。
「ぁ…」
熱いのに冷や汗びっしょりかいて、まぁ。かわいそうに。
体温が高めなのはタルタル族ゆえか、熱射病か。
肉弾戦とは程遠いタルタル族が、目前かぶりつきライブの殺し合いはさすがにきつすぎたか。
俯いて震えているマシュルルに困ったなぁと眉を寄せる。
「ん?どした。ほら、水飲むか?」
「気持ち…悪」
脱水症状+極度の緊張+貧血+αってとこか?
だが、こんな敵のいる所にぐずぐずしてもいられない。
あえぐように俯いて肩で息をするマシュルルに俺は目を閉じた。
「マシュルル。噛むなよ」
そっと言って、マシュルルの首の後ろを掴んで逃げられないようにし、
あえぐ小さな口に指を突っ込んでやった。
「あ…けほっ、…か、は」
あーあ。飲ませた水分吐かせちまった。もったいねェ。
とは思うが、吐けない方が辛い。吐いちまえば楽になる。
指はチョイ湿らせた布でぬぐって、マシュルルは軽くうがいさせた。
「大丈夫か?」
こくん。マシュルルは気丈に頷き、蒼白の顔色で顔をあげた。
ちいちゃな丸眼鏡が太陽の光を反射している。
意地っ張りもここまでくれば、いっそ見事だ。
俺はちっと苦笑した。

382(・ω・):2004/11/16(火) 20:43 ID:a.2ldjLg
この旅はマシュルルの希望もあり日程ギリで行なっている。
きついのは俺より体力の無いタルタル族のマシュルルだ。
「行こう…神獣を捜そう…」
よろっと立ち上がり、マシュルルは歯を食いしばって足を踏み出そうとする。
が、三歩で顎が上がっている。
焼けつく太陽と熱い砂に焼かれ、膝が砕ける。
「意地っ張りもいいが…自分の体力は見定めた方がいいかもな」
俺はひざまずくマシュルルに苦笑し、背中を見せた。
おぶされ。の無言の姿勢。
「……だい、じょうぶだ」
「そう見えないから言ってるんだ。
また戦いになったとき、逃げられるか?走れるか?
足手まといにならないために、今は背負われとけよ。
お前のプライドより大事なものがあるだろう?」
「…プライドより大事なもの?」
「お前の命と、俺の命だ」
にっと笑ってやる。
マシュルルは吐息をついて、ぐったりと俺の背に倒れこむように寄りかかった。
ふあん。と暖かいものが二つ背にあたる。
ふあん?
―え?ええぇ???!!
ふ、ふあ??って柔らかいものが俺の背中に当たったってことは…
シュマルルは……女のコ?!!なのか?
どわああああああ。
冷や汗、ダクダク。ちょっと待て!!な感じだ。
俺はタルタル族の女のコに無理やりヒュム青年男子コースの強行軍の旅に連れ出してしまったってのか?
この炎天下の中…女のコだと知っていればもうちょっと日数をかけてゆるい旅にした。
長いローブとフードに髪まで隠されていて、わからなかった。
声もチョイ高いかなとは思ったが、タルタル族の声は男も女も違いがわからない。
「…すまない」
マシュルルの殊勝な言葉に俺は目を閉じた。
深呼吸して数を数えて…1・2・3。ほんとにこれで冷静になれるのか?
とりあえず、いつもの俺らしく軽口たたかねぇとな。
「軽すぎだ。この程度、楽勝」
立ち上がり歩く。本当に、背負っても小さな荷物程度の重さしかない。
これで俺と同じように歩けって方が無理だ。
水分も体力もストックは俺の半分も無いんじゃないのか?
まして冒険者でもない研究者様。俺は別の意味でくらくらした。

383(・ω・):2004/11/16(火) 20:47 ID:a.2ldjLg
つか。俺、女…のコ…苦手なんだよな。
キャンキャン吼えて、暴力は当然ふるえないし、言い合いでもしたら最悪。
俺の負けは決定。
男尊女卑といわれようとも、女のコが剣を握って前線に出るのも俺は怖い。
女に守られたくないとかじゃなく、ただ、女は安全な所にいて欲しい。
安らぎであって欲しいし、戦いなんか見るべきじゃない。
たとえモンスターであっても殺しあって欲しくない。
女性エルヴァーン冒険者にこれ言ったらおもっきりぶん殴られたけど。
って、うぁ、胸柔らかくて…意識しちまう。
苦しげにあえぐ息…苦しげ?
俺の頭は冷水ブッかけたみたいに冷えた。
そう、マシュルルは女のコで、俺が無茶させて、こんな脱水症状+熱射病+貧血+αな状態にしちまったのだ。
遁甲の術で身を消して、速歩。
ラプトルさえ気をつければ、スライムオイルはいらない。
まだ太陽はじりじり焼け付くようだ。
休める所を、探してやらないと。脱水は命に関わる。
熱も熱射病で出ているのかもしれない。冷してやらないと。
幸い氷系の術は得意だ。
こんな所で氷を出せるのは忍者と黒魔道士くらいだろう。
ゴブリンの徘徊する洞窟を抜け、マンティコア族コカトリス族のいる砂漠を徘徊する。
休める所を。早く見つけないと。
ちいちゃな手が震えてる。苦しいのだろう。
「大丈夫だ。すぐ休ませてやる」
俺の言葉の返事のかわりに、きゅ…と服を握り締める指が痛々しくて。
「ごめん…サク」
「謝るな。依頼主だろ。この程度は計算のうちだ」
俺は周囲が聴覚の弱いモンスターなのをいいことに、話し掛けた。
「あっち…洞窟がありそうだ。少し休もう」
「神獣…カラハバルハ様の御意志…」
「え?」
「6の…院の………、力」
うなされているのだろうか。まずいな。ほぞをかんで足を速めた。

384(・ω・):2004/11/16(火) 20:50 ID:a.2ldjLg
幸い洞窟の奥はひんやりとしていて、敵がいない。
洞窟の角を曲がり…足がとまった。
巨大な、緑に発光するクリスタル。
「あぁ…見つけたぜ。マシュルル。お前の欲しがってるもん」
そっとマシュルルを、砂地に横たえローブを脱がせる。
さらりとピュアゴールドの髪が、砂地にこぼれた。
小さい手足。薄着になればわかる、やわらかな胸。
この髪を見れば、一瞬で女のコとわかったのに。
ふと、自分の武骨な大きいひび割れた指を見た。
こんなキレイな子に触れる資格も無い指かもしれない。
モンスターを殺し、仲間と戦って…仲間の屍を乗りこてきた、指。
目の前で起こった戦闘にショックを起こしてしまうような魔法国家の研究者さまとは、立場が違う。
そう考えて、俺は慌てた。
惚れた?惚れたのか?俺は。
この無力そうなタルタルの女のコに。
たった2日しか一緒にいなくて、男のような言葉を使って、
意地を張って、俺を頼ろうとしないこの女のコに…
彼女に与えられたケアルの暖かさが体の芯に残っているような気がした。
不器用だとは思っていたけど、まさか自分がタルタル族の女のコが気にいるなんて
…ちょっと、どころじゃなく、衝撃的だった。
「嘘だろ…マジかよ……」
頼むからちょっと待ってくれ、俺…。
冷静になれ。
落ち着こうと視線を泳がせると、マシュルルの寝顔が目に入った。
小さな唇があえいでいる。
ぷつ…。どこかが途切れた。
もうしらね。俺の思考は、完全停止した。
俺はゴブリンから受けた自分のかすり傷を手当てする事にした。
なんかしていないと、思考がやばいほうに突っ走りそうだった。

