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SSDMSet2幕間スレッド

1ほまりん:2016/03/19(土) 05:49:17
ダンゲロスSSドリームマッチSet2の幕間SSを投稿するスレッドです。
イラストもこちらに投稿してください。

2ほまりん:2016/03/28(月) 21:15:34
キャラクター募集期間は終了しましたが、
こちらで「プロローグ」と明記したSSを投稿した場合は
そのキャラクターのプロローグとして扱いますのでよろしくお願いします。

3五月女 水車:2016/03/28(月) 23:10:33
目を覚ますと、水車はまず、カーテンを開く。朝の光を体いっぱいに浴びて、伸びをする。
寝るときは下着だけだから、腰まである長い髪がお尻をくすぐる。

「んんーっ!ふぅ。」

私に必要なルーティンワークの1つだ。雨の日や曇りの日は、できなくて少し寂しいけれど。

「胸、また大きくなってる…やっぱり、まだ私でも成長するんだなあ。」

もうとっくに成長は止まったものと思ってたけど、"こっち"は成長しているみたいだ。
とは言っても、そんな大きいわけじゃない。
CかD。でも、これくらいが丁度いい。と思う。多分。

いつもと同じ日。今日もまた、いつものように、私の周りにいる"ニューヨーク・オーシャン"はきらきらと光り、朝の光を喜んでいる。
その様子が眩しくて、私は少し目を細める。最近は、前ほどではなくなったけど。
でも、やっぱり私はこの"オーシャン"が好きなんだと思う。

私はまた、ぼふん、とベッドに座り、目を瞑って"オーシャン"に口付けをする。

今はこれだけで満足できる。
私にはもうこの子より大事なものがあるから。

「おはよう、オーシャン。」

"オーシャン"に微笑みかける。私はべつに、この子のことが嫌いになったわけじゃない。

「おトイレは困るけどね…。」

悩みの種をつぶやいて、私は少し、頬を掻いた。
でも、仕方ないものは仕方ない。"ニューヨーク・オーシャン"を手に入れたとき、そんなリスクすらも愛おしく思ったものだ。
今では、マジックミラーの窓で中が隠された、こんなお家でしか"オーシャン"と遊べない、臆病者になってしまったけど。

「よしっ!」

洗面所で、顔を洗う。前は"オーシャン"に洗ってもらってたけど、さすがに今はそんな子供じみた真似しない。

そして、眠気覚ましに、勢いよく頬を叩く。あとに影響するといけないから、跡がつかない強さで。

「今日も1日、頑張るぞっ!」

そう言うと、水車は、"ニューヨーク・オーシャン"を解除した。

すると、人が変わったかのように、すぅ…と、水車の纏う空気が変わっていく。冷たく、冷たく変わっていく。

これも、ルーティンワークだ。"オーシャン"がいない時、水車は芸能人の顔になる。

今日は特に、笑ってもいられない理由があった。

「さってと……"無色の夢"か。とりあえず、マネージャーに電話しねぇと。」

最新型のスマートフォンを出す。

「俺は....負けるべきなんだろうな。"オーシャン"の為にも。俺自身のためにも。」

相手はいつもワンコールで出る。

「もしもし、戸川っす。えっと、とりあえず今日の予定、オールキャンセルでお願いします。ええ。で、ちょっと特番やって欲しいんすけど。はい。」

洗面台には、まだ"オーシャン"の残滓が残っていた。

4はかいしん:2016/03/29(火) 21:01:41
余ははかいしん。締め切りを破壊し、プロローグSSを投稿する者である。

はかいしんプロローグSS
『遊園地に行こう!その1』

おひさまがピカピカと光る、とびっきり元気な日曜日。
はかいしんはゆうしゃと待ち合わせるために、最寄りの駅前にきていました。
はかいしんは腕時計をみて、時間を確認します。時刻は9時45分。待ち合わせの15分前です。
待ち合わせの際、はかいしんは何時も15分前には現場に到着するようにしています。
相手がゆうしゃとはいえ、女性を待たせるのははかいしんのポリシーに反するのです。

「うむ、いつも通り。あとはゆうしゃが来るのを待つだけだな。」
はかいしんはそう呟いて、駅の構内をぐるぐる回り始めました。
はかいしんの力は絶大です。一つのところに留まると、それだけで周りの物が破壊されてしまいます。
無駄な殺生を嫌うはかいしんは、歩きまわることで駅の崩壊を防いでいるのでした。

