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サーナイトSS総合 part5

1管理人★:2010/03/20(土) 23:55:05 ID:???
サーナイトの全年齢SS執筆スレです。
PCから投稿してくれる神の降臨を随時募集しております。

・sage進行+(;´Д`)ハァハァ+マターリでお願いします。
・煽り・荒らしは放置。
・投稿SSに対する過度の叩きはご遠慮下さい。

2名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:06:10 ID:Sm1TWaFw
2get
これはどう見てもおかしいだろ。 まず、主語が2。で動詞がget。
2が単数形だとしたら、getsにしないとおかしい上に、目的語がない。
直訳すると「2が得る」 何を得るんだよ!!!いいかげんにしろ。
それを言うなら
I get 2. だろ。しかも現在形だし。 過去形、いや現在完了形ぐらいまともに使ってくれよ。
I've got 2. 少しはましになって来たが、まだ気に入らない。その2だ。
いったいお前は何を手に入れたんだ?2という数字か? 違うだろ、手に入れたのは2番目のレスだろ。
どうも日本人は数詞と序数詞の区別がよく分かっていない節がある。
これらを踏まえて、正しくは
I've got the second responce of this thread.
ここでtheにも注目してもらいたい。このスレの2ってのは 特定の、このレスだけなんだから。だからaでも無冠詞でも なく、the second responceなんだ。
もう一度おさらいしてやる。

I've got the second responce of this thread.


まあ、何が言いたいのかというと急いで書いた小説が出来上がったってこった

3名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:07:07 ID:Sm1TWaFw
 ビルの最上階にある一室で男は人を待っていた。
 誰も居る筈のない目の前の空間に鋭い眼光を向けながら机の上で手を組みながら黒革張りの椅子に腰掛けていた。
 後で顔を出すから心配ない。
 男が待っている人物は部下にそう伝言させた。
 だが、それから一ヶ月。姿どころか何の連絡すら無かった。
 伝言を預かってきた部下の間違いだったのか。
 そう考えた男は首を横に振って溜息を吐いた。
 そういう奴だ。アレは。
 これから来ると思われる人物の性格はある程度分かっていた。
 分かっていたからこそ油断は出来なかった。
 突然、部屋の扉がノックも無しに急に開いた。
 男の視界に飛び込んできたのは開いた扉と一人の少年。
 金髪でセミロングの髪の毛を愉快に揺らしながらその少年は男に近づいた。何を考えているのかも分からない様な笑みを浮かべながら。
「呼んだ?」
 軽薄そうな明るい声が部屋の中に響いた。
「・・・ゼフィーの件について分からない事が多すぎる。お前の報告待ちだ。」
 男は冷静を取り繕いながら口を開いた。
「何も無いよー?ただゼフィーの調子が悪くて・・・」
「調子が悪ければ胸に大穴が開くのか?それも炭化を伴って。」
「・・・」
 少年はすぐに返答を返そうとはしなかった。
 男は薄々感じていた。
 何かを隠している。確たる証拠は無い。だが、全ての事柄が少年の口から出て来てはいない。
「正直に答えろ。何を隠している。」
 男は機械的な口調で少年に問い質したがその少年は微動だにしなかった。
 それから数秒が経っただろうか、男が再度問い質そうと口を開きかけた瞬間少年が笑みを浮かべた。
 その笑みに不意を突かれたのか男は声が出せなかった。
 そして男は隠し持っていたスイッチを押した。
 少年の笑みが怖かった。いつも少年が浮かべているはずの笑みに上手く言い表せない得体の知れない恐怖を感じていたのだ。
 それが無機質な殺意だったと気づいたのは部屋の中に黒いスーツを着た男が二人荒々しく入ってきてからであった。
「名前の無いモブのくせに勘だけはいいんだから。」
「な・・・名前ぐらいある・・・だが公表する前にお前に聞きたい事がある。」
「何?」
「何故、今になって殺そうとする?」
「多分邪魔になるから。」
「殺せ!」
 男が口を開くと同時に少年の体には拳が打ち込まれていた。
 寸前でその拳を右腕で防いだ少年は吹っ飛ばされた。
 その体は男の脇を通り過ぎ、ガラス張りの壁を砕き、外へ舞った。
「アッハッハ!用意周到だね!油断したよ!」
 少年は笑いながら落ちていった。
「いいか!地面に叩きつけられる前に覚えておけ!私の名はローグだ!分かったか!イル!」
 その声が聞こえたのかどうなのか分からなかったが落下していく少年、イルの口元には笑みが浮かんでいた。
 次の瞬間、どこからともなく高速で飛んできた一つの黒い影がイルを抱きかかえまた何処かへ飛び去った。
「何!?クソッ・・・用意周到なのはどっちだ・・・!」

4名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:07:53 ID:Sm1TWaFw
 ローグにはその有様をゆっくりと眺めている時間など無かった。
「イルを追え!」
 その声に反応するかの様に二人の男の体は鮮血を部屋に撒き散らし上半身と下半身に分けられていた。
 多少の時差を置いて床に落ちた上半身を見下ろしながら突然の懐刀の離反にローグは歯軋りをした。
「・・・私の指示よりも早く攻撃していたのか?」
 答える者が居ない問い掛けに何の意味などなかった。



「全く・・・拙者が拾ってやれたからいいものの・・・」
「いやー、ありがと。何かもう着いていそうだったから。」
「もし遅れていたらどうするつもりだった?」
「シコウが時間に遅れる訳ないじゃん。ま、あんな脱出の仕方をしようとは思わなかったけど。」
「・・・まさかお主の予想が当たるとはな。」
「ややこしい話は後にしてさ、早く里に行こうよ、なーんかお腹空いちゃった。」
「うむ・・・追っ手をまけたらの話だが。」
 シコウの眼は自分の遥か後ろを睨みつけていた。今はいなくとも必ず来る。それは予想ではなく確信であった。



 シコウが落下するイルをすり抜けながら掻っ攫うという望みもしない曲芸を披露した場所からたった数キロ離れた場所の住宅地にある一軒の家。その家の一室を楽しそうに掃除している一人の少年がいた。
 長く、黒々とした長髪は後ろに纏められ、作業の邪魔にならないようにされている。右腕に巻かれた包帯は埃だらけだったが少年は気にも留めなかった。
「掃除機、掃除機・・・」
 今、掃除機を求めて全力疾走しかけている少年はどこにでも居そうなポケモントレーナー。強いて違うところを挙げるとすれば右腕にグラードンの力を宿しているというところだった。名前はバイツ。
「ノンケにとっては公園のベンチが鬼門になりそうな前フリだな・・・」
 訳の分からない独り言を呟いて頭を横に振ったバイツ。
「マスター、掃除機をお持ちしました。」
 ふと、背後から聞こえた声にバイツはゆっくりと振り向いた。
「サーナイト・・・悪いな、重かっただろ?」
「いいえ、埃だらけになっているマスターに比べればこれくらい・・・」
 サーナイトは笑顔を見せる。頬を少し紅くして。
 バイツとサーナイトはあんな事やこんな事をしている仲だがやはりサーナイトは少し照れてしまう。
「どうした?」
「最近マスターが凄く楽しそうにされていますから。私も楽しいのです。」
「そうか?いや、何、最近何も荒事が無くて平和だからな。」
 バイツは掃除機の電源を入れ、ノズルを下に傾け部屋中を歩き始めた。普段はあまり使わない部屋だが二十四畳という広さの大部屋には埃が溜まりやすかった。バイツが掃除機を掛けている間はサーナイトも辺りを雑巾で拭いていた。
 掃除機を掛け終わったバイツはサーナイトと一緒に掃除用具を片付けていた。
「悪いな、いつも付き合ってもらって。」
「いえ、当然ですよ。」
 サーナイトと共に居間に踏み入れたバイツはテレビに目を向けた。テレビ画面には番組と番組の間の短い時間を使用して放送している占い番組をやっていた。
「占いか・・・」

5名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:08:47 ID:Sm1TWaFw
「あら、マスターもこの占いに興味があるの?」
 テレビに目を向けていたムウマージがバイツに視線を移した。
「いや、占い番組見たのって久しぶりだなーってな。」
「じゃあマスターもサナサナも一緒に見ちゃおうよ!」
 同じくテレビを観ていたミミロップが立ち上がりバイツとサーナイトの手を引っ張り座るように促した。
「結構当たるんよーこの占い。」
 ユキメノコも湯呑み茶碗にお茶をいれ二人に勧めてきた。
『・・・では、髪型占い。一番運勢が悪いのは長髪の貴方です。』
「これってマスターの事じゃない?」
「あらーマスターかわいそうやなぁ。」
「あーあ、マスターったら残念。慰めてあげちゃおっかな?布団のな・か・で。サナサナ、ムウムウ、ユキユキもどう?」
「あら、ええどすなぁ。」
「たまにはいいんじゃない?こんなシチュエーションも。」
「も、もう・・・三人共・・・」
 何故かサーナイトが恥ずかしがっている。
『得に運勢の悪い人は怪我をしている訳では無いのに右腕に包帯を巻いている人です。』
 あまりにもピンポイントな結果に部屋の空気が凍った。
『何か・・・こう・・・色々酷いです。何が酷いのか具体的に述べれば・・・まあ・・・爆発・・・うん・・・ニュースに戻ります。』
「何だそれ・・・?」
「マ、マスター気にする事無いですよ。占いなのですし。」
「そ、そやね・・・サナはんの言う通りよ。」
「たまに外れるって、この占い。気にしない気にしない!」
「落ち込んじゃ駄目よマスター」
 彼女達なりにバイツを励ます。
「ただいまー!」
「ただいま。」
 玄関の方から声が聞こえてきた。散歩へ行ったクチートとアブソルが戻ってきた様であった。バイツとサーナイトは玄関へと行き帰ってきた二人を出迎える事にした。
 玄関に着くと、クチートがアブソルにニコニコ顔で乗っていた。
「お帰りなさい。クーちゃん、アブちゃん。」
「お帰り。どうしたアブソル?そんな険しい顔して。」
「マスター、客だ。」
 何処か苦々しい表情で玄関の戸に目を向けたアブソル。目線の先にはイルの無邪気な笑顔があった。
「やーバイツ!ちょっと・・・」
 バイツは勢いよく玄関の戸を閉めた。
「さ、クチート、アブソル、中で休もうか。」
 アブソルの上からクチートが飛び下りた。
「いいの?この前はあんな立場だったけど本当はマスターの友達だって言ってたよ?」
 クチートが首を傾げつつそう言った直後再び玄関の戸が勢いよく開いた。
「そうでーす!ボクはバイツと大し・・・」
 バイツが先程と同じく勢いよく戸を閉める。だが、完全に閉まりきる前にイルが閉まりゆく玄関の戸を右腕で止めた。
「俺は局地災害指定されそうな友人を持った覚えは無い。」
「やだなぁ、それでも人類皆兄弟でしょ?」
「やかましい。似てるのは髪の色だけにしてくれ。」
「六百億$$の賞金首みたいな事しないよ・・・今んとこは・・・」

6名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:09:32 ID:Sm1TWaFw
「あー、バイツ。済まぬが少々話を聞いてくれぬか。」
 イルの後ろからシコウが顔を出した。
「なんだ、居たのかシコウ。」
「とんだ挨拶だな。そんな事より我等を匿ってはくれぬか?」
「何をしでかした?」
「イルの離反を手伝った。今は追っ手に追われている。」
「それで、追っ手をまくために遠くに逃げたふりしてこの街に暫く隠れようっていう・・・」
「そうか、大変だな。」
 さり気なく戸を閉めようとするバイツの手に力が入る。
「何で閉めるのさ。」
「何となく危ない感じがしたから。」
「そんな事言わないで匿ってよー」
 一向に進まない会話を見兼ねたサーナイトはバイツに囁いた。
「もし、この方々が本当に追われているのならば人目に付かない内に匿っては如何でしょうか?」
「・・・かもな、だがもう追っ手に追い付かれていてこの様子をしっかりと目撃されていたら?」
「その点についてですが・・・」
 サーナイトがバイツの耳元で何やら囁き始めた。
「成程・・・いい案だ。」
 サーナイトの提案に頷いたバイツは玄関の戸を開けた。イルはウキウキと玄関を上がり、シコウも「お邪魔致す」と一言断り玄関を上がろうとした。
「シコウ・・・ちょっと。」
 バイツはシコウに手招きをした。近づいて来たシコウにバイツは耳元で先程のサーナイトの提案を囁き始めた。
「確かに・・・言えておるな。分かった。」
 提案を承諾したシコウはまた外に出た。それを確認したバイツは周囲を素早く見回し、玄関の戸を閉めた。
 サーナイトの提案というのはシコウに家の周囲を警戒させるというものだった。万が一追っ手がいた場合、大事になる前に追っ手を始末させようという囁く際に追加されたバイツの提案もあった。



「はぁー・・・生き返るぅ・・・」
 イルがミルクティーを一口飲みカップを机の上に置いた。
 その様子をバイツは頭を抱えながら、サーナイト達はバイツの後ろに隠れ警戒しながら眺めていた。
「どうしたの?そんなに落ち込んで。」
「イル・・・一つだけ聞かせてほしい。一つだけでいい。」
「何?」
「今度は何をした?」
「んーと・・・何か欝陶しくなったボスをサクッとヤろうとしただけ。ま、失敗したけどね!」
「だから追っ手に追われているのか・・・」
「っていうか聞きたい事ってそれだけ?他に聞きたい事があるんじゃないの?組織の目的とかボク達の手足の事とか・・・」
「「興味無いから知らない」って返って来そうだな。」
「うん、興味無いから知らない。」
「・・・」
「前々からお前が言っていた「移植」や「適合」って言葉も適当に言った言葉か?」
「それは何か向こうで調整受けてた時に耳に入った言葉。意味は知らない。」
「・・・それを勝手に組み立てただけか?」
「うん。そゆこと。」

7名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:10:23 ID:Sm1TWaFw
 その時、玄関の方から音が聞こえた。
「シコウ、こっちだ。上がって来てくれ。」
 玄関の方向に向けてバイツが溜息交じりの声を上げた。その数秒後、シコウが居間に姿を現した。
「バイツ・・・良い報告と悪い報告がある・・・」
「良い報告から。」
「幸いな事に連中はまだ我等には気づいておらん。暫く匿わせてもらうぞ。」
「構わない・・・で?悪い報告は?」
「バイツに客だ。」
「やあ!バイツ、退院したし遊びに来たよ!」
「よお!何か退屈だから来たぜ!」
 ライキとヒートがシコウの後ろから姿を現した。現したのは良いのだが二人の目がイルに止まると一転して表情を変えた。
「テメェ!一体どんな面下げてここに居やがる!」
「懺悔・・・聞かせてもらう前にくたばるなよ?」
 イルはそんな二人を見て口元に笑みを浮かべている。しかし、目は笑ってはいなかった。
 一触即発の空気の中、バイツは頭を抱え先程の占いの結果を思い出していた。
「大当りだ・・・畜生。」
 誰も動けない。誰かが動けば全てが動く。
 下手に動けば死者が出る。
 ライキとヒートの頬を汗が流れ落ちる。
 静寂と呼吸音。
 どれほどの時が経ったのか。たった三十秒かもしれないし一時間かもしれない。
「シコウ・・・」
 不意にバイツが口を開いた。
「分かっている。」
 シコウは口を開くと同時に動いた。同時にバイツも動く。一秒も経たない内にライキとヒートはバイツによって壁に抑えつけられ。イルはシコウによる見事な組み手で動きを封じられてしまう。
「バイツ!手ェ離せ!俺はこいつから聞かなきゃなんねえ事があるんだよ!」
「黙れ。シコウ、悪いがイルをこっちの部屋に連れて来てくれ。」
 バイツはそのまま二人を連れて居間を後にした。シコウも身動きがとれないイルを連れて居間を出ていった。居間に残されたサーナイト達にはただただその光景を見ているしか出来なかった。



 さらにそれからどれ程の時間が経ったのか。バイツ達が居間を出て行って誰一人として戻って来ない。居間に居るサーナイト達はただ待つ事しか出来なかった。
 だが、どれ程待てばいいのか。誰も答えは分からない。
 急にサーナイトが立ち上がった。
「マスターの様子を見てきます。」
 まるで自分自身に言い聞かせるかの様にサーナイトは口を開いた。
「待て、連中がどういう奴等か分かっているのか?」
 アブソルがサーナイトに問い質す。
「分かっています。大丈夫です、何かあったらマスターを引っ張って戻って来ますから。」
 それだけ返すとサーナイトは居間を後にした。それぞれの部屋を一つずつ覗き回るサーナイト。自分達の家の筈なのだが、今は得体の知れない建物の中に居る感じであった。そして、サーナイトは一つの部屋の前で壁を背にして俯き座り込んでいるバイツを発見した。
「マスター・・・!」

8名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:11:19 ID:Sm1TWaFw
「サーナイトか・・・」
 バイツはただ疲れ切って座っていただけであった。
「一体どうなったのです?何か話し合いでも・・・」
 バイツは静かに近くの部屋の戸を指差した。サーナイトは指差された戸に近付き、そっと中を覗き込む。
「何だよ!自分のクローンだと思っていた奴のクローンだったって!意味わかんねえし!」
「何このコマ・・・ホモビデオ出演がバレて海外へ?何処かで聞いた気がするけど・・・まあいいや。」
「ぬう?拙者のコマは・・・犬が全ての元凶だった?・・・オマエノシワザダタノカ・・・」
「どう?結構面白いでしょ。以前バイツと十五時間通してやっても終わらなかったからね。」
 サーナイトは始め何の会話だったのか分からなかった。ふと、四人の視線の先にあった物を見たサーナイト。
「双六・・・?」
「単純だろ?あいつ等・・・」
 疲れ切ったのか俯いたまま動かないバイツ。サーナイトが手を差し延べようと近くに寄る。しかし、バイツはその手を取らずにサーナイトの胸へと顔を埋めた。
「なっ・・・!え、マス・・・はい?」
 サーナイトはいきなりのバイツの行動に言葉が出なかった。
「なあ・・・サーナイト・・・」
「こ、ここじゃ駄目ですよ・・・!廊下ですし・・・誰かに見られるかもしれませんし・・・」
「・・・違う。何かさ落ち着くんだ・・・」
 バイツがサーナイトの背中に腕を回す。
「ゴメン・・・もう少しこのまま・・・」
 サーナイトは悪い気がしなかった。むしろこのままずっと過ごしていたかった。
「災難だな・・・平和が続くかと思ったが、誰かがパンドラの箱から溢れんばかりの災厄を俺に押し付けて・・・さ。」
「でも、私達には貴方が居て下さいます。ですから・・・別に平和でなくとも構いません。貴方さえ無事ならば・・・私は・・・」
「そんな事言うな・・・!」
 言いたい事が分かったのかサーナイトの言葉を止めさせたバイツ。
「・・・」
 サーナイトも何時もとは違うバイツの悲痛な声にそれ以上言葉を発する事は出来なかった。
「例えお前がそう思っていても・・・俺は・・・」
「マスター」
 バイツが顔を上げる。その瞬間、サーナイトの唇はバイツの唇と重なっていた。ほんの少しの短い時間だったが唇を離したサーナイトは満足そうな笑顔でこう言った。
「そんな貴方が大好きです。」



 サーナイトに甘えて少し落ち着きを取り戻したバイツはサーナイトと共に居間に戻った。居間の戸を開けたバイツは室内を一目見て言葉を飲み込んだ。
「もっとそっち引っ張ってー!」
「このテーブルクロスの色は合うかしら。」
「ねぇねぇ!誰か木に下げる小物知らない?」
「誰か作ってほしい料理ありはる?」
「座布団の数は合ってるか?」
 小洒落たテーブルクロスにクリスマスツリー、そして座布団という模様替え。
「・・・今北産業。」
 バイツはボソリと呟いた。

9名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:12:01 ID:Sm1TWaFw
「今。」
「夕御飯の。」
「準備中。」
 クチート、ムウマージ、ミミロップの順番で何をやっているのかを説明した。
「ああ、大体何をしているのか分かった。しかし、何故模様替え?」
「んーと、何かあの人達仲悪そうだから皆でパーティーしようかと思ったの。」
「そうか・・・パーティーか・・・」
「ええでしょ?いつまでもギスギスしとるよりは皆でぱーっとやって仲良うしましょ?」
「ああ、名案だな。」
 バイツはそう言うとアブソルに目を向けた。
「アブソルは・・・その・・・イルの事だが・・・大丈夫か?」
「・・・仇はマスターが取ってくれた・・・だから大丈夫だ。」
 そう言ったもののアブソルの中にはどうにも表現しきれない複雑な感情が渦巻いていた。それを知ってか知らずかバイツは軽くアブソルの頭に右手を乗せた。
「別に心配される程悩んではいない。」
 そう言いながらアブソルはバイツの隣をすり抜ける様にして歩き始めた。
「ありがとう。」
 すり抜ける際、アブソルはバイツにだけ聞こえるような声で心配してくれた事への礼を述べた。
「マスター!大変どす!」
「どうした!?」
「冷蔵庫の中に何もありまへん!」
「・・・そう。」
「お買い物行きます?」
「ああ・・・だが・・・」
 バイツは留守番に誰かを家に残しておきたかったが、別室に居る四人が何をしでかすか分からない。結局バイツは更に四人を引き連れての買い物を決意した。
 この時、すでにバイツの頭の中ではイルを追っている追っ手の事などすっかり忘れ去られていた。



 その頃、ローグはというと自分の組織の傘下に置いているホテルの一室で電話越しに部下の実らない報告を次々と聞かされて激昂していた。
 だが、これといった報告が無くなると急に意気消沈し始めた。
 こちらから報告を要求してやろうかと電話に手を伸ばした所で電話が鳴り始めた。ローグは受話器を取って応答を始める。
 電話の内容はフロントからでローグに合いたい客人がいるという。
 客人を通す様に伝えるとローグは受話器を半分投げ捨てるような形で戻した。
 数分後、客人が部屋の中に姿を現した。
 客人は丸かった。顔の輪郭が殆ど丸く、体型も殆どが丸で収められる程の肥満体型。
「お久しぶりですなあ、ボス。」
 その男は少しばかり上の空の様子でローグに声を掛けた。
「何だ、お前か・・・」
 侮蔑というよりは殆ど癖になっている言葉であった。
「お前とは酷いですなあ。それとも何かトラブルでも抱えてるんで?」
「まあな・・・丁度いい、この件を頼みたい。」
「ええ、ええ良いでしょう。で?何をすれば?」
「イルが離反した。」
「へえ・・・?」

10名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:13:54 ID:Sm1TWaFw
「出来るか?」
「「制裁」寄りになってしまいますがいいですかねぇ。」
「構わん。」
「ですが、捜索の前に少々時間を頂きましょう。最近開店したばかりのショッピングモールの中に美味しいケーキを出すお店があると聞きましてね。」
「まさか・・・お前そのカフェに行くついでにこっちに顔を出したとか?」
 部屋の空気が固まり会話が途切れた。それから丁度一分後男が口を開いた。
「・・・では、これで。」
「図星かい!」



 一向は最近開店したばかりのショッピングモールに足を運んでいた。
「レッツ!ショッピング!」
「五月蝿いぞイル。」
 喜々として奥に向かって歩いて行くイルを片手で引き止めながらバイツはメモに目を通していた。
「範囲が広いな・・・よし。」
 バイツはメモを三等分に破り買い物カゴを三つ持って来た。
「ライキ、イル。お前等はこっち。ヒート、シコウ。お前等はそっち。会計は俺がやるから終わったらここに集合な。」
 そう言いながらバイツはメモ用紙と共にライキとヒートにカゴを渡した。
「えー!何でイルとなの!?」
「人選が明らかにおかしいじゃねえか!」
「何か文句でもあるのか?」
 バイツの鋭い眼光が二人を捉える。
「何にもナッスィング。」
「よし、よく言ったヒート。褒美にオ○ーナの購入権利書をくれてやろう。」
「うわ・・・勿体ねえ・・・大事に保管させてもらうわ。」
 ツッコミが入らない一通りの話し合いの後に三組は分担をこなすべくそれぞれの方向に歩き始めた。



「あーあ、何でイルと一緒に買い物しなきゃなんないのかなー」
「んー、バイツの意向でかな。」
 ライキとイルは互いにぼやきながら頼まれた品物を買い物カゴに放り込む。
「何かさ、ボク達ってキャラ被ってるよね。」
「あー、そうだね。」
「つれない返事だね。」
「ややこしいからこの際一人に絞ってみようか?」
 次の瞬間、イルの額には銃口が向けられていた。
「ルコ達の件についても借りがあるし。」
 ライキの眼は鋭く、とても冗談を言っているようには見えなかった。
「へえ・・・」
 イルは薄い笑みを浮かべながら銃口を見詰めている。
 数秒間、二人はそのまま動かなかった。
 ふと、ライキが異変に気づいた。
 寒い。

11名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:14:34 ID:Sm1TWaFw
 吐く息が白くなっていく。
 イルが手にしている商品も明らかに凍り付いている。
「・・・」
 ライキは銃を下ろし、イルも冷気を発するのを止めていた。
「止めた・・・」
「ボクも。」
 二人は声を合わせた。
「これ以上やったらバイツに殺される。」
 二人はフッと鼻先で笑った。
「やっぱりボク達ってキャラかぶってるよね。」
「あー、そうだね。」
 そして、会話は振り出しに戻っていた。



「ぬう・・・!?」
「いや「ぬう・・・!?」じゃねえよ。」
 商品の種類の多さに戸惑うシコウに対し、ヒートは適当に商品を手に取りシコウが持っている買い物カゴの中に放り込んだ。
「驚いた・・・まさかこれ程の種類の商品があるとは。」
「ま、店がでけえ分色々置く物がねえとな。」
 ヒートがメモに目を通し辺りを見渡す。
「お、アレだアレ。」
 ヒートはゆっくりと歩きながら商品の置かれている棚を目指した。
「なあシコウ。」
 商品を手に取りながら不意にヒートが声を掛けた。
「何だ?」
「お前さ、バイツの右腕とかイルの右腕とかあと改造人間について何か知ってるんじゃねえのか?」
「あまり多くは知らぬ、だが知っている事は今必要なら話そう。」
 ヒートは驚きの表情を浮かべた。まさか簡単にシコウが口にすると思わなかったからだった。
「まず・・・」
 口を開いたシコウにヒートは小瓶に赤い液体をシコウの口の中に二、三滴流し込んだ。
 突然シコウが激しく咳込み始めた。
「お・・・お主・・・!な・・・何を・・・!」
「いや、タバスコを偶然持ってたからよ。」
 咳込み続けるシコウにヒートは言葉を続けた。
「やっぱり、俺が聞くにゃちょいと荷が重いみてえだ。」
「しかし・・・お主が・・・!」
「話を振っといてコレは悪かった。バイツにでも話してやってくれ、もちろんあいつが望むならだけどよ。」
 ヒートは口元に笑みを浮かべながら次の商品を目指して歩いていき、シコウは咳込みながらその後を追っていった。



