したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

サーナイトSS総合 part5

100名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:49:43 ID:eICjZ9OQ
「逆に兵器としての宿命から彼を護っているとしたら・・・兵器としての彼を抑えていたと言ったらどうかね?」
「あー・・・つまり?」
「彼女達と感情を共有し養ってきた・・・兵器としてでは無く人間として。」
「博士、ちょいと話が飛躍し過ぎじゃあないですか?」
「ワシはそうは思わん。それにワシが言うのも何じゃが心身共に不安定なのが一番怖いからな。」
「ですがね・・・」
「これはワシの推測じゃ・・・深く捉えんでもいい。」
 カンベエは何かを言いたそうに頭を掻いたが結局それを言わなかった。
 代わりにサーナイト達に言葉を向ける。
「あまりお勧め出来ねえし、何かあったら俺がバイツに殺されるかもしれねえが・・・」
 乗り気では無いカンベエだったが意を決して選択肢を提示する。
「ヤツを追うか?それとも信じて待つか?」
「追い掛けます。」
 即答したサーナイトにカンベエは溜息を吐いた。
「さらば俺の平凡な余生・・・」
「まだ嘆く歳でもあるまいに・・・」



 その頃、組織の本拠地であるビルに着いたバイツ達三人。
 だが思いも寄らぬ出来事に直面していた。
「さあて?どういう事があったのかな?」
 イルの声を聞き流しながらバイツは目の前にある目的のビルの崩壊現場を呆然と眺めていた。
 警察や消防隊等が出動した上にマスコミやら野次馬で人だかりが出来ていた。
 シコウが人混みを掻き分け二人に駆け寄る。
「三時間程前に突然爆発音が聞こえビルが崩壊したらしい。」
 盗み聞きした情報をシコウが二人に伝える。
「随分と呆気ない終わりだったね。」
「・・・」
 バイツは納得できなかった。まだ知りたい事もあった。だがこの有様では残っている物も無いだろう。
「バイツ・・・」
 シコウの声が耳に入らないほどに行き場の無い怒りがバイツの体を駆け巡る。
「これからどうするかさ、そこのカフェで決めようよ。ショコラケーキが結構おい・・・し・・・」
 イルが言葉を止めてバイツの肩を叩き一点を指差す。バイツは怪訝そうにイルの指差した方向を向いた。
 先程イルが向かおうとしていた喫茶店の建物の陰で二人の人間が笑顔で手招きをしていた。
 よく見ればライキとヒートだった。
「シャラァァァッ!」
 何かを隠していると思ったバイツが瞬時に二人に近付き飛び蹴りで吹っ飛ばした。
「ミニッツスパ・・・」
「止せイル・・・留年高校生の炎を移植されたが右手の特殊な赤いグローブが無いと炎が制御出来ないあの主人公の必殺技とは何の関係も無いだろう。いい加減にしろ。」
「ねえシコウ、時々思うけどその長いフリは何?ツッコミが欲しいの?」



 話は三時間前に戻る。

101名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:50:13 ID:eICjZ9OQ
 ビルの一室では勝ち目の無い戦いが繰り広げられていた。
 二人の人間。ライキとヒートは突然現れた人物に不意打ちを受けて床の上に倒れていた。
「んの野郎・・・」
 息を荒げながらヒートは起き上がる。スレスレで打撃の芯をずらす事が出来た。だが辛うじて起き上がれる程度だった。
 ライキは完全に反応が遅れてしまい完全に攻撃を受けてしまった。そのために体に力が入らずに起き上がるのに苦労していた。
「無理すんな・・・いざという時には俺を見捨てて行け・・・」
「言われなくても・・・ま、この様で逃げれるかどうか怪しいけどね・・・」
 ヒートは苦笑して相手に視線を向けた。つい先程まで暗闇の部屋でパソコンのモニターを見ていた為に闇に目が慣れていない。だが、幸いな事に相手は気配を隠そうとせずにずっと屈んでいる。
 あまり見たことの無い構えにヒートも慎重に距離を詰める。
 ふと、相手が立ち上がり両腕を交差した。得体の知れない何かを感じヒートは咄嗟に横に動く。
 それから一秒も経たない内に部屋の壁に衝撃音と共にヒビが入る。
「これだ!これなんだよ!こういう戦いがしたかったんだ!」
「その台詞は実力が対等な相手の時に使おうよ・・・しかも上海の武神のパクリ・・・」
 屈んだ相手にヒートが一気に間合いを詰める。
 再度相手が両腕を交差させる。タイミングを見計らいヒートは跳んだ。そしてボディプレス。
「何故にボディプレ・・・ハッ!」
 霞む視界の中、ライキは相手の構えを何処かで見た気がしていた。そしてヒートのボディプレス。次に相手の取る行動が読めた気がした。
 そしてその予想は見事的中した。
 屈んでいた相手は飛び上がり宙返りの要領で空中から襲い掛かるヒートを蹴り飛ばした。
 サマーソルトキック。
 そう呼ばれている技だった。受け身を取る事が出来ずに床に叩き付けられたヒート。
「こいつ・・・一体どんなポケモンの能力を・・・」
 ヒートはフラフラと立ち上がる。
「ヒート・・・アレはポケモンの能力じゃない・・・」
「何・・・?」
 ライキの言葉を肯定するかの様に相手が口を開いた。
「くにへ かえるんだな おまえにも かぞくがいるだろう・・・」
「あの人か!つーかポケモン?」
「やっぱり当時のあの人の能力を移植されて・・・っていうかわざわざ移植する程の能力!?」
「ええい!やってらんねー!逃げさせて貰うぜ!」
「あっ!待ってよヒート!」
「くにへ かえ・・・」
「うるせー!実家に帰らせて貰うわアホンダラー!」
 ライキも急いで立ち上がり二人は窓ガラスを破って逃げた。ハンドパラシュートを開きながらライキが何かのスイッチを取り出す。
「Ⅳじゃ赤きサイクロンのおじさんにボコられる位弱いくせにー!」
 スイッチを押した後、ビルから爆発音が響き始めた。
 最終手段としてヒートがビルのあちらこちらに爆弾を設置していたのだった。



「・・・と、いう訳。質問は?」
 所変わって道路を挟んで現場向かいの喫茶店。
 その中で少年五人が話し合いの最中。窓際の席が運よく空いていたのでそこに陣取る事に。

102名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:52:25 ID:eICjZ9OQ
「まあ、生きて帰れただけでも幸運だったな。」
 ヒートが他人事の様に感想を述べて隣に座っていたライキが頷く。だが向かいに座っていたバイツの二本の腕は二人の頭を机の上に置かれたケーキの上に叩き付け押さえ込んだ。
「すいませーん、主人公俺なんですけどーそろそろ最終決戦的な雰囲気だったんですけどー」
「わっぷ・・・バイツ・・・ゴメ・・・」
「いいじゃねえか・・・!ゴホッ・・・クリームが鼻に・・・!」
「何の為に皆を山里に匿ってもらってると思っているんだ?もう二度と会えないかもしれないと思って一人一人とゆっくり別れの挨拶的な事して来たのになー」
「知らねえよ・・・痛たた!おい!皿にヒビが入ってきた!」
「だからその二人と・・・皿割れた!鼻が切れた!絶対切れた!」
「すいませーん!ケーキ二つ・・・いや三つお願いしまーす。」
「ああイル。拙者の分も頼む。」
 とても当事者一行とは思えない雰囲気の五人。ケーキの追加注文を受けに来た店員がライキとヒートの状況を目にして口を開いた。
「失礼します。只今当店の試作品でありますハバネロクリームケーキの試食を行って頂きたいのですが・・・」
「二つお願いします。」
 バイツが即答し、イルがケーキの追加を注文した。そして瞬時に机に並ぶハバネロクリームケーキ。
「はい、頭上げてー」
 と、バイツが無理矢理二人を割れたケーキ皿から引き離す。
 そこでイルとシコウが潰れたケーキ及び割れたケーキ皿とハバネロクリームケーキを交換する。
「はい、もう一回。」
 先程より僅かに強くケーキに顔を叩き付けられる二人。反応が既に無い。
『ああ・・・勿体ない。』
 頭の中にグラードンの声が響いた気がした。
「あああああああああああああああああああ!!」
 突然外に響いた叫び声。叫んだと思われる中年男性が埃と煤まみれの全裸で道路沿いを走っていた。
「ローグ君!ローグ君、何やっているんだ。ローグ君行こう。」
 医者らしき人物が駆け付けるとローグがその場に座り込んだ。そして黄色い救急車に乗せられる。
 その光景を凝視していた五人。ライキとヒートも頭を上げさせてもらった様であった。
「うわぁ・・・あのビデオのワンシーンと都市伝説の黄色い救急車ですね。」
 バイツは熱い紅茶をライキとヒートの顔面にかける。
「アツゥイ!」
「アチッ・・・アチチ・・・」
「何故そういうネタを使う・・・訴訟も辞さぬ。」
 と、シコウが大して熱くなさそうな表情の二人を尻目に率直な感想を口にした。
「んー!ショコラが美味い。」
 イルがマイペースに事を進める。
「ま、悲観的に見るよりはマシか。」
 バイツが席を立ち、伝票片手にレジへ向かう。
「追い掛ける?」
 イルも立ち上がる。
「しゃーねえな。俺も行くぜ。」
「仕方あるまい。奴が元凶なのだ。」
「後腐れ無く終わらせようか。」
 ヒート、シコウ、ライキも立ち上がる。店を出た所で急にライキが口を開いた。
「あ、そうだ。バイツ、連中のビルでさある情報を見つけたんだけど・・・」

103名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:53:33 ID:eICjZ9OQ
「実は俺達みたいな兵器が大量にあって尚且つ紛争地帯に輸出予定だった・・・って所か?」
「どうしてそれを・・・」
「何となく。まあ、やる事が増えたって事には変わらないな。」
「いや、そうなんだけどさ・・・後々思い出してみればまだ稼動には程遠いみたいだったし。それにそれは全部・・・」
 ライキは崩壊したビルの下を指差した。
「何かもう使い物にならないみたい。」
「グダグダだな・・・まあいいか。」
 五人はローグを乗せた黄色い救急車を追って走り始めた。



 黄色い救急車の止まった先は精神病院ではなかった。
 手入れのされていない小さな廃ビル。入口には立入禁止の看板が立てられていてドアそのものも板を打ち付けられていた。
 救急車から全裸のまま降りたローグを五人分の視線がしっかりと捉えていた。
「こんな廃ビルに何の用だ?」
 バイツは呟いたがそれが一番無駄な事だと思い飛び出そうと構えた。
 ローグは視線に気付く気配も無く板が打ち付けられたドアの前に立つ。
「ひらけゴマァァァァァ!」
 目を血走らせ声高らかにローグが叫ぶと板を打ち付けられたドアが上へ上がっていき、ローグが建物に入るとまた板を打ち付けられたドアが下に下りて元通りになった。
 バイツ達は腹を抱えて声を出さずに笑い転げていた。
「流石だ・・・これは苦戦しそうだなw」
「バイツwwwww単芝はwwwwwNGwwwww」
「ひwwwwwらwwwwwけwwwwwゴwwwwwマwwwww」
「流石ボクの元ボスwwwwwすごいやwwwww」
「お主等、草を生やすな・・・しかし・・・pgrwwwww」
 奇妙な笑い方をする五人。余韻を引きずったまま建物に近付く。
「あ、バイツこれ持って行ってよ。」
 ライキがバイツにイヤホン型の通信機を渡す。
「最大通信可能距離は知らないけどね。」
 すぐに耳に付けたが長髪がそれを隠してしまう。
「ま、いっか。」
 五人はドアの前に立つ。ふと、バイツが救急車に視線を向けた。
「なあ・・・確かローグがここに入った時は一人だったよな。」
 不審に思ったバイツは救急車の後ろのドアを開けた。
 車内は荒れ果てていた。医療器具が散乱し、それに紛れるかの様に倒れている二人の人間。血溜まりが広がりつつある。バイツが車内に足を踏み入れるとからりと血に染まった赤いハサミが足元で音を立てた。
「滅多刺しって所かな?いずれにせよまともな精神状態じゃない事は確かだね。」
 ライキが車内を眺めながら口を開く。バイツは車内から出て再度ドアの前に立った。
「ひらけゴマァ!」
 そう言いながらドアをおもいっきり右腕で殴りつける。
 けたたましく警報が鳴り響く。
「チマチマとやるのは性に合わないんでね。」
「君さ、こういうキャラだった?」
「俺は好きだぜこういう展開。」
「ま、いいんじゃない?サクッと行こ!」

104名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:54:08 ID:eICjZ9OQ
「兵は迅速を尊ぶ・・・終わりにしよう。」
 警報が鳴り響く建物内に足を踏み入れた五人。中は照明が普通に点いており意外と普通のビルだった。
 妙に殺気立った連中やら傭兵や私設軍隊が来るかと思いきやそうでもなかった。
「一体どうなっていやがんだ?」
 ヒートは隣のカウンターを乗り越えて警報装置のスイッチを切った。
「ねね、コレ。」
 イルが床を指差すそこには真っ赤な足跡。
「行くか・・・」
 足跡を辿って行くと何も無い行き止まりに突き当たった。
「開けゴ(ry」
 一瞬の躊躇いも無く目の前の壁を壊したバイツ。目の前に現れたのは地下へ通じる階段。
「お決まりのパターンだね。」
 ライキの小言を無視しバイツは階段を下りていった。
 ようやく階段が終わると今度は幾つものドアがある廊下だった。
 しかし、迷う事は無かった。奥の廊下に続くと思われるドアが開いていたのだった。
 罠の可能性も捨て切れなったがさらに進むことに。
「また階段かよ?」
 口に出しても仕方の無い事なので先へ進む。
 やけに長い階段を折りきると広い部屋に出た。薄暗くてよく分からないが巨大な柱が部屋の中央に聳え立っている。
「ついに・・・ついにここまでやってきたか!」
 部屋の明かりがいきなり声と共に点けられ五人は一瞬目が眩んだ。
 目が光に慣れると目の前には全裸のローグが立っていた。
「ようこそ!諸君!そしてわが兵器よ!」
 バイツはローグを睨み付ける。
「やっとお目見えできたな・・・光栄だ!ローグ!・・・まあ、全裸だけどな。」
 ライキは銃口をローグの心臓へ向ける。
「あんたの事は調べさせてもらったよ・・・バイツ達の右腕の件についても・・・まあ、全裸みたいだけど。」
 ヒートは篭手の安全装置を外す。
「手前の命じた研究のおかげでな死んじまった仲間の仇・・・ここで討つぜ!・・・まあ、全裸だけどよ。」
 イルは口元にだけ笑みを浮かべてローグへ殺意を向ける。
「ボクもおじいちゃんもアンタと一緒に罪を背負いすぎた・・・終わりにしよう・・・まあ、全裸っていうのがチョットね。」
 シコウは一際鋭い視線でローグを見据える。
「お主の欲の為に多くの命が失われた、その報い今ここで受けるがいい・・・まあ、全裸というのが少々な。」
「待てお前ら!さっきから失礼だとは思わないのか!?」
「何が?」
 怪訝そうにバイツは聞き返す。
「さっきから全裸全裸うるさいわ!」
「本当の事だろう?」
「・・・それは、ビルがいきなり揺れ始めて、大きな音が聞こえて・・・」
「バイツ!ロー・・・じゃない全裸の後ろ!」
 ライキの声でバイツは部屋の中心部にあった巨大な柱に視線を向けた。
「ミサイルだよ・・・いや・・・これは・・・」
「そう!ただのミサイルじゃあない!核ミサイルだ!」
「目標はヨーロッパってか?アバウトすぎるぜ。」
 その時、天井のハッチが音を立てて開いた。
「もう遅い!私は全てを失った!ならば貴様らも失うがいい!人も!ポケモンも!世界も!」

105名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:54:43 ID:eICjZ9OQ
「やべえ!このオッサ・・・じゃねえこの全裸イカれてやがる!逃げるぞ!」
 ミサイルが噴射を始めた。
「燃えろ全て!壊れろ全て!」
 熱、光、煙、轟音、衝撃。
 笑いながらローグはその中に消えていった。



「ふう・・・」
 間一髪、建物内部に避難し伏せていたヒートは立ち上がると体に付いた埃を両手で払った。
「あそこで核って・・・本当に何考えてるか分からないや・・・」
 ライキも力なく壁にもたれ掛かって座った。
「休んでる暇はねえわな・・・ミサイルを何とかしなきゃな。何かいい案あるか?バイツ。」
 しかし、返事は返ってこなかった。
 辺りを見渡す二人。バイツどころかイルもシコウもいない。
「まさかあいつ等・・・!」
「それしかないね・・・」



 数分前。
 バイツを追ってきたサーナイト達はピジョットの背に乗りながら街を目指していた。
「マスターは・・・」
 サーナイトは地上を見渡す。
「サナサナ!アレ!」
 隣を飛んでいるピジョットに乗っているミミロップが崩壊したビルに気付く。
「まさか・・・アレもマスターが?」
「とりあえず行ってみた方がええと違います?」
「そうですね・・・とりあえずあのビルの近くに降りて頂けないでしょうか?」
 サーナイトはピジョットに語りかける。
「分かりました。ですが少し離れた場所に降りますよ。少々現場が混み合っている様なので。」
「お願いします。」
 現場近くの空き地に降り立ったサーナイト達。
「ありがとうございました。」
「しかし・・・良いのですか?我々は里に戻っても。」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。」
 サーナイトは気丈に笑って見せる。
「・・・分かりました。御武運を。」
 六体のピジョットが夜空に羽ばたく。
「行きましょう。」
 サーナイト達が表通りに出る。現場近くは人混みで溢れ、到底ビルに近付く事は出来そうになかった。
「どうしましょう・・・」
「ねえサーナ。マスターはもうこの辺りには居ないのかもよ?」
「?」
「成る程、ムウの言う通りかもしれないな。」
「アブお姉ちゃんどういう事?」

106名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:55:21 ID:eICjZ9OQ
「事件の犯人が現場にいつまでも居る訳が無い。」
「じゃあマスターは何処に行っちゃったの?」
「せやね・・・手掛かりという手掛かりはありまへんし・・・」
 ふと、地面が軽く揺れた。
「地震?」
 サーナイトは首を傾げる。
 次に轟音が辺りに鳴り響いた。
 凄まじい轟音に他の音が何も聞こえなくなる。
 数人の人間が指差し、気付いた。何かが離れたところからせりあがって来た事を。
 そして、それがミサイルだと知ると人々はそれを呆然と眺めていた。
 どういう風に考えればよいのだろうか今まで住んでいた街の下からミサイルが発射されそうなのだ。
 サーナイト達は辺りを見回した。全員が同じような表情で動こうともしない。
 ふと、サーナイトの視界に二人の人間が映った。警官が呆然としている事をいい事にパトカーに乗り込んでいる。
 予想はしていたがライキとヒートだった。
 バイツの事を何か知っていると思ったサーナイト達は轟音が響く中、二人に急いで近づく。
 ライキが真っ先に気付くと少し考えた後に後部座席へ乗れというジェスチャーをした。
 急いで後部座席に乗り込むと運転席に座ったヒートが開けっ放しの窓ガラスを閉め車を道路に出し走らせる。
「よう、そんなに急いでどこ行くんだい?」
 轟音が少しは抑えられ会話がそこそこ聞こえるようになる。
 そして、明らかに後部座席のみが詰まっている。
「マスターが何処にいるかご存知でしょうか?」
「・・・聞きたい?」
 ライキが困った顔をして口を開く。
「教えてください!」
 ヒートは親指で車の後ろを指す。
 そこには遥か上空まで打ち上がったミサイル。
「嘘・・・ですよね。」
 二人は黙っていた。
 ライキが何かをサーナイトに手渡した。
「これは?」
「通信機・・・バイツに渡した奴と繋がってる。」
「っ・・・マスター!返事してください!」
 通信機からはノイズしか聞こえない。
「これからアレの件で知り合いがいる近くの軍施設へ行くが・・・言わなくったって来るよな?」
「当然だろう・・・大丈夫か、サナ。」
 サーナイトから返事は無く、通信機を握り締めて震えるだけであった。



 通信司令室に客が現れたのがミサイルが街の地下から飛んで行ったという通報から約十分後の話だった。
 客人が目的の部屋に姿を現した時、一人の軍人が陽気な笑い声を上げながら客人に近付く。
「全く!街中からミサイルが発射されたなんてどんなジョークだ?」
「悪いけど中佐・・・ジョークにしては笑えないし最悪のオチだけは何としても回避したいんだ。」
 中佐と呼ばれた男の前にいたのはライキとヒート。それにサーナイト達。
「止せよライキ。お前等に中佐って呼ばれるのは何かむず痒い。」
「むず痒いのはいいけどな今は飛行中のジョークの塊が今何処を飛んでいるかって事だ。」

107名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:56:04 ID:eICjZ9OQ
「OKヒート慌てるな・・・おい!レーダーはどうだ!」
「速度は遅めですが現在海上を北上中!」
「向こうの司令部との連絡は取れたか!?」
「はい!ですが地上との距離が近すぎる上に風向きのせいで放射能の被害が甚大になる恐れがある為に撃墜は困難だと!」
「クソッ!しかし一体何処に向けて放たれた物なんだ?」
「それも知りたいし、更に悪い話を言えばあのミサイルに友人が三人張り付いているんだ・・・」
「いつぞや話していたクレイジーガイの事か?・・・だが撃墜が更に困難になったな。」
 悩む中佐を尻目にサーナイトは耳に通信機を当てる。
「マスター・・・マスター・・・!」
 祈る様な思いでサーナイトはバイツを呼び続ける。だが通信機からは返事が返って来ない上に信じられない言葉が耳に入ってきた。
「ミサイルが急旋回!恐らく目標はこの街です!」
「馬鹿な・・・」
 中佐は力無く一言呟いたが意を決して叫んだ。
「海上で迎撃する!」
「そんな!待って下さい!」
 サーナイトも叫んだ。
「何だ?おい、どっちのポケモンだ。」
「ミサイル・ライドを楽しんでいるあいつの「家族」だよ。」
「・・・迎撃なんて・・・あれにはマスターが!」
「悪いが数千万・・・いや、それ以上の犠牲が出る可能性があるんだ。多少の犠牲はやむを得ない。」
「でも!私達にとってはかけがえのない・・・!」
「我々にも護るべき市民がいる!」
「っ・・・!」
「分かってくれ・・・迷っている暇は無いのだ。」
「そん・・・な・・・」
『俺達は構わないが・・・海を放射能で汚す訳にはいかないな。』
 通信機から声が聞こえた。ノイズが混じっているが確かに聞こえる。
「マスター・・・?」
『サーナイトか?今微かに「迎撃する」って聞こえたが?』
「あ・・・あの・・・」
「通信機か?貸してくれ。」
 中佐はサーナイトから通信機を引ったくると話し始めた。
「私はモブ中佐だ。率直に言おう君達三人の乗っているミサイルは海上で撃ち落とす算段になっている。」
『・・・放射能の心配は?』
「風向きは・・・ふむ、街には流・・・」
『違う、その海域に住むポケモンの話だ。』
「少々の犠牲はやむを得ない・・・先程のポケモンにもそう話したが・・・」
「中佐!迎撃用システムが作動しません!」
「何だと!?システムが作動しない?」
『こいつを放った組織の仕業だろうな。』
「悠長に言っている場合では無い!このままでは街どころではない!この国が吹っ飛ぶぞ!」
『・・・こっちにも算段というものがある。心配しなくていい、犠牲者は出来る限り少なくする。だからこの通信機をサーナイトに返してもらえないか?』
 バイツの言葉通り中佐は通信機をサーナイトに渡した。
「マスター・・・!」

108名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:56:35 ID:eICjZ9OQ
『何がどうなっている?簡単に説明してくれ。』
 サーナイトは今までの事を話した。バイツからも話しを聞いたが話の最中何度も泣きそうになったが何とかこらえる。
「マスター・・・!私・・・私・・・!」
『サーナイト、皆に代わって話す時間は無いよく聞いてくれ。今からこいつを空の上・・・宇宙まで持って行く。』
 バイツの話を聞いている内に今まで我慢していた涙が溢れだす。
『まともな判断とは言えないがこっちにはまともじゃないメンバーが揃っているんだ。』
「帰ってこれます・・・よね・・・」
『・・・』
 すぐに返事は返って来ない。
『ミサイルを絶対にこの街には落とさせない。奴の思い通りにはさせない。』
「そういう事ではありません!マスターは帰って来て下さいますか!?」
 サーナイトの剣幕にその場の人間はたじたじとなる。
『期待はしないでくれ・・・』
 これ程バイツの悲しい声を聞いた事は無かった。
「何で・・・?どうしてです・・・?どうしてマスターじゃなければならないのですか・・・?」
『俺は・・・俺達は兵器だ。何かを壊してこそ価値のある存在のはずだった。でも俺は皆に出会えた。何かを傷付けるより護るという事は大変だった・・・』
 バイツは続ける。
 時間は残り少ない。
 だが、言わなければならない事だった。
『でも俺は護りたかった・・・皆が大好きだから。』
「それなら・・・どうして私達を置いていったのです?」
『俺が俺のまま戦えるかどうか分からなかった・・・だが、戦いそのものは杞憂に終わったがな。』
「私は・・・」
『聞いてくれ。俺に振り回されてこんな終わりだなんて誰も納得しないだろう。罵ってくれても構わない。』
「皆様はそんな事を思っておりません!心配しています!」
『でも俺は最後まで皆を護るよ。今回も街にミサイルを突っ込ませないのも皆を護るついでだっただけだ。』
「私は大好きもまだ言い足りないのですよ・・・?なのに・・・」
『サーナイト・・・皆に伝えてくれ。「生きろ」と。こんな世界だけど・・・俺のワガママだけど・・・』
「マスターのワガママ・・・初めて聞きました。」
 二人は少し笑った。何処までも悲しい笑いだった。
「私達は待ってます。ずっと・・・ずーっと・・・ですから帰って来て下さいね?」
『ありがとう・・・』
 それから通信機からは何も聞こえなくなった。
「皆様、マスターの言葉を伝えます・・・」
 サーナイトは振り向き気丈に振る舞う。だがその姿は見ている者に悲しみを与えるものだった。



 バイツは通信機を耳から外しその場に捨てた。ミサイルから落ちていった通信機はすぐに見えなくなる。
「バイツ!準備はいい!?」
 イルの声が聞こえる。
「大丈夫だ!」
 バイツは右腕に意識を集中させる。グラードンの意識に。
『聞こえるか?』
『えーえー聞こえますとも。前みたいに俺の独壇場にならない様に祈っとけ。』

109名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:57:14 ID:eICjZ9OQ
『随分不機嫌だな?』
『当たり前だ。今だに口調が定まらない。』
『・・・力を貸してくれ。』
『分かってるさ。人間のケツ拭きってのが気に入らないがな。』
『不貞腐れる場合か?・・・やってくれ。』
 バイツの体を瞬時に紅い生体装甲が覆う。
 意識は少しぼやけているがバイツは自分であることを認識していた。
 振り向くと同じ様な蒼い装甲に碧の装甲を纏った人間が立っていた。
「カイオーガにレックウザ・・・」
「感心している時間は無いぞ・・・」
 碧の装甲を纏った人物は口を開く。バイツとは細部が違う碧の装甲に碧の羽。レックウザの頭部を模した頭の装甲。そしてバイツと同じく口元は人間だった。
「そうだなシコウ。イルもやれるか?」
 蒼い装甲もまたバイツの装甲とは細部が違うものだった。そして頭部はカイオーガを模したもの。口元は二人と同じく人のもの。
「でもたった三人だよ?」
「身軽になればわけないさ。シコウ頼む。」
「承知。」
 シコウはミサイルの下に飛び降りるとミサイルを押し上げる形で急上昇する。
 ミサイルは元の軌道に戻ろうとするがシコウが力ずくで押し上げる。雲を越えた辺りで異常に気温が下がる。高度のせいもあるがよく見るとミサイルの表面が氷で覆われ始めている。
「ローグが個人的に作ってたものだから中途半端に壊れない様に念のためにね。」
「ミサイル丸ごと凍らせる事は出来なかったのか?」
「短時間じゃあミサイルの表面しか無理。じゃあバイツ仕上げは頼むよ。」
 イルの心遣いにバイツは笑う。
 そして遥か下の地上を眺めバイツは思う。皆、生きてくれ。と。
 数分後、衛星カメラには大きな閃光が写っていた。
 その報告を受けて司令部は黙祷を捧げ、サーナイト達は泣き崩れた。



 一ヶ月後。街は何事も無く動き続ける。
 一軒の家。家というには広すぎる屋敷の前でサーナイト達は和気あいあいとしていた。
「早くお散歩行こうよー!」
 クチートの元気な声が周りに響く。
「待て、慌てても仕方ないだろう。」
 アブソルが諌める。
「んー!いい天気!」
 ミミロップが背伸びをしながら少し歩く。
「お洗濯日和やわあ。」
 ユキメノコは眩しい日差しを掌で遮る。
「サーナ、きちんと戸締まりした?」
 ムウマージはサーナイトを待っている。
「はい、それでは行きましょうか。」
 当のサーナイトは玄関の鍵を閉めた事を確認して全員の所へ向かう。
 あれから一ヶ月。あの後はどうやって家に帰ったのかも分からず、更に片付けていない家で個々に泣き明かしていた。
 しかし、彼女達は手を取り合って立ち直った。バイツが言った「生きろ」という言葉。
 トレーナーとしての指示でもよかった。
 家族としての願いでもよかった。
 ずっとこの言葉を守り抜いていこうと彼女達は誓った。
 サーナイトは空を仰ぐ。
 死んだとは思っていない。
 信じているから。
 必ず帰ってくると。
 笑ってお帰りなさいと言える事を。
 笑ってただいまと言ってくれる事を。

110名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 13:57:55 ID:eICjZ9OQ



 荒れ狂う吹雪に囲まれた山村。
 そこに建っている一軒のバーで丸い体型をした店のマスターは客人をもてなしていた。
『兄さん方、ホットビールの味はどうかね?』
 マスターはカウンター席に座っている客人に声を掛ける。
 客人の一人はたどたどしく言葉を返す。
『とってもおいしいです・・・』
 言葉を返したのは長い髪の少年だった。
『そうかい?いやー海の向こうの方々はビールは冷やして飲むのが当たり前という感覚があるみたいでね、この村に寄っていって・・・』
 店のマスターの言葉を少年は四分の一も理解していなかった。母国語が違うのだ。
「訳せるか?」
 長髪の少年は母国語で隣に座っているホットビールのグラスを傾けている少年に話しかける。
「簡単に言えば文化の違いを楽しそうに語っている。聞いてやれ、バイツ。」
「お前が聞け、シコウ。」
 バイツは反対隣を見る。
 金髪の少年が顔を少し赤くしながら。サンドイッチに手を出していた。
「イル、もう少し節度を守ったらどうだ?」
 シコウの言葉を意に介さずにイルはマスターに話しかける。
『んー!ビールもおいしいしサンドイッチもイケる!そこの美容院のおじさんもいい腕してたし。』
『だろう?あそこの旦那はいい腕してるよ。さあさあじゃんじゃん食っておくれ。』
「凄いな・・・もうここの言葉を使ってる。」
「気に入った食物が絡むととんでもない学習能力を発揮するからな、イルは。」
『そうだお客さん。吹雪はまだ止みそうにないよ。』
「シコウ・・・何か悪い知らせが聞こえたような気がしたが。」
「ああ、吹雪はまだ止まないそうだ。拙者もこんな天候では飛べぬぞ。」
 バイツは頭を抱えて溜息を吐いた。
「早く家に帰してくれ・・・」

111名無しのトレーナー:2010/10/24(日) 14:00:06 ID:eICjZ9OQ
十一章終わりね
実はこれが最終章になるつもりだったけど・・・もうちょっと続く
あとIDが前と同じだった

>>リバマサ氏
十章を書く前に決まっていたのがカンベエの性格だけという・・・
決してカンベエの名前の前にオガワとかミュータントとかデモンとか入れて検索しないようにオナシャス

戦闘中バイツ
大まかにイメージ通りなのでおkです
こまけぇこたぁいいんだよ!!(AA略

グラさん
手の部分は爪じゃなくて指でオナシャス

駄々こねてサーセンシタ・・・

>>霧生氏
こんな有様です。助けてつかあさい。
まあ、言わせてもらえれば・・・ごらんの有様だよ!!!(AA略

>>Mr.L
グラードンの元ネタの話はタグでウメ○ラと入れればおkです
ただし殆ど関係はございません
本当に動画を見ている最中に思いついただけって事ですから

112Mr.L:2010/10/26(火) 20:28:53 ID:fT1qa5mo
バイツの方→今回もネタが分かr―
感想です;
…皆を巻き込みたくない…前回に引き続き思いますが…イジラシイですね…
皆それぞれと別れの会話をして、1人(まぁ正確にはイルとシコウも一緒ですけど;)組織壊滅へ――
最後がどこかで見た様なシーンですね…?

さて、ここからは感想…という名の『ツッコミ(漫才的な意味の)』をばっ!!(え!?;)
最終決戦1が完全にギャグパートかよっ!;ヒートとライキ…何気に組織ごとバイツの覚悟も潰しやがった!;
そして最終決戦2もまだ半分ギャグパートかよっ!;ちょっとグロめのシーンが怖くねぇよッ!;皆して全裸全裸って…;最早呼称が全裸?;
最終決戦3…ここは真面目にイイシーンでした…
その後…結局最後はギャグパート?;まだ続きがあるんですね〜
生きてて良かった…まだ終わってませんが、ハッピーエンド…かな…?
それとも…?


続き、楽しみにしてます♪


追伸…ではそのネタをニコ動で検索しておきますね〜

113霧生蘭★:2010/11/04(木) 01:50:17 ID:???
バイツの人乙でした。
いや助け求められても無理です。むしろこっちが助けてほしいくらいですから。
最終局面は…ええまあ、思っていた形とは違いましたが、みんな無事ならばもうそれでいいんです。
そしてアレですね。かつてある武道の老師がこんないいこと言ってましたね。「もうちょっとだけ続くんじゃよ」

遅れましたが、携帯小説スレにちょっとしたものを投下させてもらいました。時間がある時でいいので一度ご覧下さい。

114リバースマサト:2010/11/09(火) 01:22:41 ID:gN8MKgYo
皆さんお久しぶり。
やっとバイツ達のイラスト描けたよ〜っ!
時間かかった割には低クォリティースマソ。
ポケットモンスターホワイトにどっぷりだったりしたもので。
とまぁ言い訳もそこそこにギャラリーへドゾ。
縦横間違ってたりテカリで見づらかったりしてもそれがリバマサクォリティーだ。
諦めてくれ。

http://a.pic.to/13h33h
装甲化三人組揃い踏み
実は以前、試験的にバイツとグラバイツのイラストを投下していたのですが、
その時点でイルとシコウの装甲化も下書きが終了していました。
しかし、バイツの人(仮)から「グラバイツの手は爪じゃなくて指でオナシャス」と指摘され、
また本編でも三人の装甲化が揃い踏みしたため、
いっそのこと三人のデザインフォーマットを統一して一枚絵にしてしまえ!!と、
完全リファインしました。
(リファイン前はカイオーガとレックウザの元デザ意識し過ぎてイルとシコウの装甲化がダサくなってしまったのは黒歴史)

http://p.pic.to/14rbgk
バイツ
以前投下したイラストから変更ナシ。

http://u.pic.to/152tpv
イル
無邪気さを併せ持った狂気を表現出来ているかどうか…自信ナシ。

http://e.pic.to/19qlv1
シコウ
"引き"の構図が災いして、一番地味でよくわからないイラストに…。
顔と脚をひとつの画に収めようとしたら、こうならざるをえなかったんじゃよ…orz

http://i.pic.to/177mc5
バイツ一家団らん
みんなでいただいているのはカステラと、ユキメノコが淹れた緑茶。
サーナイトのデザインを着衣っぽくアレンジしてみたが…正直微妙な出来に…。
ムウマージとユキメノコは何気に初描き。

http://p.pic.to/1asb51
パーティー会場にて
まだムウマージがムウマの頃。
ムウマのあどけなさとムウマージの妖艶さを見比べると新たな魅力が見つかりんぐ。
サーナイトはいつもの服(?)を脱いで(消して?)、裸の上にドレスを着てマス。
後ろの方にいるのはキョウカさん。
ちっちゃくて解りにくいけどナイスバディ。
こら、そこ!バイツの髪型ゴキブリヘアーとか言わない!!

まだ続く。

115リバースマサト:2010/11/09(火) 01:24:40 ID:gN8MKgYo
続き。
http://b.pic.to/143kfh
仕事中のキョウカさんとトウマ
というよりキョウカさんに強制労働させられるトウマの図。
でもキョウカさん可愛くし過ぎた感が否めない…。
ここでもナイスバディ。スーツ越しでも判るナイスボイン!
でもこのおっぱいがえろいことに使われる気がしないんだぜ…。

http://q.pic.to/1asb52
ライキ&ヒートwithトウマ
ちょっと強いだけの常人トリオ。
ヒートが近距離、
トウマが近〜中距離、
ライキが中〜遠距離と、三人揃えば何気にオールレンジ。
しかもシームレス。
キョウカさんから解放されたトウマが生き生きしてるお…。
でもトウマが持ってる片手剣、デザインマズッたお…orz

http://s.pic.to/152trk
ライキ&ヒートwithモウキ
刑事の目の前でビールを飲む未成年の図。
ヒートが両手にもっているのは麒麟…ならぬウインディビールとアップル(手榴弾)。
モウキさん逃げてぇ〜ッ!!未成年の飲酒とかしょっぴかなくていいからとにかく逃げてぇ〜ッ!!

http://t.pic.to/152ujd
イル&シコウ
すごく…カモられてます、シコウ。
シコウは本当に苦労人だな。

http://u.pic.to/14z53l
ローグwith改造人間ズ。
クロムラ、ライドウらしきシルエットが確認出来るだろうか?
エーフィ頭やストライク腕がいたりゼフィーらしきシルエットが何気にカッコいいのは秘密だ!
ダークな絵面なのだがパソコン画面に注目すると…ワロス。
というわけでイラストギャラリーはこれで以上です。

ここだけの話。以前からリテイクするぞーリテイクするぞーと言っていた"時空戦士ACT-O(アクト)"ですが、
無期限休載させていただく事になりました。
楽しみになされていた方が居ましたら申し訳ありません。

俺は…今秋公開された"劇場版 機動戦士ガ〇ダムOO"を観に行ったんだ。
するとスクリーンにはアクトの敵性体にする予定だったヤツらが映っていたんだ…。
何を言ってるのか解らねぇと思うが、俺も何をされたのか解らなかった…。
偶然の一致とか進化の類似性とか、そんなチャチなモンじゃ断じてねぇ!
科学では説明出来ない事象を目の当たりにしたぜ…!!(AA略

理由は上記の通りポルナレフ。
名称と基本形態以外の設定が9割近く一致しますた。

もう少し続く。

116リバースマサト:2010/11/09(火) 01:28:33 ID:gN8MKgYo
さらなる続き
まずそれぞれの概要から。
劇場版 機動戦士ガ〇ダムOO
敵性体:ELS(エルス Extraterrestrial Living-metal Shapeshifter 変異金属異星体の略)
とある木星型ガス惑星で誕生した金属生命体。
母星が滅びの危機に瀕したため移住先の惑星を求め、
宇宙のあちらこちらに点在するワームホールを介して放浪。
木星の大赤斑にあるワームホールの出口から出現し、地球に到来した。
円錐形、直方体、シャンデリア型などの豊かな形状を持った個体が確認されているが、
その実態は月ほどの質量を持つ巨大な球体で、個の概念を待たない群体である。
脳量子波(量子通信)を神経系としており、
同じく脳量子波を発するイノベイターやその因子をもつ人間、
超兵、量子演算コンピューター"ヴェーダ"などに惹かれて地球に到来したらしい。
人類に対する敵意は無いが、接触した対象に擬態、同化するしか相手を理解する手段を持たないため 、人類の誤解を招き、敵視されてしまう。
また、人類側の攻撃をコミュニケーションの手段と誤解したため大戦争に発展してしまった。
最終的にイノベイターである刹那・F・セイエイを通して人類を理解し、
宇宙に咲く巨大な一輪の花へと姿を変え、
人類との共存の道を選んだ。

時空戦士ACT-O(アクト)
敵性体:UAM(ウアム Unfiling Anather-dimendion Metal-Liver 未確認異次元金属生命体の略)
突如として異次元から出現した生命体。
その実態は金属粒子を媒介とした量子情報ネットワークを基盤とする情報生命体。
初めは逆卵形の胴体に凹凸の無い四肢、三本の触手で構成された手を持つのっぺりとした無個性な姿で誕生(群体からの分離)し、
周囲の情報を学習、対象物に擬態、同化を繰り返し成長、それに伴って姿が変化、個性を獲得する。
やがて群体に戻る事で他の個体に情報をフィードバック、
際限なく無限に成長する可能性を秘めている。
人類に対して明らかな敵意を持っており、擬態した姿で近付き奇襲する。
彼らの目的は不明だが、野放しにすればやがて世界の全てが彼らそのものに同化されてしまうであろう。
通常兵器は彼らにはほぼ無意味であり、物理、実弾攻撃は無効。
ビームなどエネルギー兵器を用いても個体を構成する全ての媒介金属粒子を消滅させなければ死に至らない。

もうちょっと続く

117リバースマサト:2010/11/09(火) 01:30:34 ID:gN8MKgYo
長々スマソ

驚異的な生命力と進化速度をもつ彼らUAMに対抗すべく開発されたのが"アクト"をはじめとする"ファイターシステム"である。
世界に9基しか存在しない貴重なオリジンのDSドライブを搭載したファイターシステムは、
DSドライブから発生するDS粒子(量子の一種)を武装や装甲に転用し、
UAMの攻撃から身を守り、UAMの本体と言える量子情報ネットワークを直接破壊することが可能である。

とまぁ設定の書き出しは以上。
相違事項は
・名称
・起源
・基本形態の相違
・金属の塊か粒子か
・人類への敵意の有無
など

そして一致事項は
・外見は形状不定の金属生命体である
・実態は群体を基準とする
・思考、行動の根幹が量子情報である
・接触した対象に擬態、同化する能力。
・人類にとって驚異の敵性体である
・戦力差では人類側が絶望的である

書き出しでは一致率は6割ほどですが、ビジュアル的にはほとんど差がありません。
ただでさえ"仮面〇イダーカブト"と"電王"、"機動戦士ガ〇ダムOO"を無理やりフュ〜、ジョン!ハァッ!!したような作風だったのに、
これ以上一致率上がったら版権とか怖いお…。
というわけで"時空戦士ACT-O(アクト)"は、ほとぼりが冷めるまで"無期限休載"とさせていただきます。
代わりと言ってはなんですが、"時空戦士ACT-O(アクト)"と同じ世界観で平行して進行しようと考えていた短編集的作品をメインに据えてやっていこうと考えています。

大変ご迷惑おかけしております。

ていうか駄文作家から無駄絵作家になりかけてね?
霧雨管理人のお誘いを受けて専属絵師になった方が有意義じゃね?
そんな感じで日々迷い悩みながらも…
僕はペンをとるのであった。

バイツの人(仮)←
感想遅くなってすみません。
ライキとヒート…。
意図せずしておいしいとこ持って行きやがった…。
ていうかヒート、容姿の元ネタの人の劣化コピー(ややこしい)と対面ですか!?
間違ってたらすみません…。
ローグの最期…だといのに全く締まりがありません!
全裸か!?全裸のせいか〜ッ!?
装甲化した三人の、恐らく最初で最後の共同作業…。
TV特撮のジャイアントロボ最終回みたい…。
中途半端に耳年増スマソ。
核兵器って実は破壊しても核爆発しないって知ってた?

それでは今日はこの辺で…ばいなぁ〜♪

118Mr.L:2010/11/11(木) 06:23:40 ID:fT1qa5mo
リバースマサトさん→L「Σマジでかっ!?;核爆弾って破壊しただけじゃ爆発しないの!?;」
ユーゴ「反応するとこそこかよっ!?;」
L「あ〜ガン〇ムネタとか〇面ラ〇ダーネタとかは分からないので;と言うか核爆弾についての話しは自分とも少なからず関係あったので;」


L「自分の新しく書いてる小説の冒頭で核爆発起こすシーンがあるんですが―
見事に破壊→爆発なので;
失敗したなぁ…案外タフだな核爆弾(笑)
オット…笑い事じゃないか…。
あっ、もしかして
核爆弾=爆弾の爆発/放射能拡散/放射能により爆発の威力上昇
って武器だったりします?
違うかな;仕組みがうろ覚えですみません;」
ユーゴ「後でお前は核爆弾の勉強だな。」
L「面倒いからヤダ」


L「さてと、絵のクオリティは中々だと思いますよ?自分に絵のクオリティ云々言う資格は無さそうですが;」
ユーゴ「お前絵心無いもんな。」
L「ウグゥッ!;
でっ…ではっ!;」(そそくさと退散)

119リバースマサト:2010/11/12(金) 00:52:01 ID:gN8MKgYo
Mr.Lさん←
核兵器、爆発する物もあると思いますよ。核爆発ではない可能性大ですが。
核兵器はタフな訳ではなくて、起爆方法が特殊なんです。
通常兵器の起爆は火種なり放電による火花なりで火薬に点火することで行われます。
しかし核兵器は点火を一切必要としません。
ウランなど放射性物質には臨界濃度というモノがあり、
一定範囲に一定以上集めると勝手に核分裂(原子崩壊)を始めてしまう性質があります。
さすがに詳しくは知りませんが、そうした性質を利用している物と思われます。
核分裂によって得られるエネルギーは凄まじく、
重い原子から軽い原子に分裂する際、分裂前後では質量が釣り合わず、後者の方が軽くなります。
では、軽くなった質量はどこに行くのか、全てエネルギーに転換されるのです。
原子力発電において1キログラムのウランで日本の全電力1ヶ月分に相当するとかしないとか。
そんな膨大なエネルギーを一瞬で解放するのが核爆発です。
火薬とは爆発そのものの実態が違うのです。
炎と破片で破壊するのが火薬。
圧倒的な熱エネルギーと衝撃波で破壊するのが核爆発です。
さて、蘊蓄が長くなりましたが、要するに、
通常兵器は火薬という可燃性物質を用いているため破壊する際発生する火花や静電気で発火、誘爆しやすく、
目標に命中させる前提で作られているため接触や衝撃で起爆する物が多いです。
しかし核兵器は命中させるよりも目標多数の上空に投入し、エリアごと一気に殲滅する事を前提にしており、
可燃性物質も用いていないため破壊による誘爆、衝撃による起爆もありません。
ただし、不発弾でも敵に渡ると危険なため、
核爆発に失敗した場合、火薬による自爆を行うタイプも可能性としてあります。
その場合、火力は自爆に必要な最低限と、使われていた放射性物質の飛散程度で、
放射能汚染は別として爆発は大したことありません。
つまり、複雑かつ精密な核反応機構(味方が持っているときのためにかなり厳重な安全装置があるはず)が誤作動や偶然臨界に達しないかぎり、破壊による核爆発はほぼ無いと言えるのです。
破壊から核爆発という流れにするなら、
外郭はダミーで、外郭の破損で起爆するようにあらかじめ設計されていたという方が最も自然かつ合理的と思われます。
参考になりましたでしょうか?
長々とすみません。
感想ありがとうございました。
では、ばいなぁ〜♪

120Mr.L:2010/11/13(土) 06:02:18 ID:fT1qa5mo
リバースマサトさん→

ユーゴ「…だってよ。」
L「そうだったっけ?」
ユーゴ「Σなんだコイツ!;説明分かっちゃいねぇっ!;」
L「あははっ!;大丈夫大丈夫;ある程度分かったから;」
ユーゴ「んじゃ復習、核兵器の起爆の仕組みは?」
L「安全装置的なものが外れたらウランを始めとする放射能物質を一ヵ所に集めて放射をする…大体こんな感じだったっけ?とりあえず火種は要らない。」
ユーゴ「火種が要らない以外は大分違う!;説明混ざってんぞ!;せめて『放射能物質が一定質量以上集まると勝手に核分裂が起る』『その際に発生した膨大なエネルギーを利用する』位で認識しろ!;」
L「サーセンwwww」
ユーゴ「はぁ…;すまない、こいつが理解するのはしばらくかかりそうだ;」


うぅっ…;失礼しました;

121霧生蘭★:2010/11/14(日) 17:09:30 ID:???
えーつまり腹が減ったら飯を食おうて話ですね。違うか!
説明しよう!蘭はロボ好きのくせに文系でしかも右脳で生きており、自動車がどういう原理で動いてるかもわかってないくらいのローテク脳なので、1行目くらいから理解することを諦めたのである!
とても素敵なイラストの数々乙です。
ACTがかぶってしまった件ですか。
まあちょっとそこにお座りください。
それとこのバーボンはサービスだから飲んで落ち着いてほしいんだ。
おじさんはね。他でもプリキュアで二次創作をやってるんだ。
そこで出したオリジナルプリキュアの設定とかがね、ことごとくかぶるんだよ。
風を裏モチーフにすればWが始まって、強化アイテムをUSBメモリにすればガイアメモリが出て、悪魔のプリキュア出したらダークプリキュアが出て、マント着せてみたらハートキャッチもマントで飛び回る…
オジサン言われたよ、あんた東映の関係者だろとか、アギトの因子持ってんだろとか。
なにが言いたいかっていうと、そんなこともあるよね、気にしなくていんじゃないって話。
え、アタシ?酔ってなんかいませんよ?ホラホラ、まっすぐ歩けますよ。グルグルバットに強いもん。
まあリバマサ氏本人が決定したことなら何も言えませんが。あと新ポケモンだとコジョンドがかわいくて生きるのが辛い。

122名無しのトレーナー:2011/03/16(水) 19:06:49 ID:IItqb4bw
19時10分頃旧BBSのSS総合に・・・?

123名無しのトレーナー:2011/03/27(日) 19:57:55 ID:K8InXMsM
え?いや?何?書き込める?震度六弱?本当?
やったー!ありがとう霧生氏!
最終章は旧BBSのSS総合に投下したけど・・・
寂しいから続きというか番外編というかそれっぽいの書いてます
つかネタ切れなのよ
最終章書き終わったから先着一名で↓の人が希望のシチュとか何か書いてくれればそのネタでサクッと今書いているやつとは別の番外編書きます、ではノシ!

124管理人★:2011/04/05(火) 01:48:30 ID:???
>>123
みんなー、そろそろ淫夢ネタとか飽きたんじゃないかなー?
(アキター(アキター
よーし、素直が一番!素直が一番のびるぞー

サーイレーントヒールーのーうーたー

とまあ冗談はこの辺にしまして…


遅くなりましたがバイツの人乙!完結本当に乙でした!
イッシュ四人娘やイッシュポケモンの登場が嬉しかったです。
特に管理人のイッシュ嫁コジョンドが出てきて興奮しました。
嬉しかったといえば、ムウマージがそっちの人だったことにも萌えました。
私は801も百合もどちらもいけますとも。

ところでリクエストって私もやっていいんでしょうか?
それなら、ある日バイツの元に彼の子供だという赤ん坊を押し付けられて…みたいなドタバタコメディなどどうでしょう?

では最後に


人生という名の冒険は続く…

綺羅星☆

125名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:13:17 ID:aoO4J/EU
ハハッ、何がサクッと番外編書きますだよ。
霧生氏のリクから三ヶ月も経ってるじゃないか。
すいません、許してください何でもしますから。

126名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:13:54 ID:aoO4J/EU
 泣き声が聞こえた。
 最初それに気付いたのはミミロップだった。家の中を色々と歩いたがどうも外から聞こえるようだ。
 玄関を開ける。視線を落とすと毛布に包まれた赤子が籠に入っていた。
 どう反応すれば分からないので籠を抱えバイツの所へ持っていく。
「何だそれ?」
 至極当然の反応を見せるバイツ。
「分かんない。玄関に居たの。」
 バイツが赤子の籠を受け取り注意深く観察する。赤子の端。正確には赤子の右手部分と籠の間に紙が挟まっていた。
「・・・?」
 籠を降ろしてその紙を眺めるバイツ。怪訝な表情を浮かべてそのまま固まる。
『アナタの子供です。』
 紙は所々が滲んで読めない部分が多かったがそれだけは読み取れた。赤子は泣き止む事無く、ミミロップはうろたえる。だが、一番どうすればいいか分からないのがバイツだった。



「これはどういう事でしょうか?」
 サーナイトの問い掛けにバイツは答えられるはずも無かった。
「まあ、マスターは人間ですから人間の異性とそういう事がある訳で・・・」
「サーナイトさん・・・どうか怒りを沈めて下さい。俺・・・いえ、私には本当に覚えが無いんです。」
 下手に出るバイツ。
「怒っているだなんて考え過ぎですよマスター?」
 絶対に怒っている。声や表情には現れていないが絶対に怒っているとバイツは確信していた。
 泣き声が部屋の外から近付いて来る。
「駄目どす。ウチじゃ泣き止みまへん。」
 ユキメノコが泣き止まない赤子を抱きながら部屋に入ってくる。首がまだ据わっていない程幼い赤子は泣き止む事を知らない。バイツが恐る恐る抱き上げるものの泣き止まない。
「俺にどうしろと・・・」
「マスター・・・」
 サーナイトの怒りを孕んでいると思われるが普段通りに聞こえる声と共に両手が差し出された。打つ手も無いのでサーナイトに赤子を差し出すバイツ。
 すると泣き声は小さくなっていく。
「大丈夫です・・・怖くなーい、怖くなーい。」
 サーナイトは赤子に微笑んだ。赤子も警戒心無くサーナイトに手を伸ばす。その様子はまるで実の母と子の様に思えてくる程だった。その姿を見てバイツは自らの過去を懐かしんだがどうもこのまま落ち着く訳にはいきそうに無かった。



「あっ!今笑ったー!」
 クチートが籠に揺られながら嬉しそうに手を振る赤子を見て笑っていた。妹分が出来たので喜んでいる。
「ぷくぷくほっぺ可愛いー!」
 ミミロップは赤子の頬を突きながら遊んでいる。
「綺麗な目してはる。でもどうして左右で色が違うんやろ。」
 ユキメノコは先程より機嫌の良くなった赤子を楽しそうに眺めていた。赤子の目は右が茶色左が碧色というオッドアイだった。
 その様子を少し離れた所から眺めるサーナイトとムウマージ。
「楽しんでるわね。」

127名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:14:24 ID:aoO4J/EU
「可愛いからですね。」
「で?「お父さん」は何処に行ったのかしら?サーナが睨みを利かせすぎたから「お母さん」の所に逃げたのかしら?」
「ムウちゃん・・・!」
「冗談よ。そんなに怒らないで。で?マスターは何処に行ったの?」
「ご両親を捜すので手当たり次第に聞き込みに行くとか・・・」
「・・・信じているの?」
「ええ、それにもしマスターの子供だとしても大事にしますし、マスターが決めた人がいるなら私はただのポケモンでもいいです。」
「損な役回りね・・・でも、私もマスターを信じるわ。嘘をつける人じゃないって事は私達が分かっている・・・でしょ?」
「はい。でもアブちゃんは万が一があるかもって付いて行ってしまいました。」
「らしいって言ったららしいわね。」
 二人は笑った。バイツの気苦労を知る由も無く。



「バイツ。無理というものがあるって知ってるかい?」
 ライキはいきなり家に押しかけてきた親友に困った顔を向けた。
「まずその赤ん坊は男の子?女の子?産まれてから何ヶ月?血液型は?肌の色は?いきなり押しかけてきて赤ん坊の両親を調べてくれだなんて。」
「出来ないのか?情報屋?」
「無理!」
「そこは「出来ないとは言っていない、時間が掛かるだけさ」って恰好つける所だろ。」
「無茶!大体オッドアイって以外他に手懸かりも無いなら警察に行けばいいじゃないか。」
「アブソル。このコードをまとめて斬ってくれ。」
「分かった。」
「待って!待って!分かった!だったら知り合いの臓器バイヤーに連絡つけて・・・」
 その瞬間、バイツは外付けハードディスクドライブを手刀で叩き割り。アブソルはそこら辺のコードを切り裂いた。
「オーマイガッ!」
 ライキの悲痛な叫びは二人の破壊行為を止めるのに何の効力も持たなかった。バイツが三つ目の外付けハードディスク。アブソルが三十二本のコードを切り裂き終わった時、ライキがついに折れた。
「分かった!分かりました!調べます!調べますから!近い内にその子を連れて来て!」
「そうか・・・頼む。」
 バイツはそう言い残してアブソルと共にライキ宅を後にした。変わり果てた室内を眺めながら呟くライキ。
「ちぇっ・・・使っていないハードディスクドライブ三機と・・・これまた使っていない延長コードがバラバラだ・・・運が良いのか悪いのか・・・」
 後片付けしようと屈んだ途端に電話が鳴った。溜息の後に受話器を上げる。
「ハイハーイ・・・現在は留守にしております。ピーッという発信音が鳴りましたら・・・」
『おう、俺だ。モウキだ。留守電の真似すんなら止めとけ全然似てねえ。』
「何だ・・・モウキさんか・・・なーにー・・・?」
『随分疲れているみたいだが至急調べて欲しい事がある。』
「ケネディ大統領を狙撃したのは本当にオズワルドかどうかって?」
『誰もんなこた言ってねえ。探しもん・・・いや、捜し人だな。』
「ググった?」
『NO・・・』
「死ね。」
 電話の向こうで舌打ちが聞こえた。まるで下らないネタに付き合っていられない事を察して欲しい様であった。

128名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:15:03 ID:aoO4J/EU
「で?捜して欲しい人って?」
『赤ん坊だ・・・それもちょいとワケありのな・・・』
「赤ん坊・・・?」
 眉をしかめるライキ。嫌な予感しかしなかった。



「ただいま。」
 バイツとアブソルが同時に口を開き、同時に家の中に入る。
「お帰りなさいませ。」
 サーナイトが出迎える。
「どうでしたか?ご両親は・・・」
「取りあえずライキが捜してくれる。俺達は心配しなくていい訳だ。」
「そう・・・ですか。」
 残念そうにサーナイトが口を開いた。ライキの情報屋としての能力はサーナイトも知っていた。すぐに両親を見付けだすだろう。だがそれはこの赤子との別れを意味する。
「あの・・・」
「ライキも手間取るって言ってたからな。すぐには見付からないだろう。」
「しかしマスター、気になる事がある。どうして警察に任せない?」
「警察は赤ん坊を引き渡す様に言ってくるだろうな。そして両親が見付からなかったら施設行きだ。未成年の俺が引き取れるはずがない。」
「どうにか・・・どうにかならないのでしょうか・・・」
 サーナイトの言葉には複雑な感情が込められていた。
「・・・だから、どうにか出来るライキに頼んだ。それに両親が見付からなかったら「面倒な手続きはライキに任せて」俺が引き取ればいい。」
 サーナイトもアブソルもバイツの意図を察したらしく互いに顔を見合わせた。奥から聞こえる元気な泣き声。
「ミルクの時間か?」
 手の掛かりそうな小さな乱入者にバイツも些か楽しんでいる様であった。



「この子の名前は何ていうの?」
 不意にクチートの言った言葉は赤子のオムツを代えていたバイツの動作と赤子をあやしているサーナイト達の動きを一秒ばかり止めた。
「さあな、好きに呼べば良いんじゃないか?」
 ごみ箱に使用済のオムツを投げ入れた後、赤子を籠に寝かせたバイツ。
「じゃあ、ゲゲルポポス・・・」
「女の子の名前な?」
「んー・・・田中(仮)?」
「クチート、田中(仮)って何だ田中(仮)って。」
「クチクチはもっと可愛い名前を付けなきゃ駄目。西園寺(仮)なんてどう?」
「違うぞミミロップ。俺の言いたいのはそこじゃない。」
「せや、もう少し真面目に考えなきゃあきまへん。西園寺(仮)だなんてせめて(笑)で・・・」
「違う、違うぞユキメノコ。確かにそれも違うがこれも違う。」
「全く・・・真面目に考える気があるのか名前としては呼びにくいだろう。パイン(仮)とかあるだろう。」
「アブソル違う・・・!近くなった・・・だが先が遠すぎる・・・!いや・・・プラマイゼロか・・・!?」

129名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:15:33 ID:aoO4J/EU
「全くもう・・・あなた達珍名を考えるのは得意なのね。可愛い名前ならスペツナズ(露)とかあるでしょう?」
「違うんだムウマージ・・・合っている事は合っているんだが人名としては間違ってるんだ・・・」
「どうして皆様は余計なものを入れるのですか?(仮)だけでもいいではないのですか?」
「畜生ォォォ!サーナイト!それは出発点からさらに遠ざかった!」
 バイツは喚いた。捌き切れないボケに自分ではツッコミが追い付かないと悟る。
 結局一時的な呼び名としてはバイツが提案した「スレムーネ」に決まった。彼は一種の悪戯を名前に込めていた。スレムーネを逆から読むとネームレス。名無しの意になってしまう事を彼は分かってやっていた。



 ライキはモウキに言われた事を頭の中で反芻させながらバイツ宅へ向かった。辺りは薄暗く夕暮れから夜へと変わっていく。 
 調べろと言われてから何日経っただろうか。来るように言ったのに中々来ないのは子育てに忙しいからか。
 だが悠長な事は言っていられなくなった。あれからすぐに調べが付いた。赤子の両親に問題があったのだ。それを伝えに行く為に彼は歩みを進めている。
 正直どう切り出して良いのか分からない。情報屋としての「顧客」もオッドアイの赤子を捜している。バイツ宅に着くとチャイムを鳴らす。出て来たのはバイツ。
「お前から出向くなんて珍しいな・・・」
「うん・・・赤ん坊の事・・・」
「こんばんはライキ様。」
 サーナイトが赤子を抱いて出迎える。
「こんばんは。」
 オッドアイの赤子が闇雲だが懸命に腕を振っている。
「何だスレムーネもライキを歓迎してるのか?」
「スレムーネ?」
「この子の名前だよ。」
 スレムーネが動く度に楽しそうにバイツとサーナイトが微笑む。今のライキにとっては耐え難い風景。幸せそうにしている親友に真実を伝えても良いのか。
「で?どうした?何か分かったのか?」
「あ・・・うん。ちょっと手間取りそうだからさ・・・長くなるかもって言いに来たんだ。」
 つい嘘を口にする。
「そうだ。夕食一緒にどうだ?」
「いや、いいよ。近くまで寄ったついでだからいいよ。じゃね。」
 ライキはバイツ宅から逃げる様に出て行った。先程よりも暗くなった道のりを歩きながら彼は伝えるはずの情報をぼやいた。
「まさか賞金が懸かってるなんて言えるはずない・・・ましてや赤ん坊の碧色の目玉になんて・・・」



 それから幾日か経った昼下がり。バイツ達はスレムーネをベビーカーに乗せて散歩に出掛けた。
 スレムーネの色違いの目には初めて見るものばかりが映り。また、スレムーネの目を珍しげに見ていく人も多かった。
 それから公園へ行き遊ぶ事にした。
「楽しそうですねスーちゃん。」
「初めてだからじゃないのかしら。」
 歩道を歩き続けているとスレムーネがウトウトとし始める。
「一休みするか。」
 バイツがベビーカーを木陰に移動させるとぐずり始める。
「はーい、ねんねしましょうね。」

130名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:16:05 ID:aoO4J/EU
 サーナイトが抱き上げると泣き止む。
「すっかりお母さんだな。」
「素敵な旦那様もいらっしゃいますからね。」
「あたしの旦那様じゃない?ラブラブしちゃうよ?」
「ダーメー!ミミお姉ちゃんじゃなくてあーたーしー!」
「ウチはどう?マスター、そないに困る選択やあらへんと違います?」
「大丈夫よマスター。私は言い寄ったりしないわ・・・あなたは私の・・・」
 しかし、アブソルはバイツに寄らずに静かに辺りを見渡すだけだった。
「三人・・・」
「アブソル・・・警戒するな。気付いていないフリをしろ。」
 そう呟いたバイツの視線の先にはサーナイトが抱えているスレムーネ。
「・・・厄介だな。どうするマスター」
「ミミロップ・・・」
「待って・・・三人共拳銃を持ってる・・・それ以上の火力は無いと思う・・・」
 微かな音からある程度の武装を確認するミミロップ。
「だが互いに攻撃範囲外だ・・・戦闘はなるべく避けたい。」
 かなり小さな声で話し合う三人。傍から見ればのどかな時間を過ごしているトレーナーとポケモンにしか見えないが実際の所は縄張りに獲物が入って来るのを待つ肉食獣と同じものだった。
 互いに変わった行動はせずに間合いを詰めつつ相手の出方を伺う。
 突然スレムーネが泣き始めた。バイツとアブソルは一瞬注意が逸れ、ミミロップは泣き声に些細な音が掻き消された。
「よしよし。どうしましたかー?」
 サーナイトがスレムーネをあやし始めた。バイツとアブソルはスレムーネの泣き声など意に介さずに辺りを見渡した。
 気配が消えた。
 おかしな出来事にバイツとアブソルはミミロップに視線を移したが首を横に振った。三人共首を傾げるだけであった。だが、五百メートル先に自分達をスコープ越しに覗く存在には気付いていなかった。



 公園から五百メートル程離れたアパートの一室。スコープから目を離したライキは床下に散らばった三つの空薬莢を拾う。
『・・・い・・・おい!』
 無線機から荒い音声が聞こえる。
「何だい?ヒート。」
『真昼間の公園で誰にも見付からずに三ヶ所で人を拉致しろなんざ不可能に近くないか!?』
「片足を撃ち抜いたから回収自体は簡単だったでしょ、で?」
『回収完了だよ・・・ったく・・・』
「車を待たせてあるから西側の入口に運んで。」
『うーい。』
 やる気の無い返事が聞こえ、無線が切れる。その時、音も無く部屋のドアが開いた。
「全く・・・どうにかして争い事と君達を引き離す事は出来ないのですか?」
 そこに立っていたのはトウマだった。
「しかし面白い特技ですね。その狙撃銃・・・VSSですか?射程が四百メートル程ではないのですか?」
「この銃はオーダーメイドなんだ。外観はそうだけど中身は別物。」
 そういうとVSSによく似た狙撃銃をパーツ毎に分解してアタッシュケースに片付けた。
 納得したのかトウマは取りあえずライキからの頼まれ事の件について話を変えた。
「大した話題という訳ではありませんが・・・連中は徐々にこの街に集まりつつあります。個人から組織ぐるみまで。」
「ありがと。細かい動きを調べるのは面倒だからね。」

131名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:16:36 ID:aoO4J/EU
「あらま、お二人さんそんなにこそこそ楽しんで何をしているのかしら?」
 声のした方を振り向くとキョウカが立っていた。その足元ではガーディが座っていた。
 大して二人は慌てる事無くキョウカに口を開いた。
「お疲れ様です。それで?警察の連中は?」
「駄目ね・・・こっちの十分の一の情報も持って無いわ。ま、大きな貸しを作るいい機会じゃなくて?」
「機械?」
 ガーディの頭の中では色々な大型の二足歩行の機械が浮かび上がる。
「ねえ!どんなロボット!?ロボット!?」
「そういう意味じゃないわよガーディ。」
「どんなの!どんなの!」
「ほらほらガーディ君少し口を閉じていなさい。怪しい奴にはつけられませんでしたか?」
「うん!」
「この子は優秀よ。ライキ。双眼鏡。」
「このスコープじゃ駄目?」
「私はあんたと違って引き金を引くタイミングを間違えるから駄目なの。」
 やれやれといった感じでライキがキョウカに高倍率の双眼鏡を手渡す。
「まあまあ、随分いい家庭じゃないの。お母さんは誰かしら?」
「私です。」
 キョウカとトウマは聞き慣れない声の方に振り向く。
 そこには一人の女性がいた。あどけなさが微かに残っているその女性は着飾らない美しさが備わっていた。
 しかし、振り向いた二人は彼女の目に注目した。右目が茶色、左目が碧色のオッドアイ。
「始めまして、サユナといいます。」
 目の前にいるサユナという女性は一礼した。
「キョウカでいいわ。」
「トウマと申します。」
「ガーディ!」
 自己紹介が終わったのはいいがキョウカとトウマはサユナの服装に注目した。メイド服と呼ばれる衣裳を纏っているサユナ。
「ライキ、あんた本っ当にいい趣味してるわね。」
「僕じゃない、着の身着のままここに保護したんだ・・・本当に危なかった。」
「危なかったってどういう事よ。」
「サユナさんとその子供にはある人物から賞金が懸けられたのです・・・ゲーム感覚で。」
「確かに賞金は懸かっていますが私達自身ではありません。」
「つまり?」
 キョウカは答えを確かめるかの様に聞き返した。
「賞金が懸かっているのは・・・私とあの子の左目です。」
「・・・誰よ、そんなに死にたがっている馬鹿は。」
「フラアナタ・・・貿易商さ。」
「聞いた事ある名前ね。」
「黒い噂が絶えない人物です。気に入った人間やポケモンを「使い捨ての玩具」にしていると聞いた事はありますが・・・っと失礼。」
 トウマが言葉を止めたのはサユナが暗い顔をして俯き、キョウカが鬼すら逃げ出す様な形相で話を聞いていたからである。
「私は給仕として雇われて一度だけフラアナタ様に抱かれました。子供を宿した事を知ると何故か笑っていました・・・あの時は新しい命が産まれるからうれしいものだと思っていたんです・・・ですが、その笑いは新しい玩具を見付けた笑いだったんです。」
 声が震えだす。
「あの子を産んで暫くして・・・フラアナタ様の部屋の前を通った時・・・このゲームの事について話しているフラアナタ様の声が聞こえたんです。」

132名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:17:09 ID:aoO4J/EU
「それで逃げた・・・そういう訳ですね。」
「はい・・・あの時、気が付いたらあの子を抱えて外にいました。今考えれば都合がよかったのでしょうね。」
「警察は当てにならなかった・・・そうだよね?」
「フラアナタ様の権力は警察を黙らせる事など簡単だと前に聞いた事があったので・・・」
「それでバイツの家の前にあの子を置いていった訳か。」
「私は・・・あの子に幸せになってほしいと思って・・・あれ程大きい家に住んでいる人ならあの子を幸せにできると思って・・・」
「自分の子供を手放したかった訳?」
「違います!・・・私は・・・私は・・・」
「どちらにしろあなたは運がいいわあの子を拾った奴はね。何でも貫く矛であり何でも防ぐ盾なの。」
「でも、今回の件はバイツに伝えていないんだ。」
「まずいわね。バイツは自分の敵に対しては容赦無しじゃない?生きたまま警察に渡さなきゃいけない連中もいるのよ。」
「まあ、彼の性格上どう転んでも相手の息の根を止めにかかりますからね。」
「保険という点では適任だけどね。サユナさん、あの子に会うのはフラアナタとの件がどうにかなってからだけどいいかな?」
「はい・・・」
 その後、ヒートが合流した。
 問題はいかにして安全に母と子を会わせるかなのだがバイツ達がそれを望んでいなかった場合どうすればいいのかという事も考えねばならなかった。



「痛い痛い!」
 スレムーネがバイツの髪の毛を引っ張って遊んでいた。
 自宅に無事に帰ってきたのはいいもののサーナイト達は仲良くお昼寝タイム。一方スレムーネはサーナイト達が寝ると同時に目を覚まして少しぐずり始めた。
 仕方が無いのでバイツはスレムーネをあやす事にした。
 結果バイツはスレムーネのいいおもちゃになっていた。
「お前本当に俺の子か?」
 喋れる訳も無いスレムーネが手を振り回しバイツの頬を叩く。
「分かったよ。覚えが無くとも責任を取れって言いたいのか?」
 思い返せば最近ライキとの連絡が着かない。
 今も奔走しているのかそれとも忘れているのか。
「まさか伝えたくない結果が出たんじゃないよな・・・」
 一人呟きながら再度スレムーネの髪を引っ張る攻撃に耐えていると呼び鈴が鳴った。
「はーい。」
 親がこの子を引き取りにきたのだろうか。
 そう考えながら玄関の戸を開けるバイツ。
 だが、その考えは甘く戸をあけた途端に小柄な男がいきなりナイフをバイツの脇腹目掛け鋭い突きを放った。
「・・・!?」
 次の瞬間、言葉を失ったのは男の方だった。
 突き出した右腕はバイツの右脇下を通り空を切っていた。
 外すわけが無いと男は再度腕を戻そうとするが脇の下に腕を挟まれてその上異常なまでの握力で腕を固められて動けない。
「少し警察に知り合いが居てな・・・狡賢い独り者の殺し屋の話は聞いた事があるんだよ。たしかマック・ローだったな・・・」
 本名を言い当てられてマック・ローは言葉を失った。
 スレムーネが少し首を回してマック・ローを見る。

133名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:17:52 ID:aoO4J/EU
 見られた本人はオッドアイの目を見ると急に何かを思い出したのかのように空いている左手でもう一本持っていたナイフを振り上げた。
「うあああああ!」
 叫んだのはマック・ローだった。固められていた右腕を派手に折られたのだ。
 赤黒い肉から突き出た折れた骨。そこから溢れ出た血液は玄関に滴り落ちる。激痛で立っている事もままならずに崩れ落ちるが右腕はバイツが掴んだままであった。
 突然スレムーネが泣き出した。マック・ローの声に驚いたのだ。
「そうだな・・・このおじさんには少し黙ってもらおうか・・・」
 子供を自然にあやすかの様な声でバイツは口を開いた。
 殺される。そう感じ逃げようとしても右腕の握力は弱めてもらえず。それどころか筋繊維が千切れた事による激痛がマック・ローを襲った。
「助け・・・助けて・・・」
 他人が口にしてきた言葉を自分が口にするとは思っていなかった。
 言葉はバイツに届いたのか急に右腕を離した。
 半分千切れかけた右腕を抱えながらマック・ローは逃げた。
「手錠はいらねえな?」
 目に前に居た白髪混じりの中年の男は警察手帳を出しながらそう言った。



「結構大物なんだぜ?ありゃあよ。」
 警察署の一室でモウキはバイツにそう言った。
 空になった紙コップを振り回して遊んでいるスレムーネ。
「それが問題の赤ん坊か・・・」
「保護するのか?」
 バイツはそう簡単に言ったが勝手に警察に渡したらボールの中で眠っているサーナイト達は悲しむだろう。それにバイツもあまり気が進まない。
「止せよ・・・お前が赤ん坊をあやす以上に簡単にあやしたマック・ローって奴はな警官を何人再起不能にしたと思う?」
「十人?」
「その五倍だ。殉職と退職を余儀なくされた奴合わせてな。それも警官だけの話だ。犠牲者はもっといる。」
「どちらにせよこの子が狙いだというのなら、誰が相手でも叩き潰す。」
「生かしておいてもらった方がいいんだがな。」
 モウキの言葉にバイツは耳を疑った。
「仕事は増えるが片付けなきゃいけない件もある。ライキに頼みゃすぐ分かる事だがあいつは足元見やがって金をぼったくる・・・」
「ライキに?」
 もしかしたらもうライキは全て知っているのではないか。仲良くスレムーネの世話をしている所を見せ付けられて言えなくなってしまったのではないのか。そういえば最近連絡を取っていない。
 スレムーネが指を吸いながらバイツを見ている。この頃スレムーネはバイツにも慣れてきた所だった。
「情が移っちまったか?」
「ああ・・・でも、真実まで導くべきだろう?・・・この子と別れる事になっても。」



 翌日、バイツはライキを電話で呼び出した。最初はまだ捜査途中だと返って来た。
 覚悟は出来ている。

134名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:18:29 ID:aoO4J/EU
 それだけ言うと分かったとだけ言いわれ電話を切られた。
 それから二十分後、ライキがサユナと名乗る女性を連れてバイツ宅へとやって来た。
 そこにスレムーネを抱いたサーナイトが現れる。
 サーナイトはサユナを。
 サユナはスレムーネを。
 視界の中央に捉えた途端に互いの体が強張った。
「いいんだね?」
「ああ・・・」
 歪んだレールを戻すだけ。バイツは自分にそう言い聞かせた。
 それからすぐに居間に全員が集まってライキが全てを話し始めた。
「しかし、嘘をつく理由が分からないな。」
「嘘?」
「この手紙だよ。」
 バイツはライキとサユナにスレムーネが持っていた手紙を見せる。
「アナタの子供です・・・?涎で滲んでるけどフラアナタの子供ですって書いてあったんじゃないかな。」
「・・・ええ。」
 バイツは急に惨めになって泣きそうになった。
「じゃあ、これからの話に移るけど・・・」
「よう!どうしたんだ!しけた面並べて。」
 元気な声が聞こえてきたと思ったらヒートが居間に顔を出していた。
「客が来てるぜーコソコソしているみたいだから連れて来てやったけどいらなかったかー?」
 そう言うと縄に縛られた男が放り出された。
 顔が痣だらけで歯の何本かは折れている。誰もこの転がっている男に面識は無くまた男の方もバイツ達とは面識が無かった。しかし、スレムーネとサユナを見ると縄を解こうと暴れ始めた。
「落ち着けよ旦那、そんな事させる為の体力を残しといた訳じゃねえんだ。」
 ヒートはポケットから小石を数個取り出すと男の口の中に放り込む。
「吐くんじゃねえぞ?」
 男の予想とヒートの行動は一致していた。
 重い拳が何発も男の顔に叩き込まれる。
 殴られて顔が横を向くたびに少量の血が飛び散る。
「さあて・・・情報は吐くのと血ヘド吐くのどっちがいい?」
 血と共に口から小石が吐き出される。
「掃除しておけよ。」
 バイツの言葉に反応は無く代わりに男のか細い声が聞こえる。
「・・・もう・・・数人が・・・ここら辺にいる・・・殺し屋共が・・・手を組んで・・・」
「だったらあんたには伝言役になってもらおうか。」
 ライキの中でいい案が浮かんだのかヒートに耳打ちをする。
 一方、サーナイトとサユナの間の空間は妙な歪みを見せていた。
「・・・」
 無言の会話をしているかの様に二人はじっと相手の事を見ている。
「・・・まずいな。」
 バイツはサユナにスレムーネを渡すようにサーナイトに言おうとした。
「どうぞ。」
 驚いた事にサーナイトはサユナにスレムーネを渡した。他の皆も何か言いたそうにしていたが必死に堪えている様であった。
「ありがとう・・・本当にありがとう・・・!」
「お母様といる方が幸せだと私達は思いました・・・だから・・・だから・・・」

135名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:19:11 ID:aoO4J/EU
 互いに涙を堪えている様に見えたバイツ。
 笑い声が室内に響いた。
 スレムーネの声だった。
「初めて・・・笑った・・・私・・・この子の笑った顔・・・初めて・・・」
 サユナは微笑んだ。その頬には涙が伝っていた。
 だが、和んでいる暇はバイツには無かった。追っ手がいなくなった訳ではない。
 ライキとヒートがバイツを見ながらニヤニヤ笑っている。
 結局力仕事になるのかとバイツは溜息を吐いた。



 翌朝、人気のない船着き場にバイツ達の姿があった。ライキとヒートの姿は無く乗るべき船について書かれたメモを渡されただけだった。
「この辺りのはず・・・」
 バイツは辺りを見渡した。
 似たような船が数隻停泊している。
 サユナはスレムーネをあやしながら辺りを見渡している。
 更にその二人を護る様にサーナイト達がそれぞれ展開する。
 最後の最後で失敗はしたくなかったサーナイト達。せめてこの先の成長を見守る事が出来ないのならば全力で二人を護ると決めていた。
「あ、あの船ではありませんか?」
 サーナイトが指差した先には一つの停泊している大型の船。その周りでは船員が出港準備をしていた。
「・・・来たか。」
 バイツが呟くとぞろぞろと人が現れる。
 気配は読んでいた。その数は多く五十人は越えていた。
「遊びは遊びの範疇に留めたかったがな。」
 その集団の先頭にはスーツに身を包んだ男が立っていた。
 その男に目を合わせたサユナは青ざめた顔で口を開いた。
「フラアナタ様・・・」
「さあ、鬼ごっこは終わりにしようではないか・・・警察もそろそろ感づき始めたみたいだからな。」
「一応聞いておきたい・・・何故こんな事を?」
「何故かだと?退屈凌ぎ以外に何がある?わざわざ人目につかない船着き場に船を遣すとは・・・正義感を振りかざして標的を逃がすにしては詰めが甘かったな。」
「罠に掛かったのはお前等だ。」
 バイツが口元に笑いを含んで言い放った瞬間、フラアナタの隣にいた男の足から鮮血が飛び散った。
「っがあ・・・!撃たれ・・・た!」
 激痛に堪えながら男が言った一言はフラアナタ勢にプレッシャーを与えた。
「警察が来るまでそいつが持つかな?」
「警察だと?フッ・・・私を捕まえようというのかね?」
「いいや、警察が捕まえたがっているのはあんたが金で雇った取り巻き共さ。あんたも殺人教唆の罪で捕まりそうだがな。」
 遠くから聞こえるサイレン。フラアナタの周りにいた男達は逃げ出そうと走り出した。
 だが、大体四歩目を踏み出す前に足を撃ち抜かれてその場に転がる。
「悪いがあんたに出来るのは見送る事位だ。」
 バイツはサユナに視線を移す。サユナは頷くと船に乗り込んだ。
「何処に向かう船かな?」
「あんたに言う筋合いがあるかい?」

136名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:20:41 ID:aoO4J/EU
「・・・ふん、まあいい。ここまで来たらもう興味は無い。」
 フラアナタがそう吐き捨てるとサーナイトが口を開いた。
「あなたは・・・!」
「ん?」
「あなたはそれでも父親ですか!」
「過ちというものだ。何かの際に弱点になりかねないからな。」
「あなたは命を作り上げたのですよ!小さく弱い・・・でも・・・未来ある命を!それをあなたは・・・!」
「奪おうとした・・・か?生憎奪い合いが家業でね。先祖代々それで財を為してきたのだ。」
 そこまフラアナタが口を開いた時複数の車がブレーキ音を上げて当事者達を囲んだ。
「警察だ!今すぐひざまずいて両手を頭の後ろで組め!」
 拡声器を握ったモウキが叫ぶ。
「楽しいお喋りの時間はお終・・・い・・・だ・・・」
 フラアナタが視線をバイツ達の後ろに固定させたまま動きを止めた。
 それにつられる様にバイツ達以外フラアナタと似た様な行動を取っていた。
 ふと、バイツの携帯電話が鳴った。
 相手はヒート。バイツは怪訝な表情で電話に出た。
「もしも・・・」
『いいか!?俺はあんな船を手配しちゃいねえ!お前は一体何と間違えた!?』
「何をそんなに怒っているんだ?作戦は完ぺ・・・」
 振り向いたバイツも固まった。
 サユナ達の乗った船が緑の光に照らされて浮いていた。
 上に視線を向けると巨大な円盤が浮いている。
 その円盤の上には複数の人影が確認できた。
 よく見れば大多数が全身銀色をした小柄な「何か」でそれに当て嵌まらない人影は筋骨隆々な老人に見えた。
「久し振りだなフラアナタ!何十年ぶりか!」
「お・・・お祖父さん・・・!?」
「何だ!まだ貴様は地に足を着けた貿易なぞしているのか!」
「いや・・・あなたは・・・三十年程前に航海中に行方不明になったと父から聞かされて・・・」
「新たな可能性を広げていただけだ!それなのにお前達と来たら・・・」
「その前にその隣にいる方々は・・・」
「もう我慢ならん!お前の妻と子供は預かる!返して欲しければワシの後を追ってこい!銀河の果てまでな!」
 船は完全に円盤に吸いこまれそのまま空の彼方へ。
「・・・え?」
 バイツはそう言うのが精一杯だった。
 その時、小型の戦闘機がバイツ達の近くに降り立った。
「さあ!宇宙戦闘機は準備出来たよ!後はあんたが乗るだけさ!」
 戦闘機の中から軽快にライキが現れた。
「な・・・何・・・!?」
 うろたえるフラアナタ。
「あ・・・あれは、wikiの概要によるとグラディウス暦六六五三年に開発された、グラディウス宇宙空軍に属する超時空戦闘機。軍の主力戦闘機として描かれる事が多く、グラディウスシリーズの大半で主役機として登場している。主に惑星グラディウスを侵略する亜時空星団バクテリアンとの戦いにおいて使用される。イメージカラーは青(作品によっては色が変わる場合もある)。機体の先端が左右に分かれたデザインが特徴。本機を参考とした機体も数多く作られているビックバイ・・・」
「フラアナタ!フラアナタ!」
 宇宙戦闘機に対するバイツの異常に長い呟きは警官隊と殺し屋軍団が手拍子と共にフラアナタを鼓舞する声にかき消される。
「・・・畜生ッ!!だったらやってやる!貸せ!小僧!」

137名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:21:20 ID:aoO4J/EU
 フラアナタは戦闘機へと駆け出した。
「いってらっしゃいませー」
 呑気に手を振るライキ。
 ゆっくりと垂直に宇宙戦闘機は浮き上がり瞬時に空の彼方へ。
 辺りを揺るがす程の歓声が響き渡る。
「何だこれ・・・」
 場の流れに乗れないバイツはそう呟いた。
「帰る・・・」
「え!?後を追わないのですか!?」
「アレ無理、絶対無理、完璧無理、宇宙人嫌、絶対嫌、俺のSAN値ゼロ、俺のSAN値ゼロ!」
「大事な事だから二回言ったんだよね。」
 何故かクチートがこの場を締めた。



 それから数日後の朝の出来事だった。
 バイツが何気なく郵便受けに目を移すと一枚の写真が挟まっていた。
 怪訝そうな顔で写真を手に取り暫く眺めていたが次第にその表情は柔らかくなっていった。
「お父さんの初仕事成功おめでとう。」
 彼はそう呟いて、家族に写真を見せる為に家の中へ入っていった。

138名無しのトレーナー:2011/07/08(金) 22:26:47 ID:aoO4J/EU
ええ終わりですとも終わりですよ。
IDが変わっていることすらすっかり忘れていましたよ。
もう・・・なんか悪乗りしすぎたらこうなった。
すいません霧生氏!許してください!何でもしますから!

139管理人★:2011/07/15(金) 03:21:39 ID:???
バイツの人乙でした。
ん?お前今なんでもするっつったか?じゃあ犬の真似…はしなくていいから(良心)
私の無茶なリクエストに答えていただき至極恐縮です。
これは和解エンドととらえていいんですよね。というかビッグバイパー乗ってるとはいえ数日で解決とかフーみんやるじゃん。
とまあ感想はこの辺にしまして…少しお話でも。あ、飲み物アイスティーしかないけどいい?(迫真)
なんの話って、いやもうこの板の話なんですけどね。ご覧あそばせこの過疎り具合。このスレなんか氏のリクエスト募集から一週間以上空いて、それでも誰も書かないから私が書かせてもらったくらいですからね。いやまあ人がたくさんいるだけがいい板だとは思いませんがね。だからって、今下手したら私と氏の二人しかいねーんじゃねーかって錯覚に陥るんですよ。ああ喉渇いた。アイスティー飲まないならちょうだい(昏睡)

140わゆむ:2011/07/17(日) 14:59:49 ID:s06Jy666
ポケモン映画楽しみ

141わゆむ:2011/07/17(日) 15:05:44 ID:s06Jy666
ごめんなさいここサーナイト中心だったねしかも新参者が…ゴメンナサイorz

142わゆむ:2011/07/17(日) 15:06:38 ID:s06Jy666
ごめんなさいここサーナイト中心だったねしかも新参者が…ゴメンナサイorz

143わゆむ:2011/07/17(日) 15:08:58 ID:s06Jy666
多重書きこみまで…もうしわけございません…

144名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:42:45 ID:n4s6mDuw
久々のカキコ…ども…
俺みたいなホモビデオ観ながら小説かいている腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは

今日の野獣の会話
なー、今日練習きつかったねー とか まずウチさぁ、屋上・・・あるんだけど・・・焼いてかない? とか
ま、それが普通ですわな

かたや俺は電子の砂漠で昏睡レイプを見て、呟くんすわ
it’a BABYLON STAGE 34.盛ってる?それ、誉め言葉ね。

好きな音楽 sandstorm
尊敬する人間 大坊聡(下北沢極道殺害事件はNO)

なんつってる間に前の投稿からほぼ二ヵ月っすよ(笑) あ〜あ、多分ID変わってる人の辛いとこね、これ

145名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:43:21 ID:n4s6mDuw
 その町は人混みが絶える事は無かった。人が集まる割には小さな町は様々な都市への中継地点。晴天が乾いた風を吹き掛ける人混みの中に二体のポケモンが紙袋を抱えて歩いていた。
 サーナイトとコジョンドという珍しい組み合わせ。
「あと買い忘れた物は無いでしょうか?」
「さあ?足りない物があれば買いに行かせるわ。」
 この二人が紙袋を抱えている理由は罰ゲームによるものであった。コジョンドのトレーナーであるルルが提案した罰ゲーム、それはゲームで負けた人が物資の買い出しに行く事。
 当初はサーナイトのトレーナーであるバイツが自分が買い出しに出ると申し出たのだが全員が猛反対してゲームに参加させた。
 結果サーナイトとコジョンドが買い出しに出る嵌めになったのだった。
「ま、貴女と歩くのも悪くないわね。」
「ありがとうございます。」
 コジョンドは紙袋の中からリンゴを取り出し軽快にかじりついた。
「貴女やけに明るいじゃない?」
「そうですか?」
「初めて会った時よりはずっと・・・ふーん、バイツさんね?」
 サーナイトは赤面する。分かりやすいとコジョンドは思った。
「私もあの人を気に入ってるの。」
 ポケモンを惹きつける不思議な魅力がバイツには備わっている。目の前で少し赤くなっているコジョンドを見ているとサーナイトはその事を改めて実感した。
「颯爽と現れてピンチを救ってくれたの。こんなはねっかえりでも心配してくれるのね。」
「コジョちゃんははねっかえりだったのですか?」
「客観的に見て、よ。」
 しばらく歩くとモーテルにたどり着いた。その一室のドアを開ける。
「ただいま帰りましたー」
「ただいまー」
 何も返事は返って来ない。
「誰も居ないの?遊びに行った訳じゃないわよね。」
 紙袋を乱暴に近くの机に置いたコジョンドは隣の部屋、寝室へと歩いていった。サーナイトはコジョンドの置いた紙袋を抱えて台所へ向かった。
「な、何なのこれ!」
 コジョンドの叫びに驚いたサーナイトは紙袋を落とした。何事かとサーナイトがコジョンドの後に続いて寝室へ入るとバイツが床にうつ伏せになって倒れていた。その後頭部にエルフーンがバイツを叩きながら乗っていた。
「動けー」
 無邪気な笑い顔でペシペシと容赦無く後頭部を叩き続けるエルフーン。叩かれているバイツからの反応は無い。
「貴女、何してるの・・・」
「お馬さんごっこ!」
 笑っている顔の表情を変えずに即答するエルフーン。コジョンドはエルフーンを抱き上げる。
「やーだー!」
「マスター!しっかりしてください!」
「川の向こうで母さんが・・・手を振って・・・ふふ・・・」
「戻って来て下さい!そちら側は特に行ってはいけません!」
「おーうーまーさーんー!」
 抱き上げられたエルフーンは手足を動かして懸命にバイツに乗ろうとする。
「こーら、どんな遊びをしていたの。」
「賑やかねー!」

146名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:43:53 ID:n4s6mDuw
 茶色の髪を色をした少女が顔を出した。少女の名はルル。見た目は普通の少女だが公にはもう一つの姿を隠している。闇を払う戦士「メイデンナイト」と彼女は言っていた。
「ルル!エルフーンが・・・」
「あ!バイツさん!聞いて聞いて!あのね・・・」
 バイツを揺さ振るルル。
「ら・・・乱暴にしないで下さいルル様・・・」
「舟が揺れる・・・ゆらゆら揺れる・・・」
「舟?何の夢見てるの?」
「夢じゃないのよルル!バイツさんは乗ってはいけない舟に乗ってるの!」
「おー!うー!まー!さー!んー!」
 世界を支配しようとしている連中と戦っているとは思えない程、大層賑やかな旅人達だった。



 その男もその町に居た。
 居たといっても町の境界線内に足を踏み入れたのはたかだか数分前であった。
 黒いロングコートを黒いベストの上に着こみ黒いレザーパンツに黒いショートブーツ。それに黒い革手袋に黒いサングラスと殆ど黒で固められた服装。髪は銀色のオールバックだがそれは染めた訳では無く地毛であった。
 その男は人混みの中、辺りを見渡し柄の悪そうな男を見つけ近付いた。
「聞きたい事がある。」
「あぁ?」
 声を掛けられたチーマーは眉間に皺を寄せながら反応した。声を掛けられるまで気配すら全く気付かなかった。
「一人の少女を捜している。男と複数のポケモンと旅をしているんだが・・・」
「・・・見たぜ。」
 口端に笑みを浮かべてチーマーは答えた。
「こっちだ、ついて来な。」
 路地裏に消えたチーマーを追って男も歩き始めた。案内された薄暗い路地裏はどう考えても他の大通りに通じている道とは考えられなかった。
 暫く歩くとチーマーが止まった。袋小路に案内されたらしく散乱している粗大ごみの影から似たような雰囲気の男達が姿を現した。
「どうした?迷ったのか?」
「なあ旦那ァ・・・タダで教えてもらおうってのはムシが良すぎるぜ?」
「謝礼は払おう。だが居場所が先だ。」
「じゃあ、教えてやる・・・そんな奴等は知らねーよ!」
「そうか。」
 男は踵を返し路地裏から出ようとした。
「待てヨォ・・・」
 チーマーの仲間の一人がナイフに舌を這わせながら男の前に立った。
「答えてやったろ?カネ出せよ、持ってんだロォ?」
 その瞬間に男は掌底打を突き上げるように下顎に叩き込んだ。チーマーの仲間は歯と鮮血を撒き散らしながら宙に舞った後、地面に叩き付けられた。
 男達は一瞬言葉を失った。仲間を一瞬で叩きのめした男の足元に血の塊が落ちているのに気付いた。薄暗い為すぐには気付かなかったがそれが血の塊ではなく掌底打を打ち込まれた際に噛み千切れた舌だった。
 男は音も無く近くにいたもう一人のチーマーの仲間の鳩尾に掌底打を叩き込んだ。コンクリートの地面に微かなヒビが入る程に深く強く踏み込み叩き込まれた掌底打は胃を破裂させて背骨を砕く程の衝撃だった。当然打ち込まれた当人は大量の血を吐きながら動かなくなった。

147名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:44:27 ID:n4s6mDuw
「やっ・・・やっちまえ!」
 裏返った声と共に今度は複数で同時に男に襲い掛かるがロングコートを翻しての回し蹴りで一掃される。ある者は頭蓋骨を砕かれ、ある者は頸骨を折られ、ある者は吹っ飛ばされた際に壁に頭部を叩き付けられる嵌めになった。
 チーマーが何が起きているのかを脳内で理解しようとしたが既に他の仲間は物言わぬ肉塊となっていた。
「さて・・・人捜しの続きだ。」
 男が踵を返して表通りに戻ろうとするとチーマーの最後の一人が雄叫びを上げながら鉄パイプ片手に襲い掛かる。
 素直に逃げればよかったのだが非現実的な光景を目の当たりにし、正常な判断が出来なくなっていた。チーマーが選択を誤った事を悟ったのは自らの胸を男の手刀が貫いた時だった。
 男は再度踵を返し表通りへ向かった。その際、腕を一降りし手袋とコートに付いた血を壁に飛ばした。



「・・・それでね、そのぶつかった車からヤクザが出てきたんだって!」
「へー・・・」
 ルルが何かを熱弁しているのを尻目にバイツは気の抜けた返事を返した。
 エルフーンに叩きのめされたバイツを喫茶店まで遠ざけたルル。エルフーンはサーナイト達が何とかしてくれる様であった。
「んもー!聞いてるのバイツさん!」
「へー・・・」
 半分魂が抜けた感じで窓の外を眺めるバイツ。
「私とのデート楽しくないの?」
 身を乗り出してルルはバイツに顔を近付ける。
「ゴメン・・・何か魂が半分ズレてる気がする・・・」
「相当こっぴどくやられたのね。」
 ルルはカップに入っていたココアを飲み干すとバイツの腕と注文票を取り会計へ向かった。それから喫茶店を出た後、バイツを引きずる様に通りを歩くルル。モーテルへの道を歩いていたが急に足を止めた。
「ね、ね、寄り道していかない?」
「んー・・・」
 微妙な返事と共に寄り道へ引きずられていくバイツ。着いた先はファンシーグッズを扱う店であった。店内に入るなりルルはあれこれと小物を手に取って騒ぎ始めた。
「見て見て!これ!ピッピにんぎょうなんて私実物見るの初めて!」
「あー・・・そう・・・」
 生返事をするバイツに店員が近付く。
「彼女へのプレゼントをお探しでしょうか?」
「まぁ・・・」
 彼女という言葉に反応しなかったバイツは脳内で別の事を考えていた。
 あれをプレゼントしたらサーナイトは喜んでくれるだろうか。
 クチートにあれをあげたらはしゃぐだろう。
 ムウマージは以外と明るい色が好きだからあれか。
 激しく動いても壊れないあれはミミロップに似合うだろうか。
 ユキメノコにはちょっと渋めのあれが似合いそうだ。
 アブソルは何だかんだ言っても可愛いのが好きだからあれか。
 タブンネには柔らかい色のあれだろうか。
 エルフーンにはもう少しギャップを持たせてあれにしようか。
 ドレディアは花の色に合わせてあれにして。
 ゾロアークも可愛いものには結構目が無いみたいだからあれ。
 コジョンドは流れる動きに合わせても違和感の無いあれで。

148名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:44:57 ID:n4s6mDuw
 と、ルルのメンバーへのプレゼントも考えている辺りがバイツである。
「お客様、こちらの贈り物はいかがでしょうか。」
 バイツは店員の持って来た「それ」に目を向けた。
「こちらはシメキテゥザワという国を支配していたティヌオカという魔王に秘宝メンキョーショを取り上げられた際にカズフィンド・タディェンヌ、サトーシェ・ダイーヴォ、ユースケィルト・ハタヌの三人の勇者がティヌオカを倒すのに使ったリボルバーにございます。」
「ふざけるな!」
 声だけは迫真だったが表情はさほど変わっていなかった。
「それに何でファンシーグッズを扱う店で拳銃見なくてはいけないんですかね。」
「謝るよりも先に免許証を返して欲しいと言った三浦は人間の屑ですね。」
「今この人免許証ってハッキリ言ったよ・・・三浦よりもな、半笑いで頭を下げなかった中田が人間の屑・・・それよりあれくれ。」
 バイツはケースの中に入っているピッピにんぎょうを小さくしたストラップを指差した。
「お客様お目がお高い。これは怒羅獲紋という魔導師が編み出した素耗流雷渡という秘術でピッピにんぎょうをそのまま小さくしたストラップです。」
「さて、何処から突っ込めばいいのやら。で、幾らだ?」
「五百円です。」
 バイツは料金を支払うとストラップを受けとった。
「ルル・・・これ。」
「これって・・・プレゼント?」
「まあ・・・な。」
 ルルは笑顔をバイツに向けた。
「ありがとうバイツさん、そろそろ帰ろっ。」
「ちょっ・・・待て・・・まだ他のプレゼント選んでない!」
 上機嫌でバイツを引きずりながら店を後にするルル。
「お客様、ただいまサービスでシメキテゥザワという国・・・」
「あんたは厄介な商品を押し付けたいだけだろうがぁぁぁ!」
 バイツの叫びは通りに響き渡った。



「・・・で、バイツさんとルルでお出かけしているんですね?」
「はい。」
 モーテルに戻ってきたドレディアはサーナイトから何があったのかを聞き出していた。
「うーん・・・」
 難しい顔をするドレディア。
「どうかしたのですか?」
「ルルは他人の都合などお構い無しに引きずり回しますから・・・バイツさんに迷惑を掛けてないといいんですけど。」
「だったら私が見付けて連れ戻して来よう。」
 サーナイトの足元には何時の間にかアブソルがいた。
「大丈夫よ、ルルだってボロボロのバイツさんを引きずり回す訳無い・・・多分・・・」
 コジョンドはやけに自信なさげに口を開く。
「まあ、そろそろ夕方だ・・・その内戻ってくるだろう。」
 アブソルがそう言った矢先にドアが開いた。ミミロップとゾロアークが帰ってきた。
「意外と見る所があっちゃった。」
「悪くない町さ。たまに人混みが酷くなる事を除けばね。」

149名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:45:28 ID:n4s6mDuw
 と、それなりに観光を楽しんでいた様だった。
「ただいまー!」
 次に帰ってきたのはクチート。クチートの声が聞こえたのか隣の部屋で跳ね回っていたエルフーンがやってくる。
「クチー!」
 遊び相手を見付けたエルフーンはクチートに抱き着く。
「きゃー」
 じゃれあう二人。するとまたドアが開いた。
「楽しそうにしてるわね。」
「はー・・・見るとこ多いのはええけど人がぎょうさんおるわぁ。」
「しょうがないよ。タイムセールの時間帯と被ったんだから。」
 ムウマージ、ユキメノコ、タブンネという組み合わせ。
「さ、居ないのは特急お嬢様と最強の騎士だけ・・・」
 コジョンドが呟くとドアが開いた。
 そこに立っていたのはバイツでもルルでも無く黒いロングコートを着た銀髪の男だった。



 鼻歌を歌いながらルルはバイツを引きずり続けていた。
「晩御飯は何にしようかなー」
 そう言いながらモーテルに近付いた途端に何かを感じとったのかルルの体が強張った。また、バイツもルルの態度が変わった事とモーテルに渦巻く妙な違和感に気付く。
「・・・」
 バイツは無言のまま、引きずられ続けていた体を起こしてモーテルの受付に通じるドアを開いた。受付には誰も居ない。いや、生存者は居なかった。受付カウンターの向こうに人が倒れていた。
「バイツさん・・・ワルイーノの気配が・・・」
 バイツは自室へ走った。どう考えても最悪の考えしか浮かばない。
 いや。バイツは頭を振った。そんな事を考えるなど自分らしくない。きっと皆無事だ。
 部屋のドアを開けると彼の希望とは全く逆の光景が広がっていた。散乱する壊れた家具に穴の開いた壁。そして、倒れているサーナイト達。
「おい!大丈夫か!何があった!?」
 近くに倒れていたサーナイトを上体を起こす様に抱き寄せる。目立った傷は無いが呼吸は弱々しく幾ら呼び掛けても返事は返ってこない。
「・・・ッ!」
 バイツは言葉にならない怒りと悲しみを何処にぶつけていいのか分からずに壁に左の拳を打ち付けた。
 ルルは何かに引き寄せられる様に寝室へ向かっていった。寝室の奥には紫色の炎の玉が浮いていた。それは一際激しく燃え上がると消え去った。ルルは寝室を後にする。
「ルル・・・?」
「バイツさん・・・皆をお願い!」
 言葉を残すと共に駆け出したルル。
「ルル!おい!」
 バイツの声が後ろから聞こえてきたが振り向く事なく走りつづけた。残されていた「メッセージ」の場所へ。



 ルルは走った。町外れの広い更地にたどり着くとロングコートの男が立っていた。
「伝言は通じた様だな・・・」

150名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:46:05 ID:n4s6mDuw
「アンタ・・・!ワルイーノね!」
 男は表情を変える事無く口を開いた。
「そうだ、私はその中でも名有りの身でな。アクナスだ。」
「そう・・・覚えておいてあげる・・・一番私を怒らせたワルイーノとして!」
 ルルの体が光に包まれるとメイデンナイトに変身していた。
「・・・来い。」
 アクナスと名乗った男はサングラスを中指で押し上げた。その行為を挑発だと受け取ったルルは間合いを一気に詰めて拳を突き出した。



 バイツはポケモンセンターの治療室の前で長椅子に座って項垂れていた。ジョーイと呼ばれている看護士がバイツの前に立った。
「酷い怪我です・・・ポケモンバトルで怪我をしたポケモンを沢山見てきたけど・・・あれは・・・」
「・・・助かるのか・・・」
「助けて見せます!ですから悲観的にならないで下さい!」
「・・・」
「成る程な、奴の情報は本当で俺とテメェは腐れ縁・・・つー訳か。」
 聞き慣れた声がバイツの耳に届いた。
「刑事さん、今この人は疲れているんです話を聞くなら・・・」
 ジョーイの言葉を遮る形でバイツは口を開いた。
「どうしてあんたがここに居るんだ?モウキさん。」
 モウキと呼ばれた刑事はバイツの知り合いで何故かバイツの巻き込まれる事件に高確率で関わる不運な刑事である。
「俺は大丈夫だ・・・」
「見りゃ分かる。一体何があったんだ?」
 バイツはジョーイに目配せをした。困った顔で溜め息を吐いたがしっかりとバイツを見据えた。
「きっと助けてみせます・・・」
 ジョーイが治療室に入った後、モウキはバイツの隣に座った。
「モウキさんは何でここに?」
「お前が旅に出た直後に地方の博物館からお宝が消えてな、それがかなり重要なやつだったらしいからいろんな所から人集めて合同捜査。犯人とブツがこの町にある可能性があるらしいから来たんだが・・・」
 一度言葉を止めてモウキは頭を掻いた。
「全くアシが掴め無くてよ。お前もこの町に寄っているらしいから気晴らしに面でも見ようと思ったらこの様だ。」
「ライキからの情報か?で、そっちの追っている宝物って?」
「なんでもシメキテゥザワという国の・・・」
「ファンシーグッズを扱う店を片っ端から捜せば見つかるかもな。」
「そうか。ま、お前の件の担当は俺じゃ無いが話は聞かせてもらうぜ。人が死んでるからな。」
「俺も分からない・・・ただ俺と一緒に旅をしている・・・」
 その時、治療室の中が騒がしくなった。バイツは反射的に治療室の中に入った。幾つもベッドが並んでいる部屋。色々な機械が枕元で動く中、彼の家族達は昏々と眠っていた。
 一人を除いては。
「駄目です!まだ起き上がってはいけません!」
 ジョーイの目の前には必死に起き上がろうとするサーナイトがいた。
「サーナイト!」
「マスター・・・ご無事でしたか・・・」
 咳込むサーナイト。

151名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:46:38 ID:n4s6mDuw
「大人しくしていろ!俺は大丈夫だ!」
「・・・ルル様は?」
「ルルは犯人を追っている、だから・・・」
「駄目です・・・」
「何?」
「あれはルル様では敵わな・・・」
 再度咳込むサーナイト。先程よりも激しく咳込んでいる上、機械もアラーム音を鳴らし始める。
 サーナイトの言葉の意味が理解出来ないまま立ち尽くすバイツ。ジョーイに出ていく様に促され、また治療室前の長椅子に座る。
「また厄介な事件か?」
 モウキの声は左から右へと流れていく。
「なあ、モウキさん「黒い生物」って知っているか?」
「ああ、人でもポケモンでもないあれだろ?最近見掛ける様になったらしいが・・・」
「今回の事件はそれ絡みだ。」
 二人同時に溜息を吐く。バイツはゆっくり立ち上がるとルルを捜す為に歩き始めた。
「おい、何か分かったらここに連絡を寄越せ。」
 モウキがメモ用紙を一枚差し出す。それを受けとったバイツは足早に歩き始めた。ポケモンセンター出た途端、嫌な予感がした。



 辺りが夕暮れの橙から夜の黒に変わりつつあったがルルにはそれを気に留める余裕等一切無かった。
 息を荒げながら膝を付くルル。目の前に立つ男アクナスは余裕といった表情で立っている。
 それもそのはずルルは攻撃を一撃もアクナスに当てられずにいたがアクナスは外す事なく強烈な打撃をルルに叩き込んでいた。
「こ・・・のぉ!」
 ルルは瞬時に加速を付けて跳び蹴りを繰り出す。だがアクナスはそれを読んでいたかの様に蹴りを左回転して流し、回転の勢いを殺す事無く鉄山靠をお見舞いする。
 防ぐ間も無く吹っ飛ばされたルル、受け身を取る事も出来ず地面に叩き付けられる。間髪入れずにアクナスが倒れているルルに接近し空高く上げた踵を腹部に落とす。
「・・・これが・・・」
 アクナスの足に力が入る。
「うあ・・・あ・・・!」
「これがメイデンナイトの実力か・・・私が出る迄も無かった様だ。」
 再度足を上げる。狙いは首元。鋭い踵落としが再度繰り出される。えぐれる地面の土。
 しかし、それだけだった。ルルの体はそこには無かった。アクナスが目を向けた先にルルは居た。髪の長い少年に抱き抱えられて。
「ほう・・・?アクマーンから聞いていたが・・・」
 間一髪でルルを助け出したバイツは目の前の男を睨みつける。憎悪、憤怒、そして殺意。
「バイツ・・・さ・・・ん・・・」
「皆はポケモンセンターだ・・・」
 それだけバイツは言うとルルをゆっくり地面に降ろした。
 対峙する二人の男は少しの間微動だにしない。
 そして、先に仕掛けたのはバイツ。一瞬で間合いを詰め右手で貫手を繰り出す。移動も貫手も常人を遥かに凌駕した速さ。しかし、それにすら反応したアクナスは瞬時にバイツの背後へ回り瞬時に掌底打を打ち込む。バイツもその動きに反応し右腕で受け流す。そして右腕によるアッパーカット。瞬時にアクナスは距離を空けて体勢を立て直す。
「ほう?話に聞いていた以上だな。」

152名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:47:09 ID:n4s6mDuw
 残像を残す程の速度でバイツへ急接近すると大きく踏み込み双掌打。その一撃すらバイツは右腕全体でいとも簡単に防ぎ切る。
「・・・」
「・・・それもまた良しだ・・・良いだろう。」
 アクナスは少し距離を離して口を開き始めた。
「メイデンナイトよ!三日後だ!三日後にもう一度戦うとしよう。三日後に場所は指定する!」
 ルルは体を必死に起こそうとする。
「逃げる・・・気・・・!?」
「逃げる、かそう理解するならばそれでいい。だが・・・」
 再度バイツに接近し腹部に拳を打ち込む。呆気無く崩れ落ちるバイツ。アクナスは軽々とバイツの体を担ぐ。
「これは人質だ。三日後、貴様が逃げるか負けるかした際にはこの男を自由にさせてもらう。」
 そう言い残しアクナスは闇の中へ消えていった。
 夜の闇の中にただ一人残されたルル。ヨロヨロと立ち上がるが地面に倒れ込む。
 二人の先程の動きをルルは追いきれなかった。
 刹那の間に生と死を見出だす戦い。
 自分は何をしていたのか。そう考えるとルルは自分が情けなくなってきた。
 悔しくて涙が流れる。ルルは泣いた、声を上げて。
 やっと顔を覗かせた満月が彼女を照らし出す。その光は彼女にとって何の慰めにもならなかった。



 小さい空きビルの屋上にアクナスは降り立った。眼下には人が作った光の海が溢れていた。下らないと言わんばかりに鼻先でその様を笑う。
「そろそろ狸寝入りは止めたらどうだ?」
 そう言うと担いでいたバイツを屋上の真ん中に放り投げる。すると、バイツは上手く空中で体勢を立て直し見事に両足を着けて降り立った。
「投げられるとは思って無かったな。」
「悪かった。」
 警戒心無くアクナスはバイツに近付く。そしてバイツは左手でアクナスの頬を思いっ切り殴った。倒れるアクナス。だがバイツはそれ以上追撃せずに右手を差し延べた。
「皆の分はこれでチャラにしてやる・・・!」
「連中を殺していれば私が死んでいたのか・・・」
 悪態に嫌悪感を抱きながらもバイツはアクナスを引き起こした。
 先程の戦いでバイツが双掌打を受け止めた時、バイツはアクナスに小声で交換条件を出していた。
「俺の身と引き換えに彼女に三日間の猶予をくれ。」
 戦いが長引いては町に被害が及ぶ可能性がある。それだけはサーナイト達の為「だけ」に避けたい所であった。敵の手の内に入る事は避けたかったがこの際仕方が無かった。
 アクナスも意図を察しその考えに乗った。狙いはバイツでもあるのだから。
「余興というものだ、三日で何処まで出来るか見物だな。」
 照明の点いていない暗い空きビルの階段を降りながらアクナスは口を開いた。
「ここだ。暫くここに居ろ。」
 アクナスがドアを開けた。空きオフィスには長机が一つとそれを挟む様にソファーが二つ。机の上にはランプが薄暗い橙色の光を発しており。窓にはその光を漏らさ無いようにカーテンが掛かっていた。
 その時、片方のソファーに足を組んで座っている人影を見付けた。その男は青いツナギを着た凛々しい男性だった。
 男はバイツを見た途端ツナギのホックを下げ始めた。
「やらないか。」
「結構です。」

153名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:47:43 ID:n4s6mDuw
「遠慮するなよ。ま、俺はノンケだって構わないで喰っちまう人間なんだぜ。」
「阿部、その辺にしておけ。」
「まあ、「お突き合い」する前に自己紹介位しておくべきだったな俺は阿部高和だ。よろしくな。」
 たくましい腕を差し出す阿部。バイツは恐る恐る握り返す。そしてバイツは悟った。この人にはどう足掻いても勝てないと。  
 そう思っていると部屋の脇にある給湯室から煙が上がってきた。
 バイツは咳込む。アクナスも咳込む。阿部は咳込まない。
 給湯室から人影が出て来る。
「オイオイ!どうなってんだよ!これじゃパンケーキも焼けやしねェ!」
 赤と黒を基調とした全身タイツに同じ様な顔全体を覆うマスク。背中には二本の刀を背負い、腰のベルトには色々な物が付いている。
「誰チャンよ?」
 アクナスが渋々口を開く。
「バイツだ。」
「だから誰よ?」
「人質だ。」
「俺チャンはデッドプールでいいぜ?で、誰よ?」
「だからバイツだ。」
「違ェよ!さっきからモニター越しに俺チャンを見ているでかい面の奴だよ!テメェ誰だ!」
「あー・・・」
「気にするな、少しおかしい奴でな。何と言ったかな・・・」
「アクナス、第四の壁の破壊というやつじゃないか?」
「阿部、説明しながら何故脱ぐ。」
「ん?このバイツという少年を連れて来てから始めるつもりじゃ無かったのか?」
「なあ、デッドプールさん。長いからデップーさんって略して良いかな?」
「構わねェよ、それと俺チャンについて詳しい事が知りたきゃググりな。」



 変身を解いたルルはいつ自分がポケモンセンターに戻ってきたのか思い出せなかった。
「・・・し・・・しも・・・もしもし?」
 誰かが体を揺さ振っている事に気付く。そして、目を覚ますと自分がうたた寝をしていた事に気付く。目の前にいたのはジョーイ。
「大丈夫?何だかとっても疲れているみたいだけど。」
「あ・・・いえ、はい。」
「預かっていたポケモンは全て回復しましたよ。あともう少しでお返しする事が出来ます。」
「はい・・・」
 サーナイト達には何と言えば良いのか。
 全く歯の立たない相手にバイツが連れ去られた事。きっと凄くショックを受けるだろう。それから激しく罵られるだろう。
 だが、それを全て受け入れた上でバイツを救わねばならなかった。
「ルルー!」
 治療室のドアが開くとエルフーンが真っ先に駆け寄ってきた。
「あ・・・」
 言葉が出なかった。自分の巻き添えで怪我をしたのに全然変わらずに接してくれる。
「心配掛けたね・・・ルル?」
 エルフーンの後ろに居たゾロアークがルルの異変に気付く。気が緩んだのかルルは激しく泣き崩れていた。
 全員無事だった事に対する安堵感で彼女の心は一杯だった。

154名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:48:14 ID:n4s6mDuw



 モーテルは先の一件で封鎖されてしまったので別のモーテルに移る事になった。
「話を・・・聞かせて頂きます。」
 サーナイトの言葉にルルは覚悟を決めた。そう、罵られても弱い自分が悪いのだ。
 晩の事を話し始めると語り手のルル以外誰もが黙っていた。
「ごめんね・・・何も出来なくて。」
 一通り話し終えるとルルは謝った。座って聞いていたサーナイトが無言で立ち上がりルルに近付く。
 打たれても仕方ないか。ルルはそう考えて目を閉じた。
 しかし、ルルの考えに反しサーナイトはルルを優しく抱きしめた。
「よく・・・よくご無事で・・・!」
 サーナイトの涙声が聞こえた。
「バイツさんが・・・私のせいでバイツさんがぁ・・・」
「マスターはきっとご無事です・・・大丈夫です・・・」
「・・・でも・・・でもぉ・・・」
 サーナイトは首を横に振った。これ以上ルルに自分を責めて欲しくなかったのだ。
「ルル、それ以上自分を責めたら駄目ですよ。あなたらしく無いです。」
 ドレディアの言葉でルルは再度声を上げて泣いた。ここにいるのは自分だけではない一緒に居てくれる仲間がいる。
 諦める訳にはいかなかった。



「・・・」
 バイツはどうこの二人に反応すれば良いのか分からずに口を閉じていた。
「ん?どうした。準備万端なのか?」
 阿部はバイツの視線に気付くとツナギのホックを下ろす。
「やりません。」
 バイツは手厳しく一言だけ返した。
「なあ!おい!これ見たかよ!」
 デッドプールがバイツの肩を叩く。バイツが振り向くとデッドプールがポップコーンのバケツ片手にテレビ番組を見ながらはしゃいでいた。衝撃的な映像ばかりを集めている番組を放送しているテレビ画面には半分焦土と化していたとある市の映像が映っていた。
「随分前の映像だな・・・」
「あれはまずかったな。まさかあそこでカクテル製造機が・・・」
 とりあえずバイツは耳を塞いだ。
 ここに居ても精神を擦り減らすだけだと思ったバイツは屋上へ上がった。ドアを開けた途端に吹き込んでくる少し冷たい夜風が気持ちいい。
 屋上の真ん中に誰かが居た。それは鍛練しているアクナスだった。ロングコートを脱ぎ捨て、急緩しっかりとした動作を繰り返している。
「何だそれ?拳法?」
 皮肉抜きでバイツはアクナスに尋ねた。拳法のそれに酷似しているがバイツの友人であるヒートの動きとは別物だった。
「見様見真似だ。大まかな所だけ真似て後は我流だな。」
「それであの動きか、大したものだな。」
「お前も同じでは無いのか?」
「色んな連中と戦っていく内にスタイルが身についたって感じだな。ま、我流だよ・・・」

155名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:48:46 ID:n4s6mDuw
 バイツは欠伸をした。
「随分呑気な人質だ。」
「人質を好きにウロウロさせているあんたに言われたく無いね。」
 踵を返し階下へ通じるドアへと向かう。
「逃げる様な奴ではないだろう?お前は。」
「どうだろうな・・・お休み。」
「寝る時は用心しろ、主にイイ男と爆薬に。」
 バイツは振り返る事なく返事の代わりに右手を頭の上で振った。ふと、あの二人と出会った経歴を聞こうとしたが眠かったので寝る事にした。サーナイト達の心配をよそに呑気な奴だった。



 朝の日差しがカーテンの隙間からソファーで眠っていたバイツの目に入った。
 バイツは咄嗟に跳ね起き、ソファーから離れた。ソファーの背もたれの後ろに誰かがいた。
「ん?もう起きるのかい?意外と早いんだな。」
 バイツの寝顔を覗いていた阿部高和だった。
「ここまで恐怖を感じたのは初めてだ・・・」
 バイツは汗を拭って歩くと何かを踏ん付けて転んでしまう。拾い上げて見るとそれは手榴弾だった。まだピンが抜かれていない為に爆発の危険性は無かった。
 床をよく見るとそこら中に転がっている。出所はデッドプールが眠っている寝袋の破れた部分からだった。
 その時、部屋のドアが開いた。そこに立っていたのはアクナス。
「何だこれは。」
「デップーさんに聞いてくれ。」
 阿部はツナギを脱ぎ手榴弾を数個小さなビニール袋に入れて袋口を縛ると、それをローションで濡らし自らの菊穴に入れて自慰を始めた。
「あおおーっ!」
「・・・私は昼頃もう一度出掛けるからこの二人を頼むぞバイツ。」
「いや・・・俺人質・・・」
「・・・ショーリューケン!HAHAHA!ZZZ・・・」
 バイツの呟きはデッドプールの寝言に掻き消された。



 同じ頃、モーテルのベッドの上でルルは目を覚ました。体を起こそうとすると体中に痛みが走る。シーツをめくって上体を無理矢理起こす。下着姿の自分の体を見回すと傷は無いが、負ったダメージのせいで暫く立てそうに無かった。
 再度ベッドに身を投げ出すルル。その時右腕に何かがぶつかった。
「あう・・・」
 隣に寝ていたのはサーナイト。
「ご・・・ごめ・・・ん・・・」
 ルルは口を開けたまま、暫く固まった。いつもサーナイトが身につけている緑と白のローブは何処へやら、一糸纏わぬ裸体だった。慌ててシーツを自分とサーナイトに被せたルル。小声でサーナイトを起こす。
「サーナイト。起きて!」
「あ・・・おはようございますルル様。ご気分は・・・」
「それ所じゃないわよ・・・!どうしてあなた裸なの?」
「これは・・・ごめんなさい・・・ルル様の回復に役立とうと思いまして。」
 サーナイトが言うにはルルの扱う力とサーナイトのサイコパワーがある程度類似しているという事だった。その為にシンクロして消耗した力を戻そうとしたのである。

156名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:49:18 ID:n4s6mDuw
「でも・・・どうして・・・裸なの・・・?」
「ローブを消せば僅かでも力を回復に回せます・・・それに肌が触れ合う面積が大きい程力を流しやすくなるのです。」
「そ・・・そうなの・・・」
 横目でサーナイトを見たルル。白い綺麗な肌に細いながらも均等のとれたプロポーション。意識すると変に緊張し始める。サーナイトが身を寄せるとルルの腕に柔らかいものが押し付けられる。何故か恥ずかしくて心臓の鼓動が強くなる。
「サ・・・サーナイト・・・」
「どこか痛いところでも?」
「む・・・胸が・・・」
「胸ですね?」
 サーナイトはルルのブラを外しに掛かる。
「ち・・・違っ・・・」
「えっと・・・ここをこうすれば・・・外れました!」
 サーナイトの眼前には小さいながらも形のいい乳房が現れる。間髪入れずにルルの体に重なる様に俯せに乗り両方の掌を優しく胸に添える。
「ま・・・ま・・・ま・・・ま・・・待って・・・」
 呂律が回らないルル。
「動かないで下さい!」
 この状態だけは何とかしようと動くとサーナイトの掌が丁度いい圧で乗っているいる胸も動く。その度に微かに変な気持ちになっていく。ルルは更に顔を紅くして息を荒くする。恥ずかしさとは違う感情の胸の鼓動。
「ルル様?」
「サーナイト・・・」
 ルルはサーナイトを抱き寄せると唇を自らの唇で奪った。この不思議な感情をどう伝えればいいのか分からないルルはサーナイトの唇を貪り続けた。
 サーナイトも別段抵抗はしなかった。ルルが何をしたいのかを薄々感じていた。ただどう動いていいか分からないルルを見かねたサーナイトはルルの大腿部の内側を指で軽く下から上になぞる。微かに跳ね上がる体。
 漏れる吐息が荒く、熱い。
 指を両足の付け根の中心まで持っていくと布越しに汗とは違う湿り気を感じた。軽く上下になぞるとルルが体をのけ反らせる。
 声を出すのを我慢しているかの様にルルはサーナイトの口内に舌を差し込み続ける。
 数分ばかり同じ行動が続いた頃、サーナイトがルルの下着を少しずらした。
 ルルはそれを感じとったがどうでもよかった。十分濡れた部分に浅く指を入れられると体が勝手に大きくのけ反り意識が白くなる。
 絶頂を迎えてサーナイトの指を一際強く締め付けるとルルは力が抜けたのか唇を離した。
 サーナイトも上体を少し起こして濡れた指を舐めながらルルを眺める。
 初めての絶頂で脱力し、太股を痙攣させながら涙目でサーナイトを見つめている。
「パンツ・・・濡れちゃった・・・」
「では洗濯しますので貸して頂けますか?それと・・・」
 サーナイトは悪意の無い笑顔を浮かべて口を開いた。
「ルル様と私以外の皆様はお出かけしていますよ。」
 ルルが必死で声を抑えていた理由は他の誰かにこの行為を発見されない為だったのだがサーナイトは知ってか知らずか自分達以外居ない事を黙っていた。
「意地悪・・・」
 顔を真っ赤にするルル。
「ごめんなさい。」
 少し俯くサーナイト。
「これはお仕置き。」
 そう言いルルはサーナイトに優しく口付けをした。彼女は自覚していなかったが体の痛みは引いていた。

157名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:49:49 ID:n4s6mDuw



 それから数時間後。ルルは机に頬杖を立てながら頭を悩ませていた。アクナスと名乗るワルイーノとの戦いを思い返しているのだが対策が思い付かないのだった。
「うーん・・・」
 力、速さ、反応速度。どれを取っても勝てる気がしない。
「ご気分は如何ですか?」
 サーナイトがルルの目の前にコップに注がれたミックスオレを置く。
「んー・・・全然楽になった・・・はぁ・・・」
「先程の事・・・まだ怒っていますか?」
「違う違う。どうやってバイツさんをさらっていった奴と戦えばいいのか分からないの。全然手も足も出なかったし・・・」
 溜息が机の上で広がる。
「やっぱり距離を取ってチマチマやるしか無いのかなー・・・」
「あのー」
「ん?」
「私も手伝って宜しいでしょうか?」
「ダーメ。あなたにまた何かあったら大変よ。あ!UFO!」
「えっ!何処ですか・・・ってここは室内・・・」
 ノリで一瞬だけルルから目を離したサーナイト。再び視線を戻すとそこにルルの姿は無く、外へと通じるドアが軋んだ音をあげているだけであった。
 



「ヘィヘィ!俺チャンはケツにぶち込まれる趣味は無ェんだ!代わりと言っちゃあ何だが頭にぶち込んでやるよ。」
「おっ、顔にかけるのが趣味なのか。いいぜドンと来いよ。」
「アァ!?上等だ!おい、モニターにそのでかい面を近付けているお前!そう!お前だ!殺り方のリクエストがあるならさっさと言いな!皆のおホモ達が俺チャンの意思で粉々にならない内にヨォ!」
 デッドプールと阿部のやり取りを横目で眺めながらバイツは机の上を占領しているチミチャンガを一つを食べ終えた。だが、机の上は片付かない。
「おい!全部食べるなよ!」
「一週間掛かっても無理だ。」
 言い分はバイツが最もだった。
「全員居るか?」
 不意にアクナスの声が聞こえた。ソファーに全員座る様に促すと一言口にした。
「暇だからこの町を覆す!」
「何しに来たんだあんた・・・」
「愚問だなバイツ。私・・・いや、我々はこの世界を闇に染める為に現れたのだ。メイデンナイト等居ても居なくともやる事はこっちが主流だ。」
「まあ、一利あるな。」
「それでこの町を侵略の足掛かりにしようというのだ。千里の道も一歩からというだろう?」
「じゃあ、どうして大軍勢で押し寄せて来ないんだ?頭数ならお前等の方が・・・」
「いや、向こうとこっちの世界を繋ぐ門が狭くて一日一体しか通れん。私も一日掛けて無理矢理こっちの世界に来たのはいいが肋骨を折ってしまった。」

158名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:50:23 ID:n4s6mDuw
「ご愁傷様です。」
「あと三日・・・いや二日か、ここで大人しくしているのも暇だろう。」
 その言葉にデッドプールは喜びながら大きく頷く。
「分かってるじゃねェか!何の為にマーヴルから引っ張られたのか忘れる所だったぜ!」
「まずは先立つ物を手にする・・・だろ?」
 阿部の言葉にアクナスは頷く。
「まずはホモビデオ専門店・・・」
「却下ァ!」
 叫びながら二つ目のチミチャンガをデッドプールに叩き付けた。その際バイツの右手から離れたチミチャンガは時速三百キロを越えていたが叩き付けられた本人は知る由も無かったし知りたくも無かった。
「どうしたバイツ。そんなに殺気立って。」
「まず何でもかんでも咄嗟にそれに結び付けるな!ホモって言えば受けると思ったら大間違いだ!」
「俺はホモだがタチだぜ?」
「黙れ阿部さん!タチネコの意味で受けるって言った訳じゃない!俺はノンケだ!そ・れ・に!」
「それに?」
「リスクが大きすぎる!それにこの前そういう店に全裸の男が入って来て何をしたと思う?」
 頭をチミチャンガ塗れにしたデッドプールが起き上がる。
「DVDのパッケージ見ながらナニをしごいていたんだろ?だから何だ?それをぶった切る為にコレがあるんだろ?」
 背中に背負った刀を抜くとその白刃を血走った目で眺める。
「事業拡大したいなら白い粉を流せばいい!それの方が金になる!」
「趣味と実益を兼ねた方法だと思ってアクナスに相談したんだがな。」
「阿部さん!やはりあんたか!」
「だれも目を付けていない金儲けの方法だと阿部に教えてもらったのだがな。」
 アクナスがボケ担当になりつつあるのを危惧しているバイツ。ただでさえボケ担当が二人いるのでツッコミをこなすのが相当困難だった。



 昨日から町の空気がおかしい。
 田所組のトオノは事務所の窓から夜空を眺めそう思った。傘下の組事務所から変な連絡を受けてから一時間が経っていた。弟分のキムラと数人の組員を送ったが何の連絡も無い。
 それだけでは無い。最近大量の銃火器の調達を頼まれるものの知らない所へ流れていく。
「大丈夫ですかね・・・」
 複数の組員がいる中、不安げなトオノを目にした田所組組長タドコロは口を開いた。
「ま、多少はね?」
 何が多かれ少なかれなのか問い質そうとは誰も思わず、時間だけが過ぎていく。
「あっ、何か喉渇かない?」
 静寂を破ったのはタドコロ。給湯室へ向かうと十分後人数分のコップを盆に乗せて戻ってきた。
「お待たせ、アイスティーしか無かったけどいいかな。」
「あっ・・・いただきま・・・」
 そこまでトオノが口にした時ドアが開いた。ゆっくり開いたドアの向こうにいたのは銀髪の男だった。
「何だテメェ?」
 組員の一人が男に近付く。ゆらりと男が動くと組員が顔面を血塗れにして吹き飛ぶ。
「淫夢会直系田所組・・・組長のタドコロだな?」
 タドコロは頷く。目に映る男には面識が無い。
「貴様のシマを貰いに来ただけだ。白い粉の出所はここだと聞いたのでな。」

159名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:51:26 ID:n4s6mDuw
「テメェ!何がシマだこの野郎!何処の組のモンだ!」
「そうだな・・・ワルイーノ・・・と言っても分からないか。」
 事務用机を片腕で軽々と持ち上げると窓際にいるトオノに投げ付けた。
「うもう!」
 まるで媚薬を染み込ませたティッシュペーパーを無理矢理口に押し込まれた様な声を上げて即死したトオノ。
 近くにいた組員が懐から拳銃を出し発砲した。だが男の姿はそこには無い。
「遅いぞ。」
 掌底打が組員の背骨を砕き吹っ飛ばす。組員は正面から壁に衝突し生々しい紅い染みを作ると後ろに倒れた。不運な組員が床に倒れ混んだと同時に鼻唄混じりの風が白刃を煌めかせ残りの組員を切り裂いた。
「ああ・・・この感覚だよ!銃も捨て難いが刀で感じる肉の感触も捨て難い!無機質でクールな銃の魅力!豪快でオレをリードしてくれるカタナの魅力!ああっ!俺はどっちで殺せばいいんだッ!!」
 赤と黒のタイツとマスクをした男が血に染まった刀をタドコロの喉元に突き付ける。
「で・・・アンタはどっちでイきたい?」
「ちょっと刃ァ当たってんよー」
 絞り出した奮え声。すると尻に何かを突き付けられている感触がした。
「生かしてやるから俺と一緒にどうだい?ケツにションベンもOKだぜ?」
 青いツナギを着た男がいつの間にか股間を密着させ後ろに立っていた。
 そして箱型の金庫の前には一人の少年が立っていた。ダイアルを無視して無理矢理金庫の開口部を引き離す。中身は書類と札束だった。だがその少年は表情一つ変えずにタドコロに向き直った。
「何で稼いだ金だ?」
 空間が歪んで見える程の殺気にタドコロは震えた。
「ヌッ・・・!」
 力無くタドコロは気絶し崩れ落ちた。
「屑野郎が・・・!」
 そう言い捨てたバイツは嫌悪感を表にする。彼が金庫内で見つけた書類の中身は「商品」の制作過程。睡眠薬を様々な方法で「男性」に飲ませて強姦。その様子を撮影し裏に流す商売をしていた。
「ん?待てよ・・・」
 バイツは部屋の隅に置いてある段ボール箱を開けた。入っているのは小さい袋に入った白い粉。銀髪の男アクナスは袋の一つに指で穴を開けその際指に付着した粉を舐める。
「ペロッ・・・これは睡眠薬!」
 倒れるアクナス。体は大人だが頭脳は子供なのだろうか。
「睡眠薬って遅効性じゃあ・・・?」
 けたたましくサイレンの音が外に響き渡る。
「オイオイ・・・今夜は楽しいなぁ・・・鉛弾が足りるかなー?」
 デッドプールが楽しそうに刀を納めて銃を取り出す。
「逃げようデップーさん。やり合うのはマズイ。」
 アクナスを担ぎながら逃げ切れるだろうか。。
「じゃあ俺が囮になるよ。」
「阿部さん・・・その服は・・・!」
 阿部を見ると黒いレザーのチョッキに黒のチャップス、モヒカンのかつらを身につけて恥部を丸出しにしている。
「なぁ、そのぶら下がってるでかいタマキン切り落としてやろうか?」
「阿部さんお願い出来ますか。」
「任せろ。」
 バイツは阿部に軽く礼をすると金庫の中身の金をダッフルバッグに突っ込みアクナスを担ぎデッドプールの首根っこを掴んで走り出した。

160名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:55:48 ID:n4s6mDuw


 アクナスが飛び起きるとバイツの呆れ顔が真っ先に目に入った。
「俺一人にツッコミ役を押し付けるつもりか?」
 バイツの悪態を聞き流しながら頭を振ったアクナス。
「二人は・・・?」
「阿部さんはトイレ。デップーさんはマネーロンダリングの・・・」
 そこまでバイツが口にするとデッドプールがドアを開け入って来た。
「ひとまず大成功!後はこいつを赤の他人に売りさばくだけだぜ。」
 そう言うと桐箱に入ったリボルバーを机の上に置く。バイツはそれを何処かで見た事があった。
「こいつは何でもシメキテゥザワという国・・・」
「何処までこのネタで引っ張ればいいんだ!」
「無論、死ぬまで。」
 デッドプールが笑いながら冗談でそう言った瞬間、バイツはデッドプールが背負っている刀を一本抜き取った。
「牙突零式!」
 間合いの無い密着状態から上半身の撥條のみで繰り出す刺突。デッドプールの上半身は刀と共に壁に吹き飛び、下半身は何事も無かったかの様にそこに立っていた。
「フッ・・・貴様も大変だな。」
「何が可笑しい!」
 鼻先で笑ったアクナスに鬼気迫る勢いで叫ぶバイツ。
「なぁ、刺さってるコレ抜いてくんない?」
 デッドプールは他人事の様に話に加わる。
「ふぅ・・・昨日のションベンがまだケツに残ってやがった。」
 男を狩りそうな衣装からツナギに着替えた阿部がトイレから現れる。
「おっ!こいつは新しい玩具かい?」
「止めろ阿部!そいつは俺チャンの下半身!そんな所触んな!」
 麗らかな陽射しが町を明るく照らし始めた頃、バイツは三人のやり取りを見て心の底から助けを求めた。



 バイツが助けを求める十三時間程前、ルルは完全に治りきっていない体を走らせて町中を走り回っていた。
「・・・はあっ・・・はあっ・・・」
 サーナイトに自分を責めないで欲しいと言われたがルルの性分上負けた自分自身を未だに許していなかった。
 建物の壁に手を付く。体力が完全に戻っていないところを無茶しているからか視界が揺らぎ息も絶え絶えになる。
 しかし、ルルはバイツを捜す為に足を一歩一歩踏み出していく。
 悔しさと言うよりは変な感情がルルの心を締め付けた。
「見つけましたよ・・・」
 声が聞こえた。
 声の主はルルの行く手を阻む形で立っていた。
 顔を上げて声の主を確認する。
「サーナイト・・・其処を・・・退いて・・・」
 悲しそうな表情で立っているサーナイト。彼女も町中を駆け回っていたのか息を荒くして汗ばんでいる。
「戻りましょう・・・まだ体力が回復して・・・」
「嫌、私は戻らない・・・私が・・・バイツさんを助けるの・・・」
「仕方がありません。」
 サーナイトがルルに向けて微弱な念波を放った。

161名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:56:19 ID:n4s6mDuw
 ぐらりと大きく揺れるルルの視界。弱り切っている体はもう自由が効かなかった。
「まだ・・・ま・・・だ・・・」
 暗くなっていく視界の中、瞼の裏で誰かが笑っていた。バイツの時偶見せる笑顔だったのか、アクナスの嘲笑うような笑いなのか。
 次にルルが目を覚ましたのはモーテルのベッドの上だった。
「あー!起きた!」
 ミミロップが声を上げる。
「今・・・何時・・・」
 体を起こしながらルルが口を開く。昨日程ではないが体に痛みが走る。
「午後六時過ぎだよ。」
 ミミロップの斜め下から声が聞こえた。頬を膨らませて眉間に皺を寄せているタブンネだった。
「全部聞いたよ・・・ルルの無茶ぶり。」
「そう・・・サーナイトは?私・・・」
「サナサナは・・・」
 そこまでミミロップが口にした時寝室のドアが開いた。
 入って来たのはゾロアークとコジョンド。
「あんたも馬鹿だねえ。ルル?随分心配掛けさせてくれるじゃないか。」
「貴女は良いとしてもサーナイトの身にもなって・・・あの娘、とっても落ち込んでる。」
 コジョンドの言葉の意味が分からないルルは首を傾げた。
「サナはんはそういう性格なんどす。」
 ふわりとユキメノコがゾロアークの隣に現れる。
「自分がもう少しちゃんとしていれば・・・そう言うてはるんよ。」
「何でも背負っちゃうの・・・サナサナってそんな性格だから。」
 その隣の部屋であるリビングルームではサーナイトが椅子に座りながらうなだれていた。
「ほ・・・ほら!ルルの我が儘なんですからそんなに背負いこまなくても・・・」
 ドレディアが必死で励ますもののサーナイトは悲しげな表情を浮かべるばかりだった。
「私は・・・今の私がいるのはマスターのおかげなのです・・・なのに私は助ける事の手助けも出来ないなんて・・・!」
「サーナ。貴女の所為じゃない。それだけは言えるわ。だから元気を出して?」
 ムウマージの説得にも顔を上げないサーナイト。バイツが居ないというだけでも心身的に疲労がきている。
 モーテルの外では夕焼けの沈む中クチートとエルフーンがアブソルに見守られながら遊んでいた。
 エルフーンはどうだか知らないがクチートはさほど心配していなかった。あの心配性の主が自分から帰ってくるかもしれないと思っていた。
 アブソルは心配しているだけでは無かった。
 空気がおかしい。
 辺りを必要以上に警戒する。
 災いを感じ取る事が出来る彼女は思った。またひと嵐くる。と。



 丁度日付が変わった暗闇の町中を窓から眺めていたバイツ。
「不安か?」
 アクナスが静かに口を開く。
「いや・・・」
 約束の日。
 それは、バイツと世界の運命を決める日。
「さあ、何処をメイデンナイトの墓場にしようか。」

162名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:56:50 ID:n4s6mDuw
 静かな声が部屋の中に響いた。
 阿部もデッドプールもその会話に何の口出しもしなかった。
 そして、バイツとアクナスの会話が途絶える。
「三・・・いや、四人か。」
 バイツはそう呟いた。
「全員男みたいだな・・・よし。」
「何がよしなのかは分からな・・・」
 その瞬間、乱暴な音と共にドアが蹴破られた。背広を着た男が三人、中に押し入り自動小銃の引き金を引く。
 狙いなど付けずに文字通り乱射する。ガラスやら何かが割れた様だが室内にはしばらく銃声以外聞こえる事はなかった。
「もういいだろう。」
 弾倉の弾が尽きた後三人の男の後ろから声がもう一つ聞こえた。
「馬鹿な連中だ・・・淫夢会の直系に直に手を出して・・・」
 マズルフラッシュの所為で暗闇に目が慣れるまで少しの時間を要する羽目になった。
「死体を確認しろ。」
 目頭を押さえながら四人目がそう呟き、再び視線を室内に移した。
 何かが立っていた。最初それが何か分からなかったが徐々に暗闇に目が慣れていくとそれが弾痕だらけの机である事が分かった。
「ハーイ!そんじゃ誰がこんな事する様に教えたのかお兄さんにお話しようか!」
 男の隣に誰かがいた。陽気な口調で喉元に刀を当てている。
「加減を間違えるなデッドプール。そいつから次の連中へと渡らねばならないからな。」
 足元に転がっている「肉塊」には目もくれずアクナスは男を見据えた。
「ばっ・・・化け物!」
 そう叫んだ男の目の前にはアクナスが立っているだけであった。ただ一ついつもと違う所はサングラスが先程の銃撃で割れて赤い眼が剥き出しになったところであろうか。
 暗闇でもはっきりと見えたその眼は人のものでない事がすぐに分かった。
「さあ・・・質問に答えてもらうぞ・・・!」
 アクナスの赤い眼が一際輝いたようにデッドプールには見えた。
 もうひと嵐起こす気か。と言いたげにバイツはアクナスに視線を送った。



 それから二時間後。
「どうした?不服そうな顔をして。」
「騒ぎを無駄に大きくしているようにしか見えないな。」
「我々を認識して貰わなければ困るのだ。」
 彼等が話し合っている場所は血の海と化した床の上だった。
 厳密には淫夢会直系三浦組組長ミウラの邸宅、その一室。
 足元には物言わぬ赤黒い肉塊が五体転がっていた。
 満足げにアクナスは笑った。
「迫真空手の使い手もこの程度か、所詮ワルイーノ流空手の敵では無かったという事だ。これで空手界制覇に一歩近付いたな。」
「ウ〇コしてくる。」
「待てバイツ、主人公があからさまにそんな事言っては駄目だろう。」
「もうツッコミにも疲れた・・・さあ、退け。出そうと思えば何時でも出せる状態だからな。」
「下ネタに走るのは良くないな。」
「俺達そのものが下ネタの塊みたいなものだろう。じゃあボケに走るなよ。お前等の目的は世界征服だろ?何で目的が変わっている?」

163名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:57:20 ID:n4s6mDuw
「いいだろお前、成人の日だぞ(意味不明)」
「・・・ウ〇コしてくる。」
 と、話が戻る。
 その時、ガヤガヤと外が騒がしくなっている事に気付いた二人。
 アクナスが何かを思い出したかの様に口を開く。
「そういえば先程電話が鳴っていたな。」
「そうか、じゃあ阿部さんが堂々とこの家を出て近所のハッテン場に行ったって事も分かっているな?」
「何!?デッドプールはどうした?」
「ストⅤに出たいから開発元に交渉しに行くと・・・暫くは戻れないってさ。そして俺はトイレと言う訳だ。頑張りな。」
 バイツが些か早足で部屋を出た途端に数人の男が窓硝子を破り突入してくる。
 一人の男が手にしていた日本刀がアクナスの側頭部に打ち込まれた。
 だが、刃は皮膚を切っただけで骨にすら届いていなかった。
「人間程度が・・・!」
 不意を突かれて不機嫌になったアクナス。一切の加減は無く男達を次々と速く、重く、正確な打撃で屠っていった。
 最初は数で押せると思っていた男達だが勝負にならないと分かると一目散に逃げ出した。
「逃げるのか?」
 アクナスは逃げていく男達の内の一人に急接近し片手で首を締め上げた。
「威勢の割にはこの程度か・・・」
「ぐぇ・・・くそ・・・全部、会長にだだ漏れだったのか・・・」
「何の事だ?」
「とぼけんじゃねえよ・・・!テメェ等は・・・会長の放った刺客・・・なんだろうが・・・!」
「さっぱり分からんな。」
 男を床に叩き付け、間髪入れずに踵落しを頭部へ叩き込む。
 頭蓋の割れる感触と音。
 求めていた結果とは少し違っていたのかアクナスは不快そうに鼻先で嘲笑った。
「終ったか?」
 呆れたようなバイツの声。
「随分早かったな。」
「ああ、玄関先にいた糞野郎共を片付けただけだからな。互いに出そうと思えば何時でも手は出せたんでね。」
「回りくどい言い方が好きみたいだな。」
「それはそうと・・・こいつ等、妙な事を言っていなかったか?」
「そうだな・・・だが、我々の目的には関係の無い事だ。人間同士の・・・」
「人間同士の小競り合いを放っておいて良い方向に傾いた試しが無いんでね。」
「つまらぬ好奇心を持つならばメイデンナイトを討ち取ってからにしてくれ。今日が約束の日なのでな。」
「大体何処で戦う気だ?言っておくがな・・・」
「貴様の小言は聞かんぞバイツ・・・それにもう招待状は届いてるはずだ。そこで奴が何をするか見物だな。」
 それから数時間後。ルル達の前に紫色の炎が浮かび上がりアクナスのメッセージを伝えた。
『ショッピングモールで待つ。』



 その町では一番大きな建物であるショッピングモール。そのフードコートの付近にバイツとアクナスの姿があった。
 ショッピングモールに入ると必ずややこしい事が起こる、とバイツは常々思っていた。
「安心しろバイツ。ゾンビなど来るはずが無い。」
 バイツの考えでも読んでいたかの様にアクナスが口を開く。
「どうだか・・・」

164名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:57:53 ID:n4s6mDuw
「不安か?」
「まあ・・・な。」
 これから始まる戦いに少々バイツは気が乗らない。
 だが、終わらせなければならない。
 それが世界を巻き込む戦いの前哨戦だとしても。
「時間か・・・」
 アクナスが呟くと目の前の店のシャッターが開いた。
 バイツが手際良く食券機に金を入れて食券を二枚手に取る。
 一枚アクナスに手渡すと同時に店員がバイツとアクナスにカウンターに設けられた席に座るように促される。
 席に座ったバイツは食券を目の前のカウンターに音を立てて置く。
「そちらさん、注文は?」
 店主の声に即反応するバイツ。
「ヤサイマシニンニクヌキアブラ少な目。」
 呪文の様な注文。だが店主は当たり前の様にアクナスにも注文を聞く。
「全マシアブラ少なめで。」
 こちらはさっくりとした注文。
「全マシ?あんた随分キモが座っているな。ロット乱しはギルティーだからな。」
 バイツはそう言ったがアクナスは口元に笑みすら浮かべて余裕を見せ付けていた。
「ふん、ではバトルと洒落込むか・・・」
 他の客は喋る二人を五月蝿そうにジロリと睨んだがその内の一人が顔色を変えて叫んだ。
「ま・・・まさか・・・!そっちの髪の長い奴は!」
「あ、やばいな。」
 それだけ言うとバイツはポケットから髪止め用のゴムを出して髪を後ろに一まとめにした。
「髪にスープを飛ばさない様にしないと。」
「やっぱりそうだ!あんた!「器返しのバイツ」だろ!そ・・・その隣に居るのは「迅速吸引のアクナス」だ!」
 ざわつく店内。
「何だ?何故あの二人が?」
「ファーストでこんな勝負だと・・・?一体・・・何の前触れだ?」
「暫く噂も聞かなかったのに・・・」
 店内の声はしっかりと二人の耳に入っていく。
「何だ?「器返しのバイツ」とは。」
「前に何度か箸を使わないで麺と野菜の位置を逆にした事があるだけだ。お前こそ何だ?「迅速吸引のアクナス」って。」
「ふっ・・・ただ麺がスープを吸うよりも速く麺を片付ける事が出来るだけだ。・・・見せてやろう。」
 二人の前に二つの野菜が山盛りの器が置かれる。
 その瞬間二人は動いた。
 他の客も二人に食らい付こうと全力で己が矜持に従って目の前の器と対峙した。
 その店の名はラーメン二郎。
 ラーメンではなく二郎という生き物と共に生きる店主の生き様をその目に焼き付ける戦場。



「ここがショッピングモールですね・・・」
 浮かない顔でそう言ったのはサーナイト。
「どうしたんだい?そんなに浮かない顔して。」
 笑いながらサーナイトに声を掛けたゾロアーク。
「少し・・・不安で・・・」

165名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:58:25 ID:n4s6mDuw
「大丈夫さ、ルルの事だからきっとやってくれる。ね?ルル。」
「すいませーん!バニラクレープ一つくださーい!」
 ルル当人はクレープ屋に寄っていた。
「あたしも何だか不安になってきたよ・・・」
 溜息混じりの声。
「でも何処に居るんだろうねあの人。」
 タブンネが辺りを見渡す。
 だが、雑踏の中から人間二人を見つけ出すには少々骨の折れる作業。
「いっぱーい!」
 短絡的な感想を述べたエルフーンはゾロアークの頭の上に乗り辺りを見渡した。
 少し離れた店の中で一定のリズムを保ちながら二郎を食べているバイツを見つけたエルフーンは思いっきり手を振る。
 バイツもまたエルフーンに気付き和かに手を振るが隣のアクナスに「余裕そうだな」と挑発されるとまたロットバトルに戻った。
「コラ!あんまり頭の上で暴れないでおくれ!」
「はーい!」
 バイツとエルフーンが組み合わさると妙な天然っぷりが発揮されるようであった。
「奇襲は無いわよ、あの男の戦い方からして。」
 コジョンドは辺りを見渡すが先程と何ら変わりのない雑踏。
「じゃあ、蝨潰しにお店を一軒一軒探しちゃう?」
 ミミロップの提案。
「せやね、ぼーっとしてても埒があきまへん。」
 ユキメノコが賛同する。
「でもどうしましょう、手分けをして探しますか?」
「いや、固まった方がいいな。少人数で動いている所を襲われたら一溜りもない。」
 ドレディアの意見をアブソルが否定する。
「そうですね・・・集合場所も決めないといけませんし。」
「皆で動こうね、離れないでね?」
「大丈夫、今度は油断しないわ。」
 張り切るクチートに気を引き締めるムウマージ。
「作戦会議は終わったー?」
 クレープ片手にしているルルに一同が頷く。
「じゃあまずは・・・」
 と、全員がラーメン二郎の店舗に視線を「故意に」合わせることなく辺りを見渡す。あれほど脂ぎった店にバイツが居る訳ないという変な先入観を持っていた。
「向こうのお店からー!」
 ルルの声と共にラーメン二郎とは反対の方向に移動。
 その際、エルフーンはバイツに再度手を振り、またバイツも手を振り返した。



 それからショッピングモール内を駆け巡る事一時間。何の手掛かりも見付からない。
 それどころか新しい問題が発生していた。その問題に最初に気付いたのはドレディアだった。
「ルルは何処にいったんですか?」
 辺りを見渡すサーナイト達。近くにルルの姿が見えなかったのだ。
「まさか一人で突っ走っているんじゃないだろうね。」
「だったら相当まずいな。」

166名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:58:58 ID:n4s6mDuw
 ゾロアークの根拠の無い推測はルル絡みの場合大体当たる。アブソルもそれを察してか更に辺りに気を配る。
「仕方ないわ。一度二手に別れて捜しましょう。」
 コジョンドの提案に反対する者は無く全員が頷いた。
「では見つけられなくても三十分後にそこのカフェに集合という事でよろしいでしょうか。」
「分かった、サナお姉ちゃん。そこのカフェだね?」
「いいわよ。三十分後にそこのカフェね?」
「よーし、三十分後にそこのカフェねー!」
「ウチ等も迷子にならんように気をつけますさかいに。また後でここのカフェで。」
「必ず戻って来る・・・ここのカフェに。」
「うん・・・絶対に忘れない。ここのカフェの場所。」
「ここのカフェ!」
「これ以上の迷子はもう御免です。またこのカフェで。」
「やれやれ退屈しないトレーナーさん達だこと・・・ま、ここのカフェに集まればいいんだね?」
「ふふ、平凡よりはマシじゃないかしら?ここのカフェに集まればいいのね?」
「どうした?皆揃っ・・・あー、ルルが迷子になったのか。分かった、見付かっても見付からなくても三十分後にここのカフェな?」
「メイデンナイトが迷子だと?奴がいなくては話が進まんからな。仕方ないここのカフェに三十分後集合だな。」
「すいませーん!ストロベリーパフェ二つ下さーい!」
 集合場所のカフェから聞こえてきたのはルルの元気な声。そして、気付いてもらえないバイツとアクナス。
「・・・ファック!」
「止せバイツ。もう少し品性良くいけ。」
 気付いてもらえない二人はまたもやどこかへ行ってしまった。
 二人に全く気付いていない一行はルルと同席している老人に目を向けた。
「ルル?一体今度は誰に迷惑を掛けているんですか?」
 ドレディアが頬を膨らませる。
「いやいや・・・私が無理言って同席してもらっているんだよ。」
 老人は笑って返したがその笑いには隙は無く威厳があった。どう見てもただ者ではない。
「ははは・・・いやいや警戒しないでくれ。用があってこの町に来たのだが人が多い所は苦手でね。」
「一緒に来た人がいるけどはぐれたみたいだからここで一休みしてるの。」
「ルル・・・貴女ねぇ・・・」
 コジョンドが安堵の溜息を吐く。
「会長!」
 黒いスーツを着た二人の男が老人に向かって走ってきた。
「会長って・・・おじいちゃん何かの会をやってるの?」
「ま、そんなところだよ。」
「こちらに居ましたか。ご無事で・・・」
「騒々しい・・・で、調べは付いたか。」
 会長と呼ばれた老人の態度は黒いスーツの二人に対してルルのそれとは違っていた。
「それが・・・」
「会長ォ・・・ここでしたか。」
 更に現れたのはいかにも下衆な顔をしている男。
「キヨノ・・・!」
「捜しましたよ・・・独自で。」
 少々食い気味に語るキヨノという男。
 黒いスーツの男二人はキヨノに対して敵対心を表に口を開く。
「おどれェ・・・どの面下げてここにいるんだ?この野郎!」

167名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 11:59:41 ID:n4s6mDuw
「淫夢会を乗っ取ろうとしてんのは分かってるんだよ!」
 目の前で目まぐるしく怒鳴り続ける男達にルルとサーナイト達はどうしてよいのか分からずにただ茫然とと眺めていた。
「下剋上ってやつでしょ?それ一番言われてるから。」
 突如銃声が鳴り響き、遠ざかっていく悲鳴と共に次々とキヨノの部下達が回りを取り囲む。その数は五十人程。
「カタギに迷惑掛けて何が下剋上だゴルァ!」
 キヨノが男の脚に向けて拳銃の引き金を引いた。
「お前一番態度でかいって言われてるぞ。」
 下衆い表情を変えぬままキヨノはルルに目を向けた。ルルもキヨノに目を合わせて動かなかった。
「何だお前その視線・・・やっちゃうよ?犯っちゃうよ!?」
「お嬢ちゃん・・・ポケモン達と一緒に逃げなさい・・・!」
 ルルの視線には怯えという感情は無かった。それ以前に彼女は目の前の下衆男に視線を合わせた訳では無かった。
「これが人間だ。メイデンナイト。」
 声が聞こえたと思いきや包囲の一角が弾け飛んだ。そこにいたのはアクナス。だが、バイツの姿はない。
「戯言を掲げて徒党を組み、他の徒党と戦い・・・徒党が大きくなれば派閥が牙を向きそれと戦う。」
 キヨノの部下がアクナスの肩を掴むが、腕を捩りあげられた挙句に片腕で投げ飛ばされて他の部下に叩き付けられる。
「人間など救う価値など無い、所詮同族で殺し合うのだからな・・・そうは思わないか?」
「・・・」
 ルルは黙ってアクナスに視線を向ける。
「諦めろ、貴様のやっている事は無駄だ。」
「言いたい事はそれだけ?」
 意外な言葉に一同は絶句した。
「私あんまり頭良くないからアンタが何言ってるかさっぱり理解出来ない。でもね、たった一部の人間を見て評価をされても困るなー・・・」
 ルルがキヨノを押し退けてアクナスの前に立ちはだかる。
「私は人間を信じてる。沢山の人間が居るから考えている事は違うと思うし、それが原因で争いが起こる事もある。でもね、大切な何かに気付いて考えを良い方向に持っていこうとするのも人間なの。」
「大切な何か・・・だと?」
「私の傍には沢山居てくれる存在よ。」
「ポケモン・・・?」
「そっ。人間とポケモンが幸せに暮らす未来を私は信じているの。だから私は無駄だとかそういう事考えないの。」
「・・・ククク。」
 堪えていた笑いが漏れて高笑いを始めたアクナス。
「未来!?未来だと!?人の世に未来など無い!」
 アクナスの後ろに何かが落ちてきた。
 キヨノはそれが哀れな肉塊と化した部下だと分かったと同時に、更に向こうにいる「誰か」に気が付いた。
 囲みに近付きながら「誰か」が口を開く。
「何かの未来を潰さなければ生きられない・・・そういう道を選ばなければいけない奴もいるんだ。」
 その誰かはバイツだった。
「アクナス・・・」
「まずは余計な連中を片付けるか・・・」
 二人の姿が消えたかと思えばキヨノの部下が弾け飛んでいた。
 肉眼では追いきれない移動速度、常人の反射神経では反応出来ない攻撃速度。
 数では圧倒的に有利だったキヨノ達。しかし、ものの一分もしない内に残りはキヨノ一人。
「三十六秒・・・!普通だなぁ。」
 既に精神に支障をきたしているキヨノ。普通とは言っているものの徒手空拳で武装している約五十人を三十六秒で片付けている限り普通ではない。

168名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 12:00:13 ID:n4s6mDuw
 そして、キヨノ自身は気付いていなかったが手にしていた拳銃の銃口はサーナイトに向けられていた。更に運の悪い事にそれをバイツが目にしてしまった。
 バイツは瞬時に右腕を振って弧状の炎を飛ばす。
「アツゥイ!」
 見事に命中。衝撃と熱がキヨノの体を襲ったが火が全身に回る事は無かった。
「哀れなものだ。」
 転げ回るキヨノにアクナスが宙高く踵を上げ、振り下ろした。
 だが、踵はキヨノに届かなかった。
 アクナスの視線の先にはメイデンナイトに変身したルルが攻撃を受け止めていた。
「させない・・・!」
 アクナスは瞬時に距離をとる。
「・・・まあいい。淫夢会を手中に収めるも貴様を討ち取るも同じ事だ。貴様から終わらせてやろう、メイデンナイト!」
 ルルは身構えた。
 正直何の対策も練っていない。
 だが、引く訳にはいかない。
「それでは参ります。」
 サーナイトがルルの隣に並ぶ。
「ちょ・・・ちょっと!」
「ルルが私達を大事にしてくれるのなら。私達もルルを大事にします。」
 ドレディアもルルの隣に出る。
「例え、一人一人の力が小さくとも集まれば大きな力になるわ。」
「それを貴方に思い知らせてあげる。覚悟なさい。」
 ムウマージ、コジョンド、そして次々と隣に並んでいく。
「・・・虫けらが身を寄り添わせて何になる。」
 アクナスは臆する事無く、また嘲笑う事無く静かに構えた。
「・・・アクナス。」
 バイツの声が聞こえた。
「その拳を俺の家族に向ける気か・・・」
「貴様が我々の傘下に入らない理由はアクマーンから聞いている。それに貴様は人質だ、余計な真似をするな。」
「ああ、「俺」はな・・・」
 刹那、アクナスは瞬時にその場から跳び退いた。先程までアクナスが立っていた場所はバイツの右腕が砕いていた。
「くっ・・・!」
 間髪入れる事無く、バイツはアクナスの眼前に移動して右腕を振るう。
「貴様・・・何者だ・・・」
 サングラスが割れて床に落ちた。アクナスの紅い目がバイツを捉える。バイツの目は黄色に変色していた。
「いやー・・・中々だ。流石「宿主様」と互角にやり合ったヤツだな。」
「「宿主」だと・・・?」
「あれは宿主との約束。俺には関係ねえ。」
 バイツは黄色い目をルル達に向けた。
「バイツさん・・・?」
「悪いが俺はバイツであってバイツじゃねえ。っと、心配しなさんな姐さん方、この前みたいに派手にゃやらねえから。」
 右手をギシリと鳴らし笑みを浮かべるバイツ。
「行くぜ?黒いの。ちったあ楽しませてくれよ?」

169名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 12:00:43 ID:n4s6mDuw
 その頃バイツの精神の中では、ちょっとしたすれ違いが起こっていた。
「七十パーでどうよ?」
 グラードンが困りながらそう口を開いた。
 それに対してバイツは首を横に振る。
「サーナイト達に被害が及ぶ可能性があるから三十パーセント。」
 力の出力についての話だった。
「いやいや・・・本気で戦らせてよ。本当は百パーセント出したいのに。」
「三十・・・それ以上は無しだ。それが嫌なら主導権は返してもらうぞ。」
「ぐぬぬ・・・」
 同じ時を同じ体で過ごしていた為か以外と仲の良いようである。



 何かが壁に叩き付けられた音がした。
 その音を聞きながらアクナスは自分が壁に吹き飛ばされた事を激痛と共に悟った。
 起き上がろうと左手を動かした途端にバイツの靴底が壁ごと左腕を踏み砕いた。
「・・・ご・・・あ・・・!」
「んだぁ?つまらねえな、おい。」
 黄色い目でアクナスを見下すバイツ。アクナスとキヨノの部下達の返り血以外に目立った外傷は無い。
 対照的に満身創痍のアクナス。骨を踏み砕かれた左腕は辛うじて繋がっているものの感覚が無い。
「よくこんなんで世界征服だの何だの言えるな。」
 足を左腕から退ける。
「じゃあ、さようならだ。少しは骨のある奴かと思えば・・・」
 右腕を大きく振りかぶる。
「待って!」
 ルルが叫ぶが何も変わらなかった。
 振り下ろされた手刀が袈裟方向にアクナスを切り裂いた。鮮血が飛び散るやいなやアクナスの死体は黒い液体となってしまった。
「これはこれは・・・あくまでも人間とは違うって事か。さあて、期待ハズレだったからそろそろ宿主に体を返しますかね。」
 刹那、メイデンナイトの右拳がバイツの左顔面を捉えた。
 微動だにしないバイツ。一切ダメージになっていない。
「どうして・・・どうしてここまでする必要があったの!?」
「あぁ?何だよ、お前だって連中を潰したがっていたろ?」
「違う・・・!違う違う!私の力は・・・!」
「うるせえ、同じようなもんだろ。連中をツブして人間とポケモンを生かす・・・それで良いんだろ。」
「違う!私の言いたい事はそうじゃない・・・」
「だったら今テメェのしている事は何だよ。テメェの思い通りにならなかったから俺をツブそうとしてんじゃねえか。」
「違う!違う!違う!」
 言葉が見付からない悲痛な叫びと共に拳の連打をバイツに叩き込むが一向に効いていない。
「ったく・・・実力の違いも分からないお嬢ちゃんだもんな。呆れるぜ・・・」
 バイツが溜息と共に目を閉じる。それと同時にルルの渾身の一撃がバイツの顔面に叩き込まれる。
 痣一つ付いていないバイツの体。それがバイツとルルの実力の違いを物語っていた。
「ルル・・・もういいだろう?」
 バイツがゆっくりと瞼を開くと黄色い目では無くいつもの目の色に戻っていた。
「お前は俺にどうしてほしい?」
 バイツに当たっているルルの拳が震え出す。

170名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 12:01:18 ID:n4s6mDuw
「分からない・・・分からないよ・・・」
「そうか・・・」
「でも、二度とこうならないように私は・・・強く・・・なりたい・・・」
 ルルもまた拳を下げて変身を解く。そして両手に顔を埋めて泣きはじめた。悔しさや安堵感で複雑な心境だった。
「さあて・・・淫夢会の会長さん?」
 バイツに話し掛けられるまで淫夢会会長は目の前の光景に完全に気を取られていた。
「ここで起こった事は口外しないでほしい・・・特にこの娘の事は・・・」
「あ、ああ・・・分かった。忘れる・・・忘れる・・・」
 ついでにバイツは淫夢会直系の組を潰していた事を話そうと思ったがこれ以上話がややこしくなるのは御免だった。
「警察だおるぁぁぁぁ!居るんだろバイツ!」
 完全防備したモウキが警官隊と共に突入してくる。
 どんな粗筋を立てようかと考えているバイツの視界に悶えているキヨノが映る。
「こいつが元凶です。」
 会長とボディーガード二人の男に同意の視線を送ると力無く頷いた。



「成程・・・こりゃ報告書には書けない内容だな。」
 警察署で一通り事情聴取を済ませたところでサーナイト達はモーテルへと戻っていったが廊下ではバイツとモウキが紙コップ片手に椅子に腰掛けて話をしていた。
 五十人程いたキヨノの部下の死因や直系組が襲撃された件等突き詰められればボロが簡単に出て来てしまいそうな報告書をでっちあげたモウキ。
 それでいいのかとバイツは問い質したが上の連中に納得する説明をしろと言われて黙り込んだ。
「・・・ややこしすぎるな。」
 話を聞き終わったモウキの第一声がそれであった。
 立ち上がって空になった紙コップをごみ箱へ入れる。
「もう帰っていいぞー、俺にはまだやる事があるんだ。」
「そうか・・・頑張ってくれ。」
「そうだ、お前等はまだこの町に留まっていくのか?」
「さあ?お姫様次第なんでね。」
「だったらもう少し長く留まる様に言っておいてくれ・・・新しい嘘をでっちあげるのに話を聞くかもしれないからな。」
「ああ、さっさとこの町から逃げようって提案しておくよ。」
 バイツは笑ってそう返すと立ち上がって出口へと向かった。



 モーテルの部屋のドアを開けるとサーナイトが待っていた。
「お帰りなさいませ。一体どの様なお話をしてきたのですか?」
「お話と言うよりは愚痴を聞いてきた様なものだな。他の皆は?」
「それぞれ何処かにいってしまいました。」
「そうか、ルルは何処だ?」
「寝室でふさぎ込んでいますけれど・・・一体何を?」
「こいつがキツイ事言ったみたいだからな、謝ろうかと思って。」
 バイツは右腕を指しながらそう言った。
「そうですか・・・分かりました頑張って下さい!」
 やけに力の入ったサーナイトの声援を受けてバイツは寝室へと向かった。

171名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 12:01:49 ID:n4s6mDuw
 一応寝室のドアをノックする。
「ルル、入っていいか?」
 何の返事も無い。
 ゆっくりとバイツはドアノブを回して中に入る。
 ルルはベッドの上にいた。下着姿で俯せになりながら枕に顔を埋めていた。
「あー・・・その・・・」
「聞いて、バイツさん・・・私はこの力で何がしたいのかってよく考えるの・・・でもね、その時は決まって世界を救うって自分に言い聞かせてきたの・・・」
 ルルがバイツの方を向く。
 目は赤く先程まで泣いていたかのようだった。
「でもそれは自分に言い聞かせてきただけ・・・納得したんじゃ無かった。」
「答えは簡単に見付からない・・・俺だってそうだからな。」
「でもバイツさんは・・・何か吹っ切れてる感じがする。」
「俺の場合は家族を護る・・・それ以外に道が無いだけさ。危害を加える者は容赦無く打ち倒す。正直相手がどうなろうと関係ない。」
 言葉から読み取れる揺るがない決意。
 ルルは何となく理解した。バイツが何故強いのかという事を。
「それにルルは一人じゃない。俺以上に親密に支えてくれる連中がいるじゃないか。」
 バイツがベッドの反対側を指差す。そこにはルルのメンバーが寄り添ってすやすやと寝息を立てていた。
「いつの間に・・・」
「自分の道はゆっくりと見付けていけばいいさ。頼りになる仲間だっているだろ?」
「・・・仲間じゃない・・・家族なの!」
 どこかで聞いたような台詞にバイツは笑った。
「元気になったようだな。じゃあ、何か着てくれ。目のやり場に困るし、じろじろ見られたくないだろう?」
「え?何を言ってるの?バイツさんになら別に見られてもいいよ。」
「・・・そう。」
 意味ありげな台詞だったが言われた当人は無関心だった。

172名無しのトレーナー:2011/08/27(土) 12:03:31 ID:n4s6mDuw
何か十三章っぽいこの作品はフィクションだよ。実際の人名とは全然関係ないよ。ホントだよ!




あと、2chやニコ動で清野大地さんの本名出している奴それ全然面白くねーからやめろ。

173逆元 始:2011/08/28(日) 04:58:38 ID:gN8MKgYo
球磨川 禊『ホモキャラの皆さん、コンニチハ!』グシャッ!
改名する事に決めました。元リバースマサトこと逆元 始(サカモト ハジメ)です。
理由は週刊少年日曜日に連載されはじめたポケットモンスターとは名ばかりの某作品にムカッときて、自分のハンドルネームがタイトルと酷似している事に気づいてしまったから。
シナリオ原案からシナリオ協力に格下げた楠出が悪いとか編集の改名だろとか、画から漫画に格上げた田村も共犯だとかそもそも楠出も自演じゃないのかとかいわれてますが…。

あ、過去板に投下されたバイツ最終章(仮)にも続投されたリクエスト編にもレスせずに何やってたかというと…にちゃんねらーと化してずっとROMってました。
いあー。精神的にヤバくてレスする気力が沸かなかったのよ。
仕事はムチャ振り状態だしTFの発売ラッシュに付き合いすぎて金欠なるわクレカストップするわでさんざん。
金含めてあらゆる運という運が飛ぶ飛ぶ…。
で、過負荷(マイナス)化。
はい、めだかボοクスにハマっております。裸エプロン先輩に夢中です。
愚痴になってしまいましたすみません。
最終章(仮)から今回までまとめて感想を述べさせて頂きます。
最終章(仮)
やはりというか、当然生きてた、生きてました我らが主人公と他二名。(イル&シコウ「オイ!!」)
ミサイルの処理と地上への帰還を同時にこなしてしまおうという発想は見事。
しかしデオキシス…おまえはなんということを…。
彼、いったい何と競争してたんですかねェ。
そして雪の中のシコウ、竜&飛で四倍らめぇ!!
そしてトラブルホイホイないつもの三人。盗賊団と遭遇、即・断・罪☆。
ついでに村を救った英雄に…惚れるわぁ。
グレイシア!!グレイシア!!モブとはいえ登場嬉しい!
そしてまさかのフリーザー再登場。サプライズ!
サーナイトとムウマージで百合…だと…!?
誰特?でも嫌いじゃないワ!嫌いじゃないワ!
イッシュ嫁…だと…!?
個人的にはタブンネよりハハコモリがよかった…。
ま、タブンネも可愛いけど。多分ね。
公式で虐待推奨とか正気の沙汰を疑う。
黒き英雄の本編前後でDSソフトへのプレゼントについて説明する映像に出てくる仔が特に可愛い。多分ね。

無邪気なエルフーンに姉御なゾロアークもイイ味出してると思う。
コジョンドとドレディアは若干キャラがうすいかなー、てなかんじ。
次レスに続く。

174逆元 始:2011/08/28(日) 06:13:36 ID:gN8MKgYo
つーかバイツ達はいったいどこを旅してるんだ…。
大量にネタ仕込まれてるのはわかるが、九割近く元ネタ知らんし!
一回ポッキリ使い切りだと思ってたデオキシス再登場にはワロタ。
しかしルルちゃんも大概トラブルホイホイだなぁ。ここでサーナイト組と合流は上手い。アブソルカコイイヨアブソル!
本当に似たものどうしですねぇ数名キャラカブってるし。
同じ子供キャラなエルフーンとクチートの書き分けは秀逸でした。
マジ子供なエルフーンとそこそこマセたクチート。イイねぇ。
いつもの組織が壊滅したと思ったらまた新たな敵組織が登場。
アクマーンに爆笑すると同時にルルの独り言を思い出し慌てて読み返す僕ェ…。
僕の記憶力も伊達じゃないな。いや、記憶力自体は並みはずれてるんだ。ただ忘却力も並みはずれてるから云々…。
あ〜良かった。バイツ達「未開通」で(笑)。
ようやくディ〇イドもびっくりの世界を巡る旅を終えてポケモン世界に帰ってきたと思ったらフウロにカミツレにベルにトウコ…だと…!?
まさかの原作キャラ&主人公登場は予想外デス。
美女二人に呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜んするライキにクソワロタ。
ヒートも戦闘狂乙。
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」
子供が狂気に染まる…。
イル&シコウは完全にゲーム世界に浸食されててフイタ!!
一方、主不在のバイツ家では久々に騒がしい日常が展開されてますね。
ルル組の存在がバイツ不在で塞ぎ込むサーナイト組の心を埋めるまでは行かずとも癒やしている光景は微笑ましいです。
ここで登場するワード、「黒い生物」と戦う「メイデンナイト」。そしてルルの独り言。
はい、読めました。
大半の人がそうだと思いますがこの先の展開が読めました。
そして登場「ワルイーノ」。やはり「メイデンナイト」は君だったのかルルェ…。
ていうか人質ならぬポケ質になるとはテンプレすぎる、テンプレすぎるぞサーナイト他!!
そしてアッサリ変身ヒロインすらも捕らわれの身に…。
再び登場アクマーン。つかアクマルス様て…また捻りの無い名前を…。お疲れですか?
序盤のルルとポケモン達が離れ離れだった展開もワルイーノが裏で手をひいてたのか…。
バイツ世界ではポケモン奪ったり虐待する屑がありふれてるせいで気付かなかったぜ…。
まだ続く。

175逆元 始:2011/08/28(日) 07:11:46 ID:gN8MKgYo
さっきも似たようなこと書いたけどバイツ世界には平気でポケ姦をする屑がありふれてますね。おまえ等もか、ワルイーノェ…。
サーナイトの叫び!
そして飛行機墜落!
とここでバイツが即登場かと思ったら時は遡るんか〜い♪ハッハッハ〜ポケッサ〜ンス。
またもやバイツが異常(アブノーマル)能力(スキル)、『恋せよ落女(おとめ)「ラヴ・フォール」』(めだか箱風厨二ネーミング)を発動、モテ男と化しててワロタ。
自動操縦にAIとパイロットの存在意義?
大丈夫。矛盾はありませんよ。現実の現代の技術でも自動操縦は普通にありますがパイロットは必要とされてますよ。
特に旅客機の離着陸や悪天候への対処はパイロットの勘や経験による部分が大きいので、
墜落しても問題ない無人偵察機以外では自動操縦に離着陸が任される事はありません。
フウロがコックピットを離れたのはいただけませんが、現実でも機長が副操縦士にまかせてコックピットを離れる事があるそうですし、AIが副操縦士の代わりをしていると思えば納得出来ます。
対処不能な事態にはちゃんとアラームが鳴ってますし。
ていうかナニヤッテルンダ!!イルはともかくシコウまで!
そして最後まで機体のコントロールを試みるフウロにパイロット魂を見た!!
時は再びサーナイトの叫び直後へ!
正直飛行機での一連のシーンはメイデンナイトことルルの意識が暗転してから倉庫で目を覚ますまでの間に入れるべきだったと思う。
テンプレを避けたかったのかもしれませんが、サーナイトの叫びからバイツ登場まで間延びし過ぎているように感じました。
酷評スマソ。
まあベイよりはましだマ〇ケル・ベイよりは。大事なシーン端折ってないし。(TFダークサ〇ドムーンはシーン端折りすぎだ!特にビー達が捕虜になった経緯とか!)
デオキシスはGJ!ディフェンスフォルムで女性陣を守るとはイイ仕事してるぜ…。
ヒート不死身乙。
そしてシコウ、いつの間に正気に戻った!?デオキシスを見習え!!男とばかりフラグ立ててるんじゃない!!
そしてバイツ(とその他)無双。ワルイーノェ…ポケモンの攻撃効かないんじゃなかったのか…?
金属片投げつけられたり単なる物理攻撃には弱いのか…?
それともバイツ達が特殊過ぎるのか…?
最新回の描写を見るにグラードンと人格交代したバイツの直接攻撃が効いてる様なので後者か…?
スマソ。まだ続くんだ。

176逆元 始:2011/08/28(日) 08:14:55 ID:gN8MKgYo
アクマーンの逃走で一件落着!バイツとサーナイトの再会、感動の包容…かと思いきや右フック!?右フックって!?
サーナイト、オンナノコとしてそれはどうなのよ。
某グラップラー漫画の解説役が言ってたよ。「(痛覚に重点を置いた)皮膚を対象にした打撃を武器にする生物は地球上全ての生物を探しても(人間の)オンナだけだろう。」ってさ。
はいそこは鞭打(ビンタ)でしょ普通。まあ普通じゃないんでしょうが。気持ちもわからないでもないしね。
ようやく大団円。と思ったら忘れられてるルルェ…。
KYヒートのおかげで語られる事になったメイデンナイトとワルイーノの起源と因縁…は、ありきたりですね。
でもそのシンプルさは嫌いじゃないワ!嫌いじゃないワ!
大事な機体をオシャカにしちゃったフウロちゃん。ライキ、いいとこ見せようと見栄はるのはいいが弄ばれてるぜ?
バイツさん、いい加減『恋せよ落女(おとめ)「ラヴ・フォール」』を制御しないと…ほらまた貞操の危機へのフラグが立つ…。
流星のごとく現れ、流星のごとく去る男(?)デオキシス。バイバイ、またね!(再登場キボンヌ)
バイツ宅に全員集合!ドキッ!?オンナだらけの争奪宴会!(イミフ)
バイツは避けてるようだが、ライキの代弁も兼ねて敢えて言わせて貰おう。
ライキ&スパイダードーパ〇ト&ハゲタカヤ〇ーの親「リア充爆発しろ!!」
災禍(サイカ・アブソル♀)「お前には私が居るからな?」
美麗(ミレイ・ミミロップ♀)「私も居るわよん♪」
自作ぬいぐるみもふ〜♪
氷頼(ヒヨリ・グレイシア♀)「あらあら、わたしも居ますよ?」
雨林(ウリン・リーフィア♀)「あ、あたしも居るんだからねっ!」
既製品改造ぬいぐるみもふ〜♪
リア充じゃありませんよ?敢えて言うならイマ充(イマジネーション充実)です。だから爆発対象じゃありません。
話が逸れました。
結局ワルイーノに目を付けられてしまったバイツ。
ミミロップ加入の辺りで自宅が大破して、新たに譲り受け持て余しながらも慣れ親しんだであろう我が家に別れを告げ、ルルと共に旅立つバイツ…。
ああ…これでお別れなのだなあと読者心に感慨に耽っていたものです。
サーシェス「とーころがぎっちょん!!」

リクエスト編
はい、帰ってまいりました。しかも時系列を遡って。
新板管理人の霧生さんのリクエストした「アナタの子です」編。もうちょっと続くんじゃよ。

177逆元 始:2011/08/28(日) 14:31:08 ID:gN8MKgYo
「アナタの子です」編を読んで思ったこと。
「ほとんど元ネタわかんねー!」でした。
ゼビウスだかスターフォックスだか知らねーがなんとなくイメージだけは構築できた。
いきなり子持ちになってしまったバイツ。
サーナイトが怒っているというのはバイツの思い込みだったようですね。(その後の「私はただのポケモンでもいいです。」発言から)
しかしライキは災難でしたね、バイツがムチャ振りな依頼に来たと思ったらハードディスク三台台にケーブル三十二本を破壊する脅迫じみた無理強いとか。
使ってないと開き直ってたけど、タダじゃないだろソレェ…。
入れ違いにモウキからの電話。ライキ…死ねは無いだろ死ねは…。
仮にもモウキさんは本職の刑事なのよ?
モウキさんも…。たまには怒っていいのよ?
やはり赤ん坊…。ネタ以外に無駄な描写をしないのは流石です。
帰宅したバイツを待っていたのは赤ん坊の今後を心配するサーナイト。
まぁ、赤ちゃん可愛いもんね。気持ちも解らないでもない。
しかし、子育てに責任が伴わないなら避妊は要らん!とばかりに子育て地獄の洗礼を浴びるバイツェ…。
「ミルクの時間か?」から使用済みオムツの描写でなにがあったかはお察し…。
そして始まる命名合戦。バイツが言いたかったのは(笑)とか(仮)をなくせって事ですよね?
スレムーネを擦れ胸と勝手に脳内変換して将来を有望視してしまった僕は逝ってよし。
まぁなんだかんだで時は流れてすっかり子育てライフを満喫しているバイツ一行。
こらミミロップ、まだ物心ついてないとはいえ子供のまえでオトコとオンナの話しをするんじゃありません!みんなも便乗しない!…と思ったら偽装なのね。
本音も混じっているでしょうが。
そしてコッソリつゆ払いしているライキ&ヒート。苦労人やわぁ。
恨むなら主役でも脇役でモブでもないレギュラーキャラに生まれた己の運命を恨むがいい!
そしてトウマにキョウカさんにガーディ久しぶり!
可愛いよガーディ超可愛い!
機会→機械→ロボット!の発想力が素晴らしい!将来楽しみだ。
スレムーネの母、サユナ登場。
そしてゲスな父親フラアナタ。
明らかに不自然な名前すぎてオチが読めました。(しかし、ないわ〜。あのラストは読めないわ〜。)
続くったら続く。

178逆元 始:2011/08/28(日) 15:57:27 ID:gN8MKgYo
そして再び子育て地獄の洗礼を浴びるバイツ(あの長髪は赤ん坊にはいいオモチャだよなぁw)を襲撃するマック・ロー。
出ましたよ。数秒で死んじゃいそうなテキトーネームの有名犯罪者。今回は回避だったが。モウキさんに感謝するでしゅ。
モウキさんの登場と情報でスレムーネに迫る黒い陰謀と深い事情を察するバイツ。
遅いッス!ライキお前のせいだぞ!え?気を使った?そんなの関係ねぇ!!(某よしお風に)
ついにサユナとスレムーネの再会。しかし感動している暇など無いのがこのシリーズのクォリティー。
ヒートよぅ…もう空気読む事に期待しないがせめてもう少し穏便に…。
サーナイト偉い!やっぱり赤ちゃんはお母さんと一緒が一番だよネ!
そして最終決戦。このシリーズの黒幕さんたちは総じて目立ちたがり屋さんばかりですね。
黒幕が表に出てくるのは死亡フラグだろうに…。まあ今回は回避だったが。(だからあのラストは誰にも読めるわきゃry)
ライキとヒートの迎撃でいつも通りの展開かと思ったら…固まったよ!バイツと同じく固まったよ!
まだ繋がってたのかよゲームネタ時空!
ライキ!ビックバイ〇ーとかどこから調達してきた!?
バイツもバイツで詳しすぎだろ!wikiとか言うな!
警官隊と殺し屋軍団までネタ時空に浸食されてるし…。
結局フラアナタ含めてスレムーネの一家は幸せになりましたとさ。って…えええぇぇぇェェェッ!?