駅を回る最中、はかいしんを見て、様々な人が話しかけてきます。ここははかいしん様の地元、当然その名も知れているというわけです。
真面目なはかいしん様は、その一つ一つに律儀に返事をしながら人々の間を歩いていきます。
「おっ!はかいしんさま!チーッスチーッス!」「おや、はかいしんくん、今日もお出かけかぇ?げんきでいいわねぇ。気をつけてらっしゃいねぇ。」
「あ!はかいしんさま!この前は瓦礫の破壊助かりました!今度また何かお礼させてください!」「バボンバ!バボンベンベン!ブンブー!」
「チーッスチーッス!……じゃない。なんだその態度は。私ははかいしんだぞ。もっと敬え、もっと。」
「ふん。まあな。そちも元気そうで何よりだ。季節の変わり目だからな、体調にはしっかり気を使えよ。」
「別にお前のためにやったわけではない。お前の店で買い物ができないと不便だからやっただけだ。勘違いするなよ定命の者よ。」
「ボンババ?ボッベンボッベン。バボブーバベンバー。」

一通りの人に挨拶をし、はかいしんさまはてくてくと歩き続けます。はかいしん様の表情は複雑でした。
「……破壊の化身であり、いずれ世界を滅ぼすであろうこの私が、この慕われよう……しかも全く畏怖を抱かれていないとは、はぁ……。
何と情けない……!それもこれも全てあのゆうしゃが原因……おのれゆうしゃ……!」
そう、破壊の化身であるはかいしんが町の人々に好かれているのは、ゆうしゃのせいなのです。

今までの勇者は、そのすべてが例外なくはかいしんを殺害しています。平和のための尊い犠牲です。
ですが、ゆうしゃはそれを善しとしませんでした。
「はかいしんが転生するなら、殺すより改心してもらったほうがずっと平和でええやん。」
そう言って彼女は城に引きこもっていたはかいしんをしばきたおし、はかいしんを町の人々と交流させるようになったのでした。
最初の頃は怖がっていた町の人々も、今ではすっかりこんな調子。はかいしんはゆうしゃにしてやられているようで、とても悔しいのでした。
今日のお出かけも、ゆうしゃがはかいしんの城に押しかけてとりつけたものでした。そう、それは一週間前のこと……

◆◆◆

5はかいしん:2016/03/29(火) 21:03:30

一週間前。富山県と北海道の境目、四方を暗黒領域で囲まれ、入るには門番である溶岩魔神と氷の女王、その奥にいる四天王、更にその四天王を束ねる魔王を倒さねばならないはかいしんの城に、ゆうしゃは訪れていました。
全ての門番をタイムアタックよろしく平均5秒で倒した勇者は、クソデカイ扉を開けて、はかいしんの間に入っていきます。じっとしているだけで近くの物が破壊されるので、はかいしんの間はめちゃくちゃ大きく、殆ど物がありません。
その中央、玉座に座っていたはかいしんは、勇者を認めると、立ち上がってこう言いました。
「……来たか、ゆうしゃよ。だが私はもう二度と外には出んぞ。貴様に誘われてやった草野球は散々だった……。独りでにねじ曲がるバット!当てても破裂して飛んでいかないボール!滑りこんだホームベースは叩き割れ、挙げ句の果てに私のエラーでチームは負けた……!皆私を嫌ったに違いない……もう沢山だ!絶対に街には出んからな!」
「なんや、そんなこと気にしてたん?誰もはかいしんのこと嫌いになったりしてへんて〜!物ぶち壊すのも面白がってたし、エラーで負けるなんてよ〜あることや!むしろ初めてまともに野球できとったの凄い言うてたで?気にしすぎや!元気出しや!」
「ええい黙れ!貴様の言うことなど信用できるか!どうせ私を慰めようと適当なことを言っているに違いない……私は騙されんからな!」

ゆうしゃは悲しむはかいしんを元気づけようと言葉を紡ぎますが、はかいしんはそれに聞く耳を持ちません。
「はぁ〜全く面倒やっちゃな〜。ま、ええわ。今日は草野球の話しに来たんやないからな。ほら、これ何かわかるか?」
そう言って、ゆうしゃはふところから1枚の紙切れを取り出しました。その表面には、「ほにゃらら遊園地ラブラブペア招待券」と印刷されています。
はかいしんが目を細めながら言いました。
「文字は読めるが……見間違えのような気がするな〜……なんかラブラブとか書いてあるように見えるが気のせいかな〜!」
「テレレテッテレー!大正解!これ、商店街の福引でちょうどあたってなあ。今日はこれに二人で行かへんかって誘いに来たんや!な?ええやろええやろ?二人でいこ〜や!」
「よ〜し、行っちゃうか〜!遊園地楽しみ〜!……とでも言うと思ったか!このバカゆうしゃ!」