「マスター!あたしね!これと!これ!」
 菓子売り場から出て来たクチートが菓子を両手にバイツに向かって走ってくる。
「ほら、カゴに入れろ。」
「はーい!」

12名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:15:11 ID:Sm1TWaFw
 カゴに入れたはいいもののまた菓子売り場に走って行く。
「あらあら、クッチーったらどれくらい買ってもらう気しているのかしら。」
 そう言いながらムウマージも大量の菓子を抱えて現れ、バイツが持っているカゴの中に落としていった。
「全く、遠慮って言葉を教えちゃいたい位よ。」
 ミミロップがそう言いながらもムウマージと同じ量の菓子を抱え、そしてカゴの中へ。
「・・・」
 バイツはカゴの中の大量の菓子を見ながら溜息を吐いた。
「アブソルは何か欲しい物は無いのか・・・?」
 先程からバイツの足元を離れないアブソル。バイツが一歩歩けばアブソルも一歩歩く、まさにそんな感じでピッタリとついて来ている。
「いや、特に無いな。そんな事より目的の物は手に入れたのか?」
「まだだが・・・」
「じゃあ私に構わないでそっちを優先してくれ。」
「分かった分かった・・・何か欲しい物があったら言ってくれ。」
 バイツがそう言うとアブソルはそっぽを向いて一言呟いた。
「後ででいい・・・」
「マスター、これ見てくれはる?」
「どうした?」
 ユキメノコが差し出したのはフライパン。
「これ買うてくれはる?今使うてるフライパンは焦げ付くようなってきたんよ。」
「別に構わないが・・・お前が振るには少し重くないか?」
「構いまへん。それに軽いのは値張ります。」
「無理するなよ。」
 そう言うとバイツは調理器具売り場へ。
「こっちの方がいいだろ?軽いし。」
「マスター・・・おおきに。」
 ユキメノコが少し照れた様子でバイツに礼を述べた。
「さてと・・・」
 バイツは目的の商品を手に入れるべく歩き始める。
「マスター、今まで何処にいらしたのですか?」
 サーナイトに後ろから声を掛けられ振り向いたバイツ。サーナイトの手には買い物カゴが下がっていた。
「えーっと・・・それは・・・」
「今日使う材料ですけれど?」
 バイツが物量攻めに遭っている間に必要な物を探していたサーナイト。
「マスターのそれは何なのですか?」
 サーナイトの目に映ったのは買い物カゴに入っている菓子の山。
「もしかして・・・」
「いや・・・サーナイトも欲しい物があれば遠慮しなくていいんだぞ?」
「マスターお一人でそのお菓子を召し上がる気ですか!?」
「へ?」
「食べ過ぎはいけません!体に悪いですし、虫歯にだってなりますよ!」
「あの・・・」
「サナ、勘違いするな。これはマスターの物じゃない。」
「・・・え?」
 サーナイトの言葉が止まると同時にクチートがまた菓子袋を両手にバイツに駆け寄る。
「あ、サナお姉ちゃん!後で一緒にお菓子食べようね!」

13名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:15:46 ID:Sm1TWaFw
「えーっと・・・?」
「ま、そういう事。サーナイトは何か欲しいのあるか?」
「いいえ、特には・・・」
「じゃあ、他の連中回収して帰るか。」



 バイツ達が待ち合わせの場所に着くと既に四人が待っていた。
「こんなもんでいいか?」
 ヒートがショッピングカートに商品の入ったカゴを載せて差し出した。
「ああ。」
「じゃあ、ボク達向こうのカフェで待ってるから。」
 イルが歩き出す。すると三人も渋々歩き出した。
「お前ら、随分仲良くなったな。」
「まあね・・・ま、罰ゲームなんだけど。」
「罰ゲーム?」
「暇だから全員であっち向いてホイしてたんだよ。そこのカフェのケーキセット賭けてな。」
「で?」
「イルの一人勝ちでござる・・・」
「三セットね。じゃ、行こ。」
 イルは上機嫌なのか鼻歌交じりに敗者三人を引き連れ歩き出した。
「仲良いですね・・・意外と。」
「まあ、トラブルとの友好関係は尽きない奴らだろうから気も合うんだろうな。」
「もし、トレーナーさん。」
 バイツは振り向いた。そこに居たのは肥満体型の男。
「ここら辺で金髪の少年見なかったかね?」
「金髪の少年なんてそこら辺にいますよ。何か身体的特徴は?」
「んー、アレかな、右手が・・・」
 男の視線がバイツの右手に移る。
「君は右手どうしたんだい?」
「昔に少し・・・」
「へえー・・・」
 男がバイツの右手首を掴んだ。振りほどこうとするが全く外れない。
「・・・」
「君はもしかして・・・」
 男の手の力は益々強くなっていく。
「あの・・・もう離して頂けないでしょうか。」
「それ以上マスターに触れるな。」
 サーナイトとアブソルが口を開くが二人に声は届いていない様であった。
「もしもし?」
 サーナイトが男の手に触れた。だが咄嗟に手を引く。
「この人・・・!」
「おや?気付きませんでしたな。少し邪魔です。」
 男がバイツから手を離すと同時に強風が店内に吹き荒れた。カートや商品がそこら中を飛び回り。あちらこちらで悲鳴が上がった。
「何だ・・・?」

14名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:16:35 ID:Sm1TWaFw
 男が発したと思われた風。禍々しい流れと共にバイツ達に吹き荒れる。
 バイツはその場に踏み止まったがサーナイト、ムウマージ、ユキメノコは簡単に吹き飛ばされ壁に叩き付けられてしまう。しかし、クチートとアブソルは比較的平気そうにしている。
「サナサナ!?ムウムウ!?ユキユキ!?え!どういう事!?」
 ミミロップに至っては全く実害が無い。
「「あやしいかぜ」・・・?」
 厄介なものだとバイツは内心思った。厄介なのは攻撃そのものでは無く使用した者の全能力を時々上昇させるという効果。
 直ぐに風は止んだ。だが、バイツ達が動く暇も無く第二陣の風が襲い掛かる。
 先程よりも強い風圧。上手く能力上昇の恩恵を受けたらしく、サーナイト、ムウマージ、ユキメノコはさらに苦しみ、クチート、アブソルにも地味に効いてきている。ただ依然としてミミロップには全く効果が無く、バイツへの実害といえば強風程度であった。
「いい加減に・・・!」
 ミミロップが跳び上がる。
「しちゃって!」
 声と共に男の頭上に落下。高高度からの奇襲に男は風を止め腕を十字に交差させミミロップの「とびはねる」を辛うじて防ぐ。その瞬間、風が止んだほんの一瞬。バイツの横を数発の黒球が通り過ぎていった。
 黒球が男の体を直撃する。ムウマージとユキメノコの「シャドーボール」だった。
 次々と放たれる「シャドーボール」の弾幕は男の動きを抑えていた。
「今だ!」
 アブソルが高速で男に近づき前と後ろを数往復した。アブソルの「でんこうせっか」と「きりさく」を融合させた攻撃。
 男は三人の攻撃に怯みながらも片腕を伸ばした。旋回する瞬間のアブソルを捕まえ「シャドーボール」に対する盾にしようと考えたのだ。
 しかし、伸ばした腕はクチートの大顎に挟まれ十分に伸ばす事は出来なかった。それどころか何かが折れた音が響く。「かみくだく」で文字通り男の腕の骨を噛み砕いたクチート。
 男が腕の激痛に耐えられずその場にしゃがみ込んだ瞬間、強い念波が男を包み込んだ。
「これで・・・最後です!」
 サーナイトの「サイコキネシス」が男を壁に叩き付ける。見えない力の束縛から解放された男は重力の法則に則り床に叩き付けられた。
「これで・・・どうです?」
「いやいや・・・いいコンビネーションで・・・」
 男が立ち上がる。だが、バイツが右腕を男の頭部に振り下ろし叩き伏せる。
「なんなんだアンタ・・・」
 バイツは後ろを振り向いた。
「大丈夫か!皆!」
「あたしは平気!ってか皆何されちゃったの?」
「あたしもー!」
「私もまだ戦える。」
 ゴーストタイプの攻撃が効かないミミロップや耐性があるクチートとアブソルは平気そうであった。
「キツかったわ・・・」
「ああ・・・体中が痛むわぁ・・・」
「でも私達・・・勝ちましたよね?」
 一方、同じゴーストタイプであるムウマージとユキメノコ。そして、エスパータイプであるサーナイトはボロボロであった。
 被害にバラつきはあるが大事が無い様子なのでバイツは一安心といった表情を浮かべる。
「ぐ・・・お・・・」
 どう考えても右腕の一撃で意識が飛びかけているのにまだ立ち上がろうとする男にバイツは呆れながら目線を向けた。
「まだ立ち上がる気・・・」

15名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:17:15 ID:Sm1TWaFw
 その時、バイツの横を今度は人の形をした風が男に向かって通り過ぎた。その風は男の顎を低い位置から踵の部分で蹴り上げた。
「感謝する。お主のお陰で・・・」
 風の正体はシコウだった。蹴り上げで浮いた男の体に氷の槍が四本突き刺さる。槍は速度を落とさずに男を壁に張り付ける。
「ケーキセットがおじゃんだよ。」
 不機嫌そうな顔をしながら氷の槍を放った張本人であるイルがサーナイト達の後ろから現れた。
「と、いうわけだから、他人の不幸で・・・」
「飯が美味い!」
 更に、その後ろから現れたライキとヒートの二人。何処から取り出したのか、短機関銃を男に向けて撃ち始めた。
「低反動四十五口径サブマシンガンKriss・・・愛すべきハゲからのプレゼントだ。」
「ありがとうマコちゃん。僕達はあなたを忘れない。」
「元シールズのあの人は銃を紹介しただけだろ。いい加減にしろ。」
 バイツは言いたい事だけ言うと、見るも無残な死体になっているだろう男を見上げた。
 土煙でうっすらとしか見えないが磔にされた男の体の丸い体型は確認できた。
「あら?これで終わり?つまんないや。」
 バイツの傍にイルが寄ってくる。
「大した被害が出なかっただけマシだ。大体誰だこいつは?追手か?」
「え?知らないよ。」
「イルの事を知っているようだったが・・・」
「・・・イル・・・だと?」
 煙の中から声が聞こえた。
「氷の槍・・・カイオーガの力・・・イル・・・裏切り者・・・」
「ご指名一名様。やっぱりお前だ、イル。」
 バイツは困った様な表情を浮かべイルに振った。
「まだ生きてる、止めといこっか。」
「・・・待て!イル!」
 シコウの声が聞こえた直後、男の周りの視界が晴れた。そこにいた男はさらに肥大化して宙に浮いていた。
 腕は細く、そして長く、その上全体の皮膚が紫となり見るも無残な形に変化していた。
「私の力のベースはフワライド!」
「頼んでもいないのに能力というかベースを晒したな。」
「もしかして本名ライドウだったりしてー、フワ「ライドウ」!アハハハハ!」
 ライドウと呼ばれた目の前の男が一瞬固まった。
「右腕以外は潰してやる・・・」
 もはやライドウがイルに向ける感情は殺意以外考えられなかった。
「あれ?ボク何か間違った事言った?」
「図星だったからキレたんだろうな・・・イル、お前の方に来てるぞ?」
 しかし、イルはライドウの攻撃を止める所かバイツの後ろに回り込んだ。
「キモい。バイツ。お願い。」
「何!?」
 当然、イルを追いかけているライドウはイルの前にいるバイツなどお構い無しに襲い掛かってくる。
「くっ・・・!仕方ない、乗り掛かった船だからな。」
 バイツは常人では有り得ない程の速度でライドウの懐に潜り込むと右腕の拳を真上に突き出した。拳が当たると同時に周囲の空気が震え、ライドウの変貌した体は天井に叩き付けられた。
 ライドウが叩き付けられた天井部分には大穴が開き、破片と共に重力の鎖がライドウを床に叩き付けた。
「・・・終わったか?」
 バイツの予想は外れ、ライドウは音も無く浮き上がる。

16名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:18:00 ID:Sm1TWaFw
「何だこいつ、大した事ないんじゃねえか?」
 ヒートは軽口を叩いたが視線と銃口は常にライドウに向けられていた。
「ま、敵が一々レベルアップしてくる訳じゃないからね。ましてやフワライ・・・ド・・・」
 ライキの表情が徐々に硬くなっていく。
「バイツ!それ以上攻撃しない方がいい!」
「何故だ?」
「フワライドの特性。「ゆうばく」だよ。」
「ああ、あれか?相手の直接攻撃でやられた場合相手にダメージを与えるっつーやつだろ?」
 意外と物知りなヒートの言葉にライキは首を横に振った。
「それはまともなポケモンの話さ。こいつがその程度で済むわけないと思ってね。」
「察しがいいな。」
「予測の続きが聞きたいなら言ってあげるよ。」
 ライキの言葉にライドウが不敵な笑みを浮かべる。
「直接攻撃じゃなくても特性は発動する。それに発動対象は単体じゃない、複数を巻き込む大爆発・・・多分こんな所じゃないかな?」
「・・・「ゆうばく」については大体合っている。ただ一つ言わせてもらうならば・・・爆発はもっと大きい。」
「・・・ならば大気圏層まで蹴り上げてやる。」
「シコウ、フワライドが「だいばくはつ」を覚えるって知っているか?」
「その気になればいつでも爆発出来る訳か。」
「それに特性は一つだけではない。」
「何?」
 バイツは眉を顰めた次の瞬間ライドウが高速回転しながらバイツの後ろに隠れているイルに突進していた。
 イルは辛うじて防いだが上着の右袖部分が回転による摩擦で破れてしまった。破れた生地の下の蒼い右腕が部分的に露になる。
「へえ・・・」
「成る程・・・「かるわざ」か・・・」
 バイツは納得した。それと同時に小さく舌打ちをした。ライドウの動きが殆ど見えていなかったのだった。
「でも何か持っている道具が無くならない限り発動しないんじゃ・・・」
 考え込むライキにヒートが冗談交じりに口を開く。
「人間の姿がこいつにとっては道具だったんだろ。」
 すっかり解説担当になったライキとヒート。しかし、今の所手が出せないのはこの二人に限った事ではない。いつ爆発するか分からない浮遊爆弾を前にして普段通りなのは普通の人間にしては大したものであった。
「埒が明かないな・・・」
 ライドウの長い腕がイルに襲い掛かる。
「絞め殺す・・・!」
 イルをあらゆる方向から捕らえようとするライドウ。だがイルは笑みすら浮かべて簡単に腕をかわしていく。
「仕方無い・・・イルが大人しくなるまで他の連中を絞め殺していくか。」
 そう言ったライドウの視線の先に居たのはムウマージとユキメノコ。
「あら?どうやら標的は私達の様ね。」
「敵さんを油断せんほうがええんと違います?常識が利かんさかいに・・・」
 腕が二人に向かって伸びていく。
 だが、バイツが瞬時に二人の前に立ち、ライドウの腕を引き裂こうとした。
 しかし、腕は方向を変えてアブソルの方へ。
 バイツは咄嗟に動けず、アブソルは不意を突かれ腕の速度に反応できず目を瞑った。
「危ない!」
 サーナイトの声が聞こえた瞬間、アブソルは突き飛ばされていた。
 アブソルが目を開くと縛り上げられたサーナイトの姿が目に映った。

17名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:18:34 ID:Sm1TWaFw
「サーナイト!今助ける!」
 バイツが構える。だが、ライドウは笑みを浮かべるだけであった。
「いいのか?下手に攻撃を加えれば・・・」
 明らかに容赦の無い締め付け。運よく瞬時にライドウを仕留めても「ゆうばく」所ではない大規模な爆発。
「くっ・・・」
 イルが大人しく投降するとは思えない。まさに手も足も出ないといった状況であった。
「マスター・・・皆様・・・今までありがとうございました。」
 突然だった。サーナイトの声に、内容に、バイツは一瞬という時間では意味を理解できなかった。
「何を・・・言っているんだ!何としてでも助けてやる!」
「いいえ、もし私の命でマスターを・・・皆様を・・・そしてこの街を護れるのならば・・・」
 サーナイトは言葉を一旦止めた。
「マスター・・・さようなら・・・」
 その瞬間、サーナイトとライドウの姿が消えた。性格にはサーナイトの「テレポート」で遥か空高くワープしたのだった。
 その事をシコウが天井に空いた穴から超人以上の視力で発見しバイツ達に伝えるのに十秒と掛からなかった。
「サナの事だ・・・ヤツを遥か上空で爆発させる気だろう・・・私がしっかりしていれば・・・」
 アブソルが苦々しく、そして悲しげな声で呟いた。
「そんなの嫌だよ!何とかしてあそこまで行かないと!サナお姉ちゃんを助けなきゃ!」
「でもどうすればいいの!?あたしもあんな高くには跳べないよ!」
「攻撃も当たりそうにありまへん・・・どないすればええの・・・」
「そん・・・な・・・嫌よ・・・サーナ!」
 バイツはひび割れた床に両膝を落とした。
「くそっ!誰かすぐに空を飛べる奴が居れば・・・!」
 と、声を震わせながらシコウに目を向ける。
「あの位置まで瞬時に飛べる奴が居ればねー・・・」
「マジで空の化身的な存在の力を持っている奴が居たらなー・・・」
「あーあ、人一人位抱えて飛べる人が居てくれたらねー」
 と、ライキとヒート及びイルも熱の篭っていない声でそれぞれシコウに視線を移した。
「いや、そんな言い回しをせずとも手は貸してやるが?」



 テレポートしてから数秒後、サーナイトは絞め上げられながら街を見下ろしていた。大気が薄く、その上絞められているので僅かに出来る呼吸が苦しかった。
「無駄な事だとは思わないのか?私はゆっくりと地上に下りればいい話だ。無論、お前を絞めながらな。」
 いつの間にか口調が変わっていたライドウは笑っていた。その笑いをサーナイトはただ真っ直ぐ見るだけであった。
「今のお前には何も出来ない。慣れない事をして大した力も使えないのだろう。」
 ライドウの言葉は的確に真実を貫いていたがサーナイトの表情は変わらなかった。
「私が今更自分の身を大事にするとでも?」
「何?」
「命の力を使って限界を超えればいいだけです。」
「そこまでして護る価値があるのか?」
「ええ・・・私にとっては命より大切な人。」
 サーナイトは目を瞑った、力を集中させる為に。
「・・・ト・・・」
 何かが聞こえた気がした。
「・・・サ・・・イト・・・」

18名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:19:05 ID:Sm1TWaFw
 幻聴だろうとサーナイトは思った。バイツが恋しい余りの幻聴だったのだろうか。
「サーナイト・・・」
 確かに聞こえる自分を呼ぶ声。サーナイトは目を開いた。ライドウの後ろにはシコウに抱えられサーナイトを追ってきたバイツの姿があった。
「なっ・・・」
 ライドウもまた後ろを振り向き絶句した。
「シコウ!俺をこの位置からサーナイトに向かって蹴り飛ばせ!」
 シコウはバイツを軽く放り上げ上手く体勢を立て直したバイツを蹴り飛ばした。
「・・・!」
 次の瞬間、ライドウの肥大化した体を貫いていたバイツ。速度を多少落とし束縛が緩んだサーナイトを抱き抱えライドウから離れていく。
「言っただろ?助けて見せる、って。」
「で、でも・・・!私は・・・」
「俺が無事でもお前が無事じゃなきゃ意味ないんだ・・・」
 シコウは落ちていくバイツとサーナイトを拾いに行こうと体勢を変えた。
 その時だった、バイツに貫かれたライドウの体が熱を纏わせながら光っているのが目に入った。
「ああ、「ゆうばく」・・・」
 シコウはそこまで口に出すとムンクの叫びを表情と体で表し始めた。その直後、地上から確認出来る程の大爆発が上空で発生した。
 それから十分後、地上に残っていた一行が地上に落下したバイツとサーナイトを発見した。
 驚いた事にあの高度から落ちた二人は目を回して気絶していただけであった。
「おいおい・・・コンクリートの地面だぜ?」
「今更・・・驚く事もないだろ・・・」
 急にバイツが目を覚ました。
「右腕から着地した時は全身の骨が砕けるかと思ったがな・・・」
 バイツは上体を起こし自分の体の上で気絶しているサーナイトを揺さぶった。
「ふにゃー・・・」
「まだ目覚めにはほど遠いな。」
「ねえ、シコウは?」
「拙者はここでござる。」
 建物の影から出て来たシコウ。ジーンズパンツと白地のTシャツにスポーツシューズと先程とは違った服装。
「何があった?」
「爆風に巻き込まれたのだ。そのせいで服が・・・な。」
「じゃあ、人が来る前に里に行こうかシコウ。」
「里?」
「拙者の故郷だ。では行くぞイル。」
 イルを抱えて空高く飛び上がったシコウ。
「ったく・・・元はテメー等のせいじゃねえのかよ。」
 空を見上げながらヒートが呟いた。
「トラブル続きだよ・・・最近は。」
「全くだ。バイツ、とっととずらかろうぜ。」
「そうだな・・・サーナイト、起きろ逃げるぞ。」
「う・・・マスター?ここは・・・?」
「お前が護った街だ・・・立てるか?」
 サーナイトは頷き立ち上がった。
 バイツも頷いた。
 災厄はまた影を潜めた。少なくともバイツはそう思いたかった。



 だが、バイツの思いとは裏腹に災厄は影を落とし続けていたようであった。
 真っ暗な会議室。突然浮かび上がる白いスクリーン。
 そこに映し出されたのはライドウを突き破りサーナイトを抱き抱えているバイツの映像。
 暗闇の中で一人の男が笑みと共に口を開いた。
「見つけたぞ・・・!」
 その男、ローグの歓喜の声が室内に響き渡った。

19名無しのトレーナー:2010/04/11(日) 01:20:48 ID:Sm1TWaFw
第八章終わりって所かな、結構飛ばして書いてみた
霧生氏新板創設ありがとうございます
それと久しぶりの人は久しぶりで初めての人は始めまして名無しだよ
ぶっちゃけどんな話かっていうのは旧板のほうで確認してくだされ
旧板いくのメンドイっていう要望があればあらすじ書くけど・・・

まあいいか、じゃノシ

20名無しのトレーナー:2010/04/19(月) 22:56:41 ID:IOu751Yw
ムンクの表情のシコウを想像して吹きました!
次も期待してます!

21 ◆KShTsthWTo:2010/04/20(火) 13:00:34 ID:F2TN.Z8I
バイツの人乙でした。
イルとライキ…ぼくらが薄々思ってたキャラかぶりをあんたらは自ら…ケンスウとロバートか
徐々に増えてきた改造人間に、孫くんのようにテレポートで対応したサーナイト。明らかにボーッと見てたシコウのシコウ、いやジゴウ自得。


新板立てるにあたって、いわゆる難民の方が出ないかということが心配でしたが、
こうして各職人さんが迷うことなくいらしてくれてほっとしています。
旧板で定期的にここのURLを上げてくださる方にも感謝。

最後に、また次回も楽しみにしています。

22名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 01:46:51 ID:VpiZnDgw
ゲームをして無線コントローラーが電池切れになった瞬間に新しい電池を取ろうと
思ったのですが一本もありません。
パソコンのケーブルを引っ張りパソコンを
立ち上げニコニコにアクセスしたのですがTDNタグでつまづき
KYNの動画を見終わった瞬間に我に返りました。
流れていくコメントには無表情でチャーハンを炒めていると表示されているのですが
どう見ても○ナニーです。
本当にありがとうございました


それと小説ができました。

23名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 01:48:10 ID:VpiZnDgw
 深夜の会議室の中。数人の男達が口々に何かを話し合っていた。
 そして、答えが統一していない細々とした話を終わらせて本題に入る。
「グラードンの力を持つ少年の所在地を確認しました。」
 一人の男がその報告をにやけながら聴いていた。男の名はローグという。
「それで?捕縛する手立ては何かあるのか?」
 ローグは誰よりも早く真っ先に口を開いた。
「精鋭部隊を派遣しました。周囲の住人への口封じや警察やマスコミへのカモフラージュは完璧です。」
「やけに早いな。」
「ここから十キロもありませんから。」
「なんと!?」
 その事実にローグは驚いた。
「結構捜したんだぞ!?」
「賢人というものは近くに居ても結構気付かないものですよ。」
 そういう話ではないのだがローグは納得したのか小さく唸り声を上げた。
「・・・それとイルの消息ですが。今の所は手掛かりが掴めておりません。」
「分かった。今はグラードンに集中しよう。」
 ローグが締めて会議は終わった。後は部隊からの連絡を待つだけであった。
「動かせるのが人間しかいないとは・・・もし、この程度で追い込まれるのならば研究はとんだ徒労だ。」
 ローグは苦々しく呟くと自分のオフィスに戻りスクリーンセイバーが表示されているパソコンのマウスを動かして文字列を眺め始めた。
「割れ厨がブログで割れ告白・・・祭じゃぁぁぁぁぁ!」
 連絡を待つ間のローグにとっては良い暇潰しだった。



 月明かりのみが地面を照らす闇の中、ある屋敷の門前で数人の武装した男達が屋敷の入口に視線を向けていた。
「・・・五分経過。」
「裏口の連中は上手くいったか?」
「通信はありません。」
「・・・待っていても仕方が無い。我々も侵入する、通信には耳を傾けておけ。」
「了解しました。」
 短いやり取りの直ぐ後、門前に居た男達は姿勢を低く保ちながら静かに玄関に辿り着く。
 一人の男が玄関の引き戸の鍵穴に細い棒を差し込む。
 それから数秒後、何かが外れた音がした。
 静かに男が戸を開け、一人が暗視装置を装備し先行して中に入る。何も異常が無い事を確認すると後続の男達に合図を送った。
 闇の中に残りの男達も暗視装置を装備し中に入る。
「広い屋敷だ・・・」
 長い廊下を音を立てずに進んでいく中、ボソリと男が呟いた。
「俺もガキの頃はこういう屋敷に住むのが夢でしたよ。」
「ガキは考える事が同じみたいだな俺の娘も将来は「広いお家に住みたい」だとよ。」
「へえ、娘さんは今いくつで?」
「六つ・・・いや、さっき日付が変わったから七つか。今日は娘の誕生日なんだ。」
「娘さん可愛いですか?」
「最近我侭になってきたがな。そういうお前は結婚する相手とかいないのか?」
「へへ・・・実はこの仕事が終わったら結婚するんすよ。」
「隊長もお前も少し喋らないでくれ・・・故郷に残してきた幼馴染の事を思い出してしまうじゃないか。」

24名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 01:49:20 ID:VpiZnDgw
「恋仲か?」
「ええ、必ず迎えに行く。そう約束してきたんです。」
 会話が終わった直後だった、急に男達の網膜を激しい光が灼いた。
 光の正体は暗視装置によって何千倍にも増幅された照明の光だった。
「死亡フラグの乱立は生存フラグだと思わない方がいい。」
 廊下の照明を点けたであろうと思われる人物の声。
 男達の誰もがその声を聞いた直後、激痛による衝撃で意識を失った。



「まあ、殺しはしないがな・・・これで何人だ?」
 長髪の少年が倒した男達を近くの部屋に放り込むと呆れた様に溜息を吐いた。
 それから静かに自分が先程までいた部屋に戻る。
「マスター、どうですか?」
 サーナイトが心配そうに部屋に入ってきた長髪の少年、バイツに声を掛けた。
「ただの物取りじゃなさそうだ。」
「警察?」
 クチートが首を傾げながら自分の考えを口に出す。
「には見えなかったが・・・犯罪なんかした記憶が・・・」
「傷害は?」
 ムウマージが問い掛ける。
「身に覚えがありすぎて覚えていないな。」
「じゃあ・・・器物破損?」
 ミミロップも一応聞いてみる事にする。
「そういえばビルを五つ六つ倒壊させた気がする。いや・・・あれはヒートだったような。」
「脅迫はいかがどす?」
 ユキメノコまで聞いてくる有様。
「それはライキだ・・・ん?俺だったかな・・・あのチンピラ共は。」
「窃盗じゃないのか?」
 アブソルに至っては部屋の外の様子を確認しながら問い質す。
「ああ、それにも身に覚えがある。どちらかといえば強盗寄りか・・・あの粉。」
 部屋の空気が固まった。
「俺ちょっと自首してくる・・・」
 バイツが指を鳴らしながらの発言。自首する気は本当にあるのだろうか。
「待ってくださいマスター!まだ相手が警察と決まったわけでは無いですよ!」
「そうか・・・だよな。」
「じゃあ・・・どこかの組織?」
 再びクチートが考えを口にする。
「うーん・・・それも身に覚えが・・・大体口封じはしているはずなんだが。」
「オードソックスに幹部を暗殺したのがバレたとか。」
 再び、ムウマージが問い掛ける。
「どこの組織か検討つかないな・・・」
「じゃあさ、傘下のお店を潰しちゃったとか。」
 少し考えた後のミミロップの質問。
「あるあ・・・あるある。」
「もしかして大物議員との繋がりでも知ってしまったとか。」

