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ここだけ悪魔が侵食する都市・テストロールスレッド

161桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/13(水) 22:06:54 ID:if7ZXLvA0
>>160
「え? ど、どうした急に...?」

彼の豹変というか、変わりっぷりに少し驚いたのか
思わず素の反応をしてしまう
どうやら今までの言動はすべて演技だったのか
今目の前にいるのが本当の彼か

「大宮と同じ────。 それって...」

彼女と同じというのなら紛れもなくそれはAPOHだ
今、最も警戒すべき人物なのか

背筋が震えたのを感じた
言葉が詰まる
自分の一言一句に命がかかってる気がして

「い、いや...その...あの時何があったか、一瞬の出来事で...」

あの後、自分の部屋はどうなってるか
間違いなく調べられている筈だ
化け物になった自分、その僅かな細胞でも残っていたなら────。

悪魔化した自分...黒獣だろうか
それがあの場にいた事がバレてしまう

「...一瞬の出来事だったんだ。気が付いたら大宮と黄昏...って知ってるか?
お前さんの仲間だと思うが...そいつに助けられて...」

嘘はついてはいないが、彼とは目は合わない
本当の事も言っていないという表れか
嘘を付けない性格なのが分かる

162春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/13(水) 22:27:36 ID:FZqbjWPA0
>>161

春日は胸元からメモを取り出した。
ほう、うむ、という相槌を挟みつつ、直斗の発言を一字一句書き取ってゆく

「なるほど。……悪魔に狙われる心当たりはないか?
 奴らは総じて、女性を狙うのだ。男を狙う個体が居ないわけではないが、統計的には少ない。
 男を狙う法則が分かれば、討滅もスムーズに行く。」

──“個体”“討滅”との言葉は如何にも、悪魔を排除すべきモノと考える者のそれだった。
言葉の端々からは、確実に──それこそ、大宮や黄昏と違って──悪魔に対する攻撃性が、聞き取れる。

「……いや、聞いておいて何だが、無理には話さなくてもいいのだ。辛い経験だったろうからな。」

そして、相反する“一般人”への理解と、気遣い。鋭利で、分かりやすい対立構造。
もし、桜井の“真実”に気づいたならば──引き起こる事態は、想像に難くない。

163桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/13(水) 22:53:07 ID:if7ZXLvA0
>>162
────討伐。

自分でも血の気が引くのが分かる
彼は、悪魔狩りに容赦がない
自分が悪魔と分かれば、本気で殺しにくるだろう

「そ、そんな...こ、心辺りなんて...」

──────ある。
あの夜出会った少女、咲羽
この一件も彼女との出会いがきっかけだったんだ
そうだ、今この学校には悪魔がもう1人いる
彼女を突き出せば、自分への疑いは
少なくとも疑いの目はそっちに────。

「...............」

唐突に口を閉じた桜井に何を思うだろうか
ふと、屋上から学校を俯瞰して
目線を春日に向けた

「無い。 多分あれは事故だったんだ」

そうだ、何をバカな事を考えてるんだ俺は
自分だけが助かるために他者を犠牲にする?
バカか俺は

悪魔である彼女の行為は許せない
だが、それを他人を利用して彼女を殺していい理由にはならない
俺と咲羽の関係は俺と咲羽で決着をつけるべきだ
その結果、俺が悪魔と露見してもいい

ハッキリと、春日にそう言った
状況的にもまぁ不思議ではない
日の傾いた時間帯に少女達が集まっていた
そこにたまたま彼がいた。

それだけの事だと、納得もするだろう


────あの場にいたのが桜井、大宮、黄昏だけでないと気付かなければ...だが

164春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/13(水) 23:14:38 ID:FZqbjWPA0
>>163

「分かった。」

春日の返答は、拍子抜けするほどに簡潔にして明瞭なものだった。
瞳を見ればその言葉に嘘がないことが、直斗にも分かるだろう。

──春日縁は危ういほどに、“まっすぐ”な人間だ。
無闇に人を疑うことは殆ど無く、その反面、悪魔は絶対悪として見做す。
直斗は“守るべき人間”だから。本心から、春日は彼の言葉を信じているのだ。

彼はメモ帳を懐に戻すと、もう一度、深く礼をした。

「協力、感謝する。
 ……“友人”として、これ以上、桜井に塁が及ばぬことは約束する。
 今度、大宮の神社に顔を出すから、その時はまた話をしよう。海馬市の名所でも教えてくれ。」

昼休み終了五分前のチャイムが、校内に響く。
きん、こん、かん、こん。長閑な音をBGMに、春日は口元を少し綻ばせ、立ち上がると、去って行った。

──この日から、春日と桜井の“縁”は確かに結ばれた。
それが良縁となるか、悪縁となるか、或いは奇縁となるか。今はまだ、誰も知らない。

/こういう感じで一応締めてみました!とりあえず、お疲れ様です!

165桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/13(水) 23:30:40 ID:if7ZXLvA0
>>164
「あぁ...ありがとう、春日。
おう、いつだって名所案内してやるぜ!」

グッと親指を立てて笑顔で答える
言葉が交わせるんだ。こうやって語り合えば友達になれる
その思いを飲み込んで、自分も立ち上がった

「........その、お前も...無理するんじゃねーぞ!」

と、最後に付け加えて

分かってる。彼は悪魔を殺す人間で
俺はこれ以上どこまで行っても変わることのない。悪魔だ
俺たちの縁は、限りなく不安定な壁で隔ててある
崩れれば、きっとそのまま縁さえも崩れ去る

「.................」

俺の生き方はあまりにも不安定だという
だが、それでいい
それが俺の選んだ道だ
憎まれても、疎まれても
どっちも見続けて生きていく────。

と、桜井は友人の背中を見送りながら

/こちらこそありがとうございましたー!

166日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/14(木) 22:21:58 ID:/hFq9EzI0
午前の授業が終わった夜桜学園の屋上に一人の少女が寝転んでいた。
広大無辺の碧空を見上げる少女―――日々奈彩花は、夜桜学園の制服をキチンと着用しているが、ブレザーだけは布団の様に扱っており、その背に敷いて、明らかに間違った使い方をしている。

「暇ねえ………」

特にやることもない時間故に、日々奈彩花はただボーっと空を見つめる。
悪魔が降る様な闇に染まらない刻のみに、見れる晴天をその瞳に焼き付けていた。

167桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/14(木) 22:37:36 ID:if7ZXLvA0
>>166
ガチャリ、と扉が開く音がした
こんな時間に暇人だろうか誰かが屋上に上がってきたのだろう

「さて、と........ん?」

男子生徒の声だ
寝転がる彼女が視線を向ければ同学年の男子生徒だと分かる

染めたであろう薄い茶色の髪に長めの前髪を止めるピンクのヘヤピン
ボタンを外し、年相応の着崩して丈を短く改造した学ランを赤いシャツの上に着ている少年

────桜井直斗。
同学年の男子生徒だ

「なんだ日々奈か...どうした? こんな場所で
硬い床の上で寝てたら、体痛くなるぞ?」

昨日は随分部活の手伝いをさせられていたようだが、今日は暇なのだろうか
片手には紙パックのイチゴミルク(110円)を持っている
時間つぶしだろうか、それとも家に帰りにくいのだろうか?

そんな彼はそう言って、日々奈の近くまで言って見下ろしながら

168日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/14(木) 22:59:44 ID:/hFq9EzI0
>>167

私立夜桜学園の屋上は基本的に開放されていない。
然し、ごく一部の、ほんの一握りの生徒達により、今現在のように、時たま扉が開いている時期がある。
今回は日々奈が、前回は桜井が――――このように、日によって扉の開放をする生徒は違い、誰が開けたかは屋上に行くまでは分からない。

「あなたこそ、格好つけて慣れない運動してると体壊すわよ」

背後から聞こえた声は、何度も聞いた――聞き慣れた声で、その主の顔を見ずとも、誰なのか理解できた。
おそらく、というより十中八九、桜井直斗だろう。
染めた茶髪にピンクのヘアピン、理由は分からないが改造された学生服を着用している、不良未満の不不良な男がそこにいるに違いない。
日々奈は、声の主が桜井だという前提で返答する。

「なに、見下ろしてんのよ?頭突きするわよ」

見下ろす桜井をむすっとした表情で見上げる。
如何にも不機嫌な顔付きの日々奈は、軽い冗談交じりの脅しを言うと、そのままゆっくりと起き上がり、女子力皆無な欠伸をした。

「で、あなたこそなにしに来たの?」

桜井とは何度も屋上で話した仲故か、気の抜けた声で質問をしながら、自然と彼の買ってきたいちごミルクに手を伸ばす。

169桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/14(木) 23:23:09 ID:if7ZXLvA0
>>168
「うるせっ、運動系で重宝されるくらいには運動できらぁ」

と、何処の方言かも分からないセリフで笑って答える桜井
まぁ事実そこそこ運動はできるのだが、所詮そこそこ
無茶して怪我して保健室の先生に世話になる事も少なくない

「おう、頭突きか? 当てれるもんならやってみろって」

と、ニヤッと挑発
こんな会話する桜井と日々奈は友人とも知人とも言い難い仲だったりする

「いや、それが帰るには早すぎてなぁ...同居人がいて寂しくはないんだが...うん」

と、何か答えにくそうに躊躇いなくイチゴミルクを日々奈に手渡して言う
彼にしては随分歯切れの悪い答え
同居人。と言った
桜井が市営のマンションで一人暮らしなのは他の親元で暮らす男子生徒からの羨望の眼差しで割と有名だ
そんな彼が、同居人とは

APOHでは一応情報が上がってるが
彼は数日前に悪魔に襲われ
現在、大宮家に保護されているとの事だ

一応、学校の友人らには隠してるつもりらしいが...

つまりクラスメイトの女子の家にいるこの男は毎度帰るのが気まずいらしい
...桜井はこんな格好してるのに変な所で無駄に真面目というか
不良っぽくない、というか不良じゃない

170日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/14(木) 23:32:56 ID:/hFq9EzI0
>>169

――――――当てられてみろ。
そんな台詞を言われて、一瞬その額に思いっきり頭突きをしてやろうかと考えた日々奈だったが、サッカー部から助っ人として呼ばれる桜井の頭は、意外と石頭なのかもしれないと思い、それをするのは中止した。
鼻で桜井の挑発を笑うと、日々奈は遠慮しとくわと一言。

「――――――?
 同居人?あなた、一人暮らしじゃなかった?」

歯切れの悪い桜井に違和感を覚える。
たしか、記憶が正しければ彼は一人暮らしであり、同居人が居るといった話は聞いたことがない。
ついに、一人暮らしの寂しさで頭が参ったのか―――彼の目を覚まさせるためにも、やはり頭突きをするべきか。
手渡されたイチゴミルクを当たり前のように、飲みながら、探る目線で桜井の顔を覗き込む。

171日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/14(木) 23:34:13 ID:/hFq9EzI0
>>170/途中送信してしまいましたっ……。ミスです

172日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/14(木) 23:42:34 ID:/hFq9EzI0
>>169

――――――当ててみろ。
そんな台詞を言われて、一瞬その額に思いっきり頭突きをしてやろうかと考えた日々奈だったが、サッカー部から助っ人として呼ばれる桜井の頭は、意外と石頭なのかもしれないと思い、やむを得ず中止した。
桜井の挑発を鼻で笑うと、日々奈は遠慮しとくわと一言。

「――――――?
 同居人?あなた、一人暮らしじゃなかった?」

歯切れの悪い桜井に違和感を覚える。
たしか、記憶が正しければ彼は一人暮らしであり、同居人が居るといった話は聞いたことがない。
ついに、一人暮らしの寂しさで頭が参ったのか―――彼の目を覚まさせるためにも、やはり頭突きをするべきか。
手渡されたイチゴミルクを当たり前のように、飲みながら、探る目線で桜井の顔を覗き込む。
APOHに所属している日々奈ではあるが、黒獣の情報も昨日初めて知り、更には桜井が悪魔に襲われたことに対しては認知すらしていない。
そのため、彼が――――桜井が大宮家に保護されているといった話は全く知らないのだ。

173桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/14(木) 23:57:37 ID:if7ZXLvA0
>>172

「あー...いや、うん...前は一人暮らしだったんだが..まぁ、お前には言ってもいいか。
ちょっと、訳あってな。今は大宮の家で世話になってるんだ」

大宮さんといえば、クラスメイトの女生徒だ
真面目で生徒、先生からの信頼も厚い子だ
そんな子がこんな男と住んでるのかと、何言ってるんだと頭突きされてもおかしくない回答だった

ちなみに今桜井は日々奈に目線を合わせてしゃがんでいる
十分に狙える位置である

そういえばクラスの男子生徒が久々に登校してきた桜井が女生徒と一緒に登校したと言っていた気がする
まさか、そんなはずがないだろうと、色恋も知らない彼奴にそんな相手いないだろうと
なんというかそんな色々と悲しい反応でそれでその議論は終わっていたが
その女生徒が大宮さんだというのか

「まぁ、なんだ。...誰かと過ごすのってどうしたらいいのかよく分からなくってさ」

だから、時間ギリギリまで学校に残っている

と、笑って語った
幼い頃に両親を亡くし、親戚を転々として今に至る
桜井を知っていればそれの話も割と有名な話だ

そんな彼にはそういう"家族"みたいなものが慣れないらしい

そんな彼の経緯に日々奈は気付くだろうか...?

174日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/15(金) 01:01:18 ID:/hFq9EzI0
>>173

「ブーーーーーーーッ!?!」

思わず口からイチゴミルクを吹き出す。
同居人として名前の上がった人物が、まさか自分や桜井と同じクラスメイトの女子――――然も、それが真面目で優秀な大宮陽子だとは思いもしなかったらしく、驚きに満ちた表情と、期待を裏切らない反応を示した。
頭突きをするには絶好の位置にいる桜井の顔面に、口から放出されたイチゴミルクが衝突するのを避けるために、顔をずらしたために、屋上の一部床には薄いピンク色の液体が撒き散った。

「おーけーおーけー。そこから微動だにしないでね?
 今から、あなたの頭に私の頭突きをお見舞いするから」

日々奈は笑みのない笑顔で、桜井の両肩を力強く掴むと思いっきり頭をぶつけようとする―――――が

「……………はぁ」

なにを思ったのか、桜井の寂しげな笑顔を見て、寸前の状態で頭突きを中止し、呆れた顔付きで、桜井を見据える。
二人の距離はとても近く、互いの鼻先が触れるか触れないかの状況であり、桜井の瞳には日々奈の姿がよく写っていた。

「――――――――――――フンッ!」

ふと、丁度、空を飛ぶ烏が鳴いた刹那、日々奈は中止したはずの頭突きを桜井にお見舞いした!
鈍い音が狭い範囲に響き渡り、日々奈の額に鈍痛が走る。

「当ててやったわよ、頭突き」

赤く腫れたデコを摩りながら涙目で桜井を睨む。
誰かとの過ごし方が分からない。
それは桜井の経緯を知っていれば悲しい答えだった。
彼の言った悩みに対する回答など、生憎、日々奈は持ち合わせていないし、寧ろ対極的な状態である故に、こっちの方こそ聞きたいくらいだ。
家族のいない生活をどう過ごせばよいか―――と。
新しい家族のような存在を手に入れた桜井を少しだけ、羨ましく思いながらも、その嫉妬を頭突きに溜め込んだために、若干スッキリ。

「まあ、アレよ。
 あなたがどんな経緯で、大宮さんと暮らすことになったのか知らないから、なかなかアドバイスが難しいのよ」

再び、桜井の買ってきたイチゴミルクを飲み始め、そもそもどういった経緯で大宮と同居することになったのか疑問に思う。
その経緯次第では、自分でもアドバイスくらいはできるだろうと考えた故であり、寧ろ、過程を知らなければ、桜井の悩みに力を貸すことは難しい。

「――――で、そもそもなんで大宮さんなわけ?」

日々奈はズイッと顔を近付け、神妙な顔付きで桜井の瞳を見つめる。

175桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/15(金) 02:02:25 ID:if7ZXLvA0
>>174
「ちょ、ちょっと待て!! 別に俺の頭がおかしくなったわけじゃないっ!!」

抵抗虚しく、ガシッと頭を掴まれる
こうなったら逃げられない、いくら抵抗してもう遅い

「......? なんだよやるなら早k────。」

相手の吐息さえも感じられる
鼻先触れるような距離
その状態で少しだけ間があって──────。

「ッッッ!!! な、なんだお前っ!! ガチか! ガチかよ!!!」

その音は、あまりにも生々しく
彼の脳細胞を死滅させる勢いだったという
頭突きの衝撃のまま床を転がってのたうち回る男子高校生17歳
煽っておいてこのザマとは情けない
暫く鈍痛に苦しみながら────。

「......まぁ、なんというか...成り行きというか...
大宮の側で生活したほうがいいってなって...いや、待て待て!! 真面目に答えてるんだ!」

何があったら一人暮らしの男子高校生が同じクラスの女子と生活すべきという結論至るのか
本人は大真面目なのか頭突き二発目に思わず警戒ポーズを取っている

まぁ、こいつが嘘をつくような男じゃないのは日々奈も知っているかもしれない
というか、嘘が苦手な部類だ。ついたらすぐ分かる

「...その、もう1人その場に居たんだけど。 そいつの紹介でもあったんだ
.....そう! そいつとも一緒に生活してるんだ!」

...ほう、二人暮らしではないらしい
さすがに異性の高校生が同棲は普通にマズイ。倫理的に
彼もそれは分かってるようだ
間を取り持つ保護者がいるなら────。

「...あ、ほら。アイツだよ、あそこにいる」

と、何を言い出すのかグランドの方を指差した
その指先の延長線上、先に見えるのは

金髪に褐色の肌、不良っぽさが見て取れる"女子生徒"
2年では見ない顔。おそらく後輩だろう

────つまり?
このバカ者は、クラスメイトの真面目女子と
後輩の不良女子と一緒に生活してるというのか

────地面を転がる彼に追撃は、容易だ。

176マバハリファ(舌使い巨漢悪魔)操作フリー  ◆sF/KB3MJeA:2016/01/15(金) 02:11:04 ID:sPumd0aQ0
>>157

「あ゛っ、ああ゛あ゛あ゛あ゛゛あ……ああ?」

 ゴーッという轟音とともに、とぐろをまいた炎の渦が巨漢悪魔の身体を包み込んだ!
 普段であれば逃げ足の速い悪魔であったが……先ほどの凍結攻撃の余波は、四肢を鈍らせ、その俊敏さを封じられてしまったのだろう。

「あれ……おら……おら? 火?」

 痛覚のない悪魔は、自分の体が炎に包まれ、朽ちていく体にただ驚いている。

「あれー……あれぇ……?」

 恐るべきは、九尾の狐の魔力であった。
 戯れに放った火炎の威力は、体力と再生能力に長けた悪魔を……一瞬で消し炭に化すほどの火力を持っていたのだ!!!
 すさまじい悪臭と、黒い煙が、山奥の廃屋路地の奥地に立ち上る……。
 それは、伝説の「傾国の悪魔」……。九尾狐の大復活の烽火にも思えた……。

 マバハリファ、火炎に飲み込まれ、死亡――!