ウキウキした様子ではなす勇者に、はかいしんは怒った様子で続けます。
「仮にもお前と私はゆうしゃとはかいしん!世界の命運をかけて戦い合う定め……それがラブラブペアだと!?もはやはかいしん概念に対する冒涜だぞ!冒涜!」
「っか〜!定めとか古!そんなん気にしてるの石器時代の人間くらいやで!頭カチコチやな〜。あ、でもはかいしんくんはそれくらいから居るんやっけ?古い考え持っとるのもしゃーないか。」
「転生してからはまだ20年ほどだ!古さは関係ない、貴様が軟弱すぎるのだゆうしゃよ!大体今までの仲良しこよし、友情ごっこをしていたのもおかしな話……。決めたぞ!今日という今日は貴様を打倒し、世界を破壊してくれるわ!」

ブワーッ!はかいしんの声とともに、破壊のエネルギーが空間を走り抜けます。ゆうしゃは腰に下げてあった剣を抜き、それを受け止めました。
この剣こそはゆうしゃのつるぎ。
絶対に壊れないすごい剣であり、ゆうしゃ一家に伝わる遺伝型特殊能力、はかいしんのちからを受け止めることが出来る唯一の力です。
マジで絶対に壊れず、一節によると宇宙の崩壊にも耐えると言われているヤバイ剣なのです。
しかし、それ以外は別。受け止めきれなかったエネルギーによって、服の端々がはかいされ、黒い塵となって宙に舞いました。ゆうしゃは言いました。
「おーおー随分恥ずかしがるなあ。相変わらずかわいいやっちゃで。よーし、相手したる!ただし私が勝ったら遊園地付き合ってもらうで。ええな!」
「望むところだ、今日こそ貴様をはかいしてやる!ハーッ!」

6はかいしん:2016/03/29(火) 21:03:40

バシュンバシュン。はかいしんの構えた両手から、破壊の力が飛び出していきます。
不可視のその力を、ゆうしゃははかいされる空気の揺らぎによって感知、軌道を見極め、一息で間合いを詰め、剣を振るいます。
「フン、甘いわ!」
ガキーン。はかいしんは手についた鋭利な爪を伸ばし、それを受け止めます。
本当は剣を持つと見栄えがいいのですが、はかいしんは自分の武器も壊してしまうので、それはできません。力には何時も対価が必要なのです。

「フッ!ハ!ヌアーッ!」
両手の爪で剣を捌きつつ、はかいしんはタックルやローキックなどの体術も交えて攻め立てます。
剣で受け止められると不味いですが、一撃でも当たればゆうしゃを破壊することができます。チャレンジャーらしい攻めの姿勢。実に好感が持てますね。
対する勇者は剣撃とフェイントではかいしんの体制をコントロールし、攻撃を掠らせもしません。ついでに一言も喋りません。真剣にやっているのです。鎧袖一触とはこのことですね。

「ふん……チェアァッ!」
状況を変えるため、はかいしんが一際力を込めてゆうしゃに斬りかかります。ゆうしゃがそれを受け止め、一瞬の硬直状態が生まれました。
「フンナーッ!」
それと同時に、はかいしんがぐっと力を込めました。
すると、ゆうしゃの立っていた床が一瞬で破壊され、その下の地面が顕になりました。
高低差により、そこに立っていたゆうしゃの体制が崩れます。はかいしんはそれを見逃さず、剣を弾くと同時にゆうしゃに向かって爪を振るいました。
ゆうしゃ、危うし!かと思われましたが、ゆうしゃは慌てず騒がず、弾かれた勢いを生かして、後ろに吹き飛びながらそれを避けようとしました。
回避しきれず、足が少しばかり破壊され、宙に血の赤と破壊の黒が広がりました。