最新回
まさかまさかの続くよ展開。
バイツ達もルル達も仲良いねぇ、悪いヒト達と出くわさない限りは平和だねぇ。
コジョンドが赤く…ってヤッパリオマエモカ…。
バイツ、いろいろ責任重大だぞ。
(リア充爆発しろ!)とか思ってたらエルフーンのオモチャにされててフイタ!
そういえばエルフーンってオトコノコ?オンナノコ?それとも男の娘?描写されてた覚えが無い…。
バイツ!三途の川渡っちゃらめぇぇぇ!
やっぱり出るのねワルイーノ。しかも中ボスクラスの奴が。
容姿の描写でマトリックスを思い出したぜ…とか思ったらマジで無双してるし。DQN達に合掌…。
いろいろとボロボロなバイツを連れ出すルル。
デートってそれ女の子特有のジョークですよね。
そうだきっとそうに違いない!…と思わなきゃやってらんねぇ。
もしマジだったら…バイツくん、責任、とってよね。
でもバイツの頭の中はポケモン達の事でいっぱいなんだぜ…。これが天然モテ男の脳内か…。
続く。

179逆元 始:2011/08/28(日) 21:50:51 ID:gN8MKgYo
ネタに走るファンシーショップの店員さんワロタ。
バイツくん、責任のとれないフラグ乱立はいい加減にry
意外とフリーダムだなポケモン達。
アニメ世界ですらポケモンだけで出歩くのは危険なんだぜ?
エルフーンまじでドッチーニョ。
普通にクチートにだきついてるあたりオンナノコなのか単に超お子ちゃまなオトコノコなのか…。
同じお子ちゃまに見えてクチートは経験済みなんだぜ?(どこまで?ときかれたらバイツのヒトと当事者のみぞ知る。だが)
そしてやっぱり主役不在を襲撃するテンプレな悪役さん。
ポケモン達は捕まって人質かと思いきやただボコられただけか。いや、ヒドいけど。
アクナスに対峙するメイデンナイト。片やポケモン達に付き添うバイツ。
モウキさん…災難だな。しかもネタに走るファンシーショップの店員は前振りだったのかよ!?こりゃあ一本取られたぜ!
ていうかメイデンナイトェ…サーナイトにまで実力見透かされてるとか大丈夫か?
そしてダイジョばなかったメイデンナイト。強過ぎだろアクナス。バイツと互角とかどんだけ〜ッ!?
と思ってたらバイツが人質に…あ、演技だったのね。ビックリしたぁ(ぽんっ☆ビッ栗になっちやった)
「や ら な い か。」
ご…ご本人登場…だと…!?(この作品は二次創作であり実在する作品名、登場人物名とは一切関係ありませry)
デットプール…OK、ググってみた。
なんだこの醜くイイ男は…?
スパ〇ダーマン似のコスチュームに忍者とコンバットをミックスしたようなゴテゴテ装備もイカす!
どっかで見た事あると思ってたらマーヴェル×カプコンのプロモ映像かなんかで見た悪魔っ娘のニードル触手にケツをさされて悲鳴あげてたアイツか。
記憶違ってたらスマソ。
…こっち指さすな。
残された下半身のケツを阿部さんに狙われるのはこの辺が元ネタか。
つかバイツも悪ノリし過ぎ!ツッコミ疲れたのもわかるし今に始まった事じゃないけどさァ!?
鍛錬するアクナスとか後先考えず粉を口にして倒れるアクナスとか…何これ、イイ男が萌えキャラも狙ってんの?
さて、傷心の一夜を明かしたルル嬢…下着姿…だと…!?
寝るとき脱ぐ派なアメリカンスタイルなのか今回はたまたまなのか…。妄想してしまう万年厨二病の僕がキモイ…。
そしてまた百合ネタなのね…。
このシリーズ万人ウケ狙いすぎて詰め込み過ぎじゃね?と思った。
まだ続くのである。

180逆元 始:2011/08/29(月) 01:25:10 ID:gN8MKgYo
ワルイーノがこっち側に来れるのは1日一体までなのか…さらに肋骨折るとかドンだけ狭いのよ。
一年かけても365体か…。チートキャラとか米軍が本気出したら迎撃準備整うんじゃね?
ほら、米軍て創作の世界だとめっぽう強いし。
それこそオートボットがいなくてもディセプティコンを一個小隊で各個撃破しちゃうレベル。
また話が逸れました。
ここで阿部さんとデットプールかフェードアウト。異世界ゲストなネタキャラが決戦に参加したらややこしいもんね☆
なんだかんだで決戦当日。
バイツもアクナスもドコでナニバトルしてんのよ。
ルルも能天気だな…苦汁の三日間はどうしたのさ…。
そしてエルフーン可愛い。まじドッチーニョ。
なんで手ェ振りあってんのよ!
そこでのバトルがそんなに重要なのかバイツ!?
エルフーンもみんなに教えたげてよぉ!
と思ったら全員天然か〜い!
バイツもアクナスもサラッと会話に加わるから華麗にスルーされるんだよ…。
そして始まるヤーさん同士の抗争。なんでだよッ!?
と思ったら話の出汁に使われるし…。
アクナス、そんな人間少数派だぞ?ただ悪事千里を走るでパンピーよりがぜん目立つけど。
そしてバイツ&アクナス無双。描写からしてク〇ックアップか?
まあ三十六秒もかかってたらキヨノの言うとおり本家に比べたら普通だけど。
常人とあらばそれがたとえゲスでも魔の者から守るが変身ヒロインの使命。
ルルさん変身ヒロインの鑑やでェ…。
よぉグラードンさん久しぶり!
三十パーでコレもんとは流石!パネッス!マジパネェッス!
ルルさん優しいね…。でもバイツは元々修羅の道を行く者だから…。
やや後味悪い結末になっちゃったなぁ…。
そんな湿気た空気も吹っ飛ばすモウキさんの奇声。どんな完全防備か見てみたいw
ちょ…ルルさんまた下着姿!シリアスな話してるのに全然集中出来ないヨ!?
「バイツさんになら別に見られてもいいよ。」て…完全にフラグ立ってますどうもありがとうございました。
バイツく〜ん。女の子一人と♀ポケモン六匹+αにモテモテなんて羨ましいねぇ。
僕ちゃんハゲタカヤ〇ー産み出すかスパイダードー〇ントになっちゃいそうだよ。
さぁライキくん一緒に叫ぼう。
「リア充爆発しろ!!」
あ〜、感想とは名ばかりの書きたいこと書きなぐっただけのレスになっちゃったなぁ。
まる2日もかけてなにダラダラ長レスしてんだろ僕は…。
と思いながらまだ続く。

181逆元 始:2011/08/29(月) 02:20:54 ID:gN8MKgYo
では感想を総括で。
やっぱりこのシリーズ面白い!
まだまだ続けてほしい!
そして
球磨川『ルルちゃんの下着姿!見たい見たい見たい!見せて見せて見せて!』
…間違っちゃいないけど裸エプロン先輩は帰って下さい。
バトルものとラブコメがネタとケミストリーした作風がこのシリーズの魅力!
いつか決着がついてしまうのかもしれませんが、できるならサザエさん時空とかアンパンマン時空とかドラゴンボール方式で末永く続けてほしい作品ですね。

最後に僕からの重大発表です。
予定していた敵キャラが劇場版ガ〇ダムダブルオーとカブった事で無期休載となった「時空戦士ACT-O(アクト)」が還ってきます!
正確には、既に登場したキャラはほぼそのままに、
・敵キャラの変更
・ストーリーの変更
・詐欺気味だったタイトルの変更
を施して再投稿いたす所存!
これは既にリテイクではない。リビルドだ!
という訳でお楽しみに!
それではスレ汚し失礼しました。
ばいなぁ〜♪

182管理人★:2011/09/06(火) 00:39:14 ID:???
バイツの人乙でした。
完結したかと思いきや、新章に突入していたのですね。
阿部さんたら男狩りなんて始めちゃって。
管理人はかつてヤマジュンネタで頂点に立った男だ。
宿敵とまるで力が釣り合っていない気がするルルさん。
ここは今後の強化フォームイベントに期待。きっと今は基本フォームなのに勝率イマイチのタトバ状態なんだよ。
百合が誰得って?俺得に決まってる。
私は死んでからもコミック百合姫の定期購読を止めないよう家族に言ってるレベルですから。


>>逆元氏
お久しぶりです。ああ、アレですね、銀の匙って面白いよね。私らハガレン世代だし。
まあともかく、これからはハジュメさん、もしくはロリコンアンデッドと呼ばせてもらおうと思います。

アクト再開楽しみにしてますね。少しでもここが賑わえばと思っています。

作品どうすっかなー俺もなー(優柔不断)

183管理人★:2011/09/06(火) 03:20:57 ID:???
言い忘れてたけど、僕は名瀬ちゃんが一番好きです(小学生並の報告)

ただし包帯外したらどうでもよくなります

184名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:14:18 ID:Z9A1YOL6
約五ヶ月程前から変なことが起こってるちょっと聞いてくれ。

最初に言っておくが俺は妄想癖でも総合失調症でも病気でもなんでもない。
笑わないでくれよ。ガチだ。


イミュルシオンが微生物だったり、キルベインが実は主人公の父親だったという映画を撮影していたり、マカロフがユーリの事知ってたり、放射能まみれの砂漠とドラゴンの死体だらけの雪山を行き来してた
おかげで長さの割に時間掛かったよこの回


>>逆元氏
沢山の感想ありがとナス!
もう何て返せばいいのか分かんねーな(感動)
じゃけんこのスレ一緒に盛り上げてきましょうねー
>>霧生氏
最初はプリキュアと混ぜる予定だったんですけど二人は〜から見直すのがどうも面倒ォになって(ゲス顔)
いや・・・うーん・・・
寧ろこれ新章って言っていいんですかね?

185名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:15:13 ID:Z9A1YOL6
 小さなオフィスでアクマーンは冷や汗を流していた。体調が悪い訳ではないのだがこれから報告する件を考えただけでも冷や汗が流れ出す。これで口でも開けば胃痛が襲ってくるだろう。
「ねえ、今度はマシな報告が出来るのー?」
 女の声が聞こえた。しかし、はるかに幼い声。
「黙っていろ・・・アクリル・・・」
 声を向けた先にいたのはアクリルと呼ばれた少女。ツインテールをお団子頭にした釣り目の十歳程の少女だったが戦闘能力に関してはアクマーンより上であった。
「ねえ、アンタさあ・・・悪い報告をする際に覚えておいて損は無いオシャブリの仕方でも勉強すればァ?上の方々も少しは喜んで下さるかもよ。」
「全く・・・口を慎みなさい、アクリル。」
「あら、アンタもいたの。アクシェン。」
 もう一つの声は男のものだった。四十前後の男性だが背中まで伸びている髪を先端の方で纏めている。縁の無い丸メガネを掛けた物腰の穏やかな男だがそれが覆い隠している恐怖をアクマーンは知っている。
「仲の良いことねー・・・だったらワンツーマンで教えてあげたら?楽しい「お突き合い」のヤりかた。」
「やれやれ・・・そういう言葉をどこで覚えてくるのやら。」
 この会話でアクマーンの気持ちが和らぐことは無い上にさらには眩暈を覚える。
「・・・いらっしゃいましたよ。」
 アクシェンが口を開くと同時に部屋の空気が変わった。
 三人は何も無い方向に跪いた。
 何も無かった。と言うべきだろうか、そこに誰かが居た。居たというよりは存在していた。だが存在という表現すらあやふやになりそうなそれは三人を跪かせていた。
『報告を・・・聞きたい・・・』
 空気の振動ではない声が響いた。
 アクマーンは襲ってきた胃痛に耐えながら口を開いた。
「申し上げます・・・メイデンナイトを追っていたアクナスがやられました・・・」
『それだけか・・・?』
「しかしながら、メイデンナイトにやられた訳ではなく・・・あの小僧にしてやられました。」
『お前が目に掛けているあの少年か・・・成程・・・』
 含み笑いが入り交じった響きと共に部屋の重圧が消えた。
「・・・意外だったわね。」
 アクリルの言葉はアクマーンの耳に入っていなかった。
 これから彼は元老院にこの事を報告しなければならなかった。だが、この部屋で受けた重圧よりは遥かにマシだという事がアクマーンにとって唯一の救いだった。



 大型のレジャー施設はいつもポケモントレーナーで溢れかえっていた。ポケモンセンター、フレンドリーショップはもちろんバトルスペースや人とポケモンのショー等様々だが一際人気なのが地下から汲み上げている温泉である。
 その施設の入口にある旅人一行が着いたのは午前十時二十一分。
「温泉だー!」
 茶色の髪の毛をした少女が歓喜の声を上げた。
「ルル!大声で叫ばないで下さい!」
「ゴメンねードレディア、でも温泉だよ!?」
 茶色の髪の毛をした少女の名前はルル。世界征服を企む悪の組織と戦う美少女だと本人は豪語している。
「ルル様は随分楽しみにしていましたもの、喜ぶのも無理が無いと思います。」
 ドレディアの後ろに現れたのはサーナイト。

186名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:15:50 ID:Z9A1YOL6
「でもルルの場合はハメを外し過ぎるんです。」
「成る程・・・そういう事ですか。」
「この前なんて・・・」
「何コソコソ話してるのかなー?二人共?」
 ルルの顔は笑っているが声は笑っていない。サーナイトとドレディアはルルから逃げつつ話し合っている。その様子を少し離れていた所から見ていたのはタブンネ。
「うーん・・・何か既に目立ってる気がする。」
「そうよね・・・ミイラ取りがミイラになった感じね。」
 意見を合わせたのはムウマージ。困った顔で目立ち始めている三人に目を向ける。ムウマージの視線を遮る形でミミロップが前に出る。
「たまには良いんじゃない?リフレッシュしちゃお!」
 そう言いつつ、サーナイトとドレディアの後を追い掛ける。
「まーったく・・・元気なのは良い事なんだけどねぇ・・・」
「ああ、良い事なのだが「たまには」大人しくしていてほしいものだ。」
 ゾロアークとアブソルは他人事の様に眺めている。
「あら、大人しくさせたければさっさと温泉に入ればいいだけじゃない?」
「せやなぁ・・・ピーク過ぎれば後は下がるだけやと思うけど・・・」
「あたしも混ざりたーい。」
 コジョンドとユキメノコは早くやりたい事をやらせて大人しくさせれば良いと考えていた。無論クチートは単純に遊びたいだけであったのだが。
 さらにそこから少し離れた所に案内板があった。そこの前に立っていたのは白いアフロの少年。
「ぶー」
 白いアフロが不機嫌な声をあげて小さな手を生やし、少年の頭をぺしぺしと叩く。
「分かったよエルフーン。じゃあ早く行こうか。」
 少年は頭の上のエルフーンを一度床に下ろして、前に流していた長い黒髪を後ろへと流した。
 少年の名前はバイツ。グラードンの力が移植された紅い右腕とこのメンバーを纏め上げられそうな可能性を持つ少年である。



受付の前まで来るとバイツが買券機と注意書きを見付けた。
「えーっと・・・『入れ墨を入れている人間や大型及び温泉の成分を変えてしまうもしくは温泉の成分で変わってしまうポケモンは入浴できません』だとさ。」
「え、大丈夫でしょ?だって入れ墨とか成分が変わるなんて・・・」
 ルルの言葉は笑顔で殺気立ちながら右腕を指差すバイツとその頭上で首を傾げているエルフーンを見た途端に止まった。
「エルフーンか・・・」
 バイツはともかくエルフーンについて悩み始めたルル。
「どーしたの?」
 クチートが不安そうに口を開くとコジョンドは困った様に質問に答えた。
「あの子・・・水に浸けるととんでもない事になるのよ。その・・・毛の体積がね・・・」
 妙な事をバイツは思い出した。エルフーンが風呂に入る時はいつもルルと一緒だった。
「エルフーン、今回ばかりは無理かな・・・」
「ぶー!」
 エルフーンが一層大きな不満の声を上げ手足を乱暴に動かす。実害を受けているのはバイツなのだが。
「分かった。分かった。皆で温泉に入って来ればいい。俺とエルフーンで今日の宿を探しに行くよ。」
「ぶー」
 しかし、バイツと一緒というのが嬉しいのかエルフーンの機嫌は少し良くなったらしく暴れる事は無くなった。

187名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:16:22 ID:Z9A1YOL6
「マ・・・マスターが入らないのならば私も・・・」
「はいはい、バイツさんの厚意を無駄にしないでねー」
 いつの間にか入浴券を購入していたルルがサーナイト達を器用に引っ張って浴場の方へと向かっていく。
「もうっ!ルルったら・・・ごめんなさいバイツさん、エルフーンの事お願いしますね。」
 ルルの魔の手から唯一逃れることができたドレディアが申し訳なさそうに言うとバイツはドレディアの頭を撫でた。
「気にするなよ、家族みたいなものだろ?」
 バイツが微笑む。
「はいっ!」
 ドレディアは照れながら精一杯の笑顔をバイツに向けた。二極化が激しいこの少年をドレディアもとても気に入っていたのである。



 アクマーンは報告が終わった後に二人が待っているオフィスへと戻り自分の机に座りながら頭を抱え歯ぎしりをした。
「あらら、随分とシゴかれたみたい。御機嫌取りはいかがだった?」
「アクリル・・・」
「あら、図星だった?」
「・・・」
 噛み付く程の気力も残っていないアクマーンはうなだれた。助け舟のつもりかアクシェンが口を挟んだ。
「あなたがそこまで気にかける程の少年ならば一度会ってみたい気がしますね。」
「そーね・・・ねね、だったら会いに行かない?折角こっちの世界に来たんだもの。」
「それも一興ですね、それでは・・・」
「止めておけ。」
 大きな声ではなかったがアクマーンは強く言い放った。
「奴はヒトの中でもかなりの異端者だ。貴様等がワルイーノだと分かった瞬間殺しに掛かってくるぞ。」
「面白いじゃん。アンタが思い焦がれる程の人間だから期待して良い訳でしょ?」
「それについでと言っては何ですがメイデンナイトも倒してきますよ。」
 アクシェンの丸眼鏡がギラリと攻撃的な光を反射した。アクマーンは二人に大した期待はしていなかった。完全に油断している二人がバイツに会うまでの自分によく似ていたからだった。



「さあて、何処に泊まりますかね。」
 レジャー施設を後にしてバイツは背伸びしながら一人言を口にする。トレーナーの宿泊施設としてはポケモンセンターが最適なのだが奇襲された際に起こりうる「惨事」の事も考えるとモーテル等の宿泊施設の方が気分的には楽だった。それに料理もバイツにとっては苦では無かった。
 しばらく頭上のエルフーンをあやしながら運河沿いの道路を歩く。どうやら運河を利用した交易が盛んのようで近くの倉庫では船からの積み荷を降ろしていた。
 バイツはその様子を眺めながらしばらく歩みを進めていく。その内に擦れ違う人間がバイツを注目していた。何事かと自分の体を見渡そうとした時、何かがバイツの左頬に当たった。
 それは三つ編みにされた自分の前髪だった。
「できたー!」
 エルフーンの満足げな声が頭上で聞こえる。
「勘弁してくれ・・・」
「ヤダー!」
 そして別の部位の髪を三つ編みにし始める。道行く人々はその穏やかな光景に笑みを浮かべたが嘲笑という意味合いを含めた笑いは一切無かった。

188名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:16:52 ID:Z9A1YOL6
 ふと、顔を上げると一つのモーテルの前にたどり着いていた。
「リバーサイドモーテル?」
 川沿いに建てられていたモーテルの看板にはそう記されていた。
「まんまだな・・・ま、いいか。」
 バイツは受付へと向かって歩みを進めた。



 一方ルル達は、ほぼ貸し切り状態の大浴場に歓声の声を上げていた。ルルがはしゃいで、ドレディアが諌めるという基本的な流れは相も変わらずで各自自分が興味を持った温泉に駆け出していった。
「うう・・・マスター・・・」
 サーナイトはバイツと共に入れなかった事を悲しみながらも身体を軽く流してから湯に浸かりはじめた。
「もう!サーナイトったら!もっと楽しもうよ!」
「ルルは大人しくして下さい!」
「ううう・・・」
 嘆き悲しむサーナイトは小さな肩を過ぎて口元まで湯に身体を沈める。ぷくぷくと浮き上がる泡をドレディアは眺めていたが更にその下に沈んでいる二つの形のいい膨らみを見付けると自分の胸元に目を向ける。出るのは溜息。
「あれれ?どうしたのかな?」
「なっ・・・何でもないです!」
 ルルの冷やかしの視線に真っ赤になったドレディアはユキメノコが入っている水風呂へと飛び込む。一部始終を見ていたユキメノコは真っ赤になった身体を冷やしているドレディアに話し掛けた。
「・・・もしかして、ちっこい事気にしてはる?」
「そ・・・そんな事無いですって!いや・・・興味は半分位はありますけどそれ程では無いです!」
 しどろもどろな言い訳を聞きながらユキメノコはクスクスと笑った。
「しゅぎょうでござる!」
 打たれ湯を浴びているクチートの声が響く。そして、その他のチームは何故かサウナに篭っていた。
「何なのかな・・・この扱い。」
 汗を滴らせるタブンネの問い掛けに誰も答える事は出来なかった。



 モーテルの受付には誰も居なかった。
 机の上の呼び鈴を鳴らしたバイツ。しかし、カウンターには誰も出て来なかった。
 少し待ってみるかとバイツは飾られているモーテルの地図を眺めていた。ただ、エルフーンは何の変化も無い室内が嫌なのかバイツの頭上から飛び降りて呼び鈴を叩き始めた。
 一定のリズムで徐々に速くなっていく甲高い音。その音を聞いていく内にバイツはある事に気が付く。気配が全くしない。まるで廃墟の中にでも迷い込んだのかの様に。呼び鈴の音色だけが空気を揺らしている。
 その音を聞いている内に更にバイツが何かに気付く。
「一秒間で十六連打・・・だと・・・?」
 エルフーンの呼び鈴を押す速度がとてつもなく早くなっていた。
「一時間!」
「そうだな、ゲームは一日一時間と名人も言っていたな。」
 さすがに呼び鈴の耐久度が心配になってきたバイツはエルフーンを抱き上げカウンターの上から降ろした。
 何かがおかしいと感じつつ無意識にカウンターの奥のドアを開け外の敷地に出た。すぐ左に売店兼レストラン。目の前の二階建ての建物の一階には娯楽スペースとコインランドリー。二階が客室という造りだった。

189名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:17:30 ID:Z9A1YOL6
 だが、それはバイツの意識の埒外にあった。目の前に立っていた丸眼鏡の物腰穏やかそうな長髪の男に殺気を含んだ視線を送っていた。
「これは失礼。ここまで掃除が手間取る事は読み切れませんでした。」
 男は落ち着き払った声でそう言った。
「自己紹介がまだでしたね、私はアクシェンと申します。以後お見知りおきを・・・」
 アクシェンと名乗った男はそう言って一歩下がった。その一歩分前ではバイツの右腕が空を切っていた。
「ここに居るはずの人々は何処にやった・・・」
「ええ、少し「掃除」が手間取りましたよ。人間も・・・」
 半身を引いた後に言葉の残りを口にする。
「ポケモンも。」
 バイツの二発目の攻撃も空振りした。まるで読まれているのかの如く攻撃が当たらない。いや、現に読まれていたのだ。先の先を読み取る。バイツの脳裏にはそんな言葉が過ぎったが別段どうという事も無かった。アクシェンの頬から血が滲み出てくる。
「死にたくなければ最初から本気で来い!」
 全てがアクシェンの思い通りという訳では無くバイツの速さが読み以上だった。しかし、その顔に浮かぶのは驚愕では無く殺気をはらんだ柔らかい笑み。
「いいでしょう、多少手荒になっても構わないみたいですから・・・」
 視線の先にはドアから半身を乗り出し攻防を見ていたエルフーンがいた。
「・・・ね。」
 アクシェンの柔らかくも獲物を狙う目はエルフーンに向けられていた。



 露天風呂の湯煙が立ち上る澄み切った空を見上げながらサーナイトは一人溜息を吐いた。
 安堵と言うべきか哀愁と言うべきか。一人になるとどうしても色々と考え込んでしまうサーナイト。
 考えるのはバイツの事。最近は二人だけでいる時間が少ない。全員に平等に構ってしまう為に必然的に時間が減ってしまう。
「ルル様のように積極的に・・・」
 そこまで口に出して止めた。自分一人だけに、という我が儘に聞こえてしまう。
「私・・・どうしたら・・・」
 胸が締め付けられる。
「何をしょぼくれているんだい?」
「あ、ロアちゃん・・・」
 いつの間にか隣にゾロアークが座っていた。
「意味の無い我慢大会には飽きてきてね。で?何だか元気が無いみたいだけど?」
「・・・私・・・マスターともっと二人きりで居たい・・・と、考える時があって・・・」
「やれやれ、難しい相談だねぇ・・・」
 ゾロアークは静かに笑った。
「出来ればアタシもバイツさんと二人っきりでセ・・・」
「もう少し積極的になってみるべきなのでしょうか・・・でも、それでは我が儘になってしまいますし・・・」
「ハハッ、サーナイトらしい考え方じゃないか。」
「私らしい?」
「そう、自分の事だけじゃなくて皆の事も考えているじゃない。サーナイトらしいねぇ。」
「皆様の・・・事?」
「そして、バイツさんも良く似ている。自分の事は後回しで皆の為に動いてる。だからバイツさんの事は好きだし・・・」
 些か照れ臭そうにゾロアークは俯いた。
「・・・サーナイトの事も好きだよ。」
「・・・ありがとうございます。」

190名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:18:03 ID:Z9A1YOL6
「いいっていいって。」
 それから二人でたあいの無い話で笑った。
 不意にゾロアークが笑いを止めて周りを見渡す。サーナイトも何かを感じ取ったのか立ち上がり回りを見渡す。湯煙の向こうに誰かが立っていた。
 赤紫色の髪をしたお団子ツインテールの女の子。だがそれが何なのか。サーナイトとゾロアークには分かっていた。ワルイーノだと。
「ねえねえ、メイデンナイト知らない?アンタ達と一緒に居るって聞いたんだけど。」
 高圧的な態度で口を開いた少女にゾロアークは問い掛ける。
「やれやれ、名前位聞かせて貰ってもいいもんだけどね?」
「うっさいなあ。どうせ死ぬんだから知らなくていいでしょ。で?メイデンナイトは?」
「礼儀というものを弁えたらどうだい?お嬢ちゃん。」
「もういい!五月蝿い!死ね!」
 少女が手をかざした途端、ゾロアークはサーナイトを抱えてその場から水柱を上げて飛びのいた。一秒もしない内に二人のいた場所は薄紫色をした巨大な水晶によって潰されていた。
 ゾロアークはサーナイトを降ろすと、少女に向かって体を向けて構えた。
「早くルルを!あたしが囮になる!」
「でも!」
 二人の近くに無数の水晶が降り注ぐ。狙いが狂って外れたのか、それともわざと外したのか。
「いいから行きな・・・!ポケモンの攻撃が通らないなら、せめて頑丈な方が攻撃を受けて時間を稼ぐべきだ。」
「駄目です!一旦ここは・・・」
 そこまで言いかけてサーナイトは口をつぐんだ。二人で建物の中に逃げ込めば建物ごと潰されて多くの一般人に被害が出てしまうだろう。
「ホーリースティングショット!」
 その時、サーナイトとゾロアークの頭上を二本の光の槍が飛んでいった。少女は自分を狙って放たれたその攻撃を水晶の障壁を瞬時に構築し簡単に防いだ。
「わざわざそっちから来るなんてね、メイデンナイト。」
 少女の前に誰かが降り立った。それは、ルルのもう一つの姿。光の戦士メイデンナイト。そして後から遅れてサーナイトとゾロアークの愉快な仲間達が走ってやって来る。
「いつもいつも私達にちょっかい掛けるのね、ワルイーノ!」
「ハァ・・・名有りと名無しの区別が付かないなんて、確かにアクマーンの言う通り力不足ね。アタシの名前はアクリル。」
 アクリルと名乗った少女が指を鳴らすと数百を超える水晶の槍が宙に出現する。
「覚えた?じゃあ死んで。」
 一斉に襲い掛かる水晶の槍。しかし、ルルは動かずに両手の掌を差し出した。
「サンライトヴァイブレイト!」
 そして次の瞬間には水晶の槍が次々と風化し消滅した。妙な表現だがルル以外は何かがズレた様な感覚と共に小さな耳鳴りを感じていた。
「あんた達の力で形成する物質なんて簡単に砕ける!さあ、観念しなさい!」
「ふうん・・・アクナスの報告とは違うじゃない。ま、あの体力馬鹿には期待していなかったけど・・・」
 ふわりと浮き上がったアクリルはルルよりも二回り程大きな水晶の壁を作り出し、その上に脚を組んで座った。
「面白いモノを見せてあげる。」
「面白いモノ・・・!?」
「別行動しているアンタ達のお仲間よ。実はねソイツ等の所にもう一人会いに行ってるの。」
 流石にルル達もこれには絶句した。
「今から見せてあげる。多分死んでるんじゃないかしら?ソイツ、かなり強いから。」
 水晶の壁が一瞬光を反射したかの様に輝くと何かを映し出した。
『たすけてー!』

191名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:18:37 ID:Z9A1YOL6
 まず、映ったのは十字架に鎖で張り付けにされているエルフーン。
「エルフーン!」
 ルルが反射的に叫ぶ。映像はエルフーンを中心に少しずつズームアウトしていき、周りに居る人影が確認出来るまでになった。人影は三つ。一つは満身創痍のバイツだった。
「マスター!?」
「あらら、酷い様。」
 サーナイトの悲痛な叫びにアクリルは満足げな笑みを浮かべた。
『ダメー!』
 エルフーンは必死に鎖の束縛から逃れようとするがびくともしない。
『エルフーン!必ず・・・必ず助ける!だから待っていろ!』
『うん!』
 満身創痍の少年は力強くそう叫ぶ。十字架に縛られている小さな存在は頷く。気休め程度にしかならない言葉もそれは小さな希望になる。そして、その隣の人影がバイツに語りかける。
『しかし・・・助け出すにも少々・・・分が・・・』
 満身創痍で咳込むその影はバイツより長髪で割れた丸眼鏡を掛けた中年男性であった。
『やれるか・・・アクシェン。』
『合わせて下さいよバイツ君・・・次外せばチャンスはありませんからね・・・』
 二人の眼前にいた人影は声を出す。
『よくぞ二人だけでここまで持ったものだ、我が名を刻むに値する!』
 バイツは相手の一挙一動に反応しようと集中し、アクシェンは出来る限り相手の出方を読み取ろうと画策する。
『我が名は・・・ちくわ大明神。』
 音声と共に二人に掛かる異常な程のプレッシャー。常人であれば心臓が止まりかねない程の異常な空気。
『行きますよ・・・!バイツ君。』
『ああ・・・分かった・・・』
 だが、臆する事無く二人は立ち向かう。そして、その様子を水晶の画面越しに薄ら笑いを浮かべて眺めるアクリル。
「たった一匹の虫けらの為にホンッとバカよねー!・・・で、ちくわ大明神ってあれ何?」
 真顔で問われ困惑するルル達。困惑しながらサーナイトが口を開く。
「え?あの・・・お仲間では?」
「長髪丸眼鏡はそんなもんだけど・・・ちくわ大明神なんてアタシ知らないわよ。」
 空気が凍った。
「ルル・・・ど・・・どうするのよ?」
 流石に思考能力の限界を迎えたコジョンド。
「え!?・・・えっと・・・覚悟しなさい!ワルイーノ!」
「ちょっと!何なの!?考えるの苦手なの!?バカなの!?死ぬの!?」
「分かった!援護は任せて!」
 クチートが前に出る。
「とにかくカレーライスでいいね!?タブお姉ちゃん!」
「たっ・・・たぶんね・・・わ・・・私に振らないで!」
「タブタブが落ち着いて!とにかくシチューで!」
「ミミー?それは無いわよ。洗濯バサミが四つよ!」
「ええい!落ち着けムウ!豆電球はお守りじゃない!」
「アブさんも落ち着いて下さい!お銚子はどうします?ユキさん!」
「ドレはん、ウチは歯ブラシを百五十メートル先に投げなあかへん!」
 混乱した場の空気は収拾が着かなくなっていた。そして、水晶の壁はもうバイツ達を映していない。

192名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:19:13 ID:Z9A1YOL6



 バイツとアクシェンの眼前にいる「ソレ」は無傷で立っている。対して二人の体は傷付き、ボロボロである。特にバイツが酷く、指先の感覚は無くなり体温も失われていく。
「・・・ん・・・バイツ君・・・!」
 近くに居るはずのアクシェンの声すら遠く聞こえる。もっと大きな声で話せとバイツは思ったが、アクシェンの呼吸音に妙な音が混ざっている事に気づく。
「呼吸器系を少々やられてしまいましてね・・・」
 バイツの怪訝そうな表情を見て言いたい事が分かったのか血が混じった咳をしながらアクシェンは答えた。
「その様子だと肋骨もやられていそうだな。」
「恥ずかしながら・・・」
「何をコソコソしている。」
 ちくわ大明神の接近に気付かなかった二人は咄嗟に構えた。一撃を叩き込むのには一瞬もあれば十分でバイツの胸部に貫手を打ち込んだ。一点に集中された力はバイツの胸骨をへし折る。だが、バイツは怯む事無く右肘と右膝を同時にちくわ大明神の腕に叩き込む。
 ちくわ大明神の腕が軋む音を立てたのとバイツが喀血したのは同時だった。この時、アクシェンから注意が一瞬逸れた。
「!」
 次の瞬間、床から魔力で形成された数本の黒い槍がちくわ大明神の体を貫いた。
「よし!このまま・・・!」
 だがアクシェンは瞬時に吹っ飛ばされていた。体に槍が刺さったままちくわ大明神はアクシェンに攻撃を叩き込んでいた。槍が刺さったまま急な動きをしたために筋繊維が千切れる音がした。
 その音に反応したのかバイツがちくわ大明神の頭部に右腕による渾身の一撃を叩き込む事に成功した。
「今だ!アクシェン!やれ!」
 そしてバイツが右腕を打ち込んだ頭部の反対側には一本の黒い槍が突き刺さる。
「ぐ・・・ぉ・・・?」
 ゆっくりとその場に倒れたちくわ大明神。バイツとアクシェンは暫くちくわ大明神に目を向けていたが微動だにしていなかった。集中力を切らしたのか膝をついたバイツ。途端に大量の血を吐き、床に小さな赤い水溜まりを作る。
「まだ・・・終わりじゃ・・・ないな・・・」
 ズルズルと体を引きずる様に張り付けにされているエルフーンの所まで行き、鎖を引き千切った。
「もう・・・大丈夫だから・・・な・・・」
 エルフーンの白い綿毛の様な体毛に血が滴り落ちる。エルフーンはそんな事を気にせずにバイツの体にしがみつき泣きじゃくるだけであった。
 刹那、黒い槍がバイツとエルフーンに向けて放たれた。バイツは咄嗟に全てをたたき落とす。
「アクマーンは・・・貴方を味方にしたがっているようですが・・・やはり貴方は危険過ぎる。」
 アクシェンがほぼバイツと同じ状態で立っていた。
「ダメー!」
 エルフーンが小さな体を盾にしようとバイツの前で両手を広げる。
「邪魔です。」
 数本の黒い槍がエルフーン目掛け放たれるもののバイツが咄嗟に立ち上がり全てたたき落とす。
「とどのつまり・・・俺は・・・俺達はこうなる運命だったんだろう・・・?だったらやってやろうじゃないか。来いよ、こうする為に俺は旅に出たんだからな。」
「所詮はヒト・・・ヒトというものに留まっている貴方がどんな力を得たとて我々の敵ではありません。」
 二人の視線は殺気をはらみ前方の空間を歪ませていた。両方は限界で一撃を放つ程の力しか残っておらず、また攻撃を受け切れる程の体力も残ってはいなかった。
「嫌だ・・・」
 色濃く渦巻く死の空気を感じたエルフーンの小さな声が響いた。
「行くぞ・・・!」
「行きますよ!」
 二人が動くと共にエルフーンは叫んだ。
「ダメー!」
 近くに居るはずの二人にその声は届かない。

193名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:19:48 ID:Z9A1YOL6



 女湯の脱衣所のすぐ外に客のくつろぐ為のスペースが設けられていた。
 そのスペースの一角でサーナイトは濡れタオルを顔に掛けながら横たわっている二人を心配そうに眺めていた。その二人とはルルとアクリルである。
「あのー・・・大丈夫ですか?」
 二人して返って来るのは唸り声。
「んー!温泉上がりのモーモーミルクはいいねー!」
 その唸り声を掻き消す様なミミロップの歓声。サーナイトの近くでは風呂上がりには牛乳派とコーヒー牛乳派に分かれてくつろいでいた。
「後は私が見ていますから牛乳を飲んで休んでいてください。」
 とドレディアは言う。
「大丈夫よ、この二人なら。さ、コーヒー牛乳を飲んで一休みしましょう。」
 とコジョンドが言う。自分達の派閥にサーナイトを入れたがっている二人。
 牛乳派がクチート、ミミロップ、ドレディア、タブンネ。
 コーヒー牛乳派がムウマージ、ユキメノコ、ゾロアーク、コジョンド。
 因みにアブソルはどちら派かどうか以前にアクリルから距離を取りつつ首筋を虎視眈々と狙っていた。
 二つの派閥は表立った闘争はしていないもののそれは人数が互角だからである。
「サナ、私に構わず決めるといい。」
 何故か白黒付けさせようとアブソルがサーナイトに促す。
「ええっと・・・」
 マスターと同じのがいいです。その言葉を出そうとしたが今この場にバイツは居ない。仕方が無いのではぐらかそうとした時だった。
「俺はアイスティーだな。」
「私は冷えたBEERですね。」
 突然聞こえてきた声の方向に全員振り向いた。そこには全身に包帯を巻き付けたミイラの様な人物が二人。そして血の染みを付けて片方のミイラの頭上に乗っているエルフーン。
「マ・・・マスター・・・?」
 ミイラ男の正体が分かっていたサーナイトは怪我の事を問い質そうとした。その途端にそれを読み取ったエルフーンを頭に乗せているミイラ男、バイツが口を開いた。
「エルフーンにやられたよ。二人してな。」
「?」
 全員が疑問符を頭に浮かべて首を傾げた。なんせこの二人を最後に見たのはちくわ大明神という訳の分からない者に立ち向かおうとしている場面だった。
 しかし、何故助けられたエルフーンが二人をここまで打ちのめしたのか。当のエルフーンは達成感からかいつもの表情である笑顔よりも一段と輝いた笑顔になっていた。
「突然暴風が吹き荒れて一騎打ちを止められましたよ。」
 と、ヒビだらけの丸眼鏡を掛けたミイラ男、アクシェンがアクリルを担ぎ上げた。
「一体何をしていたのですか?アクリル?」
「・・・う・・・る・・・ざい・・・」
「二人して温泉の中で潜水しながら戦ったりサウナの中で我慢大会しながら戦ったりしてのぼせた・・・って言ったら信じるかしら?」
 ムウマージの言葉にアクシェンは包帯の下で眉をしかめた。

194名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:20:27 ID:Z9A1YOL6
「成程・・・まあ、アクリルなら有りそうな戦いですね。」
 そう言うと踵を返して歩き始めたアクシェン。
「私はもう貴方に関わるのは懲り懲りですよバイツ君。あんな化け物が付いてくるのなら二度と会いたくありませんね。」
「俺もだよ。味方にしろ敵にしろアンタと血を流し合うのは御免だ。」
 何故か二人の台詞には畏怖と個人的な和解の意味が込められていた。



 それから、先程バイツが見付けたモーテルとは違うモーテルの部屋を取った一行。バイツは担いでいたルルをベッドに寝かせると彼もすぐに倒れてしまった。
「マスター!嫌です!死なないで下さい!」
 サーナイトが急いで駆け寄りバイツを抱きしめる。
「痛っ・・・!多分胸骨がやられてるんだ・・・心配してくれるのは嬉しいがあまり触らないでくれ。」
 今のバイツは自力でベッドの上まではい上がるだけで精一杯だった。
「暫くここに滞在する事になりますね・・・」
「済まない・・・」
「いいえ、謝るのは私の方です。私はマスターの・・・」
 そこまでサーナイトが口にした途端バイツの人差し指が唇に当てられて言葉を止められてしまった。言いたい事が分かっていたのかバイツは軽く笑って首を横に振った。間を置かずにに先程の騒ぎを聞き付けて全員がバイツのベッド周りに集まる。
「大丈夫・・・?痛くない・・・?」
「相当痛むな・・・二日程寝てれば治るよ。クチート。」
 一同はおかしな言葉にツッコミを入れようとしたがバイツの事なので取り敢えずは信用する事にした。そして、各々が各自の役割を決めて動き始めるとバイツは疲労の所為で気を失ったかの様に眠りについた。



 一仕事終えたサーナイトがバイツとルルの様子を見に行くとバイツのベッドの傍で椅子に座っているエルフーンを見付けた。
「・・・」
 今にも泣き出しそうな顔でバイツの事を眺めている。
「どこか具合でも悪いのですか?」
 首を横に降るエルフーン。
「もしかしてマスターが怪我したのは自分の所為だと思っているのですか?」
 コクリと頷く。
 ああ、どこか昔の自分に似ている。サーナイトはエルフーンの姿を見てそう感じた。彼女も以前に比べれば表面上は落ち着いているがそれはバイツを心配するそぶりを見せるとバイツに気を使わせてしまう為であり、内面ではバイツを護れない自分を責め続けている。
「ですがマスターが目の覚めた時に落ち込んでいるエルちゃんを見たらどう思いますか?」
「落ち込む?」
「そうですね。ですから・・・」
「出来ない・・・」
「え?」
「・・・怖かった。」
 微かに震え出すエルフーンの体。バイツの体を見ればどのような戦いだったのかは大体の検討はつく。それを目の前で見せ付けられるのはこの小さな心には大きな重圧になるのは目に見えている。主を護れなかった自分には何が出来るだろうか。こんな小さな女の子すら護れないのか。

195名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:20:59 ID:Z9A1YOL6
 いや、とサーナイトは頭を振った。こんな自分にもたった一つだけ出来る事。
 優しくエルフーンを抱きしめるサーナイト。体の震えとは別に不安や恐怖といった負の感情が伝わって来る。
「暖かい・・・」
 和らいだ小さな声が聞こえた。震えも収まり、負の感情も薄くなっていく。エルフーンが顔を上げた。その表情は無垢ないつもの笑顔。それに応える様にサーナイトも笑顔を返した。



「滑稽だな。」
 オフィスにはアクマーンの声が聞こえた。彼の眼前には不機嫌な表情のアクリルと包帯で表情が読み取れないアクシェン。
「止めておけと言っておいたはずだが?」
「ええ、止めておくべきでした。あのような化け物とやり合う羽目になるとは・・・もう金輪際関わりたくありませんね。」
「その事なんだが・・・どうしてああなった?ちくわ大明神って何?」
「私と彼だけの秘密です。」
 アクシェンは包帯の下で頬を赤らめた。
「・・・アクリルはメイデンナイトと引き分けか?」
「五月蝿い!」
「アクナスならば簡単に追い詰めただろうに。」
「あれはただの体力馬鹿ですよ、肉弾戦ならば我々の・・・いや、向こうでもずば抜けていましたからね。」
 二人のやり取りを聞く度にアクリルの中には苛々が積もっていった。
「こうなってしまった以上アレを・・・」
「もう!五月蝿いのよ!いいわ!私一人で連中を始末してくる!」
 荒々しい足音と共に荒々しくドアを開けるアクリル。足音が遠ざかっていくと残った二人は溜息を吐いた。
「さぞかし悔しかったのでしょうねメイデンナイトと引き分けという事が。」
 アクシェンの言葉にアクマーンは心の底から頷いた。



 暗闇の中、バイツは自分が目を開けているのに気付くのに数分掛かった。
 上体を起こしただけで激痛が体中を駆け巡る。だが、体を横にする事無くベッドから降りて立ち上がった。
 隣のベッドではルルが規則正しい寝息を立てて眠っているが二人以外寝室には誰も居ない。他の皆は何処へ行ったのかと思いながらリビングルームへ行くと全員が色々な場所で眠っていた。ソファーの上。床の上。机の上。死屍累々と横たわる様に床で眠っているのを起こさない様にバイツは注意しながら外へ通じるドアへ向かった。
 外に出るとバイツは月を見ながら反射的に背伸びをして、 望みもしない激痛を走らせた。
「・・・!」
 痛みで屈んだ瞬間、夜風とは違う風をバイツは感じ取った。



 アクリルは荒々しく路地裏を歩いていた。人混みの中を歩けば間違いなく彼女はその鬱憤を人混みの真ん中で晴らしていただろう。しかし、無駄に事を大きくする事を「連中」は望まない。それを知っているから彼女は鬱憤を晴らす事無く、苛々と人の居ない路地裏を歩いていた。
「もー!いらつく!」
 空き缶を蹴り上げたアクリル。その空き缶はいつも路地裏でたむろしていそうな柄の悪い男達の一人に当たってしまった。
「痛ってえ・・・何しやがる!」

196名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:21:39 ID:Z9A1YOL6
「別に?ただ空き缶の落ちる先にアンタが居ただけでしょ?」
「この餓鬼!」
 男はアクリルの胸倉を掴み上げた。アクリルは怯える事など無く、人を見下しているのかの様な視線を向けるだけであった。
「躾がなってないようだな・・・それにこんな時間帯に外を出歩く餓鬼だ・・・」
 複数の卑下た視線がアクリルの体を舐め回す様に眺める。
「この餓鬼を輪姦すか?」
 アクリルの不快感が限界を迎えて周りの空間に男達を血祭りに上げる為の水晶を形成し始めた時、声が聞こえた。
「止めろ、大の男が寄ってたかって何をしている?」
 声の方から風が流れた。その風に靡く長い黒髪を持つ影。それはバイツだった。
「何だ?事情も知らねえのにヒーロー気取りか?坊ちゃんよォ!」
「止めろと言っているんだ。見苦しい・・・」
「んだと!?コラ!」
 別の男がバイツに近付く。が、次の瞬間には肉眼では捉えきれない程の速さの裏拳を頭部に叩き込まれて、壁に頭を打ち付ける羽目になってしまった。ズルリと崩れ落ちた男は微動だにせず。打ち付けられた壁には血の跡。
「・・・少し新しい世界を体験させてやるよ。」
 微かな月明かりはバイツの狂ったような笑みを照らした。バイツが瞬時に男達に近付き、無慈悲に右腕を振るう。悲鳴を上げる前に事切れる男達に一切の配慮は無かった。
 殺戮ともいえる戦いを目の当たりにしたアクリルは体の奥が痺れる様な変な感覚に囚われていた。血の匂いが鼻を突く度に痺れはどんどん強くなり、鮮血と舞うバイツをみる度に奇妙な感情が強くなっていく。
 そして、バイツの目がアクリルに向けられる。痺れは一層強くなりそれは体の疼きになっていった。
 眼前に右腕が迫ってくる。この化け物に殺されるのならば疼きが快楽になるのだろうかと考える様になっていた。
「うっ・・・うわあぁぁぁ!」
 その声にバイツとアクリルは我に返った。偶然通りかかった一般人がこの光景を見て叫んだのだろう。
「・・・一つだけ教えて。」
 アクリルはまともにバイツを見れなくなっていたのかなるべく視線を合わせない様に顔を逸らした。恐怖からでは無く胸が張り裂けそうという初めての感情を抑える為であった。
「どうしてアタシを助けたの?アンタだったら私がワルイーノだって分かるでしょ?」
「騒ぎを広げない為に黙って貰っただけだ・・・が、これじゃあ意味無いな。」
「そ・・・そう・・・じゃあね。」
 と、アクリルは逃げる様に闇の中へと消えていった。
「・・・リハビリを兼ねてだけどな。」
 バイツも急いでその場を後にした。
 それからその場に警官が現れて現場を調べ始めた。その様子を高台に腰掛けながらアクリルは見下ろしていた。バイツの姿を思い出す度にそれ以外を考えられなくなってしまう。
「絶対に・・・」
 この時、アクリルの中に一つの目標と感情が生まれた。
「絶対にバイツはアタシのものにしてやるんだからー!」

197名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:26:50 ID:Z9A1YOL6
はいはい皆ー数えてみれば十四章っぽいの終わったよー
そして皆聞いてくれ・・・
キュアサニーって聞くとボンボン餓狼思い出しません?


僕はもっぱらフリーマンで(MOWが初餓狼)

198名無しのトレーナー:2012/02/10(金) 01:33:46 ID:Z9A1YOL6
やべえageちゃった(小声)
すいません!何でもしますから許してください!

199名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:40:10 ID:rmmQN8OY
前の投稿から短い期間で何でこんなSSが出来たかは知らない
無いよりはある方がいいと思った
今は反省している

200名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:40:52 ID:rmmQN8OY
「マスター、今日はお出かけする予定はありますか?」
 とある日の昼下がり。バイツが自室で右腕の包帯を巻き直している時、背後からサーナイトの声が聞こえた。
「いいや、特に・・・何か欲しいものでもあるのか?」
「い、いえ・・・無いのならばいいです。」
 慌てて踵を返してバイツの背後から立ち去るサーナイト。
 隠し事でもしているのかと思考を巡らせかけたとき、予備の包帯が無いことに気がついた。
「おーい、サーナイト。悪いが急用が出来たから少し出かけてくる。」
 サーナイトが頭だけ出してその言葉に反応した。
「そうですか、ではお気を付けて行ってらっしゃいませ。」
 やけに嬉しそうに言うサーナイト。
「・・・もう俺の子守は必要ないという事かな?」
 どこか寂しげに呟いたバイツは家を後にした。
 その後ろ姿を覗き込んでいたミミロップ。バイツの姿が見えなくなると台所に居るサーナイトに報告をした。
「マスターは居なくなった!よーし、頑張っちゃうよ!」
「ふふっ、では帰ってくる前に仕上げてしまいましょうか。」
 サーナイトの視線の先にあったのは壁に掛かった二月のカレンダーにある明日の日付だった。



「・・・」
 ライキの部屋の中は何故か殺気に満ち溢れていた。
 先程から押し黙っているライキにバイツは声を掛ける。
「なあ・・・包帯の注文を頼みたいんだ・・・」
「あー・・・いいよ・・・KYM社の四四〇番の包帯だよね・・・」
 やる気無くキーボードを叩く友人を横目にバイツは妙な物を発見した。
 壁に無数に突き刺さっているナイフ。それも一箇所に。よく見てみるとカレンダーが無惨な状態で壁に掛かっていた。
「な・・・何だこれは・・・」
「触らないで・・・」
「あ・・・ああ・・・」
 妙に元気が無いライキ。だがこの部屋に張り詰めた空気は一体何なのか。
 その時、部屋の戸が開いた。
「んだ・・・バイツかよ。」
 そこには同じ位元気の無いヒートが紙袋を抱えて立っていた。
「おいライキ、例のブツだ。」
「意外と早いね。」
「早い方がいいだろ?後は・・・」
 ヒートがバイツに目を向ける。その視線の意味をバイツは独自に理解する。
「はいはい悪巧みの邪魔をして悪かったよ、じゃあな。お前等に天罰が下りますように。」
 捨て台詞と共にライキ宅を後にしたバイツ。
「くっくっく・・・テメェに動いてもらうのは明日になりそうだぜバイツ・・・」
「さーって、ヒート。さっさと作業に取り掛かろうか。まだ荷物がこれから届くからね。」
 先程とは打って変わって上機嫌になった二人。実はヒートの視線にはもう一つの意味が込められていた。
 屋外の寒気に晒されながら歩いている当人はそれを知る由も無かった。

201名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:41:43 ID:rmmQN8OY
 やや早歩きで家路を急ぐバイツ。冷たい向かい風が吹くだけで少し虚しい気持ちになってくる。
 何度目のかの向かい風を顔面に向けられたとたんに立ち止まる。
「・・・?」
 誰かが付いてきている。
 経験上微かな気配すら察知出来るバイツにとってはそれは思い違いではなく、確信だった。
 敵意は感じられない。
「襲うには遅すぎるタイミングだな、それともナメられてるのか?」
 再度歩き始めると気配も動き始める。
 放っておいて暫く歩くと気配が何処かへと消え去った。
 あれこれ考えるのも面倒になってきたので家に帰る事に意識を向ける。
「ただいまー」
 バイツが玄関のドアを開けるのと同時にサーナイトが出迎える。
「お帰りなさいませマスター、外は寒かったでしょう。さあ早く中に入ってください。」
「・・・」
「マ・・・マスター・・・何か?」
 じっと、サーナイトを見つめるバイツ。
「・・・いいや、何でも。」
 サーナイトから甘い匂いが漂う。
 少なくとも香水の様な澄んだ匂いでは無い。
 居間に戻るとクチートがホットココアを盆に載せてバイツに持ってきた。
「ありがとう。」
「えへへ、どういたしまして!」
 ホットココアの入ったマグカップを受け取ったバイツは空になった盆を台所へと持っていくクチートの後ろ姿を眺めながらココアに口をつけた。
「!?」
 その途端バイツは固まった。
 ココアの匂いと先程感じたサーナイトの匂いが似ているのだ。
「まっ・・・まさか・・・サーナイトがココアである可能性が微粒子レベルで存在している!?」
 サーナイトココア説を展開していく内に次々と新説が浮かび上がってくる。
「待てよ・・・ココアいえばバンホーテン・・・バンホーテン・・・ヴァンフォーテ・・・VAN・・・掘るって・・・?」
 バイツの手が震え出す。
「つまり・・・ココアを飲む奴はホモって事か・・・ダーク♂潮干狩り?」
 不可解な新説を説いた後、バイツは居間の片隅で落ち込んでいた。
「何しているのかしら?マスター」
「具合が悪いのでしょうか・・・」
 ムウマージは疑問符を浮かべ、サーナイトは心配をする。
「さあさ、晩ご飯はなんにしはりますか?」
 ユキメノコが台所から顔を覗かせる。
「あら、どないんどす?マスター。そないに落ち込んで。」
「何でもない・・・」
「何でもないのなら心配する必要は無さそうだな。」
 何時の間にかバイツの隣で丸まっているアブソル。
 ふと、アブソルの体が冷たい事に気づいたバイツ。微かに室内の空気とは違う外の空気の匂いがした。
「何処かに出掛けたのか?アブソル。」

202名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:42:08 ID:It8T0TcM
「す・・・少し散歩にな。」
「そうか。」
 これ以上追求が来ない事が分かるとアブソルは満足気にバイツに擦り寄った。
 しかし、バイツはこれで確信した。何かを隠している。と。
 この場で質疑応答はしない。密かに一人づつ話を聞いていく事にしたバイツだった。



 どうやら天はバイツに味方している様であった。
 夕飯が終わり台所には珍しく後片付けをしているサーナイトしか居なかった。
 他の皆はサ〇エさんの再放送を見ていた。因みに内容は「ナ〇ヘイ、〇スオとの初夜」の一本だけであった。
 サブタイトルからして危ない内容の様でそれを見せまいと思ったバイツだったが、隠し事を聞き出すには最高のタイミングだった。結局、答えを聞き出す方をバイツは断腸の思いで選んだ。
 予想通りサーナイトは洗い物をしていた。
 それと少し甘い匂いがする。
 甘い匂いの出処を探る間も無くサーナイトがバイツに気付いて声を掛ける。
「どうかなさいましたか?」
「少し・・・な。」
「もう少しで洗い終わりますから、終わりましたらテレビでも・・・」
「いや、それだけは本当に勘弁。」
 微かに居間の方からナミ〇イとマ〇オの喘ぎ声が聞こえてきた気がした。
 嫌だ、思い込みによる幻聴であって欲しい。とバイツは願った。
「?」
 サーナイトは笑顔で首を傾げる。
 バイツは瞬時にサーナイトの背後に回り込み抱き着いた。
「????!!?!」
 いきなりの行動に言葉の出ないサーナイト。抱き着いた際に台所と同じ甘い匂いがバイツの鼻腔に漂う。
「サーナイト・・・何か隠し事でもしているのか?」
 バイツが甘い声で囁きかける。だが非常にストレートな質問。元来バイツに大した話術はない。
「隠っ・・・隠し事でっ・・・で、ですか?」
 顔を真っ赤にしながら吃るサーナイト。
 急に抱きしめられた事も影響しているだろうがどうやら思い当たる節がありそうだった。
「そう、か・く・し・ご・と。」
 吐息と共にバイツはサーナイトに顔を近付ける。
 バイツも自分がこんなキャラでない事は分かっている。自分自身も吐き気がしていた。
「な・・・無いですよぉ・・・」
 視線をそらしてなるべくバイツを見ない様に務めるサーナイト。だがそれも無駄に終わってしまう。
 抱き着いていたバイツの両手は徐々に下へ下へとサーナイトの体のラインに沿って降りていく。
 右手は大腿部の内側、左手は普段は目立たない股の割れ目に添えられた。
 サーナイトは声を出せない。数メートル離れた先に家族が居るから喘ぐことなど出来ない。しかし、拒絶もしない。体はなすがままの刺激を求めている。
 軽く撫で、時には指でなぞり、左右の手の役割を変えたりと焦らし続ける。
 サーナイトは涙目になりながらその快楽に耐えていた。
「マ・・・ス・・・タァ・・・もっと・・・」
「言って欲しい事があるんだけど。」

203名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:42:32 ID:rmmQN8OY
「ふぁ・・・い・・・」
「何か俺に隠し事していないかな?」
 焦らされ続け体の疼きを抑えられないサーナイト。
 言葉が喉まで上がってくる。
「教えてくれるなら・・・続きに期待してもいいんだけど・・・な。」
 だが口にはしない。自分一人の所為で全てが駄目になってしまうかもしれないから。
「なにも・・・ない・・・ですよぉ・・・」
「本当か?」
 体は正直でバイツの左手が愛蜜で濡れていく。
「ほんと・・・ですぅ・・・」
 サーナイトは嘘をついていた。
 しかし、自分だけの嘘では無い。
 その事だけが彼女を快楽の罠から護り続けていた。
「・・・分かった。」
 バイツの指がサーナイトの中を激しく出入りする。
「ふぇ・・・っ・・・!」
 行き成りの変化に対応できなかったサーナイトは声にならない声を上げて絶頂を迎え、流し台の下に水漏れが起こった。
 腰が砕けたかの様に内股になってその場に座り込むサーナイト。
「悪かった・・・変な事言い出して。」
 サーナイトに軽いキスをした後、サーナイトの洗い物を引継ぎ、サーナイトは自分の水漏れの始末を行なった。
 役割が終わった後バイツはふらりと台所を出ていく。
「少し・・・外の空気を吸ってくるよ。」
「マスター・・・」
「・・・ごめんな。」
 バイツが完全に台所を後にしたと同時にサーナイトは残りの言葉を口にした。
「貴方と一緒ならどんなシチュエーションでも大丈夫です!イケます!」
 片手のガッツポーズと共に放たれたやけに力の篭った言葉だった。



 外に出たバイツはふらりと近くの公園まで足を進めた。
 入口に近い外灯の下。そこで行き成り嘔吐し始める。
「何なんだ!?何をしているんだ俺は!?」
 右手で顔を覆う。
 その右腕にも力が徐々に入っていく。
 激痛、獣の様な呼吸、瞳孔の開きかけている眼。そして自分自身への憎悪が自分自身を認識していた。
「同じだ・・・!まるで・・・!」
 今まで会ってきたポケモンに危害を加えてきた者達と自分が重なる。自分は違うと思っていた。
 自己嫌悪と共に吐き気が込み上がってくる。
「結局同じか・・・違うと思っていた・・・変われると思っていた・・・畜生!」
 胃液を撒き散らしながらバイツは叫んだ。
 だが、気分が晴れる事は無かった。

204名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:43:03 ID:rmmQN8OY
 家に戻ってきたバイツは昏昏と眠り続けていた。
 何時間眠っただろうか、次に目覚めた時には既に昼前だった。
 頭がスッキリしないのかもう一度横になるバイツ。
「ああああああああああぁあああああああああぁああああああぁ!!!」
 突然雷鳴の様なけたたましい外人男性と思われる叫び声が空気の乾いた寒空に響き渡った。
「!?」
 バイツは跳ね起きて何が起こったのかを確認する為に外に出た。
 玄関から外へ一歩踏み出した瞬間、彼の目に飛び込んできた物は三人の男がマットレスの上でレスリングをしている風景だった。
「人の家の前でサンダーvsライトニング超絶叫編って・・・どういうことなの?」
「Hを学ぶべき♂」
 完全に不意を突かれたバイツが声の聞こえた方向に振り向くと同時に何かの液体を浴びてしまう。
 衝撃に一瞬怯んだが体制を立て直して声の正体を確認する。
 そこに立っていたのはストック付きのM320を手にしているライキと無線機を担いでいるヒートの姿。
「やあ!今日はお日柄も良く・・・」
「注文の品を届けに来た訳じゃなさそうだな・・・一体、何なんだ行き成り水を被せてきて。」
「ただの水だと思ったか?残念だなぁバイツ?向こうの道を見ろよ。」
 笑いを堪えているヒートはそう言いながら明後日の方角を親指で指した。
 そこには砂煙を上げながら走って向かってくるポケモンの大群。
「ちょいとしたネタばらしだ。実はお前に浴びせたのはちょいと濃縮されたフェロモンでな、雌ポケモンを発情させる効果があるんだよ。」
「な・・・!?」
「逃げた方がいいんじゃない?流石にあの数のポケモンの世話は君にできないでしょ?」
 バイツは言われるがままに走り出した。その後を大量のポケモンが追っていく。
「読み通り街の方に行ったな。」
「だね、じゃあ・・・」
 ライキはレスリングをしていた三人に向き直った。
「すいません御足労をおかけして。あ、これギャラです。」
「あのー・・・」
 ライキとヒートは後ろを向いた。そこには深刻な表情のサーナイトが立っていた。
「お取り込み中の所申し訳ありませんがマスターが何処へ行ってしまったのか御存じでしょうか?」
「君・・・何ともない?」
「え、ええ・・・」
「どういうことなの?」
「多分、アレはバイツ自身から出るフェロモンも関係しているから普段から接していれば多少の免疫が付くと思われ。」
「免疫?マスターに何か・・・?」
「バイツは砂煙の先にいるぜ。俺達も急がなきゃなんねえ。じゃあな。」
 逃げる様に何処かへと走っていく二人。
「砂煙?」
 確かに街中で何かを追っているように砂煙が縦横無尽に駆け回っていた。



 輸送ヘリが一機街の上を旋回しているのに誰もが気付いていなかった。搭乗員はパイロット二名を除けばライキとヒートという組み合わせ。

205名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:43:33 ID:rmmQN8OY
 対物ライフルXM500を膝射の形で構え、スコープを覗き込むライキ。走っているバイツが確認出来る。
「お前・・・そんなもん取り寄せたのか?それに伏射じゃ無くていいのかよ。」
「安定しない時はそうするさ。準備の方は?」
「待ってろ・・・」
 ヒートは無線機を手にする。
「よーし、諸君それでは始めようじゃないか!今日という日を忘れるな!我々には貰うものがなければ失うものもない!」
 二月十四日、十二時きっかりにヒートの号令と共にその作戦は始まった。
「V・O・D(バレンタイン・オーバー・ディストラクション)作戦開始!」



「ヨシオ君・・・はい、これ。」
「ヨシコちゃん!これって!」
「うん・・・本m・・・」
「其処を退けぇぇぇ!」
「タケオ・・・これ・・・」
「何だよタケコ。ま、義理でも貰っておくぜ。」
「バッ・・・!義理なんて誰がやるか!それは本m・・・」
「邪魔だぁぁぁ!」
「マツオ君、あげる。」
「何だマツコちゃん料理できたのか。」
「・・・たくさん練習した。でも人にあげるの初めて・・・初めての本m・・・」
「失せろぉぉぉ!」
「はい京、これ。」
「何だよユキ。義理か?」
「馬鹿ね、アンタにあげるんだから本m・・・」
「キョオォォォォォォ!!!」
 二人だけの空間を作ろうとしている人々を押し退けながら疾走するバイツ。
 街中をポケモン大行進で滅茶苦茶にする訳にはいかないので何とか街の外に出ようとする。
 そして、街の外の草むらが見えた瞬間、左右の建物が爆発した。
 道は塞がれてしまい他の道を選ぶ羽目になってしまう。それも街中を再び突っ切るという形で。
 その大騒動を物陰から見ている影があった。
「こちらロメオ。ランナーはダガーポイントへ向かった。繰り返すダガーポイントへ向かった。」



『こちらロメオ。ランナーはダガーポイントへ向かった。繰り返すダガーポイントへ向かった。』
 ノイズが少し混ざった報告を聞きながらヒートは次の指示を出す。
「オーバーロード了解。騒ぎに乗じて離脱しろ。」
『ロメオ了解、アウト。』
「確かそっちには・・・シエラ聞こえるか。」
『オーバーロード。こちらシエラ、どうぞ。』
「シエラ、ランナーがダガーポイントへと向かっている。警戒を怠るな。」
『了解。シエラ、アウト。』
 ヒートが指示を出している間、ライキは「新入り」の感覚を掴む為に地上への狙撃を行なっていた。

206名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:44:06 ID:rmmQN8OY
「おいおい、ポケモンにゃ当てんじゃねえぞ。」
 双眼鏡片手にヒートが人間への配慮を無視してライキに呟く。
「だから試し撃ちさ。」
 現場へ急行中のパトカーの前輪のみを撃ち抜く。
「ハッ!風向きだのコリオリだのよく計算してるよな。俺にゃさっぱりだ。」
 使い物にならなくなっていくパトカーを目にしながらヒートは口笛を吹いた。
「問題は空を飛んでいるポケモンなんだよね。」
 その時、遠くで爆発音が聞こえた。
「お、やりやがったな。」
『こちらシエラ!オーバーロード!聞こえるか!』
「こちらオーバーロード、よくやった。騒ぎに・・・」
『ランナーはクレイモアに気付いている!繰り返す!クレイモアに気付いている!』
「オーバーロード了解した。その場から離脱。騒ぎに紛れ込め。」
『了解!』
「相当パニクってたな・・・まあしょうがねえか、ミリヲタの喪男で組んだチームじゃあな・・・」
「でもこれでルートは固定された。これでバイツはクレイモアが配置されていないルートで街を出ようとする。」
「アレが型にハマった奴ならな。」
「だよねー」
「こちらオーバーロード、全隊員に告ぐ全てのクレイモアを起爆させよ。なお起爆する際にはポケモンに気をつける事。」
 各員の返事から少し遅れて様々な箇所から爆発音が聞こえる。
「あーあ、費用が嵩張る。」
「しゃあねえだろ。これで地上部隊の出番は終わり・・・それにここまでやったんだバイツだったらもう気づいているだろうよ。」
 二人の視線はスコープ越しに地上を走っているバイツに向けられていた。



 もっと早く街の外に逃げるべきだったのかもしれない。
 バイツは後ろのポケモン達が滅茶苦茶にした街並みを走り続けた。
 これでもう「バレンタイン」どころではない。
 後ろには比較的速いポケモン達が我先にとバイツを追いかけてきている。
「俺の役割は釣り餌だったって事か・・・しまっ・・・!」
 目の前にもポケモン達が待ち受けていた。
 足の遅いポケモン達は様々な方向から「瓦礫の山が無い」ルートを通ってバイツに迫っていたのだった。
 じりじりと後退するバイツ。背中がビルの壁に当たる。
 跳ぼうにも空中は飛行ポケモンのテリトリーである。
「ハンティングはここでお仕舞い・・・か。」
 バイツは思う。サーナイトに無理矢理迫った罰なのかもしれない、ならば受け入れようか。と。
 空を見上げて溜息を吐く。
「最高のバレンタインだ・・・な・・・」
 改めて正面に向き直るバイツ。
「来いよ・・・だったら聖人面したクソ野郎のまま果ててやる。」
「ちょっとまったぁぁぁ!!!」
 窓硝子の割れる音と共に頭上から声が聞こえた。
 ガラスの破片と共にミミロップとムウマージがバイツの眼前に降り立った。

207名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:44:37 ID:rmmQN8OY
「人のマスターに手を出そうだなんて根性あっちゃうんじゃない!?」
「マスター今諦めたでしょう?駄目よ、私達がいるもの。」
 次に降りてきたのはユキメノコとアブソル。
「そないに熱くならなくてもええんではおまへんどすか?おつむを少し冷やすのならばいつやて手を貸しまんねんよ。」
「血を抜いてやったほうが手っ取り早く済みそうだがな?」
 次に降りてきたのがクチート。
「マスターをいじめるなんて許さない!覚悟しろー!」
 そして、彼女がバイツの前に降り立った。
「遅れて申し訳ありません、マスター」
「サーナイト・・・」
「マスターに手を触れるというのであれば・・・!」
 その場のポケモン全てが戦闘体勢を取る。
「私達が相手になります!」
 サーナイトの声と共に大乱闘が始まった。



「ありゃすげえな。縮小された第三次大戦だ・・・」
「感心している場合かな?僕達も地上に降り・・・」
 突然機体が大きく揺れた。
 アラーム音と共にパイロットの悲痛な叫びが機内に響く。
「しっかり掴まってろ!メインローターがやられたみたいだ!」
「持ち直せ!」
「ヒート!アレ!」
 ヒートはライキが揺られながらも片手で構えているXM500の向いている先を双眼鏡で確認する。
 そこにはコンクリートの塊を投げてくるバイツの姿が。
「フットペダルが効かない!」
 ヘリは徐々に高度を落としていく。
「メーデー!メー・・・」
 誰が叫び続けていたのかは分からなかった。
 ただ、不幸中の幸いか墜落した先は川だった。
 ライキとヒートはそれぞれ気絶したフル装備のパイロットを抱えながら河川敷にたどり着いた。
「あらー・・・アンタ達随分と働き者なのね?」
 頭上から聞こえてきた声に二人は竦み上がった。
 そこにはキョウカが意地の悪そうな笑みを浮かべて立っていた。
「さて・・・この件について話でも聞かせてもらおうか?」
 キョウカの後ろにはモウキが立っていた。



 バイツは呆然と目の前の光景を眺めていた。
 彼の家族達が発情したポケモン達を全てノックダウンさせてしまったからだ。
「愛の力をご理解いただけたでしょうか?」
 サーナイトはバイツに近づいた。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」

208名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:45:07 ID:rmmQN8OY
「いや・・・それよりもどうしてここが?」
「んー・・・マスターの何かが私達を引き寄せたみたい。口では言い表せない感じ。」
 ムウマージの言葉でバイツはヒートが濃縮したフェロモンがどうとか言っていた事を思い出す。
「・・・って事は?」
「何がですか?」
 全員平然としている。
 思い違いか。
「じゃあ帰ろう・・・ひと暴れして疲れただろう?」
 そう言うとバイツは有無を言わさず彼女達をモンスターボールの中に納めた。
 そして、なるべく人に見られない様に全速力で家へと走っていった。
 家に着くと彼女達をボールから出す。
「やっと、見慣れた我が家だな・・・」
「そうですねマスター。さあさあこちらに。」
 サーナイトを初めとして彼女達全員がバイツを強制的に居間まで押していく。
 クチートとミミロップが居間の戸を開けるとバイツを再度強制的に座らせる。
 バイツの戸惑いが驚きに変わるのに十秒も必要なかった。
「ハッピーバレンタイン!」
 彼女達の声と共に机の上にはチョコレートケーキが置かれた。
 外周が生チョコレートで覆われていて上には生クリームやらカラーチョコスプレー等で様々なデコレーションが施されていた。
「これは・・・」
「あたし達手分けして作ったんだよ!」
 と、胸を張るクチート。
「私はバレないように見張りだったがな。」
 最近こっそりとついてきていたのはどうやらアブソルの様で、バイツが帰ってくる為に家に接近すると大急ぎで家に戻ってケーキ作り班に知らせていたらしい。
「いつバレるかと思って冷や冷やしてやはったよ。」
 隠し事とはこの事だった。
「サーナイト・・・俺・・・」
 言葉が出なかった。自責の念もあったが物理的な要因もあった。
 サーナイトの唇に唇を塞がれたバイツ。
「私は・・・マスターの落ち込んでいる所は見たくないです・・・」
「そう・・・か・・・悪かった。こんないい日に暗い顔なんてできないからな。」
 バイツは笑ってみせたが数秒後にそれが苦笑いとなる。
「それに・・・マスターの顔を見ていると・・・昂ってくるんです・・・」
「ねえ、変だよ?あたしドキドキする・・・!いつもよりマスターの事・・・!」
「ホワイトデーもついでにどうかしら?私・・・体が熱い・・・」
「あたしさ・・・マスターの生クリーム飲みたくなっちゃった・・・ねえ・・・頂戴?」
「ウチ、熱には弱いのにもっと熱くして欲しい・・・罪な人。」
「マスター・・・いつもは私が下から小突くが・・・今度はマスターが・・・下から突いて欲しい・・・」
 全員顔を真っ赤にして息を荒くしている。
 今頃になってフェロモンの虜になったサーナイト達。
「今更か・・・持ってくれよ俺の体・・・」
 バイツはサーナイトが体を預けてくる感触と共に目を強く閉じた。
 そして聞こえてきたのは寝息。

209名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:45:37 ID:rmmQN8OY
「・・・!?」
 辺りを見渡すと全員が寝息を立てていた。
「・・・相当無茶したからな。」
 バイツはケーキを大事に冷蔵庫にしまうと、サーナイト達を布団へ運んでいった。
「それでいいならいいが一度に全員は勘弁してくれ・・・」
 意味深な発言を口にすると欠伸をしながら背伸びをした。



 翌日、キョウカとトウマがバイツ宅を訪れていた。
 サーナイト達は何時もの調子に戻ってキョウカとトウマをもてなしている。
 と、言ってももてなしているのはサーナイトだけで、ユキメノコは台所。クチートとムウマージとミミロップは楽しそうな遣り取りを期待して周りに座っている。アブソルは胡座をかいているバイツの膝の上で丸まっていた。
「サーナちゃん、ありがとう。」
「申し訳ありません。急に押し掛けてきて。」
「いえいえ、ゆっくりなさって下さいね。」
 盆に乗せた紅茶を人数分差し出すとサーナイトは台所へと戻っていった。
「・・・それで昨日の件なのだけれど。」
「俺は被害者だ。フェロモンだか何だか浴びせられてハートマンソング抜きの強制フルマラソンしただけ、共犯者じゃない。・・・まさかあの二人俺を共犯者だとでも言っていたのか?」
「・・・」
 キョウカは何も言わずに紅茶に口を付ける。
「図星か・・・」
「まあ、これで面倒事は片付きましたしね。それとあの二人の処分ですが・・・」
「あー・・・書類上の手違いで死刑になってくれないかなー・・・」
「某国国境沿いの非公式作戦を完了するまで帰って来られなくなりました。」
「・・・一ヶ月程度で片付けて戻ってくるな。」
「有り得ますね。それに約一ヶ月後は・・・」
「ま、ホワイトデーがブラッドデーにならない事を祈るしかないか。」
「皆様、ケーキはいかがですかー?」
 バイツの冗談をかき消すようにサーナイトとユキメノコが分担でケーキと小皿とフォークを人数分持ってくる。
「あら、手作りなの?食べるのが勿体無いわー」
「遠慮しないでくださいキョウカ様。さあさあ、どうぞ。」
 楽しそうに笑っている皆を見てバイツもまた笑みをこぼした。
 陽光が雪を溶かしていた暖かい一日の事だった。

210名無しのトレーナー:2012/02/13(月) 23:54:35 ID:rmmQN8OY
この書き込みから約五分後はクソの日だ!
まるでそびえ立つクソだ!
だがな、クソまじめに努力するこたぁない!
神様に任せりゃケツに奇跡を突っ込んでくれる!(自暴自棄)



箱がイカレて、雪山でドラゴンを狩るゲームができなくなった・・・
だがな、神様に任せりゃk(ry

211名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:10:54 ID:YBXG0iso
誰もSSを書き込まないSSスレなんかに居られるか!俺はSSを投下した後部屋に戻る!

212名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:11:27 ID:YBXG0iso
 アクマーンは頭を抱えながら唸っていた。
 彼の同僚であるアクシェンは傷の治りが遅いのか些か本調子では無い。また、同じ同僚であるアクリルもどこか上の空である。
「揃いも揃ってこの様か・・・アクリル、メイデンナイトは倒してきたのか?」
「・・・」
「アクリル!メイデンナイトを倒してきたのか!」
「何!?五月蝿いわね!聞いてるって!」
 が、答えは返って来ない。
「・・・貧乳!まな板!ペチャパイ!」
「・・・」
 彼女のコンプレックスを並べてみたが反応無し。完全な上の空である。
「そういえばアクマーン。先程人間達が会いたがっていましたよ。」
「元老院と言えアクシェン、あれ程言っただろうが。」
「我々を崇めるにしては少々高圧的な連中ですがね。」
 アクシェンの言い捨てた言葉が連中に盗聴されていない事を祈りながら席を立ったアクマーン。
 戦いがいくら歴史の影で行われていたとしてもそれを知っている人間も少なからずいた。しかし、それはワルイーノを崇めている連中がほぼ全員だった。
 その連中は代々その力の恩恵に与りワルイーノが支配しようとするこの世界の財界を遠い昔から支配していた。だが時が経つにつれてそれを自分達の力だと思い込む連中もおりワルイーノを単なる客人達と思っている連中も少なくない。
 ワルイーノが何の支障も無く目的を果たせる様に手助けする事。
 それが力の恩恵に与かる際の取り決めであった。



 元老院に呼ばれた部屋の前。
 一応、着ている背広を整えてドアを三回ノックする。
「失礼します。」
「入れ。」
 部屋に入ると同時に不愉快な臭いと熱気がアクマーンに纏わり付いた。
 元老院と呼ばれている連中。端から見れば腹に脂肪が溜まっている中年連中は全員裸であった。
 その連中が囲んでいたのは一人の裸の少女だった。銀色の長い髪に、赤茶色をした瞳。その幼い顔立ちには不釣り合いな右目の眼帯。日焼けしなさそうな白い肌。だがその全ては精液で汚されていた。少女が涙で潤んだその目をアクマーンに向けた途端に元老院の一人から罵声が飛んだ。
「オラ!次はこっちをくわえ込め!」
 アクマーンはその醜い行いから目を逸らす際に少女の腰の部分に自らの腰を打ち付けている二人の男が目についた。
「来たか、アクマーン。」
「え、ええ・・・まあ・・・」
「まだメイデンナイトは片付かんのかね?」
「も・・・申し訳ありません!」
「それに前回は散々やられたそうではないか。」
 不愉快な熱気が篭る室内で冷や汗をかきはじめたアクマーン。
「すっ・・・直ぐに・・・新しい手を・・・!」
「その件だが・・・」
 アクマーンに語りかけている男は嬲られている少女に目を向けた。
「テスラを連れていってはどうかね?折角「造った」んだ。そろそろ本来の用途に使うべきだと思ってね。」
 テスラと男二人は軽い痙攣と共にその行為を終わらせた。
 床に倒れ込んだ荒い吐息のテスラを見てアクマーンは興奮を覚える事はなかった。寧ろ同情にも似た哀れみすら覚えていた。

213名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:12:03 ID:YBXG0iso



 その街が石の街と呼ばれ始めたのは二百年前。当時何も無いこの場所に石工達が石を運び、そして削り、人々の家を作った。その技術は二百年を経て様々な色の煉瓦と共に芸術の住む街として生まれた。
 その街に背広を着た男と銀髪の少女が辿り着いたのは真昼時の事だった。その二人に最初に会ったのはその街の黒い部分の商売を牛耳っている組織の下っ端三人だった。
「何者だ貴様等、こんな所で何をしている。」
 一人が背広の男アクマーンに声を掛けた。その隣にいた少女、テスラは男に驚き怖ず怖ずとアクマーンの後ろに隠れた。
「ビジネスに来ただけだ。」
 そうアクマーンは言ったが、三人は信用していなかった。この男は嘘を言っている。根拠の無い結論だったが三人とも修羅場を潜り抜けてきた為か「そういう存在」を見分けるのが得意だった。
「・・・お前等に少々話がある。ついて来い。」
「我々にはお前達に構っている暇は無いのだ。」
「いいや、力ずくでも来て貰う。」
 残りの二人の男が上着の懐に手を入れた。アクマーンはそれを見て溜息を吐いた。
「・・・面倒だ。やれ、テスラ。」
「・・・でも・・・!」
「命令だ!やれ!」
 アクマーンの怒鳴り声で怯えながらも男三人の前に立ったテスラ。虚を突かれた男三人はテスラが両手を翳した事に反応出来なかった。閃光と轟音。そして熱。三人の男は一瞬で黒焦げになった。黒焦げになる刹那、男三人は少女から放たれた青白い電流が自分達を襲った事を悟った。



 慌てふためく人々は一体何が起こっているのか分からなかった。
 その場から堂々と歩き始めたアクマーン。彼一人の戦闘能力でもこの街の住人を皆殺しにすることが出来るがそれはつまらなかった。
 悲鳴が聞きたかった。
 絶叫が聞きたかった。
 命請いを聞きたかった。
 絶望の声を聞きたかった。
 ただ、それだけである。
「クックック・・・いいぞ、テスラ。この調子だ。もっと悲鳴を上げさせろ!もっと人間共を震え上がらせろ!」
 アクマーンは「一人で」叫んでいた。辺りを見渡してもテスラの姿は見えない。
「あれ?どこ行った?テスラ?テスラちゃーん!?」
 騒ぎからある程度離れた場所まで自分に酔いしれながら歩いてきてしまった為にテスラとはぐれてしまった。
「あっれーぇぇぇ!?」
 おまけに周りの人々が。
「大丈夫か?」
「可哀相な人。」
「では、まず年齢を教えてくれるかな。」
「っと、二十四歳です。」
「二十四歳?じゃあもう働いてるの?じゃあ。」
「学生です。」
「学生、あっ・・・ふーん・・・」
 等、白い目でアクマーンを見ながらヒソヒソと話をしていた。

214名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:12:45 ID:YBXG0iso



 騒ぎから少々離れた場所に位置しているオープンテリアのカフェに一人の少年が来店していた。
 適当な席に座るとスポーツ新聞を広げはじめた。騒ぎを極力無視してしまおうという魂胆なのか。
「何・・・?TDNのビデオ二本目が発掘された?たった一度の過ちという言葉は何だったんだ?」
 そこで少年は一つの結論にたどり着く。
「よし、これでホモは嘘つきという事が証明されたな。」
 突拍子の無い結論にたどり着いたこの少年の名前をバイツといった。
「いや・・・待てよ・・・?一日に二本収録していた可能性が微レ存・・・?だからたった一度の過ち・・・?」
 現在絶賛迷子中。



 幾つか存在する大広場の内の一つに人混みに向かって声を掛けているポケモンがいた。
「マスター!何処ですかー!」
 バイツのポケモンの中の一体であるサーナイトは迷子になってしまった主を捜していた。
「バイツさんなら大丈夫よ。」
 と、ワルイーノに対抗する存在であるルルが呑気に言い放った。
「ねえ、ルル。今私達が何処にいるのか貴女分かっているの?」
 と、サーナイトとルルの傍にいたコジョンドが口を開いた。
「分かっている訳無いですよ、だってルルの事ですから。」
 ドレディアが頬を膨らませる。ルルは反論しようとしたが言葉が見付からない上に図星だった。
「・・・どっちが迷子になったんだろ。」
「多分私達の方ね・・・きっと。」
 タブンネとムウマージが的を射た発言をする。些か遅かったにしろ気付いただけマシである。
「わーい!」
「わーい!」
 クチートとエルフーンは相も変わらずの調子で辺りを駆け回っている。
「呑気なものだな。」
「いいんじゃないかい?普段通りで。」
 御意見番に回ったアブソルとゾロアーク。
「もーっ!マスターを見付けたら絶対にあたしの散歩に付き合って貰っちゃうんだからー!」
「これがもう散歩みたいなものと違います?まあ、マスターがおらへんのは誤算どすな。」
 怒っているミミロップを諌めるユキメノコ。
 サーナイト達もまた絶賛迷子中。



 スポーツ新聞を広げながら騒ぎを極力無視し続けるバイツ。ふと視界の端に銀髪の少女の姿が目に入る。
 少女もまたバイツの事を珍しい物でも見るかの様に視線を合わせてその場から動かなかった。
 それから一回バイツは店内に入って一分もしない内に戻ってくる。少女は相変わらずその場に立っていた。
「なあ・・・お前、迷子か?」
 再度座りながらスポーツ新聞を開いたバイツが口を開くとルルよりも一回り幼そうな少女は怯えながら頷いた。
「・・・そう・・・なるのかな・・・」
 人と面と向かって話すのが苦手なのか少し俯きながら少女は答えた。

215名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:13:20 ID:YBXG0iso
「座れよ、立ちっぱなしじゃ疲れるぞ。」
 小さく少女は頷くとバイツの向かいの椅子に座る。
「名前は?」
「テスラ・・・」
「迷子って言っていたな。両親は何処に?」
 分かっていれば苦労は無い質問をバイツはぶつけた。
「わたしは・・・アクマーンときた・・・」
「・・・!?」
 聞き違えるとは思えない間抜けな名前を耳にしたバイツ。テスラからは新聞で隠れていて見えないその表情はとても険しいものだった。
「で?そのアクマーンとやらと旅行に?」
 アクマーンについて知らない振りをするバイツ。テスラは口をつぐんで軽く頭を振った。これ以上は口に出来ないという意思表示。
「・・・何故、俺を見ていた?」
「・・・おなじ・・・ふんいきがした・・・アクマーンと・・・」
「やれやれ、奴等に気に入られる体質みたいだな。」
「?」
「こっちの話さ。気にしないでくれ。」
 丁度ウェイターが品物を金属製のトレイに乗せて歩いてきた。
「お待たせ、アイスティーしかなかったけどいいかな。」
「あァ!?」
 注文していないはずの怪しいアイスティーを差し出そうとしたのでバイツがキレかける。
「冗談です。ご注文のココアとストロベリーサンデーです。失礼します。」
 ココアとストロベリーサンデーを机に置くとアイスティーの乗ったトレイを片手に店内へ戻る。
「マジで持ってきてんのな・・・アイスティー。」
 そう言いながら、ストロベリーサンデーをテスラへ差し出すバイツ。
「・・・これなあに?」
「ストロベリーサンデーさ、まあ、食べてみな。」
 スプーンで掬って一口。
「・・・おいしい・・・」
 不思議そうにストロベリーサンデーを見つめるテスラ。
「不思議なお嬢さんだな。」
 自分の事を棚に上げての第一印象だった。
「あの・・・なまえ・・・」
「名前か・・・そういえば名乗ってなかったな。バイツっていうんだ。」
 大した反応は無い。どうやら何も聞かされていない様だ。
「バイツは・・・いいひと・・・?」
「いいや、悪人さ。世界征服を企む悪の魔人だ。」
「じゃあ・・・うそつき・・・なの?」
「ああ、これまでに何人騙したかな。百から先は覚えていない。」
「じゃあ・・・いいひとだね・・・」
 悪人という事を嘘だと勝手に判断しテスラが初めて微笑みを見せた。だが、バイツの視線はその笑顔に不釣り合いな眼帯に向けられていた。
 触らぬ神に祟りなし。
 バイツはその言葉を思い浮かべココアを口にした。



 その頃サーナイト達は一旦休憩を挟んだ後にバイツ搜索という事で一同カフェテリアの中に。
「大体さあ、バイツさんも悪いのよね・・・私達からはぐれてすぐに気づかないなんてさ。」
 ルルはそう愚痴りながらフォークでレタスの葉を突き刺して口に運んだ。
 だいぶ不機嫌なルルにコジョンドが声を掛ける。
「あらまあ、何時ものルルじゃないわね。いつもだったらランチの時は上機嫌になるのに。」
「だってえー・・・」
 頬を膨らましながらトマトを突っつくルル。
「もしかしてルル様・・・マスターの事が好き・・・」
「な、な、な・・・何言ってんのよサーナイト!だ、だ、だ、だってバイツさんも私が守る立場の身だし・・・!」
 サーナイトの言葉を途中で切って、顔を真っ赤にしての全力否定。
 図星か。と恋の障害が増えた事にポケモン一同は溜息を吐いた。
「お待たせしましたー!HOMO'Sキッチン特製オリーブのオリーブオイル炒めと支店を板に吊るしてギリギリ太るカレーセットでございます。」
「あ!はいはーい!それこっちにお願いしまーす!」
 ウェイターが頼んだ料理を持ってきても話題はバイツの事から離れなかった。
 真面目な話になるのかと思いきや和気藹々と軽口を交えての談笑。
 それを好ましく思っていない一人の客がいた。

216名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:13:52 ID:YBXG0iso
 近くの席でサーナイト達に背を向けて座っている男でその名をアクマーンといった。
 ルルを追ってきているので当然と言っては当然だったが、今回の要となるテスラとはぐれてしまった為に迂闊に手出しが出来なかった。
「・・・一々力を共振させる訳にもいかんしなあ。」
 独り言に覆いかぶさるように後ろから声が聞こえた。
「あー!美味しかった!」
 ルルの声が聞こえた。癪に障る声だと歯軋りをした途端に信じられない声が聞こえてきた。
「私は準備万端よ。アクマーン?」
 迂闊だった。と、振り向いた途端にまばゆい閃光と共にアクマーンの顔面に膝蹴りが叩き込まれた。
 鼻血を出して吹っ飛んだアクマーンとメイデンナイトに変身し奇襲攻撃を成功させたルルは店のガラスを突き破って外へ。
 店内外の一般人は唖然としてその光景に釘付けになっていた。
「こんの・・・小娘がぁ!」
 次に一般人が目にしたのは吹っ飛んだ男が徐々に「黒」を纏っていく姿。それが最近悪い話題を振り撒いている「黒い生物」だと分かるとパニック状態になり何処かしらへと逃げていった。
 店内で呆然としているサーナイト達。
「あ、お勘定。」
 タブンネが今更の様に口にする。
「それを見越しての奇襲攻撃なんじゃないかい?」
「呆れたわね・・・」
 ゾロアークとコジョンドはそれ程驚いてもいなかった。
「まさか、店のど真ん中で奇襲とはな・・・やってくれるじゃないか。」
「そう?ありがとう。それにアンタが正体を表してくれたおかげで簡単に人払いが出来たし。」
 当事者以外周りには誰もいない。
「そうか・・・残念だ。」
 その途端右腕が鞭の様に伸長し、ルルの近くの地面に打ち付けられた。
「折角希望が潰える所を見てもらおうと思ったんだがなぁ!」
 右腕を振り回すアクマーン。前後左右からの鞭打を躱すルル。
「どうしたの?そんな単調な攻撃じゃ・・・」
 跳んで攻撃を躱すと同時に空中で複数の光の槍を展開する。
「・・・私は倒せないっ!」
 声と共に光の槍がアクマーンに降り注ぎ、地面を砕く。
「よしっ・・・!」
 土煙でアクマーンの姿が見えなくとも手応えを感じていたルル。
 その時、微かに青白い光が土煙の中に確認できた。
「これ以上抵抗しても無駄!大人し・・・」
 刹那、巨大な青白い電流がルルの横をかすめた。
「へ・・・?」
 電撃は店内で大人しくしていたサーナイト達の上を抜けて炸裂音と共に壁を破壊した。
 土煙が晴れた。
 腰が砕けたかの様に座り込んでいるアクマーンの前に一人の少女が立っていた。
「テスラか・・・共鳴させた割には遅かった・・・が・・・」
 銀髪の少女がアクマーンに振り向く。右目の眼帯が無い事に気付くと、アクマーンは歓喜の声を上げた。
「は・・・ははは!「ニコラ」が発動している!「ニコラ・システム」だ!」
 赤茶色の瞳を持つ左目。そして、金色に輝く瞳の右目。
 テスラはその虚ろな両目を無機質な殺意と共にルルに向けた。



 それは、数分前の出来事だった。
 バイツはスポーツ新聞に目を通し、テスラは初めて食べるストロベリーサンデーに夢中だった。
 時々、上目遣いでバイツを見るテスラ。
 自分より大きい「ニンゲン」には兵器として無機質な視線を向けられるかあるいは玩具としての好奇の視線を向けられるか。その二つ以外に出会った事はなかった。しかし、バイツの視線はそれとは別の何か。憐れみや怖れとは違う何か。
 その何かは分からないがテスラはそう感じていた。
 そしてそのバイツはスポーツ新聞を流し読みしていた。
「巨人小笠原がバトルサブウェイで女性トレーナーに痴漢をして即投獄されていた?三十三時間四分後、獄中死を確認・・・なお来シーズンには間に合う模様?・・・ファッキューカッス・・・」
 苦々しい表情で新聞を閉じるとテスラがストロベリーサンデーを空にしたのを確認し席を立ち上がるバイツ。
 それに合わせるかのようにテスラも立ち上がる。
「・・・あ・・・あの・・・」
「この先の身の振り方について話し合うのはもう少し後になりそうだな。」
 バイツが周囲を見渡すと、敵意を剥き出しにしている男達が二人を囲んでいた。
 それを周囲の住民は見て見ぬ振りをし、その場から立ち去っていった。
「何だあ?こいつは。」

217名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:14:26 ID:YBXG0iso
「ガキの方は特徴が似ているが・・・こういう奴は聞いてねえな。」
 男が一人バイツに近付く。
「おい、てめぇ。そのガキとどういう関係だ?」
 敵意を込めた視線はテスラに向けられおり彼女は酷く怯えていた。テスラがバイツの後ろに隠れる。
「お友達さ。」
「ほーう、じゃあそのお友達が何をやったのか知ってんのか?」
「ああ、知っている。」
 意外な答えにテスラは驚きバイツを見上げた。
「羊狩りだろ?悪人の牧場主に言われて仕方なく羊を狩った・・・違うか?」
「てめぇ・・・」
 バイツの胸倉を掴む男。
 それを見たテスラは男に電流を流し込もうとした。誰の命令でもない。自分自身の意思。テスラはその感覚を不思議に思った。
 しかし、電流が男に届くより速くバイツの右手による裏拳が男の頭部に叩き込まれた。不運にも三十メートル程吹き飛び、顔から煉瓦作りの地面に突っ込む羽目になってしまった。
「悪いが玉ナシ牧場主を俺も追っているんだ。邪魔をするなよ。」
「こんのジャリが・・・!」
 男達が怒号を上げて迫って来る。
「テスラ。」
「・・・な・・・なに・・・?」
「何もしなくていい。隠れていてくれ。」
 初めて受けた「何もしなくていい」という指示。テスラが再度バイツを見上げるとその姿は消えていた。それと同時に男達の悲鳴が響き渡る。
 右手で近くの男の頭を掴むとそのまま男達の群れに投げ付ける。メリケンサックを嵌めた男がバイツに渾身の左ストレートを打ち込むが右手の軽い一撃で合わせられて、メリケンサックごと左手の指を折られてしまう。
 そして、様々な暴れ方をしたバイツに一分前に敵意を放っていた連中は全員戦意喪失し、今戦うものがあるとすればそれは身体中に広がる激痛とだった。
「・・・ふん。」
 バイツは横たわる連中に軽蔑の視線を送るとその身を翻してテスラに向かって歩き出した。
「まだ終わりじゃねぇって。ボウヤ。」
 バイツが後ろを向くと眼前に飛んでくるナイフの切っ先が見えた。右手でナイフを弾き飛ばすバイツ。
「やるじゃねぇの?」
 そこにいたのは前を開けたブラックスーツにホワイトドレスシャツとブラックタイという服装に身を包んだ男。
「俺の名前はヴェルディェリオ。ボウヤは何をしているのか分かっているのかな?」
「タマ潰しついでの羊狩りさ。アンタがこいつ等の親玉か?」
「んー、まずボウヤには知っておくべき事が二つある。まず一つは俺はボスじゃない。もう一つは・・・」
 刹那、数本の投げナイフが同時にバイツを襲う。瞬時に全て叩き落としたが相手にとってはどうという事はなさそうだった。
「目上のモンに対する口の聞き方だ!死ぬ間際に痛感してあの世で後悔しな!」
「生憎だが、屑相手に口の聞き方どうこう言われたくないね。それに屑相手に一々言葉を選んでいられないからな。」
「二度も屑って言いやがったな!」
 台詞が終わると同時に顔面にめり込むバイツの右手。向かいの店舗まで吹っ飛んだ哀れなナイフ使いを横目にバイツは吐き捨てる。
「・・・屑同士の口喧嘩程聞くに堪えないものはない。後、名前が長い。改名しろ。」
 自虐的にそう言うと再度テスラに向かって歩くバイツ。だが彼女は眼帯をしている目を押さえながらうずくまっていた。
「大丈夫か?何処か具合でも・・・」
「よんでる・・・」
「え?」
「みぎめを・・・みぎめをよんでる!・・・たすけて・・・」
 テスラは泣いていた。眼帯が外れた金色の瞳からも涙を流していた。
「その目・・・」
 その瞬間、周辺一帯に強烈な電流が放出された。周辺は黒焦げになり生物という生物は電熱で炭化していた。バイツ一人を除いては。
「グ・・・ッ・・・!」
 吹っ飛ばされて地面に倒れこんだバイツ。体が痺れて思うように動かない。
 咄嗟に右腕で電撃を防ぐ事が出来たが、おかげで上着の右袖と巻きつけていた包帯が炭化してしまい、紅い右腕が露になった。
 すぐに警察やら何やらやって来ると踏んだバイツは自由の効かない体を無理矢理動かした。
 ふと、地面に落ちている何かを見つける。
「これは・・・眼帯?」
 テスラの眼帯。
 それを拾い上げたバイツは彼女の言葉を思い出す。
 右目を呼んでいる。と。
 思うように動かない体を引きずってその場を後にするバイツ。
「迷惑極まりない呼び出しだな・・・ったく・・・」

218名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:14:57 ID:YBXG0iso




 正直ルルは限界を迎えていた。
 様々な形で襲い来る電撃。
 強烈かつ隙の無い攻撃にルルは回避という選択しか残されていなかった。
「・・・まっずいなぁ・・・」
 そう漏らした途端に激しい閃光に視界を奪われる。
 巨大なエネルギーが来ているという事は察知できたが如何せん遅すぎた。
 咄嗟に自らの身を庇うルル。
 勝った。とアクマーンは確信したが、それが思い違いだと気付かされた。
 ルルの前にサーナイトが立っていた。
 咄嗟の「サイコキネシス」で電撃を相殺したのだがルルはそれが腑に落ちなかった。
「防い・・・だ・・・の?ワルイーノの力を?」
「違うのです。ルル様・・・あの子の力にはルル様の力とそれに相反する力・・・その両方が感じられないのです。」
「え・・・?それって・・・」
「チッ・・・賢しいポケモンだな。」
 アクマーンは渋々と口を開いた。
「こいつは・・・テスラは、この右目の為に造られた人造人間なんだよ・・・「ニコラ・システム」計画の為にな!」
 テスラは動じないで掌をサーナイトに翳す。
「こいつはワルイーノでも人間でもないポケモンでもない・・・」
 アクマーンは苦々しく吐き捨てた。
「「ヒト」が造った兵器だ!貴様が護ろうとしている「ヒト」が造り出した哀れな兵器だ!」
 再度、サーナイトとテスラの力がぶつかり相殺し合う。
 サーナイトがフルパワーで放つ「サイコキネシス」とテスラの電撃の威力は互角だった。
 エネルギー同士が衝突して生じた爆発の衝撃はサーナイト達をよろめかせる。エルフーンに至っては壁に空いた穴から何処かへと飛んで行きそうであったが寸前でコジョンドが両腕の体毛でエルフーンを引き戻した。
 全員が体制を立て直す事すら叶わないまま、煙の向こうで大きなエネルギーの収束を感じた。
 そして、電撃が放たれる。
 それを体を張って防ごうとしたサーナイトの前に現れた何かが電撃を四散させた。
「バイ・・・ツ・・・」
 サーナイトの前に立った人物の名前を口にしたテスラ。
「やれ!テスラ!あいつも敵だ!」
 アクマーンが声高らかに命令する。
「で・・・も・・・」
 微かに聞こえた反発の声。
「黙れ!「ニコラ・システム」!フルパワーだ!」
 その叫びと共にテスラは急激に力を増した右目が呼び寄せた雷に貫かれた。小さな体で制御出来ない雷撃は常に放出され続け周囲を電熱で焦がし始めた。そのエネルギーが一点に集中されてバイツに向けて放たれた。
「マスター!」
 サーナイトは「サイコキネシス」でその力を相殺しようとしたが今のサイコパワーでは勢いを弱める事すら叶わない。
「そんな・・・お願い・・・私の力・・・マスターを護って・・・」
「バイツさん!」
 青白く光る大電流が向かってくる中ルルの声が虚しく響く。
「流影陣!」
 バイツが不破流忍術風にセロハンテープの様な気孔の盾を作り、電撃をアクマーンに反射させた。
「おぶぇ!」
 アクマーンが吹っ飛びながら悲鳴を上げる。共鳴によって無理矢理力を引き出された暴走状態の「ニコラ・システム」はテスラの体を介してバイツに大量の電撃を浴びせる。
「流影陣!流影陣!流影陣!流影陣!流影陣!流影陣!流影陣!流影陣!流影陣!」
 不破師範も納得のモーションと気力無視しての流影陣。そしてその電撃は全てアクマーンへと返っていく。
 電撃が緩んだ途端、瞬時にテスラに近付くバイツ。
「ころして・・・」
 刹那、テスラの声が聞こえた。
「・・・おねがい・・・もう・・・いやだ・・・」 
 囁く様な声は彼女の叫びだった。
「・・・ころしてよ・・・」
 バイツはテスラの頭部に右腕を振り下ろした。
 雷鳴が止んだ。
 その場にいた全員が固唾を呑んでその光景を眺めていた。
「ひぇっ・・・!あひゃっ・・・!ひいぃ・・・!」
 情けない悲鳴を上げながらアクマーンは何処かへと逃げていった。それと同時にテスラの体がバイツにもたれ掛かる様に倒れる。
「死んだ・・・の・・・?」
 ルルの掠れ声が聞こえた。
「いいや。」
 テスラの頭部には何の変わりも無かった。細かい所を挙げるとすれば右目に眼帯が着いている事と力を使い果たして疲れたのかスヤスヤと寝息を立てている事だけであった。
「さーて、さっさと今日の寝床を探すか。」
 気が緩んだのかサーナイト達はその場に座り込んだ。

219名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:15:32 ID:YBXG0iso
「おいおい・・・全員担いでいってもいいがそれは目立つぞ?」
「ならば私達はボールへ・・・これ以上マスターの手を患わせる訳にはいきません・・・」
「そーね、サーナイトの言う通り皆ボールへ戻って。後は私達で歩くから。」
 変身を解いたルルが立ち上がり、バイツの分を含めて全員ボールへ戻した。



「やれやれ、部屋が見付かって、誰にも見られていないのは奇跡に近いな。」
 混乱の中でも営業していたモーテルの一室でバイツは外を眺めながら溜息を吐いた。テスラはベッドの上で眠っていた。その隣にルルが腰を下ろす。
「この子はワルイーノの気配がしない・・・本当に人間なのね。」
「人造人間・・・兵器として造られた・・・か・・・」
「・・・両親じゃなくて制作者になるのね・・・そうだ!」
 ルルがいきなり声を上げた。
「私とバイツさんでこの子の親になるっていうのはどう?」
 その提案は窓の外の様子を眺めているバイツの耳を右から左へと通り過ぎていった。
 外では警察車両や救急車があちらこちらを駆け回っていた。それに紛れて不釣り合いな普通車も走っている。普通車の最終的な行き先はこのモーテルになる事をバイツは予感していた。



 テスラが目を覚ました頃には夕日が沈みかけていた。
「・・・?」
 上体を起こしたテスラの眼前では二体のポケモンがベッドの上を飛んだり跳ねたりしていた。
「・・・だあれ?」
「クチート!」
「エルフーン!」
 簡潔過ぎる自己紹介が終わるとクチートはベッドの上から跳ね降りた。
「マスター呼んでくるね!」
 そのまま別室へ駆け出す。残ったエルフーンはテスラの顔を興味津々といった感じで見ていた。
「テスラ?」
「う、うん・・・」
「エルフーン!」
「エ・・・ル・・・フーン?」
「やったー!」
 エルフーンは反応があっただけでベッドの上を跳びはねていた。その様子を少し怯えた様に見詰めるテスラ。すると頭上から声が聞こえてきた。
「大丈夫か?テスラ。」
「・・・バイツ?」
「おはよう・・・って言っても夕方過ぎだけどな。」
「バイツ・・・!」
 バイツに抱き着き泣きはじめたテスラ。
「お・・・おい・・・」
 狼狽はするもののこういう事は慣れているので優しくあやす。
「近くのダイナーで夕食にしよう・・・大丈夫だ。」
 短いが力強く優しい言葉にテスラは初めて他人に心を開いた。



「かーわーいーいー!」
 モーテルの一室に響いた声はルルのものだった。
 ハイテンションの彼女の眼前には様々な服を着せられてうろたえるテスラが居た。
 一時間はこうしていただろう。バイツは溜息を吐いたがまだまだ終わりそうにないのは目に見えていた。その上サーナイト達までもがあれこれとルルと同じ事をするのだからキリが無かった。
 テスラが不安そうな視線をバイツに向けた。
「ルル、テスラが怖がってる。落ち着け。」
「だって、可愛いんだもん!」
 と、バイツの言葉を一蹴し再びテスラの着せ替えに夢中になる。
 ふと、ドアをノックする音が聞こえた。
「苦情でも来たのか?」
 仕方無くドアに向かうバイツ。ドアノブに右手を掛けて回した途端、サーナイトが叫んだ。
「マスター!出てはいけま・・・!」
 しかし、その声は銃声によって弾け飛んだドアノブと共に粉砕された。

220名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:17:05 ID:YBXG0iso
「・・・!」
 右手に着けていたハーフグローブと包帯が弾け飛び、紅い表皮が露になったバイツの右腕も跳ね上がった。
 荒々しくドアは蹴り破られ、散弾銃を構えたスーツ姿の男が姿を現した。当然銃口はバイツに向けられたが、男が指を動かすよりも先に、バイツが跳ね上がった右腕を散弾銃に叩き付ける方が速かった。
 銃身を曲げられて散弾銃が使い物にならなくなった事を男が悟った瞬間、バイツの右腕が男の胸倉を掴み上げて床に投げ飛ばす。全身に激痛が回り息が詰まった男は抵抗する間も無くバイツに右手の骨を踏み砕かれてしまう。男はバイツを睨みつけたがバイツが足に力を込めると男は投げ飛ばされたよりもさらに強い激痛に耐え切れずに悲鳴を上げた。
「聞きたいのは悲鳴じゃない。挨拶も無しに部屋に踏み込んできた理由だよ、間抜け野郎。」
「待ってバイツさん!その人はワルイーノじゃない!」
「分かってる。」
 当然とでもいう様に返答したバイツ。あまりにも普通に返されたので言葉が出てこなかった。
 男はテスラを恨めしげに睨みつけた。テスラはその視線に怯えてサーナイトの後ろに隠れてしまう。
「大丈夫です。」
 優しくサーナイトが宥めるとテスラはサーナイトのローブに顔を埋めてしまった。男の行動だけで理由を理解したバイツ。
「顔に泥を塗られるのが嫌いなようだな?」
「俺だけの意向じゃないさ・・・ドン・タッタリアの意向だ。やられたら徹底的にやり返す・・・ぐあっ!」
「洗いざらい吐け。どこぞの映画に出てきそうな名前のボスの意向とやらを。」
 重圧的な声と足が更に圧力をかける。
「・・・俺達に盾突いたのが間違いだっただけだ。」
 男はニヤリと笑うと自由に動かせる左手を即座に自分の口元に運んだ。バイツは最初、それが何を意味しているのかは分からなかったが、男の顔から血の気が引き大量の泡を口から吐き出した所で行動の意味が分かった。
「毒か・・・!」
 男は二度と答える事は無い。ただ、かすかに痙攣し物言わぬ肉塊となった体が答えを見せ付けていた。
「こんなの・・・こんなのおかしいよ!」
 ルルの叫びは誰に向けられたものだったのか。バイツは死体を担ぎ上げる。
 そして、一言を残し部屋を後にした。
「生き方ってやつ・・・か・・・」



 モーテルの受付では一人の従業員が帳簿に何やら記入を行っていた。ドアが開く音が聞こえても帳簿に目を落とし、記入を続けていた。視界の外から聞こえてくる足音が自分の前で止まる。
「ああ、終わりましたか。指示通りに宿泊記録は改竄しておきましたが。」
 顔を上げる事無く口を開く従業員。返事が無いので渋々顔を上げるとそこには死体を担いだ長髪の少年が立っていた。
「なっ・・・!しっ・・・し・・・!」
「信義に二種あり。秘密を守ると正直を守るとなり。両立すべきことにあらず・・・アンタはどっちだ?」
 その少年が向ける一線を越えた視線には隠し事等無意味だと従業員は悟った。
「しっ・・・仕方が無かったんだ!この街でタッタリアファミリーに逆らって生きていける訳が無い!」
「随分飴と鞭の使い方が上手い連中と見える。」
 記帳の横にある不自然な札束を横目で見ながらバイツは従業員を問い詰める。
「頼む・・・!殺さないでくれ・・・!」
「皆を無事に匿ってくれるなら何も見なかった事にしてやるよ。」
 そう言い捨てると、男の遺体を外へ放り投げた。派手にガラスの割れる音がバイツと外にいた数人の男達の耳に入った。男達の正体がタッタリアファミリーという事をバイツはとうに見抜いていた。
「丁度良い。誰かボスまでの近道を知っている奴は居るか?」
 バイツが一歩踏み出すと男達は無意識に一歩下がった。



 凄惨な光景を見た後の室内はしんと静まり返っていた。
 取る取られるが当たり前の様に命を遣り取りするのを見せられては誰もが直ぐに言葉を発する事は出来なかった。
「わたしのせい・・・なのかな・・・」
 ポツリとテスラが口にした言葉をルルは頭を撫でるという行動で否定した。

221名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:17:35 ID:YBXG0iso
「ううん・・・違うよ。テスラは悪くない。」
「でも・・・わたしが・・・わたしがなんにんもころしたのに・・・バイツがきけんなめにあってる・・・」
「バイツさんはあなたを助けようと必死なの。だから・・・」
「いやだ・・・!バイツはいいひと・・・きけんなことはさせたくないの・・・!」
 少し語気を強めたテスラにルルは何も言い返せなかった。
「わたしがいなくなれば・・・みんなはぶじになるのかな・・・」
「何を言ってるの・・・?」
「わたしがでていけば・・・みんなはねらわれなくなる・・・バイツも・・・」
「テスラ!そういう事じゃない!あなたは・・・」
「ごめんね・・・わたし・・・いくよ・・・」
 小さな少女は笑顔を浮かべた。
「だってみんなはわたしのだいじなひと・・・みんなのことだいすきだから・・・」
 必死で作った笑顔から涙が溢れ始める。それでもテスラは笑顔を崩さなかった。
「すこしのあいだだけだったけど・・・たのしかったよ・・・ありがとう・・・」
 小さく幼い少女はバイツと同じ側に立っていた。その健気な性格には余りにも酷すぎる立場。
 テスラが歩き始めるとその小さな体をルルが抱き締めた。
「少しなんて言わせない・・・!私はテスラと一緒に居る!」
「でも・・・」
「でもじゃない!一人で背負わないで!一人で傷つかないで!」
 ルルも泣いていた。涙を湛えた言葉は子供を叱る母親の様に優しくもあり、幼子が駄々をこねるようでもあった。
「あなたが人間だろうが兵器だろうが関係ない・・・だってあなたは・・・私の・・・家族だから・・・」
 振り向いたテスラの先には自分と同じく涙を流しながら微笑むルルの姿。それを見た途端に胸を締め付けるような苦しい初めての感情。
 テスラもルルに抱き着いて精一杯泣きじゃくった。
「すいませーん、まだ時間掛かりそうですかね。」
 珍しくバイツが空気を読まずに室内に入り込んできた。
 その瞬間涙ぐましい光景に瞳を潤ませていたサーナイト達が一斉に空気を読まなかったバイツに襲いかかる。
「ファッ!?」
 情けない声を上げて叩きのめされるバイツだった。



「・・・つー訳で連中の溜まり場にちょいと顔出してくるわ。」
 黄色い目に変色したバイツが右手で頭を掻き上げながら近所のフレンドリーショップに行くかの様に口を開いた。
「つーか、宿主に何したんだよテメェ等・・・半端じゃねえほどの負のオーラ出しながら引っ込んだぞ?」
「ごめんなさい・・・その、つい・・・」
 ポケモン代表として謝るサーナイト。
「バイツじゃない・・・」
 そして、警戒してサーナイトの後ろに隠れるテスラ。
「え・・・えーっとですね、今のマスターは・・・」
「ハッ、見たことねえ面が増えてんな。まあ確かに俺はバイツであってバイツじゃねえ。」
 顔を近付けると更にサーナイトの後ろに隠れるテスラ。
「嫌われたもんだ・・・ま、俺の事は宿主にでも聞いてくれや嬢ちゃん。」
 踵を返した途端にルルの声が響いた。
「待って!連中の溜まり場って・・・何しに行くの!?」
「菓子折り持って挨拶にでも行くと思ってんのか?テメェは連中が顔に糞塗られてスゴスゴ引き下がると?」
「また・・・人を・・・」
「分かってんなら説明はいらねえよな。そこで連中のボスの窖でも聞けりゃあ良いんだが。」
「・・・アンタ、やってる事がワルイーノと大して変わって無いって事分かってるの?」
「まだそんな事抜かしてんのか?連中はそこら辺のチンピラとは違う。加減すりゃあ死体になって転がってんのはテメェ等なんだぜ?」
 言葉に詰まるルル。
 帰ってくる言葉が無いと分かると長髪を靡かせて歩き出すが部屋の出口の前で足を止める。
「・・・サーナイト、クチート、ムウマージ、ミミロップ、ユキメノコ、アブソル、タブンネ、エルフーン、ドレディア、ゾロアーク、コジョンド、嬢ちゃん二人。」
 名前を呼ばれた順に妙な顔をする。この状態のバイツから名前を呼ばれるのは何故か妙な感覚がした。
「宿主との取り決めだ、テメェ等は絶対に護る。連中に手出しはさせねえ。」
 意外な言葉だった。言った本人は特に変わった様子もなく右腕をサーナイト達に向けて背中越しに振りながら部屋を出ていった。
「随分と・・・重い言葉ですね・・・」
 サーナイトが悲しそうにそう言った。それに続くようにタブンネも口を開く。
「確実に取り決めを守るんだったら・・・そうするしか・・・無いのかな。」
「私は・・・!」
 ルルが悔しそうに、そして悲しそうに口を開く。
「私は認めない・・・!絶対に認めない・・・!」

222名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:18:20 ID:YBXG0iso



「随分と嫌われたものだな・・・」
 元の目の色に戻ったバイツが死体の山の中で溜め息混じりに呟いた。
 現在バイツがいる場所は小さな個人商店の二階。そこで人の目を避ける様に開かれていたカジノ、のプライベートルーム。
『いや、死体の山作れば誰だって嫌うだろ。』
 バイツの意識に右腕の意識であるグラードンが語り掛ける。
「お前がルルに嫌われてるって事だよ。一々神経逆撫でする様な事を言ってくれたりな。」
『自分の面が曲がっているのに、鏡を責めてなんになる・・・だ。テメェも似た様な事やってんじゃねえか。』
 傍から見ればバイツの独り言だが、今や死体安置所となった闇カジノをつい数分前まで我が物顔で仕切っていた男にとってはどうでも良い事であった。
 行き成り現れて、自分と商品のポケモン以外を皆殺しにし、なおかつ誰かと話している様な独り言。男はとにかくこの場所から逃げ出したいという一念で正気を保ち続けてきた。
「とにかく俺は・・・」
 そこまでバイツが言いかけると急に言葉を止めた。
 何かが室内に投げ込まれた。
「フラッシュバ・・・!」
 投げ込まれたそれは視界を灼け尽くす様な強い光と方向感覚を狂わせるほどの大きな音を立てて炸裂する。バイツはその中で新しく室内に入ってきた二つの気配を察知した。
 バイツはその内の一つに向けて貫手を放った。相手側も何かをバイツに向けた。
「・・・おい!待て!」
 耳鳴りが止まない中何処かで聞いた覚えのある声が微かに聞こえた。
 バイツの視界が訓練を受けていない人間にしては信じられない程の速さで白濁から回復すると銃口と見慣れた顔が眼前にあった。
「・・・ライキ?・・・ヒート?・・・多木康?」
「何だ、バイツだったのか。なんでこんな所に?ってか右腕下ろして、恐い。」
「つーか、面見るのも久しぶりだな。」
「よっす、どうも。」
 バイツの前に現れたのはバイツの親友でもあり悪友でもあるライキとヒート。それとチャーシューやメンマなどの具の専門家、多木康。
 自然と全員の視線が多木に集まる。
「エッ?誰この人。ヒートが連れてきたの?」
「んな訳ねえだろ。おいオッサン何しに来んだよ帰れよ。」
「・・・」
 笑顔を絶やさず涙目になりながら部屋を出ていく多木。
「何なんだよあのチャーシュー・・・呼吸口作り忘れたラバースーツを着せられて死ね。」
「何なんだよって言えばさ、どうしてバイツはここに?」
「かくかくしかじか。」
「成程。分からん。」
 思考を放棄したヒート。
「で、どうしてお前らはここに?」
「僕はモウキさんから頼まれ事があってね。タッタリアファミリーの情報が欲しいんだってさ。色んな情報が・・・ね。ヒートにだってさっき会ったばかりなんだ。」
「俺は知り合いのファミリーのドンの遺言でよ。そのドンは孫と遊んでいる最中にオレンジの皮喉に詰まらせて死ぬわドンの長男はタッタリアと他のファミリーの罠に掛かって殺されちまったしで・・・」
「もういいヒート。何処かの映画で見た気がする。」
 神も仏も恐れない罰当たり三人衆、再開の場面だった。



 バイツが出ていった後、相変わらずサーナイト達は口を閉じていた。
 それぞれに思う所があるのか誰とも視線を合わせる事は無かった。どれ程の時間が過ぎただろうか。遠くから響いてきた爆発音。そして微かに聞こえるサイレン。静寂を破ったのはサーナイトだった。
「私、マスターを追い掛けます。」
「ちょっと!本気なの、サーナ!?」
 ムウマージの言葉にサーナイトは強く頷いた。

223名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:19:34 ID:YBXG0iso
「だが、行った所で何が出来る。連中は私達も殺しに掛かってくるぞ?足手まといになってマスターの負担を増やすのがオチだ。」
 アブソルの辛辣な言葉。だが、サーナイトは引き下がらなかった。
「それでも・・・この様な私にも出来る事はあります!」
「・・・一つだけ教えて。」
 意外な事にルルが真剣な表情で口を開いた。
「バイツさんは私達を傷付ける存在の命を奪っている・・・あなたはそれをどう思っているの?」
「これ以上見たくはありません・・・命を奪うマスターも・・・その罪を背負い続けるマスターも・・・だから私はマスターと共にありたいです。少しでも苦しみを分かち合いたい。ずっと・・・そのお傍で・・・」
 一点の曇りの無い答えにルルは苦笑した。最初から諦めかけていた自分自身への嘲笑。
「そうだね、見ているだけで殺さないでなんて虫が良すぎたよね。」
 テスラの頭を撫でるルル。
「私のやり方でこの騒ぎを終わらせる。これ以上命が失われる前に・・・」
「ルル、もしかして一人で行く気では・・・」
「分かっちゃった?ドレディア。でも皆を危険に曝したくな・・・」
「ルルが行くなら私も行きます!一人では行かせません!」
「ドレディアの言う通りよ、私は・・・いいえ私達は貴女を一人にしない。」
 コジョンドが意を決した様に強く口を開く。
「私達も同行させていただきます。」
 サーナイトも微笑みを崩さずに強く決意を述べる。
「バイツさんはいいの?」
「マスターに会えたとしても今度はルル様が心配になりますから。」
「言ってくれるわね。」
「・・・わたしもいく・・・」
 テスラもしっかりとルルを見つめながら意思を口にした。
「・・・分かった。でも、テスラ。」
「・・・なに・・・?」
「電撃は使わないで、もうお互いを傷付け合わせる訳にはいかないから。」
 テスラは静かに頷いた。
「じゃあ、少し待ってて。ここの従業員さんに聞きたい事があるから。」
 ルルには策があるのか思い詰めた表情で一人、部屋を後にした。



 同時刻。
 タッタリアファミリーの経営している闇金融事務所。その二階オフィス。
「なーんで俺達ゃこんな事地味にしているのかね。」
 と、ヒートが派手にドアを爆薬で吹っ飛ばしながら呟いた。ドアが木っ端微塵になった途端にバイツが先行して室内に特攻し、その後にのうのうとライキとヒートが室内に足を踏み入れた。
「何でチマチマ連中の拠点を潰してんだよ。頭を潰しゃ一時間以内にケリが付くぜ?」
「バイツは連中を皆殺し、僕は警察に渡す証拠探し。それぞれ目標があると思うけど?」
 悲鳴と鮮血が飛び交う室内でのうのうと話し込む二人。
 手足が妙な方向に捻れてまだ息のある哀れな男が這って逃げようとしていたが、ライキは脳天に弾丸を叩き込むと近くにある椅子に座ってデスクトップパソコンのキーボードを指で叩きはじめた。
「やれやれ・・・次は何処だ?闇カジノか?倉庫か?それとも連中が満載の事務所か?」
 その時、ヒートの携帯電話が呼び出し音を鳴らしながら振動した。
「あー・・・もしもし、そう・・・さっき襲った所と一緒。生きてるタッタリアはいないから人を送って、どうぞ。」
「何処からの電話だ?」
 一仕事終えたバイツがヒートに話し掛ける。
「依頼してきた組織からだよ。ここを廃業させるのは勿体ないから特殊清掃員寄越して、ほとぼりが冷めたら使える状態にするんだと。」
「だったらもう少し綺麗に片付けた方がよかったかな?」
「出来るだけそうしてくれとよ、さっきの所なんざ新入りが消化しかかった夕食と再開したと。」
「何事も経験だと思います。」
 棒読み気味にバイツはそう言って、ライキが使用しているパソコンのモニターを覗き込んだ。
「残念、ここには顧客のデータしかないみたい。」
「って、事は・・・また連中を誰か捕まえて話を聞かせてもらうしかないのか・・・」

224名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:20:04 ID:YBXG0iso
 バイツが面倒くさそうに溜息を吐いた途端、外で車の急ブレーキ音が複数台分聞こえた。三人は窓硝子越しに視線を道路へ落とした。車が五台、乱暴に停められておりその中から人間が四人ずつ出て来る。
「おーおー連中ついに俺達の追跡を始めたか。」
 ヒートが呑気に言い終わるや否や、何かが窓硝子を割って投げ込まれた。それが何なのか大体予想が付いていたヒートは割れた窓硝子からそれを投げ返した。
 少し間を置いて爆発音そして悲鳴。
「手榴弾をピン抜いてすぐ投げんな、馬鹿。」
 そう言ったヒートは咄嗟に椅子を自分が吹き飛ばした事務所の入口に投げ付けた。
 椅子が入口で銃を構えていた男の顔を直撃したのをバイツは確認すると割れた窓硝子から外へ跳び、車の上に着地。派手にひしゃげた車を見て一瞬呆気に取られた連中の隙を逃さずにバイツは外に居る連中に悲鳴を上げさせた。
「分かってるのかなー・・・誰か道案内してくれる人を残しておくべきだって事。」
 そうぼやくライキだったが彼も銃を構えた連中が見えた途端に頭を撃ち抜いていた。
「オメーも分かってねえじゃねえか。」
 軽くヒートがライキの頭を小突いた。



 その頃、タッタリアの邸宅を守備していた門番の一人は意外な客人達の来訪に言葉を失った。
「タッタリアさんに会わせてもらいたいんです。」
 先陣を切って口を開いた茶色い髪の少女。その後ろには十一体のポケモン。そして、茶色い髪の少女の陰にいたもう一人の少女。銀髪に幼い顔には不釣り合いな右目の眼帯。
「コイツ!」
 門番は銃口を銀髪の少女へと向けた。しかし、茶髪の少女が立ち塞がる。
「タッタリアさんに会わせて下さい。これ以上傷付けあいたくないんです。」
 怯む様子を見せない少女に門番は戸惑った。その内にぞろぞろと他の門番が集まってきた。
 門番同士の話し合いの末、結局少女達をボスに会わせる事にした。



「あの従業員さん、嘘ついてなかったみたい。」
 門番達に連れられて邸宅内を歩いているルル達。そのルルを不安そうな表情で見上げるテスラ。
「大丈夫。テスラも皆も私が護るから。」
 先導していた門番が一つの部屋の前で止まり、扉をノックした。
「ボス、例のガキを連れたガキを連れて来ました。」
「よし、入れ。」
 扉の向こうからくぐもった声が聞こえた。扉を開けて門番が先導しながら室内に入る。黒壇で造られたデスクテーブルの向こうに初老の男が座っていた。
「ボス、例のガキです。」
「馬鹿共が・・・本当に貴様等は門番か?」
 タッタリアの問いに門番達は首を傾げた。
「もし、こいつ等が俺の命を狙っている暗殺者だったらどうする気だ?この距離で飛び込まれたらタダじゃ済まないぞ。」
「しかし・・・ボスに会いたいと・・・」
「ああ・・・畜生・・・人間を雇ったつもりだったんだがな・・・もういいガキ共を残して下がれ。」
「大丈夫ですか?ボス一人で。」
「・・・頼み事が一つ出来た。お前達自分で自分の頭を撃ち抜いて死んでくれ。」
 呆れ果てた様にタッタリアが言い捨てると門番達はすごすごと部屋を出て行った。
「五歳児並の知能を付けてくるまで俺の前にその面を見せるなよ!」
 大きな溜息が部屋の中に響く。
「ああ神よ・・・何故生き残っている部下は赤子並の知能なのでしょうか。」
 タッタリアの悲観的な嘆きに誰も返答する者は居なかった。
「さて?ただそこに突っ立てるだけに来た訳じゃあないだろう?」
「そうです・・・この子を・・・テスラを狙うのを止めて下さい。」
 返答は簡潔なものだった。
「・・・無理だ。」
「どうして!?」
「さっきの馬鹿共を見ただろう、全く以って使い物にならない。目を掛けていた奴は感電死してしまったからな。」
「それは・・・!」
「そいつの意思じゃない事は分かっている。だがな、我々の面子に泥を塗ったのはそいつだ・・・誰かが責任をとらなければならない。」
「・・・」
 言葉の出ないルルを見ながら葉巻に火を点けるタッタリア。
「だが、俺の所に直に来た根性は正直気に入っている・・・だから勝負をしないか?」
「勝負?」
 口元を少し歪めたタッタリアは机の中からリボルバーを取り出す。
 弾倉から弾を五発抜き、回した。

225名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:20:36 ID:YBXG0iso
「ロシアンルーレットだ。弾は一発。こいつをこめかみに向けて一回引き金を引け。」
 リボルバーが机の上を滑りルルの前へ。
「それでテスラから手を引くの?」
「ああ、お前の頭が弾け飛ぼうが飛ばまいがな・・・」
「・・・やる。それで全てが解決するのなら。」
 その言葉を咄嗟に否定したドレディア。
「ルル!正気ですか!?幾ら六分の一の確率でも失敗したら死・・・!」
「バイツさんだって命懸けで戦ってる!だから・・・私も命懸けで戦う!」
 机の上のリボルバーを手にすると妙な重みを感じた。持ち慣れない物を持ったせいもあるが物理的には違う重み。腕がうまく動かない。冷や汗が止まらない。躊躇い。拒否。恐怖。目の前の色が変わって見える。
 一つしかない選択肢。ルルは目を閉じた。指先に力を込める。
 刹那、部屋の中の空気が裂ける音がした。だがそれは扉が素手で叩き割られた音だった。
「ドン・タッタリアだな?」
 そこに居たのはバイツだった。バイツが部屋の中に入るとそれに続いてライキとヒートが部屋に入る。
「不粋な奴らだな・・・」
「そりゃどーも。育ちが悪いもんでね。」
「ドン・タッタリア。警察があんたの身柄を拘束したがってるよ。死体袋も用意しているみたいだけど。」
「待って、これは私の勝負・・・邪魔しないで。」
 三人は銃口を自らのこめかみに突きつけているルルに視線を移した。
「ルル、もういい。ソレを下ろせ。」
 平静を装っているバイツだが内心は焦っていた。
「私が・・・私が皆を護る!」
「ルル!」
 一瞬怯んだルルからバイツが瞬時にリボルバーを取り上げ、ライキに投げ渡した。ライキはリボルバーを手にした途端にその重さからロシアンルーレットの最中だったと予想し、口角を吊り上げて笑った。
 躊躇無く銃口をタッタリアに向けて引き金を引く。
 撃鉄が弾倉を叩く。
 閃光、破裂音、鮮血。
 タッタリアの額に穴が空き、椅子ごと後ろに倒れた。
「あらら・・・「ツイてる」ね。」
 リボルバーを落とす様に捨てると同時にルルもその場に糸が切れた操り人形の様に座り込んだ。
「こんな所で何をしている?」
「・・・」
 俯くルルにバイツは更に問い質す。
「だんまりか・・・皆が居て正直驚いた、だからここに居る理由を知りたい。」
「・・・私は・・・これ以上誰かが傷付くのが嫌だった・・・だから・・・私なりにこの争いを終わらせようとしたの・・・」
「・・・自分の身を省みないでか?俺はな・・・皆の安全の為なら死体の山だって築いてやる。だが・・・」
「嫌なの・・・」
「・・・何?」
「命を奪う理由に私達を使われるのが嫌だったの!」
 バイツは口を開く事さえ出来なかった。代わりに笑い声が二人分、部屋の中に響き渡った。ライキとヒートの笑い声。
「なっ・・・何?」
 バイツは分かっていた。笑い声は戸惑うルルに向けられたもの。そして、その笑いの意味は嘲笑だという事を。
「ナメてんのか?テメェ。それともカミサマ気取りか?」

226名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:21:07 ID:YBXG0iso
 鋭い視線が二つ、ルルを捉える。
「バイツがどうして人を殺すのか分かんねえか?テメェ何を相手にしたのか分かってんのか?」
 昔、傭兵として世界各地で戦ってきたヒートの言葉は重みが違った。
「バイツがどう言ったかなんざ知らねえがよ、この世界で人が死んでいく理由なんざ簡単なもんだぜ?肌の色が違う。崇める神が違う。考え方が違う・・・分かるか?本当はバイツは味方か敵かって理由だけで・・・」
 が、途中でライキがスモークグレネードをヒートの口に押し込んだので話は中途半端に終わった。
「はいはい、お小言はいいから撤収しようねー・・・後、覚えていた方がいいよお嬢さん、君の安全は犠牲の上に成り立っているから。」
 顔中から煙を上げるヒートを押していく感じで部屋を出て行ったライキ。
「俺達も戻ろう・・・ルル?」
「どうして・・・?どうして人は傷付け合うの?どうして・・・?」
 誰に向けた訳でも無い問い掛けに言葉が出て来ないバイツ。ポケモン全員をボールに戻し、泣き崩れたルルを抱き抱える様にして、テスラと共に邸宅を後にした。



 月明かりに照らされたモーテルのベッドルーム。その中でルルは一人膝を抱えてベッドの上に座っていた。憔悴しているのか膝に顔を埋めたままずっと黙っていた。
 それを見かねたゾロアークが声を掛けようとしたが言葉が見付からずにベッドルームに入る事を断念した。
「やれやれ・・・どうも調子が狂うねぇ。」
「仕方ないわ・・・」
 ゾロアークの横でムウマージが溜息を吐いた。
「いきなり命のやり取りを生身で体験して平然としている方がおかしいわよ。」
「それは少し違っちゃうんじゃない?」
 意外にもミミロップが口を挟んだ。
「多分、現実を強く突き付けられちゃったからだと思う。ううん・・・現実というよりはその黒い一部だけど・・・」
「それを受け入れて戦うしかないだろう。ただ・・・それが難しいな・・・」
 アブソルの言葉に室内はしんと静まり返った。静寂は従業員を脅し終えたバイツが部屋のドアを開けるまで続いていた。
「どうしたんだ?この空気。」
「察しなさいよ、マスター。」
 ムウマージがベッドルームのドアに目を向けながら口を開いた。
「成る程ね・・・何か前にも同じ展開があった気が・・・分かった。俺が話してみるよ。」
「あたしもいく・・・」
 テスラがバイツに同行を申し出た。
「おれい・・・いってなかったから・・・」
「やれやれ・・・ルルは幸せ者だ。」
「マスター・・・一ついいですか?」
 サーナイトが真剣な表情をバイツに向ける。
「ん?」
「そっ・・・その・・・ルル様にキスまでなら・・・許しますから・・・」
「そんなの駄目です!ルルにそんな事したら急に元気になって付け上がるに決まってます!」
 ドレディアが真っ赤になって反対するがコジョンドはくすくすと笑ってサーナイトの言葉に賛成の色を見せた。
「いいんじゃないかしら?少し強めの薬を使っても。」
「そないな事いわんといて、いくら減るものやないいうてもそないなとこ見せられたらウチの気持ちはどないなるん?」
「私も見たくないなー・・・そういう所って。」
 ユキメノコとタブンネもあまり気が進まない様子。

227名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:21:50 ID:YBXG0iso
「でも眠っているお姫様を起こすには王子様のキッ・・・キスが必要じゃないかい?まあ今回ばかりって事で・・・」
 ゾロアークも少し照れながらサーナイトの言葉に賛成した。
 ポケモン同士の論戦が始まるとバイツとテスラはベッドルームのドアを開け、中に入る。
「結論は後で教えてくれ。」
 そう言い残したバイツはドアを閉めた。ルルは相変わらずベッドの上で膝を抱えて座っていた。
「ルル・・・とにかく無事で良かった。もし・・・」
「・・・私や皆以外だったら傷付ける訳?」
「必要だったらな。」
 言い切ったバイツにルルは顔を上げて反論しようとした。だが、バイツの迷いの無い表情にまた顔を埋めてしまう。
「どうしてそうやって割り切れちゃうのかなぁ・・・」
 涙声で語尾が不鮮明になる。
「ねえ・・・ルル・・・」
 不意にテスラが口を開いた。
「あのね・・・わたしをかばってくれて・・・ありがとう・・・」
「いいの・・・私には・・・あれぐらいしか出来なかったから・・・」
「ううん・・・うれしかった・・・でも・・・こわかった・・・ルルがしんじゃうんじゃないかって・・・」
「怖くないわよ・・・家族を・・・テスラを護る為だもの。」
 ルルがゆっくりとテスラの頭を撫でる。そして、バイツに和らいだ表情を見せる。
「少し分かった気がする・・・でも私は・・・」
「認めなくてもいい。だが、俺は言葉だけでは終わらせない、俺は皆を護る。どんな手段を使ってもな。」
「バイツさんらしいなー・・・とても人を傷付ける人とは思えない。」
「だったら今はルルらしく明るくするべきじゃないか?皆心配してる。」
 バイツは瞬時にベッドルームのドアを開けた。なだれ込む様に倒れるサーナイト達。
「あは・・・あははは・・・」
「苦笑いでごまかすなよサーナイト。」
 そう口にしたバイツ本人もこの光景に苦笑いを浮かべた。
「皆!心配掛けてゴメン!一晩寝たら本調子になるから!」
 少し調子を取り戻したルルの言葉にサーナイト達から様々な返答が返ってくる。
 その様子を少し離れた場所で見ていたバイツは安堵の溜息を吐いた。



「何だ?もう街を出るのか。」
「ああ、少し派手にやり過ぎた。」
 モーテルの前でライキとヒートに会ったバイツ。二人は各々の都合で街から暫く動けないらしい。
「そういえばさ、まだ続いてるの?あの黒い連中との戦い。」
「まあな。」
「やれやれ、それでお前は相変わらず子守役に徹するのかよ。」
「まだまだ皆強くなれる・・・それまで俺は見守り続けるさ。」
「そうかよ、ま、頑張りな。」
 すると、一台の車が三人の近くに止まった。ヒートはそれを待っていたかの様に車に近付き後部席の誰かと話し始めた。
「さーて、僕もUSBを持って行かないと。じゃね。」
「またなライキ。じゃあ、俺も行かなきゃな。街の入口に皆を待たせてある。」
「おう、そうか・・・ん?」
 ヒートがバイツの背後に視線を向ける。バイツもそれにつられて振り返る。視線の先ではテスラがバイツに向かって走って来ていた。
「お・・・おい、どうした?」
「・・・お・・・おそかったから・・・」
 顔を紅潮させ息も絶え絶えにバイツの迎えに来た旨を伝える。
「そうか、心配掛けたな。じゃあなヒート、お前のビジネスが上手くいく事を祈ってるよ。」
「あばよバイツ。保護者役頑張りな。」
 踵を反してテスラと共に歩くバイツ。
「・・・ねえ・・・あのひとたちわるいひと・・・?」
 バイツは内心吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。
「俺と同じ悪党さ。」
「・・・うそだ・・・あのひとたちバイツとちがってわるいひと・・・」
 的を射た発言にとうとうバイツは吹き出す。
 どうやら、テスラは人を見る目が確かな様であった。

228名無しのトレーナー:2012/06/01(金) 23:30:04 ID:YBXG0iso
誰だこんな時間に玄関の戸を叩く奴は・・・
なぁに、サーナイト18禁小説スレ4の方に顔を出してから玄関に行ってすぐ戻る。

229名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:49:11 ID:G5t9Vey6
Q いつ終わるんだよこれ!
A 知るかバカ!そんなことよりオナニーだ!

230名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:49:44 ID:G5t9Vey6
 男は幾つもの光と暗闇の下を走っていた。
 どれ程走っていたかなど男には見当が付かなかった。
 路地裏のゴミ箱と共に派手に転ぶまでは男にそれを考える余裕すら無かった。
 腐敗臭を鼻腔に感じると、男は壁を支えに立ち上がり肩で息をしつつ歩き始めた。
 男の思考に休憩という行為は含まれていなかった。唯一つ脳裏に浮かぶのは一人の少年の姿。
 その少年に切り札とも呼べる兵器を簡単に破壊されて男はひたすら逃げていた。
 少年から、追ってくるという強迫観念から。ただ、ひたすらに。
「やっと見つけ出したと思ったら無様だのう?」
 少年とは思えない声が背後から聞こえた。
 男は背後を睨みつけるように振り返ったが、相手を確認した途端にその表情には明らかに恐怖の色が浮かんでいた。
「悪い話は耳に入るのが早くての。」
「・・・しっ・・・しかし・・・」
 眼前にいたのは杖をついた老人だった。
 疲労と恐怖からくる息も絶え絶えの説得は既に老人にとっての価値というものを失っていた。
 男が一歩下がると同時に、一瞬何かが光った。
 その光は男の左肩から右脇腹を通っていた。
 次に男が目にしたのは自らの体から噴出した血液だという事を悟った。
「アク・・・マルス・・・様・・・」
 ずるりという擬音が似合う形で頭部を有した体の部分は、老人の名を口にして背後の用水路へ水音を立てて落ちた。残った部分は跪く様に倒れると黒い液体となってしまった。
 アクマルスは大した確認もせずに踵を返して路地裏から出ていった。



 晴天の日差しが道路を照らし、じりじりと容赦無く舗装していたアスファルトを熱し続けていた。
 様々な人々が行き交う海沿いの道も例外ではなかった。
 容赦無い日差しの下、人々はそれぞれの行き先へと足を運んでいる。
「うわー!海だー!」
 ルルの歓声にバイツは俯き掛けていた頭を上げた。
「やっと海沿いの道に出る事が出来たな。」
 弱い潮風が汗ばんだ額に吹き付けてくる。
「テスラ、大丈夫か?」
 バイツは視線を下げて銀髪の少女に語りかけた。
「うみ・・・?」
 テスラは初めて目にした大海原に心奪われ、何も耳に入っていない様子だった。
「ねえ、街も近いことだし少し休憩していかない?」
「駄目だ、皆を回復させないと。」
 バイツとルルのポケモン達は今はボールの中。長い旅路だったので少しでも体力の消耗を抑える為であった。
「バイツさんは真面目すぎなの。いいじゃない少しくらい。」
「それに、だ。今日の宿を早めに取りたいからな。」
「うみ・・・ちかくでみたい・・・」
「二対一だな、ルル?」
「もーっ!分かったわよ!」
「もう一踏ん張りだ、行こう。」
 バイツ達の眼下には港町が広がっている。

231名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:50:14 ID:G5t9Vey6
 十年程前、様々なリゾート業界がこの港町に目をつけ、事業展開や開発が行われてきた。
 宿泊施設や娯楽施設は揃っているので、ルルの性格を考えれば暫く滞在する事になりそうだった。



 ポケモンセンターに寄った後に一つのバンガローを借りたバイツ達はひとまず休憩をする事にした。
「とりゃー!」
 ルルが文字通りベッドに飛び込む。
「とーっ!」
「とー!」
 クチートとエルフーンがルルを真似てベッドに飛び込む。
「ルル!もう少し行儀良くしたらどうですか!」
 ドレディアがそれを見かねてルルを叱咤する様子をアブソルは静かに笑って見ていた。
「変わり無い・・・いつもの風景だな。」
 バンガローのベランダにはユキメノコとタブンネ、それにテスラが海を眺めていた。
「いつ見ても大きくて静かいな景色やわー」
「私は初めて。やっぱり大きいなー」
「おおきな・・・うみ・・・」
 テスラは興奮したのか小さく笑みを浮かべて顔を少し紅潮させていた。
「およぎたい・・・」
「水着は無いよ?」
「貸してくれへん所はありそないやけど、今日は休んやほうがええんではおまへん?」
 少しの沈黙の後、納得した形で口を開いた。
「うん・・・」
「テスラちゃんはルルより聞き分けがいいですね。」
 既に疲れ切ったドレディアも並び、四人で潮風が静かに吹き渡る海を眺める事にした。
 そして、設置されているテレビは目まぐるしくチャンネルが回されていた。
「ニュース!ニュース!・・・ここだ!」
 ミミロップがニュース番組にチャンネルを合わせるとゾロアークが口を開く。
「殺人事件は?殺人犯が逃亡しているなんてないだろうね。」
「最近無し!至って平和!」
 その隣で番組表を見ていたコジョンド。
「ここでもニュースやっているわよ!」
 ミミロップが再度チャンネルを回す。
「まさか犯罪組織が大きな犯罪とか犯しているんじゃないだろうね。」
「無い!この近辺でそんな事無い!」
 一通り、チャンネルを回し終えると三人は歓喜の声を上げた。
「よーし!リゾート気分に浸っちゃうよー!」
「やれやれ、久しぶりにゆっくりできるねえ。」
「本当、たまには戦いとは完っ全に関係ない所で体を休めたいものね。」



 その頃、人通りの少ない砂浜でサーナイトとムウマージは散歩を楽しんでいた。
「潮風が気持ちいいわ。」

232名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:50:49 ID:G5t9Vey6
「そうですね。それに海も静かで綺麗です。」
「いい景色ね。」
 ムウマージが笑みを浮かべてサーナイトの腕に抱き着く。
「・・・ムウちゃんと二人っきり。いい匂いです。」
「そう?サーナだっていい匂いだし・・・温かい。」
 二人は顔を見合わせる。
 だがすぐにムウマージが申し訳なさそうに目を逸らす。
「私・・・やっぱりサーナの事諦め切れないの。」
 ポツリとムウマージが口にしたのは以前からサーナイトに抱いていた淡い感情。
「自分に我が儘だって言い聞かせてみたけど・・・無理みたい・・・でも、サーナの苦しみだけにはなりたくない・・・マスターの事は別だけど・・・」
「私もあの後考えました。私、あの時勇気をだしてくれたムウちゃんを傷付けてしまったのではないのかと・・・」
「サーナ・・・」
「私は自分を愛してくれる人を拒絶してしまったのではないかって・・・」
「やっぱり悩ませてたみたいね・・・ゴメ・・・」
 サーナイトがムウマージの言葉を遮る形で口づけをした。
「いいえ、私も自分の気持ちに素直になります。私はムウちゃんの事、大好きです。」
「サーナぁ・・・」
 語尾が涙声になるムウマージ。
「ごめんなさい。苦しい思いをさせてしまって。」
 ムウマージは頭を振って涙を拭った。
「・・・今は・・・今はとても嬉しい。でも、もう一つ言うことがあるんでしょ?」
「マスターの事は別。です。」
 二人は何かが吹っ切れたかの様に笑いあった。



 そして、バイツは一人で外をフラフラと当ての無い散歩をしていた。
「人殺しだー!そっちに逃げたぞー!」
 人々が騒ぎ立てる中、バイツはその声を無視した。
 ふと、リゾートの景観には似つかわしくない古びた自動車工場が目についた。
 作業服を着た作業員の数人が車のバンパーを外して中から何かが入っている袋を取り出していた。
「おい、見ろよ。混じりっけ無しの純粋なシロモノだ。」
「変な気を起こすなよ。やっこさん達は組織を上げてそれを取引にくるらしいからな。」
 バイツは何も聞かなかった事にする。
「麻がクルルァで・・・ってやつか、あの歌の歌詞通りだな。あーあ、リゾート気分くらい味わいたかった・・・な。」
 代わりといっては何だが、半ば諦め気味に呟いた。



 翌日、相も変わらず太陽は眩しく輝き、気温を下げる気配は一向になかった。
 海水浴場も人で賑わい、中にはポケモンバトルで気温よりも熱くなっている連中もいた。
「輝く海、熱い砂浜、微かな潮風・・・さーて!泳ぎますかぁ!」
 白と黒の競泳水着に身を包んだルルが背伸びをした。
 彼女が均等の取れたスタイルで体を捩ったり曲げたりする度に周りからの視線が集まる。

233名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:51:19 ID:G5t9Vey6
「あのー・・・ルル様?」
 サーナイトがおずおずと声を掛ける、そのサーナイトもローブではなく淡い緑のビキニの水着を纏っていた。
「なーにー?」
「私がこちらの水着で良かったのでしょうか?」
 サーナイトが身をよじらせて自分の身体を眺めるが、それは本人だけではなく周囲の男や雄ポケモンもその身体に視線を集めていた。
「いいのいいの、レンタル水着が残り少なかったんだから。」
「テスラ様で最後でしたからね。」
「幸運よねー・・・あ、テスラがき・・・た・・・」
 ルルが言葉を止めた。
 テスラが着ていたのはスクール水着と呼ばれる物。更に水着はテスラのサイズよりも一回り小さい物だった為、動く度に小さな曲線が強調されていた。
「・・・きつい・・・」
 当然テスラにも視線が向けられる。
 当人達は好奇の視線など気にも止めずに、辺りを見渡した。
「あっ、マスターがいました。」
 サーナイトが指差す先にはパラソルを砂浜に立てているバイツがいた。三人はバイツに近付く。
「おめかしは済んだみたいだな。」
「あれ?皆は?」
「もう遊んでるよ。」
 バイツが指差す先には水に濡れると危ない事になるエルフーン以外のメンバーが楽しそうに遊んでいた。
 エルフーンは砂の城作りに夢中になっている為そんな事は気にも留めていない様子だった。
「皆ひどーい!私も遊ぶ!」
 ルルの特攻する背中を追い掛けようとテスラは一歩踏み出したがバイツの事が気にかかるのか向き直った。
「バイツは・・・およがないの・・・?」
「水着が無いからな。裸で泳ぐ訳にはいかないだろ?」
 そう言うものの泳ぐ気などそもそも無かった普段着のバイツはパラソルの作った日陰にシートを敷くとその上に寝転んだ。
「じゃあ・・・バイツのぶんまであそんでくるからね・・・」
「ああ、気をつけてな。」
 海に向かって走っていく小さな背中を見送るとバイツは安堵の溜息を吐いた。
「皆様楽しそうで何よりですね。」
「そうだな、俺としてはサーナイトも楽しむべきだと思うが?」
「私・・・マスターと一緒にのんびりとしているだけで楽しくて・・・幸せです。」
「・・・まさか泳げないって訳じゃないよな?」
「そっ・・・その様な事は・・・!」
「冗談だよ、せっかく二人っきり・・・」
「マスターとの個人レッスンで泳げる様になろうと考えたのですが・・・」
「なん・・・だと・・・?」
「冗談です。」
 微笑むサーナイトにバイツは静かに笑った。
 サーナイトと二人きりになると急に安心した気持ちになるバイツ。それはサーナイトも同じだった。
 人々の喧騒と潮風が流れる中での貴重な二人の時間。サーナイトはバイツに寄り添い、目を閉じた。
「コラー!何してるのー!サーナイト!」
 ルルの声に一瞬身を竦めたサーナイト。
「ハハ、呼んでるぞサーナイト。」

234名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:51:53 ID:G5t9Vey6
「やはり、抜け駆けは駄目ですね。」
「・・・何?」
「次は人目の付かない岩辺で・・・」
「早く、サナサナも遊んじゃお!」
 ミミロップが何やら怪しい計画を練っているサーナイトの腕を引っ張って海へと連れて行く。
「元気だなー・・・」
 バイツは少し残念そうに笑うと何処からともなく麦藁帽子を取り出して寝転がると自分の顔に被せた。



 それから二時間程過ぎた頃。ルルとテスラが海から上がってきた。サーナイトを始めとしたポケモン一行は浅瀬での水遊びからパラソル付近での砂遊びへ移行していた。
 ただバイツの姿はだけは辺りを見渡しても見当たら無かった。
「まっ・・・まさか、サーナイトと・・・?」
 ルルの脳内ではバイツとサーナイトがあんな事やこんな事を人目を憚りながら行っている光景が浮かび上がる。
「・・・サーナイト・・・いるよ・・・?」
「あのー・・・マスターの居場所をご存知ないでしょうか。」
 妙な話だが一安心したルル。しかし、新たな問題が増えた事は事実だった。
「じゃあ、バイツさんは何処に行ったの?」
 その時、近くに居たグループの話し声が聞こえてきた。
「向こうで船が事故ったらしいぜ。」
「何でも乗員は全員助かったが海上保安庁の特殊救援隊員が一人が取り残されたらしいな・・・」
 辺りが騒がしくなりはじめる。
「座礁した船・・・あれか・・・」
 アブソルが海に目を向けるとかなり遠くの方に船が数隻とヘリコプター数機が確認できた。その内の一隻は炎上し、いつ沈んでもおかしくはなかった。
「一人取り残されているという話でしたね・・・どうにか助ける事はできないのでしょうか。」
 サーナイトがそう言うとドレディアが口を開いた。
「ルル?まさかどうにかしようと考えていませんよね。」
「当たり前じゃない!だって私は・・・!」
「でもねえ、ここからあそこまで距離はあるし、そもそも船の何処にその人がいるのか分かっているのかい?」
「悔しいけど・・・見守る事しかできないのね。」
 悲しそうに放たれたゾロアークとムウマージの言葉にルルは反論しようとしたが言葉が見つからなかった。
 その時、大きな水柱と共に炎上していた船が真っ二つにへし折れた。
 そして打ち上げられた二つの人影。
 一つは船内に取り残されていた特殊救援隊。木の葉が落ちる様に着水すると自力で近くの救助隊の船へと泳ぎ、無事に引き上げられた。
 もう一つはまだ宙に浮いていた。
「ぬぅぅぅん!」
 それは黒い長髪を靡かせて片足を横に上げながらヘリコプターのローターよろしく、激しい横回転をしていた。
「天衝海轢刃!」
 そのもう一つの影はバイツだった。勿論、殺意の波動やら滅殺どうこう言いながら修羅道を歩き続ける格闘家とは何ら関係の無い。
「ええっと・・・マスターなりの海水浴ですか?」
 遠い目でバイツを見ていたアブソルが一言。

235名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:52:35 ID:G5t9Vey6
「他人の振りをしよう(提案)」
「アブちゃん・・・先程語尾に気になる言葉が付いていましたがそれは・・・」
「気のせいだろう。」
 サーナイトはそれ以上追及せずにバイツの帰りを待つ事にした。
「あ、マスター捕まっちゃった。」
 ミミロップは軽く口にしたが、現場では海上保安庁に救助ではなく包囲されたバイツ。しかし、サーナイトはバイツが必ず無事に帰って来る事を信じて待つ事にした。
 三十分後、上手く包囲を突破したバイツがずぶ濡れで戻ってきた。
「やっぱり潜水はそれなりの装備が無いと駄目だな。」



 それから、バンガローへと戻り夕食までの間一休みする事にしたバイツ達。
 ほとぼりも冷めていればいいな。とバイツは着替えながら有り得ない期待を寄せる。
「あっ・・・そうだ。ねえねえテスラ、ポケモンを持とうと思った事・・・無い?」
 ルルからの行き成りの質問にテスラは一瞬言葉に詰まった。
「・・・わからない・・・」
 彼女には手持ちのポケモンは居ないものの周りには沢山居る。なので欲しいとは思わなかった。
「みんないてくれるから・・・わたしはいい・・・」
「そうか?仲間が増えるって事は悪くないぞ?・・・よし。」
 着替え終わったバイツはポケモンを探しに外へ出ていった。そしてきっかり十五分後に戻ってきた。
「まずは一体目。老若男女に人気のある鼠さんだ。」
「分かった!ピカチュウね?電気使いってところも共通じゃない。」
 バイツはモンスターボールから「それ」を出した。
「ハハッ!ミッキーマウ・・・!」
 説明不要のシェルエットの赤い半ズボンを履いた丸い耳の鼠。
 ルルはバイツからボールをひったくり急いで「それ」を引っ込めた。
「アウトー!色々とアウトー!」
「駄目か・・・じゃあ二体目はどうだ?女の子に人気があるぞ?」
「ニャースかしら?エネコかしら?それともチョロネコ?」
 バイツは別のボールから「それ」を出した。
「さんりお・・・」
 出てきたのはバイツの身長程ある二足歩行の白猫。
 再度ルルはバイツの手からボールをひったくると大急ぎで「それ」を引っ込めた。
「似てないからセーフよね!会社名もカタカナじゃないからセーフよね!」
「チッ・・・どいつもこいつも・・・」
「あと幾つあるの!?」
「一つだ・・・たこぶえって奴なんだが・・・」
「全員返してきて!」
 渋々と外へ出ていくバイツ。
「バイツがボケやくにまわると・・・いろいろきけんなんだね・・・」
 当事者以外はどうでもいい事を学んだテスラだった。

236名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:53:10 ID:G5t9Vey6
 在るべきものを或ところへ返し終わったバイツ。
 何故か海に面した崖下の岩場を飛び移っていた。
「方向は・・・合っているよな・・・」
 バンガローに早くたどり着く為かつ人目に付かない様にする為。
 次から次へと岩を飛び移っていくバイツは一旦足を止めた。
 沈みかけている夕日の光に視界を奪われたのか右手で光を遮る。
 ふと、海にポケモンにしては中途半端な大きさな何かが浮かんでいる事に気が付いたバイツ。
 岩肌を滑り降りて「何か」に近づくバイツ。
 バイツは笑いながらそれに声を掛けた。
「おい。土左衛門になり損なったか。」
 それはアクマーンだった。バイツを見ると咳き込みながら口を開く。
「・・・誰が・・・だ・・・」
「お前だ・・・いい様じゃないかその体。」
 バイツが本来アクマーンの体があった部分を眺める。
 切断面は所々に打ち付けられ、食い千切られ既に酷い有様で。切断面付近の臓器も半ば露出している。
「一撃か?」
「何が・・・起こったかさえ・・・分からなかっ・・・」
「こんな状態でよく口が回るものだな、感心するよ。次は顎を叩き割れば黙るかな?」
 言いたい放題のバイツ。
 咳き込みながらも必死に口を開くアクマーン。
「貴様らも・・・その内・・・同じ結末にたどり着くさ・・・」
 口角を激しく歪めて笑みを浮かべるバイツ。アクマーンの首を右手で掴み持ち上げた。
「もう話し疲れた。じゃあな・・・一瞬で消し炭にしてやるよ。」
「馬鹿が・・・」
 そう言ったアクマーンは体を粘液性のある黒い液体に変化させてバイツの右腕に絡みついた。
『取ったぁ!貴様の体は私の物だ!まずは右腕から!』
 右腕に液体が染み込んでいくがバイツは笑みを絶やす事なく平然としていた。
「一か八かの賭けの様だったが・・・残念だったな。減らず口を叩けるのならまずはもう一人の居住者と話してくれ。」
『何・・・何だ・・・!これは・・・これは一体何なん・・・!』
 アクマーンの悲鳴が脳内に響くとそれから声が聞こえなくなった。
「ルルには黙っておくか・・・」



 アクリルとアクシェンが元老員に呼ばれるというのは予想できた事であった。
 半円型の机の中央に立つ二人に対して十数人の元老員は椅子に座っていた。
「アクマーンはテスラを連れて何処へ行ったのかね?」
 初めから高圧的な感じで問われて答える二人ではなかった。
「さて?私にはアクマーンよりそのテスラという者の方が気にかかっている様に聞こえましたが?」
「無礼な!そなた達はただ質問に答えていれば良いだけなのだ!」
 図星ですか、とアクシェンは口にしようと思ったが直前で飲み込んだ。
「まあまあ、テスラがいなくとも・・・アクリルが居るではないですか。」
 元老員の一人が立ち上がり、アクリルに近付く。
 なめ回す様にアクリルの身体を眺める元老員。
「身長体格は同じぐらいですが・・・」

237名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:53:50 ID:G5t9Vey6
「問題はテクニックだな噛み千切られては大変な事になってしまう。」
 元老員は苦笑したが、アクリルは既にブチ切れる寸前であった。ここで胸の話などすれば元老員もただでは済まなかっただろう。
「君達の仕事は始末、奪還、確保になった訳だが大丈夫かね?」
「当然です。」
「我々の権力にも時間というものが存在する。それも決して長い訳ではない。」
「そうだのう、ではそれを儂の物にすれば良いのか?」
 その声に室内の話し声がぴたりと止んだ。
 いつの間にか老人がアクリルとアクシェンの前に立っていた。
「ア・・・アクマルス様・・・」
 口を開いたアクシェンが無意識に一歩下がった。
「何だ、次はじいさんか。で!?何が出来るんだよ!」
 野次を飛ばす元老員、それに対してアクマルスは光を飛ばして収納音を響かせた。
 そしてその元老員の首は自らの膝上に落ちた。辺りを朱の色に染めながら。
「思い出せい!何故そのような権力を持てたのか!我等の助け無しでここまでこれたなどと言うではあるまいな。」
 この一喝で元老員は全員萎縮し、何も言えなくなってしまう。
「主等も甘いものよの?」
「申し訳ありません・・・」
「精々アクマーンの様にならぬ事よ。」
「それは・・・どういう事でしょうか?」
 それに対する答えは返って来なかったがアクマルスは話を続けた。
「奴の追っていた人間とやらに興味があるのお、少々会って来るかの。」
 そう言い残しアクマルスは部屋を後にした。
「やれやれ・・・息が詰まる程度で済んでいるだけマシですかね・・・どうかしましたか?アクリル。」
 アクリルはアクマルスの背中を眺めながら小刻みに震えていた。それは純粋な恐怖からだった。



 ドアの閉まる音でテスラは目を覚ました。
 上体を起こして月明かりが照らすバンガローの中を見渡す。
 ソファーで眠っていたバイツが居なくなっていた。
 全員を起こさない様に静かに入口付近の窓ガラスから外を見渡した。
 バイツが街の方に歩いていくのが目に入る。
「・・・どうしよう・・・」
 ついていくかいかないべきか。
 迷い始めたその時、声が聞こえた。
「テスラ様、いかがなさいましたか?」
 サーナイトが心配そうにしながらテスラの後ろに立っていた。
「・・・バイツ・・・そとにいったの・・・」
「ですからマスターは室内に居ないのですね。」
「ねえ・・・わたし・・・バイツのあとをついていこうかまよってるの・・・」
「・・・でしたらこっそりとついていきましょう。何かありましたら直ぐに助けられる様に。」
 音を立てない様にサーナイトとテスラはバイツを追って外に出た。

238名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:54:21 ID:G5t9Vey6

 歓楽街はまるで昼間の様な明るさで様々な人間を照らしていた。
 酔っぱらい、売人、中毒者、娼婦、見張り。そして一人の少年をつけまわす二つの影等。
「きづかれてないよね・・・」
「これだけの人の中に紛れているのならば難しいですよ。」
 そう言いながらもサーナイトとテスラは建物や看板に隠れつつバイツの後をつけていった。
「ねえ気付いていないみたいだから言っておくけど二人共結構怪しいよ?」
「・・・!?」
「・・・!」
 背後、それも近距離から声を掛けられて二人は大声を上げようとしたが口を人差し指で塞がれる。
 声を掛けてきたのはルルだった。
 彼女の話曰く、サーナイトとテスラが外に出ていくのを見たので面白そうだったからついてきたと言う。
「ほーらー、早くしないと見失っちゃうよ?」
 ルルに急かされて尾行を続ける。
 暫く尾行を続けているとバイツは聞いた事がない名前のコンビニエンスストアへ入っていた。そして一直線に成人向け雑誌が置いてあるコーナーへと足を進めた。
 店内にはそこで立ち読みをしている浮浪者が居るだけで後はバイツと店員以外誰もいなかった。
 浮浪者の隣に立ったバイツは「薔薇族」という漫画雑誌を手に取ると表紙が表に見えるように中身を眺め始めた。
「そ・・・そんな・・・マスターの御趣味が・・・」
 外では表紙を見たサーナイトが失神し、ルルとテスラはサーナイトを抱き抱える羽目に。
「ちょっと!サーナイト!?」
「きぜつした・・・」
 余計に人目を引く事になったのは言うまでもなかった。
 その時、ルルとテスラの背後に男が薬の染み込ませた布を持ってそれぞれ一人づつ立っていた事に誰もが気がつかなかった。



「ボウズはどんな作家が好きじゃ?」
 立ち読みしていたバイツは隣にいた浮浪者に声を掛けられた。
「田亀源五郎、あと山川純一・・・かな。」
「好きじゃのう・・・女の尻はどうじゃ?」
「アダルトビデオを見ていても男の尻に目が向くんだ。」
 浮浪者はニヤリと笑うと雑誌から目を離さずに会話を続けた。
「・・・成程、お前さんがライキが言っていたバイツか・・・何が知りたい?」
「ここら辺のシマを争っている組の情報だな。」
「と言ってものう・・・三つあるんじゃよ。僧衣組、脱組、日組・・・その上どれも別の直系じゃからの仲がいいとは言えん。」
「その中に子供やポケモンを誘拐して売りさばく連中は?」
「そういう事関連は僧衣組だな・・・その他にも麻薬、賭博、地上げ、脅迫、傷害・・・」
「そこにだけ注意しておくべきか?」
「まあ・・・ほかの二つは大体違法取引が主な収入源じゃからの。そういうのには手をださんて。」
「信用するよ。」
 バイツは懐から封筒を一つ差し出すと浮浪者に渡して雑誌を元の場所に片付けた。
「あともう一つ・・・」
「ん・・・?何じゃ?」

239名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:54:59 ID:G5t9Vey6
「この合い言葉は何とかならないのか?」
「しらん、そいつはお前さんがライキにでも聞いてくれ・・・答えがあいつの気まぐれ以外だったらワシにも教えてくれ。」
 浮浪者はそう言うとふらりと店を出ていった。
 バイツも用が済んだので店を出ることにした。
 店を出た途端にバイツの目の前を車が通り過ぎていった。
「危ない・・・な・・・」
 その車の後部座席でぐったりとしていたサーナイトとルルとテスラを透明度が高いスモークウインドウ越しに確認したバイツ。その瞬間冷や汗が一斉に流れ出した。
「なんでこんな所に・・・!くそっ!」
 ざわめきが悲鳴や喧騒に変わってていく人ごみの中をバイツは走った。
 バイツが車を追いかけると車もまたスピードを上げた。
 吹っ飛ばされた障害物や撥ねられた哀れな歩行者達を避けながらバイツは車を追った。
 そして、短い逃走劇は終わりを告げた。
 車が袋小路の行き止まりに差し掛かったのだった。
 追いついたとバイツが思ったとたん車は向きを変えた。
 狙いは明らかにバイツ。
 タイヤの音を響かせてバイツに突っ込む車、バイツは真正面から叩き潰そうとした刹那、後部座席にいる三人を思い出し右腕を止めてしまう。
 鈍い音が路地裏に響く。
 それを聞いていたのは運転手とその周辺で寝泊まりしていた浮浪者達。
 バイツもそれは聞こえていた。だが、地面に叩き付けられるまでそれが自分の撥ねられた音だと理解できなかった。
 受身を取り損なって頭を打ったバイツは立つこともままならなかった。
「ボウズ!たいじょうぶか!?」
 バイツを呼んだのはさきほどコンビニで合った浮浪者だった。
「爺・・・さ・・・ん?どうして・・・」
「お前さん・・・もう僧衣組と揉め事を起こしとんのか?」
「僧衣組・・・?」
「ああ、連中の車じゃ。」
「・・・連中・・・の・・・事務所とか・・・分かるか・・・」
 覚束ない足取りで立ち上がるバイツ。
 視界は揺らぎ吐き気もする。
 しかし、彼は寝る事を許されなかった。自分自身の意思がそう決めていた。
「ここらには一つしか無いが・・・まさかお前さん・・・」
 バイツは頷いた。
 答えはもう決まっている。取り戻す、と。



「うう・・・」
 テスラが気づくと薄暗い電燈が灯った小さな部屋に閉じ込められていた。
 腕が動かないことに気がつくと自分の腕に目を落とす。両腕は背中に回され縛られていた。
「起きたのテスラ・・・?大丈夫?」
 近くにはルルが居た。そしてサーナイトも。
「だいじょうぶ・・・だよ・・・」
 頭がうまく回らない。体もうまく動かせない。

240名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:55:31 ID:G5t9Vey6
「申し訳ありません、力が使えたのなら今にでも・・・」
 そう語るサーナイトだったが、彼女の両手を繋ぐように楕円型の手錠がはめられていた。どうやらそれのせいで力が使えないらしい。
 幸いルルやテスラは何処にでもあるような麻縄で縛られていた。
「・・・これなら・・・はずせる・・・」
 テスラが電流を発しようとしたその瞬間、ルルが静かに口を開いた。
「駄目っ・・・!誰か来る・・・!」
 面倒な事は避けたいので捕まった振りをしていようと。そういう事だった。
 その部屋唯一の開口部でもあるドアが開いた。
「お、何だ、目ェ覚めてんのか。」
 男はぶっきらぼうに言うと三人の近くに屈み込んだ。
「もうちょいココで大人しくしてろよ、商品に余計な傷は付けたくねえんだ。」
「商品?一体何の話をしているの?」
 ルルがわざと声を高めにし聞き返す。
「うるせぇ、いいか?おとなしくしてりゃあ身の安全は保証してやる。今んとこはな。」
「あんたいったい誰?ここはどこ!?さっさと離しなさいよ!」
「大人しくしろ・・・つったよな?」
「嫌!離して無事に帰してくれるまで黙らない!」
「このクソガキ!」
 男が容赦なくルルの頬に平手打ちをする。
「キャアッ!」
 床の上に倒れるルル。男は更に手を出そうとルルに近づく。
 剥き出しになった暴力的な敵意を読み取ったサーナイト。
「ルル様!」
 咄嗟にその身をルルの上に覆い被せる。
 男の靴底がサーナイトに直撃する。
「うっ・・・!」
 何度も何度もその暴力を叩きつけて、一切力を抑えようとしなかった。
「・・・どいて・・・」
 男はその足を止めてテスラを睨みつけた。しかし、サーナイトもルルもテスラに視線を向けていた。
 三人が反応したのは声ではなく何かが焦げた臭い。
 気が付けばテスラは立ち上がっていた。両手の縄を電熱で焼き切って。
「テスラ!駄目!」
 ルルの叫びとテスラが掌を男に向ける動作。そして、男がボクシングのサウスポースタイルを取る動作はほぼ同時だった。
 青白い電撃は男の頭部に向けて放たれた。だが、電撃は男に当たらなかった。
 それよりも前に男は動いていた。テスラが掌を向けた途端何かを感じ取った男は人生最速で深く、低く、テスラの懐に潜り込んでいた。
 左拳がテスラの腹部に叩き込まれる。
「・・・!」
 声にならない激痛と共に油汗を流しその場に崩れ落ちるテスラ。
 それに負けず劣らずの冷や汗を流しながら男は振り向いた。
 電撃が直撃した部分の壁は崩れていた。
 電気エネルギーのみでこれほどの威力。奇襲気味な行動を選んで安心した反面まともに戦っていたかと思うと男はゾッとして、再度滝の様に冷や汗を流す。
「何を仕込んやがる・・・?」

241名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:56:33 ID:G5t9Vey6
 痛がっているテスラを無理矢理仰向けに寝かせて、服を破り捨てた。
「・・・っ・・・!」
 恥辱から顔を真っ赤にして体をくねらせるテスラ、ただ先程の一撃からは回復しきっておらずその行為も弱々しいものだった。
 下着も躊躇うことなく脱がす。
「一体何をするつもりですか!」
「ちょっと!何してんの!止めて!」
「やだぁ・・・おねがい・・・やめて・・・」
 泣きながらテスラは懇願したが男は裸にしたテスラを調べ回す。
 その行動には心の底から湧き続ける恐怖心という感情以外何もなかった。
 ついに男は眼帯に手を伸ばした。
「・・・だ・・・めぇ・・・」
「う・・・うるせぇ!お前は一体何なんだ!」
 眼帯に触れた途端部屋のドアが派手な音を立てて壊れた。
 そして男は更なる恐怖に駆られる事になる。
 ドアを壊して現れた人物に目を向けて更に喚いた。
「おい・・・何でだよ・・・何で撥ねたのに生きてんだよォ!」
 男の言葉はもう悲鳴に近かった。
 そこにはバイツが立っていたのである。
「バイツだ・・・よかったぁ・・・」
 テスラが泣きながらの笑顔をバイツに向けた。
 バイツも今のテスラの状況を見ていない訳ではなかったが微笑み返した。
「マスター・・・」
「バイツさん・・・」
 サーナイトとルルにも悲しそうな微笑みを向けたがサーナイトの体中の痣やルルの頬の痣を見逃さなかった。
「皆で・・・帰ろうな・・・」
 男に視線を向けると既に構えていて今にも攻撃を叩き込んできそうであった。
「来いよ・・・」
「うるせえ・・・」
「来いよ・・・手を出した事後悔させてやる!」
「うるせえってんだよ!このクソガキ!」
「黙ってさっさとかかって来い!・・・それともブルってんのか?」
 バイツの安い挑発に男が乗った。雄叫びと共に、深く、早く、鋭いステップから渾身の左のボディブローを放つ。
 空気が割れた音。
 ボディブローはバイツの体に届かず、更に最悪な事にバイツの右手に掴まってしまった。
「終わりだ・・・ボクサー崩れ。」
 バイツは男の腕を外側へ、それも曲げてはいけない角度へ曲げ、骨をへし折った。
 悲鳴。激痛と恐怖からの。
「手を出す相手間違ったな・・・おい・・・反省してすぐ楽になるか?」
 のたうち回る男の近くにしゃがみこむバイツ。
「バイツさん待って!もういいの!私達は大丈夫よ。ね?」
「そうです・・・この程度の怪我・・・大したことないです。」
「バイツ・・・もういい・・・きてくれただけでも・・・うれしい・・・」
「そう言ってもな、俺こいつらの車に撥ねられたし・・・それにもっと被害者がいるはずだ。そいつ等の分も兼ねて・・・」
「また殺すの?」

