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黒の月―― Lucifer went forth from the presence of Jehovah

51ノラ ◆SWPOXuu/ls:2017/08/14(月) 13:36:50 ID:XcQX46DQ0
氷の鎖に捕らわれ、もがきながらも落下するコピールシファ。だが、魔鳥フリューゲルスの氷はそう簡単に砕ける代物ではない。例え相手がコピールシファであろうとも……
やがて、壮大な落下音とともに、コピールシファは社へと激突した。社は完全に崩壊し、辺りには、社の破片や砂鉾が飛び散り、視界を遮る。地上に居る皆は、桜井が戻ってきたことを喜ぶ暇も無く、戦い続けねばならないと悟り、崩壊した社の方を注視する。

「く……くくく……」

やがて、視界が開け、さも愉快そうに立ちあがり笑うコピールシファが姿を現した。しかし、その身体には未だに氷の鎖が巻き付いており、動きが制限されているようだ。

「今がチャンスだ!」

「待て!何かがおかしい!」

咲羽の作ったチャンスを無駄にするものか!そう思い駆け出したのは、桜井だ。それを制止したのは、コピールシファの様子がおかしいと感じた春日であった。

「くく……ははははは…………」

「な、なんか大きくなってない!?」

「まさか……まだ力を隠して……」

足を止め、コピールシファを見ると、徐々に大きくなっているのがわかった。氷の鎖にも、皹が入っている。やがて、コピールシファが全身に力を込めると、氷の鎖は引きちぎられ――

「この月の元に、ふさわしい役者は揃った……さあ、第2ラウンドを始めようじゃないか。」

コピールシファは10メートル程の巨体へと、変化していた。もし、あのまま接近していたら、あの肉体の餌食になっていただろう。そう考えると、背筋が寒くなる桜井であった。



「くっ……」

コピールシファの攻撃は凄まじく、強大なベオルクススの力を持つ筈の桜井ですら、受け止めるのがやっとであった。
コピールシファの巨大な拳を両の腕で受け止める桜井。
単純な力ならば、やや桜井が劣っている程度だろう。決して勝てない相手ではないように見える。だが、コピールシファの恐ろしさは、単純な力だけではないと、これまで戦ってきた本隊の面々は理解していた。

「流石はベオルクスス……けど、良いのかな?このまま私に触れていて」

突如として、桜井が受け止めていた巨大な拳に、電流が流れる。コピールシファが操る雷の力だ。

「うわあああああ!!」

全身に電流が流れる痛みに、悲鳴を上げる桜井。そのまま、地に伏してしまう。そこへコピールシファは、落雷を落とす。

「桜井君!!」

落雷は周囲の木に引火し、その赤を広げていく。まるで地獄のように……
しかし、桜井は落雷の餌食にはならなかった。春日が咄嗟に救いだしていたのだ。

「外したか……まぁいい、炎でじわじわと体力を奪われるが良い……」

「桜井は大丈夫だ!それより、炎を!」

「早く消火を!このままじゃまずいです……」

52ノラ ◆SWPOXuu/ls:2017/08/14(月) 13:37:42 ID:XcQX46DQ0


木々は、燃え盛り、個々の消耗も激しい。皆が焦り始めた中、指示を出す者が

「陽子!あれよ!」

咲羽翼音だ。彼女は、この状況を打破する方法を知っていた。

「あれ……?……そうか!分かったわ!えぇい!!」

この状況を打破する力、それは、大宮が持つ九曜護符の水符だ。大宮は咲羽の指示をすぐに理解すると、水符を付与した破魔矢を、上空へ向けて放つ。すると、辺りに雨のように水が溢れだした。それにより、炎は鎮火する。
それだけではない、さらに、滝のような水流がコピールシファへと降り注ぐ。大宮、咲羽、ノラには、見覚えのある光景だ。

「今よ!咲羽さんっ!!」

「ええ!」

「「凍りなさい!!」」

咲羽がコピールシファに手を向けると、たちまち周囲の水が凍りついていく。
そう、これはあの時、合宿や陽動作戦の時に使用した咲羽の能力と大宮の護符を合わせた策だ。二人は、水符を使用した時から、この策を使うと相互理解していたのだ。