「今が勝機!ゆうしゃ、今度こそ死……」
「いよいしょー!」
追撃を試みるはかいしんに向かって、ゆうしゃは着地の寸前、ゆうしゃのけんの鞘を投げつけました。
空中にもかかわらず、その鞘はとても正確に、はかいしんの頭に無かって飛んでいきます。
ゆうしゃのけんは絶対に壊れないすごい剣です。その鞘も壊れないので、はかいしんはちからを使わず、爪でそれを弾かなければなりませんでした。

「フン、小賢しいな勇者!……む?」
……そう、弾かなければならないはずでしたが、弾こうとした鞘ははかいしんの目の前で破壊され、黒い塵になり、宙に舞いました。
どうやらゆうしゃは、ゆうしゃのけんを普通の鞘に挿してここまで来たようです。破壊された鞘の残骸で、はかいしんの視界が遮られます。
はかいしんがなるほどなあ、と感心した直後。弾丸くらいの速度で飛んできた本物のゆうしゃのさやが、はかいしんの頭に直撃しました。
灰の向こうから、ゆうしゃのドヤ顔がはかいしんの目に映りました。
さすがのはかいしんも、これにはたまりません。はかいしんは関心した表情のまま後ろに倒れました。
「じゃ、来週の日曜日、ほにゃらら駅前で待ち合わせな。遅刻したら怒るで〜。」
意識を失う前、ゆうしゃのごきげんな声が聞こえてきた気がしました。

◆◆◆

7はかいしん:2016/03/29(火) 21:04:06

◆◆◆

というような事があり、はかいしんはしぶしぶながらもゆうしゃと遊園地に行くことになったのでした。
「くっ……!忌々しいゆうしゃめ……!今更悔しさがぶり返してきたぞ……!大体遊園地など!はかいしんに全くふさわしくない……。楽しみにしてきたお子様たちが怖がったらどうするつもりだ……!ほんとうに自分勝手な奴だ、ゆうしゃよ……」
呟きながら、はかいしんは腕時計を見ました。既に破壊され、秒針がすっかり止まっていたので、はかいしんは仕方なく広場まで時間を確認しに戻りました。
「む……。何だ、既に集合時間を過ぎているではないか。奴が待ち合わせに遅れるとは、珍しいな。まさかこの前の足の怪我が響いて……?」
心なしかおろおろしながらつぶやくはかいしん。
そんの時、かばんに閉まっていた携帯がピポピポーっとなりました。画面にはまおうの文字が表示されています。はかいしんは通話ボタンを押し、電話に出ました。

「もしもし。余ははかいしんである。どうしたまおうよ。お昼ならいらないといったはずだぞ。」
『もしもしまおうです!お昼の事は覚えてますよ!バカにしないでください!そんなことより大変なのです!お城にゆうしゃとその弟が来ているんですよ!』
「え?なんでゆうしゃがそっちに。集合は駅前って言ってたじゃん。余の聞き間違い?それとも勇者の言い間違い?」
『それがゆうしゃの奴も様子がおかしくて……。なんだかずっと寝てる?みたいな……。弟さんから詳しく聞けばいいんでしょうけど……ごめんなさい!知らない人と話すの怖いです!無理です!早く来てくださいはかいしん様!』
「様子がおかしい?全くしかたのないやつだ……。なるほどちょっと待ってろ。すぐ行くから。話すのが怖いからって殴っちゃダメだぞ。話が聞けなくなるからな。判ったな。」
『はい!できるだけ努力します!なのではやくきてくださいはかい……』

ブツッ。通話が終わる前に、携帯ははかいしんの力に耐え切れず、プシューッと煙を立てて壊れてしまいました。
1万円くらいがパーです。この体質のせいで、はかいしんはスマホをもつこともできません。
はかいしんはこわれた携帯をかばんにしまいながら呟きました。
「全く、ゆうしゃめ。本当にしかたのないやつだ。よりにもよって私とお出かけの日におかしな目に合うとは……。」
はかいしんは携帯の代わりに、かばんの中から大きな冊子を取り出しました。それは、大量に書き込みのされた、ボロボロのほにゃらら遊園地パンフレットでした。
「フン。まあいい。来ようと思えば何時でも来れるのだからな。しかし、ずっと眠っているとは一体……。面倒事にならねばいいが。」

