したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

タブンネ刑務所14

689檻の夫婦(後):2021/12/29(水) 17:52:26 ID:iBgVtpKc0

慌てて窓を見る。窓のサッシは確かに丸ごと外れていた。家から懐中電灯の光を当てると、言われた通り、庭に転がるサッシの下で親子は共に頭から大流血していた。息はあるようだが……。

視界の上の方が光った。
平野のずっと先にある山脈の奥の方で、空が赤く燃えている。山の向こうで、花火の打ち上げよりも大きな光の柱が天に向かって跳ね、その光の手前では巻き上げられた石や岩らしいものがチラつくように飛び交っていた。轟音と小刻みな揺れが、また来た。……いや、音と揺れだけで済んでいる内はまだマシか。

「ロトム、こいつらの救出は諦めるように伝えてくれ。どんな岩が降ってくるか分からないのに、ここで外には出られない」

自分の飼っているポケモンなら、この状況でもきずぐすりを投げてぶっ掛けるくらいはやっただろう。しかしこの親子は野生だ。そこまでの救命はできない。

「分かったロト」

ロトムが通訳しなくても俺の判断が分かったのだろう。ケージの中のタブンネ達は皆気落ちした顔でうつむいている。そこにロトムの通訳が駄目押しのように伝えられ、全員が暗い顔をする。何だかんだで優しいんだな、こいつらは。

「ロトム、今の時刻は?」「21時ちょうどだロト」「そうか。とりあえず朝までうちで待機だな。夜が明けたら避難するぞ」

問題の火山は山脈の奥にあるし、最高峰でもない。溶岩も、ガスも、ここに届く前にもっと高い他の山に遮られるはずだ。だから火山性の揺れや、山を飛び越えてくるかもしれない噴石だけが脅威になるはず。
ここにもいずれ避難勧告が出るのだろうが、夜中に不用意に屋外に出るのも危ない。こういう時は夜明けまで待機してもらうのだと、確か役所も言っていた。

懐中電灯とロトムの光を頼りに、テーブルの下に押し込んであった、組み立て式の非常用のパイプベッドのパーツを引きずり出す。それなりに大きいベッドを完成させてから、これまた非常用の寝袋を広げて、俺はパイプベッドの「下」に潜り込んだ。
これまで黙っていたハブネークが俺に寄り添った。閉じた口から舌だけを出し、舌の上に器用にバンバドロのボールを載せている。俺はハブネークの頭を撫でてからボールを受け取り、ベッドの脚のボール置きに置いた。家の屋根を破って岩が降って来るとしても、とりあえずベッドがブロックしてくれればいいのだが、……これもまた気休め程度だろうか。
火山灰が降り始めた時点で、非常用の備えは色々と考えていたのだ。備えが実際に役立ってほしくはなかったが。

そういえば、他にも決めていたことがあった。

「ロトム、タブンネ達に通訳してくれ。
 ここでも火山の被害がこんなに出た以上、俺も、夜が明けたらこの家を捨てることになるだろう。
 お前らが故郷を捨てたときみたいに、俺の先行きは分からないままだ。これからの俺はもっと余裕がなくなるし、夜が明けたら、ありったけの食糧を持ってここを出るつもりでいる。
 生き餌製造機としても、もうお前らを養えない。夜が明けるまでに、これからどうしたいかをお前らが話し合って決めておいてくれ。ここで食われるのがいいのか、何もないまま、この家から外へ放り出されたいのか。
 ……もし親と子で分かれるなら、夜のうちに、腹を壊さない限界まで乳を飲ませた方がいいだろう。外は食糧のある場所じゃないし、こんなんで一度別れたら二度と口にできねぇぞ」

無情な指示だとは思う。だが俺は嘘は吐いてない。ケージの中で酷い葛藤が生まれたようだが、俺自身への抗議はなかった。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板