したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ダンゲロスSSC3 雑談スレ

1スカーレット:2017/09/28(木) 00:32:43
ダンゲロスSSC3に関連し、プレーヤー同士の交流を深める場としてお使いください。。
執筆者としてのチームメンバー、協力者募集などにも使用してください。

wiki:tps://www65.atwiki.jp/dngssc3/
公式Twitterアカウント:tps://twitter.com/dng_ssc3

2翻訳者:2017/09/28(木) 00:38:04
どなたか私とタッグを組みませんか?
基本メインですが、当方、サブでもいけます。

3少年A:2017/09/29(金) 02:36:33
エントリーしちゃったけどよくよく考えると土曜投稿がぜつぼうてきなので
こちらも誰かタッグを希望しますー。

・平日の日中なら相談くらいはできるよ
・土曜日は原則執筆はできないよ(金曜深夜寝るまで+土曜の塾仕事がちょっぱやで終われば仕上げ程度なんかするよ)
・キャラ案は我に腹案あり

4翻訳者:2017/09/29(金) 11:03:18
>>2
でしたら少年Aさん、私と組みませんか?
・基本土曜日午後は空いてます。
・キャラ案は新規キャラが浮かばないのでお任せするかも

5翻訳者:2017/09/29(金) 11:06:02
>>2 ×
>>3

6魚鬼:2017/09/30(土) 00:15:39
金曜日の夜は使えないので、どなたかメインで書いて下さる方がいれば、作戦会議や応援などサポートに徹したいです。
よろしくお願いします。

7少年A:2017/09/30(土) 02:39:02
>>4
よーしそれでは組みましょうぜヒャッハー。

8魚鬼:2017/10/08(日) 01:48:06
>>6に対する反応が特に無いようなので、とりあえず1人で土曜朝で書くことにします。

9マグロ3号:2017/10/11(水) 22:55:09
Twitterに各キャラへの簡単な感想を書いてみました。よろしければ一度見てみてください。

10ネーター(読者):2017/10/23(月) 21:47:06
応援イラスト:可愛川ナズナ
tps://twitter.com/nater_gamer/status/922443106443653120/

11ムゲン:2017/10/23(月) 21:51:39
tp://bit.ly/2iN1fFu

12ニャル:2017/10/23(月) 23:22:58
ぐわー17位!
本来は落ちるべきところをEXで残してもらって申し訳ないきもち
こんなザコを狩れるのは対戦相手を希望できる一回戦のうちだけだよー
やすいよやすいよー たおしやすいよー

13ネーター(読者):2017/10/24(火) 00:14:58
応援イラスト:ミルカ・シュガーポット
tps://twitter.com/nater_gamer/status/922480947328573440/

14ニャル:2017/10/26(木) 15:37:10
>>12
「せっかくなら希望してくれる人と対戦したい!」という思いからの発言でしたが、
ルールを勘違いしておりました。
双方向からの希望でないとマッチングしませんね……。
「こんな素敵なキャラクターからたった3人を選ぶのは無理……!」と対戦希望は「なし」で
指定していました。
なので>>12は撤回します。私への対戦希望は意味がありませんでした。
お騒がせして大変申し訳ありませんでした。

15オスモウドライバー:2017/10/27(金) 22:06:06
野々美つくねの幕間SSです。



【前回までの取組】

(ナレーション)
野々美つくねは、総合格闘技の世界チャンピオンであることを除けば平凡な女子高生である。
ある夜、彼女は突如天から舞い降りた天使に相撲勝負を挑まれ、辛くもこれを降した。
その戦利品として得た物こそ、人間を一瞬にして力士へと変身させる超科学ベルト……オスモウドライバーだったのだ!

「邪魔するぜぇ」
「うわあああ!力士だぁ!」「逃げろォ!」「だっ、駄目だ、完全にふさがれてるよぉ!」
「たった二人並んで立つだけで廊下が通れないなんて……!なんて横幅だ!」

「そのベルト、こっちに渡してくれねぇかな」
「イヤだよーだっ」

「そ、それ反則じゃないか!肘打ちするなんて……!」
「クックック……嬢ちゃん、相撲を知らねぇなぁ」
「ウアアーッ!」

『……野々美つくね!オスモウドライバーを装着したまえ!』
「……そうだ。あの白いベルト!オスモウドライバーを!」
『説明書を読むんだ!』

「……変身ッ!」

「う……うおおおお!ナメるんじゃねぇー!!」

《READY》
《HAKKI-YOI》
《BUCHIKAMASHI》

「こ……国際暗黒相撲協会バンザーーーイ!!!」

「……私の名は親方。親方弦一郎という。君の父上の、旧い知り合いだ」
「君のお父さんから頼まれていたのさ。君が16歳になったときに渡してくれとね。ああ、一日遅れてしまったが」
「髷を結うには必要だろう?……誕生日おめでとう、オスモウドライバー」





某県某山中、秘密稽古場にて。

嵐の夜であった。吹き荒ぶ雨風の轟音が、分厚い壁越しにも響いてくる。
 時折稲光が小さな明かり窓越しに閃き、暗い室内の土俵と、その内側に設置された床几(※1)に座る四つの影を浮かび上がらせた。
(※1床几……しょうぎ。木と布でできた簡易な折り畳み椅子。相撲とは特に関係がない)

 影は皆土俵の中心を向いており、その宙空に投影された映像を注視しているようだった。
 青みがかったホログラム映像に映っているのは、立ち合いの構えを取る力士だ。
 ギリシャ彫刻の如く盛り上がった筋肉と、射すくめるような鋭い眼光が、そのただならぬ力量を物語っている。

さもあらん――そこに映し出されている力士は、今は亡き横綱、千代の富士なのだから。

『こ……国際暗黒相撲協会バンザーーーイ!!!』

男の絶叫と共に、映像は砂嵐へと変わる。一瞬後、ぷつりという音とともに映像が消失した。

 国暗協の関取は皆例外なく関取手術を受け、その過程で一種の記録装置を体内に埋め込まれる。
 万一不覚を取った際、敵の情報を記録し、次の手に繋げる為のブラックボックス。津名鳥高校の教室から回収されたそれに残されていたのが、この驚くべき映像であった。

 四名のうち、もっとも小柄な影が、感嘆とも嘆息とも取れる溜息を洩らした。

「……まさかあのような年端も行かぬ少女がメタモルリキシするとはのう」
「肘魔殺(ひじまさつ)も愚かな男よ。下らぬ矜持を優先するあまり、自ら人質を捨てるとは……
 心技体など弱者の戯言、力技体こそ相撲の全てと、常日頃から言っておろうに」

 金剛力士像を想わせる、隆々とした筋骨の持ち主が吐き捨てる。彼は十五本目のちゃんこ(※2)を直接静脈に注射し、注射器を土俵外へ投げ捨てた。
(※2ちゃんこ……力士が口にする食べ物の総称。または力士の筋力を増幅する特殊薬物のこと)

「予想外の事態ではあるが、見たところ奴もまた未熟。戦力の整わぬ内に適当な幕内でも差し向ければよかろう」
「あらあら……折角適合者を見つけたんだから、もうちょっと楽しんでもいいんじゃなァい?」

 バリトンボイスの力士が茶々を入れた。力士としては異様なほどに細身の男である。
 他の三名と同じく、この男もまたまわしを締めていた。

「それにぃ、かーなり派手に動いちゃったから、きっともう『表』……大日本相撲連盟の方も勘付いてるわよォ。あのコももう保護されてておかしくない頃だわねぇ」
「ブフフォ」

 四名の内もっとも巨大な影が、相槌めいて獣臭を伴う息を吐き出した。全身をくまなく剛毛が覆い、その中で琥珀色の両眼がぎらぎらと輝いている。

「大釜掘……貴様の悪い癖だ。相撲は勝つことが全て、遊びの余地など不要。さっさとケリを付ければよい」
「ンもぉ、羅刹力ちゃんは堅いんだから……黒呪殺のお爺さんだってそう思わない?」
「ふむ……今回ばかりはワシも羅刹力の意見に賛成じゃのう。黒のオスモウドライバーを失い、我が国暗協の力が大きく削がれた事は認めざるを得ん……一刻も早くアレを手に入れ、戦力の増強を図るべきじゃろうて」
「つれないわねぇー。アタシの味方は灰色熊ちゃんだけってことォ?」
「ブフフォ」
「方針は決まったな。ならば速やかに行動すべし」

 羅刹力がそのように促した直後であった。

16オスモウドライバー:2017/10/27(金) 22:07:19
 一際大きな雷鳴が響き、稲光が室内を白く染め上げる。そして再び蝋燭の灯に照らされた薄暗闇に戻った時、土俵の中心に忽然と、車椅子に腰かけた男の姿が出現していた。
 その存在を認知した四人の力士の反応は素早かった。床几に腰かけた状態から、スムーズな土下座姿勢へ。彼らは国際暗黒相撲協会のトップ、三役力士である。その猛者たちにこのような真似をさせる車椅子の男は一体!?