25名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 01:50:47 ID:VpiZnDgw
 ユキメノコもあらゆる可能性を考える。
「身に覚えが・・・いや、あの書類の事だったかな?」
「何か厄介な商品でも持っているとか。」
 アブソルは呆れた声で聞いてくる。
「そんな物は・・・待てよ・・・ライキの持ってきたあの箱か?」
 再度固まる部屋の空気。
「よし、連中を潰してくる!」
 今度は万遍の笑みを浮かべながらバイツが立ち上がる。
「待って下さいマスター!相手の素性が分からないのですよ!」
「だな・・・無闇に手を出して皆を危険に晒すわけには・・・」
「十分危険だ。」
 アブソルが口を挟む。
「そうだよマスター・・・何か家の周りが囲まれちゃってるし。」
 ミミロップが耳を澄ます。
「何人か分かるか?」
「十人・・・ううん、どんどん増えてく。」
「どうしてあたし達なのかな。」
「クッチー、私達じゃないかもよ?」
「それどういう事なんどす?ムウはん。」
「もしかして・・・マスターの右腕・・・」
「推測よサーナ。深く考えない方がいいわ。」
 その時、部屋の明かりが消えた。間髪入れずにあちらこちらから聞こえる乱暴な足音。先行隊の異変に気付いた後続隊だった。
「訳も分からず追い詰められて・・・か。」
「逃げ道は私が開きます。マスターはどうか皆様と・・・」
「サーナの悪い癖ね、一人で何でも背負い込む。」
「全くだ、私「達」だろう?」
「待ってくれ、今いい案を思い付いた。」
 バイツの提案に全員が耳を傾ける。バイツが取り出したのは六つのモンスターボール。
「まさか・・・」
 サーナイトが気付いた時にはもう遅く、バイツ以外の全員がモンスターボールの中に収納されていた。
「三十六計逃げるに如かず。」
 それだけ呟いたバイツは部屋の戸を乱暴に蹴破った男の頭部を鷲掴みにし、後ろにいた男に放り投げる。
 二人を一瞬で倒され、傍にいたもう二人は不意を突かれて咄嗟に銃を構える事が出来なかった。その隙にバイツは上段蹴りを片方の男に叩き込み、もう片方の男には鳩尾への一撃を叩き込んだ。
「撃て!」
 背後から聞こえた声にバイツは反応した。向けられた複数の銃口。そこからマズルフラッシュと共に銃弾が放たれた。だが銃弾はバイツが咄嗟に盾にした不運な仲間に当たった。その事に男達が気付いた時には接近したバイツの一撃が一人につき一発づつ叩き込まれていた。
「う・・・ぐ・・・」
 足音から聞こえる微かな声。一撃で気絶出来ずに激痛と必死に戦っている男だった。
「誰の差し金だ?」
 駄目元で聞くバイツ。
「・・・」
 予想通りに黙秘を決め込む男。バイツは男の顔面に拳を叩き込み溜息を吐いた。
 仮にこの家が包囲されているとしても突破は簡単だった。しかし、この奇襲が誰の指示なのかを含め知りたい事は山の様に積み上げられていた。

26名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 01:52:18 ID:VpiZnDgw



「総隊長!中の部隊との通信が途絶えました!」
「後続隊はどうだ。」
「応答がありません!」
 想定内の事だったがここまで苦戦するとは作戦を始める前は思ってもいなかった。
「応援部隊はまだか。」
「もう少し時間が掛かる模様です!」
「それまで我々で作戦を遂行する。最低でもターゲットをこの付近で食い止める。」
「分かりました。」
「残り二人で何が出来る?」
 突然、二人のやり取りを遮って現れた少年。その顔を見た総隊長は声を上げた。
「ターゲッ・・・!」
 そこで言葉が途切れたのは少年の拳が鳩尾にめり込んだからであった。部下もまた同じような一撃を貰い地面に倒れ込んだ。
「クソッ・・・」
 薄れていく意識の中で自分を冷ややかな目で見下していた少年の顔が映った。



 自宅周辺から離れたバイツは夜の街中を歩きながら携帯電話に暫く目を落としていたが溜息と共に携帯電話を閉じる。何処にも繋がらない。
 ふと、足を止め顔を上げて電光掲示板を見ると緊急ニュースが流れていた。
『・・・謎の電波障害が起こり以下の地域では携帯電話の使用のみが不可能になっています。』
「「謎の」・・・ね。」
 呆れた様な声を出してバイツは歩き始めた。
 人混みに紛れているとはいえ余りゆっくりはしていたくなかった。何処で連中が目を光らせているのか分からないが故の焦りかもしれない。
「さてと・・・どうするかな。」
 歩きながら今後の事を考えている内に街外れに出ていた事に気付いた。
「確かこの先には・・・」
 バイツは余り気が進まなかったが一旦「その場所」へ行く事へした。
 数分後、「その場所」に着いたバイツはサーナイト達をモンスターボールから出した。
 出てきて直ぐに見慣れぬ風景が目に入ったサーナイト達は辺りを見渡した。それ程広くない部屋の割には大きなベッド。枕周りには電話機やら灰皿やら色々置いてあった。クチートが奥のドアを開けると目の前にトイレのドア、右に洗面台、左にバスルーム。
 バイツは疲れきったのか部屋のソファーに身を投げた。
「あの・・・ここは・・・」
「・・・ラブホテル・・・」
 意外なバイツの一言にサーナイト達は一瞬言葉が出なかった。
 バイツ達が逃げ込んでいるのはモーテル形式のラブホテル。人に顔を見られる心配が少なく休憩が出来る場所を選んだつもりであった。
 しかし、あまり気が進まなかった理由が他にあった。
 今バイツは後悔し始めていた。自分に向けられている爛々とした十二の視線。
「なあ・・・分かっているとは思うが・・・」

27名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 01:53:32 ID:VpiZnDgw
「な・に・が?」
 ミミロップがバイツに飛び込んでくる。
「ちょっと待ってくれ!状況が状況だから・・・!」
「でも・・・場所が場所でしょ?」
 ムウマージもバイツに擦り寄る。
「いや・・・だから・・・」
「ここまで来ておいて休むだけなんてしょうもない事言わんといて。」
 ユキメノコもバイツの首元に後ろから抱きつく。
 サーナイト、アブソル共に飛び掛る準備は万端だった。ただ、クチートはベッドの上でウトウトと睡魔と闘っていた。
「・・・アブソル!シャワーでも浴びに行くか!」
 急に名指しされたアブソル。
「あ・・・ああ・・・」
 三人の拘束を瞬時に潜り抜けるバイツ。次の瞬間ミミロップはソファーの上に落ち、ムウマージ、ユキメノコは空気を掴んでいた。
 バイツはアブソルを抱き抱えるとそのままバスルームへ直行した。
「最初はアブちゃんですか・・・」
 どこかガッカリしているサーナイト。
 騒ぎに参加していないクチートは一人でベッドを占拠して眠っていた。



「あーあ・・・散々な夜だ。」
 と、呟きバイツはアブソルの体を洗っていた。
「まったく、人をダシに使ってくれるとはな。」
 アブソルは些か不機嫌そうであった。
 その理由が口実に自分が使われたというよりも本当にシャワーを浴びているだけというこの事実。バイツは服を着ており腕や裾の部分を捲っているだけだった。
「悪かったよ・・・って何か期待していたのか?」
 シャワーでアブソルの体を流していくバイツ。
「当然だろう・・・ま、そんな事すればここも大混乱だろうな。」
 アブソルの視線がバスルームのドアに向けられる。
 その視線に気づいたバイツがドアを開ける。
 ドアが開くと同時にサーナイトとミミロップが折り重なる様になだれ込んでバスルームの床に倒れこんでしまい、ムウマージとユキメノコは驚いた表情で倒れこんだ二人に視線を移していた。
「大丈夫か?」
 心配そうにバイツは聞いた。
 アブソルはバイツとは対照的に倒れているサーナイトとミミロップの上に飛び乗りながら問い質す。
「何か期待していたのか?」
「ええと、知的好奇心とでも言いましょうか・・・」
 サーナイトの返答にアブソルは溜息を吐くと体を震わせて水飛沫をあたりに飛ばした。
「私は上がるぞ。」
「アブソル待て、体を乾かす。」
 バイツは二人を起こした後、洗面台の前でアブソルの体を拭き始める。
「残念ね期待していたのに。」
「いや・・・何を?」
「んもう、鈍い人どすな。」
 結局、サーナイトとミミロップとムウマージが一緒に入る事にしたらしく、バスルームの中で和気藹々と盛り上がっていた。

28名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 01:54:30 ID:VpiZnDgw
 ユキメノコは後でゆっくり水風呂にして入るとか。
 バイツはベッドに腰掛けテレビを点ける。今は何よりも情報が欲しかった。
 深夜のニュース番組をやってはいたがこれといった事柄は無く、そのままスポーツ速報のコーナーへと移っていった。
「あーあ・・・収穫無しか。」
「でも一つだけ分かった事があります。」
 隣に座っていたユキメノコが口を開く。
「何がだ?ユキメノコ。」
「あんな怪我人出しはったのにニュースになっておりまへん。」
「・・・つまり?」
「敵さんはそれ程大きな組織と違います?」
 この話題にバイツの横で丸まっていたアブソルも口を開いた。
「まあ、目撃者もいただろうが箝口令でも敷かれたのだろうな・・・力づくで。」
 そんな話をしているとバスルームのドアが開いた。
 ミミロップ、ムウマージ、サーナイトの順番にバスルームから姿を現す。
「ねぇねぇマスターあたし達さちょっと話し合ってみたんだけどさホウエン地方に行ってみちゃわない?」
「どうした?急に。」
「お風呂の中で話し合ってみたの一旦何処か遠くに身を引いてみない?って。」
「何故にホウエン?」
「ええと、温泉があったからです。」
「温泉?ナナシマにもあったような・・・」
「ええやないの温泉。」
「でもなあ・・・」
「行く先など決まっていないのだろう?」
「だが、まともな旅行にはならないな。」
 それだけ言うとバイツは立ち上がる。
「そう・・・ですよね・・・」
「出発は早めにしよう、この時期のフエンタウンは混みそうだ。」
 バイツの言葉にサーナイト達は盛り上がった。
 何をしてどうしたいのかバイツには分からなかった。襲ってきた連中に対して逃げればいいのかそれとも叩き潰せばいいのか。
 選択によっては皆と別れる羽目になるかもしれない。
 バイツは賑やかになった室内を見て思う。連中の狙いが右腕なら巻き込んだのは自分だ。
「ケリは着けるさ・・・」
 一人呟くバイツ。騒乱の夜はこうして更けていく。



 サーナイトは夢を見ていた。
 自分でも夢と分かっている不安定な空間。
 目の前にはバイツが立っていた。
 声を掛けようとした、だが声が出ない。
 バイツの足元から炎が燃え上がる。
 力一杯叫ぼうとも声は出ない。
 人影が炎に完全に呑まれた。
 尚も炎は燃え上がる。
 夢だとサーナイトは分かっていたが見たくはない夢だった。
 急に炎が収まった。

29名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 01:55:29 ID:VpiZnDgw
 そこに居たのはバイツではなかった。
 全身に紅い装甲、所々に走っている黒い紋様。人間らしい部分といえば口元だけ。
 雰囲気がバイツではなくバイツの右腕と酷似していた。
 笑った。
 口元を歪めてその人物は笑った。そして口を開く。
「そろそろ起きてやろうか?」



 サーナイトは飛び起きた。
 今の夢は何だったのか。
 心臓が早鐘を打ち汗が頬を伝う。
 シャワーでも軽く浴びようかと考えたサーナイト。枕元のデジタル時計に目を向ける。
 現在、午前三時前。
 ふと、バイツが室内に見当たらない事に気付く。微かにバスルームから聞こえてくる水音。
 サーナイトはそっとバスルームへ向かった。
「くっ・・・は・・・あっ・・・」
 水音と共に聞こえてくるバイツの声。
「もしかしてマスター・・・最中とか・・・」
 サーナイトは自分自身の発言に顔を赤くした。
「っ・・・はぁ・・・」
 聞こえてくる喘ぎ声を聞く度にサーナイトの下半身も次第に疼き始めてきた。
「し・・・仕方ないですね。ここは私がマスターを鎮めるしか・・・」
 満更でも無いような笑顔でバスルームのドアを開ける。
「失礼します。」
 サーナイトはバスルームに入った瞬間、異様な温度と水蒸気に 違和感を覚えた。
「サーナイト・・・か・・・」
 バイツが居た。だが全裸ではなく服を着ていた。
 そして、右腕から出ている熱と湯気。心なしか紅が鮮やかになっている。
 バイツは苦しそうに右腕を水道の冷水に当てていた。その冷水すら一瞬で蒸発していく。
「マスター!しっかりしてください!」
「大丈夫・・・だ。これでもさっきよりは楽になった・・・」
 それでもサーナイトが見た限りでは相当苦しそうであった。
「いつ頃から・・・ですか。」
「皆が・・・寝静まった頃・・・急に・・・右腕から何かが押し出してくる感じがして・・・」
 その言葉を聞いたサーナイトの脳裏にあの言葉が蘇る。
『そろそろ起きてやろうか?』
 サーナイトは頭を振った。
「もう・・・大丈夫だ。部屋に戻ろう。」
 バイツは立ち上がるとフラフラと歩き暗い部屋の中ソファーに身を投げる様に座り込んだ。
「マスター、服を脱いで下さい。」
「え?」
「・・・服が濡れてます。乾かさなければ風邪を引いてしまいますよ。」
「ああ・・・」
 サーナイトが手伝いながらバイツは服を脱いでいく。
「パンツも・・・?」

30名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 01:56:07 ID:VpiZnDgw
「勿論です。」
 渋々とパンツを脱ぎサーナイトに渡すバイツ。
「シーツは・・・使われてるな。サーナイト、そこのバスローブ取ってくれ。」
 だがサーナイトはバスローブを取らずにそのままバイツに近付く。むしろ自分のローブを消してバイツの閉じている太股の上に跨がって座り込んだ。
「怖い夢を見ました・・・」
「夢?」
「はい、マスターが違う何かになってしまう夢です。」
 サーナイトは夢で見た事をバイツに話した。
「成程な・・・さっきの右腕の症状と何か関係があるかもしれない。」
 サーナイトはバイツの後ろに手を回す。
「怖く・・・ないのですか?」
「自分の体の一部だからな。怖いとかそんなのは無いな。」
「人の気も知らないで・・・」
「え?」
 サーナイトはバイツに口付けをした。
「お・・・おい。」
 サーナイトの唇が離れた時のバイツの第一声がこれであった。
「ねえ・・・マスター・・・」
 サーナイトが耳元で囁き腰を動かしてバイツと自分を敏感にさせていく。ただ挿入る訳ではなく筋に沿って動かすだけ。彼女なりの前戯だった。サーナイトの口からは微かな喘ぎ声が聞こえる。
 バイツは一切声を出す訳にはいかなかった。他の全員が眠っているベッドまで二メートルも無い。バイツは久しぶりに死というものを感じた。
 そんなバイツを知ってか知らずかサーナイトの腰が止まった。
 バイツは歯を食いしばった。ここからが彼の人生の分岐点である。
 サーナイトが膝立ちをしてそれから徐々に腰を落としていく。腰の動きが急に遅くなる。サーナイトは自分の中にバイツの一部が入ってきている事を感じているのだった。
「マスター・・・の・・・入って・・・くる・・・」
 喘ぎながらサーナイトの率直な感想を耳にしたバイツ。
 そこで彼に一つの考えが浮かんだ。少し荒くても構わないから皆が気付く前に早く満足してもらおう。
 状況が状況でなければバイツも楽しみたかった。だがある意味で生死に関わるので時間はあまり掛けたくなかった。サーナイトがゆっくりと上下し始めた所を急に腰の動きを速くしたバイツ。
「マスター・・・!そんな・・・急に突かれたらっ・・・!」
 だがバイツが腰の動きを緩める事は無かった。
 それからバイツが手にしたのは近くに置いてあったローションの小袋。それをサーナイトに気付かれない様に開けて彼女の背中に垂らす。
「ひっ!」
 サーナイトが背中をのけ反らせ驚く。ローションは背中を伝って下に流れていく。バイツは伝ってきたローションを指に馴染ませサーナイトの後ろのもう一つの穴へ。
 指が当たった時サーナイトは顔を赤くした。
「そっ・・・!そっちの穴は・・・!」
 お構い無しにバイツはほぐしながら指を少しずつ入れていく。
「やっ・・・あっ・・・ああ・・・」
 前と後ろを攻められ続けるサーナイト。抑えていた喘ぎ声が徐々に大きくなっていく。そこでバイツがサーナイトの唇を自分の唇で塞いだ。その上舌まで入れて絡み合わせる。
 唇を離しても舌の絡み合いは終わらなかった。

31名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 01:57:13 ID:VpiZnDgw
「もう・・・駄目・・・」
 サーナイトの締め付けが強くなる。それに応じてバイツも一番強く突き上げる。
「・・・っ!」
 サーナイトは背中を先程より長くのけ反らせてバイツの方に力無く倒れる。
 その後、二人の体の動きは無くなったが口付けは暫く続いていた。
「マスター・・・」
 バイツはサーナイトからまだ高ぶっているものを抜くとサーナイトをソファーに大股開きで座らせる。
「恥ずかしい・・・です・・・」
 高ぶりが収まっていないバイツは先程指を入れた部位にゆっくりと挿入する。
「太・・・いですよ・・・」
 まだ指を入れたばかりのだというのにいくら何でも無茶というものだった。だがゆっくりとサーナイトに飲み込まれていくバイツ。根元まで入れるとゆっくりと引き抜く。
 サーナイトは慣れない感覚に最初は我慢しているだけだったが突かれる度に脳の奥が痺れるような快楽に捕われていた。それを何度も繰り返したところでバイツの動きが止まった。
 何があったのかサーナイトがバイツを見詰めた瞬間、バイツの腰が速く動き始めた。何度も突かれてその度に受け入れて締め付けて。
 締め付ける度に痺れるような快楽に襲われ。
「マ・・・スター・・・!中に・・・中に出して・・・っ!」
 サーナイトの言葉通りに根元まで差し込んでから絶頂を迎えるバイツ。
「マスター・・・大好きです・・・」
 サーナイトはバイツに軽く口付けをするとそのまま眠ってしまった。
「・・・え?」
 突然バイツは辺りを見渡した。
 股下を見るとサーナイトと繋がっている。
 頭を抱えたバイツ。まるで「さっきまで眠っていた」かの様に頭の中がぼやけていた。
 思い出せるのは手早く事を済まそうと考えた辺りの記憶だけであった。
 突然バイツは辺りを見回す。誰も起きている気配が無いので胸を撫で下ろした。
「マスター・・・」
 サーナイトから抜いた瞬間、ベッドの方から声が聞こえた。
 恐る恐るバイツがベッドの方を向くとクチートが目を擦りながら座っていた。
「お・・・おはよう・・・いつから見てた?」
「サナお姉ちゃんがマスターに乗ってチューしてるとこから。」
「殆ど最初からです。本当にありがとうございました。」
「ねえ・・・」
 クチートはそれだけ言うと首を傾げた。
「今はマスター・・・だよね。」
「え?」
「何て言えばいいか分かんない・・・さっきのマスターがマスターじゃなかったみたいだったから。」
「俺・・・じゃない?」
「んー雰囲気が。」
 先程の右腕の症状、そしてサーナイトの見た夢。
 バイツは右腕に視線を移した。
 紅い右腕は何の違和感も無く動く。
「マスター?」
「なあクチート、実はな・・・」
 バイツは先程の右腕の症状を話した。聞いているクチートは然程表情も変えずに黙って聞いていた。

32名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 01:58:07 ID:VpiZnDgw
「・・・悪いなこんな状況でこんな話。」
「別に、マスターはマスターでしょ?」
 クチートの真っ直ぐな視線がバイツの顔を見つめた。
「あたし、恐くないよ。マスターが何だろうとあたし恐くないよ。」
「俺が俺じゃなくなるんだぞ?」
「それでもあたしはマスターを信じてる。」
 クチートの言葉にバイツは苦笑した。
 ここまで心配を掛けさせておいて、それを必死に慰めてくれているのに弱気な言葉しか出てこない。
 ネガティブな思考につくづく呆れ返る。
「クチート・・・」
「何?」
「シャワーでも浴びるか?サーナイトでも起こして。」
「うん!」
 悩んでいても仕方が無い。初めての状況に弱気になりすぎた。
「サーナイト、シャワーでも浴びに行こう。」
「・・・ん・・・ふぁ・・・」
 サーナイトが目を擦りながら体を起こす。
 心配事は多々あるもののバイツは何処か吹っ切れた気がした。



 朝の五時半過ぎ。バイツは一人ソファーに頭を擡げ座っていた。ソファーで横になったという慣れない事をした為か体が所々痛い。
 殆ど寝ていない上、サーナイトと交わったにも関わらず疲れは残っていなかった。
 ちなみにベッドはサーナイト達に譲っていた。
 バイツは立ち上がると全員をボールに納め清算機に料金を支払うとホテルを後にした。外は霧が辺りを包み込んでいた。
「今日は濃霧か・・・」
 一人呟いた後、苦笑した。
 バイツは静岡三作目のUFOエンドにおいて使われた歌を鼻歌混じりに歌いながら船着き場へ向かった。
 陸路を使えば直ぐに連中が気付く。海路の方が幾分か楽だろう。そうバイツは考えていた。
 人や車の通らなそうな道を選び、船着き場に着いた頃にはすっかり日が昇っていた。
「さて・・・?」
 運航予定を確認するとホウエン行きの便まではまだ時間があった。辺りを見渡した後、モンスターボールから全員を出した。
「さあ、少し遅くなったけどそこのレストランで御飯にしようか。」
 バイツの意見に反対の声は無く、近くのレストランへ向かって歩き始めた。
「マスター!」
 急にサーナイトが叫んだ。何かがバイツに突進して来た。突進して来たそれを右腕で抑えこんだ。
 バイツに突進して来たのはサイホーン。
「サイホーン「つのドリル」だ!」
 男の指示に応じるかの様にサイホーンの角が回り始めた。右腕で角を掴みながら押してくるサイホーンを抑えるバイツ。
 周りにいた一般人は有り得ない光景に目を奪われて誰も動かなかった。
「オーダイル!」
「ラグラージ!」
「エンペルト!」
 サイホーンの後ろに現れた三体のポケモンと更にその後ろに現れた三人の人間。ポケモンのトレーナーであろう三人はそれぞれのポケモンに同じ技を命じた。

33名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:01:42 ID:VpiZnDgw
「「ハイドロカノン」!」
 圧倒的な水圧がバイツとサイホーンを襲った。
「・・・!」
 サイホーンを押す様な形になった水流はサイホーンと共にバイツを押し流し、結果的には水中へと沈めてしまった。
「あれだけやりゃあ暫く動けねえだろ。さすがは俺のオーダイル。」
「は?あれは俺のラグラージだし。あんな見事な一撃他には考えられねー!」
「どうしたエンペルト、早く沈んだターゲットを捜しに・・・」
 三体のポケモンは攻撃の反動で動けなかった所為もあるがただじっとサーナイト達を見つめていた。
 サーナイト達もまた主に危害を加えた三体のポケモンに視線を向けていた。
 ゆっくりとエンペルトが口を開く。
「そこを退いてくれ。」
「嫌です。」
「我々の仕事はターゲットを回収する事だ。無関係なお前達に危害は加えない。」
「無関係ではありません。私達のマスターです。」
「だったら尚更だ、生きている内に引き揚げなければならん。そこを退け。」
「嫌です。マスターは自力で上がって来ます。」
「馬鹿な・・・あれ程の攻撃を受けて自力で上がって来るなど・・・」
「上がって来ます。あの人なら・・・マスターなら上がってくる。私はマスターを信じています。」
 何処までも真っ直ぐなサーナイトの言葉にエンペルトは何も言わなかった。
「だから、マスターを狙う貴方達には退いてもらいます。」
「分かった・・・」
「話は済んだかエンペルト。」
 エンペルトのトレーナーが身構えた。
「お前等何時まで手柄の奪い合いをしているんだ。」
 不毛な争いをしていたオーダイル、ラグラージの両トレーナーも身構えた。
 海から上がってくるまでの時間稼ぎにしかならない。サーナイトは、いや、対峙しているポケモン全員が分かっていた。
 鍛え上げられた三体に何処まで戦えるのか。
 そして、主が水の底に沈んでいる六体はどの様にして戦うのか。
「行くぞ!エンペルト!」
 トレーナーの声と共に戦いが始まった。どちら側にせよ己が主の為に。



 サーナイトは寸前でエンペルトの「ドリルくちばし」をかわした。
「「サイコキネシス」!」
 強烈な念波がエンペルトを襲う。だがすぐに振り払われる。
 鋼にはサイコパワーは効果が薄い。
 ある程度分かってはいたがここまで薄いとはサーナイトも思っていなかった。
「もう少し練り上げるべきだ。」
「エンペルト!もう一度だ!」
 トレーナーの指示に従い、もう一度回転を伴った突進がサーナイトを襲う。
 サーナイトは衝撃と共に宙に跳ね上げられた。
「エンペルト!「バブルこうせん」だ!」
 地面に倒れこんだサーナイトに向けてエンペルトは構えた。
 しかし、エンペルトは上を向いて「バブルこうせん」を放ったがすぐに後退した。
 そして、エンペルトが立っていた場所に誰かが下りてきた。

34名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:03:20 ID:VpiZnDgw
「奇襲失敗!立てる?サナサナ。」
 降りてきたのはミミロップ。
「ミミちゃん!」
「さっさとやっつけちゃお!マスターのこと追っかけてる奴等なんだしさ!」
「はい!」
「クソ・・・一対二か。」
 トレーナーは歯軋りした。だが状況はサーナイト側に好転したとは思えなかった。
 ミミロップが瞬時に間合いを詰め蹴りを仕掛ける。乱打や変則的な軌道でエンペルトを惑わす。大したダメージにはならないものの動きを抑えるには十分だった。
 その隙にサーナイトは「めいそう」で精神を集中させてサイコパワーを強めていた。
「エンペルト!向こうを狙え!」
 多少のダメージ覚悟でトレーナーの指示通りにサーナイトに狙いを定めるエンペルト。
「「ハイドロカノン」!」
「させない!」
 ミミロップはエンペルトの放った「ハイドロカノン」の前にその身を投げ出した。
 通常ならば耐え切れない程の衝撃。
 だが、ミミロップは耐えている。全ては一撃の為に。
「ミ・・・「ミラーコート」!」
 至近距離で「ハイドロカノン」を打ち返されたエンペルト。倍返しされた自らの攻撃に意識が飛びそうになる。
「サナサナ!」
「はい!」
 先程よりも更に増大された「サイコキネシス」がエンペルトを弾き飛ばした。
 二転三転し俯せに倒れるエンペルト。その際に自分のトレーナーを下敷きにしてしまった。
「やりぃ!」
 喜ぶミミロップにサーナイトが掌を向ける。
 その掌を見たミミロップはハイタッチをした。途端に体勢を崩して倒れてしまう。
「痛たた・・・やっぱ・・・マトモに受けるもんじゃないね・・・」
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫、気が抜けただけ。」
 その時、日差しを何かが遮った。サーナイトとミミロップが恐る恐る見上げるとそこにはエンペルトが立っていた。だが、闘気や殺気といったものは感じられなかった。
「流石だな・・・体中が痛む・・・」
「お互い様でしょ?あたしもアンタの一撃弾き切れても体が結構キちゃってるんだから・・・」
 倒れたのは弾いた時の衝撃だと痩せ我慢するミミロップ。
「見事だ・・・しかし、どうしてアレを撃つと分かった?」
「ミミちゃんが貴方を抑えている間私が力を溜めていましたよね。」
「ああ・・・」
「その時貴方のマスターはこう思ったはずです「早く決めてしまおう」と。」
「あたしの攻撃力はたかが知れてる・・・だから真っ先に力を溜めているサナサナを倒したかった。焦っちゃったのね。後は「カウンター」か「ミラーコート」か一瞬で見分けて使って返すだけ。」
「大した戦略だ・・・」
 そこまで言うとエンペルトはまた倒れた。