385(・ω・):2004/11/16(火) 20:54 ID:a.2ldjLg


「…ン」
マシュルルはゆっくりと目覚め綺麗な空の蒼の瞳を開いた。
「あ…」
視線は緑のクリスタルに吸い込まれるように注がれている。
俺なんかみていないマシュルルに俺の頭はちょっと冷えた。
「見つけたよ。これだろ?」
緑の輝きながら、光の粉をこぼしているクリスタル。
マシュルルは起き上がり、ひかれるようにクリスタルに額をつけ、頬をよせた。
小さな身体で抱きしめる。
「冷たいのに、あったかい…」
「きいていいかな?マシュルル」
俺は脇の岩に腰を下ろし、マシュルルとクリスタルを見ながら言った。
「なに?」
マシュルルは緑の光を背にふり返る。
あぁ、きれいだ…とおもったら、負けなんだろうな。多分。
「何で男のふりをしてた?」
「………」
「女のコだってわかっていれば、それなりの準備と計画を立てた。契約違反だ」
「勘違い、されてるって思って…。ごめんなさい」
「答えになっていない」
「…旅は危険だから。特に、女性一人じゃ…」
「女の護衛を選ばなかった理由は?」
「私を連れて行ってくれる人が、いなくて…。皆に無理だって断られて。
はじめからサクをだますつもりじゃなかったけど…誤解していてくれたから…」
「馬鹿で悪かったな」
「…ごめんなさい」
まぁ、マシュルルは正しい。
俺のような善良な(?)冒険者ばかりじゃない。
モンスターと戦い護衛者を守りながらの二人旅で相手が若い女の子とあらば、
馬鹿な気起こす奴だって確かにいるさ。
俺もマシュルルにはそういう奴らと同類だって思われてたわけだ。
笑えねぇな。くそ。
「もう一つ。これを見つけて、どうするつもりだった?」
俺の言葉にマシュルルはピクンと固まった。
「言わなきゃ、ダメですか?」
「言わなくてもいいが、聴きたい」
マシュルルはしばらく悩んで、決意した瞳で俺を見た。
「私は…鼻の院研究者です。でも…本当は6の院の研究をしたいと望んでいます」
「6の…院?」
「今はもう失われた力。ヴァナディールの神獣との契約。神獣の力は絶大です。
契約を結ぶには…彼らに逢い、彼らと対話しそして自らの力を見せなくてはなりません。
その上で神獣に認めてもらえれば、彼らは心を許し傍らに立つ人の友ともなりうると
…カラハバルハ様は…でも、6の院は星の巫女様に…」

386(・ω・):2004/11/16(火) 20:56 ID:a.2ldjLg
「いいのか?ウィンダスの秘密を俺みたいな一介の冒険者に語っちまって」
「本当は、いけないのだと思います」
「じゃぁ、何故?」
「神獣のもとにたどり着く力がある方に、知っていてほしい。
サクはいい人、だから。神獣の存在を知っていて欲しかった。
知識は実行を伴って、より大きな力をうみます」
あぁ。俺ってピエロ。いい人…っていわれても、嬉しくねぇなぁ。
「逢うかい、神獣に。勝てる自信はねぇが」
気軽に俺は言った。
「逢えるのですかっ?!」
マシュルルの声に俺は肩をすくめた。
「ラバオの研究者に頼まれて、俺は風の息吹をもらっている。
このクリスタルから神獣にあう回廊が開く息吹だと聴いている」
マシュルルがたっと走ってきて、俺の膝に手を乗せ、きゅうっと服を掴む。
真摯でまっすぐな蒼い瞳は、『逢いたい』と言葉より雄弁に語っていた。
惚れた弱みだ。仕方ねぇ、か。
「今夜はよく寝て、明日な」
水を渡し、にっと笑う。
マシュルルは嬉しそうに笑い大きく頷いた。
瞳があざやかなブルーに輝く。
それだけで、いいやと思えた俺は、馬鹿だ。

387(・ω・):2004/11/16(火) 21:00 ID:a.2ldjLg



「行くぞ」
俺が風の息吹を、かざす。
マシュルルと共に地が揺れ足元が崩れ闇に落ちながらたどり着いた回廊。
「我が眠りを妨げるものは誰だ…」
腹の底に響く声。
「ガルーダ…」
マシュルルの声に俺は頷き、マシュルルの前にひざまずく。
「いいか、俺が戦うから、お前はここで見ていろ。
ヤバイとおもったらここから逃げるんだ。いいな」
「サクは?」
マシュルルの声に俺は笑う。
「俺の事は考えるな。ここを出て、デジョンで帰還だ。いいな」
「サク、それじゃ答えになっていない!」
マシュルルは俺の目をまっすぐに見て言う。
「空蝉と忍術使えばいい所まで行くとおもうぜ。
幸い赤魔法も使えるしな。最悪…微塵を使っても足止めはしてやる」
勝てるかわからないけど。惚れた女は守ってやるさ。命がけでも。な。
「微塵…て」
マシュルルは絶句する。それは、死を意味する技だからだ。
「気にするな。最悪だ、最悪…」
マシュルルは俺の服を掴んだまま俯いた。
「かえろう」
「おい、目の前にマシュルルの研究対象がいるってのに…
こんな機会二度とないかもしれないんだぞ。
ぶっ倒れるまでがんばって、やっとここにたどりついたんだろうが」

388(・ω・):2004/11/16(火) 21:03 ID:a.2ldjLg
マシュルルの声は冷えていた。
「いい、帰ります」
「うまくいく、うまくやる。だからお前は黙ってみてれば…」
「冒険者なら、依頼人の言う事を聞いてもらいます。今回はここまででいい」
「……えらそうに言うな」
「サクが命を賭ける必要はありません」
マシュルルの言葉に、俺は口の端をゆがめて笑った。
でも俺は、マシュルル、お前の喜ぶ顔がみたいんだよ。
「惚れた女のためじゃ、ダメか?」
軽口交じりに、本気の告白。
「冗談では誤魔化されません」
はい…。冗談でしたか。すんません。ちくしょー流すんじゃねぇよ。
俺の純情をどうしてくれるっ。
「また、きます。私は何度でも」
マシュルルははるか上方の神獣を見据え、呟いた。
真剣な、強い瞳はめちゃくちゃ綺麗で、きれいで。
死ぬ気はないけど、死んでもいいかなとちょっとおもった。
笑うなら笑え。これが俺の初恋だ。
「無理だよ。その体力じゃ。途中でまたぶっ倒れるのがおちだ。
忘れないでもらいたいが、今回は運がよかった」
天邪鬼な俺はつい憎まれ口を叩いてしまう。シャイな俺様。
でも実際のところ。
調理師範な腕のいい冒険者な俺様に当たった。
敵の襲撃は一回こっきりだった。
本当に運がよかったんだぜ。
「…体力はつけます。魔法も必要だから、修行もします」
「あれと戦うなら、仲間も作らないとな」
「仲…間」
「一人二人じゃ難しくても、もうチョイ人数多ければ成功率は上がるだろ?」
俺の言葉にマシュルルはコクンと頷いた。
「そ…う、ですね」
「さて、んじゃここから抜け出るか?」
俺の言葉にマシュルルはくんっと俺の服を引っ張った。
恥らうように俯いて呟く。
「次も…また依頼したら、受けてくれ…ますか?」
小首をかしげてのおねだりは…反則技、だろ?
「いいよ。仲間つれてきてやる。馬鹿強い奴らばっかりだ」
眼鏡の下に、ぱぁっと輝く笑顔。
「ありがとう」
そんなにまっすぐ言うなって。
俺をそんなに惚れさせて楽しいか…?
「どういたしまして。帰ろうか」
どうやってか、クリスタルに息吹をあわせると足元が崩れた。