177ブロンドバロン(バンパイア紳士先生)操作フリー  ◆sF/KB3MJeA:2016/01/15(金) 02:12:23 ID:sPumd0aQ0
>>176

※ここから物語ロール

出演:ブロンドバロン 始祖悪魔ルシファ (オセ・サバブ)

「……マバファリハの妖気が、消えましたな、ルシファ様」

 海馬市の山奥――《魔界の門》。
 魔界でも現実でもない、不思議なテリトリーに、古城のような――【幻影城】とも呼ぶべき空間がそびえている。
 そこには蝋人形のように固まった、虚脱状態の乙女たちが鎮座しており……その中央に美しくグロテスクな意匠のソファが置かれている。

 ソファは魔界と現実をつなぐ穴の方を向いており、こちらからはそこに座っている者の表情は見えない。
 見てはならないのだ。もし見てしまえば、そのあまりの美しさに、目がつぶれてしまうという……

 その近くに膝を立て、バンパイアの紳士が低い声で魔界王・ルシファに報告をしている

「マバハリファは便利な先兵ではありましたが……所詮、悪魔の中では最弱……。人間のごときに葬られても不思議ではございません」
 ブロンドバロン・ジェントルハウスは水晶玉を覗き見、マバハリファの魂の光が消えていくのを見ている……。

《ハリファは火に、巻かれたっていうよ、バロン卿。》

 ルシファは思念波でバロンの脳内にメッセージを送ってくる。

「しかし、人間どもの中にも火炎の使い手はおりますでしょう」

《――この月に美しい夜にかい?》

「……!」

 そう。深夜である。悪魔が最も力を発揮する時間――。
 マバファリハは最弱とはいえ、その再生能力と俊敏さ、しぶとさには定評があった。
 その悪魔が、夜の時間、一瞬で火炎に巻かれて消し炭になるというのは、とてつもない火炎能力の使い手か、あるいは――。

「確かに、ルシファ様の意にしたがわぬ悪魔もおりましょうが……火炎の使い手と言うと……」

《ふふ……》

 ルシファは、自分を信奉する悪魔が一人死んだというのに、どこか愉快気だ。
 【堕天六芒星】の幹部でもあるブロンドバロンは、「悪魔の意に沿わぬ悪魔」の存在を放置することはできないようだ。

「オセ・サバブを呼べ……。”計画”を邪魔するものは、人間であろうが悪魔であろうが、容赦はせん」
 バロンは静かに下級悪魔執事に指令すると、体を無数のコウモリに変化させ、《謁見の間》から姿を消した――。

/こんな感じでシメで、「大変な事が始まる予兆」ロールはいかがでしょうか?

178沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/15(金) 12:42:15 ID:Y9DCRQiM0
>>176-177
光は過ぎ去り熱は引き、どれだけの時間が経っただろうか。
管狐の姿もとうになく、月明かりを受けて立つのは九尾の狐だけだ。
紅い瞳を僅かに細めて見上げる月は、いつの時代も変わらずに黙したまま煌々と夜を照らす。

「やれやれ、少し派手にやり過ぎたのう。これでは彼奴らに嗅ぎつけられるのも時間の問題か」

残念そうな声色とは裏腹に浮かべる笑みはどこか楽しそうで、しかし見咎める者はもうこの場に引いない。
おそらく、いや確実に今の戦闘は悪魔側に伝わっているはず。最悪こちらの正体まで知られていると見ていいだろう。
それはそれで構わない。そこからどう事態が転じていくか見ものだと言うものだ。

「さて、お主らはどう動くかの。危険分子を排除するか?取るに足らぬと捨て置くか?
まあどうしようと構わぬ。私を楽しませてさえくれればな」

つと歩き出す。靡く銀髪はみるみる黒に染まっていき、完全に変色した時にはもう悪魔の鱗片は見られない。
宵と山奥にそぐわないセーラー服はひどく異質で、少女の存在そのものを如実に表しているよう。

「人間と悪魔がこうして争うなど滅多にない事だ、さぞ大きな祭りになるのであろうよ。ふふっ、今から胸が踊ってたまらん。
嗚呼、どうか私を退屈させるでないぞ?でなければ何をするか分からんからな」

耐え切れずに小さな笑い声を漏らす。まるで子供のように無邪気で、けれど背筋を震わせる狂気を孕んでいて。
焼け焦げた亡骸や気絶している人間たちの横を目もくれずに通り抜け、少女が目指す先はまだ本人さえも知り得ない。
かくして傾国の名を持つ悪魔は欲望と本能を抱いたまま、闇の奥へと溶け込んでいった。

/それではこのあたりで、長時間ありがとうございましたっ

179沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/15(金) 21:44:21 ID:Y9DCRQiM0
よく晴れた休日、商業施設も多い市役所周りはいつもよりも賑わっていた。
制服私服、老若男女とその幅は広く、人通りもそれなり。とはいえ都会と言えるほどではないのだが。
そんな中、道沿いに並べられたベンチの1つに腰を落ち着けている少女がいた。制服の上に厚手のコートをしっかり着込んでいるようだ。
日が差しているとはいえ冬の寒さは身にしみるのか、他に座っている影は見受けられない。

「まったく、なんとも人の多い事よな…」

誰に言うでもなくぽつりと零す。その顔はすっかり辟易した様子。心なしか、ただでさえ病的な肌がさらに青白いようにも見える。
千年という時間は人の世が変化するには余りある。このような人混みというのは、彼女にとってとても考えられないものだった。
そしてその体もまた、時代の変化にまだ対応しきれていなかったのだ。

「この程度で疲れ果てるとは…私も堕ちたものよ。
よもやこの程度でやられるとはな…」

大層な事を言っているようだが、要はただ人の多さに酔っているだけである。
普通ならどうという事もないはずだが、ただでさえ低い身体能力と人混みに不慣れな事が彼女をここまで追い込んでいた。
せめてもう少し人通りがなくなってからなら。響く頭痛に僅かに顔をしかめながら、過ぎ行く人々をぼんやりと目で追った。

180メモリー ◆3wYYqYON3.:2016/01/16(土) 00:22:58 ID:tVFZhA6M0
>>179

「貴女が、沙希さん......ですか?」

少女の前に、1人の女。
その格好は、はやりのファッション雑誌のモデルの着ているような服装......を、安さが取り柄のファストファッションでそれっぽく模倣したもの、というべきところか。
年齢は、少女よりも若干上の「ように見える」だろう。

「貴女の噂はかねがね聞いています。ついこの間も、派手に暴れたそうじゃないですか......同族相手に」

そう言いつつ、少女の隣へと座ろうとする。
その口調は、丁寧ではありつつも、どこか面白がっているかのようなものを感じるだろう。

//置きになりますが、宜しくお願いします。

181沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/16(土) 00:51:58 ID:Y9DCRQiM0
>>180
通行人をなんともなしに眺める最中、不意にかけられた声に緩慢とした動作で顔を上げる。
そこにあった顔に一瞬だけ不思議そうな表情を見せるが、すぐに合点がいったように小さく鼻を鳴らした。

「知らん、派手に暴れたのは向こうだ。彼奴め、勝手にこちらを人間と勘違いしおってからに」

不機嫌そうに目を細めてこそいるが気を害した様子はなく、ややずれて女が座る場所を開ける。
女の声色の奥に潜む愉快そうな響きを悟ったのか、居心地が悪そうにまた正面へと顔を向けた。
実際、深夜の破壊活動のほとんどはハリファと名乗る悪魔の仕業だ。沙希が拵えたものといえば焼け焦げた2つの亡骸程度に過ぎない。
それを全てこちらの仕業にされてはたまったものではない。大げさにため息を1つ、白い吐息が空に昇る。

「しかし随分と広まるのが早いのう。お主その話、何処の誰から聞いた?」

悪魔間でも独自の情報網というものはある。特に今回のような事態では、より情報の共有がなされているはずだ。
それは単に友人から聞いた話かもしれないし、さらに上位、司令部からの通達によるものかもしれない。
その予想こそついてはいるがちょっとした意地悪のつもりなのだろう。視線は通行人を追いながらも、悪戯げに笑いながら女へと問いかけた。

182メモリー ◆3wYYqYON3.:2016/01/16(土) 01:53:25 ID:tVFZhA6M0
>>181

「へぇ、そうだったんですか」

派手に暴れたのが沙希であろうがもう一方の悪魔であろうが、そんなことはメモリーに取ってはどうでも良い事だ。
メモリーの目下の関心事は、事件の詳細などではないのだ。

「何処から噂を聞いたか、ですか?案外俗な事を気にするんですね。まぁいいですけど。誰か、って事は教えられませんが......」

ぺらり、と数枚のコピー用紙を束ねたものを少女へと放り投げる。
「事件調査書」と記された書類は重要書類扱いらしく、偽造防止の「COPY」の文字があちこちに記されているが、それでも読み取れるであろう_______「APOH」の文字も、詳細な内容も。
書類の日付が昨日となっている事が、メモリーが人間側と何らかの深い関係を持っている事を匂わせる。

「うふふふふ......人間も侮れないものですよね、本当に」

堪えきれないと言わんばかりに、笑みがこぼれ落ちる。
当然だろう。
今少女に渡した書類は、メモリーが凡百の悪魔では無いという証明のようなものなのだから......。
果たして、少女の反応は。

183沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/16(土) 14:55:49 ID:lTlfd0NQ0
>>182
「気にするな、ただの世間話だ。少し退屈していたものでな」

2人の間に落ちた紙束を横目で見やり、手を伸ばしてぱらぱらと捲る。そこに記されていたのは先日の戦闘について。
とはいえ駆けつけてすぐに気絶した人間たちの話と現場の状態、それらに基づいた考察に留まるものだったが。
流し読み、そこに自分についての内容を確認した時だけ僅かに顔を歪めたがそれだけだ。
人間側に知られているのはまだ己の真の姿だけ。それが知れただけでも重畳というものだ。
ふむと小さく声を漏らし、同様に女へとざっと読み終えた資料を放り投げた。

「そうだな、人間とは時に我らをも凌駕する程の力を見せる。
だからこそ憎らしく、それでいて愛らしいのだがな」

女とは対照的に少女は未だ憮然としているが、その言葉に混じる愉悦は確かなもの。
無論少女はすでに、女がただの低脳な悪魔でない事を見抜いていた。
明らかに人間、それも敵対組織から入手した資料だけではない。
巧妙に隠しているはずの沙希の悪魔としての気配を嗅ぎ当てるあたりからも、彼女の知能の高さが窺える。

「それで、私はなんの意味も持たぬ世間話程度しかできる事はないが。お主はそうでないのではないか?」

だからこそ、こうして無意味に接触してきたとは考えられなかった。
女が隣に並んでから初めて、少女はそちらに顔を向ける。その瞳は漆黒ながら、悪戯げな光を湛えていた。

184佐倉 斎 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/16(土) 21:57:18 ID:FZqbjWPA0


先日の襲撃の痕がまだ残る修道院の前に、すらりとした長身の男が立っていた。
癖の入った黒髪に、落ち着いた配色のシンプルな服装。提げているのは地元で有名な和菓子店の袋。

──男は右足を少し引き摺りながら敷地に入っていく。

ヴァイオレット・クラークとは、彼──佐倉斎がAPOHに拾われた頃からの付き合いだ。
確か10かそこらの頃だから、15年になるか。飯を食べさせて貰ったり、色々と世話になった記憶がある。
彼女はAPOHを去ってからも、たまに、ふらりと修道院に顔を出してはいた。
海馬市に赴任してからは、距離は近くとも他の職務が忙しく、中々顔を出せないでいたが──。


「……風祭さんに聞いてたより、ちょっと酷いな。」


先日の修道院襲撃。それで、ヴァイオレットが怪我をしたという話を聞いた。
それで、上司に多少無理を言って時間を作り、見舞いがてら様子を見に来たのだ。
──風祭からすれば、“契約”の件を旧知の彼がなんとかしてくれるかも知れない、という算段が在ったのかも知れないが。

とにかく、彼は修道院の破壊の様子に目を遣りながら、敷地の中を歩んでいく。
歩んでいくのだが──ヴァイオレットはどこに居るのだろう。誰か人は居ないだろうか、と、辺りを見回し、ふらりふらりと歩むのだった。

185ノラ・クラーク ◆CELnfXWNTc:2016/01/16(土) 22:18:18 ID:UkvWjC2E0
>>184
修道院が襲撃され、マザーが入院し、そして退院して。不安な日々が続いていたが、なんとか落ち着きを取り戻し始めた。
だが、建物が受けた被害は小さくない。屋根に穴が空いた部分さえある。

「私の部屋が……」

どうやら、そこはノラの自室だった様子で、落胆を見せる。

「けど、マザーが無事退院出来て良かった。」

だが、それよりも大切なものが無事に帰ってきたのだ。
建物は直すことが出来る。だけど、人の命はそうはいかない。大切な人が無事だったことに、喜びを見せると、部屋に架かっていたフード付きパーカーを被り、ノラは修道院の外へと向かう。まだ退院したばかりで、本調子でないヴァイオレットへ、何か食べやすいものでも買ってあげようと考えたからだ。

「マザーにご用ですか?」

そして、扉を開けた瞬間。一人の男と出会った。

186佐倉 斎 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/16(土) 22:31:35 ID:FZqbjWPA0
>>185

がちゃり、と戸が開くと、佐倉はそちらを向く。
出て来たのは、見覚えのある少女。APOHの書類で、写真ぐらいは見たことがある、気がする。

「……お、こんにちは。
 ヴァイオレットさんは居るかなぁ。 佐倉、って言って貰えば分かると思うんだけど。」

──ノラの方も、佐倉には見覚えがあるかも知れない。
夜桜学園の国語講師、佐倉。直接話したことはないだろうし、学校とは少し違う印象だから、すぐに気づかないのも無理はない。
当然、APOHの構成員であることは秘密なので、ヴァイオレットに聞いていなければ、そこまでは知る由もないだろうが──。

187ノラ・クラーク ◆CELnfXWNTc:2016/01/16(土) 22:41:58 ID:UkvWjC2E0
>>186
「こんにちは。は、はい、マザーなら奥に……って、佐倉先生!?」

ここでようやく男が、学園の講師であると気付く。だが、ヴァイオレットからは何も聞いていなかった為、彼がAPOHの構成員だとまでは分からない。

(え?え?な、なんで先生が!?わ、私、学校で何かしちゃったんでしょうか!?)
(ま、まさか……角のことがバレて……?ど、どどどうしよう!?)