「苦しゅうない。面上げい」

 しわがれた、老人の声でありながら、それは絶対的な威厳を有していた。大気が鉛に置き換わったかのような威圧感。常人であれば顔を上げるどころか、呼吸すらままならず窒息に至るであろう。

「横綱。貴方様が直々にお見えになるとは……一体どのようなご用向きですかな?」

 黒呪殺は確かにその階位を口にした。
 横綱……この男こそが、国際暗黒相撲協会の首魁。ただ一人の横綱であった。
 誰もその顔を見ることはできない。百戦錬磨の魔人たる国暗協の四天王でさえ例外ではない。
 あまりにも重々しい空気が、男の脛から上に視線を上げることを許さないのだ。

「うむ……かの適合者についての沙汰を下しに参った。これを『表』に送るがよい」

 国暗協の横綱は、懐から一枚のカードを取り出した。VRカード……この度行われるDSSバトルに参加する為の資格。
 黒呪殺は恭しくそのカードを受け取った。和装の裾から伸びた骨と皮だけの手指は、その爪先を見るだけで叫びだしたくなる程の負の感情を産む。三役でもっとも肝の座った黒呪殺だけが、横綱から物品を直接受け取ることができる。

「なるほど、なるほど。あの適合者をDSSバトルへ誘い出す……というお心積もりで」
「然り。かの運営にも我が手は届く。オスモウドライバーの詳細を一切分析し、再び黒のオスモウドライバーを我が手中に収める。白のオスモウドライバーを奪うのはその後でよい」
「しかし横綱!」

 声を荒げたのは羅刹力である。四天王でもっとも狂暴なこの男は、搦手の類を嫌う傾向があった。

「今のヤツ程度であれば我々が……否、幕内力士ならば誰もが勝利できましょう!なれば最短の道を――」
「羅刹力」

 その一言で、羅刹力の荒ぶる怒気が遮られた。
 大気の密度が、一層濃さを増したように思える。それは凄まじいまでの不吉を孕んだ、暗黒の闘気であった。

「汝はいつから私に意見できる程に出世した」
「……は、申し訳もなく。出過ぎた真似をお詫びいたします」

 場に満ち満ちていた闘気が潮流のように引いていく。そこでようやく、羅刹力は止まっていた呼吸を再開した。
 恐るべしは暗黒横綱。その気になれば、三役力士とて指一本で息の根を止められよう。

「案ずるな。これもまた天竜計画成就の為の一手よ。いずれ全ては我らの物となる。水が高きより低きへ流れるように、これは動かし難い必然である」

 横綱は厳粛に宣言した。再び雷鳴が轟くと、その姿は幻の如く消え失せていた。
 ただ土俵上に残る禍々しき闘気の残滓だけが、その存在を示す証であった。






「――本当に助かりました。ご協力感謝します、横綱」
「いえ、丁度時間を持て余していましたから。私としてもいい稽古になりましたよ」
「ハッハッハ、ご謙遜を……いずれまたお呼び立てするやもしれませんが、その時は何卒ひとつ、よろしくお願いします」
「ええ、楽しみにしていますよ。それでは」

 堂々たる体躯がリムジンに乗り込むと、黒い車体が大きく左右に振れた。走り去る車が見えなくなってから、親方弦一郎と野々美つくねはおもむろに顔を上げた。

「どうだったかね、現役の横綱の実力は」

 親方は前を見たまま、穏やかな声で尋ねた。
 つくねの表情は晴れやかなものではない。ぎゅっと唇を噛み締め、あるいは溢れそうになる涙をこらえているようにも見える。

「……あたし、オスモウドライバーを全然使いこなせてなかったんですね」
「うむ……それを実感できたなら、わざわざ横綱に来ていただいた甲斐があったな」

 国暗協による津名鳥高校襲撃事件から数日。
 つくねは親方の元、大日本相撲協会が秘密裡に保有する隠れ家に身を寄せていた。
 表向きは何の変哲もないちゃんこ鍋屋だが、店の奥には隠し階段が備えられており、地下へと降りれば面積にして100畳を超える稽古場が姿を現す。つくねはここで相撲の基礎を学んでいた。

17オスモウドライバー:2017/10/27(金) 22:08:18
 オスモウドライバーの力は強大である――相撲に関してはほとんど素人であるつくねでも、国暗協の関取手術を受けた十両力士を瞬殺できる程に。
 つくねは今にして思う。自分にはきっと、驕りがあった。過去の横綱の力をそっくりそのまま使えるなら、きっとどんな相手にも負けないという過信があった。己と敵、両者の実力を正確に見極め、分析した結果の自信ならばよい。しかしつくねは、ただその圧倒的とも思える横綱の実力に溺れかけていたのだろう。

 親方は、つくねのそのような感情を見抜いていた。長くオスモウドライバーの研究に携わっていたが故、それを手にした者の心理にも詳しかった。そして彼は今日、現役の横綱をこのちゃんこ鍋屋に呼び寄せたのだ。
 ちゃんこ屋に力士が出入りした所で何の不自然もない。隠れ家がちゃんこ屋であるのは、そういった訳もあった。

 テレビで見た横綱が突然姿を現したことにつくねは大いに驚き、子犬のように目を輝かせてサインをねだるなどしていたが、横綱の目的が自分との稽古にあることを告げられると、その目付きは瞬時にして格闘者のそれに変わった。

 表向きには存在を秘匿されているオスモウドライバーであるが、三役(※2)に昇進した力士には相撲協会からその実在と役割について説明を受ける。無論、当代の横綱も既知の事実である。稽古相手として、これ以上の存在はなかった。

 稽古は30分程で終わった。正確には、つくねがそれ以上続けられなくなった。

 相撲を司りし天使ガブリヨル――それを相手に一晩格闘し、あまつさえ土をつけたつくねが、オスモウドライバーとなった状態ですら、半時間ともたなかった。それが現役の横綱、神の依り代たる者の実力であった。

「そのオスモウドライバーには、現在72のリキシチップが内蔵されている。それによって君は歴代横綱へとメタモルリキシする訳だが……構築される肉体は仮初とはいえ横綱そのものと言っていい。しかし、その身体に蓄積された技術と経験を最大まで引き出すには、操縦者の確かな力量がなくてはならないのだ」

 つくねは頷いた。そうでなければ、あれだけの圧倒的な実力差は説明できない。
 相撲の基礎稽古、そして歴代横綱についての勉強。親方が立てたプランは、全てつくねをオスモウドライバーとしての完成に導くものだった。
 だと言うのに、自分は。己のものでもない力に酔い、うぬぼれて――

「フン!!」
「野々美くん!?いきなりどうした!?」

 つくねが自分の両頬を思い切り引っぱたくと、バチーン!と威勢のいい音がした。
 今すべきなのは、くだらない自己嫌悪などではない。ポジティブな性格は、つくねの数少ない武器の一つであった。 

「親方さん!あたし、頑張ります!うじうじしてるヒマがあったら稽古しなきゃ!」
「あ……ああ、そうだな。前向きなのはいい事だ。ところで野々美くん、ちょっとこちらへ」

 親方はつくねを店の奥へと招き入れた。それで、なにか誰かに聞かれてはまずい話をするのだなと、つくねにもわかった。

18オスモウドライバー:2017/10/27(金) 22:08:52
 一つ咳払いをすると、親方はおもむろに背広のポケットからカードを取り出した。
 その意匠に、つくねは見覚えがあった。近頃テレビでさかんに宣伝を打っている、VRによる格闘大会への出場資格だ。魔人を含めた、仮想現実世界だからこそ実現可能な、真の『何でもあり』のバトル。