389(・ω・):2004/11/16(火) 21:07 ID:a.2ldjLg


サルタバルタの地を風が渡る。
フードを落としたマシュルルは、俺を見上げた。
「ありがとう」
金の髪が揺れ、風に流れる。
「お疲れさん。
体本調子じゃねぇんだから、二・三日はゆっくり休んで旅の疲れを、取れよ」
「一緒に行った冒険者がサクで、良かった。感謝しています」
感謝よりもっと別のものが欲しいけど、それはいえない。
街に住む者と冒険者は…相容れない。
俺はマシュルルがウィンダスに入ってゆくのをじっと見ていた。
マシュルルは一度振り返った。
「また、私は必ず行きます。神獣はガルーダだけじゃない。
流砂洞のタイタンもイフリートの釜もイフリートもフェ・インのシヴァも
…サクが嫌でなければ…一緒に!」
その危険さを知ってか知らずか…マシュルルは真摯な蒼の中の蒼の瞳で言う。
…―たどり着くだけでどんだけヤバイか、しらねぇんだろうな…。
「つきあうよ。息吹、準備しとくわ」
俺って…馬鹿。
まぁ、次のデートの約束は、お付き合いの基本。
しかしデート場にしちゃ物騒だが…再会はお付き合いを深めるきっかけだからな。
「ありがとう!」
おもいっきりのマシュルルの笑顔に、俺は負け。
完全に敗北いたしました。

俺は自分の忍術魔法装備食事以外の目的で、
はじめてジュノの競売のお姉さんに声をかける。
「女の子へのプレゼントでいいものあるかな?
宝石なんか喜ぶかな。指輪は重いかな?花…とか」
しどろもどろの俺にお姉さんはにっこり笑顔。
「リラコサージュはいかがですか?」
「…かわいいな」
財布と相談しないと…。
「ほかにも、色々ございますが…」
会話は尽きない。
次はプレゼントを持ってゴー。
とおもっていたら仲間から突っ込まれた。
「女の子へのプレゼント。競売で買うな、ぼけっ。
冒険者なら自分で調達しろよっ。彫金スキルいくつだよお前」
ナイスな突っ込みありがとう。
すんません。慣れていなくて。
何あげていいのか、わからなかったんだ。
でも、次のデートの準備は完了。
そして、冒険者ギルドから次のデートの依頼が届いた。
次のデートは怨念洞。ムードはたっぷりかもしれない。
おやつはウィンダスティにパンプキンパイ、
サーモンサンドも持っていかないと。

次のデートで一歩進展、する予定。

                  <つづ…かないため END>

390(・ω・):2004/11/16(火) 21:19 ID:a.2ldjLg
レス・次作をとお言葉くださった方、ありがとうございます。
はげみになりました。長い話を読んでくださりありがとうございました。

いまきがつきましたが、過去に同じタイトルがあるかチェック未です。
おなじものがあったらすみません。
もうひとつのすみませんは、ミッションクエの話はNGでは?というものです。
どこまでがNGでどこまでがOKか線引きが…いまひとつ理解できていません

今回は一人称で軽い話を狙いました。
わずかなりとお楽しみいただければ幸いです。
そして 書き手の皆様に頑張ってくださいませ。
いつも楽しく拝見させていただいています。
                                 N

391(・ω・):2004/11/17(水) 20:08 ID:guZdOOX.
続いて欲しいなと思った。
読みやすくてよかったよ。マシュルル萌えw

グッジョブ(´∀`)b

392(・ω・):2004/11/18(木) 00:13 ID:Kqz/t226
いやいや、あえてここで終わっているのがいいんですよw
未完の方が、より洗練されている場合もあるとですよ

なにはともあれグッジョブ(´∀`)b

ライトな文が心地良くて最高でした
作者さま、【ありがとう!】

393(・ω・):2004/11/18(木) 13:16 ID:nBseXo/2
>>390
保存庫に入れる際、名前ミスと思われる物があったので訂正しておきました。
ところでコレはミッションいくつの物語なんでしょうか?
タイトルの横にでもミッション名(?)を書いておけばネタバレ嫌いな人のためにいいかなと。

ミッション1−1クリアしたばかりの私にはとんとわかりませぬ。
でも楽しませていただきましたー!
マシュルルかわいー♪

394390:2004/11/19(金) 20:07 ID:JGoDcKSk
>>391>>392
お楽しみいただいたというお言葉、嬉しく拝見いたしました。

>>393
これはミッションではなく召喚獣のクエストの話になります。
クエストなど共通の楽しみを書く際未プレイの方に配慮ができているか不安ですが、
今後も考えながらゆきたいと思います。
保存庫入れと訂正ありがとうございました。

395サーバーダウン中:2004/11/20(土) 18:29 ID:HYlI6H1Y

それは・・・ささやかな願い。
誰もが・・・一度は夢見る
世界への思い・・・

プロローグ

「え?!なんで受理されてないんですか?!」
静かな雰囲気の中、
バン!っと、机を叩く音と突然の叫びは、周囲に居た人たちの視線を集め
声の主は恥ずかしそうに身を縮めた。
が、それも一瞬で、すぐに気を取り直すと目の前の係員に声を潜めながらも
再度問いただす。
「もう一度確認してください!・・間違いなく提出してるんです」
ついつい大きくなりそうな声を抑えながら必死に食い下がるその姿は
まだまだ子供の様に見えた。

机を挟んで椅子に座っている、こちらも子供に見える人物は
迷惑そうに眉をひそめて、
「ですから、さっき言ったように、あなたのは出ていないのです。
出したと言われても、もう一度書類を出していただくしか・・・、
すいませんが、こっちも忙しいのですよ。」
お役所仕事と言ってしまえば、それまでかもしれない。
ちらりと視線を飛ばすと、確かにその背後に積まれた書類の山を見れば
忙しいと言うのは本当の事だと納得するしかなかった。

仕方なしに、とぼとぼと去ろうとする背中に越しに
「・・・冒険者になるのは良いですけど、
だいたい、タルタルがモンクなんて・・・と思いますけどね・・・」
そんな呟きが聞こえて、
思わず キッ!と睨むような視線を飛ばしてしまう。

そこは、天の塔と呼ばれる建物の中、
ここ、ウィンダス連邦の政治を司る施設である。
・・・世界の名をヴァナディール・・・    
剣と魔法と冒険の世界
女神アルタナの涙より生まれたと謂われる五種の人間族と
女神の慈悲に怒りし男神プロマシアが生み出したと謂われる獣人種の
争いの絶えぬ世界。

男神プロマシアの掛けたと言われる呪いは人間種と獣人種のみでなく、
人間種同士の諍いも生み出していると伝えられる・・・。
何の為に争い傷つけあい憎しみあうのか?
生きていく上で、助け合うことも愛し合う事も理解していながら
抜けられない迷路のような争いを繰り返していく。
いつからか、人はそれを

プ ロ マ シ ア の 呪 縛 

と呼ぶようになった。

396サーバーダウン中:2004/11/20(土) 18:34 ID:HYlI6H1Y
エピソード1

もう一度冒険者登録に必要な書類をもらい、家路を急ぐ自分の目の前を
颯爽と駆け抜けていく人々が嫌でも目に付いた。
勇ましく甲冑を着込み剣と盾を背負って走っていくまだ顔に幼さを残したヒューム種、
頭まですっぽりとローブに覆われ何とも言えぬ杖を持ち、歩いて行く長身のエルバーン種
軽やかそうな服装に尻尾を揺らしながら仲間と思われる者と話しているミスラ種
自分の身長の倍はありそうな大きな剣を背負い、じっと佇んでいる巨体のガルカ種
そして、自分と同じ小柄なタルタル種

以前はここウィンダスで、タルタルとミスラ以外の種族は、まず見ることも無かった。
しかし、世界は大きく変わってきた。
世界の見識者達は言う、

時代は今、 冒険者の時代だ・・と。

キョロキョロと周りを見渡していたヒュームが、
ぴょんぴょん飛び跳ねているタルタルに気付き、
軽く片手を上げて近づいていく。
旅の仲間と思われるその二人の姿を、いつか来る自分の姿に重ねながら

過ぎた事は仕方がない、駄目だったのならもう一度、
それでも駄目なら出来るまでっ!と、
元来が楽天的な者の多いタルタルらしい考えで
頬を夕日に赤く染めながら、少しだけ早足になる。

そう、世界を見て回ることは完全に閉ざされたことでは無くなった。
幼かった頃、近所に住んでいた人と交わした会話を思い出す。
「・・・・ほら、世界が創られたお話があるよね?
女神の涙からボクらが生まれ、獣人達は男神が創造したって、話。
それってさぁ、真実なのかな?
・・伝言遊技があるよね、たったの数人なのに、
あんなに面白可笑しくなっちゃうじゃない?
それと違わないって、みんな思わないのかな?」

「・・・前見た本に鎖で体の自由を奪われている男神の像があったんだ、
それって自分自身を戒めていると考えたら?
男神と女神が、表裏一体だとしたら?
もしかしたら、自分と一緒に何かを封じているとか、さ、
色々考えてみるのも面白そうだと・・・・」

そんな話をしてくれたあの人は、
思えば相当な変わり者だったと、今更ながらに感じる。
まだ幼かった自分に、世間一般の“常識”と言われるものから
ほど遠い考えを話していたのだから。

397サーバーダウン中:2004/11/20(土) 18:37 ID:HYlI6H1Y
クリスタル戦争と呼ばれた大規模な獣人との戦いが終わって約二十年、

そして・・・数年前・・・・
まだまだ危険を残す世界に飛び出して行ったあの人は、
どこで、どんな空を見ているのだろう?
今、自分を照らしているモノと同じ夕日を浴びているのだろうか?