はかいしんはパンフレットを再びしまい、はかいしんの城へ戻ることにしました。
残念、貴方はこれからその面倒事に巻き込まれるのです。具体的に言えば夢の戦いに。
そんなことも知らず、はかいしんはてくてくとはかいしんの城へ戻って行きました。
はかいしんがどうやって夢の戦いに参戦したのか、どうやって無色の夢を見たのか。
語らねばならぬことは山々ありますが、今日はこの辺りで締めとさせていただきましょう。
終わり。

8女主人:2016/03/29(火) 22:20:24
薔薇に棘あり――そんな言葉があります。その言葉に似つかわしい、一人の女性のお話です。


***


十五年以上も昔のこと。二人の中年紳士が花に飾られた料理屋で談笑をしていた。
テーブルの横に立つ女店主に向かい、より年配の紳士が言う。

「独り身ですか。勿体無い。私に妻や娘がいなければ立候補したいくらいだ」

眉尻をやや下げて、僅かに首を傾げながら笑って話を聞く女店主の様子に、紳士はフォローを続けた。

「しかし独り身を続けるというのも親孝行かもしれないね。少なくとも父親にとっては」

やや歳若いほうの紳士が、それはどういう意味ですかと疑問を投げた。

「娘が結婚をしないと不安だというなら分かりますが」

老紳士は答える。

「娘の結婚式というのは酷く泣けるんだよ。あれほど哀しい思いをしたことがあったろうか」

老紳士の言葉の熱に惹かれたのか、女店主も身を傾けてその熱弁を見守っている。

「娘が実家から離れて一人暮らしを始めたとか、男を連れ込んで自堕落な学生生活をしていたとか、
 そんな時は哀しいとも思わなかった。けれど結婚だけは違った。
 距離が離れたとか、親より男友達を優先しだしたとか、そんな即物的なものじゃない。
 娘の魂が自分の手元から離れていってしまったんだなという実感が結婚式では襲いかかってきた。
 私は年甲斐もなく泣いてしまったよ。
 ――あの哀しみを親に与えないというのなら、それは立派な親孝行じゃないかってね」

相方の紳士がなるほどと頷く。

「価値観というのは人それぞれですしね」

老紳士は笑いながら、お前も娘の結婚式では絶対泣くぞと釘を刺し、グラスを呷った。

その時、カウンターの奥で電話が鳴った。
にこやかに話を聞いていた女店主は失礼しますと一言断りその場を離れた。

料理上手で気立てよし、しかも美人と三拍子揃っていれば、付き合う相手など星の数と言えよう
この女店主であるが、独り身でいるのには他人に秘する理由があった。

それでは閉店後に、と電話口に向かって告げ受話器を置いた女店主。
その電話の先にあるものこそが、彼女の『秘密』であった。


――――――

9エルレカーン:2016/03/30(水) 13:44:30
プロローグを元に描き起こしたエルレカーン
tp://0006.x0.to/oo/gif/0330_elrekarn.png

※キャラ把握の一助になればと思い描いたものであり、設定画ではありません。

10女主人:2016/03/30(水) 22:24:58
閉店時間はとうに過ぎた夜半。店内の奥まった座席ひとつだけに灯っていた明かりが消えた。
ほどなくして店の入口の扉が開き、一人の影が路上に出た。
軽トラックのエンジン音が湿った深夜の空気を震わせ、見送った女店主は静かに扉を閉めた。

他人の目に触れることのない、窓もない部屋に戻ってきた女店主は長いため息をついた。
部屋の中央には深夜の来客が持ち込んだ、大人がすっぽりと入る大きさの木箱が置かれていた。
荒削りの板切れを張り合わせたその箱の蓋にかけられた女店主の白い手は小刻みに震えていた。

箱の蓋が開けられる。
中を覗き込んだ女店主のその時の表情は、眉ひとつ動かず、唇ひとつ動かず、頬ひとつ動かず、
強張っているとも、弛緩しているともいえない、感情を全て削ぎ落とした能面のようであった。

およそ一分、微動だにせず箱の中身を見据えていた女店主であったが、壁掛け時計の長針がカチリと
時を刻むと、その音に魂を呼び戻されたかのようにビクリと肩を震わせ、みるみると様子が変わった。

赤らんだ頬に短く浅い呼吸を始め、額に珠のような汗を滲ませたかと思うと、突如、身をよじった。
喉の奥からひゅうひゅうと呼気を漏らし、纏っていた洋服が肌に張り付くほどに冷や汗を流しながら、
女店主は部屋の隅に寄せられていたテーブルからハンドタオルを掴むと口元へ押し付けた。

