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タブンネ刑務所14

690檻の夫婦(後):2021/12/29(水) 17:54:11 ID:iBgVtpKc0
断続的な揺れと衝撃と時折の悲鳴が長々と続き、目を閉じていても一睡もできない夜になった。

それでも少しずつ夜は明けて、火山とは正反対の方向から空は明るんでくる。
日の出の時刻の少し前に、パイプベッドの下から這い出して改めてリビングを見た。案の定室内はロクでもない荒れようだった。物が外れたり割れたり倒れたり、無事なものが何一つ無いような気がした。
サッシが外れた窓から庭を見る。うちを訪れていた親子は、サッシに加えて新たな岩にも潰されていた。父親のタブンネの頭の倍くらいありそうな岩が、文字通り父親の上半身を圧し潰しているのだ。

「子どもはその岩の下らしいロト。2時頃の噴石が屋根に跳ね返ってそこに落ちて、それで完全に潰されたのをタブンネ達が聞き取ってるロト。それまでは親子とも弱ってたけど鳴いてたって言ってるロト」

「……こんなのがあの山から降ったのかよ。夜中の2時に」

うちの庭だけでも大小さまざまな石やら岩やらゴロゴロしていた。俺や、飼っていたポケモン達だけでも無傷で済んでいることが、かなりの幸運に思えるくらいに。
どう考えても今はここには住めない。いつか噴火が落ち着きさえすれば、ひょっとしたらここに戻ってくる日もあるかもしれないが、とても今は無理だ。
俺はケージのタブンネ達に向き合った。

「ロトム。タブンネ達にこれからどうするか聞いてくれ。夜に言った通り俺はここを出るしかない、タブンネ達までは養えない」

ケージの中の夫婦は、子ども達を抱き締めつつ互いに寄り添っていた。ロトムの短い指示を受けて♂が話す。
タブンネ達の親子の絆がこれまでと微妙に違う気がする。
1度目の出産で食われた子どもたちとは喧嘩だらけだった。2度目の出産のこの子らは、険悪さはだいぶマシだが親子の間でまだ隔意はあった。その隔意はおそらくもう全員から消えている。

「元々外に出たがってた子が1体いたけど、ちょうど歯が生え始めたらしいロト。今から家を出た先で、適当な場所で解放してもらえないか、と言ってるロト。ただその子を連れて行くだけで、面倒を見てもらえなくても構わないらしいロト。
 その子以外は全員ここで生き餌にしてほしいと言ってるロト。食べられる覚悟はできてるらしいロト」

ここで解放してほしい、ではなく、避難先まで連れってってほしいか。なんかちょっと図々しい要求とも言えなくはないな。……まあ、この子らの内1体なら許容範囲か。2体以上だったら流石に却下してたが。

「良いだろう。外に出たい奴だけをこちらへ」

ケージの天井を開けて、差し出された1体をテーブルの上に置く。そして俺は気合い十分で待機していたハブネークの頭を撫で、無言でケージの方へ合図した。
俺が避難の準備をする内に生き餌を食い尽くすよう、ハブネークには言い含めていた。

……このケージの中で犠牲を払ってでも生きていくと決めた夫婦の生命は、この時、こういう経緯で終わったのだった。

(終)




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