りっくりっくと足を進めながらも考えは続いていた。
あの人が旅に出てから、いつも頭の隅っこにあった、
大人になったら、どうやって生きていくのか。
どんな職業に就くのか、ずっと考えていた。

小さな頃から、好奇心はかなりあったと思う。
それを満たしてくれる本。思えばたくさんの本を読んだ。
当たり前ながら、色んな事が書いてあった。
自分が行けない世界のこともそうだ。
本好きが高じて、図書館への内定も取れそうだった。
書物に埋もれ、管理しながら、暇な時にはちょっと読む。
そう、安定した生活。

でも、
いつからか、
本の中の挿し絵や描写では
満足出来なくなっている自分を感じていた。

398(・ω・):2004/11/20(土) 18:40 ID:HYlI6H1Y
なんとなく書き出してしまったのですが、
文章的に クドイような気がしてきました○rz

399(・ω・):2004/11/26(金) 11:35 ID:KCxq7VjY
書き込みが無くなってはや1週間・・・

400395:2004/11/26(金) 13:32 ID:.0LVjQ5s
すいません、稚作ですが続きです。

401(・ω・):2004/11/26(金) 13:34 ID:.0LVjQ5s
冒険者への道を選んだのは自分だけではなかった。
今の世界は少しだけ冒険者に優しい。もちろん理由があった。
国を挙げて戦争を起こすよりは、余程“まし”だとの考えから生まれたのかは
自分には余りよく判らない。
が、この世界の主立った国は領土を侵略する戦争の代わりに、
最低限の衣食住の保証をした自国に所属する冒険者を使って
コンクエストと呼ばれるモノをやるようになっていた。

次々と冒険者の認定をもらっていく友達や、知らない人達。
皆、最初は支給品の武器や防具に身を包み、簡単な教えを受ける。

と、言っても誰もかもが、冒険者になれるとも限らない。
当たり前ながら、国も全くの無料で面倒をみるわけにはいかないのだ。
そんな事をすれば、無職無能の集団を作ってしまう。
そのための申請と審査だった。
ちょっとした壁は最初の審査。
ミッションと呼ばれる国からの依頼をこなせそうな人柄かはもちろん、
“冒険者としてやっていけるかの素質”を見せること。
某かにある一定以上の“ちから”を持っているとも言っていいだろう。
それを示さないといけない。
もしくは、“女神からの愛”を十分に受けているか?の審査とも言える。

ある意味、女神は平等だった。
それは獣人の一種族にもかかわらず、
人間と友好な関係を築いているモーグリと呼ばれる一族に伝わる“秘技”

魔法とも催眠術とも判らないその技を受けると、
一定以上の素質さえあれば、すんなりと
ある力量まで潜在能力が開花されてしまう。
そこからは、自分自身でどこまで上手く使い方を覚えるかにはなるのだが・・。
そう最低の力量だけが保証され、冒険の初心者は、ほぼ横並びになるのだ。
その秘技には制限もあったが、各国の首脳陣にとっては
得るモノの方が大きすぎるため、気にしないでいられるに十分なものだった。

そして、自分はその審査にも受かった“はず”だった。

402(・ω・):2004/11/26(金) 13:35 ID:.0LVjQ5s
「まぁ・・・、仕方ないっか、冒険に試練は付きものだしね」
自分でもよくわからない事をつぶやいてる、と思う。

冒険者に認定された後には、自分のモグハウスを借りられるはずで、
そこで“冒険者”としての自分の世話をしてくれるモーグリに会えると、
この日を楽しみにしていたのだが、それも、後の日の楽しみになってしまった。
家路への途中で、その日おなかを膨らまして心地よく寝るために、
十分な量の食べ物を買い、扉をくぐる。
「た〜だいまっと・・・」


数刻後、いつもよりちょっとだけ早くベッドに潜り込む準備を終え
明日からの行動をつらつらと考えていると、
静かな時間は突然の扉を叩く音に破られてしまった。
「ねー、居るの?居たら開けてよ」
聞こえてきたのは、幼馴染の声だった。
「ゎ、・・ちょっと待って!!」
上着をはおり、慌てて扉に駆け寄り、開けると
開口一番
「レディを待たせるなんて、男として失格よ!」
っと、何故か左手は腰に当て、
右手でこちらを指差し憤然としている姿が目に飛び込んで

一瞬反応が止まると、にこっと微笑まれ
「冗談冗談・・、でも・・なんでお家に居るの?
今日はモグハウスって所に泊まってくるんじゃなかったの?」
と、小首をかしげながら大きな瞳でこちらを覗いてきたのだった。

403(・ω・):2004/11/26(金) 13:40 ID:.0LVjQ5s
脳内設定だらけですいません。
そして大好きな このスレが止まってしまっている事が
とても寂しいです・・。
他の作者さまの足元にも及ばないで出来で見苦しいとは思いますが
ご容赦ください。m(_ _)m

404(・ω・):2004/11/26(金) 21:40 ID:F0MUJHRI
続き期待sage

405(・ω・):2004/11/29(月) 12:44 ID:r8iAUBI6
>>403
ほんわかしてて面白い。
つづきを〜!

406(・ω・):2004/11/30(火) 13:07 ID:WCPk4.f.
>>395
タイトルプリーズ!
なかなかいいかんじなので、タイトルわかり次第保存作業したいです!
いや、させてください、おねがいします〜!

407白き〜作者:2004/12/01(水) 08:21 ID:dW600smY
おはやうございます、って書き込み減ってきてる!
ドラクエ!? ドラクエ出たからか!!

年の瀬ですからみんな忙しいのでしょうなぁ。
ヴァナの次回VerUPは12月9日らしいですよ。次はどんなになるんでしょうなぁ。
あ、あとヴァナの世界感の本がクリスマス辺りにeb!から出るらしいですぞ。
楽しみ楽しみ。

白き探求者、最新話UPしました。お暇ならご覧くださいませ。
ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

書かれた物語はwikiでまとめて読んでおりますよ!続きキボーン(´・ω・`)ノ

408(・ω・):2004/12/01(水) 22:13 ID:9tUDS9FI
おお、探求者来ましたか!

409(・ω・):2004/12/02(木) 11:16 ID:lIVYRcoA
ぽつぽつとヴァナ話を書いていたらなんかものすごく基本的なことで
躓きました。
イルムとポンズってメートル法換算でどれくらいの大きさで、それって
インチ>フィートみたいに単位が変わるのか、キロとかメガとかあるって
事は×1000はキロイルム?
でもググったらイルム=インチ、ポンズ=ポンドと書いてある釣りサイトとか
あるんだけど、そうすると12進法?

わーかーらーなーいー。

尺貫法みたいに種族毎の単位はあるんだろうなーとかも思うんですけどね。
(□eは設定してなさげだけど)
どこかそういうのがわかる資料集ご存知の方いらっしゃりませんでしょうか…?