「その顔を見るに、どうやらこれが何かは知っているようだね」
「はい!あれですよね、VR格闘技の!」
「そう、DSSバトル。これはね、今朝日本相撲協会に匿名で送られてきた。宛名には、君の名前が記されていたよ」
「……へっ?あたしですか?どうして?」
「うむ……そこが問題だ。実はね、我々の調査で、DSSバトルの運営元であるC3ステーションに、国暗協の手の者が潜入している可能性が示唆されたのだ」
「国暗協が……C3ステーションの中に!?」

 それが事実だとすればとんでもないことだ。C3ステーションと言えば、パソコン機器に疎いつくねでも知っている超メジャー所である。そこに国暗協が潜んでいるとなれば、世界中のメディアに敵の目があるも同義ではないか。

「たっ、大変じゃないですかそれ!」
「そう、大変なんだ。そしてこのタイミングで、差出人不明のVRカードが君に送られてきた。これは決して安価なものではない。しかも日本相撲協会を経由して、だ……これは偶然とは考えにくい」
「……うーん……、国暗協があたしを誘い出そうとしてる……ってことですか?」
「私もそうだと思う。十中八九……いや、ほぼ十割の確率で罠だろう。どうする、野々美くん」
「うーん…………えっ?」

 しばし腕を組んで考え込んでいたつくねだったが、ふと我に返ったように声を上げた。

「でっ、出れるんですか?」
「君が出たいと言うのならね。VR空間ならば命を危険にさらすことなく、全力で猛者とぶつかり合えるだろう?実戦稽古には持ってこいだ。きっと今よりも強くなれる」
「それは願ったり叶ったりですけど……そもそもオスモウドライバーのことって秘密なんじゃないんですか?よりにもよって全世界中継の配信で正体を明かしちゃうのはまずいんじゃ」
「ハッハッハ、これまでであればそうだったんだがね、君の高校が襲撃されたことで、どうやら国暗協は既に相当の情報を掴んでいる。であれば、下手に秘匿するよりもいっそ全てを明らかにして、国民の理解と援助を乞おうというのも一つの手なんだ。年々減少傾向にある相撲人口の回復効果も見込めるしね!」

 最後の方に相撲協会の本音が見え隠れした気がしないでもないが、そう言われると悪い話ではないように思えてきた。
 何より、魔人と戦える。まだ見たことも聞いたこともないような、とびきりの怪物と戦える。それはつくねにとって、抗いがたい魅力であった。

「どうやら気持ちは決まっているようだね」

 つくねの口の端に、知らずうずうずとした笑みがこぼれているのを見て、親方は満足そうに頷いた。この子の闘争心は本物だ。それは横綱にとってもなくてはならない素養の一つである。

「この件については既に日本相撲協会からバックアップの約束を取り付けてある。現実でも仮想世界でも、万全のサポートを約束しよう。君はなにも遠慮せず、思い切りぶつかって行くといい」
「親方さん……!ありがとうございます!」

 つくねは両拳を強く握りしめた。歓喜と興奮が、小さな身体を震わせていた。
 今よりもっと強い自分に。もっと上手い力士に。
 いつか、あの横綱の高みへ到達する為に。
 数えきれないほどある、大切なものを守る為に。

「あたし、頑張ります!」



 野々美つくねは、相撲を取る。

19ニャル:2017/10/28(土) 01:26:48
刈谷さんよろしくね☆(ネカマムーブ)

刈谷さんはプロローグ採点時に10点満点を付けた相手なので、胸を借りるつもりで頑張ります。

20刈谷融介:2017/10/29(日) 01:07:14
ニャルラトポテトは刈谷と対比がしやすいキャラなのでくるかなーとは思っていたのですが、想定していた話の流れを全部叩きつけることができたかは謎です

ひいひい言いながら書かせていただきました

21刈谷 融介:2017/10/29(日) 03:49:13
刈谷融介 幕間
『特に必要のない話』

「ねえ、ユースケ」
「あん?」

これはDSSバトル前、まだ二人がボロくさいアパートに住んでいた頃のことだ。

「貴方の能力って、結構よくわかんないこと多いわよね?」

狭苦しい台所でじゅうじゅうフライパンを鳴らしながら、ふと砂羽は刈谷に問いかけた。

「俺が分かってるからいいんだよ。昔、検証は飽きるほどした」
「私が分かってないから聞いてるんですけど」
「はい」

刈谷は素直に頷いた。この男、DVくさい空気を醸し出しているくせに妙に弱いところがある。

「貴方の能力で借りられるものって3種類よね?誰かの所有物で触れるもの、誰かの所有物で触れないもの、そして誰のものでもないけど触れるもの」

「その通りです」

「じゃあさ。誰のものでもないけど触れるものを借りたときって、お金はどうなってるのよ。教えてちょうだい」

ぎくり。と刈谷の動きが止まった。目の前の画面では株価が乱高下しているが、どうも目に入っていないようだ。

「内緒」
「内緒もなにもないわよ。教えなさい」
「はい」

この男、そもそも根本的に意思が弱いのである。そしてそういうときは大抵、砂羽は面白がって強気に出る。

「あー、なんというかだな」
「はっきり言って」
「はい。なんか募金とか、そんな感じになる」

砂羽は、にや〜っと底意地の悪い笑みを浮かべた。これは、つつけば面白いものが出る。

「もっと詳しく説明して?」

「……正確にいえば、困ってる人を助ける組織の口座に自動かつランダムに入金されていく」

「へぇ〜ふぅ〜〜ん。続けて?」

「俺が入金した事実は消えないから、たまに子供とかからハガキとかが来るとかなんとか」

「へぇ〜〜〜ふぅ〜〜〜〜んんん???」

「おい!もういいだろ!?」

砂羽はニッコリと頷いた。

「ええ!貴方が海苔の缶詰なんて大事にしまい込んでるからなにかと思っていたんだけれど、お手紙を隠していたわけね」

「そーゆーアレではない。富は再分配する必要があるという、ただそれだけの——」

「あーっ!お昼ご飯ができました!ハイこの話おしまいーっ」

「おいおい。俺たちもガキじゃねぇんだから、全く……」

◆◆◆◆◆

「あの後は大損に気づいてヘコんだなぁ」
「ねぇ!この手紙、どこの子から?」
「ルワンダ。ガキが下手糞な日本語書きやがって……」

今日のように、誰とも知らぬ人たちからの手紙を見せることがある。

「こっちは?えらく立派な感じだけど」
「こりゃアレだな、雇用機会のない中年男性の支援をしてる団体。あっ、この理事会ったことあるわ……あのときスムーズに話がまとまったのはこれか」

ここ数ヶ月ボンヤリと過ごしているうちに、刈谷はいろんなことを砂羽に質問されていた。やれ元カノだのなんだの。彼は童貞である。

「……楽しいか?」
「ええ、とっても!」

それでいい。頭を撫でる。

それでいいのだ。たとえこれが、分かたれていた時間を埋めるための代償行為であっても——

——その代わりにどうか少しずつでいいから、昔のことを忘れてくれ。

22狭岐橋憂 幕間『乙女の旅立ち』:2017/10/29(日) 23:16:35
※第1ラウンド第4試合『高速道路』戦闘後の設定です。不思議なことにその1にもその2にも対応してるよ!