ぎゅっと瞑られた目じりから大粒の涙を幾筋も流れるままに、震え続けること暫し――。

落ち着きを取り戻した女店主は長く息を吐き、立ち上がった。
水差しからコップへ水を注ぎ、ゆっくりと喉の奥へ水分を流し込み、ようやく再び箱へと向き直った。

「みっともない姿を見せちゃってごめんね」

店で客に聞かせるどのような声音よりも優しい口調で女店主は箱の中へ語りかけた。

声色に反し、女店主の様相は酷いものであった。
服は濡れそぼりシワがよって肌が透け、乱れた髪は額や頬に張り付いたままであった。

赤らめた頬は熱を帯び、脱力した口の端はわずかに開き、そこから先程口に含んだ水がつうと垂れた。
汗が浮き絹を思わせる光沢の首筋を辿り、浮き出た鎖骨を迂回し、雫は胸元の陰へと消えていった。
それら全てを気にも留めず、女店主は箱の中へ両手を差し伸べて笑いかけた。

「歓迎するわ。勿論。勿論。今日からずっと一緒ね」

そう言って箱の中へ身を沈めていった。
この箱の中身こそが、彼女の『秘密』であった。


――――――

11女主人:2016/04/01(金) 00:28:41
「山崎さん。刑事さんですか」
「すみませんね。お邪魔しちゃって」

その日、女店主の店へ思わぬ客が訪れた。
以後、女店主から安らぎの時間を奪い去る事となる、不吉の鐘を鳴らしたのは二人組の刑事であった。

「ザキさん、顔が怖いんだから店主さん可哀想ですよ」
「お前は鼻の下伸ばしてないで仕事しろ」
「いや、そんな、怒らなくとも。店主さん綺麗なお店ですね」

山崎と名乗る恰幅のよい男は、丸い顔を皺いっぱいの笑顔でくしゃくしゃにしながらも、
細い双眸は女店主を射竦める程の輝きを覗かせていた。
上背は無いが首元まで盛り上がった肩と潰れた耳、節くれだった指は男の戦歴を物語っていた。

それに連れられているのは新米なのか、まだ若い男であった。
店を訪れ、女店主の顔を見るやだらしなく笑い、以降は落ち着かない風で店内を見回していた。
背は高いが、泳ぐ視線や所在無さげに手足をふらふらとさせる様はなんとも頼りない雰囲気だ。

「あの、私、確かにこの人にはよくお世話になっていますが」
「はい。それが、その写真の御仁ね。ちょっとドロンしちゃいまして。行方不明ってヤツです」
「まあ」
「足取りを追ってましたらどうもドロンするちょっと前にこちらへ来てると分かって」

日付や時刻、細かな情報の確認に手帳へ視線を落とし、女店主の顔へと戻し、山崎の口調は軽妙だった。

「ええ、その日は夜にお店に来ていただいて、お夜食をお出しして別れました」
「何か変わった様子はありませんでしたか」
「仕事帰りでだいぶお疲れだったみたいですが、それ以外は、これといって」
「店主さん。その人、そんな時間にお店に上げるなんてもしかして」

話に割って入った若い男の言葉に、山崎は「余計な事は聞くな馬鹿」と拳骨を返し、女店主は苦笑した。

「ガーデニングでお世話になっているんです。ほら、このお店はお花がいっぱいでしょう」
「ははあ。この御仁は造園と生花を扱っているんでしたな。それで親しくされてたと」
「珍しいお花も届けてもらったりして、助かっているんです。その時も生花を車で届けていただいて」
「では、店主さんは特に何も知らないということで」
「はい。お役に立てずすみません」

――話を終え、店を後にした山崎は「で、どうだった」と相棒に向かい顎をしゃくった。

「美人でいいっすねえ。俺も花とか届けたいっすよ」
「真面目にやれ馬鹿」
「ああもう、ザキさん拳骨は勘弁ですよ。はい、店主さんはシロですね。なんも知りません」

二人組の刑事のうち、この一見すると頼りない優男、実のところは魔人能力者であった。
『公務であれば他人の記憶を読める』面倒臭い制約の能力を持つこの男は、山崎の頼れる相棒であった。

彼らが女店主に語った内容は事実のごく僅かな断片であり、彼らが追っていたのは殺人事件であった。
切り落とされた手足だけを残し、行方不明となった被害者の胴体の探索をしているところであった。