242名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:57:14 ID:G5t9Vey6
「ああ、まだ死んでいないからな。」
「お願い・・・もう・・・やめて・・・これ以上死に怯えている人や苦しんでいる人を見ていたくない・・・」
「・・・」
 ルルが涙を滲ませて訴える。
 咄嗟に口を開きかけたバイツは奥歯を噛み締めて言葉を飲み込んだ、そして代わりに男に向かってこう言った。
「歩ける内に失せろ・・・!」
 脱兎のごとく男は逃げた。そして、半死半生で転がっている仲間を見てまた悲鳴を上げた。
 無理矢理殺意を抑えているバイツにサーナイトは近づいた。
「あの・・・」
「何故、こんな事になっているかは聞きたくない・・・ただ、分かっているのはまたサーナイト達を酷い目に遭わせてしまった。それだけだ・・・」
「そんな・・・!私が・・・」
 バイツは見てしまっているから何も言えない。ルルを庇った為出来てしまった痛々しい痣を。
 それだけで彼は何も言えなくなり自分の腑甲斐無さに打ちひしがれた。
「バイツ・・・」
 駆け寄ろうとして必死に立ち上がろうとするテスラ。しかし、うまく脚に力が入らないため転んでしまう。
 もっとも、床に顔をぶつける前にバイツに間一髪で抱えられたのだが。
「おいおい・・・これ以上心配かけさせないでくれ。」
「・・・うん・・・」
 バイツはテスラを床の上に座らせると自分のシャツを脱いでテスラに着せた。
「少し臭うけど我慢してくれよ?」
「バイツの・・・におい・・・?」
「いや、返り血の臭い。」
 テスラはシャツを嗅いでみたが別段どうという臭いはしなかった。
「サーナイト、両手を出してくれ。そいつを壊す。」
「お願いします。どうしても外れなくて。」
「まあ、そんなに落ち込むな・・・よっと。」
 上下から嵌め込む型の手錠は難なく壊れ、燃えないゴミとなってしまった。
 それからルルに近づき縛っている縄を解く。
「・・・ありがとう。」
「気にするな、ルルだって大変な思いしたんだろ?」
「別に・・・私はただ、頬を打たれただけだし・・・」
 バイツは両手でルルの顔を近くまで寄せる。
「ここか?赤くなってるぞ?」
 急に顔と顔が近づいた所為かルルの顔に別の紅みがさす。
「っだ・・・大丈夫だから!さあ、帰ろ!ね!?」
 慌てて立ち上がるルル。そっぽを向いてバイツに紅潮した顔を見られない様にする。
 バイツも立ち上がるとテスラを背負う。
「・・・!」
 布一枚を隔てての身体の密着にテスラも顔を紅潮させた。
「はずかしいよぉ・・・」
「そんなこと言ったて満足に歩けないだろ、行くぞ。」
 数分後、警察や野次馬が事務所の周りを包囲したがバイツ達の姿を見た者は居なかった。

243名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:57:48 ID:G5t9Vey6

 男は逃げ続けていた。
 折られた腕の痛みからも逃げたかったがそれは叶わなかった。
 本部へ逃げようものなら責任を取らされるであろう立場にいる男は、ただ当てもなく逃げているだけだった。
 ふと、目の前に杖をついている老人がいることに気が付いた。
 口角を吊り上げ歯を見せて笑っている老人に。



 翌日、昼前になっても起きないサーナイト、ルル、テスラ。
 バイツは起きていたがソファーの真ん中で小さくなっていた。
「だから・・・マスターはあたし達と一緒に行動しちゃうほうがいいと思うの。」
「あら、バイツさんにはいつも手間の掛かるトレーナーを見てもらっているからそのお詫びとして私達と一緒に行動するのよ。」
 バイツチーム代表ミミロップとルルチーム代表コジョンドが先頭に立ち火花を散らしている。
 観光名所巡りにどちらがバイツを連れて行くかという事だった。誰が。ではないだけマシだとバイツは思っていた。
 珍しい事にクチートが大顎でエルフーンを威嚇している。エルフーンも負けじと綿毛を動かして威嚇の様な事をしている。
「ここは引いてくれないかねえ、サーナイトもまだ眠っているし、何かあったら心配だろう?」
「こちらの台詞だ貴様らの主に振り回されているマスターを私達が労いながらリラックスさせてやろうというのだ。何、土産ぐらいは買ってきてやる。」
 ゾロアークとアブソルは微かな殺気を相手側に放っている。
「落ち着こうよ皆!兎に角バイツさんは私達と・・・」
「いつ決まったん?そないな事。」
 熱く抗議するタブンネに冷静に受け流すユキメノコ。
「もう・・・あなた達既にマスターの事疲れさせてどうするの?」
「そうですよ!あなた達が引かなければバイツさんは全員を連れて行くと言いかねません!」
 ムウマージ、ドレディア共に少しはバイツの事も気にかけている様子。
「じゃあ皆で・・・」
「え?」
 バイツの意見は全員の殺意の篭った一言と眼光によってかき消された。
 その時遠くで、爆発音が鳴り響いた。
「!?」
 歓楽街の方で煙が上がっていた。
 バイツは備え付けのテレビを付ける。
『・・・でして・・・速報が入ってきました!爆発した建物の中には広域指定暴力団の組員が・・・あれは!今跳び去ったものは・・・!人でもない!ポケモンでもない!あれは・・・!』
 テレビを消したバイツ。と同時に寝坊三人娘が起きてきた。
「あれは・・・今のはワルイーノ!どうして・・・」
 突然、バンガローのドアからの甲高いノック音。バイツは急いでドアに近づく。
「誰だ!」
「ワシじゃ!情報屋の・・・」
 バイツはドアを開けた。そこにいたのは浮浪者。バイツに外に出るように促す。
「いいか、手短に話すぞ、昨日の晩に僧衣組の事務所を誰かが襲ったらしい。そいつを他の二つの組がやったと勘違いして僧衣組が残りの人数かき集めて手当たり次第に戦争しかけとる。」
「止めるにはどうすればいい。」

244名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:58:34 ID:G5t9Vey6
「じきに収まる、脱組と日組が手を組んだ。僧衣組も長くはもたんだろうて。」
「何が長くもたねえって?爺さん!」
 浮浪者の上から声が聞こえた。
 そして上に降って来た。
 大きな、バイツよりも三回り程大きな黒い人型のそれはバイツを見下してにやりと笑った。
 腹部を潰された浮浪者は穴という穴から眼球やら肉やらが飛び出て、絶命していた。
「左腕の借り・・・返させてもらうぜ!」
「大きなワルイーノだ・・・だが、お前の相手はまず俺じゃない気がする。」
 バイツが首を曲げるとその横スレスレをメイデンナイトに変身したルルの跳び蹴りがワルイーノの顔面に叩き込まれた。
「んー残念。軽いなあ・・・」
「だったら!」
 そのそのまま両足で蹴りの連打。
「ぐ・・・む・・・」
 ワルイーノは一歩引いたがまだ効果は薄かった。
「ちまちましやがって!」
 右手で薙ぐとルルを近くの砂浜までふっとばし、バンガローの入り口付近を壊した。
「あのジジイの言ったとおりだ、何故かあの小娘を殺したくなってきた。」
 その巨躯からは想像出来ない速さと高さで飛び上がりルルを追っていった。
「こほっ・・・こほっ・・・大丈夫ですか!マスター!」
 埃と木片で視界が一時的に悪くなる。
「ああ、そっちは?」
「何とか・・・」
 バイツは足元の死体に火をつけて一瞬で灰にした。こんな物を見つけてしまっては心の傷にならないとも言い切れない。
「粉塵爆破起こらないで良かった・・・」
 安心している暇など無い事はバイツも分かっていた。
 砂浜に降りるとルルの方へ駆け出した。
 そしてサーナイト達も。
「おいおい・・・相当やばいって事分かってるよな?」
「当然です。それに私一つだけ試したい事が・・・」
「・・・援護が必要なら俺に言えよ?」
「我侭を聞いてくださってありがとうございます。」
 ルルに近づくと激戦の真っ只中という事が見て取れた。
「皆!下がってて!コイツ!ただのワルイーノじゃない!」
 現状は少しルルに分が悪かった。
「では少々卑怯ですが数で圧倒しましょう!」
 サーナイトがサイコパワーで妙な空間を展開した。
「サーナイト、何を・・・!?」
「今なら皆様の攻撃も効果が有る筈です!」
 その言葉を聞いたアブソルとゾロアークがワルイーノの左右から同時に襲い掛かる。
 鎌が切り裂き、爪が抉る。
「ぐおっ・・・!馬鹿な・・・ポケモンの攻撃も効かないと聞いていたのに・・・」
 ワルイーノは不意を突かれたのか次々と襲い来る連続攻撃をその身に受ける。
「すごいな・・・」
「私はサイコパワーを展開し続けなければなりませんから動けなくなりますけどね。」
「軽々しく言ってくれるな・・・まあ流れはこっちに・・・」

245名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:59:14 ID:G5t9Vey6
 ふと、視界の片隅に一人の老人が映った。
 途端にバイツの脳内で警鐘が鳴り始める。
 老人が何かを放った。
 確認できたのは一筋の光。
 サーナイトの顔に血が付く。
 バイツはサーナイトに声を掛けようと体を動かした。
 しかし、バランスを崩して倒れてしまう。
 起き上がろうとしても右腕が動いていない。
 バイツは右腕に目をやった。
 無い。
 肩から先が無い。
 流れ出る血が砂に染み込んでいく。
 いまだ血を流している右腕は老人が持っていた。
「い・・・や・・・嫌あぁぁぁ!」
 サーナイトの叫びでバイツは理解した、右腕が切り落とされたんだ。と。
 サイコパワーが途切れ、ワルイーノは周りを薙ぎ払い戦闘に加担している全員を吹っ飛ばした。
「全く・・・おせえよ爺さん。」
「無礼な奴じゃ・・・そういえば名乗っていなかったの、儂の名前はアクマルス。」
「アク・・・マルス・・・?」
 ルルが立ち上がって相手の姿を見定める。杖を手にしていない方の手には紅い腕を持っていた。
「マスター!返事をしてください!マスター!」
 サーナイトの悲鳴に近い叫び声。
 ポケモン達がバイツの周りに集まっている為バイツの姿は見えなかったが夥しい出血は確認できた。
「そん・・・な・・・」
「いい土産が出来た・・・あとは頼んだぞ。」
 アクマルスは次元を捻じ曲げて出現させた穴に入って姿を消してしまった。
「ルル!バイツさんが!バイツさんが・・・!」
 ドレディアの今にも泣き出しそうな声。
 ルルとテスラはバイツを病院に運ぼうと駆け出した。
 だが、ワルイーノが二人の上を跳び越して立ち塞がる。
「通さねえよ!」
「そこを退いて!」
「どいて・・・!」
 最初からその気は無く、巨体から繰り出される攻撃は止まる所を知らなかった。
「この・・・!」
 ルルが光の力を繰り出そうとし、テスラが眼帯を外してフルパワーの電流を叩き込もうとした瞬間、黒い手がワルイーノの顔面を鷲掴みにした。



 バイツの出血は酷くなる一方だった。
 呼吸は浅く早く、顔の色は白くなっていく。
「血が・・・血が止まらない!」
 コジョンドが両腕の体毛を絡めて止血を試みるが効果は無かった。
「なあ・・・」

246名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 19:59:47 ID:G5t9Vey6
 バイツが息も絶え絶えに口を開く。
「駄目です!マスター!しゃべらないでください・・・!」
 だが、次の言葉は意外なものだった。
「あのデカブツが見える様に少し退けてくれないか・・・」
 その言葉に彼女達は素直に従った。コジョンドも両腕の体毛を解いた。
「力を使わせてもらうぞ・・・アクマーン・・・」
 その途端に黒い何かが右腕を構築し始めた。
 サーナイト達は唖然としバイツの復活を見守っていた。
 完全に黒い何かが右腕の形になった途端、バイツは黒い右腕をワルイーノの顔面目掛けて伸ばした。



「え・・・?」
 ルルは絶句した。
 黒い右腕が目の前のワルイーノを引き寄せたかと思うと、吹っ飛ばして海へと落とした。
 ましてやその黒い右腕の持ち主はバイツだった事もあり何も言えなかった。
 バイツの息は荒かったが顔の色は少なくとも元に戻っていた。
「何だよ・・・!何だよその腕!」
 海から上がってきたワルイーノ。バイツはまじまじと自分の腕を見つめている。
「思いっきりやったつもりだがな・・・元の腕より出力は落ちるか。」
「まるで俺と同じじゃねえか!何なんだよお前!」
 刹那、バイツの右腕から放たれた鋭い触手の一撃がワルイーノの胸を貫いた。
 バイツが右腕を戻すと、その場に崩れ落ちるワルイーノ。
「お前と同じだよ・・・って言えば答えになるか?」
 黒い液体が流れていき男の事切れた体が露になった。
 途端にバイツも膝を付いてしまう。
「慣れないものだな・・・新しい力ってのは・・・」
「何・・・何よそれ・・・」
 荒い呼吸のバイツの真ん前にはルルが立っていた。バイツの黒い右腕を見ながら声を震わせている。
「説明して・・・お願い・・・本当の事を言って!」
「アクマーンが俺の体を乗っ取ろうとした際の貰い物だ。」
「そうなの・・・?じゃあ、バイツさんもワルイーノになったの・・・?」
「さあな・・・こんな腕じゃどう言われても仕方ない。だが・・・」
 バイツは立ち上がった。
「俺は俺だ・・・それ以外に何もない。どうする?右腕ごと俺を消すか?」
 不敵な笑みをバイツは浮かべていた。それは彼なりの覚悟だった。
「じゃあ、一つだけいいかな。紅い方の右腕はどうするの?」
「・・・俺一人でも奪い返すさ。」
「うん、やっぱりバイツさんだ。一人で突っ走っていくところが特にね。」
「何が言いたい?」
「バイツさんはバイツさんのままだったって事。一瞬でも変な疑いを持った私が馬鹿だった。」
 それに、とルルは付け加えた。
「皆が必死に護ってくれてるじゃない。」
 バイツ以外は全員ホッとした様子でその場にへたり込んでいた。
「ああ・・・そうだな。」
 街の方でも争いが収まったらしく、海辺は静けさを取り戻していた。



 アクリルとアクシェンはその光景に目を奪われた。
 アクマルスが笑みを浮かべながら机の上に乗せた土産。
 紛れもなくそれはバイツの紅い右腕だった。
「さて?誰に取り付けようかの?」

247名無しのトレーナー:2012/08/29(水) 20:02:36 ID:G5t9Vey6
16章これで終わりっすよね
ピクシブに一章リメイク投下すっかなーどーすっかなー俺もなー(迷い)

248名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:48:44 ID:jak/zjTM
小説を投下しようかな?
でも何で続きが一ヶ月で出来たのか自分に聞きたいです

249名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:49:17 ID:jak/zjTM
 雨の降る中、男は柩の前に立っていた。
 少年も柩の前に立っていた。
 少年の周りにいた人々は泣いていた。
 男の周りにいた人々は直立不動の形で敬礼していた。
 男が少年に近づく。
「辛いか。」
 男がかがみこんで聞く。
「辛くないよ。父さんは最後まで戦った。そうだよね?」
「ああ、そうだ坊や。」
 男は少年から目を背け無かった。
「手を出してくれないか。」
 言うとおりに少年は手を出す。
 男は少年に何かを渡して握らせる。
「君のお父さんが立派に戦った証だ。」
 少年が手を開くとそこにあったのは勲章だった。
 少年は涙をこらえた。
 そして、敬礼する男と共に土の下に沈んでいく柩を見送った。



 それから二十年後。
 長いトンネル抜けた列車の中で居眠りをしている少年がいた。
「・・・ん・・・さん・・・バイツさん!」
 揺り動かされてバイツは目を覚ました。
 目の前には茶色い髪の少女がいた。
「どうした?ルル、もう着いたのか?」
「違うわよ。どうしてピリピリしている空気の中で眠れる訳?」
「そこ!何をしている!大人しくしていろ!」
 と、銃を持った男が叫んだ。
 バイツは寝ぼけ眼で膝で眠っている銀髪の少女にも目を向ける。
「・・・テスラ、ルルが起きろだと。」
「・・・ねむいよぉ・・・」
 一旦起きたテスラ。しかし、一言発した後でまた眠ってしまった。
「一体何をしているんだ。静かにしろ。」
 別の銃を持った男が静かに宥めに来たのでバイツも再度頬杖をかいて眠ってしまう。
 強盗団に占拠された長距離鈍行列車の中での出来事であるにも関わらず普段通りの二人である。
 ひと暴れしようと思えばバイツやテスラはできるのだがルルが死傷者を出したくないと言った為に暴力行為は一旦お預けである。
「クソッ!ガンヴォーの野郎!後続車両から全然出てきやがらねえ!」
 後部車両からやってきた強盗団の一人が喚いた。
「・・・ねえねえ、バイツさん。ガンヴォーって人知ってる?」
「んー・・・」
 バイツが半分起きる。
「・・・財界人だよ・・・善人面している豚だが黒い噂の絶えない・・・」
 そして、目を瞑る。

250名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:49:59 ID:jak/zjTM
 その途端に最悪な一言が乗客の耳に入る。
「見せしめに一人づつ殺してくか!」
 たちどころに悲鳴が上がるが一発の威嚇射撃で静かになる。
「静かにしろ!ったく・・・」
 そして男が歩き始める。
 死神の足音にも等しい足音が静寂の中響き渡る。
 足音が鳴り止んだ時、最も近くに居たのはバイツだった。
「眠ったまま死ねるたァ運のいい奴だ。」
 ライフルの銃口がバイツの脳天に向けられる。
「止めて!その人は・・・」
 ルルは止めようとしたが些か遅かった。
「そいつを向けるって事は死んでも文句無いって事だよな?」
 そう言い放つや否や右腕を瞬時に振り抜くバイツ。
 ライフルは複数個の輪切りにされたガラクタになり、男は何が起きたのか理解ができなかった。
 そして、その車両にいた強盗団の残りは腕と脚に切り傷を負い一瞬で戦意を奪われた。その際バイツの右手の指先はナイフの様な形をした黒く鋭い爪になっていた。行動が終わると瞬時に戻したのでそれを知っているのは当人だけだったが。
「さぁて、まずは運転室の奪還と洒落込むか?」
 バイツ達の乗っている車両が先頭車両という事も幸いしてかバイツは運転室へ。
 四、五秒で事を済ませた後、再度先頭車両に戻ってくる。
「少し残りの連中片付けてくる。テスラを頼む。」
「バイツさん、くれぐれも・・・」
「分かってるよ。」
 そう言って後部車両へと移っていくバイツ。途中でこそりと呟いた。
「苦しまず潰せばいいんだろう?」



 それから次々と強盗団に悲鳴を上げさせながら進んでいくバイツ。
 途中から構造が違う車両に足を踏み入れる。
「ふーん・・・」
 特別車両か。と察したバイツ。しかし、速度を変える事無く歩みを進めていく。
 妙な事に連中とは全く出くわさなかった。
 短い曲がり角に差し掛かった際、気配を感じた。
 向こうもバイツを察したのか消音器付きの拳銃をバイツの頭に向けて身を晒した。
「誰だ?」
 男はそう言ってすぐにはバイツを撃たなかった。また、バイツも男をすぐには襲わなかった。
 男はスーツを着ており、バイツは素手。
 どちらも強盗団とは違う装備だった。
「誰だって・・・連中に喧嘩売られたから片っ端から倒しながら突き進んできた一般人で・・・」
「お前が?随分と度胸があるもんだ、世の中不思議な奴が多々いるからな。」
 そう言うと、男は拳銃を内ポケットにしまった。
「おい!ジャグ!虫ケラどもは始末したのか!?」
 肥満体型の男が足音を荒立てて歩いてきた。
「はい、ここから前の車両はこの少年が・・・」
「生きているのか!?」

251名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:50:39 ID:jak/zjTM
 まあ。とバイツが答えると肥満体型の男はジャグと呼ばれた男と他の数名の男に荒々しく命令を下した。
「だったらさっさと回収してこい!次の駅に着くまでにたっぷりと地獄を見せてやる。」
「分かりましたガンヴォーさん。」
 ジャグと男数人は小走りで前の車両へ向かった。
「お前、どうやって連中を大人しくさせた?」
「企業秘密です。どんな状態になっていても口外しないで下さいよ。」
 バイツが半ば棒読み気味に口にする。
「分かってる。連中を無力化させたなら何も言わん。」
 その頃、ジャグ達はバイツが強盗団に対し負わせた不可解な切り傷を調べている所だった。



 それから程なくして駅に着くと待機していた大人数の警官が乗客を外に避難させ始めた。
「さてと、面倒事に巻き込まれない内にお暇しますか。」
 幸い警官もガンヴォーに目が行っている為に駅から逃げ出すのは簡単だった。
「何で逃げる必要があるの?」
 と、途中で寄ったレストランで全員をボールから出した後にルルに言われたバイツ。
「そうですよ、聞く限りではマスターは他の方々を助けたのですからもう少し堂々としても宜しいかと。」
 サーナイトもルルに賛同する。
「あー・・・俺は連中に対して切り傷を負わせたんだぞ?そこの所を突かれたら何て答えればいい?」
「んー・・・アブソルとゾロアークが頑張った?」
 ルルの答えに名指しされた二人は溜息を吐いた。
「あのねえルル?聞く限りじゃあポケモンは全員ボールにしまう様に言われていたらしいじゃないか。」
「それに、だ。マスターだけが大暴れしている所を他の乗客が見ている。ほぼ全員がな。」
 簡単に論破されて何も言えなくなったルル。
「じゃあさ・・・」
「諦めてくださいルル。もう過ぎたことじゃないですか。」
 ドレディアにも溜息を吐かれる始末。
 ふと、バイツは店内の天井角に設置されたテレビに目を移したバイツ。
 テレビでは列車強盗の臨時ニュースを流していた。
 ガンヴォーが愛想笑いを浮かべながら記者の質問に嬉々として答えていた。
『ええ、怪我もありませんし乗客の皆様に大事もなかった様で何よりです。』
「ここに来てまで豚の面は見たくないな。」
 バイツはガンヴォーという人物を大層気に入らない様子だった。
「マスターはあの人のどこが気に入らないのかしら?」
 ムウマージの質問にバイツは即答した。
「顔、二枚舌。」
「でもさ、マスターがそんなに言うのって珍しいよね。」
 クチートが口を挟む。
「そうか?」
「うん。」
「そうだね。見た事ないよ。」
 タブンネも同意するので、そうかな。と考えてしまうバイツ。
 兎に角、ガンヴォーという男をバイツは気に入らなかった。

252名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:51:30 ID:jak/zjTM



 旅の途中で寄ったこの町に宿を取ることにした一行はモーテルの一室を借りた。
 しかし、意外な客人がその部屋を訪ねた。
 最初にその客人と対応したのはルルだった。
 誰かがドアをノックしていた。
「はーい。」
 返事をしたルルがドアを開けると、そこには上下黒のスーツを身にまとった男がいた。
「あのー・・・?」
「バイツという奴は居るか?」
 ルルは警戒心からか一瞬口を噤んだ。しかし、名指しされた当人がルルの隣から出てくる。
「・・・あんたは、たしかガンヴォーとかいう奴の・・・」
「そう、ガンヴォーさんのボディガードだ。名前はジャグ。」
「何用で?」
「お前、ボディガードになる気はないか?」
 そういう申し出だとバイツは薄々感じてはいた。それにガンヴォーとやらの権力を使えば何処に誰がいるか分かるだろうとも思っていた。
「お断りさせていただきます。」
 バイツは即答する。
「・・・やはりな、頼むだけ無駄か。ガンヴォーさんはお前の事を大層お気に入りなんだが。」
「申し訳ないが続けなきゃいけない旅があるので・・・」
「大事な事か?」
 ボディガードになるか聞くよりも強くその一言を言い放った。
「ああ、名誉でも矜持でも無い・・・家族の為に・・・だ。」
「・・・名誉。」
 ジャグはそれだけつぶやくと背を向けた。
「答えは変わらないんだな?」
「それにガンヴォーって奴は正直虫が好かない。」
「・・・そうだろうな。邪魔をした、失礼する。」
 バイツの言葉を肯定し、そのままジャグは歩き去っていった。
「何なの?あの人。」
「そういえば話してなかったな。」
 列車内での一部始終を聞いたルル。
「ふーん、でもね私気になる事があるの。」
「生殺与奪についての講義は御免被る。」
「違うって、ガンヴォーさんって人この町に何をしに来たのかなって。」
 他人に関心を持っていい方向に進んだためしがなかったバイツは首を横に振ってみせた。



 部屋の中に悲鳴が響き渡った。
 悲鳴を上げた男の体を紅が侵食していく。
 そして、身体の所々が不規則に肥大化していく。
 男の体に繋がれたコードからは上下の振幅が激しいデータが届いた。
 肥大化を重ねた男は人の形を失った。

253名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:52:03 ID:jak/zjTM
 文字通りの肉塊となり、機械は何の反応も示さなくなった。
「何人目だ?」
 と、その光景を微動だにせずに見続けているアクマルス。
 白衣の男がカルテに印を付けながら口を開く。
「十五人目です。」
「どれも似たり寄ったりの結果だったのう?」
「ええ、元の持ち主と同じ血液型、身長、体重その他諸々の条件を近い被験者で行っていますが・・・アレにはまだ何かが隠されているようです。」
「・・・ふむう。」
 アクマルスは考えた。
 その途端に肉塊から紅い腕がボトリと剥離したかの様に綺麗に落ちた。



「んー!本当になんにも無い町!」
 ルルはそう言いつつベッドに倒れ込んだ。
「たまには休む事に重点を当ててみたらどうです?」
 ドレディアはそう言いながらルルの隣に座った。
「ふーん・・・休む事かあ・・・」
「ええことではおまへんどすか、マスターと一緒ならもっとええけど。」
 ユキメノコの言葉を聞いた途端に突然ルルが上半身を起き上がらせる。
「バイツさんは?」
「マスターはサナサナと一緒に外に行っちゃったよ。」
「しまった!先を越されたぁ!」
 ミミロップの言葉にルルは慌てて部屋を出ていく。
「なにをこされたの・・・?」
 ポツリとテスラが呟いた。
「全く、マスターは電話掛けに行くだけだから一人でいいって言ってたのにサナサナが頑としてついて行っちゃうんだもん。」
「貴女、もう少しそれを早く言った方がよかったんじゃないかしら?」
「あらら?」
 コジョンドに言われてミミロップもそれに気づく。
「・・・電話って誰に?」
 ムウマージが首を傾げる。
 すると足元でエルフーンがムウマージ達を見上げて口を開いた。
「じょーほーやさん!」
 情報屋。なぜか思い当たる節が一つしかなかった面々であった。



『やあバイツ、元気にしていたかい?』
 携帯電話からライキの声が聞こえた。
「ああ、右腕取られたがまあまあ元気だ。」
『ハハ・・・下手なジョーク・・・』
「悪いが本当だ。今は黒い連中の腕奪って代わりにしてる。っと今回の用件なんだが調べて欲しい事があって・・・」
『・・・話は逸れるけど。バイツ、君は今回の件に首を突っ込むべきじゃなかった・・・個人的にそう思っている。』

254名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:52:36 ID:jak/zjTM
「そう思うか?」
『思うね、まずあのお嬢さんが死というものを受け入れない限り・・・人類に勝ち目はない。』
「容赦はしてない様に見えるが?」
『君の言っているのは黒い生物相手だろう?人の死が絡むと・・・弱くなる。』
「・・・否定はしない。」
『そして周りが傷つく羽目になる。いつかは誰かが代わりに命を落とす。』
「そうならない為に俺が居る、それに右腕の件は俺の油断だった。」
『分かった、でも親友として忠告するよ。躊躇いは命取りになる。』
「分かってる・・・で、その親友様に頼み事なんだが・・・」
『人生相談じゃないの?』
「お前に相談する位だったら溜め込んで死んだ方がマシな気がする・・・でだな。ガンヴォーについて調べて欲しい。」
『あー、少し前に警察から同じ協力要請が来たよ。そっちは急ぎらしいからその後でいい?』
「ああ、情報をくれるだけでも助かる。じゃあな。」
 バイツは溜息を吐くと携帯電話をしまった。
「ずいぶんと心配してくださっていますね。マスターの事を。」
「手駒が足りなくなるのが嫌なんだろうな。」
 サーナイトの感想に照れ隠しのつもりでバイツは答えた。
「でも、私も心配です。」
 サーナイトは両手でバイツの右手を包んだ。
「目の前であんな事になっても私は何も出来ませんでした。心配するだけしか・・・」
 落ち込むサーナイトにバイツは言葉を掛けた。
「俺がここに居るのはお前にそんな顔をさせるためじゃない。」
「ごめんなさい、でも私は・・・」
 言葉を続ける事のできないサーナイト。声にできない互の思いを表そうと二人が顔を近づけた途端にルルが全速力で走ってきた。
「きっ・・・奇遇ね二人共。何してたの?散歩?」
 息を切らしながら口を開く。
「いや、電話だよ。ガンヴォーの動きを探ってもらおうと思ってな。」
「ふーん・・・ねえねえまだ日は高いし三人で散歩でもしない?」
「いいですね。歩いている内に気分も晴れると思いますよ。」
「そうだな、そうするか。」



 それから少し歩いている内に町外れに出てしまう。
 木々の生い茂る町外れを見渡したバイツは言った。
「町に戻ろう。これ以上行った所で何も・・・」
 と、言いかけた所でバイツは言葉を止めた。
 近くの建物の中から大声が聞こえてきたのだった。
「喧嘩かな?」
「おい、ルル止しておけ。」
 バイツの静止を聞かずにルルは建物の入口近くでその声に耳を傾けた。
「これ以上の厄介ご・・・」
 バイツがルルに近づくと声が鮮明に聞こえてきた。
「・・・頼むジャグ!この土地だけは奪わないでくれ!」

255名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:54:08 ID:jak/zjTM
「ガンヴォーさんはお前の言う事を聞き随分と待った。今度はお前がこちらの言う事を聞く番だ!」
「この子達は・・・この子達はどうなるんだ!今更野生には戻せない!」
「関係のない話だ。土地を返してもらうぞ。」
 バイツは眉をしかめてその建物に入った。
 中にはジャグともう一人土下座をしている青年がいた。
「邪魔したか?」
「ふん・・・お前か、今は仕事中だ。どちらにせよ用があるなら後にしてくれ。」
「用ならあるさ、ここから失せろ。」
 行き成り喧嘩腰になるバイツ。
「・・・ふん。」
 対して薄ら笑いを浮かべるジャグ。
「俺がガンヴォーさんの用事でここに居る事が気に食わないようだな。」
「・・・」
 バイツは何も言わない。
「・・・次に会う時は最後の話し合いだ、ギャズ。」
 それだけ言うと、ジャグは建物から出て行った。
 土下座をしていた男、ギャズは頭を上げてバイツを見上げた。



「どうも、ギャズといいます。」
 青年は三人に自己紹介をした。
「バイツだ。」
「私はルルです。」
「私はサーナイトと申します。」
 バイツ達も自己紹介を返す。
「えっと・・・ここはどういう所ですか?」
 ルルがおずおずと尋ねる。バイツが先陣切って入ってきた所を後から付いてきただけだった。
「ここは人間達が捨てていったポケモン達を保護する所で・・・どうしても野生に馴染めなかったりするポケモンを保護しています。」
「さっきの男・・・ジャグとは互いに顔見知りか?」
 バイツはギャズに鋭い視線を送る。
「幼馴染です。何をどうしてなのかあいつはあんな・・・」
 ギャズは俯いた。バイツはそれを横目に溜息を吐く事しかできなかった。
 その様子を見かねてかルルが声を上げた。
「ねえねえ!いいこと思いついた!もし迷惑じゃなかったら明日皆で遊びに来ない?」
「しかし、それではあなた方に迷惑が・・・」
「私達は別に構いません!それにウチの子達もたまには他のポケモンとの交流を深めたいと思っているし。」
「そうですね、もしご迷惑でなければ皆様もきっと喜びますよ。」
 サーナイトは真っ先に賛成した様子。
 そして、バイツは少し声を落として言った。
「明日、ジャグの事も聞かせてもらう・・・奴を豚の使いっぱしりから引きずり出す手も見つかるかもしれない。」

256名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:56:00 ID:jak/zjTM
 ジャグは大通りを歩いているはずだった。
 気づいた時には何故か路地裏にいた。
「・・・誰だ。」
 意図的に人目につかない路地裏に呼び寄せた誰かに声を掛けた。
「ここだよ・・・?」
 徐々に影が人の形になっていく、いや、影よりも黒い何かを纏った生物がそこにいた。
 不思議と恐怖心は無かった。
「驚いてはいないね?でも君はとてつもなく迷っている。」
「・・・っ!だからどうしたと言うのだ!」
 本心を突かれたのか自然と声が大きくなる。
「力を貸してあげよう。何、心配はしなくていい。」
 影が覆い被さった。
 次の瞬間、ジャグが気づいた時には大通りに戻って歩いていた。
「迷っている・・・か・・・」



 翌日、バイツ達は全員でギャズの下を訪れた。
 ギャズのポケモン達は最初は警戒していたが直ぐに慣れてすっかり意気投合し遊んでいた。
 バイツとギャズはそれを受付でもある建物の中で眺めながら話し合いをしていた。
「僕はできる事ならずっとこの光景を見ていたい。皆が楽しそうにしているこの光景を。」
「・・・ガンヴォーさえどうにかできれば、と思うが。」
 バイツの言葉にギャズは苦々しく頷いた。
「元々はガンヴォー・・・さんの土地でした。月々の賃貸料もここを運営する際の補助金でどうにかなる額でした・・・しかし最近は立ち退きを強要し始めて・・・」
 その時、バイツの携帯電話が鳴った。
「失礼・・・もしもし・・・ああ・・・いま取り込み中でな・・・そう・・・分かった事・・・主に土地関連がいい。」
 電話の相手はライキだった。
「・・・そうか。後でもっと詳しく。ああ、悪いな。」
 バイツは電話を切ると、一つの話を持ち出した。
「なあギャズさん、希少金属(レアメタル)って知っているか。」
「そう言う物が存在する、位な事しか・・・」
「俺の友人に情報屋がいてな、ガンヴォーはどうやら希少金属の発掘にまで手を出し始めたらしい。」
「それで・・・?」
 バイツは大きく溜息を吐いた。それが何を意味するかは分からない。
「どうやらここら一帯で希少金属が採れる事が分かったらしいんだ。」
「じゃあ・・・僕達はその為に出て行けと・・・?」
「運が悪ければ炭鉱労働に向いていそうなポケモンを取られるというおまけ付きでな。」
「そんな・・・」
「ガンヴォーの話はここで御終いにしよう。俺が聞きたいのはジャグの事だ。」
「僕とあいつは幼馴染なんです。」
「どうしてジャグみたいな男がガンヴォーのボディガードなんか・・・」
「それは・・・彼の父親が軍人だったからです。」
「軍人?だったらなおさら・・・」
「ええ、あの男のボディーガードなんて反対したでしょう・・・生きていれば。」

257名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:56:49 ID:jak/zjTM
「そうか・・・」
「何でも海外の戦地で父親の命の代わりに重要な作戦が成功したようで・・・葬儀の様子はよく覚えています。」
 あの時、ギャズは泣いている母親に寄り添いずっとジャグの事を見ていた。
「あいつは・・・泣きもしませんでした。ただ・・・柩をじっと見ていて・・・それから何かを手渡された気がしました。」
「勲章か何かか・・・?」
「でしょうね、それからあいつは父親の様に名誉や誇りを持って戦うと・・・口癖の様に・・・」
「それが今のザマか・・・どこかで間違ったのか。」
「きっと本人もそれは薄々気づいているはずです・・・今の自分と父親を照らし合わせる事など多分できないでしょうから。」
「名誉と誇り・・・か。ボディガードでも得られそうなものだが・・・護る相手がな。」
 そこまで口にした途端に数人の男が建物の中になだれ込んできた。
「おう!オメエがギャズって野郎か。」
「ええ、そうですが。」
 その瞬間男は木刀を振り上げギャズに振り下ろした。
 だが、一撃はギャズに届かずにバイツの右手で止められていた。
「ンだ?コラ?テメェここの用心棒か何かか?」
「ガンヴォー」
 バイツの放ったその一言に男達は一瞬身を竦めた。
「ボディーガードじゃないな?二文三束で雇われたチンピラ・・・そんな所か。」
「見せしめだ!コイツからやっちまえ!」
 言葉も手を出すのも男が先だったが攻撃が届いたのはバイツの方が先だった。
 バイツが右手を振るうと男が三人一気に倒れた。厳密に言えば一人殴って吹っ飛びそれが後ろにいた二人に当たったという単純な事だった。
「さっさと失せろ。」
 と言いつつバイツは建物内を掃除した後、外に待機していた数名を蹴り上げ、腕を捻り上げてへし折り、裏拳を叩きつけたり、挙句の果てにはパワーボムと多種多様な方法で相手を追い払う。
 仲間に抱えられてその場を後にする奴が半分、抱えて後にする奴が半分と、綺麗に片付けたバイツ。
「一体君は何をする気なんだ。」
「分からない。だが、ガンヴォーが気に入らない。そんな身勝手な理由さ。」
 そう言うと、携帯電話を取り出しライキに電話を掛けた。



 町の中では一番の高級ホテル。その最上階の一室。
「チンピラを送った・・・ですって?」
 ガンヴォーの言葉にジャグは絶句した。
「もう十分すぎるほど機会を与えてやったはず。これ以上待つ必要もない筈だ。」
「しかし・・・」
「何だ?文句でもあるのか?それともお前幼馴染が居るという理由であの土地を諦めるべきだとでも?俺に向かって?」
「・・・」
「もう失せろ。後は追って指示する。」
 言い捨てる形のガンヴォーにジャグは奥歯を噛み締めた。
『迷いは晴れたかい?晴れないだろうね。』
 突然頭の中に響く声。それは路地裏で出会ったアレの声。
『そろそろ答えを出したらどうだい?』

258名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:57:37 ID:jak/zjTM
 次の一言はジャグにとっての引き金となった。
『・・・父親の様に!』
 その途端にジャグの何かが壊れた。
 視界が黒に染まっていく。
 真っ黒な世界に。
 ジャグの意識が途切れる刹那、悲鳴が聞こえたような気がした。



 それから、十数分後の事だった。
 バイツは携帯電話を片手に高級ホテルの最上階を目指すエレベーターに乗っていた。
『ハハハ、君って最高だよ。動いて欲しい時にいつも動いてくれる。』
「セキュリティシステムには入り込めたのか?警察も相手にするのは面倒だぞ?」
『心配ないよ、後は勝手にやってくれる。そのあいだの暇つぶしさ。』
「気楽な野郎だ。」
 その時、最上階に着いたことをエレベーターが知らせた。
「じゃあな、一旦切るぞ。」
『待って、監視カメラの映像を傍受したけど・・・様子がおかしい・・・見張りが一人もいない・・・バイツ!奥の部屋だ!』
 ドアが開くと同時に駆け出すバイツ。廊下を突っ切り一番奥の部屋に向かう。
 一番奥の部屋の前には血溜りが出来ていた。
 人間が数人死んでいた。
「ホテルのセキュリティー?」
 胸部に空いている大穴だけを横目にバイツは部屋へと踏み出した。
『・・・バイツ?あー監視カメラの故障じゃなきゃいいんだけどさ・・・』
「辺り一面血の海だ、内装にしては最高に悪趣味だな。」
 カーペットに染み込んだ血の上にズタズタになった肉片が転がっていた。
『それって・・・』
「ああ、ガンヴォーだ。随分と痩せたな。」
 大口径の拳銃で所々を打ち抜かれたかの様にボロボロの遺体。
 その顔は当然といえば当然の様に恐怖で引きつったまま固まっていた。
 ふと、足元に血に濡れながらも光り続ける何かを見つけた。
「何だ?勲章?」
 バイツは屈んでそれを拾う。
 ガンヴォーが人に渡すにはあまりにも高潔すぎるもの。
「ジャグのか・・・?」
 周りを見渡してもそれらしき死体はない。
『あのさ、そろそろ警官が来るけど・・・君は動かないほうがいい。』
「なっ・・・?」
 聞き違いかと思った途端に警察が突入しバイツを取り囲んだ。
「くそっ・・・一旦切るぞ。」
『お達者で。』
「こういう縁もこれっきりにしたいもんだな。」
 ライキとの通話を切った途端にバイツを囲む警官の後ろから声が聞こえた。
 声の主、モウキが警官を押しのけて歩いてくる。

259名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:58:19 ID:jak/zjTM
「この惨状・・・お前か?」
「俺だったらもっと手際よくやっているけどな。」
「それでも今回は目をつぶることができねえぞ。」
 



 警察署の取調室に入ったのはこれが初めてだった。
 息の詰まりそうな部屋の中に押し込められ、バイツは溜息を吐く他になかった。
 モウキが眉間に皺を寄せながら取調室に入ってくる。
 数枚の写真を机に投げ出す。
 プリントアウトされたその画質の荒い写真には黒い生物がガンヴォーを指先から出た何かで撃ち殺している所がしっかりと映し出されていた。
「コレについての説明は聞きたくねえ。問題はどうしてお前があの場所に居たのかって事だ。」
 バイツは洗いざらい説明した。途中ライキの名前を出すとさらに怪訝な顔をする。
「成程、まあこっちでも頼んでいた情報が全部パーになっちまってどうすればいいのかわからねえ所だったしな。」
「一つ聞いていいかな。」
「何だ。」
「モウキさんってどこの管轄?結構いろいろな所に現れるよな。」
「細かい事は言わねえように言われているが簡単に言えばここに寄る用事があったからだ。」
 とてつもなく簡素な理由。
「で?もう一つ。俺はいつまで拘留されるんだ?」
「ライキが電話越しに全部吐くまでだ。友情を信じることだな。」



 その頃、ルル達はバイツが警察署の中にいる事など露知らず、ギャズのポケモン達と遊んでいた。
 ルルはハッとし、空を見上げる。そこにいたのは大きな黒い生物。
 誰も居ない所に土煙を上げて着地する。
「ワルイーノ・・・!」
 赤く光る二つの眼がルルを捉える。
 その瞬間、左手の指先を五本全てルルに向けた。
 指先には大口径の銃のような大きな穴。
「皆!逃げて!」
 サーナイト達以外は謎の恐怖を感じ一目散に逃げる。
 瞬時にメイデンナイトに変身するルル。
 テスラも電流を放出し、戦闘の意思を見せる。
「皆様!力を貸してください!」
 と、サーナイトもサイコパワーで空間を捻じ曲げて全員が戦えるようにする。
「行くよ!皆!」
 ワルイーノはルル達に向かって何かを指先から放つ。
「撃ち合う気?だったら!ホーリースティングショット!」
 五本の光の槍がワルイーノから放たれた何かを撃ち抜く。
 途端、空気の壁が一斉にルル達に襲いかかる。
「なにこれ!風圧!?」

260名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:58:59 ID:jak/zjTM
 ルルがかろうじて踏みとどまる。
 吹き飛ばされそうになりながらもムウマージとユキメノコは体勢を立て直した。
「行けるかしら、ユッキー!」
「仕方あらしまへんね、ウチ等は遠距離のサポートといきましょ!」
 二人による「シャドーボール」の連射。
 ワルイーノは二撃目の狙いを付けれずにいた。
「接近戦ならば望む所だ!」
「アタシも得意さ!行ってみるかい!」
「ちょっと!貴女達!私の見せ場も残しておくべきじゃないかしら!」
 アブソル、ゾロアーク、コジョンドと付かず離れずで接近戦を挑む。
「さーってあたし達も・・・どうしたの?クチクチ。」
「いない・・・」
 ミミロップは辺りを見回しているクチートに声を掛けた。
 タブンネも辺りを探すが目当ての誰かが居ない。
「本当だ・・・いないよ。」
「あ!あれ!」
 後方支援に回っていたドレディアが空を差した。
 そこにいたのは先程の風圧で吹き飛びのんきな空中散歩を楽しんでいるエルフーンだった。
「どうしようミミお姉ちゃん・・・」
「あー・・・さっさとこの戦い終わらせちゃお。」
「ううん!焦る事はないよ!私が追う!」
 タブンネが自ら追うと宣言した。
「お願い・・・できますね・・・!」
「うん!そっちはお願いだよ!」
 ドレディアにこの場を任せ、エルフーンを追って行くタブンネだった。



 脳天気にふわりふわりと飛んで行くエルフーン。
「まっ・・・待ってー・・・」
 それをヘロヘロになるまで追いかけるタブンネ。
 何時の間にか街中へ。
 エルフーン自身どんどん高度が下がってきている。
「これなら・・・!」
 と、タブンネが希望を見出した矢先。ボフンという音を立ててエルフーンが人の顔に激突した。
「あわわわ・・・」
 タブンネが慌てて謝ろうとしたその時、聞きなれた声が聞こえた。
「何だ、エルフーンじゃないか。どうした?」
 その時タブンネは偶然が重なるという事に感謝した。激突した相手はバイツだったのだから。
「タブンネまで・・・何かあったのか?」
「あっ・・・あのっ!バイツさん!ワルイーノが急に襲ってきたんです!皆が戦ってます!」
 それだけで十分すぎる説明。
「・・・急ごうタブンネ、エルフーン。掴まっていてくれ。」
 バイツは風の様に駆け出した。寧ろその速さは風そのものだった。

261名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 19:59:29 ID:jak/zjTM
「あと一息!皆!頑張って!」
 余裕の表情のルル。当然彼女は幾度と無くワルイーノと戦っているのでこの程度は平気である。
 他の全員も護られつつ戦っていたので体力は十分残っている。
「きめる・・・」
 テスラも余裕だった。
 いや、余裕過ぎた。
 今までは手強い相手ばかりだったが今回はそれ程苦戦はしていない。
 被害無く勝てる。と思ったその時声が聞こえた。
「サイアク・・・よりによってアンタ達だけなんて・・・」
「アクリル・・・!」
 ルルが突然の乱入者の名前を言い当てる。
「あらお久しぶりねメイデンナイト・・・余裕コいてるみたいだけど大丈夫かしら?」
「どういう意味!?」
「んー例えば・・・バイツの右腕取られた時みたいにとか?」
「あ・・・あれは・・・」
「何が人類を護るよ・・・バカじゃないの!?人一人も護れないくせして!」
 やけに熱の籠っている言葉。
「アンタ・・・言わせておけば・・・!」
「ハイ、油断大敵。」
 パンとアクリルが手を鳴らすと、ワルイーノが空気の弾丸を放った。それもサーナイトに向けて。
 サイコパワーを広範囲に展開している為に全く動けないサーナイト。そのうえ何の防御策も施していない。
「・・・っ!」
 サーナイトは目を瞑った。
 空気が炸裂し衝撃波が散った。
「サーナイト!」
「ほらね?メイデンナイト、アンタ何も出来てないじゃない。」
 風が流れた。
 風が布の切れ端を辺りに散らす。
「成程な、空気を圧縮した炸裂弾か。」
 そして、風が舞い上がった。
「マスター・・・」
 黒髪を靡かせてバイツが立っていた。
 圧縮弾を防いだ右腕のハーフグローブと包帯はそこら辺に散ったがバイツ自身に何の怪我もなかった。
「よし、降りていいぞタブンネ、エルフーン。」
「ありがとう。バイツさん。」
「はーい!」
 背中から降りたタブンネとエルフーン。
「アンタ・・・!その右腕!」
 アクリルは自分の目を疑った。
 今のバイツの右腕は自分達と同じ力で構築されている真っ黒な右腕だったのだから。
「悪いな、今の相手はお前じゃない・・・ジャグだ。」
 眼前にいるワルイーノにまっすぐに目を向けるバイツ。
「お前は・・・バイツか・・・」

262名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 20:00:01 ID:jak/zjTM
「ああ、惨めな姿を見に来てやったんだが・・・言葉通りだな。」
「笑うなら笑え・・・惨めなものだろう・・・」
「親父さんが見てもそんな言葉を口にできるか?」
「貴様・・・!?」
「出来るはずがないよな、あんたは親父さんの真似をしたんじゃない。汚しているだけだ。」
「それ以上言ってみろ!貴様を・・・!」
「どうするって?殺して今までの名誉と誇りを守るのか?」
「ぐっ・・・おおお!」
 ジャグがバイツに向かって突進する。
「お前は捨てたんだ・・・名誉も誇りも・・・ずっと前に・・・こいつを捨てる前に。」
 バイツがジャグに向かって右手の親指で何かを弾いた。
 それはジャグの胸を貫いた。
 地面に倒れるジャグ。
「お前が捨てていった勲章だが・・・返すよ。俺の手にも余る代物だ。」
 バイツが撃ちだしたもの、それはジャグが肌身離さず持っていた父親の勲章だった。
 倒れたジャグの体から黒い液体が流れ出し、ジャグの体が露になる。
「父・・・さ・・・ん・・・」
 ジャグはそれから微動だにしなかった。
「良い様じゃない?最後まで父親を思ってイったんだからさ。」
 アクリルが笑った。
「この・・・!」
「だろうな・・・お前はどうなんだ。」
 ルルとは違いバイツは冷静にアクリルの言葉を受け流していた。
「アタシ?アタシはね・・・」
 警戒心無くバイツに歩いていくアクリル。
 そして。
「アンタが一緒ならどうでもいいの。」
 軽く跳ぶとバイツの肩越しに腕を回して唇を重ねた。
「!!!」
 その場の誰もが絶句した。
 唇を離すとクスクスと笑いながら口を開いた。
「今度は何時でもキスできる様にならなきゃね。メイデンナイトを倒して・・・じゃあね!」
 そして、高笑いの後、何処かへと消えていった。
「アクリル・・・絶対に・・・倒す・・・!」
 ルルの殺意を抑えられるものはいないかとバイツは辺りを見渡したが全員が同じ状態だった。



 それから、警察署の中でジャグの事を聞かれたバイツ。
 しかし、死因が指弾で放たれた勲章などモウキに話しても「信じてもらえず」にすぐに解放された。
 翌朝、ギャズに会った時、バイツは何も言えなかった。
「きっと、あいつなりに迷って壊れてしまったんじゃないかな。」
 ギャズはバイツを責めては居なかった。
「ありがとう・・・あいつを救ってくれて。」
 それから少し話した後、バイツはギャズと別れた。

263名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 20:00:44 ID:jak/zjTM
 青空が広がっているいい天気だったがどうにもバイツはそれを見る気になれなかった。
 淀む心を内にしながらモーテルの部屋に戻ってきたバイツ。
「ただいま。」
「あ、バイツさん。お帰り。」
 部屋の中にはルル一人だけだった。そのルルは言葉遣いは穏やかだったが殺気満々で出迎えてくれた。
「何かした?俺・・・」
「ううん!された方じゃない?」
 明らかにアクリルとの接吻の事を根に持っているルル。
「あれは・・・不可抗力で・・・」
「へー、結構スキだらけだったみたいだけど?」
 よくある言い訳しか浮かばないバイツ。それをいくら言ってもルルの殺意は収まりそうにない。
「ごめんなさい。」
 素直に謝ることにしたバイツ。
「何で謝るのかな?大丈夫、アクリルはきっちりぶっとばすから。」
 しかし、ルルの殺気は収まらない。
 その上何故かサーナイト達が居ない。
「・・・グダグダ言って悪かった、油断したのは俺の落ち度だ・・・どうにでもしてくれ。」
 その一言をルルは聞き逃さなかった。



 一方、サーナイト達は隣の部屋で縛られ猿轡を噛まされていた。
 ルルのポケモン達は全員ボールに戻されて、テスラはサーナイト達と同じ状態の上、薬で眠らされていた。
 誰がやったのかは分かっている。犯人はルルである。
 サーナイトはクチートに目を向けた。だが、頼りにしようとした大顎はバイツの予備の包帯で厳重に封印されている。アブソルの鎌も同じ状態だった。
 一体何故この様な行為に至ったのか分からず、サーナイト達は足掻くだけだった。
 その時、テスラが起きた。
 自分の手が拘束されていると知ると、途端に縄を電熱で一部を焼き切り、解いた。
「なんのしばりぷれい・・・?」
 猿轡を外した途端にテスラ自身も困った様に言うと、サーナイト達の縄も一瞬で焼き切り、解く。
「助かりました。ありがとうございます。」
 猿轡を外したサーナイトはひと呼吸の後礼を言った。
「なんでこうなったの・・・?」
 元はといえばルルが企んだ事、それを問い質すべくサーナイトは隣室へと続くドアを開けた。
 しかし、その必要は無かった。
 真っ先に目に入ったのはバイツに唇を重ねているルルの姿だった。

264名無しのトレーナー:2012/09/29(土) 20:04:02 ID:jak/zjTM
17章は御終い
で?誰か他の書き手は居ないの?
寂しくなってきたなぁ(子犬の様な目)

265名無しのトレーナー:2012/10/09(火) 18:17:32 ID:/QamF2/o
携帯だとめんどくさいのよ…

266名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:03:09 ID:R2WnHd2o
小説ができたのでこんな時間ですが投下します
今回は短いだけなので過度な期待はしないでください

>>265
そんな事でもレスしてくれるお前のことが好きだったんだよ!(迫真)

267名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:03:58 ID:R2WnHd2o
 別に普通の事だった。
 人間の女が人間の男に惹かれ合うのは普通の事。
 内心それを分かっているサーナイト。
 それを理解していたつもりだった。
 しかし、目の前であのような光景を見せられては、胸のモヤモヤは晴れなかった。
 二人の女が立て続けに愛焦がれている人の唇を奪った瞬間を。



「間一髪だったわねー」
 モーテルの窓からルルは外を眺めた。
 外は激しい豪雨で傘も役に立たない程の激しさだった。
 一瞬部屋の中が白く光った。
 続いて聞こえた激しい轟音。
「遠雷の嘶きか・・・」
 バイツがウッドチェアーに揺られながら口を開く。
 雨は窓を締めていても大粒の水滴が叩きつけられる音が聞こえる程の激しさ。
「準備はいい?クチクチ・・・」
「何時でもいいよミミお姉ちゃん。」
 バイツの背後からこそこそと話声が聞こえた。
「行っちゃうよ・・・!とうっ!」
「てんばーつ!」
 ミミロップとクチートが手を十字に交差させルルに突撃する。
 見事に当たったもののルルを倒すにはもう少し勢いが必要な様であった。
「痛っ!何すんのよ!」
「それはこっちの台詞ですよ、ルル。」
 ドレディアが割って間に入る。
「あの時、私達をボールに戻してサーナイトさん達を縛り上げていたらしいじゃないですか。」
「全く・・・やってくれるじゃないのさ。ケジメは今の二発でつけたとしても聞きたい事はまだあるんだ。」
 ゾロアークが恐い笑みを浮かべてルルに問いただす。
「一体、何が目的だったんだい?」
「それはね・・・」
「何です?勿体ぶらないで早く話してください。」
「ひ!み!つ!」
 ルルは笑って誤魔化したが家族達からの追求は留まる所を知らなかった。
 唯一、その中でサーナイトだけが俯き気味にバイツを見つめていた。
 彼女だけがバイツとルルの接吻の瞬間を目にしていた。
「サーナイト、どうかしたか?」
 バイツが近づく。
 触れようとした矢先。サーナイトはその手を振り払っていた。
「あ・・・」
 バイツは何かを言いかけて口を噤んだ。
 代わりに悲しそうな微笑みを浮かべて一言言った。
「済まない・・・」
 サーナイトは何か言おうとしたが、バイツが先に隣室に閉じこもってしまった。

268名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:05:40 ID:R2WnHd2o
 咄嗟に取った自分の行動がサーナイトは腹立たしくて仕方がなかった。



 バイツとサーナイトはどこかぎこちなかった。互いが互いを避けている。そんな様子といっても間違いではなかった。
 隣室の騒ぎを聞きながらバイツは一人ベッドに腰掛けていた。
 遠雷が鳴り響く。
 深く項垂れるバイツにはその音も光も別の世界の様な錯覚に陥っていた。
「ざまあないな・・・」
 額に右腕を乗せてベッドに倒れこむ。
 遠雷がまた響いた。
 それからしばらくしてサーナイトが部屋のドアを開け、入ってきた。
 しかし、バイツは寝息を立てていた。
「あ・・・」
 サーナイトは一旦開きかけた口を閉じ、バイツの隣に腰掛けた。
 あの光景を見てからすれ違う事が多くなった。
 何か話そうと思ったが現にこの様である。
 起こすのも悪いのでそのままにする事にした。
 ふと、それがすれ違いの原因じゃないのかとサーナイトは思ってしまう。
 無意識にバイツの顔に自分の顔を近づけるサーナイト。
 唇と唇が触れ合うその瞬間、ドアが開いた。
「なにしてるの・・・?」
 テスラだった。ドアをわざわざ静かに閉めてサーナイトに近づく。
「ええと・・・起こそうかどうか迷っていたところで・・・それでよく眠っているのかなーと・・・」
 非常に苦しい言い訳。
 テスラは少し言い訳を信じているのかそれに関しては首をかしげるだけであった。
「わたし・・・バイツをみているとふしぎなかんじがする・・・」
 サーナイトに向かい合う形、バイツを挟む様にベッドに腰掛けるテスラ。
「あのこがバイツにキスしたとき・・・なんだかいらついた・・・」
 テスラもバイツに好意を寄せている事をとうに見抜いているサーナイト。
 今は大人しくテスラの話を聞く。
「でも・・・バイツをみていたら・・・ふしぎなかんじがした・・・」
「不思議な感じ・・・ですか?」
「もやもやがはれた・・・バイツのことみんながだいすきだってこと・・・わかったから・・・」
 テスラはサーナイトを見上げた。
「サーナイトもバイツのことすきなんだよね・・・」
「・・・ええ。」
 何故かサーナイトはそれだけが精一杯の返答だった。
「そっか・・・そうだよね・・・」
 俯くテスラ。
「でもね・・・わたしはバイツがすき・・・かんたんなすきじゃない・・・もっとおおきなすき・・・!」
 語尾に熱が篭る。
 その言葉に意外にも微笑むサーナイト。
「マスターが聞いたのならきっと喜びますよ。」
 それは本心からの言葉では無かった。

269名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:06:19 ID:R2WnHd2o
「そう・・・きっと・・・」
「・・・ねえ・・・きいていい・・・?」
「はい?何か?」
 次の言葉は意外なものだった。
「なにかかくしてないよね・・・」
 遠雷の閃光が薄暗い室内を、テスラを、白く照らし上げた。




 それからというものサーナイトの気分は浮かなかった。
 雨降って地固まる。その言葉が本当ならば、とサーナイトは思っていた。
「台風が過ぎた!いやー長い雨だった。」
 窓から差し込んで来る日差しにルルの気分は高陽していた。
「さーて!皆で少し町中でも歩いてみようか!」
 ルルの提案にバイツ以外が乗った。
「悪い・・・今は少し休ませてくれ。」
 そういう訳でバイツ以外全員外に出て行ってしまった。
 静寂の中一人ベッドの上で横になるバイツ。
 静かな環境は嫌いではなかった。サーナイト達が居るということ前提ならば。
 ただ今は一人で居たかった。
 どういい訳すればいいのか。
 どう接すればいいのか。
 どう話せばいいのか。
 頭の片隅にはいつもサーナイトの事ばかり。だが何も思い浮かばない。
「どうすればいい・・・?」
 あまりにも弱々しい自問自答。
 答えがすぐに出るのならば苦労はしない。
「どうすれば・・・」
 バイツは目を閉じる。
 頭の中がごちゃごちゃし思考を投げ出したくなる。だが、そうしたくは無い。サーナイトの事なのだから。
 ぐらりと視界が揺らいだ。同時に睡魔が襲ってくる。
「サーナイト・・・俺は・・・」
 視界が暗転する。バイツはそのまま眠りの闇へと潜り込んでしまった。



 散歩にでた後でもルルは賑やかにしていた。
 わいわいと賑やかな一行の後ろをポツリとついていくサーナイト。
 考え事がバレないように時々話に混じってはまた俯くという事を繰り返していた。
 それが災いしてか一人はぐれてしまった。
 サーナイトは辺りを見渡すが何処にもルル達の姿は見えない。
「バイツ君のポケモン・・・ですね。一匹で何をしているのでしょうか?」
 そこに立っていたのは一人の男。
 互いに面識は無かったがサーナイトは一度だけその姿を見ていた。

270名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:06:59 ID:R2WnHd2o
「私の名前はアクシェンと申します。以後御見知りおきを。」
「一体・・・私に何の用事です!もしかして・・・あなたもマスターを?」
 サーナイトは一歩下がった。
「そうですが・・・今回はメイデンナイトの件についてです。」
「メイデンナイト・・・ルル様の事で?」
「唐突で申し訳ありませんが私の話に乗っていただけないでしょうか?」
「誰がその様な話に・・・!」
「もし乗っていただくのであれば・・・バイツ君に我々は金輪際関わらないというのはいかがですか?」
「・・・!」
「もちろんあなたがたポケモンにもです。よければテスラとか言うお嬢さんにも手は出しません。」
 サーナイトの脳裏を横切る、ルルがバイツの唇を奪った光景。
「話を・・・聞かせて頂きます・・・」
 内心サーナイトは自身自分の言葉に驚いていた。
 そして、アクシェンは口端を歪めた。



「ちょっと?サーナイト?あなたが迷子になるなんて珍しい事もあるのね。」
 いつの間にかぼうっとしながら移動していたサーナイト。ルルの声がしたのでサーナイトはハッと頭を上げた。
 眼前にはルル達が全員いた。勿論バイツを除いてだが。
「熱でもあるのかしら?」
 ムウマージの質問にサーナイトは首を横に振った。
「ごめんなさい。少しぼんやりしてしまいました。」
 サーナイトは笑みを浮かべながら答えた。
「珍しい事もあるものだな。」
 アブソルも珍しいものを見るのかの様にサーナイトを見上げた。
 ふと、サーナイトの左手を誰かが掴んだ。
 サーナイトを見上げているテスラだった。
「これでまいごにならない・・・」
 テスラの手に少し力が入る。
「・・・はい。」
 サーナイトは目を閉じて頷いた。
 そして何かを覚悟したかの様に目を開くと口を開いた。
「ルル様、後で話したい事があります。」



「ここね・・・」
 ルルは町外れの森へ足を踏み入れた。
 夕暮れ時という事もあり辺りは薄暗かった。
 そして、一人の男がルルの眼前に立ちはだかった。
「・・・っ!あんたは!」
「見ただけで分かりますか?私の名前はアクシェン。名有りのワルイーノですよ。」
「・・・」
「何故私がここにいるのか・・・何故サーナイトではないのか。あなたはサーナイトと話をするためにここへきた。違いますか?」

271名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:07:33 ID:R2WnHd2o
「・・・」
 ルルは黙ったままアクシェンに視線を向けている。
「ここに来るように指示したのは私です。簡単に話に乗ってくれるとは思いませんでしたがね。」
 丸眼鏡を押し上げるアクシェン。その顔には笑みが浮かんでいる。
「さあ、一対一の勝負です。あなたの勝てる要素は・・・」
「一対一?誰が決めたの?」
 ルルが笑った。
 途端に周囲が妙な力に包み込まれる。
 ルルの背後に居たのはサーナイト。そしてバイツ以外のメンバー。
「・・・やはり上手く行き過ぎているとは思っていましたが・・・ね・・・」
 アクシェンの視線を受けてサーナイトは笑みを返した。



 少し前の事、サーナイトとルルは皆と離れ二人で話をしていた。
「あの・・・」
「やっぱり話ってのはあの事?」
「あの事?」
「惚けなくてもいいよ、知ってるんでしょ?私とバイツさんがキスしてたって事。」
 フラッシュバックするルルとバイツのキスしている場面。
「ええ・・・」
「バイツさんとサーナイト、どこかぎくしゃくしていたからさ・・・」
 サーナイトはそこまで言われて恥ずかしいのか口元を抑えた。
「でも・・・後悔もしていないし反省もしていない。」
「え?」
「私は・・・バイツさんが好き。だから私の方を振り向かせたい。」
 そしてルルは笑う。
「サーナイトも遠慮しなくていいの。バイツさんの事本当に好きなら積極的なアプローチしなきゃ。」
「・・・」
 サーナイトは開いた口が塞がらなかった。
 自分に足りないものを見抜かれていた。
 しかし、心は不思議と晴れやかだった。
「さあ、皆の所に戻ろ?」
「お気遣いありがとうございます。でも・・・話したい事はこの事では有りません。」
「へ?」
「アクシェンと名乗るワルイーノが私に提案を持ち掛けてきたのです。」
「提案?」
「私がルル様と二人きりで話をしたいと嘘をついて森へ誘い込み、そこでアクシェンと名乗るアクマーンがルル様を一対一の勝負で倒す・・・と。」
「ふうん・・・でもそこまで話したら意味ないよね。」
「そうです。最初は私も提案に乗りかけましたが・・・先程のルル様が口にしたマスターへの覚悟を聞いて・・・考えが変わりました。」
 そして一言付け加える。
「ごめんなさい・・・私はルル様を・・・」

272名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:08:07 ID:R2WnHd2o
「いいの。気にしないで。サーナイトは本当の事を言った。だからいいの。」
 ルルはサーナイトに優しく額と額を合わせた。
 そして、サーナイトから離れて元気よく口を開いた。
「さ!バイツさん抜きでこの問題を片付けちゃおうか!余計な問題抱えさせたくないしね!」



 メイデンナイトに変身しているルルは大きく息を吐いた。
 疲労からくる荒い呼吸。
 ルルだけではない、ほかのメンバーも傷だらけで息を荒くしている。
 眼前の敵アクシェンは息を切らすことなく立っている。
「無理ですよ、先の先を読む事ができるのならばこの程度・・・」
 アクシェンには攻撃が一撃も当たっていなかった。
「バイツ君ならまだしも貴女方が攻撃を与えようなど・・・」
「やってみなければ分からないじゃない!」
 コジョンドが駆け出し、アクシェンに攻撃を加えようとする。だが、最低限の動きで攻撃をかわしコジョンドに攻撃を返す。
 吹っ飛ばされたコジョンドをミミロップとゾロアークが受け止める。
「寧ろ貴女方の攻撃など読む程のものでもないですね。」
 中指で丸眼鏡を押し上げる。
「では仕舞いにしましょう・・・ここで終わりですメイデンナイト。」
 黒い妖気を纏った剣を数百、展開した。
「・・・!」
 圧倒的な数の剣の黒い妖気が空の闇すら覆い尽くす。
「後は怒り狂ったバイツ君のみになりますが・・・そちらの方が面倒ですね。」
 アクシェンが指を鳴らした途端に一斉に剣がルル達を襲った。
 メイデンナイトの防護術「サンライトヴァイブレイト」も間に合わなかった。
「さて・・・?」
 土煙の中に目を凝らすと黒いドーム状の何かが展開されていた。
「・・・まさか!」
 ルル達を覆うように展開していたドーム。
 それが解かれた途端、アクシェンは奥歯を噛み締めた。
「なぜここが・・・?バイツ君。」
「皆の帰りはやけに遅いわ、右腕がお前の存在に反応するわ、今の力に共振するわでただ事じゃないと思えば案の定だ。」
 突然現れたバイツの黒髪が一陣の風に靡いた。
 右腕もアクシェンに反応しているのか黒いオーラを放っている。
「悪い話ではないと思うのですが・・・私との一騎打ち受けていただけないでしょうか?」
「いいな、それ。」
 笑顔で答えたバイツ。途端にアクシェンは一歩下がった。
 そして、アクシェンのいた場所をバイツの一撃が空振りしていた。
「・・・流石に速いですね。」
「先の先を読むのはいいがな、体はついて来れるか?」
 攻撃に転じようとしたアクシェン。だが、バイツの桁違いな攻撃速度と手数に対して先読みを使って避ける事が精一杯だった。
 しかし、それも限界に近かった。
 徐々に攻撃がスレスレだがアクシェンの読み以上の速度になっていた。

273名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:08:50 ID:R2WnHd2o
 割れた丸眼鏡が中を舞った。だが、アクシェンは今もなお攻撃をかわし続けている。
 ふと、アクシェンの目に戦いを見守るルル達の姿が目に入った。
 アクシェンはニヤリと笑うと剣を一本展開しルル達に向けて放った。
「しまっ・・・!」
 その切っ先はサーナイトに向けられていた。
 かわすこともままならずサーナイトは目を瞑った。
 そして、サーナイトに液体が掛かる。
 目を開けて指で液体を拭う。それは紅い液体。
 恐る恐る顔を上げるとバイツがその身を盾にサーナイトを護っていた。
「紅い右腕だったら掴む事ができたでしょうね。」
 息を荒くしながら笑みを浮かべるアクシェンの言葉に吐血で返すバイツ。
「どうして・・・マスター・・・?」
 バイツは腹部に刺さった剣を引き抜くとサーナイトに微笑みを見せた。
 それが大丈夫だという言葉の代わりだった。
「あ・・・」
 ずっと護りたかった人がまた護れなかった。
 サーナイトは泣き崩れた。
 自分のくだらない思い込みなど意にも介さず、自分を護った主。
 それなのに自分は何ができただろうか。
 何をしてやれただろうか。
「行くぞアクシェン・・・」
 出血が収まらない腹部の傷を抑えながらバイツは立ち向かう。
「これで仕舞いです!私に敗れるようでは貴方の利用価値など無い!」
 黒い剣を片手にバイツに突進するアクシェン。
 しかし、攻撃速度はバイツ方が僅かに早く、右腕がアクシェンの胸を貫いた。
「ぐうっ・・・」
「こんな時こそ・・・先の先を・・・読むべきだったな。」
 右腕を引き抜くとうつ伏せに倒れるアクシェン。
 その体は案の定黒い液体となり消え去った。
 と、同時にバイツも倒れた。
「マスター!」
「バイツさん!」
 徐々に広がる血溜まり。
「く・・・そっ・・・結・・・構・・・しんどいな・・・」
「喋らないでバイツさん!早く病院に!」
「俺の事はいい・・・皆をポケモンセンターに・・・」
「どうしてですか・・・どうしてそこまで・・・自分を追い込むんですか・・・マスタァ・・・」
 サーナイトが泣きながらバイツに問い掛ける。
「お前達の事以外考えられないからだよ・・・俺は不器用だからな。」
 バイツはふらりと立ち上がる。
「行くぞ・・・この位の傷、寝てれば治る・・・」
 数歩歩いた所でバイツはまた倒れた。
 咄嗟に駆け寄るサーナイト達。
「マスターの・・・馬鹿・・・」
 一滴、二滴とサーナイトの涙がバイツの顔に落ちていく。

274名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:09:34 ID:R2WnHd2o
 バイツは笑って一言つぶやいた。
「大丈夫だよ・・・サーナイト・・・」



 モーテルのベッドの上でバイツは横になりながら天井を眺めていた。
 腹部の傷はそのまま病院に行けば面倒事になるのでライキに連絡し闇医者を手配してもらい、縫合してもらった。勿論その分の料金は掛かったが。
 当然だが動かすと痛むので暫くはこのままである。
 溜息を吐いてそれから苦笑した。気づけばずっとベッドの上で横になりっぱなしである。
 苦笑の際にも痛みが走る。
 その時、ドアが開いた。
「マスター、具合の方はいかがですか?」
 入ってきたのはサーナイトだった。
「大丈夫だよ、それよりサーナイトの方こそポケモンセンターに行ってきたのか?」
「はい、その後ルル様が町中を歩いて色々なお店に寄っていこうと言っていましたが・・・」
「いましたが?」
「私だけ無理言って抜け出してきてしまいました。」
 サーナイトは笑顔で答える。
「なんだそれ・・・とりあえず座れよ。」
「そうですね、椅子は・・・」
「ベッドでもいいだろ?」
「でも・・・」
 バイツの身を気遣って少し躊躇うサーナイト。
「俺なら大丈夫だ。」
「では・・・失礼します。」
 ベッドが少し軋む音がした。
「そういえばサーナイト、前にルルに対してキスまでなら許すって行っていたけどアレはどうなんだ?」
「アレはあの時だけです。それに私が見たのはルル様からのキスでしたから。」
「俺からのキスだったら納得したか?」
 妙な質問にサーナイトは咄嗟に何も言えなかった。
「そっ・・・それは・・・マスターが決めた人だというのなら・・・私は・・・納得して・・・」
 声が少しづつ小さくなっていくサーナイト。
「あー、悪かった。変な質問するんじゃなかったな。」
「・・・だったらその様な事は言わないで下さい。」
「・・・悪かったよ。」
 途端にサーナイトの口元に笑みが浮かんだ。
「そうですね・・・そんな悪いマスターにはお仕置きが必要ですね。」
「何するん・・・!」
 バイツの唇はサーナイトの唇によって塞がれていた。
 短い接吻だったがサーナイトの意を察するには十分だった。
 ズボンと下着を脱がしに掛かるサーナイト。
「待て、俺はこんな体たらくだし、まともには・・・」
「その分は私が動きますよぉ・・・」
 サーナイトは手と舌を使って露出させたバイツのソレをゆっくりと愛撫し始めた。

275名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:10:44 ID:R2WnHd2o
 ゆっくりと手を上下させながら先端や裏筋などに舌を這わせる。
「もう大きく・・・固く・・・」
 しかし、サーナイトは愛撫を止めなかった。
 先端にキスをした後に、口内で怒張したものを受け止めて舌で様々な方向に動かす。
 バイツの体もその快楽に反応し痙攣し始めるが傷口に激痛が走り痙攣が収まってしまう。
「ん・・・これ位濡らせば・・・」
 サーナイトはバイツの腰の上に乗る。
 怒張したソレを上向きに倒すと、その上に自らの秘部を乗せて自らの腰を細かく前後に動かし始める。
「凄い・・・入って・・・なくても・・・熱いのが・・・分かる・・・っ・・・」
 息を荒くしながら腰を前後に動かし続けるサーナイト。
 バイツの息は傷の激痛によって荒くなっていった。
 前後の動きが大きくなってきた頃、サーナイトは愛液でヌルヌルになった秘部を一旦浮かせた。
「もう挿れてもいいですよ・・・どうします?マスター・・・」
「お願いします・・・」
 バイツはサーナイトに全権を委ねるしか方法がなかった。
「いいですかぁ・・・分かりましたぁ・・・」
 サーナイトは歓喜の笑みを浮かべた。
 そのまま、先端を秘部に充てがう。
「少しづつ・・・少しづつ・・・」
 少し挿入しては抜き、もう少し深く挿入しては少し抜き。と徐々にバイツの怒張を受け入れていくサーナイト。
 バイツ側にしても締め付けられ、緩められ。締め付けられの刺激の繰り返しでモノが萎えることはなかった。
 半分までサーナイトの中に入った頃、サーナイトの口元に笑みが浮かんだ。
「マ・ス・ター・・・」
「何だ・・・」
「えい!」
 途端にサーナイトはバイツの怒張を一気に根元まで受け入れてしまう。
「・・・!」
 その快楽にバイツは身を仰け反らせ受け止める他なかった。
「うぁ・・・一気に・・・奥まで・・・」
 サーナイトもその快楽に酔いしれて自ら腰を上下し始めた。
「見てください・・・マスター・・・!こんなに激しく!私達つながって・・・!」
 ベッドの軋む音と粘り気のある水音。そして二つの荒い吐息。
 サーナイトの動きは留まる所を知らなかった。
「気持ちいいです・・・!奥にマスターのがコンコンって当たってる・・・!」
 当然腰が上がるたびに絞め上げは緩む。
 しかし、腰が沈むたびに絞め上げが強くなっていく。
「もっとぉ・・・もっと来てぇ・・・っ!」
「・・・っ!サーナイト・・・!イクぞ!」
「待ってぇ・・・私も・・・私もイク・・・ッ!」
 途端にサーナイトは背中を仰け反らせた。
 秘部からは一筋の白い液が怒張したモノを伝って垂れてきた。
「どうでしたか・・・マスター?気持ちよかったですか?」
 涙目になりながらサーナイトが聞いてきた。
「ああ・・・良かったよ。傷はあまり痛まなかったし。」
「そうですか・・・よかった・・・」

276名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:11:42 ID:R2WnHd2o
 サーナイトの頬を涙が伝う。
「マスターに無理させて独りよがりだったらどうしようって・・・不安になってきて・・・」
「そんな事はないよ、サーナイトは俺の身も案じてくれたんだろ?だから・・・ありがとう。」
 その言葉を聞いた途端にサーナイトは糸が切れたかの様に大声で泣き出した。
 二人きりだから出来る事。
 バイツは激痛の走る上体を起こしてサーナイトに胸を貸すようにして抱き締めた。



「雨降って地固まる、ね。」
 ムウマージが意味深げにそう言った。
 サーナイトはその言葉に微笑んでみせた。
 ルル達が帰ってきて、真っ先に目に入ったのは上機嫌のサーナイトだった。
 何故上機嫌かを悟ったムウマージ。そうして先ほどの言葉である。
「どーゆー意味!?教えて!ムウマージ!」
 ルルがムウマージに詰め寄る。
「あら、あなたなら分かっていると思ったけど意外ね。」
 ムウマージは笑いながら返した。
「誰か教えてよー!」
 分かっている人は分かっていた。
 分からない人は分からなかった。
 たったそれだけの事。
 サーナイトは上機嫌のまま夕食の準備を始めた。

277名無しのトレーナー:2012/11/04(日) 05:15:12 ID:R2WnHd2o
18章はこれでおしまい
ところで途中でsageが消えてageてしまったんだが・・・
理由を誰かガチで無知な自分に教えてください!オナシャス!

278名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:46:18 ID:2oDo/C8o
小説できたよー
でもねー短いよー

279名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:46:57 ID:2oDo/C8o
「アクシェンがやられた。」
 椅子に座っているアクマルスの声に目の前に立っているアクリルは身じろぎ一つしなかった。
「次はアタシ・・・という事ですか。」
 それは彼女にも予測が付いていた話。
 しかし、帰ってきたのは意外な言葉だった。
「いや、お前には今回監視役に徹してもらおうかと思っておる。」
 監視役という言葉にアクリルは首を傾げて疑問符を頭に浮かべた。
「不服か?」
「いえ・・・しかし、何の監視なんですか?」
 アクマルスは困った様に笑い、椅子を軋ませた。
 この笑いにアクリルは内心身震いした。
「ゴライアス。」
 その一言にアクリルは目を大きく見開く。
「しっ・・・しかし!アレは・・・!」
「稼動は可能だが・・・些か自我という点では不安定での。」
「場合によっては私の指示で・・・ですね?」
「そうだ。」
「ではきっと今度こそメイデンナイトを・・・」
「いいや、今回の狙いは奴ではない。」
「では何処かの大都市ですか?」
「違う、目標はただ一人。バイツだ。」
 一瞬アクリルは言葉が理解できなかった。
 何故、メイデンナイトではなくバイツなのか。
「ゴライアスの誕生に深く関わってくれた事に礼をせんとな。それとテストも兼ねて・・・の。」
 その言葉はアクリルにとっては内心複雑な気持ちにさせられるもので彼女の中で淡い恋心が揺れ動いた。
「不服か?」
 アクマルスの二度目の問い掛け。
 アクリルは黙って首を横に振った。



 晴天の下、町の市場は活気に溢れていた。
 賑やかな声が飛び交う中を一人の少年がのんびりと歩いていた。
 その少年の名をバイツといった。
 どうやら散歩中の様であてもなくブラブラしていたが当人はそれが気に入っていた。
「いらっしゃい安いよ!八種類安いの!売ーれるアボガド。」
 もともと課長をしていたであろうと思われる太った八百屋が声を掛けてきたがバイツはそれを無視した。
 しかし、次の声は無視する事ができなかった。
「やっと見つけましたよ!マスター!」
 雑踏の中を振り向くと、そこにはバイツに近づこうとするサーナイトがいた。
 バイツは待つこと無くサーナイトに近づいていく。
「よく俺がここにいるって分かったな。」
「探したのですよ・・・もう・・・」

280名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:47:32 ID:2oDo/C8o
 サーナイトは拗ねるフリをしてみせる。案の定バイツは謝った。
「悪かった。一緒に市場を見て歩こう、な?」
「はい。」
 笑顔を見せながらサーナイトは答えた。
 それから一時間余りサーナイトと市場を歩いた。
 珍しい商品や地域限定の商品にサーナイトは興味津々で何か見つけるたびに歩みを止めた。
「活気がありますね。」
「サーナイトはこういう雰囲気大好きか?」
「ええ。それに見て回るだけでも楽しいですよ。」
「そうか、どこでもこんな活気があればいいな。機械的なものじゃなくて人の活気がさ。」
「そうですね。この様な町を見つけるのも旅の醍醐味だと思っています。」
「旅ね・・・サーナイトはインドア派だと思ったが違ったかな?」
「んー・・・言わせていただけるのならばマスターと一緒なら。です。」
 変わる事のないいつものサーナイトの答えにバイツは笑った。



 それからモーテルの部屋に戻ってきたバイツとサーナイト。
 部屋には丸まって眠っているアブソルと本を読んでいるテスラしかいなかった。
「ただいま・・・ってあれ?二人だけか?」
「みんなバイツをさがしにいった・・・」
「俺を?何で?」
「みんなバイツといっしょにおかいものしたいって・・・」
「サーナイト、そういえばお前俺を探してたって言ったな。」
「ええ、一番乗りでした。」
 言葉が続かないバイツ。
 テスラが分厚い本を閉じて背伸びをする。
 そして、バイツに向かって歩くといきなり抱きついた。
「さきにかえってきてまっててよかった・・・おかえり・・・」
「えーっと二度目だけどただいま。」
 テスラは嬉しそうにバイツの体に頬ずりをした。
「一体何の本を読んでいたんだ?やけに厚い本だな。」
「やじゅうせんぱいひゃくはちのしんせつ・・・いちばでかった・・・」
「そんな本ばかり読むものじゃありません。」
 バイツが手厳しい言葉を返してもテスラは意にも介さない様であった。
「何だ、マスター帰ってきていたのか。」
 アブソルが目を覚ましたようで体を伸ばしながら口を開いた。
「その様子だと一番先にマスターを捕まえたのはサナの様だな。」
「捕まえたって・・・」
 唖然としているバイツを見てアブソルは軽く笑ってから口を開く。
「言葉は選ばない性質でな、悪く思ないでくれ。」
「そういえばアブソルは市場に行かなかったのか?」
「わざわざ人混みの足元に突っ込もうとは思わなかったからな。」

281名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:48:07 ID:2oDo/C8o
 そう言うと見慣れない無線機に向かってアブソルが話し始めた。
「マスターは帰還した。繰り返すマスターは帰還した。」
「何だそれ?」
「無線機だ。」
 それから少し待つとルルと共に他の皆が一斉に戻ってきた。
「あー!やっぱりサーナイトがバイツさん捕まえていたか・・・」
 悔しがっているルルにバイツが声を掛けた。
「なあ、あの無線機はなんだ?」
「ルルが何処かから持ってきたんですよ。呆れますよね。」
 言葉が聞こえていないルルに代わりドレディアが溜息混じりに言った。無線端末を持ちながら。
「待て、何だソレ。」
「無線端末です。ああ言いましたけど結構便利ですよ。」
 バイツはもう何も言いたくなくなった。



 アクリルは走った。バイツの下へ。
 まさかゴライアスがあそこまで兵器として進化していたとは思いもしなかった。
 このままではバイツですら確実に命を落とす。
 メイデンナイトやポケモン等どうなろうが知った事ではなかったがバイツだけは別だった。
 居る場所は分かっている。メイデンナイトの気配を追えば良いだけ。
 だからこそアクリルは走った。
 裏切りになろうとも構わない。
 ゴライアスは多少アクリルの指示は聞くがバイツを見つけた場合は真っ先に消すようにと既にアクマルスから命令を受けている。
 その時になってしまえばアクリルの指示など絶対に通りはしない。
 だからこそ手遅れになる前にアクリルは走った。



 アクリルがバイツ達の部屋に来たのは深夜近くになってからだった。
「居るんでしょ!お願い!話を聞いて!」
 ただならぬ雰囲気に圧倒されたバイツは止むなくアクリルを部屋に入れた。
「それで・・・一体何の話なんだ?」
「バイツ、アンタに危険が迫っているの。」
「危険?いつだって危険と隣り合わせさ、お前達の所為でな。」
 面倒な事になりそうなのでサーナイト達を有無を言わさずボールの中に戻したバイツとルル。
「悪かったわね!でも今回は冗談抜きよ!アンタが一番危ないの!」
「どうせ罠よ。真面目に話を聞くこともないわ。」
 ルルが口を挟む。当然最初からアクリルの事など全然信用していない。
「アンタには関係ないわよ、好き勝手にすれば?アタシが話してるのはバイツ。」
 その一言でルルは頭にきたのか再度口を挟み始めた。
「ふざけてんじゃないわよ馬鹿娘!なんでワルイーノの話なんかバカ正直に聞かなきゃなんないの!?」

282名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:48:47 ID:2oDo/C8o
「馬鹿娘・・・?言ってくれるじゃないバイツに迷惑ばっかりかけてるお馬鹿さんに言われたくないんだけど!」
「馬鹿・・・?いいわよ選んで今ここで消えるか私に浄化されるか。」
「冗談!逆立ちしてもアンタなんか余裕よ!」
「はいはいストーップ。」
 テスラが怯えてきたのでバイツが手を叩きながら二人の抗争を止める。
 その時、微かな振動を感じた。
「兎に角・・・だ。お前の言う事を疑っている訳でも信じている訳でもないんだ。」
「証拠でも見せろっての!?見せられるはずないじゃない!アンタでもアレは危険よ!」
「そうね、もっと危険な罠に誘い込まれるかもね。」
 キッとルルを睨みつけるアクリル。
 喧嘩になりそうだったが止めようとしないバイツ。彼は徐々に大きくなっていく振動に気を取られていた。
「・・・コレか?」
「え?」
 ルルもようやっと振動に気づく。
 部屋の置物がガタガタと小さく揺れ始めてそれが徐々に大きくなっていく。
 そして地響きともとれる足音。
「・・・来たわね。」
 アクリルが外の見える窓ガラスに近づきほんの少しカーテンを開けて外を見る。
 バイツとテスラそして渋々ながらのルルもカーテンを少し開けて外を見る。
 何かが居た。
 暗くてよく見えないが巨躯を傾けながら町中を歩いている。
 市場の露天を滅茶苦茶にしながらソレは地響きを起こし歩いていた。
「な・・・何・・・アレ・・・」
 ソレとバイツの目が一瞬合った。
「ぐ・・・ぁ・・・」
 バイツは窓から離れて右腕を押さえ込んでいた。
 目が合った途端に右腕に激しい電流が走ったかの様な錯覚にバイツは因われた。
「そう・・・やっぱりどっかで何かが繋がってるのね・・・右腕。」
「何の話だ・・・?」
「アレには・・・ゴライアスの右腕には変化したアンタの元の右腕が使われているのよ。」
 アクリルの視線は外からバイツへと移っていた。
「変化した・・・?・・・一体・・・」
「実験の果てよ・・・ゴライアスの体は数十人の肉体をワルイーノの力で混ぜ合わせたもの。右腕はその十数人の精神力で押さえ込んでいるのよ。」
 揺れ続ける部屋の中は沈黙に支配された。
「だから逃げてバイツ・・・こいつらなんて放っておいて。」
「そんなことできるか・・・俺は・・・」
「ゴライアスの狙いはアンタ一人なの。」
 再度部屋に沈黙が訪れた。
 遠ざかっていく地響き。移動を始めたゴライアスをルルとテスラは呆然と眺めていた。
「一旦何処かに行ったようね。さぁて・・・どういう指示をしようかしら?ここから離れるように・・・?うーん・・・」
「指示ってどういう事よ!まだ何か言ってない事あるわね!?」
 再度アクリルの言葉に喰らいつくルル。だが当の本人は思考の邪魔をされたくない様で無視していた。

283名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:49:19 ID:2oDo/C8o
「ま、いいか。今晩はここに泊めてねゴライアスの動向に目を向けるのは明日にしよ、バイツ?」
「ちょっ・・・!待って、泊まるってどういう事よ!」
「いいじゃないメイデンナイト、危険に晒されながらわざわざ警告しに来てあげたのよ?これくらい当然じゃない?」
「警告って・・・冗談じゃない!ここに泊める義理なんて無い!」
「落ち着けルル。」
 再度バイツが中に割って入った。
「分かったアクリル、今晩ここに泊まってもいいが・・・」
「分かってるわ誰にも危害を加えないし何もしない。」
 アクリルも手を出す様子は無いようでバイツの出した条件を素直に聞き入れた。
「ああ、それで頼む。」
「待ってよ!私は反対!いつ寝首掻かれるか分かったもんじゃない!」
「そうカッカしないでよメイデンナイト・・・いやルルでいいんだっけ?随分大人しい感電兵器のアンタの意見は?」
 兵器という物言いにテスラは一瞬ムッとしたがそれを言葉にすることはなかった。
「わたしは・・・バイツをしんじてるから・・・バイツがいいっていうならいいよ・・・」
「可愛い子!じゃあよろしくね、ルル?」
 名前で呼ばれた事に腹を立てたルルだったが、これ以上は何も言わなかった。
 そして、サーナイト達をボールから出すバイツとルル。ゴライアスの事と話し合った事を伝えるが別段どうという反応は返って来なかった。
「じゃあもう私寝るから。」
 そう言い捨てるとルルは寝室へと入りドアを荒々しく閉めた。
「何怒ってんの?バッカみたい。」
「お前が事を荒立ててるんだろ?ま、その内機嫌も良くなるさ。」
「甘いわよバイツさん、あんなルルは誰かが宥めなきゃダメなの。」
 そう言いながらコジョンドは寝室へと向かっていく。それに続くようにルルのメンバー達は寝室へと向かう。その時ゾロアークがアクリルの近くで足を止めた。
「アンタに殺されかけた事は水に流しておくよ。それにこれ以上のゴタゴタはゴメンだからね。」
「そう、ありがたいわね。じゃあお嬢様のご機嫌取りよろしく。」
「やれやれ、分かってるよ。それじゃあおやすみ皆。」
 そう言い残してゾロアークも寝室へと消えていった。
「皆様もそろそろ寝るのでしょうか?」
 サーナイトの言葉にバイツのメンバーは頷いた。だが、バイツだけは頷かなかった。
「もう少し考える事がある。皆は先に休んでいてくれ。」
「そーなの?おやすみ!マスター!」
「あまり夜更かししないのよ?おやすみ。」
「お先しちゃうからねー!おやすみ。」
「あんまり根を詰めても仕方があらしまへんよ、ほなお先します。」
「何を考えているかは知らないが無理はするなよ。おやすみ。」
「あの・・・何かあったら何時でも相談してくださいね。おやすみなさい。」
 クチート、ムウマージ、ミミロップ、ユキメノコ、アブソル、そしてサーナイトの順に寝室へと入っていった。
 それを見届けたバイツはソファーに座ると自分の右腕に視線を落とした。
「もしかして怖いの?」
 アクリルがクスクスと笑いながらバイツに尋ねる。
「・・・かもな。」

284名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:49:56 ID:2oDo/C8o
「何よ、アンタらしくない言葉ね。」
 元は自分の右腕だったものを他人が使っているという事は何処か奇妙な感覚がしたバイツ。それを恐怖というのは分からないがどうにも言い切れない何かがあった。
 それだけではなく、狙いが自分だとしたのなら皆が巻き添えになるかもしれない。という考えもまたバイツの頭を過ぎっていた。
 どうするべきか。
 今の状況を考えるだけでも気が滅入りそうだった。
 ふと、膝元に衝撃を感じたバイツ。見ればそこでテスラが頭を乗せて眠っていた。
「気楽なものね。」
 アクリルの言葉にバイツはフッと笑みをこぼした。
「ここで立ち止まっていても仕方ないな。」
 バイツはテスラを抱え上げると寝室へと向かった。
「あら、バイツも寝るの?」
「まあな。」
「アタシはアンタの隣ね。」
「いいやスペースが足りなさそうだしな、俺はソファーでいい。」
「何ソレ・・・だったらアタシも・・・」
「おいおい、朝になったらルルがうるさいぞ?」
「そーね、一々噛み付かれちゃ堪んないわ。」
 テスラとアクリルを寝室へと連れて行ったバイツ。その後彼はソファーに戻り、雑念をを振り払うかの様に目を瞑った。



 翌日、バイツ達は無残に踏み潰された市場へと足を踏み入れた。踏み入れたといっても正確には野次馬でできた壁の外だった。
 野次馬の群れも警察に止められているのか遠巻きから惨状を眺めているだけであった。
 その中でバイツが目にしたのは屋台の残骸と自分の数倍はある大きな足跡。
 足跡は町の外の森へ続いている様で、警官が足跡を追わないようにと呼びかけていた。
「さあて・・・どうするかな。」
 バイツとしては無視できない存在であるゴライアス。
「逃げるしかないわよ。あれは正直化物とかいうレベルじゃない。」
 アクリルの言葉にルルが反対の声を上げる。
「何とかしなきゃ・・・これ以上被害が出る前に・・・」
「勝手にしたら?アタシはバイツだけ居ればいいし。さ、逃げよ?」
「何言ってんの!?バイツさんは置いていってもらうわ!逃げたいのならどうぞお一人で!」
「何よ!人が折角簡単に事を済ます方法を提示してやってんのに!」
「はい、白熱してきた所だけどストーップ。」
 慣れてきたのか綺麗にバイツが二人の中に割って入り喧嘩を止める。
「アクリル俺もアレは止めなきゃいけないと思っている。」
「は?アンタも人の話を聞いていなかったの?」
 アクリルの反応も当然といえば当然だった。
「ほら、バイツさんだって危険視しているじゃないここは力を合わせて一気に・・・!」
「悪いが俺一人でやる。ゴライアスの狙いは俺だ。」

285名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:50:30 ID:2oDo/C8o
「・・・は?何言ってるの?だってあんなに大きなヤツ・・・」
 一瞬ルルはバイツの言葉を理解できなかった。
「被害がでない場所まで誘導して戦う。狂ってるかのように聞こえるがそれしか無い。」
「無茶!バイツさん一人だけなんてダメ!私も行く!」
「アンタ本当に狂ってるわ、ゴライアスを過小評価してるの?それとも・・・」
「たっ、大変です!皆様!」
 サーナイトが慌てて飛び込んでくる。
「今そこで耳にしたのですけれど警察の皆様がアレを新種のポケモンの仕業だと断定して・・・」
「捕獲する為に数人で足跡を追うって言っていたのか!?」
「は・・・はい。」
 サーナイトの台詞を先取りしたバイツは舌打ちをした。このままでは確実に被害者が出る。
「哀れね・・・」
 アクリルが呟いた。
「自分から肉片になりに行くって言っている様なものじゃない。」
「私、止めてくる!」
 ルルが駆け出す。丁度選ばれた警官数名が町の外へ出て行くところだった。
「待ってください!」
 警官数名がルルの方に振り向く。
「アレは新種のポケモンなんかじゃありません!もっと危険な怪物なんです!」
 警官数名の中からジュンサーと呼ばれる女性警官が現れてルルの両肩に手を置いた。
「もし、この惨状があなたの言う危険な怪物の所為なのならなおさら私達は行きます。あなた達を護るのが私達の役目でもあるのだから。」
 ジュンサーは笑顔で言い切るがそれはルルにとっては絶望の言葉にしか聞こえなかった。
 そして、ジュンサー達が出発した後、その姿を見送っていたルル。
 暫くすると聞こえてきたのは断続的な地響きと生物のものとは思えない叫び。
「勇気とは傲慢さの裏返し。どうしてこう人間っていうのは毒酒をあおりたがるのかしら。」
 アクリルの言葉にルルは何も言わなかった。
「このまま逃げましょうバイツ。今のアンタじゃ万に一つの勝目もな・・・」
 振り向いてそう言ったがバイツの姿はそこになかった。
「バイツ・・・いなくなった・・・」
 テスラの言葉で初めてバイツがこの場から居なくなった事に全員が気づいた。



 化物。
 ジュンサーの脳裏にはその二文字が浮かび上がった。
 目の前にいるのは複数の人間を人の形に無理矢理つなぎ合わせたかの様な風貌で三メートル越えの化物。その化物に他の警官は赤黒い肉片にされてしまった。
 大きな紅い右腕を振るわれる度に衝撃だけで木々は薙ぎ倒されて人やポケモンの体がバラバラになっていく。
 無線機は破壊されて、震えながら木の根元に力が抜けたかの様に座り込みそのおぞましい光景を見ている事しかできなかった。
 彼女が無事だったのは目の前の化物が他の何かを攻撃しているからだった。
 化物の視線をジュンサーは追った。

286名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:51:05 ID:2oDo/C8o
 化物とジュンサーの視線の先。そこにいたのは血まみれになりながら笑っているバイツだった。



 バイツは唯々笑うしか無かった。オリジナルのグラードンに酷似した右腕の衝撃一発でここまでやられるとは考えてもいなかった。
 吹っ飛ばされて木に叩きけられたバイツは既に体の所々が悲鳴を上げていた。
 ゴライアスが右腕を大きく上げた。そして、振り下ろす。
 衝撃だけでも周りの木が倒れるほどの威力。
 振り下ろした先にバイツの姿は無く、股下を通って回避していた。その際右腕を大きな剣に変化させ、足を切りつけていた。
 効果は微塵もなかったようでゴライアスは再度バイツに攻撃を仕掛けた。
 今度は足を上げての踏みつけ。足を下ろす度に地面が揺れた。
 それをかわしつつバイツは右腕で斬り込んでいくが効果は薄かった。
 ゴライアスがまたもや足を上げた。バイツはそれを回避しようとしたが、足はすぐさまその場に下ろされ代わりに紅い右腕がバイツを襲った。
 バイツの体はいとも簡単に弾き飛ばされて、再度木に叩き付けられた。
 そのままずり落ちて木にもたれ掛かる様に倒れるバイツ、動けない上に既に体中の感覚が無かった。
 その時、遠くから声が聞こえた。
「マスター!」
「バイツさん!」
 バイツはゆっくりと頭を上げた。
 ゴライアスの向こう、そこにはサーナイト達がいた。
「逃げ・・・ろ・・・」
 血を吐きながらバイツは現段階で精一杯の警告をした。だが、聞こえるはずもない。
 ゴライアスが振り向いた際の眼光に一瞬一同は怯んだがサーナイトはバイツの有様を目にした途端に猛スピードで動き、バイツとゴライアスの間に立った。
「マスターにはこれ以上手出しをさせません!」
 華奢な体を張ってゴライアスからバイツを護ろうとする。無論ゴライアスは関係なく再度右腕を振り上げた。
「止めろ・・・」
 振り下ろされる右腕。バイツも力を振り絞ってサーナイトの脇から右腕を出す。
「言っても・・・無駄だよな・・・」
 バイツの右腕は瞬間的に刃の付いた数十本の茨に変化し、ゴライアスの体に巻き付いた。
 それはゴライアスの体に食い込み動きを止めた。
 ドス黒いゴライアスの鮮血と共に軋む茨。その中でバイツの頭の中に声が聞こえてきた。
『よう!久しぶりだな、宿主。』
『お前か・・・』
 右腕の声がバイツの頭の中に響いた。
『俺このザマなのよ、どーにかならないもんかね。』
『その肉体を拒絶することはできないのか?』
『無理だね、数十人の精神力と変な力で無理矢理押さえつけられっちまってんだよ。』
『・・・だったら俺等二人でやろう。前の様に。二人で一つだった頃の様に。』
『ま、やってみるかぁ!』

287名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:52:05 ID:2oDo/C8o
 そこで、脳内に響く声は一旦途切れた。
「ホーリースティングショット!」
 メイデンナイトに変身したルルの声がバイツの耳に届く。
「バイツから・・・はなれて・・・!」
「さっさと右目のソレ外しちゃいなさいよ!火力不足の皺寄せがこっちまで来るじゃない!」
 一緒に戦っているテスラとアクリルの声も聞こえた。
 皆が戦っていた。バイツの為に。
 途端に茨が千切れる。拘束から解放されたゴライアスから全員距離を取った。
「だよな・・・やってみるか。」
 そして満身創痍のバイツが立ち上がる。
「マスター!駄目です!これ以上は・・・死んでしまいます!」
「策は練ってある・・・大丈夫だ・・・!」
 バイツは迫ってくるゴライアスの左腕の拳に対しサーナイトを抱え上げて跳んでかわし、ルル達の近くに降り立った。
「サーナイトを頼む!」
 ゴライアスと真正面から対峙するバイツ。
 自然と恐怖は無い。
 右腕を振り上げるゴライアス。それを見てバイツも右手を握り締める。
 振り下ろされる右腕、それに右腕を打ち込む。
 二つの右腕が衝突した途端、不思議な事に音も衝撃も何もなかった。
 あったとするのならばゴライアスの右腕が徐々に黒に覆われていく光景。
「何なの・・・?何をする気なの・・・?」
 アクリルの声が震える。
 その瞬間何かが弾ける音と共にゴライアスは右腕を失っていた。
 ゴライアスの右腕はバイツの右腕の黒に飲み込まれ同化していった。
 そして、バイツの右腕が完全にゴライアスの右腕を飲み込んだ途端にバイツの右腕の黒が弾けた。出てきたのは紅い色をした右腕。
「マスターの右腕が・・・元に・・・戻った?」
 誰もが何を言って良いのか分からない中、サーナイトが発した言葉だった。
 右肩から先がないゴライアスはドス黒い鮮血を撒き散らしてうつ伏せに倒れた。顔を上げた途端バイツの紅い右腕が眉間に直撃する。
「おやすみするにはまだ早い時間帯だけどな。」
 刹那、巨大な火柱がゴライアスの体を包み込み一瞬で燃え盛る灰にした。
「そんな・・・有り得ない・・・こんなのって・・・」
「意外か?アクリル。」
 バイツは振り向こうと、後ろを向いた。途端、何かの気配に気づき再度正面に視線を向ける。
「ほう?右腕を取り戻したのか。」
 未だ炎が燻っているゴライアスの灰の方からから杖をついた老人が現れた。
「アクマルス・・・様・・・」
 アクリルが怯えた表情で一歩後ずさりする。
「やれやれ・・・右腕を活用してもこのザマとはの?」
「・・・」
 アクマルスの眼光は鋭く、その眼光にアクリルは何も言えなかった。
「戻るぞ。ここに居ても仕方あるまい?」

288名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:52:46 ID:2oDo/C8o
「・・・冗談・・・!」
 意外な言葉にバイツもルルもアクリルを見た。
「誰が・・・あんな・・・あんな陰湿な場所に戻るっていうの・・・」
 アクマルスに対する恐怖から言葉が震える。だが彼女は体も震わせながら口を開く。
「・・・ア・・・アンタと一緒に戻るなんざ・・・お断りよ!アクマルス!」
「・・・どこで教育を間違えたか・・・嘆かわしい。」
 言い終わるなや否や光がアクリル目掛けて飛んだ。
 アクリルはかわす事すらままならず目を瞑った。
 しかし、光は途中で止まっていた。バイツが右手で光を掴んでいた。
 バイツの掴んだ光の正体は、仕込み杖の刀身の部分だった。
「超高速の抜刀術か。」
 掴んでいる刀身に血が伝い滴り落ちていく。
「見切ったというか、儂の技。」
「一度斬られているからな。」
 バイツが右手を離すと瞬時にアクマルスは納刀した。そしてルルに目を向けて笑った。
「・・・下手に手を出して大切な躯の一部分でも切り落とす訳にも行かぬしな。」
 アクマルスはそう言うと突風に舞い上がる灰の中に消えていった。
「・・・躯?何の事だ・・・?」
 右手の掌を見ると刀身を掴んだ際の傷はもう消えかかっていた。
 しかし、アクマルスの残していった言葉の謎は消えそうになかった。



「このひと・・・きをうしなってる・・・」
 テスラがジュンサーを見ながら口を開いた。
「そのままにしておこう。起こすと状況説明だの何だのってうるさく言われそうだしな。」
 ジュンサーをそのままにしてこっそりとモーテルへ戻るバイツ達。
 モーテルに戻った途端にサーナイトが口を開いた。
「服を脱いでくださいね、マスター」
「いきなり何を言い出すんだ?」
「怪我の手当てです。何を戸惑っているのですか?」
 バイツは恐る恐る服を脱ぎ、椅子に座る。
「では、失礼します。」
 サーナイトがバイツの手当てを始める。バイツも自分で出来る所は自分でやりながらの分担作業になった。
「悪いなこんな事までしてもらって。」
「先程何も出来なかった分・・・私にはこういう事をするしかできませんから。」
 サーナイトは包帯を体に巻きつけながら語り続ける。
「もし間に合わなかったらと・・・ずっと不安で仕方ありませんでした。・・・それでも生きていてくださいました。」
 手当てが終わったバイツの背中にその身を委ねるサーナイト。バイツも痛みより安心感の方が優っていた。
「済まない、また心配を掛けさせたようだな。」
 そう言いながらアクリルに視線を移すバイツ。
「さて?これからどうする?連中とも離反したようだしな。」
「決まってるじゃないアンタ達に・・・バイツについていく。」
「はぁ!?何?何なのそれ!?」
 当然、真っ向から反対するルル。
「そんなの無理に決まってるじゃない!バイツさんだって・・・」
「俺は構わない。」
「はぁぁ!?テスラも何か言ってやってよ!」
「バイツがいいならわたしもいい・・・」
「はぁぁぁ!?じゃあ皆は!?」
 サーナイト達にも同意を求めたがそこで帰ってきたのは別に構わないという答え。
「・・・!!!」
 言葉にならない言葉。
「じゃあ決定?よろしくねー」
 ルルの声を押し切り最後はアクリルが締める。
 大層賑やかになった一行は次に一体どこへ向かうのだろうか。
 これから喧嘩の仲裁役となるバイツはそう思った。

289名無しのトレーナー:2012/12/01(土) 19:54:08 ID:2oDo/C8o
これで19章は終わりだよ
テンポよく進めたわけじゃないよ
ただ短いだけだよ

290名無しのトレーナー:2012/12/12(水) 23:56:37 ID:Un6d4DPU
新参です.
初SS書いてみましたが,やはり駄文になってしまったorz.
よければ,一部投稿しますが,いいですか?

291名無しのトレーナー:2012/12/13(木) 00:03:03 ID:Un6d4DPU
誰もいないようなので,勝手に投稿します.タイトルは未定です.すいません<m(__)m>

うっそうと生い茂る森の中,一人の少年と一匹のポケモンが歩いていた.
彼の名はタカシ,ポケモントレーナーだ.
その隣で,木の実を頬張りながら歩いているのは,いや,ふわふわと浮いているのは,きょうぼうポケモンとして知られている,サザンドラだ.
サザンドラは,タカシが子供のころ,伯父から,もらったポケモンの卵からかえったモノズが成長し,進化したポケモンだ.モノズは本来粗暴な性格だが,タカシが手塩にかけて育てたこともあって,今のサザンドラはタカシに懐いており,信頼しきっている.
タカシとサザンドラは森を抜け,タカシが気に入っている,とある場所に向かっている.その場所はとても綺麗な湖が広がっており,タカシはそこで,森や湖に住んでいる,ポケモンたちを写真に撮るのをひそかな趣味にしている.
いつも通りタカシが湖に近づくと,サザンドラがタカシの肩を叩いてきた.
タカシが振り向くと,そこには,一匹のポケモン,サーナイトがいた.サーナイトは,こちらに気づいていないようだ.
タカシは,サザンドラを連れ,物陰に身を潜めた.タカシは,図鑑などでしか,サーナイトを見たことがなく,このチャンスを逃すまいと,タカシは年季の入ったカメラを鞄から取り出し,シャッターの照準をサーナイトに合わせた.
(しかし,サーナイトは野生にはいないポケモンだと聞いたけどなあ・・・ましてや,この辺にラルトスは生息していないはずだし.もしかして,人のポケモン?いやでも,周りには人影なんてないぞ?)
タカシは,疑問に思いながらも,シャッターチャンスを狙った.
サーナイトはどこか,悲しげな眼をしていた,よくみると,サーナイトは木の実を一つ持っていた.タカシはその木の実に見覚えがある.オボンのみだ.さっきサザンドラが頬張っていたのと,同じ種類だ.
サーナイトはその木の実を小さな口で,一口齧った.その途端,
「サ,サナアァァァァァァァァァ!!!!!」
サーナイトは自分の胸を押えて,苦しみ始め,叫び声をあげた.突然のことに驚く,タカシとサザンドラ.
あまりの苦しみにのたうちまわった後,サーナイトは気を失い,倒れてしまったのだ.
急いで,サーナイトに駆け寄るタカシとサザンドラ.まだ,息はあるようだが,ずいぶんとぐったりしている.タカシはヒールボールでサーナイトを捕獲しようとした.しかし,サーナイトは弱っているにも関わらず,ボールに入らなかった.考えられるのは,すでに他のボールに入っていたからである.つまり,このサーナイトはやはり,野生ではなく.人のポケモンだということだ.タカシはあたりを見回したが,サーナイトのトレーナーらしき人影はなかった.

292名無しのトレーナー:2012/12/13(木) 21:03:25 ID:Un6d4DPU
見てる人いるかなあ?続き投下

「サザンドラ!僕がこのサーナイトを背負うから,近くのポケセンまで,飛んでくれ!できるか?」
サザンドラはお安い御用だと言わんばかりにうなずいた.
タカシはサーナイトを背負ってサザンドラにのり,森の入口のすぐそばのポケモンセンターまで急いだ.
タカシはポケモンセンターに着くなり,ジョーイに事情を話した.サーナイトは奥の部屋に運ばれ,タカシはそのまま,待合室で待つこととなった.
タカシはあのサーナイトのことを考えていたが,あのサーナイトには疑問点が多く,なかなか考えがまとまらないでいた.そもそもなぜサーナイトはあんなところにいたのか.タカシのボールに入らなかったということは,野生でもなく,捨てられたということでもない.あのサーナイトにはトレーナーがいるはずだ.なら,そのトレーナーはどこにいるのか.
もう一つ分からないのは,サーナイトが持っていたオボンの実.あれはいったい何なのだろうか.あの状況からみると,サーナイトが倒れた原因はあのオボンの実なのは間違いないだろう.だが,オボンの実はポケモンの食用として,広く知られている.あの森にもオボンの実が自生しているが,もちろん害はない.現に,サザンドラがついさっき食べていたが,何ともない.
タカシは首を横にふり,考えるのをやめた.分からないことはいくら考えてもしょうがない.いまはあのサーナイトの無事を祈ろう.そう考え,ふと棚をみると,雑誌や新聞が数冊置いてあるのが目に付いた.
「起訴された有名政治家O氏,無罪確定」「アイドルAさんと女優Kさん.まさかのでき婚!?」「○○高速道路で,玉突き事故.死者10名の惨事に.」
雑誌や新聞の見出しを眺めていたが,特に読む気になれず,どう時間をつぶそうかと考えていると,部屋の奥から医者らしき人物がでてきた.
「君がタカシ君か.あのサーナイトのことで話があるのだが・・・」
そう言われて,ある病室に通された.
そこにはサーナイトがベッドで眠っていた.
「命に別状はない.あと数日休めば,回復するだろう.」
「そうですか・・・それはよかった.」
胸を撫で下ろし,まじまじとサーナイトをみるタカシ.あの時は,近くでゆっくりとサーナイトを見ることはかなわなかった.さっきは,気が動転していて気付かなかったが,このサーナイト,よく見るとところどころ痣だらけだ.火傷のあともあるようだ.タカシは一目見ただけで,このサーナイトがどのような境遇の元育ってきたかを理解した.

293名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 19:52:37 ID:/qBnNDz6
引っ越しして、パソコン新調して、さあ後はネットを繋げるだけだ。
と意気込んだものはいいものの工事日が遅かったのでアウアウアー
更にスランプ気味ときたもんだ。まあでも小説は置いていくよ。

>>290
どうせだから一部じゃなくて全部投下しちゃいなYO!

294名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 19:53:44 ID:/qBnNDz6
 汽笛が遠くで鳴り響いた。
 バイツは一人海に面した倉庫街を歩いていた。人っ子一人なく誰も用無く立ち入らないそこは静寂に包まれていた。
 放浪癖があるわけではなかったが何となくブラブラと歩くことが多いバイツ。
 ただ、今回だけは趣が違っていた。
「出てこいよ。」
 それだけバイツは言った。
 するとどこからともなくぞろぞろと黒い人間が現れた。
 揶揄ではなく本当の黒。
 それはワルイーノと呼ばれている生物。
 人間でもポケモンでもないその生物には地球を征服するという大きな使命があった。
「で?人の事尾行して一体何の用だ?」
 バイツは周りを見渡す。相当な数に囲まれている為に海にでも飛び込まない限り逃げる事は不可能だった。
 しかし、逃げる事よりも荒事の方が得意なバイツは数の脅威に怯える事無く平然としていた。
「お前、メイデンナイトの仲間だな。」
 一体のワルイーノが口を開いた。
「お前、裏切り者の仲間だな。」
 他のワルイーノが口を開く。
「だったら何だっていうんだ?」
 バイツは呆れかえった様に口を開いた。
「お前は我々にとって大きな脅威だ。今のうちに潰す。」
 一斉に襲い掛かるワルイーノ。だが、それをみてもバイツは口端に笑みを浮かべるだけであった。



 その頃モーテルの一室はピリピリとした空気に包まれていた。
 ワルイーノにメイデンナイトと呼ばれた世界をワルイーノの悪の手から護ろうとする少女ルル。
 ワルイーノでありながらワルイーノと袂を分かちバイツと共に旅をする事を選んだ少女アクリル。
 今、室内が一触即発状態になっているのはその二人の所為であった。
 片方が口を開けば片方がそれを貶す。そしてもう片方が口を開いて大喧嘩となる。その繰り返し。
 これにはバイツとルルのポケモン達やワルイーノに兵器として造られた少女テスラもお手上げ状態であった。
「み・・・皆様、お茶にしませんか?」
 サーナイトがこの空気を何とかしようと口を開く。それに賛同したかの様にドレディアも口を開く。
「い・・・いいですね!ルルもアクリルさんもお茶にしませんか。」
 この二人の内先に声を上げたのはアクリルだった。
「いいわ、お茶でも飲んでのんびりしましょ。ルルちゃんにはジュースでいいかしら?」
 その一言にカチンと来たルル。
 サーナイト達は予想される状況に頭を抱える他無かった。
「あら、お茶の入れ方くらい知ってるわよ。淹れてあげましょうか?それともジュースの方がいいのかしら?お嬢ちゃん?」
 売り言葉に買い言葉。そしてアクリルが口を開いた。
「アンタの淹れたお茶よりそこらのドブ水の方がマシよ!」
「へーじゃあ、飲んできなさいよ。その味十分堪能してくるといいわ!」
「アンタこそドブ水をたっぷり飲んできなさいよ!アンタの淹れるお茶とやらも少しはマシな味になるでしょうからね!」
 そしてギャーギャーと始まる口喧嘩。
 サーナイト達はこそこそと部屋の隅へ行きこれからの事について話し合った。
「申し訳ありません。私が軽はずみな事を言ってしまったばっかりに・・・」

295名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 19:54:36 ID:/qBnNDz6
 サーナイトの謝罪にゾロアークが口を開いた。
「謝らなくていいんだよ。おかしいのはあっちなんだから。」
 その言葉に一同は頷いた。それからムウマージが口を開く。
「で?これからどうする訳?」
「いちじかんもすればとまるとおもう・・・」
 テスラがそう言うものの止まったら止まったでまた空気が張り詰めた部屋に逆戻りである。
「おい!」
 誰かが怒鳴った。
 サーナイト達もルルもアクリルもその声の主に視線を向けた。
 窓辺にワルイーノが一体立っていた。
「痴話喧嘩の最中だったか、呑気だねえ。」
「ワルイーノッ!」
 ルルが構えたがワルイーノは大袈裟に両手を上げた。
「おおっと!今日は戦る為に来たんじゃねえよ。」
 そう言うと持っていた封筒をルルとアクリルの方に投げた。
「見てみな、いいモンが入ってるからよ。」
 笑いを押し殺しているかの様なワルイーノに警戒しつつルルは床に落ちた封筒の中身を出した。
 一枚のポラロイド写真。それを見た途端、無表情になったルルの顔からサッと血の気が引いた。また、それを覗き込んだアクリルも同じ様な状態になった。
「キシシ・・・」
 予想通りの反応だったのだろう、ワルイーノから笑い声が漏れ出した。
「一体どの様な写真なのです?」
 サーナイト達も写真を覗き込んだ。
 そして二人と同じ反応。
 その写真にはバイツが写っていた。手錠で両腕を吊り上げられ、目隠しをされて力無くだらりと座り込んでいる。
「こいつはお前らの大事な奴なんだろ?今でもこの写真の通りに気絶したままだよ。」
 写真を見たサーナイトはその場に崩れ落ちる様に座り込んだがルルはワルイーノを睨みつけた。
「目的は・・・目的は何!?」
「んんー目的つっても写真のソイツとメイデンナイトの命と裏切り者のアクリルの命・・・つーかぶっちゃけこの世界。」
「ふざけないで!」
「ふざけて無ェよ馬鹿。」
 さっきとは打って変わって殺気立った声。
「もし、コイツを取り戻したいんだったら・・・メイデンナイト、その裏切り者と共に海沿いにある五番倉庫に来い。俺達もいるけどな。」
「人質付きの挑戦状って訳ね。」
 意外にも冷静な声でアクリルが返す。
「ま、そういうこった。時間は何時でもいいが片方だけで来るとか変な気起こすんじゃねーぞ。」
 そう言うと瞬時に窓から出て行ったワルイーノ。
 部屋は先程とは違う静寂に包まれていた。



 ワルイーノはその後、人目につかない様に五番倉庫へと戻った。
「首尾は。」
 暗闇から声が聞こえた。

296名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 19:55:13 ID:/qBnNDz6
「上々です・・・しかしいいんですかい?結構仲悪いみたいでしたよあの二人。」
「だからこそこうしたんだ。」
 天窓から光が差し込む場所に足音が近づいていく。
「それはいいとして・・・よくやった。」
「結構冷や汗モンでしたよ。いきなりメイデンナイトに喧嘩吹っかけられちまいましたし・・・」
「だろうな。」
 その声の主が光の中に入った。
 それは囚われている筈のバイツだった。
「こうでもしないと連中、喧嘩しかしないからなぁ・・・」
 バイツはワルイーノと共に倉庫の奥へと消えていった。



 概要は簡潔に言えば次の通りだった。
 バイツにワルイーノ達がやられた。
 付け加えるのであれば、バイツはワルイーノをあしらっている最中にある事を思い付いた為にワルイーノ達を殺さなかった。
 倉庫の奥、薄暗い明かりの下、バイツは散々痛めつけたワルイーノ達に向かってこう言った。
「お前等にある二人の仲直りを手伝ってもらいたい。」
 ワルイーノ達には手伝うしか道は無かった。
 バイツが演技している写真を撮り、一番怪我の軽い奴にルルとアクリルの下へ撮った写真を持って行かせた。
 そして現在に至る。
 倉庫の奥でバイツとワルイーノ達は次の悪巧み、では無く作戦について話し合っていた。
「はい、それじゃあ第一回ルルとアクリル仲良し大作戦の会議を始めたいと思う。」
 バイツがワルイーノ達の前で切り出した。
「まず何かいい案ある奴・・・」
 途端に外で何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「もう来たのか。」
 偵察していたワルイーノがバイツに向かって言った。
「いいえ、違います。人間が数十人倉庫の前で何やら言い争っているみたいです。」
「何?」
 バイツはこっそり入口に近づき聞き耳を立てた。
 男の怒鳴り声が聞こえてくる。
「グダグダ五月蝿いっすね殺っちまっていいっすか?」
 ワルイーノが嬉々として言う。
「まあ待て。」
 バイツがそれを制止し、聞き耳を澄ます。
「手前等白竜組の居場所はもう無ェんだよ!さっさとこの倉庫街も黒虎組に渡しやがれ!」
 対して今度は少年の声だった。
「断る!父さんの土地を散々奪っておきながらここも寄越せだと!ふざけるな!ここは父さんが最も気に入っていた場所だ!そう易々と渡してたまるものか!」
 どうやら外の口論は口喧嘩という範疇を超えているものだった。
「組長も血が流れる事は望まねえ、さっさとお前等白竜組も黒虎組の支配下に入るこったな。」
 話を聞く限りでは白竜組という組が劣勢に立たされている様子だった。
「倉庫は借りているが俺達には関係の無い話だな。」

297名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 19:55:58 ID:/qBnNDz6
 そこまでバイツが言って耳を離した途端に外で悲鳴が聞こえた。
「なっ・・・何なんだ!この黒い化けモン!」
 それがその声の主の断末魔代わりだった。
 バイツも耳を疑った。
「!?」
「大変です!衝動に堪えきれなかった仲間が外に!」
 ワルイーノの報告を聞いてバイツは頭を抱えた。



 どうやら黒虎組の組員を襲ってしまったらしく、友好的な話をする事になったのは倉庫の持ち主でもある白竜組のほうであった。
「俺はコウといいます。」
 先陣を切って自己紹介をした十四、五歳程の少年は若いながらも白竜組を束ねる組長だった。
「俺はバイツ、でこいつ等は・・・ワルイーノとかいう奴等。」
 コウもそうであったが白竜組の組員達も周りに居るワルイーノに対して少し落ち着かない様子だった。
「よくニュースでやってますよね人やポケモンを襲うって・・・現に・・・」
「まあ、襲ったのは事実だから認めるよ。」
 バイツは少々面倒そうにそう言った。
「でも・・・その力があれば・・・!」
「ん?」
「助けてほしいんです!俺の組を・・・父さんが残していった白竜組を!」
「待て待て、そこらへんがよく分からないんだが・・・」
 コウはこれまでの経緯を語り始めた。
「この街には二つの組があります。白竜組と黒虎組です。昔は・・・父さんが生きていた頃は特に争いも無く両者の勢力も均衡を保っていました。」
 ここでコウが一旦言葉を切った。そこからは苦虫を潰した様に眉間に皺を寄せて言葉を押し出す様に語り始める。
「ある日父さんが殺されたんです。黒虎組の組長クロダに・・・」
 そこで組員の一人が口を開く。
「しかし若!あれは他の勢力が・・・!」
「俺はそう思っちゃいない!」
 ふと、目の前のバイツを見ると我を取り戻したかの様に咳払いをした。
「失礼しました・・・」
「その事故とやら聞かせてもらいたいんだが・・・」
「いいでしょう。父さんとクロダは会合の時二人並んで散歩をしていたんです。健康にもいいという理由で。」
「意外な事だな。」
 俺だったらそこを狙うぞという言葉までは口に出さなかったバイツ。
「目撃者の話だと道路沿いを歩いている時に車の中から撃たれたそうなんです。クロダは不思議な事に・・・無傷で済みましたが・・・父は・・・」
「その・・・他の勢力が介入したって可能性は?」
「それも考えましたが・・・父さんの死後黒虎組が抗争をちょくちょく仕掛けて来て・・・盃を正式に受ける前の事でしたから白竜組は衰退していきました。」
「・・・よくある話だな。」
「お願いです!もうなりふり構っちゃいられない!この街を白竜組の下に置きたいんです!」
「・・・分かった。」

298名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 19:56:50 ID:/qBnNDz6
 バイツにしては意外な言葉だった。
「倉庫も借りてる事だし嫌とは言えそうに無いな。お前等もいいだろう?暇潰しに楽しい楽しい抗争だぞ。」
 バイツはワルイーノ達にもそう言った。
 その時一人の組員が口を開いた。
「若!大変です!事務所が襲われています!黒虎組の連中が・・・!」
「何だと!?クソッ!徹底的に潰すつもりだな。」
「なあ、警察は見て見ぬフリって事でいいのか?」
「ええ、連中警察の腐った連中に金を渡して・・・俺達に関与しない様にさせているんです。」
 バイツは笑った。
「じゃあ好都合だな、俺も暴れられる。行くぞ。」
 そう言い倉庫の出口へ向かって歩き始めた。
「兄貴!俺達は!?」
 ワルイーノの一人が声を上げた。
「後で動いてもらう。それまで待機していろ。」



 事務所前には多くの組員が怒鳴り声をあげながら狭い入口へとなだれこむ様に入っていった。
 その様子を誰もが何事も無かったかの様に通り過ぎていく。警官も例外ではなかった。
 バイツ達が辿り着いたのは丁度その頃だった。
「鉄火場だな・・・これ。」
 呑気にバイツは言ったが事は急を争う事態に変わりは無かった。
「こっちに居たぞ!白竜組の頭だ!」
 サラシを腹に巻いた上半身裸の男が刀を片手にコウに向かって来る。
 しかし、バイツの方が速かった。
 男の顔面を右手で殴り飛ばす。
 一撃で顔面を潰された男はそのまま吹っ飛び、仲間を数人巻き込んで倒れピクリとも動かなかった。
 その光景に一瞬その場が静まり返った。
「用心棒でも雇ったのか!?」
「かまわねえ!やっちまえ!」
 男達が一斉にバイツに向かって走ってくる。
 ニヤリとバイツが笑みを浮かべた。
 それから一分もしない内に事務所を襲っていた男達は倒され全員血溜りの中で生死を彷徨っていた。
 通行人の中には立ち止まり、血飛沫の中を舞うように戦うバイツを見ている者もいた。
「・・・若、あいつ何者なんですかね・・・」
「分からない・・・だが味方だ・・・」
 事務所の中から傷だらけの男が現れた。
「若!申し訳ありません!お手を煩わせるような真似を・・・」
「いや、いいんだ。それよりもよく頑張ってくれたな。」
 それからコウはバイツへ向かって言った。
「よくやってくれました。これで連中も思い知ったでしょう。」
 しかし、バイツは頭を横に振った。
「まだ終わりじゃない。これから追い打ちをかける。連中の事務所を同時に叩く。」
 踵を返してバイツは歩き始めた。
「倉庫に街の地図を持ってきてくれ。連中の事務所に印を付けてな。」

299名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 19:57:29 ID:/qBnNDz6



 それから、一時間もしない内に黒虎組の各事務所から銃声が聞こえ始めた。
「ンだよあの野郎共!なんで銃が効かねえんだよ!」
 黒虎組が相手にしているのは数体のワルイーノだった。
「ケケケッ!人間如きじゃ相手になんねえな!」
 そう言いながらワルイーノは男に突進し、その体を引き裂いた。
 事務所の奥では黒虎組の連中がバリケードを作って必死に援護を送る様に各事務所へ電話をしていた。
 しかし、帰ってきた答えはどこも同じだった。
「黒い生物に襲われてそれどころじゃない。」
 たった、それだけだった。
 それどころか既に電話が繋がらない事務所もあり、各事務所は困窮状態に陥っていた。
 その頃、倉庫ではバイツとコウの二人が雑談しながら報告を待っていた。
「俺は・・・ただの根無し草だよ。あの黒い連中とはちょっと別件で手を組んでいてね。」
「そうだとしても腕が立ちすぎる。あなたの目的は一体・・・?」
「仲直り。」
「は?」
「別に気にしてもらうような事じゃないさ、こっちの問題でね。」
 するとワルイーノが一体、二人の前に姿を現した。
「報告。全事務所制圧確認。」
「よし。全員撤収させろ。後は若頭の仕事だ。」
「了解。」
 ワルイーノはそのまま影と同化する様に消えていった。
「一体何を?」
「手始めに連中の全事務所に襲撃をかけた。皆殺しだ。」
「な・・・っ!」
「向こうの兵隊も随分減った。シマもこのままこっちのものにしてしまえばいい。」
 何かを思い出したかの様にバイツは笑みを浮かべた。
「その前に特殊清掃員が必要になるな。」
 コウはその笑いに身震いした。もし彼が敵だったらと思うと冷や汗が止まらなかった。
「さあ、若頭。仕事が待ってる。」
 バイツの声にコウは我を取り戻した。



 一方、ルルとアクリルは倉庫に向かっていたかと思えばそうではなかった。
 ただ互いに口も利かずに後ろを向き合っているだけであったがそれだけで空気は重かった。
 共に行かなければならないという制約が二人の動きを止めていた。
 その重たい空気の中でサーナイトが口を開いた。
「お二人がその様になさるのなら私が行きます。」
「な・・・何言っちゃってるのサナサナ・・・あいつは二人で、って・・・」
 ミミロップが言葉を投げかけるがサーナイトは意にも介していなかった。それを見かねてかクチートも口を開く。
「駄目だよサナお姉ちゃん!危険だよ!」
「そうよサーナイト。危険すぎる。それに要求はあなたじゃない。」

300名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 19:58:33 ID:/qBnNDz6
 ルルは静かにそう言ったが、サーナイトはその言葉を受け入れなかった。
「いくら危険でも私は行きます!マスターは幾ら危険な状況下でも私を助けてくださいました!だからどの様な危険でも私は・・・私は・・・!」
 そこまで言うとサーナイトは部屋を飛び出していった。
「二人ともいがみ合うんはそこまでにどしたらどないどす。サナはんの気持ち、ちびっとやて汲んやらええんではおまへんどすか。」
 ユキメノコの言葉は二人の耳に届いていなかった。
「貴女達正直言っておかしいわ、どうして今だけでも手を取り合おうと思わないの?」
 コジョンドがそう言ったものの二人は微動だにしなかった。
 それから三十分後、また部屋にワルイーノが現れた。
「お前等仲良しゴッコは止めた方がいいんじゃねーの?」
 そう言って一枚の写真を投げ込んだ。
 それにはバイツと同じ格好で囚われているサーナイトが写っていた。
 ルルはその写真を拾い上げる。
「アンタ達・・・!」
「来るも来ないもお前等の自由だがあまりにも暇だったら・・・なあ?」
 そう言い残してワルイーノは部屋を飛び出していった。
 ルルは奥歯を噛みしめる。まるで何かを決意した様に。



 ワルイーノはその後、人目につかない様に五番倉庫へと戻った。
「首尾はいかがですか。」
 暗闇から声が聞こえた。
「上々です・・・しかしいいんですかい?まだ仲悪いみたいでしたよあの二人・・・ん?前にも同じ事言っていたような気が・・・」
「だからこそこうしたのです。」
 天窓から光が差し込む場所に誰かが近づいていく。
「お手数をかけてしまいましたね。」
「結構冷や汗モンでしたよ。いきなりメイデンナイトに喧嘩吹っかけられちまいましたし・・・ってこの前は言いましたが今回はギリギリでしたよ。」
「そうなのですか?」
 その声の主が光の中に入った。
 それは囚われている筈のサーナイトだった。
「もう少し衝撃的な方法をとるべきでしたか・・・」
 サーナイトはワルイーノと共にバイツの待っている倉庫の奥へと消えていった。



 約二十分前の出来事だった。
 サーナイトは五番倉庫の前でワルイーノに囲まれていた。
 そして、その奥には呆れ顔をしたバイツがいた。
「あー、サーナイト?一体ここで何しているんだ?」
「マスター・・・?これは一体どういう事なのです?」
 予想外の展開にサーナイトはバイツに飛び付くのさえ忘れていた。

301名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 19:59:10 ID:/qBnNDz6
 バイツはこれまでの事を話しながらサーナイトを倉庫の奥へと案内した。
「今回ばかりは心配かけさせようと思って取った行動なんだが・・・」
「心配しましたよ!気が気じゃありませんでした・・・もうっ・・・!」
「真っ先にサーナイトが行動するとは思わなかった・・・いや、お前の性格を考えれば予想できた事だったな。」
 その時一体のワルイーノが二人の前に現れた。
「そいつどうするんです?また写真撮って送るんですか。」
「いいや、サーナイトは・・・」
「写真というとあのマスターが囚われていたフリをしていた写真ですか?」
 頷くワルイーノ。
「でしたらお願いしてもよろしいでしょうか?」
「サーナイト・・・!」
 バイツの感情を押し殺した様な声が響いた。
「私だけ手ぶらで帰るのは少々おかしいかと。でしたらマスターと同じく囚われの身になれば・・・」
 バイツは何かを言いたげにしていたがその言葉を飲み込み次の様な言葉を口にした。
「・・・分かった。演技とはいえお前の痛々しい姿は見たくないんだがな。」
 何故ならばサーナイトの真っ直ぐな瞳にバイツも折れざるを得なかったからだった。



 サーナイトの写真の件が終わった頃、倉庫の奥で携帯電話で何やら話をしていたコウが電話を切りバイツに声を掛けた。
「バイツさん。連中は混乱してこれ以上動きが無いみたいです。」
「カマした一撃が相当効いた様だな。明日あたり邸宅に突撃するか?」
「ええ、俺もさっき組の者とそうするべきかどうか話していました。」
「決まりだな。」
 バイツが笑う。
「奥に休憩室があります。今日はそのポケモンと一緒に休んでいてください。」
「済まない、有り難く使わせてもらう。」
 と、バイツとサーナイトは休憩室に入っていった。
 休憩室は十二畳程の広さの部屋で奥にある窓から夕陽の光が入り込んでいた。
 バイツは何故かその休憩室を見て絶句した。正確には休憩室のベッドである。
 何故かダブルベッドだった。
「・・・」
 二人っきりの空間にダブルベッド。
 暫く沈黙が流れた。
 何もやましい事をする訳じゃない。バイツは心の中でそう唱えながら靴を脱いでベッドの上に寝転んだ。
 やけに弾力があるベッドだった。
 サーナイトも来いよ。そう言おうとした途端バイツの唇はサーナイトの唇で塞がれていた。
 舌を絡めた長い接吻。互いの唇が離れていても唾液の糸は二人を繋いでいた。
「お返し・・・」
「え?」
「心配させた事のお返しです。」
 薄暗くなりつつある部屋。その中でもバイツの上に覆い被さるサーナイトの顔の紅みが見て取れた。
「なあ・・・そういう事するには時間がちょっと早すぎやしないか?」
「時間などは関係ないです。」
 服を手早く脱がすサーナイト。

302名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 19:59:45 ID:/qBnNDz6
 バイツは腹を括ってサーナイトに成り行きを任せる事にした。



 夜空には満月が浮かんでいた。澄んだ空気と光る星々が夜という時間を分からせてくれる。
 アクリルは屋根に上って夜空を見上げていた。
 あそこまで意固地になってルルを否定しているのは、ルルがメイデンナイトだという先入観を払拭できないでいるからであった。
 馬鹿みたいだという事は自分でも分かっているのにどうしても納得がいかなかった。
「アンタ、何かアタシに言いたい事でもあるの?」
 アクリルから少し離れた所にアブソルが座っていた。
「いいや、私が言った所で何も変わりはしないからな。だから何も無い。」
「フン、結構よ。言う事なんかお見通しなんだから。」
「そうか・・・ならば大人しくマスターとサナを助け出してきてくれ。」
 アブソルの言葉にアクリルは吹き出し笑った。
「やっぱりね、予想とドンピシャ!」
「だから何だ。」
「アタシがルルと手を取り合ってダンスでもしろっての?」
「嫌だ。とは真っ先に言わないんだな。」
 意外な言葉にアクリルは口を止めた。
「だが思い出せ。お前を分け隔てなく受け入れたのは誰か、分け隔てなく接してくれたのは誰か・・・」
 そこまで言ってアブソルは溜め息を吐いた。
「これ以上は私の言う所じゃないな。」
「そう、御高説なんて真っ平御免よ。」
「そうだな、役者交代だ。」
「そうねアブソル、ありがとう。」
 何時の間にかアクリルの隣にルルが座っていた。
 それと同時にアブソルはベランダへと降りて中に入っていった。
「・・・何よ。」
「別に・・・いいじゃない星を観る位。」
 そのまま二人は黙ったまま星空を見上げていた。
 幾分の時が経った。
 急にルルが口を開き始めた。
「私ね、思うの・・・どうしてこんなにアンタと馬が合わないんだろうって。」
「何よいきなり。」
「だっておかしいじゃない、想い人と大好きな仲間が囚われているのに私達は何もしようとしていない・・・ううん現にしていない。」
 ルルの言葉に何かを言おうとしたアクリル。だが不思議な事に言葉が出なかった。
「私、アンタの事ずっとアクリルとして見ていなかった。」
「ワルイーノとして見ていた。」
「そう、だからその事が邪魔してアンタをアクリルとして認めていなかった・・・」
「サイッテー・・・名無しと同格って事?」
 しかし、アクリルはそう言いながらも何処か似通った所をルルに見ていた。
「違うの・・・どう言えばいいのかな・・・」
「アンタの言いたい事くらい分かるわよ。」

303名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 20:00:39 ID:/qBnNDz6
「そっか・・・ありがと、アクリル。」
「べっ・・・別に礼を言われる事じゃないし!」
 妙な気分になりながらもアクリルは何処か嬉しかったのかもしれなかった。
「・・・アタシも同じ事考えてた。それで自分が馬鹿みたいに思ってきちゃって・・・」
「うん・・・私も。」
「そっか・・・」
 二人は暫く押し黙っていた。
「アクリル、明日行こ。」
「そうね、これ以上名無しの好きにはさせたくないし。」
「バイツさんとサーナイトを助ける!」
 何時まで続くか分からないもののメイデンナイトとワルイーノが手を組んだ。その様子を月が月明かりと共に相も変わらずに見下ろしていた。



 翌朝、バイツとコウは双眼鏡片手に黒虎組近くのビルの屋上から黒虎組組長クロダの邸宅を眺めていた。
「何やら残党が騒がしそうに動いているな。」
 と、バイツ。
「この街から逃げ出そうとしているのでしょう・・・それが本当だといいのだけれども。」
 と、コウが言った。
「逃げ出す、ね・・・厄介な事になる前に今の内に潰しておかないとな。」
 バイツが双眼鏡から目を離して階下へ降りる階段へ向かって行った。
「あ、待ってください。」
 コウもバイツの後を追って階段に向かって行った。
「あのー、一つ質問いいですか?」
「何だ?」
「何か・・・一晩で結構やつれてませんか?」
「ああ・・・何だ・・・その・・・朝までコースだったんだ。」
 サーナイトと何があったのか知らないコウはその言葉に首を傾げた。
 そして、その事について深く述べなかったバイツ。
 地上に降りると同時にコウの携帯電話が鳴った。
 短い遣り取りの後バイツにコウが話しかけた。
「こっちは何時でも大丈夫です。準備出来ています。」
「よし、やるか。」
 その言葉にコウが電話の向こうに号令を掛けた。その途端に車が何台か猛スピードで邸宅の門を突き破った。
「やるな。」
「ええ、カマすなら派手に行きませんと。」
 バイツとコウも無残に壊された門をくぐり、邸宅の敷地へ。
 敷地へ入った途端に彼方此方から聞こえてくる銃声。
「玄関も庭も激戦区だな。」
 バイツは流れ弾を右腕で叩き落としながらそう言った。
「何処から行く?」
「何処からでもいいです!クロダだけは逃がしてはいけない!」
 呑気なバイツとは打って変わって車のドアに身を隠しながら叫ぶコウ。
「じゃあ、玄関から行くか。」

304名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 20:01:27 ID:/qBnNDz6
 靴も脱がずに広い玄関に上がるバイツ。
「失礼しますよ、っと。」
 途端に幾つもの銃口がバイツを狙う。
「撃て!」
 組員が叫ぶとバイツに向かって一斉射撃が行われる。
 バイツは左右に素早く動き銃弾の雨を避ける。
「下手糞共め。」
 バイツはそう評した後拳銃を撃ってくる組員の一人に突っ込み頭を鷲掴みにし、床に叩きつけた。そのまま血塗れになって動かなくなった組員の体を持ち上げ盾代わりにして次の組員へ突っ込み同じ事をする。
 六回程繰り返すと玄関は静かになった。
「さあて、お次は?」
 バイツが奥に進む廊下を進もうとした途端に銃声が廊下内に響き渡る。
 廊下の奥には重機関銃が備え付けられており、それを超えない限り進む事は不可能だった。
 一旦下がって身を隠すバイツ。後ろからコウと白竜組の組員がついてくる。
「参ったな、連中逃げる準備をしていたんじゃない迎え撃つ準備をしていたんだ。」
「どうします!中庭の方も同じ状況です!機銃に阻まれています!」
「やれやれ・・・」
 バイツは先程重機関銃からの一発を右腕で受け止めていた。12.7ミリ弾の潰れた弾頭を投げ捨てる。
「来るなら来やがれ!コイツで蜂の巣だぜ!」
 廊下の向こうから聞こえる、勝ち誇ったような声。
「じゃあ行ってやるよ。」
 バイツが身を乗り出し走り出す。ただ走るのではなく壁も走り、天井も足場にする。言葉通り上下左右の予測できない動き。
 機銃手は動きに追い付けずに無暗に撃ちまくる。が、バイツの動きに追い付けなかった代償は大きく、右腕で殴られて頭蓋が壁にめり込んだ。
 バイツはそのまま廊下を突き進み中庭を護っている機銃手を殴り倒す。
 その活躍ぶりに乗るかの様にコウも白竜組の組員も勢いに乗って進んでいった。



 その頃、ルルとアクリルは五番倉庫へ辿り着いていた。
「わんさか居る。気配からして分かる。」
「そ、じゃあとっとといきましょ。」
 光にルルが包まれメイデンナイトに変身する。
 その時倉庫の重い扉が開かれた。
 そして一斉に湧き出るワルイーノ。
「行くわよ!アクリル!ホーリースティングショット!」
 光の槍が一斉に数十本現れ、ワルイーノ達を射貫いていった。そして塵となって消えていくワルイーノ達。
「あら、やるじゃないの。」
 アクリルも薄紫色の水晶の塊をワルイーノ達の上に落とす。水晶は即座に割れ風化したがワルイーノ達の血液でもある黒い液体は暫くぶくぶくと泡を立てた後消えていった。
「えげつないわね・・・」
「しょうがないじゃない、アンタの光の力意外に倒す方法となれば生半可な一撃じゃ通用しないんだから。」
 そう言いながら倉庫の中へ。
 案の定四方八方から襲って来るワルイーノ達。

305名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 20:02:04 ID:/qBnNDz6
 ルルは拳を打ち込み、蹴り上げたり。時にはホーリースティングショットを撃ち込んだりと多彩な動きを見せる。
 アクリルは水晶の槍で複数のワルイーノを撃ち抜き、時には細かい水晶を無数に撃ち込んだりした。
 押されていくワルイーノ達。その内の一体にルルが聞いた。
「捕えた二人は何処!?」
「おっ・・・奥の部屋だ・・・」
「あっそう、ありがと。」
 そう言ってルルは光の槍でワルイーノを浄化させた。
 奥の部屋に急ぐルル。
 部屋のドアを開けた瞬間目に飛び込んできたのはベッドの上で全裸になって横たわっているサーナイトだった。
 ルルは早とちりし、疲れて眠っているだけのサーナイトがワルイーノに犯されたと思い込む。
「アンタ達・・・!」
 ルルは鬼の様な形相で次々とワルイーノを浄化していった。
「ホーリー・・・スティング・・・ショットォ!」
 結果、倉庫は半壊しワルイーノは全滅。
 後に残ったのはバイツの残していったボールにサーナイトを収めたルルとバイツがその場に居なかった事に疑問を感じているアクリルだけであった。



 崩された黒虎組の防衛線。混乱し逃げようとする組員を捕まえたバイツ。
「ボスは何処だ?」
「こっ・・・この奥の部屋だ・・・頼む助け・・・」
 バイツはその組員の首をへし折ると言われた奥の部屋へ。
 その部屋には肥満体系の中年が一人壁に向かって後退りをしていた。
「クロダ・・・!」
 バイツの後ろにいたコウが恨みがましくそう言った。
「なっ、なな、何の用だ・・・!」
 泣きそうな声でクロダが言う。
「何、こちらの若頭様の御意向さ。」
 そう言いバイツは脇に除ける。
 代わりにコウが前に出て拳銃をクロダの頭に突きつける。
「これで・・・!この街は俺達白竜組の物だ!だが!」
 コウの息は浅く早くなっていく。
「父さんの命を奪ったケリをここでつけさせてもらう!」
「な、何の話だ!ワシは知らん・・・!」
「嘘だ!部下に車内から撃ち殺すように指示を出したんだろう!」
「な、何だと!あれはお前等が仕組んだんじゃないのか!?」
「出まかせを言うなッ!」
 拳銃の銃口が震えだす。
「本当だ!お前等がワシを殺そうと思ったが誤射してお前の父親を撃ったんじゃないのかとばかり・・・」
 何か違和感を覚えたバイツ。
「待てコウ、何かおかしいとは思わないか?」
「何がです!?」
「コイツ、本当に何も知らないんじゃ・・・」
「そっ、そうだお前等がやったのだとばかり思って・・・だから抗争を・・・」

306名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 20:02:53 ID:/qBnNDz6
 クロダが失禁する。だが、バイツにはそれを見ている暇など無い様に思えてならなかった。
「コウ!何かおかしい!撃つな!」
 その時、部屋の外で叫び声が聞こえた。
「若!サツです!サツに囲まれています!」
「な・・・に・・・?」
「な、な、な、何で警察が!金は払っている筈だ!」
 コウもクロダも驚きを隠せない様子でいた。
「コウ、クロダ、お前等ハメられたな。」
「ハメられた?どういう事です?」
「多分車内からお前の親父さんを撃ち殺したのは警察だ。多分連中としてはお前等が潰しあう事で漁夫の利狙いだったんだろう。」
 そこまで言った途端に警察の突入部隊がなだれ込んで来る。
 バイツは容赦無く、右腕で殴りつけ、投げ飛ばし、鳩尾に膝蹴りと多種多様に突入部隊を叩きのめした。
 部屋の外に出て中庭が見える廊下に出ると飛んでいるヘリコプターが見えた。
「これは・・・」
 外には耳をつんざく様なサイレンの音と共にパトカー十数台が停まっており中には特殊部隊のバンもあった。
「連中これ程にない位連れて来てるな。」
「どうします?」
「逃げるしかないだろコレ。」
「か・・・金・・・金は払ってるのに・・・」
 クロダの虚しい声がサイレンの中微かに聞こえた。
 更にその声をかき消すかの様に拡声器からの声が聞こえてきた。
『いいか!お前等は完全に包囲されている!大人しく出てこい!』
「テンプレだな。だがここからは連中にとってのテンプレじゃない。」
 バイツは庭園とも思える石敷きの中庭に降りて自分の身の丈ほどある岩をヘリコプターに投げつけた。
 岩はヘリコプターに激突し、ヘリコプターは回転しながらパトカーの群れへと落ちていった。
 簡単に混乱する現場。
「さ、高見の見物と洒落こまないで逃げるぞ。」
バイツはそう言いコウと組員をつれて壁を壊しながら逃げていった。



 何処まで逃げてきたのだろうか。
 気づいた時には邸宅から随分離れた路地裏に居た。
「さあて・・・体勢でも立て直して・・・」
「もういいんだバイツさん。」
「諦めるのかい?若頭さん。」
「違う、あんな卑怯な真似をする警察とは俺が戦う。」
 コウの言葉は力強かった。
「父さんとクロダを弄んだあんな奴等・・・腐った一部の連中だと思うけど・・・」
「それで?」
「申し訳ないがバイツさんあなたは抜けてくれ。何の謝礼も出来ないし、勝手だと思うけれども・・・これは俺達の戦いなんだ。」
「分かってる。」
 バイツはそれだけ返した。

307名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 20:03:30 ID:/qBnNDz6
「じゃあ頑張りな若頭。元気でな。」
「そちらこそお元気で。今まで有難う御座いました。」
 コウが頭を下げる。そして組員達もコウの後に続いて礼を言った後に頭を下げた。
 バイツはその場を去った。
 これからの彼等にもう手を貸す必要も無い。
 彼自身そう思っていたのであった。



 その頃ルル達はモーテルのベッドに寝せたサーナイトを囲んでいた。アクリルを除いて。
「ん・・・ここは・・・?」
 サーナイトが目を覚ます。
 と同時に部屋の中が歓喜に包まれた。
「サーナ!大丈夫!?」
「ムウちゃん・・・皆様・・・?」
 サーナイトはローブを纏い上体を起こす。
「よかった・・・サーナイト・・・もどってきた・・・」
 テスラも涙目になりながらサーナイトの帰還を静かに喜んだ。
「あとはバイツだけ・・・」
 涙を拭いながらテスラはそう言うものの、バイツの無事が分かっているサーナイトはどの様な反応をすれば良いのか分からず周りを見渡す。
「あーっと、バイツさんを捜しに行こうなんて思わないで休んでいてサーナイト。今、アクリルが心当たりのありそうな場所があるって言って捜しに行ってるから。」
 ルルに寝ている様に促されてサーナイトは大人しく横になった。
「必要なものがあったら言ってね。今のあなたには休息が必要だから。」
 事実を言っても余計話がこじれるだけだと思ったサーナイトは何も言わない事にした。



 半壊した五番倉庫の前でバイツは左手で後頭部を掻いていた。
 試しに落ちていた金属片を投げつけてみるが金属にぶつかった反響音意外に何の反応も無い。
「放っておきすぎたな。」
「それってどういう意味?」
 何時の間にか隣にアクリルが立っていた。険しい目でバイツを見ていながら。
「ここに襲撃かけた時アンタが居ないなんてどうもおかしいと思ったし、ルル達は気づいていないみたいだけどあんなザコ共にアンタが拉致られるなんてありえないし・・・おかしい所だらけよ。」
「悪かった。」
 棒読み気味に謝るバイツ。
「心配かけて?それとも・・・嘘をついて?」
「・・・両方だな。」
「そう、じゃあ嘘の件は黙っておいてあげる。」
 そう言いながらアクリルはバイツの手を引っ張る。
「細かい事を聞きながらのデートでチャラにしてあげるわ。さ、行きましょ。」
 そう言うとアクリルはバイツを連れて走り出した。本当の所はルルと少し仲良くなれる口実を作ってくれただけでも彼女はこの件を黙っておこうかと思ったのだが降って湧いたチャンスは逃がしたくなかったのだった。

308名無しのトレーナー:2013/03/07(木) 20:08:13 ID:/qBnNDz6
もっと長くできたんじゃないかな。と思う今日この頃。
誤字脱字があっても勘弁ね。
それじゃあ次の小説できるまでROMってます

309逆元 始:2013/03/08(金) 10:21:03 ID:gN8MKgYo
バイツの方乙です!
僕の方は作品投下もなく感想レスも不安定でスミマセン(ペコリ)
以下現在人気絶頂二強のジャンプキャラに感想を代行して頂きました

殺せんせー「鬼神の如しとはまさに彼のためにあるような言葉ですねぇ〜」ヌルフフフフ〜
「バイツくんはお手入れすれば素晴らしい暗殺者(アサシン)になれるでしょう」タコ二重丸!

球磨川『とりあえず警察の思惑以上に壊滅しちゃった黒虎組の皆さんご愁傷様ー』ゾンッ!
『こういうのみてると正義とは何かとかつい考えちゃうよねー』ゾゾンッ!
『言いたいことを簡潔に纏めると』
『クロダは悪くない』ゾーン!

310グッチ 財布 メンズ:2013/03/09(土) 14:41:21 ID:pxWOCVhM
こんにちは、またブログ覗かせていただきました。また、遊びに来ま〜す。よろしくお願いします グッチ 財布 メンズ http://gucci.kanpaku.jp/

311マルベリー 財布:2013/03/14(木) 13:05:05 ID:3Saxnt66
今日は よろしくお願いしますね^^すごいですね^^ マルベリー 財布 http://mulberry.ojaru.jp/

312名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:02:41 ID:/qBnNDz6
最近、長文が書けなくなりました。
それでも小説を投下します。

>>逆元氏
すいませんジャンプなんてここ十数年読んだ記憶がありません。
ジャンプの三要素が素で何だったのか忘れたぐらいです。

313名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:03:25 ID:/qBnNDz6
 紅と黒があった。
 二つの色は混じり合う事は無くただそこにあった。
 黒が先に動いた。
 紅を取り込もうとその身を紅に投じていく。
 しかし、何時までも紅は紅のままだった。
 寧ろ紅が黒を取り込んでいく。
 紅が黒を飲み込んだ。
 その中でも黒は生きていた。
 紅の奥底で黒は沈みながらも、その色を失う事は無かった。



「・・・ん!・・・さん!・・・バイツさん!」
 その身を揺り動かされたバイツはぼんやりとその瞼を開けた。
「起きて、バイツさん。番組収録が始まっちゃうよ?」
 と、バイツを揺り起した少女ルルが言った。
 バイツは大きな欠伸をすると再度眠っていた時の様に足を組み、その上に右肘を立てて包帯とハーフグローブで包んだ右手の上に頬を乗せた。
 今、バイツ達が居るのはテレビ番組の収録スタジオの観客席。
 そのテレビ番組というのが死者の言葉を聞ける男が観客の死んだ身内と話すという内容。
 バイツは興味が無かったものの、先日ルルが商店街の福引で四人分の番組招待券を引き当ててしまい現在に至る。
 ルルは楽しみにしているのか爛々とその眼を輝かせているが他の二人、テスラとアクリルはバイツと同じく殆ど興味の無い様な顔をしていた。
 番組収録が行われる少し前にスタッフからの説明が入る。
 ルルは真面目に聞いていたが興味の無い三人は右から左へとその説明を聞き流していた。
「それでは収録開始しまーす!」
 スタッフの声が響く。
「五・・・四・・・三・・・」
 カウントダウンが始まる中、バイツはもう一度欠伸を決め込んだ。
「さあ登場しました!死者の声が聞こえる男!ミスターモルグ!」
 番組が始まり、司会者がステージ中央のセットから出てきた男を紹介するとスタッフのカンペ通りに拍手が上がった。
 しかし、バイツは拍手どころかさらに欠伸を決め込む始末。
「モルグ・・・死体安置所ね・・・どんな芸名付けているんだか・・・」
 ゲストとのトークの後、休憩を挟みメインイベントである観客をランダムに選んでの霊視が始まった。
 一番ルルが楽しみにしていたのはこの場面であった。
「私に当たるかな・・・お母さん・・・」
「止せよルル。あんなのはちょっとしたトリックだ。」
 バイツが興味無さげに言う。
「あら、バイツさんや私みたいな存在が居るんだものもしかして本物かもしれないかも。」
「だったら俺等の方には来ないな、死んだ身内だらけで一杯だ。一々話しなんか聞いていられるか。」
「そう?バイツさんに何かを言いたい身内はいないって事じゃない?成仏したのよ、きっと。」
「父さんと母さんは多分俺の右腕の件について未練タラタラだと思うがな。」
 その時観客席の一部分で驚きの声が上がった。
 どうやら「死者の声」が聞こえたらしい。
「ね?」

314名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:04:08 ID:/qBnNDz6
「馬鹿みたい・・・」
 アクリルがぼやいた。
 そんなやり取りもつゆ知らず。「死者の声」は次々と明らかになっていく。
「んー誰か・・・マサコ・・・んーマサエ・・・いやマサミという女性を知っている方は・・・」
 モルグが尋ねる。
「わ・・・私の母です!」
 少し離れた場所から男性が声を上げた。
「そのお母様は亡くなっている?」
「ええ・・・先日・・・」
 男性は涙ながらに語る。
「お母様はお金の事を言っておられます。お金は無事かと。何か心当たりは?」
「きっと遺産の事だ!兄には一銭もやるなと死の間際に言われて・・・」
 スタジオ内に拍手が鳴り響いた。
「んー次が来ている。ルから始まる人だ・・・ル・・・ル・・・ルリ・・・」
 その言葉にルルは大きな反応を見せた。
「その名前!私の母です!」
「おお、そうか君か。」
 モルグがルルに近づいて来る。
 その際もバイツは大欠伸を決め込んだ。
「お母様はあまり良い死に方をしなかった。違いますか?」
「・・・はい。」
「お母様は言ってらっしゃる、どうかこの平和な世界で生きてほしいと。」
 ルルの目が大きく見開かれる。
「この平和な世界で・・・」
「違うっ!あなたは嘘つきだ!」
 モルグの言葉を止める様にルルは大声で叫んだ。
「そんな事お母さんは言わない!言う筈が無い!」
 そう大声で言って、スタジオを飛び出していったルル。
 唖然とするスタジオ内。
「おい待て、ルル。」
 バイツもルルを追いかけて立ち上がった。
「んー君にも話したい人がいるみたいだ。お年を召してらっしゃる、お婆様かな?」
 モルグがバイツに尋ねる。
 バイツがモルグに構っている間にテスラとアクリルはルルを追ってスタジオを出ていった。
「ええ、祖母は亡くなっていますけど。」
「声が聞こえる・・・母親を大事にしろと・・・」
「申し訳ありませんが母も既に亡くなっているので、失礼。この嘘つきさん。」
 そう言い残しバイツはスタジオを後にした。
 茫然とモルグはその後を見ている他に無かった。



 モーテルに走って戻ってきたルル。
 乱暴にボールからドレディア達を出すとソファーに座り込んで泣き始めた。
「ルル?一体どうしたんですか?」

315名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:04:43 ID:/qBnNDz6
 隣に座るドレディア。だが、ルルはそれも意に介さずにただ泣いていた。
 その後、バイツ達が戻ってきてもルルはまだ泣いていた。
 バイツはサーナイト達をボールから出し一体どうしたのかをルルに問い質した。
「お母さん・・・お父さん・・・」
 しかし、帰ってきたのはそのルルの呟きだけであった。
 今は聞いても無駄だと悟ったバイツはルルを抱きかかえて寝室へと連れていく事しかできなかった。
 今は一人にさせるべきだ。
 寝室から戻ってきたバイツはそう言った。
 そしてテレビ局のスタジオで何があったのかをサーナイト達に話すバイツ。
「ドレちゃんはルル様の事で何か心当たりがあるのでしょうか?」
「・・・いいえ。」
 サーナイトの問いにドレディアは首を振った。
「元々は私、ルルのポケモンではありませんでしたから。」
 ゾロアークが口を開く。
「ちょいと待ちなよ、アンタがあたし達のメンバーの中じゃ一番の古株だ。なのに元々ルルのポケモンじゃなかったって一体何があったのさ?」
「複雑な事情があって・・・それにこの話は多分ルル抜きでは話せないと思うんです。」
「なら簡単よ、本人に聞けばいいじゃない。」
 アクリルは寝室に向かって歩き始めるがバイツに止められる。
「今は何を言っても無駄だ。ルル自身が話すまでは何も聞かない方がいい。」
「・・・」
 サーナイトは心配そうな視線を寝室に向けた。
「サーナも一人で突っ走っちゃ駄目よ。」
 ムウマージに諭されサーナイトは少し悲しげな微笑みをその顔に浮かべた。
 不意にテスラが口を開いた。
「あ・・・ルル・・・だいじょうぶ・・・?」
 寝室からルルが出て来ていた。泣き腫らした目で皆を見回すと、やけに落ち着いた声で皆にこう述べた。
「私が旅をしている理由・・・皆に話しておきたくて。」
 バイツ達は一瞬ルルが何を言おうとしているのか分からなかったが、バイツはルルをソファーに座らせ一言言った。
「話してくれ。」



 一年前の事。
 山に包まれた小さな町。
 その小さな町の一軒家から女性の声が聞こえた。
「ルルー!ルルー!何処にいるのー!」
 女性の名前はルリ。ルリは一人の愛娘を捜していた。居間、台所、トイレ、娘の部屋。だが、何処にも見当たらない。
 裏庭に出てみると木の上に一つの影が見えた。
「ルル!また木の上なんかに登って・・・」
「ごめんお母さん、でもここから見えるこの町の眺めが好きなの。」
 ルリの愛娘ルルは器用に木の上から降りてくる。
「落ちて怪我でもしたらどうするの!」
「えへへ、ごめんなさい。で、私の事呼んだ?」
「そうそう、裏山でオボンの実を幾つか取ってきてほしいの。」

316名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:05:22 ID:/qBnNDz6
「うん、分かった。」
 そう言ってルルは駆け出した。
「行ってくるね!」
「気をつけなさいよ!」
 母の声を背に隣の家に住んでいる中年の夫婦にも声を掛けていく。
「こんにちは!おじさん、おばさん。」
「やあこんにちはルルちゃん。」
 この夫婦には娘の様に可愛がっている一体のポケモンが居た。
「ドレディア、元気?」
 そのポケモンにも声を掛けるルル。ドレディアもにっこり笑って言葉を返す。
「元気です。ルルも元気ですね。これから何処へ?」
「裏山!オボンの実が入り用だからちょっと取ってくるの。」
「気を付けてくださいね。」
「うん!ありがとドレディア!じゃね!」
 そう言ってルルは止めていた足を動かして駆け出した。
 ルルはこの町が好きだった。十人十色という言葉が合うくらいの様々な人々。色々な人が足を運ぶポケモンセンター、たまに珍しいものを売っているフレンドリィショップ、色々な匂いの花を売っている花屋。色鮮やかにポロックとポフィンを並べているポケモン専用のお菓子屋。そして建設業の事務をしている父親の仕事場。
 駆けているルルの視界から消えては現れる小さな町の日常的な風景。
 それがルルにとって当たり前で大好きな光景だった。
 裏山に入ったルルは野生のポケモンを刺激しない様に移動を歩きに変えた。
 それでもそこら一体のポケモンは大人しく、ポケモンを持っていないルルでも容易に入ることの出来るエリアだった。
「んーと・・・オボン・・・オボン・・・」
 オボンの実を探しながらルルの脳裏を掠める一つの考え。
 どうして自分はポケモンを持たないのか。
 それでもルルはこの雑念を一言で片づけていた。
「町の人達のポケモンと触れ合えるからいいか!」
 そんな事を言っている内にオボンの実がなっている木を見つけた。
「みーっけ!」
 一つ実をもぎ取ろうとした途端に地面が揺れた。
「なっ・・・何?地震?」
 適当にオボンの実を二つ三つもぎ取るとルルは急いで山を後にしようとした。
 断続的に揺れる地面に野生のポケモン達は興奮するどころか何かに怯えている感じだった。
 そんな事は気にも留めずに急いで町に戻るルル。
 裏山から出てきたルルが見たものは信じられないような光景だった。
 建物という建物が形を留めていないのだ。
 ルルは一瞬帰り道を間違えたのかと思った。だが、彷徨い歩く内にそこがかつての自分の育った町だという事が分かってきた。
 たとえ町の様子がガラリと変わってもその足は自分の家の帰り道を知っていた。
 次にその両目に映るのは事切れて倒れている人間とポケモン。
 まさか、と気が気でなく家までの道を駆け出すルル。
 予想通りの光景だった。家と呼べる建物は崩れ去りただの瓦礫の山と化していた。
 ふと見えた瓦礫の中から生えている一本の人の腕。
「お母さん!」
 ルルは必死で小さな瓦礫をどかした。

317名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:05:57 ID:/qBnNDz6
 そこに居たのは額から血を流し、瓦礫によって体の大半が埋まっているルリだった。
「お母さん・・・!しっかりして・・・!」
「ルル・・・あなたは無事だったのね・・・」
 ルルは屈んでルリの手をしっかりと握った。
「待っててね・・・今助けを・・・!」
「もう遅いわ・・・手遅れなのよ・・・」
「まだ手遅れなんかじゃない!」
「そういう事じゃないの・・・よく聞きなさいルル・・・あなたに今力を継承するわ・・・」
「力って・・・!?」
 途端に手を通じてルリから放たれた光がルルに伝わっていく。
「よかった・・・メイデンナイトの血脈は継がれていく・・・」
「何?・・・ねえメイデンナイトって何よ!」
「私じゃ敵わなかった・・・でもあなたなら・・・」
 ルリの頬を涙が伝う。
「こんな事・・・あなたにさせるべきではなかった・・・!」
 ルリは預金通帳とカードをルルに渡した。
「暗証番号はあなたの誕生日・・・よ・・・いい?・・・決して諦めちゃダメ・・・連中に捕まらないで・・・連中を・・・ワルイーノを倒して・・・」
「一体何なの!?ワルイーノって!?ねえ!」
「こんな事に巻き込んでしまってごめんなさいね・・・でもワルイーノはあなたを狙って来る・・・それを・・・世界を・・・」
 それっきりルリの反応は無かった。手から力が抜けて地面に落ちる。
 それと同時に後ろに複数の気配を感じたルル。
 そこに居たのは全身が黒の生き物。人間でもポケモンでもない生き物。それがワルイーノだという事をルルは悟る。
「おい、生き残りが居たぜ。」
「どうするよ?」
「報告するのもメンドーだしこの場で殺っちまうか。」
 ルルは立ち上がりその連中を見回した。
「アンタ達がこの町を・・・!」
「あん?厳密に言うと違うけど・・・ま、大体そんな感じ?」
「許さない!アンタ達は絶対に許さない!」
 途端にルルの体から光が放たれた。
 次の瞬間、ルルはメイデンナイトに変身していた。
「これが・・・メイデンナイト・・・!?」
 ルルは変身した自分の姿を見回す。
 そして無意識の内に両手を高く掲げ複数の光の槍を作り出す。
「ホーリースティングショット!」
 光の槍は的確にワルイーノを貫いていった。
 ワルイーノ達は塵となって浄化された。
 息を荒げるルル。周りにはもうワルイーノはいなかった。
 すると変身が解けた。
「この力・・・使いこなしてみせる・・・そして世界を救う。」
 ルルは歩き始めた。
 ふと、隣の家の瓦礫が微かに動いた気がした。
 ルルはその瓦礫を退かした。
 そこには気絶しているドレディアがいた。

318名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:06:34 ID:/qBnNDz6
「うう・・・」
「ドレディア!しっかり!」
「ルル・・・一体何が・・・」
 ルルは慎重に言葉を選ぶ。
「・・・分からない。だから一緒に逃げよ!」
 ドレディアを抱き起すルル。ドレディアは辺りを見渡し絶句する。
「こ・・・これは・・・?」
 ドレディアの埋まっていた瓦礫の下には、人間の手が四本。それと流れている紅色の液体。
「そんな・・・こんな事って・・・」
「おじさん・・・おばさん・・・」
 ルルはドレディアを抱きしめる。
「おじさんとおばさんの分まで・・・生きよう・・・ドレディア。」
 ドレディアは泣きながら頷いた。
 そして、唯一の生き残りとして保護された二人。
 これがルルの戦いの始まりだった。



 ルルの話の後、誰も言葉を発する者はいなかった。
「これでお終い。私があんなこと言われて怒った理由分かった?」
 それでも全員が押し黙る。
「ただ馬鹿にされたくなかっただけかもね。でも大丈夫だよ。今は皆がいるから平気。」
 内面はかなり無茶している、とバイツは話を聞きながら思っていた。
 するとアクリルが口を開いた。
「アンタ結構ヤバいわよ。町を一つ潰すのなんてアタシ達にとっては相当な事なんだから。」
「うん、分かってる。」
「なあ、大体そこまでするワルイーノっているのか?」
 バイツはアクリルに問い質す。
「必要ならばやる時はやるわよ。でもアタシやアクマーン程度じゃ相当数のワルイーノ連れていかなきゃかなり時間がかかるの。」
「じゃあ一体誰が?」
「アタシより上の存在・・・アクマルスじゃない・・・もしかしたら・・・あいつが・・・?」
 それっきり考えに耽って黙り込むアクリル。
「でも驚いた、ルルの旅って結構過激な始まりだったんだね。」
 タブンネがそう言うとルルは笑って返した。
「驚いた?でもいつかは皆に話そうと思っていた事だから。」
「やれやれ、随分危なっかしい旅をしている理由がこれで分かったよ。」
「ま、一々仲間ができる度にこんな大事を話す訳にはいかないわね。」
 ゾロアークとコジョンドが半ば納得半ば驚きでそう言った。
「なかまっ!」
 エルフーンはそう言いルルの膝に腰掛けた。
「ふふっ、そうね。」
 心なしかルルは少し明るくなった感じがした。
 ルルと家族達との出会い話に花を咲かせながら和気藹々となった室内。
「バイツ・・・ちょっと。」

319名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:07:35 ID:/qBnNDz6
 急にアクリルが小さな声でバイツを部屋の片隅に呼んだ。
「これは今話すべき事じゃないけどアンタには話しておくわ。」
「何をだ?」
 バイツは声を潜める。
「ルルの町を襲ったワルイーノの正体。アクマルス級に最悪な奴を思い出したの。」
「・・・確証は。」
「今の所無いわ、だからこうしてアンタだけに喋っているのよ。」
 バイツの他に誰も聞き耳を立てていない事を確認するとアクリルは口を開いた。
「アクマエル・・・力と武をただただ求める存在。」
「そいつは何処に?」
「さあ?人間同士が戦う地下闘技場を転々として戦いの毎日を過ごしているって聞いたわ。」
「アクマエル・・・か・・・」
 また厄介なものが出て来たと言わんばかりにバイツは後頭部を掻いた。



「畜生!何だあの小娘とあの小僧!」
 モルグは控室で怒りに身を震わせていた。
 何とかグダグダになった番組収録を終わらせたところだった。
「俺には声が聞こえるんだ・・・死んだ人が語りかけてくるんだ・・・」
 紙コップの中の水を飲み干す。
「俺の霊視は希望を・・・生きる力を与えているんだ・・・なのに・・・なのに!」
 そんな彼の荷物には次の書籍が入っていた。
『超能力者になる方法』
『嘘を本当と思わせる嘘のつき方』
『超能力と思わせて人を騙す』
 モルグという男は勉強熱心ではあるがこういう男であった。
「畜生!ああ!畜生!」
 モルグは近くの丸椅子に蹴りを入れた。
 椅子は転がり誰かにぶつかった。
 その誰かは全身が黒だった。
 黒尽くめというレベルではなく全てが黒。
 その黒はニヤリと笑った。
「なあ、本当に声が聞こえる様にしてやろうか。」
 モルグは叫び声を上げるよりもその言葉に関心を持った。



「ワルイーノ!」
 急にそう言ってソファーから立ち上がったルル。
「気配がした!バイツさん!皆をお願い!」
 ルルはそう言うとメイデンナイトに変身しモーテルを飛び出していった。
「マスター!私達も!」
 そうサーナイトが言うがバイツは首を横に振った。
「ルル一人でも大丈夫だろう。」

320名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:08:28 ID:/qBnNDz6
「いいえ!あの様な過去を聞いた今ではその様な事は言ってはいられません!」
 サーナイトを筆頭にポケモン一行もその後を追う。
「おい!待て!」
「あーあ、苦労するわねバイツ。」
 と、他人事の様にアクリルが言う。
「わたしたちもいこう・・・?」
 バイツの服の裾を引っ張るテスラ。
「・・・分かった。俺の負けだ。何でもかんでも俺を負かすがいいさ。」
 そう言いつつ残ったバイツ達も外へ出ていった。



 案の定ワルイーノが現われた町の中通りは混乱していた。
「聞こえる・・・聞こえるぞぉ・・・」
 そう言いながら手当たり次第に警官を襲うワルイーノ。
 それを手助けできるトレーナーなどおらず、逃げ惑うだけが精一杯だった。
 その時、その中から一人人の流れに逆らいワルイーノに跳び蹴りをかます者が居た。
 跳び蹴りは防がれたがその跳び蹴りをかました人物の正体はメイデンナイトに変身したルルであった。
「さーって!ちゃっちゃと決めちゃおうか!」
「メイデンナイト・・・?聞こえる・・・お前は敵だ!」
 ルルは突進して拳の乱打を撃ち込もうとした。
 そして、突進した瞬間ワルイーノの姿が消えた。
 真横から声が聞こえる。
「お前、今拳の乱打をしようとしたな?」
 何時の間にか真横にいたワルイーノ。体勢を立て直せなかったルルはワルイーノの蹴りを喰らって店のショウウインドウ
を突き破って中に吹っ飛ばされてしまう。
「こ・・・のお・・・!」
 再度ワルイーノに突進するルル。
 今度は単純な突進ではなく軌道を上空に変えての跳び蹴り。
 そして行動に移すが跳んだ瞬間、上から声が聞こえた。
「今度は上空からの奇襲か?」
 更に高くワルイーノが跳んでいた。
 ハンマーナックルを振り下ろしルルを地面に叩きつける。
 更にワルイーノの上空からのストンプ攻撃。
「お前、咄嗟に防ごうとしたのは胸と頭だな?」
 ワルイーノの脚は無防備な腹部へと叩き込まれていた。
「か・・・はっ・・・!」
 瞬時に距離を離すワルイーノ。上空には空を切った光の槍が二本。
「油断している内に撃ち込もうとしていたのか?甘いんだよ。」
 軋む体を立ち上がるルル。
 言動からして攻撃を読まれていると悟ったルル。
「その通りだぁ。お前の動きが手に取る様に分かるぞ・・・聞こえるんだ・・・声が・・・」
 その時ルルの前に立ちはだかる影があった。
「サーナイト・・・!?」
「遅れて申し訳ありませんルル様。」

321名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:09:17 ID:/qBnNDz6
 瞬時にサイコパワーで特殊な空間を作り出す。
「皆様、お願いします!」
 一斉に遅い掛かるポケモン達。
 しかし攻撃は全て避けられ、それどころか手痛い反撃を喰らってしまう。
 そして、ワルイーノは瞬時にサーナイトの前へ。
「お前の造る空間が「俺達」への攻撃を通しているのかぁ?」
 途端に殴られて吹っ飛ばされるサーナイト。
 吹っ飛ばされたサーナイトは背中から誰かに当たってしまう。
 その誰かを見た途端にサーナイトは当たったのではなく片腕で抱きかかえられたという事を理解する。
「マスター・・・」
 その人物はバイツだった。
「全く・・・この後全員でポケモンセンター行きだな。」
 そうバイツは軽口気味に言ったものの、この惨状を見て内心はらわたが煮えくり返っていた。
「何だお前・・・怒っているのか!?」
「・・・今度は俺が相手だ。」
 サーナイトその場に座らせ、バイツはすたすたとワルイーノに近付いていく。
「バイツさん気を付けて・・・あいつ思考を読んで来る・・・」
「分かった、そこで休んでいろルル。」
 途端にバイツが突進する。
「聞こえるぞ?その包帯だらけの右手で殴っ・・・?!」
 ワルイーノが気づいた時には右腕に殴られ地面に伏している自分。
「?!次は蹴り上げて・・・」
 そうワルイーノが言った途端にバイツはワルイーノの顎を蹴り上げ、もう一度右腕で殴る。
 吹っ飛んでコンクリート造りの壁に激突し、そのままずり落ちるワルイーノ。
「鈍いんだよ・・・ッ!」
 息も絶え絶えのワルイーノの咽喉を掴もうとした途端。右腕からバイツの脳内に電流が走った感じがした。
 そして、断片的な映像が脳内で再生された。
 紙コップ。丸椅子。ワルイーノ。
 バイツはその瞬間動きを止めた。
「・・・?」
 バイツは右手を見つめた。だが答えが返ってくるはずも無くただ右手に視線を移すだけだった。
「ホーリースティング・・・ショット・・・!」
 身動きが取れないワルイーノの横腹に光の槍が刺さる。
 ワルイーノの黒で覆われていた部分は次第に塵となっていき中からモルグの身体が現われた。
「こいつ・・・」
 モルグは気絶していた。
 バイツはモルグの頬を左手で数回軽く叩いた。
「おーい、起きろって。この始末どうするんだよ。」
 そんな事をしているバイツにルルが近づく。
「もういいのバイツさん。それより皆をボールに戻して・・・あと、この状況を何とかしないと。」
 バイツが周りを見渡すと警官達に包囲されていた。
「・・・あれが最近噂になっている・・・」
「・・・本当にあんな化け物を・・・」
「・・・でも倒したのはあの小僧・・・」
 ぼそぼそと話し声が聞こえ、包囲はどんどん狭くなっていく。

322名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:10:10 ID:/qBnNDz6
 どう切り抜けるか考え始めた途端に、包囲の外で叫び声が聞こえた。
「たっ・・・大変だー!水晶の巨人がこっちに向かってきている!」
 バイツは途端にアクリルの仕業だと分かった。
 警官隊は散り散りに逃げ出し始めた。
 バイツと変身を解いたルルは全員をボールに戻し、テスラとアクリルに合流した。
 そして、足早にポケモンセンターへ向かって行った。
「助かった。」
 足早に歩きながらバイツはアクリルに言う。
「これくらいお安い御用よ。」
「連中の肝っ玉が小さくて良かったな。」
「本ッ当。フォローしているこっちの身にもなってほしいわ。」
「それ、私に言ったでしょ。」
 と、ルルがその言葉に噛みつく。
「何よ、フォローしてあげたのはこっちよ。」
「ざんねんだけど・・・ルルのまけ・・・」
 バイツはその遣り取りを見ながら苦笑交じりにこう言った。
「さあ、明日の朝刊が楽しみだな。」



 その頃アクマルスの元に客人が訪れていた。
 身長は二メートルを越す大男で見る者を圧倒する筋骨隆々の肉体。髪は長く顎髭を蓄えたその顔つきは獲物を求めてやまない野獣の鋭さがあった。
「なんぞ、もう地下闘技場巡りには飽きたのか?アクマエル。」
 アクマエルと呼ばれた男は大きく笑った。
「まあな、中には骨のある奴もいたんだが・・・それでもつまらねえものはつまらねえ。たまには表の世界に出て面白い奴がいねえかって事で出てきたわけよ。」
「メイデンナイトにでも会ったらどうだ?」
 その言葉にアクマエルは鋭い視線をアクマルスに向ける。
「・・・あの時仕留めそこなったか・・・」
「よく言うものよ。オーラで全てを吹き飛ばしただけのくせにのう。」
 アクマルスは含み笑いをする。
「あれ位でへばったと思ったが生きていやがったか。」
「あのー」
 突然アクマエルの背後から声が聞こえた。
「もしかして僕達の事忘れてません?」
「おう、悪い悪い。」
 アクマエルの背後には二つの影があった。
「何ぞ?そやつらは。」
「地下闘技場巡りしている時に出会った奴らだ。ガキのくせに俺と引き分けだっていうから驚いたぜ。」
 アクマエルと戦ったと思われるもう一つの影が返事をする。
「おう。ただ加減されてたってのは納得いかないけどな。」
 アクマエルは二つの影をアクマルスの前に出した。
 その二つの影の正体。
 それはライキとヒートだった。