故にパニックを起こす。終いには、自身の頭にある角の事がバレたのではないかと思う始末。

「あ、あの、その、これはですね!違うんです!」

何が違うというのか。フードを押さえつつ、焦った様子を見せた。

188メモリー ◆3wYYqYON3.:2016/01/16(土) 22:58:01 ID:tVFZhA6M0
>>183

「話が早くて助かります」

資料をキャッチし、鞄へと詰めつつ笑いかける。
切れ者であるとの噂は、本当のようだ。
その確信を、メモリーもまたこのやり取りの中で掴んでいた。

「でも、こんな天気の下で話すというのもアレですしね......そうだ」

ニヤリとしながら、鞄の別のポケットから1枚の紙片を少女へ差し出す。
「ニューシネマ海馬 従業員優待特別チケット」。
それはさながら、彼女の「城」への招待券といったところか。

「丁度、大昔に上映されたサイレントの名画のリバイバル上映をするんです。それに、ここなら人間に邪魔されずに貴女をもてなすだけの『茶菓子』が出せますしね」

茶菓子とは無論、ポップコーンやホットドッグの類を言っているのでは無い。

悪魔にとっての、最高の美食である「魂」。
加えて、完全に太陽光から隔離された空間。
おまけに、人間達が丹精込めて作った映画。

『悪魔にとって、最も快適に過ごせるであろう空間で肴をつまみつつゆっくり話そうじゃありませんか』

そんな誘いが、このチケットには込められている。

「......如何ですか?」

189佐倉 斎 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/16(土) 22:59:40 ID:FZqbjWPA0
>>187

「ん?」
「(……あ、違うな。資料じゃなくて、生徒だ。)」

彼女の口から出た“先生”という言葉で、記憶の齟齬を修正することに相成った。
授業は殆ど受け持たず、専ら資料作成と質問への解答が自分の仕事だが、それでも生徒との接触はそこそこある。
どこかのクラスの自習監督に行った時、確か彼女が居た筈だ。

──しかし、違う、とはどういう事だろう。
フードを被っているのが気になったので、そのクラスの担任に訊いた時は、“頭に怪我をしている”との話だったのだが。

「あー、ヴァイオレットさんから聞いてないのか。……うーん。とりあえず、落ち着いてくれるかな。
 えっとね、少し説明すると──。

 ……ま、いいか。ヴァイオレットさーん、佐倉ですー。見舞いに来ましたー。」

よく分からないことは、事情を全て了解している者に聞くに限る。
何を焦っているのか知らないが、ヴァイオレットに会えば全て済む話だ。
すれ違いざまに、ノラの肩を軽く叩いて、「ついてきて」と示すと、勝手にどんどん、奥の方へ佐倉は歩んでいく。

190ノラ「」&ヴァイオレット『』 ◆CELnfXWNTc:2016/01/16(土) 23:21:28 ID:UkvWjC2E0
>>189
『ああ、アンタかい。上がりな。』

奥からヴァイオレットの声が聞こえてくる。それを聞き、ノラは驚いた表情を見せる。

「え?え?知り合い……?」

いったいどういう関係なのか。困惑したまま、とりあえずは佐倉の後へ付いていった。

『見舞いなんて別にいらなかったんだけどね。この通り、ピンピンしてるし。』

そう言って、奥の部屋、居間として使われているであろうその部屋にて姿を見せたのは、ヴァイオレット。椅子に腰掛けていた彼女は、退院したばかりだというのに、全然平気だと言いたげに立ち上がった。

「あの……お二人はどういった関係で?」

『ああ、そういや言ってなかったねーー』

そして、マザーは自身と佐倉の関係をノラへと簡潔に話した。

「先生がAPOHの……」

『ま、心配することはないよ。アタシらの味方には違いないさ。それより、彼は客人だ。茶でも入れてやりな。』

APOHには、悪魔を憎む者も居ると聞く。だからなのだろう、ノラが不安げな表情を見せたのは。もし、自分がハーフだと知られたら、どうなってしまうのだろうと。
そんなノラに、ヴァイオレットは茶を入れてくるよう指示する。何かやらせて、他の事を考えさせた方が良いと考えたからだ。

『で、ただ見舞いに来たって訳でも無いんだろう?上からなんか言われてたりとか……』

そして、もう一つ。彼と二人で話す為だ。

191佐倉 斎 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/16(土) 23:43:49 ID:FZqbjWPA0
>>190

彼女の姿を見ると、佐倉は笑みを浮かべて一礼した。

「お久しぶりです。──あはは、ヴァイオレットさんより、建物の方がボロボロですねぇ。」

噂では、入院しているという話だった。だから決して、彼女が言うほど“ピンピン”してはいないのだろう。
──だが、ヴァイオレットはそんな“弱い部分”を見せる女性ではない。
そんな所を佐倉も了解しているから、軽口で返す。一種の信頼関係だ。

ヴァイオレットのノラへの説明に、そういう事だね、と、佐倉は頷く。
茶を淹れるという事なので、土産の羊羹を渡しておいた。

「うん。正直に言うと、言われました。“もう一度お話だけしてきてくれませんか”って。」

佐倉はテーブルを挟んで、ヴァイオレットと向かい合う形で椅子に座る。
話、とは例の契約の件だろう。佐倉が告げられているのは、真にそこまでだ。
ノラの件については、一切聞いていないし──聞いていれば、正直に話す人間である。

「──って言うことで、今ので一応、“お話”はしました、って事です。
 これでお仕事は終わり。今の時間からは、お見舞いですねー。」

ニコニコと、人のいい、それでいて少し悪戯っぽい笑いを浮かべて、佐倉はそう言った。
上司の命令1つで、世話になった人間をドライに扱う性根も持ち合わせていない。
──ヴァイオレットが前線を退いた経緯も知っているからこそ、尚更だった。

192ノラ「」&ヴァイオレット『』 ◆CELnfXWNTc:2016/01/17(日) 00:09:50 ID:UkvWjC2E0
>>191
『はぁ。あの男もしつこいねぇ。』

一度断ったというのに、また話をつけてこようとは。まぁ、そこまで切羽詰まった状況だということだろう。自身の体が健康であれば、了承するところなんだが、こんな状態だ。それは出来ない。
決して、弱味を見せようとはしないヴァイオレットだが、自身に残された時間は長くないと悟っていた。

『なんと言われようと、アタシは考えを変えるつもりは無いとだけ伝えてくれ。アタシの方も、これで難しい話しはおしまいさ。』
『ま、見舞いの方も必要ないんだが、せっかくだ、ゆっくりしていきな。』

そう言い終わったタイミングで、ノラが紅茶を持って部屋へと戻ってくる。羊羮に紅茶と微妙にミスマッチなことになってしまったが、今のノラはそんなことを気にしている場合ではなかった。

「ど、どうぞ。」

テーブルの佐倉の付近へと茶を置いたその表情、どこか警戒とも怯えともとれる。そんな様子を見たヴァイオレットは、深いため息をついた。

193佐倉 斎 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 00:30:47 ID:FZqbjWPA0
>>192

「どうも、ありがとう。……ねぇ、ヴァイオレットさん。
 ホントに何か、変な事吹き込んでませんよね? 特にあの、糞ダサい二つ名の話とか、本当に。」

紅茶に礼を言い、ノラに顔を向けると──まだ警戒しているらしい。
APOHの人間と分かっているはずなのに、何だろう。ヴァイオレットのため息が、意味深だ。

──思い当たるフシというと、自らの昔の話か。
名前と武器にかけて、誰が言い出したか“櫻殺斎”なんて二つ名で呼ばれていた頃の話だ。
前線で戦っていたことは事実なので、それはいいのだが──名前の方は、ダジャレが二重に掛かっている辺りが本当にダサい。
大抵の事では怒らないが、アレを考えた奴だけは殴ってやりたいと思う。

「……あー、ごほん。」

「えーっと、ヴァイオレットさん。一応俺、夜桜学園の講師やってるんですけどね。
 彼女──確か、ノラさんでしたっけ?──は、特に何の問題を起こしてるワケでも、なくてですね。
 いや、まぁ。俺が会うのは、自習監督ぐらいなんですけどね。
 でも、担任の先生に聞くと、いい子だと言ってました。……だから別に、ねぇ、何もそんな──ねぇ?」

先ほどの反応と総合して、彼女は家庭訪問的な物を恐れているのだろう──そう、結論づけた。
だから、何も他意がない、と言っておく。それでも恐らく、ノラの警戒は薄れるまい。
……終いには困った顔をして、ヴァイオレットに助けを求める顔を向けた。

──仮に、ノラの“真実”を彼に告げたとしても、口外することはないだろう。
それだけの信頼が佐倉とヴァイオレットにはある筈だし、性格上も悪魔を毛嫌いする人間ではない。
だが、佐倉がAPOHの人間だというのも事実なわけで──。

194ノラ「」&ヴァイオレット『』 ◆CELnfXWNTc:2016/01/17(日) 00:49:51 ID:UkvWjC2E0
>>193
『ああ、実はね、その事を……』
『なんて冗談だよ。』

二つ名のことなど、当然話していない。それを冗談めいて言うも、ノラの学園での話を聞き、その表情は真剣なものに。そして、徐に立ち上がると、まだ明るいというのに部屋のカーテンを閉めていく。
その胸中には、彼になら話しても良いという、佐倉に対する信頼であった。それに、学園にもノラの立場を知るものが居た方が、都合が良い。

『……斎、今から言うことと見るものは、決して他言するんじゃないよ。』

そして、ノラへと近づくと、被っていたフードを外した。

「わあっ!?マ、マザー!?何を……あっ!?」

そして、露になったノラの頭部にあったのは、人間にある筈の無い黒い角。彼女が人間ではないという証拠であった。

『ま、こういうこった。』

不安げな表情を浮かべ、ヴァイオレットへしがみつくノラの頭を一撫でし、そう言った。

195沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/17(日) 01:08:18 ID:Y9DCRQiM0
>>188
「……ほう。随分と手際の良い事よな」

受け取った招待券を日の光に翳して眺める。眩しそうに細められた目は本題というよりもチケットそのものに興味深そうで。
わざとらしく悩む素振りを数秒、やがて大仰に頷いて女へと向き直った。

「いいだろう、少々気になっていたところだ。
お主の話も、映画とやらもな」

もちろん彼女を完全に信頼している訳ではない。昼間とはいえ相手の本拠地だろう場所にのこのこと踏み入るのに危険はないとは言い切れない。
しかしそのリスクを上回ったのが、女の本来の目的だ。罠であろうと出向く価値は十分であると判断した。
さらに長く封印されていた沙希にとって、映画という現代の娯楽は未知のものだ。
そちらへの好奇心もあってか、どこか子供っぽい期待が表情に表れていた。

「ああ、せっかくの誘いだが『茶菓子』はいらん。生憎今は空腹でない故な」

196佐倉 斎 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 01:12:52 ID:FZqbjWPA0
>>194

ノラの頭部。その──“悪魔の象徴”を見た佐倉は

「……なるほど。」

先ほどよりも、少し低い声で呟いた。

──実は、学園で“フードを被っている”のを初めて見た時から、少し違和感はあった。
だが、即座にその考えは捨てた。なぜなら、“そんな雑な隠し方をする悪魔はそうそう居ない”からだ。
然し“隠せない”──例えば、ハーフ──なら、話は変わってくる。

なるほど、これは上手い、と、今更ながらヴァイオレットの老練とも言える手管に感心した。
木を隠すなら──ではないが、隠そうとするから探られる、ということは往々にしてあるのだ。

「ノラちゃん。心配しなくていい。
 君には危害も加えない──と言うか、られない、の方が近い。その辺は、師匠さんに聞いて。
 とにかく、俺はそのことを決して、話しはしないよ。ヴァイオレットさんに面目が立たないし、何より──」

佐倉はノラの置いてくれた紅茶をひと啜りし、うん、と頷く。

「──こんな美味しい紅茶、次に来た時に飲めないのは、勿体無いからね。」

不安げな表情の彼女に、声のトーンを軽い調子に戻して、笑みかける。
実際、現実的に考えても、ヴァイオレットが手元に置いているのなら、心配はない。
それほどの信頼を、かの淑女には置いているし──何より、自分の勘が、そう告げていた。

197ノラ「」&ヴァイオレット『』 ◆CELnfXWNTc:2016/01/17(日) 01:28:15 ID:UkvWjC2E0
>>196
「先生……」

佐倉のその言葉を聞くと、ノラはヴァイオレットから離れ、佐倉の元へと近づいた。

「その、失礼な態度をごめんなさい。私、本当のことを知られるのが怖くて……本当にごめんなさ、あ痛っ!」

そして、謝罪の言葉と共に頭を下げる。その際、勢い余ってテーブルに頭をぶつけてしまうが

『そこはありがとう、でも良いと思うけどね。』
『それに、ノラ、アンタは怖がりすぎなのさ。確かに、ハーフを快く思わない者も居る。けれど、それが全てじゃない。世の中は、アンタの思ってる程、敵ばかりじゃないんだよ。』

そう、マザーもこの間の秋宮も、そして佐倉も、皆、ノラのことを理解してくれた。

「先生、ありがとうございます!」

ノラは、そんなマザーの言葉に、勇気づけられ、ぶつけた額を擦りながらも、感謝の言葉を述べた。

198フリューゲルス、セリエ ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 01:33:38 ID:EQaCMdl60
出演:セリエ=A=サラスフィール、小黒無甚、(アリオク)


時刻は深夜、草木も眠る丑三つ時。
海馬市役所の地下に存在する研究室、そこには未だ明かりが灯っていた。中に居るのはAPOH所属の研究者セリエ=A=サラスフィール。彼女は今、最後の調整に入っていた。
先日アリオクと名乗る悪魔に身体を一部破壊され、その修理がやっと終わるところだ。左手を動かし右手を動かし、しっかりと動作することを確認すると一息をつく。

「やぁセリエ君、どうだい?元気にやっていたかい?」

「──貴様は」

ふと、入口に何者かの声が響き渡る。その声をセリエは知っている。
自分と同じ人種、研究者。その中でも自分と同じ異端に手を染めるマッドサイエンティスト。

「小黒無甚…何の用だ、こんな辺境に」

「いやなに、偶然通りかかっただけさ
そして君がここにいるのを思い出してね、顔でも合わせておこうかと思ってね」

「なんだ、そんな下らん理由で私の時間を無駄にしに来たのか」

セリエはそう言い捨てると、立ち上がりコーヒーをカップへと注ぎにいく。カップの数はひとつ、無甚の分は用意はしてくれないようだ。
しかしそれに構うことなく、無甚はドカドカと中に入り適当な椅子に座る。二人の間には微妙な空気が流れ、暫しの沈黙。

「──貴様、私からの伝言は聞いたか?」

「あぁ勿論だとも、しかし尻拭いと言ってもだねセリエくん
私だって頑張ってはいるんだ、愛する妻へ報いる為にね」

やれやれと言わんばかりに首を振る無甚。その言葉は欺瞞に満ちている。愛する妻、など真実を知っているものが今のを聞けば軽蔑の眼差しの一つでもくれてやっただろう。
だが生憎セリエにはそんなことをする理由がない。形は違えど根源は同じ。同じ穴の狢である無甚を責める理由などセリエには何も無いのだ。

「どの口がそれを言う、第一殺したのは貴様だろう」

「────なんだ、知っていたのか?
まぁ、あの"失敗作"とやり合ったのだから当然か」

「失敗作ならばしっかりと"処理"をしておけ、お陰で余計な修理をしなければならなくなった
私の身体の修理費は払ってもらうからな」

「はぁ…まぁいいだろう」

無甚はそれを承諾すると、セリエをマジマジと観察し始めた。セリエは椅子に座り気にすることなくコーヒーを飲んでいる。
そのセリエの姿は人そのもの。誰がどう見ても人間だと言うだろう。行き過ぎた科学は魔法と変わらないというが、これこそはまさにそうなのではないだろうか。
モノに命を宿らせるという有り得ないこと、それに近いことが行われている。その証拠がこのセリエだ。
彼女は機械だが、確かに生きている。生き物の定義の仕方によって様々だが、意思を持ち、心を持ち、きちんと会話が出来ればそれは生きていると変わらない。

「しかしうん…実にいい……
その身体の秘密、一つ私に教えてくれないか?」

「無理だな、企業秘密だ
第一今の私にその権限コードは開放されていない」

「なるほど、余程厳重な管理のようだ
本人にも未だ秘密にしているとは、まったく君らしい────それでは、そろそろ行くとしよう」

「──ではまたいずれ、次に会うことができる日を楽しみにしているよ」

無甚は立ち上がると、先程来た入口へと歩いていく。その口には僅かに笑みが零れていて、その笑みは酷く邪悪なもの。捻じ曲がり、道を外れた外道の笑い。彼が一体何を考えているのか、それを知るのは本人のみ。

「……はぁ…厄介ごとだけは持ち込まないで欲しいものだな」

セリエはただ、それだけを呟き残りのコーヒーを飲み干すのだった。

199佐倉 斎 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 01:43:09 ID:FZqbjWPA0
>>197

自らの“秘密”に怯えるノラは、程度は違っても、佐倉に昔日を思い出させた。
悪魔の話をすると、友人は居なくなった。怯えた両親は、自分を放り出した。
思い返せば、幼い自分はこの身に生まれたことを恨んで生きていたと思う。

だが、それでもAPOHに入ってからは、色々な人が認めてくれた。
それでもいいのだ、と。ヴァイオレットも、そんな人間の一人だ。
嬉しくて、安心した。──だから、今の自分があるのだ。


「……ありがとう、か。ははっ、そんなに感謝されるほどのことでもないけどね。
 悪魔だろうが人間だろうが、君は君だよ。でも、まぁ、そう言われたからには──」

──どういたしまして、と、佐倉は笑って応じた。
それからの時間は、ノラも交え、多少なりとも楽しいお茶会となった筈だ。

/とりあえず、この辺り……でしょうか!

200ノラ「」&ヴァイオレット『』 ◆CELnfXWNTc:2016/01/17(日) 01:46:18 ID:UkvWjC2E0
>>199
/ですね。
絡みありがとうございました!

