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タブンネ刑務所14

467キルクスタウンのタブンネ:2021/02/17(水) 20:19:38 ID:dkLwmxsc0

改めて周りの状況を観察するタブンネ。もうすっかり夜深くなっていて、人間も寝静まっているようで、辺りは静寂に包まれていた。
今更ながら一面を包む雪景色に意識が向いた。

イッシュでも冬季には雪が降り積もるが、タブンネにはそれほど馴染みのあるものではない。
イッシュでタブンネが越冬を経験したのはベビ期〜ベビ上がりチビ期。狭い路地裏でママと暮らしていた時だった。
ちなみにだがキルクス到着時点、タブンネは間もなく生後1年となる齢であった。

この白い地面は冷たく体温を奪うし、やたらと動けば足跡がついてしまう。正直厄介で邪魔な物体だ。

雪はさておき、自分の居る場所の立地条件を確認していった。
人間の建物の間近で、辺りは明らかに人里。しかし大きな木が生い茂るおかげで通りからは見づらく、壁にくっついていればホテルの窓からも顔を出して覗き込まなければ見つからない。

野外でかなり寒いが、ダクトから流れ出す気流によって最低限の暖は取れる。しかも先程の水場までの距離も近く、住処にするには割りかし好条件であった。

あとは餌場だ、タブンネは鼻をヒクつかせると、すぐに懐かしい匂いを感じ取った。
タブンネの座っていた場所から4,5m先、ホテル厨房の裏口があり、すぐそばに廃棄場があった。
足跡が目立たぬ様、壁際を歩いてそこまでたどり着いたタブンネ。

残飯に当たるものはタブンネと同じくらいの大きさの蓋つきポリバケツ容器に入れられていたが、剥き出しに置かれているビニール袋の中に、紙屑やプラゴミに混じり、野菜芯や木の実の外皮、いわゆる産廃に当たるモノが入っていた。

タブンネはかつてママがやっていたように、ビニールに爪で亀裂を入れ、食べられそうなモノを綺麗に抜き去ると、ダクト下まで持ち帰り、チビチビと齧って食事を取った。
量も大したことはなく、野菜芯は特に味がしないし、捨てられる木の実皮はバコウやリリバといった固いモノ。

甘いモノを好むタブンネの嗜好には全く合わない食事だが、林での暮らしから飢餓には慣れていたし、幼少期は残飯暮し、人間に捕まってから口にしたのは激苦オレンだけ。
酷い食糧事情に対する肉体的、精神的耐性をタブンネは備えており、何とかここで暮らして行ける算段が見えてきた。


空腹も少し満たされ、さすがに破裂した眼球や粉砕した右腕は痛むままだが、持ち前の再生力でほんのわずかだが元気を取り戻したタブンネ。
左腕でタマゴを胸に抱き、ダクト下に腰を下ろしながら今一度物思いに耽った。

憎き、乱暴な人間からはおそらく解放された。とりあえずだが寝床と、餌場、水場は確保した、と思う。

だけど、それがなんだっていうのだろう。
自由になったってママや、ダーリンが帰ってくるわけじゃない。
自分は酷い傷を負わされ、これは一生治らないだろう。
たぶんここは自分の知らない、故郷からは遠い土地。ダーリンと過ごした簡素な巣穴に帰ることすら許されない。

幼少期と同じく人間のゴミを漁る生活。望んでいたことではない。今思えば林での生活は至福の時間であった。自分は残飯漁りの暮らしが適所であるように感じてしまい、強烈に自己嫌悪を抱いた。
残ったモノといえば自分の股から出てきた、この楕円形の球体だけだった。

ミスン。ミッ、ヒッ、ミンミン...  タブンネは仕様のない虚しさを感じ、さめざめと泣き続けた。
さっきの暴力や、窓から落とされた時に死ねたら良かったのに。
本気でそう思った。




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