「よし。次行くぞ」
「今度はあのお店、仕事抜きで行きたいもんっすねえ」
「見栄張ってどうすんだ安月給。やめとけやめとけ」
「あっ、ザキさん俺の実技の点数知ってるっしょ。そんな事は言いっこ無しっすよ」
「実技が良けりゃなんだってんだ」
「ほら、俺のピストルで彼女のハートを射止めるって」
「馬鹿。上手いこと言おうってんならな、それこそああいうのを高嶺の花って言うんだよ」
「ザキさんそりゃないっすよお」

女店主が本当はその殺人事件に関わる重要な人物であった事実は、
立ち去る刑事達も、この時の女店主自身もまだ知らない話であった。


――――――

12女主人:2016/04/03(日) 04:23:01
刑事達が帰ったその日の晩。女店主は日課である花壇への水やりの最中に変化は訪れた。

「ああ」

霧吹きを片手に、女店主は突如として感嘆の声をあげた。
彼女は思いだした。自分が自分の能力により忘れていた、『あの日のお遣い』の内容を。
刑事達の聴取を掻い潜り、秘する事に成功した己の『秘密』を。

「そうだったわ。そうね」

女店主は水やりを終えると調理場に寄り、西瓜と包丁を手に奥の部屋へ向かった。
部屋に置かれた四角い箱の暗幕を退け、ガラス製のショウケースを剥き出しにすると、
ケースに備え付けられた機材を確認し、ケース内の湿度や温度が問題無い事実に息を吐いた。

「寂しかったわ。貴女を忘れている間、すごく寂しく仕事をしてたの。
 早くずっと一緒にいたいけれど、もう少し時間が経つまでは念の為にね」

ケースの中へ語りかけながら、女店主は脇のテーブルで西瓜に包丁を入れた。
サクリと半分、黄色い果肉の種なし西瓜が瑞々しい断面を覗かせる。
転がらないよう、断面の裏側の皮を軽く削いで平らにして、女店主はサクサクと飾り包丁を入れる。

「黄色いお花だと別れ際のプレゼントになっちゃうからお店じゃ出せないけど、
 赤い西瓜は私のお店に置いてないから――さあ! 今日の歓迎の一品は西瓜の薔薇です!」

二つの大輪の薔薇を作った女店主は、その一方をケースへ差し出し、苦笑して話を続ける。

「あの人には悪い事をしたかしら。貴女を送り届けてもらったのに。
 『私が頼んだ』って事、忘れたまま事件に巻き込まれたのかしら。ちょっと可哀想ね。
 貴女を運んだせいで厄介事を背負ってたらと思うと申し訳ないけど。
 でも、そうね。無関係である事を祈りましょう」

返事の無いショウケースへ語り続ける女店主は、最後に西瓜を口にして言った。

「それじゃあ今夜も、貴女と私の夜に――乾杯」

彼女の瞳の先にあったものは、ひとつの花であった。彼女の好きな花であった。
特別に華美でもない、もし路傍に佇んでいたならば十人が前を通り、一人二人がふと振り返る、
ありふれた素朴さの花であった。

ただ、彼女にとってはその花は何よりも愛しいものであった。
一目惚れか、余人には分からない想いがそこにはあった。
彼女は花が好きで、その一心で花を手元に置いた。

だが、そこにひとつだけ問題があった。その花の所持は法律で認められていなかった。
ケシや大麻といった規制のかかる植物と同様、単純所持が違法となる花であった。
それでも欲しいという想いで、仕事で生花を扱う知人に密かに運ばせたのが彼女の『秘密』であった。

「ああ、ああ。美味しいわ。素敵な夜ね。とっても素敵」

やがて女店主は知る。その花を運んだ人物が死んだ事を。
その花を運搬する仮定で、無理を通す為に買った恨みにより殺された事実を。
それを知り、以降十五年以上もの長きに渡り、自分も殺されるのではと恐怖に怯える日々を過ごす未来を。

しかし、その日、その夜、その一時だけは、純粋に愛する花の事だけを考え、彼女は幸せの絶頂であった。
先を考えず、子供染みた衝動でただただ花を愛する事だけを考え続けた一人の女性。
彼女が夢に描く風景は子供の頃から大人になった今でも変わらずただひとつ――お花の天国であった。


***


薔薇に棘あり――そんな言葉もあります。主に使われる意味はふたつあります。
「綺麗な女性も恐ろしい内面を持つ」「欠点の無い人などいない」。
貴方の目に、彼女の『秘密』はどう映ったでしょう。