201日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/17(日) 10:07:57 ID:/hFq9EzI0
>>175

「へぇー、成り行きで大宮さんと同居なんて、随分と不思議な話ねー」

真面目に答えている。嘘ではない。
それは彼の性格を考慮すれば十分に分かる。
然し、些か信じ難い話であり、尚且つ、桜井の説明が理解し難いものだった故、日々奈は素直に首を縦に振り、''はいそうですか''と了知することはなかった。
日々奈の金色の瞳からは、黄金の目線ではなく、白い目線が桜井に向けられている。
やはり、何故同居することになったのかを説明しなければ日々奈からの理解は得られないだろう。
最も、彼女本人は単純に大宮と桜井との同居過程に興味を持っているだけであり、そこに悪魔関連の疑惑もなければ、彼の悩みを解決したいといった善意もない。

「――――――もう一人?」

桜井の発言に日々奈は眉を顰め首を傾げた。
大宮以外の同居人―――――それが誰なのかは予想できないが、やはり常識的に推測すれば、彼女の保護者なのではないだろうか。
そうなれば、桜井と大宮が同居するといった話も多少ではあるが、理解の及ぶ――――少なくとも、高校生同士の同居話よりかは、了知の範囲だ。
然し、保護者の場合、桜井の''そいつ''呼ばわりが気にならなくもないし、なにより、仮にもう一人の同居人が保護者だとすれば、彼の説明に対して若干の違和感を覚える。

「…………………………」

一人推測を立てては、それに対して疑惑を持ち、桜井という知人とも友人とも言い難い男に日々奈は、困惑した。
然し、互いの信頼度や距離間を考えと別に深追いするほどの関係性でもないため、これ以上の探索は止めようと日々奈は思うが――――――

「あなた……本当に何があったの?」

桜井の指差した方向に目を向けた瞬間、日々奈の雰囲気は一転。
先程までの冗談の通じる軽い雰囲気は一切無く、表情は険しくなり、気のせいか口調も真面目だ。
僅かな期間の間――――期間と呼ぶにはあまりにも、短い時間の中で、築き上げた家族の代行。
大宮と顔の知らない少女との同居生活。
常識の埒外な出来事が、そんな短い時間の中で起きるということは、その過程も同じく常識の圏外に違いない。
日々奈は彼の顔を凝視する。
金色の瞳は桜井の目を見据え、鋭い黄金の視線は嘘を見透かすように真っ直ぐだ。

「あの子――――大宮さんの隣の子、私は初めて見たし、多分だけど後輩よね。
 百歩譲って大宮さんとの同居は分かるとして、なんで彼女とも一緒に暮らすことになんのよ?
 しかも三人一緒に。流石に無理があるわ、理解しろだなんて……常識外すぎるわよ」

地面に転がる桜井を追撃する様子はなく、その場にしゃがみ込む。
位置的にスカートの中身が見えるだろうが、日々奈の雰囲気から察せられるように、それを指摘できるような、普段のお気楽な空気は流れていない。
大宮の隣を歩く少女は日々奈の認知していない生徒であり、同じく桜井もここ最近までは知らなかった存在に違いない。
何故、そんな人物とも同居をすることになったのか。

202桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/17(日) 10:38:37 ID:if7ZXLvA0
>>201
「............」

日々奈の言う通りだ
同じ状況を自分の友人から聞かされたら取り敢えずそいつに良い病院を紹介するだろう
普通に聴けば、まず信じられない
だが、それは事実は事実。

仰向きになっていた身体を転がしてうつ伏せに
自然、目線は“ソレ”からは逸れた

「.....最近の少女誘拐事件、知ってるか?
...俺自身が誘拐されそうになった訳じゃないが、少し巻き込まれたんだ」

ポツリと、呟くように言葉を紡いだ

だから、伝えよう
事実は事実だ。
隠さなければならないと分かっている
けれど、何故だろうか。こいつには伝えたいと思った

「....その、信じてくれないとは思わないが...
あ、悪魔って...信じるか...?」

軽蔑されるとも、馬鹿にされるとも覚悟して
そう事実を口にした。

203日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/17(日) 11:23:36 ID:/hFq9EzI0
>>202

日々奈は黙り込み、桜井の話し始めた過程を相槌一つしないで、静かに聞いた。
何かしらの相槌を打っても良かったが、あえてそれはしない。
今はただ、ひたすらに彼の話を聞こう。
少女誘拐事件という言葉を聞いて、日々奈の瞳が僅かに開き―――――その単語に反応する。
桜井の述べた事件を日々奈はよく知っていた。
恐らく、巻き込まれた彼よりも少女誘拐事件について広く深く認知してる。
ゆえに、その事件の実態にも気が付いていた。
だから日々奈はこれ以上の話を―――――先の過程説明を聞いて、受け入りたくはなかった。
桜井の呟きに近い言葉が次第に次第に事件の核心に近づいてくる。
鼓動が早くなる。目が泳ぐ。拳を握る。呼吸が激しくなる。

「――――――――――――」

悪魔。
その単語が現れた瞬間、日々奈の視界は闇に染まる。
耳鳴りが激しくなった。鼓動が更に早くなった。
然し、それらは直ぐに止み、一瞬の出来事で完結した。
次第に落ち着く自身の状態―――――動揺。
日々奈はこれ以上の沈黙は無意味と考えて、震えるような声―――ではない、先程と同じ気の強い口調で

「――――――――――――知っているわ」

と一言。
その一言のみで日々奈は桜井の質問に回答をした。
十分な回答だろう。
認知しているか否かで、大きな分岐点となる話だ。
知っていると答えるだけでも十分過ぎる。
日々奈はそう答えると、飲み終えたイチゴミルクを床に置き

「悪魔。常識外の存在。人ならざる者。人に擬態する者。悪の権化。殺戮の神。少女誘拐事件の実態。
 海馬市に潜む――――――''魔''」

表情に険しさが増す。
より一層、拳を強く握りしめ、日々奈は悪魔を語る。
簡易的に抽象的に核心的に、それの実態を明かす。
何故、日々奈が悪魔を認知しているのか――――。
桜井は必ず疑問を感じるだろうが、日々奈は構わず話す。

204桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/17(日) 11:45:52 ID:if7ZXLvA0
>>203
あぁ、言ってしまったと
一周回って諦めたような笑顔を浮かべた

こいつとの時間は楽しかったのにこれで終わりだと
信じてもらえないだろうなと思っていた
貶されるとも思っていたのに彼女の反応は意外だった

「え──────?」

こいつ、今何て言った?
知って──────いるのか?

思わず、身体を起こして日々奈の方を向く
素っ頓狂な声を出してしまった

そんな────。
こいつも、日々奈までもが知っているのか
夜に生き影を行く異形。
悪魔を、その存在を

「そんな...知ってたのか日々奈!
お前も...その、APOHの...?」

そんな、いつからだ
悪魔を相手にするその組織にいつから所属していたんだ

ちょっと前まで自分は何も知らずに生きてきたのに
自分の友人が次々にそのAPOHという組織に収束していくような感覚に
足元が崩れるような不安さえ感じる

桜井の顔色が悪くなるのが、自分にも日々奈にも伝わるだろう

205日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/17(日) 12:21:05 ID:/hFq9EzI0
>>204

「――――――近いッ!」

桜井が起き上がったために、二人の顔が再び近付く。
日々奈は険しい表情から一変、普段の凛としてそれでいて柔らかな顔付きを見せ、その場から立ち上がった。
明らかに困惑した表情を浮かべる桜井を他所に、日々奈はそのまま背を向けて、グラウンドにいる''二人の同居人''を見つめる。
自分の言葉で桜井が何かしらの不安や疑惑を抱くことは理解していたため、彼の驚きも予想できた。
日々奈も知っていたのか―――――とそんなことを思っているに違いない、と桜井の思考を推測する。

「APOHも知ってるって……どうやら、ただ巻き込まれた――――――ってわけでもなさそうね」

自分の所属している組織を認知している。
それはつまり、桜井がAPOHと接触したということ。
ただ悪魔に巻き込まれただけではなさそうだ。
というのも、基本的にAPOHは悪魔の正体は勿論、組織の存在自体も公表しない。
仮に、悪魔を認知した一般人がいようが組織を明かして悪魔を認知され挙句野放し――――とはいかない。
少なくとも、今の桜井の様に、普通に学園生活は送れないはずだ。
恐らく、これは仮説だが、桜井を担当した役員が彼に対して何かしらの疑惑を抱き、泳がせている。
もしくは、ただ単にその担当者が適当だったか。
または、APOHの関係者による''保護''か。

「まず……そうね。悪魔もAPOHも知ってるなら、隠す必要はないわね。
 えっと………うん、あなたの言う通り、私はAPOHに所属しているわ。最も、あなたが悪魔の目的に巻き込まれたなんて話は初耳だけど」

日々奈は変わらず二人を見据える。
それでいて、淡々と、桜井の質問に回答をする。
悪魔の事件に巻き込まれ、APOHを認知しながら、普通に生活をしている桜井に隠したところで意味はないと思えたからだ。

「――――――ねえ」

ふと、日々奈は身体を向け直し、桜井を視界に入れ、代わりに二人を外した。
何かに気付いた、というよりは何かを尋ねる物言いで

「あなたさ、さっき、大宮さんと成り行きで暮らすことになった……とか言ってたけど、もしかしてそれ、悪魔が関係してる?
 というか、話の流れ的に関係してるわよね。
 それってどういうこと?」

日々奈はそう質問をした。

206常世 詠(黄泉の前) ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 12:56:11 ID:EQaCMdl60
『お、マエ弱、イ!!ギャハ、ガ、ハハ、ハハッッ!!』

「きゃあっ!や、やめてくださいまし……」

世界には表と裏、その二通りがある。表は平和、平穏、毎日変わりない毎日を繰り返す。しかし、裏は違う。
そこは表とは真逆、悪魔達が、退魔師達が闊歩し、そこに争いが絶えることは無い。
悪魔は人を狩り、退魔師は悪魔を狩る。人と悪魔とは古くから繋がっていて、その関係は断ち切ることは恐らくできないだろう。

そんな世界のとある街、海馬市の路地裏、そこに一人の少女と、異形のモノが存在していた。
路地裏には光は届かず、表とは隔離された、裏につながっている。表と裏の境界線、日常と非日常の狭間。

異形のモノ──それは悪魔の眷属、基本力の弱い悪魔だが、このモノは特別通常の眷属よりかは強いらしい。
そんな異形に罵声を浴びせられ、縮こまっている少女、それは今では誰も着ていない創立当初の夜桜学園の制服を着て、弱々しく頭を抱えていた。その様子は明らかに力のあるものが力のないものを虐めているように見える。誰の目から見てもそれはそう見えて、見るものが見れば哀れにも思えるだろう。
だがしかし、実際はそうではない。異形のモノ、眷属の方は"生かされている"のだ。
しかしそれは決して少女の慈悲によるものではない。ただ能力を使いたくないという理由からだ。

「お願いです…どうか、どうかやめてください……」

それを知らないからこの眷属はこうして強気でいられるのだ。いや、こうして強気でいられるからこの異形は眷属のままなのだろう。力の比較、能力の優位性、それらが理解出来ないからからこそいつまでも眷属止まりなのだ。
これ以上続けば、少女はこの眷属を葬ることになってしまうだろう、自身の醜さ、穢れを晒して────

207桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/17(日) 12:57:43 ID:if7ZXLvA0
>>205
「あぁ...わ、悪い...」

と、目を泳がせて近過ぎた顔を離した
何というか、自分が焦っているのにようやく気付いた
こういう時は落ち着かないと、と深呼吸

「...話せば長いんだが...」

そう言って、彼は辺りを見回した
当然誰も桜井と日々奈以外には誰もいないようだが、ずいぶん入念だ
タンクの影、すぐ下の教室の窓が開いていないか
周りに人がいない事を確認できたら
「こっちに来てくれ」と日々奈を手招きする

そこは給水タンクとタンクの間
狭くて入りずらいが、ここなら誰にも見られずに会話できる
それこそ、二人の距離が近くなるが桜井の見つからないようにという意図にも気付くだろう

「...その、要約して話すぞ」

と、一息
落ち着いて、話さないと

「日々奈、信じても信じなくいい。聞いてくれ

──────俺は、悪魔なんだ」

そう、己の正体を口にする
人を襲い、喰らう化け物だと告げた

「...俺は、APOHの人間である大宮と黄昏...さっきの後輩な。
彼奴らにAPOHに見つからないように保護されているんだ」

悪魔の身でありながら、悪魔と敵対する組織の人間に助けられる
複雑な状況だ。まるで敵味方が曖昧で分からない
自分は悪魔だ。だけど、人なんて襲いたくない
目の前で友達を殺されるのを、自分が殺してしまうのも嫌だ

「俺の言葉を一介の悪魔の戯言と切り捨てても構わない
けど俺は、人を彼奴らを...お前を、襲いたくない」

そう、ハッキリと告げた

208春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 13:12:09 ID:FZqbjWPA0
>>206


「── “春日式封魔札戦陣” 」

路地裏に、言葉が響く。

眷属が声の出処──路地裏の“表”側を見遣った頃には、既に彼の姿は迫っている。
その拳を包むのは、結界符に、春日の逆説符。“逆結界”の拳だ。

彼に見えたのは、“悪魔に襲われる少女”の姿だけ。
一般人を襲う悪辣の悪魔に慈悲の余地はなし。
一切、警告をすることもなく、即座に、ただ、討滅を行う。

──眷属が避けることかなわねば、彼の拳は、その頭部を吹き飛ばすことだろう。

209常世 詠(黄泉の前) ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 13:29:20 ID:EQaCMdl60
>>208

『ぐギャ、アガハハ、ハハ────ンガッッ!?!?』

それはあまりに一瞬の出来事だった。眷属の頭は見事に吹き飛び、残ったのはその下半身のみ。
眷属はそのまま動くことはなく、やがてはサラサラと砂のように崩れさり散った。

「これは…ありがとうございます見ず知らずのお方
顔も知らない私を助けてくれるなんて、とてもお優しいんですね」

先程まで縮こまっていた少女は立ち上がり、頭を下げてそうお礼をいう。しかしこの少女、不審なところがそこかしこにある。
まず一つは悪魔を見て、そしてそれが倒されたのを見て何一つ動じないこと。
そして二つ目、もう使われていない夜桜学園の旧制服を身につけていること。
そしてなにより、その人間離れしたような優美さと妖しさである。

「何かお礼をしなければなりませんね、あれはとても煩くて殺していただき感謝しますわ」

その平静を保っていられる彼女ははっきり言って異常、もしかすれば力の弱い退魔師という可能性もあるが、それならば春日が知らないというだけということは有り得るだろうか?
海馬市は案外狭い。退魔師が居れば知っているものだが……

「どうでしょう?何かありますか?」

少女はただ、優しく、そして妖しい微笑を浮かべて問う。その瞳に自らのその"狂気"を宿して────

210春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 13:44:35 ID:FZqbjWPA0
>>209

──そう。奇妙といえば、彼の方も奇妙ではあるのだ。
休日のランニング中、とでも言うような格好の、高校生ぐらいの少年。
それが、どう見ても異形である“ナニカ”を、即座に葬った。

そんな彼を見て、それで平静を保つ彼女──それが、何より奇妙だった。

「……礼など要らない。自分は、自分の責務を果たしただけだ。」

ふぅ、と息を吐いて、春日は手に巻いていた札を取る。
……彼女自身ののことも気にはなる。APOHに事後工作も頼まねばならない。
だが、まずは何より──

「自分は春日縁という。夜桜学園の生徒だ。
 ──怪我はないか。無いのなら、この場を離れたい。……君の家は?」

恐らく、あのレベルなら他の悪魔の眷属だろう。
かの眷属の主たる悪魔が出張ってきては、面倒になる。すぐに離れたい。
笑みを浮かべる彼女とは対照的に、春日の顔は鋼のような硬さと──瞳には、真っ直ぐな光を保っていた。

211常世 詠(黄泉の前) ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 14:05:32 ID:EQaCMdl60
>>210

「あらそうですか?なんだか悪いですね、手を汚して貰いましたのに何もしないなんて……」

少し困った顔をして少女、常世は呟く。常世は生前は人間だ。よってほかの悪魔のように人間を家畜などとは思ってはおらず、こうして普通に会話し更にはお礼をしようなどと言うのだ。
それは普通の悪魔にとっては異端扱いされても仕方がない。それゆえに先程もあぁして眷属に絡まれていたのだから。

「春日緑さん…ですね
夜桜学園…なるほど、あの学校の生徒さんなのですね」

納得といいたげに両手を合わせ頷く常世。その姿は年相応の姿にしか見えない。ただ少しおっとりしただけのただの少女だ。とても彼女が"悪魔"だとは信じられない。それもそのはず、常世はこれを演じているのではない、素でいつもこの調子なのだ。

「いいえ、大丈夫です、私これでも頑丈なんですよ
えぇと、家…ですか?すいません、家はないんです
なにせずっと彷徨っているものですから」

家が無い。それは普通ではありえない。
この年頃の少女が野宿?いや、彷徨っているという言い方からそんなものではないということが推測できる。

そして更に、常世は続ける。これ以上は言ってはいけない、明かしてはいけないそれを────

「それにしても良かった…今までの人は、皆私を見るとすぐに襲いかかってきたのですが…あなたは違うみたいですね
今回は"殺さなくて"済みそうです」

そう告げる少女の顔は、変わらずに笑顔を浮かべるだけだった。

212春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 14:21:38 ID:FZqbjWPA0
>>211

