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タブンネ刑務所14

680檻の夫婦(前):2021/12/19(日) 13:12:42 ID:zWWFhj3Y0
とある森のタブンネの群れにとって、滅びの危機は、突然に始まった。

ある日、森のずっと遠くに見える山々が前触れなく轟音と共に煙を吹いて、灰色の石と砂の雨を長いこと降らせたこと。それが全ての始まりだった。
森の木々が急速に枯れだし、本来あったはずの実りが全く期待できなくなった。森の中で暮らすタブンネ達はもちろん、その他の種族も徹底的に飢えた。あらゆる種族が殺気立ち食糧競争が激化して、挙句の果てに格闘ポケモンが徒党を組んでタブンネ達のねぐらを襲撃した。そこでタマゴと同胞が何体か殺されるに及んで、とうとうタブンネ達は森を捨てたのだった。
ねぐらにも食糧にも全く見込みがない逃避行だった。森は当然のことながら、森の外でも周囲のあらゆる植物が枯れていた。灰の雨は水脈さえも毒に代えてしまった上に、フラフラと彷徨うタブンネ達は他の肉食ポケモンにも恰好の獲物として狙われる。異変が起きる前には20体ほどだった群れは、森を捨てて2日目にはわずか4体にまで減っていた。

そして2日目の昼、生き残っていた4体のうち2体が、かつて草地だった場所のど真ん中でほぼ同時に倒れ、共に動けなくなった。
辛うじて立てる2体だって、倒れていないというだけでそこから動き出せるというわけではなかった。
皆がつられるようにへたり込んで絶望のままに空を見上げる。バサバサというバルジーナの翼の音が恐ろしい。戦う体力があるはずもなく、群れの滅びも明白に見えていた。

だが、その時、意外にもバルジーナは離れていったのだ。追い払われるような慌て方で一目散に飛び去って行く。
タブンネ達にも原因は分かった。遠くからこちらの方へ、大きな何者かが大地を蹴るように駆け寄って来ていた。森では見たことがない種族だが、明らかに強そうに見えた。タブンネ達に体力さえあれば、それこそバルジーナのように逃げ出していたところだろう。どう見たって力で敵いそうにもない相手だ。
より強い悲しみと絶望がタブンネ達を支配する。無意識に4体が抱擁し合って覚悟を決めて――

またしても意外なことに、そのポケモンは、そこではタブンネ達を食べることはしなかった。
目の前で立ち止まって息も絶え絶えの彼等を見下ろす。ポケモンの背に乗っている誰かが降りてきた、――ヒトだった。横に、ふわふわと別の見知らぬポケモンを浮かせている。
そのヒトはヒトの言葉で語りかけ、浮いている方のポケモンが、タブンネ達にも分かる言葉で語り直した。

「アンタら、飢えて死にかけているんだロう? 主についてくるのなら、きのみだけは食べられるようにはしてあげられるロト!
 主は、飼っているポケモンに生き餌を与えたがっているんだロト! アンタらがつがいになって、生まれてくる子を一匹残らず生き餌にずっと差し出し続けるなら、その間はアンタらにオボンを毎日食べさせてあげる事だけはできるロト。それでもよければ主に飼われるロト」

弱ったタブンネ達の中で、重い戸惑いと迷いの視線が交錯する。♂と♀が共に2体ずつの集団だったから、なるほどつがいはちょうど2組ずつ成立するはずだ。
みな山の異変があってから今に至るまで、全く何も食べていないに等しい。メシに困らないという点はそれだけで猛烈に魅力的には違いなかった。例え、取り返しのつかない強烈な代償があったとしても。

「この辺りには、きのみの生えてそうな場所はもう全く無いロト! 主について来なければここで飢え死ぬしか無いロト!
 でも、ついてくれば、きのみには困らない代わりに、生き餌にするためだけにタマゴを生んで育てる日々になるロト。主についてくるかどうか、アンタらがそれぞれ今すぐここで決めロ」

1体の♀が怯えてはっきりと首を横に振った。1体の♂が、つられる様にその♀に抱き着いて同調する。しかし残りの2体は違った。残るもう1体の♀が逡巡の末に顔を上げてもう1体の♂の手を取り、覚悟を決めて頷き合ったのだ。
4体の視線が再びぶつかり合う。責め合いではなく労り合いの目線。互いの判断を認め合って惜しむ一瞬の眼差しだけで、それぞれの別れは終わった。




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