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第19次 生徒会陣営応援スレ

1はくぐい:2019/01/10(木) 00:21:34
応援はこちらへどうぞ。

6各務城はりのん:2019/01/13(日) 09:31:36
(各務城玻璃乃プロローグ)

1月9日 水曜日

 嗚呼、私は本読みとして失格だ。

 私は知ってしまった。いかなる物語より
も胸がときめく、禁断の果実の味を。斯様
な果実の甘さに心惹かれる事実が、本読み
として失格であることの証左なのだ。

 図書室に置き去りにされた鞄の持ち主が
誰なのかを知るために、鞄の中を探るのは
図書委員として正当な行為であったことは
主張しておきたい。手帳を見つけて開き、
所有者が見知った名前であることを確認し
た処までならば批難される謂われは一切な
い。

 罪深きはその後である。手帳に綴られて
いた、彼女の日記に興味を覚えた私の手に
は、書と心行くまで向き合う覚悟を決めた
時にしか使わぬ眼鏡が握られていたのだっ
た。私は、知人のプライバシーを蹂躙する
決意を固めていたのである。

 そこには、恋人と出会い、想いを深め合
う過程で如何なる感情の動きがあったのか
が赤裸々に綴られていた。二人の物語は、
唐突に恋人が彼女と距離を置くようになっ
てしまったことを嘆く悲痛な胸の裡を吐露
する場面で途切れている。その結末は、ま
だ紡がれていないのだ。

 窃視趣味の俗物と謗られるのは避けるべ
くもない。私小説というジャンルが脈々と
生き永らえてるのは、他人の私生活を覗き
見る賎しい楽しみが普遍的なものであるか
らではあろう。されど、文学史に誉れ高き
文豪の著した名筆名文よりも、隣人が走り
書きした拙き乱文に強く惹かれているなら
ば、矢張り私は本読み失格なのだ。

7各務城はりのん:2019/01/13(日) 09:32:49
(承前)

1月10日 木曜日

 私の浅ましさには我ながら呆れ返る。知
己の秘密を盗み見る快感を知るやいなや、
貪欲にその快感を追及しようとしているの
だ。

 真っ先に自らの血族に手を掛けようとし
たのだから、手の施しようのない愚者であ
る。家族の所有物ならば、漁っても犯罪に
はならぬと考えた半端な保身には怖気が走
る。

 裏庭にある倉に狙いを付けたのは間違い
ではなかったはずだ。埃を被った書物の山
の中より、一冊の厳重に鎖で封じられた黒
い本を発掘した時には、賎しい興奮で心臓
が壊れんばかりに高鳴っていた。

 私の瞳に妖しい光が宿っていたであろう
ことは、想像に難くない。震える手で眼鏡
を掛けた。すると、黒い本を封じていた鎖
が手も触れぬうちに勝手に解けたのだ。

 この時点で、黒い本が尋常の書でないこ
とは明らかだった。ここで本を手放し、元
の場所に戻すべきだった。しかし、私の指
は、この慄然たる書物を開く以外の動きは
できなかったのだ。

 運命に導かれるように開いた頁に書かれ
ていたのは――全くもって不可解なことで
あるが――私自身の日記、であった。

 忘れていた。

 記憶の底に封印していた。

 消し去ったつもりでいた。

 だが、記憶か消えたわけではなかったの
だ。一度呼び起こされれば、悍ましき記憶
は鮮明に像を結ぶ。

 幼き頃の私が感じた不快感と屈辱感と無
力感と絶望感が、濁流の如く押し寄せた。
這い回る指と舌の感触。容赦なく捩じ込ま
れる穢らわしい異物が身体を引き裂く激し
い痛み。大好きだった先生が、どうしてこ
んなことをするのか。わからなかった。な
んにもわからなかった。ただただつらくて
くるしかった。

 薄暗い倉の床に胃の内容物を吐き出しな
がら、私はこの黒い本の性質を理解した。
これは、三途のこちら側にいる人間が持つ
べき書物ではない。

 だが、嗚呼、私は本読みとして失格だ。

 刈り取られる側の苦しみを知って尚、禁
断の果実を味わいたいと思ってしまってい
るのだから。


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