家はない、とは、どういう事か──彷徨っている?
それに、路地の闇に慣れた目が捉えたのは、見慣れぬ制服だった。
だが、今の夜桜学園の制服と、少しだけ意匠が似ているようにも見える。
違和感。疑念。彼女の名を糾そうと、口を開きかけた瞬間、疑問は他ならぬ彼女によって氷解した。


 「 ── そうか。 貴様、“悪魔”か。 」


春日の眼が変わる。敵意、憎しみ。──負の感情が澱んだような、鋭い色。
少女とは違った形の、“狂気”とも呼ぶべき様。極端な変貌。
口元は釣り上がり、歪な笑みを湛えていた。

「その口ぶりであれば、人を殺したな。殺したのだろう。
 人の姿を騙るとは、卑怯千万。……守護四家が一、春日家嗣子、春日縁。
 人の敵であり、世の敵である悪辣非道の悪魔は、全て討滅する。」

即座に距離を取り、素早く両手に札を貼る。──“結界符”に“逆説符”。
同時に、身体に貼り付けていた“強化符”も発動する。
道幅の狭い、一本道の路地。彼らは、そこで向かい合うことになる。

213常世 詠(黄泉の前) ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 14:41:06 ID:EQaCMdl60
>>212

「…?まぁえぇ、そういうことになりますね
そのような呼ばれ方をするのは些か不服ですが……」

そう言って少し憂いを帯びた笑みで自身の身体を見る。過去を思い出し、自分の所業を思い出す。
愛に生き、そして死んだ人生。人であった頃の記憶。あの頃、確かに自分はあの人を愛していた。なのに────

それから形成された人格は、とても歪で捻じ曲がり、もはや人とは呼べない。彼女は立派な"悪魔"だ。

「いきなり殺しに来たのですもの、殺されないためには殺すしかない──そうでしょう?確か"朔夜姫"と言っていました、わけも分からない名前で呼ばれ、殺されかければ誰でも抵抗はしましょう
それに人を騙ると言いますが私も元は人です、この姿は生前と同じ、そして私の願いも同じ」

「でも、少し残念です」

距離をとった春日を見て、常世の顔には影が落ちる。落胆、悲しみ。そうと取れる表情をして常世は少し笑う。

「あなたは、悪魔は恋をしてはならないと思いますか?愛を求めてはいけないと思いますか?」

「私はそうは思いません、この世界に生を受けた者は、皆平等に愛を求めていいと思うのです」

語る常世の口角は上がり、歪な笑みが浮かび上がる。語る瞳は狂気そのもの、恋は盲目と言うがこれはそれ以前の問題だ。
盲目以前に、見ようとしてすらいないのだから──

「春日さん、あなたはどう考えますか?」

214春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 15:04:18 ID:FZqbjWPA0
>>213

彼女──“朔夜姫”の言葉には、確かに一分の理があった。
仮に悪魔に生まれたからといって、生きていることには変わりがない。
彼女の為してきた所業とは別の話として、悪魔が愛を求めることも、即座に否定する気にはならない。
だが、その上でも、APOHの構成員として。“朔夜姫”は最早、野放しには出来ない──

「人のような貌をするな、悪魔!」

──と、常人なら、そう思うのだろう。
だが、鋼の如き意思と、澱んだ怨嗟を持つこの少年は、その様な葛藤すらも持たない。
吐き捨てるように告げると、腰を落とし、拳を構える。

「戯れ言を。……ならば言ってやろう。貴様等にそのような権利は、ない。
 貴様等は人の愛する者を奪う。──いきなり殺しに来た、だと?それは貴様が、悪魔だからだ。
 悪魔が人を殺すから、俺達も貴様等を殺める。先に始めたのは、貴様等だ。」

見ようとしていないのは、春日も同じだ。悪魔、というカテゴリーで全てを捉えている。
どちらも、勝手な論理を振り回す。並行線の議論が相果てることは、決してない。
歪な笑みを浮かべ合う彼らは、暫し向き合い──。

先に動いたのは、春日だった。
先程の眷属に対するそれと同様、一気に距離を詰め、拳を振りかぶる。
拳の“逆結界”は、いわば、対魔特化の攻撃フィールドの様な物だ。
一発で、頭を吹き飛ばす狙い。──だが、先程の攻撃を見た常世は、相応の警戒を持つだろうか。

215常世 詠(黄泉の前) ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 15:25:12 ID:EQaCMdl60
>>214

「──確かにそうかもしれませんね、あなたの言う通り、このイタチごっこは永遠に終わらないでしょう」

悪魔が人を殺し、そして人が悪魔を殺す。これは変わらず普遍、いつまでも昔から繰り返される。
これはきっと永遠に終わらず、変わらないだろう。

「このようなことをいつまで話していても仕方がありませんね
私も力を使わないわけには行かなくなるかもしれません
争いは嫌いなのですが……」

先に動いたのは春日。地面を蹴り、瞬く間にこちらへ距離を詰め先程したことと同じく常世の頭を吹き飛ばそうとしてくる。
だがその技は一度見た。ならば対処は容易だ。
素早く左腕を触手へと変え、それで地面を叩くことで横へと跳ぶ。そして射程外へ逃れれば、少し迷いを見せながらも、懐から一本の小太刀を取り出す。

「…使わなければなりませんよね……
私のあの姿は、見られたくはないのですが……」

それが何か特殊なものだということは春日もわかるだろう。だがそれで何をするかは果たして想像できるだろうか?

216春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 15:36:30 ID:FZqbjWPA0
>>215

空振った拳を引き戻しながら、跳んだ方向を向き直る。
先程の眷属よりは、確実に格上。なら、何故、先程の様な状況になっていたのか。
……大方、か弱い人間を演じて、人を“釣る”目算だったのだろう。
重ねて許しがたい。再び、拳を構え──目に入ったのは、彼女が取り出した小太刀。

「(面倒なことをされる前に、吹き飛ばす──!!)」

攻撃用か。或いは──そんな事を考えている暇はない。
再び距離を詰め、今度は彼女が小太刀を持っている側の横っ腹へと、殴りかかる。
拳が当たれば良し。外れたなら、即座に距離を詰め、繰り返す。
そして、防御に入るなら、“小太刀”を使うはずだ。──その場合は、小太刀を吹き飛ばせる。

だが、彼の憎悪で鈍った頭には、一つの慢心があった、と言わざるをえない。
もし、一撃で仕留められなければ。或いは、相手が自分より“強い”のならば。
これは、虎穴に入ることに他ならない。

217常世 詠(黄泉の前) ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 15:54:49 ID:EQaCMdl60
>>216

「あぁ…私の醜い、穢らわしい姿を晒さないといけないなんて────」

再び殴りかかろうとしてくる春日。しかしそれよりも早くに常世は小太刀を振りかざす。その狙う先は──

「ぐふっ…!う、うぅ……」

刺したのは自らの腹部、所謂切腹。
それは昔に行われていた伝統的な儀式。そして常世──黄泉の前にとっては自らの力を使うための儀式でもあった。

空間が歪む、世界が軋む。まるで世界が崩壊しているかのような錯覚。
そしてそれが収まれば────
目の前には異世界が広がっていた。

「あぁ…また来てしまいました……」

話すのは常世詠──いや、黄泉の前。"朔夜姫"と称された悪魔の本当の姿。
それは先程までの姿とは違い、そこに居るだけで威圧感を感じさせる。禍々しい瞳がギョロつき、睨まれただけで身が竦む。

「…どうですか?私のこの、醜い姿は……」

俯き、暗い顔がそこにはあった。明らかに自分に優位なのにその顔には余裕はなく、悲哀を感じられる表情。
しかしその姿は皮肉にもそこに合っていて、哀愁を感じさせ、黄泉の前の狂気を物語っていた。

218春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 16:18:18 ID:FZqbjWPA0
>>217

「何、ッ──!?」

彼女が切腹したことに、驚くと同時。
空間ごと、何かが壊れ、そして、自分もそれに飲み込まれていくような感覚。
思わず拳が下がり、顔が歪む。そして気がつけば、そこは──

「……何、だ、……ここは。」

異世界。そんな生易しい表現よりも、“地獄”と呼んだ方がふさわしいかも知れない。
焼け野原に浮かぶ血のように紅い月。怨嗟の声と、その主が其処に、彼処に。
──思わず吐き気を感じたが、それよりも、眼前の“敵”だ。

「醜いな。」

この空間は、奴が展開したものか。或いは、奴の世界に転移させられたものか。
どちらにせよ、獲物を嬲り殺しにする為の空間。斃さねば、自らも怨霊の仲間入りだ。
……だがどう見ても、その姿は“強大”。最重要討伐対象クラスと見て、間違いない。
一人で対等に相手をできるほどの実力は、自身にはないだろう。だが──

「……だが、却って“分かりやすい”。
 人の姿を壊すとなれば、意図せぬ手心も加えるかも知れない。
 その姿の貴様相手なら──思う存分、“討ち果たす”ことができる。」

ここで退けば、それだけ多くの人が、奴に狩られる。
ならば、何としてもここで狩るのみ。──来い、とでも言うかのように、春日は手招きした。

219常世 詠(黄泉の前) ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 16:35:14 ID:EQaCMdl60
>>218

「ここは私の心象風景…つまり心を具現化したものです
この醜い世界こそが私の本性です」

身に纏うは十二単。美しさと醜さが調和しているその姿は、悪魔と呼ぶには生易しい、化け物、怪物。そんな表現が的確だ。

「では…再び参りましょう」

そう言うと鎌首をもたげるように出てくるのは二本の大きな触手。どす黒く、明らかに恐ろしい力を持っているであろうそれは、ゆらゆらと今か今かと待ち構える。
ギョロつく目玉は春日を睨みつけ、瞬きすらもせずに見張っている。

「──行きなさい」

その合図とともに二本の触手の内、一本が辺り一面を薙ぎ払おうと動き出す。その範囲は広く、現在の春日の位置は範囲内。なにかしらの回避行動を取らなければ直撃を受けてしまうだろう。

220華野平馬 ◆10pX8BMxfE:2016/01/17(日) 16:39:44 ID:ydEYc846O
海馬市市役所屋上に煙が立つ。いや、火事ではない。市役所は去年、健康上の観点から所内全面禁煙と相成り喫煙所も撤廃。この決定は所内の喫煙者らを路頭に迷わせる結果となった。
短い休憩時間の合間に愛する彼女を吸う為に、数人が運動をした後、辛うじて屋上で吸うことを許された。という訳で、屋上に煙が立っていたのだ。

「副係長も煙草、吸うんですね」

屋上の一角に群れを成し、狼煙を上げ続ける一団。その中の一番若い衆が、華野平馬に声をかけた。
役所内での華野のイメージは、まさしく旧来の清く正しく自分に厳しい公務員といった感じ。酒の席も「弟が待っているので」と断り続け、酔って顔を赤くする姿を見せたこともない。
そんな彼が珍しく、喫煙所に現れ煙草を吸っているのだ。周りの喫煙者らもジロジロとその妙に様になった立ち姿、吸い姿を眺めていた。

「……まぁ、な。私もタバコぐらい吸う」
「お好きなんですか?」
「ああ、嫌いだ」
「……えっ、じゃあ何で――」

若い衆がそう聞きかけたが、突然眠気が襲って来たのでその場に寝転がりいびきをかきながら眠ってしまった。
異様な光景だ。
平馬を除く全ての喫煙者が眠っている。すると彼らの目や耳、鼻からズルズルと塵が固まったような何かが零れ出てきた。平馬が吸う〝祓い煙草〟の煙に炙り出された悪魔だ。

「近頃おかしな行動を取る職員がいると聞いたが……煙草を媒介にした悪魔が原因だとは、な」

塵の悪魔は虫の如く蠢き出す。が、逃がさない。黒い尻尾を踏みつけ、それを睨んだ。

「侵入方法……煙草の箱の中に潜んでいたか。浅知恵なりによくやる。これなら気付かれぬ訳だ」
「そんなに煙草が好きか。ならくれてやるよ」

灰を身体に落としてやると、小さな悲鳴を上げた。祓い煙草の煙は低級悪魔にとって致命傷になることもある。息も絶え絶え魔界の言葉で命乞いをするも、彼の耳には届かない。
最後にぐいと胸を踏み抜くと悪魔は死に、塵となり消えてしまった。

「――ここまで来ているなんて」

役所内には多少退魔の霊装が至る所仕込まれてはいたが、案外気付かない所から〝奴ら〟は侵入してくるものだ。規制を強めねば。
煙草を口から離し、ふうと息を吐く。白い煙が空に浮かび、やがて消えた。
屋上にはまだ人が倒れている。

221春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 16:53:40 ID:FZqbjWPA0
>>219



十分経っただろうか、二十分経っただろうか。或いはもう少し短かったかも知れない。
腕時計など見る暇はない。それほどに、黄泉の前の力は圧倒的だった。

「……ハァ、ハァ、──ッ!!」

──荒い息のまま、振り下ろされる触手を横に跳んで回避する。

最初の薙ぎ払いに対しては結界を張り、半ば吹き飛ばされる形で回避した。
だが、その後の攻防で既に触手を一発、腹に喰らっている。唾には血が混じっていた。
カウンター気味に触手へ拳を食らわせたが、多少、動きを鈍らせただけ。
彼の悪魔の“本体”が、距離以上に遠く見える。このままでは、あと数分も保つまい。

「(退く、と言っても──。)」

余りにも力の差がありすぎる。そう悟ってからは、退路を探しつつの戦闘だった。
だが、依然として見つからない。──いっそ、全力で本体に向かって、突撃するか。
犬死する公算は高いが、一矢でも報いれば上等かも知れない。そんな弱気が、首をもたげていた──。

222常世 詠(黄泉の前) ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 17:12:18 ID:EQaCMdl60
>>221

「──馬鹿な人、力の差は歴然です
もう楽になってしまえばいいのにどうして……
いえ、答えるまでもありませんでしたね、あなたはある意味私と同類、その理由も明白です」

まるで哀れむかのような、しかし見下してはいない。本当にただ哀れんでいる様子だった。
しかしかといって慈悲は無い。黄泉の前にとっては、春日は自らを殺そうとしてくる敵でしかない。そこに哀れみはあっても同情や慈悲などというものは一片たりとも存在しない。

「ならば、せめてあと一撃で葬りましょう
あなたの魂はここに残りますが、致し方ありません」

そう言って黄泉の前は、触手を一本振りかざす。万事休す、と言ったところだろうか──いや、違う。
春日は気付くだろうか。春日の少し離れた先に、空間がひび割れた部分があるのを。
それは黄泉の前の心の隙間、僅かな揺らぎ。
ここは黄泉の前の心象風景を具現化したもの、一見無敵に見えるが、人の心というものに完璧などというものはない。人から悪魔へとなった彼女ならば尚更だ。故にそれは形となって現れる。

「さぁ、死んでください」

振り下ろされる触手。果たして春日は気付き、この地獄から回帰出来るか。

223メモリー ◆3wYYqYON3.:2016/01/17(日) 17:16:52 ID:tVFZhA6M0
>>195

「ふふ、感謝します。行きましょうか、上映まであまり時間がありませんから」

ベンチを立ち、少女を映画館まで人ごみの中を先導する。その間に此方から話すことは無い。話は向こうに着いてからゆっくりする予定なのだから。
数分ほど歩けば、近年建てられたであろうガラス張りの高層ビルが2人の前に現れるだろう。
そこのワンフロアが、「ニューシネマ海馬」_____彼女の城だ。
最も、外から見れば大きめのシネコンと言ったところだが。

「それじゃちょっと待ってて下さい、用意してきますから」

そう言って、少女からチケットを預かろうとする。
少女がチケットを渡せば、女は一旦その場を離れる。
そして数分後には、2人分の座席指定券と、塩とキャラメルが半分ずつ入ったポップコーンとLサイズのドリンク、おまけにアイスクリームを抱えてくるだろう......

224春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 17:32:40 ID:FZqbjWPA0
>>222

「ハァ、ハァ……。──黙れ、悪魔。
 戯言で心を乱すほど、自分は弱くはない──。」

自分と、目の前の悪魔が同類?──それは、春日には理解できない言葉だ。
だが、その言葉は真実を指しているのだ。そして同時に、彼女の言葉は、彼女自身の“地獄”も吐露する物だった。

「……断るッ!!」

しかし、繰り返すが、今の彼にはその事を理解できない。
確かに見えた、“罅”。直感的に、そこが活路だと感じられた。
触手を回避しようと、動こうとしていた足を止める。懐に手を入れ、“符”を取り出す。

──どん!と、触手が地を叩く音が、この世界に響いた。
黄泉の前にも“手応え”があった筈だ。少なくとも、身体の一部分の骨は折った、と。
だが、数秒後、違和感を感じる。……彼を捉えた筈の触手が、何故か即座に動かないだろう。

「──ッ!!」

春日は既に、駆け出していた。──クロスカウンターの様な形で、触手に“硬化符”を貼り付けたのだ。
触手はその柔らかさ故に、自由自在な動きが叶う。その“武器”を奪った。
代償として、右腕は潰されこそしなかったものの、改めて見たくもない状態だ。

だが、全てが上手く行っていれば──恐らく、時間は稼げる。
春日は、罅に向けて拳を振り、世界の境界を突き破らんとする。果たして、間に合うのか──!!

