[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
| |
海馬市陽動作戦 Who has "gift" for the sacrifice ?
1
:
プロローグ
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/26(金) 00:15:29 ID:R3rU1bJo0
その日、会議直後の海馬市市役所第三総務課に異常を告げたのは、腐臭、だった。
半死半生で立っていたのは、数日前行方不明になったAPOH職員。何かを告げようとして成せず、崩れるように倒れ伏す。
彼を支え、とにもかくにも治療しようと各々が動く中で、男の手から封筒が滑り落ちた。
拾い上げた佐倉に、四羽が視線を向ける。
ヴァイオレットが佐倉へと近寄っていく。その眼差しは鋭いものだ。
「そりゃ何だい、斎」
躊躇いなく封を切り、中身を改めた佐倉は、端的に答えた。
「――宣戦布告、みたいですよ」
誰からの、と告げる代わりに、便箋を広げてみせる。流麗な筆跡。
薄い笑みが見えるような口調で、差出人はかく語る。
次の金曜日、18時……冬ともなれば完全に日が落ち切った時刻。
商店街、神社仏閣、そして市役所を同時多発で攻めに伺う。
ただし、市役所を攻める自分は、最初の1時間だけ海馬岬に留まろう。
被害を甚大化させたくなければ、自分を楽しませられるだけの戦士を送って寄越せ――。
――差出人は、堕天六芒星少将。【腐敗の永世棋魔】サヴァノック。
2
:
市役所
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/26(金) 00:20:10 ID:R3rU1bJo0
日没を迎えた、週末の海馬市市役所。
他の部署が定時を迎えて三々五々街へと繰り出す中で、第三総務課だけが張り詰めた空気を維持し続けている。
静寂を破ったのは無線。
一番手は海馬岬への到達報告、次いで予め商店街と神社仏閣へ配備された者たちからの悪魔出現報告。
市役所前にも下級悪魔や眷属たちは現れたとの報を受け、戦闘向きの職員が飛び出していく。
会議室はやにわに騒然とし、落ち着く頃にその場に残ったのは、ほとんどが後方支援の職員。
悪魔を殺すことが出来ない佐倉も当然そちらに配備され、いくつかの防衛拠点の情報を整理している。
自分の担当に回された拠点に教え子たちが配備されたと聞き、送り出すことへの不安半分、多少支援の融通が出来ることへの安堵半分で、支給されたノートパソコンのキーを叩く。
すぐ近くではセリエが珍しく他の職員たちと打ち合わせをしている。
注意して聞かずとも耳に差し込まれる単語で、海馬岬に行く退魔師達に武装を提供しているようだと知れた。
高くつくぞ、と思っていると視界の端を白衣が掠めた。
「《蹂躙の焔》について何か分かったことがあればメールする。お前も何かあったら連絡しろ」
「了解。……セリエさん、露骨に草薙次官補睨むのやめようよ」
「あいつは気に食わない。警戒しすぎるくらいで丁度いい」
否定も肯定もせず笑うとそのまま踵を返して去られた。大方研究所に戻ったのだろう。
睨まれていた草薙もどこかへ消えた。
これでこの場にいる人間で戦闘が出来るのは一人か、と画面を見ながら思う。
直後、その本人から声がかかった。
「斎、ちょっといいか」
「ん?」
振り返ると、四羽はご丁寧にプリントアウトしたらしい書類を数枚渡してくる。
警察署から届けられる全国指名手配犯のリストをピックアップしたものだ。入手に多少難儀はすれど不可能ではない。
「悪魔を呼び寄せやすい人間ってのは、無欲か強欲、両極端だ。
で、後者のほうは罪人が多いから防衛省のツテ当たってみたら……
ビンゴだ。複数人、悪魔との関与の疑いありでこの街にいる。
こいつら暴れる可能性あるぜ。……お前のほうのツテで、絞り込める情報は?」
「…………、いや、ない」
「分かった。現状での遊撃は指示系統乱すから待機してるが、お前の見立てが違ったら言え。今の僕はお前の駒だ」
頷くと、ひらりと手を振られて着崩れたスーツも離れていく。その背を眺めながら佐倉は眉を顰めた。
悪魔との関与の可能性がある指名手配犯がいる。――否、指名手配犯がいる時点で、上野から情報が来てもいいはずだ。
それが、一切ない。別におかしいことではないが、違和感がある。
自分の思考に沈みかけた佐倉だが、その眼差しは再び画面を眺め始めていた――。
3
:
神社仏閣
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/26(金) 00:22:34 ID:R3rU1bJo0
佐倉が見ていた画面の文字のひとつに名のあった、街中にひっそりと佇むとある神社。
大宮神社と縁のある神社であったことから、大宮神社の筆頭巫女たる大宮が駆り出されていた。
大宮神社自体が今回の襲撃対象からは外れていたことも、大きな理由のひとつだろう。
同じ神職だからという本人たちに聞かれれば大雑把極まりないと憤慨しかねない理由で、ヴァイオレットがここの監督ということになっていたのだが、現在ここに彼女の姿はない。
代わりにいるのは、ヴァイオレットの弟子たる少女。
弓をつがえる大宮を、ノラが守るように立ち、近寄る影を悪魔化した腕で払う。距離を置こうとした眷属たちは、放たれた破魔矢で一掃されていく。
「ありがとう、助かったわ」
「いいえ。少しでも先輩の役に立てたんでしたら、何よりです」
「十分よ。……でも、油断はしないで。貴女の師匠の代理として来ているなら、尚更」
「……、はい」
ヴァイオレットも、来ようとしていたのだ。前夜、銀の剣に万一にも刃こぼれがないか確認する姿を見ていた。
その姿は絵画の女騎士のようで、ノラは大事な師匠が戦いに出向き帰ってくることを信じて疑っていなかったのだ。
――その身体が、見送りに出た玄関で、不自然に傾ぐのを見るまでは。
支えた身体は覚悟していたよりもずっと軽く、季節のものではない冷えに襲われていた。
いつも厳しく温かい双眸が虚空を彷徨っているのを見て、ノラは叫ぶように頼み込んだのだ。
マザー、私が行きます。私が代わりに戦います。だからマザーは、……ここにいて下さい。
ぽん、と軽く肩に置かれた手に一瞬縋るようにして、一人でどうにかベッドに運んで、修道院を出た。
失いたくないのだ。守りたいのだ。
師匠も、師匠の代役を務めると言いつのったときに溜息と小言ひとつで容認してくれた、隣にいる先輩も。
そして、自分たちのやりとりを見て仕方ないと肩をすくめてくれた、APOHの大人たちも。
敷地内に入り込んだ第一陣の眷属を粗方退治した後、どちらからともなく一息つく。
ふと、ノラの耳朶を人の声が叩いた。声、というのは正確ではない。正確には、……人の、悲鳴。
「声が……」
「声?」
「すみません先輩、私、見てきます!」
「あっ、ちょっと……!」
大宮の制止も間に合わず、ノラは駆け出していく。せめて追いかけようとする大宮だが、第二陣らしい眷属たちに阻まれる。
「っ、もう! どきなさい!!」
祓い、払い、着実に悪魔の数を減らしていく彼女は、しかし気付かない。
サヴァノックの眷属のはずの彼らが、何故か蝙蝠を模す意味に。悪魔が戯れに散らしたヒントに。
そして、たった一人で走る少女は――……眷属ではない、悪魔の気配に立ち止まる。
これもまた、正確ではない。眷属ではないのではなく、眷属が一気に消えた気配と、悪魔でなければおかしい残忍な気配。
眷属たちの骸の上、退魔師を何度も殴り、血泡を吹かせて嗤う男。
「……この程度かよ。大したことねぇなあ。なぁ、もっと俺を楽しませてくれよ……?」
立ち尽くすノラに気づいているのかいないのか、竜也は大きく拳を振り上げた――。
* * *
その、眷属だけでも溢れかえるほどの数の悪魔が動いては増減する気配に、同族が気づかぬはずがない。
「嫌な風ね……」
神社から通り二つ分離れた商店街の入り口で、咲羽は呟き柳眉を跳ね上げる。
「私は、自由でいたいのよ。自由に、面白い子たちを見ていたいの」
誰に言うでもなく憤り、周囲に人の気配がないことを確認して翼を広げる。
自分は誰の味方でも誰の敵でもない。だから、自分のやりたいように動く。
黄昏の空に、自由を謳う翼が飛び立つ。その行く先は彼女だけが知ることだ。
4
:
商店街
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/26(金) 00:25:30 ID:R3rU1bJo0
悪魔の気配に敏感なのは、半悪魔であっても同様だ。
大宮とノラが戦っていると聞かされた神社のほうを眺めて、桜井は小さくひとりごちる。
「大丈夫かなあ、あいつら」
「人の心配をしている場合か。下級悪魔だからと油断していると足元を掬われるぞ……、っ、桜井!」
「うわっ!……っと」
独白のつもりだった言葉を春日に拾われ苦笑するのも束の間、人型の下級悪魔に殴り掛かられどうにか避ける。
咲羽がいた商店街からそう遠くない場所にも関わらずシャッター街となった此処は、悪魔たちの格好の侵略場所だったらしい。
体勢を崩した相手に掌底を打ち込んで意識を沈めると、どこからかせせら笑う声が響いた。
『殺す気で来た者も殺さぬか。相も変わらず面白い小僧よ』
「……」
『己を殺すという末路だけは、友に背こうと貫くつもりでおるというのに、なあ?』
「……うるせぇ。……わからないんだよ」
弱々しく呟く。背後から来た悪魔を振り向きざまに逆結界で弾き飛ばした春日が呼びかけてくる。
「桜井?」
「いや……、そう、今回の騒ぎの元凶って、わざわざ挑戦状送ってきたんだろ? 訳わかんないなって」
「ああ。これだけ被害を出している悪魔にこの言い方は不快なんだが……最低限の筋は通す悪魔だな」
「……有名なのか?」
「【腐敗の永世棋魔】、そう呼ばれてる」
その言葉に、桜井は身の内がざわつくのを感じた。ベオルクススの、笑声だ。
ベオルクススは、その通り名を知らない。だが、よく似たものを知っている。
――【腐敗の棋魔】と呼ばれ、自分が討伐されるほんの十数年前に堕天六芒星の少将に任じられた悪魔。
大将閣下、と自分を呼んだ、その頃はまだ青年と呼べる外見をしていた男。
もしも、彼であるならば。
なんだよ、と桜井が言うより先に、岬の方角から並の悪魔とは比べようもない気が流れ込んだ。
* * *
その気に、同類が気付かないはずがない。
「……本っ当、真面目だねえ、あいつは」
くつくつと笑う声に、決して揶揄の響きはない。ヴェルゾリッチが岬へと向ける眼差しは好ましいものを見るものだ。
無人になった商店街から続くマンション群。その間を、悠々と歩く。
辺りに人影はないが、少し歩けば、誰かいるだろう。何せ、此処からそう遠くない駅前から悪魔の声が聞こえている。
「みぃーんなー、ちゃあーんとのーみそ溶けてるゥ?」
「「「「「とけてるぅぅぅ!!!!!」」」」」
「……勝手気ままにやりたいことやってる奴もいるってのに」
キャンデロロロに向ける独白も棘ひとつない。だが、しばらく歩いた後に軽く首を傾げた。
「おっかしいな……シェリーちゃんとこの常連が、ここに来てるって話だったんだが……、!」
独白は途中で止まる。どさり、とビルから落とされた下級悪魔の姿によって。死んではいない、だが、虫の息だ。
明らかに、捕まえた後に意図していたぶった形跡。
怒りに燃えた目で落ちてきた先を見上げるならば、逃げるように窓から離れる影が見えるだろう。
――そして、その影たるAPOHの中堅職員は、震える声で携帯電話越しに指示を仰ぐ。
「こ、これで次の会議では私を推して下さるのですよね……!?」
『ああ勿論だとも。あとは気を付けて帰ってきたまえ、ククッ……』
草薙の歪んだ口元が鮮やかに浮かぶような声に、彼は蛇に睨まれた蛙のごとく息をのみ、その場に凍り付いていた――。
上司は確かに恐ろしい。しかし、堕天六芒星は、同等、いやそれ以上に、恐ろしい。
5
:
海馬岬
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/26(金) 00:27:57 ID:R3rU1bJo0
堕天六芒星の名を冠するその男は、佇む姿だけならばひどく脆弱そうに見えた。
しかし、海馬町にいる退魔師の中では選りすぐりの精鋭たち十二名を前に、薄く笑って両腕を広げ、歓迎の姿勢を見せる。
「ようこそ、退魔師諸君。まずは此処へ来た勇気を称賛しよう。そして……まずは彼等とお相手願おうか?」
眷属が現れる。その数、六十四体。退魔師の五倍以上の数だが、それでひるむことはない。
ある者は剣を、ある者はセリエから提供された武装を、ある者は銃を。それぞれの武器を手に、立ち向かっていく。
――その中に、日々菜の姿もあった。
他の職員と背中合わせで息を合わせ、走り出しながら魔人化してまずは一体。
敵討ちとばかりに飛び込んでくる餓鬼を模した眷属を沈め、槍を振るう人型へと飛びかかり年嵩の職員を救う。
「次!」
正しく鍛錬を積んだ日々菜にとっては、眷属相手は同僚との模擬戦よりも温い。ただ、数が多いだけだ。
囲まれては撃破し、逃げられては追ってとどめを刺す。
じわじわと薄くなる守りに、中心に立つ男が胸元のペンダントに手をかざす。
「ほう……。なかなか楽しませてくれそうだ。誰が最初に私まで辿り着く?」
輝くそれは十字架にも見えて、悪魔にはそぐわない。
そう思ったか否かは分からないが、職員の中でも特攻に長けた男が太刀を振りかぶって叫ぶ。
「余裕ぶってんなら、アイツらの敵取らせてもらうぞサヴァノック――!!」
怨念と憎悪に溢れた言葉。悪魔によって戯れに殺された者の遺族全ての思いを全て背負ったような。
彼に続く仲間が、屠った大型犬を模す眷属を投げてサヴァノックの視界を遮る作戦に出る。
骸で顔が見えなくなる寸前、彼は不快そうに目を眇めていた。
小癪とでも思ったか、それとも仲間を利用されたことに腹を立てたか。
サヴァノックが左足を引き、腰を落とす。居合の構えと、日々菜の目が捉える。
相対する職員も刀使いだ、構える、しかし。
懐にそのまま飛び込まれ、突如現れた長剣の柄頭が喉へと刺さる。
呻き声は一瞬、長剣が一閃。
鉄臭は腐臭へ、断末魔は今にも絶えなんとする怨嗟の声へ。