 鋭い何かが光った。それが振り上げられた爪だという事をムウマージは理解していた。

35名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:03:57 ID:VpiZnDgw
 次の瞬間、爪が振り下ろされた。
 ムウマージは難無く攻撃範囲外へ下がったが爪が振り下ろされた箇所の地面はえぐれていた。
「一撃でやられちまえよ、下手に食らうと痛むぜ?」
 オーダイルが口元で笑って見せる。だが目は血走っている。
「当たらなきゃいいだけよ。」
「次こそは当ててやるよ。」
「じゃあウチも当ててみましょ。」
 突然、オーダイルの脇腹に冷気が走った。ユキメノコが「れいとうビーム」を放っていたのだった。
「テ・・・メェ!」
「真面目にバトルする程ウチ等には時間がありまへん。おとなしゅう眠っておくれやす。」
 ユキメノコとオーダイルの鋭い視線がぶつかり合う。
「じゃあ・・・テメェから眠りやがれ!」
 ユキメノコに向かって突進しようとするオーダイル。だが、ムウマージから視線を逸らした瞬間に「シャドーボール」が叩き込まれる。
「っの・・・!」
 ムウマージに再度視点を合わせるとユキメノコの攻撃が死角から飛んでくる。背中に一撃が入った。
 そこでオーダイルのトレーナーはある事に気付いた。オーダイルに視線を合わせ互いに頷く。
「行くぞオラァ!」
 オーダイルがムウマージに向かって突進する。先程の様にユキメノコが今度は「シャドーボール」をオーダイルに当てる。しかし、オーダイルの突進は止まらなかった。
「!」
「オーダイル!「きりさく」!」
 反応が一瞬遅れたムウマージに鋭い爪の一撃が襲い掛かった。吹っ飛ばされ、地面に倒れたムウマージ。
「ムウはん!」
「お前等のコンビネーションは良いもんだ、だがな攻撃が大して痛く無いんだよ。」
 ユキメノコが急いでムウマージに近付こうとした。
「何処に行こうってんだ?」
 オーダイルの声が真横から聞こえた。
「そいつには「かみくだく」だ!」
 刹那、オーダイルの大顎がユキメノコの体に喰らい付いた。
「ユッ・・・キー・・・!」
 ムウマージは必死に体を動かそうとするがダメージが大きすぎるせいか咄嗟に動かない。
 軋んだ音を立てるユキメノコの体。更に顎に力を込めたオーダイル。次の瞬間ユキメノコの体が砕け散った。
「・・・!」
 言葉が出てこないムウマージ。飛び散った一部がムウマージに当たる。やけに冷たい。よく見れば氷の破片。
「何を噛み砕いたん?あの人。」
「・・・!?」
 いきなりムウマージの隣に現れたユキメノコ。ムウマージとオーダイルは驚いたのか声も出ない。
「でも疲れるわぁーアレを作るの結構しんどいんよ・・・」
 咄嗟に自分の形を模した氷像を作り出したユキメノコ。その能力は大したものだが本人は体が追い付かないのか少し息が荒くなっていた。
「無駄な足掻きを・・・二人纏めて潰してやる!」
 オーダイルが二人に突進する。
「迎え撃つ?」
「せやね、ウチも余り動けへん。」
 二人はお互いの掌に掌を向けて力を込めた。技そのものは「シャドーボール」だったが、今まで二人が撃ったものよりも数倍に圧縮されていた。

36名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:04:46 ID:VpiZnDgw
 二人は分かっていた。これを外したら後は無い。もしくは耐え切られてしまうかもしれない。
 それでも二人はこの一撃に賭けて力の全てを注ぎ込むしかなかった。
「もっと引き付けてから撃ちましょう。」
「タイミング・・・任せますえ。」
「キツイ相談ね・・・」
 オーダイルが目の前まで接近し爪を振りかぶった。
「今よ!」
 二人は「シャドーボール」を放つ。
 オーダイルに命中した際に生じた衝撃波に二人は飛ばされ地面に倒れた。
「やった・・・の?」
 ムウマージがフラフラと浮き上がりながらオーダイルに目を向ける。
「これで倒れておらんかったら・・・」
 ユキメノコは浮き上がる力すら残っていなかった。
 最初は煙でよく見えなかったが徐々に煙が晴れてオーダイルの影が浮かび上がる。
 立っていた。それも笑みを浮かべながら。
「耐え切ったぜ?」
 ムウマージは急激に体中の力が抜けていくのを感じた。
 オーダイルが突進して来る。爪が二人の頭上で光った。
 もう駄目だ。ムウマージは目を瞑った。
 だが、爪は二人の前の何も無い部分を切り裂いていた。
 振り下ろされた腕に引っ張られる様に倒れたオーダイル。気絶している。
「やった・・・の?」
「また起き上がってくるっていうオチじゃ・・・」
 オーダイルに小さな氷の破片を当ててみるユキメノコ。当てられた当人は起きる気配がない。
 二人は安堵感から溜息を吐くと暫くその場から動かなかった。



 ラグラージの拳が唸りを上げてクチートとアブソルに襲い掛かる。
 クチートは攻撃をかわすのが精一杯で、アブソルは拳をいなしながら反撃していた。
「こっ・・・のぉ!」
 ラグラージが大振りの攻撃を仕掛けてきた。クチートは攻撃に空を切らせ、その隙に攻撃を仕掛けようと考えた。
 その予想通り、ラグラージの大振りの攻撃をかわすと体勢が少し崩れた。
 チャンスとばかりにラグラージに接近し大顎を振り下ろしたクチート。
「ラグラージ、右に動け!」
「引け!罠だ!」
 アブソルの声が届くより早く、ラグラージは即座に体勢を立て直していた。
 攻撃を空振りしたクチートに重い一撃が叩き込まれた。
「・・・!」
 成す術も無く吹っ飛ばされたクチート。
「大丈夫か?」
「大丈・・・夫・・・」
 立ち上がろうとするクチートだが体に力が入らない。
「無理するな。休んでいろ。」
 アブソルはそれだけ言うとラグラージの前に立ちはだかった。

37名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:05:52 ID:VpiZnDgw
「片方はもう終わりかよ。つまんね。」
「私一体でも十分だ。」
「だな、そこで寝そべっている雑魚なんて数にも入らねえよ。」
「貴様・・・口が過ぎると痛い目を見るぞ。」
「ま、俺に何処まで追い付けるかやってみ?そいつみたいに一発で終わるなよ?」
「そうだな、死なない様に何処まで痛めつけれるか試してみるか。」
 アブソルが「こうそくいどう」を絡めながら攻撃を仕掛ける。手数で攻めるアブソルの攻撃を防ぎながら強烈な攻撃で返してくるラグラージ。
 一進一退の攻防に見えたが若干アブソルが圧されていた。
 クチートは手助けに行こうと体を起こして駆け出そうとするが倒れてしまう。
 何も出来ない自分が悔しく、そして恨んだ。動かない体を引きずって戦いに加わろうとする。自分の体が盾になるのならばそれでいい。今の自分に出来る事はそれしか無かった。
「動きが鈍いぜ!」
 アブソルの連撃が鈍った隙をついてラグラージが容赦無く一撃を叩き込んだ。
 アブソルは吹っ飛ばされたが空中で一転し上手く着地する。しかし、攻撃が効いた所為かもう一度攻め込もうとした際に体勢が崩れる。
「終わりだ!」
 ラグラージが拳を振りかぶった。真っ直ぐにアブソル目掛けて拳を振り下ろす。だが、攻撃は何かによって弾かれる。その何かはクチートの大顎だった。
「あたしだって戦える・・・!」
「一発でやられた奴がよく言うな!」
「駄目だ!下がっていろ!」
 クチートはアブソルに目を向けた。何かを訴える様な眼差しにアブソルは渋々下がった。
「無茶はするな・・・」
 クチートの大顎が開く。ラグラージに突っ込み「かみくだく」の連打。
 ラグラージはかわし続けるものの意外な正確さに少しずつ後退していく。
 それでもラグラージは反撃の一撃をクチートにお見舞いする。クチートは大顎で攻撃を防いで「かみくだく」を放つ。
 ラグラージのトレーナーは今の一撃に違和感を感じた。先程よりも与えたダメージが少ない様に見える。
 遂にラグラージの左腕にクチートの大顎が食らい付いた。
「っがあぁぁぁ!」
 鉄骨すら噛み千切る大顎に噛み付かれたラグラージ。
「本体を狙え!」
 左腕に食らい付いているクチートに拳を打ち込むラグラージ。
 簡単にクチートは離れたが、攻撃した際にクチートが言った言葉が聞こえた。
「「バトンタッチ」・・・」
 クチートはそのまま地面に倒れた。その横を猛スピードでアブソルがラグラージに向けて突進して行く。
「迎え撃て!」
 トレーナーの指示通りラグラージは突進してきたアブソルの額に一撃を叩き込んだ。
「勝っ・・・!?」
 だがアブソルは平然とした表情でラグラージの一撃を耐えていた。
「これが・・・貴様が雑魚呼ばわりしたあの子の力だ・・・」
 クチートはアブソルを救う際に「てっぺき」を使って防御力を底上げしていた。その上昇分を「バトンタッチ」によってアブソルに引き継いでいたのだった。
「「つるぎのまい」を踊る時間も稼いでもらった事だしな!」
「何っ!」
 アブソルは一瞬でラグラージの懐に飛び込んだ。

38名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:06:29 ID:VpiZnDgw
「かわせ!」
 トレーナーの声がラグラージに聞こえると同時にアブソルは下から上へと宙返りをする様な形でラグラージを一閃した。
 仰向けに倒れるラグラージ。
 それを尻目にクチートに近寄るアブソル。
「勝ったぞ・・・」
「やった・・・あたし役に立ったかな・・・」
「ああ、お前がいなければ・・・死んでいた。」
 感謝のつもりなのかクチートの頬を舐めるアブソル。
「くすぐったいよぉ・・・」
「よく・・・がんばったな。」
 一瞬だがアブソルの表情が和らいだ様に見えた。



 オーダイルとラグラージのトレーナーは自分のポケモンをボールに収めると一目散に退散していった。ただエンペルトのトレーナーはまだ気絶していた。
「皆様・・・無事みたいですね。」
「無事・・・やけどボロボロどすな。」
「いいだろう大事は無かったんだ。」
 その時、大勢の人間がサーナイト達の前に現れた。そしてモンスターボールを取り出し、次々とポケモンを繰り出す。
 先程戦ったエンペルト達と同レベルと思われるポケモン達。
「全員がマスターを狙っている方々ですか・・・」
「多いね・・・多いけど・・・」
「逃げる訳にはいかないわ。」
「全員叩きのめしちゃうよ!」
「こないにぎょうさん・・・めんどいわあ。」
「何・・・私達なら出来る。」
 目の前の全員を相手にする事。それは死ぬ事となんら変わりは無かった。
 だが彼女達は構えた。
 たった一人の人間の為。



 水面に差し込む光が見えた時、バイツは上昇する速度を上げた。
 水面から顔を出したバイツは右腕を上に上げた。
 途端に大きな水しぶきが上がってサイホーンが陸に上げられていた。
 一緒に沈んだサイホーンを見殺しにする訳にもいかないので、わざわざ救い上げてきた訳である。
「・・・よく息が長続きしたな、俺。」
 どうでもいい呟きを口にしたバイツ。船着き場にはい上がる。
「何・・・だ?」
 バイツは目の前に広がる光景が信じられなかった。
 さっきまで元気だった家族が横たわっていた。所々傷だらで。血まみれで。
「皆!」
 目の前には大量の人間とポケモン。
 連中がした事は分かっている。された事も分かっている。
「返事・・・してくれ・・・」

39名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:07:46 ID:VpiZnDgw
 バイツはか細い声で呟いた。だが誰からも反応は無い。
 力無く膝を地面につく。男が一人バイツの前に立ち塞がる。
「我々と共に来てもらおうか。」
 だがバイツにはその声は聞こえていなかった。
『よう、宿主。』
 代わりに頭の中で声が聞こえた。
『何だよ随分大人しいな。』
「聞いているのかお前。」
『なあ?腑抜けちまったのか?』
「お前のポケモンは全部倒した。無駄な抵抗はやめろ。」
『何か言ってるぜ?返事してやれよ。』
「おい!聞いているのか!」
『何だ腑抜けちまったか・・・じゃあ体もらうぜ。』
「貴様っ!」
 男は反応がないバイツの髪の毛を乱暴に掴んだ。だが次の瞬間には髪の毛ではなく男の腕が引き抜かれていた。
 男は悲鳴を上げた。そして頭を潰された。
「あーあ・・・五月蝿えよギャアギャア喚くな。」
 バイツが笑いながらゆっくりと立ち上がった。しかし、口調がいつもと違う。
「何か知らねえが宿主が放心状態なっちまったよ・・・ま、おかげでこの体は「俺」のもんだがな。」
 バイツは右腕のハーフグローブを外し包帯を解いた。
「こんな事しなくたってこの世の中他人の体についてわざわざ聞きにくる奴なんかいねえよ。」
 バイツの目が黄色に変色していく。
「行くぜ?加減は効かないからな。」
 人間達やポケモン達は無意識に一歩下がった。
 先程の少年とは雰囲気が変わっていた。
 突然、少年の体を紅い装甲が包み込んだ。黒い紋様が全身に走っている。グラードンを模した装甲。
 だがずんぐりとした体型になった訳ではなく少年の体に合わせて装甲が覆っていた。
 大地が揺らぐ咆哮。
 人もポケモンも身動き一つ取れなかった。そして、唸り声を上げながら突進する「それ」に敵わないと誰もが悟った。



 同時刻、とある山里。
 水を張っているだけの水田の前に一人の少年が立っていた。
 金色でセミロングの髪の毛が時折吹く風によって形を変えていった。髪は染めているだけなのか根元が少し黒かった。
「いやぁ、悪いのぉイル君、こんなとこまで川引いてもらって。」
 後ろから老人に名指しで呼ばれた少年、イルはゆっくりと振り向いた。
「別にいいよボクもけっこう楽しいし。」
 そういいながらイルは笑って見せた。
 意外な事に裏表の無い明るい笑顔だった。
「で?ちゃんと決められた経路どおりに出来てた?」
「うんうん、後は小さな橋を所々に作るだけじゃて。すごい力じゃのその右腕。」
「ん?こんな事しか取り柄無いから。」
 イルは笑って見せたがその後で小さく自嘲気味に呟いた。
「殺し以外にね・・・」
 この山里に来て日は浅いものの村人とは仲良くやっていた。

40名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:08:49 ID:VpiZnDgw
 イルの右腕の力。即ちカイオーガの水を操る力は重宝され、意外と役に立っていた。
「イル!」
 さらに老人の後ろから一人の少年が歩いてきた。
 鋭い目つきの少年で腰まで届く長い髪の毛は一本に編んで纏められていた。
「おお、若様ではありませんか。」
「シコウ、どうかしたの?」
 シコウと呼ばれた少年は老人の方に礼を返す。
「少々イルをお借りしてもよいでしょうか。」
「ええですよ若様。こちらは後は一人で十分です。」
「申し訳ありません。」
 丁寧な物腰で老人との話を終えるとイルの方に向き直る。
「で?何?」
「ああ、至急氷が大量に入用になってな。」
「おーけーおーけー。じゃ今すぐ・・・」
 イルが歩き出そうとしたその時、右腕に軽く電流が走った感じがした。
 また、シコウの足。レックウザの力を宿している両足にも軽く電流が走った感じがした。
「今の・・・」
「バイツが・・・呑まれた・・・」
 それだけシコウは呟くと空を見上げた。
「イル・・・少々拙者は出掛ける・・・」
「いってらっしゃい。お土産お願いね。あと氷が必要とか言ってたけど?」
「屋敷で入用だ。」
 そう言うとシコウは飛び上がった。
「待て・・・バイツと言えば・・・」
 そう呟いたシコウは里の鳥使いの家に寄る事にした。
 



 サーナイトが目を覚ました時、辺りは異常な熱気に包まれていた。
 焦点が合わない視界の中では煙が風に流されて行くのが見えた。
 体を起こすと二人組の人間の姿が目に入った。
 ボディーアーマーやプロテクターで身を固めて銃を背負っている。二人共口々に何かを話している様だが聞き取れなかった。
 ふと、一人がサーナイトの方を向く。骸骨を模したホッケーマスクの様なものを被っており表情が伺えなかった。
 気づいた人物はサーナイトに近づいてくる。
「気がついた?よかったー」
 マスクの下からは聞き慣れた声が聞こえた。
 その人物がマスクを押し上げる。
「元気?」
 バイツの親友で銃の名手且つ情報屋のライキだった。
「ではそちらは・・・」
「ん?・・・おお、悪い。警戒させちまったか。」
 もう一人の方も同じマスクをしていたがマスクを押し上げる。
 その人物はライキと同じくバイツの親友であるヒートだった。
 どうやら今居るのは船着場の倉庫の陰だった。
「どうしてここに・・・」

41名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:09:37 ID:VpiZnDgw
「バイツとは連絡付かないし家を訪ねても変な連中がうじゃうじゃしてたし。」
「連中の一人捕まえて事情を聴いたらバイツを狙っているだの船着き場に向かっているだの・・・で、着いてみりゃこの有様。生きて黙示録の日を迎えるなんて思わなかったぜ。」
 ヒートが親指を指した方向では炎が所々で燃え広がっていた。
 その中心には紅い装甲を身に纏い人間、ポケモン関係無く剛腕で捻じ伏せている人物の姿があった。
「マスター・・・!」
「アレがバイツ・・・?何があったか話してくれるかな。」
「私にもよく分かりません・・・私達・・・酷くやられて・・・」
 サーナイトはハッとした。
「皆様は!?」
 急いで立ち上がろうとするサーナイト。しかし、全身に激痛が走り起き上がれない。
 体中に包帯に巻かれている。
「無茶すんなよ・・・全員酷い怪我だった。」
 クチート、ムウマージ、ミミロップ、ユキメノコ、アブソル。
 全員が酷い負傷しており包帯だらけで横になっている。
「意識を取り戻したのは君だけだ・・・」
 ライキが呟いた。
「で?何があった?」
「何があったのかは本当に知らないんです・・・でも、深夜に・・・」
 サーナイトはバイツの右腕の事や自分の夢の話をした。
 二人は最初から最後まで口を挟まなかった。
 話が終わるとヒートは溜息を吐いた。
「成る程な・・・つまりシコシコしてティッシュが無くてチ○コの皮を引っ張って中に出してトイレに行こうとして段差で躓いて廊下にぶちまけて母親にカルピス溢したって言い訳したんだな。」
「結構端折ってるけど聴いていた話の内容が違うしどう見ても精子です。本当にありがとうございました。」
「ええと・・・?」
「悪い悪い、単なるジョークだ。で、ここがグラウンド・ゼロになる前に俺達に出来る事は何だ?」
「さあ?まともにやり合ったらこんな装備じゃ二秒も持たないね。」
「やり合ったらって・・・マスターを撃つ気ですか・・・?」
「多分撃っても効かないよ。ほら・・・」
 ライキが乱闘の中心部を指差す。
「オーダイル!」
「ラグラージ!」
「エンペルト・・・」
 そこに立っていたのは仲間が持って来た道具で治療された先程の三体だった。
 ただエンペルトのトレーナーだけボロボロだった。
「「ハイドロカノン」!」
 これもまた先程見た技。圧倒的な水圧が彼を襲う。
 もし、彼の装甲がグラードンに準ずるものならば水に弱いはずであった。
 しかし、直撃しても怯む事なく近付いてくる。水が蒸発していく。
「な・・・何なんだ!お前は!」
 どのトレーナーが叫んだのかは分からなかった。
「くっ・・・」
 攻撃の反動で動けない三体。口元に笑みを浮かべゆっくり目の前に歩み寄る彼に何の手立ても無かった。
 響き渡る悲鳴と飛び散る血飛沫。人間、ポケモン関係無く血祭りに上げている。
「あれが・・・マスター・・・」

42名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:10:34 ID:VpiZnDgw
 サーナイトは震えながら口元を覆う。
 もし、自分が目の前に出て行った所で出来る事は何も無い。
「さあどう出る?手を繋ぎながら仲良くスキップって訳にもいかねえだろ。」
「和平でも申し立てるの?誰かがさ、片方の頬を打たれたらもう片方も差し出せと言ってるよね。」
「テメェ一人でやってろ。二度目に差し出す頬が残ってりゃいいがな。」
 出てくる意見は解決には程遠いものばかりで時間だけが過ぎていった。
「・・・私が・・・」
「ん?」
「お?」
「私がマスターの精神に干渉して意識を戻してみます。」
「マジかよ・・・何でもありか?」
「もっと近付かなきゃ駄目って事はないよね。」
「それは無いですけど・・・」
「じゃあ頼むぜ、あいつを叩き起こしてくれ。」
 乗り気のヒートに対して少々浮かない顔のライキ。
「ねえ、一つ聞いていいかな。」
「はい。」
「僕はその・・・精神とかそっち方面には詳しく無いんだけどさ、要するにこの方法ってさ精神を切り離すんだよね。」
「ええ、そうですけど。」
「もしさ・・・失敗したら・・・」
「私の意識は戻ってきません・・・一生・・・」
「・・・そう。」
「でも大丈夫です。いつものマスターに戻って頂けるのならこれくらいのリスクは平気です。」
 サーナイトは笑顔でそう言った。
「それで?また「一人」でやる気か?」
 突然背後から聞こえてきた声。アブソルが傷だらけの体を無理矢理起こしていた。
「全く・・・一人で先走りすぎよ。」
「サナはんは背負い込み過ぎやわ・・・ウチ等もおるよ。」
「皆でマスターのお迎え行っちゃお!」
「一人より皆!ね?サナお姉ちゃん。」
 サーナイトは俯き何かを堪えているのか震えた。
 すぐに顔を上げたサーナイト。今にも泣きそうな笑顔で一言言った。
「とっても・・・危険ですよ。」
 その一言に彼女達は頷く。
「決まったみたいだね。」
「はい。それとお願いがあります。私達がマスターの精神に干渉している間私達の体をお願いできますか?」
「分かってる。でも約束してほしい。」
「?」
「必ず戻って来る事・・・バイツの為に。」
 サーナイト達は頷いた。
「皆様・・・行きますよ。」
 サーナイトが祈る様に両手を合わせる。それからすぐに全員が静かに倒れた。
「すげえ恥ずかしい台詞じゃね?「必ず戻って来る事」って・・・しかも真顔って・・・」
「もしバイツの意識だけが戻った時さ。彼女達の意識は二度と戻らないなんて言う羽目になったらさ・・・」
「あー、次に挽き肉になるのはここにいる馬鹿二人って事か・・・」
「祈ろうか・・・せめてさ。」

43名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:11:10 ID:VpiZnDgw
「悪いがお祈りは教会辺りで頼むぜ。」
 二人は暫く黙るとマスクを被り直した。炎の中で踊り狂う親友の体に視線を合わせながら。



「ここ・・・何処?」
 誰もクチートの言葉に答えようとはしなかった。
 サーナイト達はバイツの精神の中に立っていた。だが、そこは夜の霊園の真ん中。細い木々に吊されているランプの明かりだけが光源だった。
「マスターの精神の中・・・ですけど・・・」
「でもいいじゃない静かな場所で・・・」
「何か落ち着くわあ。」
 確かに恐怖という感情はサーナイト達には無かった。
「ねえ皆ちょっと静かに。」
 急にミミロップが耳を澄ませる。
「話し声が聞こえる・・・誰かと誰かの・・・」
「行くぞ・・・手掛かりは他になさそうだしな・・・」
 アブソルが先陣を切って駆け出した。
「待ってください!」
 その後をサーナイト達が追う。
 変わりの無い風景が視界の片隅を流れていく。
 それに全員が薄々感じている事だったが体が今まで以上に軽かった。それに相当走っているにも関わらず疲れる事は無かった。
 それから、どれ位走ったのだろうか。
 アブソルが急に足を止めた。
 続いていたサーナイト達も足を止める。
 目の前にあったのは大穴。
 円の直径が十メートル程で何かが雑に掘り返した様な有様だった。
「この下から声が聞こえる・・・マスターの声だ!」
 今度はミミロップが先陣を切る。
「た・・・躊躇っている暇なんてありません!」
 続いてサーナイト達も飛び降りる。
 案外底は浅く、直ぐに地面に降り立った。
「!」
 サーナイト達の目の前には一つの人影があった。
 その人物は後ろを向いていたがその後姿はいつもサーナイト達が追いかけていた人物の背中だった。
「マスター!」
 バイツが目の前に立っていた。サーナイト達は駆け寄ろうとした。
 突然バイツの目の前にあった岩が動いた。
 バイツは鋭い視線をその動く岩から外そうとせず黙って見上げていた。
 それが岩でなかった事をサーナイト達は理解した。
 ずんぐりとした紅い巨体。体中を流れる黒い文様。そして黄色い眼光。
 バイツの右腕の力。そのベースとなっている古代のポケモン。
 それはかつてカイオーガと争い陸を広げたグラードンであった。
「口調が定まらないなあ。」
「口調はいいからそろそろ俺の体を返せ。」
「待って・・・後五分・・・」

44名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:12:00 ID:VpiZnDgw
「後五分、後五分って・・・さっきから全然が進んでいない気がするんだが?」
「後少しでセーブポイントに着くから。」
「セーブポイントって何だ。」
「セーブポイントはセーブポイントだよ。龍祖像とか赤い三角とか・・・ん?お客さん?」
 グラードンの声にバイツは後ろを振り向いた。
「なっ・・・どうやってここに・・・まさか・・・」
「私達は無事です!・・・ただ精神を切り離してマスターの中にいるだけですよ。」
 バイツは口を開き掛けたが、グラードンが爪の裏側でバイツを軽く押しのけた。
「どうも姐さん方。俺グラードンっていいます。」
 意外と気さくな奴だった。
「お願いします!マスターに体を返してください!」
「体って・・・あともう少しなんスよ。」
「もう少し・・・?」
 グラードンは頷いた。
「あと少しでパワーゲージが一本溜ま・・・」
「セーブポイントじゃないのか!?」
「あれ?さっきそんな事いってたっけ?」
「しかもさっきからかなり暴れてたろ!」
「ゲージ回収率が悪いんだよ俺。」
「スパ2Xのあの大会で奇跡を起こしたリ○ウを見習え!と言うより俺に体返したくないだけだろ!?」
 どうでもいい会話ばかりが続いた。
「そろそろ時間のようです。」
「え?何?サナサナ、時間って?」
「私の力が限界で・・・これ以上はここに留まれません。」
「そうか・・・なら戻ってもいいんじゃないか?マスターの意識は消えてないみたいだからな。」
「ですね。」
 やけにあっさりと承諾したサーナイト。
「皆、先に戻っていてくれ。何とかして主導権を取り戻すから。」
 バイツは笑って見せた。どこから取り出したのかハリセン片手に。
「短期決戦でも決めるつもりなのかしら・・・時々私の考えが追い付かなくなるわ。」
 ムウマージ以外誰もこの事について触れようとはしなかった。



 サーナイト達が再び目を覚ますと炎は殆ど消えていた。
 そして、辺りには傷ついたポケモン達。だが、応急処置はしてあった。そこら中に空になった薬の容器が転がっている。
 サーナイトは辺りを見渡しライキとヒートの姿を探す。
 すぐに見つけることが出来た。
「あの馬鹿がぁ!捕まえてぇ!あの馬鹿が画面端!バースト読んで!まだ入るぅ!あの馬鹿が・・・っ近づいてぇ!あの馬鹿が決めたぁぁーっ!」
「実況は落ち着いて!小足見てから昇竜はまた別だから!」
 サーナイトは興奮している馬鹿の同類項と思われる二人の脇から乱闘の様子を覗き込んだ。
 バイツの暴走及び装甲化は治まっていなかった。だがどこから持ってきたのかハリセンを左手に逆手持ちして暴れていた。
「あ、お帰りー大丈夫だった?」
「はい、そちらはいかがでした?」
「君達が倒れた後、少ししたら炎が消え始めてね。」

45名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:12:35 ID:VpiZnDgw
「その後調子に乗ってこいつがハリセンをあいつに投げたんだよ。」
「いいじゃん。おかげで怪我の度合いが軽くなったんだから・・・多分。そっちは・・・?」
「それが・・・私の力不足で・・・」
 サーナイトは何を見てきたのか二人に説明した。
「ふーん、ま、意識がまだあるって事はその内収まるでしょ。ありがと、あんな馬鹿のために。」
「よくがんばったな嬢ちゃん達。」
 その時、何かがハリセンを持って暴れている現在最上級の馬鹿の前に降り立った。
 シコウだった。
「おーい!シコウ!今のそいつは・・・!」
 ヒートが警告するや否やハリセンが空気を裂きながらシコウを襲う。
「力を御していないお主など・・・」
 しかし、それを上回る速さでシコウの脚がハリセンを弾き飛ばす。
「黙らせる事など容易い。」
 鋭い蹴りが腹部に叩き込まれた。
 どんな攻撃も通さなかった装甲を貫いた衝撃は一撃でそれを大人しくさせた。
 崩れ落ちる様にうつ伏せに倒れる紅い体。
「・・・手荒な真似を許せ。」
 徐々に紅い装甲が消えていき、暫くするとバイツに戻っていった。
「今だ!ターゲットを回収しろ!」
 これは好機と人間やポケモン達がバイツに群がろうとする。
 だが、シコウの蹴りは容赦無くバイツを捕らえようとする不貞な輩を叩きのめしていった。
「どっちの味方なんだあいつは・・・」
「多分・・・バイツを抑えに来たんだと思う・・・」
 サーナイト達はバイツの傍に駆け寄っていた。
「マスター!しっかりして下さい!」
「安心しろ、気を失っているだけだ。」
 猛攻の第一波を押し退けたシコウがバイツを肩に担いだ。
「我等の里で少々養生してもらうがな。」
「待って下さい・・・私達も・・・」
「分かっている。」
 そう言うとシコウは自分の懐からモンスターボールを取り出した。
 六つのボールから出てきたのは全てピジョット。
「私達をボールに納めて頂ければ・・・」
「バイツが心配でボールの中に入っていられないという顔をしているぞ?お主等。」
 ピジョット達の方に向き直るシコウ。
「頼めるか?」
「お任せください、若。」
「済まぬな。」
「いえいえ、これ位お安い御用です。さあ、我々の背中に。」
 第二波が押し寄せてきたが人間達の足は見事に撃ち抜かれていた。
「さっさと行ってね僕達も逃げるから。」
「人間は何とかできるけどよ。ポケモン相手は別だからな。」
 重装備のライキとヒートが建物の陰から出てきて人間達に銃を向けていた。あくまでも人間達に。
「頼りにしているぞ。」
 マスクをしていた二人の正体が分かっていたのかシコウはそれだけ言うと空高く飛んだ。
 それについて行くかの様にサーナイト達を乗せたピジョット達も飛び立った。