225常世 詠(黄泉の前) ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 17:58:15 ID:EQaCMdl60
>>224

「まさか…"ヒビ"を…!?」

触手が動かない。そして駆け出す春日の先には、紛れもない自身の弱さの象徴である"ヒビ"が。
どうして気付いたのかはわからない。ただ止めなければ、この空間は無効化されてしまう。そうすればもはや倒す手段はなくなってしまう。

慌ててもう一本の触手を伸ばすも、既にそこはこちらの射程外。
振るわれる拳、広がるヒビ、割れる世界、そして────

気付けば元の世界、あの路地裏に戻ってきていた。黄泉の前は地面に座り込み、悟ったような表情で地を見つめている。
再び展開することは出来ない。今の自分は非力。もしもまだ春日に余力が残っていれば自分は────

「終わって…しまいましたね……」

ただ呆然と、そう呟くことしか出来なかった。
これも全て、自身が招いたこと。今までの油断が招いたことだろう。受け入れるしかない。
ただ、心残りがひとつ。結局自分は、本当の意味での想い人を見つけられなかった。それが唯一の心残り。

226春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 18:17:49 ID:FZqbjWPA0
>>225

気づけば、元の世界。
目の前には、先ほど切腹をした“少女”が、呆と座していた。

勝ったのか。──否、このような形での決着など、“勝利”とは言えまい。
運が良かっただけだ。だが、これでかの悪魔を“討滅”できるのも事実。
おかしな方向に曲がって、最早感覚も麻痺している右腕の代わりに、左腕を振りかぶり──

「……一つ、答えろ。」

自然に、問いが溢れていた。

此れほどの強敵とは遭ったことがなかったが、それなりに悪魔とは戦ってきた。
だが、幾ら実力を示そうとも、父も、祖父も、自分を認めはしなかった。
他の四家も、朱御門ですら、自分をAPOHに入れることには慎重だったと聞く。

「先ほど、自分と貴様が“同類”と言っていたな。……それは、どういう意味だ。」

悪魔への憎しみが、恨みが、危惧されているのは分かる。
だが、それの何が駄目なのか。我々は、悪魔を弑する守護四家だ。
そう言った春日に、四家は海馬市への赴任を命じた。──何を学べ、と言うのだ。何が、悪いのだ。

その手がかりが、彼女の言葉にあるような気もした。
──問うているのは、“彼女”のことか、“自分”のことか。春日にも、よく分からなくなっていた。

227常世 詠(黄泉の前) ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 18:42:07 ID:EQaCMdl60
>>226

「…はい、なんでしょうか」

既に自分には何も出来ない。そんな自分へのトドメの前に、一体何を聞きたいのだろうか。
彼は悪魔を純粋なまでに憎んでいた。そんな彼が、悪魔である自分に何を───

「あぁ…そのことですか」

「同類と言ったのは、私もあなたもただひたすら一つのモノを追いかけ続けているからです。
あなたは悪魔の殲滅を、そして私は愛、恋を。知っていますか?愛情と憎悪というのはほとんど同じなんですよ。
愛情は一つ道を間違えれば憎悪へと変わります。そしてその逆もあります。
一つモノに執着し、ひたすら追いかけるのを愚かだという者もいます。事実、あなたも今までそのようなことを言われたこともあるでしょう。
しかし私はそうは思いません。一つのモノにひたすら執着出来るのは、なかなかに出来ないことです。例えそれが、どんなに道を違えていようとも──
たぶん、私が元は人だからこんなことを言えるのだと思います。普通悪魔はそういったことには興味はありませんからね。
ただ、一つだけ。あなたにも分かってもらいたいんです。
悪魔確かに悪魔はあなた方にとって倒すべき巨悪なのかも知れません、でも悪魔にも様々な者が居るということを────」

それを言い終わると、すっきりした表情で天を見る。あぁ、そういえばあの日もこんな夜だった。綺麗に月が登っていて、私は悲しみに溢れていて──
でも今は違う。二度目の死、だがこんな気分で死ねるのなら文句はない。

「これで終わりです、私が言ったことは間際の戯れ言
忘れてしまって構いません」

そう言って、最後の時を待つのだった。

228春日 縁 ◆ovLCTgzg4s:2016/01/17(日) 19:08:44 ID:FZqbjWPA0
>>227

──彼女の言葉を聞いて、春日はもっと、訳が分からなくなった。
愛、憎悪、執着。人間、悪魔。マーブルに織りなす諸要素が、モザイクに塗り潰される。
カテゴリィは最大項の筈だ。なのに、例≪── “された子” /“縁は、気づい” / ── ≫外など

「──ッ。」

思考の中に、ナニかがザッピングした。
いつかの記憶だろうか。だが、覚えがない。父の声のようにも聞こえた。
頭が痛い。……疲れたのだろう、今日は。なにせ、あんな“悪魔”と一人戦ったのは初めてだ。

だから、春日は振りかぶった腕を下げた。
まるで論理が成立していないのは、分かっている。それに、後で後悔するだろうことも。
だが、何故かここで、彼女を殺す気にはならなかった。

「……貴様の愛を貫く上で、人を殺す必要は、ないだろう。」

そう、去り際に告げ──春日はこの場から、表通りの方へ去ってゆく。
その言葉を、逆に自己に言われても、まるで答えることは出来ない癖に。
後方の彼女を警戒もせず、血のついた服のまま、右腕を庇い、その姿は消えていくのだろう。

/では、この辺りで!お疲れ様です!

229常世 詠(黄泉の前) ◆yd4GcNX4hQ:2016/01/17(日) 20:18:59 ID:EQaCMdl60
>>228

「…?どうしたのですか?」

突然、春日は振り上げた腕を下げた。何故、彼はあれほどまでに悪魔を怨んでいた、憎悪していた筈なのに。
しかし春日は実際にそうしたのだ。止めを刺す手を止め、その殺気も消え失せている。

「……!!」

その言葉を最後に春日緑はその場を去った。残されたのは力なく地に座している黄泉の前と、静寂だけ。
自分は倒された。あれは紛れもない敗北だ。例え相手の方がそう思っていなくとも、あの結界を破壊された時点で自身の負けは確定していた。
しかし彼は、自分に人を殺す必要は無い、つまりは温情を掛けてくれたのだ。自分を悪魔と知っておきながら、自分があれほど彼を痛めつけてしまったのに。

「行って…しまわれましたわ……」

そしてそこに一陣の風が吹く。黄泉の前は動けない。自分の両手を見つめ、そして両手を合わし今の出来事を思い返す。そして────

「春日…緑様……あぁ、この胸の高鳴りはきっと、きっと────」

先程までとは違う、嬉しさに満ちた顔を月に照らし黄泉の前は一人呟く。
彼こそが自分の"想い人"だと。ついに見つけた自分が添い遂げるべき相手。

「確か…夜桜学園でしたね
誰か…あぁメモリーさんが居ましたね、あの方にお願いして夜桜学園へと入学…ふふふ…待っていてくださいね?私の"想い人"様……」

不気味な笑いを浮かべて、黄泉の前は立ち上がる。そうと決まれば善は急げ。早速これからの計画を立てなければ。
黄泉の前は本当に楽しそうに、その場を歩き去っていく。その背中には先程死闘をしていたとは思えないほどの幸せを感じさせるのだった。





────さてさて、厄介な恋魔に目をつけられた春日の未来は如何なものになるのか。それを知る者はは未だ居ない。
まぁとにかく、厄介なことが起こるのだけは明白だった。

//ロールありがとうございました!楽しかったです!
お疲れ様でした!

230日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/17(日) 22:30:04 ID:/hFq9EzI0
>>207

「?」

やたらと周囲を警戒する桜井を不思議そうに見つめる。
今更、彼は何に対して注意を払っているのか。
悪魔やAPOHの話題をこの場でした時点で、今から周囲を警戒しようが色々遅い気がした。

「なによ?」

手招きされ日々奈はそれについて行く。
何処となく警戒した様子を見せる日々奈は、桜井とは違い、周囲ではなく、彼に対して警戒をしていた。

「――――――――――――は?」

桜井の発言に思わず目を丸くする。
一瞬だけ、日々奈の思考は完全に停止した。
それほどまでに、彼の言葉が予想外過ぎたのだ。

「え、ちょっ、ごめん。待って、えーっと……つまり、え、あなたは……桜井は悪魔なの?
 APOHに保護?悪魔が?ごめん、意味がわからない」

明らかな動揺と混乱。
日々奈は頭に手を当てると、必死に理解しようと脳味噌を働かせる。
然し、色々といきなり過ぎた所為か、全くと言って良いほど、状況を整理出来ない。

「と、とりあえずあなたはどっちの味方でなの?」

必死に吐き出した言葉はそんな質問だった。
未だに理解は出来ないが、彼が悪魔ということだけは分かった。故に、敵か味方か。それを日々奈は聞いた。

231沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/17(日) 22:33:00 ID:Y9DCRQiM0
>>223
頷いて女の後を追う。先程までの不調はどこへ行ったのか、今やその足取りはどことなく軽い。
ある種未知の経験を前に、ともすれば浮かれているようにまで見える。
道中は互いに無言、2人の足音だけが人混みに紛れて消えていく。
ただ辿り着いた大きな映画館を見た時だけ、小さく感嘆の声を漏らした。
促されるままチケットを手渡し、待っている間もそわそわと辺りを見回しどこか落ち着かない様子。

「……なるほどのう、そういった手合いの者か」

ぽつり、1人呟いた言葉は誰の耳にも届く事はなく。
そうしてしばらく、戻ってきた女が抱えている数々の物を見た途端にぱっと目を輝かせて受け取ろうとする。もし断られればあっさりと諦めるだろうが。
どちらにせよ早く早くと言いたげにせっつく少女は、完全に映画を楽しみにしているそれだ。
そのまま上映場所へと入場すれば、薄暗い密閉空間にまた嘆息を1つ。

「なるほど、このような場所で楽しむものなのか。これは確かに気の利いた趣向よの」

指定の座席を探して着席を済ませれば、上映時間はすぐ間近だ。か細い照明がさらにその照度を落としていく。
闇に閉ざされるその間際、少女の口元は確かに弧を描いていた。

232桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/17(日) 23:48:03 ID:if7ZXLvA0
>>230
「生まれて17年。 ずっと人間だって思ってたけどな...
何日か前に分かったんだけど...俺、悪魔みたいなんだ」

と笑って答える
そういえば、その時期と彼の学校を休みがちになっていた時期と一致する
思い出せば、彼の様子も少しおかしかった気がするだろう

人間だと思ってた自分が化け物だという事実
それがいかに重いか、その笑顔の重さを感じられるか

「...どっちの味方ってのは、難しいな
多分俺はどっちの敵にもなるし、どっちの味方にもなる」

快楽で人を虐殺する悪魔がいたら止めるだろう
意味もなく、悪魔を鏖殺する人間がいたら止めるだろう
悪魔である自分が、人間である自分が止めると
そう、告げた

疎まれるのは見えている。殺されるだろうって気もする
でも、だからこそ進む

言葉があって通じあうなら、互いの理解はそこにあると思う
確信はない────、でも今のまま突き進めば
どちらが勝っても詠われるのは勝利の凱歌でなく敗北の呪詛だ
血の上の秩序ならそれを再び血が染めるだろう
それは事実だと思う

「...彼女達は、そんな俺の無茶を信じてくれた」

と、タンクの向こうを見る
見えはしないが、その先のグランドにいるであろう同居人に目を向けた
それが裏切りとも受け取れると理解して、俺を守ったと

「...だから、彼女達が守ってくれたのなら。俺も俺の義務を果たす。
人として、悪魔として。この街の騒乱を止めたいと思う」

それが、無茶だという次元を超えて
すでに自分で自分を壊してしまうような選択だと気付いている

「...なんか、悪いな。こんな話聞かせて
.......その、お前が俺を見逃さず殺してくるならそれでいい。相応しい場所で相手するよ」

こんな学校じゃ嫌だぞ。と笑っていった
まるでさっきまでの冗談のやり取りのようで
本当に変わりない。桜井の目
達観してるともいうのか、まるでお前になら殺されていいとでも言いそうな
触れれば崩れそうな不安定な瞳のようで────。

/遅れてすいませんでしたー!!

233メモリー ◆3wYYqYON3.:2016/01/17(日) 23:55:16 ID:tVFZhA6M0
>>231

(魂より、ポップコーンですか......)

これは悪魔界きっての変わり者という噂も本当なようだ、というのは心に止めつつ、座席へと座れば、間も無く闇が空間を満たす。観客は、いかにも映画好きと言った人間が十数名、スクリーン内に点在していると言ったところか。

「余り長々と話してもお楽しみの邪魔でしょうから、率直にお聞きするんですけど......」

BGMと共に、白と黒で構成された画面に機械工の格好をした喜劇王が現れる。画面を見ているならば、それが資本主義社会と機械文明を皮肉った、コメディであることがわかるだろう。

「貴女はどういうつもりで、あんな事したんですか?貴女ほど賢ければ、信心深い同族を殺すことがどういうことか分かると思うのですが」

「そしてもう1つ。貴女はこれから先、どうするつもりなんですか?人間も悪魔も、貴女のことを放っておかないと思うのですが」

問いは、BGMや効果音に消されたりしない程度の声で行われているが、観客はそれを気にすることはない。
メモリーの力で「自分が何をしているか」忘れさせられた観客達は、意思の感じられない目でスクリーンを見つめ続けている......

234日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/18(月) 00:31:22 ID:/hFq9EzI0
>>232

淡々と語られる真実。
日々奈は最早、驚く様子を見せなくなり、恐ろしほど静かに、ただひたすら無言で桜井の話を聞く。
生まれて17年の月日が経ち、人間的に長く、悪魔的に短い歩みの中で、自身の信じていた、確信していた自己の正体が偽りだった。
それに気が付いた刹那がどれほどまでに恐ろしかったか――――――。
並みの人間ならば、精神など一瞬にして崩壊し、身も心も、真の自分―――悪魔の力に染められるだろう。
然し、彼は―――――桜井直斗という男は、闇に染まることはなく、今も不変の自我を保っている。
それがどれほどに素晴らしく、如何に偉大かなど、同じ人間であり、また同じ悪魔でもある、日々奈は痛いほどに理解していた。
故に、彼の浮かべた笑顔の裏に潜む、数々の複雑な心情に対して、日々奈は言い知れぬ重みを感じた。

普段から目にしていた桜井の笑顔。
その無邪気な笑顔が、自分の知らない場所で消えていた事実に―――――桜井を助けられなかった現実に、日々奈は一人責任感を持ってしまった。
APOHに所属していながら、自分の知っている人物を守ることすらできないなんて――――――。
一丁前に、異名など持っている自分を、ひたすらに情けなく思う。
もし、もっと早くに、桜井の変化に気が付けば、今の現実は別のものへとなっていたかもしれない。
日々奈は、自分を責め、彼の――――桜井の笑顔から目を背けた。

「…………………………」

全てを語り終えた桜井に対して日々奈は沈黙を貫く。
彼は強いな。とそんな勘違いな評価を抱きながら。
然し、それを口にしようとはしない。
迷いがあった。日々奈は分岐点に差し掛かっていた。
悪魔の味方であり人間の敵であり、悪魔の敵であり人間の味方である、と桜井はそう言った。
APOHに所属してから、今まで一度も、そんな言葉を口にする存在とは出会ったことはない。
故に、どう対処すればいいのか分からなかった。
私情を挟んで良いなら、勿論、桜井を殺したくはないし、寧ろ見逃したい。
然し、APOHという立場である以上、目の前の悪魔を名乗る人物をみすみす取り逃がすわけにはいかない。
例えそれが、顔の知る人物であり、''同じ立場''の存在だろうと――――――。
苦悩の表情は、普段の日々奈からは想像できないほど、悲痛なもので、如何に葛藤しているかがよく理解できる。

「――――――ッ」

崩れるほどに不安な瞳を向けられ、日々奈は一歩だけ後ずさりをした。
まるで、桜井の視線から逃れるように―――――
そんな目で私を見ないでくれ――――――と。

「……………………一回。一回だけで良いから、私を殴って。思いっきり……頬でも腹でも、好きな場所を」

突然、日々奈はそんな提案を示した。
何を言っているのかと思われても仕方ないが、それしか方法はなかった。
今の自分を落ち着かせ、普段の日々奈彩花を取り戻すためには、桜井に殴られ、先程までの緩く平和な空気を再び構築するしか、手段はなかった。
情にも流れにも、縛られないで、今後を判断するには、それを行うしか方法は存在しない。

235沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/18(月) 00:46:05 ID:Y9DCRQiM0
>>233
「うむ、なんでも聞くがいいぞ。私が答えられるものであればな」

ポップコーンを頬張りながらもスクリーンから目は離さない。
とはいえ内容はほぼ頭に入ってない。雰囲気を楽しんでいるといった方が近いだろうが。

「あんな事、か。正当防衛では納得してくれんかの?私とてなんでも打算の上で行動している訳ではないのだからな。
同族間の殺し合いなど、そう珍しいものでもないであろう?」

映画がもたらす感動が非日常との触れ合いによるならば、今居合わせている観客達には残念ながらそれは訪れないのだろう。
ただそこにいる事だけが存在意義であるかのような彼らに、哀れみこそ感じるもののただそれだけだ。
同様に相手に聞こえる程度の声量で語る沙希の声に、時折ポップコーンを噛み砕く音が混じる。