323名無しのトレーナー:2013/04/13(土) 15:16:01 ID:/qBnNDz6
はいこれで二十一章はお終い。
説明不足なところがあったら脳内補完でオナシャス。
今回もサーナイトの出番が少ないなー
サーナイトメインの小説なのに・・・

324逆元 始:2013/04/13(土) 17:41:42 ID:gN8MKgYo
殺せんせー「にゅやっ!?ライキ君とヒート君が非行(ワルイーノ)にっ!?」
モルグがワルイーノに出会った時の光景が脳裏をよぎったバイツ
グラードンの右腕を一時失っていた間アクマーン(だったかな?)と融合して右腕の代わりにしていた事の後遺症?
8(ハチ)『新能力獲得!』ビポッ
この作品の主要キャラ共通の特徴"壮絶な過去"やっぱりルルにもありましたか
ドレディアが一番の古株とは意外でしたねてっきり一番よく気がつくゾロアーク姉さんかと
もしかしてこのサプライズを狙ってドレディアのキャラをわざと薄くしていた…?(考えすぎ)
アクマエル…完全な武闘派ワルイーノの登場…
バランス型っぽかったアクマーンですらそこそこ強かったあたり彼の強さには期待ですね
ライキとヒートには手加減をしていたらしいですが互角とは
まあ本当に強いからこそライキとヒートを相手にして命があるってことでしょう
あの二人マジ容赦ないからな…
さて最近影の薄いライキとヒートに出番は増えるのか!?
もしかしてワルイーノの仲間になって敵対!?
からの裏切りでワルイーノパワー持ち逃げパワーアップのフラグか!?
次回が楽しみです

ここだけの話
モルグのイカサマ描写で今回は
山田「お前のやった事は!全部全てまるっとどこまでもお見通しだぁーっ!」
で感想描き始めようと思ってたらライキとヒートにもってかれて殺せんせーに変更した…
ジャンプ読んでないんですか?
「暗殺教室」オススメですよ?
タイトルこそアレですが内容は
国内有数の進学校"椚ヶ岡中学校"
落ちこぼれの生徒ばかりが隔離校舎に集められた3年E組 通称"エンドのE組"にやってきた新任教師は最高速度マッハ20で行動するタコ型超生物"殺せんせー"だった
月を爆破蒸発させ永久三日月型にした彼は一年後地球も爆破するという
手も足も出ない世界各国政府に殺せんせーが出した交換条件は
「椚ヶ岡中学校3年E組の教師になる代わりそこに留まる」
というもの
かくしてE組生徒達に"殺せんせーの暗殺"が依頼された
報酬は100億円
僕らの暗殺教室
始業のベルが今日も鳴る…
というもの
人間じゃねぇ!のに優秀な教師である殺せんせーと
暗殺者でもある生徒達による
笑いあり涙ありのいろんな意味でハートフルな単純娯楽漫画です
コミックは3巻まで発売中!
球磨川『一方でこの僕が出演する"めだかボックス"はもうすぐフィナーレって空気になってるぜ』

325名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:03:00 ID:/qBnNDz6
小説出来た・・・ああああああ!
前もって言うけど今回もサーナイト分が少ないいいいいい!
良い子の諸君!サーナイトが出てくるお話を読みたかったら自分で書くのも一つの手だぞ!(AA略



>>逆元氏
そうです十何年もジャンプを手にしていません。
暗殺教室ですか、機会があったら読んでみようと思います。
      ↑
こういう事いう奴は大抵読まない。

326名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:03:52 ID:/qBnNDz6
 時は十日程前に遡る。
 とある地下闘技場、六角形の金網に囲まれた舞台。
 血に飢え、大金で懐が温まっている客はそこで人間同士の殴り合いを見、白熱し、金を賭ける。
 喧騒に包まれている舞台には不釣り合いな二人の少年が居た。
 その内の一人。上半身裸で黒のロングトランクスという格好のヒートという少年はそこで相手の選手を待っていた。
 ヒートはフリーの選手としてはこの地下闘技場で名の知れた選手。いまだ無敗だった。
「ライキ、相手の情報まだ掴めねーのか?」
 セコンドについていたもう一人の少年、ライキがノートパソコンのキーボードを指で叩く。このライキこそがヒート無敗の要素の一つでもある。相手の名前、身長、体重、戦績、相手の格闘スタイル。それらを調べるのがライキの役目。
「名前はアクマエル。その他情報という情報は無いね、それより準備は万端なの?」
 総合格闘技専用のオープンフィンガーグローブをしっかりと填め直し、足首にしているサポーターも確認する。
 その時ライキが囁いた。
「ヒート、来たよ。」
 ヒートは顔を上げた。
 相手サイドには二メートルを超えた筋骨隆々の男が居た。上半身裸の下は白のスラックスと革靴という不釣り合いな恰好。
「舐めてんのか?あの恰好。」
「でも戦績は無敗だよ。どこの所属でもないし。」
 ヒートはニヤリと笑った。
 その笑みは楽しめそうな玩具を見つけたというよりはそれをどう壊そうかという暴力的な笑みだった。
『さあ!選手が揃った所で紹介と行こうか!』
 実況の男がマイクに向かって叫んだ。ただでさえ騒がしかった会場がさらに騒がしくなった。
『赤コーナー!いつもお馴染みのこの少年!名前の通り会場を熱くさせてくれるのか!ヒート!』
 会場が一層盛り上がる。
『対する青コーナー!そのガタイ以外が一切不明!だがその強さは本物!アクマエル!』
 二人が歩いてリング中央に向かう。
『オッズは何と五対五!これは互角だが他に決めるのはある!それは強さだ!』
 観客がこれ以上ない位に湧き上がる。
『さあ始めてくれ!俺達に強さというものを見せてくれ!ファイッ!』
 ゴングが鳴った。
 ヒートが構える。だがアクマエルは構えなかった。
「舐めてんのかよ?おっさん。」
 アクマエルが口端だけに笑みを浮かべた。まるで相手の力量を確かめようとしているかの様に。
「だったら構えさせてみろよ。」
 刹那、ヒートの拳がアクマエルの鳩尾に叩き込まれる。シンプルだが重い一撃。
「悪ぃな、そのスラックスを汚しちまうぜ。」
 しかし、アクマエルが吐いたのは胃液ではなく溜め息だった。
 微動だにしなかったアクマエルの拳が上がる。
「いいか?殴るってのはなこうするモンだ!」
 次の瞬間、ライキが見たものは吹っ飛んで金網に叩きつけられたヒートの背中だった。
「ヒート!」
「・・・ンの野郎やるじゃねえか。」
 咄嗟に腕を十字にし、アクマエルの拳を防いだヒート。
 ライキは何も言えなかった。何故ならヒートが吹っ飛ばされたのも賛辞を送ったのもこの地下闘技場で初めての事だったからだ。
 それに、アクマエルはまだ構えてなどいない。

327名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:04:28 ID:/qBnNDz6
「だったらこいつはどうだ!」
 ヒートが勢いをつけてアクマエルの顔面に跳び蹴りを叩き込んだ。
 見事に入った。筈だった。だが微動だにしない。
 地面に降り立つヒート。
 アクマエルはコキリと首を鳴らした。
「あー、蹴りってのはこうするんじゃねえか?」
 アクマエルは単純な前蹴りをヒートに叩き込む。
 再度吹っ飛ぶヒートの体。そして金網に叩きつけられる。
『ヒート選手!アクマエル選手への全く攻撃が効いていない!』
「何だ?もう終わりか小僧。」
「まだまだ・・・」
 立ち上がるヒート。
「打撃が無理なら・・・」
 つかつかと歩き距離を縮めるアクマエル。その間も無防備だった。
 しかし、距離を縮めるという行為はヒートにとって僥倖だった。
「次は拳か?蹴りか?どっちがいい。」
 喧騒の中聞こえるアクマエルの声。
「どっちでもいいぜ。」
 ヒートはニヤリと笑った。
「何だよもう終わりか・・・」
 その瞬間アクマエルは落胆しつつ右拳を上げた。そしてヒートに突き出す。
 ヒートの狙いはそこにあった。
 拳が突き出された瞬間、拳を受け流して右腕に飛び込みがっちりと組みつく。
 腕ひしぎ十字固め。一般的にはそう呼ばれる技。
「何っ!」
「悪いなおっさん。打撃だけじゃねーんだわ。」
 そのまま背筋を伸ばしてアクマエルの腕を反らしていく。
 軋む筋肉。アクマエルが苦痛に顔を歪めた。
『これは凄い!形勢逆転だ!あの状況からまさかの腕ひしぎ十字!』
 会場が一際盛り上がる。
「さあ・・・!外させねえぜ・・・!」
 形勢逆転ににやけるヒート。すると、意外な言葉がアクマエルの口から飛び出した。
「それが限界か?」
「何?」
「それが限界かって訊いてんだ・・・!」
『おおっと!アクマエル選手!何と!腕を戻していく!』
 確かにアクマエルの腕が少しずつ戻っていく。
 ヒートが全力で腕を締め上げても戻っていく。
 そして、腕を一振りするとあっけなくヒートの体は宙を舞った。
「なっ・・・!」
 ヒートは受け身を取り損なって地面に落ちた。
 その激痛もつかの間、アクマエルが足を振り下ろしてくる。それを二転三転してかわしたヒート。
 何とか立ち上がったヒートだが容赦ない拳の乱打がヒートに襲い掛かる。
 しかし、転んでもただでは起きないのがヒート。逆にアクマエルの力を利用し小手返しで地面に倒す。
「ぐお・・・っ・・・!」

328名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:05:05 ID:/qBnNDz6
「真っ直ぐすぎるんだよ、アンタの攻撃は。」
 ヒートがそう言った。だがそれは油断というものだった。
 瞬時にアクマエルは起き上がった。
「おらぁ!」
 乱暴にただ単純に振るわれた剛腕。それはヒートの反射速度を大きく上回っていた。吹っ飛ばされるヒート。アクマエルは一撃一撃が非常に重い為にこれは致命的な一撃であった。
「チマチマやるのは好みじゃねえ。こっちの方が性に合ってる。」
 ヒートは力の入らない体に無理矢理活を入れ、立ち上がった。
「おら!来いよ!もっと俺を楽しませてみろ!」
 アクマエルがヒートに向かって歩き出す。ヒートはただその場で構えていた。そして、アクマエルが拳の届く範囲に入った瞬間、ヒートは狂った様にアクマエルを殴り始めた。
 ただひたすらの乱打。
 もうこれ以外に手は無いと彼は判断した。
 アクマエルは口端に笑みを浮かべると、またもやヒートを殴り飛ばした。その後自分も大の字になって倒れた。
 剛腕に殴られ意識が遠のくヒート。
 観客の声がどんどん遠ざかっていく。
 体の感覚も無くなっていく。
「ク・・・ソッ・・・」
 立ち上がろうにも体がいうことを聞かない。手も足も何もかもが動かない。
 その途端ヒートの意識が落ちた。



 次にヒートが目を覚ましたのはロッカールームだった。
 どうやらベンチに横にさせられていた様だった。手足が動く事を確認して上体を起こす。
「目ぇ覚ましたか。」
 通路を挟んだ隣のベンチにはアクマエルが座っていた。
「そうか・・・俺は・・・へっ、負けたんだな。」
「いいや、引き分けだ。」
「どう考えてもあんたの勝ちだろ。何で笑いながら倒れるんだよ。・・・あんた手加減してたろ。」
 アクマエルはニヤリと笑う。
「こんな事で一々本気出したら死体の山築く羽目になっちまう。」
 その時ロッカールームの扉が開いた。
「ヒート、目を覚ました?」
 入ってきたのはライキだった。
「無様な姿見せちまった様だな。この様だ。俺の負け・・・」
「いいや、今回は珍しく引き分けの判定を下したよ。いや君にとっては下してくれた・・・かな?」
 ヒートは鼻先で笑う。
「ハッ!どいつもこいつも・・・」
 何処か寂しげに言い捨てるヒート。
「なあお前等。」
 アクマエルに注意が向く二人。
「ヒート・・・だったか?あとは付き人の小僧・・・お前等新しい力は欲しくないか。」
「悪いがヤクには手を出さない事にしてんだ。」
「違えよ、そんなんじゃねえ。奥底に眠っている力を引き出す、簡単に言えばそうだが・・・なんて言いやいいのか。」

329名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:05:44 ID:/qBnNDz6
「宗教勧誘もお断りだぜ。」
「ああ畜生・・・ワルイーノっても分からねえだろうし。」
 ワルイーノ。ライキとヒートには聞き覚えがあった。
「おいおっさん、その話もう少し詳しく聞かせな。」



 そして現在。
 アクマエルはライキとヒートを並べアクマルスのオフィスに居た。
「驚いたぜ。こいつ等俺達の事少しは知っているんだからよ。」
「ほう?ではメイデンナイトの事も知っているのか?」
 アクマルスの問いにヒートが答えた。
「ああ、あの嬢ちゃんだろ。会った事もある。」
「それで?」
「弱っちいガキにしか見えなかったがな。」
 アクマルスとアクマエルは互いに大声で笑った。
「なんだそりゃ?」
「まあ仕方があるまい、未熟も未熟よ。」
 アクマエルは周りを見渡した。
「爺さん、何か人が足りなくないか?」
「やられおったわ、メイデンナイトか・・・右腕の小僧に。」
「右腕?おもしれえ話じゃねえか・・・聞かせな。」
「まず、その二人に力を・・・話はその折にしてやる。」
 アクマルスが指を鳴らすと暗闇から二体の黒いシェルエットが浮かんだ。
 その二体はライキとヒートに向かって歩いて行った。



 その数日後、森の中に作られた道を歩く旅人達が居た。
 その内の一人は大きなリュックを背負った長髪の少年で地図を片手に歩いていた。
 長髪で右腕に包帯とオープンフィンガーグローブをしている少年の名前はバイツといった。
 バイツは頭を掻きながら地図と今現在の道を見比べていた。
「次の町までの道・・・これで合ってるよなぁ・・・」
 バイツが力無く言うと、茶色の長い髪をし、眼鏡を掛けた少女が言った。
「大丈夫だよバイツさん、きっと合ってるから。」
 彼女の名前はルル。普段は無邪気さのある少女だが時にはメイデンナイトとしてこの世界を狙う一党ワルイーノと戦う立派な戦士である。
「その自信は何処から来るんだか・・・」
 そう呟いたのは赤紫色のお団子ツインテール少女アクリル。彼女はワルイーノだったが離反し、今はバイツ達と旅を共にしていた。
「もしかして・・・ルルはこのみち・・・しっているのかも・・・」
 小さな声で呟く少女。銀髪の長い髪に幼い顔には似合わない右目の眼帯。人造人間である彼女の名前はテスラといった。
 この中でポケモンを持っているのはバイツとルルだけなのだが今はモンスターボールの中で休ませている。
 次の町に向かって歩き続ける一行。
 ふと、分かれ道で足が止まった。

330名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:06:26 ID:/qBnNDz6
 片方は今までと同じく舗装された道。
 もう片方は荒れ果てた道。
「地図は合っていたな。よし、じゃあこっちに・・・どうした?ルル。」
 舗装された道を歩こうとした途端にルルは足を止めた。
「バイツさん、こっちに行こう。」
 ルルが行こうとしているのは荒れ果てた道の方。
「その先には何も無いぞ。地図にも何も書いていない。」
「ううん、「在ったの」。お願い。行こう。」
 ルルは歩き出した。まるでそこを知っている様な足つきで。
「ルル・・・森の中で変な木の実食べたとかそんなんじゃないでしょうね。」
「たぶんちがう・・・でも・・・へん・・・」
「しょうがない、行くぞ二人とも。」
 バイツはルルについていく。
「もーっ!バイツまで何よ!仕方ないわね行くわよ!テスラ!」
「わっ・・・」
 テスラの腕を引っ張るアクリル。
「つまらないものだったらただじゃおかないんだから。」
 文句を言いながらアクリルもルルについていく。
 森を抜けて辿り着いたのは草木が生い茂る場所。そこら一帯にはそれ以外何も無かった。
「ただいまお母さん。ただいまお父さん。」
 ルルがそう言う。
 ルルは更に歩みを進めた。そして振り向いて口を開く。
「ここが私の故郷。地図から消された町。始まりの場所。」
 ルルがボールからドレディアを出す。
「戻って・・・来ましたね。」
「うん・・・」
 バイツが二人に近付く。
「家の残骸とかは無いのか。」
「撤去されちゃったみたい。でも家の在った場所はまだ覚えてるよ。」
 ルルが歩き出す。それに続いてバイツもテスラもアクリルも歩き始めた。
 何も無い場所。ルルはそこで立ち止まった。
「ここにね在ったの・・・私の家。」
 ルルは家が建っていたであろう場所を眺めた。そこも例外なく草が生い茂っていた。
「・・・今日はここでキャンプだな。」
「え?」
「町は近いがたまにはいいだろ?それに何の為にこんなでかいリュック背負っていると思ってるんだ?」
 バイツはリュックを下ろすとその場の草を瞬時に右腕で焼き払った。そこには家の土台の跡が確認できた。そしてテントを組み上げていく。オートキャンプ用の大きいテントだったが今の四人では丁度いい大きさだった。
 テントが組み上がるとバイツはモンスターボールからサーナイト達を出した。ルルも残りのポケモンを出す。
 サーナイトは辺りを見回した。
「ここがルル様の・・・」
 悲しげな表情でルルを見つめる。
「そんな顔しないでサーナイト。さ、皆で遊ぼう?」
 その時だったバイツの顔が険しくなった。
「・・・先客だ。」

331名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:07:02 ID:/qBnNDz6
「そんな訳無いじゃない、こんな地図にも載らない原っぱに・・・」
 アクリルもそこで言葉を切った。
 バイツ達が入ってきた反対方向から二つの人影が見えた。
「ライキ?それにヒート?」
 バイツは二人の名前を言い当てた。
 向こうから歩いて来る人間は確かにライキとヒートだったのだ。
「奇遇だな、また会えるとは。何を・・・している?」
 バイツは警戒しながら二人に問い掛けた。何故か右腕がピリピリと何かを感じ取っている。
「奇遇ね・・・今の僕達には全く合わない言葉だよ。」
 ライキがそう返す。
「バイツ、抱き着いての再開のキスは今回お預けだ。今回の狙いは・・・」
 ヒートの視線がルルに向く。
「メイデンナイト、だ。」
「何を馬鹿な事を言っているんだ?お前等そんなワルイーノの馬鹿共みたいな事・・・」
 バイツは一歩進み出ようとしたが、ルルの腕がそれを遮った。
「バイツさん・・・もうあの人達・・・」
 その時ライキとヒートの体を黒が包み込んだ。
「お前等・・・この大馬鹿野郎!」
「何と言われようとも構わないさ。」
「狙いはメイデンナイト、テメェだ。」
 そして完全に二人は黒に染まり上がった。
 ヒートは人の形をしているがライキは右腕の二の腕から先が銃の形をしていた。
「何があったかは分からないけれども私が救ってあげる!」
 その途端にルルはメイデンナイトに変身した。
「救う?馬鹿言え、これは俺達が望んだ姿だ。」
 バイツが微かに動いた瞬間、ライキは右腕の銃口をサーナイト達へ向けた。
「・・・」
「手出しはするな、か。皆俺の後ろに。」
 バイツはサーナイト達を背後に寄せた。
「勝負はタイマン。行くぜ。」
 ヒートがルルに向かって突進した。
 速い。
 そこらのワルイーノよりも桁違いの速さにルルは一瞬攻撃を躊躇い防御の構えを取った。
「甘ェよ。」
 ヒートは一撃の蹴りで防御を崩した。そして腹部に拳を撃ち込む。
 吹っ飛ぶルル。だが上手く受け身をとって起き上がる。
「そうでなくちゃあ困る・・・ぜッ!」
 再度突進するヒート。今度は拳の乱打。
 ルルは再度防御の姿勢をとった。
「おらおらどうした!相手のペースに巻き込まれるなよ!」
 防戦一方のルル。だが一瞬乱打が緩んだ瞬間、ヒートの腕を取り一本背負い投げを決めた。
 上手く受け身をとったヒート。その隙を見計らってルルは瞬時に距離を離していた。
「ホーリースティングショット!」
 複数の光の槍がヒートを狙い発射される。
 しかし、ヒートは全ての槍を走りながら避けた。

332名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:07:38 ID:/qBnNDz6
「嘘っ!」
 ルルは驚いた。まさか全て避けられるとは思ってもいなかった。
「とっておきは最後の最後まで取っておくもんだぜお嬢ちゃん。」
 ルルの懐に入り込んだヒート。掌底をルルの顎へ突き上げる。
 打ち上げられたルル。地面に倒れると同時に頭から右数ミリの地面を踏み砕かれる。その衝撃で土と草が舞った。
「・・・っ!」
「話にならねえなぁ!おい!マジで頭蓋踏み抜くところだったぜ!」
「まだ・・・私は戦える・・・!」
「勝負は決まったんだ。そこで寝てな。」
 ルルは立ち上がろうとしたが視界が揺らぎ、足が震えて立ち上がれずにいた。
「さて、勝負はこれで終わりといきたいところだが・・・」
 ヒートはバイツに視線を向けた。
「バイツ・・・テメェともヤリ合いたくなっちまったぜ。」
 ライキは図ったかの様に銃口を下げた。
「その右腕で俺の力にどこまで対抗できる?右腕というハンデ!いままで論理や理屈をぶち壊してきた右腕!バイツ、かかってこい!俺の血の滾りを・・・」
 バイツは渋々接近し、左手でヒートの首を掴んで、右手で軽く往復ビンタした。
「あ痛っあ痛っあ痛っあ痛っあ痛っあ痛っあ痛っあ痛っあ痛っあ痛っあ痛っあ痛っ。」
 バイツが左手を離すとその場に崩れ落ちるヒート。
「勝った・・・」
 ヒートに足を乗せて右腕を高く上げるバイツ。
「ええー・・・」
 ライキはそれしか言えなかった。
「そら、ライキ。連れていけ。」
 ヒートの体をライキに押し付けるバイツ。
「また明日も来るからな・・・」
 ヒートはそう言い残しライキに抱えられながら去っていった。



 その夜、バイツはアクリルに呼ばれ山の入り口付近にある大きな木の下に立っていた。
 少し前に話がしたいとだけ言われ、その時には詳しい事は何も話さなかった。
「待った?」
 いいや、とだけバイツは返した。
「そう、じゃあ早速・・・」
 アクリルはバイツの両手に水晶で作った手錠をはめた。
 そのまま木の根元に押し倒されるバイツ。
「何をするんだ・・・止めっ・・・」
 そして手錠の鎖の部分をコの字型の水晶で木に打ち込んだ。
 バイツの両手は上に上げられた状態になり身動きが取れなくなった。
「んふふー」
 と、アクリルはバイツの上半身を脱がしに掛かる。
「何するんだ!おい!」
 バイツの上半身の服をたくし上げる。
「知ってる?口では何を言っても体は正直なのよ。」

333名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:08:08 ID:/qBnNDz6
 バイツの上半身が月光に晒され露わになる。
「じゃあ、これは何?」
 バイツの右肩の紅い部分は包帯で隠されているがその部分から体を浸食していく様に黒くなっていた。
 それは漆黒の如く真っ黒な黒。それは右胸から右脇腹にかけての部分を覆い尽くす寸前だった。
「アンタ、ルルの気付いていない間に何匹のワルイーノを潰してきたのよ。」
「さあな。百人から先は数えていない・・・くそ、何時までこのネタ使えばいいんだよ。」
「返り血が体に染み込んだのね。これじゃあアンタ、冗談抜きでワルイーノそのものになるわよ。」
 バイツは手錠を壊すと服を元通りに着直した。
「アンタにこれ以上ザコの相手は任せられないわ。連中を殺して返り血を浴びる程その黒はアンタを蝕む。そして一定の量を浴びると今度は時間と共に黒が侵食していく。」
「それでも奴等は俺が殺す。それで皆を護る。」
「話が通じないわね。」
「悪かったな。この事内緒にしていてくれな、特にサーナイトとルルには。」
「何でよ。アンタこれ以上の無茶は・・・」
「この事が知れたら俺以上に無茶するだろう?」
「あー分かる気がする。」
「しかし、返り血がこんな事になっているなんてな。どんなに浴びてもきれいさっぱり消えるからその点だけは誉めてやろうかと思ったのに。」
「そんなもんよ。返り血を浴びれば浴びる程連中に近くなっていく。まあちょっとした呪いよ。」
「だな、塵も積もればなんとやらだ。」
「戻りましょう。これ以上話したところで状況がよくなる訳じゃないし。」
 バイツとアクリルはキャンプへ戻る事にした。夜空より黒いその身を引っ提げて。



 次の日も黒に染まったヒートがやってきて、ルルに戦いを申し込んだ。
「皆・・・手は出さないでね。私一人で戦うから。」
 ルルもその気なのかメイデンナイトに変身し、戦いに挑む。
「どうした!そんなんじゃ俺を倒せねえぞ!」
「くうっ・・・!」
 勝負は昨日と同じくルルの防戦一方。
 唯一違うところがあるとすれば、バイツと黒に染まっていないライキが隣同士に座り頬杖を突いてのんびり戦いを見ている事であった。
「ねーバイツ。」
「んー?」
「運命って不思議だよね。」
「何だよ急に、変な事。」
「少し前までは敵じゃなかったのに今では敵同士。」
「そうかい、俺も不思議だよ。こんなに殺気を感じない敵なんて初めてだ。」
「僕の事かい?」
 バイツは静かに笑った。
「ヒートも含めてな。」
 今度はライキが静かに笑う。
「そうだね。あのお嬢さんを鍛えてるなんて知られたら僕等だって危ないのに。」
「監視役が居るのか?」

334名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:08:47 ID:/qBnNDz6
「いいや、今の所は居ないよ。でも時間を掛け過ぎれば・・・」
 ライキは溜め息を吐く。
「やっぱりいきなりの実戦訓練だけどちょっと無茶が過ぎたかな?」
「最初はこんなもんさ・・・でもルルは強くなる。それだけは賭けてもいい。」
「何を賭けるのやら・・・」
「世界の運命さ。」
 バイツは他人事であるかの様に笑ってそう言った。



 その日は日暮れまで戦っていたルルとヒート。
「やってらんねえ、今日はここまでだ。」
 ヒートが背を向けてその場を去る。
「あっ、待ってよヒート。」
 ライキはその後を追いかける。
 ルルはその場で二人が見えなくなるまで立ち尽くした後、崩れこむ様に座り込んだ。そしてメイデンナイトの変身を解く。
「お嬢さん、お手を拝借。」
 バイツはルルに近付き手を差し伸べた。
「大丈夫・・・これ位・・・」
 そう言って立ち上がった途端にバランスを崩すルル。それを上手く抱き止めるバイツ。
「戻るか。」
 ルルに肩を貸しながらバイツはキャンプへと戻っていく。
 随分と消耗したルル。それは彼女の経験にもなる。その事をバイツはあえて言わなかった。
「お帰りなさいませ、マスター、ルル様。」
 サーナイトが鍋で料理を煮込みながらそう言った。
「ただいまサーナイト。」
「た・・・ただいま・・・」
 ルルをクチート作の丸太の椅子に座らせるとバイツは背伸びをした。
「やれやれ今日はボロボロじゃないかルル。」
 ゾロアークがルルに向かって言った。
「しょうがないでしょ・・・朝から戦い通しだったんだから。」
「昨日よりはマシに見えたわよ。」
 コジョンドは笑いながらそう言う。
「心遣いどうも・・・」
「でっ、でもこのままじゃルルの体が持たないよ!」
 タブンネが心配そうに言う。
「大丈夫よ・・・私・・・負けない・・・」
「ルルは負けません。」
 ドレディアがそう言った。
「ルルは負けません絶対に、これまでがそうだった様にこれからも。」
「言ってくれるじゃない・・・ドレディア。」
「当たり前ですっ!どれだけ一緒に居たと思っているんですかー!」
 バイツはその光景を眺めていた。その時サーナイトがバイツの事を呼んだ。
「マスター、大変申し訳ありませんが晩御飯の準備ができたのでクーちゃんとエルちゃんを呼んできてはいただけないでしょうか。」

335名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:09:25 ID:/qBnNDz6
「何だ、何処か行ってるのか?」
「先程までここ一帯で遊んでいたのですが・・・」
「分かった、見つけてくる。」
 バイツはそう言うと辺りを見回した。
 草の踏み倒された跡で大体の行き先は分かる。だがその草の跡は山の方へと向かっていた。
 バイツは嫌な予感がした。そしてその予感は大体当たるものである。



 クチートとエルフーンは木を背にした状態で二体のワルイーノに追い詰められていた。
「こいつ等メイデンナイトの・・・」
「殺っちまおう・・・その前に楽しむとするか?」
「止せ、俺達の任務は監視と報告だ。楽しむ時間など無い。」
「しゃーねーな、じゃパパッと殺っちまうか。」
 後ずさるクチートとエルフーン。だが木が邪魔でこれ以上下がれなかった。
「クチ・・・」
「エル、あたしの後ろに・・・!」
 ワルイーノの片割れが笑う。
「可愛いなぁお嬢ちゃん。本当は(自主規制)を(自主規制)して楽しみたいところだったんだけどなあ。」
「だったら自分一人で楽しめ。」
 次の瞬間、声と共に右腕がワルイーノの背後から胸を貫く。
 それはバイツの右腕だった。
「どうした?穴は開けてやったぞ?」
「こっ・・・このやろ・・・」
 そこまで言うと胸を貫かれたワルイーノは液状化した。
「・・・またやってしまった。」
 液状化したワルイーノの一部がバイツの右腕に染み込んだように見えた。
「貴様!」
 もう一方のワルイーノがバイツに振り向くが上から降ってきた新たなワルイーノに踏まれて地面に突っ伏した途端、首を折られて液状化する。
 バイツはこの様な芸当ができる人物を知っていた。答えが分かっていたかの様に口を開く。
「助かったよ、ヒート。今はせめてその黒い恰好は止めてくれないか。」
 そう言われたヒートは黒を解く。
「マスター!」
「バイツー!」
 クチートとエルフーンが屈んだバイツに泣きつく。
「良かった・・・無事で。」
「こっちは無事じゃあねえかもな。」
 ヒートは口を開く。
「多分こいつは監視役だ。その監視役を殺っちまったから連中数を集めてここに来るかもしれねえな。」
「そこまで分かっていながら何故?」
「俺があの嬢ちゃんと遊んでいるのが知られたら危ねえだろ色々。」
 フッとバイツは鼻先で笑った。
「何だよ。」
「ルルの訓練に協力してくれる事感謝している。」

336名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:09:59 ID:/qBnNDz6
「バッ・・・!何言ってやがる!一時の戯れってやつだ!」
 そこまでヒートは言うと暗闇が支配する森の中へと歩いて行った。
「素直じゃないね。」
 クチートにまで言われてバイツは苦笑を堪える事が出来なかった。
「さあ、キャンプに戻ろうか。」
 バイツはクチートとエルフーンを両肩に乗せてキャンプへ戻っていった。



「連絡が途絶えたそうだの?」
 アクマルスがアクマエルにそう言った。
「畜生・・・メイデンナイトめ・・・」
「もしかすると右腕の小僧やもしれぬ。」
「そんな事はどうだっていい!問題はヒートだ!メイデンナイト如きに苦戦しているとは思えねえ!」
 部屋の柱に拳を叩きつけるアクマエル。柱は砕け破片が床に飛び散る。
 幾ら手加減していたからといってあそこまで自分を追い込んだのはヒートだけだった。その分アクマエルはヒートに信頼を置いていた。だがもしもの為に監視兼連絡を放っていた。
「では自分で確認しに行ったらどうだ?」
「・・・いい考えだな。右腕の小僧の面を拝むのを兼ねて行ってみるか。」
 アクマエルは踵を返し部屋から出ていった。
「たまにゃ、走るとするか。」



 それから五日、六日と経つにつれてルルの成長ぶりには目を見張るものがあった。ルルが徐々にヒートのスピードに追い付いていく。
「おー、すごいじゃん。」
 最初はハラハラしながら見ていたミミロップだったが今ではすっかりルルの動きに目を奪われている。
「これはまさかのまさか・・・ね。」
 ムウマージもルルの成長ぶりに驚くばかりであった。その中で微かに彼女の中で勝機という希望が芽生え始めていた。
「さあさあ今日んご飯はなんにしまんねん?」
 ユキメノコに至っては戦いの心配より今日の献立の心配をしていた。
「すごいです、ルル様・・・」
 サーナイトが口元に手を当てながら言った。
「ようやっと見えてきたという所だな。」
 サーナイトの足元でアブソルがそう言った。
「これからどうなる・・・いや・・・どうする・・・」
 アブソルの紅い眼は二人の戦いをただ見つめていた。
 そして夕暮れになる頃にはルルも次第に攻撃を当てられる様になっていた。
「くっ・・・今日はここまでにしておいてやる。」
 黒を纏ったままヒートは山の方へ逃げて行った。
 わざとらしいなとバイツは思った。彼が思うにヒートはこれでは満足していない。いや、寧ろこれからだろう。ヒートの戦闘狂としての悪い癖が出てくれば。
「ふーっ、疲れた。」
 ルルが丸太の椅子に身を投げ出す様に座り込む。

337名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:10:35 ID:/qBnNDz6
 ルルも最初の頃と比べても余裕が出始めてきている。これは純粋にいい事だった。
「ねえねえ、今日の献立は何?」
 ルルがサーナイトに詰め寄る。
「出来てからのお楽しみです。」
 サーナイトは微笑みながら言う。
 バイツはその光景を見ながら苦笑していた。元より心配事が要らない一行だった事をバイツは思い出す。そしてバイツは思った。この光景を護るためならば自分の何を投げうってでも戦おうと。



 次の日の事だった。
 同じくヒートが黒を纏った姿で現れる。
 ルルもメイデンナイトに変身し、ヒートの前に立つ。
「遠慮はいらねえ。昨日の頑張り見せてみな。」
「当然!」
 ルルが先手を取っての跳び蹴り。その蹴りは前よりも格段に速く鋭くなっていた。
 ヒートが腕を十字にして跳び蹴りを防ぐ。
 ルルがもう片方の足でヒートを蹴りつけその反動を生かしバク転し、着地する。
 そしてヒートに突進し拳の乱打を叩き込む。
 ヒートは様子を見ているのかただそれを防いでいる。
 ルルも乱打が効果が薄いと思ったのか一旦離れる。
 その隙をヒートが見逃す筈も無く、ステップからのミドルキックを繰り出す。
 ルルはその蹴りを両手で取る、そして足首を脇腹に押し付けるようにクラッチする。その体勢から自ら素早く内側にきりもみ状態で倒れこんだ。
「何ぃ!?」
 意外な返しにヒートは受け身をとる事が出来ずに頭を強打した。
 ドラゴンスクリュー。そう呼ばれる技。
 ヒートは起き上がろうとした。だができなかった。眼前で止まっているのはルルの拳。その途端ヒートは力を抜いて口を開いた。
「俺の・・・負けだ・・・」



「やった!皆勝ったよ!」
 ルルは変身も解かずに皆と抱き合っていた。
 黒を纏ったままのヒートは倒れながらその光景を目にしていた。
「ほら。」
 ヒートの眼前にバイツが右手を差し出す。
「済まねえ。」
 バイツの右手とヒートの右手が触れ合う。
 その途端バイツの脳裏に電流と共に映像が流れ込んで来る。
 アクマルス、巨大な男、ワルイーノ。
「何がどうなっているのか説明してもらうぞ。」
 バイツがヒートを引き起こしながらそう言った。
「あの!」

338名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:11:08 ID:/qBnNDz6
 ヒートを引き起こした途端ルルがヒートに向けて声を掛けた。
「私との訓練・・・ありがとうございました。」
「・・・何言ってんだよ。」
 ヒートは照れ臭そうにそっぽを向いた。
「私、ヒートさんのおかげで自信が持てました!」
「ああそうかい。じゃあ行きな・・・じきに奴が来るだろうからよ。」
「奴って?」
「アクマエルとかいうおっさんだ。俺達をワルイーノとやらに誘ったんだ。・・・おかげでこんな体さ。」
 ヒートは自分の右腕に視線を落とす。
「半端者さ・・・惨めだろ?笑いたきゃ笑ってもいいんだぜ?」
 ルルは頭を振った。
「でもそのおかげで私は強くなれました。それにその姿、私の力で元に戻せますよ。」
 少し考えた後にヒートは口を開いた。
「そうか、じゃあ頼む、ライキはどうだ?」
「僕も頼もうかな。」
「少し荒療治になりますけども・・・」
「その必要はねえよ。」
 声のした方に全員で振り向く。
 そこに居たのは二メートルを超す巨漢。
「アクマエル・・・」
 アクリルの呟きはその場の全員に聞こえた。
「何だ、アクリルじゃねえか。こんな所で何してやがる?」
「アタシはね、もうアンタ等とツルむのは止めたの。今はこっち側よ。」
 警戒しながらアクリルはそう言った。
 溜め息を吐いてアクマエルは辺りを見回す。
「懐かしい場所だ。ここでメイデンナイトを見つけて潰したと思ったんだが・・・きっちり生きてやがったか。」
「何を言ってるの、私はアンタなんて・・・」
 ふと、ルルの脳裏に浮かぶ母の最期。町の光景。
「アンタがお母さんを・・・町の皆を・・・この町を!」
「あン?」
 ルルは次の瞬間にはアクマエルに向かって飛び掛かっていた。ルルの渾身の拳がアクマエルの顔面に入った。だがアクマエルは全く動じない。
「・・・か?」
「え・・・?」
「それが限界かって訊いてんだ!」
 途端異常な密度のオーラが周囲に放たれた。大地が揺れ、草は土ごとえぐれ、アクマエルの周囲に居た全員が吹っ飛ばされる。
 その中で唯一バイツだけが瞬時に立ち上がった。
「皆!大丈夫か!」
 誰からも返事は帰ってこない。
 アクマエルはバイツの右腕に注目する。オープンフィンガーグローブの下の包帯。
「ほう、するとお前が右腕の小僧か。」
 バイツの真っ正面にアクマエルが立ちはだかる。
「ぬうん!」
 右拳が眼前に迫る。

339名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:11:40 ID:/qBnNDz6
 バイツは反射的に右拳を撃ち込んだ。
 運動エネルギーのぶつかり合いは衝撃波を起こし両者を吹っ飛ばすという結果に終わった。
「・・・やるじゃねえか。おい!こいつは面白え!」
 バイツとアクマエルが起き上がるのは同時だった。
「アンタとやり合う気はないんだ。さっさと失せてくれないか?」
「失せろだと?ふざけるな、やっとマジになれそうな奴と出会えたんだ。精一杯楽しませてもらうぜ!」
 アクマエルが体勢を変えずにバイツに急接近する。
「おらぁ!」
 粗々しい前蹴りが繰り出される。バイツはそれを右腕で掴み、アクマエルを宙に投げる。
 アクマエルは空中で体勢を立て直し地面に着地する。
 バイツは毛頭やり合う気は無かった。皆の安全が最優先だったのだ。それにもし戦って勝てたとしても流血は免れない、アクマルスの血がバイツをワルイーノへと引きずりこんでいく。
「戦うしか・・・ないのか・・・」
 そう口にした途端バイツは苦笑していた。決めたはずだ何を投げうってでも戦うと。後悔はしない。バイツは静かに構えた。
 その時だった。二つの影がバイツとアクマエルの間に立ちふさがったのだ。
 それは黒を纏ったライキとヒート。二人とも臨戦体制だった。
「バイツ!皆を起こして!さっさと逃げて!」
「ここは抑えておくからよ。ここで嬢ちゃん・・・ルルが・・・メイデンナイトが倒されれば世界もそれまで、だ。」
 バイツは頷いて口を開いた。
「援軍は期待するなよ!」
 あの二人の事だ、策があるに違いない。バイツはそう思っていた。
 全員を起こしに掛かるバイツ。
 それを横目にライキはヒートに尋ねた。
「バイツ抜きかー、何か策でも?」
「いいや、当たって砕けろ。だ。」
「邪魔だお前等。そこを退け。」
 声に殺気がこもり始めるアクマエル。
「嫌だね。」
 ライキが右腕の銃をアクマエルに向かって放った。
 アクマエルはその攻撃を片手で易々と防ぐ。
 しかし、ヒートの体術はそうもいかなかった。片手で何とか防げるといったところ。
 二人のコンビネーションにアクマエルは先に進む事すら出来なかった。だがアクマエルは一歩も引いては居なかった。
 全員を起こしたバイツはサーナイト達をモンスターボールに入れライキとヒートに目を向けた。
「バイツ・・・駄目・・・一刻も早くここから・・・離れましょ。」
 バイツの視線の先に気づいたアクリルが満身創痍の体を引きずって自分達が入ってきた道へ向かう。
「しかし・・・」
「アンタならいい勝負になるかもしれない・・・でも勝ったとしても体に・・・」
「分かった・・・」
 変身を解いたルルもドレディア達をボールに戻す。引く事はあまり気が進まなかった。だが、今の状況を鑑みれば引いた方がよさそうであった。
「・・・いたい・・・」
 テスラも傷付いた小さな体を引きずって立ち上がっている。
 四人はルルの故郷を後にした。
 それを見届けたライキとヒートはより一層激しくアクマエルに攻撃を仕掛ける。
「一体何がお前達をそこまで駆り立てる?」
 アクマエルは問い質した。
「ヒート、ライキ。何故お前等は死ぬ気で戦う?」
 ヒートは笑った。
「世界の希望とやらに賭けてみたくてよ。」
 そしてライキとヒートは更に攻撃を叩き込んだ。



 バイツ達が一番近い町に辿り着いた途端大きな地震が町を襲った。
 しかしただそれだけでアクマエルが追って来るという事はなかった。
「ライキ・・・ヒート・・・」
 バイツはそれだけ言うと町の医者にルルとテスラを診せに行き、サーナイト達をポケモンセンターへ連れていった。
 ワルイーノであるアクリルは医者に見せる事が出来ないためバイツと一緒に入ったモーテルの部屋で傷を癒していた。
「連中とやり合う理由がもう一つできてしまったな。」
 それは復讐。
 二人の友がただでは済まない事は先程の地震で分かった。
「仇は取る・・・確実に。」
 バイツは殺意を込めて静かにそう言った。

340名無しのトレーナー:2013/06/01(土) 00:13:35 ID:/qBnNDz6
二十二章は終わり。
誤字脱字があったりおかしい部分があったら脳内補完ね。
それとあまり関係の無い話ですが旧BBSに行ってSSスレを読みかえしてきました。
ああ、こんなに勢いのある時代があったんだなーと少し泣きそうになりました。

341逆元 始:2013/06/02(日) 00:20:47 ID:gN8MKgYo
球磨川 禊『また勝てなかった。』
せっかく鍛えたのにソッコーまた負けるルルに涙
もはやギャグだろ!
ワザとやってるんだろ!
もう許してやれよ!
やめたげてよぉ!(ベル)

やっぱりやったライキ&ヒート
ワルイーノパワー持ち逃げパワーアップ
しかしメイデンナイト居ても居なくても世界にはあまり影響ないような…
今更ルルを鍛えてみたり賭けてみるとか言われてもなぁ
ぶっちゃけルルが感知出来ない駆けつけられない場所ではワルイーノやりたいほうだいだろ
殺せんせー「私ならマッハ20で何時でも何処でも駆け付けますよ」ヌルフフフ
ナルト「悪意なら見えてんだってばよ!」(九尾モード)
ゼブラ「チョーシこいてんじゃねーぞぉぉぉ!」(ボイスバズーカ)
しかしアクマエル強すぎだろヒートのラッシュにもほぼノーダメージとか…
バイツも仲間が近くに居る状況&ワルイーノ化の呪い的なものを鑑みて撤退…
勝てる気がしない…倒せるのか!?
悟空「つえーヤツがいんなーオラワクワクすっぞ!」
なんかワルイーノ化したライキとヒートはルルが戻せるとか言ってたがバイツの方は無理なのか?
血を浴びた呪いと半端者(仮)はワルイーノ化のプロセスそのものが別物なのだろうか…
でないとアクリルの警告がイミフになるし
とりあえず次回以後説明されることに期待しよう
球磨川『ついに僕が出演する"めだかボックス"は完結しちまったぜ。』
『好きなキャラやセリフやシーンに投票するファン参加型企画は継続中だけど。』
悟空「オラの方はとっくの昔に完結してっけど、りにゅーあるあにめから映画になっからみんな観に来てくれよな!」

342名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:16:38 ID:/qBnNDz6
唐澤貴洋がコーラン燃やしつつムハンマド馬鹿にしたので小説を投下します。
色々ガバガバな点がありますがそこは雰囲気で流してください。



>>逆元氏
どうしてこうルルが負ける展開作り出してしまうんでしょうかね自分。
なので敵キャラ弱体化パッチでも入れる事にしますかね。
バイツの強さ?なんのこったよ(すっとぼけ)

343名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:17:16 ID:/qBnNDz6
 とあるビルの一室。
 そこは風通しも無く日の光が差さず暗めの明かりで照らされており、様々な置物が大理石で出来たアクマルスのオフィス。
 アクマエルは椅子に座り机の上の書類に目を通しており、隅ではアクマエルが鼾をかいて床に寝そべっていた。
 そこに珍しい事に大人と子供が尋ねて来ていた。
 大人の方はプライド。子供の方はサイコと名乗った。
「で?我等に何か用かの?」
「メイデンナイトの件、我々に任せてみる気はありませんか?」
 自信ありげにプライドはそう言った。
「お主等はお主等の仕事をしていればよい、我々の事に口出しは無用よ。で?メイデンナイトの所在は?」
 そう言った途端サイコが口を開いた。
「おじさんさあ、僕の力見てみる?」
 途端、複数の大理石の置物が宙に浮かんだ。
「ねえ、これどうしようか。」
 サイコが浮かせた複数の置物。サイコが手をかざすと一斉にアクマルスに向かって放たれた。
 刹那、アクマエルが起き上がりアクマルスの机の前に立った。
「オラァ!」
 放たれた置物はアクマエルが一蹴して粉々にした。
「何だか騒がしいと思って起きてみりゃあ、小僧、面白い事するじゃねーか。」
 対峙するアクマエルとサイコ。
「なあんだ、つまんないの。」
「おい小僧他に面白い技持ってんだろ、見せてみろよ。」
 サイコがアクマエルに手をかざす。途端にアクマエルとの意思とは関係無く右腕が捻れていく。
「ごあ・・・ぁ・・・!」
 力ずくで戻そうとしても戻らない右腕。
「その辺にしておきなさいサイコ。」
「はーい。」
 プライドがそう命じると大人しく右腕のコントロールを解除するサイコ。
「どうです?我々が作り出した人造人間は、お気に召したでしょうか。」
「それで・・・その小僧が一人でメイデンナイトを倒すというのか?」
 アクマルスが問う。
「いいえこの子一人ではありません。人造人間は他にもいます。これであなたが倒そうとしているメイデンナイトとやらを倒します。」
 プライドが誇らしげに答える。
「それでは報告があればまた後程。」
 プライドとサイコがオフィスを後にする。
 膝をついて息を荒げるアクマエル。
「んのガキ・・・!」
「落ち着け。どこまでやれるか見てやろうではないか。」
「んな悠長な事言ってられっか!あのガキ・・・!サイコとか言ったな・・・!」
「もしやお主勝負しようとでも思っておるのか?」
「おう、それに他にもいるって言っていたな!」
 アクマエルは息を荒げて口を開く。
 悪い癖だ。とアクマルスはしみじみ思った。

344名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:17:51 ID:/qBnNDz6

 それから四日後の事、ある一行がモーテルの受付を済ませて部屋に到着していた。
「この街も久しぶりね。」
 と、窓を開けながら眼鏡を掛け茶色の髪をした少女、ルルが言った。
 外の自然な風が部屋の中に吹き込んで来る。
「来た事ありました?」
 と、ルルに尋ねるのは彼女のポケモンでもあり家族であるドレディア。
「来た事あるわよ忘れたの?」
「覚えてないです・・・」
「珍しい事もあるもんだねえドレディアが物忘れするなんて。」
 笑いながらゾロアークがからかう。
「あたしは来た事無いけどね。コジョンドはどうだい?」
「私も貴女と一緒よこの街は初めて。」
 と、コジョンドが返す。
「私も初めて。」
「あたしも!」
 タブンネとエルフーンもそう言った。
「ふーん、だったら街の案内位はできるわよね。」
 そう言ったのは赤紫色をした髪をお団子ツインテールにした少女アクリル。
「あら、案内をしてもらうには随分高圧的じゃない?」
「案内してくれなくたっていいのよ、それなら私はバイツと一緒に居るから。」
 名指しされた少年、バイツはその部屋に居なかった。
「マスターなら寝室で眠っていますけど。」
 そう言ったのはバイツの家族、サーナイト。
「なにそれ、お昼寝?」
 そうアクリルが不機嫌そうに返す。
「ええ、どうも昨晩遅くまで起きていたみたいで・・・テスラ様と一緒に寝ています。」
「テスラと!?何で!」
「さあ・・・?きっとテスラ様もマスターと一緒にお昼寝したかったのだと思います。」
「信じらんない!こんなにいい女が居るのに呑気に昼寝!?」
 アクリルが喚く。
「シーッ!」
 クチートがジェスチャーを交えアクリルに静かにする様に促す。
「ま、荷物運びの疲れが溜まっていたのね。」
「マスターの寝顔可愛かった!」
「今はそうろとしいやおきましょ。」
「ま、この部屋じゃうるさくて眠れないものな。」
 ムウマージ、ミミロップ、ユキメノコ、アブソルの順に感想を言いながら寝室から出てくる。
 その寝室では二人が一つのベッドを共有して眠っていた。
 黒い髪の色をした少年と銀色の髪をした少女。
 長い黒の髪をした少年は先程話題に上がった少年バイツ。右腕には包帯を巻いておりその上にはオープンフィンガーグローブをしている。
 長い銀色の髪をした少女はテスラといい、幼い顔に不釣り合いな眼帯を右目にしていた。
 そして話はリビングルームに戻る。
「で、これからどうしようか。」

345名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:18:27 ID:/qBnNDz6
 ルルがバイツとテスラを除く全員を見回しながらそう言った。
「あらルル、アンタが街を案内してくれるんじゃないの?」
 アクリルが自分の力で作った水晶の椅子に座りながら言った。
「何でよ、アンタが勝手に街を歩けばいいじゃない。」
 この言葉にアクリルはカチンときた。
「何を言うかと思えばソレ!?少しこの街を知ってるからって調子に乗るんじゃないわよ!このバカ女!」
「はいはい、そーですか。そのバカ女よりこの街の事を知らないのはどこのお嬢ちゃんかしら!」
 いがみ合う二人。
 運悪く仲裁役に最も適しているバイツは眠っている。
 ところが少しの間を置くと二人はいがみ合いを止めた。
「いいわ、街を案内してあげる。どうせ皆もこの街の事あまり知らないだろうし。」
「バイツとテスラはどうするのよ。」
「勝手に出歩かないでしょ。書き置きを残しておくわ。」
 そう言ったルルは部屋に備え付けてあったメモ用紙に出かけてくるという旨の文を書く。
「字が下手ね。」
 アクリルにからかわれるルル。
「うっさい!」
 書き置きを終わらせたルルは全員を見渡した。
「じゃ、行こうか皆。」
 ルル達街の探索組は部屋を後にした



 それから数十分後、テスラが目を覚ます。
 隣にはバイツが寝ていた。
 ベッドを降りてリビングルームに行くとテーブルの上にあった書き置きを見つける。
「・・・おいていかれた・・・」
 テスラは再度寝室へ行く。
 寝ているバイツを起こそうとしたが、全員分の荷物持ちを担っているバイツの疲労を考えるとどうにも気が引けてしまう。
 する事も特に無いのでバイツの隣に寝そべり、寝顔を見る事にする。
「バイツ・・・かわいい・・・」
 テスラはふと、自分とバイツしかいないという幸運に恵まれている事に気付いた。
 自分の唇をバイツの唇に近付けるかのように顔を寄せていく。
 あと三センチ、あと二センチ、あと一センチ。
 その時、右目を射貫く様な激痛がテスラを襲った。
「っ・・・!」
 咄嗟にバイツから身を引いたテスラ。
 自分と同じような者が近くに居る。
 それは確信に近いものであった。
「いかなきゃ・・・」
 フラフラとテスラはモーテルの部屋から出ていった。



 数秒前の事、同じ服を着せられた少年少女達が一人の男に引き連れられ歩いていた。

346名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:19:04 ID:/qBnNDz6
「テレ、何をしているんだい?」
 テレと仲間に呼ばれた少年はこう答えた。
「テスラが近くに居る。だからちょっとしたメッセージを送ったのさ。」
「え?テスラが。」
「この街にいるって。」
「どこどこ?何処にいるの。」
 騒がしくなり始めた集団。
「皆、落ち着きなさい。」
 そう言って少年少女達を静かにさせた男。その男はプライドだった。
「テレ、テスラが近くに居るというのは本当ですか?」
「うん、もしかしたらメイデンナイトより先に会えるかも。」
「そうですか。」
 プライドは再度子供達を引率し始めた。



「ここが街一番の広場!」
 ルルを先頭にした街の探索隊一行は街の広場へ到着していた。
 行きかう人々や自分の芸を披露しているパフォーマー達。それに、まばらに人の列を作っている様々な屋台。
「ここで食べるクレープがまたおいしくておいしくて・・・」
 ルルが妄想に耽り涎を垂らす。
「あのールル様案内の方は・・・」
 サーナイトが言ってもルルの妄想は止まらない。
 むしろ別の方向に目覚めるルル。
「クレープ屋さんやってるかな、探さなきゃ!」
 全速力で駆け出すルル。
「あのー・・・」
「無駄よサーナイト。多分ルルには何も聞こえていないわ。」
 アクリルが呆れたようにそう言った。
「ちょっとルルー!何処に行くんですかー!」
 ルルを呼び止めようとするドレディアの声が聞こえた。
「ま、丁度ここで一休みってところね。」
 アクリルが近くのベンチに足を組んで座り込む。
「あーあ折角だからバイツと歩きたかったわ。」
「そうですね。」
「でもサーナイト、アンタの事だからバイツを叩き起こしてまで連れては来ない。でしょ?」
「ええ、疲れているマスターに無理はさせたくありませんから。」
「健気ねーアンタ・・・」
 その時ルルの向かって行った方向から悲鳴と何かが激しくぶつかり合う音がした。
「ちょっと待ってよー何?何なの?ルルって何かに憑かれている訳?」
「行きましょうアクリル様!」
「言うと思った。皆!行くわよ!」
 アクリルとサーナイト達はルルの走って行った方向に向かって行った。

347名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:19:40 ID:/qBnNDz6

 数分前の事。
 ルルはクレープ屋を探し走っていた。
 その時ばったりとプライドと引き連れている少年少女達に出会ってしまった。
 ルルは最初その横を素通りしたのだがプライドがルルに気付いたらしく、声を上げた。
「メイデンナイトです!サイコ!」
 途端に先の尖った鉄柵がルルを襲う。
 ルルは間一髪それをかわしメイデンナイトに変身した。
「さすがメイデンナイト・・・これ位かわせるか。」
 サイコと呼ばれた少年が笑みを浮かべながら周りのベンチや屋台店を浮かせ始める。
 その光景に最初は何かの撮影だと思ったのか周囲に人々が集まった。
「こんなの聞いていない!一体何なんだ!」
 屋台の店主がそう言うとそれが撮影でない事を知り、驚き逃げ惑う人々。
「それ。」
 ルルは軌道を予測しすぐに回避する事ができた。
「真っ直ぐな攻撃位私にだってかわせるわ!」
 避けた後に攻撃に転じようとするルル。
「ホーリースティ・・・」
 しかし、何かを感じたのかルルは攻撃しなかった。
「ワルイーノじゃない?人間?」
「あれれ?攻撃しないんだ。」
 サイコが物を浮かせルルに放つ。
 攻撃を避けるのは簡単だったがこちらは手を出せずにいた。
「ねえ、どうして攻撃しないのさ?」
「ルル!」
 アクリルとサーナイト達がその場に駆けつける。
「アンタ何やってんのよ!あれ位平気で片付けてみなさいよ!」
「でも!あの子達は人間よ!」
「え?」
 アクリルは子供達を見渡す。
「おや、あなたは確かアクマルスさんの所にいた娘ですね。」
「プライド・・・!」
「え?誰なの?」
 ルルが訊く。
「超能力をもった人造人間を造りだすプロジェクトのリーダー・・・テスラもそのプロジェクトの一環よ。」
「じゃあテスラは元々・・・?」
「テスラはこいつらの試作品みたいなものよ。って言っても聞きかじりだけど。この数・・・まさか実用化レベルまで達したって事なの?」
「ええ、この子達はいつでも安定した出力で能力を発揮できます。試作品のテスラとは違ってね。」
 試作品という言葉を聞き、この男とは絶対に意見が合わないと思ったルル。
 その時、子供達の中に居た一人、テレが声を上げた。
「あ!来たよ!」
 全員がテレの指差した方向を見る。そこにはフラフラと歩いて来るテスラの姿があった。
「テスラ!どうして!」
 フラフラと歩いてきたテスラはルルの前に来るとふわりと倒れそうになる。それを上手にルルは抱きかかえる。

348名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:20:27 ID:/qBnNDz6
「・・・だれかによばれた・・・おなじ・・・そんざい・・・」
「「ニコラ・システム」のテスラですか。その右目、まだまだ改良の余地がありますね。」
 おぼつかない足取りで立ち上がるテスラ。
 そのテスラの所にテレが近づいて来る。
「僕等と一緒に帰ろうよ。そうすれば君の力がもっともっと増すはずさ。それに・・・」
 テレが付け加える。
「君一人でもうあんな豚共の相手をしなくてもいいんだ。」
 そして差し出される手。
「さあ、行こうよ。」
 テスラはその手を握った。
 その途端、テレの体を青白い電流が走った。
「・・・っ!」
 テレはその手を離す。
「わたしは・・・ルルやアクリルやみんなと・・・いたい・・・だから・・・」
 プライドに視線を移しながらテスラは口を開いた。
「あなたたちと・・・たたかう・・・」
 そこまで言った途端プライドが笑い始めた。
「戦う?右目のコントロールも思いのままにできない試作品が?これは傑作だ!パイロ!」
 名を呼ばれて出てきた少年が前に出る。
 そしてその少年、パイロが掌をテスラに向けてかざす。
 何かを感じ取ったのかルルがテスラを庇いながら回避運動をした。
 途端にテスラの元居た場所が燃え上がる。
「あー惜しい。」
 パイロはニヤニヤと笑いながらそう言った。
 一方パイロの能力を呆然と見つめるルル。
「だいじょうぶだよ・・・」
 そうテスラは言った。
「ルルはむりしてたたかわないで・・・わたしが・・・たたかうから・・・」
 テスラが右目の眼帯に手を掛けた。
「待てよ。」
 刹那、少年の声が聞こえた。
 その声にテスラは振り向き。ルルは顔を上げ。アクリルは笑みを浮かべ。サーナイト達は驚きの表情を浮かべた。
 そこに居たのはバイツだった。
「騒ぎを聞きつければこの有様だ、何なんだお前等は、ワルイーノか?」
「ほう右腕の少年の登場ですか。」
 プライドがバイツの右腕に視線を移す。
「我々はワルイーノではありません。それに与する人間です。」
「一体何の用だ、こんなに子供を引き連れて。」
「バイツさん、あの子達皆テスラと同じ人造人間なの・・・」
「だが、テスラを引き取りに来たわけじゃなさそうだな。」
 バイツの鋭い視線がプライドに向けられる。
「我々の狙いはメイデンナイト。テスラは・・・まあ試作品の回収といった所でしょうか。」
 テスラをあくまでも試作品と言うプライド。
 バイツは笑みを浮かべてこう言った。
「あんた等ワルイーノからもいい面されてないんだな。」

349名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:21:09 ID:/qBnNDz6
 その時、バイツが現われた反対側からアクマエルが現われる。
「アクマエル・・・ッ!」
 ルルが咄嗟に構える。だがアクリルに止められてしまう。
「今のアンタじゃやられるのがオチよ。それに奴の狙いは別にあるみたい。」
 いい面をしていないとバイツに評されたアクマエルの狙いは一つだった。
「いい面ねぇ・・・出来ねえのは勝負をつけ損ねたからよ。なあ、サイコ!」
 名指しで呼ばれるサイコ。渋々とアクマエルの前に立つ。
「何なのさ、勝負勝負って。暑っ苦しいんだよアンタ。」
「バイツ!残りはお前に任せる!俺はコイツと勝負の続きだ!」
「軽く言ってくれるね・・・」
 そう言いながらサーナイト達を背にして歩み出るバイツ。
「マスター・・・まさか本気で戦う訳じゃないですよね・・・」
 サーナイトの不安そうな声が聞こえる。
「いいや、俺は本気さ。理非無きときは鼓を鳴らし攻めて可なり、だ。」
 まただ。とサーナイトは思った。幾ら追いかけても届かないその背中。言葉をもってしても止める事は出来ない。
 バイツは首を鳴らす。
「さあて、やろうじゃないか少年少女諸君、言っておくが子供割引は無いと思え。」
「仕方がありませんね、皆さん相手をしてあげてください。右腕のデータも取りたいのでね。」
 プライドの言葉でバイツの前に立ち不敵に笑う子供達。
 バイツも負けず劣らずで不敵な笑みを浮かべた。



 一方アクマエルとサイコは一方的な勝負を繰り広げていた。
 サイコが見ている前で勝手に捻り上がるアクマエルの右腕。
 サイコの能力はサイコキネシス。だが、サーナイトの「サイコキネシス」とはまた違うもの。
「これじゃあ、つまんないよ。」
 サイコが心の底からつまらなそうにそう言う。余裕の表れだった。
「このガキ・・・!前と同じと思うなよ!」
 筋肉を軋ませながら右腕を徐々に戻していくアクマエル。
「オラァ!」
 一喝と同時に右腕が元に戻る。
「ふーっ、言ったろ前と同じと思うなってよ。」
 サイコはまたつまらなそうにアクマエルを見やる。
 手をかざすと周囲の物が浮きあがる。
 それが一斉にアクマエルに襲い掛かる。
「チマチマとうるせえんだよ!」
 裏拳で飛んできた物を全て払い除けるアクマエル。
 接近しようと足を踏み出した途端にアクマエルの体が宙に浮かび上がる。
「もうこれでお終いでいいでしょ。」
 その時警察官が二人、その場に足を踏み入れた。
「何をしているんだ!」
 サイコはその警官二人目掛けアクマエルを吹っ飛ばした。
 高速で吹っ飛んできた巨体を受け止めきれる訳も無く警察官二人はその場に倒れた。
「悪ぃな、兄ちゃん達。」

350名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:21:55 ID:/qBnNDz6
 一応謝っておき、アクマエルは起き上がる。
「オラ、もう一回来いよ。」
「まだやるの?脳みそまで筋肉なのかな?」
 再度接近してくるアクマエルを浮かせるサイコ。
「今度は何処に投げようかな?」
 そうサイコが思案している間、浮かされたアクマエルは全身に力を込めていた。
「ウオオオォォ!」
 雄叫びを上げた途端にアクマエルの拘束が外れた。
「え?何・・・何で・・・?」
「こんなもん気合いで十分だ。」
 サイコに接近するアクマエル。
「そんな・・・こんな事って・・・」
 サイコは地面のブロックを抉り取りそれをアクマエルに放つが何の効果も無く、アクマエルの筋肉の鎧に弾かれていた。
 今度は拘束しようとサイコキネシスを最大出力で放つ。
 宙に浮かぶアクマエルの巨体。
「そうだ・・・!このまま潰して・・・」
「オオオッ!」
 だがそれも三秒もかからない内に解除されてしまう。
「どうして!何でだよっ!」
「なぁに、ちょいと気合いの入れ方のコツを掴んだだけさ。」
 サイコの眼前にアクマエルの巨体が立ちはだかった。
 この時サイコは造られて初めて恐怖というものを感じた。
 そしてそれが最後だった。
 アクマエルの拳がサイコの体を貫通した。
 大量の血を吐き、糸の切れた人形の様に四肢をだらりと下げる。
 そしてアクマエルは腕を振って鮮血と共にサイコの体を地面に投げつけた。
「へっ、どうだ。勝ってやったぜ。」
 その言葉には他意は無い。ただ勝った。それだけの事であった。



 バイツはバイツで一方的な戦いを繰り広げていた。
 数に圧倒される事無く一人一人確実に潰していくバイツ。
 的確に右腕を振るい、体を引き裂き、貫き。殺す。
 死ぬほんの一瞬前に恐怖というものをようやっと感じる少年少女達は仲間がやられても平然とバイツに立ち向かっていく。
 そんな少年少女達に能力発揮の暇を与える事無く戦いは進んだ。
「よう!俺も混ざるぜ!」
 途中からアクマエルが参戦する。
 勝つ見込みが無いと分かった途端プライドは逃げようとした。
 その途端にこと切れて吹っ飛ばされた少年の体がプライドの背中を直撃する。
「かっ・・・!」
 その場で転ぶプライド。起きようと思い前を見上げるとそこにはバイツの姿があった。
「なっ・・・何が目的です!」
「指揮官が敵前逃亡とは余り関心しないな。ま、利口な奴だったらそうするか。」
「頼みます・・・どうかお見逃しを・・・!」

351名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:22:39 ID:/qBnNDz6
「嫌だね。」
 バイツの手刀がプライドの胸を貫く。
 手刀を引き抜くと大量の鮮血を散らし、血を吐き出してその場に倒れるプライド。バイツの足元には血溜まりが広がっていった。
 こうして二人対複数の戦いは二人の勝利に終わった。
「満足したぜ!なあ!」
「いいや、心の底からはしていない。だろ?」
「ああ、こんなもん準備運動にしかならなかったな。」
 バイツとアクマエル。互いの視線が交差する。
「止めた・・・」
 そう言ったのはアクマエルだった。血の海に沈んでいる子供達の亡骸に目を移しての言葉。
「こういう場合は引き際が肝心だからな。あばよ。」
「ああ、じゃあな。」
 アクマエルは歩きながら何処かへ消えていった。
 バイツもまたこの場を去ろうと全員に呼びかけようとした。
 突然変身を解いたルルがバイツの頬を叩いた。
「・・・!」
「バイツさん・・・どうして?どうしてこんな終わらせ方しかできないの?周りを見て・・・」
 周りには年端のいかない子供達の死体。
「これがあなたの望む答えなの?ねえバイツさん・・・」
 ルルは目に涙をためてバイツに問い質す。
「・・・」
 バイツは何も言わなかった。いや、言いたくなかったのかもしれない。
 テスラに視線を移す。
 血の海の前でテスラは泣きそうな声で呟いていた。
「ごめんね・・・みんな・・・ごめんね・・・」
 アクリルが溜め息を吐いた。
「ルル、アンタさぁ何か勘違いしてない?」
「私のどこが勘違いだっていうの?」
「バイツに命救われといてそれは無いんじゃないって事。」
「え・・・?」
「まあお嬢様は鈍感ですこと。いい?アンタ相手が人間だって分かった瞬間戦意喪失したでしょ。」
「当たり前じゃない!この力は・・・」
「はいはいワルイーノを倒す力なのね。じゃあアンタが戦ってなきゃ誰が戦っていたと思ってるの?今回はバイツが割り込んでくれたからいいもののもしかしたらアタシか力の制御しきれていないテスラ、最悪ポケモン達だったのよ、分かる?」
 何かを言いたそうにしているルル。だが言葉にならない。アクリルの言っている事は全て在り得る話だった。
「それで今度はバイツに御高説?アンタどこまで脳みそお花畑なの?笑っちゃうわ。」
「もういい、アクリル・・・もういいんだ。」
 バイツがアクリルを止める。
「あらそう?結構核心突いてたと思ったんだけど。」
 そうこう言い合っているバイツ達、だが死体の海の中微かに息のある者が居た。
 それはパイロだった。
 最後の悪足掻きなのか上手く動かない体を動かし掌をルルに向けるパイロ。
「しまっ・・・!」
 バイツがルルを右腕で庇う。

352名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:23:15 ID:/qBnNDz6
 燃え上がる包帯と衣服の肩口。
「あーあ・・・ざんね・・・ん・・・」
 パイロはそこまでいうと力無く血の海に沈んだ。
 それと同時にバイツの服の肩口付近で燃え上がっていた炎が消えた。
「マスター!大丈夫で・・・」
 サーナイトはそこまで言って口元を両手で覆った。
 黒。バイツの右胸付近から右脇腹の付近にかけて黒が侵食していた。
「あちゃー」
 隠し通していたものを見られてしまい小声でそう言うアクリル。
「冗談ですよね・・・?マスター・・・マスター!」
「バイツさん?何で・・・?どうして・・・?嫌あぁぁぁ!」
 サーナイトとルルの悲痛な声が死体の海の上に響き渡った。



 その後、奇跡的に警官に見つからずにモーテルへ戻ってくる事ができた一行。
 バイツは包帯を巻き直す為一人寝室に。その他全員はリビングルームに集まっていた。
「大丈夫、私なら救える・・・大丈夫・・・」
 ルルはソファーに座り項垂れていた。
「何が大丈夫。よ、全然大丈夫じゃないわよ。」
 真っ先にアクリルが口を開く。
「バイツさんの体がワルイーノ化しているのよね。」
「そうよ。」
「だったら私が何とかして治せるはず・・・」
「それは無理。」
「どうして・・・」
 何も分かっていないのかと言わんばかりにアクリルは大きな溜め息を吐いた。
「あれは元々血なのワルイーノのね。それがバイツを徐々にワルイーノへと変化させているの。」
「じゃあ・・・じゃあ私が浄化すれば・・・」
「話は最後まで聞きなさい。何度戦ってきたは知らないけれど今までアンタが戦ってきた一部の相手は簡単に言えばワルイーノが人間を覆っている状態なの。だからアンタの・・・ホーリースティングショットだっけ?それで人間は無傷で浄化できたわけ。」
「それじゃあ、バイツさんの場合は?」
「バイツ自身がワルイーノになりかけているのよ。あの状態だと時間での進行は無いはず。」
「じゃあ・・・じゃあ、私がバイツさんを浄化すれば・・・」
「進行の度合いによるけど、下手をすればバイツの命は無いわ。」
 簡単にそう言い放つ。
「どうして・・・?どうしてこんな・・・」
「アンタの為・・・いやアンタ達の為ね。」
「それは一体どういう事でしょうか?」
 サーナイトが口を開く。
「アンタ達が夜に呑気に寝ていられるのはバイツのおかげなの。街々に潜伏しているワルイーノとか追ってきたワルイーノを夜中に全部片付けているのよ。その際の返り血がバイツをあんな体にしている。」
「どうして私は気づかなかったの・・・ワルイーノの気配に・・・」
「それはアタシとあの状態のバイツの所為じゃない?常に一緒に居たからアンタの気配察知も狂ってしまったのでしょうね。」

353名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:23:45 ID:/qBnNDz6
 ここで一度溜め息を吐くアクリル。
「もう呑気に旅なんてできっこないわよ。直接ワルイーノの本拠を叩かなきゃ。」
「ちょっと待って!どうして本拠の場所を教えてくれなかったの?」
「アンタが弱いからよ。」
「なっ・・・!」
「一か八かの賭けね、本拠に突撃掛けるわよ。」
 その時寝室のドアが開いた。
 そこには服を着替え右腕の包帯を巻き直したバイツが立っていた。
「結論は出たか。」
「ワルイーノの本拠に特攻。もうそれしかないわ。」
「談判破裂して暴力の出る幕だ。やってしまおうか。」
 バイツはサーナイト達とルルの心配をよそに暴力的な笑みを浮かべた。



 その頃アクマルスのオフィスではアクマルスが片膝をついて頭を下げ誰かと話していた。
『私の躯は無事なのか。』
 そこには姿形の無い何かがアクマルスに何かを問い質していた。
「はっ!最新の報告によれば人間共の作り上げた超能力集団を撃破したとの事!」
『そうか・・・』
 姿無きものの一言一言に重圧を感じるアクマルス。
『死なせてもよいが余計な傷は付けるでないぞ・・・』
「はっ!仰せのままに!」
 そして重圧を残したままその存在が部屋から居なくなった事を悟ったアクマルス。
 急に汗がどっと噴き出す。
「姿形無くともこの重圧。恐ろしいお方よ・・・」
 暫くアクマルスは重圧からか膝をついた格好のまま動かなくなった。

354名無しのトレーナー:2013/07/27(土) 00:24:26 ID:/qBnNDz6
はい二十三章はお終い。
ザクザク進めて行った感が拭えないけどま、多少はね。

355逆元 始:2013/07/28(日) 06:46:51 ID:gN8MKgYo
殺せんせー「にゅやっ!?
冒頭のアクマルスさんの部屋にアクマエルさんが二人!?
まさか彼も先生と同じ残像影分身が出来るのですか!?」ドキドキ
「これは負けてはいられませんねぇ…
手始めにマッハ20の速度を生かした残像影分身30体!
さあどうです?この数の分身を超えられますか?」ヌルフフフ
なんか殺せんせーが焦りだしたと思ったら
緑と黄色のシマシマ模様の顔色(ナメきった表情)でかっこつけ始めました
しかし安心して下さい
殺せんせーの弱点"かっこつけるとボロがでる"が発動するはずです
殺せんせー「にゅや−っ!?し、しまったーっ!!」
バナナの皮をふんずけて転びました
分身もすべてきえましたね
遅ればせながらバイクのヒト…じゃなかったバイツのヒト乙!
前回疑問に思ったワルイーノ化のプロセスについて解説がありましたね
わかりやすくて良かったです
今回の敵は超能力を使う人造人間キッズと引率の先生(笑)でしたが
名前と描写から推察するに各個体で能力を特化もしくは限定で与えられているんですね
サイコ→サイコキネシス(PK・念動力)
テレ→テレパシー(念話・遠隔疎通)
パイロ→パイロキネシス(遠隔発火・発熱能力)
ですね
描写はありませんでしたがバイツに蹴散らされたキッズの中には
メトリ→サイコメトリ−(接触透視・感応)とか
ポート→テレポート(瞬間移動・空間転移)とか
クレア→クレアボヤンス(遠隔透視・千里眼)とか
プノ→ヒュプノ(催眠・幻覚)とか
トラン→トランスミュート(変身・変型能力)とか居たんですよねわかります(深読み)
斉木楠雄[ちなみに僕なら上記の能力はすべて持っているし
制御装置を外せば本当に世界を滅ぼせる
まぁこんな能力あっても邪魔なだけだけど。]
もうすぐ殺せんせーと再戦する予定のジャンプ主人公がテレパシーで何かツイートしております
しかしアクマルスの上にさらに上の存在が思念体(魂?)だけで登場しましたね
彼の言う「私の躯」がアクマエル(分離して個別に鍛えてた?)を指すのか
バイツ(乗っ取りを目論んでる?)を指すのかは今後に期待します
無理はしないよう頑張って下さい
ではまたお会いしましょうノシ

356名無しのトレーナー:2013/07/28(日) 19:35:10 ID:/qBnNDz6
>>逆元氏
あ・・・本当だ二人にアクマエルが二人になってる。
前者の書類に目を通していたなんだかんだの方はアクマルスに脳内変換オナシャス。
自分で言うのも何ですけど本当この二人は名前が似ていますね。
紛らわしいからもうぬっころす!!!

357名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:15:54 ID:/qBnNDz6
小説が出来ました。
最終章投稿します。

358名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:16:30 ID:/qBnNDz6
 満月の夜。月の光も届かない鬱蒼とした森の中。二つの影が枝から枝に跳び移り何かを話し合っていた。
「何故だ!何故俺達の存在に気付いている!」
「しかも追ってきていやがる!速ェ!」
 二つの影の後ろにもう一つの影があった。
 それは速く正確に二つの影を追い詰めていた。
「どうする!?二手に分かれるか?」
「ああ、そっちの方がうごっ!」
 一体の影が追ってきた影に追い付かれ地面へと叩き落とされた。
「ああっ!畜生ッ!」
 落ちて行った影を追ってもう一つの影も追ってきた影も地面に降りた。
 仲間と思われる二つの影は何とか合流する事が出来た。
 月の光の届かない森の中。相手がどこに居るのかも検討がつかなかった。
 その時片方の影の胸を何かが貫いた。
「は・・・あ・・・がっ・・・」
 うっすらと見えたのは包帯を巻いた腕。
 それが引き抜かれると同時に影は黒い液体を噴き出しながらなって溶けてしまった。
「この・・・!」
 影は手足を振り回し追跡者に攻撃を当てようとするが全てかわされてしまう。
 そして片方の影と同じ様に胸を貫かれて黒い液体を噴き出しその場に溶けてしまった。
 追跡者は辺りを見回すと何も無かったかの様にその場を去っていった。



 とあるモーテルの一室の外に一つの人影があった。
 赤紫色のお団子ツインテールをした髪の少女は一人の少年を待っていた。
 やがてその少年が姿を現す。
 月明かりが照らす黒く長い髪、右腕の包帯の上にオープンフィンガーグローブ。
 少女は少年に声を掛ける。
「お帰りなさいバイツ。意外と早く片付いたのね。」
 バイツと呼ばれた少年は少女に向かってこう言った。
「ただいま、アクリル。ルルはどうしている?」
 アクリルと呼ばれた少女は肩を竦める。
「さあ?」
 バイツとアクリルが部屋の中に入るとすぐ先のリビングルームで茶色い髪の毛をし、眼鏡を掛けた少女がうつらうつらと舟をこいでいた。
「ちょっとルル!バイツ帰って来たわよ!」
 その言葉に慌てて目を覚ますルル。
「お、おかえりなしゃい・・・!」
 半分寝ぼけているのか呂律が回らない。
 しかし、バイツの体を一目眺め何かを感じ取ると完全に目を覚ました様であった。
「バイツさん・・・また・・・」
「やっぱりルルでも分かる様になってきたか。」
 バイツの体を蝕む黒。
 それは本来メイデンナイトであるルルが浄化するはずのワルイーノという種族の返り血を浴びてしまったが為の呪い。
 今夜の追走劇で倒した二匹の影はワルイーノだった。

359名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:17:03 ID:/qBnNDz6
 その返り血を浴びていく事に進行していく呪い。
 ルルはその呪いの進行を食い止めようと先程バイツに同行を求めたがこの様だった。
「俺はもう寝るよ。ルルもちゃんとベッドで寝ろよ。」
 二つある内の片方の寝室に向かうバイツ。
「あ・・・」
 ルルが声を掛けようとするが言葉が詰まって何もでてこなかった。



 バイツは月夜の光が差し込む窓際に腰掛けていた。
「マスター・・・」
 起きていたサーナイトがバイツの近くに寄る。
「何だ、起きてたのか。どうした?」
「いいえ・・・その・・・この様な時間に起きているという事は「また」ですか?」
「ああ、そうだ。連中の仲間を消してきた。」
「・・・」
 サーナイトは言葉が出なかった。
 ワルイーノを倒す度に自らの体もワルイーノに近付いていく。何も出来ない事にサーナイトは歯痒さを感じていた。
「そうだ、サーナイトに渡す物があったんだ。」
 バイツは一つのポシェットをサーナイトに渡した。
「これは?」
「カードと預金通帳。暗証番号は中のメモに書いてある。」
「どうしてこれを・・・?」
「俺がこの先どうなるか分からないからな、サーナイトに預けておこうと思って。」
「そんな!この先どうなるかなど・・・」
「万が一の為にさ。事が終わったら返してもらうよ。」
 受け取ったポシェットを見下ろすサーナイト。
「私には何も出来ないのですか・・・」
 サーナイトがぽつりと言う。
「私はいつもマスターからもらってばかり・・・!なのに私は何もして差し上げられない・・・!」
「おいおい、大袈裟だな。」
 サーナイトは涙を流しながら言う。
「護ってもらってばかりで私は何も出来ない・・・」
「サーナイト、落ち着けお前はお前だ。お前にしかできない事がある。」
「例えば・・・?」
「俺の近くに居てくれている。長い間。」
 バイツは腰掛けていた窓際から下りるとサーナイトを抱きしめる。
「えっ・・・?」
「こうしていると不思議と落ち着くんだ。例えこの先に何が待っていようとも。」
「でも、それだけでは私の存在する意味が・・・」
「存在する事に意味があるんだ・・・サーナイト・・・」
 バイツはサーナイトの紅い瞳をじっと見つめた。
 サーナイトの胸の高鳴りが抑えきれなくなっていく。
「サーナイト・・・」
「マスター・・・」

360名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:17:43 ID:/qBnNDz6
 青白い月明かりの下、二人は互いの唇をそっと触れ合わせた。



 翌朝、一行は行き交う人々の視線を浴びながらとある街のオフィス街にある大きなビルの前に立っていた。
 何処のオフィス街にもありそうな大きなビルだったがルルにしてみれば全ての終着点という訳であった。
「ここよ。ここでアタシ達はこっちの世界に来たって訳。」
 アクリルは懐かしむ様な感じでビルを見上げながらそう言った。
「いよいよ最終局面・・・皆準備は?」
 ルルが全員を見渡して言った。
「大丈夫です。何時でもいけます。」
「あたしはへーき!頑張る!」
「ここで失敗はしない。そうよね?」
「さぁ!悪者達をぶっ飛ばしちゃおう!」
「建モンん中んモン、すっぺり凍らせます。」
「何があっても邪魔立てするものは・・・斬る。」
「私だって頑張る時は頑張るよ・・・!」
「突入!」
「皆さんの士気も上がってきましたね。」
「さあ、中の連中にちょいと痛い目見てもらおうかね。」
「準備は万端。何時でも何処でもって所ね。」
 サーナイト、クチート、ムウマージ、ミミロップ、ユキメノコ、アブソル、タブンネ、エルフーン、ドレディア、ゾロアーク、コジョンドの順に意気込みを口にする。
 そんな彼女達を気が気でない様に見渡すバイツ。
「どうしたの・・・バイツ・・・」
 テスラがバイツを見上げ口を開いた。
「いや・・・何でもない。」
「じゃ、行くよ!」
 ルルの号令と共に全員がビルの中に入る。
 大きな一階フロアにはたった一人の男が待ち受けていた。
「ここの社員は今日全員特別休暇だ。俺とアクマルスの爺さんと・・・。」
「アクマエル!」
 ルルは即座にメイデンナイトに変身しアクマエルに跳んで殴りかかる。
 拳は顔面に入ったが微動だにしないアクマエル。
「うおおっ!」
 闘気を発するアクマエル。ルルはその闘気の衝撃に乗って一回転しバイツ達の近くに戻る。
「お母さんやお父さん!そして町の皆の仇!」
「ハッ!先代のメイデンナイトよりはしぶといみたいだな。戦う事を止めて平凡な暮らしを選んだあの雑魚よりは。」
 ルルがその言葉に憤慨し一歩前に進み出る。が、バイツがルルよりも先に出て右腕をルルの前に出して止める。
「どうやら奴の相手は俺らしいな。」
 バイツが前に出る。
「ちょ・・・ちょっと待ってよバイツさん!そいつは私の・・・」
「目先の雑魚に囚われるな、お前にはお前にしかできない事がある。」
 ルルは何かを言いたそうに唇を震わせたが、やがてバイツの方向を向いて口を開いた。
「負けないでね・・・」

361名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:18:30 ID:/qBnNDz6
「ああ。」
 そう言った途端バイツの姿はその場から消え、アクマエルが吹っ飛んだ。
 壁に叩きつけられるアクマエル。そして、アクマエルの元居た場所にバイツは立っていた。
「さあ来いよ。このまま眠るのは・・・」
「あり得ねえよ、ようやっとテメェがやる気になったんだからな。」
 その隙にルル達はエレベーターに向かいボタンを押す。
「何これ!動かないじゃない!」
 ルルの言葉にアクリルが声を上げる。
「電力が通じていない!」
 ルルの視線が動く。そして口を開く。
「なら階段を上っていくしかないわね。」
 その時サーナイトが口を開いた。
「私達はマスターの加勢を・・・!」
「その必要は無い、サーナイト、皆、ルルについていてくれ。」
「でも・・・」
「俺は大丈夫だ。信じてくれ。」
 サーナイトは少し迷ったようだが頷いた。
「必ず勝ってください。私・・・いいえ私達は信じています。」
 そして、サーナイト達はルル達に合流。
 ルル達が階段を上っていくのを見届けたバイツは静かに構えた。
「行くぞ・・・!」
「来な!」
 バイツとアクマエルの姿が消え、次に姿を現したのは互いに互いの拳を打ち込み合う瞬間だけであった。



 ルル達は非常階段を上り続けた。
「これで半分!」
 アクリルが壁に書いてある階数を見て口を開いた。
「やっと半分!?」
 ルルは息を荒げて言う。
「アンタの目的の物・・・あっちとこっちを繋ぐ「門」は最上階にあるの。」
「それを何とか閉じれば私達の勝ちという訳ね。」
 ルルがそこまで言った途端、壁に光が走った。
 コンクリートの壁が崩れ落ち土煙が上がる。
 土煙の先には一人の老人が居た。
「アクマルス・・・」
 アクリルが口を開いた。
「ここから上へは行かせん、ここでお主らは全滅よ。」
 アクマルスの目がルル達を見回す。
「ルル達は・・・先に行って。」
 アクリルが薄紫色の水晶で作った剣を十数本展開し、そう言った。
「アタシ一人でこの場は抑える。」
「でも!アンタ一人じゃ・・・」
「うるさい!いい!?アンタは一刻も早く最上階に向かう事!アンタ達ポケモンもルルについていきなさい!テスラ!この馬鹿頼んだわよ!」

362名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:19:00 ID:/qBnNDz6
「う・・・うん・・・」
 押し切られて頷くテスラ。
「じゃあほらさっさと行く!」
 階段を上ろうとしたルルはアクリルに向かって言った。
「死なないでよね。」
「アタシを誰だと思ってるの、早く行きなさい。」
 ルルは頷き階段を上り始めた。
 遠ざかってゆく階段を上る足音。
「アンタ、わざとルルを通したわね?」
「まずは裏切り者の制裁からと思っての。」
「アタシはただじゃ死なない・・・せめてアンタを道連れにするわ。」
 水晶でできた剣をアクマルスに飛ばすアクリル。
 アクマルスはそれをひらりと避けると部屋の中央へ。
「広い方が戦い易いじゃろうて。」
 アクリルは展開した剣を全て同時にアクマルスに撃ち込む。
 しかし、光が遅く見えるほどの高速の斬撃がそれを全て斬り落とす。
「やるじゃないの・・・」
「お主では話にならん。右腕の小僧だったら楽しめたがの?」
「どいつもこいつも本気のアタシを見くびって・・・後悔しても遅いんだからね。」
 数百本の水晶の剣を瞬時に展開しアクリルは口端に笑みを浮かべた。
「それに、わざとルルを通した理由を吐いてもらうわ。」



「やっと・・・最上階・・・!」
 ルルは息を荒げながらそう言った。
 非常階段口を出て一際大きな部屋に着く。
「あ・・・」
 テスラが指差した物。それは間を置かれて設置された二本の円錐。その間には空間を捻じ曲げて作られたと思われる黒い門があった。
「さーて、あれを閉じればいいわけね。」
「閉じるって、ルルはやり方を知っているんですか?」
 ドレディアが言う。
「任せなさい!ワルイーノとは呆れる程戦ってきたんだから対処法だってバッチリ!」
「ドレディア、ここはルルを信頼してやろうじゃないのさ。」
 門に向かって歩いていくルルの背中を見ながらゾロアークが言う。
 その時だった。部屋中に声が響き渡る。
『よくぞ来たな私の躯よ。』
 謎の声は異常な程の重圧を纏っていた。
「誰だ!何処にいる!」
 アブソルが重圧に耐えながら叫ぶ。
『私は存在する。空虚な世界に生きる名も無き王なり。』
「何処にいるの!姿を見せなさい!」
 ルルが誰も居ない空間に向かって言う。

363名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:19:31 ID:/qBnNDz6
『姿など無い。形など無い。遥か昔お前の祖先に封じられたものだからな。』
「じゃあもう一度封印してあげる!」
『いや、その必要は無い。』
 途端にその場に崩れ落ちるルル。
「ルル!」
 コジョンドが口を開くとすぐにルルは起き上がった。
 そしてこう言った。
『「私はここに在り。」』



 一階フロアでは激しい戦闘が行われていた。
 バイツとアクマエルの熾烈な攻防。
「ッハア・・・!いいぜいいぜ。あのお方の為の足止めとはいえテメェとここまで戦えるんだからな。メイデンナイトに関わる事も悪くないモンだぜ!」
 アクマエルが壁に叩きつけられ倒れた体を起こしてそう言う。
「あのお方?一体何の事だ。まだ何を隠している。」
 バイツが問い詰める。
 しかし帰って来るのは答えではなく拳。バイツは重い一撃を右腕で防ぐ。
「いいじゃねえか細かい事は、俺とテメェがやり合っている・・・俺にはそれで十分だ!」
 アクマエルが攻撃を続ける。
 それを黙って耐えるバイツではなかった。
 攻撃の手が僅かに緩んだその瞬間、バイツの右腕による一撃がアクマエルの頬を捉えた。
 吹っ飛ぶ巨体。飛び散る黒い血。
「どうした?本気で攻撃してこねえのか?」
 アクマエルは分かっていた。バイツが本気でない事を。
「あのお方とやらの事を話したら真面目に戦ってやるよ。」
 アクマエルは起きながら口を開き始めた。
「あのお方はってのはな・・・俺達の頭でメイデンナイトは・・・」



「ルルがあのお方の復活の鍵!?」
 途中の階で戦っているアクリルが言った。
「左様。ほれ攻撃の腕が止まっておるぞ。」
「クッ!」
 アクリルは水晶でできた大きな拳をアクマルスに叩き込んだ。だが、高速の抜刀で水晶は斬られてしまう。
「刃こぼれ位したらどうなの!?」
「無駄じゃ。力を流し込んで強度を増しているこの刀と抜刀術・・・敵はいない。」
 アクリルがパンと両手を叩くと、アクマルスの左右から手の形をした大きな水晶がアクリルの手の動きに合わせてアクマルスを潰しに掛かる。
 きらりと抜刀の光が見えた途端アクリルはとどめと言わんばかりの巨大な水晶の塊をアクマルスの上に落とす。
「こんなもんでどう?」
 アクリルがにやりと笑う。
「さてと、ルルをどうするか考えなきゃね。」

364名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:20:06 ID:/qBnNDz6
「考える必要など無い。」
「え?」
 その声は背後から聞こえた。
 そこに居たのはアクマルス。
 刀身を杖の中に納める。
 アクリルの身体から黒い鮮血が舞った。
「何よ・・・これ・・・」
 その場にうつ伏せに倒れるアクリル。
「少々浅目に斬った。が、失血死は免れまい。」
 倒れたアクリルの体から広がっていく黒の血溜り。
 アクマルスはアクリルには目もくれずにその場から去ろうとした。
「待ちな・・・さいよ・・・」
 アクリルが這ってアクマルスの足にしがみ付く。
「行かせない・・・絶対に・・・!」
「もう少し深めの方が良かったかの?」
 しがみ付いている右腕を一瞬で切断するアクマルス。
「・・・!」
 切り落とされた右腕は黒い液体となる。
 しかし、アクリルはそれを堪え、左手でアクマルスの服を掴みながら立ち上がる。
「よかろう。ならば今度は真っ二つにしてやる、袈裟斬りが良いか。」
 アクリルは左手に水晶の剣を一本だけ出した。
 これが彼女の力の限界だった。
 刹那、アクマルスは刀身を抜いた。
「ごめん・・・皆・・・バイツ。」
 ずるりとアクリルの体が二つに分かれ、その場に落ちた。
「成程・・・相討ち・・・覚・・・悟か。」
 アクマルスの胸には一本の水晶の剣が刺さっていた。
 その場に倒れるアクマルス。
「ようやるわい・・・」
 そう言うとアクマルスの体は黒い液体となった。
「・・・引き分けか・・・ざまあないわね・・・」
 そしてアクリルの体も黒い液体となった。



 最上階。
 そこでは体を乗っ取られたルルとサーナイト達が対峙していた。
『「さて、門を広げるとしようか。」』
「待ってくださいルル様!一体どうなさったのですか?」
 サーナイトに視線を移すルル。
『「そうか、この躯の名前はルルと言うのか。」』
「一体全体どうしちゃったの!?」
 ミミロップが口を開く。
『「この躯は私の物だ。ここまで付き合ってもらって感謝している。」』
 ルル。もとい名も無き王が話す度に重圧がサーナイト達を襲う。

365名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:20:38 ID:/qBnNDz6
 名も無き王は門に手を翳した。
「させない!」
 コジョンドが「とびひざげり」を繰り出す。名も無き王はそれを片手で防ぐ。
「ルル、貴女何かに乗っ取られたみたいね。正気を取り戻すまで戦ってあげるわ!」
『「私と戦うというのか。」』
「そういう事。世の中思い通りにはいかないものよ。」
「待ちな!」
 ゾロアークが前に出る。
「あたしもやらせてもらうよ。ルルにはちょいと酷だけどね。」
「あたしもー!」
 エルフーンも戦う決意をする。
「私も戦う・・・ルルをこのままにしてはおけない。」
 タブンネも前に出る。
「全くルルときたら迷惑掛けっぱなしなんですから。」
 ドレディアも少々呆れた感じで前に出る。
『「この躯は既に私の物、貴様等の攻撃などで易々とは出ていきはせん。」』
「それはどうでしょうか。」
 サーナイトが口を開く。
「もしルル様の体が戦闘不能になったらあなたはどうなさるのですか?大体は体を置いて逃げると思いますが・・・」
『「貴様。何が言いたい。」』
「あたし達も戦うって事!」
「あまり舐めないでほしいわね、見せてあげるチームワークの力ってものを。」
「よーし!ぶっとばしちゃうぞー!」
「氷漬けになるんがええんか、雪だるまになるんがええんか選んでおくれやすね。」
「少々痛い目を見てもらうぞ。なに、殺しはしないがな。」
 サーナイト、クチート、ムウマージ、ミミロップ、ユキメノコ、アブソルも臨戦体勢になる。
「すこし・・・しびれて・・・」
 テスラも構える。
 戦う気満々の彼女達を見て名も無き王は笑った。
『「いいだろう・・・準備運動も悪くない。」』



 一方、一階フロア。
 アクマエルが血を流して吹き飛んでいた。
 床の上に大の字になって倒れるアクマエル。息は荒く、満身創痍だった。
 バイツはアクマエルの方に歩き出し、アクマエルの胸を踏みつける。その衝撃で床にヒビが入った。
 更に吐血するアクマエル。その様を冷たい視線で見下ろすバイツ。
「これがあんたの限界か?」
 バイツが問う。
「まだだ・・・まだ・・・!」
 声を振り絞ってアクマエルは答える。
 そして更にバイツが力を加えて踏みつける。
 音を立ててヒビの広がる床。血を吐くアクマエル。
「痛めつけて殺そうなんて思っちゃいない。ただな死ぬ前に後悔してほしいだけだ。俺はそれ以上何も望まない。懺悔も謝罪も俺にはいらない。」

366名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:21:31 ID:/qBnNDz6
「へっ・・・言うじゃねえか、体が変化し始めていやがるな・・・」
 バイツは内心驚いたが表に出すほどでもなかった。
「どうしてそれを?」
「分かるんだよ・・・そういう奴は・・・」
 アクマエルはニヤリと笑った。
「分かった、俺の完敗だよ・・・だがなタダじゃ死なねえ。」
 途端にアクマエルは横を向き、自分の頸動脈をえぐってバイツに黒い血を浴びせた。
 黒い大量の血。それはバイツの変化を急激に加速させていった。
「俺の血はそこらの雑魚の血とは違うぜ・・・あばよ・・・」
 そして自らの体も黒い液体となるアクマエル。その液体すらバイツに襲い掛かり体に染み込む。
 バイツはその場に跪いた。
 徐々にではなく急速に体がワルイーノ化していくバイツ。
 その苦しみからかその場から一歩も動けなくなってしまう。
「くそっ・・・まだだ・・・!まだやる事が俺にはあるんだ・・・!」
 ふとサーナイトの涙を思い出す。
 全身に生体装甲を纏うと幾分か楽になったバイツ。だが、装甲の隙間は黒が覆っていた。
 フラフラと立ち上がると階段を目指して歩き始めた。



『「準備運動は終わりか?」』
 サーナイト達と戦った名も無き王。
『「ならば終いとしよう。」』
 傷一つ付いていない名も無き王は倒れているサーナイト達を一瞥する。
「まだ・・・やれる・・・」
 その時、倒れていたテスラが立ち上がる。
『「もう止せ、そこで這いつくばって世界の終わりの瞬間をその目に焼き付けておくがいい。」』
「させない・・・!」
 テスラは右目を覆い隠している眼帯を外した。金色をした瞳が現われるとテスラの周りに電流が迸った。
 しかし以前に眼帯を外した時よりもはるかに弱い電流。付近に居たサーナイト達は多少しびれるだけで済んだ。
「せいぎょして・・・みせる・・・!」
『「止せ小娘、制御が利かぬ力など無力に等しいぞ。」』
「そんなの・・・やってみなきゃわからない・・・!」
 青白い電流が名も無き王を襲う。だが、強大な電撃は軽々と片手で防がれてしまう。
『「まだだ、まだ弱い。」』
 目の眩むほどの大電流。
 それでもまだ名も無き王は余裕であった。
「くっ・・・!」
 テスラが最大出力の電撃を繰り出しても戦況はなんら変わり無かった。
『「もういい止めろ。」』
 名も無き王は歩いてテスラの首を片手で持ちそのまま上に持ち上げた。
 テスラ自身にも強大な電流が流れているのだがそれすら名も無き王には影響が無い。
 そして、壁に向かって軽々しく放り投げる。
 テスラは壁に叩きつけられてそのまま倒れる。

367名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:22:02 ID:/qBnNDz6
 それと同時にテスラに流れていた電流も止まった。
『「打ち止めの様だな。」』



 階段を手すりに掴まって何とか上っていくバイツ。
 途中で壁が崩れている階に到達する。
 そこから黒い液体がバイツに向かって流れてくる。
 その液体に屈んで右腕で触れた途端、声がバイツの中に流れ込んできた。
『・・・この感じ・・・バイツね?』
「アクリルか?」
『そうよ。何とかアクマルスを倒したけどアタシもこの様よ。』
「引き分けか・・・凄いじゃないか。」
 率直な感想を述べるバイツ。
『ねえ、ここまで進行してるって事はアンタはもうワルイーノになってしまっているわ。』
「やっぱりそうか・・・」
『落ち込まないで・・・アタシの血とアタシの血に混ざり込んだアクマルスの血、受け入れて力にしちゃいなさいよ。』
「アクリル・・・」
『アンタの体に馴染むには時間が掛かるけど頑張りなさい。けどアタシは幸せよ好きな人と一つになれるんだから。』
「混ざりものも多いけどな。」
『そこは言いっこなし。じゃ、一緒になってバイツ。』
 黒い液体はバイツの右腕を伝ってバイツに吸収されていく。
 すべてを完全に吸収し終わると、再びバイツは階段を上って行った。



 全員を戦闘不能にした名も無き王。
『「さて、ここまで頑張った礼だ。一匹ずつとどめを刺してやろう。まずは・・・お前からだ。」』
 名も無き王の視線はサーナイトへと向けられる。
 サーナイトに歩み寄り右腕を大きく振り上げる。だが左手が右腕を掴んで止める。
『「ほう、まだここまで出来る意識が残っていたかメイデンナイト。」』
「何故です・・・?何故ルル様の体を乗っ取ったのです?」
 傷ついたサーナイトが上体を起こしながら訊く。
『「乗っ取るのは誰でもいいという訳ではない。」』
 右腕をゆっくりと下ろす名も無き王。
『「門を作る事ならば人間にも出来る。だが、メイデンナイトでなければいけないのだ。門を開くのは。」』
 話しながら門へ向かって歩き始める。
『「何故ならば門を開くことも閉じることもメイデンナイトの力の匙加減一つで可能なのだからな。」』
 話している内に門の前に辿り着く、そして両手を門に翳すと門が大きくなっていく。
 サーナイトは見てしまった。
 門の向こう。そこにはワルイーノの大群が居た。
 もし、あの大群が世界に散らばってしまっては世界の終わりである。
「待てよ・・・」
 その時、声が聞こえた。
 サーナイト達はその方向を向いた。

368名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:22:40 ID:/qBnNDz6
 そこには紅い生体装甲を身に纏ったバイツの姿があった。
「マスター!」
 サーナイトの言葉にドレディアは驚いた様に言った。
「え?あれがバイツさんなんですか?」
 バイツはサーナイト達を見回す。
 全員がボロボロで戦える力など残っていない様であった。
 そして名も無き王に目を向ける。
「ルル・・・いや違うな・・・誰だ?」
『「貴様こそ何者だ。未知の力と我等の混ぜ物よ。」』
 バイツは一歩、前に歩み出る。
「少し痛い目を見てもらおうか。皆をこんなにした罰だ。」
『「ほう、面白い。向かって来るのかこの私に・・・その体で。」』
 バイツが戦闘をできない事を見抜いた名も無き王。
 瞬時にバイツの懐へ潜り込むとバイツの腹部に向かって貫手を放った。
 名も無き王の貫手はバイツの体を貫通した。
 紅い血ではなく黒い血が腕を伝って滴り落ちる。
「マスター!」
 サーナイトが叫ぶ。
 しかし、バイツの意識は別の所にあった。
『バイツさん。』
 貫手を通してルルの声がバイツの中に聞こえてくる。
『何も出来なくてごめんなさい。私いつもバイツさんの足を引っ張ってばかりね。』
 何処か悲しそうなルルの声。
『あのね、バイツさん。私バイツさんとの旅、楽しかったよ。もう思い残す事は無いって位。』
 それでも明るく振る舞うルルの声。
『だからね私ごと殺して。この体を乗っ取っている奴の好きになんてさせないで。』
 覚悟に満ちた言葉だった。
『お願いねバイツさん・・・大好きだよ。』
 ハッと我に返るバイツ。
 バイツは左手で名も無き王の貫手を放った腕を掴み。右手で首を掴んだ。
「ルル・・・お前が居なくなったら誰がこの門を閉じるんだ・・・」
『「躯ごと私を殺すか・・・させんぞ。」』
「殺すんじゃない・・・引きずり出すんだよ。」
 バイツの右腕に力が入る。
 そして何かを引きずり出す。それと同時に貫手を放った手を体から引きずり出す。
『何故だ!何故この様な事が出来る!』
 バイツの何かを掴んでいる右手から声が聞こえた。
「俺がワルイーノになったからさ。ルル、起きろ。」
「う・・・ん・・・あれ・・・ここは、ってあなた誰!?」
「そうか、俺がルルにこの状態を見せるのは初めてか・・・」
「この声・・・バイツさん?」
「そうだ、これからルルに一仕事してもらわなきゃな。」
「私に出来る事?なんでも言って、何度も救われたこの命、借りは返さなきゃね!」
「俺が門の向こう側に行ったら門を閉じろ。」
「え?」

369名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:23:16 ID:/qBnNDz6
 ルルは耳を疑いたくなる様な事を聞いた。
「こいつごと俺は門の向こうへ行く。」
『全員動け!何をしている!動け!』
 門に向かって命令を出し続けている名も無き王。だが待機しているワルイーノ達は動かない。
「俺とお前の力の差が分かったんだろう。おいお前等、大人しくしていろ!」
 ワルイーノに指示を出すバイツ。
「そんな・・・出来ない・・・私にはそんな事・・・だってバイツさんが・・・」
「バイツ・・・だめ・・・いなくならないで・・・」
 テスラも目を覚ました様だった。力を使い果たしたのか眼帯が無くとも電流は流れていなかった。
「そんな・・・マスター・・・冗談・・・ですよね?」
「いいか、こいつは千載一遇のチャンスなんだ・・・こいつを逃したら世界の平和なんて無いぞ。」
 門の向こう側へ向かって歩くバイツ。その後をサーナイトがフラフラと追う。
「駄目だサーナイト。お前はこっちの世界で平和に暮らせ。」
「ですが・・・」
「必ず俺は戻って来る。今度は門を残さない方法でも探して・・・な。」
 そしてバイツが門の向こう側へと足を踏み入れる。
「ルル、頼む。」
「でも・・・でもぉ・・・」
 号泣するルル。
「私・・・バイツさんがそっちに行っちゃったら私・・・」
「泣くなよ、俺と混ざったアクリルに笑われるぞ。」
「混ざった・・・?って事はアクリルは・・・」
「ああそうだ。アクマルスを道連れに・・・」
「そうなの・・・」
「思いを無駄にしたくないだろ?」
 その一言でルルは涙を拭って。
「絶対に・・・絶対に帰ってきてね。」
 ルルが両手を翳して門を閉める。
 その時、サーナイトの声が聞こえた。
「私!ずっとずっと待っていますから!」
 そして、門は完全に閉じられた。



 それから百五十年後。
 人類は科学技術の発展と共に栄華を極めた。だがそれはそう長くは続かなかった。
 ある時期を境に貧富の差が徐々に大きくなり始め、どこの街にも裕福層が住む上層都市と貧民層が暮らす下層スラムが存在する様になった。
 ある日の真夜中。その日は満月だった。
 とある街の下層スラムに建つ廃ビルを照らす満月。その屋上で満月を見上げる影が一つ。そして排気ダクトに背を向けて座っている影が一つ。
 満月を見上げている影の三つ編みにしている長い髪が風に揺れた。
「お主は一体百五十年の間何をしていたのだ?バイツ。」
 排気ダクトに背を向けて座っているバイツに影が問い掛けた。
「分からない・・・なぜこっちに戻ってこれたのかさえも。悪いがシコウ、求める答えは無いと思うぞ。」

370名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:23:59 ID:/qBnNDz6
 シコウは問いを続ける。
「では何だ、右腕から流れ出ているその異形の気は。」
「戦いの証さ。」
 バイツの体は右腕以外おかしな所など無かった。だが、紅色の右腕はというと太古のポケモンであるグラードンを模した紋様がより黒くなっていた。
「右腕が全部吸収してしまったんだな・・・シコウ、俺からも質問がある。」
「何だ。」
「本当に百五十年も経ったのか?何で年を取っていないんだ?」
「アーツェ博士が逝く間際に言い残したのだ。我々古代ポケモンの細胞を移植された者は生体装甲を纏った途端に半永久的な生命活動を強いられる事となる。と。」
「半永久的な生命活動・・・か。」
 バイツは夜空を見上げた。
「百五十年か、結局約束は守れなかったな・・・」
 シコウはバイツに近付き一冊のボロボロになった手帳を渡した。
「何だこれ。」
「預かりものだ。お主に渡す様に言われた中でこの手帳だけ経年劣化による損壊が遅いのだ。」
 バイツが満月の明かりを頼りに手帳を読む。
 つたない文字がびっしりと書かれていた。
 読んでいく内にそれを書いたのが誰かバイツは分かった。
「サーナイトの日記か・・・」
 バイツは日記を読み進めて行く。
 まるでバイツに日々の事を知らせる為に書いたような日記だった。
「拙者は中身を見ておらぬから知らぬが、お主がそう言うのならそうなのだろう。」
「中身ぐらい確認しろ。」
「拙者は他人のプライベートな部分に極力関わりたくないのだ。お主もその類であろう?」
「まあな。」
 バイツは途中まで読んだ手帳を大事そうにポケットにしまった。
 その時屋上のドアが開いた。
「やーバイツ!元気にしてたー?」
 金髪のセミロングの髪をした少年が蒼い右手を振った。
「イル・・・そういえばお前も年取らないんだよな。」
 バイツはイルにそう言った。
「アハハ、まあね、お祖父ちゃんにはこの事で散々謝られたよ。」
「御愁傷様。」
「うん、でもボクはお祖父ちゃんを恨んではいないよ。」
「そうか・・・だが、それがいいのかもな。」
 その時、開いたドアから二つの影が現われた。
「あ、バイツじゃん。百五十年ぶり?」
「おいすー」
「ライキ!ヒート!どうして!?殺られたんじゃなかったのか?」
 そこに居たのはバイツの親友兼悪友のライキとヒートであった。
「いやー参ったよあの時は。」
「殺られる前に逃げたんだよ間一髪でな。」
「いや待て。どうしてお前等も百五十年生きてるんだ?」
 バイツの問い掛けにライキとヒートは頭を傾げた。

371名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:24:33 ID:/qBnNDz6
「さあ?ワルイーノの力のおかげじゃない?」
「お前等だって生きてるじゃねえか、一緒一緒!」
 バイツは頭を傾げた。
「って事はアクマルスは相当年食ってたんだな。いや、元から爺さんだった?」
 あ。とイルが声を上げた。
「そういえばシコウ、連中をこのビルに誘い込む事に成功したよ。」
「そうか。」
「連中?」
 バイツが訊く。
「我等の体の秘密を求めて様々な権力者達が我等を捕らえるのに必死なのだ。そして今、部隊の一つをこのビルに誘き寄せた所だ。」
「半永久的な生命活動の秘密を探る為に・・・か?人間の欲ってのは底無しなんだな。」
 バイツがそこまで言った途端、自動小銃を持った十数名の男達がバイツ達を取り囲んだ。
「重要ターゲット四名を確認。」
 一人の男がバイツの右腕を見る。
「こいつ・・・こいつもターゲットか!?」
「本部に映像を送れ。こいつも捕らえる。」
 男がヘルメットに付けているカメラと銃口をバイツに向ける。
「あーあ、このオジサン達を雇っている人達って脳が無いよね。」
 と、イルが言う。
「全くだよ。無駄だって事を理解しない。」
 と、黒を纏いつつライキが言う。
「全くだぜこんな一山いくらの連中ばっかり寄越してきやがる。」
 同じく黒を纏いながらヒートが言う。
「さあバイツ。我等に安息の日々は無いぞ。」
 シコウが言う。
「分かったよ、そこまで言うならやってやろうじゃないか。」
 バイツはそう言うと男の反射神経を遥かに上回る速さで紅い右腕の一撃を叩き込んだ。
 それを皮切りに四人も各々の戦闘スタイルに則った戦いを始める。
 そして一分もしない内に部隊は全滅。
 五人の姿はその場から既に消え去っていた。
 そして彼等は戦い続ける。
 生きている限り終わりの無い戦いを。

372名無しのトレーナー:2013/10/03(木) 23:26:14 ID:/qBnNDz6
これで最終章終わり。
何処かおかしい所あったら脳内補完ヨロ。
皆さんこんな小説に長い間付き合っていただきありがとうございました。
こんな終わり方があるか!っていう人もいるかもしれませんがこれで終わりです。
いきなり最終章にした理由はもう自分が今のポケモンについてこれなくなったからです。
だってBW2もやっていないし3DSだってもっていないんですよ。ポケットモンスターXYを買う予定も未定なのに・・・
特にメガシンカとかもうわけわかんねぇよもう・・・(UDK風に)

373逆元 始:2013/10/04(金) 15:07:05 ID:gN8MKgYo
ウィ〇ード「フィナーレだ…」♪ルパッチマジックタッチゴー♪
>>378
バイツの人完結乙です
以後なんと呼べば…元バイツの人?(笑)
ワルイーノ首領の言ってた躯がルルだったとは…気がつかなかったぜ
なんというトゥルーエンド…でも嫌いじゃないワッ!嫌いじゃないワッ!
まさかここに来て僕の構想している自作の100年後設定を超える150年後エンドでくるとは予想外でした
150年後じゃ100年生きるとされてるアブソルもムリぽ
ちなみにウチのアルファんとこのアブソルサイカは100年後も生きてる設定で構想してた(記録史上最高齢116歳)
なにげにバイツ争奪戦はアクリルまさかの大勝利?!
にゃんにゃんはできないけど永遠に一緒だよ!やったねタエちゃん!
まぁアクマーンも意識あるまま吸収されたり
もともとグラードンがいたりしてるから肩身は狭そうだが
しかしバイツ・イル・シコウどころかライキ・ヒートまで不老不死…だと…!?
あ!ライキ・ヒートは不老なだけか!てっへーミ☆
そういえば最近週刊少年マガジン新連載始まった
赤松健のUQホルダーのメインキャラがそんな感じの設定だったな
なんかタイムリー
サーナイトの遺した日記帳かなかなか朽ちなかったのは執念のなせる業か
流石エスパータイプ
ゴーストタイプであるムウマージとユキメノコも念を込めたに違いない
あれ?もしかしてこの二体は健在?
まあなにはともあれ永らくお疲れ様でした
しかし寂しくなるなぁ
もう他に連載してる人いないし…
今のポケモンについてけない?BW2もやってない?
大丈夫です僕もBW2は序盤で止まってます
3DS持ってない?
oh'my!(キョウリュウブラック風に)
我らポケモンファン待望の触れあいシステムポケパルレが実装されたというのに…
まあ追いかけないと決めたのならそれはあなたの自由なので無理強いはしないですが
バイツのアブソルとクチートがメガシンカするのをワクテカしながら待っていたんですがねぇ…
クチートなんて「進化したい!」て散々言ってたぐらいなので無念お砲塔
そして僕はグチグチ言いながらカキコミを終えるのであった…

374逆元 始:2013/10/06(日) 01:48:05 ID:gN8MKgYo
>>373
>378じゃない
>>342だった
未来にレスしてどうすんだ…
気付くの遅ッ

375逆元 始:2013/10/06(日) 06:34:04 ID:gN8MKgYo
>>374
>342じゃない
>>372だった…
まさか間違いに間違いを重ねるとは…
自分のダメダメっぷりが
殺せんせー「///」恥ずかしい恥ずかしい…

376雪原のユウ:2013/11/11(月) 00:34:37 ID:zUU5S3WQ
はじめまして
旧板で小説つくっました
「雪原のユウ」と申します
新板ができていると聞きここに来ました
早速、質問があります
「sage」ってどうすればできるんですか?
初心者の私でも小説をつくっていいですか?

377逆元 始:2013/11/11(月) 01:27:15 ID:gN8MKgYo
>>376
ウェルカム!
早速来て下さいいましたね
sage(サゲ)る方法ですか
投稿画面のメールアドレス欄に半角小文字でsageと入力するか
またはsageるチェック欄が有るのでそこにチェックを入れればOKです
僕は両方やってます
モシモシ(携帯からの投稿者)なので
アドバイスになっているかわかりませんが…(携帯とそれ以外では投稿画面が異なる可能性があるため)

作品投稿の権利は誰にだってあります!安心して下さい!
その権利を剥奪する権限を持っているのは管理人サンだけなので
管理人サンの逆鱗に触れない
または他の投稿者の皆さんから怒りを買って削除依頼されないかぎり
投稿する権利は貴方にあります

ここも過疎になり始めたので新人さん大歓迎です!
どうかこの板に活気を与えてやってくださいましーッ!(サブウェイマスター風に)

378雪原のユウ:2013/11/11(月) 18:08:13 ID:zUU5S3WQ
ありがとうございます!
後、「sage」と入力するのは「E-mail」の欄でいいんでしょうか?

379雪原のユウ:2013/11/11(月) 23:23:09 ID:zUU5S3WQ
返答待てなくてすいません・・・
新サーナイト小説を書きはじめようと思います
(ほとんどの人が知らないと思いますが)旧板のストーリーと違います
それでは雪原のユウのサーナイト小説をお楽しみ下さい!

380雪原のユウ:2013/11/12(火) 00:28:13 ID:zUU5S3WQ
第0話 この世界

この話は未来の話
遥か遠くの世界の話・・・

ここはどの地方にも属さない小さな島
ここに一人の若者がすんでいた・・・
それが俺「神崎 勇(かんざき ゆう)」
俺は様々な地方を旅してきた
そこで様々な人、ポケモンと出会い戦ってきた
今は休憩としてここに滞在している

俺には数人(装置を使い擬人化しているポケモンもいるので「人」で呼ぶことにする)のパートナーがいる
これから彼ら紹介しよう

「ただいまー」
「お帰り、マスター!」
帰ってきた俺を笑顔で出迎えてくれたのはサーナイトの「アルナ」
俺は「アル」と呼んでいる
性格はいたって真面目で明るい
俺の初期からのメンバーで12を争う実力者である

「おっ!ユウ!お帰り」
そして近くにもう一人
「秋野 ルキ」人間みたいな名前だが実は擬人化したリザードンだ
「相変わらず二人は仲がいいな」
「当たり前です♪」
「おいおい・・・」

「ユウ!お帰りー!」
その時二階から「南 由加(みなみ ゆか)」が降りてきた
同じく擬人化しており、ラプラスである
性格はとても陽気だ
「今日はどこにいってきたの?」
「ああ、今日は・・・」

などと四人で話しているとインターホンがなった
「どうぞー」
「おじゃましまーす、ユウ!元気そうじゃん!」
「おやおや、皆様も元気で」
近くに住んでる友人がやって来た
一人が「上野 勇斗(うえの ゆうと)」
俺の友人でありライバルだ
もう一人は「天野 雫(あまの しずく)」
ユウトのパートナーであり、擬人化したアブソルだ
性格は親切だ

「久々にみんなではなそうぜ!」
「あっ!賛成です!」
「ああ!いいね!」
「皆様でお話、いいですね」
俺たちはこのあと様々なことを話した

381雪原のユウ:2013/11/12(火) 00:31:22 ID:zUU5S3WQ
第0話(この話の世界の紹介)です!
アドバイスあったらお願いします!

382雪原のユウ:2013/11/12(火) 23:53:08 ID:TmauPe5M
第1章 ゴッドグループ

1話 謎の軍団「ゴッドグループ」

「・・・」
「どうしたんですか?マスター?」
「いや、次どこに行こうか考えていてな・・・」
こんなときはいつもニュースをみて情報を集めている
「気ままにシンオウにでもいくかな・・・」
「シロナさんから伝説の話でも聞きます?」
「シンオウか・・・僕はカントーに行きたいな・・・」
「私はどこでもいいよー」
俺は様々な地方でリーグに挑戦してきた
バッジは全部持っているが殿堂入りしたのはカントーだけ
しかしジムリーダーや四天王、チャンピオンなどには友達が多いい

よって俺はどの地方でもいい
「じゃあじゃんけんで決めましょう!」
「やるからには勝つよ!」
「じゃあ私も!」
「ほら!マスターも!」
「俺はどこでもいいって!」
「そんなこと言わずに♪ほら!」
「分かったよ・・・」
「最初はグー!じゃんけんポン!」

383雪原のユウ:2013/11/13(水) 01:10:43 ID:TmauPe5M
「勝ちました♪」
じゃんけんはアルの勝ち
よってシンオウ地方に行くことになった
「じゃあ各自準備してくれ」
「はーい」
俺は自分の部屋に行き、ケースにしまってある黄色の石をポケットに入れ、コンタクトをつけた
このコンタクトは普通のコンタクトではない
「レーダーコンタクト」という戦闘用の道具だ

・・・10分後・・・
「準備できたよ!」
「よし、全員そろったな!それじゃあルキ、擬人化を解いて「空を飛ぶ」だ!」
「はい!」
ルキの体が光りリザードンの姿になった
俺はルキとユカをモンスターボールにしまい、ルキの上に乗った
「じゃあ、出発!」

384雪原のユウ:2013/11/13(水) 01:28:58 ID:TmauPe5M
・・・シンオウ地方上空・・・
「よし、着陸に入ろう」
「了解!」
町に降りようとしてテンガン山の上を通ろうとしたときに

「うわああぁぁぁ!!!」
攻撃を受けた、テンガン山の方から光線が飛んできた
俺達はテンガン山に落下していった・・・


「うう・・・ここは・・・」
俺は一人で落下していったようだ
モンスターボールは落ちる寸前に投げてアルとユカを出した
ベルトは攻撃で壊れていたのでボールをなげておいて良かった・・・
「おーい!アルー!ルキー!ユカー!」
探していると
「マスター!早く!」
「アルとルキか!」
アルは焦っていた
「うぅ・・・」
「ルキが光線を正面から受けたんです!」
「大丈夫だ!かいふくのくすりはある!」
俺はかいふくのくすりを使ってルキを治療した
「大丈夫か!」
「ああ・・・ありがとう」
「ユカがいないな・・・」
「早く探しましょう!」
俺達はユカの捜索を始めた

385雪原のユウ:2013/11/13(水) 01:48:56 ID:TmauPe5M
・・・一方ユカは・・・
「いたたた・・・ここどこ?・・・そうだ!皆を探さなきゃ!」
そのとき後ろから足音が・・・
ユカが振り返った瞬間!
「うっ!・・・」
攻撃を受けて気を失い、倒れた・・・

・・・その頃ユウ達は・・・
「おーい!ユカー!いるなら返事してくれー!」
「あっ!マスター!あれ!」
アルが倒れているユカを見つけた
「大丈夫だ!目立った外傷はない、気を失っているだけだ」
「・・・うっ・・・ユウ?」
ユカが目を冷ました
「落ちたときに気絶したのか?」
するとユカは
「私、落ちた後ユウ達を探してた、すると後ろから攻撃されて・・・その人は「G」って大きく書いてある服を着てた・・・」
「G・・・ギンガ団か?」
その時・・・
「我々はギンガ団ではない!」
「我々は世界の支配者となる」
「ゴッドグループだ!」

続く

386雪原のユウ:2013/11/13(水) 01:52:07 ID:TmauPe5M
第1話です!
少しタイトルと話がずれた気がします(ゴッドグループは最後しかでなかったし・・・)
やはり小説を作るのは難しいですね

387雪原のユウ:2013/11/17(日) 01:03:27 ID:eR3n2Exs
人が居ないのかな・・・
居るなら返事ください

388名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:08:46 ID:/qBnNDz6
何か小説が書きたかったから書いた。
蛇足的なものだけど後悔はしていない。
エブリパーティ風に言わせてもらうと「最最終話 物語はおわらない!?」みたいな感じで。

>>逆元氏
なあに間違いなんか自分も多々ありますって。
キャラクター名を間違えたり・・・まあ色々。

>>雪原のユウ氏
どうも初めまして名無しです。
自分は小説を投稿するとき以外は基本ROM専です。
だから書き込まなくともちゃんと見ていますよ。

389名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:09:29 ID:/qBnNDz6
「上手く説明できないけど・・・利子計算の時端数に届かない金額を世界中から集めてくるわけさ、銀行側もすぐには気づかない。気付いた時にはもう手遅れ、証拠はこの端末の中。」
 ライキはそう言って端末機器を自作のパソコンから取り外す。
「おいおい、いいのかよKOFXIIIのマキシマみたいな事して。」
「ヒート、伏字位使おうよ・・・まあこれだけのお金があれば暫くは困らないでしょ。二、三ヶ月豪遊しても無くならない金額さ。」
「全く、お前にはホント驚かされるぜ・・・」
 ライキとヒート、今二人がいるのは下層スラムのスクラップ置き場の地下室。身を隠すには丁度良く、また、ライキの「遊び」に必要な部品も地上のスクラップ置き場を少し探せば出てくるという都合のいい場所だった。
 その時、階段を降りてくる二人分の足音が二人の耳に届いた。一つは無警戒な足音、もう少しは微かな音しかしない足音。
「たっだいまー!」
「今戻った。」
 イルとシコウが買い物から戻ってきた所だった。
「お帰り、上層都市の様子はどう?」
「まだ我等がこの街にいる事に気付いておらぬ。暫くはここで落ち着けるやもしれん。」
 シコウが紙袋を置いてそう言う。
「あれ?バイツは?」
 イルが辺りを見回して言った。
「あいつは下層スラムを散歩中。まあ、間違っても上層都市には行かないと思うが・・・」
 と、ヒートは紙袋の中をあさりながら答えた。
「我等が追われる身だという事をまだ分かっていないようだな、バイツは。」
「いいんじゃない?バイツは自分の後片付けも出来るし。」
 穴倉暮らしを気に入っているライキがヒートからパンを受け取り齧りついた。



 一方、そんな噂をされているバイツは吹いてくる風に黒い髪をなびかせながら下層スラムを歩いていた。
 目につくのは建物の残骸や眠っている浮浪者、そして捨てられたポケモン達。
 ポケモン達だけでも救いたい。
 そうバイツは思っているが如何せん追われる身である。目立つような行動をとればバイツ達の「力」を狙う権力を持った者達が手下を下層スラムに寄越してくるだろう。そして被害がポケモン達に及ぶかもしれない。
 そう考えてバイツはあえて手を貸さない様にしている。彼の中では申し訳ない気持ちで一杯だった。
「キツイな・・・この状況。」
 そう言いながらもバイツの足は止まる事が無かった。
 その時一人の浮浪者がバイツに声を掛けた。
「おい兄ちゃん、見かけない顔だな。」
「最近越してきたばかりなんですー・・・とでも言えばいいのかな?」
「なら挨拶に来るのが礼儀ってやつじゃねえのか?例えば・・・金目になるモンとか持ってきてよ。」
 気が付くと浮浪者の集団に囲まれているバイツ。
「本当に運が悪いな今日は。」
「おい金目のモン出すか、ボコられてから金目のモン出すか選べよ。」
 浮浪者の一人が鉄パイプ片手にそう言った。
「だったら・・・」
 バイツはその浮浪者に瞬時に近付き、右腕で殴りつけた。
 吹っ飛びながら飛び散る血と歯。

390名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:10:03 ID:8dL.pFok
 数メートル先に吹っ飛ばされた浮浪者を見ながらバイツは呟いた。
「いけない、目立ったら駄目だったんだ。」
 時すでに遅し、浮浪者達はバイツに一斉に飛び掛かった。
 そして三十秒も経たない内に浮浪者達は倒されてしまった。
「なあ、あんた達。」
 バイツは戦闘意思の無くなった浮浪者達に向かって声を掛けた。
「ひいっ!・・・な、何ですか!」
「この事を秘密にしておいてくれないか。」
「はっ・・・はいぃ!」
「もしどこかにこの事を漏らしたりしたら・・・」
 既に股間から液体を漏らしながら後退りする浮浪者。
「いいえ!誰にも言いません!誰にも言いませんからお命だけは!」
「それでいい。」
 バイツは穴倉に戻る為再び足を進めた。



「ただいまー」
 と、言いながらバイツはスクラップ置き場の地下室への階段を下りて行った。
「お帰りー」
 と、ライキが言った。
 バイツが階段を下り切るとシコウが問い質した。
「何事も無かったであろうな。」
 バイツは口端に意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「浮浪者達と喧嘩してきた。」
「・・・お主、段々ヒートに似てきてはおらぬか?」
「ちょっと待てぃ!何で俺なんだよ!俺はそんなに喧嘩早くねえし!」
「あー・・・シコウの言うとおりかも。」
「何ぃ!?ライキ!テメェどこが似てるっていうんだよ!」
「似てるよーすぐに拳で解決しようとする所が。」
「イルまで!なんてこったい!」
 ヒートは地団駄を踏んだ。それを見て四人は軽く笑った。
「で?これからどうするんだ?」
 バイツがそう言うとシコウが答えた。
「暫くはここに厄介になろう。だが難点が一つだけある。」
「何だ?」
「この街の権力者が我々を狙っている。と言ったら?」
「つまり灯台下暗し状態って訳だ。」
「その通り。故に暴れるなど言語道断。分かるかバイツ。」
「分かった。次からは平和的解決を試みるよ。」
「話しているのがお主で良かった。ヒートだとこうはいかぬからな。」
「だ・か・ら!何で俺なんだよ!」
「ではヒート、お主だったらこの状況をどう見る?」
「簡単だろ。その権力者達とやらに一発かましてお終いよ。」
「それ見ろこの通りの答えだ。」

391名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:10:39 ID:/qBnNDz6
 再び四人は笑い、ヒートは先程よりも強く地団駄を踏んだ。



 翌朝、少し早目に起きてしまったバイツは散歩をしようと階段を上がって外に出た。日の光を浴びながら首を鳴らす。
 その時、バイツの目の前にあったスクラップの山。その山の中から檜の棒が飛び出していた。
 断面が長方形で長さは一メートル程。真っ直ぐという訳ではなく微妙に沿っており、人が握りやすい様にしているのか四隅の角は落とされていた。
「まさか・・・」
 バイツは檜の棒をその山の中から取り出すと、右手を棒の端の方に、左手は棒の真ん中に置いた。
 そして、右手に軽く力を込める。
 すると檜の棒の中から刀身が現われた。
 竜の形をした紅い宝石が刀身に埋められている刀だった。
「これは「屍狂・芥殺」か。まだ俺を持ち主だと思っているらしいな。」
 その刀にはいわくつきがあった。それは刀が選んだ持ち主の所に必ず戻って来るというもの。
「にしても・・・」
 バイツは刀身部分を見回した。手入れを全くしていないにも関わらず錆一つなく光を反射している。
「本物の名刀かそれとも妖刀か・・・」
 考えた所で答えなど出るはずの無い事。バイツは苦笑し刀身を鞘に納めた。
 この様な物を持っていたら目立つと思い元の場所に戻す。
「縁があったらまたな。」
 そう「屍狂・芥殺」に言ってバイツは元の目標である散歩に行く事にした。



 散歩をしていると気が付いたことがあった。
 捨てられたポケモン達の事である。
 この様な状況に置かれても生気に溢れている表情。
 それがバイツにとって不思議でならなかった。
 そんな事を考えているとバイツの後ろから誰かがぶつかってきた。
「痛たたた・・・」
 それは一体のキルリアだった。
「おい大丈夫か?」
 尻餅をついたキルリアに手を差し伸べるバイツ。
「ん・・・へーきへーき!」
 キルリアは自分で立ち上がりバイツから離れる様に移動していった。
「じゃーねーお兄ちゃん!」
「あ、ああ・・・」
 キルリアの後ろ姿を眺めるバイツ。
「本当はお兄さんって歳じゃないんだけどな・・・」
 バイツは再び歩き出してふとポケットの中を弄ってみた。
「財布が・・・無い?」
 体中何処を探しても無い。スクラップ置き場の地下に置いてきた訳でもない、道に落とした訳でもない。となれば答えは一つ。
「スられた・・・」

392名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:11:13 ID:/qBnNDz6
 しかし、別段慌てる様子の無いバイツであった。



 目立たない通路。そこにキルリアは辿り着いた。
「さあてと・・・」
 ワクワクしながら財布を開けるキルリア。だが、財布の中には何も入っていなかった。
「あれ・・・?」
「残念、俺は財布を一つしか持っていないなんて言ってないぞ。」
 キルリアは驚いた。そこにいたのは余裕の表情で立っていたバイツ。
「残念賞は何がいい?ポケットティッシュ?」
 キルリアはバイツを見て逃げ出した。それにバイツは余裕で追いつく。
「さてと・・・?」
「わーっ!ごめんなさい!勘弁してー!」
 危害を加えようなどとバイツは考えていなかった。
「おいおい大声上げるなよ、どうにかしようなんて考えちゃいない。」
 人間の感情を読み取る事に優れているキルリアはバイツが全然怒っていない事を読み取る。
「・・・じゃあ許してくれる?」
「まあ・・・な。」
「お兄ちゃんって優しい人なんだね。」
「取り敢えず財布を返してくれ。」
「はーい。」
 キルリアから財布を受け取るバイツ。
「人間にしてはいい人だね。お兄ちゃん。」
「人間・・・ね。」
 バイツはその発言に違和感を覚える。かれこれ生きて十八と百五十年。人間離れした身体能力と右腕の力を用いて戦ってきた。人間とはかけ離れた存在になっている事を当人は痛い程分かっていた。
 少し小難しく考えるバイツをキルリアはじっと見上げていた。
「そうだ!家に来てよ。お兄ちゃんなら大歓迎だよ。」
「家?」
「そうだよ。僕等の家。」
「他所の家族と団らんする趣味なんて無いよ。」
「そんな事言わないでさ、ほら早くー!」
 非力な腕でバイツの左手を引っ張るキルリア。
「分かった・・・行こう。」
 その頑張りにバイツも応えたのかキルリアを先頭にしてスラム街を歩き始めた。



「ここが僕達の家。」
 バイツは布とトタンで積み上げた「家」の前に立っていた。
 それは建物とは到底言えない物。スクラップ置き場の地下室がまだ快適に思えてくる。
「大した所じゃないけどさあ入って。」
 キルリアは布で覆われた部分を捲りバイツに手招きをする。
「お姉ちゃん、ただいま。」

393名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:11:46 ID:/qBnNDz6
「お邪魔します。」
 家の中に入るバイツ、電気が通っていないのか薄暗い。光源は日中の太陽のみだった。
 薄暗い中バイツの眼前に現れたのは一体のサーナイト。
「お帰りなさいキルちゃん、そちらの方は?」
「えーっと・・・」
 バイツは返答に困った。まさかスリが元で出会ったなどとは言いづらい。
「ええっとねーこの辺じゃ見ない顔だから珍しくてつい連れてきちゃった。」
 キルリアが嘘を話す。バイツは一応頷いた。
 サーナイトはキルリアとバイツを見比べて、それからバイツに向かって微笑んだ。
「ようこそ、私達の家に。私はサーナイト、この子はキルリアといいます。」
「そう言えば・・・お兄ちゃんの名前って聞いてないよね。」
「バイツだ。」
 手早くそう返すバイツ。
「どうぞ、狭い所ですけれどもゆっくりして行って下さい。」
 そう言った途端咳き込むサーナイト。
「お姉ちゃん!無理しないで!朝ご飯なら僕が用意するから!」
 と、キルリアがサーナイトをベッドの様な所まで連れていく。
「お兄ちゃんの分も・・・」
「いや、いい。仲間が待っているから俺はお暇させてもらうよ。」
「そう・・・」
 キルリアが残念そうに項垂れた。バイツはそんなキルリアの頭を優しく撫でた。
「何、暫くスラムにいる予定だ。またな。」
「・・・うん!」
「じゃあ、お邪魔しました。」
「お気を付けて。」
 と、ベッドらしき所に腰掛けて頭を下げるサーナイト。
「じゃーねーバイツお兄ちゃん。」
 キルリアは外までバイツを見送った。
 バイツは手を振ってその場を後にした。



 バイツがスクラップ置き場に戻ってくると地上ではヒートが体操をしていた。
「おはようさんバイツ、どこ行ってたんだ?」
「ポケモンに誘われてその家まで案内された。」
「へえ、珍しいモンだなポケモンがそんな事するなんて。」
「どういう意味だ?」
「下層スラムに捨てられたポケモン達は中々人間に近寄らないそうなんだ。ま、お前の出す「ポケモンが懐きやすい雰囲気」つーやつ?それが打ち勝ったんじゃねえの?」
「そんなものか?」
「そんなモンよ。朝飯はいまシコウが上層都市で買い物中。ライキとイルはまだ寝てる。」
「そうか。」
 そう言うとバイツは地下へのドアを開けて下に下りて行った。
 バイツは空いていた椅子に座って溜め息を吐く。
「サーナイト・・・か・・・」

394名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:12:24 ID:/qBnNDz6
 つい思い出してしまう百五十年前の記憶。それは家族との約束。
「畜生・・・なにが「必ず俺は戻って来る」だよ。結局約束を守れなかったじゃないか・・・」
 なんとも言えない虚無感。椅子の背もたれに体重を掛けて上を見る。年代物の裸電球がバイツを照らしていた。



 夜九時を過ぎた下層スラム。
 月明かりが照らすスクラップ置き場にバイツが立っていた。古びた手帳を片手に。
「いいのかい?」
 そうバイツは手帳に問い掛ける。
「そうか。もう決めた事なのか。」
 バイツは寂しげな笑みを浮かべる。
「今まで何もしてやれなくてごめん。そして・・・ありがとう。」
 そこまでバイツが言った途端手帳がボロボロと崩れだした。
 手帳の破片は吹く風によって何処かへと飛んでいった。
「本当に・・・ありがとう。」
 バイツはそれだけ言い残してスクラップ置き場の地下室に戻っていった。



 翌日、バイツはキルリアとサーナイトの家の玄関前にいた。
 入口付近のトタンをノックする。
「はーい、どうぞ。」
 サーナイトの声が返ってきた。バイツは布を捲って中に入る。
「お邪魔します。」
 薄暗い家の中。そこにはサーナイトしかいなかった。
「キルリアは?」
「今はお友達と遊んでいる様なので・・・」
 申し訳なさそうにサーナイトは言った。
「いや、いいんだ。気にしないでくれ。」
「あの・・・私から一つお伺いしてもよろしいですか?」
「ああ、いいよ。」
「立っているのも大変ですからこちらにお座りになってください。」
 と、ベッドの様な所に案内される。バイツはそこに腰を下ろした。隣にサーナイトが座る。
「申し訳ありません窮屈な場所で・・・」
「二人で住んでいるのか?」
「はい、私とキルちゃんの二人だけです。」
 少し俯くサーナイト。
「私の体が弱くなければこの様な所に住まなくてもよかったのですが・・・」
「どういう事だ?」
「私達にはトレーナーがいました。ですが私の体が弱いと知るとトレーナーは・・・」
「お前達を捨てた・・・そうだな?」
 サーナイトは寂しげに頷いた。
「済まない。俺達人間の身勝手な行動で・・・」
「いえ、いいのです。皆様は私達に良くしてくれます。ですからここの暮らしも捨てたものでもありません。」

395名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:12:58 ID:/qBnNDz6
 気丈に振る舞うサーナイト。それを見てバイツは心が締め付けられるようであった。
「そういえば何か聞きたいって言っていたな。何でも答えるよ。」
「はい。キルちゃんとの出会いについてですけれども、キルちゃんは嘘をついていました。一体どの様に出会ったのでしょうか?」
 答えづらいなと、バイツは思ったがここは正直に話す事にしたバイツ。
「キルリアに財布をスられてね。捕まえたらここに連れてこられた。」
「キルちゃん・・・どうして・・・?この頃よく食料と薬を持って来るのですが、まさか・・・」
「多分サーナイトの為だと思う。」
「私の為ですか?」
「体の弱い君に苦労を掛けさせたくなかったんだろう。それであんな真似を。」
「そんな・・・」
 サーナイトは真っ直ぐバイツを見据えて言った。
「あの子の罪は私の罪。出来る事なら何でもします、ですから償わせてください。あの子の罪を。」
 バイツは首を横に振った。
「もう済んだ事だ、気にしてはいない。」
「ですが・・・」
 バイツは急にサーナイトを抱きしめた。サーナイトは最初きょとんとしていたが徐々に顔に紅みが差していった。
「え・・・その・・・」
 顔を真っ赤にしながらリアクションに困るサーナイト。
「お前達は悪くないんだ・・・だから自分を責めるな・・・!」
「・・・はい。」
 サーナイトから離れるバイツ。
「・・・急にこんな事して済まない。」
「いいえ!とんでもありません!ただ少しびっくりしただけで・・・その・・・抱きしめていただいたのは初めてですから・・・」
「そうか・・・」
 バイツが話を切り出そうとした途端、キルリアが帰ってきた。
「お姉ちゃんただいまー」
「お帰りなさいキルちゃん。」
「あー!バイツお兄ちゃん!」
「よう、元気に遊んできたか?」
 バイツは近付いてきたキルリアの頭を撫でた。
 キルリアは楽しそうにバイツに頭を揉みくちゃにされる。
 その時、入口の布が捲られた。
 入ってきたのは一体のオタチ。
「キルリア居るかー今日の・・・って、ぎゃあああ!ニンゲンだあぁぁ!」
 オタチはすっ飛んで逃げてしまった。
 いきなり悲鳴を上げられてバイツも唖然としていた。
「この辺のポケモンは人間に捨てられたのが多いんだ・・・だから・・・人間にはいい顔をしないんだ。」
 察してくれと言わんばかりの表情を浮かべ口を開いたキルリア。バイツは黙って聞いていた。
「そういえばキルちゃん。バイツ様から聞きましたよ、あなたスリをしていたそうですね。」
「げっ・・・何でばらしたのさ、バイツお兄ちゃん。」
「悪い、隠しきれなかった。」
 サーナイトはキルリアの傍らにしゃがみキルリアに正面を向かせた。
「これからスリは禁止です。いいですね?」
「はぁい・・・でもお姉ちゃんの薬は・・・」

396名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:13:39 ID:/qBnNDz6
「私の事は心配しなくても大丈夫ですよ。」
 バイツは立ち上がると、そのまま入口の方へと向かって行った。
「お帰りになられるのですか?」
「ああ、これ以上何か聞きたい事でも?」
「・・・いいえ。」
 サーナイトが赤面しながら言う。
「じゃあ、また明日な。」
「はい。」
「うん!」
 サーナイトとキルリアが返事をする。バイツは少し安心して姉弟の家を出た。
 その途端、ポケモン達に周囲を囲まれるバイツ。本気で殺気立っているポケモン達。
「おいおい今度は何だよ。」
 ポケモン達の中からカメックスが現われる。
「おい、今この家で何をしていた。」
「別に、軽い世間話さ。」
「俺達もお前に話したい事がある。ついてこい。」
 ポケモンの群れに囲まれながらバイツは大人しくカメックスの後をついていく事にした。



 大人しくカメックスについていくバイツ。
 進んでいくにつれポケモン達の姿が目に付くようになってきた。
 ポケモン達から放たれるその視線からは恐怖や怒りといった感情が感じられた。
 やがて一つのテントの前に来るとカメックスが口を開いた。
「フーディン首長!例のニンゲンを捕らえてまいりました!」
 するとテントの幕が勝手に開き、中からフーディンが現われた。
「ふぅむ、するとお前さんがあの姉弟に入れ込んでいるニンゲンか。」
「まあ、あの状況だと間違いないな。」
 バイツが口を開くとカメックスが怒鳴った。
「勝手に口を開くな!ニンゲン!」
「カメックス、よい。発言権はそのニンゲンにもある。」
 フーディンがバイツに近付く。
「そこらの浮浪者とは違うな、お前は一体何だ?」
「当ててみな。」
「むう・・・その右腕はちと他のニンゲンとは違うな。大方その右腕を狙っているニンゲン共から身を隠している。違うかね?」
「大正解だ。」
 フーディンは簡単だと言わんばかりに鼻先で笑った。
「腐れたニンゲン共の考える事などお見通しよ。」
「じゃあ俺の考えている事も分かるだろう。」
「ああ、お前はいま帰りたがっているな自分の穴倉に。」
「凄いな、完璧だ。」
 バイツは感心した。まさかここまで自分の考えを読まれているとは思いもしていなかった。
「で、俺は返してもらえるのか?」
「うむ、その事なのだが・・・」

397名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:14:15 ID:/qBnNDz6
「待ってください!」
 そこには胸を押さえつけながら息を切らして立っているサーナイトが居た。
 そして、バイツとフーディンの間に立つキルリア。バイツを背に大の字で立っていた。
「首長様・・・そのお方は・・・私達の大事な友人なのです・・・ですから・・・」
 サーナイトの言葉にフーディンが溜め息を吐く。
「やれやれ、この人間の何処に惹かれたのだ?まあ、分からなくはないが・・・」
 フーディンはやれやれといった様子でバイツに背中を向けた。
「宴だ・・・宴をするぞ。新しい友人の為のな。」
 すると先程とは一変しポケモン達は歓声を上げた。
「何だ一体?」
「バイツお兄ちゃんよかったね。お姉ちゃんの作るきのみジュースはとっても美味しいんだよ。」
「バイツ様・・・」
 息を整えながらサーナイトはバイツに近付いた。
「おいおい大丈夫か?」
「大丈夫です・・・これから皆様の分のきのみジュースを作らなければ・・・」
「手伝うよ。」
「ニンゲン。お前はあの甕をこっちに運んで来いそれが終わったら大量のきのみを運んでもらうぞ。」
 フーディンが的確にバイツに指示を出す。
「分かった。サーナイトはしばらく休んでいてくれ。」
 バイツは甕の並んでいる所まで歩き始めた。



「皆様、出来ましたー!」
 サーナイトが甕たっぷりのきのみジュースを作り終えてそう言った。ポケモン達の歓声は更に高まった。
 それを横目にバイツはその場を立ち去ろうとした。
「待て、ニンゲン。」
 フーディンがバイツを呼び止める。
「お前の為の宴だぞ。楽しめ、もっと騒がんか。」
「いや、俺関係無しに皆楽しんでいるじゃないか。それに・・・」
「それに・・・何だ?」
「ここの下層スラムのポケモン達が何故生気に満ち溢れているかそれが分かった気がする。」
 バイツはきのみジュースを振る舞っているサーナイトに視線を移す。
「生気か・・・まあ、サーナイトの作るきのみジュースは美味いからな。」
 フーディンが笑いながら言う。
「皆が満足ならそれでいいよ俺は。」
 バイツは再び歩き始めた。
「サーナイトによろしく伝えといてくれ。」
「分かった、我等の友人よ。」
 バイツは振り返る事無くその場を後にした。



 その頃上層都市のあるビルの一室。男が二人いた。
 その部屋の中央ではホログラムが展開されていた。表示されているのは下層スラムのポケモン達の宴。

398名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:14:47 ID:/qBnNDz6
「拡大します。」
 無機質な声で男はそう言うとポケモン達の中に紛れ込んでいる長髪の少年を拡大してみせた。
「長髪、右手の包帯。間違いなくターゲットです。」
「それで・・・?」
 声の野太い男が言った。その男は背は低いものの肉付きは良かった。
「今夜十時に下層スラムを捜索します。クローンを全要員挙げての大規模なあぶり出しを行いますが。」
 本来クローン人間を造る事は法律上禁止されている。だが、この男はそれをお構いなしに破り優秀な部下のクローンを造っていた。
「そうかそうか・・・しかし盲点だったな、ワシの街に連中がいたとは。まさに灯台下暗しだな。」
「他の連中も躍起になって探しているターゲットです。全員を捕まえて・・・」
「そうだな、連中の肉体の謎を解明するのも他の連中に売り飛ばすのもワシの自由になる訳だな。」
 声の野太い男は突き出た腹を揺らして高笑いした。
 この男こそこの街の権力者だった。
「下層スラムのゴミ掃除もかねて連中を捕まえるか。」



 その夜、ぼろい布団に包まりながら眠っていたバイツ。
 何かを感じ取ったのか突然目を覚ます。
 ライキ、ヒート、イルも目を覚ましたのか上体を起こしている。
「何だ・・・この「におい」は・・・」
 バイツがそう言いながら階段を上がっていくと入口が開いていた。外に出てすぐの所にシコウがいた。
「お主等も気付いたか。」
「追ってきてる奴等の「におい」だー」
 イルがそう言う。
 夜空に向かって煙が上がっていた。それを見たシコウが口を開く。
「火か・・・確か向こうはポケモン達が住む区画だな。」
 そして、遠くで聞こえる銃声。
 その時、バイツはゴミの山に埋もれていた「屍狂・芥殺」を引っこ抜きベルトに差すと煙の上がっている方へと向かって駆け出した。
「待て!奴等の罠かもしれぬ!」
「待っていられるか!ポケモン達が被害に遭っているかもしれないんだ!」
 そう言い残し常人離れした速さで駆けていくバイツ。
 それを見たヒートが口を開く。
「鉄砲玉か何かか?あいつは。」
 四人は向かい合って頷く。そして、バイツを追って走り始めた。
 バイツとすぐに合流する四人。
「何だ、遅い、遅いぞライキ、ヒート。」
「うるせえ!シコウ!手前等とは体のデキが違うんだよ!」
 そう言い合っていた時、進路上に影が見えた。
 それはキルリアとオタチだった。
 その後ろには黒いスーツ姿の男が二人自動小銃を片手に、キルリア達を追っていた。
「バイツ!頭を下げて!」
 ライキがそう言ったのでバイツは頭を下げた。その途端にライキの拳銃から放たれた弾丸がバイツの頭上を通過し、男達の脳天を貫いた。

399名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:15:32 ID:/qBnNDz6
「バイツお兄ちゃん!」
「キルリア!大丈夫か!サーナイトは!?」
「お姉ちゃんとはぐれちゃって・・・多分、向こうにいると思う。」
「分かった。」
「おいキルリア、ニンゲンに任せていいのかよ。」
 オタチが怪訝そうに口を開く。
「この騒動もお前の言うニンゲンが起こしたものだ・・・だから、俺達が食い止める。」
 バイツがそう言った途端ライキが男達の遺体に拳銃を向け銃弾を発射した。弾丸はスーツを貫通することなく地面へ落ちた。
「こいつ等の服、防弾繊維で作られたスーツだ・・・」
 そう言ったライキにバイツが面倒くさそうに口を開いた。
「だから何だ。」
「んー・・・君達四人はもうちょい力を込めないと連中を倒すのは難しいかなーって事。」
「大丈夫だよ。」
 そう言うイルは瞬時に氷でできた槍を生成し、無邪気に笑った。
「加減なんてしない。だって向こうが悪いんだよ?」
 イルの笑いにキルリアとオタチは身震いした。二人はイルの笑いの無邪気さの中にきっちりと殺意を感じたのだった。



「フーディン首長ぉ!」
 突然の火事に逃げ惑うポケモン達、渾沌とした状況の中突如現れた「ニンゲン」と戦っていたカメックスが叫んだ。
「どうした。もしやニンゲンにお前の砲撃が効かないとでも?」
「う・・・そうです・・・効果が薄いといいますか・・・」
「むう・・・連中の着ている服に何か仕掛けがあるのかもしれん。」
「首長様!」
 今度はサーナイトがフーディンの前に現れる。
「どうした。お前には真っ先に避難する様に伝えたはずだが?」
「どの道も封鎖されているのです!これでは皆様が逃げられません!」
「ニンゲンめ・・・そこまで人員を送り込んで来るとはな・・・しかし、何が目的で・・・?」
 フーディンが考え始めた時、男が五人現れた。サーナイト達に自動小銃の銃口を向ける。
 しかし、弾丸が発射される事は無かった。
 背中から斬られ、脳天を銃で撃たれ、首を折られ、氷の槍で胸部を串刺しにされ、苦無で喉を切り裂かれ、と五通りの死に方をした男達。
 死体を踏み越えてサーナイト達の前に現れたのはバイツとその他四人とキルリアとオタチだった。
「その他四人って表現酷くない?」
「イル、一体お主は何を言っておるのだ?」
「バイツ様。」
 いきなりサーナイトがバイツを抱きしめる。
「御無事で・・・何よりです。」
「ちょっと待て。抱きしめる場面じゃないだろここは。」
「ですが、このような時どう喜べばいいのか分からなくて・・・」
 サーナイトは顔を紅くしながらバイツから離れた。
「キルちゃんも無事でよかった・・・」
 安堵の表情を浮かべるサーナイト。

400名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:16:04 ID:/qBnNDz6
「バイツお兄ちゃんに助けてもらったんだ。」
「まあ敵倒したのは僕なんだけどね。」
 ライキが呟く。
「我等が友よ。」
 フーディンがバイツに向かって口を開く。
「一体この騒ぎの元は何だと思う?」
「多分・・・いや、確実に俺達の所為だ。俺達は権力者に狙われる身なもんでね。」
「成程・・・お前達の変わった部分の所為か。」
「そう言う事だ・・・済まない。」
「謝る位ならば我等を助けてくれ。」
「分かった。出来る限りの事はする。」
「避難口を作ってくれないか。どうやら我等は囲まれているらしい。」
「了解、すぐに終わらせる。」
 ヒートが話し合っている二人に近付く。
「それで?話はまとまったか?」
「ああ、一旦全員散開して連中を潰そう。」
「そりゃあいい案だな。連中が多くいるのは何処だ?」
 はしゃいでいるヒートを尻目にシコウが口を開いた。
「決まったのなら行くぞ、こちらの時間は残り少ないようだからな。」
 五人は一旦散開し、それぞれの道を切り開くことにした。



 バイツは火の海になっている通りを走り抜けていく。
 火の他に目につくのはポケモン達と浮浪者の遺体。
 撃ち殺されたのであろう遺体には惨たらしく弾痕が刻まれていた。
 ギリッとバイツは奥歯を噛み締めた。自分達のせいだと思うと申し訳なく思う。
 そう考えている内に黒いスーツ姿の男達が火炎放射器で火を放っている所に遭遇した。ざっと十人位だろうか。その内の一人がバイツを見つける。
「ターゲット発見。場所は・・・」
 その途端バイツが「屍狂・芥殺」の刀身を煌めかせ男の首を斬り落とした。その光景に動揺する男達。
「なあ!大将は何処のどいつだ!吐いてもらうぞ!」
 そう叫んだバイツに男達は揃った動きで自動小銃を向け発射する。だがバイツは「屍狂・芥殺」で弾丸を弾き、逸らし、斬り落とした。
 一斉掃射が終わった途端バイツは男達に再装填の隙を与えずに男達に斬ってかかる。
 鋭い刃とバイツの右腕の力。両方が組み合わさった途端に男達は肉片になっていった。
 最後の一人を残してバイツは刀身を鞘に収めた。
 男達の最後の一人は這いつくばって逃げようとしたがバイツに進路を塞がれてしまう。
「誰が指示したのかは検討がついている、そいつの居場所が知りたい。吐け。」
 もはや戦闘意思の無い男は素直に権力者の居場所を吐いた。
「街の中央のツインタワーだ・・・左の最上階・・・」
「そうか。」
 バイツはそう言うと男の首を高速の居合で刎ねた。
「ツインタワー・・・街の中央・・・」
 そして、バイツは歩き始めた。

401名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:16:40 ID:/qBnNDz6
 銃声と悲鳴は何時の間にやら消え、残ったものは男達の遺体と火のみだけであった。



 ツインタワー前まで辿り着いたバイツ。
 しかし、妙に静かだった。
 ツインタワー内に入るバイツ。ロビーには黒いスーツ姿の男達の遺体が散乱していた。
 その光景を見たバイツは笑みを浮かべた。
 左の塔のエレベーターに乗るバイツ。最上階行きのボタンを押す。
 何事も無く最上階に着く。廊下にも遺体があった。
 バイツは急ぐことなく廊下を歩き、一番奥のドアに手を掛ける。
 ドアをゆっくりと開いたバイツ。そこには予想通りの光景が広がっていた。
 遺体だらけの部屋に立っている四人。そして、椅子に縛られて麻袋を被せられている腹の突き出た男。
「あー!バイツ遅いー!」
 イルの陽気な声がバイツの耳に届いた。
「俺が最下位みたいだな。」
「みたいだなじゃなくて最下位なんだよ。」
 ヒートにまで突っ込まれる始末。
「仕方が無かろう、バイツにはバイツのやり方があるのだ。」
「済まない、シコウ。」
「で?このオッサンどうする?」
 ライキの言葉にバイツは反応した。
「そういえば誰だ?そいつは。」
「この街の権力者だよ。」
「顔が見たい。」
「別にいいけど。」
 ライキが麻袋を取る。そこには鼻血を流しながら猿轡を噛まされている中年男の顔があった。
 バイツが猿轡を外すと権力者は機関銃の様に話し始めた。
「なあ助けてくれよ私は君達をどうにかしようなんて思っちゃいないただ私の特別な部下になってほしいんだそう特殊部隊の様なものだ私の下に来ればその力を有効活用できる頼むこの通りだ信じてくれ・・・」
 バイツは再び猿轡を噛ませた。
「同じ事の繰り返しさ。」
 ライキが呆れた様に言う。
「でさーこいつの始末なんだけど・・・どーする?」
 イルがそう言った。
 四人の視線がバイツに集中する。
「俺か・・・」
 そう溜め息まじりに言ったバイツ。
「じゃあねバイツ後はよろしく。僕等は地下研究所を破壊していくから。」
「ま、時間制限があるがたっぷり楽しんで来いよ。」
「クローン人間を殺ったみたいにサクッてやっちゃうのも面白いかもね。アハハ!」
「スクラップ置き場で落ち合おうバイツ。」
 ライキ、ヒート、イル、シコウの順に言葉を残して部屋から出て行った。
「サクッとねえ・・・」
 一人残されたバイツは「屍狂・芥殺」を抜いた。

402名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:17:20 ID:/qBnNDz6
 それを見た権力者は暴れながら言葉にならない言葉を口にした。
「まあオッサンをいたぶる趣味は無いしな。」
 刹那、バイツは袈裟方向に権力者を骨ごと叩っ斬った。
 返り血を浴びるバイツ。頬にかかった血を拭ってバイツは言った。
「あんた等の好きにはされたくないんだよ。」
 バイツは部屋を後にした。



 サーナイト達の所へ行ってポケモン達の様子を見ようと思ったバイツはスクラップ置き場へは戻らず一旦フーディンのテントまで行く事にした。
 下層スラムを焼いていた火は消し止められてはいた。
 何とか生きながらえたポケモン達はフーディンのテント前に集まっていた。
 皆、バイツを見る余裕など無く傷付いた自分の家族や親友を心配しながら見守る事しかできなかった。
「バイツ様!」
 サーナイトがバイツを見つけて近付いて来る。
「その血は・・・」
 バイツの服についていた大量の血。
「ん?ああ、返り血だよ。怪我はしていない。」
「そうですか・・・よかったです・・・」
 安心したのかホッと息を吐くサーナイト。
「しかし、ここは酷い有様だな。」
「はい・・・首長様も頑張ってはおられるのですが・・・」
 俯くサーナイト。
「私にもっと力があれば・・・この様な・・・」
「自分を責めるな・・・薬はどの位あれば足りる?」
「え?」
「薬さ。こうなったのは俺達の責任だ。だから俺達が何とかしなきゃならない。」
「話は聞かせてもらったぞ我等が友よ。」
 フーディンがバイツに近寄ってきた。
「人間の造った薬なぞ使いたくはないが・・・なんにせよこの有様だ予備も含めて百個はいる。」
「百個だな?」
「その前にお前、着替えて行ったらどうだ?」
 大量の返り血を浴びたバイツの服を見てフーディンが言った。
「ああ、そうするよ。」
 バイツはそう言ってフーディンのテント前を後にした。
 そしてスクラップ置き場の地下室にいったん戻り、四人を説得し服を着替え「屍狂・芥殺」を置いた後、五人で上層都市にあるフレンドリィショップへ行き、薬を購入した。
「どれだけ在庫あるんだよ、あのフレンドリィショップ。」
 フレンドリィショップを後にし、薬を運びながらヒートがぼやいた。
「薬百個分のお金をポンと出す人間の方が驚かない?」
 そうライキが言う。
「ねーシコウ、こんな大規模にポケモン達を助けて目を付けられないのかな。」
 イルが退屈そうに言う。
「何、心配は要らぬ。ここの権力者が死んだ事が発覚するまで少々時間はある。我々はこの面倒事を片付けてこの街を出ていくだけの事。」

403名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:17:54 ID:/qBnNDz6
 そして、シコウがバイツに問い掛けた。
「勿論止めを刺したのだろう?バイツ。」
「袈裟斬りでバッサリと。」
「うむ、お主とあの刀を信頼しよう。」
 一通りの話が済んだ後バイツ達はフーディンの所へ戻り、薬を渡した。
 渡し終えた所でヒートが口を開く。
「これでもういいだろバイツ。戻ろうぜ?」
「いや、先に戻っていてくれ。俺は出来る限りの事をやってから戻る。」
「へいへいお偉いこって、じゃ、先に戻ってるぞー」
 ヒート達を見送ったバイツ。
「さて、治療の手伝いでもしますか。」



 それから夜が明けて。
 早朝、サーナイトはフーディンのテントの前に立っていた。
 これからフーディンに話さなければならない事で頭が一杯だった。
「遠慮するなサーナイト。」
 テントの中から声が聞こえ、幕が勝手に上がった。
「あの・・・」
「分かっている、キルリアと共にあのニンゲン達についていこうというのだろう?」
「・・・はい。」
「行くがいい。お前のきのみジュースを飲めなくなるのは残念だがな。」
「ですが、きのみジュースの作り方は首長様から教わったのです。お手間をお掛けしますが首長様が作ればよろしいかと。」
「誰が作ってもお前の味は出せん。」
「そうですか?」
「そうだ。それにだれが作るかによって宴のモチベーションが違って来る。」
 フーディンは頭を振った。
「余計な事まで話してしまったな。もう行くがよい。ただ・・・お前とキルリアが帰って来る場所はここにもある。それを忘れるな。」
「はい。」
 サーナイトは涙を堪えてそういった。
「朝早くに失礼しました首長様。お元気で・・・」
「お前とキルリアもな。」
 フーディンのテント前を後にするサーナイト。
 その進み方には一切の迷いは無かった。



「あーあ、この街ともおさらばか。」
 スクラップ置き場の地下室。ライキが残念そうに口にした言葉にシコウはこう答えた。
「桁違いの数の連中と戦い続けたいのであれば残っても構わぬぞ?」
「冗談!僕は情報戦の方が得意なんだ。荒事は出来るだけ君達に任せたいんだよね。」
 ライキはそう言った。

404名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:18:45 ID:/qBnNDz6
 バイツは一つ気掛かりな事があった。
 それはキルリアとサーナイトの事であった。
「どうしたんだよバイツ。ボーっとしちまって。」
「あ、ああ少しな・・・」
 バイツは少し考えて地上への階段を上がっていった。
「悪い、寄る所がある。先に出ててくれ。」
 バイツはそう言い残し階段を上がっていった。
「街の入り口で待っておるぞ、バイツ。」
 後ろからシコウが声を掛けた。



 キルリアとサーナイトの家の前に着いたバイツ。
 トタンを叩こうとしたその時、サーナイトとキルリアが布を捲って現れる。
「あ・・・」
 サーナイトを見た途端バイツはそう口にするしかなかった。強い意志を持ったその瞳に何も言葉が出せなかったのである。
「バイツ様、お願いがあります。」
 強く、はっきりと言葉を口にするサーナイト。
「私とキルちゃんをどうか旅の一行に加えていただけないでしょうか。」
 バイツは口を開く。
「大変な旅になるぞ?」
「承知しています。」
 バイツは何処か安心した様にこう口にした。
「分かった。」
 バイツは歩き始めた。新しい旅の仲間の二人と共に。
「お前達は俺が護るよ・・・だから、共に行こう。」



「バーイーツー君?君ねえ何してるのかと思えばポケモンをこの旅に加えるって?何考えてるの馬鹿なの?死ぬの?」
「お前だって知ってるだろ?俺達のトラウマ。」
 キルリアとサーナイトを引き連れて集合場所に現れたバイツ。そんなバイツにライキとヒートが詰め寄った。
「そんなトラウマお前達だけだ。」
「それでもよぉ・・・」
「百五十年越しのトラウマ治療だ。そう考えればいい。」
 バイツはとんでもない荒療治を提案した。
 二人を押しのけてバイツはキルリアとサーナイトに言った。
「それじゃあ行くか。」
「うん!」
「はい。」
 その言葉と共にキルリアとサーナイトは頷いた。
 歩き出したバイツの背中を見ながらライキとヒートは肩を竦めた。
「何、バイツの事だ。あの二人の面倒を見れるだろう。」
 ライキとヒートにそう言ったシコウ。
「そんな簡単な話じゃねえんだけどよぉ・・・」

405名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:19:19 ID:/qBnNDz6
 歩き始めた一行。ライキとヒートも後からついていく。
 するとシコウがバイツの姿を見渡して口を開いた。
「む?あの刀はどうしたのだバイツ、置いてきたのか。」
「ああ「屍狂・芥殺」の事か?大丈夫、あの刀の方が俺を追って来るから。」
「何とも不思議な刀だな。」
「いわくつきがあるんだ。道すがら話すよ。」
 その時、キルリアの声がバイツの耳に届いた。
「早くしないと先に行っちゃうよ!」
 何時の間にやらキルリアが先頭に立っていた。
「キルちゃんあんなにはしゃいで・・・でも、あの様に楽しそうな顔、久しぶりに見ました。」
「そうか・・・そういえばサーナイトは体の調子はどうだ?」
「不思議と思うぐらい大丈夫です。」
「調子が悪くなったら無理しないで言ってくれよ。」
「分かっています。」
 サーナイトはバイツに微笑んで見せた。
 二人を見てバイツは決心していた。
 今度こそ最後まで見届けよう。
 君達と生きたこの戦いの道のりを。

406名無しのトレーナー:2013/11/26(火) 22:22:20 ID:/qBnNDz6
最最終章はこれで終わりです。
なぜ、復活したかというと・・・弟にポケモンXYの購入を強く勧められたからです。
これから待っているのは3DSとソフトの出費と個体値厳選と努力値を振るという苦行・・・恐ろしや・・・
小説の方は・・・うーん・・・間を見つけて番外編的なものをチマチマ書いていこうと・・・
まあ期待はしないでください。
あとメリークリスマスとよいお年をとあけましておめでとうございます。多分年内の小説投稿がこれで最後になるので今の内に言っておこうかと。

407雪原のユウ:2013/11/28(木) 00:39:13 ID:FLwsELAI
このスレのSS小説のレベルがすごい・・・
ストーリーが整っているし、面白い!
周りに比べたら僕の小説は・・・
(テンション↓)
・・・さて!
ネタがどんどんわいてくるので書いて行こうと思います
つまらない小説ですが読んでいただけると嬉しいです
第2話スタート!

408雪原のユウ:2013/11/28(木) 23:55:11 ID:FLwsELAI
第2話「戦闘」

「ゴッドグループ?」
初めて聞くその名に驚いた
「俺達に何の用だ!」
すると、ゴッドグループと名乗る集団のリーダーと思われる男が・・・
「我々の存在を知られかねないのでね・・・消えてもらおうか!いけ!」
一斉に敵の集団が襲いかかってきた!
「来るよ!ユウ!」
「いくぞ!」
戦闘開始!
「れいとうビーム!」
「かえんほうしゃ!」
「サイコキネシス!」
3人が攻撃を開始した
「ぐあああぁぁぁ!!!」
「くそ!まだだ!」
まだ敵は残っている
俺はポケットから黄色い石を取り出した
「俺も・・・サンダーストーン発動!」
その瞬間黄色い石が光り、電撃が放たれた

409雪原のユウ:2013/12/08(日) 20:31:18 ID:FLwsELAI
敵達は電撃を受け麻痺している
「我は無駄な殺生はせぬ・・・なんてね!」
(マスター・・・かっこいい・・・)
アルの顔が赤くなったのに気づいたユカは・・・
(アル・・・頑張って!)
ルキが二人の変化に気づくと・・・
「・・・さっ!進もう!」
「アイサー!」
ユウ達は山から抜けようと思い走り始めた・・・

410雪原のユウ:2013/12/08(日) 22:15:08 ID:FLwsELAI
「貴様ら何者だ!」
「始末する!」
敵が多い、進むのも一苦労だ
「エレキボール!」
ユウは上に向けてエレキボールを放った
「どこに向けて打ってるの!?」
アルは驚いた
「いいから見てろって!」
「え?」
エレキボールは洞窟の屋根にぶつかって爆発した
ガラガラガラ!
という崩れる音と同時に大きな岩が落ちてきて敵の前に壁を作った
「しまった!これじゃあ!」
「くそ!これを狙って!」

・・・一方、ユウ達は
「さすがマスター!」
驚いた顔で見つめるアル
「無茶しすぎなんじゃ・・・」
「まあ・・・そうだな・・・」
(アルとは違う意味の)驚いた顔をしているユカとルキ
「まあ時間稼ぎにはなるだろ!走るぞ!」

411雪原のユウ:2013/12/08(日) 22:29:54 ID:FLwsELAI
ユウ達が走っていると・・・
「くそ!きりがない!」
ゴッドグループと戦っている男がいる
しかし戦っている彼は傷だらけだ
「聞くまでもないが、どうする?もちろん・・・」
ユウが聞くと・・・
「助けるに決まってます!」
アルが大きな強い声で言った
「お前ならそう言うと思ったよ!」
ユウは走っていった
「十万ボルト!」
ユウの手から電撃が放出される
「なんだ!こいつらは!」
「邪魔をするな!」
たくさんの敵が迫ってきた
「こうなりゃすぐに全滅させてやる!」

412雪原のユウ:2013/12/09(月) 22:27:51 ID:FLwsELAI
すると、ユウは剣を取り出した
「一撃で全滅させてやる!サンダーストーンセット!」
ユウはサンダーストーンを剣にある窪みにはめこんだ
すると剣が電気をまとった
その瞬間、ユウの姿が一瞬にして消えた
「消えた!」
「どこだ!」
敵が焦っている
「かみなりぎり!」
すると上から無数の電撃の刃が降り注いだ
「ぐわああぁぁ!!」
「電力は弱めてる、安心しな」
すると、戦っていた男が
「誰か知らないけどありがとう、私の名は時(トキ)だ、よろしく」
「こちらこそよろしく、俺はユウ」
「私はアルナ、アルって呼んでください!」
「僕はルキ、よろしく」
「私ユカ!よろしくね!」

413雪原のユウ:2013/12/11(水) 20:10:26 ID:REZSDnps
二話目です!
話を進めるのが遅くなってすいません・・・
戦闘シーンが入りました
サンダーストーンは人間にもポケモンの技が使えるようになる石です
他のタイプの石もいつか出すつもりです!

414雪原のユウ:2013/12/24(火) 23:21:57 ID:REZSDnps
番外編(2.5話)をやります!
ついでに見てください

415雪原のユウ:2013/12/24(火) 23:52:36 ID:REZSDnps
2.5話 ルキのつぶやき

注意(この話の「」はルキの心の声です)

「はあ・・・」
「なんでゴッドグループとかいうやつらに追われることになったんかな・・・」
「・・・それはさておき!俺が思ったことを話す」
「まずは俺たちの関係な」
「まず俺とユウは仲がいいんだよな」
「で、アルとユウはパートナーで」
「ユカとユウは話しがはずむ仲だ」
「俺とアルは助け合っている仲で」
「俺とユカは少し仲がいい」
「アルとユカはガールズトークで楽しんでる」
「そんな感じだな」
「ここからは俺の想像だが・・・」
「アルはユウに惚れてて、ユカはそれを応援してるんだと思うんだよな・・・」
「で、ユウはそれに気ずいていない」
「それで俺は・・・」
「俺は・・・」シュン
「・・・」
「・・・まあ、この話しはやめよう・・・」
「次はユウの持ち物についてだ」
「ユウは寝るとき以外は必ずレーダーコンタクトをつけてるんだ」
「出かけるときはストーンを必ず二個以上はもっていくようにしてるらしい」
「あっ、敵がやってきた!」
「かえんほうしゃ!」

2.5話 終わり

416雪原のユウ:2013/12/24(火) 23:56:45 ID:REZSDnps
2.5話終了!
つまらない裏話を書いてみました

PS.質問があったらいってください!
  ネタバレ以外なら答えます!

417雪原のユウ:2014/01/06(月) 07:30:05 ID:.y6PeOWY
更新が無い・・・
というわけで進めます
第3話スタート!