自ら血を被る形で彼は、続くつもりだったのだろう仲間を斬り捨て、その胴に剣を突き立てる。
白い服を緋色で染め上げた男は未だ人の姿を崩さないまま、他とは比べ物にならない気を解き放った。
それは堕天六芒星たる証であり、それを差し引いても武にも策にも優れる者であるという自負。
サヴァノックが、冷酷に笑う。
「生憎と、邪道相手に正道でお相手する性格はしていない。さあ、次は誰だ?」
日々菜の前には眷属が三体。首魁も走り出せば届く距離。果たして、策略は――……。
6
:
夜桜学園
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/26(金) 00:31:23 ID:R3rU1bJo0
そして、真実喧騒からは遠い場所。夜桜学園、図書室。
今日も今日とて図書委員の業務に勤しんでいた沙里亜は溜息をつく。
「篠崎さん、どうしちゃったのかな」
以前のマユは、おとなしそうな印象こそあったものの、貸し借りの際に二言三言会話をしてくれる後輩だった。
のみならず、おそらくアルバイト先だったのだろう映画館で会ったときは何くれと世話を焼いてくれたのだ。
それなりに親しい後輩……と沙里亜は思っていたのだが、ここ最近は全く話しかけられない。
笑顔を向ければ会釈は返るが、それさえどうも他人行儀だ。何かあったのか、それとも自分が何かしてしまったのか。
皆目見当がつかない悩みにもう一度息を吐き出すと、これではいけないと頭を振る。
そのとき、いつかと同じようにがらりと図書室の扉が開いた。だが、現れたのは佐倉ではない。
「下校時刻ですよ、皆さん。読書は紳士淑女の嗜みですが、そろそろ帰りなさい」
英語教諭のセキモトだ。そして沙里亜のほうにも、あの時と同じようには出来ない理由があった。
「すみません、セキモト先生。
通っている教室の先生に、高校の先生に知り合いがいるから連れてきて貰いなさいと言われていて……
もう少し、待っていてもいいですか?」
咎めの言葉が来るかと身をすくませながらの言葉だったが、セキモトは鷹揚に笑って問い返す。
「その必要はありません。その先生、というのは、神村春英のことでしょう?」
「え、ああはい、そうです。もしかして、セキモト先生が……?」
「彼とは古い知り合いでしてね。ついこの間バーで再会したばかりですが」
「そうなんですか……。良かった。神村先生が、誰かが迎えに来るからって名前を教えてくれなくて」
彼は存外意地の悪いところがありますからねえ、と取り成すように紡ぐセキモトの口ぶりは、旧知の者を語るそれだ。
だから、沙里亜は信用してしまった。
自分の安否を気遣ってくれる優しい大人の、友人なのだと。その前提自体が間違っているとも気付かずに。
帰り支度をした図書委員の後輩を見送り、自分も支度をしてセキモトのもとへと近づいていく。
「それでは参りましょう。ああ、実は時計塔に用事があるのです。そちらに寄っても?」
「はい、勿論です。お手数おかけします」
「いえいえ」
教師と生徒が並び立ち、黄昏時の廊下を歩く。
安堵したように仄かに笑む沙里亜を流し見て、セキモト……否、ブロンドバロンは、にやりと笑む。
そこにいるのは――悪魔と、その生贄。
その二人の後ろ、廊下からひょこりと少女が顔を出した。
じいっと遠ざかる姿を眺めていた彼女……リリスバシレイアは、小さく呟く。
「つまんないの」
ただ、一人の人間を連れ出して生贄にするだけではないか。
どうしてそんなことをしなければならないのか。どうして、そんな簡単なことに回りくどい準備が必要なのか。
「何か面白いことが起こればいいのに」
まるで、自分の陣営の計画に波乱や破綻が起こることこそを望むかのように続けて、少女は無邪気に笑った――。
7
:
桜井直斗
◆o/zdiZN8A2
:2016/02/26(金) 01:42:36 ID:if7ZXLvA0
>>4
「そんな名前があるって事は凄い悪魔なのか?」
「────ん? あぁ、かなりの手練れらしい。悪魔の中では新顔らしいが...この通りだ」
街で発見された腐乱死体、APOHが相手するが未だ討伐に至らないというと春日の言う通り手練れらしい
だがその眷属である下級悪魔相手なら然程苦労はしない
ただ人を襲うという本能だけなのだろう
動きは単調、連携もしない悪魔集団だ
ただ本能で新鮮な肉を貪る悪魔を前に春日も、桜井も覚悟を決めて応戦している
その【腐敗の永世棋魔】とやらに忠実な眷属の悪魔は話し合いすらできる相手ではない
この眷属たちは殺すしかないと、そう割り切って
ぐじゃり、と瞬間で獣化させた右足に蹴りを悪魔の胸に叩きつけて息を吐く
この量と質────これなら俺と春日で相手できる
ただ正気を失って襲いかかる烏合の衆といった印象だ
全身獣化を使うまでもない
この程度なら勝てるとそう確信していた時に
「────────ッ!」
「...どうした? 桜井」
ぞわり、と嫌な予感がした
遠くからこちらを背中を撫でるような、不快な感覚
その感覚が何であるか分かる前に頭の中で彼が口を開く
『────岬だな。ここよりも濃い瘴気が流れておる。
ふむ────悪魔の数が段違いだ』
「あぁ、そうだな...俺もそう思う──────春日! 岬の方に凄い数が来ている!」
「岬...? ────そうだな、わかった! 移動しよう!」
最後の一匹を殴り殺して、春日も賛同する
ここから岬に走ればそこまで時間は掛からない
岬にいる仲間は誰だったろう。だがそこまで人数はいないと思う
だとしたら危険だ────あの場所に感じる悪魔の数は比にならない
桜井と春日はそのまま岬へと走り出した
『(もしも本当に彼奴なら────こんな単純な策は立てんだろうがな...さて)』
そう強欲の悪魔は喋らずともそう感じ
少年の目から岬を睨みつけていた──────。
8
:
◆CELnfXWNTc
:2016/02/26(金) 11:42:11 ID:ic7ua0Ws0
声を聞き取り、駆け付けたノラの先に居たのは、異様な男と、顔面を何度も殴られ、もはや原型を留めていないAPOHの退魔師だった。
異様な男稲葉竜也、ノラは彼に見覚えがあった。指名手配犯だ。退魔師を執拗に痛め付ける残虐なやり口からも、間違いなかった。そして、退魔師をこうも一方的に嬲れることから、唯の人間でないと分かった。
もしかして、悪魔なのだろうか?そんな疑問も浮かぶが、それより……
「な、なんてことを……」
残虐な手口に怒りが込み上げる。ノラは、翼を生やし剣を作り出すと、竜也に怒りの視線を向けた。
「お、このボロ雑巾よりは、楽しませてくれそうだな。」
ボロ雑巾こと、顔面が崩壊し、たった今事切れた退魔師を投げ捨てると、竜也はノラと対峙する。
「酷い……許しません!」
◆◆◆
「う……ああっ……」
「なんだよ。弱いじゃねぇか。」
果敢にも竜也へと挑みかかったノラだったが、その実力差は圧倒的だった。APOHから一級の指定を受けた竜也と、退魔師見習いのノラ。どちらが強いかは、言うまでもないだろう。
そもそも、怒りの感情に流され、一人で竜也に挑んだのが間違いだったのだ。出動前にも、ヴァイオレットから「感情的になっては駄目だ。自分の命を最優先しな。」と言われたというのに。過信もあったのだろう。合宿を終え、ヴァイオレットに誉められ、皆を守れる程度には強くなったと思い込んでいたのだ。
「さっさと潰すか……まずは、右足。」
「うああっ!?……ああああっ!!」
竜也は、肉体改造により、腕を鎚に変えると、地に伏せたノラの右足を何度も何度も殴っていく。その度、悲痛な叫び声と、骨が砕ける音が響く。これで、逃げるという選択肢を潰されただろう。
「煩い。いちいち叫んでんじゃねぇよ。」
叫び声が気に食わなかったのか、竜也はノラの腹部を蹴り飛ばす。
「うぁっ!!……げほっ……ぅぇっ……」
蹴飛ばされ、血反吐を撒き散らしながら、木に激突するノラ。
「うわっ、汚ねえなぁ。つーか、弱すぎ。」
木にもたれかかる形となったノラに、竜也は近付き、その髪を強引に掴むと
「うっ!?ああっ!?痛っ!?やめ……ああっ!?うあああっ!?ああっ!?」
顔面を何度も何度も木へと叩き付けた。ノラの顔は腫れ上がり、鼻や歯は折れ、無惨な姿へと変わっていく。
「そろそろ終わりにするか。じゃあな。」
そして、ノラを掴んでいない方の腕を銃へと変えると、その引き金を……
「おっ!このボロ雑巾2号よりは楽しめそうだな。」
引けなかった。大宮陽子により、矢が放たれたれ、それは阻止されたのだ。だが、恐ろしいことに矢は命中していない。竜也は、銃へと化していた腕を、直ぐ様人間のものへ戻し、なんとそれを掴んだのだ。
9
:
◆CELnfXWNTc
:2016/02/26(金) 11:42:42 ID:ic7ua0Ws0
◆◆◆
時は少し遡り、ノラと離れて間もない頃。大宮陽子は、眷属の群れと戦い続けていた。
数が多くても、所詮は眷属。陽子の敵では無い。大きな怪我も無く、殆どの眷属を蹴散らしたが……
「……ノラちゃん……無事で居て……」
眷属達は、時間稼ぎとしては充分な働きをした。簡単に倒せるとしても、数が多ければその分時間が必要になるのは、当然だ。
もしや、分断させる敵の作戦だったのだろうか?いや、今は考えている場合じゃない。
一刻も早く、ノラの元へ向かうべく、陽子は足を早めた。そんな中、聞こえてきたのは……
「うっ!?ああっ!?痛っ!?やめ……ああっ!?うあああっ!?ああっ!?」
ノラの悲痛な叫び声だった。陽子は、その声の方向へ急ぐ。そして、木々の間から目に入ったのは……ノラに銃を突き付け、引き金を引こうとしている男の姿だった。
「ノラちゃんを!放せっ!」
ノラを助けるため、急ぎ矢を放つ陽子。だが、その矢は、竜也に掴まれてしまった。
「おっ!このボロ雑巾2号よりは楽しめそうだな。」
掴んだ矢をへし折り、傷付いたノラを投げ捨てると、陽子に向き直り、そう笑った。
◆◆◆
「くっ……」
「おいおい、もう終わりか?」
何度、矢を射っても竜也は、腕を銃へと変え、全て打ち落としてしまう。ならばと、直接矢を突き刺そうとするが、今度は圧倒的な身体能力で回避され、逆に蹴りを入れられてしまう。
駄目だ。隙が少なすぎる。それに、倒れたノラも心配だ。未だ血が流れ続けているし、危ない状態だろう。ここは、撤退し、ノラの治療を急いだ方が良いだろう。
(撤退……出来るかしら……いえ……してみせる!)
陽子は考える。何か撤退する方法が無いかと……そして、ある策が思い付いた。
「はあっ!」
「?どこを狙って……まさか!?」
まず、上空に向け、矢を放つ。一見すると、意味の無い行為。だが、その先には木々の葉が。そして、放ったのは『業火の力を得る火符』を付けた燃え盛る矢だ。その一撃を受け、葉が、枝が、雨のごとく無数に燃え落ちてくる。
竜也の前では、これでも目眩ましにしかならない。だが、逃げるには充分だ。火の雨が鎮静化した頃、既にノラと陽子、二人の姿は近くには無かった。
◆◆◆
陽子の作戦。これにより、撤退は成功しただろうか?否、足を潰されたノラを連れ、撤退するなど簡単ではない。故に、少しの距離しか離れられなかった。とりあえずは、身を近くの木陰に隠し、ノラの応急処置をする。
なんとか、致命傷にはなっていないようだが。足を潰されているのだ。戦いは無理だ。それに、動けない人間というのは、重い。
こんな状態のノラを連れ、撤退など出来るだろうか?恐らく無理だろう。ノラを捨てれば、撤退は可能だろうが、ノラを見捨てるなんて選択肢は、最初から存在しない。ならば……
「戦う……」
戦うしかない。一人では敵わないかもしれないが、周囲の眷属は一掃した為、増援の期待が出来るだろう。そうなれば、勝てない相手では無い筈だ。
そうだ、やるしかない。そう決意し、陽子は木陰から様子を伺った。近くには、既に竜也の姿が。気付かれるのも、時間の問題か。再び、陽子と竜也の戦いが始まる時は近い。
10
:
◆3wYYqYON3.
:2016/02/27(土) 00:36:49 ID:tVFZhA6M0
>>9
「ハァン……かくれんぼのつもりか?」
炎による目晦ましにより、竜也は二人を見失った。
しかし、この短時間では、そう遠くには逃げられていない。竜也はそう予測する。
ちまちま探すような真似は、性に合わないといわんばかりの口調だ、が……
「いいぜ……付き合ってやるよ」
左腕が緑色の閃光に包まれ、その輪郭を変えていく。
そうして出来上がったのは、チャッカマンを腕のサイズに巨大化させ、いくつかのパーツが取り付けられたような物体___
「折角だ……燃やし方の手本を見せてやる」
その物体____火炎放射器が、神社へ向け炎の帯を伸ばした。
木造の建物である本殿へ灯った炎は、瞬く間に燃え広がっていく。
その間にも、辺りの茂みや木々へ炎の帯は伸び、辺りは一面火の海と呼ぶべき状況へと変貌する。
当然、木陰へ隠れる二人にも炎は迫りくる……!
「あいつ、なんて奴……!だったら!」
炎に囲まれる大宮とノラ。このままいけば、後ろの木ごと二人はBBQと化すだろう。
ならばと、破魔矢に『水符』を付け地面へ突き刺す。
すると、周囲の地面から水が噴水のように噴出し、炎と二人が隔てられる。
取りあえず、これで二人は安心だろう……
「……見ーっけ」
「!?」
竜也に見つかってしまったことを除けばの話だが。
身を守るため仕方なかったとはいえ、火の海の中から水が噴出すれば、目立つのは明らかだ。
その結果、二人は竜也に「炙り出された」形となってしまったのだ。
竜也は右腕を再び短機関銃へと変形させ、二人は銃口を向けられ……
「安心しろ……両方しっかり、殺ってやる」
数十発の弾丸が、容赦なく二人へと殺到する。
「くっ……はぁぁぁあ!」
それに対し大宮は、すかさず『土符』を矢へ付け、岩で防御壁を作り出し弾丸を弾く。
回避すれば、ノラが蜂の巣と化す。ここは何としてでも、耐えなければならない局面だ。
しかし、1分に数百発のペースで休みなく襲う弾丸と、『水符』と『土符』の2枚同時使用が徐々に大宮を消耗させていく。
正にジリ貧のこの状況。このままいけば、二人纏めてBBQか、蜂の巣か、それともノラを見捨てるかの3択を強いられることとなるだろう。
果たして、2人に救いはあるのだろうか……?