410白き〜作者:2004/12/02(木) 12:33 ID:0BUc/84s
はい、イルム(距離・長さ)に関しては答えられそうです!

えー、ヴァナの世界ではイルムの他にヤルムやマルムがありまして、イルム=インチ、ヤルム=ヤード、マルム=マイルに相当しているそうですよ。
ちなみにポンズの他の単位は聞いた事ないので不明でぃす。
実際に何㌢!?というのはググってみたほうが早いかと。
では!

411(・ω・):2004/12/02(木) 13:13 ID:lIVYRcoA
>>410
うあー、すばやいお答えありがとうございます!ヴァナって12進法だったのかあ!ちょとびっくり。
もし出典などありましたらご教授いただけると幸いです。

換算してメモメモ。
1マルム=1760ヤルム=63360イルム=1マイル=1.609㎞
1ヤルム=36ヤルム=1ヤード=91.44cm
1イルム=1インチ=2.54㎝

タルのモデルがホビットだとすると、タルの身長が10ヤルムでヒュムが20ヤルム↑位かなあ…。

412虹の向こうに見えるもの1/2:2004/12/02(木) 18:26 ID:Afx20hZo
こんばんわ・・・
ご無沙汰してまつ
まだ続き書く気はあるよーーーー!って意思表明にきました。
短いですが、こそ〜り置いていきます。
さ〜て、もう少し仕事がんばるかな;;

**********************************

地面に両手と両膝をついてがっくり項垂れる戦士を
きょとんとした顔で見つめるラヴィとシーフの青年ジルベールに
黒魔導士が笑いを堪えながら切り出した。
「グランはね、博士にへっぽこくんと呼ばれているのですよ。」
「うわぁぁぁぁーーーーー!カミュ言うなぁ!!」
憐れな戦士は両手で耳を塞ぎ、首をぶんぶん左右に振っている。
まるでそう呼ばれるに至った過去を振り払おうとするかのように。
「すっかりトラウマになってるな。」
「まぁ仕方が無いだろう。」
ヒュームのナイトは右脇をエルヴァーンの赤魔導士は左脇を抱え上げると
聞きたくない、聞きたくない、と呟く塊をずるずると引きずって古墳の外へと放り出した。
「レオンハルトさん?エトヴァルトさん?何を・・・!」
慌てて駆け寄ろうとするラヴィをレオンハルトと呼ばれたナイトが抱え上げる。
「あれでも百戦錬磨の戦士なんだよ。殺気を感じれば直ぐに正気に戻るから。」
自分の顔の前に少女を持ち上げ真正面から見据えて言う。
「そうそう。寝かせてもいいんだけど、そうすると目が覚めた時にまた落ち込むしね。」
ぽんぽんとラヴィの頭を軽く叩きながらにっこり笑う赤魔導士。
つまりそれが一番グランのためになることなのだと。
彼らの目がそう言っていた。

413虹の向こうに見えるもの2/2:2004/12/02(木) 18:27 ID:Afx20hZo
「では、昼食の用意をしますね。」
狩場の食事は通常簡素である。
休憩を取る余裕もない場合もあるため戦闘の合間にさっと食べられるような携帯食を持ってくる。
その場で調理する者も結構多い。
合成調理なので凝った料理を簡単に作る事は出来るのだが、
味わって食べるということとは無縁なので結果的に携帯食になる。
しかしカミーユが用意していたのは埃っぽい石室の中では勿体ないほど立派なピクニックセット。
携帯用コンロに掛かったケトルが湯気を上げ、
床に敷かれたシートの上にはさっき狩ったトラの毛皮が敷き詰めてあり快適そのもの。
てきぱきと並べられる料理からはいい匂いがしてきて、お腹が今にも鳴り出しそうだ。
ナイトにぶら〜んと抱えられたままラヴィは目を丸くした。
「いつまでラヴィちゃんをぶら下げている気だ?」
そう言うが早いか、赤魔導士がナイトの手から少女を奪い去りそっと毛皮の上に降ろす。
「ナイトの風上にもおけぬ無礼、お許しくださいレディ。」
優雅に一礼する。
「あ・・・っ、はぃ」
タルタル族の中だけで育った彼女はこんな風に扱われた事がないので真っ赤になる。
「無粋なことをいたしましたレディ。」
がちゃがちゃと鎧の音を響かせてナイトも一礼する。
「さすがにどっちもお貴族様、筋金入りのキザだね。」
やれやれという風に肩をすくめるジルベールの言葉にすかさず反応する。
「僕は所詮ヒュームだからね、エトヴァルトお坊ちゃまには適いませんよ。」
「何を仰るやら、格式で家は負けてますからレオンハルトお坊ちゃま。」
むむむーーーーーっと睨みあう二人の鼻先にぐいっと突き出される2つのカップ。
「はい、お茶入りましたよ。」
入れたてのいい香りのするサンドリアティーにあっさり白旗を揚げたのは、腹の虫。
ぐぅぅぅうううぅうう
石室に響き渡る空腹を訴える音。
「温かい内にいただきましょう。」
こうして奇妙な雰囲気の中、思いがけずきちんとした昼食を摂ることになったのだった。

続く

414(・ω・):2004/12/03(金) 12:14 ID:Bh3RnLtM
404-406様 ありがとうございます。励みになります。
題名・・・、考えても居ませんでした(汗
とてとて短いです。御容赦を・・。

415395:2004/12/03(金) 12:16 ID:Bh3RnLtM
ちょっと熱めのウィンダスティーを
二人で座って、ふぅふぅしながら飲みつつ、
今日の出来事を簡単に説明していた。
「ええ〜?!そんなことってあるんだー?」
そう言いながら、そっと両手で持った器を口に持っていく。
「あるんだろうねー」
いささかのん気な返事を返しつつ自分も
喉を潤していた。

「天の塔の受付の人も大変そうだったし・・ね・・。
色々大変なんだと思うよー。」
コトっと器を置きながら
「そっか・・・でも、今日もお話出来て良かった〜。
急に冒険者になるなんて言うから、びっくりしたんだよ?」
との一言に、他意の無い言葉でも
自分を心配してくれる人が居ることは嬉しいな・・・
と、ちょっと気持ちが良くなってしまう。
 
「申請ってすぐに終わるんだっけ?」
「多分、そんなにかからないと思うよ。」
「じゃぁ、冒険者になっての一番初めの仕事は
私に依頼させてくれないかな?」

冒険者になってもいない自分への依頼にちょっと照れつつも
「うん、判った」
にっこり微笑んで請け負った。

「もう遅いから送るよ」
「うん・・、ありがと」

二人で並んで歩く
「星がきれいだね」
「うん」
その間にも冒険者と思しき人影がちらっとみえ
「あはは、冒険者はどこにでも行くってほんとね」
と、笑顔をみせる。
少しだけ冷たくなった風を身体に受けながらも
心は暖かくなるのを感じていた。

416(・ω・):2004/12/03(金) 12:22 ID:Bh3RnLtM
短すぎOrz

417忘れられた合成:2004/12/03(金) 12:24 ID:U82F7ibw
短編です。

・・・男は追われていた。
出来るだけ足音を消しながら走り
隠れられる場所を探していた。

体力で優る獣人から走って逃げ切るのはむずかしい。

(しまったな・・・・)
その日の狩りを終え、気が緩んでいたのだろう
普段なら生き物の気配に気が付くはずなのだが
今日に限って気が付かなかったらしい。

(チッ・・、さっきの足止めに使った矢が最後とは、困ったね・・。)
狩りを終えて、ただでさえ少なくなっていた矢は
物陰からの一撃を避けた際にほとんど落としてしまっていた。
致命的な一撃を避けられただけでも幸運だったか・・と
開き直りつつ手元に残ったモノを探る。

(・・・クリスタルに・・っと・・、
後はいつも使ってる火打ち石くらい・・か)

追っ手の気配が余裕を持って自分を捜しているのを感じつつ 
(矢が無いのを気付かれてるか・・、さてさてどうしますかね・・・)