418雪原のユウ:2014/01/06(月) 07:47:41 ID:.y6PeOWY
第3話「時と空間」

ユウ達は時の話を聞いていた
「お前はなぜこんなところに?」
「それが・・・奴等に狙われているんだ・・・それに幼馴染みが捕まってしまって・・・」
ユウ達は納得した
「だからあんなにあせって・・・」
するとアルが
「一緒に幼馴染みさんを助けましょう!さっ、立って!」
ユウ達はそれを聞いて
「決まりだ!いくぞ!」
「「「「おお!」」」」
時が言う
「ありがとう、感謝するよ」
「お礼は後にしな!来たぞ!」
たくさんの敵が走ってきた!
「雷刀!雷(イカヅチ)!」
ユウがそういった瞬間ユウが消え、敵の後ろにいた
「こいつ、いつの間に・・・ぐわあ!」
敵が全員一瞬にして切られ倒れた
「強行突破だ!」
「「「「おう!」」」」

419名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:04:12 ID:/qBnNDz6
一か月以上更新が無いので流れをぶった切って小説を投稿したいのですが かまいませんね!!
 -パンナコッタ・フーゴ「こいつにスパゲティを食わしてやりたいんですが かまいませんね!!」より-

420名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:04:49 ID:/qBnNDz6
 サントアンヌ号五世。
 それは海の上の街と呼ばれるほど大きなクルーズ客船の名前だった。
 ポケモンセンターやフレンドリィショップ、十数種類のレストラン、ブティック等様々な設備を兼ね備えていた。
 その船が出港するのはこれで六度目である。
 船は港を離れ、壮大な海へと舵を取った。
 その客船の中に五人の少年と二体のポケモンがいた。
「バイツ達は五〇一号室、僕達は五〇二号室、イル達は五〇三号室。分かった?」
 と、ライキがそう言った。
 バイツ、ライキ、ヒート、イル、シコウ、サーナイト、キルリアの一行は息抜きで船旅を楽しむところであった。
「分かった、俺達はこっちだ。サーナイト、キルリア。」
 バイツはそう言うと五〇一号室のカードキーを受け取り部屋の鍵を使ってドアを開けた。
 所謂スタンダードな客室で二つのベッド、テーブル、椅子、テレビ、電話、タンス、洗面所、トイレ、シャワー等の各設備が備わっていた。
 サーナイトがベランダに出る。
「大きい・・・これが・・・海・・・」
 初めて見る地平線の彼方まで水の景色にサーナイトはただただ圧倒されるばかりであった。
 後を追ってベランダに出たキルリアも椅子の上に立って海を眺める。
「うわー!」
 サーナイトと違って笑顔を浮かべ景色を堪能するキルリア。
「満足そうだな。」
 バイツもそう言いながらベランダに出て海を眺める。
「これ全部塩水なの!?」
 キルリアがバイツに訊く。
「ああ、そうだ。」
「泳ぎたいなー・・・」
「海は無理でも上階にプールがあったはずだ。そこで泳ぐか?」
「うん!」
 キルリアは喜び勇んで部屋を後にしようとする。
「お姉ちゃん!バイツお兄ちゃん!早く行こうよ!」
「だそうだサーナイト、どうする?」
 バイツはサーナイトに視線を移す。
「申し訳ありませんが私はベッドに横になっていてよろしいでしょうか。」
 体の弱いサーナイトにとっていきなりの船旅は堪えるだろう、とバイツは考えた。
「分かった。じゃあキルリアには俺がついてるよ。」
「お手間をかけてしまい申し訳ありませんがよろしくお願いします。」
 サーナイトは頭を下げた。
「おいおい、仲間だろ?それ位・・・」
「仲間・・・ですか・・・」
 サーナイトは意味深げに口にした。
「早く行こー!」
 キルリアが再度部屋のドアの前で叫んだ。
「分かった分かった今行くから・・・じゃあゆっくり休めよ。」
「はい。」
 サーナイトに背を向けキルリアの所に向かうバイツ。その後ろ姿を視線で追うサーナイトの表情には何処か寂しげなものがあった。

421名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:05:22 ID:/qBnNDz6



 船の最上階はプールになっていた。
 様々な人間やポケモン達が泳いでいたり日光浴等をしていたりととても賑わっていた。
 その中でバイツは二人の人間を見つけた。
 サーフパンツ姿でサングラスをしたライキとヒートだった。
 二人はパラソルの下、デッキチェアで横になりながらプールに目を向けていた。
「何をしているんだお前等。泳ぐわけでもないのに。」
 呆れた様にバイツが二人に声を掛ける。反応したのはヒートだった。
「目の保養。旅する連中の人間側が野郎ばっかりでむさ苦しかったからよ。」
「そうそう、それにさ、結構お嬢様系の子がいて・・・あの子のボディーラインがセクシー・・・エロいッ。」
 何かを力説するライキをよそにバイツもプールに目を向けていた。
「お前も同じかー?バイツ。混ぜてやってもいいぞー?」
 ヒートはそう言ってグラスに入っていたサイコソーダをストローで啜った。
「お前等とは違う、キルリアの付き人として来たんだ。」
「ふーん、でも楽しむ事も必要じゃない?久々のバカンスだからさ。」
 ライキの言う事にも一理あった。
「そうだな、だけどお前達とは違う楽しみ方をしたいよ。」
 バイツは空いていた近くのデッキチェアを二人の近くに置き、座った。
 浮き輪を使って水遊びをしているキルリア。バイツの視線に気が付くと大きく手を振った。
 また、バイツもそれに答える様に手を振った。
「やれやれ、保護者さんは大変だね。」
「そうか?結構楽しいぞ?」
「僕等とは違う楽しみ方で何より。」
 ライキは皮肉を込めてそう言った。
 バイツは皮肉を無視してキルリアに視線を移し、安堵の表情を浮かべる。
 楽しそうに遊んでいるキルリアを見ているとしみじみと思う、この時間がずっと続けばいい、と。
 しかし、それも叶わない。一時の儚い時間。
 そんな事を考えているバイツに気が付いてかキルリアがバイツに近寄る。
「どうしたの?そんなに寂しそうな顔をして。」
「え?」
 バイツは気付いていなかった。キルリアに向けている表情が寂しげだという事を。
「どうして暗い気持ちになっているの?今のこの時間を楽しもうよ。」
 そしてバイツは思いだした。キルリアはトレーナーの感情を読み取る事が出来るポケモンだという事を。
「じゃ、もうちょっと遊んでくるね。」
 キルリアが再度プールに向かう姿をバイツはただ目で追う事しかできなかった。
「俺達の存在に気付いていたか?あの坊主。」
「いいや、バイツにしか気づいていなかったね。」
 ヒートとライキがプールから視線を動かさずに言葉を交わす。
 バイツは二人に向き直った。
「俺ってそんなに寂しそうな顔をしているか?」
「バーカ、知るかよ。年がら年中顔突き合わせているヤツの面なんか。」
「・・・そうか。」
「しけた面は止せよ。どうせなら笑ってみやがれ。」

422名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:05:56 ID:/qBnNDz6
 視線を動かす事なくヒートはバイツにそう言った。



 そして一時間後。遊び疲れて眠ってしまったキルリアを背負い五〇一号室へと戻ってきたバイツ。
 二つあるベッドの片方にはサーナイトが眠っていた。
 もう片方のベッドにキルリアを寝かせるバイツ。
 ベランダへと続くドアは開けられており、そこから潮風が吹いて来る。
 バイツはベランダへ出て背伸びをした。
 何処までも続く青い海。バイツはサーナイトとキルリアに出会う前にあの四人と何度この風景を見たのだろうかと思う。
「バイツ様・・・?」
 後ろから聞こえてきたのはサーナイトの声。
「どうしたサーナイト。具合はいいのか?」
「はい、今は大丈夫です。」
「そうか、それは良かった。」
 バイツはサーナイトに微笑みを見せた。
 サーナイトはバイツの傍らに立ち海を眺める。
「海は大きいですね。私の様な存在など押し潰してしまいそうな程・・・」
 その海を眺めている眼は寂しげな色を浮かべていた。
「サーナイト・・・?」
「一つ質問があるのですが宜しいでしょうか?」
 バイツはサーナイトの真っ直ぐな視線を受け頷いた。
「貴方の目には私はどの様に映っているのでしょうか?」
 咄嗟に、仲間だ、と言いそうになったバイツ。
 しかし、サーナイトの視線はそれ以上の何かを求めていた。
 バイツもそれに答える様にゆっくり口を開いた。
「サーナイトは・・・俺の・・・大切な・・・」
 口ごもるバイツ。
「大切な・・・パートナーだから・・・だから・・・!」
「分かっています。バイツ様が一生懸命に想ってくださっている事を。」
 サーナイトは微笑んだ。
「済まない、言葉ではうまく言い表せないんだ。」
 申し訳なさそうにバイツは言う。
「その代りと言ってはなんだけれど・・・」
 バイツはサーナイトの正面に立つと、ゆっくりとサーナイトの唇に自分の唇を重ねた。
 短い口付けだった。サーナイトは驚いて固まった。だが、その中で彼女は一つだけ確信した事があった。
 この人は自分を想っていてくれる。だから、何があってもこの身を捧げようと。
 バイツは顔を少し紅くしながらサーナイトから少し離れる。
「あー・・・急にこんな事してゴメン。見損なったか?」
 サーナイトはバイツより顔を紅に染めながら、首を振った。
「いいえ、むしろその逆です。」
 サーナイトは再度微笑みをバイツに見せる。
「そうか・・・」
 バイツも嬉しそうにそう呟く。
「あの・・・もう一つだけいいでしょうか。」

423名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:06:28 ID:/qBnNDz6
「ん?」
「二人きりの時にはバイツ様を「マスター」とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「・・・「マスター」か・・・懐かしい響きだな。」
 今度はバイツが寂しげな表情になった。
「懐かしいとはどういう意味ですか?」
「・・・百五十年前にも俺をそう呼んで慕ってくれた家族が居たんだ。」
 バイツは百五十年前の事を話す。
 それをサーナイトは黙って聞いているだけであった。
 話が終わると少し間を空けてサーナイトが口を開いた。
「マスター・・・私もマスターの前の家族に負けない様に頑張ります。」
「いや、それは俺の台詞だ。今度こそ護って見せる、お前とキルリアを。」
 その時誰かが部屋のドアをノックした。
 用心しながらバイツがドアを開ける。そこに居たのはイルだった。
「やーバイツ!お昼ご飯食べに行かない?ボクお腹ペコペコでさあ・・・」
「それはいいが、ライキとヒートはどうするんだ。」
「大丈夫!シコウが今呼びに行ってる。」
「そうか、それなら俺達も行くよ。」
「では私はキルちゃんを起こしてきますね。」
 サーナイトはキルリアを起こしに一旦室内に戻った。
 それを見ていたイルはバイツに話しかける。
「ねえねえ見てよ、右手のカモフラ。イケてるでしょ。」
 イルの右腕。
 カイオーガの力を有しているその右腕は蒼いはずだったが今は人間の皮膚になっている。
「人工皮膚って便利だよ。バイツも使ってみたらどう?」
「結構だ。俺の右腕は蒸れるから包帯でいいのさ。」
 バイツは包帯とオープンフィンガーグローブに包まれた右腕をイルに見せる。
「彼女とはどう?上手くいきそう?」
 唐突に話を変えるイル。
「ああ、上手くやれてるさ。」
「ふーん、そーなの?」
 何処かつまらなそうに言うイル。
 バイツは何がつまらないのかを訊ねようとしたところ、サーナイトとキルリアが近くに寄って来た。
 キルリアはまだ眠たいのか欠伸をして目を擦っていた。
「揃ったね、じゃ待ち合わせ場所に行こっか!」
 今から食事という理由でハイテンションのイルを先頭にバイツ、サーナイト、キルリアはイルの言う待ち合わせ場所へ向かった。



「それで今後の事なのだが・・・」
 食後のデザートが出された時にシコウが口を開いた。
「やっと喋る事が出来たな、シコウ。」
「そう、やっとなのだバイツ。ライキとヒートを迎えに行った時もお主等に焦点が当てられて・・・」
 シコウが目頭を押さえながら言う。
「シコウ何言ってるの?」

424名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:07:12 ID:/qBnNDz6
「突っ込んだら負けだぜ、イル。」
 そこでシコウが軽く咳払いをする。
「兎に角、拙者達がこうして休んでいる間にも連中は次の手を考えている。」
「だからって真っ向から戦いを挑む訳にもいかないだろう。」
「うむ、そうだなバイツ。では・・・これからどうする。」
 バイツはサーナイトとキルリアに一瞬視線を向ける。
 この二人を絶対に危険な目には合わせたくない。
 それがバイツにとって行動する為のいの一番の条件だった。
「・・・無駄な戦いは避けたい。陸上だろうが海上だろうが空中だろうが。」
 シコウはその答えに静かに頷いた。
 その後デザートのひとときを終えた一行はそれぞれの部屋に一旦戻った。
 バイツは椅子に座りながらサーナイトとキルリアを見ていた。二人の姉弟は飽きる事無く海を眺めていた。
「あ!大きな飛行機!」
 不意にキルリアがそう言った。
 何処か遠くの空を飛んでいる飛行機を見つけたのだろうとバイツは思い、キルリアの向いている方向へ視線を向けた。
 そこには船体に急接近している大型の輸送VTOL機が数機確認できた。
「なっ・・・!」
 バイツもベランダに出てVTOL機の動向を確認する。
 VTOL機はそのまま後部甲板の着陸ゾーンへと進んでいく。
 バイツは只事ではないと思い、一旦廊下に出た。
 四人も他の客も只事ではない事を悟って廊下に出ていた。
「こんなパレードは聞いていないけど?」
 ライキはそう言った。
「兎に角部屋に籠っていよう。ただのパレードだったら慌て損だよ。」
 ライキの言葉に一同はもう一度自分の部屋に戻った。
「大きな飛行機だったね、バイツお兄ちゃん。」
 部屋に戻るとキルリアが興奮しながら口を開く。
「ああ、そうだな。」
「どうかしたのですかバイツ様、少々顔色が優れていない様ですが・・・」
「ちょっと考え事をしていただけだ・・・気にしないでくれ。」
 面倒な事になる。
 それは考え事というよりは一種の勘であった。
「少し横にさせてもらうよ。」
 そう言ってバイツはベッドの中に潜り込んだ。
 すると、サーナイトとキルリアがそれぞれバイツの隣で横になり始めた。
 三人用ではないベッド。必然的に二人の姉弟はバイツに密着する。
「お・・・おい・・・」
「安心できるのです・・・こうしてバイツ様といると・・・」
「僕も、バイツお兄ちゃんがいるだけで何故か胸の部分が温かくなる気がするんだ。」
「そうか・・・」
 それだけ言うとバイツは目を閉じてそのまま眠りについてしまった。



 それから、三十分後の事。

425名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:07:52 ID:/qBnNDz6
 急に船内放送を通じて声が聞こえてきた。
『紳士淑女の諸君この船は我々が占拠した。この放送が聞こえたのならばショッピングモールの一階に集まってほしい。余計な事等考えない様にしていただきたい。』
 その放送が終わった時にやっとバイツは目を覚ました。両隣ではサーナイトとキルリアが幸せそうに寝息を立てていた。
「何か言っていたか?」
 バイツは二人の邪魔にならない様にベッドから降りる。
 背伸びをしているとドアからノックの音が聞こえてきた。
 バイツはドアの覗き穴からノックした人物を確認する。そこにはライキ、ヒート、イル、シコウの四人が立っていた。
 バイツは怪訝そうな顔をしながらドアを開けた。
「今度は何だ。」
「あーバイツ、今の放送聞いてた?」
 ライキの言葉にバイツは疑問符を浮かべた。
「知らないな、今起きたばかりなんだ。」
「そう・・・」
「で?何の放送だったんだ?」
「この船がシージャックされちゃった。」
 バイツは数秒間黙った後、ドアを閉めた。
「ちょっとバイツー!?」
 ドア越しに聞こえるライキの声。
「お前等が力を合わせればこの船の奪還なんて軽い事だろ、何とかしろ。」
 バイツはドア越しにそう言った。
 欠伸をしながら室内に戻るバイツ。
 サーナイトとキルリアは目を覚ましてバイツの前に立っていた。
「今のお話し、聞いていました。」
「だろうな、だが俺達には関係の無い事だ。」
「もしかして先程顔色が優れなかったのも・・・」
「知らない、俺は何も知らないぞー」
 バイツはまたベッドに向かって行った。
「私・・・行きます。」
「何?」
「私もこの船を取り戻す戦いに加わります。」
「僕も行く!お姉ちゃんと皆で戦う!」
「いやいや待て待て。これがどういう事だか分かって言っているのか?」
 バイツが二人を止める。
「分かっています。ですから戦いに・・・」
 そこまで言った途端に咳き込むサーナイト。キルリアは心配そうに咳き込む姉を見上げた。
「・・・分かった。」
 バイツは踵を返してドアに近付いた。
「お前達に無茶をさせたくない。」
 そしてバイツは二人に振り向く。
「お前達は大切な・・・仲間だから。」
 バイツがドアノブに手を掛けた途端、ドアが吹っ飛んだ。それと同時にバイツも吹っ飛ぶ。
「あちゃー・・・バイツもしかしてヤル気になってた?」
 吹っ飛ばされた入口からヒートが頭を覗かせた。
 バイツを無理矢理連れていこうとしたのか何処からか調達したフレーム爆薬でドアを吹っ飛ばしたヒート。

426名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:08:25 ID:/qBnNDz6
「下手したら死んでいる所だったぞ・・・」
 勿論というのもおかしな話だが吹っ飛ばされたバイツは生きていた。
「で?バイツも来る気になったー?」
 イルの呼び掛けに上体を起こすバイツ。
「ああ・・・分かってるよ。行く所だった。」
 バイツは差し出されたサーナイトの手を取り起き上がった。
 バイツはサーナイトとキルリアを後ろに歩き始めた。



 呑気に船内を歩く七人。行く先は操舵室。
 行く先々のトラブルは避けたい所だがそうはいかなかった。
「お前達こんな所で何をしているんだ。」
 シージャックしたと思われる一味の内の一人と廊下でばったり遭遇してしまった。
「いやーそのートイレは何処かなーって。」
 ライキが目を逸らしながら苦しい言い訳をする。
 眼前の男は自動小銃を七人に向けたまま無線端末に目を向けた。
 それが男の間違いだった。
 男の反射神経を遥かに上回る速さで接近するバイツ。
 そして、右フックを男に決め込んだ。
 男は船の壁に望みもしないキスをして、床に倒れ込んだ。
「まあ、当然の結果だわな。」
 そう言いつつヒートは男の装備品を漁る。
「えーっと、役に立たなかった防弾チョッキ君に認証した人間以外は使えないSMGに予備弾倉。それに予備の拳銃・・・ああこれも認証した人間以外使えない代物だなっと、そして無線端末に・・・ショットシェル?」
 ヒートが見つけたのはショットガンの弾。男の装備にはショットガンの弾を使うような物は含まれていなかった。
「ヒート、その男の左腕を見せてみろ。」
 シコウに言われヒートは男の左腕に触れた。
「ははーん、そう言う事か。」
 ヒートは一人で何か納得した様であった。
「一人で納得してないで僕等にも説明してよ。」
「おっと、悪いなライキ。」
 ヒートは男の左腕の皮膚を素手で剥いだ。
 人工皮膚の下、そこには赤黒い肉ではなくて機械の腕があった。男の左腕は義手だった。
「なーるほど、義手にショットガンを仕込んでいたんだ。何で分かったのさ、シコウ。」
 ライキが納得のいかない表情をシコウに向ける。
「生命体から発される気がそやつの左腕には無かった。とだけ言っておこう。細かい事は後回しだ。」
「シコウの云々はともかく・・・俺達はそんな物騒な連中を相手に一戦交えなきゃいけないって訳か。」
「いつもの事だろバイツ。一々嘆いていたら身が持たねーぜ?」
 ヒートの言葉にバイツは頭を抱えた。
 こういう輩に遭遇して一番危険な目に遭いそうなのはサーナイトとキルリアである。
 バイツは視線をサーナイトとキルリアに移す。
「私は戻りません・・・バイツ様。」
「僕も戻らない!それに・・・」
 キルリアが上を向いた。その視線の先では監視カメラが作動していた。

427名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:09:02 ID:/qBnNDz6
「もしかして・・・もうバレていたりする?」
 イルが呑気に言う。
「ああ、もろバレてんな。」
 そんなヒートは楽しそうな笑みを浮かべた。
「連中がここに来るまでそう時間もかかるまい、誰かに陽動を任せたい。」
 シコウがそう言った途端に二人が手を挙げた。
 言わずもがなライキとヒートであった。
「うむ、お主等二人ならば間違いなく連中の目を逸らせるだろう。では頼む。」
 その言葉を聞き二人は笑みを浮かべて走り出した。
「我々は操舵室へ向かう。異論は。」
 その場に残った全員が首を横に振った。



「ステーキレストランの厨房の捜索を開始する。」
 男が無線端末に話しかける。
『了解。用心しろ。』
 男は自動小銃を構えながら厨房に入る。
 流し台、無数の食器、調理器具、コンロ、オーブン。どれも何も言わず何も発しない。
 杞憂だったか。と、男は思った。
 その時後ろから声が聞こえた。
「バーン、今ので死んでたぜ、オッサン。」
 男は咄嗟に銃口を背後に向けた。
 その途端自動小銃は蹴り飛ばされ、流し台の中に落ちた。
 男は咄嗟にナイフを手に取り声の主に斬りかかる。
 ところが簡単に受け流される攻撃。
 それどころか腕を取られて投げられる始末。その所為でナイフを落としてしまう。
「この野郎・・・!」
 男が義手に仕込んだ銃を向けるも、ヒートの靴底が男の顔面にめり込んだ。
「ぐぶっ・・・」
 男は鼻血を流して気絶してしまう。気絶するその刹那、次の様な言葉が聞こえてきた。
「キッチンで負けた事はないんだ。」
「何勝手な設定作ってるのさヒート。」
 ライキが厨房に入りながらそう言った。
『おい、どうした!何があった!』
 無線端末から聞こえてくる声。
 二人は顔を見合わせた。
 ヒートが無線端末を拾い上げる。
「俺様の名前はケイシー・ライバック!死にたい奴からかかってきやがれハッハー!」
「あーあ、名前出しちゃった。性格は似ていないのに・・・僕もう知らない。」
 ライキがヒートの叫びに耳を塞ぐ。
「で?ライキ、用意した物は?」
「もう設置したよ、モールの一階からここに辿り着くまでの通路に。」
 そう言った途端に二人の耳に爆発音が聞こえた。
「まあ、即席のワイヤートラップにしちゃあ上出来か。」

428名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:09:35 ID:/qBnNDz6
 ふう、とヒートは軽く息を吐いた。
「さあかかってこいよ。何人相手だろうがぶっ潰してやるぜ。」
「ねえ、さっきはノリで手を挙げたけどさ、得物も港に置いてきちゃったし、ぶっちゃけ面倒だから物陰に隠れていてもいい?」
「おう、そこで見ていな。俺様の活躍をよぉ!」
 ヒートは笑いながらそう言った。



 一方、操舵室ではバイツが一人で、籠っていた敵数人を倒していた。
「・・・聞きたい事がある。何が目的でこの船を乗っ取った?」
 船員を解放しているシコウを尻目にバイツは何が目的なのかを明かさない男達に向かって話しかけていた。
 武器を仕込んだ義手、義足を壊され最後まで抵抗する事が出来なくなっても男達は黙秘を続けていた。
「ああ・・・クソッ・・・話したくないっていうのか?」
 バイツの真後ろにはサーナイトとキルリアが少し距離を取って立っていた。
 出来る事ならこの男達の生身の部分を痛めつけて情報を聞き出したいバイツ。だが、それを二人には見られたくない。
 バイツが躊躇っていると突然後ろから氷の槍が飛んできた。
 槍は一人の男の脳天を貫いた。
「ボクさあ、情報でも何でも出し渋る奴って大っ嫌いなんだ。」
 壁に寄りかかりながら笑みを崩すことなくイルが言う。
「さあ、さっさと言ってよ。それとも・・・」
「わ・・・分かった、言う・・・」
 突然のイルの行動に一人の男が頷いた。
「我々は傷痍軍人だ・・・と言ってももう軍人ではないがな・・・」
「成程、その手足は戦場で失ったのか。」
 バイツが納得する。
「で、そのしょーい軍人さん達の集まりがこの船で何やらかそうとしてるのさ。」
「それは今から分かる事だ・・・そこのモニターを見ていろ。」
 バイツ達はモニターに目を向けた。
 様々な場所が映し出されているホログラフィックモニター。
 ステーキレストランの厨房を映している部分ではヒートが皿を割ったり台所用品を落としたりしながら戦っていた。
「ここから船内放送は出来るのであろうか。」
「ああ、出来る。」
 船員の一人がスイッチを押した。そしてシコウに喋るよう促す。
「敵はステーキレストラン厨房に居る。繰り返す、敵はステーキレストラン厨房に居る。」
 シコウはそう言ったが声はシコウの声ではなかった。
「お・・・俺の声?」
 先程傷痍軍人と言った男が呆気に取られる。
「簡単な声真似だ。」
 その時だった。モニターがハッキングされ強制的に映像が切り替わった。
 そこには一人の男の顔が映った。顔の右目部分が機械化している。
『諸君、我々は強盗ではない、ただ一つの望みを主張したいが為にこの様な行動を取った。』
「この放送は近隣国にも配信されている・・・我々の主張を知ってもらう為に。」
 そう言った男に振り向く事無くバイツはモニターを見続けていた。
『我々は傷痍軍人・・・私も戦場に立っていた者だ。』

429名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:10:17 ID:/qBnNDz6
 カメラが乗客達を映したのだろうかモニターには怯えている人々が映っていた。
『我々が地を這い泥を啜り手足を失いながらも戦場で戦ってきた。だが!』
 カメラは再び「主張」を続ける男に戻される。
『平穏な余生を望む我々に対し国はこう言った。新しい手足を着け再び戦場へ立てと!』
 男が右腕を見せる。それは紛れも無い機械の右腕。肘より先の部分が銃になっていた。
『我等はチェスの駒では無い!生きている一人の人間なのだ!・・・我等は問いたい、人とは何か個人とは何か・・・!』
 興奮気味の男。だが、それを自分で悟ったのか落ち着き再度口を開いた。
『要求する物・・・それは我等の自由だ。この要求が通らない限りこの人質達の命は保証しない。』
 そこで映像は途切れた。
「君達に自由は与えられない。 だが、それを勝ち取るための術を教えよう・・・か。」
「誰の言葉だ?バイツ。お主の考えたものではない事は確かだ。」
「シェパード大将の言葉さ。」
 バイツは操舵室を出ていく。
「あの・・・バイツ様、次は何処へ?」
「奴の所さ。サーナイト、キルリア、お前達はここで・・・」
「待ちません、バイツ様。私はついていきます。」
「僕も行くよ。バイツお兄ちゃんとなら何処までも。」
 その様子を見てクスクスと笑うイルとシコウ。
「いいんじゃない?ボク達も行くし。」
「何処までも大変だな、バイツ。」
 イルとシコウの声を背中に受けながらバイツは右手を振った。



「ガドン大佐。」
 その声に右目部分と右腕が機械になっている男、ガドンが反応した。
「どうした。」
「ステーキレストラン厨房の状況を確認しに行ったチームがまだ帰ってきていません。」
「・・・そうか。」
「それと操舵室のチームとも連絡が取れません。何かあったのではないでしょうか?」
「恐らくやられたな・・・」
「と、言いますと・・・?」
「あの爆発音・・・この船の中で我々と戦っている者がいる。そういう事だ。」
「こちらの人員を割き向こうへ送らせましょうか?」
「駄目だ。こっちの人員を割くことは出来ない。客の動向に目を光らせておけ。」
「分かりました。」
 ガドンは去っていく部下の背中から人質にしている船の乗客達に視線を向けた。
 平和な世界で生きてきたと思われる顔つきの人間達。彼等と自分達を比べると言葉通り雲泥の差というものを感じてしまう。
 時たま右腕の銃を向けてしまいたい衝動に駆られる。
 しかし、騒ぎを大きくすれば人質に害を与えてしまう結果になるだろうとガドンは思っていた。
「ガドン大佐。」
 部下の一人が無線端末を片手にガドンに近付く。
「これを聞いてください。」
 ガドンは静かに無線端末を耳に近付けた。

430名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:10:47 ID:/qBnNDz6
『ヒーハー!ノってるかい!武装している旦那方!体をほぐしたきゃあステーキレストランの厨房がおすすめだぜ!人質と睨めっこなんて詰まらないと思っているそこのアンタ!今すぐ厨房にレッツゴー!』
「何だこれは。」
 ガドンが通信端末を部下に返しながら口を開いた。
「ステーキレストランの厨房に行ったチームからの無線です。」
「明らかに我々の仲間ではないな。」
「はい。ですが腕は確かな様です。厨房へ向かったチームが未だ戻ってきていません。」
 ガドンが口を開きかけたその時、部下の一人が吹っ飛んで二人の目の前に落ちてきた。
「!?」
 ガドンは部下の吹っ飛んできた方向に目線を向けた。
 座らせている人質達の向こう側に一人の少年が立っていた。
 長い髪を三つ編みにし、腰まで伸ばしており、目つきは鋭かった。
 人質を見張っていたガドンの部下達も何が起こったのか分からないまま唖然としていた。
「イル、殺すな。戦闘能力を奪うだけにしろ。」
「りょーかいっ!」
 次の瞬間、三つ編みの少年を飛び越えセミロングの髪をした少年がガドンを含めた男達に向けて氷の槍を放った。
 それに反応できたのはガドンだけで部下達は手足に槍を複数受け戦闘能力を奪われてしまった。
 ガドンは飛んできた氷の槍を右腕で砕き弾いた。
 体勢を立て直すと右腕の銃を構える。
 その時、ガドンが目にしたのは急速に自分に接近してくる「何か」だった。
 その「何か」は長い髪をなびかせながらガドンに接近する。
 右目で「それ」をロックオンした時には既に遅かった。
 ガドンが「それ」に向けた右腕は一瞬で砕かれた。
「何だ・・・と!?」
 ガドンの目の前には右腕を振り抜いている少年の姿が映った。
 ガドンは鋭い蹴りを繰り出すが少年はその脚を肘と膝で挟み込んで骨を砕いた。
「がぁ・・・っ!」
 激痛と片脚をやられた事によりその場に崩れ落ちるガドン。
「よー、バイツ。こっちは終わったみてえだな。」
「ああヒート、丁度終わった。」
 厨房からの無線で聞こえた声がガドンの耳に入る。
「ライキも銃抜きでよくやったな。」
「いやあ・・・殆どヒートに任せっきりだったからね。」
 そして、五人の少年がガドンの前に立ち塞がった。
「で?誰よこいつ。」
 ヒートが怪訝そうな視線をガドンに向ける。
「今回の一件の首謀者だ。」
 バイツは放送の事をライキとヒートに話す。
「成程ねぇ・・・ねえバイツ。こいつ等さ、このまま生かしておかない?」
「そうだぜ、港に着いたら警官の嬉し恥ずかしエスコートが待っているんだからよ。それもそんな大放送をした日に捕まるなんざ・・・俺だったら死ぬ程恥ずかしいけどな。」
 イルとシコウは吹き出す。
「とんだ辱めだね、お・じ・さ・ん?」
「うむ、船長と話したところ航海はキャンセルして今すぐ港へ戻るそうだ。良かったな、御仁。」
 ぐっと歯を食いしばるガドン。

431名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:11:17 ID:/qBnNDz6
 それを見てバイツはガドンに向けてこう言った。
「生きていればチャンスはあるさ。」
 それからバイツはVTOL機の事を思い出した。
「ライキ、VTOL機だが・・・飛ばせるか?」
「どうして飛ばすのさ。港に戻ったら僕達英雄だよ。」
「あのなあ、騒ぎを聞きつけて権力者の連中が追っ手を差し向けるだろ?」
「あ、そっか。」
「あのー・・・」
 サーナイトが何処からともなく現れ声を出した。
「怪我をした皆様の止血終わりましたけど・・・そちらの方はどの様な怪我を?」
 キルリアも救急箱を持って現れる。
「おじさん怪我してないじゃん。もうお仕事終わりだよねバイツお兄ちゃん。」
「そうだな、さあこれから空の旅の始まりだ。」
 バイツがそう言った途端にガドンは左手で拳銃を取り出す。
「まだヤル気か・・・あんた。」
 バイツの言葉にガドンは首を振った。
「もうやらんよ・・・これは我等なりの責任の取り方だ。・・・皆、あの世で会おう。」
 その声は通信端末から通信端末へ流れていた。
 ガドンは拳銃の銃口を自分の頭部に向ける。
 その瞬間、バイツはサーナイトとキルリアを抱き寄せて二人にガドンを見えない様にした。
 そして銃声が響き渡った。
 頭から血を流しながら倒れたガドン。
 そして、あちらこちらから聞こえてくる銃声。
「あの・・・バイツ様?」
「いいか二人共、俺がいいと言うまで周りを見るな。」
 バイツは頭を撃ち抜いて次々と死んでいくガドンの部下に視線を向けながらそう言った。



 サーナイトとキルリアの視界が自由になったのは七人全員がVTOL機に乗って発進した後だった。
「さて、燃料次第だけど次は何処へ行く?」
 ライキがVTOL機を操縦しながら訊く。
「おい、待て。今回の件について纏めるべきところがあるだろう?」
 バイツは席に座りながらそう言った。
「そんなの簡単じゃねえか、連中は心までテロリストになったんじゃねえって事だろ?」
 ヒートが至極簡単に纏める。
「いや・・・そうだが・・・」
「皆無事だったからさ、それでいいじゃん。」
 イルがそう言ってこの話を締めにする。
 シコウは何処からか持ってきた地図を片手にライキと何やら話している。
 結論的に言えばバイツはサーナイトとキルリアが無事だっただけで良かった。
 そう思うと何処か安心できたバイツ。
 澄んだ空をVTOL機が斬り裂く様に飛んでいった。

432名無しのトレーナー:2014/02/06(木) 22:12:14 ID:/qBnNDz6
非常にダラダラとしたペースで書き進めていました。
途中SaintsRowIVという石に躓いて転んでいました。
それと今回舞台となったサントアンヌ号五世ですが、
国際的基準に沿って運航される場合の船舶の寿命は、一般に10数年から20年のものがほとんどであるが、軍艦や商船の内でも大型客船などは、元々船の価格が高くまた艤装が高価であることや保守・整備などが丁寧であることなどから寿命は長く、豪華客船では50年以上に及ぶものも多い。
と、ウィキペディアにあります。
百五十年後なのにサントアンヌ号が三世ではなく五世っていうのはおかしいですが、こまけぇこたぁいいんだよ!!(AA略)の精神でよろしく。
あと所々細かい部分もこまけぇこたぁ(ryでよろしくお願いします。

433逆元 始:2014/02/10(月) 03:40:03 ID:gN8MKgYo
Dr.ウルシェード「お久しブリンチョ!」
キョウリュウジャー大団円!それに引き換えこの作品は…
いえいえ冗談に決まってるじゃありませんか
だからそのレーザーサイトとサイレンサーを装着した
ワルサーPPK-Sで右目を狙うのは止めてほしいな

一度は完結したかに見えたバイツたちの物語は
ストーリー不在のまま地味に一話完結短編のノリで続くのですね

サーナイト2号は病弱な上に幼い弟持ちですが
この設定はバイツが守護者のハズなのに
サーナイト1号が戦闘ででしゃばりすぎて全然守らせてくれなかった事の反省と
安易ににゃんにゃんさせないためのものなんですね
干からび率が減るよ!やったねバイツくん!(笑)

しかし未来の携行武器個人認証かよ安全性上がったはいいが汎用性低下してないか?
これライキ活躍出来るの?
物陰から解説するだけのヒトにならない?
ワルイーノパワーも不老しか残ってなくね?
とまぁ色々思う所はありますが
バイツたちの珍道中をこれからも楽しめるのは素直に嬉しいので
末永く作品投下して頂けたら幸いです
ラッキューロ「続きが楽しめるなんてラッキュー♪」
キャンデリラ「嬉しすぎてキープスマイリングよ♪」
(元)デーボス軍生き残り2名のごとく面白おかしく存続する作品世界に思いを馳せつつ…
バイなァ♪(久しぶり)

434名無しのトレーナー:2014/03/07(金) 00:34:25 ID:/qBnNDz6
今回はマジでショート。ショートショートの中でも超ショート。
たった三レス程度のクッソ短いお話。
フェイブルアニバーサリーとストライダー飛龍やりながら三月七日に間に合う様に作ったやつだからね。
仕方ないね(レ)

>>逆元氏
干からび率が減る?
そっちの方に話を進めていく予定は今のところ特にありませんが・・・
まあ減る事は減りますね。
ライキの件に関しては・・・まあ、このまま埋もれさせませんけどね。

435名無しのトレーナー:2014/03/07(金) 00:35:44 ID:/qBnNDz6
 炎の中で爆ぜる木の枝。
 暗闇を照らす橙色の炎は周囲を橙色に染め上げていた。
 その炎の周囲には三つのテントと一人の少年。
 少年は地面の上に敷いたシートの上に座りながらジッと炎を見つめていた。
 少年の名はバイツ。長い黒髪に右腕には包帯が巻かれておりその上にはオープンフィンガーグローブを付けている。
 包帯の下には太古のポケモン、グラードンと人類を征服しようとした種族であるワルイーノの力を有した紅い右腕がある。
 炎を見つめ少年は何を思うのか。
 外見年齢は十八歳と若く見えるがこう見えても百五十年の時を生きてきた。
 他にも仲間はいるがそれぞれのテントで爆睡中である。
 彼等は追われていた。その体に宿す力を求める人間達に。
 今は街から街への移動中でその道半ばでキャンプをする事になった。
 追われている割には随分呑気な一行である。
 とりあえず火の番をしているバイツ。
 任されたというか強制的にやらされているというべきか。
「呑気だなぁ・・・」
 そうバイツは一人呟く。
 炎の中に木の枝を投げ入れながらバイツは上を見た。
 幾つもの輝く星が見て取れる。
「これ位は得が無いとな。」
 冷たく乾いた風がバイツの髪を揺らし、炎の形を変える。
 バイツは炎を絶やさぬ様にと枝を投げ入れる。
「バイツ様・・・」
 バイツは声のした方を振り向く。
 そこに居たのは一体のサーナイト。
 体が弱いというだけで弟と共に前のトレーナーに捨てられてしまった。
 今はバイツ達の仲間という形で行動を共にしている。
「どうした?寝てなきゃ駄目じゃないか。」
「今日は気分が良いので・・・バイツ様・・・いえ、今はマスターとお呼びするべきですね。」
 二人だけの小さな秘密。二人きりの時になるとサーナイトはバイツの事をマスターと呼ぶ。
 サーナイトが軽く咳き込む。
 それを見てバイツはシートの端へ移動する。
「取り敢えずこっちにこいよ、テントの中よりは暖かいはずだ。」
「失礼します。」
 そう言ってサーナイトはバイツの隣に座る。
「上見てみろよサーナイト。」
 サーナイトの目に映る満天の星。
「綺麗ですね。まるで星の海です。」
 サーナイトが感想を述べる。
「だろ?これ位の役得が無きゃ火の番なんてやっていられないからな。」
「私に任せて下されば毎日・・・」
「サーナイトに無茶をさせる訳にはいかないな。」
 バイツは木の枝を炎の中に投げながら言った。
「マスターも・・・」
「ん?」
「マスターも私の体が弱いから・・・そう言うのですか?」

436名無しのトレーナー:2014/03/07(金) 00:36:40 ID:/qBnNDz6
「・・・まあな。」
 サーナイトにとっては意外な返答だった。
「では・・・では一体私は・・・」
「・・・パートナーの弱点をフォローするのは当然だろ?」
「えっ・・・?」
 またもや意外な返答。
 バイツの思っている事は単純なものだった。
「サーナイト、風が出てきた。もうすこしこっちに来い。」
「は・・・はい。」
 バイツに触れ合わない様に少しだけ移動するサーナイト。
「もっとこっちに。」
 そう言ってバイツはサーナイトを抱き寄せた。
 触れ合っている部分が熱くなっていく様な感覚に陥るサーナイト。
 現に顔に紅みが差し、体温が上昇する。胸も早鐘を打っている。紅い顔を見られない様に炎の方を見つめていた。
 バイツも炎を見ていた。
「あ・・・あのー・・・」
 サーナイトが口を開く。
「私、邪魔でしょうか。」
「どうしてそんな事を言うんだ。」
「マスター一人の方が暖かいのでは?」
「二人で寄り添っていた方が暖かいに決まっているだろ。」
 バイツの裏表のない率直な言葉。
 その言葉がサーナイトにとってどれ程嬉しい言葉だったのだろうか。
 感動のあまりサーナイトは泣き出してしまった。
「お、おいどうした、いきなり泣き始めて。」
「私・・・皆様の足手まといじゃないのかって・・・思っていたのです・・・」
 涙声で話すサーナイト。
「もしマスターに見放されてしまったらと思うと・・・私・・・私・・・」
「見放さない。必ず俺が護ってみせる。」
 サーナイトは涙を拭う。
「それは私の台詞です・・・この身を盾にしてでもマスターを護ります。」
「命がけだな。」
 バイツは笑わずにそう言った。
「どうしてサーナイト一族は俺みたいな奴を護ろうとするんだ?」
「マスターが信頼できるパートナーだからです。」
「そうか?俺みたいな奴を信頼したっていい事ないぞ?」
「そうでしょうか?」
 すると三度目の冷たく乾いた風。
 今度の風は音を立てる程強く、炎は一瞬で消え去ってしまう。
「あ・・・消えてしまいましたね。」
 サーナイトはどこか嬉しそうに言う。
「お休みになられますか?マスター」
 内心、そうなる事を望んでいたサーナイト。バイツに抱きついて眠れる事を期待していた。
「いいや、火の番を続けるよ。」
「でも火が・・・」

437名無しのトレーナー:2014/03/07(金) 00:38:00 ID:/qBnNDz6
 バイツは右手に炎を灯す。その炎は少し黒ずんでいた。
「驚きました・・・マスターはこの様な事も出来るのですね。」
「ああ、だからいつも火の番を任されるのさ。」
 木の枝を一か所に集め、炎を灯しながら愚痴みたいな事を口にするバイツ。
「・・・でも、私は嬉しいです。」
「何が?」
「こうしてマスターと二人きりになれるのですから。」
 バイツはサーナイトに視線を向ける。それに気づいたサーナイトは微笑んだ。
「まあ・・・それもそうだな。」
 バイツは燃え上がる炎に視線を移しながら言う。
 するとサーナイトが咳き込み始める。
「大丈夫か?」
「大丈夫です・・・これ位・・・」
 そこまで言って再度咳き込むサーナイト。
 バイツがサーナイトの背中をさする。
「ありがとうございます・・・マスター・・・」
「無理するな、休める時に休んでおけ。」
「ですがマスターが一人に・・・不公平です。」
「不公平とかそんな問題じゃないだろうサーナイト。」
 バイツは休む事を勧めるがサーナイトもガンとして聞かない。
「夜明けまで付き合うつもりか?」
 サーナイトはただ微笑んで頷く。
「しょうがないな、全く。」
 バイツは何処からか毛布を取り出しサーナイトと自分に掛けた。
「マスター、温かいです・・・」
 寄り添いながら毛布に包まる二人。
「あの・・・マスター」
 サーナイトは何かを躊躇っていたが、意を決したのかバイツの顔に視線を向ける。
「ん?一体ど・・・」
 言葉を中途半端にサーナイトがバイツに接吻をした。
 そして遠慮気味に彼女はバイツの口内に舌を入れ始めた。
 バイツもそれを察してかサーナイトの舌と自分の舌を絡め始めた。
 長い長い接吻だった。
 二人が唇を離した時には唾液の橋がかかり、炎の明るさがそれを白く光らせた。
 接吻の余韻を味わっていた二人。
「行き成りはしたない事をしてしまい申し訳ありません・・・」
 静寂を破ったのはサーナイトの声だった。
「どうして謝る必要があるんだ?」
「行き成りキ・・・キスを・・・したのですよ?」
 顔を真っ赤にしながらサーナイトが言う。
「いいシチュエーションだったな。」
 バイツは軽い笑みを浮かべながら言った。
「笑わないでください・・・」
 サーナイトはそう言ったが、彼女自身もバイツの笑みをみて微笑んだ。
 星々の光はそんな二人を変わらずに見下ろしていた。

438名無しのトレーナー:2014/03/07(金) 00:39:57 ID:/qBnNDz6
今回はバイツ君が火の番をしているだけのお話でした。
誤字脱字があったら気合いで解読してください。
近藤大輔!近藤大輔見てるかー!?中居さんありがとう!フラッシュ!(ガンギマリ)



次は何を書こうかな?

439霧生蘭★:2014/03/07(金) 06:26:59 ID:???
ワッー!ワッー!(条件反射)

440逆元 始:2014/03/10(月) 03:32:07 ID:gN8MKgYo
>>439
管理人さん…何なんスか?
何はともあれバイツの人乙!
ショートショートもお手軽でイイですよね
今回みたいな静寂な雰囲気も嫌いじゃないワッ!嫌いじゃないワッ!
ちょいちょい隙を見つけてはチューしちゃうバイツとサーナイトがやらしくてイイ雰囲気です
なんか僕もショートショート書きたくなってきたなぁ
3月7日…仕事の事ばっかり考えてて忘れてた自分が憎い…
あと自作1/1アブソルぬいぐるみに可動骨格仕込む追加改造もしたいのに
やらなきゃならないことやりたいこと多すぎて時間足んない!
時の流れは無情なり…
愚痴ばっかりになってきたので撤収します
バイなァ♪

441名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:51:15 ID:/qBnNDz6
小説が出来ました。
ちょっと表現の部分とか中身が薄いかも。
それはさておきポケットモンスターオメガルビー・アルファサファイア発売決定しましたね。
まさかグラードン、カイオーガ、はてまたレックウザのメガシンカがあるとか言いませんよねゲーフリさん。

>>霧生氏
あのスキンヘッド親父の正式名称っていったい何なんでしょうかね。
夜も眠れない程でもありませんが気になる今日この頃です。

>>逆元氏
ワッー!ワッー!の元ネタは↓
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm15249081
最後の最後まで見れば分かります。
もう知っていたらごめんなさい。許してください!なんにもしませんけど!

442名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:52:29 ID:/qBnNDz6
 暖かい風が吹いたある日の事、バイツ達七人はある街に辿り着いた。
「今日はとても暖かいですね。」
 柔らかな風に緑色の髪をなびかせながらサーナイトが口を開く。それに反応したのはバイツだった。
「ああ、そうだなサーナイト。体調はどうだ。」
「大丈夫です。心配してくださってありがとうございます。」
 そんな会話を続けながら下層スラムを目指す。
 この街の下層スラムは老化した建物が多く、またコンテナなども廃棄されていた。
 それを見てバイツは呟く。
「上のゴミは下に、か・・・」
 そんな下層スラムに紛れ込み、休憩の為に休める場所を探していると複数の男に遭遇した。黒いスーツとサングラスを装備している男達はバイツ達に視線を合わせた。
 男達はサングラスに流れる情報を読み取る。
 バイツ達は無視しようとしたが男達の内の一人が耳元に装備しているインカムに指を当て次の様な言葉を口にした。
「外見の特徴一致。人数一致。連れているポケモン一致。ターゲット変更の許可をお願いします。」
 その言葉を聞いた瞬間バイツ達は男達と距離を取った。
 バイツが男達に視線を合わせて口を開く。
「ターゲット変更?」
「最初から僕達を探していなかったみたいだね。」
 ライキがそう言った途端に男達は懐に手を入れ拳銃を取り出し構えた。
「何だ?ヤル気か?上等じゃねーか。」
 ヒートが構える。
「ライキ、援護射撃頼むぜ。」
「はいはい。」
 と、言った途端ライキが常人離れした速さで拳銃を取り出し引き金を引いた。
 男達が構えていた拳銃が次々と弾き飛ばされて地面に落ちる。
 それを見たバイツ、ヒート、イル、シコウが一斉に男達に向かって飛び掛かる。
「な・・・何なんだ!このガキども!」
 男の叫びの後、僅か数秒で白兵戦の決着は付いた。バイツ達の完全勝利である。
 サーナイトとキルリアの手前、それなりに手加減していたため男達に死者は出なかったものの負傷した男達は撤退していった。
「ま、こんなとこじゃねえか?」
 ヒートがそう口にする。
「あーあ、行き成り喧嘩売っちゃった。」
 イルが頭の後ろで手を組みながら言った。
「しかし奴等、ターゲット変更とか言っていたな。どう思うシコウ。」
「うむ、ライキの言っていた通り奴等最初は我々を探しているのではない様であったな。」
「で?どうする?この街からもう退散する?」
 ライキが男達の落としていった拳銃の弾倉から銃弾を抜きながら口を開く。
 バイツは頭を横に振った。
「いや、出るにしても少し休んでから行こう。」
「随分呑気な発言だね。ま、連中の探し物は僕等じゃないみたいだしそれもいいかも。」
「じゃあよ、こんなとこに突っ立ってねーで早く移動しようぜ。」
「アハハ!そうだねーあっ、そうだシコウ後で甘いもの買ってきてよ。」
「分かった。取り敢えず休む場所を決めるとしよう。」
 その様子を建物の陰から見ている男がいた。

443名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:53:02 ID:/qBnNDz6
「ふーん・・・あいつ等結構やるな。レジスタンスに欲しい位だ。」
 男はそう言うと何処かへと消えた。



 それから小一時間後。誰も使っていない朽ちたビルに辿り着く七人。
「うわー・・・ボロボロ・・・」
 ビルを見上げてキルリアがそう言った。
「地震が起きたら一発で崩れそうだな。」
 バイツも怪訝そうな顔でビルを見上げる。
「仕方があるまい、誰も使っていないのは・・・」
 シコウはそこまで口にした途端口元で人差し指を立てて黙った後、次の様な言葉を口にした。
「・・・来る、皆急いでビルの中に入れ。」
 シコウが半強制的に全員をビルの中に押し込める。
「一体何なんだよシコウ!」
「静かにしておれヒート。」
 全員が息を潜めてビルの中から外を見た。
「誰もいないねー」
「静かに、イル。」
「ハイハイ、シコウは心配屋さんだね。」
 数分後。
 外に現れたのはアーマーを着込み、多目的用のヘルメットを被り、自動小銃を装備している男達。長い列を二列作り歩いていた。その数はおおよそ二百人以上。
「あ、そっか・・・ボク達お尋ね者だもんね。」
 今更の様にイルが呟く。
「でもこの連中本当にボク達を探しているのかな。」
「多分な、それにあの人数相手だとキツイな。」
 バイツはそう言った。
 ただ戦う分には良い。だがバイツが心配しているのはサーナイトとキルリアの事だった。連中はお構いなしにサーナイトとキルリアを狙って来るだろう。この人数を相手に二人を護りながら戦う事は難しかった。
 しかし、何事も無く男達の列は過ぎて行く。
 バイツはホッと胸を撫で下ろした。
 その時、地面が大きく揺れ始めた。
 そうバイツにとってはこの時一番起こってほしくない自然災害、地震である。
「くそっ!こんな時に!」
 崩れ始めるビル。ヒビが広がり、砂埃が落ちてくる。
「崩壊していくビルの中に溺れる!溺れる!」
「おい!ひでの真似は止めろ!ヒート!」
 バイツはそう言い右腕の力で瞬時にドーム状の障壁を作ろうとしたが、生成しても地盤からして障壁の強度が足りないという事を感じ取った。
「シコウ!ここじゃあ地震に耐えられない!」
「仕方があるまい、バイツ!出るぞ!」
 崩れるビルから間一髪で外に出たバイツ達。
 地震の揺れは収まったもののそこで待っていたのは二百とはいかないものの、列の半ばの、おおよそ五十を超える視線。そしてその数秒後に銃口。

444名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:53:39 ID:/qBnNDz6
「ああ逃れられない!」
「ライキもひでの真似するな!」
 バイツはそう言いながら分厚い岩の壁を生成する。
 七人全員が咄嗟に岩の壁に身を隠す。
「攻撃許可が出た!撃てーっ!」
 五十丁を超える自動小銃が一斉に火を噴いた。
「畜生!うるせえな!」
 とてつもない轟音である大声で叫んでも微かにしか聞こえない。
「ヒート!ここは僕達が出よう!」
「黒の力を使ってか!?」
「今使わないで何時使うの!」
「今でしょ!」
「って事だからさ!バイツとイルとシコウはサナちゃんとキル君を護りながら逃げて!」
「分かった!お前達も無茶するなよ!」
 するとその時、男達に向かって何処からか大量のスモークグレネードが投げ込まれた。
 男達にとっても想定外の事だったのか発砲が止んだ。
「何だ何だぁ?」
 ヒートが岩の壁から顔を出して様子を伺う。
「君達!こっちだ!」
 七人は声のした方を振り向いた。



『交戦した部隊はサーマルに切り替えろ。』
 アーマーを着ている男達にそう指示が下った。
 先程バイツ達を攻撃した男達はヘルメットのバイザーのモードをサーマルに切り替える。
 しかし、周囲には熱源反応は無かった。
「くそっ!また見失った。」
「きっとレジスタンスの連中だ。」
「連中、逃げ足だけは速いからな。」
 男達が笑いながら言葉を交わす。
『散開して捜索しますか?』
『いや、いい。隊列を立て直せ。』
 また指示が下ったので男達は隊列を整えまた前進を始めた。



 男達が通り過ぎていった後、先程いた場所から少し離れた廃ビルの陰にバイツ達は居た。
「いやー、間一髪の所だったね。」
 バイツ達を先導した男が胸を撫で下ろす。
「追っ手は来ない様だね、うん。」
 一人で納得している男。
 長い髪を後ろに束ねているその男は見た目からして三十代といった所だった。
「あのー・・・」
 バイツが男に声を掛ける。

445名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:54:09 ID:/qBnNDz6
「助けてくれてありがとう。それじゃ。」
「おいおい、待ってくれよ行かないでくれ。」
 男の発言にバイツ、ライキ、ヒート、イル、シコウの五人は怪訝な表情を浮かべた。
「袖振り合うも多生の縁。ここは最後まで付き合っちゃもらえないだろうか。」
「分かった・・・とりあえず名前を聞きたい。」
 バイツが怪訝な表情を崩さず言う。
「フッ、名乗る程の者じゃないさ。」
「そうか、それでは俺達はこれで・・・」
「待て待て、冗談だよ冗談。俺の名前はケイン。職業は・・・」
 その時、複数の気配を察知した五人。
 気配の持ち主達は素早い身のこなしでケインの周囲に集まる。
「レジスタンスのリーダーだ。」
 更に怪訝そうな顔をする五人。
「何だその顔は、まさか信じてないなー?」
 ケインは少し悩んでこう言った。
「じゃあこうしよう。俺達の基地に案内する。それでいいかい?」
「リーダー!こいつ等の素性も知れないのに基地に連れていくんですか!?」
 ケインの部下は猛反対する。
「敵の敵は味方だ。なあに悪い奴等じゃないだろう。」
 ケインは歩き始める。
「ついてきな。権力者の敵さん達。」
 バイツ達は何処か釈然としないままケインについていった。



 歩きながら簡単に自己紹介を済ませたバイツ達。
「何故レジスタンスを?」
 歩きながらバイツはケインに訊いた。
「俺達は正義の為に戦っている。上層部の腐った連中には散々苦い汁を飲まされた・・・ここで生まれた時からな。」
「するとキミ達は正義の味方って訳だー」
 イルの言葉にケインは笑って見せた。
「上じゃあテロリストって言えば俺って答えが返って来るんだけどな。」
「じゃあ正義と言うよりは悪党なのかな?」
 ライキの問いにもケインは笑う。
「まあ、今の時点ではそうなるな。」
「お主等、結局何が目的なのだ?」
「大雑把に言えば上層下層関係の無い街づくりを目指してる。」
 大雑把すぎる答えにバイツは溜め息を吐いた。



 着いたのは破棄された車両基地。
 外観は大きな屋根付きの倉庫の様であった。
「へー凄いおっきい。」
 中に入るとイルが辺りを見回して言う。

446名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:54:47 ID:/qBnNDz6
 朽ち果て廃棄された列車が簡単な迷路を造っていた。
「どうやら連中ここまでは目が届かないみたいでね、俺達はここでゆっくり出来る訳よ。」
 ケインは昇降機のボタンを押す。
「さあ戻ろうか愛しい我が家に。」
 昇降機のドアが開く。
 ケイン、ケインの部下達、バイツ達の順に昇降機に乗る。
 ケインは全員が乗った事を確認すると地下行きのボタンを押す。
 地下に着くとそこには小奇麗でいかにも秘密基地といった風景が広がっていた。
「穴掘っただけの小汚い所だと思ったけどそうでもないみたいだね。」
 ライキが誰にも聞こえない様に呟く。
「入って、どうぞ。」
 ケインが昇降機から出る様に促す。昇降機から出ると一体のサーナイトが一行を出迎えた。
「あら、死ななかったのね。ケイン。」
「とんだ挨拶だなクレア。」
 クレアと呼ばれたサーナイトはバイツ達に視線を向ける。
「この人達は?また訳ありの人?」
「あー・・・まーそんな所だ。」
「貴方が巻き込んだ訳じゃないわよね。」
「それは違う。今回は正真正銘の人助けだ。」
「ふうん・・・」
 バイツ達に向かって頭を下げるクレア。
「初めまして、クレアよ。」
「クレア、確か空いている部屋があったよな。そこに彼等を案内してやってくれ。」
「分かったわ、ケイン。」
 部屋への移動途中で自己紹介を済ませたバイツ達。
「貴方達意外とハードな旅をしているのね。」
 クレアはそれだけ言うと一つのドアを指差した。
「ここよ、七人で使うには少し狭いかもしれないけど我慢して。」
「それでもいいさ。休めるのだったらどこでもいい。」
 バイツがそう言うとクレアは頷いた。
「後でケインに基地の中を案内する様に言っておくわ。私はこれで・・・」
 クレアはもと来た道を引き返していった。



「やっと休めるー・・・」
 イルが用意されていたベッドに飛び込む。
「しかし困った事になった。」
 シコウは浮かない顔を浮かべた。
「何でそんな表情すんだよ。」
 ヒートの問い掛けにシコウはベッドに腰掛け、口を開く。
「我等がレジスタンスの中にいる事が権力者に知れてみろ、彼奴等本気でここを潰しにかかってくるぞ。」
「ンなもん俺達で潰しゃあいいじゃねえか。」
 ヒートの答えは相変わらずだった。
「取り敢えず休む所があっただけでも僥倖だな。」

447名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:55:24 ID:/qBnNDz6
 バイツはそう言うとサーナイトに目を向けた。
「少し休もうか。サーナイトもキルリアも疲れただろう。」
「私はまだ大丈夫です。バイツ様。」
「僕もそんなに疲れてないよ。」
 強がりだなとバイツは思った。
 その時部屋のドアが開いた。
 現れたのはケイン。
「くつろいでいる所だったか?」
「ああ、今休もうとしていたところだ。」
 バイツが返す。
「それは悪かった。一応ここの案内をしようと思ったんだがもう少し後の方がよかったか?」
「・・・いや、今頼む。」
「そうかい、そんじゃついてきな。」
 バイツ達はケインの後に続いて歩き始めた。
 食堂、武器庫、トレーニングジム等々思ったよりも広い秘密基地。
 全てを案内し終わって部屋に戻ってきた頃にはサーナイトとキルリアに疲労の色が浮かんでいた。
「さて、これで案内は終了。ここからは自由行動で・・・」
「僕武器庫もう一度見てくる!交換できそうな銃のパーツがあるかもしれない!」
 興奮気味のライキが駆け出す。
「さて、これで案内は終了。ここからは自由こうど・・・」
「さっきトレーニングジムで組手やってたな、俺も混ぜてもらうか。」
 ヒートがそう言いながら部屋を出ていく。
「さて、これで案内は終了。ここからはじゆ・・・」
「ボク甘いもの食べたい。食堂の人に頼んでみようかな。」
 イルも部屋から出ていく。
 少し涙目になるケイン。
「さて、これで案内は終了。ここからは自由行動だ。」
「ハイ、よく言えました。」
 バイツはそう言い拍手をする。
 シコウ、サーナイト、キルリアも拍手をしていた。
「ありがとう皆、ありがとう・・・」
 涙を流しながら礼を言うケイン。
「さて、拙者はこの組織について二、三聞きたい事があるのだが・・・」
「質問って事は少なからず興味があるって事だな?」
「うむ。まあ少なからず・・・ではあるが・・・」
「嬉しい事言ってくれるじゃないのそれじゃあ食堂でとことん聞かせてやるからな・・・んで、バイツ、サーナイト、キルリアはどうする。」
「休むよ・・・何か・・・疲れた。」
「私も休ませてもらってよろしいでしょうか。」
「僕も・・・なんだか疲れた。」
 バイツはシコウに視線を向ける。
「何、我等の力の事も上手く話しておく。」
「助かる、シコウ。」
 そして、二人が出ていき、残ったのはバイツとサーナイトとキルリア。
「何だか妙な展開になってきたな。」

448名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:56:03 ID:/qBnNDz6
「そうですね、でも助けてもらった御恩もあることですから、信頼してもよろしいかと・・・」
 ベッドに腰掛けるサーナイト。
「そうだな。」
「ところでバイツお兄ちゃん、レジスタンスって・・・何?」
「さっき質問するべきだったなそれは。」
 バイツもベッドに座り口を開く。
「要するに抵抗運動・・・あー・・・レジスタンス運動か。Wikipediaによると特に第二次世界大戦以降は、レジスタンスという言葉は、もっぱら、ある国が異国の軍隊によって占領されることに抵抗する運動を指すようになった。」
「んー・・・?」
「要するに侵略者に対しての抵抗だな。」
「じゃあ、上で暮らしている人達は悪い人たちなの?」
「そうでもないぞキルリア。上の更に上の人間がこの街を牛耳っているんだ。」
「ふーん。悪い人がいるって事は分かった。それをバイツお兄ちゃん達がやっつけるだけだね。」
「そう至極単純にいけばいいと思うけどなあ・・・」
「バイツ様。」
 サーナイトが立ち上がってバイツに近寄る。そしてそっと両手をバイツの右手の上に乗せた。
「危険な事は控えて下さい。私にとって貴方は・・・」
 そこまで言って言葉を止めるサーナイト。
 バイツはサーナイトが言いたい事が分かっていたが、キルリアは疑問符を浮かべ首を傾げた。
「分かっているよ。無茶はしない。」
 その時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「入るわよ。ケインは居るかしら。」
 部屋に入ってきたのはクレアだった。
「いや、さっきまでいたけれどもシコウと一緒に食堂に行ったよ。」
「シコウ・・・?ああ、あの長い髪の毛の。」
 クレアはサーナイトに視線を移す。
「貴女、ちょっと来て。」
「私ですか?」
 クレアが頷く。
「バイツ様、キルちゃん。私は少し席を外しますね。」
「大丈夫なのか?」
「少し休みましたから平気です。二人共大人しくしていてくださいね。」
 サーナイトは部屋を出ていくクレアの後を追った。



 基地の中を移動するサーナイトとクレア。
 あちらこちらでは様々な人間とポケモンが見受けられた。
 談笑していたり、クレアに気付いて軽い挨拶をしたり、共に見回りをしている等々。
「あの・・・」
「どうして私を選んだのって顔してるわよ貴女。」
 サーナイトは両手で顔を覆う。
「隠し事は苦手なのね貴女。」
「ご・・・ごめんなさい。」
「いいのよ。突然の指名で驚いているみたいだから。」

449名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:56:36 ID:/qBnNDz6
 クレアはそう言いながら進み続ける。
「貴女、人間達と旅をしてきてどれ位経つの?」
「・・・大分経ちます。」
「そう、皆良い人なのかしら?」
「はい、私とキルちゃんにとてもよくしてくださっています。」
「ふふ、そう・・・良い人達に出会えて良かったわね。」
 辿り着いた場所は食堂。
「ケインは居るかしら?」
 そのケインはイルとシコウ相手に熱弁を振るっていた。周りの事等眼中に無い様子だった。
「・・・この調子だと呼んでも無駄みたいね。」
 何処か残念そうにするクレア。
 彼女は食堂を後にする。その後ろをサーナイトがついていく。
 食堂から少し離れると急にクレアが口を開いた。
「貴女、どうやってあの人間達と知り合ったの?」
「色々ありまして・・・」
 サーナイトは初めてバイツ達と出会った経緯を話す。
「ふうん・・・要するに貴女、バイツって人に一目惚れしたわけね。」
「人間とポケモンですよ?それは・・・一般には認められないですけれど・・・」
「いいじゃない。好きな人が出来て。」
 サーナイトはその言葉に顔を紅くした。
「・・・ケインも私の大事な人に入るのかしら。」
「何か言いました?」
「何でもないわよ。」
 クレアの呟きはサーナイトに聞こえなかった様でクレアは胸を撫で下ろした。
「あの・・・私からも質問よろしいでしょうか。」
「いいわよ。」
「どうしてレジスタンスに?」
「私はケインのポケモンだから。」
「そうなのですか?」
 真っ直ぐな目でクレアを見るサーナイト。
「全く、貴女に嘘はつけそうにないわね。」
 しょうがないと言うかの様に小さく溜め息を吐くクレア。
「私はね・・・元々ケインのポケモンじゃなかった。」
 ぽつりぽつりと話し始めるクレア。
「違法売買されたポケモンだったの・・・この街の権力者に買われて・・・都合のいい玩具になった。その頃の私はまともじゃなかったわ。毎日の様にドブの様な臭いをした男の舌と舌を絡み合わせて・・・交わったの。」
 何処か遠くを見るような視線で過去を語るクレア。
「そんな事ばっかりしていたある日、権力者の車がレジスタンスに襲われたの。権力者は逃げたわ、私を置いて一人だけね。私はどうしようとも思わなかった。銃口が向けられたとき来るべき日が来たのだと・・・でも違った。そのレジスタンスの中にケインがいたの。」
 話しながらフッと笑みを浮かべる。
「あの時のケインの言葉、嬉しかった。ポケモンに罪は無い、だから俺達で保護しよう。ってね。そして今の私がいる訳。」
「そうですか・・・その様な過去が・・・」
「だから私はケインには感謝しているの、新しい一日一日を迎えられる事に・・・あの人と一緒に。」
 過去を話し終えたクレアは再度食堂に向かった。

450名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:57:18 ID:/qBnNDz6
「そろそろケインの熱弁も終わるでしょう。だから・・・」
 その時、耳に響き渡る警報が鳴った。
『B−21区画で戦闘が勃発。戦況は劣勢。直ちに急行せよ。』
 放送が聞こえたのか食堂から出てきたケイン。
「クレア!そこに居たのか!」
「ケイン、この警報・・・」
「いいか!ここでじっとしているんだ!俺が行く!」
「いいえ、今度こそついていくわ。貴方のバックアップに・・・」
「駄目だ!お前を危険な目に遭わせるわけにはいかない!」
 そうこうしている内に警報が鳴り止む。
「戦闘が・・・終わったのか・・・」
 ケインが歩き始めた。それについていくクレア。更にその後をサーナイトがついて行く。
 行き先はモニターが沢山ある部屋。
「下層スラムの殆どを見渡せる部屋なの。」
 クレアがサーナイトに説明する。
「B−21区画・・・結構近場ね。」
「戦闘が終わった様だな・・・こっちの被害は?」
 モニターを見ている男にケインが話しかける。
「それが・・・警報が鳴り始めた後に・・・」
 モニターの画面を全員が覗き込む。
 そこには怪我人の山とその山の上に立っているバイツとキルリアの姿が映っていた。



「うわー・・・すごい数倒しちゃったね。」
「一応借りは返しておかないとな。借りっぱなしっていうのは性に合わない。」
 上層部から派遣されて来たであろう男達の上にバイツとキルリアは立っていた。
 男達はバイツによって全員打ちのめされていた。
「本当に皆生きてるの?」
「それなりに加減してある。多分誰も死んでないと思う筈だ・・・多分・・・」
「やっぱりバイツお兄ちゃんって強いんだね。言う事聞かないでついてきて良かった。」
「何が良かったのか俺にはさっぱり分からないよ。」
 その様子を見ていたレジスタンスに属す複数の男女とそのポケモン達。呆気に取られて何も言えない様子。
「さーて、こいつ等の装備でも剥ぐか。」
 そう言ってバイツは怪我人の山から飛び降りる。それに続いてキルリアも飛び降りる。
 男達の武器から衣服まで剥ぎ取っては乱暴に男達を投げ捨てる。
 バイツの行為が終了する頃には別の場所にまた男達の山が出来ていた。今度は全員下着姿である。
 それはともかく自動小銃と予備の弾倉、予備携行の拳銃、そして防弾繊維でできたスーツの山を見たバイツ。
「・・・問題はどうやって運ぶかだな。」
「僕のサイコパワー使う?」
「意外と重いぞ、これ。」
 バイツはまだ呆気に取られているレジスタンス達に視線を向けた。
「やっぱりここから基地まで往復するしかないか。」
 バイツが手伝ってもらおうと声を掛けようとした時であった。
「待て待てーい!」

451名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:58:36 ID:/qBnNDz6
 ケインが複数の人間を連れてやってくる。全員手押し車を装備して。
「これだけの人数をよく倒したなバイツ。」
「指揮官が前線に出ていいのか?」
「いいのいいの細かい事は気にしないでくれ。さあ装備を手押し車に。」
 バイツは何処か納得しない様な表情を作りながら手押し車に武器や衣服を積んでいった。
「でもなあ・・・」
 と、ケインが残念そうに呟く。
「認証されてロックされている銃が勿体無いなあ・・・どうにかして使えないものか・・・なあバイツ。」
「それならその手のプロがいる。」
「何処だ!何処にいるんだー!」
「今頃基地で消耗した拳銃の手入れをしている奴さ。」
 その頃秘密基地ではライキが大きなくしゃみをした。
「うー・・・誰か噂でもしてるのかな・・・」



 夕日が沈みかけた頃。
「もう!こんな事はこれっきりにしてよね!」
 ライキが床に直に座って巻き取り式キーボードのキーを指で叩き、表示されているホログラフィックモニターの数字を眺めながら喚いた。
 今行われているのは生体認証されている自動小銃と拳銃の初期化作業である。
「流石クラッカー、こんな事お手の物だな。」
 隣で作業を覗いていたヒートがスポーツドリンク片手に言う。
「ウィザードと言ってほしいね。」
 モニターには初期化完了の文字が浮かび上がる。
「そのドリンク僕にくれるの?」
「馬鹿言え、これは俺のだ。欲しけりゃテメェで取ってきな。」
「うー・・・意地悪。」
「どうだ!何とかなりそうかい!?」
 ケインが武器庫の中に駆けつける。
「今、最後の一丁の初期化が完了したところだよー」
 と、ライキは腰を捻りながら言った。ぽきぽきと骨が鳴る。
 その瞬間ケインがライキの両手を取り上下に振った。
「ありがとう!本っ当にありがとう!これでウチの戦力アップ間違いなしだ。君は凄いクラッカーだよ!」
「だからウィザードだって・・・もうどっちでもいいよ・・・」
 そんなやり取りをしているとバイツが武器庫に現れた。
「何だ、ここに居たのか。」
「んー、どうしたのバイツ。また何か得物を取ってきたの?」
 げんなりとした表情を浮かべるライキ。
「違う。夕食が出来たから呼びに来たんだ。」
「夕飯か!丁度腹も減ってきた頃だ。やりぃ!」
 と、ヒートが喜びながら武器庫を後にする。
「夕ご飯・・・いいね!」
 ライキも背伸びをしてキーボードを巻き、ヒートの後を追い掛ける。
「しかしまあ・・・」

452名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:59:12 ID:/qBnNDz6
 バイツが武器の山を前にし、ケインに話しかける。
「本当にこれ全部使うのか?」
「ああ、こんなにいい得物をむざむざ捨てる訳にはいかないからな。」
「それで?その武器で貴方は何をするのかしら?ケイン。」
 何時の間にかクレアがケインの隣に立っていた。
「決まっている。上の連中に一泡吹かせてやるんだ。」
 嬉々としてケインは言うがクレアの視線は冷ややかなものであった。
「貴方・・・本当にそれでいいの?」
「な・・・何だクレア、何か言いたい事でもあるのか。」
「別に。」
 それだけ言ってクレアは去って行った。
「何なんだ?クレアの奴。」
 ケインは首を傾げながら歩き始めた。



 食堂はさながら戦場と化していた。
 それもそのはず、今日の勝利と大量の得物の入手で大賑わいだった。
 次々と運ばれてくる料理とそれを胃袋に掻き込んでゆくレジスタンス達と四人。
「お主等、節度は守れ。」
「そーゆーシコウだってけっこー食べてるじゃん。」
 イルからの指摘。
「・・・うるさいっ・・・!」
 殆どお祭り状態の騒ぎの中、それを見ながら騒ぎの外にいるクレア。出された料理から自分の分を適量皿に取り、離れたテーブルの席に座ると料理を静かに口に運んでいく。
 時折、騒ぎの中心に居るケインに視線を移す。
「お隣、よろしいでしょうか。」
 気がつけば料理を皿に盛りつけたサーナイトとキルリアが近くに立っていた。
「いいわよ。」
「ありがとうございます。」
「ありがとー!クレアお姉ちゃん!」
 二人はクレアを挟み込むような形で座った。
 キルリアが鼻歌混じりに取ってきた料理を食べ始める。
 クレアはその様子を見ながら口を開いた。
「質問したいって視線を感じるわよ。」
 クレアはサーナイトの方を向く事無くそう言った。
「えっ・・・!」
 クレアの視線がキルリアからサーナイトへ移る。
「で、質問の中身は何かしら?」
「その・・・浮かない顔をしているので・・・」
「浮かない・・・ね。」
「何か心配事でもあるのですか?私でよければ相談に乗りますけれども・・・」
「ケインの事よ。」
 馬鹿騒ぎの中心に居るケイン。それに視線を移したクレア。彼女の表情は寂しげなものだった。
「今回は勝ったからいいわ、武器も手に入れた・・・でも、争いが収まる訳じゃない。」

453名無しのトレーナー:2014/05/08(木) 23:59:48 ID:/qBnNDz6
「心配・・・なのですね。」
「ええ、連中はもっと兵隊を送り込んできて戦いは激しくなるわ。今度はケインの番になるかもしれない・・・そう思うと・・・」
「もしかしてケイン様の事が・・・」
「それ以上言わないで・・・もう、頭がおかしくなりそう・・・」
 クレアの悲しみに満ちた声。
 サーナイトも出かかった言葉を飲み込む。
 単純な感情じゃない。
 サーナイトは痛い程にそれを分かっていた。
「でも好きって事に変わりは無いよね。」
 キルリアが口を挟む。
「そうよね・・・変わらないわ。」
 フッと笑みを浮かべるクレア。
「あの人は私の・・・大事な人だから。」



 一方厨房では。
「いやー悪いね!手伝ってもらっちゃって!」
 食事当番の男が陽気に言う。
 男の視線の先には髪を束ねて三角巾を着用しているバイツ。
「大丈夫・・・こんな事は慣れている・・・」
 半ば自分に言い聞かせている様な言葉だった。
「うおーい!料理が足りないぞー!」
 厨房の外から聞こえるケインの声。
「誰か睡眠薬を寄越せ!野獣先輩!アイスティーに入れたあの粉ください!関西クレーマー!中野君に差し出したあのお茶ください!ああ分かってる!誰も何もくれないんだろ畜生!」
 バイツはスープの入った大鍋を前にして嘆いた。



 夕食の後、バイツ、イル、シコウ、サーナイト、キルリアはあてがわれた部屋にいた。
「・・・クレアがそんな事を。」
 サーナイトからクレアがケインに抱いている感情を聞いたバイツ達三人。
「この事は一切他言無用でお願いしますね。」
「それで?そんな事ボク達に聞かせてどーしよーってーのさー」
「それは・・・そのー・・・」
「要するにサーナイト。お主は二人の仲を縮めようと申すのか。」
「ええ、そうです・・・何とかならないのでしょうか。」
 バイツ、イル、シコウの三人はほぼ同時に溜め息を吐いた。
「ケインは相当鈍そうだからな、一筋縄じゃいかないぞ?」
「それにさ、仮にボク達が手伝うとしても何をすればいいのさ?」
「それは・・・」
「それにだ、ケインはレジスタンスを纏める身。下手な感情では奴の心も動くまいて。」
「そうですが・・・でも、この気持ちをどうにかしてケイン様に伝えたいのです!」
 三人は再度溜め息を吐く。

454名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:00:31 ID:/qBnNDz6
 諦め。
 三人からはその色が深く出ていた。
 サーナイトはその空気に耐えきれずに部屋を飛び出していった。
「サーナイト!」
「お姉ちゃん!?」
 バイツとキルリアはサーナイトを追おうとした。
「二人共、待て。」
 シコウが重々しく言う。
「この色恋沙汰・・・それも相当特殊なものだ。」
「だから何だシコウ・・・」
「我々第三者が介入した所でどうにかなる事柄ではない。」
「分かっている。」
「ではお主はサーナイトに諦めろと言えるのか。」
 言葉の詰まるバイツ。
「言葉の無いままサーナイトを追う訳にはいくまい。」
 その時、射撃場に行っていたライキとトレーニングジムに行っていたヒートが戻ってきた。
「ただいまー、何話してたのさ?」
「少し複雑な話だ。」
 バイツは険しい表情で言う。
「嬢ちゃんが血相を変えてどっかに行っちまう程の話か?」
「二人の耳にも入れておいた方がいい事柄であるな。」
 シコウは部屋に戻ってきてから今までの事を話す。
「成程。ま、俺達にどうこうできる話じゃねーわな。」
「うーん、他人の色恋沙汰に首を突っ込んでいいことになった思いは無いし、それこそコンピューターでどうにかできる問題じゃないしね。」
 二人も諦めに近い感情を浮かべる。
「ねえ、お姉ちゃんの言っている事って間違ってる事なの?」
 キルリアが五人に問い掛ける。
 答えが返ってくる事は無く重い空気だけが部屋に漂っていた。



 どうしたらいい。
 分からない。
 この問い掛けに答えが出ないサーナイト。気がつけば暗闇に包まれた車両基地で座って泣いていた。
 他人事と言ってしまえばそれまでのこの一件。
 サーナイトはどうしても二人の恋を成就させたかった。
 しかし、いい案が見つからない。
「あら、こんな所に居たのね。貴女。」
 顔を上げるとそこにはクレアの姿があった。
「何か悩んでるのかしら?私でよければ相談に乗るわよ。」
 サーナイトは涙を指で拭い、口を開いた。
「貴女と・・・ケイン様の事で・・・」
「私と・・・ケイン?」
「どうすればお二人が幸せになれるのか・・・考えていたのですけれども・・・答えが出ないのです。」

455名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:01:11 ID:/qBnNDz6
「幸せ?私とケインの?」
 クレアは笑った。
「なあんだ、そんな事だったの。」
「そんな事って・・・そんな言い方・・・」
「私は・・・ケインの事が大好き。でも、それだけでいい気がしてきたの。」
「え・・・?」
「あの人の重荷になる位なら一人でこの感情を抱えたままでいいと思う。私、食堂で貴女と話した後少し考えたの。」
「それがこの答え・・・ですか。」
「そう。ケインは私だけに構っていられる程暇じゃないの。だってレジスタンスのリーダーじゃない。」
「でもこのまま貴女が想いを・・・」
「いいのよ、もう。これは私と貴女だけの秘密。」
「秘密・・・ですか・・・」
 サーナイトはどこか腑に落ちない様子でそう呟いた。
「私の問題で貴女が潰れる事なんてないんだから。」
 そう言ってクレアはサーナイトの頬に軽くキスをした。
 サーナイトは頬を紅く染め更に押し黙った。
「おい!そこで何をしている!」
 サーナイトとクレアの耳に入った怒鳴り声。
 それはヘルメットを被り、アーマーを着た男だった。
「あら、最近はお客さんが多いわね。」
「何をしているんだと聞いている!」
 男が自動小銃の銃口を二人に向ける。
 その途端クレアは両手を男に向けてかざす。
 途端に男は吹っ飛ばされた。
「このクレア様を甘く見ないでほしいわね。」
「そうか、お前の名前はクレアと言うのか。」
 後ろから声が聞こえた。
 ハッとして振り向いた時にはもう一人のアーマーを着た男の銃口が既に二人を狙っていた。
「俺達はツーマンセルで行動する。それにクレアと言ったら、かの名高いテロリスト、ケインのポケモンだったな。大人しくしていてもらおうか。」
 男はヘルメットに内蔵されている無線で増援を呼んだ。
 そして、続々と集まって来る男達。
 サーナイトとクレアは男達に捕らえられてしまった。



 その様子は秘密基地のモニター室のモニターにも映っていた。
 ケインは外に出たと思われるクレアを探す為に丁度モニター室を訪れていた。
「クレア!」
 それだけ言うとすっ飛んでモニター室を出ていった。
 その時、サーナイトを探しているバイツ達と鉢合わせする。
「一体何が・・・」
 見るからに異常な顔色のケインを見てバイツが口を開いた。
「クレアがさらわれた。君達の仲間のサーナイトもだ。」
 それを聞いたバイツは踵を返し秘密基地の入り口でもあるエレベーターへと向かおうとした。

456名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:01:45 ID:/qBnNDz6
 ケインも走り出す。
「待て、二人共。」
 シコウが止める。
「敵にわざわざこの場所を教えるつもりか、間違い無く連中はお主等を釣る為にサーナイトとクレアをさらったのであろう。」
「だからどうしたシコウ。サーナイトは・・・」
「パートナーだからだ・・・」
 ケインが口を開く。
「あいつは俺の唯一無二のパートナーだからだ!」
 そしてケインは続ける。
「俺はクレアを助け出す。何があっても!」
 その時バイツは気付いた。
 ケインもクレアを想っていたのだ。
 悩んでいた自分達が馬鹿馬鹿しい位の真っ直ぐな感情。
「行こう、サーナイトとクレアを助けに。」
 そう言ったバイツと頷いたケインが駆け出す。
 それを見てシコウがやれやれといった感じで溜め息を吐き、頭を横に振る。
「シコウ、僕達も行こうか?」
 ライキが呆れかえった様に言う。
「いや、向こうは彼奴等だけで十分だろう。」
 シコウも踵を返して、つかつかと歩き出す。
「もうじき外の入り口は戦場になるぞ。皆準備はいいか?」
「戦場だぁ?俺とライキだけで何とかなりそうなモンだがな。」
 ヒートは楽しそうに笑みを浮かべた。
「僕も戦う!」
 キルリアも戦いに参加しようとする。
「坊主、気持ちだけは受け取っておくぜ。」
「キミはここでお留守番。外はキツイよ?」
 ヒートとイルに諭されキルリアは俯く。
「ではキルリア、お主にはレジスタンス達と共にここの昇降機の前の警備を頼みたい。」
 そうシコウが言うとシコウを見上げていたキルリアの表情が明るくなる。
「討ち漏らした敵が昇降機で下りてきた時は・・・分かるな?」
「うん!精一杯の力で倒す!」
「よろしい、では頼んだぞ。」
 ヒートはキルリアに聞こえない様にシコウに耳打ちをした。
「正気か?坊主に連中を倒せるわけねえだろ。それに万が一の事があったらバイツに殺されちまう。」
「では討ち漏らさぬ事だな。お主に限ってそんな失態はせぬと思うが。」
「当たり前だろうが。生かしてこの基地に侵入なんかさせねえよ。」
 ヒートは再度笑みを浮かべた。



 バイツとケインは上昇していく昇降機に乗っていた。
「武器は持ってきたのか?」
「ああ、先程生体認証を済ませた銃がある。」

457名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:02:27 ID:/qBnNDz6
「ならいい。」
 昇降機が止まり、ドアが開く。
『昇降機から出てきたぞ!』
 アーマーを着た男の声がヘルメットに内蔵されている無線を通じ周囲を探索していた男達の耳に入る。
 もう一人の男の銃口は既に二人を捉えている。
「物陰に隠れていろ。」
 バイツはケインにそれだけ言うと瞬時に男に接近し、右ストレートを打ち込む。
 ヘルメット内部で男の頭は破裂し、血をヘルメットの隙間から垂らしながらその場に崩れ落ちる。
「な・・・え・・・?」
 銃を構えていた男の反射神経を遥かに超えた速さで動いたバイツ。
 何が起こったのか分からずに困惑する男の体をアーマーごと易々と引き裂く。
 そして次々と現れる男達。
 バイツは完膚なきまでに男達を潰していった。
「うわっ!ひぃっ!」
 最後に残った男の襟首を捕まえ、物陰でバイツの暴れぶりを呆然と見ていたケインの前に投げ捨てる。
 受け身を取れずに男が痛みを伴った声を上げるとケインは我に返る。銃口を男に向けて一番聞きたい事を口にした。
「クレアは何処だ!何処へやった!」
「お・・・お前の・・・ポケモンか?あ・・・ああ、上層階にあるガルドビルに運び込んだ・・・頼む・・・助けてくれ。」
「ガルドビル?何処だ。」
「俺が知っている。行こうバイツ。」
 二人は男を背に歩き始めた。
 しかし、二人は気付いていなかった、男のヘルメットがビーコンを発している事に。
 男は落ちた自動小銃を拾う事なく安堵の溜め息を吐いた。
 援軍は呼んだから助かった。
 そう思った次の瞬間、頭上で声が聞こえた。
「全く、バイツもケインも前しか見ていないみたいだね。」
 男は振り返った。
 ヘルメットに装備されているライトが照らしたのは人の形をした「黒」だった。
 人間の形はしているが、右腕の二の腕から先が銃の形をしていた。
 そしてその「黒」は右腕の銃口を男の頭に向け、黒い水晶でできた弾丸を一発放つ。
 その一発はヘルメットごと脳天を貫いた。
「・・・ま、馬鹿騒ぎする分には丁度いいでしょ、ヒート。」
 ヒートと呼ばれたその「黒」はこう言った。
「テメェもそうなる事を望んでいたんじゃねえのか?ライキ。」
「僕達の能力ってこんな事でしか生かせないからね。」



 これといった騒ぎも無く静かに上層階に侵入したバイツとケイン。
 アーマーを着た男達が慌ただしく動いているのをバイツとケインは建物の陰に隠れながら見ていた。
「基地の場所がバレたか・・・!?」
 ケインが苦虫を噛み潰したような表情を作る。
「だが、こっちは手薄だ。」
 バイツの言葉にケインは頷く。
「ああ・・・さっさと終わらせて戻ろう。」

458名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:02:59 ID:/qBnNDz6
「いや、時間はたっぷりある。」
「どういう意味だ?」
「言葉通りさ、で?ガルドビルへの道は?」
「この路地裏を突っ切れば近くに出る。」
「行こう。」
 バイツとケインは路地裏を駆けていった。



 ガルドビルの一室、アーマーを着た男達が見張っているのはサーナイトとクレア。彼女達の手には丁寧にサイコパワーを発揮出来なくなる手錠を掛けられていた。
 ドアが開く。
 そこに居たのは腹の突き出た色黒の男。
「部下が乱暴に扱って申し訳ない。」
 口調は穏やかだったがサーナイトとクレアを見る目は鋭かった。
「その顔忘れないわ・・・」
「そうだな、クレア。久しぶりだ。」
「あなたみたいな人が市長になれるなんてこの街も随分腐りきったものね。」
 クレアはキッと男を睨み付ける。
「あの時、私を捨てて逃げたくせに。」
 その時サーナイトは気付いた。この男がクレアの前のトレーナーだと。
 しかし、短い遣り取りで男はクレアを所有物程度にしか思っていないとサーナイトは感じた。
「私の仕込んだテクニックは憶えているか?」
「忘れたわよ、そんなもの。」
 クレアが目を逸らす。
「いいや、身体は憶えている筈だ。」
 男の手がクレアに伸びる。
「人間の女もいいがお前達サーナイトの様な従順なポケモンを調教するのもまたいいものだ。」
 サーナイトはこの時この男が紛れもない悪だという事を悟った。
 そして、男の手がクレアに触れかけたその時ドアをノックする音が聞こえた。
「入れ。」
「失礼します。ターゲットが二名ビルの前にいます。」
「そうか、じゃあ感動の御対面といこう。二人を連れて来てくれ。」
 男は部屋の外に向かって歩き始めた。



「着いた、ここだ。」
 ガルドビルの前に着いた二人。
 周囲には仕事を終えた人間達がぞろぞろと自分達の帰路へとついていた。
「銃声なんて聞こえてきたら大騒ぎになりそうだな。」
 そうバイツは言う。
「俺達レジスタンスが上に出てくればいつもそうさ。銃声は付きものだ。」
 ケインがビルの中を目指して歩き始める。
 バイツもケインを追うようにして歩く。

459名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:03:47 ID:/qBnNDz6
 二人は難なくビルの中に入る事が出来た。
 ビルの中は白で統一されており、椅子、机は勿論人工の植物すら白だった。
「ようこそ!我がガルドビルへ!」
 中二階に出てきたのは腹の突き出た、色黒の男。
「オデル!」
 ケインが男に向かって銃口を向けそう叫んだ。
「誰だ?」
「この街の市長だ・・・趣味はレジスタンス狩りっていうとんでもない奴さ。」
 オデルは腹を揺らして笑って見せた。
「レジスタンス狩りとは言い方が悪い、せめてゴミ掃除と呼んでほしいな。」
「貴様っ!」
「おいおい、そんなに怒るな。用があるのは彼女達じゃないのか?」
 オデルの後ろからアーマーを着た男達に連れられてきたサーナイトとクレア。
「サーナイト!」
「クレア!」
 二人の叫びに二体のサーナイトが反応する。
「バイツ様!」
「ケイン!」
「んー、感動の御対面だが銃は要らないのではないか?」
 ケインは銃口を下げる。
「よろしい、さて・・・ケイン君。」
「な・・・何だ。」
「君のアジトの事なんだが、あー・・・その何と言ったらいいか。」
 ニヤリとオデルは笑う。
「私はね、驚いたのだよ。嬉しさのあまりね。」
「一体・・・何の話をしている?」
 ケインが口を開く。
「そう・・・嬉しさのあまり・・・私の持っている兵隊を殆ど君のアジトに向かわせたのだよ。」
「貴様ぁっ!」
 激高し銃口を再度オデルに向けるケイン。
「言った筈だ。銃は要らないのではないか?まあ君に限った話なのだが。」
 男がサーナイトとクレアの頭部に拳銃の銃口を突きつける。
「くっ・・・!」
 銃口を下げる事を余儀なくされたケイン。
「宜しい。さて君のアジトのゴミ掃除の途中経過でも聞くとするか。」
 バイツ達とオデル達の間に展開されるホログラム。
 声高らかにオデルはホログラム上に現れた男に訊いた。
「状況を。」
「もっと増援を!このままじゃ全滅してしまいます!」
「何?」
 期待していた答えとは違う様でオデルはこめかみに血管を浮かせた。
 男の答えにケインも戸惑い、バイツは静かに笑った。

460名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:04:17 ID:/qBnNDz6
 同時刻、車両基地にて。
「連中は何なんだ一体!」
「数では俺達の方が上回っている筈だ!押し潰せ!」
「くそっ!こんな所で死んでたまるか!」
 アーマーを着た男達は物陰に隠れながら黒い水晶でできた弾丸から身を護っていた。
 易々とアーマーを貫通する弾丸。
 それだけでもう何人が犠牲になったかは分からない。
「おい。そんな所に隠れていて楽しいか?」
 声のした方を向く。
 そこには「黒」を纏った、人の姿があった。
「もっと走り回れよ。ほら。」
 右手に橙色の球が生成され、それを男達に向かって軽く放り投げる。
 生体爆弾。それは当人の匙加減で爆発の大小や起爆時間を決める事が出来る優れものである。
 三人の男達のヘルメットの目元を覆うバイザー部分に表示される「爆発物」の文字。
「うわっ!ひぃ!」
 三人の男は一目散にその場を離れる。
 爆発音と同時に三人の男は黒い水晶弾に撃ち抜かれる。
「おいおい・・・ライキの野郎一人で連中を片付けかねないぜ。」
 そう言ったヒートもライキに負けじと男達を追う。
「いたぞ!あそこだ!」
 複数人連れた男が声を張り上げる。どうやら様子をよく呑み込めていない援軍の様。
「ラッキー!」
 ヒートは爆弾を生成。男達の群れに投げ込む。
 男達はバイザーに表示される「爆発物」の表示を見ると、散り散りになる。
 そして、爆発。
 男達は爆発の被害を避ける事が出来たが、戦力が分散してしまう。
 そこがヒートの狙い目だった。
 孤立している男に一気に接近し一撃を叩き込む。
 男は血を吐いて吹っ飛ぶ。ピクリとも動かない。
「な・・・何だ、この野郎!」
 今度は別の男がヒートの存在に気付き、自動小銃の引き金を引く。
 しかし、弾丸は姿勢を低くし急接近するヒートの体に当たらずに外れてしまう。
 鋭い掌底打ちが男の鳩尾に叩き込まれ男は吹っ飛ぶ。
 男が身に着けていたアーマーはその一撃の威力を殺しきれずに、その衝撃は背骨までも砕いた。
 男の横隔膜は瞬間的に止まり、呼吸停止した。そして男は死が訪れるまで呼吸ができなくなるという苦しみを味わい続けるのであった。
 広い車両基地の中、奮闘しているのはライキとヒートだけではなかった。
 騒ぎから離れた場所から昇降機に近付こうとする男達がいた。
 男達が異変に気付いたのは昇降機が見えるまであと一歩という所だった。
 寒い。
 息も白くなる。
「一体何だ!この寒さは!」
 男が叫ぶ。
 足を動かそうとする。
 動かない。

461名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:04:47 ID:/qBnNDz6
「お、お前・・・その足・・・」
 怯えた声に男は自分の足元を見た。
 凍っている。
「いっ・・・一体何が・・・」
 そこまで言った途端に男の体は袈裟方向に斬られて、斬られた上の部分がその場に落ちた。
 次に聞こえてきたのは笑い声。
「バーカ、バーカ、バーカ。」
 金髪の少年がそう言いながらその場に現れる。
 右手を振り抜くと、超水圧の刃が飛び易々とアーマーを斬り裂き、男の肉体を綺麗に斬っていく。
 金髪の少年、イルは銃を構えるのを忘れて悲鳴を上げる男達を次々と斬り裂いていった。
「イル・・・あまり汚すと後片付けが大変であろうに。」
 そう口にしたシコウ。
 彼は高所に陣取った男達を優先的に片付けていた。
 飛び回る様に動くシコウは車両基地内では最も速く動ける存在だった。
 シコウの眼前に男が二人現われる。二人は自動小銃を即座に放つ。
「かような銃撃で拙者を討てるものか。」
 銃弾を全て避けるシコウ。
 素早い上に上下左右に移動しながら接近してくるのだから銃の命中率は極端に下がる。
 文字通り二人に急接近したシコウは鋭い蹴りを放つ。
 二人は廃棄された列車に体を打ち付けて、ずり落ちる様に倒れた。その後は何の反応も無い。
 そしてシコウが視線を上に向ける。
 シコウを狙う複数の銃口。上の細長い足場から狙っている。
 そして銃撃。
 しかし、男達が撃ったのは地面だけだった。
「こっちだ。」
 男達は驚きながら横を向くと同時にシコウの放った蹴撃は一人の男を吹っ飛ばす。吹っ飛ばされた男は他の男達を巻き込み一緒に壁に叩きつけられる。
「うう・・・」
 辛うじて生きている蹴り飛ばされた男。
 近付いてきたシコウに気付く。
 そして、高らかに振り上げられたシコウの踵にも。
 騒がしくなっている車両基地内に一際大きな絶叫が響きあがった。



 展開したホログラムも絶叫の声を拾っていた。
「とっ・・・とにかく援軍を!」
「馬鹿野郎!ありったけの数の兵隊を送ったんだ!それでどうにかしろ!」
 口調がガラリと変わるオデル。
 ホログラムを閉じる。
「テメェのツレか・・・!」
 オデルの視線がバイツに移る。
「いやあ関心関心、あいつ等仕事してくれているんだな。」
 バイツの視線もオデルに移る。
「さて・・・」

462名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:05:19 ID:/qBnNDz6
 バイツの一際鋭い視線とトーンの下がった声。
 次の瞬間、バイツはその場から消えていた。
「二人を離してもらおうか。」
 バイツの声がオデルの後ろから聞こえてきた。
 それとほぼ同時にオデルの首に巻きつく右腕。
 信じられない程の速さでオデルの後ろを取ったバイツ。
「さあ、早く二人を離すんだ。」
 オデルの首の骨が小さくミシミシと音を立て始めた。
「このガキっ・・・」
 オデルは消え入りそうな声でそう言った後、こう言った。
「・・・そいつ等を離せ。」
 サーナイトとクレアに銃を突き付けていた男は銃口を下げた。
「よし、二人共。ケインの方に行け。大丈夫だ。」
 バイツの言葉通り二人はケインに近付いた。
 ケインを護る様に立つサーナイトとクレア。
「さあて・・・あんた達の雇い主の命は俺の手の中にある。離してほしければ犬の真似でもしてもらおう。」
 笑みを崩さずバイツは言う。
「冗談だ冗談。だが武器は全て捨ててもらおうか。」
 銃器が音を立てて床に捨てられていく。
「いい気味だな、オデルさん?」
 バイツの言葉に心の中で地団太を踏むオデル。
「テ・・・メェ・・・」
「場を支配するっていうのも結構いいものだな。」
 更にバイツは言葉を続ける。
「あんたの部下の殆どはもういない。助けを呼ぼうとしても無駄だ。」
 バイツは首を絞めていた右腕を緩め、今度は片腕を捻じり上げた。
「クソッ!今度は何だってんだ・・・!」
「うるさい、静かにしろ。妙な事をしてみな・・・片腕引きちぎるぞ。」
 脅す様に耳元で囁くバイツ。オデルを連れて階下まで下りる。
「さーて、妙な真似をしないでくれよ?俺達がこのビルを出るまで。」
 バイツはそう男達に言ってケイン達の方へ歩く。
「さあ、行こうケイン。」
「バイツ・・・」
 ケインは自動小銃の銃口をオデルの頭部に向ける。
「おい・・・ケイン、何をして・・・」
 それから先は一瞬の出来事だった。
 ケインは自動小銃の引き金を引きオデルの頭に銃弾を撃ち込んだ。それを予想していたのか男達は床に捨てた自動小銃を拾い、ケインに向けて銃弾を発射した。
 吹っ飛んで倒れるケイン。
 バイツの注意は完全にオデルの方に向いていた為、手を出すのが遅れた。
 オデルの遺体を男達の方に放り投げて巨大な岩の壁を生成するバイツ。
「ケイン・・・?嘘でしょ・・・嫌ぁぁぁ!」
 クレアが泣きながら倒れたケインにしがみ付く。
「俺が撃ったんだ!俺の弾がレジスタンスの野郎を始末したんだ!」
 男の一人が喜びの声を上げた。

463名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:05:57 ID:/qBnNDz6
「いいや、俺だね。俺の銃が奴を始末したんだ。」
「違う!俺の一撃だ!」
 男達は男達で何やら揉めていた。
 岩陰から身を出すバイツ。殺意の塊となり男達に飛び掛かる。
 男達の断末魔がロビーに広がるのに時間は掛からなかった。
 その後、ケインの傍にしゃがみこむバイツ。
「ハ・・・ハハハ・・・撃たれたのか・・・俺・・・」
「ケイン!駄目!喋らないで!」
 クレアが泣きながら口を開く。
「撃たれるのって・・・こんなに痛いのか・・・」
「ケイン、静かにしろ。今病院に・・・」
「サイズ・・・合う奴探してさ・・・」
 バイツはここで一つの疑問を抱く。ケインの体から出血が全く見られないのである。
「サイズが合うってあんた、まさか・・・」
 バイツはそう言いケインの服を破く。
 中には黒いスーツが見えた。
「ハハハ・・・そうだよ・・・連中からぶんどった服・・・下に着てたんだ・・・」
 よく床の上を見ると弾頭が落ちているのが確認できた。
「ケイン・・・」
「どうした・・・クレア。」
「この馬鹿ぁっ!」
 クレアが顔に手を伸ばしたのでケインは顔を両手で顔を庇う。
 が、拳は飛んでこなかった。
「クレア?」
 恐る恐る顔を庇う両手を除けたケイン。
 代わりにきたのはクレアからのキスだった。
 短いキスでもクレアの顔はこれ以上ない位に紅く染まっていた。ケインはキョトンとしていたが。
 サーナイトも両手で顔を覆いながらも指の間からしっかりとその様子を見て顔を紅く染めていた。
「俺達が心配する事じゃなかったな。ケインもクレアを心配して単身で戦いに挑む所だったんだ。」
 サーナイトの傍らに移動するバイツ。
「そうなのですか・・・私達が心配する事ではなかったのですね。」
 ケインとクレアの間にはぎこちない空気が漂っていた。
「あー・・・まあ何だ・・・その・・・基地に戻るか。バイツ肩貸してくれ。幾ら弾が貫通しなくても衝撃で痛む・・・」
 バイツがケインを引き起こして肩を貸す。
 すると、バイツの反対側からクレアがケインに肩を貸した。微妙にサイコパワーで宙に浮かせている。
「全く、世話の掛かるパートナーなんだから。」
 バイツは邪魔してはいけないと思いケインから離れ、ケインが撃たれた際に落とした自動小銃を拾い上げる。
 そして、ガルドビルを後にしたバイツ達であった。



 数日後。秘密基地の昇降機前。
「もう行くのかい?」
 バイツ達は一張羅のスーツを纏ったケインに呼び止められる。ケインの傍らにはクレアが立っていた。
「ああ、他の街からのファンがうるさくてね。」

464名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:06:28 ID:/qBnNDz6
「俺達が君達を匿ってやれるかもしれない。だから・・・」
「無理だ、下手をしたら組織が壊滅するかもしれない。」
「そんなに追っかけがいるのかい?」
 バイツは静かに頷く。
「ケイン、あんたには大事な事が色々あるじゃないか。組織、クレア、そして市長選挙。」
「市長選挙か・・・夢にまで見た・・・」
 ケインは意味深そうに呟く。
「けれど俺でいいのだろうか。俺は人殺しだ。なんたって元市長を撃った人間だからな。」
「だからそんな事がバレない様にこの数日で色々な裏工作したじゃん。」
 ライキが平然と言ってのける。
 ここ数日ライキとシコウは裏工作の為に動いていた。
 ケインがオデルを撃った場面を捉えていたカメラの映像を全て消し、反対派の中心人物を静かに消し、中立派を全て味方に迎え入れ、そして他の立候補者に対してはありもしないスキャンダルをでっち上げ評判を落としたのである。
「ま、ここまでやったから当選は確実だと思うけど。警察はオデルの件に関して調べているみたいだけどそっちに捜査の手が来ない様にしたし。」
 ライキが頭の後ろで手を組む。
「ま、あとは運を天に任せようよ。」
「そう言う事らしい。ま、色々頑張れよ市長さん。」
「まだ決まってないんだけどなあ・・・」
 バイツが右手の拳を差し出したのでケインはそれに自分の拳を軽くぶつける。
「さて地方自治法でも勉強するかな。皆本当にありがとう。」
「私からも礼を言うわ。ケインの為に動いてくれてありがとう。」
 そう言って頭を下げるクレア。
 頭を挙げた際サーナイトと視線が合った。
 サーナイトが微笑んだのでクレアも微笑み返した。
 彼女達の意思疎通はそれで十分だった。
 そしてバイツ達は昇降機に乗り込んだ。
 上がっていく昇降機。
 ケインとクレアはバイツ達が完全に見えなくなるまでずっと見上げていた。

465名無しのトレーナー:2014/05/09(金) 00:07:54 ID:/qBnNDz6
今回は違うサーナイトの恋物語に焦点を当ててみましたがいかがでしたか。
誤字脱字があったなら脳内補完でヨロシク。
私事ですけれども小説内でサーナイトにニックネームを付けるとどうしてかそのサーナイトがサーナイトに見えなくなる時があります。
な・・・何を言ってるのか わからねーと思うが(ry
まあ、想像力が足りないだけなんですけれども。
あーネタが尽きてきた。この先どうなることやら・・・

466名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:34:02 ID:/qBnNDz6
ゲンシカイキって何だよ(純粋に謎)
あ〜面倒臭ぇ、マジで。何がゲンシカイキだよ。ふざけんなよアントニオ・・・
あと、小説が書きあがったので投稿します。

467名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:34:42 ID:/qBnNDz6
「今回の改造は最新のバージョンです。」
 広い空間に一人の男が立っていた。
 その男を取り囲むようにテーブルが並べられセットになる様に用意されていた椅子に人間達は座っていた。
 そしてその男は口を開く。
「皮膚には強化型バイオケブラーを編み込んでおり五十口径程度の弾丸ならば至近距離で受けても骨にヒビが入る位です。プラズマ系統の武器でも火傷程度で済みます。」
 周囲の人間達がざわめきだす。
「骨格も我社秘密製造の機械骨格に取り換えておりまして人間の通常の骨の十倍程の強度で、先に紹介した防弾繊維と組み合わせて十分に効果を発揮します。」
 男の言葉に周囲のざわめきが一段と大きくなる。
「防御性能はこれ位にして次は反射神経の紹介です。」
 それぞれのテーブルの上に小さなホログラフィックモニターが展開される。
 そのホログラムにはランダムに部位を選ぶピストルから放たれた弾丸を防いでいる男の映像が映し出されている。
「大抵の徒手空拳相手ならば後の先が取れます。勿論弾丸程のスピードで飛んでくる物体にも対応可能です。」
 男がそこまで言うと手元のホログラフィックが変わった。
「今度は攻撃性能の方へ移りましょうか。」
 男の声と共に映し出される映像は厚さ一センチの金属の板を素手による一撃で破壊している映像だった。
「改造された筋肉は通常の人間の十倍の力が出せます。話は変わりますが走るスピード、跳べる高さも常人離れしております。人間というよりサイボーグといった方がいいかもしれません。」
「で?君はいったいその改造人間を一体幾らで売りつけたいのかね。」
 周囲の一人から声が上がった。その声はまるで新しくできた玩具を楽しみにしている様な声であった。
 そしてその声に男はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。



 とある街の上層都市。
 そこのポケモンセンターは敷地も建物も広く様々な機能が充実していた。
 建物内で一人の少年とジョーイが話をしていた。
「お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ!・・・と言いたいところですが・・・」
 ジョーイは深刻そうな顔で少年を見る。
「あなたのサーナイト体が弱いと言っていましたね。」
「ええ。」
「普通に旅をしているだけでも力を消費するみたい。なるべくポケモンバトルは避けた方が・・・」
 少年は大きく頷く。
「ポケモンバトルはしませんしこれからもさせません。」
 そう断言した少年。
 その時奥の部屋からサーナイトとキルリアが姿を現した。
「ありがとうございましたジョーイさん。さあ行こうかサーナイト、キルリア。」
「お手間を取らせて申し訳ありませんバイツ様。」
 バイツと呼ばれた少年は気にするなといった微笑みを浮かべる。
「早く行こうよ、お姉ちゃん。バイツお兄ちゃん。」
 キルリアはバイツの左手を引っ張る。
「あらあら、すっかり懐いている様ね。」
 ジョーイは笑顔を浮かべてその微笑ましい光景を見ていた。そして最後に一言。
「またのご利用をお待ちしてます!」

468名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:35:27 ID:/qBnNDz6
 バイツ、サーナイト、キルリアはその声を背に受けポケモンセンターを後にした。



「私、上層都市は久しぶりなのです。」
 バイツと肩を揃えて進みながらサーナイトは左右を見渡して楽しそうにそう言った。
 無理もない、とバイツは思った。
 前のトレーナーに体が弱いという理由だけでキルリアと共に下層スラムに捨てられ、それから姉弟二人で生きてきた。ポケモン同士の周りの支えもあったがそれでも下層スラムで住むには辛いものがあった。
「僕も久しぶりだよ、この人の賑わいとかさ。」
 キルリアはバイツと手を繋ぎながら左右を見渡す。
 周りにいるのはそれぞれの目的地へと行く人の山。ポケモンをボールから出して歩いている人間はかなり少なかった。
「さて、集合時間までまだ少し余裕があるな・・・何処か寄っていくか。」
 現在、他の四人とは別行動中である。
 そもそもどうしてバイツ達は上層都市にいるのか。それも団体行動ではなく個別に。
 話は数十分前に遡る。



 数十分前。街に着いた時の事だった。
「ようやく街に着いたな。さっさと下層スラムへ行こうぜ。」
 ヒートがそう言って下層スラムへの道を進んでいった。
「ちょっと待ってよヒート。」
 イルがヒートを止める。
「世界下層スラム訪問してる訳じゃないんだからさ。たまには上層都市でパーっとしない?」
 イルの提案にヒートは少し考える。
「まあ確かにな、どうせバレる所はバレるんだしたまにゃあ上層都市でもいいかもな。」
 ヒートも乗り気でそう言う。
 それに猛反対する二人がいた。
「いいや反対だね。この面子が固まって歩くとすぐにバレるよ。確実に。」
 と、ライキが言った。
「左様、ライキの言う通りだ。仮にバラバラに行動したとしても我等を狙う連中がいずれ誰かを見つけて集中的に叩くであろう。」
 結論としてはライキの言う事に肯定的なシコウの発言。二体二で意見が分かれる。
「俺達はどうするサーナイト、キルリア。」
 バイツがサーナイトに視線を向けた時であった。突然サーナイトがその場に崩れ落ちる様に倒れた。
「サーナイト!?」
「お姉ちゃん!」
 バイツはサーナイトを抱きかかえる。
 長い旅路がサーナイトの体力を奪っていた。サーナイトは表にソレを出さなかった。だが今回は本当に限界だった。
「私は・・・」
 そこまで言った途端サーナイトは激しく咳き込む。
「私は・・・どちらでも・・・構いません・・・」
 息も絶え絶えにサーナイトはそう言う。
「ポケモンセンターは上層都市にしかなかったな。」

469名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:36:31 ID:/qBnNDz6
 そう言ってバイツはサーナイトの体を背負った。
 バイツの背中にサーナイトの胸にある赤い突起が食い込む。正直痛い。だが口には出さない。
「バイツお兄ちゃん・・・僕・・・」
「分かってるキルリア。俺達は上層都市に行く。」
 バイツの答えにライキとシコウは溜め息を吐いた。
「言っても聞かぬだろう?お主の事であるから。」
 シコウは何処か諦めた様でそう言った。
 ライキもしょうがないといった表情で頭を振った。
「では集合場所と時間を決めねばな。」
「それは上層都市に入ってから決めようよ。ボクはお洒落なカフェがいいなー」
 一行はとにかく上層都市に入る。
 丁度いいカフェテラスがあったのでそこを集合場所にしたのだった。



「ごめんなさい、バイツ様。」
 サーナイトが突然謝る。
「一体どうしたんだ。いきなり謝ったりして。」
「私の所為で悪い人達に見つかりやすい上層都市に足を運ぶ事になってしまって・・・」
「いいんだよサーナイト。それに上層都市に行きたがってた奴等もいたんだからさ。」
「ですが・・・!」
 バイツはゆっくりと頭を横に振った。
「前にも言ったがお互いの弱点をカバーしあうのがパートナーだろ?」
 バイツはサーナイトの頭に右手を乗せ、ポンポンと慰める様に優しく叩く。
「しかし・・・」
「何だ?俺がパートナーとして不足とでも言いたいのかな?」
「ちっ・・・違いますっ!不足なのは私の方で―――」
「サーナイト。」
 バイツがサーナイトに向き合う様にして立つ。
「自分を責めるな。そこがお前の悪い癖だ。」
 もう一度サーナイトの頭をポンポンする。
「たまにはパートナーに全部任せてみろよ。案外物事がうまく運ぶかもしれないぞ?」
 バイツは静かな笑みを浮かべる。
 サーナイトもそれに応じて微笑みを浮かべた。
 その時、上下黒のビジネススーツを着た一人の男が三人の前に立ちはだかった。
「早いな、もうバレたのか。サーナイト、キルリア。下がってろ。」
「バイツ様・・・」
「バイツお兄ちゃん・・・」
「手を出すなよ二人共、何故ならこいつは―――」
 男は静かに構えた。
 そしてバイツも静かに構える。
「―――改造人間だからな。」
「え?今何と・・・」
 刹那、バイツと男の姿が消えた。
 人々の隙間を縫う様に一進一退の攻防を繰り広げる二人。

470名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:37:11 ID:8dL.pFok
 サーナイトはそれを目で追うのが精一杯でキルリアには何が起こっているのか分からない様であった。



 十分前。
 ヒートはイルに付き合わされスイーツ巡りをしている所だった。
「んーこのソフトクリーム美味しい。」
「お、確かに美味いな。後味がサッパリしてる。」
「でしょでしょ!あ、チョコレート屋さん発見!」
 イルが先行して走り出す。
「あ!おい!ちょっと待てぃ!」
 ヒートも後を追う様に走り始めるが数歩走るとその場に止まった。
「もう嗅ぎつけやがったか。早えなオイ。」
 ヒートの視線の先。人混みを挟んだそこにはスーツを着た男が二人立っていた。
 片方の男がチョコレート屋へ向かう。
「律儀にタイマンって訳かよ・・・しゃあねえな!」
 ヒートは「黒」を瞬時に纏い男へと突進していった。
 チョコレート屋の店内部分では男がショーケースの中のチョコレートを眺めているイルを見つけた。
 男は自然な感じでイルに向かって歩き始める。
 そして、腕を振り下ろす。
 粉々に砕けるショーケースと辺りに飛び散るチョコレート。
 そして悲鳴を上げる店員と困惑する買い物客。
「うん、馬鹿力なだけはあるね。どーするの?店内こんなにしちゃってさ。」
 男の背後から声が聞こえた。
 笑みを浮かべて男を見ているイル。男が仕掛けてきた際、攻撃のタイミングに合わせて瞬時に頭の上を飛び越した訳である。
「あーあ、もうちょっと上層階にいられると思ったのになー」
 他の人間は騒ぎながら出ていく。店内にはイルと男だけになった。
「もういいや、死ね。」



 同時刻。
 ライキとシコウは上層都市でもあまり人目の付かない路地にいた。
 二人の向かう先は軍放出品店。
 店の自動ドアがゆっくりと開く。
 店内にはカウンターに座り新聞を読んでいる店主と品物を見ている三人の客しかいなかった。
 ライキがカウンターへと向かう。
「おじさん、拳銃のパーツが欲しいんだ。ここで扱ってるかな。」
「ここにはンなもん無い。冷やかしなら帰りな。」
 ライキは店主の言葉を無視してカウンターテーブルの上に拳銃を置く。
 チラリと店主はそれを見てまた新聞に目を向ける。
「随分と古い銃だな。」
「でしょ?それにさ、嘘はいけないよ。警察にタレこんでいいの?「本物の銃を裏ルートでこっそり販売してます」ってね。」
「・・・ウチで埃被ってるパーツがあるが使えるかどうか分からんぞ。」

471名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:37:47 ID:/qBnNDz6
 店主が新聞片手に立ち上がり店の奥へと消えてゆく。
「フム、色々な物を取り揃えておるな。」
 シコウは店内を見渡す。
 ブーツ、ヘルメット、ボディアーマー、サバイバルベスト等店の大きさの割には豊富な品数を揃えていた。
「シコウにはナイフがお似合いかな。ほらそこのショーケースの中にあるでっかいの。」
 ライキが指差した先には大型のコンバットナイフが飾ってあった。
「携帯には不便ではないであろうか?この大きさ。」
 そんな事を話していると店主が店の奥から整備用品を持ってくる。
「何年使ってんだこの銃は。」
「八十年・・・そこそこかな。」
「ハッ!一族の宝って訳かい坊主。」
「今でも現役だよ。こいつが今の所これが手に一番しっくりくる。」
 その時シコウが店の入り口に視線を向ける。
 そこには男が二人立っていた。
「ライキ、残念だが銃の整備はまた後だ。」
「バイオケブラー相手にこいつは使えないよ。こんなちゃちな拳銃じゃ使い物にならない。」
 ライキが拳銃を店主に渡す。
「次来る時までに仕上げといて。」
 シコウが瞬時に二人の男に接近し瞬時に両方に蹴りを叩き込む。だが二人は少々後退しただけでその蹴りを容易く防ぐ。
「ふむ、流石改造人間というだけの事はあるな。」
 ライキとシコウは二人の男の脇を通り抜ける。
「鬼さんこちら!手の鳴る方へ!」
 ライキが煽る。
 二人の男が外に出た瞬間にライキが「黒」を纏う。
「あなたはそっちわたしはこっち。それでいいよねシコウ。」
「うむ、では参ろうか。」
 ライキとシコウは二手に分かれた。それを見て男二人も分かれた。



 サーナイトとキルリアが目にした光景は信じられないものだった。
 バイツが吹っ飛ばされて店の壁に叩きつけられているといった場面。
「くそっ・・・」
 バイツがふらりと起き上がる。
 サーナイトとキルリアはバイツに近寄ろうとする。
「バイツさ―――」
「来るな!」
 バイツが叫ぶ。
 二人はその場で竦む。
「来ては・・・駄目だ・・・!」
 男はバイツに渾身の蹴りを打ち込む。
 バイツは両腕で防いだが店の壁ごと店内に吹っ飛ばされてしまう。
 周りからは悲鳴が上がる。
 バイツは一転して起き上がるが、男の攻撃はバイツに休む暇すら与えなかった。
 重い拳が一撃二撃とバイツを襲う。それを防ぐものの攻撃を受ける度に体は吹っ飛んでいき再度壁際に追いやられる。

472名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:38:31 ID:/qBnNDz6
 男はその顔に笑みを浮かべながら飛び膝蹴りを放つ。
 また壁が壊れ、破片と共にバイツは路地裏へ吹っ飛ばされる。
 冷たい路地裏の地面に手をつき、バイツは起き上がる。
「・・・こんなところか。」
 バイツがそう言ったのを男は聞き逃さなかった。
 瞬時に男はバイツに接近、殴りかかろうと拳を振り上げた時バイツの右腕が男の鳩尾にめり込んだ。
 男は胃液を吐いて体をくの字にしてその場に少し浮く。
 それを逃さずバイツは大きく両腕を振りかぶって鉄槌打ちを男の頭部へと叩き込む。
 男の顔面は地面にめり込みそのままピクリとも動かなくなった。
「やれやれ、こんな場面をなるべく見せたくないからな。」
 バイツは律儀に空いた穴からサーナイトとキルリアの所へ向かった。
 先程いた場所でサーナイトとキルリアは待っていた。バイツの勝利。ただそれだけを信じて。
 そしてバイツの姿を見ると二人は泣き出しながらバイツに抱きついた。
「心配・・・かけたな。」
 そんな二人をバイツは優しく抱きしめた。



 「黒」を纏ったライキは訪問者を追い詰めていた。人目の届かない路地裏。袋小路になっている場所で。
「ハッ・・・ハッ・・・何だよ・・・!銃弾通さねえんじゃねえのかよ・・・!」
 両足と右肩から出血している男は息を荒くして壁を背にその場にずり落ちた。
 水晶弾は強化バイオケブラーが編み込まれた皮膚と改造された筋肉を貫通し機械化された骨格まで達していた。
「で、誰に買われたの?あんた。」
「そいつは言えねえ・・・頼む、助けてくれ・・・」
 男は涙ぐんで両手を目の前で組む。
「この街の権力者さんかな?あーこの街だと・・・ドガっていう奴だったかな?」
 その言葉に男はピクリと体を反応させる。
「なっ・・・何でそれを・・・」
「何となくさ、じゃあ・・・死のうか。」
 遂に男は涙を流し始める。
「お願いだ・・・勘弁してくれ・・・」
「命乞いをする為にそんな身体になった訳じゃないんでしょ。こうなった時には腹を括らなきゃ。」
「畜生・・・畜生・・・畜生ッ・・・!」
 路地裏で聞こえた数十の発射音は当人達以外には聞こえなかった。
 何故なら上空で起きた大きな爆発に上層都市の殆どの人間が目を奪われていたからである。
 ライキも上空を見上げる。
「うわー派手にやったねー・・・ヒート。」
 そして「黒」を解き、踵を返し歩き始める。
「さて、メンテナンスしてもらってる銃でも引き取りに行きますか。」



 数分前。
 ライキと同じく「黒」を纏ったヒート。周囲の人間が騒然とする中、男との戦いを楽しんでいた。
「ハッハァー!いいじゃねえか!もっと楽しもうぜ!」

473名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:39:06 ID:/qBnNDz6
 徒手空拳による戦闘。男はヒートの攻撃を全て防いでいた。
「楽しめよホラ!防いでばっかりじゃなくてよぉ!」
 ヒートがローリングソバットで男を蹴り飛ばす。
 ガードした体勢のまま吹っ飛ぶ男。建物の壁に叩きつけられるがダメージは殆ど無いようであった。
「おいおい加減してやってんのに手を出さないってのはどういうこったよ。」
 ヒートは呆れかえった様に言う。
「何の為に改造されたんだよ、そんな身体でトランプ遊びでもしようってのか?」
「行くぞ・・・」
 男が常人離れした速さでヒートに接近、右ストレートを放つ。
 ヒートはそれを受け流す。
「いいね、こうでなくちゃ。だが―――」
 ヒートは近くにあった時計を見ると溜め息を吐く。そろそろ集合時間だった。
 次々と繰り出される攻撃、だが、ヒートは簡単に受け流しながらこう言った。
「―――楽しみの時間はもう終わりみてえだ。テメェを全力で潰させてもらうぜ。」
 瞬時に男の懐に入り込み渾身の力で男を空高く蹴り上げるヒート。その際に生体爆弾を男に付着させる。
「ちょいと派手な花火になるな。」
 そこらに建っているビルより高く蹴り上げられた男。
 そして生体爆弾が爆発する。
 半径二十メートルにも及ぶ大きな爆発。
 男はその爆発の中心で影も形も無くなってしまった。
「ま、こんなもんだろ。」
 ヒートはそう言い残し「黒」を解いた。



「で?どーするの?これで終わり?」
 イルの目の前には血塗れの男が一人立っていた。
「随分と場数は踏んできたみたいだけどねー、ここまで戦力差があれば諦めるでしょフツー。」
 男は目の前にいる少年をどう黙らせるか考えるので精一杯だった。
 二人の衝突で滅茶苦茶になった店内。
 警察が動いているかと思えば全くサイレンの音も聞こえなかった。
 ふと、男の視線がイルの足元に向けられた。
 男は雄叫びを上げてイルに殴りかかる。
 イルは男の上を飛び越えてその一撃を避ける。
 しかし、それがこの男の狙いだった。
「かかったな!こいつで大人しくしてやがれ!このダボがあぁぁぁ!」
 宙に浮いているイルに男が折れて鋭利になった木の棒を投げつける。
 その木の棒は真っ直ぐにイルを狙って飛んでくる。
 しかし、イルは笑みを浮かべた。
 瞬時に構築された氷の盾。
 それは木の棒の勢いを完全に殺し、イルへの接触を阻止した。
 無傷で着地するイル。
「なにが「かかったな」さ、何にもなってないじゃない。」
 イルは溜め息を吐く。
「もういいや、言葉通りこれでお終いにしよう。」

474名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:39:55 ID:/qBnNDz6
 イルは一際鋭利な氷の槍を一本生成する。
 そして、男にそれを投げつける。
 弾丸以上のスピードで氷の槍は男の機械化された胸骨の間を通り心臓を貫く。
 男は口を開閉させながらその場に倒れた。
「単純な力ならバイツの方が上、でもね、力の引き出し方だったらボクの方が上。」
 イルが指をパチンと鳴らすと氷が砕け、男の体から噴水の様に紅い血が噴き出す。
「ンッンー、趣味の悪いオブジェクト。」
 それだけ言うとイルは店を後にした。
 その騒動を見ていた一般人はただただイルを見ている事しか出来なかった。



 上層都市でもあまり人気の無い場所。そこを選んでシコウは戦っていた。
 シコウの鋭い蹴りが男を襲った。
 男はそれを両腕で防いだが奇妙な音が聞こえた。
「もうその両腕は使い物になるまい。」
「まだだ、まだやれる。ヒビが入っただけだ。」
 男は構える。
「お前等から逃げられたとしても俺達を買った奴は俺を生かしてはおかないだろう。ならば―――」
 一陣の風が吹く。
「―――死ぬまで戦うのみだ。」
 男は素早く接近し、シコウに左ストレートを放つ。シコウはそれを簡単に避けるが、男は左腕を戻した反動を生かしてシコウの左側面へと回り込む。そして右ストレートを放つ。
 意外な動きだったがシコウはそれを捉えていた。
 シコウは少し跳躍し蹴りで攻撃を受け止めその反動で距離を取った。
「ぐうっ・・・」
 男の眉間に皺が寄る。右腕に走った激痛。それは機械化された骨がダメージを受けている証拠であった。
「投降しろ、さすれば命は助けてやる。」
「ガキが・・・甘ったれた事を言うな。これは戦いなんだ・・・どちらかが命尽きるまで戦う真剣勝負なんだよ。」
「そうか・・・そうであったな拙者とした事が余計な事を口走ってしまった。許されよ。そして―――」
 シコウが男の懐に潜り込む。
「―――さらばだ。」
 シコウは男の顎を蹴り上げ宙に浮かせる。そして宙に浮いた男の頭に乗りそのまま地面に頭を叩きつけた。
 コンクリートの地面にヒビが入る。
 それを介して広がっていく血だまり。
 そして、シコウはそれを尻目にその場を去った。



「しかし、まあ・・・」
 騒ぎの中の集合場所でライキがそう口を開いた。
「バイツ、君随分とボロボロだね。」
 バイツ以外は街に来た時そのままの服装。バイツは攻撃を受けていた為服はボロボロ。
「うるさい、黙れ。」
「ドレスコードはどーでもいいんだよライキ。問題は俺達の今度の立ち位置だ。この街でこんな事が起こった後だ、俺達ゃどう動けばいい。」

475名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:40:40 ID:/qBnNDz6
 ヒートがライキに視線を移しながら言う。
「なあに簡単な事さ。殴り込み。」
 さらっとライキがそう言う。
「ここの権力者はドガって名前なんだけど・・・シコウ。」
「うむ、少々奴の邸宅の周囲を見て回った。奴は自分の私兵で邸宅を固めている。装備も比較的新しい。」
「うーん、お得意様に死なれるのは困るけど僕達に手を出されるのはもっと困る。」
「でもよぉ、一発かます事は確定なんだろ?さっさと行こうぜ。」
 ヒートが歩き始める。
「待ってよヒート。場所は分かってるの?」
 ライキの声にヒートは歩みを止める。
「フッ、ヒートお主らしいな。」
 その上シコウにまで鼻で笑われる。
「だーっ!うるせえ!だったらさっさと案内しやがれってんだ!」
「じゃあ行こうかみんな。」
 ライキが歩き始める。
 それをバイツは眺めていた。
「どうかなさいましたかバイツ様。」
 サーナイトに声を掛けられハッとするバイツ。キルリアも不思議そうにバイツを見上げている。
「どうしたのバイツお兄ちゃん。ぼんやりして。」
「あ・・・いや・・・」
 ライキが振り返る。
「どうしたのさバイツ。やられすぎて頭打っちゃったとか?」
「何でもない、行こうか。」
 バイツ達はドガの邸宅へと向かった。



「ひいい!何だよこいつ等!」
 私兵の悲鳴を他所にドガの邸宅内に進んでゆくバイツ達。
 外を警備していた私兵は四、五割程倒すと残りは邸宅内へと逃げ込んだ。
 監視カメラの映像も様々なセキュリティもライキが全て無効化した。
 警察は手を出すなとドガ本人が指示していた為、警察官はこの騒ぎを見て見ぬふりだった。
「何をしている!撃て撃て撃てー!」
 悲鳴混じりのその声に私兵達はバイツ達に銃口を向ける。
「どこもかしこもこの有様か。」
 バイツが銃弾を右腕で防ぎながら口を開く。
「サーナイト、キルリア。なるべく物陰に隠れて周りを見ないでついて来るんだ。いいな?」
 サーナイトとキルリアは頷く。
 それを見てバイツは私兵達に襲い掛かる。
 加減はしているので今の所私兵達に死者は出ていないが襲われた当人達は暫く体が動かなくなる程の激痛と戦わなければならなかった。
 そしてドガの書斎へと辿り着くバイツ達。
「大人しく籠ってないでさっさと脱出すればいいのにさ。」
「外に出たら改造人間と俺達との戦いをカメラ経由で見れねーからじゃねえのか。まあ巻き込まれたくないっていうのもあるかもしれねえなあ。」

476名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:41:31 ID:/qBnNDz6
 ライキとヒートが口々にそう言って、二人同時にドアを蹴破る。
 書斎には一人の男が拳銃を構えて待っていた。正確には怯えながらだが。
「く・・・くそう・・・!」
 ライキは男が構えていた拳銃を撃ち落す。
「な・・・何がバイオケブラーだ・・・何が改造人間だ・・・!全然役に立っていないじゃないか・・・!」
「うんうんそうだねドガさん。あいつ等の眼球に仕込まれたカメラを見ていたんだよね。じゃあおやすみ。」
 ライキが銃口をドガの頭に突きつける。バイツはそれを見せまいとサーナイトとキルリアを連れて書斎を離れる。
 やがて一発の銃声が邸内に響き渡った。



 それから数時間後。
「どうなっているんだ一体!全員死んでしまったではないか!」
 広い空間に男の怒鳴り声が響いた。
 それを皮切りに周囲の人間も口々に文句を言う。
 そして部屋の中央に笑みを崩さず黙ったまま立っている男。
 そして男は遂に口を開く。
「いかがでしたか、彼等の眼球に仕込んでいたカメラの映像は。」
 その男はバイツ達を襲った改造人間を売りさばいている男だった。
「ふざけるな!金額の割に何だあの様は!まるで使い物にならないじゃないか!」
 先程怒鳴り声を上げた男が再度怒鳴る。
「ええ、ええ、そうでしょうね。ロクな装備も無いままにあの方々を相手にするのは無謀だとしか言えませんね。それがドガ様の失敗です。」
 怒鳴り声を上げた男の眼前に装備品のホログラフィックが浮かび上がる。
 周囲の人間達の眼前にも同じものが浮かび上がる。
「推奨する装備品のリストです。ボディーアーマー、ハンドガン、アサルトライフル、マシンガン。色々取り揃えております。是非この機会に購入されては?」
 その時男のスマートフォンが鳴った。
「私はこれで失礼します。ご入り用があったら是非我社の製品を使ってください。」
 それだけ男は言うと部屋を出て携帯電話に出た。
「もしもし、社長・・・ええ・・・ドガ様に五体・・・それに某国の紛争地域にも十五体出荷しました。」
 男と電話口の相手との会話は暫く続いた。



「あっそう?五体だけね分かった、今度から手加減するよ、はいはーい。じゃあ、あとはよろしく。」
 ライキがスマートフォンを切る。
 今バイツ達がいるのはホテルの一室。
 ドガを始末した後、のうのうとホテルの部屋を三部屋取っていた。現在ライキとヒートの部屋に全員が集まっている。
「で?何だって?」
 バイツがライキに訊く。
「うん、取り敢えずドガに売れた五体だけみたい。」
「阿漕な商売だな。」
「そう?ビジネスは順調だよ。いつまでもバイツのお金に頼ってちゃいけないと思ってね。」

477名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:42:14 ID:/qBnNDz6
 ライキが話していた人物。それは改造人間を販売していた男だった。
「絶対バチが当たる。その内大きなしっぺ返しが来るな。」
「そう思うバイツ?結構いいビジネスだと思うんだけど。イルとシコウの意見もこの際聞きたいなー」
「ボクはどうも思わないなー」
「拙者も人の働き方には口を出さぬ。」
「あのー・・・」
 サーナイトが口を開く。
「もしかして皆様を襲った方々はもしかして・・・」
「そう、全部ライキの会社の人間・・・いや商品と言った方が正しいかな。」
 バイツは溜め息混じりでサーナイトにそう告げた。
「それでは今回の戦闘は・・・」
「新商品のテストみたいなものだ。お前はそう言いたいんだろう?ライキ。」
「御名答、バイツ君。」
 ライキは笑ってみせる。
「皆様は平気なのですか?傷つく事・・・傷つける事が・・・」
「今の場ではあんまりいい発言じゃないねサナちゃん。僕達はこの様の身体だ、だから多少の危険があっても乗り越えられる。いや、乗り越える事しか出来ないのかな?」
 サーナイトは出かけた言葉をグッと飲み込む。
 考えてもみれば人間全員がまともではない。サーナイトが想いを寄せているバイツもそうだった。
「それでもさあ、みんなの事僕心配だよ。」
 キルリアが口を開く。
「お姉ちゃんも心配してるんだよ。だから―――」
 キルリアの言葉を遮る様にバイツがキルリアの頭の上に右手をポンと置いた。
「心配してくれてありがとうキルリア。ありがとうサーナイト。」
 バイツが柔らかな微笑みを浮かべながらそう言った。
 手を伝ってキルリアに流れる感謝という感情。その感情をキャッチしたキルリアは嬉しくてその場で踊りだした。
 それを見てサーナイトも少し安心した様であった。
「さあ、俺達も部屋に戻ろうかサーナイト、キルリア。」
「はい。」
「うん!」
 バイツは二人を連れて部屋を出て、ドアを閉めた。
 そして隣の部屋。バイツ達の部屋に着く。
 部屋の中に入るとサーナイトが口を開いた。
「少しお休みになられたらいかがでしょうかバイツ様。」
「ん・・・そうだな、今日は疲れたよ。」
 部屋のベッドはツインだった。そして通常のツインベッドよりも幅が広い。
 バイツがベッドに座って横になる。
「お添い寝します。バイツ様。」
「僕も僕も!」
「仕方ないな、二人共。おいで。」
 サーナイトとキルリアはバイツの両隣で横になった。
 暫くすると二人の寝息がバイツの耳に届いた。
「そうか・・・今日は疲れたものな。」
 それだけ言うとバイツの意識も眠りの底へと落ちていった。

478名無しのトレーナー:2014/06/19(木) 22:43:15 ID:/qBnNDz6
はい、この話はこれでお終い。
誤字脱字は気合いで解読してね。
なんだかんだ言っても続くのねこの作品。
でもネタ切れなのも事実。
あーあ、誰かネタ提供してくれないかな。

479pdf ebooks:2014/06/25(水) 00:49:51 ID:F2PmMBF.
If you’d like an almost endless supply of FREE books delivered directly to your iBooks, Kindle, or Nook app - <a href="http://www.cukbooks.mobi">PDF EBOOK FREE DOWNLOAD</a> - or almost any other eBook reader app -- then you’ll want to install eBook Search right now.
pdf ebooks http://www.cukbooks.mobi/new_2155059.htm

480名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:30:38 ID:/qBnNDz6
サーナイト18禁小説スレの方で箱1発売までに書き上がればいいなーと楽観視していましたが無理でした。
だって身内の不幸があったんだもん!
SS書いてる場合じゃねえ!って事で一週間位パソコンに触りすらできませんでした。
シュトロハイムさんの台詞をパクるとすれば「SSなんて書いとる場合かーッ」状態でした。
そんなこんなで出来上がったSSですが見ていって下さい。

481名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:31:22 ID:/qBnNDz6
 旅を続けるバイツ達はある街に辿り着いた。そこは上層都市と下層スラムの差があまり大きくないという珍しい街だった。
 権力者のこれといった話を聞かない為、その所為かバイツ達は大胆にも上層都市の歴史ある高級な旅館の部屋を取っていた。
 畳から発せられる藺草の匂いが立ち込める室内は、空調設備も完璧で暑くも無く寒くも無くといった様子。
「いい眺めだな。」
 バイツが部屋の窓から外を見下ろしてそう口にする。立派な庭園の中に立っている松の木が見える。
「大部屋しか取れなかったけどね。」
 不機嫌気味に言ったライキは座椅子に座る。
 ライキの言った通り大部屋しか取れなかった一行。
 文字通り大部屋なのでサーナイトとキルリアも同じ部屋に布団を敷いて寝る事になる。
 別にバイツ、イル、シコウの三人にとっては問題ではなかったが、問題があるとするならばライキとヒートの未だに克服できないポケモン恐怖症の件だった。それはサーナイトとキルリアも例外ではなかった。
「まだ怖いのか?」
 バイツはライキとヒートに訊いた。
「怖いよ・・・未だに怖い。」
 ライキは静かに言う。
「バイツよぉ。お前いきなり寝首を掻かれるって事考えた事ねーのかよ。」
 ヒートに至っては震え上がっている。
「何を言ってるんだ?お前等はおかしい。まるで病的だな。いやもうここまで来たら病気だな。精神科に行ってカウンセリングでもしてもらえ。そして虹色のお薬貰ってこい。」
 バイツは呆れ果てた様にそう言った。
「さーて、悩める羊共は置いておいて。サーナイト、キルリア。ポケモンセンターに行くぞ。」
 声を掛けられたサーナイトとキルリア。サーナイトは座ったばかりだが立ち上がる。キルリアは畳の上で寝転がっている。
「分かりました、行きましょうバイツ様。」
「えー・・・せっかく匂い嗅いでいたのにー」
 キルリアはそう言うものの部屋を出ていこうとするバイツとサーナイトの後についていく。
「では皆様、行ってまいります。」
 サーナイトが室内に残っている四人に声を掛ける。
「うむ、道中気を付けてな。」
 シコウがそう言って見送る。
「いってらー」
 イルも座椅子に座りながら呑気にそう言った。
 サーナイトとキルリアは四人に向き直ってのお辞儀で、バイツは背中を見せながら右手を振って言葉に返した。



 旅館を出るとバイツは背伸びをした。
「ああいう空間もいいけれど太陽に当たるのもいいな。」
「あの・・・バイツ様。」
 サーナイトがおずおずとバイツに声を掛ける。
「私達ライキ様とヒート様に何か失礼な事をしたのでしょうか?」
「ん?どうしてそんな事を言うんだ?」
「だってライキお兄ちゃんとヒートお兄ちゃん。二人共嫌な顔をしてたから・・・」
「気にするな。昔の件を未だに引きずっているのさ。下らないと言ったら悪いが被害妄想気味なんだ。」
 バイツはポケモンセンターまでの道を歩きながらライキとヒートにあった「昔の事」を話す。

482名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:32:04 ID:/qBnNDz6
「そうですか・・・その様な事が・・・」
「じゃあ、僕達が悪い訳じゃないんだね?」
 サーナイトとキルリアは胸を撫で下ろした。
「だから気にするな、お前達はお前達らしくしていればいい。」
 そうバイツは言ったものの内心不安ではあった。
 トラウマになってしまう程心に大きな傷を負っているライキとヒート。それがどの様にサーナイトとキルリアに影響を及ぼしてしまうのか。
 バイツは考え事で頭が一杯だった。
「様・・・!バイツ様!」
 サーナイトの声で我に返るバイツ。気が付けばポケモンセンターの入り口の真ん前で考え事をしていた様だった。
「どうかなさいましたか?」
「どうしたの?」
 サーナイトとキルリアがバイツの目を見つめる。
「あー・・・いや、何でも無い・・・ちょっとな・・・」
 バイツは二人の視線から目を逸らすとポケモンセンターの中に入った。それに続く様にサーナイトとキルリアもポケモンセンターの中に入っていった。



 その頃、ライキは部屋で鼻歌混じりに拳銃の整備をしていた。
 ヒートはというと大の字になって畳の上に寝転がっていた。
 イルは部屋に置いてあるお菓子の試供品に舌鼓を打っていた。
 のんびりとしている三人を見てシコウは溜息を吐いた。
「全くお主等は・・・いいだろうこの機会だ、話をせぬか?」
「話をしよう。あれは今から三十六万・・・いや一万四千年前だったか。」
「イル、あのゲームの台詞はNG。まあよい、お主等サーナイトとキルリアの事だが・・・」
「足手まといじゃないだけマシでしょ。バイツにとってはね。」
 ライキが拳銃を組み立てる手を休める事無くそう言った。
「ライキ、お主・・・」
「僕にとっては・・・油断できない存在さ。」
「全くだぜ。何が原因で心変わりするかたまったもんじゃねえ。」
 ヒートが上半身を起こして口を開く。
「つまりお主等二人にとってサーナイトとキルリアは信頼を置けぬ存在だと?」
「うん、悪いけどそういう話になるね。」
 悪びれている様子も無く、かといってふざけている様子でもないライキ。その言葉には嘘や迷いなど無かった。
 手入れをしていた拳銃が組み上げるとライキは立ち上がった。
「この話はお終い。ヒート少し外に出よう。」
「ああ、そうだな。」
 二人は部屋を出ていってしまった。
「イル、お主はどう思う?」
「んーと・・・まあ、見た感じバイツの心の支えになっている。そんなところかな。そう言うシコウはどうなのさ。」
「拙者も同じ答えだ。持ちつ持たれつの存在、今のバイツには必要なパートナー。だ。」
 シコウは腰を下ろしながら口を開く。
「ポケモンを持ったことが無い我等には到底理解できぬのかもしれぬな。」
「バイツの気持ちが?」

483名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:32:39 ID:/qBnNDz6
「うむ。」
 シコウはそう答えを返し黙り込んだ。
「下の売店見に行ってくるね。シコウはお留守番。」
 そう言ってイルも部屋から出ていってしまった。
「バイツよ。お主にとって二人の存在とは何だ?」
 ただ一人残されたシコウが独り言ちる。
 その答えはバイツにしか分からない。
 もしかしたら、バイツ自身も分からないのもしれない。



 数十分後、ポケモンセンターを出たバイツとサーナイトとキルリアは街中の通りを堂々と歩いていた。
「ああ・・・こんなにも外を堂々と歩ける事が素晴らしい事だったなんて。」
 大げさにバイツは今の心境を表に出した。それを見て小さく笑うサーナイトとキルリア。
「どうしたのですか急に。」
 サーナイトが笑みを浮かべてバイツに訊く。
「いや、こんな時他の街だったら高確率で見つかってひと騒ぎ起こしているだろうなって思ってさ。」
「でもさっきのはキャラ変わりすぎだよバイツお兄ちゃん。」
 キルリアはそう言った。
「そうか?」
「そうだよー」
 バイツは二人を見て静かな笑みを浮かべる。
 これ程ゆっくりと平和的に、それもこの三人で街を歩いた事など無かった。
 ふとバイツが横を向くと温泉饅頭を売っている店が目に付いた。座れる椅子もあって、どうやらここで休憩できるようだった。
「なあサーナイト、キルリア、ここで温泉饅頭食べていかないか?勿論晩御飯に響かない程度にだが。」
「食べた事ないんだけど美味しいの?」
 キルリアが首を傾げる。
「まあ、お味は食べてからのお楽しみってやつだな。」
「でもバイツ様の懐が・・・」
 サーナイトはバイツに負担を掛けまいとして、断るつもりでいた。
「気にするなサーナイト。そこに座って待っていろ。」
 バイツはそう言って店頭販売している店主の所へ行った。
「すいませーん、饅頭六つ下さい。」
 店主に饅頭を頼んでいるバイツの背を見ながらサーナイトとキルリアは椅子に座った。
 サーナイトも薄々は感じていた。
 普通だったら座っている間に事件に巻き込まれているという事を。
 しかし、ここでは何も起こらない。途切れる事の無い人の流れがそれを物語っていた。
「キルちゃん・・・」
「どうしたの?お姉ちゃん。」
「私、このままで良いのでしょうか。」
「良いって何が?」
「・・・皆様に護られながら旅を続けていて・・・それでこの弱い体の所為で迷惑ばかりかけていて・・・」
「でもさあ、その迷惑も何処か楽しんでるよねお兄ちゃん達って。」
「そうですけれども・・・」

484名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:33:37 ID:/qBnNDz6
「お姉ちゃんは遠慮しすぎなんだよ。もっとお兄ちゃん達に頼ってみたっていいんじゃない?」
 キルリアの言葉にサーナイトは考え込む。
 その考え事を遮るかの様にバイツの声が聞こえた。
「買ってきた。ほら温かいぞ。」
 キルリアに温泉饅頭を差し出すバイツ。
「わー!あったかい!いただきまーす。」
 饅頭を半分食べるキルリア。
「うん、美味しい!」
 キルリアの顔に笑顔が浮かぶ。
「喜んでもらえて何よりだ。ほら、サーナイト。」
 バイツがサーナイトの目の前に温泉饅頭を差し出す。
「いただきます・・・」
 躊躇いがちにサーナイトは温泉饅頭に手を伸ばす。そして温泉饅頭を食べる。
「美味しい・・・」
 自然と顔が綻ぶ。
「どうした?何か難しい表情をしていたみたいだが・・・」
「・・・何でもないです。」
 そう言って微笑んだサーナイトの隣に座るバイツ。
「悩み事があるなら言ってくれ、なるべく善処する。」
「私―――」
 そこまでサーナイトが口にした途端通りの向こうが騒がしくなった。
「ライキかヒートが何かやらかしたか?」
 バイツは温泉饅頭を一口で食べると、立ち上がった。
 視線の先は騒ぎの中心。
「私もお供します。」
「僕も行く!」
「駄目だ、ここにい―――」
 そこまで言いかけてバイツは口を閉じ考え始めた。
 騒ぎの原因が自分達ならばこの二人も危ない。
「いや、ついてきてくれ。ただし、俺の傍を離れるな。」
「はい。」
「うん!」
 二人の返事を受けてバイツは騒ぎの現場に向かって歩き始めた。
 人の壁をかき分けて進んでいく。そして騒ぎの中心に辿り着く。
 そこに広がっていた風景はバイツの思い描いていたものとは違っていた。
 二人の警官に取り押さえられている男がいた。
「何だこいつ等!ドロヘドロ!」
 取り押さえられている男が抵抗しながらそう口にする。
「抵抗しても無駄だ!」
「お前等二人に負ける訳無いだろ。流行らせコラ!流行らせコラ!ムーミン野郎お前離せコラ!」
 そうこうしている内に三人目の警官が男の取り押さえに加わる。
「何だお前!?」
「しばらくホッとしたろう!」
「三人に勝てる訳無いだろ!」
 警官の言葉に男は一層暴れ出す。

485名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:34:15 ID:/qBnNDz6
「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!!」
「フル焼きそば!(大盛り)」
 バイツはその空耳だらけの光景を見て、とても平和だなと感じた。
「現場内に立ち入らないで下さい。」
 そう言ってジュンサーが野次馬を止めて人の壁を作り上げていた。
「何かあったんですか?」
 バイツがジュンサーに訊く。
「地下組織のメンバーを取り押さえている所です。危ないから下がって。」
 男はなおも抵抗を続ける。
「ゲホッゲホッ!!(致命傷)あーやめろ!(舌打ち)あーヤメロ!!(舌打ち)あ”ー!お前らニュートリノだからなお前!(博識)放せコラ! ア”ッー!!(クルール)」
「シュバルゴ!(炎四倍)」
 そう言いながら警官が男の両手を紐で縛る。そして男が咳き込む。
「あーもう・・・もう抵抗しても無駄だぞ!」
「嫉妬がぁ!(抵抗) 鼻糞がぁ!(暴言)やめろォ(建前)、ナイスぅ(本音)ンアッー!」
 そして警官の内の一人が服を脱がせに掛かる。
「あーやめろお前、どこ触ってんでぃ!(江戸っ子)どこ触ってんだお前!」
「オラ見してみろよホラ。」
「お前なんだ男の乳首触って喜んでんじゃねぇよお前(歓喜)」
 バイツは踵を返した。
「旅館に戻ろう。」
「えー・・・もうちょっと見ていたいなー」
 不満気にキルリアが言う。
「ラストは幸せなキスをして終了だから。ほら、行くぞ。」
「その・・・私も少し見ていたい様な気が・・・」
「駄目だサーナイト、それだけは駄目だ。何かの道を大きく外す事になる。」
 バイツは歩き始める。サーナイトとキルリアが進みやすい様に人混みを割りながら。



 旅館の部屋の前に戻ってきたバイツ達。
 部屋のドアを開けようとしたが開かず、ノックをしても全然反応が無い。
「全員外出中って事か?」
 バイツはポケットの中からカードキーを出すとドアの取っ手の上部にある差込口に差し込む。そして苦笑交じりに言った。
「今時、カードキーって・・・まあ歴史がある建物なんだから・・・しょうがないか。」
 カードキーを認証したドアのロックが外れた。
 三人は部屋の中に入る。
 バイツは温泉饅頭が入った紙袋をテーブルの上に置き座椅子に座り、サーナイトとキルリアは畳の上に座った。
 数分後、キルリアが横になってそのまま寝息を立ててしまった。
「疲れさせてしまったかな?」
 そう言ったバイツはサーナイトの方を向く。
「キルちゃんは疲れが溜まっていてもその場には出さない子なので・・・」
「これで二人っきりって訳だ。」
 意味深い発言をするバイツ。
 サーナイトは顔を紅くしてもじもじと下を向いている。

486名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:34:46 ID:/qBnNDz6
「あの・・・マスター・・・」
「そう呼ばれるのは久しぶりだな。」
 バイツはそう言ってサーナイトに近付き唇と唇を重ねた。
 すぐに唇を離すとサーナイトが恥ずかしそうに口を開いた。
「もっと気持ちがいい事を・・・してほしいです・・・」
 バイツの左手の人差し指がサーナイトの右足の大腿部を下から上に這う様になぞってゆく。
「マスタぁ・・・焦らさないでください・・・」
 そして普段は隠れている股の割れ目に到達する。
 サーナイトの体がピクリと反応する。
「不安か?」
「いいえ、マスターを受け入れる準備は出来ています。」
「受け入れる準備って・・・何をするのか分かっているのか?」
 サーナイトは更に顔を紅に染める。
「昔落ちていた雑誌でなら・・・読んだ事があります・・・」
「じゃあ、体験は初めてって訳だな。」
 バイツの人差し指がサーナイトの中にゆっくりと入ってゆく。
「あっ・・・」
 サーナイトから甘い微かな喘ぎ声が発せられる。半分喘ぎながらサーナイトはバイツにこう言った。
「キルちゃんが起きてしまったら・・・どうしましょう。」
「その時はその時さ。俺達の関係を全部教えてしまおう。」
 喘ぎ声が漏れるサーナイトの口をバイツは自分の唇で塞いだ。
 優しく指を抜き差しする。徐々に濡れてゆき、滑りがよくなってくる。
 その時、激しくドアをノックする音が二人の耳に届いた。
 そして聞こえてくるシコウの声。
「バイツ!サーナイト!キルリア!中に居るのだろう!開けてくれ!ここのドアがオートロックだという事を忘れて外に出てしまった!」
 バイツとサーナイトはゆっくり離れた。
「全く、こんな時に限って邪魔が入る。」
「次は完全に二人きりになった時ですか・・・」
 サーナイトが残念そうに言う。
「分かったよ!シコウ!今開ける!」
 バイツは玄関部まで行きドアを開ける。
「いや、済まぬな。お主等が戻っていてくれて助かった。」
「何で俺達が中に居る事が分かった?何で俺とサーナイトとキルリアだっていう事が分かった?」
「ライキとヒートは二人で外に出て、イルも一人で外に出た。連中の性分だからすぐには戻ってこない。そして部屋には三つの気配。と言えば後は何も言わずとも通じるか?」
「感服したよ、流石忍者。」
 バイツは素直にそう言った。



「あーあ、古き良き街ってか?土産店とか温泉饅頭とかしかねえのかこの街は。」
 ヒートはライキと一緒に歩きながら、そうぼやいた。
 ライキはヒートの言葉に答えを返そうとはしなかった。
「さっきから何も喋らねえな、ライキ。」

487名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:35:19 ID:/qBnNDz6
 押し黙っている友人にヒートが語り掛ける。
「サナちゃんとキル君の事どう思う?」
「どうしたライキ、急に。」
「おかしいのは僕等の方なんだ。それは分かっている。でも・・・」
「言いたい事は分かるぜ。でもそいつは―――」
 そこまで言ってヒートは口を閉じた。
 いつの間にか数人の男達に囲まれていた。
「ンだよ手前等。」
「あなた達がライキさんとヒートさんですね?」
 男の一人が口を開いた。
「だったら何さ。そもそも最初から知っていて声を掛けたんでしょ?」
「御名答です。実はお二人にお願いがありまして。」
「内容によるぜ。一体をすればいいんだ?」
 ヒートが答える。
「実は我々の仲間が警察に捕まってしまいましてね。奪還の手助けをしていただければと。」
 男達は包囲網を狭める。
「断れば?」
 物怖じせずにライキが言う。
「その時にはここであなた方に死んでいただきます。」
 男達は懐に手を入れて消音器付きの拳銃を取り出す。
「どうです?引き受けますか?それとも・・・」
「ヒート、僕の銃サイレンサー付いてないよ。」
「お前が発砲したら大事になるな。しゃーねー貸しにしとくぜ。」
 ヒートが眉をしかめながら男達を見回す。
「悪ぃが答えはノーだ。ライキ、しゃがめ。」
 ライキがしゃがんだ瞬間ヒートは後ろにいた男の足を掴んで頭の上で振り回し始めた。
 一瞬で薙ぎ倒される男達。
 そして掴んでいた男を放り投げるヒート。男は顔面から地面に叩きつけられる羽目になってしまった。
「ま、こんなもんだろ。お前等が束になってもこの程度だって事だ。後は警察に任せようじゃねえか。」
「グググ・・・」
 この騒ぎを見ていた一般人が警察に通報しているのをライキは見逃さなかった。
「警察はヤバい、戻ろうかヒート。」
「おう、そうだな。」
 二人は足早に旅館までの道を歩いていった。



 それから数時間後。夕食を終えた一行は部屋でそれぞれくつろいでいた。
 ライキが鼻歌混じりに巻き取り式のキーボードを広げて、何かを検索していた。
「地下組織・・・ねえ。」
 ホログラフィックで表示されている情報を見ながらライキはぼやいた。
「一体どうしたライキ、何かあったのか。」
 バイツが訊く。
「ん・・・いやね、地下組織に勧誘された訳ですよ。」
「一応断っといたけどよ。」

488名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:35:59 ID:/qBnNDz6
 先程の一件を話すヒート。
「お主等、また派手に事を荒立てたな。」
 シコウが溜息交じりにそう言った。
「しょうがないでしょ、ああいう手合いは何を話しても無駄なんだから。それにさ街中で銃を撃たなかっただけでもすごいと思わない?」
 更に深く溜息を吐くシコウ。
「さーて、風呂にでも入ってくっかな。」
 そう言いながらヒートは背伸びをした。
「僕も行くよ。ちょっと待ってて。」
 ホログラフィックを消して、キーボードを巻くライキ。
「ボクも行く!」
 イルも勢いよく立ち上がる。
「待てよ。お前右腕―――」
 イルがヒートに右腕を見せる。本来はカイオーガの力を有した藍色の右腕。しかしそれは人工皮膚を被せる事によってカモフラージュされていた。
「お風呂のお湯凍らせないでね。」
「えへへ、どうだろうねーライキ。お湯が熱かったら分からないよ?」
「兎に角お主等。目立たぬようにな。」
「ヘイヘイ、分かってるよシコウ。そんじゃーな行ってくんぜー」
 そして残された四人。
「拙者達は部屋の風呂だな。」
「そうだなシコウ。先に入れよ。」
「ぬ?良いのか?まあ拙者はシャワーだけで十分だがな。」
 手早く済ますつもりでいるシコウ。無意識の内に荒事に対して用心し始めたのかもしれない。
 そしてシコウが浴室へ向かう。
 それと同時に旅館の従業員が部屋に入ってくる。
「布団を敷きに来ました。」
「はーい。お願いします。」
 そう言ってバイツはサーナイトとキルリアを連れ、邪魔にならない所に移動した。
 そして、布団が敷き終わると同時にシコウが浴室から出てきた。
「おお、もう布団が敷いてあるではないか。」
「じゃあ、次俺入る。」
「あっ、じゃあ僕も一緒に入っていいかな。」
 キルリアがバイツの右手を両手で握る。
「いいぞ、キルリア。サーナイトはどうする?」
「私は最後でいいです。どうぞごゆっくり。」
 サーナイトがそう言ったのでバイツとキルリアは浴室に行く。
 大部屋に残されたシコウとサーナイト。
「サーナイト、お主大丈夫か?」
「平気です。バイツ様にポケモンセンターに連れて頂いたおかげで―――」
「違う、拙者が訊きたいのはお主の在り方だ。辛くはないのか?」
 サーナイトは少し考え込んでこう言った。
「平気です。皆様のやり取りを見ているだけでも楽しめますし・・・それに・・・」
「バイツ、か?」
 サーナイトは顔を少し紅くして頷いた。

489名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:36:40 ID:/qBnNDz6
 それだけでシコウは何かを悟ったらしくフッと微かに笑みを浮かべた。
 それから五分もしない内にバイツとキルリアが浴室から出てきた。
 キルリアは火照った体を冷ますかの様に布団に飛び込む。バイツは髪をタオルで拭きながらサーナイトに近寄る。
「俺達もシャワーだけ浴びてきた。サーナイトの番だな。」
「はい、入ってまいります。」
 サーナイトは浴室へと向かった。
 浴室内でローブを消してシャワーの栓を捻る。
 キルリアの匂いともう一つの匂い。
 バイツの匂い。
 夕食前のバイツとの事を思い出し、サーナイトの下半身が熱くなる。
「マスター・・・ごめんなさい。私・・・いけない子ですね・・・」
 サーナイトは湯を浴びながら下半身へと手を伸ばしていった。



「サービスシーンはカットで御座る。」
 誰も居ない方を向いてシコウが言った。
「おいシコウ誰に向かって喋っているんだ?」
「なあに気にするな。」
「気になるな・・・まあ、それは追々話してもらおうか。」
 バイツは一つの布団の上で胡坐を掻きながら怪訝な表情を浮かべそう言った。
「さて、拙者は少し散歩に出かけるが、お主等はどうする?」
「俺は部屋に残るよ。」
「僕も部屋に残るー」
「そうか、では行って参る。」
「気を付けてなー」
 シコウの背中に声を掛けながらバイツは布団の上に寝転がった。
 全く、勝手な奴等だ。とバイツは思った。
 キルリアはテレビを観始める。
 それから十五分後、サーナイトが浴室から出てきた。
「はにゃー・・・」
 フラフラとバイツの隣まで移動すると布団の上に倒れた。
「うわっ、お姉ちゃん真っ赤だよ。随分長くお風呂に入ってたね。」
「のぼせたんだろ、いいさ俺が介抱する。」
 バイツはタオルを水で濡らし、冷えたタオルをサーナイトの首に巻いた。
「ありがとうございます・・・バイツ様・・・」
「随分長い風呂だったな。」
 のぼせて顔の紅いサーナイトが更に顔を紅くした様に見えた。
「秘密・・・です・・・」
 その時、ドアの開く音がした。
「何だシコウ早かっ―――」
 刹那、バイツの眼前には振り下ろされた銃床が見えた。
 寸前で右腕を使って一撃を防ぐバイツ。
「中々の反射神経をしているな。」
 銃床を振り下ろした男の後ろに男が立っていた。

490名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:37:21 ID:/qBnNDz6
「さて、お前がバイツって野郎だな。」
「誰だ、あんた。」
 バイツは突然の来訪者を睨みながらそう言った。
「おおっと大人しくしていてくれよ。お前のポケモンがどうなっても知らないぞ。」
 突然部屋に入ってくる複数人の男達。男達は銃口をバイツではなくサーナイトとキルリアに向けた。
「野郎・・・」
 銃口からも窺える殺気。
「まず先に言っておくが俺達に上下の関係は無い、俺を人質に取ってこのポケモン達を解放しようとしても無駄だ。お前が何かをしでかした際に報いを受けるのはこの二匹だ。」
 のぼせて寝込んでいたサーナイトも異変に気付き上体を起こす。
「こんな手をとって悪いな、だがこいつはチャンスなんだ。俺達にとって・・・お前等を手に入れる事はなぁ。」
 こういう手合いか。とバイツは考えた。
 バイツ達の尋常ならざる力。その情報がこの様な連中にも知られていた。
「この旅館には俺達の仲間がドンドン入り込んできている。全員でな。要するに占拠だ。ああ、こっそりとやる必要など無い、表向きは仲間の解放の為の占拠。だが真の目的は―――」
「俺達・・・か。」
「その通り、さて、残りの四人は何処だ?」
「・・・知っている。」
「ほほう、何処だ?何処にいる?」
「知っているのは奴等の居場所じゃあない。知っているっていうのはあんたの父親がカマ野郎って事だけさ。」
 そう言ってバイツは笑った。
 男は憤慨しバイツを殴り倒した。
「バイツ様!」
「バイツお兄ちゃん!」
「小僧、いい気になるなよ。この状況が何なのか分かって言ってんのか?」
「ああ、最悪の状況だっていう事は分かっている。旅館は占拠。パートナーに銃を突きつけられて俺はノーとは言えない状況に置かれている。」
「よく分かってるじゃねえか。もう一度だけ言う。テメェの。仲間は。何処だ。」
「大浴場は探したか?そこに居なければ俺は知らない。」
 男がインカムで仲間に指示を出し始める。
 指示を出し終えた男はバイツとサーナイトとキルリアに立つ様促した。
「移動だ。大広間に全員を集めている所だ。お前もお前のポケモンもそこに行ってもらう。行くぞ。」
 サーナイトとキルリアが相手の手の内にある以上バイツは何も手出しが出来なかった。



「うー寒い寒い。折角温泉に入ったのにこれじゃあ湯冷めしちゃうよ。もう秋なんだなぁ。」
 旅館の外にある小高い丘。そこでライキが座りながら旅館の建物を見ていた。
「報道陣に警察。ドンドン集まってきたじゃねえか。」
 ヒートが正面玄関入り口付近を見ながらそう言った。
「で、どーするのさ。そろそろバイツを助けに行く?」
 イルは楽しそうにそう言う。
「まあ待て、バイツが身動きとれぬ以上我等も迂闊に動くべきではない。」
 シコウはそう言って旅館の一階部分を見た。内側が見えない様にバリケードが張られていた。
「何故か手元には狙撃銃あるんだけど・・・ってか何でバイツが身動き取れないって分かるのさ、シコウ。」

491名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:37:59 ID:/qBnNDz6
 ライキがシコウに訊く。
「バイツが暴れていればこの件はもう終わっていよう。では何故終わっていないのかというとサーナイトとキルリアを手の内に収めてバイツの行動を制限させているのだろう。拙者が相手ならそうする。」
「うわぁ、えげつない人。」
「褒めて欲しい所だな。」
「で?雑談中悪ぃけどよ、お二人さん。バイツを救い出すプランはあるのか?」
 ヒートの言葉にイルが付け足す。
「サーナイトとキルリアもねー」
「無論、考えている。が、拙者とヒートが潜入。お主等が援護位しか浮かばん。」
「バイツ一人を救う位ワケ無いさ。ほっといても自分で出てくるからね。でもサナちゃんとキル君が絡んでいるのだったら話は別さ。いっそこの際だからバイツに選ばせようか。」
「ライキ、お主・・・」
「サナちゃんとキル君ならスラムのポケモン達とも馴染めるでしょ。二人の平穏な暮らしか・・・それともまた自分を犠牲にし続けて二人を護るのか。ま、その前に撃ち殺されなきゃ、の話だけどね。」
「ライキよぉ、お前本当にそれでいいのか?」
 意外な事に真っ先に口を開いたのはヒートだった。
「確かによ俺達ゃそういう人間だ。でもなぁ・・・何だか嬢ちゃんと坊主がバイツと一緒に居ないとなーんかしっくり来ねえんだよ。それに俺達も―――」
「分かってるよ。ヒート。」
 ヒートの言葉を遮ってライキが言った。しかしどこか寂しげな声色だった。
「僕等も何処か分かっていた筈さ・・・どこか意固地になっていたのかもしれない。いいんじゃないかな、もう心を許しても。」
「だが、嬢ちゃんと坊主に限るぜ。俺はそこまで広い心を持っちゃいねえからな。」
「話は纏まったー?」
 イルがつまらなそうに言う。
「いい?ヒートとシコウが屋上から建物内に侵入して。ライキは窓側の敵の頭を撃ち抜く。」
「イルはどうするのさ?」
「僕はライキの手助け。どうせ状況によって狙撃位置変えるんでしょ?その時野次馬さん達をキミに近付けない様にする。」
 イルが野次馬と表したのは警察官と報道陣の群れ。
 ヒートが視線を人の群れからイルに視線を向けて口を開く。
「・・・それアレだろ、全部シコウの案だろ。」
「うん。」
 ライキとヒートは少し賢くなったイルを期待していたのだがどうも違う様で肩を落とした。
「話はもうよいか、時間が惜しい。」
「そうだな。シコウ悪ぃけど屋上までひとっ飛びしちゃくれねえか。」
「承知。だが空から中継しておるテレビレポーターがどうにも厄介だ。」
「僕がその問題を片付けるよ。」
 そう言ったライキの手には信号拳銃が握られていた。
「こいつをあさっての方向に撃ってカメラがそれに注目した瞬間にシコウが飛ぶ。それでいい?」
「フム、カメラが全部そっちを向いてくれればいいが・・・まあ良いお主の案だ。信用しているぞ。」
「うん、ありがとうシコウ。じゃ撃つよ。」
 夜空を紅く染め上げる程眩しい信号弾が放たれて群衆がそっちを向いた。それから一呼吸置いてシコウはヒートを抱えて旅館の屋上へと向かって飛んだ。
「さあ移動しようかイル、まずは窓際の連中を狙撃できる場所に移動しないと。」
 そして信号弾が光を発しなくなった後二人は闇に溶け込んだ。

492名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:38:34 ID:/qBnNDz6



「外で信号弾?何かの合図か?」
 他の客を集めた大広間で男が仲間の報告を聞いて訝しげな表情を浮かべた。
 そして、伸縮性のある太いワイヤーで胴体と足を椅子に縛り上げられたバイツに視線を移す。
「・・・あいつ等だな。」
「どうして分かる?」
「さあな、だが気を付けた方がいい。今頃あんたの仲間は・・・」
 そこまで言ってバイツは静かに笑い始めた。
 男はバイツを殴る。
 椅子ごとバイツが倒れても男は殴る手を止めなかった。
「もう止めて下さい!どうしてその様な酷い事をするのですか!?」
 サーナイトが涙を浮かべながら男の足元にしがみ付いて言う。
「こいつ等はこの程度じゃ死にはしねえよ。」
 そう言いながら男はバイツを殴る手を止めた。そしてサーナイトを蹴り払う。
 そして、床の上に倒れるサーナイト。
「サーナイト!」
「惨めなもんだなぁ?え?おい。」
 男は床に倒れたサーナイトに近付いて緑色の髪の毛を乱暴に掴む。
「銃が怖くてパートナー一人護れねえんだもんなぁ。どうだ?この気分。手出ししたくても出来ない気分はよぉ?」
「私は銃など怖く―――」
 そこまでサーナイトが口にするとバイツが叫ぶ。
「止めろサーナイト!挑発するな!」
 バイツの言葉でグッと口を噤んだサーナイト。男の懐には拳銃の膨らみが見て取れた。
「利口な兄ちゃんだなぁ。お前のパートナー」
 サーナイトは涙を湛えた紅い目でキッと男を睨み付けた。
「おお怖い怖いハハハ。」
 男はまたそう言いながらバイツを殴ろうと移動した。その時何かが足に引っかかった。
「おっと、こんな所になん―――」
 ソレに視線を落とした瞬間男はサッと血の気が引いた。
 倒れていたのは自分の仲間。
 男はふと思い出す。何故「銃を向けられて動けないはずの」サーナイトが自分の足にしがみ付いてきたのかを。
 答えはすぐに分かった。
「よぉ、地下組織の兄ちゃんもう終わりか?」
 男の後ろから声が聞こえた。
 そこに立っていたのはヒートとシコウだった。
「なっ・・・なっ・・・何ぃ!?」
 男は銃を手にするのも忘れてそう言うばかりであった。
「やけに早いじゃないかヒート、シコウ。」
「良く言うねえバイツ君よぉ。お前と嬢ちゃんと坊主を助けに来たんだぜ?」
「それに自己記録更新でござる。」
「何の自己記録だよ。」
 ヒートが呆れた様に口を開いた。
「ま、つー訳だがあんたはどっちでやられたい?首を折られるか苦無で斬り裂かれるか。」

493名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:39:14 ID:/qBnNDz6
「蹴撃もあるぞヒート。」
「一々うるせえよ、ったく。」
 ここでようやく男が自分の持っている拳銃に気付いた。
 そして拳銃に手を掛けた瞬間、シコウの鋭い蹴撃が男の首をへし折った。



 その後、相手から何の音沙汰も無い事を不審に思った警察の特殊部隊が侵入してくる前にバイツ達は旅館から離れていた。
「世話を掛けたな。これで皆から大きな借りが出来た訳だ。」
 手足が自由になったバイツは普通に立ち上がってそう言った。男から散々殴られていたがダメージは全然無かった。
 サーナイトとキルリアに視線を移すバイツ。二人は俯いて何も喋らない。
「悪かった。怖い思いをさせてしまって。」
 サーナイトはそういう意味ではないという意思表示で頭を横に振った。
「私達・・・何もできませんでした・・・」
「あの状況下じゃ何も出来なかった。お前達に落ち度は無いよ。」
 バイツはそう言ったがサーナイトは納得しないのかさらに強く横に頭を振った。
「でも本当は!貴方に手を出している人に何も出来なかった!撃たれるのが怖くて私・・・私・・・」
 涙ぐみながら必死に言葉を探すサーナイト。
「私達二人共・・・この先バイツ様の・・・皆様の足を引っ張るのであれば・・・この場で別れようと思います。」
「何を言い出すんだサーナイト・・・キルリアは違うよな・・・」
「僕もお姉ちゃんと同じ意見だよバイツお兄ちゃん。僕怖かった・・・自分の身を護る事が精一杯で・・・何も出来なかった。」
 バイツは俯いて何も言わなかった。
 それが二人の意思ならば何も言わずに送り出す。そう決めていた。
「本心ではないのだろう?」
 ふと、シコウが言った。
「・・・それでも私は皆様を護るべき存在。それがただ皆様に護られていただけでは・・・」
「そんな事で俺達から去るのか・・・」
 バイツは片腕でキルリアを抱きかかえもう片方の腕でサーナイトを抱きしめた。
「俺は・・・何が何でもお前達の事を護る、そう心に決めた。これは俺の我が儘だがな。だけどこんな俺の我が儘に付き合ってくれないか?」
「バイツ・・・様・・・」
 サーナイトとキルリアもバイツに抱きつき堰を切った様に泣き始めた。
 それが肯定を意味する事は誰の目にも明らかだった。
「俺達の事は気にするな。お前達の事を俺達が護るよ。」
 バイツは二つの温もりを大切に抱きしめた。
「良い終わり方じゃねえか、で?誰がこの場を締める?」
 ヒートがそう言った。
「バイツは無理だよねーじゃあボクがやる!」
「待って待ってイル、ここは僕が行く。」
「いや、ここは拙者が。」
「結局誰なんだよ。俺が行くか?」
 そして、ギャアギャアと騒ぎ出す四人。
 そして話し合いの末。イルが締める事となった。
「アハハーごめんねボクで。じゃ、この場はお開きという事でー」

494名無しのトレーナー:2014/09/12(金) 22:41:00 ID:/qBnNDz6
なんだかもうね、こんな感じで終わりですよ。
誤字脱字は気合いで解読とあと皆様にちょっとした事を一つ。
最近一話完結型のSSばかりを書いている理由は、どの話が最終回になるか分からないからです。
もし半年位待っても音沙汰の無い時には・・・危ないですよ?