46名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:13:46 ID:VpiZnDgw
「もしかしてあやつ等暴れたかっただけではなかろうな・・・」
 目的地に向かいながらシコウはライキとヒートが現れた本当の理由を自分なりに考察していた。



「失礼します。」
 ローグのオフィスのドアを叩く音と共に声が聞こえた。
「入れ。」
 ローグはパソコンのモニターに視線を移したまま部下に部屋に入るよう命じた。
「少し待ってくれスネークの報告待ちだから。」
「グラードンの右腕を取り逃がしました。」
「・・・何?行き先は?まさかそれも分からないと言う訳ではあるまい?」
「申し訳ありません。」
「・・・」
 部下を叱責する為の言葉が次々と浮かび上がり逆に何を言っていいのか分からずに言葉を詰まらせた。
「ですが・・・」
 しかし、現場の状況とに突如現れた少年の話を聞くとローグは笑みを浮かべた。
「そんな真似が出来るのは・・・レックウザ・・・」
 二つの追い求めてきたものが今共に居る。
「もしやイルもそいつが・・・」
 ローグの推測は的を射ていた。
 だが、この状況で一番危険なのはローグ自身であった。
 その事に彼はまだ気づかない。

47名無しのトレーナー:2010/06/05(土) 02:17:27 ID:VpiZnDgw
第九章終わったよ
IDも変わってる
アレなときは脳内補完で
それでアレなシーンで言葉が足りない気がするけど書いていないだけです
本当に(ry


>>20
え?期待してくれます?本当に?
ありがとうございます。いや本当に。
ペースはかなり遅いけどがんばりますよ。

多分・・・

>>◆KShTsthWTo氏
もしかして霧生氏?違かったらスイマセンした免許s(ry
イルとライキの性格が似通ってしまって本当に二人一緒に出すとキツイ
「どないでっか」「ボチボチでんな」みたいな仲でもないので二人が一緒に行動する事は無い・・・かな?
まあそんな展開・・・あるかも・・・無いかも・・・

48リバースマサト:2010/06/10(木) 00:43:20 ID:gN8MKgYo
名無しのトレーナーさん←お久しぶり、&続編超乙でした。
バイツ…ヒーロー的王道を地で行ってると思ったら、遂に変身までしちゃったお…。
仮面のエルレイドしかり、ウチのアクトしかり…変身ブームの波が来たと見た!
バイツにとってこれからの課題は、その力を制御出来るか否かですね…。
シコウとイル、V3を特訓する1号2号ポジションの予感。
胸が熱くなるな。

ここでご相談なのですが、独自解釈と偏見込みでバイツ達のイラストを描かせて頂いて宜しいでしょうか?
許可頂ければ描いてそのうちUPさせて頂きます。
ていうか「時空戦士ACT-O(アクト)」の微修正リテイク進めろよ俺…。
色々思いを馳せつつ今回はここまで、
ばいなぁ〜♪

49名無しのトレーナー:2010/06/12(土) 16:44:41 ID:VpiZnDgw
>>リバマサ氏
お久しぶりでごわす
この前のIDが変わってないことを祈ります
ついに変身しました。変化しました。実は苦肉の策でした

イラスト?マジですか?描いてくれますか?
自分の頭の中でもキャラの大まかな外見以外コロコロ変わってますから
時空戦士ACT-O(アクト)も期待してますよ。いや、本当ですって

50ZAKIラム:2010/06/12(土) 18:28:11 ID:Rmc7Qvbw
50ゲット
お二方の小説にとても期待してます!(上から目線死ね)
頑張ってください!

51リバースマサト:2010/07/04(日) 01:00:31 ID:gN8MKgYo
えぇっと…リバースマサトです。
バイツの名無し様、
前回バイツ達のイラストを描くと言いまして、
参考資料にと旧板のバイツ達の小説を読み返しつつ、
容姿などの描写をピックアップさせて頂きました。
ところが…描写少なねぇぇぇっ!
という訳ですので、ピックアップできた描写の確認と、
足りない描写について独自解釈と質問を提示させて頂きますので、
回答のほど宜しくお願いいたします。

1

〇バイツ
・18歳くらいの少年。
・黒い長髪。ジャマなときは後ろで纏める。
・右腕にグラードンの力を宿し、形状は人間のままだが紅く、黒い紋様が流れている。
・右腕は包帯を巻いて覆い、ハーフグローブをはめて隠している。
・モンスターボールは腰に巻いた革ベルトに装着。
・落ち着いた色調の服を好む?(裸Gパン姿やYシャツ、黒いIラインシャツとレザーパンツなどの描写は有りましたが判然としません。)
質問
・瞳の色などは描写が有りませんでした。
個人的にはブルーが似合うと思いますがいかがでしょうか?
また、服装の描写が本当に少なく、どの様な服装にすべきか迷っています。
個人的には日常イラストでは白いYシャツにGパン、黒いジャケットを羽織らせ、
戦闘中イラストはジャケットなしでYシャツが破れはだけた姿にしようかと考えておりますがいかがでしょうか?

ジェントルバイツ(パーティー正装版バイツ)
・身に着けているのは黒いスーツ(タキシードではない?)。
・長髪は後ろに束ねて、前髪は整髪料でアクセントを加えている。
・見違える程の美少年になる。
質問
・この時だけ"美少年"である事が強調されていました。
普段は前髪で顔の一部が隠れているという事なのでしょうか?
・ネクタイは普通の形状?それともパーティーらしく蝶ネクタイ?
どちらにせよ個人的には赤いネクタイにしたいと思っておりますがいかがでしょうか?

〇グラバイツ(バイツ装甲化)
・全身が赤い装甲に覆われ、所々黒い紋様が流れている。
・体型はバイツそのものがベース。
・口元だけは人間のまま。
質問
・グラードンの意匠は散りばめる程度で宜しいでしょうか?
はたまた尻尾など人間に無いパーツやトゲなどはグラードンのまま配置した方が宜しいでしょうか?

52リバースマサト:2010/07/04(日) 02:49:18 ID:gN8MKgYo
2
〇ライキ
・18歳くらいの少年。
バイツの親友で銃の名手。
伝説級の情報屋。
・髪はボサボサとツンツンの中間、
まるで寝癖のようなヘアスタイルで、色々な方向に髪が伸びている。
・レントラーを見てて思いついたキャラだとか。
・放心状態になるほどキョウカが苦手(?)。
・ヒートにつられて酒を飲む。
・ノートパソコンを愛用(常に携帯?)。
・基本の戦闘スタイルは二丁拳銃(ガン・カタ?)で、サイレンサー付きの物を主に使用する。
・どこからともなく対戦車ライフルとか取り出す。
質問
・髪や瞳の色は?
個人的にはレントラーを参考に黒髪、金の瞳にしようかと考えております。いかがでしょうか?
・初期の暗殺仕事着、黒づくめ以外に服装の描写は有りませんでした。
個人的には四天王オーバの服装を青系統にして、ズボンに大量のポケットを追加したようなスタイルをイメージしていますがいかがでしょうか?

〇ヒート
・18歳くらいの少年。本名はヒイト?
バイツの親友で護身術から暗殺術を使いこなす。
・バイツ、ライキより少し背が高い。
・愛嬌が滲み出ている顔。だが、笑った顔は血に飢えた肉食獣そのもの。
・後ろに流した短髪、前髪は下ろしている。
・未成年なのに酒を飲む。
・武器は赤く厚みのある篭手。
弾薬を込めて安全装置を外し、相手を殴ると小規模の爆発が起きる仕掛け。
・近接戦闘を好むが、それが難しい状況では機関銃など、速射性の高い銃を乱射している場合が多い。
質問
・髪や瞳の色は?
個人的にはヒートという名前から炎を連想するので、
赤(赤茶色)の髪と瞳をイメージしていますがいかがでしょうか?
・ライキと同じく、服装の描写が有りませんでした。
個人的にはアクティブな服装、半袖TシャツにダメージGパン、ノースリーブでポケットの多いのGジャンを羽織った姿をイメージしていますがいかがでしょうか?

〇キョウカ
・20代の女性。
相棒はガーディ。
・後ろに纏めた長い髪。豊満な胸とスタイルのいい体つきをしている。
・ライキとヒートを纏めて蹴り飛ばす程の脚力を持つが、実戦ではあまり強い訳ではない?
質問
・髪や瞳の色は?
個人的には黒髪率が高くなりそうなので、
他のキャラにはいない亜麻色の髪と碧眼(グリーン)でイメージしていますがいかがでしょうか?
・彼女も服装の描写はほとんど有りません。
赤系統のパンツスーツでイメージしていますがいかがでしょうか?

53リバースマサト:2010/07/04(日) 04:02:03 ID:gN8MKgYo
3
〇トウマ
・元暗殺者の青年。
殺人狂と呼ばれていた。
・現在はキョウカの下で書類整理に追われている。
・髪はオールバックに固めている。
・長身、細身で落ち着き払った雰囲気。
・武器は両刃の片手剣、投げナイフ、袖の中から飛針など、多彩な暗器を使いこなす。
質問
・キョウカと同レベルの容姿描写不足。
髪や瞳の色は?
個人的にはなぜか、四天王ゴヨウみたいなのをイメージしてた。
今回読み返したらNARUT〇の飛騨が敬語喋ってるイメージになった。
結果、紫色の髪と瞳の飛騨という訳ワカメなイメージになってしまいましたがいかがでしょうか?
・服装の描写も有りませんでした。
個人的には(読み返す以前のイメージを引きずって)ゴヨウみたいな黒シャツ赤茶色スーツをイメージしていますがいかがでしょうか?

〇モウキ
・警部。くたびれた感じの男。
ライキ、ヒートのあと、バイツとも知り合う。
・白髪混じりの頭。
くたびれた茶色いコートと、真っ直ぐではない煙草が似合っている。
質問
・髪や瞳の色は?
やはり描写不足。
なのに個人的なイメージ固まるの早かった。
もう国際警察のハンサムが煙草くわえてるイメージしか湧かね〜っ
とりあえず前流れの黒髪に白髪混じり、瞳も黒で黒いスーツに茶色いコート羽織ったイメージですがいかがでしょうか?

〇ローグ
・つい最近まで名無しのモブキャラ扱いだったが、
敵組織の黒幕(ボスか幹部かは不明)でイルの上司だった。
・暇さえあればパソコン画面に向かっており、2ちゃんねらー的発言も多い。
・ポケモンの能力を使う改造人間達に対する指揮権を有する?
・改造人間達を造り出したアツアツ博士(霧雨さんとこのゴルダック命名)を軟禁し、研究を続けさせている?
質問
・最も描写不足の主要キャラ。
スーツ姿で黒革椅子に座ってパソコン画面見てる描写がせいぜいだし。
個人的にはモブらしく地道なイメージ、
昔のエロゲ主人公みたいな普通な長さの黒髪で、長い前髪で目の回りに影が落ちてるイメージです。
悪役らしい貫禄を付け足すべく、目つき鋭く爛々と光るハイライト無しの赤い瞳もイメージしていますがいかがでしょうか?
まぁ、描くとしても余裕があればの話しですが…。

54リバースマサト:2010/07/04(日) 17:57:55 ID:gN8MKgYo
4
〇イル
・セミロングの金髪。
染めているのか根元は黒い。
・常時笑みを浮かべており、裏の無さそうな無邪気な笑顔かと思いきや、
口元だけで笑い、冷酷、残酷な表情を浮かべる場合がある。
・甘いモノ好き?
・右腕にカイオーガの力を宿しており、皮膚は藍色で赤い紋様が流れている。
・色の軽い服装を好む?(初登場時青いTシャツとGパンという描写有り)
質問
・明確な年齢描写は有りませんでしたが、
"少年"とのことでバイツらと同じ18歳かやや幼いくらいのイメージですがいかがでしょうか?
・金髪は染めている様ですが、地毛が黒なら眉毛も黒で宜しいでしょうか?
また、やはり瞳の色は描写が有りませんでした。
個人的にはグレーが無難とイメージしていますがいかがでしょうか?
・服装の描写も少なく、少なくとも右腕を隠す気は無いことしかわかりません。
初登場時を尊重しつつ、右腕を少なくとも見せびらかさない事を考えて、
青い長袖TシャツにGパンをイメージしていますがいかがでしょうか?

〇シコウ
・腰まで届く長髪を三つ編みで一本に纏めている。
長身、細身で鋭い目つきだが物腰は丁寧。
・両足にレックウザの力を宿しており、
緑色に黄と黒の紋様が流れる皮膚は人間のものとは少し違っている。
・意図的では無いと思われるが、
両足は靴下を始め、履き物で隠れている。
質問
・やはりというかなんというか…髪や瞳の色は描写されて居ません。
個人的には東洋系のイメージが強いので、どちらも黒と思っておりますがいかがでしょうか?
・服装の描写もほとんど有りません。
爆発に巻き込まれて急遽着替えた服装は描写されていましたが…。
個人的には深緑色のチャイナ服をイメージしていますがいかがでしょうか?
"拙者"の一人称でなぜ和服が出てこないのか自分でも不思議です。
きっと"足袋"でなく"靴下"であること、
レックウザの"龍"のイメージが影響しているのでしょう。

〇サーナイト
質問
・いきなりですがこれで最後です。
サーナイトのヒラヒラはローブなどと着脱(出現・消失)自在のように描写されていますが、
こちらのアレンジでは体の一部、着脱不可設定ですので、服装的なアレンジは加えて居ません。
服装的なアレンジを加えた方が宜しいでしょうか?

以上、長々とスミマセン。
すべてはバイツの名無し様のもつキャラクタービジュアルをリスペクトしたいがため…。
回答、宜しくお願いいたします。

55リバースマサト:2010/07/04(日) 18:33:23 ID:gN8MKgYo
5
なお、想定しているイラストは以下の通り。
〇バイツ・戦闘中
〇グラバイツ・戦闘中
〇バイツ+手持ちポケモン6体・日常
〇ジェントルバイツ×サーナイト+クチート+ムウマ+キョウカ・パーティー会場
〇ライキ+ヒート+トウマ・戦闘中
〇ライキ+ヒート・バカ騒ぎ+モウキ・呆れ
〇キョウカ+トウマ・仕事中
〇イル・戦闘中
〇イル・スゥィーツタイム+シコウ・カモられ日常
〇シコウ・戦闘中
〇ローグ・執務室+改造人間達・背景シルエット

以上の予定です。
イメージを練りながら回答お待ちしております。
では、ばいなぁ〜っ♪

56名無しのトレーナー:2010/07/04(日) 22:13:49 ID:SepNeZPM
IDが変わっていませんように、っと。
さて、描写が少なくて混乱させてしまったようですね。
リバマサ氏お許しください!
酷い言い訳をさせていただくと本当は細かいところを読者の読み手の皆様に想像していただくような感じでして・・・
取り合えず質問に答えます。
答えになっていないと思われる部分はぶっちゃけオリジナルでいいです。
バイツ編
・目の色は黒です。
・服装は特に決まっていません、何でも着ます。落ち着いた色柄が大半です。
・髪のイメージとしてはgungraveのビヨンド・ザ・グレイヴみたいな感じ。
 要は顔の左半分が前髪で隠れている感じで。
・ジェントルメン時の時はスーツ。タキシードじゃあございません。ネクタイは普通のヤツで、色は特に決まっておらず。
・装甲化時は尻尾がございません。トゲもございません。
ライキ編
・髪は暗めの茶色。瞳は黒で。
・彼も何でも着ます。服装に関しては拘りはありません。
ヒート編
・髪型は本文ではああ書いているけどモデルとしてはKOFのシェン・ウーの髪を少し短くした程度。髪の色も髪の色もどうでもいいです。寧ろアドバイス下さいオナシャス!
 シェン・ウー
 ttp://www30.atwiki.jp/niconicomugen/pages/858.html
・服装については大体合っています。むしろアドバイスを・・・
キョウカ編
・あの脚力・・・実はライキとヒートのみに発揮されます。
・髪の色は金色、瞳の色は碧眼で。
・服装はオフィススーツ的な物ならどんなのでもいいです。
トウマ編
・一言で言ってしまえば外見殆どのイメージがgungraveのバラッド・バード・リー。髪が元ネタより短いことぐらいですかね。
・細目なので瞳の色とかは考えなくとも大丈夫です。タケシといい勝負。
・服装も大体ゴヨウの様な感じでおkです。
・ヨクモデース(顔だけ)
 ttp://www.jvcmusic.co.jp/m-serve/tv/gungrave/story/cast.html
モウキ編
・リバマサ氏のイメージ通りです。このおっさんはとってもシンプルです。
ローグ編
・一番難題のおっさん。今の今までイメージというものが本当になかった男。いまだに性格がつかみきれていない。
・上下黒のスーツに白いワイシャツ適当な色のネクタイ。
・顔は黒髪五分刈りのさっぱりした髪型に頬骨が浮き出て少し縦長。上まぶたは左右平坦。眉間に皺。
・アクションロッキーという漫画を知っていればXというおっさんがいいイメージになります。・・・あの漫画ってところで何?
イル編
・年齢はバイツと一緒。
・眉毛は黒でお願いします。瞳の色は赤茶辺りで。
・服装は挙げられたイメージでおkです。
シコウ編
・バラッド・バード・リーが元ネタ第二段。しかし、こちらの顔はリーと餓狼MOWの牙刀と足して二で割ってさらにバイツと同年代にした感じで。目つきは細目という訳ではなくかなり鋭い。
 牙刀
 ttp://www30.atwiki.jp/niconicomugen/pages/738.html
・黒髪に黒目。
・服装もイメージ通りでおkです。だって元ネタも服装がチャイナですから。
サーナイト編
・んー、そうですね。できるならお願いしてもいいですか。


以上です。
お手数を掛けたみたいでサーセンした。

57名無しのトレーナー:2010/07/05(月) 01:26:52 ID:Qg1104Yc
ぶっちゃけローグは765プロの社長みたいなビジュアル想像してた

59Mr.L:2010/08/23(月) 09:59:52 ID:fT1qa5mo
どうも〜皆さんお久し振りです!Mr.Lです!
…あれから半年近く来なかった奴が今更なんだって感じでしょうが…;

・・・。

さてと、私は帰って来たぞぉっ!!(誰の台詞だっけ?)
と言う訳である程度レベルアップしつつ未だにあまり変わりないMr.Lなりに頑張って感想をば…


名無しのトレーナーさん→グラードンはゲームオタクですか!?;
セーブポイントまでまてって…;
ていうか武器をハリセンにすり替えるとか(笑)
相変わらずのノリで謎の安心をしました…。

リバースマサトさん→お久し振りです…。
うーん…執拗なる荒らし事件辺りから全く会話(?)が無くなってた気が…バイツの絵、頑張って下さい!


ZAKIラムさん→…。
みていれば良いですけど、初めましてさようなら?
あの、わざわざ宣言して消える事も無いのでは?;
戻って来る事を願います…

60Mr.L:2010/08/23(月) 10:07:59 ID:fT1qa5mo
追記…すみませんがブランクが長すぎて自分も内容を忘れましたし、次投稿するときにはMr.Lの小説は新しくなってます;すみません;

63名無しのトレーナー:2010/09/11(土) 23:58:41 ID:eICjZ9OQ
九月十一日・・・
アレから四年か。
二度とあのような事が起こらないようにこの訴えは毎日続けていくつもりです。
(訳:小説できたよー、多分IDも変わっているけど)

64名無しのトレーナー:2010/09/11(土) 23:59:22 ID:eICjZ9OQ
 ある夜の事、大量の薬品サンプルや資料が山積みになった研究室に一組の男女が居た。
 男は頭を抱えながら椅子に座っていた。
「どうして・・・どうして俺達の子供が・・・」
 絶望に打ちひしがれた声。
 男の後ろに立っている女は思い詰めた表情を浮かべていた。
「ねえ・・・本当・・・なの?」
「ああ・・・これまでの症状と一致している・・・あの子はまだ赤ん坊なのに・・・」
「諦めないで・・・」
 女も男に寄り添いながら不明瞭な涙声で話掛ける。
「・・・実はね・・・あの子の・・・」
「取り込み中か?」
 研究室の入り口に一人の初老の男性が立っていた。
「博士・・・」
「君達の子供の事は聞いた・・・心中は察しよう。」
「・・・」
 男は返す言葉が見当たらなかった。
「博士・・・結果の方は・・・?」
「結果?」
 男は女に聞き返したが女は博士の返答を待っていた。
「・・・数値上ならば「適合」する可能性が高い。」
 その答えに女は喜べばいいのか悲しめばいいのか分からずただ一言。
「そうですか・・・」
「「適合」?・・・まさか・・・!」
 男は会話の意味を察したのか驚いた。
「あの子に細胞を移植する気か!」
「もう・・・これしか無いの・・・上手くいけば・・・古代ポケモンの力があの子を・・・」
「自分の子供を実験体にする様な真似は出来ない!」
「実験体か・・・」
 博士は声のトーンを少し落とした。
「だが、このまま何もしなければあの子は・・・」
 男は何も言い返せずに唇を噛んだ。
「この事は私達三人の秘密にしよう・・・上には上手く言っておく。」
「待ってください博士!・・・もし・・・もし今は適合しても・・・」
「ああ、後々体を奪われるかもしれん。」
 その言葉を聞いても男に残された選択肢は一つだけであった。
「押し付ける様で悪いが君達が導いてやればいい・・・違うかね?」
 博士の言葉に男は女に目配せをして頷いた。
「ところで・・・一体何の細胞と適合するのですか?」
「うむ、そのポケモンは・・・」
 男の耳には殆ど言葉は聞こえていなかった。
 悲壮な決意だった。
 それでも、自分達の子供には生きていて欲しかった。
 何かを傷付け殺める存在になろうとも。
 修羅の道を歩もうとも。

65名無しのトレーナー:2010/09/11(土) 23:59:53 ID:eICjZ9OQ

 そして、その決意から十八年後。
 その場所から遠く離れた山里でバイツは目を覚まし飛び起きた。
「痛っ・・・」
 何時もの目覚めと違い体中の激痛と見慣れない部屋。
 障子越しの柔らかい光と微かに香る畳の匂いにバイツは頭を抱えた。
 何故自分はここで眠っていたのか。何があったのか思い出そうとしても頭の中に霧がかかっている様に何も思い出せなかった。
 その時、障子の向こうに人影が見えた。バイツは警戒した。
 障子が開く。
「起きていたか。」
「シコウ・・・?ここは・・・?」
「拙者の家だ・・・そして・・・」
 バイツは開いた障子の向こう側の景色に目を奪われた。
 目下に広がる青々とした田園風景と眩しい日差しの光を反射しながら流れていく水路。
 少なくとも街の近くでない事をバイツはすぐに理解した。
「我々の里だ。」
 シコウはバイツの脇に近付き座った。
「体調はどうだ?」
「・・・頭がぼーっとする。」
「だろうな。体を暫く奪われていたのだ。」
「体を・・・?」
 バイツは頭を抱えて何があったのかを必死に思い出そうとする。
 遂に脳裏に浮かんだ一つの映像。それは彼の家族が力無く倒れている映像であった。
「・・・皆は!?」
「落ち着け。」
「落ち着いていられるか!皆怪我を・・・」
「大丈夫だ。だから落ち着けバイツ。」
「そうですよマスター。私達は大丈夫です。」
 シコウの後ろから聞こえてきた声にバイツは目を見開いた。
 サーナイトだった。
 サーナイトがバイツの枕元に座る。
「おはよ!起きた?」
 クチートがバイツに飛び込む。
「驚いた顔してどうしたのかしら?」
 ムウマージがクチートの上に現れる。
「もしかしてびっくりしちゃった?」
 ミミロップがバイツの背後から首元に抱き着く。
「それ程驚かせた訳やありまへんけど?」
 ユキメノコはムウマージの隣に現れる。
「一々驚かれても困るがな。」
 アブソルはサーナイトの反対側に座っていた。
「マスター、おはようございます。」
 微笑むサーナイト。バイツは呆気に取られていたがフッと静かに笑った。
「おはよう。」
 ただ一言だけ返したバイツは暫くもみくちゃにされていた。シコウはただそれを笑って見ているだけであった。
「微笑ましいなお主等。」

66名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:00:28 ID:eICjZ9OQ
「はは、そうだろ?」



 サーナイトがこれまでの経緯を話すと、バイツは首を傾げて唸り始める。
「うーん・・・成る程、そんな事になっていた訳か。」
「覚えていないのですか?」
「全然・・・」
「私達が精神に干渉した事もですか?」
「・・・ああ、済まない。」
 静まり返る室内。
「・・・拙者は席を外そう。」
 立ち上がるシコウ。
「積もる話もありそうだからな。心配させた事でも詫びるといい。」
 部屋を出て行こうと踵を返すシコウにサーナイトは小さな声で呟いた。
「ありがとうございます。」
「気にするな・・・元々は我等の責任。巻き込んで済まなかった。」
 それだけ言うとシコウは部屋を出て行った。
「何なんだ?あいつは。」
「でもいいお方ですよ?怪我も治して頂きました。」
 サーナイト達の体を見てみると確かに傷一つ付いていない。
「秘伝の塗り薬ですって。大したものね。」
「確かに・・・数時間で傷が消えるなんてな。」
「えっと・・・マスターは知らないんだっけ。」
「丸一日マスターは目覚めなかったんどす。」
「へ・・・?」
「心配したんだよ!本当に!」
「心配など他人事の様に眠り込んでいたからな。」
「いや・・・ごめん。」
「でも起きて下さって本当によかったです・・・」
 急に涙声になったサーナイト。声だけではなく頬にも涙が伝って落ちていった。
「なっ・・・何で泣く?」
「・・・今は皆様と楽しく話している・・・この風景が二度と見られなくなったら・・・もしマスターが・・・二度と目覚めなかったらと・・・最悪の状況も・・・私は考えてました・・・」
 サーナイトは必死に言葉にする。
「でも貴方は起きて下さった・・・ですから私は・・・」
「落ち着け。」
 バイツはサーナイトを抱き寄せた。
「俺はここにいる。皆もここにいる。サーナイトの考えてしまった最悪の可能性なんて・・・」
 そこまで言うと笑ってサーナイトの額と自分の額を軽く合わせる。
「吹き飛ばしてやるよ。」
「でもマスター・・・ここまで心配掛けさせちゃったんだしさ、責任とらないと。」
「責任?」
 バイツは体中の筋肉が悲鳴を上げている事をまだ言っていなかった。急激な力の解放の代償なのかそれともシコウの一撃が原因なのか、はたまた両方なのか。今のバイツは満足に動く事すら難しい状態であった。
「そうですね・・・」

67名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:01:10 ID:eICjZ9OQ
 サーナイトも涙を指で拭いながらミミロップに合わせる。
「・・・旅行・・・」
「ん?」
「旅行がいいです。この様な状況ではなくてもっと気楽な雰囲気の・・・」
「そうだな、全て片付いたら行くとするか。」
 この前はフエンタウンへ行き温泉に入りたがっていた。前にそんな話をしていた事を思い出したバイツ。
「・・・全て・・・な。」