棘と言われて身構えず、手を伸ばしてみたならば。或いは素敵な花が手に入るかも知れませんよ。

13宇多津転寝:2016/04/03(日) 15:53:10
遅れに遅れたプロローグをメールで送ったけどよく考えたらこっちに張れば良かった。くすん。

〜〜〜〜〜〜
「……ふわ、あ」

俺の一日は寝室の掃除から始まる。
目が覚めてから次に寝るまでを一日とするなら、だが。

なにしろ、一度目が覚めると特別な事情がない限りは二日三日は眠くないし眠れない。
それが俺、宇多津転寝の体質である。
横になろうが瞼を閉じようが、だ。しかもその希少な睡眠時間も三時間あるかないか、である。
一応、健康に支障はないようだが……それでも、たまには人並みにぐっすりと眠りたいものだ、とも思う。

それが、叶わぬ夢であっても、だ。

寝室の掃除を終えて、扉を開けて朝メシを喰おうと出たところで――柔らかいモノを踏んだ。

「……げ」

姉貴が、足元で寝ていた。
踏んだのが敷き布団の端だった、と認識した次の瞬間にはもう遅い。

「……Zzzzzz」
「……っ!」

ばさりと翻された羽毛布団が俺の視界を塞ぎ、手足の自由を奪い去る。
そして、羽毛布団もろともにクルリと投げ飛ばされ、壁に激突する。
幸か不幸か、姉貴愛用の羽毛布団が衝撃を吸収するが――それでもダメージは免れない。

「が……いってえ……」

宇多津流夢遊睡拳の技の一つ『叢雲包み』がモロに決まる。
寝込みを襲われた際を想定した『寝ているとき専門の拳法』である。

「……なんで今日に限ってこんなトコで寝てんだよ……もう」

姉貴こと、宇多津泡沫は俺とは真逆の超ロングスリーパーであり――俺よりも強い格闘家である。
その体質上、いつでもどこでも寝ているが……その安眠を妨げるものには、この通り
夢遊睡拳の洗礼が待っている。かくいう俺も、寝ている姉貴に勝てたためしがない。

だがまあ、布団の端で済んだのは幸いだろう。
もし姉貴本体を踏んづけようものなら、その直前に足をヘシ折られていたかもしれないのだから。

巻き付いた羽毛布団を姉貴に被せ直して、俺はそのまま台所へ向かう。
朝飯を作って食べたら、制服に着替えて登校。
いつもの一日が始まる。

14宇多津転寝:2016/04/03(日) 15:53:34
〜〜〜〜〜〜

今日も予鈴ギリギリに教室に滑り込むハメになった。

一応弁解させて貰うならば、俺は予鈴の三十分前に着くように家を出ている。
俺に『寝過ごして遅刻』というミスはなにしろ有り得ないのだから。

では、なぜ三十分ものロスが生まれるのか?
理由は簡単、なにかと不良に絡まれるからだ。

俺が格闘家の端くれだということは結構知れ渡っているらしく、
そのせいか入学当初から、その手の血気盛んなセンパイ方だったり
その腰巾着だったり、あるいは新進気鋭の同級生やらが
『アレを倒せば名が上がるぞ』と思い込んで襲いかかりに来るのが日常茶飯事になってしまった。

で、身に降る火の粉を払っているうちに、俺の名がさらに売れてしまったというワケだ。
今日も下駄箱に果たし状が挟まっている……憂鬱極まりない。

だが無視もなかなかできないのが辛いトコロだ。
一度シカトしたら、自宅の道場にまで押しかけてきたバカがいたからだ。

そのバカはどうなったかというと、玄関前で寝ていた姉貴を手込めにしようとして
煎餅布団のようにノされていた。俺とやってりゃ、眠りこけるだけで済んだだろうに。
姉貴の貞操や生命を心配はしてはいないが、しかしこの手のバカは何度やられても懲りない。
どころかやられればやられるほど、報復感情だけを燃やしてくるので手に負えない。
というわけで、俺は家での安寧まで邪魔されないように、なるべく応じているというわけだ。
自分で言うのもなんだが涙ぐましいと思うぜ、本当。

授業中、クラスメイトの何人かが舟を漕ぐのを羨ましいと想いながら、
今日も俺は真面目に授業を受けるのだった。

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