495名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:51:38 ID:/qBnNDz6
最近サンセットオーバードライブとチーコレとwarframeをやっています。どれもソロで遊んでいます。
オメガルビー?アルファサファイア?何のこったよ(すっとぼけ)

496名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:52:17 ID:/qBnNDz6
 十二月二十四日。正午。
 丁度雪の降り始めたあたりにバイツ達は一行はとある街に辿り着いた。
「あはっ!雪だ!」
 キルリアが声を高らかに上げた。
 サーナイトは微かな風に乗って眼前に降ってきた雪の粒を両手で受け止めた。案の定すぐに雪の粒は溶けてしまう。
 降り始めた雪はまだ粒が大きくなかった。
「丁度いい時に降ってきてくれたな。」
 白い空を見上げてバイツがそう言った。
「何が丁度いいのさ。」
 ライキが不機嫌そうな声でそう答える。
「雪の中野宿しなくてもよくなったって事さ。だがぼんやりしている暇は無いな、ライキ、上層階で泊まれるホテルを見つけてくれ。」
「本気で言ってるのバイツ。こんな日に空いてるホテルなんかあると思ってるの?」
「いいから探せ。パソコンのバッテリーはまだまだ余裕だろ。」
「しかも僕達を狙っている連中が目に付きやすい上層階に行くなんて・・・分かってるよバイツ探せばいいんでしょ探せば。」
 ライキが座り込んだところでヒートが口を挟んだ。
「なあ、ここじゃ目立つからよサ店とかファミレスで探そうぜ?」
「混んでいるお店はイヤだよ。」
 イルが口を開く。
「まずは行かぬ事には始まらん。行こう。」
 シコウが歩き始めた。
「待ってシコウ、君らしくないね。」
 立ち上がりながらライキは言う。
「いつもは君が先陣切って上層部に行く事を拒否する筈なのにどうして今回は乗り気なのさ。」
「今日位いいであろう。」
「今日も明日も無ェよバカヤロー」
 ヒートが暴言を吐く。
 暴言を吐いてつまらなそうに歩き始めるヒート。それに続く六人。
「もしかするとバイツ、この二人はそうなのか?」
 歩きながらシコウが小さくバイツの耳元で囁いた。
「ああ・・・もしそうだとすれば百五十年前から変わらないな。」
 わざとライキとヒートに聞こえるように言ったバイツ。
「何か言った?バイツ。」
「精神的な成長が見られない事を嘆かわしく思っているのさ。」
「ンだと?バイツ、テメェ・・・」
 そこまで口にしてヒートは口を閉じる。
 当人もつまらないと感じたのだろうか。
「あ、よさげなお店はっけーん。」
 イルがファミリーレストランを見つけた。
「じゃあさっさと行こうか。ホテルの空きなんて無いだろうけど。」
 半ば不貞腐れてライキがそう言った。



 イルが最初にファミリーレストランを見つけて四十五分後の事。

497名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:52:59 ID:/qBnNDz6
 バイツ達は五店舗目にしてようやく空きのある店に入る事ができた。
「お店を見つける事ができて良かったですね。」
 バイツの隣の席に座るとサーナイトが安堵の声を上げる。
「そうだなサーナイト。それに丁度お昼だ、何か食べていこう。」
 バイツがメニュー表を取って眺める。そこへバイツの隣に座っていたキルリアが横からメニュー表を覗き込む。
「わー!これおいしそう!」
「それは結構量があるな、キルリアこっちなんてどうだ?」
 二人してメニュー表に釘付けになっていた。
 バイツと話しそびれたサーナイトは辺りを見回した。
 メニュー表を見ながらあれやこれやと選んでいるイルに落ち着いて対応しているシコウ。
 ライキは不機嫌そうな顔をしてパソコンでホテルの空き状況を確認していた。
 一方、ヒートも不機嫌そうに辺りの席を見回していた。
 サーナイトも視線を周りの席に移す。
 何と自分達以外の席は全部カップルばかりだった。
 楽しそうに談笑している男女達。サーナイトはそれを見てその男女達に自分とバイツを当てはめる。
 少し頬が紅く染まる。
「サーナイト。」
 バイツの声で妄想世界に入る一歩手前だったサーナイトは現実に引き戻される。
「ほら、メニュー表。」
「あ、ありがとうございます。」
 サーナイトがメニューに目を通し始めているのを見てバイツは周囲を慎重に見渡した。
 しかし、周りはカップルだらけ。
 警戒するのが馬鹿らしくなってくるバイツ。
 やがて全員がメニューを決めて店員を呼んだ。
 そして、メニューが来るまで待つ事に。
「みーっけ、ホテル。三部屋。この近く。中々好条件じゃない?」
 ライキが声を上げた。
「ライキ、その部屋を取れるか?」
 バイツの言葉にライキは頷く。
「っていうかもう取っちゃったー」
「良く部屋が余っていたな。」
「だって一泊十何万する部屋だし。」
「空いている訳だ・・・」
 金額を聞いてバイツは何故こんな時期に部屋の空いているホテルがあるのか何となく納得した。
 その報告を聞いてもヒートは不機嫌そうな表情を直す事は無かった。
 サーナイトもキルリアもそれを不思議に思ったが本人に直接聞くのは避けるべきだと思っていた。
「クリスマス嫌いなんだよ。あの二人。」
 バイツが口を開いた。
「百五十年前から何の変わりも無いのさ、いい意味でも悪い意味でも。」
「バーイーツー、聞こえてんぞコラ。」
「こういう時こそ平常心を保つべきじゃないのか?ライキ、ヒート。」
「余計なお世話だよバイツ。君に言われたくない。」
「ハッ、精神的に余裕があってよござんすねーバイツ君?」
 ライキとヒートに噛みつかれるバイツ。だが、あえてそうする事でサーナイトとキルリアから暴言の矛先を逸らそうとしていた。

498名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:53:36 ID:/qBnNDz6
 二人が何かを言おうとした時ライキとヒートのメニューが先に届いた。
「お、来たみたいだね。」
「悪いが先に食ってるぜー」
 機嫌が少し良くなった二人。
 そんな二人を見てバイツは単純だなと思った。



 それから一時間後。
「あー食べた食べた!」
 満足気のイルを先頭にファミリーレストランを出るバイツ達。
「チェックイン時間までどれくらいある?ライキ。」
 バイツがライキに訊ねる。
「あと一時間以上あるよ。どうする?」
「さて、どうしたものか。」
 シコウも考え始めた。
「ンなモンは一旦バラバラに行動して、チェックイン時刻の十分前にホテルの玄関前に集合とかでいいんじゃねーか?」
 珍しい事にヒートが意見を出す。
 その上またも珍しい事に誰も反対意見を出さなかった。
「よし、じゃあそうしよう。だがサーナイト、キルリア、まずはポケモンセンターに行こうか。」
 サーナイトとキルリアは頷いた。
「先に行ってる。」
 バイツはサーナイトとキルリアを引き連れてポケモンセンターまでの道を歩いていった。
「さーて、俺はどうすっかなー」
「カップルの数でも減らしに行く?」
 ライキの提案をヒートは鼻で笑って受け流した。
「甘いな、お望みならこのクリスマスムード一色の街を阿鼻叫喚の地獄に変えてやるぜ?」
「で?やれるならホントにやるの?」
 イルがニコニコ顔でヒートに訊く。
「当たり前よ、この俺を誰だと思ってやがる?」
「根性の捻くれた阿呆にしか見えぬな。」
 シコウの一言がヒートの心に突き刺さる。
「テ・・・テメェ・・・」
「拙者は少々面白い見物を見に行く。騒ぐだけではお主等も面白くなかろう、ついて来るか?」
 そう言うとシコウは歩き始めた。
「ボクはシコウについていこうかなー」
「こんな場所で駄弁ってたって仕方ないしね。僕も行く。」
 イルとライキもシコウの後をついて歩き始める。
「んがあー!もう何なんだよテメェ等は!」
 ヒートが叫んだ。そして三人の後をついて行く事にした。



 シコウの行き先というのは映画館だった。
「映画館かよ・・・」

499名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:54:15 ID:/qBnNDz6
 何かを期待していたヒートはガックリと肩を落とした。
「大昔の映画をやっているそうだ。」
「ああそうかい、その大昔の映画はスクリーンの中でもラストで恋人同士がベロチューしてんだろ?」
「いや、今日はゾンビ特集で・・・」
「うし、観るか。」
 立ち直りの早いヒート。
「中々いいチョイスしてるよね。この映画館。」
「でも中途半端で切り上げるハメになるんじゃない?時間的に。」
「イル、昔の格言にこんな言葉がある。こまけぇこたぁいいんだよ!!だ。さっさと入ろうぜ。」
 今度はヒートが先陣して映画館の中に入って行った。



 バイツはポケモンセンターに向かう途中途中でクリスマス色に飾り付けられた街中を目にしていた。
「綺麗です、雪が降っているのですからホワイトクリスマスになりますね。」
 バイツはサーナイトにそう言われ足元に目を向けた。薄っすらと雪が積もり始めていた。
「綺麗なのはいいがこれ以上寒い場所にいると体に障る。早くポケモンセンターに行こう。」
 急かすバイツに対して少し俯くサーナイト。
「・・・お姉ちゃん?」
「・・・何でもありません。」
 サーナイトは何かを諦める様にしてそう口にした。
 今日という日はポケモンセンターが混雑しているのが分かっている。幾ら短時間で回復させても自分の体を回復させる頃には集合時間が近いだろう。そうなればバイツが街を探索する時間が無くなってしまう。
 深く溜息を吐くサーナイト。
 そしてポケモンセンターに着いたのだが混雑状況はサーナイトの思った通りであった。
 右を見ても人、左を見ても人。
「時間掛かりそうだな。」
 長蛇の列に並ぶバイツとサーナイトとキルリア。
「・・・ごめんなさい。」
 ポツリと謝るサーナイト。
「どうして謝る。」
「私の体が弱くなければバイツ様と一緒に今頃この街を見て回れていたのにと思いまして・・・」
「そうかもな。だがどういう形であれお前達と一緒にいるのは楽しいよ。」
 バイツは笑って見せる。
「それでも・・・」
「はいはい、お姉ちゃんネガティブな考え方になってきてるよ。バイツお兄ちゃんに甘えようよ。僕達の体を気遣ってくれているんだからさ。」
「そう・・・ですね。ごめんなさいバイツ様。」
「だから謝るなよ。何も悪い事していないのに。」
 バイツのこの気遣いがサーナイトにとっては重荷に感じた。
 やがてバイツ達の番がやってきた。
「回復が終わり次第お呼びいたします。」
 ジョーイにそう言われたバイツ。
 サーナイトとキルリアが奥の部屋に促されてバイツに背を向けた所でバイツは二人に背を向けた。
「待合室も混んでるな。」

500名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:54:45 ID:/qBnNDz6
 言っても仕方が無いのでバイツは待つ事にした。



 サーナイトとキルリアの回復が終わり、それから少し経っての事。
「ホテルの玄関ってここ・・・だよな。」
 ホテルの広さに驚くバイツ。
 玄関口だけでも大型バスが三台縦列駐車しても余裕のあるスペース。
「本当に・・・ここなのですか・・・すごく大きいです・・・」
「こんなに広いのー!?やったー!」
 サーナイトとキルリアが驚きながら辺りを見回す。
「こんなに広いホテルなら人を見つけるのも大変だろうに・・・」
 そうバイツが言った時、遠くから声が聞こえた。
「おーい、バイツー!こっちこっち!」
 叫んでいたのはライキだった。その隣にはヒート、イル、シコウと全員が揃っていた。
 彼等に近付くバイツ達。
「さ、中に入ろう。」
 ライキが先導してホテルの中に入ってフロントに行き、チェックインをする。
「んー広いなあ。」
 イルがホテルの中を見渡す。
 玄関口も広ければ中も広かった。広々としたロビーには大きなクリスマスツリーが飾られていた。
「これ本物かなバイツ。」
「んー、そうじゃないか?」
「燃やしてみてよ。」
「馬鹿かお前は。」
 そんな時ヒートが呟いた。
「吹っ飛ばしてえな・・・この木。なあバイツ俺は―――」
「みんなー!行くよー!」
 必要事項を書き終えたライキが他の面々を呼んだ。
 ベルボーイの案内で部屋に辿り着く。最上階に近い階だった。
「バイツ達はそっち。僕等はこっち。イル達はあっち。」
 ライキが部屋を分ける。そして、いつもの三組に分かれて部屋に入った。
「ひろーい!」
「あ、ああ・・・」
 キルリアが喜び、バイツが力無く返す。
 それもそのはず、広いリビングスペースにはバーが置いてあった。それに部屋の隅にはまたもや本物の木でできたクリスマスツリーが置いてあった。それでもまだ何か設置出来る程の広さだった。
「凄いですね・・・トイレとバスルームが別々です。」
 サーナイトもその広さに脱帽して言う事が少しずれていた。
「ま、まあ確かに値段の張るだけあるな。このホテル。」
 バイツの足は自然とベッドルームに向かう。
 ベッドルームも広かった。
 部屋の中央にはキングサイズのベッドが一つあった。
「ライキめ・・・そういう部屋割りか。」
 バイツが察した通りライキやイルの部屋のベッドは大きめのシングルベッドが二つ並んでいる形式だった。

501名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:55:27 ID:/qBnNDz6
「わー!大きいベッドだー!」
 キルリアがベッドに飛び込む。
 その後に続けて入ってきたサーナイトが頬を紅色に染めてこう言った。
「キルちゃんが寝た後で少し付き合っていただけませんか。」
「いいけど・・・何に?」
「秘密です。」
 意味深な発言を残してサーナイトはベッドルームを後にした。



 夕食は階下のレストランで取る事にした。
 一通り食べ終わって部屋に戻るとキルリアは明るい顔でこう言った。
「バイツお兄ちゃん、お姉ちゃん、外に出ようよ!何となくいい物が見れると思うんだ!」
「そうか?ここから見える街の夜景も捨てがたいぞ?」
「僕は雰囲気と直に触れ合いたいの。部屋に籠ってたら今日という日が勿体無いよ。」
「んーそれもそうだな。ライキやヒートじゃあるまいし。」
「でもよろしいのですかバイツ様?疲れが溜まっているのでは?」
 気遣うサーナイト。
「なに、そこら辺をぶらっと歩いて来るだけさ。サーナイトはどうする?」
「私はこのお部屋で待っています。ところで・・・」
 バイツとキルリアを見比べてサーナイトは口を開いた。
「その様な計画で大丈夫ですか。」
「大丈夫だ。問題ない。」
 自信満々に部屋を出て行くバイツとキルリア。
 二人を見送ったサーナイトは部屋にあった観光雑誌を取る。
 写真を眺めながら様々な事を考えるサーナイト。
 三十分も経たない内にバイツとキルリアが帰ってきた。
 人の川にもまれてボロボロになった二人はバタンとうつ伏せに倒れてしまった。
「神は言っている、ここで死ぬ運命ではないと・・・」
 キルリアが歯ぎしりしながらそう言った。
 倒れた二人にサーナイトは近付き、しゃがみこんだ。
「その様な計画で大丈夫ですか?」
 再度サーナイトが問い掛ける。
「一番いいプランを頼む。」
 倒れっぱなしの二人を見てサーナイトは仕方が無いといった風に溜め息を吐いた。しかし、その表情は微笑みを浮かべていた。



 雪の降る街中。情報を持っているサーナイトが先導して街中を見る事になった。
「ライキ達に何も言ってこなかったな。ま、いいか。」
 バイツはサーナイトに導かれるままに歩いていた。
「ここの通りは人があまり居ませんけれども装飾は綺麗なのです。」
 クリスマスの電飾が飾られているが確かに人通りは少ない。これならばのんびりと観光できるとバイツは思った。
「よくこんなスポットを見つけられたな。」

502名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:56:06 ID:/qBnNDz6
「雑誌に載っていた通りに案内しただけです。」
「それでも凄いじゃないか。」
「ありがとうございます。」
 サーナイトが微笑みながら礼を言う。
「見て見て!あっちに大きなクリスマスツリーがあるよ!」
 キルリアは通りの終わり、開けた場所を指差す。
 三人はその大きなクリスマスツリーの下に移動した。
 ゆうに三十メートルはあるモミの木。
 それに着飾る様に点けられた電飾。それに雪が積もり柔らかい光を放っていた。
 ふと、バイツが周りを見渡すと見事にカップルだらけ。その中で接吻しているカップルを見つけた。
「んー・・・」
「どうかなさいましたか?」
「ライキとヒートがクリスマスをぶち壊そうとしている理由が分かりかけてきた。」
 サーナイトも周りのカップルがはしゃいでいるのを見る。
「楽しそうですね・・・皆様。」
 バイツはサーナイトの目を見た。何処か悲しげなその瞳。
 それを見てバイツはサーナイトを抱き寄せた。
「きゃっ・・・!」
 いきなりの事だったので小さく悲鳴を上げるサーナイト。
「このあたりに喫茶店は無いか。」
「ええと・・・たしか、向こうの通りに一件・・・」
「よし、キルリア。移動だ。行こうサーナイト。」
 バイツはサーナイトを抱き寄せたまま歩き始めた。
 サーナイトは自分の心臓の鼓動が高まっているのを感じた。
 そして思った、できる事ならずっとこのまま、と。



 喫茶店に着いたバイツ達。どうやら混んではいない様であった。
 こじんまりとした店内。
「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ。」
 そう言ったのは身なりのきっちりした四十代ぐらいのオーナー。カウンターで料理をしている所だった。
 バイツ達は外の見える窓際の丸いテーブル席に座った。
「いきなりどうしたのですか?」
「何、少し小腹が空いただけだよ。」
 嘘だ。とサーナイトは思った。
 メニュー表をテーブルに広げキルリアと何を頼むかを話しているバイツ。
 サーナイトは真意を問い掛けようとしたがぐっと堪えた。
「いらっしゃいませ、雪の降る中大変だったでしょう。」
 オーナーが水の入ったグラスを三つ机の上に置いた。
「降ってくる雪よりも人の波が大変でしたよ。」
「それは仕方ありませんよ。今日という日は特別ですから。」
 軽く会話をした後渡されたメニュー表を眺めるバイツ。横からキルリアが覗き込む。
 そんなバイツを眺めながらサーナイトは一言呟いた。
「特別な日・・・」

503名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:56:37 ID:/qBnNDz6
 サーナイトは視線を窓に移した。大粒の雪は止みそうにない。
「・・・イト、サーナイト。」
「え?あ、はい。」
「ほら、メニュー表。」
 バイツがメニュー表を差し出すがサーナイトは受け取らなかった。
「私はバイツ様と同じメニューがいいです。」
「ん?そうか。キルリアにも同じのがいいって言われたよ。」
 それから少しするとオーナーがバイツ達の席に近付いてきた。
「ご注文はお決まりでしょうか。」
 バイツはオーナーにメニューを伝える。
 サーナイトは意を決してバイツの胸の内を聞こうとした。
 その時、キルリアが声を上げた。
「ねえ見て!テレビでこの街の事中継しているよ!何か事件みたい!」
 室内の片隅にあるテレビにバイツもサーナイトもオーナーも他の客も視線を移した。
 生中継中の女性レポーターが逃げ惑う人々を背に現在の状況を伝えていた。
『また大通りのクリスマスツリーが倒され燃やされています!人の影です!人影が四つ炎を背にして歩き始めました!マスクで顔が見えません!私も退避します!現場からは以上です!』
 大きな炎を背に四人が歩いている所を数秒映した後スタジオにカメラが戻された。
 バイツが耳を澄ませると消防車とパトカーのサイレンが混ざって聞こえた。
 それに四人というのが気になった。思い当たる節があるのだがそれには一つ妙な点があった。
「お客様方!お代は結構ですので早く避難を!」
 オーナーも慌てながら自分の出来る事をしようとしている。
「バイツ様、私達この惨劇を止められる事が出来るでしょうか。」
 店から出たところでサーナイトがバイツの右手を両手で握った。
「この惨劇を止めて、幸せそうにしていた方々の笑顔を取り戻せるでしょうか。」
 自分の幸せより他人の幸せを願うサーナイトの想い。
 バイツにそれが伝わったのか静かに頷いた。
「ホテルの部屋に戻っていろ、俺一人で片付ける。」
「私も行きます!」
「僕も行く!」
 二人も案の定ついて来ると言い始めた。
「駄目だ、最悪こいつはクリスマス嫌いの馬鹿二名と何故かそれに加担している二名の相手をしなければならない・・・信じてくれ必ず戻る。」
 バイツの真剣な表情にサーナイトとキルリアは頷くしかなかった。
「いい子達だ。」
 そしてバイツは騒ぎの中心部へと向かって走り始めた。



「いい感じに燃えてるね。」
「昔っから変わらねえよ、天使のケツを焦がすのもテルミットの熱で何とかならぁ。」
「ねえねえ二人共こんな大ごとになったけど大丈夫なの?」
「事態の収拾がつかねばとんでもないことになるぞ、終わりはあるのだろうな?」
 話した順からいくとライキ、ヒート、イル、シコウの四名が炎を背に歩いていた。覆面をしているので当人達の顔が見られることは無い。

504名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:57:15 ID:/qBnNDz6
「んーいいねえ。火遊びついでにカップル達の悲鳴が響く夜ってのは。」
 ヒートは嬉しそうにこの状況を語る。
 四人は街中のクリスマスツリーを片っ端から燃やしていたのだった。
「一番の問題はバイツ達なんだよね。さっき部屋を訪ねた時外出してたみたいだけど。」
「ライキ、噂をすれば影が差すといわれている。あまり無駄口を叩くな。」
 シコウは視線を動かさずそう言った。
「そこの四人!止まりなさい!」
 拡声器の声は四人の視線を集めるという事に成功した。
 視線の先には拡声器を持ったジュンサーと警官隊、消防士と消防車が待っていた。
「あなた達はもう逃げられません!お縄に着きなさい!」
 その声は空しく四人の足を止めるには至らなかった。
 徐々に一団に近付く四人。
 後ろではクリスマスツリーを発火元とした燃える炎が雪の降る聖なる夜の空を焦がしていた。
「放水します!」
 消防士の声にヒートは笑いだした。
「まだテルミット反応の真っ最中だぜ?」
「ヒート・・・水蒸気爆発が起こったら危ないのは僕達なんじゃない?」
「あー・・・そうだな。」
 ヒートが咳払いをして口を開いた。
「おい!テルミット法知ってるよな!水をかけたらどうなるかどうなるか分かるか!」
 ジュンサー達は首を傾げた。
「水蒸気爆発でボン!」
 ヒートは簡単に水を掛けた際の結果を纏める。
「くっ!じゃあ炎は消せないのか・・・!」
「大人しく反応が終わるまでそこで待ってな。ま、俺達は他の所に行って放火するけどな。」
 ヒートが高笑いし始める。その光景に狂気を覚えジュンサー達は無意識の内に一歩下がった。
「来るぞ・・・!」
 その時シコウが空を見上げて言った。
 四人と警官、消防の間に割り込む様に「誰か」が降ってきた。
 「誰か」は右腕を地面に叩きつけるような格好で降ってきた。その為に落下地点には小型のクレーターが出来上がる。
「な、何者ですか!」
 ジュンサーは降ってきた「誰か」の顔を見た。
 包帯で顔を隠しており顔は分からなかったが一本に束ねられた長い黒い髪は確認できた。
「やべえ・・・バイツだ。」
 ヒートはこっそりと呟いた。
「えーっとバイツが現われた。って事はプランBでいこう・・・でプランBって何?」
「ねぇよそんなもん。」
 そんな会話が展開される中バイツは四人に視線を合わせたままじっとしていた。
「引けって事なのかな。もうここで焚き火ごっこはおーしまい。」
 イルが呑気に言う。
「ここが終着点だ、悪いが戻るぞ。」
 そうシコウが言った途端にイルとシコウの二名はその場から瞬時に逃亡した。
「あんのヘタレ共・・・!」
 ヒートが歯ぎしりするとバイツが構えた。
「で?どうするヒート。バイツには勝てないよ。」

505名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:57:48 ID:/qBnNDz6
「ぐぬぬ・・・」
 悔しそうにしていたヒートだが自分の力量を知っているからこそバイツには勝てないと悟った。
 そしてライキとヒートも空いていた路地裏から逃げた。
 それを確認してバイツは三階建ての建物の上を目掛けて跳んだ。
 見事成功しバイツもその場から逃げおおせた。
 その場に残ったジュンサー達。何があったのか分からないといった表情で地面の小さなクレーターと炎を見比べていた。



 サイレンの音が微かに聞こえた。
 サーナイトはベッドの上に座りながらバイツの帰還を待っていた。
 隣ではキルリアがスヤスヤと眠っている。
 窓から外を除くと雪の白と炎の橙の二つに分かれて街が染まっていた。
「マスター・・・」
 サーナイトが小さく呟く。
 その時、部屋の入り口から微かに声が聞こえてきた。
 サーナイトは入り口へと急ぐ。
「まあ、ノリってやつかなーそんなに怒んないでよバイツ。」
 ドアの前で耳を澄ますとイルの声がサーナイトの耳に入る。
「シコウ、お前は止める側だろう。何でライキとヒートの言いなりになっていたんだ?」
「イルと答えは同じだ。」
「ノリか・・・とにかくこんな大惨事になってしまった。どうするかは明日考えよう。」
 バイツの声が聞こえ、いきなりドアが開く。
「お帰りなさいませ。」
 サーナイトは慌てる事も無くバイツを迎える。
「ああ、ただいま。」
 それだけ言ってバイツは部屋の中に入らなかった。
「どうなさいました?」
「キルリアは?」
「眠っています。」
「そうか・・・サーナイト。外に出ないか。」
「いいですけれども・・・外の被害はどうなっているのですか?」
「極力知らない方がいい。行こうサーナイト。」
「はい。」
 そして、外に出た二人。あの惨事の後だから焦げ臭い。
「こっちだサーナイト。」
 バイツに手を引かれるサーナイト。
 辿り着いた先にあったのはイルミネーションが施された小さなモミの木がある広場。小さいといっても五メートルの大きさだった。
「綺麗・・・」
 サーナイトはそのモミの木に近付いて雪が降り続いている空を見上げた。
 そしてバイツに振り向く。
「メリークリスマスですねマスター」
 サーナイトは近付いてきたバイツと静かに唇を重ね合わせた。

506名無しのトレーナー:2014/12/23(火) 23:58:54 ID:/qBnNDz6
はい、このお話はこれでお終い。この後の展開は各自で妄想してください。
何だかテンポが悪い一作に仕上がった気がします。
急いで仕上げたからかな?
誤字脱字は解読が出来る所だけしてください。
あとテルミットって文中の使い方で合ってるのかな?どうなんでしょうね。
ところでクリスマスですけれど皆さん彼女とか、いらっしゃらないんですかぁ?(ねっとり)
僕はいません(震え声)

507逆元 始:2015/01/01(木) 07:30:34 ID:gN8MKgYo
大丈夫だ。問題ない。(ふるえ声)
僕にはアブソルのサイカ(自作1/1ぬいぐるみ)がいるので…(よりふるえ声)
バイツのヒトおひさ〜♪(無理やりテンションアップ)
メリークリスマス…はもう過ぎた…
あけましておめでとうございます。(元旦の早朝)
年越しの夜更かしついでの徹夜的謎テンションでお送りしております逆元 始ですよ〜。
僕が音信不通になってからいくつめのバイツ達でしょうか。
相変わらずいじらしいサーナイトにキュンキュンしてしまいます。
ご想像にお任せします?
この後滅茶苦茶セッ●スした
に一票(笑)
ヒートのクリスマス…というかイチャイチャカップルへの憎悪が怖い
ライキも悟ったような口振りながらもヒートと同じく…
イルは相変わらずノリで付き合うし…
シコウは止め…ない…だと…?
こらアカン…シコウも染まりつつあるということか…
ただでさえブレーキ役の方が少ないのに
シコウが一緒になってアクセル踏んでるなんてタチが悪い…
バイツはもうキレていいと思うよ。

そしてバイツ到着。
描写を見るにアイアンマン意識してません?
イメージカラー赤だし着地地面パンチだし
まあ何はともあれバイツの隠れ特性"超威嚇"で事態は終息。
で、めでたしめでたし…じゃねーよ!
燃えたツリー誰が片付けんだよ!ヒート自重しろよトラブルメーカー!
ツッコミ不在がつらいですねこの作品。
まぁ読者にツッコませるというエンターテイメントも嫌いじゃないので…
いつ完結になるかわからないなんて不吉な事言わんといて下さい!(どこ弁?)
僕だけじゃなく見えない読者達もそう思っているハズです!
きっと…おそらく…たぶん…(弱)

少なくとも僕は応援していますので、これからもお元気で作品投稿お願いします。


追伸
ちなみに僕が音信不通になった主な理由は仕事の忙しさと携帯水没という自力ではどうしようもないものから、
最近始めたネトゲというわりとゲスい自業自得、
そして夏の間に完成させるつもりがクリスマスという節目にも正月という節目にも間に合わず
未だに製作途中の1/1ぬいぐるみサーナイトだったりする。
サナの日(3月7日)には間に合わせたい…
そしたら立体物の画像投稿という外道な方法でピクシブデビューするんだぁ…。

508名無しのトレーナー:2015/01/01(木) 09:26:03 ID:YBIaG5Yg
>>逆元氏
お久しぶりです。そしてあけましておめでとうございます。
今回のお話は最初バイツとシコウをツッコミ要員にしようと思ったのですがキャラが勝手に歩き出して収拾がつかなくなってしまってこの様です。
それとバイツの降ってくる場面はHALO5βのアクションの一つGROUND POUNDを意識してみました。
アシストが優秀なのにエリアル始動が残念性能な社長さんはあまり意識していませんでした。
今後何かあるたびにバイツを降らせようかと思います。
ネタが無いけれどもう少しSSを書こうかなーと思う今日この頃でした。
シリーズ物が始まったら奇跡だと思ってください。

509名無しのトレーナー:2015/03/07(土) 00:34:19 ID:/qBnNDz6
3月7日なのでSSを置いていきます。
WARFRAME投げて鬼斬やりながら書き上げました。
なので誤字脱字等あるかもしれません。

510名無しのトレーナー:2015/03/07(土) 00:35:00 ID:/qBnNDz6
 街は二つの顔を持っている。
 一つは発展を遂げて栄華を極めた街並み。通称「上層階」。
 もう一つは何もかもが無い下層スラム。
 人口は下層スラムに住む貧困層が圧倒的に多く、その中に紛れ込む犯罪者も多く見られた。
 「彼等」も犯罪者の様に下層スラムに紛れ込んで休憩を取る事が多かった。
 それはある夜の事であった。
 少年が一人、ある街の下層スラムを歩いていた。
 少年の名前はバイツといった。
 彼は両手をズボンのポケットに突っ込み周りを見渡しながら歩いている。まるで何かを待っているのかの様に。
 やがてその時が訪れた。
 バイツが歩みを止める。
 十数人の男が自動小銃を構えバイツを包囲したのだった。
「何が目的だ・・・って聞かなくても分かるか。」
 男達に課せられた任務は一つ。バイツ達の身柄を拘束する事であった。
 上層階にいて男達に命令を下している人物の目的はバイツ達の半永久的な生命活動をしているその体の秘密。
「スキャン開始。」
 それから五秒も経たない内に。
「スキャン完了。ターゲット確認。」
 男達の持っている自動小銃の銃口がバイツに一斉に向けられる。
「我々と共に来てもらおうか。」
 バイツは周囲の男達とは違う色合いの制服を着ている男にそう言われた。
「嫌だといったら?」
「強制的に来てもらうだけだ。来い。」
「嫌だね。」
 その言葉に男は笑みを浮かべた。
「ならば強制的に連れていくまでだ。撃―――」
 男がそこまで口にした途端バイツは人間の反応速度を遥かに上回る動きで包囲していた男達を次々と倒していった。
「何っ!」
 男が気付いた時には部下が全員倒されていた。
「さて、残るはあんた一人だけだが。」
 男の背後から聞こえる声。男は拳銃を取り出し後ろを振り向き、銃を構えた。
「なあに、悪い事は言わない俺達の隠れ家に来てもらえないか。」
 今度は側面。男は再度振り向き銃を構える。
 誰も居ない。
「答えは?」
 また、背後から声が聞こえた。今度は近距離。
「い・・・嫌だ・・・」
「遠慮する事は無い、隠れ家でパーティーの準備をしてきたんだ。誰かを招かないと・・・なあ?」
 男はその声に頷かなかった。
 バイツは男の正面にわざわざ回り込むと右手で男の鳩尾に強烈な一撃を叩き込み、男を気絶させた。
 それから男の体を軽々と担ぐ。
 そしてバイツは夜の闇へと消えていった。
 暫くすると倒れている男達の持ち物を奪う為に浮浪者達が集まり始めた。

511名無しのトレーナー:2015/03/07(土) 00:35:31 ID:/qBnNDz6

 バイツ達の隠れ家ではライキとヒート、イルにシコウという面々が揃っていた。
 やがてバイツが男を担いで帰って来るとライキが歓声を上げた。
「やったじゃんバイツ。今度こそ何か聞けるといいなー」
 と言いながら彼はバッテリーと電気ショック棒を何処からか引きずり出した。
 それを見ながらヒートが口を開いた。
「おいライキ、お前は優秀な情報屋じゃなかったのかよ。こんな奴の口を割らせるよりもチャチャっとこいつの上司の事をパソコンで調べ上げてそこに突撃すりゃあいいじゃねえか。」
「物事には準備ってものがあるのさ、それにこんな事嫌いじゃないでしょ?」
 ヒートは笑みを浮かべて一言。
「悪趣味な野郎だ。」
 その間にもバイツは気絶している男を椅子に座らせて両手両足を椅子に縛り付けていた。
「手慣れたものだなバイツ。」
 シコウに言われて妙な気分になったバイツ。取り敢えず礼を言う事にする。
「お褒めの言葉ありがとう。」
「何だ、嬉しくなさそうだな。」
「人を縛るのが上手だなんて言われて素直に喜ぶ奴がいるか?」
「それもそうであるな。」
「ねーシコウ。」
 イルがそこで口を挟む。
「何でわざわざ縛るの?凍らせれば一瞬で済むのに。」
「イル、あそこで楽しそうに笑っている二人を見ろ。」
 イルの視線はライキとヒートに向けられた。二人は選んだ道具を互いに見せ合っては笑っている。
「凍らせてしまっては痛覚も鈍る。あの二人はそれを望んではいまい。」
「ふーん考えてるんだね。あの二人。」
「まあ、どうすれば最大限の苦痛を与えられるかという事に関してだが。」
 その時、男が目を覚ました。
「う・・・ん・・・」
「あ、目を覚ましたよライキ、ヒート。」
 イルの言う通り男は目を覚ましたが視線は数秒間虚空を彷徨っていた。それを見たヒートは男の頬を二、三回叩いた。
「おーい、聞こえてっか?」
 男はここでようやく完全に目を覚ました。
「貴様等は・・・!ここは何処だ!何だこれは・・・クソ!放せ!」
 大声で喚き立てる男。
 男が暴れる度椅子が軋む。
 ヒートは溜息を吐くと、男の頬に一発拳を叩き込んだ。
 男は折れた歯と少量の血を吐き出して黙った。しかし、その眼にはまだ反逆の意思があった。
「良い眼してんじゃん。ま、それがどこまで続くか見物だけどよ。」
 バイツは隠れ家という名の拷問部屋を後にしようと出口に向かって歩き始めた。
「何だバイツ見ていかないのか。何ならやらせてやってもいいぞ。」
「遠慮するよヒート。俺はサーナイトとキルリアの所に行かなきゃならない。」
 そしてバイツは外に出た。数歩歩くと背後から男の悲鳴が聞こえてきた。
 バイツは溜息を吐いて歩調を速めた。

512名無しのトレーナー:2015/03/07(土) 00:36:08 ID:/qBnNDz6

 バイツ達は下層スラムにもう一つの隠れ家をキープしていた。先住民達を押しのけて。
 隠れ家と銘打った拷問部屋よりかなり離れた場所にある建物は地震が来たらすぐに崩れてしまいそうな程に風化しかけていた。
 バイツはその建物の中に入る。中は暗かった。
「サーナイト、キルリア。寝てるのか?」
 バイツが右手に炎を灯す。これも権力者が狙っている「右腕」の能力の一部に過ぎない。
 バイツの視線の先にはボロボロの毛布に包まり寄り添って眠っている二人の姉弟の姿があった。
 サーナイトとキルリア。二人もバイツ達の仲間である。
「寝ていたか・・・何事も無かった様だな。」
 バイツは右手の炎を消さないままサーナイトの隣に座った。
 以前、モンスターボールに入るかとバイツはサーナイトとキルリアに訊いた事があった。
 答えはノーだった。
 サーナイト曰く自分達が楽をするのは嫌だ。という事であった。
「何もやせ我慢しなくていいのにな・・・」
 バイツはそう呟く。
 というのもサーナイトは生まれつき体が弱かった。その所為で前のトレーナーにキルリアと共に捨てられてしまたのだった。
 上層階で宿を取れるのならまだしも今回みたいな下層スラムで休むのはサーナイトの体にとって大きな負担になる。
 しかし、サーナイトは無理をしてバイツ達と共に下層スラムで過ごす。
 何故ならバイツ達に無茶をしてほしく無い為に。自分の所為で上層階に行く羽目にならない様に。
 バイツは左手を目元に当て溜め息を吐く。
「お帰りなさいませ。バイツ様。」
 隣から声が聞こえた。
 バイツはゆっくり隣を見る。そこには上半身を起こしてバイツを見ているサーナイトの姿が。
「悪いな、起こしたか。」
「いいえ、ごめんなさい。私こそ起きて皆様を待って差し上げられなくて。」
 サーナイトは周りを見渡す。
「俺以外全員ヤボ用が済んでいないから帰ってきていない。」
「そうなのですか・・・」
 しかし、サーナイトは若干嬉しそうだった。
「あの・・・マスター?」
 サーナイトはバイツと二人きりの時はマスターと呼ぶ。
 バイツはその呼び方に懐かしさを覚える反面少し寂しくもあった。
「どうした、サーナイト。」
「少しお疲れの様なので心配で・・・」
「何もしてないよ俺は。少しばかり昔を思い出して・・・な。」
 何もしていないというのは真っ赤な嘘であるが、サーナイトに特殊部隊を一チーム倒してチームリーダーを拉致した事を話して何になるのだろうか。というのがバイツの胸中であった。
 だが、昔を思い出したというのは本当の事であった。
 バイツには家族が居た。護るべき家族。それももう百五十年も前の話だった。
「あのっ・・・マスター」
 いきなりサーナイトは自分の方を向いたバイツにキスをした。
 バイツはキスの最中も驚いて目を見開いたままだった。
 短いキスだったがお互いの関係を知るには十分だった。

513名無しのトレーナー:2015/03/07(土) 00:36:56 ID:/qBnNDz6
「私はマスターの前の御家族の様に振る舞う事が出来ないのかもしれません・・・ですが―――」
「お前はお前だよサーナイト。こっちこそ心配をかけさせて済まなかったな。」
 今度はバイツがサーナイトにキスをした。
 そしてそのまま右手の炎を消し、ゆっくりとサーナイトを押し倒す。
「サーナイト、お休み。俺はもう少ししたら眠るよ。」
「ここまで雰囲気作っておいてそれはないのでは・・・?」
「お前の体も心配だしな。」
 暗くて表情が分からなかったがサーナイトは渋々バイツの言う事を聞く事にしたのであった。
 そして何の会話も無く数分するとサーナイトから寝息が聞こえてきた。
 バイツは暗闇の中を座って他の四人の帰還を待つ事にした。



 それから数時間後の朝。最初に目を覚ましたのはサーナイトだった。
 周りを見渡すと全員が違った格好で眠っていた。
 やはり朝は冷えるもののこの時期にしては暖かい方だった。
 体の調子も今朝は良い様だったのでサーナイトは少し散歩をする事にした。
 バイツ達を起こさない様にそっと建物を出るサーナイト。
 建物から数メートル離れた所で背伸びをする。
 やはり朝はこうでなくては。
 そして、あても無くあちらこちらを行ったり来たりしていた。
 サーナイトが散歩に出てから十数分後、彼女は何時の間にかゴミの山に囲まれていた。
 家電ゴミやら燃えないゴミやらで作られた山はサーナイトの視界を遮る上どれもこれもが全て同じゴミの山に見えるおまけ付きだった。
「困りました・・・皆様が起きる前に戻らないといけないのに。」
 サーナイトは急ぎながらゴミの迷路の出口を探す。
 すると、小さなゴミの山の中に何か輝く物を見つけたサーナイト。急いでいるのにどうしてもその輝きが気になって進むのを止めた。
 自分の体に負担を掛けない程度のサイコパワーを使ってその輝く物体を取り出そうとしたが上手くいかない。
「サイコパワーが通らない?」
 仕方なく周囲のゴミをサイコパワーでずらして輝く物体を自分の手で取る事に。
 周囲のゴミを少しずらしたサーナイトはゴミの山の中に左手を入れる。
「届い―――」
 その時、スポッという音がした。
「え?」
 サーナイトが恐る恐る左手を抜くと手首の部分に見た事の無い腕輪がはまっていた。
 どんなに頑張って取ろうとしても取れない。
「ど・・・どうしましょう。」
 サーナイトは落ち着いて腕輪をよく見る。
 腕輪の中央には少し大きめの石が埋め込まれていた。
「うう・・・これは何なのですかー・・・」
 道に迷った上、腕に訳の分からない腕輪が填まって泣きそうになるサーナイト。
 すると、声が聞こえた。
『落ち着いてください。どうか落ち着いて。』
「誰ですか?」

514名無しのトレーナー:2015/03/07(土) 00:37:27 ID:/qBnNDz6
 サーナイトは周囲を見渡すがどこにも人影が無い。
『ここです。貴女が着けている腕輪です。』
「えーっと・・・?」
『今、貴女の心に直接語り掛けていますこの声は貴女にしか聞こえていません。』
 サーナイトはポカンとしながら腕輪を見つめる。
『貴女は私を選び私は貴女を選んだ。まずはそこまで言っておきましょう。』
「あのー・・・」
『何でしょうか。』
「取り敢えずここから出る道を教えてくれますか。」
『そうですねここから出ない事には何も始まりません。』
 十数分後、腕輪の指示通りに動き何とかゴミの山の中から抜け出せたサーナイト。
『抜け出せましたね。』
「何とか・・・」
 サーナイトは建物に戻る道すがら腕輪に質問をする。
「あなたは一体?」
『私はメガバングルの精。メガシンカへの道筋を示す者。』
「メガ・・・シンカ?」
『聞いた事はありますか?』
「はい、メガシンカをすればとても強くなれると聞いた事があります。でも特殊なアイテムが必要みたいで・・・」
『私はその特殊なアイテム「サーナイトナイト」を内包しているメガバングルなのです。』
 サーナイトは一瞬言葉を失った。
『貴女は選ばれし者。私を装着できるのは選ばれしポケモン・・・選ばれしサーナイトのみ。』
「選ばれし・・・?」
『その事については追々話します。』
「私には無理ですよ・・・」
 サーナイトは寂しげに言った。
「私、体が弱くて・・・戦闘もほとんどできない駄目なポケモンなのです。」
『体が弱い?』
 メガバングルが聞き返す。
『それ位ならば私の力で何とか・・・いいえもうしています。先程と比べて調子はいかがですか?』
 体の調子を聞かれて驚くサーナイト。確かに今までとは違う。体が軽い。
『いかがですか?これで貴女も選ばれしポケモンだという事が分かりましたか?』
「はい、ありがとうございます。」
『いいのです、これから貴女に協力していただくのですからこれ位。』
「協力?」
『はい、それは―――』
「サーナイト。」
 メガバングルからの声を遮る形で誰かの声が聞こえた。
 サーナイトはメガバングルに移していた視線を声の聞こえた方に向ける。
 目の前に居たのはバイツだった。気が付けば隠れ家からそう遠くない場所。
「何処に行っていたんだ?」
「ええと・・・少し散歩に。」
「ここら辺は上層階と違って危険が多い。注意してくれ。」
 どうやらサーナイトが心配で探しに来た様であった。
「朝食の準備が出来ている、早く食べよう。」

515名無しのトレーナー:2015/03/07(土) 00:37:57 ID:/qBnNDz6
「はい。」
 バイツはサーナイトの左腕のメガバングルに視線を移す。
「サーナイト、それ・・・」
「こ、これは散歩している途中で拾って似合うかなーと思って着けたのですけれども―――」
「結構似合ってるよ。」
 バイツは柔らかい笑みを浮かべてそう言った。
「さ、戻ろうか。」
「はい。」
 意外な事でバイツの笑みを見れた事でサーナイトは少し嬉しかった。



「ようやく僕が喋れる場面が来たよー」
 朝食後、キルリアがそう言った。
「キル君、ちょっとしたメタ発言だけどいいかな。」
 ライキがようやく出番のあったキルリアに向かって口を開く。
「なになにー?」
「今回の君の出番はここの場面がピークだね。」
「嘘ぉ!だってバイツお兄ちゃんが特殊部隊倒して指揮官拉致してその後四人で拷問してその間にバイツお兄ちゃんとサナお姉ちゃんが良い雰囲気になったりしている間ずっと喋らなかったんだよ!」
「キルリア・・・お前どこまで知っているんだ?」
 キルリアの謎の発言にバイツは戸惑う。
「んじゃ上層階に行って権力者でもパパッと片付けっかー!」
 ヒートが気合いを入れる。
「サーナイト、キルリアお前達はここで待っていてくれ。すぐに戻ってくるから。」
 バイツが二人を見ながら言う。
「え!?ただでさえ出番が無いのにここに置いてきぼり!?」
「私はここで待っています。」
「お?」
 珍しく聞き分けのいいサーナイトにバイツは少々驚く。
「私達がついて行っても足手まといにしかならないでしょう・・・一瞬の判断が生死を決める場にいても仕方がありません。」
「ガーン。サナお姉ちゃんまで何さその態度ー!」
「何、すぐに戻ってくるよキルリア。だからそう落ち込むな。帰ってきたら上層階の洒落たホテルでゆっくり休もう。」
 バイツはキルリアを宥める。
「うう・・・絶対だよ。」
「ああ。必ず。」
 そして、バイツ達人間五人が隠れ家を後にする。
「気を付けてねー!」
 キルリアが声援を五人に送る。
「さてサナお姉ちゃん。どうして皆を待とうなんて考えになったのか―――」
 キルリアが辺りを見渡す。
 何処にもサーナイトの姿が無い。
「もしかして一人っきりで出番終えるの?嫌だなー」
 そしてキルリアは大声で叫ぶ。
「サナお姉ちゃんどこー!?」

516名無しのトレーナー:2015/03/07(土) 00:38:41 ID:/qBnNDz6



「ここまで来ればキルちゃんも追ってこないでしょう。」
 サーナイトは人気の無い場所まで移動していた。
 急いで移動しても体に負担が掛からない。普通の体は凄いとサーナイトは思った。
『驚きました。』
「何がですか?」
『貴女に沢山仲間がいる事に。てっきり一人のトレーナーと共にいるものだとばかり・・・』
 メガバングルからの言葉にサーナイトは優しげな笑みを浮かべる。
「意外でした?これでも私の周りには沢山の方々がいてくださります。」
 その中でも一番大きいのがバイツの存在だった。それを口に出さなかったがメガバングルにはどう捉えられただろうか。
『あの人達に囲まれている貴女は本当に楽しそうでした。』
「皆様はとても良い人達ですから。」
『ならばなおさら言っておかねばなりませんね。私の・・・いいえ、私達の使命を。』
「使命?」
『「ダークナー」・・・聞いた事は?』
「いいえ。」
『ダークナーはこの星を支配しようと企んでいる種族です。ダークナーに対抗する為に私は作られたのです。』
 いきなり星を支配する等と聞かされてサーナイトは頭がついていけなかった。
『これでもかなり簡単に説明したほうですが・・・』
「ええと・・・?」
『つまりダークナーに対抗する為に一緒に戦っていただこうというのです。』
「私が・・・ですか?」
『無理とは言わせませんよ?』
「でも戦闘は・・・」
『ポケモンバトルとは違います。私を手にしたのならば近い内にその意味を知るでしょう。』
 メガバングルの言葉には今までとは違う重みがあった。サーナイトはただそれを聞くだけしか出来なかった。



 一方バイツ達人間チームは、チームリーダーから引き出した情報を元に上層階にある一つのビルを占拠している真っ最中であった。
 情報は外れではなかった。
 警官でもないのに拳銃を携帯している男達を次々に打ち倒していくバイツ達。クロに近かった。
「んー・・・」
 権力者がいる最上階へ非常階段を使って向かう途中にイルが唸る。
「どうした?」
 バイツが尋ねるとイルが不思議そうな表情を浮かべて答えを返す。
「んー何て言えばいいのかなー・・・こう頭の芯がずれる感じがするんだよね。」
「何だ、イルもか拙者もだ。」
 最上階へひとっ飛びして対象を暗殺するという考えが浮かばなかったシコウが言う。
「お前等の考え事を聞いているとこっちまで頭の芯をずらされそうだ。」
 バイツはそう返したが奇妙な感覚はバイツにも感じ取る事が出来た。
「俺等二人の「黒」に近いタイプか?」

517名無しのトレーナー:2015/03/07(土) 00:39:14 ID:/qBnNDz6
 ヒートの問い掛けにバイツは頭を横に振る。
「いや、全く別の何かだ・・・」
 すると、一番先を走っていたライキが止まった。
「この階が最上階だよ。準備はいいかい?」
「何をいまさら。」
 今度はバイツが先頭に出てドアを蹴破った。
 最上階のオフィスの隣だった。
 五人はオフィスに突撃する。
 意外な事にオフィスには護衛も誰も付けていない。権力者だけがそこに居た。
「う・・・ううう・・・」
 胸を押さえて苦しそうにしている。
「何だ?持病の発作か?まあ、楽にしてやっからよ逃げんじゃねえぞ?」
 ヒートが笑いながら権力者に近付く。
「待てヒート、何かがおかしい。」
 バイツが眉間に皺を寄せながらそう言った。
 バイツ、イル、シコウの抱えている奇妙な感覚は権力者に近付くほど強くなっていった。
 突然それは起こった。
 権力者の胸から黒い力が奔流し始めたのだ。
 そしてその力は権力者を覆い、黒い大きな人型の怪物へと変身したのだった。
「ダークナー!」
 怪物はそう叫ぶと壁一面の窓ガラスを突き破り下に落ちていった。
「何だぁ・・・?」
 ヒートも呆気に取られた表情で固まっていた。
「あれが・・・干渉したのか?」
 バイツはそう言いながら突き破られたガラスから下を覗く。
 地上はいきなり現れた怪物に混乱の極みを見せる。
 そして、下層スラムの方へ走っていく怪物。
「まずい、下層スラムにはサーナイトとキルリアが・・・!」
 バイツは突き破られた窓ガラスから飛び出した。
「バイツめ、我を忘れおって。ここで目立っては奴と同じであろうが。」
 シコウは冷静にそう言った。
 イル、シコウの二人はすぐに気付かなかったが奇妙な感覚は次第に薄れ始めていた。



『ダークナーの気配がします!こちらに近付いています!』
 メガバングルの警告にサーナイトは周りを見渡した。
「ダークナー!」
 大声と共に黒い人型の怪物がサーナイトの前に現れる。
『これがダークナー・・・私達の敵です。』
「ど・・・どうすれば・・・」
『メガシンカをするのです。』
「メガ・・・シンカ。」
『そうです。』
 サーナイトは意を決した。もうここでやるしかないと。

518名無しのトレーナー:2015/03/07(土) 00:39:50 ID:/qBnNDz6
 無意識にメガバングルを掲げるサーナイト。
 その時、サーナイトの体が光に包まれる。
『恐れないで、ありのままを受け止めるのです。』
 そしてサーナイトを包んでいた光が弾けた。
 そこに居たのは一体のメガサーナイト。
 瞑っていた目をゆっくりと開ける。
「これが・・・私・・・?」
 サーナイトは自分の姿を見回す。
『さあ、ダークナーを倒すのです。』
「はい!」
 サーナイトは構える。
 ダークナーは拳をサーナイトに振るう。
 しかし、サーナイトに拳が当たる前に「サイコキネシス」によって全身の動きを封じられてしまう。
「一気に決めます!」
 ダークナーの巨体を宙に浮かせる。
 そして、最大出力の「サイコキネシス」によって全身に強力な念力を送る。
「ダッ!ダークナー!」
 その叫び声と共にダークナーは光の粒となって消えていった。
 すると、ダークナーが消えた後から一人の人間が現われた。
 サーナイトはその人間に駆け寄る。
「う・・・うう・・・」
 どうやらまだ息がある様子。
『ダークナーは人間の心の闇に住み着き生まれる怪物。それを浄化するのが私達の役目。』
「はい。」
 サーナイトのメガシンカが解ける。
「サーナイト!」
 サーナイトは声の聞こえた方を振り向いた。そこには走ってくるバイツの姿があった。
「変な話だが、こっちに黒い化物が来なかったか?」
『私とダークナーの事はどうか秘密に。』
 メガバングルにそう言われたサーナイトは首を横に振ってこう答えた。
「化物?何の話ですか?」
「こっちに来ていないのか・・・なら良かった・・・」
 バイツは周囲を見渡す。
「何処で見失った・・・?それに違和感が・・・消えた?」
 そして、足元に倒れている権力者を見つける。
「こいつは・・・」
「この方がここに倒れているのが見えたので私はここに来たのです。」
 サーナイトの真っ赤な嘘。しかし、バイツは疑う様子も無くその言葉を信じた。
「・・・キルリアと合流していてくれサーナイト。俺はまだやる事が残っているから。」
「分かりました。待っています、マスター」
 バイツは権力者を担いでその場を後にした。
 そんなバイツの後ろ姿を見守るサーナイト。
 心から自分を信頼してくれているバイツに嘘を吐く事は心苦しかった。
『辛いですけれど・・・耐えてください。』
 メガバングルの言葉にサーナイトは強く頷いた。

519名無しのトレーナー:2015/03/07(土) 00:40:34 ID:/qBnNDz6
何かまた始まってしまいましたね。
ダークナーって名前は五秒程度で思い付いて採用しました。
戦闘に緊迫感が無い!ここ字が間違ってる!など色々あると思いますが長い目で見て頂ければ嬉しいです。

520名無しのトレーナー:2015/03/30(月) 22:25:52 ID:/qBnNDz6
内容が薄いかもしれませんが取り敢えず小説が出来ました。
一ヶ月に二つ投稿なんて久しぶりです。
なので誤字脱字等あるかもしれませんがそこは勘弁を。

521名無しのトレーナー:2015/03/30(月) 22:26:25 ID:/qBnNDz6
 ある街のコンサート会場。大勢の客が歓声を上げながらステージ中央にいるマイクを持ったポケモンに釘付けになっていた。
 そのポケモンはミミロップといった。煌びやかな衣装を身に纏って踊っている。
「みんなー!盛り上がっちゃってるー!?」
 彼女の声に会場は一際盛り上がる。
「それじゃ、次の曲行くよー!」
 彼女が歌い出すと観客はスティックライトを左右に振る。
 奇妙なもので誰が指示した訳でもなく全員が一糸乱れぬ動きでスティックライトを同じ方向に振っている。
 会場の盛り上がりは最高潮に達しつつあった。
 その中にポケモンだけでライブを見に来ている珍しい姉弟がいた。
 サーナイトとキルリアである。
 二人共最前列でスティックライトを他の観客と同じ様に振っている。
 少々変わった点と言えば姉のサーナイトがメガバングルを左腕に着けている事である。
 そして、コンサート会場の盛り上がりはミミロップの歌声で最高潮に達した。
 衣装に隠れていて見えなかったがミミロップの左腕にもメガバングルがはめられていた。



 コンサート会場の外では五人の少年がサーナイトとキルリアを待っていた。
 傍から見れば退屈そうにしている。
「まさかサーナイトがライブに興味を持つなんてな。」
 そう言ったバイツは退屈そうにしているかと言えばそうではなくむしろ心配そうであった。
「サーナイト、調子がいいとは言っていたが倒れたりしていないだろうか・・・」
「だったら今から会場に入る?」
 そう言ったのはライキだった。
「入れるのか?」
「冗談だよ。チケットは辛うじてとれた二枚だけで即完売。流石ミミちゃんの生ライブ。」
 ある意味感心しているライキに向かってヒートが口を開く。
「珍しいじゃねえか、お前の事だからダフ屋でもするのかと思ったぜ。」
「転売屋と言ってほしいね・・・まあ、やってる事はそんなに変わらないけど。」
「ねーねーライキ、今日泊まるホテルは決めたの?」
 イルが口を挟む。
「ご飯の美味しくない所は嫌だよ。」
「我が儘な奴だね君も。」
 シコウがそのやり取りを見て溜め息を吐く。
 やがてライブが終わり、客が次々と出口から出てきた。
「さーて、サーナイトとキルリアは何処かな、っと・・・」
 バイツが人混みの中に入り辺りを見回す。
 人、人、ポケモン、人、ポケモン、人、ポケモン、人、人、人、人。
 数百人を超える人とポケモンの波の中たった二人を見つけるのは難しかった。
「あ、バイツお兄ちゃん。」
 微かにキルリアの声がした。
 バイツは慎重に辺りを見渡す。
 人混みを上手くすり抜けてキルリアが現われる。
「サーナイトは?」

522名無しのトレーナー:2015/03/30(月) 22:27:03 ID:/qBnNDz6
「お姉ちゃんはもう少ししたら来るよ。」
 数秒遅れでサーナイトもバイツの前に現れる。
「よう、ライブは楽しかったか?」
「凄い熱気でした!私もそれに乗せられてついついはしゃいでしまいました!」
 興奮冷めやらぬといった状態のサーナイト。
「体は大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です。」
「そうか、それならいいんだけどな。」
 そう口にはしたものの心配そうにしているバイツ。
 サーナイトが気の利いた事を言おうとした矢先ライキの声がバイツの背後から聞こえた。
「おーい、今日泊まるホテルの部屋が取れたよー、早く行こう。」
「今日は疲れただろう。ホテルでゆっくり休もう。」
 バイツはサーナイトとキルリアを連れて四人の元へ戻った。



 それから数時間後の事、ミミロップはホテルの一室に居た。
 ライブが大成功した事もあって気分がよかった。
 それに個室をあてがわれて小うるさいマネージャーから少しの間離れられるという事もあった。
「うーん!よし!休んじゃおう!」
 ミミロップはベッドに飛び込み枕に頭を埋めて足をバタバタさせる。
 売れるようになってから働きづめ。やっと取れた休める時間。
 しかし、それを邪魔するかのようにドアをノックする音。
「何よーあたしには休む時間も無い訳?」
 愚痴を言っても始まらない。小うるさいマネージャーかもしくはホテルを突き止めた熱狂的なファンか。
 ミミロップはドアに向かう。
「はーい。」
 ドアの先に居たのは一人の男。身長は平均的な男性と比べれば少し低いものの横幅は平均的な男性と比べれば広い体型。
「社長!どうしてここに?」
「いや何、君をねぎらってやろうかとおもってね。」
「ちょ・・・ちょっと・・・!」
 無理矢理部屋の中に入る社長と呼ばれた男。この男はミミロップが所属する芸能事務所の社長だった。
「あのマネージャーも目がいいなこんないいホテルと部屋を見つけるだなんて。」
 社長は部屋を見回した後、ミミロップの身体を嘗め回す様に見る。
「シャワーは浴びたのか?ん?」
「話があるなら後にしてくれない?あたし凄く疲れてるの。」
 ミミロップがベッドへと移動する、だがそれがいけなかった。
 社長がミミロップをベッドの上に押し倒す。
「誘っているのか?」
「やめ・・・!放して!人間の女に相手にされないからって!」
「何?」
 ミミロップの放った言葉は社長の動きを一瞬止め、こめかみに血管を浮かび上がらせる。
「貴様!所有物のくせに!」
 社長は荒々しくミミロップに覆いかかぶさる。
「お前は・・・こうでもしないと・・・売れる・・・ポケモンじゃ・・・ないだろ・・・!」

523名無しのトレーナー:2015/03/30(月) 22:27:38 ID:/qBnNDz6
 社長は右手をミミロップの股へと伸ばす。
 その時、ノックが聞こえた。
 社長も動きを止めてミミロップから離れる。
「さっさと対応して・・・来い・・・」
 鼻息を荒くしながら社長がミミロップに命令する。
 ミミロップはドアを開ける。
 そこにはサーナイトとキルリアが居た。
「とっ、突然訪問してごめんなさい!ええと・・・」
 驚いているサーナイトを見てミミロップの頭に妙案が浮かんだ。
「なーんだ!遅かったじゃない!」
「え?」
「さあ行っちゃお!この街を案内してくれるんじゃないの?」
 そう言いながらサーナイトとキルリアの手を引っ張って部屋を後にするミミロップ。
 残された社長はぽかんとした表情を浮かべながら立ち尽くすしかなかった。



 何故サーナイトとキルリアがミミロップの部屋を訪ねてきたのか。
 話はライブ終了の一時間後に遡る。
 ホテルのラウンジでチェックインまでの時間を潰しているバイツ達。
 その間イルが退屈そうに口を開く。
「このホテルを選んだ理由は何かな?食べ物が美味しいとか?でもここらへんじゃああまり有名な食材の事を聞かないよね。だったらお土産が何か有名かと言われるとどれも大して美味しくないそこらへんで売っているものばっかり。キミが何を思ってこのホテルを選んだ理由をボクは知りたいわけであって別に有名どころじゃないからって怒ってるわけじゃないんだよ。でも答えが知りたいんだよねー。さてライキ、このホテルを選んだ理由は?」
「台詞長スギィ!」
 ライキが奇妙な発音をする。しかし、だれもその事について触れない。
「うーん・・・大きな声じゃあ言えないけれど。」
 全員がライキに注目する。
「何と今日このホテルにミミちゃんが泊まるという情報を手に入れたから。」
「何だそりゃ?」
 ヒートは期待して損をしたとでも言うかの様にガックリと肩を落とした。
「そんな理由で?・・・ん?まって、有名なアイドルが泊まるくらいだから料理にもそれなりに期待が持てるかも!?」
 イルの目が輝く。
 バイツとシコウは二人同時に溜め息を吐いた。
 バイツはサーナイトとキルリアに視線を移す。
 二人の目はイルに劣らず輝いていた。
「も・・・もしかするとミミちゃんにもう一度会えるかもしれないという事でしょうか。」
「運が良ければね。」
 そうライキが返す。
「やったー!」
 キルリアが喜びの声を上げる。
 バイツはそれを見てライキに耳打ちをした。
「お気遣いどうも。」
「気にしないでよ、これもトラウマを乗り越える一歩みたいなものだから。」

524名無しのトレーナー:2015/03/30(月) 22:28:19 ID:/qBnNDz6
 そう言われたバイツは親友の肩を軽く叩いた。



 そして現在。
 ミミロップはサーナイトとキルリアを連れてあまり目立たない喫茶店に入った。
 適当な席に座るとミミロップが声を上げた。
「あー助かっちゃった。ありがとう。」
「ええと・・・私まだ状況を良く呑み込めていないのですが・・・」
 困惑するサーナイトにミミロップは笑顔を向けた。
「あたしを助けてくれた。それでいいじゃん。」
「はあ・・・」
「そうだ、名前をまだ聞いていなかった。」
「私はサーナイトです。」
「僕はキルリア。」
 ミミロップは頷き二人を見比べる。
「サナサナにキルキルね。あたしはミミロップ、よろしくね!」
「ええっと・・・実はミミロップさんの事ライブで・・・」
「そんなにかしこまっちゃわないでミミロップでいいよ。可愛く言うならミミちゃん?好きに呼んで。」
「そ・・・それではミミちゃん。私あなたのライブを拝見させていただきました。」
「え!?うそー!ホント!?」
 ミミロップが口元を押さえて驚く。
「ねえねえじゃあさ、今回の衣装どうだった?あたし的にはいまいちだと思っちゃったんだけど。」
「いいえ、とても良かったです。光の中で踊るミミちゃん。綺麗でした!」
「そ、そう?何だか照れちゃう。」
 その時、喫茶店のドアが開く音がした。
「サーナイト、キルリア、ここにいたのか。」
 現れたのはバイツだった。
「バイツ様。」
「バイツお兄ちゃん!どうしてここが?」
「サインを貰いに行ったにしては遅すぎると思ってな、ライキに監視カメラをハッキングしてもらってあっちこっちの映像を見て探したんだ。」
「そうだったのですか。ごめんなさい。お手数をおかけしました。」
「まあいいさ、おや?そちらにいるのは・・・」
「シーッ!」
 ミミロップは口元で指を立てて静かにしてほしいというジェスチャーをした。
「成程、売れっ子も大変だ。」
「っていうかどちらさん?」
「自己紹介が遅れたな俺はバイツ、サーナイトとキルリアのパートナーだ。」
「へえトレーナーじゃないんだ。」
「まあな。旅をしているが別にサーナイトとキルリアを強くする為にしているわけじゃない。」
「へー旅しちゃってるんだ・・・ねえねえ何か面白い話聞かせてよ。」
 ミミロップの所望通りバイツは席に座り話を始めた。話し上手ではないバイツだったがサーナイトとキルリアのフォローで楽しい話になった。
「羨ましくなっちゃうなー」

525名無しのトレーナー:2015/03/30(月) 22:28:56 ID:/qBnNDz6
 ミミロップが運ばれてきたグラスに入っているきのみジュースをストローで少し飲んだ。
「あたしも面白い話を持ってればいいんだけど・・・」
 寂しげな表情で三人を見るミミロップ。
「あたしは今の事務所に拾われてからずっとアイドル活動であっちこっち行ってるけど・・・やってる事は変わらないの。」
「CD配って握手会とか?」
 バイツの答えにミミロップは頭を横に振った。
「枕営業・・・何人の人間と寝たか思い出せない。」
「酷い話だな。」
「同情は誘ってないよ。もっと聞きたければ色を付けて話しちゃうし。」
「いや、いい。」
 ふと、バイツの視線がミミロップの左腕のメガバングルに移った。
「サーナイトもだけど・・・左腕のソレ、流行ってるのか?」
 サーナイトはドキリとする。
 ミミロップの答え次第でサーナイトはメガバングルの秘密を洗いざらい話さなくてはならないのだった。
「これ?それは乙女のヒ・ミ・ツ。」
「そ・・・そうです!秘密です。」
「ふーん・・・そろそろ夕食の時間だホテルに戻ろう。」
 特に怪しむ事の無いバイツが席を立つ。
 それに続いてサーナイト、キルリア、ミミロップも席を立った。
 バイツ達は外に出る。
「ねえ、あたし達泊まってるホテル同じじゃない?だからさ一緒に夕飯食べたいんだけど・・・どうかな、駄目?」
「俺は構わないさ。サーナイトもキルリアも構わないよな。」
「はい。お話いっぱいしましょうね。」
「僕も沢山話すー!」
 そして四人はホテルへと戻って行った。



 そして夕食が終わり、各々の部屋に帰る時にミミロップがサーナイトにこっそりと呟いた。
「後であたしの部屋来ちゃわない?」
 それに対するサーナイトの答えはこうだった。
「分かりましたもう少ししたら伺います。」
「やった!約束だよ。」
「はい。」
 そしてサーナイトとミミロップも自分の部屋に戻る。
 部屋に戻ったサーナイトは椅子に座っているバイツに近付く。
「どうした?」
「あの、この後ミミちゃんのお部屋を伺う事になっているのですが・・・」
「そうか、分かった。行っておいで。」
 バイツの了解を得てサーナイトは部屋を後にした。
 部屋に残されたバイツとキルリア。キルリアがバイツに話しかける。
「お姉ちゃん最近調子良さそうだね。」
「ああ、だが・・・いや止そう。」
 何かを言いかけて話を止めるバイツ。
「でも、お姉ちゃんだけずるいなー」

526名無しのトレーナー:2015/03/30(月) 22:29:29 ID:/qBnNDz6
「キルリア、除け者にされた俺達は下のレストランで甘いものでも食べに行くか。」
「んーそうだね。何がいいかな。」
「ここで考えていてもしょうがない店に行ってから決めよう。」
 そう言ってバイツとキルリアも部屋を後にした。



 バイツとキルリアが階下のレストランに着いた頃、サーナイトもミミロップの部屋の前に着いていた。
 サーナイトは部屋のドアをノックした。しかし、何の反応も返ってこない。
「ミミちゃん、私ですサーナイトです。」
 再度ドアをノックする。返事は返ってこない。
 ドアを押すと難無く開く。
 嫌な予感がしたサーナイト。勢いよくドアを開ける。
 サーナイトの目に映った光景、それは複数の男。そして倒れているミミロップ。
「あなた達一体何を・・・!」
 そこまでサーナイトが口にすると、一人の男が瞬時にサーナイトに接近しスプレーを顔に噴射した。
 少量スプレーを吸い込んだサーナイト。咳き込んだ後にその場に倒れてしまう。
「おい、このポケモンどうする?」
 男達にとっては意外な客人だったサーナイト。
「しょうがない、こいつと一緒に依頼人の所まで連れていくぞ。」



「うーん、食べ過ぎた。」
 そう言いながらバイツはキルリアと共にミミロップの部屋を目指していた。
「お姉ちゃん随分遅いよね。」
「ああ、案外話が盛り上がってるのかもな。」
 そんな事を言っている間にミミロップの部屋の前に着く二人。
 ドアは開けっ放し、荒らされた室内。異常だという事はすぐに見て取れた。
「サーナイト・・・!ミミロップ・・・!」
「バイツお兄ちゃん・・・お姉ちゃんは?」
「誰がやったかは分からないが・・・誘拐された・・・今すぐライキの所へ行くぞ。監視カメラをまたハッキングしてもらって・・・」
「その必要は無いよバイツお兄ちゃん。」
 キルリアが集中してサイコパワーを高めだす。
 すると、バイツの頭の中に映像が浮かび上がる。浮かんだのは街外れにある廃工場の風景。そこに車が現われ停まった。そして、サーナイトとミミロップを担いで降りる男達の姿。男達は建物の中へと消えていった。
「何だ・・・これは。」
 すぐに映像が途切れる。
 それと同時にキルリアが倒れる。
「大丈夫か!?」
「平気・・・だよ。ちょっとサイコパワーを使いすぎちゃっただけ・・・」
「今の映像は?」
「ちょっとした未来の映像・・・少しの間しか見せれなかったけれど。」
「未来か・・・という事はいま動けば連中の不意を突けるかもしれないって事だな。」

527名無しのトレーナー:2015/03/30(月) 22:30:08 ID:/qBnNDz6
「でもこれはごく近い未来だからすぐに行かないと。」
「お前は部屋で休んでいろキルリア。」
「でも・・・」
「不本意だが荒事は得意なんだ、任せてくれ。」
「うん、分かった・・・お姉ちゃんをお願い。」
 バイツはキルリアを部屋に運んだ後、バイツはホテルの外へ出た。
 夜空を見ながら溜め息を吐く。
「行くか。」
 言葉はあっさりだったが鬼気迫る表情でバイツは走り始めた。



 丁度その頃、街外れの廃工場に一台の車が停まった。
 中からサーナイトとミミロップを担いだ男達が現われる。
「依頼人はこの中だ。」
 男達は建物の中へと消えていく。
 建物の中の暗く広い空間には照明機材とカメラが複数設置してあった。
「ここでいいんだよな。」
 サーナイトとミミロップを乱暴に地面に降ろす。
「う・・・ここは・・・」
「痛たた・・・もう!何なのよ!」
 サーナイトとミミロップが気が付く。
 すると男の一人が拳銃をサーナイトとミミロップに向ける。
「依頼人が登場するまで大人しくしてもらおうか。」
 その時拍手が聞こえた。
 拍手をした主が窓からの月明かりに照らされた。
「社長・・・?何で・・・?」
「私が頼んだのだよ、彼等に君を誘拐させる事を。」
「誘拐?どうして?」
「そろそろお前を新しいビジネスの道具にしようと思ってな。アダルトビデオだよ。」
「!!」
 ミミロップは驚いて声も出せなかった。
「アイドルが失踪し、少し経った後アダルトビデオで発見される。我ながらいい筋書だと思うがね?」
 社長の視線がサーナイトに移る。
「おまけ付きか、まあいい。そいつも一緒に稼いでもらおう。」
 社長の後ろから体格のいい男が数人現れる。
「さあ、その二匹をこっちに・・・ぐぅっ!」
 突然胸を押さえて苦しみだす社長。
『ダークナー!』
 サーナイトのメガバングルが反応する。
 社長の体は夜の闇よりもさらに深い闇に包まれる。
 そして黒い大きな怪物へと変貌する。
 男達はその怪物を恐れて何処かへと逃げていった。
「な・・・何アレ・・・」
 サーナイトは立ち上がる。

528名無しのトレーナー:2015/03/30(月) 22:30:43 ID:/qBnNDz6
「ミミちゃん。下がっていてください。ここは私が・・・」
「待って。」
 ミミロップがサーナイトの前に出る。
「あたしのファンはあたしが護る。その為には何だってやる。例えそれが戦いでも。」
 ダークナーの視線はミミロップに向けられる。
「さあおいで!大きな化物さん!あたしが相手しちゃうんだから!」
 その時ミミロップの頭の中に声が響いた。
『その意気だよ!力を貸すから頑張っちゃえ!』
 その声はミミロップが着けているメガバングルからの声。
 ミミロップは左腕を上に掲げた。
 ミミロップの体が光に包まれる。
 そして光が弾けるとそこにはメガミミロップが立っていた。
「何だか力が湧いてきちゃう!」
 ミミロップが構える。
『さあ、私達も。』
 サーナイトも頷くと左腕を掲げて光を纏う。そしてメガサーナイトへ進化する。
「ダークナー!」
 ダークナーが右手を振りかぶる。
 しかし、ミミロップが素早く接近しダークナーの顔面に蹴りを瞬時に数十発叩き込む。
 頭から後ろの壁に吹っ飛ぶダークナー。
 体勢を立て直そうと立ち上がるところをサーナイトが「サイコキネシス」で拘束する。
「ミミちゃん!今です!」
「分かった!」
 ミミロップは突進しダークナーの手前で跳ぶ、そして渾身の「とびひざげり」をダークナーに叩き込んだ。
「ダーク・・・ナー・・・」
 ダークナーはもう一度壁に叩きつけられて、そのまま力無くずり落ちる。
 そして光の粒となって消えていくダークナーの体。
「私達の勝ちです。」
 サーナイト、ミミロップ共にメガシンカ状態が解ける。
 ダークナーのいたところには社長が壁を背に気絶していた。
「どう・・・するのです?」
「決まってる、こんな奴の事務所なんか辞めちゃうんだから。」
 その時、複数の足音がサーナイトとミミロップの背後から聞こえた。
 先程サーナイトとミミロップをさらった男達であった。
 逃げたと見せかけて物陰からこっそり戦いを覗き見していたのであった。
「こいつ等、トレーナー無しでメガシンカしやがった。」
「珍しいポケモンだなこいつは高く売れるぜ。」
 男達は拳銃を手にした。
 その瞬間、何かが天井を壊して降ってきた。
 男達の敗因を先に述べておくと「ソレ」に無意識に銃口を向けた事だった。
 男達が瞬時に弾け飛ぶ。引き金を引く間も無く。
「サーナイト、ミミロップ、無事か?」
 降ってきた「ソレ」とはバイツだった。
「はい、大丈夫です。」
 サーナイトはそう答えたが、ミミロップはすぐに口を開かなかった。

529名無しのトレーナー:2015/03/30(月) 22:31:16 ID:/qBnNDz6
 代わりにバイツに飛び付いた。
「怖かったよー!」
「よしよし、もう大丈夫だ。で、この太ったおっさんは誰だ?」
「あたしの「元」社長なの、あたしとサナサナを誘拐してここでアダルトビデオを撮影しようとしちゃったの。」
 バイツは滅茶苦茶になっている照明機材とカメラを見つけた。
「この事件の主犯格はこいつか。」
「どう・・・するのですか?」
「さてな、どうしたい?」
 バイツは意地悪な笑みを浮かべた。



 それから数時間後の事。緊急の記者会見が行われた。
「あたし、アイドル辞めちゃいまーす!みんな今まで応援ありがとー!」
 ミミロップの突然の引退発表。
 そして、ミミロップの所属していた事務所の社長が緊急逮捕された事。
 世間は突然すぎる発表に慌てふためいた。
 しかし、慌てなかった人達もいた。
 例を挙げるとすればミミロップに最近接触したと思われる五人の少年だった。
 熱烈なミミロップのファンはその五人を調べようと思ったが何の情報も得る事が出来なかった。



「これからどうするんだ?ミミロップ。」
 街のはずれでバイツはミミロップに問い掛けた。
「んーみんなについていっちゃいたいんだけど・・・駄目かな。」
「構わないさ。なあ、皆。」
 サーナイト、キルリアは喜んだ。ライキ、ヒートは微妙そうな表情を浮かべた。イル、シコウは別に構わないという答えを返した。
「やった!じゃあこれで本決まりね。よろしく!マスター!」
 そう言ってバイツの腕に抱きつくミミロップ。
「おいおい、マスターって・・・」
「駄目?」
「いや、駄目じゃないけれど・・・」
 バイツはサーナイトを見た。
 サーナイトはニッコリと笑っていた。
 対抗心を燃やしているなとバイツは思った。
「では行きましょうかマスター」
「サーナイト、お前その呼び方は・・・」
「何か問題でも?」
 サーナイトの圧力にただただ気圧されるバイツ。
 それを見ていたシコウが口を開いた。
「拙者、ようやく喋れる機会を得たのは良いものの、この話はこれで終わりで御座る。」

530名無しのトレーナー:2015/03/30(月) 22:31:47 ID:/qBnNDz6
このお話はこれでお終い。
何だかマンネリ化している気が・・・
次の投稿はいつになるだろう。

531名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:04:58 ID:/qBnNDz6
Q 遅かったね今まで何してたの?
A ウィッチャー3をやっていました。えらいこっちゃー(反省の色なし)

532名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:05:48 ID:/qBnNDz6
 それはとある街道を移動している時の話だった。
「サーナイト・・・ミミロップ・・・」
 バイツが呆れかえった様子で口を開いた。
 右腕にはサーナイトが抱きつき、左腕にはミミロップが抱きついていた。
「なあにマスター。もしかして照れちゃってるの?」
 ミミロップが口を開く。
「気になさらないでくださいマスター、私達はこうしていたいのですから。」
 サーナイトはそう言うと更にバイツに寄り添った。
「あー!サナサナってばずるいー!あたしもー!」
 ミミロップも更にバイツに寄り添う。
「あのなぁ二人共。非常に歩きづらくなっているのは俺だけなのかな。」
 そう言っているバイツも何処か楽しそうでそれを見ている五つの視線には気付かなかった。
「何だか負けている気がする。」
 そうライキが呟いた。
「何競ってんだよ何を。」
 ヒートがつまらなそうに言う。
「バイツが楽しいならそれでいいじゃん。」
 イルが割とまともな事を言う。
「・・・キルリア、お主はどう思う?」
 シコウがキルリアに訊く。
「いいなぁ・・・バイツお兄ちゃんと一緒に歩けて。」
「何だ、お主もバイツと手を繋いで歩きたいのか。」
「うん、あ、先に言っておくけどシコウお兄ちゃんじゃバイツお兄ちゃんの代わりにならないからね。」
 キルリアの鋭い言葉にしょげ返るシコウ。
 そんな事を続けている内に辺りは暗くなり野宿の時間となった。
「よし、皆。あの大きな木の下で野宿をしよう。」
 バイツの視線の先には大きな木の下で野宿の準備をしているグループが複数いた。
「何だ、バイツ。先客がいるじゃねえか。」
「別にいいだろうヒート。迷惑を掛ける訳じゃないだろう?」
「何かしら大声で歌いたい気分なのによ。」
 ヒートの発言にただただ溜め息を吐くばかりのバイツ。
「私はマスターと御一緒出来るなら何処でも構いません。」
 サーナイトが頬を紅く染めて言った。
「あたしもマスターと一緒なら何処でもいいっ!」
 ミミロップもサーナイトの言葉に続く様に言う。
 バイツは交互に二人を見て口を開いた。
「ま、とにかくサーナイトの調子が最近安定して良さげだからいいんだけどな。」
「もしかしたら、マスターから元気をもらっているのでしょうか。」
「かもしれないな。」
 サーナイトはバイツのその発言に小さく微笑んだ。



 テントは三人用と四人用のテントしかなかった。
 四人用のテントにはライキ、ヒート、イル、シコウが寝る事に。

533名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:06:30 ID:/qBnNDz6
 三人用のテントにはサーナイト、キルリア、ミミロップが入った。
「まあ結局は俺が火の番になるんだけどね。」
 咄嗟に炎が出せるという点からまたもやバイツが火の番をする事に。
 橙色の炎がテントを照らして影を作る。
 バイツは炎を眺めながら考え事をしていた。
 サーナイトの事だった。
 急に体調が良くなったのはいいが何がその根底にあるのかが不思議だった。
「何かしらあるはずだ・・・」
 バイツはそこまで口にしたが頭を横に振って思考を止める事にした。
「自然療法ってやつかもな。」
 仲間の事であれこれ考えていても仕方が無かった。
 あるべきを受け止める。それがバイツの出来る事だった。
「しかし・・・」
 バイツの疑念はサーナイトから離れ、周囲の状況についての事になった。
 辺りが真っ暗闇なのは時間的にも分かるが他のグループが火の番を立てずに眠っている事である。
 夜もそれ程深いのであろうか。
 するとテント入口のジッパーが開く音がした。
 サーナイトがテントから顔を出してきた。
「どうしたサーナイト。」
「あの・・・少し寝付けなくて。」
 バイツが枯れ枝を炎の中に入れながら静かに笑みを浮かべて見せた。
「おいで、サーナイト。」
「はい、失礼します。」
 このシチュエーションが前にもあったような気がしたバイツ。
「暖かいですね。」
「焚き火が?」
「それもありますが気温もどことなく高い気がします。」
「そうか?涼しい位だぞ今夜は。」
「そうでしょうか。」
 サーナイトがバイツとの距離を詰める。元から近くに座っていた為少し動くだけで体が触れ合う。
「おいおい、体の火照りを冷ませるのは俺だけだなんて言うなよ?」
「ばれてしまいましたか。残念です。」
「図星かよ。」
「冗談です。では本題に入りましょうかマスター、そろそろマスターも寝るべきではないのでしょうか。」
「テントは満員だぞ。」
「今なら一つ空いていますが?」
 サーナイトの言いたい事が分かったバイツ。
「つまりサーナイト、自分のスペースを使ってくださいって事か?」
「そうです。火の番位ならば私にもできます。」
 バイツは溜息を吐いた。
「それじゃあ俺の意味が無い。」
 そう言ったバイツは枯れ枝を炎の中に放り込んだ。
「それに俺が寝込みをミミロップに襲われたらどうするんだ。」
 意味深な発言にサーナイトは言葉が見つからなかった。
 そんなサーナイトを見てバイツは静かに笑った。

534名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:07:07 ID:/qBnNDz6



 翌朝。
 結局夜が明けるまでサーナイトはバイツと共に過ごした。勿論今まで完全に起きていた訳ではなく、何度も睡魔に襲われてうとうとしていた事もあった。
「よっしゃ、じゃあ行くとするか!」
 朝食とテントの回収を終えるとヒートが勢いよく立ち上がった。
「今日中にはどこか宿泊施設に着きたいね。」
 ライキはそう言い立ち上がる。
「よし、行くか。」
 バイツも気合いを入れて立ち上がる。
 一睡もしていない割には元気なバイツ。
 対してサーナイトの方はうつらうつらとしていた。
「ライキ・・・近くの街までどれくらいある?」
 バイツはサーナイトを横目にライキに訊いた。
「結構あるね。まあ道すがら何かあると思うけど。」
「早く行っちゃお!サナサナも目を覚まして早く!」
 ミミロップの元気な声が響く。
 対してサーナイトの方はあくび混じりに。
「あ・・・はい・・・」
 とだけ返す。
「バイツお兄ちゃん。夜お姉ちゃんと何話していたの?」
「んー?何だと思う?」
「何こそこそ話しちゃってるの!?あたしも混ぜて!」
 ミミロップがそこまで言った所でシコウが口を開いた。
「バイツ、お主寝ていない様だが大丈夫か?」
「大丈夫だ。問題ない。」
「そうか、ならば問題は―――」
 シコウの視線はサーナイトに向けられた。
「体力を消耗しきる前に休憩所を見つけられれば良いが。」
「そうだな。」
 問題を残しつつもバイツ達は歩き始めた。



 キルリアとミミロップに色々聞かれながら移動を続けるバイツ。
 サーナイトは眠いのか欠伸をしながらついて来るだけが精一杯の様だった。
 それでも昼前まではバイツ達に追い付いていた。
 しかし、バイツ達の歩みはそこでいったん止まった。
「いいからこの土地を明け渡せ!」
 それは大きな家の前に辿り着いた時だった。
「お断りします。ここはこの子達の家でもあるのです。」
 角刈りの大柄な男とウェーブのかかった長い髪をした二十二、三位の若い女性が口論していた。
「あのなあ、スンドゥーさんはなこの土地に大層な金額を出してくれるんだぜ?」

535名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:07:59 ID:/qBnNDz6
「それでもここは代々私達の一族が受け継いできた土地、手放す訳にはいきません。」
 一歩も引かない女性と荒々しくスンドゥーという名前を出し何度も土地を手放す様に言う男。
 バイツ達は興味深そうにそのやり取りを見ていた。
「何だ手前等。」
 男がバイツ達に気付く。
「さっさと行け、見せもんじゃねえ。」
「そんな事言われてもな、道端でだみ声響かせてるあんたが目立ちすぎてしょうがないんだ。」
 バイツが痛烈な言葉を浴びせると男は顔を真っ赤にした。
 こいつとは友達になれない。
 バイツはそう思った。
「おいヒートこういう場合どうする?」
「あん?んなもん決まってるじゃねーか目の前のデカブツ倒してよ。お嬢さんに向かって一言言うんだ「綺麗なお嬢さん大丈夫ですか?」ってな。」
 その時、女性の後ろから幼い声が聞こえてきた。
「クミお姉ちゃん!皆を安全な場所に避難させてきたよ!」
 そこに居たのは一体のクチートだった。
 バイツの目はクチートの左腕に向けられた。
 サーナイト、ミミロップと同じ腕輪をしていた。
「ありがとうクチート、さ、あなたも入っていてすぐに終わるから。」
 そこで男の中で何かがキレた。
「そんなにそのガキどもが大事なら大人しくするように躾やがれ!こういう風にな!」
 男が荒々しくクチートに接近し、拳を振り上げた。
 拳が振りかぶられたモーションを見た途端クチートは咄嗟に目を閉じて頭を庇った。
 そして振り下ろされる拳。
 乾いた音が響いた。
 全く男の拳が来ない事を不思議に思ったクチートは目を恐る恐る開けた。
 それもそのはず、バイツが拳を右手で受け止めていたのだった。
「どうした、それで終わりか?」
「んにゃろ・・・お・・・!?」
 男が拳を引こうとするが一向に自分の拳が動かない。
「えーっと、ヒート。こういう時はどうするんだっけ?」
 バイツが男をヒートの方に押す。
 男は軽く吹っ飛びヒートの眼前で尻餅をついた。
「しゃーねーな実演を交えて教えてやんぜ。」
 ヒートは尻餅をついた男の鳩尾に重い拳の一撃を叩き込んで悶絶させた後、クミと呼ばれていた女性に近付いて声を掛ける。
「綺麗なお嬢さん。大丈夫ですか。」
「え・・・ええ。」
「っていうのが一連の流れよ。分かったかいバイツ君。」
「ありがとうヒート先生。今後の参考にするよ。」
 そして、ライキとイルは男に近付いた。
 クミに見えない位置で銃口を男に向け、氷の剣の先端を喉に向けた。
「君のボスに伝えるんだね。こういう事から手を引けって。」
 ライキが殺気を隠さずに男にそう言う。
 半分意識が飛びかかっている男は呻き声を漏らすとその場を這う様にして本能が赴くままに逃げていった。

536名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:08:35 ID:/qBnNDz6
「シコウ。」
「承知。」
 バイツがシコウの名を呟くと、シコウはその場から消えた。
 そしてバイツが溜息を吐いた瞬間サーナイトが倒れた。
「サーナイト!」
 バイツはサーナイトの近くに寄って抱きかかえる。
 サーナイトからは寝息が聞こえた。
「全く・・・無茶をするから。」
 大事が無い事を知ったバイツはホッと一息。
 その時クミがバイツに向かって話しかけた。
「よかったらこの家に寄って行きませんか?助けてくださったお礼もまだですし。」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。」
 バイツがそう言うとクミは微笑んだ。
「ではこちらに来てください。」
 そう言ってクミはバイツ達を家の中に招き入れたのだった。



 サーナイトを空いている部屋のベッドに寝かせてバイツ達は応接室に通された。
 そこそこの広さの部屋で三人用のソファーが二つ机を挟んで置いてあった。
「クチート、もう安全だって皆に伝えてきて。」
「うん!」
 クチートは大きく頷いた後に応接室を出ていった。
「少し座って待っていただけますか、今お茶の準備を・・・」
「いや、結構。それよりあの男が襲ってきた理由を教えてくれないか。そしてここがどういう所なのかも。」
 バイツはソファーに座る事なくそう言った。
「ここはポケモン達の孤児院です。主にトレーナーに捨てられて一人で生きていくのが困難なポケモン達の。」
「奴らがここを欲しがる理由は?」
 バイツの問いにクミは応接室の窓際に近付いて外を見た。
「理由ですか・・・それは先祖代々受け継がれてきたこの土地にあります。」
 バイツはキルリアとミミロップをソファーに座らせるとクミの視線の先を見た。続いてライキ、ヒート、イルも外を見た。
 家の裏、そこには広大な草原と森が見て取れた。
「あの人達はここに巨大な娯楽施設を立てようとしているのです。私達を追い出して。」
「あの人達?確かスンドゥーがどうとか言っていたな。」
「近くの街の権力者です。あまりいい噂を聞きません。」
「成程、拙者が見てきたものと同じだな。」
 声のした方を振り向くとそこにはシコウが立っていた。
「お主等もう少し周囲に気を配れ、拙者が敵だったらどうなっていた事か。」
「お前の気配の消し方が異常だってーの。」
 ヒートが頭を掻いてそう答える。
「まあいい、それよりバイツ。スンドゥーは―――」
「おいシコウまさか全員潰してきたなんて言うんじゃねえぞ?」
「何を言っているヒート。お主じゃあるまいし。拙者が言いたいのはスンドゥーが組員達を集めてこちらに向かってきているという事だ。」
「へっ!だったら話は早えや。そいつ等をぶっ潰す。」

537名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:09:17 ID:/qBnNDz6
 ヒートはやけに楽しそうに言った。
 そんなヒートを見てクミが口を開いた。
「あの・・・あなた達は一体・・・」
「ただの根無し草さ。」
 そう言ったバイツはソファーに座っているキルリアとミミロップに視線を向けた。
「キルリア、ミミロップここで待っていてくれないか。」
「え!?僕達の事置いていくの!?」
「マスターの事護らなきゃ!あたしも行く!」
 バイツはいかにも真面目そうな表情を作ると二人に言い聞かせた。
「人間同士の問題に巻き込みたくないんだ。」
 キルリアとミミロップもバイツの表情を見て互いを見合わせた。
「じゃ、行こうかバイツ。」
 イルの言葉にバイツは頷いた。
「クミさん、少しの間だけ三人を預かってくれませんか。」
「分かりました。」
 そして五人は応接室を後にした。



 サーナイトが目を覚ますとそこは見覚えの無い部屋だった。
「あれ・・・?私・・・」
 何故ここに居るのかを思い出そうとするサーナイト。すると部屋のドアが開いた。
「あ、目を覚ました。」
 そこに居たのは一体のクチート。
「ええと・・・」
「あたし、クチート。お姉ちゃんは?」
「私はサーナイトです。あの・・・ここは・・・」
「あたしの・・・ううん、あたし達の家。ここは孤児院なの。」
 バイツの姿が見えない事に気付くサーナイト。
「私と一緒に居た方々は何処に・・・」
「皆悪い人達をやっつける為にここを出てったよ。」
 クチートの言葉に頭を抱えるサーナイト。大事な時にバイツの近くに居られなかった事を後悔した。
 ふと、クチートの左腕に目が行った。
 自分と同じ腕輪をしている。
「あの・・・その腕輪は何処で?」
「裏の森で見つけたの・・・填めたら取れなくなっちゃった。」
 そう言うクチートもサーナイトの左腕の腕輪に視線を移す。
「お姉ちゃんは何処でそれを?」
「偶然ゴミの山の中から・・・」
「ふーん。何なんだろうねこの腕輪。」
「メガバングルと言うらしいですよ。」
 そこまで言って言葉を止めたサーナイト。まだこの子は戦う運命ではないのかと思いメガシンカの事は伏せておいた。
 すると、またドアが開いた。
「あ!サナサナ!おはよう!」
 元気な声と共に部屋に飛び込んできたのはミミロップ。続いてキルリア。そして最後にクミが入ってきた。

538名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:11:28 ID:/qBnNDz6
 クミはサーナイトの傍に立ち顔を覗き込んだ。
「気分はどう?」
「はい。大丈夫です。」
「良かった。私はクミ、ここの園長をしているの。」
「あの・・・私はどうしてここに・・・」
「サナサナこの孤児院の前で倒れちゃったの。」
 ミミロップが簡単に説明する。
「寝不足だったのね。あなたスヤスヤ寝息を立てていたわよ。」
 サーナイトはクミからその事を聞かされ顔を紅く染めた。
「ふふっ、可愛い子。」
 クミは静かに笑って見せた。
 その笑顔を見ていると何処か癒される感じがしたサーナイト。
 そして、心に決めた。今度は自分がバイツを癒そうと。



 一方、バイツ達はスンドゥーの率いてきた数十人の男達と対峙していた。
「こ、このガキどもですスンドゥーさん!」
 この一言から始まった。
 声を上げたのはクミと言い争いをしていた男。
 先頭に居た長身の男がバイツ達に頭を下げる。
「初めまして。スンドゥーと申します。そしてありがとう。」
「あン?何でいきなり礼言われなきゃなんねーんだよ。」
 ヒートが一歩前に出て言う。
「いやあ私の部下から聞いたんだよ、先に手を出したのは君達だってね。」
「その男がポケモンを殴ろうとしたのが先だ。」
 バイツが少し殺気立ちながら言う。
「だが、攻撃は届かなかったそうじゃないか。だから先に手を出したのは君達。私達はその暴力から身を護ろうというのだ。」
 スンドゥーは両手を一度だけ叩いた。
「そう正当防衛だよ君達。だから少し痛い目を見てもらおうと思ってね。あの孤児院の女にも。」
「難癖つけてカチコミしてえだけじゃねえか。」
 正論を口にしたヒート。
「ここは通さない。あの孤児院に危害を加えるのなら尚更。」
 そうバイツが静かに言うとスンドゥーはバイツ達に人差し指を向けて声高らかに言った。
「皆さん!やってしまいなさい!」
 男達が怒号を上げ一斉にバイツ達に襲い掛かる。
 だがその勢いは一発の銃声で止まってしまう。
 ライキがわざわざ拳銃から消音器を外して男達の一人に向かって発砲したのである。撃たれた男は太ももを押さえてその場に倒れた。
「武装もろくにしてないの?そんなんじゃ甘いよ。」
 その声を皮切りにバイツ達は男達に襲い掛かった。
 勝負は一瞬で付いた。
 勿論バイツ達の勝ちである。
 男達は自分の足でまたは仲間を担いで逃げていった。
「なあスンドゥー見なかったか?」

539名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:12:34 ID:/qBnNDz6
 バイツは四人に訊いたが全員首を横に振った。
「参ったな、一番痛めつけておかなきゃいけない奴が何処かに消えた。」
「トラウマでも植え付けるつもりだったのー?」
 イルは笑いながら半分冗談のつもりで言ったがバイツが真剣な表情で頷いた。
「しゃーねーなバイツ。ここら一帯を捜索すっか。隠れているかもしれねーしな。」
 ヒートの言葉通りここら辺を探索する事にしたバイツ達だった。



 スンドゥーはその頃部下達がやられたのを見ると一人で一目散に逃げていた。
「じょ・・・冗談じゃありませんよー!何であんなガキどもにやられるんですかー!」
 信じられないものを見たスンドゥー。まさか自分の用心棒があれ程簡単にやられるとは思ってもいなかった。
 目を閉じれば脳裏に焼き付いていた光景が蘇る。
 たった五人にズタズタにされた用心棒達。
 それを思い出すだけでも震え上がった。
 どの道をどう進んだのかは覚えていない。
 しかし、街の入り口が見えてきたところで安心しきった。
 まずは使えなかった連中を全員首にする事は決まっていた。それから今度は誰を雇うかの問題へ。
「つ・・・次はぁ・・・!」
 その途端心の中のどす黒い感情が全身を包み込むような感覚が彼を襲った。
 そして意識はどす黒い感情から生み出されたどす黒いエネルギーに包まれた。



 サーナイト達は孤児院のポケモン達と外で触れ合っていた。
「ミミロップ、もしかしあなたって・・・」
 クミがミミロップの事を見て何やら考えている。
「ん?なあに?」
「芸能界に居た事ってある?」
「うん。」
「え・・・ちょっと・・・もしかしてあのミミロップ!?」
「どのミミロップ?確かにあたしは芸能界に居たけど引退したの!」
「やっぱり!この前アイドル活動を辞めたミミロップ!私、ファンだったの!引退して何をしているのかと思えば―――」
「マスターについていこうって決めちゃったの!」
「そう・・・でもあなたの歌、ダンス、忘れられないわ。」
『ダークナーの気配がします!』
 サーナイトのメガバングルが反応した。
 続いてミミロップのメガバングルも反応する。
『凄い勢いでこっちに近づいて来ちゃう!』
 サーナイトとミミロップは互いに頷き合って空を見た。
 空から黒い大きな人型の化物が降ってきた。
「え?何これは・・・」
「ダークナー!」
 ダークナーが一際大きく叫んだ。その時にクミは本能でこう言った。
「皆!森の中に隠れて!」

540名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:13:16 ID:/qBnNDz6
 クミの声は遊んでいたポケモン達に届いた。
 異常を感じ取ったのかポケモン達は少々散り散りになりながらも何とか森の中へ
 サーナイトとミミロップはダークナーの前に立つ。
「あなた達も逃げて!」
 クミがサーナイトとミミロップに向かって言う。
「お姉ちゃん!早く!」
 キルリアもサーナイトとミミロップの事を待っていた。しかしサーナイトとミミロップは動かない。
「なるべく人に見られない様にメガシンカしたいところですね。」
 その時クチートがキルリアの腕を引っ張った。
「早く森に避難しよ!」
「でもお姉ちゃん達が・・・」
「二人は私が連れていくわ!だから先に逃げてて!」
 クミがそう言うとクチートはキルリアを引っ張っていき何とか避難を成功させた。
「二人共さあ早く!」
 その時ダークナーが何を思ったのか森の方へ向かう。
「森には皆が!」
 クミは急ぎ足でダークナーの前に立つと両手を大きく広げた。
「ここは通さない!」
 ダークナーは止まった。だがその言葉に耳を傾ける為ではなかった。ダークナーは右手でクミを強く払い退けた。
 吹っ飛ぶクミ。そのまま意識を失ってしまう。
「ここまでするなんて・・・もー!謝っても許してあげちゃわないんだからー!」
 ミミロップがメガシンカをする。
 続いてサーナイトも。
「サイコパワーを高めます!ミミちゃんは直接攻撃を!」
「オッケー!」
 「こうそくいどう」を絡めて一気にダークナーに接近する。
 そしてミミロップは大きく飛び跳ねるとダークナーの頭上へ。
「これでどうだー!」
 ミミロップがダークナーの頭部を何度も踏み付ける様にしての蹴撃。
 しかし、ダークナーはすぐにミミロップの足を掴みサーナイトへ向けて勢いよく投げつけた。
 サイコパワーを高める事に集中していたサーナイトはそれをかわせる筈が無く二人共吹っ飛ばされる。
「ダークナー!」
 二人共咄嗟に動けないほどのダメージを受ける。
 勝利の雄叫びであるかの様にダークナーは叫んだ。



 その雄叫びは森の中まで聞こえてきた。
 クチートはクミがいつまでたっても来ない事を不安に思っていた。
 そしてクチートは思い切った行動に出る。
「あたし・・・クミお姉ちゃんを探してくる。」
 傍に居たキルリアがクチートを呼び止める。
「待って、だったら僕も行く。」
「駄目だよ、君がついてきたら皆も来ちゃうでしょ。」
 キルリアは何も言い返せなかった。

541名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:13:59 ID:/qBnNDz6
 クチートは急いで雄叫びの聞こえた方向へ走って行った。
 森を抜けてまず目に入ったのは倒れているクミ。
 そして、サーナイトとミミロップを大きな手で握り潰そうとしている黒い巨大な化物。
「そんな事させない!」
 クチートはダークナーの足に大顎で噛みつく。
 しかし、効果が薄くダークナーはクチートを引きはがす為に蹴り飛ばす。
 クチートは吹っ飛び二転三転し倒れた。
「お姉ちゃん達を助けなきゃ・・・」
 クチートは軋む体に活を入れ立ち上がる。
「やあああ!」
 クチートは叫びながらダークナーに突進していく。
 その時、声が聞こえた。
『皆を苦しめる奴を懲らしめよう。勇気を出して力を貸すから。』
 ダークナーの手の中にいるサーナイトとミミロップは確かに見た。光を纏ったクチートがメガシンカした所を。
 再度ダークナーの足に二つの大顎で噛みついた。
「ダークナー!」
 先程とは違う激痛にダークナーは思わず叫びサーナイトとミミロップを離した。
「ありがとうございます。助かりました。」
「ありがと、さーて勝負決めちゃうよー!」
 ダークナーはクチートを倒そうと拳を繰り出す。
 が、二つの大顎が拳を捕らえる。
 そしてそのまま「かみつく」を繰り出す。
「ダッ・・・ダークナー!」
 ダークナーを再度襲う激痛。
 クチートを振り払おうと空いている方の拳でクチートを捕まえようとした。
「あたし達の事忘れちゃってない!?」
 ミミロップがもう片方の拳に渾身の蹴撃を叩き込んだ。
 ダークナーはバランスを崩しよろける。
「サナサナ!今だよ!」
「はい!」
 サーナイトの「サイコキネシス」がダークナーに当たると同時にクチートは大顎を離した。
「ダッ・・・ダークナー・・・」
 ダークナーの体は光の粒となって消えていった。そしてその中からスンドゥーの体が現われた。
 サーナイトとミミロップとクチートはメガシンカ状態を解いた。
「サーナイト、ミミロップ!」
 遠くから二人を呼ぶ声。それはバイツの声だった。
「大丈夫か!?」
「大丈夫です。マスターこそいかがなさいました?」
「こっちの方向に嫌な気配を感じたんだ。」
「何の事でしょうか?ミミちゃん。分かりますか?」
「あたし、マスターが何言っちゃってるか分かんなーい。」
 そこまで言った時、クチートの声が聞こえた。
「クミお姉ちゃん大丈夫?」
「うん大丈夫・・・でも・・・さっきのは一体・・・」
「さっきの?一体何を・・・」

542名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:14:34 ID:/qBnNDz6
「分かりません、ただ・・・黒い巨人が見えてそれから・・・」
 クミは自信なさげに俯いた。
「黒い巨人?」
「あたし達森に逃げていった子達を迎えに行かなきゃ。じゃあまた後でねマスター」
 ミミロップはサーナイトとクチートの手を引っ張って森に逃げていった。無論ダークナーに関する箝口令を敷く為である。
「あり得ませんよねそんな事・・・私疲れてるのかな。」
「・・・」
 バイツは何も言わなかった。サーナイト達は何かを隠している。それだけは確信が持てた。
 その証拠に何故ここに探していたスンドゥーが倒れているのかが不明だった。
「何があったんだ・・・本当に・・・」



 その夜、クミの計らいで孤児院に泊めてもらう事に。
 しかしバイツ達は夕食の後スンドゥーを街中に連れていく為に孤児院を後にしていた。
 勿論警察に連れていくのだがその前にトラウマを植え付けようとする謎の作戦もあった。
 バイツ達五人が孤児院を後にして少し後、クチートは草原で月を見ていた。
「お隣、よろしいですか。」
 クチートは声のした方向を振り向いた。そこに居たのはサーナイト。
「サナお姉ちゃん。いいよ。」
「失礼します。」
 二人並んで月を見上げる。
「ねえサナお姉ちゃんって旅してるんだよね。」
「はい。」
「旅って楽しい?」
「楽しいですよ。色々な人と出会い困難があっても皆様と力を合わせて乗り越えて進んで行く。私はそこが気に入っています。それに・・・」
 メガバングルに目を落とすサーナイト。
「私達は世界を護る運命にあるようです。」
 クチートも自分の左腕にあるメガバングルを見る。
「世界を護る旅・・・」
「この事はメガバングルを着けている方にしか話してはいけないのですけれど。」
「あたしも行きたい。でも・・・」
「ここから離れたくない・・・そう言いたいのですか?」
 サーナイトの言葉にクチートは頷いた。
「二人で何をしているの?」
 クミが二人に声を掛ける。
「クミお姉ちゃん、あたしサナお姉ちゃん達と旅に出てみたい。」
「そう・・・」
 クミは当然寂しそうな表情を浮かべる。
「でもここも離れたくない。どうすればいいの?」
「クチート、あなたはどっちがいいの?もし旅に出るというのなら私は止めない。でもね、ここはあなたの家でもあるの、だからいつでも帰りを待ってる。」
「クミお姉ちゃん・・・」
 クチートはその言葉に涙をぽろぽろと流し始めた。

543名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:15:16 ID:/qBnNDz6
「おいで、クチート。」
 クミはその場にしゃがみこんだ。そしてクチートを抱きしめた。
 その時クミの頬を一粒の水滴が伝って行った。



 そして翌朝。
 バイツはサーナイトに呼ばれて応接室へ。
 応接室ではクミが座って待っていた。
 クミの向かいに座ったバイツは真剣なクミの表情を見て出方を窺った。
「お願いがあります。どうかクチートをあなた達の旅に加えて頂けないでしょうか。」
 キョトンとした表情でクミを見るバイツ。
「それは―――」
「これはあたしの選択。あたしが決めた事。」
 クチートが応接室に入ってきた。
「だからお願い!あたしを旅に連れてって!」
 バイツは溜息を吐いた。
「その前に、だ。何で俺にだけこの事を話す?」
「旅のメンバーの中では一番発言力があるとサーナイトから聞きました。」
 クミはそう言ったがバイツは頭を横に振った。
「俺達は全員が対等な立場にある。だから発言力なんてものは無い。」
「それでも・・・私からもお願いします。」
 サーナイトとクチートとクミが頭を下げる。
「まあ、旅の仲間は多い方がいいな。」
 そう言うとバイツは立ち上がって応接室のドアを開けた。
 ライキ、ヒート、イルが雪崩の様に室内に向かって倒れてきた。そしてその様子を見ていたシコウ。
「盗み聞きか?感心しないな。」
「だって、僕達の知らない所で話がドンドン進んでいくんだもの。」
「そうだな蚊帳の外にして悪かった。」
 バイツはクチートを抱き上げると四人の前に立った。
「新しい仲間のクチートだ。」
「よろしくね、お兄ちゃん達。」
 クチートは笑顔でそう言った。
「あーもう!分かったよ!近くの街に寄ったら大きいテントを買うぞ!」
 ヒートが喚く様に言った。
 バイツはクチートを床の上に降ろすと、サーナイトに声を掛けた。
「キルリアとミミロップに声を掛けてきてくれそろそろ出発するから。」
 こうしてバイツ達は孤児院を後にした。
 行く前にクミがクチートを抱きしめた。
「これからの旅、頑張ってね。」
「うん!」
 こうして新たな仲間を迎えバイツ達の旅は続くのであった。

544名無しのトレーナー:2015/07/18(土) 00:16:20 ID:/qBnNDz6
この話はこれでお終い。
誤字脱字腑に落ちない点などございましたら脳内で補完してください。

545名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:05:00 ID:/qBnNDz6
HALO5とかfallout4が発売されたらこんなペースで投稿できない。
はっきりわかんだね。

546名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:06:24 ID:/qBnNDz6
「ねえねえマスター手を繋いでいい?」
 街に向かう途中でクチートがバイツに聞いた。
「いいよクチート。キルリアもおいで。」
「わーい!」
 キルリアが右手、クチートが左手を掴む。
「あーん!あたしもマスターと手を繋いじゃいたい!」
 ミミロップが悔しそうな声を上げる。
「マスターは大人気ですね。」
 と、サーナイトが言う。
 そんな事があって街に着く。
 今回は上層都市に寄っていく事にする。
 何故ならばサーナイト達をポケモンセンターに連れていく為であった。
 ここ最近設備の整った場所でサーナイト達を回復させていない事に気付いたバイツ。
「俺達はポケモンセンターに寄っていくよ。」
 噴水のある公園でバイツはそう言った。
「じゃあ僕達は旅に必要な物を買い揃えながらホテルの予約を取るよ。一時間後ここの噴水の所で待ち合わせだね。」
 そう言ったライキはヒート、イル、シコウを連れて何処かへと消えていった。
「さあ、俺達はポケモンセンターだ行こうか。」
 ポケモンセンターに着いたバイツ達は思わぬ光景を目にする。
 薄手のシャツからはち切れんばかりの筋肉質の男達がポケモンセンターの待合室に居た。
「な・・・何だこの光景は。」
「やーん!筋肉―――」
「ミミロップ、静かに。」
 何か怒りを買いそうな言葉を言いかけたミミロップの口元にバイツが人差し指を添える。
 その中に少女が居た。十五、六歳ぐらいの年齢で髪はショートカット、上はシャツ、下は道着といかにも格闘少女らしい恰好だった。筋肉だらけのポケモンセンターでも物怖じせずに平然としている。
「マスター?一体何をご覧になっているのですか?」
 サーナイトがバイツを覗き込みながら言う。
「ん?ちょっと珍しい光景を見てたのさ。」
「えー!なになに!どんなの!?」
 ミミロップが食いつく。
「あたしも見たい!」
 クチートも参加する。
 バイツが口を開こうとした瞬間ジョーイの声が聞こえた。
「次の方どうぞー」
 バイツはジョーイに従ってサーナイト達を預けた。
 待合室は筋肉隆々の男達で溢れかえっていた。
 その所為か待合室が暑く感じる。
「ああ・・・くそっ。しかし、仕方のない事だ。」
 バイツはそう言ってこの暑さを我慢する事にした。



 一方で四人はというとある電子ポスターの前にいた。
「おい見たかよ。人間同士の総合格闘大会だってよ。」

547名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:07:00 ID:/qBnNDz6
 ヒートが嬉々として言う。
「俺も参加すっかなー」
「待ってよヒート。その前に今日泊まるところを探さなきゃ。」
 ライキが優先すべき事を口にする。
「めんどくせーのはお前等に任せるぜ!俺は大会の受付してくるからなー」
 そう言ってヒートはポスターに書かれていた必要事項を読むと参加受付の為走り出した。
「ねーライキこれってさ確実にヒートが迷子になるよね。」
 イルの言葉にライキは頷いた。
「ヒートを追おう。イル、シコウ、行こう。」
 三人はヒートの後を追って走り始めた。
 それから十数分後、運よく大会の申し込みをしているヒートと合流できた三人。
「お?何だ。お前等も参加すんのか。団体戦か?」
「冗談、ただ迷子になろうとしている君を放っておけなかっただけさ。」
 ライキがそう返す。
 受付を終わらせたヒートは歩き始めた。三人も後を追う。
 予選は今から一時間後。ヒートは周りにいる筋骨隆々な男達を見てテンションを上げていた。
「先にホテルの予約を済ませようか。ヒートは?ウォーミングアップは必要なさそうだね。」
 それからホテルを決めて部屋を取っても予選までの残り時間はまだ三十分程あった。
 ホテルの部屋の中で四人は話し合っていた。
「んー・・・スイーツ巡りと行きたいところだけどバイツと合流しようか。」
 イルがまともな事を言う。
「俺は会場に向かうぜ。楽しみがあるっていいな。」
「僕等は予選見ないよどうせ君の一人勝ちに決まってる。」
 ライキはそう言うと歩き始めた。バイツとの合流場所へ向かう為である。
「じゃーねーヒート。また後で。」
 イルもそう言ってライキの後を追った。
「まあお主の事だやりすぎにはならんだろうが精々気を付けろ。」
 シコウも二人の後を追う。
「さてと、着るもの準備しねーとな。」
 そしてヒートもホテルを後にした。



 一方バイツはというと、屈強な男達に囲まれてサーナイト達の回復を待っていた。
 少女は雌のルカリオを待っていたらしく、ルカリオの回復が終わるとすぐに外へ出ていった。
 やがてサーナイト達の回復も終わりバイツは外に出た。
「あー新鮮な空気だ。」
 バイツは背伸びをする。
「さあ、あいつ等と合流しよう。」
 そう言ってバイツは公園までの道を歩いていった。
 そして公園に辿り着いたバイツ達。
 先程は気が付かなかったが公園では噴水の周りでウォーミングアップしている男達が爽やかに汗をかいていた。
「どの方々も凄く鍛え上げられた体をしていますね。」
 サーナイトが男達に視線を向けながら言った。
「うえーあんな筋肉達磨達の何処がいいの?サナサナのセンスが分からないよ。」

548名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:07:40 ID:/qBnNDz6
 ミミロップはなるべく男達を見ない様にしていた。
「あたしはマスターがいい。」
 そう言ってクチートはバイツの足に抱きついた。
「あっ!クチクチ!そうやって点数稼ぎしちゃうの!?」
 ミミロップもバイツに抱きつく。
「二人の気持ちは分かったから離れてくれないか、歩けない。」
 ミミロップとクチートは照れながらバイツから離れた。
 バイツは辺りを見回す。
 まだ四人は来ていない様だった。
 バイツは公園の電子掲示板のモニターを見る。
 掲示されていたのは人間の格闘大会のお知らせ。
「成程、だからこんなに逞しい男達が集まっているんだな。」
 ヒート辺りが喜んで参加するだろうとバイツは思った。バイツの知らない所で実際参加してしまったのだが。
 その時、笑い声が聞こえた。
 何処か人を馬鹿にしている様な笑い。
 バイツ達はその声のしている方を向いた。
 そこに居たのはポケモンセンターでバイツが見かけた少女と筋肉隆々の男達。
「お前みたいなガキが大会に参加するだぁ?馬鹿言ってんじゃねーよ。ハハハ。」
 少女は笑っている男をキッと睨み付けて口を開いた。
「私は自分がどこまでいけるか試したい!だからこの大会に参加する!」
「無理無理無駄無駄。精々そのポケモンとおままごとでもしてな。」
 少女の傍らに居たルカリオも男達を睨み付ける。
 バイツは関わらない事にした。
 ああいう手合いは実戦で痛い目を見る。相手を外見だけで判断しているからである。
「行こうみん・・・な・・・?」
 サーナイト達が周囲にいない事に気付いたバイツ。
 どこに行ったのかというと少女の近くに居た。
「今の発言を取り消してください!」
 サーナイトが男達に向かってそう言った。
「二人を囲んで馬鹿にするなんて酷いじゃないかー!」
 キルリアも参加する。
「この筋肉達磨!あんた達なんてマスターにぶっ飛ばされちゃえばいいんだ!」
「女の子を馬鹿にすると罰が当たるんだからね!」
 ミミロップとクチートも少女を擁護していた。
 バイツは溜息を吐くとサーナイト達の所へ向かった。
「何だテメェ等、どこからしゃしゃり出てきた?」
 男達の内の一人がサーナイト達を睨む。
「俺のパートナー達をそんなに睨み付けないでくれるか?馬鹿がうつりそうで怖い。」
 バイツはそう言いながら男達に近付く。
「何だ?このポケモン達のトレーナーか?やけにヒョロヒョロの優男じゃねえか。」
 男達は一層高笑いをする。
「悪ぃな兄ちゃん。俺等はポケモンバトルで勝負するんじゃねーんだわ。この鍛え上げられた肉体でバトルしてんだよ。」
「俺もポケモンバトルで白黒つける気は無い。」
「だったらどうするんだ?俺等と殴り合いでもするのか?」
「話が早いな。俺もそっちの方がいい。」

549名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:08:21 ID:/qBnNDz6
「お前馬鹿か?この鍛え上げられた肉体が見えねえってのか?」
「これはいい筋肉だ。もしかすると脳みそまで筋肉でできているのか?」
「このガキ!」
 男は怒りに任せてバイツの顔面に向かって拳を打ち込んだ。
 しかし、拳はバイツの顔面に届かなかった。
 右手でしっかりと伸びてきた拳を掴んでいたのだった。
「遅いな。」
 右手を引いて相手の姿勢を崩したバイツ。前のめりになった相手の背中に左肘を一撃。
 男は短く呻き声を上げるとその場に倒れ込んだ。
「次は誰だ?」
 簡単に一人倒したバイツ。男達は勢いを削がれたのか誰も声を上げる事無く視線を互いに合わせるだけであった。
「次が無いのなら俺達は行くぞ。」
 バイツは少女とルカリオの手を取ると男達から離れた。サーナイト達も男達から離れたが離れる際にミミロップは男達に舌を出して見せた。
 その時、バイツの視線の先。ルカリオの左腕にはサーナイト達と同じ腕輪がはめられていた。
 公園の入り口付近まで来るとバイツは二人から手を離した。
「いきなり済まなかったな。」
「い・・・いえ!こちらこそ助けていただきありがとうございました!」
 少女は丁寧に頭を下げた。
「私からも・・・ありがとう。」
 ルカリオも頭を下げる。
「礼はいいさ、こっちが勝手にやったことだ。」
 その時、ルカリオが何かに気付いたかの様に少女に向かって言った。
「リカ、予選が始まる。そろそろ会場に行った方がいい。」
「あーっ!いけない、こんな時間だ!それでは失礼します!」
 リカと呼ばれた少女とルカリオは公園の外へ駆け出していった。
 それと入れ替えにライキとイルとシコウが姿を現す。
「バイツ、今の子誰?」
 ライキが一応訊く。
「公園で複数の連中に囲まれている所を助けたんだ。」
「ふーん、正義の味方って訳だ。」
「ヒートはどうした?」
「格闘大会に参加したよ。」
「そうか。」
 リカと呼ばれた少女には残念ながら優勝は諦めてもらおうと思ったバイツ。だが、大会にはどんな番狂わせがあるのか分からない。
「ライキ、席のチケットは取れるか。」
「え?一応取れるけどどうして?」
「俺とサーナイトとキルリアとミミロップとクチート。五つの席だ。」
「まあ、僕等三人は見なくても結果が分かるからいいけど。」
 ライキはそう言うと近くのベンチに座りパソコンの画面を展開した。
「どうせヒートが優勝するのにねー」
 イルがそう言ったがバイツはそれに意地の悪い笑みを返すだけだった。
「何やら不穏な笑みだな。」
「全くだよ。」

550名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:09:19 ID:/qBnNDz6
 ライキもシコウの意見に同感だった。



 試合会場は予選といえど盛り上がっていた。
 バイツ達は端の方の席だったがそれでも試合を見る事が出来た。
 ヒートとリカはグループが違う為予選では戦う事は無かった。
「ま、決勝トーナメントで嫌でも会う事になるだろう。勝てればの話だがな。」
 それがバイツの意見だった。
 試合は勝ち抜き戦で行われ複数のグループの一位と二位が決勝トーナメントに出場できる。
 試合はついにリカの番になった。
 緊張しているのか表情が硬い。
「始め!」
 ついに試合が始まった。
 相手の男性はリカより二回りも大きかった。
 体格の差が目に見えていたのか相手は警戒する事無く距離を詰める。
「ていやぁー!」
 先に仕掛けたのはリカだった。跳び蹴りを見事に鳩尾に叩き込む。
 男性は嘔吐こそしなかったものの吹っ飛ばされてダウン。
 九カウントの間起きる事は無かった。
「強いですね。」
「ああ、そうだなサーナイト。公園であの子を助けなくともよかったんじゃないか?」
「それは・・・馬鹿にされているのが悔しくて・・・」
「ま、困った人を見過ごせないのがサーナイトのいい所なんだけどな。」
 サーナイトは誉められたのが嬉しそうであった。
 ふと、一体のルカリオがバイツ達の目の前を通り過ぎていった。そのルカリオは左腕に腕輪をしていた。
「あのルカリオ・・・」
 リカと一緒だったルカリオだった。
 バイツ達は互いに目を見あってそして頷いた。



「よくやったリカ。」
 ルカリオはタオルをリカに渡し、そう言った。
 会場内の長廊下。そこでは出番を待っている選手が所狭しと居た。
「まだまだだよルカリオ。まだ予選の一回戦が終わっただけ。」
 リカは心休まらぬといった感じだった。
「お疲れさん。」
 そう言って誰かがスポーツドリンクを渡した。
 髪の長い、自分よりも年上の少年。
「あ・・・あなたは・・・」
 リカとルカリオが目にしたのはバイツだった。
「公園ではありがとうございます。でも、どうしてここに?」
「友達の試合を見に来たのさ。っと自己紹介がまだだったな。俺はバイツ、こっちはサーナイト、キルリア、ミミロップ、クチートだ。」

551名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:10:02 ID:/qBnNDz6
 呼ばれた順に頭を下げる。
「私はリカと言います。この子はルカリオ。」
 ルカリオも頭を下げる。
「リカはこの街の出身なのかい?」
 バイツが訊く。
「いいえ私達武者修行っていうか旅をしているんです。」
「武者修行ね・・・」
「バイツさん達は?」
「俺達も旅をしているんだ。武者修行とは違うけどな。しかし・・・」
 バイツは周りを見渡した。
「女の子一人で男だらけの大会に?」
「大丈夫です!それにこの子も一緒だし。ね、ルカリオ。」
「ああ、リカが居れば何も怖くない。」
 その時大会のスタッフが現われた。
「ヒート選手、ヒート選手はいらっしゃらないでしょうかー」
 バイツは溜息を吐いて腕を組んだ。
「あいつ何やってんだ?」
 その時声が聞こえた。
「おう!わりーな係員さん!」
 ヒートがスタッフの現れた通路の反対側から走って現れた。
 黒い生地に金色の刺繍が入っている試合用のロングトランクスを穿いていた。
「時間が押しています急いで!」
「へいへい、っとバイツじゃねーかお前も参加してるの?」
「いや、参加しているのはこの子だ。」
「へえ、女の子の割にやるねえ。」
「ヒート選手!」
 スタッフが声を上げる。
「また後でな。」
 そう言い残しヒートは試合会場の方へ。
「今の人は・・・」
 リカが不思議そうにバイツに訊く。
「あいつの試合を観に来た様なものだけどな・・・そうだ、次の試合まで時間あるか?」
「はい、でもどうしてその様な事を訊くんですか?」
「ヒートの試合を一緒に観ようと思ってな。リカにとっても何か勉強になるかもしれない。」
「分かりました。一緒に観ましょう。」
 そう言ってバイツ達はリカとルカリオと共にヒートの試合を観る事になった。



 ヒートは笑みを浮かべながら試合のフィールドに立った。
 会場の熱気が心地良く肌を刺激する。
 観客は千人程だろうか。
 そんな事を考え始めてヒートは頭を振った。
 両手で自分の頬を二、三度叩き目の前の試合に集中する事にする。
 相手はヒートより大柄だったが体格差などヒートには関係の無い事だった。

552名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:11:06 ID:/qBnNDz6
「ファイッ!」
 審判が声を上げる。
 相手は体格差による手足のリーチを利用してヒートの射程外から仕掛ける。
 巧みに防いではいるものの防戦一方のヒート。
 しかし、相手が右ストレートを放った時、戦況が大きく変わった。
 その右ストレートを読んでいたのか相手の伸ばしきった右腕に組み付く。
「取ったぜオイ。」
 腕ひしぎ十字固めが決まる。こうなってしまっては簡単には外れない。
 徐々に背筋を逸らしてゆくヒート。
「ギブ・・・ギブアップ!」
 相手が激痛のあまり叫ぶ。
 こうして一試合が簡単に終わった。



 その試合をバイツ達はチケットの要らない立見席で観ていた。
 立見席があるならチケットを取る必要が無かったと思ったバイツ。
 そんな考えに至ったバイツとは対照的にリカは純粋に今の試合を観て感心していた。
「関節技かぁ・・・」
「何か掴めたのかリカ。」
 ルカリオがリカに訊く。
「うーん・・・よく分かんない。でも勝ち進んでいけばヒートさんと戦える!そうですよねバイツさん!」
「ん、まあな。」
 バイツは煮え切らない様な答えを返す。
「それで一つ聞きたいんですけど、ヒートさんの格闘スタイルって何ですか?」
「総合格闘技かな・・・よく分からないけど。」
 バイツはそう単純に纏めた。
「そうですか・・・よし!私、次の試合に備えて待機していますね!」
 走って長廊下へ行くリカ。
「忙しい子だな。」
 バイツはそう言ってリカの背中を視線で追った。
「無礼があっても許してくれ。ああいう子なんだ。」
 ルカリオがバイツに向かって言う。
「いや、構わないよ。」
 バイツはそう返す。
「さて、俺達は観客席に戻るか。ルカリオ、お前はどうするんだ。」
「私も観客席に戻る。リカが一席分だけチケットを取ってくれたからな。」
「そうか、じゃあな。」
 そう言ってルカリオと別れたバイツ達。
 席に戻る途中でサーナイトが口を開いた。
「リカ様、ヒート様の試合を観て目を輝かせていましたね。」
「同じ武道家同士何か惹かれあうものでも感じたんじゃないか。」
「私、この大会はリカ様に優勝してほしいと思います。」
「それは・・・」
 バイツは言葉が詰まって出せなかった。

553名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:12:09 ID:/qBnNDz6
 無理。
 その二文字がどうしても口に出せなかった。
 勝ち進んでいけばいずれヒートと試合をする事になる。その時ヒートは勝ちを譲るだろうか。
 ヒートの事である、きっと譲らないであろう。
 言葉を詰まらせたまま観客席にバイツは座った。
 そして、リカの第二試合が始まった。



 予選が終わったのは日が沈み夜の闇が空を覆い尽くした頃であった。これ程時間が掛かるとは主催者側も思っていなかった様であった。
 グループ一位通過のヒートは大して攻撃を食らわなかったのかピンピンしていた。
 バイツ達と合流したヒートは次の様な事を口にした。
「いやー大した事なかったぜ。」
 ホテルに戻ろうとした時、バイツはボロボロのリカを見つけた。
「リカ、グループ一位通過おめでとう。」
 リカもグループを一位で通過していた。
「あ・・・ありがとうございます。」
「今日泊まるところは決まったのか?」
「ポケモンセンターにでも泊まろうかと。」
 バイツは少し考えてこう言った。
「なあ、どうせなら俺達の泊まっているホテルに来ないか。」
「え!いきなり何を言うんですか!」
「変な意味で捉えるな。ホテルの部屋をもう一つ借りてそこで休めばいい。勿論金は俺達持ちだ。」
「分かりました。でも一つだけ答えてください。」
「ん?何だ。」
「どうして今日初めて会った私にここまで?」
 バイツは静かに笑って答えた。
「敵に塩を送るってやつさ。」
「・・・分かりました。ありがとうございます。」
 そして、ヒートを先頭にバイツ達はホテルへと向かった。



 ホテルの夕食の時間を過ぎていた為、深夜まで営業しているホテルのレストランで遅い夕食を取る事にした。
 夕食が終わり、バイツ達はそれぞれの部屋へ。
 リカとルカリオの部屋はバイツ達の隣だった。
「じゃあお休み、リカ、ルカリオ。」
「お休みなさいバイツさん。」
 部屋の中に入る。
 ベッドは二つ。
「マスター、一緒に寝てくださいませんか。」
「ねえバイツお兄ちゃん一緒に寝ようよ。」
「マスターはあたしと寝ちゃうんだよねー」
「あたし、マスターと一緒に寝たい。」

554名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:13:21 ID:/qBnNDz6
 四人から一緒に寝てほしいとせがまれる。
「あー皆残念だが俺の体は一つしかない。なので俺はソファーで寝よう。」
 バイツはそう言ってソファーに横になった。
 しかし、寝るにはまだ早い時間。
 すぐに体を起こすバイツ。
「皆、風呂にでも入ったらどうだ。」
「でもさあ、あたし達がお風呂に入ってる間何か起こっちゃったらどうしよう。」
「何も起こらないさミミロップ。さあ入っておいで。」
 バイツに言われてバスルームに向かったサーナイト、ミミロップ、クチート。
 キルリアはその場に立っていた。
「どうかしましたかキルちゃん。」
「お姉ちゃん。僕男の子だからバイツお兄ちゃんと入りたい。」
「何恥ずかしがっちゃってるのキルキル!さ、一緒にお風呂に入ろ!」
 ミミロップに腕を引っ張られて半ば強制的に入浴する事になったキルリア。
 そんな風景を見て穏やかな笑みを浮かべたバイツ。
「さて、ライキとイルとシコウは何してたのかなーっと。」
 そう口にしてバイツはまずライキとヒートの部屋を訪ねる事にした。
 すぐ隣なのでなんら迷う事も無い。
「おーい、ライキかヒート。居るんだろ。」
 バイツがノックしながらそう言う。
 一分もしない内にドアは開いた。そこに居たのは少々困った表情を浮かべるヒート。
「よおバイツ、今大変なんだよ。お前の力が必要かも。」
「何があった。」
「取り敢えず部屋に入ってくれ。」
 部屋に入ったバイツ。
 そこで彼が目にしたものは展開されたパソコンの画面を見ているライキとイルとシコウだった。
 しかも、目をカッと開いて笑みを浮かべている。
「ヒートは金のなる戦いをしている・・・いい事じゃあないか。他の連中は気付いていない、これ程分かりきっているレースに誰も乗らない。目の色を変えて欲しがっている金になる話にどうして誰も乗らない、どうして気付かない。これが勝者と敗者の違いなんだ・・・」
 ライキが何かをブツブツと言っている。
「ずっとこの調子よ。まあこの大会の闇賭博で俺に賭けて稼いでいるらしいんだが。」
 イルとシコウは表示されている数字を見ているだけだった。
「俺にはどうにもできないな。」
 バイツは部屋を後にしようとした。
「待てよバイツ頼むよ、この馬鹿を何とかしてくれ。」
「無理だ、何か精神的なショックを与えないと。」
「だったら私脱ぎますッ!」
「何を言ってるんだヒート。」
「冗談に決まってんだろバイツ。ノリが悪ぃな。」
「兎に角だヒート、お前はしっかり寝て明日に備えろ。明日はお前の戦いになるんだからな。」
「おう、分かった。」
 そこまで聞いてバイツは部屋を後にした。
 自分の部屋に戻ってきたバイツ。サーナイト達は既に風呂から上がっていた。
「お帰りなさいませマスター」

555名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:14:09 ID:/qBnNDz6
 サーナイトが出迎える。
「ただいま。」
「どこ行ってきちゃったの?」
 ミミロップに訊かれバイツは素直に話す事にした。
「ライキとヒートの部屋さ、ライキがヒートで荒稼ぎしていたがな。」
「荒稼ぎって何してたの?」
 今度はクチートがバイツに訊く。
「闇賭博だそうだ。」
 バイツはソファーに座っているキルリアの隣に座る。
「どうしたんだキルリア真っ赤だぞ。」
 それ程長く風呂には入っていないはずのキルリアの肌は紅をさしたかの様であった。
「だって・・・お姉ちゃん達が・・・」
 そこまで言ってキルリアは鼻血を出した。
「誰かティッシュを寄越してくれ。あとキルリアに何をした?」
「知りたい?だったらあたし達とお風呂に入れば分かっちゃうよ?」
 ミミロップが妖しい視線をバイツに送る。
「いや、いいよ。」
 バイツはやんわりと断った。



 翌朝。
 朝食を食べたバイツ達は大会の会場に向かった。
 ヒートの体調は万全だった。対してリカは少々寝不足といった様子。
「おいおい、大丈夫か?」
 欠伸をしているリカにバイツが訊ねた。
「押忍。大丈夫です。」
「君、本当に大丈夫?ヒートはそういう所も見逃さないで潰しにかかってくるからね。」
 ライキがリカに訊く。
 何があったのかは知らないが正気に戻ったライキとイルとシコウ。
 壊れたままだったらどう正気に戻そうかと考えていたバイツ。
 トーナメントの組み分けはリカが一回戦目、ヒートが五回戦目と少しヒートには時間があった。
 まともに戻ったライキは全員分のチケットを買った。
 そして間もなく一回戦目が始まろうとしていた。
 リカが試合の行われるフィールドに立つ。
 相手の選手が顔を見せた時バイツは口笛を吹いた。
 公園でリカを笑っていてバイツに一撃で倒された男だった。
 リカとヒート以外の試合をまともに観ていなかった所為で気付くのが遅れた。
「ファイッ!」
 試合が始まった。
 リカは小柄の為パワーとリーチは相手に負ける。唯一勝っているのは素早さだろう。
 しかしバイツはリカの勝利を確信していた。
 相手の男は力任せにリカを殴りつけているものの有効打にはならない。
 リカも当たりそうな攻撃は受け流している。
「あの様な戦い方でよく予選を突破できたものだ。」

556名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:15:05 ID:/qBnNDz6
 シコウが呆れた様に言った。
「仕方ないさ、戦う敵が自分より上とは限らないからね。」
 イルもどことなく呆れた様子でそう言った。
 リカも隙を見ては手を出しているが、筋肉の壁に阻まれダメージにはならない。
 男が右手を大きく振りかぶって振り下ろす。
 リカはそれを綺麗に避けて男の顔面に空中二段蹴りを叩き込んだ。
 男はふらつく。
 その隙をリカは逃がさなかった。
「チェストー!」
 渾身の正拳突きが男に決まる。
 男はダウンした。
「ナメてかかった代償だな。」
 バイツがそう言い終わった時にはカウントが九まで数えられていた。
 リカが一回戦目を突破した。
「よし!やったな、リカ!」
 ルカリオが若干興奮気味に喜んだ。
 その時、バイツは会場の隅に居た人影を見逃さなかった。
 その人影は良く見えなかったが得体の知れない気配を放っていた。
「またあの奇妙な感覚だ。ライキ、イル、シコウ。」
「何?また変な感覚?」
「うーん、何とも言えない奇妙な感じ・・・コレ何処かで・・・」
「追うべきであろうな、何やら嫌な予感がする。」
 バイツ、ライキ、イル、シコウは立ち上がった。
「マスター、どうかなさいましたか?」
「サーナイト、皆と一緒に居てくれ。少々ヤボ用が出来た。」
 そうバイツが言い三人と共に人影を追う事にした。
 その時サーナイトの左腕のメガバングルが反応した。
『ダークナーの気配が・・・一つ・・・いいえ二つ。一つは遠ざかっていきますがもう一つはこの会場内に・・・』
 サーナイトは注意深く周りを見渡した。



 バイツ達四人は会場の外に出ようとした際に着替える前のヒートに出会った。
 奇妙な感覚がする人影を追っているとバイツが言うとヒートもついていくと言いだした。
「軽い運動だ。」
 そう言ってヒートも走りだした。
 十分程走ったであろうか。その人影は街から出て近くの森に逃げ込んだ。
 そして、瞬間移動用の門を作りだすとその中に入って消えた。
「姿は見えたかシコウ。」
 バイツが訊くがシコウは首を横に振った。
「収穫無しか・・・気配を追って・・・」
 バイツはそう言ったが奇妙な気配は消えていた。
「そろそろ会場に戻るぜ俺は。」
 ヒートがそう言ったのでバイツ達は試合会場に戻る事にした。
 街中に戻ると試合会場で何かが起きているという話があちらこちらから聞こえてきた。

557名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:16:05 ID:/qBnNDz6
「急ぐぞ・・・!」
 バイツ達は試合会場まで走る事になった。



 話は十分程前に遡る。
 リカに倒された男が急に苦しみだした。
『ダークナーの気配があの男性から感じられます。』
 メガバングルからサーナイトに言葉が流れてきた。
 サーナイトがミミロップとクチートに視線を移すと二人も頷いた。
『中継しているテレビカメラに映っちゃうのはちょっとまずいかなー』
 ミミロップのメガバングルがそう反応した。が、話している暇は無かった。
 急に男から黒い力の奔流が起こり、その黒い力は男を包み込んだ。
「ダークナー!」
 巨大な化物は人々の注目を集めた。そして誰かが叫んだ。
「に、逃げろ!」
 会場はパニックに陥った。
 悲鳴と共に出口に殺到する人々。
「キルちゃんは逃げてください!私は皆様を出口へ誘導します!」
 そう嘘を言ったサーナイト。
 キルリアが逃げた事を確認したサーナイト達は今がチャンスとばかりにダークナーがいるフィールドに向かった。
「あ・・・ああ・・・」
 リカはダークナーを目の前にし動けなかった。
 周囲のカメラを破壊していたダークナーはリカに気付くと右腕を円錐形にし、その右腕をリカに突き刺した。
「え・・・?」
 リカの体を易々と貫通する右腕。
 血が右腕を伝って床の上に滴り落ちる。
「リカ!」
 リカを連れ出す為に会場内に残っていたルカリオが叫ぶ。
 そしてダークナーは右腕を振った。
 そしてリカの体は壁に叩きつけられ力無く床の上に落ちた。
「「サイコキネシス」!」
 メガシンカしたサーナイトの「サイコキネシス」がダークナーに当たる。「サイコキネシス」の強力な念波で吹っ飛ぶ。
 そして、同じくメガシンカしたミミロップとクチートがダークナーに直接攻撃をする。
 その戦いを尻目にルカリオはリカの元に駆け寄った。
 腹部から流れ出す血は止まらなかった。
「リカ・・・おい・・・リカ!」
「ルカリオ・・・私・・・私・・・」
「喋るな・・・今連れ出すから・・・」
 リカは力なく首を横に振った。
「私・・・ルカリオと旅が出来て良かった・・・」
 咳き込むリカ。その度に血を吐き出してしまう。
「だからね・・・ここで旅が終わっても・・・悔いは無い・・・」
 ルカリオに弱々しく微笑むリカ。
「あなたは・・・私に囚われないであなたの道を・・・」

558名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:16:55 ID:/qBnNDz6
 そこまでリカは喋ると動かなくなった。
「リカー!」
 ルカリオの叫びはサーナイト、ミミロップ、クチートにも聞こえた。
「そんな・・・リカ様・・・」
「サナサナ!今は目の前の敵に集中して!」
 ミミロップの言葉にルカリオは反応した。
「敵・・・そうか・・・貴様がリカを・・・許さない!」
 ダークナーが右腕を振り払ってミミロップとクチートを遠ざける。
「一気に決めようよ!」
 クチートが提案する。
「分かった。皆、手を出さないでくれ。」
 ルカリオが前に出る。
「危ないです!下がってください!」
 ルカリオにはサーナイトの言葉の次に次の様な言葉が聞こえた。
『復讐に身を焦がすな。己の意志で立ち向かえ。』
「分かった。」
『行くぞ。』
 ルカリオの体は光に包まれた。そして光が弾け飛ぶとそこに居たのは一体のメガルカリオ。
「さっさと終わらせよう。」
 ルカリオが両手の掌を合わせる。
 そして力を込めてエネルギーの塊を形成する。
「食らえ!「はどうだん」!」
 ルカリオから放たれた「はどうだん」はダークナーを貫いた。
 そしてダークナーは光の粒となって消えた。残ったのは気絶している男だけであった。
 そして全員のメガシンカ状態が解除される。
「サーナイト!ミミロップ!クチート!無事か!?」
 バイツが会場に飛び込んで来る。
「お姉ちゃん達!大丈夫!?」
 続いてキルリアが現れる。
「私達は大丈夫ですが・・・」
 サーナイトはリカの亡骸を抱えて泣いているルカリオに視線を送った。
 バイツは静かにルカリオの近くに寄った。
「私は・・・私はこれからどうすれば・・・」
 ルカリオはバイツに視線を送った。
「俺達と一緒に来るか。」
 バイツが真剣な表情でそう言う。
「いいのか、私は大事な人を一人も護れないポケモンだぞ。」
「今度は・・・今度は俺が護ってやる。」
「そうか・・・ありがとう。」
「しかし、何があったんだ。」
 バイツがルカリオに訊く。
 サーナイト達はメガシンカの事を秘密にしておく事をルカリオに言っていなかった。
「巨大な化物が現われた・・・リカを突き刺した後何処かへ消えた。」
 サーナイト達はルカリオがメガシンカの事を秘密にしていたのでホッと胸を撫で下ろした。
「おーいバイツ!」

559名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:18:14 ID:/qBnNDz6
 ライキが会場に入ってきた。
「一旦外に出た方がいい。警官達がやってきたよ。」
「分かった、行こう皆。」
 バイツ達は会場を後にした。



 大会は中止になったが一週間ほどバイツ達は街に留まる事になった。
 理由は主に事情聴取と葬式だった。
 サーナイト達はダークナーの詳しい事を一切話さずに事情聴取を終えた。
 リカの遺体はリカの両親が来てから火葬にした。
 ルカリオがバイツ達と旅を続ける事をリカの両親は反対しなかった。
 あの子の分まで世界を見てきてほしい。
 それが両親の言葉だった。
 ルカリオは涙ぐみながらその言葉を受け止めた。
 両親が街を出る時もルカリオはその背中をずっと見ていた。
 それからホテルに戻ったバイツ達。
「なあマスター」
 部屋に戻る途中バイツはルカリオにそう言われ少し驚いた。
「何を驚いている?」
「いや、てっきり名前で呼ばれるものかと。」
「サナ達がそう呼んでいるから私もそう呼ぶ、不満か?」
「いや、呼び方はどうでもいいさ。で、何だルカリオ。」
「これからよろしくな・・・その・・・至らない部分があると思うが・・・」
「ああ、よろしくなルカリオ。」
 バイツが手を差し出したのでルカリオも手を差し出して握手をする。
「これで旅も楽しくなりますね。」
 サーナイトの言葉に少しルカリオは照れ気味にこう言った。
「皆、よろしくな。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「僕もよろしく!」
「これからの旅は楽しくなっちゃうよー!」
「ルカお姉ちゃん、よろしくね。」
 すんなり受け入れられた事にルカリオは嬉しさ半分驚き半分だった。



「あの連中中々にやりますよ。並大抵のダークナーならば個人で片付けられる。」
 暗闇に近い円形のドーム状の広い部屋で一つの人影がそう言った。
「今までの貴様の失態は全て奴らの所為だというのか。」
 もう一つの人影が現われそう口にした。
「不思議な事に奴等は人間と共に私の行く先々に現れる。」
「下らぬな。今度は俺が出よう。」
「期待していますよ。」
 そこまで人影は口にすると暗闇の中に溶ける様に消えた。

560名無しのトレーナー:2015/08/07(金) 23:19:01 ID:/qBnNDz6
話の・・・長さは・・・いかがでしたか?(HTN風に)
次の話の内容はさっぱり考えていません。
どうしようかな?

561名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:29:32 ID:/qBnNDz6
小説がまた出来たので投稿します。
本当は十一月中に投稿したかったのですがウィッチャー3のNG+が意外と面白かったので遅れてしまいました。
サーナイト成分が少ないかも・・・
許して・・・許してクレメンス・・・

562名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:30:12 ID:/qBnNDz6
 月が地面を照らし出す時間帯。月の光が二つの影を作りだしていた。
 片方の影の大男はむやみに拳を振るった。その攻撃は相手に当たる事無く空を切っていた。
 大男の相手、もう片方の影は髪の長い少年。
 少年は余裕といった表情で大男の攻撃を避け続けていた。
 そして少年は溜め息を吐くと、男の下顎に包帯とオープンフィンガーグローブに包まれた右手で強烈なアッパーカットを打ち込んだ。
 大男は地面に倒れ込む。
「こんなものでどうだライキ。」
 そこまで髪の長い少年が言うとどこからか人影が出てきた。
「いやーお見事バイツ。」
 その人影、ライキは手を叩きながらバイツに近付いた。
「生身の人間じゃないんだろ?こいつ。」
 バイツが倒れている大男を見下しながらそう言った。
「うん、前のバージョンに比べて反射神経を上げたつもりだったんだけどなー」
「次のバージョンにはさらに高性能な弾道予測ソフトでも突っ込んでおけ・・・まあ、白兵戦で役に立つかどうか分からないけどな。」
「君の拳の速さは銃弾並みかい?貴重なご意見どうも。」
 その時、近くの木の影から複数の影が現われた。
 バイツはその影の名前を言い当てる。
「サーナイト、キルリア、ミミロップ、クチート、ルカリオ。終わったよ。」
 バイツは安堵の表情を浮かべる。
 バイツに近付いてサーナイトが口を開く。
「怪我が無くて良かったです。あの・・・会話の内容から察するにもしかして今回の戦闘は・・・」
「そう、ライキの会社の新製品のテストだ。」
「下らないな、テストならマスターを使わないでお前達がやればいいだろう。」
 ルカリオがライキに言う。
「今回は白兵戦がメインの商品だからね、僕は白兵戦苦手だしヒートとかイルとかシコウは加減を知らないし。」
「誰が加減を知らないって?」
 サーナイト達は声のした方向を振り向いた。そこにはヒート、イル、シコウといった面々が気配も無くそこに立っていた。
「だってヒートすぐに熱が入って壊すじゃん。それにイルの氷はバイオケブラー簡単に突き通すし、シコウに至っては一撃で首の骨をゴキン!だもの。」
「アハハ、ゴメンねライキ。でもそんな戦い方しかできないし。」
 イルが笑いながら言う。その隣でシコウが溜め息を吐いて口を開く。
「拙者も似たようなものだ。常に人体の弱点を突く様に教えられてきたのだからな。」
「で、この人どうするの?」
 キルリアが傍にあった木の棒で大男を突っつく。男はピクリとも動かない。
「今から本社に連絡して回収してもらうよ、死んではいないはずだからね。」
「本当に大丈夫なの?」
 クチートは恐る恐る大男に近付いて顔を覗き込む。
「クチート、あまり見るものじゃない。いつ起き出すか分からないぞ?」
「いいもん、その時はマスターの後ろに隠れるから。」
「クチクチは臆病だね!あたしはこんな奴こうしちゃうもんねー」
 ミミロップは大男の肩を何度か蹴る。
 その傍らでヒートは何かを考え込んでいた様だが何か答えがまとまった様でライキに声を掛けた。
「なあ、本社が回収って事は本社が近くの街にあるって事だよな。」

563名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:30:42 ID:/qBnNDz6
「うん、そうだね。そんなに遠くはないよ。寄ってく?」
「どうすっかな・・・その本社の人間達が秘密を守れるなら寄ってもいいんじゃね?」
 シコウが二度目の溜め息。
「秘密どうこうよりもお主が寄りたいだけであろうヒート。あわよくばライキの会社の改造人間達と戦うつもりであろう。」
「バレたか・・・」
「取り敢えず行き先は決まったな。」
 バイツがそう言った。
「じゃあ、ついてきて。かなり近いから。」
 ライキが歩き出すとそれについていくかの様にバイツ達は歩き始めた。



 ライキの言っていた会社がある街に着いたバイツ達。
「今日はホテルに泊まって、明日会社に顔を出すよ。」
 ライキがそう言ったので一旦ホテルに泊まる事にした。
 部屋を割り振られてバイツが自分の部屋に入ろうとした時、ライキに呼び止められたバイツ。
「良かったらバイツ、明日会社に行くの付き合ってくれない?」
「何でだ?」
「新作の調整をちょっと手伝ってもらおうかと思って。」
「ヒートがいるだろう。」
「さっき言ったけどヒートだと加減が利かないから・・・」
 バイツは溜め息を吐いた。
「分かった・・・いいだろう。その代わりサーナイト達も連れていくぞ。」
「え?いいけど退屈すると思うよ。」
「退屈させるな。それが俺からの条件だ。」
「ハイハイ、了解しました。」
 そう言って踵を返すライキを尻目にバイツはサーナイト達の待つ部屋に入っていった。
 部屋に入るとサーナイト達が出迎えてくれた。
「皆、明日ライキの会社に行く事になった。」
 バイツがそう言うとサーナイトが反応した。
「純粋な会社見学ですか?」
「いいや、また俺で新作の実技試験を行うらしいんだ。」
「またバイツお兄ちゃん巻き込まれるの?」
 キルリアの言う事は的を射ていた。
「そうだな、「また」巻き込まれるんだ。」
「えーじゃあ、街中をブラブラして素敵なお店を見つけちゃったりはしないの?」
「そうだなミミロップ。だが時間は作る様に言っておくよ。」
「マスター・・・もしかして口車に乗せられてる?」
 クチートが疑いの目でバイツを見る。
「困ったマスターだ本当に・・・まあ、私は何処へでもついていくがな。」
 ルカリオが何処か照れくさそうに言う。
「そうですね、マスターと一緒なら何処へでもの精神ですね。」
 サーナイトが笑顔を作って言った。
「悪い皆、この埋め合わせはいつかする。」
「はい、期待して待っていますね。」

564名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:31:23 ID:/qBnNDz6
 サーナイト達は期待してバイツを見つめていた。
 バイツはその期待に応えようと脳細胞をフル回転させて明日の予定を立てていた。



 翌朝、朝食を済ませたバイツ達はライキの会社へ行く事にした。
「ボクは行かなくていいよね。」
「拙者も行く理由が無い、故にイルと少々街を歩きたい。」
 イルとシコウがライキの会社見学を断った。
 引き留める理由も無いのでバイツはイルにケーキが美味しい店を見つける様に頼み、それから別れた。
 ライキが先導しながら歩くと街の中でも一際大きなビルに辿り着いた。
「こ↑こ↓」
 ライキがビルを指差す。
「はぇーすっごいおっきい。」
 バイツがビルを見上げて率直な感想を口にした。
「入って、どうぞ。」
 ビルの正面玄関を通されたバイツ達。広いロビーでは一人の男が待っていた。
「ようこそお戻りになられました社長、それに皆様も。」
 色眼鏡を掛けた四十代程の男がバイツ達を出迎えた。
「この人はバムトさん。僕の居ない間に会社を切り盛りしている人。まあ、副社長かな。」
「どうも、君が噂のバイツ君ですね。我社の製品の相手をしてくださる。」
「ま・・・まあ・・・」
 バムトが握手を求めてきたのでバイツは握手をする事に。
「ヒート君も御無事な様で。」
「まあな、最近刺激が無ェけど。」
 ヒートとバムトは顔見知りなのか軽い挨拶だけで済ませた。
「それではバイツ君とそのポケモン達にこの会社の案内をしましょう。」
 様々な研究部門や開発部門を見せられたバイツ達。これと言って興味を引く物は無かった。
 主だった「商品」やら「開発」を見せられながら二時間程が経った。
「おい、ライキ。」
 バイツがライキに声を掛けた。
「ん?どうしたの?」
「これじゃあサーナイト達が退屈だ。俺からの条件を満たしていないじゃないか。」
「大丈夫これからハラハラドキドキの時間が待っているから。」
「何?それはどういう・・・」
「それではバイツ君。私についてきてください。皆様はそこの窓から下をご覧になっていてください。」
 バイツはバムトについていった。
 ついていった先には男が一人待ち構えていた。
 上を見るとガラス越しにサーナイト達が心配そうにバイツを見下ろしていた。
「それでは我社の試作品のテストをお願い致します。」
「ああ、そう言えばライキにそんな事言われていたな。」
「今度の調整では反射神経を更に大幅に上げています。弾丸を見切るどころか掴む事さえできますよ。」
「この開発をライキは知っているのかな?」
「いえ、社長にはこの戦いで開発の成果を見てもらおうと思いまして。」
「分かった、精々一撃でスクラップにならない事を祈るんだな。」

565名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:31:55 ID:/qBnNDz6
 男が構えるとバイツも構えた。バムトがその場から居なくなると。二人は動き始めた。



 その戦いはバイツの想像とは違い白熱の展開となった。
 右腕の攻撃はことごとく防がれて尚且つバイツも相手の攻撃をガードするという白熱っぷり。
「やるな・・・」
 バイツは本気を出そうとしたが相手がスクラップになるのは気の毒なので力を抑えていた。
 その戦いを上階のガラス越しに見ていたサーナイト達。
「マスターの攻撃がことごとく見切られています・・・」
 サーナイトは心配そうにそう言った。
「でも最後はマスターが勝っちゃうもん。そうだよね!?」
 ミミロップも心配そうな様子。
「マスターが負けるわけない。いつも勝ってきたから。」
 クチートはそう言いながら戦いを集中して見ている。
「マスターも速いが相手も速い・・・速さは五分か。」
 ルカリオがそう解釈した。
 しかし、このルカリオの解釈は間違っていた。
 次の瞬間、バイツの姿が一瞬消えた。
「えっ!?」
「なっ!?」
 動体視力の良いミミロップとルカリオは驚いた。
 無言だったがバイツの相手をしていた男も驚いた。
 バイツが次に現れた時には男の体は宙を舞っていた。
 床に倒れる男。
「確かに反射速度は上がっているがその他は少々足りていないな。」
 バイツはそう言った途端何処からかバムトが現われバイツの言った事をメモしていた。
「貴重なご意見助かります。」
 サーナイト達はホッと胸を撫で下ろした。
「凄い戦いでしたねキルちゃん。」
 返事が返ってこない。姿が見えない。
 キルリアが迷子になった事を知ったのはこれが初めてだった。



「えーっと、ここは何処だろう。」
 バイツ達より遥か階下にいたキルリア。
「また迷子かなぁ、嫌だなあ。」
 そう言いながら更に階下に降りるキルリア、気が付けば一階のロビーだった。
「どうしよう、ここで待っていようかな。」
 しかし、ジッとできないキルリア。何を思い付いたのか外に出ていった。
「んー!お日様気持ちいい!」
 その時キルリアに何かが聞こえた。
「?」
 キルリアはその「何か」が強く聞こえる場所を探していた。

566名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:32:29 ID:/qBnNDz6
 辿り着いたのはビルの裏手。かなり大きなビルなので移動に多少時間は掛かったが。
 そこには腕輪がポツンと置かれていた。
「何だろうこれ。サナお姉ちゃんと同じ腕輪だ・・・」
 キルリアは何の疑いも無くその腕輪を左腕に填めた。
「お姉ちゃん達とお揃いだ!見せに戻ろーっと。」
 その時腕輪から声が聞こえた。
『やっと見つけたんだね僕を。』
「な・・・何!?」
『ここだよ、君の填めている腕輪。正確にはメガバングルっていうんだけど。』
「え!この腕輪喋るの!?」
『最初に言っておくけどこの声は君にしか聞こえていないからね。あまり大勢が居る所で反応しない様に。』
 キルリアは辺りを見回したが誰も居なかった。
「大丈夫!誰も居ないよ!」
『そう、それならいいけど・・・』
 その時メガバングルが何かを察知した。
『ダークナー・・・!』
「え?何?」
『このビルの中に君と僕の敵がいる。』
「どういう事?ビルの中に戻ればいいの?」
『うん、移動しながら僕の話を聞いてほしいんだ。』
 キルリアは急いでビルの中に戻っていった。



 少し前のビルの中。
「キルリア何処だー!」
 バイツはビルの中を駆けまわっていた。サーナイト達はライキの所に置いてきた。
 キルリアを捜す際に迷子が増えてしまっては元も子もないからである。
 そんなバイツを尻目に見た連中が居た。
 ライキの会社の「生きた」製品達であった。
「おい見ろよ。ガキが走ってるぜ。」
「へえ、珍しいこんな所に。ガキの来る所じゃないってのに。」
 様々な事を口にしている男達。
「そういや聞いたか。この会社の社長もあれくらいのガキだそうだぞ。」
「そんなまさか、あれくらいのガキが俺達を物みたいに売り払ってるのか。」
 その時、ライキがくしゃみをした。
「だとしたら世の中不公平だよな。どうしてガキのいいようにされなきゃならないんだ?」
「ああ、全く不公平だ。俺なんか三年前更に小さなガキに命じられて戦地に赴いた事もあった。そのガキは―――」
「お前達、面白い話をしておるな。」
 いきなり現れた男に男達は身構えた。
「何処から湧き出やがった・・・!」
「誰もが知らぬ深淵から・・・まあ、この話はよい。貴様中々の闇のオーラを持っているな。」
 男の視線は三年前の話をしようとしていた男に向けられた。
「その力、俺の為に使わせてもらうぞ。」
 男が何かを放った。

567名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:33:05 ID:/qBnNDz6
 その途端男の体は黒いオーラに包まれそのオーラは巨大化して男を巨大な黒い化物へと変化させた。
「ダークナー!」
 化物が叫ぶ。
「ほう、これは中々。」
 周りの男達は逃げ出し、その場に残っているのはダークナーと男をダークナーに変えた男だけであった。
「む?」
 逃げ始めた人々の中に一人だけ対峙する者がいた。それはバイツであった。
「前々からしていた妙な気配・・・あんたとその化物のだったって訳か。」
「前々?まあ厳密に言えば俺のものではないのだがな。」
 バイツは男に向かって歩き始めた。
「あんた、名前は?」
「俺の名前はトーヴ。貴様異常な程の闇のオーラを纏っているな。」
「何だって?闇のオーラ?」
「面白い奴だ。その力も使わせてもらおう。」
 トーヴはバイツに向けて何かを放った。だが、バイツには何の変化も見られない。
「・・・?」
「どういう事だ?」
 バイツは更に歩みを進める。
「まあいい俺の道具にならないというのなら、ダークナー!やってしまえ!」
「ダークナー!」
 ダークナーが巨体を突進させバイツに襲い掛かる。
 バイツはダークナーの頭上に跳ぶと右肘を振り下ろした。
 右肘の一撃によってダークナーは床を突き抜け階下へ落ちていった。
「やり過ぎたか?まあいいかライキの会社だし。これ位じゃ崩れないだろう。」
 ダークナーよりもライキの会社の建物を気に掛けたバイツ。
「何だ貴様人間ではないのか。」
「よく言われる。」
 バイツがそう言うとトーヴは笑い始めた。
「面白い。貴様と少々手合わせしたくなってきたわ。ここでは狭すぎる。ついて来い。」
 トーヴは壁を蹴り穴を開けるとその穴から外へ出ていった。
「待て!」
 バイツは一瞬躊躇った。まだ階下には動ける化物がいると。
 しかし、ライキとヒートが異常を察知して片付けると思いバイツはトーヴを追って行った。



『ダークナーです!階下!それも二体!』
 サーナイトのメガバングルが反応した。
 サーナイトはミミロップ、クチート、ルカリオに視線を送った。彼女達のメガバングルもまた警告を発していた。
 その時建物が軽く揺れた。
「ライキ様、ヒート様。ここに居てください!安全になるまで!」
「え!ちょっと待って、どういう事!?」
 ライキの質問も空しくサーナイト達は階下へと急いでいった。
「社長、階下で何かがあったようです。」
 バムトが連絡を受けてライキに報告した。

568名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:33:43 ID:/qBnNDz6
「職員の避難を最優先。動けるものは原因の究明に当たって。」
「分かりました。その様にいたします。」
 バムトは一礼すると何処かへ消えていった。
 ライキが拳銃を取り出す。
「サナちゃん達に何かがあったら僕等の身がヤバい。」
「ああそうだな、急ごうぜ。」
 ライキとヒートも階下へ通じる階段へと向かって行った。
 その時バムトの声がスピーカーを通じてビル全体へと響き渡った。
『・・・警備班は直ちに十二階開発部門へ、未確認生物の反応在り。なお開発途中の兵器もありますが兵器よりも混乱の収拾を最優先に・・・』
「開発途中の兵器?何だそりゃ?」
 ヒートがライキに訊く。
「MML(マルチミサイルランチャー)だよ。個人でも携行可能なコンパクトサイズ。複数の対象をロックオン可能な三十二発同時発射の小型ミサイル。更にバックブラストも抑えた魅力的な一品。」
「マジでヤベェな。」
「でしょ?これだけじゃないんだよ―――」
「アホ、それが敵の手に渡ってたらどうするんだ?万が一嬢ちゃん達にそれが怪我させてたら?」
「あーバイツに殺されるのは僕って事ね、急ごう。」



 ライキとヒートが実の無い話をしている頃サーナイト達はダークナーの元に辿り着いていた。
『ダークナーの気配が分かれました。一体は目の前にもう一体は何処かへ・・・』
 メガバングルの声を聞きながらサーナイト達は眼前のダークナーに視線を向けていた。
「居ましたよ!皆様!」
「分かっちゃってるよー!変身しちゃおう!」
「あたし、負けない!」
「誰かが来る前に終わらせよう、行くぞ!皆!」
 サーナイト達の体が光に包まれそして光が弾けた時、サーナイト達はメガシンカしていた。
「私達が奴の気を引く!その間にサナは力を溜めて強烈な一撃をお見舞いしてやってくれ!」
 ルカリオがそう言って構える。
「分かりました!皆様!お気をつけて!」
 サーナイトは「めいそう」を始めた。
「さあ!あたし達は敵の陽動だね!」
 ミミロップは跳びかかって強烈な蹴りを一撃叩き込んだ。
 ダークナーはそれを防ぐ。だが、クチートとルカリオが脚を攻撃しダークナーを転倒させる。
「この調子ならサナお姉ちゃんの援護いらないかも!」
 転んだダークナーはその巨体に似合わない速さで二転三転し後退すると何かを手に持った。
「気を付けろ!何かが来るぞ!」
 ルカリオがそう言うとダークナーは何かを腕に取り込んでいた。サーナイト達は知らなかったがダークナーが腕に取り込んでいたのはライキの言っていたMMLだった。
 MMLの先端が十字に開く。開いたそこにあったのは黒いオーラで形成された小型ミサイル。
 大きな発射音と共に三十二発の小型ミサイルがサーナイト達を襲った。
 追尾性能が高く避ける事が困難なミサイルはサーナイト達を的確に狙う。
「危ないです皆様!」

569名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:34:15 ID:/qBnNDz6
 サーナイトは可能な限りミサイルを落とそうとした。
 しかし、落とし損ねたミサイルは爆発しサーナイト達を吹っ飛ばす。
「ダークナー!」
 ダークナーはMMLをリロードし再度発射。部屋の出入り口を崩す。
「く・・・うっ・・・」
 サーナイトは体を起こそうとしたが体に力が入らない。ミミロップ、クチート、ルカリオも同じ様なダメージを負っていた。
「ダークナー!」
 ダークナーは勝ったかの様に両腕を上げた。
 その時、一体のメガエルレイドが土煙の中から現れダークナーの脇を肘刀で斬りつけた。
「ダークッ!」
 ダークナーも油断していたせいかその攻撃に反応できなかった。
「い・・・一体・・・誰が?」
 サーナイトは体を起こしてそのメガエルレイドを見た。
「大丈夫!?姉さん!」
 そのメガエルレイドはサーナイトの事をそう呼んだ。
「まさか・・・キルちゃん?」



 話はほんの少し前に遡る。
「駄目です!ここからの侵入は出来ません!」
 崩れた壁の向こう側では警備兵が瓦礫を見てそう報告した。
「何とかならないかなーこの向こうにサナちゃん達がいる可能性が大きいんだよなあ・・・」
 ライキが考える。
「吹っ飛ばすのは・・・駄目だ・・・向こうの様子が分からないんじゃ手の出しようが無ェ。もっと酷くなる可能性だってある。」
 ヒートも慎重に考えていた。
 その時足元から声が聞こえた。
「あ、ここに穴がある。」
 そう言ったのはキルリアだった。
 確かにキルリアが四つん這いになれば通れそうな位の穴が開いていた。
「キル君どうしてここに?危ないから避難した方がいいよ。」
 ライキにそう言われたがキルリアは首を横に振った。
「僕、中の様子見てくるよ。」
「危ねえつってんだろ。うおら、避難避難。」
「僕何があっても中に入るからね。」
 キルリアは四つん這いになるとサクサクと穴の中に入っていった。
 穴はそう長くは無かった。
 通り抜けると最初に目に入ったのは巨大な黒い怪物。
 そしてその周囲で倒れているサーナイト達。
『あれがダークナー。僕達の倒すべき敵。』
「でも、どうやって戦えばいいの?」
『君を・・・一時的にだけど強制的に進化させる。』
「そしたら、勝てる?お姉ちゃん達を助ける事が出来る?」

570名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:34:51 ID:/qBnNDz6
『それは君次第・・・さあ、力を受け入れて。』
 キルリアの体を光が包んだ。そして光が弾けメガエルレイドになった。



 ダークナーは体勢を立て直した。そしてMMLをエルレイドへ向ける。
 エルレイドは走ってダークナーに接近した。
 リロードを終えたMMLが発射される。
 エルレイドは走りながら肘刀で三十二発のミサイルを斬り落としていった。
「これで・・・終いだ!」
 ダークナーに跳びかかりX字に斬り裂く。
「ダ・・・ダークナー・・・」
「邪悪よ!天に還れ!」
 エルレイドが右腕を横に伸ばす。それと同時にダークナーのオーラは消え、ダークナーの居た場所には男が倒れていた。そしてその傍らにはMMLが転がっていた。
「キルちゃん・・・」
 サーナイト達は何とか起き上がるとエルレイドに近付いた。
 その時サーナイト達のメガシンカが解けた。それと同時にエルレイドもキルリアに戻った。
「はにゃー・・・」
 突然キルリアが倒れた。
「キルちゃん!」
『安心してください。一度に進化とメガシンカを行った為に体力を消耗したのでしょう。』
 サーナイトのメガバングルが説明する。
 サーナイトはそれを聞いて胸を撫で下ろした。
 その時頭上から声が聞こえた。
「おーい!皆!無事かーい!?」
 ライキが部屋の天井に空いた穴からサーナイト達に声を掛けた。
「私達は大丈夫です!」
 サーナイトが返事を返す。
「なあ皆思ったんだが・・・」
 ルカリオが神妙な顔をして言った。
「まさか監視カメラに私達の姿が映っていたなんて事・・・」
 ルカリオがとんでもない事を言うのでミミロップが口を開く。
「それって結構ヤバくない?」
 などという事を話しているとライキとヒートがロープで下りてきた。
「いやー良かったよ無事で。監視カメラが使い物にならなくなってさ、君達の事確認出来なかったんだよね。ところであの黒い化物は何処?」
 ライキが辺りを見渡す。どうやらメガシンカの事はばれていない様であった。
「何処かへ行ってしまいましたー」
 サーナイトがのほほんと返す。
「ふーん、そう。」
 そう言ってライキは倒れている男に近寄る。
 ヒートは入り口付近の瓦礫の撤去を始めた。
『逃げたもう一つのダークナーの気配ですが・・・消えました。』
 サーナイトのメガバングルがそう伝える。

571名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:35:22 ID:/qBnNDz6
 サーナイト達はどっと疲れたのかその場に座り込んだ。



 サーナイト達がダークナーと戦っている頃。バイツもまた戦っていた。
「ここら辺で良いだろう。」
 近くの森に移動したバイツとトーヴ。
「さあ、構えろ。」
 トーヴが構える。それを見たバイツもゆっくりと構える。
「行くぞ!」
 バイツに急接近したトーヴ。
 地面が抉れるほど強く足を踏んでの掌底打をバイツの胸に叩き込む。
「なっ・・・!」
 トーヴは驚いた。通常の人間ならば上下に胴体が分かれる程の一撃を打ち込んだにも関わらずバイツは平然としていた。
「終わりか・・・もっと出来ると思っていたのに・・・残念だ。」
「ハァッ!」
 息を吐くと共にトーヴは蹴りをバイツの顔面に叩き込んだ。こちらも効果無し。
「生憎やられっぱなしは性に合わなくてね。」
 バイツは右手でトーヴの腹部を殴った。
 寸前でトーヴはその一撃を防いだが、大きく後退する事になってしまった。
「ぐうっ・・・!」
「こいつはどうだ?」
 今度は頭部への攻撃。額を右ストレートによる一撃。
 今度はガードが間に合わず攻撃を食らい吹っ飛ばされる。
「がっ・・・!」
 後ろの木々が数本薙ぎ倒される。トーヴは木々にもたれ掛る様にずり落ちる。
「普通の人間なら頭蓋骨陥没してるがあんたはそうじゃないみたいだな。」
 トーヴは揺らぐ視界の中バイツを見つける事ができた。
 しかし、その体は戦闘を続行するのには既に限界を迎えていた。
「おのれ・・・!」
 更に揺らぐその視界に更に二つの人影が映った。
「へー面白い気配がしたと思ったけどもうボッコボコじゃん。」
「ほう、これは・・・人間ではないな?」
「イル、シコウ、何だ今更。」
 イルとシコウが現われたのだった。
 二人の異質な気にトーヴは勝ち目が無いと思い、「門」を開いた。
「おのれ・・・この屈辱はいつか返してやる・・・」
 そしてトーヴは「門」の中に入って消えた。
「また、下らぬ事か?」
「ああそうさシコウ。また下らない喧嘩さ。」
 サーナイト達が待つビルへとバイツは歩き始めた。

572名無しのトレーナー:2015/12/02(水) 23:35:54 ID:/qBnNDz6
はい。これでこの回はお終い。
次の投稿どうなるのかな?
だってfallout4とJustCause3が控えてるんだもん!