11
:
市役所2
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/27(土) 03:24:22 ID:R3rU1bJo0
>>2
海馬市役所地下研究所。
甲高いエラー音にセリエは顔を上げた。数分おきに自動更新をかけている機械からだ。
まるで悲鳴のようだ、という感慨を浮かべることもなく、無造作にボタンを押して黙らせる。
提供した武装のどれかに異常が出たかと更新結果を見れば、案の定海馬岬にあるはずのものからの信号だった。
ふむ、と両腕を組んで数拍考えを巡らせる。
使い手はともかく、武装自体は中破といったところだ、回収すれば復元できるだろう。……回収できれば、の話だが。
「……堕天六芒星の名は、騙ったものではない、ということか」
先兵は眷属ばかりの有象無象のようだが、本隊は間違いなくこの街に甚大な被害を与えられるものだ。
その本隊が何故最初から街を攻めてこないのか。
並の人間であればこちらを舐めてかかっているのだろうと棄却するところを、疑似人格たる彼女は最初から演算する。
かちかちと、無機質な音が響く中で、いくつかの可能性が浮かんでは消える。
セリエは科学者であって策士ではない。戦術に殊更長けるというわけではない。――だが、頭脳で秀でることは確かだ。
「…………やはり、おかしいな」
そう呟くと、整理したデータの最後に私見として一言だけ付け加え、『風祭の後釜』に向けてメールを送った――。
* * *
そのメールを受け取った男……佐倉は深々と息をつく。
「『おかしい』、ってさぁ……もう少し説明しようよセリエさん……」
まあ分かるけど、という独白がセリエの言葉足らずっぷりに拍車をかけていることは、自覚も周囲からの指摘もない。
先のメールで《蹂躙の焔》がこの街にいることがほぼ確定した。今回の黒幕とは同僚とも呼べる間柄のはずだ。
しかし、《蹂躙の焔》による襲撃があったとは全く聞いていない。
戦うことが主な目的ならば、戦闘狂の仲間に声をかけないということは考えにくい。
不仲か、歴然とした上下関係があるのか、はたまた目的が違うのか――……セリエの言わんとすることはこういうことだろう。
今は何やらじっと市内の地図を眺めている四羽からも同じ指摘はあった。
市役所に壊滅的な被害を与えるのであれば、不意討ちが定石だと分からない相手ではないはずだ。
正々堂々としたやり方は過去のサヴァノック絡みの事件を紐解けば分からないでもないが、他の可能性も高い。
すなわち、不安を煽ることこそが目的か、誰かを探すか待っている。しかし、そちらに思考を振るには情報が足りない。
……尚、セリエも四羽もこの手の報告を何故かまず佐倉にあげてくる。
四羽は一応メール連絡ではto草薙cc佐倉にしているが不確定情報は佐倉にしか送ってこないし、セリエに至っては時々あからさまに草薙を無視している。
目下、覚悟していなかったところで風祭の苦労……即ち中間管理職の苦労を味わっている佐倉である。
「俺たちの敵は悪魔なんだって……」
愚痴を零すような口調ながら、その目は鋭さを帯びていく。退魔師からの救難信号だ。
「――三班、四班、聞こえる? 今から言う場所にすぐ向かってほしい。そこから――……」
12
:
神社仏閣2
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/27(土) 03:27:59 ID:R3rU1bJo0
>>10
「っ、………はぁ、はぁっ……」
荒い息をなんとか整えようとする大宮。
一般的に呼吸は陰陽の術の大事な一要素とされるが、巫女の術においてもそれは変わらない。
呼吸が乱れれば術も乱れる。防御壁はぱらぱらと崩れ始め、砂となって消えていく。
「ほら、少しは抵抗してみろよ! 壁の向こうで蹲って震えることしか出来ねぇのか?」
弾丸の嵐は止まらない。壁は見る見るうちに脆くなっていく。
その最中、ふとノラが身じろぐ気配がした。大宮が振り向くと同時、ゆっくりと瞼が持ち上がる。
虚空を彷徨う瞳が痛々しい。その眼差しが大宮を捉えたことに、こんなときではあるが思わず安堵の息をつく。
「……せんぱ、い」
「ノラちゃん? 良かった、気がつい」
「……て」
「え?」
「にげ……て。せん、ぱ……」
せんぱいだけでも、にげて。
振り向いて読み取った唇の動きに、大宮は声を荒げた。視界が歪むのは炎で煽られたせいだ。
「馬鹿言わないで! この街を、この街の人を守るのが、私の仕事なの! それにっ……」
合宿初日は主体性など陰に隠れてしまっていた後輩。あの数日間で、守りたい、とはっきりと言えるようになった子。
手厳しくも的確な合宿の女教官が師匠とはとても思えなかったのに、今日自分をまっすぐ見た瞳に自然と思えたのだ。
ああ、この子はあの人の弟子なんだ、と。
「貴女を今見捨てたら! 私は一生後悔するし、貴女の師匠に顔向け出来ない……!!」
壁が薄くなる。砂が舞う。目が痛い、熱気が酷い。鳴りやまない銃声。
「そろそろ終わりだな。神様にお祈りする準備は出来たかぁ?」
嘲笑う声が腹立たしい。言い返せないことが口惜しい。
それでも……。
――諦めない者に、勝機はある。APOHから支給された無線に、ノイズ交じりの声が入る。
『……神社、誰かいるか!? 今からそちらに向かう。あと10分……いや、5分持ち応えろ!!』
「っ、了解!」
5分。耐えられるだろうか。無理だ、と叫ぶ理性を、大宮は頭から振り払う。
諦めることはいつでも出来る。それは、今じゃない。
竜也が機関銃をゆらりと振る。緑に縁どられた0と1が取り囲み、装填が終わる。土の壁は、もってあと3分。
絶望が今にも具現化する状態で、嘆く者はまだ1人もいない。
* * *
嘆いているのは。
「……情けないねぇ……」
ようやく立ち上がれるようになった、神社に向かえなかった者だ。しかし、彼女もまた、嘆くだけでは終わらない。
まだ震えの残る身体を叱咤し、外へと出る。
ふわり、と風が舞った。顔を上げれば、鳥にしては大きな翼。
「あんたは……」
流石に目を見開くヴァイオレットに、咲羽はすっと指をさした。神社からは微妙に離れた方向。
「貴女のお弟子さんがピンチよ。早く行ってあげなさいな」
真剣な眼差し。それに応えるように頷けば、合宿中に何度も浮かべていた、面白いものを見ているかのごとき表情になる。
「私ってよくよくこういう役回りなのよね。助けが必要なら一緒に行くわ。そうじゃないなら、他のところを見てくる」
どうしてほしい?と首を傾ける彼女に、ヴァイオレットは口を開いた――……
13
:
商店街2
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/27(土) 03:29:33 ID:R3rU1bJo0
>>4
「テメェか? 俺の仲間をいたぶってくれた奴は」
「あ……ぁ……」
顔を掴まれ、退魔師の男は震える声を絞り出す。
ばたばたと手足を動かし逃げようとする様にヴェルゾリッチは険を深めた。
「悪魔を散々な目に遭わせといて自分は逃げようってか。そうはいくか」
螺旋状の大槍を焔を使って顕現させる。耳も肌も人間と変わらない擬態時の姿であるため威力は格段に落ちるが――……
覚悟も実力もない人間一人を焼き殺すには十分だ。
あがる断末魔の悲鳴に、サングラス越しの紅い瞳はどこまでも冷ややかだ。
「お前の上司だろう男は、もっと気概のある奴だったぜ……?」
自分の大技を、我が身を犠牲に止めてみせた男を思う。やはり退魔師の後進は育っていないのか。
軽い失望を覚えながら、黒いコートを翻す。
戦いたい。戦い足りない。
今回の作戦、まずは静観すると決めていたが、ここまで腐りきった人間を見ると気も変えたくなる。
さて、どうしようか。
ゆっくりと歩き出す。その影の向かう先は何処なのか――……。
それが誰にも分からないように、今や消し炭となった男の携帯電話、その履歴の意味するものも、今は誰も知らない。
悪魔が派手に動く中で、音もなく静かに時を待つ、蛇がいる――……。
14
:
海馬岬2
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/27(土) 03:33:33 ID:R3rU1bJo0
>>5
>>7
堕天六芒星の一人を前に、日々奈に策略は……ないでもない。
足を肩幅に開く。身の内の魔力を溜める。
全力で行くか? いや、それは外したときのリスクが高すぎる。しかし生半可な力では足りない。
――全力の、約半分。
魔法陣を作成し始める日々奈の意図を察して、同僚の数人が特攻覚悟でサヴァノックへ立ち向かっていく。
それらを次々と斬り捨てる悪魔は、しかし常に日々奈だけを見ていることは流石に出来ない。
時間で言えばたった数秒。だが、その数秒で十分だ。
奇しくも、敵方がこの作戦前に語ったように、一番価値のある僅かな時間を、探っていく。
準備が整う。息を吸う。――今だ。
「《悪魔の魔砲弾》ッ!!」
放たれる砲弾。悪魔の力が悪魔を狙う。剣を振り抜いて最後の特攻隊を払ったサヴァノックに万全な回避は出来ず――……
砲弾は、彼の左腕を捉えた。
急所ではない。おそらく利き手でもない。しかし、剣は離れた。
そもそも剣の持ち方が両手持ちだ、あの大剣は片手では振れまい。
――勝てる。
「……成程。これで剣は振れなくなったな。――この姿では」
言葉の意味を認識するより早く、影が日々奈に向かって飛んでくる。
見事に喰らい、魔人化により受け身の構えは取れたものの、堪え切れずに吹き飛ばされる。
肉弾戦に持ち込まれたのは分かった。しかし、蹴りだったのか拳だったのかすら、衝撃で判断できない。
頭の芯が揺れる。咳き込み滲む視界でどうにか起き上がれば、指を口元に当て何かを呼ぶように男が音を鳴らす。
「……少し、遠いか。まあいい。先程の一撃に敬意を表して、真の姿でお相手しよう」
穿たれた左腕はそのままに、男の周りを深く濃い闇が覆う。血の匂い、骸の匂いがいや増して、吐き気を覚える。
宵闇に男の姿が滲んで紛れ、緋色に染まった白の服が掻き消える。
代わるように現れたのは、白い鎧を纏った黒い獅子の獣人。
――堕天六芒星サヴァノックの真の姿。
取り落とした剣のもとへと立ち戻り……片手で、軽々と拾い上げる。眷属も減り、圧倒的優位とは言えない中で、彼は笑う。
「戦いに、多少の犠牲はつきものだ」
その声は、岬へと駆けつけた桜井や春日に聞こえるだろうか。ベオルクススは、既視感を覚えるだろうか。
覚えて、いるだろうか。
――戦いに、多少の犠牲はつきものです。さあ閣下、ナイトをどうぞ。あと十手で王をいただきます。
昔、戯れに人間の盤上遊戯に興じたとき、彼が大駒を切って勝利を得る作戦に出たときの、口癖であったその言葉を。
15
:
夜桜学園2
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/27(土) 03:36:36 ID:R3rU1bJo0
>>6
時計塔に、足音が響く。この時間帯に太陽光が入り込むはずがなく、また、元々薄暗い空間だ。
誤ることなく時を刻む音の中で、沙里亜は前を進む教員に問いかける。
……いつのまにか、並び歩くのではなくセキモトが先を行く形になっていた。
「セキモト先生、ご用事って何なんですか?」
「そうですねえ……君は協力者のようなものですから、少しお話しても良いでしょう」
セキモトの顔は見えない。声が変わらず穏やかであるがゆえ、笑顔だろうと推測するだけだ。
「実は、私は叶えたいことがあってこの街に来ましてね……
ええ、私の唯一絶対の主と言ってもいい方のために、叶えたいことがあるのです」
僅かに熱を伴った言葉はどこか浮世離れしていたが、日頃からマントを纏うセキモトにはさほど違和感もない。
ない、はずなのだが。
沙里亜は僅かな違和感を覚えた。違う。これは……「先生」の口調ではない。
誰かのために話している言葉ではなく、他人など歯牙にもかけず自らのためだけに紡ぐ言葉。
立ち止まったセキモトに倣うように足を止める。彼を見上げる。
「福居さん。協力して、いただけますか?」
「はい、でも――……」
「良かった。では」
沙里亜の逆接を踏み躙るように、マントが大きな音を立てる。セキモトが振り返る。顔は、見えない。
後ずさる。幸か不幸か、此処は入口から幾らか踏み入った、少し開けた場所だ。
――魔法陣を描くには、相応しい場所。
銀が煌めいた。反射的にあがりそうになった悲鳴は、凍り付いて喉で絡まる。
「――その魂、ルシファ様の為に捧げなさい」
お守りが揺れる。硝子が砕ける音。刃が不可視の壁に跳ね返る。
「……っ、やはり何かしらの守護はありましたか。しかし」
それは。沙里亜の両親が愛娘に渡した、溢れんばかりの情の発露は。
「――温い」
それは、一度しか発動しない奇跡。
熱い、という感覚が最初に襲ってきた。それはすぐさま、寒い、に変わる。
一拍後、貫かれた腹部に襲い掛かる、息も出来ないほどの痛苦。立っていられない。手が震える。視界が霞む。
崩れるように座り込む。
「その血が魔法陣に必要でなければ、少しいただくのですがねえ……まあ、余ったら、考えますかね」
セキモトの……ブロンドバロンの声が上手く聞き取れない。なんで、どうして、ねえ、せんせい。
言葉が紡げない。思考が途切れる。わたしになにかあったら、おとうとが、おとうさんとおかあさんが。
上半身が傾ぐ。ゆらり、その場に倒れこむ。わたしは、だって、せんせい、は。
――学園内なら、俺達教師が──うん。君達を守るんだけど。
いつかの優しい言葉が、遠く響く。
せんせい、と動いた唇は色を失う。虚空へ伸ばされた手は、何も掴まずぱたりと落ちる。
暗闇に沈む世界で、少女がくすくすと笑う声を聞いた気がした。
16
:
桜井直斗(ベオルクスス)
◆o/zdiZN8A2
:2016/02/27(土) 06:42:27 ID:if7ZXLvA0
>>14
「ハァッ...ハァっ!! 見えるか!?」
「見えた!! あそこにいるのは...日々奈か!」
膨大な悪魔の瘴気を感じ取って岬まで走ってきた桜井と春日
荒れる息を整えて様子を見るが、間に合った様だ
多くの眷属を相手にする日々奈の姿を見て少しだけ安堵する一方
『──────ほう?』
その日々奈が相対しているその獅子の姿を見て
数百年ぶりの見たその姿を見て────。
「あれって例の────...おい、どうした桜井」
「...い、いや...ちょっと」
『────身体を借りるぞ。小僧』
その一言で、桜井の意識は彼の中にある大悪魔に塗りつぶされた
桜井の瞳は紅く煌めいて、頭にイヌ科の耳を生やし
厳かに、それでいて不思議な魅力を放つ笑みを浮かべた悪魔
『久しいな。────サヴァノック。 何百年ぶりだ?』
「貴方は────まさか────!!」
彼は────桜井ではない
彼の身体が人間と悪魔の性質を持ってるされ
あれは彼の悪魔の側面が色濃く出てるのかと桜井の事情を知らないものはそう思うだろう
そして、彼の身体のことを知っていてその人格が何者か分かるものは呟くであろう
「────ベオルクスス。」
その身体から発する瘴気は光すら発する勢いで広がっていく
サヴァノックもこの存在は見覚えがあるだろう
姿形も違い、もう何百年も会っていないが間違いない
強欲大将ベオルクスス──────!
『なれば、貴様がここにいる事は陽動であろうな。
本命は────例えば夜桜学園か、』
そしてこの悪魔は気付いている
いくら数百年も戦場を離れても年を重ねただけあって経験はあるらしい
サヴァノックの顔を怪しげな笑顔で伺っていた
そう言うと、彼は夜桜学園へ身体を向けるだろう
獣化したベオルクススなら学園まで一直線に駆けれるだろう
「な、何を────!」
『クックックッ...サヴァノック。忘れたか? 余は何時であろうと余の味方だ。
"強欲"の名を忘れるな──────。』
そう言いながらその全身が獣化していく
桜井の────黒獣とはまるで違う。
規模が、質が、全く違っている──────。
誰かが声をかけるか、邪魔をしなければ
ベオルクスス/桜井は学園へと駆けるだろう
17
:
◆xZ2R3SX0QQ
:2016/02/27(土) 10:40:44 ID:/hFq9EzI0
>>14
>>16
全力ではないにしろ、魔を込めて放った必殺の一撃である''悪魔の砲弾''はサヴァノックを致命傷へと追いやることはなく―――二刀の大剣を持つ両腕の一つ、片腕を地へと落とすことしか半分の威力では叶わなかった。
霞む視界の中、人外の容姿へと変貌をみせたサヴァノックから意識を離さずに日々奈は思考する。
どうすればあの悪魔を殺せるかを――――。
利き手でない腕を運良く捥ぐだけで精一杯の火力をもう一撃打ち込んだところで、真の姿を露わにしたサヴァノックには大したダメージを負わせることは出来ない。
ならばもっと別の手段を見つけて実践するべきだ。
冷静に次の展開をどうするかを見極める日々奈の姿には未だ諦めの様子はない。
「なら、アンタが犠牲になりなさいってのよ……!」
周囲に舞う煙に咳き込みながらも余裕の表情は崩さず、挑戦的な瞳でサヴァノックを見据える。
APOH専用の白い制服は既にボロボロだが、その具合と日々奈の体力は比例していないようだ。
日々奈彩花はまだ戦える――――。
普段通りの人を小馬鹿にした日々菜の口調。
それを聞いた他のAPOH職員達はこの危機的状況を楽しむかのように口元を緩ませた。
日々菜の姿を見て鼻で笑う同僚達は皆、脚を震わせながら立ち上がり、彼女と同じ方向を見据える。