「悪魔と退魔師が力を合わせたか……だが、これで終わりかい?」

退魔師と悪魔の合わせ技に、驚愕を隠せないコピールシファ。だが、巨体と化した彼を完全に凍り付かせるのは、二人の力を合わせたとしても、不可能だった。
胴や足は凍り付いても、腕や頭は動かせる。その両の腕を伸ばし、近くの咲羽と大宮を掴もうとするが……

「まだ終わりではありません!ヴァイオレット・ソウル!!」

「今度は私達の連携だよ!」

「「いっけえええぇ!!」」

右の腕を、紫の炎を纏った銀と黒の二つの剣が。左の腕を、激しく燃え盛る炎を纏った拳が。それぞれ、切り裂き、打ち砕き、燃やしていく。ノラと黄昏の連携だ。

「くっ……」

それにより、コピールシファに、大きな隙が生じた。事態は完全に好転した。少年少女達のこれまでの経験に、生まれたばかりのコピールシファは追い付けていないのだ。

「今だ!桜井!動けるよな!?」

「当たり前だ!ぶっ飛ばす相手が目の前に居るのに、倒れてなんかいられるかよ!」

その隙を、春日と体勢を立て直した桜井は、見逃さなかった。二人は、息を合わせ、跳躍し……

ああ、そうだ。俺達は、このために戦ってきたんだ。

「俺は復讐の為に……」
「俺は平和の為に……」

「「 ルシファをぶっ飛ばす!!! 」」

二つの声が重なったその瞬間、春日の逆説結界を貼った拳と、桜井の獣と化した拳が、コピールシファの両の頬へとめり込んだ。

「っ…………!!?」

大きな音を響かせ、遂にその巨体を倒したコピールシファ。やがて、その身体から黒い煙を上げ、徐々に消えていく。それと同時に、上空の黒の月も、透けていく。つまり、長き戦いは終わり、本隊の少年少女達の勝利を意味していた。



戦いを終えた少年少女達は、消耗し動かない体を休めつつ、その勝利を確かに実感していた。

「やった……遂にやったんだな、俺達……」

「ああ、遂にルシファをぶっ飛ばした……」

複製品とは言え、感覚は共有している筈だ。つまり、二人の拳は、間違いなくルシファに届いたのだ。

「やっと、あの忌々しい月も消えたのね。やっぱり、この街の空には、あんな物似合わないわ。」

「同感。珍しく意見が合ったわね。」

黒の月が消え、見渡すことが出来るようになった夜空を見上げれば、なんだか憎らしい程に綺麗に輝く明けの明星。日の出がもう近いようだ。一同は、暫く、それを見ていた。

「見てください。日の出です。」

「綺麗……なんだか、まるで、私達の勝利を祝うようだね。」

やがて、明けの明星も、昇る太陽の光により、見えなくなっていく。それは、まるで、彼らの勝利を祝うかのように美しかった。









……しかし、忘れてはいけない。明けの明星は、太陽の光によって見えなくなっているだけで、そこに存在しているということを……

「………………」

幻影城の玉座にて、口元から一筋の血を流したルシファ。その表情は、暗い闇に覆われ、誰にも伺うことが出来ない。ルシファがこの戦いで何を思ったのか、今は誰にも分からない。

53黄昏 向日葵 ◆WnQfyNHn5I:2017/08/16(水) 11:41:51 ID:EA.i.G8.0
【数日後ーーー】

「うん、私はここに残るよ。大丈夫…パパこそ、身体壊さないようにね。」
コピールシファとの戦いが終わって数日が経ち、陽子と直斗の勧めで実家に居る父親に電話を掛けている。
私が陽子の家に押し入ってから、一回も実家に連絡してなかったからね。
引越した事も実家に言ってなかったけど、パパが海馬市のAPOH職員に連絡して大宮神社に居る事を知ったらしい。
パパは仕事ばっかりのママの代わりに家事をやりながら退魔師の仕事をこなしている。
私には三人の姉貴が居るけど、みんな家を出て退魔師としての仕事をしてるからね…
それを陽子と直斗に話したら、今直ぐ実家に連絡しろって言われたわけだ。