その日、狭岐橋憂は学校中からの注目を集めていた。
彼女の通う“素晴らしヶ丘大学”は、魔人学園ではない普通の学園である。
いや、彼女が通っていたのはその“付属高校”だったかもしれない。
出場選手のプロフィールを作るとき、忙しすぎて履歴書を流し読みしかしてなかったので、文字を見落としていた可能性がある。
とにかくその学園では、魔人に対する目は世間一般とも同程度、酷いものだ。
それでもまだ『DSSバトル』への出場が発表されたとき、憂は英雄扱いだった。
彼女が魔人だと隠していたことをからかう者こそいたが、魔人であること自体を疎む者はいなかった。
『DSSバトル』とはそれほどまでに人々を熱狂させるコンテンツなのだ。
だが、昨日第1ラウンドが放送されてからそれは一変する。
淫魔化能力。彼女のような性魔人は、魔人の中でも特に嫌悪されるうちの一種である。
あるいは勝利を収めてさえいれば何らかの賞賛はあったのかもしれない。
しかし結果は相手の男に助けられての無残な敗北。
四方八方からの突き刺さるような視線が痛い。

「お、おはよう……」

彼女の数少ない友人達も、ややよそよそしい感じである。
まあ、開口一番に絶交を宣言されなかっただけマシだろうか。

「昨日は、お疲れ様」

「うん」

「大変だったね」

「まあ、ね」

ぎこちないながらも、会話は回りだした。

「あんなの相手してたら怖かったでしょ?」

「そうそう、なんかされなかった?」

「え? 彼、いい人だよ?」

しかしエンジンが掛かり始めてた空気はすぐに固まる。
憂の瞳がちょっと輝いた気がした。
不吉な予感を振り払うかのように友人達はまくしたてる。

「でも、あれだよ、尻だよ?」

「動きもキモいし」

「んー、格好いいと思うけどなぁ」

友人達は悟った。自分達普通の人間と魔人との間にある大きな感性の壁を。
「ユウと会ってもできるだけフツーにしよう」という盟約は、暗黙のもとに全会一致で破棄された。

「あの……さきばしさん?」

「腕の中ね、ごつごつしてるんだけど、抱えられるとなんか落ち着いて……」

「ユウ! お願いだから目を覚まして!」

憂の目は夢見る乙女の目だった。
思えば運命だったのだ。
エントリー順も隣。予選結果も隣。
対戦希望だってこんな高順位同士で通るなんて思わなかった。
“別の可能性の世界”があったとしてもきっと彼女は彼に恋したであろう。
憂が総合優勝した暁には復活したカナと百合百合ちゅっちゅさせようと思っていたがそんな考えはもう古い。
今は“スパンキング”翔×狭岐橋憂の時代なのだ!
許されるならば、憂ちゃんを、尻手さん家に嫁がせてあげたい!
それが24時間掛けて真摯に二人と向き合った私の出した結論である。

とはいえ、憂の前にはまだ大きな障害があった。
現状どう贔屓目に見ても憂の片想いであることはとりあえず置いておくにしても、
彼女は実は彼の連絡先を知らない。
別に意地悪で教えられていないわけではないのだ。
裏世界にも名を轟かせる尻手翔である。
そんな彼に女からの電話でもあればどうなるか。
たちまちその女は翔の人質として攫われてしまうであろう。
翔が連絡先を教えてくれなかったのは、むしろ憂を守るためなのであった。
だからといって、待っているわけにもいかない。
憂は決意を胸に宣言する。

「私、千葉県に行く」

「「へっ?」」

友人達の驚きの声がシンクロするのももっともだ。
千葉県。言わずと知れた暴走半島。
翔の出身地でもある。
そこで生まれ育った彼だからこそムキムキマッスルな体を手に入れたのだ。
か弱い女の子の憂が一人で行って、暴走族相手に無事で済むとは思えない。
だが、憂の決意は固い。
昔からそうだ。
前に出て主張するような性格ではないものの、「やる」と決めたことは必ず「やる」子だった。
今回も、きっと翔のルーツなり何なりを掴んでくるのであろう。
それを知っている友人達はもはや何も言わない。
つーか勝手にしろ、と思って見送った。

23狭岐橋憂:2017/10/29(日) 23:36:41
勢いで書いたけど冷静に考えたらこれいろいろ敵に回してるな…

24ルフトライテル:2017/10/30(月) 21:48:43
桜屋敷 茉莉花
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65657156
ナズナちゃんのお嬢様です

25少年A:2017/11/04(土) 01:58:09

「……っし、まずは一勝か」

都内某所。
テナントが潰れて間もないであろう雑居ビルの一室に、不釣り合いな美少女が一人。
鳴神ヒカリ――またの名を、変幻怪盗ニャルラトポテト。

住処をとある事情から追われた彼――彼女は、こうして
ライフラインが辛うじて生きているような施設に潜り込んで
試合までの一週間を過ごす、という不自由な生活を強いられていた。

幸いなことに、ここに潜り込んで以来、警察や追手に踏み込まれるようなこともなく過ごしていたが――

その平穏は、今日破られることになる。

「ハロー、マドモアゼル!」

ニャルラトポテトのいた部屋のドアを華麗に蹴破り、銀色の探偵――銀天街飛鳥がカチ込んだからだ。

「!」

もちろん怪盗も愚かじゃあない、闖入者の存在に気付いて即座に逃走体制を整えるが――
『世界二位の捕縛術』使いの姿を見てから逃げるようじゃあ遅い、とだけ言っておくぜ?

〜〜〜〜〜〜

「いやいや安心したまえ、私は別に君を警察に突き出すつもりも押し出すつもりもうっちゃるつもりもないからね!」

「だったらほどけよこの縄! なんか動けば動くほどキワドいところに食い込んでいくんですけど!?」

妙齢のお姉さまが、美少女をSMでも見かけないような複雑怪奇な縛り方で拘束して床に転がしてるってビジュアルを
果たして何人の奴が『探偵が怪盗を捕まえた』と思ってくれるんだろうな。

「私は話を聞きたいだけだよ。刈谷融介のことについて、ね。
 それさえ聞ければ開放するし、ここのこともバラしはしないから安心したまえ」

……いきなり縛り上げておいて信用しろ、ってのもどうかと思うぞ?

「はーあ……つうかカチコミって、随分また探偵らしくないよな。なんか焦ってんのか?」

怪盗のある意味正論ともいえる指摘に、飛鳥が表情をわずかに曇らせる。

「……焦り、か。まあ、無いと言えば嘘になるだろうね。
 何しろ、探偵として見過ごせないトラブルがひしめくこの大会の闇を暴いて、銀の光を浴びせようと
 意気込んだ筈が、蓋を開けてみればブービーと来たものだ。
 それよりは、C3ステーション上層部ともつながりがある刈谷に勝った君のほうが、余程真実に近いところにいると言える。
 もっとも、真実に近い理由は――それだけじゃあ、なさそうだがね」

珍しく弱音を吐くものの、最後に相手への牽制を入れて平常運転に戻る飛鳥。
寧ろ、無理にでもテンションを戻すために入れた呼びかけのようにも聞こえるが――

「……俺のデータも調べ済み、か。そこまで調べてるなら、わざわざ俺に話を聞きに来なくても
 刈谷との戦いもどうとでもなるんじゃねえの?」

「一応、念には念を入れたい、ってトコさ」

「わかんねえなあ……探偵の考えることってのは」

「怪盗に探偵のことはわからないものだし、探偵も怪盗のことはわからないものさ。
 それを互いに考え抜いて推理し、出し抜く。それが探偵と怪盗ってものだろう?」

呆れ、嘆息するニャルラトポテトに対し、飛鳥が意地悪く微笑む。
さっさと用件を済ませて、刈谷の情報を聞き出したいところだが――飛鳥の言葉は、まだ続く。

26少年A:2017/11/04(土) 01:58:32
「何、協力賃は無償開放だけじゃあなく――もうちょっと色をつけてあげるぜ」

「へえ? ……あいにくファイトマネーなら間に合ってるけど」

「“第五段階”」

飛鳥がキーワードを出した時点で、ニャルラトポテトの表情が強張る。
素人目の俺から見ても解りやすいほどの、明らかな緊張と動揺だ。

「君もまだ達していない、君の能力の極み――私は既に、一つの推理を組み立てている。
 正解かどうかは分からないが、少なくとも君の抱える精神的弱点である、自己同一性についての悩みを
 緩和できる程度の解答を、私は持っている。ただし、現状では仮定であり推理ではあるが、ね」

「……先に聞かせろ。そしたら、あんたの望む情報とやらはくれてやる」

「いいぜ、だが今はヒントだけに留めさせてもらうよ?
 懇切丁寧に説明した結果、かえって『そうなる未来』に固定されてもつまらないからね」

「なんだよそりゃ。……じゃあ俺も刈谷のことは喋らないぞ」

「そうかい。まあ聞いておきたまえ、きっと損はしないはずだ。
 “ジャガイモの殖え方を、知っているかい”――ニャルラトポテト君?」

「? それが……ヒント、か?ふざけんな、俺だってそのくらいは知ってる」

「ならいいんだ。んじゃ、縄はほどいておくから好きにくつろぎたまえ」

言うだけ言って、飛鳥がニャルラトポテトの拘束をあっさりと解く。
おい、いいのか?探偵が怪盗を見逃して。

「いいのさ、彼と私の目的はおおよその方向で同じだ。
 ――この馬鹿げた砂上の闘技で流れた涙という覆水を盆に還す、という点でね。
 じゃあ帰ろうぜ、共犯者」

え? ちょっと待てよ、刈谷の情報はどうした?
「え、ちょっと待てよ、刈谷の情報はいらねえのか?」

……怪盗と台詞が被る地の文ってのも、締まらねえなあ……

「ああ、あれかい? 君に会う、というか話をするための口実だよ。
 さっきのヒントを投げた時点で、私の本当の目的は終了だ」

「は? けど、何のため――」

「さあね。答え合わせは、君と私が戦うことがあったなら、その時にでもしようぜ、ニャルラトポテト君」

解き放たれた怪盗の困惑をよそに、銀の探偵は煌めき一つを残してあっさり帰っていっちまった。
さて、俺も置いてかれないよう帰らないとな。
んじゃ、せいぜい頭でも捻ってろ、怪盗殿。

27ニャル:2017/11/04(土) 03:36:55
>>25-26
こ、これが奇策は……! すごい……!