その先に立つ一匹の悪魔を笑うように――――。
「ったく……こんだけ強いのに、なんで眷属なんか引き連れてんのよ。面倒臭いわねー………。
上級悪魔ってのは、一人だと寂しくて死んじゃうわけ?」
頭を掻き未だ蠢く複数の眷属を眺めながら、日々菜は思う――――やけに数が多いと。
鎧を纏うサヴァノックの姿から軍隊の大将気取った兎か、と内心呟きつつも眷属の残党を前に思考する。
そもそもの話、事件の発端であるサヴァノックの目的が不明なことに対して日々菜は違和感を感じていた。
人間を喰らうために侵攻を開始するとしても、わざわざそれを宣言し、ご丁寧に進撃ルートまで教えるサヴァノックの一連の行動も謎であり、更には大量の眷属を率いて自ら目立つ行為さえする。
片腕を失ったAPOH職員がサヴァノックの宣戦布告を持ってきてから、今日まで自分を含めた全ての職員は迅速に対応をしてきたが、今にして思えば全てが不思議な話だ。
18
:
◆xZ2R3SX0QQ
:2016/02/27(土) 10:41:17 ID:/hFq9EzI0
「サヴァノック……アンタ、魔界ではどのくらいの地位を持ってんの?」
然し、それを今考えたところで意味はないだろう。
目の前にいるサヴァノックを退治しないことには、事件の幕は閉じない。
なにより、一度目を付けた悪魔を逃がしては''魔弾を射手''の異名が泣く。
サヴァノックがどれほど魔界において、力のある悪魔かは知らないが、仮に幹部級の存在であるならば退治した後、殺さずに捕まえて尋問してやるのも良いかもしれない。
「――――?」
歪む口元を隠そうともしない日々菜だったが、不意に呼ばれた自分の名前に反応し、声がした方へと顔を向ける。
「さくら……え!?」
目に入った意外な人物に日々菜は思わず声を上げた。
いったい何故、彼がここにいるのか。
というより、なんでAPOH職員の春日と共にいるのか。
「ちょっ、あなた、なんでいん――――っ!」
日々菜以外にもAPOH職員がいるというのに、彼は何をしにやって来たのか。
桜井の中身と一瞬だけ出会った日々菜は、理解に苦しみながらも春日達の元へと駆けようとするが――――瞬間に感じた既知。
日々奈はその場から動くことはなく、黙って桜井を睨みつける。
「ベオルクスス………」
旧知の仲なのか、ベオルクススの登場にサヴァノックすらもが驚愕していた。
二匹の会話のやり取りには上下関係に近しいものを感じるが、それだけで他に使えそうな情報はない。
強欲というキーワードを何処かで聞いたことがあると、一瞬だけ思う日々奈だったが奇書グラン・グリモワールを読んでいない故に、ベオルクススが堕六芒星の一人だという答えには至らなかった。
「さく――――」
二匹の会話が終わると同時に何処かへ向かう桜井。
日々奈は一度、呼び止めようとするが周りの同僚達の存在を思い出し、名を呼ぶことはなかった。
後で必死に仲間達へ弁明しなければならないのかと、思うと溜息がでる。
一回、深い溜息を吐くと桜井がいた方向へ背を向けて再びサヴァノックの前に立つ。
「はぁ……………。
これ終わったら、桜井と春日さんに文句でも言ってやろう」
僅かに口角をあげて、面倒くさいと言わんばかりの口調で呟くと日々奈はサヴァノックの元へと駆け出した。
「ハアアァァァァアッッ――――!」
雄叫びを上げ、高く飛躍し、サヴァノックの顔をめがけ、全力の踵落としを繰り出す。
空気を切断するかのように日々奈の脚は、鋭く一直線に振り下ろされた――――。
19
:
サヴァノック
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/27(土) 13:13:04 ID:R3rU1bJo0
>>16
>>18
「なら、アンタが犠牲になりなさいってのよ……!」
表情だけは余裕を繕うその言葉は、他の悪魔ならば一笑に付して気にも留めなかっただろう。
だが、サヴァノックは律儀にも視線まで寄越して静かに答える。
「……元より、私こそが大儀のための犠牲(sacrifice)。あの方のためと思って死ねるなら、犬死にも辞さない」
あの方、とはルシファであると誰もが思うかもしれない。
サヴァノック自身、尊顔をまともに拝することなくともこの世界で何より美しいと思う至尊の存在も思い出してはいる。
しかし、同時に思い返すのは、計画成就のための捨て駒を求めたブロンドバロンの姿だ。
彼が憤怒に双眸を赤く煌めかせる様は勇壮で、反面、激情に囚われず高貴な所作のままであってほしいとも願う。
軽口ひとつで同僚達を奮起させる少女の声の強さ、心の強さ。
傷を負い、流れた血に身体を震わせ、その上でまだ、彼ら彼女らはこの街を守るべく立ち上がる。
この戦いに意味はあると、尚も信じて武器を構える。
「まるで……そう、オルレアンの少女、だな」
人間であれば少年に近かった頃に降り立った人間界で見た光景を重ねる。
結局は魔女として火刑に処される悲劇の乙女を、未だ意識を逸らさない戦士に当て嵌めるのは不適かもしれない。
それとも、悪魔の血を引きながら人間と共に戦う日々菜には、言いえて妙な例えだろうか。
続く揶揄は特に否定はしない。
悪魔には珍しいかもしれないが、サヴァノックは、仕えるもの、守るものがなければ立ち行かない。
彼の真髄は参謀であり、自身すら手駒とすることはあれど、結局は信じ委ねる者がいなければ策には限りがあるのだ。
それが、他人ありきの弱さであるというならば、彼は甘んじて受け入れる。
どの程度の地位にいるのか、という問いに口を開こうとして、止まる。
彼女のものらしい名前を呼んで駆けつけた少年二人。うち片方の気配に、既視感がある。
──次の瞬間、既視感という言葉では最早足りなくなる。
尊敬していた、崇拝していたと言っても過言ではなかった、荘厳にして酔狂な気配。
全てを求めながら時に全てを意に介さず笑い眺めていた悪魔。
『久しいな。────サヴァノック。 何百年ぶりだ?』
「貴方は────まさか────!!」
理性は追いつかず疑惑にも似た言葉が零れるが、最早心は疑いようがない。
彼は死んだと聞かされても、記憶に今も鮮やかな姿とはまるで違っていても。
堕天六芒星の中では若手と呼ばれながらも数百年地位を守り通した男が、一度でも付き従った者を間違えるはずがない。
「……ベオルクスス大将閣下」
呟いた声は風に紛れる。誰かに聞こえただろうか、それとも誰の耳にも届かなかっただろうか。
小さな小さな呟きは、その一瞬、場違いなほど安堵に満ちていた。
──最早味方ではないという見立てを即座に弾き出しながら、彼はベオルクススが生きていたことを喜んでいた。
だから、計画を即座に看破されたことに、狼狽する声をあげてしまった。
獣化していくかつての上官に、一度目を伏せる。口端を僅かに持ち上げる。
「……忘れてなど、おりませんとも」
覚えている。いつだってベオルクススはそうやって、計画を看破してはそれを無残に破壊するように上を行くのだ。
それは味方であった頃の自分に対しても変わらず、大笑いする声や顔を顰める気配にひとつ息をついて計画を練り直したものである。
楽しかったなあ、と、今や戻れぬ過去を思う。
「だからこそ、邪魔立てさせていただきますよ……! 私の作戦の標的のひとつは、貴方なのだから!」
駆け出し、振り上げた大剣は、嵐のごとき獣の……毛の数本を裂くに留まる。あと一歩、届かない。
ちっと舌打ちした眼差しは、既に仇を見る目だ。
空を仰ぐ。彼の使い魔──以前、今は亡きアリオクの傷を癒す際に呼び出した青白い馬がやってきていた。
「行け。大将閣下だ、覚えているだろう。不得手を頼んで悪いが、彼が出た以上、その拘束が第一優先だ」
この場の者は知る由もないが、この使い魔の本領は治癒だ。ベオルクスス相手に戦闘など、一撃与えれば儲け物だろう。
せめてと擦り寄り主の怪我の血だけは止める姿に、大丈夫だ、私もここが片付いたら向かう、と告げて送り出す。
完全に敵を視界から外していたのは、下策としか言いようがなかっただろう。
20
:
サヴァノック
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/27(土) 13:16:21 ID:R3rU1bJo0
雄叫びに顔を上げる。既に日々菜は脚を振り下ろす構えに入っていた。避けるにも時間が足りない。
「……ぐっ!!」
顔は避けたが、避けどころが悪かった。当たったのは左肩……先程砲弾を受けた個所。痛苦でいえばこちらのほうが厳しい。
骨が軋む音がする。使い魔のおかげで傷を塞ぎはしたが、結局左腕は使い物にならないだろう。
反射的に大剣を振って払う。捨て身の攻撃であれば当たるかもしれないが、最初から反撃を想定していれば避けて距離を置くことは容易い。
肩で息をする幹部の姿に、眷属たちも流石にざわめきだす。
そこに全て見捨てて逃げ出す算段の色がないのは、眷属の性かサヴァノックへの信か。
あるいは、眷属にも矜持というものがあるのかもしれない。一度仕えた相手は最後まで裏切らないという矜持が。
サヴァノックが深く息を吸う。片手でありながら、剣道の正眼に近い構えを取る。
相手を存分に警戒し、正面から迎える構え方だ。その上で、眷属たちへと厳かに告げる。
「腕に覚えのある者、……悪いが、あれのために命を捨ててくれ。
そうでない者は、……私のために命を賭けろ。助けは要らん、各々目の前の退魔師を絶対に逃すな。
……出来るな?」
答えは、声ではなかった。
眷属の中でも下級悪魔に近いものたちが使い魔に続いてベオルクススを追う。味方を守り、敵に一太刀浴びせるために。
蝙蝠を模した者と槍を持った者、猫に似た者や狼のごとき者が目立つのは、何かの符号だろうか。
屠られるばかりの眷属たちも、目の光が更に爛々と輝く。少将のために死ねるなら本望と言わんばかりに。
退魔師と眷属の数は五分。日々菜と春日の二人は、サヴァノックを相手取ることに専念が可能だろう。
サヴァノックの集中力は尋常ではないが、手負いに変わりはない。
また、正面から来るならば、小細工を弄さず応えるだろう。
21
:
◆xZ2R3SX0QQ
:2016/02/27(土) 15:24:19 ID:/hFq9EzI0
>>19
>>20
――――当たった。
力を込めた手加減なしの正真正銘の一撃。
顔を歪ますサヴァノックを目にし、日々菜は確かな手応えを感じた。
「ぐ――――っ!?」
が、すぐさま反撃の一手が繰り出される。
振られた大剣の一撃に日々奈は咄嗟の判断で、受け身を取る。然し、反応が遅れた。
勢いのある一撃を防ぎきることはできず、日々奈は真横へと吹き飛ばされ、コンクリート壁に衝突する。
轟と共に崩れるコンクリート壁。日々奈は煙が立ち込む中、軋む骨を無視してゆっくりと立ち上がった。
先程同様脳の芯が揺れる。一撃一撃が重い。
日々奈にとってサヴァノックの繰り出す攻撃は全てが必殺の一撃だった。咳き込みをすれば血を吐き、額からの流血を拭えば感じる実力の差。
油断はしていなかった。然し、桜井の姿を見たせいで心に乱れが生じていたのは事実だ。
普段の自分ならば避けられた一撃すらも防ぐだけで精一杯とは。日々奈は心の中で静かに嘲笑する。
霞む視界の中映るサヴァノックの姿に油断はない。
それが何を意味するかは考えなくともすぐに分かる。
「左と引き換えに……やっと同じステージに立てたかしらね。まあ、距離は知らないけど」
最初の一撃で飛ばされた距離より、更に遠くへ吹き飛ばされた日々奈にはサヴァノックの声を聞くことはできない。眷属に何か指示を出しているのは分かるが、その内容までは知りえなかった。
日々奈は眉間に皺を寄せ警戒する。
「ふぅー………それにしても今回はちょっとヤバいわね。
サヴァノックのやつ、少しは手加減しろっつーのよ。勝てないじゃない」
剣を構えるサヴァノックの姿を見据え、日々奈はフラつきながらも前へと足を進める。
体力的にも限界の近い日々奈はもう一度だけ、悪魔の魔砲弾を放とうと感じるが、先程の様に半分の力では意味ないだろう。文字通り命をかけた一撃を打ち込まなければ、サヴァノックにはダメージを与えられない。日々奈はサヴァノックの間合いを予想し、互いの距離を計算しながらゆっくりと近付くと隙を伺う。
22
:
桜井直斗(ベオルクスス)
◆o/zdiZN8A2
:2016/02/27(土) 19:23:59 ID:KWZlQmcU0
>>20
獣は夜の街を駆ける
屋根を飛び地を這ってその黒き猛獣は高らかに謳う
『クックックッ...!! やはりこの体は良い...昔を思い出す...!』
「お、おい!! お前どこに向かってるんだ!!」
『サヴァノックの奴の狙いが学園だろうと気付いてな。現に近付いて見れば彼処が有力な霊地だと分かろう』
「いや...それは良いんだが...」
意識の奥から聞こえる人間の声にベオルクススは屋根の上に立ち止まる
風に乗って微かに香るこの匂い────。
紛れもない霊地、霊脈の匂いだ
それは間違いなく遠く視線の先にある学園から感じ取れる
「なんでお前は俺の手伝いを...!」
『──────舐めるな、貴様の手伝いではない。
余の異名は"強欲"だ。 例え相手が同胞だろうと喰らうのが筋よ』
そう言って振り返り、その軍勢を見た。
自分に迫る数十の悪魔達────サヴァノックの眷属だろう
此方へと向かう姿は殺意を持ったものだ。殺しに来たのかとベオルクススは不気味に微笑む
『故に間違うな────余は余の為に戦うのみだ。
あの学園には余の寵愛に値する何かがあると見た』
「お前っ....!!」
まるで、自分とは真逆だ
自分の為に生きる者と、他人の為に生きる者
桜井はベオルクススを睨みつけるが、当の本人は迫りその牙を向ける悪魔を────。
『邪魔だ。下郎』
グジャアッ!!と踏み潰した
容赦なく、一片の躊躇いなく
仲間だったものを、同胞だったものを────殺した。
『有象無象が...余に牙を向ける以上────死ぬ覚悟は出来ておるのであろうな?』
迫り来る魔の嵐
この世の絶望とも言える量の悪魔の殺意に飲まれながらも
ベオルクススはただ、殺した。
切り裂いて、嚙み潰して、踏み潰して、引き千切って
襲い来るその全てを、笑って殺す
『────ハ。....ハァーッハッハッハッハ!!! この程度かサヴァノック!! 弱いぞ!! 貴様の策も底が知れるなァ!!!』
もう戦意すら無くなって逃げる悪魔を穿ち
悲鳴を無視して一本一本骨を砕いてなお嗤う
命乞いをする悪魔を踏み殺す
引き千切って溢れる血を飲み干して
『舐めるな────。俺を殺すならこの100倍は持ってこい!!』
そう高らかに響いた
ここにいるのが、数百年前に討伐されるまで暴虐の限りを尽くした悪魔の姿があった
悪魔の血肉は不味いのだろう
不機嫌そうに喰らった"食べ残し"を投げ捨てて次の相手を見据える
『さァて...残りは貴様だけだ────どう殺してやろうか────。?』
「もうやめろ!! もう...やめるんだ...!!!」
残った眷属────サヴァノックに懐いていたような白馬を前に
ベオルクススが手を掛けようとした時に桜井の声が響いた
ベオルクススの爪がその身体を突き刺す直前で止まる
『────偽善だな。 この悪魔達はサヴァノックという主人に命を捧げた者だ
サヴァノックの敵と戦い、その結果死に至ったとしても...喜ぶべき最期だ』
「っ────! それでも、...ダメだ」
あまりに────可哀想だったから
サヴァノックの眷属だろうと、逃げる事すら出来ず
命乞いすら許されない彼らが────あまりにも
『此奴に生き恥を晒させるか? フン、それも良い────。』
そう言うと、ベオルクススは白馬へ向けた手を引いて学園へと駆け出した
あまりに違い過ぎる死生観
ベオルクススは相手が同胞だろうと、敵であるなら殺す
桜井直斗は、相手が敵であっても救えるのなら救う
その事実に、桜井はただ苦しめられるのだろう
>>ALL
その姿は、市内の凡ゆる場所から見えたかもしれない
見えはしなくても、その叫び声は聞こえたはずだ
強欲大将ベオルクススの声を
その暴風の如く殺し尽くす姿を────。
そして、彼が学園に向かう姿も確認出来るかもしれない────。
23
:
佐倉 斎
◆ovLCTgzg4s
:2016/02/27(土) 19:42:21 ID:FZqbjWPA0
>>11
電話を切り、腕を組んで再び情報へ向き合った。セリエと四羽の指摘した“違和感”。同じものを、自分も感じている。
だが、何を考えているのか。──戦闘が目的としては大人しすぎる。それに、サヴァノックが出した“条件”も、引っかかる。
彼は手紙で、こう語った。
──『ただし、市役所を攻める自分は、最初の1時間だけ海馬岬に留まろう。
──被害を甚大化させたくなければ、自分を楽しませられるだけの戦士を送って寄越せ。』
矛盾している。“街を攻める自分は”、なら、分かる。
かの悪魔を止めるため、退魔師達は全戦力を以って出撃したことだろう。
だが、彼は“市役所への”攻撃を猶予すると言っている。
その上で、まず眷属や仲間に街を攻めさせた。当然、退魔師の一定数は街に出現した悪魔への対応に廻った。
サヴァノックが真に“楽しませられる”だけの戦士を望むのなら、少なくとも眷属を街に放ちはすまい。
では、仮に“正々堂々と全力で闘争すること”が目的ではないとして、かの悪魔は何をしたいのか。
退魔師を街へ散らばらせ、更に、精鋭部隊を自ら相手どって戦う。その真意は何なのか。
──そう考えると、彼らの“現状の至上命題”に行き当たる。つまり、“あの場所への侵入”。