 部屋を出たシコウの意識は自らの背後に向けられていた。
「イル・・・バイツの邪魔はするな。」
「つまらないなぁ・・・」
 イルが何処からともなく現れた。
「顔を出すのは後でもよかろう。」
「はいはい。」
 少々不貞腐れ気味のイル。
「夜半に出掛ける用事ができた。」
「ふーん。何処に?」
「・・・博士を拉致する。」
 シコウの言葉にイルは苦い顔をした。
「ボクを案内役に連れていくつもり?」
「いや・・・」
「それに何で急に博士なのさ。」
「何故我等をこの様な手足にしたのかそろそろ知りたいのだ・・・拙者の推測が当たっていれば・・・」
 シコウは言葉を切った。
「推測?先走り過ぎだと思うけど?」
「その推測を確かなものにしたい。」
 話ながら歩みを止めない二人は一つの部屋の前まで行くとその足を止めた。



 それから一時間後、シコウがイルを引き連れてバイツの居る部屋に戻ってきた。
「や!バイツ!」
「元気そうだなイル。」
 バイツは笑って返したがサーナイト達はまだ警戒していた。バイツの膝上に座っているアブソルに至ってはバイツに座って撫でられている最中でなければ今にもイルに飛び掛かりそうであった。
「バイツ、急で済まぬがこれを飲んでくれ。」
 その雰囲気を察してかシコウが障子の陰から盆に乗せられた湯呑みをバイツに渡した。
 ほのかに温かい濃い緑色の液体。
「抹茶?」
「違う、薬湯だ。体がまともに動かぬだろう?」
「見抜かれていたか・・・」
「まともに動かない・・・?どういう事ですか・・・?」
「酷い筋肉痛なんだ。」
 バイツはそう言うとサーナイト達の質問責めに遭う前に薬湯を一口含んだ。

68名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:01:40 ID:eICjZ9OQ
「苦い・・・」
「一気飲みの方が良い。」
 今度は一気に湯呑みの中の薬湯を飲み干したバイツ。途端に視界が激しく揺らいだ。
「な・・・ん・・・」
 そのまま崩れる様に横に倒れるバイツ。空の湯呑みが畳を転がりシコウの足元に当たった。それと同時に警戒していたアブソルが静かに怒りを爆発させシコウに頭部の鎌を振り上げ飛び掛かる。
 シコウは微動だにしなかった。
 次の瞬間、アブソルの一撃はたった二本の指に挟み込まれ止められていた。
「イル、それ以上動くな。」
 何故かイルを諌めるシコウ。その理由をサーナイト達は一秒後に理解した。
 アブソルの喉元を狙いイルが氷の刃を生成していた。後一瞬シコウがイルを止めているのが遅れていたらアブソルは串刺しになっていた。
「貴様・・・マスターに何を飲ませた。」
 だがアブソルは殺気を隠そうともせずにシコウに問い質す。
「薬湯だ。」
「ならば何故飲んだマスターが倒れる・・・!」
 鎌を挟んでいる指を振りほどこうとするが全く動かない。
「事前に説明しておくべきであったな。材料の中に強力な睡眠作用があるものがあったのだ。まあ、回復を速める為に眠ってもらっただけだ。」
 よく見れば倒れているバイツは規則正しい寝息を立てていた。
 シコウはアブソルの鎌を挟んでいる指の力を緩め、バイツが布団からはみ出ている部分を戻し掛け布団を掛け直した。
「悪かったな警戒させるような真似をして。」
「・・・いや、こちらこそ悪かった。」
 シコウは説明が足らなかった事を謝るとアブソルも素直に謝った。
「あの・・・一つよろしいでしょうか。」
「どうした?」
「マスターに先程「体が動かない」と言っておられた様ですけども・・・」
「ああ・・・その事か。」
 だがすぐに言葉は返って来なかった。空の湯呑みを拾い、盆の上に戻した所でシコウは口を開いた。
「急な変化の反動と言ったところか。」
「反動・・・?」
「いかにバイツが力を上手く使っていようが体のベースは人間だ。無理をすれば当然反動が肉体に返ってくる。」
 一呼吸置き更に話を続けるシコウ。
「更に肉体を乗っ取られた上での装甲化・・・あの様なバイツは初めて見たのか?」
 サーナイトは頷いた。
「更に今回が初めてという訳か・・・動かなくなるのも無理はない。」
「マスターは大丈夫だよね・・・?」
 不安を隠しきれないクチートの声。
「安心しろ、酷い筋肉痛みたいなものだ。」
 シコウの言葉はまるで昔に自分が体験したかの様な口ぶりであった。
 その事に気付いたサーナイトは二人に装甲化について聞いてみた。
「・・・アハハハ・・・」
「・・・ぬぅ・・・」
 イルの乾いた笑いとシコウのしかめ面。
「スーパーな野菜人になって金髪になる戦闘種族の人に憧れてね。」
「拙者も同じだ・・・」

69名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:02:17 ID:eICjZ9OQ
 黒歴史的な話を聞いたユキメノコは首を傾げた。
「数年前に記録的な豪雨と暴風が街を襲うたってこの前マスターから聞いた事あるけど・・・」
 静まり返る室内。
「あー・・・」
「・・・若様。失礼いたします。」
 シコウの弁解が始まろうとした時、障子の向こうから声が聞こえてきた。
 障子が開く。
 そこには中年の女性が正座して待機していた。
「昼食の準備が整いました。」
「分かった、わざわざ済まぬな。」
「わーい、お昼だー」
 と、イルが機械的な動きで女性の後について部屋から出て行った。
「・・・詳しい話は後で。」
「ええ、是非お願いします。」
 どうにも締まらない話を一旦止めてシコウについて行くサーナイト達だった。



 その頃バイツの意識の奥底。
「ふー・・・久々に動いた動いた!」
 と、紅い巨体が微妙に身を捩らせて満足そうにその場に座った。
 バイツはその巨体を見上げ溜息を吐いた。
 彼の目の前に居るのはグラードン。右腕の力のベースとなったポケモン。
 だがそれは右腕がバイツの意識の中で形付いたもので本物とはまた違うものであった。
「・・・何故・・・」
「ん?」
「何故今更になって俺の意識に干渉する気になったんだ?」
「今更って・・・お前、何も知らないのか?」
「何をだ?」
「俺も知らないよ。でもなあ、俺じゃない別の何かが先にお前の右腕を中心に覆いつくしていたんだ。」
「別の?」
「先日まで俺はそれを取り除いていたんだ。で、終わったからお前にお目見えしたって訳。」
「取り除く?何を言っているんだ?」
「・・・俺もよく分からない。まあ、いいやそれは追々・・・」
 グラードンは渋い顔をして何か思い悩んだ様な感じで口を開いた。
「俺の口調このままでいいと思う?」
「・・・俺、そろそろ起きたい・・・」
 呆れ返った様にバイツは頭を抱えた。



 バイツが再び目を覚ました時、障子越しの月明かりが照らしている天井が目に入った。
「・・・」
 体の痛みは無い。
 左右に体温を感じる。
 右隣にはサーナイトが寄り添って眠っていた。視線を下の方に移せばサーナイトの間に挟まるような感じでクチートが眠っている。

70名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:03:03 ID:eICjZ9OQ
 左隣にはミミロップが左腕に抱き付きながら眠っている。
 ムウマージ、ユキメノコ、アブソルの姿は見当たらなかった。
 右腕を布団から出して月明かりに照らす。
「・・・」
 こっそりと布団から抜け出したバイツ。ミミロップを起こさない様に左腕から離すのが困難だったが。
 障子を静かに開けた。
 目の前の小さな庭にはシコウが立っていた。
 しかし、全身が黒尽くめの装束を身に纏って夜空を見上げていた。
「・・・起きられる様になったか。」
「ああ・・・ところでどうしたんだ?その衣装は。」
「何、野暮用を済ませるのに一番最適な服装でな。」
「野暮用ね・・・」
「バイツ・・・」
 妙に改まった感じで口を開いたシコウ。
「真実を知ってもお主はお主だ。自分を見失うな。」
「?」
「では行くとするか。」
 言葉の意味を明かさないまま夜空へ飛び立ったシコウにバイツは首を傾げた。
「何が言いたいんだ?」
「一言一言に考えすぎよ、マスター」
 背後から聞こえた声。
「ムウマージか・・・」
「驚かないのね。」
「それとユキメノコに・・・アブソルか。」
「あら、どうして分かりはったの?」
「足音を立てていたつもりは無いはずだが?」
 バイツは答えを返さずに軽い笑みを浮かべ向き直る。
「こんな時間にどうした?」
「マスター、忘れてはるん?ウチとムウはんは夜型どす。」
「私は中々寝付けなくてな。」
「だから皆で夜のお散歩。」
「ふーん。」
「マスターはどうした?」
「変な時間に寝たせいで目が覚めた。」
 そう言いながら欠伸をしたバイツ。
「でも眠たくないって訳でも無いな・・・」
「じゃあ寝る?」
「ああ・・・でも・・・」
「あら、私はいいわよ。皆に合わせればいいもの。」
「ウチも大丈夫。それよりマスターは体どうなりはったん?」
「まだ全快していないのだろう?ならば早く休むべきだ。」
「・・・そうしようか。」
 一通り言われたバイツは夜空を見上げた。
 真実という二文字が頭の片隅にこびりつき離れなかった。

71名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:03:34 ID:eICjZ9OQ


 それから数十分後。シコウはある建物の一室にいた。
 蛍光灯が照らす部屋には先程シコウが打ち倒した男や傍から見れば訳の分からない機械が様々なランプに光を点していた。機械から伸びている配線の先には液体が充満しているカプセル。中には人の形を辛うじて保っている肉塊が目を閉じながら浮かんでいた。
 だが、シコウはそれに目を向けず真っ直ぐ前を見詰めていた。
 目の前に居たのは一人の老人。禿げかけている白髪頭に澱んだ赤茶色をした目。白地の肌には死人の様に生気を感じられなかった。
「ハッ・ハッ・アッー・アーツィ・アーツ・アーツェ・アツゥイ・ ヒュゥー・アッツ・アツウィー・アツーウィ・アツー・アツーェ・スイマセヘェェ〜ン・アッアッアッ・アツェ・アツェ・アッー・アツイッス・アツイッスー・アッ・アツイッス・アツイッス・アツェ・アツイ・アツイ・アツイ・アツイ・アツイ・アー・アツイ博士・・・とお見受けした。」
 実は何度か噛みそうだったシコウ。何とか言い終える事が出来たので内心ホッとしていた。
「名を名乗れ・・・」
 やけにしゃがれた声。
「拙者はシコウ。共に来て頂きたいのです。」
「ワシはここから動けん・・・用件を聞くだけなら出来るがね。」
「三人の人間に施した処置の件です。いえ、十八年前三人の赤ん坊に・・・と言った方がよろしいでしょうか。」
 博士が驚いた表情を浮かべシコウを見詰めた。
「三人・・・!?」
「覚えておられますか。三種の古代ポケモンの力の事を。我等三人に何を望んだのか、三人に話を聞かせて頂きたい。」
「・・・ここに全員居るのかね。」
「いいえ、拙者一人で御座る。」
「・・・イルは何処だ?あの子は・・・」
 真っ先に出てきたイルの名前。シコウは内心不思議に思ったものの口には出さなかった。
「組織から離反しました。もう一人の者と共に里におります故に。」
 シコウの言葉を聞いた博士はゆっくりと頷く。
「ワシを連れて行ってはくれぬか?」
「承知しました博士。では参りましょう。」
 博士の姿が消えたという報告がノーパン喫茶で心いくまで楽しんでいたローグの耳に入るのにはそう時間は掛からなかった。



 翌朝、サーナイトが目を覚ますと隣にバイツの姿は無かった。
 バイツが寝ていた場所にはムウマージとユキメノコとアブソルが陣取っていた。
 布団をよく見てみると何かが這った様な跡が残っていた。
 それに外から話し声が聞こえてくる。
 サーナイトはそっと布団から出ると障子をそっと開けた。
 目の前に広がっている小さな庭にバイツはイルと共に居た。
 乾いた音と共に薪が二つに割れていく。
 薪割りの最中の様だった。
 だが、二人は道具を使っていなかった。どちらも右腕を振り下ろして薪を割っており、その後ろには途方もない量の割られた薪が積み上げられていた。
「む?御主等よくここまで割ったな。」
 シコウが薪の山の陰から現れた。
「何か用か?」

72名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:04:30 ID:eICjZ9OQ
「いや、そろそろ朝餉の時間なのでな。」
「やったー!朝御飯!」
 イルが何処かへと走り去る。
「そんな時間か・・・サーナイト、起きてるよな。」
 サーナイトは驚いた。物音を立てた覚えも無い。それにバイツは一度も障子の方を向いていない。
「ど・・・どうして分かったのですか?」
 静かに障子を開けて問い質してみるが軽く笑みを浮かべて肩を竦めるだけであった。
「悪いけど皆を起こしてくれないか?」
 サーナイト以外まだ眠っているという事すら見抜いていたバイツ。
 少しすると欠伸をしたり目を擦りながらと様々な仕草をしながら部屋から出てくるサーナイト達。
 それからシコウに案内されて大部屋に案内されたバイツ達。既に人数分の膳が用意されていた。その一つの前には既にイルが座っている。
「先にいただいてるよん。」
 山菜を口に運びながらイルが遅れてきた全員を見上げる。
「構わんが・・・父上は?」
「ん・・・何でも私室で博士とお話しながらご飯食べるってさ。」
「ほう・・・ではこちらはこちらで頂いてるとしようか。」
「博士って誰だ?」
 と、既に飯櫃から白米を茶碗によそいながらシコウに問うバイツ。
「後で会う事になる。」
「ふーん・・・ほら、シコウ。」
 湯気の立つ白米を盛られた茶碗をシコウに渡すバイツ。
「かたじけない。」
 瞬時に全員分の配膳を済ませたバイツ。
 それから、イル以外が「いただきます」の声と共に朝食へ。
 穏やかな雰囲気での朝食。バイツにとっては暫くぶりに落ち着いた中での食事となった。



 一方、ポケモン虐待防止委員会の支部というビルの一室。
 その一室では訝しげな表情の女性がパソコンのモニターを凝視していた。
「珍しいですね。」
 その女性の位置から机を隔てた先には長身の青年が書類片手に眉を顰めた。
「そうね・・・」
「ここまであからさまだとおかしいですけどね。」
「トウマ、あんたもそう思う?」
「当然ですよキョウカさん。世の中が真人間だらけになる事なんて未来永劫ありえませんからね。」
 キョウカという女性、そしてトウマという青年。
 沈黙が室内を包み込む。
 二人の見ていたものは媒体さえ違うもののほぼ同じ内容であった。
 ポケモンの違法売買等、裏で行われている大規模な犯罪の動きが一夜にして殆ど消えていた。
 しかし、犯罪の動きが収まるという事は喜ばしい事だが急激な変化に二人は疑問を感じざるを得なかった。
 沈黙を破ったのはキョウカの溜息だった。
「大体最近は何かおかしいわよねー・・・この前は上空で謎の大爆発。」
「そうですね、最近開店したばかりのショッピングモールが半壊して閉店しましたし。」
「何か船着場で大火事と大量虐殺・・・はぁー」

73名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:05:14 ID:eICjZ9OQ
「次は何が起きるのでしょうね?」
「宇宙人でも来るんじゃないの・・・」
「まさか。そんな確立なんてバイツ君が一撃で倒されて拉致される位有り得ませんよ。」
「そうよねー」
 と、苦笑いを含んだグダグダな話し合いの最中にオフィスのドアが開いた。
 そこに居たのは二人の少年。
「終わったぜー・・・」
 ドアを開けた本人であるヒートが真っ先にソファーに座り込んだ。
 続いてライキが入ってくるがキョウカと似た様な訝しげな表情で何かを考えていた。
「お疲れ。」
 簡単にキョウカが言葉を掛ける。
「聞きたいのは結果だけだろ?」
「ええ、あんた達の感想は後回しでね。」
「・・・どこの阿呆も同じ事ばかり言っていたぜ。「今は動けない」だとさ。」
「どいつもこいつも真人間になったのかしら。」
 ライキとヒートにそこら辺の組織の聞き込みをする様に頼んでいたキョウカ。
「「今は動けない」・・・ね。」
「まるでどこかの何かに怯えている様な言い方ですね。」
「・・・そういえばバイツはどうしたの?」
「一撃で倒されて拉致されちまったよ。」
「・・・」
 キョウカとトウマは互いに顔を見合わせた。
「次は宇宙人かしら・・・」
「静岡の二の舞にならない様にしないといけませんね。」
 ヒートが二人の会話の意味を理解しようとしている最中、ライキがぼそりと呟いた。
「驚愕!空気と化した僕達!」
 ライキの足元にはスヤスヤと丸まって眠っているキョウカのポケモン、そして空気扱いされたガーディがいた。
「まあ、台詞あるだけマシ・・・かな?」



 朝食が終わって膳が片付いた後、バイツ達はこのまま部屋に残っている様シコウに言われた。
 そして十分後。
「呼んでくる。」
「誰を?」
 痺れを切らしたシコウはバイツの言葉を返さずに部屋を飛び出した。
 更に二十分後。
「・・・暇だ。」
 待てども待てども一向に現れる気配が無い。
「バイツー!しりとりしよー!」
 妙に元気なイルの提案にバイツは眉間に皺を寄せて一言。
「嫌だ。」
「じゃあホモセッ・・・」
「表出ろクルルァ!」
「貴様ァァァ!その減らず口二度と開けない様にしてやる!」
 バイツとアブソルが即反応しイルを外に連れ出す。

74名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:05:46 ID:eICjZ9OQ
「まっ・・・!冗だ・・・!」
 それから三十分後。
「待機しているように言われて一時間経ちましたね。」
 悲痛な悲鳴をよそにのんきにそう言ったサーナイト。
「まだ悲鳴が聞こえちゃうんだけど。」
「外見ていいのかな?」
「私も。ま、怖いもの見たさね・・・」
「それだけはあかんよ。」
 そんな事を話していたらバイツ達が戻ってきた。
「悪いがホモはNG。」
 バイツが元居た場所に座り込む。
「次は立法機関に通報する。」
 アブソルもバイツの足下で丸まった。
「どうしてこーなるかな・・・冗談なのに・・・」
 と、一番最後に戻ってきたイルの様な赤黒い物体が口を開いた。
「御主等全員居るか?」
 障子を開けてシコウが現れる。
「良い様です。」
 そう言うと二人の人間が部屋に入ってきた。
 一人はシコウが連れて来たハッ・ハッ・アッー・アーツィ・アーツ・アーツェ・アツゥイ・ ヒュゥー・アッツ・アツウィー・アツーウィ・アツー・アツーェ・スイマセヘェェ〜ン・アッアッアッ・アツェ・アツェ・アッー・アツイッス・アツイッスー・アッ・アツイッス・アツイッス・アツェ・アツイ・アツイ・アツイ・アツイ・アツイ・アー・アツイでバイツとアブソルが思い出せる限りではレストランとモニター上の画面で一度見たことがあった。
 もう一人は細身の中年男性で白髪交じりの黒髪は長く、薄い口髭を蓄えている。
「イル・・・」
「あ、ハッ・ハッ・アッー・アーツィ・アーツ・アーツェ・アツゥイ・ ヒュゥー・アッツ・アツウィー・アツーウィ・アツー・アツーェ・スイマセヘェェ〜ン・アッアッアッ・アツェ・アツェ・アッー・アツイッス・アツイッスー・アッ・アツイッス・アツイッス・アツェ・アツイ・アツイ・アツイ・アツイ・アツイ・アー・アツイ博士だ。」
 慣れた口調で博士の名前を口にするイル。博士の方も穏やかな表情でイルに近づく。
「ほら、飴だよ。」
「やったー!」
 イルに渡された飴はバター、生クリーム、砂糖、一つまみの塩で出来てクリーミーな味をしていそうな飴だった。
「あの飴はヴェルター・・・」
「バイツ!口を慎め!何故なら彼もまた特別な存在だからとか言うな!」
「殆どネタバレです本当にありがとうございました。」
「取り込み中か?」
 博士と一緒に入ってきた男が笑みを浮かべながら口を開いた。
「ち・・・父上。」
 シコウはその男を父上と呼んだ。
 何かを企んでいそうな腹黒い笑みを常に浮かべている男がシコウの父親だった事にバイツは驚いたのか怪訝そうな表情を隠さないままずっとシコウの父親に視線を向けていた。
 その視線に気づいたのかシコウの父親はバイツをジロジロと眺める。
「んー?お前が残る一人か。」
「え・・・ええ。」
 どうも掴みどころが無さそうな男だった。
「では博士、お話を・・・」

75名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:06:47 ID:eICjZ9OQ
「まあ、待てシコウ。俺の事は話したのか?」
「いえ、まだですが。」
「俺の名前はカンベエ。この里の首領でシコウの父だ。で、お前がバイツ。」
 話しながら上座まで歩き座り込むカンベエ。
 しかし、表情とは裏腹にまったく隙が見えなかった。
「何故俺の名前を?」
「そうさっきから不思議な顔をするな。シコウから話は聞いている。」
 カンベエは視線を博士に向けた。
「さて、ハッ・ハッ・アッー・アーツィ・アーツ・アーツェ・アツゥイ・ ヒュゥー・アッツ・アツウィー・アツーウィ・アツー・アツーェ・スイマセヘェェ〜ン・アッアッアッ・アツェ・アツェ・アッー・アツイッス・アツイッスー・アッ・アツイッス・アツイッス・アツェ・アツイ・アツイ・アツイ・アツイ・アツイ・アー・アツイ博士にお話を聞く時間だ。」
「何から話せばいい?」
 博士はその場に座り込んだ。
「まず博士がどうしてこの様な研究を始める事になったのか・・・からでお願いできますかな?」
「・・・そもそもワシが研究を始めたきっかけというのは身体の不自由な人達の為だった。」
「不自由?」
 シコウは怪訝そうに聞き返した。
「そう、簡単に言えばポケモンの細胞を移植して不自由な部分を正常に近い状態に戻そうというな。だが・・・」
 博士の目が遠くを見る。
「何処で情報を手にしたのかある企業がワシの研究に目を着けた・・・施設・・・資金・・・人員・・・連中は様々な待遇を約束した。だがそれと引き換えに一つの条件を出してきた。」
「我々の手足・・・」
「いや、それは条件の一部だ・・・条件というのは生体兵器の開発・・・ポケモンの力を人間が使える様にするというものだ。」
「それで博士は断りきれなかったの?」
 イルの言葉に博士は苦々しい表情を作った。
「・・・最初は断った。手を貸す気は無かった。その事を連中に伝えた。だが・・・」
 すぐに言葉が出てこない。
 嘘を考えている様子では無かった。
「連中は息子夫婦を監視し始めた。何時でもどうにでも出来るとワシに言ってな。」
「・・・」
 意外にもイルはそれ以上追及しなかった。
「ある日、連中はある化石を二つとほんの微量の緑色の皮を用意していた。」
「グラードン、カイオーガ、レックウザ・・・」
「そう・・・随分と賢いようだね・・・バイツ君。」
「まあ・・・」
 バイツは博士に名乗った覚えは無い。先程のカンベエとの会話が聞こえていたのだろうか。
「さて・・・」
 話を続けようとする博士。
「研究の方はサッパリだった・・・化石や皮から生きている細胞を摘出してそれを被験者に移植した・・・」
 合間に聞こえる博士の溜息。
「初めは人間を超えた身体能力の数値を叩き出した。だが、数日経てば・・・そう・・・何と言えばいいのか人の形を保てなくなってきてな。肉が崩れ落ちていった者もあれば液状化していく者もいた。」
 三人は自らの手足に視線を向けた。
「そして分かったのだ・・・極少数の人間しか細胞に適合しない事が・・・もしくは細胞が人を選んでいたのかもしれんな。」
 再度博士の溜息。
「大体こんな所だ・・・何か質問はあるかな。」

76名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:07:21 ID:eICjZ9OQ
「ドククラゲとかフワライドの能力使っていた連中の事聞きたいんですけど。」
 バイツが真っ先に質問した。
「一応研究の成功例だ。細胞の採取も簡単だった上、君達の手足より成功率はかなり高かったがね。」
「ねえねえ博士。どうしてボクだけに飴くれるの?」
 続いてイルの質問。
「特別な存在だからの。」
「博士、本名が長いのでアーツェ博士と略してもいいですか?」
 今度のバイツの言葉は質問と言うより提案だった。
「うむ。」
「博士、拙者からも質問をよろしいでしょうか。」
 タイミングよくシコウが入ってくる。
「構わんよ。」
「我々三人に細胞を移植させた経緯を教えて頂きたいのですが。」
「うむ・・・大まかに言えば三人共細胞が適合する体だったのでな・・・個々的な理由なら・・・ふむ、最初はシコウ君から・・・」
「拙者で御座りますか?」
「あー・・・アーツェ博士?」
 先程、バイツが提案した呼び名を既に採用しているカンベエ。それはさておき表情が固まっている。
「もしかしてカンベエ・・・言っておらんのかね?」
「こんな秘密は墓の下まで持っていくのが普通だろ?」
 アーツェは先程とは違う意味の溜息を吐いた。
「・・・元々カンベエは組織屈指の殺し屋だった。」
「いやー、お恥ずかしい。」
「だが、ある日組織の幹部の女に手を出した事がバレてな・・・カンベエはすぐさま身を何処かへ隠した。」
「もともと俺はこの里の出だったからな。めでたしめでた・・・」
「大変だったのはその後だ。その女が赤ん坊を身篭っていた。検査の結果その子はカンベエの子供だった。幹部の男には黙っていたがな。」
「まさかその子供とは・・・」
「うむ・・・そして、その赤ん坊にはレックウザの細胞が適合するという結果が出てな。それで、移植して経過は上々だったがある日、研究室からその子が居なくなった・・・」
「自らの身を賭してわが子を助ける・・・いい話じゃないか、なあ?シコウ。」
「では・・・父上一つ聞きたい事が。」
「おう、何だ?」
「拙者が幼い頃に見せてもらった母上と言っていた写真は?」
「ほう?写真なぞ撮っていたのかね?」
「ありゃあ・・・当時流行っていたアイドルの写真で・・・」
「こんのクソ親父!最後の質問だ!墓にゃ何て刻めばいい!」
 キレたシコウが襖の上に飾ってあった二本の槍の内一本を取って、カンベエに突進した。
「お、やるか?シコウ。」
 カンベエもひらりとシコウの脇を跳んで残りのもう一本の槍を手にした。
「ここじゃあ狭いな・・・」
 と、カンベエは障子を開けて外へと逃げる。
「待て!」
 シコウもそれを追って外へ。
「今の内にもう一つ言っておくぞ。シコウお前の持っている情報は殆ど俺の流したデマだ。」
「何!?ならば拙者の推測は殆どハズレ!?憶測なんてものは無かった事になった!?」

77名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:08:17 ID:eICjZ9OQ
「推測ぅ?まあ、お前の妄想になるな・・・待て!悪かったって!」
 槍と槍の刀身がぶつかり合う音とシコウの怒声。それにカンベエの笑いながらの謝罪が室内まで聞こえてきた。
「・・・次はイルか・・・」
 アーツェはイルに視線を合わせた。
「まあ・・・両親が事故死してお前が組織に引き取られた・・・位しか知らん。」
「んー・・・じゃ、殆ど何も知らないって事?」
「うむ・・・スマンのう。」
「絶対嘘だろ・・・ヴェルタースオ・・・」
「何か言ったかね?バイツ君。」
「いいえ。」
「次は君だからな・・・君の話をする前にこれだけは言っておく。」
 妙に真剣なアーツェの表情にバイツは息を飲んだ。
「この話はワシの懺悔の様なものだ、最後まで聞いてくれるか・・・」
「懺悔?一体何の話をしようとしているんです?」
 バイツの問いには答えないアーツェ。そのまま本題へと入っていく。
「突発的な話になるが君は元々長い事生きる事の出来ない身体だった。」
「生きられない・・・?」
「当時赤ん坊だった君は死病に侵されていた。」
「死病?」
「突然細胞が急速に壊死していく病気だったとしか言い様がない。」
「俺は・・・死にかけていた・・・」
「そう、特に右腕が殆ど壊死しかかっていた。」
 遠い思い出を聞かされていく様な感じで話は進んでいく。
「治療法も無く感染経路も不明・・・幸いだったのが感染力が弱かった為、感染者が極小数しかいなかった。時が経つにつれて感染の報告は無くなったが。」
「じゃあ俺はどうして・・・」
「グラードンの細胞だ。君の母君の言う通り古代ポケモンの力は死病に打ち勝った。」
「母さんが?何で博士が母さんの事を?」
「先程君の顔を見た時は驚いたよ、君にはあの二人の面影がある。」
「二人・・・まさか・・・?」
「君の両親はワシの下で働いていた。この研究にも深く関わっていたという事だ。」
「・・・」
「そして右腕に細胞を移植したのも二人の決断の上でだ・・・両親を恨むか?」
「いや・・・父さんも母さんも多分辛い選択だったと思う。」
 そのバイツの言葉にアーツェは頷いた。
「組織にはこの事を伏せておいた。君も暫くは普通の少年として過ごしていたのだろう・・・一年程前までは・・・」
「・・・!」
「・・・ある日、組織に君の事を隠すのが限界に近くなってきた・・・それにワシは怖かった。君が組織に捕まり生体兵器になってしまうのではないか・・・」
「・・・」
 バイツは奥歯を噛み締めた。何故アーツェがあの事件の事を話し始めたのか。
 サーナイトも俯いている。彼女は元々その事件の実行犯のポケモンだった。そして惨劇を起こしたのも彼女。今でも心の奥底では自分を戒め続けていた。
 ふと、バイツの脳裏にあの男の言葉が響いた。
『何故、ショッピングモールを潰したか?簡単だ、あの日にお前らが集まる事を知っていた。親戚ごとお前を潰すことにした!そう、ターゲットはお前だけだったんだよ!』