28はっしー:2017/11/04(土) 19:19:08
SS勝負で負けたのに、試合で勝ったせいでSS勝者と当たるってどういうことなの…

29刈谷 融介:2017/11/05(日) 04:43:05
三十路カップル初遊園地デートの巻

笹原砂羽は、大層驚いたように言った。
「なんていうか……広いわね!」
「そうだな」
刈谷融介は、いかにも真剣な面持ちで言う。
「それに、人が多い」

ここは日本有数のテーマパーク、『パチェっと!パーク』だ。中南米の刃物、マチェットを常備している操り人形のパチェットくんがはびこる、おそろしき空間である。

パンフレットを睨み、むむむと唸る砂羽。
「さ、まずはどこに行こうかしら」
「そうだな」
刈谷はいかにも真剣な面持ちで言う。
「砂羽に任せる」

「えっ!?いいの!?」
「もちろんだ。今回のプロジェクトリーダーはキミということになる」

午前九時、二人は園内でしっかりと頷きあった。
それはDSSバトル前日の、番外戦術を避けるための行動でもあったが——有り体に言ってしまうならば、完全にデートである。

そして二人とも、遊園地に来るのは初めてだった。

◆◆◆◆◆

「まずはこれ!断頭ジェットコースターよ。やっぱりそれっぽさが大事だわ」
「すごい名前だ」
「ね!カッコいいわね」
刈谷は押し黙った。彼に女性のセンスは理解できない。

「あっ!あっちにパチェットくんがいるわ!」
「マチェットが返り血で錆びているんだが」
「そういうとこもお茶目で可愛いわね」
刈谷は押し黙った。彼に女性のセンスは理解できない。

「それで、ここに並べばいいんだな?」

行列に指をさす。ロープの内側で人々が長蛇の列を作っている。最後尾の近くには、ちょうど『30分待ち』の看板が建てられていた。

「……ちょっと待ってくれ?待つのか?三十分も?」
「……そうらしいわね」

二人は深刻な面持ちとなる。まさかそんなに待つとは思っていなかったのだ。園内のアトラクションなど一日で全て回りきれるとさえ考えていた。
とはいえ、長期休みにもなっていない金曜日の朝である。まさかかなり空いている時間帯だと彼らは思ってもいないだろう。

「バカバカしい。こんなとこに居られるか!俺は帰らせてもらう!」
「ちょっとユースケ!そんなこと言って、どんどん人が並んじゃったらどうするの?」
「……確かに」

そうしてしぶしぶ、列に並ぶことになる。

「次はどこがいっかなー」
「これなんかどうだ?『火吹きドラゴンの歯磨き体験会』」
「嫌よ!そんなの。なんで遊園地に来ておじいちゃんの介護みたいなことしなくちゃいけないの!?」
「そこまで言うことないだろ……!!ドラゴンだぞ!ドラゴン!!おい!聞いてんのか!?」

ギャイギャイと騒いでいるうちに、三十分なぞあっという間に過ぎてしまう。二人はえらく真剣に従業員の話を聞き、恐る恐るジェットコースターに乗り込んだ。

「こ、これ、事故とかさぁ。起こらないわよね?」

ガタガタと揺れながら、ゆっくりと上昇するコースター。砂羽はおっかなびっくりで刈谷に話しかける。

「心配するな。自動車事故なんかよりよっぽど確率は低いらしい」

引き締まった表情で答える刈谷に少し安心する。しかしどうにも変だ。こういうとき、彼は怖気付いている自分をみて意地の悪い笑みを浮かべるようなタイプの人間なのに。

「そうなの?本当に?本当に大丈夫なのね?」
「心配するな。自動車事故なんかよりよっぽど確率は低いらしい」
「あの、ユースケ?もしかしてすごく怖がってる?」
「心配するな。自動車事故なんかよりよっぽどおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!?」
「きゃあああああああああああああ!!」

高速戦闘さえも可能としている刈谷曰く、自分でコントロールできない浮遊感は非常に怖いらしい。

30刈谷 融介:2017/11/05(日) 04:43:36
◆◆◆◆◆

「……今日は散々だ」
「そんなこと無いわよ!とっても楽しいわ」

お昼過ぎ。食事の時間はレストランがめっちゃ混むという当然の事実を見落としていた二人は、ベンチに座ってマチェット・チュロスを食べていた。
園内の自動販売機が意味不明なほど高価で刈谷が機械を叩き潰しそうになっていたが、そこはプロジェクトリーダー権限で砂羽が止めた形になる。

「ね、半分ずっこしましょ」
「しねぇよ。お前のそれキリング・ソース味だろ。俺そんなん辛くて食えねえって」
「私だって甘ちゃん味なんて食べてらんないわよ!でもいいでしょ?なんかそれっぽいじゃない」

なんかそれっぽい。それは初めての遊園地という状況において、極めて魅惑的な響きであった。

「じゃあ……一口ずつにしよう。それならギリギリいけないこともないかもしれない可能性があると思われる」
「そうね。それじゃあ口を開けて?あーんしてあげるわ」
「は?お前が先に食えよ。あーんしてやるからよ」

ここにおいて、二人の思惑は完全に一致していた。つまり、相手にこの過剰な味付けが施されたチュロスを先に食べさせ、悶絶させる。あとはそれを介抱した後に「やっぱり無理な話だったなあ」などとボヤいておく。そうすれば遊園地デートっぽさの演出とともに自身への被害を免れるのではないかという、卑しい魂胆である。

彼らはお互いの口元にチュロスの切っ先を突きつけたまま、ピクリとも動かない。さながらレイピアでの決闘である。

「砂羽。俺たちは妥協する必要がある」
「興味深い提案ね。続けて?」
「話はこうだ。せーのでお互いに口を開けて、かじる」
「ずいぶんシンプルね」
「こういうのは簡単なほどいい。そうだろ。覚悟は決まったな?」
「ええ」

砂羽の目が面白いくらい泳いだ。全然覚悟決まってないじゃん。

「砂羽ァ!お前、おま、そういうとこだぞ!」
「えい」
「ゔぉあああああああああああああ!!」

会話中に口を開けているところにチュロスを突っ込まないという暗黙の紳士協定を、暗黒面に堕ちた砂羽が破ったことで勝負は終結した。彼女は辛党なのである。

口の中が辛くて仕方がない刈谷は当然自販機で飲み物を買うのだが、やはり高くてキレていた。砂羽はケラケラと笑っていたが、本気で暴れだしかねなかったのでやはりプロジェクトリーダー権限で止めた。

◆◆◆◆◆

結局その後は三回も『火吹きドラゴンの歯磨き体験会』に乗ることになる。剣と盾に分かれて炎のブレスをしのぎつつ剣で歯磨きをしていくこのアトラクションを、砂羽はたいそう気に入っていた。おかげで刈谷は三回とも盾役だ。