風祭の置き土産である“完璧な防衛戦力配置”は、今や、ズタズタに切り裂かれている。
「……はい、佐倉。」
そこまで思考が回った時、通信が入った。──場所は海馬岬。発信主は春日縁。
彼は自らが見聞きした“出来事”を話す。佐倉は黙って聴き切ると、数秒の沈黙の後、こう言った。
「……。…………分かった。君は彩花達に合流。倒さなくてもいいから時間を稼げ。」
了解、と短い言葉とともに、通信が切られる。桜井が心配なのは間違いないだろうが、割り切れるのは彼の才能だ。
近くの初老の職員にオペレーターとしての業務を引き継ぐと、佐倉は席から立ち、コートを羽織る。
そして“櫻殺”を胸ポケットに入れながら、地図と向き合ったままの彼に声をかけた。
「オト、急いで海馬岬へ行ってくれ。あの子達が殺される前に。」
敢えて細かいことは言わなかった。言ったなら、懊悩を示すに決まっている。
この命令は、言うなれば“佐倉と彼ら”の命を天秤にかけた上で、“彼ら”に比重を置いた結論だ。
彼のことだから、気づくかも知れない。──だが、それで、“上官”に歯向かうほど馬鹿な奴でもないと知っている。
肩を軽く叩いて、四羽に頼んだ、と声をかけると、手近の女性職員を一人、呼び寄せ、頼みごと。
研究所から武器を持って来て欲しい。セリエに“この前の鎧武者に持たせた刀を二振りくれ”と伝えれば、すぐに用意してくれる筈だ、と。
それから、手の空いている男性職員に車を出して欲しい、と伝えた。目的地に落として、離れてくれればいい。
そう告げる佐倉に、男性職員は行き先を尋ねる。佐倉は会議室の扉を開けながら、こう言った。
「── 夜桜学園。」
底冷えするような“覚悟”を抱いたその声は、紛れも無く、彼が“櫻殺斎”であることを示していた。
24
:
◆CELnfXWNTc
:2016/02/27(土) 20:30:29 ID:vWVsYA/o0
>>12
「……手を貸してくれ。」
「そう言うと思ったわ。貴女、辛そうだもの。」
ヴァイオレットの体調は、未だ万全では無い。咲羽から見ても、それは明らかだ。
ヴァイオレット自身もそれを理解していた。だが、それを理由に戦わないなどしない。皆を、ノラを、守る為に自身も戦うしかないのだ。だから、彼女は咲羽に協力を頼んだ。
「心配してるのかい?小娘に心配される程は、弱っていないけどね。」
「小娘?私は、貴女よりずっと歳上だけど?」
「そうかい。そりゃ、頼もしい。さぁ、行くよ!」
たとえ、この体が滅んだとしても、アタシはノラを守ってみせる。
決意と共に、ヴァイオレットは神社へ向かった。
◆◆◆
機関銃の音が響く。次いで聞こえるのは、土の壁が破壊される音。竜也の攻撃は、あまりに苛烈で、予想よりも速く土壁を壊した。
(嘘……でしょ……)
「もう少し楽しめると思ったんだが……終わりだなぁ。」
焦りを感じる陽子とノラ、二人の前に、竜也が立ち塞がり、機関銃と化した腕を突き付ける。そして、引き金を……
最早これ迄か……発砲音が聞こえ、そう思った。だが、痛みは無い。そして、銃弾を弾く金属音が……
「ま、マザー……どうして……」
「そこまでだよ!」
銀の剣を片手に持ち、修道服に身を包んだヴァイオレットが、横から割って入ったのだ。
その姿を不安気に見つめるのは、ノラだ。恐れていた事態、病を抱えるヴァイオレットが戦場に立つことが起こってしまったからだ。
「やるじゃんババア。」
少しはまともなのが出てきたな、と竜也は笑みを浮かべた。
25
:
◆CELnfXWNTc
:2016/02/27(土) 20:31:04 ID:vWVsYA/o0
◆◆◆
ヴァイオレットが参戦し、暫くがたった。発砲音が聞こえれば、直ぐ様その銃弾を弾く音が聞こえる。剣を振るう姿が見えれば、それを避ける姿が見える。
ヴァイオレットは、竜也と互角に立ち回っていた。上手くサポートすれば、勝てる。陽子はそう思い、竜也の隙を探すが……
「がはっ……」
「えっ!?ヴァイオレットさん!?ちょっと……」
突如として吐血するヴァイオレット。それを目の当たりにした陽子とノラは、驚愕する。
「だ、駄目です……マザー……これ以上戦ったら……」
「ははっ!死にかけかよ!死にかけのババア一人増えたところで、何も変わらなかったな。」
苦しそうに胸を押さえるヴァイオレットと、それを心配そうに見つめるノラ。そして、竜也はその光景を嘲笑った。
ノラと陽子、二人が絶望を感じるなか、血濡れのヴァイオレットは未だ闘志を瞳に込め、こう言った。
「……ああ、確かに一人増えたところで何も変わらないね。そう、“一人”増えたところではね……」
「……もう一人居るっ!?」
ヴァイオレットは無策では無かった。敵が此方に気を取られている間。もう一人、協力を頼んだ咲羽が不意を突くという作戦を立てていたのだ。
それに竜也は気付くが、遅かった。既に、硬質化した無数の羽が竜也に向け打ち出されている。
「チッ……!」
「作戦は成功とも失敗とも言い難いわね。」
竜也は、羽により身体の至るところを切り裂かれる。だが、竜也はそれでも倒れない。ヴァイオレット、咲羽、両者の予想以上の強さだった。
だから、姿を現した翼を持つ悪魔、咲羽は作戦が成功とも失敗とも言いきれなかった。
そして、竜也は弾丸を反撃として何発も咲羽に放つ。その一発が、翼を貫いた。これで、長時間の飛行は厳しいか。こうなると、まともに戦うのは危ない。次の作戦を考えるべきだろう。
「……咲羽さん、貴女……」
「陽子、こうして並んでいると、合宿を思い出すわね。」
「な!?こんなときに何を言ってるのよ!」
竜也の反撃から逃れるべく、陽子の隣まで翔んで来た咲羽。その口からは、合宿を思い出すと呑気とも取れる台詞が。だが、その言葉には意味があった。
「合宿を思い出して。争奪戦、屋上。ここまで言えば分かるでしょう?説明している時間は無いわ。」
「っ!?そういうことね!」
言葉に秘められていたのは、作戦。あの合宿の一日目、タグ争奪戦時に、屋上で使用したあれだ。
作戦を理解した陽子は、破魔矢に水符を付け、竜也へと飛ばした。破魔矢は、山なりに竜也へゆっくりと向かっていく。
「また何か小細工か?」
竜也は、向かってくる矢を打ち落とそうと、銃弾を放つ。銃弾が頭上の矢に命中したその時、破魔矢からは大量の水が滝のように溢れでた。
「ぐっ……水?まさか……」
そして、水が竜也に降り注いだ瞬間を咲羽は逃さなかった。水を瞬時に凍らせ、竜也を氷漬けにしたのだ。あの合宿の時、ノラとマヤの足を凍らせた時のように。
「今よ!陽子!」
「これで終わりよっ!」
動けなくなった竜也に向け、陽子は必殺の日符を放つ。輝く退魔の矢は、竜也に向かい……
「これで……」
「ああ……終わりだね。」
満身創痍のクラーク師弟は、そう言葉を交わした。辛い、だが死闘はこれで終わりだ。4人誰もがそう思った。
だが、まだ終わりではない。
……真の恐怖はこれからだ。
26
:
四羽音久
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/27(土) 22:11:14 ID:R3rU1bJo0
>>23
急いで海馬岬へ行ってくれ。あの子達が殺される前に。
その指示に、四羽は佐倉の瞳を見据えた。どこまでも静かな双眸。以前よく見ていた、懐かしい色だ。
「あの目」だ。
――かつて二人が所属していた独立戦闘部隊“天羽々斬”には、ひとつの不文律があった。
「あの目」をした奴が何かを言ってきたら、斬り捨てる覚悟で止めるか、全力でバックアップしろ。
そして、人を生かすことを至上命題とする四羽に、前者はいついかなる時も適用されない。
「了解。今生きてる奴は全員連れて帰るから、こっちは心配すんな」
万に一つも憂いが残らないように強く頷く。
仮に勝算が零であるなら、蹴飛ばしてでも止めただろう。
しかし、そうではないと知れれば、ふざけるなと激昂するだけでいい子供の時期はもう過ぎた。
そんな時間があるならば、少しでも相手が生き残る可能性を探す。
この場合、任務完遂が佐倉の集中力と生存率を上げる。
頼むと肩を叩かれ、立ち上がる。傍に放り投げていた外套に袖を通し、ポケットの中のICレコーダーを確認する。
無線の第一声から録音し続けていたが、まだ録音時間には余裕があった。長い夜になっても、問題はないだろう。
職員に頼み事をする背中へと、視線を投げる。佐倉に続いて出られるように近づいていく。
会議室ではわざと鳴らしていた足音が、無音に等しくなり掻き消える。
扉の開く音。冬の宵のような、清冽な声。今の四羽にとって唯一の“上官”が、禁を破って前線に立つ。
四羽も、常の軽薄な笑みを剥ぎ、亡き戦友と同じ色に染まった瞳を細める。
「――死ぬなよ、斎」
“独立戦闘部隊の遊撃三羽烏”。その唯一の生き残りが、動き出す。
天秤にかけられた全てを、生かすために。
27
:
四羽音久
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/27(土) 22:14:52 ID:R3rU1bJo0
>>21
(一部
>>22
に関する描写あり)
バイクに跨り、冬の夜の街を岬へと飛ばす。
その最中、感知した瘴気と悲鳴に、両手を空けて使用できる無線に向かって叫ぶ。
「最重要討伐対象と思われる瘴気、夜桜学園方面への移動を確認!」
気を付けろ、とは言わない。それはこの局面では最早侮辱だ。
駆け付けた海馬岬にいたのは、サヴァノックを含め悪魔六人、よろめきながらも前進する日々菜を含め退魔師四人だ。
退魔師は、うち二人が眷属を相手取り、春日は日々菜に敵の意識がいかないよう絶妙な間合いを計っている。
もっとも、日々菜から完全に意識が逸れている悪魔はいまい。膠着状態だ。
ならば、その状況を打ち壊す。
防波林を利用し、サヴァノックの背後にあたる位置まで回る。がり、と親指を噛めば、血が流れ出す。
自傷にしか見えないこの行為が、四羽にとっての戦闘準備。
「Blut ist ein ganz besondrer Saft(血とは完全であり全体であり、僅かにして無欠の液体である)!」
夜闇を切り裂く銀色の光。それはたちまち緋色の短剣へと転じ、四羽の手から飛んでいく。
いち早く気づき振り向いたサヴァノックの頬を掠め、獅子の顔に傷が入る。続く第二陣は胸を狙ったが、払われる。
「ちっ……。そう簡単にはいかねぇか」
「これはまた随分と、外道な増援が来たものだ」
「たかだかC級指定の都市の精鋭、堕天六芒星が手加減なしで嬲ってんだ、これぐらいのハンデ許せよ」
悪びれることなく挑発的な笑みを浮かべて敵の眼前に姿を晒す。
血の滴る左手はそのまま重力に任せる。ぽたり、地面に暗い染みが生まれる。
「まぁそっちが騎士道に則るなら、武士道ってことで名乗ろうか。
面倒そうなのいねぇしこっちで名乗らせて貰うぜ――
“独立戦闘部隊の遊撃三羽烏”が一人、四羽音久だ」
果たして春日と日々菜は、その名前に聞き覚えがあるだろうか。
部隊の解散時期は、彼らがAPOHに入った時期と前後している。
だが、どちらにしろ、彼等以外の退魔師は目に希望を灯す。サヴァノックは一拍沈思し、口を開いた。
「……確か、旅団長閣下が一度交戦したという」
「ああ、僕の戦友のことか。
お前もあの時の奴みたく興ざめだ何だと消えてくれれば助かるんだが……そうじゃ、なさそうだな?」
四羽の血が、再び輝く。次に現れたのは打刀。
サヴァノックが刀を上段に振り上げた。
先程の攻撃一度で四羽の戦法が素早さと手数重視だと見抜き、片手で打てる最速の構えに変えたのだ。
一方四羽は、剣先を相手の拳の高さから僅かに上げて右にずらす。
武道に詳しい者がいれば、平正眼の構えと知れるだろう。
サヴァノックの推測通り、仕掛けた直後の移動が物を言う構えだ。
両者が、動く。
斬るのではなく突くような四羽の斬撃。
サヴァノックは確かに見切っていた。しかし、直後に二度同じ攻撃が放たれる。
決して重い一撃ではないが、着実に傷が増える。一撃一撃が必殺のサヴァノックとは対照的な戦法。
どちらからともなく、笑う。十合、二十合、鍔迫り合いが続く。
――その最中、四羽が手をひらめかせた。
能力に時間制限があるのか、それとも武器の長さを微妙に調整したのか、すぐに再び斬撃に戻る。
しかし、その三度目の銀色の光の中、間合いを測る日々菜には見えただろう。
四羽がこの場の味方に向けてハンドサインを送ったことを。その、意味するところは。
『撃てる攻撃があるなら全力で撃て。陽動は引き受けた』
『出来ないなら無茶するな。こちらにも策はある』
まさしく敵と鏡合わせの役割を、知ってか知らずか負ってみせた。
日々菜が砲弾を撃つならば、予期して離れることは出来るのだろう。
何もしないならば、視力と引き換えの大技を撃つことも躊躇わないかもしれない。
28
:
夜桜学園3-1
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/28(日) 00:36:53 ID:R3rU1bJo0
>>15
>>22
>>23
私立夜桜学園、時計塔。
数日後に朔の日を迎える細い月では、窓越しに此処を照らすことは叶わない。
両手で足りる程度の数の人間ならば動き回れる空間の中心に、一人の少女が直に床へと横たえられている。
福居沙里亜──不幸にも悪魔の目にとまった、純潔の乙女だ。
穢れを知らない身体からは血が流れ、その肌は雪のように白く、生気などまるで感じられない。
辛うじて生きてはいるが、それもいつまでかは定かではない。
彼女の生き血でもって魔法陣を描いたブロンドバロンは、最後の仕上げ──魔力を込める動作の前に、あらぬ方向へ目をやった。
見つめる虚空の方角には、岬がある。先程から、肌を刺すほどに強い瘴気が漂ってきていた。
「ベオル殿、やはり……。……稼げて数刻というのは、真であったな、サヴァノック」
謙遜であれば良かったのだが、とひとりごちる。
これは最悪、魔力が減った状態でかつての大将と戦わねばならないかもしれない。流石に骨が折れる。
──そう、魔力が減った状態で、だ。
「……まあよい。最早ベオル殿とて計画成就の邪魔はできぬ。永夜となったその後に考えれば良かろう」
群れを成した微弱な瘴気たちが蛮勇にも強大な瘴気に立ち向かっている気配。
そう、それでよい。数刻どころか数分であっても、足止めしていてくれればよい。
あとは魔力を流し込み、魔方陣を発動させるだけなのだから。
床に手をつく。ブロンドバロンの魔力に呼応して、魔法陣が禍々しい光を放つ。
紡がれ始める、長い詠唱。
詠唱が紡がれきったときこそが、沙里亜の生の終わりであり、明けぬ夜の始まりだ。
刻限が砂時計の形をしているならば、その残された砂は、あと、僅か──
* * *
時は十数分ほど、遡る。
学園の裏門前。左ハンドルの車が横付けされる。そこから現れた佐倉は、平坦な声音で簡潔に告げる。
「お疲れさん。戦闘になる可能性が高いから、離れててくれ」
運転手はそれを聞き、視線を彷徨わせた。
戦場となる場所に、悪魔を殺せば呪いが侵食する佐倉が来た、ということは、つまり。
何か言いよどみ、絞り出すように、一言だけ返す。
「……ご武運を」
そのまま走り去るエンジン音を背中に聞きながら、佐倉は裏門の一部にぐっと負荷をかける。
すると、いとも容易に門が開いた。老朽化でこういうことが起こっているのだと、以前生徒が教えてくれたのだ。
その時は即座に対策しなくてはと思ったものだが、結局忙しさにかまけて何もしていなかったことが功を奏した。
門をくぐり、時計塔へと急ぐ。その途中、煌めくものが落ちていることに気づいて立ち止まった。
罠か、と念のため近づいて窺えばそうではなかった。だが、別の意味で心臓が早鐘を打つ。
──落ちていたのは、図書室の鍵のプレート部分だ。
これもまた、老朽化の影響で取れたのだろうが、問題はそこではない。
図書委員は、女子生徒が多い。遅くまで残って鍵を返しに来る真面目な子となれば、尚更。
そして、図書室から一直線に職員室に向かうのであれば、此処は通らない。
最悪の想像を打ち消して、走る。
進む先にいるであろう敵に気づかれぬよう扉を薄く開ければ、声が聞こえ始めた。
悪魔の、詠唱だ──
29
:
夜桜学園3-2
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/28(日) 00:37:58 ID:R3rU1bJo0
再び時を戻し、更に少し時計の針を進めた頃。
獣の姿を取った悪魔が学園へと到着した。
「ふむ……。これはまた懐かしい。ブロンドバロンか」
『……知り合いか?』
「彼奴と似たようなものよ」
サヴァノックのことだろう。つまり、悪魔の幹部だ。
まさか学園の教員の真の姿だとは思いもしない桜井は、別の側面に思い当たる。
『……待て! つまり、学園で悪魔が何かやってるってことか!?』
「そう言っておろうが。サヴァノックの狙いは、此処でのことを邪魔されぬことよ。
さて……ブロンドバロン。どうしてくれよう……」
ベオルクススの口元が笑みの形に歪む。
眷属との戦いは飽いた、しかし血は高ぶっている。
確かあの男は高潔なところがあった、ならば激昂させるのも容易いか――……。
取り留めもなく考えを巡らせるベオルクススの裏で、桜井も必死に思考を回す。
学園に悪魔がいる。咲羽たちのようなタイプではまず有り得ない。
もしかしたら誰か生徒か教員が捕まったかもしれない。
誰かが殺される? みんなが笑顔でいられる学園が、壊される?