573名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:39:11 ID:8dL.pFok
三月七日なので小説を投下します。
ボンガロパクっちゃった。細井先生本当にすいませんでした。
あと少しネタバレになるけどヒートが主人公より主人公しています。

574名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:39:55 ID:/qBnNDz6
 暗闇が支配するドーム型の広い空間。
 そこには一人の男が椅子に座っていた。
 細身で金髪の髪の先端をカールさせていたその男はただ座っていたのではなく机の上でカードを並べていた。
「おや、トーヴ戻っていたのですか。」
 男はトーヴの存在に気付きながらも机の上のカードに意識を向けていた。
 オールバックの男、トーヴはその男に鋭い視線を向けた。
「ヴァルド、何をしている。」
「人間達がやっている占いというものですよ。確かタロット占いというものですかね。」
 そう言いながらもヴァルドはトーヴに一切視線を向けなかった。
「中々面白いですよ、占って差し上げましょうか?」
「結構だ。俺は女王様に会ってこなければならぬ。新たな脅威が現われた。」
「ポケモンですか?新たな仲間が増えたとか?」
「いや、人間だ。我等に近い存在の・・・」
「そうですか、女王様はあなたの報告を待っていますよ。」
 歩き去っていくトーヴを見る事無くヴァルドはカードを引く。
 引いたカードは正位置の「ザ・タワー」のカード。意味は悲嘆、災難、不名誉、転落。
「んー・・・この占いが外れれば良いのですが。」
「ヴァルド。」
 突然、闇の中から女の声が聞こえた。
 ヴァルドは椅子から立ち上がり、胸に手を添えてお辞儀をした。
「次はお前が出よ。新たな脅威をその目で確かめてくるのだ。可能ならば排除しろ。」
「ハッ!仰せのままに。」
「良き結果を期待しているぞ。」
 声が消えた後、ヴァルドは頭を上げた。
「本当に占いが当たらなければいいのですがね・・・」



 とある街の上層階の繁華街。
 そこの人混みの中にとある少年達とポケモン達が辿り着いたのは昼時を過ぎてからであった。
「本当にこの街には俺達を追う権力者は居ないんだなライキ。」
 髪の長い少年バイツがそう言った。
「何度も調べたさ、念には念を入れてこの街を良く知る情報屋からも情報を買った。」
 ライキはそう言いながらも周囲を見渡す。
「とにかくよぉ!この人混みから抜け出す方法を見つけようぜ!」
 ヒートが声を荒げる。
「ヒートのいう事にさんせー!」
 イルは人混みの波に少し押し流されながら口を開く。
「ふむ、まずは寝床を探すべきだな。」
 シコウはイルとは違い人の波を余裕といった表情で上手く避けて歩いている。
 そして彼等の仲間。バイツにとっては家族同然のポケモン達、サーナイト、キルリア、ミミロップ、クチート、ルカリオは人の波に押し流されない様にするのが精一杯だった。
「皆体力を消耗するだけだ。ライキ、さっさと今日泊まるホテルを見つけよう。」
「はいはい、全く人使いが荒いねバイツ君は。」
 ライキは一軒の喫茶店を指差した。

575名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:40:52 ID:/qBnNDz6
「あそこに避難しよう。」
 バイツ達は喫茶店に入る事にした。



「凄い人の波でしたね。」
 喫茶店の中。サーナイトが席に着くなりそう言った。
「ああ、凄かった。まあ今回は流石に多すぎだがな。疲れてないか?」
「私は平気です。」
 バイツににこやかに返すサーナイト。その表情から嘘は言っていない様であった。
「何か食べようよ、僕お腹空いちゃった。」
「あたしもー・・・お腹ペコペコだよ。」
 キルリアとミミロップは空腹感からか項垂れていた。
「よし、何を食べようか。」
「あたし、これがいい。」
 クチートはメニュー表から比較的軽めの料理を選ぶ。
「おいおい、そんなのでいいのか?もっと・・・」
「どうせ夜はレストランのフルコースなのだろう?だったら今重いものを食べても仕方ないじゃないか。」
 ルカリオはそう言ってキーボードを指で叩いているライキに視線を移す。
「まあね、今夜泊まるホテルの夕食はレストランのフルコースだけど・・・どうして分かったんだい?」
「波動の力・・・と言いたいところだが今回はただの勘だ。」
「ルカリオの方が一枚上だったな。で、ルカリオは何を食べる?」
 バイツはルカリオにメニューを見せる。
 とても微笑ましい光景にサーナイトは自然と笑顔になった。
 そして全員がメニューを選び注文する。
 品物が届くまでの間ミミロップは何処からか持ってきた無料で配布されている街のガイドブックを見ていた。
「何を真面目に読んでいるんだミミロップ。」
「んーと、マスターとのデート何処にしようかなーって。」
「えー!ミミお姉ちゃんずるい!マスターと一緒に行くの!?」
「なっ・・・!おいミミ!抜け駆けをする気か!?」
「えへへ、いいでしょー」
「お二人だけではなく皆様で一緒に行きませんか?」
「分かってないなーサナサナは。こういう事は積極的にやらないと。二人っきりで歩く並木道、二人の間は徐々に近付いていきそしてロマンスに・・・考えただけでもワクワクしちゃう!」
「俺は一向に構わないが皆が許さないだろう。」
「他の皆の意見はいいの。マスターはあたしと行動しちゃうんだから。」
「ふざけるなよミミ・・・!ならば私もマスターと共に行動しよう。勿論二人っきりでな!」
「ルカお姉ちゃんもずるい!私もマスターと一緒に居たい!」
「皆、声を抑えてくれないか。その・・・周りの客が見てる・・・」
「と・・・とにかく皆様ここはマスターの御意思を尊重しつつ・・・」
「そう言うサナサナはどうなの?」
「う・・・わ・・・私もマスターと御一緒したいです。」
「でしょー?」
 サーナイト達のバイツとの行動権を賭けた勝負がまさに始まろうとしていた。
 そんな時ヒートがバイツに声を掛けた。

576名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:41:23 ID:/qBnNDz6
「バイツ、この辺のカフェにカポエラって注文すると店主と戦える店があるらしいぜ。一緒に行かねえか?」
「ヒート、お前空気読んでないだろ。」
「空気。はい読んだ。」
 バイツはこれ以上何も言う気が起きずただ頭を抱えた。
 やがて料理が運ばれてきてそれを食べる一同。
 バイツとの行動権を賭けての争いは一旦幕を閉じたかに見えた。
 それからしばらく後、料理を全部平らげた一同はホテルに向かう事にした。



「いやー疲れたな本当に。」
 ホテルの部屋に着いたバイツはそう言ってソファーに腰掛けた。
 ホテルに着くまでの間も人混みに揉まれ続けていた。
 バイツと同じ部屋のサーナイト達はいまだに言い争いを続けていた。
「ですから皆様、マスターのお供をするのは私です。」
「分かっちゃってないねー、マスターと一緒に行っちゃうのはこのあたし!」
「あたしがマスターと一緒に行動するの!」
「おいお前達私がマスターと共に行くのだ、異論は認めない。」
 バイツは頭を抱えた。
「気にする事ないよバイツお兄ちゃん。時間がたてば皆仲良しになるから。」
「気遣ってくれてありがとうキルリア。ところでお前は言い争いに参加しないのか。」
「僕はいいよ。最終的に決めるのはバイツお兄ちゃんだから。」
「そうだな最終的に決めるのは俺だものな。そうか俺・・・か。」
 そう言ってバイツは天井を眺めていた。
 その時誰かが部屋のドアをノックした。
 バイツはドアを開けた。
 そこに居たのはヒートだった。
「なあバイツ、あのカフェ行ってみようぜ俺がさっき言っていたカポエラって頼むと店主と戦える店。」
「くどい。」
「そんなこと言うなよ。ライキ、イル、シコウに断られてきた所なんだからよ。」
 溜め息を吐くバイツ。しかし、キルリアを除いたサーナイト達がまだ争っているので一旦外に出ていくというのも一つの手だと思った。
「分かったよ、行こう。ただしさっさと片付けてくれよ。」
「おっ!話が分かるじゃねえかバイツ!じゃあ早速行こうぜ!」
「皆ー、少し出掛けてくるからその間に喧嘩を終わらせておいてくれよ。」
「いってらっしゃいバイツお兄ちゃん。」
 キルリアだけが反応する。
「悲しいなぁ・・・」
 バイツはそう言い残すと部屋を後にした。



 そのカフェは街の中心部に近い所にあった。
 バイツとヒートは物怖じせずにそのカフェの中に入った。
 店内は広いが平日の日中という事もあって店主と客が二人。

577名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:41:58 ID:/qBnNDz6
 ヒートは店主に近付く。
「旅のお方ですな、何をお出ししましょう。」
「カポエラ・・・」
 ヒートが何の前置きも無くそう口にする。
「ゲゲッ!?」
「あ・・・あいつ客じゃねぇ!」
 客の二人が驚く。
「そうか・・・君は「キング・オブ・ファイターズ」出場者か・・・私がこの地区を守るリチャード・マイヤと知って来たんだね。」
「いいやただあんたと戦いたいだけだ。「キング・オブ・ファイターズ」とやらは関係無ェ。好奇心ってやつだよ。」
 ヒートは不敵な笑みを浮かべそう答えた。
「いいでしょう。」
 リチャードは身軽にカウンターを飛び越えた。
「最強武道カポエラ、お相手しましょう。」
 ヒートは静かに構えた。
「ふっ・・・君は我流ですか。」
 構えを一目見ただけで相手の流派を見抜く。バイツはそれを見て警戒した。リチャード・マイヤ。油断できない相手だと。
「まあそうだな、色んな武術のいいとこどりみたいなモンだぜ。」
「大した自信ですが―――」
 リチャードが間合いを詰める。
「果たしてどの程度ですかな!」
 リチャードが鋭い蹴りを繰り出す。
 ヒートは難なくその一撃を避ける。
「!?」
「あ・・・あいつ避けた!」
「信じらんねぇ!マイヤさんの蹴りを!?」
 客の二人が再度驚く。
「そらよ!」
 今度はヒートが蹴りを繰り出した。リチャードはそれを間一髪の所で防ぐ。
「オラオラオラ!」
 ヒートの猛攻。
 今回は手数で攻めるのかと思ったバイツ。
「うおお、避けただけじゃねえ。マイヤさんが押されてる!?」
「馬鹿野郎まだだ、よく見てみろマイヤさんはあいつの攻めを紙一重の所で避けている!」
 バイツは実況している客二人を見てこの場は観戦するだけにしようと思った。
「ほ・・・ほんとだ!いいぞーマイヤさん!そんな奴やっちまえーっ!」
 リチャードが不敵な笑みを一瞬浮かべた。
「でええい!ビートルホーン!」
 リチャードは空中で側転するかの様に回転し始めた。
「出たぁっ!マイヤさんの必殺技だ!」
 その時、何かがぶつかる音がした。
「!」
 客の二人が驚く、ヒートは微動だにせずそこに立っていたからだ。
「どういう事だ・・・?あいつ倒れねえ。」
 バイツは壁に寄りかかってその流れを眺めていた。

578名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:42:32 ID:/qBnNDz6
「ああっ見ろ!?」
「マイヤさんの肩にアザが!」
 リチャードは一筋の汗をかく。だがそれでも余裕そうであった。
「クックッ・・・凄い・・・凄いね君は。私のビートル・ホーンをかわしただけでなく蹴りまで入れていくとは。君になら―――」
 逆立ちをするリチャード。
「―――カポエラの神髄をお見せしましょう。」
 そして足を開き、横回転する。
「ローリング・ファング!」
「うおっ!」
 急な動きに一瞬戸惑うヒート。
「てええい!」
「ガッ!」
 ヒートは咄嗟に両腕を交差させ攻撃を防いだが大きく吹っ飛ばされてしまう。
「やったぁ!マイヤさんの技が決まった!」
「奴は柱に叩きつけられるぞ!」
 そのまま柱に叩きつけられて終わるのかと思いきや、ヒートはくるりと一回転しタンと軽く柱を蹴った。
「なっ!?」
「スラッシュキック!」
 バイツが溜め息を吐いて声を出した。
「ヒート、技名出すのはマズいから伏せておけ。」
 ヒートにその言葉が聞こえていたのかいないのか分からなかった。
 強烈な蹴りがリチャードを襲う。
「ぐはっ!」
 その一撃はリチャードの脳を揺らした。
「お・・・おお・・・」
 その場にうつ伏せに倒れるリチャード。
「ああ!」
「マイヤさん!」
「勝負ありだな。」
 バイツはそう言って壁にもたれ掛るのを止め、ヒートに近付こうとした。
「くそう!」
 客の一人が酒瓶を持ってヒートに突進する。
「テメェよくもマイヤさんをーっ!」
「お・・・おやめなさ・・・い・・・」
 回復しきっていないリチャードが立ち上がって客を止める。
「これは私と彼の勝・・・負、手出し無用で・・・す。」
「け・・・けどマイヤさん・・・」
「私を卑怯者にする気ですか!?」
 間合いを詰めるリチャード。
「私は武闘家だ・・・汚い手の勝利より・・・」
 そして蹴りを繰り出す。
「堂々と闘った敗北を選ぶ!」
 その蹴りをかわすヒート。
「いい言葉だリチャード・マイヤ、じゃあ俺も全力で行くぜ。」

579名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:43:13 ID:/qBnNDz6
 ヒートはリチャードに跳びかかる。
「タイガーキック!」
 ヒートの膝によるリチャードの顔面に容赦のない一撃。
「おい、だから技名出すの止めろって。」
 バイツは聞いてもらえそうにない注意をヒートに送る。
「ぐふうう・・・強い・・・強いな・・・君・・・は・・・君ほどの男と戦え・・・た事・・・誇りに思う・・・よ・・・」
 そう言いながら倒れたリチャード。
「マ・・・マイヤさん・・・」
 客のリチャードを呼ぶ声を背にする様にヒートは踵を返す。
「出ようぜバイツ。勝負はついた。」
「そうだな。」
 そして二人は店を後にする。
 店を出て丁度十歩目でヒートがこう言った。
「リチャード・マイヤ・・・ここ数十年の内で闘った中でもイイ男だったぜ。」
「珍しいな、お前が闘った奴を褒めるなんて。」
「それ位いい闘いだったって事よ。察しろよバイツ。」
「ああ、そうだなヒート。お前も満足そうな顔をしている。ただ技名を出すのはマズいかと。」
「うるせえよ、お前だって何回か他人の技パクってるじゃねえか。」
 二人はそう言い合いながら歩き続けた。



 ある部屋に男が数人入ってきた。
 男達は食事中の巨漢に何かを言った。
「何ィ・・・?」
 男は食事の手を止めずにその報告を聞いていた。
「マイヤのやつがやられただとーっ。」
 咀嚼しながら男はこう言った。
「ゲヘヘ・・・ざまあねえや、前からあの真面目面した野郎は気に入らなかったんだ。」
 男は唾を吐き立ち上がる。
「どれ・・・マイヤを倒したとかいう奴を俺がぶちのめし株を上げるとするか・・・」



 一方その頃サーナイト達は。
「皆様・・・休憩しませんか・・・」
 今だバイツとの行動権を言い争っていたサーナイト達。
 サーナイトが息を荒げながらミミロップ、クチート、ルカリオに提案する。
「いいね・・・一旦休憩ー・・・」
「あたし・・・疲れた・・・」
「どうした・・・私はまだ余裕だぞ・・・」
「そう言うルカちゃんも息が上がってますよ・・・」
「お姉ちゃん達、喧嘩は終わった?」
 キルリアがソファーに座りながらサーナイト達の方を向いてそう言った。
「あら・・・?キルちゃん・・・マスターは何処に・・・?」

580名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:43:44 ID:/qBnNDz6
「お姉ちゃん達が言い争いをしてる時にヒートお兄ちゃんが何処かに連れていっちゃったよ。」
「えーっ!」
 サーナイト達四人は声を同時に上げた。
「どうして止めなかったのですかキルちゃん!」
「だって、お姉ちゃん達喧嘩してるし・・・」
「何処に行くとか言っていませんでしたか?」
「カポエラがどうとか言ってた。」
「えーっと確か店主がカポエラ使いっていうお店がガイドブックに載っていた気がする!」
 ミミロップがガイドブックの中身を思い出す。
「そこに行こうよ!まだマスター達そこにいるかもしれない!」
「よし、行くぞ。」
「キルちゃんも行きますよ!」
「はーい・・・」
 サーナイト達は物凄い勢いで部屋を後にした。



 バイツとヒートは街の遊園地「ドリーム・アミューズメント・パーク」に足を踏み入れていた。
「何で野郎と遊園地に来なきゃいけないんだよ。」
「全く同感だ。俺は帰ってもいいか?サーナイト達が待ってる。」
 その時、車のエンジン音が聞こえた。
 明らかにバイツとヒートの所に近付いてきている。
 そして車は二人を轢き殺す勢いで突っ込んできた。
「何っ!」
「はおっ!」
 間一髪で車を避けた二人。車は建物に当たりフロント部分がぐしゃぐしゃになってしまった。
「何だよヒート「はおっ」って。もうちょっとカッコイイ台詞があったんじゃないか?」
「うるせえよバイツ、急だったから仕方ねえだろ。」
 そう軽いノリで話している時、車の中から一人の巨漢がドアを蹴破り降りてきた。
「くっそう・・・身軽な野郎共だぜ・・・車で轢き殺した方が手間が省けたってものをよ。」
「誰だ?あんたは。」
 バイツは巨漢に訊く。
「ゲヘヘ・・・大レスラーライデン様よ。こっから先は通さねえ・・・」
「ヒート・・・お前「キング・オブ・ファイターズ」とやらに強制的に参加させられているんじゃないか?」
「ああ、多分その様だぜ・・・」
「オメエ等に訊きたい事がある。マイヤを倒したのはどっちだ。」
 ここでバイツはヒートをヒートはバイツを指差した。
「ヒート・・・闘ったのはお前の方だが・・・」
「こういうデカブツ嫌いなんだよ。それにお前この小説の主人公だろ、闘わないと。」
「訳の分からない事を・・・」
「ゲヘヘ・・・お互いに譲り合いか?だったらお前から潰してやるーっ!」
 ライデンは真っ直ぐバイツの方に向かってきた。
「俺か・・・」
「頼んだぜバイツ。」
 そう言いヒートはバイツから離れた。

581名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:44:30 ID:/qBnNDz6
「そりゃああっ!フライング・アタック!」
 ライデンがその巨体でバイツを潰そうと跳びかかる。
 しかしバイツは簡単にそれを避ける。
「ぐっへ!」
 地面に激突するライデン。
「おごご・・・いけねえいけねえ・・・お前が身軽な事を忘れてた・・・こんな大技じゃあかかりっこねえや!」
 ライデンが起き上がりバイツに突進する。
「もっとじっくりいかんとなあっ!」
「じっくり?こっちは時間が無いんだ一気に決めさせてもらう。」
 バイツは突進してきたライデンの鳩尾目掛け右腕による強烈なショートブローを打ち込む。
「くけっ!」
 そしてもう一発、今度は左のショートブロー。
「ぐ・・・へええ・・・」
 ライデンは大きく吹っ飛び地面に叩きつけられる。
 痙攣しながら倒れるライデン。
 バイツはライデンに背を向けヒートに近付いた。
「'99の四百弐拾七式・轢鉄か、また渋い技を選ぶねえ。」
「だから技名を出すな。」
 ドリーム・アミューズメント・パークを後にする二人。
「なあバイツどうしてあのデカブツが俺達の事を知っていたんだ?」
「さあな、ライキじゃあるまいし情報なんか―――」
 そこまで言って口を閉じたバイツ。
「―――心当たりがある。」
 そう言ったバイツ。ヒートも同じ結論に達した様で一言だけこう言った。
「ホテルに戻るぜ。」
 二人はホテルに戻る間ずっと黙っていた。



「やっぱりこいつだった。」
 ホテルの部屋に戻ったヒートは真っ先にライキに詰め寄った。
 ライキは最初、否定はしていたものの徐々にボロを出し始めた。
 そしてヒートがリチャード・マイヤを倒したという情報をこの街を裏で支配している組織に売ったのだった。
 そして今はヒートに服の襟首部分を掴まれてバイツの部屋に居た。
「勘弁してよーいいお小遣い稼ぎだったんだよー」
「おかげで変なレスラーとも闘う羽目になった。まさかライキ、俺がライデンとやらを倒した事も連中に話していないよな。」
「ゴメン、バイツもうその情報売っちゃった。結構いいお金になったよ。」
 バイツは右手を包む程の炎を灯す。
「焼き加減の相談になるが・・・レアかミディアムレアかミディアムかウェルダンか・・・好きな焼き加減を選べ。」
「勘弁してください!バイツ様ヒート様!」
「まあいいさ。」
 バイツはそう言い捨てて右手の炎を消した。
「サーナイト達は何処へ行った?」
「知らないよ!」
「兎に角この後の身の振り方を考えようぜ。俺達はもう「キング・オブ・ファイターズ」とやらに参加しちまってるみたいだからよ。」

582名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:45:04 ID:/qBnNDz6
「そうだな。このまま優勝してさっさと終わらせるのも一つの手だな。その前に―――」
 バイツは空になった部屋を見渡してこう言った。
「サーナイト達と合流しよう。ライキ、サーナイト達の居場所は分かるか。」
「パソコンに触らせてくれればすぐにでも監視カメラの映像をハッキングして追う事が出来るけど?」
「ヒート、ライキを放してやれ。」
 服の襟首を放されたライキはヒートと共に自分の部屋に戻った。
「さてと・・・」
 バイツは再度空になった部屋を見渡すと自分の部屋を後にし、ライキとヒートの部屋に向かった。



 その頃、バイツに叩きのめされたが比較的早い回復を見せたライデン。彼は銃を持って息を切らしていた。
「あのガキィ・・・あのガキは何処だよ・・・」
 敗北したら始末される。
 ただその一文がライデンの頭の中にあり続けた。
「殺さなきゃなんねえ・・・あのお方に殺される前に・・・」
 ライデンは走り出そうとした。その時一人の男が眼前に現れた。
「ふむ、闇のオーラは十分ですが・・・こんな体たらくで使い物になるのでしょうか。」
 その男ヴァルドはライデンを上から下まで眺めていた。
「何だ・・・テメェは・・・退けよーっ!」
「戦闘はまだ出来るのならばいいですね、その力使わせていただきましょう!」
 ヴァルドが何かをライデンに向けて放つ。
 ライデンを黒い力の塊が包み込む。
 そして今までよりも一回り大きい人型のダークナーが生まれた。
「ダークナー!」
「うーん・・・あまり褒められた出来ではないですね。」
 ヴァルドはそう言うとダークナーと化したライデンに背を向けて歩き始めた。
「まあ、多くは期待していませんが・・・この街を滅茶苦茶にしてしまいなさい。」
「ダークナー!」



 サーナイト達はバイツのいたカフェに急いでいた。
『ダークナーの反応があります!それも二体!』
 急に全員のメガバングルが反応した。
「ええっ!この様な大事な時にですか!?」
『急いじゃって!何をしでかすか分からないのがダークナーの怖いところなんだから!』
「うう・・・マスターの後を追わなくちゃ・・・」
『急いでいるのは分かってるけど・・・こっちの問題の方が重要だよ。』
 メガバングルにそう言われ決めかねているクチート。
「うん・・・そうだけど。どうしよう・・・」
『急げ。被害が拡大する前に。』
「くそっ・・・仕方ない、ダークナーを止めよう。」
 ルカリオが苦渋の決断を下す。

583名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:45:41 ID:/qBnNDz6
『急ごう・・・今奴等を止められるのは僕達しかいない。』
「うん、そうだね。行こう。」
 ダークナーの気配を追う事にしたサーナイト達。現場に急行している時メガバングルがまた反応した。
『また反応が二つに分かれました!』
「気配が二つに分かれたのですか?どうしましょう一旦分かれます?」
「いや、一体に集中攻撃をして倒してからもう一方に向かおう。そっちの方が安全だ。」
 ルカリオの案に全員が頷く。
 そして逃げ惑う人々をかき分けダークナーと化したライデンの前に立ちはだかるサーナイト達。
「行きますよ皆様!」
 サーナイト達の体が光に包まれメガシンカをする。
 メガシンカが完了したと同時にダークナーの巨体に跳びかかるミミロップ、クチート、エルレイド。
 三人の攻撃は全て脳天を狙っていた。
 重たい攻撃がクリーンヒットしたはずだった。
 しかし、ダークナーはダメージを受けた素振りを見せない。
「ダークナー?」
 首をコキコキと鳴らすと横薙ぎの裏拳で空中に居た三人を吹っ飛ばした。
「皆様!」
「サナ!こっちに集中しろ!来るぞ!」
 ダークナーがサーナイトとルカリオ目掛けて突進してくる。
「「サイコキネシス」!」
「「はどうだん」!」
 二人の最も得意とする技がダークナーに当たった。だが、突進の勢いは全然衰えない。
「なっ・・・!」
「ルカちゃん!来ますよ!避けてください!」
 襲い来る巨体をかわした二人。ダークナーの巨体は向かいのビルへと突っ込んでいった。
 舞い上がる埃に崩れる壁。
「参ったな・・・全然ダメージになっていない。」
 吹っ飛ばされた三人もサーナイトとルカリオの近くに集まる。
「どうしちゃおうか・・・」
 ミミロップがダークナーの巨体に視線を向ける。
 ダークナーは体勢を立て直そうとしていたが上手くいかないのか何度か転んだ。
「もしや・・・!」
 サーナイトの脳裏に何かが浮かんだ。
「皆様、あのダークナーは巨体なので一旦体勢を崩せば立ち上がるのに相当時間が掛かるはずです。」
「見てて分かるよサナお姉ちゃん。でもどうしよう。」
「ならばまず足元を一斉に攻撃して転倒させ、その後また一斉に頭を攻撃するのはいかがでしょうか。」
「その考え乗った!」
「うん!そうしよう!」
「悪くないアイデアだ、やろう。」
「要するに一点集中だね。じゃあやろう姉さん。」
 サーナイト達は構えた。ダークナーも体勢を立て直したのかもう一度突進しそうな構えになった。
「で、どっちの脚を攻撃しちゃうの?」
「私達から見て右脚を攻撃してください。」
「よーし!先手必勝!」
 ミミロップが先陣を切り構えているダークナーの足元に突進した。

584名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:46:32 ID:/qBnNDz6
 それに続きサーナイト、クチート、ルカリオ、エルレイドが接近する。
「行きますよ皆様!」
 それぞれ構える。
「「サイコキネシス」!」
「「とびひざげり」!」
「「かみくだく」!」
「「インファイト」!」
「「サイコカッター」!」
 それぞれの技が一斉にダークナーの左脚に直撃する。
「ダ・・・ダークナー!?」
 サーナイトの目論見通りダークナーは転倒した。
 起き上がるのに四苦八苦するダークナー。
「皆様!もう一度です!」
 今度は頭部にそれぞれ先程の技を叩き込む。
「ダ・・・ダーク・・・ナー・・・」
 ダークナーの闇のオーラは消えてなくなり残ったのは気絶しているライデンだけだった。
 サーナイト達のメガシンカ状態も解ける。
「何とか・・・勝てましたね。」
「うん・・・やったね、お姉ちゃん・・・」
「どうしたキル、今日は倒れないな。」
「一々倒れてらんないよ・・・」
「それにしても疲れたー・・・」
 クチートがそう言いその場に座り込んだ。
 その時、パトカーのサイレンの音が聞こえた。
「ね・・・ねえ!逃げちゃわない?」
「そうですね、根掘り葉掘り聞かれるのは御免です。退散しましょう。もう一体居るとの事ですし・・・」
『それが・・・もう一つの気配は消えました。』
「そうですか・・・それならば一安心です。」
「サナサナ早く!こっち!」
 ミミロップが細い脇道を指す。サーナイトは急いで逃げる事にした。



 サーナイト達が戦っていた頃。
 ヴァルドは表通りを避けて小道に入り、鼻歌混じりに遠くで聞こえる悲鳴を楽しそうに聞いていた。
「デカい割にはやりますね・・・おや?」
 ヴァルドの目の前に現れたのは三人の少年。
「おいバイツ、変なのが現われたぜ?」
「俺達もこんな騒ぎに紛れて動いて十分変だと思うけどな。」
「しょうがないでしょ、何故か監視カメラが全部機能していないんだもの。」
 三人の内の一人バイツは頭を掻いて一歩前に出る。
「まあ、ここに来たのはあんたの気配がしたって事もあるんだけどな。」
 ヴァルドは真っ直ぐバイツを見る。
「ふむ、まさかトーヴが言っていたのはあなたの事でしたか。隠しきれない程の闇のオーラ・・・今まで気が付かなかったのが不思議でなりません。」

585名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:47:13 ID:/qBnNDz6
「トーヴ?ああ・・・あの。」
「私の名はヴァルド!女王様からの命を受けております。可能ならば排除しろと!」
 ヴァルドはそう言うと空中に跳びあがりバイツに向かって数十枚のカードを投げた。
 バイツの立っていた付近の場所は魔力で出来たカードで吹っ飛んだ。
 立ち上がる土煙。抉れた石畳。
「んー、やり過ぎてしまいましたかな?」
 ヴァルドは華麗に着地した。
「さて、次のお相手は?」
 ライキとヒートはバイツの立っていた場所を指差した。
 現にバイツは舞い上がる土煙の中無傷で立っていた。
「なっ・・・!」
 最初に飛んできたカードを右手の指先で弾き、残りのカードに当て弾道を逸らしたのだった。
「悪くはない。ただ力不足かな。」
 バイツはヴァルドの反射速度を上回る速さで接近し右腕を振るった。
「ぐはっ・・・!」
 為す術も無くヴァルドは吹っ飛ばされ、建物に背中から激突する。
「俺達の出番は無ェや、先に「キング・オブ・ファイターズ」を開催している奴のビルに向かおうぜ。」
「うん、そうだね。じゃあバイツ後はよろしく。」
 その場を立ち去るライキとヒート。
 ヴァルドは膝をついて何とか立ち上がろうとしていた。
 ダメージが大きい所為か体がいう事をきかなかった。
「この程度では屈しませんよ・・・私は・・・私は・・・!」
「口だけは達者だな・・・まあいいかこの場で死ね。」
 バイツが右腕を振り上げる。
 その時ヴァルドが笑みを浮かべた。
「待ってましたよ・・・攻撃が大振りになるこの時を・・・」
 ヴァルドは瞬時にカードを投げた。
 バイツは右腕でカードを振り払う、だがその瞬間カードが煙を上げて小爆発を起こした。
「!?」
 煙で視界が塞がれたバイツ。ヴァルドはその瞬間を狙って「門」を開き、中に入って消えた。
 周囲を見渡すバイツ。おかしな気配は既に消えていた。
「仕留め損なったか・・・まあいい。」
 バイツはそれだけ言ってライキとヒートの後を追い掛ける事にした。



 次々と刺客を倒し、とあるビルの前に辿り着いたバイツ、ライキ、ヒートの三人。
「裏口から入ろうよ。こっそりとさ。」
「馬鹿言うんじゃねえ。正面から堂々と殴り込みだ。」
 バイツは溜め息を吐いた。
「雑魚は俺とライキで何とかしろって事だな。」
 そう言っている間にもヒートは歩みを止めなかった。
「誰も居ねえ?」
 ヒートが先陣を切ってビルの正面から中に入ったが誰も居なかった。
「取り敢えず上に行こうよ。多分、最上階に「ヤツ」が居る・・・」

586名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:47:51 ID:/qBnNDz6
 エレベーターに乗り込む三人。
「きっと俺達に恐れをなして逃げ出したんだろうさ。俺達が刺客を倒したって情報はもうすでに流しているんだよな。」
「うんヒート、でもこれはおかしいよ。」
 エレベーターが最上階に着く。
「ようしどうやら地獄の一丁目・・・着いた様だぜ。」
 ヒートがずかずかと進む。
「罠だったらどうしよう。」
「その時には自力で切り抜けるしかないな。」
 バイツとライキも先陣を切って進むヒートの後を追う。
「クク・・・ようこそ諸君。」
 辿り着いた大きな広い部屋に一人の男が革張りの椅子に座って待っていた。
「君達がここまで来やすい様に人払いをしておいた。ゆっくり遊んでいくといい。」
「あんたがこの街を裏から操っている男かい?」
「実質的には表も操りたい所だがね?ヒート君。」
「何故俺の名を?」
「君達の事は調べさせてもらった。君の後ろに居るバイツ君、ライキ君の事もね。」
 男は座ったまま話を続ける。
「どうだろう君達私の部下にならないか。これまでの無礼は水に流そう。」
「ハッ!ほざいてやがれおっさん!俺達がここに来たのはお前をぶっ倒すためだぜ!」
「クッ・・・クックッ・・・」
 男は笑う。
 その笑いが余裕を示しているかの様にバイツは見えた。
「残念だよ。つくづく愚かだな・・・」
 男が立ち上がる。そして男から放たれる圧倒的なオーラ。
「大人しく私の部下になっていればよいものを・・・今からお前は死より恐ろしい恐怖を味わう事になるだろう。」
「何ィ?」
「ぬう・・・」
 男の筋肉が膨張する。着ていたスーツが破れ鋼の様な筋肉が露出する。
「ふしゅるう・・・」
 そして男は机を飛び越えヒートと向かい合う。
「奥義・鋼霊身!」
 男は笑みを浮かべる。
「へっ・・・面白え!見せかけじゃない事を祈るぜ!」
 ヒートが男を殴るが全然ダメージにはなっていなかった。
「こざかしい!」
「ぐあっ!」
 右腕一本で払い退けられるヒート。そのまま壁に激突する。
「ぐふう・・・」
「お前はこれから泣き・・・叫び許しを請う。後悔しながらな。」
「ほざ・・・けよォ・・・泣き出しちゃうのは・・・テメェだーっ!」
 ヒートの跳び蹴りが男の顔面に当たる。
「ぬおうっ!」
 ヒートの攻撃はダメージになっておらず、男はヒートを押し返す。
「何て野郎だ・・・全然ダメージになって無ェ・・・」
「クク・・・蹴りというのは・・・こういうものだ!」

587名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:48:28 ID:/qBnNDz6
 男の蹴りがヒートの脇腹に叩き込まれる。
「ご・・・ふ・・・う・・・」
 ヒートが脇腹を押さえその場にうずくまる。
「クク・・・苦しいだろうアバラの二、三本も折れたかもしれんな。」
「おおーっ!」
 ヒートは立ち上がり男の顔面に拳を打ち込む。
「ほう、しぶとさだけは大したものだが―――」
 男がヒートに近付く。
「頭はあまり良くないとみえる!」
 肘打ちがヒートの顔面に入る。
「ぐふっ!」
 倒れるヒート。
「お前と私の力の差は歴然だ。もう諦めて許しを請うがよい・・・」
「ふ・・・ざけろよタコォ・・・誰がテメェなんかに!」
「クク・・・愚かだ。本当に愚か者だな貴様・・・お前の蹴りもパンチも私には少しも通じんのだぞ。そのお前の何処に勝ち目があるというのだ?」
「お・・・俺がまだ動けるから・・・だ。動ける限りチャンスはある・・・」
「成程そうか・・・ではこれで終わりにしよう。」
 男は右手を下から上に振り抜く。それで発生した衝撃波はヒートの体を軽々と吹き飛ばし後ろの壁に激突させた。
「馬鹿が・・・これでもうピクリとも動けんだろう。」
 バイツとライキは加勢する訳でもなくその闘いを見ていた。
「これはちょっとマズいね・・・」
「ああ、だが加勢なんかしたら・・・」
「ヒートに殺される。でしょ?」
 そう言っている間にもヒートは男を支えにして立ち上がる。
「おおりゃー!」
 男の顔面にヒートの拳が叩き込まれる。だが依然として男にダメージは無い。
「ぬう・・・お・・・おのれーっ!」
 男の拳の乱打。ヒートは為す術も無く床の上に倒れる。
「ハア・・・フウ・・・ハア・・・あ・・・呆れたしぶとさだが・・・」
 男は倒れているヒートを見下す。
「どうやらそれもここまで―――」
 しかし、ヒートは立ち上がる。立ち上がって男に迫る。
「き・・・貴様・・・」
 男がヒートに攻撃を叩き込む。
 右フック、左フック、裏拳、顔面に膝蹴り、肘打ち、左フック。
「おおおぉー!」
 左手でヒートの後頭部を掴み右手で顔面に拳の連打。
 しかし、ヒートは倒れなかった。
 倒れるどころかその目には輝きがあった。
「・・・あ・・・?」
 無意識に一歩引く男。ヒートがゆらりと動く。
「・・・あ?・・・あ・・・?」
 そして、キッと男を睨み付けるヒート。
「う・・・」

588名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:49:11 ID:/qBnNDz6
 男は脳内で考えていた。何故この少年は倒れないのか。と。
「わああーっ!」
 男は叫んでヒートの咽喉を絞め上げる。
「くおおお死ね!死ね!死ねええーっ!」
 ヒートは自分の首を絞めている男の手を軽々と払い除けた。
 そしてそのまま手を掴み手の骨を握り砕いた。
「ぎゃあぁあーっ!」
 そしてヒートの拳が男の顔面を捉えた。
 男は倒れる。
「あ・・・?・・・あ?」
 今度はヒートが男を見下していた。
「その筋肉増強は気の力によるものだろ?」
「あ・・・?あ・・・?」
「そういう力ってのはただ発散させてりゃいいってもんじゃねえ。相手の力も気も自分に取り込んで増幅させなきゃ意味が無ぇ。お前は俺を攻撃しているつもりだったが逆に俺に気を取られていたんだよ。」
「・・・」
「そこら辺を考えてねえのが―――」
 ヒートが男を蹴り飛ばす。
「―――テメェの敗因だ!」
「むぐ・・・むぐぐ・・・」
 男が口元を押さえる。
「俺が本当の気の使い方を教えてやるぜーっ!」
 ヒートが拳に気を集中させる。
 そして、気を込めた拳で男を勢いよく殴りつけた。
 男は勢いよく吹っ飛び、強化ガラスの壁を突き抜け外に飛び出した。
「わぁあぁぁあ・・・っ!」
 男は無残にもそのまま地面に叩きつけられた。
 下で響く悲鳴。ヒートはその光景を見下していた。
「ま、こんなモンよ。どうだ?」
「某ゲイザーはパクらなかったか。見事だったよヒート。」
 バイツは賛辞をヒートに送った。
「あーあ、「キング・オブ・ファイターズ」は優勝したけどこれじゃ賞金がパァだよ。」
 ライキは優勝賞金の事しか頭になかった。
「しかし危なかったなヒート。」
「おいおい、闘ったのは俺だぜ?負けるなんて事―――」
 ヒートがふらついた。
 そこをバイツとライキが支える。
「―――無ェだろ?」
 バイツとライキは互いに顔を見合わせ静かに笑った。
「ホテルに戻ろうか。まだ夕食も食べてない。」
 三人は裏口から出てビルを後にした。
「サーナイト達は一体どこに向かったんだろうか。」
「何だか街で大きな騒ぎがあったみたいだしホテルに戻ってるかもよ?」
「うーん・・・」
 ライキの言う通りサーナイト達はホテルに戻っているのかもしれない。

589名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:49:50 ID:/qBnNDz6
 これでホテルに居なければ一人で探しに行けばいいのかもしれないと思いバイツはホテルに一旦戻る事にした。
「ヒート、さっきの闘いのダメージはどうなんだ?」
「マジでアバラの二、三本はイってるな・・・まあホテルに戻ったら気で治すけどよ。」
 化物じみた回復方法に溜め息を吐いたバイツはヒートに肩を貸しながらホテルに向かうのであった。



 ホテルの自室に戻ったバイツ。
 そこではサーナイトがベッドで眠っているキルリア、ミミロップ、クチート、ルカリオに毛布を掛けている所だった。
「お帰りなさいませマスター」
「ただいま。皆はどうしたんだ?」
「疲れが出てきた様で眠ってしまいました。」
 まさか、戦って疲れがきた等とは口が裂けても言えないサーナイト。
「サーナイトは大丈夫なのか?」
「私は・・・大丈夫です。」
「表通りは凄い騒ぎになっていたが何かあったのか?」
「私分からないです・・・ずっとここに居ましたから。」
「そうか。」
 バイツはサーナイトの嘘を疑う事無くソファーに座った。
「サーナイト、おいで。」
「はい。」
 嬉しそうな顔をするサーナイト。すぐにバイツの隣に座る。
「街がこんな状況じゃなきゃ何処かに行きたかったけどな。」
「私はマスターと一緒なら何処でもいいです。」
 バイツはサーナイトを抱き寄せる。
 サーナイトの顔が紅くなる。
「何時までもこうしていたいものだな。」
「私もですマスター」
 ふと、目と目が合う。バイツは柔らかな笑みを浮かべるとサーナイトの唇に自らの唇を重ねた。
 サーナイトにとって嬉しい不意打ちだった。
 短いキスが終わる。
「マスター・・・」
「どうした?」
「もっとチューしてください。」
 今度はサーナイトの方から唇を重ねる。
 遠慮がちにサーナイトが舌を絡めてくる。
 バイツもそれに応じるかの様に舌を絡める。
 先程よりもずっと長いキス。
 唇が離れる頃には混ざり合った二人の唾液が橋を作っていた。
 そしてサーナイトの顔はこれ以上ない位紅くなっていた。
「あの・・・マスター?嫌ではありませんでしたか?」
「嫌なわけないだろう、これ以上無いって位サーナイトに想ってもらえているんだからな。」
 サーナイトはその言葉を聞いて、嬉しさからかバイツに寄り添う様に抱きつく。
「時間の許す限りずっとこうしていたいです。」
 どうやらバイツ争奪戦はサーナイトの一人勝ちの様だった。

590名無しのトレーナー:2016/03/07(月) 20:50:27 ID:/qBnNDz6
この話はこれでお終い。
色んなものをパクったので謝罪の言葉しか出てきません。
本当にすいませんでした。

591名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:34:50 ID:/qBnNDz6
多田野は母子家庭に育った 金の問題はいつもついて回った。
グラブ一つ、ユニフォーム一着無駄にできない環境
そんな中でも、多田野の母は野球を続けさせた。多田野もそれに答え、みるみる頭角を現していった

大学に進み、世代を代表する投手と言われ始めると、色々な球団から栄養費が支給された
多田野はそれをすべて親孝行と借金の返済に当てた
余分な金はいらない。母に楽をさせてやりたい。多田野青年は母の苦労を知っていたのだ
だがそんなおり、愛用のグラブが壊れてしまう
栄養費は母の口座に振り込んだばかり、手元に金はない
まさか返してくれと言えるはずもなく、多田野青年は途方に暮れた
そんなとき、ゲイ雑誌の片隅にビデオモデル募集の広告を見つけたのだ
多田野はお前達の言うような男ではない。真面目で誠実な青年なのである



何でゲイ雑誌なんて読んでいるんですかね・・・(疑問)
後、小説が出来ました。

592名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:35:31 ID:/qBnNDz6
「トーヴ、あなた黙っていましたね!?」
 ヴァルドは本拠地に帰った途端にトーヴを問い詰めた。
「言った筈だろう、新たな脅威が現われたと。」
「あんなモノだとは聞いていません!」
「聞かれなかったからな。」
 グッと言葉を堪えたヴァルド。確かに脅威について詳しく聞かなかったのは自分の所為であった。
「とにかくアレを何とかせねば世界を闇に落とすなど不可能だ。」
 トーヴがそこまで言った時突如誰かが現われた。
「お前は女王様に失敗の報告でもするんだな。」
 突如現れた二メートルを超えた大柄な筋骨隆々の男がそう言った。
「ヴォルツ・・・あなたですか・・・」
 スキンヘッドに目元を覆うようなマスクといった少々個性的なファッションに身を包んだ男、ヴォルツは二人に歩いて近づいた。
「その脅威っていうのは相当ヤルのか?」
「私のカード攻撃を難無くかわしたのですよ、中々の手練れです。」
「まあ、お前のカード攻撃は力強さが足りないからな。」
「何ですって?」
 ヴァルドが食って掛かろうとしたその時闇の中から声が聞こえた。
「ヴァルド、報告せよ。」
 その言葉に黙ったヴァルド。
「ま、さっきも言った様に精々敗北の原因でも考えて女王様に報告する事だな。」
 ヴォルツの言葉を背に受けヴァルドは更に深い暗闇の中に向かって歩き始めた。
「ククク・・・お前等が苦戦している人間に会ってみたいものだ。」
「言っておくがアレは人間などというレベルではない。」
「ほう?」
 ヴォルツがトーヴに細かく聞こうとした時声が聞こえた。
「ヴォルツ、今度はお前が出よ。脅威とやらを排除するのだ。」
「分かりましたよ女王様。そいつとあとポケモン達も潰しておこう。」
「ヴォルツ!女王様に何という口の利き方だ!」
「トーヴ、良い。そこまで自信があるからには期待しているぞ。」
「任せておきな。」
 ヴォルツは口元に笑みを浮かべた。



 ある街の上層階にある一軒の屋敷に来訪者が二名現れた。
「大奥様が言っていたお客様ですね。どうぞ。」
 小間使いの少女がそう言い二人を奥の部屋に連れていった。
 部屋に入るとベッドの上に横になっている黒人の老女が居た。
「よく来たね。目は殆ど見えなくなったけれどあんた達の事は分かるよ・・・ライキ、ヒート。」
 ライキと言われた少年が口を開いた。
「お久しぶり、マダム。調子が悪そうだね。」
 ヒートと呼ばれた少年も口を開く。
「寿命ってやつか?」
「ヒート。そんな口の利き方・・・」

593名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:36:06 ID:/qBnNDz6
「いいんだよライキ、死は避けられないさ。それが寿命ならね。それにしてもよく立ち寄ってくれたね・・・」
「ん、ちょいと近くまで来たもんでな。」
「それで・・・顔を見に来ただけじゃないんだろう?」
「うん、ちょっと「視て」もらいにね。」
 ライキがそう言うと老女は頷いた。
「ああ、いいよ。目が見えなくなっても見えるものがある。力はまだ失われていないさ。」
 そして、老女は黙って目を閉じた。
「見えるよ・・・はっきりと・・・炎が見える・・・それも普通じゃない、黒い炎が・・・」
 ライキもヒートも黙って老女の言葉を聞いていた。
「これは・・・周りにあるのは光だね・・・五つの小さな光・・・見過ごしてしまう所だった・・・」
「光?」
 ライキが訊く。
「そうさね・・・光さ・・・」
 老女は白く濁ったその目を開けた。
「済まないね、あんた達二人の事を「視れ」なくて・・・今日はここまでが限界さ・・・」
「いや、いいよマダム。ありがとう。」
「しかしよぉ、この前この前会いに来た時を除いてあんたを助けたのは何年前だ?五十年前か?」
「あの時は助かった・・・礼を言うよ。」
「気にすんなって、ただ時の流れは残酷だなーって思ってよ。」
「そうだね、不変な物なんて無いと思っていた・・・あんた達に会うまでは。私はもうしわくちゃのおばあちゃんなのにあんた達は変わらない・・・少年のままさ。」
「全く成長が見られないってだけの話かもしれないよ?マダム。」
「いいや、あんた達は成長している。私が保証するよ。」
 ライキは照れ臭そうに老女に背を向けた。
「ヒート、長話はマダムの体に障るからさ。ここでお暇しようよ。」
「そうだな、下層スラムにあいつらを置きっぱなしだ。」
 ヒートも老女に背を向ける。
「じゃーな、婆さん。死ぬまで長生きしろよ。」
「あんた達には敵わないさ、道中気を付けるんだよ。」
 部屋を出ると小間使いの少女が待っていた。ライキとヒートに一礼する。
「お医者様の見立てでは大奥様はもう長くないそうです。お会いくださってありがとうございます。」
「気にしないでよ。あてのない旅の途中で寄っただけだからさ。」
「また近々会いに来るぜ。今度は街を出る時にな。」
 そして二人は小間使いの案内で玄関まで歩いた。
「本当に車を出さなくてもよろしかったのですか?」
「いいよ別に、気にしないで。」
「高級車が下層スラムに行ったら人目を引いちまうだろ?」
「それじゃあ、マダムによろしく。」
 ライキはそれだけ言うと玄関を出た。ヒートもその後に続く。
 屋敷から数十メートル離れた所でライキは歩みを止め振り返る。ヒートも立ち止まる。
「振り向いたって時は戻らねーぞ。」
「うん・・・またいなくなるんだね・・・僕達を知っている人。」
「婆さんと初めて知り合ったのはいつだった?」
「さあ?マダムが四歳か五歳位の頃じゃなかった?」
「長い付き合いになったな。」

594名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:36:36 ID:/qBnNDz6
「本当・・・長い付き合いだったね。」
 そして二人はまた歩き始めた。下層スラムへ続く道を。



 一方、その頃下層スラムでは一人の少年が右腕で紙袋を抱え全く車の走っていない道を歩いていた。
 紙袋の中には上層階で買った食料が入っていた。
「全く・・・ライキとヒートは何処に行ったんだ?上層階に行ったと思ったが全然会わなかった。」
 そう言いながら長い髪をなびかせて歩いている。
 少年の名はバイツといった。
「サーナイト達はともかくイルとシコウも隠れ家で大人しくしている・・・筈。」
 説明口調の台詞を言った後は黙々と歩き続けるバイツ。
 ふと、足を止める。
 目の前には一人の浮浪者が立っていた。
「へへ・・・クイ・・・モノ・・・」
 そう言った男の視線はバイツの持っている紙袋に向けられていた。
 そしてナイフを取り出す男。
「クイモノ・・・置いていけ・・・」
 男の獣の様に血走った目からバイツは判断した。この男は人殺しでも平気でやる男だと。
「嫌だね。」
 それを分かりながらバイツは否定した。
「じゃあ・・・シ・・・シ・・・シネ・・・」
 男はナイフの切っ先をバイツに向けて突進した。
 その瞬間バイツの姿が消えた。
 当然その男はバイツの姿を追えなかった。
 刹那、男の頸椎に衝撃が走った。
「ガ・・・ァ・・・」
 男の背後に瞬時に跳んだバイツが男の頸椎目掛け蹴りを放ったのだった。
「終わりだ。」
 男は為す術も無くその場に倒れた。
「どうだろう、いっそ首の骨を砕いてしまおうか。」
 十分に加減していたとはいえバイツによる強烈な一撃によって男は気絶していた。
「・・・先を急ごう。」
 バイツは何事も無かったかのようにまた歩き始めた。
 それから隠れ家に着いたのは丁度五分後。
 この隠れ家もあまりいい方法で入手したものではなかった。主にヒートが前に出て先にその場所を占拠していた浮浪者達を主に暴力で追い出したのであった。
「ただいま。」
「お帰りなさいませマスター」
 真っ先に出迎えたのはサーナイトだった。
「ここまで大丈夫でしたか?お怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ。サーナイトはどうだ?体の調子は?」
「私は大丈夫です。」
「お帰りマスター」
 次に出迎えてくれたのはルカリオだった。

595名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:37:06 ID:/qBnNDz6
「ただいま。キルリアとミミロップとクチートはどうした?」
「何だかゴミの山で見つけた玩具で遊んでいる・・・たしかミミはジェンガとか言っていたな。」
「そんな古いものをよく知っていたな。正しい遊び方なのか?」
「私は分かりませんけれども・・・マスターはご存じですか?」
「まあ一通り・・・壊す方が好きだけどな。」
 隠れ家の一番広い部屋に着くと床の上で集中してジェンガをやっているキルリアとミミロップとクチート。イルとシコウは大人しく椅子に座ってその様子を眺めていた。
「何だ、本格的にやっているじゃないか。」
「戻ったかバイツ。」
 シコウがジェンガから視線を移さずに口を開いた。
「ああ、ただいま。っていうか帰ってきたこと分かるだろ。」
「まあ、足音で察知はしていたがな。」
「お帰りバイツ、何かつまむもの無い?小腹が空いて来ちゃった。」
「バゲットでも食っていろ。」
 そう言ったバイツはイルの口に無理矢理バゲットを突っ込んだ。先端部分がイルの口の中に入る。
「もがっ!・・・あ、結構美味しい。どこのお店で買ってきたの?」
 むしゃむしゃとバゲットを齧りながらイルが喋る。
「たまたま目に入った店でだ。静かにしなくていいのか?皆集中しているぞ?」
 バイツはジェンガに視線を向ける。次はキルリアの番だった。
 慎重に一本抜き取る。
 その時タワーのバランスが崩れ、倒れてバラバラになった。
「はい、キルキルの負けー!」
「ああもう!強いよお姉ちゃん達!」
 その時ようやくキルリアとミミロップとクチートは帰ってきたバイツに気が付いた。
「あ、お帰りバイツお兄ちゃん。」
「ただいま。随分熱中していたみたいだな。」
「うん!とってもとっても楽しいの!」
 ミミロップがその場で小さく飛び跳ねながら言う。
「マスターもやる?」
 クチートは崩れたジェンガを集めていた。
「ああそうするかな。でもまずイルとシコウと戦ってみたい。」
 イルはバゲットを齧りながら、シコウは溜め息を吐きながらそれぞれ椅子から立ち上がった。
「勝っても負けても恨みっこ無しな。」
「うん、いいよー」
「承諾した。では順番を決めようか。」
 クチートがジェンガのタワーを立て直している間にじゃんけんで順番を決める。結果順番はバイツ、イル、シコウの順番となった。
 バイツは右手でジェンガの一本を目にも止まらぬ速さで抜き取って一番上に置いた。
「へー」
「ほう。」
 タワーは微動だにしなかった。
「次はイルの番だな。」
 イルはバゲット左手にバイツと同じぐらいのスピードで一本を右手で抜き取り一番上に置く。
 シコウも似たような事をした。
「うわー・・・」

596名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:37:39 ID:/qBnNDz6
 数分後、キルリアは歓声とドン引き、二つの意味を込めて声を出した。
 どのようなルールでやったのか分からないがもう抜くジェンガが無く上から見たタワーは見事に十字の形になっていたのだった。
「で?この場合はどうなるんだ?試合続行か?」
「もういいよねー。これ以上を求めたら地震でも来ない限り終わらないよコレ。」
「うむ、白黒つけたかったが引き分けで良いな?」
 クチートがバイツに向かってこう言った。
「ねえねえマスター、勝負が終わったんだから倒していい?」
「ん?いいよ。」
 クチートはそう聞くと嬉しそうにジェンガタワーに寄って、ツンとタワーを押した。
 タワーは呆気なく崩れた。
「さあ、二回戦と洒落込むか?今度は皆でやろう。」
 バイツがジェンガを組み立てながらそう言った。
 サーナイトはその輪から少し離れた所でその様子を見ていた。
『微笑ましい光景ですね。』
 サーナイトの左腕に填めているメガバングルがそう言った。
「ええ、見ているだけでもとても楽しいです。」
 サーナイトはバイツ達に聞こえない様に小声でメガバングルに語り掛ける。
『特にバイツ様を見る時の貴女の視線・・・あの時のキス・・・本当にバイツ様の事が好きなのですね。』
 サーナイトは顔を紅くした。
「いつから気付いていたのですか?」
『もうずっと前からです。貴女に見えているものは私にも見えているのです。』
 サーナイトは顔を紅くしたまま少し俯いた。
「全部見ていたのですか・・・少々意地悪ですね。」
『でも、貴女の想いに嘘や偽りが無い事は確かです。自信を持ってください。』
「たとえそれが一般的な恋でなくともですか?」
『そうです。恋に種族の関係は大した壁にならないものですよ。』
「・・・はい。私、自信が持てたような気がします。」
「サーナイト。」
「は、はい!」
 バイツに急に呼ばれて驚くサーナイト。
「サーナイトもジェンガやらないか?ルールは簡単だから。」
「え・・・ええ、是非。」
「よし、再戦であるな。」
 シコウがそう言ってその場に居た全員がジェンガのタワーを囲んだ。



 それから数十分後。
「もー無理、マスター達強すぎじゃん・・・」
 ミミロップがそう言って倒れ込む。
 数々の勝負を繰り広げたが結局バイツ、イル、シコウの三人が負ける事は無かった。
 負けが込んでいるのはサーナイト達の方であった。
「完敗だ・・・私達の・・・」
 ルカリオはそう言いながら何処か納得の表情を見せていた。

597名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:38:20 ID:/qBnNDz6
「流石マスターですね。私達では敵いません。」
 サーナイトが晴れ晴れとした表情で言った。
「そんな事ない、サーナイト達だって善戦したじゃないか。」
「うー・・・でも一回位勝ちたいよ。」
 クチートは悔しそうに倒れたタワーを見てそう言った。。
「じゃあもう一勝負といくか?」
「うん!」
 クチートが大きく頷く。
 バイツがタワーを元通りにしている時、外からクラクションの音が聞こえた。
 バイツ達は外に出る。
 そこには一台のワゴン車が停まっていた。
「おいバイツ!見ろよトヨタのボンゴフレンディだぜ!」
 助手席の開いた窓からヒートの声が聞こえた。
 どうやら運転しているのはライキの様だった。
「どうしたんだコレ・・・お前等車泥棒する為に上層階に行っていたのか?」
「いやこいつは下層スラムで見つけたんだ。ちょいと弄ったら走る様になったぜ。」
 本当の事を言っているのか疑わしかった。
「ドライブにでも出かけねーか?」
「いや、俺はいい。」
「拙者も遠慮する。」
「ハーイ、ボク乗る!」
 イルが嬉々として手を挙げ車に近付く。
「じゃあ後ろに乗りな。」
 イルはボンゴフレンディの後ろのドアを開けて乗り込んだ。
「じゃーな!面白い帰ってきたら面白い土産話でもしてやっからよ。」
 そうヒートが言った所でボンゴフレンディが発進した。
「嫌な予感がするな。」
「拙者も同じでござる。」
 そして数メートル走った所で黒塗りのセンチュリーの後ろに衝突してしまった。
 センチュリーから男が出てくる。どこからどう見ても暴力団員だった。
「やべえよ・・・やべえよ・・・」
「物凄い朝飯食ったから・・・」
 そして男がボンゴフレンディの運転席のドアに手を掛ける。
「おいゴルァ!降りろ!お前免許持ってんのかコラ!」
 遠くからそのやり取りを見ていたバイツ達。
 特に何も感じなかったバイツとシコウ。一方サーナイト達は助けるべきか助けないべきか悩んでうろたえていた。
「おいゴルァ免許見せろ!あくしろよ。」
 ライキが免許証を取り出す。
 男がそれを取り上げた。
 遠くから見ていたバイツとシコウは互いに色々言い合っていた。
「あの免許証どう考えても偽造だよな。」
「うむ、ライキが免許を取ったなど拙者は聞いておらんぞ。」
「降りろって言われたのに降りてないし。」
「ここで降りて何か変わるか?変わらないであろう。それよりも「早くしろよ」が「あくしろよ」に聞こえたが・・・衝突時の衝撃で言語中枢に障害が発生したのか。」

598名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:39:14 ID:/qBnNDz6
 バイツとシコウは三人を助けるつもりなど皆無であった。
 そう話をしている間にも男は話を進めて行く。
「よしお前等クルルァについて来い。」
 クルルァって何だろうといった表情でライキとヒートは互いの顔を見合わせた。
 そしてボンゴフレンディのドアが閉まった。
 発進する二台の車。
 これといった表情を浮かべる事無くバイツとシコウは二台の車を見送った。
「無免許運転。」
「そうであるな。」
 サーナイトが何かを言おうとした時メガバングルが反応した。
『ダークナーが現われました!』
 サーナイト達はこっそりとバイツとシコウから遠ざかる。
「今回も二体ですか?」
『いいえ、今回は一体だけです。』
「一体だけなら余裕じゃん!いつもの通りパパッと終わらせてマスターと遊んじゃおう!」
「油断は禁物だぞミミ。何が来るか分からない。」
「でも今回は騒ぎになってないよね。静かだよ?」
 クチートにそう言われて他の皆は頭を傾げた。
「じゃあ騒ぎにならない内に倒しちゃおうか。」
 キルリアの提案に反対するものは居なかった。
 ダークナーの反応は上層階にあった。
 サーナイト達はその反応を目指し移動を始めた。



 上層階の表通りに辿り着いたサーナイト達。
 人が行き交う普通の街並みが目の前にあった。
「本当に居るのですか?この人々の中に。」
『はい、反応は確かなものです・・・それに先程よりも強くなっています。』
 その時サーナイトの視界の端に大男が映った。
 他の人間達よりも身長が高いその男もサーナイト達に視線を移した。
「何あの筋肉達磨。まさかあいつって事ないよね。」
 サーナイトの視線の先に気付いたミミロップがメガバングルに問い掛ける。
『うーん・・・実は正解なんだよね・・・』
「じゃあ、どこでメガシンカしよう・・・」
 クチートが考え込む。
「ここじゃ人が多すぎるなもっと人気の無い場所に・・・」
 ルカリオがそこまで言った時突然身構えた。
「ほう。これはこれは・・・その腕輪、お前達が例のヤツか。」
 サーナイトの背中を冷たいものが通って行った。
 大男はいつの間にかサーナイト達に接近していたのだった。
「俺の名はヴォルツ。覚えておけ・・・あの世までな・・・」
 サーナイト達は無意識に一歩下がった。
「どうした?何故メガシンカしない?・・・ああ、そうか。」
 何かを悟ったかの様にヴォルツは笑い始めた。

599名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:39:50 ID:/qBnNDz6
「発破を掛けられないと変身できないのか。」
 その瞬間ヴォルツの体から密度の高いオーラが放たれた。
 そのオーラは周囲の人間、ポケモン、物、ありとあらゆるものを吹っ飛ばした。
 サーナイト達は何とか耐えたがそれで事態が好転するとは思えなかった。周囲の人間達が更にサーナイト達に視線を向けたのだった。
「さっさとメガシンカしろ。早ければ早い程すぐ楽にしてやる。」
 サーナイトはその言葉に意を決した。
「皆様!メガシンカしましょう!」
『ですが人々が見ていますよ!』
「これ以上被害を大きくするわけにはいきません!」
 サーナイトの言葉に賛同したかの様にキルリア、ミミロップ、クチート、ルカリオも戦闘態勢に入る。
 サーナイト達の体を光が包む。そしてメガシンカをしたサーナイト達。
「そうでなければな、面白くなってきた。」
 ヴォルツは口端に笑みを浮かべた。



 その頃ライキ、ヒート、イルの三人は狭い男の事務所に居た。
 イルが先陣を切って歩き室内に入る。ライキとヒートはイルの後ろを歩いていた。
 半笑いのライキ。
 男は免許証片手に椅子に座っていた。三人を睨み付ける。
「免許証返してください。」
 イルが開口一番にそう切り出す。
 謝罪の言葉は無くただ免許証を取り戻したかったイル。
「やだよ、オウ。」
「オナシャス。」
「お前それでも謝ってんのかこの野郎。」
「オナシャス免許証。」
「嫌だっつってんだろ取り敢えず土下座しろこの野郎。オウ、あくしろよ。」
 正座する三人。
「誰の車にぶつけたと思ってるんだこの野郎。」
「すいません。」
 頭を下げたイル。ようやく謝罪の言葉が出る。
 そして自分が何をしでかしたか分かったのか半笑いを止めるライキ。しかし、頭は下げない。
「どう落とし前つけるんだよ。」
「オナシャス、センセンシャル。」
 必死に頭を下げるイル。
「返してほしいんだよな。」
「はい。」
「お前取り敢えず犬の真似しろよ。」
「えっ。」
「犬だよ、ヨツンヴァイになんだよこの野郎。あくしろよ、あぁ!返さねえぞ。」
「やれば返していただけるんですか。」
「ああ、考えてやるよ。」
 返すとは誰も言っていなかった。

600名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:40:36 ID:/qBnNDz6
「あくしろよ。」
 やたらと急かす男。
 イルの後ろにいるライキとヒートは小声で何かを言い合っていた。
「僕達何やってるの?」
「さあ・・・」



 サーナイト達は苦戦を強いられていた。
 ヴォルツの攻撃は両腕を振り回すという、至極単純なものだったのだが、スピードと重さが桁違いだった。
 武術の心得があるルカリオもなかなか手を出せずにいた。
「クッ!接近戦は危険すぎる!サナ!遠距離から攻めよう!」
「はい!」
 一旦下がるミミロップ、クチート、エルレイド。
「「サイコキネシス」!」
「「はどうだん」!」
 サーナイトとルカリオから放たれた攻撃。しかし、ヴォルツはそれをかわし、二人に急接近した。
「残念だったな。」
 ヴォルツの重い横薙ぎのハンマーナックルがサーナイトとルカリオを吹っ飛ばす。
 建物の壁に叩きつけられる二人。
「姉さん!」
「何だ?戦っている最中に余所見か?」
 いつの間にか接近を許してしまったミミロップ、クチート、エルレイド。再度距離を取ろうとするがヴォルツの方が速かった。
 ハンマーナックルが三人を吹っ飛ばす。
 そして三人も壁に叩きつけられる。
「クハハハ!どうした!まさかこの程度って事は無いよな!」
 あまりのダメージに咄嗟に起きる事が出来ないサーナイト達。
「何だ、本当に終わりか・・・つまらんな。」
 ヴォルツが倒れているサーナイトに近付く。
「期待させた割にはこの程度か。まあいい一匹ずつ潰していってやろう。」
 その時背後にただならぬ殺気を感じたヴォルツ。
「ん?何だ?」
 後ろを振り向くとそこには二人の人間が立っていた。



 四つん這いになったイル。
「何お前犬のくせに服着てんだよ。オイ。」
「はい。」
 免許証を見る男。
「お前ライキか。」
「はい。」
「お前脱がせろ。」
 無言でイルの上半身の服を脱がせに掛かるライキ。

601名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:41:23 ID:/qBnNDz6
 脱がせ終わった時に男はイルの右腕に気付く。普段は人工皮膚を被せている筈の深い深い蒼をした藍色の腕。
「お前それ・・・」
 男がそこまで言った時、突然空気の様な扱いだったヒートが男ごと椅子をひっくり返した。
 その時椅子の下に隠してあったリボルバーが床の上に落ちる。
「ライキ!」
 ヒートがリボルバーをライキに向かって投げる。
 ライキはそれを受け止めると椅子ごと倒れた男の頭部に銃口を向けてコッキングした。
 イルはそれを見ると急いで脱がされた服を着て男の首に氷の槍の先端を向けた。
 ヒートは男の首に少し力を入れて足を乗せる。
「しゃぶったら撃つぞゴラァ。」
 ライキの迫真の演技。
「しゃぶったら撃つのか・・・原作とは大違いだな。」
「アハハ!でも下も脱がされたらどうしようかと思っちゃったよ!で?この後どーするの?」
 ライキとヒートが互いを見合わせる。
 その一秒後事務所内に発砲音が鳴り響いた。



 ヴォルツは殺気の持ち主である長い髪の少年に視線を合わせた。
「ほう・・・人間にしてはいい殺気だ。」
 何とか立ち上がろうとするサーナイトを背に二人の少年、バイツとシコウに向かって歩き始める。
「トレーナーか何かか?」
「パートナーだ・・・!」
 静かな口調からでも激しい怒りが感じ取れる。
「どうでもいい事だったな。まあいい、お前等二人から潰してやろう。」
 ヴォルツは二人に急接近し両腕を振った。
 しかし、二人には当たらなかった。
「何?」
 続けて攻撃を出すもののことごとくかわされてしまう。
「どうしたお主、この様な攻撃では当たらんぞ。」
 シコウは余裕を見せる。
「あまりナメるなよ・・・!」
 ヴォルツの攻撃速度は更に上がる。それに対しバイツとシコウは後退するだけであった。
 そして細い路地裏への道へ差し掛かった。
 ヴォルツは攻撃を加えようとしたが両腕を振り回そうとした時、ある事に気が付いた。
 両側の建物の壁に阻まれ自由に攻撃を繰り出す事が出来なかった。
「その手足の長さがお主の長所でもあり・・・弱点でもある。」
 シコウがそう言うとヴォルツの背後に向かって跳んだ。
 バイツとシコウに挟まれる形となったヴォルツ。だが、それほど身の危険を感じてはいなかった。
「だったらどうした?少しばかり攻撃方法を変えればいいだけだ!」
 ヴォルツの右ストレートがバイツに向かって飛んでくる。
 バイツは難なく右手でそれを受け止める。
「・・・!?」
 次の攻撃の為に右腕を引っ込めようとするものの腕が動かなかった。
 その時、バイツが右腕を引いた。

602名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:41:59 ID:/qBnNDz6
 ヴォルツはそれにつられて引き寄せられる。
 そしてバイツの右手はヴォルツの右手を放し、握り拳を作るとヴォルツの顔面目掛けて拳を繰り出した。
 攻撃をまともに食らって吹っ飛ぶヴォルツ。吹っ飛んだ先にはシコウが待っていた。
 バイツのいる方向に蹴り飛ばされるヴォルツ。そしてまたバイツによる一撃。
 バイツとシコウの間を五往復程した後ヴォルツは表通りに吹っ飛ばされ転がった。
「ほう、お主人間でないにしても頑丈にできているな。」
 バイツとシコウも路地裏から姿を現す。
 ボロボロになったヴォルツは何とか立ち上がろうとするものの足に力が入らなかった。
「終わりだ・・・」
 バイツがそう言ってヴォルツに近付く。
 その時、「門」が開いた。現れたのはトーヴだった。
「退くぞ、ヴォルツ。」
 ヴォルツの服の襟首を掴むトーヴ
「逃がすか・・・!」
 バイツがヴォルツに接近するがトーヴの蹴りがそれを拒んだ。
 シコウが間髪入れずに跳びかかり蹴りを繰り出すがトーヴはその蹴りを何とか防いだ。
 そして「門」の中に入り消えるトーヴとヴォルツ。
「逃がしたか。」
「済まぬバイツ。本気で行くべきだったな。」
「いいさ、それよりも・・・」
 バイツの視線は一つの方向に向けられていた。バイツの視線の先にはメガシンカ状態のサーナイト達が居た。
「どういう話が聞けるか楽しみだ。」
 メガシンカ状態を解くサーナイト達。
「あの・・・これには深い訳がありまして。」
「ここじゃ駄目だサーナイト。何事も無かったかのように去るぞ。」
 バイツとシコウ、そしてサーナイト達は半ば急ぎ足でその場を去った。



 次の日、ライキとヒートは老女の屋敷に居た。
 老女は明け方に亡くなっていた。
 眠る様に息を引き取ったと小間使いは言っていた。
「マダム・・・死に目に会えなかったね。」
「あばよ婆さん。」
 ライキとヒートは長い時間屋敷には居なかった。
 老女の家族にお悔やみを言った後に屋敷を後にしていた。
「さんざん世話になったな、あの婆さんには。」
 屋敷から出た後ヒートがそう言った。
「うん、でもマダムがその言葉を聞いたら「こっちが世話になった」っていうだろうね。」
 ライキとヒートはしばらく互いに何も言わずに歩き続けた。
 下層スラムに足を踏み入れた時にヒートが口を開いた。
「婆さんの葬儀に参加するか?」
 ライキは頭を横に振った。
「いや、マダムはリスクを冒してまで葬儀に参列してほしくないと思うんだ。」
 ライキはそう言って空を見上げた。老女の魂が微笑みを返してくれたようにライキは感じた。

603名無しのトレーナー:2016/05/30(月) 22:42:36 ID:/qBnNDz6
これで今回はお終い。
血塗られた美酒とFar Harborが楽しみです。早く来ないかな。

604名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 01:59:03 ID:/qBnNDz6
最近fallout4とハッピーダンジョンをやっています。
セブンイレブンで貰った色違いサーナイトの厳選はまだ手すら付けていません。
あと小説が書き上がりました。

605名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:00:00 ID:/qBnNDz6
「クックック・・・」
 やけに上機嫌なヴォルツ。それを少し離れた所から見ていたヴァルドは眉をしかめながら口を開いた。
「一体何がそんなに楽しいのですか?この前の任は失敗に終わったようですが・・・頭でも打ったのですか?」
「いや、楽しくてたまらんのだ。あの異常なまでの力を持った人間・・・あの化物と戦える事がな。」
 あの化物。
 その表現にヴァルドは思い当たる人物がいた。
「あの人の形をした化物ですか・・・あなたも物好きですね。」
「今度は邪魔をするなよ・・・なぁ!トーヴ!」
 闇の中からトーヴが姿を現す。
「邪魔をしたつもりは無いが?」
「今度はあんな真似するなって事だよ。余計な真似をしたらお前から潰す。」
「楽しそうに言ってくれるな。まあいい今度は助けん、好きにしろ。」
 トーヴが呆れかえって闇の中に戻ろうとした時、声が聞こえた。
「オイオイいいのかー?ヴォルツちゃんよぉ、折角助けてもらったのにそんな態度取っちゃって。」
 闇の中から姿を現したその男はヴォルツに向かって歩いていた。
「助けてもらっただと?俺はそんな事頼んでいない。」
「照れ隠しか?それとも本物の馬鹿なのか?まあ、お前はそのガタイと比べりゃ脳ミソは小さいからなぁ。」
「お前・・・潰されたいようだな。ドルヴ・・・」
 ドルヴと呼ばれた男はヴォルツから放たれた威圧感を受け流していた。
 それが殺気に変わる前に闇の中から女の声が聞こえた。
「楽しそうな所を悪いがヴォルツ、報告せよ。」
「女王様が呼んでるぜェー?ヴォルツちゃん。」
 挑発的な口調を崩さないドルヴ。ヴォルツはつまらなそうに三人に背を向けて歩き始めた。
「ちょっと女王様に絞られてくる。」
 三人はヴォルツの背中を見ながら話を続けた。
「んで?その人間ってのはどんな奴よ?」
「ヴォルツにも言ったがアレは人間の形をした「何か」だ。俺も奴に負けた。」
 トーヴが苦々しく言う。
「へー、トーヴちゃん程の使い手がそこまで言うのかね。」
「ドルヴ、興味を持っては駄目ですが・・・アレを倒さないかぎり我々の計画が進まないでしょうね。」
「ヴァルドちゃんもそこまで言うのなら・・・一度会っておきたいもんだぜ。」
「いいか、とにかく奴に会ったら一切の手加減はするな。この前のヴォルツみたいになるぞ。」
「あー・・・ボロボロだったもんな、ヴォルツちゃん。ククク・・・」
 回復する前のヴォルツの姿を思い出し、笑いを我慢しきれなかったドルヴ。
「ま、どんなヤローかは知らねーけどよ、ぶっ殺しておけばいいんだろ?」
「その通りだ。ドルヴ。」
 女王の声が三人の耳に届く。
「今度はお前の番だ。一切の加減はするな、ポケモン達にもその人間にも。」
「女王様のご命令とあらば。」
 ドルヴはそう言って闇の向こうに頭を下げた。



 一組の男女がパソコンと一体化した机を挟んで対面していた。女性の方は幼さが残る顔立ちだが二十二歳。栗色の髪はショートカット。服装は白いシャツに黒色のベスト、黒いミニスカートにサイハイソックスという組み合わせ。対して男性の方はスーツを着た白髪頭の初老だった。

606名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:00:35 ID:/qBnNDz6
「ミコ君。これを見てくれたまえ。」
 ミコと呼ばれた女性の前に幾つかの画像が展開された。
「これは・・・」
 最初見た画像に映っていたのは人間でもなくポケモンでもない黒い生物だった。
「ここ最近目撃件数が増えている。それにこの生物は人間やポケモン達を狙って行動している様だ。」
 ミコは男の言葉を聞きながら次の画像に目を移した。
 映っていたのは黒い生物に立ち向かっているサーナイト、ミミロップ、クチート、ルカリオ、エルレイドだった。それぞれメガシンカをしている。
「どうやらそのポケモン達はその黒い生物と戦っているのだが・・・そのポケモン達の左腕を見てくれ。」
 ミコは言われた通りにサーナイト達の左腕に注目した。
「メガバングル・・・?」
「そうだ。どうやらそのポケモン達はトレーナー抜きでもメガシンカが出来るそうだ。まあ話はここから始まるのだが・・・」
 男はパソコンを操作し一つの画像を展開した。そこには黒髪の長い髪をした少年が映っていた。
「彼がこのポケモン達のトレーナーだと我々は睨んでいる。ミコ君、君にはこのトレーナーと接触し何故黒い生物と戦っているのか、そして分かればでいいがこの黒い生物達の目的も探ってほしい。」
「分かりました。」
「それとこれは機密事項なのだが・・・」
 男は乗り気でない様にミコに話しかけた。
「このトレーナーには仲間がいる。どうやら上層部が彼と彼の仲間の身柄を確保したがっている。もし可能ならば・・・」
「捕えろ・・・という事ですか?」
「うむ。」
 苦々しい表情を浮かべた男に対してミコは微笑んでみせた。
「大丈夫です。完遂してみせます。」
「頼んだぞ、我々特殊犯罪課・・・いや、警察のメンツがかかっているんだ。それと・・・これもついでだが・・・」
 男が次に展開した画像に映っていたのは頭を撃ち抜かれて死んでいる男の死体。
「これは誰ですか?」
「ホモの暴力団員だ。」
「ストレートに来ましたね。それで・・・私はこの暴力団員を殺した犯人を追えば良い訳ですね。」
「そうだ。だが無理はするなこの件はあくまでもついでだ。」



 建物の外に出たミコはモンスターボールを持っていた。
「あーあ、遂にバレちゃうのかな。」
 モンスターボールの中からバシャーモを出す。
「どうしたんだいミコ、もう仕事は終わりかい?」
「ううん、これからお仕事。」
 ミコはバシャーモの左腕についているメガバングルを見た。
「バシャーモ、仲間が見つかったみたい。あなたと同じで左腕にメガバングルをつけているポケモン達。」
「あたいに仲間かい?いいねえ、一人でダークナーと戦うのに疲れてきた頃だったんだよ。」
「でも・・・どうなるか分からない。」
「?・・・浮かない顔だね。」
「大仕事だからちょっと緊張しちゃって・・・」
「何言ってんのさ、これまで色々な事件を解決してきたじゃないのさ。」

607名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:01:08 ID:/qBnNDz6
「うん・・・そうだね。」
 眩しい太陽の下ミコは歩きながら筋肉をほぐす為背伸びをした。
「よーし!頑張るぞ!」
 意気込んでみせたミコ。その行く手には何が待っているのか。



 ミコの現在地から僅か数キロしか離れていないホテルにとある一行が泊まっていた。
 少年が五人にポケモンが五体。
 ポケモンはモンスターボールに入れられていなかったが炎や毒を発するタイプのポケモンでは無かった為従業員は何も言わなかった。
 その一行は部屋を三室借りた。
 そして、その内の一室では重苦しい雰囲気が漂っていた。
 一人の長髪の少年と五体のポケモン。
 サーナイト、キルリア、ミミロップ、クチート、ルカリオがソファーに座りながら少年に視線を向け押し黙っていた。
 少年は窓の外を見ていたが、やがてそのまま口を開いた。
「話してくれるか、皆。」
 少年の名はバイツ。伝説のポケモン、グラードンの力を右腕に宿した人間だった。
 バイツの言葉に対し真っ先に口を開いたのはサーナイトだった。
「少し・・・長くなります。」
「構わないよ、最初から順に話してくれ。」
 意外と柔らかい口調のバイツにサーナイトはぽつりぽつりと話し始めた。
 メガバングルとの出会い、トレーナー抜きのメガシンカ、戦ってきた敵ダークナー。
 時々サーナイトの話にキルリア、ミミロップ、クチート、ルカリオが細部を付け足す形で話が進んでいった。
 到底信じられる話ではなかったがバイツは現にメガシンカ状態のサーナイト達を見てしまった。
「大変だったな。」
 サーナイト達が話を終えた時のバイツの第一声がそれであった。
「信じて・・・下さるのですか?」
 バイツはそこでようやっとサーナイト達の方を向いた。
「パートナーの話を信頼しない奴が何処にいる?少なくとも俺は信じる。」
 サーナイト達の表情が徐々に明るくなっていく。
「だがな、信じるからこそ・・・皆を戦わせたくはない。」
 苦々しい表情を浮かべてバイツはそう言った。
「実は俺も黙っていた事がある。そのダークナーと呼ばれる生物を生み出している奴等と戦った事がある。皆を助ける前の話だが二度程な。」
「え!マスターも戦っちゃってたの!?」
「そうなんだミミロップ。だから連中が皆だけの敵とは限らないんだ。」
「何か話していましたか?」
 サーナイトの言葉にバイツは少し考え込んだ。
「闇のオーラがどうのこうのと言っていたが細かい事は忘れた。」
「どうして?」
 クチートが訊く。
「連中は話したい事を話した途端勝負を挑んできたからな。細かい事を聞こうにもそうはいかなかった。」
「マスターにしては珍しいな。」
 ルカリオがそう言うとバイツは苦笑いを浮かべた。

608名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:01:44 ID:/qBnNDz6
「珍しいか?まあ、何も聞こうとしなかった俺も俺だけどな。」
「それでバイツお兄ちゃん、僕達はこれからどうすればいいの?」
 キルリアが少し困った様に言った。
 バイツは真面目な表情を作った。
「旅はこれからも続ける・・・だがさっきも言った通り皆を戦わせるわけにはいかない。」
「しかし、それでは私達の存在意義が・・・」
「サーナイト、戦うだけが皆の存在意義じゃないだろう?」
「ですが、私達は護りたいのです。マスターを・・・マスターの住むこの世界を。」
「気持ちは嬉しい。でも皆が傷ついていくのは見たくない。」
 バイツのその言葉に誰も何も言い返さなかった。
「正直なところ俺もどうすればいいのか分からないんだけどな。」
 バイツは部屋のドアへと向かった。
「あの、どちらへ?」
「ライキとヒートの部屋さ、イルとシコウも一緒に何かを話し合っているみたいなんだ。心配するな、すぐに戻ってくるよ。」
 そう言い残しバイツは自分の部屋を後にした。



 バイツがライキとヒートの部屋を訪れると重苦しい雰囲気が漂っていた。
 ライキ、ヒート、イルがソファーに座りながらシコウに視線を向け押し黙っていた。
 シコウは窓の外を見ていたが、やがてそのまま口を開いた。
「何があったのか話せ。」
「どこかで見たぞ、この光景。」
 バイツの言葉は無視され、ライキが口を開いた。
「少し・・・長くなるよ。」
「手短に話せ。」
 バイツとは違いシコウは手厳しく返した。
 ライキはぽつりぽつりと話し始めた。
 ボンゴフレンディ、センチュリー、事務所での事。
「おーい、話の内容が違うがどこかで見たぞこの光景。」
 再度バイツの言葉は無視され、ヒートとイルが細部を付け足す形で話が進んでいった。
 到底信じられる話ではなかったがバイツとシコウは現にセンチュリーに追突するボンゴフレンディを見てしまった。
「この馬鹿共が。」
 ライキ達が話を終えた時のシコウの第一声がそれであった。
「信じて・・・くれる?」
 シコウはそこでようやっとライキ達の方を向いた。
「信じるも何も拙者とバイツはお主達がセンチュリーに衝突する所を見たからな。そうだろう?バイツ。」
「俺の存在に気付いていたのなら俺の発言も聞こえていた筈だ。何故無視していた?」
「何処かでこの光景を見たとかなんとか言っておったな。」
「ああそうだ、まるっきりパクって何を話してたんだ。」
「拙者等があの妙に硬い男と戦っていた時、こやつ等が何をしていたのか聞いていた所だ。」
「つまらない話だな、こっちと違って。」
「ほう、ではお主等は何を話していたのだ?」
 バイツは溜め息を吐くとサーナイト達から聞いた事をそのまま話した。
「ふむ、あの男はダークナーという存在なのか。そしてそのダークナーとやらは世界を闇に包もうとしているとな?」

609名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:02:26 ID:/qBnNDz6
「物分りがいいじゃないかシコウ、ついでに俺の考えている事を当てればリコリス飴を買ってやるよ。」
「サーナイト達が戦う事についてだな?」
「大当たりだ。」
 それだけ言ってバイツは溜め息を吐き、少し俯いた。
「何戸惑ってるんだよ。」
 ヒートに今の気持ちを見抜かれてバイツは何故かホッとしていた。
「サーナイト達と今まで通りにいくかと思ってな。」
「今まで通りも何も普通に接すればいいだけじゃん。」
 ライキがそうは言ったもののバイツは何処か納得していなかった。
「サーナイト達は・・・人類の希望だ。皆それを納得して戦ってはいたみたいなんだが・・・俺がどうも納得できない。」
 煮え切らない態度のバイツにライキ、ヒート、シコウはそれぞれ溜め息を吐くだけであった。
「おい、イルは何処に行った?」
 バイツはそう言って部屋の中を見渡したがイルは部屋に居なかった。
 四人は再度溜め息を吐くとイルを探す為に部屋を後にした。
 放っておくと何をしでかすか分からない少年、それがイルである。最もそれはライキとヒートにも言える事であったが。



 イルは何処に行ったかというとホテルの外に出ていた。
「つまらない話は大っ嫌いだよー、何か食べに行こうっと。」
 そう言いながら店舗を片っ端から観て歩いていった。
 あれでもないこれでもないと選り好みの激しいイルの求める店は無く、気がつけばホテルからかなり離れていた。
「んー・・・戻ろうかな。」
 その時イルの背後から声が聞こえた。
「そこの君、ちょっと待って!」
 イルはゆっくりと振り返った。そこには栗色の髪をした女性が立っていた。傍らにはバシャーモ。
「私はこういう者なんだけれど。」
 そう言って女性が出したのは警察手帳。
 イルはつまらなそうにそれを流し見ると女性に視線を戻した。
「それで?何の用なの?」
「うーんとね、実は人を捜しているの。」
 女性は黒色のベストのポケットから小さな円形の機械を出してそこから画像を一つ宙に展開してみせた。
 それはバイツの画像だった。
 イルは表情を変える事無く口を開く。
「おねーさん、バイツに何か用?」
 これはイルなりの遊びだった。相手の欲しがる情報の断片だけを見せ相手の反応を見て面白がる。
「この子の事知っているのね?もしかして仲間なの?」
「首を縦に振ったらどうする気なのかなー?」
「あなたを捕まえます。そうする様に上から指示を受けているので。」
 イルは声を上げて笑い始めた。
「ミコ、こいつは危ない奴なんじゃ・・・」
 女性の傍らにいたバシャーモがそう言った。
 ミコはその笑い声に狂気を感じた。
 無意識に一歩引く。
「捕えるって?いいよ、やってごらん。手は出さないから。」

610名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:03:09 ID:/qBnNDz6
「分かった。バシャーモ、援護は要らないから。」
 ミコのハイキックがイルを襲う。
 イルは軽々とその蹴りを右腕で防いだ。
「なかなか速いね。」
 余裕を見せつけるイル。
 ミコは蹴りの連撃を繰り出すも右腕に防がれ、時にはかわされとイルにダメージを与えられずにいた。
 しかし、ミコの狙いは蹴撃によるダメージではなかった。
 ローキックを繰り出し、イルがそれを避けようと片脚を上げた瞬間ミコは脚を戻しイルに急接近し瞬時に組み伏せた。
「あら・・・?」
 特に抵抗もしなかったイルに手錠が掛けられる。
「ふふっ、お姉さんの方が一枚上手だったでしょ。」
 ミコが微笑みを浮かべてそう言った時、背後から声が聞こえた。
「オイオイ、とっ捕まってんじゃねえよイル。」
 そこに居たのはライキとヒートだった。
「君達もこの子の仲間?」
 ミコも立ち上がって二人を見る。
「まあ、そうだけど?どうするつもり?」
「捕まえます。そう言われているので。」
 ヒートが後頭部を掻きながら前に出る。
「あんた・・・ポリか何かか?」
「まあそんな所ね・・・さあどうするの?二人で来るの?」
 ヒートは溜め息を吐いた。
「ライキ、手ェ出すなよ。俺が出る。」
「はいはい、ご自由に。」
 ヒートが構える。少し遅れてミコも構えた。
 先に動いたのはミコだった。蹴撃がヒートを襲う。
 ヒートはそれを難無く防いだが、受けた部分に妙な違和感を覚えた。
 それを考える間も無く次々とヒートに襲い掛かる蹴撃。だが、ヒートも近接戦闘のプロである。イルよりも巧みに攻撃をかわし、防ぐ。
 ミコが踵落としをしようと片足を上げた瞬間。ヒートの動きが一瞬止まった。
 そして足を振り下ろし踵落としが綺麗に決まる。
「し・・・白・・・」
 そう言って鼻血を出しながらヒートは倒れた。
 ミコは顔を紅くする。
「み・・・見たのね・・・」
「ミコ・・・もう一人の方なんだけれど・・・」
 バシャーモの言葉にハッとするミコ、慌ててライキに向き直る。
 ライキはその場にしゃがんでいた。鼻血を出しながら。
「サイハイソックスとパンツの色の組み合わせ・・・いい・・・」
 ライキはミコに向けて親指を立ててみせる。
 ミコは更に顔を真っ赤にし、ライキに蹴撃を食らわせる。
「凄いじゃないかミコ、三人も捕まえた。」
 称賛するバシャーモ。ミコは一度真っ赤な顔でバシャーモの方を向き、それからライキとヒートにも手錠を掛ける。
「全く何なのだ?お主等は。」
 ヒートに手錠を掛ける為に屈んでいたミコの目の前に気配も無くシコウが現われた。

611名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:03:49 ID:/qBnNDz6
「あ、シコウだ。」
 イルが反応する。
「お主も何者かは知らぬがこやつ等を放した方がいい、後々面倒事になるぞ。」
「あなたもこの子達の仲間?」
「まあ、そうであるが・・・」
「よーし!四人目を捕まえるぞー!」
 ミコは意気込んで立ち上がる。
 その瞬間、ミコとバシャーモの視界からシコウの姿が消えた。
「拙者を捕らえるつもりならば・・・」
 背後から聞こえた声。ミコとバシャーモの背中を冷たいものが走る。
 二人は振り返った。だが声のした方向にシコウの姿は無かった。
「この程度の動きが見えなければな。」
 再度背後から聞こえる声。
 ミコは振り向きざまに回転蹴りを放つ。
 行動は正しかったがシコウは人差し指と中指の二本でその一撃を止めた。
「やるじゃない・・・」
「お主・・・」
 シコウが何かを言う前にミコが蹴撃を繰り出す。
 シコウはミコの蹴りに蹴りで対処する。
「私の蹴りについて来るなんて大したものじゃない!」
「生憎拙者も蹴りが主体でな。」
 蹴りの乱撃がミコから放たれるもシコウはそれを正確にかつ迅速に蹴りで防ぐ。
「コラ!そこの君達!喧嘩は止めなさい!」
 騒ぎを聞きつけてやって来た数名の警官。
 バシャーモを含めシコウとミコの三人を取り囲むが、ミコが警察手帳を取り出して警官達に見せると警官達はシコウだけを取り囲む。
「ふっふっふー・・・形勢逆転!」
「この様な人数が戦力になるとでも?まあ良・・・い・・・」
 そう言いかけてシコウはミコのいる方向とは全然違う方向を向く。
「この気配・・・前にも感じたな。」
 その隙にバシャーモがミコの耳元で囁く。
「ミコ、悪い知らせだよ・・・ダークナーが現われた。」
 ミコはその言葉に頷いた。
「申し訳ありませんがこの子達の事をお願いします!重要参考人なので署の特殊犯罪課の方まで連行を!」
 そう言うや否やミコとバシャーモはシコウの向いている方向にすっ飛んで走って行ってしまった。
「ふむ・・・これは・・・?」
 シコウを取り囲む数人の警官。シコウにとってはこの程度さほどの障害ではなかった。



 街の中心部へと繋がる大通りは混乱を極めていた。
 いきなり現れた巨大な黒い怪物が建物を壊し、人々やポケモン達を追い立てていたのだった。
 一般的な二階建ての建物程の大きさがある化物の形は、上半身は人の形、下半身は獣の様な四つ足。右手には大剣を持っていた。
 勿論ポケモンで立ち向かう者もいたが、攻撃が全く効いていなかった。

612名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:04:28 ID:/qBnNDz6
「ヒャーッハッハッハァ!いいねぇー絶望を聞くってのは。」
 その怪物の肩にはドルヴが乗っていた。
「さあ・・・もっと悲鳴を上げろ!惨めに逃げてみせろ!」
 その時、ドルヴの視界に入ってきたのは人の流れに逆らい立ち向かおうとする一組の人間とポケモンの姿。
 それはミコとバシャーモだった。
「あん?何だ手前等・・・」
 ドルヴの視線がバシャーモの左腕のメガバングルに移る。
「ハッ!成程な・・・ダークナー!あの虫共を叩き潰せ!」
「ダークナー!」
 大きな咆哮と共にミコとバシャーモに向かって歩き始めたダークナー。
「ミコ、行くよ。」
「うん、頑張ってバシャーモ。」
 バシャーモが左腕のメガバングルを高く掲げた。
 光がバシャーモを包み込む。そして光が弾け飛び、現れたのはメガシンカしたバシャーモ。
「行くよ!」
 バシャーモはダークナーに急接近し、跳び上がる。
 そして鋭い跳び蹴りを繰り出す。
 ダークナーは大剣でバシャーモの攻撃を防ぐが少しよろける。
「よし!このまま押し切って!バシャーモ!」
 ミコがそう言った途端、両脚から異音が聞こえた。
「へ?」
 そして、金属が折れる音と共にミコが倒れた。
 倒れたミコの両脚からはサイハイソックスを突き破って機械の部品が顔を覗かせていた。
「マジかよ、あの人間、両脚が義足だったのか?」
 ドルヴの言った通りミコの両脚は機械式の義足だった。
 ミコは何とか立とうとするが義足は両脚とも真っ二つに折れていて使い物にならなかった。
「まさか・・・さっきの蹴り合いで・・・?」
 バシャーモもミコの異変を察知し、一旦ミコの近くに行く。
「ミコ!安全な場所に退くよ!」
 両脚を失ったミコを担ぎ上げたバシャーモはダークナーから離れる様に跳んだ。
「逃がすんじゃねえぞ!」
 二人を追う様にダークナーは突進する。
 意外と足が速いダークナー。ミコとバシャーモにすぐに追いつく。
「ダークナー!」
 大剣を振りかぶるダークナー。
「マズい!」
 そして振り下ろされる大剣。
 ミコとバシャーモは目を強く閉じた。
 次の瞬間、大剣による一撃が弾き返された。
 恐る恐る目を開けるミコとバシャーモ。
 目の前に立っていたのはメガシンカした一体のサーナイト。左腕にはメガバングルを填めていた。
「大丈夫ですか!?」
 サーナイトは二人に向かって振り向く。
「う・・・うん、大丈夫・・・」
 その光景を見てドルヴは不機嫌な表情を浮かべた。

613名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:05:12 ID:/qBnNDz6
「また増えやがった・・・何匹居やがるんだ?イラつくぜ・・・おい!何匹現われようが関係ねえ!潰しちまえ!」
 ドルヴはそう言って更に不機嫌な顔を歪ませた。
 サーナイトの近くにはミミロップ、クチート、ルカリオ、エルレイドがそれぞれメガシンカした姿で立っていたのだった。
「んのゴミ共が・・・!群れれば勝てると思ってんじゃねーぞ!」
「ダークナー!」
 ダークナーは咆哮と共にサーナイト達に向かって突っ込んで来る。
「「サイコキネシス」!」
 強力な念波がダークナーを捉える。完全に動きを止めた訳ではなかったが動きを鈍らせる事には成功した。
 ミミロップ、クチート、ルカリオ、エルレイドが鈍くなったダークナーに急接近し跳び上がる。
 蹴撃、大顎、拳、肘刀。
 胸に向かって同時に放たれたそれぞれの一撃はダークナーを大きくよろめかせた。
 しかし、勝負が決まる程のダメージではなかった。
「デカいからタフって訳?上等じゃん。」
 ミミロップがそう軽口を叩く。
 サーナイトによる「サイコキネシス」の拘束が解かれたダークナーは大剣を振り回し始めた。
 接近攻撃を試みた四人は咄嗟に距離を取った為攻撃は当たらなかったものの周りの建物が壊れていく。
「バシャーモ!私はいいからあなたもダークナーを倒すのを手伝ってあげて!」
 ミコが叫ぶ。
 バシャーモは心配そうな視線でミコを見たが、ミコと目が合うと何かを決心した様にダークナーに向き直った。そしてサーナイトの近くに寄る。
「今度はあたいも攻撃に加わるよ。いいかい?」
「お願いします。」
 そしてバシャーモは構えた。
「どうしようサナお姉ちゃん、攻撃を受けても平気みたい。」
 クチートが大剣を振り回しているダークナーから視線を逸らさずに言った。
「誰か、いい作戦はあるか?」
 ルカリオの言葉に反応したのはエルレイドだった。
「もう一度姉さんの「サイコキネシス」で動きを鈍くさせてから攻撃しよう。それしか手は無いよ。それに―――」
 エルレイドの視線がバシャーモに向く。
「―――心強い仲間が増えたから大丈夫。」
 バシャーモはその言葉にフッと笑ってみせた。
「あたいは全力で行かせてもらうよ。もう一度だ。」
 サーナイト達はダークナーに向かって構える。
「もう一回いきます。皆様、準備を。」
 サーナイトが「サイコキネシス」を放つ。
 再度強力な念波に拘束されるダークナー。
「同じ手が二度通用するかよ!ダークナー!」
「ダークッ・・・ナー!」
 「サイコキネシス」の拘束を無理矢理解いたダークナー。
 サーナイト達の頭上をその巨体からは想像できない跳躍力で跳び越える。
 そして身動きが取れないミコの近くに降り立つ。
「先に人間の方から潰してやるよ・・・!」
 ダークナーが大剣を振りかぶる。
「ミコ!」
 バシャーモの叫びと共に大剣が振り下ろされた。

614名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:06:00 ID:/qBnNDz6
 しかし、その刃はミコに届く前に止まった。
 ミコとダークナーの間に一人の少年が立っていた。その少年は包帯が巻かれた右手で大剣を止めていた。
「マスター!」
 サーナイトが嬉しさのあまり叫んだ。
 大剣による一撃を止めたその少年はバイツだった。
 バイツの視線はドルヴに向けられていた。
 ドルヴもまたバイツを見ていた。
「あー何?もしかしてトーヴちゃん達が言ってたのってテメェの事?まーこりゃスゲエわ。」
 口端を歪めて笑みを浮かべるドルヴ。
「ちょいとこの場で死んでくれねー?俺等の仲間になるってなら話は別だけどよ。」
「悪いが仲間は間に合っている。それにお前達はサーナイト達の敵だ。」
 バイツが乱暴に大剣を放す。
 ダークナーは大きくバランスを崩す。
「サーナイト達の敵は―――」
 バイツが跳ぶ。
「―――俺の敵だ!」
 ダークナーの胸に右腕による一撃を叩き込むバイツ。
 ダークナーは大通りを十数メートル程吹っ飛び、肩に乗っていたドルヴは振り落とされた。
「んの野郎・・・調子に乗りやがって。」
 ドルヴは上手く地面に降り立つ。
「マジで潰すぞ!このクソガキが!」
「ほう?やってみるといい。」
 ドルヴの背後から声が聞こえた。
 そこにはシコウが立っていた。
 更に一歩引いた感じでライキ、ヒート、イルも立っていた。彼等の手首には手錠が掛けられていなかった。
「オイオイ・・・大層なお仲間持ってんじゃねえか・・・」
「どうする?ここの全員とやり合って死ぬか・・・大人しく死ぬか選べ。」
 実質一択しかない選択肢をバイツが挙げる。
「まだ死ぬわけにはいかねーのよ、俺。」
 そう言って即座に「門」を開けるドルヴ。
「精々雑魚狩りでもしてな。」
 中指を立てながら「門」の中に消えていったドルヴ。
 それから一瞬間を置いてバイツの右腕による一撃が宙を切っていた。
 溜め息を吐くバイツ。それからサーナイト達に近付いた。
「さっき聞いた皆の話によるとあのデカいの浄化しなくちゃいけないんだろ?」
 バイツが気絶しているダークナーに視線を向ける。
「そうです。私達の力でなければいけないのです。」
 バイツとサーナイトがダークナーに近付き、サーナイトが「サイコキネシス」を放つ。ダークナーの黒い巨体は光の粒になって消えていき、残ったのは気を失った数人の人間だった。
 そしてメガシンカ状態が解けるサーナイト達。
「さて・・・と。」
 バイツ達の視線はミコに向けられていた。
 バイツがミコに近付く。
「おっと、手出しはさせないよ。どうしてもっていうならあたいが相手になる。」
 バシャーモが割って入る。

615名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:06:41 ID:/qBnNDz6
「落ち着け。乱暴はしない。」
 バイツの言葉を信じたのか素直に道を開けるバシャーモ。
 ミコと話をする為に屈むバイツ。
「義足の先は?」
「え?」
「その壊れた義足の先だよ。どこに落とした?」
「あの・・・あっち。」
 ミコは先程バシャーモと共にダークナーに立ち向かった地点を指した。
 バイツは言わずにミコを背中に背負った。
「ちょ・・・ちょっと・・・!」
「しっかり掴まっててくれ。」
「う・・・うん・・・」
 少し顔を紅くするミコ。ここは素直にバイツの厚意に甘える事にし、バイツの首元に回している両腕に少し力を入れた。
「マスターに背負ってもらえて・・・羨ましいです・・・」
 サーナイトがそう呟く。
 そして、バイツ達は歩き始めた。



 それから三日後の朝。
 バイツ達は未だ街を出発する事無くホテルに泊まっていた。
 一階のティーラウンジでバイツ達はお茶を楽しんでいた。
「ミコさんからこの街に留まっている様に言われて三日か・・・」
「おいバイツ、デカのいう事なんて聞いてんじゃねえよ。さっさと出発しようぜ?」
「ミコさんが刑事だなんて知らなかった。それに今ここで姿をくらませてみろ、警察にも追われる破目になる。」
「あ!いたいた!」
 元気な声が聞こえた。
 バイツ達が声のする方を向くとそこには小走りに駆け寄ってくるミコとバシャーモの姿があった。
「脚はすっかり調子がいいようで。」
 バイツの視線がミコの両脚に移る。
「うん、大丈夫だよ。この前はありがとう。それでね・・・私、皆の旅に同行したいなーって思ったの。」
 バイツ達は一瞬自分の耳を疑った。
「勝手なのは分かってるけどダークナーを何とかしなきゃいけない。それにこの前聞いた話だとあなた達の行き先にダークナーが現われるみたいだし。だから一緒に行きたい。」
「でも、刑事としての職務は?」
「大丈夫、許可は取ってあるから。こういう課なの。」
「ならいいよ、一緒に行こう。」
「待ってよバイツ!僕達は―――」
「黙れライキ。別にやましい事なんてないだろう?」
 何かを口に出そうとしたが刑事の手前何も言えなかった。
「ヒート、イル、シコウはどうだ?」
 三人とも唸るだけで何も言わなかった。
「決まりだな。」
「じゃあ、これからよろしくね。」
 ミコとバシャーモを加える事になったバイツ一行。とても賑やかな旅になりそうであった。

616名無しのトレーナー:2016/08/20(土) 02:07:16 ID:/qBnNDz6
サーナイトの出番が少なかったかな?
誰か何か喋らなきゃ撃つぞゴルァ!(豹変)

617名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:00:06 ID:/qBnNDz6
誰も居ないのか・・・(困惑)
一応小説が出来ました。
スカイリムSEが忙しくてサン・ムーンをやっていません。
小説の方にも支障が出ています。
それでも止められないです。
まだMODを入れてすらいないのでこの状況がしばらく続くかと。
あと、デッドライジング4が待機しているので・・・投稿ペースはどうなるんでしょうね。

618名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:01:14 ID:/qBnNDz6
「・・・つーワケなんですよ女王様。」
 一寸先も見えない程の暗い部屋でドルヴは暗闇に向かって喋っていた。
「ほう・・・面白い報告だなドルヴ。お前はその者らを屠るどころか拳を交える事すらしなかった訳だな。」
 暗闇から聞こえてくる声。
「勘弁してくださいよー・・・あんな「力」を持った奴が五人も居たんですよ。ポケモンならまだしもあんな奴等が相手じゃ・・・」
「分かった。下がれドルヴ。」
 その命令にドルヴは喜んで従う事にし、胸に片手を添えお辞儀をした。そして、その部屋を後にする。
 溜め息の音が部屋の中に響いた。
「どうやらお困りの様じゃな、女王様。」
 暗闇の中から老人の声が聞こえた。
「盗み聞きかハーヴァルよ。」
「とんでもない。それに女王様。貴女は儂の存在に気付いていた筈。」
「フッ・・・何処までも食えない奴だ。」
「それでじゃが女王様、今度は儂が出ましょうぞ。若輩者共に年季の違いを見せてやりますわい。」
「では任せても良いか。」
「我が力はその御心のままに。」
 ハーヴァルと呼ばれた老人は頭を下げると、声が聞こえた暗闇を背に歩き始めた。



「いやーボコられる寸前で逃げたのは間違いじゃなかったぜ。」
 ドルヴは椅子に足を組んで座りながら、トーヴ、ヴァルド、ヴォルツに向かって自分の失態を話していた。
 本人は恥じる様子も無く面白半分で「敵」と対峙した時の事を話す。
「貴様は拳を交える事も無く堂々と逃げたわけか・・・」
 トーヴが溜め息混じりに言い放つ。
「女王様にも言われたぜ、それ。」
「ですが・・・あなたも歯が立たないとなると次に出るのは・・・」
 ヴァルドがそこまで言った時、ヴォルツが声を上げた。
「俺がもう一度出る。タイマンなら俺の方が上だ。」
「あー・・・ヴォルツちゃんは二人を相手にしたんだっけか。」
 ドルヴが椅子の背もたれに寄り掛かる。
「小僧共。何を話している。」
「ハーヴァルか・・・」
 トーヴが声の主を当てる。
 ハーヴァルは四人に近付く。
「女王様はお前等の失態に心を痛めている。そこで儂の出番という訳じゃ。」
「ハッ!えらく意気込んでるじゃねーか爺さんよ。あいつらは今までの敵とは違うぜ?」
 ドルヴの言葉に耳を貸さずにハーヴァルは四人を眺めた。
「誰か一緒に来ぬか?戦い方というものを伝授してやろうぞ?」
「気が向いたら行きますよ。」
 そうヴァルドが返したので満足そうに四人に背を向けて歩き去るハーヴァル。
「大丈夫なのか爺さん。戦闘能力は俺達の中で一番下なんだが?」
「心配なら貴様も行けばいいだろうヴォルツ。だが、ハーヴァルの造るダークナーは我々のそれをはるかに上回る。もしかしたら・・・」

619名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:02:15 ID:/qBnNDz6
 トーヴはハーヴァルの背中を視線で追いながらそう言った。
「ハッ!心配なぞしていない。俺は獲物を取られるのが嫌なだけだ。」
「そういやダークナーで思い出したんだけれどよ。ヴォルツちゃん、まともなダークナーを造りだせるようになったのかよ?」
「そんなものは要らん、この拳だけで十分だ。」
 ドルヴとヴォルツの会話を聞いていたヴァルドが溜め息を吐いた。
 ふと、ドルヴが何かを思い付いた様に話題を変えた。
「そういやぁよ、何であいつの攻撃がダークナーに効いたんだ?人間達の攻撃は効かねー筈だろ?」
「異常なまでの物理破壊力の所為だろう。それで選ばれしポケモン達ではないあの「化物」の攻撃が効くわけだ。」
 トーヴの答えに納得したドルヴは一つの結論に辿り着いた。
「って事はだ、爺さん結構ヤバくね?ピンチ的な意味で。」



 ある日の事、バイツ達はライキの会社のビルを後にしていた。
 バイツ達と共に行動をする事になった女刑事ミコは軽く地面をつま先でトントンと蹴った。
「んー!この義足軽い!」
 新しい義足に喜ぶミコ。ライキが説明を加える。
「軽さもだけど防水性も抜群だし強度も今までの義足とは桁違いだよ。それに半永久的に動くからバッテリーの交換の必要も無いし。」
「ありがとうライキ君。でもどうして半永久的な稼働が出来るの?」
「それはトップシークレット。」
 ライキはそう返した。
「さあホテルは予約を取ってあるし行こうか。」
 ライキを先頭にして歩き始める一行。
 歩きながらバイツはライキに向かって口を開いた。
「珍しいな、会社に寄ったのに俺を使って製品のテストをしないなんて。」
「うーん・・・何て言えばいいだろう・・・今は開発より生産に重点を置いているからね。」
「そんなものか?顧客はなんて言っている?」
「今の製品で満足みたい。まあ二、三ヶ月位すれば「新製品はまだか」って言って来るかもしれないし。」
「この改造人間を造ったのは誰だあっ!!」
 ヒートが鬼気迫る様子でそう言った。
「海原○三を真似るな。」
 バイツがそう厳しく言い返す。
「伏字を使っている所がバイツらしいね。でさあ、ホテルはまだ?お腹空いた。」
 イルがそう言って腹部を押さえる。
「イル、ホテルに着いたとて夕食の時間まで少し間があるぞ。」
 シコウの言葉にイルはガックリと肩を落とした。
 それを見ていたバイツは少し可哀想に思ったのか次の様な事を口にした。
「ホテルに着いたらティーラウンジに寄ろう。そこでケーキとか頼めばいい。」
「え?奢ってくれるの?バイツ。」
「まあ、そんな所だ。サーナイト達も来るだろ?ミコさんとバシャーモも。」
「はい、お供いたしますマスター」
 と、サーナイト。
「僕も行くよバイツお兄ちゃん。」
 と、キルリア。

620名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:03:09 ID:/qBnNDz6
「もちろんあたしもついてっちゃうよー!」
 と、ミミロップ。
「やったー!あたしマスターと同じの頼みたい!」
 と、クチート。
「そうだな、少しのんびりするか。」
 と、ルカリオ。
 その様子を見たミコは静かに笑った。
「あたい達も御馳走になろうか。ミコ?何を笑ってるんだい?」
 バシャーモがミコの笑みに気付く。
「ん?何ていうか皆仲が良いんだなーって。」
 そう言って少しした後にミコの顔に憂愁の影が差す。
「ほら・・・色んな事件に関わってね、酷い目に遭ったポケモン達を多く見てきたから・・・」
 そこまで口にしてミコが首を横に振る。
「いけないいけない、こんな顔していたら楽しい旅が台無しになっちゃう。」
 ミコは再度笑顔を浮かべたが先程の表情をバイツとサーナイトに見られていた。
「ミコ様、無理をしていませんか?大丈夫ですか?」
「大丈夫よサーナイト。ちょっと昔の事を思い出しただけだから。」
「溜め込むより吐き出した方がいい事もある。ミコさん、何か相談があったら言ってくれ。出来るだけ対処する。」
「ありがとうバイツ君。じゃあ二人っきりになった時にね。」
「二人っきり・・・ね。それは少し難しいな。」
 サーナイト、ミミロップ、クチート、ルカリオのライバルを見る様な視線がミコに突き刺さる。
「成程・・・確かに難しいね。」
 バシャーモはそのやり取りを見て笑った。
「確かに仲がいいね。」



 ホテルに着いたバイツ達は案内された部屋に荷物を置いた。
 珍しくイルが一人でバイツの部屋を訪ねる。
「さーバイツ。一階のティーラウンジに行こうか。」
「そうだな、部屋じゃなくてもティーラウンジでも休める・・・シコウは?」
「シコウはいいってさ、あとライキとヒートも。」
「ふーん。じゃあ後はミコさんとバシャーモを呼んで行こうか。」
 ミコとバシャーモと合流したバイツ達は一階のティーラウンジへと移動した。
 それぞれが席に着いてバイツが全員の分の注文を出す。
 ミコが興味深そうにバイツとイルをそれぞれ見ていた。
「なーにーミコさん。ボクとバイツの顔に何か付いてる?」
「そういう訳じゃ無いんだけど・・・ねえ、君達五人の年齢が百六十八歳って本当?」
「年齢というものが俺達にあったら多分それ位かな。十八歳の頃から老化が止まって・・・」
 バイツはそこまで言って頭を抱えた。
「いや、正直なところ分からない。俺はある時から記憶が無くなっていて気がついたら百五十年経っていた感じかな?多分イルの方が詳しいと思う。」
「何でボクに振るかなーバイツ。」
「博士から話を聞いている筈だ。」

621名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:04:05 ID:/qBnNDz6
「うーん、おじいちゃんから聞いた話だと力を解放した時に半永久的な生命活動・・・えーっと・・・」
 これ以上の言葉がイルには見つからなかった。
「そこは俺も知っている、じゃあ俺を見つけるまでの百五十年間何をしていた?」
「取り敢えず戦ってた。おじいちゃんが亡くなってしばらくしたらシコウの里に襲撃をかけられたんだ。それから里に被害が出ない様に旅を始めたってワケ。」
「ライキとヒートにはいつ出会った?」
「旅に出てからすぐに。」
 イルはそこで話を止めた。何故ならば注文した品がバイツ達のテーブルに届いたからである。
「ま、小難しい話しは置いといてケーキ食べようっと。」
「やれやれ、イルらしいな。」
 そう言いながらバイツも運ばれて来たココアに口をつける。
「マスターは・・・」
 サーナイトはココアの入ったカップをソーサーに置いた。
「マスターは空白の百五十年間を知りたいとは思いませんか?」
「いや、いいよ。多分あったとしても「俺じゃない俺」の記憶だ。そんな事よりも皆に会えた事がいい思い出さ。」
 その言葉をどう受け取ったのか女性陣の顔が紅くなる。
「いっ・・・今の言葉・・・告白と受け取ってもいいのですね!」
 サーナイトは更に顔を紅くしながら言う。
「サナサナ、これはあたしに向けられた言葉に決まってるじゃん?」
 ミミロップはサーナイトにそう言った。
「マスターに・・・告白・・・されちゃった・・・」
 クチートは何処か夢見心地で視線を宙に移す。
「私はポケモンだ・・・マスターは人間・・・いや、そんなのは関係無い・・・」
 ルカリオは赤面した自分が恥ずかしくてバイツから目を逸らし何かを呟き始めた。
「バイツ君、お姉さんをその気にさせるのが上手ね、どう?これから一緒にデートしない?」
 ミコがバイツに上半身を近付ける。
「何やってるんだいミコ・・・抜け駆けは許さないよ。」
 そんなミコをバシャーモが止める。
 まさに一触即発の空気。その中でバイツは小さくなっていた。
「お姉ちゃん達何やってるの?バイツお兄ちゃんは僕達と会えて嬉しいって言っただけだよ。」
 キルリアはストローでジュースを啜った。
 そんな状態のバイツを助けようともせずにイルはケーキを食べていた。



 その頃、ライキとヒートの部屋のドアをシコウがノックしていた。
 ドアを開けたのはヒートだった。
「お主、もう少し警戒してドアを開けたらどうなのだ?」
「何となくお前が来る気がしていたんだよ。」
 ヒートは部屋の中にシコウを入れた。
 ベッドの上でライキはホログラフィックモニターのパソコンを使い何かを検索していた。
「イルは?バイツと一緒?」
 映像から目を逸らさずにライキが口を開く。
「お主等も聞いていただろう。イルは今一階でくつろいでいる。」
「まあ、その方が話しやすいしいいかな。」

622名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:05:00 ID:/qBnNDz6
「話しやすいだと?」
「うん、多分イルは興味を持たないで何処かに行っちゃいそうだからね。」
「話の内容によるがな。」
 ライキはここで初めてシコウに視線を向けた。
「あの黒い大きな化物の事さ。」
「前回の騒ぎを起こしたあの化物か。」
 ライキは再度、映像に視線を向ける。
「今分かっている事は僕達の行く先々に現れる事と僕とヒートの「黒」とはまた違う力。」
「・・・サーナイト達に訊けばある程度の答えは得られよう。何故隠れて調べる必要がある?」
 ライキとヒートが同時に溜め息を吐く。
「それで分かったら多分苦労はしないよ。多分サナちゃん達もこの状況を理解していない。」
「状況?」
「少なからず僕達も巻き込まれ始めているという事。それに僕にも分からない事がある。奴等の目的・・・構成・・・そして親玉。」
「まあ、俺は暴れられるからいいんだけどよ、ここで一つの問題にぶち当たる。」
「奴等に我々の攻撃が効くかどうか・・・か?」
「そうだシコウ。鋭いな。」
 シコウも溜め息を吐いてライキとヒートを見た。
「バイツの攻撃は当たった。そしてあの化物は倒れた。至極簡単な事ではないのか?」
「俺達も同じようにいけるかどうかって話だよ。」
「心配か?ヒート。」
「ああ、ダメージが通らなきゃ暴れる意味が無ェ。」
「お主らしいなヒート。まあバイツの攻撃が効いたのだ。我々の攻撃も効くだろう。」
「それを確かめる方法は一つしかないけどね。」
「現れるのを待つ・・・か・・・」
「行く先々で現れるんだ。気長に待とうや。」
 そう言ってヒートはもう一つのベッドの上に跳び込んだ。



「ぷはー!満足満足!」
 イルが満足そうに腹部をさすりながら椅子の背もたれに倒れ込んだ。
「まあ、十人前食べれば満足だろうな。夕食は入るのか。」
「うん、余裕。」
 それを聞いてバイツは呆れ、サーナイト達は驚きの表情を浮かべた。
「ね、ねえイル君特別なダイエットとかしているの?」
「いーや。全然。」
「いいなー私もそんな体欲しい。」
 ミコが羨ましそうにイルを見ていた。
「マスターも太らないのー?」
 クチートがバイツに訊く。
「そうだなクチート、俺もあんまり太らないんだ・・・まあ、体質的な物もあるかもしれないが・・・」
 そう言って右腕に視線を落とす。
「もしやお前。カロリーを馬鹿みたいに消費して動いている訳じゃないよな。」
 バイツの脳内に声が響く。それはバイツの右腕に宿る意識。グラードンの形を模した意識。

623名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:05:57 ID:/qBnNDz6
『何故バレたし。』
「図星か・・・」
『食わない時は省エネモードにも出来るし!』
「どうかしたのですかマスター。」
 サーナイトが右腕に話しかけているバイツを不思議そうに見ながら口を開く。
「いや、確かめたい事があっただけさ・・・」
 その時イルが何かに気付いた。
「ねえねえバイツ。こっち向いて。」
「ん?何だ、イル。」
「頭にゴーン!」
 氷でできた棍棒がバイツの脳天に振り下ろされた。
 見事命中し、バイツは目を回して気絶してしまった。
「イル様!一体何を・・・!」
『ダークナーの気配です!』
 サーナイト達の左腕のメガバングルが反応する。
「この様な時に・・・まさか、イル様、マスターを戦わせない為に・・・」
「んー・・・そんな所かな。あの変な化物を倒しに行くんでしょ?」
「・・・ありがとうございます。イル様。」
 バイツに危害を加えた相手に礼を言うのは変な感じがしたサーナイト。
 あまり時間を掛けていられないのでサーナイト達は急いでメガバングルの指し示す方へと向かって行った。
 サーナイト達の後ろ姿を見たイルはバイツを担ぎ上げて自分の部屋に戻っていった。



「最悪な試合。俺のミスで負けるし、先輩達には怒られるし、夕べ彼女にはフラれるし・・・ホント最悪。」
 そんな事をぼやきながら鞄を持った一人の学生が駅に向かって歩いていた。
 その駅は日中という事もあり比較的空いていた。
 駅には先客が二人いた。
「今日の試合負けたな。」
 今日の出来事を再確認するかのように片方が口を開いた。
「オカダは頑張ってたけど、あそこでソウタがミスしなきゃ勝ってたんだけど・・・惜しい試合だったな。」
 オカダはそう言っている先輩に合わせる様に頷く。
 その時鞄を持った学生、ソウタが丁度ホームに着く。
「やっべえ、マツザカ先輩じゃん・・・」
 聞こえない様にぼやくソウタ。
「おう、ソウタじゃねえか。こっち来いよ。」
 マツザカがソウタに気付く。
 話したくねえなあ、と今度は心の中でぼやくソウタ。だが、マツザカは話したそうにしていた。
 申し訳なさそうにマツザカの前に立つ。
「今日のアレ何なんだよ。やる気あんのか。オメェタックル甘えんだよ。」
「スイマセン・・・」
 ソウタは消え入りそうな声で謝る。
「あそこでタックル決めときゃ逆転出来たんだよ。何やってんだよ。」
「スマセン・・・」
「やる気あんのか。」

624名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:07:09 ID:/qBnNDz6
 暫く沈黙が続く。
「おうオメェ相手の前に出る度胸が足りねえんだよ相手ぶっ倒す位でIKEA。おいここで度胸試しやろうぜ?お前度胸足りねぇんだから鍛えなおしてやるよ。脱げや。」
 マツザカの口から出た言葉は信じられないものであった。
「ここでですか?」
「おう、ここだよ。」
 冗談だと思ったのかソウタは半分噴き出しながら口を開いた。
「それはきついっスよ。」
 オカダも口を開く。
「流石に・・・やばいんじゃないっすか?」
 だがマツザカは本気だった。
「いいんだよ、こいつの度胸試すだけだから。度胸試しだったら誰でも出来るよ。」
 誰でも度胸試しが出来るという謎の理論を展開するマツザカ。
 そのマツザカを遠くから見ている一人の老人が居た。
「下衆いのうあの男・・・じゃがあれ程の下衆さならば良いダークナーを造りだせる・・・」
 その老人はハーヴァルだった。
 マツザカに向かって掌を向け、何かを放った。
 それはマツザカに当たる。
 マツザカは胸を押さえて苦しみ始める。
 突然の出来事にソウタもオカダも固まっていた。
 そして黒い力がマツザカを包み込む。
「ダークナー!」
 完全に黒い力に飲み込まれたマツザカはダークナーになってしまった。百七十センチ程の身長で均等のとれた体つき。
「どう行動すればいいかな・・・」
「逃走でいいんじゃね?」
 逃げるソウタとオカダ。
 入れ替わる様にサーナイト達が現われダークナーと対峙する。
『遅かったようですね・・・ですが救う手立てはまだあります。』
「私達が浄化します!」
 サーナイト達はメガシンカする。
「皆!頑張って!」
 ミコがサーナイト達に声を掛ける。
「ミコ様は人々を安全な場所へ!」
 ミコはサーナイトの言葉に頷き背を向けて走り出した。
「でも今回はすぐに終わりそうじゃん、あんなに小さいの初めて見ちゃう。」
「油断するなミミ、見た目に反して強力なダークナーかもしれない。」
 ミミロップとルカリオのやり取りを見てバシャーモが飛び出す構えを見せる。
「まあ、さっさと終わる事に越したことはないさ、あたいから行くよ!」
 バシャーモがダークナーに向かって突進し蹴りを繰り出す。
 しかし、その蹴りは指一本で止められてしまう。
「なっ・・・!」
 バシャーモが脚を戻すより先にダークナーがバシャーモの脚を掴む。
 そして、鉄骨の柱に向かって放り投げる。
 歪む柱。それほど投げる力が強かった。
 柱を背にずり落ちるバシャーモ。

625名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:08:12 ID:/qBnNDz6
「バシャちゃん!」
 サーナイトがバシャーモに駆け寄ろうとした瞬間ダークナーの姿が消えた。
「一体何処に・・・?」
 エルレイドが周囲を見渡す。その視界の片隅に映る黒い影。瞬時に距離を詰められていた。
 防御が間に合わずダークナーの攻撃に吹っ飛ばされるサーナイト達。
 ミミロップ、ルカリオ、エルレイドは二転三転した後に何とか起き上がれたが、サーナイトとクチートはそのまま倒れ込んでしまう。
 急いで起き上がろうとする二人。
 瞬時にサーナイトの頭部側に移動するダークナー。右拳を振り上げる。
 サーナイトは咄嗟に目を瞑った。
「させないよ!」
 復帰したバシャーモがダークナーに組み付く。
 サーナイトとクチートはその隙に起き上がり、距離を置いた。
 ダークナーはその場で高速回転を始めた。
 吹っ飛ばされるバシャーモ。丁度飛んでいった行き先はサーナイト達の近く。
 起き上がった時に少しふらつくバシャーモ。
「どうしちゃおう・・・動きが見えない・・・!」
 ミミロップが不安げな表情を浮かべる。
「クッ・・・!どうすればいいんだ・・・」
 ルカリオも動きの見えないダークナーにどう対処すればよいのか分からなかった。
「皆様・・・あの動きはテレポートなどの力の類ではありません。」
 サーナイトは周囲の力の流れからそれを察知した。ダークナーの気配以外何も感じられなかったのである。
「という事はあのダークナー本来の素早さって事だね姉さん。」
 エルレイドは構えた。
「でも・・・素早すぎて見えないよ!」
 クチートも不安げな表情を浮かべる。
「それにあのダークナー・・・スピード特化って訳じゃなさそうだよ。あと、二、三発も貰ったらこっちの身がもたない・・・」
 バシャーモは少し息を荒げながらそう言った。
 ダークナーはそんなサーナイト達を見て、何処か気怠そうに首を回していた。
 ダークナーが手を出さないので膠着状態が暫く続いた。



 サーナイト達とダークナーのその戦いを眺めている三つの影があった。
 その影は駅の近くのビルの屋上に在った。
「うーん・・・サナちゃん達に分が悪いかな?」
 ライキが冷静に判断する。
「見りゃ分かるぜ。シコウ、まだ乱入しちゃダメかよ。」
 ヒートが退屈を持て余して言う。
「まだだ、サーナイト達の限界を見てみたい。いざという時に備えて飛び降りる準備はしておけ。」
 シコウが表情一つ動かさずに言う。
 下手をすればバイツに殺されかねない言葉にライキとヒートは互いを見て肩を竦めた。
「今がそのいざって時なんじゃねーの?」
「戦いたいのは分かるがヒート・・・この戦いはサーナイト達にとって―――」
「お待たせー」

626名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:09:05 ID:/qBnNDz6
 イルがシコウの言葉に割り込むような形で現れる。
「バイツはどうしたのだ?」
「来るなって言っても無駄だと思ったから気絶させてきた。」
「ふむ、まあ現状はそれが一番か。」
 イルも三人の様に戦場になっている駅を見下ろす。
「あら?もしかして劣勢?」
「うむ、そんな所だ。」
 その時ダークナーが四方八方に気弾を撃ち始めた。
 気弾の当たった所が粉々になり大穴が開く。
 その気弾は四人が見学を決め込んでいるビルにも当たった。
「凄まじい威力だこと。」
 ライキは吹っ飛んだ屋上の一部分を見て呑気にそう言った。
 地上からは悲鳴が聞こえ、我先にと避難する人々が走り去る様子が確認できた。
「見下ろすのって結構楽しいな。」
 逃げる人々を眺めながらヒートが言う。
「とにかくよ、バイツが来る前にあの化物を―――」
 ヒートが言葉を止めた。
 四人は何かを察知し、逃げる群衆に視線を向けた。
 その民衆の中に一人だけ駅の方へ向かう人物がいた。
 それはバイツだった。
 四人が察知したのはバイツの気配ではなく人間とは思えない程の殺気。
「もう目を覚ましたの?早いなー」
「僕達はどうしようか。」
「手ェ貸さないでただ戦いを見てたって言って殺されるか―――」
「それとも嘘をついて殺されるかの二択であるな。」
 結局四人共殺される以外の選択肢は無いようであった。



 バイツの歩く先は人が避けて逃げていく様であった。
 駅から気配がする。
 バイツはその気配を追って歩いていた。
「あ!バイツ君!」
 警官と共に人々を避難させていたミコがバイツに気付く。
「ミコさん。」
「皆の避難を終わらせたら私達も戦いに行こうかと思って。」
「・・・いや、人々の避難を優先させてくれ。」
「バイツ君?」
 いつもとは違うバイツの雰囲気。
「アレは俺が殺す。サーナイト達に手を出したのならば必ず殺す。」
 凄まじい殺気の圧がミコの動きを止めた。
 そして、駅へと向かうバイツ。
「・・・殺す。」
 そう言ってバイツは誰も居なくなった駅構内に入っていった。
 何処にダークナーがいるのかは分かっていた。ただその気配を追って歩き続ける。

627名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:09:50 ID:/qBnNDz6
 そしてバイツは駅のホームへと辿り着く。
 ダークナーと対峙しているサーナイト達の背中が見えた。
 バイツに気付いたのはサーナイトだった。
「マスター!危険です!下がっていてください!」
 しかし、バイツはサーナイトの言葉を無視しダークナーに近付く。
 ダークナーもバイツに気付く。
 バイツから発される殺気に物怖じせずダークナーはバイツに突進する。
 サーナイト達にはその姿は見えなかった。だがバイツは見切っていた。
 バイツの右手がダークナーの拳を受け止める。
 微かに生じる衝撃波。
「スピードもパワーも申し分ない・・・だがその程度じゃ駄目だ。」
 ダークナーが拳を引く前にバイツはその拳を握った。
 骨の折れる音が響く。
 間髪入れずにバイツはダークナーの手首を捻じり折る。
 ダークナーが声にならない悲鳴を上げる。
 そこでバイツは右手を緩める。ダークナーは折られた手首を押さえながらその場に崩れ落ちた。
「消えろ。」
 バイツのアッパーカットがダークナーの顎に打ち込まれる。
 浮き上がるダークナーに更にバイツは右手を振り下ろす。
 頭から落ちたダークナー。駅の床にヒビが入る。
 これで終わりではなかった。バイツは左手でダークナーの体を無理矢理起こすと右手で殴って吹っ飛ばした。
 受け身を取れる筈も無いダークナーはそのまま倒れ込む。
 バイツは倒れたダークナーに近付き、頭に右手を振り下ろした。
 その一撃が当たるとその衝撃でもう一ヶ所駅の床にヒビが入った。
 ダークナーはピクリとも動かなくなった。
 するとダークナーの体が溶け始めた。
 流れ出す黒い液体。その液体はその場に長く留まる事無く消滅した。
 ダークナーの倒れていた場所には一人の男が横たわっていた。
 バイツが二、三回男の頬を叩く。その男、マツザカはゆっくりと目を覚ます。
「おう、ありがとう・・・」
 そう言ってマツザカはまた気絶した。
 その時、柱の影から手を叩きながら一人の老人が現われた。
 バイツはその老人を睨み付ける。
「おうおう怖いのう。」
「何者だ?前に会った人間とよく似た連中に気配が似ているが・・・」
「ふむ、するとお前さんが話に出ていた人間・・・いや「化物」か。」
「お前に言われたくないな。人間はそんな気配を出さない。トーヴとかいう前に会った奴と同じ気配だ。」
「ほう、お前さんトーヴを知っているのか。ならば儂の名前を覚えてもらおうかの。儂の名はハーヴァルじゃ。」
「墓石に刻む名前はそれでいいんだな。」
 バイツは構える。だがハーヴァルは構えようともしない。
「儂は戦闘が全くできないんじゃ。ここで退散させてもらおうかの。」
 そう言ってハーヴァルは「門」を開けてその中に入っていった。
 ハーヴァルの気配が完全に消えたのでバイツは構えを解いた。
 それと同時にサーナイト達のメガシンカ状態も解ける。
 更にそれから数秒遅れでミコが警官隊を連れて突入してきた。

628名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:10:26 ID:/qBnNDz6
「皆!大丈夫!?」
 ミコがサーナイト達に駆け寄る。
「ご心配をおかけしました・・・大丈夫です。」
 サーナイトが微笑みを浮かべてミコに言葉を返した。
 バイツもサーナイト達に近付く。
「間に合ってよかった。苦戦していたみたいだな。」
 バイツが和らいだ表情をサーナイト達に向ける。
 その顔を見て安心したのかサーナイト達の頬を涙が一粒、二粒と流れ出していた。
 それから数秒も経たない内にとうとう泣き出してしまった。
「どうした?何処か痛むのか?」
「違います・・・もしかしたら・・・この戦いに負けて・・・マスターに・・・二度と会えなくなるのではないかと思って・・・」
 嗚咽混じりにサーナイトが言う。
 バイツは静かにサーナイトを抱きしめた。
「大丈夫、何があっても皆を助けるよ。」
 バイツがそこまで言ったその時サーナイト達のメガバングルが反応した。
『物理的な力だけでダークナーを・・・?そんな事はあり得ません・・・』
 困惑するメガバングル達。その声が聞こえないバイツとミコはサーナイト達と共に警官に連れていかれて駅の外に出ていった。その横を救急隊が走り抜けていった。マツザカを搬送する為に。



「バイツがやって来たのだ、当然と言えば当然の結果か。」
 相変わらずライキ、ヒート、イル、シコウの四人はビルの屋上からその光景を見ていた。
「つまんねー結局バイツが一人で片付けたじゃねーかよ。」
「そう喚くなヒート。」
 そう言ってシコウは溜め息を吐いた。
「どうしたのさシコウ。お腹空いたの?」
「違う、イル。これからはサーナイト達に強くなってもらわなければなるまい。」
「でもサナちゃん達は結構強いと思うよ。今回が稀なケースだったって事もあるし。」
「稀・・・か。」
 そう言ってシコウは踵を返し歩き始めた。
「その「稀」が次もあるかもしれぬのだぞ?」
「そん時はバイツが助ける。俺達は・・・バイツの予備だ。」
 ヒートも踵を返しシコウの後に続く形で歩き始める。
「あ、そう言えばあの化物に僕達の攻撃が効くか試してなかったね。」
 ライキもヒートとシコウの後を追って歩き始めた。
「通用すると思うよ。バイツは力任せに戦ってたみたいだし。」
 イルも三人の後を追う。
「つー事は思いっきり殴れば俺やライキの攻撃も効くって事か?」
 ヒートがビルの階段を下りながらイルに訊いた。
「うん、そうだね。でも二人共ボク達の力よりは弱いから本気でやった方がいいかもね。」
「それでも効く事は効くんだろ?いい事聞いたぜ。」
 ヒートが笑い始めた。
 そして一階に辿り着いた四人は急いでホテルに戻る事にした。戦いをただ手助けせずに見ていただけだとバイツに感付かれる前に。

629名無しのトレーナー:2016/11/25(金) 23:12:09 ID:/qBnNDz6
はい、このお話はここまで。
メリークリスマスとあけましておめでとうございます。
いや、年内の小説はこれで終わりの予定なので一応挨拶をしておこうと思って。

630名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:02:22 ID:/qBnNDz6
やけに目が冴えて眠たくない。
今の内に小説を投下しようかと。

631名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:05:58 ID:/qBnNDz6
またうっかりageてしまった。
罰?えっ乳首を千切られるという意味でしょうか・・・
乳首は勘弁してくださいお願い致します!

 しょうがないから許す
ニア 祈っても神はいねえんだよ(ペンチをガスバーナーで熱する)

632名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:06:48 ID:/qBnNDz6
 ここはホテルの一室。
 昇ってくる日の光の眩しさでバイツは目を覚ました。
 上体を起こして、目頭を押さえ軽く頭を横に振る。
「カーテンを閉め忘れていたか・・・」
 ふと、自分が座っている所に違和感を覚えた。
 明らかにこれはベッドの弾力。
 彼はキングサイズのベッドの上に座っていた。
「俺は・・・確か昨日ソファーで横になって・・・それから・・・」
 それ以降の記憶が無いバイツ。
 何故ソファーで眠ってしまったのにベッドの上に居るのか、それはすぐ右隣を見れば答えが分かった。
 サーナイトが心地よさそうに眠っていた。
「成程、サイコパワーで俺の事を浮かせてベッドに寝かしつけたわけか。」
 サーナイトの隣にはキルリア、クチート、ルカリオ、ミミロップの順番で何処か狭そうに眠っていた。
 そこでバイツは疑問に思った。左隣が妙に空いていると。
 左隣に視線を移す、そこにはミコが眠っていた。黒い下着姿で。
 バイツは驚きのあまり叫ぼうと口を開きかけた。
 しかし、その開きかけた口を深呼吸に使う事で声を上げる事を止める事が出来た。
「危ない危ない・・・全員を起こす所だった・・・」
 その時、サーナイトとミコが同時にバイツに寄って来た。
 更に身動きが取れなくなったバイツ。一体この状況を誰が説明するというのか。
『そこで問題だ!美女二人に挟まれて眠っていた宿主はどう言い逃れをするのか?』
 右腕のグラードンの意識がバイツに語り掛けてくる。
「答えは何択ある?」
 呆れた様にバイツは問い返した。
『三択ひとつだけ選びなさい。答え一、ハンサムな宿主さんは突如この状況を脱するアイデアがひらめく。答え二、仲間が助けに来てくれる。答え三、修羅場確実。現実は非情である。』
「・・・時の流れに干渉してみるか。」
『へ?何を言っているんだ?』
 バイツが精神を集中させる。そして、時空が歪み始める。
 その時空の歪みを感じ取ったサーナイトは一瞬で上体を起こし周囲を見渡す。
 真っ先に目に入ったのはソファーにもたれ掛る様にして眠っているバイツだった。厳密には眠っているフリなのだが。
「今・・・確かに何か・・・」
 そして、サーナイトの視線がミコに移る。
「ミ・・・ミコ様!どうしてここに!?」
 その声に気付いてミコが目を擦りながら起きる。
「んー・・・?どうしたのサーナイト・・・バイツ君おはよー・・・ってあれ?いない。」
「どうしてミコ様が下着姿でここに居るのですか!?そこにはマスターが寝ていた筈ですよ!」
「これただの下着じゃないの、勝負下着。」
 ミコの下着姿と発言に顔を紅くしながらサーナイトが言葉を詰まらせる。
「それにしてもおかしいなー、昨日バイツ君の隣に寝てたはずなんだけど。」
「そもそもどうやってこのお部屋の中に?」
「ん?フロント係の人に警察手帳を見せたら簡単に開けてくれた。」
 寝ているフリをしながらバイツはその会話を聞いていた。
「時空を歪めるって疲れるな・・・」
『二度と・・・干渉に・・・力は・・・貸さない・・・』

633名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:07:34 ID:/qBnNDz6
 グラードンの意識が息も絶え絶えに反応した。
「悪かった。」
 バイツは心の底から謝った。



「あっはっはっは!そいつは傑作だね!」
 朝食の席で先程の件を話すとバシャーモは爆笑した。
「だから起きた時ミコがいなかったんだね。ただあたいも誘って欲しかったよ。」
「笑い事じゃないの!」
 ミミロップが頬を膨らませる。
「あたしもマスターの隣に寝てたのに場所を取られちゃったんだからー」
 どうやらミコの寝ていた場所は元々ミミロップの場所だったらしい。
「ごめんねー、でもバイツ君の隣は凄く居心地が良かったなー」
 ミコにバシャーモを含むサーナイト達の視線が突き刺さる。
 その様子を見ていたライキ、ヒート、イル、シコウの四人。
「なーんで僕達ってモテないんだろ。」
 ライキが悲しそうに呟く。
「知るか、ボケ。」
 ヒートは少し苛ついていた。
「バイツー後でケーキ食べに行こうよケーキ。」
 イルは相変わらずだった。
「・・・」
 シコウは押し黙って周りを見ていた。
 バイツがシコウの様子に気付く。
「いるのか?」
「うむ、従業員に変装しているのが三人。客を装っているのが五人。」
「退屈しなくて済むな。」
「連中の出方を見せてもらおう・・・一人来た。」
 シコウの言う通り従業員がバイツ達の席に近づいて来る。
「お客様・・・」
 従業員が懐に手を入れる。そして拳銃を一番近くにいたヒートに突きつけた。
「騒がないでください。事を大きくするのは嫌でしょう?」
 バイツ、ライキ、ヒート、イル、シコウは従業員の言葉に何の反応も示さなかった。
 サーナイト達とミコは従業員の言う通り大人しくしていた。
「そうです。大人しくしているのが賢明です。」
「なあ・・・」
 バイツが口を開く。
「何ですか?」
 従業員はバイツの言葉に反応する。
「あんたに言った訳じゃない。で、これから何処に向かう?」
「南。」
「南。」
「南。」
「南。」

634名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:08:17 ID:/qBnNDz6
 ライキ、ヒート、イル、シコウの順に口を開いた。
「サーナイト達の希望は?何処に向かいたい?」
「マ・・・マスター・・・それどころでは・・・」
 サーナイト達の視線は拳銃に向けられている。
「ん?ああコレが邪魔なわけか・・・ヒート。」
 ヒートは従業員の方を向かずに瞬時に手だけを動かした。
 従業員が手を押さえ、悲鳴を上げて拳銃をカーペットの上に落とす。
 人差し指が曲がってはいけない方向に曲がっていた。
 落ちた拳銃をヒートがライキの方に蹴る。
「さっきの一瞬で安全装置を掛けたんだね。お見事。」
 ライキが拳銃を拾い安全装置を外すのと同時に残り二人の従業員と客に扮した五人が得物を抜いた。
 その後聞こえたのは七発の銃声。
 ライキの銃の腕は確実だった。見事七人の武器だけを撃ち落とした。
 周囲の誰かが悲鳴を上げた。
「ったく・・・これ位でぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねえっつーの。そう思わないかい?旦那。」
 ヒートが近くで右人差し指を押さえうずくまっている従業員に向かってそう言った。
 周囲の人間とポケモンが悲鳴と共に逃げ始める。それに紛れて七人も逃げてしまった。
「あれ?これって私の出番だった?」
 呆気に取られながらミコは客や従業員が避難したレストラン内を見渡した。



 それから十分もしない内にホテルに警察がやって来た。
 ライキとヒートと従業員に扮した男は警察に連れていかれた。
 ミコも一応警察官なので警察署へ行く事に。
 残されたバイツ達はライキ、ヒート、ミコの三人が戻ってくるまで暇なので街中に出る事にした。
「さぁ、ケーキ食べにいこ。」
 イルが先程からケーキを食べたいと言っていたので、洒落た雰囲気の喫茶店に入る事になった。
 喫茶店の席に着いた所でルカリオが口を開いた。
「随分落ち着いているなマスター」
「ん?何が?」
「目の前に何があったと思う?拳銃だぞ?怖くなかったのか。」
「全然。」
 けろっとバイツが答えたのでルカリオは言葉が出なかった。
「マスター・・・こうなる事知ってたの?」
 クチートがバイツに訊ねる。
「俺の・・・俺達五人の力を狙っている連中はそこら辺にいるんだ。最近大人しかったのが驚く位さ。」
「でもマスターが撃たれたらあたしどうしようかと思った。」
 そうクチートが心配するような目つきをバイツに向けながら言ったのでバイツはサーナイト達を安心させる為に表情を和らげて口を開いた。
「心配ご無用。俺達五人は中々死なないようにできている。」
「人を化物みたいに言わないでよバイツ。まあ化物なんだけど。」
「言い得て妙であるなイル。さて・・・三人が戻って来るまで大人しくしている必要もあるまい?」
「まあな、だが俺達が暴れて事を済ませれば間違いなくヒートが怒る。」
「暴れる機会を失ったと言ってか?」

635名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:09:11 ID:/qBnNDz6
「そうだな。ま、連中の根城の場所位は掴んでおいた方がいいかもしれない。そうしなければ今度はライキに笑われる。」
「ねーねー。二人は何食べるか決めたの?」
 イルがバイツとシコウの会話に割り込んで来る。
「キミ達二人以外メニューは決まったよ。」
「待ってくれ、すぐに決める。」
 バイツとシコウは朝食の後という事もあって紅茶を選んだ。



 何よりも深い闇が覆う空間。
 トーヴは歩いて来るハーヴァルに視線を移し、口を開いた。
「報告は終わりか?その様子だと失敗した様だな。」
「うむ、どの様な人間か見定めようと思ったのじゃが・・・アレを人間と見ていた儂が甘かった。」
「貴様でも手に負えない奴だったか。」
 ハーヴァルの後ろを歩く様にトーヴも歩き始める。
「次はどの手でいこうかの?味方に引き込むという手もあるが・・・」
「俺が試した・・・だが、奴はダークナーになるどころか何の効果も無かった。」
「ふむ・・・すると儂等と同じ・・・いや、近い存在か。」
 今のところ彼等が認識している「敵」はサーナイト達ではなくバイツの様であった。
 二人が話し合って歩いていると、闇の向こうで誰かが待っていた。
「ヴァルドか。」
 二人同時に気付いたのだが名前を言ったのはトーヴだった。
「お話し、聞こえていましたよ。ハーヴァル。あなたもあの化物に負けたようですね、女王様は何と?」
「溜め息だけじゃった。もうこの老骨に用は無いといったところかのう。」
「ですがあなたの事です、何か策があるのでは?」
「いいや、何も思い浮かばん。」
 歩みを止めずにトーヴが口を開く。
「ヴォルツとドルヴにも話を聞こう、何か名案が思い付くかもしれん。」
 ヴァルドも加わり三人で歩き始める。
「ハーヴァル、あなたもドルヴと同じ様に複数の人間を一体のダークナーに取り込んでみては?」
「事がそれ程簡単じゃったら良かったのだが・・・生憎儂の造るダークナーとは勝手が違っての。下手に真似をすればドルヴのダークナーより弱くなってしまう。」
「では複数造るのはどうだ。」
「それも駄目じゃ。ダークナーというのは人の負の心・・・心の闇を具現化させてそれを纏わせる。それは分かるな?トーヴ。」
「ああ。」
「儂の場合心の闇をそのまま使わず集中して増幅させるのじゃ。それには多くの力がいるが個体の力は凄まじいものとなる。要するに性根が腐っている奴ほど簡単に強いのになるんじゃわい。だがそんな人間がそこら辺に落ちている訳がない。仮に一体造ったとしてもう一人を捜している内に儂がやられたらどうする?それこそ本末転倒というものじゃ。」
「そうか、余計な事を言ったな。」
 ハーヴァルは言わなかったが実は適当な事を聞こえの良い様に並べて言っただけであった。
 色々語りながら歩き、三人は一つの部屋に辿り着いた。
 そこではヴォルツとドルヴが小さな円形の机を囲み、酒を飲みながらポーカーをやっていた。
「ベット。知恵熱出てるぜ?ヴォルツちゃん。」
「うるさい・・・!コールだ!」

636名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:10:02 ID:/qBnNDz6
「じゃあ俺はカードをこのままにしておくぜ。」
「何ィ・・・!」
 スキンヘッドの頭から熱を出すほど熱中しているヴォルツ。片やヘラヘラと笑っているドルヴ。
「冷静になりな。少し頭を冷やさないと俺に勝てねーぜ?ずっと負けっぱなしじゃねーか、負け分を取り戻すどころの話じゃなくなるぜ。」
「ぐっ・・・分かった。この場は降りよう。」
 ヴォルツは手札を机の上に放り投げた。
 出来ていた役は8のスリーカード。
 それを見てドルヴは大笑いした。
「ヒャハハハ!そんな良い役が出来ていて降りたのかよ!マジでウケる!」
 ドルヴは手札をヴォルツと同じ様に机の上に放り投げた。
 何の役にもなっていない、ノーペア。所謂「ブタ」と呼ばれている手札。
「貴様・・・騙したな・・・!」
「ポーカーってのは駆け引きも重要なんだぜ?これで俺の勝ちは丁度十万になった訳だ・・・さて・・・」
 ドルヴの視線が三人に移る。
「どうやら失敗したようだな爺さん。」
 口元に笑みを浮かべてドルヴが言った。ハーヴァルの失敗に心を痛めている様子は微塵も見受けられない。
「お前が拳を交えずに連中から逃げた理由が分かったわい。相手が一人でもこの様じゃ。」
「一人?オイオイ爺さん耄碌したのか?ちゃんとしたダークナーを造って戦わせたんだろうな。」
「無論、手抜かりは無かった。」
 それを聞いてドルヴは溜め息を吐きながら座っている椅子の背もたれに身を投げ出した。
「まあ・・・俺達は完全に手詰まりという訳だ。」
 トーヴも溜め息に似た感じで言葉を口にする。
「ここで負け続けてるヴォルツちゃんみたいに?」
「黙れ!もう一度勝負だ!」
 そう言ってヴォルツはコップの中の酒を一気に飲み干した。
「諦めない・・・か。」
 それを見たトーヴは何かを決意したかの様にそう言った。
 そして一瞬の静寂の後トーヴが再度口を開く。
「ハーヴァル、「ナイダス」は動かせる状態か。」
 ヴァルドはポカンと口を開き、ヴォルツは気管に酒が入ってむせ返り、ドルヴはシャッフルしていたカードの束を床に落とし、ハーヴァルは目を見開いてトーヴを見た。
「お前さん・・・あの剣を使うというのか。」
「ああ、あれならば奴を倒せるかもしれない。心配ない、細かい調整はあの忌々しいポケモン達で行う。」
「血を捧げる覚悟もあるという訳じゃな?」
 トーヴは静かに頷いた。
「そこまでするというのならば儂は止めはせぬが・・・」
「トーヴ!?あなた気でも狂ったのですか!?よりにもよってあの様な剣で戦うなんて!」
 ヴァルドは反対の様だった。だがトーヴの意志は揺らがない。
「お前は馬鹿だ。俺以上のな。」
 冷静さを取り戻したのか溜め息を吐いてヴォルツが言った。
「トんでるぜ・・・トーヴちゃん・・・」
 そう言ったドルヴはコップの中の酒を少し飲む。
 トーヴは四人に背を向けて歩き始めた。
 暫く歩き、辿り着いた先は武器庫。

637名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:11:03 ID:/qBnNDz6
 武器庫という名前の割に物はあまり置かれていなかった。
 迷う事無くトーヴは何重にも鎖で封印された一本の両刃の剣の前に立つ。
 そして、右の掌を左手の手刀で斬る。
 剣に血を吸わせるのかの様にトーヴは右掌を剣の上に掲げた。
 血が剣に落ちていく。
 すると、鎖が弾け飛び緑色の刀身が現われる。
 その数秒後、苦痛に満ちた叫びが武器庫に響き渡った。
 武器庫の外にいたヴォルツにもその声は聞こえていた。そして一言漏らした。
「馬鹿が・・・」



 喫茶店での一時を終えてホテルに戻って来たバイツ達。
「うーん・・・」
「どうした?キルリア。」
「ケーキも食べたら何か眠くなってきた・・・僕寝てていい?バイツお兄ちゃん。」
「ゆっくりお休み。」
「ありがとう・・・」
 キルリアはベッドに潜り込んで十秒程で眠ってしまった。
「それで・・・これからどう動くおつもりですか?」
 サーナイトが三人に訊く。
「まず、三人を迎えに警察署に行こう。」
「それからボク達を狙っている連中の居所を突き止めて・・・」
「叩き潰してから知らぬ顔をしてこの街を出る。」
 バイツ、イル、シコウの順番に今後の予定を口にした。
「それで?マスター達は三人を警察署からどう引きずり出すつもりだ?」
 ルカリオが言う。
「その辺は心配ないさ。ミコの名前を出して事が済むまで待たせてもらえばいい。」
 バシャーモの言葉でバイツ達の今後の動きは確定した。
「じゃあ、もう行く?」
 クチートが首を傾げながら口を開く。
「そうか・・・キルリアを一人にしておくわけにはいかないな。」
 バイツはキルリアを背負う。
「よし!これで完璧だね!」
 ミミロップが先導して部屋のドアを開ける。
 そして次々に部屋を出ていく。
 最後に部屋を出たサーナイト。バイツに背負われているキルリアを見て呟いた。
「ミコ様もキルちゃんもマスターの背中に背負われて・・・やはり羨ましいです・・・」
「何か言っちゃった?サナサナ。」
 ミミロップがサーナイトの顔を覗き込む。
「い、いいえ。何も。」
 こうしてバイツ達も一旦警察署に向かう事になった。



 警察署に着いたバイツ達。それと同時にミコが警察署の中から出てくる。

638名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:11:51 ID:/qBnNDz6
「やっほー皆。元気してた?」
 呑気に手を振るミコ。近くにライキとヒートの姿は無かった。
「おや?あの馬鹿二人組は?」
 当然の様にバイツが訊く。
「うーん・・・ちょっと言い辛いんだけど・・・」
 ミコは面目なさそうな表情を浮かべた。
「ライキ君は銃を撃っちゃったしヒート君は相手の指を折ったじゃない?正当防衛って言ったらそうなんだけれども・・・」
「つまりまだ時間が掛かると。」
「そうなの・・・ごめんね。私がもっと上手く取り計らえば・・・」
「銃を撃つのは日常茶飯事。警察が僕を拘束するなんて不可能さ。」
 ミコの背後から声が聞こえた。
 そこにはライキが立っていた。
「口八丁もいい事あるね、ヒートも少しは見習ってほしいんだけど。」
「警察を言いくるめるってお前凄いな。」
 バイツが呆れた様に言った。
「でもヒートは脳筋だからさ、もう少し時間が掛かるみたい。」
 ライキがイルとシコウに向かって歩き始める。
「イル、シコウ。ちょっと時間ある?僕達を襲った組織の事なんだけどさ・・・」
「待てライキ。潰すとは言わぬだろうな。我々が連中を潰したらヒートは拗ねるぞ?」
「いや、下見だけだよ。そこまで僕は馬鹿じゃない。」
「じゃあさ、終わったら何処かで甘いものを食べようよ。」
 イルの甘いもの好きには限度というものが無い。
「じゃあバイツ。僕達三人は行くから皆と仲良くね。」
 それだけ言い残してライキ、イル、シコウの三人はバイツ達から離れていった。
 バイツが呆れた様に溜め息を吐くと、ミコが何処か嬉しそうにバイツに寄って来た。
「ねえねえ、少し時間が出来たから私と一緒に街を散策しない?」
「・・・いや、俺はヒートを待つ。」
 バイツが真面目な顔をして言った。
「えー・・・じゃあ私も―――」
「ミコ様!街中散策私達がお供いたします!」
 サーナイトがミコの言葉を遮る。
「あたし達じゃ不足とか言っちゃわないで!」
 ミミロップも参戦。
「あたしも行きたいー!」
 クチート乱入。
「話したい事も多々あるからな。私も行きたい。」
 ルカリオも参加。
「決まりだね、あたいも当然ついて行くよ。」
 バシャーモも乗り遅れまいとする。
 彼女達はミコの背中を押しながらバイツと離していった。
 その時、サーナイトがバイツに振り向いてウインクをした。
 バイツはそれで感付いた。
 様はミコがあの手この手でバイツとの色々な距離を縮めようとしているので、サーナイト達はバイツの傍に居るよりもミコをバイツから身を挺して遠ざけようとしているのである。

639名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:12:36 ID:/qBnNDz6
「マスター!キルちゃんの事お願いします!」
「ちょ・・・ちょっと、皆!?」
 困惑しながらミコは押されるがままバイツから離れていく。
 サーナイト達が完全に見えなくなるとバイツは警察署の中へ入っていった。



 人やポケモンで賑わっている街中。
 そこまで押されてきたミコは街の中央の広場でサーナイト達を止めた。
「はいはい皆ストーップ!」
 サーナイト達も押すのを止める。
「どうしてこんな事をするのかなー?」
 ミコはにっこりと笑って言ってみせたが内心怒っていた。
「ミコ様、確かに貴女は大切な旅の仲間です・・・ですが、「私の」マスターを独り占めする事は絶対に許されません!」
 サーナイトはミコを真っ直ぐ見つめてそう言った。
「ちょっと待っちゃってサナサナ。「私の」ってどういう意味?「あたしの」マスターでしょ?」
 ミミロップがサーナイトのバイツ独り占め宣言に意見を言う。
「マスターは「あたしの」マスター!いくらお姉ちゃん達でもこれは譲れない!」
 クチートは全員に喧嘩を吹っかける。
「お前達口が過ぎるな「私の」マスターは全員に言い寄られたら困るだろう?」
 ルカリオは静かに殺気を放ち始める。
「おっと皆してバイツさんの取り合いかい?じゃあ、あたいがその隙に言い寄ってみようかね。」
 軽い口調でそう言ったバシャーモ、何処か好戦的な気配を漂わせていたが。
「ふっふっふ、皆私と張り合おうっていうのね。いいわよ、お姉さんの本気見せてあげるから。」
 本気を見せると言ったものの明らかに余裕を見せつけるミコ。
 全員の火花がぶつかり合うまさにその瞬間サーナイト達のメガバングルが反応した。
『ダークナーの気配がしますが・・・今はお忙しかったでしょうか?』
「いいえ、大丈夫です。それよりも気配は今どこに?」
『珍しい事にこちらに真っ直ぐに向かっています・・・ッ!何でしょう・・・この禍々しい気配は・・・』
「大丈夫です。今回も勝たせていただきます・・・では皆様、一旦勝負はお預けですね。」
 サーナイト達はメガバングルが反応した方向を向く。
「え?何?ダークナーが来るの?」
 ミコもサーナイト達の雰囲気を察する。
 何かが高速で跳んできた。そしてサーナイト達の前に降り立つ。
 それはトーヴだった。右手には剣を持っていた。
 ルカリオはその剣が微かに動いている様に感じられた。
「お・・・おおお!」
 トーヴが剣を振り下ろす。サーナイト達には剣の刃自体は届かなかった。だが、地面に剣が当たると同時に百を超える黒い触手が地面から現れた。
 その触手は人々やポケモン達を弾き飛ばしたり、木を折ったり、噴水を壊したりと暴れ回っていた。
 サーナイト達は一旦トーヴから距離を取るような感じで触手をかわした。
 人々やポケモン達が逃げ始めるのを見計らってサーナイト達はメガシンカをした。
 激しい光がサーナイト達を包む。
 そして、光が弾けメガシンカ状態になったサーナイト達。
「今度は私も戦う。」

640名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:13:26 ID:/qBnNDz6
 ミコがサーナイト達の横に並ぶ。
「ミコ様・・・」
「皆が戦っているのに見ているだけなのはもう嫌。皆と同じ苦しみや痛みを分かち合いたい。だって―――」
 ミコが構える。
「―――大切な旅の仲間・・・でしょ?」
 それを聞いたサーナイト達はフッと微笑んだ。そしてトーヴの方を向き構える。
「待って皆、その前に・・・」
 ミコが警察手帳を取り出し、開いてトーヴに見せる。
「警察です!あなたを傷害及び器物損壊の容疑で逮捕します!」
「下らん。権力を誇示して俺を止められるものか。」
 トーヴが一蹴する。
「貴様達でこの剣の調整をしてやろう。まだこの剣・・・「ナイダス」を完全に制御しきれていないからな。」
 瞬時にトーヴがナイダスを地面に「突き立てる」。
 またもや地面から現れた数百本の黒い触手がサーナイト達に向かって来る。
「「サイコキネシス」!」
 広範囲に及ぶ強力な念波で触手の動きを食い止める。
「サナ!押さえていられるか!」
 ルカリオの言葉にサーナイトは頷いた。
「長い時間は無理ですけれども・・・」
「だったら短時間でケリを着けちゃうよー!」
 ミミロップがトーヴに向かって走り出す。
 その後ろにルカリオ、バシャーモ、クチート、ミコが続く。
 先行していたミミロップがトーヴの胴体に蹴撃を叩き込む。
 意外な事にトーヴは防がなかった。勢いよく吹っ飛び二転三転する。
「この程度なら!」
 バシャーモが跳ぶ。
「私達の相手ではない!」
 ルカリオも跳ぶ。
 起き上がったトーヴ。口元の血を拭って、笑った。
「かかったな。」
 空中にいるルカリオとバシャーモを触手が捉えた。
 両手両足に触手が巻きつく。
 身動きが全くできなくなる二人。
「ルカお姉ちゃん!バシャお姉ちゃん!」
 クチートが二人を縛りあげている触手を二つの大顎で噛み千切ろうとした。
「くっ・・・!サナ!援護はどうなって・・・!」
 ルカリオは後ろにいるサーナイトを見た。
 そこにいたのは両手両足を触手によって縛りあげられていたサーナイトの姿だった。
「・・・この触手・・・外れな・・・い・・・!」
 異常なまでの力で両手両足を縛られるサーナイト。
 サーナイトは「サイコキネシス」で触手を止めていた筈だった。だが、何故触手に捉われていたのか。
 それは先程トーヴがナイダスを「振り下ろして」出現させた触手。
 サーナイトの動きを封じた為「サイコキネシス」の力が途切れ、止められていた触手はルカリオとバシャーモを襲ったのだった。
「クチート!あたい達はいい!先にサーナイトの方を助けておくれ!」

641名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:14:06 ID:/qBnNDz6
 バシャーモが叫ぶ。クチートは頷きサーナイトの方へと走り出す。
「遅い。」
 トーヴがそう言うと、クチートに触手が襲い掛かる。一瞬で両手足と二つの大顎を捉えられるクチート。
「皆を放しちゃって!」
「じゃないと痛い目を見る事になるからね!」
 ミミロップとミコが走ってトーヴに近付く。
 そして二人揃っての渾身の蹴撃。
 トーヴはその攻撃をナイダスの腹で受け止めた。
「中々やるな・・・人間とポケモンにしてはだが!」
 ミミロップとミコはトーヴから放たれた衝撃波によって吹っ飛ばされた。
 二人は壁に叩きつけられそのままずり落ちる。
 触手はゆっくりと二人を締め上げる。
 そしてサーナイト達は触手によってトーヴの前に晒される。
「これで・・・終わりだ。」
「まだ・・・まだ終わりじゃない・・・」
 ミコが弱々しく言う。
「減らず口を。」
 トーヴはミコの前に立つと上半身の服に手を掛けて前部を破り捨てた。
「・・・っ!」
 ミコの顔が紅くなる。
 黒い下着に包まれた形のいい胸が露わになる。
「ほう、いい趣味をしている。」
「ミコ様に・・・手を・・・出さないで・・・!」
「貴様等はそれと遊んでいろ。」
 サーナイト達を縛りあげていた触手が動き始めた。
 触手は口、胸、太もも、尻へと焦らす様にゆっくりと動き始めた。
「何だい・・・!何処触ろうとしてんのさ・・・!」
「何かヌメヌメしてきたよぉ・・・」
「放せ!こんな事で私は屈しないぞ!」
「ちょ・・・何これ・・・外れない・・・!」
「皆様・・・!諦めないでください・・・」
 トーヴはサーナイトの言葉を聞いて笑い始めた。
「諦めるな・・・だと?この状況でよくそんな事が言えたものだ。では真っ先に貴様から諦めてもらおうか。」
 サーナイトに更に触手が絡みつく。
 そして太ももの内側を這っていた触手は滑り気を出しながら徐々に上へと進んでいく。
「い・・・嫌っ・・・!」
 到達する場所はサーナイトにも見当がついていた。
「濡れてようが濡れてまいが関係ない、それに俺にはこんな趣味は無いがまあいい・・・イキ狂え。」
 下半身だけではなく胸も口元も徐々に触手が這って行く。
 嫌悪感と共に微かな快楽が押し寄せてくるサーナイト。
 抵抗したいができない。
 その悔しさからか目から涙が一滴零れ落ちる。
 そして、それが地面に落ちると同時にトーヴは何かをナイダスから感じ取った。
「何だこれは・・・!?力が弱まってきている・・・?」
 サーナイトの体から触手が少し解ける。

642名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:14:52 ID:/qBnNDz6
「反応が二ヶ所・・・?馬鹿な、ナイダスの触手と渡り合うだと?」
 その時トーヴの脳裏に浮かんだ「化物」とサーナイトが思い浮かんだ人間。それは同じ存在であった。
「仕方が無い・・・街中に放った触手に更に力を送らねばなるまい・・・」
 トーヴは少しおぼつかない足取りでサーナイト達から少し離れるとまたナイダスを地面に突き立てた。



 僅か数分前の事。警察署内にて。
「ったく、やっと終わったぜ。」
 ヒートがそう言いながら廊下を歩いていた。
 そしてキルリアを背負いながら長椅子に座っているバイツに気付く。
「何だ?子守を押し付けられたのか?」
「まあ、そんな所だ。」
 バイツが立ち上がる。
「他の連中は?」
「サーナイト達は俺からミコさんを遠ざける為にチームプレイ。ライキとイルとシコウは俺達を襲った連中の拠点を下見中。」
 二人は出口に向かって歩き始める。
「そうかよ。あいつ等俺の楽しみを奪っていねえだろうな。」
「一応念を押しておいた。下見だけにしておけってな。」
「そうこなくっちゃあな。で?いつ潰しに行く?」
「待て、この話は警察署を出てからにしよう。」
 その時、バイツに背負われていたキルリアがもぞもぞと動き始めた。
「うーん・・・」
 目を擦って周囲を見渡す。
「起きたかキルリア。」
「おはよ・・・ここ・・・何処?お姉ちゃん達は?」
「皆街中。俺達も合流しよう。」
 バイツの背中からキルリアが降り背伸びをする。
 警察署を出る三人。
 それから街中への道を歩いている時にヒートが口を開いた。
「あーシャバの空気はうめえなあ。これでもう一乱闘あったら最高じゃねえか。」
「何を言っているんだ。最低限の―――」
 バイツは言葉を止めた。あの気配を感じたのだ。それと同時にキルリアのメガバングルが反応する。
『ダークナーがいるよ!あっちだ!』
 ヒートはダークナーの気配に反応する二人を見て笑みを浮かべた。
「何だ?厄介事の気配か?」
「厄介事には違いないが・・・これは・・・」
「お兄ちゃん達は避難してて、ダークナーは僕が倒すから。」
 キルリアが二人から離れて気配のする場所に移動し始めた。
 バイツは何かを察したのかキルリアを抱えて後ろに跳んだ。
 触手が地面を突き破って出てきたのだった。
 一本や二本ではなく十数本の巨大な黒い触手。
「おい、俺は夢を見ているのか。なあバイツほっぺをつねってくれね?」
 バイツが右手を出して目を光らせたのでヒートは後退した。

643名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:15:25 ID:/qBnNDz6
「いや、やっぱいい。」
 そんな事をしていると各所から悲鳴が上がる。
 どうやらあちらこちらで触手が暴れている様であった。
「今なら誰も僕の事気にしていないよね。」
 キルリアはメガバングルを掲げ強制進化を経てメガエルレイドへとメガシンカした。
「よし、じゃあ二人は安全な場所に行ってて。姉さん達もメガシンカしてる。合流してこの触手の元を叩く。」
 二人が何かを言う前にマントを翻し、エルレイドは触手が暴れている方向へと向かって行った。
 肘刀で襲って来る触手を刻みながらエルレイドは混乱の中心に進んでいった。
 絶え間なく四方八方から襲ってくる触手。
 突然前の道が開けた。
 突破しようと思った瞬間道の先には触手が自動車を投げつけようとしていた。
 飛んでくる壊れた自動車。
 エルレイドは間一髪回避したがその先にはエルレイドを貫こうとする触手が待っていた。
「しまっ・・・!」
 触手が猛スピードでエルレイドに伸びてきた。
 しかし、それは届かなかった。
 その触手は引き裂かれていた。
 エルレイドの眼前に現れたのはバイツと「黒」を纏ったヒート。
「やれるか?ヒート。」
「俺は両手の手刀で刻めるからいいんだけどよ。バイツ、お前はどうなんだよ右腕一本だけじゃねえか。」
「引き裂くだけなら問題無い。キル・・・エルレイド、行けるか?」
「はい!」
 三人はまるで水を得た魚の如く突き進んでいった。
 バイツが右腕で引き裂き、ヒートは手刀時々生体爆弾、エルレイドは肘刀。
 百を超える触手が囲んでも十秒後には三人がバラバラにしていた。
 この三人意外といいチームだったりする。



 同じ頃。ライキ、イル、シコウの三人も気配を追って触手を潰しつつ街中を突き進んでいた。
 ライキはヒートと同じく「黒」を纏って右腕を銃に変化させ触手に魔力の弾丸を撃ち込んでいく。
 イルは氷で生成した剣で触手を斬っていった。
 シコウは相変わらず蹴撃主体だったが当てているのは蹴撃そのものではなく脚を振り抜いた際に生じる真空波で触手を斬り裂いていた。
「あー!もう!撃っても撃っても終わらない!」
 ライキが苛々しながら触手に弾丸を当てていく。
「じゃあ一気に終わらせようか?」
 イルが苦も無く触手を斬り裂きながら口を開く。
「出来るの!?じゃあやって!お願い!」
「いいよー。じゃあシコウ、ライキを持ってちょっと飛んでて。」
「承知。」
 シコウがライキを抱え空中に停滞し始める。
 それを見たイルは剣を地面に突き刺した。
 徐々に触手の動きが鈍くなっていく。
 そして地面から凍り始める。

644名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:16:09 ID:/qBnNDz6
 完全に周囲の触手が凍り付いた。
 イルが剣を横に振り抜くと、凍り付いていた触手は氷と共に粉々に砕け散った。
「氷撃剣無刻流奥義・氷縛乱喜(ひょうばくらんき)。」
 イルはそう言った後、空中にいる二人に向かって手を振った。
「ヤバい、バイツもだけどイルも怒らせたくない。」
「拙者、氷ダメージが四倍で御座る。」
「あ、そうだったね。」
 そんな事を話しながら地上に降りた二人。
「さあて・・・気配のする方に行こっか。疲れたから徒歩で。」
 イルが呑気に歩き始める。
 この先何があるか分からないのでイルだけを残して先行する訳にもいかず、ライキとシコウも歩く事にした。



「く・・・っ・・・おのれ・・・!この剣をもってしても止められぬとは・・・!」
 トーヴは苦しそうにナイダスに力を送っていた。
 時間と共にサーナイト達への拘束は緩んできていたがそれでも自力で外すには困難だった。
「力が弱まってきています・・・皆様、拘束が緩み次第―――」
「全員で叩く。だろう?サナ。」
 ルカリオに言葉を取られたものの言いたい事が伝わった様なので頷くサーナイト。
 もう少しで触手が外れそうなので体に力を込めるサーナイト達。その時、爆発音と共に触手の破片が降って来た。
 更に、音が聞こえた方向から煙を纏いながら二つの影が飛び出してきた。
 一つはバイツ、一つはエルレイド。
 トーヴは二人に気付きナイダスを地面から抜き、構える。
 バイツが右腕を振りかぶる。トーヴは攻撃を予測しナイダスで防御しようとした。
 そして聞こえたのは金属が折れる音。
 バイツの一撃がナイダスを叩き折ったのだ。
 吹っ飛ぶトーヴ。それに追い打ちをかけるかの様にエルレイドがトーヴに急接近し胸元を肘刀で十字に斬った。
「ぐあ・・・ぁ・・・」
 受け身を取る事無く地面に叩きつけられるトーヴ。起き上がろうとするが体に力が入らなかった。
 サーナイト達を拘束していた触手はナイダスが折れると同時に溶ける様に消えて無くなっていった。
「マスター!」
「無事か!サーナ・・・イ・・・ト・・・」
 駆け寄って来たサーナイト達を見たバイツ。触手に拘束されて痛々しく紅くなっていた部分が目に入る。ミコに至っては服が破られているという始末。
 バイツは黙って上着を脱ぐと、ミコに着せる。
「ありがとう・・・バイツ君。」
 ミコは少し照れながら礼を言った。
 無言でバイツはトーヴに近付くと思いっきり頭を足で踏みつけた。
「いい踏み心地だな。」
「またしても・・・貴様にしてやられるとは・・・!」
「今度は逃げる前に・・・殺す・・・だが楽には死なせない。」
 何度も何度も頭を踏みつけるバイツ。
 サーナイト達は誰もそれを止めようとはしなかった。いや、止める事が出来なかった。
 バイツから発せられる殺気。それは周囲の空間がまるで別のものになった様な重圧感。

645名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:17:25 ID:/qBnNDz6
 それがサーナイト達から動きや声を奪っていった。
 十分踏み付けた後は左手でトーヴの首を絞め上げながら持ち上げる。
「さて・・・?次は腕か足を潰していこう。安心しろ、失血死しない様に傷口は焼いてやる。まずは・・・剣を持っていたその右腕から潰してやろう。」
 バイツがそう言って右腕を動かす。
「オイ、待て。」
 バイツは声の聞こえた方を振り向いた。
 そこに居たのはヴォルツだった。
「そいつには借りがある。今ここで返すべきだと思ってな。」
「ヴォルツ・・・止・・・せ・・・こいつは・・・」
「トーヴ。俺を誰だと思っている?前は二人にやられたんだ。今回は一人。タイマンなら負けはせん。」
 バイツはここでサーナイト達の視線に気付いた。今のバイツに怯えている。
 何も言わずにトーヴをヴォルツの方に投げ捨てた。
「・・・何だ?」
「場が白けた・・・それにあんたと楽しむのは俺じゃない。」
 バイツが後ろを向くと何者かの跳び蹴りがヴォルツを襲った。
 ヴォルツは腕を十字に構えその一撃を受け切った。
「っと、奇襲が通用する奴じゃねえか。楽しめそうだぜ。」
 跳び蹴りを繰り出した主、ヒートはバックステップで距離を置いて楽しそうにそう言った。
「手ェ出すなよ。こいつは俺が狩る。」
「狩るだと?面白い事を言う。ならばまずお前から狩ってやろう。」
 ヴォルツが巨体とは思えない速さでヒートに近付く。
 射程内に入ると両腕をハンマーの様に振り回す。
「速ェな。だが、至極単純な攻撃だ。」
 ヒートは一瞬でヴォルツの懐に入ると鳩尾に掌打を叩き込んだ。
 吹っ飛びはしなかったもののその一撃でヴォルツは大きな隙を作ってしまう。
 そこからはヒートのやりたい放題だった。
 二連の蹴り上げ、体を横に回転させての肘打ち、後ろ回し蹴り、アッパーカット。
 ヴォルツは吹っ飛び地面に倒れる。
「立てよ。テメェこんなもんじゃねえだろ。」
 ヒートがそう言うとヴォルツは口元に笑みを浮かべて起き上がった。
「中々やるな。だがお前・・・手加減をしていたな?」
「何だ・・・読まれてたか。早く終わっちゃつまんねーからよ。」
 ヒートは構えを解いていなかった。
 起き上がるのを分かっていてわざと手加減していた。と、バイツは考えていた。
「面白い奴がもう一人増えたな。だが予定変更だ、こいつは連れ帰らせてもらう。」
 ヴォルツがトーヴを担ぎ上げる。
 門を開くとその中に消えていった。
 ヒートが黒を解く。
「ほう、珍しい事もあるものだ。まさかお主等が獲物を逃がすなど。」
 先程この場に辿り着いていたシコウ。ライキとイルもシコウの後ろから現れる。
「理由はヒートに訊いてくれ。」
「俺!?何で!?」
「お前は手加減をしていたし、奴等が消える時も追わなかった。」
「あの連中とはまた会える気がしてよ。それに俺は楽しみを後にとっておくタイプだぜ。」

646名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:18:23 ID:/qBnNDz6
 バイツとシコウは溜め息を吐いた。
 サーナイト達もメガシンカを解く。
 そしてサーナイトはバイツに近付く。
「あの・・・マスター・・・」
「しーっ、何があったかは後で聞く。今はホテルに戻ってゆっくり休んでくれ。俺達はヤボ用がある。」
 バイツは何時もの微笑をサーナイトに向けた。
「バイツ、行くよー。連中も慌てふためいている頃だし潰すには丁度いいタイミングだからね。」
 ライキが歩き始めたのでバイツもその後を追う様にして歩き始めた。
 五人の姿が見えなくなるとサーナイトはポツリと呟いた。
「また・・・お手を煩わせてしまいましたね・・・」
「気を悪くしないでほしいんだけどお姉ちゃん。やっぱりバイツお兄ちゃん達は普通じゃない。いい意味でだけど。」
 キルリアは強制進化で体力を消耗したにもかかわらず平然としていた。
「一緒に戦って分かったんだ。お兄ちゃん達には追いつけないってね。」
 キルリア以外誰も口を開こうとしなかった。
「けど今回は僕頑張ったよ。」
「そうですね、マスター達と共にここまで来たのですから。」
「じゃあホテルに戻ろうよ。僕疲れちゃった。」
「あのー皆、一ついいかな。」
 ミコが口を開く。
「私、一旦警察署に行かなきゃいけないの。だから先に戻っててくれない?」
「分かりましたミコ様、お気をつけて。」
 ミコも警察署の方角に向かって歩き始めた。
 残されたサーナイト達はミコの後ろ姿が見えなくなると、ホテルへと戻っていった。



 日の沈み始めた頃にヤボ用という名目の組織襲撃を終えたバイツは自分の部屋に戻って来た。
 それ程バイツは疲れていなかった。
 キングサイズのベッドの上ではキルリア、ミミロップ、クチート、ルカリオ、バシャーモが静かな寝息を立てていた。
「?」
 バイツは疑問を持った。サーナイトが居なかったのだ。
「サーナイト?」
「はーい。ここです。」
 洗面所から声が聞こえてくる。

647名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:19:01 ID:/qBnNDz6
 サーナイトが姿を現す。白い肌の部分が少し紅くなっていた。
「風呂に入っていたのか?」
「はい。マスターも用事がお済みですか?」
 バイツが頷くとサーナイトはバイツをサイコパワーで浮かせてソファーに寝かせた。
「なーにするのかなサーナイトちゃん。」
 バイツがそう言い終わると同時にサーナイトはバイツの上に乗った。そして声を立てずに泣き出す。
「・・・あの戦いで何があった?」
 サーナイトはとめどなく涙を流しながら先程のトーヴとの戦いを話した。触手によって自分が堕ちそうになった事も。
 話が終わるとバイツはサーナイトを抱き寄せた。
「サーナイトが・・・皆がいるから俺はそれでいいよ。」
 バイツの目とサーナイトの目が合う。
 バイツの左手がサーナイトの緑色の髪を撫でて、頬を触る。
「マスター・・・大好きです。」
 二人の唇が触れ合おうとしたその時誰かがドアを勢いよく開けた。
「さー皆!そろそろ晩御飯の時間だよー!」
 ミコが着替えを済ませてバイツの部屋に入って来たのだった。
 バイツは瞬時に寝たふりをする。
「あー!サーナイト!バイツ君の上に乗って何してるの!?」
「いえ、そのー・・・寝顔が可愛いので・・・何と言いましょうか普段のマスターとはギャップがありまして・・・」
「ふーん。」
 ミコもバイツの近くに寄る。
「・・・キスで起きるかな?」
「ミ・・・ミコ様待ってください!マスターは・・・」
 その時サーナイトとミコは視線を感じた。
 ミミロップ、クチート、ルカリオ、バシャーモがすぐそばに立っていた。敵意を向けた視線を二人に送りながら。
 当然バイツ争奪戦が始まった。
 バイツは心の中で思った。もう一度時の流れに干渉したいと。
『だが断る。』
 グラードンの意識に手厳しく返されたバイツ。
 そんな騒ぎの中でキルリアはまだ眠っていた。
「・・・すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を・・・」
「今のは寝言か?」
 こっそりとバイツが言う。
 バイツ争奪戦はまだまだ続きそうなので、そのうちバイツは考えるのをやめた。

648名無しのトレーナー:2017/02/10(金) 03:21:19 ID:/qBnNDz6
この話はこれで終わり。
作中のハーヴァルが言っていたダークナー講座は殆ど適当。
何でナイダスの封印を解いた時にトーヴは叫び声を上げたかって?何となく話のノリで。
今度はpixivにR-18の小説を投稿する予定。人間♂×サーナイト♂の小説になりそうだけど・・・
(ここまで書いたから)もう逃げられねえぜェ?(俺が)
暇が出来たらpixivの方の小説も見てください。あっちはあっちでまた違う物語を展開しています。

649・・・・・・・・:2017/07/22(土) 19:16:20 ID:rx/0bqQs
失礼するよ あっちの板の奴だよ
Another Mindって小説をミナモの裏美術館から持ってきたよ
あの時は調べられなくてすまなかった リンクは貼れないが一部内容はこんな感じだ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Another Mind
「割と、綺麗な部屋じゃん」
少年はそう呟くと、リュックを床に置き、ベッドに腰を下ろした。
彼の名はカイト。ポケモンマスターを目指して旅を続ける少年である。少ない予算と相談をしながら決めた本日の宿にさっき
到着したばかりだ。
シャワーを浴び、買ってきた軽い夕食を済ませた後、カイトはリュックから一つのモンスターボールを取り出した。
「さてと…出ておいで、サーナイト」
カイトがモンスターボールを投げると、光の中から優美な姿をしたポケモンが現れた。ほうようポケモン、サーナイトである。
「マスター、今日もお疲れさまでした」
サーナイトは、カイトに向かってにっこりと微笑みながらそう言った。
「ああ、サーナイトもお疲れさま。ま、ここ座んなよ」
「はい、失礼します」
カイトがベッドの隣にスペースを空けると、サーナイトはゆっくりとそこに腰を下ろした。
サーナイトは、現在のカイトのパーティーの中では一番の古株である。
当時はまだラルトスであった彼女と出会ったのは、まだ旅を始めて間もない頃、出発して初めて訪れた街の、はずれにあった
草むらでのことであった。幸い、捕まえた当初から彼女はよくなついてくれ、カイトのために一生懸命闘ってくれた。
カイトの方も、そんな彼女に対する愛着はどんどん増していき、今では、ポケモンセンターに預けている時間すら
もどかしいほどの、かけがえのないパートナーである。
彼女が人語を話せると分かったのは割と最近、彼女がサーナイトに進化してからのことだ。
やんちゃで、少しおてんばな少女のような姿だったキルリアが、これほどまでに美しい姿に進化したことにも驚いたが、
進化し終えたサーナイトに、
「やっとお話できますね、マスター」
と話しかけられた時には面食らった。しかし、もともと孤独な一人旅で、時には話し相手が欲しかったカイトにとっては、
これは嬉しい誤算であった。それ以来カイトは、一日の終わりにはサーナイトをモンスターボールから出し、
その日にあったことを語り合うのが日課となっていた。
 月の綺麗な夜である。明かりを消した室内で、窓から差し込む月明かりに照らされて深い赤色に輝くサーナイトの瞳を
見ていると、何一つ隠し立てなどできないような気持ちになる。心の中に澱む、モヤモヤしたことを
全て吐き出してしまいたくなる。
ひとしきり談笑した後、カイトは、以前から少し気になっていたことを彼女に尋ねてみることにした。
「…お前さ、俺と旅をしてて、寂しくなることってないか?」
「え?」
少し驚いたような表情で、サーナイトは聞き返した。
「いや、その…俺とお前は、だいぶ長く旅を続けてきて、俺は本当に楽しいんだけど
…でも、お前ももともとは野生のポケモンで、友達とかと遊んで暮らしてたわけだろ?
…もし、そうだった頃の方が、今よりも楽しかったとしたら…」
「そんな…」
「俺はさ…お前には本当に幸せであって欲しいんだよ。だって…」
そこまで言って、カイトは口ごもった。
うつむいて、何か言いたそうにしているカイトの手を、サーナイトがそっと握った。
「そんなこと言われたら、私は悲しいです」
「え?」
サーナイトの意外な返事に、カイトは戸惑った。
「だって…私は今、本当に幸せなんですもの。確かに、最初の…ほんの最初の頃は、
時々ちょっと寂しいって思うときもありましたけど、でも、そんなの本当に最初だけで…マスターと旅をしていくうちに、
この人は本当に私のことを大切に想ってくれているんだっていうのが分かってきたから…
だから、そんなマスターと一緒にいるのが、今の私の一番の幸せなんです」
「サーナイト…」
「だから…私といることに、疑問を感じたりなんかしないで下さい」
「…ごめん…ごめんな、サーナイト」
サーナイトの心からの返事に、カイトは申し訳なくなって、必死に謝った。そんなカイトを、サーナイトは微笑みながら
見つめていた。
しばらくの沈黙の後、サーナイトが口を開いた。
「…じゃあ、私からも一つ、聞いていいですか?」
「何?」
少し顔を赤らめているサーナイトの口から出たのは、驚くような質問だった。
「私のこと、好きですか?」
「えっ…!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ただもしまた何か知りたいなら聞いてほしい

650名無しのトレーナー:2017/08/05(土) 01:30:29 ID:/qBnNDz6
マジで今まで小説投稿できなくてごめんなさい。
半年近く何やってたの?って聞かれたらWARFRAMEやってたって返すしかないんだなー。後ここに投稿する別の小説書いてた。半分も終わってないけど。
待っている人が居るかどうか分からないけどお詫びに短い小説投稿するね。
三日程度で書いたやつだからあんまり期待とか深読みとかしないでね。

651名無しのトレーナー:2017/08/05(土) 01:31:14 ID:/qBnNDz6
「ダークナー!」
 街外れの平野で聞こえたその声は鳴き声にも断末魔の叫び声にも聞こえた。
 叫んだのは黒い巨大な怪物。
 成人男性の三倍ほどの大きさの黒い怪物「ダークナー」は、片膝と両手を地面について息を荒げていた。
 そのダークナーの正面にはダークナーを睨み付けながら立っている長い黒髪をした少年がいた。右手には包帯を巻いておりその上にはオープンフィンガーグローブが填められていた。
 更にその少年の後ろにはメガシンカしたサーナイト、ミミロップ、クチート、ルカリオ、エルレイド、バシャーモがいた。
「・・・で?」
 少年は鋭く睨み付けている表情を崩す事無くダークナーの後ろにいた人影に「もう終わりか、次の手は何だ」と言う代わりにそう短く言った。
 確かにダークナーの後ろに人が居た。しかし、人間という部類には程遠い存在。
「クソが・・・!」
 着用している黒いロングコートに付いているフードを目深に被っている人物ドルヴが長髪の少年バイツを睨み付けながらそう言い捨てた。
 バイツはドルヴに向かって歩き始める。
 ダークナーの隣に差し掛かった時、ドルヴは口端を吊り上げて笑みを浮かべた。
 いきなりダークナーが立ち上がり右腕を振り上げた。勿論バイツを叩き潰す為に。
「マスター!」
 サーナイトがそれを食い止めようとバイツとダークナーの間に割り込もうとする。
 近距離で「サイコキネシス」を放ち、ダークナーの巨体を吹っ飛ばそうとする考え。
 それは失敗に終わった。
 ダークナーが腕を振り下ろす速さはサーナイトが予想しているものより速かった。
 そして、その一撃に対しバイツは視線を移す事無くただ右手の甲で弾いた。
 空気が弾ける音と共に衝撃波が生じ、近くにいたサーナイトの緑色の髪の毛を少し揺らした。
 ダークナーは大きく体勢を崩し、大きな音を立てて転倒。ドルヴは苦い表情を作った。
「・・・で?」
 眉間に皺を寄せ再度バイツはそう言った。今度は苛々しているかの様に。
 舌打ちをした後にドルヴは「門」を開き、中に入って消えた。こちらの負けが分かっているかの様に。
 バイツは何も言わずにダークナーに視線を向けた。
「「サイコキネシス」!」
 サーナイトが倒れているダークナーに「サイコキネシス」を放ち、浄化している所だった。
 黒い巨体は消え、倒れている数人の人間が現れる。
「怪我は無いか、サーナイト。」
 ドルヴに向けていた表情とは一転しバイツが柔らかい笑みを浮かべながらサーナイトにそう言う。
 サーナイトはメガシンカ状態を解きバイツに微笑んでみせた。
「はい、大丈夫です。」
 他の皆もメガシンカ状態を解く。
「皆も怪我は無いか?」
 サーナイトと共にバイツは皆に近付く。
「結局バイツお兄ちゃんが一人で片付けちゃったね。」
 キルリアがバイツを見上げながら言う。
「もー!マスター!あたし達に見せ場作ってくれちゃっても良かったんじゃないの?」
 と、ミミロップはバイツが現れた事に対して上機嫌そうに言う。
「そうだよ。気配を察知してここに早く来たのはあたし達が早いけどあたし達がメガシンカした途端に何処からか降ってきたよね。」
 クチートは辺りを見渡しながらそう言った。周囲に高台は無い。

652名無しのトレーナー:2017/08/05(土) 01:31:48 ID:/qBnNDz6
「それに戦闘も凄かったな。三発であの巨体を追い詰めるなんて。」
 ルカリオは純粋に感心していた。
「それに速度も尋常じゃなかった。その半分の速さでもいいから欲しいものだねえ。」
 バシャーモはそう言ってバイツに微笑んでみせる。バイツも微笑みを返す。
 そして、数分後警官隊と救急隊を引き連れてミコが現れる。
「皆!怪我は無い・・・みたいだね。えーっと・・・どういう状況かな?」
「今回の襲撃は終わった。後腐れなく。」
 バイツは簡単に説明する。
 現場を調査する為に残るミコに二、三説明をした後、バイツ達は街に戻る事にした。
 サーナイトはその時悲しげな視線をバイツに送った。
「サナ?」
 ルカリオはサーナイトが発する悲しみの波導を感じ取った。



 上層階のホテルの部屋にサーナイト達を送った後、バイツは用事があると言い部屋を出て行ってしまった。
 目的はバイツと他の四人、ライキ、ヒート、イル、シコウの持つ遥かに強大な力を狙っている権力者とその組織を物理的に永久に黙らせる事。一応刑事であるミコが居ては色々と言われそうなので、調査で居ない今が絶好の機会だった。
 バイツが出て行って十分もしない内にサーナイトとルカリオ以外のメンバーはキングサイズのベッドの上で眠ってしまった。
「何故バシャがこの部屋で・・・マスターと私達のベッドで寝るんだ?」
 ルカリオがそう言いながら眠っているバシャーモに視線を向ける。
「まあ、マスターが好きなのは分かるが・・・」
 ふと、バルコニーに佇んで外を見ているサーナイトが目に入る。
「・・・」
 悲しみの波導が更に強く感じ取れる。
 ルカリオもバルコニーに出て外を見る。
 見えるのは上層階では珍しくも無い表面上だけは綺麗な街並み。
「何を・・・見ているんだ?」
「これといって・・・何も・・・」
 サーナイトの声色は沈んでいた。
「椅子に座ろう、少し話したい事がある。」
「はい・・・」
 二脚しかない椅子にそれぞれ座る。
「何をそんなに悲しんでいる?」
 単刀直入にルカリオがサーナイトに訊く。
「マスターが戦う事について考えていました。」
「ダークナーとの戦いか?」
 サーナイトが頷く。
「本当は・・・私達が戦うべき相手・・・ですがマスターは極力私達を戦わせまいとしています・・・」
「私達の身を案じての行動じゃないか?」
「それが・・・心配なのです。」
 声を震わせサーナイトが俯く。
「いつか・・・私達の前に立つマスターが取り返しのつかない事になるのではないかと・・・もし・・・もしそうなってしまったら・・・私は・・・私は・・・!」

653名無しのトレーナー:2017/08/05(土) 01:32:25 ID:/qBnNDz6
 強くなっていくサーナイトの言葉。それにルカリオは何も答える事が出来なかった。
「ごめんなさい・・・暗くなる様な事を言ってしまって・・・私、少し外を歩いてきますね。」
 サーナイトは無理にルカリオに微笑みを見せ、椅子から立ち上がると部屋の中に入り、そして外へと出て行った。
 ルカリオは追う気になれなかった。彼女もまた似たような考えを持っていたのだった。



「今回のー」
 ライキが赤色の帽子を被り赤色のシャツと青色のオーバーオールを着た配管工よろしく飛び跳ねながら権力者の自宅から出て行く。
「俺達のー」
 ヒートも続いて飛び跳ねながら出て行く。
「出番はー」
 イルも飛び跳ねて二人に続く。
「これで終わりでござーる。」
 シコウまで飛び跳ねながらそれに続く。
 バイツはそんな四人の背中を見て口を開いた。
「このツッコミ待ちの馬鹿共が・・・俺はツッコまないしそれに言わせてもらえれば台詞すら無い方がよっぽどいいキャラしていたよ。」
 言い終えて無駄な事をしたと険しい表情を作る。
 そして歩きながら後ろを振り向く。
 権力者の自宅の玄関内が見えた。元はどの様な配色だったかは覚えていないが今は紅色に染まっている。こと切れて倒れている人間が紅の出所だった。
 それを見たバイツは無表情で正面を向く。もう四人の姿は無い。
 バイツは溜め息を吐くとホテルに向かって歩き始めた。
 まだ日も高い。それに一時的とはいえ自分達を狙う連中は居なくなった。なのでサーナイト達を連れて街中を歩こうと思ったバイツ。たまにはゆっくりとした時間を過ごしたかった。
 ホテルへの道を歩きつつバイツは感じのいい店を探しながら雑踏の中を歩く。
 ふと、こちらに向かって来るサーナイトの姿が人混みの向こうに見えた。何か考え事をしているのか視線を下にしている。
 その為サーナイトはバイツが眼前に立つまでバイツには気付かなかった。
 目の前に立っているバイツに気付いたサーナイトは一瞬驚きの表情を浮かべた。
「マス・・・ター・・・」
「どうした?そんなに暗い顔をして。」
「いいえ・・・その・・・」
 いつもと様子が違うサーナイト。
 バイツはサーナイトの手を取ると路地裏に向かって歩き始めた。
「えっ・・・!あの・・・!」
 突然のバイツの行動にサーナイトは戸惑いながらもバイツについていくだけであった。



 何も無い、そして誰も居ない薄暗い路地裏でバイツとサーナイトは向かい合っていた。
「一体どうした?そんなに暗い顔をして。」
「マスターの事を考えていて・・・少し・・・」

654名無しのトレーナー:2017/08/05(土) 01:33:04 ID:/qBnNDz6
「俺・・・?」
 サーナイトは頷いた。
「マスター、一つ聞かせてもらってもよろしいですか?」
「ん?あ・・・ああ。」
「どうして・・・マスターは私達の盾になろうとするのですか?」
「決まっているだろう?護る為だ。」
「どうして・・・私を盾にしないのですか?」
「・・・サーナイト?」
「私は貴方が傷付く所を見たくないのです!傷付いた姿も!」
 サーナイトの中で昂る感情。そして大きくなる声。視界も涙が溢れ始め不鮮明になっていく。
「私は貴方の盾でありたい!貴方を護りたい!護られる存在ではなく護る存在に!ですが・・・ですがマスター・・・貴方は・・・」
 脳裏に過るのはバイツに護られている自分。その光景を思い出すと惨めになり言葉が続かなくなる。代わりに涙と嗚咽が溢れ出る。
「じゃあ俺は一体何なんだ・・・?」
 暫く泣いていたサーナイトに向かってバイツは悲しげにそう言った。
「サーナイトや皆を護れないのならば・・・俺は一体何だ?」
 その声色にサーナイトは涙を流しながら驚いた表情を浮かべバイツの顔を見る。
「俺は・・・既に人間という存在じゃない。生きながらえる為にこの右腕になった時からな。兵器なんだ・・・何かを壊して殺して傷付けてやっと価値の出る存在だった。いや・・・「だった」じゃない今でもそうさ。」
 サーナイトは兵器という言葉に対し首を横に振りながらバイツの話を聞き続ける。
「でもやっと護れる様になった。所々ボロが出るけど・・・甘い所があるけど・・・それでも皆を護れる。それが無理矢理自分で見つけ出した存在理由さ。兵器以外としてのな。」
「それでも・・・私は・・・大好きなマスターが・・・傷付くのが怖くて・・・」
 それを本当に恐れているのかの様にサーナイトは弱々しくそう口にした。
「俺も皆が傷付く事は怖い、それに心配を掛けさせたくない・・・泣かせてしまう程に・・・」
 バイツはサーナイトを静かに抱きしめる。
「ゴメン・・・でも俺は生き方を変えない・・・皆を護り続ける。」
 そしてバイツはサーナイトを安心させる為にサーナイトの後頭部に手を添えて自分の顔に近付けさせた。
 サーナイトも抵抗はしなかった。寧ろ、サーナイトもそれを望んでいた。
 二人の唇は繋がっていた。
 それだけではなく互いに舌を絡め合わせて相手を感じ取っていた。
 サーナイトはより強くバイツに抱きつき、バイツはサーナイトの緑色の綺麗な髪を撫でていた。
 絡み合う舌は互いを包み込む様な動きで互いの口内で動き続ける。
 たまにほんの少し唇が離れるがそれは口呼吸の為。また二人は唇を重ねる。
 混じり合った唾液が零れ落ちるが二人の意識の埒外であった。
 サーナイトが落ち着き、涙が完全に乾いた頃、ようやく唇は離れた。
 もう少し強く繋がりたかった二人だったが場所が場所である。そういう事は断念しホテルに戻る事にした。
 ホテルに戻る道を歩きながらバイツは口を開いた。
「サーナイト・・・その・・・もう少し俺の我が儘を聞いてくれないか・・・?」
「護り続ける・・・という事をですか?」
「そうだ・・・」
「嫌です。私がマスターを護ります。マスターが私達を護ってくださるように。」
 バイツは言い返そうとしたがサーナイトが微笑んでみせるので何も言えなかった。それに堂々巡りも御免だった。
 サーナイトは決意を新たにしていた。目の前の心配性の主を護れる位に強くなろうと。

655名無しのトレーナー:2017/08/05(土) 01:34:07 ID:/qBnNDz6
はい、これで終わり。
今回は番外編っていう位置付け。
しかし・・・今書いてる小説が半年近く掛かって終わらないってどういう事だよ。どれだけ長くなるんだよ。
本編が進まない・・・

・・・・・・・・氏
旧板じゃ話し相手になってくれてありがとうございます。
随分と懐かしい小説ですね。
これを読んで昔はサーナイトとの妄想を膨らませていました。
今はサーナイトとの妄想と並行して何故か野獣先輩の消息と「カンノミホ」発言とWARFRAMEでのOGRISの運用方法についても考える様になってきました。
え?話題が逸れて来た?ごめんなさい。

656・・・・・・・・:2017/08/10(木) 20:53:04 ID:rx/0bqQs
なんだ知ってたのか、君も息が長いねこのスレで
目的があるのはいい事でしょう 誰かを探したい事とか
同じくどうでもいい話を一つするよ

かつての荒らしには会ったよ 旧BBSを板を崩壊させた人ね
話しもしてきたし本人の趣味も聞けた、特に何も争わず終わったよ

その後自分は流れた荒らしたスレをわざと後を上に上げて
見た人がショックを受けるようにしたよ まあ何の意味も無い気もするけど
あの出来事は忘れないでほしい 一人の人がどんな出来事を起こすか

自分は影響力は持ってないから何も変わらないよ
小説の邪魔はこの辺で失礼するよ じゃね

657名無しのトレーナー:2017/10/05(木) 04:48:24 ID:kwl1zUuI
バイツの人はじめまして。
僕が学生のときにあなたのSSを見つけて、はや7年が経とうとしています。
今でも時折あなたの文章を読みたくなり、旧板の頃からずっと保存していたメモ帳を開くことがあります。
痛快でいてどこかダーティな雰囲気の、あなたの文章が大好きです。