夕飯は反省をもとに、ちょっと早めに食べた。砂羽は『ヤマンバのミートシチュー』を、刈谷は『火吹きドラゴンのステーキ』を。

「名前がちょっと恐ろしいけど、このシチュー美味しいわね」
「ヤマンバの用意した肉だもんな」
「どうしてビーフシチューってはっきり言ってくれないのかしら……」

なんて会話をしたのを覚えている。

そうして今はどのアトラクションに乗るでもなく、ぶらぶらと園内の人気のない場所を歩いていた。

「断頭ジェットコースター、楽しかったわね」

「嘘だろ、オイ。あれならパチェットくんコースターの方がマシだ」

「アレ、子供用じゃない!恥ずかしかったわ!親子連れの中に私たちだけ混じって!」

「些細なミスだ。『六脚ロバの千鳥足メリーゴーランド』とか、『残虐コーヒーカップ』はどうだった?」

「もちろん、楽しかったわ!でもやっぱり火吹きドラゴンの歯磨き体験会が最高ね」

「次は俺にも剣をやらせてくれ」

「嫌よ。私、剣より重いものは持てないもの」

「物騒なやつだ」

口のはしをひくつかせるようにして刈谷は笑う。つられて砂羽もクスクスと笑った。

「ねえ。今日、すっごく楽しかった」
「そうか」
「また来ましょう?……来れるわよね?」
「ああ」
刈谷は不自然なほど自然に笑みを浮かべた。
「もちろんさ」

砂羽は少しだけ目を伏せた。それでも、彼女もまた笑顔を作って見せた。

「ねえ、それじゃあこれに乗りましょ」

刈谷の後ろ、その上の方を指差す。

「観覧車か」

他とは違い、なんのひねりもない前時代的とすら言えるアトラクション。それでも、それっぽさにはなかなかのものがある。

砂羽は、二人の時間を大切にしたかった。刈谷は先週の一試合目以降、怒鳴るようなことが減った。嬉しい反面、自分にだけは遠慮しないでほしいと思っていた。

そう、彼女は自分にだけは遠慮しないで欲しかったのだ。

だから嘘をつかれたことが、本当に悲しかった。

31変幻怪盗ニャルラトポテト:2017/11/06(月) 11:06:37
幕間 『泡沫夢幻』 1/2


「ちょっとヒカリ! おーそーいー!」

 帽子とサングラスをかけた学生服の少女の透き通った声が、辺りに響いた。
 そこに駆けてくる、こちらもまた学校指定のブレザーに袖を通した長髪の少女。
 彼女は苦笑しながら、その場に待ちぼうけていた二人の少女に謝った。

「たはは。悪い悪い。数学の補習が終わらなくてさ」

 彼女は胸の前で手を合わせる。
 その様子を見て、サングラスの少女の隣にいたどこかボーイッシュな雰囲気の少女が笑った。

「ナルちゃんも物好きだね。僕には刈谷先生の良さはわからないなぁ」

 ヒカリ、またはナルと呼ばれた少女は慌てたように手を振る。

「そ、そんじゃないってば、ななせ! たしかにあの人はちょっと、ほっとけない部分はあるけれど……って違う! それに刈谷センセ、婚約者がいるんだよ! わたしなんて目に入ってねーの!」

 少し頬を赤らめながら首を横に振る彼女に、サングラスの少女が呆れたように溜息をついた。

「あんたの年上好きはどうだっていいから。それより早く案内してよね。こっちはこの後仕事なんだから」

 悪態をつく彼女に、ヒカリは笑う。

「ああ、ごめんごめん。天下のアイドル様のお時間を頂戴してるんだから、早くしないとな」

 二人を先導するように、ヒカリは歩き出した。
 彼女は前を歩きつつ、振り返る。

「……それにしたってその格好、いつもながら用心しすぎじゃないか?」

「う、うるさいわね。この格好は、その、アイドルとしての身だしなみっていうか……」

 サングラスと帽子の位置を直しつつ、少し恥じらうように彼女は口を尖らせた。
 二人の会話に、ななせと呼ばれた少女が笑う。

「ソラちゃんとナルちゃん、そっくりなのに並んで歩いてるんだから変装の意味がないよね」

「これはヒカリが真似してんの!」

 ソラと呼ばれたサングラスの少女の言葉に、ヒカリは笑った。

「美容室じゃ『進道ソラみたくしてください!』って言ったらてっとり早いからなー」

「やめてよ。ストーカーみたいじゃない」

「熱心なファンと言ってくれ。……と、ここだよ。ここ」

 ヒカリが案内したのは看板に『Eat like you』と書かれた小さな喫茶店だった。

 昭和にでも建てられたかのような古い西洋建築の建物で、二人の少女はヒカリの後に続いて少しためらいながら中へと入る。
 中にはアンティークな家具や、南米かどこかのお土産のような雑貨が溢れており、少々雑多な印象を受ける。
 誰も客のいない店の奥から柔和な笑みを浮かべた女性が出てきて、少女たちを出迎えた。

「あら、また来たの? いらっしゃい」

 にっこりと微笑み大人な女性の雰囲気を出す店主に、ソラとななせは少々気圧された様子を見せる。
 ヒカリは特にためらう様子もなく、店の隅にあるテーブル席へと座った。

「今日は友達連れて来たんだ」

「ふふ。それじゃあサービスしなくちゃね」

「やりぃ!」

 そんな彼女たちの会話を横目に、ソラとななせは小さく会釈しながら席へと着く。

32変幻怪盗ニャルラトポテト:2017/11/06(月) 11:07:13
2/2

 席に着いた二人に対して、ヒカリは自慢するように笑った。

「この前偶然見つけた店なんだ。オシャレだろー? これがこの店、出てくるものみんな美味いんだよ!」

「オシャレ……。まあ、そう……ね」

 柱に立てかけられたどこかの部族が付けているような奇妙な面に視線を送りつつ、ソラは歯切れ悪くそう言った。
 その隣で、ななせが元気に笑う。

「うんうん! すっごく可愛いお店だね! 僕気に入っちゃったなー」

「あらあら。ありがとう。そう言ってくれと、とっても嬉しいわ」

 店主はメニューと人数分のお冷をお盆に乗せて、彼女たちの席へと持ってくる。
 『おしながき』と書かれたそのラミネート加工された紙には、いろいろな品名が書かれていた。

「海鮮丼とかラーメンとか……結構せっそうがない品揃えね……」

 メニューを見つめるソラの横でヒカリが手をあげる。

「はい! わたしこのチョコレートパーフェー!」

「はいはい。りょーかい」

 ヒカリの言葉に店主はメモを取る。
 ソラが呆れたような顔をヒカリに向けた。

「ヒカリまーた甘い物? ……絶対太るから、それ」

「ぐおお! やめてくれ! 今は現実を直視したくない!」

「丸くなったら絶対その髪型似合わないからね。私の引き立て役になりたいならってなら、べつにそれでもいいけど」

「……そのときは厳しいと噂のアイドル式体重管理術を教えてくれ」

 ソラとヒカリのやりとりの向こうで、それまで悩んでいたななせが一つ頷いて注文を口にした。

「……うん! 僕はこの牛タン定食! 大盛りで!」

「この時間にそんなにがっつり食べるの!?」

 ソラの言葉にななせが「えっ!?」と驚きの声をあげる。

「食べ盛りの乙女はこれぐらい食べないと……」

「乙女の定義がおかしい」

 さすがのヒカリもツッコミを入れ、それを聞いていた女店主は笑う。

「いいじゃない、いいじゃない。いっぱい食べる子は好きよ。……それじゃあ、あなたは何にする?」

 女性の言葉に、ソラはメニューを眺めた。

「うーん、どれにしようかな……」

 ――いや、でも。
 ソラの視界がぼやける。
 ――だって、そう。
 彼女は瞳を閉じた。


 ――私に、味なんてわからないから。


  §


 病院のベッドで進道ソラは目を覚ます。
 DSSバトルの録画を見ながら、少々うたた寝してしまったらしい。
 画面には以前の試合の様子が流れていた。

「――ああ」

 なんて。

「……最低な夢物語」

 彼女は白い天井を見つめる。
 設定も関係もメチャクチャの、ありえない夢。
 絶対に起こり得ない物語。
 彼女は自身の頬に、水分が揮発したときのような涼しさを感じた。

「こんな物語……食べられたものじゃあないわ」

 彼女は病室で一人そう呟いて、静かに目を閉じる。

 その物語の味は塩辛く、それでいて少し苦くて。
 そしてどこか、懐かしい味だった――。

33魚鬼:2017/11/06(月) 21:33:29
ゴメスのファンアートです
tps://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=manga&illust_id=65780241&ref=touch_manga_button_thumbnail

34オスモウドライバー:2017/11/11(土) 00:08:42
 某山中の地下に造られた国際暗黒相撲協会第三秘密稽古場は、暗黒力士たちの放つ熱気によって蒸し風呂の様相を呈していた。
 気合のこもった怒声、肉と肉のぶつかり合う弾けるような音、四股が土を踏みしめる衝撃音、一定の間隔で響くすり足が土俵を擦る音――本場所前の相撲部屋にも劣らぬ……あるいはそれ以上の喧噪が、広々とした稽古場の隅々まで響き渡っている。