それだけは――
『させて、たまるかっ……!』
「む――ッ!?」
表と裏が入れ替わる。
ようやく自分の身体を取り戻した桜井は、人の姿に戻って何度も深く息をつく。
呼吸を整え、敷地内に数歩踏み入れた、そこで。
「だぁれ?」
あどけない、声を聞く。
振り向けば、夜目にも目立つ淡い青の髪の少女……リリスバシレイアがそこにいる。
ようやく退屈凌ぎの玩具が見つかったと言いたげな顔で、彼女は無邪気に笑ってみせた――
30
:
◆xZ2R3SX0QQ
:2016/02/28(日) 02:01:39 ID:/hFq9EzI0
>>27
呼吸することすらもが披露の中、日々奈は途切れかけの意識を根性で繋ぎ止める。日々奈とサヴァノックの距離感は近すぎず遠すぎず、感覚的にも丁度良い位置関係となっていた。
故に、集中力を研ぎ澄ましサヴァノックの僅かな動きにすらも警戒を抱く――――この距離感を崩されたら不味いため。
「増援………?」
隙を探り、好機を伺う日々奈だったが忽然の援軍の登場に困惑の表情を見せる。このタイミングでの助太刀は正直予想外だ。同僚達も日々奈同様の考えだったのか、一斉にどよめきだす。混乱が生じ、ある意味士気が乱れる――――が別段構いはしない。
士気というある種の精神論だけでは、既にこの戦況を変動させることは出来ないからだ。
今の戦場を大きく動かすのに必要なものは、シンプルな存在――――力を持つ者のみ。
「っ………四羽音久!?」
困惑気味だった日々菜の表情が徐々に驚きへと満ちていく。その名前はAPOHに所属してから何度も耳にしていた――――独立戦闘部隊の亡霊烏と。
最悪だ。遂に亡霊がやって来てしまった。援軍かと思いきや死神が血の匂いを嗅いで駆け付けてきた。
日々菜は深い溜息を吐くと大事に取っていた''こちら側を間合い''を崩し、僅かにサヴァノックへ近づく。
亡霊烏の登場でAPOH職員達の瞳に希望の光が現れる中、日々菜ただ一人は腑に落ちない表情を浮かべる。
「一人でもいけたっつーの………」
ボソリと誰に聞こえるわけでもない声を漏らす。
助太刀に縋るなど自分はまだまだ弱いと思う反面、四羽を寄越した本部に腹を立てる。まるで自分の力を信用されていないように思えて――――不快だ。
内に渦巻く様々な感情はどれもが醜いものであり、嫉妬や憤怒と―――心が全てが不快感に染まりそうになる。唇を噛み締めサヴァノックと退治をする四羽を見据え、小さく舌打ち。
自分があれほど苦戦した悪魔を相手に余裕を見せ、対等に渡り合う四羽が気に入らない。
魔弾の射手の異名を持つ日々菜のプライドが本部による増援と四羽と自分の力量の差により崩壊していく。
「――――――――っ」
四羽のハンドサインを目にしてハッと我に返る。
いったい自分は何を考えていたのか。日々菜は脈打つ鼓動を宥めるように胸に手を当てた。
無意識のうちに醜い感情に支配されていたのか――――情けないと汗だくになりながら日々菜は自嘲する。気持ちを入れ替えようと、思いっきり空気を吸い込み、力強く吐き出し、内に渦巻く不快感を換気させれば、再びサヴァノックを見据え、両手を突き出し、好奇を伺う。そして――――――――
「悪魔の魔砲弾――――ッッ!!」
魔法陣を展開させ、雄叫びと共に全身全霊の必殺の一撃、悪魔の魔砲弾を放つ。
真紅に渦巻く魔の力。一つの巨大な魔の砲弾が大気を揺らし、大地を削り、轟をあげて、業火の如き熱を帯び、サヴァノックへと髑髏の面影と共に襲いかかる。
31
:
神社仏閣3
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/28(日) 12:26:56 ID:R3rU1bJo0
恐怖は終わった――はずだった。
クラーク師弟に手を貸そうとしていた咲羽が突如、柳眉を跳ね上げ振り返る。
その様子に大宮も何事かと彼女に倣った。
先程確かに退魔の矢によって屠られたはずの竜也。今は骸でしかないはずの体。
その身が、濃く禍々しい緑色の光に囲まれる。0101010101……数字の羅列が竜也を包む。
固唾を飲んで変化を見定めることしか出来ない四人の前で光の勢いが増し――
「……あーあ。ったくよぉ……さっきのは流石に効いた、んなことやれんなら、さっさとやれって」
――残忍な笑みと共に、悪魔が再臨する。
「っ、何よアイツ! 不死身とでも言うの!?」
「ルシファじゃあるまいし、何か弱点はあるはずよ。ただ……」
その弱点が、今までの戦闘で欠片も見つかっていない。
ぎり、と唇を噛む二人の女子高生たちを見て、ヴァイオレットが立ち上がろうとする。
彼女の行動の意図に、ノラが気づけない筈がない。悲痛な声で制止をかける。
「駄目ですマザー! やめてください!」
「止めるんじゃないよノラ……あたし一人であんたら三人生かして帰せるなら安いもんさ」
「駄目です駄目です! ……逃げるなら、マザーも一緒じゃなきゃ、嫌です!」
強くはっきりとしたノラの声。この子がこんなにも自分の意志を主張したことがあっただろうか。
その成長と、今尚その原動力が「誰かのため」であることに、ヴァイオレットは目を細める。
「逃げるんじゃない。
あんたたちは、夜桜学園に行きな。そっちにやけに不吉な気配が集まってきてる。
……あたしはもう、走る体力は残ってないからねえ……」
窘めるように命じられてなお、ノラは聞き分けのない子供のように首を横に振る。
しかし大宮と咲羽は理解していた。全滅を免れるなら、最早それしか手立てはない。
ぐっと拳を強く握る大宮の隣で、咲羽がノラの肩に手を置こうとした、その時。
「――なあにやってんだ、悪魔同士で仲間割れなんて」
この場においてはどこか調子外れな声が響いた。
黒いコートにサングラス、白く長い髪。
シャッター街からこちらの方向へと歩いてきていたヴェルゾリッチだ。
ここにきて更なる敵か、と身構える子供たちの後ろ、ヴァイオレットだけが台詞の違和感を目敏く捉える。
この悪魔、もしや。
その推測どおり、ヴェルゾリッチはノラに視線を向ける。角を隠すカモフラージュなどとっくに吹き飛ばされたノラを。
「そこの悪魔の嬢ちゃん、何で人間とつるんでるんだ?」
問われ、ノラは一呼吸分考えた。
自分は悪魔じゃない。自分は、悪魔が嫌いだ。それでも。
「この人たちは私の恩人です。人間でも、私を助けてくれたんです!」
自分が悪魔だと思われることでこの場の全員が救えるならば、全てをかなぐり捨てても欺き通す――!
「恩人、か。守ってくれたのか?」
「はい!」
「そうかそうか。変わり者の人間もいたもんだ。まあ、俺も悪魔の中じゃ変わり者で通ってるけどな。さて――」
ヴェルゾリッチが竜也へと向き直る。残忍な笑みに応えるように、表情が戦闘狂のそれに変わる。
「お前は退魔師か? それなら倒す。
悪魔か? それでも同じ悪魔に手ぇ出すなら、邪魔させて貰うぜ。
悪魔で、怪我したくなきゃ、さっさと退け」
彼らの戦闘がいつ始まってもおかしくない空気。しかし、四人はヴェルゾリッチの背に守られる形になっている。
撤退するなら、比較的容易だろう。
──彼女らはまだ知らないことだが、逃げ出せばすぐ合流できる位置にまで、救援部隊は来ていた。
思わぬ上級悪魔の登場に手を出しあぐねた部隊は、本部へと指示を仰ぐ。
『そうか、“蹂躙の焔”がねえ。ククッ……では──』
受話器越し、歪んだ笑みを浮かべながら、草薙は命令を下した――
32
:
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/28(日) 12:34:28 ID:R3rU1bJo0
//申し訳ありません。
>>31
は
>>25
の続きです。
33
:
佐倉 斎
◆ovLCTgzg4s
:2016/02/28(日) 13:03:24 ID:FZqbjWPA0
>>28
口が章句を紡ぐ度、ブロンドバロンの心は歓喜に満ちてゆく。
ルシファの望む、夜の世界が実現される。その先に何があるのかなど、どうでもいい。崇高なる御方の思い至りし事を実現するだけだ。
窓の外から感じる瘴気は、依然、遠い。
退魔師がサヴァノックの計画を看破することはあるまい。
ブロンドバロンの口元は、勝利を確信した笑みに歪んだ。
処女の血液で構成された魔法陣。紅い光を放ち始めたそれが、空間内の闇を破る。
紅く照らされる福居沙理亜は、浮世離れした白さ。怪しく、美しい。やはり、あの方の恩に報いる道は、“美しさ”の求道でもあった。
詠唱が最終段に入る。あと、数秒。私が為す。この女が死ぬ。この地が変わる。そして、ルシファが──
「 ぬ、 ッ!? 」
ブロンドバロンが“それ”を避けたのは、すんでの所だった。
目の端、“それ”が反射する紅い光を捉えられたが故。吸血鬼の視覚を持ち合わせていなければ、直撃していたかも知れない。
音を立てて、壁に“それ”が刺さった。──“刀”、か。年代物ではない。だが、容易く壁を貫いたことからも、切れ味の鋭さは明らかだ。
「……不意打ちとは。随分と下賤な真似をするものだ。
ベオル殿ではあるまいな。何用か。姿を見せ、名を名乗るがよい。我が名は“ブロンドバロン・ジェントルハウス”。
貴族種吸血鬼紳士にして、“堕天六芒星・四星柱 【憤怒中将】”である。」
詠唱への集中と、油断が聴覚を阻害したことは否めない。だが、鋭敏たる“ノーブル・ヴァンパイア”のそれを潜り抜けて、攻撃したことも事実。
遣り口は気に入らないが、相当の手練だ。サヴァノック程の騎士道精神は持ち合わせないが、“紳士”として、敬意を示し、名を名乗る。
すると、僅かに空いたドアの隙間が、ゆっくりと開いてゆく。
「貴様……!!」
よく見知った姿。
右手には杖の代わりに、先ほど放たれた物と同じ日本刀を一振り。そして、APOHの戦闘員が好んで着用する防刃コート。
それ以外は、あの“屈辱の夜”と変わらない。──否、それは“服装”の話だ。彼自身は、どこか違う。
眼の奥の色か。或いは、社交辞令ほどの笑みも浮かべ貌か。それとも、この空間の総てを包む紅い光が、そう感じさせるのか。
「……“佐倉、斎”……!!」
「よう、“ブロンドバロン・ジェントルハウス”。 ……用件は、言わなくても分かるだろう。」
佐倉は切っ先をバロンに向ける。──最早、彼を“ミスターセキ”とは、冗談でも言いたくなかった。
ブロンドバロンと佐倉が向かい合う。佐倉の向かって右側からは、僅かな月光が差し込んでいた。
窓ではなく、“時計”からだ。硝子製の時計板は、光をよく通す。その意味では、窓と同じ機能を果たしている。
普段なら、この時期、この時間、此処は闇に包まれるのだろう。だが、今宵はそうではない。寧ろ、佐倉にとっても視界は良好だった。
「(やっぱり、か。)」
光源は“魔法陣”。──中心に横たえられているのは、やはり、“福居沙理亜”だった。
表情には出さず、だが、心中に苦い物を感じながら、佐倉は呟く。既に多量の出血が見て取れた。
それに、魔法陣は彼女の血で描かれたものだろう。彼女の生命が危殆に貧していることは、退魔師でなくとも明らかだった。
「……クックック、ハッはッハ。成程、貴様か。私を殺しに来た、とでも言うのだろう。」
ブロンドバロンが笑う。大笑ではない。だが、バロンが“愉快”だったことは確かだ。
「……ここが“本命”、と勘付いて尚、差し向けられるのが貴様一人とはな。
だが、サヴァノックには感謝せねば。屈辱に身を焦がしたあの夜を、この美しき夜に精算できるのであれば、これほど素晴らしきことはあるまい。」
その構成要素は、歓喜と嘲り。
自らへ屈辱を与えた佐倉を、この場で始末できる。そして、その佐倉“ごとき”が、一人でこの場に現れたこと。
右足に障碍を持つ退魔師。先刻の戦闘でも、取り立てて秀でたものは感じなかった。強いていえば、少々小狡い知恵が働くぐらいか。
「 片“足”落ちの退魔師一人、羽虫を握りつぶすが如く、蹂躙してやろう。それでこその、“堕天六芒星”である。 」
ブロンドバロンは笑う。──“発動”は、この男の死体を掲げた上でこそ、相応しい。
34
:
佐倉 斎
◆ovLCTgzg4s
:2016/02/28(日) 14:32:51 ID:FZqbjWPA0
>>33
ブロンドバロンの身体が膨れ上がる。裂けた口から伸びる牙。細い手足に黒い体毛が生え、鋭い爪が生え揃った。
“ノーブル・ヴァンパイア”としての真の姿を見せたバロンは、地を蹴り、飛ぶ様に佐倉へ迫る。
その鋭利な爪が袈裟斬りに佐倉へと振り降ろされる──が、佐倉は刀でそれを防いだ。爪と刀が競り合う。
膂力では圧倒的にバロンが勝る。徐々に佐倉の刀は押され、バロンの顔は佐倉へと近づく。
「……“あの夜”……!! あの屈辱を、私は忘れてはおらぬぞ、佐倉斎!!
正々堂々と戦おうともせず、終には逃亡した貴様の姿を!!……そして、その様な“非紳士的”な者にコケにされた私の姿をッ!!
だが、今宵はその“再現”とはならん!!貴様は常夜の呼び鐘として、此処に現れたにすぎんと知れッ!!」
バロンの“憤怒”が、大きく開かれた口の奥から湧出する。
だが、佐倉の表情は変わらない。ただ、力を込めるために奥歯を噛みしめるしかないのか、それとも
「“寄り過ぎ”だ、ブロンドバロン。」 「ぐ、──!!」
“腹案”が、あるのか。
彼の言葉と共に、胸元の“櫻殺”が輝く。──次の瞬間、前面に“結界”が展開。“押し出される”形で展開した結界は、バロンに激突。
その身体を吹き飛ばす。それを追って、佐倉が宙に“跳ぶ”。駆けるのではない。
刀を床に突き刺し、柄を踏み台に、左足で、身体を上方向へ無理矢理跳ばせた。常人業でない。
既に佐倉の右手には、“櫻殺”が握られていた。“釖機構”が発動し、花弁の1つから“光刃”が伸びる。
「──猪口才な真似をッ!!」 「──糞ッ。」
普通の悪魔なら、天井に激突し、落下する所を切り裂かれていただろう。
だが、“憤怒中将”たるブロンドバロンは、この程度で敗北を甘受しない。吹き飛ばされた後、天井の角に足を突き、“逆さ”に受け身。
即座に跳んで来た佐倉に対し、此方も同等の反応速度で対応。爪を以って身体を守りながら、天井を蹴って、逆に佐倉へ突進。
両者は激突し、再びバロンは天井へ吹き飛ばされ、佐倉は床へと叩きつけられる。
今度はバロンも受け身を取れず、天井へ激突し、落下。一方、佐倉は──
「(……折れたな、これは。)」
荒い息を吐きながら、立ち上がる。胸か背の骨が折れたのか、罅が入ったのか。息をする度に痛みが走る。
だが、どこかを“斬った”手応えはあった。──同じく、立ち上がったブロンドバロン。見れば、その“爪”が右も左も、喪われている。
対応の難しい状況と剣筋を選んだつもりだが、防御に成功しているのは大したものだろう。だが、大きな武器を奪った。今の攻防は、痛み分けだ。
苦々しい顔をしたバロンが、佐倉を見据える。先ほどまでの侮りは、既に消えていた。
「……思い出したぞ、“その武器”。──先刻の戦闘では、はっきりと視認することが叶わなかったが。
貴様が、ヴェルゾリッチが申していた“櫻殺斎”か。」
「その名前で呼ぶのはやめろ。人間に関しては諦めてるけど、悪魔にもそのダサい名前で呼ばれるのは腹が立つ。」
「空虚な言の葉で油断を誘うのは、“堕天六芒星”に対する冒涜と知れ、“櫻殺斎”。──次は、“これ”でも使う気か。」
此方の魂胆が見透かされている。油断を誘う言葉も──先ほど、投擲した“刀”を再利用しようとしている、ということも。
バロンは壁から刀を抜き、時計の近くに投げ飛ばす。バロンの背後に置いておけば、此方から攻めた際に虚をつけると思ったのだが、もう使えない。
ヴェルゾリッチほどの力は感じないが、その分、戦術に関しては卓越したものがバロンにはあった。
「(……仕方ない、か。)」
油断してくれている内に何とかケリを付けたかったが、既に、かの悪魔は本気だ。
両者とも、相手から既に欺瞞も、高慢も消え去ったことを認めている。
次の“動き”で大勢が決することを感じた彼らは、“沈黙”という名の言葉を交わしていた。
35
:
佐倉 斎
◆ovLCTgzg4s
:2016/02/28(日) 15:37:06 ID:FZqbjWPA0
>>34
次に動いたのは、佐倉だった。バロンへ距離を詰めると、“光刃”を展開し、振るう。
爪を失ったバロンには防ぐ術がない。近距離では圧倒的に不利だ。──バロンは無数の蝙蝠に分かれ、光刃を避けた。
数匹、斬り裂かれたが、“本体”が斬られなければ、どうということはない。佐倉の背後に周り、再びブロンドバロンの姿を取り戻す。
右足に障碍を持つ佐倉では、即座に振り向き、斬ることは不可能。後方を取った状態のバロンは、最高速度で以って、首筋に牙を立てんとする。
「それは、この前見た。」
だが、佐倉の頭にその策は入っている。海馬岬での交戦と、同様の戦法。
──佐倉は両手を地に突いて、牙を避けながら、左足での“後ろ蹴り”。ブロンドバロンの顔面を、靴底が捉える。
思わずバロンは仰け反り、同時に、戦闘巧者故の“失策”を感じた。このまま、佐倉の光刃が来れば避けられない。
何とか致命傷を避けることはできようが、この先に予感できる“長期戦”では、大幅なディスアドバンテージを受けるに違いない。
バロンは、覚悟とともに防御態勢を取る──が、
「(……何故、来ない──?)」
佐倉の“光刃”は来なかった。一瞬の混乱の後、状況を把握せんと聴覚を研ぎ澄ませる。
足音が聞こえたのは、バロンの“後方”。“部屋の中央”。振り返ると、倒れた福居沙理亜に、佐倉が“符”を貼り付けている。
──先ほど、“仕方ない”と感じてから、佐倉はこれを狙っていた。短期決戦なら、戦闘の後に治療は可能だった。
だが、長期決戦になる公算が高い。恐らく、これ以上放置すれば沙理亜は死ぬ。今、“治癒符”を貼っておかねば助けることは出来ないだろう。
応急処置にすぎないが、これ以上に容態が悪化し、死に至ることはこれであるまい。
「 愚か也、“櫻殺斎”ッ!! 」
──その代償として、佐倉は丁度、無防備な背をブロンドバロンに向ける形となっていた。
翼を羽ばたかせ、バロンは佐倉へと飛び、その身体を掴む。そのまま“時計板”をぶち破り、夜の空へと飛び立った。
学園の上を飛びながら、バロンは高らかに笑い声をあげる。なんと愚かな男か。みすみす、自分を殺す機会を逃した。
この高さから落としてしまえば、佐倉の生命はあるまい。──あとは、戻って沙理亜を生贄に、儀式を完遂すれば良いだけ。
あの生徒は何れにしても死ぬのだ。にも拘らず、この男は、心中を選んだ。愚昧と言うべきほかはない。
「……ブロンドバロン、1つ、勘違いしてるみたいだから教えてあげるよ。」
「この期に及んで妄言か!! 何を言おうとも、貴様の死は免れ──」 「……知ってるさ。だから、教えてやる。」
腕の中、時計板の硝子で血塗れとなった佐倉が、往生際の悪いようにしか思えない言葉を放つ。
だが、その言葉に含まれた“確信”めいたものが引っかかる。バロンは思わず、佐倉の言葉に耳を傾けた。
「さっき、用件を聞いた時。お前は早合点して、“自分を殺しに来たのか”って言ってたけどさ。
それは、半分正解で、半分間違い。……お前を殺しに来たのは、飽くまでも、“手段”だ。
本当なら、俺が岬に行ったってよかった。俺より身体の動く奴に、お前の相手をさせても良かったんだよ。」
「……何が言いたい、“櫻殺斎”。貴様の“目的”とは、何だ──!!」
「“櫻殺斎”じゃあない。“此処”じゃ俺は、“佐倉先生”だ。先生のすることぐらい、決まってるだろ。」
「……まさか、貴様 ──!!正気かッ!! その様な“価値”が、あの人間に」
「価値の問題であって、たまるかよ。」
沙理亜に符を貼れた時点で、目的はほぼ達している。あとは、コイツを“戻らせなければ”いい。
だが、その様な作戦的な問題にも勝って、佐倉の心中には怒りが煮え滾っていた。
血塗れの手で何とか握りしめている“櫻殺”に、熱が篭る。全エネルギーを集中させた“照機構”。
バロンを殺せば、自分も落下するだろう。“禦機構”を発動する余力は、“櫻殺”に残っていない筈だ。
だが、それでも、コイツはここで始末する。ブロンドバロンがこの場を逃れようと、佐倉を離すが、もう遅い。
「 ≪ 俺の生徒に手を出した 。
── だから、お前はここで必ず殺す。 ≫ 」
闇空へ、光の柱が放たれた。
36
:
海馬岬3
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/28(日) 15:47:19 ID:R3rU1bJo0
>>30
斬り合いを続けていた四羽が、不意に飛び退いた。片眉を上げたサヴァノックは、敵が目を眇める様を見咎める。
まるで霞む視界にどうにか耐えるような。――実際、この瞬間、四羽は貧血に近い症状に襲われていた。
時間にしてほんの一瞬。しかし、集中している者にとっては十分な好機だ。笑みを深め、踏み込む。
四羽が『三羽烏』と呼ばれ始めた頃、この症状は彼の弱点のひとつだった。
しかし、今はこの状態になれば敢えて目を閉じ聴力を研ぎ澄ませ、視界が回復するまでの数秒造作もなく対処する。
では何故、昔に戻るような真似をしたのか。
――信じ、託したのだ。満身創痍の若者が、それでもかつての仲間と同様に「好機」を見出し攻撃を放つと。
雄叫びに、サヴァノックが振り向く。空も地も振るわせる音。その表情には、間違いなく驚愕が浮かんでいる。
襲い来る真紅の髑髏。それはまさしく、敵を屠るための地獄の業火。悪魔を殺す悪魔の一撃。
紫の瞳が、日々菜を見た。両手を突き出し、捨て身の攻撃に打って出た若き退魔師を。
思考を巡らせずとも、この攻撃の是非によっては彼女の身命にも影響が出ることは分かる。
いくつも傷を負い、おそらくはその胸中は不快感に苛まれ。
それでも、彼女に迷いはない。
サヴァノックの口元に笑みが浮かぶ。
今までの、一種狂気とも言える戦闘意欲に満ちたものではなく、ひどく穏やかで、それでいてどこか面白がるような。
これだから人間は、と思う彼の脳裏には、初めてこの街に降り立ったときの男の叫びが蘇っていた。
『僕の命なんぞくれてやる。街も、世界も……全てをお前に、悪魔に売ったと罵られたって構わない!