78名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:08:47 ID:eICjZ9OQ
 ターゲットとあの男は言っていた。
 よく考えればあの時、右腕の事をあの男は知らなかった。いや、聞かされていなかったのだろう。あの男はそうする様に頼まれただけであった。
「ある日君の両親が親戚を招いての食事会を行うと聞いてな・・・そこでワシは重大な・・・そう、過ちを思いついてしまった。」
 アーツェは真っ直ぐにバイツを見詰めて口を開いた。
「ある傘下の組織に君の写真を見せながらある頼み事をした。ショッピングモールを指定した時間にこの子ごと潰して欲しい・・・と。」
 アーツェが口を閉じた頃、眼前でバイツの右腕が止まっていた。
 右腕を止める気など無かったバイツだが、寸前でイルが右手首を掴んで止めていた。
「だが確認が不十分だったせいか君は一人助かったが・・・」
 尚もアーツェの話は続く。
「黙れ!」
 バイツは更に右腕に力を込める。それに比例してイルも右腕に力を込めてバイツを止める。
「ねえ・・・バイツ、キミがそれ程激情的な人間だったなんて知らなかったよ。」
 言葉を返さずにバイツは更に力を込める。
「・・・後ろ向いた事ある?」
 イルの言葉通りバイツは後ろを振り向く。バイツはそこで初めて気が付いた。サーナイト達が必死にバイツを引き止めていたのだ。
 ただ今のバイツではイルに言われなければ気づく事すら出来なかった。彼女達の引き止める力はバイツの力と比べるとあまりにも弱すぎた。
「離してくれ・・・」
 バイツは力無く呟く。
 抑止していた力が全て無くなると、フラリと立ち上がり部屋を出ていった。
「マスター・・・何処へ行くのですか?」
 サーナイトの呼び掛けに返事は返って来なかった。縁側にあった誰かの鞋を履くとシコウとカンベエの父子大決戦の中心部を横切る形で歩き始めた。
「ええい!バイツ止めてくれるな!」
「な?見ろシコウ、誰だって争い事は止めたいだろ?」
「邪魔だ・・・」
 バイツはそれぞれの槍を片手毎に掴んでおもいっきり空に人間ごと放り投げた。そしてまた歩きだす。サーナイトはバイツを追おうとした。
「追ってはあきまへん。」
 ユキメノコがそれを止めた。
「どうしてですか?」
「まだマスターは自分でもどないすればええんか分からないと違います?」
「でも・・・!」
「ウチ等が足引っ張る訳にはいかないんよ。マスターの大事な事どす。」
 サーナイトは言葉を返せなかった。
「どないするかはマスターが決める・・・ウチ等は支える。それでええと思う。」
「ま、考え方としては一つに過ぎないけどね。」
 イルはゆっくりと立ち上がった。
「さて、シコウとカンベエさんを捜してこなきゃ。」
 そして部屋を出ていく。暫くの間静寂が破られる事は無かった。

79名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:09:24 ID:eICjZ9OQ

 ローグは一人研究室に立っていた。
 先日警護をしていた人間はいとも簡単に倒されて、アーツェを拉致された。
 しかし、ローグの顔には薄い笑みが浮かんでいた。
「ここにいましたか。」
 白衣を着た男が早足でローグに近づく。
「博士が消去しそびれたデータの修復が完了しました。」
「そうか、では早速動か・・・」
「それは無理です。」
 男は否定する。
「確かにカプセルの中の連中は戦う事は問題無いでしょう。ただ・・・」
「要点だけを言え。」
「ここからが要点です。個体全てが調整中です。人間の意識とポケモンの細胞。この二つの要素をバランスの良いレベルまで調整しなければ・・・」
 人の意識レベルが強すぎれば力は十分に発揮は出来ない。最悪ポケモンの力が発動しない。
 ポケモンの細胞のレベルが強すぎれば人としての部分が失われ、指示や命令どころか人の言葉を理解出来ない獣になってしまう。
 その旨をローグに伝えたが当の本人が話を聞いている内に椅子に座って机に突っ伏して眠っていた。
「あの・・・」
「おもみもも!?・・・ああ、済まない。で、今すぐに動かせる奴は居ないのか。」
 寝言と同時にローグの口端から涎が滴り落ちる。
「一体のみ上手くバランスを調整出来かけていますが・・・」
「直ぐに起動しろ。」
「保障の限りではありませんが・・・」
「頼んだぞ、これから精鋭部隊とミーティングだ。」
 それだけ言い残しローグはその場を後にした。アーツェの居場所は既に判明している。そこにあの三人も居るだろうとローグは考えていた。勝機があるとは思えない。ただ個体と精鋭部隊が「撒き餌」の役割さえ果たしてくれればいいのだ。
 ローグは待たせてあった車に乗ると小さく笑みを浮かべた。



 屋敷から離れる様に早足で里を歩き始めたバイツ。
 もちろんここら一帯の地理等一切分からない。それでも止まる事を拒む様に足を動かし続ける。
 アーツェの言葉が頭の中に響き続ける。
 気が付けば里の中心部から離れた場所にある野原に立っていた。
 そこでバイツが目にしたのは葉を青々と茂らせた大樹であった。警戒心無く無意識に大樹に近付く。
「おーい、少年。俺だ!カンベエだ!何か枝に引っ掛かって動けない!降ろしてくれやーい。」
 大樹の根本に座り込むバイツ。
「なあ、シコウと仲直りするからよ。だから上だって上。」
 木陰の中だからかそよ風が涼しい。
「おーい助けてって・・・もしもーし。」
 考えが纏まらないバイツ。頭を抱えて考え込む。
「頼むよー!組織の事色々教えるからさー!」
 厄介事があれば最終的には敵を叩き潰すという手段しか採っていない。
「まずローグって奴なんだがこいつは敵のボスでな!」
 ある意味連中にとっては喜ばしい事なのだろう。

80名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:11:32 ID:eICjZ9OQ
「こいつの職業は死の商人ってやつだ!親子代々どこかの戦争に絡んでは莫大な利益を上げている!」
 戦えるという事は兵器としての力は衰えていかないのだから。
「アーツェ博士に研究を強要させたのはローグの先代だ!なんつったっけ・・・まあいい!一部の噂じゃまだ若かったローグが先代を暗殺して組織を乗っ取ったって話だ!」
 柔らかく流れていく風にバイツの長髪が微かになびいた。
「もしかして気付いていないのかなー!よーしパパ特盛頼んじゃうぞー!」
「あなたも百五十円引きごときで妻子連れてあの店行く類の人ですか?・・・と言うよりそこで何を・・・」
「何でこの言葉に反応したんだ?小一時間ほど問い詰めたい。」
 バイツはカンベエに気付くとすぐさま大樹に登っていった。それから二分後。
「やれやれ・・・シカトされてんのかと思っちまった。」
「声を掛ければいいじゃないですか。」
「本当に気付いてなかったのか・・・お前さん、気配を今まで以上に察知出来る様になったんじゃないのか?」
「!」
「何で知ってるのかって顔したな?シコウがそうだったからだよ。あいつも変化してから暫くは気配に異常に敏感になった・・・つーか察知出来る様になった。」
「シコウも・・・」
「後の詳しい事は本人に聞きな。」
 面倒そうに話を切ったカンベエ。
「一つ・・・いいですか。」
「んー?」
「イルはアーツェ博士の・・・」
「孫だ。」
「やっぱり。」
「あまりイル本人にゃ言いたかないがな。両親は事故で死んだ事にされてるみたいだが・・・まあ、事故つったら事故なんだがよ、家が火事になったそうだ。」
「連中・・・組織が?」
「いや、これだけは偶然に偶然が重なった事故だったらしい。なんでも半刺しのコンセントに埃が積もっていてそれがショート。後は分かるな?」
「随分と詳しいんですね。」
「博士が警察からそう聞いたそうだ。んでここからはイルの腕の話になるが・・・」
 カンベエは言葉を切った。
「何処から聞いてやがった?」
 薄ら笑いを浮かべながらの問い掛け。
「さて・・・何の話やら父上。」
 大樹の陰から声が返ってくる。シコウだった。その後ろではイルが浮かない顔をしていた。
「・・・続けるぞ。」
 それぞれの反応は変わらなかった。
「その火事で唯一助かったのがイルだ。だが火傷が酷かったらしくてな長くは持たないと言われていた。そこで博士は最善にして・・・だが博士本人にとっては最悪の選択をした。」
「カイオーガ・・・」
 ぽつりとイルが呟いた。
「そう。だが組織にとっちゃあ人質と兵器が両方手に入ったんだ。博士も負い目があったのか言えないまま組織に従ってたけどな。」
「どうして言ってくれなかったかな・・・」
「負い目があるつったろ。助ける為とはいえ自分の孫を生体兵器にしちまった・・・察してやれ。」
 溜息が聞こえた。バイツかイルかシコウかカンベエか。誰の溜め息かは互いに理解していた。

81名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:12:24 ID:eICjZ9OQ
「博士にゃ内緒な?この話。俺が話したっつー事も。」
 カンベエはそう言うとプラプラと歩き始めた。内心複雑な生体兵器三人組はカンベエの後を力無くついていくのが精一杯だった。
「バイツ。」
「何だ、シコウ。」
「御主、右腕の力を十分に使いこなしていると思った事はあるか?」
「いや・・・まだ分からない事ばかりだ。それに装甲化とやらも全然・・・お前の方が使いこなしているだろう?」
「拙者も御主と同じだ。表面的な力しか使っておらぬ・・・いや・・・未だに使えぬ、か。」
「じゃあ、イルはどうなんだ。」
「別に・・・ボクも似たようなものだし・・・」
「嘘つくなよお二人さん。人間捨てればそれなりの力が出せるだろ。」
「どういう意味・・・」
「シコウもイルもお前より先に変化とやらを体験しているんだぞ?」
「拙者はこの里半分吹っ飛ばしかけたでござる。」
「どっかの土地が水没しちゃった。」
「俺が一番小さいな。被害範囲的な意味で。」
「そういう話じゃ・・・」
 カンベエがそこまで言いかけた時、のどかな里には似つかわしくない轟音が響いた。
「屋敷の方か・・・連中やけに早いな。」
 身を低くして走り出すカンベエ。そしてそれを追うシコウ。
「行くぞ!バイツ!イル!」
 バイツとイルも駆け出す。
 人間の常識を超えた速度で走る四人。だが先頭を走っているカンベエが異常に速く、この三人すらカンベエに追い付くのが精一杯だった。
「ははは!忍者ナメるなよ!」
「ん?忍者?」
「あー、バイツ・・・その事なのだが・・・」
 屋敷に繋がる石造りの階段を上がり切ったシコウは言葉を途中で切った。
 目的地に着いた四人の眼前に広がっていたのは屋敷の庭に出来ていた小さなクレーター。そして所々が壊れている屋敷。
「派手にやってくれやがる・・・」
 カンベエが苦々しく呟くと、避難していた女中の一人が四人に駆け寄ってきた。
「おうおう、そんなに汚れて何があった。」
「それが・・・何かが庭に現れて・・・何かを叫びながら・・・中に・・・」
「おじ・・・博士は?」
「博士は多分中に・・・後ポケモンが・・・」
 その事を聞いたバイツとイルは脇目も振らずに屋敷へ走った。
「待て!」
「シコウ、放っておけあの二人なら大丈夫だろ。俺達はゴミ掃除だ。」
 そう言いながらカンベエは里を見下ろした。
「こちらに気を取られている内にカタを着ける気でしょうか。」
 シコウもカンベエが里を見下ろしている原因に気付き見渡す。
「だが俺達の出番は無いかもな。」
「遊撃隊としての役割は果たせましょう。」
 互いに頷き合うと里へと引き返していった。

82名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:13:28 ID:eICjZ9OQ

 バイツ達が屋敷に戻る十分前。
 屋敷に残されたサーナイト達は一つの部屋である会話を聞いていた。
「・・・ワシがアレを造っていた理由は・・・イルの為でもあった。」
「・・・フン、脅されていたのか?新しい兵器を造らなければ氷の槍で串刺しにすると?言葉を間違えるな自分の為だろう。」
 博士の話し相手はアブソルだった。
「・・・違う。連中がイルを使っていた理由は兵器の他に人質も兼ねていたからだ。」
「人質だと?」
「ワシの・・・イルはワシの孫なのだ・・・」
「下らない冗談を・・・」
「冗談に聞こえるか?」
「当たり前だ!奴の力ならば組の一つや二つ叩き潰せるだろう!」
「だが連中は研究を止めればイルを殺すと脅してきた。どんな手を使ってでも殺す。と。ワシはその言葉が怖かった。それに余計なリスクを負わせたくなかった。」
「だがその所為で何人が死んだ!?それを貴様が知っているのか!」
「今更詫びようとは思わん。」
 アブソルは今すぐにでも目の前の老人の動脈を引き裂き、体を八つ裂きにしたかった。
 だがそれをしなかったのは後ろからサーナイトに抱きしめられたからだった。
「今・・・危ない事を考えていたのですか?」
「ああ・・・」
 アブソルから溢れ出ている抑えきれない程の憎悪の感情。サーナイトはそれを読み取っていた。
「駄目です・・・それだけは・・・」
「ならばどうすればいい・・・ルコやその仲間が受けた苦しみ・・・それを何処にぶつければいい?」
 アブソルはサーナイトから離れて開けっ放しの障子から廊下に出た。
「サナ・・・少し付き合ってくれないか?」
「はい。」
 アブソルの後をついていく形で部屋を出ていこうとするサーナイト。
「殺してくれた方が楽だった・・・」
「貴方も・・・苦しんでいるのですね。」
「済まない・・・この様な言葉しか選べなくてな。」
「分かっています。」
 それだけ言ったサーナイトはアブソルを追って廊下に出た。
 最初の曲がり角を曲がった所にアブソルは座って待っていた。
「あの・・・」
「分からない・・・」
「え?」
「分からなかった・・・奴を殺せばいいのか・・・」
 サーナイトもアブソルの傍に座る。
「でも・・・ルコはそんな事を望んでいない気がしてな。」
「アブちゃん・・・」
「分からない・・・私には・・・」
 そっと、アブソルを抱き寄せるサーナイト。アブソルも抵抗なくサーナイトに寄り添う。
「一つだけ・・・お願いがある・・・」
「いいですよ。」
 サーナイトが承諾した瞬間、アブソルはサーナイトの胸に顔を埋めていた。
 微かに聞こえる嗚咽は行き場の無い怒りをどうすればいいのか分からない叫びの様なものであった。

83名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:14:07 ID:eICjZ9OQ
 ただ優しく抱きしめるだけしか出来ないサーナイトだったがアブソルには何よりも心地いいものだった。
 その時、庭の方から静かな時間を割くような轟音が響き渡った。
 アブソルが紅い目を更に紅くした顔を上げて辺りを見渡した。
「庭の方か・・・」
「ええ。」
 サーナイトとアブソルは庭の方に出る。
「サナお姉ちゃん!アブお姉ちゃん!」
 クチートも二人の後から来る形で庭の方に出て来ていた。クチートだけでなく、ムウマージ、ミミロップ、ユキメノコと数人の人間も庭に出て来ていた。
 眼前には小さなクレーターが出来上がっておりそこから土煙が出ていた。クレーターの中央にうっすらと人影が見えた。徐々に煙が晴れていく。
「グ・・・ガ・・・」
 確かに人間だった。だがその巨体は重厚な鋼の鎧に覆われていた。
「馬鹿な!まだ調整途中だったはずだ!」
 部屋から様子を見ていただけのアーツェの顔色が変わった。
「何故ここにいる!「ボスゴドラ=タンク」!」
 口にしたのは本名では無く研究室に居た時に付いたコードネームだった。
「い・・・た・・・ター・・・」
 巨体は思えない速さでアーツェの目の前まで接近する。
 アーツェを捕まえる為、腕を伸ばしたタンク。真っ先に反応したのはアブソルだった。空中からタンクの腕目掛けて頭部の鎌を振り下ろす。火花が散り腕の動きが鈍る。おかげで腕をかわす事ができたアーツェ。
 アブソルはタンクの前に着地した。
「何故?」
 アーツェの問いにアブソルは頭を横に数回振った。
「分からない・・・だからどうすればいいか分かるまで貴様は連れていかせない。」
「だ・・・れ・・・だ・・・」
「私達の家族です!」
 と、アブソルの横に並ぶサーナイト達。臨戦態勢は整っている。
「お前達・・・」
「サナお姉ちゃんの真似してるの?」
「いや・・・真似とかそんなものじゃ・・・」
「うう・・・どういう意味ですかクーちゃん。」
「一人で突っ走っちゃうって意味!」
「悪いとこばかり真似るのはあかんよ。」
「さ、貴方は奥へ逃げた方がいいのじゃないかしら?」
 アーツェはムウマージの言葉に頷き屋敷の奥へ。
「生半可な攻撃どころか物理的な攻撃はほぼ効かんぞ!」
 遅すぎるアーツェの警告にサーナイト達は半歩下がった。
 腕を振り回すタンク。柱は簡単に折れ壁は砕け襖は破れる。サーナイト達も距離を離しながら反撃の機会を伺う。だが飛び散る破片に邪魔され手出しが出来ない。
 その時破片に紛れて何かがタンクの装甲で覆われた顔面に一撃を叩き込んだ。
「今回は間に合った筈だ。」
 長い黒髪が靡いた。
 バイツがサーナイト達とタンクの間に立っていた。
「なあ、俺間に合ったよな。」
「ギリギリだよ!」

84名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:14:37 ID:eICjZ9OQ
 ミミロップが涙目になりながら叫んだ。
「悪かったよ。」
「・・・お・・・ま・・・」
「今まで殴った中で一番硬いな。また俺達の後輩さんか?」
 立ち上がろうとしたタンク。しかし、先程の一撃で脳を揺らされて足に力が入らずに膝をついてしまう。
 そこにイルが現れた。だが、その顔にはいつもの無邪気な笑みは無く無表情だった。タンクには一瞥をくれるだけで真っ直ぐアーツェに近づいた。
「・・・博士、大丈夫?」
 この時はイル自身が言葉を選んでいた。まだ祖父という実感が湧いていない訳では無く、アーツェの心中を察しての事だった。
「う・・・うむ・・・」
「イル・・・」
 余計なお節介だと思ったバイツは口を閉じてタンクの方に向き直った。
 巨体がゆっくりと動く。
「お・・・ま・・・」
 様子がおかしい。その事について口に出したのはイルだった。
「博士、何こいつ・・・」
「まだ奴は起動には早かった・・・調整途中だった奴を無理矢理起こしたから脳にダメージがいったのだろう。」
「お・・・れ・・・と・・・お・・・な・・・じ・・・」
「元に戻す方法は無さそうだな。」
「脳細胞が壊れている上に実験途中だったのだ・・・救う方法は無い。」
「連中の思い通りか・・・」
「バイツ?どういう意味?」
 タンクの左腕による一撃がバイツに襲い掛かる。
「マス・・・!」
 サーナイトは叫びかけたが途中で言葉を止めた。
 鋭く豪快な一撃を放ったタンクの腕をバイツは右脇で挟みこんで止めていた。それどころかそのままタンクの二の腕の下に右腕を外側から回し込み力を上に入れる。金属が折れた様な音が響いた後、タンクの叫び声が聞こえた。
 左腕の装甲は割れ、赤黒い膜と液体を晒しながら灰色をした骨が現れた。更にバイツは膝を蹴り砕き、タンクを床に這わせた。
「信じられん・・・ここまでとは・・・」
「まだ実戦投入は先の話なんでしょう?」
「うむ、だが机上での計算ならば88ミリ砲の直撃すら防ぎ切る事が・・・」
「机上と実戦の違いだな・・・」
 バイツが無理矢理話を締めて、まだ叫んでいるタンクの首の辺りをを右手で掴み締め上げる。金属が歪む音や割れる音と反比例して叫び声がどんどん小さくなっていく。
 右腕が締め付ける力は弱まるどころか徐々に強くなっていく。それにつれて得体の知れない攻撃的な感情が湧き上がってくるのを感じたバイツ。
『いや、俺の所為にしないでね?』
 グラードンの声が聞こえたような気がしたがそんな事はなかった。と、バイツは思っていた。
 断末魔の叫びを上げられないまま、首が一段と高い音を上げた。刹那、バイツの耳に微かな言葉が聞こえた。
「マスター・・・何もここまで・・・」
 サーナイトの言葉だった。
 声は震え、体も微かに震えている。
 それはサーナイトだけに限った事ではなくイル以外の全員がバイツに畏怖の念を抱いた視線を送っていた。
「サーナイト・・・でも・・・もう駄目なんだ・・・」
 荒れ果てた屋敷を出ようと外に向かって歩き出したバイツ。だがサーナイト達はついていこうとはしなかった。
「連中を叩き潰す・・・」

85名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:15:54 ID:eICjZ9OQ
 その呟きは殺意に満ち溢れ、誰の耳にもしっかりと届いた。
 外に出たバイツを待っていたのはシコウと老人が数人と縛り上げられた十数人の人間だった。
「観光客じゃなさそうだな?」
「バイツ・・・博士は?」
「中に居る。何か聞き出したのか。」
「いや、連中口が堅くてな。」
 縛り上げられている一人の近くにバイツは屈み込む。
「目的は博士か?」
「・・・」
 目の前の男は何も喋らない。バイツは溜息をつくと突然その男の隣に縛り上げられている男の首を右手の手刀で跳ね飛ばした。首が地面に落ち、返り血がバイツを染める。その光景を見た誰もが突然の惨劇に思考を停止させた。
「バイツ!」
 シコウが叫ぶのは当然だった。だがそれを無視してバイツは何も喋らなかった男に質問を繰り返した。
「博士と・・・お前達だ・・・」
 男は震え上がった。眼前の少年が得体の知れない「何か」に見えて仕方が無かった。首の無い仲間の鮮血を浴び続けているのは気にもならない。
「連中の手は掴んだか。」
 何処からかカンベエが現れる。
「博士に仕掛けられた発信機をあえてそのままにして連中に手を出させて何人か捕まえるだけのつもりだったが・・・」
 半分崩壊している屋敷を眺めて口を開く。
「まさかここまでやられるとはな・・・」
「もう進むしか・・・無いんだ・・・」
「先走るなよ・・・今日は疲れた。」
 丁度イルに連れられてアーツェが外に現れた。カンベエはアーツェの右耳の後ろに手を伸ばす。
「発信機ですよ博士。」
「狙いはワシか・・・」
 アーツェから離れたカンベエは指先を二、三度弄る。
「よくもまあこんな小さい物で・・・シコウ。」
「何か。」
「ひとっ飛びしてこれを捨ててこい。」
「分かりました。」
「カンベエ・・・」
「今日はゆっくり休みましょうや、爆発寸前の小僧のガス抜きを兼ねてね。」
 バイツは何も言わずにただ小さく溜息を吐くだけであった。



 ローグが自分のビル最上階にあるオフィスに戻り予定通りの結果を待っているその数階下の部屋には二つの影が動いていた。
「んのヤロウ・・・本当にここの連中が何か企んでんのかよ。ごく普通の会社じゃねえか・・・裏でとり扱っている商品を除けば。」
 影の一つであるヒートが小さな声でぼやく。
「君に嘘ついて望みもしない入院生活の恐さを知っているからそんな事は無いと思うよ?」
 もう一つの影であるライキは部屋の中設置してあったパソコンを立ち上げデータを引き出していた。
 主な光源が無く薄暗い室内で、パソコンのモニターの光だけが二人を照らしていた。
 何故、ここに二人がいるのか。
 手当たり次第に「そういう人間」に何を恐れているのかを聞いた所、このビルの場所だけを口にした。二人は企業にしては異常な程のセキュリティを静かに突破し、現在資料保管庫と呼ばれる場所で情報収集の最中だった。

86名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:16:28 ID:eICjZ9OQ
「ん?何だろこのファイル。」
 ライキがモニター上に見えた奇妙なファイルに目を向けた。マウスでカーソルを動かしファイルをクリックする。ファイル内にある画像が展開された。
「・・・これは・・・ありえない!」
「でけー声出す・・・何だよそれは!」
 画像を見て取り乱す二人。
「ありえない・・・!こんな・・・こんなものは!」
 画像ファイルだけかと思いきや、一つのテキストファイルが紛れ込んでいた。恐る恐るテキストを開く。
「・・・!」
 その文字列を取り付かれたかの様に眺める二人はゆっくりと開く部屋のドアに気付かなかった。
 部屋の中に現れたもう一つの影。
 ゆっくりと二人の「侵入者」に近づき腕を伸ばす。
「・・・!」
 テキストに釘付けになっていた二人は腕に気づいたが反応が一瞬遅れた。


 夕焼けが半壊した屋敷を橙色に染め上げる。
「おーい!バイツやーい!」
 カンベエの声に里を見下ろしていたバイツは振り向いた。
「お前さん一人で連中の本拠に乗り込むつもりか?なんつーか雰囲気で分かるぞ。」
「もう・・・後に引く訳にはいかないんです。」
「流石の俺も何が待ち構えてるか分からない・・・それでも行くか?」
 バイツは頷く。
「一つ・・・いや、二つお願いが・・・」
「言ってみな。」
「シコウを貸して下さい。」
「一人で乗り込む気ねえな?まあいい、持って行け。」
「ありがとうございます・・・で、もう一つのお願いは・・・」
「分かってるよ、一声掛けて行けよ?一から説明するのは面倒だからな。」
 言いたい事を分かっていたのだろうか、カンベエはそれだけ言うとまた何処かに向かって歩き始めた。バイツもまた歩き始める。
 今までは一緒に居て、一緒に楽しんで、一緒に苦しみを分かち合った。自分の所為で何度も危険な目に遭わせてしまった。それでも一緒に居てくれた。だが、今度ばかりは今までとは違う。人の業が生み出した兵器との戦いになる。こればかりには巻き込む訳にはいかなかった。帰って来れるかすら怪しい。
「サーナイト・・・クチート・・・ムウマージ・・・ミミロップ・・・ユキメノコ・・・アブソル・・・」
 言いたくは無い。例え、一人で呟く形になっても口にはしたく無かった。言わなければならない時はずっと先だと思っていた。しかし、二度と会えなくなるかもしれない。だから言わなければならない。
「さようなら・・・」

87名無しのトレーナー:2010/09/12(日) 00:42:34 ID:eICjZ9OQ
十章はここで終わり
誤字脱字あったら脳内ほk・・・

ブボボ(`;ω;´)モワッ

>>57
ほう、何と良い面構えだ。君のような人材を求めていたんだ

・・・この台詞がホモビのスカウトっぽく聞こえてきた私は病院にいくべきでしょう

>>Mr.L氏
実はグラードンの性格は小足見てから昇竜余裕の人の動画を見ている最中に思いつきました。
それであんな事やこんな事をやらせようと思いましたが力尽きました

88リバースマサト:2010/09/13(月) 03:45:07 ID:gN8MKgYo
お久しぶりです。
今回は色々な謎が解き明かされた重要回でしたが、
"あのキャンディーのCM"ネタが妙な後味を…。
でも嫌いじゃないワッ!嫌いじゃないワッ!
つうかイルもシコウも装甲化経験済みとは…。
しかも動機がドラゴンボー…ぅあなにするやめry!?
前回僕はV3を特訓する1号2号展開だと思ったのが的中するかと思ったけどそんな事は無かったぜ!
そして"アツアツ博士"改め"アーツェ博士"、
まさかイルのおじいちゃんだったとは…。
そしてシコウのパパ上、カンベエさん。
フランク過ぎっ!?そしてニンジャー〜〜ッ!?
忍者はシコウから薄々予想出来ましたが、あのテキトーっぷりは予想外デス。
バイツ、イル、シコウ。能力を与えられた経緯はそれぞれ。
しかしバイツは命まで繋ぎ留める役割まで果たしていたとは…。
その右腕は両親(主に母親)の願いをも背負い、
今やバイツだけでなく彼の家族や仲間達をも守る力となっているとは…。
しかし、一人別れを呟き家族のもとを去るバイツ…。
がぜん次回が待ち遠しいです!!
そして空気脱出おめでとうガーディ君。
つーかライキ、ヒート後ろ後ろ〜〜ッ!?
待て、次回!!ならぬ待つ、次回!!
そうそう、前回からちびちびイラスト描いておりますが…順調に…遅れております!(爆)
なんとか全てのイラストの(水色方眼紙に)下書き、ペン入れ、モノクロコピー(方眼消しとミスに備えた措置)まで終わらせて着色開始…。
後日まとめて再投下させていただきますが、
とりあえず仕上がった二枚をどうぞ。

バイツ戦闘中
http://b.pic.to/13nn3f

グラバイツ(バイツ装甲化)
http://q.pic.to/14f3kc

こんな感じですがいかがでしょうか。
ご不満などを指摘して頂ければ、後日の再投下の際に修正されているかもしれません。
それではこれにて、
ばいなぁ〜♪

89管理人★:2010/09/29(水) 00:18:51 ID:???
バイツの人乙です。
いよいよクライマックスに近付いて来てますね…願わくばみんなに幸せな結末が訪れることを。

リバマサ氏も乙です。
現在このBBSで唯一絵を描ける方ということで、なんなら専属絵師にでもなっていただきたいくらいの勢いです。
専属絵師の仕事?えっと、描きたい絵を描いてもらってそれをたまに貼ってもらえれば…あれそれ今までと変わらなくね


最後に、自分の作品の二話目書き上げるまで一切の書込み禁じて管理人としての仕事のみに徹していました私ですが、やっと携帯スレに投下しましたのでここで宣伝させてもらいます。それではまた。

90Mr.L:2010/10/05(火) 19:48:46 ID:fT1qa5mo
どうもっ!Mr.Lです!
我ながら…読んだの遅っ…;
投稿日が一ヵ月前じゃないか…!;


バイツの方→
…凄く大きいです(話が)。
バイツの過去(実は両親が…!)/イルとアツイ博士の関係(イルは博士の孫でしたか…!)/シコウの親は忍者(しかもテキトー!?;)
バイツは仲間と別れて一人で組織に乗り込み―
仲間を巻き込みたくない…分かります。
イヤァ…ソレニシテモ、バイツエゲツナイシ…グロイネ…。←(否定的な意味では無いですけど

そしてウ゛ェ ル オ リ キ タッ!!
ワタシハ特別ナ存在ナノダ
この言葉が分かった(若しくは聞いた事がある)なら画面の前のアナタもニコ厨ですね、分かります。
たまに自分も使います、ニコニコネタ。
いや;バイツの方がニコ厨でなかったらごめんなさい;
そしてグラードンのネタを思い付いたという動画が分かりません;重ねてすみません;
感想になって無いと言うか暴走してますね、更にすみません;
謝ってばかりですみません;←謝りを重ね過ぎですよ、逆に嫌味です。by.ミーシャ


リバースマサトさん→
絵を見ましたよ〜!
一枚目を見た時に某地獄先生が頭を過ぎりました…!
二枚目…何だろう…取り憑かれた感が伝わりました…。←意味不明だよ…?;by.ミク


う〜ん…未だに感想が下手くそだ。
ではっ!