 暗黒大関・羅刹力が稽古場の木戸を開け放つや否や、正面から肉の塊が吹っ飛んできた。このような光景は、国暗協の稽古においては茶飯事である。


「フン」


 羅刹力は鼻息を一つ鳴らすと、飛び来る肉塊を左腕でもって無造作に薙いだ。
 宙にある巨漢の体がくの字に曲がり、今度は横へと人形めいて振り飛ばされ、20メートルほど先の土壁に激突してした。
 その生死は羅刹力の関知する所ではない。この程度で死ぬようなら、どの道先は知れている。


「オス!」「オス大関!」
「おう」


 暗黒力士たちの挨拶に短く答えてから、羅刹力は正面の力士を目に止めた。先の巨漢を吹き飛ばした男――災虎銃(さいこがん)の姿を。
 よく張った、稽古充分の体。目を引くのは異形と化した右腕である。左腕に比べ、その太さは二倍近くもあろうか。この腕から繰り出される鉄砲は、まともに入れば幕内の上位力士すら喰らうほどの威力を誇る。


「調子を上げているようだな、災虎銃」
「すんません大関、とんだ失礼を」
「構わん。それより少し面を貸せ」


 災虎銃は暗黒大関を見上げた。巌の如き偉容、鋼の如き体躯。その言動に、今日はごく僅かな違和がある。
 その感情を、彼が表に出すことはない。角界では番付こそが絶対、上の者に歯向かうことはすなわち死を意味する。こと国暗協において、不義不忠は命取りだ。
 故に災虎銃は己の感情を押し隠す。その胸にいかなる野心を抱えていようと、決してそれをさらけ出す事はない。
 その心構えと相撲の力量に限り、羅刹力はこの男を信用していた。


「貴様の腕を見込んで頼みがある」


 廊下の隅、主要な動線からは死角となった位置に移動した羅刹力はそう切り出した。
 泥着の中から取り出した茶封筒を、災虎眼のまわしの中へねじ込む。


「……オスモウドライバー所持者の情報だ。今夜、行って奪って来い。本体はただのガキだ……貴様の実力ならば難しくはなかろう」
「……オスモウドライバー」
「悪い話ではないぞ。事が済めば、貴様の幕内入りを審議会に打診してやろう。貴様には既にそれだけの実力がある……不合理な年功序列などに思い煩う必要はない」


 災虎銃の表情は変わらない。土俵上の駆け引きに熟達した羅刹力にも、その真意を読むことは叶わない。
 だが暗黒大関には確信があった。この男は、必ず首を縦に振るという確信が。


「――わかりました。この話、お受けいたしやす」
「ほう……随分あっさりと引き受けたな。もう少し渋ると思っていたが」
「兄弟子の頼みにあごかます(※1)訳にはいかねえんで」
「フ……殊勝な心掛けだ」
(※1……にべもなく断ること)


 頼んだぞ――と、羅刹力は災虎眼の肩を叩くと、早々にその場を後にした。
 その顔には、悪鬼の如き凶悪な笑みが浮かんでいる。
 

 出世の機あらば逃す筈はない。いかに表面を繕おうとも、異形と化すまでに鍛え込まれた体が如実にその野心を示している。そうでなくてはならぬと、羅刹力は声もなく笑った。

35オスモウドライバー:2017/11/11(土) 00:11:02
 その夜。
 険しい山中を下り、公共機関を乗り継いで、災虎銃は野々美つくねの住まう町に降り立った。
 添付されていた資料によれば、八墨川沿いの住宅地に、母親と二人で暮らしているのだという。
 暗黒力士は独り静かに邪悪な笑みを浮かべた。己を知る者の無いこの町で感情をひた隠しにする必要はない。


「(とうとうこの俺にも運が向いて来やがった)」

 オスモウドライバーを奪うことに成功したとなれば、国暗協における己の地位は飛躍的に上昇するとした災虎銃の見立ては正確である。少なくとも国暗協における一般認識として、オスモウドライバーは極めて重要なオブジェクトであり、これを手にすることはかの組織の悲願でもあった。自らまがい物を創り出すほどに。
 暗黒横綱の意志など、一介の十両である災虎銃が及び知ることはない。それも含めての、これは羅刹力の謀略であった。


「(幕内入りすりゃあ本場所で力を見せられる。そうなれば早い段階で三役、ゆくゆくは横綱だって夢じゃねぇ)」


 ぬるい風をその身に受けながら、じゃりじゃりと雪駄を鳴らし、災虎銃は川沿いの土手を行く。
 川に架かる橋のたもとの辺りで、一人の女子学生とすれ違った。制服である。時刻はとうに日の暮れた20時過ぎ、女生徒が独りで出歩くのは不自然な時間帯であったが、災虎銃はそれを気に留めることはなかった。当然、より優先すべき事項があったからである……その時までは。


「お相撲さんですね」


 夜風の鳴らす風鈴の音を思わせる、涼やかな声だった。
 災虎銃が振り向くと、今すれ違ったばかりの女生徒がこちらを向いて真っ直ぐに立っている。
 腰まで伸びた、夜闇に溶けるような黒髪。すらりとした長身だが、眉の辺りで揃えられた前髪と、アーモンド形の瞳がやや幼い印象を与える。


「丁子の香りがします」
「なんだ、嬢ちゃん。家出か?」
「後鉄を付けた雪駄に泥着、すり足気味の歩調。それにアンコ型の立派な体格……かなり鍛錬されていますね」


 災虎銃は頭を掻いた。相撲好きの奇特な少女だろうか。普段であればともかく、今このような者にかかずらっている時間はない。


「悪ィが今急いでんだ。相撲取りとお話しがしたいんなら他当たってくれや」
「――国際暗黒相撲協会の方ですね」


 その一言で、災虎銃の足が止まった。彼が再び振り向くと、少女は学生鞄から黒い布のようなものを引きずり出していた。一見黒い包帯のようなそれの中心部には、力強い二重線に囲まれた黒い桜が咲いている。
 暗黒力士は目を見開いた。黒の……オスモウドライバー!

36オスモウドライバー:2017/11/11(土) 00:11:47
「てめえ、まさか『力士狩り』!」
「――変身」

 
 少女が滑らかな動作で腰にオスモウドライバーを巻くと、エンブレムからもう一本の布がその股下を潜り……「あッ……」一つのまわしとなった。同時に、暗黒の粒子が少女の体を包み……闇が晴れた時、そこには一人の力士の姿が顕在していた!


《CLASS:OZEKI》《KONISHIKI》
《こにぃい〜〜しぃきぃいい〜〜》


「土俵下が、お前のゴールだ」
「ウオオォーッ!」


 あまりにも予想外の状況であったが、災虎銃の切り替えは素早かった。
 泥着をはだけて半裸になるや否や、気合の雄叫びと共に必殺の右張り手を繰り出したのだ。右腕が唸りを上げ、鉄板のような硬さを誇る掌底が小錦の顔面に直撃した。小爆発にも匹敵する破裂音が、夜の川面を打った。


「貰ったァー!何が目的が知らんがこの俺を狩ろうとしたのが運の尽きよ!脳漿ブチ撒けて死ねぃッ!」


 ぎょろり、と――小錦の黒い瞳が、指と指の隙間から災虎銃を睨み付けた。僧帽筋に埋もれた首がミシミシと音を立てている。4分の1トンを超える小山の如き巨体がおもむろに動き、災虎銃の右腕を掴んだ。


「な、に――」


 これまで災虎銃の鉄砲をまともに受けて立っていたものなどただ一人として居なかった。それが彼の矜持でもあった。ただの一合で、小錦はその拠り所を粉々に打ち砕いたのである。
 既に勝負は決していた。小錦に抱きかかえられた時点で、脱出を果たせるのは横綱ぐらいのものであろう。最盛期においては300キロ近い体重を誇った小錦の、その荷重を存分に活かした鯖折りが極まっていた。
 災虎銃は、己の背骨の軋む音を聞いた。明確な死の予兆が、その野心と闘志をへし折った。