木の陰に隠れつつ息を整え、めまぐるしく頭を回転させる。
(・・よし・・、これでいくか・・)

周囲に気を配りつつ、見落とさぬよう目的の物を探し
(・・まだ、見放されてないみたいだな)

出来るだけ物音を立てぬよう見つけた物を取りに走る。
(そういや姐さんが言ってたよな〜)


自分に弓の技を教えてくれた人の言葉を思い出す。

418(・ω・):2004/12/03(金) 12:27 ID:U82F7ibw
(・・・いいかい?頭が働いて体が動けばまだまだ大丈夫さ。
自然にある物を有効に使うんだよ。
いざとなれば自然の中で一人でも生きていける。
それが狩人ってものさ・・・
こいつをお守りにとっときな・・、風を感じるんだよ・・)

そっと頭に手をのばし、帽子に差した羽を触る。
(お守り、使わせてもらうよ。)

息を整え、手元にクリスタルを取り出す。
ゴウン・・ゴウン・・と独特な音が響き
一秒が一分にも感じられる瞬間が過ぎ・・

視界の隅に追っ手の陰が写る・・
(もう少し・・)

こちらを見つけニヤリと笑ったように感じたそいつは
「ゲハっ・・モウナニモボッテナイ」
恐怖を煽るつもりか、わざわざこちらに声を掛けて

「オッガゲゴッコハ、オワリダァ!」と
耳障りな共通語を吐き武器を振り上げ向かってきた。

そして・・・
目前に迫った敵が死を告げようと近づくとき
パシーン!っと音が響き・・・
(!!!)
作り上げたそれを手に掴みつつ
頭上に振り下ろされる凶器を横っ飛びに転がってかわす。


「ハッ・・、イヅマデァアソンデグデル」
笑みを浮かべ地面に振り下ろした凶器を引き抜き、
もう一度振り上げようとする追跡者の眼に写ったモノは・・

自分に狙いをつけた、狩るだけの玩具と思っていた相手の姿だった

「ナ!?」
「そうだな、俺も飽きた」
淡々としたその一言と共に放たれた一撃は
正確に右目を射抜いていた。

419忘れられた合成:2004/12/03(金) 12:37 ID:F0LjUtvM
終わりです。
連続投稿すいませんでした。

420(・ω・):2004/12/03(金) 18:42 ID:1MQTI6Pg
>>417
すごい表現力!読んでて手に汗握りました。

421礎の守護者:2004/12/03(金) 20:29 ID:xP0x7DpQ
「ええと。マシュルル、少し良いかしら。」
眠そうな声でケルトト博士はゆったりといった。
「はい。ケルトト博士」
「オズトロイヤ城にお仕事があるの。
んん、オズトロイヤ城はヤクードの城、様々な危険が存在しているわね。
もちろんオズトロイヤのヤクードブリースト氏には十二分に話を通してあるけど…
危険が訪れるかもしれない。
危険が伴う任務なので無理にとはいわないけど
…是非向かってくれると助かります。
各院はいつも人手不足に悩まされているから…」
ゆったり話すケルトト博士にマシュルルは小さく頷いた。
「はい。向かわせていただきます」
「それは助かります。で。
オズオロイヤ城の地下に向かいヤクードブリースト氏に逢って、
香油を譲り受けてもらってきてほしいの。
それはヤクード族が精製する香油で星の大樹の栄養剤に向いているのではないかと
ひそかに目をつけていたのです。
今回やっと交渉が成立して無事譲り受けてもらえる事になったの。
代わりにといっては何だけれど、こちらからは供物を持ってゆく手はずが整っています。
マシュルル一人で、護衛につけるものも…冒険者への代金も最近かさみぎみで…けほっこほっ、
と、とにかく、手の院よりガーディアンを3体かりれます」

ケルトト博士はよろしく頼みますねと眠そうにいった。

422礎の守護者:2004/12/03(金) 20:34 ID:xP0x7DpQ


旅立ちの時に渡された荷物にはキノコのパイやヤクードドリンク、
プリズムパウダーやサイレントオイル、呪符に供物だった。
マシュルルはローブを着込み、手の院の受付に向かった。
きぃっと扉を開くと訓練の真っ最中だった。
「あの…」
ふり返る愛らしい女性研究者は手の院院長のアプルル博士だった。
「あ、マシュルルさん。こんにちは。
うちの子達をよろしくお願いしますね。
右からガーディアン=ファイブ・オブ・ハーツ シックス・オブ・ハーツ
 セブン・オブ・ハーツです」
「アプルル博士、よろしくお願いいたします」
ぺこり、マシュルルは優雅に頭を下げた。
「良くしつけてある子達です。
ウィンダスにつくまであなたを守ることを至上命令としていますので、
安心して行ってらしてくださいね」
アプルル博士の笑みに、マシュルルは大きく頷いた。


タロンギ渓谷の巨大な白い遺跡の元で火をたく。
マシュルルの金の髪が肩に落としたフードの上で揺れる。
「ふぁ、ちょっと疲れたかな」
タルタル族のマシュルルはガーディアンに話し掛けた。
「オヤスミ★クダサイ」
「オマモリ★イタシマス」
カラカラと歩を進める人形にマシュルルは深い笑みを浮べた。
「一人だったら、きっと怖くて眠れなかったと思うの。ありがとう」
「ソレガ★オシゴト★デス★カラ」
マシュルルは目を細める。
「皆は休まなくて平気なの?」
「平気デス」
「キュウヨウ ハ★ヒツヨウ アリ★マセン」
「そう…。何かあったら起こしてくださいね」
マシュルルは軟らかな蒼い瞳でガーディアンを見上げた。
「ハイ★オヤスミ ナサイマセ」
マシュルルは風が吹くタロンギの大地に身体を横たえた。

423礎の守護者:2004/12/03(金) 20:36 ID:xP0x7DpQ
目を閉じる。
眠らなければ、体がもたない。
ここはまだ、旅のはじめ…そんなに危険なモンスターはいない。
はず、なのに…。
目を閉じても眠れない。
目を開けば風の向うに、星。
乾いた大地は、夜の冷たさを秘めている。
「眠れなくても目を閉じて身体を横にしていろ。それだけで違う」
冒険者に教わった言葉をマシュルルは自分の口のなかで呟いた。
けれど月が頂点に来ても眠りは一向に訪れなかった。
「ネム★レマセンカ」
「ええと…セブン?」
「ハイ」
「眠ろうとは思っているんだけど…」
「オツカレ デショウ★ヤスマナイト★タイリョクガ★モチマセン」
「ふふ。心配してくれるのね。ありがとう」
「シン パイ★ワカラナイ★コトバデス」
ガーディアンの言葉にマシュルルは小さな指を桜貝色の唇にあてた。
「心配は難しいかしら?んと…そう。私のことを気にかけてもらう?」
「気ニ★カケル★デスカ?」
首をかしげるガーディアンにマシュルルも小首をかしげた。
「まだ難しいのね…。気遣いってあなたたちにわかるかしら」
「ワカリマ★セン★マナビ★タイデス」
マシュルルは言葉を一生懸命捜した。
「ああっと…。ん…守ってもらえて、嬉しい。これはわかる?」
「マモ ル★ワカリマス★シメイ★テキ イマシタデショウカ?」
「敵から守る。じゃなくて…。
私が元気でいられるように、あなたたちは身体も心も守ってくれてる。
今のは心、のほう」
「ココロ★デスカ」
「そう。ここにある」
ガーディアンの張子の腕をとり、マシュルルは自分の胸にカカシの手を重ねた。