彼女を、彼女を救えるなら……! 僕は、なんだって賭けてやる!』
最愛の恋人だという女を抱きしめ、彼女のために文字通り全てを差し出した男。在りし日の、本来の神村春英。
――誰かを、あるいは何かを守るために、全てを賭ける人間の姿は、サヴァノックにとっては好ましいものだった。
「(悪いな、春英。お前はここで道連れだ。お前の女は、私がいなくても半年は生きられるだろう……それで、許せ)」
魔の砲弾がサヴァノックを灼く。決して浄化などではなく、全てを焼き尽くし灰さえ残さぬ紅。
魂さえ蝕み尽して消すような凄まじい一撃に痛苦を覚えながらも、彼は最後に自分の策をもう一度読み直す。
「……まあ、捨て駒としては、上等か」
ベオルクススは止められなかった。
――しかし、彼が着く頃には儀式は完了しているだろう。
優秀な退魔師たちは岬に集まっている。
――学園に名のある退魔師が集まったとして一人や二人。ブロンドバロンならば対処可能だろう。
自分の命を礎に、この地は永久の闇夜に変わる。それならば、犠牲となった甲斐もある。
「…………後は、全てお任せします、よ、中将閣下……!!」
――同刻、学園で何が起こっているか知る術がないからこそ、彼は虚構の未来に全てを委ねた。
騎士の手から大剣が離れた。地面へと転がり落ちたそれは、ペンダントになり風に煽られて飛んでいく。
轟音が去る。魔砲弾で抉られた空気を埋めるがごとく一陣の風が吹き、退魔師たちの髪や服を遊ばせる。
そして、訪れる静寂。――退魔師たちを震撼させた悪魔の姿は、最早どこにもない。
死闘の決着がついたと、にわかに信じがたい空気の中で、ペンダントを掴んだ四羽が、もう片手で無線を取り出す。
「海馬岬方面討伐部隊、任務完了を確認致しました。詳細は、私からではなく追って部隊の者から報告致します。
取り急ぎ、――討伐部隊の退魔師との戦闘による、堕天六芒星サヴァノックの死亡の確認のみ、お伝え致します」
静かな声音は、果たして他の者まで届くだろうか。
彼の掌で痩せた月の光を受け取ろうとする銀だけが、【腐敗の永世棋魔】がこの場にいたことを証明するものだった。
37
:
桜井直斗(ベオルクスス)
◆o/zdiZN8A2
:2016/02/28(日) 16:35:18 ID:AIH65Nhc0
>>29
「.......誰だ?」
『知らん。────まだ数十年と生きておらぬ娘だ』
獣化していた身体を解いて少女を見据える
現れた少女は戦いの場にはあまりに相応しくないと思えるほど可憐な子だ
ベオルクススは少女を見ただけで悪魔と分かるが、その身体に流れるであろう血は────。
『まさか──────────。』
「...おにいちゃんとおじちゃんどうしたの?」
と、その悪魔の少女は可愛いらしげに問い掛けた
普通なら聞き逃しそうだが、その問いはおかしい
その問いからは────。この子にベオルクススが見えているという事
その時点で、他の悪魔とも違う異質だと分かる
『──────ほう。小僧の意識にいても余の声が聞こえるか?』
「うん! おじちゃんつよい悪魔でしょ! 声がかっこいいもの!」
ニコッと笑った少女と自分の頭の中で喋る声に少々混乱しそうな桜井だったが頭を振って
──────今は、この学園にいる生贄となる人物を助けねばならない。と自分に言い聞かせる
誰かが、この学園で犠牲になれば────多くの人がもっと犠牲になる
ルシファとやらがやろうとすると事は人間が犠牲になる以上止める必要がある
そしてこの少女が何者かは分からないが、ここにいる以上関係者の悪魔である事は確定だ
桜井は少女に目線を合わせてしゃがみ────。
「えっと...俺は直斗。君は?」
「私? えっと...リリス!!」
「それじゃあリリスちゃん。おにいちゃん達はこの学校にいる生贄.......人間の女の子を探してるんだ。
その子を助けなきゃいけないんだ────何処にいるか知らない?」
リリスは少し考える
なんだか"知ってるけど教えていいのかな"みたいな葛藤を抱いてるらしい
そのまま何秒か悩み続けていたが
腕を可愛らしく組んでみては────ニコッと笑い
「知ってるよ! こっち! ナオトおにいちゃん!!」
そう言って桜井の手を引いて走り出そうとするだろう────。
38
:
◆xZ2R3SX0QQ
:2016/02/28(日) 23:22:23 ID:/hFq9EzI0
>>36
「……………」
終わった。四羽の声が全ての無線を通して、各APOH職員へと伝達される。サヴァノックの死を未だ実感出来ていない職員を除き、その他同僚達は声高らかに手を挙げ歓喜を露にしていた。
そしてそんな人間達の姿を私は――――''ザミエル''は冷めた目で見ていた。
サヴァノックの消滅に実感が湧いていないわけではない。ただ単に素直に喜ぶことが出来なかった。
いや、正確には素直に喜びたくなかったのだ。
私だけの力では腐敗の永世棋魔を退治することが叶わなかったという結果のせいか、サヴァノックに勝ったとは思えなかったから――――。
仮にあの時、悪魔の魔砲弾を撃たないで亡霊烏に全てを託していたら、少しは今の冷めた感情に変化はあったのだろうか。他の職員達と共に顔を破顔させ、私も四羽の元へ駆け寄って行っていたのだろうか。
「………帰ろ」
最早怪我と呼べるレベルではない傷を無視して、私はこの空間から逃げる様に背を向け、歩き出す。
今回の戦いではいったい何人の仲間達が命を落としたのだろうか。然し、そんなことを考えたところで、知ったところで意味は無い。何故なら、私は仲間を守ることが出来なかったのだから
桜井と違い、誰も救済すらできずに――――――――。
この日を堺に日々菜彩花が夜桜学園、APOHへ姿を現すことはなかった。
39
:
夜桜学園4-1
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/29(月) 03:03:07 ID:R3rU1bJo0
>>31
>>35
>>36
>>37
リリスバシレイアに手を引かれるがまま、桜井は夜の学園を行く。
「こっちこっち!」
無邪気な声と共に、辿り着いたのは時計塔。
扉を開けずとも、びりびりと突き刺すような気配のぶつかり合いを感じる。
戦闘が既に始まっているのだ。それも、熾烈を極める部類のものが。
『良い空気だ、素晴らしい夜だ。小僧、』
「駄目だ。お前はもう出てくるな」
ベオルクススの声が聞こえていると知れたため、明確に声に出して遮る。
それで諦める性分はしていないはずだが、何の気紛れかそれきり沈黙した。
どうやら、無理に体の主導権を奪い取る気分ではないらしい。
格下相手の闘争でもそれなりには楽しめた、ということだろうか。無残に引き裂かれた眷属を思い、心が沈む。
だが、そんなことを考えている場合ではないと、頭を振って傍らの少女に笑いかける。
「案内してくれてありがとう、リリスちゃん。ここからは危ないから、俺一人で行くよ」
「危ない? ここにいるの、家来だから、危ないことしてるなら止めてあげようか?」
「うーん……いや、いいよ。ありがとう」
小さな体を踏ん反り返らせるリリスバシレイアは、どう見ても幼い少女だ。
悪魔だとは分かるが、それ以上の考えには及ばない。ルシファの娘とは、思いもしない。
だから再度礼を述べて辞退すれば、拗ねたように頬を膨らませるリリスバシレイア。そのままじと目で見上げてくる。
「信じてないでしょ?」
「そ、そんなことないよ」
よくよく異性の機嫌を損ねやすい桜井である。
身の内でベオルクススがくつくつと笑っているのが分かる。賭けてもいい、これは面白がっている。
そういえば、少女が自分たちに問いかけを重ねる前に何か言いかけていた気がするが、何だったのだろうか……
桜井の思考を散らすかのごとく、硝子に何かがぶつかった音がした。
「っ!?」
考えるより早く身体が動いた。扉を開ける。北風が吹き込む。
血が幾何学的に塗りたくられた床、その中央で倒れる見覚えのある生徒、突き刺さった刀、割れた時計板。
情報の処理が追いつかず、さしもの桜井も絶句してその場に立ちすくむ。
一方ベオルクススは戦闘の終焉を見て取りつまらなそうに無言を通していたが、しばらくして口を開く。
『……小僧。自分が何をしに来たか、忘れたか?』
「そうだ、先輩!!!」
駆け出した桜井の、視界の端。時計塔の、外で。
──天を衝く熱と光が、闇深く凍てついた冬の夜を、貫き照らした。
光は凄まじく、目を灼くばかりの白へと転じる。
大宮、咲羽、クラーク師弟も、その目撃者となる。
ヴェルゾリッチと竜也が幾度か拳を合わせた後、正面突破は不利だと判断した竜也が撤退したのだ。
引き時を間違えない狡猾さも、彼が今まで逃げおおせた理由なのだろう。
『運が良かったな、ババアとボロ雑巾ども』
『お前の運が悪かったんだろ』
竜也の台詞にそう返したヴェルゾリッチも、静観を決め込むらしく何処かへ消えた。
そのため、救援部隊と合流後、状況報告だけして夜桜学園を目指したのだ。
そして、うちの一人は光源が何か知っている。
「まさか……。斎……!」
身体に鞭打つように歩を進めるヴァイオレットに尋常ならざるものを感じ取り、三人もまた学園へと急いだ――
40
:
夜桜学園4-2
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/29(月) 03:12:58 ID:R3rU1bJo0
再びバイクを走らせながら、四羽は眉を寄せた。
向かう先、夜桜学園で何が起こっているか案じているのもある。しかし、それより心を占めるのは……日々菜だ。
大の大人でさえ歓喜に沸き立つ中、サヴァノックを倒した張本人である彼女だけが、妙に凪いだ瞳をしていた。
そのまま一人で消えた姿を、四羽は知覚し、その上で追わなかった。
あれは、矜持を叩き折られた者の目だ。ならば、叩き折った人間に何も言う気はない。
四羽は佐倉ほど優しくない。叩き折られたくなきゃ強くなって手柄を掻っ攫いに来い、としか思えない。
自分も千度万度と叩き折られて、そのくせ功績は押し付けてくる上司を睨んで、ここまで来たのだから。
そういう意味じゃ頑なに見えたこいつのほうが素直だな、とミラー越しに呆れ半分期待半分の眼差しを向ける。
先刻、仏頂面で二人乗りを受け入れた春日に、だ。
市役所や自宅に帰ろうとする職員の中で、まるでこちらの行動を読んだように、自分も学園に連れて行け、と頼み込んできたのである。
今回の功績では日々菜に大きく劣るが、立ち上がりが早いのは悪くない。
──佐倉が失いたくないと過保護になるのも分かる。有能かどうかで決めているわけではないのだろうが。
二人が学園へ辿り着いたとき、そこには人ならざる先客がいた。
春日が足を肩幅に開く。視線の先にいるのは、青白い馬……サヴァノックの使い魔だ。
書類の報告越しでだけその存在を知っていた四羽は、春日の肩を叩いて警戒を解かせ、自分から先に近づいていく。
「聞いてる限り、こいつに攻撃能力はそこまでない。おおかた、主人を待ちあぐねて途方に暮れた、ってところだ」
喋れずとも言語は理解出来るらしい。しょげかえるような仕草さえ見せた。
上手くいけば観察対象悪魔に出来るな、と考えている四羽の横を、春日がすり抜ける。
どうした、と尋ねるより先に彼が何かを叫んだ。
翼音、と、大宮、だろうか。友人の名前のようだ。どうやら人影か何かが見えたらしい。四羽も彼を追う。
果たして、時計塔から少し離れた場所、地面上の何かを囲むような女学生たちと女性がいた。
彼女らが囲むのが何か……否、誰か視認した瞬間、四羽の全身の血の気が引く。
「────斎!!!!」
四肢が有り得ない方向に折れ曲がり、皮下出血と浅く細かく切れた皮膚で見るも無残な姿になった戦友。
上空から放つ技を持つ四羽は分かる、分かってしまう。
──高所から平行に叩き付けられた、墜落死によくある症状だ。
駆け寄れば、治癒府がいくつも貼られている。無駄ならばしないだろう処置に生死を知るが、気休めとしか思えない。
春日が言葉を失う気配を感じ取る。
女学生たちも多かれ少なかれ沈痛な面持ちをしている。今にも泣き出しそうに顔を歪める者さえいる。
ヴァイオレットを除けば一番の年長者は四羽だ。動揺してはならない。
だが……
だが、どうすれば──……
41
:
夜桜学園4-3
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/29(月) 03:16:02 ID:R3rU1bJo0
不意に聞こえた馬の嘶きに、天啓を聞いた気がした。
佐倉へと近づいて屈み、外套のポケットに仕舞い込んでいたものを取り出す。
現れた銀色に、ヴァイオレットが訝し気な顔をする。
「……何する気だい?」
「サヴァノックの、回復能力の源です。
ある資料に、奴の使い魔の能力で、これを依代にしているという仮説がありました。
奴は死にましたが、使い魔は生きていて、これもあります。
──なら、他の人間でも発動出来るかもしれない」
「……理論としちゃあ筋が通ってるね。
だが、分かってんのかい? 悪魔の武器だ、どんな副作用があるか」
「お言葉ごもっともですが、シュベスター・ヴァイオレット」
踏み慣れた異国での聖職者への敬称で彼女を呼び、四羽は笑う。
「──斎が誰かを守るためなら何も厭わないように、私は誰かを生かす力を得るためなら何も厭いませんよ」
憤怒の悪魔すら凌駕する怒りと覚悟を示した佐倉が、その焔を抱いたまま冥府へと向かうならば、力づくでも引き戻す。
お前の本質はそうじゃないだろうと。組織の後進全員の兄のように、穏やかに先を示し未来を守るのがお前だろうと。
“櫻殺斎”が死んだとしても、“佐倉斎”はまだ要るのだ。
銀色をかざす。その瞬間、霊力や巫力、精神力と呼ばれる類の力を根こそぎ奪われていくのを感じ取る。
脂汗が浮く。視界が眩む。気力で保たせていた血液不足が反動となって表れる。気持ち悪い。
成程、サヴァノックが堕天六芒星と呼ばれるわけだ。
発動側の都合などお構いなしの回復能力など、余程魔力が潤沢でなければ扱えまい。常人は一度が精々だ。
「…………そう、いう仕組み、かよ……くっそ……」
周囲のざわめきが遠のく錯覚を覚えながら、それでも四羽はペンダントを手放さない。
手が、足が、元に戻るのが見えている。今の視界では判然としないが、恐らく傷や痣も治り始めているのだろう。
痛みに呻く声を聴いたところで、限界がきた。
地面に手をつく。そうしなければ我が身を支えることも侭ならない。
肩で何度も大きく息をする中、二文字の愛称が耳朶を叩く。彷徨う視線がある。
「…………、…………オト……?」
頬に張り付く髪を払う気力すら惜しく、顔を上げて笑う。
「おう。……岬にいたお前の生徒は、どっちも生還した。安心しろ」
「そっ、か。…………良かった」
佐倉の瞼が再び落ちた。四羽もその場に倒れ伏す。最後の気力で、ペンダントを春日に放り投げる。
「生贄にされかかった生徒がいるはずだ。こいつがこんだけ無茶したってことは、多分重傷。
霊力一番強い自信がある奴か、学校サボって問題ない奴が使え」
了解、と短い応えが返る。春日が走り、女学生たちもそれに続く。
ヴァイオレットが行かないのは、彼らを信じているのだろう。
ああ、本当に優秀な後輩たちだ。流石、“佐倉先生”の教え子だ。
――その思いを最後に、この夜の四羽の意識は途絶えた。
42
:
夜桜学園4-4
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/29(月) 03:26:05 ID:R3rU1bJo0
時計台に辿り着いた春日たちは、惨劇の後のような情景の中で立ち尽くす桜井に息を呑んだ。
しかし、彼等の友情は伊達ではない。彼が“黒獣”と知って尚、桜井がやったとは誰も思わない。
桜井、桜井くん、先輩、とそれぞれに呼んで駆け寄っていく。振り返った桜井は、泣きそうな顔をしていた。
「みんな……! 頼む、何か方法があるなら教えてくれ、先輩が……!」
言いさして指し示された沙里亜の酷い有様に、ノラが悲鳴をあげそうになって踏みとどまる。
ノラの華奢な肩を支えるように大宮が手を置き、咲羽が沙里亜の脈をとってまだ生きていることを確認する。
「それなんだが、桜井」
春日が手短に先刻見たことを伝える。そして、四羽の言葉を一言一句洩らさず。
すると桜井は場違いなほどに躊躇いのない安堵の表情を向け、春日に手を差し出した。
「良かった……! サンキュ、春日!」
「待て桜井、どうする気だ」
「決まってんだろ! 俺が使う!」
「待て! いくらお前が“黒獣”だからって……」
「そうよ! 私か、百歩譲ってAPOH所属の誰かが使うべきよ!」
途中で大宮も混ざり、侃侃諤諤の口論となる。誰もかも、仲間を思うがゆえの言い争いだ。
そのことが分かっていても、ノラはおろおろと先輩たちを見るしか出来ない。
彼女らの斜め下、未だ沙里亜に触れていたため座り込む形に近い咲羽が息を吐く。
「貴方たちね、『困難は分割せよ』って言葉を知らないの? これ言ったの、人間の哲学者でしょうが」
一斉に振り向く三人に、こんな状況でなければ面白いのにと思いつつ、説明を足した。
「さっきの四羽って人は一人でやったからああなったんでしょう?