「色々あった。うん、解ってる。みんなに良くしてもらってる。」
私は海馬市で起こった事をパパに話す。
直斗との出会い、陽子に良くしてもらってる事、風祭さんが陽子の事を紹介して貰った事…
そして、コピールシファとの戦いの事…

「後ね…姉貴達と会ってた…あれって…」
みんなが退魔師としての強化合宿に参加してた時の事だ。
私が参加出来なかった理由…
あの時、私は三人の姉貴達と一緒に悪魔達の討伐に向かってた。
姉貴達は突然、海馬市の市役所にやって来て、私を車に乗せて悪魔討伐へと向かったワケだ。
悪魔達は手強かったけど、姉貴達と力を合わせて倒せたってワケだ。
後から聞いてみれば、あれはパパが勝手に許可したらしい。しかも海馬市を通して…
そこまでしてあの場所に行った理由は解らない。
主導してた姉貴の一人は教えてくれなかったし、
他の姉貴も他の仕事を止めてたって話だったからね。
だけど…主導してた姉貴が言ってた“宮子”って言葉…
友達かな…姉貴は教えてくれなかったけど、
パパに聞いてみれば、“宮子”って人は独立部隊って言うのに所属してたらしい。
姉貴の一人もそこに居たって言ってたっけ。
そう言えば、独立部隊に居た人って海馬市に居たような…
私はパパから話を聞いた後、電話を切り、その場を後にする。
妙な胸騒ぎを残しながら…
あの時は気にして無かったのに、今になってどうして…

54稲葉竜也 ◆3wYYqYON3.:2017/08/20(日) 03:35:09 ID:KWGlvlj60
>>46

「へぇ……よく知ってんじゃねえか。光栄だな」

硝煙が銃口からたなびく機関銃を、ゆっくりと草薙へ向ける竜也。
オメガから与えられた悪魔や退魔師に関する知識はさわり程度のものだ。オメガについての過去も、目の前の人間が何者かも、竜也には知る由もない。
……もっとも、その辺りの話を竜也は気にしないのだが。

「あぁ、悩む間もなくつぶれちまった。お前はもう少し、骨があればいいんだが……な˝っ!?」

引き金を引こうとしたその瞬間、唐突に竜也のそばの瓦礫が爆ぜた。
本物の爆発に勝るとも劣らない不可視の一撃は数十の破片をばらまき、そのいくつかはあっさりと竜也の身体を貫き、赤を無造作にまき散らす。
そして、数十キロ単位の破片のシャワーによる追撃。竜也の肉体は今や原形をとどめたパーツのほうが少なく、自らで作った惨状にあまりに見合ったものとなった。

「……ぁあぁ……いいねぇ……やってくれるじゃねえか」

だが、周囲の電波局や電子機器からの緑色の光により、その身体は見る見るうちに再構築されていく。
「オメガ」によるバックアップの起動。陽動作戦の時、神社で見せたものと同じだ。

「一体どうやってくれたんだか、知らねえが……」

竜也はデータ化され、強度を底上げされてはいるものの、素の戦闘技能においては荒事慣れしたやくざ程度(武器はその都度オメガにより使い方をインストールされている)故に、草薙の攻撃の種を見抜くことはかなわない。
しかし、その手元にはひときわ大きな鉄の棒状の物が形成されていく……。

「お返しだ」

瞬く間に作り上げた、人間の身体で持つにはあまりに不釣り合いなその兵器────戦闘機用のガトリング砲を両手で腰だめで構え、大きく口元を歪ませる。
草薙の先ほどの攻撃が触手によるものであれ爆弾によるものであれ部下によるものであれ、竜也にとっては些末な、実にどうでもいいことに過ぎない。
楽しめ、最終的に潰せれば、それでいいのだから。