424礎の守護者:2004/12/03(金) 20:38 ID:xP0x7DpQ
「ソコ★ニアルノ ハ★ハイ ト シンゾウ デハ?」
「形のないものも、あるの」
「カタチガ ナイ★ノニ★ア ル?」
「そう。心は、いろんなことを感じるところ。
気持ちいいも悲しいも嬉しいも…全部感じられる」
「ココロ★ワタシタチニモ★アル ノデショウカ」
マシュルルは一瞬言葉を詰まらせた。
「わからない。帰ったらアプルル博士に聞いてみるといいかもしれない」
「ホシイ デス★ココロ★ウレシイ★シリ タイ」
「心は見せられないものだから…在るとか無いとかって決めるのは難しいのかも…」
ふぁ。マシュルルが小さなあくびをした。
「ウタ★ホシノウタ」
「星の歌?」
「ネムル★シル ウタ★ガーディアン ノ ウタ」
ガーディアンが杖を手に星空の下で小さく歌う。
小さな声が、低く高く風に乗る。
マシュルルには言葉の意味はわからないけれど、
風や大地になじみ身体に染みる不思議に心地よい歌だった。
マシュルルに穏やかな眠りが訪れた。



茶色の砂が舞うメリファト山地奥にそびえるヤクードの城。
オズトロイヤ城。
その巨大さにマシュルルは見上げ息を飲んだ。
「すごい…」
タルタル族には余計に大きく感じられる。
警備に当たるヤクードにマシュルルは優雅に礼をした。
「ケルトト博士よりお話が伝わっているかと思いますが…
香油を受け取りにまいりました」

425礎の守護者:2004/12/03(金) 20:41 ID:xP0x7DpQ
門番のヤクードは笑う。
「ギギギ…」
「通していただけますか?」
「死ンでも良いノなら…通レ」
ヤクードのどこまでも鋭い瞳がマシュルルを刺す。
マシュルルはコクンと小さく頷いた。
「オマモリ シマ★ス」
前後をガーディアンに守られ、
マシュルルはゆっくりと巨大な土の城に足を踏み入れた。
「中庭二出て、右下、地下ダ」
ヤクードの言葉にマシュルルは顔を上げた。
「ありがとうございます」
怯えたそぶりが見えないように…。
マシュルルは精一杯の勇気を動員する必要があった。
淡い色の唇が笑みを刻む。
広く静かな通路にはそこかしこにヤクード族がいた。

「人だ…タルタル、族、カ」

「喰おう…柔ラカくて、うまそうだ」

「魔法を、奪い二キタ、ノカ?」

低く囁かれる言葉にマシュルルは足がすくんだ。
「マシュルル★サマ ドウ★イタシマシタ」
「ユキマ★ショウ」
ガーディアンの言葉にマシュルルは頷く。
敵地…。
マシュルルにはこのヤクードの城で身を守る術もない。
すがれるものといえば話が通っているというケルトト博士の言葉と
ガーディアンだけだ。
このヤクード達の城の中で事が起これば…生きて帰るのは難しいだろう。
「オマモリ★シマス」
セブンの言葉にマシュルルは深く頷き慎重に足を踏み出した。
モンスターとの友好関係は、難しい。
智恵あるヤクード族とは、同じヴァナディールに住む生き物として
築けるなら友好関係を結ぶべきだとマシュルルは思うが…。

人はヤクード族を殺しすぎた。
ヤクード族は人を殺しすぎた。

互いに憎しみしかない歴史の中で…
はたして敵と思っていた相手を本当に信頼できるのだろうか。
猜疑は疑心に変わり、心をゆらす。

426礎の守護者:2004/12/03(金) 20:43 ID:xP0x7DpQ
マシュルルの頬にバサリと黒い羽が触れた。
「…っ」
びくっとすくめる小さな身体。
「ギギギギ。怖いカ…。私タチ、ガ」
冷たい漆黒の瞳が嘲笑う。
手のかぎ爪がマシュルルの柔らかい頬に触れた。
「過去ヲ清算、できたト思ウな」
爪がマシュルルの首に食い込む。
柔肌にナイフのような爪が突き刺さり皮膚を破った。
強大な力。
マシュルルは目を固く閉じ死を覚悟した。
カラカラとヤクードとマシュルルの間にはいったのはガーディアンだった。
「オヤメ クダサイ★ヤクード サマ」
ヤクードは嘲笑う。
「人形ガ、意見スルのカ?」
「オヤメ クダサイ★マシュルルサマ ガ★傷ツキ★マス」
ガーディアンの言葉にヤクードはマシュルルを地に叩きつけた。
「仲間ヲ、コロサレタ事、ワレラハ忘レぬ」
ガーディアンがマシュルルを抱き起こす。
「ダイジョウブ★デス カ」
「ええ…ありがとう。ゆきましょう」
マシュルルはふるえる足を、前に踏み出した。


中庭はかっと太陽が照りつけ一瞬逆にくらりと目をくらませた。
挑発のような、侮蔑のような、あざけりのようなヤクードの言葉は
通路のそこかしこで聞こえた。
わざと聞こえるようにいっているのだろう。
マシュルルは歯を食いしばって耐えた。
恐怖に折れそうな心を、使命感で支えた。
周囲に立ちマシュルルを守るように動くガーディアンが、
マシュルルの心を落ち着かせた。

427礎の守護者:2004/12/03(金) 20:45 ID:xP0x7DpQ
長い回廊をいくつも折れ、小さな部屋にたどり着いた。
「よく、キタな」
低く聞き取りにくい声は、ヤクードの僧侶。
マシュルルはひざまずいて礼をした。
「はじめてお目にかかります」
「香油ダ」
差し出された小さなつぼの中には液体がたぷんと揺れた。
油紙と縄でこぼれぬように蓋を縛られている。
「ありがとうございます。こちらをお納めください」
供物を差し出すとヤクードはかすかに笑ったようだった。
「しかし、ヨクここマでキタな」
マシュルルは血の気のうせた頬でやっと微笑んだ。
「大事なお使いなので…」
「怖ろしくワ ナカッタノカ?」
「………」
「我ラガ、約束ヲ守るトオモッテイタカ?女ヨ」
「はい」
マシュルルは頷いた。
「ギャギャ」
ヤクードは目を細めて笑う。
「人、トハ、オロカダ。シンジルコトがオロカダ」
「え?」
「約束ハココマデ ダ」
「……」
「無事カエレルト、ヨイナ。女ヨ」
マシュルルは香油を握り締めて振り返った。
ヤクード達のいくつもの瞳がマシュルルを見つめる。

こくん。

マシュルルは生唾を飲み込んだ。
死の恐怖が背筋を流れ落ちる。
マシュルルは無意識にガーディアンの張子の手を握り締めた。
「オマモリ★イタシ マス★マシュルル サマ★カエリ★マショウ」
ガーディアンの言葉にマシュルルは頷いた。

428礎の守護者:2004/12/03(金) 20:49 ID:xP0x7DpQ
その部屋を一歩出るとヤクード達はマシュルルを取り囲む輪を狭めた。

「ギュギュ、ドウヤッテ、喰ラウ?」
「喰ラウマエニ、イタブロウ」
「鈎爪ヲ、柔肌ニ撫デタラドウナル?」
「ソノ腹ヲ…サイテヤロウ」

マシュルルの足は、すくんでしまった。
もう、一歩も前に進めそうに無い…。
ふわ。
一瞬風を感じたとおもったら、ふっくらしたマシュルルの頬に爪の血痕がひかれた。
ヤクード達の嘲笑が広がる。
「あ…」
こんな時は、どうする?
冷静になって、落ち着いて逃げ道を捜す。
マシュルルは振り返り、逃げ道がないことを確認した。
そのあとは?
どうすれば生き延びられる?
「マシュルルサマ」
「マシュルルサマ」
「マシュルルサマ」
ガーディアンが同時にマシュルルに声をかけた。
「なぁ…に?」
マシュルルは爪を白くなるほど握り締め、恐怖に耐えながら聞いた。
「ダッシュツ★ヲ」
「リダツ★ヲ」
「キカン★ヲ」
ガーディアンのひそやかな声にマシュルルは歯を食いしばった。
「どうやって…」
言いかけて気がついた。
持たされた呪符デジョンの札の意味に、背筋が凍った。
でも…。
「だって…あなたたちは…?」
「マシュルルサマ ヲオマモリ★スルコトガ★シジョウノ★メイレイデス」
「だめ。アプルル博士が待っているわ。一緒に帰らないと…」
いいながら、マシュルルの声が震えた。
この状況で一体どうやって抜け出せるというのか。
「マシュルルサマ ヲ★オマモリ シマス★キズ ツケナイ」
ガーディアンに表情は、ない。
ないけれど…決意と言う言葉がマシュルルの頭に浮んだ。
長い棍を手にガーディアンが戦闘態勢を取る。
意思をもつ人形。
過去の大戦で、魔道士は多くのガーディアンをあやつり戦いに向かった。
ウィンダスの戦力の強さは…ガーディアンの存在が大きい。
戦闘人形。