「そうだな、人間はともかく彼奴らは何かしらの動きを見せるだろうよ。今この街を取り仕切っているのが誰かは知らんが。
だからといって何をどうするというつもりもないぞ、今の所はな。何より情報が足りぬ故」

これでいいか、と横目で女を見やってドリンクに口をつける。
そもそも納得させるつもりがないのか、はたまた本当に何も考えていないのかまで読み取るのはこの暗さでは難しいだろう。

「ああ、此方からも1ついいか?そういえばお主の名をまだ聞いていなかったの」

236桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/18(月) 00:58:19 ID:if7ZXLvA0
>>234
日々奈の言葉に思わず困惑する
彼女が自分に責任を感じているのだろう、その罪悪感とかの感情が入り混じる事に気付く

「.............分かった。」

桜井も何かを察したのだろうか
彼女の言葉に少しだけ沈黙してそう口にした

ギュッと右手を握りしめた
構える高さからして頬だろうか、この距離なら外す事はない
桜井はその構えた右腕を全力で───────。
日々奈の頬へ向けて


「......なんて、やる訳ねーだろ。 俺が女に、ダチに手を上げた事なんてあったか?」

──────振りかぶらなかった。
握りしめていた拳はいつの間にか開いていて
音を立てて頬にビンタする腕はビンタどころかただ頬に触れた程度だ

「...お前が俺をどうしようか迷う事はない。自分を信じるんだ
ましてや、俺の事に責任なんて感じる必要なんかない...俺もお前の事に気付けれなかったんだから」

日々奈の頬から手を離して言う
その手はとても温かくて────。

「...でも、お前が俺の事をそこまで本気で思ってくれて嬉しかった。
..スゲー嬉しい。やっぱお前に話せて良かった」

そう、紛れもない表情で
人間でも悪魔でもない"桜井直斗"の笑顔で答えた

237 ◆10pX8BMxfE:2016/01/18(月) 00:59:50 ID:ydEYc846O
>>220
/一応置きレスです。お暇な時、絡んでください

238日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/18(月) 01:15:11 ID:/hFq9EzI0
>>236

「――――――ッ」

頬に触れられた手は暖かく、悪魔や人間のそれとは違う。
人間の温もりでいて、けれど悪魔の温もりでもある。
紛れもない桜井直斗の温もりだった―――――。
日々奈はその手に自身の手を重ねる。
普段の、今日初めて出会った時同様の無邪気な笑顔――――今まで何度も見てきた、彼の笑顔。
いつか見た―――――初めて桜井と出会い、初めて目にした彼の笑顔を思い出す。
あの時の笑みも今の笑みも、全て知っている。
消えてなんていなかった。失われてなんてなかった。
自分の見てきた、認知している笑顔が―――――目の前にはあった。
その事実を知り、日々奈はクスリと微笑む。
そして――――――――――――

「………じゃあ、代わりに私が殴るね」

右拳を振り上げた。
普段の日々奈の口調でいて、いつも通りの日々奈彩花がそこにはいた。
然し、不思議と日々奈の表情は笑顔でいて、恐らく先程までの苦悩は桜井の助けにより消えたのだろう。
その拳を振り下ろすことはないが、脅しにはなるか。
普段のたわいない日常でよく見かける状況だ。
桜井に感謝され照れているのか、日々奈の頬は僅かながらに紅く染まっていた。

「…………ねえ、私も一つ聞いてほしいことがあるの」

日々奈は再び真剣な顔付きを見せる。
雰囲気から察する限り、彼女は桜井の暴露話同様の爆弾発言をしようとしているのだろう。

239メモリー ◆3wYYqYON3.:2016/01/18(月) 02:00:09 ID:tVFZhA6M0
>>235

「人間の間では、それは過剰防衛というらしいですよ?貴女ほどの実力があれば、あそこまでやる必要はなかったでしょう」

キャラメルのたっぷり絡んだポップコーンをちびちびと口に運びつつ、「まあ、人間もしばしばそういう事をしますから不思議ではありませんが」と付け加える。
口調は、何処か皮肉を含んでいる。

「何をどうするつもりはない、ですか。実に貴女らしい答えです。ですが......今回ばかりは早めに手を打っておかなければ後悔する事になるかもしれませんよ。貴女が情報が足りないと言って動かない間にも、相手は動いているのですからね」

(......こんな風に)

この台詞を喋ると同時に、少女の記憶へ、メモリーは不可視の魔の手を伸ばしそれを書き換えんとするだろう。先程の発言の意味を身を以て体感して貰おう、と言う趣向だ。もしも少女が言葉とは裏腹に警戒を怠っていなければ、記憶を保つ事に集中すれば改竄を防げるだろう。
書き換えようとする記憶は、2つ。
1つは、沙希の持つ能力やその使用法に関する記憶の消去。最も、これは少女が怒り出した時の保険とでもいうべきか。

「その証拠に、ほら。『思い出してみてください』、私の名前を」

そしてもう1つは、一度も聞いた事のないはずの、女の名前「メモリー」を記憶に書き込む事。
スクリーンの光により、暗闇にぼんやりと浮かぶ女の顔は、笑っている事が見て取れるだろう。
その笑顔には、「今はまだ」敵意はない。

240沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/18(月) 02:52:09 ID:Y9DCRQiM0
>>239
「なに、あの時は少々癪に障っていたのでな。それに生きて情報を振りまかれるよりは屍を晒してもらった方がよい」

皮肉交じりの口調にもどこ吹く風、小さくせせら笑ってまたポップコーンを放り込む。
映画の内容にも頓着せず話し続ける2人は異質そのものだが、気に留める者など誰1人としていない。

「後悔か。そもそも此度の件、私はほとんど部外者であるからな。気にせず勝手にやってくれればいいものを。
最悪、事の顛末を見届けるだけでも充分楽しめるだろうよ」

闇から伸びる改竄の手。それは未だ致命的ではないものであったが、ある種沽券に関わるものと言っても過言ではない。
しかし少女は既に、相手の能力が精神干渉系のものであると当たりをつけていたのだ。
人間側の重要文書を持っていた事から、最初はただ向こうに潜入しているだけかと思っていた。
しかしAPOHとはなんの関係もなさそうに思えるここに連れてこられてから、別の予想が首をもたげ始める。
そして他の人間の様子を見てようやく、その想定は確信へと近づいていた。

「ふむ、すまんの。歳のせいか物忘れがひどくてな。もう1度教えてくれんか?」

だからこそ、自らの能力に関する記憶を守る事ができた。とはいえ全てを弾いた訳ではない。
具体的な能力までは予想がついていなければ、しっかりとした対策を練る事も難しい。
流れ込んできた相手の名前に僅か目を見開くが、スクリーンの光だけで気がつくのは難しいだろう。
それでもあえて知らない振りをするのは、急な悪戯への意趣返しといったところか。

241桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/18(月) 04:02:55 ID:if7ZXLvA0
>>238
「うんうん.........ってちょ、ちょっと待て!! ここで殴る流れか!?」

その思わず困惑し後ずさる桜井
身を守ろうとこっちも腕を構えたが────。

いつまでたっても日々奈の拳は降らない
その言葉が冗談だとわかるにお互いに笑い合った
自然と笑みが出てきて、こうやって互いに笑いあう
この2人が守りたい日常が、そこにあった

「...........」

そして、彼女が自分に伝えたいことがあるという
きっと自分が彼女に伝えたような重大なのだろう
思わず沈黙するだろう
これから起きる戦いで重要な事柄かも

「......あぁ、何だ?」

だから、今度は自分の番

沈黙を破って彼女の言葉を受け入れる
彼女が俺の話を聞いてくれて、受け止めてくれたのなら
今度は俺が、彼女を受け止めるんだ
その目はいつだって真面目に、日々奈を見つめている

242メモリー ◆3wYYqYON3.:2016/01/19(火) 00:58:48 ID:tVFZhA6M0
>>240

「あらら?おかしいですねえ?私は『メモリー』ですよ、沙希さん」

笑いが混じりつつも、少女の悪戯を見透かしているという事を感じさせる、ある種のわざとらしい言い方だ。
能力関連の記憶改竄は失敗したが、名前の書き換えは確かに成功した手ごたえがあった。
こちらの認識を誤らせる能力があるか、それともただしらばっくれているのか......
悪魔の間での噂と報告書、さらに先程探る中で読み取った幾つかの記憶から推測すれば恐らく後者であろう、と言うわけだ。

「まあいいです、安心しましたよ。貴女がその口で言ってるほどの破滅願望持ちでなくて」

『何をどうするつもりもない』と言っていながらも、(意識的かどうかはともかく)少女は自身や周囲の状況を的確に判断し、必要があればそれに対する適切な策をきっちりと打つであろう。
先程の記憶をめぐる攻防は、女にそれを確信させるには十分であった。

(沙希さん......やはり、貴女が私にとってベストな選択のようですね)

その思いを胸に、こう問い掛ける。

「そんな貴女を見込んでお聞きします」

「私と、同盟を組む気はありませんか?」

243沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/19(火) 10:32:52 ID:xOtEyC7.0
>>242
「ああ、そうであったの。どうも長く生きるといかんのう、許せ」

くつくつと笑うそこに悪意は見られない。少女にとって虚構が見破られても、さしたる問題ではないのだ。
コメディ映画の上映中ならばなんらおかしくはない小さな笑い声も、今はひどく異質なもののよう。
女の安堵の言葉を受け流した無言は、話の続きを暗に促していた。

「……ほう?よりによってこの私を相手に選ぶとは。
如何に後悔しようと構わんのだな?」

悪魔とは生来、情も憐憫も持ち合わせていないものがほとんどだ。
それを同族間で考慮せずに済むのは、偏に信仰のおかげと言える。
しかしごく一部、信心とは縁遠い連中も中にはいる。同胞にさえも容赦なく刃を向けるもの達が。
そしてこの少女もまた、その少数派であると言っても過言ではないのだ。
いつ裏切られようとも構わないのか。そんな問いが言外に含まれていた。

「まあよい。まずは話を聞いてからだ。して、もう少し具体的に言ってみろ」

244日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/19(火) 17:43:20 ID:/hFq9EzI0
>>241

「………………」

少しの間だけ、日々奈は黙り込む。
桜井の真剣な眼差しを感じ、同じくそれを送り返す。
そして――――――

「わ、私も…………悪魔なんだ」

吐き出すように、されど何処となく怯えながら、日々奈は真実を打ち明けた。
覚悟を決めたその表情は、何かを決意した力強いもので――――桜井の目の前に立つ日々奈彩花という少女は、一人の悪魔として、その場にいた。
自分の正体を聞いて、彼がどんな反応をするかは分からないが、同じ立場である桜井には、話しておきたかった。

245秋宮渚 桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/19(火) 18:25:50 ID:if7ZXLvA0
>>244
驚かなかったと言えば、嘘になる
人とは違う。どんなに人と同じ形をして同じ言葉を喋れても
誰もが"人ではない"と一線引く存在
悪魔であると聞かされれば────。

「あ...悪魔....?」

日々奈の怯える顔見て、自分はどんな顔をしただろう
自分はその言葉を受け止めれているだろうか
自分は、彼女にどんな言葉を掛けたらいいのか

「..........」

一息、深呼吸
そして──────。


ペチンッと
日々奈の額に一発、デコピンを放つ
そこそこの痛みを残す。強い一撃

「なーに不安な顔してるんだよ。 お前らしくもねぇ」

と、不敵に彼は笑った
日々奈が自分の正体が悪魔と、その言葉の真意は何だろうかと思った
言葉の重さは、きっと信頼の証だろう
桜井が日々奈を信じたように
日々奈もまた、桜井を信じた


「何というか、...他のダチにもAPOHか悪魔がいるかなとは思ってたんだよ
...その、言ってくれてありがとな。 嬉しかった」

その事実が、嬉しかった

悪魔とか、人間とか桜井自身にとって違いはかなり曖昧だ
そこには当然、蔑みも何もない
日々奈の信頼がただ嬉しい
そう、照れ隠しなのか笑って答えたのだった

「...にしてもお前も悪魔かー...ますます、俺の持論が固まっていくな。
これじゃあ、誰が悪魔か見ただけで分かるかもな」

と、桜井は腕を組んで考え込む
何を考えているだろうか
まぁ付き合いが長いと分かるが、こういう時の男子生徒
...もとい、桜井は大抵バカをやらかす前兆なのだが

246日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/19(火) 20:30:44 ID:/hFq9EzI0
>>245

額に若干の痛みが走った。
日々奈は弾かれた額に手を当てると、涙目で桜井を睨みつける。
こちらの心配など無駄だと思える彼の笑顔が目に入り、日々奈は心の内で微笑。
そして、口角を上げてその感情を体現すれば、日々奈は意地の悪い表情を浮かべて、桜井の額を指で弾く。
''なに、偉そうにしてんのよ''と言わなくとも伝わる、圧力を醸し出しながら――――――。
然し、それが普段の日々奈であり、桜井の友人である日々奈彩花という少女のいつも通りの反応なのだ。

「うん……確かに、あなたのいつも通りね。
 今日の私は少し変ね――――――」

桜井の意見に同意する。
昨日や一昨日の、過去の自分からは想像できないほどに、弱気だった気は確かにした。
然しそれは、彼が――――桜井直斗といった身近な人物が、自分と同じ人間であり悪魔であるという特殊な存在だったことによる嬉しさや安堵からのものであった故、日々奈は恥ずかし気に目を逸らし――――――

「うっさい!」

必死に照れ隠しをして、彼の顔を蹴ろうとした。

「……自論って、あなたまさか変なこと考えてない?」

247桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/19(火) 20:59:51 ID:if7ZXLvA0
>>246
「────っ! お前力つえーな本当...」

こうやってやられたらやり返す仲
遠慮なくできる。悪友
2人の関係は、こういうものだ

「蹴るな蹴るなっ!! 全く...言った通りだ。 悪魔の見分け方って奴だ
そりゃそういう道具使えば分かるんだろうけどさ、俺持ってないし」

大真面目そうに語ろうとするが、彼のキャラ的に非常に胡散臭い
こういうバカを他の男子生徒とやってるから周囲の人間からも
「重要な場面で鈍感で難聴」「黙ってりゃそれなり」とか「何というか、いろいろ残念な人」
とか、言われてるのだ
────多分、本人は気付いてないだろうが

だが、彼の言うように悪魔を見分ける方法があるのなら何かと便利だ
街中にいる悪魔の姿を確認できれば、いざという時に先手を取られない
人にでる被害を最小限で食い止めれるかも
そう考えれば、聞く価値はあるだろう────。

「男はわかんねーけどな。少なくとも女の悪魔はだいたい見分けが付く気がするぞ?
アレだ、綺麗なんだよ。顔付きとか声とか、そういう美人に多いと思うんだ。」

────前言撤回。
こいつは一回締め上げた方が良いかもしれない

「言っておくが、別に人間全員ブサイクって言いたいわけじゃないぞ?
吸血鬼が美しく異性を魅了させる力があるという
きっとそういうのが潜在的に悪魔にも──────ん? どうした日々奈?」

そこまで言って日々奈の変な様子に気づくだろう
こんな馬鹿げた持論を自信満々に展開する桜井
本当に、バカだ この男は

248日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/19(火) 21:56:43 ID:/hFq9EzI0
>>247

淡々と自論を展開する桜井を前に、日々奈は呆れた表情を浮かべる。
たびたび、彼に対しては馬鹿っぽいといった印象を抱いていたが、まさかここまでとは――――――。
日々奈は、溜息を吐くと桜井の自慢気な自論が終わるのも恐ろしいほど静かに待った。
そして、今更気が付いたのか、此方の変化に反応を見せた桜井だが、日々奈はその質問を無視。
自論が終わりを告げたのを確信すれば、鋭い目付きで彼を見据えて





――――――あなたは馬鹿なの!!?――――――





と怒号を撒き散らした。
夜桜学園に木霊する日々奈のさけび声は本日一番の大声量だろう。


「そんな単純な特徴で、悪魔か人間か見分けられるわけないじゃない!
 いい!悪魔はね、普段から人間に擬態してる奴だけとは限んないのよ!」

ビシッと桜井の鼻先に指をさし、悪魔を甘く見据えている桜井に御説教。
APOHに所属しているだけあり、彼の自論が如何に間違っているかは分かるようだ。
一般市民である桜井とAPOHの日々奈では、悪魔に対する知識に大きな差があるのは明白だった。
そのため、彼が悪魔の見分け方を見つけたといった際には、内心嫌な予感がしていた。

「ハァ………呆れた。まさか、何を自慢気に語ると思えば、こんな内容だなんて。
 どうやら、あなた悪魔の知識を増やす必要があるみたいね」

やれやれ、と言わんばかりの表情を見せつつ、何処となく先輩面をする日々奈。

「てか、まずあなたって自分の悪魔の力をちゃんと制御できてんの?
 なんか今の間違えだらけの自論を聞く限りだと、それすらもが心配なんだけど………」

249日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/19(火) 22:02:05 ID:/hFq9EzI0
ふと、彼との会話を思い出す。
そしてその内容から推測する限り、桜井は悪魔の力を使いこなせてはいないのではないだろうか。
先保、正体を明かした際に街の騒乱を止めたい、義務を果たしたいと言っていたが、力を制御できないのでは、彼の目標は達成されないだろう。
故に、日々奈は桜井へ確認をとる形で質問をした。
もっとも、悪魔の見分け方を聞いた時点で、彼がいまだ未熟であり、力をセーブしきれていないと予想はしているが――――――。

250桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/19(火) 22:29:55 ID:if7ZXLvA0
>>248
「ああああ!! ですよねー!!」

日々奈の怒号に仰け反りながらその反応分かってましたと
耳を押さえてもなお響く彼女の声はどこまで響いたのだろう
明日あたり、屋上で何してたのかと問い詰められそうだが...まあいいか

「知識も何も...こっちは悪魔デビュー数週間だぜ...?
何かあるなら教えてくれよせんせー」

地面に座り込んでそう答える桜井
まぁ、今まで悪魔も何もかもが創作のファンタジーだと思ってた人間だ
今の段階で知識が豊富である事は難しいとは思う
そんな彼にできるのは、己の体を知ることだけ

「──────。」

制御できるのか、という問いに自分の右手を見た
何の変哲もない手
一度意識をオンにすれば、この自分の肉体を覆うように獣の肉体が出現できる
理性なく、本能で相手を喰らう狼男だ

「────確証はない。 できるかも分からないけど...
こいつは俺の半身だ。 使い続ければ飼い慣らせるかもしれない」

試した事がある
1人での修行中の時、変身中あえて"何もしない"事ができるかという実験
結果から言うと、できた
返信する前から意識し続ければ、変身後もその単純な命令を維持できるかもしれないというもの

「俺の中のこいつが、俺と一緒になればきっとイケる」

今はきっと、どちらかしか表に出ていないんだ
同じ肉体を"人間の桜井直斗"と"悪魔の桜井直斗"が使っていると仮定される
普段は人間として、あるタイミングで入れ替わるよう
これを完全に使いこなすというのはつまり────。

「...ま、やるだけやってみるだけさ」

意識の同一、理性と本能の融合
2つの精神が限りなく混ざり合うことではないのか

2人が混ざり合うというのは、今の桜井直斗が桜井直斗でなくなることになる
今とは違う自分になる事と同義だ

それにも関わらず、彼の顔に不安は見えない
頭の後ろで手を組んでタンクに凭れかかって笑っている
この自信は何だろう、元々前向きな性格ではあったがこれは少し行きすぎてる

251メモリー ◆3wYYqYON3.:2016/01/20(水) 02:39:38 ID:tVFZhA6M0
>>243

「後悔?とんでもない。後悔しないと思ったから、貴女にこの話を持ちかけたのですよ」

暗闇にぼんやりと浮かぶ顔はニコリと笑ってはいるが、女の目にそれはない。
そして、その表情のまま、語り始める。

「簡単な話です。この街で今起きている騒ぎ、ひいてはその先を生き残る為のお互いにとっての最善手、といったところです」

バターと塩のかかったポップコーンを一粒、口へ放り込む。

「ではまず、貴女の置かれている立場と、同盟のメリットから話しましょうか。
貴女は先日、愚鈍ではありますが熱心な『あの方』の信者を1匹殺してしまいました。その結果今、貴女は人間と悪魔の両方から目をつけられてしまっています」

今度はキャラメルへ手を伸ばす。既に残りは少なく、紙のバケツの底に指が触れる。
『あの方』というのは、悪魔であればその名前を知らない者はいない存在_____ルシファの事だ。

「人間は言わずもがな、悪魔の方も貴女を放ってはおかないでしょう。『あの方』自身か、それともその周りの意思かは分かりませんが、必ず貴女を近い内に潰しにかかるでしょう。『あの方』がこの街を支配する中で、貴女のような非協力的な悪魔は邪魔でしかないはずですからね」

幾ら相当な力を少女が持つとはいえ、幹部級の悪魔はそう安易に相手にしたくはないはずだ、というのがメモリーの読みだ。

「要するに現状の貴女は、『もうこの街で起きている事に部外者でいる事は出来ない』というわけです」

ドリンクへと手を伸ばし、暫くの間が開く。
一息置いて、再び話す。

「ですが、私と同盟を組めば話は別です。手を組めば、全ての人間と悪魔......とは言いませんが、少なくとも諜報部隊まがいの中級・下級悪魔や、並の人間の目は欺けます。上手く立ち回れば、貴女の存在を向こうの頭から完全に消してしまう事も、罪を適当なものに擦りつける事も不可能ではないでしょう」

メモリーの持つ記憶操作の力は、それがどれほどのものか少女も先程味わったであろう。
情報操作に関して、現状自身の右に出る悪魔は存在しない、とメモリーは自負している。

「............如何ですか?」

ひとまず、少女のこの提案への反応を確認する。
自身についての事は、まだ伏せたままで。

252沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/20(水) 09:21:59 ID:KcDs7/aA0
>>251
「そうか、お主がそこまで言うのならば私からはなにも言わんよ」

愉快そうに目を細める。劇場内を朧に照らすスクリーンでは、いよいよクライマックスに差し掛からんというところだ。
その決断が全てを飲み下せるという自負からか、はたまた若さ故かはまだ判断がつかない。
ただそれも一興、とも思った。沙希にとって人間だろうと悪魔だろうと、愉しませてくれればそれで充分なのだ。
女の話に口は挟まない。正面を見据えたまま残りも僅かなポップコーンを物惜しげに口へと放る。
ややあっての確認に少しだけ悩むように宙空を見上げ、「そうだな」と小さく零した。

「大方お主の言う通りで間違いはないだろう。此方の利益も理解はできる。
それで、お主は私になにを求めるつもりだ?」

確かにここまでの話を聞く限り、こちらのデメリットはないようにも思える。
しかしそれだけで済むはずがないのだ。同盟とは名目上は対等の上で成り立つのだから。
そのバランスが崩れればそれは最早、同盟ではなくただの隷属にすぎない。
ちらりと横目で女を見て話の続き、つまりはその対価の内容を目で促した。

253日々奈彩花 ◆xZ2R3SX0QQ:2016/01/20(水) 09:43:20 ID:/hFq9EzI0
>>250

「………………………」

話を聞いた日々奈はただ沈黙する。
結果的に桜井は悪魔の力を制御できておらず、更に今の現状がとても不安定だと分かった。
人間である桜井直斗と悪魔である桜井直斗の存在融合により、形成された桜井直斗という人物。
その人物が、悪魔になるか人間になるか、はたまた両者になるか――――――。
彼の今後を決めるのは、桜井を刺激する存在により大きく分岐する。

「…………………………」

他者に感化されやすい、不安定な状態だということに桜井本人は恐らく気が付いていないだろう。
日々奈は、その現状と事実に危機感を感じた。

「課題は山積ってわけね………」

一人険しい表情を浮かべ、日々奈は頭を悩ます。
桜井が悪魔の力を使いこなせていたならば、後は知識を叩き込むだけで良かったのだが――――――。
流石に、悪魔になってから数週間―――――というよりは悪魔という自覚を持ってから僅かなの時の中で、それを我が物にするのは難しいか。

「はぁ……………」

先に見える課題の山脈に気が滅入ってしまう。
もっとも、桜井自身はそんなこと気にもしていない様子だが。

「ま、なるようになるか……!」

しかし、今やるべきことは判明した。
日々奈は拳を強く握りしめると、ズイッと桜井の顔に自身の顔を接近させる。
いつもより、力強い日々奈の表情は悪巧みの影すら見えるほど、怪しいもので―――――

「あなた、私とタッグを組みなさい!」

大抵、予想外な発言をする。

「今のあなたじゃ、義務を果たすどころか、自分すら守ることができない。
 だから、同じ人間であり悪魔な存在、半悪魔である私が先輩としてあなたを鍛えてあげるわ!」

彼女には彼女なりの思考があったのだろう。
そしてその結果、日々奈はこのような答えを導き出したのだ。
今の桜井は力を使いこなせていない。
ならば、同じ立場である自分が手を貸し、彼のレベルを上げさせれば良い――――――。
恐らく、人間に鍛え上げられれば、人間としての桜井直斗が強まり、悪魔に鍛え上げられれば、悪魔としての桜井直斗が強まる。
人間と悪魔の―――両方の桜井直斗を均等に作り上げるには、どちらか片方の存在ではなく、どちらともが必要なのだ。
ならば、その双方を兼ね備えた自分が彼を完成――――――とまではいかなくとも助力し、力を手に入れさせることは可能だろう。

「それに、ザミエルの異名を持ち悪魔にビビられる私なら、十分にあなたの相手をできると思うけど?」

日々奈は、APOHでは魔弾の射手と異名を持ち、悪魔からはザミエルと呼ばれ一部から恐れられている。
それほどの実力を持つ存在ならば、仮に桜井が暴走したとしても十分相手になり、最悪殺すことも可能だろう。
そういった観点からもやはり、自分が適任だと日々奈は考えた。

「――――――で、どうする?
 私の申し出受け入れるのかしら?」

姿勢を立て直すと、日々奈は桜井へと手を差し伸べる。
彼の返答を待つ彼女の姿はとても頼り甲斐があった。

254桜井直斗 ◆o/zdiZN8A2:2016/01/20(水) 17:57:54 ID:if7ZXLvA0
>>253

「た、タッグ!?」

それはつまり、コンビを組むということか
日々奈と...俺が?
なんというか、確かに彼女の方が悪魔としての経験は上だろう
右も左も分からない自分にいろいろ教えてくれるのはありがたい
悪魔にビビられる日々奈なら、自分が暴走しても止められるだろう
だが、────────。

「その提案は魅力的だけど、1つ確認したい
それは、俺がAPOHの傘下に入るという意味ではないよな?」

"黒獣"────確かそう言っていたはずだ
悪魔となっている俺を、彼らは...APOHの人間はそう言っていた
俺は、狙われている
正体がバレれば俺の命が危ない
それに俺を匿う大宮や黄昏だって危険な目に合う

「俺はどちらの味方でも敵でもない。
その時によって、俺の牙が向く相手は違う────。」

人と悪魔と、2つの世界を知ったのだから
2つの世界を繋がなければならない

それを、分かってくれるか?
そう確認するように日々奈に問いかけた

もし了承するなら、彼の手はその日々奈の差し伸べられた手を握るだろう────。

255メモリー ◆3wYYqYON3.:2016/01/20(水) 20:10:20 ID:tVFZhA6M0
>>252

「ざっくり言ってしまえば、私の後ろ盾になって欲しい、ってところです」

その問いを少女がしてくる事は、予測がついていた。当然だろう。
いくら魅力的であっても、その価格が分からなければモノを買おうとはしないのが、一般的な選択だろうから。

「私は昔から荒事が苦手でしてね、ですからこうして『巣』を張って、慎ましくやらせてもらっているわけです、が」

烏龍茶を飲もうとするが、ズゾゾとストローは音を立てるばかり。

「......いかんせん、まだ守りが薄い。勿論ノーガードという訳ではありませんが、現状だと退魔師連中が数人そのつもりで乗り込んでくれば、私は此処を放棄せざるを得なくなるでしょう」

事実、今この場の観客には、万一に備え支配下に置いた退魔師を数名紛れ込ませている。
無論少女に勝てるとは思ってはいないが、逃走程度なら何とかなるだろう、と言う目論見だ。

「記憶を書き換えるにしても、定期的に記憶を書き換え続けなければ、ひょんな事で記憶を取り戻しかねない。勿論、そんな事になったらおしまいです。ですから、記憶操作無しで、自分の意思で動いてくれる協力者が欲しいんですよ」

この事は、同盟を組む場合、とりあえずの裏切りへの牽制として働くだろう。
もし同盟を組んだ上で少女が裏切れば、記憶操作により封じ込まれていた疑惑が一気に噴出する事となり、それは少女の破滅を招くだろう......。

「......それに、今後悪魔として生きていく上で、貴女とのお付き合いを始めておくのは有用だと思いまして」

ニヤリと、口元が歪む。
まるで、此処からが本題と言わんばかりに。

「悪魔の寿命は、今でもはっきりしていませんが、少なく見積もっても数十億は超えてくるでしょう。対して、人類がどれだけ長くこの繁栄を続けられるでしょうか?」

地球史上、「大絶滅」と呼ばれる現象はこの数億年の間に5回ほど発生している。
6度目のそれに人類が巻き込まれ絶滅する可能性も、ゼロではない。
それを抜きにしても、生物の代替わりのサイクルを考えれば、一悪魔の生涯を終えるより先に人類が滅ぶ可能性は、極めて高いと言えるだろう。

「私達以外の生物が滅んで新たな富が生み出されなくなれば、節制と言うものを知らず、怠惰で傲慢で貪欲な私達は残った富を巡っての闘いを余儀無くされるはずです。そのときへ向けて、強力な貴女とある種の縁を結んでおきたい、と言う訳です」

「納得して、頂けましたか?」

256沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/20(水) 22:03:40 ID:Y9DCRQiM0
>>255
「ほう?お主、顔に似合わずなかなか思い切った事を言うのだな」

かいつまんだ要点はさすがに予想外だったのか、ほんの少し目を見開いて横を見る。
遠回しな警告についてはもちろんその意図まで理解していたが、それよりもメモリーの真意の方が少女の興味をくすぐった。
ルシファへの信奉を是としない悪魔は少数なれどいつの時代にも存在する。
そしてその誰もが、どれほど強大な力を持っていたとしても悪魔たちの間では腫れ物扱いされるのだ。
無論沙希とて例外ではない。彼女もそれは分かっているだろうに、自分を相手に選んだ事に驚きを隠せなかったのだ。

「随分と先まで考えているのう。私なんぞは現在の事で精一杯よ」

女が語り終えて幾許かの間が空き、大きく息を吐いてついて出たのはそんな感嘆ともとれる言葉。
嘘ではない。これまでも少女は後の安泰よりも今の快楽を選びとってきたのだから。
そういった意味では、2人は本質的に異なると言えるのだろう。
なにがおかしいのか忍び笑いを漏らしながらも、心の内では損得天秤の行方を見守る。
そして沙希の選択は、幾分とあっさり下された。

「いいだろう、気に入った。お主の言う同盟とやら、受けてやろうではないか」

細かい打算はいくつもあった。だがそれらを軽く上回ったのがメモリーの言い分と、何より自分を選んだという事だ。
なにを決め手としたのか窺い知る事はできないが、ここまで来れば言語化できる理由は必要ない。
なおも笑みを絶やさぬまま、軽い調子で了諾の意を唱えた。

257メモリー ◆3wYYqYON3.:2016/01/21(木) 23:53:22 ID:tVFZhA6M0
>>256

「いいえ。さっきも言いましたが、貴女は貴女自身が思うより、ずっと先見性があると思いますよ」

その言葉に、嘘はない。
それが、少女を同盟相手に選んだ1つの理由でもあるのだから。
隷属の関係ならば、相手は愚鈍であっても問題ない。
しかし、同盟となると話は別だ。
同盟は、対等であってこそのもの。少なくとも、明らかに自分より劣る脳味噌の持ち主では、話にならない。
互いの意図を察し合い、ときには牽制し合い、最終的に互いの利益を最大化する。
女が同盟に求めるものは、そういうものだ。

「快諾、感謝します。では連絡先を渡しておきますので、何かあったら連絡するか、此処に直接いらしてください。歓迎しますよ」

メモ帳に携帯番号とメールアドレスを記し、少女へ渡そうとする。「此処に直接いらしてください」と言ったのは、出会った時の様子からして、この社会に馴染み切れていないであろう少女への配慮だ。

「出来れば、こちらにも連絡手段を頂ければ有り難いのですが、お持ちですか?」

スクリーンには、映画の終わりを告げるスタッフロールが流れていた。

258<削除>:<削除>
<削除>

259沙希 ◆gH01LWUntE:2016/01/22(金) 00:57:29 ID:Y9DCRQiM0
>>257
「うむ、今度は別の映画でも楽しませてもらおうかの」

差し出された連絡先を素直に受け取りポケットに捩込む。
察しの通り少女はこの時代を知ってからまだ日が浅い。特に電子機器などは未知の世界だ。
もちろん携帯電話を持っているはずもなく、連絡手段を聞かれれば僅かに眉を顰めてううむと唸った。

「すまぬが持っておらなんだ。すまーとほんだったか、さぞ便利であろうがどうにも馴染めんでな。
そうだな…お主、『クロヤギ』は知っておるか?」

バー『クロヤギ』。この街の悪魔間ではそこそこ知られた憩いの場だ。
その名をメモリーが知っているのであれば話を続け、もし初めて聞くのであれば簡単な説明を挟むだろう。

「あそこにはよく顔を出す故な、用があれば時と場所を店主に伝えておけ。出来る限り向かってやろう」

無感動に流れるスタッフロールが終わりを告げ、劇場内がほのかな照明に照らされる。
慣れない光に眩しげに目を細め、話は終わりと徐に席を立つ。

「馳走になったな。改めてこれからよろしく頼むぞ、メモリー」

新たな同盟相手をちらりと見やり、柔らかな笑みとともに軽く優美に一礼。
もし女が呼び止めなければそのまま劇場、ひいては彼女の根城を無言で後にするだろう。
既に夕闇に包まれつつあった街に繰り出た少女は1人、これからの騒乱に思いを馳せて頬を吊り上げた。

/それではこの辺りで〆でいいでしょうかっ
/長時間ありがとうございました!

260メモリー ◆3wYYqYON3.:2016/01/23(土) 21:36:22 ID:tVFZhA6M0
>>259
//長い間お付き合い頂き、ありがとうございました。楽しませていただきました。


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