それが吐き出す毎分数千発の大口径弾を、竜也幼児がホースで水をばらまいて遊ぶかのように撃ち込む。
草薙だけでなく、その後ろの部下たちも含めた面制圧攻撃。
しかし、戦車の装甲さえ撃ち抜く威力の代償たる数トンの反動を受け、データ人間たる竜也も無事ではない。強化された肉体に守られているはずの臓器はいくつか潰れ、耳も至近距離の発射音のためにもはや機能しない。
それでも、竜也は嗤いながら、引き金を引き続けるだろう。

55 ◆UBnbrNVoXQ:2017/08/27(日) 13:53:19 ID:R3rU1bJo0
>>54

オメガの存在を知っていた草薙が、そのバックアップによる再起動を知らないはずがない。
竜也は知る由もないだろうが、周囲の電子機器のうち幾つかは、再生までの間に触手によって破壊されていた。
それにも関わらず即座に舞い戻ってきた姿に、草薙は珍しく演技ではなく素の表情で目を見開く。

――これには、皮肉にも彼がAPOHの中でも上位の幹部クラスであることが起因していた。
地位が上がれば自ずと交渉事が増え、比例してそれ以外の仕事からは遠ざかる。
前線に立つことは勿論、些細な事務作業からもだ。
そして、そもそも出世が早く名だたる戦績と言えば冷戦の頃に遡る草薙にとっては、一般にここまで電波局や電子機器が普及した風潮は、知識として知っていても感覚として追いつかない。
事実、二十年も前であれば、今の破壊活動でオメガの息の根は止めれずともバックアップを妨げるには十分だったのだ。

「…………老いるとは、嫌なものだねェ。食事も戦闘も女を抱くことも、若いというだけで青二才どもが邪魔をする」

吐き捨てた言葉は、ガトリング砲を生成する竜也に届いただろうか。
人命の為の防衛戦とも言えるこの状況を世俗的なものと並べて語るその語調は、かつての部下が聞けば眉を潜める者もいたかもしれないが、幸か不幸か此処にはいない。

草薙が築き上げてきた、全てを手中に収めるための人脈(コマ)は、此処にはいない。

暴風雨という例えでは温過ぎる、鉄の塊の嵐が草薙に向かって降り注ぐ。
無差別な面制圧攻撃は、草薙にとって対抗することの難しい攻撃のひとつだ。
本来であれば避けるべき局面、それを避けられなかったのは。

たかがアリバイ作りという捨て置いても自分への疑惑が多少薄れる程度の理由のために戦場に出てしまったためか。
あと十数年機会を待てば自ずと現れたかもしれない野心成就の機会が、可能性は低くともいち早く現れたことによる、時代の誤認と慢心か。
――それとも、長らく自身が作り上げた権力の庇護で隠されていた、強者として混沌とした戦場を愛でる男の側面が、本人の生存という一点においては最悪の形で、顔を出してしまったのか。

果たして、嗤いながら引き続けられた弾丸の先、手元に残していた触手全て……否、展開していた10本の触手全てと引き換えに、草薙は生きていた。
尤も、その姿は、既に命があっただけでも奇跡と言える様相を呈している。
膝をつき、彼のために仕立て上げられたスーツは見るも無残な姿となり、右手は落ちて金時計が地面に転がっている。ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返しながら、草薙は尚も獲物を見据える蛇の眼光で、竜也を見据える。

「……あと、少しなのだよ……あと一手、あと一度……私の……能力者の、世、界……」

それは既に、「黄金の英雄」でもなければ「APOH西日本統括次官補」でもない、一人の男の野心と妄執の成れの果て。

「さァ、続けよう、じゃア、ない、か……ククッ……」

それでも彼が嗤うのは、彼にはもう野心しか見えていないからだ。
十数秒も待てば触手が復活し、眼前の敵を絞めて、殺せずとも再起動の時間に持っていくことは出来ると考えているからだ。その間に周囲の電子機器を壊してしまえば良い、と。
――互いに満身創痍、されど再生という意味では既に人間とは言えない竜也に対し、いかに戦闘に優れ交渉に秀でていようとも草薙はあくまで人間で、仮に手を下されずとも後は死を待つばかりという戦況が、血と冬の寒さで霞んだ目には、もう見えていないのだ。


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