429礎の守護者:2004/12/03(金) 20:52 ID:xP0x7DpQ
「ハヤク★マシュルルサマ」
「ニゲテ クダ サイ★マシュルルサマ」
「ジュフ ヲ★マシュルルサマ」
「……だって、あなたたちが!」
呪符を使えばマシュルルはこの場から逃げられる。
でも、ガーディアン達は?
ガーディアンは人ではない。
けれど言葉を交わした者、
隣に立ち夜を明かした仲間に対する情がマシュルルの行動を止めた。
「ガーディアン★セブン」
ガーディアンファイブオブハーツに呼ばれたガーディアンセブンオブハーツは
マシュルルの荷物から呪符をとりだし、マシュルルに握らせる。
「だって、あなたは心が欲しいっていっていたじゃない…。
死んじゃダメ、きっとなにか方法がっ」
マシュルルの声は涙声だった。
ヤクードが輪を狭める。
「マシュルル★マモ ル★シメイ★ウレシイ」
「駄目よ!駄目…っ!」
「ワレラノナカニハ★ホシノカケラ★ガ ハイッテイマス★
ホシノカケラ★ガ★イツカウィンダスニ カエレバ★
ワレラハウマレカワル」
「そんなこと、いわないで…まるで死んじゃうみたいなこと…」
マシュルルは涙を浮かべた。
子守唄を歌ってくれたやさしいガーディアン。
守るといって、棍を持ち身体で盾になってくれる者たち。
「ナカナイデ★クダサイ★マシュルルサマ★
ワレラハ★シメイ ヲタッスル ソレハ★ヨロコビ」
「ウレシイ★ハ ココロ★ガアルコト」
ガーディアンセブンは笑った…ような…気がした。
ハート…こころの名を持つ者達。
ガーディアンセブンオブハーツにシグネットをこすりつけられ、
呪符は発動し…マシュルルをウィンダスに運ぶ。
「いやああぁぁ」
黒い波が襲う。
マシュルルを逃がさないために。
けれど、わずかな発動時間を
ガーディアン達はその身を散らせてマシュルルを守った。
飛び散る張子の木板。
マシュルルの懐に飛び込んだ小さな木の実。



「ああっ…」
しゃがみこむマシュルル。
風景はのどかなウィンダス水の区のホームポイントだった。

430礎の守護者:2004/12/03(金) 20:55 ID:xP0x7DpQ
「お嬢さん。どうしたのかい?無事かい?」
見知らぬヒュムに話し掛けられ、マシュルルは答えられなかった。
ヒュムを見あげ、ぽろぽろとこぼれ落ちる涙に俯く。
「あぁ、そんなに泣かないで…」
小さな背中をやさしくさすられる。
言葉にならない思いが、あふれて…あふれて。
涙に汚れた頬を、ごしっとこする。
頬に流れる血が…
ヤクードのかぎ爪につけられた傷がつい先ほどの戦いをリアルに伝える。
呼吸が、乱れる。
ひっく…くん、ひぃっく。
マシュルルの止まらない涙にヒュムは仕方なく、人を呼びに走っていった。

「落ち着きましたか?マシュルル」
ゆったりとしたケルトト博士の言葉にマシュルルは頷いた。
マグカップの暖かいウインダスティの湯気を頬で受ける。
ここは鼻の院。
「はい。取り乱してすみませんでした」
「いいえ。良くぞ使命を達してくれました。
それでこそあたしの鼻の院の研究者…
あたしも本当に鼻が高いです」
「でも…」
ガーディアン達は戻らない。
ケルトト博士はマシュルルにやさしく語りかけた。
「危険では在りました。でも、おかげで星の大樹の栄養剤が研究できます」
「でも…っ」
そのせいでガーディアン達は…。
「ヤクードはね。…あたしたちは確かに敵視しすぎました。
お互いに殺しあいすぎた。
でも…憎みあうだけでははじまらないと、あたしはおもっているのですよ。
今回は危険な任務につかせて本当に悪かったとおもいます。
マシュルルが無事でよかった。
しばらくゆっくり休んでくださ…」
ケルトト博士の言葉が終わる前に小さな扉がバタンと開いて
アプルル博士が飛び込んできた。
「マシュルルさんは無事ですの?!」
アプルル博士がマシュルルの姿を見て、ホッと息をついた。

431礎の守護者:2004/12/03(金) 20:58 ID:xP0x7DpQ
マシュルルはマグを小さな机の上において立ち上がった。
「アプルル博士、すみませんでした…」
マシュルルの蒼い瞳に再び深い悲しみが浮んだ。
頭を下げるマシュルルの手をアプルル博士はそっと握り締めた。
「あなたが無事で…本当によかった。
あの子達は頑張ったのですね」
「はい…でも、私の変わりに…私を守るために…」
マシュルルの瞳からこぼれ落ちる涙を、アプルル博士はそっとぬぐった。
「あの子達は使命をまっとうしたのね。私の自慢の子達は…」
「…はい」
「あなたが無事で本当に良かった」
アプルル博士は悲しげに微笑んだ。
それ以上の言葉を、許さないかのように。
マシュルルは無言で頷いた。
ウィンダスの手の院はこうやって、何十何百体のガーディアンを生み出し、
そして失ってきた。
「あの…アプルル博士」
最期の戦いで飛び散った破片。
握り締めるとほんのり暖かい星の木の実。
アプルル博士はそれを見た瞬間、泣きそうに顔をゆがめた。
「セブンオブハーツ…ね。お帰りなさい。ご苦労様」
大切に受け取り、小さな手で包み込む。
「ありがとう。マシュルルさん。この子を運んでくれて」
マシュルルはふるるっと首を横に振った。
金の髪が揺れる。
「心配しないで。またこの子は生まれ変わるわ。そしていっしょに働くの。
強い子だったから…今度は警備隊になるかもしれないわ」
アプルルの言葉にマシュルルは深く頷いた。
「はい」
「ウィンダスの使命、ご苦労様でした。マシュルルさん」
頬に触れられるやさしい手に、マシュルルは再び泣けてしまった。
やわらかな頬に涙がいくすじも伝い落ち…とまらなかった。


数日後
マシュルルはカカシを見て挨拶をした。
「こんにちは。警備ご苦労様です」
首をかしげると金の髪がこぼれおちた。
「マシュルル★オシゴト デスカ★イッテラッシャイマセ」
「ええ、いってきます」
マシュルルはあざやかに微笑む。
星の大樹の栄養剤は新たに鼻の院で開発され、
大樹が少し元気になったという朗報を聴いた。
ウィンダスの歴史の礎になったたくさんの者達の記憶を、
ウィンダスの風はやさしく包む。
空はどこまでも高く清んでいる。
「がんばろう」
マシュルルは小さく呟いて鼻の院に駆けていった。

                  END

432礎の守護者:2004/12/03(金) 21:06 ID:xP0x7DpQ

読んでくださった方ありがとうございました。
前回のお話でごめんなさいを一つ。
息吹ではなく音叉でした。
フレンドに突っ込んでいただくまで素で気がつきませんでした。

多分皆様には予想外の続編だったとおもいます。
テイストもだいぶ違います。すみませんでした。
ウィンダスではこんな事件が何度も在ったのではないかと
おもいます。

高レベルのキャラのお話が読んでみたいと思う今日この頃
作り手の皆様 頑張ってくださいませ。応援しております。
読み手の皆様お風邪などに気をつけてくださいませ。

                          N


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