「ま……参った」
「ふふ」


 耳元に吹きかけるような微笑である。憐れむような、あるいは嘲るような――どちらにせよ、対手の心を暗黒で満たすに十分な笑声。


「黒のオスモウドライバーは横綱と成れなかった者たちの無念の集積。敵にかける情けなど、一片たりとも存在しないわ」
「アガッ……た、助け」

 
 拘束の手は緩まない。肉の山は更に前傾し、慈悲も容赦のなく体重を災虎銃へと乗せ……やがて限界に達した。
 暗黒力士が最後に耳にしたのは、己の背骨が砕ける音であった。


「こ……国際暗黒相撲協会バンザーーーイ!!!」


 断末魔の絶叫とともに、力士の肉体が爆発四散した。黒い雪のような粒子が河原に降り積もる。
 その中に舞い落ちる茶封筒を、いつの間にか変身を解除していた少女が掴んだ。


「……野々美つくね。あのオスモウドライバーは、やはり本物……」


 素早く資料に目を通すと、少女は鞄からマッチを取り出し、封筒に火を放った。
 それを見つめる瞳は、夜の色よりなお黒い。




 御武(みたけ)かなた。18歳。女子高生。そして……オスモウドライバー。

37はっしー:2017/11/12(日) 00:22:46
【第3ラウンド第2試合・その3】

(これまでのあらすじ・ロックンローラーは死んだ。だが、雑談スレは死んでいなかった……!)

2287年度・世紀末フードファイト大統領決定戦が始まって、既に三時間が経過しようとしていた。

世紀末でフードファイト?と思う方もいるだろうが、決闘者がどんな世でも決闘するように、フードファイターが戦えばそれはもうフードファイトなのだ。
ドントシンク、フィール。そういうことだ。

だが、世紀末においては食事にありつくだけでもかなりの努力を必要とする。餓死者が出ることも珍しくはない。
そんな環境でフードファイトをするためには、ルールの最適化が必要となった。

それこそが、今回初めて使われることとなった新ルール『スカベンジング・フードファイト』だ!

基本ルールは『大食い』、すなわちどちらが多く食べられるかの勝負である。
だが、運営は食料を用意しない。ではどうするか?
参加者が自ら廃墟を漁り、旧文明の遺食物を集め、そしてそれを用いてフードファイトをしようというのだ!
集められる食料は缶詰、保存食、よくわからない変異動物の肉など多岐にわたる。それらを集め、そして食う!

なんたる世紀末に根ざした自給自足のフードファイトルールか!筆者は感動を抑えられない!

そして今!
参加者たる狐薊イナリと支倉饗子は、廃墟の中で食料を探しているのだった!


-----

38はっしー:2017/11/12(日) 00:23:23


「のじゃー、のじゃー」

世紀末名物、ミュータントのじゃロリの鳴き声が響く。
彼らは降りしきる放射性廃棄物によって突然変異を起こしたのじゃロリの成れの果ての姿であり、この世紀末においてはポピュラーなタンパク源である。

だが侮るなかれ。彼らはただののじゃロリではない、突然変異したミュータントのじゃロリなのだ。当然、ただののじゃロリにはない特異な生態を持つ!

「ロリー、ロリー」

な、なんということか!ミュータントのじゃロリはのじゃだけでなくロリとも鳴けるのだ!
これでのじゃロリ濃度は二倍!突然変異が引き起こした奇跡が、そこにはあった!

その時!

「ヒャッハーー!!のじゃロリ狩りだぜェーーッ!!!」
「のじゃーっ!?」

モヒカン・のじゃロリハンターだ!髪型がモヒカンで凶悪!

「ヒャッハハハーーッ!喰らえやーーッ!」
「のじゃーっ!のじゃーっ!」
「大漁だぜェーッ!ヒャーッハハハーーッ!!」

哀れなミュータントのじゃロリ達が、モヒカンの持つテニスラケットで捕獲されていく!
だが、これも世紀末で必死に生きる人々の暮らしの姿なのだ!
我々文明人に、どうしてこの光景を責めることができようか!?いやできるはずがない!

「待てえーーい!待つのじゃーーーっ!!」

その時!一人の少女が廃墟の陰から現れた!

その髪はキツネ色、その目は緑!そして輝くのじゃロリソウル!
何を隠そう、彼女こそDSSバトル参加者・狐薊イナリその人(AI)だ!
彼女はフードファイトに使う食料を探す中、こののじゃロリ虐待現場に遭遇し、我慢できず飛び出したのである!

「のじゃロリを虐めるのはやめるのじゃ!モヒカン!」
「なんだァ、てめぇ」

モヒカン、キレた!
テニスラケットを振り上げ、イナリに迫る!

「なにおう、来いっ!エクス……カリバーーーッ!!!」

イナリも対抗してデータキューブからエクスカリバーを呼び出す!
黄金に輝く剣が出現!貴方が私のマスターか!

ガキィィィン!ガシィィィン!

打ち合うテニスラケットとエクスカリバー!その力は互角!

「くっ、さては貴様ただのモヒカンではないな!なにやつ!?」

激しいサーブの連続を捌きつつ、イナリが問う!
対するモヒカンは余裕の表情!やはり只者ではない!その正体は!

「へっ、よく気づいたな!その通り、俺はただのモヒカンじゃあないぜ!俺は」
「のじゃー、のじゃー」
「俺は何を隠そうあの」
「ロリー、ロリー」
「何を隠そうあの地下シェルターの」
「のじゃー、ロリー」
「うるせーーーッ!!!テメーら黙っとんかい!!!」
「のじゃーーっ!?」

モヒカンの標的がミュータントのじゃロリに移る!
そして、その隙を逃すイナリではなかった!

「食らうのじゃーッ!エクスカリバー……ッガラティーーーン!!!」
「うっウワァーーーーーッッッ!!?」
「のっのじゃーーーーーッッッ!!?」

エクスカリバーからエクスカリバー光線が発射!
モヒカンとミュータントのじゃロリは星の光になった!あばよ、ダチ公!

「ふう……強敵だったのじゃ」

力尽きるように、地面に倒れるイナリ。
手に持ったエクスカリバーが灰になって、荒野の風に飛ばされていった。
百戦錬磨ののじゃロリたる彼女にとっても、今回の戦いは厳しかったのだ。

「というか、マジで何者だったんじゃあのモヒカン……」

その答えを知るものは、もうこの世にはいなかった。


-----

39はっしー:2017/11/12(日) 00:24:05


ついに、スカベンジング・フードファイトの時間がやってきた。

支倉饗子の前には集めに集めた缶詰、保存食、よくわからない変異動物の肉が山と積まれている。
この短期間で集めた量としては異常だが、それには秘密がある!
それは、彼女の能力……1回戦と2回戦でやってた、あの、あれ。増えるやつ。あれを使って集めたのだ!筆者はあんまり好きじゃないネタだ!

かえってイナリは!?
彼女の前には小さな袋がひとつだけ。
フードファイターからすれば一食分にも満たないそれが、イナリの集めた食料の全てだった。

一体なぜこんな事に!?
その理由は簡単、モヒカンとの戦いで力を使い果たしてしまい、食料集めに使うだけの体力が残っていなかったのだ!
ああ、ミュータントのじゃロリを助けたばっかりにこんな事に!なんという運命!
だが、彼女はそれを悲観してはいない!人助けをして窮地に陥るのは、騎士にとってはむしろ名誉である!

しかし、これでは勝負にならない!支倉が勝ったも同然だ!
狐薊イナリは、このまま敗北を喫してしまうのか!?

その時!

「あの、提案があるんですけど」

支倉が声をあげた!

「これだとイナリちゃんがあんまりにも可哀想ですし、私の食料を分けてあげても」

な、なんと!彼女は自分の食料をイナリと分けようと言うのだ!聖女か!

「え、えっ!?いや別にいいのじゃ、気を使わなくても!」

慌てるイナリ!それもそのはず、はっきり言って、彼女には支倉が集めた食料の1割でも食べ切ることはできない!貰ってもありがた迷惑だ!

「いえ、みんなで食べた方が美味しいと思いますし、分けましょう!」

だが支倉も引かない!その言葉はすべて善意でできている!
なんだこいついい奴じゃん!筆者も見直した!

イナリと支倉が譲り合い宇宙(そら)を始める中、審査員によって協議が進んでいく。
そして……結果が出た!

『食料を分けるのは不可、全部交換なら可』

「「ええーーーーーッッッ!!!?」」

その判定に、全選手(2名)が涙した。


-----


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板