新板でもがんばってください。
楽しみに待ってます。

658名無しのトレーナー:2017/10/07(土) 14:23:03 ID:sv0NcSn2
ID変わってなきゃいいなぁ・・・

659名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:21:53 ID:sv0NcSn2
うんID変わってたね、そうだね。
前から書いていたとかいってた番外編だけど一区切りついたから前編という形で投下するよ。
だって書き終わらないし全部書き終わるまでどれ位掛かるか分からなくなってきたし。
この作品には色々注意事項があるけど長くなるし面倒だから一言で表すね。
察しろ。
って事。ifストーリーだしあんまり深く考えないでね。



>>657
おかのした。頑張ります。
あなたに限った話じゃないですがこの作品を読んで嫌いにならないで欲しいなーと思います。

660名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:22:28 ID:sv0NcSn2
 とある地方のとある街の住宅街に家を一部改装したフラワーショップの店舗があった。
 小さいながらもその店は連日大繁盛していた。
 客によれば花の質もさることながらその店を切り盛りしている一人の少女の笑顔も魅力だという。
 茶色の長い髪に眼鏡を掛けた少女の名前はルルといった。
 そしてもう一人、長い銀髪に幼い顔には不釣り合いな眼帯を右目にしている少女、テスラ。
 更にその店を手伝っているポケモン達が居た。
 サーナイト、クチート、ムウマージ、ミミロップ、ユキメノコ、アブソル、タブンネ、エルフーン、ドレディア、ゾロアーク、コジョンド。
 半年ほど前はある目的の為に旅をしていた一行。
 大きな犠牲の代償の末に遂に目的を成し遂げる事が出来た。
 それは愛しい人をとある世界に送るという選択。
「必ず俺は戻って来る。今度は門を残さない方法でも探して・・・な。」
 その少年はそう言い、こことは別の世界へと消えてしまったのだ。



 朝の六時、サーナイトとルルが開店準備に取り掛かっていた。
 ルルが店の外の花に水をあげている時、黒い気配を二つ背後に感じ取った。
 ハッと気づいてルルが振り向くとそこに立っていたのは二人の少年だった。
 その二人を見るとルルは安心した様に口を開いた。
「ライキさん、ヒートさん。おはよう。」
 ライキが手を振って口を開く。
「ルルちゃん。おはよう。」
 ヒートも口を開く。
「おはようさん、っと。」
 その時店の中の花を並べていたサーナイトも二人に気付き外に出る。
「おはようございます。ライキ様、ヒート様。」
「サナちゃんもおはよう。」
「元気そうじゃねえか、嬢ちゃん。あー・・・この時間にここに来たのは邪魔する為じゃなかった。ちょいと墓参りに行くからよ花売ってくれね?」
「お墓参り?誰のです?」
 ルルが訊く。
「ルコとその他諸々の墓参り。」
 ライキがそう言った。
 その時、サーナイトとルルの足元から声が聞こえた。
「その墓参り私も行かせてもらえないだろうか。」
 四人が声のした方を向く。そこにはアブソルがいた。
「店にある分のバラの棘はもう処理済みだ。」
 アブソルがサーナイトとルルにそう言う。
 彼女はバラの棘を頭部の鎌で素早く上手にそぎ落とす事が得意だった。
「ん、別に構わねーぜ。」
 ヒートが承諾する。
「えーっと、ルルちゃんそれで花の種類なんだけどさ。なるべく明るい色合いのにしてくれないかな。皆生前は暗い色が嫌いだったし。まあ任せるよ。」
「うん。任せて。とびっきりのいいやつ選ぶから。」

661名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:23:00 ID:sv0NcSn2
 サーナイトとルルは花を作る為に店内へ。
 アブソルは二人を見上げていた。
「二人共まだ「あの力」を持っているらしいな。浄化も頼まずに。」
 その言葉にライキとヒートは苦い表情を浮かべた。
「何だかんだ言って「この力」は便利なのさ。」
「半端な「力」だけど自分の身を護れる程の力はある。「アイツ」みたいにお前等を護れる程の力は無ェけどよ。」
 ヒートが「アイツ」と口走った瞬間アブソルは少し悲しげな表情を浮かべた。
「できたよー!」
 明るい声と共にルルが花束を持って現れる。
「ヒート。」
 ライキがそう言ってヒートに花を受け取らせる。
「えーっとお代は―――」
「これ位でいいかな。お釣りは要らないよ。」
 ルルの言葉を遮ってライキが代金を支払う。
「えっ・・・!これは多すぎ・・・!」
「いいのお気持ちってやつ。」
「でも・・・!」
 ライキとヒートはルルの言葉を待たず歩き始めた。それを追う様にアブソルも二人の後を追い掛ける。
「お気持ちって言われても・・・」
「いかがなさいましたか?ルル様。」
 サーナイトが店の中から出てくる。
「見てサーナイト、こんなに貰っちゃった。」
 困惑しながらルルはライキから受け取った代金をサーナイトに見せる。
 それを見てサーナイトは少し悲しげに微笑んだ。
「変わりませんね、あの方々は。」



 墓地に辿り着いたライキ、ヒート、アブソル。
 一つの墓の前で立ち止まる。
 その墓には名前が刻まれていなかった。そして墓の中に骨は収められていなかった。代わりに入っていたのは認識票だった。
 ヒートが珍しい事に花束を丁寧に置く。
 ライキとヒートは手を合わせる事無くただずっと墓の前に立ち尽くしているだけだった。
 アブソルは真っ直ぐ座りながら目を閉じていた。
「・・・さて、もう行こうか。」
 ライキが不意に口を開く。
「ああ・・・」
 ヒートがそう言い歩き出す。
 アブソルも閉じていた目を開き、ライキとヒートについていき墓を後にする。
 墓地から出たところでライキが背伸びする。
「さて、僕は仕事に戻ろうかな。」
 それを聞いてアブソルは口を開いた。
「なあ・・・マスターの情報は・・・」
「ゴメン・・・今は何も・・・」

662名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:23:30 ID:sv0NcSn2
「そうか・・・」
 アブソルは先程よりも深い悲しげな表情を浮かべて見せた。
「辛気臭せー面すんなよ。アイツの事だ、ひょっこり現れるかもしれねーぞ?」
 軽く言うヒート。
「だが・・・これで半年だぞ?」
「まだ半年だろ?くよくよするな。」
「半年も・・・だ。皆表面上は平気そうに取り繕っているが・・・本当は・・・」
 そこまで言ってアブソルは口を噤む。
 口にする度思い出す淡い記憶。幾度となく向けられた温もり、笑顔、愛情。
「まあ、死んだと決まった訳じゃねーんだ。吉報を待つこった。じゃあな。」
 軽くそう言い残し、ヒートは何処かへと行ってしまった。
「ま、僕も出来る限りやる事はやるよ。じゃあね。」
 ライキも歩き始める。
 アブソルはその場に少しだけ佇んでいた。
 頬を伝って落ちていく涙。
 あの二人は不器用だが優しい。と、アブソルは思った。
 何故なら涙を流す自分を見ないでいてくれたからだった。



 それから程なくしてアブソルはフラワーショップへと戻ってきた。
 丁度テスラがトレーナーズスクールへ行く所だった。
「アブソル。お帰り。」
 テスラが微笑んで迎えてくれた。
 半年前とは違いやや明るくなったテスラの性格。喋り方にも変化がみられる様になってきた。
「ああ、ただいま。今日は誰とトレーナーズスクールに行くんだ?」
「んー決めてない。」
 テスラは自分のポケモンを持っていなかったので日替わりでトレーナーズスクールにサーナイト達の内誰かがついていく。
「待ってー!」
 と、店内から聞こえてくる声。二人が声をした方を振り向くと店内からエルフーンが飛び出してきた。そして、テスラの顔面に白い毛の部分がボフリとぶつかる。
「行くー!」
 笑顔の表情を変えないでエルフーンが言う。テスラはエルフーンを抱きながら笑顔を向けた。
「じゃあ行こうエルフーン。」
「うん!」
「じゃあ、行ってくるね。」
 店内からルルが出てくる。
「いってらっしゃい。テスラ。気を付けてね。」
「いってきまーす。」
 テスラはエルフーンと共に走り出した。
「変わったな・・・あの子。」
 アブソルがテスラの背中に視線を送りながら口を開く。
「そうだね、ここ半年で変わってきた。」
「だが何だろう・・・無理に大人になりたがっている様な感じがするが?」
「バイツさんの様になりたいって言ってた。」

663名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:24:09 ID:sv0NcSn2
 バイツ。
 その名前が出てきた途端アブソルは悲しげな視線をルルに向けた。
「ポケモンの事に詳しくなって・・・皆にもっと優しくしたいって。トレーナーズスクールに通いたいって言われた時にそう言っていたの。」
「そう・・・か。」
 アブソルはそれだけ言って店内に入っていった。
 店内にはサーナイトが居た。丁度花を並べる仕事が一段落した様であった。
「お帰りなさいアブちゃん。お墓参りはいかがでしたか?」
「・・・」
「アブちゃん?」
「サナ・・・胸を貸してくれ・・・」
 サーナイトはしゃがむと両腕を広げた。
 アブソルはゆっくりと進んでサーナイトの胸の中へ。そして、声を上げずに泣き始めた。
 抱きしめた際にその感情をサーナイトは読み取る。不意に涙を流す。
 感情が一瞬だけだが映像となって頭に流れ込んできていた。
 映ったのはバイツの姿。
「マスター・・・今、貴方は何処にいるのですか・・・」
 涙声でサーナイトはそう呟いた。



 とある地方の山奥。
 そこでは人知れず妙な現象が起きていた。
 魔法陣が空中に展開されていた。
 人一人が通れそうな大きさ。
 そこから急に何かが吐き出された。
 それは人だった。
 人を吐き出した後魔法陣は消え去った。
 そしてその魔法陣から吐き出された人は起き上がった。
 その人、いや少年の黒く長い髪が風に揺れた。
 両方の手には包帯が巻かれておりその上にはオープンフィンガーグローブを着けている。
「・・・何だ?元の世界に・・・戻って・・・来れたのか?」
 そう言うと、溜め息を吐いた。
「それにしても幾つの世界を回ってきたんだろう。デトラフに喧嘩売った時や惑星リーチに流れ着いてコヴナントに包囲された時はもう駄目かと思ったが・・・まあいい、さっさと・・・いや今は無理だ。」
 少年の名前はバイツ。サーナイト達が帰りを待ち望んでいる存在。
「ってか・・・ここ何処だ?」
 バイツは辺りを見渡す。
 そこは山奥で民家などは無い。
 だが地面を見るとタイヤ痕があった。
 どうやらここを車が通っていた様子。
「辿っていくか。」
 呑気にそう言うバイツ。
 タイヤ痕を辿っていくと一つのコンクリート造りの建物が見えてきた。
「・・・」

664名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:24:40 ID:sv0NcSn2
 バイツはその建物から誰かが助けを呼んでいる様な気がした。
「BABYLON STAGE 35 〜大人の事件簿 その淫猥の構図〜第一章、時計仕掛けの外科室。」
 そう言って駆け出すバイツ。果たして意味はあるのか。



「さあブイズちゃん達。撮影の時間ですよぉー」
 男の声が牢内に響いた。
 その声に微かに反応した九つの影。
 イーブイ、シャワーズ、サンダース、ブースター、エーフィ、ブラッキー、リーフィア、グレイシア、ニンフィア。
 首輪によって鎖に繋がれた彼女達の目は虚ろだった。
 捕まえられ、イーブイ以外は強制的に進化させられ、来る日も来る日も人間達の性の相手。
 喜ぶフリをすれば要求は激しいものとなっていき、拒絶すれば暴力が待っている。
 地獄のような日々。
 鎖を引っ張られ弱々しく立ち上がるイーブイ達。
 フラフラと鎖を引っ張る男についていく。
 そしてスタジオへ。
 様々な撮影機材、道具、人員が揃っていた。
 乱暴にセットの中央へ連れていかれるイーブイ達。
「じゃあ今日はお腹が破裂しかけるまで精液を搾り取ってみようか。」
 下着姿の男達がイーブイ達を取り囲む。
 もうやられる事は分かっている。
 でもいつまで耐え忍べばいいのか。
 果ての見えない闇。
 それが彼女達から抵抗する力を奪う一つでもあった。
「よーし、じゃあカメラ回すよー」
 興奮している男の声。
 またいつもの様に始まるのだろうか。
 イーブイ達の虚ろな目にうっすら涙が浮かぶ。
 その時、スタジオのドアがゆっくり開いた。
「何やってんだお前等、俺も仲間に入れてくれよー」
 そこに居たのはマジキチスマイルを浮かべた髪の長い少年。どう見ても部外者。
 勿論こいつはバイツだった。
「何言ってるんですか・・・」
 そう言いスタッフが締めだそうとする。
「とぼけちゃって。」
 バイツの左の拳が瞬時にスタッフの鳩尾にめり込む。
 胃液を吐きながら崩れ落ちる様に倒れる。
「何だこのガキ!」
 他のスタッフが言う。
「止めなさい。」
 もう一人のスタッフが現われる。
「何だよお前らばっか「二人」で良い思いしてんなよ。」
 どう見ても二人以上居るスタジオ内。
 しかし、バイツはその様な事を意に介さずスタッフの一人に接近。今度は右手で殴り飛ばす。

665名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:25:11 ID:sv0NcSn2
 バイツは乱暴に肩を掴まれる。
「何だよお前よー」
 乱暴に肩を掴んだ男の腹部に右手による無音の一撃。
 男は崩れ落ちる。
 今度は別の細身の男がバイツに拳を繰り出す。
 難なく右手でそれを受け止めるバイツ。男の腕に視線を向ける。
「手ェ細ェな、お前な。女の子みたいな手ェしてんな。」
 男の腕を左手で擦る。
「ツルツルじゃねえかお前。」
 右手を離したバイツは男の服の上半身を破く。そして体に目を向ける。
「ホント女の子みてえだな。」
 左手で男の胸部を触る。
「ツルツルじゃねえかよ肌が。」
「余計なお世話ですよ・・・」
「口答えすんじゃねえ。」
 バイツの左手が今度は男の股間に伸びる。
「キンタマ付いてんのかお前しっかりよ。なぁ。」
「付いてますよ・・・何すん・・・!」
 バイツが男の後ろに回る。
「いいから抵抗すんなお前。」
 右手が男の股間を弄る。
「気持ちいいつってみろ。ホント気持ちいいんだろ。」
「気持ちいいワケ無いじゃないですか。」
 今度は尻を撫でる。
「いい尻してんなーお前ホントに。」
 バイツの男の尻を撫でる手は止まらない。男は当然不快感を露わにする。
「ちょっと止めてよ。」
「いいから。」
「止めろって。」
「うるせえな。」
「こん・・・主人公の行動じゃないんだよ!」
 ガバガバな拘束を振り払う男。
「いいだろお前成人の日だぞ。」
 バイツの意味不明な発言。
「反抗していいと思ってんのか?」
「主人公だから淫夢ネタに走っていいと思ってんのか?」
「何ィ?もう一回言ってみろ。」
「主人公だから淫夢ネタ使っていいと思ってんのかよ!」
 男はバイツの胸ぐらを左手で掴んで右手で拳を繰り出す。
「当たり前じゃねえか。」
 とても主人公とは思えない発言と共に男の攻撃を受け流し、払い腰で男を投げる。
「あー・・・何時からBABYLON STAGE 31 罪と×の流れになった?気を抜くとすぐこれだ・・・」
 正気を取り戻したかの様にバイツは目頭を押さえ二、三回頭を横に振る。
 そして、鎖に繋がれているイーブイ達と目が合う。
 一瞬で部屋の空気が変わった。

666名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:26:01 ID:sv0NcSn2
 それはバイツから発せられた人間とは思えない殺気だと気づいた時には手遅れだった。
 三秒後には男達全員が床の上に倒れていた。辛うじて生きていたものの口を利く事はかなわない状態だった。
 バイツはイーブイ達に近付き首輪を外す。
 当然イーブイ達は怯えたが今の体力では抵抗する事も逃げる事も出来ない。出来る事と言えば虚ろな目から涙を流す位。
「どんなに謝った所で許してもらえないのは分かっている。だが謝らせてくれ・・・済まなかった。」
 片膝をついて頭を深く下げ謝るバイツ。イーブイ達にとってそれは予想外の事だった。



 バイツは倒れている男達をスタジオの隅に投げつけ、建物内にあったポケモンフーズをイーブイ達に持ってきた。
 見たところ満足そうに食べさせてもらえていなかった様子。
 大皿に盛りつけて差し出すとイーブイ達は一心不乱にポケモンフーズを食べ始めた。
 これだけでは体力が戻らないと思ったバイツはここの電話で警察に連絡をする事に。
 ここが何処だか分からないので取り敢えず自分も警察に保護してもらおうと思った。
 少なくともイーブイ達はポケモンセンターに連れていってもらえるだろう。
 早速電話を掛けるバイツ。
 その様子をイーブイがポケモンフーズを食べながらジッと見つめていた。
 電話を掛け終えたバイツ。振り返ると突進してくる茶色い「誰か」がバイツを押し倒した。
 犯人はイーブイだった。
 バイツの胸の上に乗って見下ろしている。
「・・・攻撃したければしろ。お前達が受けた傷に比べれば・・・」
「比べれば・・・何?同情でもしてくれるの?じゃあここで私達がやられた事を教えてあげようか?」
 イーブイの口から語られる地獄の日々の数々。
 地獄の日々をイーブイが語っている間にシャワーズ、サンダース、ブースター、エーフィ、ブラッキー、リーフィア、グレイシア、ニンフィアも倒れているバイツの周りに集まる。しかし、敵意は感じられなかった。
「ねえニンゲンさん、本当に私達に謝りたいの?」
 イーブイからも敵意は感じられない。
「それだけでお前達の心が癒えるとは思えないが・・・そうだ。」
「だったら・・・」
 イーブイは次にとんでもない事を口にした。
「精子を頂戴。」
 イーブイが息を荒くしながら妖しい笑みを浮かべる。
「は?」
「強いオトコの精液が欲しいの・・・それで私達を慰めて?」
「なっ・・・でも・・・お前達は・・・!」
 言葉を出せずにいるバイツにシャワーズが口を開く。
「地獄の日々を送った私達を癒してくれるんでしょう?」
 サンダースが口を開く。
「キャハハハ、ニンゲンさん!ポケモンとはデキないってワケ!?」
 次はブースターが口を開いた。
「なあんだ、じゃあテメェも嘘つきって訳だ。」
「違う・・・!」
 バイツは言葉を続ける。
「お前達は性的虐待を受けてきた・・・何故、その傷を自ら抉ろうとしているんだ・・・!」

667名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:26:43 ID:sv0NcSn2
 悲しげにそう言ったバイツに対しエーフィが口を開く。
「あら、でも「好きになった」オトコの精子を欲しがるのは普通ですわよね。」
「え?今何て・・・」
 絶句するバイツにブラッキーが言葉を掛ける。
「ボク達は・・・キミの事が好きになったみたいだ・・・だから・・・キミの精子が欲しい・・・」
「・・・えーと・・・」
 バイツはイーブイ達を見渡す。心なしか全員照れている様だ。
「何で皆さん照れていらっしゃるんですか?」
 バイツの素朴な疑問にリーフィアが答える。
「だからアンタの事が好きなの!これ以上恥ずかしい事言わせないでよね!」
 グレイシアが笑顔を浮かべて口を開く。
「好きな方との性行為は何時でも歓迎ですよぉー」
 そしてニンフィアが言う。
「さあ服を脱がせてください。大丈夫です。私達に身を任せて・・・ね?」
 リボンの様な触角でバイツの服を脱がせにかかるニンフィア。
 特に抵抗する事は無かったバイツ。
 「すまない、ホモ以外は帰ってくれないか」と、口にしそうになったがホモ認定されるのが嫌なので黙る事にした。そもそも彼はホモではない。
 あまり体を見せたくなかったがこの際仕方なかった。
 それに「この体」を見て諦めてくれるかもしれない。バイツはそう思っていた。
「な・・・なにコレ・・・」
 服を脱がされたバイツの上半身を見た時イーブイは絶句した。
 首から下は黒かった。首から上、そして右腕以外は本当の漆黒。包帯を左腕にも巻いている理由はそれであった。
「俺は化物だ。お前達の言うニンゲンでもない。ポケモンでもない。」
「だから何?」
 シャワーズがズボンを脱がされるのを待ちながらそう言う。
「キャハ!ナニカン違いしてんの「ニンゲン」さん!」
 サンダースが興奮気味に言う。
「あたし達はテメェが好きになったんだよ。化物だろうと関係ない。」
 ブースターもバイツの上に乗る。
「もしかしてこの姿を見せたら私達が諦めるとお思いにでも?」
 エーフィが微笑む。
「キミはボク達を救ってくれた・・・こんな掃き溜めから・・・だからこれ位・・・」
 ブラッキーは照れ臭そうに床を見た。
「べ・・・別にアンタがこんなんだからって驚いた訳じゃないんだから!アタシ達がアンタを好きって事に変わりは無いんだからね!」
 イーブイ達の中で一番恥ずかしそうにそう言ってリーフィアはバイツから顔をそむける。
「皆どうあろうと貴方の事が大好きなのですぅ。勿論私もですからぁ。」
 バイツに頬擦りしながらグレイシアが言う。
「伝わりました?私達のキモチ。」
 服を脱がせ終わったニンフィアもリボンの様な触角をバイツの額に当てその先から気持ちを和らげる波動を出している。
 イーブイがバイツの顔に近付き唇を奪う。
 小さな舌を絡ませようとバイツの口内で舌を動かす。
 拒むのはいけないと思ったバイツの方からイーブイの口内に舌を入れる。
 慣れているのかイーブイはすんなりバイツの舌を口の中に招き入れる。
 バイツの舌は優しくイーブイの舌を優しく包み込むような形で絡む。イーブイは暴力的でない初めての優しい責めに頭が痺れそうであった。

668名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:27:17 ID:sv0NcSn2
 そして、暫くバイツの舌を堪能したイーブイはバイツの口から離れる。
「ゴメン・・・これ位で驚いて・・・」
 イーブイは体を見て絶句した事を謝る。
「じゃあ本番行こ?」
 気を取り直したのか明るい声で言う。
「無理はするなよ・・・」
「心配してくれるの?私は皆より小さいけど・・・ほら、色々調教されてきたから・・・だから大丈夫。」
 バイツはイーブイの声を聞きながら目を閉じる。
 これでこの子達の心が少しでも癒えるなら今は玩具になってもいい。と。



 モウキは殺気立った目を山奥のコンクリート造りの建物に向けた。
 ここでも「撮影」が行われていたと聞き警官隊を編成そして現場に急行した。
 事の始まりは二か月前から。
 とあるアダルトビデオが市場やネットで流れ始めた。
 それはポケモン達が「無理矢理」犯されている内容。
 一部の層にしか受けなかったが、行為の中身が問題だった。
 極限まで追い詰め、肉体的にも精神的にも壊す。そして捨てる。
 当然警察の方でも問題となった。
 捜査を続けていく内に撮影元が国際組織だという事が判明する。
 全国の警察が合同捜査本部を設置。
 そして、警察と同じくしてポケモン虐待防止委員会も動き始める。
「刑事さんのそんなに怖い顔。久しぶりに見たわ。」
 女性の声がした。モウキは視線を建物から移す事無く口を開く。
「お嬢、お前さんからも隠し切れない殺気がひしひしと伝わってくるんだが?」
 モウキがお嬢と言った相手、それはポケモン虐待防止委員会の重役、キョウカだった。
 その傍らにはガーディとトウマが立っている。
「いいのかよ、指揮官が前線に立って。」
「しょうがないじゃない動かせる駒が少ないんだもの。」
 モウキはその言葉を聞き今は行方不明のバイツを思い出した。
 人間には厳しかったがポケモンには深い愛情を持って接していたバイツ。
「・・・お前さんはどう動いた?この状況を見てどう思った?なあバイツ。」
 独り言ちるモウキ。
 それから間もなくして建物の包囲が完了したとの報告を受ける。
「俺が先行する。突入は俺の合図を待て。」
 モウキがそれだけ言うと建物に向かって歩き始める。
「私も同行するわ。」
 キョウカもモウキの後を追う。それに続いてガーディとトウマも動く。
「おいお嬢・・・!」
「大丈夫よ、あなたが倒れても私には二人の頼もしい護衛がついているから。ね?」
「うん!頑張る!頑張る!」
「心配は無用です。行きましょう。」
 建物内に入る四人。

669名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:27:54 ID:sv0NcSn2
 ガーディが匂いを嗅ぐ。
「沢山の人間とポケモンの匂い・・・こっちこっち!」
 苦も無くスタジオと思われる部屋の前へ。
 扉は半開きだが中の様子を伺えるほど開いていない。
 ふと、ガーディが震えだす。
「精液・・・精液のニオイもする・・・!」
 大体そのニオイがする時は凄惨な光景が広がっている。
 ガーディは分かっていて恐怖で震えていた。
「分かった、もう大丈夫だから。ボールに戻る?」
 キョウカがしゃがんでガーディに訊く。
「ううん・・・キョウカや皆と一緒に戦う・・・戦う!」
 恐怖を振り払いガーディが言う。
 それに口には出さなかったが懐かしい匂いがしたのでそれのおかげで踏ん張る事も出来た。
「短期決戦だな・・・」
 モウキが拳銃を出しながら言った。
「ええ、決めてしまいましょう。」
 トウマも飛針を手にしている。
「三カウントで突入だ。一・・・二・・・三!」
 モウキが数えて扉を蹴破る。
「警察だ!大人し・・・く・・・」
 中の光景を見てモウキは言葉を止める。
「ぷっ・・・クックック。」
 同じ光景を見てトウマは思わず吹き出す。
 二人の反応にキョウカとガーディは怪訝そうな表情を浮かべながら部屋の中を覗く。そして、その反応に納得した。ガーディは一瞬で警戒を解く。
「何やってんの?・・・バイツ。」
 キョウカが呆れ気味に口を開く。
 四人の眼前に広がっていた光景。それは男達がスタジオの隅に山積みにされ中央ではバイツがソファーに座らされイーブイ達の玩具になっている所だった。
「・・・あ・・・どーも・・・」
 枯れかけており今にも消え入りそうなバイツの声。
 彼の腰の上ではシャワーズが腰を振っていた。
「二回目なのに・・・まだまだ・・・大きい・・・全部入らな・・・」
 嫌々ではなく嬉しそうな表情を浮かべて行為に及んでいるシャワーズ。
 バイツがソファーの背もたれにもたれ掛るとニンフィアが背もたれの上に跳び乗る。
「あの・・・キスをしていいですか?」
 バイツが力無く「うん」と言うとニンフィアは喜んでバイツにキスをした。
 まるでバイツを味わっているかの様な舌を絡めたキス。
 バイツも先程イーブイにした様に包み込む様に優しく舌を絡める。
「何だよテメェ等。」
 ブースターが四人に近付く。
「あたし達の旦那様に用事でもあんのかコラァ!」
「だ・・・旦那様?」
 キョウカが聞き返す。
「そう!アタシ達のダンナ様!キャハハハ。」
 サンダースが嬉しそうに言う。

670名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:28:25 ID:sv0NcSn2
 丁度ニンフィアがバイツの唇から離れたのでキョウカはバイツに一つ質問をした。
「何周したの?バイツ。」
「・・・一周かなー・・・でも・・・」
「でも?」
 バイツは足元にいるイーブイとリーフィアに弱々しく視線を向ける。
「次は私。早くイってシャワーズ。」
「ちょっと待ってよイーブイ!次はアタシ!アンタ三回もヤッたじゃない!」
「でもリーフィア。あんたも三回ヤッたよね。」
「うぐ・・・」
 一人につき一回というレベルの話ではなかった。
「このままだと死ぬわね・・・バイツ。」
 他人事の様にキョウカが言う。
「で・・・キミ達は結局・・・何をしに来たの・・・?」
 何時の間にかブラッキーに接近されていた四人。
「今更私達を助けに?ニンゲンって身勝手ですわ。警察?遅く現れて正義面ですの?」
 エーフィは冷たい視線を向けている。
「どうしてもっと早く救いに来てくれなかったのでしょうねぇ・・・旦那様みたいに。」
 グレイシアに至っては顔に笑みを浮かべているが殺気と冷気を放出しかけている。
 攻撃できない。
 キョウカは指示を出せなかった。
 この場を平和的に収める事が出来るのはバイツしかいなかった。
 キョウカはバイツに視線を送る。
 その視線に気付いたシャワーズ。腰の動きが一層激しくなる。
「お腹の奥・・・当たって・・・ッ!」
 バイツより先に絶頂を迎え激しく仰け反るシャワーズ。
 息を荒くし涙目になりながらバイツの顔に口を近付ける。バイツはそれに気付きシャワーズに優しくキスをする。
 短いキスを終えバイツから口を離したシャワーズ。今まで自分に快楽を与えていたモノを抜くと自分と仲間達の愛液まみれになっているそれの先端にもキスをした。
「ごめんなさい旦那様。私だけ気持ちよくなって・・・次はお尻で精子が出て来るまでしましょう・・・?」
 シャワーズはこう付け足した。
「このニンゲン達を殺した後で・・・」
 バイツの近くにいたイーブイ、シャワーズ、リーフィア、ニンフィアが四人に近付く。
「おいお嬢、こいつはマズいんじゃないか?」
 モウキがイーブイ達から視線を逸らさないで言う。
 イーブイ達は手加減をしないだろう。それにガーディ一人にこの数を止められるとは思えなかった。
 キョウカは最後の手段に出た。
「バイツ、この痴態サーナちゃん達に言うわよ。」
「ハイッ!皆お座り!」
 一瞬だけ全快したバイツがそう言った途端、イーブイ達は瞬時に座った。
 そして、また萎びるバイツ。
 キョウカが内心ガッツポーズをする。彼女はバイツを使うのが結構上手だったりする。



 建物の外では警察官や委員会の職員が慌ただしくしていた。
「・・・うー・・・」
 ヘロヘロのバイツがその様子を腰掛けるのに丁度いい岩に座って眺めていた。

671名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:28:59 ID:sv0NcSn2
 イーブイ達はバイツの周りにいたが今もなお周囲の人間に敵意を放ち続けている。
 ふと、イーブイ達に対し一つの疑問が浮かんだバイツ。
 あまり声を出せない状態だったがイーブイ達に質問する事に。
「・・・なあ・・・何でさっき俺の言う通りに座ったんだ・・・?」
「アハハハ!トーゼンじゃん!大好きなダンナ様のコトバだったんだから。」
 バイツに向き直ってサンダースが明るく言う。
 彼を見るその視線からは好意といった感情が読み取れた。もしかするとそれ以上かもしれない。
 他の皆も同じだった。バイツを見ている時の彼女達の目は先程玩具にしていた割には好意的で優しい目。
「何また素っ頓狂な顔作ってんだよ、好きになったって言ってんじゃねえか。その・・・そんなになるまで搾り取って悪かったと思ってるけどよ。」
 ブースターの声からは好意と反省の色が同時に読み取れた。
「もしかして・・・怒ってんのか?」
「・・・違うブースター・・・ただ好きと言っても・・・皆にここまで想ってもらえるとは思わなくてな・・・」
 バイツが弱々しくだが微笑んでみせるとイーブイ達も微笑みを返した。
「あのさ・・・旦那様。これからの事だけど・・・」
「はーい、バイツご苦労様。」
 イーブイが何かを言いかけた時、キョウカがバイツに向かって歩いて来る。
 イーブイ達は瞬時にキョウカに敵意を向ける。
「・・・なあキョウカさん・・・色々聞きたい事が・・・」
「そうね、でもその前にあんた達全員休息が必要じゃないかしら。」
 キョウカがそう言った途端に委員会の職員が大勢バイツ達の周りを取り囲んだ。
 バイツに組み付き押し倒す職員数名。
 突然の事で消耗しきったバイツは反応できなかった。
「ちょっと!旦那様に何してんのよ!」
 リーフィアがバイツを助ける為に跳びかかろうとした途端、突然職員の一人に体を抑えられ近付いてきたもう一人の職員に注射を打たれる。
 残りのメンバーも同じ様な事をされる。
「イーブイ!シャワーズ!サンダース!ブースター!エーフィ!ブラッキー!リーフィア!グレイシア!ニンフィア!」
 バイツが叫ぶ。
 イーブイ達も最初は暴れ回っていたが徐々に大人しくなっていった。
 目の前が暗くなり始めた時バイツの悲痛な叫びが聞こえた様な気がした。
 その時彼女達は思った。この人は本気で私達の事を想ってくれている。と。
 意識が完全に落ちた時には既に車に乗せられこの地方のポケモン虐待防止委員会の支部へ向かう所だった。
「・・・キョウカさん・・・あんた・・・」
 バイツの声が怒りで震えだす。
「虐待を受けて心に傷を負って人間に不信感を持ち暴れるポケモン・・・私達の業界じゃ珍しくないでしょ。」
 ギリとバイツは歯ぎしりする。
「その上あんたを逆レイプ。弁護は難しいわね。委員会の支部に連れていって検査して回復させるけどその後はどうなるか分からない。」
「・・・あれは同意の上だ・・・俺が引き取る・・・」
「無理よ。あんたにはサーナちゃん達がいるじゃない。それに運よく引き取れたとしても毎日あんな事やってたらいつか死ぬわよ。」

672名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:29:34 ID:sv0NcSn2
 イーブイ達に出会って数時間もしない内にこの体たらく。キョウカの言う事にも一理あった。
「これしか方法が無かったの・・・あまり見せたくないものを見せてしまってごめんなさい。」
 珍しく謝るキョウカ、声色から判断して本気で反省している様なのでバイツはこの件について何も言わなかった。
「・・・もう一つだけ・・・ここは何処だ・・・」
「あんたの家から結構離れた地方よ。色々用があるから少なくとも今週中に帰れるとは思わない事ね。」
 家に帰す気はさらさら無さそうなキョウカ。このパターンかとバイツは力無く項垂れた。



 トレーナーズスクールの教室の一つ。そこでテスラは授業を受けていた。
 エルフーンは教室の後ろの広いスペースでクラスメイトの連れてきた他のポケモンと眠っていた。
 黒板の内容をノートに取りながら先生の話を聞き、時にはサーナイト達の内の誰かを連れてきての簡単なポケモンバトル。そして、休み時間にはクラスメイトとの他愛無い会話。
 充実しているスクールライフ。自分が兵器として造られた人造人間だという事を忘れてしまう位に。
 そして、家に帰れば自分を迎えてくれる家族達。
 それでも時々無性に寂しくある時があった。
 次の授業は講師を招き入れての授業だった。
 何故か集中する事が出来なかったテスラは教室の窓から空を眺めていた。
「今日のポケモン講師、お招きした講師はKOF2002UMからオメガ・ルガール先生です。」
「誰を呼んでるんだよ!ポケモン関係無いやんけ!'96のゲーニッツ呼ぶぞ!超反応で闇慟哭やられてしまえ!」
 男子生徒の一人がツッコミを入れる。
 講師の紹介も男子生徒の声も右から左へ流れていくテスラ。
 ふと、頭の中にバイツの笑顔が過る。
「早速ですがルガール先生ポケモンバトルの基礎とは何ですか。」
「昼の光に、夜の闇の深さはわかるまい。」
「京チームに対しての勝利メッセージやんけ!ポケモンバトル関係無いじゃん!」
 その笑顔が浮かぶ度に胸が苦しくなる。
「次に場に出ているポケモンに対して苦手なタイプのポケモンが出てきたらどうすればいいのでしょうか。」
「あきらめは十分に用意したか?人生の旅支度には何よりも重要だよ。」
「エディットチームに対しての勝利メッセージやんけ!もっと気の利いたアドバイスくれよ!」
 テスラの小さな胸の中で動く恋心。
「ポケモンバトルで強くなる為に欠かしてはいけない事は何だと思いますか?」
「明日は、明日こそは、と人は人生を慰めるものだ。」
「これもエディットチームに対しての勝利メッセージやんけ!設定で常にゲージマックスにしてネームレスをチームに入れて回転型突貫奥義・螺旋を連射するぞ!」
 想える事は嬉しい。でも、苦しい。
「ポケモン育成でこれだけは忘れてはいけないという事は何でしょうか。」
「すまないな、今の私は君達を遥かに超越しているのだよ。」
「オロチチームに対しての勝利メッセージやんけ!何か?キャラランク見てみろお前!クリスはマシだけど残りの二人が下位キャラだぞ!?そんな奴等に勝って嬉しいってか!?」
 想いを伝えたくとも今はいない。
「ポケモンを使って悪事を働く事にどういったお考えをお持ちでしょうか。」
「悪こそこの世の本質なのだよ理解したかい?」
「キムチームに対しての勝利メッセージやんけ!講師として来たなら講師らしいこと言えよ!」
 伝えたい想いが涙になって溢れてくる。

673名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:30:10 ID:sv0NcSn2
「ポケモン達と手と手を取り合って生きていく世界には何が必要でしょう。」
「狂ったこの世で狂うなら気は確かなようだな。」
「八神チームに対しての勝利メッセージやんけ!ポケモン達と暮らすこの世界が狂ってるってか!そんな世界にあんたは呼ばれたんだよこの爆破オチ野郎!」
 あの純粋で真っ直ぐな笑顔を思い浮かべると自然に言葉が漏れる。
「バイツ・・・会いたいよぉ・・・」
 零れ落ちる涙が服を濡らしていく。
 涙が止まらない。
 そんなテスラを知ってか知らずかエルフーンがルガールの前に立つ。
 表情は何時もの笑顔だったが青筋を立てていた。
「うっさい。」
 それだけ口にすると「ぼうふう」をルガールに向けて放つ。
「ぐあぁぁぁ・・・!」
 きりもみ回転をしながらルガールが吹っ飛ぶ。
「ゲェーッ!体力満タンならギャラクティカヴァンガードの一フレームヒット即死を耐えるボス性能ルガールを一撃で倒しおった!」
 先程から頑張ってツッコミを入れる男子生徒。
 ルガールが倒れた事を確認するとエルフーンはまた教室の後ろへ行き眠ってしまった。



 ルガールは傷だらけの体で何とか飛行船に辿り着く。
 そして、笑みを浮かべて自爆スイッチを押す。
 爆発と共に崩れていく飛行船。
 それを遠くから双眼鏡で見ている人物がいた。
「トレーナーズスクールに現れたかと思ったらまた自爆かよ・・・懲りねえな。」
 それはヒートだった。
 携帯電話でとある男に連絡を入れる。
「もしもし、ハイデルン長官?ルガールを見つけたんですがまた自爆しました。ハイ・・・ハイ・・・分かりました。じゃ切ります。」
 ヒートは溜め息を吐き、空を見る。
 ルガールを監視している時偶然目に入ったものを思い出した。
 それは泣いているテスラ。
 学校では虐められている様子は無かった。
「・・・ま、バイツの事考えてたんだろうな。」
 独り言ちて自己嫌悪に駆られる。
「何やってんだろうなアイツは。」
 気晴らしに太陽が上がっていない方向を向いて空を双眼鏡で見上げる。
「ん?」
 ヒートが何かを発見する。橙色をしたポケモンだった。低速飛行で飛んでいる。
「あれは・・・確かデオキシスとか言ったな・・・前に格ゲーで俺をハメ殺しした奴じゃねーか。いやあれはノーカンだったけど・・・何処に飛んでいくんだ?」
 何となく気になったヒートはライキを拾ってからデオキシスを追う事にした。



 夕暮れ時。浮かない表情を浮かべながらテスラは帰路についていた。
 一度バイツの事を考えると中々頭から離れない。

674名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:30:41 ID:sv0NcSn2
 フラワーショップに帰ってきた時、店頭に花は残っていなかった。
「あっ!二人共お帰り!」
 店頭を片付けていたミミロップがテスラに気付き声を掛ける。
「ただいまミミロップ。」
 笑顔を無理に作って返事をする。
「何かあっちゃったの?ちょっと暗いよ?」
「ちょっと疲れただけ。後で耳先の毛のお手入れ手伝うね。」
「うん。ありがとー!」
 ミミロップに感情を見抜かれかけたが何とか誤魔化す事が出来た。
「お帰りー!」
 クチートも二人を出迎える。
「ただいまクチート。ほらエルフーンだよ。」
「エルー!」
「クチー!」
 じゃれ合う年の近い二人を見てテスラは家の中へ。
「お帰りなさい。」
 玄関にいたドレディアがテスラに微笑む。
「うん、ただいま。」
 微笑みを返すテスラ。
「お店の方はどうだったの?」
「いつもの通り大盛況でした。ルルはいつも無茶をするからフォローが大変で・・・」
「でも楽しそうな顔をしてるよ?頭の花飾りも何だか鮮やかだし。」
「ふふ、そうですか?」
 ルルのフォローをするのが性に合っているとでも言いたげに楽しそうに笑ってみせるドレディア。
 ドレディアの頭を撫でてテスラは部屋までの道を歩く。
「お帰りなさい。」
「ただいま。ムウマージ。」
 テスラはジッとムウマージの顔を見る。
「どうかしたの?」
「んー・・・ちょっと相談があるの。ムウマージって恋の願いが叶う呪文とか知っていたりする?」
「呪文というよりは呪いの類ね。でもどうしてそんな事訊くのかしら?」
「仲良くなった女の子がね、他のクラスの男の子を好きになってそれでどう告白すればいいのか分からなくて困っているの。」
「両想いにする呪いならある事はあるけど・・・でもこれは本当の愛じゃなくてあくまでも呪いなの。だから・・・」
「予想しない事が起こる事もある・・・って事?」
「そういう事。その女の子、一度相手に自分の言葉で想いを伝えてみたらどう?どんなにちぐはぐな言葉でも想いが本物なら届くわよ。」
「うん、分かった。告白の後押ししてみる。ありがとう、相談に乗ってくれて。」
「いいのよこれ位。お安い御用だわ。」
 ムウマージも役に立てて何処か嬉しそうな表情を浮かべた。
「お帰り。」
「ただいま。タブンネ。」

675名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:31:16 ID:sv0NcSn2
 ムウマージと一旦別れると今度はタブンネに出会う。
 その瞬間テスラはタブンネに抱きついた。
「んー!タブンネ柔らかい!」
「く・・・くすぐったいよ。」
 そう言いながらもタブンネは楽しそうだった。
 しかし、テスラの体に耳の触角が触れた際テスラが押し隠していた気持ちを読み取る。
 それは強い想いとそれにまとわりついて来る悲しみ。
 タブンネに隠している気持ちを読み取られている事など露知らずテスラはタブンネに抱きつき続けている。
 何を隠しているのか尋ねようとしたがタブンネは口には出さなかった。代わりにテスラの悲しみを少しでも紛らわせようとタブンネもテスラに抱きつく。
「いい匂い・・・」
 テスラの小さな胸に顔を埋めるタブンネ。
 少しの間二人はお互いの体の感触を味わっていた。
「もしかして抱きつかれるの嫌?」
 テスラがタブンネの体から離れてそう言った。
「私は嬉しかったよ。それ位想ってくれてるって事だから。」
 タブンネが笑顔を浮かべてそう言うとテスラも笑顔を浮かべた。
 タブンネの感触を楽しんだテスラは次にゾロアークと出会った。
「おや、お帰り。」
「ただいま。ゾロアーク。」
 ふと、テスラはゾロアークの長い髪の毛を触り始めた。
「ど・・・どうしたんだい?急に。」
「ゾロアークって・・・髪質いいよね。何か特別なお手入れとかしてるの?」
「いいや、これといって何にも。テスラだっていい髪してるじゃないのさ。」
 ゾロアークも爪でテスラの長い銀色の髪を撫でる。
「そう?」
「色々な髪型が出来そうだね、ポニーテールなんてどうだい?」
「うーん・・・」
 テスラが考え込むのでゾロアークは付け足した。
「いや、今の髪型が似合ってないって訳じゃないんだよ?あくまでもバリエーションの一つとして・・・」
「ポニーテールは形的にクチートと被っちゃうから。でもお揃いもいいかなーって。」
 テスラの言葉にゾロアークは軽く噴き出した。
「今のままでも十分可愛いさ。無理に変わる事はないんだから。」
「うん。ありがとうゾロアーク。」
 ゾロアークとも別れたテスラは自分とルルの部屋に荷物を置きに向かう。
「あら、お帰り。」
「ただいま。コジョンド。」
 コジョンドを見て何かに気付いたテスラはコジョンドの両手の長い体毛を弄り始めた。
「ど・・・どうしたの?」
 コジョンドが困惑の声を上げた少し後テスラはコジョンドにあるものを見せた。
「花?」
 それは小さな白い花。茎の部分が無かった。
「うん、引っかかってたみたい。」
「お店の手伝いをしていた時に付いたのかしら?」
 テスラは少しその花を眺めた後微笑んでコジョンドの頭に花をつけた。

676名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:31:57 ID:sv0NcSn2
「可愛いよコジョンド。」
 真っ直ぐな笑顔でそう言うテスラ。コジョンドは少し照れ臭そうにしてこう言った。
「私みたいなはねっかえりには似合わないわ・・・貴女が付けるべきじゃない?」
 コジョンドが自分の頭から花を取るとテスラの髪につけた。
「フフ、ほらこれで一段と可愛くなった。」
 今度はコジョンドが笑顔を浮かべる。
「じゃあ私、今度コジョンドがもっと可愛くなるようにルルと一緒に花飾り作ってあげる。」
 テスラの言葉に対して自分はそういうのは似合わないと返そうとしたコジョンド。だがテスラの笑顔を見ている内に断るのが難しくなってくる。
「あら、じゃあこんなはねっかえりをどれだけ可愛く出来るかお手並み拝見させてもらうわ。」
「任せて!」
 張り切ってテスラはコジョンドと別れた。
 居間には誰も居なかった。
 通り過ぎようとした際、台所からユキメノコが姿を現す。
「あらあ、お帰り。」
「ただいま。ユキメノコ。晩御飯の準備?手伝う?」
「ええのよ。お勉強してきて疲れたでしょう?休んでてええよ。」
「でも・・・」
「大丈夫。ウチ頑張るから。」
 ユキメノコを心配そうに見つめるテスラ。そんな彼女を宥めるかの様にユキメノコはこう言った。
「じゃあ今度お料理教えます。そん時皆はんを驚かせる美味しいお料理作りましょ?」
 笑顔でユキメノコがそう言ったのでテスラも笑顔を浮かべる。
「うん。分かった。約束だよ?そういえばサーナイトとアブソルは?」
「サナはんとアブはん?足りんもの買いにちびっと前に出かけたわぁ。でも、すぐに帰ってきます。」
「そう。それならいいよ。ありがとう。」
 テスラは自分とルルの部屋に行く。
 ルルは居なかった。
 この家は広かったが欠点として誰が何処にいるか分かりづらい。
 皆で一緒に暮らしていてもまだ広い。
 家の一部を皆で悩みに悩んでフラワーショップにしてもまだ広かった。
「家の何処かに居るのかな。」
 取り敢えず机の上に荷物を置き、自分とルルの分の布団を敷く。そして、自分の布団の上に倒れ込む。
 目の上に腕を置く。
 暗闇の中浮かび上がるのはバイツの笑顔。
 心臓の音が静寂な部屋の中に響き渡る位大きくなっていく。
 それに少し下半身が疼く。
「バイツ・・・」
 ミニスカートを少し捲りパンツの中に右手を入れる。少し弄ると濡れているのが分かった。
 途端にバイツと会う前の事がフラッシュバックする。
 汚い男共に体を弄ばれていた自分を思い出す。
 テスラは首を横に振った。今は違うという風に。
 右手の動きを少し激しくする。小さな水音がパンツの中に響く。
「まだ・・・まだ足りないよ・・・バイツ・・・」
 左手でシャツを胸元までたくし上げる。
 小さく膨らんだ胸を弄ると乳首がもう反応しているのが分かった。

677名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:32:32 ID:sv0NcSn2
 両方を弄り回しバイツの事を想い快感に体をくねらせる。
「・・・ッ!」
 そろそろ絶頂を迎えそうになった時にふと声が聞こえた。
「テスラ様?帰っているのでしょうか。」
 部屋の戸が開いた。
 そこに立っていたのはサーナイト。
 自慰行為の最中のテスラとばったり目が合う。
「・・・!」
「どうなさいました?」
 それでもサーナイトは驚く事無く微笑み返した。
「ごめんなさい・・・私・・・バイツの事が頭から離れなくて・・・悪い事だとは思っていたけど・・・バイツで・・・」
 涙ぐむテスラ。
 そんな彼女から感じるのは真っ直ぐなバイツへの感情だった。
「テスラ様・・・少しよろしいですか?」
 サーナイトはテスラの唇に自分の唇を重ねた。
 流れてきた映像はバイツの笑顔。そして強い想い。
 唇を離すサーナイト。
「テスラ様・・・これは貴女にとって教育上あまりいい事ではないとは思いますが・・・女の子同士でエッチ・・・しませんか?」
 意外な言葉にテスラは返答に困った。
 しかし、サーナイトが自分の為に言ってくれたと思うと断るのが難しくなってくる。
 少し悩んでテスラは首を縦に振った。
 サーナイトはもう一度今度はゆっくりとテスラと唇を重ねる。優しい感触にテスラも遠慮がちに唇を貪る。
「まずは服を脱いでいただけますか?」
 唇から離れ微笑んでサーナイトが言う。
 テスラはベストとシャツを脱ぐ。サーナイトはミニスカートとパンツを脱がせる。
 色白の綺麗な肌がサーナイトの目に入る。
「あんまり見ないで・・・その・・・恥ずかしいから・・・」
 真っ赤になってテスラが呟く。
 パンツを見てサーナイトが言う。
「これ程濡らして・・・マスターの笑顔だけで?」
 恥ずかしそうにテスラは頷く。
「・・・少し刺激的ですけれども、私とマスターが初めて交わった時の映像をお見せしますね?」
 サーナイトが自分の額をテスラの額に優しく当てる。
 流れ込んでくる映像にテスラは集中した。
 サーナイト主観のその映像ではバイツが上に覆い被さっていた。
 不意にバイツが横に転がり上下が逆転する。
『俺が上だと重いだろ・・・?』
 頭の中に流れた久しぶりのバイツの声にテスラは涙を流す。
『一転攻勢・・・ですね?』
『参ったな・・・』
 二人が繋がっている部分が見えた。
 興奮がさらに高まる。
 サーナイトはテスラのその状態を読み取り、右の小さな乳首に舌を這わせ、左の乳首を手で弄り始めた。
「うあっ・・・!」
 テスラがその感覚に声を漏らす。

678名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:33:16 ID:sv0NcSn2
 彼女の脳内に流れている映像はバイツに突き上げられているシーン。
 左の乳首を責めていた手は何時の間にか濡れている秘部へ。
 ゆっくりとサーナイトの指が濡れているテスラの中へ入っていく。
 軽く出し入れを繰り返すとすぐに絶頂を迎えた。
 涙を流しながら顔を紅潮させ肩で息をしているテスラ。
 サーナイトは手に付いたテスラの愛液を一舐めする。
 余韻に浸っているテスラを見てサーナイトは邪魔してはいけないと思い何も言わないで立ち去ろうとした。
 立ち上がってテスラに背を向けるとローブの裾をテスラが掴んできた。
「はい?」
「サーナイト・・・しゃがんで・・・」
 言葉通りに膝立ちでしゃがむサーナイト。
 まだ息が荒いテスラはサーナイトにキスをした。
「お礼・・・してない・・・」
 唇を離しそう言ったテスラはサーナイトの下半身に手を伸ばす。
「んっ・・・」
 小さな手がサーナイトの秘部を弄る。
「サーナイトも濡れてる・・・」
 微笑みを浮かべるテスラ。
 サーナイトもあの映像を思い浮かべた際に濡れていた。
 たどたどしい手つきだったがサーナイトの感情は昂ぶりを見せていた。
 急にテスラの手の動きが止まった。
「・・・もしかして・・・気持ちよくない?」
「どうしてその様な事・・・」
「私・・・今まで責められる側だったから・・・こっちから責めるのは初めてで・・・」
 自信なさげに俯くテスラ。そんな彼女をサーナイトは抱きしめる。
 温かい抱擁に少し戸惑う。
「続けてください・・・テスラ様。十分気持ちいいですよ。」
「うん・・・」
 再び室内に響く吐息の音と水音。
 サーナイトの中を小さな指が二本で責めたてる。責められていた彼女は吐息と共に微かな声を漏らしていた。
 心臓の鼓動が速くなっていく二人。
「テスラ様・・・?」
「何?サーナイト。」
 サーナイトがテスラを再び抱きしめて唇を重ねる。そして激しく舌を絡め合う。それだけでは終わらず再度テスラの秘部に指を這わせる。
 十分に濡れている事を確認して、先程よりも深めに指を入れる。
 テスラの体が反応する。
 二人の手は互いの愛液まみれ。そんな事は意に介さず二人は責め合う。
 遂に絶頂を迎えるサーナイトとテスラ。
 軽く仰け反り、互いの体を布団に誘導する。
 二人の呼吸は荒く、また秘部もぐっしょりと濡れていた。
 互いに何か言葉を掛けようと相手を見た時、部屋の戸が開く音がした。
「随分仲が良いのね。二人共?」
 ルルが笑みを浮かべてサーナイトとテスラを見ていた。



 室内に響く水音は先程よりも激しかった。

679名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:33:52 ID:sv0NcSn2
 重なっているサーナイトとテスラ。
 サーナイトが下、テスラが上。二人は両脚を広げて腰を動かし互いの秘部を繋げている双頭ディルドを味わっていた。
「アッ・・・ハァ・・・テスラ様・・・!あまり動かさないで・・・アアッ!」
 ローブを脱ぎ裸になったサーナイトが激しくその身を仰け反らせる。
「バイツ・・・!もっと・・・もっと奥まで突いて!」
 テスラはそれをバイツのモノだと思いながら小さな膣内を一杯にし、乱れている。
「二人共激しいねー」
 ルルが愛液とローションまみれになっている双頭ディルドと二人を順々に見ながら口を開いた。彼女も裸になっている。
「次は別々のサイズ試してみる?」
 そう言った彼女の足元には様々なアダルトグッズが置かれていた。
 二人の表情が目に入ったルル。涙目になりながら、口から流れ出す涎を気にせずに快楽を求め続けている。
「ヤバい・・・二人共超可愛い・・・」
 ふと、自分が変な性癖を持っているのではないかと疑ったルル。
 変な事を考えかけ頭を横に二、三度振る。
 少なくとも今はバイツの代わりに振る舞おうと考えていた。
 いつかどこかで誰かのこういう事の手助けをしなければ我慢を重ねて心を潰しかねない。
 それにあの人の事だ、求められれば応じてしまうだろう。とルルは思っていた。
 その上今は丁度女の子達だけで暮らしている。こういう道具を揃えておけばいつか役に立つ。
 現に今こうやって使っている。
 余計な事かもしれないがルルはこういう事でも家族を助けたかった。
 サーナイトとテスラの動きが一際激しくなり止まる。二人共同時に果ててしまった様だった。
「ねえ・・・二人共・・・抜くよ?」
 ルルは二人を繋いでいる双頭ディルドをゆっくりと二人の膣内から抜いていく。
ディルドが抜けた後の二人の秘部は愛液で濡れて桃色の部分を見せていた。
サーナイトの上にいたテスラは力尽きたかのようにサーナイトの隣に倒れ込んだ。
「どうかな二人共、満足した?」
ルルは笑みを浮かべながらそう言った。
「・・・は・・・はい・・・」
 息も絶え絶えにサーナイトが返事を返す。
「ルル様・・・」
「どうしたの?サーナイト。」
「どうして無理をなさるのですか・・・?」
ルルは一瞬言葉を失った。
「私とテスラ様を慰めてくれた事には感謝しています・・・ですがそれはマスターの様に振る舞おうとしての行動ですね?」
何も言い返せなかったルル。
「・・・大丈夫です。」
サーナイトが優しい声で言う。
「ルル様が無理をなさらなくとも・・・」
「でもそれじゃ・・・!」
言葉が続けられなかった。
「ルル・・・」

680名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:34:26 ID:sv0NcSn2
テスラがルルを見ながら口を開く。
「大丈夫だよ・・・それにルルも我慢しなくていいから・・・」
テスラは体を起こしてルルに近付く、そして唇を重ねる。
「・・・!」
ルルは顔を紅くし目を見開いた。
テスラの手がゆっくりとルルの秘部へと近付いていく。
割れ目の部分を軽くなぞるとルルの体が反応する。
「ルルも・・・濡れてたね。」
テスラの言葉にルルは更に顔を紅くした。
「今度は私達がルル様を満たして差し上げます。」
サーナイトもルルに近付く。
「丁度色々な道具もある事ですし・・・」
「ま・・・待って、二人共!」
ルルが迫ってくる二人を止める。
「その・・・嫌って訳じゃ無いんだけど・・・前の穴は止めてね・・・私・・・その・・・処女だから・・・」
ルルは俯きながら言葉を続ける。
「二人の初めてが望まない相手だったって事は知ってる・・・でも気を悪くしないでね・・・私の初めてはバイツさんにあげたいの・・・」
 サーナイトとテスラは意外な事に微笑みを浮かべた。
「そのお気持ち十分理解できます。大丈夫ですよ、そういう事が普通ですから。」
「ルル・・・可愛いね。私も応援する。」
 テスラの頭にふと疑問が浮かんだ。
「じゃあルル・・・今までどうやって自分を慰めてたの?」
 これ以上ない位にルルが顔を紅くして口を開いた。
「お・・・お尻の穴で・・・み・・・皆にバレない様に・・・」
「じゃあお尻の穴で気持ちよくしてあげるね。」
「待ってテスラ!さっきトイレに行ってきたけどお尻を洗った訳じゃないし・・・」
「大丈夫ですルル様、四つん這いになってお尻を突き出していただけますか?」
 ルルは顔を真っ赤にしたままサーナイトの言う通りに四つん這いになり形のいい尻を突き出した。
 露わになった肛門にサーナイトが指を当てる。
「ひゃっ・・・!何するの?サーナイト。」
「サイコパワーで残っているお尻の中身を奥の方へ戻すだけですよ。」
 少しすると腹部が微かな音を立てて動いた音がした。
「これで綺麗になりましたよ。」
 サーナイトが指を離しながら微笑み言う。
 それと入れ替わる様にテスラがルルの肛門に舌を這わせる。
「ちょ・・・ちょっと!?」
 唾液を十分に纏わせた舌は肛内へと入っていく。
「・・・!」
 指やアダルトグッズとは違う新しい感覚。
 様々な動き方をするテスラの舌がもたらす快楽に息を荒くし涙目になりながら布団のシーツを掴む。
 それからそれが何分続いたかは分からない。
 ただ一つ言える事はテスラが舌を抜き終わった時、ルルは絶頂を迎える一歩前だったという事だった。
「ルルのお尻の穴、ひくひくしてる。」
 楽しそうにテスラは笑みを浮かべる。そして、細いディルドを手に取るとルルの肛門にあてがう。

681名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:34:59 ID:sv0NcSn2
 ゆっくりとディルドを挿入していく。
 深く入っていく程にルルは体をビクリと反応させる。
「テスラ様?ルル様は絶頂を迎えたいようですよ?」
「分かった・・・気持ちよくなってね・・・ルル。」
 ディルドの残りの部分を一気に入れるテスラ。大きくルルは体を仰け反らせディルドを挿したまま倒れた。秘部を多量の愛液で濡らして。
 テスラがディルドを抜く時も軽くルルは絶頂を迎えた。
 息を荒くしたまま倒れ込むルルの隣でテスラも横になった。更にテスラの横でサーナイトも横になる。
 テスラは満足そうに二人に挟まれていた。
「ルル様、テスラ様。」
 サーナイトが柔らかい笑みを浮かべながら口を開く。
「もしもまた感情を抑えられなくなったら・・・私に言ってください。その時はどの様な要求にでも・・・」
「サーナイト、そんな事言わないで。こういう事がまたあったとしたも一緒に気持ちよく・・・ね?」
 ルルがサーナイトの頬に手を添え微笑む。
「はい。」
 サーナイトは静かに頷いた。
 そんな三人を部屋の外からこっそり覗いている影が二つあった。ムウマージとアブソルだった。
 聞こえない様に小声で話し合っている。
「サーナも損な役回りね・・・多分、そういう事になったら一人で私達を満足させる気でいるのよ・・・」
「・・・サナらしいと言ったらサナらしいな。」
「私・・・サーナの重荷になりたくないの・・・だから・・・」
「求める訳にはいかない・・・か?」
「そうね・・・」
「お前も損な役回りだなムウ。」
 悲しげな微笑みをアブソルに返すムウマージ。
 二人は感付かれない様にその場を後にした。
 空を焼いている様な紅い夕焼けの光は徐々に夜の暗闇に変わっていった。



 とある建物の一つの部屋。
 その建物に出入りする人間達はその部屋をスタジオと呼んでいた。
 スタジオ内には一体の雌ポケモンと十人程の男達。その内の半数は裸だった。
 様々な撮影機材と照明道具その先にいたポケモン、ラランテスは両腕を縛り吊るされ怯えながら男達を見回していた。
 男達はその反対にラランテスを笑いながら見ていた。
 そして「撮影」が始まる。
 裸になっている男達が興奮しながら陰部を勃起させラランテスに近付く。
「い・・・嫌・・・」
 ラランテスが涙目になりながら男達を拒もうとする。だがそれは男達をより一層興奮させるだけであった。
 男の一人がラランテスの両脚を広げ秘部を確認する。
 一際醜く笑うとラランテスの秘部を濡らす事無くいきり立った陰部をいきなり挿入した。
「・・・っあ・・・!・・・ああ・・・!」
 結合部から少量の血が流れる。
 無理矢理広げられた膣口、声にならない声、全身を貫く様な痛み、痛みからとめどなく流れ出る涙。
 そんなラランテスを無視し男はラランテスの「初めて」を堪能する。

682名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:35:41 ID:sv0NcSn2
 そして無理矢理深く突き上げて射精。
 その後は入れ替わりに男達がラランテスを堪能する。
 彼女にとっては地獄のような時間だった。いや、地獄そのものだった。
「そろそろ後ろの穴も開発しましょうか。」
 男の一人が言った。
 用意されたのはローションと男達の陰部と変わらない大きさのディルド。
 ラランテスの肛門にローションを垂らす。
 ディルドにもローションを塗り先端をラランテスの肛門に当てる。
「や・・・止めて・・・止めてください・・・」
 懇願するラランテス。
「尻の穴の初めてを堪能するのもいいんだがなぁ。」
「たまんねえよな、キツイ中を無理矢理こじ開けていく感じがよ。」
 笑いながら男達は言う。
 そして、笑いながらラランテスの肛門の中にディルドを勢いよく深く突っ込んだ。
 先程とは比較にならない痛み。
 裂けはしなかったがそれでも段階を踏まずにいきなり異物を挿入されて激痛を感じない訳が無かった。
 痙攣するラランテスの体。
 意識が飛びそうになりながらも男達の笑い声は聞こえていた。
「助け・・・て・・・」
 弱々しく呟き止まる事の無い涙を流す。
 その時、スタジオの入り口のドアが大きな音と共に吹っ飛んだ。
 全員がその方向を向く。意識が飛びかけていたラランテスも音のした方を向く。
 そこから入ってきたのはバイツ。
 最初は男達に鋭い視線と敵意を向けるだけであったが、両腕を縛り吊らされているラランテスを見るとそれは殺気に変わった。
「・・・潰す!」
「け・・・警備班に連絡を・・・!」
 男の一人が震えながら言う。
「警備班?少し遊んだらすぐ壊れたあの連中の事か?」
 バイツの姿が消える。
 それからほぼ時差を置かずに男達の体が弾け飛んだ。
 血、折れた歯、胃液。
 色々と撒き散らし倒れていく男達。
 バイツの視線がラランテスに向けられる。
「あ・・・ああ・・・」
 怯えるラランテス。
 彼女に近付くバイツ。
「大丈夫か?」
 しゃがんで右手をラランテスに近付けるとラランテスは震え始めた。
 そして、膣内から破瓜の血と共に流れ出す精液を見たバイツ。
「・・・済まない。こんな事されて・・・怖かったよな・・・痛かったよな・・・」
 悲しみを帯びた優しい目がラランテスに向けられた。
 ラランテスはその目を見て警戒心を緩める。
「今・・・両手の縄を解くから・・・」
 両手を縛っていた縄を解きラランテスを自由にしたバイツ。

683名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:36:12 ID:sv0NcSn2
「助けるのが遅れてゴメンな・・・」
 ラランテスは感じた、この人間は本心から謝っていると。
 それで完全に警戒心を解いたラランテスはバイツの胸にその身を預けた。
 バイツもラランテスを抱きしめる。
 その時バイツは気付かなかったがラランテスは顔を紅くしていた。
「あの・・・」
「どうした?」
「お願いがあるんですけど・・・いいですか?」
「何だ?」
「お尻に刺さっているこれを抜いてくれますか・・・?」
「ああ・・・」
 バイツはラランテスを膝立ちにさせ抱きしめながら彼女の肛門に挿入されているディルドに手を掛けた。
「なるべく力を抜いていてくれ。」
「はい・・・」
 徐々にバイツが肛門からディルドを抜いていく。
 痛いのかラランテスは体を時々震わせるがその度にバイツは抱きしめる力を少し強くする。
 お陰でラランテスは声を上げる事無く痛みを我慢する事が出来た。
 ここで妙な事が起こった。ラランテスの脳がこの行為をバイツとの性行為だと認識し始めた。
 痛みが快楽に変わっていくのにも時間は掛からなかった。
 快楽からか体が小刻みに震えはじめる。
 その時、ディルドが全て出てきた。
 絶頂まで後一歩という所で行為が終わったのでラランテスは少し残念に思った。
「悪いがもう少しだけ我慢してくれるか?」
 そう言った後何を思ったのかバイツはラランテスの肛門に指を入れて弄り始めた。
 ビクンと体を反応させるラランテス。
「ん・・・っ・・・」
 微かに甘い声が漏れる。
 弄っているのはそう長い時間では無かったがバイツが指を抜いた瞬間ラランテスは絶頂を迎えた。
「よし、出血は見られないな、少なくとも裂傷は無いか・・・ん?どうした?」
 肛門内に傷が無いか触診してみたバイツ。手に巻きついている包帯の指先には少量のローションとラランテスの腸液しか付着していなかった。
「な・・・何でも・・・ありません・・・」
 ラランテスもこれで絶頂を迎えたと思われない様に普通通りに振る舞おうとする。好意を持った異性にはしたないと思われたくなかった。
「ここから出よう、立てるか?」
「は・・・はい・・・」
 震える足で立ち上がるラランテス。しかし、力が入らずすぐにバランスを崩して倒れそうになる。そこをバイツが寸前で抱きかかえる。
「ごめんなさい・・・」
「いいさ。」
 バイツはラランテスをお姫様抱っこするとスタジオを後にした。
 それと入れ替わる様に警官隊が入ってきて男達を逮捕する為駆け寄った。そして、息を呑む。
 男達は辛うじて生きている状態だった。まるで人間以外の何かに襲われたような怪我。
 出血はもちろんの事。下顎は砕け、肋骨は殆どが折れ、手足に関節部分が一つ増え、と全員が重傷を負っていた。

684名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:36:56 ID:sv0NcSn2
 今出て行ったポケモン虐待防止委員会の少年が一人でここまでしたのかと思うと凄惨な現場に慣れているはずの警官隊でも背筋に冷たいものが走った。



 ラランテスをお姫様抱っこしながら建物の出口まで歩くバイツ。
 外は既に黄昏時、建物の所々に明かりがついていた。
 バイツとラランテスの隣を警官や救急隊が通り抜けていく。
 ラランテスはバイツの顔を見上げていた。
「んー?どうした?」
 バイツはラランテスが自分の顔に視線を向けている事に気付き、声を掛ける。
 その優しい微笑みにラランテスは顔を紅くしバイツの顔から少し顔を逸らす。
「あの・・・お名前を聞いてもいいですか?」
「ああ、俺はバイツ。」
「私はラランテスっていいます。」
「ラランテス・・・ね・・・確か進化前はカリキリでアローラ地方に生息しているんだったな?」
 そこそこポケモンの生息地域には詳しいバイツ。
「ここはアローラじゃない・・・言いたくなければ言わなくていいが、どうやってここへ?」
「捕まった後無理矢理戦わされて進化して・・・売られたんです。売られたというのは少し前にここにいた人達がそう話しているのが聞こえました。」
 バイツの心の中でこの組織の連中に対し純粋な怒りの炎ではなく殺意をはらんだ憎悪の炎が燃え広がる。
「・・・バイツさんはこの地方に住んでいる人ですか?」
 ラランテスの声で意識を目の前の事に戻すバイツ。
「いいや、俺もこの地方に住んでる訳じゃない。」
 バイツは自分が住んでいた地方と街の名前を口にする。
「色々あってここの地方に来てな、やる事やったらすぐに帰る予定だ。」
「やる事?何ですか?」
「ラランテスに乱暴していた連中の組織潰し。」
「ひ・・・一人でですか!?」
「一人じゃない、警察のバックアップもある。」
「でもさっき私を助けてくれた時は一人で・・・!」
「殆ど人間じゃないからな・・・俺・・・」
 ラランテスをゆっくりと床に降ろし、バイツは両手のオープンフィンガーグローブを外し、両手が見える様に包帯を解く。
 現れたのは紅い右手と黒い左手。
 ラランテスはバイツの両手をジッと見ていた。
 包帯を手早く適当に巻き直しオープンフィンガーグローブを填める。
「・・・怖かったか?この両手には人間を遥かに超えた力があるんだ。」
 再度ラランテスをお姫様抱っこしながらバイツは言った。
「いいえ・・・でも納得しました。バイツさんがあんなに強い理由。」
「そうか・・・っと、そろそろ出口だ。」
 ラランテスは残念に思った。もう少しこうしていたかった。出来る事ならばずっと。
 そして言い出せない事もあった。
 あなたのポケモンにしてほしい。
 だが、言い出すのが怖かった。
 手持ちが一杯だと言われたら。そもそもポケモンがいらないと言われたら。
 複雑に揺れ動くラランテスの心。

685名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:37:48 ID:sv0NcSn2
 そして、二人は先程より暗くなった外に出た。
 風が少し冷たい。
「バイツ、こっちよ。」
 キョウカの声が聞こえた。
 バイツはラランテスと共にキョウカの近くに行った。
「その子は?」
「・・・あいつらに乱暴されていた。」
「分かった。あの車の近くにいる職員に引き渡して。検査しながら支部まで送るわ。」
 バイツはラランテスを立たせて委員会の人間に託した。
 ラランテスは救急車によく似た車に乗せられる際にバイツに視線を移した。
 バイツもまたラランテスに視線を移した。
 二人はとても悲しい目をしていた。
 バイツが無理に笑顔を作る。
「またな、ラランテス。」
 さようなら。ではなく、またな。と言ったバイツ。
「はい。」
 ラランテスもその気遣いに涙を流しながら笑みを浮かべた。
 そして職員に車に乗せられ、車は発進した。
 車が見えなくなると同時にモウキがバイツに駆け寄ってくる。
「おいバイツ、もうちょい加減できなかったのか?大体の奴が話を聞くどころの状態じゃねえ。」
「加減?十分にしたつもりだが?それに全員生きているんだろ?俺は指示を守った。」
「だが・・・」
「いいんじゃないかしら刑事さん。バイツを使うって事はそういう事なのよ。」
 キョウカが話している二人に近付く。
「さ、これでここの仕事はお終い。新しい情報も入ってこないしこの後皆で飲みに行かない?」
「まあ、俺は構わねえが?」
 モウキも賛成する。
「分かった、付き合うよ。」
 断っても無駄だろうと思ったバイツも参加する事にした。
 本当は他に捕らわれているであろうポケモン達を解放したいところだったが情報が無くその上見知らぬ土地である。
 情報が入るまで大人しくしているのも一つだと思った。
 その心に灯った憎悪の炎を燃やしながら。



 飲みに行く事になったもののキョウカとモウキはもう少しやる事が出来たらしく二人の事が済むまで少し時間が空いたバイツ。
 仮住まいの安ホテルの一室に戻ったバイツはシャワーを浴びる事に。
 服を脱いで両手のオープンフィンガーグローブと包帯を外し浴室へ。
 その際洗面台の鏡に視線を移す。
 自分の顔が目に入る。
「うーん・・・短時間でこの回復力・・・」
 イーブイ達に散々搾り取られて枯れていた筈なのに今は普通の顔に戻っている。
 次に漆黒の体が目に入る。
 それに関しては自嘲的な笑いを浮かべるだけで何も言わなかった。

686名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:38:31 ID:sv0NcSn2
 手早くシャワーを浴び、浴室から出て体を拭きパンツとズボンを穿き両腕に新しい包帯を巻く。そしてオープンフィンガーグローブを填め、上半身に服を着る。
 そこで、丁度ノックの音がバイツの耳に入る。
 ドアを開けるとそこにはキョウカ、ガーディ、トウマ、モウキが立っていた。
「あら、お風呂上り?」
 バイツの濡れている髪を見てキョウカが言った。
「まあ、そんなところ。」
「じゃあ早く行きましょ。」
「あ、もう少し待ってくれ。」
「何?髪を乾かすの?」
「違う違う。俺が渡り歩いてきた異世界の金貨があるんだ。それを質屋で換金してもらおうと思って。何せ今この世界の手持ちが無いからな。」
「バイツ・・・お前さん、身分証明書は?」
 モウキが訊くがバイツは意地の悪い笑みを浮かべてこう返した。
「モウキさんの警察手帳がある・・・まあ警察のお墨付きって訳だ。」
 モウキは呆れた様に溜め息を吐いた。



 ラランテスは車に揺られながら顔を紅くしぼんやりとしていた。
 考えているのはバイツの事。
 向けられた悲しく、そして優しい笑顔を思い出す度に頭の中でそれ以外考えられなくなる。
 そして溜め息。
 気持ちを伝えるべきだったのだろうかと今更後悔し始める。
 車が停まった。
「さあ降りて。大丈夫、ここで検査して回復させたらアローラ地方に戻れるから。」
 一緒に乗っていた女性職員にそう言われてラランテスは頷いた。
 そして心が沈む。アローラ地方に戻されればバイツと会えなくなる。
 泣きそうになるのを何とか堪えながらラランテスは車を降りた。
 どうやら建物の駐車場らしく何台もの車が停まっていた。
 女性職員に促され建物へのドアに向かう。
「バイツさん・・・さようなら・・・でしょうか・・・」
 誰にも聞こえない様に呟くラランテス。
 その時そのドアが爆発した。
「え・・・?」
 ラランテスは驚き思考が一瞬停止した。
 煙の中から九つの影が飛び出してきた。
「ケホッ・・・ちょっとブースター!少し派手じゃないの!?」
 リーフィアが少し咳き込みながら言う。
「いいじゃねえかリーフィア、ここまで来てまた捕まりたくねえだろ?」
 ブースターは自分が吹っ飛ばしたドアに視線を向けながら軽く口から火を噴く。
「私の「サイコキネシス」でも同じ事が出来ましたわよ?」
 エーフィは笑みを浮かべる。
「どうでもいいわ、早く抜けましょう。」
 シャワーズが辺りを見回す。

687名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:39:04 ID:sv0NcSn2
 その視界にラランテスと数人の職員が目に入る。
「あらぁー・・・先回りされていたみたいですねぇ。」
 グレイシアが危機感無くのほほんと言う。
 しかし、それは予想していた事だったのでのほほんと出来る余裕があった。
「だったら倒すまで・・・ボク達は旦那様の元へ向かう・・・」
 ブラッキーが周囲の職員に敵意を向ける。
 職員達も只事ではないと思い腰のモンスターボールに手を掛ける。
「キャハハハ!この程度なら何の問題も無いよ!」
 サンダースは体の周りに電気を軽く放つ。
「ですが、一々戦うのは面倒なので・・・」
 ニンフィアがリボンの様な触角を伸ばす。そして、それをラランテスに巻きつける。
「人質ではなくポケ質というのはどうでしょうか?」
 職員達が次の行動を決めかねている間にイーブイが叫んだ。
「さあ道をあけてよ!ニンゲン!そこを通して!」
 イーブイの言葉通りに道をあける職員達。イーブイはラランテスの近くに寄った際に小声でこう言った。
「大丈夫。大人しくしていれば危害は加えないから。」
 ラランテスを引き連れたイーブイ達はポケモン虐待防止委員会の建物から脱出する事に成功した。



 イーブイ達がラランテスを連れて逃げたのは近くの森。
 暗闇が支配する森の中で月の光が差し込む開けた場所に出る。
「ここで少しは時間を稼げるでしょう。」
 ニンフィアがラランテスの拘束を解く。
「巻き込んでしまってごめんなさい。でもあなたはもう自由です。ニンゲンの所に戻ってもいいですよ。」
 意外と簡単に解放されたラランテスだったが誰かの手持ちだと誤解されていた。
「ええと・・・私、あの人達のポケモンじゃないんです。その・・・悪い人達に捕まって乱暴されたところを助けてもらったんです。」
 簡潔にあの場にいた理由を話すラランテス。
 その言葉にエーフィが同情に似た視線を送る。
「大変でしたわね・・・私達もニンゲン共の汚い手から助けてもらった身ですの。」
 リーフィアが言葉を続ける。
「助けてくれたのもニンゲンなんだけど・・・旦那様は少し・・・ううん、結構変わった・・・存在なの。」
 シャワーズも大切な思い出を語るかのように口を開く。
「少ししか傍に居れなかったのだけれど、ニンゲンのした事に本気で謝ってそれで汚された私達を慰めてくれたわ。私達の無茶なお願いも聞いてくれて・・・」
 グレイシアもその時の事を思い出しフッと微笑み、のほほんとした姿勢を崩さないで言う。
「私達はそんな旦那様に一目惚れしたんですぅ。あれほど優しい目を向けてもらったのは初めてでしたからぁ。」
 サンダースは興奮気味に言う。
「キャハハハ!それで物凄く強いの!ポケモンを使わないでアイツ等を倒したの!包帯を巻いている両手で!」
 両手に包帯という言葉を聞いたラランテスの脳内に一人の人間の姿が浮かぶ。
「もしかして・・・バイツさんっていう人では・・・?長い髪の男の人で・・・」
 ブラッキーはラランテスの発言に驚く。
「キミ・・・どうしてその名前を・・・?他のニンゲンは旦那様をそう呼んでいた・・・まさかキミを助けたのも・・・」
「そうです。私もバイツさんに助けてもらったんです。恩返しをしたいとは思っているんですけど・・・」

688名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:39:45 ID:sv0NcSn2
 ブースターがニヤリと笑った。
「だったらあたし達と一緒に来るか?ニンゲン達の目を掻い潜って旦那様に会おうって思ってんだけどよ。」
 ラランテスの表情が明るくなる。
「い・・・いいんですか!?」
 イーブイはラランテスの明るくなったその表情からバイツに抱いている感情を悟った。ほぼ勘だったが。
「私達もあんたも旦那様に単純じゃない感情を抱いてるって事。だったら行き先は一緒。違う?」
 イーブイ達はラランテスに微笑む。
 ラランテスもまたイーブイ達に微笑みを返した。
「では皆さん。よろしくお願いします。」
 それから、少し遅れて自己紹介を行った。
 次にどの様にバイツを探すのかという話になった。
「バイツさんはここの地方の人じゃないって言ってましたよ?ここでやる事をやったらすぐに帰る予定だとも言ってましたけど。」
 ラランテスのその言葉にブラッキーは困惑の表情を浮かべた。
「困ったなぁ・・・他に何か言ってなかった・・・?」
 ラランテスはバイツの言っていた地方と街の名前を言った。
「でしたら、これを持ってきて正解でしたね。」
 ニンフィアが何処からか地図を取り出した。
「何処から持ってきましたの?」
 エーフィが訊く。
「役に立つと思ってあの建物から逃げる際に頂いてきました。ブースターちゃん、灯りをくれますか?」
「ああ。」
 ブースターは小さな炎を吐きそれを空中に停滞させる。
 ニンフィアは地図を置いて広げる。
「ええと・・・私達がいるのはこの地方ですから・・・」
 リボンの様な触角で地図上をなぞる。
「よくニンゲンの文字が読めますねぇ、ニンフィアさん。」
 グレイシアがそう言うと少し苦い表情を浮かべるニンフィア。
「私、ニンゲン達に無理矢理叩き込まれたんです。私には台本というのが用意されていたみたいで・・・「撮影」中はその台本の通りに喋る様に言われていて・・・」
「だから時々ニンゲン達に一人で連れていかれたんですねぇ・・・ごめんなさい、余計な事でしたぁ・・・」
 落ち込むグレイシアにニンフィアは微笑む。
「いいんですよグレイシアちゃん。今になってこんな形で役に立つとは思いませんでしたが・・・あ!ここです!」
 目的の地方と街の名前を見つけたニンフィア。
 全員が地図を覗き込む。
 ニンフィアが差した場所まではそこそこ距離があったが陸地続きというのが幸いだった。
「目的地は決まったわね。でも少し休みましょう?私達を追ってきているニンゲンがいるとして鉢合わせした時に戦う力を残しておかないと。」
 シャワーズの言葉に反対意見は無かった。
 彼女達は少し休憩を取ってから動く事にした。
 その脳裏にバイツの静かな優しい笑顔を思い浮かべながら。



 所変わって、質屋の中。
「バージルとかいう奴には参ったね。間合い関係無しに居合で空間ごと斬り裂いて来るんだからさ。右腕の力を二パーセントから十パーセント程に引き上げなければ膾斬りにされてた。」

689名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:40:23 ID:sv0NcSn2
 バイツが持っていた金貨を鑑定してもらっている間、渡り歩いてきた世界の事をトウマとモウキに話していた。キョウカはガーディと共に店の外で待っていた。
「この世界にもバージルという青年がいますよ。」
「え・・・?」
「ポケモンレスキュー隊をやっています。確か・・・チーム・イーブイとか言っていましたね。」
「じゃあアレか・・・閻魔刀とかいう父親の形見の刀は使わない。邪魔する者は容赦無く斬り捨てない。ダンテェ・・・とか言わない。ネロとかいう子供がいない。」
「そうですね。寧ろそんなポケモンレスキュー隊がいたら怖いですよ。」
「お前等相当危ない話しをしてるって事分かってんのか?」
 モウキが相当怪訝そうな表情を浮かべてバイツとトウマに苦言する。
「私が話していたのはポケモンレスキュー隊の方のバージルです。」
「ハハハ、悪役は俺一人か。悪魔と踊ろう。」
 バイツが乾いた笑い声を上げる。
「それは2のキャッチコピーですよバイツ君。」
 それから少しした後にバイツ達は質屋から出てきた。
 バイツの持ち込んだ金貨はかなりの額になった様だった。
「幾らでも入る都合のいい財布って便利。」
 そう言ってバイツはキョウカに視線を向けながら歩いていた。
 キョウカはスマートフォンで誰かと会話をしていた。
「何ですって・・・?分かったわ、今すぐ警察と連携して捜索を開始して。」
 真面目な表情のキョウカに三人はすぐに気付く。
 三人に気付いたキョウカはたった今入った報告をバイツに言うべきか迷ったが、隠し立てしていても面倒な事になるだけなので包み隠さずに言う事にした。
「バイツ、イーブイ達が逃げたわ。さっき助けたラランテスを連れていかれた。」
 バイツは一転表情を変え、真面目な表情になる。
「まさか、捜しに行く訳じゃないでしょうね。」
「そのまさかさ、キョウカさん。」
「待ちなさいバイツ。あんたここの土地勘なんて無いでしょ?あんたまで迷子になる気?職員や警官達に捜索に当たらせたわ。」
「だがイーブイ達は・・・!」
「たまには委員会や警察の力を信じたらどう?・・・見つけたらあんたにちゃんと会わせるわ。」
 それでもバイツは納得のいかない苦しい表情を浮かべていた。
「さあ、これでこの話はお終い。さあ「飲み」に行きましょ。言っておくけどバイツ。あんたの力も借りなきゃいけないわよ。」
 キョウカの謎の言葉にバイツとモウキは怪訝そうな表情を浮かべて互いを見合わせた。
 歩き始めるキョウカとガーディ。その後ろをトウマがついていく。更に少し遅れてバイツとモウキもついていく。
 歩きながらモウキは口を開いた。
「バイツ・・・お前さんが保護したポケモン達がどっかに行って心配なのは分かるが―――」
「いや、いいんだモウキさん。イーブイ達はラランテスに酷い扱いはしないよ。それにまた会える気がするんだ。だから今は目の前の事に集中するべきだと思ってね。」
 それは未だに自分にそう無理矢理言い聞かせているバイツの言葉だった。
 モウキはそれを察してか何もバイツに言わなかった。
 十数分程歩いた所で目的の店に着いた一行。

690名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:41:12 ID:sv0NcSn2
 その店は色々な地方にチェーン展開している店だった。
 ここでまたもやバイツとモウキが怪訝そうな表情を浮かべる。
「おいお嬢。この店は・・・」
「そう、悪党のたまり場ってよく言われる店ね。」
 トウマはバイツに声を掛ける。
「どうかしましたか?」
「いいや・・・」
 それだけ言った後にバイツは誰にも聞こえない様にこっそりと呟いた。
「俺の「権限」はまだ生きているかな・・・」
 キョウカを先頭にその店の中に入る。
 店内のテーブル席はガラの悪い連中が安酒で酔っ払い盛り上がっていたが、普段見る客とは違う毛並みの客のキョウカを見ると全員が彼女に注目した。
 キョウカの後ろをガーディ、トウマ、バイツ、モウキの順番についていく。
 バイツは眉を顰めながら周りを見渡す。
「俺と同類の臭いがする・・・嫌になるな。」
「自分を卑下しない方がいいですよバイツ君。」
 トウマにそう言われたもののバイツは顰めた眉を元に戻そうとしなかった。
 カウンター席の椅子が四つ空いていたので先頭を歩いていたキョウカが空いている右端の椅子に座った。そして順々に椅子に座っていく。
「ガーディ。俺の膝の上に座るか?」
「うん!座る!座る!」
 バイツの誘いにガーディは断る様子など微塵も無かった。バイツの膝上に飛び乗るとバイツに背を向けて背筋を伸ばして座った。横に振られているガーディの尻尾がバイツの体に当たる。
 様々な色の酒瓶を並べている棚を背にして立っている中年で細身のバーテンダーはグラスを拭いていた。キョウカに一瞬視線を移したがまたグラスを拭く作業に戻った。
 一見の客はあまり歓迎していない様だった。
「ねえバーテンダーさん。私達は人を待っているんだけど見ていないかしら?丸眼鏡を掛けて・・・」
 バイツとモウキはまたまた怪訝そうな表情を浮かべた。それを察したトウマは二人にこう告げた。
「情報屋に会う予定でしてね。今回私達が関わっている事件の組織の情報を売ってくれる手筈になっているのですが・・・」
 そこまでトウマが口にした時バーテンダーが「何か」をカウンターの上に置いた。
 それは割れて血のこびり付いた丸眼鏡。キョウカとモウキはそれを見てバーテンダーに視線を向けた。
「あんた等が何者で何処の者だかは知らないがとんでもない奴等を相手にしている。俺が言えるのはここまでだ。何も飲まないなら帰りな・・・命がある内に。」
 バーテンダーが手を丁寧に洗ってバイツ達に背を向ける。
「同じ・・・血の臭いがする・・・その眼鏡と・・・」
 ガーディが声を抑えて言ったのでバイツも声を抑えてガーディに訊く。
「何処から?」
「お店の・・・奥・・・」
 バイツはガーディの不安を拭い去るかのように優しく頭を撫でるとバーテンダーに声を掛けた。
「あー・・・バーテンダーさん。六番目と二番目と三番目の棚にある酒でAかCで始まる名前の酒を試飲したい、それからCで始まる酒を出すなら六番目の棚の酒でBかDで始まる名前の酒も試飲したい。その際に酒の名前を後ろから三文字だけ教えて欲しい。」
 バイツの言葉にキョウカ、ガーディ、トウマ、モウキは訳が分からないと言った様に首を傾げた。
 しかし、バーテンダーはその注文の意味をすぐに理解した。そして驚きの表情を浮かべる。
「まさか・・・いや、ライキからの情報ではお前さんは半年ほど前から行方不明の筈じゃ・・・しかし・・・黒い長髪・・・右手に包帯・・・」

691名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:41:53 ID:sv0NcSn2
「色々あって左手にも包帯を巻いてるけどな。っていうか「権限」はまだ生きていたんだな。」
「半年程度では消失しない。」
 バイツとバーテンダーのやり取りにキョウカは口を挟んだ。
「バイツ。説明。」
「えーっと・・・何て言えばいいのかな。このチェーン展開されている店はもう一つ顔があって・・・あー・・・情報交換場所で・・・店が手に入れた情報は店同士で一瞬で共有される。そしてその情報は一部の「権限」を持った客にしか販売しない。まあそんなところか。」
 色々と省いてバイツは簡単な説明をした。
「お前さんが見つかった事をライキやヒートに教えておこうか?」
 その言葉にバイツは内心驚いた。
「あの二人生きてるのか?」
「生きてる?どういう事?バイツ。」
 キョウカがバイツの発言に興味を持つ。
「あの二人は俺達を逃がす為にある奴と戦ってね。それっきり音沙汰も無い上そのある奴が無傷で俺達の前にまた現れたからあの二人はくたばったんじゃないか・・・と、思って。」
「ふーん・・・」
 それだけ言ってキョウカはこれ以上何も聞こうとしなかった。
「伝えようか?ライキから金をふんだくれるチャンスなんだ。」
 バーテンダーはキョウカと話しているよりは多少ではあるが楽しそうにしていた。
「いや、いいよ。本気になったライキにこの店が持っている色々な情報を無料で提供する破目になりそうだ。それに・・・皆に・・・「家族」にこの事が漏れるかもしれない。家にはまだ帰れそうにないしな。」
 バイツは悲しげな表情を一瞬浮かべる。
「で?何が欲しいんだ?情報か?酒か?」
「まずはこの紅い塗装が施された丸眼鏡の持ち主が今何処にいるのか・・・いや「何を」されているのかが知りたい。」
 バーテンダーはバイツの言葉に顔を引き攣らせる。それは恐怖という感情から。少なくともバイツに抱いていた感情ではなかった。
 口を開きかねている内に黒を基調とした服装と黒いサングラスをした三人の男が店の奥から出てきた。
 ガーディが瞬時に敵意を三人の男に向ける。
「・・・血の臭いが・・・強い・・・強くなった・・・!」
 バイツはその言葉を聞いて何故か笑みを浮かべた。
「モウキさん、この時間から取調室は使えるかな?」
 トウマも笑みを浮かべている。
「遺体安置室に空きがあるかの間違いでしょう?この手合いは何も吐きませんよ。」
 店の奥から出て来た男三人もバイツとトウマを見ると明らかに警戒の色を表す。
 バーテンダーは丸眼鏡を隠す。情報の断片を提供したと悟られない様に。
「バーテンダーさん取り敢えず三十万程払っておくよ。修繕費及び迷惑料として。」
 そう言ってバイツは幾らでも金が入るご都合財布から三十万を取り出すとガーディを抱えて瞬時に椅子から飛び退いた。
 その一瞬後にはバイツが座っていた椅子に血のこびり付いた大型の山刀が振り下ろされていた。男の一人がカウンターテーブルに飛び乗ってバイツの脳天を叩き割ろうとしたのだった。
 男はカウンターを跳び越えバイツとガーディに向かって行った。
 素早く正確に男は山刀を振るう。バイツはガーディを抱きかかえながらその攻撃を避け続ける、ガーディからは見えなかったが笑みを浮かべて。
「やべぇぞおい。手助けに・・・」
 モウキがそう言って席を立つ。

692名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:42:26 ID:sv0NcSn2
「どうやらこの方々一対一がお望みのようですよ?モウキさん。」
 トウマの言葉でモウキは男達に再度目を向けた。目に入ったのはこちらに向かって繰り出された拳。しかも丁寧にナックルダスターまで装着していた。
「っとお!」
 モウキはその一撃をスレスレで避ける。
 モウキをターゲットにした男は連撃を繰り出してモウキを後退させる。しかし、後退させるのが精一杯の様だった。モウキは器用に攻撃をいなし続けている。
「おや、中々実戦慣れしているようですね。」
 トウマの視線は戦っているバイツとモウキから残った男に向けられた。
「残ったのは私とあなただけみたいですが・・・」
 男は小型の投げナイフを手に振りかぶっていた。
 次の瞬間二本の鉄の棒の様な大型の針がサングラスと男の両眼を貫いていた。
 男は悲鳴を上げ崩れ落ちる。針を投げたトウマは溜め息を吐いた。
 それを皮切りにバイツとモウキも反撃に出る。
 バイツは男が山刀を振り抜いた瞬間、山刀を蹴り上げた。
 勢いよく吹っ飛んだ山刀は壁に突き刺さる。
 男も大きく体勢を崩し隙を作る。
 バイツが瞬時に男の両足を蹴り払い、倒れた所で顎を蹴り上げる。そして、ダメ押しと言わんばかりに蹴り飛ばす。
 男は柱に叩きつけられてそのままずり落ちた。バイツは十分加減していたので死んではいなかった。悪い事に気絶もしていなかったので男は蹴られた部位の激痛と戦わなければならなかった。
「まあ、中々速い攻撃だったよ。」
 そうバイツが言い捨てたところで、抱いているガーディが震えている事に気が付いた。
「どうした?」
「怖・・・かった・・・ゴメンね・・・バイツ・・・」
「何故謝る?」
 怪我をしていないか確かめる為ガーディの正面が見える様に抱き直す。
 その時大粒の涙を流しているガーディの顔が見えた。
 当然か、とバイツは思った。バイツは最低限の動きで山刀をかわし続けていた。しかし、ガーディにとっては殺意を持った刃が当たるか当たらないかの距離で振り回されていた。それがとてつもなく怖く、そしてそれに怯み援護攻撃が出来なかった。
「ゴメン・・・怖い思い・・・させたな。」
 バイツはガーディを抱きしめた。
「ゴメンね・・・バイツ・・・助けられなくて・・・ゴメンね・・・」
 ガーディは泣きながら謝り続けていた。
「いいんだよ、謝らなくて。俺が謝るべきなんだ。」
 それでもガーディは泣き続けていた。バイツはガーディをあやしながらモウキの加勢に向かおうと、モウキが戦っているであろう方向に目を向けた。
 そこでバイツが見たのは男の懐に入り込み肘打ちを鳩尾に叩き込んでいるモウキの姿だった。
「小技ばっかり振り回してんじゃねえ。」
 前のめりに崩れ落ちる男にそう言ったモウキ。
「俺も結構やるだろう?バイツ。」
「恐れ入ったよ。」
 それからモウキは自分の倒した男とバイツの倒した男を引きずって椅子に座っているキョウカの前に放り投げた。
 トウマによって倒された男も既にキョウカの前にいる。
「さあ、色々吐いてもらうわよ。」

693名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:43:01 ID:sv0NcSn2
 殺気とはまた違う圧力。キョウカの男達を見下すその眼光はトウマによって視力を奪われた男を除いた二人に恐怖を与えた。
「ガーディ・・・キョウカさんの近くにいてくれるか?」
 未だ泣いてはいるが少し落ち着いたガーディにバイツがそう言った。
「どうしたの?」
「店の奥に行く。」
 バイツはガーディを床に下ろす。そして、カウンターに手をついて乗り越えると店の奥に足を進める。
 血の臭いが強くなっていく。
 それは酒を保管する倉庫から漂っていた。
 バイツは躊躇いも無くその中に入る。
 そこに情報屋が居た。人の形を留めていない変わり果てた姿で。
 手足は指先から根元まで切り分けられていた。腹部は切り開かれていて中身が無い。床の上は血だらけでその上には乱雑に腹部から引きずり出された内臓が散らばっていた。
「拷問か・・・?それとも最初から殺すつもりで・・・いや、だとしたら・・・」
 物怖じする事無くバイツは死体を見ていた。
 正直、一人で「コレ」を見に来て正解だとは思っていた。
 キョウカとガーディには見せたくなかった。
 ふと、血の海の上にペンが一本転がっている事に気が付いたバイツ。
 拾い上げてみるとそれはペン型のボイスレコーダーだった。
「何か聞けるかな?」
 バイツは音声を再生する。
 音声は入っていたがノイズが酷く物音なのか人の声なのか全く聞き取れなかった。次の一言以外は。
「・・・「ワルイーノ」の・・・」
 再びノイズを発し始めるボイスレコーダー。
 ワルイーノ。
 バイツはその単語を聞き眉を顰めた。
 半年ほど前自分が異世界巡りをする羽目になった原因を作った種族の名称。
「・・・あの馬鹿共に協力している人間についてはあまり関わっていなかったな。」
 バイツは口端を歪めて笑った。
「・・・いいだろう、ならば飽く迄潰してやるよ・・・」
 取り敢えず先程の男達三人にこの事について話を聞こうと倉庫から出た時店内の方から破裂音が聞こえた。
 バイツは急いで店内の方に戻る。
 店内に戻った時バイツは新しい血の臭いを嗅ぎ取った。
 トウマとモウキがキョウカとガーディを背に立っていた。
 三人の男は力無く倒れていた。首から上が無い状態で。
 周りにいた客の吐いている声が聞こえた。
「怪我は?」
 バイツは男達の惨状を無視し四人に訊く。
「ありませんが・・・いったいこれは?」
 トウマが眉間に皺を寄せて辺りを警戒しているという珍しいものを見たバイツは再度臭いを嗅ぐ、血の臭いに混じって火薬の臭いが微かにした気がした。
 ガーディに訊いて血以外の臭いがするかを確かにしたい所だったが、頭が弾け飛んだ男達の死体を見て震えていた。
「何があったんだ?」
 バイツは周囲を警戒しながら口を開く。
「俺も分かんねえよ。いきなりこいつ等の頭が破裂して・・・」

694名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:43:35 ID:sv0NcSn2
 モウキの言葉でバイツは少し考えた。
「奥歯に爆弾を仕込んでいたか。」
「何?」
 モウキが聞き返す。
「爆弾だよ。奥歯に仕込める自害用の。昔ヒートから聞いた事がある。まあ、詳しくは忘れた。」
「という事は・・・この方々も色々知っていて・・・?」
「多分、今回の件に関わっていて尚且つそれに関わる人物を消しに来たってところかな?」
 バイツはキョウカとガーディに近付く。
「大丈夫か?顔色が・・・」
「悪くもなるわよ・・・こんなものを見せられて・・・あんたの方は?バイツ、店の奥に何が・・・」
「情報屋の死体があった。見ない方がいい。」
「頼まれても見たくないわ。」
 震えているガーディを抱き上げそして先程の様に優しく抱きしめるバイツ。
 涙は止まっているが一点を凝視し息も荒くなり始めて、体も何処か強張っている。
「ガーディ・・・大丈夫・・・大丈夫・・・」
 ゆっくりと宥める様にガーディの耳元で小さく囁く。
「・・・取り敢えず応援呼んで・・・そんで・・・」
 モウキが目頭に指を当てながらそう言った時バイツはモウキに言った。
「無駄だよ。この店自体が利害が一致している色々な連中が守っている治外法権みたいなものでさ・・・まずこの店内なら警察っていう肩書やら何やらは何の役にも立たない。」
 バーテンダーも口を開く。
「そうだ。店は片付けるからとっとと撤収してくれ。「何事も無く」店を続けたいものでね。」
 それからバイツ達は店を出た。
 ガーディは幾分か落ち着いてきた様でバイツの肩に顎を乗せ、すぐ後ろを歩いていたキョウカに声を掛けた。
「キョウカ・・・大丈夫?」
「平気よガーディ。ちょっと考え事をしていただけ・・・」
 そう言って溜め息を吐くキョウカ。
「ここまで相手の素性が分からないんじゃあね・・・ライキとヒートこっちに呼んで直に情報収集に当たらせようかしら。」
 灯りはあるが人通りがまばらな通りに出たところでモウキが口を開いた。
「さあこれからどうする?情報屋のセンは切れちまったし・・・」
 その時バイツは何かに気付いて夜空を見上げた。
「どうしたの?バイツ。」
 ガーディがバイツの異変に気付く。
「何か来る・・・!」
 そして「ソイツ」は叫び声と共にバイツ達の前に降りてきた。
「イエェェェーイ!!」
 バイツは怪訝そうな表情を浮かべて「ソイツ」の名前を口にした。
「デオキシス?」
 降りてきたのはノーマルフォルムのデオキシス。前にバイツと少しばかり旅をした事があった。
 キョウカ、トウマ、モウキもやけにハイテンションのデオキシスを見た途端に凄く怪訝そうな顔をしていた。ガーディは興味深そうに振り向いてデオキシスを見ていた。
「空前絶後のぉー!超絶怒涛のフォルム数!変化を愛し!変化に愛されたポケモン!」
 バイツは目を背けた。まだツッコミどころではないと言うかの様に。
「アタック、ディフェンス、スピード・・・全てのフォルムを持つポケモン!そう!我こそはぁぁぁ!」
「どこかで聞いたなこの自己紹介・・・訴えられない事を祈ろう。」

695名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:44:28 ID:sv0NcSn2
「高さ1.7メートル重さ60.8キロ貯金残高11億4514万円!三か月前に出版した本「デオキシスに会いに行こう!その最短ルートと赤い三角そして時々サイレントヒル」で荒稼ぎしました!全四ページ!今じゃ世界各国で翻訳されて出版されてまぁぁぁす!」
「四ページ?薄い本のゲスト寄稿か何か?」
 バイツはそう返した。
「私持ってるわよ。」
「!?」
 キョウカを驚いた表情で見るバイツ。
「私も持っていますよ。」
「!!??」
 今度は表情をそのままでトウマに顔を向ける。
「俺も持ってるぜ。」
「!!!???」
 モウキにも顔を向ける。
 自分がいない間世界はどうなってしまったのだろうかと考えたくなったバイツ。
「キャッシュカードの暗証番号0721財布は今デボンコーポレーションの社長室に置いてあります!!長髪の旦那今がチャンスです!!」
 名指しされたバイツ。しかし、何も言わない。
「もう一度言います0721・・・HTNが漏らしたNRT高等学校硬式野球部の伝統儀礼、公開オナニー(0721)って覚えてくださぁぁい!!」
「訴えられても文句は言えないな・・・」
 バイツは全てを諦めたかの様にそう言った。
「そう全てをさらけ出したこの俺はサンシャイン・・・を覚えても不遇の扱いを受けるキマリに涙を浮かべる・・・デオキシス!イエェェェーイ!!」
「ユウナが死んだら誰がキマリを守るのだ。か?不遇だなあのツノなし。」
 さらりとバイツが酷い事を言う。
「俺はガガゼト山でキマリの強制戦闘で積んだぞ?」
「あなたはエアプ勢でしょうかモウキさん、ビランとエンケは雑魚ツノなしのステータスで強さ変わりますよ。」
 トウマも酷い言い様。
「キマリのスフィア盤何も知らずにルールールートに進んで物理より魔法の方が体力削れることに気付くまでに苦労したわ。」
 キョウカは少々真面目に話す。
 かなり話がズレ始めた一行。
「ジャスティス!!」
 そう叫んで登場をキメたデオキシス。
「おい!ソル=バッドガイ、本名はフレデリックの恋人のアリアを素体として「あの男」が作り上げた最強最悪のギアでイリュリア連王国の連王カイ=キスクの嫁のディズィーの母であるジャスティスさんは関係ないだろ!いい加減にしろ!」
「バイツ君、君が少々ズレています。そんな事を言っていると猛スピードで突進されて大気圏辺りまで持っていかれてデストローイされますよ。」
 トウマがバイツの発言に対し軽く脅すような感じで注意する。
「あのー俺喋っていいっすか?」
 デオキシスが困った様にそう言った。
「長い自己紹介ご苦労さん。自由にどうぞ。」
 デオキシスはバイツ達を見回す。
「えーっと・・・長髪の旦那この人達は?」

696名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:45:01 ID:sv0NcSn2
「キョウカよ。」
「僕ガーディ!」
「トウマです。」
「モウキだ。」
 一通りの簡単すぎる自己紹介が終わったところでバイツはデオキシスに取り敢えず質問をした。
「で・・・どうしてここに?」
「いやあ稼ぐモン稼いだら暇になりましてね。重い財布をデボンコーポレーションの社長の顔にブン投げてプラプラ世界中飛んでいたら丁度旦那の気配を察知したもんで・・・面白いっすよ旦那の気配、一発で気付きました。旦那は何を?」
「俺もあっちこっちを行ったり来たり。今は見えない敵を追い掛けてるところかなー」
 イーブイ達の事を話そうとしたが知らないだろうと思いそこについては触れなかった。
「ふむ・・・困りましたね・・・」
 トウマがそう言うのでデオキシスが首を傾げた。
「いや・・・迷惑という訳ではないのですがポケモンが絡むとこの話はどうも重くなる傾向がありましてね。まあ例を挙げるとすれば・・・」
 トウマが後ろの建物を見上げた。
 その建物は燃えていた。
「いや・・・火事じゃねえか・・・何で気付かなかった・・・?」
 モウキが燃えている建物を見上げてそう言った。
「ここは一部の方々に「ガン掘リア宮殿」と呼ばれる建物でしてね。」
「くさそう。ポジが空気感染しそう。」
「まあ名前から察するに今のバイツ君の様にそう見るのが普通でしょうね。そして最上階のベランダを見てください。」
 全員がベランダを見る。そこでは一人の男が身を乗り出して隣の部屋を外から見ていた。
「お、やべぇ119番だな!」
 そう男が口に出した瞬間男の背後で爆発が起こった。
 吹っ飛ぶ男。行きつく先はコンクリートの地面。
 男が地面に叩きつけられた瞬間をバイツはガーディに見せまいとガーディの顔を自分の胸に押し付ける。
 男は爆発の衝撃とコンクリートの地面に全身を強く打ち付け即死だった。
「ホモが一人・・・一匹死にましたね。軽い話でしょう?」
「トウマ・・・お前さんの発言相当ヤバい。」
「本題に入りましょう。では向こうを。」
 トウマが指差した先には十階建てのマンションがあった。それも燃えていた。
 バイツ達は急いでそのマンションに向かう。
 マンション前は人や警官や消防士で溢れかえっていた。
 モウキは警察手帳を近くにいた警官に見せ状況を聞く。
「最上階のベランダに女の子とポケモンが取り残されているらしい!進入は困難!火は消えねえし、空から救おうとしているが煙や風の影響でうまく近づけねえみたいだ!」
 最上階のベランダを見上げると確かに炎に追い詰められている女の子が立っていた。
「助けてー!」
 女の子が泣きながら叫ぶ。その子はルリリを抱きかかえていた。
 ルリリは「みずでっぽう」で迫ってくる炎に対抗しようとしているが炎の勢いは衰えない。
「ほら、ポケモンが絡んで来ると重くなるでしょう?」
 と、トウマはそう言ってバイツ達でもなく燃えている建物でもなくあさっての方向の野次馬を見ていた。
「何か見つけたのね?トウマ。」
「ネズミがいましてね。」
「捕まえていらっしゃい。勿論・・・」

697名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:45:37 ID:sv0NcSn2
「逃がしはしませんしすぐに自供できる状態にしますよ。」
 トウマが文字通り消える。
 キョウカとトウマのやり取りを全く聞いていなかったバイツはガーディを地面に降ろす。
「一回であそこまで跳べるか・・・?いや高度が足りなくても壁を蹴って・・・」
 バイツが跳ぼうと構えた時、デオキシスがスピードフォルムにチェンジした。
「俺が行きます!」
 瞬時に炎が照らす夜空に飛び上がり、女の子とルリリがいる最上階のベランダへ。
「お嬢さん!俺に掴まってて!そのちっちゃいのを離さないで!」
 デオキシスが細い触手の様な腕を女の子の体に巻きつける。女の子もルリリを強く抱きしめる。
 地上に戻ろうとデオキシスが部屋に背を向けた瞬間室内が爆発。吹っ飛ばされたデオキシス。女の子とルリリはデオキシスが盾になったお陰で爆発による衝撃の怪我は無かったが宙に投げ出される。
「チィ・・・ッ!」
 デオキシスは軋む体に活を入れ投げ出され落ちていく二人を追う。
 猛スピードで追い付くと二人を抱きかかえディフェンスフォルムへチェンジ。そして二人のクッション代わりになるかのように地面を背に落ちていく。
「この子達はいいけど・・・助かるかなー・・・俺・・・」
 デオキシスはそう呟いた。
 先程の爆発によるダメージは予想よりも大きくもう飛ぶ力は残っていなかった。そして待っているのはコンクリートの地面。ただでは済まない。
 だがそれでもこの子達を命を賭して護ると決めた。
 それを曲げたくなかった。
 その時影が落ちていく三人を覆った。
「え・・・?」
 デオキシスはその影を作った人物を見て言葉を失った。
「離れないでくれよ?」
 バイツが大きな黒い翼を背中に羽ばたかせ飛んでいた。
「人目につく場所は嫌だから少し離れた場所に降りる。」
 十分人目につきながらバイツがそう言う。
 降りた先は近くの公園の草地。
 三人を優しく降ろすと、バイツは背中の翼を消した。
「助かりました・・・しかし、一体・・・その翼は・・・?」
「色々あってな・・・だが、翼を生やして空を飛んだのはこれが初めてだ・・・」
 翼はバイツの体の大半を覆っている黒の部分、すなわちワルイーノの力でできた翼だった。
 バイツは背中をデオキシスに見せる。翼は完全に消えておりどういう原理かは知らないが服にも穴は空いていない。
「さて・・・ポケモンセンターに寄っていくか。デオキシスの傷を診てもらわなきゃな。」
 ノーマルフォルムに戻ったデオキシス。
「じゃあ俺達は行くよ、お二人さん。道中気を付けて。」
 バイツはそう言った。人が来るので早くこの場から消えようと思っていた。
 女の子とルリリに背を向け去ろうとするバイツとデオキシス。
「待って!」
 女の子が二人を呼び止めた。
「ありがとう・・・ポケモンさん・・・天使さん。」
 バイツは返事代わりに右手を軽く上げる。
 二人から離れながらバイツとデオキシスは軽口を交わしていた。
「天使だそうですよ旦那?髪染めて白い布纏ってラッパでも吹きますか?」

698名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:46:12 ID:sv0NcSn2
「止せよ。俺はどちらかと言えば悪魔さ、それに天使は俺にあるものを寄越してくる。」
「何ですソレ?」
「不幸と試練さ。」
 公園を出ようとした時街灯の下に誰かが何かを担いで立っていた。
「トウマさん。どうしたんだ?」
「こそこそしている怪しいこの方を追っていましてね。」
 トウマが担いでいたものは小柄の中年男性だった。意識はあるようだが手足は動かせない様だ。よく見ると手足にはいつものあの針が数本刺さっていた。
「爪二枚剥がしたら白状してくれましたよ。「自分が放火した」と・・・ね。」
「これで万々歳じゃないっすか。そいつを差し出せば終わり。いやー良かった良かった。」
「良くないですよデオキシス君。さてバイツ君あの黒い翼は一体何ですか?」
「キョウカさんとガーディとモウキさんと合流したら話すよ。」
 それからすぐに合流した一行。
 バイツは五人に軽く体と翼の説明をした。その後にまた離れる事になった。バイツとデオキシスはポケモンセンターへ。キョウカ、ガーディ、トウマ、モウキは犯人を引き渡す為に警察署へ。
 ポケモンセンターに着いたバイツはデオキシスを預ける。までは良かったのだが何故かジョーイと話す事になった。
「聞きましたか?火事のお話。」
 待合室の長椅子に座ってデオキシスの回復を待っている時にジョーイの方から話しかけてきた。ポケモンセンターにしては珍しい事にバイツ以外に客は居なかった。
「ええ、聞きましたよ。何でも建物全体が燃えたとか。」
「その火事で逃げ遅れた女の子とポケモンがいたらしいのですが・・・」
「助かったんですか?」
 白々しくすっとぼけるバイツ。助けた本人なので結果は知っている。
「それが・・・不思議な事があったらしくて・・・」
「と、言いますと?」
「何でも見た事の無いポケモンが「二体」現れて女の子とポケモンを救ったそうです。」
 ポケモン扱いされているバイツ。取り敢えず顔は見られていなかった様でホッとした。
「まあ、色々とまだ見た事の無い不思議な事がありますから。」
 それからデオキシスの回復も終わりポケモンセンターを出たところでキョウカから連絡が入った。
 内容は暇そうなデオキシスを作戦に組み込むというバイツにとってはあまり気乗りしないものだった。
 デオキシスに訊いたところそれを快く承諾した。
 いざとなれば先程みたいに護ればいい。バイツは少し考えた後にその結論に至った。
 ちなみにデオキシスはバイツの泊まっている部屋で寝泊まりする事になった。



 ある一つの建物があった。
 街外れに建っていてあまり人目につかない建物。
 その建物の一室に檻があった。その檻の中には進化する前の小さなポケモン達が閉じ込められていた。
 その檻の外では男達が何やら話し合っていた。
「しかしまあこれだけのポケモンを集めて来たもんだ。何かあるのか?」
「こいつ等「撮影」に使うらしい。今回は使い捨てみたいにな。」
「今まで使い捨てみたいなもんだったじゃねえか。」
「ハハ、違いねえ。」
 男が一人檻に近付く。小さなポケモン達は男を怯えた目で見ていた。

699名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:46:46 ID:sv0NcSn2
「おーい、聞こえてるか?これから楽しいコトが待ってるからなー?途中で意識飛ばさないで最後まで楽しんでくれよ?」
 そして男が振り返る。
 視界に飛び込んできたのは部屋中を所々染めている紅だった。そして、先程まで話していた男が一人の少年に片手で首を持ち上げられ力無く手足を揺らしていた。
 その傍には見た事の無い橙色をしたポケモン。
 突然その二人の姿が消えた。
 男は知らなかったがその二人は背後に立っていた。
「何発叩き込んだ?」
 少年がポケモンに訊いた。
「十八発ってとこでしょうね。旦那は?」
「俺も十八発。」
 そして二人は示し合わせたかのように同じ言葉を口にした。
「三十六・・・普通だな!」
 非常にゲスい台詞を言い終わると同時に男は崩れ落ちた。
 少年が檻の開閉部に手を掛けて易々と引き剥がす。
 その瞬間ポケモン達が少年に向かって突進し始めた。



「バイツと連絡が取れない!?」
 建物の外でモウキが警官達を待機させながらそう口にした。
「そうなのよ刑事さん・・・まさかとは思うけど・・・」
 キョウカが深刻そうな表情を浮かべる。
 モウキは奥歯を噛み締める。そして指示を出す。
「全隊俺の後に続いて突入しろ!」
 建物内にモウキを筆頭に警官がなだれ込む。
 そこで見たものは力無く倒れている男達。
「確保しろ!手の空いているヤツは俺に続け!」
 モウキは足を止める事無く進み続ける。
 そして、とある一室に辿り着いたモウキ達はあるものを目にする。
「遊んでー!遊んでー!」
 と、ポケモン達にトランポリン代わりにされて力無く倒れているバイツとデオキシス。
「ああイッタイ、イッタイ、痛いいいぃぃぃぃぃ!ねぇ痛いちょっともう・・・痛いなもう・・・痛いよもおォォォォォう!痛いんだよもう!ねぇもう嫌だもう!ねぇ痛いぃぃぃもう!痛いよ!やーだ!やめてタタカナイデ!タタカナイデヨ!」
 デオキシスはそう叫びながら倒れていたがバイツは無言。
 モウキはそんな二人に近付く。
「あー・・・バイツ、お前さんそういう弱点あるんだよな。忘れてたよ。」
「助けて・・・」
 バイツはモウキにそれだけ返してまた無言になった。
「お嬢?バイツとデオキシスとポケモン達を見つけた・・・その・・・まあ、二人は玩具みたいだ。」
 無線でそうキョウカに伝えたモウキ。
『あ、そうなの・・・』
 何処か気が抜けた返事の後、モウキは警官隊にポケモン達を保護する様に指示を出す。

700名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:47:27 ID:sv0NcSn2
 バイツとデオキシスはこの時知る由も無かったがそんな事が三日連続で助けに行った先々で続いた。



 バイツとデオキシスがトランポリン代わりになって三日目。そこから離れた地方のとある街。晴れた街中をサーナイトとルルとテスラの三人が歩いていた。三人共大きな手提げ紙袋を両手で持っている。
「服買いすぎちゃった。たまにしか買い物しないからついついハメを外しちゃうんだよね。」
 と、ルルが楽しそうに言う。
 今日はフラワーショップの花がいつもより早く完売したので早めに店を閉めて三人で買い物に出かけていた。
「そうだ、ルル。今度お花を多く仕入れて。私、コジョンドに花飾り作るって約束したの。」
「いいよ、でもあのコジョンドがねー・・・うーん・・・よし!コジョンドだけじゃない皆の分の花飾りを作ろう。」
 サーナイトは二人の会話を聞きながら微笑んでいた。まるで血の繋がった姉妹の様に楽しそうにしている。
 ふと、路地裏から声が聞こえてきた。
 何やら言い争っている複数の声。
 三人は声のする路地裏の方へと足を進めた。



「そこ退いて!ニンゲン!」
 イーブイが仲間達の先頭に立ち叫ぶ。
 しかし、周りを囲んでいるガラの悪い人間達は笑みを浮かべながらその言葉を聞き流していた。
「雌のイーブイシリーズに見た事の無い珍しいポケモン・・・」
 品定めをするような視線を向けられたラランテスは涙目になりながらも構える。
「こいつ等高く売れそうだなぁ!」
 男は高笑いした。
「何をしているの!?」
 少女の声が男の高笑いを止めた。
 イーブイ達と人間達が声のした方を向いた。
 そこに立っていたのはサーナイト、ルル、テスラ。
「一体何をしているの・・・?その子達・・・怯えてる。」
 ルルが一歩前に立ち人間達を止めようとする。
「折角の金儲けの機会を邪魔すんなよ。お前等もそういう所に売っぱらっちまうぞ?それとも冒険したいお年頃かな?」
 ポケモンを金儲けの道具にとしか思っていないこの連中に話は通じないと直感した三人。
「ルル、これ持ってて。」
「ルル様荷物をお願いできますか?」
 テスラとサーナイトがルルに紙袋を持たせ一歩進み出る。
「サーナイト、合わせて。」
「分かりました。」
 二人は掌を人間達に向ける。
 青白い雷光と黄色い雷光が走り、人間達の間をすり抜け何も無い所に直撃する。
 連中はどよめき始める。
「今度は当てるよ。」
 青白い電気エネルギーを手に纏わせてテスラが言った。サーナイトも黄色い電気エネルギーを手に纏って構えている。
 そこで連中は珍しいものを見つけたから捕まえようという位の根性を見せればよかったのだがテスラの警告に怯えて一目散に逃げてしまった。
 テスラとサーナイトはイーブイ達に近付く。
「怪我は無い?大丈夫?」

701名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:48:25 ID:sv0NcSn2
 テスラが屈んでなるべくイーブイ達と視線の高さを合わせる。
 ルルも紙袋を汚れない所に置き近付く。
「ありがとよ、でも助けを呼んだ覚えは無え。」
 そう言い放つブースター。
 テスラは人馴れしていないだけだと思い、警戒させない為に笑顔を向ける。
「行くわよ。旦那様を待つ為に身を潜める場所を探さなきゃ。」
 シャワーズが歩き出そうとするのでルルが声を掛けて引き留める。
「誰か捜しているの?力になるよ?」
「結構ですわ。「ニンゲン」さん?」
 エーフィは歩き出す。
「あのー・・・皆さん?この人達助けてくれたみたいですし一応話だけでもしてみませんか?」
 ラランテスはそこそこ好意的な態度を取る。
「ごめんなさい。私達ここに来る前に少し人間と一悶着あったので・・・」
 サーナイトは微笑みラランテスに言葉を返す。
「大丈夫です。それで誰かを捜しているみたいですけれど?」
「はい、正確にはこの街に戻ってくる予定の人ですけど・・・バイツさんという方を知っていますか?その人に助けてもらったので恩返しをしようかと・・・」
 サーナイト、ルル、テスラの表情が瞬時に変わった。
 その名前を聞き違える筈は無かった。
「その方は・・・黒い・・・長い髪をした方ですよね・・・腕が・・・少し普通の人とは違う・・・でも優しい目をした・・・」
 サーナイトは泣きそうになるのを堪えながら言葉を口にする。
 その言葉にラランテスもイーブイ達も驚いて三人を見る。あまりにも的確に特徴を捉えている。口走った覚えは無い。
 ルルとテスラは涙を流し始める。
 そしてラランテスは察した。バイツがここに帰りたがっていた理由を。
「・・・いつ・・・お会いしたのですか・・・?」
「三日程前に・・・」
 サーナイトも我慢が出来ずに口元を両手で押さえて涙を流し始めた。
「帰って来てくださったのですね・・・マスター・・・!」
 互いの情報を交換する必要があったがサーナイトもルルもテスラもバイツがこの世界に居るという事が分かっただけでも大きな報せだった。



 それからイーブイ達は、今はフラワーショップとなっているバイツの家に通されていた。
 バイツがこの世界に戻ってきているというその報に全員が飛び付き、居間で話を聞く事に。
 前もって話を聞いた三人以外は最初半信半疑だったが話を聞いていく内に行動内容からそれがバイツだという事を確信する。バイツの体を弄んだ事も話に出たが抵抗しないというのがバイツらしいという謎の結論に至った。
 その時イーブイ達以外が初めて知ったのは漆黒の体の「進行具合」についてだった。
「そう・・・なんだ・・・」
 ルルが若干手を震わせながら話を聞く。
「あの体は・・・生まれた時からのものじゃないですよね。その事について話してくれませんか?」
 ニンフィアの質問。それに答えたのはサーナイトだった。
「マスターの右腕は・・・マスターのお命を救う為にご両親が遺したものです・・・」
 以前バイツと共に聞いた話を思い返しながらサーナイトはイーブイ達に右腕の事を聞かせる。
 知っている限りの事を話すとサーナイトはまた涙を流した。想い人が居ない訳ではないというのが嬉しかった。

702名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:48:59 ID:sv0NcSn2
「でも・・・それは右腕の話だ・・・今度は体の事が聞きたい・・・」
 ブラッキーが感情を抑えてそう言う。バイツの事を聞けて若干嬉しそうだった。
「私が話す・・・」
 ルルが震える声でそう言った。
 半年前の出来事を話していくルル。自分が何であって何と戦ってきたのかを泣きそうになりながら話す。
 いかに自分が弱く甘く、バイツの強さと優しさに頼り切っていたかを。そしてその挙句に愛しい人に背負わせてしまった業を。
「キャハハハ!じゃあセイギの味方気取ってた割には何も出来なかったの?」
 サンダースの言葉がルルの心を抉る。
「そしてあなたは「ニンゲンの世界」を救ったのですねぇ・・・悪い人達ごと。」
 冷たくグレイシアはそう言い放つ。
 誰かがその言葉に反論してもよかったがイーブイ達のされてきた事を聞いているから何も言えなかった。
「どうして、旦那様じゃなきゃいけなかったの・・・どうして旦那様みたいな優しい人が全てを背負わなきゃいけなかったの・・・?」
 リーフィアの声も震えだす。その言葉は誰もが知りたかった問い。
 誰もその答えを持ち合わせてはいなかった。
 ふと、ルルが立ち上がる。今にも泣き出しそうな笑みを浮かべて。
「ごめん・・・少し頭の中を整理したいから外の空気吸って来るね?あと、あなた達が良ければずっとここに居ていいから・・・一緒にバイツさんの事待とう?」
 そうルルは言い、居間を出て行く。
 何かを思ったラランテスがルルの後を追い掛ける。
 サーナイトが取り敢えず長旅で疲れているイーブイ達を寝室に案内しようと立ち上がった。
「分かってる・・・責めたって何にもならない事ぐらい・・・」
 イーブイがポツリと言った。
「でもどうすればいいか分からない・・・!」
 大粒の涙がこぼれ始める。
 そんなイーブイを抱き上げて深く抱きしめるサーナイト。
「・・・一緒に考えるというのはいかがですか?」
「え・・・?」
「私も物事にどう対処すればいいのか分からない時がありました。その時はマスターや皆様が傍に居てくださって・・・一緒に悩んで・・・そうしてようやくそれに対する答えが見つかるのです。」
 サーナイトの言葉と体からバイツとよく似た温もりを感じたイーブイ。
「悩みに潰されてしまう前に・・・一緒に考えさせてもらっても構わないでしょうか?」
 多くを信じられずに拒もうとするイーブイ。しかし、それを否定せずにそのまま受け入れようとするサーナイト。
 イーブイは声を上げて泣き始めた。
 ようやく自分達が頼ってもいい心の拠り所が出来たのが嬉しかった。



 ルルは外で流れ続ける涙を拭っていた。
 イーブイ達がされてきた事を聞いて悪人達が未だにそういう事をし続けているのだという事が悲しかった。
 以前はそれが変わると思って世界を護っていた自分。
 世界を護っていた筈なのに傷付いている小さな存在は護れていない。
「・・・どうしてかな・・・」
 震える声でそう呟く。

703名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:49:36 ID:sv0NcSn2
「あの・・・」
 声のした方をゆっくりと向くとそこにはラランテスが立っていた。
「どうかしたの?」
 泣き顔で無理矢理笑顔を作る。
「皆さんのさっきの態度を謝ろうと思って・・・ごめんなさい・・・」
「いいの、私は偉そうな事を言ってずっとバイツさんに頼っていたのは事実だし。」
「それでなんですけれど・・・皆さんの事嫌いにならないでくださいね?」
 ラランテスが不安そうな表情を浮かべて言う。
「少しの間皆さんと一緒に旅をしてきて分かったんですけれども・・・本当は誰かを信じたいって言うのが伝わって来て・・・」
 言葉が見つからないのか一旦切る。
 そこでルルは一つラランテスに質問をした。
「私達人間が・・・怖い?」
「まだ・・・怖いです。乱暴された時も人間を憎いと思いました。でも人間を憎み続けていたら人間より人間らしいバイツさんまで憎んでいるような気がして・・・」
 人間より人間らしい。バイツがここに居たのならばその言葉を否定していたのかもしれない。
 だが、ルルもテスラもサーナイト達もラランテスと同じで自分達の身をずっと護ってくれたバイツを人間より人間らしいと思っていた。
 そしてルルは気付いたら泣きながらラランテスを抱きしめていた。
「・・・今度は私があなた達を護る・・・憎まれてもいい・・・でもずっと護らせて・・・!」
「・・・はい。」
 ラランテスはバイツが護ってきた目の前の少女を信用しようと思った。



 それから三日が経った。
 フラワーショップの外ではテスラがトレーナーズスクールに行く所であった。
「じゃあ行こう。二人共。」
 テスラが足元に視線を向けて口を開く。
「キャハ!早くしないと遅れるかもよ?」
 楽しそうにサンダースがテスラの前に出て小さく跳ねる。彼女は遅れると言ったが時間に余裕がある。
「サンダースちゃんはしゃぎすぎです。怪我をしたらどうするのですか?」
 ニンフィアもそう言いながらも何処か楽しそうだった。自然にリボンの様な触角をテスラの腕に巻きつける。
 テスラとニンフィアが互いに笑顔を見せあう。
「行ってきまーす!」
 ルルが店の中から姿を現す。
「気を付けてねー!」
 ルルの声を背中に楽しそうに駆け出す三人。
 それを満足そうに見届けたルルは開店準備に取り掛かる事にした。



 鉢植えを持ってタブンネとドレディアが移動していた。何故か二人同時にバランスを崩して転びそうになるが寸前でサーナイトがドレディアを、ラランテスがタブンネをそれぞれ支える。
「無茶しないでくださいディアちゃん。お手伝いしますよ。」
「ごめんなさいサーナイトさん。」
 と、よく見かける組み合わせの二人。

704名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:50:17 ID:sv0NcSn2
「お手伝いします。二人でしましょう?タブンネちゃん。」
「ありがとう。じゃあ一緒にお願いできるかな。」
 一方、ラランテスとタブンネもいいコンビネーションを披露している。
 別の所ではクチートとミミロップとエルフーンが花に水をあげていた。
 楽しそうにしているが花の数が多い。
 するとそこにシャワーズが現れる。
「手伝うわ。」
 と、残りの花全てに綺麗に均等に水を掛ける。
 その動きにクチートとエルフーンは輝いた眼差しでシャワーズを見る。
 そんな二人より更に目を輝かせていたのはミミロップ。
「シャワシャワ!それあたしに教えて!」
「これは私にしかできない事、それと同じようにあなたにしかできない事があるわ。」
 シャワーズも楽しそうにそう言った。
 その横ではムウマージがエーフィと共にそれぞれの花の色が一段と映える様に花を置いていた。
「どこかで色の魅せ方を習ったのかしら?」
 エーフィが魅せる今までとは違う綺麗な色合いにムウマージが感心する。
「いいえ、これは生まれ持ってのセンスだと思っていますわ。」
 そう言ったエーフィは感心されて気を良くした様子。
「私も貴女みたいなセンスが欲しかったわ。」
 コジョンドも花を配置する。
「センスが無いのならばその分学べばいいのではありませんの?とは言っても私もまだまだ学ぶ事が多くて・・・」
 そうは言ってもムウマージもコジョンドもそのセンスが羨ましかったのかエーフィを見つめる。
 それが可笑しかったのかエーフィは笑い、ムウマージとコジョンドも笑った。
 その頃、家の中ではユキメノコとグレイシアが一仕事終えていた。
 二人の眼前ではアブソル、ゾロアーク、ブースター、ブラッキー、リーフィアがメイド服を着せられて恥ずかしそうにしていた。
「これはどういう事だい?納得のいく説明が欲しいねぇ・・・」
 ゾロアークが恥ずかしさで震える声を絞り出す。
 それに対して笑顔で答えるグレイシア。
「皆さんいいものを持っているのに性格に少々癖があるので視覚でお客を釣ろうという作戦ですぅ。ユキメノコさんと二人で頑張りましたぁー」
「でも・・・これはやり過ぎじゃないかな・・・ボクには似合わないと思う・・・」
 ブラッキーも声が震えだす。
「これ着て外に出たら何か別の店じゃねえか?」
 ブースターの意見は最もだった。
「頑張って作ってくれたのはありがたいが脱がせてもらおうか・・・」
「良く出来ているとは思うけど、別のベクトルに進み始めてるよね二人共。」
 と、メイド服を脱ごうとするアブソルとリーフィア。
「マスターの趣味に合わせたんやけど・・・」
 ユキメノコの一言が五人の動きを止めた。
 そして、納得したような表情になる。
 それを見たユキメノコとグレイシアが声を潜めて話し合う。

705名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:51:16 ID:sv0NcSn2
「本当に旦那様の趣味なんですかぁ・・・?」
「服着てもらう為の嘘です。でもマスターはウチ等がどんな格好してても愛してくれます・・・」
 色々と口々に言い合う二人だった。



 一通りその光景を見ていたルルは若干顔を引き攣らせて笑う。
「馴染み過ぎでしょ・・・皆。」
 しかし、否定され続けるよりは大分マシだった。
「どうしたの?何か顔が引き攣ってるよ?」
 イーブイがルルを見上げる。
「ん?皆楽しそうで良かったなーって。」
「うん、結構楽しい。」
 イーブイが言い切る。
「ほんの少し一緒に居ただけなのに妙に安心できるみたい・・・旦那様があんた達を護り続けた理由が分かった気がする。」
 そして彼女は微笑みを見せる。
「だから皆と話して護るって決めたの。あんた達も・・・帰って来る旦那様も。」
 それはヒトが捻じ曲げてしまったイーブイの本来の性格。
 それを察したルルは少し悲しげな表情を浮かべたが元の明るい表情に戻る。
「頑張らなくていいの、私が護るんだから。」
 何があっても変わらないその台詞をルルが言うと、サーナイトが近づいて来る。
「ルル様、ブイちゃん。お店の開店準備整いました。」
「うん、分かった。」
 ルルの表情が一層明るくなる。
「ねえねえサーナイト、お店が終わったら旦那様のお話ししてよ。」
「いいですよ。」
 そして、彼女達の一日が始まる。
 笑顔と希望に満ちた明るい一日が。



 液体の落下音にもよく似た音を立てて男が倒れた。
 倒れた男からは赤黒い液体が流れ出す。
 命が消えた目安であるかのように。
 その物言わぬ肉塊を見下ろしているバイツ。
 まるでその目は元々それを生物とは認識していなかったかの様。
 彼が今居る建物内に敵は居なかった。
 居なくなったと言った方がこの場合は正しかった。
「連中には今までの事を清算してもらおう。いないとは思うがこの戦いから降りたい奴は?」
 バイツはそう言って口元に笑みを浮かべて彼の中では最凶の味方である四人の少年に視線を向けた。
 その四人の少年も度合いが違うが笑みを浮かべた。
 降りる意思など無い事を表すかのように。
 そして五人の少年による狂気に満ちた一方的な潰し合いが始まろうとしていた。
 それを少し離れた場所から眺めるデオキシス。
「面白い本書けそう。」
 惨劇を目の前にして口にしたのがその一言だった。

706名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:52:37 ID:sv0NcSn2
はい、これで何かバイツが帰還したらとかいう話の前編終わり。
長かった?ごめんなさい。
酷い表現があった?本当にごめんなさい。
後編?いつ書き上がるんだろう。
エイドロンの草原?さっさと実装して。

707名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:20:38 ID:sv0NcSn2
ごべんなざいいぃぃぃ!(号泣)
本当はおととい投稿する予定だったんですけど睡魔には勝てなかったよ・・・
っていうか本編進めるの一年ぶりかな?
誤字や脱字?いつもの事さ、察してくれ。

708名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:21:55 ID:sv0NcSn2
 スーツを着た初老の男性が溜め息を吐きながら机の上で両手を組んだ。
 その机を挟んだ先には一人の女性が立っていた。
 若干外にはね気味の黒く長い髪は整った顔立ちを艶やかに見せるのに一役買っていた。豊満な胸を強調するかのように白いワイシャツの胸のボタンが外されており、黒いスラックスを穿いていても分かる尻から太ももにかけての美しいラインも異性の目を引く。
 しかし、彼女はそういう事を狙ってこういう服装にしたわけではなくワイシャツの胸のボタンを外している理由はただ胸が苦しいからで今穿いているスラックスは機能性に優れているからそれを穿いているだけであった。単に服を選ぶのが面倒という理由もあったが。
「ミコ君の任務の事は知っているね?レイリン君?」
「ええ、知っています。しかし何故それを?」
「ミコ君からの定時連絡の内容が余りにも不透明すぎる。」
 男性がそう言うとレイリンは表情を変えずに小さく溜息を吐いた。
「ターゲット達の中に上手く溶け込んでいるのかどうか分からない。情報が不透明な理由は潜入に気付かれて嘘の情報を流せと脅されていると考えねばならない。」
「私の呼ばれた理由は潜入の手助けでしょうか?」
「・・・かもしれん。ミコ君が先々で関わっている事件で現場の警官達が時たま見ているのだ、ターゲットの内の一人とかなり打ち解けていると。」
 深く入り込んでいるのに不透明な情報。それが男性の思考を錯綜させる。
「ミコ君の情報で現在ターゲット達が潜伏している街は分かっている。大至急その街に飛んでミコ君と合流してもらいたい。そして・・・」
「分かっています。任務の手助けですね。」
 レイリンの言葉に男性は頷いた。



「全く・・・ミコったら、世話が焼けるわね。」
 外に出たレイリンは溜め息混じりにそう言った。
 しかし、「親友」に会えそうなので彼女は若干明るい笑みを浮かべた。
 そんなレイリンを追う一つの影があった。
 四本の脚で駆け白銀の毛をなびかせてレイリンに接近し、傍に寄り歩調を合わせる。
「やっほー」
 そのポケモン、アブソルは呑気にレイリンに声を掛けた。
「アブソル・・・あなた何処に居たの?」
「ん?あっちの木の上で寝てた。だってお話しつまらなそうだったもん。」
「探し回ったわよ?ほんの数分だけど。」
「ごめーん。」
 軽く返すアブソルの左前脚にはメガバングルが填められていた。
「で?部長さんのお話しは何だったの?」
 アブソルのその言葉にレイリンは笑ってみせた。
「ミコに合流するわよ。一緒にお仕事。」
「ミコちゃんとバシャーモに会えるの!?」
「そう、急いで向かうわよ。」
 二人の足取りは軽かった。まるで何度も同じ事を経験したかの様に。



 ハーヴァルは目の前の機械を弄っていた。
 人が入れそうな透明のカプセル。その中には緑色の液体が充満していた。そのカプセルを立てて固定するかのように下部分は様々な機械でごった返していた。
 無表情でモニターの数値に目を通しながら機械を弄るハーヴァル。
「で?様子はどうだ?」
 ハーヴァルに声を掛けたのはヴォルツだった。暫くハーヴァルの行動を背後から椅子に座って眺めていた。
「酷いものじゃ。胸の傷は大した事無いんじゃが問題は他のダメージでの、リンクしていたナイダスを破壊されて更に人間ならば原型を保つ事が出来ぬほどの力での攻撃。回復には少し時間が掛かる。」
 ハーヴァルがボタンを押すとカプセル内の緑色の液体が若干透明になった。
 その中に居たのはトーヴだった。
 今は眠っている様で何の反応も示さない。
 ヴォルツは強く拳を握った。
「・・・自分を責めるか?」
 ハーヴァルの言葉に動じずにヴォルツは言葉を返した。
「多少な。」
「お前さんの責ではない。「化物」の方が強かった。そういう結果だった訳じゃ。」
「・・・」
 変な慰め方にヴォルツは押し黙る。

709名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:23:04 ID:sv0NcSn2
 間を置かずにヴァルドとドルヴが姿を現した。
 ドルヴがカプセルに視線を移す。
「んで?トーヴちゃんの調子はどうよ。」
 ハーヴァルが先程ヴォルツにした説明をドルヴに言うとドルヴは軽く笑い、そして真面目な表情を浮かべて奥歯を噛み締めた。ここまで仲間を痛めつけた「化物」に対しての恨みを込めて。
「無様ですね。」
 ヴァルドは冷たくそう言い放った。
 全員の視線がヴァルドに集まる。
「ナイダスを使ってこの様ですか・・・もう少し分をわきまえて欲しいものです。」
「ヴァルド!」
 ヴォルツがヴァルドに接近し胸倉を掴む。
 それでもヴァルドは冷たい表情を崩さない。
「放してください。暑苦しい。」
 ヴァルドは胸倉を掴んでいるヴォルツの手を払う。
「次は私が出ますよ。大人しくしていてください。」
 そしてヴァルドは闇の向こうへと歩いていった。
 ハーヴァルは再度機械を弄り始め、ヴォルツとドルヴがヴァルドの歩いていった方向を見ながら会話を始めた。
「かなりプッツンしてたな、ヴァルドちゃん。」
「あそこまでキレた奴を見たのは久しぶりだ。」
「冷静に見えて冷静じゃねえからな・・・後でサポートに回らなきゃなんねえかも。」
「その時は俺も出よう。」
「頼むわ、出会い頭に「化物」と会わなきゃいいんだけどな。」
 単純だが最悪のパターンをドルヴは口にした。



 その「化物」と呼ばれている少年、バイツはホテルの部屋のベッドで眠っていた。
 彼にしては珍しく警戒心無く寝息を立てている。
「バイツくーん。居るー?」
 と、部屋に入ってきたのは刑事であるミコだった。ロックが掛かっていた部屋のドアは警察の権限で従業員に開けさせた。
 ミコはすぐに眠っているバイツを見つける。
「寝てるの?折角皆で散歩しようと思ったのに・・・」
 そう言いつつバイツを誘うのを止めようとしないミコはバイツが眠っているベッドの上に両手と両膝をついてゆっくりと忍び寄る。
 まじまじとバイツの寝顔を覗き込むミコ。
 以前サーナイトが言っていた普段のバイツとのギャップがあるという言葉をミコはもう一度理解する。
 仲間を護る為ならば人殺しも躊躇わずに行い、心配を掛けさせない様に気丈にそして冷静に振る舞う。
 しかし、今はまるで子供の様に無防備に眠っている。
「普段は髪で隠れてて分からないけどバイツ君ってイケメンだよね・・・」
 ミコはバイツの顔の全体を見てそう言った。
 そして、バイツの顔にミコは顔を近付けた。
「バイツ君起きて、散歩に行こ?早く起きないと―――」
 どうせすぐに起きるだろうと思ったミコは顔をゆっくりと近付けつつ次の言葉を口にした。
「―――キスしちゃうぞ?」
 全然起きないバイツ。
 ミコはゆっくりゆっくりと顔を近付ける。止まればいいのだが何故かその考えに至らないミコ。
 止まらない彼女の唇に柔らかいものが触れた。
 その瞬間、顔を紅くして目を見開きバイツから顔を離す。
 今更の様に胸が高鳴り始めた。
 自らの唇に触れて先程の感触を思い出す。
 温かくて柔らかいバイツの唇。
 今までに体験した事の無い感覚が体中を駆け巡る。
 今は二人きり。
 もう一度キスをしようとした時、部屋の外からバシャーモの声が聞こえた。
「ミコー!そろそろ行こう!」
 そこで我に返ったミコはベッドの上から降りる。
「・・・ごめんね・・・バイツ君。」
 当初はその気が無かったとはいえ寝込みを襲ってキスをしたのでその事について謝ったミコは部屋を後にした。



 バイツが目を覚ましたのはそれから二十分後の事だった。
 部屋に誰も居なかったので取り敢えずライキとヒートとイルとシコウの部屋に行く事にした。
 あの四人が同じ部屋というのは珍しかった。
 バイツは部屋のドアをノックする。
 ドアを開けたのはイルで片手にはドーナツを持っていた。

710名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:23:50 ID:sv0NcSn2
「寝起きです、って顔してる。」
 寧ろイルが見ていたのは顔ではなく若干乱れた黒髪だった。
「まあ、寝てたからな。何してるんだ?」
「カードゲームを色々と。ライキとヒートとシコウとキルリアで。」
「・・・キルリアと?」
「まあ、面白い事になってるよ。入って。」
 部屋の中に入ったバイツは思いがけないものを見る。
 キルリアは悪意のある笑みを浮かべてポーカーチップを重ねて塔を作っている。
「ねー、次のゲームしようよ。」
 その言葉に反応できていないライキとヒートとシコウ。三人は机の上に額を乗せて項垂れていた。
「・・・何で勝てないの?・・・リアルマネー賭けてたら自殺してた・・・」
「・・・あり得ねえ・・・ケツの毛までむしり取られるってのはこういう事か・・・」
「・・・忍者の・・・感情を読み取るか・・・」
 その呟きの後にキルリアはバイツに気付く。
「あ!バイツお兄ちゃん!」
「遊んでもらってたのか?」
「まあね、本気でしていいって言われたから感情を読み取ってポーカーしてた。でも勝ちすぎて途中から退屈になってきたからサイコパワー封印して表情筋や呼吸音から感情を読み取る練習してた。」
「練習の結果は・・・見れば分かるよ。」
 人間兵器三人を黙らせるという成長を見せるキルリア。
 そこでイルが口を開いた。
「外で何か食べない?籠りっきりじゃタイクツだよ。」
「一理あるな。行こうキルリア。」
「うん!でも・・・」
 キルリアは散々打ち負かした三人に視線を向ける。
「暫く使い物にならないだけだ、気にするな。」
 そしてバイツはキルリアと手を繋ぐと部屋を出て行こうとするイルの後を追った。



「ミコ様、いかがなさいました?」
 散歩の途中、広場のベンチに座って休憩しているミコの夢見心地な表情を見て隣に座っていたサーナイトがその理由を訊いた。
「んー・・・バイツ君にキスしちゃった。」
 包み隠さない簡単な一言はその場の空気を止めた。
 クチートが静寂を破る。
「チューしたの?」
「うん。寝てるところに。」
 犯行内容をさらりと語るミコにミミロップが確認をする。
「嘘だよね・・・?」
「本当・・・柔らかかった。」
 唇と唇が触れた瞬間を思い出すミコは顔を紅くする。
 その様子を見たバシャーモは口を開く。
「皆、聞いておくれ。ミコは顔に出やすいタイプでね・・・」
 怒りをはらんだ笑みを浮かべてミコを見る。
「嘘は隠せないけど本当の事はもっと隠せないんだよ。今がその表情。」
 ルカリオも溜息を吐きながら鋭い視線をミコに向ける。
「今ほど波導を感じる事が出来るのを恨めしく思った事は無いな・・・嘘はついていない。」
 付き合いによる経験と波導がそれを事実だと証明した。
 そしてその一同が騒がしくなる。
「どうして寝込みを襲ったの!?マスターがかっこいいから!?」
 と、よくバイツの寝込みを襲うミミロップが叫ぶ。
「だって可愛いからしょうがないじゃない!いつもはクールでかっこいいんだけど時たま見せる女の子みたいな顔が可愛くてでもそれが男の子だって言い聞かせると変な感情が生まれちゃって今回だって無防備で小さな寝息を立てて寝てるんだよ!?もうこれ襲ってくださいって言ってるようなものじゃない!服はだけてたら一線越えてた!」
「・・・女の子の様なお顔をしたマスター・・・無理矢理襲った私を涙目で見ながら・・・それでも両手の縄を解けるのに解かないで・・・」
 ミコの謎の熱弁を聞いたサーナイトはその言葉の所為で更に妙な妄想をし、鼻血を出しながら自分の世界へと入っていった。
「サナお姉ちゃん。鼻血出てるよ。」
 クチートの声は届いていない。
 実のところそういう妄想に至らなかったのは一番幼いクチートだけであった。他の面々はサーナイトを筆頭にそんなバイツを想像し悶々とし始める。

711名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:24:54 ID:sv0NcSn2
 ルカリオが踵を返す。
「よし、その可愛い顔が事実かどうかを確かめる為に私はホテルに戻る。」
 彼女は冷静に見えて冷静ではない。
 そんなルカリオの肩を掴むバシャーモ。
「今のあんたの考えている事が読めるよルカリオ・・・だから行かせられないねぇ・・・あたいが行く。」
 その騒ぎはかなり目立っている事を知らない。
 そして「彼女」はすぐに一行を見つける事が出来た。
「随分と仲が良いのね。ミコ?」
 その声はミコの耳にすぐに入り、ミコはその方向を振り向いた。
 そこに居たのは長い黒髪の女性。
「ハーイ。元気?」
「レイリン!」
 ミコはレイリンに近寄ってハイタッチした。
 子供の様に無邪気に再会を喜ぶミコを見てレイリンは笑った。
「変わって無くて安心した。」



 近くのオープンカフェで話しをする事にしたミコとレイリン。当然サーナイト達もついていく。
「ふーん、じゃあその子達とは結構仲良くしてるの。」
「うん、そうなの。」
 メロンソーダを飲みながらミコは楽しそうにレイリンとの話しを進める。
「私はてっきり毎日のように輪姦されてて肉便器状態。与えられる食事は精液だけとかいう状態も想像していたんだけど?」
 声を潜めようともしない物凄い発言。周囲の客の動きが止まる。
「レイリン?その・・・今このカフェでモーモーミルクフェアやってるの知ってる?」
「だから?」
 今居る場所の事などお構いなしのその言葉にサーナイト達もただただ驚くばかり。
「でも・・・バイツ君にならそういう扱いされてもいいなー・・・」
 ミコもおかしな発言をし始める。
 しかし、サーナイト達は理解していた。バイツ達が自分達やミコに対してそういう扱いをしない事を。それをしなければならない状態になったのならば彼等は永遠とも取れる自らの命を終わらせる方法を探し出して即座にそれを実行する事を。
 ふとサーナイトは妄想を始めたミコを無視し始めたレイリンが自分を見ている事に気付いた。
「・・・?」
「自分からこの旅についてきた・・・強制される事も無く・・・ってところかしら?」
 サーナイトは驚いた。その事について話した記憶は無い。
「ど・・・どうしてそれを・・・?」
「んー・・・勘に近いものかしら。何となくそういう表情をしているから。」
 レイリンの鋭い洞察力にサーナイトは驚かされる。
 その時怒鳴り声が聞こえた。
「さっさとみかじめ料払えや!そうすりゃこの店を護ってやんよ!」
 複数の男が店長らしき人物を取り囲み、「交渉」を行っていた。
 自己紹介をされなくても雰囲気や外見そして今の行動でどういう連中かは分かる。
 周囲の客が逃げたりする中サーナイト達は現実世界に戻ってきたミコとそんな親友を眺めながらストローでジュースを飲むレイリンに視線を向ける。
 二人は至って冷静で普通にまた会話を始めた。まるで男の怒鳴り声など埒外にあるかのように。
 そんな彼女達に男達は気が付いた。
 怒鳴っていた男が近づいて来る。
「別嬪さん揃いじゃねえか、どうよ?ここの馬鹿共の説得が終わったら・・・」
 荒すぎる口説きにレイリンは冷たい視線で答える。
「冷たい視線だな姉ちゃんよぉ・・・決めた!この場で調教してやる!」
 勝手に話を進めていく短気な男はレイリンに向けて拳を振り上げた。
 そして一秒後には振り下ろした腕を取られて捻じり上げられて地面に組み伏せられていた。
「あら残念。」
 余裕のレイリンが煽るような形でそう口にした。
 男達は仲間がやられたと分かるとサーナイト達を取り囲み武器を取り出す。
 ところが全員が武器を出しきって一秒もしない内に、華麗に立ち上がったサーナイトが踊る様にくるりと一回転すると念波で綺麗に全員の武器だけを吹っ飛ばした。
「ナイス!サーナイト!」
 そう叫んで近くにいた男に蹴撃を食らわせるミコを皮切りにミミロップ、クチート、ルカリオ、バシャーモが男達を自らが得意とする戦闘スタイルで倒していく。

712名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:26:12 ID:sv0NcSn2
 十秒後、打ち倒された連中は全員が信じられないと言った顔で倒れていた。
「クソッ・・・テメェ等何モンだ・・・!」
 腕を捻じり上げられている男がそう言うとレイリンが男の眼前に警察手帳をぶらつかせ、中を開いて見せる。
「こういう者よ。」
 レイリンの正体を知った男の顔色が怒りの紅から恐怖の青に変わるのに時間は掛からなかった。



「警察だ!」
 通報を受けて警官が現場に駆け付ける。
 既に抵抗しない男を押さえつける。
「すいません・・・!」
 苦しそうに男は謝る。
「何が目的だ!」
「すいません・・・!」
「物か!お金か!」
「違います・・・!」
「特に部屋に異常は今のところありませんか!?」
 店長に警官が訊く。
「特に異常はないですけどこいつ布団の上で枕を抱えて・・・」
「布団の上で枕を・・・?!抱えて・・・?」
 それがこの件の最重要事項とでも言わんばかりに警官の声に熱が入る。
「多分変態だと思うんですけど。」
 店長の名推理。しかし困った事にサーナイト達が今経験してきた事と証言がとてつもなく大きく食い違っている。寧ろ別の事件。
「ここはお部屋では無くてお店では・・・?それに布団の上で枕とは一体・・・?」
 その様子を見ていたサーナイトが不思議そうにそう言った。
「突っ込まない方がいいよサナサナ。時空の壁を越えてやって来た警察官だと思うから。」
 ミミロップはその言葉を口にして自分とサーナイトを納得させた。
「あなた達やるじゃない。助かった。」
 レイリンがサーナイトとミミロップとクチートとルカリオを見比べながら笑みを浮かべてそう言った。
「武器を落として怯んだ一瞬の隙を突く。相当連携が取れていないとできない事よ。」
「お役に立てたのでしたら幸いです。」
 サーナイトも微笑む。
「ミコなんかよりも断然強い。何か特訓でもしてるのかしら?」
 ミミロップはレイリンに軽く見られ一人で怒り始めたミコを尻目に口を開いた。
「マスターを護りたい、マスターの力になりたい、って気持ちが強いだけかなー」
「それはその「マスター」に言われてやっている事じゃないのね?」
 クチートが真面目な表情を浮かべて答えを返す。
「あたし達が決めたの。マスターに護ってもらうだけじゃ駄目だって。」
 レイリンがその時感じた事はその言葉を言う様に叩き込まれた訳ではなく、本当の彼女達の心の底からの想い。
「それにマスターならばあの程度の連中、私達が動く前に片付けている。情けない話だが動きが見えない。」
「ふーん・・・」
 ルカリオの話を半信半疑で聞いたレイリンはミコとバシャーモに視線を送った。二人は本当であるという意味を込めて頷く。
「でも自分からそうしたいって想いは立派ね。アブソルにも見習ってほしいわ。」
 そこでミコがハッとしてレイリンに一つ質問をした。
「アブソルは・・・どこ?姿が見えないけど・・・」
「迷子。何処かで何かしらしてなきゃいいけど。」
 軽く言い放ったレイリン。彼女はこれでも心配している方であった。



 その迷子になっているアブソルは公園で殺気立っている男達の前に立っていた。
 彼女の後ろには少女とフォッコが怯えながら男達を見ていた。
「この子がちょっとぶつかっただけじゃない。そんなにカッカしないでよ。」
 相手を馬鹿にするような笑みを浮かべながらアブソルがそう言った。
「うるせえ!そのガキがぶつかって俺の服が汚れたから怒ってんだよ!クリーニング代請求するから親の所に連れてけってんだよ!」
 何があったかは男の発言で大体分かったがそれでも周囲の人間は誰も助けようとしなかった。
「もういい!袋叩きにしてやる!」
 勝手にキレた男。
「取り囲め!」
 男達が広がりながら塊から輪を作る様な形で取り囲む。完全な円にはなっていないが。
「んー・・・やるの?」

713名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:27:11 ID:sv0NcSn2
 呑気にそう言ったアブソルの言葉は更に男達を怒らせる。
 ふと、アブソルは背後に三つの気配を感じた。
 急に現れたその気配。男達に後ろを取られたのかと思い後ろを見る。
 その三人は後ろにあった街の案内を見ているだけだった。
「さて、何を食べに行く?どこもかしこもモーモーミルクフェアってやつをやっているみたいだが?」
「僕甘酸っぱいのがいいなー、イルお兄ちゃんはどんなのが食べたいの?」
「ボクも今は甘酸っぱいのが食べたいなー、ねえねえバイツ、キルリア、このお店行ってみようよ。」
 何事も無い様に会話をする三人。黒い髪と金色の髪の少年、そして緑色の髪のポケモン。アブソルはその三人を見て不思議な感じがした。
「何よそ見してんだボケェ!」
 先程からよく喋っている男がアブソルに向かって突進し手を伸ばしてきた。
 アブソルはこの程度ならば見なくても察知してかわす事が出来た。
 しかし今回はそれをしなかった。
 包帯が巻かれた右手によって男の手が止められていたので動く必要が無かった。
 その包帯が巻かれた右手の主であるバイツは呆れた様な目で男を見ていた。
 表情を変えないまま枯れた細い小枝を折るかのように曲げてはいけない方向に男の腕を捻じ曲げた。
 骨が折れる音が数回鳴ったかと思いきや次はその激痛で男が悲鳴を上げた。
 幾つも関節が増えた腕を見ながら地面に倒れ、泡を吹き白目をむく。
 男達もアブソルも少女もフォッコもその光景を見て思考を停止させた。
「キルリア、あのオジサン達脅せば逃げると思う?」
「無理だねイルお兄ちゃん。今は現実が見えてない状態だもん。」
 素早く男達の感情を読み取るキルリア。イルはそれを聞いて殺気をはらんだ笑みを浮かべた。
「じゃあ殺そう。」
 男達はイルの殺気に気付き思考を戻す。そして一番効果的な行動に出た。
「にっ・・・逃げろー!」
 誰かが叫んだ。
 男達は背を向けて駆け出した。
 最後尾を走っていた男の背中に何かがぶつかりその男も転倒し気絶する。
 それもその筈投げつけられたのは腕を折られた男だった。
「ゴミは各自でお持ち帰り下さい。」
 男を投げたバイツは逃げていく男達に向かってそう言い、手を振った。
 バイツはアブソルと少女とフォッコの方を振り向いた。
 少女とフォッコはバイツのその戦い方に恐怖を覚えたが自分達に向けられた心配そうなそして優しい表情を見て安堵感が勝ったのか泣き出した。
 その二人のハンカチ代わりになる為にバイツはしゃがんで二人を抱き寄せた。それを見ていたアブソルは目を輝かせた。
「すごーい!」
 颯爽と現れて目の前の脅威を排除し、心のケアも欠かさない。それだけでアブソルはバイツに心惹かれ始めた。
 バイツとアブソルの視線がぶつかる。
「大丈夫?」
 バイツのその微笑みはアブソルを恋する少女へと変えた。
 先程とは違う目の輝きを向けられたバイツは一瞬左前脚のメガバングルに視線を移したがすぐにアブソルの顔に視線を戻した。
 軽い足取りでバイツに近付くアブソルは両前足をバイツの体に掛けて頬を舐め始めた。
 それを見ていたイルが某漫画家に似ているウリ専の調教師の様な言葉を呟いた。
「落ちたな・・・」
 更にそれを聞いたキルリアも一言。
「縛らなきゃ・・・」
 暇な二人はネタに逃げようとしていた。



 少女とフォッコを無事に親元に送り届けたバイツ達は公園から離れたファミリーレストランで当初の目的である「甘いもの」を食べようとしていた。
 アブソルは座っているバイツの膝の上に背を伸ばして座ってあれこれと聞き出そうとしている。
 別にバイツは隠す事も嘘をつく事も無く色々と話した。
 会話の中で分かったのは平均より小柄なアブソルは幼い少女だという事。年齢的にはキルリアとクチートよりも少し上といったところ。

714名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:28:17 ID:sv0NcSn2
「ねえねえバイツ君。パンケーキにかかってるホイップクリーム食べてみたい!いちごソースも付けて!」
 バイツを「君」呼ばわりするが子供っぽさを隠そうともしない。
 それでもバイツはそこに触れずにスプーンでパンケーキの上にかかっているホイップクリームに苺の果肉付きソースを付けてアブソルに差し出した。
 口にそれを入れて満足そうな笑顔を浮かべるアブソル。
 そのスプーンでバイツも少しソースを掬って口に運ぶ。
「あ・・・」
 それを見たアブソルは驚きのあまり咄嗟の言葉が見つからなかった。
 アブソルの視線に気付いたバイツ。
「ゴメン・・・嫌だったか?」
 謝るバイツに対しアブソルの浮かべた表情は喜びそのものだった。
「間接キスしたって事はあたしに気があるって事だよね、そうだよね!」
 また目を輝かせてアブソルはバイツを見た。
 そんなバイツにイルが悪意丸出しの笑みを浮かべ視線を向ける。
「ねーバイツ、ミントあげるからさパンケーキ一枚頂戴?」
 と、イルがストロベリーパフェの上に乗っていたミントを差し出そうとする。どう見ても公平じゃない取引。
「この馬鹿殺したい・・・」
 とても残念そうにバイツはそう言った。
 キルリアはストロベリーシェイクを若干太めのストローで吸いながらバイツとアブソルを見た。
「まあ考えてもしょうがないか、モテるのは分かる気がする。だってバイツお兄ちゃんだしね。」
「俺がモテるって?そんな・・・こ・・・と・・・」
 正直、異性には好意を持たれる行動を取り続けている。大抵がトラブル絡みだが。
「あ、いい事思い付いた。バイツお兄ちゃん今度何処かの街で髪型を弄って顔を見せた状態で女の人ナンパしてみてよ。百人中何人成功するか知りたくなってきた。」
「じゃあ、百通りのシチュエーションと百通りの口説き文句と百通りの別れ方を一緒に考えてくれよ?」
「ゴメン、無理。やっぱりこの話忘れて。」
 ふとアブソルが不思議そうな顔をしてバイツとキルリアを交互に見た。
「髪型を弄るって?どういう事?」
「何だか俺は見た目を少し変えるだけで雰囲気が著しく変わるらしくてさ。」
 バイツは顔全体が見える様に髪を掻き上げる。
 それを見たアブソルはバイツがサディスティックな笑みを浮かべるこの世のものとは思えない美形の俺様系王子に見えた。
「ポケモンから見てもイケメン・・・」
 見惚れるアブソル。
 すぐに髪を普段通りの無造作に伸ばした形に戻すバイツ。
 瞬時に四人は店の入り口に視線を向けた。
「アブソルが言った通り連中俺達を見つけたな。」
「でしょ?災いを察知できるっていうのは結構便利なんだよ?」
 得意気にアブソルがバイツに言う。
「それ言われたのあの二人を送る途中だよね。結構前に察知できるんだ、凄いね。」
 イルなりにアブソルを褒める。
「ここに居ても感情が読み取れる・・・怒りと余裕が入り交じってる。」
 キルリアがそう言い終えた時店の中に大人数のガラの悪い男が入って来る。
 一人がバイツ達を指差した後、ぞろぞろと向かって来る。
「テメェ等か、公園で俺の仲間を痛めつけてくれたのは。」
 一人の男がガラの悪そうな声を出して四人を威圧しようとした。
「傘下の店を増やそうとした仲間もパクられたから苛ついてんだ。タダじゃ済まさねえぞクソが!まずはあいつの折られた腕の恨みから晴らしてやる!」
 声を荒げる男に対し、バイツとイルは薄ら笑いを浮かべた。
「仲間だって?いや失礼、「恋人」を傷物にされたから苛ついているとばかり。」
 かなり卑劣なバイツの煽り。
「あの折られ方じゃ暫く「シゴいて」もらえないね。あーあ、歯を全部叩き折ってやればよかったかも、そうすれば「具合がいい口」になるかもよ?」
 イルに至っては卑劣というより下品な言葉。

715名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:29:00 ID:sv0NcSn2
 顔を歪ませて怒りの表情を浮かべる男。
 その表情を見たキルリアの顔を一滴の汗が伝った。
「ねえ皆、この怒りの感情は図星を突かれた感じのものだよ。」
 バイツとイルとアブソルが一瞬硬直する。
 カードゲームで叩きのめされて今もなおホテルの部屋で落ち込んでいる出番無しの忍者の感情すら読み取れるキルリアが間違える訳がない。しかし、イルとアブソルはともかくとしてあのバイツですら怒りの感情を読み間違えていてほしいと思っていた。
「俺と奴は来週挙式だったんだよ!もう許さねえ!マジでぶっこ―――」
 急に男が黙って倒れた。
 近くにいた仲間はその顔を覗き込んで絶句する。
 パンケーキを切る為のナイフが左目を貫いていた。柄尻以外見えない程深く刺さり男を絶命させるには十分な一撃だった。
 ナイフを投げたバイツは冷や汗を滝の様に流していた。
 イルは笑顔を引き攣らせて一言。
「気分悪くなってきた・・・」
 ふと、バイツが妙な事を口にする。
「俺とキルリアの組み合わせはナシ?」
「アリでいいんじゃない?二人共チョット表情変えれば女の子に見えるし。」
 「本物」を見てしまった為か変な方向に話しが進む二人。
 だが、男達に対する敵意と殺意を消した訳ではなかった。



 五分もしない内に四人は店から出てくる。
 バイツは気怠そうに首を鳴らし、イルは背伸びをする。
 キルリアとアブソルは店内を見るかのように振り返った。
 ほぼ一瞬とも取れる惨劇を誰もが信じられずに店内に彩られた「紅」と転がっている男達を凝視していた。
「簡単に連中根城の場所を吐いてくれたね。」
「暴力で解決を望んだ連中だ、暴力で終わらせてやろうじゃないか。」
 軽く話す二人の顔には笑みすら浮かんでいた。
「キルリアはアブソルのパートナーのレイリンっていう刑事さんを捜す手伝いをしてくれ。」
 更なる惨劇を見せない様に一旦別れようとする。
 キルリアは不満そうな表情を浮かべたが一言言うだけに止めておいた。
「街をふっ飛ばさないでね?」
「分かってるさ。」
 バイツはそう言うとイルと共に「何時ものゴミ掃除」に向かった。
 その背中を見てアブソルが口を開く。
「バイツ君とイル君って凄いなー・・・あんな事をしでかしても平然としてるんだから。」
「さっきバイツお兄ちゃんが話してたけど後三人いるよ。落ち込んでるけど。」
「いるって事だけは分かったけどどんな感じの人達?」
「ガンスリンガー、デモリッシャー、ニンジャ。」
「・・・バイツ君の方がカッコ良さそう。」
「んー・・・そだね。」
 今の状態の三人が聞いたらさらに落ち込みそうな台詞をさらっと吐く二人。
 キルリアとアブソルはバイツとイルが歩いていった方向とは逆に歩き始めた。



「何か慌ただしく動いてるわね。事件かしら。」
 と、レイリンが走っている警官を見ながら言った。
 一応迷子のアブソルを捜している一行。
 しかし、傍から見ればただの散歩の様。
「あー!いたいた!」
 アブソルがキルリアと共に一行を見つけた。
 人通りが少なくなった通りでばったりと出会えたレイリンとアブソル。
「今度は何処に居たの?木の上で寝ていた訳じゃないわよね。」
「んー・・・」
 アブソルは「王子様」に出会った事を言おうかと思ったが色々と話さなければならなくなるので話をはぐらかす事にした。
「ホモを見てた。」
「何言ってるの?」
 そんな二人を尻目にキルリアはサーナイトに近付いた。
「どの様な経緯で出会ったのですか?」
 若干端折った部分はあったがキルリアは一通り説明した。
「・・・マスター・・・」
 サーナイトは心配そうにそう呟いた。
 その時全員のメガバングルが反応を見せた。
『ダークナーの気配がします・・・何故急に・・・しかし、この反応は・・・?』
 サーナイト達は辺りを見回す。

716名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:29:53 ID:sv0NcSn2
「私を捜しているのでしょうか?」
 空から金色の髪をした一人の男が降ってきた。
 人間では無い様にゆっくりとそして音も無く地面に降り立つ。
 黒を基調とした何処かの貴族の様な衣装を着た男はサーナイト達を睨み付けた。
「貴女方が我々に歯向かうポケモン達ですね?私の名はヴァルド。」
 ヴァルドは左手を腹部に添えて右手を後ろに回し頭を下げた。
 サーナイト達はその動作に恐怖を感じ咄嗟にメガシンカした。
「死ぬまでお見知りおきを。」
 冷たい視線がサーナイト達を捉えた。
「なーに気取ってるの?」
 軽い足取りでメガシンカしたアブソルが前に進み出た。
「悪いけどすぐに終わらせるよ?っていうかダークナーっぽいから斬ってもいいよねレイリン。」
「そうね、手加減するとヤバそうだし。それに見た感じ簡単には死ななそうだから本気で行っていいわよ。」
 その言葉を聞いたアブソルは口元に小さく笑みを浮かべると、ヴァルドに向かって突進していった。
 サーナイト達を驚かせたのはその速度。突進した後ろ姿を見たと思ったら既にヴァルドに跳びかかっていた。
「速度もそうだけどアブソルは自身の最高速度に達するまでがとてつもなく短いのさ。」
 アブソルと共に戦うのは初めてではないバシャーモがそう言った。
 鋭い一閃がヴァルドの体を斬り裂いた。
「ごめんねー?でも―――」
 斬り裂いたヴァルドに目を向けてまだ宙を跳んでいるアブソルは言葉を止めた。
 ヴァルドの体が大量のカードに変化して散っていく。
 それが何かしらの力で形成されたカードだと理解した瞬間に真横で声が聞こえた。
「遅いですよ。その程度の速さは見切れます。」
 二本の指で挟んだカードを振りかぶりアブソルを斬り裂こうとするヴァルド。
 そして、その手が振り下ろされた。
 だが次はヴァルドが絶句する番だった。
 空中で体勢を変えてその一撃をいなしたアブソル。綺麗に着地を決める。
「こういう事も出来るの。」
 笑みを浮かべそう口にしたアブソルの背後で小爆発が起こった。
 次々とアブソルを目掛けて何処からともなく襲って来るカード。それをサーナイトの念波が次々と撃ち落としていく。
 仕掛けたトラップを易々と破られ口元を歪めて歯ぎしりするヴァルドにルカリオが放った「はどうだん」が襲い掛かる。
 カードを投げ放ち相殺したつもりだったがその「はどうだん」の陰に隠れてエルレイドが接近し「サイコカッター」を振るう。寸前でそれを避けたヴァルドを追い立てるかのようにミミロップとバシャーモの蹴撃が放たれる。速度はあるが決め手に欠ける二人の連続攻撃にヴァルドは眉を顰めた。ミミロップとバシャーモもそれを分かっていて深追いしなかった。そして二人は急に互いの間を空けた。その空いたスペースからクチートがヴァルドに突撃し大顎を振り回すかのような一撃をヴァルドに叩き込んだ。
 クチートの非常に重い一撃を受けて吹っ飛んだものの地面に手をつき上手く着地するヴァルド。
「何かあんたヤバそうな奴だからタコ殴りにしちゃうからね?一対一じゃなかったから勝てなかったって言い訳は聞いちゃわないよー!」
 そう言いながら構えたミミロップと共にサーナイト達も構える。
 立ち上がるヴァルド。まだ勝負はついていない様であった。
「手加減をしていて申し訳ありませんでした。」
 憐みの視線をサーナイト達に向けてそうヴァルドは言った。
「まずは五パーセント程の力で様子を見ていました。調子に乗られると困るので五十パーセント程の力を出しますが・・・一分以上生きていたければその連携を崩さないで下さい。」

717名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:31:51 ID:sv0NcSn2
 言葉通りに更に力を引き出したヴァルドから放たれる周りの空間が歪んで見える程のオーラを感じたサーナイト達。
 最悪な事に身体が動かなかった。
 それはヴァルドの能力といった類のものでは無かった。
 本能が感じる恐怖による身体の硬直。呼吸すら止まってしまいそうだった。
 更に背後からも異常なまでの圧を感じた。
 全員が冷や汗を流しながら動かない身体を動かそうとする。
 そして目の前のヴァルドが苦い表情を作ってサーナイト達の背後に居る存在に視線を向けた。
 その背後に居た存在はサーナイト達に向けて圧を放っていた訳ではなかった。
 視線だけが動かせる状態でその人物を見る。
 ヴァルドに向かって歩いている人物はバイツだった。そしてその後ろにはイル。
 若干睨んでいるだけの様に見えてこの世の者とは思えない程の強い殺気を放っている。
 バイツが現れた安堵感からか若干身体を動かせるようになったサーナイト達。
 そしてサーナイト達を背にバイツは立った。
「・・・刻んであげますよ。大人しく死んでください。」
「なら、終わらせてみろ。前のお仲間みたいになるなよ?」
 静かに堪忍袋の緒が切れたヴァルドが攻撃しようとほんの少し動いた時にはバイツの右拳が腹部に音も無くめり込んでいた。
 その一瞬後に聞こえる鈍い打撃音。
 バイツがほんの一秒程前に居た場所付近からは高速で動いた事によって衝撃波が発生していた。
 大量に吐血しながら吹っ飛ぶヴァルド。今度は地面に倒れる。
「常に二パーセント程の力しか出していないんだが今は五パーセント程に引き上げさせてもらった。」
 その声を聞けるほどの余裕はヴァルドには無かった。
 バイツはヴァルドに向かって歩き始める。
「どうだ、臓器を潰された感想は。」
 返事代わりに大量の血を吐くヴァルド。
 後悔の時間を作ってやっているのかの様にゆっくりと接近するバイツ。
 すると音も無くバイツの眼前に黒い影が降り立ち素早く鋭い打撃をバイツに繰り出す。
 余裕といった表情で攻撃を次々とかわすバイツ。
 更にその黒い影の背後に何かが降ってきた。
 その降ってきた大男を確認した影の正体はドルヴで大男の正体はヴォルツだった。
「化物ちゃんよぉ、すり潰される覚悟はあるのか?」
「ドルヴ、その化物を片付けろ。俺は金髪の優男の方から狩る。」
「了解ヴォルツちゃん。ヴァルドちゃん、ちょいと難しいかもしんねえけど身体動かせるようになったら「門」を開けてくれや。」
 そう言ってドルヴはバイツに向かって行った。



 自分が何をされたのかドルヴは理解できなかった。
 彼の目の前には地面があった。そして身体は動かない上に感覚が無い。
「が・・・ぁ・・・!」
 声すらもまともに出せない。
 そんなドルヴを見下すバイツ。
 バイツにしてみればドルヴが一撃繰り出す間に三十六発程の右手による打撃を叩き込んだだけであった。
 横目でイルの方を見たバイツ。
 イルが笑みを浮かべ目の前で血塗れで倒れているヴォルツを見ている。
 無邪気な笑みではなく嘲笑っている笑みで口を開いた。
「ボク肉弾戦苦手なんだー・・・だから加減が聞かなくてごめんね?」
 その言葉が慰めになるとは到底思えなかった。
 刹那、「門」が開いた。
 そして、バイツとイルのそれぞれの周囲に二、三枚のカードが配置される。
 ヴァルドが仕掛けたそれを見た「この様でも一番被害の少ない」ヴォルツは起き上がった。
 それと同時にカードが二人を同時に襲う。
 二人は難なく右手でカードを払ったが煙が起こり、視界が利かなくなる。

718名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:34:16 ID:sv0NcSn2
 その隙にヴォルツはヴァルドとドルヴを担ぎ「門」の中へと飛び込む。
 「門」が閉じた後で煙が晴れる。
 バイツが小さく溜息を吐いて、イルが呆れたような笑みを浮かべ肩を竦めた。
 メガシンカ状態を解除したサーナイト達にバイツは近付いた。
 先程の圧を放っていた同一人物とは思えない程の安心しきった笑顔を向ける。
「怪我は無いか?」
 サーナイト達も安心し笑顔をバイツに向ける。
「やっぱバイツ君強すぎでしょ・・・」
 ミコも安心した表情を浮かべたがレイリンは真面目な表情でバイツに向かって歩き始めた。
「レイリン?」
 ミコの声を無視しレイリンはバイツの右腕を掴む。
 幾ら組み伏せる技術に長けていてもそれは常人ではないバイツには通用しない事を理解している筈のレイリン。
「ごめんなさい。任務が優先なの、抵抗しないで大人しく来てちょうだい。「特別な取調室」で話を聞かせてもらうわ。」
 そう言ってレイリンはバイツの腕を引っ張ろうとする。
 バイツは当然動かない。引っ張っていこうとする先を見てしまったのだから。
「そっち・・・ホテル街・・・」
 明らかに警察署とは真逆の方向。
「早く一緒に取り調べし合いましょうよ。ね?」
 「女性として」楽しそうに笑うレイリンを見てミコが吼えた。
「レイリン落ちたー!ギャップが激しいバイツ君見て落ちたー!女を武器にした事ないレイリンがー!」
 何故かこの瞬間レイリンとアブソルが一向に加わる事が確定した。



 それからホテルに戻ってきたバイツ達。
 夕食後ミコとレイリンが先導し、サーナイトを除く女性陣がバイツの部屋のベッドを占拠し眠ってしまった。
「何で行く先々の俺の部屋のベッドはキングサイズなんだろう・・・」
 ソファーに腰掛けて素朴な疑問を口にするバイツ。その両隣にはサーナイトとキルリアが座っていた。
「マスターと一緒に寝る事が出来ますので私は別に構いません。」
「そうだね、バイツお兄ちゃんと寝られるのはいいけど今回みたいに占領される事が多くなるかもね。」
 唇をとがらせて不満気にそう言ったキルリア。しかし、すぐに表情を戻してソファーから降りた。
「お風呂入ろーっと。」
 キレのいい動きで浴室にすっ飛んでいく。
 浴室のドアが開いて閉まる音が聞こえた時にサーナイトは一つバイツに質問をした。
「マスター、ミコ様に寝ている所を襲われたのを本当にお気づきにならなかったのですか?」
「全然。っていうか本当に唇奪われたの?俺。」
 バイツが演技している様には見えないサーナイト。
「もしかしたら・・・お疲れですか?少し前のマスターは寝ている時も警戒していた様に見えたのですが・・・」
 ふと、バイツの顔に柔らかい笑みが浮かぶ。
「皆が居てくれるっていう理由じゃ駄目かな。」
「え・・・?」
「皆が居てくれるから安心できる。あの四馬鹿じゃ絶対に出来なくて皆に出来る事。」
 何度もサーナイト達に寝込みを襲われてもサーナイト達に信頼を寄せるバイツ。そんなバイツにサーナイトは顔を紅くして体重を掛けて寄り添った。
「では、このまま眠る事はできますか?私と一緒に・・・」
「出来るさ・・・サーナイトと一緒だから・・・」
 二人は軽く唇を重ねる。
 その少し後、入浴を終えて浴室から出て来たキルリアが見たのはソファーに座りながら寄り添って寝ているバイツとサーナイト。
 何を考えたのか二人の膝上に寝転がるキルリア。途端に顔を明るくし目を輝かせる。
「これだ・・・!」
 キルリアにとって極上のベッドになった二人の膝上。
 飛んだり跳ねたりは出来ないがこれはこれでいいと思ったキルリアもそのまま寝息を立てた。

719名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:35:32 ID:sv0NcSn2
まあ、この話はこれで終わり。
っていうか疑問が一つあるのですがいいですか?
pixivの方で多少前にアブソルのエロ回書いたんですよ。
そしたら何かサーナイトのエロ回並みに人気が出ちゃって・・・
ただ、自分の恋心に悩むアブソルが色々あって媚薬打たれてそういう玩具にされかけた所をバイツが助けて一時的にツンデレがデレデレになって。みたいな話なのに。
ポケモナー界で何かあったの?教えてエロい人。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板