91名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:44:07 ID:eICjZ9OQ
稲船ライジング2が予想以上に長持ちしなかったので何故かハイペースで進んだ小説。
IDも変わっているだろうけど察して下され。

92名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:45:03 ID:eICjZ9OQ
 夕暮れが辺りを橙色に染め上げた。
 畦道を二人の人間が歩いていた。
「・・・おい、バイツ。」
 目の前の男に名前を呼ばれ、バイツはハッと頭を上げる。
「呆けてんじゃねーぞ?」
 バイツの目の前にいた男。カンベエは意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「出発はもう少ししてからだ暗い方が何かと動きやすいだろ?」
「はい。」
「じゃあそこの小高い丘があるだろ?あそこに来いよ。んでやる事ちゃんとやっていけよ。」
 カンベエが指差した小高い丘にはシコウが空を見上げながら立っていた。
「分かっています。」
 返事を聞くや否やカンベエは煙の様に消えていた。



 バイツは一人畦道を歩く。
 造作も無く積まれている高さが一メートル程の木箱の上に白い影が見えた。
「アブソル・・・」
 真っ直ぐに木箱の上に座りながら沈んでいく夕日を眺めていたアブソル。声を掛けられてようやくバイツに気付いた様であった。
「マスターか。」
「隣いいか?」
「ああ・・・」
 承諾を得たバイツはアブソルの隣にゆっくりと腰を下ろす。
「何か面白いものでもあるのか?」
 バイツも山々に沈んでいく夕日に目を向けてみるが別段変わった物でも無かった。
「デリカシーが無いな・・・」
「悪かった。で、何を見ていた?」
「夕日だ・・・久しぶりに沈む様子を見ていた。」
「ふーん。」
「なあ・・・一つ聞いてもいいか?」
「さっきの事か?」
 ボスゴドラの細胞を移植され、重装甲を纏った人間。誰も歯が立たなかったそれを簡単に始末したバイツ。力尽きる際その人間は「ありがとう」と微かに呟いていた。 
「それも含めてだな・・・」
 アブソルの視線がバイツに向けられた。
「命を奪う・・・いや、先程の様に命を捻り潰して・・・マスターには何が残った?」
「・・・」
 咄嗟に答えが出ないバイツ。
「百人から先は覚えていな・・・」
 アブソルの鋭い視線がバイツに突き刺さる。
「分かった・・・」
 どこぞの羅将の台詞を拝借したバイツだがウケが悪いので途中で止める。
「業・・・ってやつかな。ま、いつか俺だってあんな死に方するかもしれないけどな。」
「どうして・・・どうしてそういうふうに軽く言える!」
「化け物だからだよ・・・俺も。」

93名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:45:33 ID:eICjZ9OQ
 アブソルはその弱気な言葉にキッとバイツを睨み付けたが悲しそうな笑いを浮かべるバイツにそれ以上の追求は無かった。
「例えそう言っても・・・マスターはマスターだ・・・私は・・・」
 上手く言葉にするのが出来ないのか途中で言葉を止め、先程よりも沈んだ夕日に顔を向ける。
「ありがとうな、いつも真剣に話してくれて・・・」
「当たり前だ!そもそも・・・」
  アブソルが再度振り向くがバイツの姿は無かった。
「マスター・・・」



 ユキメノコは溜息を吐きながら暗くなった辺りを見渡した。
 昼間に小さな子供達が遊んでいそうな小さな原っぱに佇む。何故かバイツの所に戻りづらいユキメノコ。
「何をしているんだ?」
「きゃう!」
 急に後ろから声を掛けられて驚いたユキメノコ。声を掛けたのはもちろんバイツ。
「マ、マスター・・・驚かせんといて。」
「はは・・・」
 ユキメノコの驚き様にバイツは乾いた笑いを返すだけだった。
「驚かされるのには慣れていないのか?」
「ウチは殆ど驚かす側。驚かされるのに慣れる訳ありまへん。」
「そうか・・・そうだな。」
 さらりと草が風に揺れた。
「ウチ・・・どないすればええのかわかりまへん。」
「何が?」
「さっきの事・・・」
「・・・」
 どうにも気が滅入る。だが、それは彼女達にとっても同じであった。
「ウチはマスターが悪いとは思ってない・・・思いたいけど・・・」
「何かが引っ掛かる・・・か?」
 先取りされた台詞に頷くユキメノコ。
「何時だって俺が正しい選択をするとは限らない。」
「・・・アレは間違うた事って思っとるの?」
「さてな・・・それに何を基準にして善悪を決めればいいのかサッパリだ。」
「何や、しんきくさい話になりそうやわ。でも先に言わせて・・・」
「ん?」
「ウチがマスターを信じる気持ちは変わりまへん。」
「ありがとう。それに・・・」
 バイツは肩を竦める。
「小難しい話をするのは俺もゴメンだ。」
「そうやね。それがええよ。」
「ユキメノコ。」
「何?」
「皆の事・・・誰か悩んでいたら優しいフォロー頼むな?」
「え?」
 その時、一陣の突風が吹いた。静かに揺れていた草葉が乱暴に揺れる。
 ユキメノコは一瞬目を瞑った。再び目を開けるとそこにバイツの姿は無く、ただ静かに草葉が揺れるだけであった。

94名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:46:03 ID:eICjZ9OQ



 完全に日が沈み辺りの家が明かりを燈し始める。
 その様子をバイツは歩きながら眺めていた。
 急に立ち止まる。後ろに何かの気配を感じる。隠そうとしているのは分かるがどことなく半端だ。気付いてほしいのか。
 駆け出すバイツ。後ろの気配もそれに気付いて駆け出した。数十メートル走った先にあった家が建ち並んだ見通しの悪い曲がり角をバイツは曲がった。
 そして気配の主も曲がる。しかし、先を走っているはずのバイツの姿は見えない。
「何処行っちゃったの?」
「上だよ。ミミロップ。」
 バイツの声に上を見上げた気配の主であるミミロップ。いつの間にかバイツは屋根の上に上がっていた。
「もしかして・・・気付いちゃってた?」
「もう少し上手く気配を隠すべきだな。」
 バイツは屋根から飛び降りてミミロップに向き直る。
「やれやれ、とんだ鬼ごっこだ。ここから歩くか?」
「それってデートのお誘い?」
「ん?ああ、そうだな。」
 真顔で答えるとミミロップは照れ臭そうに俯いた。
「うん・・・」
 川沿いの道を歩く二人。何時もは元気良く先導するミミロップもバイツと歩調を合わせて歩いている。
「ねえ・・・」
「ん?」
「マスターのさ、許す許さないの基準って・・・何?相手が憎いとか?」
「どうした?急に。」
「さっきの戦いを見てさ・・・あたし達を襲ったあの人は・・・」
「あれは許す許さないの問題じゃない・・・あれは・・・」
 言葉が続かない。
 自分は兵器にされてしまったあの人間を助けたという事なのか。
 それとも無意識の内に出来損ないの兵器を壊したかっただけで助けようなどとは思わなかったのか。
 それどころかこれしか助ける方法がこれしかなかったと最初から決めていたのではないか。
 バイツは自分に問い掛ける。
「マスター?」
 ミミロップの声に我を取り戻したバイツは頭を振った。
「・・・なあ、一つ聞いてもいいか?」
「いいよ。」
「もし誰かが憎いって感情が抑え切れなくなった時、ミミロップならどうする?」
「んーと・・・誰かに助けてもらう・・・かな?あの時のあたしを抱き寄せてくれたサナサナみたいに。」
 ミミロップは一度人を殺しかけた事があった。自分を裏切った前のトレーナーを折れた刀で刺そうとしていた。だが間一髪で庇ったサーナイトに諭されミミロップはトレーナーを傷付けずに手を汚さずに済んだ。
「・・・いい答えだ。」
「うん!」
 バイツは立ち止まる。
「今度はミミロップが誰かを助ける番だな。お前の明るさなら出来るさ。」
「じゃあ、あたしもマスターを・・・」
 ミミロップが振り向けば追い越したはずのバイツの姿は無かった。

95名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:46:37 ID:eICjZ9OQ



 満月を見上げたムウマージ。ふと、池を覗き込む。水面に自分の姿と満月が浮かんだ。
 何もしていないはずなのに波紋が広がる。
「悪い人ね、後ろからこっそりなんて。」
 ムウマージの言葉に答えるかの様に波紋が収まった水面にもう一つの影が映った。
「悪かった。どうにもこういう近付き方になるらしい。」
 バイツも月明かりを背に水面を覗き込んでいた。
「不思議よね・・・人間って。」
「何が?」
「私を捨てていく人もいれば寄り添ってくれてずっと近くにいてくれる人もいる。」
「お気遣いありがとう。だが俺は人という部類に入るのかな?」
 バイツの質問にムウマージは笑った。
「私はずっと人間らしいと思うわ。」
「右腕の力を加えて・・・だ。」
「・・・ねえ、力があるって時々重荷になるのかしら?」
「まあ・・・だが、あんな事態になれば頼れるものさ。」
「その力がこんな事態を招いているのに?」
「耳が痛いな。」
「でも私も力が欲しい・・・皆を護れる力が・・・」
「時々サーナイトみたいな事を言うよな。」
「あら、私はマスターを真似しているつもりよ?」
 その言葉にバイツは苦笑した。確かによく考えれば自分が口にしている言葉だ。
「でもね・・・強ければ強いほど敵が出来たら同じ様な力をぶつけて来ると思うの。」
「何が言いたいんだ?」
 振り向いてじっとバイツを見つめるムウマージ。
「マスターは敵を作るほどの力があって良かったと思ってる?」
「皆が傷付いていくのを何も出来ないまま指をくわえながら見ているよりはマシだ。」
 即座に返ってきた答えに、ムウマージは再度笑って見せた。
「そういうマスターにも出会って見たかったわ。」
「全く・・・ま、俺が普通の人間だったらこんな事にはなっていなかったな。」
 バイツは自分が招いてしまった境遇に溜息を吐いた。
「ムウマージ、お前は賢い。皆を正しい方向に導いてやってくれな?」
「当然よ。だって・・・」
 照れ隠しの為に水面を再度覗き込んだムウマージ。だがそこにもうバイツの姿は映っていなかった。



 里を少し離れた小道を歩くバイツの先には左右二つの道があった。
 左は竹林に続く暗い道。右は里の中心へ向かう道。バイツは里に戻ろうかと里への道へと足を向けた。
 だが、それ以上は進まずに竹林へ向かう道に視線を向けていた。
 微かに音が聞こえてきた。その音が気になったバイツは踵を返し竹林へ向かって歩いて行った。
 月明かりが満足に届かない鬱蒼とした竹林の中で歩ける道を上手く探し歩く内にどんどん音が大きくなっていった。乾いた何かを叩く高い音。それだけバイツは理解して更に歩き続けた。
 ふと、月明かりがバイツの目に飛び込んだ。どうやら竹が集中的に生えている地帯から疎らに生えている地帯に入った様であった。

96名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:47:09 ID:eICjZ9OQ
 その内の一つの竹から音が聞こえて来る。その竹の前では小さな影が何かを振り回していた。
「クチートか?」
 バイツの声に小さい影は反応し、動きを止めて振り向いた。
「あー!マスター!」
「こんな所で何やって・・・」
 バイツはこちらに向かって走ってくるクチートの手にしている物を目にして固まった。どこで手に入れたのか抜き身の日本刀である。
「な・・・何か悪い事した?俺。」
「どうしたの?」
「いや・・・その手にしている得物は・・・」
「落ちてた。」
 竹林に日本刀を放置しておくなど呆れたものである。
「それで・・・何をしていた?」
 バイツは恐る恐る伺う。
「テレビでやってた事やって見ようと思って。」
 数日前、そんなテレビ番組を見た様な気がしたバイツ。その時一番食いついて見ていたのはクチートだった。
「でも出来ないの。」
「危ない事をしない方がいい。」
 クチートに手を差し出すと大人しく刀を差し出した。バイツは刀身を眺めた。所々刃が欠けている。
「どんな使い方したんだか・・・」
 バイツは先程までクチートが斬撃を打ち込んでいた竹の前まで歩くと瞬時に刀を横に振り抜いた。
 先程響いていた音よりも高い音が響き渡り竹が倒れる。
「勝手に倒したらまずかったか?」
 倒れた竹を前に少し気まずい顔をして人差し指で頬を掻く。そこでクチートが倒れた竹に近付き後ろの大顎で噛み砕き始めた。
「最近硬いのかじってないから。」
 万遍の笑みでバイツを見上げるクチートにバイツも静かに笑った。
「マスター、一つだけ聞いていい?」
「ん?どうした。」
「あたし達と会わなかったらどんな事してたと思う?」
「どんな事・・・か。」
 少なくとも今より犠牲者が多くなる事は明確だった。
「多分・・・もっと酷い事をしていたんじゃないかな。」
「何それ?酷い事って?」
「深く考えなくてもいいよ。今は皆と出会えた・・・」
 バイツはクチートの頭を撫でた。
「だから俺は・・・」
 言葉を止めてクチートの頭から手を離すバイツ。
「俺は・・・」
 不思議そうな顔でバイツを見上げるクチート。辺りには風のざわめきと大顎が竹を咀嚼する音だけ。
「皆を護る・・・でしょ?」
 その言葉を口にしていいのか。少なくとも荒事に全員を巻き込み続けている今の自分には似合わない言葉なのかもしれない。
「なあクチート。お前の新しい発見や新しい知識を皆の役に立ててくれ。」
 一際激しい風が竹の葉を舞い上がらせる。
「わっ!」
 咄嗟にクチートは一瞬目をつぶった。そして、葉が地面に落ちる頃にはバイツはその姿を消していた。

97名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:47:39 ID:eICjZ9OQ



 雨の降る夜だった。
 そこで二人は出会った。
 互いに惹かれ合いパートナーになった。
 隠されていた非情で残酷な真実を知るが二人は離れなかった。
 そして、幾つもの危機を越えた。
 二人の絆は特殊な物だった。
 片や人間。片やポケモン。普通では考えられない事。
 だが、二人の間柄は言葉では言い表す事が出来ない程深かった。
 サーナイトは一人月明かりに照らされる大樹を見上げた。
「私達・・・出会いから劇的でしたね。」
「ああ、雨に打たれながら傷だらけで倒れていたからな。」
 月明かりに照らされた地面にもう一つの影が映り込む。バイツである。
「色々あったな・・・」
「ええ・・・色々と・・・」
 流れる沈黙。気まずい雰囲気とは違う。
「ゴメン・・・俺の右腕のゴタゴタに巻き込んで。」
「いいえ・・・」
 サーナイトは悔しそうな顔をして俯く。
「私も覚悟が足りませんでした・・・!先程私はただ怯えていました!マスターを・・・貴方を護るべきはずなのに・・・私は・・・私は・・・!」
「アレは俺達の問題だ。」
「例えそうだとしても私はマスターを護りたいのです。私には・・・それしかないのですから。」
「・・・命懸けだな。」
 人事の様にバイツは口にしたが一番その言葉を恐れていた。
「じゃあ俺も皆を護るよ。」
 堂々巡りでいつもの結論にたどり着く。
「その言葉が出て来るという事はいつものマスターですね。」
「ああ、まだ「俺」だ。」
「・・・良かったです。」
 サーナイトはやけに落ち着いた様子で会話を続ける。
「これからどうしますか?」
「とにかく連中と決着を付ける。」
「そうですか・・・では私も微力ながら手伝わせていただきます。」
「・・・」
 その言葉をどうにも受け止め切れなったバイツ。どう返せばいいのか分からない。
「マスター?」
「いや、何でもない。」
 バイツは夜空を見上げた。
「こうしてゆっくりしていたかったな・・・ずっと。」
「え?どういう意味です?」
「深い意味は無いよ。刺激的な毎日は素敵かもしれないが少し疲れる。」
「あら?マスターは十分楽しんでいると思ったのですけど?」
「大して代わり映えの無い日々の方が好きなのさ。サーナイトの方がそういうのに憧れているんじゃないか?」

98名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:48:14 ID:eICjZ9OQ
「私も平穏な日々が一番ですよ。それが無理でもマスターと一緒なら何処までも。」
「ハハ、どうしても苦労掛けそうだな。」
「構いません。どんどん掛けていただいても結構です。」
「じゃあどんどん頼むかな。」
 急にバイツはサーナイトを抱き寄せる。
「俺が居ない時に急場になったら皆の事を頼む。」
「分かりました・・・」
「ありがとう。今まで一番お前に苦労を掛けさせてしまった。そしてこれからもだ・・・許してくれ。」
「大丈夫ですよ。」
 二人は顔を見合わせた。
「埋め合わせさえして頂ければ。」
 冗談半分の言葉の返事代わりにバイツは短くサーナイトに唇を重ねた。
 その際サーナイトは瞳を閉じていたが再び瞳を開いた時にはバイツの姿は無くなっていた。
「マスター・・・」
 サーナイトは嫌な予感がした。



 前もって指示されていた小高い丘にバイツが姿を現した時、先客が二人待っていた。
「随分遅いじゃねえか?」
 カンベエが意地の悪そうな笑顔をバイツに向けていた。その隣に立っているシコウは夜空を見上げている。
「お願いします。」
 バイツは六つのモンスターボールをカンベエに手渡す。
「やけに弱気だな。お守り代わりに持って行けよ。」
「いえ、全てにケリが付いたら返してもらいます。」
「・・・分かった。で?お前も行くんだろ?イル。」
 バイツは振り向いた。イルが歩いて近付いてくる。
「博士にゃ何て言ってきた?」
「終わらせてくるって・・・それだけ言ってきた。」
「血の繋がりについては言ってねえみたいだな?」
「うん・・・全部終わったらカンベエさんに教えてもらったって言うよ。」
「おいおい・・・」
「準備は終わったと見てよいか。」
 シコウの声にバイツは頷く。
「ああ、頼む。」
「おい、シコウ。」
「何で御座いましょうか父上。」
「派手にかましてこい。」
「承知しました。バイツ、イル、拙者の手をそれぞれしっかりと握れ。」
 バイツとイルがシコウの手をそれぞれ握った瞬間三人の足は二名分の絶叫と共に地面から数十メートル程離れていた。
「途中で一人落ちるなありゃあ。」
 三人を見送りながら縁起でも無い事を言うカンベエだった。



 半壊した屋敷内でサーナイト達は首を傾げていた。

99名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:49:06 ID:eICjZ9OQ
 正確に言えば損傷が無い部屋にだった。半壊した屋敷に戻るとカンベエがそれなりに広い部屋を割り当ててくれた。
 クチートが襖を少し開けると廊下の所々に開いた大穴から少し寒い風が行灯の炎を揺らしながら室内に流れ込む。
「えっと・・・私を最後にマスターを誰も見ていないという事ですか?」
「うん。」
 簡潔に答えたクチートは誰も来る気配が無い事を察したのか襖を閉じた。
 バイツの姿が何処にも見当たらない。彼女達を不安にさせるならばその事実だけで十分だった。
「だったら探しに行くしか無いだろう。案外何処かで道草食っているだけかもしれないがな。」
「そうですね・・・早く見つけないと。」
「サナサナ・・・早く見つけないと。ってどういう事?」
「嫌な予感がするのです。」
「だったらここで話し合いをしている暇は無いわね。」
「時は金なり・・・ええ言葉やし今にピッタリやわ。」
 早速行動を開始したサーナイト達は屋敷から出ようと部屋を出て長廊下を移動し始める。
 とある部屋の前を通り過ぎようとした時だった。
「何処行くんだい。嬢ちゃん方。」
 襖の奥から聞こえてきた声は明らかにこちらに向けられたもの。サーナイトは意を決して襖を開ける。
 その部屋にはカンベエとアーツェが向かいあって座っていた。二人の間には行灯と陶器で出来た酒瓶と朱塗りの盃。
「こんな夜分に出歩くのはお勧め出来ねえよ。」
「お気遣いありがとうございます。ですがマスターが・・・」
「あいつはもう行ったよ。」
 カンベエの言葉にサーナイト達は言葉を失った。
「行った・・・?」
「おう、もしもの時は頼むって言われてよ。」
「ど・・・どうして・・・です?」
「さあな、ただ個人的な問題に巻き込みたくなかっただけだろ。」
「だって・・・でも・・・私は・・・」
 言葉が続かないサーナイト。それを見かねてカンベエが口を開いた。
「・・・嬢ちゃん達に聞きたいが・・・あいつの何でありたいんだ?」
「マスターの・・・?」
「傍から見れば・・・バイツの足枷にしか見えないぞ?」
「なっ・・・!ちょっと!どういう意味よ!」
 カンベエの言葉に激昂し声を荒げるミミロップ。
「連中・・・いや、バイツと似たような能力をもった奴が襲ってきた時に戦えるのか?」
「戦えます・・・いいえ、実際には何度か戦いました。」
「・・・バイツ抜きで勝ったのか?」
「・・・それは・・・」
 バイツが手を出さずに勝ったのは一度だけ。それ以外の戦いはバイツが戦わなければ死んでいた。
「それだけじゃあないな。連中がポケモンを使って来るとしてもだ・・・極限まで鍛え抜かれた連中に勝てるのか?それも一体二体なんて話じゃない。」
 その話にも身に覚えがあった。二体掛かりでやっと一体を倒して辛勝。
 何も返せないサーナイト達を横目にカンベエは酒を盃へ注ぎ、口へ運び傾けた。
「あいつは余計な犠牲を出したくなかっただけだろ。」
「じゃが彼の心の支えになっていた事は確かではないかね?」
 いきなりアーツェが口を開いた。
「カンベエ、確か彼女達はバイツ君の足枷と言ったな?」
「ええ。」

100名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:49:43 ID:eICjZ9OQ
「逆に兵器としての宿命から彼を護っているとしたら・・・兵器としての彼を抑えていたと言ったらどうかね?」
「あー・・・つまり?」
「彼女達と感情を共有し養ってきた・・・兵器としてでは無く人間として。」
「博士、ちょいと話が飛躍し過ぎじゃあないですか?」
「ワシはそうは思わん。それにワシが言うのも何じゃが心身共に不安定なのが一番怖いからな。」
「ですがね・・・」
「これはワシの推測じゃ・・・深く捉えんでもいい。」
 カンベエは何かを言いたそうに頭を掻いたが結局それを言わなかった。
 代わりにサーナイト達に言葉を向ける。
「あまりお勧め出来ねえし、何かあったら俺がバイツに殺されるかもしれねえが・・・」
 乗り気では無いカンベエだったが意を決して選択肢を提示する。
「ヤツを追うか?それとも信じて待つか?」
「追い掛けます。」
 即答したサーナイトにカンベエは溜息を吐いた。
「さらば俺の平凡な余生・・・」
「まだ嘆く歳でもあるまいに・・・」



 その頃、組織の本拠地であるビルに着いたバイツ達三人。
 だが思いも寄らぬ出来事に直面していた。
「さあて?どういう事があったのかな?」
 イルの声を聞き流しながらバイツは目の前にある目的のビルの崩壊現場を呆然と眺めていた。
 警察や消防隊等が出動した上にマスコミやら野次馬で人だかりが出来ていた。
 シコウが人混みを掻き分け二人に駆け寄る。
「三時間程前に突然爆発音が聞こえビルが崩壊したらしい。」
 盗み聞きした情報をシコウが二人に伝える。
「随分と呆気ない終わりだったね。」
「・・・」
 バイツは納得できなかった。まだ知りたい事もあった。だがこの有様では残っている物も無いだろう。
「バイツ・・・」
 シコウの声が耳に入らないほどに行き場の無い怒りがバイツの体を駆け巡る。
「これからどうするかさ、そこのカフェで決めようよ。ショコラケーキが結構おい・・・し・・・」
 イルが言葉を止めてバイツの肩を叩き一点を指差す。バイツは怪訝そうにイルの指差した方向を向いた。
 先程イルが向かおうとしていた喫茶店の建物の陰で二人の人間が笑顔で手招きをしていた。
 よく見ればライキとヒートだった。
「シャラァァァッ!」
 何かを隠していると思ったバイツが瞬時に二人に近付き飛び蹴りで吹っ飛ばした。
「ミニッツスパ・・・」
「止せイル・・・留年高校生の炎を移植されたが右手の特殊な赤いグローブが無いと炎が制御出来ないあの主人公の必殺技とは何の関係も無いだろう。いい加減にしろ。」
「ねえシコウ、時々思うけどその長いフリは何?ツッコミが欲しいの?」



 話は三時間前に戻る。


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