複数人で発動させれば、一人一人の負担は軽くて済むんじゃない?」
「でも、そんな上手く……」
おそらく四羽も……あの場の大人の誰も思い当たっていなかった可能性を指摘され、咲羽以外は揃って逡巡の色を見せる。
四羽の戦闘を間近で見ている春日は特に顕著だ。あの実力者がやらなかったことを、と顔に書いてある。
大宮と桜井は逡巡というより心配か。人命が係っている場面で、もし失敗したら、という不安があるのだろう。
ノラはむしろ混乱だ。目の前の重傷者も先輩も見捨てられない、妙案に縋っていいのか分からない。
まだまだ頼りない若い人間たちだ、だからこそ面白いと咲羽は感じる。
「いかなかったらそこで揉めればいいじゃない。悪魔である私か桜井くんがメインで持つことをオススメするけど。
……今更協力できない人、いないでしょ?」
言外に自分も協力する、と示す咲羽。ノラが弾かれたように、私もです、と名乗りをあげる。
三人は顔を見合わせ、誰からともなく笑った。
そうだ、佐倉に合宿で習ったではないか、協力しろ、と。それが生き残る道なのだ、と。
此処にいるのは、背中を預けられる仲間たちだ。手を重ね力を出し合うくらい、なんてことない。
十字架に近い四つの先端を、桜井、大宮、春日、ノラで持つようにし、咲羽が中心部に手を添える。
死人同然の肌となっている沙里亜の傷、それが最も深い腹部の上にかざす。
途端、力が抜ける感覚が全員を襲う。だが、覚悟していたほどではない。――推測は当たっていたのだ。
やがて、沙里亜の頬に赤みが戻る。意識は戻らないが、それは単純に元戦闘職種かそうでないかの違いだろう。
助かった。助けられたのだ。
夜中の時計塔で、ささやかな歓声があがる――
43
:
夜桜学園4-5
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/29(月) 03:28:24 ID:R3rU1bJo0
同刻、海馬市のとある山中。
朽ちた古社まであと数十歩といったところで、老樹に手をつき、ぜえぜえと呼吸を繰り返す男がいた。
同じ退魔師から二度目の屈辱を味わったブロンドバロンである。
佐倉の決死の一撃の影響は、とても無視出来るものではなかった。
本体こそ逃れたものの、分裂時の九割が霧散した。それも、対悪魔用の武器で、だ。
戦闘で折れた爪に加え、髪は乱れ、顔は爛れ、体に刻まれた傷はどれもこれも決して浅くはない。
並の悪魔であれば死んでいただろう。ブロンドバロンとてここまで来れたのが僥倖、といったところだ。
呼吸の合間、呪うような言葉が吐き出される。
「誤算……何たる誤算だ……この私が!! “櫻殺斎”め!!」
彼奴は死んだはずだ。戦いには勝った。
そう思えど怒りは鎮まらない。崇高なる儀式を邪魔されたのだから。
「このままではルシファ様に顔向け出来ぬ……かくなるうえは……!!」
滔々と紡がれていた言葉が途切れる。どさり、その身体が地面に投げ出される。体力が尽きたのだ。
北風がブロンドバロンの体温をじわじわと奪う。
悪魔がそれごときで死ぬはずはないが……適切な処置を受けねば、戦線復帰は難しいだろう。
果たして、彼等の陣営に、次なる策略の案はあるのだろうか――
44
:
エピローグ
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/29(月) 03:30:16 ID:R3rU1bJo0
凍てつく冬の夜。生贄を利用した策略が、立案され、攻略された。
生贄を殺す「毒薬」を持つ者は誰だったのか。
生贄を救う「才能」を持つ者は誰だったのか。
「gift」は誰が手の内に――
――それが明かされようと明かされまいと。
確かに、一方の生贄は死に、他方の生贄は生かされたのだ――。
生贄という運命からの皮肉な「贈り物」を、免れるかのように。
【gift】
1.贈り物
2.才能
3.(主にドイツ語を母語とする地方で)毒薬
45
:
桜井直斗(ベオルクスス)
◆o/zdiZN8A2
:2016/02/29(月) 07:14:13 ID:if7ZXLvA0
>>44
────こうして、海馬市に広がっていた連続腐乱死体事件は幕を閉じた。
主犯格であるサヴァノックは討伐されたと、後から聞かされたが
かつての同僚ないし上司であっただろうベオルクススはその話を聞いても何も言わなかった
同胞の死も悼むことも無い
そして俺は、まともに話してもいないその悪魔の死に胸が痛む
この戦いがなければ、互いに傷つくこともないだろうと
そして────いつもの日常に回帰する。
「──────桜井、くん!」
「福居...先輩? どうしたんですわざわざ2年教室のとこまで来て」
2年の教室前廊下、そこに来た3年の先輩の姿は少々目立つが
どうやらあの日自分を助けてくれた一人一人にお礼を言いに行ってるらしいとの事だ
「その、あの日の事はあまりに覚えてないけど...ありがとう」
「えっ...いやっ、その...当然の事をしただけといいますか! そんなお礼なんて...!」
自分でも顔が赤いのが分かる
こういう直球の感謝というのに弱いらしい
視界の端で嫌な顔で嗤うベオルクススの幻想を睨みつけておいた
だが、こうやって誰かを救うことが出来たのは嬉しかった
──────だが、戦いが終わった訳ではない
まだ人間を犠牲にする悪魔もいれば、悪魔を殺し尽くそうとする人間もいる
そうだ、まだ終われないんだ
俺はまだ立ち止まっちゃいけない
福居先輩と別れて、そういえばまだ今日顔を見てない人がいたと思う
サヴァノックの相手をしていたが、手伝ってやれなかった事を謝りたいし
「おーい! 日々奈いるかー?」
そう彼女の教室に顔を出してみた
────が、見当たらない
あいつ今日休みだったのか、と
彼女が行方不明だと知ったのは──────そのすぐ後だった
46
:
◆CELnfXWNTc
:2016/02/29(月) 11:04:55 ID:UkvWjC2E0
>>44
「終わった……みたいだね……」
戦いの後、病院へと運ばれたヴァイオレット。医者曰く、立っていられたのが不思議な状態、だったらしい。そんな状態で、戦い続けていたのだ。
今回は、無理をし過ぎた。それが祟ってか、もう長くないのだろう。そんな彼女は、病院のベッドの上で、明けつつある夜空を眺め、呟いた。
明けない夜は無い。アタシは、朝を向かえられないかもしれないけど……
「けど……それでもいいさ……」
だって、あの子の、ノラの成長を見られたのだから。ノラは、まだまだ一人前とは言い難いし、危なっかしい面もあるのも確かだ。誰かの支えが必要なのは代わらないだろう。だけど、その誰かが自分である必要は無い。
そうだ、ノラには仲間が居る。悪魔との戦いを通して出会った、信頼出来る仲間達が。
「アタシはようやくお役目御免だね……」
悔いが無い訳じゃない。先が心配でない訳でもない。だけど、弟子を信じれなくて何が師か。
本当は、彼女達が戦わなくて良い世界を作りたかったが、もう後を託すしかないか。だけど、きっとあいつらなら、終わらせられる。
ゆっくりと目を閉じたその瞬間、慌ただしく扉を開く音が聞こえた。
◆◆◆
「マザー!!」
ヴァイオレットが病院に運び込まれた。その知らせを聞いて、駆け付けたのはノラであった。
「ノラ……」
そんな顔をしないでくれ。安心して逝けなくなるじゃないか……
涙でぐしゃぐしゃになったノラの顔を見て、そう思うヴァイオレット。だが、時は止まらない。ヴァイオレットに残された時間は、僅かだった。
「ノラ、聞いてくれ……あんたは、強くなった。あんたにも、救える命があったんだ。それに、あんたを支えてくれる仲間も居る……」
「マザー……やめてください!そんな最期みたいな言葉……」
手を伸ばすヴァイオレット、ノラはその手に触れ、涙を溢していく。
「いいかい、ノラ……アタシは、居なくなる。けれどもアタシの……」
「うっ!?げほっ!?ごほっ!?」
「マザー!?マザー!?そんな……」
最期の言葉を伝えようとするヴァイオレット。だが、その言葉は咳き込みと吐血により、遮られてしまう。
すぐに医者を呼ぶが、もう……
◆◆◆
「マザー……」
マザーが死んだ。私が守るって誓ったのに。マザーを守る為、戦わせない為、その為に、私が今回マザーに代わり、出動したというのに。
それなのに……私は、感情的になり、あの男と戦い、結局マザーを戦わせることになってしまった。そして、その結果マザーは……
「私のせいだ……」
私がもっと冷静に戦えていたら。私がもっと強かったら。マザーを死なせないで済んだ。
マザーが最期に私に何を伝えたかったのかは、分からない。だけど、これは分かる。私は、もっと強くならなくちゃいけない。これ以上、私のせいで死んでしまう人が現れない為にも……
「私は、強くなる……なってみせる……!」
強く決意するが、その心は前向きなものでは無かった。その証拠に、彼女はこの日以降、ただ強さを追い求め、自身を追い詰めるかのような、過酷な修行を始めたからだ。
47
:
◆xZ2R3SX0QQ
:2016/02/29(月) 13:07:20 ID:/hFq9EzI0
>>44
全てが終わり、結果としては''悪魔サイド''の敗北で物語の膜は降りた。
今回の侵攻に加担をした悪魔達の詰めが甘かったのか、はたまた人間達が強かったのかは分からない。
然し、終焉を迎えた事件を踏まえて判明した事実が一つだけある。それは人間は決して弱くないということ。ただ指をくわえて、悪魔達を眺めるのではなく、立ち向かっていく勇気を、そんな強さを人間達持っていた。
皆がそれぞれの感情を抱きながらも力を合わせ、巨大な敵に挑む勇ましい姿は決して弱者が見せるめのではない。
眷属を――――いや、部下を駒としか考えず、仲間という概念を理解していない存在が多い悪魔からして見れば、今回の人間達の戦ぶりは新鮮であり好奇なものであった。
「あーあ、楽しかった」
ゆえに、そんな戦い方を見れただけでもリリスバシレイアはラッキーだったと思う。魔界に身を置き、幻影城に引きこもっていた時には目にすることも叶わないでいた悪魔と人間の戦い。
大切なものを守る為に戦う人間の姿は中々に面白いものだ。無人となった夜桜学園の屋上で一人、リリスバシレイアは夜空を見上げて不敵に笑う。
「それにしても、あたしの演技もなかなかね。
あのナオトって男も、中の奴も、二人とも見事に騙されちゃって!」
この世界では自分の様に幼い少女の姿をした者は、話し方も幼いのだと、人間界へ赴く際にキャンデロロロから教えられた。それが正解か否か、人間界に行くことが初めてのリリスバシレイアには分からない。
然し、人間の世界でアイドルと呼ばれる存在のキャンデロロロが言うのなら間違えないと思い、今回試しに実践を試みたのだ。
結果としては見事、桜井直斗は騙され、彼の中に潜む大悪魔ベオルクススも疑念を抱くことはなく、大成功であった。最もこの行為に意味などなく、文字通り暇つぶしにしか過ぎないのだが――――。
先刻の出来事を思い出すリリスバシレイアは、次回桜井に会ったら、どんな口調で話しかけようか考えた。
「……人間?」
そんな思考をする中、不意にリリスバシレイアの目に夜道を歩く一人の少女の姿が映った。
暗闇でも比較的目立つ白い衣服に金の髪色から、アレが人間界で言う不良なのかなと思う。
「あ!」
次第に遠のく彼女の背中を退屈そうに眺めるリリスバシレイアであったが、ふと何かを思い付いたのか忽然とその場から立ちあがると、枯れた花に水を与えに向かった。そして、新たに芽生えた花に名前を付けたのだった。
48
:
神社仏閣XX
◆UBnbrNVoXQ
:2016/02/29(月) 23:13:06 ID:R3rU1bJo0
――……これは、現状誰も知らない話。
ヴェルゾリッチと拳を交えた後、撤退したと思われた竜也。
聞きようによっては捨て台詞に聞こえる言葉を吐いた後に0と1の羅列に包まれたためにそう認識されたが、真実は違った。
悪魔も退魔師たちもその場を去った数分後、再び禍々しい緑の光がそこに現れる。
消える寸前確かにヴェルゾリッチの炎を食らったにも関わらず、無傷の姿を見せた男は憎々しげに舌打ちをする。
「……ちっ、逃がしたか」
しかも、間の悪いことに自分が敵前逃亡したと思われた可能性すらある。癪に障って仕方ない。
苛立ちのままに手近なゴミ箱を蹴飛ばす。中身がぶちまけられ、空き缶が転がる。その乾いた音さえ不愉快だ。
あらぬ方向――現在オメガが拠点としているスーパーコンピューターのある方角を睨む。
先程、夜間オメガの常駐するサーバーに負荷がかかり、復活が遅れたのだ。
もちろん何重にもフェイクを噛ませて使用しているため、出来の悪い映画やドラマの天才ハッカーがいたとしても特定に半日はかかる。APOHに特定されたわけではない。
完全に偶然の産物だ。それだけにたちが悪い。
――もしもそんなことを意図的にやってのけられる存在がいるならば、悪魔でも人間でも戦う相手に不足はないというのに。
「次は逃がさねえ……。あーつまらねえ、俺を楽しませてくれる奴はいねえのか?」
獲物を仕留め損なった肉食動物のような瞳を煌めかせ、彼は夜の街を行く。
――悪魔の「暇つぶし」は、まだ終わらない。
//キャラにふさわしくない物語ロールを行ってしまったため、訂正も込めて投下させていただきます。
申し訳ございませんでした。ご指摘ありがとうございました。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板